性犯罪に関する刑事法検討会 (第7回) 第1 日 時  令和2年10月20日(火)  自 午前9時36分                        至 午後0時41分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方について 2 公訴時効の在り方について 3 いわゆるレイプシールドの在り方について 4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方について 5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第7回会合を開催いたします。 ○井田座長 本日は,御多用中のところ御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   初めに,本日の配布資料について事務当局から確認をお願いいたします。 ○岡田参事官 本日は,議事次第及び配布資料目録記載の資料46から58までと,参考資料6として,日本学術会議の分科会が本年9月に公表した「「同意の有無」を中核に置く刑法改正に向けて-性暴力に対する国際人権基準の反映-」と題する提言のほか,齋藤委員,山本委員からの各提出資料,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。また,配布資料12の「検討すべき論点」についても再度お配りしております。  配布資料の内容につきましては,個々の論点の検討を行う際に各論点に関連するものを御説明いたします。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。前回会議でも申し上げたとおり,本日は,まず,資料12「検討すべき論点」のうち,第1の「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」の二つ目の「○」の「撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか」について議論をしたいと思います。   その後に,第2の「1 公訴時効の在り方」,「3 いわゆるレイプシールドの在り方」,「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」について検討することとしたいと思います。   早速,第1の「8」の二つ目の「○」の検討に入ります。前回,事務当局から説明がありましたとおり,前回配布された資料のうち資料41から45までが主にこの論点に関連する資料ですので,それらを適宜御参照ください。   それでは,この論点について御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○山本委員 前回も議論されたように,撮影した性的姿態の画像・動画を用いて脅迫するような事件が起こっていますし,性的な画像・動画を見られるのではないかという恐怖からうつ病や対人恐怖症になったり,死にたいという思いにかられる方も多くいます。同意なく撮影され,あるいは,同意を撤回した後の性的姿態の画像や動画については,プライバシー権が侵害されているわけですから,没収してほしいと思います。犯罪によって撮影されたものだと知らないでそういう画像・動画を購入された人に対してどうするのかという意見もあるかと思いますけれども,その画像・動画が残っていること自体が被害者にとっては恐怖です。いつか誰かに見られて何か言われるのではないか,結婚した相手に知られたらどうしよう,付き合っている人に見られたらどうしよう,子供が生まれて,成長した子供に見られてしまったらどうしようなどと思い,不安や恐怖を抱え続け,人生に多大な影響を与えます。加害者は,それによって利益を得たり,また,その画像を保持することによって利益を得たりしているわけですから,没収自体が法によって権利として保障されてほしいと望んでいます。 ○上谷委員 現行法の問題点について指摘させていただきたいと思います。   強制性交等罪や強制わいせつ罪などの機会に撮影が行われた場合,盗撮自体が犯罪とされていないため,没収が困難となっていることは皆さん御存じかと思います。資料にもあるように,いわゆる宮崎強姦ビデオ事件で,最高裁は犯罪供用物件と認定して没収を認めているのですけれども,そこでは,被害者が捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を逃れようとしたという限定が付いていて,それ以外の場合,例えば性的満足を得る場合とか,営利目的であった場合などにどうなるかということについては,まだ判断が示されておりません。このようなことが,やはり検察官の没収の求刑などにも影響しているのではないかと思っています。   従前からこの検討会でも話題になっていますけれども,リアルナンパアカデミーというナンパグループの集団強姦事件でも,被告人らが犯行状況を撮影した画像データが保存されていたパソコンとハードディスクの没収が認められているのですが,それも最高裁判例と同じように,そのデータを和姦の証拠とし,刑事責任の追及を逃れようとしたという最高裁と同様の限定が付されているので,この判例があるから没収規定が現在のままでいいということにはならないと思っています。   そして,撮影された画像の没収だけではなく,そのコピーを消去することや,画像を第三者に提供したり,譲り受けた人や,インターネット上に拡散した人,売却して利益を上げた人も処罰する必要があると考えています。前回配られた資料によりますと,韓国では撮影したものを編集したり合成,加工したりする場合に5年以下の懲役又は5,000万ウォン以下の罰金とし,情報通信網を利用した場合というのは,恐らくインターネットに載せた場合ということだと思いますが,その場合には7年以下の懲役と厳しく処罰することとしており,非常に参考になると思います。   先ほど山本委員も御指摘されましたが,今,盗撮の中には,性犯罪の犯行状況を撮影するものがあり,性犯罪と犯行状況の撮影がセットになっているという側面がありますし,駅とかトイレでの盗撮や,前回も指摘させていただいたアダルトビデオ強要の場面のほか,航空業界,アスリートなども盗撮被害にさらされています。前回,女性アスリートの盗撮問題を取り上げさせていただいたのですけれども,その後,報道がいろいろあって御存じかと思いますが,JOC(日本オリンピック委員会)の山下泰裕会長や五輪相の橋本聖子大臣,スポーツ庁の室伏広治長官らが,アスリートの盗撮問題について重大な関心を持ち,選手を守っていかなければならないという趣旨の発言をされています。性被害は男性が被害に遭う場合も必ずあるので,男性アスリートも被害に遭っているだろうと個人的に思っていたところですが,この問題が報道されてから,やはり男性アスリートも盗撮被害に遭っているという報道もなされています。盗撮は,撮影される側が気付かないことが多いため,潜在化しやすく,また,インターネットで拡散されると完全に回収することが困難という特性があります。被害者が泣き寝入りしないよう幅広く規制し,その作られた画像を確実に消していけるような法規制が望まれると思っています。 ○渡邊委員 今,上谷委員から御紹介がありました平成30年の最高裁決定は,恐らく,当然,性犯罪の証拠を被告人の手元に置いておくことはおかしいというような価値判断に立たれて,現在の法制度の枠内で最大限の解釈をされたのだとは思うのですけれども,一方で,上谷委員の言われたように,刑事責任の追及を免れるためという要件を満たさない場合ですとか,あるいは,本件以外の余罪に関するものについては,恐らく,その射程は及ばないものと思われます。   捜査実務において,検察では,警察の多大なる御協力も頂いているところですけれども,そういった没収規定に当たらないものにつきましては,私ども捜査官が,被告人・被疑者から所有権放棄の同意を得られるよう,非常に努力しているところです。ただ,捜査官がそういう働きかけをすれば応じてくれるのかという点について,実情を確認しましたところ,10年以上にわたって,刑が確定しているにもかかわらず同意をしてくれない方が珍しくないという現状にございます。そういう意味で,私どもは,10年以上にわたってずっと接触をし続けて,同意を求め続けるというようなことをやっておりまして,現場における事実上の努力では対応がしきれない状況にあるということがいえるかと思います。   また,刑法19条の没収の対象となるのは,犯行時に撮影した画像など,いわゆる原本そのものということでございますけれども,今,非常に簡単に複写ができ,スマートフォンからパソコンへ,パソコンからスマートフォンへいろいろ転送できる状況にあります。没収規定が設けられた当時でしたら原本だけでよかったのかもしれませんけれども,社会情勢が変わっている中で,少し規定が狭いのかなという印象を持っております。 ○橋爪委員 私も同感でして,性的姿態が撮影された記録媒体を没収することは,データの拡散による被害の拡大を防止するという観点からも重要であると考えます。もっとも,現在の判例の理解を前提としますと,例えば,強制わいせつ罪や強制性交等罪の犯罪の過程で撮影行為が行われた場合でも,撮影行為それ自体が実行行為の遂行を促進する効果を有しており,実行行為と密接に関連する場合に限って,19条1項2号の犯罪供用物件として没収可能であると解されます。したがって,このような事実が認定できない場合には,先ほど御指摘がございましたように,現行法では記録媒体の没収ができないという問題が生ずることになります。このように没収が困難となり得る事例については,今後,立法的な対応が必要であると考えます。   その上で,2点,私なりの問題意識を簡単に申し上げたいと存じます。第一に,没収可能な客体の範囲につきましては,いかなる行為を処罰対象にするかによって変わってまいります。すなわち,前回の検討会で議論がありましたように,同意なく性的姿態を撮影する行為自体を処罰対象にするのであれば,撮影されたデータが記録された記録媒体は19条1項3号の犯罪生成物件と評価されますので,当然にこれは没収が可能です。このように,何が没収できるかという問題については,当然のことではありますが,いかなる行為を処罰対象にするのかという問題と関連付けて議論する必要があると思います。   第二に,現行の刑法19条によって没収できる物件は,有体物であることが必要であり,また,犯罪行為と直接的な関連性を有するもの,すなわち,原本であることが要求されております。そのため,現行法の下では,記録媒体を没収することはできますが,データの消去を命ずるような措置を刑罰として直接的に科すことは困難です。また,撮影された記録媒体の原本は没収できますが,これをダビングした複製物については,原則として没収ができないと思われます。もっとも,これも先ほど御指摘がありましたように,撮影データの複製は極めて容易に行われますので,今後は複製物も没収の対象に含める可能性について検討する必要があると考えます。もっとも,電子データが容易に複製し得るということは,性的姿態の撮影の場合に限った話ではありませんので,これを性犯罪に限った特別なルールとして議論すべきなのか,それとも,刑法典の没収規定全般に関する問題として検討すべきなのかについては,更に議論があり得るところかと存じます。   さらに,データの複製と申し上げましたけれども,場合によってはデータ全部のコピーではなく,その一部のみをコピーしたり,あるいは,撮影データを修正・加工するような場合もあると思われます。このように原本との同一性の認定が困難になるケースについて,いかなる限度で複製物を没収・消去の対象にするかという問題についても,やはり刑法19条の没収規定の趣旨に遡った理論的な検討が必要になるかと存じます。 ○齋藤委員 既に山本委員もおっしゃっていることではあるのですけれども,少なくとも,自分の同意のない性的姿態の画像や映像をどこかで誰かが持っているかもしれず,それを没収することができないという状況は,被害者を著しく傷つける状況であると思います。自分の体というのは大変プライベートな領域で,いつ,どこで,誰に見られるかというのは,もちろん自分が決めてよいことのはずであり,それを誰かが持ち続けるということ自体が,被害者が性暴力に遭い続けるということだと思います。   被害者が傷を負い続けるということになりますので,同意のない性的姿態の画像とか映像は,誰が持っていようとも,そして,たとえ所持者にそれが同意のない性的姿態の画像だという認識がない場合,単純に所持していた場合であっても,せめて没収はできるように検討していただきたいと思っております。 ○池田委員 これまでの御指摘にも出ておりますように,処罰を前提に没収をするという場合であっても,刑罰が確定しても没収できない場合もありますし,そもそも処罰できないという場合もあるわけです。ただ,処罰対象とならない人が所持しているデータについて,処罰対象とならないからといって残しておいてよいというわけにはいかないとするならば,有罪判決を前提とすることなく,その所有権を剝奪し,あるいは,データを消去するという仕組みを設けることができないかということについても検討する必要があるように思います。   具体的には,例えば,撮影罪があるとして,撮影者ではあるけれども,時間がたって時効が完成してしまって処罰できないとか,撮影された人が処罰に向けた手続の実施を望まないがゆえに撮影者が起訴されないとか,あるいは,これまで何度も指摘されているように,意思に反する撮影であったということを認識せずに画像を取得したというような場合は,処罰を前提とせずに,しかし,保持しておくことが適切ではないデータが残っている場合だと考えることができます。こういう場合には,有罪判決を前提とせずに財産権を制約することが必要となります。   こうしたことを考えますと,今後の議論においては,その可否や法的根拠を検討すること,その上で,そのことと関連付けて,剝奪・消去の要件や範囲を検討することが必要となります。また,データを記録した記録媒体の所有者とか,画像データの保有者に対する手続保障の在り方も考えておく必要があるように思います。 ○小島委員 この問題につきましては,データの流出におびえる被害者を保護するという観点で,規制をかけていっていただきたいと思います。児童ポルノやわいせつ電磁的記録記録媒体頒布罪等についてどの程度没収が行われているのか,実際のところ刑事事件で没収を行えないで本当に困っている状況があれば,どういう状況になっているのかが明らかになるような資料を出していただければと思います。   委員の方々は,ネットに氾濫している画像を余りお目にされたことがないのではないかと思いますが,印刷したものの配布は難しいとのことですので,是非,氾濫している画像を一度御覧になっていただいて,被害の実態を踏まえた上で,制度を構築していっていただきたいと思います。 ○宮田委員 性的画像の問題については,同意のない撮影だけではなく,同意があった場合でも,その拡散を望んでいないのに拡散されてしまう問題もあります。また,被害者の方が被害申告は望んでいないけれども,画像は消してほしい場合もあると思います。そういう意味において,これは,本当に刑事法の問題としてやるのがよいのか,それとも,個人の自分のデータの管理,プライバシーの権利の実現という意味で,画像に対してアクセスする権利,そして,アクセスして消してくれと言う権利を拡大した上で,その権利を実現するためにどのような形での解決をしたらよいのかに関する制度を検討し,作ること,むしろ私はそちらの方が大事であるような気がしています。   デジタルデータについては,今まで委員の方が御発言になったとおり,刑法の中ではデジタルの扱いが非常に不十分なので,正に橋爪委員がおっしゃったとおり,有体物ではないデータは,記録媒体に入っていなければ没収できませんので,データ自体の消去を命じるということが難しいという問題がございます。   そもそも,捜査の段階で,例えば,クラウド上に保管してあるような性的な画像データなどにアクセスしようと思うと,本人からパスワードを聞くなどしてそこにアクセスしなければ,今の状態ではアクセスができないのですね。そういう意味で,デジタルデータを捜査機関が収集するための武器すら今はないという,デジタルに関して全く無力な今の刑事訴訟法,刑法の在り方自体も考えていかなければならない。この性的な問題に限ってだけではなく,その辺を根本的に考えていかなければならない。その遅れで問題が大きくなっているような気がいたします。 ○川出委員 先ほど池田委員から御指摘があった点と重なりますが,画像等の没収ないし消去の法的な仕組みについて意見を申し上げたいと思います。他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為を処罰する規定を設ければ,同意なく撮影された性的な画像等が記録された記録媒体というのは犯罪生成物件として没収をすることができるようになります。ただ,その場合,現行法の没収は付加刑とされていますので,撮影行為について有罪判決を得るということが前提となります。しかし,池田委員から御指摘があったように,事案によっては,捜査機関が性的な画像等を発見した時点では,既に他人の性的な姿態を同意なく撮影する罪の公訴時効期間が経過している場合ですとか,そうでなくとも,被害者の方が撮影行為の処罰に向けた手続を実施することを望まないために,有罪判決を得ることができないという場合も考えられます。   さらに,そういった画像等が第三者に渡った場合を考えますと,犯人に対する有罪判決がない以上は,現行法の下では第三者からの没収はできません。もちろん,その場合も,同意なく撮影された画像等を取得する行為を独立に処罰する規定を設けるのであれば,取得物件あるいは組成物件としてその没収が可能になりますけれども,そうした処罰規定を設けない場合ですとか,あるいは,処罰規定を設けたとしても,取得者が同意なく撮影された画像等であることの認識を有しないために処罰できない場合には,その没収はできず,その者の手元に当該画像等が残り得るということになります。   他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為を処罰する規定の保護法益を,性的な自己決定権と捉える見解であれ,プライバシーと捉える見解であれ,そういった画像が犯人又は第三者の手元に残されている限りは,その法益侵害は事実上続くことになります。そして,そのような状態は,他人の性的な姿態を同意なく撮影する犯罪が現に行われ,画像等が残っていれば生じるわけですから,その状態を解消する没収という処分が付加刑でなければならない理由はないはずで,有罪判決を前提としない画像等の没収ないし消去の仕組みを設けることが必要であると思います。   そのような仕組みを設ける場合には,有罪判決を前提とせずに画像等の所有者の財産権を制約することになりますので,これも池田委員から御指摘があったように,それを認める範囲や要件をどうするのかということと併せて,どういう手続の下で対象者にどのような手続保障をすることが必要なのかということを丁寧に検討していく必要があると思います。 ○井田座長 貴重な御意見を多々頂きました。まず,どのような規定を設けるかによりますけれども,正面から性的姿態の撮影行為を捕捉できる実体法上の規定を設けたとすれば,現行の没収規定にいう生成物件として,撮影したものは没収可能になるだろう。ただ,そのときでも,現行の没収が有体物たる原本を対象にしているというところがネックとなっており,その複写物をどうするか,あるいは,電磁的記録としてどこかに残っているときにどうするかという問題が出てくる。さらに,現行法上の没収は付加刑ですので,有罪判決の存在に縛られているけれども,そうなると,どうしても残り続ける画像が出てきてしまう。これをどうするか。場合によっては,刑事法上のシステムを越えるようなものを考える必要があるのか。こういった点の御指摘を頂いたと思われます。   一通りお考えをお聞きできたと思いますので,時間の関係上,第1の「8」の二つ目の「○」についての議論は,このあたりで一区切りとさせていただきます。   ここまで,「第1」として刑事実体法上の論点について検討してまいりましたが,ここからは「第2」として刑事手続法上の論点を検討していきたいと思います。   まず,第2の「1 公訴時効の在り方」について検討を行いたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち主にこの論点に関連する資料について,説明をお願いします。 ○岡田参事官 御説明いたします。本日の配布資料のうち,主に第2の「1 公訴時効の在り方」に関連する資料は,資料46から49までです。   資料46は,強制性交等罪や強制わいせつ罪等の性犯罪の公訴時効の改正経過等をまとめたものです。   2ページにありますとおり,昭和23年に現行刑事訴訟法が制定された際,公訴時効期間は法定刑に応じて6区分が定められ,当時,6月以上7年以下の懲役に当たる罪とされていた強制わいせつ罪の公訴時効期間は5年,2年以上の有期懲役に当たる罪とされていた強姦罪の公訴時効期間は7年となったこと,平成16年の刑法等の改正により,強制わいせつ罪の法定刑の上限が懲役10年に引き上げられ,また,3ページにありますように,長期15年以上の懲役・禁錮に当たる罪の公訴時効期間は10年,無期の懲役・禁錮に当たる罪の公訴時効期間は15年と定められたことから,強制わいせつ罪の公訴時効期間は7年,強姦罪の公訴時効期間は10年,強制わいせつ致死傷罪及び強姦致死傷罪の公訴時効期間は15年となったこと,4ページにありますとおり,平成22年の刑事訴訟法の改正により,人を死亡させた罪の公訴時効について特別の取扱いをすることとされ,人を死亡させた罪であって無期の懲役・禁錮に当たるものの公訴時効期間は30年と定められたことから,強制わいせつ致死罪及び強姦致死罪の公訴時効期間が30年となったこと等が分かるものとなっております。   資料47は,諸外国における性犯罪規定のうち,公訴時効に関する規定の概要を取りまとめたものであり,主に第1回会合で配布した資料8を基に作成したものです。   例えば,1ページにありますように,アメリカのミシガン州では,第一級性犯罪については公訴時効が廃止されており,また,第二級性犯罪,第三級性犯罪及び第四級性犯罪については,未特定の個人に由来すると認められるDNAを含む犯罪の証拠が得られている場合,当該個人が識別されない間は公訴時効は成立せず,当該個人が識別された後,一定の期間を経過した時点又は被害者の特定の年齢の誕生日のいずれか遅い時点で公訴時効が成立し,そのような証拠が得られていない場合は,犯罪が行われた時から一定の期間を経過した時点又は被害者の特定の年齢の誕生日のいずれか遅い時点で公訴時効が成立するとされており,それらの公訴時効の期間やその基準となる被害者の年齢は,各犯罪類型ごとに定められております。   また,11ページにありますように,フランスでは,被害者が未成年者である強姦罪等の性犯罪の公訴時効について,その起算点を成年に達した時とし,さらに,その期間を被害者が成人である場合よりも長いものとしていること,13ページにありますように,ドイツでは,被害者が30歳未満である性犯罪の公訴時効について,その起算点を30歳に達した時としていることなどが記載されております。   次に,資料48は,法務省において,大阪府,福岡県及び愛知県の各ワンストップ支援センターに対し,相談者が被害から相談までに要した期間等について照会し,回答を得たことから,その結果をまとめたものです。   まず,平成30年度に,他人からの性暴力の被害に遭ったとして性暴力救援センター・大阪SACHICOに相談をした168名のうち,被害から相談までに要した期間が1年以上の人数は16名,全体の9.5%であり,その中には10年以上を要したものが含まれていたこと,また,平成30年度に性暴力被害者支援センター・ふくおかに電話相談をした607名のうち,被害から相談までに要した期間が1年超であった人の割合は21%であったこと,そして,平成28年1月5日から令和元年12月31日までの間に,性暴力救援センター日赤なごや・なごみに来院して面談した474名のうち,被害から相談までに要した期間が1年超であった人の人数は84名,全体の17.7%であり,その中には40年以上を要したものを含み,84名中58名が被害時18歳未満であったことなどが記載されております。   資料49は,第2の「1」の論点に関係すると思われる条文を抜粋したものであり,刑事訴訟法の公訴時効に関する規定を記載しております。   御説明は以上です。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明につきまして,何か御質問はございますでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,検討に入りたいと思います。第2の「1」には「○」で示した項目が二つありますので,この二つを区別して,一つずつ順番に議論することとしたいと思います。   まず,一つ目の「○」の「強制性交等の罪について,公訴時効を撤廃し,又はその期間を延長すべきか」について御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○山本委員 被害当事者としてお話しするのですけれども,私は13歳のときに父からの性被害を受け始めました。それを被害と認識できるようになったのは,30代前半のときでした。20年弱かかっています。人前で言えるようになったのは,更にその後で,36歳のときです。個人差はありますけれども,性被害を認識することが難しかったり,被害によって解離が起こって記憶を失ったり,まとまりのある記憶として保持することが困難になることは,臨床上,知られていることです。時間がたって生活が落ち着いてきて,ある程度被害の記憶の痛みに耐えられるようになって,記憶がよみがえってくることも起こります。   私の知り合いの長期反復する虐待を受けていた人たちは,自分の被害を伝えられるようになったのは大体30代前半か,30歳前後ぐらいのことが多いと思います。しかし,話すことがトリガーとなり心身の状態を悪化させることから,語れるようになるまで支援や治療を受け,心身のダメージから回復する必要があります。   資料55の事例4にあったかと思うのですけれども,やはり,被害を言うことによってPTSDの症状が増悪するというような実態もあると思います。そのために,なかなか言うことが難しく,そして,時間がたって届け出ても,強制わいせつ罪は7年,強制性交等罪は10年の時効の壁に阻まれてしまいます。私の知人も,10歳前に受けた被害を20代のときにやっと警察に届け出ることができましたが,時効なのでということで門前払いされてしまいました。これでは,被害が認知されないことになってしまうので,時効を撤廃又は延長して被害届が受け付けられるようにする必要があると思います。証拠の散逸や記憶が薄れてしまう問題は指摘されていますが,DNAなどの科学的証拠や,動画や画像が残っている場合もあります。そのようなケースまで,一律に,時効だからと切り捨てられるのはおかしいと思います。   二つ目の「〇」に入ってしまうかもしれませんけれども,時効をどのくらいに設定するのかということが議論になるかと思います。Springでは,今回,2020年8月16日から9月5日まで,性暴力の実態調査アンケートを実施しましたので,その報告をしたいと思います。母集団が性暴力・性犯罪に関心がある当事者であることが推測され,ウェブアンケートであることの限界はありますが,5,899件の回答が得られました。委員提出資料(山本委員提出の「性被害の実態調査アンケート公訴時効についての報告」と題する資料)として提出しておりますので,御覧いただければと思うのですけれども,この5,899件の回答は,性暴力調査では格段に多いものです。分析に関しては,齋藤委員と東洋大学の岩田千亜紀助教などに御協力いただきました。   9ページに時効に関するものを載せているのですけれども,挿入を伴う被害を取り出して,1,274件について分析しています。被害後,すぐに被害だと認識できなかった件数は810件,63.6%でした。被害認識までににかかる年数は平均7.46年でしたが,標準偏差は8.24年とばらつきが認められました。年代別に分析されたのですが,6歳未満は被害認識に11年以上かかっている人が全体で43.31%おり,幼いほど時間がかかることが示されているかと思います。一方,20代でも8.79%,30代でも4.17%は被害認識に11年以上かかっており,単純に年代で区切っていいのかという疑問も残ります。   また,11ページになるのですけれども,記憶をなくしている263件のうち,記憶が戻るまでの平均年数は10.8年,標準偏差は7.87年でした。解離症状などで記憶が失われていたり,被害を認識できない間に時効が進行してしまうのは,被害者にとって非常に不正義な状態ではないかと思います。その期間は時効を停止するという考えもあっていいのではないでしょうか。   12ページに身近な人に相談したケース,13ページに警察に相談したケースがあるのですけれども,13ページは,警察に相談した,つまり,公的に訴え出たというデータになるかと思います。この分析した208件のうち,被害時の年齢が15歳未満のものの中で最も件数が多いのが,被害後11年から20年たって相談しているケースです。これでは現行法上は時効期間が過ぎてしまっていると考えられます。16歳から19歳は,2年から3年の間に訴えられた人と11年から20年の間に訴えられた人が8件と同数です。母集団が少し少なくなってしまうので,これで全て言いきれるとはいえないかと思いますけれども,日本ではこういう調査は少ないので,貴重なデータになるかと思います。   私たち性被害当事者としては,成人に関しても公訴時効は撤廃して,性被害というのは時間がたったから許される罪ではないと示してほしいと思っています。ただ,実務上いろいろな問題があるかと思います。せめて諸外国のように,成年まで若しくは30歳まで時効を停止して,その後20年,30年たっても訴えられるようにするなどということを制定していただけるような,そういう議論を進めていただければと思っています。 ○齋藤委員 私は,公訴時効について撤廃,あるいは,撤廃が難しいのであれば,延長した上で一定年齢まで公訴時効停止などを検討いただきたいと思っております。   配布させていただいた資料(齋藤委員提出の「第7回参考資料性被害者が被害認識にかかった期間について」と題する資料)は,一枚のものなのですけれども,これは,私が行ったインタビュー調査の結果について,被害の認識という観点からまとめたものです。中ほどにある表を見ていただくと分かるとおり,被害時に未成年だった場合,自分の身に起きたことを性被害だと認識するまでに10年以上かかる場合もまれではありませんでした。被害時に成人であった場合には,被害と認識するまでにかかる時間は,未成年であった場合と比較すると短いですが,それでも1年以上かかることが多くあります。また,加害者が見知った人の場合には,インタビュー時点においても被害だと思いきれないと回答した人もいました。もちろん,これらの調査はサンプル数が少なく,ランダムな対象への調査ではございませんので,一般化することに限界はあります。しかし,少なくとも被害だと認識するまでに時間がかかる場合があるということは分かります。   この被害の認識というのは,細かく見ていきますと,被害者が子供の場合には,起きた出来事がどのようなことかよく分からないということが見られました。幼少期には何をされたか分からず,思春期以降に知識を得て,性的なことだったということが分かるというのは,ヒアリングの野坂祐子先生のお話でも指摘されていたことかと思います。しかし,思春期になって,性的なことであるということが分かってもなお,それを警察に届け出たりする被害とまでは認識できないということもありました。   そして,被害者が成人の場合,特に見知った人が加害者であった場合には,見知らぬ人に突然襲われるという一般的な性暴力のイメージと自分の身に起きたことが一致せず,被害だと認識できないという様子が見られました。これは,例えば,就寝中に寮の中の自分の部屋に先輩が侵入して,気が付いたら性交されていたという例や,アルコールで完全に記憶を失っている間の性交,あるいは,関係性による脅しを伴う性交などが含まれていまして,少なくとも,司法の専門家ではないですけれども,私から見ても強制性交等として警察に届け出たら起訴されるのではないかと思う出来事であっても,本人は被害だと認識できていないという場合がありました。また,被害者が子供の場合には,被害を受けた記憶を解離によって失っている場合というのもございました。   性被害は,現在でも相談件数が少なく暗数が多いことが知られていて,被害だと認識するまでに時間がかかり,被害だと認識しても,本当に警察が取り上げてくれるのか,警察に届け出て自分は安全なのか迷い,フラッシュバックなどで被害を口に出すことも難しいという状況が続きます。それは,子供の場合はもちろんですが,大人であっても,関係性の中で生じる継続的な被害であった場合,その関係性,例えば,仕事上の関係の中で生じた被害については,その関係などが続いている場合には,被害だと認識しづらいですし,認識しても,その関係を離れて自分の安全が確保されて初めて警察に行くことを考えられるようになるといったこともまれではありません。また,性被害は被害者が自分を責めていることも多く,そのために被害を言い出せないということもあります。 (具体的事例を紹介)   証拠の散逸など多くの問題があることは分かっておりますが,今は,写真や動画など電子データが残っている場合もあります。証拠がないものを無理に事件とすることを望んでいるわけではなく,少なくとも証拠があるにもかかわらず,被害だと気が付いたとき,あるいは,安全にそれは被害だと人に言うことができたときに時効期間が過ぎているために事件を届出できないといったことは避けるべきだと考えています。 ○小西委員 前にお述べいただいたお二人と,重ならないところだけ補足したいと思いますが,法務省から出ております資料48のワンストップセンターのデータですけれども,ワンストップセンターに相談される方たちを自分の臨床で診た結果から考えますと,ワンストップセンターに来られる方は,どちらかといえば,当然のことながら,事件後,被害であることの意識があって,認知があって,そのことについて相談したいという方が来られている,当然そうなのですね。学歴なども比較的高めの方が多いというのが,今の実情だと思います。   そういう点では,ワンストップセンターのデータそのものが今の被害全体を反映しているとは,やはりまだ言えないわけで,以前に,2004年に精神科臨床に来られた性暴力被害を受けた患者さんを調査したことがあるのですが,そこでは,継続的な性的虐待と,単回の,今で言うなら強制性交等の被害の割合というのは,半々ぐらいでした。現在,私が臨床で持っているワンストップセンターから連携して来られる方の中では,性的虐待を主訴にした方は5%程度です。性暴力被害を受けた方に聞いていくと,虐待の被害もあるということは少なくないですが,主訴としてワンストップセンターを訪れる方は多くありません。そういう意味では,多くの方が被害について認識していなかったり,相談できていなかったりすると考えられ,特に性的虐待を中心とするような方については,まだこのデータに表れていないと言うべきです。そういう方の多くは,法的に訴えることがもうできないと諦められてしまっています。   もう一つ申し上げますと,自分のところに東京のワンストップセンターから来られた方を集計したところ,94件中5件の方が性的虐待を主訴としているのですが,現在の状況では,この5件については,被害が終わってから来られるまでの期間の長さが極端に分かれています。小さいお子さんや,保護者とか施設が連携してやっていらっしゃる方は,被害後すぐ来られるのですけれども,そうでなくて,自分で被害を認識して来られる方というのは,例えば,被害から7年,17年,27年というふうに,非常に長い時間がかかってから来られる方が多くなっています。   そういう点では,周囲の介入の仕方の問題にもよりますが,例えば,先ほどのお話にあったように,成年に達したところで人は被害を十分認識するのかといえば,決してそうではなく,先ほど皆様も言われていたと思いますが,やはり,30歳前後にならないと,自分の一人の力では,なかなか被害を認識することができないというのが実情だと思います。   もし公訴時効について撤廃したり,あるいは延長したりということが検討されるならば,そういう被害の実情,実態に合わせて検討していくことが必要ではないかなと思っております。 ○小島委員 少し重なってしまうかもしれませんが,公訴時効の問題について意見を申し上げます。   性犯罪の被害というのは,PTSDなどトラウマの影響で被害申告が遅れることや,取り分け年少者について,性被害だと認識するまで時間がかかること,また,家庭内での被害については,性被害が潜在化しやすいということ,家庭内における支配関係から脱するまで申告ができないことなどの事情がございます。このような特殊な事情を考えますと,公訴時効について他の犯罪とは異なる取扱い,特別な取扱いをする必要があると考えております。少なくとも,年少者については,公訴時効の延長ないし停止を検討しなければいけないと思います。証拠の散逸によってえん罪が生まれるおそれがあるという御指摘がございますが,性犯罪の犯行状況を画像・動画で撮影するなどということは,最近よく行われていることでございまして,このような時の経過で変質しない確固たる証拠,証拠価値の高い証拠が,時効期間を超えて残っている可能性というのが出てきております。   例えば,ワンストップセンター等では,被害直後に証拠を採取し,冷凍保存するようなことも行われているやに聞いております。警察でも,採取した証拠をある程度冷凍保管しているというようなことも聞いております。今後,このような取組が加速することによって,被害直後と同様の確たる証拠というのが残っている可能性が高くなっています。また,鑑定技術などの進歩もございます。このような中で,性犯罪について公訴時効を考え直すということが必要だと思われます。   公訴時効については,時の経過によって犯罪の社会的影響が弱くなり,処罰の必要性が低下すること,証拠が散逸して適正な裁判の実現が難しいこと,犯人が一定期間訴追されないという事実状態を尊重し,国家の訴追権を制限して個人を保護するというようなことが,存在根拠として言われておりますが,このような存在根拠は,被害者ないし一般国民からするとなかなか理解が難しいと思います。最高裁判例もありますけれども,犯人処罰の必要性と法的安定性の調和と言われても,なぜ時効で起訴できなくなるのかについて,説得力のある説明が十分になされていないように思います。   被害者が長きにわたってトラウマで苦しんでいることが明らかになったり,証拠価値の高い証拠がある程度残るようになってきますと,このような現状を踏まえて,時効制度の存在根拠も押さえつつ,被害者の視点からもう一度検討して,制度の改正を行うべきだと考えます。   特に,民法の改正で,2020年4月から,生命身体を害した場合の損害賠償について,時効期間が延長されております。生命身体,そういう法益についての時効の延長ということで,被害者保護が,法全体で課題になっていることも前提に,この問題を検討していただきたいと存じます。 ○川出委員 強制性交等の罪について公訴時効を撤廃する,あるいは,その期間を延長することについて,公訴時効制度の趣旨に照らしてそれが正当化できるかどうかという点から意見を申し上げたいと思います。   現行法においては,法定刑を基本的な基準として公訴時効期間が定められております。ただ,必ずしもそれだけが基準となるというわけではなく,特定の罪種について法定刑とは別の観点から公訴時効期間について異なる取扱いをすることも認められると考えられます。  実際に,先ほど御紹介がありました平成22年の改正では,人を死亡させた罪で禁錮以上の刑に当たるものの公訴時効について特別の取扱いをすることとされました。そこで,性犯罪について,公訴時効に関して,この意味での特別な取扱いをする根拠はあるのかどうかということが問題になるわけですが,例えば,法定刑が同じである強制性交等罪と強盗罪を比較してみますと,以下の2点において,性犯罪である強制性交等罪には,公訴時効について特別に取り扱い,その期間を長くすべき事情が認められると思います。   いずれもこれまでに御指摘があったことですが,第一は,性犯罪というのは被害から回復まで長時間を要し,その害悪や影響が長期にわたって残存するものだということです。第二は,性犯罪の中には,被害者自身が被害後にそれを被害であると認識して,他者に相談したり,被害を届け出たりすることができない場合ですとか,被害認識を形成した後も,周囲の目や人間関係を気にしたり,あるいは,捜査機関等に被害内容を語ることに大きな心理的抵抗を覚えるなどの様々な理由から,被害申告が困難であることが少なくないということです。このうち後者の点は,被害者が年少者である場合に特に妥当するものですから,この後議論がなされる二つ目の「○」にあるように,年少者を特別に扱うという形で対処するという方法も考えられますけれども,そうでない年齢層が被害者となる場合にも,程度の違いはあれ妥当するものですので,性犯罪一般について,公訴時効期間について特別の取扱いをすることも検討に値するといえると思います。   その上で,さらに,公訴時効を撤廃すべきかどうかという問題ですが,公訴時効を撤廃するということは,その犯罪については公訴時効制度の趣旨が妥当しないということを意味します。平成22年の改正では,殺人等について公訴時効が撤廃されたわけですが,これは,殺人については時間の経過によって一律に犯人が処罰されなくなってしまうのは不当であるという意識が国民の間で広く共有されるようになっているものと考えられるという理由によるものでした。性犯罪についてそこまでの社会的合意ができているかについては疑問がありますし,また,生命を奪う犯罪である傷害致死については公訴時効が撤廃されていないこととの均衡という問題もあります。こうした点を考慮しますと,現時点で性犯罪について公訴時効を撤廃するというのは説明が困難であると思います。 ○宮田委員 時効の問題について,法的な安定ということも考えられていることは,先ほど小島委員もおっしゃったとおりです。犯罪が起きた後に,訴追される側の人の利益も全く考えなくてよいのかといえば,そうではないということです。被害者側の証拠も散逸しますが,加害者とされて訴追された人の証拠も散逸してしまうことについては,第1回の会議のときにも申し上げたとおりです。そして,性犯罪については,多くの事件で被害者の供述が非常に重要な役目を果たします。その被害者の記憶の変容等が問題になるということで,後ほど議論が行われる司法面接のような手法が必要と考えられるようになってきました。被害者の記憶の変容のおそれがあり,重要な供述証拠の信用性に重大な問題があるという意味で,時効を撤廃することによって,処罰される人たちがどれほど増えるのかという実質的な問題もあろうかと思います。   もちろん,私は,被害者の支援が必要ないと言っているわけではありません。犯罪として成立しようがしまいが,犯罪の被害に遭った人の支援は必要であり,その人に寄り添うための国家の支援が必要であることは言うまでもありません。加害者の訴追という形が必然かということに対して,疑問を呈したいということでございます。 ○池田委員 公訴時効期間の延長を考える際の必要性については,先ほど川出委員からも御説明があったとおりだと思うのですけれども,他方で,公訴時効制度を支える趣旨である,証拠の散逸による誤判のおそれということも念頭に置いておく必要があります。今,宮田委員からも御指摘があったように,人の供述によって立証されるということが性犯罪は一般に多いと考えられ,時の経過によって記憶が減退し,記憶が変容している可能性があるということが懸念されるからです。   ただ,それが,誤った有罪の判断のおそれを高める事情かというと,そういうことではなくて,刑事訴訟法では,検察官が立証責任を負い,そのほか立証に関わる様々な制度が設けられていますから,そのような仕組みが正しく機能する限り,疑わしいときは被告人の利益にという原則に従って,証拠によって認められる限りの事実が認定されるにとどまるのであり,いたずらに根拠のない有罪判決のおそれが高まるということにはならないと考えられます。   また,証拠の散逸ということが当然に起こるかということについても,最近は性犯罪の犯行状況を撮影する事案が専らだという御指摘もありましたように,事件から長期間経過したとしても画像が残っているという場合もありますし,あるいは,別件で得られたDNAの型が一致したということもあります。したがいまして,時間がたったからといって証拠がおよそ残っていない事案ばかりではないと考えられます。   それと,法的安定性についてなのですけれども,時効が完成したものとそうでないものとでは,地位の安定性を尊重すべき要請の程度には差があると考えられようかと思いますので,両者は差し当たり分けて考えるべきではないかと思います。その上で,これは性犯罪に限った話ではないのですけれども,時効が完成していないものについて,時間がたってから被疑者・被告人となることの負担について考えてみると,先ほど宮田委員から御指摘があったように,有利な事情を示す証拠が散逸してしまって防御が困難になるということが考えられます。ただ,これは,先ほど誤判のおそれのところでも申しましたが,検察官が十分な立証を行えるかどうかという問題でありまして,立証の困難さは,刑事裁判が適正に行われる限りで配慮されているものと考えられるのではないかと思います。   その上で,被疑者・被告人の地位に置かれること自体の負担というものもあるだろうとは思います。確かに,証拠がないために無罪となるから起訴してもよいということにはならないとは思います。ただ,一般的には,検察官は有罪の見込みなく公訴提起することは許されないと理解されておりますので,性犯罪との関係でも,そのような原則に従って処理される限り,訴追される負担が理由なく広がることにはならないと思われます。また,被疑者の地位に置かれること自体についても,基本的には同じ考えが当てはまるのではないかと思われます。そして,このように相応の根拠がないのに重い負担が課せられることにはならないのだとすれば,時間がたっていることによって特に不合理な負担が生じることにはならないのではないかと思います。 ○羽石委員 各委員の方から,被害者の救済という意味での必要性については御意見があったかと思うのですけれども,少し警察の実情・運用の面から述べさせていただければと思います。   まず,警察としましても,公訴時効の延長等により,これまで時効の完成が原因で検挙できなかった被疑者についても検挙できる可能性が高まるということは,良いことだと思っておりまして,逃げ得を許さないという意味では効果があると思っております。特に,犯人のDNAが採取できている場合には,ニュースなどでも時効の完成直前の検挙というものが時々報道されておりますけれども,そういったものに対応できるという意味でも効果が期待できるのではないかと思っております。   その上で,運用面の課題ということで,大きく分けて3点,御紹介させていただきたいと思います。   1点目は,証拠品の保管,運用面の話なのですけれども,警察では捜査の過程で収集された証拠品や捜査資料につきましては,公訴時効が完成するまで保管する必要がございます。特に,DNA試料は,冷凍庫で保管をしておりまして,こういった大量の証拠品,捜査資料を保管するためのスペースの問題ですとか,紛失・劣化にどう対応していくかという観点が必要になります。これは,殺人等の時効が撤廃されたときにも当然問題になりまして,警察署の倉庫がいっぱいになってしまうので,警察本部の方で一括して管理する制度を開始するといった対応を行っております。   2点目は,各委員の方からも述べられている証拠の散逸の問題です。特に被疑者のDNAですとか画像ですとか,そういう科学的な客観証拠が得られていない場合,例えば,発生から十数年たってから被害認識ができて,警察に初めて届出がなされたような場合に,立証をどうやってしていくかということは,なかなか難しい面があるのではないかと思います。   最後に,3点目なのですけれども,警察の人的資源の配分の問題があります。警察官の人数も当然無限ではありませんで,限りがあります。あるところに人的資源を新たに投入すると,削られるところが出てくるというのが実情です。例えば,発生直後の性犯罪ももちろんですけれども,特殊詐欺ですとか,空き巣ですとか,恐喝ですとか,強盗ですとか,その他いろいろな発生した事件の犯罪捜査も並行して行われておりますので,限られた人的資源をどのように活用するかということも,実務上は考える必要が出てくるかと思います。   3点,課題として申し上げましたけれども,公訴時効の撤廃,延長について考える上で,議論の前提としていただければという観点ですので,よろしくお願いします。 ○金杉委員 もう一度,証拠の散逸等の観点に戻って申し訳ないのですが,刑事弁護の観点から申し上げさせていただきたいと思います。   客観的な証拠があり,かつ,その犯人が知人・友人等であり,人物の特定に問題がないという場合に,時効で切っていいのかという問題意識は大変よく分かります。ただ,やはり刑事弁護の観点からは,そうでないケースについてもお考えいただき,慎重に判断していただきたいと思っています。   まず,皆さんの念頭にあるのは,被害が明らかで被疑者も特定されているというケースだと思うのですが,そのようなケースではない場合,一つ目に,被害そのものが本当にあったかどうか,二つ目に,その被疑者が実際に犯人であるかどうか,そして,三つ目に,性犯罪の場合は,同意があった,あるいは,同意があるという錯誤・誤解がなかったかどうか,この三つが問題になると思います。   一つ目については,特に,被害が被害だと認識されずに,長期間たってから被害だと認識したというケースについては,その行為があったかどうかの証拠が既に散逸している,あるいは,客観的な証拠が残っていないというケースも多くあると思います。   二つ目については,仮に画像等が残っていたという状況であったとしても,それが被害者の画像にとどまらず,犯人の画像である場合に,それが本当に被疑者・被告人かどうかという識別の問題等も生じると思います。例えば,その犯行時刻とされる時間に自分はそこにいなかったから,自分によく似た人物であるという犯人性の問題になったときに,そこにはいなかったという反証が,やはり証拠の散逸によって難しくなると思います。   そして,三つ目の同意の有無等ですけれども,同意があったかどうか,あるいは,同意があったと誤解する状況であったかどうかというのは,その犯人と被害者の関係性ですとか,被害者の方の態度,あるいは知人・友人であった場合には,そのとき周囲から見てその二人の関係がどういうふうに見えたかといったことも反証として挙げていくことが考えられます。しかし,それも10年,20年,30年というふうに時間が経過していた場合には,そういった反証のための有利な証拠も散逸していることが考えられます。   客観的な証拠から犯罪が明らかであるのに時効だけで切られる,それがいいのかという問題意識はよく分かりますが,そうではないケースについて,本当に一律に公訴時効の撤廃ないしは一定期間の停止という法改正をしていいのかどうかということを,やはり慎重に御判断いただきたいと思っています。 ○井田座長 ありがとうございました。   一方で,慎重な検討を要するという複数の委員の御意見もありましたが,他方で,性犯罪特有の事情・実態に鑑みて,時効期間を延長したり,また開始を遅らせることを検討すべきであるという複数の委員の御意見があり,また,それは現行法の公訴時効制度の理論的根拠,在り方と決して矛盾するものではないという複数の委員の御意見も表明されたかと思います。   時間の関係もございますし,また,御議論が次の「○」の議論に関わるところにかなり踏み込んでいる感じもいたしますので,その二つ目の「○」,つまり,「一定の年齢未満の者を被害者とする強制性交等の罪について,公訴時効期間を延長することとし,又は一定の期間は公訴時効が進行しないこととすべきか」について議論したいと思います。御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○上谷委員 一定の年齢未満の者については,やはり,特別な配慮が必要だと思っています。今の議論の中でも,時間がたつと合意についての立証が難しくなるのではないかという指摘がありましたけれども,例えば監護者の場合ですとか,性的同意年齢が何歳になるか分かりませんけれども,その同意年齢を満たしていない場合については,合意が問題にならないわけでありますから,立証という点からしても,それほど難しくないのではないかというふうに思っています。   それから,未成年者のうちに繰り返し行われる性虐待について,日時の特定が難しいという問題がありましたけれども,これについては,私は二つ問題があると思っています。日時の特定がなされないということで公訴事実が書けない,つまり,被疑者・被告人が防御できないという側面と,時効の起算点が定まらないという側面があると思うのです。最終の行為がどこかが分からないために,時効が完成しているかもしれないということで立件されない事案もあろうかと思っています。私もそのような事案を持っているところです。少なくとも,未成年者の間は一定年齢までは公訴時効が進行しないということであれば,時効が完成しているかもしれないので,立件できないという問題点はクリアできるのかなと思っています。   ですので,未成年者に関しては,どの年齢からにするかということは議論があると思いますけれども,一定期間は公訴時効が進行しないという取扱いにするのが適当ではないかと考えています。 ○齋藤委員 難しい点だと思っておりまして,成人であっても被害認識・被害申告が難しい出来事であるということはもちろんなのですが,やはり,子供の場合は,別に考える必要があると思います。先ほど言ったことに補足するならば,子供たちは,例えば親に被害を言うことができたとしても,親が届出を止めてしまう場合もあります。もちろん,監護者による性交などでは,届出が大変困難になるわけです。ですから,親の下を離れて自立できるまで届出が難しいということがあるかもしれませんし,子供が自分一人で警察に被害を届け出て,一人で捜査に協力することができないということもあります。子供たちは,大人とは性とか性暴力に関する知識や理解も異なりますし,力が弱く,自分より大人の加害者からの脅しは強い恐怖となり得ます。自分の身に起きたことが認識できたとしても,言いくるめられていたり,脅されていたならば,被害については言えませんし,それがもし自分の見知った人であるならば余計です。ですので,少なくとも,一人で考えることができ,警察に届け出ることができ,一人で捜査に関わることができる年齢になるまで公訴時効を停止することは必要なのではないかと考えております。 ○渡邊委員 先ほど,検察官が起訴するものは,検察官が合理的疑いを超える程度に立証できるものに限られているのではないかというような御指摘があったところです。   実際に,そういう基準に立って捜査実務をやっておりまして,今,性犯罪の時効は御説明いただいたとおりですけれども,仮に,性犯罪の時効が20年,30年というふうになったときに,私どもは,そういう覚悟を持ってその事件の捜査に当たることになると思います。つまり,被害から時間が経過した事件については,難しい事件だと考えて慎重に捜査をすることになると思います。   また,実際に画像や音声等のデータ,あるいはDNAが残っている事例が多いというような御指摘がありました。実際に,私もそういった事例に多々接しておりまして,まず,犯人側が楽しみのために,あるいは,個人的な目的でそういった画像を撮るというようなこともございますし,一方で,被害者の関係者が,いつか使うためにそういった録音をするというような事例もございます。そういったことを簡単にできるデバイスが増えているという流れがある中で,そういった事例は今までよりも増えていくのではないかと実感しているところです。   最終的に起訴ができて処罰ができるかということについては,それぞれの事案ごとということになりますけれども,それでも,ようやく被害が申告できるようになったときに公訴時効が完成していて捜査の対象にすらならないというのではなく,少なくとも捜査を尽くした上で判断がされるということについては,意義があると考えております。 ○佐藤委員 私も,時効期間を延長するか,あるいは,公訴時効の起算点を遅らせるという方法については賛成しています。特に未成年者の場合には,例えば5歳の時にわいせつな被害に遭って,12歳で時効が完成するというのは,これは余りに早過ぎて,周囲の者が被害を認識できないという状況であるという点と,本人が被害を認識できないという点におきまして非常に問題があるというふうに考えますので,やはり少なくともある程度の年齢まで公訴時効の起算点を遅らせることは必要だと思っております。   ただ,そのときに一つ問題になると思われるのは,例えばドイツでは30歳まで全ての性犯罪の公訴時効の起算点を遅らせているのに対して,オーストリアでは被害者が18歳未満の場合に限り28歳まで公訴時効の起算点を遅らせるという形で,公訴時効の起算点を遅らせる対象が異なっています。それもまた,公訴時効の起算点を遅らせる方法を選択する場合には検討しなければいけない問題ではないかと思います。この点,単なる問題提起でございます。 ○井田座長 第2の「1 公訴時効の在り方」につきましては,時効は撤廃すべきであるという強い御意見はなかったかと思われます。他方で,時効期間の延長,そして,特に子供に対する特別の考慮を検討すべきだという複数の御意見が表明され,また,その際には現行法の公訴時効制度全体にうまく整合する形での慎重な考慮が必要だという御意見が強かったと思われます。時間の関係もございますので,第2の「1」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。この論点については,本日述べられた御意見を踏まえて,二巡目の検討で更に議論を深めてまいりたいと思います。   それでは,開会からかなり時間も経過しましたので,ここで10分ほど休憩したいと思います。 (休     憩) ○井田座長 それでは,会議を再開いたします。   第2の「3 いわゆるレイプシールドの在り方」についての検討に進みたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち主にこの論点に関連する資料について,説明をお願いします。 ○岡田参事官 御説明いたします。本日の配布資料のうち,主に第2の「3 いわゆるレイプシールドの在り方」に関連する資料は,資料50及び51です。   資料50は,諸外国の法制に関する資料であり,アメリカ合衆国の連邦証拠規則のほか,イギリス及びカナダのいわゆるレイプシールドに関する規定を抜粋し,法務省において仮訳したものです。   例えば,2ページにありますように,アメリカの連邦証拠規則では,性犯罪事件において,原則として,被害者が他の性的行為に従事したことを証明するために提出された証拠,被害者の性的傾向を証明するために提出された証拠は許容されないとした上で,例外的に許容される場合を定める規定が置かれています。   資料51は,第2の「3」の論点に関係すると思われる条文を抜粋したものであり,日本国憲法・刑事訴訟法・刑事訴訟規則の証拠調べや訴訟指揮に関する規定を記載しております。   御説明は以上です。 ○井田座長 それでは,今の事務当局からの説明について,何か御質問はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。この論点について御意見のある方は,御発言をお願いいたします。 ○上谷委員 弁護人が要証事実と関係ない性的なことで被害者をおとしめるということは,今でも法廷で行われています。例えば,性的なことに関連して,被害者の職業について,被害とは全く関係ないということで公判前に裁判所・検察官・被告人側で合意したにもかかわらず,あえて弁護人が被害者の職業や活動について殊更に法廷で言及するということや,弁護人が被害とは無関係の被害者の既往歴に触れたために,被害者が体調を崩して休廷せざるを得なくなったというようなケースもあり,それらについて裁判所が漫然と放置しているケースがあります。   特に,既往症などについては,被害者がピルを飲んでいることを殊更に指摘する弁護人もおりまして,私も経験があるのですが,被害者支援団体の方から聞いた話だと,そういったケースはよく相談があるそうです。このピルを飲んでいるというのは,要は性的に奔放な女性であると,妊娠をしないようにしているのだという趣旨で質問しているらしいのですけれども,ピルというのは,生理の調整をしたりとか,子宮筋腫を和らげる効果もあるということで,むしろ推奨されているという面もありますので,そういったことが考慮されずに法廷に普通に流れているという状況は放置できないと思います。   法廷というのは,被害回復にとって,とても重要な場所なのですけれども,そこで堂々と二次被害を生じさせるようなことが行われているということは,もう絶対に見過ごすことはできないと思っています。これは,現状では裁判官の訴訟指揮に完全に任されている状態ですけれども,やはり裁判官によって訴訟指揮に相当な違いがあるということで,何らかの対応が必要なのではないかと考えています。 ○山本委員 レイプシールドについては,支援現場の視点から意見を述べさせていただければと思います。私も警察官の方たちと会うことはよくあるので,全ての方がそうではないとは存じておりますけれども,被害を訴えたときに警察官から,「裁判になったら耐えられないような嫌な質問をいっぱいされるけど大丈夫。」とか,「昔のことをあれこれ持ち出されて傷つくよ。」というふうに言われたということを非常によく聞きます。そう言われて被害届を取り下げた被害者の方も何人もいました。裁判が過酷なプロセスなので,尋問に耐えられるかどうかという観点からふるい落とそうとしているのかなというふうに思いますけれども,そういう話を聞くたびに,被害者を黙らせて加害者の罪を問わないようでは,何のための司法なのかと思います。   被害者は,事件に関連することについて,事実を証明するために証言するのであって,そこで傷つけられ,二次被害を与えられるようなことは,あってはならないと思います。関連性のない証言を求めることは制止ができるので,性的言動の証拠を採用してはならないとするレイプシールド法を制定する必要はないと言われますけれども,そうはなっていないから,警察官が裁判を諦めさせるようなことを言うのではないのでしょうか。   最高裁判決でも,逃げなかったことを理由に,2009年4月14日に強制わいせつで逆転無罪判決が出され,逃げなかったことを一つの理由として,2011年7月25日に強姦罪の逆転無罪判決が出されました。控訴審の有罪判決における認定が経験則に照らして不合理と指摘されましたが,被害者心理や危機的状態に置かれた人間の反応を理解しておらず,レイプ神話に基づくジェンダーバイアスがあるとジェンダー法学者などからも指摘をされています。   提出資料である医歯薬出版株式会社発行の「フォレンジック看護-性暴力被害者支援の基本から実践まで」の30ページに,レイプ神話とその実態に関するWHO(世界保健機構)の報告が掲載されているのですけれども,こちらにも,セックスワーカーはレイプされないとか,男性は妻をレイプできないとか,被害を受けたらすぐに警察に届け出るということが世界で言われているレイプ神話として記載されており,警察でも,すぐに届けなかったから,あなたはその行為に同意していたのではないか,遊びだったのではないかというふうに言われることは,やはり起こっているのですね。   こういう誤った認識,バイアスは,システム全体に根を張っていて,私たちはその中に生きていると思います。これまでいろいろな人と関係を持っているのだから今回も同意の下ではないかという推測を働かせて,被害者の訴えを信用しない,そういう司法の現場で起こっていることを認識して対応するということが,今後,非常に重要なのではないかと思います。   寺町東子弁護士に,国際刑事裁判所ローマ規程の適用に関する証拠手続規則というのを翻訳していただいて,そちらも資料として提出しています。こちらに,「真の同意を与えることができない状態の被害者による言葉や行動によって,同意は推定できない。」とか,「当該行為の前または後の性的行動の証拠を採用してはならない。」という規定があり,不適切な質問がされないということをこの規則によって定めているのではないかと思います。   訴えることでいろいろなことを言われるのではないか,警察で嫌な質問をされるなどの情報もネットに載せられているので,それを検索して,訴えるのをやめておこうと思う。やめたくてやめているわけではないのだけれども,それをすると自分の症状が確実に悪化する,若しくは,今の耐え難い心身の状態に更に打撃を受けたら,とてもではないけれど生きていけない,そのように思うから,やはり訴えることが非常に難しくなってしまうのだと思います。   ですから,司法のプロセスの中に統一した見解を示すためにも,不適切な質問がされないとか,同意について根拠のない誤った思い込みによる判断がされないように,同意の推測というのは,ローマ規程のように,このようなものは同意の根拠としてはならないということを示すようなレイプシールド法を制定していただければと思っています。私たち被害当事者,また,現場でせっかく支援して,本人も訴える気持ちを持ったにもかかわらず,やはり取り下げざるを得ない現実に直面している支援者の人たちも同じ気持ちだと思います。 ○齋藤委員 現在でも,証明すべき点と関連性のないものは証拠として提出できないということは理解しているのですけれども,それでもやはり問題ではないかと思う点がございます。   1点目は,法律家ではない支援者の立場からは,なぜそれに言及されないといけないのか分からないことに言及される場合があることです。先ほど上谷委員もおっしゃっていたことでもありますけれども,例えば,見知らぬ人から性被害に遭った女性の事案で,その女性が風俗とか水商売の仕事に就いていたことが法廷で言及されるということがあります。なぜ言及されなければならないかということが,やはり理解しづらいなというふうに思います。   2点目は,明確に禁止していないことによって,少なくとも警察の捜査の段階などで,被害者が二次被害的に言及されることがあるという点があります。もちろん,私も警察の方とよく一緒にお仕事しますので,本当に丁寧に配慮して聞き取りをなさる方がたくさんいらっしゃるとは存じているのですけれども,やはり今まで経験した事案でも,警察で本当に被害に遭ったのかと疑われるようなことを言われて,傷ついて,届出に至らなかったこともありました。 (具体的事例を紹介)   ヒアリングで,岡田実穂さんが,性的マイノリティーの人たちがSNSや出会い系を使っていたことをもって届出が受け付けられないことがあるということもおっしゃっておりました。もちろん,関係性の中で被害が起きている場合に,その加害者との過去の関係が問題になることは分かりますけれども,それ以外の性関係がなぜ問題になるのかということは,やはり理解が難しいなと思う点がございます。捜査上必要なことであったとしても,過去の性的な経験とか傾向が今起きている出来事の同意には関わらないのだということが,何らかの形で明確になったならば,尋ね方が変わるなどして,二次被害が減っていくのではないかとも思います。   3点目は,これは山本委員も言及していたことかと思うのですけれども,性被害に対する偏見や先入観はいまだ大きく,それが現在の社会や司法に影響していないかということです。現在も,証明すべき点と関連性のないものは証拠として提出できないとされておりますが,その判断全体にバイアスがかかっている可能性というのはないでしょうか。こうした問題を解決する方法としてどのような方法がいいのかというところには,なかなか考えが及ばないのですけれども,いわゆるレイプシールドの在り方について検討いただくとか,同時に司法関係の方々にレイプ神話,ジェンダー,セクシャリティーに関する研修を適切に行っていただくということも検討いただければと思っております。 ○小島委員 裁判所は十分やっているから大丈夫なのだという意見と,上谷委員を始め山本委員や齋藤委員のように被害者側からは,ひどい質問をされて,それにおびえて被害申告をやめようと思うぐらいの状況になっているのだという意見の両方を伺います。   実態については重要だと思うのですけれども,問題は,被害の申告を考えている人々に,刑事訴訟法でこういう規定になっているから大丈夫だと,ひどい尋問というのはされない,不必要な尋問はされないのだということを,条文とか明確なテキストの形で示していって,説明できるようにしていくとよいのではないか。被害者を励ますような刑事訴訟法であってほしいと思います。   もう一点は,次の論点である司法面接の導入との関係でも重要なのではないかという点です。司法面接制度を導入するとしても,反対尋問権との対立の問題になってくる。そうすると,反対尋問の在り方というのが問題になってくると思います。この点から,レイプシールド法,不適切な反対尋問がなされないという法律ができているということが,重要なのではないかと思います。 ○中川委員 裁判官の立場から,二点申し上げたいと思います。どのような証拠が公判に顕出されるかは,事案の内容や争点によって異なりますので,一概には言えないところではありますが,例えば,被害者の証人尋問で,弁護人から被害者の性的な経験や傾向が質問され,検察官がその質問は事件に関係がないと考える場合には,質問に対して異議が出されることになると思います。その場合,裁判所は,弁護人の意見を聴いた上で,その質問が事件と関係がない質問であると判断すれば,その質問を認めず,質問を変えてもらうというような措置を採ることになります。また,仮に事件のために必要な質問であったとしても,質問の方法などが被害者を侮辱するようなものであるような場合には,質問の方法を変えてもらったり,質問を止めさせたりすることもあると思われます。これが1点目です。   それから,2点目,レイプ神話の話がありました。その関係ですが,被害者の方が証人尋問を受ける際の心理状態ですとか,裁判で配慮が必要な事項につきましては,司法研修所で行われる専門家の講演で研修も受けております。質問の仕方などについて工夫するようにというふうに伺っています。バイアスとかレイプ神話の関係につきましても,その講演の中で,性被害に対する先入観とか偏見があるのではないかというような講演もお聞きしております。性犯罪被害者の心理と刑事裁判という御講演の中で,やはりレイプ神話に触れられていました。女性に対するレイプ神話,それから男性に対するレイプ神話,両方触れておられました。そういう講演などを伺う中で,私自身も含め,裁判官は自分自身がそうした偏見やバイアスを無意識のうちに持っていないかどうか,改めて確認をしております。自分がその偏見に基づく不当な扱いをしていないかとか,二次被害を与えていないかというようなことを,常に心に留めながら努力しているところであります。 ○宮田委員 今まで裁判例の中で,例えば水商売に従事しているからといって,同意があったことにはならないのだというような形で判例が集積されておりますので,そのような被害者の属性そのものが一つの立証事項として重要だなどと考えている弁護人は恐らくいないだろうと思います。   しかしながら,事件の中には,そういうものに言及せざるを得ないものもあります。例えば,売春の客と売春をする主体の関係にあり,支払う金額のことでもめた,だから被害を申告されたというような事例,あるいは,出会い系サイトで出会って性的な関係,一時的なラブアフェア,情事を楽しんだと,しかしながら,それが家族にばれた,夫にばれた,恋人にばれたというような事情があったために,同意はなかったのだ,無理にされたのだという話が出てきたとき,そうではなくて,こういうところで知り合って,こういう関係が過去にもこの人とはあって,という立証をせざるを得なかった事例なども聞いております。   あるいは,これは性交同意年齢の問題にも関わるかもしれませんけれども,比較的若い被害者が非常に性的な問題に対して関心を持っている,だから積極的に自分から男性と関係を持とうとしたという事例だということを立証しようと思えば,その被害者が性的な関心度が高かったことも争点にせざるを得ないということがございます。つまり,被害者の属性について,どうしても争点にせざるを得ない,そこが正に同意があったかどうかの境目になる,という案件というのは存在するのです。   裁判所の訴訟指揮が悪いという御意見がありましたけれども,現在,裁判は当事者主義の下で行われております。つまり,裁判所は,最初は起訴状しか分からない。公判前整理手続に付された事件の場合には,裁判所もあらかじめ争点について御存じですが,そうではない事件については,裁判所は争点については御存じない状態で裁判に臨んでいます。そういう場合に,弁護人がそういう性的な事項に関わる質問をしたとき,裁判官としては,これが争点に関わり合いがあるのかないのかが分からない,検察官が異議を出さずにスルーしてしまったら,これは争点なのかなと思いながら聞いていて,最後に,やはり争点ではなかったのではないかと,裁判官が気付くという事件もあるわけです。   つまり,公判前整理手続に付した事件はともかく,そうではない事件の場合には,反対尋問の際にもしも不適切な質問があったのであれば,「それは関連性のない質問です。」,「証人を侮辱するような質問です。」,あるいは,「裁判官に対して予断や偏見を与えるような質問ではありませんか。」という形で,検察官が適切に異議を述べなければならない。しかしながら,それがないままにスルーされている事件があるのではないか。そして,それが裁判所の訴訟指揮が悪いという裁判所批判になっている事例もあるのではないかという気がいたします。 ○川出委員 今,宮田委員から御指摘がありましたように,被害者の性的な経験や傾向を立証することが被告人の防御にとって必要な場合があるのであれば,その立証を一切認めないということは許されませんので,仮にレイプシールドに係る立法をするとしても,現在の運用,つまり,関連性とか証拠調べの必要性のない証拠の取調べを認めないとか,あるいは,不相当な質問は認めないといったことを確認する規定を置くことになるのだろうと思います。   外国にはそのような規定を設けているところもあるわけですが,例えば,資料50で挙がっているアメリカの連邦証拠規則などを見てみますと,レイプシールドの規定は,関連性についての一連の規定の中の一つのカテゴリーとして定められています。仮に,我が国でレイプシールドについての規定を設けるとすれば,これと同様に,例えば前科証拠の扱いなども含めた形で規定を設けるのが筋であり,レイプシールドに関してのみ明文規定を置くというのであれば,やはり相応の理由が必要であろうと思います。   その上で,どのような場合にレイプシールドについてだけ確認規定を置くことが正当化されるかですが,考えられるとすれば,配偶者間の性的行為の処罰規定の在り方についての議論の際に指摘されていたのと同様に,実務上,被害者の性的な経験や傾向に係る証拠の関連性や証拠調べの必要性について誤った理解,解釈がなされている可能性があるので,それが誤ったものであることを立法によって明示するということであろうと思います。   そうしますと,先ほど,弁護人側から関連性のないような質問が出されるのに対して,裁判所がそれを漫然と放置しているという実情があるという御紹介がありましたが,そのような例が現にあるとして,それが,関連性や証拠調べの必要性についての裁判所の理解が誤っていることによるものなのか,それとも,その理解自体は誤っていないけれども,個別の事件における判断を誤ったことによるものなのかを明らかにする必要があります。仮に,裁判所の関連性等の理解自体が誤っているということであれば,それを正すという意味で,特別な規定を置く意味が出てきますが,そうではなく,個別の判断の誤りということであれば,立法をするよりも,例えば,裁判所内部で研修を行うとか,あるいは,一歩進んで運用面における指針のようなものを作るといった形で対処すべき問題なのではないかと思います。 ○金杉委員 私も,一般的にこのレイプシールド,性的な経験や傾向に関する証拠を法廷に顕出することを禁止するという規定を置くのは,行き過ぎだと考えています。   まず,二つ考えられると思うのですが,客観的な証拠,書証であるとか物証であるとかの証拠の提出に関しては,あらかじめ検察官が意見を述べて,関連性がないものであれば,検察官が不同意にする,あるいは,証拠の関連性に異議を述べるという形で裁定を経ることになります。その上で,裁判所が,関連性があるものであれば採用するという判断をすることになるわけなので,そこで全く関連性がないものは排除されると思います。   一番問題になる尋問の場面ですけれども,これについても,やはり,先ほどの上谷委員の御指摘のような事案であれば,もちろん不適切だと思いますけれども,裁判所が漫然と放置する前に,恐らく検察官も異議を言うということもあるのだと思います。検察官の異議,あるいは裁判所の裁定という判断が適切になされているのであれば,つまり,運用面で問題がないのであれば,そこで遮られるはずの質問だと思います。関連性がないものが遮られるべきは当然ですけれども,関連性のある証拠,その事件にとってその性的な経験や傾向に関する質問が必要である場合にまで,それを遮られるというのは,憲法で保障された,全ての証人に十分に審問する機会が与えられるべきという反対尋問権を制限するものであって,やはり認められないと思います。 ○和田委員 まだ御説明いただいていない資料にはなってしまうのですが,資料57には,イギリスにおける特別措置のガイダンスが書かれていまして,その8ページ以下にグラウンドルールについての記載があります。これを見ますと,イギリスでは,脆弱証人,性犯罪被害者はこれに当たり得るということですけれども,それが関わる事件においては,事前にグラウンドルールを決めるという手続があるようでありまして,その中では,証人の性的遍歴に関する質問を制限することであるとか,あるいは,侮辱的な言葉を使用することに対するコントロールを決めることができるという制度が設けられているようであります。   我が国でもこれと同じような制度を設けるというのは一つの方法かもしれませんし,正式な制度にまでしなくても,現行法の運用の中で,より積極的にそういうことを実現していくことが考えられると思います。具体的には,被害者の性的な経験に関する証拠の提出だとか,尋問が問題となり得るという事案は,当然,あり得なくはないわけですけれども,公判前整理手続だとか事前の打合せで,そういう証拠提出の範囲や尋問の範囲をあらかじめ明確に決めるようにする。決めておいたにもかかわらず,それに反することをされるのだという御指摘もあったのかもしれませんけれども,そこはより強く,合意に反してそういうことがなされないように,より積極的に運用をしていくということが考えられてよいのではないかと思います。   そのように,一律に証拠を禁止するのではなくて,個別の事案ごとに合意を設けて,それに反する行為が行われないように可能な限り強くコントロールして,適切な訴訟指揮だとか異議申立てができるようにして,それがある程度機能すれば,それが機能しないところが問題なのだという御指摘なのかもしれませんけれども,それがある程度機能するようになれば,証人となる被害者にとっても,個別の事案において事前の予測可能性が出てきて,利益になるのではないかと思う次第です。   私は訴訟法の専門家でないので,若干,専門外からの意見ということになりますが,以上です。 ○井田座長 時間の関係もございますので,第2の「3」についての議論はこの辺りまでということにしたいと思います。この論点については,それへの対応を運用に任せるべきだという御意見が複数の委員から出されました。近い将来のことですが,この検討会の取りまとめをしなければならないときにも,そういう運用の改善に資するような,今日頂いた貴重な御示唆,こういうものを入れて提言のようなことを行うというのは十分考えられるところだと思います。他方で,何らかの明文の規定を作るということになると,先ほど川出委員が適切にまとめられたような問題があり,なかなかこれは,ここだけでのピンポイントの対応にとどまらないことになってしまいそうです。   先ほど,明文の規定をという御意見が何人かの委員から出されましたけれども,いかがでしょうか。 ○上谷委員 検察官が適切に異議を出して,それについて裁判所が意見を聴くという話がありまして,私も実務で,検察官はもう少し異議を出してほしいと思うことは確かにあるのですけれども,検察官が異議を出すということは,もう不適切な質問はされているわけです。検察官が異議を出そうが出すまいが,被害者に対する侮辱的な事態はもう法廷で起きているわけですので,検察官が異議を出せばいいではないかという話ではないと思います。確かに全面禁止とかそういうのは難しいと思いますけれども,例えば,確認規定でもいいのではないかとか,研修をすべきではないか,何らかの指針を定めるべきではないかという,何らかの手当てはすべきではないかと私は強く思っています。 ○井田座長 刑事訴訟法に何らかの規定を入れるべきだという御趣旨ですか。 ○上谷委員 その方法ももちろん検討すべきかと思います。 ○井田座長 それでは,この論点につきましても,一渡り御意見は頂けたということで,時間の関係がございますので,議論はこのぐらいにしたいと思います。   次に,第2の「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」についての検討を行いたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関連する資料について,説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第2の「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」に関する資料は,資料52から58までです。   資料52は,児童が被害者等である事件における検察・警察・児童相談所の連携に関し,平成27年10月及び平成30年7月に最高検察庁が全国の検察庁へ発出した通知です。   資料53につきましては,この後,刑事局の担当者から御説明いたします。   資料54は,司法面接的手法による聴取に言及した裁判例を事務当局において収集し,それらの事案の概要や裁判所の判断をまとめたものです。   資料55は,子供の供述特性や性犯罪被害者の精神的負担に言及した裁判例を事務当局において収集し,それらの事案の概要や裁判所の判断をまとめたものです。   資料56は,諸外国の法制に関する資料であり,アメリカ合衆国法典のほか,イギリス,韓国及びオーストラリアの被害者の聴取結果等を記録した録音・録画記録媒体に特別の証拠能力を認める規定を抜粋し,法務省において仮訳したものです。   例えば,イギリスでは,18歳未満の証人や一定の障害を有する証人,証言に対する不安や苦痛を理由として証言の質が減殺されると裁判所が思料する証人に適用される裁判所による特別措置命令の一つとして,証人の聴取の録音・録画記録が当該証人の主尋問としての証拠として許容されることなどが規定されております。   資料57は,イギリス検察庁のホームページに検察官向けの資料として掲載されている,「1999年少年司法・刑事証拠法」に基づく特別措置のガイダンスのうち,脆弱な証人等の聴取の録音・録画等に関係すると思われる箇所を抜粋し,法務省において仮訳したものです。   資料58は,第2の「4」の論点に関係すると思われる条文を抜粋したものであり,日本国憲法・刑事訴訟法の証人尋問や証人の負担軽減,供述証拠の証拠能力に関する規定を記載しております。   御説明は以上です。 ○井田座長 ただ今の説明につき,何か御質問はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 次に,この論点に関連する事柄として,児童が被害者である場合などにおいて検察・警察・児童相談所が連携してその代表者が聴取をする取組の実情につきまして,法務省刑事局の神渡参事官から説明をお願いします。 ○神渡参事官 私から,検察における代表者聴取の取組の実情について御説明させていただきます。資料53でございます。   まず,検察における代表者聴取の取組の概要について御説明します。代表者聴取とは,検察官が警察や児童相談所の担当者との間で聴取方法等について協議を行い,その代表者が聴取をする取組をいいます。検察においては,お配りしている資料52の平成27年10月28日付け最高検刑事部長通知を発出し,児童が被害者又は参考人である事件について,児童に対する代表者聴取の取組を行っています。   スライドの4枚目を御覧ください。代表者聴取の取組が進められる前は,多くの場合,児童相談所,警察及び検察官が,それぞれの立場から,児童からの事情聴取を各別に行っていました。こうした聴取の在り方については,聴取が繰り返されることにより記憶が変容するおそれがあるのではないか,聴取の中で暗示・誘導的な質問がなされているのではないか,事件の再体験となり,精神的に脆弱な児童にとって精神的負担が大きいのではないかなどという懸念が指摘されておりました。   こうした児童の供述特性や懸念を踏まえまして,スライドの5枚目に記載しておりますように,暗示・誘導を排除した聴取技法の必要性ですとか,初期供述の重要性,聴取の繰り返しを避ける必要性,録音・録画により客観的に記録する必要性が,これまで以上に強く意識されるようになりました。   スライドの6枚目ですが,児童虐待や性犯罪の事案は,御承知のとおり,密行性の高い犯罪です。被害者の供述が立証の中核となることが多く,合理的な疑いを容れない程度の立証を行うためには,信用性の高い正確な供述を得る必要があります。ですので,暗示・誘導を排除した聴取技法を用い,被害から近い時期に,関係機関連携により,できるだけ少ない回数の聴取を実施して,これを録音・録画により客観的に記録することなどにより,児童の供述特性等を踏まえながら,児童の負担が少なく,真実を解明するための正確な供述を証拠化することに,代表者聴取を行う意義があると考えています。   その上で,代表者聴取においては,広く司法面接的手法による聴取を行っています。先日,仲真紀子先生が御説明されたようですので,ここでは詳細な説明は割愛させていただきますが,検察においてはNICHDのプロトコルやChildFirstのプロトコルのいずれかのプロトコルを参考にしている例が多いものと承知しています。   司法面接的手法の習得については,検察においては,例えば,任官3年前後の検事を対象とした検事一般研修等の研修において,児童の事情聴取方法に関する講義・演習を実施するなどしているほか,各庁においても,検察官に民間団体による司法面接的手法の研修に参加させたり,勉強会を開催するなどして,技術の習得に努めています。その上で,各地検では,司法面接的手法による取調べ技術を習得した者を中心に事件を配点するなどの配慮をしています。   続いて,検察における代表者聴取の具体的な実施状況について御説明します。スライド10枚目は,代表者聴取を実施した総数のグラフです。平成27年の取組開始以降,各地での連携が進み,一昨年,昨年と,その数は1,500件を超えております。   スライド11枚目は連携状況を連携した機関別にまとめたものであり,三者連携のパターンが最も多いという状況にございます。   続いて,スライド12及び13枚目は,実施件数を聴取者別に分類をしたものです。証拠能力の問題に加えて,犯罪構成要件や供述の信用性を含む証拠構造などの立証上の問題を理解しているなどの理由から,検察官が聴取を行う場合が多くなっております。   スライド14枚目は,実施件数を聴取対象者が被害者である場合の犯罪の種別で分類したものです。半数以上が性犯罪のケースとなっています。   続いて,スライド15枚目は,実施件数を聴取対象者の属性別に分類したもので,約8割が,児童が被害者であるケースでの実施となっております。   続いて,スライド16枚目は,実施件数を聴取対象者の性別により分類した表です。約7割近くが女児となっています。   スライド17及びスライド18枚目は,聴取対象者の年齢別の実施件数の分類状況です。ここ5年間で2歳から17歳までの実施例がございます。   続いて,スライド19及びスライド20枚目は,聴取回数別の実施件数の分類です。昨年の実施例では,全体の約91%について1回で聴取を終えている状況にございます。   続いて,代表者聴取の具体的な流れについて御説明します。代表者聴取の一般的な流れについて示したものが,スライド22枚目になります。事案にもよりますが,一般的には,事件送致前の段階であっても,被害からできるだけ近い時期に代表者聴取を行うように配意しています。   そのために,各庁では,相談窓口を設け,警察や児童相談所と緊密な情報交換を行うなどしています。検察官は,警察や児童相談所から情報提供を受け次第,代表者聴取を要すると判断した場合には,関係機関と連携し,必要な情報収集や情報共有,聴取の手順・内容等に関する調整,代表者聴取の場所や機材の設営準備等の必要な準備を行います。   情報収集につきましては,スライド24枚目にございますように,例えば,発覚の経緯を含めた事案の概要に関する情報,児童の家族構成,同居人の有無,児童の説明能力の程度や障害の有無等の児童や被疑者の属性に関する情報,被害児童の負傷状況等の医療情報等の情報などを収集するなどしています。もっとも,事案が発覚してから早期の段階ではこうした情報が必ずしも十分に集まらない場合もあり,できる限りの情報を収集して実施しております。   その上で,スライド25枚目にございますように,一般的には聴取の時期や時間の見込み,代表者の選定などの聴取の段取りや,聴取の目的としてどういったことを優先して聞くか,発問の順序等の質問事項の検討などについて,関係機関で事前に協議を行います。   代表者聴取の場所については,庁舎の物理的な関係もございますので,検察庁で行う場合もありますし,他の機関の施設を利用する場合もあります。スライド26枚目に図示しましたように,聴取を行う部屋は,通常の取調室とは異なり,児童が安心して供述できるよう,ソファーや低い机を置くなどしています。レイアウトについても,児童福祉司や児童心理司の先生と相談しながら設営するなどしている例もあります。聴取者以外の者は,聴取状況を別室でモニターを通じて確認し,聴取状況を見ながら必要に応じて,補充の質問事項を代表者に伝えるなどしています。   スライド27枚目は,代表者聴取を行う部屋の一例です。左が東京地検,右が大阪地検のものです。スライド28枚目は,聴取状況をモニターする別室の例です。   代表者聴取の手順につきましては,スライド29枚目でNICHDのプロトコルに準拠した流れを参考でお示ししております。参考にするプロトコルによって聴取手順は若干異なりますが,児童とのラポール形成が重要であって,児童の年齢や発達の程度に合わせながら聴取を行うことですとか,方法には違いがあるものの,グラウンドルールの説明をすること,原則として,誘導質問は差し控えて,質問方法としても誘導性の高い質問方法はできる限り後に回すことなどの点において共通しております。聴取者においては,必要に応じてプロトコルを手元で参照するなどしながら,児童に対する暗示・誘導を排除した聴取方法に意を払って,児童から信用性の高い供述を引き出せる工夫をしております。   最後に,代表者聴取の結果の証拠化,利用状況について御説明します。代表者聴取における聴取結果の証拠化の方法については,一般的には,録音・録画をしまして,記録媒体にその状況を記録し,供述調書は作成していない場合が多いようです。供述調書を作成する代わりに,スライド31枚目に示したような聴取結果を取りまとめた捜査報告書を作成している例も多いようです。これは一例です。   スライド32枚目でございますが,昨年は,代表者聴取の実施例の約99%について,録音・録画が実施されております。   スライド33枚目は,検察官が代表者として聴取を行った場合における供述調書の作成の有無をまとめたものです。昨年の例では,約9割のケースにおいて,検察官面前調書は作成しておりません。   最後に,録音・録画記録媒体の公判での証拠の採用状況と,その採用の根拠条文をまとめたものがスライド34枚目になります。もっとも,録音・録画を実施した全ての事件が公判請求されるわけではありませんし,公判請求された事件についても,捜査報告書等の同意書証が取り調べられたケースや,証人尋問のみで立証を行ったケースも多いため,録音・録画を実施した全ての事件について,録音・録画記録媒体が証拠請求されるわけではありません。   私からの説明は以上です。 ○井田座長 ただ今の説明につきまして,何か御質問ございますでしょうか。 ○宮田委員 2点教えていただきたいのですけれども,スライド25枚目,質問をするに当たっては事前に協議を行うということでしたが,この協議を行う際に,児童相談所や警察,検察庁以外の児童心理等の専門家の方に入っていただいたような例はあるのか,ないのかということが一つ。もう一つ,録音・録画をしなかった例もあるとのことでしたが,されなかった理由はどこにあるのか,お分かりであれば教えていただければと思いました。 ○神渡参事官 事案によるため,一概には申し上げられないのですけれども,1点目ですが,現在の実務においても,必要に応じて医師等の専門家等が関与して,事前に,どのようなことを聞いた方がいいかなどを相談しながら代表者聴取を実施している例はあるものと承知をしています。   2点目は,録音・録画を実施しなかったケースについてです。これは,全ての理由について網羅的に把握しているわけではないのですが,一例として申し上げますと,一つには,設備の問題等もあるのですけれども,児童がマイクの存在が気になってしまって,録音・録画をしている状況では全く集中できないということで,録音・録画を行わなかったという例や,代表者聴取を行うということではあったのですけれども,児童の年齢が高くて,通常の聴取の方法,いわゆる司法面接的手法ではない方がうまくいくという判断の下から,録音・録画を行わなかったという事例があるというふうに承知しております。 ○池田委員 今回の報告の対象は,スライド17枚目の表によると,18歳未満の児童が対象になっているのですけれども,これよりも年齢層が高めの方について,このような手法を用いて供述を確保するということが検討されることはあるのでしょうか。 ○神渡参事官 基本的には,司法面接的手法を用いるかどうかということについて,現状の実務の運用としては児童を対象にしています。それ以外の,例えば年齢が高い方で,供述弱者というふうにいわれているような方に対しては,司法面接的手法を用いるかということとは別に,各種研修等で供述弱者の特性等に関する講義を受けるなどして供述弱者の特性等を理解した上で,誘導性を排除したような形で質問する工夫を行うなどしています。 ○小島委員 代表者聴取の録音・録画の実施状況を見ますと,平成31年と令和元年で,1,619件実施しているのだけれども,検面調書はほとんど作成されておらず,公判での録音・録画記録媒体の採用状況を見ますと,同意書面も含めて20件くらいしか採用されていないということですが,件数がこうなってしまうというのはどういうことなのかなと。これだけやっているのに公判では余り採用されていないというのは,どういう事情なのか伺いたいと思いました。 ○神渡参事官 一つは,代表者聴取につきまして,事件として送致される前に行っているケースもあります。そのため,最終的に事件として立件されないものも含まれておりますし,事件として立件された上で公判請求に至らないというものもございます。さらに,公判請求をされたものの中でも,録音・録画記録媒体ではなく,書証等が同意になるケースもありますし,公判廷で証人尋問を行った結果,その証人の証言だけで立証が足りるという場合等において,録音・録画記録媒体を請求するまでの必要がないという事例もあるやに承知しております。 ○山本委員 私は,ChildFirstの方のリフカー研修,すなわち,虐待を受けた児童への初期対応についての研修を受けたことがあるのですが,スライド24枚目で,負傷状況等の医療情報を事前に収集して面接に当たるということなのですけれども,アメリカとかでは,一般的に,医療職者,児童相談所の職員,司法面接者,警察官が一緒に協同面接,司法面接をして,その後,必要な身体的ケアや性暴力の被害者の診察などのケアをするという流れではあるのですけれども,事前準備をして,どの段階で誰が入るのかということを決めるときに,医療職者は入らないということでしょうか。 ○神渡参事官 必ずしも負傷を伴う事案ばかりでもございませんし,事案にもよりますので,一概には申し上げられないところではありますが,一般的に,もちろん事前に協議する段階で,医師の先生方等が入っているような例もあるというふうには承知しています。もっとも,一般的に一律にそのような形で医師が入っているということはないものと思います。 ○山本委員 被害者の診察などはその前に終わっているという理解でいいですか。例えば,性器とか身体的な診察についてですけれども。 ○神渡参事官 事案にもよりますので,一概にはなかなか申し上げられないところでございます。児童相談所が介入して覚知した事案もございましょうし,警察で覚知した場合もありますし,今回のその取組の中では,児童が目撃者の場合もございますが,全ての事例について網羅的に把握しているわけではございません。 ○井田座長 それでは,この論点についての議論に入りたいと思います。第2の「4」について御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 司法面接の聴取結果を記録した録音・録画媒体に証拠能力を認めるべきかについては,私としては,当然採用される必要があると思っていますし,採用されていないことが不思議と思っています。第2回会議で仲真紀子先生からも,そして今回も説明いただいたように,子供に対して誘導・暗示的な質問がされないように,司法手続で二次被害を起こさないように,必要な情報を客観的に聴取して録画することは,証言の変遷を防ぎ,被害者を保護するために必須のこととして実施されているわけですから,それをそのまま証拠として採用していただき,また,反対尋問に関しても,このような協同面接を行い,録画したものが出される方が,より被害者にとっては保護的であると思います。   なぜそれが難しいのかということについて,司法の方のお話をいろいろ聞きまして,やはり被害者が直接裁判所に出向いて,裁判官や被告人を前に証言することで,話している内容が真実かどうかということを明らかにしたい,そういう意向があるということをお伝えいただいたのですけれども,これは,トラウマ経験を持っている人に関して,ほぼ不可能なことを要求していると思います。耐えられない出来事を経験して安全感や信頼感が奪われた人に,非日常的な空間で,しかも子供である場合に,学校,家庭,保育園,塾とか,そういう日常的な場所と全く違うような空間で,権威的で安全でないというふうに感じられる場所に行かせられることが緊張やストレスを高めますし,記憶へのアクセスを失わせてしまい,より適切な証言ができなくなってしまうという問題があると思います。ですから,当然のこととして,採用していただければというふうに思っています。協同面接については,ChildFirstを実施している山田不二子医師は,必要な事件といっても,性犯罪の被害者については,成人であっても,初めは挿入されていないとか,単に触られただけだということを言って,なかなかやはり被害を自分で適切に申告するということが難しいという状況もあるので,全件行っていく方がいいと指摘されていたことも申し述べておきたいと思います。 ○齋藤委員 この論点について二つの点から意見を述べたいと思うのですが,1点目は証言の信用性ということなのですけれども,今回,録音・録画がそのまま証拠として採用されるということが少ないという話を方々から聞くのですけれども,それを純粋に疑問に思っております。   アメリカ保健福祉省管轄のチャイルドウェルフェアが出している司法面接に関するファクトシートというのがありますが,子供の聴取においては,子供の年齢と発達レベル,記憶に対するトラウマの影響,暗示性,バイアスなどを考慮する必要があるとされていますし,同じくアメリカの司法省が発行した文献において,子供の年齢や発達レベルの考慮がなぜ不可欠かといえば,子供の記憶能力はそうですが,使用できる語彙の程度であるとか,質問を理解しているかや,関連する情報を記憶しているかどうか自体を認識するというメタ認知の能力,つまり,記憶能力・言語能力・認知能力が,年齢によって異なるためだと述べています。それらを聴き取り手が正確に理解していないと,正確な聴取りはできません。また,トラウマの影響で子供たちの記憶がどのようになっているのかを知るためには,子供のトラウマに精通している必要があります。   そして,これはカリフォルニア大学の研究者らのメタ分析ですけれども,子供から正確な回答を得るためには,サポーティブな姿勢で尋ねる必要がある,つまり,子供が安心できる環境,安心できる対応をする必要があるということが述べられています。子供は使用できる語彙が少ないので,限られた語彙に合わせて子供の記憶を聴き取って,ノンバーバルな情報を読み取るという必要もあります。司法面接の取組が欧米でなぜ進んだかといえば,これまで述べてきたような子供の能力や子供の心理にそもそも精通している人がしっかりとトレーニングを受けた上で聴き取らなければ,適切な情報を得られないからです。つまり,子供の発達や心理に精通して訓練をしっかり受けた人による司法面接の録音・録画,できれば録画が,最も情報が適切で豊かであるということが言えます。   裁判というのは,司法関係の勉強をしていない私の見方からすると,真実を追究する場であるというふうに認識しているのですが,より正確ではなくなる司法面接以外の聴取記録とか法廷での証言が優先されるのはなぜなのかということを,純粋に疑問に思っております。反対尋問については,私はよく分かりませんが,少なくとも事件の内容の聴取りをする主尋問については,司法面接の方が正確ではないかと思いますし,証言の信用性を争う場合には,聴取をした人であるとか,司法面接の映像を見て誘導があったかどうか判断できる司法面接に精通した人を尋問するということも考えられるかと思います。   司法面接実施までの間に既に記憶が聴き取られ,記憶が汚染されているではないかという意見がヒアリングのときにも述べられていたように思いますが,しかし,それでも司法面接のその瞬間が,少なくとも最も記憶の聴取りが適切な段階であるということは言えるかと思います。   もう一点,子供の精神的な負担を考えていただきたいという点からも述べさせていただきます。事件のことを子供の心理に精通していない人が聴き取るたびに,子供の心の傷口というのは刺激されていきます。警察の聴取後,あるいは裁判での証言後に状態が悪化する子供たちはたくさんいますし,もう事件について聴かれることが嫌だと,カウンセリングにつながることができなくなる子供たちもいます。子供にそのような負担を負わせたくないとして,被害の届出を諦める保護者もたくさんいます。少なくとも司法面接が適切に導入され,それが証拠としてきちんとして採用される,それで,反対尋問については配慮されながら行われるということであるならば,被害届を出すことで子供に負担はかかるかもしれないけれども,できる限りの配慮が行われますということを子供にも保護者にも堂々と伝えられるのではないでしょうか。そして,実際に子供たちの心の傷への影響も格段に小さくなると思います。   子供にとっても大人にとっても,被害を一から話すということは,その場で正に被害が起きているかのように苦痛を感じかねないことで,大人であっても意見陳述や証言で泣き崩れたりする人がいることは皆さん御存じかと思いますが,子供のまだ脆弱な心にそれが非常に大きな負担となるというのは考えるにたやすいことかと思います。ですから,司法面接的な手法,司法面接の速やかな実施,そして,証拠として取り扱われることを望みますし,今回の論点とは異なるとは思うのですが,司法面接の運用についても更なる検討を望んでいます。   記憶の汚染をなるべく防ぐこと,子供の心を守りながら正確に記憶を聴取する上で,子供の発達や心理についての研修はたくさん行われる必要があると思いますし,それらに精通した上でしっかり訓練を受けた人が,何が重要なのかを理解した上でプロトコルを遵守して,司法面接的な手法ということが行われることを望んでおります。 ○池田委員 私からも,司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体の証拠としての使用可能性,これを認める必要性を支える事情について意見を申し上げたいのですけれども,今日の御説明にもありました,資料53のスライド6枚目に端的に示されておりますが,その支える事情としては,証人となる人の負担の軽減,そして真実の解明と,この二つを挙げることができるだろうと思います。   ここには,児童の負担軽減とありますけれども,やはり性犯罪の被害について,何度も被害を思い出させられること自体が心身に多大な悪影響を与えること,また,その後の人生にも影響を及ぼすことは,今日も何度も指摘されてきたところです。また,これは,児童にはもちろん大きく作用することとは思いますけれども,児童に限った話でもないのだろうと思います。   現状だと,捜査段階で取調べを複数回受ける場合があり,更に公判廷でも証言しなければならないとすると,そういう被害を追体験する回数が純粋に増えていってしまう。このことは,現状の法制度で用意している証人保護措置である遮蔽やビデオリンクといった措置を採っても,こういう証言の反復によって生じる問題には対処できないと思われますので,初期に作成された聴取記録,これ自体を証拠として用いることを広く認める必要があるのだろうと思います。   もう一つは,年少者との関係で,やはり誘導や暗示を受けやすいという特性,そして,記憶の変容を生じやすいということから,初期の供述を確保しておく必要があるだろうと思います。司法面接的手法により聴取された供述の方が信用性が高い場合がありますので,正確な事実認定を確保するという観点から,記録媒体を証拠とすることができるようにする必要があると思います。特に,年少者との関係では,今述べた二つの問題が重畳的に生じる,中でも心身の健全な成長に与える悪影響が重篤に生じるという点では,一層深刻に思われますので,そのような観点からは,特に司法面接的手法を導入する必要性が高いと言えるのではないかと思います。 ○小西委員 ここまで,司法面接の意義については各委員がお話しされたと思いますけれども,現実にやる場合において,やはりこれは相対的な手段なのであるということは忘れない方がいいと思います。司法面接さえすれば全部事実が分かるとか,子供は全く傷つかないというわけではないです。実際に聞き及ぶケースでも,例えば,司法面接のときには,もう既に回避的になっていて,子供がしゃべれないとか,あるいは,もう被害の最中から記憶の変容が起こっているというようなケースもありますし,一方で,被害直後にすごく適切に支援が入れられて,いろいろなことが分かっているケースもあり,その司法面接に至る経過も供述の在り方も様々です。こういう問題は司法面接を行うようにしても常にあり得るのだと思います。   ただ,そういうことを考えても,そうではないやり方を取るよりは司法面接を行ったほうがずっとましだというのが,私が思うことです。こういうやり方をしなくては子供にどういう負担がかかるか,あるいは,記憶がどういうふうになっていくのか,暗示がどうなっていくのかということについては,ほかの方がお話ししたとおりだと思っています。本当にまた素朴な言い方になってしまいますが,人は,事実だったら,ノーはノーといつでも言えるはずだとか,それは子供でも同じなのだとか,あるいは,機会さえ保障されれば必ずそういうことが言えるのだというような前提は,やはり被害を受けた子供には無理だということもいろいろあります。   ただ,今言いましたように,相対的であるということを考えたり,あるいは,司法面接に現実に技術の問題の差異があるというようなことを考慮しても,司法面接というのは当然あるべきだし,そこで質の高い,証拠能力のある証言が取れるということはいいと思いますけれども,一方で,その司法面接について,また評価していく,その面接の手法がどうであるかということを評価していくということも現段階では必要なのではないか,司法面接の位置付けについて,そういうふうに考えた方がいいのではないかというふうに思っています。 ○小島委員 この問題は,結局,子供とか,知的障害がある方とか,そういう供述弱者の証言をいかにして刑事裁判に取り込んでいくのかということではないかと思います。被害者の供述をどうやって証拠としてすくい上げて,採用できるものにするか。今まで暗示にかかっていた証言だったから無罪ですとか,そういう残念な事態が生じていたことについて,何らかの手当てをしていかなければいけない。監護者性交等罪の処罰範囲を広げたり,性交同意年齢を上げて,刑事裁判に乗ってくるようになっても,証人尋問の負担が非常に大きい。特に,供述弱者について何らかの手当てが必要だと思います。   そして,今日の御報告を聞きまして,児童相談所なり警察なり検察庁の方で相談をして,事件性があるかもしれないということで代表者面接をやっても,最終的に証拠として使えないというのは,証拠法上の問題があるのではないかと思います。こういう形で広がっている制度について,刑訴法上の規定を設けて,DVD等を証拠として採用できるようにしていくべきではないかと思います。   一方で,刑事手続における反対尋問権というのは非常に重要であり,反対尋問なしに証拠になるということになると,結局,被告人は納得できないでしょう。再犯防止にもならない。反対尋問権との兼ね合いが難しいと思っています。   イギリスの法律の紹介というのをしていただいたのですけれども,イギリスは主尋問に代えて用いることができるというスキームになっているとのことで,参考になるのではないかと思っています。   委員の方々がおっしゃっているように,司法面接では,面接する人の能力とか,どのように行うのか,手法とかやり方や面接技術のレベルアップ等が今後の課題だと思っています。 ○金杉委員 3点申し上げたいと思います。   まず1点目は,現在の代表者聴取のやり方についての問題点です。できるだけ初期の供述を,録音・録画もした状態で,生の供述を,非暗示的・非誘導的な聴取による供述を残すべきだという必要性については,刑事弁護の観点からも全く異論はありません。賛成いたします。   ただ,問題は,今のやり方ですと,捜査機関である警察,そして,訴追をする検察官,児童虐待を防止する立場の児童相談所という三者が行っているという問題点は,どうしても指摘せざるを得ないと思います。最高検の通達にもありましたように,どうしても児童は暗示や誘導に影響されやすいという問題点があります。どんなに訓練を受けた検察官や警察官の方,児童相談所の方であったとしても,訴追する立場,捜査する立場,本当に被害があったのかどうかの証拠を集める立場の方からの聴取というのは,やはりどうしても暗示・誘導が払拭できないのではないかという疑念があります。   先ほど齋藤委員からも御指摘がありましたように,子供の虐待,子供の心理について専門的知識を持っている人が,サポーティブに,かつ,受容的に聞くと,そのこと自体は本当に必要だと思いますが,立場の問題として,やはり当事者性が高い方ではなく,できるだけ離れた中立な第三者,医師であるとか臨床心理士の方であるとか,その属性についても,配慮をされるべきだと思います。それが1点目です。   2点目は,そうして得られた供述であっても,当然に信用性が認められるというものではないということです。この点は言わずもがなだと思います。平成27年の大阪市の強姦再審無罪事件でもありましたように,幾ら1回の聴取であったとしても,被害の実態をそこで詳細に聴き取ったとしても,それが本当に作られたものであったとしたら,詳細に迫真性を持ってうその供述が語られるということもあると思います。当然に信用性が認められるというものではないということは指摘をしておきたいと思います。   3点目,その観点から,司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画媒体に,当然に主尋問に代替するものとして証拠能力を認めるということには,賛成ができません。皆さんのおっしゃるように,本当に被害に遭った方が,裁判所という,もちろん裁判所外の尋問であったりとか,ビデオリンクであったりということもあると思いますけれども,そういう場で証言をするということが,ハードルが高いということは理解できます。ただ,問題は,本当に被害があったのかどうかということは,刑事裁判で有罪が確定するまでは分からないということです。当然,何もやっていない,事件そのものがない,あるいは,自分ではないという主張が被告人からなされることがあります。特に,この司法面接的手法による録音・録画媒体に証拠能力を認めるかどうかという場面においては,被告人が事実を争っているという場面が多いと思います。性犯罪については,被告人とされた人は争わずに罪を認めろということには当然なりません。争う場面において,やはり被告人自身が,そして,弁護人が,反対尋問として聞いて,証人が,記憶にない,泣き崩れる,そういった本当に証言ができないという場合に限って証拠能力を認めるという,321条1項2号の要件の有無という形で吟味されて初めて採用ができるという形は,やはり担保すべきだと考えます。 ○宮田委員 4点あります。1点目は今,金杉委員が述べられたこととほぼ重なるのですけれども,捜査官がこういう司法面接的な手法を身につける,あるいは,そういう手法を使うことはベターではありますが,ベストではない。これは,齋藤委員もおっしゃったように,やはり専門家が聞く形で運用されることがベストだと思います。というのは,やはり検察庁で行う,警察で行う,児童相談所で行う,その場所に行くということ自体が,悪いことをした人のことを悪いことをしたと言うところなのだと,その場所自体が暗示性を持つ可能性もあることも考えなければならないと思います。   二つ目です。記憶の汚染の問題です。資料53のスライド23枚目にあるように,代表者聴取に関しても,できるだけ家族の方などに記憶の汚染が生じないように注意をするという手法が取られているとのことですけれども,記憶の汚染の防止のために,保護者等の大人に,児童と事件に関する会話をしないように働きかけても,実際のところは,既にそのような会話をしてしまっている可能性の方が高いのではないか。被害を受けて直ちに警察に来るというような事案というのはほとんどない,ある意味において全ての事件で記憶の汚染の可能性があると考えて,証拠を残していかなければならないのだと思います。この供述をした人に接した人は誰なのか,その人とどんな話をしたのか,その供述に至るまでに,その被害者と接した人は誰なのか,どんなお話をしたのかというような資料も集めていかなければ,この記憶の汚染の問題について踏み込んでいくことはできないだろうと思います。   また,3点目として,被害者の方の証言能力ということを考えなければならないと思います。5歳,6歳の子供と,高校生ぐらいの16歳ぐらいの子であれば,証言の能力はかなり違うのだろうと思います。司法面接に適している,司法面接でなければならない範囲がどこまでなのか,憲法で保障された反対尋問権を,主尋問をやらないという意味も含めてですけれども,証人を審問する権利を剝奪するのですから,どこまでの人が保護されるべき人なのかという視点は,必要なのではないかと思います。   最後の点は,私はそれほど詳しいわけではないのですけれども,スウェーデンでは15歳未満の方,あるいは証言能力のない方について,録音・録画媒体を出してもいいという規定があるらしいのですが,その場合に必ず補強証拠を要する,客観的な証拠がなければならないという形で,その真実性を担保していると聞いています。   つまり,供述が司法面接によってきれいになるわけではないということ,そして,司法面接で得られた供述というのは常に正しいわけではないから,それを裏付けるための独立した証拠は必ず必要なのだという検討がなければならないと思います。これは,もしも導入をすればという話ではありますけれども,その導入の必要性についても,証言能力,あるいはその手法そのものについて考える必要があるということです。   ついでに申しますと,被疑者として取り調べられている人についても供述弱者はおりますので,我々は司法面接を入れてくれということをずっと主張してきたところでございます。被害者の問題だけではなく,そういうものも併せて検討していただけると有り難いところだと思っております。 ○渡邊委員 証拠採用された録音・録画媒体が少ないという御指摘がございました。これは,やはり小島委員の言われたとおり,証拠法上の構造というか,証拠能力に関する規律が原因かと思います。検察官としては,否認事件で争われて,その証拠を不同意にされたときに,まずしなければならないことは,被害者の証人尋問請求だということです。その証拠が検察官の面前調書であった場合には,いわゆる2号書面ということになるわけですけれども,2号書面に証拠能力が認められる要件としては相反供述か,あるいは供述不能のどちらかということになります。相反供述の要件を満たすためには,まずは証人尋問を実施しなければなりません。また,供述不能の方は,よりその運用が厳しいのが現状です。例えば,検察官が証人の状態から判断して供述不能と認められると考え,その証人の供述調書を2号書面として証拠請求しようとしたけれども,裁判所から,実際に証人として出てこられないという事実を厳しく求められた例もあると承知しています。 (具体的事例を紹介) ○川出委員 ここで検討すべき論点は,司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体について,特別に証拠能力を認めるべきかどうかですが,仮にそれを認めるとした場合の具体的な立法の方法としては,大きくは,現行の刑訴法321条1項3号のように,一定の厳格な要件を満たすときには,性犯罪の被害者等が公判期日において一切供述することなく,つまり反対尋問の機会なく,当該記録媒体に証拠能力を認める規定を創設するというやり方と,刑事訴訟法321条の2に規定されていますように,反対尋問の機会を保障した上で,当該記録媒体を主尋問に代えて証拠とすることを認める規定を創設するという二つの方法が考えられるだろうと思います。   いずれの場合も,当該記録媒体をそこに記録された被害状況等を立証するために用いる場合には伝聞証拠ということになりますので,現行法の伝聞例外規定の考え方に照らしたときに,そもそもそれが例外的に証拠能力を認められるものなのかどうか,あるいは,認められるとして,どのような要件が必要になるのかを検討する必要があります。   一般に,伝聞証拠に原則として証拠能力が認められない理由は,伝聞証拠が公判での証言であれば備わっている三つの要素,すなわち,①真実を述べる旨を宣誓し,偽証罪による処罰の警告を受けていること,②不利益を受ける当事者からの反対尋問に服すること,そして,③事実認定者である裁判体が供述態度等を直接観察することができることという,供述の信用性を担保するための要素の全部または一部を欠いていることにあるとされています。   他方で,全ての伝聞証拠が排除されるということになりますと,事案によっては事実の証明が極めて困難になりますので,刑訴法では,それを証拠とする必要性と,公判での反対尋問等を経なくてもその供述を信用できるような客観的情況の存在を条件として,例外的に証拠能力を認められるとされています。一般論として言いますと,この必要性と信用性の情況的保障の強弱の兼ね合いによって,様々な伝聞証拠の例外が認められていると整理することができます。そこで,本件で問題となっている司法面接的手法による聴取結果を記録した記録媒体についても,こういった現行法の規定を踏まえて,必要性と信用性の情況的保障の兼ね合いによって伝聞例外の要件を設定することができないかどうかということを検討していく必要があります。   まず,先に挙げた二つの方法のうちの最初の方法ですけれども,この場合は被告人側に反対尋問の機会がないままに記録媒体を証拠とすることになりますので,それを認めるだけの高度の必要性がある場合に限られるということになると思います。この点については,これまでに御指摘がありましたように,年少者については繰り返し被害の状況を供述することによって心的外傷の症状が加算的に悪化したり,あるいは,継続して聴取されることでPTSD等の症状が表れたりすることがあって,その症状は極めて重篤であるとされております。そうだとしますと,性犯罪の被害者等の中でも,特に年少の者については,公判期日において証言をすれば,将来において心身の故障に至るおそれが現実的なものとして想定されますので,それを避けるため,公判期日外でなされた司法面接の際の供述を利用する高度の必要性が認められるといえると思います。   他方で,もう一方の要素である信用性の情況的保障ということにつきましては,現在,刑事訴訟法321条1項3号で要求されているのと同等の特信情況が存在することが必要となると考えられます。この点については,先ほど御紹介がありましたように,司法面接においては,子供の供述の特性を踏まえて,事件から近い時期に誘導や暗示を排除した聴取手法が用いられるとされていますので,これに加えて,供述に至る経緯ですとか,先ほど御指摘があった聴取者の立場等を含めて,これらの要素を特信性の要件ないし考慮要素として明文化することが考えられるかと思います。   これに対し,二つ目の方法の場合には,被告人による反対尋問の機会は保障されますので,理論上は最初の方法の場合ほどの厳格な要件を設ける必要はないと思います。ただ,現行法の321条の2というのは,裁判官の面前における供述を録取した記録媒体を対象とするものであるのに対して,司法面接的手法による聴取結果を記録した記録媒体は,そうではありませんので,その点では信用性の情況的保障が類型的に高いとはいえません。そこで,先ほどと同様に,司法面接の手法に着目した特信性の要件を設けることによってそれを補う形にして,321条の2と同様の規定を設けることが考えられるのではないかと思います。 ○井田座長 ありがとうございました。川出委員には,規定を設けるとすると,二つの案が考えられるということまでお話しくださいました。   議論は尽きないところでございますけれども,第2の「4」につきましては一通り御意見を伺えたようでありますので,本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。この論点につきましては,本日述べられた御意見を踏まえて,二巡目の検討で更に議論を深めてまいりたいと思います。   さて,本日までで,各論点についての一巡目の検討は一通り行うことができたと思われますので,次回からは二巡目の検討に入ることとします。   次回,第8回会合では,第1の「2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」と,第1の「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」の一つ目と二つ目の「○」についての検討を行いたいと考えておりますけれども,そのような進め方とさせていただくということでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   二巡目の検討では,一巡目の検討において委員の皆様からお示しいただいた現状認識やそれに基づく様々な御意見を踏まえまして,各論点に関する法的な検討課題や論点相互の関連性も意識しながら,更に議論を深めていきたいと考えております。   そこで,私からの提案なのですが,次回会合では,もちろん私が責任を持ちますけれども,事務当局に協力してもらいまして,一巡目の検討における委員の皆様の御意見を整理したものを作成し,これを踏まえて議論を行うことにしてはいかがと考えております。このようにすれば,各論点に関する法的な検討課題や論点相互の関連性についての認識共有が図られるとともに,一巡目の検討においてどういう意見があったのかというのを相互に参照しやすくもなりますから,重複も避けつつ,更に突っ込んだ議論を行うことが可能となって,議論もより充実した,また濃厚なものになるのではないかというふうに考えますけれども,いかがでございましょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのような資料を作成することとし,作成したものにつきましては,次回の会合に先立って委員の皆様にお諮りし,前もって御検討いただくことができるようにしたいと思います。   それでは,本日予定していた議事は全て終了いたしました。   本日の配布資料のうち,資料54及び55は,具体的事例の内容に関するものですので,関係者のプライバシー保護の観点から非公表とし,また,その内容に関する御発言についても非公表とさせていただきたいと思います。その他委員の御発言の中には,お仕事の中で取り扱われた事例に関する御発言もございましたので,これは御発言なさった委員の御意向を改めて確認の上,非公表とすべき部分がある場合には,該当部分を非公表としたいと思います。それら具体的な範囲や議事録上の記載方法については,委員の方との調整もありますので,私に御一任いただきたいと思います。そのような取扱いということでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように取り扱わせていただきます。   それでは,次回の予定について事務当局から説明をしてもらいます。 ○岡田参事官 第8回会合は,11月10日火曜日午前10時から開催を予定しております。   次回会合の方式については,追って事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日は,どうもありがとうございました。