法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和2年11月27日(金)   自 午後 2時34分                         至 午後 4時50分 第2 場 所  東京地方検察庁1531会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会第7回会議を開催します。 ○酒巻部会長 本日も,御多忙中のところ,お集まりいただき,ありがとうございます。   小笠原幹事,笹倉幹事,和田幹事には,本日,ウェブ会議システムによって御出席いただいております。   北川委員,菅野委員,くのぎ幹事におかれましては,所用のため欠席されています。   それでは,まず,事務当局から本日の配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として,配布資料21「検討のためのたたき台・その2〔改訂版〕(第1-1 被告人に,公判期日外における裁判所その他の機関への出頭や報告をする義務を課すこと)」,配布資料22「検討のためのたたき台・その2〔改訂版〕(第1-2 身元引受人が被告人を監督して逃亡を防止し,公判期日への出頭を確保する仕組み)」,配布資料23「検討のためのたたき台・その2〔改訂版〕(第2-1 禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈(再保釈)について,同判決の宣告前の場合と比較して,要件を厳格なものとすること)」,配布資料24「検討のためのたたき台・その2〔改訂版〕(第2-2 控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けること)」をお配りしています。 ○酒巻部会長 それでは,審議に入ります。   前回会議で確認させていただいたとおり,今回からは,これまでの第1から第3までのグループ分けや項目の順序にはよらず,更に議論を尽くすべき項目に焦点を当てて議論を行いたいと思います。これまでの御議論を踏まえますと,より重点的に議論すべきと考えられる論点を含むものや,必ずしも全ての論点に触れられなかったものが複数ありますが,論点相互の関連性等も踏まえて,本日は,先ほど事務当局から説明があった配布資料に記載されている四つの項目について御議論を頂くことにしたいと思います。まずは,このような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,「第1-1 被告人に,公判期日外における裁判所その他の機関への出頭や報告をする義務を課すこと」について議論を行います。   まず,資料21について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料21を御覧ください。   制度枠組みの記載については,第4回会議の配布資料から変更はありません。   続いて,「検討課題」を御覧ください。この制度枠組みについて,更に議論を尽くすべきと考えられる論点を「(1)」から「(3)」までに挙げています。   まず,「(1)」には,「裁判所以外の機関・場所への出頭も命じ得るものとするか」という点を挙げています。制度枠組み「(1)」では,「指定の場所に出頭すること」を命ずることができるものとしていますが,その出頭先を裁判所に限るものとするのか,どのような場合にどのような機関・場所に出頭させることが考えられるのかなどの点について,引き続き御議論いただければと思います。   次に,「(2)」には,「被告人の出頭・不出頭及び裁判所への報告内容等を検察官に通知する仕組みとするか」という点を挙げています。被告人の出頭・報告の状況などを検察官に通知することが必要かどうか,それに問題はないかなどについて御議論いただければと思います。   最後の「(3)」には,引き続き,命令違反を理由とする罰則を設ける必要性・相当性,罰則の法定刑という点を挙げています。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。   今の事務当局からの説明内容について御質問はございますか。よろしいですか。それでは,この「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点からでも結構ですし,また記載のない別の課題についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかを示して御発言をいただければと思います。 ○佐藤委員 検討課題「(1)」の命令の内容に関して,裁判所は被告人に裁判所以外の機関に出頭することを命じることができるかという点について発言いたします。   勾留,保釈等の処分の判断主体が裁判所ないし裁判官ですので,まずは裁判所への出頭を命じるということが自然かと思われますが,出頭命令を発する目的が,被告人を出頭させることを通じて被告人が逃亡していないことをその時点において確認し,それによって被告人に仮に逃亡しても早期に発覚し得るため逃亡は功を奏しないということを認識させるという点にあることや,被告人が所定の日時・場所に出頭したか否かというのは,単純かつ明確な事実であって,誰でも容易に確認できることからしますと,命令を発する裁判所や裁判官が属する裁判所以外の機関・場所への出頭を命じたとしても,出頭命令の目的は果たされ得ますし,そのような裁判所以外の機関においても,出頭の有無という単純・明確な事実は確認できるのではないかと考えられます。そういうことからいたしますと,出頭先を必ずしも裁判所に限定せず,例えば検察庁のような関係機関に出頭することを命じることも許容するという制度にすることが考えられると思います。   仮に,検察庁に出頭を命じた場合には,被告人が出頭したか否かを検察官が確認することになると思いますけれども,この場合,検察官は訴訟の一方当事者であるという事情はありますが,今述べましたとおり,被告人が所定の日時・場所に出頭したか否かは単純かつ明確な事実として容易に確認することが可能ですし,仮に出頭命令違反が問題になった場合に,その事実関係や違反があった場合の正当な理由の有無を裁判官が判断するに当たっては,検察官からこういうことがありましたと連絡を受けた内容だけを根拠として判断するのではなくて,被告人からも説明を聴き,これを踏まえて判断をすることになると思われます。そういたしますと,出頭先を検察庁としたとしても手続の公正さが損なわれるわけではないだろうと考えられるところです。また,検察官は,保釈又はその取消しの判断に関与しますし,また,保釈や勾留の執行の指揮は検察官が行うことになっており,出頭命令に対する被告人の対応に強い関心を持っているのが一般だろうと思われますので,検察庁への出頭を命じ得るものとする余地を排除する必要はないように考えております。   ただ,他方で,こうした制度が設けられた場合,裁判所は,被告人に対して出頭を命じるだけではなく,併せて,出頭した際に所定の事項について報告をすることをも命じるのが通常ではないかと想像されます。出頭の有無についての確認は単純かつ明確な事実の確認作業にとどまるといえるわけですけれども,検察官が検察庁に出頭した被告人から就業状況や居住状況等に関わる内容について報告を受けるといたしますと,その際は,検察官からの一定の発問と,それに対する被告人の応答という手順を経ることになりますので,言わば取調べ類似の状況が生じるといえるかもしれません。出頭先を検察庁とし,さらに検察官に報告をすることを被告人に命じることができることとする場合には,そうしたことも考慮して,報告の在り方,手順について,更に検討する必要があると考えております。 ○髙井委員 御意見の趣旨はよく分かりましたが,やはり佐藤委員もおっしゃったように,被告人は検察官とは訴訟において対等の立場に立っているわけですから,被告人が検察庁に出頭して検察官からいろいろと質問を受けるというのは,対等の立場にある者同士の関係としては不適切であると思います。   それから,この制度の目的は,出頭させることによって,その時点では逃走していないことを確認すること,また,それによって,逃走してもすぐに見付かってしまうと思わせることにあるという御意見でした。それはそのとおりだと思うのですが,更に踏まえて言えば,要するに,自分が常に刑事司法の枠内にいる,刑事司法から常に関心を持って見られているということを被告人に自覚させることによって,被告人の逃走意欲の発現を防ぐという側面もあろうかと思うのです。そのような観点からすると,やはり出頭先は保釈を認めた裁判所であるべきであり,発問をするのも裁判官であるべきだと思います。 ○天野委員 私も髙井委員と同じ認識でして,やはり検察庁に出頭させられるというのは問題があるのではないかと思っています。加えて言えば,検察庁の建物と裁判所の建物は近いところにあったりもするので,裁判所以外の機関に出頭先を広げるとしたら警察署などが考えられますけれども,そこもやはり弁護人としては抵抗があるのではないかと思います。裁判所もオンライン化を進めているところですので,例えば被告人を弁護人の事務所などに来させて,オンラインで裁判所とつないで面談するとか,そういったことも今後は検討されてもいいのかなと思いました。 ○髙井委員 私自身は,オンラインによる出頭は認めるべきではないと思っています。とにかく裁判所に出頭させることによって自分が常に刑事司法の枠内にいることを肌で実感させるというところにこの制度の趣旨があると思います。それを,弁護人の事務所に行ってオンラインで裁判官と話せばいいやということであれば,わざわざこの制度を設ける趣旨が没却される,そういうオンラインでの裁判官との面会を出頭として認めるのであれば,こういう制度は作る意味がないと思います。 ○酒巻部会長 被告人が裁判所に出頭して一定の事項を報告したときに,報告を受けたその内容を裁判所が検察官に伝達することについては,何か御意見ありますか。 ○小木曽委員 保釈された被告人に命じて裁判所に一定の事実を報告させるのは,被告人の逃亡のおそれの判断に影響を与える事情が発生していた場合に,それを裁判所が把握しやすくするためでしょうけれども,他方で,検察官には保釈の取消請求の権限もありますので,被告人から裁判所に報告された事実は,検察官にも共有されて,言わば多角的に保釈ないしその取消しの当否が判断されることになるのがよいのではないかと思います。 ○髙井委員 検討課題「(2)」については,先ほどの小木曽委員の御意見に私も賛成します。おっしゃるとおり,保釈の取消しを請求するのは検察官の仕事ですし,あるいは裁判官がいろいろ発問をして答えを聞いたと,裁判官自身はこれだったら大丈夫だと判断する場合でも,検察官がその内容を聞いて検討した場合には,これはややおかしいかなと思う場合もあります。また,裁判官は,おかしいかなと思ったとしても,それを調査する手足を持っていませんが,検察官にはそういうものがあるということを考えれば,それを常に検察官に通知するという仕組みにするか,あるいは一定の場合に通知するということにするか,そこは考え方があるかと思いますが,いずれにしても何らかの形で検察官に通知して,検察官を関与させるということは必要ではないかと思います。 ○酒巻部会長 命令違反があった場合の措置として,そもそも罰則を設けるかどうかも論点ですが,いかがでしょうか。 ○髙井委員 私自身は,こういう制度を設ける以上は,何らかの罰則を設けることは不可欠ではないかと思います。せっかくこういう制度を作っても,出頭しなければそれでいいというのであれば,何のためにこういう制度を作るか分からないと思います。 ○酒巻部会長 出頭義務や報告義務を課し,それに違反した場合についての罰則を設けるということになると,自己負罪拒否特権や黙秘権との関係といった憲法上の論点や刑事訴訟法上の論点も考えられますが,この点については,いかがですか。 ○笹倉幹事 平成8年の最高裁判例は,道路交通法によるアルコール検知のための呼気検査は憲法第38条第1項に反しないとし,呼気検査は呼気を出させるのであって供述を得ようとするものではないということをその理由にしています。これを「考えられる制度の枠組み」の出頭義務に当てはめますと,ここでの出頭は裁判所に足を運ぶことを求めるものであって供述を義務付けているわけではありませんので,出頭の義務付け自体が憲法第38条第1項に抵触することはないと思われます。   報告の義務付けについては,昭和32年の最高裁判例が参考になります。被告人が監房番号の自署・拇印等により自己を表示し弁護人が署名押印した弁護人選任届を裁判所が却下したため,自己の氏名を明らかにするほかなくなったという事案で,最高裁判所は,自己負罪拒否特権は,自己が刑事上の責任を問われるおそれがある事項につき供述を強要されないことを保障したものであるという解釈を示した上で,氏名は,原則として,ここにいわゆる不利益な事項に該当するものではないとしています。制度枠組みの報告命令の制度において保釈中の被告人が具体的に報告を義務付けられる内容は,被告人の就業状況ですとか居住状況など,逃亡のおそれの判断に影響を与える事項であり,判例の言うところの刑事上の責任を問われるおそれのある事項についての供述の義務付けに当たるとされる場面は想定し難いと思われます。 ○酒巻部会長 刑事訴訟法第311条の規定から被告人には包括的な黙秘権があるとも言われますが,これとの関係はどうでしょうか。 ○笹倉幹事 先ほどの昭和32年の最高裁判例の事例は,被告人による弁護人選任についてのものです。つまり,公判手続において被告人に包括的黙秘権があるとしても,弁護人選任の届出のような付随的な手続についてまで包括的黙秘権が及ぶとは考えられていないことになります。この判例に従うとすれば,ここでの出頭や報告の義務付けについても,身柄の扱いをめぐる付随的な手続の中での問題ですので,包括的黙秘権の保障は及ばないことになると考えられます。 ○大澤委員 前にこの制度枠組みの議論になったときに,罰則の部分を除くと従来からあるものの確認的な性格が強い,罰則を設けることとしたところに創設性が出てくることになるのかということを議論させていただきました。その意味では,罰則を設けるかどうかはこの制度を作る上でのポイントになるところなのかもしれませんが,出頭しない,あるいは報告をしないという場合には保釈の取消しが予定されており,保釈が取り消されて,出頭を求められて出てこない場合には,第1-3の制度で罰則が掛かってくるかもしれない。当然に保釈が取り消されるものではなく,任意的な取消しですから取り消されない場合もあるのかもしれませんが,その場合には,公判廷に召喚されて出頭しないと,これも第1-3の別の罰則が掛かるということになるかもしれない。これは,そういう一連のプロセスの中の一コマであると考える必要があるのかなと思います。   そういう意味では,この出頭義務とか報告義務というのは,被告人の公判廷への出頭を確保するための前段階の一つのステップのようなもので,前段階を含むその全部に罰則を掛けるという考え方ももちろんあるのかもしれませんけれども,事の重さを考えたときに,果たしてそこまで罰則を掛けるのが良いのかということについては,少し慎重に考えるべきところもあるのかなと,私はそういう感触を持っています。 ○天野委員 私も同じ感覚を持っておりまして,公判期日への出頭の確保が趣旨であるとすると,違反があれば当然保釈を取り消し得るのですから,それで対応すればいいのではないかと思っています。一連の流れがある中で,この段階で罰則を設けるのは行き過ぎではないかという考えを持っています。 ○和田幹事 実体法の観点からは,命令違反の罪を作るとしたときに,その保護法益や罪質が何であるかということを,きちんと詰める必要があると思います。   出頭命令違反については,身柄の所在に直接関係する問題ですので,第1-3に示された他の罰則と同じ議論をすることができると思いますけれども,報告命令違反については,その事項を報告させることがどのような意味で逃亡防止の効果を持つのかということについて,実質的な関連性を考える必要があると思います。「たたき台」の制度枠組みでは,報告を求める事項の例として就業状況や居住状況が挙げられていますけれども,その他裁判所が定める事項についても報告の義務を課すことができるとなっていて,仮に逃亡防止に直接関係しないような事柄について裁判所が報告命令を出し,それに違反した場合でも罰則が掛けられるということがあるとすると,それは単なる命令違反の罪であって形式的な犯罪になりますので,さほど重い刑罰は科せないということになるでしょうから,それなりに重い刑罰を用意するのであれば,実質的に逃亡防止との結び付きがある違反行為についてのみ刑罰を科すものとして考えないといけないだろうと思います。   それから,それなりに重い法定刑で臨むとすれば報告義務違反との関係では強い効果を持つでしょうが,早い段階の行為に重い刑罰を用意すると,そこで重い犯罪が成立してしまい,その後,更に別の犯罪を行っても大差ないことになって,刑罰による動機付けを弱める効果を持ってしまうということにも注意する必要があるかなと思います。その意味では,全体としてどの時点でどういう行為にどういう罰則が用意されているのかという,その全体の構造を見据えて,その中での位置付けを考えながら,この罪についても具体的な中身を詰めて検討する必要があるのではないかと思う次第です。 ○酒巻部会長 たたき台を作成した事務当局から補充説明はありますか。その他裁判所が定める事項というのは,具体的にはどのようなことを想定しているのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 現時点で具体的な例を想定しているものではありませんが,被告人に報告を求める事項は,逃亡のおそれなどの判断に影響を与え得る事実関係を想定していますので,その主なものとして掲げている居住状況や就業状況に類するもの,これらと同様に逃亡のおそれなどの判断に影響を与えるものが,「その他裁判所が定める事項」として考えられるのではないかと思います。 ○小笠原幹事 罰則を付けることについては,反対というか,慎重になるべきであると考えています。これまでの議論でも,以前もこういう公判期日以外の出頭というのを保釈中の被告人にやらせていたものの,使いづらくてやらなくなったという話があったかと思います。違反について強力な制裁を付ければ付けるほど,裁判所としてはこれを使うのにちゅうちょすることになり,結局,制度を作ったはいいけれども使われないのでは意味がないのですから,もう少し使いやすい制度を目指すとすると,罰則まで行くのは少し行き過ぎなのかなという意見です。 ○小木曽委員 先ほど笹倉幹事から自己負罪拒否特権の話がありましたけれども,裁判所から検察官に通知が行くとして,報告事項の中に別の犯罪の捜査の端緒になるようなものがあった場合であっても,先ほどの自己負罪拒否特権の話の延長というか,関連でいくと,問題はないのだという理解でいいのでしょうか。 ○笹倉幹事 「考えられる制度の枠組み」では,正当な理由がある場合には報告を拒めるものとされています。自己負罪拒否特権は憲法上の権利ですから,自己負罪の現実的な危険がある場合にそれを行使することは正当な理由に含まれるのでしょう。そうだとすると,それにもかかわらず,報告したとなれば,その時点で自己負罪拒否特権は放棄されているので,報告した内容が検察官に伝達されて捜査の端緒とされても違憲の問題は生じないことになると考えられます。 ○酒巻部会長 ほかに御意見がなければ,第1-1についての議論はこの程度にさせていただき,「第1-2 身元引受人が被告人を監督して逃亡を防止し,公判期日への出頭を確保する仕組み」の項目について議論したいと思います。   議論に先立ち,資料22について事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料22を御覧ください。   「制度枠組み」の記載については,第4回会議の配布資料から変更はありません。   続いて,「検討課題」を御覧ください。先ほどと同様に,更に議論を尽くすべきと考えられる論点を「(1)」から「(3)」までに挙げています。   まず,「(1)」には,監督者に命ずる事項として,制度枠組み「(2)」「ア」の「公判期日に被告人と共に出頭すること」に加えて,第1-1の被告人に対する出頭命令の制度により被告人に出頭を命ずるときは,監督者に対しても被告人と共に出頭することを命じることができることとするかという点を挙げています。また,「(2)」として,第1-1とも類似しますが,「監督者の出頭・不出頭及び裁判所への報告内容等を検察官に通知する仕組みとするか」という点を検討課題に挙げています。これらの点については,そのような制度とすることの当否や要否について,御議論いただければと思います。   最後に,「(3)」には,監督者が命令に違反した場合の措置として,監督者の解任により保釈や勾留執行停止が取り消され得るものとするか,罰則を設けるものとするかという点を引き続き挙げています。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明内容について御質問はございますか。よろしいですか。   それでは,議論に入ります。「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点についてでも結構ですし,記載のない点についての御提案でも結構ですので,御意見のある方はお願いいたします。なお,御発言に際しては,関連して,第1-1の被告人に対する出頭報告命令の制度に話が及ぶことも当然あると思いますけれども,その場合には,どちらの制度についてお話しされているのかが分かるように御発言いただければと思います。 ○佐藤委員 検討課題「(1)」の,第1-1の制度によって被告人に出頭を命じるときは,監督者に対しても被告人と共に出頭することを命じることができるとするかという点について発言いたします。現在の制度の枠組み「(2)」の「ア」では,「公判期日に被告人と共に出頭すること」を命じることができるとなっておりますけれども,第1-1の制度の枠組みで被告人に公判期日外における出頭を命じる際に,監督者にも同行を命じ得るものとする方が,被告人の出頭に向けて監督者から被告人に対して様々な働き掛けが行われることが期待でき,保釈中の被告人の逃亡防止に有効ではないかと考える次第です。 ○髙井委員 私も佐藤委員と同じように,この制度を作る以上は,被告人が出頭を義務付けられた場合には監督者も被告人と共に出頭するという制度にした方が,制度の趣旨に合うと思います。監督者が裁判所に報告した内容を検察官に対して通知するという点も,被告人と同様に考えるべきではないかと思います。   他方で,監督者が命令違反等をした場合に監督者を処罰する罰則を設けるかとなると,そこはどうかなと。被告人と同じように考えることもできると思うのですが,そこは分けて考える余地もあるのではないかという感じがします。 ○和田幹事 罰則に関しては消極的な意見も少なくないと思いますので,バランスをとるためにも,あえて反対の極端なことを申し上げますが,被告人本人の自己隠避的な側面を持つ行為については,刑罰まで科すのかという話はあり得ると思いますけれども,周囲の者から被告人本人に働き掛けるように仕向けて,そのような周りからの圧力によって被告人に望ましい行為をさせていくというアプローチとして,被告人には直接刑罰を科さず,むしろ監督者の方にだけ刑罰を科すということも,理論的にはあり得ると考えております。既に存在している犯人蔵匿罪,犯人隠避罪については,本人は処罰されないけれども,周りが逃亡に協力すると処罰されるという形になっているわけですし,逃走の罪についても,本人の自己逃走よりも周りの者による行為の方が強く禁圧されているという構造がありますので,その意味では外側の方をより強く罰則によって強制するというやり方もあり得なくはないと思います。いずれにしても,処罰する根拠はあり得ると思いますので,政策的にそれが合理的かどうかということは,今回,罰則を付けることが問題になっているもろもろの行為全体を見渡した上で調整していくことになるのだと思います。 ○小笠原幹事 私は,基本的にこの制度について全般的に反対です。理由の一つが,前時代的というか時代に逆行しているというところです。元々,保釈する上で,保釈金を取るという話になったのは,その以前が,走れメロスではないですけれども,人質のようにやっていたのが,お金の方が大事なものだろうと考えられたという流れと聞いています。今,更に人的関係が希薄になっているといわれている中で,だからこそ逃亡が増えているのだという話もあるかとは思いますが,そういう中でこういう制度を設けるのは,時代にも逆行しているし,実効性もないのではないかと思います。もしそうやって監督者を大切にするような人であれば,保釈保証金を出している監督者に迷惑をかけることになるので,そもそも逃亡しないのではないかということが一つあります。   もう1点は,監督者の制度ができたときに,監督者がいないということで,今までは保釈が認められていたにもかかわらず,この制度ができたせいで,監督者がいないために保釈が認められないということが生じることが絶対にあり得ないと言えるかというと,それはいえないのではないかとも思います。制度ができれば,適切な監督者がいないので保釈を認めないということを考える裁判官が出ないとも限らないとすると,この制度を設けることは保釈を広げていこうとする流れと逆行するのではないかと思います。   3点目として,保証金とは別に監督保証金を納めることになるわけですけれども,その監督保証金を取られないように,被告人と多少連絡が取れなくなっても,監督者は裁判所に報告をせず,頑張って被告人と連絡を取ろうとするとかしているうちに,かえって逃亡される危険がないかということが心配されます。前にも言ったのですけれども,被告人が逃げそうだとか,被告人と連絡が取れないということを,監督者がすぐに検察官や警察に相談できるようにする体制こそが重要ですし,監督者がきちんと報告をしたことによって被告人の逃亡を防止することができた場合には監督者が用意した保釈保証金の没取をしないとか,一部返すとか,そういった「アメ」の部分も付けておいた方が,逃亡防止に効果があるのではないかと思います。   最後に,罰則について,被告人と共に出頭する義務の違反となると,被告人が逃げてしまったときには,監督者のせいではないというか,監督者は逃げることについてあずかり知らぬところというときもあって,その場合も罰則の対象とするのは,やはり行き過ぎです。結局,監督者としての注意義務違反を罰する過失犯的なものになるとすると,本人が罰せられないのに行き過ぎではないかと思います。形式的には出頭しないと分かっていて一緒に出頭していないのだから故意はあるのかもしれませんけれども,その実質においては過失犯ではないかと思うので,それはやはり行き過ぎだろうと思います。   結局,お金の問題だけではなく,下手をすると罰則も科せられるということになってくると,そもそも我々弁護人は身元引受人を見付けること自体が非常に苦労している中で,こういうことがありますと説明せざるを得なくなるのですけれども,それでも監督者になる人がいるのですかという話になってしまって,かえって保釈が認められづらくなるのではないかというのもあります。この監督者の制度というのは,やってもかえって害というか,逃亡防止には役に立たないのではないかと思います。 ○髙井委員 今でも身元保証人を見付けるのに苦労するときがあるわけですから,こういう制度を作ったときに監督者を見付けることが難しいというのは,もうおっしゃるとおりだとは思うのですが,この制度を作ると,裁判所が,監督者がいないのだったら保釈を認めないという運用になるかというと,今の大きな保釈の運用の流れから見れば,それは杞憂ではないかなと思います。こういう監督者が常に簡単に見付けられるとは私も思わないのですが,運よくこういう監督者がいると,その被告人は,従前の例であれば保釈はなかなか難しいけれども,この監督者を付ければ保釈が可能になるという場合もあるだろうと,数としてはともかくも,絶対ないとはいえないだろうと思います。そうなると,保釈をなるべく認めていくという前提として考えれば,こういう制度は作っておくと,どこまで有効に機能するかは別にして,作っておくということ自体は必要なのだろうと思います。   もう一つ,この制度は,監督者が処罰される,あるいは監督保証金を没取されるから,それを考えて逃亡を諦める,あるいは逃亡しないことにするという効果を期待するのと同時に,監督者に日常に監督してもらって逃走を抑止するという側面もあるわけで,そういう意味ではかなり,監督者が本当にきちんとした人であれば,有効な制度になり得ると思います。 ○笹倉幹事 制度の枠組みの「(3)」「ア」について意見を述べます。   監督者自身が義務を怠った場合の効果について,被告人自身は逃げてもいないし,出頭命令に応じて出てきて報告もするのだけれども,監督者は義務を履行していないという場合に,監督者を解任できるということは当然であろうと思います。また,そもそもきちんと監督するということを担保するために監督保証金を納めさせているわけですので,それを没取できることも自然であろうと考えます。また,この制度の下では監督者がきちんと義務を履行することを踏まえて保釈をするわけですから,監督者が義務を履行していないということが明らかになったとすれば,その分,保釈を許す事情がなくなってしまいますので,それが一つの理由となって保釈が取り消され得るということもまた,このような制度を作る以上は,自然な帰結であろうとは思います。   ただ,そうしますと,被告人は逃げもしないし,出頭命令に応じてきちんと出頭して報告してきたのに,監督者が義務を怠ったがために,被告人が不利益を被るのは酷だという場合は当然考えられます。しかし,「たたき台」の案では,監督者を欠くこととなった場合,保釈を取り消し得るということであって,必要的取消しにはなっておりませんし,また,監督者を欠くこととなった分だけ逃亡のおそれが高まったというときに,例えば保釈保証金額を変更するなどして欠けた分を補う措置を講じることで,保釈を取り消さない道が残されているのであれば,酷な結果を避けることもできるでしょう。監督者がしっかりしていなくとも被告人は義務を守って出頭する,逃げていないというのであれば,そのこと自体が,監督者がいなくても大丈夫だということを推知させる事情にもなり得ます。   監督者が義務を怠った場合,それについて監督者に制裁を科してきちん対処しつつ,しかし当然に被告人の保釈が取り消されることとなるのではなくて,取り消さないこともできることとすることで,被告人に不当に酷な結果とならないような道も残すということであれば,制度の枠組みの「(3)」「ア」については正当化できるのではないかと考える次第です。 ○小笠原幹事 弁護人は監督者になれるのかという話がありましたが,監督者が保証金なり罰則なりでお金を払う形になると,被告人が逃げてしまった場合に,後日被告人に損害賠償ができるとなると,恐らく弁護士基本規程で依頼者に対して債権債務を取得するような行為はできないことになっているので,弁護士は監督者になれないのではないかと思います。弁護士が監督者になるのであれば,監督保証金の制度をなくすということと,罰則を付けないということは必須かなと思います。 ○酒巻部会長 今の点について事務当局はどう考えますか。以前の議論では,弁護人も監督者になれるという前提だったと思いますが,依頼者に対して債権・債務を取得するような行為はできないという点について何かありますか。 ○吉田幹事 制度上,弁護人を除くこととするかというのは,今の御指摘も踏まえて検討が必要なのだろうと思われます。元々この制度自体は,以前申し上げたように,人的な関係に期待して,被告人の目から見たときに,この監督者に迷惑を掛けてはいけないというような心理状態になるような関係が被告人と監督者の間にある場合を想定していますので,一般的には弁護人がこれに当たるということはなかなかないと思われますが,特殊なケースで弁護人がそのような人物に当たることがあり得ることは否定できないかもしれません。その上で,小笠原幹事がおっしゃったことも含めて,制度上弁護人は監督者になり得ないものとするのか,それとも,制度としては弁護人も含み得る形にしておいた上で運用に委ねることにするのか,そこは考え方次第ではないかと思います。 ○酒巻部会長 これまでに提示された事項に関連する事柄でも,まだ出てきていない事柄でも,それから第1-1との関係でも,ほかに何か御提言,御議論がありましたらお聞きしたいと思いますが,いかがでしょう。よろしいでしょうか。   それでは,第1-2についての議論はこの程度とさせていただき,続きまして,「第2-1 禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈(再保釈)について,同判決の宣告前の場合と比較して,要件を厳格なものとすること」について議論を行います。   まず,配布資料23について,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料23を御覧ください。   制度枠組みには「A案」と「B案」を掲げていますが,第4回会議の配布資料では,禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈は,「保釈されない場合の不利益が逃亡のおそれを上回るほど著しく高い」か,「実刑判決宣告後であっても保釈された場合の逃亡のおそれの程度が著しく低い」かのいずれかの場合に限り許すことができるものとすると記載していました。   これは,それまでの御議論を踏まえ,刑事訴訟法第90条に規定されている裁量保釈の判断の在り方を前提とした上で,禁錮以上の実刑判決の宣告により一般的・類型的に逃亡のおそれが高まることに鑑み,その場合でもなお裁量保釈が適当と認められ得る二つの場合に限り保釈を許すことができる旨を条文に明記する趣旨のものとしてお示ししたものであり,その後の御議論においても,そのような趣旨の規定を設けること自体には賛同する御意見が多かったように思われます。   他方で,そのときの制度枠組みにおいては,裁量保釈を定める刑事訴訟法第90条との関係を明記していませんでした。そこで,今回,刑事訴訟法第90条との適用関係を明らかにしつつ,第4回会議の配布資料に記載していた制度枠組みと同じ趣旨のことを,議論に資するように条文のイメージに近い形でお示しすることとしたものです。事務当局としては,A案とB案とで実質的な要件・効果に差異を生じるものとは考えておらず,いずれが適切かは立法技術の問題だと考えております。   「A案」は,禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈にも刑事訴訟法第90条を適用することを前提に,このA案の規定により,同条の裁量保釈を「①又は②のいずれかに該当する場合で,適当と認める」場合に限定するものです。そのため,この案では「限り」との文言を用いています。   「B案」は,禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈には,第90条を適用せず,これとは別のB案の規定を適用することとするものです。この場合,第90条が適用されることを前提にその適用範囲を狭めるというものではないため,先ほどのような「限り」という文言を用いていません。   これらの案は,いずれか一方を選択していただく趣旨でお示しするものではなく,考えられる規定ぶりの例としてお示しするものですので,これらの案も参考にしていただきながら,検討課題「(1)」から「(3)」までについて引き続き御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明内容について御質問はございますか。   一見すると,「刑事訴訟法第90条の規定による保釈は」というのと,「刑事訴訟法第90条の規定にかかわらず」というのとで,文言上反対を向いているようですけれども,趣旨は同じであるという説明でした。   御質問がなければ,中身についての議論に入りたいと思います。これまでと同様,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,どの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○向井委員 これまでの会議におきまして,実刑判決後の保釈の実務運用を確認的に規定するという方向性はおおむね意見が一致していたのかなと理解しております。その観点から意見を申し上げたいと思います。   現在の実務の運用といたしましては,実刑判決後の保釈としては,飽くまで刑事訴訟法第90条に掲げられた考慮要素に即して,身柄拘束の継続による不利益といった保釈を許可する方向に作用する事情と,逃亡のおそれなどの保釈を不許可とする方向に作用する事情とを比較衡量して,保釈が適当かどうかを判断しているということでございます。   その上で,「B案」の「①」・「②」の文言を拝見いたしますと,逃亡のおそれと身柄拘束の継続による不利益について,比較衡量という枠組みから離れて,別個独立にそれぞれの程度を評価して,それによって保釈の許否を判断する枠組みと読めるように思えます。「A案」・「B案」のいずれにつきましても,そのように読みますと,現在の実務における判断枠組みとか裁判官の現在の思考過程というものを整合的に表していると言えるのか少し疑問を感じるところでございます。 ○保坂幹事 御発言の趣旨を確認したいのですが,実務の運用を確認するということについては,その実務の運用にも何か幅があったりしないのか,その実務の運用というのが確固たる正しいものなのかというところもまず議論になるところだと思いますが,それは置くとしまして,保釈の実務の運用として刑事訴訟法第90条に掲げられた考慮要素を総合的に考慮していますよというのは,恐らく刑事訴訟法第90条の規定をそのまま適用して判断する場合はそうだと思うのですが,今ここで議論しているのは,実刑判決の宣告があり,権利保釈の規定が適用されなくなる一方で,裁量保釈について刑事訴訟法第90条の規定をそのまま適用して判断するというものでいいのか,それよりもより制限的なものであるべきではないのかという議論であり,保釈を許可すべきではない事情,つまり実刑判決の宣告によって逃亡のおそれが類型的・一般的に高まったという前提の下で,保釈の許否を判断する要件を作りましょうという議論ですので,そうなりますと,保釈を許可すべきでない事情とは反対側の,むしろ保釈を許可すべき事情がより高いのだという事情があるか,あるいは実刑判決があったとしても,それ自体としては一般論・類型的には逃亡のおそれを高める事情だけれども,この件に関しては逃亡のおそれが実は低いのだという場合に,論理的になるのではないかと思うのですが,実刑判決の宣告後は裁量保釈の運用が刑事訴訟法第90条よりも制限的なものになるということ自体は,それはそれでよろしいのでしょうか。 ○向井委員 制限的にというか,実刑判決が出ましたということで一般的・類型的に逃亡のおそれが高まるという事情も十分考慮しながら判断するという意味においては,そういうことにはなると思いますが,ただ,それで総合考慮という枠組みを手放しているわけではないという意見でございます。 ○大澤委員 今の保坂幹事の御質問について,少し伺いたいのですが,第一審で実刑判決があった後は一般的・類型的に逃亡のおそれが高まっているということはそのとおりですけれども,保釈を認めるかどうかの最終的な判断は一般的・類型的な判断ではなくて,個別事情に基づく判断ということだろうと思います。そうすると,一般的・類型的には逃亡のおそれが高いのだけれども,個別事情を見ると,そのような,実刑判決が言い渡されたことに伴う逃亡の高まりはありませんというときの判断は,刑事訴訟法第90条に従ったものでよろしいのでしょうか。 ○保坂幹事 恐らくそれは,このA案・B案でいいますと,実刑判決があったけれども逃亡のおそれが想定されているよりも低いという意味での,著しく低い場合ということになるだろうと思います。そうでない場合には,保釈をすべき事情が著しく高ければ,保釈を許可することができるということになるのだと思います。 ○大澤委員 「著しく低い」というと,何か絶対値として低いということを言う感じがしてしまうのですけれども,まず,実刑判決があったことによる一般的に想定される逃亡のおそれの高まりが具体的な事案ではありませんというときは,「著しく低い」に当たり得るのか,今のお答えでは当たると言われたようにも聞こえたのですけれども,どうなのでしょうか。 ○酒巻部会長 要するに,実刑判決があると一般的・類型的には逃亡のおそれがあると想定されることになるが,しかし,この人は,絶対逃げそうにない,この個別事案については逃亡のおそれが全然高まっていないというときには,保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が著しく低い場合に当たるのか,それともやはり,それはまだ著しく低くはなっていないのかという質問ですね。 ○大澤委員 それで,逃亡のおそれの程度がいわば普通程度であるという場合に,その反対利益の側の保釈されないことによる不利益が著しく高くないならば保釈されないというのが現行の刑事訴訟法第90条の仕組みだというのだったら,まあこれで書けているということになるかなと思うわけですが,お尋ねしたいのは,普通程度でも「著しく」に当たり,あとは総合判断をして良いということになるのか,それとも,そのときには「著しく」までは低くないというのだとすると,不利益の程度がやはり相応にないと比較衡量としては保釈には傾かないということになるのか,ということです。ただ,いずれにしてもバランシングの判断で,相対的なものが,この文言だと絶対的なものとして書かれているという感じがしてしまうのです。「著しく」というのがどんなものを指すのかというのも,人によって語感が違うかもしれませんけれども,結構,絶対的に小さい,あるいは絶対的に大きいという感じがしてしまって,その辺が具体的に考えたときにどんなことになるのだろうということを少しお伺いしてみたということです。 ○保坂幹事 「著しい」という言葉がすごく極端にという意味だとすると,御疑問は理解できます。ここで書いている「著しい」というのは,ただ「程度が高い」というと,どう高いのかが分からないわけで,「通常より高い」ということを表現するため,「著しく」という言葉が必要ではないかということで付しているものです。その「著しい」という言葉がどういうニュアンスを持つのか,ほかの規定の例なども幾つかありますので,また整理してお話ししたいと思います。 ○角田委員 今の議論を踏まえて,私自身は,「A案」の,不利益の程度が著しく高い場合とか,逃亡のおそれの程度が著しく低い場合というのを条文に書き込もうとする意図自体はある程度分かるのです。というのは,こういう形のものを織り込んでやらないと,法律を改正することの意義が余りないのではないかと多分考えられていて,そのこと自体は,私もそうなのだろうという気がします。ただ,今の大澤委員の問題提起などとも関連するのですが,実はこの刑事訴訟法第90条の枠組みというのは,条文を見れば分かるのですけれども,逃亡のおそれの高さの程度の問題と,被告人側の不利益の程度の問題の両方をにらんだ上で,総合考慮として最終的に,「適当と認めるときは」という枠組みの中で判断するという仕組みになっているのです。   A案の現在の規定ぶりですと,著しく高い,著しく低いという言葉を使うこと自体はいいとしても,端的に言うと,次のような問題があるかなと思います。それは,不利益の程度が著しくはないけれども高い,それから,逃亡のおそれの程度が著しくはないけれども低いというときに,この合わせ技というのか,両方を総合考慮した結論として保釈が適当であるという類型が,これは元裁判官の感覚として,やはりあると思います。   どうしてかというと,再保釈も含めて,保釈の判断というのは,一般的・類型的な判断というよりは一件一件の本当に個別判断で,要するに事情ないし事実の積み重ねなのです。すごく単純な,例えば,若年だけれども安定した会社に勤めているということを一つとってみても,若年というのは,単身で逃げやすいねという方向になりますが,だけどきちんとした会社に勤めているということを併せ考えると逃亡のおそれが低くなる。しかし,それが年齢が20代か50代かでまた違ってきますし,会社といってもどういう会社に勤めているかということでも変わってくるし,さらに,前提になっている犯罪事実が,例えば詐欺みたいなことなのか,強盗ぐらいまで行っているのか,あるいは道路交通法違反の無免許運転程度のものなのかということでも逃亡のおそれの程度は全然変わってきます。このように考えてくると,逃亡のおそれというのは単線的に著しく高いというような判断がされるものではないわけです。そのため,先ほど述べましたような,不利益の程度が著しくはないけれども高い,逃亡のおそれの程度が著しくはないけれども低い,それらを総合すると保釈を認めた方がいいという事案がやはりあることはあるのです。   この「A案」と「B案」は,内容的には同じだと思いますので,A案を例に申し上げます。A案をロジックだけで見ると,刑事訴訟法第90条の規定による保釈は,次のいずれかに該当する場合でという要件を一つ立てた上で,適当と認めるときに限りというもう一つの要件を立てているので,これは「①」か「②」に該当しなければ,先ほど述べたような合わせ技の部分は論理的には保釈の対象から落ちていくので,そうすると,現在の運用を変えることになるのは,明らかとまでは言いませんけれども,そういう懸念があるのではないかと。そうすると類型的に運用を変えてしまうことになりかねないので,そこは少し懸念するところです。 ○小木曽委員 刑事訴訟法の第343条と第344条を前提にすると,実刑判決の宣告後は類型的に逃亡のおそれが高まるという前提で考えるという点については恐らく一致していると思うのですが,その上でこれをどういうふうに書くのかということなのでしょうが,著しくという言葉が何を意味するのかということは置いておくにしても,事務当局において,もし,実刑判決の宣告後で保釈が争われた事案で,どんな表現が裁判所で使われているかが分かるのでしたら,御紹介いただければと思います。 ○保坂幹事 口頭では理解しにくいと思いますので,ほかにもあるかどうかも調べた上で,次の議論の機会に整理して資料にしてお答えしたいと思います。 ○吉田幹事 先ほどの角田委員の御発言について確認をさせていただきたいのですが,先ほどおっしゃった総合考慮というのは,いわゆるバランシング,あるいは比較衡量とは少し違うものをイメージしていらっしゃるのでしょうか。   例えば,被告人がどこかの会社に勤めているという場合,その会社が逃亡のおそれが低いという判断に結び付くような会社なのか,あるいはそうではない会社なのかというのは,会社の実態などによって分かれるとは思うのですけれども,そうした個別の事情は,事案ごとに,保釈を許す方向に作用するものと,その逆の方向に作用するものとに分類し仕分けることは可能だと思われるのです。そのようにして仕分けていった結果,どちらが重いだろうかと考えるときに,保釈を許すことが「適当」であるというのは,保釈を許すべき事情の方が重いということを意味しているのではないかとも思われるのですが,そうであるとすると,この制度枠組みで考えているように,実刑判決の宣告によって逃亡のおそれの方が重くなっているのであれば,保釈を許す方向に作用する事情がそれに匹敵するぐらいの重さを持つ,それだけ不利益が大きいというときに,保釈を許すことになる,そういう比較衡量の発想になっていくのではないかと思われるのですが,先ほどのお話を伺っている限りですと,そうではなくて,逃亡のおそれと保釈されない場合の不利益の両方を見た上で,全体を見て「適当」かどうかを判断するとおっしゃられていたようにも伺われたので,御趣旨を教えていただけると有り難いと思います。 ○角田委員 今御説明があったところとほとんど同じことを述べたつもりです。要するに,個別の事情がどちらの方向に作用する事情かというのを整理する,事案ごとに項目も数も違うでしょうけれども,その全てについて,逃亡のおそれを高める方向の事情,低める方向の事情,これはどちらかといえばこっちの側だと,そういう整理を行うことになります。ただ,一つ一つの事情はそれほど単線的な評価ではなくて,ほかの事情との兼ね合いで程度が高まったり低まったりするものですから,そこのところを最終的な総合判断として適当と認められるかどうかの結論を出す際に,保釈の判断への働き方の程度が,こちらの方が大きいとか,こちらの方が多いとか,そういうことを詰めながら決断していくということなので,吉田幹事が言われたことと重なることを言ったつもりです。 ○吉田幹事 そうすると,保釈を許すべき事情よりも保釈を許すべきでない事情の方が重いときであっても,総合考慮すると保釈を許すべきだという結論になる,あるいは逆に,保釈を許すべき事情の方が重いのだけれども,総合考慮したら許すべきではないことになる,そういう余地を認めるという御趣旨ではないということでよろしいでしょうか。 ○角田委員 そういう余地を認める趣旨ではないということでもちろん結構です。それは論理的にもないと思います。やはり全部の事情を踏まえた上で,最終的にどちらが重いかという判断をしているということだと思います。この「適当と認めるとき」というのがはかりだとすると,実刑判決後は類型的に逃亡のおそれが高くなるので,逃亡のおそれの方にかなり重いものが載るのは間違いないのですけれども,ほかの要素がいろいろあるものですから,そうはいっても,ある程度これは軽い罪ではないかとか,しっかりした勤め先があり,親族もしっかりしているしとか,そういうものでバランスをとったときに,最終的にどちらが重いかで許可,不許可が分かれていくということだと思います。   このような議論になったので,事務当局の案を最初に見たときに,直感的に,こういうふうな順番にしたらどうなのかと考えたことを,提案というほどでもないのですけれども,お話しします。   A案とB案ですと,法制的にはA案の方が適切かなという気がするので,A案で説明しますと,禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後は,刑事訴訟法第90条の規定による保釈は,①同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合,又は②保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が著しく低い場合「など」,適当と認めるときに限りこれを許すことができるものとする,一番愚直に書くとすれば,このような案で先ほどのようなバランシングの運用を表現したことにならないのだろうかということを考えたのですけれども,どんなものでしょうか。 ○吉田幹事 今お聞きした限りですと,結局,不利益が著しく大きい場合,あるいは逃亡のおそれが著しく低い場合というのが,「など」でくくられることになって,「適当」と認めるときの例示ということになりますので,それ以外の場合にも保釈を許すことができるのが前提ということになるだろうと思います。そのため,それ以外の場合が何なのかということがまた問題になってきてしまって,今回の制度案を考える前提である,刑事訴訟法第90条による裁量保釈を実刑判決の宣告後に制限的にするというところが,なかなか表現できないことになってしまうのではないかと思われます。 ○角田委員 言われる趣旨は分かります。ただ,これまでの刑事訴訟法第90条の文言にはなかった,「同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合」というような文言が書き込まれると,少なくともこの類型についてどのように処理すべきかははっきりするわけです。しかも,裁判官に限らず,法律家は,条文が変わるとこれは一体どういう意味かということをいろいろな角度から考えるものなので,この裏の意味として,不利益の程度が著しく高くはない場合に関しても,基本的には,それが相当に高い場合に限って保釈を許すと,そういう判断を普通はすると思うので,こういうことを例示であっても書き込むことの意味はかなり大きいのではないかと,そういう気が私としてはするわけなのです。 ○佐藤委員 今までの議論と重なりますが,刑事訴訟法第90条に挙げられている事情は,保釈された被告人が逃亡するおそれと保釈されなかった場合に生じる不利益という,対抗する二つの要素に収れんし,これを比較衡量の枠組みで考える,そして,刑事訴訟法第343条で,禁錮以上の実刑判決の宣告があった場合に保釈等の効力が失われることとされているのは逃亡のおそれが一般的・類型的に高まるからだ,といたしますと,具体的な事案においても,現実に逃亡するおそれが高まっているというときになお再保釈を許すことができるとすれば,被告人の側にそれを超えるだけの不利益がある場合ということにならないといけないだろう,「制度の枠組み」では,それを不利益の程度が著しく高い場合と表現したものと理解しております。   これに対して,実刑判決の宣告はあったけれども,具体的な事案においては,現実に逃亡のおそれが高まっているとはいえないこともあり得るところであり,他方で,身体の拘束が継続するという被告人の不利益は,実刑判決の宣告の前後を通じて,常に一定の実質をもって存在しておりますので,逃亡するおそれの程度が著しく低い場合というのは,逃亡するおそれそのものの程度が著しく低いというよりは,一般的・類型的に逃亡するおそれを高めるとされる実刑判決の宣告の影響を打ち消すような強力な事情がある場合であると理解して,そのような場合には,比較衡量の結果として,再保釈を許すことができる,そう捉えることができるのではないかと考えております。 ○髙井委員 感想ですけれども,お聞きしていると,どうも実刑判決後の保釈について,従前の運用はやや緩すぎると,だからある程度厳しめにしようという考え方が背景にある方と,従前の運用をそのまま続けるのが適当であると考えておられる方の意見の相違が今の議論に表れているように思えるのです。そういう意味では,実刑判決後の保釈を従前の運用よりも締めるのか,あるいは従前の運用どおりでいいとするのかというところの共通認識ができていないと,法案の作り方の議論はなかなか進まないように思います。 ○酒巻部会長 活発な御議論ありがとうございます。   第2-1につきまして,ほかに御意見,御議論がございましたらお願いいたします。よろしいでしょうか。   それでは,第2-1についての議論はこの程度とさせていただきまして,次に,「第2-2 控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けること」についての議論に入ります。   議論に先立ち,資料24について事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料24を御覧ください。   制度枠組みには,新たに「(3)」として,被告人が控訴審の判決宣告期日に出頭しないときは,有罪の判決を宣告することができないものとすることを記載しています。   この点については,これまでも検討課題として掲げていたところ,刑の執行確保の観点から判決の宣告を制限すべきとの御意見がある一方で,一律に制限することには慎重な御意見があったことから,そのような御議論の状況を踏まえ,制度枠組みに記載したものです。その上で,刑の執行確保の観点から,被告人の出頭がない場合に判決を宣告しないこととすべき場合としては,保釈中又は勾留執行停止中の被告人が判決宣告期日に出頭しない場合のほか,保釈又は勾留執行停止を取り消されたものの,いまだ勾留されていない被告人が判決宣告期日に出頭しない場合が考えられることから,制度枠組みの「(3)」には,前者のみを判決宣告制限の対象とする「A案」と,後者を含めてその対象とする「B案」を併記しています。   また,これまでの御議論を踏まえますと,控訴審の判決宣告期日に被告人が出頭しなかった場合,そのまま判決を宣告するのではなく,まずは保釈を取り消し,被告人を勾留することが先決であるという認識はおおむね共有されたように見受けられた一方で,一律に判決の宣告を制限するのではなく,なお判決を宣告すべき場合があるかについては御議論が残っているように思われました。   そこで,制度枠組みに特段の事情があるときは判決を宣告できるものとするただし書を設ける「X案」と,そのようなただし書を設けない「Y案」を併記しています。   続いて,「検討課題」を御覧ください。「(3)」には,先ほど御説明した制度枠組みの「A案」・「B案」と「X案」・「Y案」の選択肢に対応した形で論点を挙げています。「(1)」及び「(2)」には,引き続き,「出頭義務を課すべき被告人の範囲」と「控訴審において宣告される判決の内容による出頭義務の有無」を挙げていますので,これらの点についても御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 今の説明内容について御質問はございますか。   よろしければ,議論に入ります。「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかをお示しいただいて,御発言をお願いします。 ○福家幹事 今回新しく提案されたB案の趣旨について確認をさせていただきたいと思います。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」によれば,保釈を取り消した後は,被告人には判決宣告期日への出頭義務はありませんけれども,B案によれば,被告人が現に勾留されない限りいつまでも判決を宣告できないことになると思われます。そのような制度とする理由について教えていただきたいと思います。保釈中の被告人に出頭義務を課すのは,刑の執行を確保するためという御説明であったかと思いますけれども,保釈を取り消した後,身柄拘束前の被告人について判決宣告を制限することが,被告人の逃亡の防止や身柄確保につながるのかといった点について,教えていただければと思っております。 ○鷦鷯幹事 B案とする理由として考えられるところとしては,控訴審においても,第一審の場合と同じように,勾留状が発せられた被告人に対して判決が言い渡されたときに,その刑の執行を確保することができるようにすべきであるという点が挙げられるのではないかと考えられます。具体的に言いますと,現行法上,第一審では被告人の出頭が公判期日の開廷要件とされているため,保釈中の被告人についても,保釈が取り消された後の被告人についても,出頭が得られなければ判決宣告期日を開廷できないという状況にあり,その結果として,禁錮以上の実刑判決が言い渡された際にも,被告人の収容が既に確保されている,あるいは,判決宣告により保釈が失効するときに被告人が法廷にいることでその身柄が確保されるという状況があり,刑の執行確保の観点からの不備がない状況と言えます。   これに対して,控訴審においては,被告人の出頭が開廷要件とはされていないために,刑の執行の確保という観点から見ますと,仕組みが十分ではないということができます。その上で,勾留というもの自体が,有罪判決が確定した場合の刑の執行確保をも目的とするものであるということを考えたときに,制度枠組み「(1)」の出頭義務に違反した場合に限らず,保釈等を取り消して勾留の効力を復活させたときには,その身柄を現実に拘束して,刑の執行の確保が達せられた後に判決を言い渡すというのが,保釈を取り消す目的,すなわち刑の執行確保の観点からも合理性があると考えることができると思われます。そういった観点からしますと,勾留状が発せられている被告人については,現に勾留されているか,判決宣告期日に出頭した場合でなければ,判決を宣告できないものとし,そのいずれかを確保した場合にのみ判決を宣告できるものとするというのが合理的であり,かつ,必要であるということができるのではないかと考えております。 ○福家幹事 そのことを前提にですが,今回,たたき台の第2-2の検討課題「(3)」のところで,被告人が公判期日に出頭しないにもかかわらず判決を宣告する場合はどのような場合かといった項目がありましたので,早期に判決宣告をすることに相応の意義があると考えられる事案について裁判の現場にも確認し,挙げられた例について,網羅的なものではありませんが,紹介させていただきます。   まず,選挙結果の早期の安定や当選無効制度を実効化することを目的としている,いわゆる百日裁判が,早期の判断が求められる場合の一つとして挙げられるのではないかと考えております。そのほかに,この点は既に法改正が予定されているものと承知しておりますが,執行猶予中の再犯で前の刑の執行猶予期間の満了が迫っているという事案についても,早期の判断が求められる場合に当たるのではないかと考えております。   また,付加刑について迅速に執行する必要がある場合として,例えば,犯罪被害財産の没収や,その価額の追徴が主文で明示されて,判決が確定した後に検察官による犯罪被害財産による被害回復給付金の支給が予定されている場合も考えられるかと思います。   あとは,少し毛色が違いますけれども,確立した先例がない分野において,法令上の重要な論点を含む事件が控訴審に係属していて,同じ論点がほかの一審でも争われている場合など,控訴審において一定の先例的意義を有する裁判をなすことが期待されている場合,例えば,最高裁判例が出る前のGPS捜査の適法性が争われた事案や,自動車にGPS機器を密かに取り付けたこととストーカー規制法の見張りとの関係が争われた事案などが,早期の判断が求められる場合として考えられるのではないかと考えております。   もちろん,今申し上げた百日裁判などの判決を早期に行う必要があるということについては,第一審でも同じだとも考えられます。ただ,第一審においては,審理の適正を確保するという観点から,被告人が不出頭のままでは判決の前提となる審理も行うことができず,判決ができる状態には至らないというものと理解しています。要するに,第一審では刑の執行確保以外の要請からも審理,判決が進められないことになっています。   他方で,事後審である控訴審では,書面審理で判決ができるというのが通常で,被告人が不在のまま判決宣告手続をしても適正手続の要請に反しないとされており,控訴審で判決宣告を差し控える理由を後の刑の執行確保にしか見いだせないとすると,第一審の段階とは状況がかなり異なるのではないかと考えられます。ですから,先ほど申し上げたような控訴審において早期判決が強く求められる場合には,一律に判決宣告を制限しないで,個々の事案に応じて判決を宣告できる余地を残しておくべきではないかと考えるところです。 ○酒巻部会長 これについて,事務当局から何か御意見ございますか。 ○鷦鷯幹事 ただ今,被告人の出頭がない場合でも判決を宣告すべき要請があると考えられる四つの事例を挙げていただきましたが,そのような場合に判決の宣告を優先すべきか,刑の執行確保のために判決を制限すべきかについては,判決の宣告を制限する趣旨である刑の執行確保の要請と,今挙げられたそれぞれの場面において判決を宣告する要請との比較衡量という観点が,恐らく必要になるのであろうと考えられます。   四つのうち執行猶予中の再犯の場合,すなわち,前刑の執行猶予期間中に犯した罪についてその期間が満了する前に当該罪について有罪判決が確定しなければ前刑の執行猶予を取り消すことができなくなるため,早期の判断が求められるという場面については,御指摘のとおり,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢犯罪者処遇関係)部会においてそのような不都合を解消するための法整備が検討され,答申も頂いているところであり,その法整備がもし進められるとすれば,執行猶予の取消しを確保するために判決を宣告しなければならないという事態はなくなるものと思われますが,百日裁判の例などについては,選挙結果の早期の安定など,配慮を要する要請等があるようにも思われます。   ただ,そのような刑の執行確保とは別の社会的な要請が考えられるとしても,それと判決の結論である刑の執行を確保するという要請を比較したときに,どちらが優先するのか検討を要すると思いますし,また,そもそもそういった事情があったとして,被告人が出頭しない場合に審判ができないことは第一審の場合も同様であって,第一審と控訴審とで異なる取扱いとなることが整合的かといった点なども踏まえて,慎重な検討をする必要があるのではないかと考えるところです。そのことは,犯罪被害財産の没収や価額の追徴の判決を急ぐことが被害者の早期の被害回復につながり得るという場面についても言えることではないかと思われるところです。 ○森本委員 先ほど事務当局に,考えられる制度の枠組み「(3)」の「A案」と「B案」について御説明いただいたのですが,「(1)」の判決宣告期日への出頭義務を課す対象となる被告人の範囲が,保釈され又は勾留の執行を停止されているものということで,A案と同じ範囲になっています。A案・B案を考える前提として,そもそも出頭義務を課す範囲としてどういう被告人を想定すべきか,検討課題「(1)」に「①」,「②」,「③」とありますが,これらの点についての事務当局の整理を御説明いただけると有り難いと思います。あわせて,「(2)」の部分,禁錮以上の実刑判決以外の判決を宣告する場合,制度枠組みは,これについても出頭義務を課すという趣旨と思われますが,その根拠・理由についても御説明いただけると有り難いです。 ○鷦鷯幹事 制度枠組みを作成しました事務当局としての考えを申し上げますと,御指摘のとおり,制度枠組み「(1)」の出頭義務の対象者は,保釈され又は勾留の執行を停止されている被告人としています。これに関連するのが検討課題「(1)」ですが,便宜上,二つ目の「○」の「①」から「③」までについて,先に説明をさせていただきます。   制度枠組みでは,この「①」から「③」までの被告人は,いずれも控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付ける被告人に含まないものとしています。それぞれについて理由を説明しますと,まず,保釈中の被告人などに控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付ける趣旨は,禁錮以上の実刑判決が宣告されて保釈等が失効した場合に,確実に勾留の裁判を執行して収容することができるようにすることにありますから,禁錮以上の実刑判決が宣告されて保釈等が失効する者,すなわち,先ほど申し上げた「保釈中又は勾留執行停止中の被告人」が判決宣告期日への出頭を義務付ける対象となります。   これに対して,「①」の,既に勾留されている被告人は,勾留それ自体によって当該期日に宣告される刑の執行が確保される者ですから,判決宣告期日への出頭を義務付ける趣旨が妥当しません。ですから,出頭の義務付けの対象に含むものとはしていません。   また,「②」の保釈や勾留執行停止を取り消されたもの,あるいは勾留執行停止期間が満了した被告人であって,まだ身柄拘束されていないものは,勾留の裁判の執行によって身柄が確保されるべきものであって,判決宣告期日への出頭義務を課して身柄を確保する対象者としては考えにくく,やはり出頭の義務付けの対象から外しています。   さらに,「③」の在宅の被告人については,そもそも公判期日に出頭がないまま判決の宣告をしたとしても,直ちに身柄拘束をしなければ逃亡してしまうとは言い難いものですから,これも出頭の義務付けの対象に入れていません。   その上で,検討課題「(1)」の一つ目の「○」,第一審において禁錮以上の実刑判決を宣告された被告人に限るものとするかという点については,第一審が禁錮以上の実刑判決以外の判決であった場合でも,当該判決を破棄されて禁錮以上の実刑判決を言い渡されることはありますので,そのような場合に出頭義務が課されていないと,保釈が失効したときに収容することができません。したがって,この者も対象とすることとしています。実際のところ,第一審が実刑判決以外の判決,例えば,無罪判決であったり全部執行猶予の判決であった場合には,その判決の宣告により勾留状が効力を失いますので,その後において控訴審の判決宣告期日に被告人が保釈中である場合というのは,勾留状が失効した後に再勾留され,さらに再保釈されるという,かなりレアなケースとなりますが,ただ,レアだからといってそのような場合について出頭義務を課す必要性が失われているわけではありませんので,これは除外する必要がないと考えています。   最後に,検討課題「(2)」についてですが,先ほど申し上げましたとおり,保釈中の被告人に判決宣告期日への出頭義務を課すのは,判決が宣告されて保釈が失効する場合の備えとしてのものですが,宣告される判決の内容というのは当該期日に宣告されなければ確定しませんので,その日に宣告される判決の内容によって出頭義務が定まる形としますと,出頭義務の有無が期日まで定まらないことになってしまいますので,そのような制度とはしないものとしています。 ○小笠原幹事 出頭義務を課すべき被告人の範囲について,保釈中の者全員を対象とする必要があるのか疑問を持ちました。先ほどの第2-1で,実刑判決宣告後でも保釈が許される類型の一つとして,逃亡のおそれが著しく低い場合というのがあるのだとすると,その場合にまで判決期日に出頭させる必要はないのではないかと思います。   具体的には,例えば認知症とか知的障害とか摂食障害とかで万引きを繰り返すような人がいて,福祉機関や医療機関につなぐことによって保釈を得たという場合が実際にあるのですが,こういう場合というのは,そもそも勾留しないで治療等をする必要性がある場合ということになるのかもしれませんが,保釈されて病院や福祉施設に入った後,自分では自由に病院や福祉施設から出入りできないような方については,判決宣告期日への出頭義務を設けることによって,そのためにその施設から連れてこなければならなくなり,それはそれでなかなか大変なのかなと思います。そうすると,そのような逃亡のおそれが著しく低いような場合には,申立てによって,あるいは職権で出頭義務を免除する手続があってもいいのかなと思いました。その場合には判決を宣告できることにするという方法もあるのかもしれませんが,そもそも出頭義務を課して,無理に出頭させて,その機会に再犯とかまた何か問題を起こしたらと結構気を使うので,できれば病院とか福祉施設から出なくても済むように,もし実刑になったとしてもその方は逃げないでいるわけですから,刑の執行は確保されるのかなと思いますので,考えられる制度の枠組み「(1)」の出頭義務付けの段階で,ただし書として,裁判所が認めた場合には出頭義務を課さないという規定があってもいいのかなと思いました。 ○大澤委員 実刑判決が宣告された場合に備えて,判決時に被告人に出頭を義務付けるというのは,それなりによく分かるところであり,この義務に違反した場合には,多分,保釈が取り消されるとか,あるいは,もしこの出頭しないことに独自の罰則を将来付けることにすると,その罰則によってこの義務違反には対応されるということになるのだろうと思いますが,では,この場合に被告人が出頭しなかったから裁判所が判決の宣告を制限されるかというと,そこは多分,論理必然の関係にはないはずで,被告人に判決宣告期日への出頭を義務付けるのとは別に,同時に裁判所に義務を掛けるということになるのだろうと思うのです。裁判所に義務を掛けるのは,判決をするときには被告人がいる形にしなければならない,それは刑の執行を円滑にする,確保するためだと,そのために義務を課すということになるのでしょうけれども,そういう義務を課すことが必然なのかというと,多分必然ではないだろうし,いずれにしても,裁判所にそういう義務を課すとして,被告人を連れてこようとすれば,勾留状で連れてくる以外になくて,それは出頭しないまま有罪判決をしても,多分,勾留状で連れてくるしかないわけで,その場にいるということを確保しようがしまいが,結局は勾留状で連れてくるということになるのだろうと思うのです。もちろん,被告人が出頭しない場合の判決宣告の制限は一つの便利な制度だろうという気はするわけですけれども,そこまで義務付けるということがどういう理屈で出てくるのかなというところが,ずっと引っ掛かっているということで,私の疑問として申し上げさせていただきました。 ○小木曽委員 今の点ですけれども,前半の方ですね,保釈されている被告人に出頭義務を課す目的は,実刑判決が宣告されて保釈が失効した場合に間断なく被告人を収容するということでしょうから,出頭義務を課すのであれば,それに応じない場合には保釈を取り消すということになるのだろうと思います。この段階で保釈を取り消すということは,法律上,被告人の身体を拘束することができる状態にして,宣告された刑を執行するためでしょうから,身体を確保する前に実刑判決を言い渡しても,言い渡した判決の目的が達成されないということになるのではないかと思います。同じことは,保釈は取り消されたけれどもいまだ勾留されていない被告人が判決期日に出頭していない場合にも当てはまると思います。   大澤委員から,論理必然かという指摘がありましたが,被告人に判決期日への出頭義務が課されることと,被告人が出頭しなかった場合に裁判所が判決を宣告できなくなることは,恐らく論理必然の関係にはないと思います。ただ,近時の逃亡事案にも例がありましたが,現在の法律では,控訴審では被告人が出頭しなくても判決を言い渡すことができ,保釈されている被告人については別に収容することになるのですが,その被告人が逃亡して周辺の住民が不安な思いをするという事例があったことが今回の議論の発端の一つであることを考えますと,被告人との関係で,裁判の目的は事実認定をしてその法的な地位を明らかにすることにあり,執行は執行で別の手続であるというこれまでの考え方は,司法制度全体を通じた一貫性とか,それへの人々の信頼ということを考えたときに,そのままで良いのかということも考える必要があると思います。そのような観点からは,控訴審の段階で被告人を出頭させておいてから判決を言い渡すこととすれば,少なくともその事案で言い渡された刑の執行は確保されるという政策的なメリットがあると考えます。 ○福家幹事 逃亡事案を前提にこの制度が議論されてきたかと思うのですが,確認をさせていただきたい点がありまして,保釈中の被告人が,例えば重病によって入院をするなどして,控訴審の判決宣告期日に出頭できないときなど,要するに正当な理由がある不出頭の場合については,恐らく出頭義務違反を問うことはできないと思うのですけれども,その場合でも判決は宣告することができないということになるのかどうかという点について,今考えているところを事務当局から教えていただければと思います。 ○吉田幹事 制度枠組みにおいて,正当な理由があって出頭しないという場合を特に除いていませんので,出頭義務は掛かるという前提でおります。その場合について判決の宣告制限が掛かると,重病で入院し続けている限り判決宣告ができない状態,要するに,事件が係属したまま公判手続が事実上止まっている状態が続くことになるだろうと思われます。逆に,その場合にあえて判決を言い渡さなければいけない事情というのは何なのだろうかということも考える必要があるのではないかと思っております。重病で逃げないかもしれないけれども,判決が宣告されて確定すれば,執行しなければいけない状態に必ずなりますので,そういった事態をあえて生じさせることにどういう法的な利益があると考えるのかということを議論する必要があるのだろうと思います。 ○福家幹事 確かに,今おっしゃったところは分かります。ただ,今まで問題としてきたのは,被告人に帰責性があるような場合,要するに,逃げている被告人を前提に判決宣告期日に出頭しない場合についてどう考えるのかという利益衡量の問題であったかと思うのですが,被告人が病院に入っていて正当な理由があって判決宣告期日に来られない場合となると,利益衡量の前提が変わってくるのではないかと思います。要するに,先ほどお話しさせていただいた,早期に判決宣告をすることが適切な場合があるのではないかということとの関係も変わってくるのではないか,先ほど大澤委員から出頭義務と判決宣告制限は論理必然ではないという御発言がありましたが,そういったところの考慮も変わってくるのではないか,そのように考えているところでございます。   それを前提として,例えば,重病で入院していて出頭しないことに正当な理由があるという場合には,被告人に逃亡のおそれがないのであれば,判決宣告の直後に法廷で収容をしなくても,例えば入院先で勾留をするということも考えられなくはないのではないかと。そういうときにも法廷で身柄拘束をするということが不可欠かということも,検討する必要があるのではないかと思うところです。 ○吉田幹事 御指摘の趣旨は分かりましたが,そこで被告人の帰責性を考慮する論理必然性は恐らくないのではないかと思います。刑事訴訟法第286条の2においては,被告人が公判期日への出頭を拒否したり刑事施設職員による引致を著しく困難にしたりしたときには被告人の出頭がなくても公判手続を進めてよいとされていますが,そこでは,他の規定において,被告人自身の権利利益を考慮して被告人に出頭義務を課し,被告人の出頭を開廷の条件としていることに関し,被告人が自分の責任で公判期日に来ないのであれば,公判手続を進めてよいことにしているわけですが,ここはそれとは場面が違っていて,刑の執行を確保する観点からのものですので,被告人に帰責性があるかどうかではなく,むしろ重病で入院している場合には,逃亡のおそれがなく刑の執行確保の観点から見てそのまま判決を言い渡しても支障がない場合に当たるのではないかという観点から例外を設けるべきかどうかを考えることになるのではないかと思われます。いずれにしても,この点も含めて,どういう場合に出頭を義務付けるのかについて御議論いただければと思います。 ○向井委員 今の御議論を聞いておりますと,判決の宣告を制限するのは政策的な判断ということのようですので,制限した場合に実務的な弊害がどのぐらい想定されるのかということの,一つの参考になるかと思うところを申し上げます。正当な理由がある不出頭の場合にも判決宣告が制限されることを前提に考えますと,保釈中の被告人が判決宣告を避けるためにあえて入院をするという,要は詐病するものが出てくることも想定されるのではないかと思われるところです。もちろん,詐病だと適切に認定して保釈を取り消して勾留につなげるのが本則ではありますが,この判断を右から左にぱっとできるかというと,意外と難しい場合も出てくると考えられ,その判断に一定の時間を要するために,判決の宣告・確定を延ばしたい人に,その誘因を与えることが懸念されるということも問題点としてあるかと思います。 ○髙井委員 そもそもこの問題は,出頭を要請すれば出頭するであろう被告人であっても今は被告人は法廷にいなくていいことになっているので,法廷に出頭させずに実刑判決をすることがあり得るわけですが,そうしたら逃げてしまいましたという事例が起き,それではまずいのではないかということから,検討が始まったと思います。そういう観点からすると,一定の被告人に出頭義務を課した上で判決をするということは,そのような現に発生した逃走事案と同様のことが起きることを防ぐという意味では非常に有益だと思います。   その一方で,出頭義務があるのにさぼって出てこない被告人がいた場合に,判決をするかというのは,これはまた別の観点の問題ではないかとも思うのです。その場合に判決を宣告しない方が出頭を確保しやすいのか,あるいは判決を宣告してしまった方が身柄を確保しやすいのかということになると,これには見方はいろいろあって,どちらがどうだとは多分言えないと思うのです。ただ,その場合に,被告人がいなくても判決をするということになると,この制度を議論する元になった先ほどのような逃走事例がまた起きるということも十分考えられるわけです。   一方で,私は,もう一つ,そもそも判決というのは被告人のいないところでするのが正しいものなのですかということも考えなければならないと思うのです。先ほどから,判決の執行を確保するためには被告人がいないとまずいという前提で議論されているわけですが,引き延ばしの問題だとか,速やかに判決をしないといけない場合の事例等が紹介されましたが,この問題が最もシビアな形で表れるのは,もう被告人が逃げてしまった場合だと思います。いろいろな事情で今回は来られない,あるいは今回と次回は来られないけれども,その先は来るかもしれないという場合ではなくて,もう逃げてしまった,当分見付からないという状況になったときに,では判決するのですかということだと思うのです。   皆さんの御意見と全く違う角度からの意見になるのですが,果たしてそういう場合に,当分これはもう判決を宣告しても刑の執行はできない,どこにいるか分からないという状況の中で判決を宣告するのが,裁判の在り方として果たして正しいのかという気がするのです。結論的には,やはり被告人がいない場合には判決をしないというのが裁判の制度としては妥当ではないかと思っているのですが,とにかく被告人が逃げてしまった場合には,何が何でも見付けて法廷に連れてくることが真っ先に重要なことなので,被告人のいないところで取りあえず判決しておきましょうというのは,裁判に対する信頼とか,あるいは,古い言葉でいえば裁判の権威であるとか,そういうものをゆるがせにするような気がします。私の意見は,現在の控訴審の構造が被告人がいなくても判決ができるという形になっているのとは整合性のない意見なのですが,裁判の在り方というものを考えると,そういう気がするのです。 ○酒巻部会長 実刑判決を宣告するときに被告人がいないと刑の執行を確保できないということが制度設計の核心部分にあるとすると,どんな判決も一切宣告できないこととするのがいいのか,例えば,無罪判決をする場合とか,免訴の判決をする場合とか,勾留の効力が失われるという条文が刑事訴訟法にありますけれども,そういう場合については,どうお考えでしょうか。 ○鷦鷯幹事 制度枠組みの「A案」・「B案」,「X案」・「Y案」を書いていますけれども,その真ん中のところで,被告人が判決宣告期日に出頭しないときは,「有罪の判決」をすることができないと記載をしている趣旨を説明させていただければと思います。   保釈などが失効するのは禁錮以上の実刑判決が宣告された場合ですので,その宣告だけを制限するということが考えられますが,そのようにしてしまうと,先日も御指摘があったところですが,あえて判決宣告期日に出頭しないことによって判決の内容を推知するということが可能となってしまい,かえって逃亡を誘発することにもなり得ます。ですから,基本的には判決の内容を問わず宣告することができないものとする必要があると考えられます。   他方で,宣告される判決が刑罰を科すことを内容とするものではないような場合,無罪判決が典型ですが,そのほかにも刑の免除や免訴,公訴棄却といった場合にまで一律に判決を宣告できないものとするかどうかについては,また別の考慮があり得るところであり,これらについては例外的に被告人の出頭がなくても宣告することができるものとするということもあり得るのではないかという考えから,このような案としているところです。 ○向井委員 今,御回答があった件でお伺いしたいのですけれども,被告人が病気などで入院して,正当な理由があって判決宣告期日に出頭できない場合も判決宣告制限が掛かるとする一方で,無罪や免訴の判決はできるとすると,正当な理由があって出頭していないが判決はできる場合があるということになるのかなと思うのですが,そうであれば,無罪判決などに加えて,全部執行猶予だとか罰金などについても宣告できる場合があって良いのではないか,そういった正当な理由があって判決に出頭できない被告人について,全部執行猶予が予定されているのに,いつまでも保釈保証金などの負担を掛けておくというのが適当なのかというところも問題として出てくるのかなと思うのですが,執行猶予などはそこには含まれないという御理解になるのかどうか,そこを少し確認したいと思いました。 ○鷦鷯幹事 御指摘の罰金や全部執行猶予なども更に加えてしまいますと,残るは禁錮以上の実刑判決だけということになってしまいまして,そうであるとすると,正に出頭しないことによって実刑かどうかが分かってしまうという弊害が生じますので,そこまで含めるというのはやはり難しいのかなと思われます。 ○福家幹事 判決の内容を推知できてしまうことの問題性というのはそのとおりかなと思うのですが,そうすると,結局,判決が延期された場合には,延期されたということ自体から,判決宣告前にその内容が有罪判決であるということは分かってしまうということになるかなと思います。無罪の場合にも判決宣告を制限することが相当と考えているわけでは全くないのですけれども,判決内容によってとるべき手続を分けて,手続経過から判決内容を事前に推知することができてしまう制度となることが妥当と言えるかどうかという難しい問題があるのかなと,そのように考えたところです。 ○佐藤委員 判決宣告の可否に関連して,現行法の規定をみた場合,刑事訴訟法第314条第1項が,被告人が心神喪失の状態にあるときは,その状態の続いている間公判手続を停止すべきものとしつつ,無罪その他の被告人に有利な一定な裁判をすべきことが明らかな場合には,被告人の出頭を待たないで,直ちにその裁判をすることができる旨を規定しており,また,第一審の公判手続に関しては,刑事訴訟法第284条以下の規定において,50万円以下の罰金又は科料に当たる事件については,判決の宣告をする場合も含め,被告人の公判期日への出頭は不要とされておりますが,それ以外の事件については全て,判決の宣告をする場合には,公判期日への被告人の出頭が必要とされておりますので,検討に当たっては,それらの場合との利益状況の異同にも配慮する必要があるのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 御議論ありがとうございました。他に御意見がなければ,第2-2についての審議は,この程度とさせていただき,本日の審議は,ここまでとさせていただきます。   次回の審議につきましても,前回会議で御了承いただきましたとおり,本日の会議と同じように,検討が必要な項目を取り上げていく形で議論を行うこととしたいと思います。次回,どのような項目についてどのような形で審議を行うかにつきましては,今日の御議論の状況も踏まえて事務当局において改めて整理してもらうとともに,必要に応じてこれまでの検討のためのたたき台を改訂してもらうこととして,次回はそれに基づいて議論を行うことにしたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,次回の日程につきまして事務当局からお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 次回,第8回会議は,令和2年12月23日水曜日,午後3時からを予定しています。場所は,法務省地下1階の大会議室です。 ○酒巻部会長 本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,今日の配布資料も公表することにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   どうもありがとうございました。 -了-