法制審議会 仲裁法制部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和2年11月20日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時06分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会仲裁法制部会の第2回会議を開会したいと思います。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   まず,出席状況ですが,本日は河井委員,山田委員,衣斐幹事,垣内幹事が御欠席と伺っております。また,有田委員,道垣内委員,吉岡幹事はウェブ会議で御出席ということです。   前回に引き続きまして,本日はウェブ会議の方法を併用して議事を進めたいと思いますので,まず,ウェブ会議に関する注意事項を事務当局から説明していただきます。 ○福田幹事 福田でございます。前回の部会と同様のお願いとなりますけれども,念のため改めて御案内をさせていただきたいと思います。   まず,ウェブ会議を通じて参加されている方の映像及び音声を確認させていただきます。私の声が聞こえておりましたら,手を挙げる機能を使ってお知らせいただけますでしょうか。ありがとうございます。下げていただいて結構です。   それでは,ウェブ会議に関する注意事項を説明させていただきます。ウェブ会議を通じて参加されている皆様につきましては,ハウリングや雑音の混入を防ぐため,御発言される際を除き,マイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願い申し上げます。   審議において御発言される場合は,先ほどの手を挙げる機能をお使いください。手を挙げる機能は,画面の下側に表示されるコントロールバーの中にある手のひらマーク,こちらをクリックすることによって使用することができます。それを見て部会長から適宜指名がありますので,指名されましたらマイクをオンにして発言してください。発言が終わりましたら,再びマイクをオフにし,同じように手のひらマークをクリックして,手を下げるようにしてください。   なお,御発言の際は必ずお名前をおっしゃってから発言されるようお願いいたします。ウェブ会議の方法で出席されている方にはこちらの会議室全体の様子が伝わりにくいため,会議室にお集まりの方々には特にこの点,御留意を頂きたく思います。   私からの説明は以上です。 ○山本部会長 それでは次に,本日の審議に入ります前に,配付資料の説明を,やはり事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。まず,本日の審議に際しまして,事前配付資料として,部会資料2「仲裁法等の改正に関する論点の検討(2)」をお送りさせていただきました。そちらに1か所誤記がありましたので,本日は修正したものを机上に配付させていただいております。ウェブで御参加の方にも先日メールで送らせていただいたかと思います。この内容につきましては,後ほど御説明をさせていただきます。   また,前回の会議の際に配付しました参考資料1-1と1-3,こちらを本日,再度机上配付させていただきました。中身は変わっておりません。本日の議論におきましても,モデル法の規律や諸外国の規律を参照する機会が多いと思われますので,その際は適宜これらの資料を参照していただければと思います。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は仲裁に関する各論について,一読目の検討ということになります。部会資料2の記載内容に即して順次審議をお願いしたいと思いますけれども,まず「第1 暫定保全措置に関する規律」のうち1から6まで,資料2でいきますと1ページから8ページぐらいまでですが,この部分についての御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 それでは,吉川から説明をさせていただきます。   部会資料2は,前回の会議においてモデル法の一部改正を踏まえた仲裁法の見直しを検討するという方向性については特に異論がなかったという理解を基に作成しております。モデル法の一部改正に対応していると評価されるためには,どこまでモデル法に対応した規律を設ける必要があるのかという問題がございますが,この点についての基準は明らかにされておりません。そこで,部会資料では,モデル法の一部改正に対応しているとされる国や地域の規律を参照しつつ,検討しております。   まず,第1の1では,暫定保全措置の定義(類型)について,改正モデル法に対応した規律を設けることを提案しております。本文の1(1)では,仲裁法第24条第1項について,「暫定措置又は保全措置」という文言が仲裁廷による命令を指すことを明らかにするとともに,現行法の規定から「紛争の対象について」及び「仲裁廷が必要と認める」との文言を削る旨の改正をすることを提案しております。   本文1(2)では,暫定保全措置の類型として,①から③までの民事保全に相当する内容の措置,④の証拠保全に相当する内容の措置に関する規律を設けることを提案しております。   第1の2では,暫定保全措置の発令要件について,改正モデル法に対応した規律を設けることを提案しております。民事保全に相当する内容の措置については,著しい損害を避けるための必要性があること,本案について理由があるとみえることという発令要件を設ける旨を提案しております。これに対して,証拠保全に相当する内容の措置については,その発令の可否の判断を仲裁廷の裁量に委ねるという観点から,発令要件に関する規定を適用しないことを提案しております。   第1の3では,予備保全命令について特に規律を設けないことを提案しております。改正モデル法は,他方の当事者に通知することなく予備保全命令を発令することができるという規律を設けています。しかし,第1に,改正モデル法の規律では,予備保全命令の発令直後に他方の当事者への通知が必要とされており,密行性が十分に担保されていないとも考えられること,第2に,モデル法改正時の議論においても,予備保全命令の発令を認めることは両当事者の公平な取扱いなどの仲裁の基本原則に反するとして,強い反対意見があったこと,第3に,改正モデル法に対応しているとされる国や地域を見ても,予備保全命令に関する規律を設けていない国があること,これらから,予備保全命令に関する規律を設けないことを提案しております。   次に,第1の4では,暫定保全措置の変更,停止,取消しについて,改正モデル法に対応した規律を設けることを提案しております。原則として当事者の申立てによって暫定保全措置の変更等をすることとしつつ,特別の事情がある場合には仲裁廷が職権で変更等をすることができるという規律を設けることを提案しております。   第1の5では,暫定保全措置の変更等の基礎となるような重大な事情の変更については,仲裁廷が当事者に対して事情変更の開示を求めることができるとの規律を設けることを提案しております。   第1の6では,暫定保全措置の不当な発令によって損害を被った当事者が確実に損害の填補を受けられるようにするという観点から,仲裁廷が費用及び損害の賠償を命令することができ,そのような命令は仲裁判断としての効力を有するとの規律を設けることを提案しております。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部分について,特に区切りませんので,どの部分についても,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見をお出しいただければと思います。 ○古田委員 古田でございます。緊急仲裁人が発する保全措置の取扱いですけれども,最近は世界各国の仲裁機関で,仲裁廷が構成される前に緊急仲裁人を選任して,緊急仲裁人が一種の保全命令的なものを発するという制度が利用されています。今回の資料には特に記載がないように思ったのですが,緊急仲裁人が発する保全措置は仲裁廷の暫定保全措置に含まれるということなのか,含まれないということなのか,あるいは,そこは解釈に委ねるということなのか,その辺りの整理を教えていただければと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の点についてお答えいたしますけれども,今回の部会資料で提案させていただいた部分につきましては,全て「仲裁廷」という文言を用いておりますが,こちらには緊急仲裁人は含まれないことを想定しております。ただし,この緊急仲裁人が発した暫定保全措置の効力をどのように考えるのかという点について,こちらの部会で皆様の御議論をお聞かせいただければと思っております。 ○山本部会長 古田委員,いかがですか。 ○古田委員 UNCITRALモデル法2006年版の解釈としては,仲裁廷というのは飽くまでも本来の意味のトリビュナルをいうのであって,緊急仲裁人は含まれない,つまり,緊急仲裁人が発する保全措置について執行力を認めなくても,2006年モデル法との関係では整合的であるといえるという理解でよろしいでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。事務当局としてはそのような理解をしております。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○道垣内委員 ありがとうございます。内容についてでないので,余り初めの方に言うべきことではないかもしれませんが,少し違和感があるものですから,申し上げます。第1の1の(1)のところの「暫定措置又は保全措置を発することができる。」,これは定義上,「・・・を講ずることを命ずるもの」というのがこの措置の言葉に含まれていることから,発するということになるのだと思うのですけれども,現行の24条では,「・・・を講ずることを命ずる」になっていて,それをわざわざ少し違和感のある言葉に変えるという点についてです。普通の人の語感から考えると,措置というと当事者がとるものというか,誰がとるかはともかくとして,その中身であって,それを命ずるなら暫定措置命令とか,命令を付ける方が分かりやすいのではないかと思います。どこかで御説明があったかもしれませんけれども,ここでこの定義を前提とすることになりますと,この後ずっとその用語で行くということになるので,よろしくお願いします。 ○山本部会長 事務当局から何かコメントは。 ○福田幹事 福田でございます。今の点について,具体的にどのような文言にするかというのは引き続き考えたいと思いますが,モデル法の文言を拝見しますと,モデル法の原文は「interim measures」との単語が用いられております。他方,予備保全命令の文言を見ますと,ここは「orders」という単語を使っておりまして,この辺りをどういうふうに整合的に考えるのかというところについて検討を深め,また,分かりやすい文言になるように心がけたいと思います。 ○山本部会長 道垣内委員,よろしいですか。 ○道垣内委員 ええ,その方向性で。 ○三木委員 今の道垣内委員の御指摘に対して,UNCITRALの議論を踏まえた考え方と思われるものを申し上げたいと思います。   当然のことながら,UNCITRALの作業部会においては,英語又はフランス語で議論がなされましたので,日本語の今回の表現との関係は,もちろん直接的にはUNCITRALで議論されることはあり得ないわけです。しかし,先ほど事務当局から御説明があったように,モデル法の英語表現では,「grant interim measures」という表現が使われており,この事務局の原案は,可能な限りこの原文に近い表現というか,あるいは翻訳といいますか,そうした訳を使ったものと思われます。したがいまして,日本国内の立法美学のようなものよりも,モデル法に忠実であることが第一義と考えられますので,現在の表現になるべく近い形で文言を選択していただければと思います。何よりも,これが外国に発信されるときは英語等に翻訳されて発信されるわけですので,翻訳において元の英語表現と同じ訳に直訳としてなるような表現を採るということをするべきではないかと考えます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井でございます。先ほどの古田委員からの質問に対する事務局のお答えが,緊急仲裁人の発した処分の効力についてはここで議論するとおっしゃったのですが,少し整理しておきたいのは,先ほどおっしゃったように,緊急仲裁人というのは仲裁廷ではないということになりますので,そうすると,そういう緊急仲裁人が発した保全措置については,少なくとも裁判所に執行決定を申し立てることができないということになりますよね。そこはコンセンサスでよろしいでしょうか。   それと,それでは,仲裁手続の中で緊急仲裁人が出した命令がどういうふうに取り扱われるのかと,これは正に解釈問題ということになって,恐らくは仲裁合意,あるいは仲裁合意の一部を構成することになる機関の規則によるということになるという理解でよろしいですか。つまり,仲裁廷以外の者が暫定保全措置的なものを発することはできないと,そういう規範があるわけではないという理解でよろしいでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。まず前者につきましては,先ほども申し上げたように,今回の事務当局からの提案を前提にすると,暫定保全措置の執行力というところには乗ってこないと思われます。   2点目ですけれども,こちらについてはいろいろな考え方があり得ると思っております。緊急仲裁人も含め,要は仲裁廷以外が出すものの効力については,例えば執行の場面で裁判所が執行拒絶事由に当たると考えれば,そこは執行されないものと私は考えておりますが,それ以外の場面については,合意というものの効力をどういうふうに考えるのかというところにも帰着する話なのかなとは思います。 ○出井委員 執行決定のところは理解しましたので,執行には乗らないということは分かりました。当事者間というか,仲裁手続の中でそれがどういうふうに扱われるのかは,今おっしゃったように,仲裁合意による,つまり,機関の規則にもないし,仲裁合意にもないのに,緊急仲裁人的な人が仲裁廷構成前に何らかの命令を発した場合に,それが当事者間でどういうふうに扱われるのかというのは,これは恐らくいろいろな議論があるのだと思います。私はそれは仲裁合意にはないので,私はそういう命令は効力はないという方にくみしたいのですが,そこはいろいろな考え方があるかもしれません。ただ,今回こういう形で提案されるときに,当事者間の合意があれば,仲裁廷以外の人も暫定保全措置的なものを命じることはできないと,そういうことまでは意味していないということを確認したかったのです。 ○福田幹事 その点は,事務当局としても,そのように考えているところでございます。 ○三木委員 緊急仲裁人に関しては,2006年当時といいますか,2000年代の前半当時,まだそういう制度を設けた機関規則の例がなかったもので,UNCITRALで緊急仲裁人をどう考えるかという議論はなされておりません。そこで,以下に述べるのは,そのときに政府代表として議論に参加していた私個人の意見ということになります。   当事者が仲裁法の規定に従って選任した仲裁人によって構成される仲裁廷ではなく,例えば仲裁機関が緊急に選任した緊急仲裁人というものは,私の理解では,モデル法や日本仲裁法がいうところの仲裁廷には含まれないと理解しております。したがって,緊急仲裁人が命令を発した場合,それを今回の改正法の執行規定に乗せるということは考えにくいところであります。   次に,出井委員が御指摘になった,当事者間に合意もなく,それから,機関規則にも規定がない場合に,緊急仲裁人というものを選任して緊急命令を発することができるかという点についてです。出井委員はいろいろな考え方があり得るとおっしゃいましたが,私自身は,これはその仲裁機関の機関規則に規定がなければ,あるいは規定がなくても,当事者がアドホックな合意をするということでなければ,それは緊急仲裁人というものは認められないと思います。なぜならば,仲裁廷を含めて,およそ仲裁手続を主宰するものの権限というのは,全て当事者の合意に基づくものであって,そこが訴訟とは違うところであります。したがって,機関規則に緊急仲裁人の規定がある一部の国の仲裁機関のようなケースでは,その機関を使うことで,自動的にその機関規則に合意しており,それは当事者間の合意を構成しますので,問題がありませんが,そうした合意の基礎がない場合については,およそそうした緊急仲裁人の権限というのは認められないと考えます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにこの点,いかがですか。 ○髙畑委員 三木委員や出井委員と同じような問題意識なのですけれども,機関仲裁の場合に,機関規則に緊急仲裁人の制度があるところが増えてきている現状で,要するに,2006年当時とは,その必要性にかられて恐らく機関規則がそういうふうに変更されているとも推測されますが,そのような中で,機関規則に緊急仲裁人の規定があって,当事者がその規則を利用することに合意している場合に,そうは言っても,要するに,仲裁廷ではないがために,その執行力というか,そういったことを議論する場がないというか,それはどういうふうに考えればいいのでしょうか,と思いますけれども。つまり,実務上はやはり仲裁廷が成立するまでの間の方が,恐らくそういう暫定保全措置のようなものをやる必要性というのがすごく高いと思うのです。そのときに,やはりいろいろな可能性を考えて,いろいろな選択肢があった方が,当事者にはいいに決まっているのですけれども,なかなかそこら辺を規制する立て付けになっていないなというのが,どう考えたらいいのかというところが,お伺いしたいと思っております。 ○福田幹事 福田でございます。問題意識としてはよく理解できましたけれども,緊急仲裁人の出す措置の効力は,仲裁廷が選任されるまでの間の本当に暫定的な効力であると認識しております。そういう中で,執行力まで本当に求めなければいけないようなものというのがどのぐらいあるのかということが一つ問題になってくるものと考えます。強制執行を見据えた効力まで認める必要があるということであれば,そこも含めて議論をすべきなのかもしれませんが,むしろその辺りの実情をお聞かせいただきつつ,議論を深めていければと思うのですけれども。 ○山本部会長 髙畑委員,何かございますか。 ○髙畑委員 分かりました。恐らく,今日のタイミングではないにしても,どこかのタイミングで,やはりそのような議論をさせていただければと思っております。よろしくお願いします。 ○手塚委員 今回の法改正では,今のところは仲裁廷の暫定保全措置の執行力を日本で認めるということについて,海外の仲裁廷か国内だけかという点については,国内に限定しないという方向性が出ていると理解していまして,そうすると,例えばシンガポールや香港のように,緊急仲裁人の暫定命令,緊急命令についても執行力を認めるという法制度で,かつ緊急仲裁人のルールがある仲裁規則を利用している場合,SIACとかHKIACのルールでシンガポールないしは香港で仲裁をしていて,そこで緊急仲裁人が命令を出し,それはシンガポールや香港では執行力があるというときに,それを日本で執行できるのかというところは,これは日本法の問題だと思うのです。   それで,執行力をシンガポールや香港が国内的に認めるときのロジックとして,緊急仲裁人もトリビュナル(仲裁廷)とみなすと,あるいは緊急仲裁人のオーダーもインテリム・メジャーとみなすというような書きぶりだったときに,それは果たして日本法から見て,仲裁廷だと相手の国ではみなされているような緊急仲裁人で,ただ選任の仕方とかは本来の仲裁人とは違うというときに,執行力を付与するのかどうか,そういう問題が多分あるのだと思うのです。   それで,モデル法に準拠しているかどうかということに関して言えば,海外の緊急仲裁人のやったものについて,当該外国で緊急仲裁人も仲裁廷だとみなすという規定が仮にあったとしても,緊急仲裁人というものが発した緊急命令については,国内のものも海外のものも一切執行力は認めないという方針を採っても,モデル法準拠でなくなるわけではないと私は思っていますし,そこまで認める必要もないのかなと思っていますが,いずれにせよ,その問題があるということは指摘しておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   緊急仲裁人の点はおおむねよろしいでしょうか。それでは,今までの議論も踏まえて,少し事務当局でも整理を頂いて,また御議論いただく機会を設けたいと思います。   それでは,それ以外の点で。 ○古田委員 古田です。予備保全命令について,幾つか質問させていただきたいと思います。   まず前提として,言葉の使い分けの問題ですけれども,予備保全命令というのは命令の名宛て人に対して事前の通知をせず一方的な申立てで,いわゆるエクスパルテの申立てで発令されるような暫定的な命令をいい,それに対して,今回執行力を付与しようとしている暫定保全措置というのは,措置の相手方にも一定の反論の機会を与えた上で仲裁廷が命ずる保全措置をいうという区分けでよろしいでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。一応はそのような整理でよろしいかと思います。 ○三木委員 今の事務当局のお答えについて,正確を期すために,私の理解するところを申し述べたいと思います。   UNCITRALの議論において,予備保全命令という制度の導入に反対する国は世界の半分以上ありました。その理由ですが,予備保全命令の導入に反対した国のほとんどと言ってよいかと思いますが,予備保全命令を設けなくても,暫定保全措置それ自体がインターパルテスでもエクスパルテでも発せられるので,必要ないという立場の国でありました。特に,大陸法の国については,ほぼ全ての国がそういう立場でありました。つまり,予備保全命令を導入しないということは,暫定保全措置は一方審尋でも発令できるという立場をとることをとることと等しいということです。   日本政府は,いかなる立場をとるかをストレートに声高に主張はしないというのが国内の方針でしたので,正面切っての議論はしませんでしたが,議論の中ではそうした大陸法の国々に賛同するという立場を採りました。したがって,現在,予備保全命令制度を導入しない形で2006年改正法を取り入れた国々は,予備保全命令を入れないということによって,暫定保全措置が一方当事者の審尋のみで発令できるかどうかはオープンであるという立場をとっているわけですが,デフォルトは暫定保全措置はエクスパルテでもよいという立場をとっているのだろうと思います。   日本が今度の改正で予備保全命令の制度を導入しないということについて,私は結論として賛成ですが,その場合に海外からの見られ方としては,日本は通常の暫定保全措置について,一方当事者の審尋による発令を禁ずることは特にしないという立場を採ったのだと見られるのだろうと思います。このことを念のために反対側から確認しますと,予備保全命令という制度は,暫定保全措置は双方審尋でしか出せないという立場が前提にあって作られた制度です。一方審尋でどうしてもやりたいときは,要件や効果を変えた予備保全命令というものを使うという仕組みですので,これは暫定保全命令それ自体は双方審尋でなければならないという立場の国に配慮して作られたものです。   したがって,先ほどの古田委員の御質問に対して私が答えるとすれば,日本法において予備保全命令を入れない場合に,暫定保全措置を一方審尋で発令できるかというと,それは改正仲裁法は特に禁じてはいないということになるのだろうと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。資料2の5ページの4の前の(注)に書かれてあることは,今の三木委員の御説明と基本的には同じというか,整合的なものだと思いますが。 ○古田委員 ありがとうございます。御議論を踏まえての質問なのですけれども,モデル法の条文を見ますと,17A条で暫定保全措置という規定があり,17B条で予備保全命令という規定があって,17B条2項で,暫定保全措置の申立てを事前に相手方に開示すれば同措置の目的が妨げられる危険があると認められるときは,予備保全命令を発令することができると規定されています。これを読むと,一方審尋で発令するが予備保全命令であるとモデル法は考えているのかなと理解をしていました。他方,今の三木委員の御説明にもつながるのですけれども,今回の部会資料3ページに暫定措置又は保全措置の発令要件という規律がありますが,そこには相手方を審尋するという手続要件が入っていません。そうすると,正に三木委員がおっしゃったように,相手方を審尋しないで発令していいのかどうかというところが空白になっていて,そこは部会資料5ページに書いてあるところで,要するに解釈問題であるというのが事務局の整理ということなのですか。   5ページの(注)①にある,一方的な申立てに基づいて保全措置を発することができるか否かは解釈問題という意味は,当事者の合意があれば,それは認めてもいいだろうという意味であって,当事者の合意や仲裁規則の中に一方的な申立てで保全措置が出せるという規定がある場合であっても,日本の仲裁法の強行法規としてそれを禁ずるというまでのことを意味しているわけではないという理解でよろしいでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。そのような解釈でよろしいかと思います。 ○古田委員 次の②の方なのですけれども,エクスパルテの申立てに基づく暫定保全措置についても承認,執行できるかどうかは解釈に委ねられるというふうな説明になっています。しかし,2006年改正モデル法では,17A条の暫定保全措置には執行力を付与していますけれども,17B条の予備保全命令は執行力の対象ではないと私は思っています。そうすると,一方的な当事者の申立てにのみ基づいて発せられた暫定的な命令というのは,少なくともモデル法上は執行力を付与することを要求されてはいないという理解だったのですけれども,そこはいかがでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。今の御質問ですけれども,それは今回の部会資料の5ページの(注)の②で書いた,一方当事者の申立てのみに基づいて発した暫定保全措置,つまり,相手方の意見を聴かずに出た保全措置のみならず,モデル法でいうところの17B条の予備保全命令の申立てに従って出された命令,これをどう扱うかという御質問ということでよろしいでしょうか。 ○古田委員 はい。 ○福田幹事 福田でございます。これは,おっしゃるとおり,モデル法の条文を見ますと,暫定保全措置の執行力が与えられているものに,この17B条の予備保全命令は入っていないように読めるかと思います。ただ,この5ページの(注)の②に書いたものの中の一部だと見られる余地があるのであれば,ここは解釈なのかなとも思いますし,そこは実際に保全命令が出されたときの状況といいますか,どのような手続で出されているのかというところを見つつ判断される事柄なのかなとは認識しておりますが。 ○三木委員 モデル法2006年改正の立場は,予備保全命令は,古田委員がおっしゃるように一方審尋の場合を特に取り出して規定したものです。予備保全命令は暫定保全措置とは全く性格の違うものだというのが立て付けです。つまり,一方審尋だからというのではなくて,予備保全命令はおよそ執行の対象にはならないというふうに制度を作ってあります。したがって,予備保全命令が一方審尋によるもので,それが執行の対象にならないからといって,そのことが本来の暫定保全措置が一方審尋で発せられた場合に執行の対象になるか,ならないかという議論には一切影響を与えないということになります。このことは会議の中で確認がされております。   私の理解では,暫定保全措置を一方審尋で発することを認める場合には,先ほど言いましたように,基本的には解釈の問題になるわけですが,デフォルトとしては,暫定保全措置は一方審尋で発せられても執行の対象になるということになろうかと思います。 ○出井委員 すみません,今の三木委員のお話を聞いて,また分からなくなってきたのですが,予備保全命令というのは暫定保全措置を一方審尋で出すという理解は,それは誤りということでしょうか。 ○山本部会長 もう一度質問していただけますか。 ○出井委員 私の理解は,先ほど古田委員がおっしゃったように,予備保全命令と暫定保全措置の違いがあるとすれば,予備保全命令は一方審尋で発令をするものであるという理解だったのですが,そこは違うということでしょうか。 ○三木委員 そこは違います。予備保全命令は,そもそも暫定保全措置ではないということです。 ○出井委員 すみません,どこが違うのですか。 ○三木委員 それは,わざわざそういう立て付けで作ったのです。つまり,暫定保全措置の議論の中に,一方審尋でできるかできないかという議論を盛り込ませないために,暫定保全措置とは性格の違うものを作りますというコンセンサスの下に,予備保全命令という新たな概念が作られました。その性格付けは,何であるか分からないといえば分からないということになりますが,要するに暫定保全措置ではないものを作るということに主眼があったわけです。暫定保全措置が一方審尋で出された場合に執行力があるかないかという議論と完全に切り離すために作られたものです。 ○福田幹事 福田でございます。三木委員から御説明いただいているとおり,制度としてといいますか,立て付けとしては,別途異なるものと私も理解をしておりますけれども,ではその予備保全命令でどういった内容の命令が出されるのかというところを考えましたときに,それは双方の審尋を経たかどうかはともかく,暫定保全措置で出されるようなものと同内容の命令が出てくる可能性があるのかなと我々は認識しておりまして,そういう意味で,出された命令の効力というものを考えなければいけないのかなという認識でおったのですけれども,そこは三木委員の考え方とは違うということになりますでしょうか。 ○三木委員 私の考え方というよりも,当時のUNCITRALの作業部会における全参加国のコンセンサスだったと理解しております。 ○出井委員 出井でございます。今の点と関係するのかどうか分かりませんが,先ほど古田委員から,暫定保全措置を一方審尋で出した場合に,そういうことがそもそもできるのか,それは当事者間の合意があればできるとおっしゃったと思うのですが,そこはそういう考えでいいのでしょうか。現行の仲裁法の24条1項は,当事者間に別段の合意がない限りということで,合意でオプトアウトできるシステムなのですね。したがって,エクスパルテの暫定保全措置ができるというふうなポジティブな合意がなくても,オプトアウトしていない限りは,私はできるのではないかと思っています。もちろん,それも手続の適正という観点から,そういうものを認めるべきかという大きな議論はあるかと思いますが,少なくとも,合意がないとできないということにはならないのではないかと思っています。この場で解釈論を議論してもしようがないのかもしれませんが。 ○古田委員 古田です。1点,クラリファイしますと,私も合意がなければできないと申し上げたのではなくて,少なくとも合意があればできるのですよねということを確認したものです。つまり,今回の部会資料5ページの①に,解釈に委ねられるとされていることの意味が,当事者に合意があっても仲裁法上禁止されていてできないという強行法規的な意味があるという趣旨ではないですよねということを確認したかったのです。従って,そこは出井委員がおっしゃったことと齟齬がないと思っております。 ○出井委員 了解です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○今津幹事 今御議論されている審尋,双方なのか一方なのかという点についてですけれども,お話を伺っていて,例えば3ページに御提案されているところは実体的な面の要件だけ書かれていて,手続的なところ,審尋について触れられていないという形になっておりますけれども,現在ほかの法律で,例えば民事保全法などだと,23条4項の規律などは,例えば審尋をするときに,こういうふうですというような規律があると。そういう形ではっきり書いてあった方が解釈に迷うことがないので,親切かなとも思うのですけれども,ただ,その点,裁判所がやる手続と仲裁廷がやる手続なので,その辺りで違いが出てくるのかなと,つまり,仲裁廷がやる手続なので,法律でそこまで決めなくても仲裁機関が,例えばその規則で定めるべきことだから,あえて触れないという選択もあるのかもしれないと思ったのですけれども,その辺りは,あえてここは御提案の中では手続的なところは触れていないという理解でよろしいでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。今の点ですけれども,基本的に事務当局の立場は,5ページの(注)で書きましたように,一方当事者の申立てのみに基づいてできるかどうかというのは解釈に委ねることが適切であると考えておりますので,特段,審尋が必要だとか,不要だとかというような規律までは設ける必要はないと考えておりました。 ○山本部会長 今津幹事,よろしいですか。 ○今津幹事 はい。 ○三木委員 今の点ですが,結論としては私も事務当局の御説明のとおりではないかと思います。といいますのは,先ほど古田委員と出井委員の間のやり取りにありましたように,仲裁法は民事訴訟法と違って,ごく僅かな強行規定の部分を除いては,基本的には当事者に手続規律を委ねるというのが大原則です。したがって,一方審尋を許すとか許さないとかいうのを民事訴訟法とか民事保全法とかのように法律に書き込むというのは,これは明らかにモデル法といいますか,現代仲裁法の理念には合わないだろうと思います。   そして,その運用ですけれども,これも先ほど古田委員と出井委員のやり取りで,お互いに考えていることに違いがないことが確認されましたように,少なくとも当事者が明示で一方審尋による発令を合意するか,あるいは機関規則がそれを許していて,その機関規則を採用するかということをすれば,これは明らかに一方審尋による発令は許されるということになります。   そういうものがない場合にどうなるかというと,以下は私の意見になりますけれども,何も規定をしていないということは,一方審尋による発令を法は禁じてはいない以上,許されるということになるのだろうと思います。あとは,これは出井委員がおっしゃっていましたように,それが適切かどうかということになるのだろうと思います。それが不適切だというのが一般的な認識になっていけば,そういった一方審尋による運用をする仲裁機関というのは使われなくなるということだろうと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 既にいろいろ議論が出ているところなのですが,私ども裁判の世界で生きてきた人間にとっては,もうひとつよく分からないところがありますので,意見なり質問という形でお話をさせていただきたいと思います。   結局,一方審尋で発令することができるか,双方審尋が当然の前提かということは,これは後の執行力の審査といいますか,裁判所における執行力の付与に関する執行決定の段階で,やはり一つ大きな問題として取り上げられる可能性があるのだろうと思います。そうすると,これはまだ議論の対象になっていないわけですが,7のところで,裁判所が執行決定をする際には,双方を審尋しなさいという建て付けが提案されていたと思います。   そうすると,今の三木委員,あるいは今津幹事のお話にもありましたように,裁判手続の場合は明確にしておくという理屈は分かるわけですし,三木委員が説明されましたように,その点については本来,仲裁機関が規則等で定めるべきものということも分かります。では,規則で定められていない場合に,どうなるかというと,それは解釈なのだろうと思いますけれども,ただ,前回からお話が出ておりましたよに,仲裁手続というものの根本的な性質からも,双方審尋に重きがある,そちらが本来,解釈として採用されるべきものだという考え方も示されていたと思います。   そうすると,規則にも仲裁法にも定めがない場合ですけれども,解釈として,本来,仲裁制度は何かということから,一方審尋だけでは出せませんよという解釈が出てくることもあり得るのだろうと思います。私はその解釈に賛成するわけではありませんし,実務家としては,何か参考となるべき規定があった方がいいようにも思うのです。でないと,そこをめぐってけんけんがくがくの議論になってしまって,収拾が付かないようなことにもなりかねないという気もするわけです。この点,いろいろな考え方があろうかと思いますけれども,その点は立法等に当たって注意をしていただけたらと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 少し確認なのですが,今回の資料2の9ページのところで,第7項の④で,暫定保全措置の,ここでは執行だけに限っていますが,承認という概念を入れるとすれば,恐らく承認拒絶についても同じことだと思うのですが,防御不能,これは執行拒絶事由として入れていて,モデル法でいいますと,モデル法の17Iの1項(a)(ⅰ)ですかね,ここでモデル法の36項1条の(a)号というのがあり,ここでいえば(ⅱ)というのが,英語を日本語的に直すと,仲裁廷の任命についてプロパー・ノーティスを受けなかった,あるいは仲裁手続についてプロパー・ノーティスを受けなかった,その他,アンネーブル・トゥ・プレゼント・ヒズ・ケースとあって,日本語的には防御不能であったということが,ここでは承認も含めてなのですけれども,レコグニション・オア・エンフォースメントの拒絶理由になると書いてあるわけなんです。   そうすると,一つの考え方としては,例えば一方だけの審尋でエクスパルテで出た暫定保全措置について,出すのはいいのだけれども裁判所での執行力はない,そういう立て付けの法制度というのは多分あるはずだと思うのです。それから,モデル法になるべく準拠するような立法にした場合に,資料2の9ページの②で言っているところの防御不能というのは,審尋の機会もなくエクスパルテで出たものについてはこれに当たるのだということで争えるという立場を採れば,それは事実上,執行できないと言っているのとほぼ同義なのだと思います。もちろん執行拒絶できると書いてあって,拒絶しなければいかんとは書いていないので,全く執行できないというのと少し違うかもしれませんけれども,一応そういう論点があり,このモデル法なり,それに基づく今回御提案の執行拒絶事由との関係で,エクスパルテで出た暫定保全措置は執行力を認めるのかという議論が必要になるのではないかという気がしております。 ○三木委員 今の御発言ですが,私は,そのとおりではないかと思います。   私は,立法の在り方としては,提案されている形の立法で賛成です。そうすると,この形で立法された場合,仲裁廷が一方審尋だけで暫定保全措置を発するという事態は起こり得ると思います。その場合に,それが執行に回ったときに,執行を認めてもらえるかどうかというのは,一方審尋で発したか,双方審尋をしたかということが直接問題になるのではなくて,一方審尋をしたことによって,今御指摘にあったような,例えば現行の案でいえばイの④の防御の不可能性に抵触するかとか,あるいは通知の問題に絡む場合もあるかもしれません。そういった,それぞれの執行拒絶事由に当たるかどうかという判断をするということになるのだろうと思います。   別な観点で言いますと,たとえ一方審尋で発せられたとしても防御権を害していないというような場合があるとすれば,それは執行を認めて別に差し支えないし,他方において,双方審尋で発した場合でも防御権を害しているという事情があれば,それは当然この④なりに引っ掛かってくるのだろうと思います。一方審尋で発した場合に防御権を害さないという場合があるのかといえば,それはあるのだろうと思います。たとえば,UNCITRALでも議論されましたが,一方審尋で,とにかく緊急に命令を発する。そして,その翌日とか2日後とかに通知をして,これに対して債務者からの意見を聴取するというような即時の対応をとれば,その一日とか二日とかの遅れによって何か取り返しの付かない損害が発生した場合はまた別ですけれども,特にそういった問題が生じない場合には,そういった事後の緊急対応でも防御権の保障になる場合もあるだろうと思います。 ○山本部会長 かなりこの一方審尋の問題について御議論いただき,既に執行の問題にも踏み込んで御議論いただいているところですが,他の点はいかがでしょうか。 ○渡邉幹事 最高裁の渡邉でございます。今の御議論を,特に裁判所的な観点からも大変興味深く拝聴いたしました。今回の資料を拝見いたしますと,暫定保全措置の中には日本法における民事保全命令とは異なる類型のものも紹介されているところかと思います。具体的に申し上げますと,2ページの(注)に出ております訴訟禁止命令や財産(資産)の凍結命令,あるいは3ページの(注)にあります証拠保全命令といったものについては現在,日本法の民事保全の中では扱っていないというものかと思っております。   このような内容の暫定保全措置が執行できるかというところにつきましては,今回の部会資料では解釈に委ねられるということになっておりますが,これを完全に裁判所の解釈に委ねられますと,実際こういった命令を利用しようとする当事者にとっては予測可能性の観点からやや不親切かなと思われるところがございますし,裁判所といたしましても,こういった全く新しい類型の申立てが来たときにどのように判断をしたらいいかということについて,何らかの手掛かりがあった方がいいかと思っているところでございます。そこで可能でございましたら,この部会におきまして,こういった暫定保全措置の執行可能性というものについても少し御議論いただいておきますと,将来の実務家にとって参考になるのではないかと思いますので,御議論をお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 いかがでしょうか。御議論を頂きたいということですけれども。 ○三木委員 もう執行の話に入ってよろしいのでしょうか,それとも発令だけの話でしょうか。 ○山本部会長 そうですね,両方御議論いただくという,特に裁判所からは多分執行のことを求められているのだと思いますが。 ○三木委員 それでは,具体的なケースを想定しないと議論ができないと思いますので,この資料でいうところの訴訟禁止命令を例にとってみたいと思います。訴訟禁止命令というのは,アメリカ法におけるanti-suit injunctionをイメージした日本語の言葉だろうと思います。そういった意味での訴訟禁止命令というのは,現在私の知るところでは大陸法の国には存在せず,英米法の国々の制度だろうと思います。なかでも,アメリカのものが有名ですので,想定されているのは,アメリカで裁判所が発令するanti-suit injunctionのようなものを仲裁廷が発令すればどうなるかという議論になるのだろうと思います。   仲裁廷が,そのような訴訟禁止命令を出した場合,それは裁判所が出すanti-suit injunctionとは恐らく性質は違うものだろうと思います。なぜならば,インジャンクションというのは英米法の裁判所の中でも衡平法裁判所に与えられた権限が現在まで発展してきたもので,かなり特殊な裁判所の権限です。したがって,仲裁廷が発する訴訟禁止命令というのは,仲裁廷が,この事件については仲裁を円滑に進める必要があるので,訴訟を起こすことを禁ずるという命令を発するということで,それ自体はanti-suit injunctionとは性格の違うものとして発令されるのだろうと思います。   このような発令がされた場合に,それが裁判所に執行の申立てをするという事態がそもそもどれほどあるのかということが,私はよく分かりません。仲裁廷が当該事件について裁判所に訴えを提起することを禁止すると,それに反して訴えが提起された場合が問題になるわけです。その場合には,普通は,訴訟禁止命令を申し立てた当事者はその訴訟の方で防訴抗弁を出して争うことになるでしょうし,そこで争わないと効果的な防御はできないのではないかと思います。   強いて,それの裁判所による執行ということをするとすれば,訴訟禁止命令の執行をある裁判所に申し立てて,その裁判所が訴訟が係属している別な裁判所の手続を止めるという仕組みがないと,そもそも執行というのはできないわけです。日本には,ある裁判所が他の裁判所の訴訟進行を止めるという仕組みはありませんので,少なくとも日本仲裁法として考えた場合,仲裁廷が発した訴訟禁止命令の裁判所による執行という事態はどういう事態なのかというのが私には理解しにくいところであり,想定できるような場合というのがあるのであれば,お教えいただきたいと思います。 ○古田委員 古田でございます。仲裁廷が訴訟禁止命令を発令する典型的な場合としては,契約書の中に仲裁合意があるのだけれども,その有効性について争いがある場合,例えば,日本当事者と外国当事者の取引契約の中に仲裁合意があるのだけれども,日本当事者はその仲裁合意は何らかの理由で無効だと考えて日本の裁判所に一定の契約紛争について訴えを提起し,他方,外国当事者の方は,その仲裁条項は有効だと考えて,例えばその仲裁条項でシンガポール国際仲裁センターの仲裁が定められている場合には,SIACに仲裁の申立てをするという場合が想定されます。その場合に,SIACの仲裁廷が,外国当事者の申立てに基づいて,日本側当事者に対し,日本での訴訟をこれ以上遂行してはいけないという訴訟禁止命令を暫定保全措置として発令するといった事例がございます。   私の理解では,この仲裁廷が発令した訴訟禁止命令の名宛人は,飽くまでも仲裁当事者となっている日本側当事者であって,日本の裁判所ではないので,日本の裁判所が仲裁廷の命令によって何らか影響を直接に受けるということは論理的にあり得ないと思っております。   執行の観点から言いますと,訴訟禁止命令は日本側当事者に対して,日本での訴訟を提起するな,あるいは遂行するなという不作為を命じる保全措置ということになりますので,不作為を命じる保全措置をどう執行するかということになります。日本の執行法の体系からいいますと,恐らく間接強制という方法になるのだろうと思っております。   ですので,訴訟禁止命令を日本で執行するルートとしては,不作為を命じる義務の履行を求める間接強制の申立てが一応あり得ることになります。しかし,その場合に日本の裁判所が間接強制の申立てを認めるのかというところになりますと,日本の公序に反するかどうかが問題になってきます。本来の争点は仲裁合意が有効かどうかという問題であり,既に提起されている日本の訴訟においては,正に三木委員がおっしゃったように,外国当事者が防訴抗弁を出して争うわけですから,そこで判断すべき問題であって,その一連の紛争の過程でシンガポールの仲裁廷が訴訟禁止命令を出したときに,日本の裁判所がその間接強制を認めるというのは,なかなかハードルが高い議論なのではないかと思っております。   それから,もう一つの議論の筋としては,例えば,当事者間で不起訴の合意ですとか,訴えの取下げの合意がある場合に,それに違反して当事者が訴訟を提起した,あるいは取り下げないという場合には,そのような合意は訴訟契約として有効だという前提で,日本の裁判所は訴えの利益がないとして訴えを却下しています。しかし,仲裁廷が発する訴訟禁止命令は当事者間の訴訟契約でもないので,訴訟契約という方向から日本の裁判所がその効力を認めるというのはハードルが高いのではないかと考えております。 ○山本部会長 恐らく多々,議論はあると思うのですが,この会議は言うまでもなく法律の立案について審議をすることを主たる目的とした会議でありまして,裁判所の渡邉さんの言われることも大変よく分かるわけですが,恐縮ですけれども,既に時間は押しています。ですので,申し訳ありませんが,私も言いたいことは一杯あるのですが,この後もし議論を続けるということであれば,法律ができてから座談会とか論文とかで是非議論を続けていただければということにしたいと思います。   1から,既に7の執行のところに入っているわけですが,1から6までの部分,ほかにございますか。 ○原田委員 2の暫定保全措置の発令要件に関する規律のところですけれども,発令要件(1)の二つ目,「本案について理由があるとみえること。」という文言だけで具体的な意味は明確になるのでしょうか,という質問です。   対応する改正モデル法の該当条文によれば,「請求事件の本案において勝利する合理的な見込みがあること。」ということですけれども,この文言については,仲裁法制の見直しを中心とする研究会でも議論されていたことは承知しており,また,日本法あるいは専門家の方々は,この文言でお分かりになるのかもしれませんけれども,例えば,外国の方がこの直訳なり英訳を見て誤解することはないのかなと。これは, 外国企業などが日本企業に対する暫定保全措置の発令を求めることになりますので,これだけを見て,何か理由があればすぐにできるというような,発動が容易であると誤解されるのは我々にとっては得策ではないという観点もあるかと思い,質問させていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございます。それでは,事務当局から。 ○福田幹事 福田でございます。貴重な御指摘を頂いたものと受け止めております。この部分につきましては,民事保全法に同趣旨の規律の文言がございますことから,ここではこのような規律を提案させていただいておりますけれども,今の御発言を受けまして,そういうことで読み込めているのかどうかというのは引き続き検討させていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 一番最初の1ページの1の(2)の4類型の措置というものが挙げられているわけですけれども,その中でやはり4番目の証拠保全的なものというより証拠保全そのものだと思うのですが,これと①から③までとは全く性質が違うものだと思うのです。これを同じに扱っているというのはどういうことなのだろうか,といいますのは,その後の2のところでは,これについては適用しませんよと,あと3はなくて4,5,6も証拠提出採否の前提となる証拠収集に関する手続のことで,証拠保全には関係がなさそうなのです。そうすると,証拠保全を取り上げてここに挙げておく意味は何なのだろうかという気がします。私の誤解もあるかと思いますので,これについてお教えいただければと思います。 ○福田幹事 御指摘ありがとうございます。福田でございます。   まず,モデル法の17条の第2項に規律があるところでございます。この17条2項の趣旨としては,限定列挙をしたものと理解しております。仮に④のような規律を設けないとなると,そのような類型の措置は出せないという理解になってしまいかねないというところがございまして,全てを解釈に委ねるということはできませんので,モデル法の17条2項の(a),(b),(c),(d)に倣う形で,今回,①から④までの規律を提案させていただいたという理解でございます。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○吉野委員 分かりましたけれども,④を落としたら駄目なのでしょうか。④を落としてしまったら,モデル法に反するということ,それだけなのでしょうか。そもそも論になるのですが,モデル法と違う立法をするということがそれほど問題なのかどうか,そこはやはり少し詰めて,私ども仲裁に明るくない者についても分かるような説明を頂ければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。事務当局としての考えを申し上げますと,恐らく現行の仲裁法第24条を見ますと,どのような場面でどのような暫定保全措置を出すことができるのかということは,完全に仲裁廷の裁量に委ねられていると,この条文から見たらそのように読めます。今回,限定列挙の形で規律を置くのであれば,そこは現行で出されているものがある程度拾えるような形にしておかなければいけないのだろうと思います。こういった証拠保全的な措置が出せる何らかのよすがとなる規定があればいいのでしょうけれども,そのような措置が出せないとなると,それはそれで仲裁廷の手足を縛ることとなるように思われますので,ここはモデル法並びということ以外にも,実質的にも,この④のような手段というものがとり得るということを書いておく意味はあるものと認識しております。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○三木委員 ほかの論点ですが,現在の事務局の提案とモデル法とが異なっている大きな点として,暫定保全措置の発令形式について,モデル法には,仲裁判断その他の方式で発令することができるという趣旨の文言が入っているのに対して,現在の提案には入っていないということがあります。しかし,このような形で立法しますと,反対解釈として,わざわざモデル法に入っている文言を落とすわけですので,仲裁判断の形で暫定保全措置を発令することを禁じている立法なのだろうと海外から見られる余地は大いにあると思います。それは,日本を仲裁地とする仲裁を拒否する理由に使われないとも限りません。   この点について,暫定保全措置でも発令できるという規定を入れなかった理由として,日本の現行の仲裁法は,仲裁判断というのは仲裁手続を終了させる機能を持った最終の仲裁判断の意味で使われているということとの整合性をとるのだというような議論があるやに伺っています。しかし,それは現行の日本の仲裁法の方が変えられるべきではないかと思います。なぜならば,モデル法は仲裁手続を終了させる最終の仲裁判断については,final awardという言葉を使っています。つまり,「最終仲裁判断」という言葉が使われているわけであり,それ以外の仲裁判断とは書き分けています。   こうした違いは,立法時に意図したことではなのか,それとも不注意か何かなのかは分かりませんが,いずれにせよ,現行の仲裁法は,仲裁判断という言葉の使い方においてモデル法とは背馳していることになります。このことに伴う弊害は,現在議論している暫定保全措置の発令形式の問題だけにとどまりません。例えば,中間仲裁判断というものは,私の知るところでも,しばしば海外の仲裁手続では発令されることがあります。現行の日本の仲裁法では,最終仲裁判断とただの仲裁判断を書き分けていないために,中間仲裁判断が許されないというようにも読まれる余地があるわけです。また,今回の暫定保全措置についても,モデル法よりも使いにくい法律が作られたというふうに海外から見られるおそれがあります。   したがって,私の意見としましては,仲裁判断その他の形式でも出せるというモデル法の文言に匹敵する文言を入れ,同時に,現在の仲裁判断という言葉が使われているところについて,最終仲裁判断と書き改めるべき場所が幾つかあるのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。事務当局は検討いただくことでよろしいですか。 ○福田幹事 はい。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。 ○今津幹事 今津です。冒頭で道垣内先生から御指摘があった点と関連して,事務局に少しお伺いしたいのですけれども,私も最初,これを拝見したときに,暫定措置又は保全措置を発するという表現は,確かに日本語としてこなれていないなという印象を受けまして,ただ,その後,三木先生の方から,モデル法の英語表記の文言に即した形で記載すればこういう形の方が合っているというようなお話を頂いて,確かにとそちらも納得をしました。それを踏まえますと,ここはむしろ暫定保全措置という文言で一語で書いてもいいような気もするのですけれども,現行法の仲裁法の文言も暫定措置又は保全措置という形になっていまして,これを維持したことに何か積極的な理由があるのかどうかというのをお伺いできればと思います。 ○福田幹事 福田でございます。積極的な意味まではございませんが,ここは,基本的に今使われている文言を残すという形で,提案をさせていただいております。 ○山本部会長 では,法制的な点もありますけれども,更に検討を。   それでは,よろしければ,引き続きまして,先ほども既に御議論の対象になっていましたが,8ページの「7 暫定保全措置の承認及び執行に関する規律」,この部分について事務当局からまた説明をお願いします。 ○吉川関係官 吉川でございます。   第1の7では,暫定保全措置の承認及び執行に関する規律について提案をしております。ここでの提案内容は,大きく三つに分けることができ,第1に,承認に関する規律,第2に,執行を許すための手続に関する規律,第3に,執行拒否事由に関する規律があると考えております。   まず,承認に関する規律については,そのような規律の要否が問題となると考えております。机上配布しております参考資料1-1の8ページにありますモデル法第17H条第1項は,「仲裁廷によって発令された暫定保全措置は,拘束力を有するものとして承認されなければならず」と規定しておりますが,部会資料2の本文では,暫定保全措置について,執行力以外の効力は問題とならず,承認の対象とすべき効力がないのではないかという考え方から,承認に関する規律を設けないとの提案をしております。   他方で,部会資料11ページの中ほどに継続的契約に関する例を記載しておりますが,これに限らず,暫定保全措置にも承認の対象とすべき何らかの効力があるという考え方もあり得るものと考えております。このような理論的な観点のほか,モデル法への対応といった観点,承認の規律を設ける,又は設けないこととした場合に,実務上どのような不都合があり得るのかといった観点などから御審議をお願いしたいと考えております。   また,11ページの(注2)で一つの案を示しておりますが,仮に承認の規律を設けることとした場合に,どのような文言が考えられるのかという点についても御意見を頂けますと幸いです。   第2に,執行を許すための手続に関する規律ですが,この点については仲裁判断と同様,裁判所による執行決定を要するものとするという考え方について,前回の会議で特に異論はなかったというように理解しております。そこで,部会資料では裁判所の執行決定を要するものとする規律を提案しております。   第3に,執行拒否事由については,改正モデル法に対応する規律を設けることを提案しております。基本的には部会資料に記載したとおりでございますが,9ページの⑤,「当事者間の合意の範囲を超えて」としている部分について若干の補足をさせていただきます。暫定保全措置については,仲裁合意に加えて,本文第1の1(1)でいう当事者間の「別段の合意」がされることもあるという考え方から,仲裁合意の範囲という言葉ではなく,当事者間の合意の範囲という言葉を用いております。   最後に,13ページ以降の説明の6から8までで記載していますように,暫定保全措置の変更等がされた場合における裁判所への通知,裁判所による担保提供の命令権限,裁判所による暫定保全措置の変更権限といった点については,改正モデル法に対応した規律を設けないという提案をしております。改正モデル法に対応しているとされる香港でも,これらの規律は設けられていないところであり,説明にそれぞれ記載した理由から,規律を設けないことを提案しておりますが,この点についても御意見を頂けますと幸いです。   なお,外国語資料の訳文添付及び管轄に関する規律については,次回以降に取り上げる予定とし,今回は取り上げないこととしております。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,今の点につきまして,どの点からでも結構ですので,御質問,御意見を頂ければと思います。 ○古田委員 古田でございます。冒頭にあった承認するという規定の要否なのですけれども,ここはなかなか悩ましいところだと思っております。事務局から御紹介があったレコグナイズド・アズ・バインディングというのは,暫定保全措置に関するモデル法の規定だけではなくて,仲裁判断の承認,執行に関するモデル法の規定にも同じような文言が入っておりますし,ニューヨーク条約にも同じような文言が入っているところです。このレコグナイズというのは,日本語だと承認ということになるのですけれども,日本の法律用語でいう承認と本当に同じかどうかというのは私もよく分からないところです。日本で承認というときには,例えば外国判決の承認ですとか,外国倒産手続の承認というように,要するに外国の国家行為の効力を日本の裁判所がどこまで認めるかという観点からの規律になっています。他方,仲裁判断にしろ,仲裁廷の暫定保全措置にしろ,いずれも国家行為ではないので,日本の伝統的な法令用語でいう承認とは少し違う局面であると思っています。   他方,仲裁判断に既判力があるというところは恐らく争いがないところです。我が国の仲裁法でも仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するという規定があり,これがモデル法にいう仲裁判断をレコグナイズド・アズ・バインディングという文言に対応することなのだろうと思います。そうすると,暫定保全措置を日本でレコグナイズする旨の規定,例えば,部会資料11ページの(注2)に書いているような,暫定保全措置はその効力を有するという規定を置いた場合に,日本法上どのような効力を承認しているのかというのがよく分からないという疑問があります。   しかし,他方,モデル法にはその旨の規定がありますので,なるべくモデル法から乖離するべきでないという観点からいうと,空振りの規定かもしれないけれども,一応は入れておいてもいいのかなという気もするところです。(注1)で,例えば韓国では承認についての規律が設けられているという御指摘がありますが,私の理解では韓国の民事訴訟法は日本と似ているはずので,韓国で仲裁法に承認という規律を設けるときに,従前の韓国の手続法との関係で議論があったのかどうかという辺り,あるいは,香港では規律が設けられていないということなのですけれども,その背景等,もし御存じのところがあれば,教えていただければと思います。 ○山本部会長 最後の点は御質問かと思いますが,何か今の時点で。 ○福田幹事 福田でございます。今の韓国の点ですけれども,実際に韓国の仲裁法の18条の7というところに具体的に承認の規律があるようなのですけれども,この規定については,承認という言葉を用いて日本語に訳されているというところまでは理解をしております。ただ,どこまでの議論があったかというところについては現時点では把握できておりませんので,そこは少し研究させていただきたいと思います。 ○手塚委員 弁護士会の中で,暫定保全措置について承認というのは本当に必要なのだろうかという議論があったことは事実なのですけれども,私は2点,大事だと思っていて,一つは,モデル法に暫定保全措置の承認,レコグニションという規定があるのに,論理的に承認ということはあり得ないとか不要だという立場を採って,規定を書かないというのは,そういうことをすることによって,何かモデル法と違うということを印象付けるのは,せっかく2006年のモデル法に合わせて立法しているのだという大きなメッセージからすると,論理的にそれが正しいと仮定しても,自己満足的な行為であり,そういうことをやる必要性は乏しいのではないかというのが私の考え方です。   他方で,本当に承認というものは不要なのだろうかということなのですけれども,例えば仮処分で継続的契約についてターミネーション,解約が争われているときに,裁判所が仮処分で代理店としての地位を確認すると,本案判決があるまで確認するというのがまず出たとして,その後,代理店であれば供給を受けられるはずの商品の供給がある一定のときからなくなってしまったというときに,具体的な商品の供給を求める,あるいは第三者に販売しようとするのを差し止める,こういう仮処分を第二弾でとったという場合に,日本の先行する事件の仮処分がまだ生きている,つまり,本案で,あるいは仮処分自体の手続の中で取り消されていないという場合には,後続の裁判所としては,一応そういう判断があるという前提で,そこをスクラッチから判断するのではなくて,では,特定の商品の引渡しだとか,あるいは第三者への売却を禁ずる保全処分の理由と必要性を判断すればいいのではないかというのが私の理解なので,その限度で拘束力があるというような趣旨の効力を認めることが承認なのではないかと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 私も結論としては,承認という文言というか規定は入れるべきであると思います。手塚委員が挙げられた例とある意味では似たような例かもしれませんが,仲裁廷が暫定保全処分として従業員の地位を仮に確認するというような保全処分を出した場合,これは単純な執行の組合せだけには還元できないところがあると思います。そういうことを考えると,例がないということはないと思います。   それから,これも手塚委員がおっしゃったことですが,私もほかの規定で再三再四申し上げているように,よほど強い説得的な理由がない限りはモデル法から離れるのは危険であると思います。ここでいう危険というのは,外国からの見え方についての危険ということであり,日本は一般的には仲裁について後れている国であるとか,仲裁に理解のない国であるという認識は現在でも残っておりますので,なるべくモデル法に準拠したという姿勢をとることは必要なことではないかと思います。 ○山本部会長 ほかにこの承認の部分で,いかがでしょうか。 ○出井委員 出井でございます。皆さんの議論に特に付け加えることはないかとは思いますけれども,この問題は,事務局にも整理いただいたとおり,執行力以外にこの効力を認める必要性がどれくらいあるのかということ,すなわち理論的及び実務的な必要性ですね。既判力は,これは暫定措置ですから,ないわけです。あと,部会資料に書かれているような暫定的な形成的な効力というのか,仮の地位を認める効力というのか,それにどこまで重きを置くかということではないかと思います。そのような命令に反して損害が生じた場合に,当事者間では損害賠償の対象になるでしょうし,それは恐らく仲裁合意の客観的な範囲に入るということで仲裁廷が判断するのだと思いますが,ただ,それはここにバインディングなものとしてレコグナイズするということを否定しておかないとそうならないのかというと,私はそうではないと思います。   なので,私も今一つ,果たしてこの執行力以外に効力を認めることを規定する必要があるのかなという気はしますが,ただ,皆さんおっしゃるとおり,一方でモデル法にバインディングなものとしてレコグナイズするという規定があること,それから,当事者間では裁判所の保全処分と同じ効力を持たせるということを改めて明確にするという意味からは,(注2)に書かれているような文言でも入れておくというのは,それはそれで意味のあることではないかと思います。答えとしては,どちらでもいいというと怒られますけれども,いずれも考え方としてはあり得るのではないかと思います。   1点,これは先ほどエクスパルテの暫定保全措置に関して議論したところですが,エクスパルテの暫定保全措置については,少なくとも執行には乗らないということは先ほど確認いたしましたが,今度はバインディングなものとしてレコグナイズするかどうかというところにも掛かってくるわけですよね。そうすると,執行には乗らないというのはいいけれども,当事者間でもそれが無効になってしまうのか,少しそこが気になったところです。先ほどの防御不能の執行拒否事由,承認まで広げると,承認拒否事由になる,防御が不能であったというところ,三木委員からの御意見で,必ずしもエクスパルテ・イコール防御不能にはならないということでしたから,そこで恐らく救えるのではないかとは思いますけれども,そこが一つだけ気になったところではあります。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 一橋大学の竹下でございます。手短にでございますが,私も,法制的には規定しても規定しなくても,どちらでもというのが私の立場でございますが,むしろ,ここでの法制審の部会資料の説明のところで,これを本当に承認と書くのがそもそも適切なのかという点が,私としては気になるところです。承認という言葉はもちろん多義的でございますので,いろいろな意味があって,なので,ここで承認に関する規律の要否と言われたときに,承認ってどの承認なのだろうという話になりかねないと。まず,明確に言えるのは,恐らく外国判決の承認,執行の承認とは,やはり古田先生が最初に御指摘されたように,国家行為がないというところでもそうですし,一定の法秩序に従って既に効力が与えられているものに改めて日本として効力を認める,こういった意味での承認とは少し違う承認なのだろうと。しかし,承認とは何かという雲をつかむような議論をしても仕方ないところでございまして,改めてUNCITRALのモデル法の文言を見るならば,レコグナイズド・アズ・バインディング,要するに,有効な,拘束力のあるものとして認めるというか,そのような意味なのではないか,そういったこと自体を書くことについては,特に問題がないし,むしろUNCITRALのモデル法とそろっているという評価になるのではないかと思います。なので,ここで余り承認といって,それが何を意味するかをこの場で議論するよりは,レコグナイズド・アズ・バインディング,これを訳した言葉としての,その効力を有する,これを規定するかしないかだけを議論すれば,法制的には十分なのではないかというのが私の意見です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがですか。 ○吉野委員 今の承認に関して法律用語として使われる場合には,それがどんな意味を持っているかという法律的な概念それから,要件が何か,さらに効果が何か,そういうことが問題となると思うのです。そして,この承認は,その後の執行決定に続くものです。竹下先生がおっしゃったように,単なる執行決定ではなくて承認執行決定とするという考え方もあるのかもしれませんが,承認自体を取り上げて,決定するというものではないと考えられますと,承認という言葉をどのように入れるか,ぐらいの問題なのかなという感じもします。いや,これはそんな簡単に捨て去ることはできないのだとする考え方もあると思います。ただ,法律用語として。意義,要件,効果を考えて規定する必要があると,それに立ち返って考えるべきと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 今の御発言は,少し誤解があるのかと思います。執行は執行決定ですが,承認は自動承認ですので,承認決定というのがあるわけではないという点をまず述べておきたいと思います。それから,言葉遣いの問題ですが,これは法制執務の問題なので,ここで議論をどこまでするべきかは疑問ですが,あえて申しますと,国家行為でなくても,日本が批准しているニューヨーク条約,正式名称は外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約ですが,ここで承認という言葉が使われており,今回の承認というのは,それとほとんど同じ意味の承認だろうと思います。 ○山本部会長 ほかに。 ○古田委員 竹下さんから承認という用語についてのご指摘がありましたけれども,既に仲裁法第8章で仲裁判断の承認という用語を使っていますので,国家行為以外の仲裁廷の判断について承認という用語を使うことは,日本の法制上も既にされているので,そこはそれほど気にしなくてもいいと思います。   暫定保全措置について類似の規定を設けると,恐らく部会資料11ページの(注2)にあるような,暫定保全措置はその効力を有するといった,一種の自動承認の規定を置くことになるのかと思いますけれども,そこで承認されるのが,出井委員のおっしゃったような,日本の裁判所の仮処分の効力のようなものなのだという理解であれば,そういう規定があってもそれほど問題はなく,かつ,それがあった方がUNCITRALモデル法により適合しているといえるのであれば,その方が望ましいのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにこの,括弧付きかもしれませんが,承認の点について,御意見はいかがでしょうか。大体出たでしょうか。 ○出井委員 1点だけ,出井です。現行の仲裁法の仲裁判断のところは,古田委員御指摘ですが,表題には承認というのは入っているのですけれども,本文の中には承認という言葉は出てこなくて,確定判決と同一の効力を有するとしか書いていないので,表題をどうするかという問題はあるかもしれませんね。 ○古田委員 その意味では正に,表題は承認と書いておいて,条文ではその効力を有すると書くとか,そういうイメージですね。 ○山本部会長 かなり法制的な部分も含んだ話ではあると思いますので,ただ,それは引き続き御議論いただきたいと思いますが,よろしければ…… ○三木委員 打切であればやめますが。 ○山本部会長 打切であればというのは,今の点。 ○三木委員 今,しゃべる時間があるかどうかですが。 ○山本部会長 お願いします。 ○三木委員 規律の文言ですが,暫定保全措置はその効力を有するという(注2)の提案は,日本人は,その意味するところを察してくれということで分かるかもしれませんが,これを英語に訳したときにどういう訳になるのかというのは,かなり心配です。もちろん日本語でこういう表現を使って,英語ではレコグニションを使うというような使い分けはできるのかもしれませんが,内外で異なる言葉を使い分けることになり,かなり危険なことではないかと思います。承認という言葉が表題にしか使われていないという話ですが,先ほど例に挙げた外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約,これは日本が批准しているので,もう国内法となっていますが,それには本文中にも承認という言葉は使われているわけであり,特段の事由がない限りモデル法の表現をなるべく忠実に使うのが,外国から要らぬ誤解を招かないということになろうかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○髙畑委員 一言だけですけれども,先ほど来から先生方がいろいろおっしゃっていたところなのですけれども,やはりそうですよね,せっかく法律を新しくというところで,やはり外から見て,特に国際仲裁というフィールドで考えたときには,やはり外から見て日本の法制がどうなのだろうと,そこの印象的なところもすごく大事ですので,その点だけ御配慮いただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   原案ではこの承認というのは入っていなかったわけですけれども,今日の御議論では,何らかの形でこれを入れる方向が大勢であったと理解しておりますので,次の段階では事務当局から,より具体的なというか,文言も含めて御提案をさせていただければと思います。   それでは,ほかの,執行の要件,あるいは手続等々,その辺りについての御議論に移りたいと思います。 ○出井委員 出井です。先ほど関係官から御指摘の,7(1)イの⑤ですかね,「暫定措置又は保全措置が,当事者間の合意の範囲を超えて発せられたものであること。」と。先ほど御説明としては,仲裁合意プラス別段の合意もあり得るという御説明で,それはそれで理解しました。私もこれを受け取ったときに読んだときは,それでいいのかなと思ったのですが,モデル法の条文と比較してもう一回読んでみると,モデル法のこれに対応するのは17Iの1(a)(ⅰ)でよろしいですよね。1(a)(ⅰ)が,ほかの条文を引いていまして,引用している条文がモデル法の36条の1項の(a)の(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ),若しくは(ⅳ)となって,恐らく対応するのは(ⅲ)という理解でよろしいですかね。(ⅲ)は何と書いてあるかというと,「判断が仲裁付託の条項で予見されていないか,その範囲内にない紛争に関するものであるか,仲裁付託の範囲を超える事項に関する判定を含むことと」,とあります。この条文ですよね。   これを読むと,やはり付託という概念が使われていて,要するに,仲裁付託の範囲を超える事項に関する判定,これはアウトになるということではないかと思います。付託の範囲は,もちろん仲裁合意の中に入っていなければいけませんし,それから,当事者間で付託合意をすることもあります。付託事項書等で付託合意をすることもありますが,ただ,概念としては付託というのは申立てと同じで,一方的な概念も含むのではないかと思いますし,付託事項書が作られることもあるので当事者間の合意ということでも間違いではなくて,大体のものは拾えていると思うのですが,常に作られるわけではありません。モデル法の文言が付託という概念を使っているものですから,そこから離れてしまってよいのかという疑問がありました。   実は,この引用されている36条1項の(a)(ⅲ),これは仲裁判断取消事由の条文なのですが,これが日本の仲裁法の取消事由の条文にどうトランスフォームされているかということを少し確認したいのですが,44条1項5号ではないかと思ったのですが,これは仲裁判断が仲裁合意又は仲裁手続における申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むものであるときと,こういうふうに日本法にトランスフォームされているので,それに倣ってできないのかなという疑問がありました。それに倣えない理由というのがどこにあるのかということをお聞きしたいと思います。 ○山本部会長 では,事務当局から御説明を。 ○福田幹事 福田でございます。まず一つ,この話を分かりにくくしているところがあるのは,UNCITRALのモデル法が,この暫定保全措置の執行拒否事由について仲裁判断の執行拒否事由を包括的に準用しているという点がございます。今回,事務当局の方で一つ一つそれを書き下ろすという作業をさせていただいたということになります。今の出井委員からの御指摘のとおり,付託とか申立てといったところに,やはりなるべく忠実に書くというのが在るべき姿なのかもしれないと思う反面,我々としましては,やはり暫定保全措置特有のものというのもあるのではないか,つまり,どこまで許されるかという問題はまたあるのでしょうけれども,前半で御議論いただいた資産の凍結であったり,証拠保全的なものであったり,そういったものというのは付託された仲裁合意の中に全部読み込めているのかどうかとか,そういった問題もあると思っております。   今回の部会資料でいいますと,最初の第1の1のところで一つ御提案をしております,紛争の対象についてとの文言を削るということとも多少は関係してくると思っておりまして,余り限定的に,仲裁合意ですとか付託とか,そういったものに縛られてしまうのは,そういう意味では限定しすぎるきらいはないかなという懸念があったということは申し上げたいと思います。 ○山本部会長 出井さん,いかがですか。 ○出井委員 出井です。御説明は分かりました。当事者間の合意というところ,これも解釈論になってしまうのかもしれませんが,もちろん仲裁合意の範囲には含まれていないといけないと。今おっしゃったのは,求められた保全処分の内容が合意の範囲に含まれているのかどうかということが保全処分では問題になるのではないかということですかね。 ○福田幹事 すみません,もう一度お願いいたします。 ○出井委員 保全処分に特有なものということでお話しになったのですが,まず,仲裁合意の範囲内には当然入っていないといけないわけですけれども,保全処分として求められた,例として挙げられたのが資産凍結命令等ですが,そういうものが当事者の合意に入っているのかどうかということが問題になるのではないかと,そういう整理でしたか。 ○福田幹事 福田でございます。すみません,私も少し混乱しているところがあるのかもしれませんが,まず,仲裁合意というものがあって,そこで一つ概念としては,当事者間で合意ができていると,それで対象となる紛争が限られていることになると思うのですけれども,暫定保全措置を出すかどうかについて,それとはまた別の合意がされている可能性があるかもしれないと。さらに,暫定保全措置広く一般ではないにしても,一定の類型の措置を除くとの合意がされるかもしれないと。これらが,全て仲裁合意だといえるのか,それとも仲裁合意とは別の,その外にある別段の合意と読むのかというところも関係するのかなと思うのですけれども。 ○出井委員 なるほど,分かりました。そうすると,現行の仲裁法24条1項,先ほど古田さんと議論したところで,別段の合意で除くこともできるわけですよね。それも含めた概念と,仲裁合意プラス別段の合意というのは,そういう意味ですか。 ○福田幹事 そのとおりでございます。 ○出井委員 私が先ほど申し上げたのは,UNCITRALのモデル法,及びそれをトランスフォームした日本の仲裁法44条の先ほどの条文は,合意プラス付託,つまり申立てですね,合意の中で,さらに当事者が申立ての範囲,合意全部を常に申し立てるわけではなくて,合意の一部を申立ての対象にすることができるわけです。仲裁合意の範囲内に入っていて,かつ申立ての範囲に入っている,これを超えていれば駄目ですよというのが該当する条文ではないかという趣旨で,指摘申し上げました。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかに,⑤の点ですかね。 ○三木委員 ④は駄目でしょうか。 ○山本部会長 まず,⑤にあれして。ほかには御意見は,特段ないですか,⑤については。 ○三木委員 では,⑤について,申し上げます。出井委員の御指摘は,私,伺っていて,もっともだと思いますので,法制執務的な用語の点は少し御検討いただくとして,合意又は付託とかいう表現は確かに必要かなと思います。そうしないと,訴訟でいう処分権主義の部分が入っていないということになろうかと思います。 ○山本部会長 日本の保全処分などでは,その処分権主義は保全の場合はやや緩やかに多分,解されているのだろうと思われるわけですけれども,そういうことも含めて。 ○三木委員 おっしゃるとおり,裁判所の保全処分はそうだと思いますが,仲裁は飽くまでも当事者の合意や付託に基礎がありますので,そこは横並びの議論にはならないかと思います。 ○山本部会長 分かりました。   ⑤はよろしいですか。では,書き方については更に工夫を頂くということで。 ○高田委員 誤解しているのかもしれませんが,今の三木委員の御発言は,45条2項5号とは変えるという趣旨も含んでいらっしゃるのでしょうか。 ○山本部会長 文言をということですか。 ○高田委員 はい,文言を。 ○山本部会長 45条2項,仲裁合意又は仲裁手続における申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むという条文ですが。 ○三木委員 この申立ての範囲というのと付託というのが同じ意味であれば,こちらでカバーできていますが,それはそれでよろしいのかどうかということですね。 ○山本部会長 現行は一応,これでモデル法を採用したという考え方ではあるとは思うのですけれども。 ○三木委員 そうですね,そうであれば,付託という言葉でなくてもいいのかもしれません。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○髙畑委員 よく実務上というか,契約書なんかに,要するに仲裁合意,紛争解決条項として仲裁合意をしていますよと,仲裁機関による規則をリファーしていつつ,やはり,例えば土地付きというか,不動産に関するビジネスなんかですと,やはり仮処分というか仮差押えみたいなものは,やはりオンサイトの裁判所で,ローカルの裁判所でできる,みたいにカーブアウトしているケースがままありますので,そういったときも入るようにするというか,そういうふうに特段カーブアウトした場合には入らないし,何となく書いていない場合に,ではどちらに入るのだという議論にならないように,少し書いておいていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○三木委員 先ほどの点に付け足しますが,言葉遣いの問題としては,日本の法制執務の問題ももちろん考える必要がありますが,やはり外国語に訳されたときのことを考える必要があると思います。申立ての範囲を超えるうんぬんというのがどういう訳になるのかということが一番大きくて,付託というモデル法の言葉と同じ訳にならないのであれば,そこはこの45条も含めて,この際,合わせた方がいいかなという気はします。 ○山本部会長 分かりました。日本の公定ではないのかな,訳が一応あると思うので,それを確認してもらって,引き続き議論したいと思いますが,それでは,⑤以外の,先ほど,三木委員は④のお話ですか。 ○三木委員 ④で,暫定保全措置の手続ではなくて仲裁手続という言葉を使ったという説明自体は理解したところです。ただ,こうやって言葉として概念の範囲を広げたのは,やや広げすぎたという気もします。といいますのは,仲裁手続という言葉を採用しますと,暫定保全措置とは全く関係のない仲裁手続上の問題について,暫定保全措置の承認,執行の場面で持ち出される危険がないとは限らないという危惧が生じます。もちろん,暫定保全措置の効力に影響を与えなければ,最終的には裁判所によってその主張は退けられるとは思いますが,そのことによって,本来緊急性を要する暫定保全措置の執行が妨害工作に使われるという可能性はあります。したがって,ただの仲裁手続ではなくて,暫定保全措置に関係する仲裁手続とか,そういう限定句を付けてはどうかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 今の点の関係ですが,資料13ページで,④の仲裁手続において防御することが不可能であったことの解釈として,暫定保全措置の発令とおよそ関係ない瑕疵については却下事由にならないということが書いてあるのですけれども,逆に,暫定保全措置については防御できなかったのだけれども,本案の防御の機会はあったという場合には,執行拒否事由になるという御理解なのかということと,それが今の文言で読み込めるのかという点について,少しお考えいただければと思います。 ○山本部会長 事務当局から,今の段階で。 ○福田幹事 福田でございます。今の点ですけれども,先生の御趣旨としては,この文言で書いたときに,暫定保全措置については防御ができているけれども,その余の点について…… ○古田委員 逆です。本案については答弁書を出したり,主張立証する機会があったのだけれども,暫定保全措置は全く知らないところで出されてしまっていて,何の防御もできなかったというような場合に,執行拒絶できるのかどうかということと,仮に拒絶できるとした場合に,それが今の文言でそう読めるのか,つまり仲裁手続では防御しているので拒絶自由とはならないということになってしまいませんか,という質問です。 ○福田幹事 失礼しました。ありがとうございます。福田でございます。今のところは,少なくともこの文言で対象になっているのだろうとの理解ですが,確かにそう読めるのかという疑問は残りますので,そこも含めて検討を続けたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○古田委員 違う点でもよろしいですか。 ○山本部会長 どうぞ,違う点でも。 ○古田委員 古田です。部会資料9ページの(2)のイですけれども,後段で,この場合において担保を立てるべきことを命ずることができるという規律がありますが,これは,まず確認ですが,部会資料14ページの7にあるモデル法17H条第3項の担保提供権限とは別のことを想定されているという理解でいいですよね。 ○福田幹事 おっしゃるとおりです。 ○古田委員 この場合の,担保を立てさせる根拠というか,実質的理由なのですけれども,要するに,日本における暫定保全措置の執行手続が遅れること自体によって,申立人に何らかの損害が生じることがあるので,それを担保するために相手方に担保の提供を求めるということなのでしょうか。 ○山本部会長 現行法の46条3項と同じ趣旨なのではないですか。 ○古田委員 要するに執行手続自体が遅延することによる損害の担保のための担保提供命令という趣旨ですよね。 ○山本部会長 そういうことなのではないでしょうか。 ○福田幹事 おっしゃるとおりでございます。 ○古田委員 では,結構です。ありがとうございます。 ○山本部会長 ほかにこの執行のところ全体で,ありましたら。 ○門田委員 解釈論は本来この場で議論すべきではないということで,大変恐縮なのですけれども,この手続に特有なものとして,財産の凍結命令というものがあるとお聞きしましたが,この財産の凍結命令が執行の段階でどのように扱われるべきかということについて,解釈の指針を少し示していただかないと,実務上困ることもあるのではないかと思われますので,御意見を伺えればと思います。 ○山本部会長 それでは,どなたか。 ○三木委員 門田委員に確認ですけれども,外国で,例えばシンガポールを仲裁地とする仲裁で,シンガポールにおける仲裁廷で凍結命令が出されて,それが日本で承認,執行を求められる場面を想定してよろしいでしょうか。 ○門田委員 はい。 ○三木委員 その場合ですが,これは先ほどの古田委員の説明に対する意見とも関係するのですけれども,資産凍結命令というのは,恐らく典型的にはマリーバ・インジャンクションを想定しているのだと思います。それを日本で執行するということですから,いわゆるワールドワイド・マリーバ・インジャンクションになるわけです。マリーバ・インジャンクションはその名のとおりインジャンクションですし,先ほどのアンタイスート・インジャンクションもインジャンクションですけれども,インジャンクションというのは日本で保全命令とか差止命令と訳されますけれども,全く違うもので,対人管轄に基づく対人命令なわけです。つまり,物を押さえるのではなくて,人を押さえるというものです。ワールドワイド・マリーバ・インジャンクションに関して言いますと,その執行はシンガポールで発令されればシンガポールで行われるわけです。それが世界的資産凍結命令として威力を発揮していて,つまり,財産所在地の各地で執行しなくてもよいというところに意味があります。つまり,発令地において対人的な不作為命令とか作為命令のようなものとして機能するということですので,私は,それが日本で承認,執行を求められる場面というのがあるとはあまり考えられません。 ○山本部会長 いかがでしょうか。 ○古田委員 古田です。三木委員の御説明に若干私の理解を追加しますと,財産凍結命令も訴訟禁止命令も,要するに当事者に対して一定の不作為を命じるものです。訴訟禁止命令の場合には訴訟を遂行するなという継続的な義務ですので,それに違反して訴訟追行を継続している場合には間接強制という方法があるのですけれども,財産凍結命令の場合には,それに違反をして財産を処分してしまえば,その処分は一回限りでおしまいですので,間接強制という方法にはなじまないだろうと思います。外国の裁判所が発令した命令の場合であれば,裁判所の命令に違反をしたということで,例えば法廷侮辱罪のような制裁がありますけれども,日本の執行法上,それは予定されていません。ですので,ワールドワイド・マリーバ・インジャンクションの対象に日本における資産が含まれていたとして,名宛人がそのインジャンクションに違反をして日本の財産を処分してしまった場合に,そのマリーバ・インジャンクションを日本で執行するというのは,現行の日本の執行法制上,難しいのではないかと思っております。 ○山本部会長 どうぞ,簡略に。 ○三木委員 古田委員がおっしゃったことについてですが,日本で執行することが日本の法制に反するかどうかというよりも,そもそも日本で執行を求めるという場面とか意義があまり見いだせないということです。それは,先ほどの訴訟禁止命令についても同じで,古田委員は間接強制の場面を想定するのだとおっしゃいましたけれども,そうだとしても,日本で間接強制を求めるという意味はあまりなくて,普通は発令地で間接強制のようなものを掛ければいいだけではないかと思います。資産の差押えというのは,属地的に各国に属するものですから,それぞれの国でやったりする意味がありますけれども,対人命令については,資産所在地みたいな概念は必要ないということではないかと思います。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○吉野委員 今の関係で,少し分からないところがありますので。資産といってもいろいろなものがあります。例えば,相手方が所有している不動産を処分してはならないという命令が出たとして,それに基づいて日本国内にある不動産について,暫定保全措置を出すことが可能なのかどうか。一般的な財産を特定しない命令ではなくて,財産を限定したものについて,日本でその不動産について暫定保全の措置を出すことができるのかどうかという問題です。 ○山本部会長 決定が出せるかどうかという御議論ですか,執行の問題。 ○吉野委員 いや,仲裁廷は暫定保全措置を出した。それに対して,執行決定を日本の裁判所が出せるかどうかという疑問です。 ○山本部会長 事務当局からお答えはありますか。 ○福田幹事 福田でございます。今の点は,日本にたまたま見付かった不動産について,処分するなという命令が出ていたにもかかわらず,処分してしまったのでしょうか,それとも,まだ処分されていない…。 ○吉野委員 いや,まだ処分していないという段階です。日本において仮差押的あるいは仮処分的な命令を出せるかどうかという質問です。処分してしまった後の問題についてもお聞かせ願えればと思いますけれども。 ○福田幹事 福田でございます。まず,部会資料の8ページを御覧いただければと思いますけれども,これまで暫定保全措置に基づく強制執行という話をしておりましたけれども,ここでは民事執行というものを想定しております。民事執行としての強制執行ですので,仮差押えといったものはここには入ってこないものと理解をしております。 ○吉野委員 そうすると,債務名義の基となるものがあるとして,日本の裁判所の執行決定の中で個々の財産について,例えば不動産について,差押命令を出せるかどうかということです。それから,これは端的な質問ですけれども,この暫定保全措置についての執行文は不要という理解でしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。執行文の要否についてのお尋ねと理解しました。今回,仲裁判断と同じような枠組みで執行決定の手続を構想しております。仲裁判断の場合には,民事執行法第22条の6号の2に確定した執行決定のある仲裁判断が債務名義として掲げられており,これについては,第26条で執行証書以外の債務名義については執行文が付与される必要があるとの規定がございます。したがって,仮に仲裁判断と同じような枠組みで考えた場合には,こういった形の制度になるのかなとは想定しております。 ○山本部会長 執行決定についての債務名義,執行文。 ○吉野委員 そうです,執行文付与が要るかどうかという質問です。 ○福田幹事 仲裁判断と同じと考えれば,必要ということになろうかと思います。   もう1点,最初の方ですけれども,強制執行という形で実際に差押えができるかというところですけれども,これは,先ほどから出ております,暫定保全措置にどのような効力があるかという問題とつながってくるのだろうと思います。既判力があるのか,ないのかというところ,ここもひょっとしたら議論があるのかもしれませんけれども,事務当局の立場としては,既判力まではないだろうと考えております。そうすると,飽くまで暫定的なものということであれば,民事執行法でいうところの差押え,競売開始のようなものはなかなか想定しづらいと考えております。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。 ○門田委員 先ほどの三木委員等の御説明で,通常,申し立てられることはないというのは理解しましたけれども,それにもかかわらず何らかの形で申し立てられたときは,どの事由に該当するとして執行を拒否することになるのかというところもご示唆いただければと存じます。 ○山本部会長 三木委員,お答えいただけますか。 ○三木委員 幾つか可能性があるかもしれませんが,強いて言えば⑨が一番可能性が高いと思います。 ○門田委員 ありがとうございます。 ○山本部会長 なお,私は個人的にはやや違う考えを持っていますが,もうこれ以上は議論をする時間はないと思いますので,この7のところはいかがでしょう,よろしいですか。 ○渡邉幹事 最高裁の渡邉でございます。1点だけ,念のための確認をさせていただければと思います。研究会でも議論があった点ではございますが,暫定保全措置の内容の裁判所による変更権限,14ページの8のところの関係でございますが,今回の御提案は,そういった変更権限に関する規律を設けないというものであると理解しております。このような提案を前提といたしますと,例えば暫定保全措置の内容を少しだけでも修正すれば日本の裁判所として執行できるようなもの,例えば,主文を少しだけ修正すれば執行できるもの,あるいは登記手続を命じるもので,登記原因が抜けているけれども登記原因を補うのは簡単であるといったようなものについても基本的には,そのままでは執行できないという前提で,裁判所としましては粛々と執行を拒絶し,当事者において暫定保全措置を取り直していただくということになるという理解でよろしいのかということを念のために確認させていただきたいと思います。,と申しますのは,おおむね,恐らくこういう場では,そのとおりでいいですと言っていただいても,実際の場面になると,これだけだから少し直してくださいよという話になるのではないかという疑いを持ってしまうものでございますので,一応確認のためにお聞きしたいところでございます。 ○山本部会長 それでは,事務当局から。 ○福田幹事 福田でございます。ここでは,規律を設けない,つまり条文を書かないことを提案しているわけですので,何か事務当局として決め打った考え方というのがあるわけではございませんが,基本的に,変更権限の有無については解釈問題になってこようかと思います。事務当局としてはその程度のことしか,申し上げにくいかなと思いますが。 ○山本部会長 よろしいですか。   では,今の点。 ○古田委員 古田です。裁判所に暫定措置の変更権限がないとしても,仲裁廷には暫定措置の変更権限があるわけです。今の渡邉さんがおっしゃったような,軽微な文言の変更をすれば日本でも執行対象になるというときは,仲裁廷に申立てをして暫定措置の文言を変えてもらうことは可能だと思うのです。その上で,既に日本で係属して執行決定の手続において,暫定保全措置が変更されたので変更後の暫定保全措置につき執行決定を求めることができるのではないかと思っていました。今の事務当局の御説明だと,その場合は変更後の暫定保全措置に基づく執行決定の申立てを改めてしなければいけないということになるのか,あるいは従前の手続の中で申立ての趣旨を変更すれば足りるのか,そこは何かお考えがあれば教えてください。 ○山本部会長 事務当局,今の段階で。 ○福田幹事 福田でございます。今の段階で,そこまでのところは,この提案の中には含まれていないものとお考えいただければと思います。 ○山本部会長 その点は少し,それでは,事務当局に検討いただいて。 ○出井委員 出井です。渡邉幹事,あるいは門田委員から怒られるかもしれませんが,一字一句変えてはいけないのか,例えば明らかな誤記があった場合にどうなのかとか,その辺りは,そこまで厳格に考える必要はないのではないかと私は思います。執行に移るわけですから,先ほど古田委員がおっしゃったように,仲裁廷にもう一回誤記を訂正してもらってということの方が,それはプラクティスとしてはベストプラクティスだとは思いますが,全く一字一句変えてはいけないかというと,私はそこまでのことは考えていませんでした。 ○吉野委員 今の点に関連して申しますと,日本の執行実務,保全実務も同じなのですけれども,非常に文言に厳しく,うるさく言っていると思います。私どもの経験上給付文言でないものは一切駄目だと考えています。例えば,「書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究」などにも非常に厳しいことが書かれています。「何々すること」とあると確認条項的に受け取られるから避けるようにという記載もあります。それぐらい厳しく日本の執行実務は考えているということです。これに対し,給付の趣旨が分かれば,まあいいではないかと言われますと,恐らく日本の執行実務が根本から覆ってしまいます。そこは恐らく譲れないところだろうと思います。したがって,給付について,特に執行決定を経て,実際の執行に当たって,仲裁判断に基づく場合も同じですけれども,執行の趣旨が一義的,明確になっていることが必要ですし,この点は日本の執行実務は恐らく譲れないところだろうと考えています。英語の訳をどうするのかということもあるのかもしれませんけれども,それは注意する必要があるのではないかと思います。 ○山本部会長 ほか,よろしいでしょうか。   それでは,ここで少し休憩を取りたいと思います。少し押していますので,4時10分に再開ということにしたいと思います。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,会議を再開したいと思います。   一応,部会資料2の7の部分は終えたことにさせていただいて,第1で残っている部分ですね,15ページの「8 暫定保全措置の発令に際して担保の提供を命ずる者に関する規律」というのと,16ページの「9 暫定保全措置と裁判所における保全処分との関係に関する規律」,この8,9の部分について,まず事務当局から説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川でございます。第1の8では,暫定保全措置の発令に際して担保の提供を命ずる者について,改正モデル法に対応する形で規律を改めることを提案しております。   改正前のモデル法は,いかなる当事者に対しても担保の提供を求めることができるとしており,これに対応する形で,仲裁法第24条第2項も,いずれの当事者に対しても担保の提供を求めることができると規定しています。しかし,改正モデル法では暫定保全措置を申し立てた当事者に対してのみ担保の提供を求めることができると規律が改められています。そこで,部会資料では,担保の提供は被申立人に生じた損害の填補を目的とするものであるという観点から,改正モデル法に対応した規律を設けることを提案しております。   第1の9では,暫定保全措置と裁判所における保全処分との関係に関する規律を設けることの要否について取り上げております。この点は仲裁法の制定時に検討すべき課題とされていたものですが,前回の会議で頂いた御意見も踏まえますと,保全の必要性や執行拒否事由などの解釈によって対応できるとの考え方があり得るものと考えております。仮に明文の規律を設けるとしますと,ドイツの民事訴訟法のように,暫定保全措置に相当する保全処分の申立てが裁判所にされているということを執行拒否事由の一つとするという案が考えられますが,そのような規律を設けると,モデル法に明示されていない執行拒否事由を定めることとなり,モデル法への対応という観点からは問題が生じ得るとも考えられます。以上を踏まえて,暫定保全措置と裁判所における保全処分との関係に関する規律の要否について,御意見を頂きたいと思います。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの点につきまして御質問,御意見をお出しいただければと思います。 ○古田委員 9の裁判所の措置の関係からでもよろしいですか。ドイツ民訴法141条のような条文は不要であり,置くべきではないと思います。他方,モデル法17条Jには,むしろ裁判所の保全処分はできるのだという規定があるようなのですけれども,そちらの方向での規定を日本法上,設ける必要性というのはないのでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。これは,今の仲裁法第15条の規定に相当するものと考えておりますけれども,いかがでしょうか。 ○古田委員 なるほど,分かりました。つまり,今回の改正で仲裁廷の暫定保全措置に執行力を付与することになったとしても,なお裁判所の保全処分には影響はないという整理だということですか。 ○福田幹事 そのとおりでございます。 ○古田委員 分かりました。結構です。ありがとうございます。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。まず,8番ですが,いかなる当事者に対してと,これは現行の仲裁法,元々のモデル法に基づいていたわけですが,これがいかなる当事者に対してもとなっていて,これがいろいろ議論を呼んでいたところです。損害担保だとすると,どうして保全措置の被申立人にも担保を立てさせるのかとか,あるいは,これは履行担保を規定したものではないかとか,保全措置の解除とか停止の際の担保のことを規定したのではないかとか,いろいろ議論があって,分からなかったのですが,今回整理されたと思いますので,これでよいと思います。   9ですが,私は結論としては,特に規定は設ける必要はないのではないかという意見ですし,それから,古田さんがおっしゃったように,ドイツの民訴法ですか,裁判所に保全処分が申し立てられているだけで執行拒否事由になってしまうというのは,それは適切ではないと思います。ただ,ここの問題意識は分かるように思います。保全措置の発令の段階では,保全の必要性であるとか,そういうところの要件で判断できるのでしょうけれども,執行拒否の段階ではなかなか難しいのですね。保全の理由とか保全の必要性について,執行を判断する裁判所はもう一回,中身に立ち入れないという立て付けでしょうから,そうすると,この執行拒否事由のどれかに当たらないと駄目だということになって,事務局の方で御提案になっているのは,公序ですけれども,文言的には非常に苦しい,ただ,公序はそういうキャッチオール的な使われ方もすることがあるので,それで行けるのではないかと思います。   それから,これが実務上どれくらい問題になるのかということですが,裁判所が既に同一の保全処分を出しているときに,さらに仲裁廷が保全措置を出して,それを裁判所がまた執行するというのが,執行拒否の段階ではブロックできないとしても,執行の段階では何か調整できないのか。それから,仮に調整できないとしても,同じような保全処分が二つ出るだけで,少し乱暴かもしれませんが,何か障害が生ずるのかと。相反するものであれば,それはそれで問題なのでしょうが,同じようなものが二つ出るだけで,果たしてどれだけ実務上,問題が生ずるのか疑問ということもあります。   それと,一番大きいのは,やはりモデル法上こういう調整的な規定が置かれていないという点があるのと,調整的な規定を置くと,いろいろな場合を想定しなければいけなくて,なかなか規律を考えるのは難しいように思いますので,私は結論としては,調整規定は置かなくてよいのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,第1の部分についての議論は以上ということにさせていただいて,引き続き「第2 仲裁合意の書面性に関する規律」についての議論に入りたいと思います。   事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川でございます。第2では,仲裁合意の書面性について,改正モデル法のオプションⅠに対応した規律を設けることを提案しております。   我が国の仲裁法では,仲裁合意の書面性,特に電磁的記録の関係については,モデル法の改正を先取りする形で規律が設けられたこともあり,文言として完全に一致しているわけではないものの,内容的には改正モデル法に既に対応ができているとも考えられます。しかしながら,前回の会議では,仲裁合意の書面性についても改正モデル法に対応していることが明らかになるような改正を検討すべきであるとの御意見を頂いているところです。   その御意見を踏まえ,改正モデル法のオプションⅠの第7条第3項に倣い,仲裁合意は,その内容が何らかの方式で記録されているときは,書面要件を満たすものとする旨の規律を設けることを提案しております。提案している規律の文言は,部会資料においては「書面によるものとする。」となっておりますが,これは,書面によってされたものとする,すなわち書面要件を満たすものとする,という意味であるとお考えいただければと思っております。   改正モデル法では,書面要件を撤廃するオプションⅡという規律も示されておりますが,部会資料においては,仲裁合意の書面要件は維持しつつ,モデル法のオプションⅠの規律に対応するため,さきに述べた規律を設けることを提案しております。このような規律を設ける方向について特に御異論がないようであれば,今後,仲裁法第13条第2項なども含めて,文言については更に検討させていただきたいと考えております。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので。 ○三木委員 新3項については,オプションⅠに準拠したこのような規定を置くという御提案に賛成します。先ほど,次の二読に向けては2項も含めてという御発言があったので,あえて私の方で申し上げる必要もないのかもしれませんが,念のために申し上げますと,あわせて現行の13条2項をモデル法のオプションⅠの2項と同等に修正するということも併せて行うべきであるという意見を申し上げておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 1点確認なのですけれども,部会資料17ページの御提案について,仲裁合意は,その内容が何らかの方式で記録されているとき,という文言の解釈として,何らか場所的な制限とか時間的な制限はあるのでしょうか。例えば,仲裁合意がされたその場で記録しなければいけないとか。そのような制限がないとすれば,例えば仲裁申立ての段階で,3年前に取引契約を締結したときに口頭で仲裁合意をしたということを何かメモに書いて仲裁申立書に添付をするとか,あるいは仲裁申立書自体に口頭で仲裁合意をしたという記載が書いてあれば,形の上では仲裁合意の内容が記録されていることになるかと思うのですけれども,そういうものでも含まれるという趣旨なのか,お考えをお聞かせいただければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。今の点につきましては,この13条3項の提案では,同時に記録されたものに限るというような限定は付けていない趣旨と理解していただければと思います。ただ,どこまでの時間的ずれがあるものまで含まれるのかといったところについては,最後,どうしても解釈に委ねざるを得ない部分が残るものと理解しております。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○古田委員 そうだとすると,かなり解釈の幅が広くて,予見可能性の観点からいうと少し心配な面もあるかなと思いました。 ○三木委員 UNCITRALの会議における議論の内容を,記憶がややおぼろになってはおりますが,申し上げたいと思います。   結論から言うと,事務局の御説明のとおり,結局それは記録の解釈の問題にはなろうかと思います。ただし,明らかなこととして,古田委員が例に挙げたような実際の合意から何年か後に作られた書面というのは,両者の合意を正確に記録したものではないという推定が当然働きますから,かなり強い反証を記録であるという側がする必要はあろうかと思います。そういう推定原則からいうと,基本的には,合意のときに同時に記録されたものというのが両者の意思を正確に表しており,両者もその内容を確認したということが推定されますので,そういうものが正しい記録であるという推定が働き,そうでないものは逆の推定が働くので,それを争う者が反対の証明をする責任があるということで,さほど実務が混乱するようなことにはならないであろうと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○古田委員 今の三木先生がおっしゃったように,要するに,時期的な制限はないのだけれども,証明力の問題になるということであれば,書面性要件は事実上,廃止したということになるかと思います。それはそれで一つの整理ということで理解いたしました。ありがとうございます。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 吉野です。第3項としてこれを加えるということはいいのですが,現行の仲裁法13条を見ますと,第4項で,電磁的記録については,これによってされたときは,その仲裁合意は書面によってされたものとするとあります。そうすると,17ページにある第3項の案の,何らかの方式で記録されているときはというのと,現行の第4項の,電磁的記録によってされたときというのが重複しているのではないかという気がしないでもないのですが,これは何か違うという趣旨ですか。教えていただければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。改正モデル法のときの議論を後で三木先生から御紹介いただければと思いますけれども,事務当局としましては,ここは確認規定という読み方も十分できるのかなと思いますが,そこでカバーできていないものもあるかもしれないとの懸念もありまして,仮にモデル法に倣って規律するのであれば,現行の4項については基本的に残す方向で,3項として新たなものを挿入した方が分かりやすいのではないかという理解でおります。 ○山本部会長 三木委員から何か。 ○三木委員 これは,疑いなく確認規定だろうと思います。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。 ○古田委員 古田でございます。これは私が心配することではないのかもしれませんけれども,民訴法上の管轄合意については引き続き書面性の要件が課されていると思うのですけれども,仲裁合意について事実上,書面性の要件をなくすような立法をする場合に,管轄合意とのバランスというものは気にしなくてもよいという整理でしょうか。 ○山本部会長 事務当局,何かありますか。 ○福田幹事 福田でございます。この点につきましては,やはり管轄合意と仲裁合意というものは質的に異なるものという整理が一応可能かと思います。ですので,ここの仲裁合意の書面性の問題が直ちに管轄合意の方の議論に直結するものとは考えておりません。区別して考えられるものと理解しております。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○古田委員 結構です。ありがとうございます。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。特段よろしいですか。   それでは,基本的には支持していただく方向だったのではないかと思いますけれども,先ほどもありましたように,次の機会には全体像というか,2項等も含めて提示を頂ければと思います。   それでは,続きまして,本日最後の論点になりますが,第3,部会資料18ページの「オンラインの方法による口頭審理の実施に関する規律」について,御検討を頂きたいと思います。   まず,事務当局から部会資料の説明をお願いします。 ○吉川関係官 吉川でございます。第3では,オンラインの方法による口頭審理の実施に関する規律について取り上げております。仲裁法は,当事者の一方の申立てがあるときには,原則として口頭審理を行わなければならないことを定めているほか,口頭審理の期日に当事者や関係人が出頭することを前提とした規律を設けています。このような規律との関係で,口頭審理をオンラインの方法により実施することができるか否かが問題となるものと考えられます。   まず,当事者の合意がある場合については,仲裁法上,仲裁手続の準則は仲裁法の公の秩序に関する規定に反しない限り,当事者間の合意により定めるところによるとされており,口頭審理に関する規定も当事者間に別段の合意がある場合には適用しないものとされていることから,オンラインの方法による口頭審理が可能であるとの考え方を記載しております。   次に,当事者の合意がない場合については,オンラインの方法による口頭審理が許されるとする考え方,許されないとする考え方の双方を記載しております。一方で,近年のIT化の進展等に伴い,ウェブ会議の方法によって当事者が一堂に会するのと同様の状態を実現することが可能となっていることから,オンラインの方法による口頭審理の実施も許されるという考え方があります。他方で,口頭審理というのは当事者が物理的に一つの場所に集まった場合に限って実施することができるという考え方,又は,民事訴訟法等において期日への出頭と電話会議システムやテレビ会議システムの方法による手続への関与とが区別されていることから,オンラインの方法で手続に関与したことをもって直ちに出頭したことにはならないという考え方もあります。そこで,当事者間の合意がない場合においてもオンラインの方法で口頭審理を実施することができるか否かについて,御意見を頂きたいと思っております。   その上で,仲裁法第32条の改正の当否についても御審議を頂きたいと考えております。前回の会議では,オンラインの方法による口頭審理を認める明文の規定を設けるべきであるとの意見,そのような改正については慎重に検討すべきであるとの意見を頂いているところですが,現行法の規律についての検討も踏まえて,更に御意見を頂きたいと思っております。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも,お願いいたします。 ○三木委員 前回の会議の後,改めてUNCITRALにおける議論の内容及び現行の日本仲裁法とUNCITRALモデル法との関係を確認いたしました。記憶の喚起ですから不正確な点があるかもしれませんが,2006年改正当時,審理をオンラインで行うことについて何か改正の必要があるかという問題は出されまして,あまり長い議論をした記憶はありませんが,現行規定で十分カバーできるし,既に2006年以前のモデル法でオンライン審理は行われている例がいろいろと紹介されました。その当時,まだ今日のようなZoomやWebexはありませんでしたが,確かスカイプが途中から実用化されたと記憶しております。また,それ以外に何かツールがあったのかもしれませんが,いずれにしても,オブザーバー参加している常設仲裁機関や,あるいは幾つかの国からオンライン審理の問題は提起されたと記憶しております。   UNCITRALにおいて,特に規定の改正の必要がないということになったのは,モデル法の英語の表現では,日本法で「出頭」となっているところが「appear」という動詞になっています。私の理解では,「appear」には物理的な出頭に限定するという意味はありません。オンラインのスクリーンで現れる場合も「appear」でカバーできるというところから,改正の必要がないという議論がなされたのではないかと思います。この最後の点は,どういう議論がされたかまでは,結論は覚えていますが,少し記憶が定かではありません。   それに対して,改めて日本法を見てみると,現行のモデル法がモデル法に準拠していないということに気が付きました。先ほど来,事務局の説明にもありますように,日本の現行法は幾つかの条文で,33条3項,34条3項と資料に書かれていますが,「出頭」という言葉が使われています。確かに「出頭」という言葉は物理的に出席することを意味するのだろうと思います。現行仲裁法を立法するときに,「出頭」と「appear」の関係を議論した記憶はありませんので,日本法が意図的にモデル法と違える意図でこの言葉を選択したのではないと思います。ただ,出来上がった現行の日本法を再度英語訳したものには「appear」という訳が使われていますので,外国人の目から見ると,現行日本法に「出頭」という言葉が使われているということは,夢にも思わないという状況にあるのだろうと思います。   このように,「appear」という英語訳が流布している中で,オンラインの規定をわざわざ置くというのは,先ほど言ったUNCITRALの議論であるとか現在の世界の常識から見ると奇妙なことになりますので,むしろ今回,改正すべきは,「出頭」の部分を,何が適切な言葉かは御議論があると思いますが,「出席」とか何か,物理的な出頭を意味しない言葉に変えるという改正こそが,モデル法にも沿い,また世界の常識にも沿った改正になるのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○原田委員 オンラインによるヒアリングについて,当事者間に合意がある場合に実施ができることを明確にすることは,産業界としても異論はないのではないかと思います。   一方,当事者間でオンラインでのヒアリングの実施が合意されていないにもかかわらず, 仲裁廷が自らの判断でオンラインでのヒアリングを実施することができるようにすることは,やはり慎重に考えた方が良いのではないかと思っております。限られた経験からではございますけれども,ITが発達し,リアルに近い環境でのヒアリングが実施できるようになってきたことは確かにそのとおりだと思いますけれども,やはりオンラインでは把握し切れない,仲裁人,証人,そういう方々の反応というのはございますし,証人が証言する前に,基本的には待機室にいて,ヒアリングの様子は見えないようにするといったプラクティスがございます。実際にオンラインでやっているときに,いわゆるウィットネス・コーチングのような,証人を手助けするようなことが行われていないかどうか,それを確認するのはオンラインではなかなか難しいのではないかと思います。そのような心配があり, オンラインでのヒアリング実施には同意できないのでしょうから,そういった懸念があるにもかかわらず, 仲裁廷の判断でオンラインでのヒアリングができてしまうのは,実際にその当事者となる可能性のある企業からすると,非常に心配ではないかと考えております。   以上,意見でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○高杉委員 まず最初に,三木委員のご提案に賛成でございます。まずは現行の条文をUNCITRALでの議論に沿った方向で改正を検討することが適切だと思います。次に,原田委員からご指摘のあった懸念につきましては,既にオーストリア最高裁でも取りあげられております。原本までは見ておりませんが,クルーワー・アービトレーションのデータベースに10月24日に記事が出ております。このオーストリア最高裁の7月23日の裁判は,コロナ禍のために対面での口頭審理ができないということで,一方当事者が反対したにもかかわらず,仲裁廷が口頭審理をオンラインで行うとの決断をしたことから,当該当事者が仲裁人の忌避を裁判所に申し立てたという事案に関するものです。申立ての理由としては,日本でいえば仲裁法25条の十分な説明の機会を,仲裁廷が当該当事者から奪ったということであったようです。最高裁は,結局,この申立てを退けたのですけれども,ただ,事案によってはそのような理由が妥当だと判断される可能性がないわけではないような判示をしておるようです。今,原田委員が懸念としてご指摘されたことなども,申立人は主張しておりまして,この点について裁判所は,対面で行われる口頭審理でも起こり得るなどと判示しておるようです。一つの参考となる裁判ではないかと思います。   私の意見でございますが,オンラインでの口頭審理の実施については,仲裁機関の仲裁規則でも手当がなされていると思いますので,当事者が当該規則に合意すれば問題が生じないようにも思われますけれども,ただ,合意があったとしても,先ほど申し上げましたように,不服な当事者は,日本でいえば仲裁法25条2項の十分な説明の機会に反するというような主張を行うことがあり得ると思うのです。そうすると,そのような紛争を生じさせないために,むしろオンラインが可能である旨を明文化・明確にするのも一案かなと思います。ただ,この点は,UNCITRALの2006年モデル法から離れることになりますが,他方で,2020年代に実施される仲裁法として,今後,オンラインでの口頭審理が行われるのが明らかであるにもかかわらず,何らの手当てをしていないというのも問題であり,先ほどの緊急仲裁人も同じですけれども,ある程度確立した実務等があれば,それを法律に反映することも,決して,世界から見て日本の仲裁法がおかしいと言われるものではなくて,むしろ日本の仲裁法の信頼度を高めるのではないかと考えます。このような方向で検討するのも一案ではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○春田委員 御説明ありがとうございます。私も実は,今の議論を聞いていて,いろいろな懸念点もあると承知をいたしました。しかし高杉先生が述べたとおり,現状を鑑みた今,ZoomやWebexなどが使われております。要は,IT化の流れを踏まえた改正は,あってもよいとは思っています。確かに,モデル法との関係の中で,少し懸念点があります。日本としては,モデル法も重要ですが,現状を鑑みた考え方を持ってもよいとは思っています。皆さんが述べている懸念点も十分理解いたしますので,検討の一つ,意見として言わせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○有田委員 有田です。今の議論の中で,私は三木委員がおっしゃったことに賛成いたします。出頭というところを少しほかの表現に換えて対応するということに賛成いたします。それで,御懸念のところはいろいろあると思うのですが,それは仲裁,つまり双方の合意できちんと進めていくということが本来ならば重要なことだと思っておりますので,そこを丁寧にすることで,そこを文書化することが必要なのかどうか,合意ができていなければ行えないことではないのかなと,素人考えではありますけれども,そういうふうに思いました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。第1回で私の方からお願いをして問題提起をして,ここまで取り上げていただきまして,本当にありがとうございます。大分整理できたと思いますが,私は口頭審理という概念が問題だとは思っていたのですが,実は口頭審理という概念よりも出頭の方が問題だったということがよく分かりました。口頭審理の方は解釈で行けそうな気がしますが,出頭はなかなか難しい感じですかね。そこは変えた方がいいのかもしれません。   また,少し整理ですけれども,挙げられている条文が32条と33条,34条ですかね,もう一つ,消費者仲裁合意に関する附則の3条というのがあって,それらで,32条は口頭審理という言葉,それから33条,34条,附則3条は口頭審理及び出頭という言葉が使われているということであったと思います。32条,33条,34条は,当事者間の別段の合意で変えられるということなので,これは機関規則で対応できるのだと思います。問題は,機関規則あるいは合意がない場合どうなのかというところが残るということですかね。附則3条の方は,恐らくそれもできないのだと思います。   この問題の対応として,幾つか考えられるのですけれども,一つはもう解釈で対応してしまうということなのですが,出頭のところがなかなか難しい感じですかね。乱暴に言うと,民訴法と非訟事件手続法を挙げられていますが,仲裁法は仲裁法で解釈をすると,特にモデル法に準拠しているということもあり,そういうのは可能ではないかとも思いますけれども,そこは明確にするということはあり得るかと思います。   あとは,解釈として口頭審理あるいは出頭は物理的に集まることだというふうになるとしても,あるいはそこは不明確だとしても,当事者間の合意でそこははっきりさせるということはあります。仲裁法の附則3条については,特殊な状況の条文なので,そこは当事者間の合意で変えられないというのはそのままに残しておくべきだと思いますので,そこはそのままでいいのかなと思いますので,結論としては,三木委員がおっしゃったような改正は検討をするということで,それくらいでとどめて,あとは解釈と当事者間の合意,機関規則に任せてよいのではないかと思っています。   1点だけ,これも解釈論になるのかもしれませんが,先ほど原田委員から御指摘があったこととも関係しますけれども,この口頭審理の中で行われる営みのうち,やはりクリティカルなのは証人尋問なのだと思います。証人尋問あるいは鑑定人質問ですかね。証人尋問については,やはり当事者の対決する権利というのか,コンフロントの権利というのがあるということも言われますので,そこを仲裁でも尊重しなければいけないという考え方は十分あり得ると思います。そういうことを考えますと,オンラインとひとくくりにしておりますが,オンラインでもビデオ会議もあれば,ビデオ会議にもいろいろなクオリティーがありますし,あと,電話会議というのもあるわけですね。ところが電話会議の場合は画像が見えない,音声だけということになりますので,それで果たしてコンフロンテーションの要件を満たすのかという問題があると思います。なので,そこは慎重に考えないといけなくて,出頭の文言を変えるぐらいは恐らくいいのだと思いますけれども,口頭審理を本当に変えてしまってよいのかというのは,少し考えないといけないかなと思っています。取りあえず,整理ということで。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 私はこのペーパーを拝見したときに,審理のメニューを増やすだけなのかなと,特に異論はないなと思いました。このような2006年には到底予想もしなかったような状況下ですので,仲裁廷として審理を円滑に進める,付託された責務を全うするという観点からいうと,オンラインという現在の技術を使って審理を粛々と行う。確かに,直接,目の前で証人に尋問することはできないかもしれませんけれども,言わば次善の策として,状況下によってはそのようなこともあるのだろうということで,余り大きな問題はないなと感じていたところです。   それから,言葉の問題ですけれども,私も言語学者ではありませんし,法制に詳しいわけではありませんので,余り大きなことを申し上げることはできませんけれども,日本語が持っている語感,意味と,英語あるいはその他のそれぞれの言語が持っている語感というのは,大きく違うのだろうと思います。したがって,適切な訳を見付けるということはなかなか難しい場合もあるだろうと思います。そういう意味で,それにできるだけ合わせるという努力はする必要があると思いますけれども,それができない場合にどうするのか,いろいろ語句を並べるのかというと,それもまた適切ではないだろうと思います。それから,日本法での改正ということになりますと,法律によって意味が違ってくるということをどう考えるかという問題が出てくる可能性があります。それもまた,余り適切ではないだろうという気がいたします。そういう意味で,先ほど出頭などの言葉を変えるということがありましたけれども,率直なところ,私はそれには余り賛成ではないと考えています。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 ありがとうございます。当事者の審問,それから証人尋問,特に後者の方ですけれども,時間的に証人尋問の頃になると,一方当事者は負けそうだと思うようになって,手続進行にかなり後ろ向きになってくることがあります。そこで,いろいろと仕掛けをしておいて後で取消しを求めようといった戦術をとることも起きてきかねません。そのようなことに対処するため,解釈でビデオカンファレンスも含まれるのだというよりは,もう少し進んで明確にする方がよいのではないかと思います。要するに,両当事者が反対すればともかく,そうでない限り仲裁廷の判断で適切な方法をとることができ,その中にはビデオカンファレンスが含まれるということが明確に分かるようにするということです。JCAAの規則はそういうふうに書いてありますけれども,法律上そのように規定して頂き,今言ったような後ろ向きな当事者が悪あがきをすること,例えば,是非リアルでの審問を求め,しかし飛行機は飛んでいませんので,再開したらやりましょうといった先延ばしの戦術を使えないように工夫した言葉遣いを選んでいただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○今津幹事 今津です。今,道垣内先生がおっしゃったことと少し関連するのですが,御提案の中では,当事者がオンラインでやることに合意した場合と,その合意がない場合という形で書かれているのですが,両当事者がオンラインでやることに明確に反対している,一方か,あるいは双方か,どちらかでも反対しているという場合の扱いについては,何かしらの規定を設けるのか,一方当事者に拒否権のようなものを付与するのかという点については,今の道垣内先生のお話と重複しますが,やはりいいのではないかという気がします。引き延ばしという話にもなってくると思いますので,その辺り,今回御提案の中ではあえて触れていないのか,何かお考えがあればお聞かせください。 ○山本部会長 それでは,事務当局から。 ○福田幹事 福田でございます。その点について,現時点で事務当局として何らか考えがあるということではなく,今回は,その改正の当否も含め,広く皆様方の御意見をお聴きするという姿勢でおります。 ○山本部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。議論は出尽くしたと見てよろしい。 ○今津幹事 すみません,重ねてお伺いします。証人尋問の場合に,特にオンラインでやることで何かリスクがありそうだというお話が先ほど出ていたのですけれども,例えば,今の民事訴訟法の規制だと,証人尋問で映像を使ってやるということも可能だという形になっていますけれども,その場合,証人も裁判所に出頭してやるという形なので,ある程度,ほかからの影響がないような形で証言ができるような配慮というのがされているかと思います。それは裁判所が全国にいろいろ庁舎を持っていて,遠隔の地にいる人でも近くに出頭してやってもらうということが可能だと思うのですが,仲裁の場合にそういう形で,ある程度,証人にほかからの影響を排除するような仕組みとして,とろうと思えばとれるのかというところ,そういう制度を入れる場合に,そういった措置が可能なのかどうかというのは,御承知の方がいればお伺いしたいです。 ○手塚委員 いろいろなやり方はあると思います。例えば,海外渡航は難しいけれども,同じ国の中では出歩くことはできるという国は結構ありますね。そういう場合に,その国にいるチームが申立人,相手方側の代理人と,そこにいる証人が一定のところに集まり,仲裁廷は場合によってはどこか1か所に集まるか,あるいは全然別のところから参加するという形であれば,コーチングというのでしょうか,横からこういうふうに答えるべきだとこっそり教えたりとか,そういうことは防げるはずだと思います。それで,大きなところで言うと,結局,審理の進め方については,モデル法も各国の仲裁法も,それほど細かいことは書かないのが普通だと思うのです。それは,やはり仲裁廷が事案に応じて決めるべきことで,それが防御権の侵害とか当事者の衡平取扱いの侵害とか,そういうことがあれば,それは取消しにもなるかもしれないし,あるいはそういう形のやり方について,それでは防御権の侵害になるのではないですかという異議を出すとか,例えばですけれども,一方当事者の国は非常に厳格な外出規制がしかれていて,当面集まることもできないし,それに加えて通信環境がとても悪くて,そこの国から参加するのでは衡平な審理にならないというときは,それは延期した方がいいのかもしれませんけれども,そういう問題というのは,法律に規準を書いたりするよりは,仲裁規則の中である程度,例えばICCでいえば,当事者と相談をして事情に応じてビデオカンファレンスすることを決められるというのを今回,新規則で入れたのですけれども,それも,相談をしなさい,あるいは事情を考えなさいということを言っているだけで,こういう場合はよくて,こういう場合は悪いということを列挙しているわけではないのです。   それから,いろいろなプロトコールというのも今,出ていて,オンラインでやる場合にはこういうことをみんなで気を付けましょうというのがあり,プロトコールに違反したら取消しというほどでもないかもしれませんけれども,やはりそういうものはある程度尊重されると思っていて,なかなか仲裁法で全部細かく決めるというところまでは難しい。ただ,当事者の一方が遅延目的で反対している限りは,規則上できると書いていないと,もう一切できないというところまでリジッドにする必要はないのではないかと私は思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかには。 ○髙畑委員 髙畑です。手塚先生のおっしゃるとおりなのですけれども,それに加えて,やはり当事者が,道垣内先生のおっしゃるように,遅延目的とか嫌がらせ目的でそういったことをやってくるということは,恐らく十分考えられますし,その場合に,やはり仲裁廷が最終的には,もちろん当事者の意見は聴くけれども,仲裁廷の判断でできるような仕組みの方が優れているのではないかと思うシーンが想定されます。よろしくお願いします。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○増見委員 全体の印象についてのコメントだけですけれども,今回,仲裁法の議論で,仲裁法と民事訴訟,裁判制度とは必ずしもリンクしていないので,別々の議論として完結して構わないということは理解していて,それはもっともだと思うのですが,ただ,仲裁の手続というのは本来,裁判よりもよりフレキシブルに私的自治に委ねられて行われるべきものなので,今,裁判の方もIT化が進み,よりフレキシブルな形でいろいろな手続が進められるようになっていく中で,仲裁法だけが置いていかれるような形になるのは,かなり本質とずれるのではないかと思っております。当事者の合意等の状況に応じてフレキシブルに手続も変えられると,そういったことが許容される文言になっているのが望ましいのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。議論は出尽くしたと理解してよろしいでしょうか。   それでは,この項目につきましては,先ほど事務当局から御説明がありましたように,皆様からの御意見を全体的に伺って,それを踏まえて,事務当局の方で具体的な,何かやるとすればですね,具体的な案を考えるということですので。 ○福田幹事 福田でございます。部会長がおっしゃったような形で二読に向けて準備をさせていただきたいと思うのですけれども,1点だけ確認をさせていただきたいことがございます。   増見委員のおっしゃった発言とも関連する部分がございますが,仲裁法の中には,仲裁廷が行う口頭審理というやり方の場面と,裁判所が関与して行われる証拠調べの規定もございます。この部分のすみ分けをしなければいけないのかなと思っているところなのですけれども,現行の実務におきまして,若干何か事例等を御紹介いただけるところがありますでしょうか。次回以降の検討に資すると思いますので,よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 いかがでしょう,実務的に御経験がある。 ○古田委員 古田ですけれども,典型的には仲裁当事者ではない第三者の証言を得ることが仲裁事件の審理のために必要であるが,その第三者が任意には尋問に応じてくれない場合に,裁判所に証拠調べの援助を求めて,承認として呼び出していただくということはあるのだろうと思います。ただ,実際上の経験ですと,裁判所に証拠調べの援助を求めますと仲裁手続が遅延をしますので,実際の仲裁案件において裁判所の援助を求めて第三者の尋問をするということは,それほど数は多くないのかなという印象でございます。 ○山本部会長 これは,日本の裁判所では何か統計などはあるのでしょうか。あるいは,何か御存じのところは。 ○渡邉幹事 すみません,現在は手元にないので,確認をした上でお答えさせていただきたいと思います。 ○山本部会長 恐縮ですけれども,それでは,分かる範囲でということで。なかなか余り経験をお持ちの方はおられないですかね,裁判所でというのは。  それでは,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。本日も長時間にわたりまして熱心な御議論,本当にありがとうございました。   次回の日程ですけれども,次回は令和2年12月18日金曜日,本日と同じ午後1時30分から午後5時30分頃までを一応予定しております。場所につきましては追って御連絡を差し上げます。   次回は,調停に関する各論,それから,仲裁手続に関して裁判所が行う手続の管轄の見直しや,その他論点について御議論を頂きたいと考えております。 ○山本部会長 それでは,これにて仲裁法制部会第2回会議を閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を頂きまして,誠にありがとうございました。 -了-