法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和2年10月30日(金)   自 午後 1時59分                         至 午後 4時51分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第6回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は,御多忙中のところ,お集まりいただきありがとうございます。   北川委員,菅野委員,小笠原幹事,笹倉幹事,和田幹事には,ウェブ会議システムにより御出席いただいております。   安東委員,向井委員,くのぎ幹事におかれましては,所用のため欠席されております。   まず,事務当局から本日の配布資料についての説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として配布資料20「検討のためのたたき台・その2(第3「確定した裁判の執行を確保するための方策」)」を配布しています。また,参考資料として配布資料12「検討のためのたたき台・その2(第2「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」)」を配布しています。 ○酒巻部会長 それでは,審議に入ります。   前回の会議におきましては,配布資料12の「検討のためのたたき台・その2(第2「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」)」のうち,第2-2まで議論を行いました。   そこで,本日は,引き続き,「第2-3 禁錮以上の実刑判決の宣告後,被告人が現に逃亡した場合における制裁(保釈の取消し及び保証金の没取)を強化すること」と,「第2-4 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者が出国により刑の執行を免れることを防止する仕組みを設けること」について議論を行った後,さらに,本日の配布資料20「検討のためのたたき台・その2(第3「確定した裁判の執行を確保するための方策」)」に記載されたものについて順次議論を行っていきたいと思います。   まず,配布資料12の第2-3について議論を行いたいと思いますので,それに先立ち,第2-3に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の3ページを御覧ください。   制度枠組みには,「(1)」として,保釈された者が禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた後逃亡したときは,その逃亡が判決確定前であっても,保釈保証金の必要的没取の対象とすることを記載しています。現行の刑事訴訟法第96条第3項の文言上,必要的没取の対象とされていないと解されていますが,刑の執行の確保という保釈保証金の機能を全うさせる観点から,同項を改めて,必要的没取の対象とし,その威嚇力により被告人の逃亡を防止しようとするものです。   次に,「(2)」として,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた後,保釈され又は勾留の執行を停止された被告人が逃亡した場合について,保釈等を必要的に取り消すとともに,保釈保証金を必要的に没取することを記載しています。これは,禁錮以上の実刑判決の宣告により逃亡のおそれが高まることに鑑み,「(1)」と同様,実刑判決を受けた被告人の逃亡を抑止しようとするものです。   「検討課題」には「(1)」及び「(2)」として,そのような仕組みとすることの相当性を挙げています。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問はございますか。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点についてでも結構ですし,そこに記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかをお示しいただいた上で御発言をお願いします。 ○小木曽委員 これまでも述べてまいりましたが,まず「(1)」については,刑事訴訟法第96条第3項との関係で,実際に逃亡しても,それが判決確定後に及んでいなければ保証金が没取されないという法の不備,欠缺として,条文を改めるべきであると思います。   「(2)」については,これは裁量的な保釈等の取消しと保証金の没取ですけれども,自分が被告人のために保証金を出す者であったとするとどうだろうかと少し考えてみたのですが,被告人がお金がないから出してあげました,気を付けているつもりだったけれども逃げられてしまいました,と,それでお金を取られるのは酷なような気もするので,裁判所に一つ伺いたいのは,実際に逃亡しているけれども保証金を没取しない場合というのがあるのか,また,あるとすればどういう事情のあるときかを教えていただけると幸いです。 ○福家幹事 小木曽委員から御質問を頂いた点について,実務の実情を網羅的に把握しているわけではありませんが,保釈された被告人が現に逃亡したと認められる場合には,保釈を取り消した上で保証金を没取することが一般的な運用と考えているところです。現に逃亡したけれども没取しなかったという事案は,こちらでは把握はしていません。 ○小木曽委員 ありがとうございます。現在の法運用との比較でも,これを義務的にして逃亡の場合には取り消して保証金を没取するとしても,現在よりも特に過酷になるわけではないとすれば,やはり制度として,逃げてもお金が戻ってくることがあるかもしれないというような制度は,やはり威嚇力の点で十分ではないと考えますので,たたき台にあるような改正を加えるのがよろしいのではないかと思います。 ○角田委員 まず「(1)」の方ですけれども,これは,平成22年の最高裁決定の事案で現実に不都合が見られたところなわけです。小木曽委員が指摘されていましたが,これは立法の不十分な点ではないかという指摘もあるぐらいですから,この点を手当することについては私としても積極的に賛成したいと思います。   そして,そのようにする以上は,判決確定の前後で必要的な没取かどうかが食い違ってしまうのもおかしな話なので,結局,保釈保証金を必要的に没取するという制度で,むしろ合理性があるだろうと考えます。   問題は「(2)」の方で,これは,現行法でいうと刑事訴訟法第96条第1項の柱書き及び3号に関連することだと思いますが,現行法では,逃亡した場合と,逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるときというのを同じくくりで処理しているわけです。今回のこの制度の枠組み案ですと,現に逃亡した場合については必要的に取り消す,他方で,それがおそれにとどまるときは任意的な取消しの制度を維持する,そういう趣旨だと理解しました。そうすると,これは非常に合理性がある案であろうと思います。というのは,逃亡のおそれというような少し広がりを持った要件の場合には,認定が微妙になる場合が出てくるわけですが,認定が微妙な場合にも必要的に取り消す制度にしてしまうと,制度を運用する裁判所の立場からは非常に苦労する場面もあると思われるので,ここは任意的な取消しを維持しておくのが合理性が高いだろうと思います。   一例を挙げると,これは改正を提案するような意味ではなくて,やむを得ない事態なのですけれども,薬物事犯の必要的追徴は,必要的になっているために,非常に資料が少なくて1円単位で認定,計算するのが難しいようなケースでも,これこれの金額を下回ることがないというような認定をして,何とか処理しているわけで,そういう意味では,逃亡というある程度はっきりした要件のところは必要的とし,逃亡のおそれにとどまるものについては任意的という仕分についても合理性があるだろうと思うわけです。結論的に言いますと,「(1)」と「(2)」全体について,私としてはこれを支持したいと考えております。 ○酒巻部会長 今の御意見について,事務当局から補足がありますか。 ○吉田幹事 角田委員から御指摘がありましたように,「考えられる制度の枠組み」は,現に逃亡した場合について必要的な没取とするもので,逃亡のおそれがあるにとどまる段階については,これまでどおりとすることを前提としているものです。 ○菅野委員 1点疑問があるのが,必要的にすることで本当に逃亡防止に意味があるのかということです。この規定が必要的だからとか,任意的だからということで,逃げる,逃げないを実際に被告人が気にしているとは思えないので,実際の効果については疑問があるという意見を述べさせていただきます。   それと,先ほど小木曽委員からお話が出たことに関連するのですけれども,やはり,本人が出しているお金を本人が逃げたときに没取されるのは当然のことだと思うのですけれども,家族や知人がお金を出したときに,それなりに監督をしていたにもかかわらず,必ずその全部が没取され,常に,被告人が逃げてしまったときに被告人に対するものと同じようなレベルで責任を負わされるのは,若干酷な場合もあるように思われます。ここは,一部の没取というようなことで事足りるのかもしれませんけれども,やはり柔軟な対応というものをそれぞれの責任に応じて考えていくというようなことがあってもいいのではないかという意見を持っています。 ○小木曽委員 御指摘の点は私も考えたのですが,菅野委員がおっしゃったように,一部又は全部というところで強弱は付けられると考えました。 ○天野委員 先ほど,絶対に没取されるとした方が抑止力が高いというお話がありましたが,逃亡すれば必ず没取されるということを被告人が知っていることを前提とするなら,ここで任意的な没取として,逃亡から戻れば没取されない余地が残っていた方が,もしかしたらいいのかもしれないという議論もありそうな気もするので,そこが少し気になりました。 ○酒巻部会長 今の御指摘について,事務当局としてはどう考えていますか。 ○吉田幹事 必要的没取の仕組みは現在もあるもので,それには,逃亡を抑止するという観点と,併せて制裁という意味合いもあるのだろうと思います。裁判所が保釈を決定するに当たっては,被告人が逃亡せず,きちんと出頭することが前提となっていることを考えますと,現に逃亡した場合には,現在もある必要的没取の考え方と同様に,必要的な没取をすることが考えられるのではないかと思います。御指摘のような視点もあるかもしれないですけれども,その点は,現行の仕組みでも織り込み済みのものといえることからしますと,今回制度枠組みとして規定している場面についても,同様に考えることができるのではないかと考えているところです。 ○酒巻部会長 ほかに,よろしいでしょうか。   それでは,第2-3についての議論はこの程度とさせていただき,「第2-4 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた後が出国により刑の執行を免れることを防止する仕組み」について議論を行いたいと思います。議論に先立ち,まず,「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の4ページを御覧ください。   制度枠組みには「(1)」として,禁錮以上の実刑判決を受けた者は,裁判所の許可を受けた場合を除き,出国してはならないこと,出国を許可するときは保証金を納付させ,許可された期間内に帰国しない場合などには保証金を没取すること,無許可で出国しようとしたときは,出国確認を留保した上で保釈を取り消し,又は勾留することができることを記載しています。   また,「(2)」として,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者について,退去強制事由があるときは,そのことを理由に勾留できることを記載しています。この「(2)」については,禁錮以上の実刑判決を受けた被告人が出入国管理及び難民認定法に規定する退去強制事由のある外国人であるときは,刑事手続において身柄を拘束されていない限り,退去強制令書の執行により送還される場合があることから,その出国を防止し,刑の執行を確保するため,退去強制事由があることを理由として勾留することができることとするものです。   次に,「検討課題」を御覧ください。まず,「(1)」から「(4)」までには,制度枠組みの「(1)」に関する検討課題を挙げています。   このうち「(1)」は対象とすべき者の範囲を挙げており,禁錮以上の実刑判決を受けた者であっても対象とする必要のない者,逆に,実刑判決を受けていない者であっても対象とするべき者はいるかといった点について御議論いただければと思います。   「(2)」から「(4)」までには,無許可での出国を防止する仕組み,出国の許可等の仕組み,出国制限の効果を挙げています。それぞれ無許可で出国しようとしたことを理由に勾留や保釈の取消しをすることの相当性や,裁判所が一時的に出国を許可する場合の要件,保証金額を定める際の考慮事情,保証金を没取する場合の要件などについて御議論いただければと思います。   「(5)」には,制度枠組みの「(2)」に関連するものとして,退去強制事由があることを理由に勾留することができるものとすることの相当性を挙げています。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問がございましたら,挙手をお願いします。よろしいですか。   議論に入ります。「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点についてのものであるかをお示しいただいて,御発言をお願いしたいと思います。 ○笹倉幹事 検討課題の「(1)」については,3回目の部会で既に私の基本的な考え方は申し上げたところですけれども,事務当局から検討課題を示されておりますので,意見を述べます。   誰を対象にすべきかということが検討課題とされておりますが,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者を全て対象とするのが現行法の考え方と整合するものと考えます。と申しますのも,刑事訴訟法は,禁錮以上の実刑判決が宣告された場合には保釈や勾留執行停止が当然に失効するほか,勾留期間の更新の制限や必要的保釈に関する規定を適用しないこととしています。このことは,刑事訴訟法自身が,禁錮以上の実刑判決が宣告されると類型的に逃亡のおそれが高まると考えていることを示しています。今は出国制限が問題になっているわけですが,国外に出た後,戻って来なくなってしまうと,国外には我が国の主権が及びませんので,身柄確保が極めて困難となります。このように,同じ逃亡といっても,逃亡のおそれが現実化した場合の問題は国内における逃亡にもまして深刻です。そうであるとしますと,実刑判決が宣告されたことによって無罪の推定は一応破れますから,実刑判決が宣告された場合には,当然にその効果として全員が対象となって,出国禁止が作用するとすることも正当化されるであろうと考えます。   もっとも,無罪の推定が一応破れるとはいえ,完全になくなるわけではありません。しかも,出国の自由は当然あるわけです。しかし,正当な理由があって出国したいという場合については,裁判所が許可する途が設けられており,その許可を得ればよいわけで,およそ出国が禁止されるわけではありませんので,無罪の推定がなお及んでいる人の権利を不当に侵害することにはならないと考えます。   禁錮以上の実刑判決の宣告を受けていない者も対象とするかということも検討課題として挙げられておりますが,刑事訴訟法の態度として,実刑判決の宣告を受けた場合には一般的に逃亡のおそれが強くなると判断している反面,そうでない者については刑事訴訟法自身はそういう価値判断をしていないということでございますので,そこまで対象に含める必要はないのではないかと考えます。 ○小木曽委員 事務当局に質問ですが,出国の許可はどのような場合になされることをイメージしておられるでしょうか。それから,「(1)」「ウ」に出国確認を留保できる制度が挙げられていますが,これについて具体的にどういうふうに事が進むのかということを教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 事務当局からお答えいたします。まず後者について,出国確認留保の制度は,出入国管理及び難民認定法に定められているものであり,出国を阻止する必要がある一定の外国人については,出国の際に必ず必要となる出国確認の手続を一定時間留保し得るものとする仕組みです。現行の出入国管理及び難民認定法においては,その対象者は,死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪について訴追されている外国人の被告人や,これらの罪を犯した疑いによって逮捕状,勾留状等が発せられている外国人の被疑者,それから,禁錮以上の実刑判決が確定した外国人であって刑の執行を終えるまでの者などが対象とされております。これらの者について,関係機関から出入国管理当局に通知がなされておりますと,その者が出国確認手続に訪れた際に手続を24時間以内の範囲で留保することができ,その間は出国することができない状態となります。例えば,保釈中の被告人である場合には,その間に保釈の取消しなどの手続がなされたり,それによって身柄拘束が行われることが予定されているものです。   先ほど申し上げたとおり,現行法の出国確認留保の対象者は,特に訴追されている者などについて法定刑の制限があり,第2-4で掲げている制度枠組みの対象者の範囲よりも狭いものとなっています。具体的には,長期3年未満の懲役・禁錮に当たる罪について実刑判決を受けた外国人の被告人は,現行法では留保の対象になりませんし,それから,日本人はそもそも留保の対象とされておりません。出入国管理及び難民認定法を改正し,これらの者も出国確認留保の対象とするようにした上で活用することが有効であるように思われます。   御質問の1点目,一時出国の許可がなされる場合のイメージについてですが,先ほど笹倉幹事からも御指摘がありましたとおり,この出国制限が,禁錮以上の実刑判決を宣告されたことによって被告人の逃亡のおそれが類型的に高まることから課されるものであるとすれば,出国の許可は,そのようなおそれを考慮してもなお出国を認める必要性が特に高いような場合に,かつ,公判期日への出頭に影響しないような一時的な出国に限って,期間を区切って認めるというようなことが考えられるのではないかと思います。 ○小木曽委員 更に事務当局に質問ですけれども,帰国を保証するに足る保証金について,日本人も外国人も対象だということになると,外国人の保証金というのはどうやって算定するのでしょうか。 ○吉田幹事 保証金額を決定するに当たって考慮すべき事情としては,例えば,被告人に宣告された刑名・刑期,つまりどれくらいの重い刑を言い渡されているかということですとか,被告人の性格,つまり遵法精神の高い者なのか,低い者なのかという意味での性格や,生活の本拠,資産,そして,外国人である場合にはその在留資格の内容などが考えられます。   外国人であって,しかも生活の本拠が外国にあるという場合には,一度出国すると帰ってこなくなる可能性が非常に高いと考えられますが,他方で,外国人であっても,生活の本拠が日本にあって,家族も全て日本にいて,何十年も日本で生活している,しかも,在留資格も日本に長くいられるようなものであるという場合には,一つ目の設例よりは日本に帰ってくる蓋然性は高いと言えるかと思います。   そうしたことも踏まえて,許可をすべきかどうか,さらに,その帰国を担保する金額をどう定めるかということを考えていくことになるのではないかと考えております。 ○菅野委員 「(2)」に関係する意見です。裁判中に退去強制事由が発生したり,あるいは,元々密輸事件などでは入国時点で逮捕されてしまうので,在留資格がないわけですけれども,裁判を受けている間は,その間在留できないのがおかしいわけですから,裁判を受けている間は,日本で裁判を受けるために滞在する権利を与えるべきだと考えています。その結果,例えば無罪になっても,今だと,残念ながら,裁判をやっている間に在留資格がなくなり,あるいは,元々在留資格がない方が,その退去強制事由に該当して手続をとられてしまうので,「(2)」に関係する話として,そもそも裁判をやっている間には在留資格を与えるべきではないかと,このような意見を述べさせていただきます。 ○酒巻部会長 つまり,起訴されたら在留資格が得られるようにすべきであるという御意見ですね。 ○小木曽委員 今の点についてですけれども,入管法的な物の考え方というのはなじみがないのですが,在留資格がなくなるということは本邦にいてはいけない人たちのはずですよね。その人たちが日本にいてもいいとする理由が,裁判の対象になっているからと,そういうことが入管法的に受け入れられるものなのかどうかということと,もう一つは,裁判をやっている,対象になっているというのをどうやって区切るのかということ,つまり,刑事手続において身体拘束されていれば,そのことははっきりしているので,その間退去強制の手続が進まないというのは分かりやすいのですが,裁判の対象になっているというのは何をもって区切るのかという点をどう考えたらいいのか,本当は入管の担当の方がいらっしゃるといいのかもしれませんけれども,事務当局からでも,考え方を教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 出入国管理及び難民認定法は,我が国の社会にとって好ましくないと認められる外国人を国外に排除することもその目的とするものであり,その表れとして,同法は,退去強制事由のある外国人については退去強制手続を進め,退去強制令書が発付されたときは速やかに国外に送還することとしておりまして,当該外国人が刑事手続によって身柄を拘束されていない限りは送還を停止しないこととされているものと理解しております。そうした出入国管理及び難民認定法の制度が外国人の出入国在留管理上合理性があるとすれば,刑事裁判が係属中であることを理由にこれを変更するのはなかなか難しいのではないかと考えているところです。   あと,菅野委員から御指摘のあった点についても一言申し上げますと,仮に刑事裁判係属中であることを理由に在留資格を与えるとすると,例えば,在留資格を得ることを目的に訴訟を引き延ばすといったことも考えられるのではないかと思われるところでして,そういった点も考慮に入れなければならないのではないかと思います。 ○小笠原幹事 今の裁判の引き延ばしの件ですけれども,元々実刑判決の宣告を受けた被告人の場合,それまで在宅であっても,その場,あるいはその後に勾留決定が出る場合も結構あって,引き延ばしても結局勾留されてしまうのだとすると,引き延ばしてもさほどの意味はないのかなと。むしろ勾留を認めないほど我が国に根付いているのであれば,それは国民と同様の形で裁判を受ける権利を保障するため在留資格を認めてもよいのではないかと考えます。むしろ,罪証隠滅とか逃亡のおそれがないということで,今まで日本人と同じように在宅でやってきたのが,外国人だからということで勾留という非常に強い処分をすることには非常に違和感があるので,やはり,正面から,人権ないし裁判を受ける権利として在留資格を認めるべきではないかと思います。 ○福家幹事 今の退去強制手続と刑事手続の関係に関連して事務当局に確認をさせていただきたいと思っていたところなのですけれども,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた被告人に退去強制事由がある場合に,検察官が職権発動を求めたにもかかわらず勾留を認めなかったという事案があるのかというところと,もう一つ,退去強制事由があることと逃亡のおそれがあることについては,必ずしも一致しないという整理が前提になっているかどうかということについて,教えていただければと思っております。 ○鷦鷯幹事 1点目の御質問については,どのように対応できるか,少し検討させていただきたいと思います。   2点目について,退去強制事由があることが直ちに逃亡のおそれがあることを意味しないということを前提にするものかという御指摘ですが,制度枠組みは正にそのような認識で記載しているもので,実務上,退去強制事由がある場合,それにより生活が不安定になることから,逃亡のおそれを認めることがあると思われる一方で,退去強制事由による送還が自らの意思による出国ではないという観点から,それだけでは逃亡のおそれがあることにはならず,勾留の理由がないとされることも実務上はあり得るという認識の下で,逃亡のおそれとは別に,退去強制事由があることを勾留の理由とするという趣旨です。 ○酒巻部会長 退去強制事由がある人は強制的に送還されてしまうのですが,自分で出国するという人もいる。それは逃亡とは違うのか,どうなのだろう。 ○鷦鷯幹事 退去強制手続に入った後も,自費出国の許可を得て出国するという手続もございまして,そういった場合については,自らの意思で刑事裁判から逃亡しようとしていると認められることとなると思われます。 ○酒巻部会長 今の勾留理由とは違う条文を作るということですね。 ○鷦鷯幹事 そのような趣旨です。 ○福家幹事 そういたしますと,要するに,逃亡のおそれ,罪証隠滅のおそれや勾留の必要性が認められない事案について,退去強制事由があるという一事をもって刑事手続の枠組みの中で身柄拘束を行うことになりますが,そこまでする必要があるかどうかについては,やはり慎重な検討が必要なのではないかと考えているところでして,なかなかいい方法がないのかもしれないのですけれども,退去強制を止める仕組みを別途設けることができないかどうかということも問題になるのではないかと考えているところでございます。 ○小木曽委員 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けたことを理由に退去の手続を止められるかどうか,それができるのであれば勾留する必要はないわけで,それが入管法の解釈なり運用なりとの関係でどうなのかというところを詰めなければいけないのだろうと思います。 ○酒巻部会長 ほかに補足意見等がございましたら,お願いします。現段階で論点を十分詰めておいた方がいいかなと思いますので。 ○角田委員 入管法についてそれほど詳しくないのですが,原理的に考えると,退去強制事由のある人というのは,出入国管理行政だけの観点から言えば,とにかく出ていってもらうのがいいと,これは多分間違いないと思います。ただ,出入国管理行政は国家の作用の中でかなり重要度の高いものだとは思いますけれども,刑事司法の作用も同じくらい重要で,日本国内で罪を犯した者については,きちんと処罰して責任を取ってもらうことも,秩序維持の観点から,出入国管理行政の重要度と同じか,それ以上に重要なはずです。そうすると,刑事手続と入管の退去強制手続との関係の調整ということがどうしても必要になってくるはずで,現行法でも,入管法第63条などに,刑事手続との関係についてかなり包括的な規定を置いているわけですね。   今ここで問題になっているのは,退去強制事由がある被疑者・被告人についてどういう扱いをするかということなので,せっかく第63条のような一般的な包括的な調整規定があるのですから,難しい問題がもしかしたらあるのかもしれないですけれども,しかし,この第63条の仕組みの中で,今の問題の調整を図ること,例えば,身柄拘束の有無の観点だけからでなく,刑事手続が進行している間は退去強制手続は止めるとか,そういう調整規定がもし置けるのであれば,それによって問題を基本的には解決できるはずだと思われます。ただ,そうは言っても,いろいろ細かい場面や問題点があるでしょうから,それを洗い出し,類型化して詰めていき,この調整規定の中で処理することができないのだろうかというのが,素朴な意見ですけれども,そういう感じを持ちました。 ○酒巻部会長 これについて事務当局から補足説明はありますか。 ○吉田幹事 御指摘のあった入管法第63条について,出入国在留管理当局の解釈としては,刑事手続において身柄が拘束されている限りは退去強制手続は止める,しかし,刑事手続において身柄が拘束されていなければ,入管の手続としては,ある意味,遠慮する必要がないので,原則にのっとって早期に送還するのが建前であると,そういう解釈を長らく採ってきたということでして,それは入管法の解釈として合理性を欠くとはいえないであろうと思われますので,それを前提として考えますと,やはり,今議論の対象となっているような被告人の送還を止められない以上は,刑事手続で何らかの対処をせざるを得ないのではないかと思われるところです。   なお,例えば,入管法第63条に関して,身柄拘束がされていなくても,刑事手続が進行している限りは,公益性をそこに認めて退去強制手続を止めることができないかという議論もあり得るかと思うのですけれども,ただ,刑事手続の開始がいつなのかという問題が出てきて,捜査が開始された時点というのは外形的には明らかではありませんので,それをもって基準とする,区切るというわけにもなかなかいかないといったことも考慮して,検討する必要があるのではないかと思われます。 ○保坂幹事 付け加えて言いますと,入管法上の退去強制手続で収容されますと送還手続をするという流れになるわけですが,退去強制手続を止めただけでは,収容中の身柄がどうなるのかという問題があります。刑事手続の方で身柄拘束がされればいいわけですけれども,退去強制手続が進まないということになりますと,入管法上は収容している理由もなくなるのだと思います。そうしますと,収容しないで,釈放する,つまり,我が国に滞在していいということを入管法上整理しなければいけないのだろうと思いますが,在留資格というのか,裁判中はとにかく日本にいても入管法上構わないという資格を与えるということになると,それは多分,これまでしてこなかった発想なので,そう容易ではないのではないかという気はいたします。 ○酒巻部会長 制度枠組みの「(1)」について,先ほどから主として外国人を想定した議論をしていたのですが,「(1)」はそれだけではなくて,日本人も含めた仕組みなのですが,これについて何か御意見があれば,承りたいと思います。   事務当局から補充的説明はありますか。 ○吉田幹事 日本人についても,先ほど申し上げたような様々な事情を考慮した上で,一時出国の許否や保証金の額を判断することになろうかと思います。例えば,日本人であっても生活の本拠が外国にある場合には,国籍が日本であるからといって必ずしも一時出国を認めてもよいことにはなりませんし,逆に,日本人で日本に家族がいて,仕事も日本にあって,日本に長く住んでいる場合には,そういった事情を踏まえて一時出国を認めてよいかどうかを判断することになるわけで,その意味で,日本人であるか,外国人であるか,国籍がどうであるかということは,それ自体で決定的に結論を導くものではなくて,やはり,様々な事情との相関関係によって,一時出国の許否や保証金の額が判断されることになるのではないかと思います。そのため,制度枠組みにおいては,国籍で区別しないものとしています。 ○酒巻部会長 裁判所は,これまでも,類似した状況に対する判断をする場合はあったと思われますので,突然,新規な判断をしなければならないわけではなかろうという印象がありますが,総じて,この点はいかがでしょう。 ○福家幹事 そもそも制度をどうするかというところの議論ですので,制度ができた後の運用イメージは,先の議論なのかなと思うのですけれども,今後検討していかなければいけない事項として,少しお話をさせていただくと,制度を運用する裁判所の立場としては,この制度における勾留判断の時期について,例えば退去強制手続が進んだ段階で,検察官から職権発動の促しがあって判断をすることになるのか,それとも,それより前の段階で職権発動の促しがあって判断が求められるのかということと,もう1点,そのときに裁判官がどのような要件を判断していくのかということについて,現在,事務当局においてイメージがございましたら,少し教えていただければ,今後の検討の参考になるかと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○吉田幹事 退去強制手続が始まってからこの勾留の判断をすることになるのかという点については,制度枠組みは,必ずしも退去強制手続が開始されたことを必要とするという趣旨で書いているものではなく,飽くまで,要件は「退去強制事由があるとき」であり,それがあるかないかを裁判所に判断していただくものとして記載しているものです。あるかないかについての疎明の程度ないし心証の程度については,更に具体的に考えていく必要があるだろうと考えております。 ○佐藤委員 勾留の要件としての性質に関わる話なのですが,現行法が規定する「逃亡」のおそれがある場合と,「退去強制事由がある」場合との関係について,公判期日への出頭や刑の執行の確保という勾留の目的に照らしますと,「退去強制事由があるとき」には,いつ被告人に対する退去強制手続が開始されるか分からず,一旦手続が開始されると,被告人は国外に送還される,その結果,公判期日への出頭や刑の執行が難しくなるという点では,この要件は,被告人の「逃亡」の場合と共通しています。もっとも,先ほど,同じく退去強制手続による出国であっても,現状では,その態様が自費出国なのか,そうでないのかにより,被告人を我が国に留め置くことの可否について取扱いに違いが生じ得る,という御説明がございました。この点,「逃亡」という文言に,被告人の自発的な行為という要素が含まれているのであれば,現行法の解釈としては,退去強制事由があるから直ちに逃亡のおそれがあるとすることは難しいのかもしれません。いずれにいたしましても,「退去強制事由があるとき」という要件を設ける場合,この要件と従来の勾留の要件との異同についても,整理する必要があるように感じております。   それから,これは,検討課題の「(4)」についての質問ですが,出国制限の効果について,どのような場合にそれが失われるものとするか,という課題が挙げられています。最初に笹倉幹事が指摘されたように,被告人の出国制限につきましては,海外渡航の自由との関係もあり,権利制約を最小限にすることが必要だろうと考えます。その観点からは,制限がいつ終わるのかも問題となりますので,事務当局の御見解を伺っておきたいと思います。 ○鷦鷯幹事 その点については検討課題の一つとして挙げさせていただいているところですが,例えば,この制度枠組みにおいて禁錮以上の実刑判決の宣告に出国制限の効果を生じさせることの趣旨が,宣告された刑の執行を確保することにあることからすれば,例えば,刑の執行が開始されたときには,もう出国制限の目的を達していると思われますので,その効力が失われるとすることが考えられるかと思います。   また,禁錮以上の実刑判決が宣告されたとしても,その後に上訴審においてその判決が破棄されて,禁錮以上の実刑判決以外のもの,例えば無罪であるとか免訴であるとか,刑の全部執行猶予の判決などがなされたときも,出国を制限する前提が失われることになりますので,この場合についても出国制限の効力が失われるものとするということが考えられるところです。 ○小笠原幹事 「(2)」に戻るのですけれども,もし退去強制手続が始まってしまって,入管の方に身柄が行ってしまうと,たとえ勾留決定が出されたとしても身柄を戻せないのではないのかと思うのですけれども,いかがでしょうか。   というのは,現行法の下でも早い者勝ちというか,警察ないし検察が先に身柄を取るのか,それとも入管が取るのかという話を聞いたことがあるものですから,そこをきちんと整理しておかないといけないのではないか。出入国管理法上も,検察官から入管に引き渡すという条項はあるけれども,その逆がないのですよね。そこは手当てしないと意味がなくて,手当てをするとすれば,裁判の間在留資格を与えるという話になるのではないかと思います。 ○吉田幹事 御指摘の点は,入管当局に確認した上で,御報告したいと思います。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは,第2-4についてはこの程度とさせていただき,次に,配布資料20の「第3-1 捜査段階における強制処分と同様の調査権限を,刑の執行段階についても整備すること」について,議論を行いたいと思います。   これに先立ち,第3-1に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 配布資料20の1ページを御覧ください。   制度枠組みには,「(1)」及び「(2)」として,刑の執行段階においても裁判官の発する令状により,検察官は差押え,記録命令付差押え,捜索,検証,身体検査を,鑑定受託者は鑑定処分をすることができるものとすることを記載し,「(3)」として,裁判官による令状発付や,それに基づいて検察官がした処分についての不服申立て手続を設けることを記載しています。   次に,「検討課題」を御覧ください。まず「(1)」には,刑の執行段階において,通信傍受を含め,どのような処分を行い得るものとするかという点や,刑の執行に限らず,裁判の執行に関してそれらの処分を行い得るものとするかという点を挙げています。また,「(2)」及び「(3)」には,手続に関する検討課題として,裁判官による判断の要否や,不服申立て手続の在り方を挙げています。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明に関して御質問はありますか。よろしいですか。   それでは議論に入ります。これまでと同様に,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見を頂きたいと思います。 ○小笠原幹事 「(1)」についてですが,「必要と認めるときは」とあるのですが,これは広すぎるのではないかと考えております。強制権限ですので,必要性の部分はやはり,逃亡防止のためということであれば,逃亡を実際してしまったとき,あるいはそのおそれが非常に高い具体的な危険性があるときであるとか,あるいは,呼出状を送ったけれども連絡がないとか,連絡が取れないとか,そういうふうな形で限定的に列挙する必要があるのではないかと思います。というのは,このままだと,呼出状を出す前にもこういった調査権限のようなことができるような話になってしまって,これはいかにも早すぎるのではないかと思います。   それと,調査権限の中で通信傍受があるのですけれども,通信傍受法ができた経緯や通信の秘密などからすると,こういうときにまで使えるのかなというところで注意が必要というか,できるだけ限定的にやっていくことが必要ではないかと思います。   3点目ですけれども,ここで収集した証拠のようなものの保管や運用についてどうするのかというのが見えてこないなと思っています。例えば,これによって別罪への適用というのがあり得るのかどうかです。差押え等をした結果,新たな犯罪が出てきたときに,それに使えるかどうかとか,あるいは,実際収容した後に,それまでに検証や差押えによって収集した証拠についてどうするのか,ずっと警察が持っているのは不当ではないかと思います。 ○酒巻部会長 御意見もあり,一部は御質問もあったように思いますので,事務当局から,まず考えを聞きたいと思います。 ○吉田幹事 強制調査の要件について,広すぎるのではないかという御指摘があったかと思いますが,制度枠組みの記載は,捜査に関する刑事訴訟法第218条などを参考として記載しているものでして,同条では,「犯罪の捜査をするについて必要があるときは,裁判官の発する令状により」という文言となっております。捜査においても,必要性の程度は段階によって違いがあり得るわけですが,条文としては,「必要があるとき」と一般的な形で規定をし,その上で,裁判官の発する令状により行うことができるものとしており,処分の必要性の程度のほか,処分による権利制約の程度との均衡も考慮し,その点についても裁判官の審査を経ることが前提になります。したがって,この制度枠組みにおいても,検察官が必要性を認めただけで広く強制処分ができるようになるものではないと理解しております。 ○小笠原幹事 今の点ですけれども,結局,裁判官も同じで,裁判官の考える必要性というのも,結局,同じように広くなってしまうのでは行きすぎではないかと思うわけです。だから,裁判官の判断を縛るという点でも,時期的,最初の時期ですよね,捜査に関しては,犯罪の嫌疑が発覚したときということで,それより前に捜査をするということはあり得ない話ですので,始期がある程度分かるのですけれども,これに関して言うと,やはり逃亡防止という仕組みの中で考えているのだとすると,逃亡のおそれがある程度顕在化してからというふうにしないと,強制捜査ですので,それはきちんと明確に要件を定めるべきだと思います。 ○髙井委員 基本的には,令状は裁判官が発するわけで,例えば呼出状も出さない段階で裁判官にこの種の令状を請求したとしても,裁判官がそれを認めることは通常考えられないと思うのです。そういう意味では,今おっしゃっていることはやや杞憂にすぎるのではないかと思います。   もう一つ,今回は刑の執行に関してですので,無罪推定は働いていないわけです。そういう意味で,国家機能としての刑の執行を確保することが極めて前面に出てきているわけで,捜査段階よりも広い捜査手法,調査でもいいのですが,それを与えても,合理的な理由があると思います。   中でも通信傍受については,捜査段階においては,それは当然,被疑者とされている人たちの人権も考えなければいけないし,プライバシーも考えなければいけない,したがって限定的に行使することは当然であろうかと思うのですが,刑の執行段階においては,少なくとも執行される当の本人についてのプライバシーであるとか,それから人権というものについての配慮というのは,捜査段階に比べればある程度制約されると,要するに,通信傍受の範囲を広く考えてもいいのではないかと。ただ,通信の場合には相手方がいるわけですから,その相手方のプライバシーとか人権をどう考えるかという調整の問題は残りますけれども,基本的な考え方としては,捜査段階と同じようにこの通信傍受を考える必要はないのではないかと思います。 ○笹倉幹事 ただいまの小笠原幹事,髙井委員の御発言に関わりますけれども,検討課題においていろいろな強制処分が挙げられているわけですが,それぞれについて,それらの強制処分の権限を用いて具体的に何をすることが想定されているのかということを前提として共有した方がいいのではないかと思いまして,事務当局にその点をお伺いしたいと思います。私は,こういう制度を作った方がいいのではないかということを過去の部会で申し上げたわけですが,そのときには,例えば逃亡してしまった者の自宅を捜索して,逃亡先を突き止めるための材料を集めるようなことを漠然と想定しておりまして,それを前提にこういう制度を作ってはどうかということを御提案したわけですけれども,所詮は学者の考えたことでございますので,現場をよく知る事務当局のお立場から,それぞれについてこういう制度ができれば,それぞれの処分がどういうふうに機能すると考えられるのかということについて,例をお示しいただければ,より具体的に議論できると思います。 ○鷦鷯幹事 想定される例として考えられるところをお示しするとすれば,まず,差押え,記録命令付差押えについては,笹倉幹事からも御指摘があったように,例えば,所在を捜している対象者の居所などの関係先において日誌とか備忘録等が記録されていると考えられる電子媒体が発見された場合に,それを所在の突き止めのために解析するために押収するということが考えられます。また,通話履歴などを通信事業者から押収する際に必要な場合もあろうかと考えられます。そのほか,記録命令付差押えによって,通信事業者のサーバーに保存されているデータを別の記録媒体に転記させた上で,それを差し押えるということも考えられるかと思います。   捜索については,対象者の所在探しにつながる物品を発見するためにその者の関係先などに管理者の承諾なく立ち入るという場合が考えられます。   検証については,例えば,対象者が所持する携帯電話の位置を探索するために,当該携帯電話と接続している通信事業者の基地局の情報を検証令状で取得して対象者の所在を捜すということが考えられます。   身体検査,鑑定処分については,例えば逃亡中の対象者が立ち寄ったと思われるような住宅等があったとして,そこから押収した皮膚片などが対象者のものであるかを確認して,そこが立ち寄り先であるかということを判断するという場合に,対象者の肉親などからDNA型鑑定の試料を得ようというときに,任意に採取に応じない場合,身体検査令状と鑑定処分許可状を得て,その試料の採取と型鑑定をするということが考えられます。   通信傍受は,対象者の通信の傍受によって現在の所在を割り出すことが考えられます。 ○酒巻部会長 笹倉幹事,今の御説明を踏まえて御意見がございますか。 ○笹倉幹事 ただいま御説明いただいたような事例を想定して,刑の執行に関して必要があると認めるときという要件を定めるということでありますと,それを前提に令状審査も行われるでしょうから,小笠原幹事のおしゃったような懸念は回避されるのではないかと考えます。 ○酒巻部会長 それ以外に,御意見があればお願いしたいと思います。 ○小木曽委員 手続要件については,強制処分ですから,やはり令状は必要だろうと思います。不服申立てについては,もう刑事訴訟は終わっているわけですけれども,やることは刑事訴訟法に定めのあることと同じですので,準抗告のようなものを考えるのかなというイメージを持っております。 ○酒巻部会長 現行法の準抗告は捜索と検証についてはないので,その辺はどういうふうに整理するのかについても検討する必要があろうかと思います。   ほかに御意見等,よろしいでしょうか。 ○天野委員 先ほど髙井委員から,もう執行段階なのでというお話があって,それもそうだなとは思ったのですが,ただ,国に強制処分同様の調査権限という,かなり大きな権限を与えるものになるのだろうと理解しています。必要性があるというのも,私も同じように理解しておりまして,差押え,捜索,検証については異論はなく,必要性もあるし,そういうものを今後整備していく必要があるのだろうと考えています。ただ,身体検査,鑑定処分については,かなり限定的な場面になるのではないかと思われますし,通信傍受はまた少し質が違いますが,もう少し謙抑的に考えられないかなという意見を持っております。   同様に,「検討課題」「(1)」に裁判の執行に関して行い得るものとするかとありますが,やはり身柄に関する場合には,もう現実にその人を確保する必要がありますので,強制処分同様の,差押え,捜索,検証といった辺りは調査権限を認めてもいいと考えているのですけれども,お金に関することについては,一応,今も民事執行法にのっとってやることになっているかと思いますので,強制処分同様の調査権限という強い権限を与えるときには,もう少し慎重に考えられてもいいのではないかと考えています。 ○酒巻部会長 調査という意味では,少年法にも触法少年の調査について刑事訴訟法の強制処分を準用するという規定が作られましたけれども,通信傍受は入っていません。それ以外の強制処分は入っている。どのような処分を認めるのかについては,令状主義の下で,それに伴う法益侵害と処分の目的・必要性のバランスでいろいろなことが考えられると思います。   ほかにこの点について,よろしいでしょうか。   それでは,第3-1についての審議はこの程度とさせていただき,ここで10分ほど休憩をして,その後,第3-2についての審議に入りたいと思います。           (休     憩) ○酒巻部会長 審議を再開します。   休憩前に続きまして,「第3-2 実刑判決が確定した者が収容を免れるために逃亡する行為に対する新たな罰則を設けること」について,議論を行いたいと思います。   議論に先立ち,まず,配布資料20の第3-2に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料20の3ページを御覧ください。   制度枠組みには,刑事訴訟法第484条前段の規定による呼出し,すなわち懲役・禁錮の実刑判決等の確定後の収容のための呼出しを受けた者が正当な理由なく出頭しない場合の罰則を設けることを記載しています。なお,同法第505条において準用する場合を含むという括弧書きの部分は,労役場留置の執行のための呼出しを受けた者もこの罰則の対象とするものです。この罰則は,懲役・禁錮の実刑判決等確定後の収容の場面や,労役場留置の執行のための収容の場面において,その対象者に出頭を促し,収容を確保しようとするものです。   「検討課題」には一つ目の「○」として,このような罰則を設ける必要性・相当性を,二つ目の「○」として,正当な理由の意義をそれぞれ挙げています。また,三つ目の「○」の法定刑については,保護法益や行為態様の点で共通点を有する同種の罪の法定刑なども踏まえつつ御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問がございますか。よろしいですか。   それでは,議論に入りたいと思います。これまでと同様,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見をお願いしたいと思います。   私の記憶では,前に和田幹事から,こういうものを作ると,かえって呼出しの前に逃げたくなるのではないか,そういう逃亡の動機を強めることにならないかという御指摘もあったと思います。それに対して事務当局から応答することはありますか。 ○鷦鷯幹事 今,部会長から御指摘があったのは,第3回会議において和田幹事から御指摘いただいた点だと思いますが,逃亡を決意するに至る要因を考えた場合,その中には,言い渡された刑の執行に伴って受ける不利益の内容・程度,逃亡することに伴って受ける不利益の内容・程度,逃亡が成功する可能性の程度など,様々なものがあると思われます。ですので,この罪の存在が逃亡の動機付けになるとは一概に言い難い面があると思いますが,例えば,判決宣告後の呼出し前に逃亡を決意している者にとっては,本罪による処罰を免れるために呼出しよりも前に逃げようと考える場合もないわけではないとは思われます。もっとも,呼出しを受けた時点でまだ逃亡するかどうかを決めかねている者にとってみれば,そのような様々な要因を考慮するに当たり,発見された場合に確定した刑を執行されることに加えてこの罪による処罰の可能性があることによって,収容を免れる行為に及ばずに収容に服するという動機付けを生じさせることを考えますと,このような者の収容を実現する上で本罪が有効になることは明らかであると思われまして,その意味で,刑の執行に向けた収容作用の実効性を担保する手段としては合理性があるのではないかと考えております。ですので,御指摘の点もございますが,その上でもなお,本罪による罰則を設けるという合理性はあるのではないかと考えるところでございます。 ○和田幹事 このような新たな罰則を設けたときに,全体の中でどのように位置付けられることになるのかということを一度整理した上で,更に検討してみたいと思います。実刑判決が確定すると,その時点で国家刑罰権の内容が具体的に決まり,国家による拘禁作用,収容作用というものが,まだ潜在的なものではあるけれども,生じると考えることができます。その後,現に検察官が呼出しをすれば,いつからどこで収容されるべきなのかということが顕在化されて,それに応じないことによって収容状が発せられれば,国家の収容作用がかなり具体的なものとして立ち表れます。そして,それに基づいて現実の収容が行われると,そこから極めて強い保護に値する法益が認められる。こういう展開をたどることになると思うのですが,その流れの中で,最後の,現に収容されたところからは逃走の罪の対象になりますし,その逃走の罪について,施設に収容される前の時点でも現に拘禁が始まれば,そこから既に逃走の罪の対象にしてよいのではないかという処罰の拡張の議論が既になされているところです。   さらに,それよりも前倒しして,どこから処罰の対象にするのかが今ここで問題になっているのだと思いますけれども,事務当局が示されている案は,今の流れの中で,判決が確定したところではまだ刑罰による保護は用意せず,検察官が具体的に呼び出した時点で初めて不出頭を処罰対象にするという内容になっています。それは,実刑判決が確定したところから既に保護に値するものはあると考えることができることと比較すれば,謙抑的な案になっているように見えます。つまり,現に呼び出したところで初めてある程度具体的な収容作用が生じるので,そこから保護すればよいではないかという,ある意味での謙抑性の表れが認められる案だと思います。ただ,その中途半端さゆえに,かえって,呼出しを受けてしまうと処罰対象になってしまうから,呼び出される前に逃げてしまおうというインセンティブを与えてしまう点で,不合理な面が否定できないのではないかというのが第3回の会議で行った指摘でした。   先ほどのお答えで,不合理な部分は否定できないけれども,トータルとして見たときには合理的な罰則なのだと,そういう評価だということは理解しました。そのような不合理なところが残るのは,正に謙抑性の表れとして,途中から処罰対象にすることから生じる不合理であって,それは謙抑性のメリットとのセットで表れている不合理だと思います。   他方で,謙抑性を抜きにして,インセンティブの仕組みとしての合理性だけを徹底して追求したときにどうなるかということを考えてみますと,判決が確定したところから既に保護に値する法益があるのだと考えて,仮に呼び出したとしても呼出しが空振りになるような,あるいは呼出しを妨害するような行為をも処罰対象にするという形で,そこまで前倒しして処罰を用意すれば,呼び出される前に逃げてしまおうというインセンティブは生じないことになります。インセンティブの仕組みとしての合理性という観点からは,その方が望ましいという考え方もあるのではないかと思います。ただ,そこでは謙抑性が犠牲になりますので,どちらを採るかという問題なのだろうと理解いたしました。 ○酒巻部会長 和田幹事の理路整然としたお話を聞いていると,徹底したらそうだなあと思うのですけれども,徹底しなかったのは,謙抑性だけではなくて,立法技術的あるいは運用上の問題があって,そうしなかったのかなという気もするのですが。 ○吉田幹事 仮に判決確定後に逃亡すること自体を処罰対象とした場合には,その逃亡がいつ既遂になるのか,いつ逃亡があったことになるのかという点を考える必要が出てくるだろうと思われます。呼出しに対する不出頭という形ですと,呼出しという外形的な行為がまずあり,それに対して出頭しないという形で犯罪の成立時期・既遂時期を明確に区切ることが可能になりますけれども,それに対し,判決確定後に呼出し等の行為なく逃走したことを処罰対象としますと,社会に生活している人がいつからその逃亡という状態になったのかということを認定する必要が出てまいりますので,そういった観点からの検討が必要になってくるのではないかと思われます。 ○小笠原幹事 罰則の新設に反対する意見を述べさせていただきたいと思います。   今,和田幹事からもお話がありました謙抑性という部分からいくと,呼び出しに応じないだけで処罰というのは,やはり早すぎるのではないかと考えます。今の刑事訴訟法は,呼出状という,言わば任意の方法で刑の執行を図り,それで難しければ収容状という形で強制的にやるという流れの中で,呼出しに来なければ刑罰ですよというのは,言わば間接的な強制になってしまうのではないかと,そうすると任意を強制するという訳の分からぬことになってしまって,それはやはり行き過ぎでしょうというのはありますし,先ほどの議論で出てきた調査権限の強化で,いかに収容していくかということの方が重要なので,本人の遵法意識に従って,その遵法意識を刺激する形でこれをやったとしても,余り効果は出ないのではないか,逃げる人は逃げるだろうし,逃げない人はこれをやっても逃げないということではないかと思います。もちろん「刑罰があるから思いとどまる」という効果は,多少はあるかもしれませんけれども,それですら,いつ収容されるか分からないぐらいならきちんと出ようとか,あるいは,その日に出られないのであれば,きちんと理由を説明して,この日に出ますというような説明をしようとか,そういうふうになるのではないかと思います。   反対理由の2点目は,要件の不明確さということです。先ほどの事務当局の説明ですと,呼出状を発して,来ないというところで既遂時期が明らかだという話でしたけれども,この「正当な理由なく」の部分が,やはり本人が正当な理由ないと考えれば何であっても犯罪が成立しないかというと,そうではなくて,どうしても後からの評価にならざるを得なくて,そうすると,自分が行かないことが正当な理由に当たるのか当たらないのかについての予測可能性が非常に不明確であると考えます。   3点目は,もし,呼出しに応じないことについて新たな罰則ということになると,これに関してまた逮捕・勾留して裁判をやり直すことで,いつまでたっても刑が執行できないではないですかという話で,これは訴訟経済というか,国民の理解というか,税金を使ってそういうのをやるわけですけれども,最終的に捕まえた後に,また裁判に戻って,それも含めて長くなっていくのは,理解が得られないのではないかと思います。 ○鷦鷯幹事 小笠原幹事から御指摘のあった正当な理由についてですが,この罪は,刑の執行のための呼出しを受けて,正当な理由なく応じないという罪ですが,刑事訴訟法第96条第3項に,保釈をされた者が刑の言渡しを受け,その判決が確定した後,執行のために呼出しを受けて,正当な理由がなく出頭しないときという条文が既にあり,基本的にこれと同じ場面ですので,本罪における正当な理由というのは,これと同様の意義を有することとなると考えられます。その点が明確かと言えば,現行法にもあるところですので,必ずしも不明確ではないのではないかと考えられるところです。 ○小笠原幹事 保釈の取消しという場面と刑罰というのは,やはり要件の明確性というのは当然,要求される水準が異なりますので,裁判所に裁量のある保釈の取消しや没取の規定を持ってきて,それで判断するのは,先ほど言ったように,予測可能性の点で問題があると思います。 ○和田幹事 直接強制があるのに,更に間接強制を用意することがどうかという点について,1点だけ補足的に指摘しておきたいと思います。刑事訴訟法では既に,証人について直接強制と並べて間接強制の罰則を用意していますので,直接強制があるからといって,そのことだけで間接強制を導入することが不合理だということにはならないのではないかと思います。ただ,謙抑性の問題はもちろんありますので,この場面でどう考えるのかというのは,更にその先の問題だと思います。   それから,もう1点,仮に罰則を作るとしたときの法定刑も検討課題に挙げられていますので,その点について意見を述べます。   この新たな罰則を作る際に参考にすべき類似の規定として考えられるのは,一つは単純逃走罪,現行ですと1年以下の懲役ということですが,現に収容された後の単純逃走が1年以下なのであれば,その手前で収容を免れる行為はもっと軽くすべきではないかというような議論があり得るかもしれません。もっとも,単純逃走罪の法定刑自体,今回,引き上げられる可能性がありますし,また,単純逃走の刑が軽い理由として,期待可能性の問題も指摘されることがありますが,国家の側に逃げられた過失があることが刑罰を割り引く根拠として指摘されることもあります。そのような事情は今作ろうとしている新たな罰則にはありませんので,単純逃走罪よりも重い刑を,その手前の収容を免れる罪に設けても,それだけで直ちに不合理だということにはならないのではないかと思います。   もう一つ重要だと思われるのは犯人蔵匿隠避罪です。自己隠避的な行為をどのように扱うかということが問題になっているわけですので,参照先として,犯人蔵匿罪,隠避罪は当然考慮すべきであろうと思われます。純粋な自己隠避,自己蔵匿は処罰対象になっていないわけですが,他人を教唆して自己を隠避させる,蔵匿させる行為というのは,犯人自身でも処罰対象になっており,その上限が3年の懲役ですから,それを超える刑罰というのはあり得ないだろうという意味で,どれだけ重くても3年が上限ではないかと思います。それ以下でどれくらいの重さの刑罰を用意するかは,ほかの細かなことをもろもろ考慮した上で決めることであろうと考える次第です。 ○北川委員 逃走罪に先立つ行為を新たに処罰の対象とするものであるという位置付けで今回の制度を認識しておりますので,その観点から幾つか質問させていただきたいと思います。主に事務当局が抱いているイメージを教えていただければと思います。   まず,本罪は逃走罪の予備罪的なものなのでしょうか,それとも別種のものなのでしょうか。   この点については,以前,和田幹事から,この罪の保護法益として考えられるところというお話の中で,刑の執行としての拘禁に向けた身柄拘束作用と考えてはどうかという御意見があったかと思うのですけれども,身柄拘束作用を妨害する点に重点を置くのであれば,逃走罪とは少し違う法益を念頭に置けるのかなと思う反面,先ほどからの議論の流れでは,呼出しに応じなかった,その後,収容状を執行した段階で逃走したというような時系列があり,逃走罪に向けて連続的につながっていく流れの中で,この身柄拘束作用の保護は,刑の執行としての拘禁に向けた身柄拘束作用を保護するものなのだから,最終的には国家の拘禁作用の保護という目的を達成するためのものなのだと考えますと,この罪はかなり予備罪的なものなのかなとも考えてしまうわけです。すると,先ほど小笠原幹事がおっしゃったような観点からも,そういう早い段階の処罰は行きすぎではないかと。単純逃走の限度で処罰するという現行の枠組みを維持し,あとは単純逃走の処罰範囲をどこまで拡大するのが適当かという観点から検討するのが適切かと思った次第です。   もう一つ,刑の執行を確保するために,呼出しに応じない者をその段階から処罰する必要性が高いということで,この新しい罪を創設すると考えたときに,呼び出しに応じない不出頭罪というのはどこまでの範囲の行為をいうのだろうか,それと,これから見直しの検討が進んでいく逃走罪,単純逃走の罪との段階的な区別ですね,どこからどこまでが新たな不出頭の罪で,どこからどこまでが今回見直しを予定している逃走罪の罪なのか,このすみ分けをどう考えるべきなのかという点について,何か指針があれば,教えていただければと思います。   また,法定刑について,和田幹事は先ほど,単純逃走罪の法定刑が低いことについては,期待可能性が低いということだけではなく,国家の管理体制がしっかりしていないから逃げられたのだというところがあるのに対して,新設の罪にはそういう側面がないので,同等というのも考えられるのではないか,必ずしも単純逃走罪よりも常に低くしなければいけないことにはならないのではないかという御意見をおっしゃっていて,そういう見方もあるのかなと思った反面,やはり時系列的に連続した罪ですので,私としては,法定刑も関連させて,逃走罪よりも,本来の目的である拘禁の罪よりも重くすべきではないと思っているものですから,その両罪の関係について,事務当局の持っているイメージをお聞かせいただきたいと思います。   長くなってしまったのですが,さらにもう1点申し上げますと,例えば,事例として,対象者が,実刑判決が確定した後,検察官の呼出しに応じず,その後,収容状の執行を受けたのだけれども,逃走して,というような事態になったときに,この新設する罪と単純逃走の罪がともに成立する可能性があるとすれば,両罪の適用関係というのはどのようになるのかかと,これも新しい罪と逃走罪の関係性という点が問われる場面だと思いますので,事務当局に何かイメージがあれば,教えていただければと思います。 ○酒巻部会長 四つありましたが,事務当局から,順次,お答えを頂ければと思います。 ○吉田幹事 まず,御質問の1点目の,不出頭罪は逃走罪の予備罪であるか,それとも別個のものであるかという点ですけれども,この制度枠組みを記載した事務当局としては,予備罪と考えているわけではなくて,飽くまで別個の罪として考えているものです。ただ,保護法益については,共通するものがあるという理解が可能であろうと思われます。つまり,呼出しに応じないということは,その先に予定されている拘禁を実現させないということですので,その限りで拘禁作用に対する侵害であると考えることが可能であると思われます。そのような観点からは,逃走罪の保護法益と重なってまいりますので,共通性があるということも十分に言えるのではないかと思われます。他方で,保護法益が同じであるから直ちに予備罪になるかというと,必ずしもそうではないと思われ,制度枠組みにおいては,別個の罪として記載しています。   御質問の2点目は,不出頭罪と逃走罪とのすみ分けについてでした。刑の執行に向けたプロセスを考えてみますと,まず呼出状を送付して,通常は日時・場所を指定して呼び出すのではないかと思われますけれども,その日時・場所に来なかった,そして,そのことに正当な理由がなかったことをもって不出頭罪は成立することになります。その場合には,そこで拘禁作用は発生していないわけですので,その時点で逃走罪が成立することはないのだろうと思われます。   他方で,出頭しなかったために,後日もう一度呼出しをしたところ,出頭してきたという場合には,既に不出頭罪が成立した状態であり,その上で,出頭してきたので刑を執行するため身柄を拘束したところ,現実の身柄拘束が生じた後に逃げたことになりますと,これは逃走罪の関係で御議論いただいている論点につながってくるのだろうと思われます。その意味で,これは切り分けて考えることができるのではないかと考えています。   それから,御質問の3点目は,呼出しに応じない罪の法定刑は,拘禁を現実に侵害する逃走罪よりも重くすべきではないのではないかという観点からのものであったと理解しましたが,これは,正に保護法益をどのように捉えるのか,そして,その保護法益の侵害行為として悪質性をどのように評価するかということに関わってくる話かと思われますので,その両者の関係も含めて御議論いただければと思っているところです。   御質問の4点目は,2点目と関係してくるように思われます。呼出しに係る不出頭罪と逃走罪とが両方成立する場合の適用関係をどう考えるかということですが,先ほど私が申し上げたような設例を前提としますと,行為としては不出頭という行為と逃走という行為は別個のものとして考えられますので,構成要件的評価としては別個になるのではないかと思われます。その上で,それが併合罪となるのか観念的競合となるのかというのは,行為の一個性の判断にも関わってくるかと思われます。いずれにしても,この点についても御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 北川委員,今の事務当局の説明について,何か疑問点や御意見がありましたら伺います。 ○北川委員 ありがとうございます。最後の点だけ少しコメントさせていただきますと,重ねて罪に問うのは非常に重いだろうと,先ほどの小笠原幹事の意見に重なるところもありますので,慎重に考えていくべきだと思います。 ○酒巻部会長 賛否両方の意見が出ましたけれども,配布資料に近時の逃走事例というのがあったと思いますが,この新しい犯罪類型は,どうしてもこれがなくて困ったという現実の事案があったから作ろうというものでしたでしょうか。 ○吉田幹事 御指摘の配布資料の中には,刑の執行のために呼び出したけれども出頭しなかったこと自体を問題として記載したものはなかったと思われますけれども,実務上は,刑が確定してから執行するまで,やはりそれなりの時間が掛かっていたり,その中には呼び出したけれども応じないということがあるというお話だったかと思われまして,そういった事象に対応するものとして,今回のこの制度枠組みのものを考えているということです。 ○酒巻部会長 この項目につきまして,ほかに,御意見はございますか。 ○髙井委員 刑の確定した者がなかなか収容されないで,その辺りをうろついていて,自由に徘徊していることが社会に与える影響あるいは不安というものは,例えば自分の隣の家で殺人事件が起きたということに比べても,それほど劣らないと思うのです。特に,実際の例では,これはこの不出頭の例ではないのですが,収容に行ったところ,刃物を持って暴れて,そのまま逃げたと,それで付近の小学校その他にも注意が回ったというようなことがあるわけで,そういう意味では,実刑判決が確定した者が収容されないでいることに対する社会的な影響・不安というものをもう少し考えないといけないのかなと。そういう観点からすると,この法定刑の在り方,関連する他罪との比較衡量というのが必要になることはもちろんですが,その一方で,どの程度の法定刑であれば抑止ができるのかと,例えば懲役6か月以下みたいな法定刑にしたとした場合に,それで抑止できるのかということだと思うのです。ですから,他罪とのバランスということは当然必要ではありますが,それを踏まえた上で,やはり抑止可能な程度の法定刑はどう在るべきかという観点からも考えなければいけないと思います。そういう意味では,先ほど,長くても3年という御意見もありました。私としては,3年ぐらいであれば抑止機能は果たせるのかなというように考えております。 ○小笠原幹事 立法事実の部分で,報道での記憶のベースなのですけれども,何度も呼出しをしたけれども来なかった,実際に収容を掛けたらもういなかったみたいな,そういうことで逃亡という話があったのですけれども,そもそも収容状を発せられないというか,あるいは執行できないような事情があるのかどうか,そういったところの検討が実は必要で,先ほどの野放し論に対しては,やはり早期に,1回なのか2回なのかというのはあるのですけれども,呼出状で来なかったら収容状を発付するし,それを実際,現実に執行していく方が本当に重要なのではないかと思いますので,その辺の実情をどなたか御存じであれば,人手なのか,それこそ,先ほどの強制捜査権限がないせいなのかなど,お聞かせいただければと思いますけれども。 ○鷦鷯幹事 事務当局で理解しているところでは,収容の際の諸事情がいろいろとございますので,一概になかなか言えないところではございますけれども,現場において恐らく適切な時期にやっていると考えてはおりますが,事案によりけりなのかなと思います。 ○酒巻部会長 ほかに御意見・御質問がなければ,第3-2についての審議はこの程度とさせていただき,次に,「第3-3 刑が確定した者が国外にいる間,刑の時効の進行を停止するものとすること」についての議論に移りたいと思います。よろしいでしょうか。   議論に先立ち,第3-3に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料20の4ページを御覧ください。   制度枠組みには,刑が確定した者が国外にいる場合には,その間,刑の時効の進行を停止するものとすることを記載しております。   次に,「検討課題」を御覧ください。まず「(1)」及び「(2)」として,刑の時効の制度趣旨との関係や公訴時効の停止の制度との関係を挙げています。「(2)」については,公訴時効は,犯人が国外にいる期間のほか,犯人が国内で逃げ隠れしているため有効に起訴状の謄本の送達ができない間も停止するものとされていることに照らして,刑の時効をどのような場合に停止させるものとするかについて御議論いただければと思います。最後に「(3)」として,時効の停止の対象とする刑の範囲を挙げております。特に罰金,科料,没収についてもその対象とすべきか,御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問等がございましたら,お願いします。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。「考えられる枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,記載のない点でも結構ですので,御意見を頂きたいと思います。 ○北川委員 「考えられる制度の枠組み」として,刑の時効については,刑が確定した者が国外にいる場合には,その国外にいる期間その進行を停止するものとするということなのですけれども,この御提案に賛同したいと思います。前に申し上げましたように,国内で逃亡しているときとは異なって,実刑判決が確定した対象者が国外にいる場合には,逃亡先には日本の主権が直接及ばず,法的に我が国の執行管轄権が制限されてしまうことになることが重要であると思います。逃亡先の相手国に逃亡犯罪人の引渡しを求めることも可能な場合もあるとはいえ,相手国が必ずしも我が国の要請に応じてくれるわけではないですし,逃亡犯罪人の引渡しに関する条約を締結している国との間でも,自国民については引渡しがされないという状況に鑑みますと,国外に出た者が日本に戻ってこない,引渡しもされない状態にある期間を考慮せずに時効を進行させたままでおりますと,刑の適切な執行に大きな支障となります。ということで,国際法の観点から,刑の執行が相手国の主権との関係で制限される場合には,時効の進行を停止すべきことを説明できると考えます。   これに対し,検討課題の項に挙げられているもう一点として,公訴時効について,犯人が国外にいる場合だけではなくて,国内で逃げ隠れするときにもその時効の進行が停止されるという点との関係なのですけれども,こちらの方は,公訴提起の制度上手続を慎重に期すべきということで,被告人の下に起訴状の謄本の送達ができない場合には公訴時効を停止すべきだということになっているわけですけれども,刑の執行の場合には,そうした起訴状の謄本の送達といった手続上の制約がありませんので,そうした考慮は不要であると考えております。 ○酒巻部会長 順番に行きますと,国外にいる間は止めるということについては,今はこの制度はないのですけれども,特に異論はないですか。2番目の公訴時効停止制度との関係ですけれども,これも北川委員が先ほどおっしゃったとおり,これは国外にいる場合にするということで,ほかに御意見がなければ,その次の「(3)」の刑の範囲について,どなたか御意見ございますか。 ○天野委員 素朴な疑問というか,罰金や科料,没収について,本人が日本にいないとできないのか,そんなことはないのではないかと思われることが1点と,あとは,特に没収のケースなのですけれども,没収単独で刑の時効が停止しないといけない場面がなかなかイメージが湧きません。例えば,覚醒剤を大量に密輸して,本人も懲役なり何なりになって,覚醒剤を没収となったとき,そういうときに没収できないことがあるのかなとか,少しイメージが湧かなかったので,少し補足して御説明いただければと思います。 ○鷦鷯幹事 刑法第32条第6号において,没収についても1年の時効が主刑の時効とは別に定められておりまして,別個に時効が進行することになります。御指摘は恐らく,通常,没収物は押収されていて,実際上,執行されないということはそれほど多くないのではないかという点にあるかと思いますが,それも含めて検討課題として挙げさせていただいているところです。その上で,没収については,例えば懲役や禁錮などと違いまして,刑を執行する上で言い渡された者が日本国内にいる必要があるのかという点もございますので,そういった点が区別の理由になることはあり得るかなと考えられるところです。 ○吉田幹事 罰金と科料については,財産刑でありますので,本来的な刑の執行としては,本人がいなくても執行できる場合があろうかと思われます。他方で,完納できない場合には,労役場留置という方法によって執行せざるを得ないことになってまいりまして,この場合には,本人がいないと執行ができないことになります。そうしますと,労役場留置との関係では,対象者が日本国の主権の及ばないところにいると執行できないという問題が生じてまいりまして,これは,懲役刑や禁錮刑と同じ問題を生じてくるという意味で,そのような換刑処分としての労役場留置のある罰金・科料については,刑の時効を停止することが必要になってくるのではないかと考えております。いずれにしても,そういった面を含めて御議論いただければと思っております。 ○酒巻部会長 ほかに御意見があれば,お願いいたします。よろしいですか。   それでは,次に,「第3-4 罰金の裁判の告知を受けた者が出国することにより労役場留置の執行を免れることを防止する仕組みを設けること」について議論を行いたいと思います。   まず,第3-4に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料20の5ページを御覧ください。   制度枠組みには「(1)」として,罰金の裁判の告知を受け,それが確定していない被告人について,出入国管理及び難民認定法に規定する退去強制事由があり,かつ,裁判確定後に罰金を完納できないこととなるおそれがあるときは,裁判が確定するまでの間勾留することができるものとすることを記載し,また,「(2)」及び「(3)」として,罰金の裁判が確定した者について,罰金を完納できないおそれがあり,かつ,国外逃亡のおそれ又は退去強制事由があるときは,裁判確定後30日を超えない期間,その者の身柄を拘束することができるものとすること,それから,身柄拘束の日数を罰金に算入し,罰金が完納されたときは直ちに釈放するものとすることを記載しています。これらの制度はいずれも,罰金の裁判を告知された者が労役場留置の執行が法律上可能となる前に罰金を完納しないまま出国することにより労役場留置の執行を免れることを防止するため,必要かつ相当な範囲で罰金の裁判の確定前の勾留や確定後の身柄拘束をすることができるものとするものです。   次に,「検討課題」を御覧ください。まず「(1)」には,制度枠組みの「(1)」に関する検討課題として,「(1)」の勾留はどのような場合に認められるかを挙げているほか,罰金額の多寡によって対象を限定するか,科料の裁判を告知された者も含めるかという点を挙げています。   次に,「(2)」には,制度枠組みの「(2)」及び「(3)」に関する検討課題として,まず,罰金の裁判が確定した者が労役場留置の執行を受けることを承諾しない場合において,刑法第18条第5項の期間,すなわち裁判確定後30日の期間を経過する前に出国することを防止するための方法の在り方を挙げています。ここでは,その方法として,「(2)」のように30日の期間を経過するまで労役場留置の執行を確保するための身柄拘束をすることのほか,30日の期間の経過を待たずに労役場留置の執行を開始することを挙げています。その上で,「(1)」の勾留と同様に,このような措置はどのような場合に認められるか,罰金額の多寡によって対象を限定するか,科料の裁判が確定した者も含めるかといった点についても御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問がある方は挙手をお願いします。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。これまでと同様,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,記載のない点についても結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○森本委員 このような仕組みが必要であるという事情について,若干申し上げたいと思います。罰金の裁判を告知された者が日本から出国してしまったために,罰金が納付されず,労役場留置も執行することができないという事態は,実際に生じておりますし,また,高額の罰金を免れるという事態も容易に想定されるところです。   例えば,数年前に小笠原諸島の周辺の海域で外国漁船による赤サンゴの密漁事件というのが大きな話題となっておりました。また,最近も,日本海にある大和堆の周辺で,我が国の排他的経済水域内で外国漁船によるイカなどの密漁の事案が発生しているところであります。こうした密漁事案についての刑罰でございますが,我が国の領海内で行われた場合には,外国人漁業の規制に関する法律の違法操業の罪ということで,法定刑が3年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金又はその併科と定められております。また,我が国の排他的経済水域内で行われた場合には,排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律の無許可操業の罪に当たりまして,法定刑は3,000万円以下の罰金という,いずれも高額の罰金刑が定められているものでございます。   仮にこれらの密漁船が拿捕されて刑事事件となったといたしましても,当該船舶の船長,乗組員については,通常,出入国管理及び難民認定法上の不法上陸となっておりますので,退去強制事由に該当することとなります。そのため,判決が罰金刑のみであったり,あるいは罰金刑が併科された懲役刑が執行猶予だった場合には,勾留状が失効して釈放され,入管当局によって収容されて,退去強制令書が発付されるということになりまして,罰金の裁判確定後30日を経過する前に,つまり労役場留置の執行を開始することができない間に,退去強制されてしまうということになります。   実際にあった事案として把握しているものとしては,先ほどの赤サンゴとかイカではないのですけれども,漁業主権法,排他的経済水域の方の無許可操業の罪で公判請求をされて罰金刑を言い渡された外国人が,釈放されてすぐに入管当局によって収容され,退去強制令書が発付され,裁判確定前に退去強制されてしまったということで,罰金の徴収が不能になったケースがあると把握しております。   このように,罰金の裁判を告知された外国人が退去強制によって出国してしまうと,罰金刑を免れ,労役場留置の執行もできないという結果になりますことから,今議論となっておりますような仕組みの必要性は高いものと考えております。 ○酒巻部会長 そういう法的必要があるということですけれども,これに対してどのような仕組みを設けるべきかについても,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○小笠原幹事 質問です。こういう観点がいいかどうかというのはあるかと思うのですけれども,判決で,労役場留置で1日留置すると5,000円と換算されることが多いのですけれども,その人を食わせていかなければいけないと,そういう点でも税金が出ていくわけで,そうすると労役場留置というのはお金を回収できないという話なのですけれども,国家の経済的にはマイナスになってしまわないかというのが,労役で稼げるわけではないというのが私の感覚なのですけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○酒巻部会長 労役場留置の機能について,いかがでしょうか。 ○吉田幹事 労役場留置は,飽くまで刑罰の執行方法として行われるもので,例えば1日5,000円と換算して労役場留置したからといって,1日留置すれば5,000円が国に入るとか,そういう性質のものではなく,飽くまで罰金刑に代わるものとして行うものです。もちろん,被留置者の衣食住に掛かる経費は国が支弁することになるわけですけれども,それは,ほかの刑罰も同じでして,刑の執行をする以上は当然に付随する問題であって,ここでの固有の問題ではないと思います。 ○酒巻部会長 ほかに,このシステム自体についての皆さんの御意見を伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○北川委員 森本委員から,今回の制度が必要な事例ということで,外規法違反とEEZ漁業法違反の例を挙げていただきました。些末な点で大変恐縮なのですけれども,外規法の方は問題ないのですけれども,私が気になりましたのは,排他的経済水域,つまりEEZ漁業法との関係で,労役場留置の執行を万全にするためということとの関係で1点,確認というか,質問をさせていただきたいと思います。   御案内のように,排他的経済水域に関するEEZ漁業法には懲役刑はなくて,高額の罰金刑のみが定められています。これはなぜかといいますと,いわゆる国連海洋法条約が,排他的経済水域における漁業法令については,沿岸国が科する罰には,関係国の別段の合意がない限り拘禁を含めてはならず,また,その他のいかなる形態の身体刑も含めてはならないということになっているからです。更に言えば,沿岸国は漁業法令違反で拿捕した船舶であるとか乗組員を保証金を払って早期に釈放しなければいけないというようなことも規定されておりまして,排他的経済水域における我が国の権限行使というのは限られている状況にあります。すると,懲役刑を科してはいけないという前提があるのであれば,換刑処分ではあるのですけれども,労役場留置の執行についても条約による制約との関係が問題にならないのかということが気になりました。   単純逃走罪の解釈との関係では,現行法の裁判の執行により拘禁された既決の者の文言解釈の際には,通説的な見解によれば,罰金又は科料の言渡しを受け,これを完納し得ないため労役場に留置されている者が含まれると解しておりまして,その理由の一つとして,労役場に留置されている者にはいわゆる懲役囚に適用すべき拘禁規則が準用されていることも指摘されています。そうした解釈も含めて総合的に判断しますと,労役場留置の執行の確保を理由に,EEZ漁業法に違反し罰金の告知を受けた外国人を本邦に留め置くための立法事実として挙げるのが適切な事例なのかという点に疑問を感じた次第です。誤解があればすみませんけれども,御教示いただければと思います。 ○酒巻部会長 今,EEZ漁業法とおっしゃったのは,「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」のことだと思いますが,それには罰金しか規定されていなくて,それは国際法との関係で,身体拘束刑は駄目ということになっているためであるところ,労役場留置は身体を拘束することになるが,問題ないかということですよね。 ○北川委員 換刑処分ではあるけれども,実質的にはそうなると。しかも,身体刑が科せられないこととの関係から,法定刑の罰金刑の額が高いわけで,すると換刑処分としての労役場留置の期間が長くなるので,関係国との間で実質的には身体刑を科しているといったようなことが問題になりはしないかという懸念です。 ○酒巻部会長 事務当局としてはどのように考えておられますか。 ○鷦鷯幹事 国連海洋法条約により,拘禁刑が禁止されているということですが,飽くまで罰金刑の執行方法については特に規定していないものと思われまして,そういう理解の下でこのような現行法があると理解しているところですので,それを前提に今回の制度についても考えていくこととなろうかと思います。 ○酒巻部会長 答弁としてはそうなるのでしょうね。機能的にということなのでしょうね,北川委員の御懸念は。おっしゃる趣旨は理解しました。   ほかに御意見等がありましたら,お聞きしたいと思います。この案のとおりでいいということであれば,それはそれでいいのですが,いかがでしょうか。 ○福家幹事 どちらというわけではございませんけれども,先ほど第2-4のところで指摘をさせていただいた,退去強制事由があるというところと刑事手続の関係ということについては共通する問題があるのかなと思いますので,繰り返し申し上げるものではございませんけれども,その点もまた踏まえて検討する必要があると思います。 ○酒巻部会長 退去強制との関係について,何か付随して説明を加える点がありましたら,お聞きします。 ○鷦鷯幹事 御指摘のとおり,退去強制事由との関係については共通するところがございますので,共通の検討課題かと思っているところです。 ○酒巻部会長 ほかに,労役場留置の確保について,御意見ございますか。 ○天野委員 制度の枠組み自体についてどうこうということではないのですけれども,恐らくこの枠組みの中で,身柄拘束がなされた日数分,罰金に算入するということは,この時点での身柄拘束では,刑務作業はさせないということでよろしいわけですよね。そうだとすると,刑務作業をさせろと言っているわけではないのですけれども,通常の労役場留置のときには刑務作業をさせるわけで,果たして刑の執行としてそういった違いが出るのがいいのかなというのは素朴な疑問として持っているということを意見として申し上げます。 ○酒巻部会長 事務当局から何かコメントはありますか。 ○吉田幹事 検討課題「(2)」の一つ目の「○」に関係する御指摘かと思います。第3-4の根底にある問題意識に対応するための方法としては,一つには,「考えられる制度の枠組み」のように,身柄拘束をして労役場留置に備えるという方法と,もう一つには,労役場留置そのものを実施してしまうという方法があろうかと思われます。   後者の方法を採るとしますと,刑法第18条第5項で規定されている30日の期間を与えないこととなります。労役場留置の執行というのは飽くまで換刑処分ですので,お金が払えれば本来そちらでよいわけですけれども,そのお金を用意する機会を奪うということになりますので,その当否が問題になってくるだろうと思われます。   また,労役場留置の執行ということになりますと,御指摘もありましたように,刑事収容施設法上は懲役刑の規定が準用されますので,所定の作業をするということになりますし,また,処遇の在り方も懲役刑の受刑者に倣った形ということになってまいります。   他方で,労役場留置に備えて身柄拘束をするという形にするとしますと,恐らく被収容者の身分は違ってきて,所定の作業を課すことはできないというか,すべきではないというか,そこも検討課題かもしれませんけれども,そこに差異が生じるかもしれない,あるいは処遇の仕方も差異が生じるかもしれないことから,そうした点を考えたときに,この制度枠組みとしては,労役場留置の執行を前倒しにするのはより不利益ではないかということで,それに備えて身柄拘束をする仕組みを設けてはどうかということで記載しているものです。 ○佐藤委員 労役場留置の執行を免れることを防止するための仕組みに関して,第3回会議の際,刑が確定するまでは勾留で賄うことができるのに対し,確定した後については新たな身体拘束の形式を用意する必要があるのではないか,という発言をしたのですけれども,事務当局として,刑の確定後について,どのような身体拘束処分をお考えになっているか,お尋ねしたいと思います。   この点,第3-1では,刑の執行段階についても強制調査の権限を整備する,というお話がございましたけれども,こちらの身体拘束処分も強制処分である以上,例えば,勾留に準じ,裁判官による令状によるものとしたり,処分を受ける者に対する手続保障に配意したりすることが必要になってくるように思われます。こうした点についていかがでしょうか。 ○鷦鷯幹事 「(2)」と「(3)」の制度については,検察官の請求によって裁判官がこの身柄拘束の可否を判断するという枠組みを想定して記載しておりまして,そこにおいても令状というものが発付されるかというところも一つ,考えるべきことであろうかとは思います。   また,裁判官が一定の要件があることを認めたときに身柄拘束が許されるという点で外形的には勾留と似ているところがありますので,これと同様の手続的な規定を更に設けることも検討課題としてあり得ると考えております。 ○酒巻部会長 ほかに御意見がなければ,第3-4についての審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   これで本日予定していた議事は全部終了しましたので,次回以降の審議の進め方についてお諮りしたいと思います。本日まで3回にわたって,たたき台・その2に記載されている全部で13の制度枠組みのそれぞれについて,活発な御議論を頂き,皆様から様々な大変建設的な御意見を頂くとともに,新たな検討課題についても御指摘を頂いたところでございます。   これまで第1から第3までの三つのグループに分けて,13の項目を順に検討してきましたが,項目ごとに議論の進み方に違いもあると思われますので,次回からは,それらのグループや項目の順序に従って議論するのではなくて,更に議論を尽くすべき項目に焦点を当てて集中的に審議をしたり,あるいは相互に関連する項目を横断的にまとめて議論するなどの新たな整理の下で更に議論を深めていくのがより一層効率的で充実した審議に資すると考えられます。   そこで,本日までの議論を踏まえ,事務当局において,今後どの項目についてどういう形で議論を行うのが適当かを整理していただくとともに,必要に応じて個別論点や検討項目を整理した検討資料を次回までに準備していただき,それに基づいて次回は議論を更に進め,深めていただきたいと思いますが,いかがでしょうか。              (一同異議なし)   よろしいでしょうか。ありがとうございます。それでは,そのような方向で資料を作成,準備してもらいたいと思います。   それでは,次回会議の日程について事務当局から説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 次回,第7回会議は,令和2年11月27日金曜日午後2時30分からを予定しております。場所は東京地方検察庁1531号室でして,場所の詳細については改めて御案内をさせていただきます。 ○酒巻部会長 本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して,公表することとさせていただきたいと思います。配布資料についても公表することにしたいと思います。そのような取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   本日も長時間御議論いただきましてありがとうございました。 -了-