性犯罪に関する刑事法検討会 (第11回) 第1 日 時  令和3年1月28日(木)  自 午前10時00分                       至 午後 0時36分 第2 場 所  法務省第1会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方について         2 公訴時効の在り方について         3 いわゆるレイプシールドの在り方について         4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方について         5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼刑事法制企画官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第11回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 おはようございます。本日も御多用中のところ御出席いただき,誠にありがとうございます。新年の御挨拶をするには時間がたち過ぎてしまいましたが,今年もよろしくお願いいたします。   まず,事務当局の担当者に変更がありましたので,自己紹介をお願いします。 ○浅沼刑事法制企画官 岡田参事官の後任として,刑事局刑事法制企画官となりました浅沼と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田座長 次に,お配りしている資料について,事務当局から確認をお願いします。 ○浅沼刑事法制企画官 本日,議事次第及び「意見要旨集(第7回会議分まで(2))」をお配りしております。今回の意見要旨集は,本日御議論いただく論点についての,一巡目の検討における委員の皆様の御意見を整理して記載したものを,一まとめにしたものであり,第1回会合前に書面で御提出いただいた御意見のほか,第7回会合までに述べられた御意見を抽出した上で,分類・整理しております。 ○井田座長 それでは議事に入りたいと思います。   本日は,意見要旨集の1ページから始まる,第1の「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」のうち,3ページの真ん中辺りの,「(2) 撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか」,そして,6ページの「第2 刑事手続法について」の「1 公訴時効の在り方」,そして,10ページの「3 いわゆるレイプシールドの在り方」,さらに,13ページの「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」の四つの論点について議論することとしたいと思います。   本日も,基本的に意見要旨集に沿って検討を進めていくことで,一巡目よりも更に突っ込んだ議論を,かみ合う形で行うことを目指したいと思います。   なお,本日の進行における時間の目安ですが,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」について30分程度,「公訴時効の在り方」について30分程度,それぞれ御議論いただいた後,午前11時10分頃から10分程度休憩を取りたいと考えております。   そして,休憩の後,「いわゆるレイプシールドの在り方」について15分程度,「司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」について30分程度,それぞれ御議論いただくことを予定しております。予定している時間については,その都度申し上げますので,御協力をお願いいたします。   早速,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に入ります。   この論点については,本日は,先ほど申し上げたとおり,意見要旨集の3ページの真ん中辺りの第1の8の「(2)」の項目について議論を行うこととしたいと思います。   この項目については,一巡目の検討では,意見要旨集の3ページから5ページまでにありますように,「① 捜査・公判における画像の没収・消去の実情」,「② 没収・消去を可能にする特別規定を設けることの要否・当否」,「③ 特別規定を設ける上での検討課題」,「④ 有罪判決を前提としない画像の没収・消去」という観点から御意見を頂いております。   また,この意見要旨集に記載されている御意見のほか,前回,第10回会合で関連する議論を行った際,性的な姿態を撮影する罪の保護法益を性的尊厳と捉えることが考えられるのではないか,裁判所等による盗撮画像の消去命令を可能とする規定を設けて自主的な消去を促した上で,その命令違反に対する罰則を設けることも考えられるのではないか,盗撮画像を集めてインターネット上に掲載して利益を得ている者がいる実情があるので,プロバイダーの責任も考える必要があるのではないかという御意見も頂いております。   前回同様,御発言いただくに当たっては,どのような観点からの御意見であるかを明示して御発言いただきたいと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いいたします。この論点については,最大で30分程度の時間を予定しております。 ○小島委員 意見要旨集の4ページの「④ 有罪判決を前提としない画像の没収・消去」について,意見を申し上げたいと存じます。   撮影行為等についての有罪判決を前提とする場合につきましては,性的画像の没収・消去を付加刑として科する法制度を設けるべきで,この場合については,複製品とか,それからクラウド上に流出した画像も没収・消去の対象とするべきではないかと考えておりますが,最近のデジタル性暴力の氾濫,被害の拡大等を考えますと,これだけではとても現在の状況に対応できないと考えております。更に進んで,有罪判決を前提としない性的画像の没収・消去の仕組みというのを,設けていくべきではないかと考えております。   根拠としては,性に関する情報のコントロール権の侵害行為であって,デジタル性暴力の被害者を幅広く保護するべきだという観点に立っております。   どういう仕組みを設けていくかについては,抜本的にいろいろなことを考えなければなりませんが,例えば,行政機関が,被害者本人の申出によって,プロバイダー等に性的画像の消去や削除を命ずるというような,何らかの法制度を作ることはできないかと考えております。本人にとって,性的画像がネット上に氾濫していることが大変な苦痛になっており,一旦氾濫した,流出した画像を消去することについては,大変な手間暇をかけて,現在ボランティア等の方がいろいろやっている現状ですけれども,この点について,ある程度制度を整備していくということが必要ではないかと考えています。   ちなみに,ストーカー規制法の5条1項は,1号でつきまとい等を禁止しており,2号でつきまとい等を防止するために必要な事項として,性的羞恥心を害する写真等を送付した場合について,そのネガやマスターテープを放棄することなどを命ずることができるという,行政命令としてやるような仕組みを設けているので,行政的な措置を講じていくというのは,日本の法制度としてあり得る選択ではないかと思います。今,大変な被害が生じており,民間団体ないしボランティアの人任せになっているこの問題について,正面から取り組む法制度を作るべきではないかというのが,私の意見でございます。 ○井田座長 今,小島委員から,有罪判決を前提としない,言わば行政没収の制度を考えてみてはいかがかということで,ストーカー規制法に見られる制度の御紹介もあったところですが,それに関連して何か御意見はありますでしょうか。 ○池田委員 「④」に関連して,私から一点,御質問させていただきたいと思います。   今,小島委員から,ストーカー規制法における写真,ネガ等の放棄という仕組みについて御指摘がありましたけれども,有罪判決を前提とせずに所有権を剝奪したり,画像を消去したりする仕組みを検討するための前提として,現行法上,行政措置として没収できる仕組みはほかにどのような例があるのか,事務当局から教えていただければと思います。 ○浅沼刑事法制企画官 行政措置として没収等を行う法令の例としては,関税法上の輸入禁制品の没収等に係る規定がございます。例えば,関税法第69条の11第1項・第2項におきましては,麻薬,向精神薬,大麻,覚醒剤,爆発物,特許権・商標権・著作権などを侵害する物品などの輸入禁制品につきまして,税関長が輸入されようとしているものを没収して廃棄することができるものとされております。   この没収につきましては,付加刑としての没収とは異なり,税関による行政没収であって,専ら保安的な目的を持つものであるとされております。   また,冒頭,小島委員から御紹介いただいたことと少し重なりますけれども,ストーカー行為等の規制等に関する法律第5条第1項においては,被害者に対してつきまとい等をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認められるときは,都道府県公安委員会が禁止命令等を行うことができるものとされております。その内容として,同項第1号で,「更に反復して当該行為をしてはならないこと」を命ずることができるとされているほか,第2号で,「更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項」を命ずることができるものとされております。   この第2号の命令は,飽くまでも第1号の命令の実効性を担保するための補充的なもので,第1号の命令に付随するものと考えられ,その必要な事項の具体例としては,写真あるいは画像データ等が被害者に送付されている場合に,その記録媒体などの廃棄等を命ずる措置が含まれるとされており,実務上,画像データの削除が命ぜられる例があるようです。 ○山本委員 2ページの「③ 新たな罪の保護法益」にも関連してくると思うのですが,没収・消去に当たっては,4ページの「④」の二つ目の「○」にもあるように,財産権の制約も関連してくるのではと思います。法律上,どのような規定になるのかは,あまり詳しくないので皆さんの議論に委ねたいと思うのですけれども,性的姿態の画像・動画等は,性の尊厳として,本人にコントロールする権利があることを明確にしていただきたいと思っています。性的姿態の撮影や撮影された性的姿態の画像・動画等の保持に同意のない,あるいは同意に瑕疵がある性的画像が他者の手にあることで,尊厳を持った人間として,この社会で生きていくことが非常に難しくなる被害です。   第7回会議で,小島委員がネット上に氾濫する画像・動画を見てくださいと言われましたけれども,皆さんも,自分自身が駅のトイレを使用している姿とか性交している姿がネット上で第三者に見られていたり,性的画像や映像について書き込みをされているのを目にしたら,生きる前提が揺らぐことは,想像できるのではないかと思います。ですから,その記録,画像・動画が,財産権の問題であるのか,それとも性のコントロール・性の尊厳という権利の問題であるのか,保護法益が何なのかを明確にして,その没収ができるかという,これまでの枠組みとちょっと違う,実態に合った議論をしていただければと望むところです。 ○川出委員 私も,有罪判決を前提としない画像の没収・消去を行政措置として行う制度の導入を検討することが必要だと思います。その場合には,行政措置の仕組みをどうするかということと併せて,その主体をどうするかという点が問題になります。   先ほど御紹介があった現行法上の行政措置としての没収等においては,関税法上の輸入禁制品の没収については税関長,ストーカー規制法上の画像データ等の削除命令については都道府県公安委員会が,その主体とされています。これは,恐らく,それらの機関が,当該物品や画像データ等が対象物に該当するかどうかの判断に係る情報を有しており,その判断を迅速かつ適正にできるという理由によるものであろうと思います。   それを前提に,ここで問題となっている場面を考えてみますと,性的な姿態の画像の没収・消去が問題になってくるのは,恐らくは盗撮等を含む性犯罪の捜査の過程で,そういった画像の存在が明らかになり,多くの場合は,それが証拠物あるいは没収すべき物として差し押さえられている場合でしょうから,それらが没収や消去の対象となるものかどうかについて,最も的確に判断できるのは捜査機関であると考えられます。そこから,行政措置としての没収・消去の主体は捜査機関とし,当該刑事事件の捜査・公判の過程で押収された画像等について没収・消去などの措置を採る,あるいは,まだ押収はされていないものの押収の対象となる画像等について消去を命じるという仕組みにすることが考えられると思います。 ○井田座長 関税法上の税関長による輸入禁制品の没収は,その輸入禁制品が正に輸入されようとしたときに問題となり,ストーカー規制法上の公安委員会による禁止命令等は,その禁止命令等を行う際に問題となるというように,問題となる状況から主体が限定されてくるわけですので,同じように,もし行政措置として性的な姿態の画像の没収・消去を考えるとすると,その主体としては,捜査機関というものが考えられるのではないかという御意見と伺いました。 ○渡邊委員 行政措置についての議論でございましたけれども,私の方からは,4ページの「③」の二つ目の「○」の意見に関連しまして,刑事罰としての没収の状況を,御参考までに御説明したいと思います。   検察実務では,基本的に,没収の対象となる物が押収されて特定されている場合に,没収の求刑をしております。そのような取扱いをしている理由は,物の特定ができないと,裁判所に対し,没収の対象をお示しすることができませんし,また,刑法の没収に関する規定は,その対象物が「犯人以外の者に属しない」ことという要件も定めており,特定されていない物について,所有権等の帰属を示すことは困難であるからです。   検察官は,実際の裁判では,例えば,「覚醒剤1袋,令和3年東京地検領置番号「○○」」といったような方法で特定をして,没収の求刑をしております。そして,もし没収の対象がデータの場合,そのデータの削除につきましては,各検察庁に配備されている,復元不可能な方法でデータを消去することのできる特殊な消去用のアプリケーションソフトを使用して行います。   複写物を没収できる制度が新設された場合であっても,複写物自体が特定されていることや,その所有関係が明らかになっていることは必要であると想定されます。そうすると,ネット上にある複写物には,データの在りかが不明確であったり,データが海外のサーバにあるような場合もございますし,また,押収されているわけでもございませんので,没収はなかなか難しいかと思います。そのため,基本的には,捜査の過程で押収された複写物の没収を考えるということになるかと思います。   しかし,いずれにしましても,押収した物のうち,原本だけでなく複写物も没収できるようにするということは,私どもとしても必要なことだと考えております。 ○井田座長 先ほど,山本委員から,この被害の実態に即した没収の在り方を考えてほしいという御意見がございました。渡邊委員からは,今の現行の実務を前提として,現行法の限界・制約について御説明があったというふうにお聞きしました。 ○橋爪委員 私からも,「③」に関係して,一点申し上げたいと思います。   私も,データの複写物を没収する必要がある点につきましては,全く異存ございません。これを実現するための具体的な立法の方法について,御提案申し上げたいと思います。   第一に,この問題は,刑法19条の規定全般の問題でもあります。すなわち,刑法19条の没収が原本に限られており,複写物は原則として没収対象に含まれていないことから問題が生ずるのであり,この点については,性犯罪に限定せず,刑法の没収・追徴の問題一般として検討する余地もあろうかと思います。   もっとも,性的姿態を撮影した画像の複写物については,既に実務的にも問題が生じていること,特に被害が深刻であって緊急に対応する必要性が高いことに鑑みますと,もちろん刑法全般に関する議論も今後必要ではありますが,性的姿態の撮影画像に限定した形で先行して議論を行って,まずは性的姿態の画像の複写物に限った特別な規定を設けるということにも,十分な合理性があるように思います。今後は,このような方向で議論ができればと考えております。   もう一点申し上げます。複写物を没収する具体的な方法については,恐らく二つの方法があり得るように思います。まず,画像データの複製行為それ自体を処罰対象にした上で,複写物を刑法19条1項3号の犯罪生成物件として没収対象に含める方法です。もう一つは,複製行為を処罰対象にしなくても,撮影行為に関する没収の対象物の範囲を拡大し,複写物も没収対象に含める方法です。   いずれの方法も,理論的には十分あり得るところですが,複製行為と申しましても,多様な状況下における多様な行為が想定され,これら全てを処罰対象にすべきかについては,更に検討が必要であると思われます。   また,複製行為を犯罪化する場合については,複製行為について故意等の犯罪成立要件の立証が必要となり,これが証明できない場合には没収できない可能性が残ることを踏まえますと,むしろ後者の方が立法論としては優れているように思います。今後の検討におきましては,仮に複製行為を処罰対象にしない場合であっても,複写物の没収を可能とするような規定ぶりについて,更に検討することが有益であると考えます。 ○宮田委員 私は,没収の問題について,データの場合には,そのデータが転々流通してしまうという問題が非常に大きいこと,あるいは,そのデータ消去自体の技術的な問題についての意見を中心に申し上げたいと思います。   まず,没収の処分を受ける主体の問題ですが,実体法の問題にも絡みますけれども,デジタル画像の流通が簡単には止まらないという問題がございます。盗撮画像を,例えば,盗撮の事情を知った人にメールで添付してファイルで送る,これが次々に送られていったというような場合には,盗撮罪の幇助が延々と続くと考えてよいのでしょうか。あるいは,ネット上に掲載するということになりますと,もっと難しくて,違法な画像であると分かってコピーしたものが,次々とコピーされていくということが起こり得ます。つまり,デジタルデータ,デジタル画像の流出というのは止めようがないということになり得ますから,デジタルデータの場合には,どこまでの人が共犯といえるのか,いうべきなのかという,没収処分を受ける主体の問題がまずあるのだろうと思います。   次に,没収の対象という外縁の問題です。今,橋爪委員が,盗撮画像について,その複写物についても没収の対象にする手法について御提案なさったわけですけれども,この盗撮した画像を加工したもの,改変したものは,単なる複製ならいいのですが,同一性を失った場合には,没収ができなくなってしまうという問題があるかと思います。単に盗撮画像を拡大したというふうなものであればともかく,盗んだ米を日本酒にしたら没収できないのと同じように,例えば,顔や体についてのデータをすげ替えてしまうといった場合には,同一性がなくて没収の対象物にならない可能性があるという問題も出てくると思います。   次に,データ消去の技術的問題です。今,検察庁に消去ソフトがあるという御紹介を頂いたのですけれども,私たちは,弁護人として,示談をするときに,被害者や被害者代理人から,よく,パソコンや携帯に入ったデータを消してくれと言われるのですが,データの復活の可能性がないようにするためには,パソコンや携帯を初期化する必要があるようなのですね。検察庁の消去ソフトというのが,ピンポイントでそのデータを消去できるのならばよいのですが,パソコンや携帯を全て初期化しなければ,データ復活ができない状態にならないということになるとすれば,性的画像の財産的価値というよりも,そのパソコンや携帯に入っている性的画像以外のデータやソフトが壊れてしまう,消えてしまうという問題が生じかねない。そこでのコストとリスクをどのように考えたらよいのかという問題が出てくると思っております。   例えば,業務で使用しているパソコンに画像データを入れている人がいたときに,パソコンを初期化されてしまうと,業務関係の,その人のクライアントその他の人たちまで,とんでもない損害を被ってしまうということが起こり得るという問題があります。   データ消去のもう一つの技術的な問題としては,インターネットへの掲載の問題があります。本人が任意に応じるように,今も警察等では説得をするという場合もありますし,私どもも,示談などの場合に,そういうものを消去することについて提案し,消去が実現できることもあるわけなのですけれども,被疑者・被告人本人が任意に応じない場合,画像が掲げられているサーバにアクセスするためのIDとかパスワードが分からなければ,画像データの消去ができないという問題があります。また,国内のプロバイダーであれば,命令を出したときに実効的なものになるとは思うのですけれども,プロバイダーが海外のものである場合には,命令の実効性が確保できないという問題があります。   この辺りについては,先ほど捜査機関によって消去をするという御提案が川出委員からありましたけれども,一番被害者にとって深刻なのは,インターネットへの掲載なのですが,そもそも今は,捜査機関がリモートアクセスできないこと,加害者のIDやパスワードさえ取得できない場合があり得ることが問題であり,このデジタル対応への捜査に関する規定の遅れをどうにかしないと,技術的に,これはもうどうしようもないのではないかという問題があるように思います。   有罪判決を前提としない画像の没収や消去の方法ですけれども,児童ポルノの場合には,児童の保護のために,児童ポルノ自体を持ってはいけないという非常に厳しい規定を置いていますけれども,この規定のときすらかなり激しい議論があったところであり,そうではない画像の場合に,そこまでの表現規制をしてもよいのかどうかという問題は,起こってくるかと思います。   削除について,先ほど行政措置の話がありましたけれども,民事の手続の中で被害者を支援するような方法も考えられると思います。   韓国の法律だったように思いますが,何らかの性的被害に遭った人に対して,国が消去費用を支援する,そして,それを加害者に対して求償する制度が考えられているそうです。また,前回,私が言ったように,命令を出して,命令に従わないときに処罰する方法も考えられると思ったのですけれども,捜査機関が主体となって没収等を行うことには疑問を持っています。はっきり言って,ストーカーの問題についても性犯罪の問題についても,捜査機関はかなり体温差がありまして,動いてくださるところと動いてくださらないところの差が物すごく大きいという問題があります。ある意味において,命令を出す主体を中立な第三者の機関である裁判所にした方が,公平かつ妥当な解決が図れるように,私は考えております。 ○井田座長 池田委員,先ほどの続きで何かございますか。 ○池田委員 特に付け加えることはございません。御教示いただいた制度を踏まえて,具体的な制度の在り方を検討する手掛かりが得られたのではないかと考えております。 ○佐藤委員 私も,「③」に関してなのですけれども,先ほど,渡邊委員と橋爪委員のおっしゃったことに関連して,皆様方がおっしゃるように,現在,刑法19条の没収規定で没収できるのは,有体物であって,かつ原本ということになっているので,コピーされたり,クラウドに入れられたりすると,もう手が出せないこととなります。しかし,それでは意味がないというか,実情に見合っていないと,私も思っております。もちろん,問題があるのは私も分かっているのですけれども,そうであるとしても,現状の被害の大きさに鑑みますと,やはりこれを没収できるような規定を設けるべきではないかと思います。   そのときに,一部複製した場合はどうするのかという疑問が,「③」の二つ目の「○」にあるのですけれども,その場合は,やはり刑法19条の趣旨に遡って考える必要があると思います。刑法19条は付加刑,刑事罰である一方で,危険なものを除去するという意味の保安処分でもあると私は理解しております。そうすると,ここでいう危険とは何かというと,その性的な画像が流出することなどによって,その人の性的な尊厳などが侵害されるということにあるかと思います。そうであるとすると,コピーした場合の没収の範囲も,その侵害に見合ったような没収の範囲である必要があるのではないかと考えます。   具体的には,性的な部位が写っているとか,性的な姿態が写っているというような場合は,たとえ顔が写っていないような場合であったとしても,それを没収できるような形で規定できるのではないか,逆に言うと,性的な部位が写っていないとか,性的な姿態が写っていないような場合には,これは,性的な意味での危険性がないので没収するのは難しいのではないかと思います。いずれにせよ,少なくとも前者の範囲においては,没収できるようにしておく,あるいは消去できるようにしておくというような規定が,現実に見合った規定になるのではないかと,私は考えております。 ○渡邊委員 消去ソフトの話で,一点手短に説明したいと思います。   コンピュータのデータというのは,「0」と「1」という数字の繰り返しで作られているそうでございまして,各検察庁に配備されている消去ソフトの原理は非常に原始的で,全て「0」に書き直すことによって,消去すべきデータをそのデータ部分のみ完全に消去してしまうというものだそうでございます。   データの目次の部分だけを消して見えないようにする,そういった消去は復元ができるわけでございますけれども,検察庁に配備されているソフトはそういったものではございませんで,復元不可能な形で消去できるソフトということでございます。 ○上谷委員 今議論されている刑法19条の問題は,確かに,コピーも没収できるように,またデータも削除できるようにという形で,範囲を拡大することも,とても重要だと思うのですけれども,やはり捜査に乗ってこないものといいますか,有罪判決を前提としないものが,実態としてはとても多いのだと思います。   インターネット上に出回ってしまうと,もうスピード勝負というところがあるのですけれども,運営会社に削除要請をしても,非常に対応が早いところと,すごく時間がかかるところで,かなり温度差があるということと,運営会社が海外にあると,なかなかこれが進んでいかずに,あっという間に拡散されてしまうという現状があります。警察の人も,捜査に正式には乗らなくても,任意でいろいろな運営会社に削除してくれと事実上交渉したりしてくれていますが,現場の人の話を聞くと,正直なところ,数が多過ぎて手に負えないとのことです。ですから,行政罰として,まず,緊急対応できるというか,そういうスピード感を持って削除できるという制度を作らないことには,刑法19条の範囲を少し広げるくらいでは,恐らく現状には対応できないのではないかと思っています。 ○井田座長 大体の御意見は,今の段階では出していただいたと理解してよろしいでしょうか。   それでは,時間の関係もございますので,性的画像の没収・消去についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   実態の問題として,撮影行為とか他人への提供行為,こういうものを犯罪とすれば,原本,さらには複写物も,ある程度は刑法上の没収制度を使って没収可能となると思われますけれども,それでも限界・制約があるとすれば,没収の規定自体見直しが必要なのではないか,さらに,それでも刑事没収として対応できないものがあるとすれば,有罪判決を前提としない,言わば行政没収の制度を,現行法にある制度を参考にしながら新設することは考えられないか,こういう御意見があったかと思われます。   次に,「公訴時効の在り方」についての検討に入ります。   この点については,意見要旨集の6ページ以下の第2の1の「(1)」と「(2)」について,まとめて議論することにしたいと思います。   一巡目の検討では,意見要旨集の6ページから8ページまでにありますように,「① 被害認識・被害申告をめぐる実情」,「② 精神的被害の継続や証拠の残存・散逸をめぐる実情」,「③ 公訴時効を撤廃することの要否・当否」,「④ 上記③のほか,特別の取扱いをすることの要否・当否」,「⑤ 特別の取扱いをする場合の運用上の課題」という観点から御意見を頂いており,また,意見要旨集8ページ及び9ページに記載された御意見も頂いております。   先ほどと同様,どのような観点からの御意見であるのかを明示して御発言いただきたいと思うのですけれども,検討すべき事項が多岐にわたりますので,意見要旨集6ページ以下の項目に沿うような形で御発言いただくとよろしいかと思います。また,性犯罪一般についてと,それから8ページ及び9ページの被害者が子供である場合の特殊性について,分けて比較して,御議論いただくのがよろしいかもしれません。   それでは,御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。   この論点についても,最大で30分程度の時間を予定しております。よろしくお願いします。 ○山本委員 7ページの「③」の二つ目の「○」のところなのですけれども,法律上の具体的な議論に入っていくと思いますので,今ある枠組み以上のことを考えてほしいと思っています。被害者の気持ちとして,長くなりますけれども,申し上げたいと思います。   第7回会議の議論を踏まえると,起算点をずらして,公訴時効は現行の10年でという話も出てくるかなと思います。私自身の父からの性的虐待の経験を書いた「13歳、「私」をなくした私」を読んで,読者の人もお手紙をくれるのですけれども,中には60代以上の方も多いです。本を読んで初めて,自分が親から受けたことが性被害であったことに気付いたと書かれていることが多々あります。そして,今更訴えても,聞き届けられないであろう,老いた父をむち打つのかと言われるだろう,被害と認めてくれないであろうと推測できるから訴えることができない,その悔しさ,無念さを抱えたまま生涯を生きることになることをつづってくれています。   被告人からは,そんなつもりはなかった,年月がたってそのような訴えを起こされるのは不当だという声も聞きます。親や身近な大人が子供に5歳から性的虐待をしていても,子供は喜んでいた,ロマンティックな雰囲気で,決して傷つけるようなことはなかったと言い募るのが,加害者の認知です。子供は,その後成長しても死ぬ思いで生き,自死してしまった人もいます。   イギリスには時効がなく,アメリカのミシガン州でも第一級性犯罪の公訴時効は撤廃され,スイスでも,12歳未満の子供の被害は,時間がたったからといって許される罪ではないとして時効を撤廃しています。どうして日本が撤廃できないのかということは,強く思っています。それほど性犯罪に対して甘い認識を持ち,加害者を許す社会なのかということは,被害者が思っているところです。   法律家とは少し捉え方が違っていて,被害者は公訴時効を訴える権利と捉えている人が非常に多いです。証拠によって判断されるのだから,公訴時効が撤廃されたからといって,起訴されるかといえば,そうはならないと思います。しかし,訴えることに対して幅を持たせてほしいというのは,強く望んでいるところです。被害者は,法の正義が自分に適用されないことに苦しんでいます。警察官が話を聞いてくれたことで,救われる人もいます。また,どれほどの被害が起こっているのかを,司法としても捕捉する必要があると思います。個人的には,未成年者では時効を撤廃してもいいかもしれないですし,それが難しい場合でも,人間の寿命の限り延長して,訴えられる状況を作ってほしいとも思っています。   少し第7回会議の議論と重なることもあるかと思いますけれども,以上が私が申し述べたかったことです。   あと,8ページの「⑤」なのですけれども,警察の資源の問題ですが,DNAを保管するための冷凍庫のスペースの問題や警察の人員については,予算の問題なのではないかと思います。現状,世界第3位の経済大国である日本で,治安を維持し,法的正義を実現するに当たって,そのような予算を付けられないのは非常におかしな話なので,これは,検討会の議論ではないですけれども,政府に考慮してもらいたいと望んでいるところです。 ○齋藤委員 「④」の特別の取扱いをすることの要否・当否として,性犯罪とほかの犯罪の違いについて言及させていただきたいと思うのですけれども,犯罪被害者等基本計画などでも,性犯罪は潜在化しやすい被害であるということは言及されております。潜在化しやすい理由として,一つには,性暴力に関する社会のイメージと実際の被害の違いがあります。そして,大きな問題として,行為自体が通常親密な関係性の中で行われる性行為と同様のことであるということで,もちろん全く性質の異なるものではありますが,社会のイメージとの乖離も手伝い,被害者が,自分が被害に遭ったと認識しづらいということがあります。これは,体を刺されるといった出来事とは明らかに異なり,外から見て第三者が気付きにくい,本人が申告しなければ明るみに出にくいということがあると思います。   さらに,性に対する日本社会の意識であるとか,レイプ神話というものが影響し,性犯罪の被害者は,被害に遭ったこと自体に対して恥の感情を抱くとか,自分が悪いから被害に遭ったと感じるという自責感が強いということも知られております。もともと人に相談することが難しいことに加えて,先ほど述べました様々な事情から,人に相談したとしても,周囲の人もレイプ神話などが内在化していて,警察に被害を届け出ることを勧めるのではなく,被害者を責めるということもよくあります。こういった傾向というのは,犯罪被害の中でも特に性犯罪の被害者に特徴的な傾向だと思われまして,ほかの犯罪とは非常に異なると考えられます。   なお,オーストラリアで行われた子供の性虐待の組織対応に対する調査報告書というのがあって,8,000人ぐらいのサバイバーのインタビューなどが掲載されているのですけれども,虐待について誰かに話すまでに,男性で平均25.6年,女性で平均20.6年かかっていたということがあります。子供時代に開示できた人は27.8%,成人期に開示したという人は46.0%,しかし,中には,決して誰にも開示していないという人もいます。恥ずかしいとか,誰も信じてくれないと思ったということもありましたが,やはり,その行動が性暴力・虐待であると分からなかったという意見もありました。   同様に,カナダのケベック州の調査でも,18歳になる前に性的虐待を開示したというのは3割にすぎず,調査時点まで虐待を開示したことがないという人が26%ということで,開示にこれだけ時間がかかり,そして,大人になってもなお開示できない被害であるということを認識して,議論いただきたいと思います。 ○小西委員 今の齋藤委員のお話はサイコソーシャルな視点からでしたけれども,補足として,私の方では,「①」と「②」について,性的な被害にはどのような特徴があるのかということを,医学的な視点で少しエビデンスがあるものをお話ししておきたいと思います。   性暴力被害,レイプの被害が,PTSD発症が多い出来事であるということは,これはもう全世界で確認されていることです。疫学研究で非常に有名なケスラーの研究の数字をちょっと出しておきますが,女性のレイプに関してのPTSDの発症率,正確には関連する有病率が45.9%,男性はもっと高くて65.0%です。一方,身体的な攻撃についての有病率は,女性は21%で半分です。男性は何と1.8%で,大変低いです。そういう意味で,心に与える影響という点でも,性犯罪は非常に特殊だということが一つ言えます。   さらに,これもたくさんの論文で確認されていることなのですけれども,性被害のPTSDの症状の中では,解離や回避が働きやすいということも確認されています。ですから,忘れてしまったり,それから思い出さないようにしていたり,自分に不利でも思い出さないようにしていたりというようなことが,非常によく起こることは分かっています。   通報に関することが,ディスクロージャーという名前で研究されているのだというのはお話ししましたけれども,これは一つの領域を占めているような研究になっているのですが,当然,ほかの要因として,齋藤委員が言われたようなこともあり,例えば,性的な虐待については,子供の大体7割ぐらいが成人してからしか言わないというのは,これも複数の研究で確認されていることです。そのほかに,自分の親からの被害はより打ち明けにくいというようなことも,よく確認されています。それから,男性の被害者がより打ち明けにくいということも,複数の研究で言われていることです。   次に,記憶に関しての問題なのですが,これについては,生物学的な研究が非常に進みつつあるところで,なかなか話がしにくいのですけれども,英語の記載の中に,とても当たっているなというのがあるのでお伝えしますと,トラウマの記憶というのは,小さいメモ用紙に起こったことをすごく一生懸命書いて,これがばらばらになった状態というようにお考えいただけるといいと思います。そういう記憶がそのまま,外に出ないまま残っているという形になるので,こういう経験の記憶の断片というのは,小さい子供でも比較的よく保持されていると言われています。   そう言いますのは,大人になって,回復とともに記憶がいろいろ出てくるということがあるわけですけれども,例えば,私はPTSDの治療をするので,そういう場面にたくさん立ち会うわけですが,非常に生々しく,10年前,20年前の被害が再現されます。もっと古いケースもありました。そういう場合には,例えば,加害者の体の向きがどうだったとか,そのときの臭いがどうだったとか,加害者の表情といったこととか,そういうことが再現されていきます。普通は,それがいつどこのところでという統合された枠組みの下にあるわけですけれども,それが整然と並んでいないでメモがばらばらになっている感じというのは,実際あるわけですね。そういうものが,回復とともに整理されていった場合に,そこで話されることは,20年前のことをそんなに細かく話すのはおかしいとか,そういうことには全くならないわけです。それが100%正しいという保証はもちろんないけれども,中には,正しい記憶が再現されてくることもよくあるわけですね。そのようにお考えいただくのが,今分かっている実情からはいいのではないかと思います。   第7回会議で,私,被害の最中から認知がゆがむことがあるというのを申し上げて,誤解があるといけないのでちょっとお話ししておくのですけれども,それは,例えば,妄想的であるとか,あるいはないことを作り上げられるというよりは,一番多い認知のゆがみは時間感覚の歪みなどです。例えば,実際には1分で起きたことが10分ぐらいと認識されたり,それから,感覚ですね,普通だったら聞こえないような微細な音が聞こえたり,あるいは普通だったら起こるような感情がなかったり,そういう形で認識がゆがむことは,よく経験されることであるということを,ちょっと補足してお話ししておきます。   子供の場合というのは,また特殊ないろいろなことがあるのですけれども,それはまた,子供のところの話で申し上げようかと思います。 ○井田座長 今の御意見について,小西委員,それから齋藤委員にお伺いしたいのですが,今挙げていただいたようないろいろな要因は,性犯罪の被害の場合と,それ以外の家庭内での身体的虐待,DVなどの被害,暴行や傷害といった場合とで,やはり相当に違うものだと,実質的に異なるものなのだということが言えるのでしょうか。 ○小西委員 基本的には一緒です。要するに,非常に本人を脅かすような,生存を脅かすような状態があったときに起こってくることは,共通です。ですが,先ほど齋藤委員が言われたように,それを取り巻く社会的な認知や要因や,被害のことを話したときにどういうことが予想されるかというようなことが,身体的な暴力の場合と性的な被害の場合とでは全然違います。DVや虐待は比較的似ているところがあります。言っても分かってもらえない,あなたが悪いのだろうと誤解を受ける,そういう意味で,これらの女性に対する,多くは女性に対する被害というのは,これまで全く見つかってこなかったし,人が見る気にならなければ,数だってなかったわけですよね。そういう状況では,似たところがあると思います。   なぜ,ほかのものより性暴力の方がPTSDの有病率が高いのかという点については,様々な議論がなされています。今のところ,やはりこれも多要因であろうと言われています。 ○齋藤委員 基本的に小西委員がおっしゃったことと同じなのですけれども,一点ちょっと補足する点としまして,身体的虐待とかネグレクトは,発見されることも比較的多いのですけれども,それは,やはり外傷が明らかにあったりですとか,体重減少が認められたり,衣服の汚れが認められたりすることによるものです。しかし,一方,性犯罪,性虐待に関しては,本当に外側からは全く分からなくて,子供の行動からもなかなかキャッチができなくて,子供自身が述べない限り,なかなか大人が気付かないという点は,同じ家庭内の虐待であっても,随分特徴としては違う点ではないかと考えております。 ○小島委員 私の方から,7ページの「④」のところの2番目の「○」について,補足で意見を申し上げたいと思います。性犯罪について,山本委員,齋藤委員,小西委員がいろいろお話ししてくださったように,被害者が被害と認識して,警察とか捜査機関に結び付くような被害申告ができるようになるまでは,時間がかかると,特殊性があると考えております。特に年少者については,加害者である親等に,家庭内で,家庭的・社会的・経済的に依存しているという場合が多いわけです。一定の地位・関係性のある人から被害に遭う場合が多いので,そういう人に何らかの形で依存関係があって,なかなかその人からの被害を申告することは難しいということがあると思います。少なくとも,未成年者についての公訴時効の起算点を,25歳とか30歳とかにずらす必要があると思っています。そこから時効がスタートするとすべきではないかと。さらに,未成年者の特殊性,脆弱性を考えますと,公訴時効の期間を延ばすということも検討課題だと考えております。これが第一点でございます。   それから,第二点といたしまして,未成年者であるとか成人であるという場合に限らずに,例えば,DNAなどが残っているとか,犯人が犯行の画像を撮影しているとか,そういう変質しない科学的な証拠が残っている場合について,処罰できなくなる,捜査機関に話も聞いてもらえなくなるというのは,問題ではないかと思います。  検討会の配布資料47「諸外国の性犯罪規定の概要(公訴時効に関する規定)」で,諸外国の法制について,いろいろ御紹介がございます。   ミシガン州について,DNAを含む犯罪の証拠がある事案について,特則を設けるというような例が載っておりまして,なるほどと思いました。被害者が被害を届け出て,DNAの採取をする,最近そういうシステムができつつありまして,DNAを採取して保管されていたところ,公訴時効期間が徒過した後に別件で捕まって,被疑者のDNAと一致しましたとか,別件で捕まった被疑者のパソコンから,写真とか動画が大量に出てきたとか,それから,宗教関係とかそういう関係で多数の被害者が出ているのだけれども,発覚したのが非常に遅くなって,しかし,パソコンとか画像とかで犯行状況がはっきり分かるというような場合,立証がきちんとできるような証拠が出てきた場合に限られますけれども,これらの場合に,訴追ができないとしてよいのかと思います。   監護者性交等罪とか性交同意年齢に達しない子供の性被害については,同意の有無が特に問題になるわけではないので,客観的な証拠等で,ある程度犯罪の証明ができるような事案ではないかと思います。科学的,客観的な証拠がある場合については,現行の公訴時効期間に例外を設けていくべきパターンではないかなと思いますので,御検討をお願いしたいと思います。 ○渡邊委員 第7回会議でも発言をさせていただきましたけれども,検察官の起訴基準,これは,判決で有罪判決を得られるレベルの証拠があるか否かというレベルに設定されております。そうしますと,事件発生から時間が経過している事案につきましては,検察官は一層慎重に,起訴・不起訴を検討することは間違いございません。   この点,意見要旨集の7ページの上から二つ目の「○」でございますけれども,公訴時効の趣旨からすると,訴追される側の利益も考えなければならないという御指摘がございますけれども,事件発生から長期間経過して被害申告がなされた場合,先ほど小西委員から御紹介がございましたように,いろいろな断片的な記憶がどういったところに位置付けられるのかといったような信用性吟味というのが必要になると思いますし,また,被害申告がその時期になった理由というのも,必ず裁判で問題になるかと思います。   一方で,事件直後に被害申告がなされて警察官の調書が作成されたような場合で,後に,長期間経過して犯人が検挙されたようなケースにつきましては,当初の供述調書が警察官の調書であることが多いです。昨今の裁判実務では,警察官の調書というのは採用される可能性が高くはございません。記憶が薄れて,反対尋問に答えられないということでありますと,それも調書の信用性に関わることとして,かなり重視されるであろうと思います。   検察官から見ますと,こういった事案については,こうした様々な被害者の方の供述の信用性に関する事情を検討し,あるいは刑事訴訟法に基づいて,実際に法廷にその証拠を顕出できるのかどうかといった様々な観点から,合理的疑いを超える程度に立証ができるかどうかを,より一層の覚悟を持って,判断をするということになるかと思います。   そうしますと,長期間経過するということが,訴追される側にとって,より不利になるばかりだといったようなことではないのではないかと思っております。 ○木村委員 確かに,成人の方も,被害の開示までに時間がかかるというのは,非常に理解できるところです。ただ,時効を完全に撤廃するとなりますと,今の検察からの御意見もありましたし,証拠の保全という意味でも,非常に影響が大きいのではないかと思います。   小島委員の御発言にもありましたけれども,親とか教師からの被害については,本人が声を上げるということは,極めて困難だというように想像するものです。また,現行法でも監護者性交等罪が存在していますから,未成年者に関するものについて特に厚く保護するということは,保護法益の観点からも十分な理由があると思います。   これも,小島委員が先ほど触れておられましたけれども,配布資料47の海外の立法などを見ますと,未成年者の被害については,成人に達するまで起算点を遅らせるというような方法というのは,我が国でも導入が可能なのではないかと思っております。 ○井田座長 制度論に入ってきているわけですけれども,我が国の現行の公訴時効制度は,犯罪行為が終わった時から進行する,そして,基本的に公訴時効期間というのは,法定刑を基準として決められているということがございます。これらのことを前提としたときに,公訴時効の完成を遅らせるということを狙いとする,あるいは,それを可能とする方法として,具体的にどのようなものが考えられるのかということを,検討していかなければいけないと思うのですけれども,その点に関連する御発言もいただければと思います。 ○川出委員 公訴時効を撤廃するのではなく,公訴時効の完成を遅らせるという形で,性犯罪について特別な取扱いをするとした場合に,具体的にどのような方法が考えられ,それぞれがどのような根拠に基づくかということについて,意見を申し上げたいと思います。   当検討会のこれまでの議論では,公訴時効の完成を遅らせる方法として,公訴時効の停止という表現が用いられている場合があります。意見要旨集ですと,7ページの「④」の最初の「○」ですとか,あるいは8ページの「(2)」の最初の「○」の中に,停止という言葉が出てきていますが,現行法の公訴時効制度においては,公訴時効の停止というのは,進行している時効が一定の事由がある場合に止まるということを意味しており,公訴時効が一旦進行を始めることが前提となっています。このような現行制度の枠内で考えますと,性犯罪について公訴時効の完成を遅らせる場合の方法としては,公訴時効が停止するというよりも,公訴時効の起算点自体を遅らせるか,あるいは,端的に公訴時効期間を延長するかのいずれかということになろうかと思います。そして,理論的に説明が付くということであれば,いずれか一方によることも,また両者を組み合わせるということも可能だと思います。   その上で,それぞれの方法を採る場合に検討すべき点を考えてみますと,まず,公訴時効の起算点を遅らせるという方法については,現行の刑事訴訟法では,座長が先ほどおっしゃったように,公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行するとされており,犯罪行為が終わった時とは,犯罪行為が終了して,結果が発生した時点を意味すると解されております。これを前提としますと,仮に,性犯罪について公訴時効の起算点を遅らせることとする場合には,結果の発生時点よりも遅い時期が起算点となるということになりますので,性犯罪についてのみそのような特則を設けることが,どのような理論的根拠に基づいて正当化されるのかということを検討する必要があります。   具体的には,公訴時効制度の趣旨・根拠については,一般に,時の経過によって被害者を含む社会の処罰感情が希薄化すること,時の経過によって証拠が散逸すること,あるいは,一定期間処罰されなかったという事実状態を尊重すべきであることなどが挙げられています。そして,犯罪の結果発生時から公訴時効が進行するのは,結果が発生した時点から,今申し上げた公訴時効制度の趣旨が妥当することになるからだと考えられています。   そうしますと,性犯罪について,犯罪の結果発生時から公訴時効が進行しないこととするのであれば,性犯罪については,一般的・類型的に,犯罪結果が発生したとしても公訴時効制度の趣旨がなお妥当しないということを説明する必要があります。その上で,それが説明でき,性犯罪について公訴時効の起算点を遅らせることとする場合には,具体的にどの時点まで遅らせることにするのか,また,その根拠をどう考えるかについて,更に検討する必要があります。   次に,公訴時効期間を延長するという方法については,現行の刑事訴訟法では,公訴時効期間は基本的に法定刑を基準として定められていますので,性犯罪について,法定刑の引上げを行うことなく公訴時効期間を延長するという場合には,性犯罪についてのみ特則を設けることが,どのような理論的根拠に基づいて正当化されるかを検討する必要があります。この点については,性犯罪については,他の犯罪とは異なる特別な事情が認められるということであれば,公訴時効期間について特別な扱いをすることの正当化は可能であろうと思います。その上で,性犯罪について公訴時効期間を延長する場合には,具体的にどの程度の期間とするのか,また,その根拠をどのように考えるかということについて,更に検討する必要があるということになります。   以上が,現行法の公訴時効制度の枠内で公訴時効の完成を遅らせる方法を考えた場合の話なのですが,これまでに繰り返し指摘がなされていますように,性犯罪について,現行法よりも公訴時効の完成を遅らせる必要があるとする意見の主たる根拠は,性被害,特に被害者が子供である場合の性被害については,被害の認識や被害申告が困難であるために,捜査機関がそれを認知できず,捜査が開始されないのに,その状態で公訴時効が進行し,ついには完成してしまって訴追ができなくなるのは,不当であるという点にあります。   このように,事実上捜査を行うことができないことを,公訴時効の進行に当たって考慮するという考え方は,正に現行法の公訴時効の停止の制度において採られています。具体的には,現行法上,犯人が国外にいる場合には公訴時効が停止するとされていまして,判例では,その根拠として,外国には実際上,我が国の捜査権が及ばないという点が指摘されています。そこで,ここで問題となっている性犯罪についても,これと同様の考え方に立って,性犯罪であること自体,あるいはその被害者が一定年齢以下であることを,新たな公訴時効の停止事由として定めるという方法が考えられます。   最初に,現行法の公訴時効の停止というのは,進行している公訴時効が一定の事由がある場合に止まることを意味しており,公訴時効が一旦進行を始めることを前提としていると申し上げましたが,その考え方を変えて,公訴時効の開始時点で存在し,それゆえに公訴時効を最初から進行させない停止事由というのを認めるということになります。実際,外国にはそのような制度があります。例えば,配布資料47の14ページの注16に記載されていますように,ドイツでは,被害者が30歳になるまでは公訴時効が停止するという規定が置かれています。ちなみに,この78条bの第5項には,犯人が外国にいる場合を停止事由とする規定が置かれていまして,これと同じような考え方に立って,我が国の刑訴法にも,性犯罪に関する新たな停止事由を追加するということが考えられるのではないかということです。   そうではなく,飽くまで現行法の公訴時効の停止の枠組みを維持するということであれば,停止事由を追加するという形を採らず,停止期間に対応する分,起算点を遅らせるという形を採ることも考えられます。ただ,こういう形式を採る場合にも,実質は停止事由の追加ですので,先ほど申し上げたように,公訴時効制度の趣旨に照らして起算点を遅らせることが正当化されるかといったことを問題にする必要はなく,端的に,事実上捜査を行うことができないということを根拠に起算点をずらすという説明になろうかと思います。   このように,公訴時効の完成を遅らせる方法としては幾つかの選択肢があり得ますので,どの方法が望ましいかを,その正当化根拠を含めて検討していく必要があると思います。 ○宮田委員 「(1)」の「②」の最後の「◯」,あるいは「④」の最後の「◯」に関連するところですけれども,今,川出委員がおっしゃったように,公訴時効の目的は何かということでございます。   刑事訴訟法1条には,法律の目的が定められていますが,刑事事件についての「個人の基本的人権の保障」を全うしつつという言葉が出てきます。この人権の中には,被疑者・被告人の人権も当然含まれます。時効は,防御の利益のため,極めて重要な制度です。公訴時効の立法趣旨というのは,長期にわたって起訴されない事実状態を尊重すること,あわせて,証拠の散逸によって生ずる誤判を防止するために,法が特に訴追を許さないとした制度であると言われています。そういう意味で,その範囲が著しく延ばされてしまうということには,問題があるかと思います。   川出委員からドイツの制度についての御紹介を頂きましたが,ドイツにおいて,そのような未成年者の時効の起算点についての変更を行った立法の際に,刑罰という国家による大きな権利の制約を伴う手続については抑止的であるべきだという,刑法の謙抑性の点からの反対の意見も述べられており,私もその反対の意見と同じ意見を述べたいと思います。   また,特に被害者が子供のときの事件の問題です。大人になってから被害が分かるということは,子供のときに証拠が集められていないということにほかなりません。生々しい記憶,具体的な記憶が出てくるのだという,小西委員からの御紹介がありましたが,これは,セラピストの接し方によっては,供述を誤導してしまう危険その他もある,あるいは,家族からの影響,入ってくる情報によって,記憶が変容している可能性もあるということです。   これは,ヒプノセラピーの事例なので,通常のカウンセリング等とはちょっと違う面はありますけれども,アメリカのある町でたくさん児童虐待の被害の申告が出てきておかしいなと思ったら,あるセラピストが虐待について誘導的なセラピーを行っていたというような例があるそうです。記憶というのは,物すごく微妙なものだということです。そういう意味で,長期間たってからの事件というものが持っている危険性というものを,認識しなければならないと思います。   児童虐待について,性的虐待は見つかりづらいという話を齋藤委員がおっしゃいましたけれども,私は早期の発見と対応こそが大事だと思っています。児童の性的被害の問題については,児童に対して,これは性的被害なのだ,例えば,デリケートゾーンを触られたり,そこに何か他人の行為がされるということは,それ自体が被害と言えるのだということを教える,そして,子供たちがそういう被害について申告しやすい環境を作る,そして,例えば,乳幼児の場合は,子供が定期健診に来ないときに,親のところに保健師が面会に行ったり,幼稚園や保育園に来なくなった子供のところに,児童相談所の職員や地域の人たちが面接に行ったり,見守りをしたりするとか,学校がキャッチし,スクールカウンセラー,あるいはスクールロイヤーといった専門家たちが介入していくような,早期の子供に対する介入も必要ですし,学校の先生に対する子供の被害に対する知識,あるいは子供の貧困とか虐待に関するきちんとした認識を持っていただくことが,必要であろうと思います。ですから,一番大事なのは,早期の介入についてのきちんとした制度を確立することではないかと思います。   あと,証拠がある場合には時効を止めるという,ミシガン州の例を小島委員が出しておられましたが,私は不勉強なので是非教えていただきたいのですけれども,アメリカでは,時効は抗弁として構成されていると聞いたことがございます。このミシガン州のこの規定は,証拠がある場合には抗弁が出せないという,その抗弁を封じるための法律的な技術なのではないかと理解しているのですが,それが合っているかどうか,教えていただければ有り難いと思います。 ○金杉委員 前回申し上げたことと重なりますけれども,やはり刑事弁護の立場からお伝えをさせていただきたいと思います。   証拠の散逸という公訴時効の趣旨というのは,当然ながら立証側,立証責任を負う側だけではなくて,防御側の反証という面でも,証拠の散逸が問題になります。   性犯罪の場合,被害を認識することに時間がかかる,あるいは家庭内であって被害がなかなか外に出せないという,性犯罪ならではの特殊性があるということは,私も認めるところです。ただ,他方で,密室内の犯罪,なかなか表に出にくい犯罪であるからこそ,客観的な証拠が乏しく,被害が認識されてから捜査が始まるとすると,その間,証拠の保全ができていないということの問題は,やはり軽視できないと思います。   例えば,監護者性交等罪のような同意が問題にならない類型で,被害に遭ったという訴えがあったとしても,「いや,そんな被害は与えていない。」という争いになることは,十分考えられます。そういうときに,仮に,例えば,25歳まで公訴時効が停止する,それから更に監護者性交等罪については10年の時効期間を設けるといった場合,被害者が34歳になって,60歳の父親を訴えるというようなこともあり得るわけです。そのときに,仮に10歳当時に被害に遭っていたとすると,もう既に,行為当時から24年経過している。もちろん,実際の事案で起訴するのかどうかというときに,検察官の方で,供述の信用性を慎重に吟味されるということはあると思います。ただ,そのときに,具体性があって,迫真性があるということで,客観的な証拠が乏しい中でも,供述に依拠して起訴されるということがあったとしたときに,24年前のその行為の当時,どんな客観的状況だったか,例えば,家がそういう状況ではなかったから,その供述は違うのだとかいっても,当時の家が残っていないとか,いろいろな意味で,反証のための証拠が散逸しているということは,やはり考えられます。   必要性は理解しますが,そういった懸念も考慮していただく必要があり,やはり公訴時効の停止あるいは極端な延長といったことには,反対の意見を述べさせていただきます。 ○小西委員 今のお話に関して,やはり,訴えられないという被害者の方の問題というのも考えていただきたいと。論点としては出ましたけれども,それはあります。   それから,宮田委員がおっしゃったことに関して,二点申し上げたいと思いますが,セラピーの例を出したのは,単なる例であって,これはセラピーの問題じゃなくて記憶の問題,トラウマ記憶の問題で,トラウマ記憶がそういう性質を持っているということを申し上げたわけです。必ずしもセラピーじゃなくても,もし熟達した司法面接があれば,そこでお聞きになればよろしいということも考えられますね。   ヒプノセラピーという催眠の療法のことをおっしゃいましたけれども,そういう全く違った療法で,確かに今おっしゃったような例はあるのですけれども,セラピストの方が積極的に被害についての枠組みを与えてしまうというようなケースは,ここでは,今は省いて考えるべきだと思います。それはそれで,セラピーの問題ですけれども,私が申し上げたかったのは,そのことではないということです。   それからもう一つ,性的虐待の被害について,早期発見が必要であることは,もちろんそうなのです。だけど,身体的虐待に比べて,性的虐待は,これからも少しは私たちが早期に発見できるようになるでしょうけれども,本質的に,やっぱり発見できないで大人になるケースが結構あると思うべきだと考えております。 ○齋藤委員 宮田委員のおっしゃった子供の教育,大人の教育,早期発見の重要性には,何の異論もございませんし,否定もいたしませんが,イギリスやドイツなど,日本よりもよほどそうした制度が進んでいる国であっても被害を言えない,被害が発見されないという状況がありまして,早期発見の重要性とこうした刑事制度を整えるということは,比較するものではなく,子供を守るため,被害者を守るためには,どちらも大事だということは言わせていただきたいと思います。 ○井田座長 それでは,一通りの御意見を伺うことができたと思いますし,予定の時間を過ぎてしまいましたので,「公訴時効の在り方」についての議論は,これで一区切りとさせていただきたいと思います。具体的に公訴時効の完成を遅らせる方法を,現行法の制度の枠内で実態を考慮しながらどのように考えていくかということが,三巡目以降の課題になろうかと思います。 ○山本委員 終わりにかかったところで申し訳ないです。   被害者の保護を,最後に小西委員,齋藤委員からも言われたのですけれども,言えないという状況と訴えることが難しいこととして,私の経験をお話しさせていただければと思います。私は,13歳から20歳までの間,父からの被害を受けて,その後,鬱状態やアルコールの過剰摂取を繰り返し,30代後半のときに,自分が受けたことが性被害で,しかも時効でもう無理だから訴えられないことを知りました。ただ,そのとき,裁判に行って,もしかしたら父と対面する可能性を考えたら,とても耐えられないと思ったのですね。そのときに,もし法廷に立って証言するとなったら,多分自分は気がおかしくなるだろうということを思いました。でも,今だったら,健康を取り戻して,気持ちとしても落ち着いているので,証言もできるのではないかなと思います。   被害者が訴えられない,申告できないのは,トラウマ記憶とダメージの問題,PTSDの状態が関わってきます。また,そこで,加害の記憶に対面しなければいけない,加害者に直接向き合わないといけないということが,とてもできる状態ではないということもあります。健康を取り戻すまでに時間がかかることも踏まえた議論が必要なのではないかと思い,蛇足かもしれませんが,申し述べさせていただきました。 ○井田座長 三巡目の議論では,今おっしゃったことも考慮に入れて議論したいと思います。それでは,ここで10分間の休憩をしたいと思います。 (休     憩) ○井田座長 それでは,会議を再開いたします。   次に,「いわゆるレイプシールドの在り方」についての検討に入りたいと思います。   この論点については,一巡目の検討では,意見要旨集の10ページから12ページまでにありますように,「① 捜査・公判における二次被害の実態」,「② 現行法の下での対応の実情」,「③ 新たな規定を設けることの要否・当否」,「④ 具体的な対応策の在り方」という観点から御意見を頂いております。   ほぼ主要な御意見は頂いていて,この問題に対応するには,いろいろな方策が考えられるということも,頂いた意見からうかがわれると思います。特にこの論点については,法律の明文のルールにすることの可否・当否ということが,まだ争点として残っているように思われます。   どのような観点からの御意見であるかを明示して,御発言いただきたいと思います。   この論点については,最大で15分程度の時間を予定しております。 ○渡邊委員 「① 捜査・公判における二次被害の実態」の関連で,検察官の公判における異議の対応について,御紹介をしたいと思います。   配布資料51として,証拠調べや訴訟指揮に関する規定が記載されたものが配られておりますけれども,尋問のルールは刑事訴訟規則に規定がございまして,レイプシールド関係で論じられている異議の内容としては,関連性がない,あるいは証人の名誉を害する事項である,侮辱的である,こういったことが考えられると思います。   検察官は,事前に,それまで被告人がどのような認否をしていたか,弁護人がどのような主張をしていたか,あるいは,弁護人がこれまでの類似の裁判でどのような訴訟追行をしてきた傾向があるかといったようなことを考え,弁護人がどのような尋問をされるだろうかと想定し,これらの異議対応,どういう発言がされたらどういう異議を出すべきかというようなシミュレーションをした上で,公判に臨むということを一般的にやっております。   ただ,異議は,尋問の一瞬を捉えて即座にしなければなりませんので,残念ながらその時機を逃してしまうということもありますし,また,異議を出しても,裁判所に採用していただけないということもあります。いずれにしましても,検察官としましては,被害者の性的な経験や傾向が,その事件の立証すべき事項との関係で,いわゆる自然的な関連性が認められる場合は極めて限られると考えておりまして,法廷における異議対応を懸命に行っているところでございます。 ○井田座長 現行法の下では,刑事訴訟規則に関連規定があって,その下で検察官の皆さんが努力されているということ,そういう御意見を頂きました。 ○小島委員 11ページの「④ 具体的な対応策の在り方」について若干意見を申し述べさせていただきます。   結局,このレイプシールドというのは,法廷で被害者を侮辱しないでほしいということだと思います。性的前歴とか性的過去について,争点と関連性がない無意味な質問,プライバシーを侵害するような質問,そういう質問から被害者を法廷で守ってくださいと,こういう話だと思うのです。検討会でヒアリングをして,岡田さんが,レイプシールド法の導入ということを言っておられて,性風俗や「発展場」にいる人について,自らがその場にいたことを開示することが難しい状況にあると,法廷で自らの職業や性経験を問題視されるリスクというのは,当事者から声を上げる力を奪うのだということを言っておられました。この問題は,結局,被害者が安心して被害申告をして,刑事裁判の場に臨めるようにしてほしいと,この一点に尽きるわけでございます。   それで,第7回会議の議論などを聞いていますと,レイプシールド法は,アメリカなどでは,フェミニズム運動との関係で,手続法の適正化ということで大論点になった部分ではございますが,刑事訴訟法とか刑事訴訟規則の中に,何か明文の規定を盛り込んでいくというのは,なかなか難しいのかもしれないなと思って聞いておりました。   しかし,現行法の運用に問題があるというのは,被害者のそばにいる人たちが皆感じていることなので,難しいのかもしれないですけれども,法曹三者で何らかの形でガイドラインみたいなものを作り,裁判官,検察官,警察,弁護人等の間での研修を強化するなどして,こういうことはしないようにしましょうということで,更に一層積極的な取組が必要な分野ではないかと思っております。 ○池田委員 私からも,11ページの「④ 具体的な対応策の在り方」について意見を申し上げます。   その一つ目の「〇」にもありますように,被告人の防御上,被害者の性的な経験や傾向を公判で顕出することが必要であるとすれば,それを認めないことは許されませんので,仮に明文で被害者の性的な経験・傾向に関する証拠の顕出を制限するルールを定めるとしても,一定の例外が必要になることになります。   配布資料50には,レイプシールド法の他国の立法例が挙げられておりますけれども,アメリカその他の国で非常に多様な規定ぶりになっておりまして,この分野で明確な規律を設けることの難しさを示しているように思います。   我が国でも,実務上,10ページの下から2番目の「◯」に示されておりますような実情があるとされておりますし,ほかにも,例えば,被告人が性交の事実を認めながら,同意があったと主張するに当たって,被害者が別にいる交際相手にその事実を知られたくないということで虚偽を述べていると,同意なく性交されたと虚偽を述べているという主張をする場合などには,防御のために,被害者の第三者との性的関係を含む交友関係等の事情に言及することが避けられないという場面も考えられます。こうした防御上の関連性が認められるという場面は,もちろん無制約ではないのですけれども,相応の広がりを持つようにも思われます。   そのため,このような事情を踏まえながら,制限される証拠の内容や例外を過不足なく,また,その他の類型の証拠の取扱いとの関係も踏まえた上で規定する必要があると思いますけれども,先ほども述べた比較法的な立法例のありようなどにも鑑みますと,これを明確かつ適切に規定できるかということについては,なお検討を要する点が残るのではないかと思っております。 ○宮田委員 今,池田委員の御発言の中で,具体的な防御で,被告人の主張としてそれを述べざるを得ない例については,的確な例を述べていただきましたので,それ以外の点について述べたいと思います。   私は,レイプシールドの規定が特に必要だとは思っておりませんが,「①」の二つ目の「◯」と同じ問題意識は持っています。特に,公判どころか,警察の段階で全く捜査がされないまま止まってしまう,被害が受け付けられない,あるいは,被害者が侮辱的なことを言われるような案件は物すごく多くて,そもそも事件として進まないことが最も大きな問題だと思っています。警察が,前科や前歴のある人,不良だと警察が考えるような人,あるいは風俗関係の人などに対して,偏見に基づいた対応をすることがあります。   先ほど小島委員が,法曹三者の教育とおっしゃいましたけれども,一番必要なのは,警察だと思っています。警察官に現在の被害者に対する対応を改めていただきたい例というのは,幾らでもあると思いますので,具体的にそういうものを提示して,警察官の被害申告の際の対応の在り方を改善することを求めるとともに,警察官に対して,性被害者についての教育や啓発をすることが,必要不可欠であろうと思います。警察でブロックされてしまえば,もうそれ以上は手続が先に進みません。私も被害者や被害者支援の方々と問題意識を共有して持っているつもりでございます。ここで止まらないようにするのが一番大事だと,私は思っています。 ○上谷委員 今の宮田委員の発言で,警察に対する研修が必要だということは,私も全くもって同意でして,警察官も非常に個人差が激しいといいますか,一生懸命やってくださる方と,そもそもかなり性被害に偏見があるのではないかと思われる人もいらっしゃいますので,そこは,何らか研修のような手当てはしていただきたいと思うのですけれども,やはり法廷の場が侮辱の場であってはならないということは,別の次元で考える必要があるだろうと思っています。   要証事実との関係で質問をしなくてはいけないことがあるというのは,私も当然理解しておりますが,要証事実と関係のある質問であっても,殊更に侮辱的な聞き方をする人もいます。検察官が異議を出して,裁判官が「質問の仕方を変えてください」と言うような場面などは,その典型例だと思うのですけれども,要証事実と関係があるから,どんな聞き方をしてもいいというわけではないと思います。ですから,確かに,これを刑事訴訟法とか刑事訴訟規則に入れるというのは難しいのかもしれませんが,やはり,法律として,一般規定でもいいので,被害者や法廷を侮辱してはならない旨と,あと,もうちょっと訴訟指揮の強化ですよね,そのような発言がなされないように訴訟指揮を強化すると,そういう場合は訴訟指揮を積極的に発動しなければならないといったような規定を設けることが,一定の歯止めになるのではないかと思っています。 ○宮田委員 一言言わせていただきたいのが,裁判の当事者は被告人だということです。被告人からどうしても聞いてくれと言われたら,弁護人は質問せざるを得ない。お願いだから,検察官止めてくれ,裁判官止めてくれと思っていることもある。そういう質問をしなければならない場合もあることは,御理解いただきたいと思います。 ○山本委員 侮辱をしてはいけないというのはそのとおりで,でも,それを侮辱と思わないこともあるのではないかと思います。   第7回会議でも,ジェンダーバイアスについての意見が出ましたけれども,それに気付かないからこそ,無意識下のバイアス,アンコンシャスバイアスが起こっています。例えば,仕事を辞めて子育てのために家庭に入ったのが,パートナーの女性ですと言われると,誰も疑問に思わないけれども,家庭に入ったのが男性だと言われると,「えっ,何で男なのに。」と思われてしまう。日本では専業主婦が33%,でも,それが主夫だと3%ぐらい。女性が家庭に入ることに疑問を持たないことこそがアンコンシャスバイアスだと気付いて,気付くのが難しい問題であるということを踏まえて,研修が必要だと思います。   そのために,そのような被害者を傷つける,おとしめるような,法廷や司法の場での侮辱的な発言などが,どのくらい行われているのか調査するということも必要ですし,様々なレイプシールド法の規定があり,なかなか難しいという御意見もありましたけれども,これを設けないことが適切なのか,例えば,イギリスでは,裁判官は3年に1回,三日間の缶詰のトレーニングをして,ロールプレイもしている。そのぐらいしないと,社会の中で吸収してしまったことを学び落とすのは難しい。そのような研修をしないのは妥当であるのかなど,調査,検証していただければと思っています。 ○井田座長 「いわゆるレイプシールドの在り方」につきましては,ほぼ御意見を頂けたと思いますので,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   次に,「司法面接的手法による聴取結果の証拠上の取扱いの在り方」についての検討に入ります。   この論点については,一巡目の検討では,意見要旨集の13ページから15ページまでにありますように,「① 刑事訴訟法321条1項の運用の実情」,「② 法廷で証言することに伴う負担」,「③ 司法面接的手法による聴取の在り方」,「④ 特別に証拠能力を認める規定を設けることの要否・当否」,「⑤ 具体的な規定の在り方」,「⑥ 特別に証拠能力を認める規定を設ける場合における検討課題」という観点から御意見を頂いております。   先ほど同様,どのような観点からの御意見であるかを明示して,御発言いただきたいと思います。この論点も,30分程度の時間を予定しております。 ○齋藤委員 13ページの「②」の二つ目の「◯」ですとか,「④」の二つ目の「◯」の補足をさせていただきたいなと思います。   年齢による特性,脆弱性についてなどですけれども,もちろん個人差はありますけれども,基本的に年齢が若いほど,もちろん脳も発達途上ですし,ストレス耐性も低いですし,精神的な脆弱性というのを有していると思います。13歳未満,小学生ぐらいの年齢は特にそうですが,思春期,おおむね成人未満ぐらいの年齢であっても,やはり,皆様も経験されてきたと思いますけれども,情動のコントロール能力がとても低くて,何らかのトラウマがない子供たちであっても不安定で,ストレスの影響を大変受けやすい時期です。こうした年齢の子供たちについて,特に繰り返しの供述によるストレスというのは,軽減していただきたいと思っておりますし,法廷のようなストレスの強い状況では,十分な記憶の想起ができず,かえって真実の追究からは遠のく可能性があると思います。   ですから,主尋問を録音・録画に代えていただくことは検討いただきたいです。そして,反対尋問が必要だということは,委員の皆様の御議論でよく理解いたしました。しかし,反対尋問について,子供ができるだけリラックスできる場所で行っていただくなど環境を整えるであるとか,そうしたことを検討いただきたいなとは思っております。 ○小島委員 私の方からは,14ページの「具体的な規定の在り方」の2番目の「◯」について若干補足させていただきたいと思います。   結局,この問題というのは,先ほど齋藤委員からも御意見がございましたけれども,子供とか知的障害のある方など,供述弱者と言われている方の供述を,どうやって刑事裁判の証拠としていくのか,犯罪の被害者として救い上げていくのかという問題ではないかと思います。司法面接による録音・録画を,主尋問に代えて用いることができるようにするべきではないかと考えております。   第7回会議で刑訴法321条の2の書面の話が出てきました。司法面接で出てくる証拠は,裁判官の面前における供述ではございませんけれども,デジタル証拠です。そうすると,表情とか,間合いとか,証言者の息遣いなど,ありのままに映し出される,そういう証拠です。それを見れば,裁判所も弁護人も,供述者の供述の態度とかをリアルに観察できます。そういう証拠なのだということを重視していただいて,弁護人の防御権の問題もあるので,反対尋問を条件として,原則として主尋問に代えて証拠化できるようにするようにしていただけないかというのが,私の意見でございます。   ただ,現在行われている司法面接の手法について,様々な御意見があることは承知しておりますので,プロトコルの決定だとか施設の整備だとか,いろいろ課題はあるかもしれませんが,これで方向性を出していただいて,法改正に向けて,なお一層整備を進めていくということで,司法面接について進めていっていただきたい。何とかして,子供の被害について手厚くやっていこうという方向を進めていただきたいというのが,私の意見でございます。 ○宮田委員 司法面接を主尋問に代えるという御意見が続いて出ております。「⑤」の三つ目とか四つ目の「◯」の意見なども,そういう御意見だったと思いますが,私は,憲法37条の証人尋問権は,弁護において譲れない権利だと思っています。判断者である裁判官の前で尋問されること,それ自体に価値があると思っています。主尋問を聞いて反対尋問をする,正にその主尋問を聞いてから反対尋問をするという,そのライブ感と言ったらいいのでしょうか,拙い表現ですが,それこそが大事だというのが,私の実感です。   ビデオというのは,飽くまでも,ある過去の時点での記録にすぎません。主尋問に続けて反対尋問があるということで,その記憶の精査ができることになります。被害者がビデオを事前に見てから反対尋問に臨めばいいじゃないかという御意見もあり得ますけれども,それでは結局,被害者が質問をされながら記憶を引き出していく主尋問とは全く意味が異なってしまいます。反対尋問をされる前に,ビデオを見て自分の記憶を確認して法廷に臨む,それは,記憶がそのビデオの内容で固められてしまっていることになるのではないでしょうか。主尋問の意味が違ってきてしまうのではないかと思います。   法廷で,非常に被害者がつらいというのは分かります。そうであるとすれば,例えば,被害者が入院しているような場合などは,病院で期日外尋問を開く場合もありますから,期日外尋問を弾力的に運用する方法だって,考えられるのではないでしょうか。   もちろん私にも,言語性に問題がある供述弱者,子供や障害者について,尋問という言語作用を用いた記憶のチェックというのが,必ずしも適切ではないのではないかという問題意識は分かります。ただ,ここで考えなければならないのは,供述弱者から供述を引き出す作業が,物すごくデリケートだということです。聞き手のちょっとした言動が,供述者に対して暗示になりかねないわけです。   例えば,司法面接の場面で,検察官がちらっとお母さんの方を見たと。そうすると,子供は,この人はお母さんの方を見ている,じゃあ,お母さんに言われたとおりに言おうというような形で,検察官のちょっとした視線の動きまで感知して話すことは,あり得るのです。検察官がカウンセリングの研修を受けているということですけれども,心理学的な知見を持たない法律家が,今の代表者面接を行っていることの問題性は考えておかなければいけません。供述弱者から供述を引き出すことは,いかにデリケートで難しいかということを,法律家が本当に認識できているのかということは,まず言えると思います。   あと,司法面接の手法について,「⑥」の最後の「◯」のところです。各国で作られたプロトコルがいろいろありますけれども,それぞれが開発者によって正しいと考えるコンセプトが具体化されたものです。面接者が開発者の許可を得ないで勝手に複数のプロトコルを組み合わせたり,つまみ食いしてはいけないのだという考え方も,強く主張されているところです。現在行われている我が国のプロトコルは,NICHDとチャイルドファーストの二つが主だということですけれども,現実に行われた代表者面接では,NICHDでは禁じているドールを用いた例があるなど,プロトコルのつまみ食いがされている嫌いがあることも,指摘されているところです。これは,仲先生もおっしゃっていたのではなかったかと思います。プロトコルに従っているかどうかというのは,その司法面接の手法の信頼性にも関わり,そして,セラピストの能力にも関わってくるところです。ですから,後からの検証に耐えられる司法面接と言えるためには,どういうプロトコルを採るのかということを,もっと厳密に考える必要があると思っています。   なぜこのように,プロトコル,プロトコルと私が申し上げているかといえば,英米では,反対尋問よりも,むしろインタビュアーへの尋問が,司法面接のビデオを証拠採用するかどうかの前提条件になっているからです。誤りがない技法によっていること自体が,そのインタビュアーの信頼性に関わってくるということです。そういう意味で,つまみ食い的な勉強しかしていない検察官による代表者面接は,それ自体が非常に安易で問題なのではないかと思うのです。供述を得る場合の供述弱者への影響というのは,我々法律家では意識できないところにもあるというところは,きちんと認識しておかなければならないと思っています。   そして,司法面接の信用性については,まだ導入するためのエビデンスは不足していると思います。海外の知見を紹介するのは結構なのですが,どのようなプロトコルに基づいて,そのプロトコルを学んだどういう人たちがどういう方法で行ったか,そして,行った方法をどのようにして証拠に残したのかというようなことを,きちんと紹介するべきだと思います。   これまでに我が国の刑事裁判において司法面接の録音・録画が証拠として採用された件数は非常に少なく,そのような僅かなケースを基に,司法面接の是非を問うのはおかしいと思います。先ほど,司法面接の状況を録画した映像について,子供の表情が非常にリアルに映されているという小島先生の御指摘がありましたが,子供の表情だけではなくて,周囲に誰がどのように座っていたのか,親などの付添いの人の動静であるとか,聞き手の動静などもきちんと記録に残さないと,司法面接の信用性についての検証ができないのではないかと感じます。検証不可能なものには,証拠価値はないと思います。   あえてもう一つ付け加えておきたいと思いますが,司法面接の状況を録画したビデオの供述に証拠能力が与えられたとしても,その証明力についての検証がきちんと行われる必要があります。具体的で詳細だからといって,供述が信用できるようになるわけではありません。司法面接を採れば,信用できる供述が取れるわけではないというのは,仲先生もおっしゃっていたとおりです。暗示を受けるなどして記憶が汚染されている可能性の有無については,被害者の親とか捜査官とか,司法面接の前に接した人たちの供述の突合せなども必要と思われますし,その供述を引き出したセラピスト,代表者聴取なら検察官の能力に対しての尋問なども必要になってきます。さらに,供述の持っている危険性,暗示による虚偽の供述になる危険性なども考えれば,やはり補強証拠である客観証拠を要求するといった立法も考えなければならないと思います。   私は,この検討については,そもそも十分な資料がないと思っておりまして,司法面接についての録音・録画媒体の特別な証拠能力を今認めるということは,妥当ではないと思います。少なくとも,特別に認めるということであれば,もっとエビデンスをそろえる必要があると思っています。 ○金杉委員 重なるところもあるかと思いますが,供述弱者や被害を受けた方が二次被害に遭うことにならないよう配慮すべきであるという必要性は,私も理解しています。   ただ,そのための方策として,これまで刑事訴訟法には,遮蔽,ビデオリンク,期日外尋問といった,反対尋問権の言わばある種制約に当たるような様々な規定が設けられてきました。期日外尋問については,特に,被告人がいない場所での尋問,私も争っているケースで,小学校の女児に対して,被告人がいない場面で期日外尋問を行ったということもありましたけれども,やはり,争っている事案については,被害者がどのように話すか,自分で聞きたいという被告人の要望が強いものですから,かなり被告人の抵抗は強いものです。ただ,それでも,一応形としては,中立な裁判所の前で立証責任を負う検察官が尋問をし,被告人はいないとしても,弁護人が被告人の立場から反対尋問をするということが制度的に担保されて,それでも有罪認定されたのならということで,一定程度の被告人の納得も得られるかなと思うのですけれども,それを超えて,全く尋問の機会が与えられず,それが一定程度の客観的な証拠があることという要件を課したとしても,そうした三者の前での尋問の機会を経ることなく,証拠能力を認めるということには,やはり抵抗があります。   考えられる在り方としては,例えば,刑訴法321条3項や4項のように,先ほどお話もありましたように,インタビュアーに対してどのようなインタビューを行ったのかということを十分に尋問する機会を与えた上で,刑訴法321条1項2号の検察官の面前でなされたものでないとしても,その要件を拡大して証拠としての能力を認めるという方向性はあり得るだろうと思います。   ただ,その場合でも,やはり今,問題意識を持っていますのは,現在の代表者面接というのは捜査機関主導で行われることが多いということです。これをできるだけ切り離して,医師であるとか臨床心理士の有資格者が,より受容的な環境でインタビュー,プロトコルを遵守して行った司法面接に対して,インタビュアーに対する尋問を行った上で証拠能力を認める,ただし,尋問の機会は与えると,こういう制度にすることは考えられるだろうと思います。 ○池田委員 14ページの「⑤ 具体的な規定の在り方」について申し上げます。   先ほど,宮田委員,金杉委員が御指摘になった,被告人にとって反対尋問が非常に重要であるという御意見は,そのとおりだと思います。ただ,即時の反対尋問ができない公判廷以外での供述であっても,現行法上は一定の要件の下に使用が許容されておりまして,それを全面的に否定するのでないのであれば,既存の許容される証拠と同等の性質が担保される要件の下で,司法面接の結果を採用する余地はあり得るのではないかと思います。その内容を考えるに当たっては,先ほどの宮田委員の御指摘,あるいは御懸念の内容も踏まえて,更に検討することができる話であろうと思います。   関連して,今の金杉委員の御指摘にありました内容で,意見要旨集の15ページの一番上の「◯」のところに,捜査機関や児童相談所による聴取では,暗示・誘導のおそれが払拭できないから,医師や臨床心理士など中立的な第三者が聴取すべきであるという意見があります。   その前の14ページの一番下の「◯」のところにもありますが,証拠能力の要件として,暗示・誘導ができるだけ排除されていることを,特に信用すべき状況という要件の下で要求することが考えられるとされております。また,その上で,聴取状況についての録音・録画を要求することとした場合には,裁判所としても証拠能力を判断するに当たって,聴取者による暗示・誘導の有無を見極めることができるので,相当な聴取が行われなければ,証拠能力を認めないとの判断が適切に行われるものと考えられます。そうだとすると,捜査機関や児童相談所の職員を,カテゴリカルに聴取者から除外するまでの必然性はないものと思われます。   あわせて,ここにもありますけれども,特信性を支える要素として,事件から近い時期の聴取ということを規定するのであれば,この観点からも,聴取者の範囲を狭く捉えるということは,その妨げになるように思います。 ○小西委員 司法面接を行うときに,質について,いろいろな懸念があるというのは,宮田委員のおっしゃったとおりだと私も思っております。   ただ,では,法廷の場で行われる尋問や答えに,それを超える力があるのかということについては,これはむしろ逆だと思います。例えば,虐待された子供の中には,全ての権威を怒らせないようにということでしか判断しないような子もいるのですね。本当に微妙なところです。法廷における証言は,どちらかといえば法廷,裁判の権威に基づいて,正しいことを発言させることができるという前提に基づいているように思うのですけれども,非常に権威的な人の前で厳しいことを言われると,子供,特に虐待された子供というのは,その人を怒らせないようにするためには,どうしたらいいかということで精いっぱいになるということは,よくあるわけで,裁判そのものが,子供にとって非常に侵襲的になり得るということを,やはり考えていただきたいと思います。   もちろん,司法面接には懸念はあるし,変えなくてはいけないし,判断しなくてはいけないというのは,そのとおりだと思いますが,そうでないときの有害性や事実の失われ方ということと,比較して決めるべきではないかなと思います。 ○井田座長 今の議論では,反対尋問の機会を保障した上で,主尋問に代えて証拠能力を認める方法について議論が集中した感じがしますけれども,第一巡目の議論では,反対尋問の機会を与えずに証拠能力を認める方法,刑訴法321条1項3号になぞらえる形での方法の提案もあったと思われます。それについても,もしよろしければ議論の対象にしていただければと思います。 ○山本委員 少しずれてしまうかもしれないのですけれども,個人的には,供述弱者という表現に非常に違和感があります。自分の身にされたことを証言できないわけではないと思うのです。   配布資料57のイギリスの規定の2ページにおいて,畏怖証人という表現がされているように,その場に行くことが,非常に自分自身の存在を揺るがせられることである,とても平静な気持ちで証言することが難しい状態である,そのようなことであるからこそ,イギリスは裁判所に証人サービスセンターを置いて,平静に証言ができるようにサポートなどを行っているということであると思います。   もちろん,被害者は,やはり法廷に立たされることとか,加害者を前にすることとか,また,そこでいろいろなことを言われることで,動揺しますし,そのたびに心身的な反応も起こってきます。心拍が亢進したり,呼吸も早くなったり,精神症状としての解離が起こったりすることもあります。そのような状態であり,供述が難しい人であるからサポートが必要という話だと思います。証言をすることで揺るがされる証人に対して,裁判官の前に引き出すのがライブ感があり,価値がある証言ができるというのは,筋が通らない話だと思っています。   だからこそ,適切な司法面接が必要で,そのような人たちが平静に証言をできるようなサポートも必要ですし,原則として,子供や障害者,言語的な表現が難しい人たちは,録音・録画媒体を主尋問に代えるということをして,きちんと証言が裁判の証拠となることができるように,司法のブラッシュアップというか,向上をしていただきたいと思っています。 ○上谷委員 ちょっと皆さんのお話に関連しているところもあるのですけれども,仲先生の話だと,司法面接を録音・録画することによって,逆に信用性がないという証拠になる場合もあるということだったので,司法面接的手法を採ったばかりに,ただちに有罪になってしまうわけではないと思いますので,刑事弁護の先生方のその辺の心配はちょっと当たらないのかなと思います。   あと,聴取する人から検察官を除くことには,私は大反対です。そもそも捜査ですから,刑事事件の枠組みとかいろいろな聴取の仕方,どの辺の間接事情を拾えばいいのかということを理解しない人が聴取したところで,何も立証できない記録が出来上がるだけという可能性も十分にあります。その場合,結局検察官が従来と同じような供述調書を取り直さざるを得ないということになると,被害者の負担を減らすとか,供述の汚染を防ぐといった趣旨で,今検討している司法面接の意味自体がなくなってしまいます。私は,心理の人のアドバイスを受けながら,検察官が主導となって聴取を行う方法が,裁判に出るものとしては一番適切ではないかと思っています。 ○渡邊委員 まず,検察庁の司法面接の状況でございますけれども,担当する者は研修を受けて,そのプロトコルに従ってやるという努力をしておるところでございます。そして,件数でございますけれども,第7回会議で法務省刑事局から説明がございましたとおり,平成30年は1,067件,平成31年は1,221件行っておりまして,研修を受けた検事が1人当たり数十件経験を積んでいたりするというような現状がございます。   そして,供述の出方について,御指摘が様々ございましたけれども,司法面接に至るまでに,お母さんからどのような示唆を受けたか,あるいは,警察官からどのような示唆を受けたか,これについて,検察官,あるいは警察官が確認をするということが,供述の信用性の吟味,司法面接を録音・録画したDVDの信用性評価という観点から,当然必要なことであろうと考えておりまして,実務ではこうした観点からの捜査も行った上で,司法面接の運用をしておるところでございます。 ○中川委員 私の方からは,「意見要旨集第7回分まで(2)」の14ページ,15ページの「⑤ 具体的な規定の在り方」と「⑥ 特別に証拠能力を認める規定を設ける場合における検討課題」について,お話をしたいと思います。   新たな制度を設けるかどうかは立法政策の問題ですが,訴訟運営を行う裁判官の視点から,三点ほど指摘をさせていただきたいと思います。   先ほど座長の方からありました,今議論されている類型のうち,反対尋問を経ない類型について,まず一点目でございますが,現在の議論では,当該類型を設けることで,被害者の証人尋問を行わずに,刑事手続を進めるということを前提としているようにも思われます。   しかし,現行法上,当事者には証人尋問請求権が認められ,例えば,供述者の死亡ですとか所在不明といった,およそ証人尋問ができないといった場合と異なって,今回議論されている類型では,当事者,多分弁護人の方が多いかと思いますが,当事者が証人尋問を請求する場合があると思われるため,証人尋問請求権との関係をどう整理するかという問題があるように思われます。これまで証人尋問を実施できず,供述不能を理由として,被害者の供述調書を刑事訴訟法321条1項2号前段あるいは3号で取り調べた事案などについて,その信用性判断が必ずしも容易ではなかったという経験もしております。   今回議論されている司法面接の記録媒体についても,弁護人が被害者の供述の信用性を争い,仮に証人尋問を請求された場合,記録媒体だけでは信用性の判断が難しいということが考えられ,裁判所としては,その信用性の判断に必要であれば,証人の採用を検討せざるを得ない場合があると思われます。取り分け証拠の内容を確認していない公判前整理手続の段階では,証人尋問の必要性を否定することは困難な場合が少なくないのではないかと思われます。また,そもそも検察官においても,司法面接の記録媒体の証拠能力が否定された場合,自身が記録媒体以外で立証したいと考えた場合には,証人尋問を請求する可能性もあるのではないかと思われます。   以上述べたとおり,この類型に関する議論に当たっては,証人尋問請求権との関係をどう整理するかという視点も踏まえて,制度の創設やその要件を慎重に議論する必要があるのではないかと思われます。   二点目ですが,今,主に議論のあった司法面接の記録媒体を主尋問に代替する場合ですが,この方法ですと,反対尋問が司法面接からかなり時間を経て行われることになりますので,尋問の手法とか内容がこれまでと異なり,尋問開始当初から被害者がいきなり追及的な反対尋問を受けるということも考えられ,かえって被害者の二次被害を招くことにならないかという懸念もあります。その点は措くとしましても,主尋問が反対尋問と近い時期に行われる通常の証人尋問の場合と比べて,反対尋問における供述者の供述が曖昧になることが想定され,供述の正確性等を確認することが難しくなる場面が増えるように思われます。   現在の実務ですと,検察官の主尋問により現在の証人の記憶を確認し,反対尋問では,被害に関する現在の記憶を確認した上で,捜査段階では警察官や検察官に何と供述していたのかを確かめるというのが,証人尋問でよく行われております。ただ,現在行われている証人尋問においても,証人尋問の時点での記憶を確かめる質問には答えられるものの,過去のある時点の記憶を確認されると答えに詰まって,証人が混乱していることを経験しています。司法面接の記録媒体を主尋問に代替する場合ですと,司法面接時点の供述の信用性を弾劾することになり,反対尋問は司法面接の供述を前提に進むと思いますが,現在の記憶をよく確認されないまま反対尋問が始まってしまいますと,証人が現在の記憶を述べているのか,過去の司法面接時点の記憶を述べているのかが一層分かりにくくなり,結果として供述の信用性の判断が難しくなるように思われます。   したがって,このような類型を設ける必要性については,十分議論をした上で,その要件等について慎重に検討する必要があるのではないかと思います。   最後のところですが,特信性としては,その供述の信用性を担保する外部的な情況が存在する必要があり,司法面接の制度の枠組み自体に信用性が担保されている情況が認められる必要があると思われます。司法面接の記録媒体について,特別な証拠能力を認めていくということであれば,司法面接の聴取者や条件,手法などといったことに関し,信用性を担保する情況と評価するにふさわしい一定のルールが定められ,このルールに沿った形で聴取が行われることが必要ではないかと思います。 ○川出委員 意見要旨集14ページの「⑤ 具体的な規定の在り方」について,意見を申し上げたいと思います。   司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体について,特別に証拠能力を認める場合の規定の在り方としては,三つ目の「◯」にあるように,大きく二つの方法が考えられます。そこで,それぞれについて,具体的な規定の在り方と検討すべき点を申し上げたいと思います。   まず,反対尋問の機会を与えることなく証拠能力を認める規定についてですけれども,司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体は,現行法に当てはめれば,被告人以外の者の供述録取書に準ずるものになります。伝聞証拠である被告人以外の者の供述録取書については,刑訴法321条1項各号で,一定の要件の下で証拠とすることが認められております。これらの書面は,公判における反対尋問の機会が与えられることなく作成されたものであることから,それを証拠とするための要件として,その必要性とともに,信用性の情況的保障が必要とされていますが,誰の面前における供述であるかによって信用性の情況的保障の程度が異なることに鑑みて,刑訴法321条1項1号から3号までにおいて,それぞれ異なる要件が定められております。   第7回会議で,現在行われている代表者聴取においては,検察官が聴取主体となっている例が多いという報告がありましたけれども,これは恐らく,現行法において,検察官面前調書については,刑訴法321条1項2号によって,同項3号による警察官や児童相談所の職員が聴取主体となった場合の調書よりも証拠能力が認められやすいことに対応したものであろうと思います。司法面接における供述の信用性というのは,本来,聴取主体が検察官であること自体によって高まるというものではないはずですから,その証拠能力についての新たな規定を考えるに当たっては,刑訴法321条1項2号でなく3号を基準にして考えるべきであろうと思います。   そこで,刑訴法321条1項3号を見ますと,必要性に関しては,供述不能と不可欠性が,信用性の情況的保障に関しては,特信性が要件とされています。刑訴法321条1項3号の対象となる書面は,裁判官・検察官以外の者の面前における供述を録取したものですので,信用性の情況的保障が類型的に高いとは言えないことから,必要性の程度について,最も厳格な要件が定められているということになります。   その上で,このうちの供述不能の要件についてですが,これは,高度の必要性を示すものとして規定されたものですので,論理的にそれに限られるというものではなく,高度の必要性を示す別の要件に代えることもできると思います。司法面接の場合に即して言いますと,被害について繰り返し供述することが,その者の心身の健康又は健全な成長に重大な悪影響を及ぼすということが,公判廷外の供述を利用する高度の必要性を示す要件に当たると言えるかという問題になります。仮にそれが認められるということであれば,次に,どのように規定すれば,この場面を適切に捕捉することができるのか,具体的には,対象となる犯罪の種類をどうするか,供述者の年齢や立場などを限定するかといった点について,検討する必要があります。以上が一つ目の方法についてです。   次に,もう一つの反対尋問の機会を保障した上で,主尋問に代えて証拠能力を認める規定の具体的な在り方ということについては,現行の刑訴法321条の2が検討の出発点になります。この制度自体についても,批判的な意見があることは承知しておりますが,現に規定があり,それに基づいた運用がなされていますので,そのことを前提に新たな規定の創設の当否について考える必要があるだろうと思います。   この刑訴法321条の2というのは,性犯罪の被害者等の証人尋問が,他の刑事手続においてビデオリンク方式によってなされ,その状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書について,被告人に反対尋問の機会を与えることを条件として,証拠とすることを認めるものです。ここで対象となっているのは,伝聞証拠である,裁判官の面前における供述及びその状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書ですので,これは,本来であれば,刑訴法321条1項1号に該当する場合,つまり,供述不能,又は供述者が公判期日において,記録媒体に記録された供述と異なった供述をしたという要件を満たす場合に限って,証拠とすることが認められることになるはずです。しかし,この場合は,性犯罪の被害者等が同一の事実について繰り返し証言する負担を軽減する必要があるという,被害者保護の必要性ということを前提として,前の手続でなされたビデオリンク方式による証人尋問における証言が,裁判官の面前で,かつ,宣誓をした上でなされたものである上に,事実認定者である裁判官が,その状況を記録した記録媒体を見ることによって,証人尋問時における証人の証言態度を観察できるという,信用性の情況的保障があることから,被告人に反対尋問の機会を与えることを条件として,証拠とすることを認めています。   これに対して,司法面接的手法による聴取における供述には,信用性の情況的保障に関して,裁判官の面前で,かつ,宣誓をした上でなされたものであるという要素が欠けています。ただ,このうち宣誓が欠けているという点については,そもそも低年齢の者については,宣誓能力自体が認められない場合もあるでしょうし,また,仮にその能力があったとしても,司法面接の対象となる年少者について,宣誓をさせるということが供述の信用性の確保にどれほどの意味を持つかということについては,疑問もあります。そうしますと,問題は,供述が裁判官の面前でなされていないという点であり,この点を別の要件を立てることによって補うことができるのかどうかがポイントになろうかと思います。   これに関しては,先ほどの刑訴法321条1項において,裁判官面前調書に関する同項1号が,供述不能又は相反供述をしたことのみを要件とするのに対して,同項3号では供述不能,不可欠性,特信性が要件とされているということが,一つの手掛かりになると思います。つまり,刑訴法321条1項3号は,裁判官の面前でなされた供述でないことにより信用性の情況的保障の程度が劣るという点を,不可欠性と特信性を要求することによって補っていると理解することができます。そうだとしますと,司法面接的手法を用いた聴取の全過程を録音・録画した記録媒体について,性犯罪の被害者等の供述であることと,反対尋問の機会を付与することを要件としつつ,それに加えて,不可欠性,特信性を要件とすることによって,新たな伝聞例外を創設することができるのではないかということです。二つ目の方法については,以上の点が具体的な検討課題になるだろうと思います。 ○井田座長 ありがとうございました。刑事訴訟法御専門の立場から,論点を整理していただいたと思います。   それでは,時間もまいりましたので,この司法面接の問題については,ここまでとしたいと思います。   次回の会合ですけれども,まず,「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」,そして,「地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」,そして,「いわゆる性交同意年齢の在り方」という三つの論点についての,三巡目の検討を行いたいと考えております。論点については,そういうことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   次回会合における具体的な議論の進め方について御相談したいのですけれども,これまでの議論の中で,こういう御意見を頂きました。すなわち,被害者が子供である場合における地位・関係性を利用した犯罪類型について,被害者の年齢や行為態様等をどのように規定するかを検討するに当たっては,刑法178条の抗拒不能の要件や,いわゆる性交同意年齢の在り方といった他の論点との関係を踏まえながら検討する必要があるのではないか,こういう御意見であります。   確かに,その御意見のとおり,この問題については,複数の論点相互の関連性を踏まえつつ議論することが適切であり,また,検討を深める上で有益だと思われます。   そこで,三巡目の議論においては,例えば,一定の年齢未満の者を被害者とする場合における罰則の在り方というような観点から,先ほど申し上げた三つの論点について,言わば横断的に議論をしてはどうかと思います。   具体的な議論の進め方については,私の方で,事務当局にも協力してもらいつつ,早急に検討し,事務当局を通じて委員の皆様にお伝えすることといたします。また,意見要旨集についても,これまでと同様に論点ごとに整理したものを作成することに加えて,横断的な議論に資するような,各意見を並び替えて再構成したものを別途作成し,これらを用いて議論を行うことにしてはいかがかと考えております。   次回の会合では,まず,「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」,そして「地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」,さらに,「いわゆる性交同意年齢の在り方」という三つの論点について,それぞれ検討したいと思いますけれども,取り分け一定の年齢未満の者を被害者とする場合については,論点横断的な検討も行うということにしてはいかがかと考えております。このような方針で進めていくことで,よろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきたいと思います。事務当局においては,準備をお願いいたしたいと思います。   具体的な議論の進め方が決まりましたら,次回会合に先立って,事務当局を通じて委員の皆様にお伝えさせていただきたいと思います。また,意見要旨集についても,会合に先立って皆様にお送りし,前もって検討していただくようにしたいと思っております。   そして,本日議論を行った論点につきましては,本日述べられた御意見,また単独の論点についての二巡目の検討結果を踏まえて,三巡目以降の進め方を考えたいと思っております。   委員の御発言の中で,職務上取り扱われた事例に関する御発言も若干あったような気がいたしますので,御発言された委員とも相談の上,当該部分については必要に応じて非公表としたいと思います。これらの具体的範囲や議事録の記載方法については,私に御一任いただければと考えております。そのようなことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのような扱いとさせていただきます。   次回の予定について,事務当局からお願いいたします。 ○浅沼刑事法制企画官 第12回会合は,2月16日火曜日,午前10時からの開催を予定しております。次回会合の方式につきましては,追って事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会といたします。