法制審議会 民法(親子法制)部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  令和2年10月27日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時19分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  嫡出否認制度の見直し(3)-その他の見直し-(二読)(続き)         嫡出推定制度の見直しに関する各論点の補充的検討 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第11回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   まず,本日を含めたこの部会の開催方法等につきまして,事務当局の方から説明を頂きます。 ○平田幹事 当面のスケジュールについてですが,次回会議より中間試案の取りまとめに向けた検討を始め,来年2月又は3月の部会で中間試案を取りまとめられればと考えております。その後,パブリックコメント手続に付させていただき,その間ヒアリングを実施したいと考えております。  ○大村部会長 ありがとうございました。   今の御説明につきまして御質問ございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,本日の議題に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきたいと思います。これも事務当局の方でお願いいたします。 ○濱岡関係官 今回の配布資料は,事前に送付させていただきました部会資料11になります。  ○大村部会長 資料を御確認いただければと思います。   本日の審議に入りたいと思いますが,本日は前回の積み残し分,部会資料の10-1の8ページの「前夫が再婚後の夫の子との推定を否認する場合の要件」という部分,それから,同じ10-1の13ページに出てまいります「関連する論点」というところになりますけれども,子自身によって行使される否認権行使の効果,これらの点と,それから新しい資料,部会資料の11の,こちらは第1が「子自身によって行使される子の否認権」,第2が7ページの「父子関係の当事者が死亡した場合の規律」,そして第3が15ページの「認知に関する規律の見直し」,最後が21ページの第4「『嫡出』の用語の見直し」という構成になっておりますけれども,この資料につきまして御審議を頂くことを予定しております。   審議の順序についてですけれども,まず,前回の積み残し分のうちの「前夫が再婚後の夫の子との推定を否認する場合の要件」,資料10-1の8ページになりますがこの部分について御議論を頂きまして,次に「子自身によって行使される子の否認権」,部会資料の11の第1と,それから前回に積み残した部分のうちの残る部分,子自身によって行使される否認権行使の効果の部分,資料10-1の第6の13ページ以下ですけれども,ここの部分と関連いたしますので,ここはまとめて御議論を頂きたいと思っております。その上で,3番目に「父子関係の当事者が死亡した場合の規律」という部分について御議論を頂きまして,最後に4番目に「認知に関する規律の見直し」と「『嫡出』の用語の見直し」をあわせて議論いただくということで,4つに分けて進めさせていただきたいと考えております。   そこで,最初に,部会資料の10-1の第6の2,8ページの部分ですけれども,この部分につきまして事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○濱岡関係官 それでは,御説明いたします。お手元の部会資料の10-1の8ページを御覧ください。簡単に御説明させていただきたいと思います。   ここは,「前夫が再婚後の夫の子との推定を否認する場合の要件」についてです。   再婚後の夫と子が実質的な家族として安定的な生活を送っているようなときに,生物学上の父子関係がない前夫が再婚後の夫との父子関係を否定することを防ぐための規律として,甲案は原告適格として前夫に生物学上の父子関係を必要とすることを求めるもので,乙案は,子の福祉に反することが明らかな場合には前夫は否認権の行使ができないとするものです。甲案に関しては,生物学上の父子関係を要件とすることは避けるべきである一方で,先ほど申し上げた弊害を防ぐ必要があるとの御指摘を頂いたため,乙案として子の福祉という抽象化した要件を提案しております。   これらの点について御意見を頂けると幸いです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂きたいと思います。 ○幡野幹事 甲案について,母親がDNA鑑定に応じるか否かという観点から1点コメントがございます。例えばですが,前夫から子の否認権を行使するという際に,子の代理人として母親がそのDNA鑑定に応じるかどうかということが問題になる場面において,前夫と子どもとの間に遺伝的な親子関係がない場合でも,母親がDNA鑑定に応じるかどうかちゅうちょする場合があり得るように思います。どういう場合かというと,再婚後の夫が父親ではない可能性があるという場合に,このDNA鑑定をすることによって安定した生活を送っている再婚後の夫との親子関係が明らかにされては困るということで,前夫との遺伝的な親子関係がないということを確信していても,DNA鑑定に応じないということがあり得るように思います。仮にこの甲案を採るのであれば,再婚後の夫との間の親子関係があるかどうかというのをこの場面で明らかにするのは必要ではない上に,有害な効果をもたらし得るということになるかと思いますので,ここで明らかにするのはあくまでも前夫との間の親子関係の有無である,そのような目的でのみDNA鑑定を行うということを明示する必要があるように思いました。   その上でなんですけれども,事務局にお伺いしたいことが1点ございます。今度は前夫との間の親子関係があるというときに,甲案を採って原告適格が認められたという場合,その上で何を審理するのかということについてお伺いしたいと思います。もう親子関係があるという原告適格が満たされた後に,何か審理することというのはこの場合出てきますでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。   原告適格として前夫に生物学上の父子関係を必要とすると書かれていますが,この審理の具体的なやり方はどうなるのか,最初の御指摘もその点に関わるように思いますけれども,この点につき,何か補足の説明がありましたらお願いいたします。 ○平田幹事 御指摘のとおり,確かにDNA型鑑定をしてしまっても,前夫との関係で親子関係があるというような話になった場合については,その先審理することは余りないのかもしれませんが,ただ,原告適格を判断する上で何を資料として判断するかというところについては少し議論があるのかもしれません。 ○幡野幹事 ありがとうございます。   そうなると,再婚後の夫の子との推定を否認するということではありますが,仮にその原告適格が満たされた場合に,それ以上何か審理することがないというのであれば,この甲案を採った場合,審理をしているのは前の夫と子との間に親子関係があるかどうかということだけ審理しており,再婚後の夫とその子との間の親子関係というのは審理の対象になっていないように思います。実際に裁判で何を判断するかということを考える場合再婚後の夫との推定を否認するというほかの訴えとの関係で,かなり異質な訴えの類型になってくるのではないかと思いました。むしろこの訴えというのは,後婚の夫と重複することによっていったん奪われた推定を前夫が回復するための訴えという性質が含まれているように思います。そういう意味でほかの否認の訴えとは性質が異なる部分があり,さらに,先ほど申し上げたとおり,再婚後の夫と子との間の親子関係をここで審理することは有害な効果をもたらす場合があるので,むしろ制度上も別類型として分けた方がいいのではないかと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の案のような要件を課したときに,これをどう位置付けるかということについての御指摘を頂きましたけれども。 ○平田幹事 1点だけ補足させていただければ,理論的には甲案で提案しているのは飽くまでも訴訟要件ということで,原告適格ということですので,一応,本案として再婚の夫との父子関係が問題になるとは考えられます。ただ,実際には,その前夫との関係で父子関係が99.9999%あるときに,再婚の夫の関係で父子関係が存在する確率が限りなく低くなるというところで,ご指摘の部分は,その訴訟要件の審理と本案の審理との関係をどのように考えるかというところかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見いかがでしょうか。今の点に関連してでも結構ですし,他の点についてでも結構ですが。 ○窪田委員 今の幡野幹事から出たことについて,私も全く同じ感想を持ちます。訴訟要件だと言いながら,あるいは不適格であると言いながら,実質的な問題をやはりここで扱うことになるのではないかという点です。それに関連して,あと2点,幡野幹事も多分同じような問題意識を持っておられるのではないかと思うのですが,原告適格としてと言いながら,ここでやはりDNA鑑定をやることになってしまうと,そこでいろいろな事実が明らかになってしまうわけです。後婚の父子関係を維持しようかどうかとかというのではなくて,むしろそこで形成されていたものをこの原告適格の審査によって壊してしまう可能性もある,それだけ非常に大きな側面があるのではないかという点が1点です。   それともう一つは,甲案についての説明の中にも書かれているのですが,前夫と子との間に生物学上の父子関係がある場合には,これを行使することについて正当な利益があるというような形で,血縁関係,生物学上の親子関係というのがやはり否認の根拠になるのだということを貫くのであれば,実はこれは前婚の夫と後婚の夫の父子関係だけではなくて,一般的に成り立ち得る可能性があるのだろうと思います。そうした場合に,生物学上の父子関係があれば,今ある法的な父子関係を否認することができるという潜在的な可能性があって,それを一体なぜ前婚の場合だけ認められるのかということについてきちんと説明が必要だろうと思います。それがうまくできない場合には,徹底した生物学上の親子関係というのが前面に出てきてしまうという可能性があるような気がしています。乙案でうまく制約を描けているかどうかは問題ではあると思うのですが,甲案のような形で仮に原告適格としてという形であったとしても,これを求めることについて,私自身はかなり慎重に考えるべきではないかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   垣内幹事から手が挙がっておりますので,垣内幹事,お願いいたします。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。   今議論されている点に関してなんですけれども,確かに訴訟要件に関する審理であるとはいいながら,甲案を採った場合に,結局その前夫の方で親子関係,父子関係があるということがDNA鑑定などで明らかになりますと,これは反射的に後婚の夫とは生物学上の父子関係がないということが明白だということになりますので,請求認容の本案判決をすることになるということなのだろうというように思います。ただ,他方で,前夫の方では父子関係があるとは必ずしも言えないという結果になることもあり得るわけでありまして,その場合については原告適格が認められないということになるわけですから,後婚の夫について本当に父子関係があるかどうかという正に本案の問題については立ち入らないことになる,そういった可能性を認めるということに,正にこの甲案という考え方を採る意義があるんだろうと思います。   確かに前夫との父子関係が明らかになることによって,反射的に後婚の夫は父子関係がないということが分かってしまうということは問題ではないかという見方もあり得るのかもしれませんけれども,仮に原告適格を限定しないと致しますと,乙案がどの程度そういった事例で異なる機能の仕方をするのかということにも依存をするかと思いますけれども,仮に乙案のことを一旦度外視しまして,甲案のような原告適格の限定がないと致しますと,結局は本案の問題として再婚後の夫の子であるのかどうかということを審理せざるを得ないはずであり,その結果,それがそうでないという結果になるかもしれないということを防ぐ手立てがないということに帰するわけですので,正にそこが問題なのではないかと私は考えております。   ですので,乙案で同様の弊害を阻止できるということなのであれば,乙案というのもあり得る可能性ではあろうかと思いますけれども,先ほど御指摘のあったような理由で甲案が採り得ないということになるのかどうかという点については,私自身は必ずしもそうではないのではないか,元々,前夫について原告適格を認めることの根拠自体は,生物学上の父子であるということだけではなくて,嫡出推定をもし嫡出否認がされれば受ける地位にあるということが根拠になっているということではある,そこは出発点であると思いますので,仮にこうした限定を課したとしても,そのことから直ちに生物学上の父子関係がある者であれば何人も嫡出否認の訴えを提起できるという結論には至らないのだろうというように思います。   関係して,乙案について1点御質問させていただきたい点があるのですけれども,乙案の場合には,子の福祉に反することが明らかな場合には,再婚後の夫の子との推定を否認することができないという書き方がされているわけなんですけれども,ここでその子の福祉に反することが明らかであると判断された場合に,判決としては請求棄却の本案判決をするということであるのか,それとも否認権行使の適法性がないということで訴え却下の訴訟判決をするということになるのか,その辺についてはいかがでしょうか。この点は判決の既判力の内容等に関係してくるところがあろうかと思いますので,ちょっと前提として御教示いただければ有り難いと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   甲案につきましては,これを動かすときに適切な範囲で審理の対象を絞るということと,それから理由付けをどうするかというところについて検討が必要だという御指摘を頂いたものと理解しました。乙案については,もし乙案がうまくいくならばそれでいいのかもしれないけれども,これがうまくいくだろうかという御懸念も皆さんの間にあるように感じました。その上で,今,最後に垣内幹事からされた質問につきまして,もし事務当局の方で何かありましたら。 ○平田幹事 結論から申し上げますと,ここの部分で棄却になるのか却下になるのかというところにつきましては,今後検討していかなければならないとは考えております。おっしゃるとおり,棄却になった場合には既判力,対世効等の問題が生じてくるのだろうとは思いますので,そこを含めて乙案を採るとなった場合に,更に検討を進める必要があると考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでしょうか。   どうぞ,井上委員。 ○井上委員 また感想めいた意見です。   8ページの下段の甲案ですけれども,嫡出推定制度が常に生物学上の父子関係があることを前提としたものではない中で,ここだけ要件として課すのはどうなのかと思っています。一方,9ページの乙案ですけれども,生物学上の父子関係があったとしても子の福祉に反するようなケースがないとは言えず,その点,要件としては乙案の方が広いのではないかと受け止めています。ただ,乙案の下から4行目に,必ずしもその内容が一義的に明らかではなく,と記載がありますが,だからといって事前に事細かに規定することは困難であるのではないかと思いますので,子の福祉に反することが明らかな場合には否認権の行使は認めないということを基本としつつ,いざ行使をしようとしてきた場合には,子の利益の観点から,養育の意思や能力等を基に個別に判断するしかないのではないかと思っています。   一つ事務局に,仮定の話で恐縮ですが,教えていただきたい点があるのですけれども,第三者から精子提供を受けて子が出生したケースで,その後,離婚して再婚した場合,再婚後の生活が子の福祉に反することが明らかであっても,甲案の「原告適格として前夫に生物学上の父子関係を必要とする」を採用した場合は,前夫は生物学上の父子関係はないため否認権を行使できないのかどうか,それを教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   乙案が基本的にはいいのではないかというスタンスで御発言を頂き,具体的な問題,例を挙げられて,この場合はどうかという御質問を頂いたと理解しました。   いかがでしょうか。 ○平田幹事 生殖補助医療が用いられた場合につきましては,嫡出推定制度の見直しについて原則的な規律を定めた上で,その特則をどのように設けるかというところかと思いますので,ちょっと今の段階で明確にお答えするのは難しいというところでございます。申し訳ございません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。特に御発言ございませんか。   中田委員,どうぞ。 ○中田委員 ありがとうございます。   御質問になるかもしれませんけれども,乙案を採った場合に,子の福祉に反することが明らかかどうかを判断する資料として,前夫との生物学上の父子関係の存否というのが入ってくるのではないかと思うんですが,そのような理解でよろしいでしょうか。つまり,父子関係がない場合には認めない方向に働き,そしてある場合であってもなお退けることができると思ったんですが,いかがでしょうか。 ○平田幹事 御指摘について,おっしゃるとおりかと思っております。 ○大村部会長 どうぞ,棚村委員。 ○棚村委員 すみません,私もこれは悩ましいなと思っていたのは,原告適格としてやはり生物学上の血縁というか,遺伝的な関係で絞るということになると,本当に先ほど井上委員が言いましたように,明確ではあるのですけれども,ある意味で血縁主義というそういうところを徹底させるというような形になってしまう,そして本案とそれから訴訟要件との区別というのは,幡野委員や窪田委員もおっしゃったように,なかなか理論的には区分けが難しくなるのかなと思います。   それから,子の福祉に反することが明らかな場合に否認ができないということになると,正にこれは実体的な要件というか,本案なのか訴訟要件として却下判決なのかという問題もでてきます。さらには,子どもの福祉に反する場合というのは,今,中田委員からもあったように,かなり広い範囲の血縁やそういうものも含めた総合判断ということになって,濫用を防止するという観点からはやむを得ないところもあると思うのですけれども,なかなか一義的に明確にするということができないというデメリットがあります。子の福祉に反するというのも,総合判断ということになると思いますので,その辺りがやはりメリット,デメリット双方にあるのかなというので少し迷っています。しかし,中間試案については,甲案と乙案ということについては,両論併記ということで広くご意見を聞くということについては妥当ではないかと思います。   ただ,説明をもう少し丁寧にされれば,どこのところで濫用的なものを制限していくか,推定がダブった場合に,推定のルールの優先順位をつけた上で,更にそこで訴えを提起できる人を絞っていくのが甲案の考え方だと思います。それで,乙案のところになると,実体的な審理も含めてですけれども,濫用を防止しようというところなので,手続のところで絞っていくというか,原告適格で絞るか,そうではなくて,むしろ否認ができないということで子の福祉みたいなものを少し広めに提案するかというので,両方,私も成り立ち得るのではないかと考えています。ですから,基本的には甲案も乙案も濫用とか一定の制限を掛けるというところでは同じ目的を持つのですけれども,その絞り方がやはり違っているというところで,両論も,あり得るのかなとは考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   まず手嶋委員,それから窪田委員という順番でお願いします。 ○手嶋委員 どうもありがとうございます。   判断をする場面を想定しながら考えますと,要件を絞り込むことの意味というか,趣旨はよく理解をするところなのですが,乙案について,資料にも書いていただいているように,その内容がなかなか一義的に明らかでないといううらみはやはりあるようには思っておりまして,少なくともここに具体的に掲記していただいている以外にどういうことがあり得るのかということを伺ってみたいということが一つと,先ほどの中田委員の御発言との関係で,前夫との生物学上の父子関係はやはり必ず吟味することになるのかどうかという辺りも伺ってみたいと思ったところでございます。 ○大村部会長 窪田委員の御発言を伺ってから事務当局にお返事を頂きたいと思います。 ○窪田委員 恐らく甲案と乙案というのを議論するときに,今手嶋委員からも出たのですが,乙案として何をイメージするかが人によって随分違う可能性があるのではないかと思いました。子の福祉に反することという形で要件を立てて,それが明らかな場合というのはどんな場合なのだという立て方をすると,正しくいろいろなものが考えられるということなのだろうと思いますが,私自身は甲案と乙案の考え方の潜在的な対立点として,一つは,先ほど垣内幹事からお話がありましたが,推定がかぶさっているところでそこでは生物学上の親子関係で決めるのだという考え方もあれば,もう一つ,生物学上の親子関係というより,再婚後の夫との父子関係が一旦法的に成り立って,そしてそこで形成されているものがあったらそれを保護するべきかどうか,それとの関係で考えるという見方もあり得るのではないかと思いました。   9ページの説明では,再婚後の夫と子が安定的な生活を送っていて,再婚後の夫も子も否認権を行使する意図がないとされていますが,それは生物学上の親子関係というよりは,社会的な実態としての今あるものを保護するという考え方なのかなと思いました。そういう対立軸で考えていったときに,仮にそういう対立軸で捉えるということが正しいとしたらですが,乙案の書き方がいいのかどうかやはりちょっと気になる点はあります。むしろ今日の議題になるのかもしれませんが,子の否認権との関係で社会的な親子関係といったようなメルクマールを立てていますが,そうした社会的な親子関係があるかどうかでそれが形成されているんだとすれば,それを保護の対象として前夫からの否認権を認めないというような立て方で,実態を優先して保護するんだという見方もあり得るのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   手嶋委員から先ほど御質問あった点について,何かあれば。 ○平田幹事 まず,乙案について,資料に記載しているような場合,すなわち再婚後の夫と子が安定的な生活を送っていて再婚後の夫も子も否認権を行使する意図がなく,前夫に生物学上の父子関係がないといった点を含めて,主に記載しているとおりの内容を想定してこの規定を提案させていただいたというところでございます。ただ,それだけに限られないで,それ以外の場合にも少し広げて使うことも考えられるのではないかといったような御指摘も前に頂いたこともございますので,その場面に限定してというところでは考えておりませんが,一方で,それ以上に具体的にどういう場合というところは,今のところ事務当局の方で考えているものはございません。この乙案でいった場合については,前夫と子との父子関係があるかどうかという点は必ず審理の対象とすべきであるということは考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いろいろ御意見を頂きましたけれども,何らかの形で要件を設定して制限を掛けるということについては皆さん,共通の方向のように思いますが,そのときに甲乙のどちらがいいのかということについては,一方で,審理の対象が何なのか,甲と乙でどう違うのかということをより明らかにする,他方で,甲乙で適用された結果がどう違うのか,乙の方が広いという御意見もあったかと思いますが,それはどういう場合なのか,それを達成するために要件としてここで書いたようなものしかあり得ないのか,窪田委員がおっしゃったような別の考え方が別のところで出てくるとしたら,それによることも考えられるのかといったことを整理していただくということが,今の段階では必要なのかと思って伺いました。そうした整理を経た上で,甲乙についてパブコメ等で意見を頂くといった方向が,今の皆さんの最大公約数的な意見かと思って伺っておりますが,そんなところで本日のところはよろしいでしょうか。   それでは,この点につきましては,今のように引き取らせていただくことに致しまして,次の議題に移らせていただきます。   部会資料の11の「第1 子自身によって行使される子の否認権」と,それから,前回積み残し分のうちの子自身によって行使される否認権行使の効果の部分,これらについて御意見を頂きたいと思います。   まず,事務当局の方から前回の積み残し分と,それから今回の部会資料11の第1の部分についての御説明をお願いいたします。 ○小川関係官 御説明します。まず,部会資料11の方ですが,第1は子自身によって行使される子の否認権についてです。   この論点は前回も御議論いただきましたが,これを認める根拠やいかなる場合に認めるべきかなどについて様々な御意見がありましたので,中間試案の取りまとめに向けて,再度ご議論をいただくため,改めて整理を致しました。   なお,前回の部会資料10-1の9ページの3で記載しておりました甲案について本部会資料では記載しておりませんが,これは甲案を否定するという趣旨ではなくて,部会資料11の2ページ目に記載していますとおり,甲案も引き続き検討するということを前提にしております。その上で,乙案として現実的に採用し得る案としてどのようなものがあるかについて御議論を頂きたいと考えているものです。これまでの議論では甲案を支持する御意見もあったかと思いますので,そのようなお立場からは,ここで提案させていただいている案の問題点等について御指摘を頂ければ幸いです。   2ページの2の子の否認権を認める根拠に関してですが,これまでの議論では,子の出自を知る権利や子が生物学上の身分関係を公示する利益を根拠とすべきとの御指摘がありました。他方で,やはりこれらの権利や利益については嫡出否認制度の中に異質な要素を持ち込むものであって相当でないこと,また,生物学上の父子関係を過度に重視するもので,実際上も否認を認める場合について適切な結論を導くことができないのではないかといったことが懸念されます。   3は,行使期間についてです。   部会資料10-1からの変更点としては,起算点を子が15歳に達した時としていた案を今回は提案しないこととして,成年又は25歳に達した時からという形にしている点になります。   また,4ページの4では,否認権行使の要件について御説明しています。子を養育してきた父の利益や,また,これから子を養育しようとする父の利益という観点から何らかの要件を課すことが必要であると考えられる一方で,その要件の定立は困難な面もあると考えております。一つの案として,ゴシック体で本文中に記載しておりますように,諸外国等の法制に見られるような社会的な親子関係といったものを参考に要件化することの当否について,御意見を頂きたいと思っております。また,どのような場面で否認権を認めるべきかという観点から要件を定めていくということも考えられますので,具体的な場面を想定した御意見も頂戴できればと思います。   なお,5ページの(4)では,一定の年齢に達した後,常に生物学上の父子関係を確認することに対する懸念を示す御意見があったことから,それを踏まえた規定を注意的に置くことも考えられる旨記載しておりますので,御意見を頂戴できればと思います。   また,6ページ,5では,否認判決の効力について,これまでどおり子の出生時に遡及することを提案しておりますが,前回会議で御指摘があったとおり,推定される父子関係を前提として行われた各行為との関係でこれを制限することも考えられますので,その旨を本文の(注3)に付記しております。この部分に関連して,前回積み残しとなっておりました部会資料10-1の13ページの5の「関連する論点」に記載した部分についても,併せて御意見を頂ければと思います。   部会資料11の1の説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   部会資料11の第1と,それから10の積み残しの部分と双方にわたりますけれども,併せて御議論を頂ければと思います。どなたからでも,どの点についてでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○磯谷委員 今日の部会資料11の方の2ページの2の(1)の辺りですけれども,子ども自身によって行使される否認権の根拠として,子の出自を知る権利などということが書かれております。ただ,私自身としては,出自を知る権利を保障するために子の否認権を認めるというものではないように思っています。というのは,そもそもその否認権を行使する段階では既に血縁がないことは判明していると思いますし,子の否認権の行使の手続そのものによって,例えば自分が誰の子どもなのか,出自というものが何か分かるわけではないだろうと思うからです。ですから,出自を知る権利そのものが何か子の否認権行使の根拠になるわけではないのだろうと思います。ただ,恐らく思想的な背景といいますか,そういったところには共通性はあるのかなとは思っております。   むしろ申し上げたかったのは,あともう一つ,2ページの下の方に,生物学上の父子関係を法律上の父子関係と一致させるべきという考え方を過度に強調するものだというようなところもあるんですけれども,私が申し上げたいのは,社会的に見て法律上の父子関係の存在が,すなわち血縁上の父子関係の存在を強く示唆しているという状況があるのではないかなと思うわけなんです。つまり,社会的には法律上の父子関係があれば,血縁上も父子関係があるものと思われてしまうということと,一方で,法律上の父子関係ではあるけれども,実は血縁上の父子関係ではないんだということを明らかにする公的な制度はないわけですから,一般の方々からすると恐らくそういうふうに受け止めるのではないかと思うわけなんです。そうすると,この血縁がないと分かっている父子関係に拘束されたくないという気持ち,そういった感情というのは,これは十分に理解できるんだろう,だから大きくなった子ども自身に子の否認権を認める意義というのは,正にそういった心情といいますか,そういったところに配慮するものなんだろうと思うので,ですから前回人格的な権利という,あるいは利益でしたか,言葉も出たと思うんですけれども,そういったところが恐らく根本にある考え方なのかなと思います。ですから,資料にある表現は,私の目からすると少し誤解を招くおそれがあるのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   説明の仕方について,より慎重な取扱いが必要なのではないかという御指摘を頂いたものと受け止めました。   磯谷委員最後の御指摘の人格権を保護するという話は,部会資料の3ページ(2)のところに記載されておりますけれども,こういう考え方に立つのがよいのではないかという御指摘も含まれているものと受け止めました。ありがとうございます。   ほかに何か。いかがでしょうか。 ○大石委員 4ページの否認権行使の要件のところなんですが,真ん中のところに社会的な親子関係というのがあって,(注1,2)があります。その一番下の段にも,もっともというところで,社会的な親子関係という概念はこれこれで,その導入の可否についてはいろいろ検討が必要だとありますけれども,社会的親子関係という新しい概念を導入するということと,それを言わば観念的に頭の中で押さえておいて適切な要件を設定するということは,全く同じではないのではないかと思うんです。だから社会的親子関係という概念を導入するということは必然ではなくて,例えばそういうことを念頭に置きながらも,しかし要件として適切かどうかという議論は十分できるので,だからここのもっともの後の社会的なうんぬんから慎重な検討が必要であるというところまでは,本当に必要な部分なのかなと思いました。ちょっと感想めいたことですみませんが。 ○大村部会長 ありがとうございました。   資料では具体的な要件が提案されていて,それを正当化する,説明するために社会的な親子関係ということが言われているので,社会的な親子関係という概念を直接に民法の中に導入しなければならないというわけでもなかろうという御指摘かと思います。考え方の問題とそれに基づいて作られる制度とを仕分けて議論をすべきではないかという御指摘を頂いたものと思います。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 ちょっと適切に説明できるかどうか分からないのですが,社会的な親子関係というのは,否認権行使をするときにそれとの対抗利益というような形で挙げられ,そうしたものがあるときには,やはり子どもの否認権が制約されるという枠組みで示されるものなのではないかなと思います。大石先生の視点とはまた異なるのかもしれませんが,私自身も社会的な親子関係の存否という話とどのような場面で子自身による否認権の行使を認めることが相当なのかという話は,少しずれがあるのではないかという感じがしております。   5ページの上の方に,実際に①,②,③ということで,こういうケースだったら明らかに必要だというのは挙がっているんですが,こうしたケースで必要だろうなということは何となくは分かるのですが,そこから一般的な形で否認権の行使を認めることが相当であるかどうかという判断をするのはかなり難しいというか,要件化するのは困難なのではないかという気がします。いろいろなところに勝手に振っちゃいけないのかもしれませんが,特に裁判所で判断をする場合に,対抗利益としての社会的な親子関係があるかないかという判断は,いろいろな過去の経緯とかを調べることによって判断できるのではないかなと思うのですが,否認権の行使を認めることが相当であるかどうかを判断するというのは,実は非常に裁量的な判断であって,一体どうやってやるのだろうという気がしながら伺っておりました。   もう1点ですが,磯谷先生のおっしゃることは非常によく分かりつつ,前半部分で磯谷先生が御指摘になった事実として生物学上を知る利益との関係,特に子の出自を知る権利との関係に関しては,これは是非,木村幹事から補足していただければと思うんですが,ドイツでも出自を知る権利についての議論があった上で,一体それをどういうふうな形で対応するのか,否認権を認めるという形で対応するのか,そうではなくて否認権の行使と切り離して制度を立てるのかという議論があったと思いますし,木村幹事がそれについてお書きになっておられたと思います。   また,併せて社会的な親子関係というのが対抗利益なのではないかという点についてもドイツの議論があったように思いますので,私の先ほどの説明は大変にいい加減な説明でしたので,もし木村幹事から補足していただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   窪田委員の方から今のような御要望が出ておりますけれども,木村幹事の方で何か御発言を頂けるようでしたらお願いを致します。 ○木村(敦)幹事 すみません,木村ですけれども,ちょっと考えをまとめさせていただく時間を頂戴したいと存じます。先に垣内幹事に質問に対応していただいてからお伺いしてもいいでしょうか。 ○大村部会長 分かりました。それではすみません,垣内幹事から手が挙がっていますので,垣内幹事の方に先にお願いを致したいと思います。よろしくお願いします。 ○垣内幹事 すみません,窪田先生が木村先生の発言を流される前に手を挙げていたもので,ちょっと木村先生に本当はやっていただいた方がよかったかもしれませんけれども,そういうことでしたら今発言させていただきます。   先ほどの問題もそうですけれども,この問題も非常に悩ましい問題と申しますか,私自身は最終的にどちらの方がよいのかということについて確たる考えを持っているということではないんですけれども,仮に今回の資料11で示されているように,子自身が一定の年齢に達した際の否認権行使を認めるという案を検討する際のその根拠となる考え方という点では,今日資料で説明をしていただいていますけれども,私自身は3ページのところで,(2)というところで,子の人格権という概念を用いた説明をされている部分がありますけれども,先ほど磯谷委員の御発言にもありましたが,子の出自を知る権利から直接にということではなく,何らかその子の人格的利益というものが基礎になるということではないかというように思います。この点は,基本的には夫の否認権についても同じことではないかというように考えておりまして,嫡出推定という法律上の効果はあるけれども生物学上の父子関係が存在しないという場合に,当該父子関係の法律上の主体である父と,それから他方の主体である子については,本来の生物学上の父子関係と異なる法律上の父子関係について否定することにつき一種の人格的な利益が認められるということが,父の否認権を一方で,夫の否認権を一方で基礎付けるとともに,他方で子の否認権を基礎づけるということなのではないかというように,基本的にはそういうもので両者同質なのではないかというように考えております。   そうしたときに,夫の方については比較的早い段階で期間制限というもので否認権が行使できない状態になるということですし,子についても当初の代理行使の対象になる否認権については比較的短い期間で行使ができなくなるということですけれども,これは法律上の父子関係の安定を図るという要請があるということから来ているのだろうと思われるところでして,そうしたときに,ただそうした初期の段階においては,子が自ら自身の身分上の地位について自らの意思で判断する機会というのは与えられていないことになる,代理行使に委ねられている,子の代理権の行使ということが適切にされるものであり,これによって子の保護されるべき利益というものは100%保護されるのであるという立場に立つのであれば,改めて子自身が代理ではない形で否認権を行使するということは認める必要がないという判断に至るのだろうと思われますけれども,仮にそうでない場面というものがあり得るのだとすると,つまり代理行使に委ねられていたけれども,それで子自身の権利行使機会を失わせるということが正当化できないと評価できるような場面があり得るのだとすると,それがここで提案されているような考え方,規律につながってくるのだろうというように思います。   そうした場面として,今回の資料ですと5ページに①,②,③の事例というのが掲げられておりますけれども,この中で取り分け①の事例につきまして,子の幼少期に否認権は結果として行使されなかったけれども,したがって法律上の父子関係が維持されたけれども,しかし父によって虐待等がされてきたような事案というものを考えますと,振り返ってみると否認権を行使しなかったということがやはり適切ではなかったのではないのか,代理人に委ねていたことによって子自身の利益というものが正当に保護されない結果が定着しているということになるのではないか,こういう場合に改めて否認権を認めるべきと考えるかどうかということが問われるようになると思いますし,他方で期間制限の趣旨,父子関係が安定という要請から考えますと,それが第一段階では期間で一律に切るわけですけれども,しかし実際に父子関係の安定を保護すべき実質がどの程度あるのかということは事案によって様々であり得る。その点について社会的な親子関係というものが言及されておりますけれども,そうしたものがある場合については父子関係の安定という期間制限の趣旨の要請を,そういった要請は強く当てはまるものであって,一定の年齢に達して子自身が否認権を行使したいと言ってもそれを凌駕するような要請が認められるのだと考えれば,こうした状況,一定期間の同居であるとかといったことが主な要素になるかと思われますけれども,そうした状況があることによって子自身の否認権の行使はやはり許されないという帰結になるのだろうと思われまして,5ページの事例ですと,②や③の問題というのはむしろそうした観点からの検討に,考慮に関わる事例なのではないかというように思われるところです。   ですので,そういったことで,最終的な判断については,なおいろいろなお考えがあり得るところかと思いますけれども,一方で父子関係の安定がどの程度保護に値する事案であるのか,他方で代理権の行使に委ねておくということの正当性がどの程度基礎付けられる事案であるのかといったようなところから,要件化をもし明確化できるのであれば明確なものにしていくというのがこの案に立った場合の検討の方向かなというように個人的には考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど窪田委員の方から,要件を考えていくのはなかなか大変なのではないかといった御指摘もあったところですけれども,今,要件を設定する場合に対立する利益の性質を整理していただいた上で,その両利益を考慮の上,要件化を考えるということになるだろうという御指摘を頂いたかと思います。   木村幹事,先ほどの窪田委員の御要望につきまして何か御発言を頂けるようでしたらお願いを致します。 ○木村(敦)幹事 まず,ドイツにおける子の出自を知る権利についてですが,確かに窪田先生が御指摘のとおり,ドイツにおいては子の否認権を拡大する際に,子の出自を知る権利というものが重視されてきたという一側面がございます。しかし他方で,その後の議論において,法的父子関係を否定するという否認訴訟の目的と生物学上の出自を明らかにするということは必ずしも一致をしない,すなわち,飽くまで否認訴訟の目的は法的父子関係を否定することであって,出自を知る権利そのものの実現については別の制度においてその実現を保障するべきだとする議論や判例が見られたところです。以上の議論状況をふまえて,ドイツにおいては否認訴訟とは別に出自を知る権利を保障するためだけの独自の制度として出自解明請求権というものが認められています。もっとも,この出自解明請求権を用いて法律上の父と子の間に生物学的親子関係が存在しないことが明らかになった後においても,その結果を否認訴訟において用いること自体は阻止されていません。このことから,子と法律上の父親との間に生物学上の出自がないことが明らかになった後に,当該事実を法的父子関係に反映させることができるという点において,出自を知る権利,人格的利益自体が否認訴訟において現在もなお保障されていると考えられていると言っていいと思います。否認訴訟において出自を知る権利自体が保障されているというような記述自体は,出自解明請求権制度が設けられた後も,教科書や各コンメンタールにおいても確認することができます。以上のことから,ある意味,広い意味で自分の生物学上の親子関係と一致しない法的父子関係を否定する利益自体は,父性否認において考慮されるべき利益として認められていると理解していただくのが,今のところのドイツ法の理解では正確ではないのかなと思います。これが1点目です。   2点目の社会的親子関係についてですけれども,社会的親子関係の保護に関する要件自体は,ドイツ法における子どもの否認権,特に成年子に関する子どもの否認権の制限要件として,具体的に設けられてはいるわけではありません。これに対して,未成年子の場合には,子どもの否認権が子の福祉にかなうかどうかという判断をする際に,社会的親子関係が存在しているかどうかが一つの基準となりうるかどうか,という点が議論されています。しかし,成年子が否認権をする場合であったとしても,法律上の父親や母親の利益を踏まえて,これらの者から見て法律上,あるいは事実上の親子関係として機能していたという事実が認められる場合には,子の否認権を制限するほうが望ましいとする見方も,一連の議論の中にあったように理解しております。   すみません,お答えになっているか分かりませんが,ドイツ法の議論は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   窪田委員,さらに,何かありますか。 ○窪田委員 特にございません。ありがとうございました。 ○大村部会長 ドイツの御議論を御紹介いただきまして,出自を知る権利や社会的親子関係と,今ここで問題になっている子自身の否認権が直結されているわけではないけれども,しかし議論の中ではそれが論拠とされているということはあるようだと理解いたしました。私たちがここで考える場合にも,先ほども御指摘あったようにが,具体的な要件を考えるということに最終的には落ち着くわけですが,それを導く考慮要素として今挙がっているようなものがあるということは言える,後は具体的にそれをどのように考慮して組み立てるかということになるのかと思って伺いました。   どうぞ,髙橋委員。 ○髙橋委員 先ほど垣内幹事の方から人格権,否認権を人格権と捉えて否認訴訟のそれぞれの当事者に人格権を考えるというお話がありまして,子どもの否認権を人格権と捉えた場合,成年になった場合,権利行使すると父親との関係でどうかというところで議論になっているんだと思うんですけれども,私の考え方では,まず子ども自身に否認する人格権があって,ただそれを制限する要素として父親の人格権が対立利益としてあるのではないかと思います。そうだとすると,法律の枠組みとして,父親の人格権を侵害するときは否認できないというような発想で組み立てたらどうかなと思います。   ただ,否認されると父親の人格権が侵害されるとは何だという,何が立証命題になるんだというとよく分からないんですけれども,恐らくそれは父親がきちんと育ててきたということなんだと思います。父親がきちんと育ててきたのであれば子どもは否認できないというような,そんな立て付けがいいのではないのかなと思います。それが社会的親子関係というところにもちょっと関係してくるのかなと,先ほどのお話を聞いてちょっと頭の中でくっつけているんですけれども,何でこんなことを言うのかというと,子どもがこういう状況で育ったときは子どもの否認権を認めるという立て方をすると,虐待とかいろいろな具体的な事例を定めることになるのではないかと思うんですけれども,それはすごく子ども側の判断を前もって縛ってしまうというようなことになるのではないかと思います。大人になってから否認しようとする子どもは,いろいろなことを考えて悩むんだと思うんです。それぞれ法律上の父親といろいろな関係があって,父親と血縁がないことを知る経緯もいろいろあって,そこの場面でいろいろなことを悩むんだと思うんです。そのときに子どもの側の判断を法律の要件でこうなったときだけ否認できるよとあらかじめ縛っておく仕組みでちょっといいのだろうかというようなことを思います。   ちょっと長くなりますけれども,子どもが父親と血縁がないことを知る機会というのは,早いうちに知らされている場合もあると思うんですけれども,結構大人になってから親が病気になったりして病院で検査を受けて,どうも子どもの血液とか免疫とかそういうものが何か型が合わない,そういうようなことで初めて親子関係がないというのを知ることも多いと思うんです。元々何か違和感があったかもしれないけれども,血縁がないとまでは思っていなかったんだけれども,ああそうだったのかと,そのとき子どもがどんなことを悩むのか,子どもの考えることというのはとても複雑ではないかと思います。そういう意味で,余り子どもの側を絞るのではなくて,父親の利益を侵害してはいけない,父親の利益というのはきちんと育ててきたということ,そういうような立て付けはどうなのかなというようなことをちょっと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   大きく分けて二つ御指摘を頂いたのかなと思います。先ほど垣内幹事から,子どもについても親についても人格権あるいは人格的利益ということで,血縁のない場合に法律上の親子関係を否定するということを正当化するというお話がありましたけれども,法律上の親子関係を維持するというそちらの利益も親の人格権,あるいは子の人格権もそうかもしれませんが,それを根拠にすることが可能なのではないか,人格権ということで何を保護するかということは一つではないのではないかという御指摘があったものと思います。その上で,要件を立てるときに子どもの側から一定のことを証明したときに否認権を認めるとするのか,親の側が一定の事情があるということを主張,立証したときにその否認権を認めないとするのか,どちらから立てるのがよいのか,むしろ後者から考えた方がいろいろな観点から望ましいのではないかという御指摘を頂いたものと思います。   この議論は根拠の問題と,それから具体的な要件をどのように立てるのかという問題と,両方照らし合わせながら議論をしていくことが必要かと思います。更に議論を深めていただきたいと思うのですが,始まってから1時間10分になりましたので,少し休憩をしてから引き続き御議論を頂きたいと思います。それでよろしいでしょうか。   それでは,手元の時計で今2時40分に近づいておりますので,2時55分まで休憩ということにさせていただきます。   では,休憩します。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,議論を再開したいと思います。   部会資料11の「第1 子自身によって行使される子の否認権」について御意見を頂いております。(注2)に「一定の要件」について引き続き検討するということで,一定の説明がされておりますけれども,中断の前には要件の立て方についての御意見も頂いたところです。引き続きまして,この第1につきまして御意見を頂ければと思います。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 ちょうど休憩の前に髙橋委員からお話がありましたけれども,髙橋委員の御指摘のとおり,一方で子の否認権に関する利益,子の利益を観念した上で,それがどんな場合に制約されるのかというよりは,それと対抗する利益というのを観念するというアプローチは,私もその方がいいのではないかと感じています。私自身は人格権に基づく否認権であるとか,あるいは人格権に基づく利益というのが,それ自体としてちょっとうまく説明できるかについて,まだ十分にはよく分からないところはあるのですが,例えば子の否認権,血のつながらない父親との法律上の父子関係を切りたいという子の利益に対して,対抗するものとして父の利益でもいいですし,私自身はそこで社会的親子関係というのを観念することもできるのではないか,木村幹事からドイツ法では未成年の場合にということでしたが,成年の場合であったとしてもそういう利益を観念して,子の否認権に対する対抗利益という形で観念することはできるのではないかなと思っておりました。そうではない,子どもの否認権がどういう場合に制約されるのが適当なのかとか,どういう場合に行使することが適当なのかという立て方をすると,個別的にはいろいろなケースを考えられることができると思うのですが,それをやはり統一的にうまく説明することが困難なのではないかなと感じておりました。   もう1点として,5ページの上の方に①,②,③という例が挙がっております。①の例というのは,ある意味でこんなに虐待されているのだったらこんな父子関係は切りたいと子どもが思うのは当たり前だよねという感じかと思います。ただ,直感的には非常によく分かるのですが,ただ,そこで問題となっているのは,多分ここで扱っている問題とはやや異なる性格のものなのではないか,つまり虐待している親との関係を切りたいというのは実は血縁関係があったって同じようなことは言えるわけですし,そうだとすると,この例は大変に分かりやすそうな例ではあるのですが,ここで議論する材料としてはひょっとすると適当ではないのかなと思いました。それに対して②,③というのは,正しく社会的な親子関係が存在していない例としてより分かりやすいのかなというふうな印象を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   要件の立て方と,それから念頭に置くべき具体例について御意見を頂いたと思います。   ほかの方。それでは,大森幹事を先にして,それから山根委員,どうぞ。 ○大森幹事 ありがとうございます。   否認権の当事者,父子関係の当事者は父と子であります。そのため,当事者の一方である父に一定期間の否認権を認める以上は,もう一人の当事者である子にもきちんと否認権を認めようというのがこの議論の前提になっていると理解しております。そうすると,これまで出ている意見のように,一定の対立利益は考慮しなければならないということがあるとしても,その子が否認権を実質的に行使できないことになるのは避けた方がいいのではないかと考えます。そういうことからすると,一定の制限をかけなければならないという問題意識は理解できますが,仮に制限をかけるとしても,一定の要件があって認められて初めて否認権が行使できるという構成が果たして妥当なのか,むしろ先ほど髙橋委員がおっしゃったように,否認権は行使できる,しかし一定の場合はそれができないという抗弁事由としての構成の仕方が適当ではないかと思います。   その具体的理由としては,要件の例として部会資料5ページの①から③が挙げられておりますけれども,こうした事情がなければ否認権が行使できないとすると,余りにも子の否認権を制限し過ぎると思いますし,また,立証責任という意味でも子に過度な負担がかかるのではと思います。立証責任については,むしろ否認権行使を否定したい側が立証責任も負うというような構成がいいのではないかと思います。また,もう一つの理由としては,父子関係にはいろいろなバリエーションがあって経緯も様々ありますので,要件を課して一定の線引きを掛けることが果たしてできるのか疑問に感じる点もあります。そういう意味からも,一定の要件を課してその要件があって初めて行使ができるという構成は妥当ではなく,例えばですけれども,離婚の規定の仕方を少し参考にしながら,一切の事情を考慮して父子関係の継続を相当と認めるときは請求棄却ができるといった規定の仕方もあり得るのではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   基本的な考え方を示していただいた上で,裁量棄却のような規定を置くというのはどうかという御提案を頂いたものと思います。   山根委員に御意見を頂いて,その上で,中田委員,それから木村幹事という順番でお願いいたします。 ○山根委員 ありがとうございます。   皆様の御意見を聞くとますます難しくなってしまうんですけれども,一つは海外の規定について,先ほどドイツのお話を頂きましたけれども,ほかの国につきましても整理したものをもっと見てみたいという希望を持っております。夫についても子についても否認権行使の一定の要件の具体化,明文化というのはとても困難ということのようですけれども,諸外国の規定等を大いに参考にして,日本の現状と照らし合わせて一定の方向が示せるのであればと思っております。そして社会的事実,社会的な親子関係というものが日本でどういうふうに位置付けられるのかという議論を深めていく必要があると思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今御要望があった外国法の資料等につきましては,既に調べたものが一定程度はあったかと思いますが。 ○平田幹事 外国法の資料につきましては,第3回会議で配らせていただいたところでございます。子の否認権について簡単に申し上げますと,ドイツ法は,基本的に成年到達日又は父子関係を疑わせる事実を知った時のいずれか遅いときから2年間,フランス法は,身分占有と出生証明書が一致している場合については身分占有を終了した日又は父が死亡した日から5年間で,それ以外の場合については成年に達してから10年間など,アメリカの統一親子関係法は,原則として子の出生の日から2年間,ただし裁判所が推定される親について,遺伝上の親ではなく,子と同居したことがなく,子を自らの子と扱ったことがないことなどの決定をしたときはいつでも,台湾法は,子が未成年のときは成年になってから2年間,韓国法は子の否認権は認めていないといったところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   期間制限の問題と,それからその上に掛かっている要件の問題と,要件については一部具体例を御紹介いただいたかと思いますけれども,今のような例があるのであれば,それも踏まえた形で資料をまとめていただくとよいかと思って伺いました。   中田委員,お願いします。 ○中田委員 ありがとうございます。   休憩前から根拠と実体要件とを連動的に考えるべきだという御指摘がありまして,それはそのとおりだと思います。根拠として子の人格権の保護,実体要件として社会的な親子関係というのが出ておりまして,それらは子どもが大人になったときに自分で決定するということを保障するという意味でも非常にうまくつながっていくんだろうと思います。   他方で,この制度が実際にどのような働きをするのか,その機能を考えてみたときには,実は様々な機能があり得ると思います。法的な機能としては,これまでも出ておりますように,相続ですとか扶養ですとか婚姻障害ですとか,あるいは氏,戸籍の問題があろうかと思います。さらに,その子自身ではなくて子が死亡して直系卑属が行使するということになってきますと,果たしてそこで求められていることと当初想定されていた根拠とがうまく接合するんだろうかということがよく分からなくなってきます。   それから,機能として事実上の機能というのがもう一つあり得るわけで,それは正に子自身が自分で決めるということが中心となって,それはそれでもちろん意味があるわけですが,他方で一定の期間,3年とか5年の間,浮動的な状態が生じることになりまして,その間は子が言わば選択権を持つということになるわけですけれども,その浮動的な状態というのがどのように作用するのだろうかということも考えてみる必要があると思います。ですから,例えばそれを緩和するために子の側からの嫡出の承認ということもあり得るかもしれませんが,それは一つの方法に過ぎないわけでして,申し上げたいことは,根拠と要件との連動というのも重要ですけれども,加えてどのような機能を持つのか,そちらの方から根拠及び要件を考えてみるということも必要ではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   これができたとして,どういう制度として作られるかにもよりますけれども,どういう働き方をするのかということについて十分に考えた上で制度化を図るべきではないかという非常に重要な御指摘を頂いたものと受け止めました。   木村(匡)幹事,どうぞ。 ○木村(匡)幹事 ありがとうございます。   やはり裁判所の立場から致しますと,審理,判断をどのようにやっていくのかというところでございまして,これまでの議論で,こういう場合に認める,あるいはこういう場合に制約されるというような枠組みのような議論もございましたけれども,やはり,どのような要件が設定されて,その要件に当てはまる事実があるかないかというところを審理,判断していくという観点からすると,やはりより具体的にどういった要件が示されるのかということについてもう少し議論をしていただきたいと思います。裁判所としては,そういったところが明らかにならないと,審理,判断していくのが難しいということは否めないかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この議論は,一番最初に御説明がありましたけれども,乙案を前提にして制度化するとしたらどうなるのかということで御意見を頂いておりますがも,甲案もなお排除はされていません。こういう制度を作るというのは,弊害が大きいのではないかといった御意見もあるかもしれません。そういうことがあり得ると想定すると,制度化するとしたらできるだけ明確な要件を設定するということが望まれるという御指摘かと思います。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 最終的に中間試案の方でどういう案をどういう説明で書くかということにも関わるということで発言します。私自身はこういう方向で是非,案を作ってくださいという趣旨では全くないのですが,15歳というのが外れて成年に達してから,あるいは25歳以降の3年若しくは5年という形での期間制限は出ていますが,ちょっと気になりましたのが,先ほどドイツ法の説明がありましたけれども,父子関係がないことを知った時とか,あるいは父子関係を疑わせる事実を知った時を起算点とするという考え方は,理論的にはあるのだろうと思います。もちろん父の否認権に関して,子の出生を知った時というのを起算点とするのであれば,それ並びで考えるのであれば別に父子関係がないことを知った時でなくてもいいという説明は可能だとは思います。ただ,父の場合には,子どもが生まれたこと,子の出生を知って,そして一定の期間が経過すれば,それによって一定の社会的な親子関係としての実体が形成されていく,だからこそもう否認権の行使ができなくなるのだという説明は可能なのだろうと思います。他方,特に人格的な自己決定権なのだということを強調するとすれば,既に一定の親子関係は形成されていたとしても,場合によっては行使するという可能性を特に認める場合,その場合には起算点がこれでいいのかどうなのかということについては,父子関係を疑わせる事実を知った時を起算点とするといった考え方も出てくるのかもしれないと思いました。ですから,起算点を一定の年齢にするというのは十分にあり得る方向なのだろうと思いますが,それについての説明は少なくともしておいた方がいいのではないかなという気がします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   否認のための要件,実体的な要件についてずっと伺ってきましたけれども,今の行使期間の問題については,前回よりは選択肢を絞り込んだものがここに出ておりますが,これでよいのだろうか,別の考え方もあり得るのではないか,それを採らないとしたらなぜなのかということを説明する必要があるのではないかという御指摘を頂きました。先ほど中田委員から,承認を設けるということも考えられるのではないかといったお話もありましたけれども,全体として制度化をするときの選択肢の幅をもう少し考える必要があるという御指摘かと思います。   水野委員から手が挙がっているようですが,水野委員,どうぞ。 ○水野委員 先ほど磯谷委員が人格権という観点からいわれたご意見ですが,やはり日本の社会では周囲の人々が血縁主義的に思っているので,そういう周囲の思惑を受け入れる形で,本人が血縁と違うことについてつらく思うだろうと,注意深くは言っておられたと思うのですけれども,結局それは結論的にはかなり血縁主義的になるだろうと思います。   それから,線引きの仕方として,離婚の裁量棄却のような形ではどうだろうかという御意見もありましたけれども,裁判所がそういう巨大な裁量権を持つという形で,はたして運営できるのか,疑問に思います。結局は,この問題はかなり時効に近いような制度なのだろうと私は思っております。先ほど中田委員が機能を考えるとおっしゃいましたけれども,時効がどういう機能を持つのかということについても,いろいろな議論がありました。そして時効については,事実状態を尊重し,もう争わせなくすることの機能的な意味が,社会の安定のために,当事者の幸福のために,とても大きいという理解が共有されてきました。   それと同じような効果がここにもあるのだろうと思います。つまり,生きた親子関係が一定の期間長く続いた,そうするともうそれはそれで固めるのだという考え方が,例えばフランス法の身分占有5年という切り方の根拠になっているのでしょう。もちろんフランスでも生きた親子関係が5年間続いたからといって,その後死んでしまった親子関係にいつまでも縛られていいのかという反論もそれなりに有力にあるようですけれども。でもやはり生きた親子関係が何年間か安定的に続いたときに,それに両当事者ともにある程度縛られて,そういうものだとすることによって,社会は安定するという考え方が,この問題の中核にあるように思います。ただ,それを日本の文脈の中でどのように設計するかというのは,難しいことは確かです。時効でも何年かに決めるとすると,短か過ぎるという意見も長過ぎるという意見もあるでしょうし,それを破れる例外的な場合を認めるべきではないかという議論もあるでしょう。まして,この問題は非常に制度設計が難しいとは思うのですけれども,総体的にはそういうものとして考えていくことが制度設計としてやむを得ないあり方だろうと思っております。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   棚村委員,どうぞ。 ○棚村委員 これも難しい問題だと思うのですけれども,先ほど大森委員からもちょっと指摘があったと思うのですけれども,父の利益とか子どもの利益,それから認める場合には母親の利益が一体何なのかという議論もしてきましたので,基本的には複雑なトライアングルの関係になってくると思います。   そして,先ほど多分大村座長の方でおっしゃっていたような身分関係の安定に対する利益とか要請とかというものと,それから,ちょっと言葉が適切ではないかもしれませんけれども,真実を明らかにする利益みたいなものが各当事者にあって,その中で利益調整をするということなのではないか。ただ,否認権というのが当事者に認められた以上,動機だとか目的だとか,そういうことは関係なく原則的には権利行使はできるのだと思います。それが制限を受けるときの根拠とか説明について,中田委員の方から機能的なアプローチも必要だというのは全く同感でして,そういう観点からすると,社会的親子関係というか,ある意味では生活の実態なども考慮しなければいけないけれども,それぞれの当事者が真実を明らかにするとか否認をしたいということについて,持っている固有の利益は尊重しなければいけない。言い換えると,各当事者の利害がかなり複雑に絡み合いながら,利益衡量をし,バランスをとって要件設定をし,かつ紛争解決のときに,裁判所で実際に争いになった場合に,明確に判断できるようにしなければならない。余りそれが解釈に幅が出てくるとか紛糾すると困るので,多分要件設定では大分絞られてきたとも思います。子ども自身が一定の年齢に達したときに仮に認めるとすると,更に一定の要件をやはり充足した場合でないといけないというようなことに絞られてきたと思います。   しかしながら,問題は,やはり水野委員とか皆さんも指摘しているように,社会的親子関係とかいろいろな概念を持ち出しつつも最終的には身分関係をできるだけ維持するということと,それからそれを覆せるという,一定の範囲では,その対立する利益というのは,私自身は,それぞれの当事者が固有の利益を持っているのだと考えています。しかし,結局は,社会が,親子関係をどこかで維持する側の身分関係の安定性と,それから,個別に妥当な結果をある程度導けるように否認権みたいなものを一定程度認めているという個人の権利のバランスを採らざるを得ない。母親に認めるかどうかはありますけれども,そのときに余り,個人に与えられた人格的利益とか否認権というものが簡単に制約されるとか,それから親の代理行使の問題も,母親のときもそうですけれども,不適切な行使が行われたのに全くそれを甘受せざるを得ないというのであれば,権利を認めたことにはならないのではないかと思います。   その辺りはかなり難しい調整になってくるとは思うのですけれども,要件設定のときに,やはり身分関係を基本的には維持していくべきだという社会が考えている利益とそれぞれの個々人が持っている利益との対立というような感じで調整をせざるを得ないのかなと考えます。要するに,トライアングルにはなっていますけれども,父の利益の方が勝っているから子どもの利益は制限されてしようがないとか,それから母親の利益の方が,あるいは母親が代弁できるんだから,そういう母親が権利行使したんだからしようがないとか,そういう議論にならないようにうまく説明をしていくことが必要ではないでしょうか。大森幹事の御説明の中で,非常に何か私自身はただ対立する利益を調整するというだけではなくて,否認権を与えた根拠とか趣旨みたいなものが没却されないような形で調整をしないといけないとも感じた次第です。 ○大村部会長 窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 今の棚村委員の御発言を受けて,もう正しくいろいろな利益の対抗ということで考えるアプローチは当然あり得ると思いますし,先ほど私自身も,そういう中で社会的親子関係というのを対抗利益みたいな形で考えていくということを申し上げたのですが,もう一つの説明の仕方もあるのかなと感じております。   これはもう説明の仕方だけですし,最後に幾つか残った案を説明するときの手掛かりになるという程度のものなのですが,先ほどもちょっと申し上げたように,基本的には父の否認権というのは,まだ社会的な親子関係が完全に確立する前の比較的早い段階で,血縁的な親子関係がない,生物学上の親子関係がないということを理由としてそれを切るということを認めるものだという説明が考えられます。しかし,一定のところからはその否認権も行使はできないような形で法的親子関係というのが固まるのだとすると,やはりそこでの法的親子関係というのは,言わば子の否認権の問題を先送りしているだけであって,一応確立した親子関係なのではないかなという気がします。   確立した親子関係であるにもかかわらず,子どもが大きくなったときに否認権を行使することができるという選択肢,これを認めるのだとすると,多分一番ストレートな説明の仕方は,大森幹事からあったように,もう人格的利益だとか何とかというより法律関係の当事者だからという説明なのだろうと思います。ただ,法律関係の当事者であるとしても,そこでの法的な親子関係というのは単に血縁のみによって決まるのではなくて,社会的な親子関係と様々なものによって形成されて確定したものなのだとすると,当事者であるとしても,その親子関係を自分の意思で切るというのは当然にできるわけではないという考え方もあり得るように思います。   だとすると,そこから甲案という子どもの否認権を認めないという考え方に行くというのもあると思うのですが,他方で,そうした確立した社会的な親子関係がないのであれば別にそれを否定したって構わないのだと考えるのであれば,正しくその社会的な親子関係がない場合には子どもの否認権を認めるという説明というのもあり得るのかな,子どもの否認権を認めた上でその対抗軸として社会的な親子関係というのを考えるのではなくて,社会的な親子関係が正しく形成されていないケース,先ほど3つ挙がっていたうちでいうと,②,③というのが正しくそうなのだろうと思うのですが,そうしたケースにおいては子どもの否認権を認めてもよいという説明もあり得るのかもしれないと思いました。結論は変わらないのかもしれませんが,棚村委員の御発言にちょっと触発されて考えてみたところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   水野委員から始まって,あるいは中田委員の御発言もそういうことを含んでおられたのかもしれませんけれども,個々の当事者の利益や意思というのとは違う要素が制度上あるのではないか,社会の中で親子関係というものが持っている意味を勘案した上で制度化を考えるということも必要なのではないかという発言を頂いたと思います。その上で,そう考えたとしても,例えば5ページの②や③のものについて,そうやって守られるべき大きな利益がない場合を引き出して,否認権を認めるということはあり得るだろうといった御指摘かと伺いました。   なかなかこれは難しい問題ですけれども,更に御意見があれば伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○平田幹事 ここの部分,なかなか皆さん御意見あるところで,非常に難しいと思って今回の資料を作らせていただいたところでございます。ただ,いろいろな切り口があって,対立利益から考えていく考え方,あるいは今,窪田委員がおっしゃったように,確立した父子関係があってそれがない場合に否定してもいいのではないかというような考え方,色々な考え方があるかと思うんですが,事務局としては,どういう要件を立てればうまく機能するのか,裁判所においても判断できるのかというところを悩んでおりまして,具体的にもしこういう要件があればいいのではないかというようなものがあれば伺いたいということで,今回の資料でも(注2)で例えばということで書かせていただいたところであります。けれども,こういう要件を定めたときにどのようになるかといったところ,あるいは先ほどから出ていますけれども,5ページ目の①から③までの例も,こういう要素を要件として入れるのか,入れないのかといったようなところについて,御意見があれば頂けないかと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 山本委員,どうぞ。 ○山本委員 ありがとうございます。   ちょっと今のことにも関係すると思うんですけれども,先ほど一番初めの頃にあった人格権か出自を知る権利かという辺りのことと絡むんですけれども,お父さんの方は子どもをこれから育てていくときに否認権があって,それを行使した,しないで子どもの養育の責任も生じていくわけですよね。これに対して,子どもはそのときは受け身の立場ですよね。これが大きくなって,自分が改めて独立の人格権として子の父親と自分の関係をどうするかということを考えるチャンスを与えるというのが,この年齢の要件だと思うんですけれども,そのときに子どもの利益というのは,父親はこれから育てるときに養育責任を負うわけですが,子どもはその父と自分の間に,それに見合う保護者としての第一義的責任としての健全育成の達成とか子どもの利益の保障とか,そういうことがこれまであったかどうかということを問えるというチャンスが与えられるべきだと思います。   なので,ここで虐待というふうにも出ていますけれども,虐待というよりは適切な養育ではなかった,自分と父との間に信頼関係とか安全感を持てなかったということが大きな要件になるかなと思います。なので,お父さんの方はこれから育てていく責任を負いました,ですけれども,子どもはそのときには一緒に同意できる選択権がないわけですから,子どもは大きくなってから振り返ったときに,自分と父親の関係に父子の意味が失われるような問題があったというふうに,それは欠落かもしれないですよね,加害ではなくて。そういうものがあったときにこの父子関係を認められないと考える理由はあると思うので,いなかったというのもその一つですけれども,いてもいないと同じような状態だったときというのはあると思うんです。そのときに,自分としてはこの親子関係を否認したいと考える可能性はあるので,ちょっと虐待とまでいってしまうと何か積極的加害があったかなかったかみたいな話ですけれども,そうではなくて,子どもの方が父親の養育に関して自分の利益にかなっていなかった,とてもではないけれどもこの人を父親として一緒に育ってきた,生きたとは考えられないというときには否認権の行使があり得るということではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   具体的な要件についての御意見をいただきたいというのが事務当局からの御要望でしたけれども,5ページの①,②,③の部分について,①については先ほど,やや異質な要素が含まれているのではないかという御発言もありましたが,山本委員の方からは,これを虐待があったというのではなくて,しかるべき監護がなかったという形で読み替えて残すという余地もあるのではないかという御指摘を頂いたものと思います。窪田委員が先ほどから,②,③はいいけれどもとおっしゃっておられますけれども,②,③は没交渉ということで割と明確な線が引けますが,①はそれだけではなくて,もう少し広く考えるべきではないかというのが今の山本委員の御指摘かと思います。そうなったときに,それをどのように要件化していくのかということにつきまして,皆さんの方から御意見や御示唆があれば頂きたいと思います。今の点に限らずに,要件を立てるとしたらこんなことを考えるべきだということにつき,御発言があれば是非頂きたいところですが,いかがでしょうか。   手嶋委員,どうぞ。 ○手嶋委員 ありがとうございます。   先ほど来,非常に難しい問題だなと思いながら伺っておりました。この手続を仮に設けるとすると,裁判所としても非常に重い判断を担うことになるなという思いを持っておりまして,かつ,今までの御議論でも感じるところでもあるのですけれども,どういう場合を想定しているのか,どういう場合にはその否認権行使を認めてよいのかということ自体について,多分それぞれの委員,幹事の方々が想定しておられるところがやはり相当に幅があるのではないかとも思っておりまして,そこが裁判所としては非常に厳しいところだなと逆に思っております。   先ほどの御発言の中で,いてもいないのと同じ,それから適切な養育がないということを考慮するというお話があったのですが,総論としては確かによく分かるのですけれども,では具体的にどういう場合にそう言えるのかというところは,正に先ほど申し上げたとおりで,一定のコンセンサスがあるかというとなかなかないのではないかと思いまして,そうしますと裁判所としてもどういうふうに判断していけばいいのか,また,裁判官によっても判断は分かれる可能性が相当にあるのではないかと危惧されるところです。その意味では,諸外国の,アメリカ,フランス等ここに記載いただいている内容を拝見しますと,比較的外形的にはっきりした部分を切り出して要件化されているというところがありまして,それも一つの知恵なのかなとも思うところです。   それに関連して,ドイツの関係の木村幹事の先ほどのお話について,ちょっと私聞き逃してしまったのかもしれないのですが,もし今お分かりになれば教えていただきたいと思っておりますのが,ドイツでは,子が成年に達した後は否認権の行使について制約要因はないという理解に立つことでよろしいのか,その点ちょっと教えていただければ有り難いと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど木村幹事の御説明の中で,出自が分かったらそれはその後,否認の訴えに結びつくことになるといった御説明があったと思いますけれども,その否認の訴え自体については何か制限はないのかという御質問かと思います。木村幹事,いかがでしょうか。 ○木村(敦)幹事 木村です。   先ほども御説明させていただいたとおり,ドイツ法においては,成年子になった場合に否認権を行使する場合については,子の福祉や社会的親子関係の保護を考慮して,否認権行使を制限する要件は現行法においては一切定められておりません。そのため,解釈論上においても基本的に否認権の制約は掛からないというふうな理解が採られています。しかし,その後の議論状況などを見ますと,子どもの権利,特に出自を知る権利がその場面では重視され過ぎており,そのほかの当事者,例えば法律上の父親や母親の利益が十分に考慮されていないということから,今後の改正に向けては制約要因というのを設けてもよいのではないかという見方も示されていると認識しています。 ○大村部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。 ○手嶋委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかに何かこの点につきまして御示唆があればと思いますが。   棚村委員,それから山本委員の順番でお願いします。 ○棚村委員 事務当局にも質問なんですけれども,親子関係不存在でも長らく生活関係が続いてきて,請求の目的や動機が不当であったりすると権利濫用とか信義則違反みたいなことで,一般条項で否定されるという可能性はなくはないと思います。ここでの一定の要件ということを考えたときに,正に今,手嶋委員の方からもあったように,こういう場合には権利行使が制限されるということで,濫用とか本来の目的だとかそういうものを逸脱して行使されているという,そういうイメージなのか,それともそうではなくて,もうちょっと広い意味で,実質,社会的な親子関係とか家族関係が形成されて実体が築かれているので,それをひっくり返すことについて問題だと思うので一定程度制限したい,そういうイメージか,ちょっと教えていただきたいと思います。要するに,信義則とか権利濫用とかとそういうものはもう当然あり得るけれども,それとは別の要件立てということで一定の要件を充足するというのを考えられていたのか,ちょっと教えていただきたい。すみません,私自身もちょっと混乱をしていたところなのでご説明いただければ助かります。 ○平田幹事 本日伺って,それは基本的に権利行使を認めるべきだという発想と,制限的にすべきだという両方のお立場があるということは理解しております。その上で今回,この案を書かせていただいたところは,やはり一つには,基本的には子が小さいときに母親によってある程度適切な権利行使がされているだろうというところと,もう一つは,長期間が経過することによって社会的な親子関係が形成されているだろうというところを前提として,権利濫用といったものではなく,もう少し具体的な要件をもって制限する枠を設けることを考えて提案させていただいたというところです。その意味で(注2)のように,幾つか要素を挙げさせていただいて,最終的に否認することが相当と認めるというような要件を立てさせてはいただいていますが,そういうような要件で足りるのかどうなのかというところを含めて御議論いただきたいと思っておりますし,もし別の立場の観点からそういう一般条項を類型化すれば十分であるというのであれば,それはそれで一つのお考えだと思いますので,御意見いただければと思います。 ○棚村委員 なぜ聞いたかというと,中国民法典が今回できまして,そこに親子関係の存否の確認の訴訟というのが条文で入りました。そこは従来の司法解釈とかいろいろなものも入れて,やはり必要があるとか正当な理由がある場合というので,非常に一般的な制限だけ掛けて期間制限も実はないので,学者とかの間でも大丈夫かなという意見もありました。そのときに,ここで,5ページの上の方で挙げられている先ほど山本委員からもあった不適切養育とかという話になった場合に,不適切と本人が感じた場合に否定できるということになると,ちょっと②と③の例示されているものとは大分違っているのではないか,そういう意味で,先ほど子どもの否認権というのは重視すべきだということを言ったのですけれども,その関係者の否定をしたい利益と,それから親子関係をやはり維持されるべきだという社会的な利益とのバランスでいうと,こういうような事情で,没交渉とか生活実態がないとか,若しくは同居していないとかというのは外形的なので明確なんですけれども,子どもが不適切に扱われて非常に不満を持っているみたいな部分で権利行使,もちろん権利として認めるのであれば基本は認める方向なんですけれども,それをそのまま認めるわけにはいかないということで例示されているわけでしょうか。 ○平田幹事 すみません,もう一度,最後の質問の部分を伺えますでしょうか。 ○棚村委員 虐待も,ある意味では本人がそういうふうに感じたり,ネグレクトされたりということはあります。虐待やネグレクトは多分裁判所の方で判断するときに,過去に振り返ったいろいろな生活事実とかそういうようなことが関わってくると,被害を受けたと感じている子どもと,加害者であるとされる父親の方の認識が大きくずれることが起こってこないか。その辺りがすごく①のところは要件化するのが難しくないかなという危惧です。要件の具体的な話は,どの時点でのものかというと,長年にわたりということですね。言いたいことは分からなくはなくて,最初読んでいたのですけれども,これが不適切養育ということになると,お子さんが否認権を与えられた以上,とにかくこの親とは縁を切りたいというようなことで主張した場合には,やはり認めざるを得ないということになるのかというのをちょっとお尋ねしたかったんです。もっと客観的なものではないのでしょうか。 ○平田幹事 基本的に①の事例は,特別養子の離縁ですとかそういうところに倣って挙げさせていただいたところですので,これを要件化する場合には,客観的に判断することを想定して立てることになろうかと思います。ただ,これを要件に入れることが相当かどうかというのは,もちろんここで御議論いただきたいというところで挙げさせていただいた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   事務当局の①,②,③というのは,こういうものであれば認めることが考えられるかもしれないという形で提案されているんだろうと思いますが,その出発点は,先ほど平田幹事から御説明がありましたけれども,子どもの利益については母が一旦争っているはずだということがまずあって,その上で争いうる場合を絞り出そうという発想でできているのかと思って私自身は伺っておりました。ただ,①を先ほど山本委員がおっしゃったような形で緩和するということになると,また難しい問題が出てくるかと思います。山本委員,お願いいたします。どうぞ。 ○山本委員 正に今そこのところですよね。これは①を申し立てるには,やはり申立て側に立証責任は一定存在すると思うんです。なので,事情は一方的に言われたきりというのはちょっとおかしいですよね。そういう意味では,子どもが自分がいつ,どんなふうにどんなことがあったので,それが不適切養育として,自分はそれを父子関係として認め難いんだということを主張する根拠は示さないといけないと思います。客観的にいうとどうしても虐待に偏ってはいきますよね。相談所が扱っていたとか親子分離をしたとか,そういうような過去の事実関係だったり,28条が認められたことがあるとか,そういうような虐待の事実について客観的な経過があるかないか,それから,お母さんとか家族がどれぐらいそのことについて証明的な話をするかとか,そういうことは事実として必要になっております。ただ主観的に腹が立ったからとか,そういうことと区別ができなければ困るので。   ただ,そういう関係というのは,しばしばやはり表向きのいろいろな社会生活にそもそも出てこない。これが例えばイギリス,アメリカであれば,虐待が認定された時点で親権を剥奪されていますよね。ところが,日本の場合は親権はそのままなんです。だからその父子関係もそのまま,別に社会的にはそこでもし虐待が認定されていても,何もそこに関しては手は入っていないということがあって,それを振り返った子どもがもう一回それを問題にするチャンスがあるかということが問われているのかな,特にここでは親子関係がないというそういう前提で,かつそういうことがという条件なので,ただ虐待の恨みを晴らすとかそういう問題ではないと思うんですけれども,ただその時点で自分としてはもうここで父子関係を切りますという意思表示をできるチャンス,大人は子どもの養育を引き受ける段階でそれができるけれども,子どもはその養育を受けた結果としての自分が確立したときにもう一遍その意見を表明できるという,そういう意思表示のタイミングがあるんだと思います。なので,確かに②や③はもう客観的には何月何日から何月,そういう事実でいきますけれども,①はやはりその中身について一定それを立証する側の責任は伴っているし,それを裁判所が認定するかどうかということが入ってくると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   久保野幹事からも手が挙がっているようなので,久保野幹事,どうぞ。 ○久保野幹事 ありがとうございます。   窪田幹事が御指摘なさった一旦,出生後に否認権が行使されずにそこで一定の安定した親子関係を組み立てたと認めるという制度を前提に,今その後の段階における否認権を考えているということを考えますと,一旦安定した確立した親子関係を認めるのはなぜかということとの関係で否認の要件を考えなくてはいけないという観点が重要だと考えています。そのことは資料でいいますと,別の観点から言われていることと非常に関係しているように受け止めていまして,それは4ページの(1)の4行目からの,「また」というところで書かれていることなんですけれども,父が出生の段階で否認権を行使せずに安定して育てていこうとしている,けれども将来,生物学上の父子関係がないと子どもによって覆されるかもしれないということがあるというときに,養育をためらうようなことにならないように考えなければいけないという指摘がここにあります。この観点との関係で,要件を生物学上の関係がないということに重点を置いた要件立てで広く権利性を認めていくときには,やはりこことの緊張関係といいますか,影響が懸念されると思います。   そうはいっても様々な選択肢を考えているというのは理解しておりますけれども,今申したような観点から少し気になりますのが,この要件立ての議論の中で,社会的な事実といったことや,これとの関連で養育の実態,事実としてどう養育しているかといったようなことに着目した議論がありますけれども,社会的な事実があるから,それを保護しなくてはいけないから否認を認めるべきではないという立て方が一方であると思うんですけれども,他方で形式的に法律上の親子関係はあるけれども,それしかなくて全く形骸化している,そういう場合にだけは否認を認めるというような説明の仕方もあり得るように思いまして,ちょっとニュアンスの違いをどのぐらいうまくお伝えできているか分からないんですけれども,実態としてどういう社会的な事実があるかとか,どういう養育をしているか,ましてその養育の質がどうかといったようなことではない基準の立て方というのがあり得るのではないかという,一つの選択肢としてはそういうことも考えていいように思います。   その観点からいったときに,5ページの例のうち②について,没交渉というのは確かに一見分かりやすく客観的にも思えるのですが,②のようなケースの場合に,父親側が子どもを子として扱わなかったと本当に言えるかどうかという辺りは,恐らく事案によって違うような面もあるだろうと思っていまして,およそ子として扱ったような関係や子どもが親として捉えた関係がないような,形式だけはあったおよそ関係しかなかったというような視点,選択肢というのも考えてみてもいいのではないかと思います。   すみません,長くなりまして,失礼しました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   御指摘の最後に具体的な御意見がございましたけれども,そこに至る過程でこれをどのように位置付けるかということについても御発言頂いたと受け止めました。資料でいいますと,1ページの太字の後注のところで,子自身が父子関係を否定することができる制度と嫡出否認の訴えの関係については,引き続き検討するとなっておりますけれども,これを嫡出否認の訴えという枠内で考えるということでよいのかといった問題意識も含まれていたのではないか,先ほど別の問題について,幡野さんから嫡出否認の訴えの外でというか,一般の嫡出否認とは違う捉え方で捉えるべきではないかといった御発言がありましたが,この問題についても,嫡出否認の問題はある意味では既に終わっているけれども,しかし法的な親子関係を残しておくのはおかしい場合があるのではないか,こういう御指摘だと伺いました。   ほかにいかがでしょうか。いろいろ御発言を頂いておりますけれども,これは更に次回に,一定の要件化した形で整理して皆様に御検討いただくということが必要かと思います。そのためにこういう点に留意すべきだといったことを具体的に挙げていただけますと,事務当局としては大変助かるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。   平田幹事の方から,ここはどうですかといったことは何かありますか。 ○平田幹事 では1点だけ,もしどなたかから御意見を伺えればというところなんですけれども,今,具体的に(注2)で挙げさせていただいている要件についてこういうものを入れてほしいなど,これに関連して何か御意見があったら是非伺いたいと思います。 ○大村部会長 いかがでしょうか。直近では5ページの幾つかの具体例のようなものに御意見が集まっていましたけれども,(注2)のような形で,考慮要素を列挙しての要件立てについてどうかということについて御発言があればと思います。では,窪田委員。 ○窪田委員 よろしいでしょうか。   ちょっと実は事前資料を読んでいて,よく分からないなと思っていた点について発言させていただきます。   (注2)なんですが,例えばというところで挙げている子との同居の有無及び期間,それから監護,教育の状況で,括弧の中で監護親ではない場合を想定してだと思いますが,面会,交流とか費用の負担という形も言及されていて,ここまでは正しく社会的な親子関係というか,父子関係としての実態を判断するものとしてよく分かるのですが,その次に出てくる子の氏及び戸籍の記載については,具体的に何を,どういうふうに考慮するのかという点について少し御説明いただけますでしょうか。場合によってはこれで決めるのは適当ではない場合もあるのではないかという気がしたものですから。 ○平田幹事 子の氏及び戸籍の部分は,社会的に父子関係といいますか,子として扱っていたかどうかというものの徴憑の一つとして捉えたというところであります。基本的に現行で父が子として扱う場合に,一つは戸籍に記載されるというところは大きな要素にはなり得るかなと思って書かせていただいたところではございます。 ○大村部会長 窪田委員,何かそれについてありますか。 ○窪田委員 全く分からないというわけではないのですが,私自身としては,何か特に取り上げて明示すべきファクターではないのではないかという感触を持っております。ただ,別な意見もあるかもしれません。 ○大村部会長 御検討いただきたいと思いますけれども,身分占有の要件として処遇,世評と併せて呼称というのがありますが,そうしたものを受けているところもあるのかもしれないと思って伺いました。   御発言あれば,どうぞお願いいたします。 ○手嶋委員 (注2)の記載については,考慮すべき要素は具体的に挙げていただいているとは思うのですけれども,結局,「一定の要件」を受ける部分はそれらを考慮して否認することが相当となっているものですから,どういう場合に相当と考えるべきなのかというのが,なかなかここからは読み取りにくいのではないだろうか,このままではなかなか厳しいかなというのが率直な感想でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   仮にこの書き方をベースにするとして,考慮要素が挙がっていて判断をするとしたら,判断の基準になるような文言が少なくとも何かないと困るのではないかという御指摘かと思いますけれども,その辺りについて何か御発言があればお願いします。   垣内幹事,どうぞ。 ○垣内幹事 よろしいでしょうか。   今,手嶋委員が言われた点は,私もそのとおりかなというように思っておりまして,今の(注2)の記載ですと,結局その他一切の事情を考慮して相当と認めるときということですので,これではなかなか判断はやはり難しいのであろうというように思います。確かに,様々な具体的な事案において最も妥当な結果を追求しようとすると,いろいろな事情を考慮しなければならないということはもちろんそのとおりなのですけれども,もちろん先ほど来議論があるような,この制度の趣旨等を勘案してということではありますが,ある程度明確な形で要件設定をする必要というのは非常にあるだろうというように思っておりまして,そういう観点から見ましたときに,今(注2)で記載されていることで申しますと,同居の有無はもちろんですけれども,期間についても何か目安となるような期間についてもしコンセンサスができるのであれば要件として設定をする,それが5年なのか何年なのかということはいろいろまたあるかと思いますけれども,そういった点についても更に検討する必要があるのではないかという気がしております。   それからもう一方で,これは否定的な御意見も多かったように思いますけれども,5ページの事案ですと,①の事例というものにつきましては,これは先ほど事務局から特別養子縁組の離縁事由との関係で挙げた例でもあるという御説明もあったかと思いますが,最終的になかなか難しいということになるかもしれませんけれども,例えば中間試案の段階で様々な方面から御意見を聞くという際の一つの選択肢として,817条の10の1項1号,親による虐待,悪意の遺棄等について,そういう事実が認められるというときということを一つの選択肢として挙げるということは,あり得ることなのかなというように現時点では考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   木村(敦)幹事,どうぞ。 ○木村(敦)幹事 すみません。   今ご指摘のあった(注2)のところで挙げられていた点に関連する事柄として,ドイツ法では,生物学上の父の否認権行使において社会的家族関係の保護に関わる要件が,また未成年子の場合の否認権行使については子どもの福祉要件が規定されています。これらの判断にあたっては,ドイツ法において,たとえば法律上の父親が子どもに対して監護に要する費用,つまり扶養義務のみを履行しているだけでは子どもの福祉にかなうという要件は必ずしも満たさないとの解釈も示されており,精神的,心理的な面においても法律上の父親が養育責任を果たしている必要があるとの理解が主張されているようです。   こういったドイツ法の理解を踏まえますと,部会資料では,子による否認権行使に関する指摘として社会的親子関係に関する要件が言及されているのですけれども,いくつかの判断要素をばらばらと並べるだけでは,監護及び教育において判断すべきメルクマールなのかという点も必ずしも明らかではないと思いますので,その点についても今後精査をしたり,あるいはパブリックコメントのところでいろいろな意見を問う必要があると考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   垣内幹事とそれから木村幹事から,要件を具体化する方向での御発言を頂きました。   ほかに何かあれば伺いますが,幡野幹事,どうぞ。 ○幡野幹事 フランス法の身分占有に関する最近の考え方を御参考までに御紹介させていただきますと,先ほど大村座長もおっしゃったように,三つの要素があります。Tractatusというのが最初の要素で,親が子として扱っていること,そして逆方向に子が親として扱っていることを意味します。famaというのが二つ目の要素で,社会がその親子を親子として扱っていることを意味します。三つ目がnomenという要素で,子が親と同じ名前を称していることを意味します。このように三つの要素がありますが,最近では一番最初の親が子として扱っている,子が親として扱っている,その要素が一番重要であると考えられているようです。これらの要素を総合的に考慮して,十分親子という関係があった,社会的親子関係があったとみなされるかどうかを判断します。結局,最終的には総合的な判断ということになりますけれども,先ほど申し上げた最初の要素が最も重要であると考えられております。そういう意味で,名前というのが(注2)のところに挙がっておりますけれども,それは要素としては二次的なものとして位置付けてもいいと思います。   先ほど垣内幹事が同居の期間という話をされておりましたけれども,親が子として扱う,子が親として扱うという際に,もちろん同居という要素は重要ではありますが,ではフランスで離婚などに伴い別居したからといって,親が子として扱っているかという点が失われるかというと,必ずしもそういうわけではないということも留意する必要があるかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   磯谷委員,どうぞ。 ○磯谷委員 一つは,5ページの一番上にある①の要件です。これを考慮するかどうかというところ,まだ私自身も決め切れていないんですけれども,少なくとも特別養子のときの離縁の要件と同じような理解ではないんだろうと思うのは,もはやこの段階では子どもの養育ということは関係がなくなっているわけですから,そういった意味での福祉的な判断というのは多分必要ないんだろう,そうすると,どちらかというと②,③に比して考えますと,もう親子と言い難いような,およそ保護の必要がないような,形骸化したようなものと同等とみなされるような虐待ないしネグレクトという,そういうふうなことになってくると,②,③とも比較的整合的になるのかな,ただ,その場合に独立した要件として①のようなものを入れるのかなというのは,ちょっとまだよく分からないところではございます。   それから,少し戻りまして,事務局が1ページの(注2)で,要するにこういった要件が認められる場合に否認を認めるという形で書いていただいているので,そういった流れの議論が強くなっているような気がするんですけれども,大森幹事も指摘していましたように,原則,否認は認めるけれども,こうこうこういう事情の場合には認めないというふうな考え方というのも当然あるわけで,是非,そういった案も設けていただくといいのかなと思います。実質的に例えば父の方が余りもう積極的に争わないような場合に,しかしながら,請求原因として全部子どもの方が主張を立証しなければいけないとなるとかなり負担が大きいのに対して,父の方が抗弁的な形で主張を立証するということであれば,もう父がほとんどやる気を失っているような場合には認められてしかるべきなのかなとも思います。そういうふうなこともあるので,何といいますか,5ページの(4)に書いてある事務局側の御懸念というのは,これはこれで理解はできるんですけれども,一方でやはり抗弁的な形で立て付けをするという意味も大きいのかなと思っています。   それから,その中身は本当に難しいんですけれども,やはり家族が多様化している状況を考えると,同居というのは外形的には分かりやすいですけれども,必ずしも万能なメルクマールにはならないのかなと思います。親としては,やはり根本的な役割としては子どもの監護ということと,それからあとはやはり経済的な支援というふうなところ,これは恐らく様々な形があって,いわゆる離婚して別居しているケースのように,実際にはもう監護にはほとんど当たらないけれども経済的に養育費を支払うなどしてサポートしているところもあれば,あるいは別の親は,もう自分は経済的には支援できないけれどもしっかり子どもをいろいろな意味で支えているケースとか,そういうふうなところがあると思うので,恐らく監護とそれから経済的な支援の部分との相関といいますか,そこの兼ね合いのところで実質的に親子関係があったのか,なかったのかというふうなところを見ていくことになるのかなと思います。その上で先ほどのスキームになると,父の方が,ちょっと言葉は本当に難しいですけれども,最低限の親としての義務を果たしていた場合には子の否認権行使については認めないとか,そういった形の立て付けというのも十分あるのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   久保野幹事,どうぞ。 ○久保野幹事 すみません,別の話になりますがよろしいでしょうか。 ○大村部会長 では,その前に少し整理させてください。今の磯谷委員のお話ですが,ほかの委員,幹事からも御発言ありましたけれども,没交渉になっているという表現が5ページで使われておりますが,親子関係が完全に形骸化しているような場合については,皆さん,それはそれでよかろうという御感触かと思います。その上で,そこから更に広げるということがどこまでできるのかということが一つ実質的な問題としてあると思って伺いました。   それから,訴訟になったときの子どもの側の負担をどのように勘案するのかといったことも指摘されていたと伺いました。   それでは,久保野幹事,どうぞ。 ○久保野幹事 すみません,久保野です。   (注2)の文言の中で,戸籍の記載というのは疑問があるという意見に賛成でして,といいますのは,無戸籍の場合を考えて,それが否定を支える要素として出ているのかなと理解しているのですが,その場合を除けば,今回の場合,法的な親子関係は形式的にはある関係を否定するかどうかを考慮する事項として(注2)を挙げられているところ,その戸籍の記載というのは,実質的な形骸化していない親子関係があるかどうかを検討するに当たって効いてくる要素とは考えられないのではないかと思うからというのが一つです。また,今のことを裏返しに言うだけですけれども,ここでほかの要素と並べて戸籍の記載と挙げますと,実質的な親子関係というものの評価に戸籍の記載が効いてくるといったような誤解といいますか,理解も招きかねないという気も致しまして,ちょっとミスリーディングといいますか,入れなくてよいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど呼称の問題というのは,身分占有の場合にも今では,副次的な要素になっているといった話がありましたけれども,子として親としての扱いという中に吸収して考えることもできるのかもしれません。久保野幹事の御指摘は,これが書いてあることに伴う弊害,副作用があるのではないかいうことだったかと思います。   窪田委員,お願いします。 ○窪田委員 少し戻るのですが,磯谷委員からの御発言があった点については,私も全く同感でして,実体的要件としてどういうふうに規定するかという問題と,その要件を課した上で否認権を行使できるとするのか,そうではないのかというのは結構大事なポイントなのだろうと思います。法制審議会の提案というのは,別に条文の形に則したものではなくて,基本的な方向を示すものでいいとは思うのですが,ただ,第1の②の部分に関していうと,一定の要件を充足しないと否認をすることができないと書くのか,否認することはできるけれども一定の要件を満たさない場合には退けられると抗弁の形で書くのかは結構大きな違いがあるのだろうと思います。磯谷委員からの御指摘の中には,抗弁の形で書いておけば相手が争わなかったらもうそれでおしまいにできるよねというニュアンスが含まれていたのではないかなと思いますので,ここに関していうと,何かそういう形で二つ可能性があるのだということを示せる形で書いておいた方がいいのかなという気は致しました。ひょっとすると実質的にも議論がそういうふうに分かれていたのかなというふうに思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   なかなか議論は尽きませんが,だんだん今日の残り時間も少なくなってまいりました。この第1の問題については,前回の積み残し分との関係で効果の問題とも残っています。そこについて何か特に御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   遡及効を認めるかどうかということについて,それについて一定の制限をすべきではないかといった御議論も従前の会議では出ていたように思いますけれども,今日は何か特に御指摘はないでしょうか。   それでは,取りあえずは御意見はないようなので,問題はこういうことであるということで,先に進みたいと思います。   部会資料11の第1につきまして,ほかに何かもし御発言があれば伺いますが,いかがでしょうか。   どうぞ,髙橋委員。 ○髙橋委員 6ページの6のところなんですけれども,子の出生後比較的短期間に行使される否認権との関係ということですけれども,特に従来の議論と新しいことを言うわけではないんですけれども,今回,生殖医療の法案が議員立法が出る可能性があって,そうすると,AIDに同意した父親の否認権は行使できないという立法がされる可能性があるんですが,仮にその父親が嫡出否認訴訟を起こして,棄却か却下か分からないんですけれども,それが法律の規定により駄目だったと,その場合もこの6番の一般的な類型と同じになるのか,それはそれでまた,子どもが後々独自の否認権を行使できるのか,ちょっとまたそれはどこかで別に考えていただけないかなということを思うんですけれども。 ○平田幹事 ちょっと議員立法の関係では流動的なところがございますので,その動きを見ながら必要なところは検討させていただきたいというふうに思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   生殖補助医療関係の問題については,先ほども御指摘がありましたけれども,またどこかで整理をすることが必要なのかと思って伺いました。それはひとまず置きまして,そのほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,なかなか引き取るのは難しいのですけれども,頂きました御意見を踏まえて選択肢を示すような形で,こんな考え方があるという形のものを次には準備をしていただくということにならざるを得ないかと思います。   残っている問題が大分ございますけれども,ここで最後の休憩を挟んで残りの問題について御意見を頂きたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開したいと思います。   進め方についてお諮りしたいのですが,3番目の項目として用意しておりました否認権の相手方,当事者が死亡した場合の規律の部分を分量の関係で次回送りにさせていただきまして,その後の第3の「認知に関する規律の見直し」及び第4の『「嫡出」の用語の見直し』という部分,資料11の15ページ以下と21ページ以下ですが,この部分について御意見を頂ければと思います。そのような進め方にさせていただきますが,よろしいでしょうか。   それでは,第3と第4につきまして,まとめて事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○濱岡関係官 それでは,御説明いたします。   お手元の部会資料11の15ページを御覧ください。   第3は,「認知に関する規律の見直し」についてです。   ここでは,認知及び認知無効に関する規律に関して検討を加えております。2で記載しておりますとおり,認知無効の訴えに期間制限を設ける案については,認知された子の身分関係を安定させる要請がある一方で,不実の認知であっても一定期間経過後は父子関係の有無について争えなくすると,外国人女性の子の国籍の取得の場面等で問題が生じるおそれがあると考えられるため,その問題を解消する方策等について検討を加えております。   16ページにいきまして,3(2)ですけれども,認知された子の身分関係の安定の要請につきましては,最高裁判決で子の身分関係の安定について配慮する必要がある旨示されております。子の身分関係の安定を図る必要性は嫡出推定が及ぶ子との間では差はないとも考えられ,認知された子の利益を保護し,嫡出子との均衡を図る観点から,認知無効に関する規律について見直しをする必要性を認めることも十分可能であると考えられます。もっとも,(4)で記載していますとおり,本見直しをした場合には国籍実務に対する影響が生じ得ることから,新たに虚偽認知による国籍取得を防止する方策を設けることが不可欠であると考えられます。   17ページの(5)では,虚偽認知による国籍の不正取得等を防止するという要請と,子の身分関係の安定を図る要請とを調和させる方策を検討しております。具体的には,虚偽認知による国籍取得等を防止するために,認知の成立に関し,嫡出でない子は子又はその法定代理人の承諾がなければこれを認知することはできないとすることを前提に,①父が反対の事実を知りつつ公益に反する目的で認知をしたときは,その認知は当然に無効とし,②子又はその法定代理人が反対の事実を知りつつ公益に反する目的で認知の承諾をしたときも同様とすることが考えられます。また,子の身分関係の安定を図るために,③認知者が子との間に生物学上の父子関係がないことを知らずに認知をした場合には認知は取り消し得るものとし,④認知の取消しは認知取消しの訴えによるべきこと,⑤当該訴えは嫡出否認の訴えとの均衡を考慮し,一定の提訴権者が一定の期間内に限り提起することができるとすることなどが考えられます。   なお,19ページの(6)で記載していますように,このような見直しにより虚偽認知による国籍取得といった弊害が生じるおそれがあり,そのような大幅な見直しが困難であると考えられる場合には,本部会においては認知に関する規律を見直さないとすることも考えられます。   次に,20ページに移りまして,4は「認知に関する規律の見直し」についてです。   未成年の子の認知について,子や母の承諾を要件とすることが考えられますが,そもそもこのような見直しを行う立法事実があるかなどが問題であります。また,認知による父子関係の成立に関する規律は,認知無効及び取消しに関する規律と併せて検討することが相当であるとも考えられるところであり,認知無効及び取消しに関する規律を見直すことが難しい場合には,認知に関する規律の見直しを行わないことも考えられます。   最後に,21ページに移りまして,第4は「『嫡出』の用語の見直し」についてです。   国際連合の自由権規約委員会などからは,嫡出でない子に関する全ての差別的規定を撤廃する旨の勧告や懸念が示されており,現行法上の「嫡出」という用語を見直すことが考えられます。他方で,嫡出の用語の見直しは,家族法制の諸制度にまたがる規定の見直しを伴うものであり,その用語を全面的に排除することが社会的にどのように受け止められるかといった点に配慮することが必要であることからすると,見直しの必要性の有無も含めて検討する必要があるとも思われます。   これらの点について御意見を頂けると幸いです。説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   この第3と第4は嫡出推定と関連する周辺の問題ということで,一括して説明をしてもらいましたが,内容はかなり異なる話ですので,まず第3の方について御意見を頂き,その後,第4について御意見を頂ければと思います。   第3の方につきまして御自由に御発言を頂ければと思います。いかがでしょうか。   大石委員,どうぞ。 ○大石委員 17ページのところなんですが,国籍取得における虚偽認知に対する強い懸念があって,そのための方策を設けるということは不可欠であるということまで言い切っているわけです。しかし,その後の(5)の中身を考えると,ほかの利益と調和するための方策という形で書いてあるわけですが,2点ほどそこで申し上げたいと思います。   一つは,言葉の問題かもしれませんが,公益に反する目的で認知したときはというのがかなり引っ掛かるところでして,元々認知は公益のためにやっているわけではないので,公の秩序に反するというような形でというのなら分かるんですけれども,公益に反する目的というこの目的で絞るという,主観的な要件で絞るというところがよくつながらないのではないかと思います。   もう一つは,不可欠であるといいながら,ではその要件を例えばこういうふうに設定したとして無効にするというようなことになるんですが,実体法的に強い効果を持たせるという規定にはなるんですけれども,しかし,そのためにはそもそも手続的な実効的な規律がないと意味がないわけです。ところが,18ページで書かれてあるようなことは,(注4,5),特に(注4)のところを参考にしても,例えば附帯決議で懸念されているような,3つの事柄について気を付けてくださいということが19ページから20ページに書かれているんですが,それにこたえるだけの十分な調査の手立てといいますか,実効的な調査を提供しているものかどうかという点でやや疑問があります。そこに書いてある事柄はいずれも所定の法定要件の認定の問題でして,それをするための手続をどうするか,実効的な手続を考えてくださいということが要点であるはずなのに,必ずしもそれにきっちり応えているものにはなっていないのではないかと,私自身は感じました。その点をちょっと工夫していただければ幸いでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   何か,よろしいですか。 ○平田幹事 ここの部分は,これで足りているかどうかというところも含めて今回御意見を頂きたいと思っていたところでしたので,また検討させていただきたいと思います。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   大石委員,基本的な方向性についての何かお考えがあれば,伺えればと思いますが。 ○大石委員 戸籍法第3条の改正で,そのときからも言われたのは,虚偽認知の問題をどうするかということで,実際その立法過程のところでこういう懸念が示されたということを前提にするのなら,やはり何らかの実効的な方策を考えざるを得ないのではないか。ただ,民事的な規律でどこまでやるか,特に出入国在留管理制度,あるいは出入国在留管理庁との連携をどうするかということを,どこまで具体的に書かれるのがいいかという点については,私その点の知見がないものですからお任せしますけれども,もう少し,もし制度設計するなら踏み込んだものの方がよろしいのではないかということを感じます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 大石先生が取り上げられた部分と同じ部分なのですが,私自身も17ページの(5)のところに,大石先生とは多分違うニュアンスだろうと思いますが,やはり違和感を持っておりました。虚偽認知による国籍の不正取得等を防止するという要請と,認知による父子関係を前提として形成された事実を尊重して,事後的に認知が無効とされる事態を生じさせないようにするという,子の身分関係の安定を図る要請をという二つが本当に対立軸として挙げられるのだろうかという点で,大変に強い違和感があります。これは別に虚偽認知による国籍の不正取得の問題が重要ではないと言うつもりはなくて,これはこれで重要だろうと思うのですが,それを防止しなければいけないということを,何か子の身分の安定というのと対立軸にあるものとして議論をするということ自体に対する違和感です。その違和感が一体どこにあるのかなと考えたときに,国籍の不当取得の問題は非常に大きな問題で,軽視することはできないのだろうとは思いますが,それを認知のルール一般の中で解決しようとするということ自体が本当に適切なのだろうかということなのだろうと思います。大石先生から,むしろ認知の一般ルールの問題で解消しようとするから多分不徹底なのだという御指摘もあったのだと思いますし,この法制審議会はもちろん親子関係を扱っているものですから,管轄外のことについて何か言えるわけではないのですが,気になる点として発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   17ページ(5)で対立する要請として挙がっているものが,少なくとも同じ次元に並ぶものではないのではないかという御指摘で,民法でどこまでやるのかということを考える必要があるだろう,それは大石委員も,やるならば徹底してとおっしゃったかと思いますので,基本のところは共通の御指摘かと思って伺いました。ほかにはいかがでしょうか。   垣内幹事,お願いします。 ○垣内幹事 ありがとうございます。   今,窪田委員が御指摘になった点とも若干関連するのかもしれないですけれども,17ページの部分に関しまして,私これを拝見しましたときに,国籍法上の取扱いの問題だということだと致しますと,例えば虚偽である認知の効力を国籍法3条の関係では主張ができないということが必要最小限,要請されることなのかなというようにも思われまして,それが対抗ということなのか,国籍との関係では無効ということなのか分かりませんけれども,国籍との関係での効力を制限するということが考えられそうに思われたのですけれども,御提案はそうではなくて,認知そのものが当然に無効であるという非常に一般的な射程を持った規律として提案されているように理解をしたんですけれども,そうではない国籍限りでの処理というのが難しいということについて,何かこういうことで難しいのであるというような理由,根拠があるのであれば,お教えいただければ有り難いと感じました。   併せまして,もう1点,関連する質問ですけれども,仮に認知についてこのような規定,あるいは規律を新たに設けるという場合に,各種の身分行為全般について,何か同様の公益違反というようなことからの当然無効というような規律を考える場面が出てくるのかどうか,そうした何か波及する場面というのがあり得るのかどうかということについても,何か既に御検討のところがあれば伺えればと感じました。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○土手幹事 国籍法第3条の関係でございますけれども,この第3条の場合は,認知をした場合に届出によって国籍を取得ということなので,不受理にする場合があるんですけれども,その場合には,飽くまでもその認知が無効であるということで国籍の取得の届出が不受理になるということなので,やはりちょっと認知が無効であるというところがどうしても現行の第3条の取扱いでは必要になっているということでございます。 ○大村部会長 それから,もう1点御質問ありましたけれども,それは平田幹事から。 ○平田幹事 今,認知のこのような規律の見直しをした場合に各種の身分行為について波及するものがどうかと御質問でしたけれども,まだここの段階で御提案といいますか,書かせていただいたというところでございますので,この検討が進むというところであれば,ちょっと波及するものについても検討を進めたいとは思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,この問題について,いかがでしょうか。   では,水野委員,お願いします。 ○水野委員 単なる情報提供なのですけれども,フランス法でも,国籍取得のための認知が,問題になっておりまして,脱法的な認知として,2018年9月10日法で立法されています。好意認知と区別される,脱法的な認知についての規律です。特定の利権,主に国籍取得と社会福祉上の給付なのですけれども,これらの特定の利権を目指して,育てる気がないのに認知してしまうという場合,身分吏がこれはおかしいと思うと検察官に連絡をするという仕組みになっていまして,検察官が制御する法律になっています。ただ,従来,好意認知,つまり子持ちの女性に恋をした男が結婚して一緒に育てようと認知をする,それが自分の子ではないことが分かっていても認知をすることについては,従来,フランスは寛大で,それとは区別する形で脱法的認知の制御をしております。それから,好意認知の場合でも,日本のように簡単な届出だけではなくて,公署証書によりますし,その際にはお前はこの子を育てるんだぞという教育的な重たい手続が課されていますので,日本法で機械的にパラレルに論じるわけにはいかないのだとは思いますけれども。好意認知と脱法的認知とは切り分けて区別をする立法がフランスでも行われていますという情報提供だけでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の脱法的な認知というのは,民事法の次元での規律と受け取っていいのでしょうか。 ○水野委員 たしかそうだったと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幡野幹事,どうぞ。 ○幡野幹事 フランス民法316条以下に,脱法的認知に関する規制の規定がございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そうすると,民事上の効果が否定されるという規律になっていると理解を致しました。   ほかにはいかがでしょうか。   水野委員は,そういう考え方があるけれども,好意認知については少し切り分けを考えていただきたいということだったかと思います。今提案されているものが適切かどうかということについて御意見を頂いておりますけれども,出発点として,認知無効に関する規律の見直しが必要なのかという点についてまず御意見を頂ければ思います。いかがでしょうか。   棚村委員,どうぞ。 ○棚村委員 嫡出推定・否認と認知とは連動はしてくると思います。それから,第4のところで嫡出という概念をどうするかというので,それも私としては,やはり両方やった方がいいかなと当初思っていました。ただ,時間の関係とか,それからいろいろと見直しをした場合に,嫡出推定否認というものと,それから認知というのが,ある意味では今,非常に対照的に異なった形で運用がされているような印象も持っています。そういう形でいくと,この限られた時間の中で整合的な議論をして統一化できるのかということに少し疑問というかを持っていて,理想的には是非,認知も見直しをして,提訴権者とか提訴期間とかそういうのもやったり,それから無効とか取消しについての要件もかなり明確にした方がいいと思うのですけれども,先ほど来,嫡出推定否認の中でも出てくるように,社会的親子関係とかそういう生活実態と関わるようなファクターをどの程度重視するか,血縁主義みたいなものをどの程度薄めていくかとか,そういう辺りのことも含めて,多分,認知制度を議論するときも根本的な議論が必要になってくるような感じがします。だから,本来は全面的な見直しみたいなものを是非これをきっかけにすべきだろうとは思うのですけれども,なかなかちょっと本質的な議論と,それからかなり具体的な要件設定の議論もそれぞれのところで必要になってくると思うので,なかなか難しくはないかなという今の段階では感想を持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   水野委員からも手が挙がっていますか。 ○水野委員 今,棚村委員がおっしゃったように,難しいというのはすごくよく分かるのですけれども,日本法では,非嫡出子の認知は,非常にもろいものになっております。その点について従来,批判が余り加えられず,専ら非嫡出子の相続分差別だけが問題視されてきたのですけれども,私はここでの差別も問題視されるべきものだったと考えております。嫡出子の方は重い嫡出推定でしっかり守られて,非嫡出子はもう本当にいつでも,誰からでも身分を奪われることになっている点は,この機会に少し手を入れる方がいいように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 基本的には,結論は水野先生と同じです。棚村委員も多分前提となる認識は共有されていて,ただ,棚村委員は大人の対応をされているのだと思います。私の方はもう少し子どもなものですから,やはりここの問題は扱ってほしいなという気は致します。今の段階で中間試案において対象としないというよりは,やはり少なくとも中間試案まで持っていって検討はしてほしいなという気がしています。前提としては,やはり772条を見直すことによって多分,否認権者は拡大するけれども,それに応じて今までと違って親子関係不存在確認訴訟ではなくて,本来の嫡出推定否認という枠組みの中で処理されるという範囲が広がるのだろうと思いますが,それに対して,非常に単純に現行法でも取消しの制限について規定はあるわけですが,認知無効という形でいくのだったらもうフリーパスでいける,そこではもうある種,血縁主義が徹底してという形になっている状況について,嫡出の場合と嫡出ではない場合で違いがあるかどうかということまで含めて,少なくとも議論はするべきなのではないかと思います。少なくとも先ほど言ったような形で,現在の取消しの制限についての規定も含めて,少なくとも判例との関係で整備し直す必要はあるのではないかと思いますので,それをお願いできたらと考えております。 ○棚村委員 特に見直しをしなくていいと積極的に考えているわけではありません。問題点は非常に感じつつ,議論の今の進行状況を見て,かなり緻密で細かい議論になっていますので,要するに建物でいうと,本当に失礼なんですけれども,全面的な建て替えは大賛成なんですけれども,それができるかなというところでちょっと疑問を持っただけで,皆さんの方でむしろ積極的にやっていこう,やれるところまではやろうということであれば,修繕がやがて建て替えに近くなるために議論していくということは非常に重要だと思っています。だから,あえて特に異を唱えているわけではなくて,修繕に修繕を繰り返してやっていくのか,それとも建て替えを見据えた形で思い切った議論をしていくのかということだけで,それについての反対という意味ではありません。 ○大村部会長 ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。今,一般論のレベルの問題と,それから最初に問題になりました国籍関係についての問題,先ほどの水野委員のお言葉を借りると,脱法的な認知をいかに防ぐかという問題と,両方ございますけれども,それぞれにつきまして更に御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 すみません。もう棚村先生の説諭というのはきちんと受け止めたいと思うのですが,私自身は,先ほど見直しをしてほしいと言いましたのは,むしろこれまでの民法の中で認知に関する規律というのがかなり不透明になっている部分があって,なおかつ嫡出推定制度との関係での一定の緊張関係があったので,それについて検討できればということす。今回の資料でも,見方によってはむしろ国籍の不正取得等を防止するための仕組みというのを認知の枠組みの中で処理するという可能性も示されているように思いますが,むしろそれについてはそんなことを言ったら無責任だとか,そんなことはここでは決められないということになるのだろうと思いますが,本来は国籍法3条の問題であって,そこでうまくいかないので民法の方を直すということであれば,そうした意味の改正だったらしない方がいいのかなという気は致します。 ○大村部会長 ありがとうございます。   大石委員から始まった御指摘の延長線上の御意見として承りました。   そのほかに何かございますか。今のところ,皆さん,やれるのならばやるといいけれども,しかしどのくらいまでできるだろうかという御感触でしょうか。窪田委員の御発言では,現在の状況を整理してみるということ,少なくとも中間試案までは何か提案が残る形で考えてみてはどうかということ,こうした方向性が出ておりますけれども,何か付け加えておくべきことはございますでしょうか。   どうぞ,大森幹事。 ○大森幹事 中身の話について少しコメントさせていただきます。   18ページから19ページにかけて取消事由についての記載がございます。ここでは取消事由として,認知者が子との間に生物学上の父子関係がないことを知らないこととすることを提案された上で,19ページに,父子関係がないことを知っていた場合も含めるかどうかを検討する必要があると書かれております。認知をした側から見れば,両者について区別することはあり得るかもしれませんけれども,認知をひっくり返したいのは認知者に限られず,当事者である子もその認知を否定したいと考えることはあり得るだろうと思います。その場合,父とされる人が父子関係があることを知っていたのかどうかで区別をするのは,適切ではないように思いました。 ○大村部会長 今の件について何かあれば。いいですか。   ありがとうございます。では,御意見として承ります。   ほかにはいかがでしょうか。事務当局の方からこの部分について御意見を伺いたいという点は何かございますか。 ○平田幹事 既に多少意見を頂いたところでございますけれども,国籍法第3条との関係を含めて今回資料に記載させていただいたところ,これは国籍法第3条に特に問題があるという趣旨ではなく,今回は同条を前提としつつ,一方で認知に関して,特に認知無効等に関する規律を見直すということになると,そのことによる虚偽認知による国籍の不正取得等の問題が生じてくるのではないかというところで,それを防ぐ方策として今回17ページ以下で方策を提案させていただいております。ただ,一方で,このような方策で十分な対応できているのかというところは問題かと思いますので,その点も含めて御意見等を頂けると有り難いと思っております。 ○大村部会長 いかがでしょうか。何か御発言があれば伺いたいと思いますが。   棚村委員,大石委員の順番で。 ○棚村委員 私も大石委員とか窪田委員と少し同じで,偽装認知とか虚偽認知,国籍取得のためのものというのは,やはり出入国管理という上では非常に重要な施策だと思いますし,国籍法を改正するときも,やはり虚偽認知に対する対応としてDNA鑑定みたいなものを使ってチェックすべきだという強い意見が多分あったと思います。多分,欧米はどちらかというと移民政策とか,不法入国や滞在のような対策でかなり民法でも取り込んでやっているというのが実情だと思います。ただ,民法と連動する重要な問題ではあると思うのですけれども,それはやはり出入国管理とか移民政策や外国人政策とも関わってくるものだと思うので,ここまで重要課題として取り上げなくても,もう少しトーンを落として対応するのでもいいのではないか。というのも,やはり親子関係の成立に関係するにしても,要するに,日本国籍の取得の要件の問題ですから,認知が当然前提にはなっていると思いますけれども,認知が非常に簡単にできてしまうというところで問題がある,そういう問題が副次的にというか,非常に大きく出てくる可能性があるので,少し取り上げ方を,これをメインにするというよりは,無効取消とか,あるいは誰が,どういう方式で親子関係を成立させられるかということをここではとり上げるべきと考えます。国籍取得のための偽装認知の問題よりも,嫡出推定と否認制度と並べながら,できるだけ私は嫡出概念みたいなものを撤廃する方向で,父子関係,母子関係という形で親子関係の成立の問題として,あるいは一旦できているものについて瑕疵があるということで取り消したり無効を認めるケースが,その要件をきちっと議論すべきだと思っています。   今回のご提案は,虚偽認知でも,国籍取得という問題についての位置付けが大きいのかなという感じは受けました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   親子関係の問題に近いところについてより充実した規律を考えるべきではないかという御指摘として承りました。   事務当局の方,御発言があるということですが,どうぞ。 ○小川関係官 若干,今回の部会資料の記載の趣旨について補足させていただきたいと思います。   今回,国籍法第3条の関係を記載させていただいたのは,部会資料4の第5で,認知無効の期間制限を設ける案について御議論いただきましたが,これについて事務当局で改めて検討をしたところ,認知から一定期間が経過することによって,誰も認知の効力を争えなくなってしまうということになると,生物学上の父子関係がない認知についても有効であるものとして扱わなければならないこととなります。国籍法第3条は,「認知をした父母」と規定していますが,この「認知」は,民法上の認知であると解釈されていますので,今回の見直しにより,一定期間経過後は,生物学上の父子関係がない認知も有効となってしまうとすると,その一定期間が経過した後に国籍取得の届出があった場合には,日本人男性が,外国人女性の子どもを不実であることを知りながら認知したときであっても,国籍の取得は認めざるを得ないという問題が生じ得るということが判明したことから,今回,そういった問題が生じない形で,認知の見直しについて,考えられる案を提案させていただいたのが17ページの記載になります。そういった趣旨ですので,現在の国籍法第3条の規定や実務が,虚偽の国籍取得を防止する観点で,不十分であるとか,平成20年改正の際の附帯決議での要請を充たしていないと考えているわけではございませんので,そこだけちょっと補足させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御発言の趣旨は,現在行われている国籍実務を維持しつつ,しかし認知無効による子の地位の不安定さというのを解消することはできないか,そうした発想で作られているということかと伺いました。   なかなか難しいところがあって,最初の大石委員の御指摘に戻りますけれども,きちんとできるのだろうか,やるのならばきちんとやる必要があるし,無理であるのならば,先ほど棚村委員がおっしゃいましたけれども,一定の手当をするにとどめるといった選択肢もあるのかもしれません。ただ,基本的な方向性としては,複数の委員,幹事からこの際,認知の問題も検討できるのならば検討するに越したことはないという御発言を頂いたと理解しております。   何か付け加えて御発言があれば伺いますけれども,いかがでしょうか。   大石委員,どうぞ。 ○大石委員 事務局の方の説明で,ここの部分が出てきたということの背景は分かりました。ただ,その前提で読みますと,多分16ページの(4),それから17ページの(5),18ページのアの部分まではいいんですが,今まで我々が議論してきたのは,やはり正しくイに書いてありますように,公の秩序を害するおそれがないという前提のいろいろな制度設計をいろいろ議論しているわけですよね。ですから,今申し上げた(4)あるいは(5)のアの部分,だからイの直前まで,どのように考えるかというところまでは,どうしてもやはり入管法制とか国籍法全体を見渡して,どういう手続があって,どこを押さえればその不正がなくなるかという問題を抜きにしてはちょっと議論できないと思います。もちろん今の段階でこの部分は議論しなくてもいいとは申しませんけれども,余りしっかりした手立てができない,あるいは制度設計ができないのに踏み込むというのは,やはりどうかという感じが致します。   ただ,先ほど水野委員から御紹介がありましたけれども,フランス民法で脱法的認知についての一通りの規律があるとすれば,私はフランス法はやっていますけれども,民法は不得意なので,どういう仕組みとしてなっているのかはちょっと伺いたいという気は致します。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど情報提供ということで,水野委員から最近の立法について御指摘を頂きましたけれども,そういうのも少し調べていただくということが必要かもしれません。   どうぞ,磯谷委員。 ○磯谷委員 ちょっと余り国籍関係の実務に詳しくないんですけれども,多分,さっきから国籍法の方で解決できないのかという視点から,例えば濫用的あるいは脱法的な形で認知をした場合,現在,3条で国籍が認められることになるんでしょうけれども,親子関係は取り消さずに維持をしたまま国籍について取り消すというような,そういう選択肢というのはないのでしょうか。すみません,とんちんかんなことであれば結構なんですけれども。 ○土手幹事 現在の取扱いは,先ほど申しましたけれども,認知が無効かということで不受理にするという取扱いだけでございますので,それ以外の点で国籍の取得が無効であるとかという取扱いにはなってございません。現行の国籍法第3条の運用ではそういうことになってございます。 ○大村部会長 先ほど,どなたかが対抗できないといったことを口にされましたけれども,民事上のルールとして考えることにするのか,それとも国籍法の方で考えるのかということで,大分考える要素も違ってくるところがあるかと思います。   先ほど出てきた大石委員や水野委員がおっしゃった脱法的な認知というのも,民法上の対応をするということのようですので,それならばこの親子法制の中で考えることもできるかと思いますけれども,国籍法について何かをやるということになると,ここで何かを提案するというのは難しくなるように思っております。   ほかはいかがでしょうか。   なかなか難しい問題だということは分かりましたが,しかし,一定程度まで検討はしてみた方がいいのではないかという御意見も強いと理解しましたので,更に検討をしていただいて,何かできるかどうかということについて一定の考え方をお示しいただくということにしたいと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。   それでは,この点につきましては,今のようなことで更に検討を進めるということにしたいと思います。   それで,今日残っているのが,もう一つありまして,第4の21ページ以下の「『嫡出』の用語の見直し」ですけれども,これについて最後に御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。   窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 今回示していただいたのは,嫡出という言葉を残すか残さないかという形で大上段に議論するのではなくて,もう少し個別,具体的に問題を見ていこうというニュアンスも含まれているのではないかと思います。そうした方向性というのはあり得るものなのだろうと思います。ただ,嫡出という言葉についていうと,嫡出でない子に関する差別的なニュアンスとかといった問題もありますし,そうした点が今までかなり指摘されてきたのですが,それ以外にも,私自身,普通に言葉の問題として考えたときに,嫡出という言葉がそんなによく分かる言葉なのかどうなのかと感じています。その意味で,もっと分かりやすい言葉にするということは考えられるだろうと思います。   民法772条の嫡出推定に関していうと,基本的には父子関係の推定,あるいは父子関係の認定という形で父子関係という形に置き換えられるのではないか。ただ,それ以外の部分が全部置き換えられるかどうかというのは,21ページ以下に検討していただいているように,ひょっとしたらそんなに簡単ではないのかもしれないのですけれども,ただ,ここで下から5行目,6行目ぐらいでしょうか,790条の「嫡出である子」については,772条の嫡出推定を受ける子のみならず,推定されない嫡出子も含むと。つまり嫡出子という言葉によってタイプの違うものを二つ含むので,その言葉を使わないとするとどう表現するのかといった問題提起もされていると思うのですが,ただ,推定されない嫡出子についていうと,772条で出生主義を採った場合には基本的には解消する問題ではないかと思いますので,他のものと連動するということでありますが,決定的ではないのではないかという点も含めて,少し丁寧に検討していただけたらありがたいなと思います。   あともう1点,22ページの上から6行目で,少し前から始まりますが,「嫡出でない子」という用語は基本的にはこれこれこういうものであって,差別的な意味合いを含むものではないというのは,ちょっとここまではっきり言っていいのかどうかは,差別的な意味合いを含むかどうかは,やはり歴史的なものとして社会的な扱いとしてあったわけですし,現にやはり違憲判決が出て法改正されるまでは相続は2分の1になっていたということもありますので,差別的な意味合いを持つということを積極的に主張するという趣旨では全然ないのですが,こんなに簡単に差別的な意味合いを含むものではないと言い切られると,やはりそれでいいのかなという感じがしてしまいました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つかの理由で,もし変えられるのならば変えた方がいいのではないかという御意見を頂いたと思っております。   どうぞ,棚村委員。 ○棚村委員 私もこの機会に,例えば父子関係とか母子関係ということで,親子関係についても嫡出推定とか嫡出子という言葉をできるだけ使わないで,ニュートラルにできればというのは望んでいます。ただ,もう一方で,氏とか戸籍とか,そことの関係で,まず出生届で例えば嫡出子と嫡出でない子の戸籍法49条ですか,それをどうするかという問題も,多分政治的なレベルでいろいろ議論が出てきそうなので,できれば窪田委員がおっしゃったように,この用語を何とか工夫してできるだけニュートラルにというか,余り差別的な印象をもたれないように,歴史的に持ってきた意味を払拭するような工夫ができればそれがいいなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   山根委員,どうぞ。 ○山根委員 私も今までの意見に賛同します。やはり差別的な意味合いはこの言葉に残っていると思います。簡単に全面排除が難しいとしても,そういったなくす方向性の議論は必要だと思っていますので,部会の取りまとめできちんと明示をして,今後の議論の少なくともきっかけにしていただきたいと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,井上委員,それから大森幹事。 ○井上委員 ありがとうございます。   私も第1回のときから発言させていただいておりますけれども,母の婚姻,非婚により生まれてくる子の地位が左右されることがないようにということで,この嫡出という用語を改正すべきだということで発言もさせていただきました。それに関連して,戸籍法のところにも関係するのではないかと思いまして,意見を述べさせていただきたいと思います。   先ほどから最高裁のことが出ていましたけれども,2013年の9月の最高裁で,相続において婚外子を差別する民法の規定が違憲であるという判断が出ましたけれども,その後立法措置が採られて,婚外子の相続分差別規定がなくなった一方で,戸籍の方ですが,遡ること2004年の11月から,嫡出でない子の出生の届出がされた場合,嫡出子と同様の長男,長女とか次男,次女といった記載がなされるようになりましたけれども,戸籍法自体の改正は見送られたままだと理解をしております。今回,嫡出の用語の見直しという論点からはちょっとずれるのかもしれませんけれども,この際,戸籍法における出生届の嫡出子と嫡出でない子の別の記載事項の今後の在り方についても課題提起を行っていくべきではないかと考えますので,意見として述べさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   では,大森幹事,どうぞ。 ○大森幹事 先ほど窪田委員から,差別的な意味合いを含むものではないと言い切ることに対する疑問が提示されましたけれども,この(注2)に書かれています最高裁判決も,民法及び戸籍法においてはという限定を付していて,一般的にそういった意味合いを含むか,含まないかというところについては最高裁も言っておりません。今回この資料を拝見して,改めて,一般的に嫡出という言葉がどう受け止められているのだろうかと考え,様々な辞典を確認させていただきました。日本国語大辞典だと,嫡出の意味として,嫡妻,公的に認められた妻,本妻,正妻から生まれる子と書かれており,広辞苑では正妻からの出生,岩波の国語辞典でも正妻が生む子と書いてありました。また,いずれの辞典も,対義語として庶出と書かれており,庶出の意味合いとしては,本妻以外の女から生まれること,妾腹と書かれておりました。やはり一般的にはこういう意味があるといまだに受け止められている,イメージされているということからしても,嫡出ではなく現代に即した分かりやすい言葉に変えることを試みることが非常に重要ではないかと思います。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   先ほど窪田委員からも御指摘があった22ページですけれども,ここの部分は,今,大森幹事がおっしゃった(注2)で挙がっている最高裁の判決をそのまま参照しているということかと思います。4行目に,また現行法上は,と書いてあって,現行法上はこういうものとして用いられているという趣旨です。ただ,誤解が生じるかもしれないので,表現には少し注意していただく必要があるかと思って伺いました。   今のところ直せるものなら直した方がいいのではないか,戸籍法や他の法律にも波及するところがありますが,親子関係について限って言えば,それは父子関係という表現で置き換えて対応ができるのではないか,あとはどこまで直すのかといった問題があるかもしれませんけれども,そういう方向でさしあたり考えてみてはどうかというのが皆さんの御意見であると承りましたが,そのほかいかがでしょうか。   特に御発言ございませんでしょうか。では,難しい問題があるかもしれませんけれども,あるところまでは検討してみる価値があるのではないかというのが皆さんの御意見である。今日のところはこのように受け止めさせていただきたいと思います。それでよろしいですか。   それでは,最後の第4についても御意見を伺ったということにさせていただきます。   先ほど申し上げたように,13ページの2,「否認権を行使する父子関係の他方当事者が死亡した場合の規律」という項目が残ってしまいましたが,これは次回以降に積み残すということで,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   そこで,次回の議事日程等について,事務当局の方から御説明を頂ければと思います。 ○平田幹事 それでは,次回の日程についてですが,日時は令和2年11月24日午後1時30分から午後5時30分まで,場所は本日と同じ法務省地下1階大会議室になります。   テーマにつきましては,今御説明あったとおり,今回,部会資料11の第2の1,2を積み残させていただきましたので,まずその部分と,残りは本日冒頭申し上げたとおり,中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台について御議論いただければと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   次回から,今,お話がありましたように,中間試案取りまとめのためのたたき台について御議論を頂くという予定でおりますけれども,その冒頭で,先ほどの積み残し分についての御意見,御議論を賜りたいと思います。   どうも不手際で一つ積み残してしまいましたけれども,本日の審議はここまでにさせていただきたいと思います。   これで法制審議会民法(親子法制)部会の第11回会議を閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。   閉会いたします。 -了-