法制審議会 民法・不動産登記法部会 第21回会議議事録 第1 日 時  令和2年11月10日(火)自 午後1時00分                      至 午後4時28分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法・不動産登記法の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法・不動産登記法部会の第21回会議を始めます。   本日は,御多用の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日の審議のタイムスケジュールにつきましては,部会資料51の審議が終わり次第,終了ということにいたします。   なお,本日は,阿部委員,潮見委員,増田委員,門田委員,衣斐幹事が御欠席です。   配布資料の確認をいたします。事務当局からお願いします。 ○宮﨑関係官 今回,部会資料51を事前送付しております。   部会資料51につきまして,お手元にないようでしたら事務局にお知らせいただければと存じます。 ○山野目部会長 お手元に部会資料51を御用意いただいておりますでしょうか。   それでは,本日の審議に入ります。   本日から要綱案のたたき台についての審議をお願いいたします。   初めに,部会資料51の中の「第1 相隣関係」の部分について御審議をお願いいたします。相隣関係の部分につきまして,本日は「隣地使用権」,「竹木の枝の切除等」,それから「継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権」,これらの事項についてお諮りをすることになります。相隣関係に関する事項として審議すべき事柄としては,このほかに管理措置請求権の問題がございますけれども,これについては次回以降,審議をお願いするということにいたします。   それでは,御案内申し上げた相隣関係の部分につきまして,委員,幹事の御意見を承ります。どうぞ御自由に御発言ください。 ○橋本幹事 ありがとうございます。第1の関係について,日弁連の方で検討した状況も踏まえて御報告します。   まず,1の「隣地使用権」ですが,今回,今までと違って隣地を使用することができるというふうな構成に変わったと思いますけれども,従前は承諾を求めることができるというような,現行の民法209条の請求できるという請求権的な構成で議論が進んできたと理解していたんですが,今回は,仮に形成権的構成と呼びますけれども,ちょっと構成が大きく変わっているということで,日弁連で議論した中では,一部,この形成権的構成でいいんだという意見もありましたが,おおむね反対の意見が強かったです。やはり請求権的な構成で従前の議論を踏まえて進めるべきであろうと。そうじゃないと,こういう法文ができると,それを一般の人が見て,隣地使用していいんだというふうに理解して,どんどん勝手に入っていってやってしまうと,自力救済を誘発することになってしまうのではなかろうかということで,やはり請求権,請求をすることができるというところからスタートするのが穏当ではないかというような意見が大勢でした。   それから通知の相手方ですけれども,形成権的な立場に立つ意見でも,前回部会資料46のときにも議論になりましたけれども,通知の相手方を所有者及び占有者,両方という方向にすると,現状よりもちょっと使い勝手が悪くなるのではないかという意見もありました。   それから,2項の竹木切除については大きな反対はありませんで,基本的に賛成です。前回までの資料であった落下した果実の処分については,これは落とすと,落とされたものと理解しますけれども,それも含めて賛成ということです。   3番目の継続的給付を受けるための設備設置権等ですけれども,この点についても1の「隣地使用権」と同じように,請求権的構成にすべきだという意見もありましたが,ここは賛否が分かれまして,今回の提案で賛成であるというトーンがどっちかというと有力だったように思います。既に下水道法の規律がありますし,判例もありますので,導管設置に関しては形成権的構成でよいのではないかと。ただし,その場合も,3の①「電気,ガス又は水道水の供給その他これらに類する」と,「これらに類する」というのがちょっと広すぎないですかという指摘がありました。もうちょっと限定して,例えば「その他生活又は事業の維持形成にとって不可欠な」というような感じで絞る必要があるのではないかという意見がありました。 ○山野目部会長 橋本幹事におかれましては,弁護士会の先生方の御意見をお取りまとめいただき,ありがとうございます。   ただいまのお話を伺っておりますと,取り分け隣地使用権や設備設置権などにつきましては,二つに分けて申し上げれば,前回までの部会資料に基づく議論と実質を変更するものではないかという御理解に立ち,これが一つですが,それを前提に,弁護士会の先生方の御意見を取りまとめたところ,少なからぬ反対があったという点がもう一つでございますけれども,そのような御議論の状況の御紹介がありました。   これについては,この後のこれらの論点に関する審議を進める上でも,事務当局から説明が一旦あった方がよいと感じますところから,ただいま今川委員もお手をお挙げになっておられ,今川委員の御発言を受けた後で事務当局から,それまでに出された観点についての所見を披瀝してもらうことにいたします。 ○今川委員 私は「第1 相隣関係」の「隣地使用権」について,一つ確認と,一つ意見を言わせていただきます。   まず,所有者と隣地使用者の双方に対して通知をしなければならないというふうにここは明記されたのですが,部会資料46で説明されていたとおり,所有者が所在不明の場合は公示送達を利用するということでよろしいですねという確認が1点です。   それと,③の「ただし,あらかじめ」うんぬんというところですが,この部分は事情によっては事後の通知でもよいという規定なんですけれども,部会資料46では,著しい損害又は急迫の危険を避けるためという表現が使われていましたが,今回,「あらかじめ通知することが困難なとき」というふうに変わっています。今回の部会資料の補足説明では,「あらかじめ通知することが困難なとき」というのは急迫の事情がある場合を念頭に置いているとされているんですけれども,この規律の文言のみを読むと,急迫の事情がない場合であって,所有者の所在が不明の場合は,あらかじめ通知することが困難なときに該当して,そういう場合は事後的に公示送達の手続をしてもよいというふうにも読めます。「あらかじめ」という文言には急迫の事情という意味が含まれているのかもしれませんが,そこは少し分かりやすいように,「急迫の事情」という文言は残していただいた方がよいという意見が我々の中ではありました。 ○山野目部会長 ここまでで橋本幹事及び今川委員から指摘してもらった点に関して,事務当局から,現在の段階で理解しているところの案内を差し上げます。 ○大谷幹事 まず,橋本幹事からの御指摘がございました。今回構成を変えているところの検討の経緯を申し上げますと,前回まで承諾を求めることができるという構成で御議論いただいておりまして,前回の段階で,承諾を求めるという形で本当にいいのか,直接の契機としては,このただし書のところでしょうか,承諾がなければ住家に立ち入ることはできないというところで,承諾を求めることができるとかできないってどういう意味なんだろうかということが問題になって,改めて検討したというところでございます。承諾を求めることができる,できないというのが,それは権利があるということなんですか,どうなんですかということが問題になるのだろうと。  今回やろうとしていたことは,一定の場合には承諾がなくても隣地使用ができるというルールを作るという検討をしていたわけですけれども,承諾がない場合でも隣地に入れる,催告をしても答えがないときでも入れるというのは,それは結局そういう権利があるから入れるということなんだろう。承諾をするかどうかを明確にしていないのを承諾したものとみなすことは恐らく不可能で,通知をして承諾を求めても,何も言わなければ,それは承諾しなかったというだけの話で,やはり承諾請求という形で法文を作ることは法制的に困難であろうというふうに理解をし,改めて考えたというところでございます。   今回のように「使用することができる」というふうに改めるとして,問題となるのが,明示の拒絶があったらどうなんですかということです。使用権構成という形にすれば拒絶があっても入れるということが考えられるわけですけれども,恐らく弁護士会の中での御議論でも,明示に拒絶をされているというときに入っていってもいいんですかということが問題とされたのではないかと思います。もっとも,よく考えますと,反対をしていない,何も異議を述べなかった。だけれども,現に人が住んで使用している土地に承諾なく入っていくということが本当にできるのか。それは,答えをしてくれないからといって,無理やり押し通るということは,やはり承諾請求という形をとっていても元々難しいのではないだろうか。   そう考えてみますと,承諾を求めるかどうかという問題ではなくて,現に使用している人がいるときにどういうような規律にすべきかということが問題なのかなと思いますけれども,現に使用している人がいますというときには,やはり承諾を求めて,承諾をとって入るか,訴訟をして法的措置をとった上で入っていくということにならざるを得ないのだろうと思われるところです。  このあたりのところをどのように法文で表現するかというところが問題になりますけれども,まずは承諾を求めるという形ではなくて,隣地を使用することができるという権利を明らかにした上で,隣地を現に使用している人の権利をきちんと保護できるような手続を組む必要があるだろうということで通知をするという形に改めました。ただ,このあたりのところは,今までの御議論を頂いていたところと私どもとしては実質として変えるつもりではなくて,やはり事前に権利保護の手続をとった上で隣地に入っていくということには変わりがないのだろうと思っておりますけれども,なかなかその構成として承諾請求は難しいので,こういう形になったというところです。   それから,通知の相手方の問題ですけれども,使用者と所有者,両方に通知をする必要があると,これは前回までの議論を踏まえて,相隣関係の問題なので所有者にも権利保護の機会を与えるべきだろうということで,こういう形にしております。ただ,使用権構成というふうに構成を改めたときに,隣地所有者が,隣地に土地の所有者が入っていけるという,この権利自体は相隣関係上の権利に当然なると思いますので,あとは権利保護の手続の実質をどういうふうにするか,相手方は所有者でなければならないのかどうか,使用者だけでもいいのかというところはまた別の問題として,更に検討をしたいと思っておるところでございます。   また,この通知の内容についても,何回か前の部会資料では,具体的に日時とか態様とかというのをきちんと通知に表した上で承諾を求めるという形にしておりました。それは変えておるつもりではございませんで,ただ,このような書き方で通知の内容まで読めるのかどうかというのはもう少し考える必要があるだろう,事前の権利保護の機会を与えるに際してどのような形にするかということは,更に検討する必要があるだろうなと思っているところです。   今川委員から御指摘,御質問のありました,公示送達をすることになるのかということですけれども,通知ですので,公示送達が可能だろうと思っております。緊急の事態などがあって,あらかじめ通知することが困難なときには後に通知をするということになりますけれども,その際に所在が不明だということがあれば,公示送達ということもあり得るというふうに考えておりました。 ○橋本幹事 今の御説明,それはそれで理解するのですが,ただ,使用できるというふうに条文で言い切ってしまうと,拒絶があったとしてもできるのだということで,隣地の人がもう強引に押し入っていくという事態も少なからず発生する危険性はあると思うんです。その場合に要らぬ混乱が拡大しやしないかということを心配するわけです。我々のところに法律相談に来てくれれば,いや,それは駄目だよと,きちんと承諾を求めて,駄目であれば法的手続をとりなさいとアドバイスしますけれども,みんながみんな,そういった法律専門家の助言を受けながら行動するわけではないと思いますので,ちょっと危惧感を感じているところです。 ○今川委員 所有者の所在が不明な場合は,それだけであらかじめ通知することが困難なときに該当して,事後的な公示送達を通じた通知でよいというふうに読み取れるのですが,そうではないんですよねという確認と,そうでないならば「急迫の事情」というような文言を残しておいた方が分かりやすいのではないかという意見であります。 ○山野目部会長 お二人の御意見を理解いたしました。   引き続き議論をお願いしたいと考えます。 ○佐久間幹事 今の関連で一つあるんですが,まずそれだけに限った方がよろしいですか。 ○山野目部会長 差し当たりそこに限ってお願いいたします。 ○佐久間幹事 弁護士会から出された意見について少し違和感があります。それは,現在の209条は請求することができると確かに書いておりますけれども,これは請求をして,相手方が拒めるという状況は前提としていないと思うんですね。全く一緒だというとちょっと語弊はあるかもしれませんが,例えば借地借家法の建物とか造作とかの買取請求が,請求することができると書いてあるけれども,あれは請求したら,それで形成されるというのと,これは同じはずだと思うんです。それで,一般国民から見た請求することができると書いてある場合と,使用することができると書いてある場合との受け取り方は,印象というのでしょうか,それは違うかもしれないと思うのですけれども,現在も,要するに請求するというか,一種の通知をすれば,必要な範囲内では使えるというのが土地所有者の権利のだと理解することもできると思います。そうすると,今回の御提案では,③の「ただし」以下が入るというところが,恐らく現在の209条とは違うのではないかと思います。もし,このただし書について文言も含めて合意を得られるのであれば,そのただし書を付加することが従来と異なるだけであって,今まで以上に土地所有者の権利を広げるということには実質的にはならないのではないかと私は思っております。 ○山野目部会長 佐久間幹事のその余の点についての御意見は,また伺いたいと考えます。   藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   まず,第1の1の「隣地使用権」に関しまして,法的構成についてはそれほど今までこだわっていたところではないのですが,今回の提案を拝見いたしますと,条文の作りとしてはこれまでよりも分かりやすくなったのではないかということで,産業界の立場からも支持できるのではないかと思っています。   元々これは隣地使用権の対象を拡大するということで始まった話でして,例示列挙にして対象を広げるかどうかという話も部会が始まった頃にはあった中で,結果的にはここに列挙されている1のアからウまでに限定するという形になっているわけでございまして,類型的にそれほど土地所有者の権利への制約が少ないものを対象として選んでいるということもございますので,条文の形としてはそれほど硬い書き方にしなくてもよいのではないかなというところは一つございます。   あと,この通知の点に関してですが,前回の部会までは占有者に対してのみ行うという選択肢もあった中で,今回,所有者も含めて行うということになっておりまして,これに対しては逆に,ここでまた所有者の概念が出てきてしまうということに対してちょっと不安を抱く声が出てきております。実際,先ほども所有者が所在不明のときにどうするのかというお話が出ておりましたけれども,そこでまた何か重たい手続をしなければいけないということになると,類型的にそれほど土地所有者に与える害が少ないがゆえに認められているにもかかわらず,手続のところで重くなるというのはちょっとどうなのかなということで,例えば所有者が特定できなければ登記名義人に通知する,ということでも良いのではないかという意見が出ていたりもします。   この点につき,従来の209条の解釈では,例えば住家に立ち入ることができないというところに関しても,立入りが平穏を害しなければそもそも住家に当たらないというような解釈が示されていたりするということもございます。そういう観点で言いますと,例えば土地の所有者が所在不明の場合に,そこに仮に立ち入るということがあったとして,少なくとも平穏という点に関して言えば占有者の了解,現に使用している者の了解を得られているのであれば,それでいいのではないかという考え方もここではとれるのかなと思っておりまして,逆にいわゆる所有者への通知というところを徹底的に突き詰めて法的効果を発生させるところまでやるというふうに解釈するよりは,むしろ連絡が取れなければそれで割り切るという考え方もあり得るのではないかというふうに考えております。これは前回まで余り明確に意見を申し上げていなかったところでございますので,この場で申し上げたいと思います。   あと,第1の3の設備設置権,使用権のところに関しまして,こちらは基本的な規律に関しては全く異論はございませんが,気になるのは償金のところ,⑤以降のところでございまして,この点については,これも部会の前半でそもそも償金の性質が何なのかという議論があったかと思います。そして,土地の損害が発生したときにそれに対する償金を支払う,といった時に,その支払いが常に発生するものなのかどうかというところはケース・バイ・ケースだろうということでこれまで来ていたと思うのですが,今回,囲繞地通行権の212条と同じような表現がここで使われており,囲繞地通行権では,通路を開設したときの償金が基本的に発生するものと理解しておりましたので,今回こういう形でパラレルに書かれると,何かこれは導管の設置,設備の設置をすると,常に償金を払わないといけないということになってしまうのではないか,という懸念も生じるところです。法制上,そろえた方がいいということであればやむを得ないところはあるのかもしれませんが,ちょっとそこは誤解がないようにというか,土地の状況によっては仮にそこに導管等の設備を設置して使用したとしても,それによって当然に,いわゆる使用料的なものが発生するわけではないということは,これもいろいろ御意見が分かれるところかもしれませんが,何らかの形で示しておいていただく方がよいのかなというふうに考えているところです。でないと,実務的なところ,今の実務慣行との整合性とか,そういったところで弊害が出てくることも懸念されるのではないかと思っております。 ○山野目部会長 藤野委員の御意見を承りました。垣内幹事,どうぞ。 ○垣内幹事 垣内です。どうもありがとうございます。   第1の1の③に記載されている通知の位置付けについて確認のための質問をさせていただければと存じます。   原則として,あらかじめ通知が必要だけれども,場合によってはあらかじめの通知は不要で事後でよいという規律なんですけれども,この通知を怠った場合に何か法的な効果というものは想定されているのでしょうか。損害の賠償と申しますか,補償ということについては,通知の有無に関わらず④の規律で償金を請求することができるということかと思いますので,その点について特に変わりはないようにも思われますけれども,そうだとしますと,通知を怠って勝手に使用したという場合についても特段の効果ということがあるのではなく,これは飽くまで行為規範と申しますか,そういう意味では訓示規定的な規律ということなのか,それとも何か具体的な法的な効果が想定されているのかについてお教えいただければと思いまして質問させていただきました。よろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ここまで御発言いただいた委員,幹事の御指摘を踏まえて中締めの整理を差し上げますと,①のところについて,使用することができるという,使用権構成とでも呼ぶべきものを提示しておりますところ,それについての意味の理解に関する問題提起ないしお尋ね,あるいは意見を頂いております。それから③のところについて,今川委員からは「通知することが困難なときは」という,この要件文言の内包について問題提起を頂いているほか,ただいま垣内幹事から③の規律の効果をどのように理解しておくことがよいかという観点からの問題提起を頂いたところであります。   これらの点について,この段階で事務当局の所見を聴きます。 ○大谷幹事 今川委員から御指摘のございました「あらかじめ通知することが困難なとき」というのは,こ,御指摘のとおり緊急性があるような場合で,通知はしなくて後にすることをもって足りるだろうということで,特に先ほど公示による意思表示をするときにどちらになるのかというようなことがございましたけれども,ここで考えておりましたのは,緊急性があるときには後の通知にするし,そうでなければ事前の通知をするということになるはずだというふうに理解をしておりました。   それから,垣内幹事の方からの御指摘で,③の通知をしなかったときどうなるのかということですけれども,これは損害賠償という,その行為が成立するときがあり得るとして,その損害賠償の問題がそれはそれであるということですけれども,結局事前の通知を怠ったとしても,それによって何かの効果が発生するということはないのではないかというふうには理解をしておりました。 ○山野目部会長 お尋ねになった垣内幹事,お続けください。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。   特段の効果はないということで理解をいたしましたが,今お答えの冒頭で不法行為のお話をされたようにも思いますけれども,別途不法行為で損害賠償請求をするということが懈怠の場合にあり得て,その場合の損害というのは④の損害とは異なるものを請求できるということでしょうか。 ○脇村関係官 すみません,ちょっと補足させていただきますと,通知を怠った場合については不適法になるということは前提にしておりますので,不法行為が成立することは当然あり得るということだろうと思います。不適法な場合と適法な場合では,損害の内容も異なってくる可能性は当然あり得ますし,適法ではないことを前提にしたもろもろの法律上の効果は当然発生しますので,そういう意味では通知があるかないかによって適法,不法が変わっていくというふうには理解しておりました。 ○山野目部会長 脇村関係官に更問いを差し上げますけれども,④で損害を受けたときの償金請求ができるならば,③のところで通知をしてもしなくても話の展開は同じではないですかというふうに,ざっくばらんに言うと垣内幹事の御発言の背景にそういうふうな御疑問が横たわっているように感じますけれども,何かそれについてお話がありますか。 ○脇村関係官 恐らく④で想定している損害は,そういう不法行為とかに基づく拡大損害ですとか,そういったものまで想定は余りしていないのかなと。もちろんそれは解釈論として,④の損害がそういう幅広くもいけるのだという理解はあり得るのかもしれませんけれども,ここで言うのは適法にされた場合に,それによって生じた限度の損害というふうに考えますと,不法行為のケースについてはまた別途議論の余地があるのではないかなということで,全く一致するということまでは言えないのかなというふうには理解したというところでございます。 ○山野目部会長 適法行為によって生じる損害といいますか,損失を償うことを規律内容とする④と,違法性が阻却されない事態に至る③の規律に背いて行われた行為によって生じた損害の範囲は必ずしも一致しない可能性があり,その点で,③の規律に行為規範を超える意義が生ずる場面があるかもしれないということを事務当局から説明を差し上げたようであります。   垣内幹事,お続けになることがおありでしょうか。 ○垣内幹事 どうもありがとうございました。了解いたしました。 ○山野目部会長 どうもありがとうございます。   中田委員,お願いします。 ○中田委員 ありがとうございます。   ただいまの大谷幹事のお話と脇村関係官のお話と,ちょっと私には違って聞こえたような気がしました。つまり通知が権利発生要件なのか,それとも権利は当然に発生していて,単なる手続要件にすぎないのかというのが少しニュアンスが違うのかなというふうな印象を受けました。それから,先ほど佐久間幹事がおっしゃった,請求と書いてあったって形成権のことがあるのだということは,それはおっしゃるとおりだと思いますが,弁護士会が御心配になっていることは,これは佐久間幹事もおっしゃったことですけれども,この規定を置くことによって紛争が生じやすくなるのではないかということだと思います。そこは表現などを十分配慮する必要があると思います。   それに関連いたしまして,これも大谷幹事がちょっとおっしゃったことですが,通知の内容についてです。前回の資料46の(注1)では,使用目的,場所,方法及び時期の特定した催告をするということになっておりましたが,今回はその旨を通知するということで,その旨に委ねているんだと思います。これは法制的にはそれでいいのかもしれないのですが,先ほど申しましたように,この規律が紛争を招くおそれがあることを考えますと,できればその通知の内容を何らかの形で具体化する方がよろしいのではないかなと思います。   第1の3についても意見がありますが,これは後ほど申し上げたいと思います。 ○山野目部会長 中田委員,ありがとうございました。   中田委員がおっしゃった通知が権利の発生要件であるか,手続的な手順を明らかにしたものであるかということについて,あとで事務当局の考えを伺います。   松尾幹事,御発言ください。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   部会資料51の第1の1「隣地使用権」のご提案については,適切にまとめていただいていると思い,私は賛成です。   その上での確認ですけれども,今問題になっている所有者不明の場合が,この第1,1の③の本文に位置付けられるのか,ただし書に位置付けられるのかという点です。ちなみに,第の2「竹木の枝の切除等」については,③イに所有者の特定不能および所在不明の場合には切除権を認める旨の明示的規定があります。隣地使用権の場合には,所有者の特定不能の場合も所在不明の場合も,民法98条の公示による意思表示を予めするということを原則にしつつ,その手続を予めとることが困難なときは事後の通知でよいという趣旨であると理解してよいでしょうか。   私は前回,隣地使用権の通知の相手方についても,やはり所有者は入れた方がよいという意見を申し上げましたけれども,所有者不明の場合には,この公示による意思表示で対応するということであれば,手続的にもさほど重くならないのではないかというふうに理解しました。その上で,所有者不明の場合で,かつ緊急性が高い場合等,予め通知することが困難な事情があれば,それは事後でも構わないということで振り分けることによって,現実的にもこの隣地使用権の制度が使いやすくなっているのではないかというふうに理解しました。もっとも,この理解が違っているかもしれませんので,その場合にはご教示いただければと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   第1の「1 隣地使用権」の中身が①から④まで小分けにして規律の提案を差し上げている中で,取り分け①と③のところについて,今,多様な御指摘を頂いたところであります。   ひとまず③の方でありますけれども,三つほどのことが話題になっているように感じます。   一つは,ここに登場してくる通知が,隣地使用権が既に存在していることを前提として,その行使の手順を定めているものであるか,それとも,この通知をすることによって初めて隣地使用権が発生するかという御議論がありました。恐らく,ただいまこれから事務当局の所見を尋ねてみますけれども,①の規律で隣地を使用することができるという使用権構成で出発するということを明らかにして,その後のお話が進んでいくということを考えますと,③のところに出てくる通知で初めて隣地使用権が発生するという理解ないし法的構成を与えることは困難ではないかというふうに感じられます。   それから,そのことと関連しますけれども,通知がそのような意味で効力発生要件でないとすれば,本文,ただし書を通じて③の規律の効果がどのような意味を持つかという垣内幹事から御指摘があった観点が,よりクローズアップされてまいります。③の通知というものは,既に発生している隣地使用権とはいえ,その隣地使用権を適法に行使するための手順を定めたものでありますから,この手順を踏まないで隣地使用権を行使することは,特段の事情がない限り隣地使用権行使を違法ならしめる。裏返して言うと,違法性を阻却するという論理が否定されるということになってくるものでありましょう。そうしますと,脇村関係官からお話がありましたとおり,民事上は不法行為法に基づき④とは異なる種類の損害賠償責任を基礎付けるということになりますし,民事法以外の観点も見わたして考えますと,恐らく住家に入らないとしても,人の看守する邸宅であるというふうに認められるときに,そこに正当な理由がなく入ったという評価に発展していくという,その評価を見極める際の一つの契機にもなるかもしれません。   それから,3点目といたしまして,今川委員から御提議を頂いた「あらかじめ通知することが困難なときは」という要件を洗練ないし明確化する必要があるのではないかという御指摘は誠にごもっともな側面がありますとともに,ここに急迫なといったような例示ないし要件としての文言を追加しますと,逆に急迫という言葉の意味を探究しなければならなくなり,またいずれにしても急迫の場合に限定されるというような解釈を求められるというおそれがあるかもしれません。通知することが困難なときというこの概念の評価は,いずれにしても規範的な側面を持っていますから,事前の通知をすることが難しい程度に困難であるときというふうに,その要求される通知の在り様との相関関係で決まっていくという側面があるであろうと思います。そうしますと,所有者が分かっているけれども,所在が分からないというときに,今川委員が御心配なさったように公示送達で問題を処理すべき場合があるかもしれませんけれども,急迫の度合いが極めて高いときにはそれすらもいとまがないということがありますから,その与えられた個別の状況を見ながら相関的に判断していくということがいずれにしても避けられないものでありまして,そういったことを考えますと,御指摘の中身が誠にごもっともであるとして受け止めるとともに,この文言は,このようなものにしておいても,ただいまのような理解をしてまいりましょうという仕方での運用を期待してよいし,期待していかなければならないものであるかもしれません。③のところに限っても,今,話題にいたしましたような三つの観点が,既に委員,幹事から御議論として出されておりました。   このあたりを中心にして,この段階で事務当局から所見があればお願いいたします。 ○大谷幹事 部会長に大変きれいに整理をしていただきまして,ありがとうございました。   私が申し上げたことはやや不適当なところがございまして,中田先生からも御指摘ございましたけれども,やはり隣地使用権の発生自体は①で発生をするということになるわけですけれども,その行使の要件として③のような手続が必要なんだろうと,このような手続を踏んで初めて行使が適法になるということになるだろうと思います。   その通知が難しい場合には,ここでいうあらかじめ通知することが困難なときという要件を満たしていれば,またそれも権利の行使を適法にするということになるのだろうというふうに理解をいたしております。   通知することが困難なときの解釈については,今,部会長にまとめていただきましたようなことで我々も考えておったところでございます。 ○山野目部会長 引き続き④についても御議論がおありだと思いますが,③の範囲を中心に,今,事務当局が述べたことなどにつきまして委員,幹事からの御意見を承ってまいりたいと考えますが,いかがでしょうか。   國吉委員,どうぞ。 ○國吉委員 ありがとうございます。   第1の「1 隣地使用権」については,基本的に隣地を使用する権利があるというスタートになっております。これは当初の隣地使用承諾の議論の中でも行ってきたもので,当初の方に戻ってきたのかなという印象です。これについて,私ども土地家屋調査士会は賛成でございます。今,議論のありました3番の通知についてなんですけれども,私どもから,いわゆる隣地を使用する目的を達成するためには,所有者プラス実際に使用している者,占有者というのでしょうか,そういった方にやはり包括的に,基本的には承諾を得るというのがスタンスなのだろうと思います。そのときに,この通知の内容について,もうちょっと細かな点といってはおかしいのですけれども,②の隣地のために損害が最も少ない方法というか,そういったものについてもやはり通知の中に入れ込むというような形をとっていただいた方が,いろいろ議論があります紛争をむしろ発生させる要因になるのではないかということがあると思いますので,この通知の分についてはやはりきっちりとした何か規定みたいな形で作っていただけたらと思っております。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。①,③に限りませんけれども,①,③でたくさん御議論が出ているところなどを踏まえて,いかがでしょうか。   水津幹事,お願いいたします。 ○水津幹事 隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権について,今回の提案では,使用権構成がとられています。この提案によると,隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権の法的構成は,210条の通行権や220条の通水権の法的構成と,同じものとなります。   他方,隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権については,事前の通知が求められています。そうすると,今度は,210条の通行権や220条の通水権について,事前の通知が求められていないことが気になります。隣地使用権や継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権と,210条の通行権や220条の通水権とを比較して,土地にとっての必要性や他の土地が受ける負担の相違等から,後者については,前者とは異なり,事前の通知が求められていないことを正当化することができるかどうかについて,検討をする必要がある気がしました。 ○山野目部会長 水津幹事,どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   委員,幹事から引き続き御議論を承ってまいりたいと考えますけれども,弁護士会の先生方の御意見をお取りまとめいただき,橋本幹事からは第1の1で言いますと,取り分け①のところを中心にして,この「使用することができる」という仕方で構成を提示していることについてのお話を頂いたものであります。橋本幹事からお出しいただいたお話を,お話を聞いて改めて整理をすれば,いずれも同じ方向を向いていることではありますけれども,実際的観点と理論的観点とに分けて整理して受け止めることができるのではないかと感じます。実際的な観点として,「使用することができる」という民法の文言をこのまま掲げたときには,現実生活において紛争が起こるものではないかというふうな御心配があって,それはごもっともなことだろうというふうに感じます。   もう一つは,従前の部会資料で承諾という言葉が出てきていて,あのような概念を中心に議論が積み重ねられてきたこととの関係がどのようになるのですかという御疑問を頂いたものでありまして,こちらはどちらかというと理論的な観点のお話になるのではないかと受け止めました。前者の実際上の観点につきましては,もちろん現実生活において隣人間における摩擦が生ずるようなことは好ましくないものでありまして,そのような配慮は当然あってしかるべきであるということは,中田委員からも御注意を頂いたところであります。そのことは,この209条が新しくできる姿についての理解を一般に説明していくに際しては,もちろん忘れてはならない観点であるというふうに感じられますとともに,今ここで規律の内容としてそこを改めて考え,例えば承諾を求めることができるといったような規律にするときには,水津幹事が別の方向からおっしゃったことですけれども,隣地通行権であるとか,隣地への通水権などについても類似の問題があるわけでありまして,従来の法制を踏まえた上で,今後の209条についての適切な在り方を考えようとすると,ここで御提示申し上げていることが使用することができるという構成になっているということは,それとして宜なるかなという側面もあるだろうというふうに感じます。   それから,理論的,体系的な観点の方に目を移しますと,承諾という概念を使って従前の会議での議論をお願いしてきたところでありますけれども,しかし,その承諾を求めることができるということが一体何を意味するのかということが必ずしも明晰ではない,あるいは疑問の余地が大きい概念,法的構成であるということは既に前回,この論点を御議論いただいた部会の審議において委員,幹事から,その観点についての多様なお話を頂いたところでありまして,それを踏まえて本日の部会資料をお出ししてるという経過がございます。翻って考えてみますと,承諾を求めることができるというふうに法文に記したときのその私法的な理論的,体系的な意味は何でしょうか。弁護士会の先生方に対して釈迦に説法でありますけれども,民法に承諾を求めるというふうに書くと,それは何か現実の日常生活でちょっと入ってもいいですよね,ええ,結構ですよと言っている,そういう事実としてのやり取りとは別の意味を帯びてくるものでありまして,承諾というふうに記せば,普通は承諾の意思表示を求めることができるというお話になってまいります。   ここでは,しかし,隣人間で何か契約の成立を擬制するというようなことを考えているものではありません。承諾を求めるというふうに法文が謳えば,承諾の給付を求める訴えを提起しなければいけないというふうに話が進んでいくのが,むしろ法律家の普通の理解,受け止めの仕方になってくるものでありまして,そのような側面もにらみながら,反対に承諾を求めることができるという文言にしたときの疑問といいますか,不安定さといいますか,そちらの方もゆるがせにできないものがあるだろうというふうにも感じます。   引き続き橋本幹事や,そのほかの委員,幹事,また事務当局からもお話を頂いて,①,それに関連して③などについての御議論を深めていただきたいと望みます。   次に御発言なさる方はどなたでいらっしゃいますでしょうか。 ○小田関係官 関係官の小田でございます。   先ほど水津幹事から御意見を頂いたところに関して若干の補足をさせていただければと思います。   囲繞地通行権であったり通水のところに関しては,囲繞地と袋地,あるいは高地,低地というところで,土地の関係が外部からある程度はっきりしているというところでございます。この場合には袋地の方が通行を受忍することになりますし,低地の方が排水を受忍するということになろうかと思いますが,隣地使用だったり設備設置の方に関しては,新たに例えば住居だったり建築物を建てるとか,そういった事後的な事情で権利が発生するというところで,周りの土地の方が権利の発生を知らないまま進むということもございまして,この提案に関しては事前の手続が必要ではないかというところで,事前の通知の規律を設けております。 ○山野目部会長 ただいま小田関係官が差し上げた説明について,水津幹事におかれて何かおありでしたらお話をください。 ○水津幹事 そのような説明によって,規律の違いを正当化することができるかどうかについては,なお検討の必要があるかもしれません。いずれにせよ,体系的な整合性が保たれるように,規律の違いを正当化するか,それが難しいのであれば,規律を揃える方向で検討をしていただければと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き第1の1を中心にお話を伺ってまいりますが,この段階で多様な御議論も頂いているところでございますから,必ずしも1に限定しないで,2や3についてもお話を頂いてもよろしいのではないかと考えます。   先ほど佐久間幹事がもう少しお話があるというお話をされていましたから,まず佐久間幹事からお願いいたします。 ○佐久間幹事 ありがとうございます。3点あります。  一つ目は,1の①についてなんですが,今まで出たのとは別の点です。   ただし書に「居住者」とあるんですね。これは非常に素朴なことで,聞くのは恥ずかしいんですけれども,居住者がないときはどうすればいいのかなというのがよく分かりませんでした。つまり空き家になっていると。でも,かつてはというか,少し前までは人が住んでいましたと。このときには,私は所有者が分かっているんだったら所有者に承諾を求めることが適当ではないかと思うんですね。「居住者」というのは,現行法の「隣人」という文言が今一つ分からないからということで,何とかしましょうということから出てきたと記憶しています。確かに「隣人」も多分中心になっているのは現に居住している者であったと思うので,居住者と変えることが,法文上問題ないのであればいいのかなと思うんですけれども,先ほど申し上げたような場合については考えておく方がいいのではないかと。例えば居住者がないときは所有者に,というような形で考える方がいいのではないかなと思います。これが1点目です。   2点目は,これは説明の問題なので今日どうでもいいのかなと思いますけれども,一応,そのうち外に説明として出るのであれば,2ページの「また」から始まる段落の3行目か4行目,これは「隣地使用者は,土地所有者による隣地の使用状況を把握しておくべきである。」というところは,「隣地使用者が土地所有者による隣地の使用状況を把握することができるようにしておくべきである」といった意味ではないのかなと思いました。ちょっとどうでもいいことなんですけれども,検討していただければと思います。   3点目は,3についてです。変更の規律はやめておきますというふうに今回なったと思うんですけれども,この継続的給付を受けるための権利については,隣地通行権とここが違いますよねということが最初から意識されていた点として,固定性があるというのでしょうか,設備が地下も含めて通りますので,その場所を隣地所有者が使いたいとなったときに,それを妨げることはできるのか,という話が当初確かあったと思うんですね。それで,例えば,今のところは土地の端っこの方に導管を通しているつもりなんだけれども,そこに建物をやはり建てたいんですと隣地所有者がなったときに,設備をおよそどこにも通させませんということは駄目なんだろうと思いますけれども,場所を変えてくれということは権利として保障しておくべきなのではないか,という話があったと思うんです。   今回の補足説明を拝見して,今申し上げたような場合が事情の変更に当たるのであれば,現在の御提案でよろしいと思うのですけれども,これは事情の変更というよりは主観的な考えの変更という感じがします。事情の変更って何となく客観的なものを想像するのですけれども,そういった主観的な事情の変更も含まれる,被害の最小性というのは,隣地所有者の所有権行使の在り方,あるいはその希望によっても変わり得るのだというのであればいいのかなと思いますけれども,そうでなかったならば,今申し上げた点ですね,事後的に土地の使い方を隣地所有者は変えたい,変えるということはあり得るのではないか。そこについて,対応しないことにしたというのであれば,それは一つの考え方であると思うのですけれども,対応しないことにしたのかどうなのかということを,まずは伺えればと。そして,もし対応しないことにしたとまではなっていないのであれば,隣地通行権とやはり性質が違うので,対応を考えるほうがよいのではないかと思いますということを申し上げたいです。 ○山野目部会長 佐久間幹事から3点頂いたうちの最後の設備使用権に関わる変更の規律の存廃についての部会資料の変化についての説明を事務当局において用意をしておいてください。   佐久間幹事がおっしゃった2点目は補足説明の文章の問題として受け止め,これは前後の文章も含めて事務当局において推敲いたしますから,そのように扱わせていただきます。   1番目におっしゃったことについては,後で私が少しコミカルなコメントを差し上げようと考えております。   ですから,3点目のお答えの御用意を事務当局において御用意おきいただきながら,中田委員のお話も伺った上で,まとめて事務当局からお話をお願いしようと考えます。 ○中田委員 ありがとうございます。第1の1について少しだけ補足をし,その後,第1の3について申し上げます。   補足と申しますのは,承諾構成の場合に,その承諾とは何かが分からないということだったわけですが,幾つか可能性があると思います。まず,実体法上,承諾義務が発生しているという構成があります。この場合,その承諾義務に基づいて承諾せよという裁判を起こして,その裁判の中で,承諾義務を発生させる実体法の要件が満たされているかどうかを審理するというのが一つだと思います。また,承諾に代わる許可という,借地借家法にあるような制度もありえます。承諾構成といっても幾つか種類があるのかなと思いました。   3の方でございますけれども,こちらは今回の御提案で「導管」という言葉と「下水道の利用」という言葉が消えまして,「継続的給付を受けるための設備」という概念になったことについて,3点お聞きしたいと思います。つまり,結果として対象となる事象が広がったように思いますし,また210条以下のいわゆる囲繞地通行権との違いも拡大しているように思われるということについてです。   1点目は,先ほど佐久間幹事がおっしゃったことと同じでございまして,囲繞地通行権にも,その変更に関する規定がないではないかということが理由となっているわけですけれども,しかし,これも佐久間幹事がおっしゃいましたとおり,囲繞地通行権の場合と,設備設置権等の場合とでは違っているだろうということです。物権的請求権で排除することも考えられますけれども,設備の所有者が分からなくなっているという場合もあるかもしれません。それから,償金を支払わない場合の効果もはっきりしません。ということで,最終的には民事調停になるのかもしれませんが,この権利の変更や終了について何らかの手掛かりを残せたらいいのではないかと思います。例えば変更請求とか,消滅請求とか,そんな規定をイメージしています。   それから,2点目は複数の候補地がある場合の選択についてですが,これは御検討いただきまして,その結果を4ページに記載していただきました。この点につきましても,通行権の場合に比べますと選択の対象が多くなるという問題があると,今でもそう考えておりますけれども,ただ御検討の結果,本文②の解釈で賄おうということですので,それはそれで理解いたしました。   それから,3点目ですけれども,今回のゴシックの部分を改めて読んでみてちょっと気になったことなんですが,設備の設置権や設備の使用権というのは地下だけではなくて地表や空中も含むのかどうかということでございます。例えば他人の土地の上に電線を通すとか,他人の畑に電柱を設置するというようなものも排除されるのかどうかがよく分かりませんで,しかし,それはもしそこまで含めて考えるのだとしますと,生活に及ぼす影響が非常に大きいので,改めて慎重に検討する必要があるのではないかと思いました。これはひょっとしたら私の誤解かもしれません。以上,3点です。 ○山野目部会長 中田委員,ありがとうございます。中田委員が二つに大きく分けておっしゃったうちの1の「隣地使用権」の承諾の概念をめぐるお話は承りましたから,今後の検討において参考といたします。   もう一つ,3の設備設置権,設備使用権について,三つに区分けしてお尋ねがあったところについて,事務当局から説明を求めることにいたします。したがいまして,いずれも3の部分につきまして,佐久間幹事から問題提起があった1点,それから中田委員からお尋ねの仕方で問題提起があった3点について,事務当局からお話をお願いいたします。 ○大谷幹事 ありがとうございます。   佐久間先生から御指摘のございました変更についての規律は要らないのかという,これは中田先生からもございましたけれども,土地の使用状況が変わっていくというのは,恐らく隣地通行権,囲繞地通行権の場合でも同じことがあり得るところで,既に通路があって,その後に土地の使用状況が変わって,一番損害の少ない通路というのが別の場所になるということはあり得るのだろうと思われますので,ここの設備の設置権等におきましても同じような考え方で,土地の使用状況が変わるということであれば,それに合わせて最小の損害のところに場所が変わっていくということはあり得る。だから,変更という形の規律を置く必要はないのではないかというふうに考えておりました。   それから,中田先生から御指摘のございました,下水道の関係がなくなっているというのも,これも当然この電気,ガス,水道の供給,その他これらに類する継続的給付というふうに書けば,下水道ということも入ってくるのかなというふうに理解をいたしまして,これは除いている趣旨ではございません。それから,一番最後に御指摘がございました電線の設置についても入っているのかということがございましたけれども,これはかなり前の方の部会資料でも少し書いていたような記憶ですけれども,電気の電線を引くということについても,この規律の対象になっているというふうに理解をして,その中で一番最小の損害の場所を選んで置いていくということになるのは,ほかの地中に埋めるものと同じことになるのではないかと考えておりました。   あと何でしたっけ。 ○山野目部会長 中田委員が三つおっしゃったうちの1番目は,下水道を除くことになるものですかということもあるかもしれませんけれども,下水道という文言が消えたことによって,さらに一般的な,あるいは抽象度の高い言葉に今回変わったことによって,この権利が機能する範囲が広くなるので少し心配だという観点のお話であったものではないかと聞きました。   それから,2点目として,どこに設置するかという土地の選択の問題についても,部会資料で説明を工夫したのは分かるけれども,なお引き続き関心を持って行きたいというお話がありました。   何か,それらについて事務当局から補足はありませんか。それを伺った上で,また中田委員の話をお尋ねしようと思いますけれども。 ○大谷幹事 特にございません。 ○山野目部会長 ありませんか。   それでは,お尋ねを頂いた佐久間幹事の方から引き続きの話を伺います。変更の規律を置くことの要否について,事務当局からひとまずの説明を差し上げましたけれども,いかがでしょうか。 ○佐久間幹事 御説明それ自体は,そういう考え方はもちろんあるなとは思うのですが,一応,隣地通行権の場合,通路を開設することはできるんですけれども,当然開設することが予定されているわけでもないし,基本的にはよほどのことがないというふうなことだと思うんですね。事実上通行しています,というのが原則的形態だと思うんです。それに対して,この継続的給付の場合は,問題の深刻度が違うのかなというふうには思っております。しかし,問題の深刻度は違うんだけれども,変更の規律を,例えば隣地所有者が望めば変更できますよなんていうのもちょっとおかしな話なので,およそ一回接続を認めたら,もうそれで終わりなんですよ,未来永劫,相手の権利として尊重しなければいけないんですというようなことではないということがはっきりとしていれば,御説明のとおりでもいいのかなというふうにも思っています。   それが1点と,もう1点,中田先生がおっしゃったことで下水道のことなんですけれども,下水道が消えたのは,下水道法があるからかなと思ったんですね。下水道法は確か隣地通行権と同じような規定を置いていましたよね。そうすると,あっちは削除するんですねということを確認させてください。というのは,下水道法の規定が残って,民法に今御提案の3に従った規定ができるとなると,下水道にはその規定の適用がないということになってしまうのではないかという気がするので,そこの調整が必要なのではないかなと思いました。 ○山野目部会長 佐久間幹事が再度御発言になった設備の設置,使用に関する変更に関する規律の要否の問題は,今,佐久間幹事からひとまず理解するというお話を頂いたとともに,御所感を頂戴したところでありますから,次回までにもう少し佐久間幹事に説明を差し上げることがないか,事務当局の方で検討することにいたします。   それから,下水道法を今回の民法の規定整備を踏まえてどうするかということは,改めて関係法律整備において検討することになりますから,その際に,ただいまの佐久間幹事の御指摘を踏まえるということにいたします。どうもありがとうございました。   中田委員,お話をお続けください。 ○中田委員 私の問題関心は先ほど申し上げたことに尽きておりますけれども,部会長が御指摘くださいましたように,下水道そのものというよりも,下水道の利用という言葉がなくなり,かつ導管という言葉もなくなったことによって,かなりイメージが広がったということに主な関心がございます。先ほど空中の電線も入るのだというお話でございましたけれども,そうなると,ますます変更や消滅の規律が必要になってくるのではないかと思います。あるいは,現在は地上権,空間地上権によって対応していることが,当然の権利として認められるということになると,それも影響が相当大きいのではないかなと思いました。前の部会資料に出ていたということを私失念していまして,それは大変失礼いたしました。 ○山野目部会長 中田委員からも,ただいま事務当局から差し上げた説明について理解をお示しいただくとともに,なお御所感を添えていただいたところでございます。   確かに改めて考えますと,一般的に設備設置権,設備使用権についての規律文言が特定の事象に囚われた,狭きにすぎたものにならないように,今般の部会資料においては多少なりとも抽象度を高めた概念の使用に変更しておりますけれども,そのことから得られるメリットもあるとともに,制度の機能する範囲が広がりすぎるのではないかという御懸念も生じてくるところであります。具体的に中田委員から御指摘もあったとおり,280条が定める地役権や269条の2の規定が定める区分地上権などによって,一言で申せば,約定の当事者間において成立する法律行為を原因として成立する土地の使用権によって従来賄われてきた事象が,全部まとめて今後はこの法定の使用権に受け止めてもらって,有無を言わさず,法律上,当然に成立しますという仕方での解決に移行していくということまで部会資料が提案するつもりはありませんけれども,そのように受け止められて,新しい規律が運用されることになることが困るという御心配はごもっともでありますから,中田委員が示唆された点についても,事務当局において次の機会に必要な整理をかなう範囲でお示しするということにいたします。   考えてみますれば,導管とかという言葉を使っているうちは,何かお隣のうちから電線を引っ張ってくるとか,目の前の道路から電線を引っ張ってくるとかという程度の話にとどまるものでありますけれども,規律文言の抽象的,一般的な理解としては,高圧電線を張っているような高い鉄塔のようなものを設置するという場面で,使ってはいけないという文言にはなっておりませんから,そのような局面についての機能の在り方はどうですかということについては,先々一般に対しても適切な説明をしていく必要があります。事務当局の方で所要の用意をしてもらえるというふうに期待いたしますから,またその折に御議論をお願いできればと考えます。ありがとうございました。   佐久間幹事からは,第1の1の①ただし書,「居住者の承諾がなければ,その住家に立ち入ることはできない。」という文言についての御疑問といいますか,問題提起を頂いたところでございます。   そこについて,私から一言申し添えますと,ここのただし書の文言を法文に仕上げていく際に,どのようにしたらよいかということについて,正直悩ましいところがあります。論理的にどういうことを伝えようとしてこれを書いているかということを申し上げれば,居住者がいるものが住家であるという理解で文言の組立てをしようとしているところであります。居住者がいないものは住家ではないと,住家の概念をそういうふうに受け止めて考えることによって,それでここのルールを設けようというふうに考えておりますから,その内容のとおりに受け止められるのであるとすれば,佐久間幹事がおっしゃった居住者がいないときには所有者の承諾になるでしょうかという問題自体がなくなるわけですが,ただし問題は,このただし書の日本語が,居住者の概念の方が先に出てきているのですね。居住者の概念を先に出しておきながら,その後に出てくる住家とは居住者がいないものであるというふうに理解してくださいということは,そう理解してくださいというふうにどこかで解説で書いてしまえば,そういうものなのですと,その理解を押し付けるという仕方でいけば,そうなるかもしれませんけれども,少なくともここだけで自己完結的に文意を伝える言葉にはなっていないですね。さはさりながら,現行法の文言を改定するという観点で新しい法文を作っていこうとすると,その文体を維持する限り,今お示ししているこの文章のほかになかなか代案が考えにくいものですから,居住者の概念と住家の概念がぐるぐる回っている,論理的には循環してしまっている状態になっているという嫌いがかなり濃いですけれども,困ったなと感じながら部会資料にお出ししているものでありまして,そこのところを言わば佐久間幹事には目ざとく見付けていただいたということになります。その慧眼は尊敬申し上げますけれども,さあ,どうしたらいいかということは悩ましいという,多少愚痴のようなことを申し上げます。   佐久間幹事,どうぞ。 ○佐久間幹事 実はそれは僕だって考えたんだと後出しでいうのではなくて,本当に考えたんですよ,居住者がいるものを住家というふうに読むのかなって。ただ,そのときに,今日発言するときにそのことを除いて発言いたしましたのは,この現行法の209条で住家に承諾なく立ち入ることはできないというのは,今の言葉で言うとプライバシーの保護というのが重視されているからだと思うんですね。そうすると,人が現に今は住んでいなくても,ここで言う住家というのはプライバシーの保護の必要があるものをもって住家という概念で表すというふうに,恐らく解釈されてきたと思いますし,今もそれでいいのではないかと思うんですね。納屋とか,そんなものだったらいいのだろうというのは明らかなのですけれども,そういたしますと,そのプライバシーを守られるべき人のことを居住者として表現するんだと言えばいいのかもしれませんが,私は面倒くさくなればいつもそうなんですけれども,そうだったら,いま「隣人」とあるのだから,もう「隣人」でいいではないかと思わないでは,実はありません。居住者と書いたらよりよくなるのかと言われると,どうもそうとも思えないので,それでもいいのではないかなと思っているということだけ申し上げておきます。 ○山野目部会長 この部会に限らず,民法の改正をやっていると,時々こういう経験をすることがありますが,やはり明治の先輩たちの書いたものって,すばらしいのですよね。何かちょっとおかしいなと思って直そうとすると,あのあたりの上のほうから,梅謙次郎先生あたりが眺めていて,おい,後輩たち,できるものならやってみよというふうにおっしゃって,いろいろやろうとするけれども,やはりうまくいかなくてまいりましたというふうに言ってしまおうかなと思う局面というものは時折経験いたします。何かここの209条のただし書のところもそうであるかもしれないというふうに感じます。   沖野委員,お手をお挙げになっておられて,こういうときに何かアイデアをくださる方ですから期待しましょう。 ○沖野委員 ありがとうございます。   御期待にこたえられるかどうか分からないんですけれども,住家にしても,居住者にしても,それぞれの趣旨から適切な絞込みなり,概念定義がされるということだと思います。それを前提としてですが,例えばですけれども,「ただし,住家についてはその居住者の承諾がなければ立ち入ることはできない」というような形で,順序を変更するということはあり得るのかなと思いました。   取りあえず1の①についてはそのような表現もあり得るのかなということで,それで,もう一つ,3について,これもまた細部をお伺いしたいのですけれども,よろしいでしょうか。 ○山野目部会長 お願いいたします。 ○沖野委員 償金のことで,念のためということなんですけれども,分割によってこの状況が生じたときに,⑧においては⑤の規律は適用しないということなので,償金は支払わなくてよいという考え方だと思われます。そうしたときに,設置のために工事をするなどして,土地使用が可能性としては出てくるかと思います。すなわち⑤の括弧書きで抜かれている④で,1の④が準用されることによって生じる償金の点なんですけれども,これも掛からないという規律でいいようにも思うのですけれども,一時金はやはり払うということなのでしょうか。 ○山野目部会長 沖野委員が二つに分けておっしゃったうちの前段,209条のただし書のこの文言表現に関しましては,御提案を受け止めて検討を続けることにいたします。沖野委員がおっしゃったとおり,やはり住家の言葉を前に出した方が,総体的に誤解のない法文にすることができるのではないかということは,なるほどというふうに感じるものでありますから,御提案を踏まえて検討することにいたします。   後段,3の導管,設備設置,設備使用権の償金の関係について,一時に損害を償うものとして支払うべき償金の関係でお尋ねがございましたから,これについては事務当局からの説明を求めます。 ○小田関係官 関係官の小田でございます。   償金の部分に関して,⑧の提案においては,一時的な損害については償金を支払うということを想定しております。ただ,価値判断としてどちらがいいのかというところは御意見がいろいろあろうかと思いますが,現時点ではそのような理解で書いておるところでございます。 ○山野目部会長 沖野委員,お続けになることがおありでしょうか。 ○沖野委員 結構です。確かにどちらでもあり得るかと思います。両方払わないという選択も十分あり得るかと思ったものですから,立場が明確になれば結構です。 ○山野目部会長 どうもありがとうございます。   松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   部会資料51の第1の3「継続的給付を受けるための設備設置権及び使用権」についてですけれども,この権利を行使するときに,その対象となる土地の所有者が特定不能または所在不明の場合はどう対応すべきかということについて確認したいと思います。また,その前提問題として,継続的給付を受けるべく設備を設置または使用するためには,第1の3の③の「通知」をしなければならないということですが,第1の1「隣地使用権」を行使する場合の通知の場合には,予め通知することが困難なときには事後通知でよいというただし書が付いていますが,第1の3「設備設置権及び使用権」の通知の方は特にそういうただし書が付いておりませんので,その通知の持つ意味が同じなのか,違うのかということも確認したいと思います。所有者が所在不明の場合には公示送達ということも考えられるかもしれませんけれども,そもそも所有者特定不能の場合には,所有者不明土地管理人を選任して,その者に対して通知するということを求めるという趣旨でしょうか。   ちなみに,第1の2の竹木の枝の切除権については,2の③のイで「竹木の所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができないとき。」ということについての明示のルールがございます。この場合には,所有者の特定不能および所在不明の場合には切除権を与えるというルールになっております。しかしながら,先ほどの隣地使用権にしても,継続的給付のための設備設置権・使用権にしても,所有者不明の場合についての明示的規定はございません。それについてどういうルールを想定しているのかということは,やはり明確にした方がよいと考えます。先ほど隣地使用権については今川委員の方から確認がございましたけれども,隣地使用権と継続的給付を受けるための設備設置権・使用権とを比べると,やはりこの設備設置権・使用権の方が対象地となる土地や設備を一時的にというよりは継続的に使用するという点で土地や設備の所有権に対する負担は重たいのではないかと思います。それでも所有者不明の場合は,公示による意思表示で通知すればよいのか,あるいは土地管理人を選任して,その者に所有者に代わる手続をとってもらう必要があるようにも思います。その点について,提案が前提とするルールを確認させていただきたいと思います。 ○大谷幹事 今の点につきましては,先ほど隣地使用権の方では緊急の場合のような,あらかじめ通知することが困難な場合には事後的でもよいとしておりますけれども,こちらの継続的給付を受けるための設備設置権等におきましては,そういう緊急性のある場合というのが想定し難いだろうということで,事前に必ず通知するということが必要だろうと考えたところです。   この通知につきましては,その相手方を知ることができない,所有者が誰か分からないというときでも,公示による意思表示で通知することが可能で,必ずしも所有者不明土地管理人を選任しなくても,この権利の行使が可能だと理解をしております。 ○山野目部会長 松尾幹事,いかがでしょうか。 ○松尾幹事 提案の前提にあるルールを承りました。それを前提に,所有者不明の場合は公示による意思表示でよいか,土地や設備の所有権に継続的負担を与える点に鑑みてより慎重な手続が必要か,何れにしても明示的規定が必要か,考えてみたいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。隣地使用権,竹木の切除,設備の設置使用という相隣関係の部分についていかがでしょうか。   よろしゅうございましょうか。   それでは,部会資料51の中の相隣関係の部分については,多岐にわたる御指摘を頂きました。かなり実質的に検討しなければならない事項も含まれておりますから,委員,幹事の皆さんに再び御検討いただく機会を設けることにしたいと考えます。本日の御指摘を踏まえて,事務当局において議事を整理いたします。   引き続き部会資料51の共有の部分についての審議をお願いいたします。   休憩のタイミングを考えまして,第2の共有の部分の「7 裁判による共有物分割」,10ページのところですね,補足説明まで入れますと11ページまでの部分ですけれども,この範囲について審議をお願いするということにいたします。   どうぞ,委員,幹事から御自由に御発言ください。   蓑毛幹事,お願いいたします。 ○蓑毛幹事 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでの議論を御紹介します。   第2の「共有等」については,少数の反対意見はありましたが,賛成意見が多数でした。ただし,表現ぶりや,趣旨をもう少し明確にした方がよいという事項がありましたので,意見を申し上げます。   まず,1の「共有物を使用する共有者と他の共有者との関係等」についてですが,ここには要件として①と②が記載してあって,補足説明では部会資料40の4と基本的内容は同じであると書かれています。しかし,部会資料40の4では,「その使用によって使用が妨げられた他の共有者に対し,共有持分の価格の割合に応じて,その使用の対価を償還する義務を負う」となっていたのが,今回の提案では,「他の共有者に対し,その使用の対価を償還する義務を負う」となっていて,内容的に同じなのか疑問です。使用が妨げられていないにもかかわらず,自らの意思で,共有物を使用しない共有者に対して,使用した共有者が対価を償還する義務を負う必要はありませんので,元の文案の方がよいと思います。   2の「共有物の変更行為」については特段意見がありません。   3の「共有物の管理」についても特に意見はないのですが,1点質問があります。この規律では過半数で決することができる賃貸借の期間が③の範囲内となっていて,補足説明の7ページの下から四,五行辺りで,③の期間を超える賃貸借契約を締結した場合には基本的に無効だが,「持分の過半数によって決することが不相当とはいえない特別の事情がある場合には,変更行為に当たらない」とあります。この特段の事情がある場合というのは具体的にどのようなケース,事案を想定しているのか,お考えがあれば御説明いただければと思います。   4と5について意見はありません。前回まで弁護士会では,4の催告についても裁判所の関与を必要とすべきではないかという意見を申し上げていましたが,今回のような整理,つまり5の所在不明等の認定については慎重な判断が必要なので,裁判所が関与・判断するけれども,4の催告手続には裁判所が関与する必要はないというのが多数意見となっています。   6の「共有物の管理者」についても特段意見はありません。   7の「裁判による共有物分割」についてですが,基本的にはこのような規律でよいというのが多数意見ですが,判例の特段の事情の明文化,これは前回も議論になっていて,確か沖野先生が発言されたと記憶していますが,そのような内容の規律を置いた方がよいという意見もありました。一方で,そのような規定を置くと,優先関係を示すようなイメージを持たれてしまうので,今の案でよいという意見もありました。以上です。 ○山野目部会長 意見の取りまとめを頂きましてありがとうございました。   今川委員,ちょっとお待ちください。   お尋ねが含まれておりました。事務当局からお話を差し上げます。 ○大谷幹事 第2の1のところの表現ぶりですけれども,結局,共有物を使用する共有者がいるというときには,他の共有者は使用を妨げられてしまうということになりますので,その使用の対価を償還する義務は負うことになるだろう。ただ,別段の合意がある場合は除くということで,そういう別段の合意をしているのであれば,償還する義務は負わないという形になるのではないかということで,実質としては変えたつもりはございません。   それから,共有物の管理の短期賃貸借の補足説明の部分のお話がございました。これは特別の事情があるような場合というのは,イメージしておりますのは平成14年の東京地裁の裁判例でございまして,これは建物の賃貸借に関するものですが,元々賃貸用の物件として造られた共有建物について賃借人が替わる,ほかの人を入れるということについて,それが管理行為なのかどうかということが問題になった事案です。これについては借地借家法の適用があるので短期賃借権とは言えない部分がございますけれども,そのようなものでも,その事案の内容に応じて管理行為だと認定されて過半数で賃貸できるとされていますので,そういう処理を妨げるものではない,この期間を超えるものであっても,場合によっては管理行為と認定されるものもあり得るということかと思っておりました。 ○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,どうぞお続けください。 ○蓑毛幹事 ありがとうございます。   1の点だけ。居宅などの不動産を共有者の1人が占有している場合は,他の共有者は使用を妨げられますが,例えば,自動車を共有していて,使用する必要がある人が使用するという場合は,共有物を使用する共有者がいても,他の共有者の使用を妨げるという状況にはないと思って申し上げました。 ○大谷幹事 そのような場合で,別段の合意があるというふうに見るのかもしれませんけれども,みんなが使える状態にあって順番に使っているというか,その時々で違う人が使うようなことをイメージされているんですかね。そのような場合に,1人が使ってたので別の人がその機会に使えなかったというのを,どちらかというと,それは何というかお互いさまという感じがしますので,そこのところまで,完全にほかの人が使用を妨げられている状態ではないときに,このルールが対価の償還をする義務を負うという形になるかというと,今お聞きしている限りだとちょっと違うのかなという感じもいたしましたけれども。 ○蓑毛幹事 ごめんなさい。私の言い方が下手で,うまく伝わっていないようです。今申し上げたケースのように,共有者の1人が共有物を使用するときでも,対価を償還する義務を負うべきでないケースが多々あると思われるところ,今回の提案は,別段の合意がない限り,常に使用の対価を償還しなければならないように読め,うまく機能しないのではないかと思ったのですけれども。 ○山野目部会長 今の①の文言で仮にいったとした場合において,恐らく現実に導き出そうとする解決は,蓑毛幹事と大谷幹事との間で異なっていなくて常識的に当たり前の結果になるということであろうと考えますが,そこに導く論理構成は,一つは別段の合意がある場合を除き,に着目するものですが,別段の合意というものは,別に別段合意していなくても別段の合意があるということはあり得るであろうと考えられますから,明示の合意がされていなくても共有者間の暗黙の了解で,お互い自動車を使っていいのではないか,特段お金は要らないよというふうな扱いになっているときには,そういうロジックで対価を支払わないでしょうというお話もありましょうし,もう一つは対価の概念の観点もあるでしょうか,対価を払わなければならない使用に対して対価が生ずるということを考えると,みんなが毎日必ず時間の隙間なく使いたいと思っている自動車であれば格別,誰も使っていない自動車をちょっと使わせてもらいますよというのは,対価を支払うに値するような使用,ここの規律が想定している使用とか対価の概念からは離れますというお話になっていくということもあるかもしれません。   この規律の文言でいくときに,そうした理解を添えて進めていくということにするか,おっしゃったように,しばらく前に議論したような細密度の高い規律に戻して考えていくかということをなお検討していくということになりましょうけれども,言葉数の多いものにしたときに,あちらの方はあちらの方で,またそれぞれの文言についての疑問であるとか,その解釈の上での概念の外延を決めなければいけないとかという問題が生じてまいりますから,どちらでいくことがよいかということをまた考え込んでいくというお話になるものだろうというふうに感じます。ここのところは,ひとまずはそのようなことで更に検討するということでよろしいでしょうか。 ○蓑毛幹事 よく分かりました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   今川委員,お待たせしました。 ○今川委員 私は5の「所在等不明共有者がいる場合の特則」について,意見が一つと質問が二つあります。   まず意見の方ですが,(1)の要件の①で,共有物に変更を加えることができる旨の裁判の,ここで言う変更には,補足説明にあるように,譲渡や抵当権設定などの持分を喪失させる行為を除くということは理解しています。ただ,その前の2の「共有物の変更行為」でも,同じように「共有物に変更」という文言が出てくるんですが,ここは多分譲渡等の処分行為も含むという理解かと思っているのですが,そこは違っているのでしょうか。そのように理解をしていたのですけれども,そうであるとすると,その違いを明確にするために条文の文言について工夫が要るのではないかというのが意見です。   質問の方ですが,(1)の要件等の②なんですが,これはちょっと読み方がまずいのかもしれないのですが,アの決定をもらっておいて,イの決定も必要になるのか。アの決定だけをもらえば,4の規定に従い自らが催告をして行うということが可能なのではないかと思ったのですけれども,これは読み方がおかしいのでしょうか,そこを教えてください。   それと,(2)の手続の②の共有者等で,ここに「等」が入っているのですが,ここで想定される異議は,所在不明である当該他の共有者のみであると思われるのですが,ここに等が入ると,何か他の共有者も異議が述べられるというふうに読み違えをしそうなので,この「等」の意味が不明なので教えてください。 ○山野目部会長 第1点もお尋ねの趣旨があったかもしれませんから,3点について事務当局からお願いいたします。 ○脇村関係官 今の最初のお話にあったのは変更と処分の関係でございますが,教科書などでは,部会でも議論がありましたとおり,そこの変更に含んで処分行為を読むという方と,いや,処分というのは変更とは違うんだと,別の概念だという両説があったと思います。今回はそういう意味ではなかなかそこの解釈自体に踏み込むのは難しいと思っておりますので,表現上はですね。そういう意味では,そこはフラットにせざるを得ないのかな,つまり何もいじらないということで考えておりました。   そういう意味では,解釈論としては251条の変更で読むという方もいれば,いや,変更とは別の概念,処分というのは他人ができないものなのだということで読む概念,両説があるということを前提にしつつも,ここの持分取得についてはほかの条文と見合いで,当然含まれないという趣旨で書かせていただいたというところです。委員がおっしゃったとおり,本当はきれいに書くというのは一つなんですけれども,学説上の概念,あるいは更に言いますと,今の民法の文言ですと,変更行為は一応管理行為の一環,251条は前条の場合を除き管理に関する事項と書いていますので,恐らく変更は管理の中に入っているんだろうと思いますけれども,そういう意味で,文字面だけでいくと,多分処分行為は入らないというのが普通の読み方かなという気もしたりとかして,なかなかいじりづらいというのが正直ありましたので,こういった説明にしています。裁判所が絡むことですので,恐らく変なことは起きないだろうと思っていますが,我々としても,成案を得た際にはそういった説明についてきちんとして,ここには入らないということをきちんと周知していきたいと思っているところでございます。   また,5の(2)の②のイのことなんですが,おっしゃるとおり,従前私の方も,もう①で読めないかなと思っていたところなんですけれども,いざ字にしてみますと,なかなか①があるから,その催告のケースはいいんですというふうに,逆に読みづらいのかなと思いまして,念のために書かせていただきました。運用としては,あらかじめどっちにするか分からないケースについては両方の裁判をとっておくというのも一つでしょうし,もう残りの人で合意ができていて,もうイなんか絶対しないんだということであれば,アだけとるというのもあるのかなというところで,そこは状況次第,催告することを目指しているのだったらイをとった上で,アも分からないのでとっておくというのも一つ方法としてはあるかなと思っています。   最後の「等」は,ちょっと右往左往していて残ってしまったので改めて出す際には削ります。すいませんでした。 ○山野目部会長 今川委員,お続けになることはおありでしょうか。 ○今川委員 いえ,結構です。 ○山野目部会長 よろしいですか。   引き続き承ります。藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   第2のところで,2点ほど質問させていただければと思っております。   まず,第2の2の「共有物の変更行為」につきまして,ここで「変更」から除く行為の書き方については,これまでの部会の中でかなり議論されて,このような書き方に今回落ち着いたということだと理解しておりまして,従来のように改良を目的とし,と書くと,改良ではないものが入らないとか,そういったところは非常によく理解できるのですが,今回,形状又は効用の著しい変更を伴わない,という書き方に集約されたことによって,例えば元々全く効用を発揮していなかったような土地を暫定的に通路にするだとか,物置場にするとか,そういった改良のようなことを行って,それが見かけ上は著しい変更に当たっているように見えるかもしれないのですが,実態としては費用もそれほど掛かっていないし,元々使われていなかった土地なので,実際にはその効用を害しているものではないというときに,それも変更に当たらないと読めるという前提で書かれているのかどうかというところを差し支えなければ教えていただければと思っております。   あともう一つは,第2の7の「裁判による共有物分割」のところでございまして,こちらについても要件を具体的に書き込むのが難しいということは,これまでの議論で重々承知しておりまして,それでこのような形で②のア,イを併記していただいたものというふうに理解しておるんですが,法律で書けることというよりは,今後実務がどうなるのかなという関心の下で質問させていただきたいのが,従来は分割方法が条文にそれほど明確に書かれていなかったために,それを裁判所が自由裁量で決められるという解釈がなされていたと思うのですが,今回,アの現物分割と,イということで,いわゆる賠償分割が明記されることで,これによって,何かその辺の考え方が変わる可能性というのがあるのかどうかというところですね。特に当事者が,例えば現物ではなくて賠償分割でいきたいというような主張をしたときに,今回,新しく条文を創設することによって,そのような主張がどう機能するのかなというところを現時点で考えておられるところがあれば教えていただければと思っております。   以上,2点でございます。 ○脇村関係官    1点目につきましては,恐らく効用を発揮していないというケースについてもいろいろなパターンがあるのだろうなと,あえてそういうふうにしているケースもあれば,本当にほったらかしているケースもあると思いますので,ケース・バイ・ケースによって,特にそれで問題ないというケースについてまで,それが著しい変更に当たらないことは言わないのかなというふうには思っています。恐らくその状況次第で変わってくるのだろうなというふうには思います。   最後の共有物分割につきましては,この部会の趣旨として,恐らく従前の判例議論を何か変えようということで明文化したというよりは,当事者に分かりやすくしようという観点から方法を示したということに尽きるのだろうなというふうに理解はしております。ただ,もちろん今回明文化されたことによって,より当事者がそういった言い分といいますか,主張を実際にはするケースが増えることもありますので,そういった主張を踏まえながら裁判所の従前の判例で示したような枠組みの中で考えていただきたいということなのかなというふうに認識していたところでございます。 ○山野目部会長 藤野委員,いかがでしょうか。 ○藤野委員 ありがとうございます。   1点目に関しては,例としてお示ししたような場合が変更に当たらない,と解釈されうるのであれば,実務上懸念が出ていたところもクリアできる可能性が出てくるのかなというふうに思っておりまして,後ろの方の第2の4とか5のところで,管理に関する事項については催告でいけるけれども,そうではない場合は基本的には裁判をかませるということになっていることとの関係でも,やはりここのところはすごく重要かなと思っておりましたので,ケース・バイ・ケースとはいえ,変更に当たらないという考え方でいける場合があるということであれば,よい方向なのかなというふうには思っております。   2点目に関しては,ありがとうございました。実務サイドとしては,共有物分割を請求した場合の結論の予測可能性が少しでも高まれば,という思いは依然としてございますが,今の時点でそこまで明確にするというのは難しいというのは重々承知しておりますので,いただいたご説明を参考にさせていただければと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き共有の部分の1から7までの御意見を伺います。いかがでしょうか。 ○佐久間幹事 細かいことを申し上げるのですけれども,ちょっと文言で何点か気になるところがあります。  まず3の「共有物の管理」のところなんですが,「251条の場合を除き」というのは,今の条文だと251条でいいと思うのですけれども,その前の2の「著しい変更を伴わない場合を除く」というふうになっていると,この括弧書きはここに入らないということをきちんと示しておく必要があるのではないかと思います。   同じようなことなんですけれども,4と5に「共有物の管理に関する事項」という言葉が出てくるんですが,先ほど脇村さんが,変更だって,今は共有物の管理の一つと位置付けられているのではないかというふうにおっしゃって,そのとおりだと思うのですが,そうだとすると,この共有物の管理に関する事項のところの4と5においては,その変更を含まないということを明確に,文章を読めば分かるのはそのとおりなんですけれども,明確にしておいた方がいいのではないか。要するに,3,①,③に限るというふうなことを添えておくことが,読む人にとって親切ではないかなと思いました。   それと,5の(2)の②が「異議を述べなかったときは」とあるんですけれども,後の方で出てくるのに合わせると,これは①のイの異議の届出をしなかったときは,しないときはとかというふうになる方が,ほかとの平仄が合うのではないかと思いました。全部ここは文言だけです。   それで,1点気になるのが,7の「裁判による共有分割」で,これも合意ができていたのかもしれないし,別に強く主張するつもりはないのですけれども,②のイで,共有者に債務を負担させて取得させるということについてです。補足説明では,前回のような金銭を支払わせてとなると,金銭の支払が持分取得の条件というか,金銭の支払があって初めて持分を取得することができるということになってしまいますよね,ということなのですけれども,それはそうなのですけれども,仮に債務が履行されなかった場合,裁判分割をして,相手に債務の履行は命じられたけれども,履行してもらえませんでした,持分は失っていますって,それはいいのかなというふうに素朴に思いました。条件というか,対価の支払によって初めて持分が取得されるというところまではしないのであれば,しなくてもいいと思うのですけれども,何か優先的な救済を考えておく必要はないのだろうかと。そういった事態は極めてまれなのだろうとは思いますが,これまではそもそも全面的価格賠償自体がそれほどとられていなかったのだろうと思うのですね。だから問題は顕在化しなかったのではないかなと感じる面もあります。これからこういうフラットに②,ア,イ,特にイで,持分全部を債務の負担という形で取得させますよということがどんどん行われるということになると,債務不履行事例も出てくるのではないかと。その場合に,「まあ,そんなものです」というようなことでいいのかどうか,ちょっと疑問に思いました。 ○山野目部会長 最後におっしゃった点を除き,佐久間幹事が前の方でおっしゃった諸点は,今後法文の立案を準備するに際して参考にするということにいたします。   最後に御指摘があった点について,事務当局の説明を求めます。 ○脇村関係官 ありがとうございます。   正に先生がおっしゃったとおり,その点や,その履行をどうするのかという,従前この部会でも議論させていただいたところでございます。今回の部会資料につきましては,その点につきましては引換給付,あるいは停止条件とすることについて,裁判所に適切な判断をしていただけるのだろうという前提で組んでおりました。なかなか裁判所の判断事由について全て書き込むのは難しいということから,給付条項だけは書きましたけれども,そういったことを絡めて裁判所の方で従前どおり,あるいは従前よりも更にかもしれませんけれども,そういった問題に対応するために,お金を払うときに移すのか,あるいは引換給付にして登記移転するのか,そういったあたりを判断していただけるのだろうと期待して作らせていただいたというところでございます。 ○山野目部会長 ④のところで引換給付判決などをする可能性があり得るということ,及び,しかし,それをしてくれということを裁判所が個別の裁判を言い渡すに当たってする,その内容を法文で事細かく示唆することが適当でないというふうに考えられるという2点に分けて,事務当局から説明がありました。   佐久間幹事におかれて,いかがでしょうか。 ○佐久間幹事 引換給付があり得るとして,あり得るというか,それはあるのでしょうけれども,正直,そのようにしないことが一体どういう場合にあるのかなというのが,よくのみ込めないところです。引換給付があり得るのだったら,ほぼ全て引換給付になるのではないかなというふうに素朴に思っただけです。 ○山野目部会長 今までの家事事件手続法でも,恐らく②のイと④の規律が置かれていますから,そこについての運用と大きく変わるということはないであろうというふうに想像されます。そこでの運用を踏まえて,また適切な解決がされていくということでありましょう。   7のところについて,今,佐久間幹事から御指摘いただいたことに留意をするということにいたします。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,7まで審議をお願いしたという扱いにいたします。   休憩といたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   部会資料51の第2の「共有等」の部分について御審議を頂いているところであります。   休憩前に,第2の共有の7の「裁判による共有物分割」のところまでが済んでございます。第2の「共有等」の残りの部分,8の「相続財産に属する共有物の分割の特則」から始め,第2が終わるところまで,部会資料51で申し上げますと,17ページの上半分のところで補足説明が終わっているところまで,この範囲で御意見を承ります。どうぞ御自由に御意見を仰せください。 ○蓑毛幹事 部会資料11ページの「8 相続財産に属する共有物の分割の特則」ですが,これは従来,「通常の共有と遺産共有が併存している場合の特則」というタイトルで書かれていたものだと理解しています。このような制度を設けることには異論がないのですが,8の①,②の書き方で,これまで議論されてきた趣旨だと読めるのか,疑問が残りました。   また,③の3行目括弧書きにある「当該相続人が同項の規定による請求をした場合にあっては,当該請求をした日」との規定を置く趣旨がよく分からないという意見がありました。当該相続人というのは,②ただし書の申出をした相続人と読むと思うのですが,共有物分割請求をした者自身が,それに対して異議の申出をするというのは考え難いので,そうでない読み方をするのでしょうか。ちょっとここは分かりにくいと思います。   それから,9(1)④の持分の時価相当額というところについて,前回の部会資料では,これをどのように計算するのか更に検討が必要だと書かれていましたが,今回,特に説明がありません。条文としてはこのような「持分の時価相当額」という表現に落ち着くものと思いますが,その算定方法について更なる検討と,説明が必要だと思います。このままぽんと出されると,実務が混乱するとの意見がありました。   それから10の「所在等不明共有者の持分の譲渡」についても,賛成意見が多数です。ただし,少し議論になった点として,15ページの(1)の③で所在等不明共有者が取得する権利について,不動産の時価相当額を持分の割合に応じて按分した金額の支払請求権を取得するのはよいのですが,この金額を裁判所が算定し,それに応じた金額が供託されたとして,その後の実際の売買で,時価と判断された金額を上回る金額で売れた場合に,その上回った金額を不明共有者に渡さずに,それ以外の共有者が取得してよいのか,それは不公平ではないかという意見が出されました。この点を解決するために,実際の売買代金に見合った金額を追加して供託させることが考えられますが,条文の定め方が今よりも複雑になるでしょうし,今の仕組みでは,売却に先立って,裁判所の決定と供託がされるものですから,その後に金額が上がったことをどう確認し,追加分をどのように追加して供託させるのかなど,手続きがかなり複雑になりそうです。   あるいは,裁判所が時価相当額を計算するに当たり,通常はその時点で売買契約の交渉等がある程度進んでいるでしょうから,裁判所が時価を判断する資料として,当事者に売買契約書などの情報を出させるような仕組みにすることも考えられると思います。   「11 相続財産についての共有に関する規定の適用関係」については特に意見はありません。 ○山野目部会長 お尋ねも頂きましたし,御所感という仕方でお伝えいただいたこともありますけれども,それらを通じて,事務当局で考えていることがあったらお話しください。 ○脇村関係官 ありがとうございます。   まず,この11ページの特則の書き方については,できるだけ私たちも頑張りたいというふうには思っておりますが,現時点で,今の時点としてはこれが限度だというところでございます。   その上で,この括弧書きについては確かに分かりにくいと思いますので書き直そうと思っています。趣旨としましては,恐らく通常共有,遺産共有が併存しているケースに共有物分割訴訟を起こされるパターンとしては2パターンあると思っていまして,一つは正に通常共有を第三者が申立てをするバターンと,相続人の1人が申し立てるパターンの2パターンがあるのかなと思っています。正に前者についてはもう残りの相続人の異議がなければいいのではないかということで,元々想定していた議論をさせていただいています。   一方で,相続人がやるケースについては,相続人の中には遺産共有の分割後の遺産共有でやりたい,だからここでやってほしくないというパターンと,いや,全部やりましょうよ,10年たっているしというパターンの2パターンあるのかなと思っておりまして,書きたかったのは,訴える際にどっちかはっきりさせてくださいよと,その訴える人はですね。ということを何とか書けないかなと思ったのですが,それを異議の書き方にしたので多分分かりにくくなったというところだと思います。次回までに何とか工夫をしたいと思っているところでございます。   また費用につきましては,もう少し私も考えてきたいと思っていますが,従前から議論ありますとおり,不特定のパターンには非常に難しい問題があり,所在不明のケースについては専門家を使うべきかどうかという議論,いろいろあったと思います。不特定のケースについては,少なくとも人数が分かっているのだったら平等基準でやるべきではないかとか,あるいはもう最低分からないときについては高めで納めさせるべきではないかという議論がありまして,裁判所の判断に委ねるということとしたこととの関係で,どこまでこの部会資料に書くべきなのかという議論はあるとは考えていますが,少しその辺,どういう審議を経てこういった条文になったかが分かるような形で,次回,何らかの形で部会資料で少し説明できるように考えていきたいと思っているところでございます。   最後の結局金額どうこうの議論なんですが,確か前回ここの議論をした際に今川委員からも同じような御趣旨の御指摘あったと思いまして,当時私はずれていても仕方ないのではないですかみたいなことを口走ってお叱りを受けたところだと思っているところです。その後,改めて考えたのですが,例えば不当利得の返還請求などの最高裁の判例では,利得・損害額を判断する際に,実際売れた金額をベースに利得を考えるべきではないかという最高裁の判例はあったと思います。そういった考えは,多分ここでも一つ参考になるのかなと思っておりまして,その時価を考えるに当たっては,どういった金額で売却されることが見込まれるかということも資料の一つとして考えることはできるのではないかなと思われるところです。もちろん裁判所の判断事項にしたこととの関係で,必ず確認しろといっていいのかどうかというのは,証拠の採否に関するところでなかなか難しみはあるかもしれませんが,恐らく適切な金額を判断する上では,どういった金額で売ろうということを聞くとか,あるいは確認するという作業が一つ考えられるのではないかというところで,恐らく安いときには多分自分たちで言ってくると思いますけれども,高いときについても裁判所の方で適時適切に対応していただくというのが一つあるのかなというふうには考えているところでございます。 ○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,お続けになることがおありでしたら,どうぞ。 ○蓑毛幹事 今の説明でよく分かりました。   10についてもう一つ意見が出ていたのを言い忘れていましたので申し上げます。   時価相当額の概念で処理できるのかもしれませんが,供託する金額について,仲介手数料,固定資産税の精算,印紙代など,売買によって生ずる費用を時価から差し引いて計算する方がよいという意見がありました。 ○山野目部会長 蓑毛幹事の今追加しておっしゃっていただいたことは理解いたしましたから,次回以降に向けて引き続き検討いたしますが,多分,法文には仲介手数料とかは書かないものでしょうね。それこそ正に仲介手数料,それから固定資産税の課税の基準になる日がありますね。あの日の前後で細かく計算分けてしていただくとかという事項は,もうこれは弁護士や司法書士の先生方はそのためにいるものであって,それは民法の法文が何かしてあげるという世界ではありませんから,従前も民事法制の規律において時価をもって売渡しや買取りを請求するといった場面で,常に大なり小なりその種類のことはありますけれども,法文がそのことを細密に手取り足取り表現してルールを明らかにしてきたわけではございませんから,今,蓑毛幹事におっしゃっていただいたことを今後いろいろ説明していくに当たって忘れないように念頭にとどめますけれども,恐らく法文の扱いとしてそれをどうするかという話にしにくい部分があるものではないかとも感じます。ありがとうございます。   引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○松尾幹事 3点ございまして,第1点は,誠に申し訳ないのですけれども,休み時間に入る前の部会資料51の第2の7「裁判による共有物分割」について,ちょっと躊躇して言いそびれた点がございまして,発言をお許しいただければと思います。   部会資料51の10ページの第2の7の②のイ「共有者に債務を負担させて,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」で,先ほど佐久間幹事がご指摘された点ですけれども,賠償分割の場合の共有者の対価支払と他の共有者の持分取得の引換給付を実現できないかどうかということで,私も同じ問題意識を持っておりました。それで,第2の7の②のイの共有者に債務を負担させてという場合の債務は持分の対価の支払債務と理解してよいかと思うのですけれども,その対価の支払と引き換えに,他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法というような表現を用いることに差し障りがあるかどうかということについてご教示いただきたいと思いました。もしかすると,この対価支払について期限を許与すべき場合があるかもしれませんし,そういう考慮があってこういう表現になっているかもしれませんけれども,従来から問題点として指摘されてきた点でもございますので,問題提起をさせていただく次第です。考慮が足りない点があるかもしれませんがお許しください。   それから第2点は,部会資料51の13頁,第2の9「所在等不明共有者の持分の取得」(1)の④で所在等不明共有者の持分の取得をするときに,この所在等不明共有者には持分の時価相当額の支払請求権があることを定めています。これはすっきり理解できるところであります。他方,次の(2)の④では,裁判所は持分取得の裁判をするときに,この所在等不明共有者のために裁判所が定める額の金銭を供託することを命じなければならないとしています。(1)の④では時価相当額という表現で,(2)の④では裁判所が定める額の金銭という表現になっているわけですけれども,その理解として,例えば持分取得を希望する共有者が既に共有物の管理について負担した費用の償還を求める場合には,そのことも考慮して裁判所は,その費用を差し引いた残額について供託すればよいということを認める趣旨でしょうか。私は,そういうことができるならばその旨を規定すべきではないかと思います。といいますのも,所在等不明共有者の持分の取得は,所有者不明状態を解消する手段としては,今回の改正提案の中では切り札と言ってもよいものかと思いますので,できるだけこれを使いやすいものにし,共有者間の公平を実現できるようなものにすべきではないかと考えるからです。この点の確認と意見が第2点です。   それから,第3点として,部会資料51の15ページ,第2の10「所在等不明共有者の持分の譲渡」で,これは所在等不明共有者の持分を他の共有者の持分と併せて第三者に譲渡するということを前提にして,その要件と手続を定めるルールですけれども,この持分の譲渡のほかに,所在等不明共有者を含む共有者全ての持分について抵当権を設定するというようなことも可能であると想定しているでしょうか。所在等不明共有者の持分も含めて,この共有物について抵当権を設定するということも,この持分の譲渡と類比して可能なのかどうかという点の確認です。   もし抵当権の設定ができるということになった場合には,部会資料51の15ページの(1)③で所在等不明共有者の持分の譲渡に対する時価相当額の支払請求権ことを考えたときに,譲渡ではないから,持分の対価に対する支払請求権のような対価の支払請求権はないということでよいのか,あるいはそもそもそこに問題があるから抵当権設定のようなことはできないというふうに考えるのか,この点について,ルールを明確にしておいた方がよいと考え,確認させていただきたいと思った次第です。 ○山野目部会長 3点にわたって,お尋ねないし問題提起を頂きました。   事務当局からお願いします。 ○脇村関係官 ありがとうございます。   まず,引換給付につきましては,先ほど山野目部会長からもお話があった点に絡むのですけれども,似たような制度として家事事件手続法というもので債務負担という表現を使っていることとの関係もあって,こちらの引換給付を必ずしないといけない,絶対だということまではなかなか難しいのではないか,さすがに裁判所の裁量を完全に封じてしまうことまでは難しいのではないかということで,技術的な面から書けないと思っています。ただ,もちろん先生,あるいは佐久間先生がおっしゃっていたとおり,普通はやるのでしょうと言われると,そうでしょうねとは思っているのですが,そこは技術的な限界があるのかなと思っています。   次に,控除をした金額でいいのではないかというお話があったのですが,やはりなかなか現実的には難しいのかなと思っていまして,結局,控除すべき金額を考慮して供託金を定めると,時価から控除した,これは引いていいですよということをこの裁判の中でやるのは多分不可能なのだろうと思います。結局,客観的な時価であれば,それは裁判所が専門家の知見を借りて判断をできますが,そうではない,実際どういった費用を払ったかなどの認定をするには,恐らく管理人などを使った上で,その管理人の調査を経た上でやらないといけないということだろうと思います。ですから,先生おっしゃったようなケース,実際には控除した金額で買い取るということが認められてしかるべき事案もあろうかと思いますが,そういったケースにつきましては,この簡易なものではなくて,次回以降取り上げます所在等不明土地管理制度ですか,管理人を付けて裁判所の監督の下で管理人が適宜土地,共有持分も含めた管理をするという制度を考えておりますので,その管理人を選んだ上で,その管理人との協議の上で共有持分を集約するという制度を使うしかないのかなというふうには,今のところは思っています。ここの中で,この裁判所の手続を非常に重くするということは避けるべきではないかと思っています。   最後の抵当権の件なんですが,正に先生おっしゃったように非常に難しくて,恐らくこの抵当権の設定をそういった形でやるというのは多分不可能なのだろうと思います。そういう意味では,この資料としては想定していません。では,抵当権を付けたいときにどうするのだという話が当然あろうかと思いますが,一つは,そういったもろもろのことをしたいのであれば,将来的にいろいろ担保保存義務を負わないといけませんので,持分を集約していただいて,このレジュメでいきますと12にあります共有持分の取得をまずしていただいて自分のものにした上で,抵当権を設定していただくのがいいのかなと思っています。そういう意味では,元々この持分取得だけでいいではないかという御議論もあったぐらいで,そういう意味で譲渡に特化した作りにしていますが,抵当権,あるいは更に言うと長期の,例えば賃貸借部分も好きにやりたいとかいろいろなことがあるのだったら,持分取得をしてきちんとやるというのが一つの方向性かなと思っているところです。 ○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。 ○松尾幹事 ありがとうございました。1点目と3点目については了解しました。   2点目につきましては,所有者不明状態を解消する手段として,共有者の一部の者による時効取得についてのルールは設けられないことになったわけですが,時効取得の場合には特に対価の支払ということはなくても,他の共有者の共有持分権を取得できることとの関係で,所有者不明状態の解消手段として期待される所在等不明共有者の持分取得については,できる限り実用的なものにする必要があるのではないかという観点から,問題提起させていただいた次第です。確かに,所在等不明共有者のために所有者不明土地管理人を選任して手続をとることは一番真っ当な方法かと思うわけですが,ちょっとその手続的負担は重たいかなというふうに感じたものですから,確認とコメントをさせていただきました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   休憩前に引き続き,従来は全面的価格賠償と呼ばれてきたものを今般は明文の規律を置いて,それが可能であることを明らかにしようとする提案につきましては,多くの委員,幹事から,本日の部会会議に至るまでの御議論で賛成を頂いてきたところでありますとともに,本日は引換給付の問題を中心に若干の御議論があったところでありますから,この際,一言申し上げます。   恐らく,いわゆる全面的価格賠償というものが現時点においては法文上,明らかになっていないにもかかわらず,あり得るということを裁判所がはっきり体系的に述べた最初の判例である平成8年の最高裁判所の判決は,それは可能であるけれども,大きく分けて2種類のハードル,2種類の要件を満たしてもらわなければ困るということを述べていました。   一つは,その現物を特定の1人又は数人の共有者に取得させるということが,客観的に見てもっともであるという土地の利用その他の関係における事情が存在するということがなければいけないということであり,もう一つは持分を失うことになる者に対して債務を負う者がしかるべき資力を持っているという見通しが成り立ち,必ず対価となるお金を得させるようにしてあげなければならないという観点でありました。これらの要件の要請は,いずれももっともなものでありまして,新しい規律ができた後に,平成8年の判例の意義をどう考えるかは,もちろん今後において研究者がその点についての検討を重ねていくなどするところを待たなければなりませんけれども,恐らくはこの部会においてまとめようとしている案の趣旨としては,平成8年の判決の意義を全くなからしめるようなことは考えていないという理解でよろしいであろうと感じます。   そうであるといたしますと,判例が要求する二つの要件を関連させて述べますと,その物を1人の者に取得させて使用させることがもっともだという事情がある場合に限られますから,状況によってはそれが切迫しているということもあります。地域のまちづくりであるとか,被災地の復興のような観点から,いち早く占有と登記は得たいというような要請がある事例もあるであろうと想像します。そのようなときに,常に引換給付であるというふうにしておきますと,登記や占有の取得が遅れることもあり得ると,そのような心配が出てくるであろうと案じられます。差し当たって,担保を提供しますから,お金は直ちにお支払いするということになりませんけれども,引換給付にしないで占有や登記を得させてほしいというふうな要請があったときに,それをもっともであるというふうに考えて,諸事情を勘案して引換給付等はせずに担保を立てさせ,又は極めて僅少な額であるために担保を立てさせないで,無条件で占有や登記の移転を命ずることとするかという事項は,申し上げたような一切の事情を斟酌して処理運用をしなければならない事項になりますから,そこのところについては類似局面の規律を設けている従前の家事事件手続法の運用等を踏まえながら,個別の事案に向き合った裁判所に任せようという在り方がそこのところの規律の提案における④のお話であったものでありまして,そういうふうなことを思い起こしますと,確かに佐久間幹事がおっしゃられたように,大抵の場合は引換給付になるでしょうということはもっともなお話ですが,裏返して言いますと,限られた場面かもしれないですけれども,そうでない取扱いが妥当とされる場面もあるものでありますから,余りそこを規律の文言として書き切ってしまうということは慎んだ方がよいのではないかということで,本日このような提案を差し上げているところであります。それをめぐって,委員,幹事の間で有益な御議論も交わしていただいたところでありますから,それを踏まえて今後の検討を更に深めてまいるということにいたします。   お諮りしている共有の部分について,引き続き御意見を承ります。 ○佐久間幹事 3点ございまして,1点はまた文言というか表現の話で恐縮なんですけれども,12ページから13ページまでにあります(2)の③のところで,「裁判所は,①ウの異議の届出が①ウの期間を経過した後にされたときは,当該届出を却下しなければならない。」とあるのですけれども,①のイについては同じような定めは要らないのでしょうか。私が見落としているだけだったらおわびいたしますけれども,何かないように思えて,ないとしたら,必要なのではないかなと思いますので,ちょっとお教えいただければと思います。それから⑥にある②オというのは,①オの多分誤植だと思います。これは多分間違いないと思います。これが1点目です。   2点目は,8についてなんですけれども,8の②におきまして,共有物の持分が遺産に属するときに,共有物の分割は,その遺産の分割の手続でするのだという異議があったら,できませんということが定められているわけですけれども,その前提として,例えば相続人でない共有者が1人いまして,あと遺産共有の部分が持分であるというときに,7のルールの例えばイで,当該相続人でない共有者に全部所有権を取得させて,今で言う価格賠償にして,その金銭が遺産に属して共有だという扱いは排除されていないのか,この②のルールがあることによってそれも排除されるのか,私は排除されないということの方がいいのではないかと思っているのですけれども,そこを確認させていただきたく存じます。この②は飽くまで遺産共有の部分についての扱いであり,従来からそうだと思いますが,遺産共有に属しない持分を有している人は,共有物分割を請求できるはずだと思うのですね。それができるということは,今後も変わらないということでいいですかということと,そのときの共有物分割の内容としては7のとおりであり,この8の②のルールによってそこに制約がかかることはないということでよろしいですか。よろしくないのだったら,それはどういうことですかということを伺いたく存じます。   3点目は,これはちょっとここの提案の直接話ではないのですけれども,9の不明共有者の持分の取得と,10の持分の譲渡の許可の場合に,その取得とか持分の譲渡が実現したら登記することになりますよね。その登記の申請は,結論としては当該持分を取得した人が1人でできる,共有物全体を譲渡した場合は,その持分の譲渡の許可を得た人が代わりにと言っていいのかどうか分からないですけれども,不明者についての手続も多分やれるということになると思うのですが,そのことについては民法ではないと思うのですけれども,不動産登記法かもしれませんが,何か定めが要らないのでしょうか。要るか要らないか,あるいはもし要るとしたらどういうふうなことをお考えでしょうかということを3点目にお伺いします。ひょっとしたら実務上の扱いで処理しますということなのかもしれませんが。以上です。よろしくお願いします。 ○脇村関係官 ちょっと前後して8から先に順番でさせていただきますと,ちょっとすみません,先生の問題意識を私が的確に理解していない可能性があるのですけれども,おっしゃった点は,恐らくイエスなのだろう,変わらないということでいいのだろうと思っています。ただ,すみません,私は先生の問題意識がはっきり分からずに答えている可能性もなきにしもあらずなのですが,やりたかったことは,遺産共有持分のものについてはこうなりますということだけですので,それ以外のことについては特段触れていないですので,そういった意味で変わらないということだろうと思います。   あと9の上の方で,異議がなかった場合,却下しなければならないと書かなかった点なんですけれども,従前からあちらの方は,正に催告がなかった場合にどうするのだということをメインに議論をしていましたので,明確的に書かせていただいたというところです。一方で,持分取得なり譲渡についてはいろいろな手続が複雑に入り混じっておりまして,公告した後,供託してということで,いちいち全てについてちょっと書くのが難しかったというのが正直なところです。ただ,内容については,もちろん異議が出た場合には当然その要件として所有者不明ではないということになりますので,当然できないということになりますので,そこは書かなくてもいいのかなと。逆に言うと,元々のあちらの方を書かない方がいいという結論なのかもしれませんが,あちらは一応明確にした方がいいかなということで書いてあるだけですが,そういう意味ではちょっと若干技術的な話かなと思っています。   あと,6の2のオの話ですか,ちょっと確認した上で,また次回適切に答えさせてください。先生,9の(2)の⑥でよろしかったですか,御指摘いただいたのは。 ○佐久間幹事 そうです。②オってあるんですかね。 ○脇村関係官 そういう意味では,すみません,①なんですけれども,①オでして,すみません,ここは次回までにきちんときれいにさせていただきたいと思います。   最後,登記ですね,すみません。結論としては,もう先生がおっしゃったとおりでして,もう単独,あるいは共同申請するにしても,所在等不明共有者抜きでできるということを考えておりました。不動産登記法の手当てについて,この決定書き,裁判書きで明確に権限があることは証明されているので,特段手当てしなくていいのではないか,もちろん改正された場合に手当てしなかったとしても,その点についてはもろもろの方法によって周知しないといけないと思っていますけれども,手当てしないという方法もあるのではないかと。一方で,本当に手当てしなくていいのかということも考えないといけませんので,もう方向としてはそちらの方向ですが,手当てしないことも含めて現在検討中です。いずれにしても,そこは遺漏なく適切に対処していきたいと思っています。 ○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ,お続けください。 ○佐久間幹事 ありがとうございます。   8の②の共有物分割の話は,こうすべきだという意見があるわけではなくて--。いや,あるか。通常の共有者の共有物分割の請求が妨げられることは,それはあってはならないと思っていて,今お答えをそう頂いたのですけれども,かつ裁判所がどう分割するかというのは,遺産共有の方の側で,いや,これは共有持分として残してほしいという希望が例えばあり,それが理由があるというふうになると,7の②のイなんていう判決が出る裁判がされるということは,普通ないのだろうと思うのですけれども,そういう希望が仮になかったとしたら,どうなるのでしょうか。実際上は何を考えているかといいますと,遺産共有の状態で訳の分からないことになっているものについては,誰か1人にぽんと所有権を取得させることが,当該土地がそれ以降,きちんと利用されることになる道を開くことになると思っています。そうすると,7②イの方法も,差し支えのないときは排除されていないのですよねということを確認していただけるならば,今日じゃなくてもいいのですけれども,ちょっと整理されて,そうしていただくのがいいかなと思ったので発言をさせていただきました。そのときは金銭が共有,遺産共有のままですという,それでいいのかどうかもよく分かりませんけれども,なるのかなということで発言させていただきました。 ○山野目部会長 ありがとうございました。   脇村関係官からお答えを差し上げたように,ひとまず今日考えているところをお話ししましたけれども,佐久間幹事の御意見を踏まえて,なお整理をすることにいたします。   ほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 ありがとうございます。   今の佐久間先生と脇村さんの間でやり取りされたことに関して確認させていただきたいのですけれども,12ページから13ページの9の項目の(2)の③で,ウの場合に,期間徒過の場合の手当てが書かれていて,イについては書かれていないという点について御説明は,その場合には所在等不明共有者ということにならず,①の要件を欠くので,いずれにせよ(1)の①の裁判がされないというものと伺いました。   ただ,そうしますと,(2)の①のイで,一定の期間までにその旨の届出を,その所在等不明共有者がすることということですから,実は私だとか,実は私はここにいますというような場合には,しかし,一定の期間までという限定が掛かっておりますので,期間を超えた場合どうなるかという問題はあり,かつ(1)の④で,持分を取得したときは所在等不明共有者が請求することができるということですから,後に判明して請求するという事態もあり得るということで,一定の期間内に出てこなくても,後に登場したときは,この金銭調整でいくという考え方がとられているように思うのですけれども,そういう理解ではないのでしょうか。それで,(2)の③のウの方は,(1)の②で届出をしたときはできないということになっていて,届出はされたけれども,期間の要件を満たしていないので,そのときは届出がない形にするために書かれているのだと思いますので,したがって,①のイとは少し扱いが違うというのは分かるのですけれども,扱いが違うという内容が果たしてそういうことなのかということを改めて確認させてください。さらにはその関係で,(2)の②については登記簿上,氏名,名称が判明している共有者に対しては,登記簿上の住所又は事務所に宛てて通知を発するということになっているのですけれども,対象事項として,①のイは除くとなっています。ただ,所在等不明共有者の中には,およそ誰か分からないという場合のほか,誰かというのは名前は分かっているけれども,所在が分からないという場合があって,その場合には登記簿上から氏名や名称は分かります。そこに住所が,その登記簿上は明らかになっているときには,その通知をするとなっているときに,この所在だけが分からないという人に対しては通知しないということでいいのかどうか,一定期間経過後は駄目だということになるときには,①のイを除かないのではないかという気がしまして,一方でまた更に細かいことを言うと,②で①(イを除く。)ならば,対象者も限定しなければいけないのではないかということで,少し平仄を合わせる必要があるのかなと思っております。   それで,もうついでに申し上げてしまいますと,改めて平仄を合わせるように表現をお考えになるということですので,15ページの10の(2)の①について,ここでア,イ,エということで,ウとオが除かれているのですが,これはウを除く趣旨だというのは分かるのですけれども,オを除くと,次の④から⑥までの,⑥はオについての記述ではないかと思われるので,⑥も除くのかなと思います。全く誤解しているかもしれません。平仄は合っているのか,いや,このままでいいのか,考え直した方がいいのかということは改めて検討していただければと思うのですけれども,一定期間経過後にイの異議が出たときの扱いだけは,内実が違ってくるかと思いますので確認させていただければと思います。 ○脇村関係官 大変すみません,誤記の点はあると思いますので,もう一回そこは確認させていただきたいと思います。その上で,最後の点は恐らく中身のお話だと思うのですが,私としましては部会資料を作った趣旨としては,裁判で入れてきたケースについては,もうそれは実体法上の要件がないと言わざるを得ないのかなと思っていますし,一定期間,届出がなかったからといって,後で判明したのに,もうやはり持分移転するのだというのはさすがに難しいのかなと思っておりまして,そういったことを考えておりました。   もちろん,では,期間を区切るのは何でなのだという御指摘なのだろうと思いますが,やはりそこは早く届け出てくださいよというメッセージを出した方がいいのではないかと思っていまして,例えば失踪宣告なども,一定期間までに生存届出すべきことということで公告することになっています。ただ,失踪宣告も,恐らく届出期間を過ぎても,私,実はここにいますということが出てくれば,それは失踪宣告しないのだろうと思いますので,その期間を定めることと,実体要件との絡みは,そういった整理もあるのかなというふうに考えていたところです。   あと,登記簿上のものについて,そういった意味で,通知しなくていいかという点につきましては,いずれにしても,実体法上の要件の関係で,登記簿上の住所に住んでいないということは確実に調査をしないといけないと思っていますので,それは通知とか,そういった対象で記述しなくても,実体法上の要件として当然調査することになるだろうと思っていました。ただ,そうだとすると,この通知の共有者から所在等不明共有者を抜いた方がいいのではないかという御趣旨だと思いますので,ちょっと書き方は少し考えさせていただきたいと思います。   部会資料の趣旨としては,以上でございます。 ○山野目部会長 沖野委員,お続けになることがあればお話しください。 ○沖野委員 結構です。今のご説明で趣旨は分かりました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐久間幹事 今のことに反対ではないんですけれども,ちょっと戻って恐縮ですが,9ページの5の(2)の②も,私は先ほど,「イの異議の届出をしないときに」と書いた方がいいのではないかというふうに申し上げました。しかし,今の脇村さんの話ですと,イの一定の期間までにというのは,ここも実は意味がなくてというか,がちっとは定まった要件ではなくて,とにかく裁判が行われている間に異議というか,ここにいますとかといったことが出てきたら,もうこの裁判はしないということになるということでしょうか。平仄を合わせるとそうなると思う。それだったら,それでいいのですけれども,確認だけお願いします。 ○脇村関係官 先生おっしゃったのは,今,5ですかね。 ○佐久間幹事 5です。 ○脇村関係官 5の(2)のイだと思うのですけれども,ここについて,確かにどうしようかという問題はありまして,先ほど言いました,持分取得のケースとは若干意味合いが違ってくるのではないかという意識もありまして,持分の管理行為の特則については,期間までで,それはセットされるべきではないかという意見が,多分今までの議論からするとあるのかもと思っていましたので,私としてはそういう,すみません,明確に意識したのは今なのですけれども,ここについてまで,後で期間過ぎてまで言ってきていいんですというのはどうなのかということは思いました。ただ,それが表現できているのかという問題はあるんですけれども,ちょっと工夫できるかどうかは考えてみたいと思います。ただ,なかなか字で書けなさそうな気もするので,頭の整理としてやるのか,その意味でちょっと改めて整理はしていきたいと思います。 ○佐久間幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○山野目部会長 木村幹事,どうぞ。 ○木村(匡)幹事 ありがとうございます。   8の「相続財産に属する共有物の分割の特則」の規律の関係で,実務的な観点から3点ほどお伺いしたいと思います。   まず1点目ですが,共有物の帰すうについて,地裁の共有物分割と家裁の遺産分割の各判断に齟齬が生じてしまった場合の処理に関してどのように考えるかについて,教えていただければと思います。2点目として,相続開始から10年が経過したものの遺産分割手続において具体的相続分の主張が可能な場合で,共有物分割手続と遺産分割手続が併存している場合というのはどのような処理になっていくのかについて,教えていただけますでしょうか。   3点目として,そのようなケースで遺産共有部分を共有物分割訴訟の中で分割したが,当事者の一部が民法906条の2の同意をしなかった場合,共有物分割訴訟の結果が残余の遺産分割にどのような影響を与えるのかについてどのように考えるかにつきまして,教えていただければと思います。 ○脇村関係官 脇村でございます。ありがとうございます。   確か,この論点を取り上げた際にも御質問いただいていたところだと思いますので,ちょっとかいつまんで,今考えているところを説明させていただきますと,共有物分割の帰すうが,結論について齟齬が生じたケースがあると思います。   そういったケースについて,パターンとしては共有物分割が先にされて,例えば共有物分割で共有物の全部を相続人1人が全部取ってしまいますよみたいな判決をした後に,遺産分割で相続人の1人が,別の相続人が遺産持分を取ってしまいましたというような,そういった帰属先がずれてしまうケースはあると思います。恐らく実体法的な整理だと思うのですが,共有物分割で完全に持分が処理されて,それはもう遺産でなくなってしまったということですと,後者の審判はその限度で空振り,遺産分割はされない,遺産分割がないものについて遺産分割されたというのと同じ処理をされるのかなと思います。恐らく現行法でも,第三者が全部取ってしまって,遺産分割はそれを無視してやってしまったケースは同じようなことが起きるんだと思いますが,それと同じ処理かなと思います。   逆に遺産分割が先行したパターンですと,遺産分割で特定の人が全部取得したケースについて,かつ登記もされますと,本当はその人だけを相手を共有物分割すればよかったのを無視してやってしまったということで,そういった適格を間違ったケースはどうするんだとか,あるいはそもそも持分割合をずれてやってしまったので,恐らく審判自体がどうこうというよりは,その後の判決の適否が問題になってくるのかなと思います。すみません,先ほどのケースでいっても共有物先行でも判決の効果は影響ないと思います。その上で,登記がされていないケース,先に遺産分割されて登記されなかったケースは,恐らく共有物分割は一応登記基準でやるという判例がございますので,無視してやったのが有効に成立をして,ただ,あとは持分の帰すう自体は登記の先後で普通に決まるのかなと。ただ,事後処理は,遺産分割内部は,事後処理をきちんと不当利得等で処理してくださいということになるのかなと思います。   そういった意味で,前回も少し議論ありましたが,そういった齟齬を生じないようにしていくのは重要なことかなと思いますので,我々としても今後改正する際には,今までも同じような問題はあったので,情報共有は大事だったのですけれども,当事者にはきちんと適宜適切に裁判所に伝えてフィードバックできるようにしてほしいなと,当事者には思うということを周知していくのかなと思っています。   また10年経過して,具体的相続分の主張が可能なケースがございます。結局,きちんと異議を出してくれるのが一番大事なのですけれども,そういう意味で,異議を適切に出してやってくださいと。ただ,異議を無視してやってしまったケースは先ほどと同じ処理になりますので,いずれにしても異議を,具体的に主張したいのであれば,それは遺産分割しているので,これでやめてくださいということを当事者にきちんと言って,変なことが起きないように相応にやってくださいということかなと思います。   ただ,いずれにしても結果的にやってしまって,共有物分割をやって,その後,具体的相続分の算定するときどうするのだという問題は理論的にはあるのかなと思いますが,共有物分割は持分の交換の場合は一種の持分譲渡に近い発想ですので,そうしますと,結局何が起こっているかといいますと,相続人の1人が自己の持分を処分した場合と同様の状況が起きている。それについて,先般の相続法改正ですと906条の2で,いろいろな解釈がありますけれども,いずれにしても,全員の同意があれば組み込めるけれども,全員の同意がなければ駄目ですよという話が出てきます。そうすると,結果的に具体的相続分で取りはぐれるケースがあるということが言えますので,そういう意味で,今回そういったことも込み込みで,この異議の申出を入れておりますので,本当に具体的相続分がある,したいというときについては,できるだけ異議申出をしてくださいと。していないと,後で問題が起きますよということは伝えていきたいなと思っています。   そういう意味で,今回のスキーム全体について言いますと,やはりそもそも共有物分割をやるというときに遺産分割が併存しているケースがどれだけあるのかというのは若干ありますけれども,併存しているケースについて,別々にやるべきケースについてはきちんと異議を申出すべきですし,逆に申出しないケースについては,当該共有物についてはそちらで処理するという前提で組んでもらえばいいのではないかなと思います。そういった従前から起きていた問題とほぼ同じですけれども,この改正がされた際には,いずれにしてもそういった問題があるということは注意喚起していかないといけないなとは,改正の趣旨を説明する際には注意喚起していかないといけないなというふうには思っているところです。 ○山野目部会長 木村幹事,お続けください。 ○木村(匡)幹事 ありがとうございました。確認できましたので結構です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○今川委員 今の木村幹事の三つ目の御質問についての関連なんですが,8の共有物分割の特則だけではなくて,9の不明共有者の持分取得,それから10の不明共有者の持分譲渡の制度について,後で出てくる第4相続の3の遺産分割に関する見直しで,10年経過しても具体的相続分を主張することができる場合というのがあって,前の部会では,その場合には,共有物分割の特則とか持分取得,持分譲渡の制度を何とかストップさせなければならないということも議論されたと思いますが,ただ,今回,8・9・10のそれぞれの規定の中には単に10年の経過としか書かれていないので,遺産分割の見直しとの関係がちょっと読み取りにくいので,もう少し読み取りやすいような規定ができないのかということであります。   それと,今,脇村関係官が異議について述べられましたが,今回,共有物の分割の特則と,持分取得について,他の共有者が異議を申し出ることができるという制度が明確に入りました。持分譲渡については,異議の制度がなくても,相続人全員が持分譲渡することが停止条件となっていますので,10年経過しても具体的相続分による遺産分割協議を行うことができる事由を有する共有者は,自分が持分譲渡しなければ,持分譲渡の裁判の効果がなくなるので,それはそれでいいと思います。しかし,共有物分割の特則と持分取得について異議を申し立てるためには,遺産分割の請求をした上で異議を申し立てるというのが前提になっていると思います。そうすると,遺産分割の請求することができない事由のある相続人に対して,遺産分割を請求してから異議を申し立てろということになりますが,それをどのように理解していいのかというのが分かりにくかったので,御説明いただければと思います。 ○脇村関係官 ありがとうございます。   そもそもやむを得ない事由で一番想定していましたのは,死んだことも知らないとか,そういった客観的状況を介してできないケースを考えています。そういった意味で,通知まで来た上でできないケースが本当にあるのかと言われると,多分ないのだろうと思います。そういった意味で,やむを得ない事情があるケースについて,確かに結局気づいてしまって,やらなければということはあると思いますので,この共有物分割の特則なり,この9ページの持分の取得,今回の今川委員との議論を踏まえて,遺産分割請求をして異議で止められるという制度を同じように入れさせていただきましたので,9の②でですね。そういう意味で,共有物分割の特則,あるいは持分の取得については異議によって止められる制度を入れていますので,具体的相続分をやりたいというケースについては,これである程度カバーできるのだろうと思います。もちろん残部がありますので,そっちでやればいいやということでしないというのも,ほかの遺産が残っているので,いいやということもあるとは思いますけれども,手続としては,確かに10年にしていますけれども,そういった事情があるケースについて,通知をした上で異議申出することによってカバーできるのではないかなというふうには理解しています。 ○山野目部会長 今川委員,よろしいですか。 ○今川委員 はい。 ○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。   そうしましたならば,部会資料51の「第2 共有等」でお諮りしている諸事項については,本日,委員,幹事からお出しいただいた指摘を踏まえて議事の整理をすることにいたします。   本日は多くの委員,幹事から考え方の整理や字句の推敲について有益な御指摘を頂きました。字句の推敲の関係でもう一つ付け加えておきますと,持分に応じて按分となっているところと,持分の割合で按分してとなっているところがあったりいたしますから,そういった点も含めてもう一度見直しをするということにいたします。どうもありがとうございました。   引き続きまして,部会資料51の17ページから後ろ,「第4 相続等」についてお諮りをいたします。念のため申し添えますと,第2の「共有等」をお願いしたのに続いて,第4の相続等の審議のお願いになります。番号として第3が飛んでおりますけれども,第3の内容は次回の部会でお諮りするということを予定しております。   そうしましたらならば,第4の「相続等」の場所,すなわち1の「相続財産等の管理」,2の「相続財産の清算」,それから「3 遺産分割に関する見直し」,これらの事項について,御随意に御意見をお出しくださるようにお願いいたします。 ○今川委員 1の(2)の「相続の放棄をした者による管理」について,まず確認ですけれども,放棄者の保存義務は,部会資料45の補足説明にあったように,最小限の義務であり,財産を滅失させ,又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味するという理解でよろしいのですねという確認です。   それを前提としますと,前の資料45では保存すれば足りるという規律の仕方だったのですけれども,今回は保存しなければならないというふうに表現も変わっていますので,この規律の仕方では,この財産を滅失させ,又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味するというのはなかなか読み取りにくいのではないかという意見があって,もう少しここは工夫ができないのですかという要望がありました。 ○山野目部会長 大谷幹事から何か御説明なさることはありますか。 ○大谷幹事 ここは書いておりますとおり,前回にお出ししたものと趣旨として変えるものではございません。法制的な観点から表現を改めたということにとどまるものでございまして,趣旨としては同じでございます。 ○山野目部会長 民法940条の改正は,何か後の世代に対して相続を放棄したとしても,なお重い責任は残りますよという誤解を招きかねない,そういう誤ったメッセージを含み得る現行の法文を改めて,親の世代の財産を引き継ぐ次の世代に安心してもらおうという,そのような解決を目指して部会で審議をしてまいりました。その気持ちを心の上で反映しようとして,自己の財産における同一の注意をもって,その財産を保存することで足りるという優しい気持ちの表れた表現にしていたものでありまして,その趣旨が今後も維持されるか読み取りにくいというお話です。読み取っていただきたいと望みます。心は変わりません。ただ,大谷幹事が説明したように,この種のことを扱っている従前法制のほかの場所は「しなければならない」となっておりますから,法制上のテクニカルな制約からそのように平仄を揃えますけれども,ただいま正に今川委員と大谷幹事との間で従前の皆様の御論議の趣旨を変えるものではないということを確認し,このような経過が議事録にとどめられること自体が何よりの成果であって,今後この法制の意味するところを日本の将来の世代に受け止めていただきたいと望むものであります。   中村委員,お待たせをいたしました。 ○中村委員 ありがとうございます。   日弁連でのワーキンググループでの意見を御報告いたしますと,まず1項の「相続財産の管理」に関しては賛成多数でした。今,今川委員から御指摘があり,部会長からも御説明のありました「保存しなければならない」という文言につき,「保存すれば足りる」の方がよいのではないかという点についても,やはり同じような意見が出ておりました。   それから,2項の「相続財産の清算」に関しましては賛成多数でした。   3項の「遺産分割に関する見直し」ですけれども,(1)の期間経過後の遺産分割に関する相続分に関して,相続開始から10年経過後に903条以下が適用されなくなることについて,引き続き反対意見はあるものの,おおむね賛成が多かったということです。   それから,(2)につきましては賛成多数でした。なお,10年経過しないときでも取下げには相手方の同意を要することにしてはどうかという意見もありました。   (3)の分割の禁止についても賛成多数でした。 ○山野目部会長 弁護士会の御意見をお取りまとめいただきまして,ありがとうございました。   引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○佐久間幹事 言葉遣いだけなんですけれども,1点は屁理屈みたいだなって自分で分かっていて言うのですけれども,17ページの1の「相続財産の管理」について,①はただし書がございますよね。ただし書の「又は」の前までの二つは,これって単独相続人によって単純承認がされたり,共同相続でも遺産分割が終わったりしたら,もう相続財産ではないのではないのか,というふうな気がするのですけれども。ほかのところの相続財産と意味が違うような気がし,何かちょっとこの相続財産の使い方は一緒なのかな,と疑問に思いました。これが1点です。でも,最初に申し上げたように屁理屈みたいなものだというのは自分でも承知しておりますので,無視していただいても結構です。   2点目は,18ページの(2)の「相続の放棄をした者による管理」なのですけれども,いつまで保存の義務を負うかについて,相続人か,952条1項の相続財産の清算人に引き渡すまで,となっているんですよね,前回,相続財産の管理人について,いろんなものが混じっていてややこしいので,ネーミングを考えてくださいとお願いしまして,今回,相続財産の清算人と改めてくださってありがとうございました。お礼を申し上げた上で,相続財産の清算人と区別される相続財産の管理人が選ばれたときに,その人に渡すことですとか,限定承認のときの清算人に渡すことは,保存義務の終期から意図的に除かれているのでしょうか。除かれているとすると,どうしてかを教えていただきたく存じます。よろしくお願いします。 ○山野目部会長 佐久間幹事が前の方で御指摘いただいたことは,お話を確認すると,第4,1(1)①のただし書に三つ挙がっているもののうち,最初の二つですよね,三つ目はいいですよね。 ○佐久間幹事 三つ目は,はい。 ○山野目部会長 そうですね。三つ目は,いまだ相続財産であると見ることができるのに対して,三つ並んでいるうちの前の二つは,その状態になったものをもはや相続財産とは言わないものではないか。そうであるとすると,本文の論理的内容の一部を否定する役割を担わせるただし書に掲げることは,論理としておかしいものではないかという点は,お話を伺って,なるほど,考えなければいけないなというふうに受け止めますから,ここの文言をどうすればよいかということは引き続き事務当局において法制的に検討することにいたします。   それから,18ページの(2)のところの限定承認があったときや,相続財産の管理の制度が発動されたときの清算人ではなくて管理人に引き渡すということによって義務を免れるということがあるかというお尋ねについて,これは事務当局の方で何か考えがないかということをお尋ねしてみましょう。 ○脇村関係官 ありがとうございます。   ここにつきましては,恐らく相続人,先生がおっしゃる財産管理人とか清算人,相続人がいることを前提に,それに別に付けられているケースなので,代理権といいますか,権限はございますので,相続人に引き渡したと同視できるだろうということであえて書かなかったと。代理人を全部書いていたら切りがないということで書いておりません。   一方で,952のケースについてはいかんせんいませんので,そういった意味ではいない,法人成りしていますので,相続人と存置する前提で相続財産法人で書くことも考えたのですけれども,さすがに相続財産法人は現実に存在するわけではないので,代表者である清算人にしています。もちろん相続人不明のケースであって相続財産管理人がいるではないかということなのですけれども,そういう意味で,相続財産法人で書くよりはこっちの方が分かりやすいということを優先して書いておりますので,先生の御指摘いただいたケースはもちろん免除されることで考えているところでございます。 ○山野目部会長 この「又は」の前の「相続人」というところで読み取るということは,一つ読み方としてあるのでしょうね。相続人が本来管理すべきものを,それに代わって選任された管理人に引き渡すとか,あるいは限定承認をしたときには,相続人が相続放棄をしていない限定承認が全員でしますから,それらの者に代わって事務を行う者に渡したということは相続人に渡したことと同じであると理解して,余りそれ以上くどくどと言葉を並べないという発想であるかもしれません。   佐久間幹事におかれては,いかがでしょうか。 ○佐久間幹事 そういう整理をされるのであれば別に構いません。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 どうもすみません。先ほどちょっと音声が途切れてしまいましたので,議論を十分に拝聴できていないのかもしれないのですけれども,18ページの(2)のところの「保存しなければならない」という文言につきまして,弁護士会等の方から,何かきついのではないかという話が出て,それに対して山野目さんが一定のお返事をされたのですが,山野目さんのお返事の内容が本当にそうなのかなという気が若干しています。自己の財産と同一の注意をもって保存すれば足りるという言い方は,その前の問題として,特定物の引渡しなので,善良な管理者の注意をもって保存しなければならないというデフォルトのルールがあって,それを緩和するからなのであり,緩和するというときには「保存すれば足りる」になるはずですよね。それに対して,ここで「保存しなければならない」というのは,相続を放棄した人はそのような引渡し義務のようなものも負うとは限らないというか,放っておいて逃げたっていいのではないかという感じがしまして,そうだとすると,そもそも特定物の引渡義務に関する善良な管理者の注意義務というのがデフォルトとして生じないので,ここは「保存しなければならない」というふうに書かなければならないということなのではないかなという気がしております。「すれば足りる」というのと,「しなければならない」というのは,放棄の後の相続人の地位とか義務というのをどのように捉えるのかということと関係している事柄ではないかということを思います。その後いろいろな人の見解があったにもかかわらず,音声が途切れて聞こえなかったものですから,ひょっとしてとんでもないことを言っているのかもしれませんが,一言申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 音声が途切れたかもしれないということから何か道垣内委員が議論を追い掛けていないというような御心配は今のお話を伺っているとなかったものではないかと感じます。   また,道垣内委員が内容としてお話しいただいたことはごもっともでありまして,仰せのようなことを考えてまいりたいというふうに私も同感でございます。趣旨は,従前どおり「足りる」ということでしていくことができればよろしいというふうに感ずるものでありますから,これはいかんせん,先ほども申し上げましたように,他の箇所における法制上の扱いをにらんだ上で,当面このような提案をさせていただいているものでありますから,今川委員や中村委員,そして今,道垣内委員におっしゃっていただいたような方向で,何か文言について再調整がかなうようであるならば挑みたいというふうにも感ずるものでございますから,おっしゃっていただいて有り難く感じます。   道垣内委員,お続けください。 ○道垣内委員 すみませんが,結論だけは違いまして,私は保存「しなければならない」でいいのではないかと思っています。そんな積極的な特定物の引渡義務を負っているという当事者とは異なるのではないかと思っているということを,念のために付け加えておきます。 ○山野目部会長 おっしゃることの意味が分かりました。 ○道垣内委員 冷たそうなんです。味方のような顔をして,本当は冷たい人間だったんですね。 ○山野目部会長 冷たいというよりも冷静に議論をしていただきました。ありがとうございます。   引き続きいかがでしょうか。 ○中田委員 とても細かいことなんですけれども,先ほど中村委員の御発言されたことと関係するのですが,遺産分割の調停又は審判の申立ての取下げを10年経過前にした場合についてです。10年経過の直前に申立てを取り下げることは可能だと思うのですが,その場合には,場合によっては3(1)②のやむを得ない事由に該当することもあると理解してよろしいでしょうか。 ○脇村関係官 脇村でございます。   先生に御指摘いただきましたとおり,そういったケースについては(1)②でカバーする前提で,逆に言いますと,それ以外のものは置かなかったということでございます。 ○山野目部会長 中田委員,いかがでしょうか。 ○中田委員 ありがとうございます。   やむを得ない事由の理解にも資することでございますので,確認させていただきました。今の御発言でよく分かりました。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○木村(匡)幹事 ありがとうございます。   3の「遺産分割に関する見直し」の(1)のやむを得ない事由について,今お話のあったところであり,以前の部会でも質問させていただいているのですけれども,2点ほど質問させていただきたいと思います。やむを得ない事由として,病気療養中であるとか,海外勤務を命じられて日本にいなかった等の属人的な事情が主張されることも予想されるわけなんですけれども,このような事情がやむを得ない事由に該当するかについてはどのように考えるのでしょうか。   もう1点ですけれども,遺産分割期間の経過後に相続人となった場合に,やむを得ない事由の有無についてどのように考えるのかということが2点目でございます。よろしくお願いいたします。 ○脇村関係官 脇村です。ありがとうございます。   前回も御指摘いただいたところですのであれですけれども,まず,病気療養に関して言いますと,従前から,前回も少し言ったことかもしれませんけれども,消滅時効の起算点の解釈が一つ参考になるのではないかなと思っておりまして,あそこの権利を行使できるときの解釈について,通常はそういった病気などは入ってこないだろうという,法律上の障害がないケースじゃないと基本的に駄目ではないかという議論があるものと承知しています。もちろん最高裁の判例によりますと,法律上の障害がない場合,絶対救済されないかといいますと,過払金などの議論もありますとおり,客観的な状況から行使が期待できないようなケースについては起算点をずらしているという解釈がされているものと承知していますので,ここについても,そういったものを参考に,単なる海外居住とかだけだと難しいかもしれませんけれども,その他の事情を踏まえて真にやむを得ないと,最終的にはケース・バイ・ケースかもしれませんけれども,そういったことで判断していくのかな,債権の消滅時効などが一つ,起算点などが参考になるのかなというふうには思っていたところです。   一方,10年経過後に相続人になった人も,前回確か御指摘いただいていたのでちょっと考えたのですけれども,新たに相続人になった人も2パターンいるのかなと思っていまして,一つは本当に新しくなった人というのですか,相続放棄がされて新しくなった人,新しく相続人になった人などは,その10年前にすることは不可能でしたので,やむを得ない事由はあるのだろうなというふうに考えています。あと,前回死後認知の話もあって,私も死後認知の話をさせていただいたのですが,死後認知は死亡して3年以内にしないといけませんので,余り実際にはこの問題は起きないのかなというふうに今は考えています。   あと,相続人から引き継いだ人というのですか,再転相続人といいますか,10年たってから相続人が亡くなって相続人になった人もあると思うのですけれども,この人については基本的に包括的承継,前者の地位を引き継いでいますので,一体として考えるのかなと今は思っておりまして,その前者についてやむを得ない事由があれば,それが消滅しない限りは使えますし,逆に前者になければ,自分が当時できなかったからといって,そういうのは難しいのではないかなというふうには理解していたところです。 ○山野目部会長 木村幹事,よろしいですか。 ○木村(匡)幹事 ありがとうございます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○中田委員 ただいまの脇村関係官の御説明については,確か前回も同趣旨の御説明があったかと思います。消滅時効の起算点における権利を行使し得るときについて,法律上の障害がないことということを前提としながら,最高裁は供託金取戻請求権であるとか,今おっしゃった過払金の問題ですとか,あと二,三の問題について,それを緩和していることがあることは承知しております。   ただ,ここの問題状況はやはりちょっと違っておりまして,何か似ているなということは分かるのですけれども,必ずしも法律上の障害があることが原則で,それを例外的に緩和するというのでは,ここはないのではないかなというふうに考えております。脇村関係官の御説明も似ているという程度のことで,必ずしも同じに解釈すべきことにはならないのではないかというふうに私は思っております。 ○山野目部会長 脇村関係官におかれましては再度の御説明をお願いして,似ているくらいの話です,どうぞおっしゃってください。 ○脇村関係官 ありがとうございます。   先生おっしゃったとおり,全く一緒だというつもりは当然ございません。更に言えば,時効の停止などのような,そういった状況なども加味してここは考えないといけないケースだと思いますので,そういう意味で参考という言い方を先ほどさせていただいたかもしれませんけれども,似ている,参考,そういったことかなと。結局は,最終的に事案ごとに,この事案は救済しないといけないと,客観的な状況からして,それはそうだよねと言えるかどうかに関わってくるのだろうとは思っています。 ○山野目部会長 木村幹事のお言葉の中にあった属人的かどうかという概念整理の指標,それから脇村関係官が従来,この場で説明してきたときに用いている時効の起算点において論議される法律上の障害がなくなったかどうかという,この指標など,いずれも参考になりますが,それらが相互にぴったり重なるものではないということは既に御指摘があったところであります。脇村関係官が最後に述べたことですけれども,どうしても最後には出てきたその事案の様々な事情を見て決めざるを得ないということでありましょう。しかし,そうはいっても,それは結局一切の事情が勘案されるのですというふうに述べただけでは茫漠とした話になりますから,時効の起算点のお話を参考にするという側面はあるかもしれないし,しかし,中田委員から御注意があったように,全く同じになる議論ではないということは注意してくださいということもごもっともなお話であって,要するところ,そういうお話ではないかという今の委員,幹事の意見交換であるというふうに受け止めます。御発言いただいた皆さん,ありがとうございます。 ○沖野委員 これも非常に細かくて申し訳ないのですけれども,二つ,中身を教えていただきたいことがあります。   一つ目が,17ページの「相続財産等の管理」のところで,(1)の①のただし書のところなのですけれども,この後で,相続財産の清算人という表現に改められる場合は,相続財産法人のときと限定承認のときが挙がっているのですけれども,こちらの1の(1)の①のただし書では,限定承認の方は挙がっておりません。これは趣旨としては,936条で相続財産の清算人が選ばれているときも,そちらの方は相続人から選ばれ,かつ必ず複数であれば選ぶということになっているので,それが選ばれていたとしても,保存のために並行して,この管理人を立てることはできると,そういう理解でよろしいでしょうか。   それから,もう一つは話が違いまして,21ページの(2)の調停・審判の申立ての取下げで,10年経過後は相手方の同意が必要というのは,10年経過してしまうと改めて申立てをして,具体的相続分による規律が働かないということが趣旨だと理解していたのですけれども,そうしたときに,そもそもの申立てが10年を経過した後にされていたというような場合であれば,それは,これは妥当しないと,そういう理解でよろしいでしょうか。以上は,中身についてです。   そのほか形式の点で,条文を引いてあるところが,項まで引いてあるところとそうではないところがあるのですけれども,幾つか,例えば19ページの(1)ですと,936条1項,952条になっていますが,936条1項を立てるなら952条も1項かなとか,(2)について「952条2項及び957条」となっていますが,957条は1項だけかなとか,思うところもありますので,大変細かくて恐縮なのですが,今後確認していただければと思います。 ○山野目部会長 沖野委員から文言の御注意を含めると3点ありました。   最後のところは承って推敲することにいたしまして,前の2点について事務当局から説明を差し上げます。 ○脇村関係官 まず,限定承認の件なのですけれども,ここは実は作るときに悩みまして,この926条と限定承認のこの関係などをどこまで明確にできるのかやや自信がなかったこともあり,明示的には書かなかったというのが正直なところです。ちょっと先生の御指摘を踏まえてどこまで書き得るのか,なかなか限定承認の記述なども,正直言いまして,この解釈論がはっきりしていないところとはっきりしているところが若干自信がないところがございますので,少し精査をさせていただきたいと思います。   取下げの件なんですが,おっしゃるとおり,もう10年たっているやつなので,元々の趣旨からしたら要らないのではないかという御趣旨だと思うのですが,形式的なところで,ここは10年過ぎたものについては一律同意を付けさせていただいています。その趣旨は,結局,やむを得ない事由があったケースの判断が,やむを得ない事由があって10年を超してしたケースについて,それについてはさすがに同意が要るのではないかという気がしましたので,そこだけ,やむを得ない事由があったケースだけ同意というようなことが規律として書きづらかったというのが正直なところです。逆に言うと,取り下げるなら同意をとってくださいということで,若干やりすぎ感はあるかもしれませんけれども,必要なところをカバーするためにやむを得ないかなというふうに考えているところでございます。 ○山野目部会長 限定承認のところは,脇村関係官が述べたように従来の解釈理解がはっきりしていないという側面もありましょうけれども,従前,部会で議論があったところを思い起こしますと,限定承認の場合において,清算の任に与る人間を相続人の中から選ぶという規律自体を根こそぎ見直すならばともかく,あのルール自体はそれなりに意味があるから今は手を付けないという前提でいくと,相続人の中から選ばれたその方が,必ずしも法律的な素養や財産管理についての知識,経験を有する者ではないですから,それとは別に清算人を選任し,弁護士であるとか司法書士を選任するというような運用の仕方を可能にするということには,それとしての意義があるという議論がされてきたものであるかもしれません。そのようなことも引き続きの検討の中で思い起こし,事務当局において検討していただければ有り難いと感じます。 ○大谷幹事 今の点,補足をいたしますけれども,元々今でも936条の3項で926条が準用されていて,これが保存のためだけの管理人なのか,清算のための管理人でもあるのかというところには,従来から争いがあったというふうに理解をしておりますけれども,この新しい規律の下でも,限定承認がされて,共同相続人がいて,その中の1人が清算人に選ばれたという場合であっても,現行法と同じように,少なくとも保存のための管理人の選任は可能であるということをここで書こうとしていたと。それは前回の部会資料にも確かそのようなことを書いていたと思いますけれども,そういう理解でございます。 ○山野目部会長 沖野委員において,お続けになることがあればお話しください。 ○沖野委員 ありがとうございます。   第1点目については,きちんとこれまでの議論や資料をフォローをしていなくて申し訳ありませんでした。   あとの取下げの方は,例えばといいますか,(1)柱書き本文の場合というような形で場面を限定するということもあり得るのかなと思ってはおりましたけれども,そういうことも思ったということだけ付言させていただきます。 ○山野目部会長 どうもありがとうございます。   なお,沖野委員からは,19ページのところで,条の引用で止めているところと項まで挙げているところとが,必ずしも整理されていないのではないかという御指摘を頂きましたから,そこも注意をして整理をしてみることにいたします。   なお,19ページの2の(2)の,見出しで言うと「民法952条以下の清算手続の合理化」のところは,最後のところが958条を削るものとするとなっている個所は,958条を削除するのでしょうか。これは番号が動いてしまうような気もいたします。ただしそれと同時に,従来の法制審議会の答申において,法制上は削除にするか削るにするか区別を要する個所において,必ずしもそれに即応して記してこなかった経験もあったような記憶もありますから,答申の書き方と法制上の表現の従前の例を確かめた上で,適切に処置していただければ有り難いと考えます。   引き続きお話を承ります。いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,部会資料51について,大きく三つの柱でお諮りした事項,「相隣関係」,「共有等」,それから「相続等」についてということでお諮りした諸問題について,委員,幹事から本日は熱心な御議論を頂いて,たくさんの有益なお話を頂戴いたしましたから,これらを更に整理をするということにいたします。   部会資料51について,本日予定している審議をここまでといたします。   次回の会議等について,事務当局から案内を差し上げます。 ○大谷幹事 次回の議事日程でございますが,来月,12月1日火曜日が次回になります。また同じように午後1時から,この法務省大会議室で開催させていただきたいと思います。   テーマといたしましては,要綱案のたたき台ということで,民法関係の残りの部分を次回にお示しをして,御審議を頂きたいと思っております。今回同様に終了の時刻について定めませんけれども,その御審議が終わった時点で閉会とさせていただく見込みでございます。 ○山野目部会長 次回の日時,会場,予定されている審議事項について御案内を差し上げました。   この際,部会の運営について,お尋ねや御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。   よろしゅうございましょうか。   それでは,本日も熱心な御審議を頂きまして誠にありがとうございました。これをもちまして,民法・不動産登記法部会の第21回会議をお開きといたします。   どうもありがとうございました。 -了-