法制審議会 仲裁法制部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  令和3年1月15日(金)自 午後1時28分                     至 午後5時27分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,予定した時刻の若干前ですけれども,既に御出席予定の委員,幹事全員おそろいということでございますので,法制審議会仲裁法制部会第4回会議を開催したいと思います。   本日は御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   本日は衣斐幹事が御欠席と伺っておりますが,他の委員,幹事いずれも御出席です。オンラインの方々,聞こえておりますでしょうか。大丈夫そうですかね。ありがとうございます。   それでは,まず前回に続きまして,ウェブ会議に関する注意事項について事務当局から説明していただきます。 ○福田幹事 福田でございます。これまでの会議と同様のお願いとなりますけれども,本日はウェブ会議で御参加いただいている委員,幹事の方々が多数いらっしゃいますので,念のため改めて御説明をさせていただきます。   まず,ウェブ会議を通じて参加されている方の映像と音声を確認させていただきます。私の声が聞こえておりましたら,手を挙げる機能でお知らせいただけますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,ウェブ会議に関する注意事項を若干御説明いたします。ハウリング防止等のために,御発言される際を除いてはマイク機能をオフにしていただきますようお願いいたします。審議において御発言される場合は,先ほどの手を挙げる機能をお使いください。発言が終わりましたら,もう一度手のひらマークをクリックして,必ず手を下げていただければと思います。それから,会場の方もそうですけれども,御発言の際は必ずお名前をおっしゃってから発言されるようにお願いをいたします。   私からの説明は以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入ります前に,まず配付資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。御説明をさせていただきます。   まず,本日の部会資料としまして4-1,4-2,仲裁法等の改正に関する論点の補充的な検討(1),(2)と題する部会資料をそれぞれお配りさせていただいております。内容につきましては,後ほど事務当局から説明をさせていただきます。   次に,参考資料がございます。参考資料4-1は,当省において設置されたODR推進検討会の概要,参考資料4-2は,この検討会で実施されましたアンケート結果の概要になります。これらはいずれも今日の部会資料4-2と関係する部分でございますので,内容につきましては後ほど当省司法法制部から説明をしていただきます。   さらに,本日は今後の日程についても配付をしております。具体的な進行については,議論の状況を踏まえつつ随時お諮りをしたいと考えております。   私からの説明は以上です。 ○山本部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は仲裁・調停に関する各論について,それぞれ二読目の検討をしたいと思っております。そこで,まずは部会資料4-1の仲裁に関する論点について取り上げます。   まず,事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 それでは,吉川から御説明をさせていただきます。   部会資料4-1では,仲裁に関する事項として,仲裁関係事件手続における管轄に関する規律,暫定保全措置の承認及び執行に関する規律,仲裁合意の書面性に関する規律という大きく三つの論点を取り上げております。   本文1では,仲裁関係事件手続について,前回会議での御意見や裁判所における近時の事件処理の状況等を踏まえて,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも競合管轄を認めるとの規律を設けることを提案しております。具体的には,仲裁法第5条第2項として,当該事件の被申立人の普通裁判籍,例えば住所や主たる事務所などの所在地を管轄する地方裁判所が東西いずれにあるかに応じて,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に競合管轄を認める旨の規定を加えることを提案しております。   本文2では,暫定保全措置の承認及び執行について,部会資料2での提案を変更する形で提案をしております。まず,本文2(1)アでは,第2回会議での御意見を踏まえて,「暫定措置又は保全措置は,その効力を有する」という形で暫定保全措置の承認に関する規律を設けることを提案しております。承認に関する規律の意義等につきましては,最終的には解釈に委ねられるものと考えておりますが,5ページの説明2(2)では,あり得る考え方として,暫定保全措置についても我が国で認めるべき手続法上の効力を観念することができるので,規律を設ける意義があるという考え方と,我が国で実体法上の効力が認められる要件について,承認拒否事由という形で明示するために規律を設ける意義があるとの考え方の二つを記載しております。   次に,承認又は執行の拒否事由について,本文2(1)イ③では,④及び⑥においても問題となる「仲裁手続」という文言に,「暫定措置又は保全措置に関する部分に限る」という限定を加えることを提案しております。これは,当初提案していた規律の下では,暫定保全措置の発令と関係のない手続違背の主張がされて手続が遅延するおそれがあるという御意見や,暫定保全措置との関係では防御の機会がなかったものの,最終的な仲裁判断との関係では防御の機会があったという場合に,暫定保全措置の執行拒否事由が認められないおそれがあるという御意見があったことを踏まえた修正となります。なお,⑩でも「仲裁手続」という文言が用いられておりますが,⑩については説明の3(1)で記載したとおり,そのような限定を加える必要はないものと考えております。   次に,本文2(1)イ⑤では,部会資料2においては「当事者間の合意の範囲を超えて発せられたもの」という規律を提案していた点について,第2回会議での御意見を踏まえ,その意味を明確にするという観点から,「仲裁合意又は当事者間の別段の合意の範囲を超えて発せられたもの」と文言を改めることを提案しております。   さらに,今回の部会資料には記載していない点となってしまうのですが,本文2(1)イ⑨の暫定措置又は保全措置が日本の法令によって執行することができないものであることという拒否事由についても御意見を伺えればと考えております。拒否事由⑨は,モデル法第17I条第1項第(b)号(ⅰ)の,暫定保全措置が裁判所に与えられた権限に相容れないことという拒否事由に対応したものです。モデル法は,暫定保全措置の執行が裁判所の執行に関する権限と相容れない場合を想定して,この拒否事由を設けたものであるとされていることから,拒否事由⑨としては,日本の法令によって執行することができないものとする規律を提案しております。   もっとも,拒否事由⑨の規律の下では,例えば今回の部会資料5ページでも言及しております,法的地位を有することを確認するという暫定保全措置について,民事執行の対象にならないことを理由に承認の拒否事由があるという解釈を招くおそれがあるようにも思われます。拒否事由⑨の文言等については引き続き検討していきたいと考えておりますが,本日の時点で御意見がございましたら,伺えますと幸いです。   続きまして,本文2(2)イ及びエでは,前回会議での御意見を踏まえて,執行決定の申立てに関する外国語資料の訳文添付及び管轄について,仲裁法第46条第2項及び第4項に対応した規律を設けることを提案しております。外国語資料の訳文添付につきましては,仲裁関係事件手続に限って裁判所法第74条の例外規定を設けることは困難であること,執行決定の申立ての趣旨の特定や債務名義となる給付文言の明示に必要となる部分については日本語の訳文添付が必要であると考えられること,裁判所が審理に当たっての必要性を踏まえて訳文添付の省略の可否を判断することが相当であり,申立て時において裁判所が争点との関連性を的確に判断することは難しいとも考えられることから,裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,暫定措置又は保全措置の命令書の一部について日本語による翻訳文の提出を要しないものとすることができるという規律を提案しております。   最後に,本文3では,仲裁合意の書面性について取り上げております。本文3(1)では,仲裁法第13条第2項から書面要件を満たす場合を例示する部分を削除して,「仲裁合意は,書面によってしなければならない」という規律に改めることを提案しております。これは,本文3(2)のように,仲裁合意の内容が何らかの方式で記録されているときは書面要件を満たすものとする規律を設けるのであれば,例示部分に関する規律を維持する必要性は乏しいと考えられることを理由としております。   本文3(2)では,部会資料2では「書面によるものとする」という文言としていた部分について,現行法の文言との平仄などを踏まえて,「書面によってされたものとする」と文言を改めることを提案しております。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,今御説明いただきました資料4-1,特に区切りませんので,どの点からでも結構ですので,お気付きの点を御指摘いただければと思います。 ○道垣内委員 道垣内でございます。ありがとうございます。   太字のところを今,変えてほしいというのではないのですけれども,最初の4-1の1番,管轄のところですが,これを前の案の通り維持するという理由として,「特段の異論は見られなかった」とお書きになっております。しかし,私は前回,特段の異論を申し上げたつもりなので,表現ぶりを少し変えていただければと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 道垣内委員の御意見としては,専属管轄にするということですか。 ○道垣内委員 東京と大阪の専属にしていただかないとワークしないのではないかと思っております。ついでに伺いますが,外国語の書証を認めるという項目がここに記載されていないのは,もう置かないということでしょうか。私としては,それとの関係で,外国語,英語で結構なのですが,での書証提出が可能な裁判所を限定する必要があると考えております。この項目が記載されていないことの理由も伺いたいと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局から説明をお願いします。 ○福田幹事 福田から,今御指摘いただいた点について御説明いたします。   まず,質問のありました日本語訳の添付の省略の問題につきましては,前回御議論いただいたところで大きな方向性としての異論はなかったと思いますので,中間試案のたたき台としてお示しをする予定にしております。今回この管轄の部分についてだけ取り上げたのは,2のところの承認執行の規律で管轄の部分が少し出てまいりますので,そこで1の部分を置いた方が分かりやすいのではないかとの趣旨で,管轄部分だけを取り上げさせていただきました。   道垣内委員の御意見として,専属管轄にすべきというのは承っておりますけれども,ここの部会資料の記載は,東京と大阪に特別に管轄規律を設けるという方向では特段異論はなかったと思っておりますので,その趣旨で書かせていただいた次第になります。 ○道垣内委員 そうは読めなかったので申し上げた次第です。「競合管轄を認めるとの方向性」について特段の異論はなかったと書かれています。その点を申し上げた次第です。 ○山本部会長 専属管轄をも含んだというか,そういう趣旨で事務当局は書いたのだと思うのですが,そうは読みにくいというのはそのとおりだと思いますので,そこは少しまた修正していただければと思います。よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 古田でございます。暫定保全措置の承認の点についてのコメントです。条文の文言として,「暫定措置又は保全措置はその効力を有する」というのは,これでいいと思います。その解釈について,今回の部会資料の5ページには,先行する暫定保全措置の内容に拘束されるとか,あるいは暫定保全措置が実体法上の効力を有するといった記載があります。これは,国内の裁判所が発した仮処分,保全命令についても同様の問題があり得るところです。ある本案の請求権を被保全権利として,例えば東京地方裁判所が東京に所在する不動産の仮差押え命令を発令した後で,大阪に所在する不動産について,大阪地裁に同一の本案の請求権を被保全権利とする保全仮差押えの申立てをされたときに,大阪地裁の裁判体が先行する東京地裁の保全命令にどこまで拘束されるかという点は,議論があり得るところだと思います。事務当局の御趣旨としては,日本の裁判所が発令した保全命令よりもより強い効力を仲裁廷の暫定措置に認める趣旨ではないのだと思っているのですが,もし何かコメントがあれば頂きたいのが1点です。同様に,実体法上の効力を有するという点についても,例えば,日本の裁判所が発した処分禁止の仮処分に違反をして対象物を処分した場合に,それが不法行為になるかどうかという問題があり得ると思いますけれども,仲裁廷の暫定保全措置についてもそれと同様の問題だと整理をしていいのかどうかという点,この2点を確認していただければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。まず1点目ですけれども,おっしゃるとおり,現在,裁判所の発した保全命令について,その後の裁判所がその保全命令に拘束されるのかという点は,解釈に委ねられていると思います。今回の提案は,暫定保全措置に,保全命令の効力を超える何らかの効力を認めようという趣旨ではないというのは,御指摘のとおりでございます。   2点目ですけれども,御指摘は5ページの「他方」から始まる段落の部分と承りましたけれども,実体法上の効力というふうに書くことが若干,踏み込みすぎのきらいがないわけではないのですけれども,ここは手続法上の効力とはいえないような効力というような趣旨で用いさせていただいております。そういった効力を観念したときに,先ほど吉川からも説明をしましたとおり,承認拒絶事由というものをしっかり明文で書くということの意味があるのではないかということで,ここでは記載をさせていただいたということになります。 ○古田委員 今の点で,後段について関連でお伺いなのですけれども,一般に裁判所が出した保全命令や仲裁廷が出した暫定保全措置に違反した場合に,それが不法行為になるかどうかは,準拠法が日本法であれば民法709条の問題だということになるのですが,今の福田さんの御説明は,仲裁廷が発令した保全措置については,それが我が国で承認要件を満たしていない場合には,民法709条の問題としても不法行為にはなり得ないというところまで踏み込んだ御趣旨なのでしょうか。 ○福田幹事 いえ,そこまで意図しているものではございません。その点についても,最後は解釈に委ねざるを得ないのかなと思うのですけれども。 ○古田委員 個人的には,最終的には民法709条の問題だと考えています。民法709条の加害行為の違法性を判断するときに,対象となる保全措置が日本で承認されるものかどうかというのが1つの材料として考慮されることはあるかと思いますけれども,それが決定的なメルクマールになるというのは,民法の議論としては難しいのかなという気がいたしました。 ○原田委員 原田です。大きく2点,コメントがございます。   まず,東京と大阪への管轄を認めることについては賛成の立場ですが,競合なのか専属なのかということよりも,両裁判所において専門的な事件処理態勢を構築することで,外国語の対応を含む実務ノウハウの蓄積,仲裁に精通した人材育成などが一層進められることを産業界としては期待しております。また,日本での国際仲裁活性化の観点からは,これらの取組状況や成果について,海外も含めて積極的にアピールいただくことが重要と考えますので,この点については政府,裁判所を含め,関係者が連携して継続的に取り組む必要があると思います。   大きい二つ目の話は,暫定保全措置の承認,執行に関する規律のところで,訳文添付については,御提案いただいた内容に特段異存はなく,第3回部会において御指摘があったとおり,法令の文言として訳文が必要なもの,不要なものを画一的に定めることは困難と理解しておりますが,他方,ユーザーとしての立場からのお願いは,訳文が不要となる事件や文書の例について,もう少し具体的な考え方を示していただけないかということでございます。例えば,立法担当官解説などで裁判所と対話する際のヒントとなるような考え方を御紹介いただければ,実務家にとっては大変参考になりますし,仲裁実務の発展に資するのではないかと考えております。また,日本における国際仲裁活性化の観点からも,日本の裁判実務をアピールしやすくなるのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。事務当局からコメントはよろしいですか。 ○出井委員 出井でございます。私から3点ございます。   1点目は,古田委員御指摘のところなのですが,私も同じことを聴こうと思っていたところで,解決されていると思うのですが,要するに,この解説の書きぶりはともかくとして,仲裁廷の暫定保全措置も裁判所の保全処分と同様の効力がある,それを超えるものではないけれども,裁判所の保全処分に何らかの効力があるとすれば,それと同じような効力は認められるであろうという意味に理解しました。資料の5ページの書き方等は,また工夫をしていただければと思います。それが1点です。   2点目は,(1)イ⑤ですかね,前回私からも問題提起をしたところです。暫定措置又は保全措置が仲裁合意又は当事者間の別段の合意の範囲を超えて発せられたものであること,この部分です。これは前回も指摘申し上げたように,対応するモデル法としては17Iの1条(a)項(ⅰ)ですか,これが仲裁判断取消事由のモデル法36条1項(a)(ⅲ)を引用されていて,判断が仲裁付託の条項で予見されていないか,その範囲内にない紛争に関するものであるか,仲裁付託の範囲を超える事項に関する判定を含むことと訳はなっていたと思いますが,これに対応するのが仲裁法の45条1項5号で,仲裁判断が仲裁合意又は仲裁手続における申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むものであるときとなっていたと。要するに,仲裁合意の客観的範囲を超える仲裁判断,それから,仲裁申立ての範囲を超える仲裁判断を取消し,承認執行拒否の事由とするという趣旨であったわけです。これをそのまま暫定保全措置に引き直すと,仲裁合意の客観的範囲に入っているかどうかということと,それから,暫定保全措置の申立ての範囲に入っているかどうかということになるのではないかと思います。   確認的な質問ですが,現在の提案されている条文に書いてある仲裁合意又は当事者間の別段の合意ということの中に,仲裁合意の客観的範囲に入っていない,客観的範囲から外れるもの,これも含まれるという理解でよろしいでしょうか。それが第1点。   それから,合意で暫定保全措置,あるいはその一部の措置を除外するという場合もあるかと思うのですが,そういう場合もここの仲裁合意又は当事者間の別段の合意の範囲を超えて発せられたであることに含まれるという理解でよいか,それが2点目です。   それから,3点目は,これは解説が既にされていると思いますが,暫定保全措置申立ての範囲を超えるというのは,そうすると,ここでは出てこないことになりますが,それについては資料の7ページの上の方の(注)で,防御不能に該当するような場合は,そこで対処できるであろうと,要するに,そういう場合だけ承認執行を拒否するという理解でよろしいでしょうかというのが質問です。   お答えを頂く前にあれですけれども,恐らくそれで実務上は困ることは余りないと思います。先ほど申し上げた45条1項5号並びで,当事者間の合意又は暫定保全措置の申立ての範囲を超える事項とするという規律もあり得るのですが,ただ,ここにもお書きいただいているように,民事訴訟と違って仲裁は本案でも処分権主義は厳格には適用されないといわれておりますし,保全処分についてはなおさらであろうという意見もございますので,暫定保全措置申立ての範囲というものを特出ししないという現在提案されているような規律も一つの整理であるかと思います。   以上,確認的な小さな質問を三つぐらいさせていただきました。   3点目は,これは少し難しい問題で,先ほど吉川さんの御説明を聞いて,私も少し悩んでしまったのですが,⑨です。日本の法令によって執行することができないものであること,これは確認命令,仮の地位を確認するようなものは執行ができないことになるという整理では先ほどおっしゃったと思うのですが,あるいはそういうものを送達すること自体が執行であると考えれば,もしかしたらそれも執行の範囲に入るのかもしれませんけれども,それが承認されないということになると,それはそれで問題ではないかと思ったのですが,そこのところをどういうふうに考えればよいのか,これは事務当局としてのお考え,皆さんの御意見をお聴きしたいところです。 ○山本部会長 それでは,幾つか質問がありましたけれども,事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。出井委員の二つ目の項目に関する御質問ですけれども,具体的にはこの規律でいいますと執行拒否事由の⑤の話ですが,この⑤については出井委員が御指摘されたとおりでございます。仲裁合意の客観的な範囲を超えて発せられたものは,この⑤に含まれるということになります。それから,当事者間の別段の合意というのは,今,出井委員御指摘のとおり,暫定保全措置についてのみ何らかの合意をした場合に,この文言で読み込むということを考えております。現行の仲裁法第45条第1項第5号を忠実に準用すると,暫定措置又は保全措置の申立ての範囲という文言が出てくるだろうというのも御指摘のとおりであり,そのように書くというのも一つの考え方としては十分あり得るのだろうとは思っております。ただ,我々としては,この部会資料の(注)でも書きましたように,処分権主義と申しますか,申立ての範囲というものをどのぐらい特定して申立てがされているのかというところについて,若干不明な点がありましたので,今回はこのような規律を提案させていただいているということになります。   それから,⑨の点につきましては,これはそもそも承認というものをどのように考えるのかという部分とつながってくる話になってくると考えておりまして,今回は事務当局として十分に整理した提案ができないということで,従前の案をそのまま出させていただいております。従前は,承認の規定を設けないということで提案をさせていただいておりましたので,この点がクローズアップされなかったわけですけれども,今回,承認の規律を置くという形の再提案をさせていただいたため,この問題が顕在化してきたということになります。ですので,この場で皆様方からいろいろな御意見を賜れればと考えております。 ○出井委員 最後の⑨の点は,基本的な私の理解がもしかしたら間違っているかもしれないのですが,確認的なものは執行は観念できないという考え方に立てば,確かにここで問題になって,それが承認されないということになるのは困った気がしますが,裁判所の仮地位仮処分などは,あれは執行が観念されるのでしょうか。そこの理解によっては答えが変わってくるかと思うので。これは誰に答えていただければいいか分かりませんが。 ○福田幹事 福田でございます。やはり仮地位仮処分の場合は,基本的には強制執行というものにはなじまないものと考えられます。別の意見があれば。 ○山本部会長 単に労働者の地位を保全するだけでは,それは直ちには執行の対象にならないことは明らかなのではないでしょうか。それで,何らか,出勤してくるのを拒絶するとかというのに対して,更に別途の行為命令とかが出れば,それは執行の対象になるということだと思いますけれども。 ○古田委員 古田です。今の点ですけれども,⑨の日本の法令によって執行することができないものであることという場合について私が想定していたのは,例えば,相手方が外国国家なので,その財産への強制執行は主権免除の観点からできないような場合や,あるいは暫定保全措置の命令主文が非常に漠然としている場合,例えば,「適切な措置を採れ」とか,あるいは金額が特定されていないような場合などで,日本の執行法制上,強制執行ができないような場合でした。そのような場合,通常の日本の執行手続では,執行決定の段階ではなくて,債務名義に基づく強制執行が申し立てられた後に,執行裁判所が申立てを却下するという形になるのだけれども,そこまで後回しで却下するのは不親切なので,執行決定の段階でそれを審査するという趣旨と理解しており,それはそれでもいいのかなと思っていました。逆に,そう解釈しないと,モデル法自体にはこういう条文って確かないですよね。モデル法にあるのでしたか。 ○出井委員 モデル法は,「相容れないこと」となっています。 ○古田委員 相容れないというのは,むしろ公序の話としてモデル法では規律されているのですよね。 ○三木委員 モデル法でこれに対応する条文は,私の訳でいうと,暫定保全措置が裁判所に与えられた権限と相容れないことという表現になっており,事務局がお作りになった原案は,このままの形では日本の法制用語としては使いにくいということで,しかも,当初の原案では承認が入っていなかったので,執行のみをくくり出すとこのような表現になるという趣旨で作られたものと思います。   これを現在の承認と執行と両方を含んだ場合で考えますと,このモデル法にいう裁判所に与えられた権限というのは,承認と執行の権限ということになるのだろうと思います。その場合の承認の権限というのが何を意味するのかは,法律の規定からは直ちには分かりませんが,モデル法と合わせるために,暫定措置又は保全措置が日本の法令によって承認又は執行することができないものであることという規定ぶりにする余地はあるのかなという気がしています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに,今の点はよろしいですか。 ○髙畑委員 ありがとうございます。今の点もそうなのですけれども,私の方から3点だけ申し上げたいと思います。   まず,今の点なのですけれども,私も実は少し,不勉強で申し訳ないのですけれども,よく分からなくなってきていて,9号のところですね,日本の法令によって執行することができないものであるとか,次の10号もそうなのですけれども,日本の法令によれば仲裁合意の対象とすることができない紛争に関するものであること,というところは,なかなか,何をイメージされたのかなというか,必要なのですかというところも含めて,少し事務局の方の御意見を頂きたい,もちろん委員の方の御意見をお伺いしたいと思っていた点です。   そのほかの2点としては,一等最初の管轄のところですけれども,競合なのか専属なのかというところもありますけれども,東京と大阪ということで,これは既定路線というか,よろしいのでしたっけ。といいますのは,日本における国際仲裁振興という観点からは,京都って結構ブランディングとしては使いやすいのかなとも少し思っていたものですから,もし無理でなければ京都も入れるのも一つの手かなとは思っておりました。というところが2点目です。   3点目なのですけれども,先ほど原田委員から外国語の翻訳のところの御指摘がございましたけれども,やはり裁判所が相当と認める場合でしたっけ,というところですと,恐らく当事者としては,全てについてやはり訳文を付けるという行動パターンになってしまいがちなのかなと思いますので,やはりそこには何らかの運用マニュアルというか,ガイドライン的なものが必要かなと,というか,その範囲もできるだけ明確にしていただくということが必要なのではないかと考えておりました。 ○山本部会長 ありがとうございます。3点目は御意見かと思いますが,1点目,2点目は事務当局の方から。 ○福田幹事 福田でございます。まず1点目ですけれども,こちらはモデル法自体が仲裁判断の執行拒否事由についての準用規定を置いていますので,こちらに倣った形で設けたということになります。   2点目ですけれども,京都というのが一つ出まして,実際,京都には調停センターもできたというところがあって,おっしゃる趣旨よく分かりました。御意見を踏まえてまた少し検討させていただきたいと思います。 ○髙畑委員 ありがとうございました。 ○吉野委員 今までと少し別の問題です。ただ,最初に出た問題でもありますが,2の暫定保全措置の承認及び執行に関する規律の中の(1)アです。その効力を有するというのですが,その効力とは一体何だろうかというところです。それが明らかになっていればいいのですが,明らかになっているのでしょうかというのがまず第1の質問です。   といいますのは,ここに例示として挙げられている民訴法の外国判決では,これこれの場合は,その効力を有するとあるわけです。判決の場合には,外国判決でも判決の効力は一般的に明らかだと考えられているからいいのですが,そのほか,確定判決と同一の効力を有するという定め方だと,これもまた明らかだと思います。しかし,いきなり暫定措置又は保全措置について,その効力を有すると書かれると,一体何だろうということです。すぐその後で執行力の問題が出てきますので,執行力はあるのだということが一つ明確にはなっていると思うのですが,それ以外にどんな効力があるだろうかということ,立法でどこまで書くかという問題もあるかと思いますけれども,その点が少し分からないところですので,教えていただきたいと思います。   二つ目が,先ほども出ていたかもしれませんが,イの①から⑪まである中の④の,当事者が仲裁手続において防御することが不可能であったこと,とあります。その前の③では,「仲裁手続(暫定措置又は保全措置に関する部分に限る。以下④及び⑥において同じ。)」ということで,結局,通知を受けなかったことというのは,すなわち防御することは不可能だったということに連なりますので,ある意味では④というのが非常に大きなくくりで,③もそれに含まれる。もっと言えば⑤や⑥も,④で十分に賄えるような内容ではないかという気もするわけです。元々④というのが非常に広い内容を持った規定になっているということから,この間に矛盾といいますか,そういうものが生じてこないのだろうか,そのおそれはないのだろうかということです。では,私がその矛盾するおそれが何かあるのかと言われると,全く分かりませんので,その辺りについてお聴きしたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。それでは2点,お願いします。 ○福田幹事 福田でございます。まず,1点目については,正に我々事務当局としての整理としまして,部会資料5ページの(2)のところにおきまして,承認すべき効力というものを書かせていただいているということになります。   2点目ですけれども,おっしゃるとおり,この執行拒否事由について,④に含まれるものがほかと重複する可能性というのもあるのではないかと思います。ただ,モデル法の定め自体が,このような形で考えられるものを列挙しているというような方式を採っておりますので,それに倣った形にすべきではないかというのが事務当局からの提案でございます。   先ほど吉野委員からの御指摘もあったように,③のところで仲裁手続というのが暫定措置又は保全措置に関する部分に限るということで,この部分ではそのように定義をしておりますので,④と⑥でも同じ意味になります。ですので,そのような形で解釈をしていただければと思います。 ○山本部会長 吉野委員,いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○手塚委員 手塚です。1点コメントと,1点少し質問させていただきたいのですが,まず,コメントは先ほどの点で,承認されるというよりは効力を有するという書きぶりについてなのですが,モデル法の17H条での書き方は,仲裁廷によって発令された暫定保全措置は,拘束力を有するものとして承認されなければならないということをいっておりまして,原文は,シャル・ビー・レコグナイズド・アズ・バインディングということで,当事者を拘束するものとしてその効力を認めるというような趣旨で効力を有するといっているのではないかと私は理解していまして,今回,弁護士会でも,効力を有するという書きぶりで意味は分かるのだろうかという議論は内部的にはしていて,私の理解は,基になっているモデル法と同じような意味なのだと読めないことはないという意見が多分,多かったと思います。もちろん,当事者間で拘束力を有するものとして承認されなければならないとか,当事者間で拘束力を有するという書き方もあると思いますし,先ほどの仲裁合意の効力を承認するという概念とはまた違った意味だと思いますので,モデル法の原文に近いような言い方にするということもオプションとしてはあるのかと思いますが,説明があれば,何をいっているか分からないというものではないのではないかというのが私の考え方です。   それから,お聴きしたかったのは,今回の資料の(1)イの柱書きと⑦の関係なのですが,(1)イの柱書きのところは,次に掲げる事由①から⑧までについては,当事者のいずれかが当該事由の存在を証明した場合に限るとあって,⑦は当該事由の存在を当事者が証明することが必要な事項と整理されておりますけれども,⑦を見ると,担保提供命令について,当該担保が提供されたことの証明がないこととなっていて,証明がないことの証明をするというような概念になっているような気がしまして,言葉の問題だと思うのですが,モデル法は担保の提供に関する命令がコンプライ・ウィズされていない,遵守されていないことというように,そこには証明という言葉が項目としては入っていないのです。なので,証明がないことの証明をするみたいな言い方でいいのかという点は,少し考えた方がいいのかもしれないと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。よろしいですかね,今の点。 ○竹下幹事 一橋大学の竹下でございます。4-1全体についての議論なので,私からも2点ほど,いろいろなところにまたがってしまいますが,発言させていただきます。   まず,1の仲裁関係事件手続における管轄に関する規律のところですが,これは私が前回発言しなかったのが悪いだけでございますが,競合管轄を認めるとの方向性に異論がないかというと,私も実は異論を持っているところでございまして,これはなぜかといいますと,この1というのは恐らく国際仲裁だけではなくて,国内も含めてという御趣旨なのではないかと思いますが,国内仲裁の事案で,仲裁法5条1項3号の規定が定める被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所,これに代えて東京や大阪に行けるということで,私は国際私法学者ですので,純国内事案については定見がありませんので先生方から御意見も伺いたいところですが,普通に考えると,やはりこの被申立人の管轄の利益というものに鑑みるならば,被申立人の普通裁判籍が,例えば福岡にあるにもかかわらず,大阪に突然申し立てられてしまうというのが,純国内事案を考えたときに本当にいい規律なのか,競合管轄として認めたときに,それでいいのかというのは,私にとっては疑問でございまして,当事者双方が合意をしているような事案であれば,もちろんこれはいいと思いますが,ただ,それは現在の仲裁法5条1項1号で既に規定がされていると思います。   私見といたしましては,国際仲裁ということを考えるとすると,正に最初に道垣内先生がおっしゃられたことかとは思いますが,大阪と東京,京都もかもしれませんが,専属させるということは十分あり得るのかなと考えているところでございますが,仲裁全体ということでこのような競合管轄というのを認めるというのは,国内の事案のことを考えるとすると,やや問題もあるのかなと。   ただ,なかなか国際仲裁と国内仲裁を分けるのが難しいというのもそのとおりかと思いますので,例えば,被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が,事案の性質などに鑑みて,本日も3ページ目の暫定措置,保全措置のところで,3ページ目から4ページ目にかけてのオのところで,移送するなんていうことが書いてあるわけでございますが,管轄規律自体は今のままにしておいて,ただ事案の性質で,やはり国際仲裁で専門的な部で見ることが望ましいと裁判所が判断をした,相当と認めるようなときに,大阪か東京か知りませんが,専門的にこの国際仲裁事件を扱う裁判所に移送する,何かそういったぐらいの提案の方がモデレートなのではないか,国内仲裁に対するインパクトが少なくて良いのではないかと考えております。国内仲裁の数がそもそも少ないので,どこまで考えるかという点には議論があり得ると思いますが,私自身,この競合管轄を単純に認めるということについては,やや今は異論を持っているということをまず,明言させていただきたいと思います。   少し話が飛んでしまいますが,次に第2点目といたしまして,任意の暫定保全措置の承認及び執行とこの部会資料に書いてある。承認という言葉の概念については,既に,以前の部会で発言をさせていただきましたので,繰り返しはいたしませんが,1点,御質問があるのは,5ページの説明の真ん中辺りで,仲裁法13条第1項の規律に倣ったものであると書いてありますが,倣うとすると何か,承認と書かないで,暫定措置又は保全措置の効力と書いてもいいような気がするのですが,あえてここで承認と書く必要が本当にあるのかというのがまず第1点。   若干繰り返しにはなってしまいますが,ここで承認と書いても別に強く反対することは致しませんというか,私はフレキシブルでございまして寛容でございますので,自分の考えと違う考えもあるというのはよく分かりますし,それでまとまるのであれば,それでも構わないとは思いますが,ただ,少しやはり気になるのが,同じところで,外国裁判所の確定判決の効力について定めた民事訴訟法118条に倣ったとお書きの点,ここのところは少し書きすぎなのではないかなと思います。少なくとも私がこの資料を拝見する限りにおいては,恐らくあえて仲裁法45条1項,むしろ倣うとすれば恐らく,一番単純に考えれば,仲裁判断の承認のところに倣うというのが普通なわけですが,これに言及しなかったのは,効力の承認の意義の違いを意識されたからではないかと思われます。あちらだと確定判決と同一の効力を有すると書いてあるから,倣わなかったということなのかもしれませんが,ただ,やはりそこのところで,吉野委員なども御発言されたとおり,やはりここでいう効力の承認ということの意味が,かなり個人的には違うような気がしているというのは,繰り返しではございますが,申し上げさせていただきます。   先ほど手塚委員の方から,当事者間で拘束力を有するといった表現も十分あり得るのではないか,モデル法を日本の中に持ち込んだときに,そういった表現にすることは十分にあり得るのではないかとの御発言があったかと思いますが,私もどちらかといえば,そういった書きぶりにすることも一つの十分あり得る選択肢なのではないかと,手塚委員の御発言には賛成の立場であるということを最後に申し上げさせていただきます。   長くなって申し訳ありませんでした。 ○福田幹事 福田でございます。5ページの(注1)の直前にあります,この「倣った」という部分に引っ掛かりをお感じになられたものと承りました。ここで一つ,万が一誤解をされているとすれば解いておきたいのですが,この「なお」以降で書いております段落には,民訴法118条と仲裁法13条1項を挙げておりますが,これらの条文と同じ文言を取ってきたという趣旨でございまして,暫定保全措置の効力を外国裁判所のした確定判決の効力と同じように考えるということを言いたいということでは,もちろんございません。その点は,念のために申し上げておきたいと思います。もう一つ,複数の委員の方から,当事者間での拘束力という趣旨を出してもいいのではないかという御指摘を頂きましたので,そういったことも含めて引き続き検討させていただきたいと思います。 ○山本部会長 前段で言われた移送の点は,これが固まれば,何らかの規定を。 ○福田幹事 そうですね。その点は多分,今回初めて頂いた御意見だと思いますので,ほかのところも含めて引き続き検討させていただきたいと思います。 ○竹下幹事 一番御質問で聴きたかったのは,正に文言の問題でございまして,13条では,少なくとも条文のタイトルでは,仲裁合意の効力となっている。文言を倣うといったときに,なぜここは効力と書かないで承認なのか,そこのところが一番,質問としては伺いたかったところなのですが。 ○福田幹事 失礼いたしました。福田でございます。その点につきましては,仲裁法の45条1項が一応,承認という言葉を使っております。竹下幹事からは,第2回会議のときに,この承認という文言をそのまま使っていいのかという御指摘を頂いたのは承知しておるのですけれども,今回の提案では,「レコグナイズド」という文言をそのまま訳して使っていると受け止めていただければと思います。 ○山本部会長 よろしいですか。条文の見出しとかになったときにどう書くかというのは,またあれかもしれませんが。 ○北澤委員 北澤でございます。   私も今の手塚委員と竹下幹事の御意見を伺っておりまして,暫定保全措置の承認及び執行に関する規律の,その効力を有するという文言,ここは非常に気になっていたところでございます。5ページの(2)のところの,今,事務局から御説明がありましたように,なお書のところの文言にやはりこだわってしまいまして,その効力を有するという文言を定める際に,最初に書かれている,この民訴法第118条や仲裁法第13条第1項のところに,なぜ仲裁法の第45条第1項というものが挙がっておらず,抜けているのかというところから疑問が始まりまして,外国裁判所の確定判決と同一の効力を有するという文言とは今回は違う話でございますので,むしろ民訴法第118条を挙げずにいた方が分かりやすかったのではないかという気持もしております。   今回の承認のところにつきましては,改正モデル法第17H条の,拘束力を有するものとして承認されなければならず,執行されなければならないという規定を,対外的に分かりやすい形でいかに文言化していくのかというところは非常に重要であると考えております。現行仲裁法の立案当時の議論を踏まえますと,どうもこの承認されなければならないという文言についてはかなり議論があったように伺っております。仲裁法第45条第1項の話は,現在参照するのに一番ぴったり来るものでは必ずしもないかもしれませんけれども,モデル法の承認されなければならないという文言をいかに我が国の法律の規定の中に取り込んでいくかを考える際には,モデル法の文言と国内法の文言との整合性について考える必要がありますから,仲裁法の立法当時の議論というのはそれなりに参考になるものかと考えておりました。   仲裁法第45条第1項が仲裁判断について確定判決と同一の効力を有するという文言を設ける際にも,今回と同様,モデル法と国内法の文言との整合性が意識され,検討されていたようでございます。すなわち,仲裁判断について,当初は,モデル法第35条第1項の規律に従い,それがされた国のいかんを問わず,拘束力あるものとして承認されるという規律が我が国でも提案されていたようですけれども,それとは別に,内国仲裁判断について,それが確定判決と同一の効力を有する旨の規定を公催仲裁法に設けることとの関係で,結局,国内仲裁判断につき,この拘束力あるものとして承認されるという文言と,確定判決と同一の効力を有するという規定が並立しているのは問題だろうということで,最終的には現行仲裁法第45条第1項の規定ぶりになったと聞いております。   そうすると,今回も,既にある現行法の規定を参照しながら,承認されなければならないという文言を国内法の規定の中にどのように取り込んでいくのかという議論は当然あり得ることかと思います。そして,今回のその効力を有するという文言をモデル法のような拘束力のあるものとして承認されるという意味に読めるのかというと,その文言自体からすると,やはり説明が必要だとは考えておりますが,先ほどの手塚委員の御意見にもありましたように,そういう趣旨なのだとお書きいただければ,効力を有するという文言でも理解は可能であろうと考えております。   ただ,手塚委員や竹下幹事の御意見にもありましたように,当事者間で拘束力を持つというような,もう少し明確な表現で書くということも考え方としてはあり得るのではないかとも,本日のご議論を伺っていて,考えた次第です。   その効力を有するという文言について,私の方からは以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   古田委員,先ほど挙手を。いいですか。 ○古田委員 全然別の点ですけれども。 ○山本部会長 別の点で結構です。 ○三木委員 今の点で。 ○山本部会長 今の点,三木委員。 ○三木委員 その効力を有するという文言のところです。多くの方がおっしゃっているように,この表現が分かりにくいとか,あるいは英語に訳したときにどういう訳になるのかという疑問は私も有しております。他方において,当事者間でという言葉を入れるのがいいかどうかという点については慎重な考慮が必要だろうと思います。   私が理解するところでは,現在,世界的に,仲裁判断と暫定保全措置の双方に関わる話ですが,仲裁合意の当事者だけに効力が及ぶのかどうかについては,ホットなイシューになっているように思います。もちろん,仲裁合意と何の関係もない第三者に効力が及ぶということは考えられないのですけれども,たとえば,仲裁合意を結んだのが親会社で,その子会社はどうであるかとか,あるいはその逆の場合とか,何らかの形で関連を有する主体に対して効力を有するかどうかについては議論があるように思います。ごく最近,アメリカでも,その問題に関する重要な判例が出たと記憶しております。   たしかに,この新しい規定に当事者間でという文言を入れても,この当事者間というのは拡張的に解釈してよいという議論ができないわけではないとは思いますが,他方で,このようにいろいろと新たな議論が出てきている中で,わざわざ当事者に限定するような文言を入れることの危険性ということも考える必要があるかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,古田委員,ほかの点で。 ○古田委員 古田でございます。訳文添付の点で,少し細かいのですが,一言。部会資料3ページの2イで,暫定措置又は保全措置の命令書の一部について,日本語による翻訳文の提出を要しないものとするという規律が提案されているのですが,命令書の全部又は一部についてという表現の方が条文としては据わりがいいのではないでしょうか。全部とせずに一部についてとされている御趣旨について,部会資料7ページでは,債務名義となる給付文言は日本語でする必要があるということが書いてあります。確かに執行裁判所に提出する債務名義についてはそのとおりなのですけれども,私の理解では,執行裁判所に提出される債務名義となるのは確定した執行決定がある仲裁廷の暫定保全措置であって,執行決定は通常,主文には,「別紙仲裁判断あるいは仲裁暫定保全措置に基づく強制執行を許可する」と記載され,その別紙の中に給付文言が記載されてことになします。したがって,裁判所が発する執行決定には日本語で給付文言を記載する必要があるのですけれども,それと,その執行決定手続の中で当事者が提出する暫定保全措置の命令書の翻訳が要るかどうかは,また別の問題だと思います。例えば,案件によっては,暫定保全措置の和訳が全て省略されても,その給付文言が日本語でどうなるかということは争いがない場合というのもあり得ると思います。そういう場合に一部だけ翻訳するという必然性は余りないと思うのです。もう一つは,「命令書の一部について」という条文だけを見ると,その一部が何を指すのか,一読して分かりにくいのではないかと思います。もちろん条文の趣旨説明を聞けば意味は分かるのですけれども,法制的な観点からは「全部又は一部について」の方が条文としては据わりがいいような気がしております。御検討いただければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。今の点ですけれども,実はこれは事務当局内部でも,そのように書いた方がいいのではないかという検討をしているところでございます。仲裁判断の執行決定の手続の中でこの訳文がどう扱われているのかというところを少し調査しておりますので,また改めて検討結果をお示ししたいと思います。前回,裁判所法との関係を整理させていただきましたが,申立書自体はやはり日本語で書かなければいけないだろうと,その申立書にどこまでのものを引用しているのかというところによって変わってくるのではないかという問題意識がありまして,申立書は完全に日本語で書き切ってもらって,それとは別の添付資料という形で暫定保全措置の命令書なり仲裁判断の判断書なりが出てくるということであれば,そこはもう場合によっては,古田委員御指摘のとおり全部訳文添付省略ということもあり得るのかもしれません。ですので,そういったことが考えられるのであれば,それを排斥しないような形の条文の規律にすべきかとも思いますので,引き続き検討させていただければと思います。 ○出井委員 出井でございます。ただいまの点は,私は申立書自体は日本語で書くものと思っておりました。それを一言申し上げておきます。   それから,管轄の点ですけれども,特段の異論は見られなかったという記述に対して,特段の異論が二つぐらい出されておりますが,その異論の内容を確認しておきたいと思います。道垣内委員の御意見というのは,専属管轄にすべきであるという御意見であったかと思います。その意味なのですけれども,現在の5条の1号,2号の合意によって定めた裁判所,地方裁判所,それから仲裁地を管轄する地方裁判所,これは残した上で,被申立人の普通裁判籍,これを外して東京,大阪にするという理解でよろしいでしょうか。これが道垣内委員に対する質問です。   それから,竹下幹事からは,逆の方向なのかもしれませんが,特に国内仲裁事件について,被申立人普通裁判籍所在地裁判所,これを外してしまうのは本当にいいのかどうかということで,新たな移送の規定をサジェストされたのですが,その意味は,現在の3ページの(2)オは管轄裁判所への移送ということになりますが,管轄外の裁判所への移送も認めればよいではないかという御意見だったでしょうか。その確認をまず,したいと思います。 ○山本部会長 それでは,まず道垣内委員から,もし可能であれば。 ○道垣内委員 すみません,私の方は専属にすべき事項について詳細に申し上げておりませんでした。国際仲裁を念頭に置き,さらに仲裁判断取消の手続が特に問題だと考えてりますので,もしこの方向で条文化するとすればいろいろと工夫が必要だと思います。取消手続よりも前の段階の仲裁人選任や証拠調べ等の様々な裁判所の手続について詳細に検討したわけではございません。ですので,私としては,東京と大阪に競合管轄を設けておいて適宜移送するという竹下さんの案に相当いいのではないかと思っております。 ○竹下幹事 お答えいたします。最初に,ご質問の一番の核のところでございますが,出井先生がおっしゃられるとおり,管轄のないところに移送してしまうという作りになってしまうのかもしれません。しかし,この事案の性質,特に国際仲裁の事件について東京と大阪に集中するというニーズがあるのであれば,それを移送によって実現する。その辺りの条文の法制的な作り方,今はなかなかイメージ付いていないですが,私が一つの案として申し上げたのは,正に出井先生がおっしゃられるような,管轄がないかもしれないけれども,東京と大阪に集中するということが望ましいという観点から移送を認める案です。   逆に,管轄がないところへの移送はやはり難しいからということで,管轄を足しておくというのはあり得るのかもしれなくて,競合管轄を前提として移送を認めるというような規定というのも,もちろん,十分にあり得るのではないかと思います。ただ,例えば九州の方の事件で突然,東京や大阪に,嫌がらせ的にという言い方は変かもしれませんが,申立てがされるといったようなことは,やはり何らかの形で防がなければならない。それも結局,移送によって対応できるということであるとするならば,恐らくこの競合管轄を認めた上で,移送を更に認めるというのもモデレートな規律なのかなと,今,出井先生からの御指摘を受けて,考え直しているところでございますが,いずれにしろ最初に発言させていただいた趣旨は,正に東京,大阪に独立の管轄を認めるのではなくて,管轄はないけれども,そこに事件を集中させる合理性があるということで審理を認めるといったようなことを考えていたところです。それに規律として問題があるようであれば,競合管轄を認めた上で移送を認めるというのもあり得るかなと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○出井委員 よろしいでしょうか。出井です。竹下幹事の御説明は大体分かりましたが,少し私のコメントを申し上げると,国内仲裁であっても,国際仲裁はなおさらなのですが,合意によって定める地方裁判所はあり得るわけですし,実際には例は余りないのでしょうけれども,あと,仲裁地を管轄する地方裁判所というのがあるわけです。仲裁地は必ずあるわけですから,それが被申立人の普通裁判籍と別のところにあるということはよくあって,例えば福岡の企業と東京の企業の紛争で,真ん中の大阪を仲裁地とするというものはよくあるわけで,そのときに取消しの判断のときには,福岡地裁の管轄を外してというか,それと東京,大阪の競合管轄を排除しなければいけないのかというと,なかなかそれは,そこまでやる必要はないのではないかと思います。なので,私は今の提案の規律でよいのではないかと思っております。ただ,管轄外への移送を認めるという規定は初めて伺いましたので,そこはまた改めて検討してみたいと思います。   それから,道垣内委員の御意見,必ずしもよく理解できているわけではないのですが,確かに取消しの訴えは,私も東京,大阪に集中させる実質上のメリットというのはあるのではないかと思っていて,その観点からは,取消しの訴えについては,競合ではなく,東京,大阪専属ということも一応あり得る規律かなとは思っています。ただ,専属管轄というのが,それはそれでかなりドラスティックな管轄の定めになりますし,先ほどの移送をうまく活用すれば何とか対処ができるのではないかと思いますので,暫定的な結論としては,私は今御提案の規律でよいのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございます。専属管轄裁判所から管轄がない裁判所への移送の例としては,民訴法20条2の第1項はそうではないかと思いますし,倒産法関係でも幾つかそのような規律は現行法でも存在しているものと理解しています。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。今の管轄の点に関してですけれども,私自身は前回,この点が議論された部会の会議は欠席だったかと思いますけれども,競合管轄を認めるという方向で基本的にはよろしいのではないかと考えております。ただ,竹下幹事からの御指摘もありましたけれども,その上で,例えば,民訴法の17条で認めている裁量移送よりももう少し柔軟な形で移送による処理を認める旨の規律を設けるということは,仲裁の国内あるいは国際的なものの,別に即した規律を可能とする点で,有力な選択肢になり得るのかなという印象を持っております。   それから,先ほど来,非常に難しい議論が続いておりました暫定保全措置の承認に関してですけれども,ここは大変難しい問題かと思われまして,暫定保全措置というものが基本的に仲裁合意に基づく一種の当事者間の契約に基づく何らかの効果を持つと考えれば,これは基本的には実体法上の効力ということを基本として,必ずしも承認という規律は設けないという考え方も十分あり得るのだろうと思われますけれども,しかし,今日御提案になっておりますように,モデル法がそうなっているということもあろうかと思いますけれども,承認に関する規律を設けることによって,特に承認拒絶事由と申しますか,承認の要件について,今日御提案のような形で明らかにするということは,それはそれで積極的な意義を持つかなと考えております。   その上で,効力を有するという文言についていろいろ,分かりにくいといった御批判も出ていたところですけれども,この効力の内容について,今日の資料の5ページでも,手続法上の効力なのか実体法上の効力なのかといった様々な議論があるところで,私自身は実体法上の効力をベースに考えると,これは国内の保全処分についても基本的には,仮の地位を定めるというのは暫定的な形成力ということではないかと私自身は考えていますので,そういったことでよいのではないかと思っておりますけれども,しかし,そうではない考え方も有力に存在するということは承知しており,その点は最終的には解釈に委ねざるを得ないのだといたしますと,効力を有するという形で両様の解釈が可能な,かつ,モデル法でいっているバインディングということもこれで受け止められているように私は理解できますので,こうした文言というのもあり得るのではないかと思います。   それから,最後に1点,簡単な理解についての質問なのですけれども,今回の資料で申しますと2ページの枠囲みの中の(1)イ⑤の仲裁合意又は当事者間の別段の合意の範囲を超えて発せられたという点に関してなのですけれども,ここでいっております仲裁合意というものが何を意味しているのかということにつきまして,これは基本的には,当事者の別段の合意がない場合には,仲裁合意を基礎として一定の範囲の暫定保全措置が認められると,これがモデル法17条の仲裁廷の権限として認められているということで,この権限を基礎付けるような内容の仲裁合意ということで考えればよいのであって,そうしますと,何か,例えばある契約について仲裁条項があって,その契約から生ずる紛争について仲裁に付するということになっているときに,仮差押え的に財産の散逸を防ぐために一定の財産について処分を禁止するといったようなことをいうときに,当該財産について特段,仲裁合意の対象とするというような合意がなくても,これはモデル法17条でいっているような暫定保全措置の対象としてあり得るものであれば仲裁合意の範囲に含まれると,そういう理解でよろしいでしょうか。その点,確認の御質問ということになります。よろしくお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。そのような解釈でよろしいかと思います。事務当局としてもそのように考えておりました。 ○垣内幹事 ありがとうございました。了解いたしました。 ○三木委員 今の垣内幹事の最後の御質問との関係ですが,UNCITRALにおけるこの問題についての議論の記憶はさほど強くはありませんが,例えば,ある売買契約に関して将来紛争が生じたときにこれこれの仲裁によるという仲裁合意があった場合に,その売買契約そのものには含まれない財産を差し押さえるというのが仲裁合意の範囲に含まれるかどうかといえば,それは売買契約から生じる債権の保全の手段として当然に予想されるものとして含まれるはずであり,そういう前提でモデル法の改正は行われたと記憶しています。したがって,差押えの対象財産という言葉が仲裁合意に入っていないから仲裁合意には含まれないのだというような,そういうおかしな解釈を採ってもよいという考え方でモデル法は作られていないと理解しています。   垣内幹事からの御質問に対する私の意見は以上のとおりですが,⑤に関して,私は別な問題意識があるので,そちらを述べたいと思います。これは最初に事務局に対して確認のためにうかがうのですが,現在の規定ぶりをそのまま維持するとして,仲裁合意の範囲には含まれているが暫定保全措置の申立てには含まれていないものを内容とする暫定保全措置が発せられた場合,これできちんと拾えるのでしょうか。すと,仲裁合意の範囲には含まれているが暫定保全措置の申立てには含まれていない,明らかに反している暫定保全措置が発せられた場合は,これで拾えるのでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。申立ての範囲から外れていることの意味するところなのですけれども,一つは,従前から出ております,例えば仲裁合意とは別に当事者間で,例えば資産の凍結命令みたいなもの,それから訴訟禁止命令みたいな,そういった暫定保全措置は除きますよというような合意を別段している場合であれば,それはこの当事者間の別段の合意の範囲を超えてということで読むと考えております。もう一つは,特段そういった合意ではないときに何らか暫定保全措置の申立てをして,その申立てが具体的に特定されているような場合で,その範囲を超えて何か発令されたものということになると,それはこの部会資料で書きましたように,場合によっては防御が不能だったというようなことで,そちらの4号の方で執行が拒絶されるということがあり得るのではないかと考えております。   今の整理は以上です。 ○三木委員 分かりました。しかし,モデル法が規定している付託の範囲を超える場合を承認執行拒絶事由の防御で拾うというのは,モデル法の精神には元々ないことであり,モデル法と余り整合性は高くないと思います。また,何よりも大事なのは外国からの見え方であって,それは防御で拾えますというのはなかなか外国人には理解できないことであろうと思います。私は,ここは仲裁合意又は暫定保全措置の申立ての範囲を超えて発せられたものという文言にすべきではないかと思います。   理由としては2点あります。まず1点目ですが,先ほど御説明のあった特段の合意があった場合というのは,それは仲裁合意でカバーされているのではないかと思います。特段の合意も事後的に追加された仲裁合意であり,要するに後で仲裁合意が付加されたとか,そういうことだと思います。もう1点は,事務局が懸念されておられることかもしれませんが,暫定保全措置の申立ての範囲という言葉ですと,申立ての範囲より合理的な範囲でそれを超えている暫定保全措置を命ずる場合と抵触するのではないかということですけれども,仲裁の世界では,これは訴訟の世界でもそう在るべきだと思いますけれども,そういうことを仲裁廷が考えたのであれば,当事者にきちんと釈明というか,あるいは仲裁廷と両当事者の三者間できちんと協議をして,当初の申立てを拡張してもらった上で,申立ての範囲については誰からも異論のない形で発令するということが行われるべきであり,少なくとも私の知る国際商事仲裁ではそういう運用がされているのではないかと思います。わが国では日本の明治以来の裁判の慣習に従って,当事者に説明もせずに裁判所が,それはパターナリスティックと善意に解釈できるのかもしれませんが,申立てを超えた命令を突然出すということがあり得ると思います。しかし,そうしたわが国の裁判実務の感覚こそがおかしいのであり,現在の手続保障論の観点から考えてみても,大いに問題があるということではないかと思います。 ○垣内幹事 今,三木委員がいわれた点についてですけれども,申立ての範囲を超えて発せられた場合について拒絶事由とするかどうかということについて,私自身はまだ十分に検討できているということではありませんけれども,本日の部会資料7ページの(注)のところで書かれているような第2回会議での議論の状況,あるいはそれについての事務局のお考えということかと思いますけれども,暫定保全措置の申立てで具体的内容の特定が余りされないことが実情としてあるのではないかというようなことがありまして,それはそうなのかもしれませんけれども,仮にそうだとしましても,そうであれば,ある暫定保全措置が申立ての範囲を超えたということにはならないというだけのこととも思われ,また,形式的に少しでも超えていた場合に執行が拒絶されるのかどうかということに関しては,これは申立ての範囲の裁判所による解釈ということもあると思われまして,その際,正に資料で指摘されていますように,防御が実質的にも不可能だったのかどうかといったようなことを考慮する余地もあろうかと思われますし,また,拒絶事由があったときに必ず拒絶しなければならないということではなく,裁判所の裁量で,それが軽微であれば執行決定をするということも恐らくできるという前提ではないかと思われますので,そのように考えますと,申立ての範囲を超えてという形の規定を設けたとしても,それほど弊害が生ずるということはないのかなとも感じましたので,若干発言させていただいたところです。   それから,先ほど申し上げようと思っておりまして,1点失念してしまったので,その点の補充なのですけれども,承認と効力を有するというところの話で,先ほど,効力を有するという文言もそれなりに合理性があるのではないかという趣旨の御意見を申し上げました。そのことに加えまして,承認という文言を使うかどうかということに関して,これも理論的にはいろいろと問題があるところだろうと思われますけれども,正に今日,5ページの先ほど来問題となっている(注1)の直前の3行で書かれている民訴法118条の規定,それから,仲裁法で申しますと先ほど来言及がある45条の規定が,いずれも見出し等で承認という文言を使っているということでありますが,特に仲裁法でいっている仲裁判断の承認というものが外国判決の承認と全く同じ意味であるのかどうかというと,これは仲裁判断というものが本来どのような効力を持っていて,日本法でそれをどう受け止めているのかという点について,幾つか異なる考え方というのは現行法の下でもあり得るのではないかと思われます。その理解によりましては,外国判決の承認と仲裁判断の承認というのは,やはり全く同一のものではないと,しかし,そのようなものも含めて広い意味で承認という言葉を使うことが仮に立法例として許容されているということだとしますと,理解によっては,また仲裁判断の場合とも若干異なるということになるのかもしれませんけれども,暫定保全措置の場合にも承認という言葉を使ってモデル法とのそごがないことを明示的に示すということも一つの選択肢としてはあり得るのではないかというような感想を持ちました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 暫定保全措置の申立ての範囲を超えているかどうかという問題は,恐らく実務的には非常に悩ましい問題といいますか,それを受けて執行決定をしなければならない裁判所は大いに悩むところだろうと思います。一つ二つお伺いしたいのですが,例えば,売買代金の支払をめぐる紛争があって,その場合に,債務者とされる側のある特定の財産を押さえる,日本法でいえば仮差押え,場合によっては仮処分ということもあり得ると思いますけれども,そのような処分を出すことができるのかどうか。これは暫定保全措置の範囲の問題ではない,そもそも仲裁の対象となる紛争の関係から出てくるものではないか,その点でそういう仮差押え的なものは可能なのかどうかという点を,まずお聴きしたいと思います。   それから,もう一つは,これは第2回のときにもお聴きして,私の質問が悪かったということもあるのですが,まだ私としては理解していない点です。それは,抽象的に債務者とされる者の財産の移動禁止,財産を動かしてはならないという暫定保全措置がされたとして,第2回の御説明では,これは特定の財産に対するものではなくて人に対するものだという説明があったかと思います。それに対して,具体的な執行決定の申立てとして,日本国内にある特定の財産について処分を禁止する,日本でいえば仮処分的な保全措置を申し立てることができるのかどうかということです。その点について少し考えをお伺いしたいと思います。 ○福田幹事 福田でございます。まず,1点目の御質問につきましては,今回の部会資料では明示しておりませんけれども,部会資料2の中で暫定保全措置の定義に関する規律の提案をさせていただいていますけれども,そこでいうところの,仲裁判断を実現するために必要な財産を保全する措置というものを規律として設けるとすれば,おっしゃったような保全措置というのは暫定保全措置としてできるということになろうかと思います。   2点目は,資産凍結命令みたいなものを仮にどこかの仲裁廷が出したと,そういった暫定保全措置を出したときにどうなるかという御質問だと承りましたが,この点についてはいろいろな考え方があろうかと思いますけれども,第2回の会議で出ていた御意見とすれば,そのようなものの執行はそもそも日本の法体系に合わないものなので,そもそもそういった命令に基づく強制執行というのは難しいのではないかという御意見もありましたし,三木委員からの御指摘もあったように,そのような命令は人に対する命令なので,仲裁地の裁判所で執行決定を取るということはあり得るかもしれないけれども,日本法の下では,仲裁地とは別の地として日本で執行するというのはなかなか難しいのではないかというような御指摘もあったかと思います。   現時点での整理は以上です。 ○吉野委員 そうすると,最初の点ですが,それはある意味では可能だということですね。   第2の方は,一般的な財産凍結命令というのが日本法では認められていないとすると,これは先ほどの例でいうと,日本の法令によって執行することができないものに該当するということになりますか。 ○福田幹事 福田でございます。そうですね,⑨に該当するということもありますし,場合によっては⑪の公序というところも検討の対象にはなろうかと思います。 ○吉野委員 暫定保全措置は日本の法令に反するけれども,具体的な執行の申立て自体は日本の法令に反しなくても,元々の暫定保全措置が日本の法令に反するから日本では執行できない,こういう理解ということですね。 ○福田幹事 福田でございます。私の理解を申し上げますと,仮に資産凍結命令のような暫定保全措置を考えたときに,それが仲裁合意を根拠にして仲裁廷が出したものであれば,発令したこと自体が日本の法令に反するかどうかということとは別の問題なのではないかと整理をしております。ここでは,その暫定保全措置を基に強制執行をするという局面になったときに,日本の法令においてそのようなものの強制執行というのはできないので,その強制執行は認められない,執行拒絶事由に当たると,こういう整理をしております。 ○吉野委員 分かりました。ありがとうございました。 ○古田委員 古田ですけれども,今の点,私は福田さんとは理解が違います。以前にも申し上げたと思うのですが,私の理解では,財産凍結命令というのは名宛て人に対して,財産を処分してはいけないと一定の不作為の義務を課す保全命令ということになり,したがって,我が国の執行法の体系からいうと,その執行は間接強制の方法しかないということになります。ただ,保全措置に反して名宛て人が財産を処分してしまいますと,これは1回限りの行為ですので,処分してしまった後に間接強制するというのは手後れで,意味のないことです。そういう意味で日本での執行というのは観念できないということであって,保全措置の内容が日本の法体系にそぐわないから執行できないとか,そういう言い方は少し広すぎるのではないかと思います。要するに,保全措置の命令の内容自体が間接強制という日本の執行方法では執行の実が上がらないような保全命令であるという説明になるのではないかと私は理解しております。 ○山本部会長 この点は,前にも申し上げましたけれども,規律の内容に影響するのであれば御議論を続けていただいて結構なのですが,恐らくはこの規律を前提とした解釈の問題になろうかと思いますので,まだもう一つ資料がありますので,この資料4-1について更に御意見があれば,お伺いしたいと思いますが。 ○三木委員 資料4-1に関してということですけれども,この資料に書かれてはいないことですが,新たに提案をする必要があると私が考えているものについて,発言できますでしょうか。 ○山本部会長 仲裁法の改正に関することですね。どうぞ,お願いします。 ○三木委員 現行の日本仲裁法でUNCITRALモデル法に違反していると思われる規定が,これまで議論したもの以外にもあるのではないかと思います。その規定は,単に形式的にUNCITRALモデル法に反しているというだけではなくて,後で申しますが,実務にも多大な影響を与えるものであろうと思います。   具体的には,現行日本仲裁法の45条1項,より正確に言うと,1項を受けての2項本文ということになります。現行日本仲裁法の45条1項は,仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するという規定を置いております。この規定を受けて2項で,前項の規定は次に掲げる事由のいずれかがある場合には適用しないという規定ぶりになっています。したがって,日本の現行の仲裁法では,承認拒絶事由があれば確定判決と同一の効力は生じないというふうな構造になっています。この承認拒絶事由は44条の仲裁判断取消事由と同じですので,結局,仲裁判断取消事由があると確定判決と同一の効力は有しないということになろうかと思います。したがって,確定判決と同一の効力の中の大きな内容は既判力ですので,仲裁判断取消事由があれば仲裁判断に既判力は発生しないということになるわけです。そうすると,仲裁判断に不服のある当事者は,仲裁判断取消しの裁判をしなくても,既判力がないので,別な訴えを起こして仲裁判断を取り消すことなく,仲裁判断の無効等を主張して争うことができることになります。これは,つまるところは仲裁判断取消制度というものを無にすることもできるということになり,モデル法は全く想定していない事態です。私の知る限りでは,このような法制度を採っている国は,モデル法採用国であれ,それ以外であれ,ないのではないかと思います。   ちなみに,私が調べた韓国法は以下のとおりです。韓国法は,恐らく世界的に見て,今のところ私は日本法と韓国法ぐらいにしか例があることを知りませんけれども,日本法と同様に,仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するという規定を置いております。その上で,日本法の2項本文のような規定は置かずに,モデル法と整合的な規定を置いております。つまり,日本法と同じような構造を採っている韓国法といえども,2項本文のような規定は設けていないということです。私は今回の改正の機会に,この45条2項を,例えばですが,韓国法と同様の規定に改めるということにすべきではないかと思います。   念のために申しますと,このように言うと,では,仲裁合意がそもそも全く存在しないようなことが明らかな場合であっても,必ず仲裁判断取消しの裁判を経なければいけないのかという疑問を持たれる方がいるかもしれません。しかし,これは,そういう話ではありません。そういう場合の法律的な問題は,いわゆる仲裁判断の当然無効というものをどう考えるかという論点です。これについては,世界的にいろいろな考え方があると承知しておりますけれども,私自身の考えを言えば,一定の場合には仲裁判断の当然無効というものはあり得ると考えています。しかし,当然無効事由が仲裁判断取消事由と全く同一であるというような現行日本法のような考え方は,おそらく世界的に見ても存在しないのではないかと思います。仲裁判断の当然無効ということについては,諸外国の立法あるいはモデル法と同様に,日本法のように取消事由があれば既判力が生じないというような規定ではなく,まず既判力が生ずるという規定にしておいて,あとは当然無効というものをどの範囲で認めるかということを解釈ないし裁判所の判例に委ねればいいということであり,それが世界的な立法及び運用の態度であると承知しております。   以上の点だけでも,十分に45条を改めるべきだということの理由にはなろうかと思いますが,冒頭に申しました実務的にも非常に意味があるという点を,若干長くなりますが,申し上げたいと思います。それは,特に日本が現在力を入れている,国際仲裁の場面における日本の立場を強化するという大きな方針に対して,かなり深刻な障害を与えるものであろうと思います。   具体的な例で申し上げないと分かりにくいと思いますので,簡単な例を挙げてみたいと思います。例えば,中国の企業と韓国の企業が公平な第三地として日本を仲裁地に選んだという例を考えてみたいと思います。ちなみに,仲裁地をどこに選ぶかというときに企業が考える最大の考慮要素は,将来その仲裁判断が出た後に,それによって不利を受けた当事者が仲裁判断取消しの手続を使って不当な蒸し返しを画策することにどう対応することができる仲裁地かという観点であり,この観点に従って仲裁地を選ぶことが最大のファクターになります。その場合に,特定の国,特に自国にとって有利な形で仲裁判断を取り消すというような余り好ましくない裁判の実務を行うような国には,仲裁地を持って行かないようにすることに慎重な考慮をします。また,仲裁の当事者のいずれかの国を仲裁地にする場合もありますが,第三国を仲裁地にすることが少なくない理由は,仲裁判断取消しの裁判になったときに公平な裁判がされるということを期待してのことが多いかと思います。   そこで,先ほどの例に戻りますが,中国と韓国の企業が日本を仲裁地として仲裁を行ったとします。そして,審理を経て仲裁判断が出て,例えば中国企業に不利な仲裁判断が下りたとします。その場合,中国企業は,日本の仲裁法がモデル法に従っていれば,まず仲裁地である日本の裁判所で仲裁判断取消しの裁判をして,仲裁判断が取り消された上で,いろいろな権利の行使をしなければいけないということになるはずです。しかし,現行の日本法ですと,取消事由があれば既判力がないという規定ですから,中国企業は中国の国内の裁判所に仲裁判断と抵触する内容の訴えを起こして,その中で取消事由があるのだということを主張して,中国の裁判所がそれを認めれば,既判力がないということですから,中国の裁判所は自由に仲裁判断に矛盾して中国の企業に有利な裁判をすることもできるわけです。もちろん同様のことは韓国の企業にも可能です。そうすると,公平な裁判が行われると期待して選んだはずの日本を仲裁地にした場合に,かえって不公平な事態が生ずるということになります。また,こういうことが世界に知れ渡ると,日本を第三国として仲裁地として選ぶ当事者がいなくなったり,あるいは,日本を仲裁地にしないことの口実として主張されたりするおそれは,大いにあるのではないかと思います。   最後ですけれども,更に言いますと,これは何も日本が第三国の場合だけの問題ではありません。例えば,日本企業と中国企業が契約を結んで,日本企業が頑張って仲裁地を日本にするという条項を入れることができたとします。それで,日本で仲裁が行われて日本企業に有利な仲裁判断が下りたという場合に,敗訴した中国企業は中国で,中国の裁判所に訴えを起こして,その仲裁判断を無にするということが可能になり得るのです。そうすると,日本企業がせっかく頑張って日本を仲裁地にしたということが,かえって日本企業に不利に働くというようなことにもなりかねません。   以上のようなことで,現行の45条2項は,第1にモデル法に明確に違反する,第2に世界的に受入れが難しい,世界的に例を見ない立法である,第3に実務的にも問題を生じ得るということで,改正の御検討を頂ければと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。全く新たな御提案ということですが,事務当局からもしコメントがあれば。 ○福田幹事 福田でございます。重要な御指摘を頂いたものと思いますが,この場で何かお答えを用意しているわけではございませんので,引き取らせていただいて検討させていただきたいと思います。 ○山本部会長 それでは,この資料4-1全体について,いかがでしょうか。おおむねよろしいですか。   それでは,少しここで休憩にしまして,その後,資料4-2の方に移りたいと思います。若干押していますので,恐縮ですが,10分少しということで,35分に再開ということにさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,時間になりましたので,会議を再開いたします。   ここからは,部会資料4-2の調停に関する論点について御議論を頂きたいと思います。   まず,事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは,鈴木から説明をさせていただきます。   部会資料4-2では,調停による和解合意に対する執行力の付与に関し,大きく二つの論点を取り上げています。一つ目は,執行力付与の対象となる和解合意の範囲に関する規律,二つ目は,和解合意に基づく民事執行の合意に関する規律です。   一つ目の対象となる和解合意の範囲に関する規律については,部会資料3-2において調停の定義,国際性,商事性といった個別の論点として取り上げていたものを,前回の会議での議論を踏まえ,執行力付与の対象をどのような範囲にするべきかという観点から整理をした上,三つの案を提案するものです。   まず,対象となる和解合意を,シンガポール条約に倣い国際性を有するものに限定する甲案と,そのような限定を設けず国内のものも対象とする乙案とに分かれ,さらに乙案のうち,国内のものについて対象を認証紛争解決手続によるものに限定するか否かで乙1案,乙2案に分かれるという枠組みを提案しております。   国際性の規律の内容については,前回の会議において,シンガポール条約と同様の規律では対象となる範囲が狭すぎるという意見が多く見られたことから,外弁法の規律を踏まえ,本文1ア③,④の規律を新たに加えました。このような規律とすることで対象となる範囲は広がりますが,他方,部会資料3ページ2の第2段落,「ただし」以降に記載したとおり,とある外国で当該外国の企業間で生じた紛争に関して和解合意がされ,執行国だけが日本であるという事案であれば執行力を付与する対象となり得るのに,日本企業同士が日本国内で生じた紛争について和解合意をした場合に,日本で強制執行することは認められないということになり,そのような差異を設けることが適当なのかということについては検討の余地があるとも考えられます。   国際性の要件を設けるべきか否かという点に関し,これまで執行力を付与するニーズの違いが指摘されてきました。国際性を有する和解合意についてそのニーズが高いという考え方に特段異論はなかったと思われますが,国内のものについては代替手段を利用できるという指摘がある一方,実際に執行力を付与する必要性が分からない段階で,将来的に履行されない場合を見据えて時間的,金銭的な負担を掛けて別個の手続を行うことを余儀なくされるということを考えると,代替手段があったとしても,国内のものに関して執行力を付与するニーズはあるとの考え方も指摘されているところです。加えて,調停による和解合意に執行力を付与することの正当化根拠に立ち返って考えてみますと,尊重されるべき当事者の合意については国際性の有無によって左右されるものではないと考えられるところです。したがいまして,本日はこのような点を踏まえて議論を深めていただければ幸いです。   なお,国内のADR機関におけるニーズや実情等については,参考資料としてODR推進検討会における資料をお配りししております。この後,当省司法法制部の渡邊関係官から説明をしていただきますので,是非議論の参考にしていただきたく思います。   また,第1回会議より基本的な検討の方向性として,和解合意に執行力を付与することにより懸念される弊害をできる限り取り除くためにどのような規律を設けるべきかという観点で御議論を頂いているところですが,今回の部会資料6ページ4の(注1)では,弊害とは何かということを記載しております。弊害についてこのような整理を試みるとすれば,国際性の有無によって違いがあるのかという観点からも御議論を頂きたいと考えております。   さらに,前回の会議において,仮に対象を国内に広げるとしても,国内のもの全てを対象とすることについては慎重な検討が必要であるとの指摘がされました。そこで,乙2案は,国内のものについては対象を認証紛争解決手続によるものに限定するとの規律を提案するものです。この点に関しては,ADR法に基づく認証制度をどのようなものと位置付けるかによって様々な考え方があろうかと思います。この点に関しても皆様の御意見をお伺いできれば幸いです。   対象となる紛争の範囲につきましては,甲案,乙1案,乙2案,全て,シンガポール条約に倣い,消費者紛争,個別労働関係紛争,家事紛争を適用除外としています。もっとも家事紛争については,特に養育費の支払などに関し執行力を付与する必要性が指摘されているところですので,部会資料4ページの中ほど(3)にその旨の記載をしております。また,消費者紛争,個別労働関係紛争については前回の会議で,消費者や労働者が債権者として事業者に対し義務の履行を求める場合のみ,片面的に執行力を付与するとの考え方も示されたところです。この点についても引き続き御議論を頂ければと考えております。   そのほかの論点として,部会資料6ページの(5)(注1)に記載したとおり,管轄及び外国語資料の訳文添付に関する規律について,暫定保全措置の承認及び執行に関する規律と同様の規律を設けることの要否や,(注2)に記載したとおり,仮に乙案を採用した場合に,執行拒否事由に関する規律について国際性の有無によって差異を設けるべきか否かについても検討する必要があるものと考えております。これらの点は,甲案,乙1案,乙2案,いずれを採るかによって結論が変わり得る論点であるため,今回の部会資料では本文としては取り上げておりませんが,現時点で何らかの御意見がある方は,これらの点に関しても併せてお聞かせいただければ幸いです。   続いて,部会資料の6ページからは,二つ目の大きな論点として,和解合意に基づく民事執行の合意に関する規律を取り上げております。この規律は,前回の会議において執行受諾文言に関する規律として取り上げていたものを,皆様の御意見を踏まえ,その内容を修正して提案するものです。   前回の会議では,執行受諾文言に関する規律が和解合意に執行受諾文言が記載されることを必要とするものであったため,シンガポール条約のオプトイン留保の規定との関係で,当事者の意思表示の時期及び態様を制限しており,条約との抵触が問題となり得るのではないかとの指摘がされました。そこで,シンガポール条約のオプトイン留保の規定を参考にしつつ,当事者が和解合意に基づく民事執行に合意していることを必要とするものの,その時期及び態様については特に制限を設けない規律を提案しております。   私からの説明は以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   続きまして,参考資料について司法法制部から説明を頂きたいと思います。   渡邊関係官,お願いいたします。 ○渡邊関係官 関係官の渡邊でございます。本日の御議論に参考になるのでないかということで,参考資料4-1と4-2を御用意させていただきました。   まず,参考資料4-1を御覧ください。1に記載のとおり,近年のIT技術の飛躍的進歩やAI技術の発展に伴い,オンラインでの紛争解決手続であるODRの在り方に注目が集まりつつあります。昨年7月17日に閣議決定されました成長戦略フォローアップにおきましても,ODRの推進に向けて,民間ADRに関する紛争解決手続における和解合意への執行力の付与や,認証ADR事業者の守秘義務強化等の認証制度の見直しの要否を含めた検討を2020年度中に進めるとされました。このことを受けまして,民間ADRの業務についての認証制度を所管する法務省の司法法制部におきまして,昨年10月に省内にODR推進検討会を立ち上げ,ODRの推進に向けた検討が進められているところでございます。   この検討会の構成員でございますが,2に記載のとおりでございまして,この部会の委員,幹事の方々にも多数御参加いただいております。また,オブザーバーとしましては,内閣官房,法務省民事局,最高裁判所事務総局民事局のほか,ADRを実施されております関係士業団体の方々にも幅広く御参加いただいているところでございます。   検討会の検討事項でございますけれども,3に記載のとおりでございます。(2)にございますが,民間ADRにおける和解合意への執行力の付与,これも検討対象となっております。   検討会ですが,既に4回開催されておりまして,執行力の付与についての検討が先行して進められている状況にございます。これまでにADR機関に対するヒアリングやアンケートを実施したところでございまして,今後こうしたADR機関の実情や生の声を踏まえた上で,主に国内で実施されているADRにおける和解合意に執行力を付与することのニーズや弊害について議論を深め,取りまとめに向けた検討を行う予定としているところでございます。   本日の部会の調査審議にも有用でないかと考えまして,御参考までに紹介させていただきましたが,今後も適宜のタイミングでこの検討会の議論の状況などを御報告させていただければと考えております。   続きまして,参考資料4-2を御覧ください。この資料は,先ほど御紹介しましたODR推進検討会で実施したアンケートの結果の概要をまとめたものでございます。冒頭に記載がございますように,153のADR事業者から回答を頂きました。その内訳ですが,認証ADR機関が120事業者,認証を受けていないADR機関が33事業者となっております。  簡単ではございますが,アンケート結果についても御紹介させていただきます。   Q1は,紛争当事者に対する事前相談や手続教示などの際に,履行確保の点に不安があることがADRを選択されない理由と感じられた経験があるかどうかを尋ねる質問ですけれども,あったと回答した事業者が14.4%,なかったと回答した事業者が59.5%,不明と回答した事業者が23.5%となっております。なお,Q2,Q5にも共通するところでございますけれども,なかったと回答した事業者のうち21の事業者は,そもそも和解合意が成立した経験がないと回答しておりますので,その点は割り引いて考える必要があるのかなと考えております。   Q2は,和解成立後に金銭給付等の履行を約束する内容の和解条項,つまり和解成立後に履行の問題が残る内容の和解条項を作成したことがあるかどうかを尋ねる質問ですけれども,あったと回答した機関が60.8%,なかったと回答した機関が30.1%となっております。   Q3は,Q2において和解成立後に履行の問題が残る内容の和解条項を作成した経験がある旨の回答をした機関に対して,更に履行を確保するための取組,工夫を行ったかどうかを尋ねる質問でございます。ざっくり申し上げますと,約半数の事業者においては特段の取組,工夫は行っていないと回答されましたが,他方で残りの半数の事業者においては,記載にあるような様々な取組,工夫をされているという結果になっております。   Q4は,仮に調停における和解合意に執行力が付与されることとなった場合の受理件数の変化の予測を尋ねる質問でございますが,減ると回答した機関はございませんでした。増えると回答した機関,変わらないと回答した機関,分からないと回答した機関におおむね3分されるような結果となっております。   Q5は,和解成立後に紛争当事者から和解条項どおりの履行がされない旨の相談又は苦情を受けたことがあるかどうかを尋ねる質問でございますけれども,そのような経験があると回答した機関は15%でございました。   Q6は,この部会での調査審議にも深く関わるところではないかと考えるところですが,調停における和解合意に執行力を付与することについての考えを尋ねる質問でございます。無条件で賛成する機関が15.7%,一定の条件の下に賛成する機関が58.2%,執行力の付与に反対する機関が17.6%という結果でございました。   Q7は,Q6で一番の多数派であったのは,一定の条件の下に執行力を付与することに賛成するとの回答でしたが,そのような回答をした89の機関に対して,その条件の内容を尋ねる質問でございます。和解合意の双方当事者が執行力を付与することに合意し,その旨が和解契約書に記載されていることを条件とすべきとする意見が最も多くございまして,67.4%となっております。次いで,裁判所の執行決定を経ることなど一定の公的な機関による事後的な審査を要件とすべきとの意見が多く,31.5%ございました。   Q8は,Q6で調停における和解合意に執行力を付与することに反対するとの回答をした機関は27ございましたが,これらの機関に対してその理由を尋ねる質問でございます。私的自治や任意性が重視されるべきADRには執行力はなじまないとする意見が最も多くございまして,次いで,履行確保のための代替手段が存在しているため執行力を付与する必要がないとする意見が多いという結果になりました。なお,この点については,ODR推進検討会の複数の委員から,国内外の調停を問わず,ウェブ会議等を活用したODRが普及拡大している中で,執行力を付与するために執行証書等の代替手段が必要であるとすると,オンライン上で完結できるというODRのよさがかえって失われてしまうのではないかという御指摘がございました。   私の説明は以上でございますが,本日の部会にはODR推進検討会の座長であられます垣内幹事も御出席されていらっしゃいますので,補足を頂ければ幸いと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   垣内幹事,それでは,補足がありましたらお願いいたします。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。垣内でございます。ODR推進検討会での議論状況等につきましては,今御説明があったとおりですけれども,3点ほど補足的に発言をさせていただければと存じます。   まず,第1点ですけれども,この検討会におきましては,主に国内で実施されるADRにおける和解合意に執行力を付与することのニーズ,あるいは弊害について検討しているということでありまして,近くその点に関する取りまとめを予定しておりますので,取りまとめがなされた暁には,その結果は本部会における審議におきましても御参考に供していただけるものになるのではないかと考えております。   それから,第2点ですけれども,直前に御紹介がありましたアンケートですが,このアンケートにおきましては,全体のおおむね4分の3程度の回答者が,特段の条件なしに,あるいは一定の条件の下で和解合意への執行力付与に賛成であると回答しているということでありまして,制度の具体的な内容次第では執行力付与を支持する意見が多かったということになるかと存じます。そうなりますと,執行力を付与する場合,仮に付与するとして,その場合の具体的な仕組みの在り方ということが重要な問題となってまいりますけれども,その点については正に本部会における審議対象となっているところでありますので,私としましては,その点を含めて充実した審議をお願いできれば有り難いと期待しているところでございます。   それから,第3点ですけれども,ODR推進検討会は名前のようにODRの推進ということを主要なテーマとしておりますけれども,先ほども御紹介がありましたように,ODR,オンラインのメリットを十分に発揮するという観点から,執行力付与の在り方についても重要な課題であるという指摘を複数の方から頂いているところでもありますので,その点も御参考にしていただければ有り難いと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,今御説明いただいた参考資料の内容も踏まえ,部会資料4-2について,これも特段区切りませんので,どの点からでも結構ですので,御意見等,御発言を頂ければと思います。 ○手塚委員 手塚でございます。1点だけ少しODR関係のアンケートで御質問させていただきたいのですが,執行力を付与することに賛成であるという意見の前提は,消費者,労働も含めてそうなのだということなのか,それとも,消費者,労働あるいは家族関係,こういうものは含まないという前提での御意見なのでしょうか。 ○渡邊関係官 関係官の渡邊です。これはADR機関に対するアンケートですので,回答をされるADR機関において現に取り扱われている紛争の範囲を念頭に回答をされているのでないかというところがありまして,例えば家事に関する紛争のみを取り扱っているADR機関が,実情の分からない個別労働関係紛争は外すべきだとか,消費者紛争は外すべきだという意見は述べにくいのではないかと考えられるところです。質問のねらいは,御自身が運営しているADRによる和解合意に仮に執行力が付与されるとして,その点についての御意見はどうかということにありました。 ○手塚委員 ありがとうございました。 ○古田委員 古田です。執行力付与の対象となる和解合意を国際的なものに限るか,国内も含めるかという点は,恐らく理論的な問題ではなくて,執行力を付与することの必要性と,それによる弊害のおそれを比較して,立法政策としてどちらを採るかという話だと理解しています。その意味で言いますと,部会資料3ページのただし書記載の点ですけれども,外国企業同士が調停による和解契約をして,その和解合意に日本で執行力を付与するためには,現行法ですと執行証書ですとか即決和解をしなければいけないのですが,それは非常に手間が掛かるので,和解合意自体に執行力を付与する必要性は高いということが言えます。それに対し,日本国内に主たる営業所を有する日本企業同士であれば,執行証書を作成したり即決和解をする手間もそれほど高くはないので,必要性は相対的に低いということになります。そこは立法政策としてどちらを採るかという政策判断の問題ですので,立法政策で国際と国内を区別すること自体が妥当かどうかという話になります。一般論として,国際的な案件の方が執行力を付与する必要性が高いということはいえると思うのですけれども,国内事件の和解であっても執行力を付与する必要性はそれなりにあるわけです。そうすると,国内にまで執行力の付与を広げるかというのは,その必要性と弊害のおそれを比較して,どちらが勝るという立法政策的な判断をするかということになるかと思います。   今回の部会資料4ページの一番下の方ですか,国内案件については一律に執行力を付与することの弊害が大きいという指摘がありますと記載されており,6ページの(注1)ですと,弊害の例として,和解合意の成立が当事者の真意又は終局的意思に基づくものではなく,和解内容に実体的,手続的正当性が認められない場合と挙げています。しかし,今回想定されている立法では,まず消費者契約,労働契約は除くことになっていますので,問題になるのは事業者間の和解契約,あるいは一般の個人間の和解契約ということになります。かつ,執行の際には和解合意が直ちに債務名義になるわけではなくて,執行決定の手続を経ることになっていて,そこでは執行拒絶事由として,和解合意が錯誤無効であるとか,あるいは調停手続が不当であったような場合もキレイされています。そうすると,部会資料6ページの(注1)で挙げられているような弊害というのがどの程度現実的なものなのかというところは,やはり検証していく必要があるのではないかと思っています。抽象的なおそれがあることを理由に国内案件について執行力の付与を断念するというのは,やや議論が性急なのではないかという印象を持っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井でございます。国際性についてコメント申し上げたいと思います。国際性について全般については,甲案と乙案,今でいうと乙1案ですかね,どちらを採るかという問題については,前回申し上げたことですので詳しくは繰り返しません。要するに,今,古田委員もおっしゃったのですが,それから,事務局からの説明にもあったのですが,ニーズ,それから弊害,懸念点ですね,これらについて十分検討した上で,国際性を有する調停,ちなみに国際性について,今回提案されているようなものも一つの例として拡張することには賛成ですが,そういうふうに拡張した上での国際性を有する調停と,それ以外の調停,国内調停ですね,国際性がない調停に有意な差異があるのか,一方は執行力を付与し,他方は付与しないという別扱いをすることに合理的に説明できる差異があるのかどうか,これを慎重に検討すべきであると思っております。   本日,ODR推進検討会の議論状況,検討状況を一部紹介いただきましたが,先ほどの垣内幹事の御説明にもあったように,ODR推進検討会でもこれから更なる検討,取りまとめを予定しているということですので,そちらの意見,検討を踏まえて当部会でニーズ,弊害,懸念点を検討すべきであると思っております。現段階で一つの案に絞るのは適切でないと思っております。少なくとも甲案と乙1,この二つは残した上で,更なる検討をすべきであると思っています。   さて,弊害のところなのですが,これは前回私も申し上げたのですけれども,弊害が何なのかということは特定して議論をすべきである,弊害と抽象的にいうのではなく,どういうことを弊害で想定しているのかということを特定して議論をすべきあると申し上げ,それに対応して今回,6ページの(注1)ですかね,先ほど古田委員が読み上げたところなので繰り返しませんが,そういうふうに特定されております。ここはできれば今日,皆さんに御意見を伺いたいのですが,古田委員は消費者や労働を除けば,果たしてこの中身が本当に懸念があるのかという趣旨でおっしゃったのだと思いますけれども,そこはともかくとして,弊害,懸念がこれだけでよいのか,ほかにも弊害,懸念として取り上げて議論すべきものがあるのかどうか,それは是非皆さんからも御意見を頂きたいと思っております。   以上が甲案と乙1案についての問題で,あとは前回申し上げたことですので,繰り返しは避けたいと思います。   今回出てきた乙2案について,何点かコメントしたいと思います。乙2案は私の理解では,先ほどの弊害に対応するために立てられた案だと理解しております。恐らくニーズという点では,余り認証ADRとそれ以外では差はないと思いますので,弊害に対応する案だという理解です。   部会資料の5ページの説明を読みますと,調停人の適格性,手続実施者,調停人に誰がなるかという観点を中心に書かれているように読めます。このような理解,読み方を前提とするときに,若干理解し難い点があります。これも前回,山田委員から指摘があったところでしたか,日本国内で行われる民間の和解あっせん,調停では,無償で行われる場合や,あるいは個別の事情で正当業務行為として違法性が阻却される場合を除いては,弁護士が手続実施者,調停人とならなければならないということになっています。弁護士法72条ですね。それを緩和して,弁護士以外の人も手続実施者,調停人になれるようにとしたのがADR法だという理解です。もちろん弁護士の助言措置等の条件は必要ですけれども,弁護士以外の人にも緩和した,広げたというのがADR法の認証制度であるという理解です。   すなわち,調停人の資格,調停人に誰がなるかという観点からは,認証ADRというのはむしろ緩めている,緩和されている手続であるわけです。そうすると,必ずしも誰が手続実施者になるかだけで決めるわけにはいかないのだと思いますけれども,少なくとも調停人に誰がなるかという観点から言うと,緩めた方に執行力が認められて,元々縛りがあった,弁護士でなければならないとしていた方に執行力がないという結論になっているところが少し理解し難いところです。   私がこの説明を読んで,強いて説明に書かれたロジックを推し進めると,弁護士が手続実施者である和解仲介あるいは認証ADRの調停で成立した和解ということであれば,一応筋が通ると思うのですが,そこが現在の乙2案のロジックが理解し難いところでございます。私は先ほど,「強いて」と申し上げましたが,弁護士が手続実施者である場合,又は認証ADRというふうな案を私が推奨しているわけではなくて,強いてロジックを進めると,ということです。国際調停ではそういうふうには分けませんよね。ただロジックの問題として,そこは分からなかったということです。   その点はともかくとして,元々現在の認証制度は,執行力を付与するのに適格なものという観点から認証条件が定められているわけではないという理解です。仲裁法制の見直しを中心とした研究会でも実はこの点は議論になったのですが,その研究会の取りまとめ,報告書を持ってきていますが,そこにはこういうまとめになっています。110ページですかね,「ADR法における認証の制度は,国民への情報提供,弁護士法の例外的措置,これは先ほど説明したところです,時効の完成猶予項等の例外的措置を主眼としたものであり,執行力の付与を念頭に置いて適格性の基準を定めたものではない」として,「調停による和解合意について認証ADRであるか否かを問わず,裁判所による執行決定の手続を構想するなど,認証とは別の要件を定めて執行力を付与するとしても,そのことが直ちにADR法の趣旨目的に反することにはならないとの評価が可能である」という取りまとめがなされていて,私も研究会の委員として参加していたわけですが,それについては特段の大きな議論はなかったように記憶しております。それもあったので,先ほどの乙2案については疑問を持った次第です。   結論的なことを申し上げると,乙2案は,今申し上げたような,理屈としてどうかという疑問があります。こういう切り分けにするという論理的な可能性を否定するわけではありませんが,国際以外のところのどこかで線を引くということがあるとすれば,認証の有無で線を引くのが果たして合理的なのかということです。乙2は,国際以外の中でもう一つどこかで線を引くとすればという一つの考え方で,ほかにもいろいろ考え方があり得るという意味では,私は乙2は選択肢として挙げておいてよいと思いますが,そういう疑問を持っているということを指摘しておきたいと思います。   まずは,これまでも申し上げているように,甲案と乙1,すなわち国際に限るのか,それともそれ以外も含むのか,そこに有意な差があるのかということをしっかり検討をし,弊害の点でやはり問題であるという場合に,乙2,広い意味での,現在提案されているものに限らずどこかで線を引くという乙2案を検討すると,そういう順序ではないかと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 河井です。今,出井委員の意見でも大分議論されておりましたが,私も甲案,乙1案,乙2案の中で,甲案については多分皆さん余り,甲案自体にそれほど問題点,異論というのはないだろうという御判断なのかと,甲案というか,国際的な商事事件について執行力を認めるのには余り異論はないだろうと。問題は国内事件について,国際事件と何が違うのかという議論が一方であり,一方ではその弊害とは何ぞやというところが今,議論になったかと思うのですけれども,まず,一つ私の方で皆さんに御理解いただきたいのは,訴訟とか仲裁というのは実体的正義というのは離れられない,証拠に基づいて実体を判断していく,もちろん手続的正義もあるのですけれども,実体的正義ということも中核にあるのですけれども,実は日本で行われている調停の中には,必ずしも実体的正義が必要だという考えとは全く違う発想で,自主交渉援助型の対話促進型ADRというのが非常に盛んでありまして,その場合は,例えば調停人はむしろ結論の意見を述べてはならないという思想で,当事者の自主的な交渉を援助するのだということに重きを置いたADRが行われているという実務がございます。   それはどちらが優れているのか,裁断的なADRがいいのか,自主交渉促進型のADRがいいのかという観念的な議論はありますし,私自身は実際は,弁護士会のADRにしても,それ以外のADRについても,対話を促進する側面もあるし,実体的正義を追求する側面もあるし,結論をある程度和解案として出す場合,弁護士の場合は両方やっていることが多いですけれども,弁護士以外のADRでは必ずしもそうでもなくて,やはり意見を言ってはいけないという考え方もかなり根強くあって,そういう意味で,委員の皆さんが日頃考えられている和解,調停のイメージと,実際に日本でいろいろなADR機関で行われている和解,調停のイメージが必ずしも一致していないのではないかということを私は懸念しております。それが第1点。   それから,第2点目として,乙2案について,何でもかんでも認めるのではなくて,認証制度でやった方がいいのではないかという発想での乙2案かと思いますが,これも出井委員から先に御指摘があったように,司法制度改革のときに認証制度が入ってきて,その際にはいろいろな議論があったけれども,必ずしも執行力を前提としてこの制度を入れたわけではなくて,むしろ執行力は当面先延ばしの議論として認証制度を始めましょうという形で始めたという歴史的経緯もあり,それで実際の認証制度のやっていることも,手続実施者の実質的な能力というところを見ているというよりは,ADR機関がどのような形で経営されているのか,どういう人が入り込んでいるのか,要は反社会的勢力を排除できているかというところを割合中心的に今まで司法法制部で見られてきたのかなというのが,私の印象でございます。   そうだとすると,認証制度に係らしめるのがいいのかどうかというのは,そもそも理論的にも歴史的にも,余り適切ではないのではないかと思っています。弁護士だから言うのだということもあるのかもしれませんけれども,弁護士会ADR以外でも,例えば日本海運集会所ですか,日本でも一二を争う古い歴史のある仲裁調停機関ですけれども,そこも認証事業者ではないという理解です。ですから,今まで認証制度と和解調停の執行力というのは必ずしも結び付いて議論されていなかったということもあるので,乙2案を選択する場合には,認証事業者を入れるなと言っているわけではないのだけれども,認証事業者に限るという立て付けは必ずしもよろしくないと思っていまして,認証事業者以外にも正当なADRをやっている機関はございますので,そこは最低限,入ってくるような形でないと,なかなか乙2案というのは納得できるだけの理屈がないのではないかと感じております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○高杉委員 高杉でございます。前回の会議では,時間的な制約の下で十分な検討を行うことを考えると,必要性の高い国際に限定する方向で考えるのも一案であるというふうな意見を申し上げましたけれども,他方で,今回の御説明等をお伺いしまして,国内の和解合意についても一定の執行力を付与するニーズがあるということであれば,乙1案の方向も十分考えられるのではないかと現在,考え直しているところでございます。   特に,まず第1に,国際と国内の切り分けを適切,明確に行うことがなかなか難しいという問題があろうかと思います。切り分けをすればしたで多少,実務的にも,場合によっては要らぬ争い,混乱を招くこともあるかも分からないという点,そして第2に,問題が生じる蓋然性の高い一定の類型については既に除外される方向で考えられているということ,それから第3に,それ以外にも懸念される類型や,あるいは弊害が出てくるようなものについては,執行拒否事由その他の方策で対処できるのであれば,それで対処すべきであろうということ,そして第4に,これは余り大きな問題ではないと思いますが,仲裁については国際,国内,分けていないということで,調停についても分けない方が整合性は一応,形式上はとれるのではないかということで,そういうことを考えると,乙1案の方向性も十分支持できるのではないかと今,考えております。   既に古田委員,出井委員もおっしゃっているとおり,類型に応じて何が弊害となるかという点を認識した上で,執行拒否事由の中で対処できないのかどうかの検討を行えばいいのではないかと考えております。執行拒否事由である程度,様々な弊害も対処できる可能性が十分にあるとすれば,別に国内について全面的に取り入れても問題がないというふうにも考えられるかと思います。   それから,河井委員から御指摘がありましたファシリテーティブな調停という点ですが,国際調停におきましても,エバリュエーティブな調停だけではなくてファシリテーティブな調停も行われておりまして,シンガポール条約を作成する際にも,この点については山田委員に御確認いただければと思いますが,多様な調停の在り方を前提に作られているのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 ありがとうございます。垣内です。まず,先ほど冒頭に手塚委員の方から御質問のあった点につきまして,一言補足をさせていただきたいと思います。   先ほど渡邊関係官の方から御回答があったとおりなのですけれども,本日の参考資料4-2で申しますと,3ページ目,めくって見開きの右側ということになりますでしょうか,Q7というものがありまして,ここで執行力を付与する条件としてどういうものが考えられるかということについてお尋ねしております。このうち3というところですけれども,一定の類型の紛争や合意内容,例えば消費者が事業者に債務を負う内容の和解をする場合などを外すのであれば賛成であるという選択肢を設けておりましたところですけれども,これに明示的に丸を付けた方というのは13事業者で14.6%であったというような,アンケート自体の結果としてはそういう結果が出ております。ただ,その背景として,先ほど渡邊関係官の説明されたような事情もありますので,この点についてどれだけ御自身の問題として検討された上でこういう回答になったのかというのは,そこは少し割り引いて考える必要があるかと考えております。   以上が手塚委員の御質問に対する補足でありまして,本体の本日の資料4-2の本題に関してですけれども,まず,国際商事に限るのか,それとも国内も含めて考えるのかという問題につきましては,今まで多くの委員,幹事の先生方から御発言がありましたけれども,私も国内事案についてもなお検討すべきではないかと考えております。理論的に国内,国際であるからといって決定的な違いがあるということではなく,利点という点では国際商事において執行力付与に利点があるということであれば,それはあるいは程度の差はあるかもしれませんけれども,国内事案でも利点はあり,それについてのニーズもあるのだろうと私自身は考えています。特に,国際商事案件ですとかなり高額な案件というものも少なからずあるかと思われるのに対しまして,国内ですと金額としては相対的には小さい金額の事件というのも多いかと思われますけれども,そうであるからこそ,追加的なコスト,あるいは手間を掛けなければ強制執行の可能性というメリットが得られないということには問題が大きいという面もありますので,そういう面でニーズというものもあるのではないかと私個人は考えています。   それから,一般的にADRが今後更に活用されていくことが恐らく望ましいのではないかと考えておりますけれども,それは国際商事の面だけでなく国内のADRも更に使い勝手がよいものとなり,より活用される魅力のあるものになっていくということは必要だろうと考えているということもあります。   その上で,乙1案なのか乙2案なのかという問題につきまして,これは既に御指摘がありましたように,特に弊害の点をどう考えるのかということが大きく関わってくるところだろうと思います。従来,ADR検討会以来,執行力について慎重な立場が採られてきた一つの背景としまして,民間ADRでの和解合意に執行力を認めるということになると,債務名義の粗製濫造といったような,あるいは債務名義製造会社のようなものが出現するのではないかといったような懸念が指摘されてきたということで,それが今日においてなおどの程度当てはまるのかといったことについては,これは検証が必要ではないかというのは,既に御指摘のとおりかと思われます。   ただ,私は乙2案についても現段階ではなお選択肢として考慮に値するものではないかと考えておりまして,認証制度の趣旨については先ほど来,何人かの先生方から御指摘,御紹介がありましたけれども,一つには何より,国民に対して選択の,ADRを利用する際の判断の資料として,ここは認証を受けたADRであるという形で目安を提供するということが何より大きなこととして考えられていたのではないかと思われます。そうしたADR促進法での促進の対象としてふさわしいADR機関がどういう機関なのかという観点から,現在,法の6条で定められているような認証基準というものが基本的には設定されたのであろう,先ほど反社会的勢力との関係等のお話もありましたけれども,そういう関係があるようなADR機関というのは,やはり利用者が安心して利用できるADR機関ということではないだろうというようなことがまず第一にあったのではないかと思われます。   それから,認証制度の2番目の趣旨としては,法的な特例の付与ということで,御紹介のように,この点に執行力は含まれてこなかったということでありまして,その点については先延ばしになっていると。現行法で認めている,これは法の第3章ですけれども,三つの特例を認めているということで,それは時効の完成猶予,それから訴訟手続の中止,調停前置の代替,この三つの効果がこの認証の効果として正面から認められたということで,こうした効果を認めるに足りるようなADR機関としてどのようなものがあるのかという観点から認証機関,認証要件というものが定められているということかと思われます。もちろん実際上,雑則という章に含まれている弁護士法に対する報酬面での特例というものが非常に大きな問題であるということは論を俟たないわけですけれども,しかし,その点だけでこの認証基準が設定されたということでは必ずしもありませんで,先ほど申し上げたような各種の特例というのに着目して設定されたというところもあろうかと思います。現行法は執行力は認めていないわけですから,これが執行力を想定して作った基準であるというように正面から言うことは確かに難しいのだろうと思われますけれども,逆に,例えば弁護士でない手続実施者が弁護士の助言を受けるようなこともなく調停を行うであるとか,あるいは反社会的勢力等との関係も疑われるといったようなADR機関があっせんを行って成立した和解に幅広く執行力を認めてよいのかと。仮にそうしたADR機関が横行するということによって,ADR全体についてよからぬイメージが持たれる,信頼が損なわれるというようなことも,もし心配するに値することがあるのだとすれば,そういった場合には,この認証機関ということに着目するということは一つの政策的判断としては,私自身はあり得るのかなと現時点では考えております。   ただ,そうだといたしましても,例えば,弁護士のような専門職士業者が主体となる和解あっせんについて,認めないのはおかしいのではないかという議論も,これは一方であり得るところかもしれませんので,そうした部分についても更に認めていくかどうかということは検討に値する問題なのかなと考えているところです。   それから,少しその点からまた話が広がりますけれども,対象となる紛争に関しまして,今日お示しいただいている資料の2ページですけれども,いずれの案に関しましても,消費者あるいは労働者,それから家事に関する紛争を適用除外とするという想定で資料が作られております。これに対して,資料でも御指摘がありますように,家事に関する紛争で執行力に対するニーズが相当程度あるのではないかという指摘が一般にもなされていると思いますし,また,先ほど御紹介のあった検討会のヒアリングでもそうした意見というのが示されたところで,そうしますと,一概にそうしたものを除外していくということでよいのかどうかということは,更に考えていく必要があるのではないかと思われます。   また,これらの紛争はシンガポール条約の適用対象ではないということですので,これらを対象として執行力の付与を考えるという場合は,その要件等については必ずしもシンガポール条約に厳格に拘束されるということではないのではないかと思われるところでありまして,そうした観点から見ますと,認証というのは一つの切り口でありますけれども,それにとどまらず,例えば,今回この資料の後半で提案されていますオプトインの合意に関しましても,シンガポール条約の場合には,これは執行受諾文言というような形での意思表示には限定されないということであるとすれば,執行受諾文言を要求するといったような,以前の部会資料で出されていたような考え方は必ずしも採れないということになるかと思われますけれども,消費者紛争,労働紛争,あるいは家事紛争等の文脈におきましては,そうした形で和解時における慎重な意思表示をかませる形で執行力を認めるといったような規律も合理性を持ち得るのではないかと考えております。   この点に関して,仲裁法の場合ですと,附則におきまして,消費者あるいは労働関係の紛争について一定の特例的な措置を設けておりますけれども,そこではいずれも,将来生ずる紛争について,解除の可能性,あるいは効力の否定というような規律が設けられているところでありまして,既に生じている紛争についての解決,あるいは調停の場合ですと,正に当該内容に合意して解決をするという場合に,その合意の段階で強制執行もあり得るという形で意思表示がされているのであれば,仲裁法附則の考え方とパラレルに考えれば,それを必ずしも否定するということにはならないのではないかと思われるところでありまして,消費者が債務者になる場合については更に慎重な考慮が必要だろうと思われますけれども,消費者が債権者になるような条項というものについて執行力が必要でないかというようなニーズもあるいはあり得るのかなとも思われますので,その辺りも含めて,この適用除外については更に検討の余地があるのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○有田委員 有田です。実はアンケートでも何か所か確認をさせていただきたいところもありました。けれども,議論をお伺いしていて,一つだけ少し申し上げたいことがあります。   先ほど河井委員もおっしゃったことなのですが,弁護士会もそうですが,私,消費者団体ですから,司法制度改革の審議会が行われているときは全国消団連で司法担当をしておりまして,ADRの勉強会というのを司法制度改革審議会の中で別途立ち上げたところの,主婦連合会の吉岡初子さんに頼まれて随行しておりましたので,そのときの議論も十分に覚えておりますし,また,アメリカのメディエーション,それからイギリスのメディエーションも含めて勉強もさせていただきましたし,弁護士会の仲裁の学習会,弁護士さんが中心になってされているところにも参加させていただきました。それで,どれがいいとか悪いとかではないのですけれども,お話を伺っていて,仲裁と調停の違いが,もちろん今,議論をして,それをどういうふうに当てはめていくかとか,ADRの件でもこの間,多分国会でも議論されて,いろいろ意見もあり,ADR法の中で今後は執行力もというようなこともあったと記憶しております。なので,当初は私もそのヒアリング,司法制度改革審議会の後の小泉本部長が,首相が本部長になったところでのヒアリングにも対応しました。先ほどアンケートのことでと申し上げたのは,私の中の問8の中の,私的自治や任意性が重視されるべき,ADR機関による調停には執行力はなじまないという気持ちがすごくあるのです。   ただ,弁護士法第72条というのは当時もちろん議論をされていましたので,例えば,私がメディエーターとして参加したときには当然,報酬は発生しませんでしたし,話合いを促進するための,先ほど河井委員から出たような,ただ何も意見を言わないというよりも,飽くまでも考え方を強制するのではなく,権限を持たなくて,話合いを促進する。でも,それは何も言ってはいけないということではなくて,技術が求められるわけです。法律の専門家の方だといろいろなことを御存じなので,こんなことで話し合わなくても,こういう法律を適用すればいいのではないかということで,せっかくうまくいった話合いが,法律の専門家が同席すると,別の解決に持って行ってしまった経験もあります。   なので,私は執行力というのは必要だと思う気持ちと,ここの部分については拙速な結論を持たずに,少し議論をしていただきたいと考えています。それから,認証制度のこともそうなのですが,日本メディエーションセンターというところを私も含む消費者団体,弁護士の方や司法書士の方と立ち上げ,十数年行ってきました。けれども,今はそのNPO法人はもうありませんが,その法人がありました時に認証が果たして調停というか,そういうメディエーターとしてのスキルを保証するものなのかという議論を行い,認証は取りませんでした。ですから,先ほどいろいろ乙2案のことで出されていましたけれども,ウについてはもう少し,適用範囲を考えられてもいいのではないかと思っています。   反対,賛成というよりも,調停と仲裁の違いということで,2018年モデル法の1に規定があると思うのですけれども,当事者が第三者に紛争の有効的な解決の試みに対する援助を求めていること,それから,法律関係から生じた紛争又は法律関係と関連する紛争が対象であること,3には,第三者は一定の紛争解決を強制する権限を持たないことの三つに調停の本質的な要素があって,1,当事者が第三者の紛争の有効的な解決の試みに対する援助を求めていることで,交渉であり,それから,3の,第三者は一定の紛争解決を強制する権限を持たないことの要素で仲裁と区別されているということになっていると思うので,そのところが,仲裁法等の改正ですから,もちろんそれが入ってもいいのですけれども,何か話が,仲裁と調停の違いが一緒になって話されているのではないかと時々考えてしまいます。意見としては,乙2案の意見を進められているように見受けられるのですが,ウのところはもう少し考えていただきたい。それから,一定の紛争の適用除外というのは,前回の委員会のときにも私もそれは求めましたけれども,それについてももう少し検討していただきたいと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○山田委員 山田でございます。全体についての意見でございまして,後半部分は先ほど垣内幹事がおっしゃったことと大分重複をしてしまいますので,そこは簡単にということで,まず国際,国内の区別の問題について一言申し上げたいと思います。   前回も問題となりましたけれども,国際調停は比較的,手続的な質も確保されるのに対して,国内においては非常に多様であるということが前提となっていたわけですけれども,本日のお話を聞いていますと,必ずしもそうでもないように思います。同じ方向ですが,シンガポール条約の審議における議論を少し御紹介したいと思います。   ここでも,当初は執行力を付与することに懸念を持つメンバーは少なくなく,例えばEUの代表からは,調停といっても一定の構造性のある調停に限定して,その和解合意に執行力を認めるという制度にするべきではないかという意見がありました。それにより一定の質が確保できるのではないかという趣旨だったわけですけれども,その前提としては,先ほど高杉委員からも御指摘ありましたけれども,国際商事調停においても,機関調停のみならず,いわゆるプライベートメディエーションもあると。しかも,これもご指摘のあったところですが,日本のように弁護士だけが調停を実施できるという制度を採っている国の方が少数と思われます。ですので,質的な保証がない場合や,極端な場合には濫用的なものもあるという認識が当時の議論にはあったわけであります。   これに対して,確かにそのようなおそれは否定はし切れないけれども,その問題については裁判所等が執行拒否事由の判断において排除するという仕組みで一定の合意を得たということですので,国際,国内を問わず,手続の質といいましょうか,それには多様性があり得るということが1点でございます。   それから,国際,国内においても,先ほど,交渉促進的なものか,それとも,より裁断的なものか,様々なスタイルの調停があるという御紹介がありましたけれども,国際においても,むしろ日本で考えるよりは,交渉促進型をまずはやってみて,例えば,求めがあれば判断を出すといったようなタイプの調停も数多く行われていると承知をしております。他方で国内においても,弁護士の助言の有無にもよりますけれども,例えば,最初は交渉促進的に行うのだけれども,法的な評価を求めるといったADRもまた一定数あるということですので,これも国際,国内でなかなか分けられないところかと思います。   このような前提の下でもなお,この部会で国際調停には執行力を付することに一定のコンセンサスが醸成しつつあるということであれば,そして,また国内においては国内ADR法であるとか,あるいは弁護士法によって一定の制度的な質の保証がなされているということを考えますと,一層,国際,国内で峻別をするということは,理論的にももちろんですけれども,事実面においても難しいのではないかと思います。   更に言えば,国際調停のみに執行力を付するとした場合の社会的なメッセージも気になるところでありまして,国内ADRとはその程度のものなのかというネガティブな影響も想定されます。そういたしますと結局,ADR推進によって司法アクセスの拡大,紛争解決手続の選択肢の拡大,そして国民の権利関係をきちんと実現させていくという元々のADR推進の趣旨にも影響を及ぼしかねないと考えますと,両者は区別しないということが政策的にもよろしいのではないかと思います。   また,先ほど河井委員から,執行力の正当化根拠として,実体的正義といいましょうか,表象される実体権の蓋然性についても御指摘がありました。この点につきましても,日本法で執行証書の正当化根拠という点においては,既に実体権の蓋然性で正当化するということはなかなか難しく,例えば,債務名義の作成過程における債務者の関与の在り方であるとか,あるいは,事後の救済における債務者の手続保障といったことで,言わば補充的に正当化していくということかと思います。   そういう意味で,私としては乙1,乙2,合わせて広い意味での乙案というものを支持したいと思いますけれども,そこから先どのように分けるのかというのは非常に微妙な問題があろうかと思います。この点は,先ほど垣内幹事が言われたこととかなり重複をいたしますけれども,やはり,今のところは乙2でいうような認証制度というもの,この制度によって一定の質的な保証があるとともに,例えば手続の規律についても,手続の説明や終了事由等,当事者に分かりやすいシステムが作られている点から,乙2を採ることにも一定の合理性はあるように思います。   他方で,乙1を採った場合に,これはADR法が認証制度を設けたときにも正に議論されたように,誰でも調停をすることができ,その執行を求めて執行決定を求めることができるとしますと,執行決定で拒否される場合もあり得ると思います。例えば,弁護士でない人が業として行っている場合には,それだけが理由ではありませんが拒否される可能性もあり救済となり得るわけですけれども,しかし,翻って考えますと,そこまで行く前に,抽象的な執行力の可能性が一種の脅しに使われるというおそれもないではないと思われます。どのADRでもそのような弊害は否定できませんが,さはさりながら,乙2が相当ではないかと考えるのは,認証制度は予防的措置であり,制度的な保証があるということを理由としておりますので,例えば弁護士等,一定の職業倫理の非常に高いところが一定のルールの下で調停を行うということであれば,それについても執行力を与えるということで弊害の予防もできるという意味で,一つの選択肢ではないかと思っております。   それから,一定の紛争の適用除外というところですけれども,私もまだ柔軟に考える余地があるのではないかと思います。先ほど有田委員からも懸念と期待と両方があるというお話がございましたけれども,例えば消費者紛争においても,今後はさらに専門的な知識が必要となり,また,一定のきちんとした手続の下で解決をして救済を実効化していくことは一層必要になってくるのだろうと思われますので,例えばですけれども,消費者紛争については特定の消費者ADRにおける和解であれば執行力を付与するといったようなシステムの余地であるとか,あるいは,本法の位置付けはどうなるか分かりませんけれども,行政型ADRの和解については執行力の付与の可能性を残す等々のことを考えますと,この適用除外について今現在,一律にこのように排除するというのは,なお時期尚早ではないかと考えております。   差し当たって,私としては以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○春田委員 連合の春田でございます。今年もよろしくお願いいたします。   私は,調停の和解合意に執行を付与する場合に,個別労働関係紛争を適用除外とする事務局案に賛成しております。これまでも述べてきたとおりですけれども,労使当事者間の情報の質および情報量の格差,専門的知識を要する交渉力の格差,それから対等の立場で合意というのは非常に難しい。働く者の立場から,そこだけは分かっていただきたいと思っております。その意味で,シンガポール条約等を踏まえて,個別労働関係紛争の適用除外というのは適切でないか,と考えています。   前回,消費者や労働者が債権者として,事業者に対して,債務の履行を求める内容の和解合意のみ片面的に執行力を付与するという規律を設けることもあり得るのではないか,との御意見も頂いております。消費者,労働者を慮っての意見と受け止めております。けれども個別労働関係紛争を考えた場合に,バランス的にどうなのかということや,ケース・バイ・ケースで様々なケースがあり,片面的に執行力を付与されることがよいケースもあれば,そうでないケースも出てくるのではないかと思います。片面的から全面的になっていくのではないかという懸念もあり,懸念を踏まえながら,少しバランスを考えながら,検討していく必要があるのではないかと思っています。   それから甲案,乙案の話がございました。甲案の国際調停に和解合意の執行力を付与することは,付与していくべきではないかと思っております。ただ,乙案の国内に適用範囲を広げた時に,一気に適用の範囲を全面的に広げるということに対しては,本当に大丈夫なのかと思います。私は,その点の知識,経験が不足していると思いますけれども,全面的に広げることに対する懸念というのは,少し心配な部分もあると思います。段階的に進めていく方がよいと,素人なりに思っています。   そういう意味で乙2案が提案されていると思います。私は,認証ADRによる紛争解決手続を一つの範囲として区切るということについては,様々な意見を伺いながら,論理的に説明するのは非常に難しいと思いました。そこで区切るというのは難しいと思うのですが,全面的に適用範囲を広げるということよりも,どこかで範囲というのは少し持ちながら,段階的に進めていくということは重要と思っております。そこは私も解を持っていないのですけれども,そのまま乙1案ではないとは,今のところ認識しています。これまでも意見があったとおり,「弊害」なども少し議論しながら,適用範囲の一番ふさわしいところを検討していただければ,と思っているところです。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○髙畑委員 ありがとうございます。資料の国際性と必要性のところで少し議論が,そもそもなのですけれども,逆なのかなと思っていたところがあって,もちろん私自身はいわゆる国際性,商事性のあるものにしか余り携わったことがないので,世界が見えていないのかもしれないのですけれども,恐らくメディエーションのプロセスについてどういうふうに,本当に必要なときにどうやってエンフォーシャブルにするかという議論というのは,もう随分前から行われていて,そうですよね,よくある契約書の典型的な例だと,もう本当にコンシリエーション,メディエーション,アビトレーションと三つのクローズが全部一緒に並んでいるみたいなディスピュートレゾレーションクローズをよく見ていたので,そもそもメディエーションで終われば,当事者は極めて,特に執行地の当事者は幸せなわけです。要するに,コストもそうですし時間も,もう少しいうと守秘性というか,そういったところも十分確保されますので,メディエーションで終わればいいのですけれども,やはりせっかくメディエーションが成立しても,当事者がその後,いろいろな事情が変化したり,気持ちが変わったりして,やはりきちんと任意に支払ってこない当事者がいたりするものですから,そうすると,10年ぐらい前だとどうしていたかというと,皆,そのままコートに行ってしまうということで,そうすると,またすごく法外な,特にアメリカの場合は法外なお金が掛かるということで,そこで問題になる。ですから,メディエーションの条項も入れて,更にアビトレーションの,全部トリプルエーでやっていますので,全部入れるという形になっていたというところだと思うのです。   やはり同じようなことはヨーロッパでもずっと言われていて,EUのディレクティブレバレートも,もう10年以上前から,メディエーションをどういうふうに最終的にエンフォーシャブルなものにするかということは,非常に皆さん悩んでいたと思うのです。そのときに,そもそも国際性とか商事性とか,そんなことは考えていなくて,むしろ心配していたのは,本当はメディエーションで終わればいいのだけれども,そうはいっても,うそとはいわないけれども,合意できたのに合意事項を守ってこない当事者がいるのでどうしようかと,そういったところだったと思うのです。   というところを考えたときに,そもそも今回はこの会は,要するにシンガポール条約との整合性というか,そういったところが気になるので,国際性とか商事性とかいう議論になっていますけれども,そもそも調停をする当事者が,最初は調停でいいと思った,調停を選んだ,調停のよさ,コストの問題であるとか,期間の問題であるとか,そういったところ,調停のよさというのはやはり残すべきですし,必ずしも執行力を付与することを望まない当事者というのもいるかもしれない。ですから,多分そういったアンケートの結果になっているのだと思うのです。日本の場合は即決和解を始め,日本の裁判所で調停で和解条項をきちんとエンフォーシャブルにすることができるので,アメリカみたいに高いお金ではなくて,比較的安くエンフォーシャブルにできるので,実はアンケートの結果を見て,皆さん意外と困っていないのだなというところはあったのですけれども,そうだとすると,日本の裁判制度のよさを生かしたまま上手に,一番ひどいのはアメリカだと思うのですけれども,トリプルエーの人たちが困っているようなことをどうやって,日本でも同じことができるのですよという。ただ,日本で裁判をやっても高くないということは皆さん知っていますので,それほど心配はないかと思いますけれども,ただ,法令上,明らかにディビエートしてしまうと,日本は少し難しいのかなというような見せ方をするのは,調停にしても仲裁にしても,日本がいろいろな意味で,日本企業の国際競争力を強化する観点から,一生懸命振興していこうとしている中で,少し逆行してしまう動きなのかなと。   その一方で,アメリカでもヨーロッパでも多分ここ10年以上議論されていることは,やはり調停をエンフォーシャブルにするということはいろいろ弊害があるだろうということは,皆さんやはり感じられているところがあると思うのです。恐らく大きく二つあって,一つはやはりオーソリティーの問題があって,そこをどういうふうに定義するかというか,弊害が起こるであろう,反対意見があるであろう,あとは,司法制度の枠組みの中で受け入れられないものになるであろうことを上手に定義していくかということを,あとは,要するにメディエーターのクオリフィケーションの問題というか,そういったことをきちんと決めていけば,先ほどの,乙案になりますけれども,乙案の1と2の違いが,認証ADR機関という話が出ましたけれども,機関の問題ではなくて,むしろメディエーターの資質の問題であるとか,実態的に中身も含めて,最終的に何かの権威付けをするときにも,皆さんが納得するというか,そういう手続になるかどうかというところによるのかなと考えております。よろしくお願いします。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 私は,前回以降いろいろ自分でも考えてみて,あと,弁護士会等の中での意見等も聴いてみた上で,現時点では甲案がいいと思っています。それで,国際的な調停における和解に執行力を付するというのは今,世界の潮流にもなっておりますし,国際取引紛争における裁判による解決というのが非常にお金も時間も掛かるということから,調停による解決というものへの期待が高まっている一方で,せっかく調停の場で合意をしても,その合意の中身が,例えば分割払いになっているとか,強制執行力を伴わないと実行性に欠けるおそれがある場合に,そういう和解ができない。あるいは,シンガポール条約との関係で言うと,これは日本での調停だけ執行力を付与するとかそういう仕組みではなくて,むしろ日本で執行するという話なので,もし日本がその枠組みに入らない場合にどうなるかというと,日本企業が国際取引紛争に巻き込まれたというときに,裁判ではなく調停で解決しようというときに,外国企業でシンガポール条約に加入している国の当事者から見ると,自分が払うような和解の場合は執行力があるのだけれども,日本企業が払うような和解をしても執行力がないという非対称性があるわけです。それによって日本企業は,せっかく裁判をせずに調停でまとまるかもしれないような事件についても,執行力がない,しかも日本企業についてだけそういう障害があるということになると,結局調停に応じてもらえないということもあり得るので,そこは私は需要があると思っています。   他方で国内調停については,アンケートを見ても,関連業界,あるいは関連するコミュニティーの中で,これは是非執行力が必要だという意見がある程度広く存在しているかというと,あったらいいな,みたいな意見はあるかもしれませんけれども,反対をされているところもありますし,全部について執行力を消費者,労働,家庭関係を除いて付与するというのは,なかなか総意としての了解が得られないのではないかというのが私の感触なのです。   それで,前回は,だとすると国内については一定のものだけという発想は可能なのだろうかということで,認証ADRだけにするという案もあるかもしれませんねと申し上げたのですが,その後,やはり東京3会のADRは認証でないのだけれども大阪は認証だとか,これはADRの管理体制,品質が違うということにはならないと思いますし,方針でそういうふうになっていると思うのですけれども,認証ADRかどうかで線を区切るというのは,今の東京3会と大阪の違いだけをとっても,かなり実務的には難しいと思うので,乙2は実際問題として難しいのではないかと思います。   結局,消去法になってしまうのかもしれませんけれども,甲案でいっているところの国際調停についての需要があるので,これは先送りせずに,是非今回,改正をしてほしいと思うのですが,国内にまで広げるという場合に,なかなかうまい線引きがすぐ出てこないだろうと,全部というのも総意が得られないだろうということで,私としては甲案がいいと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○江口幹事 国土交通省の江口といいます。ミクロな点ですけれども,一つ質問をさせていただいて,その上で少しコメントをさせていただきたいと思います。質問につきましては,部会資料4-2で,「この法律は」と,甲,乙1,乙2と書いてありますが,これは新法を予定されていますか。 ○福田幹事 福田からお答えします。この点は,どこまでを適用範囲にするかによって,何法を改正するのか,又は新法を立てるのかというのは変わってくると思いますので,今現在,どの法律というのは決めておりません。 ○江口幹事 なるほど,分かりました。それでは,コメントを少しさせていただきます。今までの議論の視点とは全く違う観点になりますが,仮に乙2案が軸になったとしたら,私は何の仕事をしているかといいますと,国土交通省で建設工事請負契約に関する紛争の処理をしております建設工事紛争審査会の事務局長をしています。私のところで,つまり中央で年間新規40件受けていて,処理をしているのですけれども,弁護士会でも同様の事務をされていると思うのです。   乙2案で行くと,弁護士会はきっと認証紛争処理機関なのですかね,仮にそうだとしたら,そこで執行力の付与がされて,一方で我々の仕事は建設業法に基づいて,特別法に基づく行政型のADR機関ということなので,そこで法律的な手当てをすればいいのですけれども,少し凸凹になってしまう。要は,利用者,つまり紛争当事者の視点で行けば,多分,紛争当事者は知らないと思うのです。知らないで,いろいろな利便性,例えば県庁で処理するのか,国交省で処理するのか,又は地域の弁護士会で処理するのか,そういったいろいろな利便性を考えて,申請を出したのだけれども,結果として,認証紛争処理機関である弁護士会で処理されたものについては執行力の付与が付いていて,そうでないところでは執行力の付与はないと。私も今,頭が整理できていなくて,少し凸凹が生じてしまうのが,どうなのかなと。それはもちろん,我々,建設業法で法的に手当てをして,弁護士会で処理するものと同様の執行力を付与するという形で処理すればよいと思うのですが,一方で,弁護士会以外のところでどなたがこういった調停をされているのか正直言って,承知していないので,利用者目線,つまり紛争当事者目線に立つと,自分がよかれと思って申請した処理機関によって,執行力付与の有無について差あることが本当に利用者目線でいいのかなというのは,若干疑問というか,自分自身の中で頭が整理されていないということを少しコメントさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。今の点は,行政型ADRと民間のADR法で規律されているところで必ずしも一致していなくて,ただ,今,例えば建設業法だと,25条16とか25条17という条文を作られて,恐らくADR法並びで,この時効の完成猶予とか訴訟手続の中止みたいな規定を作られていると,そこで平仄が合わせられているということになると思うので,恐らく執行力についても,仮に乙2案みたいなことになれば,そういうようなそれぞれの省庁でお考えを頂くという。 ○江口幹事 私自身は山本部会長のコメントで落ちているのですけれども,ただ,私がコメントする立場にないのですが,行政型ADR,様々な分野があって,国交省だけでも複数あって,きれいに整理できるのかなというのは若干,駄目ということではなくて,不安があるというか,少しどうなのだろうという思いがあるということだけコメントさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございます。御指摘いただきました。   それでは,最高裁の方で。 ○渡邉幹事 2点ほど指摘だけさせていただきます。   まず1点目ですが,先ほど来,債務名義の粗製濫造が起こるのではないかという御指摘に対し,裁判所が執行拒否事由の審理をすることによってある程度スクリーニングができるのではないかとの御期待のお言葉を頂いているところでございます。これにつきましては,従前から申し上げているところもございますが,実際,裁判所が,執行拒否事由があるかどうかを認定するに当たっては,審理において何らかの端緒が必要であると思っております。そういった端緒が審理に出てくるようであればいいのですが,端緒がどのような形で出てくるのかが全く想像できない中で,裁判所において,きちんと執行拒否事由があるとしてスクリーニングできるのかについては,裁判所としては,心配をしているところでございます。その辺についても御留意いただいて御議論いただきたいと考えているところでございます。   そのような問題意識を踏まえまして,債務名義の質を担保するためにどのような方法があるのかという点については,認証ADR機関に限定する乙2案のようなものがいいのかどうかも含めて,引き続き御議論いただきたいと思っております。   もう1点目については,紛争の適用除外の関係でございます。家事紛争について,これは先ほど,一定のニーズがあるのではないかとの御指摘もあったところであり,そういったニーズがあること自体を否定するつもりはございません。しかし,今回の資料4-2の6ページ,4の(注3)に記載のとおり,家事紛争の中にはかなり様々なものが含まれており,例えば,両親が話合いで合意に至った結果,合意の効果が両親のみならず子供に及んでしまうといった類型もあり,家事紛争は,単に当事者の合意のみならず,公益的,後見的に考えなければいけない事件類型であると思っております。また,実際の事件の中ではDVや経済的格差といった問題が背景にあり,当事者間の力の不均衡が想定される紛争でもあります。以上の点に御留意いただいた上で,慎重に御議論いただきたいと考えているところでございます。 ○原田委員 原田です。経団連の経済法規委員会の企画部会で意見を照会しましたので,全体的なコメントを御紹介させていただければと思います。   三つございまして,一つは,まず執行力の付与については,シンガポール条約の枠組み内であれば和解合意に執行力を付与することに賛成とする意見が多く,コストの低減,解決の迅速化,選択肢が増えることによる,より柔軟な紛争解決などといった期待も寄せられております。   二つ目は,執行力の付与に当たっては,無条件に付与することには否定的で,例えば,双方当事者が合意してその旨を和解契約書に記載するなど,一定の条件の下に付与するのであれば賛成との声が多くございました。これは冒頭御紹介いただいたアンケートとも整合する方向かと思います。   最後,三つ目は,仮にシンガポール条約を超える枠組みで執行力を付与することを想定した場合の,執行力の付与を許容できる紛争の相手方,類型に関しては,産業界の中で意見が分かれており,一定の方向性を見いだして皆様に御紹介することは難しい状況にございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 東北大の今津でございます。御議論をお聞きしておりまして,私は最初は甲案のような形で国際性を有するものだけに限ってもいいのではないかというような印象を持っていたのですけれども,委員の皆さんの中には,やはり乙案のように国内のものについても広げた方がいいという御意見もあるようでして,少し態度決定に迷ってきているという状況であります。   国内に関して仮に広げる場合に,どういうような形がいいのかという点に関してですけれども,まず前提として,私は研究者で実務のことを全然存じ上げないので,少しお伺いしたいのですけれども,仮に入れたとして,どのぐらい利用される見込みがあるか,ニーズがあるかというところで,既存の制度の利用では賄えないようなものが確かにあるということであれば,導入する必要性が認められるところかと思いますので,その辺り,こういう場合は調停には執行力が要るというような御意見がおありの方,是非お聴きしたいと思っております。   仮にそういったニーズがあるとすれば,どういうふうに導入するかという問題になると思うのですけれども,その場合は既存の債務名義とどういうふうにバランスをとるかというところを考えていかないといけないというところかと思います。前回少し御紹介があったように,執行受諾文言がこの場合も要るのではないかというような前提で,恐らく御議論されていると思うのですけれども,そうなると,現在の執行証書と似たような内容のものが想定されることになろうかと思います。その場合,執行証書は公証人が作るというところで一つ,限定が掛かっていますので,それとの均衡で言いますと,乙2案のような形で,それが認証ADRという形なのかどうかは別として,何らかの作成主体の限定というものが掛かってくるのでないと,少し既存のものとのバランスを失する可能性があるので,その辺りを考慮すべきかと思います。   もちろん事前の,作成主体とか内容の縛りとともに,全体のバランスという意味では,拒否事由をどういうふうに定めるかというところも問題になってくると思いますので,議論の進め方として,最初の導入するかどうか決まらないと要件について詳しく議論できないということがあるかと思うのですけれども,全体的にどういう仕組みになるかということも,やはり導入するかどうかの判断に関わってきそうなところかと思いますので,併せて念頭に置きながら議論していただきたいなというところであります。 ○山本部会長 ありがとうございました。どの程度使われるかというのは,誰も答えられないような気がするけれども,渡邊さん,何かコメントはありますか。 ○渡邊関係官 関係官の渡邊です。ニーズの背景となる実務の状況につきましては,アンケートを適宜御参照いただきたいと思いますが,認証を取得された民間ADRの利用状況などの実情について簡単に御紹介させていただきます。まず,現在認証を取得したADR事業者は158あります。認証ADR事業者からは毎年事業報告書を提出していただいておりまして,その事業報告書の中には,毎年どれぐらいの受理件数があるのかとか,あるいは既済件数がどれぐらいか,また,その既済の内訳,つまり和解が成立したのか,あるいは応諾してもらえなかったのか,そういったようなところを報告していただいているところでございます。最新のものとしましては平成30年度のものになりますが,受理件数は1,654件,既済件数が1,326件,そのうち和解が成立したものが723件ということでございまして,既済件数に占める割合は41%で,大体4割近くが和解で終了しているという実情にあります。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 今の話に一つ付け加えさせていただきます。件数の割に和解率が高いか低いかという問題があるのですが,その前に,民間のADRですと,応諾率といいまして,そもそもこの調停の場に出てこない,場に出てくることを拒否するという割合がかなりあります。手元に資料を今日,持ってきていないのですが,これはかなり高いです。したがって,もし応諾して出てきた場合にはかなりの割合で調停が成立するということが言えようかと思います。この点は実情として言えるかと思います。   それから,先ほど今津委員の御質問にありました,これも既に私の方で一つ述べているのですが,既存の制度で公正証書とか即決和解等というものがあるということですが,これは既に事務当局の方で用意された今回のペーパーにも少し紹介されておりましたけれども,要するに,当事者同士でこの執行の必要性があるというのは,調停合意ができてかなりたってから,相手が債務の履行をしなくなったことが現実の問題となったときに正しく問題になる。そのときには相手方が執行するという合意をするということはおよそ考えられませんから,そのような手段が観念的に抽象的にあるからといって,現実にはそれを利用することは難しい。   それから,和解的仲裁判断という制度もあるわけです。私どものセンターでも和解的仲裁判断が実情としてかなりあるということは紹介しておりますけれども,これも,やむを得ずこのような方法を採っているということでありまして,実際のところ,和解合意に執行力が付与されているというのであれば,それはもう何の問題もないということなのだろうと思います。   それから,私は,既に述べさせていただいておりますとおり,国内の和解合意にも執行力を付与すべきであるという考え方,乙案の方です。国際的なものにのみ執行力を付与して国内のものに付与しないというのは,感覚的な言い方ですけれども,いかにもバランスが悪いという感じがいたします。あとは乙1案か乙2案については,私どものセンターは認証を得ておりますので,乙1でも乙2でもどちらでもいいということになろうかと思います。個人的には乙1案かなとは考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○竹下幹事 一橋大学の竹下でございます。まず,国際性のところは第1回から発言させていただいているところでございますが,甲案ぐらい広げていただければ,前回私が発言をした懸念の事案,すなわち日本企業の海外の営業所が主となって契約の当事者となる,それに対して当該外国の企業との間で取引を行う,そういった場合も③なんかで,①や②のUNCITRALではカバーされないようなものが③で多分,カバーされるということなのだと思いますので,これぐらい広げれば,今日も出てきましたが,一定のニーズにも対応することができるのではないか,日本で執行が可能だからということで,日本企業としては海外での紛争を和解合意の方向に持って行きやすいのではないかと思います。甲案か乙案かはなかなか難しいところで,私自身は前回以来申し上げているとおり,本当に日本にとっての純国内的なものについて弊害って何なのか,そこのところを具体的にして考えていくべきという意見でして,それがある,ない,様々な意見がまだあるのかなというのが本日の議論を伺った感想です。そこのところは国内の話ですので,なかなか私としては的確に意見を述べることができず,大変申し訳ありません。   別の点で少し伺いたいことがございますが,6ページの2の方の話になってくるのですが,この法律は,和解合意の当事者が当該和解合意に基づいて民事執行をすることができる旨の合意,ここの当該というのは,和解合意の内容が明らかになっていて,その明らかになった内容について,執行でいいですよと合意をしたことを意味しているのか,それとも,実務を知りませんので,この点は弁護士の先生方などに教えていただければと思いますが,例えば契約中なんかで,和解で解決したときにはもう執行しますよ,シンガポール条約に依拠しますよということが書いてあって,それに基づいて和解がされたようなとき,これは今の文言には含まれているのか,含まれていないのか,まずはそこのところをお教えいただければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。今の点も重要な御指摘だと思っております。事務当局の案としましては,冒頭に御説明しましたように,時的な限定をなるべく設けない形で提案をしたいと思っております。ですので,実際に和解合意ができたことを前提にした規律とは読まれないようにしたいと思っているということは申し上げたいと思います。 ○竹下幹事 すなわち,当該和解合意に基づいて民事執行することができる旨の合意というのは,その内容で執行していいよという合意でなかったとしても,将来作られる和解合意に基づいて執行を認めるというような場合でも構わないという。 ○福田幹事 福田でございます。どこまで広がるかというところがあるのですけれども,少なくとも調停手続に入ってきたときに,これから将来この手続を進めていって,その出来上がった和解合意には執行力を付与しましょうということであれば,私は十分拾い得るものだと思っているのですけれども,紛争が起こる前に定めたような合意でもいいのかというのは,私としてはまだ整理が付いていないところでございます。 ○竹下幹事 なるほど,そこはなお検討ということであれば,私も考えさせていただきます。ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。手短に。先ほど今津幹事から御質問のあった件ですが,渡邊関係官,吉野委員からも触れられたと思いますけれども,私からも簡単に述べておきたいと思います。   今日の参考資料4-2を御覧ください。4-2自体も,果たしてどこまでリライオンしていいのかという問題はございますが,ここに表れている限りは,例えばQ2,和解成立後に金銭給付等の履行を約束する内容の和解条項を作成したことがありますかと,これは要するに,履行を残す和解ですね,そういうのを作ったことがあるところが93事業者,6割ぐらいあると,これが潜在的には執行力を与える必要性があるかもしれないところです。   それから,これは吉野委員から御指摘がありましたけれども,Q3,ここに執行力を与えるいわゆる代替手段ですね,それが制度的なものとして三つほど書かれています。執行証書,裁判所のいわゆる即決和解,それから和解に基づく仲裁判断,仲裁法38条1項決定と,この三つが,そういう措置を採ったことがあるというのが14事業者,7事業者,9事業者とあって,これは結構,こういうものが正に執行力のニーズになってくるのではないかと思います。   ただ,これは逆に言うと,現在こういう代替手段があるという意味にもなって,ニーズの点では両方いえることだと思います。特に仲裁法38条1項決定は,和解をして,仲裁合意をして,さらにこれは裁判所の執行決定が必要になります,それで債務名義になるという仕組みで,現在構想されている,和解をして,執行受諾合意をして,更に執行決定というのに結構似ているのです。執行証書と即決和解は執行決定の必要なくて,そのまま債務名義になりますので,少なくとも3番の和解的仲裁判断,38条1項決定については,かなりパラレルになるのではないかと思います。それを,代替手段があるからニーズがないというか,正にそれは,そういうものを今,便法でやっているから,そこを直接,和解に執行決定を経て執行力を与えるようにすべきであるということになるか,ここは恐らく議論が分かれるところであると思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,予測されたことかもしれませんが,今日,3案を提示していただきましたが,それぞれに一定の御支持があったものと認識しましたので,それを踏まえて中間試案,どういう形でパブリックコメントで意見を伺うかというのを更に当部会でお考えを頂くということになろうかと思います。   それでは,よろしければ,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   次回の議事日程等について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。   本日も長時間にわたりまして活発な御議論を頂きまして,どうもありがとうございました。   次回の日程は2月12日金曜日,午後1時30分からを予定しております。場所につきましては,また追って御連絡をさせていただきます。   議題につきましては,本日いろいろな御意見がありまして,これまでもたくさんのいろいろな御意見を頂きましたので,そこをうまく取り込みつつ,中間試案のたたき台を提示できるように準備を進めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本部会長 それでは,仲裁法制部会第4回会議はこれにて閉会にさせていただきます。   本日も熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。 -了-