性犯罪に関する刑事法検討会 (第5回) 第1 日 時  令和2年8月27日(木)  自 午後 1時29分                       至 午後 4時30分 第2 場 所  東京地検1531会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 検討すべき論点について 2 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)について 3 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方について 4 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方について 5 いわゆる性交同意年齢の在り方について 6 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第5回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 本日は,御多用中のところ,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   初めに,配布資料について,事務当局から確認をお願いします。 ○岡田参事官 本日は,議事次第のほか,配布資料目録記載の資料12から33までと,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。   配布資料の内容につきましては,後ほど御説明いたします。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,まず,前回会合での「論点整理(案)」についての御意見を踏まえまして,本検討会において検討すべき論点を改めて整理しましたので,これについて皆様にお諮りしたいと思います。   事務当局から,資料12「検討すべき論点」について説明をお願いします。 ○岡田参事官 御説明いたします。   資料12は,座長の御指示により,前回の第4回会合で委員の皆様から頂いた御意見を踏まえて,資料11「論点整理(案)」を改定する形で作成した資料です。   「論点整理(案)」からの変更箇所について,御説明いたします。   まず,第1の「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」の三つ目の「○」の表現を変更しております。   「論点整理(案)」では,「継続的な性的虐待」という表現であったため,親などによる継続的な犯行に限っていると捉えられやすい表現となっておりましたが,子供に対する性犯罪には,隣人,塾の講師,学校の教師等による継続的な犯行も多いので,それらが含まれることが分かる表現とすべきであるとの御指摘を踏まえ,「同一被害者に対して継続的に性的行為がなされた場合」に改めました。   次に,第1の「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」の一つ目と二つ目の「○」の表現を変更しております。   「論点整理(案)」では,罰則を設けるか否かの検討を要する行為として,「他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為」を掲げていたところ,撮影された画像を譲渡することやインターネット上に流出させる行為の処罰についても議論すべきであるとの御指摘がございましたので,「画像を流通させる行為」も追加いたしました。   また,「論点整理(案)」では,設けるか否かの検討を要する特別規定として,「撮影された性的な姿態の画像の没収(剝奪)」を掲げていたところ,画像データの消去についても議論されるべきであるとの御指摘がございましたので,「剝奪」を「消去」に改めました。   資料12の御説明は以上でございます。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明について,何か御質問はございますでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,皆様にお諮りしたいと思います。本検討会において,資料12に記載された論点について検討を行うということでいかがでございましょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,本検討会においては,検討を行う論点を資料12「検討すべき論点」のとおりといたします。   次に,今後の検討の進め方について,お諮りしたいと思います。   検討の順序については,「検討すべき論点」に記載されている順,つまり,まず,「第1」の実体法上の論点について,「1」から順に検討し,その後,「第2」の手続法上の論点について,「1」から順に検討することとし,その一巡目の議論状況を踏まえて,二巡目以降の検討の対象や順序を考えていくことにしてはいかがかと思います。   その上で,前回会合で複数の委員から御意見を頂いたように,各論点の中の「○」で示した項目の中には,他の項目についての議論がある程度進んだ上で検討することが適切であると考えられる項目があるように思われます。   例えば,第1の「2」のうち,四つ目と五つ目の「○」の項目は,ある構成要件を念頭に置いて,立証責任の転換あるいは主観的要件を検討するという項目ですから,まずは,構成要件の在り方に関する検討として,一つ目から三つ目までの「○」の検討を先行させることが適切ではないかと思われます。   また,第1の「3」の四つ目の「○」,すなわち,いわゆるグルーミング行為を処罰する規定を創設すべきかという点につきましても,これは,本来的な法益侵害行為やその未遂行為よりも更に手前の予備行為あるいは予備段階での行為に関するものですので,まずは,本来的な法益侵害行為をどのような形で捕捉すべきかという議論を先行させるのが適切ではないかと思われます。   そこで,本日は,まず,「検討すべき論点」の第1の「1 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)」について議論し,次に,「2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」のうち,一つ目から三つ目までの「○」について議論し,続いて,「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」のうち,一つ目から三つ目までの「○」について議論し,最後に,時間があれば,「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」について議論することとしたいと思うのですけれども,そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   では,論点の検討に入りたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料について説明をお願いします。 ○岡田参事官 御説明いたします。   まず,資料13は,平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に第一審判決が言い渡された事件のうち,無罪が言い渡された事件,有罪が言い渡された準強制性交等罪の事件,被告人が被害者との間に身分上又は業務上の関係を有する事件,被害者が障害を有する事件等について,その判決書を収集し,調査を行った結果を取りまとめたものです。   これらの判決書は,性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループの下で収集したものであり,本検討会の第1回会合でお配りしました資料5の2「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ取りまとめ報告書」別紙10も,同じ判決書を基に作成したものでございます。   次に,資料14から20までは,資料13の調査対象となった事件について,異なる着眼点から事例を抽出し,その詳細を記載するなどして作成したものであり,資料14は,第一審で無罪判決が言い渡された事件について,それぞれの判決の要旨をまとめたもの,資料15から20までは,いずれも第一審で有罪判決が言い渡された事件に関するもので,資料15は,暴行・脅迫の有無や程度,被害者が抗拒不能の状態であったか否か,被害者が性交等に同意していたか否かなどが争点となった事件の中から参考となると思われるものを抽出し,争点や争点についての裁判所の判断等をまとめて整理したもの,資料16は,準強制性交等罪の事件の中から参考となると思われるものを抽出し,抗拒不能の理由ごとにまとめて整理したもの,資料17は,監護者性交等罪の事件の中から参考となると思われるものを抽出し,被害者から見た被告人の立場ごとにまとめて整理したもの,資料18は,刑法第177条後段の強制性交等罪及び監護者性交等罪の事件以外の事件のうち,被告人と被害者との間に身分上又は業務上の関係があると認定された事件の中から,参考となると思われるものを抽出し,被害者から見た被告人の立場ごとにまとめて整理したもの,資料19は,被害者が18歳未満の児童である事件の中から参考となると思われるものを抽出し,被害者の年齢順にまとめて整理したもの,資料20は,被害者が障害を有すると認定された事件の中から参考となると思われるものを抽出し,罪名ごとにまとめて整理したものとなっております。   資料21は,平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に嫌疑不十分により不起訴処分とされた性犯罪事件のうち,強制性交等罪,準強制性交等罪,監護者性交等罪等の性交等に関する事件を対象として,性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループの下で調査したものについて,更に分析を加えてその結果を取りまとめたものです。   資料22は,資料21において分析の対象とした事件のうち,不起訴処分に係る罪名が刑法第177条前段の強制性交等罪又は準強制性交等罪であるものの中から,参考となると思われるものを抽出して整理したものです。   資料23から32までは,第1の「2」から「4」までの個々の論点に関連するものですので,それぞれの論点の検討の際に改めて御説明いたします。   最後に,資料33は,本日検討予定の論点と関係すると思われる条文を抜粋したものであり,刑法の性犯罪規定,児童福祉法に規定されている児童に淫行をさせる行為に関する規定,各都道府県におけるいわゆる青少年健全育成条例の例として東京都の条例を記載しております。   資料13から22まで及び33の御説明は以上でございます。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明について,何か御質問はございますでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 ただ今,事務当局から説明のあった資料は,この後最初に行う第1の「1 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)」についての検討の際だけではなく,第1の「2」から「4」までについての検討の際にも,適宜御参照いただきたいと思います。   それでは,第1の「1」,総論的事項についての検討に入りたいと思います。   前回の会合では,この論点に関して,処罰すべき行為は現行法の解釈上処罰可能か,処罰可能であるとしても,何らかの対処が必要となるような運用上のばらつきがあるかといった点について議論を行うべきではないかという御意見を伺っておりますので,これらも踏まえつつ,御議論いただければと思います。   それでは,御意見のある方,御発言お願いします。 ○山本委員 第1の「1」の現行法がどのように運用されているか,処罰すべき行為が適切に処罰されていない事態が生じているかについて,私の考えを述べさせていただきます。   前回の議論でも,暴行・脅迫要件が緩和されている実態があるという意見があったように,法律家の方の中でも意見が分かれているように思います。しかし,2017年の内閣府「男女間における暴力に関する調査」によると,無理やりに性交等をされた人のうち,警察に相談できているのは3.7%しかいません。9割の人が司法に届いていないという実態を深刻に捉えてほしいと思っています。   令和2年8月18日付け刑法改正市民プロジェクト・調査チーム提出の要望書の添付資料を見ていただければと思います。こちらは,性暴力ワンストップ支援センターが2019年1月1日から9月30日までの間実施した調査の結果をまとめたものです。量的調査の部分の表1に記載されているように,被害者からの直接相談である317ケース中,7割のケースが,支援者から見て,被害者が受けた被害が,現行刑法下でも強制性交等罪や強制わいせつ罪等の性犯罪に該当すると認識されています。   そして,ページをめくって「3.警察への相談:約6割」を見ていただければと思いますが,6割弱の人は警察への相談を望みました。これは,内閣府の調査に比べると格段に高い割合です。しかし,警察に被害届を提出できた人は4割です。残りの6割の人は,警察に認知されないので,認知件数として上がってきていない,実態が踏まえられていないと思います。   2019年の強制性交等罪の認知件数は1,405件ですが,その背後に,被害届を提出しなかった,できなかった人たちがいます。無理やりの性交は性犯罪と認識され難い現状の中で,女性の13人に1人,男性の67人に1人という膨大な数の被害者が埋もれていること,これをどのように性犯罪の規定で捕捉できるのかということを踏まえた議論をしていただければと思いますし,私としては,処罰すべき行為があったとしても,現状では刑法の中で処罰されていないと考えています。 ○小島委員 私は,暴行・脅迫要件を撤廃して,同意なき性交を処罰の対象とするという立場から,現行法の問題について申し上げたいと思います。   加害者の行為の側からではなく,被害者の下で生じている法益侵害の側から性犯罪を把握すること,イスタンブール条約等に見られるグローバルな状況で起こりつつある現状を踏まえて,国際水準による刑法改正を求める立場から課題を申し上げたいと思います。   今回の資料の中で,強制性交等罪の不起訴処分の理由のうち,暴行・脅迫要件に関するものが5割を占めているという資料がございました。また,裁判例を見ると,同意なき性交であることを認めながら,暴行・脅迫要件や抗拒不能要件を欠くとして無罪となったものがあります。   性犯罪の保護法益が性的自由・性的統合性であり,これを侵害すれば犯罪が成立するとするべきだと考えておりまして,強度の暴行・脅迫を手段とすること,抗拒不能を要件とする必要はないのではないか,この暴行・脅迫要件や抗拒不能要件が壁となって,同意なき性交が不処罰とされている現状には問題があり,法改正を要する,と考えております。   なお,今回の資料の中で,暴行・脅迫の存否が問題となった事案の9割が同意に関する問題であったとする資料がございました。刑法の性犯罪規定の運用として,同意の有無が問題になっている,と。しかし,社会的に何を同意と見るかということが曖昧であるということに問題があるのではないかと思います。   ホテルに入ることに同意したとか,一緒に酒を飲んだとか,車に乗ったとか,泥酔していたとか,密室で一緒にいたことをもって性行為の同意があったと思われても仕方がないとする社会通念や,嫌と言わなかった,はっきり断らなかった,明確な拒絶の意思がないイコール同意ではないということが,一般の人にも司法関係者にも理解されていないということが問題ではないかと思います。   性行為については,明確な同意を得るべきであり,これを怠った場合のリスクは,同意を曖昧なままにして利益を得てきた者が,主として男性だと思うのですけれども,これが取るべきだと思います。性に関する同意の在り方については,人権保障という観点から,以上のような考え方が一般の人にも受け入れられるような社会を目指すべきであって,刑法の改正にとどまらない課題があるということを総論として申し上げておきたいと思います。 ○齋藤委員 私自身の立場としては,もちろん性犯罪の調査,性暴力の調査もしておりますけれども,被害者支援に関わる中で,適切に処罰されるべきだと考えている出来事が処罰されていないという観点からお話をしたいと思っております。   まず,性暴力被害が被害者に深刻な影響を及ぼすということの前提についてなのですけれども,先行研究でも,私自身の調査でも分かっており,実際の被害者支援の現場の経験においても感じることをお話します。その人の意思や感情に反した性交というのは,被害者のその後の精神状態や人生に深刻な影響を及ぼす一方で,多くの被害者は,それを性暴力,性犯罪だとすぐには認識できずにおりますし,現在の日本の刑法で,意に反した性交の多くは性犯罪には該当しておりません。   しかし,性暴力や性犯罪ということを認識しておらずとも,起きた出来事そのものが,自殺既遂や自殺企図の増加であるとか,PTSDや鬱病,アルコール依存,薬物依存,学校生活,社会生活,対人関係,そういったものに深刻な影響を及ぼしています。その人の感情や意思を無視した性交というのは,やはり心と体の侵害であって,暴力であると思っておりますので,不同意性交が性犯罪として適切に処罰される必要があるのではないか,ということを私は考えております。   現行法で処罰されない事態が生じていることについて,簡単に概要だけの事例の話も幾つか交えてお話をしたいと思うのですけれども,今回,論点に上がっているほとんどの問題について経験がございますが,全て述べると時間が多分足りないので,典型的なことだけとします。やはり大きいことは,暴行・脅迫あるいは抗拒不能や地位・関係性による被害ではないかと思います。   例えば,典型的には,SNSで出会い,食事をしたり,カラオケをしたり,ドライブをしたり,あるいは相手を自分の家に上げている事案というのは,私の経験上,ほとんどが不起訴であったり,不受理であったりしております。   例えば,だまされてホテルに入って性交された事案,地位が上の人から飲みに誘われた際の事案,パワハラを伴う事案なども,担当の検事さんはとても力を尽くしてくださいましたけれども,不起訴でした。暴行・脅迫がないという理由からでした。でも,いずれの事案も,やはり希死念慮があり,PTSDがあり,抑鬱があり,その後,それまで希望していた人生とは異なる人生を歩まざるを得ないということもあります。   パートナー間において,DVが伴っていても届け出られない事案や,無罪,不起訴といった事案が多くございます。夫から心理的DVを受けていた事案も,その心理的DVの末の性行為の強要であったにもかかわらず,抵抗も何もしていないことから,届出自体が難しいと,警察の相談段階で言われたということもございました。   もちろん,子供の事件も深刻でして,継続的に被害に遭っていた子どもは,日時の特定ができないこと,暴行・脅迫がなかったことから不起訴になりましたし,そういったことは本当に多々ございます。   知的障害のある子が,だまされて被害に遭った場合も,警察で届出が受け付けられませんでした。   今回配布された資料の中で,これでも有罪になるのだなと思うような事案もあれば,これで無罪になるのかと思う事案もあります。私たちが経験した中でも,大変類似した事件であっても,この事件は有罪になったにもかかわらず,この事件は警察で届出も受け付けてもらえなかったというようなことがあります。このように,ほとんど同じような事件であるのに運用で差が出てしまうというのは,やはり問題なのではないかと思います。   そのため,暴行・脅迫であるとか,抗拒不能であるとか,地位・関係性であるとか,そういったものがきちんと話し合われて,適切に要件が検討されるということを私は望んでおります。 ○宮田委員 5点ほどあるのですけれども,まず,今回の調査を拝見いたしまして,公刊されない性犯罪の事件がたくさんあるのだなということを実感いたしました。   前回も申し上げたことですが,判決が公刊されない,表に出てこないということになりますと,なかなか裁判所や検察庁の方が,性犯罪の解釈について総合的に検討を加える機会を持ちにくいのではないか。さらに,それを警察と共有することも困難なのではないか。  さらに,そのような実務の運用に対して批判的な検討ができるはずの学会,あるいは研究者の先生方も,判決が公刊されず,情報がない限りは,検討もできないということになっていなかったのかなと思うのです。   かなり思い切って踏み込んで有罪を認定した判決もあります。実は,今回の改正の前は,もっと踏み込んだ判決もあったように思われます。改正によって,萎縮的な効果が生じたのではないか,改正前の法定刑の下限が3年のときには,もっと大胆な判決もなされていたという指摘もあります。   ですから,我々が,運用がおかしいというときに,まず,本当に解釈がおかしいのか,おかしくないのか。解釈ができないでそうなっているのか,解釈できるのに,それが共有されていないことにすぎないのではないか。その辺の実証的な研究が,もっと必要なのではないかというふうに考えます。   二つ目です。不起訴の事案については,参考となる例を抽出した,つまり,全部ではないということになります。どうしてこの事案を選んだのか,選ばれた基準は何なのかということが,私たちに見えないままで検討がなされていく,議論がなされていくということは,議論の誘導になっていないのかどうか。その検討ができないことは,非常に不当ではないかと考えます。   三つ目です。今後,量刑の問題で出てくるのかもしれませんが,私は,起訴猶予事例についても資料を出していただきたいということをお願いしました。   起訴されてしまうと,性犯罪というのは,今はほぼ執行猶予が付きません。そこの天国と地獄の差についての検討も,本当はもっと必要なのではないかと思っております。これは,単に量刑の問題や構成要件だけの問題ではない運用の問題ではないかと私は思っております。   四つ目です。同意なき性交罪の創設という話でございますけれども,各国の同意なき性交罪の構成要件を見てみますと,例えば,このような条件があった場合には同意がないものとみなすというふうな形で,同意なき性交に対する一種の縛りをかけています。   暴行・脅迫要件であるとか,あるいは抗拒不能要件は,例えば被害者の非常に大きな恐怖感であるとか,あるいは被害者がだまされてしまった状況であるとか,そういうようなものの一つの徴表として,一定の縛りをかけるものとして,今まで機能しているものだと思っています。ですから,同意なき性交という構成要件を作ることによって,本当に処罰範囲が広がるのかどうなのかということも,我々は考えなければならないかと思います。   そして,最後に,告訴を受理されないのは構成要件の問題ではなく,証拠の問題も大きいということです。例えば,知的障害の被害者が,加害者や被害場所をおよそ思い出せないとき,被害を裏付け得る洋服等が洗濯されるなどし,全く物証がないということであれば,証拠がない以上,被害届を受理してもらえません。健常者の成人であっても,証拠がないために被害届が受理されないこともあるでしょう。   被害が受理されないのは,構成要件の問題なのか,証拠法の問題なのか。そこら辺の切り分け整理は絶対に必要であると思っております。 ○小西委員 まず,被害者の実態という観点からの話です。山本委員からお話があったように,私が臨床という場で見ておりましても,性犯罪の被害を訴えた場合にどのように扱われるかという状況を考えて訴えないという方が非常にたくさんいて,さらに,警察に訴えたけれども,そこで認めてもらえないという方がおり,何とか検察官のところに行く事例は,多分1割もない状況です。   私の臨床というのは,性犯罪,性暴力被害者に特化しており,8割ぐらいの方がPTSDの診断がつく臨床です。その中で,裁判になる人,それから,警察で止まってしまう人,どこにも行かない人の全部を合わせても,それぞれで被害に大きな差があるかというと,そんなことはないのです。だから,司法で切り分けられているもの,要件というのが,合理的に救うべき被害者を救っていないということは,臨床の実感です。何らかの変更が必要だと思っています。   もう一つお話ししたいのは,心理学的な問題です。今,驚愕とか恐怖の話を宮田委員がされましたけれども,これまでは,暴行・脅迫の要件として,抵抗があるはず,同意していない者は抵抗するのが普通であって,判決によっては,抵抗しなければ本気ではないのだろうという推論がなされているわけです。しかし,実態の調査,これは日本では余りありませんが,海外の文献を26文献くらい,少しレビューして調べてみると,例えば,一般の人の中から性犯罪の被害に遭った人を見付けて調べたり,あるいは,司法に関わった方を調べたり,いろいろな調査が行われており,数%から,調査対象によっては90%ぐらいの人が反応ができていない,要するに,自分の意思は,もちろん性交されたくなかったのだけれども,有効に反応ができていないという実態が調査されています。   そういう恐怖や驚愕を感じたときの人の反応をよく分かっていない限り,この問題を実態に合わせて検討するということが難しいのではないかと思います。   同じようなことが鑑定の事例でも経験されます。それについては,後ほど,その議論になったときにお話ししたいと思っていますが,今,総論的に申し上げますと,抵抗しないことについて,一つそういう問題がある。   さらに,虐待のような,パワーによる支配が関わっている問題に関しては,同意は,普通に人が思っているようには行われませんので,これも非常によく理解されないといけないし,それから,出てきているケースを見ると,本当にそれが理解されているのかなと思うような事例もあります。   例えば,子供の頃から何年間かにわたって何回も性的虐待を受けている子供は,抵抗しないことが普通ですし,中には,進んで性交するという形になっている人もいます。その中の1回だけを切り取って,同意の有無について,例えば抵抗していないから本人も同意していたというような形で判断されていくことは,非常に実態と異なっております。虐待などを臨床で扱っている者にとっては本当に常識的なことなのですが,それが司法の中で共有されていないのが問題だと思っています。 ○橋爪委員 私は刑法の研究者ですので,実務の現実の運用について語り得るものではありませんが,研究者としての理解から,判例実務における暴行・脅迫要件の意義について,思うところを申し上げます。   強制性交等罪の暴行・脅迫の意義について,判例は,相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものという基準を示しておりまして,これ自体は,暴行・脅迫について,一定の重大性を要求するようにも思われます。しかし,その後の判例は,抗拒を著しく困難ならしめる程度の判断については,暴行・脅迫それ自体を単独で評価するのではなく,周囲の状況や従前からの人間関係などの具体的状況を総合的に考慮した上で,被害者の抗拒を困難にする程度といえるかを判断すべき旨を示しています。   したがって,暴行・脅迫の程度それ自体ではなく,被害者の抵抗を物理的又は心理的に困難ならしめる事情があったかということが,本罪の成否においては重要であるといえます。   このように,暴行・脅迫要件は,実際には,被害者の意思に反する性行為であることを明確に認定するための外部的な徴表として機能しているにすぎず,暴行・脅迫要件によって処罰範囲が過剰に限定されているわけではないと考えております。そして,このような理解に従って,実務的な運用が行われているのであるならば,特段の問題は生じないようにも思われます。   もっとも,やはり,現行法は暴行・脅迫という文言を用いており,判例の定義も,相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度という表現を用いております。したがって,これを限定的・制限的に捉える解釈の余地が全くないわけではありません。   先ほど御指摘がございましたように,もし,現場の判断においてばらつきが生じているのであるならば,それは,現行法が暴行・脅迫という文言を用いていることに起因するところが大きいと思われます。また,国民一般の視点から見ても,暴行・脅迫要件によって,性犯罪の成立範囲が過剰に限定されているかのような印象を与えることは適当ではないと思います。   このような状況を踏まえますと,仮に,現在の実務の運用において大きな問題がないとしても,暴行・脅迫要件が誤解を与えかねない要件であり,また,ばらつきをもたらしやすい原因となり得ることを踏まえた上で,改正の可能性も含めて,処罰規定の在り方について検討することが必要であると考えます。 ○井田座長 委員の皆様方からは,現行法では本来処罰すべきものが処罰されていない現状があるのだという御意見や,現行法の解釈によって適切な解決ができるのだけれども,その適切な解釈が運用側に共有されていない面があるのだという御意見がありました。   あるいは,実際の解釈・運用が規定の文言から少しかけ離れたものになっており,それが運用のばらつきにもつながっていて,国民が不安を抱く要因ともなっているから,言わば,あるべき解釈と規定の文言を一致させるという立法的な対応も必要なのではないかという御意見もありました。   また,処罰がきちんとされていないことの原因が,果たして条文の問題なのか,あるいは,それ以外に問題があるのかということについても,しっかり確認が必要なのだという御意見もあったかと思います。   いずれにしても,ここでの総論的な御意見を踏まえまして,次の各論的な検討に進みたいと思います。よろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,第1の「2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」の一つ目から三つ目までの「○」についての検討を行いたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関連する資料について,説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」に関連する資料は,資料23から25までです。   まず,資料23は,強制性交等罪における「暴行」・「脅迫」の要件が設けられた経緯等をまとめたものです。   明治13年に制定された旧刑法までは,暴行・脅迫という要件は条文上定められておらず,単に「強姦」という文言が用いられていたこと,明治40年に制定された現行刑法において,「暴行又は脅迫を」もって「姦淫し」たという規定となり,その後は基本的に同じ要件となっていること,また,旧刑法制定前の日本刑法草案会議において,強姦とは,承諾を待たず暴行・脅迫をもって男女間の情欲を遂げたることをいうと説明されていたこと等が分かるものとなっております。   次に,資料24は,準強制性交等罪における「心神喪失」・「抗拒不能」の要件が設けられた経緯等をまとめたものです。旧刑法では,薬酒等を用い人を昏睡せしめ又は精神を錯乱せしめて姦淫したことが要件とされていたこと,現行刑法では,人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ又は人の心神を喪失せしめ若しくは抗拒不能ならしめて姦淫したという規定となり,その後は基本的に同じ要件となっていること,その他,現行刑法制定までの間や現行刑法制定後に検討された案が記載されてございますが,昭和49年の改正刑法草案では,「精神の障害その他の理由により抗拒不能の状態にあるのを利用し,又は女子を抗拒不能の状態に陥れ」て姦淫したことが要件とされるなどしていたことなどが記載されております。   次に,資料25は,諸外国における性犯罪規定のうち,「暴行」・「脅迫」,「心神喪失」・「抗拒不能」を要件とする規定や,相手方が性的行為に同意していないことを要件とする規定の概要を取りまとめたものであり,主に,第1回会合で配布した資料8を基に作成したものです。   例えば,アメリカのミシガン州・カリフォルニア州,フランス,韓国等では,暴行・脅迫などの手段を用いたことを要件とする性犯罪規定や,心神喪失・抗拒不能などの相手方の状態を要件とする規定が設けられていること,アメリカのニューヨーク州,イギリス,ドイツ,スウェーデン等では,相手方の同意がないことを要件とする規定が設けられていることなどが記載されております。   配布資料23から25までの御説明は以上でございます。 ○井田座長 何か御質問はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。   「検討すべき論点」の第1の「2」の一つ目から三つ目までの「○」を見ていただきますと,一つ目の「○」は,要するに,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件について,それらの要件を撤廃するべきか,二つ目の「○」は,それらの要件を残しつつ,その程度を緩和するべきか,三つ目の「○」は,それらの要件の内容をより明確化する観点から,それ以外の手段や状態を加えるなどするべきかという問題であり,これらはいずれも相互に関連すると考えられますので,これら三つの「○」についてまとめて議論したいと思います。   もっとも,これらの項目は,刑法第177条の強制性交等罪と刑法第178条の準強制性交等罪の二つの規定と関連するものでありますけれども,両者に共通する問題と,それぞれに固有の問題とがあると思われます。そこで,議論の進め方としては,まず,177条と178条に共通する問題について御意見を伺い,次いで,177条の要件に関する問題について御意見を伺い,その後,178条の要件に関する問題について御意見を伺うという流れで進めたいと思います。   もちろん,厳密に分けられないものもあるかと思いますけれども,まずは,177条と178条に共通する問題について御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○山本委員 暴行・脅迫要件の撤廃若しくは要件の追加・緩和などを考えるときに,保護法益は何かということも,非常に大きな問題になると思います。   私は被害者であるので,被害者の実感として言わせていただければと思いますけれども,保護法益が性的自由,性的自己決定権といわれますけれども,被害者にとってみれば,心身の境界線の侵害です。刑法では,余りなじみがない概念かと思いますけれども,性暴力は究極の境界線の侵害といわれています。   国連は,身体の統合性と性的自己決定権の侵害を性暴力と定めていますが,この身体の統合性を破壊する行為が性暴力であり,その結果,境界線の侵害が起こるという概念は,被害者として納得ができるものです。   フランス刑法も,心身の完全性を性暴力の保護法益としていると伝えられていますけれども,そのように,心身を踏まえた概念を保護法益の中に入れていただければと思います。なぜかといえば,自由意思が無視されたことだけに,被害者は苦しんでいるわけではないからです。自由意思が侵害され,自分の心身が踏みにじられたことに苦しんでいるのです。正に,自分の体が犯罪の現場になったことに苦しんでいるのです。   それを思うと,先ほど,明治時代に考えられた刑法の説明もしていただきましたけれども,そのように,女性に自由や人権がなく,妻とめかけがいて,そして,選挙権も被選挙権もなく,結婚すれば財産権もなかった。そのような時代に作られた暴行・脅迫や抗拒不能の在り方が,どのように運用されてきたのかということにも心を配ってほしいと思っています。   不同意は,隠れた構成要件というふうにいわれることもあるかと思うのですけれども,それならば,やはり,不同意を前面に出していただいて,同意なくして性犯罪を犯したということをきちんと処罰していただければと思います。   その暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能に加え,又はこれらに代えて,その手段や状態を明確化することについては,第2回会議の際に配布された要望書の中に,ヒューマンライツ・ナウが提出した様々な要件があるかと思います。脅迫,威迫,不意打ち,偽計,欺罔,監禁を追加し,抗拒不能には,人の無意識,睡眠,催眠,酩酊,薬物の影響,疾患,障害,若しくは洗脳,恐怖,困惑,その他の状況により,特別に脆弱な状況に置かれている状況を利用し,又はその状況に乗じてという要件を追加することについて,私は支持したいと思います。   また,暴行・脅迫要件を撤廃するか,緩和するかについては,少なくとも緩和する必要があると思いますし,刃物などの武器で脅された場合の恐怖を考えれば,より重い法定刑にするという議論があってもよいのではないかとも思います。   抗拒不能に関しては,先ほどからも議論に出ていますけれども,あまりにもばらつきが多いとも感じています。その判断が明確にできるような基準を,構成要件にして定めてもいいのではないかと思います。   加えて,私自身は,不同意性交等罪については,スウェーデン刑法のようなイエス・ミーンズ・イエス型,「自発的に参加していない人に対して」としてほしいと思っています。特に違和感を覚えるのは,拒否していなければ同意と考えられてしまうことです。性交は,双方が合意を形成しながら,お互いに参加して行うものだと私は思います。もし,ドイツの刑法のように,「明示的な意思に反して」とした場合に,被害者が拒絶意思を示すことが求められてしまうのではないかということを懸念します。   私たちは,加害者の行動が犯罪になるのかを問いたいのであり,被害者に抵抗を求めるような条件を課すことは適切ではないと考えます。イエス・ミーンズ・イエス型になれば,明確な同意を取らずに性交すれば犯罪になるという,より重いルールを強制することになるということに対して,反対意見があることも承知しています。しかし,先ほど齋藤委員からも話があったように,非常に性暴力が日本の中でありふれていて,加害者たちはアプリを使ったり,呼び出したり,教師であったり上司であったりする優越的な地位を利用して,本当にカジュアルに性加害をしていて,そして,被害者は,自分が悪いと思ってこれが性暴力と認識することも難しく,長年苦しんだ挙げ句にその認識に至り,それを訴えようと思ったら証拠もないし時効も過ぎている。このような現状を考えると,性暴力の実態に即したイエス・ミーンズ・イエス型で,これは犯罪であるということを明確にしてほしいというのが私の希望です。 ○木村委員 先ほど橋爪委員がおっしゃっていたように,現行法の暴行・脅迫,あるいは抗拒不能の要件が,同意がないということの徴表だというのは,そのとおりだと思います。   ただ,実際の裁判例を見ますと,委員の方々から御指摘があるとおりで,あまりにもばらつきが多いように思います。性犯罪は,致傷になりますと,裁判員裁判対象事件になるわけで,そうなりますと,実際の裁判は恐らく,いろいろな事情を拾っているはずなのですけれども,暴行・脅迫の要件だけでそれを裁判員にうまく説明できるかという問題に直面するように思います。   他方で,確かに,不同意であることが一番重要であることは,そのとおりなのですけれども,資料21を拝見すると,同意がないことだけを要件にしますと,むしろ,起訴がかなり難しくなってしまうというような事情もあるのかもしれません。なので,暴行・脅迫だけではなくて,もう少し広い事情を拾えるような用語として,その中に暴行・脅迫も含めるといった形に改める必要というのは,今後ますます増えるのではないかと思います。 ○池田委員 不同意性交が,本人の意思に基づかずにその性的自由,性的尊厳,あるいは心身の完全性を侵害するということにおいて当罰性の認められる行為であるというのは,これまでの御指摘に出てきたとおりであろうと思います。   ただ,暴行・脅迫の要件を撤廃して,同意のないことに決定的な意味付けを与えるということにしますと,実際上の問題としては,前回の改正の際に指摘された親告罪であることによって生じていたのと同じ懸念,つまり,処罰にとって決定的な事情があったと述べる立場に置かれる被害者にとって負担となるのではないかという懸念があるようにも思われます。   特に,性加害が顔見知りの間で生じることが多いということに鑑みますと,自分の判断に,より具体的な負担を感じられることとなるといった問題があるようにも思われます。   当罰性の認められる行為をどう切り出すかを検討するに当たりまして,同意のない性交を標準として行うこととして,被害時の被害者の意思そのものに焦点を当てるということも,もちろん考えられるわけですけれども,むしろ,この三つ目の「○」にあるような不同意を根拠付ける状況,手段,状態の有無を問う形にすることが,今述べたような観点からは適切であるように思います。   現在の暴行・脅迫要件も,木村委員からも御指摘があったように,同意の不存在を明確にうかがわせる客観的な徴表であると位置付けられると考えられますが,その上で,それに限られるものではないということを念頭に検討することが課題になると思います。 ○小島委員 私は,最初に申し上げましたように,暴行・脅迫要件を撤廃して,不同意性交罪を設けるということを提案したいと思います。   先ほど山本委員がおっしゃったように,保護法益をどう捉えるのかが重要であり,性的自由や性的統合性を侵害する罪であるとすると,侵害が発生すれば犯罪が成立するという立場でいくべきではないかと思います。   これを実現したのがスウェーデン刑法でありますが,非常に先進的に見えるかもしれませんが,被害者に生じた危害という視点から犯罪を考えていこうということだと思います。我が国でもセクシュアル・ハラスメントについては,被害者の視点から考えるということになっています。被害者に生じている法益侵害の側から把握すべきだという価値判断に基づいています。被害者視点からみるということがグローバルな状況として起こりつつあると思われます。   我が国で暴行・脅迫なきレイプが不正な行為だと評価できるかということになると,抵抗できたはずなのだから不正とはいえないという考え方は,克服されていると思います。フリーズなどで抵抗できないのは通常の反応であるということが近時の研究で明らかになっております。当事者の地位・関係性を利用・濫用して性的行為が行われた場合,意に反する行為であっても拒絶できない場合があります。被害者の抵抗が可能であることを前提とする暴行・脅迫要件は,非現実的な事態を前提としていると思われます。   重要なことは,暴行・脅迫なしで性的自由を侵害することが可能だという事実です。強制わいせつ罪の成立についての平成29年の最高裁判例も,性的被害に係る犯罪や,その被害実態に対する社会一般の受け止め方が変化しているということを言っておりますし,被害者が受けた性的被害の有無や内容,程度にこそ目を向けるべきだと,被害者側の視点に立つべきだということも言っております。   平成31年の3件の無罪判決とその批判や,平成30年の財務省のセクハラ問題による事務次官の辞任というのは,社会一般の性的被害に対する受け止め方が大きく変化していることを示すものではないかと思います。我々の社会において不同意性交は不正な行為だと評価されていると思います。   今後の課題としては,任意性,つまり,相手方の性交等に対する同意が自由な任意の意思によりなされたものかどうかの立証に係る手続上の問題点とか,任意性の判断に関する,より一般的な理論が必要になってくるのではないかと思います。   ところで,私どもが不同意性交罪を導入してほしいということを言っているときに,ただ内心の意に反するものを犯罪にするということを言っているわけではありません。不同意というのは,内心の要素にとどまらず,それを徴表する具体的な行為との関連で判断するアプローチを取らなければいけないと思っております。   そこで,不同意の性交罪については,条文に解釈規定ないし認定基準として,客観的要素を列挙していく必要があります。様々な立法提案がなされておりますが,威迫や不意打ち,欺罔,偽計,監禁や,抗拒不能についても,飲酒による影響や障害による影響,そういうことを条文に盛り込んで,誰が見ても,誰が執行しても,性犯罪になる,ならないというのがある程度分かるような形で明示していく必要があります。   故意の問題もあります。不同意性交罪を設けても,結局,行為者において,被害者の不同意について,故意を有することが必要になります。構成要件的錯誤というのは,錯誤に陥ったことについて,理由の相当性を問うことなく故意を阻却してしまうことになるので,不同意性交罪だけ設けても,機能しないおそれがあります。これを回避するような法技術が必要だと思います。   先ほど申し上げた客観的な解釈基準を設けるということや,それ以外にもいろいろ可能性としてはあります。例えば,相手方の同意の確認を行為者の義務とし,これに反する性交は不同意性交罪にするとか,過失レイプ罪を設けるとか,諸外国の法令や実態に学びつつ,法改正を是非実現していただきたいと思います。 ○小西委員 小島委員に総括的に言っていただいたのですけれども,私は,同意のないことの徴表が抵抗であるという言い方そのものに,とても不正確なところがあると思いますし,抵抗ができないことがあるということが常識になっているように思えないので,私が実際に鑑定した例なのですが,同意と抵抗が分かれている例を御紹介したいと思います。   突然見知らぬ男性に室内で性交を迫られて,自分は性交したくないという意思ははっきりしていたが,意識清明のまま,被害の間,体が動かなくなったケースがあります。性交されてしまったケースです。   詳しく聞くと,体の震え,冷や汗,動悸などが同時に生じていました。「Tonic immobility」という概念で説明できる反応です。本人の意思や意識とは関係なく生じる進化的な起源を持った生物学的な反応といわれています。   司法の過程においては,逃げられそうなのに抵抗しないのはなぜか,という視点でしか捉えられていなかったと思います。   そういう意味では,抵抗と同意というのを一つのものとして,少なくとも先ほどから,「徴表」と言われていますけれども,徴表として,ここだけを重要に考えるのは非常に問題があると思っています。そういう意味では,広い事情を拾うべきだという言い方に私は賛成です。 ○齋藤委員 私も先ほど申し上げたとおり,そして,小島委員などがおっしゃっているとおりで,その人の感情とか意思をないがしろにして,その人の体の侵襲をするというのは心身の侵害で,人生に深刻な影響を及ぼす暴力なので,それが適切に司法で認定されるということを願っているのですね。つまり,不同意性交というのが適切に罪として認識されることを望んでおります。   ただ,性的同意という概念が浸透していない日本で,なかなか不同意性交という記載のみだと判断が難しいのであれば,ほかの文言を列挙していただくということにも賛同はしております。   委員の方々が今までおっしゃっていたとおり,暴行・脅迫というのは不同意の徴表であるということですけれども,運用に任せているからこそ,一方で幅広に解釈され,一方で被害届が受理されなかったり,不起訴であったりという事案が生じているので,暴行・脅迫ということで,その性交が意思に反するものが明示されるとだけしているということが,やはり問題なのではないかと思っております。これも,ほかの委員の皆さんもおっしゃっていることですが,性交が意思に反しているならば人は抵抗するはずだとか,その抵抗が抑圧される暴行・脅迫があったなら,抵抗がなかったとしても不同意であるという考えは,やはり,私も臨床に携わっている中で,まだまだそれがずっとあるのだなということを感じています。小西委員もおっしゃっていたとおり,精神医学とか心理学で明らかになっているとおり,「Tonic immobility」の状態や解離状態というのは,明らかな暴行・脅迫がなくても生じますし,力関係が作り出されて抵抗が抑圧されていくというような状態も,暴行・脅迫がなくても生じます。   人は,本当にたやすく抵抗できない状態になるということを,もっと知っていただきたいですし,それが適切に評価されるような文言になることを望みます。   資料22の不起訴事件の調査資料などを見ますと,確かに,読みようによって,それを犯罪ということが難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが,性被害は,そもそも被害者の体験と加害者の認識が大きく異なる被害であるということは,しっかり考えた方がいいと思います。また,どのような行為が相手を深刻に傷つける性犯罪なのかということが法律で定められていないというのは,加害者も自分の行為が性犯罪であるということを認識できないということにつながります。それは,非常に問題なのではないかと思うのです。   私は,法律の具体的な文言に全く明るくないので,状態として述べさせていただきたいのですが,暴行や脅迫よりも言葉上程度の軽い脅しとか体を押さえつけるであっても抵抗できなくなりますし,継続的な被害は,そもそも強要された上であっても,一度性交したという事実自体が,その後の被害者の抵抗を抑圧していきますし,だまされるなどして密室に連れ込まれた時点で,抵抗したら危害を加えられると感じて,体が動かなくなるということも普通に生じますし,先ほどの小西委員の例でもあったような,予期していないような言動で混乱し,体が硬直するということもありますし,ドライブだけ,キスだけと思っていたのに,人気のない場所に連れていかれて性交を強要されれば動けなくなりますし,逃げられないと思って抵抗はできなくなります。   飲酒や薬物,睡眠や精神疾患,知的障害,そうしたいろいろなことに乗じたり,巧妙に,グルーミングのように心理的な操作を行う,力関係を作り出す,洗脳するといったこと,あるいはその人の脆弱性とか,様々な意味での立場の弱さとか,あるいは利害関係であるとか,依存を利用した場合など,そもそも抵抗ができなくなるということをきちんと反映していただきたいと思っております。   先ほど,被害者の意思に決定的な位置付けを与えることが負担という御意見もございましたけれども,そもそも現在の日本では,被害者が,自分が被害を受けたということを認識できていないという状態がありまして,そのことがとても大きな問題で,不同意性交は犯罪であるということを知らしめるということは非常に重要なことなのではないかと考えております。 ○宮田委員 177条の暴行・脅迫要件を撤廃すべきであるという御議論なのですが,実は,177条が成立しない場合には178条で救っている,そういうような判決はかなりございます。   例えば,親から強姦されたということで,177条で起訴されたものについて,どうも子供の方は,特に抵抗も示していないし,暴行・脅迫もなかったという前提で,お父さんが大好きなので,お父さんから嫌われたくないので,そのような行為を受け入れたという形で,178条の成立を認めた案件もございますし,暴行・脅迫が非常に弱いのだけれども,恐怖心で被害者がフリーズしてしまった,そのような精神状態で抵抗できるわけがないということで178条を成立させた事例もございます。   今,お話を伺っておりますと,177条だけの御議論のように聞こえてしまい,177条と,それを補うものとして178条があるのだというところは,共通認識にしなければならないのではないかというのがまず1点。   もう一つ,同意がないということの立証を行うということになりますと,ある程度,こういう場合には同意がないのだという推定規定を置くにしても,一つずつ置いてあるものに対する反証,例えば,被害者がその場で泣いていたというような事情を置くとします。そうすると,被害者がなぜ泣いていたのかというような,被害者の非常に個人的な事情についても争点になり,争点の拡散が生じるということは間違いないのだろうと思っております。   ですから,同意なき性交罪を作った場合の立証の負担というのは,被害者にあるだけではなくて,争点が拡散していって,訴追する側についても,防御する側についても,非常に難しい問題が生じる場合があり得るのではないかということを指摘したいと思います。   三つ目です。暴行・脅迫要件について,小西委員から,このような事例が有罪にならなかったのだという御指摘がありましたけれども,そこには検察官の立証の問題はなかったのかという視点も必要かと思います。検察官が,被害者がフリーズしてしまうような精神状態について理解し,きちんと立証していれば,177条がもしも成立しなかったとしても,178条が必ずや成立するはずなのです。ですから,条文の問題なのか,立証の問題なのか,その辺のところをもう少し切り分ける必要があると思います。   最後に,もう一つ,殺人,人を殺す行為,窃盗,人から物を盗む行為,これは,誰が見ても犯罪です。しかしながら,性行為は,それ自体が犯罪という行為ではありません。ですから,性行為におよそ網がかかってしまう,同意なき性交ということによって,本来であれば,違法な行為として取り締まられるべきではない性行為に対して,どのような対応を国民がしていけばいいのかについて,もう少し議論をしてから法改正の当否の議論をすることが必要なのではないかというふうに考えた次第です。 ○橋爪委員 端的な印象を申し上げますと,処罰すべき実態と,それをどのように刑罰法規として規定するかということは,分けて検討する必要があるような気がしております。   すなわち,被害者の意思に反する性的行為が重大な法益侵害であり,これら全てを処罰の対象とするという発想自体は全く正当な判断であり,これが議論の出発点をなすことは明らかであるように思います。   もっとも,そのために,どのような処罰規定を設けることが適切か,特に,不同意性交罪を創設することが妥当かについては,更に二つの点について吟味した上で検討する必要があると考えます。   第一点は,仮に,不同意を成立要件としましても,被害者が同意していなかったこと,また,被告人が被害者の不同意を認識していたことについては,刑事裁判で厳格に証明する必要があるということです。   そして,被害者の内心自体を直接的に証明することは困難である以上,実際には外部的・客観的な事実関係から,同意があったか否かを認定する必要が生じます。現行法の暴行・脅迫要件や抗拒不能要件は,正に,不同意を客観的に推認する要素として機能していたわけです。   したがって,仮に暴行・脅迫要件を撤廃して,不同意を成立要件とするとしても,不同意の事実については厳格な証明が必要であり,そのためには,判断資料となり得る客観的事実を明確化することが必要であると思います。   仮に,先ほどから御指摘がありましたように,暴行・脅迫要件が判断資料としては不十分であるというのであるならば,新たな行為態様を追加する,あるいは,新たな客観的な状況を追加するというアプローチもあり得るのかもしれません。   第二点ですが,不同意という言葉自体が,実は,かなり幅がある概念である点に注意する必要があると思います。   もちろん,相手と性行為を行う意思が全くなかったが,恐怖心から抵抗できず,性交に至った場合のように,同意がなかったことが明らかな事件もあると思います。   もっとも,例えば,被害者が一定の関係性を有する相手から性行為の要求を受けて,悩んだ挙げ句に,最終的には性交を甘受するに至ったような場合については,被害者の心理状態は多様であり,どこまでが不同意といえるかは,実は必ずしも明確ではないように思います。   また,例えば,被害者が錯誤に陥って性行為に応じており,真実を知っていれば性行為に応じなかったという場合については,判例理論に従いますと,被害者の同意は無効であり不同意と扱われることになりそうです。しかし,例えば,結婚する,あるいは真剣に交際すると偽って,相手をだまして性交した場合について,被害者は錯誤に陥っており,有効な同意がなかったとして,犯罪の成立を肯定することは適当ではないと思われます。   すなわち,仮に,不同意性交罪を設けるとしても,その際には,不同意という文言,心理状態を明確かつ厳密に規定することが不可欠であり,また,今,幾つか申し上げましたようなグレーゾーンの事例に関して,どこまで処罰すべきかという点について,踏み込んだ議論が必要であると考えます。   繰り返し申し上げますが,私は,被害者の意思に反する性行為を罰するというアプローチ自体については,全く異存はございません。しかし,これを処罰するためには,不同意という文言を使えば解決するわけではなく,やはり,被害者の心理状態を明確に規定するか,あるいは,心理状態を徴表する行為態様や関係性等の客観的な要件を明確に規定する必要があるように考えているところです。   今後の議論におきましては,このような観点から,どのような規定ぶりが適切といえるかを検討する必要があると考えます。 ○井田座長 いろいろと御意見を頂きました。   保護法益をきちんと考えなければいけないという御意見,被害者側の心理状態あるいは行動といったものについて,科学的な知見を前提に置くべきだという御意見がありました。   また,御発言いただいた多くの委員の方は,あるべき条文としては,不同意性交を基本とする,ただ,不同意性交として条文,構成要件を書くとすると,不明確性ないしは運用のばらつきが生じてしまうことから,不同意であることを示す外部的な事情,あるいは,被害者の心理状態とおっしゃる委員もおられましたが,それを具体的に条文に書き込んでいく,そのことによって明確化を図るべきではないかという御意見がありました。   さらには,視点を被害者側に大きく移して,被害者の同意を得ないで性行為を行うことを処罰する,要するに,積極的同意がないのに性行為を行ったということも処罰すべきなのだという,言わば,進んだ御意見も表明されたように思います。   ここからは,177条,178条という個別の条文との関係ということで御意見を伺っていきたいと思います。もちろん,共通する問題にまた遡ってしまっても構いません。まずは,177条に関する問題について,御意見を伺いたいと思います。よろしくお願いします。 ○上谷委員 今の議論の続きになるかもしれないのですけれども,私もやはり,現行の暴行・脅迫要件というのは,あまりにもハードルが高過ぎるということがあると思っています。   ただ,皆さんおっしゃったように,もちろん,私も同意のない性交というのは違法だと,思っているわけですが,そこから,現在の177条から暴行・脅迫要件を撤廃してしまうということになると,これまでの激しい暴行・脅迫を必要とするものと,それが全くないものが一つの条文の中に入るというのは,少し法律論として雑なのかなという気がしています。   同じ条文なのに,立証方法等が全然違うことになってしまって,それが逆に適用されづらい法律にならないのかという心配と,暴行・脅迫要件を撤廃するということになると,刑の下限が相当に下がってくるだろうなというふうに思います。   諸外国の例を見ても,懲役6か月とかになってしまうかもという気持ちもしておりまして,やはり,同意のない性交を犯罪としてきちんと処罰していくためには,むしろ,現在ある暴行・脅迫を緩和するとか文言を追加していくというふうに,きめ細かくしていくということによって,被害者救済につながっていくのではないかなというふうに私は考えています。 ○井田座長 実務家の委員にお聞きしたいのですけれども,暴行・脅迫がないのに被害者の意思に反した場合があるのだということがよく言われるのですが,逆に,現行法の下では,激しい暴行・脅迫を加えられた場合であれば,直ちに犯罪は成立することになりますので,その限りで,暴行・脅迫要件には犯罪の成立を明確化する機能があるとはいえないのでしょうか。被告人を弁護する側としても,強度の暴行・脅迫が認定されれば,これはお手上げだなと,事実関係を争えないなと,そう考えざるを得なくなるといった,そういう機能はないのでしょうか。 ○上谷委員 私から見れば,これはどう考えても抵抗できない暴行・脅迫ではないかと思われるものが,そうではないという事実認定になっている事案もあると思いますし,なぜこれで抵抗する余地があるのだろうというのが全く理解できないというケースも散見されているところです。 ○井田座長 ありがとうございます。 ○山本委員 余りお話しする機会がないかなと思ったので,ちょっと私の懸念というか疑問をお伝えさせていただければと思うのですけれども,堕胎罪についてです。   ここは刑法の性犯罪を話し合う場なので,少し違うのかなというふうには思うのですけれども,今,現場で起こっている問題として,レイプを受けて,加害者の多くは避妊をしないので,妊娠することもあります。そして,人工妊娠中絶を選択するか,選択できないかという問題にもなるのですけれども,私自身は,そのような形で中絶すること自体が,傷害罪に当たるのではないかとすら思います。日本に堕胎罪があり,堕胎罪があるために,母体保護法を用いて人工妊娠中絶をしなければいけないのに,産婦人科医療の現場では,加害者の同意がないと手術が難しいと言われることが報告されています。   妊娠に対する自己決定権すらない状態で,性的自由,性的自己決定権は,刑法の中でどのように考えられているのかということを,私は余り刑法に詳しくないので,そこも含めた保護法益の議論をしていただければというふうにも思っています。   やはり,明治時代に作られたというところを,私が詳しくないからかもしれないですけれども,そのような価値観がいまだに残り,そして,それが引き継がれて,被害者への抑圧につながっていないのか。その性的自由,性的自己決定権を今の時代に合わせた保護法益にするために,そして,先ほど申し上げた心身の完全性も踏まえた,何を保護して,何が侵害されているから,これは処罰するべき罪なのだということとの整合性を図るためにも,少し疑問として提言させていただきました。 ○佐藤委員 先ほど,何人かの委員の方から,判例の中で抵抗していなかったことが挙げられているという御主張があったと思います。実際そのとおりだと思うのですけれども,恐らく判例を読んでみると,抵抗していなかったからという単独の理由で無罪にしたという事案はなく,客観的な事情を複数挙げて,抵抗できない状況ではなかったねと。その上で,抵抗も実際していませんでしたよねという形の駄目押しで使われることが,非常に多くなっているかと思われます。   ただ,この抵抗していませんでしたよねという言葉が,非常に配慮がないというか,誤解を与える表現であるということは間違いないと思いますので,現在の暴行・脅迫イコール抵抗困難という構造が残っている限りは,恐らく判例の中でも,あなた抵抗していませんでしたよねという,ちょっと誤解を与える表現が今後も出てくる可能性があるかと思います。ですからこの点でやはり,強制性交等罪などが成立するためには,被害者が抵抗しないといけないという理解は違うのだというメッセージを立法によって送る,改正によって送るというのが,非常に重要なのではないかなというふうに考えております。   ただし,不同意につきましては,委員の皆様がおっしゃっているとおり,単独で不同意としてしまうと,今度は不同意にもいろいろありますから,ヒアリングの先生も不同意にはグラデーションがあるというふうにおっしゃっていましたので,そのグラデーションの中で,明らかに黒であるという部分を示せるような何らかの要件というのが,どうしても必要になるのではないかなと考えております。なので,そういうふうな形の議論ができればいいなというふうに考えております。 ○金杉委員 刑事弁護の観点から申し上げますと,177条の要件あるいは178条の要件が,被害者と被告人の置かれた状況等によってある程度柔軟に解釈されているので新たな立法の必要性はないのだという論理は分かるのですけれども,それはそれで,要件が曖昧だという点は問題だという認識は持っています。   例えばですけれども,現在の暴行・脅迫要件を撤廃するということには,やはり同意はできません。177条の法定刑の下限が上げられたということとあいまって,先ほどからも御指摘のありましたように,逆に,重大な犯罪であるがゆえに,起訴あるいは有罪の認定に消極的になるということもあり得るとは思います。   ですので,もし考えられるとしたら,これはもちろん賛成ということではないのですけれども,不同意性交等罪に類する,より軽い類型のものを,現在の177条,178条と別に規定をするという方向で,それが可能かどうかという方向で検討するのが適当なのではないかと考えています。   さらに,177条については,判例上必要とされている要件,被害者の抗拒を著しく困難にさせる程度という要件を条文上に例えば書き込んでしまう,そして,不同意性交等罪,もっと軽い類型の中に,被害者の抗拒を著しく困難にさせる程度には至らない程度の暴行・脅迫といったものも含むと。そして,さらに,不同意が外形的に認識できる状況について,客観的な要件を設けるという方向の検討の方が,刑事弁護の観点からはまだ賛成できるというふうに思います。 ○和田委員 これまで各委員の皆様から出てきた御意見を聞くと,それぞれごもっともだというふうに思ってしまって,なかなか自分で明確に,こうだというのがあるわけではないのですけれども,一つは,177条の暴行・脅迫という言葉が,それ自体としてかなり強いイメージを持っていて,そこに加えて,最高裁判例があるものですから,かなり伝統的に,制限的なイメージがついてしまっているということは否定できないと思います。   そうであるにもかかわらず,関係者の不断の努力によって,解釈上かなり,通常の解釈ではあり得ないぐらい,処罰範囲を広げてきているというのが実情だと思いますけれども,それが行き渡っていない,それは裁判の場だけでなく,そもそも被害届を出すかというところから考えてみると,国民の間にどういう範囲が性犯罪になるのかという意識,統一的なものが当然共有されていないという状態になっていると。   これはもう,伝統的な考え方から解釈論によって広げて,何とかカバーしていくという,そういう連続性を持った対応では限界があるということだと思いますので,先ほど佐藤委員からもメッセージという言葉がありましたけれども,やはり条文上明確に,これまでの考え方とはかなり違う処罰を本来すべきなのだと,そういうメッセージが伝わるような条文に,少なくともする必要があるのではないかというふうに思います。   具体的にどういう文言にするといいのか,あるいは,不同意犯罪化するのが一番それは明確なのかもしれませんけれども,それぞれメリット,デメリットは,これまでの委員の先生方御指摘のとおり,いろいろあると思いますので,そこは今後,一巡目に限らず,二巡目,三巡目で詰めて考えていくことになるのだと思いますが,少なくとも,これまでとは違うところに踏み込もうとしているのだというメッセージ性を強く持ったような改正というのが,条文上,求められるのではないかというふうに考えているところです。 ○井田座長 では,時間の関係もありますので,ひとまずそのぐらいにして,次は,178条に関する問題について,御意見ございますでしょうか。 ○渡邊委員 地検の現場で捜査・公判を担当しておりますけれども,178条に抗拒不能という言葉が用いられていまして,しかも,心神喪失と並んで書かれておりまして,実際にその範囲がどうなのだろうなということは,例えば,起訴・不起訴を決める段階などで悩む場合が多いところでございます。   実際に,今回見せていただきました資料を見ましても,178条についての裁判例でも一審と二審で判断が分かれているといったものも,やはり,178条の要件の定め方が背景としてあるのではないかなというふうに思います。   例えば,今までお話に出ていますように,薬物,飲酒その他,そういった問題状況を列挙するというのも非常に有用な手法かと思いますし,また,そういったものを列挙するときに,一つ現場でやっていて思うことは,薬物だけが原因,あるいは飲酒だけが原因ではなくて,それらの一つ一つの要素が足し算のようになって,問題状況が生じているというところもございますので,そういったことが分かるような要件というのが望ましいのかなというふうに思います。   先ほど,177条が成立しないときは,必ずや178条が成立するというような御指摘もございましたけれども,私の実感としては,起訴時はもとより,公判段階でも,そういうことはないと考えておりまして,178条について,適正な処罰範囲の在り方とその構成要件の定め方を御検討いただきたいと思っておるところです。 ○小西委員 先ほど,177条で救えないものは178条にいっているはずだというふうに宮田委員はおっしゃったのですけれども,実際にそうではないということは私も言いたいと思っています。   例えば,資料14の8ページのところですね。準強制性交等罪の事例の1で挙がっているものですけれども,実は,このケースは,私が直接鑑定をしたケースでございます。   一審では抗拒不能について非常に厳しい考え方がとられていまして,それが二審で覆ったとなっていますけれども,「抗拒不能」についてこういう一審のような考え方が可能なのであれば,とても,性的虐待のケースの実情というか,その人たちの被害について,適切な捉え方はできないと思います。   例えば,一審では,被告人に服従,盲従せざるを得ないような強い支配・従属関係にあったとまでは認め難いというふうに言っているのですが,これは,虐待における被虐待者のコントロールの実態について全く知らない人が言っていることだと思います。日常生活ができなくなるわけではありませんし,むしろ,被害については非常に過小に表現することこそ,こういう症状の表れなのですね。   この方は,本当に,鑑定の最初のうち,何時間も被害のことや加害者のことを感情と共に語ることがなかったですし,しばらくして初めて,どういうふうに苦しかったかということは言えましたけれども,このような回避的な態度は,性的虐待の被害者に一般的なものです。そういう中で,抗拒不能というのが絵に描いた餅のような形で考えられている実情があるのだということを,やはりちょっと知っていただきたいと思います。   法律のところまで私は言えませんけれども,こういうケースが実際に起こって,十分に理解がされないまま,判決が下りていることがあることは知っていただきたいと思います。 ○宮田委員 私は,178条で全部救えると言った覚えはありません。そもそも178条で救えるのはどういう案件かといえば,これは,検察官が予備的な訴因として,178条の公訴事実を提示した場合です。   つまり,検察官が,こういう事実が178条に当たるという審判対象を設定した場合においては,177条ではなく178条で,裁判所が有罪を認定できるという問題であります。ですから,判断について,問題だというときに,そのとき検察官はどのような立証をしたか,どのような審判対象を設定したかという問題意識は必ず持たなければならないと思っています。   そして,178条の抗拒不能というのは,主観的不能であるという説もかなり強い,つまり,当該本人が抵抗できないような状態になってしまう,先ほどのフリーズであるとか,あるいは,それこそグルーミング等も含めて,相当幅広に解釈し得る概念だということなのです。ですから,これが狭いのだというふうに宣伝されることによって,みんながそういうふうに思い込んでいるけれども,私は,実際の判例等を見ていると,必ずしもそうではないのだということを思っています。   そうではない判決もあるということは間違いありません。しかしながら,かなり幅広に,きちんと認定している判決もあるということは御指摘申し上げたいと思います。 ○井田座長 私も,177条と178条というのは,我々が普通に考えている以上に,連続性というのでしょうか,共通性というのでしょうか,そういうものを持っているのではないかという感じがしております。   いずれにしても,議論が尽きないところでございますけれども,時間の関係もございますので,本日のところは,第2の「2」についての議論はこの辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。文言と,解釈の実際との間にかなり乖離があるのだとか,それから,抗拒困難という言葉自体が,適切とはいえないメッセージを発しているのだというような,非常に貴重な御指摘もありました。   この点については,今日述べられました御意見や,他の論点についての一巡目の検討結果も踏まえて,二巡目の検討で更に深めてまいりたいと思います。   それでは,開会からかなり時間も経過しましたので,ここで,5分ほどの休憩をしたいと思います。再開後,第1の「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」について検討を行いたいと思います。 (休     憩) ○井田座長 会議を再開したいと思います。   第1の「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」の一つ目から三つ目までの「○」について,検討を行いたいと思います。   まずは,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関連するものについて,説明をお願いします。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」に関する資料は,資料26から28までです。   資料26は,地位・関係性を利用した性的行為に関する我が国における過去の議論の経緯をまとめたものです。旧刑法制定前の議論では,被害者との間に一定の地位・関係性がある場合やその地位を利用した場合には刑を加重するという案が検討されたこと,現行刑法制定後の議論では,通常の強姦罪よりも法定刑の軽い類型として,地位・関係性を利用して性的行為を行った場合を処罰する規定を設けることについて議論が行われたこと,昭和49年の改正刑法草案では,「身分,雇用,業務その他の関係に基づき自己が保護し又は監督する18歳未満の女子に対し,偽計又は威力を用いて」姦淫した場合を処罰する規定を設けることについて検討がなされたことなどが記載されております。   次に,資料27は,同一の被害者に対して継続的な性的行為が行われた事件の裁判例のうち,個々の事実の立証や訴因の特定,罪数などが問題となった事案で,参考となると思われるものをまとめたものです。   資料28は,諸外国における性犯罪規定のうち,性的行為の当事者間に一定の地位・関係性が存することや性的行為の相手方が脆弱性を有すること等を要件とする規定の概要を取りまとめたものであり,主に,第1回会合で配布した資料8を基に作成したものです。   例えば,アメリカのミシガン州,イギリス,ドイツ等では,教師・生徒の関係にあること等を要件とする規定が設けられていること,アメリカのミシガン州・カリフォルニア州,イギリス,ドイツ等では,相手方が一定の年齢未満であり,行為者と相手方との間に生活上の関係等があることを要件とする規定が設けられていること,アメリカのミシガン州・ニューヨーク州・カリフォルニア州,イギリス,フランス,韓国等では,相手方が障害を有していることを要件とする規定が設けられていること,アメリカのニューヨーク州・カリフォルニア州では,同一の相手方に対して継続的に性的行為を行ったことを要件とする規定が設けられていることなどが記載されております。   配布資料26から28までの説明は以上です。 ○井田座長 ただ今の説明について,何か御質問ございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論に入りたいと思います。   第1の「3」の一つ目と二つ目の「○」は,相互に関連性を有すると考えられますので,まずは,この二つをまとめて議論し,次いで,三つ目の「○」について議論することとしたいと思います。   それでは,一つ目の「○」,被害者が一定の年齢未満である場合に,被害者の同意の有無を問わずに処罰する罪を創設することと,二つ目の「○」,被害者の年齢にかかわらず,当罰性が認められる場合を類型化することについて,御意見のある方は御発言をお願いします。 ○山本委員 先ほど,抗拒不能は幅広に解釈されているという議論もあったというふうに思います。しかし,そうはいっても,暴行・脅迫も認められず,抗拒不能も認められず,不起訴になったり,裁判で無罪判決も出ているということも指摘されたとおりです。   こちらの資料にも,やはり,認定されているものもあり,認定されていないものもあるというふうに思います。そうであるならば,やはり地位・関係性,抗拒不能について,どこが認められ,どこが認められないのかということを列挙し,そして,一定の地位・関係性があり,被害者に対して一定の有形力,影響力を有する者が性行為をした場合という類型を設けることも大切かと思います。   また,年齢についてなのですけれども,監護者性交等罪については,18歳未満の年齢制限をなくしてほしいと思っています。平成31年の岡崎判決では,被害者が18歳未満の時の被害を立件できなかったことから,準強制性交等罪での起訴になり,抗拒不能が認定されませんでした。18歳未満という定めがなければ,監護者性交等罪で立件できたのではないでしょうか。   そして,もしそのような年齢の撤廃というのが難しい場合なのですけれども,このように長期に反復する虐待を受けていたということは,18歳になったから,20歳になったから,30歳になったからといって,訴えることができるようになるということでもありません。臨床上は,逃げて安全な環境に行けて,治療を受けて一定期間が経過しないと,本人の自由意思が戻ってこない,そういう状態であると考えます。年齢で区切るのではなく,その被害者の状態に合わせた規定を設けていただければというふうに思っています。 ○小西委員 こういう被害については,その子供の周りにいる様々な人から被害があることが常識になっていると思います。例えば,教員,スポーツのコーチ,塾の先生,それから,監護者に代わるような,例えば,養護する施設,監護する施設の職員とか里親とか,そういうケースもありますね。   どういうふうに処罰対象とするのかということで,各国の法律を見ると,いろいろ工夫があるのだなというふうに思います。少なくとも,現行法の対象である監護者だけでは非常に狭過ぎるというのが,実際に臨床をやっている者としての意見です。   例えば,教員からのケースというのは,常にありますし,かなり年齢が高い層まで,教員からの被害というのはあります。スポーツのコーチからの被害も,一つ,強制起訴になったケースで有名なものがございますけれども,被害がコントロール下で起こったということが,やはり大きな意味を持っていると思います。   その中で何を取るかということなのですけれども,例えば,スポーツのコーチといっても,関わる度合いがすごく違いますよね。難しいところだとは思いますが,最低限,教員と,それから監護者と,それに代わる,例えば,養護施設や監護施設のケアする人たち,さらに,里親をやっている人たち,そういうところの人については,監護者性交等罪と同じような形で処罰してもいいのではないかというふうに思っています。 ○齋藤委員 現に監護する者の範囲というのは,私もあまりにも狭過ぎると思っておりまして,やはり,類似する存在として,祖父母であるとか,おじ,おば,きょうだい,同居していない親などは,少なくとも含める必要があると考えております。   なぜかといいますと,衣食住を管理していないかもしれませんけれども,親族というのは,反抗したり抵抗したりすることで,家族関係とか,その子供の居場所が壊れるという関係性です。また,先ほど小西委員もおっしゃっておりました学校の先生というのは,やはり抵抗や拒否をする,あるいはその人たちを疑う,その人たちの行為を疑うということは,その子供の居場所を失うということにつながります。   子供たちにとって,学校の教師や里親,養護施設の職員,そういう人たちからの被害というのは,もしも子供たちが抵抗した場合,その子供の生活環境であるとか,その子供の生活する社会が壊されるというリスクのあるもので,それは監護者と同様に含めてもいいのではないかと思っております。   関係性につきましては,関係性で定義するのがいいのか,抗拒不能などの文言の中で考えるのかというのは,私には考えが及ばないのですけれども,私が調査を行った結果からは,加害者が被害者に対して言動を用いて力関係を作り出すことで,被害者が抵抗できない状態,拒否できない状態に追い詰められていくということが,性暴力が発生するプロセスで見られました。その上で,もしも従前に上下関係があった場合は,性暴力の発生プロセスを容易にするということも分かっております。   臨床経験においても,上司からの強制的な性交は,不起訴や不受理になることが多いという感覚があります。上司以外にも教師や習い事の先生,就職活動先のOB,OG,フリーランスの人たちの取引相手,医療機関の医療職や心理職,福祉施設職員,利害関係,依存関係,脆弱性がある関係性など,いろいろな関係性が挙げられると思います。それをどこまでどのような形で明確にするのかというのは,難しいところではあると思うのですけれども,少なくとも,その人の人生や将来,経済状態等を決定する権限のある人たち,医療や心理,福祉施設職員のように,その人たちに力を行使したり,その人たちの生活,生命,精神状態を左右できるような立場にいる人たちからの被害は,きちんと罰する必要があるのではないかと考えております。 ○上谷委員 自分がいろいろな被害者の相談を受けた経験も踏まえて意見を述べますと,地位・関係性を利用した犯罪類型が最も救われていないゾーンだと思っています。   やはり,地位・関係性がある場合は,力関係がそもそもあったり,顔見知りであるということで,従来求められている暴行・脅迫に満たないですね。そのために,ほとんどが不起訴というケースがあります。   先ほど,齋藤委員が言われたように,やはり,教師や塾の先生と生徒,また,部活の先輩・後輩,会社の先輩・後輩,上司と部下の関係,取引先,医師と患者など,こういうのは非常に多いにもかかわらず,一番救われていないゾーンだと思っています。   まず,現に監護する者というのは,「現に」と付いているので,文言の問題もあるかもしれないのですけれども,私もこれは狭過ぎると思っていて,例えば,私が相談を受けた例ですと,13歳の女の子が,離婚してしばらく会っていないお父さんと久しぶりに面会をしたと。車で迎えに来て,車に乗ったら,その中で父親にわいせつ行為をされたということがあったのですけれども,13歳なので,性的同意年齢の問題で暴行・脅迫が要求されると。現に監護する者にも当たらない,別居中であるということと,その父親は養育費を払っていなかったのですね。だから,経済的依存関係もないということで,養育費を払っていないことが有利に解釈されてしまうということで,結局これ,監護者わいせつ罪にも強制わいせつ罪にも問われませんでした。   ですので,もう少し,この辺のことも含めて,性的同意年齢とも関わるかもしれませんけれども,議論していく必要があるかなと思っています。   それから,子供の被害というのは非常に重要ですし,特に被害に遭いやすいのですけれども,やはり大人の被害も大事に考えなくてはいけないと思っていて,大人であればあるほど,後で,どうしてあのときちゃんと断れなかったのかと,自責の念が非常に強いという面があると思います。特に会社内とか取引先など,仕事が絡んでいると,なかなか言いづらいし,なぜか日本の場合は,被害者が責められて会社にいられなくなるということになっていますので,生活が成り立たないということに直結しているのですよね。   そのようなことも,現実としてたくさん起きていますので,この辺のところを,単に「地位・関係を利用し」というふうに言えばいいのか,関係性を細かく列挙するのかというのは,私の中でも,まだまだ検討は足りていないのですけれども,その辺りのことも議論していただければと思っています。 ○木村委員 監護者に関連した話なのですけれども,先ほど,177条と178条の関係がどうかという議論があったのですが,抗拒不能は,どうしても177条の暴行・脅迫と同程度というふうに従来考えられているので,少なくとも形式的には結構程度の強いものが必要になってしまって,その結果,本来,親子関係であれば,178条で拾えていたと思うのですけれども,それができなかったために,監護者が立法されたのだという経緯があったかと思います。   同じように考えると,やはり,ある程度類型化してくくり出すという作業をしないと,なかなか178条では拾えないというふうに思います。   また,地位・関係性の範囲ですけれども,確かにどういうふうに限定するかというか,どこまで入れるかというのはすごく難しくて,地位とか,力関係という抽象的な表現では,条文としては曖昧になってしまうのかなという気がするので,取りあえずは,この前は監護者を入れましたけれども,それに近いような,例えば,教師であるとか,学校に雇われているコーチであるとか,そういうような形でくくり出すというのは,一つの方法かなというふうに考えております。 ○井田座長 先ほど佐藤委員がおっしゃったように,不同意といわれるものの中にもグラデーションがあって,言わば,黒が強いところから,だんだん薄くなって白に近い灰色までグラデーションがあるとすると,そのどこに177条,178条の処罰を可能にする境目があるのかが問題です。我々は,これから議論していく中で,そのあるところに線を引かなければならないわけです。その上で,さらに,そこに至らない,今度はもうちょっとグラデーションの薄いところまで捕まえていくとなると,それは大変難しい問題になると思います。 ○橋爪委員 私も今,御議論を伺っておりまして,若年者につきましては,精神的に未成熟であり,親族や教師,スポーツのコーチなどの関係性を有しており,精神的に影響を及ぼし得る者から性行為の要求があった場合に,これに適切に対応できない場合があり得ることから,青少年の脆弱性に着目して何らかの対応を取ること,すなわち,新たな刑罰法規を設ける,あるいは,抗拒不能要件に関する具体的な判断基準を設けることなどが,選択肢としては十分に考えられるように思います。   ただ,その場合には,単純に監護者性交等罪と同様の規定を設けるのではなく,その要件や処罰範囲については,更に限定的に考える必要があると思います。すなわち,監護者性交等罪につきましては,監護者と被監護者が依存・被依存,保護・被保護の関係にあることから,監護者による被監護者に対する性的行為は,被監護者の自由な任意の意思決定によるものとは評価できず,また,監護者が被監護者の利益を保護すべき立場にあることもあいまって,強制性交等罪と同等の悪質性・当罰性を有するという観点から新設されたものです。   すなわち,現に監護する者の影響力と関連性を有して行われた性行為については,たとえ被害者が同意していた,あるいは,当事者間に恋愛感情があったとしても,これを一切問題にせずに処罰対象とするものと解されます。また,個別の関係性の強弱についても,具体的に認定する必要はありません。   これに対して,学校の教師やスポーツのコーチなどの場合,もちろん監護者と同等の影響力を持つ場合もあると思うのですが,その影響の程度は一様ではありません。また,例えば高校生が,学校の教師やスポーツのコーチと真剣な恋愛関係に至り,性的行為に及ぶことは,全くないわけではなく,当・不当はおくとしましても,これを全て性犯罪としての処罰対象にすべきかについては議論があり得るように思います。   すなわち,仮に,一定の地位・関係性に基づく性行為を罰するとしましても,監護者性交等罪よりは厳格な要件が必要であり,例えば,相手に対する影響力の程度や当事者間の関係性を個別に認定したり,あるいは,地位・関係性を悪用・濫用する具体的な行為を要求するなど,何らかの限定的な規定を検討する必要があるように考えております。 ○宮田委員 今,橋爪委員がおっしゃったことで,私の意見は,ほぼ尽きている感じはいたします。   地位・関係性利用の問題については,日弁連が反対意見を出しました。これは,地位・関係性があるということだけで,それ以上の反証ができなくなってしまう,そのような構造が問題だということでございます。   ですから,それを更に広げるべきだという議論になってしまいますと,今,橋爪委員が御指摘になったように,保護者である親等と子供との関係というのは,ある程度,定型性がありますが,学校の先生の関係その他については,非常に不定型な部分がある。そういうものを,そういう関係があるというだけで処罰してしまうという規定を作ってしまうことは,あってはならないことであるというふうに考えます。 ○山本委員 先ほど,教師と生徒で真摯な恋愛関係があり得る可能性があるというお話が出ましたけれども,こちらの資料にもあったと思うのですけれども,諸外国では,そのような関係性において,性的自己決定権に明らかに差があるということを認識して,地位・関係性を置いているという国もあります。   日本の場合,性犯罪,性暴力を議論すると,いつも真摯な恋愛関係がある場合というふうな話をしますけれども,その真摯な恋愛というのは,一体何を想定しているのだろうかと思います。   対等でない関係で,強制性があった場合,そして同意がない場合,これが性暴力を構成する定義です。教師と生徒という上下関係がある場合において,真摯な恋愛関係が形成されると真剣に考えることについては,私は憤りを持って批判させていただきたいと思います。   児童福祉法でも,18歳未満への性行為は罪です。そのことも踏まえて,そのような立場の大人が子供に,性行為を含むような恋愛をすることは許されないと考えてもいいと思います。 ○小島委員 監護者性交等罪というのは有意義な改正だったと思います。これで救われる子供たちがたくさん出てきているということで,やはり,このスキームをもう少し広げていく必要があると思います。子供の性被害は,非常に深刻だということを前提に,この監護者性交等罪については,適用範囲を広げていくということが要請されていると思っております。   少なくとも教師,それから,例えば,先ほど木村委員がおっしゃっていましたように,学校に雇われているスポーツの指導者等につきましては,監護者性交等罪の中に入れて拡大していくことが,必要ではないかという意見を持っております。   それ以外の関係性について,どこまでこのスキームでやっていくのかということについては,検討の余地があるかと思いますけれども,私としては,アルバイト先で被害に遭うことが多いので,職場も含めて,検討していただきたいと思っております。   また,被害者が18歳以上の場合の地位・関係性を利用した性行為,性交等についても,新たな犯罪類型を創設していただきたいと思っております。親族,教師,雇用主,施設の職員等について,力関係を利用・濫用して行う性的行為を犯罪化する方向を考えたいと思います。処罰範囲については,諸外国の法令を参考にして,国際基準にのっとった形で,ここの部分の改正も是非お願いしたいと考えております。 ○井田座長 ほかに,この点について御意見はございますか。まだ一巡目の議論ということでもありますので,本日のところは,第1の「3」の一つ目から二つ目の「○」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただいて,三つ目の「○」についての議論に移らせていただきたいと思います。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,三つ目の「○」,継続的な行為を全体として一罪とすることのできる罪の創設について,御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 性的虐待の被害を現場で見ていると,やはり,日時が特定できないという点において,起訴されることが難しく,不起訴になってしまったということは,よく遭遇する場面です。   しかし,長期反復するような虐待を受けている場合,複雑性PTSDとなり,不可逆的ともいえるような大きなダメージを受けていることが知られています。特に子供の場合は,発達性トラウマを来し,本当に人生が地獄のようになってしまうぐらいのダメージを受けています。   それなのに,刑法の規定において,日時の特定が難しいということで,加害者が何の処罰も受けないということに関しても,被害を受けた人たちは絶望的な思いを持ち,罪に問われないのだと思っているということも多いです。   ですので,このような具体的な日時,場所を特定しなくても,一連の事実について,1個の犯罪の成立が認められるような,そういう規定が作られることは,やはり被害を認めて,それを処罰することができるという,正義にかなうことだと思うので,すごく望ましいと思っています。 ○齋藤委員 前回もお伝えしたのですけれども,家族からの性的虐待に限らず,子供の被害は継続的に起こることが非常に多くて,継続的に起きたときに,もちろん人によっては,例えば日記帳などに日時を書いていたというお子さんたちもいるのですけれども,でも,嫌な出来事なので,そういったものに残したくなくて,何も記録がなくて,いつ行われたか正確には分からない,日時と場所を正確に結びつけることが難しいという子供はたくさんおります。   特に,幼い頃は,日時の特定がそもそも,脳の発達上の問題で難しいということもあります。   山本委員もおっしゃっていたように,長期反復する性被害は非常に深刻なダメージを与えるにもかかわらず,日時が特定できないという理由で加害者が処罰されないというのは,影響が重篤であるにもかかわらず,それが被害として公的に認められない,子供の安全が確保されないということになってくるので,非常に大きな問題だと常々思っております。もちろん,家族からの性的虐待というのは,家族,信頼できる大人からの被害ということで,子供にはすごい衝撃を与えますけれども,家族でなくても,近所の慕っていたお兄さんであるとか,塾の先生であるとか,学校の先生であるとか,そうした人たちからの継続的な性行為というのが,今よりきちんと適切に対応されるように,日時と場所が正確に結び付いて特定されなくとも認められるということを私は望んでおります。 ○川出委員 この論点については,ただ今御指摘のあった立証の緩和の問題と,新たな罪の創設という問題が一体となった形で記載がなされていますが,この二つはもともと異なる問題ですので,区別して検討する必要があると思います。   基本となるのは,後者の実体法の問題です。つまり,同一の被害者に対して継続的に性的行為が行われたという場合,現在では,それぞれに犯罪が成立し併合罪として扱われているのを,一罪として処罰する規定を設けるということですから,どのような根拠でそれを一罪として処罰するのかを検討する必要があります。このことは,新たな罪の性質がどういうものになるのかということや,その要件をどうするのかということとも関わってきます。   次に,そのような罪を作るとして,その法定刑をどのようなものにするのかという検討が必要になります。具体的には,包括一罪として処理するのと同様に,1回の行為の場合と同じ法定刑とするのか,それとも,先ほど御指摘があったように,1回の行為とは異なる性質を持った,より重大な侵害を伴うものとして,より重い法定刑を設けるのかということが問題になります。   以上の実体法上の検討,つまり,新たな罪を設けるべきか否かというのは,個々の行為の具体的な日時,場所が特定できるかどうかとは関わりなく検討すべき問題です。その上で,次に,こういった罪を設けた場合に,個々の行為の具体的な日時,場所が特定できないことによって処罰ができないという問題が本当に解決されるのかということを考える必要があります。   といいますのは,こうした罪を新たに設けたとしても,その罪の構成要件に該当する事実は当然に立証することが求められます。つまり,日時,場所は厳密に特定できないけれども,継続的に性的行為が行われたという事実は立証されなければならないということです。そうすると,本当にそういう立証ができる場合があるのかどうか,具体的には,日時や場所は特定できないけれども,継続的に性的行為が行われたことは確かであるという事案が実態としてどのくらいあるのかということが問題となります。こうした観点から,これまで処罰することができなかった事例,配布資料にも一部掲載されていますが,そうした事例を検討してみる必要があると思います。   その上で,次に,そのような場合があるとして,訴因の記載として,個々の行為を日時,場所等によって特定しない形での記載が許されるのかということが問題になります。実務上は,例えば営業犯や常習犯について,一罪であるからといって,当然に日時,場所等を特定しない形での記載が許されるとは考えられていないようでして,犯罪の性質によっては,個々の行為を特定する形での記載がなされる場合もあるようです。そうした事例と比較して,今回設けようとする新たな罪について,具体的な日時,場所等の記載をしなくても,訴因の記載として十分と言えるかどうかということを検討する必要があると思います。 ○金杉委員 先ほどから御意見を頂いているような事案について,継続的に被害を受けている場合に処罰をすべき必要性があるということは,私もそのとおりだと思います。   ただ,やはり刑事弁護の観点からは,個別の日時,場所が特定されなければ,一罪と考えるのかどうかという問題はありますけれども,被告人がその事実について争った場合に,反証ができるのかということは,非常に大きな問題だと思います。   刑事事件ではありませんが,私も,民事で関係性があるものについて,継続的な性的被害を被害者の方が主張されて,その事実の有無について争ったということも何度もあります。けれども,やはり個別の日時,場所が特定された場合に初めて,その主張されている日時には他の場所にいたとかを何らかの証拠で立証することが可能になるのであって,反証という点からすれば,全く日時,場所が特定されていないとすると,前提としての行為を認めている場合はいいのですが,争った場合には非常に反証が難しい,不可能になってしまうということは,是非お考えいただきたいと思います。 ○宮田委員 このような同一被害者に対する継続的な被害が生じる場合は,性的な被害だけではありません。いわゆる虐待の問題というのは,相当の期間の間に,いつ暴力が行われたかもほぼ分からないのだけれども,取りあえず暴力はこの頃に行われたみたいなことがよくあります。   そういう意味で,例えば児童福祉法,あるいは児童虐待の防止のための法律の中で,特別な構成要件を作って,性的な虐待も含めた虐待についての規定を作り,保護者への介入,あるいは,教育といった問題を充実させていくということは,非常に私は意味があると思っているのですけれども,今,金杉委員がおっしゃったように,日時の特定ができない形では,そもそも何が問題になっているのかを裁判所に示す審判対象,つまり裁判の対象の設定という意味でも問題があると思いますし,また,それを防御をする立場においても,著しく反証が困難で,大変な問題を生じ得る問題であると考えます。 ○上谷委員 私も,こういった被害はものすごく結果が重大なので,何とかしたいと思っているのですけれども,確かに時間がたっていたり,幼くてということで,日時,特に場所は,自宅であったりとかということがありますけれども,日時の特定が非常に難しくて,そういう被害者の場合は,ヒアリングもすごく難しいのですよね。   その日時の特定ができないと,やはり周辺事情も拾いづらいというのがあって,同じことは,多分,被告人の防御が難しいということにもつながっているだろうと思うのですけれども,意見というよりも,できれば委員の方のお話を聞きたくて,例えば,日時とか場所を特定しない場合に,それでも性被害があったのだという捜査や公判の立証活動が可能なのかどうかというのと,裁判所として,そういう事実認定がどうなのかというのを,実務の観点からお伺いしたいのですけれども。 ○渡邊委員 おっしゃっているように,長期間にわたり,そういう被害を受けていて,しかも日時,場所等について記憶が混同しているというようなケースに関して,我々もいろいろ工夫をして,何らか日時が特定できないかということで一生懸命捜査をしております。   例えば,携帯電話ですとか,そういったツールに,何か出来事に関することが記載されていないかとか,あるいは本人のイベント,お誕生日とかいろいろあると思いますけれども,そういったものとの関係で,被害の日時が大体特定できないかとか,そういったことをいろいろやってはいるのですけれども,一方で,一貫した供述を得られるかとか,そういった問題もあって,非常に捜査に苦慮していますし,また立証の段階でも,捜査からそれなりにかかって,公判で証人尋問ということになったりもしますので,苦慮しているというのが実情でございます。   そういう意味で,やはり早期の段階でどのような話をしていたのかということが,非常に重要なポイントかと思います。誘導とか汚染等がない段階でどのような話をしていたかということは,非常に重要かと思いますし,また,被害がどのような形で申告されたのかも一つのポイントになるのかなと思って,頑張っておるところです。   ただ,難しい面があるということは,本当に御指摘のとおりだと思います。 ○羽石委員 私も意見の表明のところで,現場ではこういう難しい点があると,最初にお話しさせていただいたときに,実際に現場でどういう立証の仕方をしているのかと話を聞くと,先ほど渡邊委員からお話があったとおり,やはり小さい子だと,手帳がなかったり,携帯電話をまだ持っていなかったりするので,イベントや体育祭とか運動会の近くの頃とか,お誕生日の頃とか,そういったもので記憶を何とかひもといて,つなげていることが多いということでした。   ただ,やはりすごく難しいということでございます。 ○橋爪委員 若干論点がずれますが,刑法の観点から,今の問題について少し申し上げたいと思います。   この問題というのは,基本的には,複数の犯罪事実があった場合に,それを個別に認定した上で,併合罪として加重処罰すべきなのか,それとも,複数の犯罪行為を包括的に評価できるかという観点から検討すべき問題です。また,これを現行法の解釈として,どこまでできるかという問題と,立法論として,新しい規定を設けることができるかという観点とを分けて検討する必要があると考えます。   まず,現行法の解釈から申し上げますが,基本的には,複数の犯罪行為があり,犯罪行為ごとに別個の法益侵害が発生する場合については,個別の犯罪事実を証明した上で,併合罪として加重処罰することが原則になります。したがって,恐らく実務におきましても,複数の性交等の被害が発生した場合については,複数の犯罪行為を個別に証明した上で,併合罪加重することが原則になるかと思います。   もっとも,判例に従いますと,一定の場合には,複数の犯罪行為を一体的に評価した上で,全体を一つの罪として,包括一罪として処理する余地がございます。すなわち,最近の判例によれば,継続的に長期間の暴行によって被害者が傷害を負った事件については,複数の暴行を包括的に評価した上で,傷害罪一罪の成立が認められています。   このように,複数の犯罪行為を包括的に評価できる判断基準は,一様ではありませんが,恐らく同一の意思決定に基づく犯罪行為であり,かつ複数の犯罪行為の個性が乏しく,その個性を捨象して包括的に評価できることがポイントになるように思われます。したがって,性犯罪につきましても,複数の性交等について,同一の意思決定や人間関係に基づく犯罪であり,かつ,個別の犯罪行為の個性が乏しいと評価できる場合があるかということが,現行法の枠内でも問題になり得るように思います。   さらに,立法論としまして,先ほどから御指摘がありましたように,継続的な性行為の被害の重大性に着目した上で,同一の関係性を背景として,継続的な性行為があったことを新たな構成要件として加重処罰できるかということが問題になり得ます。その際,実体法の観点からは,法定刑をどのように設定するのか。具体的には,その法定刑として,併合罪加重による上限を超えた範囲まで処罰する余地を認めるのかということが具体的に問題になります。   また,刑事手続に関しましては,先ほど川出委員からも御指摘がありましたが,継続的な性行為があったことについては証明が必要であることから,その際に,どの程度まで個別の性行為について証明が必要かという点について,更に検討する必要があるように思われます。 ○中川委員 大変難しい問題で,傷害罪については,継続的に暴行を受けていたものについて,包括一罪というふうにした判例は確かにあって,同じように性犯罪で新たな犯罪類型を設けるかどうかということは,立法政策ということになりますので,これは皆さんでこれから考えていくことになろうかと思いますが,刑事訴訟法上,先ほど川出委員がおっしゃったように,起訴状においては,できる限り日時,場所を特定しなければならないというふうにされております。それは,裁判所に審理をする対象を明らかにして,後から同じ事件で二重起訴をされたり,判決が出た事件で再び訴えられるようなことがないようにするという,こういう目的があるというふうに理解しております。   また,先ほど宮田委員からもありましたように,どの事実について争っているか分からなければ,被告人が防御できないので,被告人の防御のためにも,できる限り事件の事実の特定を求めているものというふうに理解しております。   もっとも,現在でも,事例の中にもありましたとおり,犯罪の性質などから,何月何日,8月27日午後3時とか,そういう具体的な日時,場所を特定できない事情がある場合には,ある程度の時期,それから行為態様,被害状況などとあいまって,ほかの機会と区別できる程度に特定できれば,厳密に日時や場所を特定しなければならないとは理解されておりません。   そういうことで,先ほど検察の委員からもありましたとおり,お誕生日より後とか運動会より後,クリスマスより前とか,そのような形で,何月から何月何日頃,こういう行為をされたというふうに特定をしている事件もあろうかと思います。 ○井田座長 まだまだ御意見があるかもしれませんけれども,時間の関係もございますし,また,本日は一巡目の議論ということでもございますので,本日のところは,第1の「3」についての議論はこの辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   この,「3」についても,二巡目の議論で,今頂いた御意見を踏まえて,更に議論を深めていくことにしたいと思います。   次に,第1の「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」についての検討に進みます。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関連するものについて,御説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」に関する資料は,資料29から32までです。   資料29は,いわゆる性交同意年齢に関する我が国における過去の議論の経緯をまとめたものです。旧刑法では,暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強姦罪が成立することとなる年齢は12歳未満とされていたこと,また,現行刑法制定前の法律取調委員会委員総会において,暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強姦罪が成立することとなる被害者の年齢を13歳未満又は14歳未満に引き上げることについて議論がなされ,その際,女子の月経開始期が平均13歳何か月とのことであったことを理由に,13歳未満とすることに賛成する意見が表明されるなどし,その後に行われた採決の結果,13歳未満とする説に賛成した者が多数であったことから,現行刑法では,暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強姦罪が成立することとなる被害者の年齢は13歳未満とされたこと,また,改正刑法草案では,不法な性的干渉から年少者を保護する必要があること,刑事責任年齢との調和を図るのが望ましいこと,諸外国の立法例においても14歳ないし16歳未満の者を特別に保護しているものが多いことなどが考慮され,暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強姦罪が成立することとなる被害者の年齢は,14歳未満とされたことなどが記載されております。   次に,資料30は,日本性教育協会がほぼ6年おきに全国の中学生・高校生・大学生を対象に実施している性行動に関する調査の結果です。   調査の結果については,大学生及び高校生の性交の経験率は,男女ともに平成17年の調査時が最も高く,それ以降は減少傾向にあり,平成29年の調査では,男子大学生が47%,女子大学生が36.7%,男子高校生が13.6%,女子高校生が19.3%となっております。また,中学生の性交の経験率は,平成17年の調査時からほぼ横ばいであり,平成29年の調査では,男子中学生が3.7%,女子中学生が4.5%となっています。   次に,資料31は,小学校・中学校・高等学校の学習指導要領において定められている体の発育や発達等に関する教育の内容をまとめたものです。   資料32は,諸外国における性犯罪規定のうち,性的行為の当事者の年齢が要件となっている規定の概要を取りまとめたものであり,主に,第1回会合で配布しました資料8を基に作成したものです。   諸外国の中には,行為者の年齢にかかわらず,相手方が一定の年齢に達していない場合に,そのような者との性交を犯罪とする規定を設けている国もあるところ,それらの規定で定められている相手方の年齢については,11歳から18歳まで,様々な年齢が定められております。それらの罪の法定刑についても,アメリカのミシガン州のように,暴行等を用いて性交した場合と同じ法定刑を定めているものもあれば,フランスのように,暴行等を用いて性交した場合よりも軽い法定刑を定めているものもあります。また,諸外国の中には,相手方が一定の年齢に達していないことに加えて,行為者と相手方の間に一定の年齢差がある場合に行われた性交等を犯罪とする規定を設けている国もあるところ,それらの規定で定められている相手方の年齢については,10歳から18歳まで,様々な年齢が定められており,行為者と相手方との間の年齢差についても,3歳差から10歳差まで,様々な年齢差が定められております。   資料29から32までの御説明は以上でございます。 ○井田座長 ただ今の事務局の説明に対して,何か御質問ございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論に入りたいと思います。この論点について御意見のある方は,何でも結構ですので,御発言をお願いします。 ○山本委員 私が思っていることとして,やはり今の状態では,発達段階にある子供の保護という視点が欠けているのではないかと思います。   脳の完成は25歳ぐらいになると言われているように,大人と,年少の人たちとでは,社会経験や,その人たちが行使できる力において,大きな違いがあるというふうに考えています。   しかし,日本の今の状態では,13歳以上で,相手が監護者などでなければ,同じように抗拒不能や暴行・脅迫要件が必要とされるわけで,被害を受ける立場の人たちにとってはとても過酷ではないかと思います。   少なくとも16歳未満の人たち,義務教育年齢の人は,保護される必要があると思いますし,児童福祉法に定められているような18歳未満の人たちと,ある程度の年齢を区切った,大人からの性的な接触とか干渉とか搾取というのを防止するような規定を定めてもいいのではないかというふうに思っています。   性交同意年齢を16歳未満に上げると,必ず,では14歳や15歳の人たちはどうするのだというふうな議論になるかと思います。その16歳未満の人たち同士を除くとか,また,そのような場合においても,先輩であるとか,そういうグループの上での力関係を行使して,性暴力というのは発生していますので,カナダのように,14歳未満の者は,相手に対する信用的地位に就いていない限り訴追されないとか,そういう要件を定めてもいいのではないかなというふうに思っています。 ○小島委員 13歳というのは,低過ぎると思っており,16歳まで引き上げるという改正を検討するべきだというふうに考えております。   青少年の性的自由ということを考えなければいけないという観点から,行為者と被害者の間に一定の年齢差のある場合については,例外的に行為者の処罰を否定するという人的処罰阻却事由を入れること,年齢差ルールというのを規定するべきではないかと思います。   法務省の資料にも,青少年の性行為について資料がございますので,子供同士の恋愛関係というのは特別な例外規定を設けるべきだと思いますので,年齢差ルールを設けるということで,諸外国の法令に学んで,一定年齢の引上げを行うべきだというのが私の意見でございます。 ○橋爪委員 性交同意年齢につきましては,もちろん引上げという議論もあり得ると思いますが,仮に一定の年齢まで引上げを行った場合には,既に御指摘がありましたように,中学生・高校生同士のキスや性行為について,当事者が共に処罰対象になってしまう事態が生じます。つまり,一つの行為について,いずれもが加害者かつ被害者であるという極めて不自然な状況が生じますので,これを回避するために何らかの対応が必要になると思います。   その方法としましては,先ほどから御提案がございましたように,年齢差に着目するアプローチが有益であるわけですが,その際には,どのような理論的根拠で年齢差を合理的に設定するか,言い換えますと,年齢が近い場合の性行為は正当化できるけれども,年齢が離れている場合については性行為が違法になるわけですので,どのような根拠から年齢差を設定し,また,適法と違法の限界設定をどのように正当化するかについて,慎重な議論が必要になるように思います。   このように考えますと,この問題というのは,性交同意年齢の問題に尽きるわけではなく,むしろ,年齢差に着目した処罰,言わば,地位・関係性を悪用した犯罪という観点から検討する余地もあるように思います。すなわち,この問題については,性交同意年齢自体を引き上げるというアプローチを取るべきなのか,それとも,青少年に対する性的搾取という観点から,地位・関係性に関する処罰規定の枠内で対応するかという問題についても,更に検討する必要があると考える次第です。 ○井田座長 立法論としては,両方を併用することも可能かもしれませんね。年齢を少しだけ引き上げて,他方,それを超える年齢層については別に類型を設けるということも考えられます。 ○上谷委員 今御指摘あったように,性的同意年齢の在り方というのは,先ほどの地位・関係性とも関わってくる問題で,もしかして一緒になるかもしれないし,別々になるかもしれないなと思っているのですけれども,私も,これは余りにも低過ぎるので,引き上げるべきだと思っていて,それに反対する人は余りいないようにも思っているのですが,ただ年齢差に着目すればいいというわけではなくて,例えば16歳にしたとしても,15歳が14歳をレイプするというのは十分あり得るわけですし,また,成長のタイミングも個人差が激しい時期でもありますので,例えば14歳が15歳をレイプするということも十分可能だと思うのですよね。要するに,年齢が高い人が常に強いわけではないという側面もあると思いますので,そういった観点も踏まえて,どういった規定にするかという議論が必要かと思います。 ○宮田委員 2点申し上げます。   資料30なのですけれども,これは,学生に対する調査です。私どもが少年法の付添人などで相手にする少年の場合には,高校中退,あるいは,そもそも高校に行っていないという子供たちが非常に多いです。そういう子たちは初交年齢が低いです。早くから性的な関係を持ちます。   ですから,この統計にけちをつけるつもりはないのですけれども,初めてセックスを経験した年齢は何歳のときでしたかということに対し,高校生はこうなのね,大学生はこうなのねという見方をしなければならないのであろうという感じはいたしました。   次に,2点目です。被害者の性交同意年齢を引き上げるべきであるという議論は,子供に対する性的な教育であるとか,あるいは子供の情報に対する脆弱性であるとか,意思決定に対する脆弱性であるとか,そういうことに着目したものであると考えられます。そうしたときに,加害者も同じなのではないかなというふうに思うわけです。   性教育がきちんとなされていない,性行為がどういう意味を持つのか,それが相手をどれだけ傷つける場合があり得るのか,あるいは,人間関係を作るということはどういうことなのかということについて,教育をされていないということは,これは加害者も被害者も同じです。   今日の資料などを拝見いたしますと,海外の立法では,18歳以上の者が行為をしたときに処罰するというふうなところも結構見られます。加害者の性犯罪についての当罰性のある年齢は幾つなのかということも,この性交同意年齢に関しては,一緒に考えるべきなのではないかと思っています。   特に性犯罪は,スティグマが非常に大きいです。性非行の名前が性犯罪であるということになると,その後の人生は,住む場所についても就職についてもほぼ道を閉ざされます。その少年は,性についての教育を受けていなかった人です。そこも我々は考えなければならないのではないかと考えております。 ○齋藤委員 余りまとまっていないのですけれども,私も,今の年齢は,本当に余りにも低過ぎるので,上げることを考えるというのはもちろん必要だと思っております。   例えば,抗拒不能であるとか暴行・脅迫の要件を変更することで,14歳,15歳の被害も適切に対応されるのではないかという御意見もあるかもしれません。しかし,子供の被害は,加害者が,子供が大人よりも理解力が未発達であること,脆弱性があること,大人よりも狭い世界で生きていることなどを利用していくので,そのプロセスが第三者から見ると非常に分かりにくい場合も少なくありません。そのため,少なくとも義務教育年齢の子供たちをきちんと被害から守るという意味では,年齢を上げていく必要があるのではないかと考えています。   年齢差の要件などについては,まだ私も余り考えが至っていなくて,ただ1点だけ,この検討会の話ではないのですけれども,今,宮田委員からありました,加害を行った人たちは性の教育を受けていない人たちだというお話について述べさせていただきます。性の教育を受けていないどころか,加害を行った子供たち自身が,いろいろな暴力とか被害にさらされていたりすることがよく見られます。性に関する問題行動というのは,その背景に別のトラウマが潜んでいる可能性があるので,加害者,被害者という枠組みでなくてもいいのですけれども,子供たちをきちんと大人が把握できる,そして,加害をした子たちにも教育であるとか支援が提供されることを願いますし,教育や支援が必要なのだという認識が社会に広まっていくようにと思っています。   以上のように,性交同意年齢は上げていただきたいということが一つと,もう一つは,刑法とは少し文脈が離れますけれども,年齢にそぐわない性的行動の問題性を,もう少し社会に認識していただきたく思っています。 ○井田座長 委員の皆さんの中には,引上げはそもそも反対である,現状のままでよいという御意見はありましょうか。 ○佐藤委員 私も引上げは全然問題ないと思いますし,その際には,是非,年齢差要件とか,あるいは能力差の利用要件とか,そういうようなものが必要だと思うのですけれども,一点,注意すべきだと思うのは,例えば年齢差要件を設けて,3歳差とか5歳差にしたときに,14歳の子が11歳の子に性的行為をした場合や,14歳の子が10歳,9歳の子に性的行為をした場合に,年齢差要件に引っかかって処罰されないというふうになっていいのかどうかというのは,判断しなければいけないところだと考えます。13歳未満は13歳未満でキープしておいて,つまり,絶対に性的接触が許されない年齢のようなものを準備しておいて,13歳以上,例えば16歳未満とか,18歳未満とか,ここからここまでは年齢差要件が妥当するとか,能力差要件が妥当するという形で,二段階に保護を変えてもいいのではないかなと思っております。 ○井田座長 先ほど,橋爪委員からも御指摘があったと思いますけれども,どのような理論的根拠により二段階的に保護を変えるのかは難しい問題となりそうですね。   今のこのテーマについて,引上げに賛成である,または反対である,そういう御意見はございますか。少し違った観点からの御意見でも結構です。 ○山本委員 少しずれるかもしれないのですけれども,先ほどの宮田委員の指摘はそのとおりだというふうに思いまして,やはり学校教育から外れてしまった子供たちというのは,非常に,居所もなく,関係性も薄く,不安定な状況にあり,特に,女子の場合,被害に遭いやすいという特徴があります。神待ちアプリとか,風俗店への勧誘とか,そのように性的搾取を受けやすい状態にあるというのは,本当に御指摘のとおりだと思います。   しかし,そのような性的勧誘行為をする人たちを刑法,児童福祉法違反で捕捉し,処罰できるかといえば,なかなかそうはなっていない。特に,性売買という形になると,未成年の被害者への行為であっても,なかなか加害として認定されにくいという問題があります。   しかし,そのような若年女性たちを保護し,支援している人たちからの報告によると,被害は被害であって,別に望んで体を切り売りして生きてきたわけではないということも報告されるわけです。   諸外国においては,困窮にあることを利用した性加害を規定しているところもあります。地位・関係性の方に入るかもしれないのですけれども,そのような規定があってもいいのではないかと思いました。 ○金杉委員 どちらかというと反対の意見なのですが,私も,177条,176条を「14歳未満の者に対し」という形に引き上げるのであれば,刑事責任年齢と合わせるという形になるので,さほど抵抗はありません。でも,15歳,16歳というふうに更に上に引き上げるということになってきますと,幾ら処罰の阻却規定や違法性の阻却規定を置くとしても,構成要件として,14歳同士の性行為が原則違法とされることになるので,抵抗があります。 ○井田座長 ありがとうございました。   議論は尽きないところではございますが,一通り御意見は頂けたようですし,予定した時刻にもなりましたので,本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。   この論点についても,本日述べられた御意見や他の論点についての一巡目の検討結果を踏まえて,二巡目以降の検討で,更に議論してまいりたいと考えております。   次回の第6回会合では,第1の「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」から「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」までについての検討を行いたいと思います。そのような進め方とさせていただくということでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきたいと思います。   本日予定しておりました議事は,これで終了いたしました。本日の配布資料のうち,資料14から20まで,22及び27は具体的事例の内容に関するものですので,関係者のプライバシー保護の観点から非公表とし,それ以外の配布資料については公表することとしたいと思います。   委員の御発言の中で,各委員が御自身のお仕事,臨床や弁護のお仕事の中で取り扱われた事件に関する御発言など,具体的な事例の内容にわたる部分については非公表とさせていただきたいと思っております。   それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等については,委員の方との調整も含めまして,私に御一任いただけますでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   では,次回の予定について,事務当局から説明をお願いします。 ○岡田参事官 第6回会合は,9月24日木曜日午前9時30分から開催を予定しております。   次回会合の方式につきましては,追って,事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日は,これにて閉会といたします。長時間にわたり,どうもありがとうございました。