法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  令和2年12月23日(水)   自 午後 2時59分                         至 午後 5時33分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会第8回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も,御多忙中のところ,お集まりいただきありがとうございます。   本日は,北川委員,小笠原幹事,笹倉幹事,和田幹事,そして,井上関係官には,ウェブ会議システムにより御出席いただいております。また,くのぎ幹事は,所用のため欠席されています。   まず,事務当局から配布資料の説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として,配布資料25「勾留状発付人員・保釈請求人員・保釈許可人員」,配布資料26「検討のためのたたき台・その2〔改訂版〕(第1-5 保釈中又は勾留執行停止中の被告人にGPS端末を装着させることにより逃亡を防止する仕組みを設けること)」,配布資料27「検討のためのたたき台・その2〔統合改訂版〕(保釈中若しくは勾留執行停止中の被告人又は実刑判決が確定した者の逃亡を防止して,公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための罰則の整備)」をお配りしています。また,新規の配布資料ではありませんが,参考資料として配布資料17「単純逃走罪及び加重逃走罪の主体・被拘禁者奪取罪等の客体」を配布しています。 ○酒巻部会長 それでは,審議に入ります。   まず,事務当局から本日の配布資料の内容について説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 まず,配布資料25を御覧ください。配布資料25は,平成21年から令和元年までの全地方・簡易裁判所における勾留状発付人員・保釈請求人員・保釈許可人員の推移を表したグラフです。このうち,勾留状発付人員及び保釈請求人員については,第4回会議で配布した資料13にお示ししていたところですが,保釈許可人員は保釈請求の数の影響も受けると考えられることから,この資料25には,これらが全体的に把握できるよう,保釈請求人員の推移を示すグラフを加えました。令和元年の数値は,勾留状が発付された被告人の人員が4万9,919人,保釈請求人員が2万3,223人,保釈許可人員が1万6,163人となっています。   配布資料26と27については,これらについての御議論を頂く際に,それぞれ内容を御説明いたします。 ○酒巻部会長 ただいまの統計資料,グラフ等についての説明内容に関して御質問はございますか。よろしいですね。   本日も,前回と同様に,これまでの第1から第3までのグループ分けや項目の順序にはよらずに,更に議論を尽くすべき項目に焦点を当てて議論を行いたいと思います。本日は,まずは「第1-5 保釈中又は勾留執行停止中の被告人にGPS端末を装着させることにより逃亡を防止する仕組みを設けること」について御議論いただき,その後,「保釈中若しくは勾留執行停止中の被告人又は実刑判決が確定した者の逃亡を防止して,公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための罰則の整備」について横断的な議論を行うことにしたいと思います。そのような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,まず,「第1-5 保釈中又は勾留執行停止中の被告人にGPS端末を装着させることにより逃亡を防止する仕組みを設けること」について議論を行いたいと思います。これに先立ち,配布資料26について事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料26を御覧ください。   「制度枠組み」には,これまでの御議論を踏まえ,新たに「(5)」として,「(2)」による命令又は「(3)」の義務に違反した場合の罰則を設けることを記載しています。   続いて,「検討課題」を御覧ください。この制度枠組みについて,更に議論を尽くすべきと考えられる論点を「(1)」から「(3)」までに挙げています。   まず,「(1)」には二つ目の「○」として,被害者や証人に対する接触を防止する必要がある場合にも,被告人にGPS端末を装着させることができるものとするかという点を新たに挙げています。GPSの技術の特性を念頭に置きつつ,このような行為の防止にGPS技術を活用し得る場面を想定しながら御議論いただければと思います。   次に,「(2)」には二つ目の「○」として,保釈の取消し後も義務を負うものとするかという点を挙げています。保釈された被告人に対する命令や被告人が負う義務が保釈の取消し後も存続するものとするかどうか,存続するものとしてその根拠は何かといった点について御議論いただければと思います。   次に,「(3)」として一つ目の「○」には,GPS端末の装着,保守,義務違反情報の検知,義務違反の認定をどの機関が行うかという点を挙げています。この点については,各手続の内容や役割,相互の関係を踏まえ,実際の運用をイメージしつつ,御議論いただければと思います。二つ目の「○」には,義務違反があった場合に,逃亡防止の観点から,どのような措置をとり得るものとするかという点を挙げています。三つ目と四つ目の「○」には,どのような場合にGPS端末の位置情報を知り得るものとするか,保釈取消し後も知り得るものとするかという点を挙げており,また,五つ目の「○」には,制度枠組み「(2)」による命令や「(3)」の義務に違反した場合の罰則を設けることとするかを挙げています。罰則についてはどのような内容のものとするかという点も含め,御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して御質問はございますか。よろしいでしょうか。それでは,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,ここに記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,いかなる点に関するものであるかをお示しいただいた上で御発言をお願いします。 ○菅野委員 まず,制度全体に関する意見を述べさせていただきます。日本弁護士連合会では,2020年11月17日,人質司法の解消を求める意見書を発出しました。本日,GPSによる電子監視について議論されることになっておりますが,本意見書において,日弁連は,電子監視制度に関して,人質司法を解消し,被告人を原則として保釈する運用を実現することを前提として,身体拘束より制限的でない代替措置として検討されるべきとしておりますので,この場で意見の内容を紹介させていただきます。   本意見書には,「意見の趣旨」が三つございます。一つ目の意見は,無罪を主張し,又は黙秘権を行使している被疑者・被告人について殊更に長期間身体を拘束する勾留・保釈の運用,これを日弁連では「人質司法」と呼んでおりますが,そのような運用は憲法及び国際人権法等に違反し,速やかに解消されなければならないとするものです。二つ目の意見は,人質司法を解消するために,刑事訴訟法に,勾留又は保釈に関する裁判においては,被疑者・被告人の防御権を踏まえ,被疑者・被告人が嫌疑を否認したこと,取調べ若しくは供述を拒んだこと,又は検察官請求証拠について同意をしないことを被疑者・被告人に不利益に考慮してはならない旨を規定するとともに,必要的保釈の除外事由を規定した刑事訴訟法第89条第4号を削除すべきというものです。そして,三つ目の意見が先ほど申し上げた保釈に関する電子監視に関する意見であって,本日の議論に関係しますので,この三つ目の趣旨についてこれから説明させていただきます。   電子監視制度あるいは在宅拘禁制度は,被告人のプライバシーを侵害して,行動の自由を制限するものです。したがって,現在の制度の下でも保釈されているような逃亡リスクの少ない被告人に対し,これらを安易に適用することに賛成することはできません。他方,包括的に自由を奪う勾留と比較すれば,電子監視や在宅拘禁を適用することによって勾留されている被告人の身柄が解放されることは望ましいと考えられます。電子監視や在宅拘禁に関する具体的な制度設計に関しては意見書では述べられておりません。意見書に記載されているのは,人質司法を解消し,無罪と推定される被告人は原則として保釈する運用を実現することを前提として,勾留と比較してより制限的でない代替措置の一種として電子監視や在宅拘禁が検討されるべきだということです。   ただ,検討する際の視点として,次の点は意見として述べたいと思います。まず,先ほど説明があった検討課題にもありましたが,どのような被告人について電子監視による保釈が検討されるべきかといえば,保釈保証金あるいは身元引受人の存在だけでは逃亡を防止することができない場合がその一つであると言えます。また,証人等に何らかの行為をする現実的可能性がある場合についても,電子監視を条件に保釈することも考えられると思います。ただし,いずれの場合にも,その監視の程度は事案に応じて必要最小限度にとどめられるべきです。そのような視点で電子監視制度が検討されるべきです。   本意見書にも記載しておりますが,制度設計について検討するに当たっては,自由権規約委員会が2014年に採択した一般的意見35号において,電子監視等の代替措置により身体拘束の必要性がなくならないか検討しなければならないとしていることや,電子的監視に関する欧州評議会閣僚委員会の勧告などの国際的なルールも参考にすべきだと考えております。意見書の最後に,国際的なルールも参考にすべきと書いてあるのは,そういった趣旨です。 ○森本委員 今の菅野委員の御発言に関連して申し上げます。どのような被告人について電子監視や在宅拘禁制度がふさわしいかということについて,保釈保証金や身柄引受人によっては逃亡を防止できない場合であるとか,あるいは証人等に何らかの行為に及ぶ現実的可能性があるような場合と発言されたように聞き取りました。要するに,このような場合というのは,逃亡のおそれ,あるいは罪証隠滅のおそれがとても高いケースということになるのではないかと思います。   GPSを用いることによって何ができるかというと,結局,位置の測定ですから,GPSによる監視は,勾留による逃亡防止や罪証隠滅防止の機能に比べると,劣る部分が大きいと言わざるを得ないと思います。例えば罪証隠滅,証人威迫などの現実的な可能性がある場合などですと,罪証隠滅としては,直接接触する態様以外にも,電話など様々な態様で行われることが想定されますので,GPSによる監視では到底防止できない部分が大きいという問題点があると思います。   また,被告人にGPS端末を装着させる場合のいろいろな義務違反というのも,この後,議論になると思いますが,GPS端末は,被告人が外してしまうとか,壊してしまうとか,あるいは壊れてしまうとか,様々な原因によってその機能が失われることも想定されます。GPSによる監視には,このように,勾留による逃亡の防止や罪証隠滅の防止に比べて機能的に劣る面があるということを十分に考慮すべきではないかと考える次第です。 ○天野委員 今,検討課題の「(1)」の,被害者や証人に対する接触を防止する必要がある場合についてもGPS端末を装着させることができるものとするかという点について御意見があったと思うのですが,改めてこの点に関して積極の意見を述べたいと思います。確かに,この部会は逃亡防止の部会ではありますけれども,保釈の際に付すことができる条件の一つとしてGPS端末の装着の義務付けが検討されているものと承知していますので,そうであれば,ここでは,GPS端末の装着を義務付けることができる場合を,逃亡を防止するために必要があると認めるときと限定するのではなくて,保釈の条件として必要があると認めるときと広くしておき,裁判官の運用に委ね,被害者への接触を防止する場合を含めてもよいのではないかと考えています。保釈中の被告人に逃亡されれば社会不安も生じますし,以前,配布された保釈取消し事由などを見ても,刑事訴訟法第96条第1項第4号による取消しも増えていますし,同項第5号の中では,接触禁止の条件に違反したことを理由とするものが一番多いということでしたので,GPSを導入するということであれば,逃亡防止という目的に限定せずに,もっと積極的に被害者や証人に対する接触を防止する必要がある場合についても装着できるものとすべきであると考えています。   これと関連してもう一つ,検討課題の「(3)」の義務違反の検知及びその後の措置に関してですが,被告人に違反があったときにはすぐに被告人の身柄を確保できるような制度にしないと,単にGPS端末を付けているだけだと本当に意味がないと思います。義務違反の認定は裁判所が行うのだろうと思いますけれども,裁判所が義務違反の認定をしなければ何もできないのではなくて,移動範囲の制限に違反したり,GPS端末が機能しなくなったりといった比較的容易に客観的な状況から義務違反があったかどうかの判断ができる場合には,警察等が被告人の身柄確保に向けて機動的に動ける体制を作る必要があるのではないかなと考えています。 ○笹倉幹事 被害者の保護の要請が強いことについては全く異論はありません。ただ,そのために保釈の条件としてのGPSの装着という方法を使うかどうかについては,GPSでどこまでのことができるかということとセットで考える必要があると思います。言うまでもないことですが,GPSで把握できるのは位置情報にとどまります。したがって,被告人が被害者に物理的に接近していることが分かったとしても,被害者と接触することが目的であるのか否かは,GPSだけでは分かりません。   そのことを前提にすると,仮に被害者の保護のためにGPSを使うとすれば,差し当たり次の二つの方法があり得るかと思います。一つは,被告人だけでなく被害者にもGPS端末を持ってもらった上で,相互の距離が一定以下まで近付いた場合には,双方で,あるいはさらに裁判所や警察で警報が鳴る仕組みとする方法。もう一つは,被害者の自宅とか,勤務先その他日常生活圏を被告人が立ち入ってはならない区域にして,そこにGPS端末を装着した被告人が立ち入った場合には,警報が鳴るという仕組みとする方法です。   もっとも,前者については,被告人が意図せずに被害者に接近してしまった場合にも警報が鳴ることになりますが,そのような場合,被告人とすれば,被害者がどちらの方向にいるのかが分からなければ,どちらに行けばいいのかも分からないことになります。また,後者については,被害者と被告人の生活圏が重なってしまっているような場合ですと,立入禁止区域の線引きが難しくなると思われますし,例えば被害者が被告人からの接触を懸念して転居されたような場合,当然,転居先を知られたくないとお考えになると思いますけれども,転居先の周辺を新たに立入禁止区域に設定したりすることによって,被告人に転居先を知られることになるなど,かえって保護の要請にもとる結果になることも考えられます。   したがいまして,被害者保護のために保釈の条件としてGPS端末を装着させることにするのであれば,そうした問題点を乗り越える方策も同時に考えておかないと,実際上機能しないことになってしまいますので,慎重な検討を要すると考えます。 ○菅野委員 今の論点に関して,現在,弁護人が実務でどういった工夫をしているのかについて,意見を述べたいと思います。私も,GPSが万能だと言うつもりはありませんし,GPSによって何ができるのかを十分に検討すべきという意見です。他方,この制度がない現状において,保釈の際に弁護人が被害者側の代理人などとどういうやり取りをしているかといいますと,一定の地域に立ち入らないとか,あるいは一定の期間内に引越をするなどの誓約書を取り交わすなど,いろいろな誓約を言わば約束ベースでしかしていないというのが現状です。   そういった現状からすると,GPSという制度を一つのオプションと考えたときに,今は,何もない現状で言わば約束ベースでやっていることがより機能する可能性はあると,このような視点は持つべきだと思っていますし,約束だけではなくてGPS端末を付けたことによって,被告人がより約束を守らなければいけないという心理になるという効果もあり得るようにも思いますので,GPSの限界だけでなくて,それがある場合とない場合とでどちらがより機能するのかという視点からも検討すべきだと,このような意見を持っております。 ○天野委員 笹倉幹事から先ほど御意見があった点ですが,私は,被害者にもGPS端末を付けるということは全く想定しておりませんでした。もちろん,ストーカー対策の中で加害者と被害者の双方にGPS端末を付けることはあり得ると思っていますが,保釈の条件の一つとして被告人にGPS端末を装着させる場合に被害者にもGPS端末を付けるということについては,もちろん今後そのような議論になれば議論したいとは思いますが,現時点では,念頭に置いていなかったところです。   それから,刑事事件で被害者代理人として活動する中で,被告人はここには立ち入らないとか,そういう条件を付けることは本当によくあることですので,菅野委員から御発言があったように,そういった条件の遵守の担保にGPSを活用できるという点では意味があると思っています。裁判所が保釈の条件を定める際,被害者に接触しないことという条件を付けることもあると思いますが,先ほどの生活圏が重なってしまっていて立入禁止にできないのではないかという場合については,GPSでカバーするのではなくて,接触しないという条件の方でカバーされるものなのかなという認識でいました。 ○小笠原幹事 今までの話とは異なり,逆にGPSを付けることを制限する方向のことについてお話ししたいと思います。今でも,保釈が認められているケースの中には,逃亡のおそれも罪証隠滅のおそれもかなり低く,実際,逃亡も罪証隠滅もしないというケースが結構あるのではないかと思っております。そうした場合についてまでGPSを付けるという話になってくると,生活全般を監視し得るものですので,行き過ぎであろうと思います。   他方で,この制度が導入された場合,保釈する際に被告人にGPSを付けるかどうかというときに,ぎりぎり危ないのではないかと思うようなときには付ける方向に行くのではないかという話を裁判官などから聞くことがありまして,今まで特に問題なく保釈されていた人たちについても広くGPS端末を付けるということになると,それも行き過ぎではないかと思います。   そうだとすると,制度枠組み「(1)」では「必要があると認めるとき」と裁判官に非常に広い裁量を認めているのですが,そうではなくて,類型的に逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれが高い場合に限ってGPS端末を付けることで保釈を許可するものというように,制限的に考えられるべきではないかなと思います。   批判もあり得ると思いますが,一つの案としては,例えば,類型的に逃亡のおそれが高い事件や,罪証隠滅のおそれがあるというときは,権利保釈の除外事由とされ,裁量保釈のみという話になるので,権利保釈が認められる場合については,GPS端末は付けられないとするとか,あるいは先ほど言ったように,逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれが具体的にないと,そもそも勾留も認められないはずなのですけれども,そのようなおそれが高度の蓋然性をもって認められる場合とか,あるいは一度でも接触したりすると取返しの付かないことになるような被害者との接触を防止する必要がある場合に限ってGPS端末を装着させることができるなどという形で,文言上,付けられる場合を制限する必要があるのではないかと思います。   ただし,実務の保釈決定書を見ますと,保釈が許される場合に,果たして権利保釈で許されているのか,裁量保釈で許されているのかということは,実はよく分からないのです。保釈を認めるということで,いきなり保釈の条件が付されるというのが保釈決定の中身なので,実務の運用としても,そこをきちんと明確にした上で,裁量保釈の場合にはGPSなども利用できるという制度とするのがいいのではないかなと思っております。 ○角田委員 検討課題の「(1)GPS端末を装着させる被告人の範囲・要件」について,今,多方面から御意見が出ましたが,私は,GPS端末を装着させること自体にプライバシーの侵害だとか,あるいは人格の尊厳に対する侵害という側面があるのは間違いないので,対象となる被告人の範囲を何でもかんでも広げていくよりも,なるべく必要最小限度に絞っていくという基本的なところは押さえた方がいいと思っています。   ですから,先ほど議論の中に出てきたストーカーの被害者側にもGPS端末を付けるというような制度運用は,そういう意味でも反対ということになります。加えて,今日の議論でもかなり出ていたように,GPS端末が万能かというと,機械的な仕組みや機能の面でも,実際に運用していく際の使い勝手の面でも,かなり大きな限界を伴うと思われます。そのことを踏まえると,対象とする被告人の範囲とか要件を考える場合には,まずはGPSを用いて一体何ができるのかということを具体的な事例で想定して,これならば実効性が認められる,逆にこれは無理だと,そういう詰め方をしていかないと,なかなか結論が出てこないのではないかという気がします。   そういう観点でいえば,例えば国外逃亡のおそれがある被告人であれば,空港だとか港だとかに立ち入るなという指示をした上で本人にGPS端末を付ければ,空港周辺等の一定の区域に入ったら警報が鳴り,裁判所も検察庁も把握できて,直ちに身柄の確保に動けるということになります。実際の使い勝手を想定しても,これであれば非常に合理性のあることだろうと思うので,このような類型については少なくとも導入すべきだとまず思います。   問題は,例えば被害者や証人のような立場の人への接触を防止するという使い方についてどうかということですが,実際にどういう使い方ができるのだろうかと,私自身多少考えてみました。それで,何とか使えるものなら使った方がいいという気もするのですけれども,ただ,例えば,GPS端末を付けていても,電話などを使えば第三者とも被害者とも幾らでも連絡は取れるのですから,そうした方法を通じて被害者や証人に接触しようとするというのは防ぎようがなく,先ほど申し上げた外国への逃亡のおそれが高い類型などとは違った考慮が必要になることは間違いないと思います。したがって,その有効性と実効性をきちっと詰めて考えていくことが,この先の議論の在り方としては正しいのではないか,そういう感じがしております。 ○佐藤委員 保釈中の被告人にGPS端末を装着させる制度は,我が国において初めて導入することになりますので,これを円滑に導入し,定着させる上で,費用対効果についての慎重な検討は欠かせないと思います。その際の視点としては,まずはGPS技術を活用する必要性が高いことに加え,これを効果的に活用し得ることが明らかで,かつ運用に伴う困難が少ないこと,例えば,制度の運用に混乱を生じさせないことなどに留意して,導入する範囲を画するのが適当であろうと考えます。   既に国内逃亡の場合を念頭に置いた議論がございましたけれども,今,述べた視点からしますと,被告人の国外逃亡を防止するためにGPS技術を活用するというのが,まずは想定される対象となるのではないかと考えております。   我が国の主権が及ばない国外に被告人が出てしまいますと,公判期日への出頭や刑の執行の確保が極めて困難となりますので,他の逃亡行為と比べると,それを阻止する必要性が高いと思います。次に,被告人が空港や港に接近する行為は,防止すべき行為である国外逃亡の徴表であるということができる上,移動の軌跡から空港や港への接近を探知することも容易であることから,接近先の海空港で警戒警備をするなどすれば,実際に出国による逃亡を相当程度防止できるだろうと考えられます。つまり,GPS技術を効果的に活用し得ることが明らかな場面だということができます。   また,被告人が出国しようとする場合,正規の手続による出国は出国確認の留保によって阻止することができるとしますと,GPS端末を装着させることによって阻止することとなる出国は,正規の手続によらない不正な出国ということになりますけれども,保釈中の被告人のうち,正規の出国手続を避け,不正な方法により出国することを選択し得る組織的背景や経済力を有する者というのは,恐らくごく少数に限られるだろうと思われますので,初めて制度を導入するに当たっても,制度の運用に伴う困難が少なく,混乱が生じるおそれも小さいのではないかと考えられます。したがいまして,GPS技術を活用する場面としては,まずは国外逃亡を念頭に置いて検討するのが適当ではないかと思います。   これに対して,国内における逃亡を防止するためにこの技術を活用することについては,国外逃亡を防止するために用いる場合に比べますと,その必要性の点で一段低い評価となるように思われます。また,どのような行為であれば逃亡の徴表と見ることができるのか,移動の許される区域や接近・立入りの禁止される区域をどのように設定するのかということも,国内における逃亡を想定しますと,その判断,線引きには困難が見込まれる一方,どのような被告人にGPS端末を装着するのかについての判断もまた容易ではなく,場合によっては,運営能力を超えるような数の被告人が対象となるなどして,制度の運用に混乱を招くことも懸念されます。   このようなことを考えますと,まずは国外逃亡を防止するための制度として導入し,その運用の経験が蓄積されていく中で対象を拡大するかどうかを検討していってはいかがかと考えております。 ○小木曽委員 今,佐藤委員から御発言のあった国外逃亡の防止について考えますと,義務違反があった場合,保釈を取り消すのは当然として,例えば,対象の被告人が空港や港に接近したという情報が探知された場合,そうした場所にいる対象者をどうするかという問題があります。保釈中ですから,保釈を取り消さないと被告人の身体拘束はできないわけですが,今,被告人が空港にいるのに,保釈取消し決定を待たなければ身柄拘束できず,国外に出てしまうということだと,制度の目的が達成できません。ですから,義務違反が探知された場合には,裁判所による保釈取消しの判断を仰ぐまでの間,被告人の身体を短時間拘束できるようにする制度が必要になるのではないかと思います。方法としては,短時間の勾引のような制度を考えるか,あるいは,義務違反が犯罪になるという構成をしますと,現行犯人逮捕という構成もあるかもしれないと思います。 ○髙井委員 検討課題の「(3)」についてですが,私は,犯罪化して現行犯人逮捕ができるようにすべきだと思います。基本的に,この検討が始まったのは,ゴーン被告人の逃亡に端を発しているわけですから,どういう手を打てばゴーン被告人の逃亡のようなことが二度と起きないかということをまず重点に考えるべきだと思います。そういう観点からすれば,義務違反が発生した場合には,それを犯罪化して,即,現行犯人逮捕できるようにすることが不可欠ではないかと考えております。   このシステム全体を誰が責任を持って運営すべきなのかということになると,私は,基本的には裁判所ではないのかと思います。検察が管理運営するという考え方もありますし,私自身もそれにかなりの魅力を感じているのですが,他方で起訴後,本来,検察官と被告人は対等な関係にあるはずなのに,一方的に検察官が被告人の行動を監視するというのはいかがなものかなという気がします。   それから,話が戻って恐縮なのですが,「(1)」について意見を申し上げます。これまでも議論されているように,国外逃亡のおそれがある者についてGPS端末を着用させることが有効であることは,皆さんがおっしゃるとおりであって何の異論もありません。では,果たしてその場合に限るのか。そのときだけに限るという御意見があったようにも思うのですが,実際問題,国外逃亡のおそれがある例というのは何件ぐらいあるのだろうと。私が知る例で重要な事件で国外逃亡が起きたのは,許永中の事件とゴーンの事件くらいです。   ですから,国外逃亡のおそれがある場合だけGPS端末を付けることにして,その運用実績を見て,今後,その対象範囲を拡大するかを検討しようということになると,なかなか運用実績が重なっていかないのではないか,制度はできたけれども,ほとんど使われないまま推移していくのではないかと思います。ですから,国内逃亡の場合でもGPSを使えるとするのが筋ではないかと思います。ただ,国内逃亡を防止しようとする場合に,どういうような条件でGPS端末を付けさせるのかということになると,いろいろ議論が必要だと思います。   それから,被害者関連についてもいろいろ御意見が出ていて,いちいちごもっともだと思っているのですが,仮に国内逃亡の防止のためにもGPSを使うことを認めることとした場合には,例えば強姦事件でも従来は保釈にならなかったものが保釈になるという例が増えることは当然予想されるわけです。そうなってくると,そういう形で保釈された被告人の中には被害者に接触しようとする者が出てくる可能性も否定できないわけです。ですから,飽くまでも逃亡防止の目的でGPS端末を装着させる制度として導入したとしても,結果として被害者が安心できなくなるとか,被害者サイドの観点からの問題も起きるわけです。そうなってくると,GPS端末を付ける条件を逃亡のおそれに限るかどうかとはまた別の問題として,例えばそういう性犯罪の被告人についてGPS端末を付けて逃亡のおそれなしとして保釈する場合には,どこまで有効かは別にして,被害者の生活圏などへの立入禁止のような条件も付けるべきだということになるのではないかと思います。そのような条件を付けずに,逃亡防止の観点のみから立入禁止区域を設定して保釈してしまうというのは,被害者サイドから見ると結構問題が多いのではないかと思います。 ○酒巻部会長 誰がGPSによる監視の全体を管理するかという点について,海外では,検察官が管理している国というのはないのでしょうか。事務当局から比較法的な知見について説明があればお願いします。 ○鷦鷯幹事 以前お配りして皆様の机上のファイルにも編綴されている配布資料18「諸外国におけるGPSにより被告人の位置情報を取得・把握する制度の概要」には,これまでに調査できたイギリス,フランス,韓国及びカナダの制度の概要を記載していますが,少なくともその4か国の中には,被告人に装着したGPS端末の位置情報の監視の任に検察官が当たっているという国は確認されておりません。例えば,イギリスでは司法省から委託を受けた民間事業者がこれを行っており,あるいはフランスでは行刑局内にある中央監視センターという機関が行っています。各国で位置情報の監視を行っている機関の位置付けや,それらの機関が監視の任に当たることとなった沿革についてまではまだ調査できていませんけれども,各国の状況は今申し上げたとおりでございます。 ○小木曽委員 今の点ですけれども,実際の作業を誰がするかということはひとまず置きまして,権限の問題として考えますと,既に御指摘がありましたように,日本では,裁判所・裁判官か,検察官のいずれかであろうと思います。   具体的に考えますと,制度の目的は,保釈されている被告人の逃亡の防止,逃亡しそうな者を検知して保釈を取り消して身体を確保するということでしょう。その具体的な作業としては,まず,保釈の許可決定とともにGPS端末の装着を決定する,対象者にGPS端末を装着する,義務違反の有無をモニターする,義務違反情報を検知する,義務違反があった場合に保釈を取り消す,被告人の所在の把握・追跡をするといった事項が考えられます。   これらの事項のうち,義務違反による保釈の取消しという点に注目しますと,保釈の権限を持つのは裁判所・裁判官であって,対象者である被告人が実際に逃亡しようとしているのであれば,裁判所・裁判官が義務違反の認定と保釈取消しの判断を迅速に行うことができないといけない。そうすると,義務違反の有無をモニターしたり,義務違反情報を検知することは,裁判所・裁判官が行うのがふさわしいということになるのではないかと思います。また,義務違反の認定には,義務違反情報が正しいか,端末が正常に作動していたかといったことの認定も含まれるとしますと,端末の保守についても裁判所がその権限を持つのがふさわしいということになるのではないかと思います。そして,裁判所が入手したその情報を,勾留の裁判の執行を担う検察官と共有する,という流れが考えられるわけです。   他方,確実な被告人の身体確保という点に注目しますと,勾留の裁判の執行に当たる検察官が直接違反情報を検知して対象者の所在を確認・追跡できることが望ましいという考えもあり得るように思われます。この場合は,端末の保守も検察官が行うことになるのだろうと思いますが,その場合でも,義務違反の認定と保釈の取消しは裁判所・裁判官が行うことですから,検察官が義務違反を検知して,それを裁判所に伝えて,裁判所の判断を検察官が確認してという流れになるのではないかと思われます。ただし,先ほども御指摘がありましたように,検察官がGPSの監視をすると考えた場合には,公判係属中に一方当事者である検察官に相手方当事者である被告人の行動を監視する権限を与えるというのが,裁判の公正さへの疑念を生じさせないかという問題はあろうかと思います。 ○福家幹事 ただ今,小木曽委員がおっしゃったところと重なる部分もあるのですけれども,義務違反情報の検知等を担当するのはどの機関なのかという点については,結局,義務違反があった場合にどのような措置を取るのか,あるいはその措置の実効性をどのように確保するのかということと併せて考える必要があるのではないかと思っております。   GPS端末の位置情報を用いて,どのように被告人の身柄を確保するのが実効的なのかという視点もあろうかと思いますし,GPS端末の保守についても,義務違反があったという警報を受信しただけでは,GPSの端末が単に故障したのか,又は被告人が意図的に破壊したのかは分からない部分もあり,例えば,保守・点検の際に異常を見つけて安易に故障と考えていたら,実は意図的な破壊であったということもあり得るのではないかと思います。そういった制度の全体を見て,個別の事務についてどの機関が担当するのかを考えていくという視点も必要と思っております。 ○角田委員 義務違反を検知した場合の措置に関してですけれども,大事な点として,被告人の身柄を迅速に確保する上で,保釈取消し決定が本当に必要なのかどうかという点があると思うのです。   保釈取消しは,基本的に不可逆的な判断ですから,裁判官としては,本当に取り消すべき実態があるかどうかを審査しなければならず,それには一定の時間が掛かることになります。実務的に見ると,保釈取消しは,まず検察官から書面で請求があり,疎明資料を付けて裁判所に持ってきて,それを受けて裁判官が疎明資料を確認し,資料が足りない場合には担当の検察官に電話して,この点はどうですかと確認したり,あるいはこれだけは疎明資料を補充してくださいというやり取りをして,それで判断する場合が多いわけです。しかも,保釈取消しを決定して身柄を確保するとなると,勾留状の謄本を準備して,判子を押して保釈取消し決定の謄本も準備し,身柄を確保する場合にはそれを本人に示して行うわけです。このようなことは被告人がすぐに逃げるかもしれない緊急の場面でやることではないと思います。   ですから,義務違反があったことを知らせるアラームが鳴ったら,保釈の取消しを待っているのではなく,直ちに何とか対応する仕組みを作っておかないと,元々,逃亡防止のためにGPS端末を付けるわけですから,保釈取消しの手続をしているうちにいなくなってしまったら,それは何をやっているのだという制度になってしまいます。既に出ている議論ですけれども,適切な形で構成要件を作って犯罪化してしまう,例えばGPS端末が外れてアラームが鳴っていることを捉えるような構成要件を作るとか,あるいは小木曽委員が言われたような短時間の身柄拘束の制度を介在させて,本当に保釈取消しをすべき事案かどうかを24時間とか48時間以内に判断するという仕組みを設けることも考えられます。また,よくよく考えてみると,どちらか一方でなければいけないということはなくて,両方の制度を作っておいたって構わないわけなのです。   以前この会議で田中委員から御指摘があったとおり,現行犯人逮捕といっても,外形的に明らかな場合でないと難しいというのはそのとおりだと思いますが,そこは,構成要件の作り方でかなりカバーできるのではないかとも思います。それと,短時間の身柄確保の制度も準備しておくというのが一つの方向性かなと考えます。中身を余り詰めることが現段階ではまだできていませんけれども,そういう感じがいたします。 ○北川委員 話が前後して恐縮なのですけれども,最初のGPS端末を装着させる被告人の範囲について少し意見を述べさせていただきたいと思います。先ほど来のお話を伺っていますと,こういったGPS端末を装着させる制度を導入した場合,現場の作業負担は,かなり膨大だなという印象を受けました。佐藤委員から御指摘のあった費用対効果も考えながら,どの範囲に絞るのかということを検討していくべきではないかという点が極めて重要なポイントであると思います。   国外への逃亡の防止のためにこの制度を導入することに関しては恐らくこの部会でも異論のないところかと思うのですけれども,それを超えて,更に国内での移動制限もかけてGPSで監視し,逃亡のおそれを防ぐということにしますと,GPSによって得られる位置情報によって,どの程度まで逃亡の危険が察知できるのか,どのような移動に逃亡の危険があるのかということを類型的に捉えるのが難しいという問題に直面します。   それを担当される現場の人的な負担であるとか,制度の円滑な運用ということを考えると,広い範囲の対象者を想定して,この制度を導入するというのは果たして現実的なのだろうかという疑問を拭えません。行動の制約を伴うという観点もあることですし,まずは堅実な国外への逃亡のおそれがある被告人を対象として制度を始めるのが,結局のところ現実的ではないかという感想を抱きました。 ○酒巻部会長 御意見ありがとうございます。なお,直前に話題になっていたのは,義務違反に対する罰則を設けてこれを犯罪化し,それで現行犯人逮捕するということでしたけれども,実体法研究者の委員・幹事の方で,義務違反の場合の罰則について御意見があれば,聴かせていただきたいのですが,いかがでしょうか。 ○北川委員 それでは,続けてお話をさせていただきます。制度枠組みの「(5)」にある,「(2)」による命令又は「(3)」の義務に違反した場合の罰則を設けることの検討ということについて,意見を述べます。まず,制度枠組みの「(2)」の移動制限の違反に罰則を設けることの是非については,裁判所の移動制限命令というのは逃亡のおそれのある行為を禁止するものでありますから,この命令に違反するということは,公判期日への出頭であるとか,刑の執行確保を危うくする程度が高い,言わば保釈によって停止された勾留の効力を害する行為であると評価することが可能であると考えます。   としますと,このような命令違反行為に対しましては,単に保釈取消し事由にとどめずに刑罰をもって威嚇する必要性が高く,これを犯罪化すれば現行犯逮捕も可能という側面も考慮すれば,罰則を設けることが適当ではないのかと考えます。   次に,各種遵守事項の違反,これは制度枠組みの中で「(ア)」「(イ)」「(ウ)」と分けて書かれておりますけれども,この中の「(ア)」と「(イ)」に関しましては,GPS端末の装着を命じられている被告人がその端末を取り外したり,損壊したり,あるいは通信機器の位置測定機能を失わせる行為ということで,これも移動制限の命令違反と同様に,これらの義務を課された上で許された保釈の趣旨に反する行為であると解されますので,公判期日への出頭などを危うくする程度が高い行為であるという評価が可能であり,刑罰をもって抑止する必要性が高いのではないかと考えます。   これらに対し,制度枠組み「(3)」の「(ウ)」のGPS端末の充電等の必要な管理を怠った行為については,罰則を設ける必要性は乏しいのではないかと思います。といいますのは,故意に充電せずに長期間放置しておくという行為は,「(イ)」の位置測定機能を故意に失わせる行為に該当するということで対処可能であり,このことを前提とすれば,「(ウ)」に該当するのは,不注意によってGPS端末の管理を怠った場合,つまり,充電のし忘れといった行為かと思うのですけれども,そのような行為に罰則を科すというのは行き過ぎなのではないかと思います。   故意犯とは異なり,過失犯の場合は,充電のし忘れに気を付けて,定期的にしっかりやりなさいという指導を適宜行うことによって防止を図ることができるので,必要な管理を怠ったことについては,罰則までは設けずに,せいぜい保釈の取消しができるにとどめるのが適当ではないかと考えます。 ○和田幹事 ごく簡単に1点だけ補足させていただきたいと思います。このような罰則を仮に作るとしたときに,保護法益をどう考えるかということに関してです。保釈されている者については,潜在的に国家による拘禁作用が続いていると考え,それを害する行為だという見方ができますが,そういう見方をする場合は,GPSのシステムに対する攻撃はかなり間接的なものになります。これに対して,GPSによる監視システムが正常に機能していること自体が独立した国家的法益であるという見方をして,それに対する侵害犯だという構成もあり得ると考えるところです。いずれにしましても,そのような説明が可能ですので,このような罰則を作ること自体は排除されないという意見でありまして,どういう範囲でこれを作るか,あるいはそもそも作るのかどうかというところは,更に検討を進める必要があろうと思います。 ○小笠原幹事 私も,制度枠組みの「(3)」の「(ア)」と「(イ)」については,今,和田幹事がおっしゃったとおり,独立の保護法益もあるし,故意犯だし,現実的に危ない行為であるので,罰則はやむを得ないかなと思うのですけれども,「(2)」の移動制限の違反については,検察官や裁判官が保釈取消しの請求や決定をするに当たってその必要性を判断するためのものだとすると,罰則までは必要ないのではないかと思います。実際,立入禁止区域に立ち入ったり,あるいは出てはいけないところから出ているだけで,本当に国家の拘禁作用が現実的・具体的に侵害されているかどうかは,まだ,分からないのではないかと思っております。   だとすると,罰則ではなくて,保釈取消しの必要性を調べるための一時的な身柄拘束ということで十分足りるのではないかなと思います。例えば,GPSを付ける命令の中に一時的な身柄拘束の仕組みを含んでいて,GPS端末の管理も裁判所がすべきだと思うのですけれども,警報が鳴ったときには速やかに裁判所が警察なり検察なりに通報をして,被告人を連れてきなさいということができるような制度とするのが,実際に迅速に対応できる仕組みなのではないかなと思いますし,それで足りるのではないかなと思います。 ○向井委員 先ほど来,義務違反が検知された場合の措置として短期間の身柄拘束を考えてはどうかという御意見が出ていて,その短期間の身柄拘束に裁判所が関わるのだという話も聞こえていたかなと思いますので,質問させていただきたいのですが,そのような短期間の身柄拘束をするという判断を誰がして,かつ,その要件をどのように考えていくのかという点についてのお考えをお聞きしたいと思いました。 ○吉田幹事 まだ確たるイメージがあるわけではありませんが,短期間の身柄拘束の要否を検討する場面というのは,それだけ緊急に被告人の身柄拘束の要否を検討しなければならない場面ということになります。この場面で保釈の取消しについて判断するということになりますと,先ほど御指摘があったように,保釈を取り消せば勾留するということになりますので,その判断の重みというか,勾留してよいのかどうかを慎重に判断するという観点から,相応の疎明資料が必要になってくるだろうと思われ,そうした資料を集めた上で,十分に検討して保釈取消しの要否を判断するには,一定の時間も要するでしょうし,手続が重くなる面があるのだと思います。そうしたことを回避するためのものとして,暫定的な身柄拘束というものを考えるとしますと,もう少し軽いというか,より迅速な判断が可能となるような要件を設定することが必要になってくるのではないかと思われます。   その判断をするのは誰かというのが次の問題となりますが,身柄拘束をするということを重視しますと,裁判所・裁判官の判断を介在させるというのが一つの考え方としてあろうかと思います。迅速な判断が可能な要件が設定されるのであれば,一定の迅速性を確保した形で裁判所の判断がなされるということも確保できると思われます。他方で,裁判所の判断を介在させるとその分だけ時間を要するのは事実ですので,その後に実際に暫定的な身柄拘束をすることになる検察官が,言わば現行犯人逮捕的に,要件の有無の判断をして身柄拘束ができるようにする仕組みというのもあるのかなと思います。いずれにしても,どういう要件の設定が適切なのか,また,誰が判断するのが適切なのかということについて,御意見を頂ければと思います。 ○向井委員 要件設定の中身にもよるのかなとは思いますが,迅速性を重視していくと,結局は,設定された範囲から外に出たとか,そういう機械的に判断される事柄が主たる要件になってくるということになり,そこに誤りを入れないということであれば,機械が誤作動していないかどうかの確認がプラスアルファで必要になるのかもしれませんが,これもまた機械・機器に関する判断ということになり,身柄拘束を継続することが適当か否かといったような司法審査になじむ実質的な判断とは質が異なってくるのではないかと思います。   他方,司法審査になじむような実質的な事柄を短期間の判断の中に介在させるとすると,今度は迅速な判断が難しくなってくるという関係があるのかなと理解しております。そうしますと,迅速な判断が可能で,かつ,司法審査になじむような要件としてどのようなものが設定できるのか,司法審査になじむ事柄ではないにもかかわらず,それについて裁判所の判断を介在させるとなると,余計な一手間がかかって迅速性が阻害され,元々予定した暫定的な身柄拘束という形で迅速な対応をするという趣旨がうまく機能しないのではないか,そのようなことを考えた次第です。 ○小笠原幹事 先ほど述べたことについての追加なのですけれども,私の考えとしては,まず,誰が管理や監視をするかというと,命令を出した裁判所だろうというのが,先ほどした発言の前提でした。とはいえ,実際に裁判所の職員が監視をするのは難しいと思われるので,どこか民間に委託し,その委託先は,義務違反を機械的に検知した場合に裁判所に通報をする,裁判所は,実際に被告人を身柄拘束するとなった場合には,そこで検察官に情報を提供し,その後の位置情報についても,民間の業者が検察官と連絡を取れるようにして提供すると,そういう感じで考えたことでした。   そうすると,現行犯人逮捕するにしても,一時的な身柄拘束をするにしても,裁判所の判断というか,裁判所が介入するということは絶対免れない話ではないかと思います。現場で現行犯人逮捕ができるかどうかの判断というのは,入ってはいけないところに入ったとか,出てはいけないところから出たという事実が既にあるのであって,その判断を現場の警察官ができるのであれば,裁判所だって判断できるのではないかと思います。だとすると,勾引状のような紙がないと執行できないとなると確かに迅速性が失われてしまうので,そういったときにはすぐさま執行できるような法制度があるのであれば,それを使えば良いのであって,義務違反を犯罪化するという話になってくると,その後,それについての捜査をし,起訴だという話になってきて,別件逮捕とはいいませんけれども,元々は保釈を取り消すか,取り消さないかの判断のために身柄を拘束するという目的のための手段だったはずが,何か行き過ぎてしまっている感があるのではないかと思います。 ○大澤委員 罰則の点につきまして,ここに挙がっている「(2)」とか「(3)」の義務というのは,保釈中の被告人の出頭の確保,逃亡の防止のための付随的な条件のようなものだろうと思うわけですが,そういうものについての違反があったときに,保釈を取り消して保釈保証金を没取するというサンクションがあって,それはよく分かるわけですが,ここで考えるべきは,それに加えて罰則を付けるのかどうかということだろうと思うのです。   その付随的な条件の中にもいろいろな重みのものがあるのかもしれませんし,GPS端末を付けなければいけないような場合というのはかなり緊急性の高いケースだという御指摘もありましたので,そういう面もあるのかもしれません。私自身もまだよく分からないのですが,ただ,そういう付随的な条件みたいなものを全部罰則でカバーしていくのだろうかというところについては,少し引っ掛かるところも残っています。それだけを申し上げさせていただきたいと思います。 ○佐藤委員 検討課題の「(2)」の,GPS端末の装着を命ぜられた被告人に対して課す義務の内容に関する項目,2番目の「○」の,保釈の取消し後も義務を負うのかという点について意見を述べたいと思います。結論から申しますと,この義務は保釈の取消し・失効後も収容までは存続するものとすべきであろうと考えます。   保釈は,勾留の理由や必要性があって勾留状が発せられた被告人について保釈保証金の没取の威嚇力によって被告人の逃亡防止を図りながら拘束から解放するという制度であり,その後に逃亡のおそれが生じた場合など,拘束から解放した状態を継続することができない状況が生じたときは,保釈が取り消され,勾留状の執行によって被告人を収容するということが,当然の前提となります。   この点,被告人にGPS端末を装着させることは,保釈が維持されている間の被告人の逃亡を防止するためのものであるとともに,被告人が逃亡に及ぶ徴表とみられる行動に出た場合には,直ちに被告人の所在を把握した上で,できるだけ速やかに被告人を収容して勾留に復帰させるためのものということもできるだろうと思います。したがいまして,制度枠組みの「(2)」の命令や,制度枠組み「(3)」の義務に関しては,保釈が取り消されるなどした後も,他の保釈条件と異なり,目的を達するまで存続する,具体的には,保釈が取り消され,又は禁錮以上の実刑判決が宣告されたことによって保釈の効力が失われた後であっても,勾留状の執行によって被告人を収容するまでの間は,制度枠組みにある命令や義務が存続するものとすべきだろうと考えます。   なお,保釈が取り消された場合に,被告人を収容するためにできる限り速やかに所在を突き止めて収容する必要があることは,GPS端末装着命令とは関係しない保釈取消事由,例えば,罪証隠滅のおそれを理由として保釈が取り消された場合であっても同じでしょうから,この場合についても,制度枠組みにある命令や義務は被告人が収容されるまでの間は存続するものとすべきだろうと思います。他方で,GPS端末の装着を命ぜられた保釈中の被告人について勾留が取り消された場合,あるいは無罪,免訴,刑の免除,刑の全部の執行猶予,公訴棄却,罰金又は科料の裁判の告知によって勾留状の効力が失われた場合には,この命令なり義務なりを存続させる理由はなくなりますので,それらの効力ないし義務はその時点で消滅するものとすることが考えられるのではないかと思います。 ○角田委員 今の佐藤委員の御意見は,保釈の取消し後もGPS端末の位置を知り得るものとするかという点を中心に検討された御意見だと思います。その前提として,どのような場合にGPS端末の位置情報を知り得るものとするかという問題があって,保釈された被告人は,GPS端末を付けて社会の中を動き回っているわけですが,アラームが鳴るまでは位置情報は特には取らないこととするのか,それとも常時監視し続けるのか,こういう問題があります。私自身は,特に問題もないのに常時監視することは,そもそも必要性が乏しい上に,私生活領域に対する介入の程度が高過ぎると思いますから,何か問題があるまでは,つまり,アラームが鳴るようなことがあるまでは特に監視はしないこととして,アラームが鳴ったら被告人のGPS端末の位置を把握して,その後は継続的に監視していく,もちろん保釈取消し決定があった後も身柄を確保するまでは継続して位置情報を把握するという取扱いが適切であろうと思います。 ○笹倉幹事 発報後,保釈の取消しを経て,現実に被告人を収容できるまでの間,位置情報を取れるようにすべきというのは,角田委員のおっしゃるとおりだと思います。それ以外にも,例えば,GPS端末が被告人の体から取り外されてしまった,あるいは,通信が途切れてしまったという場合には,その経緯を把握することが必要になりますので,被告人の所在を突き止めるのに必要な範囲で,その時点から遡って過去の位置情報を取れるようにしておく必要があるでしょう。つまり,位置情報自体は自動的,機械的にコンピュータに入っているはずですが,それを実際に人が確認するのは,基本的には発報後である。ただ,例えば,発報があった際に既にGPS端末が取り外されてしまっているのであれば,取り外された直前に被告人がどこにいたのかということなどを調べないと,端末を取り外した後の被告人の立ち回り先の手掛かりが全くないということもあり得ますので,被告人の所在を突き止めるのに必要な限度では,発報前に遡って位置情報を調べることができる仕組みにしておく,ということです。   今一つ,例えば,単なる故障であるとか,何か予期せぬ不具合が生じたという場合に,それで慌てて被告人を探し回らなくても済むように,そのような不具合が生じたときは報告することを被告人に義務付けることも考えられます。その条件に違反した場合には,そのこと自体,GPSによる監視を機能させる前提を失わせる行為ですので,保釈の取消し事由になるという構成にしておくことも考えられるかと思います。 ○菅野委員 検討課題の「(1)」の関係で,飽くまで個人的な意見なのですが,海外に出られるような方に限定するという話が出ていましたが,それでは基本的に数が少な過ぎるし,費用対効果を考えるにしても狭過ぎるのではないかと思います。実務では,むしろ,お金さえあれば保釈が認められる方なのにお金が全く用意できないために残念ながら保釈の申請自体できない,あるいは保釈金額として設定された金額を用意できなくて保釈申請を取り下げざるを得ないという事態も生じています。   ですから,例えば保釈金を用意できない方について,それを補完するような位置付けで,こうしたGPSの制度を利用できる余地はないのか,そういう視点で考える事件類型があってもいいのではないかと個人的には思っております。保釈金として200万円を用意しなさいと言われたものの,どうしても100万円しか用意できない場合に,経済的な理由によって保釈されないということが果たしてこの国の司法の在り方としていいのか,たまたまお金がないからといって保釈が認められないのは少しおかしいのではないか,そういうところにこの制度がワークする可能性もあるのではないかという点は,指摘させていただきたいと思います。 ○酒巻部会長 その場合,今は保証金で逃亡を防止していますが,それが払えない場合にGPSで代わりに担保するとなると,それは,どのようにGPSを使うことになるのですか。 ○菅野委員 部会長がおっしゃるとおり,そこが問題になってきて,例えば,ある県で生活している被告人について,県外に出るときだけアラームが鳴るとか,移動可能な範囲を最も狭くするのであれば,自宅から出たときはアラームが鳴るとか,そういったいろいろな制度設計は具体的な事案ごとに逃亡の可能性の程度との関係で条件設定していく話になるのではないかと,そのような感じで考えたことはあるのですが,飽くまで個人的な意見に過ぎませんので,そういった視点もあり得るのではないかということで意見を述べさせていただいたところです。 ○天野委員 GPSの議論は保釈が増えることを前提にしていると思っていましたので,仮に国外逃亡されそうな事案に限る等,極めて限定的な場面に限るのであれば私がこれから述べることは意味がないかもしれませんが,意見を述べさせていただきたいと思います。私は,GPSを導入することによって,これまで保釈されなかった被告人が保釈されるようになった場合,被害者の不安に対して何のフォローもしなくていいのかということを,素朴な疑問として持っています。   実際,被告人が保釈された後に,被害者が子供の場合には,学校に行きづらいとか,あるいは行くことができなくなるとか,お仕事をされている方の場合でも,職場にいるといつ被告人が来るか分からないと思って不安になったり,あるいは自宅への帰り道で被害に遭った被害者が,被告人と面識はないけれども,落ち着いて自宅の近くで買物もできないとか,そういうことで実際に生活に支障が出ている方はたくさんいらっしゃるわけで,そういう生活上の不安について全くフォローせずに被告人を保釈していいのかというのが,基本的な出発点としてあります。   費用対効果の視点はもちろん重要ですし,これをもし導入するのであれば,相応の初期費用,コストは当然かかるだろうと思っています。その中で実際に運用していくときには,民間業者も恐らく入らざるを得なくなってきて,そことの兼ね合いでGPS端末を取り付ける被告人の数が爆発的に増え過ぎたらどうするのだとか,そういう問題はあろうかとも思いますけれども,だからといって被害者保護のために利用することを端から除外する必要があるのかなというのが率直な思いです。被害者の方も社会の一員ですので,その方々をどうやってフォローしていくのかということは,視点として持つべきなのではないかなと思います。   被告人のプライバシーの話も,そもそも保釈を求めるのは被告人ですので,GPS端末を付けるのだったら保釈なんてしなくていいよというのであれば,保釈を取り下げればいい話であって,そこまで被告人のプライバシーのことを重視するというのは,余りピンとこなかったところではあります。 ○髙井委員 そもそも勾留されていない人たちにGPS端末を付けようというわけではなくて,本来は拘置所にいてプライバシーが制約されている人たちを外に出すときにどうするかという話をしているわけで,おっしゃるように,被告人のプライバシーに過剰に配慮する必要はないと思います。   もう一つ,被害者サイドの話ですが,GPS制度を導入すれば保釈が増えることはほぼ間違いないと僕は思います。そうすると,性犯罪については,今,天野委員がおっしゃったようなことが必ず起きるわけで,その場合に被害者を守るためにGPSを使うのは,今回の逃亡防止のためのGPSの制度とはまた別の視点からのもので,被害者にGPS端末を持ってもらって,被害者は常に被告人がどこにいるかを把握できるというシステムにする以外にないと思うのです。性犯罪についてGPS端末を付けて被告人を保釈するという場合は,今議論している制度とは別の制度として,例えば,被害者が希望すれば国費で被害者にGPS端末を持ってもらって常に被害者が被告人の位置を認知することができて,危険を察知したら逃げることができるようにするということも考えないといけないと思います。 ○小笠原幹事 先ほど,犯罪化するのか,それとも一時的な身柄拘束を可能にするのかという点について意見を述べた際,時間がいろいろ掛かるとか,そういう話をしたのですが,GPS端末の管理等を民間に委託するとした場合,これができるところというと,通信事業者か警備会社のどちらかかなとイメージしておりました。   そのイメージでいくと,警報が鳴ったときに,民間の会社が,裁判所に通報しつつ,保守運営の一環として,GPS端末がどういう状況にあるのかの確認のために現場に急行するというのもあり得て,その中で権限の与え方だと思うのですけれども,強制ではなくて任意に裁判所まで来てくれよという説得で時間を稼ぐとか,そういうことも,もしかしたらあるのかなという考えがあって,そういうことも含めると,犯罪化までは必要ないのではないかと,そういう趣旨で発言したものでした。 ○酒巻部会長 開始から大分時間が経ちましたので,GPS関係の議論については,ひとまずこの程度にさせていただきたいと思います。ここで,10分間の休憩とします。           (休     憩) ○酒巻部会長 再開します。休憩前に続き,今度は,「保釈中若しくは勾留執行停止中の被告人又は実刑判決が確定した者の逃亡を防止して,公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための罰則の整備」について議論を行います。   配布資料27について事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料27を御覧ください。   「制度枠組み」には,保釈中若しくは勾留執行停止中の被告人又は実刑判決が確定した者の逃亡を防止して,公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための罰則として,これまで御議論いただいてきた七つの罪を記載しています。   続いて,「検討課題」を御覧ください。「制度枠組み」に掲げた七つの罪について,中には罰則を設けること自体に慎重な意見もございましたが,更に議論を尽くすべきと考えられる論点を「(1)」から「(3)」までに挙げています。   まず,「(1)」は,制度枠組み「(1)」から「(5)」までの罪についてのものであり,一つ目の「○」には,制度枠組み「(1)」の公判期日への不出頭の罪を設けることとした場合においてもなお,制度枠組み「(2)」から「(4)」までの罪をそれぞれ設ける必要はあるかという点を挙げています。保釈中の被告人等の公判期日への出頭や,公判期日に出頭せず保釈が取り消された場合の収容といった手続の流れの中で,これらの罰則がどのように機能し得るのかなどの観点から,それぞれの罰則の必要性について御議論いただければと思います。   二つ目の「○」には,法定刑をどのようなものとするかという点を挙げています。法定刑については,検討課題「(2)」及び「(3)」にも挙げており,制度枠組み「(6)」及び「(7)」の罪の法定刑と併せて,それぞれの罪の法定刑をどのようなものとするかについて御議論いただければと思います。   次に,検討課題「(2)」は,単純逃走罪についてのものであり,一つ目の「○」には,同罪の主体をどの範囲の者とするか,その場合の理由はどのようなものかを挙げています。「①」から「⑧」までの者は,飽くまで例示として記載しているものですので,これらの者を含め,同罪の主体の範囲について幅広く御議論いただければと思います。   検討課題「(3)」は,監督者による出頭・報告命令違反の罪についてのものであり,一つ目の「○」には罰則を設ける必要性・相当性を,二つ目の「○」にはどのような場合を出頭・報告命令違反とすべきかという点を挙げています。後者については,被告人が出頭すべき公判期日などに監督者が被告人と共に出頭することを命じられた場合において,監督者だけが出頭しなかった場合や,逆に被告人だけが出頭しなかった場合につき,監督者を出頭・報告命令違反とすべきかなどの点について御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 今の説明内容について御質問はございますか。それでは,「考えられる制度の枠組み」や「検討課題」のうち,いずれの点についてでも結構ですし,それ以外の記載のない点についてでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,どのような点に関するものであるかをお示しいただいた上で,御発言をお願いします。 ○佐藤委員 検討課題「(1)」の最初の「○」,制度枠組み「(1)」の罰則を設けることとした場合においてもなお,それ以外の罪を設ける必要があるかという点に関し,制度枠組み「(2)」の公判期日外の出頭・報告命令違反の罪について発言させていただきます。   公判期日外の出頭・報告命令は,保釈中の被告人を公判期日外に出頭させたり,逃亡のおそれの判断に影響を与えるような事情変更が生じていないかを裁判所に報告させたりすることで逃亡を未然に防ぐための制度ですけれども,前回までの部会において,保釈中の被告人の逃亡を防止し,公判期日への出頭を確保しようとするのであれば,端的に,制度枠組み「(1)」の公判期日への不出頭の罪を設ければ足りるのであって,公判期日への出頭の手前で課される付随的な義務に違反した行為についてまで罰則を設ける必要はないのではないかという指摘がなされていたと思います。   確かに,勾留は,公判期日における出頭の確保を主たる目的とするものであって,公判期日外の出頭は,そのための手段と位置付けることができますが,例えば,事件が公判前整理手続に付されており,まだ第一回公判期日が指定されていない,期日が指定されない状態が長期にわたっている間に被告人が逃亡しようとしている,そこに裁判所が公判期日外の出頭・報告を命じたという状況を考えますと,公判期日外の出頭・報告命令違反の罪を設けた場合には,それが出頭・報告を命ぜられた被告人が最初に直面する規範ということになり,その段階では,公判期日への不出頭の罪の存在は,被告人の視野に入ってこないということになるものと思います。そして,被告人が実際に逃亡してしまって,第一回公判期日を開くことができないということになりますと,結局,被告人が直面するのは公判期日外の出頭・報告命令違反の罪だけだということも考えられます。   そうだとしますと,公判期日への不出頭の罪を設けるだけでは賄うことのできない場面が残ると思われますので,そうした可能性についても罰則によって対処,抑止する必要性が依然としてあるのであれば,公判期日への不出頭の罪を設けることとした場合においてもなお,公判期日外の出頭・報告命令違反の罪を設けることに合理性はあるのではないかと考えます。 ○笹倉幹事 制度枠組み「(3)」と「(4)」の罪についても,公判期日への不出頭の罪では賄えない部分がありますから,政策的な必要性があるのであれば,このような罰則を創設することも考えられると思います。   まず,勾留執行停止期間満了後の不出頭の罪についてですが,公判期日への不出頭と勾留執行停止期間満了後の不出頭とでは,罰則の威嚇力により実現しようとする刑事司法作用の具体的内容が異なります。すなわち,前者は,公判期日における審理を確保することであり,後者は,それを究極の目的としつつも,現に収容されるべき人が収容されていない状況を解消することであるという点で異なりますし,また,公判期日への不出頭の罪を設けたとしても,勾留の執行を停止された者が,当然に執行停止期間の満了後に拘置所へ戻ることにつながることにはなりません。したがって,別途罰則を設ける理由はあるでしょう。   保釈や勾留執行停止が取り消された後の不出頭の罪についても,勾留執行停止期間満了後の不出頭の罪と同様に,カバーする範囲が公判期日への不出頭の罪と異なります。もっとも,この点に関しましては,保釈中の被告人等が召喚を受けて公判期日に出頭せず,保釈等を取り消された場合には,保釈等を取り消した時点で既に逃亡をしていて呼出しもできないことが考えられますので,公判期日への不出頭の罪とは別に保釈等の取消し後の不出頭の罪を設ける意義はないのではないかという見方があるかもしれません。   しかしながら,例えば,現に逃げてはいないものの,逃亡のおそれが高まったことを理由に保釈が取り消されるとか,あるいは,住居の制限に違反して保釈が取り消されるといった場合のように,逃げてどこへ行ったか分からないわけではないけれども,呼び出しても出頭しないということは考えられます。また,罪証隠滅のおそれ等によって保釈等が取り消された場合についても,被告人を収容することになるので,罰則をかけることによって早期の出頭を促すことにはそれなりの合理性があると思われます。   もとより,以上は理屈の問題でありまして,実際にそこまでする必要があるかどうかは,実情を踏まえた検討が必要かと思います。 ○小笠原幹事 まず,制度枠組み「(6)」の単純逃走罪について,処罰の対象を広げるとすると,「検討課題」に掲げられている「①」から「⑧」までの者の中では,「①」及び「②」の者までではないかと思います。「⑥」の現行犯逮捕とか,緊急逮捕の逮捕状発付前の被疑者を単純逃走罪の主体とするのは,早過ぎるというか,確実に身体拘束されているといえるか,あるいは法律上の要件をきちんと充足しているかどうかはっきりしない場合もありますし,そこまで単純逃走罪で保護する必要はないのではないかと考えています。   「(6)」の単純逃走罪が「①」・「②」の者まで広がるとすると,制度枠組み「(3)」,「(4)」,「(5)」の罪のように,呼出しに応じず出頭しない行為に刑罰を科すのは早過ぎるだろうということを,以前にも発言しました。これは,まずは任意で来させる形でやって,任意で駄目なら勾引状や収容状を執行するという現行法からすると,勾引状などの執行を受けた後,刑事施設に入る前に逃げた者については単純逃走罪で処罰する必要があるとしても,それ以前の呼出しに応じない段階を処罰することは早過ぎるだろうという意見です。   制度枠組み「(1)」の公判期日への不出頭の罪については,設けることもある程度仕方ないといったら変ですけれど,許容されるのではないかと思いますが,この罪の保護法益は,国家の拘禁作用というより刑事裁判がまともに運営されないこと,そういう刑事司法作用全般,あるいは召喚という裁判所の意思に逆らっているという法廷侮辱罪的な部分を保護法益として処罰されるものかなと思っています。   それに対して,制度枠組み「(2)」の公判期日外の出頭・報告命令違反の罪は,「(1)」の罪できちんと公判期日を開けるのであれば,ここまで罰する必要性はないのではないかということと,以前にもお話ししたかと思うのですけれども,保釈の取消しですらなかなかちゅうちょしてしまい,こういう公判期日以外の日に出頭させるような保釈条件を付けづらいという話が以前あったかと思うのですが,罰則まで作ってしまうと,かえってこういう出頭・報告命令の制度が使いづらくなってしまうのではないかということも懸念されるので,罰則までは必要ないと考えます。   「(7)」の罰則については,前回の会議で監督者制度自体に対して反対しましたが,その理由としては,こういう罰則まで設けたら,本当に監督者のなり手がいなくなってしまって,そのために保釈されない人が増えてしまうのではないかということが懸念されることと,監督者が虚偽の報告などをした場合には,犯人隠避罪,犯人蔵匿罪などの現行法で対処すれば足りるのではないかと考えられるからです。実際,被告人が逃げないで出頭すれば,監督者を罰することまでする必要はないので,被告人本人がきちんと出頭して裁判がなされているのであれば,単独で監督者を処罰する必要性はないということです。 ○大澤委員 制度枠組み「(1)」の罪とは別に,制度枠組み「(2)」の罪を設けることについては,前回の会議で,少し疑問があると申し上げましたが,先ほど佐藤委員から,制度枠組み「(2)」の罪を作った場合に,それが働く場面があるとの御説明があって,それはそのとおりかなと思うわけです。ただ,被告人が公判期日外の出頭・報告命令に違反すれば,おそらく保釈を取り消して,保釈保証金を没取するというサンクションがあるので,ここで考えるべきは,それに加えて罰則を科す必要があるのかということだろうと思うわけです。   被告人が規範に直面するかどうかというお話がありましたが,罰則はなくとも,サンクションとして,保釈の取消しと保釈保証金の没取はあるわけです。それに加えて罰則を置くかどうかといったときに,保釈中の被告人の出頭確保や逃亡防止の本丸に関わるところについて罰則を設けることは分かるのですが,この公判期日外の出頭・報告というのは,それよりも一歩手前の付随的なものではないか,そこまで罰則を被せる必要があるのかというところが,私の引っ掛かるところです。その延長でいくと,GPSの話にもつながってくるところもあると思って,先ほどは発言をしましたが,そういうところにまだ引っ掛かりが残っていることを申し上げたいと思います。 ○小木曽委員 制度枠組み「(6)」について,単純逃走罪の主体を,令状により身体拘束された者とする「A案」と,法令により身体拘束された者とする「B案」とが書いてありますが,先ほど小笠原幹事から,令状による場合は対象にするとしても,無令状の場合は対象にしなくていいのではないかとの御発言があったと思いますので,その点について意見を申し上げたいと思います。「A案」と「B案」の違いは,結局,裁判官による令状審査があるかないかですが,令状審査は,身体拘束を適正に実現するための手続上の問題であって,捜査のために身体拘束をする理由と必要性があり,実際に身体拘束をした場合に,その者がその状態から免れるという事態が生じることによる不都合という点で見ますと,令状が出ているか,出ていないかによって,単純逃走罪の取扱いを変える必要はないという見方もできると思います。   無令状で身体拘束された場合に,どの時点から単純逃走罪の構成要件に当たるのかということは,気になるところではありますが,現行法上も被拘禁者奪取罪の場合に同じ問題があるわけで,個別の解釈・運用が適正に行われれば,大きな問題ではないだろうと考えます。 ○森本委員 制度枠組み「(7)」についてですが,監督者の方にどの程度の負担を掛けられるかという問題意識は分かるところですが,裁判所が監督者を選任して一定の義務を課して保釈を認める場合というのは,裁判所としては,監督者がいろいろな義務や命令に従うことを前提として,そうであれば被告人の逃亡が防止されるという判断をしているのですから,監督者自身がそのような裁判所による出頭命令や報告命令に違反することは,裁判所が被告人を保釈することがふさわしいかどうかの判断をした大きな理由の部分で異なってくる事態であると思います。ですので,そういう命令違反の点については,きちんと対処して,命令に係る義務の履行を確保する必要があると思います。   確かに,監督者に命令違反があった場合の対処としては,監督者が解任される,監督保証金が没取される,監督者の解任を理由に被告人の保釈が取り消されるなど,罰則以外にもいろいろな制裁の可能性はあるわけですが,監督者の中には,資力がある方などもいますでしょうし,悪質な命令違反のケースもあると思いますので,そういうときを想定しますと,罰則が機能し得る場面はあるのではないかと思います。   犯人隠避罪との関係についても御意見があったところですが,監督者が故意の命令違反行為をした場合に,必ずしも犯人隠避罪が成立するとは限らず,犯人隠避罪とは重ならない部分があると思いますので,そういう場面があり得るという前提で罰則の準備をしておく必要があると思います。もちろん,情状によってどの程度の刑罰が実際に科されるかということは,事案によると思いますが,罰則を整備すること自体には意味があるのではないかと思います。 ○髙井委員 森本委員の御意見に全面的に賛成です。確かに,罰則を付けると,監督者になっていただける人はかなり限られてくることは確かだと思います。しかし,罰則がかかっていることを承知の上で,なお被告人の監督を引き受けるからこそ,裁判官が監督者を信頼して保釈をするという判断ができることになるわけですから,監督者になる人の数がある程度減ることを前提にしても,罰則を設ける意味はあると思います。 ○菅野委員 私も,監督者による出頭・報告命令違反に罰則を設けることについて,一律に反対するものでありません。例えば,監督者が虚偽の報告をするなどということは許されないことだろうと思うのです。ただ,監督者がそれなりの監督をしていたにもかかわらず,残念ながら,結果として被告人が法廷に現れなかったという場合にまで監督者に刑罰を科すことが必要なのかというと,監督者の負っている義務がやや広過ぎてしまう可能性があるので,監督者に対する刑罰はかなり限定的に考えていく必要もあるのではないかと感じたということを意見として述べさせていただきます。 ○佐藤委員 今,菅野委員からお話がありましたけれども,検討課題「(3)」の2番目の「○」の,どのような場合を出頭・報告命令違反とすべきかという点に関して意見を述べたいと思います。そちらに記載されているとおり,被告人が出頭したけれども,監督者が出頭しなかった場合,そして,監督者が出頭したけれども,被告人が出頭しなかった場合のそれぞれについて,どのような取扱いをすればよいか,検討が必要だろうと考えております。   まず,被告人が出頭したけれども,監督者が出頭しなかった場合に関してですが,監督者の制度は,被告人の公判期日への出頭をより確実なものにするという趣旨で設けられるものですので,監督者が出頭しなかった場合であっても被告人本人が出頭したのであれば,その日時・場所への出頭に関していえば,裁判所が監督者に対して被告人と共に出頭することを命じた目的は,一応達成されているということができるようにも思われます。   もっとも,裁判所としては,監督者が出頭命令に従うことを前提に,被告人の逃亡を防止できるだろうと判断して保釈を許しておりますので,監督者の命令違反は,裁判所が被告人の保釈を許した判断の前提を覆す行為ともいえるわけであって,やはり厳正に対処すべきものと考える理由はあるのではないかと思います。そうだとすれば,監督者が出頭しないという対応に出た以上は,被告人が出頭したかどうかにかかわらず,これを処罰することとし,それによって監督者の側の命令違反を抑止する必要がある,そのように整理することができるのではないかと考えました。   他方で,監督者が指定された日時・場所に出頭したけれども,被告人が出頭しなかった場合,監督者には,裁判所に命じられたにもかかわらず,被告人と共に出頭しなかったという命令違反が認められるのですが,ただ,監督者が手を尽くしたものの,被告人がかたくなに出頭に応じず,手の打ちようがなかった場合や,監督者が落ち度なく監督をしていたけれども,被告人が行方不明になってしまった場合など,監督者の責めに帰すことが難しい理由で監督者が出頭命令に従うことができなかったという場合も考えられますので,そのような場合についてまで監督者を処罰するというのは,酷に過ぎるのではないかと思われます。   そこで,被告人が出頭しなかったことについて監督者の責めに帰すべき事由があるときは,出頭命令違反の罪による処罰の対象となり得るものとする一方で,監督者の責めに帰すべき事由がないときは,出頭命令違反の罪による処罰の対象からは外す,ただ,後者については,監督者が被告人に出頭意思を確認した際の状況や出頭しなかった被告人の所在に関する情報など,所定の事項を裁判所に報告することを義務付けて,そのような報告義務の履行を罰則で担保するということは考えられるのではないかと思います。 ○酒巻部会長 先ほど,佐藤委員と笹倉幹事から制度枠組み「(1)」から「(4)」までの罪は必要であるという御意見を頂きましたが,制度枠組み「(5)」の罪が必要かどうかについて何か御意見はありますか。 ○森本委員 制度枠組み「(5)」の罪の対象は,刑が確定した者ですが,実際には逃亡はしていないけれども,呼出しには応じない者もいますので,そういう意味で,この場面についても罰則を設ける意味が大きいと思います。 ○酒巻部会長 「検討課題」には法定刑をどうするかという点が挙げられていますけれども,法定刑について御意見はありますか。 ○和田幹事 「制度枠組み」に挙げられている各種犯罪類型を比較しながら,どのような法定刑が合理的と考えられるかという点について意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,不出頭の罪の5類型について,このうち公判期日への不出頭の罪だけを作るのであれば,裁判所あるいは公判手続に対する攻撃という性質を有する犯罪と見ることにも一定の合理性があるとは思いますが,ほかの犯罪類型も併せて作るときには,不出頭の罪は,全て共通して国家による潜在的な拘禁作用を保護法益とする侵害犯と見るのが妥当だと考えます。   公判期日への不出頭の罪について見ますと,在宅の被告人は対象にしていませんので,一度は勾留されて現実の拘禁作用が存在していたものが,その後,保釈などをされている状態,これを潜在的に拘禁され続けている状態だと考えた上で,そのような状態にある被告人が,当初の拘禁が確保しようとしていた公判期日への出頭を行わなかった場合,その行為は,潜在的な拘禁作用を害する行為だと理解することができるだろうと思います。   ほかの不出頭の罪についても,これと同様に,潜在的な拘禁作用の存在を認めた上で,それを害する行為だと統一的に見て,そのことを前提に,それぞれの犯罪類型について,どの程度の違法性及び責任が認められるかを考え,更には一般予防等の必要性も加味しながら,具体的な法定刑を検討することになるのではないかと思います。   まず違法性の点を考えてみますと,潜在的な拘禁作用を害する罪として,それに類似する,あるいはほぼ同じだともいえるかと思いますが,既に存在する犯罪類型として,犯人蔵匿罪,犯人隠避罪があります。これらの罪は,身柄拘束作用を害する罪とされているわけですけれども,現に身柄が拘束されていない段階で,必ずしもまだ具体化していなくてもなされるべきである拘禁を妨げる行為を処罰の対象にしているという点で,潜在的な拘禁作用を害するという共通性が認められるだろうと考えます。そのような違法性の点だけを見れば,制度枠組み「(1)」から「(5)」までの不出頭の罪は,犯人蔵匿罪,犯人隠避罪と同等だと考えられますので,法定刑については,3年以下の懲役というのが一つの基準になるだろうと思います。   他方で,行為態様を見てみますと,証人不出頭罪が刑事訴訟法第151条にあり,この罪の法定刑は1年以下の懲役となっています。制度枠組み「(1)」から「(5)」までの不出頭の罪は,証人不出頭罪と行為態様が同じですけれども,先ほど申しました保護法益の観点から見ると,罪質が異なる犯罪類型として考えるべきであろうと思います。不出頭という行為態様の点で共通だとしても,犯罪の主体が一度は勾留の裁判を受けた者である点で違いますし,不出頭の場合に開廷すること自体ができなくなる点でも証人不出頭罪とは違いがありますので,その意味でも,制度枠組み「(1)」から「(5)」までの不出頭の罪の違法性は,証人不出頭罪よりも高いといえるだろうと思います。   このように,違法性の点だけでいえば,不出頭の罪の法定刑は,全て,その上限は3年の懲役までということになり得ると思いますが,他方で,責任の点を考えてみますと,犯人による自己隠避・自己蔵匿について,現行法では,期待可能性が低いことを理由に,そもそも単独犯としては処罰していません。ですので,責任の軽さをどれくらい考慮するかによって,3年より軽い範囲内でどの程度の法定刑にするかということが決まってくるのだろうと思います。そこで,具体的な選択肢としては,少し下げて2年以下の懲役とするとか,あるいは更に下げて1年以下の懲役とするということが考えられると思います。   その際に,一般予防の必要性を加味したときに,一般に逃亡の防止がかなり強く要請され,その要請にいかに応じるかが問題になっているわけですから,単純逃走罪の法定刑をどうするかということも視野に入れると,1年以下の懲役よりは2年以下の懲役とする方が妥当だという考え方も十分あり得るかと思います。   不出頭の罪の5類型の中で,制度枠組み「(1)」,「(3)」,「(4)」及び「(5)」の四つの罪については,今述べたような考え方に基づいて,法定刑を2年以下の懲役とすることを基本にするイメージで捉えられると思います。これに対して,制度枠組み「(2)」の公判期日外の出頭・報告命令違反の罪については,そもそも罰則を設けるべきかが問題とされているところにも現れていますように,法益侵害性がほかの四つの罪よりも一段低い間接的なものだと考えられます。そうしますと,仮に罰則を設けるとしても,一段低い法定刑とするのが適当だと考えられますので,制度枠組み「(1)」,「(3)」,「(4)」及び「(5)」の罪の法定刑を2年以下の懲役とするのであれば,制度枠組み「(2)」の罪の法定刑については,1年以下の懲役と一段下げるのが適切ではないかと考える次第です。   次に,単純逃走罪の法定刑は,現行法ですと1年以下の懲役ですが,それは期待可能性の低さを考慮して著しく低い法定刑が用意されているもので,現行法が制定されて以来,この法定刑が維持されています。先ほど述べたとおり,新たに作ろうとしている不出頭の罪を潜在的な拘禁作用に対する罪だと考えますと,単純逃走罪は,現実に拘禁されている状態を前提にして,その拘禁を害する罪ですから,違法性のレベルで考える限りは,潜在的な拘禁作用を害する不出頭の罪よりも重い犯罪であるべきだと考えられます。   犯人蔵匿罪,犯人隠避罪の法定刑が3年以下の懲役ですので,違法性の点だけを考えれば,単純逃走罪の法定刑は,それより重く,5年以下の懲役や,7年以下の懲役とすることもあり得ると思いますが,現行法は,責任の点を強調して1年以下の懲役にまで格段に軽くしています。不出頭の罪の法定刑を2年以下の懲役にすることを考えたときには,単純逃走罪は,現実の拘禁作用を害しているわけですから,それより重い法定刑を用意する形で不出頭の罪との関係を整理していくのが合理的です。他方で,加重逃走罪の法定刑の上限が5年以下の懲役であり,それよりは軽くしないといけませんので,単純逃走罪の法定刑を5年以下の懲役にするのは上げ過ぎです。   そうしますと,単純逃走罪の法定刑については,2年と5年の間で考えて,3年以下の懲役とするのが落ち着きとしてはよいのだろうと思います。加えて,単純逃走行為が実行された後,逃走した者を蔵匿したり,隠避させたりする行為も,犯人蔵匿罪,犯人隠避罪の処罰の対象になっているわけですが,逃走した者自身がそのような蔵匿・隠避行為を教唆する行為は,現行法の下でも3年以下の懲役で処罰されるわけですので,それに先立って自ら拘禁状態から逃れる行為についても,3年以下の懲役にすることは,十分合理性があるだろうと考えます。 ○酒巻部会長 そもそも単純逃走罪の枠組み,主体をどうするかについて,本日配布された「検討のためのたたき台・その2」には,現行法では主体となっていない「①」から「⑧」までの者が書いてあります。この点に関して具体的に御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○森本委員 法令により拘禁された者を主体とする「B案」が適切ではないかと思います。その理由ですが,法令による拘禁は,様々ありますけれども,それぞれの法令において,拘禁することの趣旨や目的があって,身体を拘束してもやむを得ない根拠もあり,また,身体拘束に必要な要件や手続もきちんと定められています。そのような法令に基づく拘禁が適法に行われた者が拘禁から不法に離脱し,国家による拘禁作用が継続できない状況になることは,確実に阻止しなければいけないと考えます。そういう考え方によりますと,「B案」のように,法令により身体拘束された者が逃走した場合にまで単純逃走罪の適用範囲を広げることには,理由があるのではないかと考えます。 ○北川委員 私は,令状により身体拘束された者とする「A案」の方を支持します。その理由はこれまでの会議で申し上げたところですが,現行法では,「法令により拘禁された者」を奪取したり,逃走させる目的でその援助をした行為については処罰の対象になっていますけれども,逃走した本人自身は,刑法第97条・第98条の主体に当たらない限り,処罰の対象になっていません。   さらに,客体としての「法令により拘禁された者」の現行法の解釈の中でも,「検討のためのたたき台・その2」に挙げられている「⑦」の更生保護法の規定により刑事施設等に留置中の者や,「⑧」の少年法の規定により保護処分として少年院に収容中の少年を含むかについては,学説上,賛否両論の意見の対立があるところです。逃走させる罪の客体であってもそうした状況であるのに,それを逃走する罪の主体にしてよいのかについて疑問があります。   以前の会議で,小笠原幹事から,「⑧」の少年は少年法の精神にのっとって単純逃走罪の対象にすべきではないという御発言がありましたが,保護主義の対応が必要な者の逃走行為まで,刑罰の威嚇をもって強い非難をするべき対象とすべきかという点に疑問を感じます。   もう一つ申し上げますと,「⑥」の現行犯逮捕された者や,緊急逮捕されて逮捕状が出る前の者が,公務執行妨害の罪に当たる行為を行ったわけではなく,ただ逃走する行為についてまで刑罰の威嚇をもって対処することは,行き過ぎの感を持っています。 ○小木曽委員 ただいまの点について,少年法の理念は少年の保護・教育にあるから,それを実現するための同行状による同行や,少年院での収容から逃れる行為について刑罰をもって臨むことは,理念的に整合しないのではないかという指摘はあり得るところではありますが,現行法の下でも,少年は単純逃走罪の主体に当たり得ると考えられています。   どうして少年を単純逃走罪で罰するのかということを考えますと,逃走罪は,国家による拘禁が刑罰を目的とするものであれ,少年の保護・教育を目的とするものであれ,対象者の身体を拘束してその目的を達成しようとする国家作用を保護しようとするものであり,また,逃走が起きれば,それに伴って様々な社会的コストが発生するわけで,その中には,逃走者の身体を確保するための手間暇とか,近隣住民の迷惑や不安も含まれます。逃走罪による処罰の目的は,そういった社会的コストの発生を抑止することにもあると考えますと,逃走する者が少年であるか,成人であるかを区別する理由はないという見方もできるのではないかと思います。 ○和田幹事 私は,適法に法令に基づいて現に拘禁された状態が作り出されているのであれば,その根拠になった法令が何であるか,その法令の目的が何であるかにかかわらず,法令に基づいて現に拘禁された者は,全て刑法第97条の単純逃走罪の対象にすべきであって,その中で主体とするか否かを区別する理由はないのではないかと思います。区別することがあるとすれば,単純逃走罪の保護の対象である国家の拘禁作用を害する行為といえるのか,いえないのかというところで,解釈上,外される部分が出てくることは,なくはないと思います。具体的には,例えば,私人による現行犯逮捕は,法令よって行われるものですけれども,国家による拘禁にはまだ至っていないとも考えられますので,検察官や司法警察職員に引き渡された時点から単純逃走罪の処罰の対象になるという限定的な解釈をすることもあり得ると思います。しかしながら,それ以外の「検討のためのたたき台・その2」に挙げられている「①」から「⑧」までの者について,特定の類型だけ単純逃走罪の主体から外すことには,あまり合理性がないと考える次第です。 ○酒巻部会長 罰則については,今後も多角的に議論すべき事項でありますけれども,予定した時刻が来ていますので,本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。   次回以降の審議につきましても,本日と同様に,検討が必要な項目をまとめて取り上げていく形で議論を続けていきたいと思います。次回,どのような形で審議を行うかについては,本日の議論の状況も踏まえて,事務当局において改めて整理してもらうとともに,必要に応じて「検討のためのたたき台」の更なる改定版を作ってもらうことにして,それに基づいて議論を続けていきたいと思います。   次回の日程につきまして事務当局からお願いします。 ○鷦鷯幹事 第9回会議は,令和3年2月22日月曜日の午後1時30分からを予定しています。場所は,法務省地下1階大会議室です。 ○酒巻部会長 本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,本日の配布資料についても公表することとしたいと思いますけれども,そのような取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   皆さん,よいお年になりますように。来年もまた,どうぞよろしくお願いします。 -了-