法制審議会 仲裁法制部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和2年12月18日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時11分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,所定の時刻になりましたので,法制審議会仲裁法制部会第3回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   本日は,衣斐幹事が御欠席と伺っております。また,有田委員,道垣内委員,山田委員,吉岡幹事がウェブ会議で参加されると伺っております。ウェブで御参加の皆さん,もし突然聞こえなくなったりしたら,適宜声を上げて御連絡を頂ければと思います。   それでは,本日の審議に入ります前に,配付資料について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。   御説明いたします。   まず,本日の会議に際しまして,事前配付資料として,部会資料3-1と3-2,仲裁法等の改正に関する論点の検討(3),(4)と題する資料をお送りさせていただきました。この内容につきましては,後ほど説明をさせていただきます。   また,第1回の会議に際して配付させていただきました参考資料1-2,シンガポール条約の規律に関するものですけれども,こちらを再度机上に配付させていただきました。なお,第1回会議でお配りした資料に若干の誤記等がございましたので,本日はその誤記を訂正したものをお配りしております。本日の議論におきましても,シンガポール条約の規律を参照する機会が多いと思いますので,その際は,適宜こちらを御覧いただければと思います。 ○山本部会長 それでは,早速本日の審議に入りたいと思います。   本日は,調停に関する各論とその他の論点につきまして,一読目の検討をしたいと思います。   まずは,部会資料3-1ですが,このうち,1から4の辺りまでが一まとまりと思われますので,この各論点について取り上げたいと思います。   まず,事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは,鈴木から説明をさせていただきます。   まず,部会資料3-1では,調停による和解合意に対する執行力の付与について取り上げております。   第1回の会議において,近時シンガポール条約が発効したことに照らし,我が国においても同条約を締結する可能性を見据え,同条約の規律との整合性に配慮して,国内法制を整備する必要があるとの考え方が示されました。部会資料3-1は,このような考え方について,大きな異論はなかったという理解を下に作成しております。   資料では,基本的には,シンガポール条約の規律を参考に,国際商事の分野における和解合意に対し執行力を付与するための規律を提案しつつ,さらに,その対象を国際商事以外の分野にも広げることができるかという検討をしております。検討に当たっては,対象となる調停の分野ごとの特性に着目し,具体的にどのような要件や手続を設ければ,ADR法制定時から議論されてきた弊害を取り除くことができるのかという観点からの検討を試みております。   まず,本文1では調停の定義に関する規律を提案しております。ここでは,大きく二つの論点があると考えており,第一に前提となる紛争の定義,第二に調停人の資格等について検討をしております。   紛争の定義については,シンガポール条約,調停モデル法や仲裁法等の国内法の規律を参考にしつつ,一定の法律関係に関する民事の紛争が存在することを要件とする規律を提案しております。   また,本文1では,調停人の資格等について,シンガポール条約の規律に倣い,何ら制限を設けないことを提案しております。もっとも,シンガポール条約は,その適用対象となる和解合意を国際商事の分野に限定していますが,我が国の国内法において,執行力付与の対象となる和解合意をシンガポール条約より広げるのであれば,その広げた分野について,当該分野における紛争の特性等を踏まえた検討が必要であるとの考え方もあろうかと思われますので,皆様の御意見をお聞かせいただければ幸いです。   次に,本文2では,国際性に関する規律について,甲案と乙案を提案しております。   甲案は,シンガポール条約の規律を参考に,執行力を付与する対象となる和解合意について,国際的な性質を有するものに限定する規律を提案するものです。一方,乙案は,そのような限定をしない規律を提案するものです。国際性の要件を設けるか否かについては,様々な考え方があると思われますので,皆様から広く御意見を頂けると幸いです。   また,仮に国際性の要件を設けるとした場合には,その規律の内容についても検討する必要があると考えております。甲案では,国際性の要件について,シンガポール条約と同様の規律を提案しておりますが,この点についても御意見をお聞かせください。   本文3では,執行力を付与する対象となる和解合意の範囲に関し,消費者紛争,個別労働関係紛争,家事紛争に関する和解合意をその対象から除外する規律を提案しております。   シンガポール条約は,第1条第1項で,商事紛争を適用の対象とすることを規定していますが,具体的な規律の在り方としては,先ほど述べた三つの類型の紛争を適用除外とする規律を設け,商事の具体的な定義については,何ら規律を設けていません。そこで,本文3では,消費者紛争,個別労働関係紛争,家事紛争を除外する形で,言わば,裏から商事性の要件を規律するとの提案をしております。   国内法制において,シンガポール条約と同様,これら三つの類型の紛争を執行力付与の対象から除外する規律を設けることが適当か否かという点についても,様々な御意見があるかと存じますので,皆様から広く御意見を頂けると幸いです。   本文4では,執行受諾文言に関する規律を設けることを提案しております。   ADR法制定時より執行力付与に消極的な立場から,執行力の存在により当事者が萎縮し,ADRの機能を害するとの意見が示されていました。本文4は,執行力の付与を当事者の明示的かつ積極的な意思に係らしめることを提案するもので,このような懸念を一定程度排除できるのではないかと考えております。   もっとも,この点につき,シンガポール条約ではオプトインの留保を宣言できるとの規律が設けられているだけで,執行受諾文言に関する規律としては設けられていません。執行受諾文言に関する規律もオプトイン留保の規律も,執行力の付与を当事者の選択に係らしめるという点で,その本質を同じくするものであるとは考えられますが,本文4の規律とシンガポール条約の規律との関係が問題となり得ると考えております。   以上の点につきまして,個々の論点にとどまらず,大局的な観点から制度の在り方に関しても,皆様から御意見を頂きたいと思います。   私からの説明は以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,今御説明がありました幾つかの論点につきまして,御意見,御質問等を頂きたいと思います。   なお,これら論点につきましては,恐らくかなり様々な御意見があろうかと思われますけれども,本日は一読ということですので,できるだけ多くの委員,幹事から御意見を頂戴して,当部会における意見の分布の状況等を把握したいという事務当局の御要望もございますので,決して発言を制約する趣旨ではございませんけれども,それぞれの委員,幹事の御発言におきまして,御留意をいただければ幸いです。   それでは,どなたからでも結構ですので,お願いいたします。 ○原田委員 原田でございます。   まず,3-1のところですけれども,第1回の会合で述べましたように,企業としましては,調停による和解について執行力が与えられないとすれば,企業間の紛争における解決手段としてはなかなか使いづらいところでございます。特に,国際調停に関しては,現状,和解合意に執行力を付与する手段に乏しいという実情がございますので,執行力を付与することが適当と考えております。他方,執行力を付与する調停の範囲をどこまで広げるべきかということですけれども,こちらにつきましては,専門家の方々の御意見も踏まえて,引き続き検討してまいりたいと思っております。日本における国際仲裁,調停の活性化の観点から,スピード感を持って法整備を進めることがまず重要かと思っております。   もう一つ,3-1の2の国際性について,少しコメントさせていただきます。甲案は,当事者が互いに異なる国に営業所を有するときなどに,調停による和解合意に執行力を付与する案ですけれども,この文言は国を前提としていることで,日本政府が承認していない地域が対象外になってしまうとことはないだろうかと思っております。例えば,台湾ということになりますと,日本企業とのつながりも深く,台湾企業との国際調停も想定されますので,執行力の付与の対象から漏れてしまうことがないように,文言の工夫を御検討いただければと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 古田でございます。   国際性について,意見と質問がございます。   調停による和解合意に執行力を付与することの正当化根拠が,当事者の執行に服する意思にあるとすると,その点を国際調停なのか国内調停なのかで区別する必然性はないと思います。,しかし,他方,実務上の必要性ですとか弊害のおそれという観点から,差し当たり国際調停に限って執行力を付与するという立法政策はあり得ると思います。   その場合には,国際調停の定義が問題となります。今回の部会資料では,シンガポール条約の定義を使っておられると思うのですが,ちょっと狭いんではないかなという印象を持っております。例えば,先般改正されました外弁法で,国際調停の定義が設けられております。そこでは,当該当事者自身が外国に事務所,住所を有する場合だけではなくて,その親会社が外国会社であるような場合も入っており,あるいは,実体準拠法が外国法である場合も国際調停に入っております。そのような国際調停事件については,外国弁護士であっても代理ができるという制度に現在はなっています。そうしますと,ビジネス界や当事者側の期待からしますと,外弁法との関係では外国弁護士が代理をできる国際調停事件なのに,執行力の観点では国際調停事件ではないというのは,ちょっと違和感があるのではないかと思います。したがって,国際調停の定義はもう少し広げる方向で検討すべきではないかなと思います。これが意見でございます。   次に質問が1点あるのですけれども,部会資料の4ページでは,シンガポール条約の定義を用いて,異なる国に営業所を有するときという記載になっております。これは和解契約の当事者が法人ないし事業者ということを前提にしているように見えます。他方,部会資料7ページの商事性に関する規律では,消費者と事業者との間の民事上の紛争は除外されていますけれども,例えば,事業者でない私人間の紛争は除外をされていないので,そういったものは商事性の規律の観点からは除外されないことになると思います。だとすると,部会資料4ページの国際性に関する定義において営業所という文言を使っておられる趣旨は何か。あえて住所を除外する趣旨なのかどうか。もしそうでないとすれば,ここも外弁法に合わせて,住所又は営業所ですとか,あるいは住所又は事業所という文言の方が適切ではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   2点目は一応御質問ということですかね。 ○福田幹事 では,福田からお答えいたします。   今,古田委員御指摘のとおりでして,この4ページの規律の提案で,住所というものが明示されておりませんけれども,そこは,住所と本来であれば書くべきであったところなのかもしれません。除外する趣旨ではございませんので,今日の御議論を踏まえて,二読のときには,その辺りも含めて,再度御提案をさせていただければと思います。 ○山本部会長 今,古田委員が言及になられた外弁法の条文については,資料の6ページの(注)のところで引用されておりますので,適宜御参照いただければと思います。 ○春田委員 連合の春田でございます。   商事性に関する規律のところです。   事務局提案にあるとおり,調停による和解合意に執行力を付与することについて一定の紛争の適用除外ということで,働く者の立場から個別労働関係紛争については適用の除外とさせていただければ,と考えています。   その趣旨は昨今,やはりコロナ禍においても使役された労働者,契約社員等々の解雇,雇止めが非常に多くなっている状況です。状況をよく見てみますと,労使当事者間の情報の質,量,交渉力の格差があります。やはり対等の立場で合意するというのは,なかなか期待し難いというところです。公正でない内容の合意が,されるおそれが懸念されるというところから私たちとしても,シンガポール条約に合わせて,個別労働関係紛争については除外していただきたい,ということでお願いしたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,有田委員お願いいたします。 ○有田委員 先ほど,最初に御発言された方が,商事性に関する規律の中で,専門家の方にお任せして議論をしていただければというような御発言があったんですが,個別労働関係紛争の関係では,これを除外していただきたいという発言もありました。が,この四角の囲みのところだけで発言しますと,①は消費者に関わることですが,全体として,やはり情報の格差やいろいろ力の差があるということでは,この適用除外というのは,適当ではないかと感じています。消費者の立場からすると,①は特にですが,この四角の囲みのところは適用除外でよろしいのではないかと考えているということです。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 国際性に関する定義の中で,いずれにしても曖昧な点が残るのは仕方ないと思います。しかし,それにしても,和解に基づく義務の重要な部分の履行地という文言がございますけれども,和解の内容として一番多いのは,お金を払うということだと思います。もちろん特定履行であれば履行地は分かりやすいんですが,お金を払う場合に,どこをもって履行地というのかは問題です。たとえば国際送金の場合,履行地とは,口座の所在地なのか,支払の指示をする地なのか,あるいは資金が元々あった地なのか,いろいろな可能性があります。この文言は,条約でもそういう言葉を使っていますけれども,シンガポール条約に関する議論によって明確になっているのでしょうか。その点を伺いたいと思います。 ○山本部会長 事務当局からお答えは可能ですか。 ○福田幹事 では,福田からお答えいたします。   この点は,今,道垣内委員御指摘のとおり,非常に曖昧な概念なのかなと考えておりまして,シンガポール条約の作成のときの議論についても,様々な考え方が示されているものと承知しております。   詳細は,後で山田委員の方からでも御紹介いただければと思いますが,事務当局としましては,現時点ではそのような認識でおります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。 ○髙畑委員 すみません。先ほどの古田先生と道垣内先生のところともかぶるんですけれども,恐らくこの甲案の,例えば,営業所であるとか,義務の重要な部分な履行地という書きぶりは,シンガポール条約の和文にした部分を,そのまま記載されているのかなと思ったんですけれども,恐らくこれを日本法に直すときには,例えば,元々の英語のところの,places of businessというようなところを,どういうふうに日本の法令上訳していくのが正しいというか,多分,様々な日本の法令上のコンセプトとして,営業所なのか事業所なのかもそうですし,居所とか所在地とかいろいろある,本店所在地とかいろいろあると思いますけれども,どれがあっても,できるだけ広くそういったことが国際性の定義の中に落ちるように規律していただいたらいいのかなと思いました。   また,先ほど道垣内先生のおっしゃった義務の重要な部分の履行地ですけれども,それもやはり,多くの場合,金銭絡みというところになると,かなり今は,送金といっても,指示者とか承認者とか,いろいろありますけれども,誰がその重要な部分を履行しているのかというのは,結構日本語で説明すると難しいのかなと。もちろん,ですから,インターネットの話もありますので,それをなるべく広く解することができるように,日本語にしていただければいいかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 吉野です。   私の基本的な立場としては,やはり国内のADRにも執行力を付与していただくという考えを,強く述べさせていただきたいと思います。   ここは,シンガポール条約をにらんでの仲裁法部会ですので,どうしてもこういう問題が出てくるわけでありますけれども,私どものセンターは設立当初からもう10年余りたっておりまして,一定の実績も,積み重ねてきていると自負しているところであります。この点については,法務省のほかの研究会等でも検討されているとも聞いておりますけれども,この部会においても,私としては,この点を申し述べたいと思います。   結局のところ,国際性をどうするかというのが,第一番目に問題になるわけですけれども,この点は,当然のことながら外していただくということです。これまで国内のADRに対して,執行力を付与することが見送られてきたというのは,いろいろな理由があろうかと思いますが,濫用されるおそれがあるとか,先ほど来出ております対等の当事者間でない紛争に適用するのはいかがなものかというものが多く挙げられてきたのだと思います。   ただ,濫用されるおそれ,それから,対等の当事者間でないという点については,後から出てまいりますように,今回の提案は,裁判所による執行決定という仕組みを考えられております。それからまた,国内のADR機関全て,民間合意全て,私的な和解全てに執行力を付与するのはいかがなものかという議論があるわけですけれども,もしそのようなおそれがあるのであれば,対象機関を限定するという立法もあり得ると考えております。   この点だけはまず最初に述べさせていただく。また何か議論があれば,後でお話しさせていただきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚でございます。   二つ申し上げたいと思っておりまして,いずれも国際性のあるものに限るのかという点に関わるのですが,まず,理論的に国際調停事件について執行力を認めるのであれば,国内についてもという,その理論だけで決めていいのかという問題で,実務上の実需といいますか,あるいは必要性という点から見ますと,冒頭に原田委員の方からもお話があったのですが,もし,日本においては,例えば,国際商事調停について,執行力を調停和解について認める手段が非常に限られてしまうと,日本の裁判所ですとか公証人とか,そういうのを使わないといけないということになると,日本の当事者が当事者になっている国際紛争事件について,調停で解決しようということにおける障害になりかねないわけですね。   それで,日本の当事者が執行を受けるような事態を考えるというのは,いかにも何か負ける形の調停を前提にしているような,そんな印象を受けるかもしれませんが,そんなことは必ずしもなくて,例えば,請求自体は巨額なのに,ごく一部だけ支払うことにして和解するとか,いろいろな紛争の解決というのはあるのですが,日本で執行力が認められないとすると,分割払いで全体としてはすごくいい和解で終わるというときも,執行力がないということなので,そういう形で終わるかもしれない調停のプレーヤーに日本企業がなることについては,難しくなると。特に,シンガポール条約の枠組みがいろいろな国で採用された場合に,日本企業が調停を,結果としては,自分が払ってもらう立場になるのかもしれないわけですけれども,払う立場になるかもしれない可能性があるときに,相手が調停での解決に二の足を踏むということになるのは,いかがなものかということがあるので,国際的なものにシンガポール条約の枠組みの中で,日本での執行力を認めるということの必要性は,私は非常に高いと思っています。   他方で,国内調停なんですけれども,弁護士会の中でもいろいろ議論をしてきているのですが,やはり国際商事調停に比べると,あまりにもいろいろな類型のものがあり,調停の主催者とか実施プレーヤーですね,こういうものも非常にいろいろなものがあるので,一律に何かするということはなかなか難しく,消費者,労働等を除くとしても,なお一律の規制というのは難しいのではないかという声を耳にします。   それで,実は,認証ADR制度というのが元々ございますので,認証を取れているようなものについては,執行力を認めるというような考え方はあり得ると思います。他方で,認証ADR機関での調停手続であれば,時効の中断があるとか,訴訟手続の停止という,そういう法的効果が与えられるという意味で,非認証のものとは差を設けているのに,執行力という非常に大きな法的効果については,認証ADRかどうかで差を設けないという制度というのは,どうもバランスを欠くのではないかという気がしまして,私,必ずそうした方がいいとまでは思っているわけではないのですが,一つの考え方としては,国際的なもの,商事的なもので国際的なものについては執行力を認め,国内のものについては,認証ADR機関について認めると。もちろん,人事とか,あるいは消費者労働については,また別途という考え方もあるということも考えていいのかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○竹下幹事 一橋の竹下でございます。   私も,この国際性のところにつきまして,第1回でも発言させていただきましたので,改めて発言させていただきたいのですが,まず,シンガポール条約の国際性,これがそもそも何なのかが問題となると思うのですが,このシンガポール条約の国際性の定義というのは,ほかのUNCITRALのInstrumentでも出てくるような,国と国をまたぐ問題を国際と定義している。そうすると,何が起こるかというと,実はカテゴリーは三つに分かれるはずで,一つはそういった国と国をまたがる問題,もう一つは日本の国内的な問題,さらには外国の国内的な問題の三つのカテゴリーに分かれるはずです。   そのことを前提として,甲案を分析しますと,やはり私,これは狭いと思います。なぜかというと,外国の国内的な問題を含まないから。何か外国の国内的な問題なんて関係ないではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが,この定義によると,恐らく,日本企業が外国にある営業所を通じて,当該外国の企業と取引をする,その外国にある日本企業の営業所が中心となって取引をする,義務の履行なんかは現地で行われる,そういったようなタイプの紛争について,適用範囲から除外されてしまう。しかし,そういったタイプでも,日本企業と外国企業の取引であるとすれば,最後は日本で執行できますよといった方が,恐らく和解合意に至りやすいのではないか,そういった形で和解合意を活用することを考えるとすれば,やはりこの甲案というのは狭いのではないか。   恐らく,私が議論を拝聴している限り,一番問題なるのは,日本にとっての国内事案。シンガポール条約の規定を前提とするならば,恐らく当事者の全部が日本国内に営業所を有しており,かつ,和解合意に基づく義務の重要な部分の履行地又は和解合意の対象である事項と最も密接な関係がある地が日本国内にあるとき,この日本の国内事案をどうするかだけが,恐らく真の問題なのではないかと,個人的には考えているところでございます。   その点について,私,定見があるわけではないところでございますが,国際的なものと全く同じに扱ってよいかというと,やはり紛争の種類は違うので,別に扱う可能性はある,すなわち,そういった純国内的な事案の問題について,これは,一つ前のところになるわけでございますが,例えば,調停人の資格を限定するなどして,そもそもこれ,シンガポール条約の対象ではないわけですから,そこのところについて調停人の資格などを限定する可能性は十分にあるのではないかと思いますが,そのような形で,日本の国内事案とその他の事案という形で議論して,多分その他の事案の方については,恐らく執行,これを認めること,ここにはそれほど異論がないのではないかと思いますし,日本の立法政策としても認めていった方が,海外で活躍する日本企業さんが和解合意をより使いやすくなるのではないかと考えているところです。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○河井委員 河井ですけれども,今しがた手塚委員,竹下委員からいろいろ御議論がありましたが,国際性についていろいろな議論が日弁連の中でもございまして,中でも,国際性に限った方がいいという考え方もあれば,国内に広げてもいいのではないかという考え方もあり,国内に広げる場合に,手塚委員のおっしゃった認証ADR機関に限るのがいいのかどうかという論点自体も,認証を取っていない弁護士会のADR等もございますので,認証に係らしめることがいいのかどうかということも,また更に論点として出てくるということがありまして,現在日弁連の中でもいろいろな議論をしている最中でございまして,そういう意味では,二読までにはある程度方向性が出てくるのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 何点か申し上げたいと思います。最初は,今回の制度の対象をどうするかということです。すなわち,国際性あるいは商事性の規律を設けるか否という点です。   この議論をするときの前提ですが,この法制審でも,従来から,調停における和解合意に執行力を付与することの理論的な根拠あるいは正当性ということが,何度も議論されました。この問題は,少なくとも研究者の立場からは押さえておかなければならないところであり,また,一国の法律を作る際には,そうした理論的な根拠ないし正当性は不可欠だろうと思います。   その観点から考えてみますと,従来しばしば行われてきた議論として,和解合意に執行力を付与するということを当事者の双方が合意したということ,いわゆる執行受諾の合意に根拠を求めるという考え方があります。しかし,これに根拠を求めるとすると,調停ではない,いわゆる示談といいますか,民法上の和解,言葉を換えれば二当事者間の和解において,双方が執行受諾の合意をした場合に,なぜ,それに執行力を与えることができないのかという理論的な問題に逢着すると思います。   また,何らかの理由で調停における和解合意に限るとしたとしても,調停には様々な種類があり,それは,類型的にその機関ごとに調停のやり方が違うということもあれば,同じ機関の中で,個々の事件ごとに違うということも,当事者の態度とか能力によって違ってくることがあります。その中で,講学上,評価型調停と言われるものは,調停人が調停案を出すという形ですので,かなり仲裁とか裁判に近い要素があります。これに対し,一般に促進型調停と呼ばれるものなど,当事者が自治的に和解合意をして,調停人はその間の意見交流を促進する役目にとどまるというものもあります。この場合の後者の方は,二者間の調停人を伴わない和解とかなり近いものになるわけです。したがって,そういったものも含めていろいろとある以上,調停の中で,理論的に仕切りを設けるというのも難しいんだろうと思います。   つまり,理論的な観点から考えると,調停における和解合意に執行力を付与するということそのものの是非,あるいは,執行力を付与する場合に,どういう基準で仕切りを設けて執行力を付与するものとしないものを分けるのかという,この2点について,純粋な理論で決することは,かなり難しいと思います。それでは,どうすべきかというと,ここは政策的に考えるということにならざるを得ないのではないかと思います。そして,今度は,純粋に政策的な観点から考えた場合には,結論として,私が別にそれを特に望んでいるわけではありませんが,客観的に見ると,国際商事調停に限るということについて,政策的判断を是とする一定の根拠があるように思います。   具体的には,3点ほど,あるのではないかと思います。第1点は,国際商事調停は,ほとんど例外なく双方に弁護士が付いており,調停人もかなり高度の能力を持った法律家が関わるということで,仲裁に近い厳格な手続で行っているという実態があります。2点目として,これは先ほど来何人かの委員からも指摘がありましたが,国際商事調停においては,執行力付与のニーズが高いのに対し,国内調停事件では代替手段があるなどの点で,そこまでのニーズはないということです。3点目は,これは,目前に控えたシンガポール条約に対する対応を考える必要があるということです。   こうした3点は,政策的にみて,国際商事調停については,喫緊の課題として,この法制審で結論を出すということが相当であるということにつながりますが,国内調停については,先ほど申したような点を理論的に解決できる道筋が見付かるまで,結論を急ぐべきではないと思います。   これが,国際商事に限るかどうかという点についての意見ですが,あともう一つ,各論的な点に関する意見を申し上げたいと思います。   これは,国際性に関する規律の甲案についての意見です。甲案の(1)の①と②がシンガポール条約を踏まえての事由ですが,一つの考え方として,これに③を付加して,改正外弁法の規律を加えるということで,第三の要件を立てるというのは,ある程度国際性の範囲を広げるということになり,かつ,法制的に無難な規律ということになるように思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○小川委員 裁判所の立場から申し上げますと,審理の構造上,審理の際に何らかの端緒がないと執行拒否事由があると判断をすることは難しいのが実情です。そのような点を踏まえてどのような和解合意を執行力付与の対象とするのかについて,御審議を頂きたいと考えております。  加えて,部会資料3-1の7頁,9頁には,人事に関する紛争その他家庭に関する紛争を適用対象から除外する旨の記載がありますが,家事事件は,当事者間の感情的な対立が非常に激しく,専門家の助言を経るなどして冷静な判断の上で合意が形成されているわけではない事案もございます。たとえば,地方裁判所においては,脅迫とまではいかなくても,到底冷静な判断をしたとは思えない合意に基づき,和解金の支払を請求するという事件もございます。仮に,家事事件を執行力付与の対象とした場合には,以上のような事案についても執行力の付与の対象となってしまい,また家庭裁判所で積み重ねられた実務と著しく異なる調停・和解合意に執行力が付与されると,実務的に混乱することが予想されますので,この点については,慎重に御審議を頂ければと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 ありがとうございます。凸版の増見でございます。   1点御質問と,その御回答に基づいて意見を申し述べさせていただきたいと思います。   まず,この国際性についての規律の甲案ですけれども,この甲案の(1)の①で,「当事者の全部又は一部が互いに異なる国に営業所を有するとき」とございまして,営業所の解釈について(2)で御説明はあるところですけれども,民間企業の立場から申し上げますと,多くの企業が今,様々な国で事業展開しておりますし,日本にも様々な国の企業が入ってきて,日本法人を設立して活動しているので,何をもって国際性を有するとするのかというのは,非常に今,難しくなっていると感じております。例えば,この定義に基づきますと,日本企業同士,ただ,お互い海外で事業を展開している企業同士の紛争というのは,この適用を受けるのか,受けないのか,国際企業同士が調停で紛争解決し,かつ執行性を持たせたいと考えたときに,これは使えるのか,使えないのかという意味では,どうなるのでしょうか。お考えをお聞かせいただければと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 福田から,今の点について,現時点での考えをお伝えしたいと思いますが,まず,この営業所というものなんですけれども,これは,手続法の世界では,管轄を定めるときに,この文言が使われているものが多くあります。そこでいう営業所ですけれども,もちろん本店に限らず,営業所,それから主たる事務所と呼ばれているようなものを対象にしております。そこでいう営業所も,本店からある程度独立した形で意思決定ができるような,そういった対象のものが取り込まれると考えております。そういう意味で,この営業所というものは,一定程度広い概念なのかなとは考えております。   お尋ねの,日本国内に本籍がある会社で,それが海外で事業を行っているもの同士の紛争ということですけれども,これは,先ほどの竹下幹事からの御発言もあったように,同じ国に営業所を置いて活動している場合であれば,その紛争当事者が同じ国ということになると,場合によっては,国際性を有しない事件ということで取り扱われる可能性があります。ですので,そのような事例を排除しないように,広めに取るべきだということであれば,それに見合った形で規律を設けていかなければいけないと考えております。 ○山本部会長 増見委員,どうでしょうか。 ○増見委員 ありがとうございます。   そうなのではないかという危惧を持っておりまして,そういう意味では,企業活動というのは誠にグローバル化しておりまして,今まで日本企業だと思われていた会社が外国企業によって買収されるということ,主たる意思決定が海外でなされるようになるということは頻繁に起こっておりますので,一旦設けた国際性という定義が,どんどん当てはまらないものになっていく,変容していくということも十分にあり得るのかなと思っておりまして,そういう意味では,国際性という要件を設けない乙案の方が適当ではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます,垣内でございます。   今日,一読ということで,全体的なところについて若干の意見を述べさせていただきたいと思いますけれども,まず,国際商事に関する問題ということにつきましては,既に多数の方から御発言がありますように,非常にニーズも大きいというところで,理論的にもそれほど弊害も懸念されないのではないかということですから,基本的に執行力を認めるという方向で検討すべきものだろうと考えております。   この場合には,もちろんシンガポール条約が前提となるということですので,その規律を考えるに当たっては,シンガポール条約よりも限定的な形になるということは避けなければならないと思いますけれども,逆に,今,国際性について議論がありますけれども,シンガポール条約よりも広く同じ規律を適用する部分については,特段条約違反の問題は生じませんので,そこは,日本の国内法として受入れが可能な範囲で,ある程度緩やかにしていくということは考えられるんだろうというように思います。   いずれにしても,このシンガポール条約並びのスキームの対象とする事項については,シンガポール条約に違反しないように一律の規律が必要であるということで,そのことは,本日の資料ですと,調停の定義についても当てはまりますし,商事性あるいは国際性についても当てはまるということかと思います。   また,先ほど御説明のあった最後の項目で,執行受諾文言に関しましては,これがもし国際商事という,シンガポール条約が正に対象としている事項についての規律として考えるということだといたしますと,若干問題をはらむ可能性があるのかなと考えております。と申しますのは,条約で定めているオプトインの合意については,その方式,態様等について,条約上は特段の制約を課していないものと思われますので,執行受諾文言という形に限定してオプトインを認めるということだといたしますと,その他の形でオプトインの合意があった場合の取扱をどうするのかという問題が生ずるように思われますので,その点はちょっと慎重な検討が必要なのかなと考えております。   その上で,同じ規律を,一番広い考え方としては,日本国内の紛争全てについて,同じシンガポール条約と同等の規律で執行力を付与するというのが,最も徹底した考え方ということかと思いますけれども,この点については,この点も既に御指摘がありますように,国内の紛争におけるニーズの大小の違いであるとか,当事者の特性,紛争の性格等も様々であるということを考えて,どこまで同じ規律でいけるのかということを,まず確定する必要があるかと思われます。   シンガポール条約並びでなければ,それでは執行力の付与はあり得ないかといえば,それはまた国内の紛争に合わせた形で適切な手続,あるいは規律を設けることができるのであれば,国内の調停について,調停和解に執行力を付与するということは,それ自体として従来から論点として意識されてきたことでもありますので,十分あり得るかと思われますので,あまりに時間がかかるということであれば,その点はまた別の機会にということは,もしかするとあり得るのかもしれませんけれども,今の段階で,そこを断念する必要は必ずしもないのかなというように,私自身は考えております。   別の検討会で,国内におけるニーズ等についても検討が進められているというように招致しておりますので,そうした検討も踏まえて,引き続き具体的な有様について可能なものを考えていくということかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○渡邉幹事 先ほど,小川委員からもお話がありましたが,裁判所の立場から申し上げますと,今回,強制執行を許すかどうかという問題は,裁判所に持ち込まれる対象は何になるかという範囲を限定するものでございますので,国際性,商事性については,これまでいろいろ御議論いただきましたけれども,調停の定義につきましても,明確になるように御議論いただければと思っているところでございます。   もう1点,細かいところですが,資料の9ページのところで,家事紛争について,当事者間の潜在的な力の不均衡等が想定される紛争とはいえないとの考え方があり得るという記載がございますが,家事紛争の中には,DV・経済的格差といった問題が背後にあるものもございますので,家事紛争について潜在的な力の不均衡等が想定される紛争とは言えないと言い切った上で議論をするのは,ミスリーディングになる可能性もございます。この点につきましては,正にシンガポール条約が家事紛争を対象から除外したという趣旨なども踏まえて,家事紛争を対象に含めることについては,慎重に検討する必要があると思っておりますので,指摘させていただきました。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかが。 ○山田委員 シンガポール条約の議論の過程については,私の方からも若干御説明をしたいと思いますけれども,ただ,先ほど道垣内委員から御指摘のあった点については,さほどに具体的な議論をしているわけではないと申し上げざるを得ないところです。   これは,ほかの委員・幹事からも御指摘ありましたように,金銭の振込みに関しては,インターネットを通じた場合に,どこがどのような機能を果たす地として認識されるべきなのかという問題があり,また,この条約においては,調停地という概念を設けておりませんのも,オンラインでの手続を想定すると調停地を明示的に確定し難いとの理由によっています。その辺りは,解釈,あるいは各国法制に委ねざるを得ないという理解のもとで,このような規定にしており,その意味では,解釈にオープンにしているというところでございます。   それから,国際性に関しては,先ほど来お話がありますように,例えば,国内において,外国企業の営業所があり,それらの間で紛争があるという場合も,国際性の中に取り込むべきかは,UNCITRALでも議論があったところですけれども,最終的には,一律的な判断が難しいので,これも条文としては取りやめたというところでございますが,先ほどの御議論を伺っておりましても,グローバリゼーションの社会の中では,こういった問題も他のいわゆる純粋な国際的な紛争と区別をするというのは,なかなか難しいのではないかと思いまして,そのようなことですと,乙案ということにも,まずは実務的なニーズがあるのではないかと思います。   今のは実務的な観点ですけれども,さらに理論的な観点から申し上げますと,この和解合意,調停による和解合意に執行力を認めるということの根拠が,先ほど三木委員からも御指摘がありましたけれども,当事者間の真正な和解合意と,それから実現方法としての執行力の選択ということに,仮に求めるとした場合に,それがいわゆる和解契約,相対交渉による和解契約にも妥当するのではないかというのは,おっしゃるとおりでございまして,実際,この条約起草の段階でもそういう意見はございました。   ただ,もし両者を区別するとすれば,調停という手続を経ることによって,その合意の真正性というもの,あるいは慎重に考えた末の合意であるということの蓋然性が高まっていくと,あるいは,手続あるいは調停人倫理によっては,当事者間の交渉力格差が是正される可能性があるということで,一応切り分けることができると考えるとすれば,調停による和解と相対交渉による和解を切り分けることはできるが,国際調停と国内調停を分ける理屈はなかなか,逆に言うと難しいのかなと思います。   また,調停人の資格との関係ですけれども,これは,先ほど垣内幹事からも御指摘がありましたように,国際商事に関してはシンガポール条約の対象でありますけれども,国内問題,国内紛争については,またそれとは切り離したところで検討ができるということでございますので,国内紛争に関しては,現在の国内のADR法制及び弁護士法の規律を前提とすることが考えられます。そうしますと,比較法的に見ても極めて厳格に弁護士関与が予定されている日本のADRの法制からいたしますと,そして,これは,国際調停において,事実上,両当事者に弁護士が付いているといったことと異なり,法律上の保護が国内問題については与えられているということからいたしますと,このような法制により私的自治の基礎というものが一応整えられていると見えるところでもございますので,その意味では,国際と国内で調停人の資格というもの,あるいは手続の仕組み方というものを変えるということも,現実的な法制としてあり得るのではないかと考えているところでございます。   それから,最後に1点だけ,申し訳ありません,長くなりました。   執行受諾文言と,それからオプトイン制度でございますけれども,このオプトインの制度というのは,UNCITRALの議論の中で,当初は執行力を与えるということであれば,一定の手続保障が調停に必要ではないかという議論が大陸法系から出たところ,それはなかなか難しいという反論があり,そこで一種の妥協案として設けられたというものでございます。そういう意味で,当事者のオートノミーを保障するものという役割を担っているものであって,日本の執行受諾文言の制度との整合性,あるいは,先ほど来御懸念のあるうっかりと執行力を認めてしまうということへの対抗という点でも,非常に重要な役割を果たすのではないかと考えております。   このオプトインの制度というのを採択するということは,デフォルトとして適用されると,執行力があるという,このシンガポール条約の前提を逆転させるというものですので,慎重な,あるいは明確な合意が要るのではないかというのが,UNCIRTALでの議論ということですので,恐らくは,和解合意の条項として含まれてくるということを想定するということになるのかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ほかに。 ○今津幹事 東北大の今津でございます。   まず,国際性の要件についてなんですけれども,要件を設けること自体には賛成をする立場です。ただし,先ほど来,その要件の設け方についてかなり,今の文言ではちょっと狭いのではないかというような御指摘も出ているところでして,先ほど増見委員からも,カバーできない範囲が出てきてしまっては困るというようなお話もあったところを伺っていますと,例えば,乙案のような形で限定のないものを置いて,ただ,純粋に国内のものを除くというような形にはできないのかなと。つまり,国内の当事者同士で,国内の準拠法で,国内でなされたものを除くというような形は,可能性としてはないのかなと。ただ,シンガポール条約の文言というか規定ぶりからは大分離れてしまうと思うので,ちょっとその辺りで,もしかしたら適当でないのかもしれませんけれども,考え方としては,国内のものを除いて,なるべく広く取ろうということであれば,そういった形も考えていいのかなというような印象を持っております。   それから,商事性に関するものですけれども,消費者あるいは労働者が関連するようなものについて除外するという点については,それで結構だと思っております。問題は家事紛争ですけれども,先ほど来御指摘の9ページで,力の不均衡がないからいいであろうというような考え方もできるというふうな御指摘もあるんですが,ただ,家事紛争の中にも,いろいろなタイプの給付が,恐らく念頭に置かれるのであろうと思うんですが,例えば,養育費等の金銭の支払であれば,執行力を付与するということももしかしたら考えていいのかもしれないんですけれども,子供の引渡しとか,そういったものだと,かなり問題が出てくるのではないかという気がしております。特に国際的なということになりますと,それぞれの文化の背景も違いますし,ちょっと執行力を付与するということには,私個人としては賛同しかねるかなというところであります。   家事紛争の中で区切って,金銭ならいいけれども,それ以外は駄目とかいう話にすると,ちょっと細かくなり過ぎるような気がしますので,結論としては,家事紛争一般に適用除外という形,御提案のような形でいいのかなという印象を持っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○高杉委員 第一読でございますので,私も意見を申し上げます。   既に委員の先生方から御指摘のとおりでございますが,私も,今回の主たる目的が国際仲裁等の促進ということであれば,実務上のニーズが高くて比較的異論の少ない国際の方向で限定して検討するというのが,時間の制約もあることを考えれば,いいのではないかと思っております。もちろん,国内について検討を否定するわけではございませんが,実際的には,国際に絞った上で十分時間をかけて検討するというのが適当ではないかと考えます。   ただし,現在の甲案の国際性というのは,既に委員の先生方御指摘のとおりで,やはりちょっと狭いということで,広く取る方向がいいのではないかと思いますが,どのように広く取るかについては,外弁法の方を基準にするのか,あるいは純粋に日本国内の和解合意のみを排除する方向で考えるのか,この点については今後検討できればと思っているところでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井でございます。   最初に簡単な質問を1点。調停の定義のところですけれども,これは,商事法務の研究会でもお聞きしたことなので,もう一度この場でもお聞きします。   2ページの枠囲いの定義の中で,3行目に,「強制する権限を有しない一人又は二人以上の第三者」というのがあって,「以下「調停人」という」となっておりまして,これは,仲裁手続の中で和解をすることもあるわけで,その場合,仲裁人がそういう形で和解を仲介して成立させた場合に,もうここから除く趣旨ではない,これは解釈論になるかもしれませんが,そのような理解でよいのかどうかということを,まず1点,確認したいと思います。 ○山本部会長 事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。   今の点ですけれども,こちらで提案させていただいている規律を前提にすると,やはり仲裁人というのは,紛争の解決を強制する権限を有していると読めることから,仲裁人たる資格で調停をした場合というのは,この規律に含めるのは難しいのではないかと思います。   ただ,仲裁人が調停人としての役割を果たすときには,当事者にもそういった合意があってされることがほとんどだろうと思いますので,その場合は,仲裁人たる資格ではない調停人たる資格で手続に関与している可能性もありますので,そういった場合は,この規律に含めることができるのではないかとは考えているところでございます。 ○出井委員 ありがとうございます。   仲裁人が和解を仲介する場合というのは,日本法だと両当事者の書面の合意がないといけないということになっていますので,正に今おっしゃったような場合に当てはまると理解しております。最終的には解釈問題になるかと思いますが,御説明としては了解いたしました。   それで,私の方からは,執行受託文言のところについてなんですが,これ,何人かの方から既に御指摘があったところではありますが,この執行受諾文言が条約上のいわゆるオプトインの留保ですね,これとイコールではないと,完全にイコールではないということを前提に,この部会資料を作られていると思いますが,そのとおりであると思います。   11ページの(2)シンガポール条約に基づくオプトイン留保との関係の部分ですが,これ,途中に,今申し上げたようにオプトイン合意と執行受諾の意思表示とは完全に一致するものではないと。そのとおりで,それを前提に,商事法務の仲裁法制の見直しを中心とする研究会では,日本法を作るときに,何らかのみなし規定ないし読替規定みたいなものを置くということが議論されていたと思います。そのときには,確か執行受諾合意をした場合に,それをシンガポール条約適用の合意とみなすという方向での案が書かれていたと記憶しておりますが,それももちろん必要かもしれませんが,もう一つ,当事者が本条約の適用に合意するという,正にシンガポール条約のオプトインの合意をした場合,それが,この日本法での執行受諾合意,具体的にどういう文言になるか分かりませんが,執行受諾合意をしたものとみなすというふうな方向での規定にすることが必要ではないかと,ここも検討課題であると思います。恐らく,日本法が問題になるのは,外国で成立した国際調停の和解合意が日本で執行を求められる場合でしょうから,そういうふうな規定が必要なのではないかと思います。それが1点。   それから,これも,先ほど垣内幹事から御指摘あったのですが,現在の部会資料の10ページの4の枠囲いの記載からすると,執行受諾合意が和解合意と一体のものとして,あるいは同時になされていなければならないと読めます。そこが狭過ぎるかどうかというところが一つの問題で,例えば,事後的に和解合意から時を離して,更に言うと,調停人の手から離れて執行受諾の合意だけをしたと,これがどうなのか,それから,このように時的な限定をすることが,シンガポール条約との関係でどうなのか,これは,先ほど山田委員からの御説明では,私が聞き間違えたらご指摘いただきたいのですけれども,特にこういうふうに限定しても,シンガポール条約には反しないということだったんでしょうか,ちょっと,山田先生から補足いただきたいと思います。   それから,さらにこの問題に関して申し上げると,機関の規則,調停機関の規則で,ADR機関の規則で定めた場合どうなるのか,仲裁の方の考え方でいうと,機関規則というのは当事者の合意の一部になるという考えですので,そうすると,機関規則で定めたものも,こういう形で当事者の合意になるのか,機関規則で排除する場合もあるでしょうし,機関規則で執行受諾文言を付けた形になるというのもあるかもしれませんので,その辺りが今後の法制化するときの検討課題になるのではないかと思います。今日の段階では,そういう論点の提示だけをしておきたいと思います。   それから,既に皆さんから御意見のあった国際性の問題ですね。第1回でも申し上げたと思いますが,調停での和解合意に執行力を付与する方向で検討をする,それから,少なくとも国際商事調停に関しては,執行力を与える方向で措置をするということに賛成であるということを前提に,部会資料も拝見し,さらに皆さんの御意見,今日の御意見を伺っても,やはり甲案,乙案とも,いずれともあり得る考え方かなと思います。一読目なので,今日は概括的なことを申し上げますが,第1回でも申し上げたように,また部会資料の5ページの3の(1)あたりでも述べられているように,「「国際性」の要件を設けるとすれば,「国際性」の有無によって和解合意の執行力の有無に差異を設けることについて,合理的な根拠が必要である」と,正にそういうことであると思います。   ここでいう「合理性」ですけれども,やはりニーズ面,それから弊害面,両面において検討しなければならないと思っております。ニーズ面では,多くの方が指摘されたように,確かに当事者の住所地国,営業所地国が異なる場合に,和解合意に執行力を与えるというのはニーズが高いと思います。そういう和解合意に基づいて,外国で通常訴訟を起こして確定判決を取ってというのは大変なので,そこは,やはりニーズは,ここは有意に高いと思います。ただ,これも部会資料に書いてありますように,国内調停の場合にも,そのようなニーズがないとは言えないと思いますし,また,国内調停の活性化の観点からは,ADRの実効性の重要な要素の1つでもある執行力を一定の条件で付与するという,これは政策的な考慮はあってもよいと思っています。国際調停の和解合意に執行力を与えるニーズが相対的に高いということが,国内,それ以外について,国内法措置をしなくてよいというところまでのものなのか,その辺りの検討が必要であると思っております。   問題は弊害ですけれども,これも,部会資料5ページから6ページに,国際調停の分野においては弊害が少ないとあるんですが,ここで言っている弊害というのが何なのか,これをきちんと特定をして,認識をして,議論をしないといけないと思います。弊害の点で,やはり国際調停以外の調停には,顕著な弊害があるということであれば,それは措置をしないという説明が付くと思いますが,その辺りを十分検討する必要があると思っております。   何人かの方からもう既に御指摘あったように,法務省の別の検討会で,現在ADR機関を中心に,ニーズの把握,それから弊害,問題点の集約を含めてアンケート調査,ヒアリングがされておりますので,その議論を踏まえた方がよいと思いますし,どこかの段階で,こちらの法制審部会の方にもフィードバックを頂ければと思います。これは,正に理論的にだけではなく,政策的にどうかということの重要な資料になると思います。   それから,最後に,これらの問題を考えるときには,法制の違い,外国と日本の法制の違いというのを考えなければいけなくて,山田先生御指摘のような日本の弁護士法等のADR法との法制の違いがありますので,それを踏まえて,果たして弊害に対応できるのかどうかということを検討しなければならないと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   山田委員に御発言のクラリファイを求める部分があったように思いますけれども,山田委員から何かお答えを頂けますか。 ○山田委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   先ほど出井委員から御質問の点ですけれども,議論の資料を見直しましたけれども,ここもはっきりと,例えば,このような条項として記載されている場合に限るという議論を明確にしたわけではないのは,確かではあります。そういう意味では,解釈の幅として,委員御指摘のような,例えば,ADR機関手続規則への合意をもって,このような規律があったものとみなす場合もないではないだろうとは思います。   ただ,他方で,先ほど申しましたように,デフォルトを逆転させるという意味で,明確な意思が必要であるということについては,一定の了解があり,また,中には調停人の行動規範というか,説明義務との関係で,ここが十分になされていなければ,拒絶事由になり得るというようなコメントもございまして,そのようなことの背景で考えられているのは,やはり最終的なこの条項,和解合意に明示的な合意があるということを念頭に置いているのではないかと思われますので,このような文言にしたからといって,直ちにシンガポール条約に反するということにはならないのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   事務当局から御回答。 ○福田幹事 福田でございます。   先ほどの出井委員からの御指摘及び論点の提示について,何点かコメントをさせていただければと思います。   まず1点目ですけれども,この執行受諾文言とこのオプトインの留保の宣言との関係ですけれども,おっしゃるように,研究会の場では,みなし規定のようなものを検討すべきということも検討に挙がっていたと思います。やはり理屈の点を詰めていきますと,この部会資料に書きましたように,執行受諾文言というものとシンガポール条約へのオプトインの合意というものは,ニアリーイコールではあっても,完全に一致するものではないと思われますので,執行受諾文言があれば,直ちにオプトインの合意がみなされるとまで言えるのかというのは,やはり疑問が残ると考えております。   ただ,現実の運用の場面を考えますと,先ほど山田委員からの指摘もあったように,日本での執行拒否事由を考えるに当たって,他国でされた和解合意が,厳密な意味でのシンガポール条約の適用を受けるという明確な合意ではなく,執行の受諾文言しか書かれていない場合を拒絶してしまうのかという問題も出てきますことから,ここは非常に微妙な問題があるのだろうと考えておりますので,引き続き検討を深めたいと思います。   2点目ですけれども,今回提案させてもらった執行受諾文言の規律では,垣内幹事御指摘のとおり,和解合意と同時にされている場合に限定されているのではないかとも読めるところでございます。これは重要な御指摘ですので,この点については,もう少し別段の合意がある場合も含めても良いのではないかとも思っているところではございますが,ここは,先ほどの出井委員からの御指摘もあったように,調停人の手を離れてしまった後にされた執行受諾文言というものをどう考えるのかという論点も出てくるのかなと思っております。つまり,現在の日本の制度で,執行証書の制度がございますけれども,これは,やはり公証人の面前での執行受諾の意思というものがあり,それが公証されているというところに,一つ大きな意味があるのだろうと思っておりますが,調停人を離れたところで執行受諾ということになると,それこそ三木委員御指摘のとおり,二当事者間の示談と変わらないというような見方も出てくるかもしれません。この点が,また一つ論点になるのではないかと考えているところでございます。   3点目ですけれども,機関規則の件も御指摘を頂きました。これは,御承知のとおり,仲裁の場合は,仲裁合意の中でどこの仲裁機関を使うかというようなことまで決めている場合であれば,その機関規則も取り込んだ形で,当事者の合意というのは観念しやすいのだろうと思われます。ただ,調停の場合は,事前の調停合意というものがどこまであるのかという問題もございますし,更に言うと,機関規則との関係は,当事者間の合意ではなくて,当事者と機関との関係の合意ということになろうかと思いますので,そこに異議を述べずに手続を進めたことによって,直ちにその機関規則に書かれているものを全部取り込んでいると,法的に見ていいのかどうかというのも,また論点として挙がってこようかと思いますので,この点も引き続き事務当局で検討したいと思いますが,もし何か皆様からコメントいただけるところがありましたら,頂ければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。ありがとうございました。   ちょっと私が聞き間違ったのかもしれませんが,福田幹事の御説明の中で,例えば,外国で国際調停で執行受諾の合意をしてきた場合に,それがオプトインの合意とみなせるのかどうかと,そういう問題の立て方をされていました。ただ,例えば,国際調停で執行受諾の合意をすれば,この法律には乗るわけですよね。オプトインの合意になるかどうかにかかわらず,日本法はあるわけですから。だから,そこが問題なのではなく,外国で執行受諾とかあんまりそういう文言出てこなくて,オプトインの合意,つまり,条約8条1項(b)ですが,そのものの合意をした場合,この条約を適用するという合意を当事者がした場合,それが,この日本法の下における強制執行に服する旨の合意になるのかどうかと,そこが恐らく問題なのではないかと思います。   それが1点と,それからもう1点,調停の場合,機関の規則は当事者の合意に取り込まれているとは言えないのではないかという御指摘がありました。確かに,仲裁に比べれば,そこはそれほどはっきりしていないのかもしれませんし,正に各調停機関によって違うのかもしれませんので,そこは今後の検討課題であると思いますが,少なくとも弁護士会の和解あっせんの場合は,和解あっせん手続に応諾する以上は,両当事者とも機関規則には服すると,そういう前提で手続を進めるという,そういう理解です。ただ,これは,機関によって違うのかもしれませんね。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○三木委員 再度の発言で申し訳ありません。   まず,先ほど出井委員が仲裁法の解釈に関することをおっしゃったので,少し申し述べたいと思います。一読の場なので,そういう細かな議論をすることが妥当かどうかについて考えるところもありますが,後になると忘れてしまいそうなので,今申し述べておきたいと思います。   出井委員は,仲裁において,当事者が明示で仲裁人による和解をすることに応じた場合には,2ページの定義規定でいうところの調停人になるんだということをおっしゃいました。しかし,私は,それは違うと思います。仲裁法の解釈でいうと,当事者が明示で和解の合意をしなければいけないという規定がありますが,その場合の明示で和解をすることに応じるという合意は,仲裁人が,あくまでも仲裁人の立場で和解をすることに応じるということであって,仲裁人を調停人に切り替える合意ではありません。したがって,今回,調停に関する何らかの法律が出来上がったとしても,その法律の対象にはならないと思います。先ほど福田幹事がおっしゃったのは,最初に仲裁合意があって,それに基づいて仲裁手続が始まり,その途中で仲裁を調停に切り替えた場合,すなわち,仲裁人を調停人に切り替えるという合意がなされた場合の話であると理解しております。いわゆる,英語でいうarb-medという場合の話です。   それから,2点目ですが,山田委員の御説明で,私の問題意識もややクリアになった部分があります。すなわち,シンガポール条約の議論の場でも,二者間の合意と調停を経た和解合意の違いについて議論があったということでした。そして,その場では,調停手続を経た合意というのは,それなりに和解の合意内容が研ぎ澄まされてきて,純粋な二者間の和解とは違うのではないかという議論があったということです。これについては,理論的にそのように言えるかどうかは,やや疑問がありますけれども,実務の実態を見た場合には,そのようなことが言える場合も多いだろうと思います。   ただ,それは,あくまでもシンガポール条約が前提としている国際商事調停の場では,そのように言えるということだろうと思います。私の知る限り,国際商事調停は,普通の調停に比べると抗争性の高い形で手続が進んできいきます。その点では,日本国内における調停の大半のものとは,やや違った様相を呈しております。具体的には,主張・立証というものが訴訟や仲裁に近い形で行われていき,その中で議論が研ぎ澄まされていくということです。それに対して,日本の国内調停を同じに考えていいかどうかは,なお実態調査も含めて議論の余地があると思いますので,シンガポール条約の際にそういう議論がされたから,日本でも同じことが言えると,即断はできないと考えます。   あと何点か,ややテクニカルな点について,質問と意見を申し上げたいと思います。   一つは,定義規定のところですが,現在,一定の法律関係に関する民事上の紛争というような定義がされております。これを仲裁法と対比しますと,仲裁法の13条1項は,当事者が和解をすることができる民事上の紛争というような規定ぶりであったかと思います。いわゆる仲裁適格の規定です。これを,こちらの方に当てはめますと,この部分は,調停適格に相当する部分であると思いますが,当事者が和解をすることができるという,いわゆる和解可能性の部分は,明示的には書かれていません。これは,調停適格については,末尾の和解による解決を試みる手続というところで尽くされているという理解でよいのか,それとも,調停についても,調停適格を明示するものとして和解可能性の文言を付与する必要があるのか,お伺いしたいと思います。   それから,次に,定義規定の末尾に近いところに,「仲介」という言葉が使われていますが,その点について申し上げたいと思います。シンガポール条約を見ますと,この部分の単語は,「assistance」ということで,山田委員の翻訳では,「援助」という訳が当てられています。将来,この法律ができたときに,この部分の翻訳がシンガポール条約と適合的であることが望まれると思いますので,この「仲介」という文言でいいのかどうかということについても,御検討いただければと思います。   それから,これも文言の話ですが,執行受諾文言の10ページのところです。この部分に,陳述が記載されている場合に限りという言葉がありますが,後の論点で,いわゆる文字どおりの文書に限らなくても調停の合意はできるという,シンガポール条約と同等の規律を導入することが提案されております。したがって,ここの記述が「記載」という言葉でいいのかどうかという点も,御検討いただければと思います。   最後に,手塚委員から御指摘があった,仮にこの法律を国内の調停に適用範囲を広げる場合に,いわゆるADR促進法の法務大臣認証を経た機関に限るという考えもあるのではないかという点です。私が理解しているところでは,ADR促進法の立法趣旨として,認証を受けた機関において,その機関の調停がより活性化できるようにするという意図はあるけれども,認証を受けていない機関が不利に扱われることがあってはならないということが,当時の議論の中で何度も確認されたことであると記憶しております。   その観点からいくと,現在認証を受けた機関と受けていない機関で差がある時効停止効等の規律は,現実には余り大きな影響はないというか,どちらかというと象徴的な意味合いが強いのに対し,これが執行力ということになると,法務大臣認証を受けていない機関が不利になるというおそれがあります。したがって,ADR促進法の精神というか,立法趣旨に照らして,どうなのかという疑問があります。   また,現在のADR認証制度というのは,ADR機関の財政基盤が整っているかどうかとか,機関の内部規則がきちんと作られているかどうかといった,いわば外形的な面を審査しており,調停手続が実際に高いクオリティを持っているかというようなことについての審査は,認証の事前にも事後にも行っておりません。したがって,法務大臣認証と執行力付与を結び付けるというのは,私は適切ではないと考えております。 ○山本部会長 1点御質問があったと思いますが。 ○出井委員 ちょっと,福田幹事からお答えいただく前にいいですか。 ○山本部会長 何か関連する話ですか。 ○出井委員 今の点で,はい。   先ほど福田幹事から,今,三木委員からも御指摘のあったところですけれども,仲裁人が調停人になる場合の話ですね。私が申し上げたところをちょっとクラリファイしておきたいのですが,仲裁人が調停人になるには,多くの場合,当事者の合意が必要であるとおっしゃったので,それは,常に合意が必要であるという意味で申し上げただけで,それ以上のものではありません。   ただ,今,三木委員の御指摘あった点を福田幹事にお伺いしたいのですが,やはり仲裁人が仲裁人のまま和解をしたのでは駄目で,調停手続に移るという何か明確な,更に1段高い合意がないと,やはりこの定義にいう,解決を強制する権限を有しないというところに引っ掛かってくるのかどうか,そこの理解をお伺いしたいと思います。 ○福田幹事 福田からお答えいたします。   最初に,今,出井委員から質問があった点についてですけれども,仲裁人が調停を主宰することについての合意を当事者からもらった場合,その手続を仲裁手続と呼ぶのか,もうそこは調停手続に変わっていると呼ぶのかというのは解釈の問題なのかもしれませんけれども,私としては,やはり別段のきちんとした調停人たる資格での調停ということですみ分けた方が,そこは分かりやすいのではないかと思っております。これが,まず1点目です。   それから,2点目,三木委員から幾つか御指摘があった点ですけれども,まず,この仲介という言葉は,ここではADR法を参考にして,ここでは使わせていただいている言葉ですので,これが適切かどうかはまた考えたいと思います。   それから,調停適格と呼ばれるようなものですね,これが取り込まれているのかという御質問ですけれども,これは,調停手続というものをどう仕組むかということが今回の主題ではなく,どのようなものに執行力を与えるかというふうな観点で見ましたときに,定義の中で,そこまでしっかり取り込んでおくべきだという考え方もありましょうし,場合によっては執行拒否事由の方で仕組むということもあり得るのかなと考えております。この点につきましても,事務当局の方で検討させていただきたいと思います。   それから,もう1点,執行受諾文言のところの「記載」という文言についての御指摘も頂きました。これはおっしゃるとおり,書面性の要件のところの文言とも対比しながら考えなければいけない事柄ですので,引き続き検討させていただければと思います。 ○長沼幹事 外務省の長沼でございます。   皆様の御参考になればと思い,1点だけ。   先ほど来,執行受諾文言がシンガポール条約と国内法と同じなのか,狭いのかという議論がございました。これと離れまして,一般論として申し上げれば,条約の解釈なり文言解釈につきましては,条約法に関するウィーン条約でも,条約は用語の通常の意味に従って,誠実に解釈するとされています。したがいまして,広く規定されているときに,これは,実は狭いのですと言うのは相当ハードルが高いということを念頭に置いて議論をしていきませんと,最後で危ない状況が生じることがあり得ます。実際にそういうようなことがよく起こっておりますので,何らかの御参考となさっていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○北澤委員 一読段階ですので,方向性についての自分の意見を簡単に述べさせていただきます。   国際性の要件のところなんですけれども,適用範囲の甲案,乙案かというと,私は甲案の方を現段階では,支持しております。既に多くの委員から意見が出ておりましたけれども,国際性を有する和解合意に対して,執行力を付与するニーズが非常に高いということを考えますと,シンガポール条約に倣った形での規定を設けていくということを,まずは考えるべきだろうと思っております。ただ,この甲案ですと,適用範囲についての基準が若干狭いのではないかということで,現状では,外弁法のような規定もできておりますので,実情に沿った基準というものを加えていくべきなのだろうということを考えております。   先ほど,増見委員の意見だったかと思うんですけれども,国内で外国企業同士がするような和解合意,すなわち実は国際性を有している和解合意だと思うんですけれども,そういったものが適用範囲の甲案の(1)の①だと読み取れないのではないかということで,国際性の要件ということを設けたとしても,境界が不明確であるならば,乙案のような考え方もあり得るのではないかという御意見であったかと思います。   ただ,国内事案か国際事案かというところの要件を,入口の適用範囲のところで乙案のようにして,ある種国際性ということを問わずにいたとしても,後ほど出てくる18頁の8の執行拒否事由に関するところに記載されておりますように,執行拒否事由の段階では,これは,シンガポール条約の規定を前提としていますから,国際性を有する和解合意についてのルールになりますが,国際私法が指定した準拠法上,当事者に行為能力がないとか,そういった渉外的な事案を念頭に置いた規定になっているわけですね。そうすると,入口で乙案のようなものを採用したとしても,執行拒否事由の規定については,国内での和解合意のパターンと国際的な和解合意のパターンと,両方のパターンに備えた規定をやはり設けなければならないということになりますから,この入口の甲案か乙案かという議論は,ここだけのものにとどまらず,後の執行拒否事由のような規定にも恐らく影響を与えていくことになるかと思いますので,そのあたりの整合性というものは,是非事務局でもお考えいただいて,御議論をお願いしたいと考えております。   また,出井委員のお話にもありましたように,出井委員は,甲案か乙案か,両方あり得るということをおっしゃっていたかと思いますけれども,乙案のような形を採ったときに,国内での,つまり国際性を有しない和解合意にも執行力を付与する必要性が高いものが,どれぐらいあるのかというのは,正直,私自身は情報をきちんと持ち合わせていないのですけれども,この部会の議論でそういったものがあるのだということであれば,手塚委員が先ほどおっしゃってくださったように,国内調停の類型は非常に多様であって,無制限にそういうものに執行力を付与するよりも,認証ADRのみで認めてはどうかとか,一定の制限をかけてこういったものを認めていくという方向での議論ももちろんあり得ると思っております。今のところ,私はシンガポール条約に倣って国際性の要件をかけてゆくということを考えておりますけれども,国内での国際性を有しない和解合意に執行力を付与するニーズが非常に高いものがあるということが,今後の議論で出てくるということでしたら,そのあたりの結論は現段階では留保させていただければと思っております。 ○山本部会長 私の認識では,これで大体一通り,委員,幹事ほぼ発言を頂けたかと思います。   先ほど申し上げたとおりで,基本的には第二読会がありますので,そこで更に御議論いただきたいと思いますが,どうしてもこの今日の第一読会のうちで御発言をしておきたいと,しておくべきだとお考えの委員,幹事,できるだけ簡潔にお願いしたいですが,更に御発言を。 ○手塚委員 手塚です。   1点だけ申し上げたいのですが,執行受諾文言に関する規律のところで,執行受諾文言があれば,シンガポール条約のオプトインの留保文言とみなすとか,あるいは,シンガポール条約のオプトインの文言があれば,執行受託文言があるとみなすという,そういうみなし文言としてだけ問題を考えるよりは,現時点では,シンガポール条約に加盟するかどうかが不明ですので,シンガポール条約に言及した文言にはならないものの,シンガポール条約に加盟する場合には,実務的には,特に海外の調停の場合には,日本法独自の執行受諾文言を入れなければいけないというところを周知するのもなかなか大変なこともあると思うので,シンガポール条約の適用があるというオプトインの文言さえあれば,執行受諾文言がなくても執行力を認めると,そのとき書けばいいのかなという気もしています。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 国内のニーズに関係して,しばしば即決和解や公正証書という制度があると言われています。実際のところ,恐らく債権者である方が必要性を感じるのは,債務者側が履行をしなくなった段階と思われます。そうすると,その段階で,改めて公正証書を作成するとか,あるいは即決和解をするとかということは,もはやあり得ないわけです。そうすると,やはり強制執行したいということを考えざるを得ない,しかし,現行法の下ではできないと,こういうことだと思います,実際上の必要性です。   それから,先ほど,商事性の関係で,消費者関係,個別労働関係を除くというお話が提案されています。それはそれでいいのかもしれませんが,問題は,消費者側が申立人になって請求しているという事例は,決して少なくないわけです。私どものセンターでも,かなりあるわけです。例えば,建築請負関係,あるいは売買でもあるわけです。そうすると,売主あるいは建築業者の方がなかなか応じない,合意ができても任意の支払に応じないという場合に,消費者側が強制執行を申し立てざるを得ないといいますか,その必要性はあるわけです。その場合に,これまでにもお話ししておりますけれども,和解的仲裁判断という,言わば便法を使って調停の和解あっせんを仲裁判断に変えて対応しているとのです。それが,いいのかどうかということで,執行力を付与していただければ,そのままいけるということになるのではないかと考えています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか,この段階では。   それでは,また近々同じ話題で御議論を二読としていただくことになろうかと思いますけれども,第一読会のこの部分の議論としては,この程度にさせていただければと思います。   それでは,ここで若干の休憩を取らせていただければと思います。   3時35分まで,15分程度ですが3時35分に再開したいと思いますので,よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,会議を再開したいと思います。   引き続きまして,部会資料3-1の,今度は11ページの5の部分から最後9までについて御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは,鈴木から説明をさせていただきます。   まず,本文5は,裁判上の和解や仲裁判断としての効力を有する和解合意を,今般の新たな枠組みにおいて執行力を付与する対象から除外することを提案するものです。   我が国の裁判所における手続における当事者間の和解合意等,現行法制上の既存の枠組みの下で,これに基づく強制執行をすることができるものについては,今般の新たな枠組みで執行力付与の対象とする必要がないことから,適用対象から除外しております。   もっとも,外国裁判所における裁判上の和解については,我が国の現行法制上,これに基づく強制執行は認められておりません。しかし,外国裁判所における和解については,国家権力の行使という意味で,主権の問題とも関連することから,相互の保証を要件とするかどうかなど,別途の議論が必要であることから,今般の新たな枠組みにおいて,適用対象に取り込むことは慎重に検討しなければならないと考えております。   そこで,本文5では,差し当たりシンガポール条約の規律に倣い,外国裁判所における裁判上の和解も含め,裁判上の和解は適用対象から除くという提案をしております。   次に,本文6では,書面性等に関する規律を提案しております。   (1),(2)は,強制執行に当たって,当該和解合意の内容が明確になっている必要があるとの観点から,書面性の要件を設けるものです。このような趣旨からすれば,電磁的記録等何らかの記録により,その内容が明確となっているのであれば,書面性の要件を満たすものと考えられ,また,昨今オンラインでの調停が行われている実情等も踏まえ,前回の部会で取り上げました仲裁合意の書面性に関する規律も参考にしつつ,広く書面性を認める方向での規律を提案しております。   また,(3)では,電磁的記録についての署名要件を提案しています。この後御説明する本文7において,和解合意の執行に関する規律を提案しておりますが,当事者が和解合意に基づく執行を求めるに当たって,当事者全員により署名された和解合意を裁判所に提出することを要件としています。本文6(3)は,この本文7の規律を前提に,電磁的記録について,当事者や調停人の同一性を確認でき,かつ,その方法が信頼することができるものであることなどの要件を満たす場合には,署名要件を満たすことを提案するものです。   本文7は,和解合意の執行に関する規律を提案するものです。   ここでは,当事者が和解合意に基づく民事執行を求める場合には,当該和解合意に基づく執行を許すべきでない事由の有無について,裁判所の審査に委ねるのが相当であるとの観点から,裁判所に対し,執行決定を求める申立てを必要とする規律を提案するとともに,本文8では,執行拒否事由に関する規律について提案しています。これらの規律は,シンガポール条約の規律及び仲裁法における仲裁判断の執行決定に関する規律に倣って,具体的規律を提案するものです。   本文9では,援用に関する規律を設けないことを提案しております。   シンガポール条約では,締約国の手続準則に従い,当事者が和解合意を援用することができる旨の規律が設けられていますが,ここでいう「援用」とは,当事者が和解合意の準拠法上の効果を主張し,権限機関がその法的効果を認めることを意味すると解されています。我が国の現行法制下において,和解合意が成立した後,一方当事者が訴訟を提起した場合,相手方当事者は,当該紛争については,既に和解合意の成立によって解決済みであることを,抗弁として主張し,裁判所がその事実を認定した場合には,当該訴訟は却下,又は棄却されることが想定されます。つまり,当事者が和解合意の効果を主張し,裁判所がその法的効果を認めるという場面が想定されるということになります。そうであるとすれば,シンガポール条約が規律する和解合意の援用は,我が国の現行法制の枠内において,既に対応できていると考えられることから,新たな規律を設ける必要はないものと考えております。   私からの説明は以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明いただいた部分につきまして,どなたからでも結構ですので御発言を頂ければと思います。   先ほどの述べた趣旨で,できるだけやはり多くの委員,幹事からの御意見を伺いたいと思いますので,御配慮を頂きたいと思います。 ○古田委員 古田です。   まず,裁判上の和解等についてお尋ねします。部会資料12ページでは,裁判上の和解と仲裁判断としての効力を有する和解を除くということになっております。このうち,仲裁判断として効力を有する和解の方は,現行の仲裁法で執行力がありますから,今回の法改正から除外しても問題ないと思うのですけれども,裁判上の和解を除外しますと,外国の裁判所で成立をした調停和解は,日本では引き続き執行できないということになります。他方,今回の部会資料2ページですと,調停の定義の中で,行政ADRは除かないということになっておりますので,外国の行政機関が実施する調停で成立した和解には,今回の法改正で執行力を付与することになります。そうすると,外国行政ADRの調停による和解には執行力はあるのだけれども,外国裁判所の調停による和解には執行力がないということになり,それは結論においてバランスが悪いのではないかという疑問があります。また,外国裁判所の調停和解について今回の法改正で執行力を付与しない理由として,部会資料13ページに外国裁判所の裁判権,管轄権との関連で議論が必要であるという点が挙げられていますが,一般に外国裁判所の裁判権が問題になるのは,外国裁判所の確定判決を承認・執行の段階で,外国裁判所の国家行為の効力を日本で認める要件として,間接管轄の問題として外国裁判所の管轄の有無を検討するからです。調停合意の場合には,外国裁判所の判断自体が承認・執行の対象になっているのではなくて,飽くまで対象は当事者の合意ですから,合意がなされた場所が外国裁判所であるからといって,国家管轄権の関係で問題が生じるのかという点は疑問に思います。この点,事務局の考えがあればお聞かせいただきたいと思います。 ○山本部会長 事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。   重要な御指摘を頂いたと思っておりますけれども,現時点で,事務当局としてお答えできるのは,この部会資料に書かせていただいた限度ということになりまして,この点,いろいろな観点からの御議論があるのだろうとは思っておりますが,取りあえず,この仲裁法制部会に委ねられた役割というところから考えますと,外国裁判所でした和解というものについての執行力の付与というのは,また別途検討を要する事柄だろうと思いますので,これを直ちに取り込むということについては,やはり慎重に考えなければいけないんだろうと思っております。   もちろん,バランスとの関係でどうかという点はごもっともな御意見だと思いますが,現時点での事務当局としての考えとしましては,以上のようなお答えになろうかと思います。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。 ○古田委員 はい。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○竹下幹事 同じ点について一言発言させていただければということでございまして,私も,古田先生のお考えにかなり近く,理論的にこの裁判上の和解だけ除外するというのは多分,余り筋のいい話ではないんだろうなと思っているところです。当然のことながら,これは恐らくシンガポール条約の審議と同時並行で,同時並行だけではない,2005年のハーグ国際私法会議の管轄合意条約ですとか,2019年のハーグ国際私法会議の外国判決の承認及び執行に関する条約,あちらで扱っているのでシンガポール条約では扱わず,その結果として,今ここに,日本でも除外するということで出てきているのではないかとは思いますが,若干,やはり今お書きいただいている提案の理由のところの外国裁判所の裁判権,管轄権との関連,御説明の中では,相互の保証ということも多分おっしゃられたのではないかとは思いますが,少なくとも管轄権の観点からすると,余り問題はないのではないか。   これ,家事が入ってくると,少し微妙な問題が出てくる可能性があるかなと,単純に合意だけで管轄を認めることはできない可能性というのがあるのかもしれませんが,そもそも古田先生がおっしゃられるとおり,管轄を問題としなくていい合意だけが,飽くまで取り出されているという考え方もあると思いますし,仮に管轄を問題とするとしても,これ,和解合意が成立しているような通常の民事訴訟事件であるとすると,何らかの形で当事者の意思,当該裁判所での一定の審理に服する意思といったものを認めることができるので,恐らく管轄権との関係でも,余り問題はないのではないかと思われます。   ただ,他方で,個人的には確かに,仮に日本が2005年の管轄合意条約であるとか,2019年の外国判決の承認及び執行に関する条約の締約国となるときに,あちらの要件とシンガポール条約の要件と全く同じなのかと言われると,そこは慎重な検討が必要となるかもしれない。今ここで取り込むことによって,あちらの条約に仮に入ろうとしたときに,何か障害が起こる,もちろん,障害が起こったとき,問題があればそれを解決すればよいという考え方も一つだとは思いますが,確かに向こうの条約で扱われている事項ですので,シンガポール条約の規律と異なる可能性がある。そういった状況を踏まえて,差し当たり,少なくとも現時点において除外するということについて強く反対だとまでは言わないわけではございますが,可能であれば,やはりこれを含めることについて何か問題があるのか,もう少し実質的なところで検討する必要があると思いますし,この部会とは関係ありませんが,ハーグの方の条約も,是非,締結の御検討は,いろいろな意見があると思いますので,日本が直ちに締結するということにはならないとも思われますが,御検討は頂ければと,付言だけさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかかでしょうか。 ○垣内幹事 すみません。今ちょうど話題になっている点ですので,若干,私に十分に理解できているということでは必ずしもないのですけれども,裁判上の和解等の場合につきましては,今御指摘もありましたように,典型的な普通の合意が裁判所で成立していて,たまたまそれが裁判所でされたから裁判上の和解になっているのであるというような場合を想定いたしますと,その合意のところに着目して執行力付与の今回の制度の対象にするという考え方は,理屈としてはあり得る考え方なのかなというように思われます。   ただ,裁判上の和解,例えば,日本法で見ましても,裁判所の定める和解条項でありますとか,調停ですと17条決定の場合に裁判上の和解と同じような効力があるとか,様々な周辺的なものも出てくるかというふうな感じもいたしますので,その調書等だけを見て,それが十分に区別できるというようなことであれば,問題ないということなのかもしれませんけれども,仮に検討の対象とするとすれば,その辺りについても,更に検討を深める必要があるのかなというように思われるところですので,今回の部会の審議の中で,どこまでそういった問題を取り扱うかという点については,先ほど御説明ありましたように,慎重に考えるということも理解できるところあるかなというように感じております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○渡邉幹事 執行拒否事由の関係について,確認させていただきたいところがございまして,発言させていただきます。   まず,1点目ですが,前回御議論いただいた暫定保全措置の執行拒否事由の中には,暫定措置又は保全措置が日本の法令によって執行することができるものであることという点が含まれておりました。調停による和解合意についての執行拒否事由には,そういった拒否事由を定められておりませんが,調停による和解合意についてもそのような拒絶事由を設ける必要があるのではないかという点を指摘させていただきます。仮にそのような明確な条項を設けることがシンガポール条約との関係で問題があるとすると,正に日本の法令によって執行することができないものについては,今回の規律の中では,③の拘束力,終局性なしであるとか,あるいは⑥の明確性又は理解不能,あるいは⑦の執行が文言に反する,極端なケースでは,⑩の公序良俗違反などの事由の中に取り込んだ上で,執行拒否するということになると思っております。この点について,そういう理解でよろしいのか,確認をお願いしたいと考えております。   もう1点は,これは,研究会でも議論させていただいた点で繰り返しになり恐縮ですが,裁判所といたしましては,調停による和解合意の際に,執行できる文言で債務名義を作っていただかないと,その後の手続が非常に難しくなると考えているところがございます。研究会の議論では,執行できる形で和解合意をするのは,債権者又は代理人の責任責務であるというような議論であったかと思っておりまして,裁判所から見て,このような文言では執行できないなというような調停条項については,どの要件で執行を拒絶するのかというのは事案によってそれぞれかと思いますけれども,例えば,③の拘束力・終局性なし,⑥明確性又は理解不能,⑦の執行が文言に反する,極端な場合には⑩公序良俗違反などの事由に該当するとして,粛々と執行を拒否するといったことになると思っております。この点についても,そのような理解でよいのかというところについて,お聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。   今,2点お尋ねを頂いたと理解しておりますけれども,いずれも,今渡邉幹事がおっしゃったような解釈の問題になろうかと思っております。そのような前提で進めていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○吉野委員 執行拒否事由の⑧に,調停人又は調停に適用される規範に対する重大な違反がある,とされています。ちょっと分からないのは,この規範というのは何を意味しているのかということです。英語原文を見ますと,standardになっているんですが,私の乏しい英語力では,standardが規範になるのかと,もっと広い概念のような気もしないではないのですが,これは何を考えたらいいのかというところを,教えていただければと思います。   それから,重大な違反というのも,広い概念ですので,どこまでが重大な違反になるのかというようなこと,恐らくこれは執行決定の段階で議論になる可能性があります。その点について,何か判断する場合に当たっての,これはまだ将来のことかもしれませんけれども,何か参考になるようなことがあれば,教えていただければと思います。 ○山本部会長 それでは,これも事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の点についてお答えいたします。   まず,規範というものが何かということについてのお尋ねですけれども,こちらは,日本法ではなかなか想定しづらいところがあるかもしれませんが,調停機関における規約,規則がこの規範に当たり得るのではないかと考えております。場合によっては,その調停手続について,何らか調停人に対する制約となるような規定を設けている国もあるかもしれませんので,そういったものも,場合によっては入ってくるのではないかと考えております。   2点目の「重大な」というところですけれども,ここは,軽微なものであった場合も含めて全部拒否してしまうというのは,さすがにどうなのかと理解しておりまして,その違反と和解合意をするに至らなかったというところの因果関係ですね,これを考えるに当たっての一つのファクターとして,捉えるべき問題だろうと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   吉野委員,よろしいでしょうか。 ○吉野委員 また最初のところで「申立てを却下することができる」と,これも,「できる」とありまして,場合によっては,認めるということもありうるという,逆の考え方も出てくる可能性があるわけです。それも当然あり得るということでしょうか。問題は,この認定の問題に帰着してしまうのかもしれませんけれども。 ○福田幹事 福田でございます。   今の点は,この部会資料の19ページの中ほどにも記載させていただいておりますけれども,シンガポール条約の規律自体が「may refuse」という規律になっておりまして,必ず却下しなければいけないというような規定にはなっておりません。ですので,そこは裁判所にも一定の裁量が与えられているものと考えております。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 まず,渡邉さんがおっしゃった点ですけれども,シンガポール条約の3条1項では,各締約国は,和解合意をその国の手続準則に従い執行しなければならないという規定になっています。つまり日本での執行手続は日本の民事執行法に基づいてすればよいということですから,日本の民事執行法上執行できないような義務は,これを日本で執行しなかったとしても,条約上問題がないと理解をしています。   もう一つ,別の点なのですけれども,執行拒否事由の中には,例えば,和解合意が当事者の行為能力の制限により,その効力を有しないことですとか,あるいは,この和解合意に基づく義務が履行されたことなどのように,実体法上の権利義務の発生・消滅・変動に関する事項が入っております。それと日本の憲法との関係について確認をしたいのですけれども,憲法82条に関する最高裁の昭和35年7月6日の大法廷決定と昭和40年6月30日の大法廷決定は,いずれも法律上の実体的権利義務の確定には,公開の法廷における対審又は判決が必要だとしています。これら大法廷判決によれば,今申し上げたような行為能力の制限によって和解合意が効力を有しないかどうか,あるいは和解合意に基づく義務が履行されたかどうかということの確定は,最終的には公開の法廷において判決手続によって確定しなければいけないということになります。今回の御提案ですと,これらの事項も執行拒否事由ということで決定手続の中で判断されることになるのですが,それは,裁判所の最終的な確定判断ということではなくて,例えば,執行決定手続において,債務者の側が義務は履行したと争ったけれども,その主張が通らずに執行決定がされた後に,債務者が改めて請求異議の訴えを起こして,そこで同じ事由,すなわり義務は履行済みであるということを主張することは妨げられないと理解していますが,それでよろしいかどうか,御確認を頂きたいと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。   すみません,もう一度確認させていただきたいのですが,最終的に古田委員がお尋ねになりたい点というのは,この執行拒否事由というものについて,執行決定という,いわば非訟手続で行われているものではありますけれども,また別途請求異議という訴訟で争うことができるのかどうかというところのお尋ねと理解してよろしいでしょうか。 ○古田委員 両方あると思います。執行決定手続において,債務者の側が弁済を主張したけれども,その主張が通らずに執行決定がされた場合,その執行決定がある和解合意が債務名義になって執行手続が始まるわけですけれども,その段階で,債務者が今度は請求異議の訴えを起こして,同じ事由を主張することは妨げられないと思っておりますが,それでいいかということと,逆の局面として,債務者が弁済の主張をして,それが認められて執行決定申立てが却下をされて確定した後で,今度は債権者の側が改めて和解合意に基づく本案訴訟を提起した場合に,本案訴訟の受訴裁判所は,弁済があったことを前提にして判断するんではなくて,改めて弁済の有無につき審理し直すということになるのですよねというところを,念のため確認したいという趣旨です。 ○福田幹事 質問については承知いたしました。   ただ,今現在,私どもで定見というのはございませんが,これは,仲裁の判断に対する争い方というところでも,同じような議論がされているものと承知をしておりまして,ここは,請求異議の訴えでできるという考え方と,いや,その執行決定という別の手続ないしは仲裁判断の取消しという別の手続が仕組まれている以上,請求異議はできないんだという考え方もあるものと認識しております。そこは,解釈で分かれているのかなと思いますので,この調停の部分についても,場合によっては,その仲裁判断のところと同じような解釈問題が生じるのかなとは承知しておりまして,現在,事務当局として請求異議ができるべきと,ここでちょっと断言するのは,若干のちゅうちょがあるというところは御理解いただければと思います。 ○古田委員 仲裁判断の場合には,裁判所ではなく仲裁廷が本案の判断をするということになっていますので,その段階で憲法82条は問題にならなくなっているわけです。けれども,調停和解の場合には,そういう前提がないわけですので,和解合意の実体法上の有効・無効の問題は裁判所が確定することになります。その場合,最高裁の昭和35年と昭和40年の大法廷決定を前提にすると,やはり判決手続によることが必要であり,執行決定手続の中で最終的に解決されるということになってしまいますと,最高裁大法廷決定との関係が少し整理が難しいのかなと思いました。 ○福田幹事 福田でございます。   おっしゃるとおりかと思います。個人的には,請求異議の訴えができていいんだろうとは思っているんですけれども,そう断言していいかというところの若干のちゅうちょがあるということだけ,御理解いただければと思います。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。 ○古田委員 結構です。 ○垣内幹事 垣内でございます。   今の古田先生の議論が大変興味深かったので,それに,ついでに便乗として,今の点についてですけれども,こちらの執行決定の手続というのは,執行の可否を判断対象とする手続ですので,決定手続,決定という裁判に既判力が生ずる場合があるのか,あるとして,どの場合にそれがあるのかということについては,学説上議論があるところかと思いますけれども,いずれにしても,対象となっている実体法上の請求権の存否について,この決定で既判力をもって確定されるということは想定されないだろうと思われます。   ですので,あとは,その執行可能性について,請求異議の道を留保する必要があるのかどうかという問題と,別途本案訴訟を提起することができるかどうかという問題で,これは,御指摘の最高裁判例に抵触することなく,いずれの立場も可能なのではないかという感じがいたします。   一言申し上げました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 今の垣内委員がお答えになったことと同じで,昭和35年の判決,昭和40年の判決は,非訟事件についての解釈の問題で,その前提となる実体的権利義務関係は,別途公開の法廷での審理が保障されていますよということを言っているだけなんですね。だから,本件の場合にどのように当てはまるかということは,また別の問題だろうということです。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。   特段ございませんか。 ○古田委員 すみません,すごく細かい点ですけれども,よろしいでしょうか。   これは言葉の問題だと思うのですが,部会資料の16ページの(8)に,「前記(1)の申立てに係る事件についての前記(6)又は前記(7)の規定による決定に対しては,即時抗告をすることができる」と書いてあります。これを卒然と読むと,移送をするという決定に対してだけ即時抗告をできるように読めるのですけれども,御趣旨としては,移送をするという決定だけではなくて,移送申立てを却下する決定に対しても即時抗告ができるということだと理解しているのですが,そういう読み方でよろしいでしょうか。 ○山本部会長 事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。   おっしゃるとおり,そのようなものも含むと考えております。条文の文言として,そう読めるかどうかというところについては,引き続き検討させていただきたいと思います。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○古田委員 結構です。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。   特段ございませんか。 ○垣内幹事 すみません。恐らく二読目以降の議論ということにもなるのかもしれませんけれども,執行拒否事由としてどのようなものを規定するかというのは,制度のかなり基本的な部分に関わる重要な問題なんだろうというように考えておりまして,現在,部会資料で出されている内容というのは,シンガポール条約に依拠した内容だろうと思うんですけれども,その内容について,これ,仲裁判断の場合とは少しまた異なるところもあるということで,新たにその内容について議論をすべき部分もいろいろとあるのかなというように感じております。   一つには,先ほども調停人等に適用される規範というのは何なのかという点についての御指摘がありましたけれども,この規範に対する違反があった場合に,18ページの⑧とか⑨のところで,結果として当該違反がなければ,当事者が和解合意をするに至らなかったことというような要件が課されているということですけれども,どのような場合にこういった認定ができると考えるのかというようなことで,和解合意がいかなる形でも成立しなかったというようなことまで含意しているのか,それとも,同じ内容では成立しなかったということで足りると考えるのかといった辺りについても,立法に際しては前提となる理解がどういうものであるのかということについて,ある程度認識が共有できるのであれば,その方が,それが必要なのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   垣内幹事としては,今の時点で何か,今の点について。 ○垣内幹事 条約の文言を見ると,the settlement agreementということになっていて,このtheというのをどう読むのがいいのかというの,私も何か英語はネイティブということではなくて,あんまり自信がないんですけれども,一つの読み方としては,当該和解合意と解するとすれば,その和解にはならなかっただろうという場合でも認められるということが,解釈としてあり得るのかなと思いつつ,少しでも変わったというようなことが言えると,どんどん執行が拒絶できるというようなことでいいのかどうかというような議論もありそうな感じがいたしまして,実質として,どの辺りが拒絶事由として適切なのかということと,ある拒絶事由を定めることが,その条約との関係で整合的なのかどうかという,この両面を考える必要があるのかなと,差し当たり考えていまして,まだ,この特定の文言について,こう解すべきであるというほどの確たる意見を持てているということではございません。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかかでしょうか。よろしいでしょうか。   この9では援用という,一応条約,一応というか条約にはある規律ですけれども,これは,対応する規律は設けないという提案ですが,その点も含めて,特段御意見はございませんでしょうか。   よろしいですか。   それでは,一応これで,部会資料3-1については御審議をしていただいたということにしまして,続いて,部会資料3-2の方の議論に入りたいと思います。   これは,全体についてまとめて御審議を頂きたいと思いますが,まず事務当局から部会の資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 それでは,吉川から説明をさせていただきます。   部会資料3-2では,仲裁関係事件手続,すなわち仲裁手続に関して裁判所が行う手続に関する規律及び民事調停事件の管轄に関する規律について,検討しております。   まず,第1の1では,仲裁関係事件手続における管轄について,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも競合管轄を認めるとの規律を設けることを提案しております。   国際商事仲裁のような専門技術性の高い事件を念頭に,裁判所における専門的な事件処理態勢を構築し,手続の一層の適正化及び迅速化を可能とするとの観点から,現行法上の土地管轄に関する規律は維持しつつ,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも競合管轄を認めるとの規律を提案しております。   次に,第1の2では,仲裁関係事件手続における外国語資料の訳文添付の省略について取り上げております。   本文2の(1)では,外国語で作成された書証の訳文添付について,一定の場合にその省略を認めることを提案しております。説明の中では,裁判所法第74条の趣旨に反しない範囲であれば,外国語資料の訳文添付を省略することが許されるとの考え方を前提に,裁判所は,当事者の意見を聴いて,相当と認めるときには,書証の申出に際し,外国語で作成された文書の訳文を添付することを要しないものとすることができるという考え方を記載しております。   本文2の(2)では,仲裁判断及び暫定保全措置の執行決定を求める申立てにおいて,仲裁判断書及び暫定保全措置の命令書の一部につき,訳文添付の省略を認めることを提案しております。説明の中では,主文などの申立ての趣旨を特定するために必要となる部分については訳文添付が必要となる一方,理由に相当する部分については,裁判所が当事者の意見を聴いた上で相当と認める場合には,訳文添付を要しないものとすることができるとの考え方を記載しております。   第1の3では,第1回会議での御指摘を踏まえ,仲裁関係事件手続における期日の呼出しについて取り上げております。   第1回会議では,期日の呼出しは,呼出状の送達以外の方法でも行うことができるのに,現在の実務では,外国に所在する者を呼び出すときに,正式な送達と同様の手続を取っており,呼出しだけで相当の期間を要することがあるため,この点を検討課題として取り上げるべきではないかとの御指摘がございました。他方で,我が国の裁判所が外国に所在する者に対して呼出状を郵送する場合,そのような行為は外国の領域内における公権力の行使に当たるため,当該外国の同意をなくして行うことは認められず,そのような行為が当該外国の同意なくして行われた場合には,主権の侵害になり得るとの考え方がございます。   また,この問題については,仲裁関係事件手続に固有のものではないため,民事訴訟手続全般への影響についても留意する必要があるものと考えられます。   以上を踏まえまして,仲裁関係事件手続における期日の呼出しに関する規律の見直しの要否について,御議論をお願いしたいと思っております。   最後に,第2におきましては,民事調停事件の管轄に関し,例えば,知的財産の紛争に関する調停事件について,民事調停法第3条に規定する裁判所のほか,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも競合管轄を認めることを提案しております。   ここでいう民事調停事件とは,裁判所が手続を実施するものであり,部会資料3-1で念頭に置いていた民間の機関が手続を実施する調停とは異なるものでございますが,第1回会議での御指摘を踏まえ,この点も検討課題として取り上げております。  現行の民事調停法は,原則として簡易裁判所に民事調停事件の管轄を認めつつ,当事者間の管轄合意があるときには,地方裁判所にも管轄を認めることとしております。昨年から,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所において運用が開始された,いわゆる知財調停についても,当事者間の管轄合意に基づいて行われているものであると承知しております。これに対して,知財調停のより一層の活用を図る観点からは,当事者間の管轄合意がない場合であっても,知財調停の申立てを可能とするような規律の見直しをすべきではないかという指摘がされております。   以上を踏まえまして,第2の本文では,差し当たり,知財調停を念頭に,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも競合管轄を認めることを提案しております。もっとも,これは,知財以外の事件類型を排除する趣旨ではなく,明確かつ適切な規律を設けることができるのであれば,例えば,医療,建築,システム開発等の分野においても,規律の見直しを行う余地があり得るように考えておりますので,そのような点も含めて御議論を頂ければ幸いでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この資料3-2につきまして,どの点でも結構ですので,御質問,御意見等をお出しいただければと思います。 ○道垣内委員 ありがとうございます。   第1の1と2についてです。考える順序として,2を先に考えないと,1は決まらないのではないかと思います。1を決めてから2というのでは,全ての裁判官が対応できることを前提に考えなければいけなくなってしまいます。むしろ,重要なのは2の方だと思います。  2について,4ページから5ページにかけて記述されているところによりますと,自動的に外国語の書証でもよいということにわけではなくて,裁判所が当事者の意見を聞いて相当と認めるときにそうなるとされています。これはどういう場合かというと,みんながその言語なら分かるということを確認したときに,外国語で書かれた書証を認めることができるというにとどまっておりまして,これですと,当初はいいとされても,裁判官が転任して新しい裁判官がその外国語では困るということになって,途中から日本語の翻訳を出してくださいということにもなりかねません。これでは,どういうふうな場合に認められて,どういう場合は認められないのかが非常に曖昧ではないかと思います。   外国語の書証を認めてほしいというニーズとして最も大切なのは仲裁判断取消しの裁判です。日本の企業でも,国際取引に関しては英文の契約書を用いていて,紛争になっても,そのまま英語で仲裁手続がされ,英語で仲裁判断が下されたにもかかわらず,仲裁判断取消しが問題となって裁判所の手続が始まると,全部日本語にしなければいけないというのが現状であって,これを何とかしてほしいということです。日常的に使っていた英文契約書の日本語版は持っていないということもあります。そうしますと,裁判手続のために新たに翻訳しなければならないということになるわけです。とにかくそういう現実があるにもかかわらず,裁判所の裁量に委ねられることになると,せっかくの改正なのに実際の効果は期待できません。  もうひとつ,ハードルを下げるためには英語だけで十分です。法律上,英語とは書けないかもしれませんが,規則で認める言語とか書いて,規則で当分の間英語にすると決めておいていただければ,それで動くと思います。とにかく英語の文書はそのまま裁判で提出できることにして頂き,それに対応できるように裁判体を仕組んでおくといいますか,作っておいて頂くのが現実的ではないかと思います。すなわち,日本で二つぐらいの裁判所はきちんとそういうことに対応できるようにおく,そういう時代になっていいのではないでしょうか。裁判所法74条の枠内で工夫するというのではなく,74条の例外を作って頂きたいと思います。裁判所法の改正も視野に入れて議論をしていただきたいなと思います。   以上のことから,1の管轄は,競合ではなく,東京地裁と大阪地裁の専属ということにしていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○原田委員 原田です。   ただいまの外国語資料の訳文添付のご発言につきまして,全く同感でございます。仲裁の利用者の立場からすると,専門性の高い書面の翻訳は,時間的な問題,金銭的な負担も小さくありませんので,どのような場合に訳文を省略できるのかについては,範囲をより拡大する方向でご検討いただけないかと考えるところです。   もう一つのコメントとしましては,競合管轄のところでございますけれども,今回,従来の各地方裁判所のほか,東京,大阪に管轄を認める競合管轄を御提案いただいたことについては,大変結構なことと思っております。ただ,仲裁案件については,裁判所に高い専門性が求められる一方で,裁判所に係属する事件数も非常に限られているようですので,ノウハウの蓄積,外国語への対応,人材育成といった側面から,東京,大阪に専属管轄を認める方が,より望ましいのではないかと考えております。現実問題といたしましても,多くの案件が東京に係属しているようですので,東京,大阪に専属管轄を置くことについて,弊害が少ないようにも思えるのですけれども,何か具体的な懸念があるのであれば,御紹介いただければと思います。   また,仲裁活性化の観点から申しますと,利用者にとって,裁判所の実務が分かりやすいことも重要だと思いますので,仲裁関連事件の審理の統計を公表することなどにより,内外にアピールすることも活性化の観点からは重要と考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 競合管轄と訳文添付の省略について,今回の部会資料では,仲裁手続に関して裁判所が行う手続を対象としているのですけれども,国際調停についても,ある程度同様のことが言えるのではないかという指摘がございます。例えば,和解合意が英語で作成されている場合というのがあると思いますし,また,調停和解の執行拒否事由についても,例えば,調停人に適用される規範の在り方などは,やはり国際調停独自の考えというのはあり得ると思います。こうした観点から,国際調停に関して裁判所が行う手続についても,例えば,東京地裁,大阪地裁の競合管轄を認めるですとか,あるいは,訳文の添付の省略を認めるということも検討に値するのかなという意見がございましたので,御検討いただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   事務当局からありませんか。 ○福田幹事 今の点につきまして,福田から補足させていただきます。   恐縮ですけれども,部会資料3-1の方の16ページに,その辺りのことを少し触れさせていただいております。なお書きということで分かりにくかったかもしれませんけれども,今,御議論いただいている論点は,御指摘のように,調停の和解合意に執行力を付与する場面でも影響を及ぼすものと考えておりますので,この議論を踏まえて,二読のところでまた規律の提案をさせていただければと思います。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。   ほかに。 ○渡邉幹事    今回の部会資料について,皆様と理解が合っているかどうかを確認させていただきたいと思います。  訳文の添付省略につきましては,仲裁に関する裁判手続について,提出される外国語の書証又は仲裁判断若しくは暫定保全措置の命令書の中では,争われる争点によっては,日本語訳がそもそも不要な部分も相当あることが考えられ,その場合には,裁判所が訳文の提出が不要と考える部分については,訳文を提出していただかなくても,審理を行うことが可能であると考えているところでございます。他方で,裁判所が審理のために必要と考えられる部分につきましては,充実した審理のために,当事者から訳文を提出していただかないと審理は難しいのではないかと考えているところでございます。   また,訳文添付の要否につきましては,先ほど道垣内委員からも御指摘ありましたとおり,英語であれば,裁判官も,少なくとも何について書かれているのを予測することはできると思われます。他方,全ての外国語についてそのような対応を行うということは難しいところがございます。その点に関して,国際仲裁のほとんどは英語で行われていると我々は理解しているのですが,その辺につきまして,国際仲裁の実務に詳しい先生方の認識を教えていただければと思っているところでございます。   あと,件数等についても,御紹介させていただきます。仲裁関係事件として裁判所に係属している事件につきましては,最近では,全国で毎年約10件程度の新受事件がございます。どこの庁にどの程度事件があるかといった分布につきましては,かなり年によってばらつきが大きくあるのですが,過去5年間,すなわち平成27年から令和元年までの新受件数の合計という形で御紹介いたしますと,全国の合計が49件,このうち,東京地裁が24件,大阪地裁が4件となっているというのが実情でございます。こちらの方は,御参考にしていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   国際仲裁に詳しい方というお話がありました。 ○手塚委員 手塚でございます。   例えば,ICCのICCコートに上がってきている事例などを見ますと,英語がもちろん多いですが,フランス語の事件もかなり多数あって,私などは,そういう事件については,scrutinize 精査のときには遠慮するというか,それは議論に加われなくて,内心じくじたるものがあるのですが,実は,南米等の関係では,スペイン語の仲裁というのもかなりあると理解しています。ただし,日本企業が関与する仲裁のほとんどは,日本語以外では英語が圧倒的に多いということは言えるかと思います。   ついでに一言申し上げたいのですが,仲裁判断のうち,どの部分が争点に関連し,どの部分は余り関連しないのかというのは,これは,ケース・バイ・ケースな面もあると思うのですが,多くの場合,例えば,Procedural Historyといいまして,手続経緯というところで,いつ申立てがあり,いつ答弁書を出し,いつ仲裁人が任命されて,いつ文書提出申立てがあってとか,これが非常に長い仲裁判断が多く,手続に何か瑕疵があったというような点が,仲裁判断取消申立ての理由になっていれば,それに関連する手続経緯はとても大事ですが,そうではない場合に,長々と続いている手続経緯の部分を全部翻訳するのは,無駄ではないかなとも思われます。   ただ,今回の御提案が,仲裁判断の中身の特定に必要な範囲だけ訳して,理由のところは,全部省いてもいいのではないかということだとすると,やはり仲裁判断の取消しとか,そういうものにおいては,例えば,理由が書いていないとか,十分書いていない,あるいは論点を抜かしたとか,そういう取消事由に絡むこともあるので,もちろん法制度として,最小限の訳で,あとは裁判官に御理解いただければよく,ただし,裁判所の方で,ここはきちんと訳を出してほしいといったときに,その範囲で出すという制度設計もあると思いますし,他方で,基準として,争点に関連性が薄いものについては省略できるみたいな形で書くやり方もあるかもしれませんけれども,いずれにせよ,実際問題,問題になる部分はケースによっても異なり得ると思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 統計的なことですが,JCAA,日本商事仲裁協会のホームページで公表しているところですが,2015年から2019年までのケースの中で,手続言語はどうだったかといいますと,53%が英語です。日本語は41%,英語と日本語というのが,両方使ったのか2%です。残る4%が中国語,これは1件か2件です。。それを除けば,96%は日本語又は英語であるというのが,この4年間ぐらいの手続言語の実際であり,この傾向はそれよりも過去に遡っても多分同様だと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○髙畑委員 すみません,言語のところ,もうちょっとだけ補足させていただきますと,恐らく,今話し合われているのは,日本企業が外で仲裁の手続に乗った場合ということだと思いますので,その場合に,今,例えば,ICCもそうですし,ICSIDとかもそう,UNCITRALもそうだと思いますけれども,今どんどん多言語対応に進んでいるのかなという,ここ10年ぐらいの傾向かなとは理解しております。そのために,恐らくセクレタリーアートにすごく多様な言語をしゃべる者を配置する,採用するようにしているとも聞いておりますし,私の経験から言うと,恐らく日本企業が外に投資する場合に,多くスペイン語圏あるのではないか,もちろん英語圏ありますけれども。そうすると,紛争になった場合には,必ず,まずスペイン語って話は出てきてしまうので,そうすると,バイリンガルプロシージャにしていただいて,英語も入れていただくということが多いかなとは思います。   もちろん,ですから,フランス語,英語だったり,フランス語,ドイツ語だったりする組合せもありますし,そういう意味では,メジャー4言語というか,英語,フランス語,ドイツ語,スペイン語というのがメジャーかなと認識しております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。   まず,一つ質問ですが,先ほど最高裁の渡邉幹事から件数の紹介がございました。過去5年で49件でしたか。そのうち,東京,大阪合わせて半分ぐらいということだったかと思いますが,そのほかは,各地裁にばらけているという感じなのでしょうか。   それで,もう一つ,そこで言う,渡邉幹事が御紹介されたものは,仲裁判断取消しでしょうか,それとも仲裁関連事件全部だったでしょうか。 ○渡邉幹事 繰り返しますが,出井委員から御紹介いただいたとおり,全国で49件,うち,東京と大阪が合わせて28件ですので,半分強ということになっております。その他につきましては,この場で直ちに正確な統計をお答えすることができませんが,全国どこでもあり得るということになっているかと思います。   仲裁関係事件の内訳について,例えば,仲裁判断の取消し,執行決定などになっております。更に細かい内訳につきましては,事件類型ごとの統計を取っていないので御紹介はできませんし,また,仲裁が何らかの形で争点となっている事件というのは,ほかにもあるかと思いますが,そういったものは含まれていないということになっております。 ○出井委員 出井です。   そうしますと,少なくとも取消しだけではないということで,執行決定申立事件も入っているということですね。分かりました。   それともう1点,外国語で作成された書証の訳文添付に関する記述のところで,今,一定の場合に省略を求めることという,そういう非常に漠とした規律になっていて,最終的にも,裁判所が相当と認めるときとか,そういうことになるのかもしれませんが,これも,今何人かの方から,渡邉幹事も含め御意見あったように,一つは,争点に関連しないものは,さすがに翻訳しなくていいと。これは,もしかしたら,今の法制でもできるのかもしれませんが,それを明確化するというと,それは賛成です。   それから,さらには,私は争点に関連するところでも,裁判所がこれは訳さなくていいというものがあれば,それは,裁判所がそう言うのであれば,それは訳さなくていいということにしてよいのではないかと思っています。ただ,この辺りは,受訴裁判所,裁判官の正に判断次第ということにしておいてよいのではないかと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○今津幹事 東北大の今津です。   今の訳文添付のところに関連してなんですけれども,私も,一定の場合に訳文添付省略できるということ自体,そういった規律を設けること自体は,非常によいと思っております。   問題は,どういう場合に添付を省略できるかということなんですけれども,御提案の,具体的な文言はまだ固まっていないということかと思うんですけれども,例えばという形で,当事者の意見を聞いて,裁判所が相当と認めるときというような書き方になるとすると,これ,最終的には裁判所の判断ということになるかと思うんですが,例えば,当事者が,いずれも訳文は必要だと合意しているとか,あるいはいずれも訳文は要らないと合意している場合に,裁判所がそうでない判断をすることができるのかとか,あるいは,先ほど来,争点に関連するところはこうで,争点に関連しないところはこうだというような切り分けを仮にするとして,どこが争点に関連して重要なのかというところに,当事者の認識のずれがあったりした場合に,その訳文添付の在り方について,最終的な判断はどういうふうになるのかというようなところも含めて,これは,省略できるという形の規律なので,できるとした場合に,あえて当事者が出すと言ったときに,それを拒むことができるかできないかというようなところも,併せて検討していくのがよろしいのかなと思っております。 ○出井委員 出井です。   今の点に関連をして,今,今津幹事から幾つかの事例,御指摘ありましたけれども,やはり裁判所が相当と認めるときというのが,一番よいのではないかと思います。   もちろん,当事者の意見を聞くというのはいいかと思いますが,当事者に全て任せてしまうというのも,それも適切ではない。当事者が仮に合意をしても,裁判所がやはりここは出してくれというものがあれば,やはり判断権者として,出すことを要求できるようにしておくべきであると思います。   それから,当事者の一方が,訳文添付省略に反対したら出せないというのも,それもあまりにも硬直的で,これは,相手方に対して負担をかける,あるいは引き延ばしに使われることもあり得ますので,当事者の意見はある程度お聞きをして尊重はするとしても,最終的には,そこも裁判所が決められるようにしておくのが,制度としてはよいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○高田委員 競合管轄の点ですが,専属管轄の可能性ということも提議されておりますけれども,冒頭での事務当局の説明では,国際商事仲裁を想定してという御説明があったかに思います。国際性の定義自体が先送りになっておりますけれども,競合管轄,とりわけ専属管轄を定める際には,国際商事仲裁に限るのかどうかという点も,論点たり得ると思いますので,念のために御指摘だけはさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○三木委員 別な話ですが,第2の7ページからの民事調停の管轄に関する規律のところです。   知財事件について,東京地裁又は大阪地裁に競合管轄を認めるという提案には全面的に賛成します。   他方で,ほかに広げることをどう考えるかという点ですが,私の個人的な乏しい経験から言うと,現在,民事調停という制度は簡易裁判所にしか法定管轄がなく,地方裁判所にどうしても持って行きたい場合は,合意管轄で行っているわけです。その際,経験上,合意管轄でわざわざ地方裁判所にン申し立てられる事件として,商事調停は非常にニーズが高いという印象を持っております。もちろん,これを取り込む場合に「商事」を定義するという必要があるとすれば,そこはなかなか難しいので,法制的に簡単ではないことは承知しています。私も,特段いいアイデアを持っているわけではありませんけれども,是非この機会に,実際のニーズが大きいと思われる商事調停について,東京地裁と大阪地裁への競合管轄の可能性を御検討いただければ幸いかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほか。 ○渡邉幹事 今,三木委員から御指摘のありました知財調停の運用の実情についても,触れさせていただきたいと思います。   知財調停の運用を開始いたしまして1年余りが経過いたしましたが,多くの事件で調停が成立するなど,順調に審理が進められているところでございます。知財部の裁判官からは,専門家調停委員が専門的知見に基づき様々な角度から意見を述べることで,当事者が納得しやすい状況が生まれているという声を聞いているということでございます。もっとも,弁護士の方々からは,管轄合意を得ることは難しいとの声も多く頂いており,現に管轄合意が得られず,簡易裁判所に移送せざるを得なかった事案も存在するところでございます。   民事調停につきましては,東京地裁及び大阪地裁に競合管轄を認めるとの規律が設けられれば,より多くの事案で専門家調停委員を活用した紛争解決を図ることができるのではないかと考えているところでございます。   また,ただいま三木委員から御指摘のございました商事の関係等,知財以外の事件ですが,部会資料にも記載のとおり,東京地裁及び大阪地裁におきましては調停部が設けられておりまして,知的財産の分野のみならず,例えば,医療,建築,システム開発,あるいは先ほど御指摘のあった商事といった,様々な幅広い分野の専門家が多数所属しており,その中には,その分野でも相当高度な知見を有している専門家も相当数含まれているところでございます。このような専門家調停委員に事件を担当してもらいたいとのニーズは,東京,大阪以外にも全国各地にあるのではないかと考えております。   そこで,知財調停以外にも,例えば,医療事件,建築事件,システム開発に関する事件,商事事件,交通事件など,専門的知見が必要となる事件につきまして,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に競合管轄を認めることを,是非御検討いただきたいと考えているところでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   知財調停の統計的なところはお分かりになることありますか。 ○渡邉幹事 知財調停でございますが,令和2年10月末日時点の数字を御紹介申し上げますと,15件の申立てがございまして,このうち11件が終局しておるところでございます。中身を申し上げますと,調停の成立7件が含まれてございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 今の関連で,直接関与したわけではありませんけれども,競合管轄にしろこれまでのところでは定めがありませんので,専門的な事件がある裁判所に係属した場合に,専門家調停委員が多数いる大阪地裁にお願いしたいということがあります。事件を移送するということはできませんし,管轄合意も取れません。その場合に,その専門家調停委員に,兼務を発令していただいてまかなった事例があります。   これは,当事者にとっても大変だったと思いますし,その調停委員の方にとっても大変だった,遠方の裁判所に出向かなければいけませんので。このような立法が,相当の分野で定められれば,専門家の活用という点には大いに資することになるだろうと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○増見委員 増見でございます。   先ほど渡邉委員の方から,現在の知財調停の現状について情報共有していただいたところですけれども,民間企業の立場から申しますと,今まで企業同士の紛争に調停を活用するということが,余り行われてこなかったという実情がございまして,国内の紛争は裁判でというのが,今までの実務の慣習であったというところです。しかし最近導入された知財調停に関しましては,私も最近,かなりこれは有用なものになり得るのではないかという印象を持ったところでございます。   ですので,先ほど御意見のあった様々な専門分野において,既に調停委員がいらっしゃって調停が行われているというような実情があるのであれば,是非情報を共有していただきたいと思いますし,より活用を促進するような施策というのは考えていただいてよろしいのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○髙畑委員 ちょっと前に戻って,5ページの3のところなんですけれども,期日の呼出しということと送達条約のことで言われていることと,どういうふうに整合するのかよく分からないんですけれども,仲裁をやっていてとか,裁判をやっていてもそうなんですけれども,やはり仲裁はほとんど今,ノーティスする先を最初にメールか何かで決めてしまうので,大きな問題にはならないんですけれども,この裁判手続を絡めるときに,送達の手続が入ってくると非常に時間がかかる,訴状を1本取るのに本当に,現地の弁護士の方から,何か裁判が始まったらしい,訴えられたらしいよと聞いてから,訴状が来るまでに何か月もかかるというようなことが,ままあるんですね。   恐らくこれは,仲裁の判断についての国内での執行等を考えたときに,期日の呼出しが必要ですよといったときに,例えばなんですけれども,英国法なんかにあるプロセスエージェントみたいな,要するに,通知代理人というか,国内に通知代理人がいてというようなことというのは,整合しないというか,できないのかなと,ちょっと考えていたんですけれども,そういうことというのは,裁判所の手続となじむものなのかどうかというところも含めて,ちょっとお伺いしたいなと思ったものですから。 ○山本部会長 これは,裁判所から何か言えますかね。   今のプロセスエージェントというのは,例えば,執行決定とか取消決定のその事件において,文書の送達を受ける人を,日本国内で何か指名をしてという…… ○髙畑委員 そのイメージだと思いますね。恐らく,国際仲裁ですから,誰かは多分日本にいないわけなので,そうだとすると,国内にプロセスエージェントがいて,裁判所がそこに通知すれば足りるという形になれば,かなり送達の問題というのはクリアになるのかなと思いますけれども。 ○山本部会長 誰が答えるべきか。 ○門田委員 正確なお答えになっていないかもしれませんけれども,プロセスエージェントという制度は日本にはありませんが,訴状の送達をスピーディーに行うために,被告に訴訟代理人が付くということであれば,予め訴訟委任状を提出していただき,訴訟代理人として訴状を受け取っていただくことは考えられます。このような取扱いは,被告が日本国内にいる事件でも行うことがあり,被告が外国法人の場合で,将来的に外国法人の訴訟代理人になる方が決まっているのであれば,その方に訴訟委任状を出していただいて送達をするというのは,あり得るかなとは思います。 ○古田委員 古田です。   髙畑委員の御質問の点ですけれども,私の理解では,一般にプロセスエージェントというのは,実際に民事訴訟手続が係属する前の段階で,仮に将来訴訟が係属した場合には,この人に送達を受ける権限を与えますという制度です。法域によっては,例えば,会社を設立する場合には,その法域内にプロセスエージェントを指名しなければいけないという法域もありますし,また,取引契約の中で,この契約に関して将来的に提起される訴訟については,誰それをプロセスエージェントに指名するという規定が置かれることもしばしばあると承知しています。   しかし,日本の法制上は,民訴法に送達受取人という制度があるのですけれども,これは対象となる民事訴訟が実際に提起された後に送達受取人を指名することが前提となっており,現行制度上,いわゆるプロセスエージェントに制度は日本には存在しないと理解をしています。したがって,日本にプロセスエージェントの制度を作るのであれば,立法で作る必要があると思います。もっとも,それをこの部会で議論するかどうかというのは,よく分からないところではあります。   ちょっと送達の関係で若干意見を述べてよろしいでしょうか。 ○山本部会長 どうぞ。 ○古田委員 部会資料5ページ以下に期日の呼出しの話があるのですけれども,私の理解では,送達ができるかどうかという問題と,呼出しができるかどうかという問題は,一応別の問題であると承知しております。送達は,大陸法系の発想では一般に公権力の行使であり,外国において送達を実施することは当該外国の執行管轄権の侵害になるので,それを回避するために,例えば,送達条約等の国際的な司法共助の枠組みが作られているという理解です。けれども,部会資料に書いてある直接郵送については,これがが送達なのかどうかという点自体が議論があるところです。ハーグ送達条約上も,送達はserviceという英語を充てているのですが,直接郵送のところはsendという別の英語を充てており,送達とは別のものとして考えているという理解です。また,送達条約10条(a)項の拒否宣言をした国との関係では,直接郵送はしてはならないという規定についても,本来国際法上自由にできたものを,送達条約の拒否宣言をするということによって創設的に禁止するということなのか,国際法上も元からできなかったものを確認的に宣言するということなのか,送達条約の交渉過程において両方の説があると理解しています。部会資料は元から禁止されているという前提で書いてあるようにも見えるのですが,そこは両説あるところなのかなと思っています。   次に期日の呼出しについてですけれども,民訴法上は,相当と認める方法ですればいいということになっていますので,もちろん呼出状の送達という方法もありますけれども,それ以外に,例えば,ファクシミリで知らせるとか,電話で知らせるとか,電子メールで知らせることも,民訴法上はできるという理解です。したがって,仲裁関連事件の審尋期日の呼出しをするときに,例えば,送達するには条約上の手続を経る必要があるとしても,あるいは相手国が送達条約10条(a)項の拒否宣言をしているので直接郵送はできないという場合であっても,では,ファックスで呼び出すのはどうなのか,あるいはメールで呼び出すのはどうなのかという点は,別途検討すべきです。今回の部会資料7ページには,呼出し自体が命令的,強制的,権力的な性格を持つ職務行為であることは否定し難いという考え方が紹介されているのですけれども,期日の呼出しというのは,要するに当事者に自分の言い分を言う機会を与えるために行うことであって,当事者に何らかを強制するものではないので,例えば文書提出命令とはかなり性格が違うと思います。期日の呼出しに権力的な性格が本当にあるのかどうか,あるとして,それが国際法上禁止されるほどの程度のものかどうかというところは,議論の余地があるのではないかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○長沼幹事 外務省の長沼でございます。   今,議論になった点につきまして,もう委員の皆様御案内のことも多いかと思いますが,念のため,外務省としての理解を確認させていただきます。   先ほど先生おっしゃっていただきましたように,他国の領域内において,公権力の行使を相手国の同意を得ることなく行うこととなれば,それは主権の侵害となるということでございます。   それで,呼出状がそのような行為となるものなのかどうかということが論点になっているんだと思いますけれども,外務省しましては,呼出状もやはり命令的,強制的な主権的な効果を発生させる文書であり,裁判所から当事者に呼出状を送付する行為は公権力の行使に当たると認識をしております。したがいまして,呼出状を直接送付するのであれば,個別的又は包括的な取決めによって,そのための同意を取り付ける必要があるものと考えています。   また,このような同意を与えるのであれば,相手国からも同等の条件で日本に所在する方々に対して直接郵送されるということとなり得るわけですから,外務省としては,どのような条件を付けて直接郵送を受け入れることが適当なのか,可能なのか,そういう点につきましても,慎重かつ十分な検討が不可欠であると考えています。   また,メール,ファクシミリだったらいいのではないかという御意見でございましたけれども,外務省としましては,外国に所在する方に対して裁判所の文書を直接郵送する場合だけではなくて,メール,ファクシミリで直接呼び出す場合も,同様のことになるんだろうと思っています。   したがいまして,国内法で相当と認める方法とあったとしても,国際法上,相手国の同意が必要であると考えざるを得ませんので,本件につきましては,国内法の規律を見直すというよりはむしろ,マルチの枠組みか何かで,何か新しい方法を考えていくことが必要ではないかと思います。時間がかかる,それを何とかしたいという実務者の方々の御意見は本当によく分かるところでございますので,それを,公権力の行使に当たらない方法,主権の侵害に当たらない方法で,かつ,業務を迅速するためにどのようなことができるのかについて,議論を行っていくということではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○竹下幹事 今の3の点についてでございますが,この問題は恐らく,やはり波及効果の大きい問題かと思いますので,なかなかこの部会で見直すこと,実際に検討することは難しいのではないかというのが,私の見解でございます。恐らく,今の枠組みの中でも,迅速化することはできる,今,正に長沼幹事からも御発言いただいたかと思いますが,恐らく,様々なところで努力を積み重ねることによって今の枠組みの中での迅速化を実現する,できることをまずやってみて,その上で,なお必要であれば,民事訴訟法全体の枠組みを捉えながら,仲裁の関係手続についても検討を行う,そういったような方向性がいいのではないかと思っております。 ○山本部会長 渡邉幹事は。 ○渡邉幹事 申し上げたかったことは,ほとんど既に出てしまったので,若干補足させていただきます。裁判所といたしましても,手続保障を確実にするという観点から,外国にいる相手方に対して,期日に立ち会う機会を確実に与えるとの観点からの呼出しの方法を考えておりまして,各国の郵便事情のほか,当事者の出頭の見込みですとか,特に送達をしていない場合には,期日の不遵守について不利益を課すことができないというような点,あるいは,期日に呼出しを受けなかったことを理由として,裁判所の判断の効力が後に争われるのを防止するといった観点も踏まえまして,各裁判所において適切に呼出しの方法を選択しているということかと思います。時間がかかるという御批判があることはよく承知しておりますが,以上申し上げた観点から,なかなかそう簡単に送達以外の方法で呼出しをすることは,先ほど外務省の方から御紹介がありました国際法的な観点以外にも,なかなか難しいところがあると考えているところでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。議論は出尽くしたと考えてよろしいですか。   ちょっと,私の最初の発言が過度に抑制的なことになったかもしれないという反省をしておりますが,まだもう少し,ちょっと時間があります。全体を振り返って,3-1に戻っていただいても結構ですので,御発言があれば,この際お願いしたいと思いますが。 ○増見委員 増見でございます。   ちょっと先ほど,1点言い漏らした点がございましたので,補足をさせていただきます。   3-1の方の資料の13ページ,書面性に関する規律のところで,和解合意を本来書面化することが求められていたわけですが,それを電磁的記録でもよいということにするという,全体の方向性については賛同しております。ただし,(2)の電磁的記録によってなされたときは,それが書面によってなされたものとするという,この規定が,シンガポール条約の規定と本当にちょっと整合的なのだろうかというところが少し疑問でしたので,その点を御指摘させていただきたいと思います。   2条の2項のところで,書面性のところで,最後の一文ですね。この,If the information contained therein is accessible so as to be useable for subsequent referenceということで,後ほど参照するためにアクセス可能であることが必要とされているところが,この定義で本当に読み込めるのだろうかというところは,少し疑問でしたので,その点御指摘させていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございます。   事務当局から何かございますか。 ○福田幹事 福田でございます。   今の点につきまして,引き続きこちらでも,意見を踏まえまして検討させていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○河井委員 河井です。今の点に関連してですけれども,定義の中で,電子計算機の使用うんぬんというところがあったと思うんですけれども,そういう何か既存のというか,現時点の技術を前提として書くより,もう少し幅広に書けたら,その方がよろしいのかなとは思っております。感想めいたことで恐縮ですが。 ○福田幹事 ありがとうございます。   全く御指摘のとおりでございまして,現在,裁判手続のIT化についても別途検討が進んでおります。そこでの議論や,あとは行政機関との関係でのe申立てというようなものも,もう既に始まっておりまして,そちらの法制なども参考にしながら,なるべく広く取り込めて,かつ,分かりやすい記述になるように,検討を進めていきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかに,今のような点。 ○出井委員 出井でございます。   部会資料3-1の方に戻りますが,先ほどの議論の中で,商事性のところですね。商事性のところで,消費者と事業者の間に契約に関する民事上の紛争,それから個別労働関係紛争を除くということに関しては,特に消費者団体,それから労働団体から出ていらっしゃる方を含め,除くことに賛成であるという御意見であったかと思います。   私も,結論としては,それでよいのではないかと思っておりますが,せっかくの機会ですので,念のための確認ですが,先ほど吉野委員からも御指摘があったように,調停における和解合意では,消費者が債権者になる,それから労働者が債権者になって,事業者に対して,金銭が多いのでしょうけれども,金銭を請求していくというもので,その和解もあるわけです。そういう場合には,それに執行力を与えるニーズは,普通に考えればあるのではないかとは思っているのですが,ただ,それでもやはり弊害の面,つまり,経済的あるいは情報力の格差があるので,そもそも合理的な和解合意がされていない危険性があるので,それは,執行力というよりも和解合意そのものの問題なのですが,さらにそれに加えて執行力を与えるというのは,やはり弊害が大きいのではないかと,そういう御趣旨であったかと思います。そういう弊害を考えると,やはりこれは入れるべきではないという,そういうお考えということでよろしいでしょうか。ニーズは結構,私も吉野委員と同じで,結構あるのではないかと思っていたものですから,その辺り,もう一度お考えをお二人から頂ければと思います。 ○山本部会長 それでは,有田委員と春田委員ですが。 ○有田委員 有田です。   実は,今おっしゃったように,つまり,反対の立場でということも少しは考えました。しかし,そのことを考えても,より,やはりここに執行力を付与することの危険性,が,そちらの方が大きいのではないかなと思いまして,先ほど③はこの文章の中ではちょっと外す方がいいような表現も書いてはあったんですが,裁判所の方がおっしゃったように,私もDVなどの関係で人事に関するという,家庭に関する紛争の中でも,やはり力の差というのがあり,情報の差というものがあり,特に女性はいろいろ過去の事例もあるので,そういうことで,本当に執行力を付与することがいいのかなと,逆に利用しない方がメリットがあるんではないかなと考えました。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○春田委員 いま出井委員が述べていたとおり,やはり合意自体が本当に公正な合意なのかは,懸念するところがあります。働く者の立場から言うと,繰り返しになりますが,やはり情報の質や量,使用者と労働者の立場を考えた時も,労働者が弱い立場になるケースが非常に多いと認識しており,交渉力の格差もあると思います。その中で合意に至ったところが,やはり公正でないような懸念が拭えないので,働く者の立場としては,個別労使紛争も適用範囲から除外していただきたいという主旨です。よろしくお願いします。 ○山本部会長 出井委員,よろしいですか。   ほかに。 ○小川委員 現在部会資料に記載されている執行拒否事由はシンガポール条約の規定を参考に作られていると思いますが,執行力を付与する和解合意をシンガポール条約が規定するものから拡大した場合には,執行拒否事由についても追加するものがあるのかどうかを検討する必要があると思います。また,執行拒否事由の中には,漠然とした一般条項が多いように思われますが,具体的な解釈の指針,審理のイメージについても弁護士の先生などから御意見を頂けると,裁判所としては非常に有り難いと思っています。次回検討される場合には,その点についても御審議をお願いしたいと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○河井委員 河井ですけれども,今,消費者の方,労働者の団体の代表の方が反対されているので,余り考えてもしようがないのかなと思いながらも,今ちょっとつらつら考えていたのは,消費者と事業者との紛争であれば,消費者側だけが執行力を求めることができるとか,労働者と企業だったら,労働者側だけが執行決定を求めることができるというような,片面的な措置みたいなのは,制度上可能なのか。可能かどうかでいうと可能なんでしょうけれども,それが適切かどうかというのは,労働団体の方とか消費者団体の方,やはりそれでも不当な合意内容があり得るからやめた方がいいというお考えであれば,それは仕方がないのかなと思うんですけれども,ただ,メリットがある範囲でメリットを追求してもいいのかなって考えも,今個人的にぱっと思いついただけでございますが,何かそういうこともできるのかなという感じもしていまして,例外の例外みたいな感じなんですけれども,ちょっと気にはなっているところではございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   またこれは,次回以降,それでは,少しそれぞれお考えも頂くということで,お願いできればと思います。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいですか。よろしいでしょうか。   それでは,本日の資料3-1及び資料用3-2に基づく審議は,この程度とさせていただければと思います。   最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。   本日も長時間にわたりまして熱心な御議論いただきましてありがとうございます。   次回は年明け,令和3年1月15日金曜日,午後1時30分からを予定しております。場所につきましては,また決まり次第お伝えいたします。   内容につきましては,前回審議いただきました仲裁の暫定保全措置に対する強制執行を中心とした規律についての二読,それから,今日扱いました調停による和解合意に対する執行力の付与につきましても,可能な範囲で取り込んでまいりたいと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,これで仲裁法制部会の第3回会議は閉会にさせていただきます。   本年最後の会議となります。落ち着かない世情ではありますが,どうかよいお年をお過ごしいただければと思います。   本日は熱心な御審議ありがとうございました。 -了-