法制審議会 民法(親子法制)部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  令和2年7月21日(火)自 午後1時30分                     至 午後5時31分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  嫡出否認制度の見直し(1)         ―否認権者に関する規律の見直し―(二読)         嫡出否認制度の見直し(2)         ―否認権の行使期間に関する規律の見直し―(二読) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第9回会議を開催いたします。   本日は御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日もウェブ併用の会議になっております。   いろいろ御面倒をおかけいたしますけれども,どうぞよろしくお願いいたします。   次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきたいと思います。   事務当局の方からお願いいたします。 ○濱岡関係官 今回の配布資料は,事前に送付させていただきました部会資料9です。  ○大村部会長 ありがとうございます。御確認を頂ければと思います。   そこで,本日の審議でございますけれども,本日は,嫡出推定制度に関する規定の見直しに関する御審議を頂く予定でございます。   資料のうち,第3の否認権者に関する規律の見直しにつきましては,まず,1と2の子及び母の否認権について,まとめて御議論を頂きたいと思っております。ページで申しますと,1ページからが子の否認権,母の否認権が9ページから後でございますけれども,ここまでをまずひとまとめにさせていただきたいと思います。   その次に,11ページの3から19ページの5まで,生物学上の父の否認権などについてを,まとめて御議論を頂きたいと考えております。これが2番目のまとまりでございます。   その後,最後に,19ページ以下,第4の否認権の行使期間に関する規律の見直しについて,御議論を頂くということを予定しております。   それでは,今のような順序で進めさせていただきたいと思います。   初めに,事務当局の方から,部会資料9の第3の1及び2についての説明をお願いいたします。 ○濱岡関係官 お手元の部会資料9を御覧ください。   第3は,否認権者に関する規律の見直しについてですが,今回は分量が多いですので,簡単にかいつまんで御説明させていただきます。   1ページの(前注)についてですが,前提としまして,夫の否認権に関する規律については,否認権を夫以外の者にも認めることなどに伴って所要の見直しをするほかは,現行法のとおりとすることを考えております。   次は,1についてです。   ここでは,嫡出否認の訴えにおいて,従前の提案と同様に子に否認権を認め,子の親権を行う母又は未成年後見人が,その子を代理してその否認権を行使することができることを提案しておりますが,補足説明において,否認権を認める根拠等について整理を行っております。   また,一読目の御指摘等を踏まえまして,(注2)において,親権を行わない母による特別代理人の選任の申立てを認めるかにつきましては,引き続き検討することとしております。   この点につきましては,5ページの(4)以下で,親権を行う者及び未成年後見人のいずれもが存在しない場合と父のみが親権を行う場合に,場合分けをして検討しておりますが,後者について,特に6ページのイ(イ)のように,父母が離婚して親権者が父と定められた場合が,問題になるのではないかと考えられます。子の利益を図る観点や,親権を行う母及び未成年後見人以外に,親権を行わない母による子の否認権の代理行使を認めるべき必要性がどの程度あるのか,認めることによる弊害がどの程度あるのかといった観点から,検討を行う必要があると考えられますが,御意見を賜りたいと考えております。   次に,9ページに移りまして,2の母の否認権についてです。   第3回会議では,母の否認権を認めることに肯定的な意見があったほか,母に夫の否認権と同等の否認権を認める必要性がないのかについて,検討する必要があるとの指摘もあったところです。本部会資料では,部会資料3において提案した母の否認権を認めないこととする甲案に加え,乙案として,具体的な規律とともに母の否認権を認める案を提案することとしております。   母に否認権を認める根拠としましては,第3回会議では,母が子の利益を代弁する立場にあるという側面のみならず,母固有の利益も有しているという側面を否定することはできないとの意見があったところです。他方で,母が子の利益を代弁する立場にあることについては,親権者でない母が,子の利益を代弁することができるかという問題や,母が子の利益に反するにも関わらず,固有の利益のために否認権を行使することが正当とされるかが問題になるものと考えられます。また,子の否認権の代理行使において,親権を行わない母による特別代理人の選任申立てを認めるのであれば,母固有の否認権まで認める必要はないという意見もあるかもしれません。   以上のような点を踏まえまして,母に否認権を認める乙案とともに,母の固有の否認権を認めないこととする甲案を提案しておりますが,これらの点について御意見を賜れれば幸いです。   第3の1及び2についての説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,質問等も含めまして,御意見を頂ければと思います。   今の1,2は,それぞれ密接に関係するところがございますので,(前注)と書かれた部分も合わせまして,特に区分を設けずに,全体につきまして御意見を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。どなたからでもどうぞ。   いかがでしょうか。 ○棚村委員 ちょっと質問ですけれども,やはり子どもの否認権を認めるというのは,割合と皆さんが,利害関係が一番当事者でもあるし強いということで,異論なかったと思いますが,母の否認権の根拠のところで,子どもの否認権を代理行使するということと,それから,母自身が否認の固有の利益というか,否認権利者としてそれなりの関わりを持っているというようなところの説明が,やはり前も議論になったと思います。要するに,一定年齢までは,母親に固有の権利を認めなくても,代理行使という形で子どもの否認権を利用して,実質は,子どもの利益を配慮しながら母親が否認できるという方法があって,母の固有の否認権と子どもの否認権を代理行使した場合との相互の関係がちょっと明らかでないので,甲案,乙案と整理していただいた場合でも,その両者の関係をやはりどういうふうに理解していったらいいかというのは,なかなか難しい問題だと考えています。そこで,もう少し説明を頂きたいのは,母自身が固有の権利,利益を持つ根拠や理由について,どんなふうに考えているかという点です。比較法的に見ますと,例えば,韓国なんかは母のみに否認権を認めているということで,子どもには認めてない。ただ,ドイツなんかですと,やはり子どもと母親,父というか夫と妻にも認めるということなんですが,それぞれに説明されている根拠がそれほど,細かくはされていないんですけれども,どうも固有の権利があるとする場合の根拠が十分に説明されていないようなところもあるものですから,少し補足していただければと思います。   母が子どもの権利を代理行使するというのは分かるのですけれども,母の固有の権利とか利益なんかについての説明が,どういうものがあるということ,ちょっと教えていただければと思います。 ○大村部会長 なかなか難しいところでございますけれども,どうぞ,何かあれば。 ○平田幹事 これは,第3回会議において,母に固有の利益があるんだというような御指摘を受けたところから,御提案をさせていただくに至ったところではございます。   難しい点でございますが,一つは,母も養育主体として関わる中で,誰と一緒に養育していくかという点において大変重要な利害関係を有しているというようなところが指摘されていたかとは存じます。   ただ,もしよろしければ,前回,第3回会議等で母固有の否認権を認める立場から御発言いただいた方に,この点について御議論いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点につきまして,他の委員,幹事から御発言ございませんでしょうか。   母の否認権を認めるということで,子の利益には還元されないものが母にあるのではないかという御意見が出たと,私も理解しておりますけれども,その点につきまして,少し立ち入った御意見ないし御説明を頂ける方,いらっしゃらないでしょうか。いかがでしょうか。 ○棚村委員 出てくるまで,少しつなぎみたいなことになりますが,韓国の場合には,結局妻に認めなかった前の民法の規定が,憲法裁判所にかかって憲法不合致判決というのが出されていました。それ自体でいくと,やはり婚姻生活とか家族関係について,母にも人格的な利益あるいは基本権,憲法上の家族を形成する権利とか,そういう憲法上の権利がやはりあるだろうということでした。   それから,男女の平等みたいなことも言われたりもしますので,ドイツなんかでもそうだと思うのですけれども,やはり夫だけに認めるという仕組みについて,そういうような形で,憲法判断みたいなのが出たりした経緯があります。そうすると,妻固有の否認の権利,あるいは母に否認権を認める根拠として,先ほど言った,やはり子の養育にかなり積極的に関わるという事実を重視するのかとか,あるいは,父が誰であるかを実際に知っているとか,いろいろと考えられます。窪田先生から教えていただければいいのですけれども,母親は,子の養育者としての地位や父が誰かを容易に知る地位にあるとか,いろいろな説明はあると思うのですが,それが,やはり子どもの固有の権利を代理行使することと,母が固有に,子どもや夫とはまた別の利益を持っているかということを,少し考えるときのヒントにはなるのかなという感じはしています。   ただ,私も実は悩んでいるんでこういう質問をしたんですけれども,母の固有の否認権というものを認めた方が,実際の問題の解決や,あるいは子どもの利益にもつながっていいのかなという部分も当然にあります。しかし,他方で,紛争が生じて,問題解決が錯綜したときに,母が利益相反のような形になって,本当に子どもの利益を守れるのかなという疑問もないわけではありません。例えば,ひとり親の調査なんかをしましても,父親と関わりたくないから養育費をもらったり話し合いもしなかったというところは,子どもが進学時期になりましたら,養育相談支援センターに年長の子ども御自身が相談をしてきて何とか取れないかという相談もありました。つまり,夫婦の葛藤や離別・離婚などの混乱のなかで,同居親は相手方と関わりたくないとういう気持ちだというのは十分に理解できるのですがだけれども,養育費のことですら,迷ってしまう弱い立場に置かれている。そういうときに,やはりお母さんの独自の立場で否認をするということと,それから,子どもが一定の年齢になってから,振り返ってみると,何できちっとした権利行使をしてくれなかったのかなという部分があったりすると,母が子のために代理行使する権利と母固有の否認権行使との間に微妙にずれるときがあるんではないかとも心配をしてしまいます。その辺りのところで,母親の固有の否認権というのを認めることが,今後子どものためにも,当事者にとっても大切なことなのかどうかというところで,非常にちゅうちょしているところがあって,甲案,乙案,いずれも今のところでは決めかねているところがあったので,お尋ねしました。   多分,ほかの委員の方々もそうだと思うので,ちょっとつなぎで発言をさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   棚村委員からは問題提起を頂いた上で,母の固有の否認権を認める考え方を支える論拠と,それから,むしろそれを認めないという考え方の論拠と,両方を挙げていただきました。   今も御指摘があったように,委員,幹事の中には,この問題について様々なお考えをお持ちの方もいらっしゃると思います。また,棚村委員が御発言になったように,どちらか決めかねているという委員,幹事もいらっしゃると思いますけれども,どのような御立場からでも結構ですので,関連の御発言を頂ければと思います。 ○山根委員 毎回難しい内容で,議論に追いつくのが大変なんですけれども,ここの母に権利を与えるかどうかというところにつきましては,やはり子の代理とか子の利益の代弁者という立場のみならず,やはり母自身が訴える権利を持つということの方が,よりシンプルに思いますし,今回改正をするに当たって,私は一歩大きな前進として受け止められるのではないかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御発言がありましたけれども。 ○磯谷委員 基本的には,事務当局から御説明いただいたものに付け加えるものではありませんが,将来的に子どもの養育,面会交流,扶養などといったところで,母は父とされる人とどうしても関わりを持っていかざるを得ないという立場にあると思いますので,私も母固有の利益を認めてよいと思います。   代理行使を認めると,実際上はそれほど固有の利益が果たす役割というのは大きくないのかもしれないとは思いますけれども,例えば,一般論として親権者でない母が子どもの利益を代弁するというのは難しいのだろうと思いますけれども,一方で,親権を行使できない状況は一時的なこともありまして,親権の停止については法律上2年以内に復活をすることになります。そう考えますと,ある時点で親権がないため,子どもの利益を代弁はできないとしても,将来的に母が父とされる人と関わっていかなければならないことは変わらないとすれば,やはり固有の利益を認める意味というのも,幾らかあるのではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   母の固有の否認権を認めるという方向の御意見が,続いておりますけれども,ほかにいかがでしょうか。 ○井上委員 母の否認権を認めるべきかどうかという考え方については,必ずしも整理できているわけではないのですけれども,9ページの下の乙案の,母に否認権を認める根拠に関連して発言をさせていただきたいと思います。   今日,事務局からも資料を準備していただきましたが,諸外国の表が出ています。韓国では,2005年に戸主制が廃止されて,それに代替する新しい家族制度が確立されて,そして個人の尊厳と両性平等の憲法理念が具体化され,母の否認権も認められるようになったと伺っています。それでいくと,個人の尊厳と両性平等という観点でも検討が必要ではないかと考えておりますので,意見として発言させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど棚村委員からも御指摘がありましたけれども,韓国の立法例に触れて,そこで挙げられている理念についての配慮も必要ではないかという御意見として伺いました。   窪田委員から御発言の御希望があると承っておりますが。 ○窪田委員 母の固有の否認権を積極的に認めるべきだという,別に立場が固まっているわけではないのですが,先ほど棚村先生から出た問題提起について,少し発言させていただければと思います。   固有の否認権を認める場合に,その根拠は何なのかというときに,今も御発言がありましたが,男女平等とかいろいろな説明はあり得るのだろうと思いますが,ただ,男女平等に関していうと,父子関係に関して,父を認めるのであれば母も認めろというのは,当事者でない人について認めることになりますから,男女平等からストレートに導き出されるわけではないだろうと思います。   ただ,その上で,これを仮に認めていくとしたら,説明の仕方として二つぐらいあるのかなと,私自身は感じています。一つは,今言ったように,父子関係の当事者ではないかもしれないけれども,子を産んだ者として,非常に密接に子の利害関係に強く関わっている立場にあるという説明です。男女平等というよりは,むしろそうした観点から,固有の当事者に準ずるような立場が認められるのだという説明は考えられるかなと思います。   それからもう一つ,これは子の否認権に代理を認めるかどうかという議論とも関わってくるのですが,母の固有の否認権とは言いながらも,母というのは,子どもを産んだ者として非常に近い立場にある。だから,定型的に法定代理だとか,そういう枠組みを取らなくても,子の利害に関して代弁者というと最初の方の子の否認権の構成になってしまうのですが,抽象的にそういうふうな立場が認められるんではないか。そういう観点からの説明も考えられるのかなと思って,伺っておりました。   なお,必ずしも母は,父が誰であるかをよく知っているからというような議論をすることもあるのですが,必ずしもそうではなくて,やはりもう少し抽象的な法的な立場が問題となっているのではないかなと思っております。   その上で,更に話をかき回すことになってしまっては申し訳ないのですが,一つ質問という形で発言させていただいてよろしいでしょうか。   特に,母の固有の否認権を認めるという場合には,子の利益に反して,母が固有の利益のために否認権を行使するというような事態が生じてくるということが,問題としてあるのではないかということが,10ページの上から十数行目ぐらいにあります。他方で,母が,子の利益に反するにも関わらず,固有の利益のために否認権を行使することが正当化されるかといったようなこと,これは,ほかの部分にも出てくるのですが,これは抽象的に言うと分かりやすいようにも思うのですが,子の利益にも反する場合というのは,具体的にどんな場合なのかと考えてみると,私自身はあんまりイメージが湧かないように思います。   例えば,養育とかの面に関して,直近のことでいうと不利益が生じたとしても,真実の父親によって認知が得られるような立場になるとか,そういった利益というのも考えられると思いますので,特に子の利益に反するにもかかわらずといったような場面で,子の利益に反するという具体的なイメージが何か,もしこの資料作成の中であったとすると,少し教えていただけたら有り難いなと思って,質問させていただきました。   この質問は,当然ですけれども,先ほどの1と2の関わりにも関わってくるということだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,事務当局の方で。 ○平田幹事 なかなか難しい部分の御指摘だと思っております。   若干関連するものとして,特別代理人の選任のところで書かせていただきましたが,例えば,一度離婚して親権者が父と定められた場合に,その経緯にもよるかとは思いますけれども,蒸し返し的に否認権を行使する場合があり得ると思います。あるいは,親権の喪失をしているような場合,どういう理由によって喪失しているかにもよるかと思いますけれども,場合によっては虐待も予想されるような場合に,否認権を行使して自分の方に連れてくる。母は,親権者としては戻らないかもしれないですけれども,否認権を行使して父子関係を切るといったような場合があり得るとは考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今まで御発言いただいた委員,幹事は,おおむね母の否認権について肯定的な,あるいは,これについては態度を留保するという方向で,積極的にこれに反対する,あるいは疑問を投げかけられた方はいらっしゃらないという状況かと思いますけれども,そうした理解でよろしいでしょうか。その他御発言あれば,是非頂きたいと思いますが。 ○棚村委員 すみません。今のいろいろな御意見を聞いて,大分整理はされてきたのですけれども,母の固有の否認権,要する母に否認の独自の利益,あるいはそういうものを認めた上で否認権を与えていくということですと,更にちょっと質問になってしまって申し訳ないのですが,それを具体的にどういうふうに説明するかということが問題になってきます。一つは,窪田委員のように,直接子どもを産んでおり,子どもの将来についてもいろいろな形で関わってくるということで利害関係は強いし,当事者に準ずる地位にあるということからも説明できるということでした。親権を持っている母親とそうでない者で区別をされていますけれども,先ほど磯谷委員が言われたように,親権者になるかというのは,今単独親権,離婚後ということになると,今のところ,ちょっと育てる自信がないけれども,一時的にやはり,暫定的に親権は夫の方に,あるいは父の方に任せるということもあります。資料の4ページなんかを見ますと,親権を行う母というのが監護教育権を持っているとか,そういう形で,親権の有無ということで区別をしている感じがします。   もし母の固有権というものを,そういう形で監護教育とか,将来にわたって強い責任を負っているのだということで説明をしていく場合は,確かに親権の有無で否認権を認めるかどうかの差が出てくると思うのですが,先ほど言った中でもかなり,子どもの利益をいろいろな形で代弁できるとか,それから,産むということに直接関わっている親の一方であるとか,当事者に準じた地位や立場にあることが強調されると,もしかすると,親権の有無ということで区別する合理性とか,あるいは正当化根拠につながっていくのかどうかなという疑問があったものですからお尋ねしました。   それで,母の否認権というのを,一体どの側面,要するに,産んだことに対して,責任や利害関係が強いとか,事情をよく知っているということも含めるのか,そうでなくて,将来の子どもの養育とか,そういうことに対して,産んだことだけではなくて,もちろんそれに対する責任もあるわけですけれども,もしかすると,母に独自の権利,否認権を認めていくということについて,どの辺りのどの事情を強調するかで,親権を持っているか持っていないかということが,ものすごく重視されているような印象も受けてしまいました。その辺りのところで,子どもの身分関係の安定とか,早く決めなければいけないという,この否認権の行使の期間とか,そういうことにも関わるのかもしれませんけれども,いずれにしても,母親に認めるということで,根拠や理由のどこに力点を置くかということで,少し海外の法制なんかを見ますと,特に親権の有無ということをこだわっていないところもありますので,説明に工夫が必要ではないか。否認権には一定期間で切ってしまうということで,弊害や混乱はできるだけ避けるということで,母についての直接の利害関係性みたいなものや権利を強く認めている法制と,日本なんかの今の議論でいくと,将来責任を負って養育に関わってくるということなんですけれども,よく考えてみると別段,母であれば,親権持っていなくても,扶養とか相続という可能性は出てくると思います。そういうことも考えると,磯谷委員がおっしゃっていたように,親権の有無ということが,かなり決定的な差になってくるんだろうかというのが,少しちょっと気になるところで御質問させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。幾つかの御指摘を頂いたのではないかと思って伺っておりました。   母固有の利益があるかどうかという形で,本日の議論は始まりましたけれども,そのほかに,棚村委員がおっしゃり,あるいはその前にも委員,幹事から御指摘があったことの中には,子どもの利益を代弁するというときに,親権があるということが絶対的に必要なのか,必ずしもそうではないのかといったような観点があったかと思います。それから,母の固有の利益,あるいは密接な関連性というときに,子どもの親が誰かということを知っているという,言わば過去を向いた話を重視するのか,そうではなくて,将来生ずる法的な関係を重視するのかという観点もある。このように幾つかの観点があるのではないかという御指摘を頂いたものと理解いたしました。   制度として,子どもの否認権を認めるのか,母の否認権を認めるのかということを考えるに当たって,おっしゃったようなことを少し整理してみる必要があるのかなと思って伺いました。   それで,垣内幹事,それから中田委員,そして久保野幹事から発言の申出がありますので,その順にお願いをしたいと思います。 ○垣内幹事 大変難しい問題かと考えておりまして,2点ほど発言させていただければと思っているんですけれども,母固有の利益があるかどうかということを,白紙のところから考えてまいりますと,これは比較法的にもいろいろな立場があるということで,いずれの考え方も十分あり得るのではないかというように感じております。   その点そのものについて,私自身は論じるに十分な知見や考えを持っていないということなんですけれども,現行法を前提として物事を考えていくというときに,子が主体となる父子関係に関して,母が関与することが考えられる場面として,一つは認知の訴えの場合はどうかと考えますと,現在の民法787条では,これは,子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人という形で,提訴権者を定めているということで,ここでは法定代理人に着目をしており,親権を持たない母というものは,これに含まれないという形になっているのかなと思われます。   他方,資料でも指摘されておりますように,父を定めることを目的とする訴えの場合については,親権の有無に差し当たり関係なく,母というものに提訴権が与えられているということですので,これら全体について,改めて白紙から見直していくということであれば,またそういう議論になるかと思いますし,認知ですとか父を定める訴えについて,現行法の規律を前提として,それと何か整合的な形で考えていくということに仮になるんだといたしますと,その母固有の利益というものを説明する際に,こうした認知の場合には,原告適格がないであるとか,父を定める訴えの場合にはあるであるとかということと,どういう形で説明ができるのかという観点も必要になってくる。しかし,現行法そのものが少し問題があるのではないかということであれば,むしろそちらの方を直していくということになるのかもしれません。   これが1点目なんですけれども,2点目といたしまして,母に何らか,子の父が誰であるのか,あるいは現在,本当に父であるべき者が父とされているのかということについて,利害関係があるといった場合に,その利害関係が,母が自ら当事者として訴訟に関与するということを基礎付ける性質のものであるのかどうか。この資料の中でも,同じような問題が,特別代理人のところで述べられて,触れられているところがあるかと思いますけれども,特別代理人の選任申立権を持つという限度での利害関係というものを考えることも,できるのかなというように思われまして,そうした観点から見ましたときに,母の固有の利益に基づいて,自ら,正に固有の提訴権を持つということが,仮に,これは具体的にそういう場合が本当にあるのかという御指摘は先ほどありましたけれども,子の利益ではなくて,母固有の利益を当事者として主張するという形につながっていくのだとすると,そのことをどう評価するのかという問題があるのかなという感じがいたします。   特別代理人の選任申立権という場合には,特別代理人としては,飽くまで子の利益の代弁者として訴訟に関与するということが期待されるのであって,その申立権を与えるという形で,一定の関与が母にも認められるという形になるわけで,訴訟に出てくるのは,飽くまで子の利益の代弁者という形になるかと思われますけれども,固有の利益に基づいて,母が自ら当事者になるということであれば,必ずしもそういう性質のものではないということになってきそうで,ここでの母の利害関係というのが,そういった地位を基礎付けるほどのものなのかどうかということを,少し考える必要があるのかなという感じを持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   母の位置付けについて,現行法に既に存在するその取扱いとの整合性という観点から,検討することも必要ではないかという御指摘と,それから,母の関与を確保するというときに,固有の訴権を認めるというのではないそのやり方,具体的には,子の否認権について,親権を持たない母についても,特別代理人の選任の申立てを認めるという形で処理するという可能性もあるのではないかという御指摘を頂いたと思います。   中田委員,続きまして,お願いいたします。 ○中田委員 ただいまの垣内幹事のお話とも関係するんですけれども,ポイントは,親権を有しない母にどのような権限を与えるかということが,一つあると思います。その場合に,特別代理人の申立権を付与するというのは,今お示しがありました。そのほかに,第三者の訴訟担当というのは,これは親権がないとどうしてもできないものかどうか,これは訴訟法上の問題だろうと思うんですけれども,親権がなくても第三者の訴訟担当という形が取れるのであれば,またそれは一つの解決方法だと思います。あるいは,訴訟法上,全然無理であれば,仕方がありません。   それから,もう一つ別のことですけれども,母の固有の権限を認めるという場合に,母又は子が死亡したときにどうなるのかということを考えました。母が死亡したときに,現在,父については人訴法41条があるわけですけれども,そのような手当を置くのか,それから,子が亡くなったとしても,母固有の権利として,なお否認権を行使することができるのだろうかということも,考える必要があるかと思いました。   私自身,積極,消極どちらかと申し上げているわけではありませんで,いずれの考え方もあるということを前提とした上で,更に考えてみると,こういった問題があろうかということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   母の否認権を認めるかどうかということで,実質的に非常に大きな問題になるのが,親権のない母の関与をどうするのかということだろう。それにつきましては,先ほど垣内幹事から一つの方向性について御発言ありましたけれども,他の可能性も含めて,この問題を検討する必要があるのではないかという御指摘,それから,母及び子が死亡したときにどうするのかということについて,対応を考えておくという必要もあろうという御指摘を頂きました。 ○久保野幹事 結果的には,垣内幹事の第2点と重なりますけれども,母についての固有の利益といったものが,母自身が否認権を持つということを基礎付けるほどのものと言えるかどうかという点に関しまして,母は,確かに強い利害関係を持っている,あるいは,準当事者というのとちょっと違う利害関係を持っているとは思っておりまして,それは,やはり御指摘出ていますとおり,親権者でなくとも,実親である父母というのは,一定の責任や法的な立場を持って,子どもの利益に関わっていくという立場ですので,共同責任者と申しますか,そういうものとして,母は父が誰かということについて強い利害関係を持つと思いますけれども,ただその立場というのが,究極的には子どもの利益のためと整理できるのではないかという気もいたしまして,そうしますと,やはりそこで言っている母の括弧付き「利益」といいますのも,それを実現する方法としては,むしろ子どもの否認権に引き寄せてといいますか,そちらの方向で構成すべき利益なのではないかというふうな感触を持っております。   そのように考えた場合には,親権というものの所在にとらわれる必要はないというのも,御指摘のとおりだと考えていまして,ただ,親権者ではないけれども,実親であるがゆえに,子どもの利益に関わる立場というのは,代理権とは構成しにくいのかもしれませんが,そのようなものというのは,恐らく観念できるものだと思いますので,母固有の否認権というのではなくて,そのような構成を目指した方がよいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   母の利益,あるいは母の関与ということについて,これらが重要であるということと,しかし,法的な構成として,子どもが否認権を行使するということとは,両立するのではないかという方向の御意見として承りました。   水野委員から御発言の希望がありますので,水野委員にお願いをいたします。 ○水野委員 比較法的な考察や提言をするときに,日本に独自の条件があるということを,幾つかの点で考えておかなくてはならないだろうと思います。   まず,第一に,先ほどから親権の有無が議論になっておりますけれども,日本の親権法においては,とりわけ離婚のときに,全く客観的コントロールが効いていなくて,極端な私的自治に任せられてしまっております。ですから,離婚時に親権を持たない側が,それにふさわしい親であるという保証はないということを考えなければいけません。例えば,DV被害者が必死で逃げたいがために,経済的な権利のみならず親権の帰属まで譲れるものを全部譲ってしまうという離婚もあり得るわけです。そこに,客観的なコントロールが効いていないことを考えた上で,親権の有無について議論をする必要があるだろうと思います。   それから,もう一つは,実親子法を論じる前提として,日本ではDNA鑑定がやり放題であり,裁判外のDNA鑑定等を禁じる法制をとっていないことを,考慮しなくてはならないだろうと思います。外観説を改めて採った最高裁判例の補足意見がこの点を気にしておられたものでした。出自を知る権利は強く言われるわけですが,出自を知らされない権利も,やはり私は大事だと思っております。いつでも簡単にDNAを調べられることになりますと,そしてそれで親子関係を動かせるということになると,調べてしまうことがあるだろうと思います。出訴の可能性を認めることで,今まで信じていたアイデンティティーを揺るがされてしまう子どもたちの危険が生じます。その危険が当該訴訟以外の外部にたくさん生じてしまうことを,最高裁の判例は配慮していたように思います。その点についての配慮を,嫡出否認を議論するときも考えなければならないでしょう。   それから,三つ目ですが,生殖補助医療の規制が,AIDも含めて,日本ではいまだに成立していないことです。今回の親子法改正で少しは手が入る可能性はありますけれども,規制が全くなく記録の閲覧保障もないという現状ですと,両親の仲が悪くなってしまうと,子の身分は危うくなります。AIDの施術を受けた母が,自分だけの子どもにしたいと,父を排除して父を奪ってしまうリスク,またそのときAIDであることを理由に子の身分を守ろうとしても,父も母に同意してAIDであることを隠して母の浮気による子として父子関係を否定するリスクが生じます。そして,AIDの場合には,子に真の父を与える可能性はありません。そういう生殖補助医療立法の規制がないことも配慮しながら,親子法制を考えていかなくてはならないでしょう。提訴期間の制限や母の提訴権を考えるときには,その点も配慮しておかなくてはならないだろうと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   具体的な方向を考えていくに当たって,前提とすべき幾つかの問題について御指摘を頂いたものと理解をいたしました。ありがとうございます。 ○磯谷委員 一つ目は,否認訴訟の中で母の固有の利益を主張させる意味があるのかという趣旨の御発言があったように思いますけれども,否認訴訟の実質的な争点が生物学上の父子関係があるのかどうかいうことになりますと,誰が申し立てようと,結局のところは,そこが審理されることになるのだろうと思います。   そうすると,要するに,母に申立権を認めるかどうかということは,最初に玉を転がし始めさせるだけの理由があるのかという問題に帰着するのではないか。要するに,否認訴訟における実質的な審理のなかで母固有の利益を主張させる意味があるのかという問いは,あまり重要ではないのではないかと思いました。   それから,二つ目は,ちょっと私が不勉強で,事務局に確認したいのですけれども,例えば,母親が子どもの代理として否認の調停を起こしたとします。本来であれば,調停手続においては,当然,DNA鑑定により父子関係がありやなしやという話になると思いますが,何だかあんまりそこをはっきりさせないまま,否認はしないという結論が出てしまったと。つまり,否認はしないという結論の調停が成立した場合に,子どもは将来大人になってから改めて否認権を行使することができるのか。要するに,自分の母親が否認権を代理行使をして,不十分な話し合いによって否認しないということでまとめてしまったという場合に,果たしてこの子は将来,自分で否認権行使ができるのか。   それから,今の関連で,もう一つ別のバージョンを想定しますと,母親は実際に否認訴訟を提起したとします。訴訟をやったけれども,民間企業に委託したDNA鑑定に何らか問題があって,結局裁判所が認めるところにならずに敗訴してしまったと。本来正しくDNA鑑定をやれば父子関係は否定できたはずなのに,いい加減な業者に頼んだため信用性が認められなかったと。つまり母の訴訟活動が適切でなかった,あるいは稚拙だったという場合ですね。こういう場合もやはり,子どもが将来,改めて裁判で子の否認権を行使できるのか,この辺りというのは,どういうふうに理解すればいいのかなと思って,ちょっとお尋ねした次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   1点御指摘と,それから1点御質問ということで承りました。   一つ目は否認を争う訴えで,否認原因として,生物学上の親子関係が出てくる以上,固有の利益ということを,過度に強調するというのはどうだろうかという御指摘だったかと思います。これとも関連しますが,二つ目に,母自身が,あるいは代理人として争って敗訴したといった場合に,再度子どもが争うということを認めるのかと,これは,後の期間制限の問題とも関わってくる問題かと思いますが,2点目は質問ということだったかと思います。後でも更に議論する必要あると思いますけれども,差し当たり,今の2点目について,お答えを頂ければと思います。 ○平田幹事 まだ詳細に検討したわけでないので,今の段階でというところでございますけれども,基本的に,一度訴訟をやって敗訴したというような場合については,そこで既判力,対世効等が生じるとは思いますので,再び争うことはできないのではないかと考えております。この辺,手続法の先生方,あるいは実務家の方の御意見等も伺いながら,検討を進めていきたいと考えております。 ○大村部会長 今のところは,もしかすると御議論があるところかもしれませんけれども,差し当たりのお答えとしてよろしいでしょうか。 ○磯谷委員 はい。 ○大村部会長 ありがとうございます。   久保野幹事から手が挙がっていますけれども,更に御発言がありますか。 ○久保野幹事 磯谷委員の1点目についてなんですけれども,つまり,生物学上の父子関係がないことだけが否認原因となるのであって,その判断の有無で最終的には結論が出るのであって,否認の申立てをするのは,きっかけにすぎないのであるからという御指摘についてです。   これについては,一方でその構図は成り立ちながらも,むしろ逆の懸念を持つので,否認権者について慎重に考えるという発想もあり得ると思っていまして,私などの場合,どう考えているかと申しますと,期間の問題や承認をどう考えるかといったことともちょっと関わってきてしまうのですけれども,長年家族としての生活が続いてきて,積み重ねてきた後に,しかし,生物学上の関係はないという事実はあって,否認権が行使されたときにどう考えるかといったようなこと,それを,仮に,長年続いた事実というものに意味を与えて,父子関係を否定すべきでないと考えたときには,諸外国には諸外国の概念によるルールがあると思いますけれども,今の,今日の案では,恐らく権利濫用で個別に判断していくという方向が示されていると思いますが,逆に権利濫用しかないような枠組みで,差し当たりは考えますと,最終的には,生物学上の父子関係の有無だけで判断されてしまうので,否認権者を考えるときに,慎重に考えるべきだという考え方もあり得ると思っているということを,すみません,1点意見させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   表現はいろいろあると思いますけれども,最初のところでどのように判断するのかというのが,実質的に大きな意味を持つのではないかという御指摘で,そう考えると,そこのところを重視する方向にも動くのではないかという御意見として承りました。 ○垣内幹事 先ほどの磯谷委員の御指摘の点に関連して,私も1点述べさせていただきたいと思っておりまして,と申しますのは,確かに一旦トリガーが引かれてしまえば,つまり,嫡出否認訴訟が提起されてしまうと,その訴訟手続には職権探知主義が妥当するということでもありますし,もちろん関係者の,当事者の訴訟追行が何ら結論に影響しないということはないだろうとは思いますけれども,しかし,建前として,当事者が勝手に処分できるというようなことではありませんから,そういう意味では,それが代理人としてなのか,それとも,正に自らが当事者としてなのかということが,それほど問題として顕在化しないということは,当てはまる面もあるのかなとは思います。   ただ,久保野幹事の御発言もそういう趣旨を含んでいたかと思いますけれども,正にトリガーを引くと申しますか,手続を開始させるかどうかということとの関係では,誰がその判断をするのかということは,かなり重要な意味を持つのかなと考えておりまして,本日の資料,部会資料9ですと,特別代理人に関する記載としまして,6ページのイの(ア)のところでしょうか,2行目ですけれども,特別代理人が否認訴訟を提起する義務を負うとするとうんぬんという記載がされております。   私自身,ちょっと不勉強でして,この特別代理人が仮に選任された場合に,訴訟を提起する義務を負うということになるのかどうか,ちょっとよく分からないなと考えておりまして,代理人というのは,代理権を持つわけですので,権限はもちろんあるということかと思いますけれども,子の代理人として,子の利益を考えてその代理権を行使すべき地位にあるということですので,もし仮に当該事案の状況を勘案した上で,提訴することが子の利益にとって必ずしも好ましくないという判断に代理人が至ったときに,提訴をそれでもするということになるのかどうかというのは,これは,両論あり得るところなのではないかなという感じもいたしております。もしそうだとしますと,親権を有しない母に与えられる権能というのが,自ら当事者として訴えを提起するということなのか,それとも,特別代理人の選任申立権があるということなのかということによって,かなり状況は変わってくるというところがあるのではないかとも感じているところです。 ○大村部会長 ありがとうございました。   6ページのイの(ア)の規律について,これとは違う考え方というのがあり得るのではないかという御指摘を頂きました。   窪田委員,磯谷委員の順番でお願いいたします。 ○窪田委員 ちょっと発言しようと思っていた部分については,今,かなり詳しく訴訟手続の観点からも御説明を頂いたと思います。先ほど磯谷委員が御発言した第2点目,質問に係る部分なのですが,もちろん対世効という観点からも考えれば,代理人として行使しようが,固有の否認権で行使しようが,もう負けたらそれでおしまいだということで,後ほどの子自身が一定の年齢に達した後の否認権というのは,もう問題として顕在化しないということなのだろうと思います。ただ,ちょっと私自身,むしろ質問の意味も含めて教えていただきたいと思ったのですが,対世効力だけで説明するとそうなのですが,子の代理人として権利行使して,それでもう負けてしまったという場合,将来子どもが大きくなってからも,もう権利行使は一旦されているのだから再度主張できないというイメージがあるのに対して,母が固有の否認権等の行使をして,それが非常にずさんな形でうまくいかなかったというときに,制度設計としては,例えば,子が改めてそれについて争うということを認めるという制度設計の余地はないんだろうかということです。もしそうした可能性がないのであれば,どちらで構成しようが同じことだということになるのですが,もしそういう制度設計の可能性があり,なおかつ最終的に子どもが一定の年齢に達したときに,そういう権利行使をするということを,できるだけ積極的に容認すべきだという立場を取るのであれば,その権利行使を邪魔しないような構成を,最初の段階で取っておく必要があるだろうと思います。他方,そうではないというのであれば,むしろ最初のところで権利行使されたら,もうそれでおしまいだよという判断になるのではないかと思ったものですから,今の点は,やはり代理人が,代理行使なのか固有の否認権かという部分の判断に,実質的にやはり関わる部分というのはあるのかなという気がして,伺っておりました。   むしろ先ほど言ったように,対世効力だって同じだという答えだったら,もう変わらないのかもしれませんが,制度設計の在り方として,何か別の工夫の余地はあるような気もしたものですから,ちょっと発言した次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   窪田委員の今の御指摘は,次の問題のところで,改めて皆様の御意見,御感触を伺いたいと思います。 ○磯谷委員 今の窪田先生のお話は,非常に分かりやすく,理解いたしました。   久保野先生から先ほど御指摘があった点については,私自身が正しく理解できているかということもありますけれども,出生後比較的早い段階で,子の否認権行使をする場合,子どもが長い間,一定の父子関係の下に生活をしてきたということでは恐らくないのだろうと思います。そうすると,先ほど久保野先生がおっしゃった,子どもが長く生活してきた利益というようなことは,初期の段階ではあまり関係がないのかなと思いました。専ら私の意見のでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   どの段階で訴訟が提起されるか,それは,権利の行使期間の問題とも関わるのかもしれませんけれども,それによって事情は違ってくるのではないかという,御指摘を頂いたと理解をいたしました。   そのほかにも御発言あるかと思いますが,お約束をしました1時間になっております。今までのところ,母の否認権の問題については,皆さんからは,明確にこれを認めるべきだとか,明確にこれを否定すべきだとかという意見は,必ずしも出ておらず,ただ,母が一定の仕方で関与するということを組み込む必要があるのではないか,それは,子の否認権を代理行使するときに,親権者であるかないかで区別しないとか,あるいは,特別代理人の選任申立てを認めるとか,そういう方向で処理することも可能なのではないかといった,ある程度中間的な解決が図れないだろうかという御意見が相次いでいるものと理解しております。   それから,もう一つ,権利行使の期間の方につきまして,子どもに固有の権利行使を,どのような場合に認めるかどうかということが,いま触れた法律構成に影響を与えるのではないかという御指摘も複数出ております。そのことを考えますと,後の問題と併せて議論をしなければいけないということになるのかもしれませんけれども,休憩をさせていただいて,更に御意見があれば頂き,そうでなければ,次の問題につき御説明をいただいて,それと併せて御議論を頂くという形にさせていただきたいと思います。取りあえず,一旦中断ということでよろしいでしょうか。   では, 休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきます。   休憩前に申し上げましたように,先ほどの子の否認権,母の否認権という問題は,否認権の行使期間の問題とも絡みますので,またそちらでも,必要に応じて御議論を頂きたいと思いますが,それはそれとして,この問題について,先ほどの議論との関係で発言をしておきたいという御希望がありましたら,それを伺っておきたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。 ○髙橋委員 先ほどの水野委員の三つ目の御発言の中にあった生殖補助医療の場合ですけれども,私も,水野先生がおっしゃるようなことが起きてはいけないと思います。AIDで,父親になる方がAIDに同意して,母親がAIDであるということで,お子さんを作って,仲が悪くなったから,DNA鑑定をして父子関係を否定してしまうと,これは大変よろしくないと思います。   一つの解決としては,以前の法務省の中間試案で,AIDを行った,AIDに同意した父親が否認権を行使できないと。同じように,今度母親がというか母親側がというか,そちらが否認権を行使したときも,やはり否認権行使は封じられるべきではないかと,私は考えております。国会の動向によって,そのような生殖補助医療の立法が進んでいけば,それに合わせて対応ができるかなとは思うんですけれども,そちらが進んでいない段階なのかどうか,ちょっと分かりませんけれども,そちらも踏まえて,自然生殖のルールが生殖補助医療の方に大きな不利益を与えるのであれば,それも配慮して,自然生殖のルールを作っておくのか,それとも,そうではなくて,自然生殖のルールを作って,併せて生殖補助医療のルールも作るのか,そのようなことを,どこかの段階で議論していただきたいたなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど水野委員が御指摘の点につきまして,具体的なお考えと,それから,それを実現するために,どこかの段階で何らかの方策を議論する必要があるのではないかと御提言を頂きました。   それについて,何かありますか。 ○平田幹事 今,髙橋委員御指摘のとおり,生殖補助医療関係については,基本的なルールがある程度定まった上で,どこかで議論させていただく場を設けさせていただきたいとは考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに,今の時点で御発言ございますでしょうか。 ○中田委員 これまでと別のことですけれども,未成年後見人による代理行使の点でございます。   5ページの(3)に,未成年後見人は,子の利益を図る観点から否認権を代理行使することを期待できるとあり,それはそのとおりだと思っております。他方で,誰が未成年後見人になるかによるわけですけれども,父方,又は母方の親族が就任している場合に,否認権の行使について利益相反的な立場に立ったり,あるいは否認権の行使が期待できないという場合もあるかと思いますので,未成年後見人に代理行使を認めるとしても,さらにその先のことも考えておく必要があろうかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   親権者がないときに,未成年後見人が受皿になるというのはよいとして,その後は,実際上どうなるのかということについて,具体的な状況を勘案して考えていくということが必要なのではないかという御指摘として承りました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○大森幹事 先ほどの議論の点について,私も難しい問題だと思いながら拝聴しており,具体的に考えが固まっているわけではないのですが,こういう考え方,構成もあり得るのではないかという意味で,発言させていただきます。   複数の先生方から御意見が出たように,母親が否認権を行使するというのは,やはり母固有の利益というものがあるのではないかと,私自身も感じています。母は,誰との間で子をもうけたのかということについて,子の利益の代弁者とはまた違う立場があろうかと感じています。そうした場合に,母の固有の否認権と子の権利の代理行使と,二つの構成を認める考えがあり得ると思います。この場合には,その競合関係についてどうするのかを整理する必要があることについては,様々御意見も出ています。他方で,もう一つの考え方として,母に固有のものを認めるならば,固有の否認権だけとして,子の否認権の代理行使という概念はなくすということも考えられます。子に父子関係の当事者として否認権を与えるとするならば,それは子自身が行使をできる場面に限ると考えて,代理行使という概念をなくすということも,考え方の一つとして,整理としてはあり得るのではないかと考える次第です。   その場合に,問題として考えられるものとすれば,未成年後見であるとか,そうした第三者による否認権行使ができないことになるのではないかということがあるのではないかと思います。要するに,父と一定年齢に達した子と母にしか否認権を認めないとすると,そのほかに,実は父子関係を否定した方がいい場合,父子関係を否定させる方が望ましいのではないかという場合に,適当な者がいないというケースでどうするかということが問題になるのかもしれません。そうした場合があるのか,当事者以外の者に認める余地が更に必要なのかという観点で議論するという考え方も,あり得るのではと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   関連する二つの御指摘を頂いたと思って伺いました。   今までの議論は,子の否認権を認めるということは前提にしつつ,更に母の否認権を認めるかという形で議論をしてきたけれども,母の固有の利益ということを考えるのならば,母の否認権一本で考えて,子の否認権については,子が一定の年齢に達した後に,固有の否認権が発生すると整理できないか,こういう御指摘が一つだったと思います。   もう一つ,それでは十分に適切な否認権の行使が期待されないという場合があるかもしれないけれども,それは,否認権者の範囲の問題として別途検討するということが考えられるのではないかという御指摘として承りました。   最初の方の御指摘は,先ほど中断の前にありました期間の問題とも関わりますので,また後で,関連の御意見も頂けるのではないかと思います。   それから,否認権者の範囲につきましては,この後,2番目のグループの問題として議論をさせていただきたいと思います。どうもありがとうございます。   幡野幹事から御発言があるということですが,幡野幹事,どうぞ。 ○幡野幹事 細かい話で恐縮ですけれども,私も,大森幹事と同様に,仮に母固有の否認権を認めた場合に,母の固有の否認権と子を代理して行使する否認権の,両者の関係をどうするのかという点は,気になっておりました。   先ほど大森幹事から,母固有の否認権を認めた場合に,子の代理という構成をなくすという御発言があったんですけれども,この点については,ほかの考え方もあり得ると思っておりまして,母固有の否認権を認めたとしても,未成年後見と特別代理人という構成については,その子の代理の構成を残すということもあり得るだろうと思った次第です。とりわけ特別代理人は,15歳以上の未成年の子に否認権を認める場合に必要になろうかと思います。以上の話は全て,母が固有の否認権を行使することができるという場合に,このような選択肢があるのではないかという,多少細かい話になりますけれども,以上のような感想を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   幡野幹事の御意見は,母固有の否認権を認めるということで,母が子の否認権を代理行使するということはもはや考えない。そこまでは,大森幹事と多分同じということで,ただ,母による代理行使ではなくて,未成年後見人による代理行使とか,あるいは特別代理人の選任による行使というようなことについては,考える余地もあるのではないかという御指摘だったと理解してよろしいですか。 ○幡野幹事 はい。 ○大村部会長 ありがとうございます。今のような御意見も頂きました。   そのほかにいかがでございましょうか。   ありがとうございます。やはり,それぞれの権利行使がどうなるのか,子どもの固有の権利行使についての期間の問題はどうするのかということ絡めて議論する必要があるように思いますので,そちらでもう一度,この問題に立ち返って御意見を伺うということで,取りあえずは,1,2についてはこの辺りにさせていただきまして,その他の否認権者などの問題について御議論いただいた上で,再度期間の問題と併せて御議論を頂こうと思いますが,それでよろしいでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,今日の二つ目のグループということになりますけれども,部会資料の11ページから後,第3の3,4,5の部分につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○濱岡関係官 部会資料9の第3の3から5について説明いたします。   11ページを御覧ください。   3は,再婚後の夫の子と推定される子についての,前夫の否認権についてです。   提案の内容は,従前と大きく変わるところはございませんが,特に13ページの5の否認権の行使の効果では,本文3③の再婚後の夫の子との推定が否認されたときは,再婚後の夫の子との間の父子関係は,出生時に遡って消滅し,子は出生の時から前夫の子と推定するという記述を,否認権を行使した者によって分け,前夫により再婚後の夫との推定が否認されたときは,前夫の子との推定が及ぶこととし,前夫以外の者により再婚後の夫の子との推定が否認されたときは,前夫の子との推定は及ばないとする規律とすることの適否について検討しております。   次に,15ページに移りまして,6の今後の課題等を記載しております。   まず,(1)の1回的解決の必要性等についてですが,1回的解決を必ず図るべきかという観点から見ると,再婚後の夫との子との間の嫡出推定についての嫡出否認訴訟と,前夫と子との間の嫡出否認訴訟とでは,判決の矛盾抵触が生ずるおそれがあるわけではないほか,前夫と子との間の嫡出推定について,当事者間に争いがない場合もあり,訴訟経済,当事者の負担等の観点からしても,再婚後の夫との間の嫡出否認訴訟において,常に前夫と子との間の父子関係についても判断しなければならないという枠組みが相当であるともいえないとも考えられます。   また,1回的解決を望む場合に,一定の要件を満たすときに,1回的解決を図ることができる制度を作るべきかという観点については,現行制度においても,1回的解決ができる場合が相当程度あると考えることを説明させていただいており,今回の見直しに当たって,それ以上に新しい制度を導入する必要性がどの程度あるかといった点が,問題になろうかと考えております。   次に,これと関連する問題になりますが,16ページの(2)で,前夫が再婚後の夫の子との推定を否認する場合の手続要件について,原告適格として,前夫に生物学上の父子関係を要するかについて記載しております。この点については,そもそも嫡出推定制度は,常に生物学上の父子関係があることを前提とはしない制度であることなどから,これを要求するべきでないとの意見が考えられる一方で,嫡出推定規定や否認権者の範囲の見直しにより,前夫に再婚に基づく推定についての否認権を認める場合には,父子関係の当事者ではない者に原告適格を認めることになるから,その範囲を正当な利益がある者に限定するため,原告適格として前夫に生物学上の父子関係を要求したとしても,従来の制度の枠組みを変えるものではないという意見も考えられます。これらの点についても,御意見を賜れれば幸いです。   次に,17ページの4では,子の生物学上の父であると主張する者の否認権について検討しております。濫用的に嫡出否認の訴えが提起されるおそれがあることや,母と法律上の父の家庭の平穏を害し,子の利益に反するおそれがあることを踏まえ,慎重に検討することとしております。   また,19ページの5は,再婚後の夫の子と推定される場合の嫡出否認の効果について記載しております。従前の提案から引き続き提案するものになりますが,これらの点についても御意見を賜れれば幸いです。   第3の3から5までの説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第3の3から5までについて御説明を頂きました。特に3の再婚後の夫の子と推定される子についての前夫の否認権という問題につきまして,子の否認の効果,それから1回的な解決の必要性,そして前夫が訴えを起こす際の手続要件という三つの点について,御意見を伺いたいという御希望があったと理解いたしました。   ここの御説明について,まず何か御質問があれば伺いますが,いかがでしょうか。 ○中田委員 質問なんですけれども,11ページに出ています3の③という規律と,19ページに出ています5の規律とは,どういう関係に立つんでしょうか。ちょっと重複しているような感じもするんですけれども,お教えいただければと思います。 ○平田幹事 御指摘のとおり,3の③と5の関係については,基本的に5の方が前提となっていて,3の③の方が,再婚後の夫の子と推定される子について,前夫が否認権を行使した場合について記載されている形になっております。これは,資料を作成する上で5の内容を記載する位置がなかなか難しい部分があって,このような構成にさせていただいたところで,一応5の方は,(注1)のところで前夫を外させていただいたのですが,再婚後の夫の子と推定される場合の嫡出否認の効果という点では,同じものが分けて記載されているというところでございます。 ○中田委員 分かりました。どうもありがとうございました。 ○大村部会長 書き方の都合ということかと思いますけれども,誤解が生じないように,必要な明確化をはかっていただければと思います。   そのほか,御質問いかがでしょうか。   では,御意見を頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。   どなたからでもどうぞ。   特に,事務当局の方から問題提起あった点などにつきまして,御意見を頂ければ幸いでございますが,いかがでしょうか。 ○窪田委員 先ほど,中田先生からお話があった部分に関連してということになるのですが,私自身は,先ほどの5の部分というのは,別に再婚後の夫の,誰を否認権者かという話を抜きにして,これが一般的なルールとして確認できるのであれば,先ほどの3の③というのはもう不要になるということなのだろうと思って伺っておりました。   ただ,5を本当に採用できるかどうかという部分が必ずしも明確ではなくて,5が採用できないという形になると,独立のルールとして3の③というルールが必要になるのだろうという趣旨で書かれているのかなと思っておりました。その上で,5に関して,いろいろな説明の仕方が出てくるのですが,5であるとか,あるいは3の③,④とか辺りで,どういうふうな形で前夫との親子関係,嫡出推定が及ぶということを説明するのかということについては,どちらの蓋然性が優位なのかとかといった議論もあるのですが,基本的には,5のルールを考える際には,部会資料の19ページにも説明されておりますけれども,基本的にはそこで㋐という形で示されている考え方で,嫡出推定が二重には重なるけれども,それを蓋然性で説明する必要は必ずしもないのではないかと思いますが,再婚後の親子関係を優先させるという方が,多分,子の利益にも一般的に適しているとか,いろいろな説明の仕方があると思うのですが,それを優先させたというだけだと思います。したがって,それがひっくり返った後,前夫の子と推定するというのが復活するというのは,それ自体としては十分に理解できるものだと思っております。   ただ,少し気になる点として,元々自分の子どもだと推定される状態であったという場合の法律関係と,一旦は再婚後の夫の親子関係を優先するという形で,自分との父子関係は否定されたという関係にあるときに,取り分け自分自身で嫡出否認をしたわけではなくて,ほかの人によって嫡出否認をされたときに,前夫の子であるという推定,自分自身についての父子関係の推定が復活するということは,何か必ずしも一定の手当てをしてあげないと,前夫にとってはかなり唐突な形で,一定の法律関係に投げ込まれるということになるのかなと思って伺っておりました。   もちろん,14ページのところの下の方で,一定の何か嫡出否認訴訟について,前夫が知る機会を確保するということ等々の手当てというのは示されているのですが,少なくとも何らかの形でその手当てをしないと,嫡出推定が重なっているけれども,一方が優先していたものが消えたので,他の残る片一方のものが復活しましたというだけの説明だと十分ではなく,まだもう少し掘り下げて検討する必要があるのかなと思って伺っておりました。感想めいたことで申し訳ないんですが,そういうふうな印象を抱きました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   前婚の嫡出推定が復活するというのはよいけれども,それでは,前夫にとって予想外の結果になることがあり得るので,その点についての手当てを併せて考えるべきだという御指摘だと承りました。   その辺りにつきまして,ほかに御意見ございませんでしょうか。その辺りというのは,二つあると思いますが,一つは,その効果について,これでよいのか,どのように説明するのかということと,もう一つは,これでよいとして,窪田委員がおっしゃっているような対応を,別途考える必要があるのではないかということですけれども,いかがでございましょうか。   どなたか,効果の点につきまして,御発言があれば。 ○垣内幹事 嫡出否認が認められた場合の効果そのものについては,私自身は特段意見があるということではありませんで,ただ,先ほど窪田委員から御指摘がありました,この資料ですと15ページで記載がされておりますように,仮に前夫についての嫡出推定が復活するということであるとしますと,それは,前夫にとって非常に大きな影響がある事柄ということになりますので,15ページの(注)に書かれているような措置を考えるというのは,必要なことではないかなと。取り分け,訴訟係属の通知等については,十分考慮に値するというか,必要性があるのではないかなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの窪田委員の御発言と同方向の御趣旨の御発言を頂いたと理解をいたしました。   そのほかにいかがでございましょうか。 ○垣内幹事 ちょっと別の点になるんですけれども,よろしいでしょうか。範囲としては,ここの範囲に関してなんですけれども。 ○大村部会長 はい,どうぞ。 ○垣内幹事 資料ですと16ページの(2)の辺りの話になるかと思いますけれども,前夫が再婚後の夫の子との推定を否認する場合の手続要件というところに関しまして,確か第5回の会議におきまして,私の方からも,あるいは専ら私だったかもしれませんけれども,前夫が再婚後の夫の子との推定を否認する場合には,この生物学上の父子関係が必要ということが考えられないかという発言をさせていただいたように記憶をしております。その点について,今回詳細に御検討いただいていまして,どうもありがとうございます。   大変ここは,引き続き悩ましい問題であると考えておりまして,少なくとも,今日の資料ですと,11ページの3の④のところで,前夫としては,自ら否認権を行使して再婚後の夫の子との推定を否認したというときには,自分の方について推定を否認することはできないということではありますので,前夫のイニシアチブで嫡出推定が全てなくなってしまってという状態になるということは,少なくとも回避されるということではあるのかなと思われますので,それで十分ではないかというような考え方も,一方ではあり得るのかなという感じもしております。   ただ,この場合,また16ページの上の方で,1回的解決に関する御説明も頂いておりますけれども,例えば,前夫が再婚後の夫に関する嫡出否認の訴えを提起していて,しかし,前夫自身は生物学上の父ではなく,第三者が父であるというようなことが判明するというような場合なわけですけれども,この場合,子の側としましては,本来再婚後の夫を父とすることで,幸せな家庭が築かれていて,何の問題も感じていなかったということもあるかもしれないわけですけれども,そのときに,本当は第三者が父であるということを前夫の方で主張してきて,嫡出否認を言ってくると。   子としては,それについて,再婚後の夫の父性を維持するためには,その者を生物学上の父だと言えればいいわけですけれども,そうでなければ,そこは否認されてしまうという立場に置かれて,そうすると,残るのは,前夫の子となるのか,それとも前夫は生物学上の父ではないということなので,ここにもありますように,予備的反訴のようなものを提起して,前夫についても嫡出否認を求めていくというのかという,こういう選択を迫られるということになるわけかと思います。   これが,子にとって望ましい状況なのかと考えますと,やや問題があるのかなという感触をちょっと払拭できないようにも思っております。16ページで分析がされていますように,従来のいろいろな考え方からすると,生物学上の父でないということが分かると,原告適格がなくなるというようなことは,なかなか説明しにくいというのは,御指摘のとおりのところはあるのかなという感じもしているんですけれども,しかし,なお自分は生物学上の父でないという前夫に嫡出否認の提訴権を認めるということが,本当に子の利益にとって好ましいことなのかどうかということについては,やや疑問を抱いており,この点について引き続き悩んでいるという,あまり確たる方向性のない意見で恐縮なんですけれども,そういう考えを現時点では持っているということについて,ちょっと述べさせていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点は確かに悩ましい問題ですが,様々な御意見があるのではないかと思います。   何か御発言ございませんでしょうか。 ○中田委員 今の垣内幹事の御発言は,実質的にはよく理解できるところがございます。他方で,ここで問題となっているのは,300日の推定が及ぶ場合なのではないかと理解しておりましたけれども,そうだとすると,前の夫は,300日の嫡出推定が及ぶという資格で認められているわけですので,その資格は,生物学上の父子関係を要件としていないものですから,垣内幹事のおっしゃっていることは,やや実質論の方にウエイトがいっているのかなというような感じがいたしましたけれども,あるいは,その前提自体,私が誤解しているのかもしれません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,中田委員から,前夫が提訴するのは,前婚の嫡出推定が及んでいるという資格で提訴するということなのではないか,そうだとすると,生物学的な親子関係というのは,理屈の上では問題にしにくいのではないかという御指摘をいただいたかと思いますが,他の委員,幹事,いかがでしょうか。 ○窪田委員 垣内幹事からの問題提起というのは,やはりものすごく重要な問題提起だと,伺っていて感じました。   基本的には,前夫が自分の子ではないということを分かっていながら,再婚後の夫について否認権を行使し,それは,しかし,本人自身は否認できないにしても,ほかの人は否認できますので,例えば,子どもとかが否認をするということになれば,前夫の嫡出推定というのは覆すことはできると。   ただし,その場合,結局再婚後の夫の父子関係も否定されて,それから,前夫との父子関係も結局は否定されるということになりますので,まったく父子関係が推定されず,新たに認知が必要な状態になってしまう。結局自分自身は生物学的な親子関係がないという立場でありながら,再婚後の夫についての嫡出否認を認めると,そういう事態が生じるわけですよね。取り分け重要なのは,再婚後の夫と子どもとの関係が,実質的な家族関係としても特に問題なく維持されているようなときに,言わば非常に無責任な形で介入してくるということを認めるということを,どうやって排除できるのかが問題なのだろうと思います。   私自身はやはり,中田先生からもお話がありましたけれども,ここのところの嫡出否認のための要件として,生物学上の親子関係というのを要求するというのは,やはりかなり難しい,実体法上の要件として要求するのは難しいのかなという気はするのですね。ただ,一方で,自分自身は否認できないという仕組みを作りながら,容易に第三者によって否認されるような,そういうふうな前夫について,何らかの形で排除することが,言わば実体法上の要件というと,本文の要件ではないけれども,ただし書で排除するような仕組みというのを考えることはできないのかなというのは,やはり検討の余地はあるのではないかなという気はいたします。   もちろん,300日の嫡出推定は及んでいるので,実体法上の要件としては,飽くまで前夫であるということだけで足りるのですが,その上で,一番抽象的にいうと,権利濫用なのかもしれませんが,もう少しきちんとした形での解除のルールを立てることができないかというのは,やはり検討した方がいいのではないかなと思って,伺っておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   垣内幹事が出された例については,皆さんこれを受け止めて,何とかする必要があるのではないかという御発言が続きましたけれども,法律構成については,手続要件を課すというのではない形で何とかできないかというのが,多分,中田委員,窪田委員,お二人の御意見なのかと思います。   ほかに,この点について御発言ございますでしょうか。 ○棚村委員 なかなか難しいなと思うのは,否認の原因のところで,常にやはり生物学上の父子関係がないということで,もちろんこれ自体,争いようもない点なんですけれども,これに,例えば,手続要件として,生物学上の父の否認権のときも子の利益に反しないとか,何か入れようとするわけですよね。   それで,多分,いろいろなところで言及が出てくると思うんですけれども,海外の法制の中では,むしろ社会的家族関係とか社会的親子関係という概念を入れてきて,そこに一つのハードルみたいなものを幾つか重ねていくと,その中で,生物学上の父子関係という生の事実を直接争うというよりは,幾つかのハードルを立てながら,生活事実とか安定した養育関係みたいなものについても配慮するという傾向があるとすると,今回の立法でどこまでできるか分からないのですけれども,その辺りの配慮がかなり必要になってきて,それを実体的な要件という形にするのか,手続的な要件のところで縛るということにするのか,その辺りは非常に悩ましくて,否認の原因と,それから誰が主張できるかということも非常に関わる重要な問題と言えます。例えば,海外では,ドイツだとか,あるいは韓国とかいうところで,父性を疑われるような原因となる事実みたいなことを主張させるということになると,生物学上の父子関係や親子関係がないということを,間接的に疑わせるような事実みたいなものが問われてきます。DNA鑑定の結果のように直接生物学上の父子関係の存否を証明する事実をどうするかという前に,例えば,婚姻が離婚に至っているとか,それから性関係が別の人とあったとか,それから夫婦の交渉がそもそもなかったとか,そういうようなところがきっかけになっていって,そして血縁関係もないし,懐胎する可能性もなかったとか,いろいろなことが立証されていくと思います。   それで,私自身がちょっと悩ましいのは,やはり今のお話を聞いても,最終的に,生物学上の父子関係がなかったということが,法的親子関係を決める基礎にあるわけですけれども,その辺りをどれくらい,実体的にも手続的にも,ほかの要素みたいなものが入る余地があるのかどうかとかというようなことも,今の議論の中には非常に関係していているように思われます。要するに,最後は生物学的な関係だけであれば,DNA鑑定使えば,それで全てが決まっていくということなので,その辺りのところを,垣内幹事なんかも,どういうふうに構成して,どういう要件として認めていくことが,法的実親子関係の成立の規律では重要になってくる。生物学上の関係だけではなくて,逆に言うと,生物学上の関係も含めてですけれども,どこまで何を明らかにするということが本当にいいんだろうかということで,私自身はちょっとなかなか結論は出ないんですけれども,否認の原因というのも,それが,もちろん血縁の存否ということにもなってしまうのかもしれませんけれども,それ以外の生活事実や生活関係のファクターについても,少し考えていかなければいけないのかなということを,少し考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   問題の解決に当たって,生物学的な親子関係を直接に持ち出さなくて済むような方策が考えられないだろうかという御指摘を頂いたものと受け止めました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○垣内幹事 先ほど,中田委員の方から御指摘のありました点ですけれども,もちろん,ここでの前夫の提訴権限の根拠というのは,再婚の夫の嫡出性が否認されれば,自己に嫡出推定が生ずるということが基礎になっているということが前提だろうというふうに,私も理解しております。ですので,その意味では,そこで本当に生物学上の父であるのかどうかといったようなことは,その要件立てを正面から立てていけば,出てこない問題だということになるんだろうと,その点で,私も非常に難しい問題であるということは承知をしているつもりです。   ですので,場合によっては,これは窪田委員の方から御示唆ありましたように,一般条項的な解決で足りるという評価になるのであれば,そういう評価もあり得るのかもしれないと思いつつ,問題としては存在をしていることで留意が必要な点なのかなと考えているというところになります。   もう1点だけ申しますと,嫡出推定が及ぶかもしれないという理由で嫡出否認権を認めるというのは,それはそういうことが当然あるんだろうと思うんですけれども,この前のところで議論をしていた,実の母の固有の否認権ということとの関係で申しますと,私自身は,どちらかというと,否認権そのものではない形での関与というものも考えてはいかがかというような形で,若干慎重な方向の意見を述べたというようなところがあるかと思いますけれども,実の母でも,仮に否認権はないんだというような立場に立ったときに,実の父ではないんだけれども,嫡出推定は及んで,それは否認されるかもしれないけれども,そういう立場にあるんだということで,他人間の父子関係に踏み込んでいくということは認めるというところが,私のバランス感覚としては,若干いろいろな方があり得るのかなという感じもするところで,その辺りも少し気になっているところではあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,母の場合とのバランスについての御指摘を頂いたと受け止めました。   それから,先ほど窪田委員は,一般条項の権利濫用でということをおっしゃいましたけれども,更に立ち入って,権利濫用をもう少し具体化した形で何かできないかというような御発言もありましたので,生物学上の親子関係を要件として要求しないとしても,何らかの対応が必要なのではないかという御意見は,窪田委員を始めとして複数出ていると認識をしております。   挙手がございますが,水野委員,窪田委員の順番でお願いいたします。 ○水野委員 フランスの議論で,血縁関係,DNA関係というのは,燃えている石炭みたいなものだという表現があります。私も論文で引用したことがある表現ですが,触るのに非常に気を付けなければいけないという意味です。フランス法は,燃えている石炭を触るのに,身分占有というトングを持っていて,この身分占有というトングで上手に配置をしているのですけれども,日本法の場合にはそれがありません。今議論になっている,前夫が後夫の嫡出推定を崩してしまうときに,300日の推定がかかってくることで,後夫との幸福な家庭を崩していいのかという問題がありますし,その逆に,先ほど議論になっておりました後夫の推定が崩れたときに,自分が関与していない前夫の方で,いきなり嫡出推定が復活するという問題も,これも同じように身分占有というトングがない日本法では,扱いの難しい問題になります。   先ほどもご発言がありましたように,15ページの(注)等に書いてあるような,利害関係人に対する訴訟係属の告知などで何とかしなければならないという問題意識があるわけですけれども,告知が十分に機能するかどうかは,私も不安です。例えば,かつて死後認知で,高齢のお金持ちが亡くなったときに,全然知らない人から検察官相手に死後認知の提訴があって,それが,きちんと攻撃防御尽くされないで認められてしまったという,過去の問題がありました。その反省から,訴訟告知が遺族になされる運営にはなったのですけれども,今でも,その訴訟告知を受けた方が,高齢の生存配偶者だったような場合に,それが何のことなのかよく分からなくて放置してしまい,結局きちんと自衛できずに,強制認知が,十分に争われないまま認められてしまうことがあると聞きます。日本人の常識から考えると,もう夫でもないし,そもそも自分の血は継いでいない子だし,前夫はもう自分は関係ないと思っているでしょう。ただ,離婚手続がたまたますごく長く延びたので,離婚後300日に掛かっていたけれども,それはたまたま延びただけであって,そして,本当のお父さんと結婚したのだからいいやと前夫の方は思っていて,全然自衛していないときに,いきなり後夫の嫡出否認が,前夫が預かり知らぬところで起きた結果,自分はまさかそういう関係に巻き込まれないと思っていた前夫の方に,親子関係が復活するという問題についても,本当はきちんとした手当てが必要なのだろうと思います。   何かそういう血縁関係を扱えるようなトングがあればいいんですけれども,にわかに身分占有という概念を日本法では使えないと思います。それでは,どうすればいいのかという提案をできずに,危惧だけを申し上げて申し訳ありませんけれども,どちらの方向にも危ない事件は起きるだろうという気がしてなりません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御指摘は,先ほど棚村委員が社会的親子関係という言葉を使って表現されたことと関わる点だろうと思いますけれども,身分占有という概念はなかなか日本法では導入が難しいところがありますが,何かそういう配慮を組み込むことができるような手掛かりを盛り込むことはできないかという御発言が続いていると理解をしております。 ○窪田委員 先ほどと同じようなことになってしまうのかもしれませんが,やはり垣内幹事から出た問題がずっと気になっておりまして,それについて,もう少し補足させてもらえたらと思います。   一般条項でも可能かもしれないけれどというのは,積極的に一般条項でというよりは,むしろ,やはりもう少しきちっとした仕組みを考えた方がいいだろうという前提で発言しました。取り分け,やはり現在,再婚後の夫との関係での嫡出否認と,それが否認された場合に,前夫との嫡出推定が復活して,それについての嫡出否認という問題になるわけですが,その実際の扱い方というのが,17ページの(注1)に出てきていますけれども,論理的には,再婚後の夫に対する嫡出否認が確定して,その後,初めて復活する前夫との嫡出推定が否定されるというプロセスになるというのは分かるのですが,しかし,ここにも書いてあるように,むしろ両者をまとめて扱うということができるということを前提とした場合ということになるのか,両者をまとめて扱うとしても,この順番で本当に考えなければいけないのかどうなのかという問題はあるような気がいたします。   つまり,仮に再婚後の夫との嫡出推定が否定された場合に復活する,しかし,その復活するはずの嫡出推定について,もう既に否認の主張がされていて,その否認の主張をしているのは,例えば,子どもや子の代理人である母だという場合です。そうだとすると,そういう人にとって,二重に嫡出推定が全部覆されてしまうような結果が生じることが望ましいのかというと,それ自体が問題なのではないかという捉え方はできるようにも思います。   ちょっとうまく説明できないのですが,基本的には,今回の仕組みで,否認権者を拡張するというのは,生物学上の親子関係をより重視するという側面はあるのかもしれませんが,しかし,従来は,父とされる者に限っていた否認権を,当事者である子どもであるとか,母であるとかというところまで広げようというだけであって,母も子どもも父とされている者も,みんな家族としてうまくやっているというときに,よそから介入してきて,生物学的に親子関係ないから駄目だということまでを積極的に認めるような仕組みではやはりないし,そうあるべきではないのだと思います。   そうだとすると,明らかに最後でひっくり返されるということが分かっているような,そして,正しくひっくり返すということを子ども自身が主張しているような,そういう関係において,まず最初に,再婚後の夫について,父子関係あるかないか,DNA鑑定して決めましょうというプロセスで考えなければいけないのか自体が問題なのではないのかという気がします。ものすごく無責任な制度設計に関わる話をしているのですが,そういう観点から捉えると,前夫について生物学上の親子関係を実体法上要求するという形ではなくて,実際にそこで起こる事態というのを踏まえた上で,どちらを先に検討するのかという観点から,何か工夫はできないのかなと思ったという次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   皆さん,垣内幹事が提起された状況については,ほぼ共通の認識を持っておられる。ただ,それを規律するために,生物学的な親子関係があることを要件に加えるのではない仕方で,何か制度設計はできないかという方向でお考えいただいている。なかなか難しいところはあると思いますけれども,それが今の意見の大勢なのかと思います。関連して何か更に御発言ございますでしょうか。   難しい問題ですが,御意見はほぼ収束しているように思いますので,事務当局の方で引き取っていただいて,何かいい案はないか,もう少しお考えいただくということでよろしいですか。 ○平田幹事 はい。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第3の3,4,5につきまして,ほかの論点につき,御発言ないでしょうか。   例えば,4の生物学上の父と主張する者の否認権というのがございますけれども,先ほど,休憩前に否認権者の範囲ということで,大森幹事から御発言があった点とも関わると思います。この辺りについて,もし何か御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   特にございませんでしょうか。   それでは,この第3の3,4,5につきましては,後婚の嫡出推定について,前夫が訴えを起こすという場合についてどうするかということについて,様々な意見を頂きましたので,そこは更に検討していただくということにしたいと思いますけれども,今日のところは,他の論点については特に御指摘はないということで,先に進ませていただきたいと思います。   もし何かありましたら,また後で御発言を頂きたいと思いますが,また1時間たとうとしておりますので,この辺りで休憩をしたいと思いますが,御発言よろしいでしょうか。   それでは,休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,時間になりましたので,再開したいと思います。   部会資料9の第3につきまして,二つのパートについて御意見を頂いてまいりました。残る時間で,三つ目のグループになりますけれども,19ページ,第4の否認権の行使期間に関する規律の見直し,この部分について御議論を頂きたいと思います。   先ほど申しましたけれども,前の第3の1,2に関する問題と併せて御意見を頂きたいと思います。   まず第4の部分につきまして,事務当局の方から説明を頂きます。 ○濱岡関係官 それでは,お手元の部会資料9を御覧ください。19ページからが第4の否認権の行使期間に関する規律の見直しについてでございます。   20ページに移りまして,1の「夫の否認権」の行使期間についてですが,夫は子の出生を知った時から3年又は5年を経過したときは,その否認権を行使することはできないこととすることを提案するとともに,(注)で夫が否認権を行使できることを知った時を起算点とするより短い行使期間を設けることについては引き続き検討することとしております。   21ページの(2)で期間を伸長する必要性について検討をした上で,22ページの(3)で行使期間を制限する根拠としてアに記載しております子の身分関係の早期安定に加えましてウの父と子として生活をしてきたという社会的な事実関係という点も挙げた上で,否認権の行使期間についてはいわゆる物心がつく年齢3歳頃や,義務教育を受け始める年齢6歳を参考として3年又は5年を提案しています。   また,イの行使期間の起算点につきましては,否認権は妻が懐胎・出産した特定の子について行使されるべきものであることから,少なくとも夫はその子の出生の事実を認識していることが必要であると考えられます。   24ページに移りまして,3の夫が否認権を行使できることを知った時を起算点とするより短い行使期間を設けることについてですが,現行法との連続性や否認権を行使できることを知った時の認定が困難であり,紛争が長期化するおそれがあることなどの問題があることから,本部会資料では積極的に提案しないこととする一方で,夫が否認権を行使できることを知った時と起算点とする比較的短期の起算点と,夫が子の出生を知ったときを起算点とする比較的長期の行使期間の制限と組み合わせることによって,事案に応じた柔軟な解決が可能であるとの指摘もあったことから,本文の(注)においてこのような規律を設けるべきかどうかについては引き続き検討することとしておりますので,以上の点について御意見いただければと存じます。   次に,24ページの2ですが,「子の否認権」の行使期間になります。   まず,子の出生後,比較的短期間に行使される子の否認権につきましては,夫の否認権の行使期間と同様に,子の出生の時から3年又は5年を経過したときは,子の否認権を代理行使することはできないこととすることを提案しております。   次に,子自身により行使される子の否認権についてですが,第4回会議の議論を踏まえまして,子自身の否認権の行使を認めないとする甲案と,子は(1)の行使期間が経過している場合であっても,子が15歳又は成年又は25歳に達した日から3年又は5年を経過するまでは,なお行使することができるという乙案を併記しています。   乙案の根拠としましては,(2)ア①の子の出自を知る権利や②の父子関係の当事者であることなどが考えられますが,28ページのウに記載しておりますとおり,この案によりますと,長期間経過後に否認権が行使され,遡及的に父子関係が消滅することになり,扶養義務,相続,夫が子を代理した法律行為の効力などが問題になると考えられますので,簡単な整理をしております。   29ページの(3)の甲案についてですが,子の出生後比較的短期間に子の否認権を認める根拠は,推定される父子関係と生物学上の父子関係が一致しない場合に,夫が母とともに子の養育の主体となることが適切でないときに,そのような事態を解消するために認められるものであると考えられることからすると,これを認めたからといって直ちに子自身による否認権の行使を認めるべきことにはならないのではないか。一定期間自らの子として養育してきた夫の人格的利益にも同様の配慮をする必要があるのではないか。子が比較的若年の場合には,子を事実上監護する者の意向に左右される場合も一定数生じるのではないかといった点が根拠になると考えられます。これらの点は,家族の在り方の考え方や価値観にも大きく影響されるところかと存じますので,御意見いただければ幸いです。   次に,29ページの3に移りまして,「母の否認権」の行使期間についてですが,これは第3の本文2で仮に母の否認権を認めた場合についての検討ということになります。また,30ページの4の「再婚後の夫の子と推定される子についての前夫の否認権」の行使期間につきましても,再婚による嫡出推定の例外を認めた場合についての検討になりますが,前夫は母の懐胎・出産を容易に知り得ない場合がありますので,この点についてどのような手当てをするかの検討が必要と考えられますので,これらの点についても御意見いただければ幸いです。   第4の説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   夫の否認権,それから子の否認権,そして母の否認権,最後が前夫の否認権,四つに分けて期間について御提案を頂いております。   関連するところもあると思いますので,一括して御意見を頂きたいと思っておりますけれども,その前に何か質問ありましたらまず伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○大石委員 質問というよりも,ちょっと文章表現で言葉が足りないのかなと思ったところがあります。その点だけ申し上げます。   29ページのところなんですが,その3行目ですね,甲案の説明の。一致しない場合において夫が母とともに子の養育の主体となることは適切でないときなどに,そのような事態を解消するために認めるべきものというのが,やや読んでいて分かりにくいかなという感じですね。そのような事態が何を受けるのかというのもはっきりしませんし,ちょっとこの辺の表現を工夫していただくと有り難いと思います。 ○平田幹事 表現が分かりにくくて申し訳ございませんでした。今後,工夫させていただきたく存じます。 ○大村部会長 どうも御指摘を頂きまして,ありがとうございました。   そのほか御質問ございませんでしょうか。   それでは,御意見も含めて伺えればと思います。 ○水野委員 すみません,質問なのですけれども,この議論を始めるに当たりまして,現在の判例法の推定の及ばない子の議論は適用されないという前提で議論をした方がいいのか,それとも最高裁の判例の推定の及ばない子の理論が生きる可能性で議論をした方がいいのか,そこを御教示いただけますでしょうか。 ○平田幹事 基本的に外観説の最高裁の判例の考え方が残ることを踏まえて御議論いただければ有り難いと考えております。 ○水野委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 水野委員,さらに何か御発言があれば。 ○水野委員 その前提で考えて発言させていただきます。ちょっとお時間を頂ければ。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。   今の判例の件は,判例を否定するという趣旨ではなくてということですね。 ○平田幹事 さようでございます。 ○大村部会長 しかし,判例の射程がどうなるかはこの議論次第ですね。 ○平田幹事 元々その外観説がどうなるかというのは従前御議論いただいたとおり,なかなか難しい問題があるというところで認識はしております。今後の判例等に委ねられるところはもちろんですが,生き残る可能性も十分あるというところですので,それを前提に御議論いただければと考えている次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いかがでしょうか。   先ほど今日の一つ目の論点である,子の否認権,それから母の否認権の関係をどうするかということにつきまして,子の権利の行使期間との兼ね合いに関わる御発言も多数頂きましたけれども,その辺りも含めまして,改めて御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○棚村委員 子の否認権の行使期間については,海外の法制ですとやはり原因を知った時というかなり主観的な認識のレベルで短い期間を設定をし,それから,子どもの出生からということですと客観的なので,少し客観的なものについての期間もとるという二元的な構成をとるところがあります。それをハイブリッドというか,組み合わせているところもあるようですけれども,今回の御提案は,基本的には夫については否認権は子の出生を知った時からということで,母に認める場合は出生の時から3年とか5年と,こういうことで,その3年,5年の期間のとり方については,やはり物心つくのが3歳とか,それから就学前のお子さんが6歳ぐらいだとことなど,大体5年ぐらいが適当ではないかというようなことが説明で22ページ辺りにも書いてあります。それで,これは意見というよりも悩ましいところなので,結局子どもの身分関係の安定ということを考えると,できるだけ短期間で収束させたいという要請と,それから,父親の場合とやはり母親の場合で認識できる期間とか事情とかが少し異なってくるとも考えられます。そういうふうになると,判断や熟慮,あるいは考える機会を十分に保障するということも,せっかく否認権を認めたのであれば必要になってくるのではないかと思ったりもします。   それで,どっちが一番いいのかということはまた議論をして詰めていく必要があると思うのですけれども,子の身分関係の法的安定ということを重視するのであれば,子の出生から何年というふうに区切ってしまった方が分かりやすいですし,割合と客観化できるわけです。現在は1年ということなので,あまりにも短くて気付かないままチャンスを失って,そして裁判になったりしているケースがあるわけですけれども,その辺りを少し緩和するという意味では,3年とか5年とかというのは分かるのですけれども,子の出生を知った時と,子の出生の時からというのが説明文の中ではあまりずれがないではないかとおっしゃっているんですが,疑問があります。私は調停などに関わっていますと,結構子の出生と知った時期とのずれが生ずるというケースは少なくありませんでした。ある意味では,最初は自分の子どもだと感じてすごい喜んでいたし,違うとも疑いを感じていなかったところ,そのうちに何か顔つきが違うとかでいろいろ疑い始めたり,他から聞いた事情で多分疑い始めたりするわけです。   それで,DNA鑑定みたいなのを私的にやってしまって,それで結果が出てきて分かったというケースになると,大分時間がずれてくるということは,夫,父の場合はあり得るのではないかと思うのですね。それでお聞きしたい点は,客観的に子どもの地位の確定,早期確定ということに重きを置くのであれば,子どもの出生を知った時という事実と,出生を知るということの意味が,自分の子であるということについて疑いを持たずに言うことなのか,それとも要するに出生の時と出生を知った時とで分けることにどれほど何か意味があるのかどうかというのをもう一回確認をしたいと思いました。認識のレベルでいうと主観的な要素があるので,ずれてきたりいろいろ幅が認められ,個別ケースではいろいろなことがあり得ると思います。ところが,出生を知った時,それから出生の時からというので,母親と父親と一応起算点というのを分けているところに,やはり何か意味があるのかどうかという非常に素朴な質問なんですけれども,教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   では今の点について。 ○平田幹事 一つは夫の否認権の起算点の子の出生を知った時というのは,否認原因を疑った時とか,その類いではなくて,もう子が生まれたことを知っていればそれは起算点になるという趣旨でございます。   そうであれば,普通の,通常一緒に暮らしているような夫婦であれば,少なくとも子の出生を知った時と出生した時というのはほとんど一致するんだろうというふうには考えております。   母の起算点についても,こちらの方は知った時というのは自身で産んでいるということが前提になりますので,基本的にもう知った時イコール出生した時というふうになると考えております。 ○棚村委員 そうしますと,今の御説明でいくと,別居していたり疎遠な関係になっていて,法律上は婚姻はしていたけれども,子の出生を把握できないような事情がある場合には,その知った時期と出生の時期というのはずれるということになりますか。そういう場合も想定して知った時期というふうに,要するに同居していて密に何か連絡を取り合ったりしていた場合と,そうでない場合を想定して知っているというのを入れたという理解でよろしいでしょうか。 ○平田幹事 御理解のとおりでございます。この部分は,現行法の「知った時」という表現と同じ意味であるという前提で使用しております。 ○棚村委員 分かりました。 ○大村部会長 棚村委員,それで今の点はよろしいですか。 ○棚村委員 結構です。ありがとうございました ○大村部会長 御意見はいかがでしょうか。 ○磯谷委員 母の否認権についてですけれども,当然ながら母に否認権を認めていただくこととして,その行使期間としてはある程度長い期間を想定していただくことが望ましいだろうと思っています。無戸籍の問題などでしばしば指摘されるDVなどの事態を考えますと,離婚して出産した後,やはり母親の方は経済的に困窮していたり,いろいろな意味で激動の中で生活するような形になりますので,体制を整えて弁護士に相談するようになるのには,やはり少し時間を要するのだろうと思います。これは心理的な部分も含めてだと思います。   ですから,母は当然前夫の子ではないと分かっているのだから,早く申立てできるのではないか,というのではなくて,やはりある程度の時間を設けていただくということが望ましいのだろうと思います。それが3年なのか5年なのかというところについては,まだ定見を持っているわけではありませんけれども,いずれにしても,そういう意味で適当なのではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかはいかがでございましょうか。 ○井上委員 24ページの子の否認権について発言をさせていただきます。   (1)に3年,5年,それから(2)の乙案にも3年,5年と年数が記載をしてあるのですけれども,これは数字は同じなのですが,それぞれ理屈が必要なのではないかというふうに考えます。といいますのも,(1)は子の身分関係を早期に安定させるという観点がストレートに当てはまると思いますが,(2)は長年家庭の平穏が守られていた状態をひっくり返すことになると思います。また,一定年齢,15歳,成年,25歳とありますが,に達して,十分な判断能力を有するに至っていると考えれば,そこまで長くなくてもいいような気もしますし,一方で,家庭の平穏が守られた状態をひっくり返すということを考えると,熟慮するだけの十分な期間があってもよいのではないかという気もしております。   なので,この(1)と(2)の行使期間は,結果同じ年数になったとしても,理屈はそれぞれ構築する必要があると考えます。その関連でいくと,28ページの中段のウの関連する論点のところなのですけれども,①の扶養義務についてに関して,子の否認権を認める場合,再婚後の夫が長年養育してきたにもかかわらず,子に否認されて前夫の子となった場合,誰に対して遡及効が生じるのか,前夫,それから妻に加えて子に対しても生じるのか,その点も課題ではないかというふうに考えています。   それから,30ページの「4 再婚後の夫の子と推定される子についての前夫の否認権」についてなのですけれども,ちょっと雑感的な感想めいた意見で恐縮なのですけれども,これは再婚後の夫に及んでいる嫡出推定を前夫が否定しにいく権利ということになるのですよね。そうすると,今の嫡出推定,否認権でいくと,父自らに及んでいる嫡出推定を父自らが否認するという意味での否認権ということで,何かこう違う否認権なのに同じ呼び方というのでしょうか,それでいいのかどうかというのが非常に素朴な疑問で思いましたので,結論は何もないのですけれども,ちょっと検討が必要ではないかと思いました。 ○平田幹事 御指摘を踏まえて,前夫の否認権について,このような名称でよいかどうかについては検討させていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   3年も5年も,根拠は違うのではないかという御指摘がありましたので,そこもまた御意見を頂きつつ検討していただく必要があろうかと思いますけれども,そのほか,水野委員。 ○水野委員 今の井上委員の御意見が出た部分につきまして,私も危惧しております。子自身による提訴権を子が成人してからある程度認めることについては,ほかの国の法制もかなり認めていますし,それから子の出自を知る権利というのが強く言われるようになってから,あまり反対論を聞かなくなったように思います。でも昔,私がフランス親子法をよく勉強していた頃には,親子関係というのはポジとネガの関係なので,父親に養育義務を果たさせると,その結果,子どもの側から否定することができないという説明がされておりました。私は,この説明がしっくりきていたところがあります。それから,28ページの一番上のところに書いてある説明で書かれているような,子と同居したことがなく,かつ自己の子としてこの子を扱ったことがないことというような要件を一切かけずに,成人してから一定の年限の間,子からの提訴を認めてしまうことになりますと,先ほどの発言と重なりますけれども,それでは取りあえず調べてみようかということになることを危惧いたします。   調べてみて,お父さんだと思って育ったのにそうではないことがわかったときに,その子が抱える苦悩はさぞ大きいだろうと思います。実親ではなかったとわかったら親子関係を否定しようということになるかもしれないのですけれども,それは,育てた父親の権利という点からも問題です。子自身に強い突き動かされる欲求があったとしても,調べることに道を開いてしまうことのリスクは相当大きいように思います。   ですから,何かこういう要件が書き込めればいいのですけれども,そういう制限なしに,大人になったら一定の年限は自由に提訴できます,子自身の自己決定権ですという議論だけだと,危ういものがあるように思います。   ここにも父の同意があるときと書かれてありますけれども,この要件との関係でも,推定の及ばない子の論理が生きるとすると,あるいは推定の及ばない子の論理が生きる限り,同意さえあればその要件を合意したという形で家庭裁判所で事実上自由に設計することができますので,その辺についても配慮した上で制度設計を考えないといけないだろうと思います。すみません,具体的にこうすればいいという提案が伴わないままの危惧だけの発言でお許しください。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの水野委員の御発言の中にも含まれていたことですけれども,子自身により行使される否認権,これはかなり遅い時期になって行使されることになる否認権ということになりますが,これに対して制限的な,あるいは謙抑的な立場からの御発言を頂いたものと受け止めました。 ○磯谷委員 子どもの否認権について,成年あるいはそれに近い年齢に達した後,子ども自身に改めて否認権を認めるということについては賛成です。賛成なんですけれども,それはさておき,実際にこれまで父とされてきた人が生物学的には父でなかったということが分かった場合の子どもの方の反応というのも恐らく様々であろうと思います。生物学的に父子関係がないのであれば法律的にも父子関係を否定したいという子どももいるでしょうけれど,一方で,必ずしもそうではなくて,今まで育ててくれた父親との法律上の関係を維持したいけれども,しかし,生物学上の父が別にいることをはっきりさせたいという思いをもつ子どももいるのではないかと思います。   ところが,私が知る限り,法律上の父子関係があると戸籍に記載されることから離れて,公的に生物学的な父親が誰かということを認める方法はないのではないか。つまり,誰かとの間で生物学的な父子関係を公的に認めてもらおうとすると,現在の制度上,必然的に法律上父とされている人との父子関係を否定せざるを得ないのではないかと思うんですね。   しかしながら,今申し上げたように,ひょっとすると子どもの方のニーズとしては,必ずしも法律上父とされる人との間の父子関係を切ることではなくて,むしろ自分の生物学的な父親はほかにいて,それはこの人なんだということが何か公的に明らかにすること,公的に残しておくことなのかもしれないと思うと,そういった別の部分での制度的な工夫ですね,もう民法でできることを超えるのかもしれませんが,換言すると,一般の方々の認識としても,法律上の父子関係というものが血縁上の父子関係と離れがたく結びついているのですが,そういったところをちょっと緩めてあげて,法律上の父子関係は残るんだけれども,生物学的な父親はこの人だということを公的に認定してあげるといった,そういったものを設けることというのも考えられるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   出自を知るということについて,法的な親子関係を否認するということとは別に何か仕組みを作るということができれば,こういう制度を設けなければならないという要請の度合いも下がるのではないかという御指摘ですね。ありがとうございます。 ○窪田委員 私自身は,この子どもの否認権の行使,特に一定の比較的高い年齢に達してから行使するということについての自分の考えというのは,まだ全く決まっていない状況です。もちろん父子関係の当事者であり,正しく代理行使とかそういう話ではなくて,自分自身の権利行使として考えられるのであれば,それが実際に行使できるような時点からそれを確保すべきだという発想は分かりつつ,一方,先ほどちょっと触れた点にも関わりますが,もし子どもの頃に母が代理行使して,そしてもうそこで負けていたら,恐らくこれは権利行使できないということになるのだろうと思います。また,母固有の権利としてやったとしても,やはり負けた場合には対世効があるという説明であれば,やはりここでも権利行使できなくなる。そうだとすると,ここで権利行使できる場合というのは,母とか父が否認権を行使しておらず,そして子どもが大きくなってからひっくり返すという場面だということになります。その状況については,いろいろなパターンがあるのだろうとは思いますが,そうしたことが当然にできるのかというと,何か若干違和感が残ります。その点で,水野先生の御懸念というのは,私自身はよく分かる気もいたしました。   ただ,この点についてはなお決めかねてはいますが,どちらの態度を取るのかという点にもすごく関わってくるのが,28ページの関連する論点ということで挙げられている,仮に否認が認められた場合に具体的にどういう効果が生じるのかということなのだろうと思います。ここでは,もちろん筋からいえば嫡出否認が成立した以上,遡って父子関係は否定されるのだからというのを徹底的に貫くとこうなるのだという形で書いていただいているということだと思いますし,これはある意味でものすごく大きな効果が生じることになりますので,こうした効果が認められるということになると,消極的な判断につながるのかもしれないと思っておりました。   ただ,先ほどの繰り返しになりますが,私としては態度決定できていない状況で好きなことを言うのは適切ではないとは思っていますが,こうした形で本当に全部遡って遡及的に否定する必要があるのかというと,それ自体についてはやはりもう少し検討してもいいような気がいたします。   つまり,先ほど言ったように,父の方も別に否認しようとしていなくて,母の方も仮に知っていたとしても否認しようとせずに,親子関係というのを前提としてこの子は15歳であるとか,18歳であるとか,25歳まで育てられてきたという状況があるときに,遡ってその時々の瞬間で見れば,それぞれの時点においては多分正当な父子関係があって,一定の法律関係が形成されて,それに基づいてのことがなされているということだと思います。③は典型的なのだろうと思いますが,③だけではなくて,扶養に関してもそれぞれの時点においてはやはり正当な法律関係なのだという何か見方もできるのかなという気がいたしました。   磯谷先生の御発言とも重なる部分があるのかちょっとよく分かりませんが,この効果の点はかなり詰めた上で,この議論とセットにして進めていかないといけないのかなという気がいたします。   繰り返しになりますが,扶養義務について遡って遡及効があるけれども現存利益がないのだからという説明もあり得るとは思うのですが,13歳とか12歳のときにやった扶養というのは,その時点ではやはり正当な法律関係だったという見方も可能性としては残るのであり,それを本当に遡って全部否定するということで枠組みを立てる必要があるのかどうか,少し何か検討の余地があるのかなと思って考えておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2段階で御指摘を頂いたと思います。そもそも子自身による否認権が行使される場合というのはどういう場合なのかということと,仮にそういう場合があるとして,効果はどうなのか,遡及効を完全に認めるということでいいのだろうかということと,二つの御指摘を頂いたと思います。   磯谷委員,山根委員の順番でお願いします。 ○磯谷委員 一つは,今窪田先生がおっしゃったところ,同感です。特に28ページの一番下の取引の辺りなんていうのは,何らか例えば第三者の権利利益を害さないとか,何らか手当てができるのではないかなとは思いました。   ただ,私自身は成長した子どもに対しても否認権を認めるべきだと考えています。平穏に続いてきた家庭をひっくり返すようなイメージがあるかもしれませんけれども,恐らく実際に平穏に続いてきた家庭であったとしたら,子どもはたとえ父とされる人が生物学的な父でないと気付いたとしても,その父子関係をひっくり返そうとは思わないのではないかと。その関係で,先ほど私が申し上げたのは,要するに父子関係をひっくり返すのではなく,法律上の父子関係を残しつつ,別の人が生物学的な父親だということを公的に認めていくという案でしたが,もしそういうものがあれば,ケアされる子どももいるのではないかと思うのです。   一方で,形式的には父子関係が長く続いてきたけれども,実は非常に険悪な関係であったり,途中で生物学的に父子でないことがあきらかになったけれど,父としては否認権の行使期間が徒過しているため否認できず,面白くないので子どもをじゃけんに扱うとか,様々なケースが想定されるわけで,そうすると,少なくとも子どもから成人あるいはその前後になり判断能力が備わったところで,その法律上の父子関係を維持するのかどうかを改めて検討する機会を与えてあげる必要があるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの出自を知りたいということのほかに,やはり実質的に見ても否認権を認めるべき場合が残るのではないかという御指摘だったかと思います。 ○山根委員 先ほどの母に否認権を認めるかどうかというところの議論で,子ではなくて母のみに権利を与えることで,そういう制度もありではないかという大森幹事からの御意見に,それは前向きに検討していいのではないかなと感じたんですけれども,ただその一方で,子どもには大人になってからの権利を与えるという御指摘があって,それに関しては,ちょっとやや心配を持ちます。   28ページにいろいろと関連する論点ということで出てきますけれども,こういった様々な制度設計だったり相当な課題がある中で,今回の議論の中でそこまでして子自身に範囲を広げる必要があるのかというのがちょっとまだ私にはよく分からないですし,ここはちょっと慎重にすべきかなというふうな印象を持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   水野委員の慎重論とある意味では同じ方向に向かった御意見として伺いました。   そのほかはいかがでしょうか。 ○山本委員 先ほどの磯谷委員の発言に私も賛成するので,ちょっと意見だけさせてもらいたいと思います。   まず,お母さんの否認権ですけれども,実際にはDVで離脱した場合,何年間にもわたって母子の生活再建というのは非常に困難な時期があります。かつ,夫の追跡ということがあって,元夫の追跡ですよね,そこでいろいろなトラブルが想定される中で,常に最短時間で否認の申立てができるという状態を保障されていないということが考えられるので,ある程度,幅のある期間設定を設けた方が良いのではないかと考えます。   それから,子どもの否認のことですけれども,成人後に子どもがいわゆる親子関係を否認するというのは,先ほどありましたように実の親を知りたいということと同時に,そこまできた親子をなぜ否認しなければならないかという特段の事情があると思うんですね。恐らく相当な親子関係のトラブルがあって,それを今になってもやはり冷静に考えた上でもその親子関係をはっきりと断って,本当の親とは違うんだということを言わなければならない子どもの立場というのは,かなり親との間ではトラブっているということを想定した方がいいと思うんですね。   そういう意味では,先ほど議論があったように,遡及するものに関してかなりの条件整備をしておかないと,子どもがそう思ったところで,自分で自分の首を絞めるというようなことになるのでは意味がないと思うんですけれども,同時に,やはり自分が大人になってもう一遍親子関係に対しての自分の意思表示ができるということを一定権利として認めておくということも必要ではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2点御指摘いただいたかと思います。母親の権利行使については,比較的長い期間をとっておくことが必要なのではないかということと,それから子どもについては,先ほど磯谷委員から御指摘がありましたけれども,やはり認めるべき場合が残るのではないかということ。その場合に効果についての対応が必要だろうという御指摘を頂いたものと思います。ありがとうございます。   久保野幹事から手が上がっていると思いますが,久保野幹事,どうぞ。 ○久保野幹事 先ほど,過去について親子関係を否定するということと扶養義務等の行方という意味での効果というものを一旦区別して考えてみた方がいいという御指摘がありましたけれども,同じような発想で,否定した場合の将来の効果についても検討することが有益ではないかなと思います。つまり,磯谷委員や山本委員から御指摘があったように,子の場合に否定をするのが適当だと想像できるような場面としては,親から過酷な扱いを受けたとか関係が非常に悪化しているという例が考えられるということでしたし,そう思いますけれども,その場合に親子関係をおよそ否定するというレベルのことと,そういう場合に,例えば扶養義務,将来に子が親に対して負う可能性のある扶養義務について,親子関係を否定しないとしても何か考えることができるのかといった点も検討の上,比較して考えてみるとよいのではないかなと思いました。   それで,このような発言をしているに当たって,まだ最終的な結論を持っているわけではありませんけれども,思っておりますのは,どちらかというと一定の年齢に達してから否定する,子どもの方から一方的に否認権を行使するということについては,一定の年齢に達するまでの間に積み重ねられた実態があるケースもあるというようなことを考えますと,基本的には,まずは慎重に考えた方がいいのではないかなと思っているということが前提にございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   久保野幹事からは,基本的には慎重論に立ちつつ,しかし将来に向けて実質的に親子関係の効果が生じないような扱いというのは考えていく余地があるのではないかという御発言を頂いたかと思います。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○磯谷委員 私の立場は先ほどから申し上げているとおりではありますが,そうすると,一体いつ子どもが否認権を行使できるとすべきなのかについては,とても悩ましいと思っています。少なくとも,子どもが心理的にも安定した状況で,血縁がないという父子関係を清算していくべきかどうかを考えるのは,思春期真っただ中の15歳という年齢では困難なのではないかなと想像します。   成年になった時点というのはひとつの考え方だと思いますが,成年年齢が18歳になりますと,はたしてそれでも十分な年齢か疑問があります。いろいろな研究があるのでしょうけれども,心理学的には25歳程度になると全般的に安定してくるというふうなお話を聞いたことがあります。そうすると,ここに挙げられている中では25歳程度の年齢が妥当なのではないかなと感じています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   子自身の否認権を認めたとして,期間はいつからなのかということで,高いところに年齢を設定すべきだという御意見として承りました。15歳,18歳,25歳は法律上線が引かれているところなので出てきているのだろうと思いますけれども,その中では高い方がよろしいという御意見だったかと思います。 ○棚村委員 今,磯谷委員からも子ども自身に認める場合に何歳ぐらいまでというのでなかなか確たる根拠というのは難しいかもしれませんけれども,7月20日ですかね,昨日の新聞で報じられた事案がありました。私も磯谷委員も大村先生の部会長の下で特別養子についての年齢の引上げの改正について,審議に関わりました。そこでも原則6歳未満で長くても8歳未満というのを少し上げようという,12歳という考え方と15歳,それから18歳未満というその三つがあって,やはり15歳ぐらいがある程度民法としても自分自身で普通養子縁組もできるような年齢になってきたときに,特別養子の必要性がどれぐらいあるのかという議論の中で,福祉の現場の皆さんは,やはり逡巡したり悩まれたり,いろいろなことで,かなり年長になってからもようやく決断ができて実親との関係を切りたいというケースはあるんだということなので,数はどれくらいあるのか分からないという中で,18歳未満まで広がったという経緯がありました。たまたま東京家裁の2部で,コロナ禍で4月1日から改正がスタートしまして15歳に達するまでにできないというかしない中で,里子が里親との間で特別養子縁組を希望しており,高校生になってかなりしっかりとした意思を持って自分でやりたいと,家庭裁判所において特別養子縁組の審判が18歳未満で認められたケースとして報じられていました。   ちょっと細かいことはここで御紹介することではないのですけれども,ただ,磯谷委員もおっしゃったように,かなりこういうネグレクトとか虐待とか,いろいろな経緯でもって実の親が育てられなかったケースで,里親さんのところで暮らしていたのだけれども,元々年齢がかなり低く抑えられていたときは,特別養子の可能性というのは里親さんに委託された段階で6歳を超えてしまっていましたので,難しいということは分かっていたようです。ただ,実親がいるんだから,何で養子縁組をしなければいけないというようなことで,里親さんに対しても非常に反発をした時期がどうも長くあったケースのようでした。   そういう中で,最終的にはやはり踏ん切れたというか,決断をしたときがかなりぎりぎりのところで,コロナ禍もあって東京家裁の裁判官も調査官も非常に御尽力いただいたという話もちょっと聞きましたけれども,そういう中で考えると,私はどちらかというと25歳というのはちょっと長過ぎるかなという感じを持っていて,18歳ぐらいの成人のところを上限として,そこから3年とか5年とかという期間のスパンの中で考えると,ちょうどある意味で磯谷委員がおっしゃっていたような25歳ぐらいのところでしっかりした判断をできるのかなとも思います。それぐらい揺れ動くというのは,磯谷委員と全く同感でして,もし子に否認権を認めるとすれば,独自の立場でいろいろな事情を踏まえた上で意思決定ができる時期というので,成人に達して,それから更に3年とか5年という期間は必要なのかなという意味では,どちらというと磯谷委員に賛成をする方向での考えを持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   磯谷委員の御指摘を踏まえられつつ,しかし年齢については違う考え方もあるかもしれないということだったかと思います。   それから,期間については先ほど井上委員だったでしょうか,御指摘があったかと思いますけれども,もう一定の年齢に達しているのだから早くという考え方と,難しい問題だから時間をとってゆっくりという考え方と,両論あるかと思って伺いました。   窪田委員,御発言ですね。 ○窪田委員 先ほど申し上げたとおり,私自身,自分の立場が固まっているわけではないのですが,やや慎重なというか,消極的な立場からの発言ということで,2点発言させていただければと思います。   1点は,まず子どもが一定の年齢に達してからの否認権の行使の理論的な根拠ということになるのですが,先ほど申し上げたとおり,当事者関係にあるのだからというのは一つの説明ではあり,血縁関係があるかどうかという,生物学的な親子関係があるかどうかという意味での当事者であることは,もうこれは間違いないだろうと思います。ただ,子どもが小さい段階での父あるいは母の否認権行使,代理であるかどうかも含めて,それがやはり一定の期間で制限されているということの意味も考える必要があるのだろうと思います。3年とか5年で制限されているというのは,先ほど棚村先生から御指摘ありましたが,否認権を行使することができることを知ったときからというのであれば,その間の意思に基づいて法的親子関係を認めたという説明になると思うのですが,否認権を行使できる事情があるかどうかにはかかわらず,子の出生を知ったときからということで3年とか5年というふうに言っているのは,基本的にはフランスと身分占有とは違うのかもしれませんが,やはり一定の期間によって法的な親子関係が形成されている,したがって,それに基づいて親子関係の否定が制限されているという説明ができるのではないかなと思います。   そうだとすると,そういうふうな形で血縁だけでは決まらない法的親子関係が形成されたのを,子どもの方では後で一方的にひっくり返すことができるということについては,実はそれほど簡単に説明できるわけではないのではないかというのが第1点です。   第2点として,磯谷先生のおっしゃることはすごくよく分かり,こんな難しい問題を15歳で判断できるかというと,それは無理だろうと思います。せめて18歳とか場合によっては25歳ということになるのですが,ただ一方で気になるのは,この年齢まで上がったときに,親子関係をひっくり返すということは一体何を意味するのか,ということです。つまり,小さい子どものときには,正しく親子関係というのはやはり扶養者と扶養を受ける側といったような関係があります。他方で,もう25歳になってから父子関係はないですよ,血縁関係がないのですよと判断することの意味というのが一体どこにあるのかなというのが,私自身はちょっとよく分からない気がしてきております。   先ほど申し上げたとおり,過去のずっと法的親子関係があると思ってなされてきた行為というのを,過去を全部否定する必要はないと思いますし,しかしそうだとすると,それを否定しなかった上で25歳になってそれを全部ひっくり返すということは一体どんな意味を持っているのだろうかというのが,私自身やはりちょっとよく分からないなという気がしております。   もちろん虐待を受けたケースとか,いろいろなケースというのは考えられるのですが,一般論としてこういうときに,もう別に自分の生活も困らないし,それでも父子関係をひっくり返そうといったときには,むしろストレートにやはり血縁関係がある父との関係で認知をする訴訟を訴えるとか,つまり出自を知る権利というのが結構表に出てくるという形になるのではないかなという気がいたします。ちょっとその点で私自身は先ほど言ったとおり,また本当に決断はついてはいないのですが,結構何かこうやって考えてくると,やはり慎重に考えるべき部分というのは少なくないのかなと感じているということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つかの点を挙げられて慎重に考える必要があるのではないかという御指摘を頂きました。 ○磯谷委員 窪田先生,ありがとうございます。   もちろん何か私がきれいに答えられるわけではないのですけれども,一つ,この否認権を一般的にはなるべく早く,つまり今では1年ですし,あるいは今議論されているのは出生から3年から5年という非常に短い期間で制限しているのは,子どもの福祉といいますか,子どもの生活が早期に安定していけるようにというところだというふうに説明されてきたのではないかなと思うんですけれども,そうすると,むしろ子どもがもう成長してしまってという状況だと,特にそこにこだわる必要はもうなくなっているのではないかと思います。   それから,二つ目の成年になってひっくり返す意味って何かというところですけれども,ここは本当に多分いろいろな考え方があると思いますので,正解はないのかもしれません。ただ,日弁連の方で少し議論している中で出てきたのは,やはり人格的な利益というものがあるのではないかというような発言もありました。私なりに解釈すると,血がつながっていないということがもう明確になっている状況で,なぜ自分がこの父子関係に拘束されなければいけないのかという素朴な疑問というものがあるんだろうと思います。それは,いやいや,そういう仕方がないんだよと言ってしまうのも一つありなのかもしれないけれども,ただやはり,特に先ほどから出ているように,もう既に父子関係が実質的にも壊れているような状況下で,なぜ自分がこの血がつながってもいない父親とされる人とずっとこれからも一生の親子として関わっていかなければいけないのか,そこに対する答えというのはなかなかこれもまた難しいのではないかと思います。   ですから,そういうふうに考えると,ひっくり返す意味というものはやはり少なくともある人にはあるのかなとは思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   窪田委員から手が挙がっているので,どうぞ。 ○窪田委員 磯谷先生に反論しようという趣旨ではなくて,もう10年ほど前だろうと思いますが,大村先生,水野先生と御一緒に学会で家族法の改正に向けたシンポジウムの企画がありました。その際には,私が親子法を担当して,まさしくここにあるような形での子どもの否認権の行使についての案というのを考えておりました。ですから,磯谷先生のおっしゃる意味も非常によく分かるつもりです。   ただ,ちょっとやはり最後の点について少し考えてみたいのは,もちろん子どもの人格的利益というのもあると思うのですが,二十数年にわたって育ててきた,父親として育ててきたという父の恐らく人格的利益というのもあるのだろうと思います。もちろん血縁関係がないのだから,そんなものはひっくり返してもいいという考え方はあるかもしれませんが,血縁関係がないときであったとしても,場合によっては代諾ということであれば,本人が関わっていない養子縁組というのがなされて,その養子縁組について25歳になったら一方的に否定することができるのかというと,そういうのではなくて,やはり協議離縁であったり裁判離縁であったりというプロセスが定められているわけです。それなのに,実親子関係については25歳になったら血縁関係がないよねという形で全部ひっくり返せるというふうな,それほど簡単な話ではないのではないかなという気もします。何か一方の立場に立って発言してしまっているようですが,ちょっとその点を考えてもらえた方がいいのかなという気はいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   磯谷委員,どうぞ。 ○磯谷委員 すみません,いや,本当に最後のおっしゃったところ,特に養子縁組についてひっくり返せるわけではないというところは,私もそこを思っていまして,特別養子について議論したときも,実際成年になった後それがひっくり返せるわけではないというふうなことでしたので,そこのところをどう考えるのかなというところは,私も答えがまたございません。ただ,強いて言えば,やはり特別養子縁組においては,裁判所が入って子どもの福祉という観点から必要性を吟味した上で最終的に審判をする,そういう過程があるのに対して,否認によって否定しようという血縁上の関係は,そういうステップを踏んでいないというふうなことになるのかなと思います。   そういうところからすると,ある程度差異が生じたとしても,それほどまるでおかしいことということではないのかなというふうに,今のところですけれども,自分なりには整理をしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   養子縁組との対比の話が出てまいりましたけれども,先ほど髙橋委員が御指摘になった生殖補助医療の場合,子どもからの訴えはどうするかという問題もありそうで,なかなか悩ましいところもあるように思います。 ○大森幹事 慎重に考えたいという先生方の御意見ももっともだと思いながら拝聴し,非常に難しい問題だと改めて感じております。ただ,結論としては,私は子自身の否認権行使は認める方向で検討していただいた方がいいのではと思っております。   一つは,今,磯谷先生がおっしゃった人格的な側面もありますし,恐らく否認権行使を認めた方がいいのではないかという考えと,認めない方がいいのではないかという考えでは,十数年間の父子関係について見えている景色が違うように感じています。懸念を持たれている方は,それなりの父子関係が形成されてきたことを背景にしながら,それを崩すのはどうだろうかと考えておられるのに対して,父子関係がきちんと形成されてこられなかったことを背景にすると否認権行使は認めた方がいいのではないかという考えにつながってくるのではないかと思います。   やはり一つ一つの家庭によって父子関係がどういう関係なのか,良好なのか,全く一緒に住んでもいないのか,千差万別で何か線引きをすることもできませんが,子が十数年間,25歳であれば25年間になりますが,歩んできた父子の関係を見詰めた上で権利行使をすると決断するのはそれ相応の背景があるようにも思いますし,そこは尊重する必要があるのではないかと思います。子に否認権を認めると言っても,代理行使しか認めないのであれば,それは認めるとは言わないのではないかとも思いますので,そういった点でも認めた方がいいと思っております。  あと無戸籍の関係で申し上げますと,やはり母に否認権を代理行使なり固有なり認めたとしても,母自身が過去のトラウマ等を理由に権利行使自体ができないまま過ぎてしまうような事態も恐らく考えられるのではないかなと思います。しかし,その場合にも子自身が権利行使できることによって,紛争解決ができるということも出てくるのではないかと考えています。   また,行使期間のことについて1点指摘させていただきたいのですけれども,それぞれ父,母,子についての権利行使期間を検討していただいていますが,これに対しての救済措置も全く検討しなくてもいいのだろうかという点が少し引っかかっています。先ほど再婚した場合に前夫が否認権行使をすることが考えられるという話が出ましたけれども,例えば権利行使期間を3年と仮定をした場合,3年目ぎりぎりのところで前夫が否認権行使をしてきた,ところが,実はその前夫も血縁がないときに,子あるいは母が前夫の否認権行使をしたいと思ったものの,その時点では3年を経過してしまっていたら,再婚夫の父子関係だけが否定されて,前夫との血縁が本当はないにもかかわらず,行使期間が経過してしまったために否定できないという事態となってしまうのは不合理ではと思いました。今申し上げた事例なども含めて何かしらの救済措置も検討した方がいいのではと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つか御指摘いただいたかと思いますけれども,どういう事案を想定するかによってかなり方向性も違ってきますので,想定している事案をすり合わせて考えるということがまず必要なのではないかという御指摘を頂いたかと思います。   それから,原理的な問題,原則を何だと考えるかというところについて,意見の違いがあると思いますけれども,それについても併せて考えることが必要だろうという御指摘だったかと思います。   3番目に,そうしたときに例外的な救済措置というのはやはり何か考えておく必要があって,期間について柔軟な取扱いをするということも併せて考える必要があるのではないかというふうな御指摘を頂いたと思います。   久保野幹事とそれから垣内幹事から手が挙がっていますので,久保野幹事,垣内幹事の順でお願いいたします。 ○久保野幹事 今の大森幹事の第1点目についてなんですけれども,特に既にされた議論を繰り返すだけのような意見になりますけれども,虐待ですとか遺棄ですとか,悪化した関係というものが積み重なった父子関係の場合にこそ,否認権を行使するのが適当だと思われることを,実質的に考えた場合はそうではないかというのは全くそのとおりだと思っていますけれども,それについて一つ先ほどそのときに効果として父子関係を否定するのか,あるいは将来扶養しなくてはならないという負担が生じ得るということを効果としてどう考えるかという発想もあり得るのではないかというのは,先ほど申し上げましたけれども,もう1点,途中で窪田委員から出ました養子縁組の場合との対比ということを考えましたときに,先ほど普通養子の話が出つつ,他方で特別養子の話も出たような気がしますけれども,どちらについてもやはり一方的に離縁をするというのはできなくて,悪意の遺棄があったときですとか虐待というものが,裁判上の離縁の理由になり得るということで,それでこの場面でも28ページの冒頭にあるような形で遺棄ですとか虐待といったことを要件にして否定していくということがあり得るんだとしますと,そろっていくと思うんですが,仮にそれは難しいというふうになりますと,この対比が完全に適切かは自信ないのですけれども,血縁がないという1点で一方的に解消できるものと,そうではない養子の場合ということのアンバランスといいますか,その違いが出てくるということで,何と申しましょうか,そこをどう考えるかというところ。血縁がないからといって,それだけでなぜ否定できるのかということを,必ずしも適切な対比ではないのかもしれませんけれども,そこをちょっと考えてみた方がいいのではないかと思います。   それで,今の点と関係して,個々ケースによって関係が違うのでどう考えるか難しいということなんだと思いますけれども,やはり血縁というものがある程度基本的な基準として働かせざるを得なくて,先ほど来,権利濫用でいくのか事実といったものを入れていくとかということがなかなか難しいという議論をしている中で,やはり個々のケースの事情に応じてというところに限界があると考えたときに,どっちで割り切るかということで,私自身は慎重な方だということで先ほど申し上げたことに帰結しますけれども,すみません,繰り返しになりますが,養子とのバランスのところについてのコメントをさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の養子とのバランスの点と,それからもう一つは親子関係を完全に切断するというのではない解決も考えられないかという点を,おっしゃられたかと思います。   次は垣内幹事,そして中田委員の順番でお願いをいたします。 ○垣内幹事 これも大変悩ましい問題だと感じていますけれども,もし子に否認権を認めるとすると,その根拠としてはやはり血縁上の父子関係を,生物学上の関係を法律上の関係に反映させるということについての利益というようなことになるのではないのかなと考えております。   ただ,もし子の否認権を子の出生の時から3年ないし5年の間親権を有する母が代理行使ができるという規律を前提としたとしますと,子の母による代理行使というものが十分に子の利益に配慮した形でされると,母による判断がそういった形で合理的にされたという場合に,なお子に後になってそれを覆すということを認めるのがよいのかどうかという点については,それはなかなか難しいところもあるのではないかという感じもいたしますけれども,しかし,他方,現実には様々な場合があるということを前提としますと,何らかの理由で,合理的に考えれば母が代理人として否認をすべきであったと言えるような場合であったにもかかわらず,それがそうでなかったというようなこともあり得る,そのような場合に後で子自身が否認ができるというような場合を認める必要がないのかというと,そういう場合に関して言うと,それは認めるという考え方も十分あり得るのかなというように思われます。ですから一言で申しますと,全面的に何の制約もなく認めるということについては,かなり抵抗を感ずるところがありますけれども,何か適切な要件を設定することが仮にできるのだということであれば,そうした要件の下で認めるということは,あり得る考え方ではないかなと思っております。   そうした要件設定という観点から見ましたときに,先ほど来,何人かの先生方から御発言が出ているところですけれども,もし本来血縁関係がなくて否認しようと思えばできたのだけれども,しなかったことによって維持されている父子関係というものを前提としますと,これはある意味では血縁関係がないけれども一定のそうした判断によって父子関係が維持されているということですから,養子の場合と共通する側面があるというようなことがあろうかと思います。   そのときに,養子縁組については,確かに血縁がないといったようなことで,子の方から一方的に離縁するということが常にできるということではないわけですけれども,しかし一定の場合に縁組を解消するということは認められているということからしますと,そうした養子縁組の解消事由との関係で何か子の場合の否認ができる要件というものを検討するということも,一つあり得る検討の方法ではないかなという感じを持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   認めるとすれば一定の制限をかけるべきなのではないか。その場合には,先ほどから出ている養子縁組の解消というのとのバランスを考えるというのが一つの方策ではないかという御指摘だったかと思います。   中田委員,お願いできますか。 ○中田委員 いろいろな場面があるということで,それで皆さんの御意見を聞いていて,それぞれもっともだなと思っております。   一つだけ付け加えますと,この制度を設けることによって,小さいときの子どもに対する父親の態度に影響しないだろうかということが気になっております。つまり,血縁がないということは分かったんだけれども,しかしこの子を育てていこうという気持ちになっても,10年か20年かたったところで覆されるかもしれないというと,少し何というか,その気持ちが進まないのではないかということを感じまして,そうすると,小さな子の利益を逆に害することになるかもしれないという面も考慮すべきではないかと思いました。結論的にどうあるべきかということは,まだ定見がありませんですし,垣内幹事のおっしゃったような何らかの絞りをかけた上での解決ということはあるかもしれませんけれども,この制度を設けることによる影響ということも考える必要があるのではないかという,その点だけ付け加えさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど親子関係の早期安定化というのは,大きくなってしまえば過去のことになるという御指摘もありましたけれども,個別の場合ではなくて,一般的な影響というのもあるのではないかという御指摘で,そのことも考える必要があるということかと思います。 ○中田委員 事後的に振り返ってというよりも,この制度が設けられることによって,将来に向かって父親がどういうふうに思うだろうかという,そこの点を考慮すべきではないかということでございます。 ○大村部会長 事後的に振り返ってというのは,先ほど磯谷さんがおっしゃった話で,大きくなったら当該親子関係についてはもう,親子関係の安定といったことを考える必要はないのではないかという御指摘だったかと思いますけれども,中田委員はより一般的に言ってこのような制度を導入するということが小さな子どもの養育について影響を及ぼすのではないか,それが将来に向けてということだと理解しましたが,そういう理解でよろしかったでしょうか。 ○中田委員 はい,ありがとうございます。 ○磯谷委員 今の点は面白い視点だとは思いますけれども,一方で,実際にこの子どもが父子関係を本当に否定しようと思うのは,やはり相当ハードルは高いのだろうと。例えば相続などを考えても,結局当然ながら権利を失うというふうなことになりますし,また,多くの20歳から25歳くらいの子どもたちを見ますと,まだまだ親に頼りたい,支えてもらいたいということが多いと思うんですよね。そうすると,そういった頼りたいという思いを放棄してでも親子関係を清算しようというのは,恐らく子ども側にとっても相当の決断になるんだろうと思うのです。ですから,何といいますか,子どもが単に血縁がないとわかったから,あっさりと「では,もう僕はこれでおしまいです。さようなら。」というような話は,あまり現実的ではないように思います。 ○大村部会長 木村幹事,それから棚村委員の順番でお願いいたします。 ○木村幹事 先生方の御議論を聞いて少し私が感じたことなんですけれども,私自身は,元々父子関係の当事者である子ども自身にはやはり当事者として自ら否認する権利あるいは利益があると考えていました。とはいえ,先生方の今日の御議論を聞く中で,とりわけ父親あるいは母親の否認権が早期に制限されるということを踏まえると,父子関係がかなり早い段階から確立して,実際その後一定年齢を過ぎた子どもが否認をするということになると,数年かけて築かれた法的な父子関係あるいは社会的親子関係が覆されることによって被る様々な不利益がある点は重要な問題点だと認識しました。   その上で,早期に特定した父子関係について,どのような意味を持つのかということが問題になるかと思うのですけれども,一つは,遡及効によって様々な法的効果が覆るという意味において,一般的な身分関係についての法的安定性が覆されるという意味での不利益の問題と,もう一つは,数年かけて築かれた法的父子関係あるいは社会的父子関係によって想定されるところの当事者間の人格的利益というものに対する不利益があると考えられます。   この点について,すでに指摘されている通り,やはり父親自身にもこれまで養育してきたことに関する人格的利益があるという点は十分に分かるのですけれども,しかし,それだけをもって他方の当事者における子どもの否認する権利や利益というものを完全に排除することまではやはりできないのではないかと考えます。   つまり,父の利益という観点だけではなく,子との間に社会的親子関係が形成されていることをもって,ケース・バイ・ケースで子どもの否認権が制限されるという場合を検討できるような要件にした方が良いのではないかと考えております。   この点に関連して,特別養子縁組の要件との比較などが今回一つの案として示されていたりするなど,養子縁組全般との比較を参考とする見方もあるかとも思います。しかし,養子縁組自体は意思に基づいて形成をされていたり,特別養子縁組に関しては裁判上の介入を経て子どもの利益が一定程度保障されるという関係を前提に作られた制度であるということをふまえますと,実親子関係法の嫡出否認の場面で社会的親子関係をどのように考慮すべきかという問題は,養子縁組制度とは完全にパラレルな話ではない,それほど容易に養子縁組制度を参照の手がかりにできるわけではないと考えます。あくまで,実親子関係の,生物学上の親子関係に対比される社会的親子関係の存否というものを具体的に判断できるような場合を要件として立てるということを検討した方が良いのではないかなと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   子どもの否認権が認められるとことを原則としつつ,しかしそれに伴う弊害の指摘があるので,一定の要件を掛けるという道を探すべきではないか。そのときには,今日出ていた養子縁組と対比して考えるというのではない方向で考えるのがよいのではないかという御指摘だったかと思います。   手が挙がっていますので,棚村委員,お願いします。 ○棚村委員 非常に重要な点だと思って聞いておりました。   それで,私自身も,子どもの否認権もそうなのですけれども,夫の否認権,それから母の否認権,その否認権が認められるのであれば,その権利を行使する動機とか目的とかいろいろあると思うのですけれども,権利行使というのは基本的にはやはり本人の自由でできると考えるべきだと思います。ただ,みなさんがご指摘されているところは,やはり関係者の利益みたいなものが一気に失われたり影響があるとき,この不利益をどう考慮するかということと,それから,覆されたりして父子関係とかが否定された場合の効果の大きさについてどう制限するかというのを少し切り分けて議論した方がいいのかなというふうに思っています。   子どもに認めるということであれば,例えば父親側の否定された方の不利益とかという問題はもちろんあるとは思うのですけれども,それは効果を何らかの形で制限をしたり,処理の仕方を検討するというのが重要であって,子どもに独自の否認権を認めながら,権利行使そのものを制約をするとか認めないとかというのは,かなり重大な不利益を与えるということになってしまうので,私は逆にそっちの方を慎重にした方がよいと考えています。子どもに否認権を認めるというふうなことにしていくのであれば,基本的には生物学的な父子関係みたいなものがあるのかないのかということをベースにしながら,先ほど木村幹事もおっしゃっていたように,社会的親子関係みたいなものをどの程度考慮することによって要件設定できるかということもありますし,否定された場合の効果や不利益があまりにも大きいというので,先ほども養育費なんかを払っていた場合には不当利得でというのはあるんですが,日本の裁判例でも実はあって,不当利得に当たるから返せというのと,いやいや子どもを持ててとても幸せだったんだから不当な利得,法律上の原因もあったという,そういう解釈をしているケースもあります。   そういう意味で言うと,後始末の問題はもう少し慎重に考えた方がいいと思うんですけれども,オールオアナッシングにということですと,やはり権利そのものを,子どもの否認権を制限した方がいいのではないかという慎重論が出てくると思うんですが,子ども自体が当事者として親子関係を続けるか続けないか,それから夫もそうですけれども,その動機だとか目的だとかそういうものについて,細かく何かを考えて権利行使が制約されるということになると,権利を与えたとか否認権を与えた根拠や趣旨が一体どこにあるのかということがやはり問われるのだろうと思います。   それで,そういう意味では,子どもの否認権というのは基本的には父子関係を否定できる権利というのは持つし,それから社会的な親子関係みたいなのをどの程度考慮するかということで否定をされる場合,磯谷委員が先ほど来言っていたドイツみたいな形で,法的な親子関係はひっくり返せないし,変わらないけれども,血縁的なものだけは確認したいという制度を新たに置くことによって,出自を知る権利との調整を図るということも,日本でもあり得るのかなと思っています。ただ,どこまで今回の法制審議会の部会の中でできるかは,ちょっと別ですけれども。   だから,そういう意味で言うと,子どもに否認権を認めようということで考えるのか,考えないのかというのを,大森幹事が言うように,うまくいったり事実関係が積み重ねられたという,そういうことを考えていくのか,それとも切ることが,親子関係がうまくいかず切らざるを得なかったというものを想定するかで,大分違っているような感じを受けました。その辺りのところは,やはり私自身は否認権を子どもが当事者であるので基本的に認めていく,それから血縁をベースとして父子関係が生物学上なかったことが一番大きな問題とするのであれば,動機だとか目的だとかその権利行使をすることによってマイナスの効果が働いてくるというのは,少し切り分けて議論した方がいいのかなという感じで思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つかのレベルで御指摘を頂いたかと思いますけれども,直前に出ていたどういう形で制限をかけるのかという点については,要件で制限をするというのは,仮に子どもの否認権を認めるという点を出発点にすると,必ずしも望ましくない。むしろ効果の方で弊害を緩和すべきだという御指摘かと思って伺いました。   皆さん,一定程度の制限をかける,どちらから出発しても一定程度の例外ないし制限を設けるという御意見かと思いますけれども,どちら側から出発するかについては,まだ少し距離があると思って伺っております。   御発言の希望がたくさんありますが,窪田委員,木村幹事,そして髙橋委員という順番で伺います。 ○窪田委員 それでは,簡単に発言させていただきたいと思います。   一つは,制限をかける形で何らかの子どもの否認権を認めていくというのは,方向性としてはあり得ると思います。ただ,ちょっと気になりましたのは,28ページの上にあるように,法律上の父が子と同居したことがなく,かつ自己の子としてこの子を扱ったことがないといった,言わば社会的な親子関係が形成されていないというタイプの要件は比較的分かるのですが,ちらっと出ていた虐待とかそういう話は,ここでの話とはかなり性格は違うだろうなと思って伺っておりました。これが1点。   もう一つは,むしろ先生方にお聞きしたいなと思ったのですが,先ほど大森幹事から,24ページで(1)と(2)では期間の制限の意味が違うというご指摘がありました。その意味はもう私自身も賛成なのですが,恐らく(1)は3年とか5年で社会的な親子関係は形成されるので,もうそれをひっくり返すことはできないという意味の期間制限なのかなと思います。   それに対して,(2)の方は,もう社会的な親子関係とかそういう話にはならないのだとすると,何で期間制限がされるのだと,単に事実関係の確認だけだとすれば,いつだってできるではないかという主張も可能なのかなと。あるいは少なくとも3年5年という社会的親子関係の形成に合わせる必要はないということになると思いますので,ここの部分は一体何なのかなという説明がそう簡単ではないのかなと思って,感じておりました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   では,木村幹事,続けてお願いします。 ○木村幹事 すみません,私も窪田委員と同じ点を疑問に思っております。つまり,虐待などの場合を念頭に親子関係が覆されるというふうになると,実際,起算点がいつからかによるかと思いますけれども,15歳のときには正に虐待の当事者であったとの主張・証明が可能かと思われますが,既に成年に達していたような場合に,いつの時点の虐待を話すのかという,証明するのかという点において,過去の話に遡って現在の法的父子関係を否定するというふうなことにもなりかねないのかなと思っております。果たしてそういった処理がよいのかという点も踏まえて,制限的な要件をどのようにかけるのかということについては検討する必要があるのかなと思いました。   2点目ですけれども,窪田委員の御質問内容とは違っていているのですが,乙案の場合の起算点が,子どもが一定年齢に達したときから否認権が行使できるとなっております。父子関係の当事者として否認ができるとする考え方からすると,一定年齢に達したという客観的起算点を成年子の場合も必ず維持しなければいけないのか,このことが理論的にどのように説明されるのかということが気になっております。そこで,あまりいい案ではないですけれども,例外的に子どもが父子関係を否定する事情を知ったときからという例外的要件をこの場合に限って認めたとした場合には,この否認期間をより短い期間として設定することもあり得るのかな,と思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   髙橋委員,どうぞ。 ○髙橋委員 すみません,いろいろ議論が進んでいるところで,大した意見ではないんですけれども,子どもが父を選ぶ人格的利益というものを想定して,いや,父親も人格的利益があるということで子どもの否認権を否定してしまうと,子どもの人格的利益の部分が結果としてゼロになってしまうような気がするんですね。   父親の方は,子どもを育てるか否認するか選択する機会があったわけですけれども,子どもの側には選択する機会が全くないということになってしまうのではないかと思います。   子どもの否認権といいながら,実際には子どもが小さいときに母親が行使するかどうか,それに限られてしまう。となると,結局子どもの人格的利益が尊重される場が表に出てこないので,全くゼロにしてしまうというところにはちょっとどうかなと。ではどういう条件付きにするかとところは,ちょっと今日はそこまで私は詰めていないので,意見はちょっと言えないところです。   それと,先ほどちょっと出ましたAIDで生まれた子のことですけれども,それに関してはAIDで生まれた子を特別と考えるのか,一般と同じに考えるのかという問題があると思います。それは,子どもの否認権が認められる理由と関わってきて,AIDで生まれた子もやはり同じように認めるべきだという,そういう立て方になるのか,あるいはAIDで生まれた子は特別だから認めないということになるのか。   AIDで生まれた子がもし特別だとすると,父親が同意したからということになると思うんですが,その同意が親子関係形成というような意味合いを持つのかどうかという辺りの話に多分なってくるので,その議論はまた別個の議論になってくるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この問題についてはたくさんの意見を頂きましたけれども,それぞれ子どもの否認権を認めることを原則とするという立場,それから子どもの否認権を認めることは慎重に考えるべきだという立場から考えて,しかし,例外を認める必要はある。そこは皆さんそのようにお考えで,カテゴリックに認めるべきだ,認めるべきでないということにはなっていないように思います。ではどういう制度を作るのかということにつきましては,先ほど申し上げましたけれども,まだ皆さんの間に意見の隔たりがあるように思います。   更に伺えば御意見はあろうかと思いますけれども,今日,これを伺ってもどうも収束する見通しは立たないように思います。派生的な難しい問題もあります。今のAIDの問題もそうですし,要件を立てる場合に何を基準とするのかということについては,少しじっくり考える必要もあるように思いますので,今日のところは,追加の御発言がなければ,今のような意見分布であるということで引き取らせていただいて,更に検討をしたいと考えておりますけれども,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   ありがとうございます。   他の論点もまだ多少は残っております。木村幹事からちょっと話が出ましたけれども,子どもの否認権の場合には起算点を他の場合と違うものとして考えるべきなのではないかという御指摘ありましたが,他の場合については完全に主観的な起算点,親子関係がないということを知った,あるいはそのように考えることができたという時点ではなくて,出生のときからということで提案がされておりますけれども,それについては,木村幹事がされた留保以外には大きな異論はなかったと受け止めております。   それから,30ページの再婚後の夫の子と推定される子についての前夫の否認権に関しては,(注)がついていて,期間について特別な扱いが必要かどうかということが問題提起されておりますけれども,先ほどこの問題自体について更に検討をする必要があるのではないかということでしたので,期間の問題も含めて改めて事務当局の方で検討していただきたいと思っております。今の2点についてもそのようなことでよろしいでしょうか。   ありがとうございます。   ほかに御発言がなければ,今日のところはこのぐらいにしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明を頂きたいと思います。 ○平田幹事 次回の日程についてですが,日時は令和2年9月8日火曜日午後1時半から午後5時30分まで,場所は今回と同様,法務省地下1階大会議室になります。   次回は嫡出推定制度やこれに関連する制度,論点等についてと,できれば懲戒権の見直しについても少し御議論いただきたいと考えております。 ○大村部会長 次回の予定は今のようなことでございますので,どうぞよろしくお願いを申し上げます。   法制審議会民法(親子法制)部会の第9回会議,以上で閉会をさせていただきたいと思います。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。閉会をいたします。 -了-