法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  令和2年10月14日(水)   自 午後 3時02分                         至 午後 5時57分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について        2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会第5回会議を開催します。 ○酒巻部会長 本日も,御多忙中のところお集まりいただきありがとうございます。   本日,くのぎ幹事は,所用のため欠席されています。また,保坂幹事は,所用のため遅れて出席される予定です。   まず,事務当局から配布資料についての説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として配布資料19「通常第一審終局前の保釈取消人員に係る保釈取消事由(全地方・簡易裁判所)」をお配りしています。また,新規の配布資料ではございませんが,参考資料として配布資料11「検討のためのたたき台・その2」(第1「保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」),配布資料12「検討のためのたたき台・その2」(第2「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」),配布資料17「単純逃走罪及び加重逃走罪の主体・被拘禁者奪取罪等の客体」,配布資料18「諸外国におけるGPSにより被告人の位置情報を取得・把握する制度の概要」を配布しています。 配布資料19について御説明をいたします。   配布資料19は,平成26年,平成28年,平成30年及び令和元年の通常第一審終局前の保釈取消人員について,その取消事由が刑事訴訟法第96条1項1号から5号までのいずれの事由であったか,同項5号による取消しについていかなる条件に違反したものとして保釈を取り消されたかなどを取りまとめたものです。   なお,表の右端の「左の事由によらない保釈取消人員」は,刑事訴訟法第96条1項各号の事由によらずに,裁判所が職権で保釈を取り消した人員です。   また,刑事訴訟法第96条1項各号の複数の事由に該当して保釈が取り消された場合は,各号の欄に重複して計上し,複数の条件違反に該当する場合は,各条件の欄に重複して計上しているため,それぞれを足したものと総数は一致しません。   平成26年と令和元年の数を比較しますと,「保釈取消人員」が約4.2倍になったのに対し,刑事訴訟法第96条1項1号,不出頭を理由とする取消しは約6.2倍に,同項2号,逃亡又はそのおそれを理由とする取消しは約4.8倍に,同項3号,罪証隠滅又はそのおそれを理由とする取消しは約3.5倍になり,また,同項5号による取消しのうち不出頭,逃亡及び制限住居の条件違反を理由とするものを合わせた数は,11件から110件と10倍になっています。   配布資料19の御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して,御質問はございますか。よろしいですか。それでは,審議に入ります。   前回の会議においては,配布資料11「検討のためのたたき台・その2(第1「保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」)」のうち,第1-3まで議論を行いました。そこで,本日は,それに引き続き,「第1-4 単純逃走罪(刑法97条)の主体を拡大すること」,「第1-5 保釈中又は勾留執行停止中の被告人にGPS端末を装着させることにより逃亡を防止する仕組みを設けること」について議論を行い,さらに,配布資料12「検討のためのたたき台・その2(第2「判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」)」に記載されたものについても,順次議論を行いたいと思います。   各項目は,いずれも,新たな制度や刑罰法令の設計・導入など,基本権との調整を含む極めて重要な事項でありますので,徹底した議論をお願いしたいと思います。性急に議事を進めるつもりはありませんので,よろしくお願いします。   まず,配布資料11の「第1-4 単純逃走罪(刑法97条)の主体を拡大すること」についての議論を行います。   議論に先立ち,配布資料11の第1-4に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明していただき,その際,配布資料17についても併せて説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の5ページ目,第1-4を御覧ください。   制度の枠組みには,「(1)」として,単純逃走罪の処罰の対象とすべき者について,差し当たり,令状により身体拘束された者を記載し,「(2)」として,同罪の法定刑を引き上げることを記載しています。   続いて,「検討課題」を御覧ください。   単純逃走罪の「処罰の対象とすべき者の範囲」については,制度枠組みのとおり「令状により身体拘束された者」とすることも考えられますが,法令による身体拘束は令状によらないでなされることもありますので,さらに,法令により身体拘束された者も単純逃走罪の対象とするかについて御議論いただければと思います。   この点の議論に資するように,令状により身体拘束された者,法令により身体拘束された者の例として,「①」から「⑧」までの者を挙げています。この「①」から「⑧」までは,配布資料17の表の「①」から「⑧」までに対応していますので,それらの者のいずれが単純逃走罪の主体,加重逃走罪の主体又は被拘禁者奪取罪等の客体になるかについては,この資料も御参照ください。   単純逃走罪の主体については,このような現行法上の処罰範囲を踏まえながら御議論いただければと思います。その上で,「(2)」,「(3)」に掲げているとおり,処罰対象者の範囲を踏まえてどのような構成要件とすべきか,法定刑をどうするかについても更に御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問はございますか。よろしいですか。それでは議論に入ります。   「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,それらに記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかをお示しいただいた上で,御発言をお願いします。 ○北川委員 刑法第97条の単純逃走罪の主体の見直しを検討する際に,三つポイントがあるように思われますので,順に申し上げます。   一つ目のポイントとして,見直しの契機となった近時の逃走事案にあったのは,保釈を取り消された被告人が引致の途中で逃亡した場合で「検討課題」の「①」に当たりこれに対処すべく,刑法第97条の規定を見直して,拘禁された段階に至らなくても引致中に逃走したのであれば,拘禁中の逃走と実質的な違いはなく,単純逃走罪の主体に含めるべく改正すべきではないかと,こういうことであったかと思います。   この点については,従前から,刑法学者の中にも引致中の者を除外する合理的な理由はないという意見があった中で,さらに,引致中の場合には戒護体制も刑事施設に収容されている場合と比べると非常に弱くなってしまうということで,要保護性の観点からも引致中の逃走を単純逃走罪の主体に含めるべきなのではないかという意見を持っております。   次に,二つ目のポイントとして,現行の刑法第97条では,その主体を「裁判の執行により拘禁された」者と規定していますので,「検討課題」にお示しいただいております「➁」の「逮捕状により逮捕された」者は刑法第97条の主体に含まれず,他方,刑法第98条の加重逃走罪の主体には該当するとされているところを,逮捕状という令状による拘禁から逃れる行為も,勾留という裁判の執行による拘禁から逃れる行為も,実質的な違いがないと解されるのであれば,勾留状の執行より前の段階の通常逮捕によって留置された者についても,刑法第98条だけではなくて第97条の単純逃走罪の主体に含めるように改正すべきではないかという点ですが,さらに,通常逮捕された者を刑法第97条の対象に新たに含めるのであれば,現行犯人逮捕された者や緊急逮捕をされ令状が出ていない段階の者の逃走についても同様の取扱いをすべきではないかという観点から,「⑥」の「現行犯人逮捕され,緊急逮捕されて(逮捕状発付前)」た者も,「検討課題」の処罰対象とすべき者の範囲の候補に挙げられている点をどうすべきかという点です。   このうちまず前者の逮捕状により逮捕された者を単純逃走罪の処罰の対象とすべきかという点については,勾留の段階と逮捕の段階とで身体拘束の状況に実質的な区別・違いがあるのかということを考えなければならないところですが,釈放の可能性が高い逮捕による一時的な留置の段階は対象にすべきではないという御意見があるのかどうか。私は刑事訴訟の関係もよく分かりませんし,実務的な視点も分からないので,この点に関して,刑事訴訟法や実務の関係の委員の方から御意見を伺いたく存じます。   後者の,無令状の逮捕ということになると,私人による逮捕であるとか,誤認逮捕,あるいは被疑者から見て令状を示されないで逮捕された際,逃亡してもやむを得ないという状況や段階があるのであれば,単純逃走罪の処罰の対象とまですべきではないのではないかという気もいたします。この点は前者との扱いを同一にすべき実情があるのか,御教示いただければと思います。   さらに,最後の三つ目のポイントは,現行の刑法第97条には「既決又は未決の者」という文言が書かれており,単純逃走罪の主体は,刑事罰の対象者である受刑者と,刑事裁判の当事者である被疑者・被告人に限定されているところを拡大し,一つには,現行法上の加重逃走罪の対象である勾引状の執行を受けた者に当たるけれども,被疑者・被告人には該当しないため単純逃走罪の主体には当たらないとされる「検討課題」の「③」の「証人」についても,被告人等と同様に逃げるなということで単純逃走罪の対象にすべきということになるのかという点と,同様に,「④」の更生保護法の引致状の執行を受けた者,あるいは,「⑤」の少年法の同行状の執行を受けた者を刑法第97条の単純逃走罪の対象にすべきかという点については,慎重な検討が必要であるように思います。   さらに,令状により身体拘束された者以外にも,現行の被拘禁者奪取罪などのいわゆる「逃走させた罪」の客体には当たるとはいえ,「法令により拘禁された者」が自ら逃げた場合までも処罰の対象とすべきなのか。逃走の罪として大きくくくってしまうのであれば,一般的には国家の拘禁作用に対する罪は拘禁作用を保護するための罰則ということなので,「法令により拘禁された者」自身の逃走も一応は処罰の対象の検討の俎上には上がり得るとはいえ,一方において,刑事罰の対象者であるとか刑事裁判の当事者以外の者がただ逃走した場合まで,逃走する罪の対象に含めていいのかということには疑問を感じる次第です。つまり,国家による拘禁の目的に応じて主体,特に単純逃走罪の主体を限定する必要性はあるのではないか。そうでないと処罰の対象が広がり過ぎる懸念が生じてしまうのではないかと思っています。 ○酒巻部会長 多岐にわたる重要な御指摘がありましたが,まず,刑事訴訟法の専門家に対して,逮捕状によって逮捕された者,また現行犯人逮捕や緊急逮捕をされた者についてのお考えを聞きたいという点に関連して,委員・幹事のうち刑事訴訟法の先生方に何か御意見があればお願いしたいと思います。いかがでしょうか。あるいは,制度枠組みを作成した事務当局から,特に逮捕に関わる点について御説明はありますか。 ○吉田幹事 逮捕と勾留の違いという点ですが,期間の長短や要件の差異はあれ,いずれも法律の規定によって身柄拘束を認めている点では同じです。   その上で,逃走行為から拘禁作用を保護するという観点から見たときに,逮捕と勾留を比べてどちらの要保護性が高いのかというと,必ずしも優劣はないのではないかとも思われます。先ほどのお話の中で,逮捕の場合には,いずれ釈放される可能性もあるのではないかという御指摘もあったと思いますが,逮捕後の捜査の結果,留置の必要がないということで釈放されることは結果としてあり得るにしても,逮捕がなされている間については,法律上拘禁することが認められているのであり,最終的に釈放される可能性があるから要保護性が低いということにはならないものと思いますし,期間の長短の点も必ずしも要保護性の程度に結び付くものではないのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 「⑥」の身体拘束の着手段階では裁判官の令状がないものについて単純逃走罪の対象に含めるべきなのかどうかという点についてはいかがですか。 ○吉田幹事 その点についても事務当局としての考え方を申し上げますと,確かに逮捕状の提示があるか否かという違いはありますけれども,いずれも法律で要件が定められていて,適法に身柄拘束をなし得る場合として規定されているという点では同じであり,その要件を満たす限り,適法な身柄拘束として要保護性に差異はないのではないかと考えられるところです。   現行犯人逮捕の場合に,仮に拘束される側がこの現行犯人逮捕には理由がないと考えて抵抗したとして,実際に現行犯人逮捕の理由がなかったということになれば,それは,少なくとも結果としては身柄拘束の適法性を欠くということで,言わば公務執行妨害罪における公務の適法性をめぐる議論と似通った議論になってくるのではないかと思います。   公務執行妨害罪について見ますと,必ずしも公務の執行の根拠が対象者に明示されるわけではないのですが,その公務の執行時において,執行する公務員が適切に判断して法令上の適式性等の要件を満たして行っているのであれば,相手方がその要件を満たしていないと誤解して抵抗しても,これは公務執行妨害罪になるわけでして,そういったほかの罪との比較も踏まえて,逮捕状の呈示による理由の告知の有無が逃走罪の主体を決する上での分水嶺になるのかどうかについて,御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。制度枠組みを作成した事務当局の考えを示していただきましたが,ほかに,刑事訴訟法を専門とする委員・幹事だけでなく,御意見のある方は,いかがでしょうか。 ○和田幹事 「①」から「⑧」までのうち,「①」と「②」についてです。ここでは現行法についての現在の一般的な解釈を基にした話をしているのだと思いますけれども,遡ってみると,刑法第97条の単純逃走罪の規定は平成7年に平易化されているわけですが,平易化される前は,「既決,未決ノ囚人逃走シタルトキハ」と規定されていて,そこには,「裁判の執行」という語も,それから「拘禁された」という語も入っていませんでした。   平易化するときには,その直前の学説状況に基づいてその解釈を変えないという前提でこれらの用語を入れて明確化したということだったはずですけれども,もっと遡ってみると,現行の刑法ができてから戦後すぐ辺りまでは,この「未決ノ囚人」の中に逮捕されて留置場に入る前の者も主体として含まれているという考え方が通説であったようで,その後逮捕の場合が外れ,それから施設に拘禁されていない場合も外れという形で,いつの間にか解釈が狭くなっていって,現在に至っていると理解しております。   それが正しいとすれば,今ここで「①」や「②」の類型を単純逃走罪の主体として含めるのは,現状の規定からすると処罰範囲を拡張する改正を目指すことになるわけですが,遡ってみるとそれが当然処罰対象になっていた時代もあるようであるということも含めて,検討する必要があるのではないかと思っています。つまり,実質としては,当然単純逃走罪の処罰対象になるべき類型,一番コアな部分として,「①」と「②」は余り問題がないのではないかと思うということでございます。   ただ,加重逃走罪と違って,行為自体が特定の客体に向けて積極的に働きかけるという行為態様ではありませんので,どのタイミングから処罰対象になるのかということを明確にすることが重要だと思います。   特に,単純逃走罪についても,現行法を前提にすれば未遂犯処罰がありますので,未遂犯の可能性も含めてそこをどう整理するかということも,慎重に検討する必要があろうかと思います。 ○大澤委員 勾留と逮捕が国家の拘禁作用として異なるのかどうかというお話だと思いますけれども,勾留は,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由という犯罪の嫌疑と,逃亡や罪証隠滅のおそれというものがあるときに認められる拘禁です。逮捕に関しても,基本となる通常逮捕に関していえば,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって,逃亡又は罪証隠滅のおそれ,これはそれがないと明らかに認められる場合を除いてという定め方になっていますけれども,消極的な形にせよ逃亡・罪証隠滅のおそれがあるような者を身体拘束するということです。逮捕についてはいろいろと学説上は議論があり,それは将来の勾留に向けたできる限り短期間の即時的な身体拘束なんだと位置付けるような学説もあるわけですけれども,ただ,それが必ずしも一般的となっているわけではなくて,現在の実務でも48時間なり72時間なりという期間を持った身体拘束と理解されて運用されてきているということであるとすると,両者の間に質的な差異があるとは言いづらいのかなと思うところです。 ○小木曽委員 私も,逮捕と勾留とで,この問題について実質的な差異はないのではないかと思います。勾留の場合は,長い身体拘束になるので,手続的な保障が厚いという点はありますけれども,いずれにしても,その段階で逃走されるとその後の手続が困難になるという意味では,同じように扱うことができるだろうと思います。その上で,「⑥」の現行犯人逮捕とか緊急逮捕に関して事務当局に伺いたいのは,どの段階で逮捕,あるいは身柄拘束が始まったと見るのかということです。その後が逃走ということに恐らくなるのだと思いますが。 ○吉田幹事 御指摘の点は,構成要件の内容に関わるものと思っておりまして,身体の拘束が始まった時点から要保護性があると考えるとしますと,現場で現行犯人逮捕をしたときから逃走罪の対象になろうかと思います。他方で,それではまだ早過ぎるとして,逮捕行為が完結して,引致が終わって留置に入った段階から処罰をすべきだとする考え方もあろうかと思います。条文として実際の構成要件を考えるときには,そうした点を踏まえたものとする必要があると思いますので,その点も含めて更に御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 現行犯人逮捕にしろ令状逮捕にしろ,その後の身体拘束時間の制限があり,刑事訴訟法上,その起算点は第205条2項において「被疑者が身体を拘束された時から」とされており,解釈の余地もありますが,要するに現に身体を拘束された時点からとなっていますね。 ○小笠原幹事 私も構成要件が気になっておりまして,前回もお話ししましたが,器具を壊すとかそういうのに比べると,単純逃走罪の構成要件は,きっちり定めておかないと広くなり過ぎるのではないかと思っています。勾引状の執行については,刑事訴訟法を見ると勾引状を示すと書いてあるのですが,現行犯人逮捕や緊急逮捕の場合には,それがないので,着手した時点だと広がり過ぎるのではないかなと思っております。   それと,逃走とは何かという話をしていったときに,その場からぱっと逃げて,1分後とか3分後にすぐ捜査員に捕まったようなときまで新たな罪になるというのは,やはり広過ぎるのかなと思いますので,執行を受け始めて,そこからある程度捜査官憲の手から逃れるぐらいのところまで行ってからでないと,やはり単純逃走という評価はしづらいのではないかなと思っております。   それと,1点質問なんですけれども,現行法で,緊急逮捕後に逃げられてしまった場合も逮捕状が請求されて発付されているという理解でよろしいでしょうか。それがないと,結局後の要件がなく,適法な逮捕とは言えないのだから,逃走罪が成立しないと考えられるので,もし分かるところがあれば教えていただければと思います。 ○田中委員 警察の実務の話でございますので,こちらから御説明をいたします。   過去10年間では1件,平成24年6月でございますが,覚醒剤取締法違反で緊急逮捕した後に逃げられたというのがございまして,その事例におきましては,緊急逮捕及び通常逮捕の令状を請求して,最終的には同一事実で通常逮捕した例がございました。 ○酒巻部会長 これまで「①」・「②」・「⑥」を主に話題にしていたのですけれども,配布資料17を御覧いただきますと,加重逃走罪の対象には入っているけれども,単純逃走罪の対象にはなっていない場合というのがまだ幾つかあるのですが,特に先ほど北川委員が証人についても言及されたと思いますが,御意見はございますか。 ○小笠原幹事 少年法の少年については,やはり適用すべきではないと考えます。他人が奪取したときには,さすがにそれはまずいかなということで今処罰されているのだと思いますけれども,少年法は基本的には教育のし直しであるという観点からすると,単純逃走による刑罰のための裁判の時点で成人となっていると,少年院ではなくて刑務所という話にもなって,変な話かなと思いますし,そこは少年法の趣旨からすると単純逃走罪の対象範囲からは外すべきではないかなと。更生保護法もやはり同様で,本人を更生させるという教育的な作用のときに,刑罰でここから離れるなと脅してどうこうというのは,結局のところは本人のためにならないという話になってくるので,そういう点では拘禁作用というのは少し保護が下がるのではないかなと思います。 ○酒巻部会長 「④」と「⑤」について,消極の御意見が出ましたが,事務当局は何か御意見ありますか。 ○鷦鷯幹事 御指摘の点について,例えば「⑧」の「少年法の規定により保護処分として少年院に収容中の少年」などは,裁判所の裁判によって自由を剝奪されて一定の施設に収容されているという点では,単純逃走罪の主体とされている確定判決などで刑事施設に収容中の被告人と変わるところはないという見方もできるようにも思われます。そういう意味で,少年院等に収容中の少年が逃走すれば,国家の拘禁作用は侵害されるという見方もできるのではないかとは思われます。 ○酒巻部会長 「③」の「勾引状の執行を受けた証人」,これは法廷に来てもらいたいという点で刑事司法作用の健全的確な運用に関わる。これについては,どういう観点から可能性を検討したのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 現行の刑法第98条の「勾引状の執行を受けた者」には民事訴訟法上の証人も含まれるとされていますが,いずれにしましても,裁判所の裁判によってなされる身柄拘束の保護という点で,同様に扱うことも考えられるのではないかという観点です。 ○酒巻部会長 これは処罰範囲の問題ですので,実体法の先生方で,この「③」から,「⑧」までについても御意見があれば頂きたいのですが,いかがでしょうか。 ○和田幹事 「①」・「②」だけでなく,「③」・「④」・「⑤」についても,現行法上,加重逃走罪の主体にはなっているということは,手段を限定すれば,国の拘禁作用自体は保護に値するものであるという評価が既に下されているのだと思います。ですので,あとは,単純逃走罪の主体にも含めることによって,より手厚く拘禁作用を保護する必要があるのかということだけが問題で,その場合,拘禁作用に質の違いを見出して処罰範囲を区別することにどういう合理的理由があるのかということをしっかり考える必要があるのだろうと思います。   「①」・「②」については,本人が罪を犯したのであれば,刑罰を科して逃走防止を図るのもやむを得ない,それには十分に理由があると考えるのかもしれませんが,この時点で罪を犯しているかどうか分からないわけですので,それぞれの理由があって国は拘禁できるということになっている点では,「①」から「⑤」までは差がないという見方もできるのではないかと思うところです。ですので,その中での差というよりは,先ほどから話が出ているように,どの時点から単純逃走罪の主体になって,どの時点から単に逃げるだけで処罰されるのか,そこを明確にすることの方が重要ではないかと感じているところであります。 ○大澤委員 先ほど鷦鷯幹事から,裁判所の裁判によってというお話もあったわけですけれども,そういう観点で切ると,「⑥」の現行犯はどういうことになるのかというのが問題になるのかもしれません。令状によって逮捕したり勾留したりする場合というのは,令状に従っているということで,司法審査も経て,適法性の外形みたいなものが備わっているのだろうと思うのですが,現行犯逮捕ということになると,時として要件判断を間違えて,事後的には現行犯逮捕の要件がなかったと判断される場合もあり得るわけですね。   刑事訴訟の過程では,そういう場合,勾留請求の段階で逮捕の適法性が事後的ではありますが司法的に審査されることになるのだろうと思いますし,その場合,その逮捕当時の捜査官の認識していた事情に従って,事後的に勾留裁判官の立場で逮捕の適法性が判断されることになるのだろうと思います。では,現行犯逮捕されて逃走した場合,事後的に裁判所が見て,いや,これは現行犯逮捕の要件は満たしていませんでしたと判断されたときには,どうなるのだろうと。法令により身体拘束されたと言えるのかどうかというような話かと思いますが,逃走罪で起訴させて裁判の段階まで行ったときに,ということかもしれませんし,ひょっとしたら,その前に逃走罪で令状請求したときに令状が出るかという話になるのかもしれませんが,この問題についてはどういう整理になるんだろうというのは一つ疑問として思っているんですが,いかがなものでしょうか。 ○吉田幹事 私は,先ほど,御指摘のような問題について,公務執行妨害罪における公務の適法性をめぐる議論と同じように考えることができるのではないかという趣旨のことを申し上げました。この点について若干補足して申し上げますと,公務執行妨害罪に関し,裁判所が公務執行の適法性を判断するに当たっては,通常は,公務執行の時点での様々な事情を踏まえたきに,その公務員の判断に合理性があったといえるか否かを判断されているのではないかと思われます。それを前提に,逃走罪について同様に考えてみますと,仮に結果的には現行犯人逮捕の要件を満たさないとされる場合であったとしても,現行犯人逮捕の時点における様々な事情を踏まえたときに,捜査官において現行犯人逮捕の要件を満たすと判断したことに,合理性があると考えられるのであれば,その身柄拘束は保護に値するということになるのではないかと思われます。   そうだとしますと,その拘禁を破って逃げる行為は,要保護性のある国家の拘禁作用を害するものとして,逃走行為の構成要件に当たると考えられるのではないかと思われます。この点については,処罰範囲の定め方に関わりますので,更に精査して検討してみたいと思っております。 ○酒巻部会長 活発な御議論をいただきましたが,続きまして,「第1-5 保釈中又は勾留執行停止中の被告人にGPS端末を装着させることにより逃亡を防止する仕組みを設けること」についての議論に進みたいと思います。   まず,配布資料11の第1-5に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明をしてもらい,その際,併せて配布資料の18についても説明もお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の6ページ目を御覧ください。   制度枠組みには,保釈中の被告人の逃亡を防止するための仕組みとして,まず「(1)」として,裁判所が保釈の際にGPS端末の装着を命ずること,「(2)」として,併せて一定の地域に入ってはならないことや一定の地域から出てはならないことなどを命ずることを記載しています。   GPS端末の装着と一定の地域に入ってはならないこととを併せて命ずるものとしているのは,GPS端末の位置情報を常時取得するのではなく,義務違反があった場合に位置情報を取得し,所在を把握する仕組みを想定したものです。   その上で,「(3)」として,GPS技術や端末機器の一般的な仕様・機能に鑑み,GPS端末の機能を維持するために必要となる義務,すなわち,GPS端末の装着義務や損壊等の禁止,充電等の義務を記載しています。   さらに,「(4)」として,「(2)」や「(3)」の義務の違反があった場合に被告人の身柄を拘束する仕組みを設けることを記載しています。   「検討課題」には,まず「(1)」として,GPS端末を装着させる被告人の範囲・要件を,「(2)」として,対象者に対して課すべき義務の内容を挙げています。これらの点については,GPS技術の特性を念頭に,GPS技術を被告人の逃亡防止に活用し得る場面を想定しながら,逃亡防止のためにGPSの機能を用いることが必要かつ有効な被告人の範囲や,そのような被告人の逃亡防止のために被告人に課すべき義務の内容について御議論いただければと思います。   最後に,「検討課題」の「(3)」として,義務違反を検知した場合の措置を挙げています。保釈を取り消すことのほか,いかなる措置をとり得ることとするのか,考え得る仕組みについて御議論いただければと思います。   また,それに関連して,先ほど申し上げたとおり,制度枠組みでは義務の違反があった場合にGPS端末の位置情報を取得することを想定していますが,GPS端末を装着させる目的との関係で,いかなる場合に位置情報を取得・把握するのかについても御議論いただきたいと思います。   続いて,配布資料18について御説明いたします。   配布資料18は,イギリス(イングランド及びウェールズ),フランス,韓国及びカナダ(ブリティッシュコロンビア州)の4か国におけるGPSによる被告人の位置情報を取得・把握する制度についてまとめたものです。   配布資料18では,この4か国の制度の概要を,「1 GPS機器の装着の義務付け等」に関する事項,「2 GPSによる位置情報の取得・把握の実施等」に関する事項,「3 参考(GPS機器の概要等)」に関する事項に整理しています。   その要点を御説明いたしますと,まず,裁判官等による司法判断を経て,被告人に対してGPSの装着を命ずる仕組みとなっている点は,4か国で共通しているようです。また,いずれの国においても住居等の制限や夜間の外出禁止,特定の地域への立入禁止といった被告人の行動範囲を制限する命令と併せてGPS端末の装着が命ぜられ,GPS端末の管理や機能維持に関する事項を遵守することも命ぜられるようです。   そうした命令や遵守事項違反を検知した場合の通報の方法や措置等については,各国様々であり,韓国やフランスではGPS端末の位置情報の監視等を担当している機関から裁判所等に通報することとされており,裁判官において当該対象者の保釈を取り消したり,勾引状等を発付して未決勾留に付したりすることとなっており,イギリスやカナダでは,条件違反を検知した場合には,GPS端末の位置情報の監視等を担当している機関から警察に通報することとされており,通報を受けた警察が保釈条件に違反した対象者を無令状で逮捕し,裁判所に引致することができることとされ,さらに,カナダでは条件違反が新たな犯罪を構成することとされているようです。   その他,各国で使用されているGPS端末の概要は,手首・足首に装着するもので,防水機能や衝撃耐性を有しているなど,各国おおむね共通しているようです。   配布資料18の御説明は以上です。              (保坂幹事入室) ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問はございますか。よろしいですか。それでは,議論に入ります。   これは全く新しい制度を導入するかどうかという話ですので,十分時間を取って多角的な議論をお願いできればと思います。これまでと同様に,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,それらに記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,御発言いただければと思います。 ○天野委員 逃亡防止とはダイレクトには結びつかないのですけれども,「検討課題」の中で書かれていることを踏まえて考えたことをお話ししたいと思います。   まず前提として,先ほど,常時GPSを付けていても,位置情報の常時取得はしないとおっしゃったのは,記録自体は常時されているという前提ですよね。 ○鷦鷯幹事 当然ながら,一定の地域への立入禁止の違反をGPSで検知するためには,機械的には,常時,その位置情報を検知することになるのが前提であり,先ほど位置情報を常時取得するものではないと申し上げたのは,裁判所の判断などに利用するための位置情報の取得は,常時行うものではないという趣旨です。 ○天野委員 分かりました。   先ほども諸外国におけるいろいろな制度があるということで御紹介ありましたけれども,もし取り入れるとした場合に,どういう形で取り入れるかというのを,具体的にイメージしながらでないと,なかなか難しいのではないかと思っています。   私自身は,逃亡防止もそうですし,被害者が居住する特定の場所・区域への立入禁止というのは不可欠だろうと考えています。今日配布された資料を見ましても,保釈取消事由として4号も増えていますし,昨年は5号の中では接触禁止が一番多いようでもありますので,特定の場所・区域への立入禁止というのは入れていただきたいと,その義務は課していただきたいと思っています。   その違反が見付かった場合なのですけれども,逃亡のときもそうだし,どこかへ立ち入ったときもそうなのですが,裁判所へ通報されて事後的に保釈を取り消すかどうかを判断するというのは,私の中では遅いのではないかと思っています。被害者や関係者,一般市民も含めて,安全・安心感が重要だと思いますので,その場から立ち去ること,ひいては排除することもある程度強制的にできる仕組みというのは必要だと思いますし,逃亡という観点からしても,事後的に捜すよりも,その場で逃げられないような,すぐに確保できるような,そういう体制をどうやって作るのかというのは議論していく必要があるのではないかと思っています。   GPSを付けることだけが目的なのではなく,逃亡を防止したりとか,あるいは被害者や関係者に接触することを防止したりするためにGPSを付けるのだと思いますので,例えば対象者が違反した場合には,何らかすぐに通知があり,警察かどうかは別にしても,介入できる制度を構築する必要があるのではないかと思っています。   ですので,GPSと違反があった場合の身柄拘束を確保するための手段というのは,セットにして考えないと,効果的な運用は難しいのではないかと思っているところです。 ○髙井委員 基本的には今の天野委員の意見と同趣旨です。例えば,GPS端末を装着させる被告人の範囲・要件とありますが,逃亡防止の観点からいうと,例えば外国に逃亡するおそれのある者,これはもう必須でGPSを付けないといけないと思います。逃亡しても,国内にいるのであれば何とか捕まえることはできるのですが,国外に逃げられたら,これはほとんど捕まえることはできない。ゴーンみたいにですね。ですから,そういう外国に逃げる可能性がある者。   もう一つは,かなりの確率で被害者あるいは事件関係者に接触する者,あるいは報復する可能性のある者,これについてもGPSを装着させると。元々そういう可能性のある者を保釈していいのかという問題はあるわけですが,それはちょっと横に置いておいて,そういう可能性がある程度認められる場合には,GPSを付けることは必須だと思います。   それから,違反した場合にどうするか。保釈を取り消すのは当然かもしれないのですが,天野委員がおっしゃったように,それではもう既にその時点では外国に逃げてしまっている,あるいは被害者が極端なことを言えば殺されてしまっているというようなことになれば,GPSを付けさせた意味がほとんどないわけで,そういう意味では,違反を覚知した場合に直ちに現行犯逮捕できるというような仕組みを作ることも,これは不可欠だろうと思っています。 ○菅野委員 私からは,「(1)」についてお話しさせてください。   まず,一番懸念されるのは,保釈で釈放されているほとんどの方は遵守事項を守ってきちんと裁判所にも出頭しているのが現状ですので,その多くの逃げもせずに普通に出頭している方に漫然とGPSを導入することになると,やはりプライバシー侵害の度合いも大きいので,直ちに賛成はできないと,このように考えています。   したがって,どういう方に本当にこの電子監視が必要なのか,それがきちんと絞り込めるのかというところが弁護士としては特に気になっているところです。   今回,事務当局からお示しいただいた資料19を見てみますと,制限住居違反とか接触禁止については,もしかするとGPSによる電子端末を付けた場合にこれがうまくワークする可能性はあると思うのですけれども,ただ,どういった事案なのか分からないので,これは事務当局へのお願いですが,どういう事案なのか,制限住居の違反とは具体的にはどういうことなのか,電子監視したら防げるような話なのか,接触禁止というのも,接触の相手は被害者なのか,どういった人なのか物理的に接触したのか,電話とか携帯でしたのか,こういったことを差し支えない範囲で教えていただければ,この電子監視がうまくワークする類型というのはどういうものか見えてくるように感じました。   そして,最後に1点気になっているのが,電子監視を導入した場合に,例えば今まで保釈保証金が用意できなかった,あるいは適切な身柄引受人が見付からずに保釈が許されなかった方に対して,例えば,電子監視を条件に保釈保証金はなくていい,あるいは身柄引受人はなくていいというような,ほかの現行の諸制度とどう関係してくるのかということも,お伺いしたいと考えています。 ○酒巻部会長 制度枠組みを考えた事務当局に対する御質問があったと思いますので,この点について,事務当局からお願いします。 ○吉田幹事 まず,資料の点については,どのようなものが御用意できるか検討させていただければと思います。   それから,現行の諸制度との関係ですけれども,これは正にGPSの装着義務付けの対象者をどのように考えるかという点と密接に関係してくるかと思います。例えば,先ほどお話があったような国外逃亡のおそれが高い者,あるいは被害者との接触が危惧される者に限って付けることとする場合には,それ以外の類型の人たちに関しては,保証金や身元監督人,あるいは当部会で御議論いただいている他の諸制度で対応していくことになるのではないかと思います。その意味で,まず,どういう被告人をGPS装着の義務付けの対象とするのかが議論の前提として必要なのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 いくつか私の感触を述べ,議論のきっかけにしていただければと思います。先ほどの髙井委員のお話に出てきた国外逃亡のおそれがある者とか,関係者に接触するおそれがある者については,従来の裁判官の発想からすると保釈を認めないだろうと思われるのですが,そうすると,この制度があるとそういう人でも保釈が認められる方向になるのかどうか,そういう予測の問題がある気がします。   それから,GPSは,万能であるかのように受け取られるきらいもありますが,実は逃亡を物理的に防ぐということにつながる場合というのは,非常に限られてくるように思われ,その意味でも,GPSがあるから逃亡防止になり保釈が広がるという単線的な話ではなかろうと,いろいろな方向が考えられるところであり,このようなことも含めて,より立ち入った議論をしていただければと思います。 ○角田委員 最初の段階ですので,大きな方向性の意見を申し上げたいと思います。まず,基本的な出発点として,GPS端末を使うというこの方式は,やはりプライバシー侵害の側面が当然あるので,プライバシー保護ないし尊重ということを念頭に置いて問題を考えていかなければいけない,これは間違いないと考えます。   そうだとすると,この部会では,逃亡防止ということを中心に置いて制度を議論しているので,そういう逃亡防止の目的に照らして,あるいはもう少し広げてもいいのかもしれませんけれども,できるだけ必要最小限度にとどめるべきではないかと,こういうことが一つ出てくると思います。   そういう観点でいうと,今まで出た御意見の中では,例えば被告人が国外に逃亡するのではないかという懸念が感じられるような事件というのは,制度の対象として,ずばり照準が当たるような事件なので,そういうものは対象になってくると思います。また,被害者への接触のおそれがある類型の事件等を考えると,逃亡防止だけでなくて,もう少し広げる余地があるのかもしれません。   部会長が問題提起された点,すなわち,従前の裁判官の思考からして,元々非常に保釈が難しい類型の事件について,こういう制度を導入したからといって,それほど保釈の運用が広がるものだろうかというのはもっともな疑問だと思いますけれども,これはやってみないと分からないという面が大きいと思います。ただ,それにしても,今までにない保釈中の被告人の行動を全部把握できるという新しい手法を導入するわけですから,従前であれば,ぎりぎり保釈を認めるのやはり無理かなと思っていた事案の中に,もちろん保釈保証金等々との兼ね合いもありますが,保釈できることになる事案がないわけではないはずだとも思います。   基本的な方向性としてそういうふうに思います。ただ,その上で,この「検討課題」の「(3)」に関わる問題は,実際にこういう制度を設けようとすると,私としては,かなり気になるところでありまして,GPS装置の警報というか,アラームというか,違反が覚知されたときにどうするかということについては,これを,裁判所による保釈取消決定を取って,それで対応するというようなことになると,迅速な対応が難しいのは間違いないと思います。   というのは,裁判所は,やはり,本当に条件違反だろうか,誤作動ではないかとか,あるいは正当な理由があったのか,なかったのかということを審査しないと取消決定という判断はできないのです。そうすると,裁判所の判断を介在させないような仕組みが考えられれば一番いいのではないかということになります。事務当局の御説明の中にもそれに関連するような話があったかと思いますが,例えば,条件違反を何らかの形で犯罪化できれば現行犯人逮捕ということで身柄確保できるでしょうし,あるいは,一旦保釈を自動的に執行停止のような形にして,条件違反でないという事情が明らかになったら,後に執行停止を解除して修正するといった方法など,いろいろな選択肢があると思います。そこのところは工夫の余地があると思いますが,いずれにしても,裁判所の保釈取消決定をかませるという仕組みはなかなかワークさせるのが難しい制度になってしまうのではないかと,こういうふうに思います。 ○酒巻部会長 今の角田委員の御意見の中にもあった「プライバシー」の問題,これには,常時位置情報が把握されることとともに,腕輪や足輪のようなものを常に装着させられていること自体が,人間の尊厳・人格的法益に関わってくるという別個の問題もあると思われます。   だから,それだけ高度の基本権の侵害があるとすれば,やはり,必要やむを得ない限定的な場合にのみ用いるというのが普通の考え方の筋道だと思うのです。これは私の意見です。 ○小笠原幹事 今のプライバシーの点なのですけれども,では勾留されているのとどっちがいいかという話なのです。勾留されている人に,勾留とGPSで多少行動は監視されるのとどっちがいいかと聞けば,同意が要件ですよとしても,十中八九同意するのではないかと思います。それぐらい,今の勾留というのは広く行われてひどい状況になっている。そこから,フランスなんかでは勾留に代わるものとしてこういうものを作ったという話からすると,これがプライバシー違反だという話であれば,では同意を要件にでもすればいい話ではないかと思います。   ですので,例えば国外逃亡しそうな人とか,罪証隠滅しそうな人というふうに範囲を法律で定めるのではなくて,裁判所にとって使い勝手がいいように,「(1)」の範囲についてはそれほど制限するのではなくて,裁判所が必要と認める場合に付けるということ,それと,違反に対する効果というのを考えればいいのではないかと思っております。   「検討課題」の「(3)」の違反に対する効果としては,確かに今すぐ止めなければというような状況があるので,犯罪とするところまでいかなくても,引致とか,あるいは逮捕,24時間に限るとか,そういうイギリスやフランスの制度もどうもあるようですので,逮捕イコール犯罪ではなくて,犯罪とはしなくとも勾留取消しの間の一時的な身柄拘束を作るというのは,もしかするとあるのかなと思います。また,義務としては,それを壊さないこととか,いろいろあるので,何か妨害のようなことをすると,それはやはり逃げる可能性があるので,そういうときには取消しで対応できるのかなと思っております。 ○酒巻部会長 今,同意ということをおっしゃいましたが,小笠原幹事は,対象者が同意しない場合は付けられないというお考えですか。 ○小笠原幹事 いや,むしろ私は推定的同意が働いていると思うので,同意も要らないという意見ですが,もしプライバシーを危惧されるのであれば,そういうことで代替的にできるのではないかという話であって,GPSの適用範囲を制限する根拠にはならないということです。 ○田中委員 装着の効果について余り期待が高まってもと思いますので,一言申し上げておきますが,仮に犯罪化された場合であっても,条件違反で直ちに現行犯逮捕できるかというと,外形的にそれが明らかな状態でなければ現行犯逮捕できませんので,その点を含んだ上,御議論いただければと思っております。 ○佐藤委員 先ほど,接触禁止の関係で御発言がありましたので,その点について意見を述べさせていただきます。   まず,この部会が,逃亡防止のための方策を主眼とした諮問を受けていることとの関係で,どこまで検討の範囲を広げられるか,という問題はあるのだろうと認識しておりますので,そのことを指摘しておきたいと思います。   それに加えまして,GPS技術を用いて被害者への接触や接近を防止しようという場合,被告人に対し,一定の場所や地域に接近し,また立ち入ることを禁止することによって,被告人と被害者との距離を確保する,という方法のほかに,より徹底したものとして,被告人にGPS端末を装着させた上,被害者にもGPS端末を携帯させて,両者が接近した場合に検知できるようにする,という方法も考えられるかもしれません。   ただ,その場合,両者が移動しているという状況において,どのようにして接近の検知をしていくのか,また,被告人に対してどのような移動制限を課すのか,その移動制限は履行可能な義務と言えるのか,そうした点の検討が必要となってくるだろうと思います。   また,最初に挙げたように,自宅や勤務先等の,被害者が通常いる場所への接近等を禁止し,その遵守状況をGPS技術で監視する方法についても,被害者は,自宅や勤務先等を被告人に知られたくないはずですので,その面での被害者の保護をどう図るか,など,慎重な検討を要する課題があるように思われます。 ○小木曽委員 基本的に裁判所が用いることができる逃亡防止の手段は多い方がいいと思いますので,方向性としてはこのような手段を積極的に考えることに賛成したいと思います。   その上で,今までの議論で被害者の危険防止という観点が入ってきているように思うのですが,それを含めて考えるかどうか,あるいは,取りあえず例えば海外に逃げるのを防止するということに限定して考えるかというような,基本的な考え方を整理する必要があるような気がしております。   それから,装着義務違反の場合ですが,方法としては,対象者の所在を確認して調査する手続を導入するという議論もあったと思いますので,それも方法としては考えられるのかもしれないと思いました。 ○笹倉幹事 GPSは万能ではないという点は,議論に際して留意しておく必要があるかと思います。位置情報自体は常時機械的に取得するということであったとしても,そこから分かるのは,ある一定の場所にいる,あるいは移動しているということだけでありまして,それが日常生活上の行動なのか,逃亡しようとしているのか,はたまた接触禁止に違反して接触しに行こうとしているのかということの判別は,直ちにはできないわけでして,しかも,違反が実際にあるのかどうかを,直ちに確認することも必ずしも容易ではありません。そのような特性,つまり,位置情報は分かるけれども,逆に言うとそれ以上のことは直ちには分からないということ,そして,当該場所に所在する理由を逐一確認することは現実には困難であること,そういう意味ではできることには限界があることという前提を踏まえつつ,しかしそれでもなおGPS装置を使うことによって逃亡防止に役立つのはどういう場面かということをもう少し具体性を持って検討する必要があるのではないかと思う次第です。これは髙井委員の御発言にありましたけれども,国外に逃げてしまう場合は,以前の部会でも申し上げましたが,もう出て行ってしまうと国際上の制約によりどうしようもない状況になってしまうという事情がある,一方,国外に出ようという場合であれば,空港に近づくとか,あるいは港に近づくということで,どこに行けばこれはもう逃亡なんだという判断がしやすい場面だと思われますので,国外逃亡を防止するということであれば,実際にも機能しやすいだろうと考えます。 ○天野委員 今の点とも関連しまして,どういうふうに運用するのかというイメージが皆さん違うかもしれないのですけれども,先ほど一回違反したからといってすぐに逮捕できるとは限らないという話もありましたが,うっかりというか,ちょっと違反してしまったということは当然あり得るだろうと思っています。今笹倉幹事がおっしゃったように,逃亡防止のためには,海とか空港とかそういうところに近付かないという遵守事項があったとして,本人がうっかり入ってしまったときにまで強制的に何かできるかというと,そこまでやるのは行き過ぎだと思っています。そういうときに,GPS端末を付けていることによって,ほかの国にあるように,例えばバイブが振動したりだとか,ピーピー音がしてここは入ってはいけないところだというようなことを本人が分かって,すぐその場を離れれば,それは恐らくそれでいいということになるのだろうと思うのですけれども,そういうような制度になるのかどうかというのは,ちょっと具体的なイメージを持たないと話が進みにくいのではないかと思いました。 ○酒巻部会長 そのほかにも,GPS端末は充電しないとあっという間に電池が切れるという話もあり,だんだん性能が上がっているのかもしれませんけれども,いちいち誰かが見張っているわけにもいかないので。充電切れというのは,GPSを装着させた側には分かるのですか。 ○吉田幹事 かなり技術的な話も入ってくるのではないかと思うのですけれども,先ほど天野委員がおっしゃったように,一定の地域に入ってはいけないという条件を付されていたのに,何らかのアクシデントで故意なくその地域に入ってしまった,けれどもすぐに出たというようなケースは現実に起こり得るのだろうと思います。そうした場合に備えて,法制度としてあらかじめそこまで書き込んでおくのか,それとも,GPS端末の技術的な仕様の問題として,例えばそのように一定の地域に入る,あるいは近付いた段階で音が出るようにしたりバイブレーションが作動するようにして,本人に伝わるようにしておくというのは,全体の仕組みとして考えるときには念頭に置いておく必要があるのではないかという気がいたします。   部会長がおっしゃった充電の問題につきましても,電池が完全に切れてしまうともはや機能しなくなりますので,残量が一定のところまで減ってきた段階で音がなるとか,本人に伝わるようにする,そういった技術的な仕組みを設けておくということも,仕組みを考える上では必要になってくるのではないかと思われます。 ○小笠原幹事 具体的にという話でしたので,本気で逃げたり,被害者等と接触しようとしている人はこれを付けたまま行くことは普通考えられなくて,だから第一には,付けることによってそういうことをしないという抑止的効果を刑罰によらずして生じさせるというのは一つの効果であろうと思います。   二つ目は,その本気でやろうとした人たちに対してどうするかという話で,そうすると,簡単に外せるのでは意味がないので,それは技術的に阻止しないといけない。簡単に外すことができないようにできると聞いております。あとは外したり壊したりしたときに,充電がなくなったときも同様ですけれども,そういったときにどうするかということを考えるのがまずポイントになってくるのかなと思いました。   そうすると,先ほど逮捕ということを言いましたけれども,まずは警察が確認するというところからですし,事情によって,事情聴取のために一時的なということであって,犯罪捜査,刑事訴訟法の逮捕と同じものではない。先ほどの発言の中の逮捕というのはそういう趣旨でした。   資料18に何か保釈法に基づく逮捕ができるみたいな話がイギリスについて書かれていたので,逮捕という言葉を使いましたけれども,実際は引致とか同行とかそういうところが近いところなのかなと思います。 ○菅野委員 まず,1点確認を事務当局にさせていただきたいのですが,具体的には位置情報をどのような機関が取得していくことを考えているのかということを,もしイメージがあったら教えていただきたいということが私の質問になります。   そして,あと1点意見を言わせていただきますと,やはりこの制度が仮に動き出すならば,私どもは,無罪が推定されて保釈がもっと出なければいけないというふうに多くの事件で感じていますし,特に否認事件であれば,逃亡されやすいとか罪証隠滅されやすいとか,そういった話で保釈が許されないので,このオプション,この制度ができたことによって,やはり今まで保釈が許されなかった方々に対しても十分保釈が検討されるような方向性が望ましいのではないかと考えています。やはり無罪推定の原則からすると,私どもはより多くの事件で保釈は認められるべきだと考えていますので,これは飽くまで意見にはなりますけれども,述べさせていただきました。 ○吉田幹事 今,菅野委員からお尋ねのあった点については,現時点で事務当局として定まった考え方を持っているわけではございませんで,具体的な選択肢としては,裁判官ないし裁判所とするか,あるいは検察官とするかといった辺りが一つ議論の対象となり得るのだろうと思いますけれども,その点についても御議論いただければと思っております。 ○酒巻部会長 GPSの装着につきまして,ほかに御意見はございますか。   それでは,この程度とさせていただきまして,ここで10分ほど休憩したいと思います              (休     憩) ○酒巻部会長 審議を再開します。   次は,配布資料12の第2-1「禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈(再保釈)について,同判決の宣告前の場合と比較して,要件を厳格なものにすること」についての議論を行いたいと思います。   議論に先立ち,配布資料12の第2-1に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,事務当局から説明していただきます。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の1ページを御覧ください。   制度枠組みには,禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈は,保釈されない場合の不利益が逃亡のおそれを上回るほど著しく高い場合,保釈された場合の逃亡のおそれの程度が著しく低い場合に限り許すことを記載しています。これは,刑事訴訟法第90条に規定されている裁量保釈の判断の在り方を前提とした上で,禁錮以上の実刑判決の宣告により一般的・類型的に逃亡のおそれが高まることに鑑み,その場合でもなお裁量保釈が適当と認められ得る二つの場合に限り,保釈を許すことができる旨を条文に明記するものです。   「検討課題」としては,「(1)」は前提として禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈の判断の在り方を,「(2)」は刑事訴訟法第90条との関係をそれぞれ挙げており,さらに,以上を前提として「(3)」は具体的な規定の仕方を挙げています。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明内容に関して御質問はございますか。よろしいですか。   それでは議論に入ります。「制度枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,御意見を頂ければと思います。 ○向井委員 この点につきまして,若干確認をさせていただきながら,意見を申し上げたいと思っているところですが,以前の部会でも御説明いたしましたとおり,実際の保釈の実務,現状というのをまず改めて申し上げますと,昨年来,裁判官同士の議論などを通じまして,実刑判決後の保釈については逃亡のおそれや刑の執行確保の要請が強まっているということを踏まえて,その段階における状況を改めて慎重に考えた上で,保釈の必要性や逃亡のおそれなどを吟味・検討する必要があるという理解が広まりつつあるという現状にあります。そうした議論が実務に反映されつつあると理解しているところでございます。   このような現在の実務の運用というのは適当なものではないかと思いますし,それを確認的に規定していくということが考えられるのだろうと思うところです。   そこで,この「たたき台」の案について,刑事訴訟法第90条との関係というのが「検討課題」に出ておりますけれども,この案が,その第90条と同じ枠組みを前提にした規定と考えていいかどうかというところを確認をさせていただきたいと思っているところです。 ○酒巻部会長 事務当局に対する確認ということですね。いかがでしょうか。 ○鷦鷯幹事 事務当局の考え方を御説明いたしますと,実刑判決の宣告後においても,裁量保釈は,保釈された被告人の逃亡のおそれの程度のほか,身体拘束の継続によって被告人が受ける不利益の程度などの事情を考慮して,その適否が判断されるという点において,その判断の在り方は,刑事訴訟法第90条に規定されている判断の在り方と異なるものではないということを前提としております。   そのことを前提に,禁錮以上の実刑判決が宣告された後においては,逃亡のおそれが一般的・類型的に高まった状況にあることから,それでもなお裁量保釈が適当と認められるのはどういう場合かという観点から考えますと,先ほど御説明したように,一般的・類型的に高まった逃亡のおそれを上回るほど保釈を許さなかった場合の不利益の程度が著しく高い場合,あるいは,個別具体的な事実関係を前提とすると,保釈された場合の逃亡のおそれが著しく低いと認められる場合というのが,保釈が適当と認められる場合として考えられる,そのような考え方で,この制度枠組みを記載しているものです。 ○向井委員 その考え方は共通のものかなと感じているところなのですけれども,実際の運用としましても,実刑判決後の保釈は,第一審時の裁量保釈と同様に,逃亡又は罪証隠滅のおそれの程度のほか,今鷦鷯幹事がおっしゃられましたとおり,身柄拘束により被告人が受ける不利益の程度その他の事情を考慮して,適当と認められるか否かを判断するという刑事訴訟法第90条の規律を前提にしながらも,実刑判決の宣告が逃亡のおそれの程度に与える影響を十分に検討して,被告人が受ける不利益ないし保釈の必要性について,第一審を経てもなお重視すべきものがあるのかどうかということを慎重に吟味するという形で,第一審の時とは異なる考慮をしながらも,これらの事情を総合的に考慮して,保釈が適当かどうかを判断しているというのが実情であると理解しております。   そういう理解,総論は全く共通すると思うのですが,「たたき台」の案というのは,そういう総合的な考慮というより,原則として保釈が認められないというような形になっていて,それを前提に,特段の事情がある場合に限って保釈を許可できるというふうにも読めるような形になっておりまして,一見すると刑事訴訟法第90条とは異なる基準を定めているようにも受け取れるのかなという感じがしておりまして,このような表現ぶりだとすると,現在の実務運用というものを適切に表現しているかどうか,若干疑問を感じるところでございます。   先ほど申しましたように,実際上は,一審判決が出たということを踏まえつつ,総合考慮しながら保釈が適当か否かを判断するという規律ですので,第一審時の保釈と共通の基盤を持ちつつも,実刑判決が宣告されたことから逃亡のおそれの程度その他の事情の考慮の在り方が変わってくるという実刑判決後の保釈の実務運用をもう少し端的に表現する規定の仕方を考える必要があるのではないかと思っている次第です。 ○酒巻部会長 今,「たたき台」に示されている文言がそのまま要件になるとは限りませんが,御意見の趣旨は,この表現だと,現在の裁判官が考えている運用よりも強い,踏み込んでいるということですか。 ○向井委員 そうですね,はい。 ○酒巻部会長 そのように読めるということですね。その上で,むしろ踏み込んで書いた方がいい,今よりももう一押し裁判官に対して条文が命ずることも考えられるという意見もあり得ると思いますが,制度枠組みを用意した事務当局としてはどういうお考えだったのでしょうか。 ○吉田幹事 資料を作成した事務当局としては,いわゆる再保釈は新たに保釈を許可すべき特段の事情がある場合に限られるべきであるという,いわゆる制限説を前提に作成しています。公刊物を見る限り,制限説が一般的な理解であるとされているのではないかと考えまして,それを表現しようとしたものです。制限説の考え方を表現するに当たって,刑事訴訟法第90条と全く違う判断枠組みを用いるということも議論としてあり得るのかもしれませんが,やはり,刑事訴訟法第90条の総合的な考慮の枠組み,すなわち,釈放した場合の逃亡のおそれの程度や罪証隠滅のおそれの程度というものと,身柄拘束を続けた場合の不利益の程度というものを大きな柱として考慮する,その判断枠組みと異なるものとする必要はないのだろうと考えまして,その二つのこと,つまり,制限説を前提とするということと,刑事訴法第90条の判断枠組みを用いるということを前提としたときに考えられる判断枠組みとして,今回の資料にお示ししている枠組みが考えられるのではないかと考えたものです。 ○角田委員 私は,この「考えられる制度の枠組み」を見て,かなり現在の運用の判断枠組みより保釈を制限するように読めると感じました。   制限説という御説明もあったのですが,制限説,非制限説という言葉が講学上あるのは分かっていますけれども,現実の裁判所の保釈の運用がどうかということになると,恐らく制限説のような考え方,つまり実刑判決後は原則としては保釈は認めないと,特段の事由があるかどうかを審査して判断していくと,そういう運用はしていないと思うのですね。   これは御説明しないと分かりにくいかと思いますけれども,判断枠組み自体は,保釈を認める方向の事情を見付けて拾い,それから消極方向,反対方向の具体的な事情も拾って,この総合的な比較衡量でもって最終的に保釈が適当かどうか,第90条は「適当」という言葉を使っていますので,適当かどうかという判断をしているのです。   では,どうして実刑判決後の保釈がこれだけ制限されるような形になるのかというと,実刑判決が出た後ですと,第90条の同じ判断枠組みで審査しても,逃亡のおそれは類型的に高まりますし,逆に保釈を認める方向の,例えば被告人の防御に関わる事情のようなものは類型的に低くなります。そうすると,同じ判断枠組みを使っていても,中身に盛る事実が全然違ってくるものだから,結果として非常に保釈が制限的な結果として表れてくる。こういうことになります。   私は,高裁だけでも5年以上裁判をしていましたので,自分自身の判断だけでなくて,高裁の保釈の判断に対する異議申立てという形で,高裁の他の部による保釈の判断の審査もやっていたわけですが,そういう異議申立てに対する決定書を見てきた経験でも,いわゆる制限説,教科書に書いてあるような制限説の発想で判断しているという実情はないと思います。   以上のことをあえて分かりやすく言いますと,再保釈も同じ第90条に依拠して判断しているので,判断枠組み自体は同じものを使っているのだけれども,中身に盛る具体的な事情が全然違ってくるので,結果として結論が違ってくると,そういう運用だと考えております。先ほどの向井委員の質問に対する事務当局のお答えが,いや,判断枠組み自体は特に現状を変えるつもりはないと,こういう御説明をされていたので,そういうことを踏まえて見ると,「考えられる制度の枠組み」の表現がやや強めに書いてあるような感じを受けます。   いずれにしても,整理しますと,制限説的な運用で恐らく実務は行われていないということで,同じ判断枠組みの中の盛る事実が違うだけで結論が相当違う,実刑判決後は保釈がかなり制限される運用になっていると。そういうことをより的確に表現しようとすると,もう少し別のワーディングも考えていただけると有り難いなという感じがします。 ○向井委員 今,角田委員からの御説明にもありましたように,制限説か非制限説かというのは置きまして,一審判決で禁錮以上の判決があったことが保釈の判断に影響を与えるものであると,ここはもう全く異論のないところかなと思うのですが,そのことを前提にした場合の表現ぶりとして,現在の第90条の枠組みの中でどういう表現が適当かと,その場合に,例えば,ということで考えられるところとして,原則・例外のような規定ぶりになると,すごくかちっとした今より制限的なようにも見えてしまうので,例えば,刑事訴訟法第90条とは別に,一審判決後のものとして,裁判所は,禁錮以上の判決の宣告があった場合には,第90条の適用に当たり,その宣告が被告人の逃亡のおそれの程度その他の事情に与える影響を考慮するといったような形で,きちんとそこを考えなさいよというようなことを明示することも考えられるのではないかと思った次第です。 ○酒巻部会長 具体的な御提案をありがとうございました。   先ほどの事務当局の説明との関係もあるのですが,この「たたき台」に書いてあるのは,先ほど角田委員が御説明された第90条の適用を判決宣告後について変容させるとこうなるという,ちょっと表現が強いかもしれないけれども,要するに,親切に書いてみるとこうなるというものであると読めばどうなのかなと思ったのですが。 ○角田委員 多分事務当局が考えておられることと私が先ほど言ったことはそれほど違わないような気もするのですね。結局,最終的に条文化するときのワーディングの問題のような気もしております。ただ,この制度の枠組みの記載において,以下のいずれかの場合に限って許すことができるものとするというふうに,原則的に許さないということを打ち出した上で,これを上回るほど著しく高い場合とか著しく低い場合とか,例外事情とするこの定め方は,この表現をそのまま採用してしまうと,今の運用とは違ってくるのではないかという感じがするわけです。 ○保坂幹事 ちょっと御説明しますと,この制度枠組みの記載については,条文を作るときのこともイメージしながらやっています。ですので,第90条は第90条で枠組みがあるわけですが,第90条は,要するに,保釈を認めるべきでない事情と保釈を認めるべき事情を考慮して,適当と認めるときに保釈を許すという枠組みなのですが,実刑判決があると,保釈を認めるべきでない方の事情である逃亡のおそれが類型的に,これは法的にも高まるという評価を受けているので,言わばバランスでいうと保釈を認めるべきでない方に重石が乗っかった状態になります。それを前提として第90条を判断するということを書くと,こんな形になるというわけですので,次回にまた議論するときに,もうちょっとどんな規定ぶりになり得るのかということも含めて,事務当局として改めて提示させていただければと思います。 ○酒巻部会長 弁護士の先生方からは何か御意見ございますか。 ○菅野委員 向井委員や角田委員がおっしゃられたように,この文言では今の実務を変容させる可能性があるというのであれば,今の事務当局の御提案については反対ということになります。というのは,今の保釈実務について,保釈が許され過ぎで問題であるというような問題認識は,当初の会議から出ていなかったように思われますので,保釈をより制限的な方向に変えてしまうような案には賛成できません。   私は,それを超えて,そもそも第90条以外の条文を作ることに反対です。というのは,控訴審ですから,もちろん無罪推定の下,原則として保釈が許される第一審とは異なる判断があることは重々承知しておりますけれども,控訴審の保釈は非常に個別性が強い交渉を裁判所と粘り強くしていくことが多いものですから,文言で類型的に切り取るような作業が難しいのではないかと思っています。したがって,今の第90条の文言のまま,裁判所と一件一件個別に協議を重ねて,保釈がふさわしいかどうかの判断をしていくことになじむのであって,条文化して,類型的な切り取り方をすることについては,私としては反対です。 ○小笠原幹事 私のイメージとしては,第90条を排除して新たにこの条文を作るのかなと思っていたのですね。そうすると,要は第344条で,第89条だけでなく第90条も適用しないとしつつ,裁量保釈は「考えられる制度の枠組み」のようにすると。そうすると,まず一つは,不利益との衡量が逃亡のおそれのみであって,罪証隠滅は考えないと。一審において証拠はもう出ているんだからと,そういう評価と,もう一つは,逃亡のおそれが著しく低い場合は,本人の不利益とかそういう必要性は考えずに保釈をすると。こういうふうに判断できるのであれば,これは広くなるのかなとも思ったのですけれども,そうではないのでしょうか。飽くまで第90条の枠組みの中で罪証隠滅のおそれも考慮要素には入ってくると。   だから,第90条の解釈規定として第344条の後ろにでも置くのかなというのが事務当局の考え方という,そういう理解ですかね。 ○鷦鷯幹事 規定をどこに置くかという点については立法技術的なところもございますので,それは様々な考え方があるかと思いますが,制度枠組みにお示ししたものは,実刑判決が宣告された後の裁量保釈については,刑事訴訟法第90条そのままの文言ではなく,また別の規定が適用される,ただ,その規定自体の基本的な考え方は第90条と共通すると,そういう考え方に基づくものです。 ○小木曽委員 今までの議論を伺っておりまして,先ほど向井委員がおっしゃったようなものが方向性としては皆さん一致しているのかなという感想を持ちました。 ○佐藤委員 第2回会議の際に,「たたき台」にあるような整理が考えられるのではないかと申し上げたことの関係で,一言述べさせていただきます。   その折には,第90条の規定を前提にしつつも,現行法には,禁錮以上の実刑判決の宣告後においては,実刑判決の宣告によって保釈等が当然に失効する旨の規定があるため,一般的・類型的に逃亡のおそれが高まると考えられる段階における裁量保釈に関しては,実刑判決の宣告によって類型的に生じた状況を踏まえた取扱いを,第2回会議でご紹介のあった,実務の現状を反映した形で明文化し,裁量保釈についての明確な判断基準を示すのが望ましい,そういった趣旨で発言をさせていただきました。そこで用いた,「著しく」高い,低いといった表現については,今までの御議論を伺い,なお整理の余地があるように考えておりますが,実務の現状に対応する判断基準について更に議論を尽くして具体的な案を作成するという方向性については賛成したいと思います。 ○酒巻部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは,次に,「第2-2 控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けること」についての議論に進みます。   議論に先立ち,配布資料12の第2-2に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について,まず事務当局から御説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 それでは,配布資料12の2ページを御覧ください。   制度枠組みには,「(1)」として,禁錮以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって,保釈され又は勾留の執行を停止されている者は,控訴審の判決宣告期日に出頭しなければならないことを記載し,「(2)」として,その場合における被告人の召喚について記載しています。   「検討課題」には,まず「(1)」として出頭義務を課すべき被告人の範囲を,「(2)」として控訴審判決の内容による出頭義務の有無をそれぞれ挙げています。これらは,どのような場合に出頭義務を課すかに関わるものであり,第一審において禁錮以上の実刑判決を宣告された被告人に限るべきか,保釈中又は勾留執行停止中以外の被告人も含めるかといった点のほか,控訴審において禁錮以上の実刑判決以外の判決,例えば執行猶予付きの判決を宣告する場合にも出頭義務を課すべきかといった点についても御議論いただければと思います。   また,「(3)」として,被告人が出頭義務に違反して判決宣告期日に出頭しない場合の判決宣告の制限の要否・可否を挙げています。   そして,判決の宣告を制限するとした場合に,いかなる判決も宣告できないものとするかという点も,更に御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明に関して御質問はございますか。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。これまでと同様,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも,あるいは記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。。 ○向井委員 「検討課題」の(3)の出頭義務に違反した場合の判決宣告をどうするかという問題について,若干意見を申し上げます。   控訴審において保釈中あるいは執行停止中の被告人に対する判決宣告を制限するかどうかという,この問題につきましては,判決の宣告,それから判決の確定というものが,被告人の心理に及ぼす事実上の効果と,法律上の効果,時効との関係ということになりますが,この二つの側面から十分慎重に考えていく必要があるのではないかと思っております。   まず,被告人に及ぼされる事実上の心理的効果について,実務的に控訴審等を経験したところを踏まえて発言をさせていただきます。   法律上出頭を義務付けられることにより,義務違反による種々の制裁を避けるべく出頭してくる被告人は当然増えていくと思われますので,その意味で,出頭義務付けには一定の逃亡防止効果があると考えられますし,出頭した被告人を速やかに収容することができますので,刑の執行確保の効果も期待できると思うわけですが,更に踏み込んで,判決の宣告を制限することでどうなっていくのかということについては,これまでの実務経験を踏まえた感覚から申し上げますと,判決宣告期日に出頭しなければ判決宣告してもらえないから出頭したいと考える被告人というのは,余り考えられないのではないか,出頭義務違反の制裁を気にしない被告人が,判決宣告を受けたいから出頭してくるということは考えにくいのではないかと思うわけです。むしろ,実刑が予想される被告人を考えますと,判決宣告延期の方が望ましいと考えるのが普通ではないかと思います。   したがいまして,出頭義務を課したにもかかわらず出頭しなかった被告人に対して,判決宣告を延期するという仕組みを付け加えることは,逃亡防止効果ですとか,刑の執行確保の効果につながるのかどうかについては,疑問を感じるところです。   しかも,そのような仕組みができますと,判決宣告期日に出頭しないことによって,被告人のイニシアチブで判決宣告自体を回避できて,有罪判決の確定を免れるという利点を被告人に与えてしまうことになります。   出頭するかしないか考えている被告人に対して,出頭せずに判決宣告を妨害するインセンティブを与えてしまうことになり,実務的感覚からするとかえって逃亡や出頭拒否を促す効果が容易に想定され,非常に危惧されるところです。   被告人の中には,長期刑の執行だけでなくて,有罪判決や懲役刑判決の確定により,例えば資格要件を失うことなどに強い経済的利害を感じる者もおりまして,第一審では資格要件に問題の生じない罰金刑あるいは無罪を獲得を目指して争い,裁判所の印象も気にするため,出頭などには全く問題なく応じていた被告人が,第一審で懲役刑の有罪判決を受けますと,今度は何とかその確定の先延ばしを図ることを最優先に考え始めるということが,実務的には予想されることが心配な点です。   また,実刑収容が現実のものとして迫ってくるにつれて,逃亡まではせずとも,目の前の判決の先延ばしだけでも図りたいという気持ちが強まるという一般的な心理効果も考えられるところです。さらに,そのような被告人は,判決確定を阻止するために判決の宣告を免れるべく,不出頭に正当理由があるように見せかける工作をすることも考えられます。   現在の運用ですと,控訴審では被告人の出頭を要しないため,判決に熟した状態であれば直ちに判決宣告ができ,その時から上訴期間も進行しますので,被告人の意図にかかわらず速やかに判決を確定させることができるため,このような工作をする被告人が現れたとしても,意図したとおりに判決を引き延ばすことは難しいのが現状です。   更に気になる点としまして,控訴審の判決宣告期日には,被害者やその関係者が傍聴したり参加しているということもあるわけですが,被告人不出頭や逃亡を理由にその公判期日に判決宣告ができなくなることになりますと,判決宣告期日に集まった関係者の期待を裏切る結果になりますし,また,被害者がいない経済事件なども含めて,裁判の結論が公に示されることへの社会一般の期待というものもあると思われるわけですが,被告人が見付かるまで,被告人がいないという理由によって控訴審の判断が延々と示されないということになってしまうことが,しかもこれが判決宣告や確定を回避したい被告人の望みどおりの状態になってしまうような仕組みを新たに設けることが,果たして社会一般の理解を得られるのかどうかという点について,若干疑問を申し上げたいと思います。   もう一つは,時効の関係です。   判決が確定すれば,執行機関は,当然,刑の執行をしなければならず,刑の執行をしないまま長期間が経過すれば,刑の時効が完成して刑の執行ができなくなると。これは在宅のまま起訴されて身柄拘束されることなく判決を言い渡された被告人であっても,保釈中に実刑判決を受けた者であっても同じなわけですけれども,このような刑の時効を考えたときに,刑の執行を直ちにできる法的状態であるにもかかわらず,長期間,行政機関が刑の執行をしなかったという事実状態が続くことによって,その結果,新しい法律関係や事実関係が生じることになり,そのような既に生じた事実状態を尊重することによって,社会的安定性を図るといった趣旨が含まれているのだろうと思うわけです。   他方で,刑の時効が完成することに対して,常識的な感覚からして違和感を感じる場合としては,執行機関が刑の執行をしようとしてもできない場合というのが考えられるのかなと思います。現行刑法では,執行猶予期間中には時効期間が進行しないと定められておりまして,法律上,刑の執行ができない場合には,時効進行の停止が定められているわけですが,事実上執行できない場合に関する規律はありません。   これに関して,この部会におきまして,検討のための「たたき台」の第3-3として,刑の確定した者が国外にいる間,刑の時効はその執行を停止するものとするということが御提案,検討されておりまして,刑が執行できない場合の一つとして,国外にいるということは考えられていると理解しております。   この点に関する第3回会議における委員の御説明にも,刑が確定した者が国外にいる場合に,国内にいる場合と異なり日本の執行管轄が及ばず,引渡しを求めるしかないことから,相手国の主権との調整の観点から刑の時効を停止させる必要があるという御意見があったと思いますが,国内にいる間には刑の執行が可能で,刑の時効が進行するということが前提とされていると理解しました。   さらに,検討のためのたたき台の第3では,確定した裁判の執行を確保するための方策として,国内逃亡者に対しては,捜査段階における強制処分と同様の調査権限を刑の執行段階についても調整することですとか,実刑判決が確定した者が収容を免れるために逃亡する行為に対する罰則を設けることなども提案・検討されておりますし,判決確定後に確実に刑の執行を確保する制度の構築が目指されていると理解しておりまして,これらによって国内逃亡者に対しては確実に刑の執行を行うことが期待され,執行機関にそれが要請されるという姿を目指しているものと理解しております。   そうであるとすると,国内で逃亡していること自体は,今の理解ですと刑の執行を不可能にする事由としては考えられないということになるわけで,判決の確定後は国内逃亡者を含めて執行機関として速やかに刑の執行に着手してこれを行うべきというような形になるんだろうと思うのですが,仮に国内で逃亡中の者について刑の執行が事実上できないため,刑の時効期間がどんどん進行してしまうということが問題であるとするならば,刑の執行を不可能にするような逃亡事実,例えば,行政機関として手を尽くして調査したけれども見付けられなかったというような逃亡とか所在不明の事案・事実自体を刑の時効停止事由として整理する方が本筋なのではないかと考える次第であります。   行政機関による執行の可否あるいは執行できないおそれというのは,どのように時効を進行させ,あるいは停止させるのが適当かという時効制度の中の方で考えるべき事柄であって,これによって,先ほど申し上げたような様々な弊害も考えられます裁判の要である判決の宣告の可否自体が左右されてしまうというのは,若干筋が違ってくるのではないかと考える次第であります。 ○酒巻部会長 一番最後に刑の時効の話がありましたが,控訴審の判決期日の出頭義務付けと判決を宣告できなくすることとどのように関係するのか確認したいのですが。 ○向井委員 前回の会議などで,判決宣告をしてしまうと刑が進行する,時効が進行するのが問題だという話があり,それに対して時効の関係は別途の整理がふさわしいのではないかと,こういう趣旨です。 ○酒巻部会長 第一審は,基本的には被告人がいないと審理もできない,開廷もできないし,当然判決も言い渡せないのですが,向井委員がおっしゃったいろいろな問題点のほとんどは第一審と一緒ではないかと思ったのですが,いかがですか。 ○向井委員 第一審との違いについても若干意見を申し上げたいと思います。   まず一つは,審判手続の構造の違いがあると考えております。第一審では,当事者主義の訴訟構造の下で対等な立場にある被告人と検察官が口頭主義・直接主義に基づいてそれぞれの主張・立証を尽くして判決に至ることになり,被告人の立会いが適正・公正な審判のために不可欠であるため,審判手続の適正等の観点から被告人の出頭が開廷要件になっていると,こういう理解をしております。このことは,仮に実刑判決が宣告されても直ちに収容されない在宅の被告人であっても,その出頭が開廷要件とされているわけですから,明らかであろうと思います。   これに対して,控訴審がどう違うかというところが若干分かりにくいところがあるかと思うのですが,既に出された第一審判決の当否を事後審として審査するので,主として記録に基づいて審査することが予定されております。そのため,原則として被告人が出頭することなく公判期日を開くことができるとされています。審判の手続の構造が大きく異なるという理解をしております。   更に言うと,控訴審判決では,公判期日が開かれるのですが,上告審に至っては,この事後審,記録審査の性格はより強められ,そもそも弁論期日はほとんど開かれませんし,被告人の公判期日への出頭は予定されていない。再々保釈が認められた被告人の刑の執行の確保は常に法廷外で行われることが予定されているところであります。   このように,第一審,控訴審,上告審とそれぞれ審判手続の構造,判決の性格は異なりますので,第一審判決宣告において被告人の法廷への出頭が義務付けられているからといって,控訴審判決を同列に考えなければならないということは言えないのではないかと考えます。さらに,事実上の部分でも大分違うのではないかということ,先ほど実務的感覚というものを申し上げましたが,そこを付け加えたいと思います。   第一審判決と控訴審判決では,出頭に対する被告人の心理が大きく異なると感じております。先ほども述べましたが,第一審判決時は無罪を争っていたり,量刑について争っていたりして,被告人においても第一審判決については少しでも有利な判決が出るように期待して行動するという心理的側面がありますので,判決宣告期日に出頭することは,大いに期待ができ,現に皆出てきているわけですが,これに対して,控訴審では,既に第一審で実刑判決が言い渡されており,出頭を義務付けているにもかかわらずあえて出頭しないような被告人というのは,もう確定を先延ばしにすることを専ら考えていくと予想されますので,被告人の心理に及ぼされる事実上の影響力の観点から見ますと,第一審の場合が大丈夫だからいいのかというところについては,大分違いがある。第一審の場合よりも判決宣告制限には大きな弊害が実際上生じてくるのではないかというところを非常に心配いたしております。 ○酒巻部会長 いろいろな観点からこの制度枠組みの問題点が指摘されたのですが,事務当局から何か意見がありますか。 ○吉田幹事 1点お尋ねしたいのですが,今回,制度枠組みとして記載している控訴審の判決宣告期日への出頭の義務付けは,刑の執行の確保という目的のためのものです。これは,審判の適正を図るとか,被告人の権利の保護を図るというものではなく,飽くまで刑の執行を確保するという観点によるものです。   具体的には,保釈中の被告人について実刑判決が言い渡されると,保釈が失効し,本来身柄拘束をすべき状態に置かれるのに,実際には,出頭義務がないためにそこに被告人がいないことがある。そこで,判決宣告のときは必ず被告人が法廷にいるようにして,実刑が言い渡されたときには速やかに,かつ,確実に収容できるようにするというものです。   そのような目的で出頭義務を課しておきながら,現実に法廷に来ないときに,判決を言い渡して保釈を失効させるというのは,義務を課す前提と正面から矛盾することになるのではないかという疑問がありまして,判決を宣告できるとするのであれば,むしろ,元々出頭義務を課すべきでないと考えるのが筋なのではないかという気もするのですけれども,出頭の義務付けを前提としつつ,実際に出頭しないときでも判決の宣告を可能にするということが,果たしてどのように論理的に整合するのかという点が,お聞きしていても理解ができなかったところです。   第一審との違いとして,審判構造の違いというお話がありましたが,控訴審の判決宣告期日への出頭の義務付けが飽くまで刑の執行確保のためであるということからしますと,審判の構造は関係がないように思われますし,また,刑の執行確保という目的ですので,それによる被告人への心理的な影響というのも,基本的には考慮する必要がないのではないかという気もいたしまして,飽くまで刑の執行確保という観点から考えたときに,実際に被告人がいないのに判決を言い渡してよいとすることは,果たしてどのように説明されるのかということが,お聞きしていて分からなかったので,教えていただければと思います。 ○酒巻部会長 この点について,ほかの委員・幹事の皆様は,御意見ありますか。 ○小笠原幹事 まず,第一審判決について被告人の出頭がなければできないというのは,先ほど向井委員がおっしゃったとおり,ある意味本人の裁判を受ける権利をきちんと保障するためであろうと思います。結局,判決期日に出頭しているから刑の執行を確保できるというのは,ある意味,裁判を受ける権利を守った反射的利益みたいな話であって,元々,第一審の判決宣告期日の出頭義務ですら,刑の執行確保のためではないと思うのです。だからこそ,出頭しないから罰則とか,そういうのが全然ないのは,そうではないかなと思います。   控訴審において,刑の執行を確保したいということであれば,例えば,裁判官が保釈の条件として判決宣告期日に出頭することを義務付けておいて,それで出頭しなければ保釈を取り消して,判決宣告期日を延期して,再度きちんと確保して判決に出頭させればいいのでしょうが,それは判決をそのまま宣告するのとさほど変わらないのではないかなと思うと,余り意味がないのではないかなと思います。   判決ができないとすることの弊害は,先ほど向井委員がおっしゃったとおりだと思います。そうすると,元に戻って法律で出頭を義務付ける意味というのがどこまであるのかなということで,今のお話を聞いていてかなり疑問に感じました。感想的なところで申し訳ないですけれども,以上です。 ○小木曽委員 第一審と控訴審の構造の違いというのは,先ほどから御指摘もありますけれども,適正手続の要請がある第一審の性質と,それが後退する上訴審の性質に違いがあるわけですが,今議論しているのは,刑の執行をどうやって確保するかということですので,ここでは訴訟構造は関係がなかろうと思います。 ○髙井委員 先ほどの向井委員の意見は,ある意味非常に説得力があって,私も傾聴させていただきましたが,例えば,法廷に被告人が出てこないから,被告人によって判決宣告日が左右されてしまうではないかという御意見については,これはやはり一審でも同じなわけですね。おっしゃるように,一審と二審は訴訟構造が違うんですが,今回のこの議論においては,その訴訟構造の違いというのは余り意味を持たないのではないかと。そういう意味では,二審で不出頭のときの判決宣告の問題と,一審の不出頭のときの問題は,基本的には同じだと思います。   一審のときに出頭しなければ宣告できない仕組みになっているわけですから,二審においても同じような仕組みにしたとしても,それほど大きな問題は生じないのではないかとまず思うということと,向井委員の御意見を聞いていて非常に関心があったのは,要するに被告人の信念に与える影響という部分で,向井委員は,被告人がかえって出頭しなくなるのではないか,判決宣告ができるようにしておいた方が二審で出頭の確保の要請を満たすのではないかというところが,多分向井委員の説の核心部分だったと思うんですね。   ただ,ここは,被告人の行動をどう読むかということで,非常に難しい問題もあると思うのです。例えば,一審で無罪を争い,有罪になり,二審に行きました。そのときに,自分が出頭しなければ判決宣告がなされない場合と,自分が出頭しなくても判決宣告がされてしまう場合とを比べると,例えば,自分が出頭しない状態でまた実刑判決が出たとなったら,その被告人はこれはもう逃げるしかない。その一方で,自分が出頭しなかったために判決宣告がなされなかった状況のままですと,向井委員がおっしゃるようなマイナス面も確かにあるんですが,実刑判決がなされたときに比べると,逃走意欲というのはそれほど強くならず,これはもう逃げるしかないとまでは思わないのではないかと。これは被告人の心理の読み方ですから,一概にどちらということにはならないと思うのですが,要するに,実刑判決をすることによって逃走意欲を固めてしまうという問題も考えて議論をしないといけないかなと思いました。 ○佐藤委員 第3回会議の際に,被告人が出頭義務に違反して出頭しない場合,判決の宣告制限という対応が考えられるのではないか,という発言をいたしましたので,一言述べさせていただきます。   第一審と控訴審の違いに関して,第一審については,被告人の裁判を受ける権利の保障や審理の適正確保の要請との関係で,被告人には公判に出頭する権利があるとともに,出頭する義務が課されており,刑の執行確保にとって重要な,判決宣告期日に被告人が在廷しているという状況,また在廷していなければ開廷することができないという状況がすでに確保されています。そのため,刑の執行確保の要請を強調し,特別の規定を設けなくても格別問題が生じないのに対し,控訴審については,被告人に出頭義務がなく,第一審に関して述べた状況が存在しないため,刑の執行確保の要請が前面に出てくることとなります。このことを前提にして,どのような方策があり得るか,新たに考えていく必要があると思います。   また,先ほど吉田幹事から御発言がありましたが,出頭義務を課されているにもかかわらず,被告人がその義務に違反して判決宣告期日に出頭しない場合に禁錮以上の実刑判決を言い渡すことができる,ということになりますと,判決の宣告によって保釈等が失効するのに,それが被告人の身体拘束状態の現実的な回復と連動しないため,判決の確定を経て,刑の執行へとつなげていく上で間隙が生じることになるのではないか,というのが,私が抱いた懸念でした。   被告人に出頭義務を課すのであれば,それに整合するような形で後の手続を整えていくことが必要であり,そうした観点からは,刑の執行確保のために出頭義務を課したにもかかわらず,刑の執行を最終的に担保する方策のところで間隙が生じてしまう,というのは,徹底を欠くきらいがあると考えているところです。 ○角田委員 多岐にわたる御意見が出たので,整理して申し上げたいと思います。まず,事務当局の方で冒頭に言われていたことに関連してですけれども,判決宣告期日に出頭義務を課するということは,非常に意味があると思うのです。出頭義務を課せば,恐らく多くの被告人は出頭してきますので,実刑収監ということで処理できる事例が増えるのは間違いありませんから。ただ,そのことと,件数は少ないでしょうけれども,被告人不出頭の場合に判決宣告をしないという制度を組合せにすることの意味は疑問です。判決宣告をしないことが,刑の執行確保あるいは逃走防止に何か意味があるかというと,これは恐らく何もないだろうと思われます。   一つ指摘したいのは,判決宣告というのは,やはり刑事手続の中で要になる非常に重要な手続だということです。既に一審で判断が出て,無罪推定も後退して,控訴審での審理も全部終えて,判決に熟した状態で,判決宣告をできる状態なのに,被告人が義務があるのに出頭してこないことで言い渡しができなくなる,これは非常に大きな不都合ではないかということです。   判決は,もちろん被告人に対する関係で意味があるわけですが,それだけでなく,被害者側,あるいは事件関係者から見ても,一体この事件はどういう実体・実像だったもので,どういう刑が科されるのかということにつき,非常に強い関心があるはずです。それが被告人不出頭による判決宣告制限をかけてしまうと,いつまで経っても明らかにならない。そのまま埋もれてしまうことさえあり得るわけなので,そこのところは非常に問題です。あと一般社会でもこの事件はどういうものだったのかということに対する関心が高い場合も多いと思います。それなのに,宣告制限をかけてしまうと一切言渡しができないことになります。これは,関係者,社会一般に対する期待に反する面があると思われます。    他方,被告人に出頭義務を課しつつ,判決宣告制限をかけない場合ですが,被告人が不出頭のとき,必ず判決宣告をするのかというと,それは決してそうではありません。   具体的な場面を想定してみると,出頭義務をかけたのに被告人が出てきていなければ,裁判所はどうするかというと,まずは弁護人に何か情報がありませんか,事情を把握していないでしょうかと聞きます。もちろん検察官からも情報収集をするでしょう。そして,不出頭の事情が分からないとか,例えば弁護人がどうも昨日まで出頭すると言っていたのですがというような情報提供をするようなことであれば,宣告を控えるはずです。何が何でもそれで言渡しをするということにはならないと思います。   ということは,どういうことかというと,裁判所の方で不出頭に関する情報をできるだけ収集し,その事情を踏まえて,宣告するかしないか,事案に応じた一番適切な方法を選べるということになります。これに対して宣告制限をかけてしまうと,法律上言渡しができなくなってしまうわけなので,被告人側にどんな事情があろうが,社会の判決に対する期待があろうが,言渡しができないという状態がずっと続く,解消されないまま続くという,非常に硬直的な制度になるおそれがあるのではないかということを一つ考えます。   それと,この宣告制限の提案は,非常に限られた場面の問題だと思います。控訴審で,しかも保釈中の被告人に限定された話になります。先ほど,向井委員の意見でも触れられていましたが,道路交通法違反などですと,在宅の事件で実刑判決で控訴棄却というようなことももちろんあるわけで,場面はやや異なりますが,その場合,被告人不出頭でも言渡しをするわけです。保釈中の被告人について判決宣告制限をかけるとしても,今のような在宅の事例は制度から外れてくるでしょうから,宣告できるという取扱いをするのだと思います。だから,この提案は,非常に限られた場面の問題にすぎないということも指摘しておきたいと思います。   刑の時効の問題もやはり考えておかなければいけないという気はします。判決を言い渡してしまうと,刑の時効にかかってしまうという不都合があるではないかというのは,ある意味では説得的というか,なるほどと思わしめるものがないわけではないと思います。ただ,よくよく考えてみると,刑の時効の問題も,先ほどの向井委員の意見でも触れられていましたが,本来,判決が言い渡されて実刑判決が確定したのであれば,当局としてはできるだけ身柄を確保して刑を執行することに努力すべきだし,現にその努力はされているわけなんです。   しかも,この部会の中でも,刑の時効について不都合があるのであれば,あるいは逃亡・逃走された被告人について刑の執行が事実上でも支障が起こり得るのであれば,それに対する対策も考えていこうということで,被告人が国外にいる場合であれば刑の時効を止めたらどうかという提案もされているわけですし,あるいは身柄を確保するための手段として捜査段階における捜査機関が使える調査の方法のようなものをこの場面でも導入したらどうかというような議論もされているわけです。やはり本筋の議論としては,実刑判決が言い渡されて確定した以上は,そちらの方向で努力を重ねていくということが重要で,判決の宣告を避けることでそこを何とかしようというのは,私は少し方向性が違うのではないかという感じがいたします。 ○保坂幹事 1点だけ確認をしたいのですけれども,この制度枠組みは,要するに,保釈中の被告人は,控訴審のふだんの期日には出頭しなくていいけれども,この日だけは出頭しなさいという義務付けで,しかも裁判所から直々に召喚が行くというものです。   言わば,そうすることが元々保釈に当たっての当然の義務というか,条件として明記するかはともかく,保釈が許されているのは,この日に来るから,だから保釈が許されているという関係になると理解できるわけで,そうだとすると,この日にだけは出頭しなさいと言われた日に被告人が法廷にいないとなったときには,角田委員もおっしゃったように,まずは何で来ないんだと,こんな義務があるのにということになる。そうすると,保釈をこのままにしておいていいのか,取り消すべきではないのかということが先決問題になるのが筋であって,普通の思考経路としては,では判決するかというふうにはいかないのではないかと思うわけですが,それはそういう理解でよろしいでしょうか。 ○角田委員 ええ,その点は私も同様に考えています。おそらくそういう事案ですと没取まで含めて考えていくことになると思います。その制裁をかぶせた上でですね。 ○保坂幹事 そうだとすると,その段階で保釈を取り消して勾留をする意味というのは,正に身柄拘束をした状態で判決をするためということになるわけです。つまり,もう審理は残っていないわけですので,身柄拘束をする意味があるとすれば,判決時に本人が身柄拘束されて,確実に刑の執行につながるためということになりますので,保釈を取り消して,やはり勾留された状態になるまで判決を言い渡さないというのが,これまた筋ではないかなと思うのですが,いかがですか。 ○向井委員 判決宣告制限を一律に行うことが適当なのかという問題設定になっているかなと思いますので,今のように事案に応じて判決宣告を延期して保釈取消しとかそういったことを考えていくのが適当な事案ももちろんあるでしょうが,全ての事件で一律に判決宣告制限をしてしまったときに起きる不都合というものも考えなければいけないのではないかという趣旨でございますので,出頭義務違反に対してどういう制裁を科していくのかとか,そのためにまた再度保釈を取り消して勾留するのかということについて,否定する趣旨で申し上げているものではなくて,一律に判決宣告ができないものとすることによる弊害ということがあることを考えると,正に事案に応じて必要なものについてはもちろん判決宣告を延期して,先ほど話にも出ていましたように,事情を調べて取り消すべき保釈を取り消したり,没取の制裁を科すということは十分あり得るし,判決宣告を延期するということも当然あるのだとは思うのですけれども,一律にできないということによる問題点というのも十分お考えいただければという趣旨でございます。 ○保坂幹事 判決期日に被告人が出頭しなかったのに,保釈の問題は置いておいて判決を言い渡すべき場合というのがよく分からないのでお聞きしたいのですが。まずは身柄の問題こそ先に解決すべきではないのかということに対して,いやいやそのことは置いておくべきだという事情というのは,どういう事情があるのか。つまり,一律に判決宣告することができないのがおかしいのだとすると,出頭義務を果たさないときであって,なお,身柄確保のことは置いておいて判決宣告に進むべき事情としては,どういうものがあるのですか。 ○角田委員 私もそれはどうなんだろうと考えてみると,そのまま判決を言い渡さなければいけない事件というのは,実はそれほど多くないという気がします。しかし,例えば,弁護人からの意見聴取の際に,事後的に,今にして思えばどうも被告人に何か逃亡の気配があったというような意見を言われ,事案が非常に社会的に影響の大きい,関心の強い事案であるというような場合であれば,言い渡すという選択肢もないわけではないのではないか。こんなことが考えられると思います。ただ,実務的に考えてみると,一体全体なぜ出頭してこないかというのがそれほど断定的には判断できない場合が多いでしょうから,そうすると,取りあえずは宣告をもう一回期日を入れるか,あるいは保釈取消しをするか,それは調査してということになろうと思うので,その期日の宣告は避けて続行するという取扱いが多くなるような気はします。   ただ,以上は想定ということになるので,こういう事案が必ず多いとか少ないとか,そういう言い方はできませんけれども,事例として考えられるのは,先ほど述べたようなものが一つの例だと思います。 ○酒巻部会長 主として判決宣告をどうするかという議論になりましたが,前提として,「検討課題」の出頭義務を課すことそれ自体の範囲について,突き詰めていくと,在宅の被告人についても控訴審の判決はどうなるか分かりませんから,そのときに来てもらうのを義務付けるのは広過ぎますかね。どなたかから御意見を聞きたいのですが。 ○小笠原幹事 在宅の被告人については,出頭義務を課しても判決の宣告と同時に収容できないので,そうした人たちについては刑の執行のために出頭義務を課す意味はないと思います。現に勾留されている被告人であれば,形式的に出頭義務を課して法廷に連れてきてもいいかもしれませんが,在宅は難しいのではないかなと思います。 ○髙井委員 先ほど来言われていることですが,確かに実務としては判決宣告ができるからといって直ちに判決をしないで様子を見るということは多いと思うのですね。どうやってみても,どうしてもこれはもう出頭してくる見込みがないというふうになったときに判決宣告だということになろうかと思うんですが,実際の問題として,そういう場合はもう既に逃走してしまっているわけですよね。ですから,実務上のことを考えると,余り意味のない議論になってしまっているなという感じがします。 ○小木曽委員 先ほどの角田委員の,判決をしないと被害者や社会の期待に応えられないという御発言ですが,もし有罪だった場合に,そこに被告人がいません,逃げてしまって刑の執行ができません,しかし判決の宣告はしましたということになった場合も,被害者や社会の期待に応えられないという見方もあろうかと思います。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はございますか。   それでは,予定した時刻が迫っておりますので,本日の議論はここまでということにさせていただきまして,次回は,「第2-3 禁錮以上の実刑判決の宣告後,被告人が現に逃亡した場合における制裁(保釈の取消し及び保釈金の没取)を強化すること」というところから始めたいと思います。よろしくお願いします。   それでは,次回の日程をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回第6回会議は,令和2年10月30日金曜日午後2時からを予定しております。場所は本日と同じ法務省地下1階大会議室でございます。 ○酒巻部会長 本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して,公表することにさせていただきたいと思います。   それから,今日の配布資料も公表することとしたいと思います。そのような取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日も長時間どうもありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。 -了-