法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  令和2年9月4日(金)   自 午前 9時57分                       至 午前11時48分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第4回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は,御多忙のところお集まりいただきありがとうございます。   まず,事務当局から本日の配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として,配布資料11「検討のためのたたき台・その2(第1「保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」)」,配布資料12「検討のためのたたき台・その2(第2「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」),配布資料13「統計資料②」,配布資料14「勾留請求と勾留状の発付数等(地簡裁総数)②」,配布資料15「勾留の執行停止人員②」,配布資料16「通常第一審終局裁判後の保釈許可人員及び再保釈人員②」,配布資料17「単純逃走罪及び加重逃走罪の主体・被拘禁者奪取罪等の客体」,配布資料18「諸外国におけるGPSにより被告人の位置情報を取得・把握する制度の概要」をお配りしております。配布資料の内容については後ほど説明いたします。   次に,第1回会議で配布した配布資料5の修正について御説明いたします。   配布資料5は,外国法令を翻訳・要約したものであるところ,一部翻訳・要約に不正確な点がありましたので,おわびするとともに,訂正の御報告をいたします。   具体的には,本文1ページ目のアメリカ合衆国における公判前釈放について記載した「2」「ア」の部分において,「対象者を公判前に釈放した場合には,その者の出頭を合理的に確保することができないなどと『認める場合を除き』その者を釈放しなければならない」旨記載すべきところ,第1回会議において配布した資料においては,この点について,「その者の出頭を合理的に確保することができないなどと『認めるときは』その者を釈放しなければならない」旨の誤った記載をしていましたので,これを改めました。   その他幾つかの誤りを修正しました。お手元には修正済みの資料を配布させていただきました。 ○酒巻部会長 では,事務当局から配布資料の内容について具体的な説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料について御説明いたします。   配布資料の11と12は「検討のためのたたき台・その2」です。資料の構成や詳細な内容については後ほど御説明いたします。   次に,配布資料13から16までについて御説明いたします。   配布資料13から15までは,第1回及び第2回会議において配布した勾留や保釈等の統計に関する配布資料4,7及び8にそれぞれ令和元年の数値を追加するなどしたものです。   配布資料16は,第2回会議において配布した配布資料9の平成25年から平成30年までの「通常第一審(地簡裁)」の欄の上段・下段の数及び各年の「総数」について,最高裁判所において調査した結果に基づきこれらを改めるとともに,令和元年の数値を追加したものです。   配布資料17の「単純逃走罪及び加重逃走罪の主体・被拘禁者奪取罪等の客体」,配布資料18の「諸外国におけるGPSにより被告人の位置情報を取得・把握する制度の概要」については,それぞれ対応する検討項目の御議論の際に内容を御説明いたします。   配布資料の御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明について,御質問はございますか。よろしいですか。   前回までの会議では,配布資料6「検討のためのたたき台・その1」に基づいて,「保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」,「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」,「確定した裁判の執行を確保するための方策」のそれぞれについて,具体的な検討項目を設定しつつ,一通りの議論を行い,委員・幹事の皆様から考えられる対処策や具体的な制度案についての様々な御意見を頂きました。   本日は,それらの御意見を整理した結果を踏まえつつ,より一層具体的な制度の枠組みや,更に検討すべき課題について議論を深めていきたいと思います。そのような議論に資するものとして,前回の会議で御了承いただきましたとおり,事務当局にその検討のための資料を作成してもらいました。   そこで,事務当局からその資料についての具体的な説明をお願いしたいと思います。 ○鷦鷯幹事 それでは,配布資料11及び12の構成等について御説明いたします。   配布資料11及び12は,第2回及び第3回会議において配布資料6「検討のためのたたき台・その1」に基づいてなされた御議論を踏まえ,「たたき台・その1」に記載されていた事項や,第2回会議以降に新たに取り上げられた事項について,「第1 保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」と「第2 判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」に分けて,各検討項目ごとに,「考えられる制度の枠組み」を記載するとともに,制度の在り方を考える上で更に検討する必要があると考えられる「検討課題」を整理したものです。   これらの資料についても,「たたき台・その1」と同様に飽くまで検討のためのたたき台として作成したものであり,「考えられる制度の枠組み」に記載している内容は,もとよりそれに限定したり議論を方向づける趣旨のものではありません。   また,「検討課題」についても,飽くまで現時点で考えられる主なものとして列記したものであり,ここに掲げられていない事項についての検討は行わないという趣旨のものではありませんので,「考えられる制度の枠組み」の内容自体の当否や要否も含め,記載のない事項についても御議論いただければと思います。   資料11と12に記載されている「1 考えられる制度の枠組み」と「2 検討課題」の詳しい内容については,これらの各検討項目について議論する際に改めて御説明いたします。   配布資料11及び12の構成等についての御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今説明のあった「たたき台・その2」に沿って,配布資料11に記載されたものから具体的な議論を進めていきたいと思います。   議論の進め方として,配布資料11の「第1-1」から順に議論を行っていくことにしたいと思います。そのような進行方法でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,配布資料11の「第1-1 被告人に,公判期日外における裁判所その他の機関への出頭や報告をする義務を課すこと」について議論を行います。   議論に先立ちまして,「第1-1」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 それでは,配布資料11の1ページを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」として,裁判所が保釈中又は勾留執行停止中の被告人の公判期日への出頭を確保する観点から,被告人に対し,指定の場所への出頭や一定の事項の報告を命ずることを記載しています。   次の「(2)」は,「(1)」の命令違反があった場合の措置であり,出頭報告命令の実効性を確保するため,その不履行に対する制裁として,保釈等を取り消すこと,罰則を設けることを記載しています。   続いて,「検討課題」を御覧ください。   「(1)」及び「(2)」として,命令の要件や内容を「検討課題」として掲げています。   「考えられる制度の枠組み」,以下「制度枠組み」と言いますが,そこでは,要件は「公判期日への出頭を確保するため必要があると認めるとき」とし,また,裁判所に限らず「指定の場所に出頭すること」を命ずることができるものとしていますが,どのような場合にどのような形で出頭・報告をさせることが被告人の逃亡防止に資すると考えられるか,裁判所以外の場所への出頭命令の要否・当否などの点について御議論いただければと思います。   次に,「(3)」として第一回公判期日前における命令の主体を,「(4)」として命令違反があった場合の措置を掲げています。このうち,「(4)」については,命令違反を理由として保釈又は勾留執行停止を取り消し得るものとしたり,命令違反を理由とする罰則を設ける必要性・相当性があるかという点のほか,罰則を設けるとした場合の法定刑などについても御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 第1-1の説明内容について御質問はございますか。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかをお示しいただいた上で御発言をお願いします。これから先も同様ですけれども,新しい制度を設計しようとしているわけですので,この場でいろいろな問題点について,詰めた議論をしたいと思います。順不同で結構ですから,活発な議論をお願いできればと思います。 ○向井委員 命令の要件につきまして,実務的な観点から意見を申し上げたいと思います。   公判前整理手続に付されない事件につきましては,おおむね1か月程度で第1回公判が開かれ,その後,2週間から1か月に1回程度の間隔で定期的に公判期日が開かれるという例が多いことから考えますと,通常は,別途定期的な出頭や報告を求める必要性は乏しいのではないかと感じるところです。   他方で,公判前整理手続に付されるなどして公判開始までに相当の期間を要するという事件もあり,そのような事件につきましては,公判開始までの間,確かに被告人と裁判所その他公的機関との接点が少なくなってくるという面もあるかと思います。ただ,この点につきまして,実務では,保釈条件として受訴裁判所の召喚を受けたときには必ず定められた日時に出頭しなければならないという条件が定められることが通例でございますので,この条件をいかす形で,公判前整理手続を担当する受訴裁判所におきまして,公判前整理手続への出頭を命じることによって,適切なタイミングで被告人の所在等を把握するということは考えられるということになるかと思います。   要件に関して感じたところを申し上げた次第です。 ○酒巻部会長 今のお話では,公判前整理手続を担当する裁判体が出頭を命じるということですね。「検討課題」の方は,むしろ,公判前整理手続は第一回公判期日前であり,かつ,これは勾留・保釈に関わることだから,公訴の提起を受けた裁判所とは別の「裁判官」が命じるものとするかという点が挙げられているのですが,この点について,実務の観点から御意見があればお伺いしたいと思います。これは,理論的にはいわゆる予断排除ないし予断防止の原則と関係するわけですけれども,何か御意見ございますか。 ○向井委員 若干補足いたしますと,おっしゃいますとおり,第一回公判期日前においては,勾留や保釈に関する判断は,受訴裁判所ではなくて裁判官が行うわけですけれども,公判前整理手続に付されますと,予断排除の面が若干後退しまして,公判前整理手続に被告人も出頭することが予定されていますし,またその争点整理に受訴裁判所が主体的に関わっているということで,そういう形で受訴裁判所の関わりというものが,通常よりは大きく,裁判官と受訴裁判所の連携が身柄の判断においても求められていると,こういう理解の下で意見を申し上げました。 ○髙井委員 先ほどの御意見は,必要であれば公判前整理手続において出頭義務を課せばいいのではないか,そのときに,「考えられる制度の枠組み」に書かれているような現在の生活状況その他を確認すればいいだろうということだと思うのですが,そういうことにすると,公判前整理手続に審理の中身に関する手続と身柄に関する手続が混在することになって,理論的におかしくないかなと,まず一つは思うということですね。   それから,公判前整理手続は,本来密に行われるべきだと思いますが,最近の例を見ると,例えば2,3か月に1回であるとか,これは検察側に責任がある場合も多いのですけれども,そのようなこともあるので,公判前整理手続のときに一緒に被告人を来させればいいのではないかということだけで足りるのかなと思うということと,ここの課題には上がっていないんですが,仮に公判前整理手続に出頭義務を課すのではなくて,別途の機会に別途の,例えば裁判官のところに出頭するとした場合に,弁護人はそれに立ち会うことができるのかとか,そういう弁護人の絡みをどうするかということと,今度は一方で,では検察官はどうなんだと。公判前整理手続の中でやるのであれば,そこに弁護人もいるし検察官もいるわけですが,それとは違う手続でやるとした場合には,そのときに裁判官が得た情報は検察官の方に伝わるのかと。例えば,裁判官が,これはもしかしたら逃げるのではないのかと思った場合に,裁判官が勇気のある人で職権で取り消せば問題ないわけですけれども,なかなか裁判官はそうはいかない。検察官が何もアクションを起こしていないのに裁判官の独自の判断で保釈を取り消すというのはなかなか勇気の要ることだと思うのですね。そうすると,この手続の中に検察官をどうやって絡めていくのかということも考えないといけないかなと思います。 ○酒巻部会長 髙井委員が御指摘になった点について,「たたき台」を作成した事務当局として,何か考えているところはありますか。 ○吉田幹事 御指摘がありましたように,例えば,被告人に出頭を命じたにもかかわらず,その出頭義務に違反して出てこなかったという場合には,逃亡のおそれが一定程度高まったという評価が可能な場合もあり得るかと思います。その場合に,この命令違反をもって保釈の取消しを可能とするかどうかも論点の一つかと思いますけれども,仮に可能であるとした場合に,裁判官の職権による保釈の取消しで足りることとするのか,それとも検察官による保釈取消請求を可能にして,一旦検察官の判断を介在させた上でその取消しの判断を裁判所がすることとするのかということも,制度構築上は考える必要があろうかと思います。   そして,検察官の保釈取消請求を介在させるとした場合には,御指摘のように,検察官側にその情報が行かないといけませんので,その情報伝達の仕組みについても検討が必要になるのではないかと考えております。 ○大澤委員 この制度の位置付けといいますか,大前提の話を一つ確認として伺いたいと思います。この「(1)」のところにあるような命じることができる事項というのは,現在も保釈の条件として付することができるのではないかという気がいたしますが,そうすると,「(2)」の「ア」の部分になりますが,保釈条件に反すると今でも保釈を取り消すことはできるわけですから,ここまでの部分は今の制度から何か外に飛び出す部分はないのではないかと。ここまでだとすれば,いわば確認的なものにとどまっていて,「(2)」の「イ」がつくと創設性を持ってくると。そんな理解になるのでしょうか。それとも,この「(1)」及び「(2)」の「ア」までであっても,何か今までの制度よりも一歩外に出るところがあるのでしょうか。 ○吉田幹事 御指摘のとおり,「(1)」の内容それ自体は,現行法上保釈の条件として付すことができるのではないかと思われます。そして,保釈の条件として付すとすれば,その違反については,現行法の規定で保釈の取消しと保証金の没取が可能になると思われます。   その意味で,「(1)」と「(2)」の「ア」は,現行法の保釈条件という仕組みを用いても実現可能なのではないかと思われます。他方で,現在は保釈条件の違反について罰則はございませんので,「(2)」の「イ」は現行法からはみ出る部分ということになります。その上で,この点について,保釈条件違反に対する罰則という形で実現するのか,それとも,このような命令という形をとった上で,命令違反に対する罰則を設けるという形で制度を構築するのかについては,更に御議論いただければと思っております。 ○髙井委員 理論的には,事務当局から説明のあったとおりだと思うのですね。ただ,こういうことを言うと裁判官から怒られてしまうかもしれないのですけれども,弁護人の立場からすると,確かに理論的には別に新しい法制度を作らなくても,出頭させますからそれを条件にしてくださいと,それで保釈してくださいと言って,それで裁判官が「おお分かった」と言えばいいのですけれども,なかなか裁判官はそういう変わったことをやると「うん」と言わないのですね。理論的にはできるのだけれども,いや,そんな前例ありませんよねとかいう話になって,こちらがそういうことを条件提示して,それを条件に保釈をしてくださいと言っても,なかなか乗ってこない。   ですから,そういう意味では,今回のこの制度というのは,保釈中の逃亡を防ぐと同時に,緩やかに保釈を認めていくという,認めても逃亡されないようにするためにはどうすればいいかということなわけですから,そういう意味では,ここで理論的にはできるんだけれども,別途こういうものを設けて,裁判官がそれを使いやすくする,あるいは弁護人がそれを使いやすくするというのは,一定の社会的意義のあることだと思います。   そこについては,保釈条件違反そのものに罰則を付けると,今度は保釈条件を決めるときになかなか難しい問題も別途起きるわけですよね。ですから,やはりここはこういう命令違反に対して罰則を付けるという,ある程度特定性を持ったものでないと,やはり実務では使い勝手が悪いと思います。 ○角田委員 いろいろ御意見が出ましたので,それらに対応することを申し上げたいと思います。一つは,保釈に際しては今でも現行法でも任意的な条件としていろいろ指定できるので,付け加えるものが余りないのではないかという点に関してです。私は,「1」「(1)」の「ア」の部分も新しいものを付け加える面があるのではないかという気がします。   どういうことかというと,受訴裁判所ではなくて裁判官が第1回公判前の保釈の問題を処理しますので,ここで言う指定の日時に指定の場所に出頭しなさいというような条件は非常に付けにくいわけです。先ほど予断排除との関係をどう整理するかという議論が出ましたが,私は,この案について次のように考えればよいのではないかと思います。まず基本的に第1回公判前の保釈の判断をするのは裁判官です。ところが,公判前整理手続が長引いたりするので,途中で被告人を出頭させて報告をさせたいというようなことを考える場合には,いつ出頭させるかを決めるのは,実は受訴裁判所の方が適当なのです。そうだとすると,当初の裁判官が指定する保釈条件の指定の仕方としては,「受訴裁判所が指定する日時・場所に出頭すること」というような条件で,すなわち抽象的というか一般的な条件として指定しておいて,具体的な指定は手続が動き出してから受訴裁判所が,例えば,公判前整理手続が2か月空いてしまうので途中でこの期日に出頭して報告をしてくれというような指定の仕方をすると。要するに,抽象的な指定権限と具体的な指定の問題を分担するという,そういう仕組みにしてしまえば,うまく運用できるような気がします。少なくとも,最初の保釈決定の段階で,事件がどう展開していくかも分からない中で,指定の日時に指定の場所,これをある程度具体的に保釈条件として決めていくというのは非常に難しいのではないかという気がいたします。   もう1点申し上げたいと思いますけれども,出頭せず又は報告をしないことについて,罰則まで設けるかどうかという問題ですけれども,私自身は,現時点では消極方向で考えたいと思っております。そのような事態に対しては,少なくとも保釈の取消しや没取で対応するのは間違いないと思われますので,それ以上に罰則までかけるのは,やや行き過ぎというか,加重な負担になりはしないかという気がします。というのは,元々,これは公判期日に出頭してもらうことを狙いとした制度として考えるわけですけれども,公判期日外における出頭とか報告の義務違反というのは,直ちに公判期日への不出頭とか逃亡とか,そういったものに必ずしもつながるものではないですよね。ですから,それにまで罰則をかけていくというのは,ちょっと行き過ぎではないかという気がしております。   ただ,前提として,こういう制度を設ける以上,違反がある場合については,少なくとも保釈の取消しということは,当然対応として考えていくと,そういう制度にしておけば十分ではないか,そういうふうに思います。 ○小笠原幹事 このような制度を作ること自体,総論的には賛成であります。今の保釈条件でも付けられるという話でしたけれども,それを別個の新たな裁判所の命令ということで明確にすることができるのであれば,やる意味はあるのではないかなと思います。   ただ,一つは,どこに出頭するのかについて,例えば地元の警察とか交番とかも含めて,本人が出頭しやすい場所にできるようにするというのがあるかと思います。裁判所だけでは,特に控訴審に上がった場合,高等裁判所所在地まで行くのは遠いという場合もあったりするので,やはり出頭しやすい場所に出頭できるということと,それと出頭先と裁判所や検察庁との協力関係ができるのであれば,それはいいのかなと思います。   また,例えば,依存症の治療のための通院を約束した場合に,そういった病院への通院を出頭扱いできるのかとか,そこはまた将来の議論かもしれないのですけれども,取りあえずはそういう発展性のあるような話でもあるので,いいのではないかなと思うのです。   また,勾留執行停止について,今は条件を付けるとかそういう話ができていないので,こういった形で改めて条件を付けるというのはよいのではないかと思います。   ただし,罰則に関しては私も反対でして,それは公判に出頭しないときに初めて考えればいい話,実際に逃亡したときに改めて考えればいい話であって,ここでというのは行き過ぎという先ほどの御意見もそのとおりだと思いますし,罰則まで付けると,かえって裁判官が使いづらくなってしまう思います。保釈の取消しですらなかなかちゅうちょするので使われなくなったという御意見が以前にもあったかと思うのですけれども,使い勝手のよい流動的な制度という点でいうと,罰則まで付けるのは行き過ぎであって,サンクションとしては保釈の取消しや没取で足りるのではないかと思いました。   もう1点,命令の要件として,対象犯罪を一定の重いものに限るのかどうかという点については,議論の余地があるのかなと思いました。公判前整理手続に限るという御意見もありましたけれども,一度在宅になってしまうと,特に否認事件の場合,公判と公判の間の日にちが空いたりすることもありますので,そうすると例えば刑の上限3年以上の罪とか,そういったところに限ることも,検討の余地があるのではないかと思いました。 ○酒巻部会長 裁判所以外の機関や場所への出頭の話が出ましたが,私は,あるとすれば検察庁かなと思ったのですが,小笠原幹事の話では,もっと広く,警察などいろいろなものが出てきました。 ○小笠原幹事 ドイツの制度では警察への出頭ないし連絡というようなことを聞いたことがありましたので,それを参考に意見させていただきました。 ○酒巻部会長 この点について,案を作成した事務当局は,どんなことを考えたのか,もし参考になればと思いますが,いかがでしょうか。 ○鷦鷯幹事 資料を作成した事務当局の立場から申し上げますと,制度枠組みにおいては,出頭する場所は,特に裁判所と限定せず,「指定の場所に出頭すること」としています。   これは,出頭させることの意味付けを考えると,公判期日外に出頭させられることによって,仮に逃亡を図っても早期に発覚してしまうため,逃亡を思いとどまる動機付けになるという面があると考えられ,そうした出頭義務の意味付けからすれば,必ずしも出頭場所が裁判所である必要はないと考えられたことによるものです。その上で,検察庁なり警察署なり,裁判所以外のどういった場所に出頭させることが考えられるかということについては,更に御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 対象犯罪を限定することもあり得るかという御意見も出ましたが,この点についてはいかがですか。 ○吉田幹事 対象犯罪を絞るという場合のその趣旨なのですが,一般に,刑事訴訟手続の中で対象犯罪を限定する場合の考え方としては,権利制約の程度との比較の観点から,被処分者の権利を相当程度制約することの正当化のために,一定の犯罪の重大性を要求するということがあり得るかと思います。   ただ,この保釈中あるいは勾留執行停止中の被告人の出頭の問題を考える場合に,そういった権利制約の程度というのがどの程度影響してくるのだろうかというのは,やや理解が困難なところもありまして,本来的に被告人は公判期日への出頭義務を負っていることを前提とした場合,その本来的に負っている義務の履行確保のために裁判所が必要であると認めて一定の場所への出頭を命じる,あるいは報告を命じるということになるのであれば,必ずしもその対象犯罪を限定しなければいけないということにはならない気もいたします。いずれにしましても,そのような対象犯罪を限定する理論的な根拠についても,更に御議論をいただければと思います。 ○小笠原幹事 今の権利制約の点について,今までになかった出頭を命じるということになると,やはりそれは行動の自由を新たに制限する話なので,対象犯罪を限るというのはあり得るのではないかと思いました。ただ,出頭だけではなくて,例えば連絡するとかそういった形で少し制限を軽くするものもあるのであれば,対象犯罪を限るのは全くなしということもあり得るのではないかとも思っております。   あとは,それを管理するためのコストというか,そういったところを考えていったときに,何でもいいのか,それとも,そこは裁判所の裁量にゆだねるのか,それはどちらでもありかなと思っております。 ○天野委員 私も小笠原幹事と大体似たような感じではあるのですけれども,この制度を作ることに関して特に積極的に賛成とか反対とかということではなくて,現行制度でも確かにできるとは思うのですけれども,やはりそれを制度として作ることによって,裁判官に積極的なというか,弾力的なというか,そういう柔軟な運用を望めるのではないかと思う意味では,総論的には賛成です。   その上で,出頭させて報告というのが基本だとは思うのですけれども,就学・就業の状況によっては,やはり平日の日中に出頭するということが難しいこともあり得ると思いますので,その辺をもう少しこの制度の中で検討ができるのであれば,意味があるのではないかと思いました。それから,公判前整理手続に付された事件に限るという必要はないと思っていて,必要な事件で必要な場合にやるということで良いと思います。また,やはり保釈の判断ですから,公訴を提起された裁判所ではなくて,裁判官が扱うというその前提は崩すべきではないと思っています。   ただ,違反があれば保釈を取り消したりすることは十分あるはずなので,罰則までというのは,私も反対というか,ちょっと行き過ぎなのではないかと思います。 ○菅野委員 まず出頭先に関する意見が幾つか出ていたので,その点に関する意見を一つ言わせてください。   裁判所という点については特段違和感ございませんけれども,弁護人の立場からしますと,検察庁や警察という場所を想定した場合には,依頼者を一人で行かせた場合に取調べとか行われてしまうのではないかというような漠然とした危惧感もございます。なので,例えば保護観察所とか,少し捜査や当事者から離れたところの方が,裁判所以外だとするともう少し現実的なのではないかという感想を持ちました。   二つ目は,天野委員の御指摘とも関係するところかもしれませんけれども,当事者の負担ということを考えますと,かなり遠隔地から来る人,あるいはお仕事をしている人もいますので,もちろん出頭させるというところが逃亡防止の肝かもしれませんけれども,最近はコロナで移動もままなりませんので,世間ではオンライン会議とかが行われたり,そういう時代になりつつあることを考えると,現状の裁判所はもちろん受け入れるシステムがございませんけれども,オンラインでの出頭であるとか,報告に関するものも,やはりオンラインあるいはメールで報告とか,もちろん逃亡防止の観点を失わせるようなものではあってはいけない反面,やはり裁判所もこの御時世,遠くから来られてもそれほどよろしくないということにはなると思うので,そういったIT化の観点での検討も頂けないだろうかというのが意見になります。   そして三つ目,最後の意見ですけれども,私自身は,対象犯罪を絞るとか,そういったところよりも,この制度が,どういう視点で,どういう人に対して検討されるべきなのかということについて意見を述べさせていただきます。弁護人にとってみると,やはり否認している事件について,保釈がなかなか認められない,無罪が推定されて争っているにもかかわらず,むしろ保釈が認められない,というような悩みを私自身も持っていますし,多くの弁護士が持っています。そうすると,裁判官が,こういった具体的な制度をバリエーションの1つとして持つことによって,今まで保釈が許可されなかった類型について,保釈を出しやすくなると,そういうことがあるのかという視点で検討して欲しいと思います。   そして,保釈許可決定の時点で全てを細かく検討することはなかなか難しいと思いますので,やはり保釈は保釈として出した後に,モニタリング的なところをどのようにしてこの制度に入れていくかというところが問題になるのではないかと思っております。なので,向井委員がおっしゃったように,多くの事件ではこういったことをやる必要は特段ないだろうと思います。あえてやるとすれば,今まで保釈が許可されにくかった,なかなか保釈が出ない人にもこういった制度を組み合わせることによって,より保釈が出やすくなるという視点で制度が検討されるべきだというのが私の意見になります。 ○髙井委員 先ほど来,議論に出ていることについてですが,まず,やはり起訴後は訴追側と被告人側は対等なわけですから,検察庁に出頭させる,あるいは警察に出頭させるという選択肢はそもそもないのではないかと私は思います。   そして,それ以外でかつ裁判所の施設以外となると,わざわざその施設から裁判所に連絡させなくてはいけない。本来これは司法の問題なわけですから,やはりそれは司法の中で完結させるべきであって,他の機関に今までになかった負担を負わせるというのはいかがなものかと思います。そうなると,やはり出頭場所は裁判所しかないと考えます。   それから,罪種を限ったらどうかという御意見ですが,そもそもこれは逃走防止のためですから,その判断基準は,こういう条件を課さなければ逃走するおそれがあるのかどうかという基準で考えられるべきであって,確かに法定刑が重い方が逃走する蓋然性は高いのではないのということは言えますが,しかし,法定刑が軽くても逃走する人はやはり逃走するので,そういう具体的に逃走するおそれがあるかどうかを判断の基準にすべきであって,罪種は余り関係がないと思います。   それから,先ほど就職あるいは就学している人を平日の日中に来させるのは難しいのではないかという御意見がありましたが,きちんと就学あるいは就職する人は,そもそもこういう条件を課さなくても多分逃げないのですね。そうすると,こういう条件を課さないと逃げるのではないかと思われる人は,そういうような安定した生活を余り期待できない人だということになるのだと思います。   そうすると,やはりここはインターネットで出頭ではなくて,きちんと裁判所まで行って,きちんと説明するという仕組みにしておかないと,ほとんど逃走抑止の効果を持たないのではないかと僕は思います。 ○向井委員 出頭場所に関するイメージと,それを何のためにするかという話が大分出てきたかと思うのですけれども,就業・就学の報告を命じるということについても,やはりどのようなことを想定して,どのような目的を想定してこういう報告を求めるのかについてのイメージをもう少し共有していく必要があると感じました。正に今,髙井委員がおっしゃったように,仕事をしたり学校へ行っているという人についてこの命令までする必要性が低いとなってくると,あえてこの就業とか就学の報告を求めるというのは,一体どういう事案が想定されるのか,あるいは,そのほかの事項としてどういう報告を求めることができるのか,また,その報告された内容をどのように利用していくのかということについて,具体的なイメージが少しまだ湧かないところがありまして,皆さんどのようにお考えになっているのかなどを知りたいと思いました。 ○酒巻部会長 「検討課題」の「(2)」には,出頭と報告のいずれか一方を命じることもできるものとするかとあります。これは,「考えられる制度の枠組み」を作られたときには,出頭は不要だけれども報告だけしておくれという場合も考えていたのですか。 ○吉田幹事 「考えられる制度の枠組み」の「(1)」では,出頭と報告のいずれか一方のみを命じることもできるような書きぶりとしております。「ア」と「イ」を同時に命じないといけないものとしては書いていません。   出頭確保という観点からしますと,指定の場所に来させることが持つ意味として,被告人にとって,そうして一定の間隔で出頭を求められると,自分が逃げてもすぐに発覚してしまうと考え,それが逃亡を思いとどまる動機付けになるという側面があるわけですけれども,他方で,報告の義務付けというのは,逃亡を防止する上での機能の仕方が違うように思われまして,逃亡のおそれを高めるような事情が生じたことを裁判所が覚知しやすくなるという観点からの逃亡防止の機能があると考えられるところです。このように機能が違うということも踏まえて,この案では,いずれか一方のみを命じることもできるものとして記載しています。 ○酒巻部会長 向井委員からは報告についての具体的なイメージに関する御質問がありましたが,それについてはどんなことを考えていたのでしょうか。 ○吉田幹事 例えば,就業・就学の点について申し上げますと,被告人によっては,保釈に際して就業先が新たに決まったことを前提として,あるいは元の会社に戻れるという見通しの下で,保釈されることがあり得るかと思います。ただ,その後,就業の状況が変化して無職になるということになりますと,逃亡のおそれを高める一事情として評価されるのではないかと思われます。そうした場合に,就業の状況に変化があったときは報告することというような形で定めておきますと,裁判所としてはその事情の変更を速やかに覚知できるようになるということが考えられるのではないかと思われます。 ○酒巻部会長 ここに弁護士の先生方がたくさんいらっしゃるのですけれども,仮にこういう出頭命令が制度化され,御自身の担当している被告人が命令を受けたときに,弁護士の先生はどうされるのですか。公判期日ではないけれども,被告人が出頭するときに先生一緒にとか,そういうことになるのでしょうか。 ○小笠原幹事 先ほどのオンラインのようなものが取り入れられるとすると,被告人はその状況がない可能性もあるので,そういったときは事務所に来ていただいてというのもありますし,比較的検察庁や裁判所が近いところに弁護士は事務所を構えておりますので,日時の調整ができるようであれば,一緒に行くというのはあり得るのかなと思います。ただ,人それぞれかなと思いました。 ○和田幹事 罰則について,全体に消極の雰囲気になっていますので,理論的には作ること自体が直ちには排除されないという点について簡単にお話ししておきたいと思います。   ここでは,裁判所が公判期日における出頭を確保するという観点から命令を出し,それに被告人が従わないという場面が問題になっているわけですので,抽象的には,刑事裁判から逃れようとする行為が問題になっていると考えられます。それは,言わば自己隠避行為だと言うことができるわけですけれども,これは類型的に期待可能性が小さいとされているところではありますが,後で出てくる不出頭罪も同じですけれども,ここでは,一度は勾留されていて,その効力が続いていて保釈されている者が対象として問題となっています。そのような特別の地位,これは言わば潜在的には勾留が続いていると言える状態が前提になっているわけですので,そのような被告人に対して命令違反の罪を作って処罰するということ自体が直ちに期待可能性の観点から否定されるということにはならないと考えています。   法定刑についても,たたき台に書かれていますので簡単にお話ししておくと,不出頭が正に直接防ぐべきゴールだと考えると,現に出頭しない行為に比べれば,その手前での命令違反というのはかなり薄い,抽象的危険しか生じさせていないということで,罰則をそもそも設けていいのかという問題と,設けたとしても法定刑はかなり軽くなるのではないかということが問題になると思います。これに対して,不出頭罪とこの命令違反の罪とを包摂するような,より上位の概念があり得て,それはかなり抽象化された国家の拘禁作用に対する攻撃ということになると思いますけれども,そういう観点からは,不出頭罪と同じような罪質の罪として位置付けることも理論的には可能だと思います。   その上で,政策としてそういう罰則を設けるべきかどうかというのは,また別論だと思いますが,理論的に直ちに排除されるわけではないということだけ申し上げました。 ○小木曽委員 たたき台に書かれている案は,出頭・報告の義務ということですが,諸外国の例を見ますと,それ以外にも,例えば,一番初めの会議で髙井委員がおっしゃったのではないかと思いますが,パスポートを提出させるというような制度を持っている国もありますし,それから,運転免許証を預かる,あるいは,住居を指定するという国もあるようです。出頭・報告義務のほかにも,被告人にそういう義務を課すというようなことも,検討に値するのではないかと思います。 ○酒巻部会長 活発な御議論,御提案ありがとうございました。それでは,次に,「第1-2 身元引受人が被告人を監督して逃亡を防止し,公判期日への出頭を確保する仕組み」について議論を行いたいと思います。   議論に先立ちまして,「1-2」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 それでは,配布資料の11の2ページ目と3ページ目を御覧ください。   制度枠組みの「(1)」として,裁判所が適当と認める者を,その者及び被告人の同意があることを条件に,監督者として選任することができるものとし,その者に監督保証金を納付させ,被告人の保釈等が取り消されたときは,これを没取することができるものとすることを記載しております。   これは,被告人において自らの行為により監督者に不利益を負わせることを忌避しようとする心理が強く働く者を監督者として選任して,監督保証金を納付させ,それが没取され得るという心理的威嚇力により被告人の逃亡意欲を抑止・減少させようとするものです。   次の「(2)」は,裁判所が監督者に命ずることができる行為であり,監督者に対して義務付けることによって,被告人の出頭確保に資すると考えられるものとして,被告人とともに公判期日に出頭することや,裁判所が報告を求める一定の事項について報告すること,一定の事項を知ったときは,速やかに裁判所に報告することを挙げています。   「(3)」は,監督者が命令に違反した場合の措置であり,「ア」として,監督者の解任やその場合の監督保証金の没取,新たな監督者が選任されないときの保釈等の取消しを,さらに,義務の履行を確保する上で十分な威嚇力とするため,「イ」として,監督者が命令に違反した場合の罰則を設けることを記載しています。   続いて,「検討課題」を御覧ください。   制度枠組みの考え方は,ただいま申し上げたとおりでございますが,その当否,要否を含め「検討課題」となると考えられますので,「検討課題」の「(1)」から「(3)」までに記載している「検討課題」について御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明に対しての御質問はございますか。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。どのような観点からでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかをお示しいただいた上で御発言をお願いします。 ○天野委員 私が気になったのは,監督保証金の金額設定をどうするかというところでして,もし作るとしたら,被告人本人ではないという点からすると,高額でいいのだろうかという気もしますし,かといって少額だと余り意味もなさそうですし,あと,被告人本人の保釈保証金との関係でも,例えば保釈保証金が少額しか準備できない場合に,監督保証金が高額になってしまうというようにリンクするのかどうか,それとも完全に切り離すのかというところもよく分からなかったところであります。   実際の運用としてはリンクしそうな気もしますし,「検討課題」の「(1)」に書いてあるように,被告人の保釈が取り消されたときに没取できるとするのであれば,やはりリンクすることになるのではないかなと思っていて,この辺のイメージが湧いていないというのが1点です。また,お金が絡むというところでもありまして,監督者の同意については必要だろうとはもちろん思いますが,そのことによって被告人と身元引受人との関係性ですよね,何か新たなトラブルが生まれそうな気がして,何かこう,後でトラブルになるのではないかなという気もしていて,この制度に関してはもう少し皆さんの意見を聞きたいなと思いました。 ○酒巻部会長 今の保証金の点について,事務当局の方から具体的な説明はありますか。 ○鷦鷯幹事 先ほどたたき台の説明で申し上げたとおり,この監督保証金の趣旨としては,監督者と被告人との間に,被告人において自らの行為によって監督者に不利益を負わせることを忌避しようとするような心理が強く働くような人間関係がある場合において,監督者に監督保証金を納付させることにより,被告人の逃亡の意欲を減少させるという狙いもあるものとして記載しているところでして,そういう意味からしますと,監督保証金というのは,監督者に自らの監督義務を履行する動機付けを与えるというだけではなく,被告人に逃亡等を思いとどまらせ,公判期日に出頭することに十分に意を払うことへの動機付けを与えるものと考えられます。したがいまして,その金額というのは,一面においては,被告人に逃亡など没取による経済的打撃が監督者に与えられる原因となるような行為を思いとどまらせるに足りる金額ということになり,かつ,監督者にとってもそれが没取されるという威嚇力が監督義務の履行を確保するに足りる程度の金額でもあるということが,理念的には考えられるのではないかと思っているところでございます。   確かに,その金額が具体的に幾らになるかというのは,個々の事案に応じてそれぞれであると思いますし,また,保釈保証金の額との関係というのも,個々の事案において考えられることではないかと思います。この点も含めて御議論いただければと思っております。 ○髙井委員 仮にこの制度が導入されても,実務でこれを使える例というのは極めて限られると思います。ここまでの重い義務を負って身元引受人になってやろうという人はめったにいないです。母親だってここまでの義務を負って身元引受人やるかといったら,なかなかやらないと思いますね。   では,こういう制度は必要ないのかというと,やはり設ける意味はあると。ごく限られた場合なのですけれども,弁護人が身元引受人をやる場合があるわけですね。そういう弁護人が身元引受人をやるというのは,よほどのことなわけです。そのときに,身元引受人になってこういう条件を守らせますとかいろいろ言って保釈を取っておきながら,何もしないという弁護人がいないわけではない。その結果,逃げられてしまいましたということだってあり得るわけで,そういう意味では,こういうことを言うと弁護人の人に怒られるかもしれないのだけれども,弁護人が安易に身元引受人になるということを防ぐと同時に,弁護人が身元引受人になった場合にはそれなりのきちんとした義務を負担してもらい,それによって逃走を防止すると。その代わり,本来だったら保釈にならないような事案でも弁護人がこれだけの義務を負って身元引受人になった場合には,原則として裁判所も保釈を認めるというような運用にすれば,それなりの意味のある新制度になり得ると思います。   では,身元引受人が払う監督保証金の金額をどうするかですが,それは引き受ける人の財力を見て個々具体的に考えていくべきであって,被告人の負担する保釈保証金とそれを連動させるということは全く必要のないことではないかと思います。 ○佐藤委員 髙井委員の御発言に関連して,制裁を設けると,監督者にとってかなり負担が重い制度になってしまい,監督者として選任されることに同意する者がいなくなってしまうのではないか,という点について意見を述べたいと思います。   現行制度の下では,身元引受人には法的義務も義務の履行を担保する制裁も存在しませんので,現在身元引受人をされている人には,様々な類型の人が含まれていると想像されます。   仮にその身元引受人が法的義務を負い,制裁も課されることとなった場合には,被告人との関係に照らして自分が監督者になったとしても被告人の逃亡等の抑止を保証するには不十分だと認識している人,あるいは自らが裁判所の命令による義務を履行し得ない可能性を認識している人は,恐らく,監督者として選任されることを避けることになるだろうと思われます。   その意味で,既に御指摘があったように,引き受け手が現状に比べて減ってしまうことは否定できないでしょう。ただ,新しい仕組みの下では,そうした人たちは,監督者として選任するには適格性を欠くということになるのでしょうから,彼らが監督者を引き受けなくなったとしても,それは想定内の事態であって,そのこと自体に問題はないということになるのだろうと思います。   その一方で,従来の身元引受人の中に,保釈中の被告人の逃亡等を防止する上で,現に実効的な監督を真摯に行い,更には保釈保証金をも負担する人も含まれているとしますと,その相当部分は,新たな仕組みの下でも監督者となることをいとわないのではないか,そうであれば,新しい仕組みになったときに,監督者として選任されることに同意する者がいなくなるわけではないと考えることもできるように思うわけです。   なお,新たな仕組みを設けたとしても,制度上の監督者として選任を受けずに,「被告人を監督し公判期日に出頭させる」旨を誓約する内容の書面を裁判所に提出するにとどめるなど,従来のような,何らの法的義務も伴わない事実上の身元引受人となる選択肢がなくなるわけではないとすると,そのような選択をする人がでてくる可能性は残ります。ただ,その場合は,一方で新たな仕組みが設けられたにもかかわらず,法的義務を負う監督者に選任されることなく,これまでと同様の誓約書提出にとどまっているということになりますので,そうした人の存在については,保釈の適否の判断において,その限りの効果を持つものとして評価されることになるのだろうと思います。   結論を繰り返しますと,恐らく人数は減るのだけれども,制裁を設けることによって,監督者として選任されることに同意する者がいなくなるわけではないだろうという意見を述べました。種々の手段を用意して,これを適宜組み合わせて被告人等の逃亡を防止することを考えていくのであれば,制裁を伴う身元引受人の制度も,なお選択肢となり得るのではないかと考えた次第です。 ○向井委員 今までの御意見をお聞きしていて,従前の身柄引受人の制度とこの新たな制度との関係をどう捉えていくのかというところについて,きちんと理解を共有してイメージを持てると良いと思っているところです。   実務上,事案の軽重や被告人の身上の安定性によっては,被告人自身に対する適切な保釈条件の設定によって逃亡防止などが十分担保できると思われる事案も一定数存在しているのですが,そのような事案であっても,裁判所としては,念のために身柄引受人を付しているという例も多いように思います。   少なくとも,このような場合などでは,従前の身柄引受人の運用を少なくとも活用するという余地を残しておく方が,より逃亡防止にも資するのではないかと思われるところです。そのほかの場面においても活用する余地があるのかどうか,その辺りは議論があり得るのかなと思いますが,少なくともそういった運用は否定されないことが必要ではないかと思う次第です。 ○小笠原幹事 これは,「できる」規定としてあるので,私も,この制度は従来の身元引受人では足りないときに更に付けるというようなイメージで考えていました。現状では,保釈保証金を出す人が身元引受人になる場合が多いので,その人を改めて監督者にする意味はほとんどないのではないかなと思います。報告とかそういう連携をしやすくして,できるだけ没取を防いで自分のお金を返してと,そういうふうな協力を求めた方がいいのだろうと思います。   むしろ,こういったものの活用というのは,例えば,お金は親が出すけれども,監督者については職場の上司にお願いするといったときに,あるのではないかなと思っています。それを前提とした場合,監督保証金の没取は,その人に落ち度がない場合もありますので,やはり適当ではないだろうと思います。ですので,次の行為を命ずることができるということで,これとセットで違反とか,何らかの落ち度があるときに裁量的に全部又は一部を没取すればよろしいのではないかと思います。   ちなみに,罰則はやはり不要ではないかと思っております。特に,「ア」について,一緒に出頭するつもりでいたけれども本人逃げてしまった場合,落ち度はあるかもしれないけれども,過失犯みたいなところまで罰則でいくのはどうかなと思います。やはり落ち度があるのであれば没取してしまえばいいし,故意があるのであれば,それは新たな犯人隠避とか逃走ほう助とか何らか別の罪がいけるような気がするのではないかと思います。   それと,報告を怠ったとか虚偽の報告をしたことについても,裁判所に対して宣誓して,かつ虚偽の事実を報告したという話であれば,虚偽供述と近いものがあるのですけれども,そういうものなしに命じて,それに違反したというだけで罰則まで行くのは行き過ぎではないかと思います。これも保証金の没収で足りるのではないかと思います。   今までの身元保証人というのは,今言ったような落ち度がないものについても本人が逃げてしまったら結果的に自分のお金を持って行かれるという非常にひどいといえばひどい状況なのですけれども,それを考えた上でなおかつお金を出している人たちですので,それはそのままということでよろしいのではないかと思いました。 ○酒巻部会長 先ほどのお二人の御意見の中に出てきたのですけれども,現在行われているプラクティスとしての「身元引受人」,「身柄引受人」,いろいろな用語があるようですが,これと新制度を作った場合の相互関係については,事務当局の立場からはいかがでしょう。 ○吉田幹事 事務当局としての資料作成に当たっての考え方を御説明しますと,委員の御意見にもありましたとおり,この「考えられる制度の枠組み」の「(1)」では,監督者として選任することができるという形にしておりまして,まず,要件を満たす場合に裁判所の合理的な裁量によって選任できるものとしておりますので,必要的・義務的ではありません。また,今行われている身元引受人の運用を排除する趣旨のものとしては書いておりませんので,従来の身元引受人の運用が存在する上に,更にこの新たな制度の枠組みが加わってくることになります。   したがいまして,運用の在り方としては,従来の身元引受人もこの監督者も付さないで保釈される被告人がまずあり得る。それから,従来の身元引受人を付す形で保釈が許される被告人もあり得る。さらに,この監督者を付して保釈が許される場合もあり得るということで,複数のバリエーションが生じるという前提でこの資料は記載しているものでございます。   それから,御意見にあった点に関連して補足して申し上げますと,罰則として過失犯まで設けるのかという点については,それ自体御議論を頂ければと思っておりますが,一般的には,行政機関による,例えば報告徴求に対する不報告や虚偽報告について,過失犯まで処罰するというのは,余り見られないのではないかとも思われまして,その辺りも踏まえながら御議論いただければと思います。   罰則を設けることが行き過ぎではないかという御議論に関しては,行政機関が行政目的を達するために報告を求めた場合について,その違反に罰則が設けられているところでもございますので,そうした点も踏まえつつ,司法機関である裁判所がそのようなことを定めたり求めた場合に罰則を設けることが許されないのかどうかについても併せて御議論いただければと思います。 ○角田委員 身元引受けについていろいろなパターンがあり得るというイメージだというのはよく分かりました。そうだとすると,どの程度使われるかはともかくとして,この新しい制度を一つ作るとすると,今の記載の制度の枠組みのところで,細かいところなのですけれども,「(2)」のところで裁判所は監督者に対して次の行為を命ずることができるものとするで,「ア」と「ウ」についてはよく理解できました。ただ,「イ」を独立の項目とすることが必要なのだろうか,どういう意味があるのだろうかというのは,疑問に感じました。   というのは,被告人の住所,職業,あるいは重要な事柄については,保釈許否の段階で疎明資料を出してもらうなりして裁判所は把握しているわけですし,それで,その後の変化については,恐らくこの「ウ」のところで事務当局のこの案は速やかに報告させるということの「(イ)」ですね,被告人の就業・就学状況,居住状況,こういった変更その他の裁判所が定める事項が生じたときは,報告義務をここで課しているということなので,恐らく裁判所としては「イ」の項目についてはほとんど把握しているということになるのではないかと思ったので,整理としては「ア」と「ウ」だけでもよくはないだろうかと,そういう疑問を感じました。 ○吉田幹事 資料の作成に当たっての考えといたしましては,「(2)」の「イ」は,必ずしも変更が生じなくても報告をさせるというイメージでおりまして,同じ会社に同じように勤め続けている場合にも,裁判所に出頭した折などに,今もここで働いています,今もここにいますということは必ず報告するようにするということを含めて義務付けられるようにするという観点からの記載でございます。   いずれにしても,今御指摘があったように,まとめることができるのかどうか,「ウ」の「(イ)」だけで足りると考えるのかどうかということについても,更に御議論いただければと思います。 ○菅野委員 元々,この制度では弁護人が監督者になることは予定されていないと思うのですけれども,先ほど髙井委員からもお話あったので考えてみると,弁護人として保釈を申請したときに,20年ぐらい前だと裁判官から先生が身元引受人になってくれますかとかと聞かれる時代も経験をしました。   ただ,裁判所に対する出頭確保の観点,逃亡防止の観点から監督者としての様々な義務が生じたときに,弁護人として元々負っている義務,誠実義務とか守秘義務とかいろいろなものがあろうかと思いますけれども,そこと抵触してくる場面があるので,身元引受人なり身柄引受人に弁護人がなること自体も,本来それが正しいのかというところには疑問がありまして,個人的な意見にはなりますけれども,弁護士がその事件の弁護人でありながら,引受人とか監督人になることは,元々負っている弁護人としての義務との関係で望ましくないのではないかと感じておりますので,意見として述べさせていただきます。 ○酒巻部会長 これは,元々弁護人がなることは考えていないのですか。 ○鷦鷯幹事 作成した際の考え方としては,この規定ぶりからして必ずしも弁護人を排除するものではありませんが,他方で,先ほど申し上げましたとおり,監督保証金の没取の趣旨などにも鑑みますと,弁護人が監督保証金を納めたことによって,被告人にとっての逃亡を抑止する効果を生むものになるかという観点が必要かと思われますので,事案によりけりではあるとは思いますけれども,この枠組みはそういった趣旨で記載しているものです。 ○和田幹事 罰則について,家族・親族が監督者になるという場面を念頭に置いてごく簡単に意見を述べます。   そのような場合には,やはり心情的には被告人に協力的に行動してしまうというのも仕方ない部分がありますので,それに対して罰則まで用意するのはいかがなものかという感情は当然生じるわけです。しかも,犯人蔵匿隠避罪については親族に関する特例があるわけで,裁量的免除が用意されているというところに家族・親族については期待可能性が小さいということが表れている。そのことは既に現行の制度において認められているわけです。   しかし,監督者というのは,本人の同意に基づいてなるということですし,それに加えて,財産犯についてではありますが,親族相盗例については,後見人は家族・親族であっても親族相盗例の適用はないという最高裁判例が出されています。そうすると,公的な制度に乗った場合は家族関係は期待可能性との関係で考慮しないという制度に全体的になっていると言うことができるのではないかと思います。   さらに,逃走の場面に限って見てみても,被告人本人については逃走してもしようがない,期待可能性が類型的・定型的に小さいということはあるわけですが,本人が逃走するのと他人が逃走させるのとは明らかに扱いが違うわけで,本人は仕方ないけれども,他人に対して重い処罰を設けることで何とか逃走を防止していこうというのが全体の制度設計なのではないかと思います。   犯人蔵匿隠避罪についても,自己隠避は処罰しないけれども,他人が関与すると処罰するという仕組みになっているわけですので,本人はしようがないが,周りを何とか抑えることで外堀を強めに埋めていくというのが全体の設計の思想になっているのではないかと思います。そういう観点からは,監督者について特に重い対応を用意するということにも一定の合理性が全体との関係でもあるのではないかとは思います。   積極的にこの制度を設けて,重い罰則まで設けるべきだと感じるかと言われると,それは感じないのですけれども,理論的な整理としては以上のようになるのではないかと思います。 ○小笠原幹事 親族相盗で後見人の例が出ましたけれども,後見人は,親族であっても報酬をもらえますので,決定が出れば。そうすると,業務上横領というか,それに近い形になるので,やはりそれは罰則が科されるのは当然ですが,これはむしろ義務ばかりでいいことない監督者ですので,そこに罰則を科するのはどうかと思いました。 ○酒巻部会長 この制度は,結局,字面・文言上は保証金による担保の形をしているものの,お金というよりは人的関係によって何とか逃げるのをやめてもらうというところがあり,一方でここまで監督者に負担があると,これを商売にしようというような人は多分出てこない気もするのですが,この辺は何か考えていましたか。 ○吉田幹事 今,部会長がおっしゃったように,この制度の基本にある考え方というのは,被告人と監督者との間に一定の人的関係,つまり,被告人の立場からするとこの人に迷惑をかけてはいけないという心理が働くような人的な関係がある場合に,この監督者を付して,保証金を納付させ,被告人が逃げれば監督者にも没取というような形で不利益が及ぶこととする。そういう関係を法的に構築することによって,被告人の逃亡を防止するというものでございます。   したがって,これを生業にするというような人は基本的には考えにくいのではないかと思っておりまして,どういう場合にこの制度を活用するかということに関しても,やはりそういった一定の人的関係があるということがまず基本になってくるのではないかと考えております。 ○笹倉幹事 現状でも,事実上の身元引受人が保釈保証金を負担することがあり,被告人が逃げてしまえばその保釈保証金を代わりに払った事実上の身元引受人が痛い目に遭う,したがって,その人に御迷惑をおかけするわけにはいかないということで,逃亡を思いとどまるということがあるということだとしますと,それと重なる面がないわけではないのですが,それでもあえてこの制度を作るとすれば,なお次のような効用があると考えます。   第1に,被告人の義務ではなく,監督者自身の法的義務であることを制度上明らかにするという宣言的な意義があるでしょう。   そして,第2に,現行法上の保釈保証金を身元引受人が納めている場合において,被告人が逃げてしまえばそれは没取されるわけですけれども,その逃げるというところまでは行っていないが,しかし,監督者として期待されたこと,約束したことをきちんとやってくれていなくて,刑事司法サイドとして被告人の出頭確保について合理的な不安を抱かざるを得ないという場合において,監督者の義務違反を問いうる,つまり,第1の意義が有名無実化しないような担保を用意する点に,この制度を法制化する効用があるでしょう。結果的に被告人が逃亡しなかったとしても,それを未然に防ぐための義務を怠っていることが明らかだという場合に不利益を被るという条件設定をすることで,監督義務を誠実に果たしてもらうことを期待しうるというところに,保釈保証金の没取と異なる独自の存在意義があるということだと思います。   ただ,現在の実務において,人的関係が強い方が身元引受人になるのが通例であり,そのような人を裏切って逃亡することで身元引受人に迷惑をかける事態を引き起こすことは被告人にとって痛い事態であって,それで十分な抑止になっているということであるとすると,それに加えて身元引受人自身がお金を取られるという制度を新たに作るまでの必要はないのかもしれません。ということで,この制度を実際に作るかどうかということに関しては,この「(3)」「ア」において想定されている事態が現実にどの程度生起しているのかを踏まえて検討すべきだと考えます。 ○髙井委員 議論とちょっと重複するかもしれませんが,この場では逃走防止に絡んでいろいろな施策が検討されているわけですが,その中で,最も保釈を認めやすく,裁判所の保釈判断が出やすくするという方向で働くのは,多分この制度だと思います。この制度が導入された場合に,弁護人としてどうしてもこれは保釈を取りたいと,保釈にしないと駄目だと。ところが,普通の方法では裁判所は全然乗ってこないというときに,先ほど弁護人が身元引受人をやるのはいかがかという意見もありましたけれども,確かに理論的にはそうなのですが,自分がその被告人と非常に強い信頼関係ができているときに,弁護人が死なばもろとものような覚悟でこの制度を使って保釈を実現するという機能を多分果たす場面が,この制度が導入されればあると思います。   ですから,そういう意味ではほかの制度とはやや違う側面の仕組みかなという感じは持ちます。単なる感想ですけれども。 ○佐藤委員 この「たたき台」に書いていないことに関し,検討課題として,いくつか指摘させていただければと思います。   この制度にどのような活用の場面があるかという点に関する議論があることを承知した上での話ということになりますけれども,まず,「考えられる制度の枠組み」の「(2)」の「ア」に,監督者に対して命ずることのできる内容として,「公判期日に被告人と共に出頭すること」という項目があります。「第1-1」について,公判期日外の出頭というお話がありましたので,監督者に対して命ずることのできる内容に,裁判所が指定場所への出頭を求めた場合には,被告人と共に監督者も出頭すること,という項目を含めることが考えられるのではないかというのが一点です。   それから,「(3)」の「ア」には,命令違反があったときは,「監督者を解任し,及び監督保証金の全部又は一部を没取することができる」という記述がありますが,その場合に,監督者を解任して,更に新しい監督者を選任するということがあり得るかどうか,その可能性についても考えてみる必要があるように思われます。   なお,最初の監督者が解任されて,新しい監督者が選任されたという場合に,その人と被告人との人的関係の強弱等に応じて,出頭確保の力にも違いが出てくるのだとすると,監督者が変更されたことによって保釈保証金の額を変更することが考えられるのかもしれません。   ただ,一方で,保釈保証金額に関しては,裁判所の確定的な意思表示であり,後に基礎になった事情に変更があったからといってその額を変えることはできないというのが恐らく一般的な理解ではないかと思いますので,保釈保証金額の変更ということをも想定するのであれば,明文を設けてその旨を規定する必要があるのではないかと考えた次第です。 ○酒巻部会長 今のご指摘は,一たび表示された裁判内容の拘束力という理論的問題であろうと思います。1-2についての審議はこの程度とさせていただきまして,次に,「第1-3 保釈中の被告人等が正当な理由なく公判期日に出頭しない不作為などを対象とする新たな罰則を設けること」について議論を行いたいと思います。   議論に先立ち,「1-3」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 それでは,配布資料11の4ページ目を御覧ください。   制度枠組みの「(1)」から「(3)」までとして,保釈中又は勾留執行停止中の被告人が正当な理由なく公判期日に出頭しない場合や,保釈等を取り消された被告人が検察官から出頭することを求められ,正当な理由なく出頭しない場合,それから,勾留執行停止の期間が満了した後,正当な理由なく出頭すべき場所に出頭しない場合の罰則をそれぞれ設けることを記載しております。   これらの罰則は,保釈中の被告人等の公判期日への出頭を促し,また保釈等の取消し後の収容の場面や勾留執行停止の期間満了後の収容の場面において,その対象者に出頭を促そうとするものです。   なお,「(1)」の罰則については,在宅の被告人はその対象とはしておりません。   続いて,「検討課題」を御覧ください。   「(1)」から「(3)」までとして,制度枠組みの「(1)」から「(3)」までに対応する形でそれぞれ「検討課題」を掲げています。   このうち,「(1)」から「(3)」までについては,正当な理由の意義を「検討課題」として掲げています。また,「(1)」から「(3)」までの法定刑については,保護法益や行為態様の点で共通する点を有する同種の罪の法定刑なども踏まえつつ御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明内容について御質問がありますか。よろしいでしょうか。   それでは,議論に入ります。これまでと同様に,どの点からでも結構ですし,記載のない点でも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものかをお示しいただいた上でお話しいただければと思います。 ○和田幹事 これについては,前回までに幾つか意見を申し上げたところですが,ここで挙がっている三つの犯罪類型については,全て基本的には罪質は同じだと考えています。   そうしたときに,若干細かい話になるのですけれども,例えば保釈が取り消される場面として,保釈中の被告人が公判期日に出頭しないという不出頭の罪を犯すと,そのことによって保釈を取り消されて,その後勾留の裁判の執行のために呼び出されたけれども,それに応じなかったというような場合に,ここで挙がっている犯罪類型について二つ以上重ねて構成要件該当性が認められるという場面も考えられることになります。今のは一例ですが,そのように複数の行為が問題になったときに,それらの相互関係をどうするのかというようなところも,検討する必要があるだろうと思っております。 ○北川委員 今回の公判期日への不出頭の罪の対象は,在宅の者は除くということですね。前に私がその点をどのように説明するのかと,保護法益との関係で質問したこととの兼ね合いで発言させていただきます。和田幹事の前の御発言も踏まえまして,保釈されている者については勾留の裁判の効力を維持しながら出頭を確保しているのに対して,在宅の者は勾留の対象からそもそも外れているということでもって,在宅の者については処罰の必要性がないということで,対象から外すということでよろしいのかという確認の質問です。 ○酒巻部会長 保護法益の考え方によっては,これを抽象化していけば,在宅で不出頭という被告人も理論的には処罰対象になり得るような気もしてきますが,その辺はどう考えるかという御質問ですよね。 ○北川委員 そうですね,確認の質問です。先ほど事務当局の御説明の中では言及されなかったので,一応の確認です。 ○酒巻部会長 この点はどういう考え方に基づいているでしょうか。 ○鷦鷯幹事 先ほど御説明させていただいたとおり,今回,この制度枠組みでは,「(1)」の罪については在宅の被告人を対象としておりません。事務当局としての考え方を御説明いたしますと,公判期日への不出頭を対象とする罪というのは,被告人の公判期日への出頭を確保しようとするものであり,その意味では,在宅の被告人が召喚を受けて公判期日に出頭しない場合でも,その公判期日への出頭が確保されず,それにより訴訟の進行が害されるという点では同様と考えられますが,在宅の被告人については,勾留の理由や必要性が認められていないということを考慮しますと,公判期日への出頭を確保する上で,刑罰の威嚇力までも必要とする程度はおのずと保釈中の被告人などとは異なるのではないかということが一つございます。   更に言いますと,保釈中の被告人については,保釈の条件の下において一時的に身柄拘束がなされていないという状況にあり,ある意味潜在的には勾留の下にあるとも言えるところであり,保釈中の被告人などが公判期日に出頭しない場合には,そういった勾留の機能をも侵害する部分があるという側面も見られますことから,そちらと在宅の被告人との区別をすることはあり得るのではないかという考えによるものでありますが,その当否についても御議論いただければと思っております。 ○天野委員 新しい犯罪類型を作ることになりますので,慎重に検討すべきではないかなという印象を持っています。やはり目的としては,刑事裁判を行うということが目的でしょうから,その呼出しに応じない場合に引致するとか,そういういろいろな手続があると思いますので,それで逃げたような場合に次の第1-4で議論する逃走罪の主体をどうするかとか,そういう方向に議論がいくのではないかと私自身は思っていて,ここでこの不出頭だけを捉えて,そこを罰するということの大きな必要性というものが今一つぴんときていないという感覚を持っています。 ○小笠原幹事 私もここの部分について罰則を設けることは反対です。一つは,不作為でかつ正当な理由という非常にオープンな,犯罪阻却事由なのか,逆なのか,正当な理由がないことが構成要件なのか分かりませんけれども,非常に不明確でして,自分のやっている行為がそもそも罰則に当たるのかどうかが非常に予測困難ではないかというのが一つあります。   それともう一つは実効性でありまして,逃げる人というのは,本気で逃げよう,そのために公判期日に出ないという話だとすると,本罪についての罰を受けないことを前提で逃げるので,新たな罰則を科したからといって,逃げることをとどめる威嚇力としては非常に限定的ではないかなと思います。どちらかというと,やはりこういったときに,出てこないのであれば保釈を取り消して速やかに収監する方法,実力行使というか,そちらを検討すべきであって,実際逃げられた例なんかも見ていると,何回も呼出状を送ったけれども,来なかったので,収容しに行こうとしたらいなかったとか,そういう速やかな身柄勾留というところが今一不十分ではないのではないかと思われるものがあると思います。   それは,人員不足なのか実力不足なのかは分かりませんけれども,これまで出てきたとおり,捜査と同じような探す権限を警察等に与えて,警察・検察が協力してできるような,そういった協力体制を整えれば,そこで法制度としては十分ではないかと思います。まずはそこの検討だと思います。 ○髙井委員 基本的には,私はこの罰則を設けることに比較的積極という立場です。そもそも,これはいかにして逃走を防止するかという観点から議論されているわけで,公判期日に出頭しないというのは,逃走意欲を表象するものと考えることもできるわけです。逃走意欲というのは,非常に固い逃走意欲があるとき突然生まれるわけではなくて,多分,様子を見ながら徐々に徐々に形成されていくものだと思うのです。そういう意味では,毎回毎回きちんと出頭しなければ別の罰則がかかってくるという心理的負担を負わせて出頭を確保すると,毎回の出頭を確保するということが,逃走意欲が発生する芽をなるべく早い段階で摘むということにつながるのではないかと思います。   従前の運用では足りないから,なぜ足りないかはいろいろな原因があるかもしれませんが,従前の運用では足りないから逃走事案が起きているわけですから,そういう意味では,ここで言う新たな制度を設ける実益はあると思います。 ○酒巻部会長 小笠原幹事の御意見の中にあったところで「検討課題」にもありますが,「正当な理由」という文言が気になるところです。これをお書きになった事務当局としてはどのようなことを想定していたのでしょうか。 ○吉田幹事 正当な理由という文言の意味するところでございますが,「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の罪との関係でいいますと,例えば刑事訴訟法第96条の保釈の取消事由の中に正当な理由なく出頭しないということが出てまいります。正当な理由なくという文言の内実は,これと基本的に同様に解し得るのではないかということでございます。   その上で,罰則において正当な理由なくという文言を使っている例としては,例えば刑事訴訟法ですと,第151条の証人不出頭の罪がございまして,文言としての明確性に問題はないという考えの下に記載しているものです。 ○和田幹事 同じく正当な理由についてです。もしこの罰則を作るのであればという前提ですけれども,条文上正当な理由という言葉が登場することだけで,直ちに不適切だということにはならないと思います。   1点だけ補足ですが,これは故意犯であるということが前提ですので,その行為者が正当な理由に該当する客観的事実についての認識を持っている場合には,それは勘違いであったとしてもこの犯罪の故意は否定されるということになりますので,その点だけ確認しておきたいと思います。 ○小木曽委員 勾留の執行停止の「期間が満了する」ということを,今,普通に言っているわけですが,刑事訴訟法第95条では勾留の執行停止をすることができると書いてあるだけで,期間の定めをどうする,ということについて明文がありません。ですので,もしこういう制度を設けるとすれば,その点を明示する必要が,つまり,裁判所が執行停止期間の終期を定めて執行停止するということを明文にしておく必要があるだろうと思います。 ○酒巻部会長 今小木曽委員がおっしゃられたとおりで,執行停止の期間は,条文上は書かれていないのですけれども,実務的には裁判所はどうしているのか,その点を確認しておきたいと思います。向井委員どうぞ。 ○向井委員 実務上は通常必ず終期を決めて発出していると思います。 ○酒巻部会長 小木曽委員の御意見は,この機会に条文上もそれを明確化した方がよろしいだろうというご主旨ですね。   この「1-3」につきまして,ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   次の「1-4」はかなり複雑な,単純逃走罪の主体を拡大することの要否という題目ですので,本日の議論はここまでとさせていただき,次回は,「1-4 単純逃走罪(刑法97条)の主体を拡大すること」から始めたいと思います。よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,そのように進めさせていただきます。   次回会議の日程につきまして,事務当局から御連絡をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 次回の第5回会議は,令和2年10月14日水曜日午後3時から予定しております。場所については追って御連絡させていただきます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して,公表することとさせていただきたいと思います。   また,配布資料につきましても公表することにしたいと思いますが,そのように取扱いさせていただくことでよろしいでしょうか。             (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   以上で本日の会議は終了といたします。どうもありがとうございました。 -了-