法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和2年12月25日(金)自 午後0時59分                      至 午後6時00分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定された時間の少し前ですけれども,御出席予定の皆様,既におそろいということですので,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第7回会議を開会したいと思います。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   なお,本日は衣斐幹事が御欠席,井村委員,笠井委員,湯淺委員が途中で御退席される御予定と伺っております。   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ○大野幹事 御説明いたします。   まず,部会資料11「特に検討すべき項目3(オンライン申立てにおけるシステム障害等に関する規律,濫用的な訴えの提起を防止するための方策,利害関係のない第三者による訴訟記録のインターネット閲覧)」を配布させていただいております。これまでの御議論の状況を踏まえ,幾つかの論点について,中間試案についての議論に先行して御議論をお願いしたいという趣旨で作成をしております。   また,中間試案のたたき台につきましては,部会資料12として配布をさせていただいておりますが,本日は前回の積み残しについて御審議を頂いた後,まず,部会資料11について御議論を頂き,その後,お時間の許す範囲で中間試案のたたき台についての御議論を頂戴したいと考えております。   それぞれの資料の内容につきましては,後ほど事務当局から説明をさせていただく予定です。   また,本日,参考資料10「「民事裁判IT化に関する世論調査」の概要」を配布しております。これは本年9月から11月までにかけて実施されました民事裁判IT化に関する世論調査の概要について,内閣府政府広報室が今月に公表したものでございます。   さらに,部会の今後の日程について,現時点での最新版を配布しております。これまで御案内させていただいた日程に加え,来年度の日程の一部をお示しさせていただきました。その後の日程については御議論の状況を踏まえつつ,追って御案内させていただく予定でございます。詳細は配布の資料を御覧ください。   本日の配布資料は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,早速ですけれども,本日の審議に入りたいと思います。   毎回のお願いになって恐縮ですけれども,本日も御議論を頂く論点が非常に多岐にわたっておりますので,全体を通して,御発言につきましては可能な限り要点に絞って簡潔にお願いしたいというふうに存じます。恐れ入りますが,円滑な議事進行に御協力のほどお願いを申し上げます。   それでは,前回会議で積み残しになっている「和解に代わる決定」,部会資料10の16ページ以下,第3の部分でありますが,本日はこちらから議論をしたいと思います。   それでは,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 部会資料10の「第3 和解に代わる決定」について説明させていただきます。   和解に代わる決定につきましては,第4回会議におきまして現在の実務の運用を肯定する規律についてのニーズがあるという御意見を頂いたところでございますが,具体的な規律のイメージを持ちながら議論をする必要があるとの御指摘も頂戴したところでございます。   そこで,部会資料10の16ページでは,和解に代わる決定の具体的な規律を御提示して制度を設けるか否か,設ける場合の具体的な規律の在り方について御議論をお願いするものでございます。   現在の実務の運用が和解のための協議が行われて,相互に歩み寄りが見られたにもかかわらず,和解の合意が成立するまでには至らないと,そういう場面におきまして,事件を民事調停に付して,民事調停法第17条の決定がされているというものでございますので,そのことが明確になるような規律とすべきであるとの御意見もございました。   そこで,本文の1では和解を試みたということと和解が調わない場合においてということという規定を入れ,和解に代わる決定をすることができる場合を明確にすることとしております。また,裁判所が決定する内容につきましては,裁判所の判断を拘束する基準としまして,当事者双方のために公平という要件を設けることとしております。   (注1)でございますが,こちらでは和解に代わる決定をする手続要件について,異議がないことを要件とすることや同意を要件とすることについて御議論をお願いするものでございます。   (注2)でございますが,こちらは対象事件を限定することについての御議論をお願いするものでございます。   (注3)でございますが,仮に和解に代わる決定の規律を創設することとした場合におきましても,裁定和解の制度を維持するということを提案しているものでございます。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 従前この論点が議論になったときも,一定の場合には和解に代わる決定を利用する場面がある。具体的には地方公共団体,公金を原資の一部として取り扱う団体の場合,また民間企業においても和解することが代表訴訟リスク等にさらされる場面が考えられます。しかしながら,次の4点から,この制度の導入は問題があると考えます。   1点目は,頭書きで「簡易裁判所の訴訟手続以外の訴訟手続に」という形で,簡裁における和解に代わる決定,275条の2を言わば枕として引用されていますけれども,本文で提示いただいている要件は簡易裁判所における和解に代わる決定とはかなり異なる内容になっています。275条の2の第1項は,被告が口頭弁論で原告の主張した事実を争わず,その他何らかの防御の方法をも提出しない場合というように,被告が認めている,争わない事案を前提に要件が定められています。元々簡易裁判所における和解の決定は平成15年の民事訴訟法改正に際して,当時調停に代わる決定が利用されていたことを簡裁の訴訟手続の中に導入すべく提案されたわけですが,調停に代わる決定に比べて要件はかなり絞ったものが立法化されています。しかしながら,今回の提案は調停に代わる決定とほぼ同じ要件で提案されているのであって,平成15年改正の際との比較,また,地裁においても調停に代わる決定と同程度まで要件を緩和する必要が立法事実があるのかという点も含めて疑問があります。   2点目は,調停における調停に代わる決定との比較ですが,民事調停法17条は元々調停が不成立となる見込みがある場合等に,終局的な調停終了直前の総合判断として調停に代わる決定が提示され,調停に代わる決定に異議が出た場合には調停は終了するという扱いになっています。しかしながら,今回の提案は訴訟であり,和解に代わる決定に異議が出たときには通常訴訟に戻るとされ,最終的には判決という形で終局することが予定されています。そうしますと,和解に代わる決定は判決の前出しという面,言わば理由のない判決の結論が事前に示されるという側面は否定できないと思います。となりますと,異議が出ると終了で終わる調停と違って,和解に代わる決定は当事者に対する強圧性が働いて,それに応ぜざるを得ない心理的影響力があると危惧されます。   3点目,民事調停法において,調停に付す場合には20条1項ただし書で,事件についての争点及び証拠の提出が完了した場合には,当事者の合意がない限りは付調停にできないと定められていますが,今回の提案というのは訴訟手続のままですので,場合によっては集中証拠調べ等,証拠調べが終わった後に裁判所から和解に代わる決定を提案されることも想定されています。そうしますと,事件が進行し現状では付調停自体が難しい案件,つまり調停に代わる決定に載せることができない案件が訴訟であれば,そのまま和解に代わる決定をできることになり,民事調停における調停に代わる決定を利用する場面よりも,更に広がると思います。しかし,20条1項ただし書があるために付調停にできない案件,つまり調停に代わる決定のできない案件に訴訟のままというだけで決定を可能とすることの当否は問題にせざるを得ません。   4点目,裁定和解との関係で,265条では共同申立てがあれば裁判所の判断に委ねるという手続がわざわざ設けられているわけですが,あえて和解に代わる決定を設ける必要がどこにあるのかということです。(注3)では,裁定和解の制度を維持するかどうかという形での問題提起がされていますけれども,現在の裁定和解に代えるものが必要なのかという前提自体は必ずしも説明がされていません。要件等について,事前の共同申立て,事後の異議と違いがあるということかもしれませんが,(注1)などでは事前の要件等も変わる提案がされており,更に裁定和解との区別は困難になると思います。   以上の4点から,今回の改正で和解に代わる決定は必要ないと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。   今回の和解に代わる決定の提案というのは,その背景に,現在行われている民事調停法17条決定の運用というものがあろうかと思います。したがいまして,この提案を評価するに当たりましては,そもそも17条決定の制度をどのように評価するのかという点が前提になろうかと思いますので,簡潔に努めたいと思いますけれども,その点について一言させていただいて,若干の意見を申し上げたいと思います。   この17条決定は,御案内のとおりですけれども,民事調停法の中に定められている手続ということで,基本的には民事調停の手続は申立人の申立てによって開始される手続でありまして,訴訟を提起することも可能なところで,申立人として民事調停の方が魅力的であると考えれば,民事調停の手続の申立てをすると,そういう性質の制度であろうかと思います。ですから,その民事調停の制度にこういった17条決定の手続というものが,言わばセットで付いてくるということになっていまして,ただし,そうしたセットの付いた手続を選ぶかどうかというのは申立人の任意に委ねられているというのが原則的な取扱いというものと思われます。   それに対しまして,訴訟の場合に,このような手続が当然に付いてくるということになりますと,訴訟については裁判を受ける権利との関係で,訴訟として申し立てるということがやはり重要なことではないかと思われますので,17条決定の場合と,その点で必ずしも同列には論じられない部分もあるように思われます。また,17条決定そのものに関しまして,申立人の側では,そうした手続選択というところに,そうした手続を受け入れるという意思的要素を見いだすことができると思われますけれども,相手方につきましては,先ほども話題にありました付調停の場合で合意をしているという場合は相手方についても意思的要素を認めることができるということになりますけれども,それ以外の場合については必ずしも手続の利用に合意をしている,同意をしているということではないというところがあり,その点が17条決定という制度が本来持っている理論的な一種弱点というところがあろうかと思われます。したがいまして,この17条決定そのものにつきまして,そういった点に配慮した上で適切な運用がされることが望ましいと,そういう制度なんだろうというように理解をしております。   そうしましたときに,現在この提案の前提となっております付調停をして,更に自庁処理という形で17条決定を用いるということは,これは法律上,認められている手続ということではありますけれども,先ほど申しましたような17条決定という制度の性質というものを考えますと,こうした便法によることが許されるにしても,その際には双方当事者の意思を十分に尊重する運用というものが望まれるところだろうと思われるところでありまして,そうした前提が満たされていて初めて制度として理論的にも是認できる運用だということになるのではないかというように考えております。   そうだといたしますと,この手続を民事訴訟法で正面から制度化するというに当たりまして,そうした当事者双方の意思を十分に尊重するということが何らかの形できちんと示される必要があろうかというように思われるところでありまして,この点は御提案の資料で申しますと,(注1)ですけれども,手続要件として当事者に異議がない,あるいは積極的な同意といったものを要求するかどうかという点に関わるところですけれども,私の考え方としましては,何らか当事者の意思を尊重するということを示す要件が必要ではないかと。それが積極的同意まで必要とするのか,あるいは異議ないということで足りるとするのか,更に進んで当事者の意見を聴いてという形にするのかといったあたりは幾つかの選択肢があり得るところではないかと思われますけれども,積極的同意があるという場合には,これは最も慎重な要件設定ということで,理論的には難点が少ない提案,考え方ということになろうと思いますけれども,ほかの選択肢が絶対に駄目だということでもなかろうかというように考えております。   その際,前の会議の際にも申しましたけれども,異議がないという提案が研究会でも取り上げられていたところで,この異議がないという規律の実質をどのように理解するかということが非常に重要なのではないかと考えております。単に当事者が消極的に何も言っていないという事のみを捉えて異議がないとするということでは,必ずしも十分でないこともあろうかと思われまして,異議がないかどうかということをきちんと裁判所において確認をするということ,そういった形で当事者の意思が尊重される機会があるということであれば,消極的に異議がないという形もぎりぎりあり得るところかもしれないと,そういう判断もあろうかと思っております。仮に異議がないという要件がそういうものではないということだとしますと,むしろ積極的に意見を聴いてという方が,実質としては当事者の意見が尊重されるというような見方もあり得るのかもしれません。この辺りについては要件立てについて更に細部を検討する必要があるのかなというように考えております。   以上が私の意見の要旨なんですけれども,ちょっと1点質問がございまして,と申しますのは,今回の資料で積極的な要件として和解を試みたという要件が設定されているということなんですけれども,この和解を試みたという要件の意議についてなんですけれども,仮に和解を試みたとは言えないような事案で,この制度が,それにもかかわらず何らかの理由で用いられてしまって,異議がないので確定した形になっているというような場合につきましては,この和解を試みたという要件が欠缺していることによって,この決定の効力に影響が及ぶということになるのか,それともそうではないのかということについて,もし現時点で御提案の趣旨として何かお考えのところがありましたら,お聞かせいただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,事務当局から,もし今の時点で何かお答えできることがあれば。 ○大野幹事 現段階で明確な整理まではできていないのですが,和解を試みたということを要件の一つとするものである以上,それを欠いている場合には,その決定について瑕疵があるものという理解になるのだろうと考えております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○垣内幹事 はい,ありがとうございます。 ○笠井委員 垣内幹事からの御質問に関して,今,大野幹事がおっしゃったこととの関係でまず申しますと,和解を試みずに決定をしたのであれば,これで異議なく2週間が経過しても,訴訟終了効がないということになって,当事者が期日指定申立てをすれば期日指定決定をすると,和解を試みたと認められるのだったら訴訟終了宣言の判決をするといったような,そういう扱いになるのかなと思いました。   それで,手を挙げました趣旨は,垣内幹事の御発言の最初のところにも何か含意があったのかもしれないんですけれども,訴訟というのはそもそも何かということを考えてみますと,訴えを提起して,その訴えを提起するというのは原告が判決を求める申立てをしているということだと思うんですよね。それで,被告が一定の応訴をすれば,その後は被告の同意がなければ取り下げられないという仕組みになっていまして,双方が判決に向かって訴訟行為をしていくということで,当事者が判決を求めているという状態があるというそもそも論が,やはりあるのではないかと思います。学生に授業をするときでも,訴えというのは判決を求めているのだというふうに言うわけですね。   それで,訴状却下とかになる場合以外は,当事者が訴訟を終了させると言わない限り,判決はされるわけでありまして,そういうことを考えますと,この和解に代わる決定という制度ができますと,一定の要件はありますけれども,裁判所の裁量によって判決をしないで一応終了させることができるという,そういう仕組みを作ることになります。そうすると,先ほどの原則論との関係では相当思い切ったことのような気がしまして,そういう意味では非常に強い立法事実が要るのではないかと思います。私自身は,研究会のときには,余り異議がないという程度で,積極的に言ったというよりも,今の17条決定に関する運用とかで,裁判所の方でそういう必要があると考えておられるということで異議は言わなかったという感じだったんですけれども,その後,考えてみますと,そういう非常に特別な制度を作ることになるのではないかという気がしてきています。訴えをしていて判決を求めているのに,一旦訴訟終了の可能性が出て,改めて異議を言わなければ判決をしてもらえないと,そういった仕組みには,やはり相当強い立法事実が要ると思いまして,そこまでのものがあるというふうにはちょっと思えていませんので,現時点では消極的な意見を持っているということを申し上げます。   それで,先ほど垣内幹事がおっしゃった中での,これは(注1)ですけれども,当事者に異議がない場合か積極的な同意かという話なんですけれども,こうなってきますと,今の265条の規定,先ほどから出ている裁定和解ですね,これがありますので,裁判所が恐らくいろいろと当事者の意向を聞いてやられるということは間違いないと思うんですけれども,そういうことを前提として考えますと,やはり265条がある上にこれを作る必要性というのが余りないのではないかという気がするわけです。265条の手続になる前にも裁判所が当事者に一定の働き掛けをして,こういう方法もありますということを言うことがあると思いますので,まとめますと,私としては今のところ,この制度については消極的な考えを持っているということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今,消極論が続出しておりますが,私もこの制度を導入することにはかなりちゅうちょを感じております。やはり訴訟というものの性質を大きく変容させてしまうという可能性があるということを御指摘いただいておりますが,その点については基本的に同感です。   仮に導入した場合のことを,そういう反対しながら言うのがいいのかどうかなんですが,現在の御提案についてちょっと確認させていただきたい点がございます。   これは和解に代わる決定なんですが,決定の主体として単独裁判官を挙げている,受命・受託を挙げているというのはいかがなものかという気がいたします。ほかの調停に代わる決定,あるいは和解に代わる決定の制度においては主体は裁判所です。なぜ受命・受託が決定の主体になり得るのかというのがよく分からないという感じがいたします。   それと,これは実務的な運用を教えていただきたいのですが,先ほど垣内幹事は入口についても同意的な要素というふうにおっしゃいましたが,その点はさておき,この制度の肝は出口における消極的同意であるわけですが,その消極的同意の異議ができることについてどれぐらい教示をされているのでしょうか。民事,家事の調停の場合,あるいは労働審判の場合も似たような問題があると思いますし,あるいは275条の2の簡裁における和解に代わる決定において,その消極的同意を実質化するために,異議申立てが出たら効力を失いますよというような教示を裁判所はきちんとやっておられるのかどうかというのもお伺いしたいところです。   それから,最後に,阿多委員が275条の2との違いをおっしゃいましたが,ちょっと欠けているなと思う点がございまして,275条の2は金銭請求に限っているわけですね。つまりこれは一種の倒産法的な考え方であるわけですね。支払猶予を可能とすることによって,支払不能状態に陥らないということが基本的な機能ではないかと思うわけです。これは少額訴訟における支払猶予制度と似たような考え方をここで,275条の2で取り入れているわけで,そういうふうに考えますと,阿多委員がおっしゃった以上に275条の2は,今回の提案のモデルとはならないというべきであって,275条の2があるからという理屈は,私はちょっと納得し難いなというふうに考えております。   以上,無関係な論点を幾つか並べ立てましたが,私も消極論であるということを申し上げさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   最後の点は恐らく御意見だろうと思いますが,受命・受託の点は事務当局から。 ○大野幹事 89条や265条など,和解に関する条文において裁判所,受命裁判官,受託裁判官というのが主体となっていることを受けて,ここではこのように書かせていただいておりましたけれども,受命裁判官や受託裁判官が決定をすることができるのかという点は御指摘のとおりと考えています。現段階では,和解に代わる決定という制度の導入の当否そのものが議論になっておりますが,もし要件によっては導入ということとなり,更に要件の検討ということになる段階になりましたら,この点について更に整理をする必要があると認識しておりますし,御意見を頂きたいとも思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 第2点は,これは裁判所の方から,教示の点ですが。 ○富澤幹事 異議申立ての教示につきましては,いろいろな方法があると思いますので,現場の運用を一律に御説明するのは難しいのですが,個人的な経験を申し上げると,調停に代わる決定を出した際には簡単な理由を書いておりまして,その末尾に2週間以内に異議を申し立てることができますといった趣旨の記載も付け加えておりました。労働審判や家事事件の調停に代わる審判においてどのような教示を行っているかは,申し訳ありませんが,今すぐにお答えすることができないところでございます。   実務的な面もありますので,品田委員に補足していただこうと思います。 ○品田委員 個人的な経験では,かつて17条決定を出した際には,その決定の末尾に,異議を申し立てることができ,異議が申立てられた場合には,この決定は効力を失うという趣旨のことを明記していたと記憶しています。このような記載をゼロから起案したというよりも,そういった文言を入れることが一般的な書式になっているという認識です。個人的な経験だけなので,全国的な取扱いまでは申し上げられませんが,普通はそのような記載をしているのではないかという認識を持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○横田委員 17条決定の運用に関する富澤幹事,品田委員の説明については,私も同意見です。17条決定の末尾には,2週間以内に異議を申し立てることができ,異議を述べた場合には,この決定の効力はなくなることが明記されているのが一般的であろうと思います。   また,先ほどから消極の御意見がたくさん出ていましたが,訴訟手続というのはやはり判決を目指した,判決に向かった制度ではないかという御指摘はそのとおりだと思います。ただ,この和解に代わる決定は,当事者双方が判決を望んでいる場面ではなく,当事者双方が話合いによる解決を望んでいる場面において活用するもので,そうであるからこそ,今回の要件論のところにも「和解を試みた」場合,「和解が調わない場合」という要件を入れていただいていると思います。したがって,当事者双方が判決を望んでいるのに和解に代わる決定を出すというご指摘は,少し場面が違うのかなと思います。   それから,先ほど,裁定和解の制度があるではないかというご意見も出ておりますけれども,確かに和解を志向する場合には,当事者双方の共同申立てを前提とする裁定和解の制度が一つありますが,今回申し上げている和解に代わる決定の利用が想定される典型的な事案としては,和解の条件についてはおおむね当事者間で合意ができているものの,心情的な理由や組織内部の決裁の手続等の関係から,当事者の互譲による和解という形式をとりたくない,自ら積極的に和解という方法を選択したくないけれども,おおむね合意が調っているのだから,裁判所が決めた解決であれば受け入れるという場面での利用が想定されています。このような場面ですので,当事者の共同申立てを前提とする裁定和解があるではないかというご指摘もありましたが,裁定和解が利用される場面とは少し異なるのではないかと思います。   更に申し上げると,当事者の意見を聞いて手続選択をするのはとても大事なことだと思いますが,積極的な同意まで求めるとすると,先ほど申し上げたような典型的な事案で和解に代わる決定を利用することがちょっと期待できなくなるのではないかという危惧がございます。調停に代わる決定や家事事件手続法284条の調停に代わる審判でも当事者の積極的な同意を要件としておりませんので,和解に代わる決定についても,当事者の意見を聞くことを要件としても,積極的な同意までは必要でないと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 最初の頃に多く研究者の委員の方々から消極意見が多く出されていて,私がそれに重ねて同じような消極的な意見を言う必要もないのかなという気もいたしましたが,今,御指摘いただいた積極方向での御意見について思うところを述べたいと思います。   今,御説明いただきましたのは,訴訟手続の中で当事者が判決を求めている,これが原則ではあるけれども,事案によっては和解を求めているということもあるんだと。そういう場面で使われる制度として考えられているといった,そういう御趣旨の説明かと理解をいたしました。   現在の提案においては,和解が試みられたが,和解が調わない場合という要件が提案されていると思います。しかしながら,これは事件が民事調停手続に付されて17条決定がなされる場面と異なって,手続の利用者である当事者が和解を望んでいると制度的に評価することは,今の要件ではできないのではないかと思います。これは当事者が必ずしも和解を望んでいなくても和解が試みられたり,そしてその結果,和解が調わない場合というのは幾らでも考えられるからです。当事者が和解を望んでいるという点も要件に加えない限りは,和解に代わる決定の制度は判決を望む当事者の意向に反して和解に代わる決定が下されるおそれを内包するものとなって,受け入れられるものではないだろうというふうに考えております。   その場合,当事者の意向をどういった方法で確認するのかということが問題になると思いますが,積極的な同意をするということは当然一つ考えられるわけですけれども,和解に代わる決定をすることを求めるという積極的な同意をすることが期待できるのか,仮にそれが期待できないのだとした場合に,異議がないという消極的な同意をすることは期待できるのか,もしもそのような積極的な同意も消極的な同意も現実的には期待できないということであれば,このような新たな制度を導入する必要というのもやはりないというふうに言わざるを得ないのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 増見でございます。   今,各専門家の皆様から慎重な御意見,拝聴していたんですけれども,ユーザーとしての民間企業の立場から少し御意見を申し上げますと,この新しい和解に代わる決定というのが有効に働き得るシチュエーションというのは非常に想定しやすいというか,これは民間企業にとっては是非あった方がよい制度なのではないかという印象を持っております。今,裁判所の皆様からも,当事者同士が,はっきりとは言えないけれども,裁判所による和解のお墨付きを求めているというようなことがままあるというお話がありましたけれども,やはり対立した当事者同士で和解の条件に合意するというのは非常に難しいもので,試みたけれども,和解に達することができなかったということは,もう少し譲歩をしなければ和解に達せないという状況なんだと思います。社内でそれを関係者に共有して,説得して,承認をとる場合には,やはり複数,反対意見が出る場合等もございまして,そんな中で日本企業の,日本の裁判システムに対する信頼というのは非常に厚いものがございますので,ここで裁判所による決定という形で,この和解の条件は決して不当なものではないと,客観的に裁判所が承認していただけるというのは非常に効果的な,説得力のあるものになり得ると思っておりまして,必ずしも判決が出るところまで,最後まで争わなくても紛争を早期に解決し得るという意味で,非常に意味のあるものになり得るのではないかと考えております。   また,企業に限らず利用者の皆様にとっても,やはり判決が欲しいというよりは当事者は紛争の早期解決を求めているのではないかと思いますので,異議があれば別に受け入れる必要はないのであれば,選択肢が増えるということは誰にとってもデメリットになるものではないのではないかと感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 本人訴訟を支援する立場から考えますと,裁判上の和解を求めて訴えをするという当事者も一定数いると考えておりまして,これらの当事者にとっては制度が分かりやすくなって歓迎されるのではないかなという意見を持っています。つまり,現在のいわゆる付調停による17条決定の仕組みというのは,代理人の先生方には当然十分理解できるものであるわけですが,本人訴訟の当事者には予測できない制度になっているとも考えられると思っておりまして,そういう意味では民事訴訟法の条文に明記されるということによって,本人訴訟の当事者が訴訟の完結の方法の一つとして理解することができるということになると考えられますので,導入は望ましいと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 私の個人的な経験になるのですけれども,大分以前ですが,ある相続絡みの事件で,前提問題で別訴で判決が確定しているものがあって,その判決を前提として相手方に1億円以上の請求をして一審で勝ったという事案がありました。この事件で被告の方で控訴されて,控訴審では1回で結審して和解の話になって,相手方から5,000万円を払うという話が出たんですけれども,最終的には私の依頼者の方で8,000万円程度を求めて,最後まで折り合えずに判決になりまして,その判決というのは逆転で敗訴してしまって,最高裁でも結論は変わらずに,そのまま依頼者が文字どおり一文ももらえないということがありました。これはかなり極端なケースですが,判決になったら和解した場合よりも依頼者に不利になるというケースも少なくはなくて,和解に応じるかどうかということについて,弁護士としても時に難しい判断を迫られる場合があります。判決の内容はある程度予想できる場合も多いわけですけれども,敗訴が見込まれる場合に,それを丁寧に説明しても依頼者の方が納得をしないと,理解を得られないということもありまして,依頼者のためを思って和解を勧めても,逆にどっちの代理人なんだというような形で責められるという経験もあります。弁護士としてはできるだけ多くの情報を提供して,最終的には依頼者の判断に委ねざるを得ないわけですけれども,今回のような決定の制度がありますと,依頼者の方で,もう一度考え直す機会を得られるのではないかというふうに個人的には思っております。   和解に代わる決定に対する異議について,本人の方だと,裁判所が出された決定に異議を出しにくいという御意見もありましたけれども,この点につきまして,民事調停法17条の調停に代わる決定と家事事件手続法284条の調停に代わる審判について,「調停時報」という雑誌に統計数字が掲載されています。これによりますと,調停に代わる審判の場合には,平成30年には6,933件出されておりまして,このうち935件について異議が出されております。つまり935人の方が異議を出しているということになります。令和元年では,まだ「調停時報」は出ていないのですが,1,080件程度の異議が出されているようです。ちなみに,この調停に代わる審判が出される事件の主なものとしては婚姻費用の分担,面会交流などの子の監護に関する処分,遺産分割などがあります。調停に代わる審判は民事調停事件の一般とは利用実態が異なりますので,一概には比べることは難しいかもしれませんけれども,家事事件でもこれだけ多くの人が異議を出しているということですので,本人だから異議が出しにくいというのは当てはまらないような気がしております。   ちなみに,調停に代わる決定がなされた事件については,平成30年で既済事件総数3万4,000件のうち8,041件で出されておりまして,このうち142件について異議が出されているようです。これは最近,民事調停事件自体が減っておるので数自体は少ないのですけれども,以前はもっと多くの異議が出されていて,例えば平成21年については726件,平成22年684件と,それなりの方が異議を出しているので,本人だから異議を出しにくいのではないかというのは必ずしも当てはまらないように思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 私も民間企業の立場から申し上げますと,やはり今訴訟提起する場合には判決を求めているというよりは,紛争の早期解決を求めているというところがあるのではないかと思います。   それから,和解に代わる決定にちょっと賛成の立場から申し上げますと,あらかじめ和解を求めて裁判所に和解条項を定めていただくというよりは,裁判官の心証が開示されたので和解もやむを得ないかとかというプロセスで和解に至るということが多いのではないかなと思っております。そうした場合に,裁判官の心証がこういう和解に代わる決定のような形で公式に出されるということは,そうした和解の意思決定をするのには非常に有効ではないかと,民間企業の立場からはそういうふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○服部委員 服部でございます。   紛争の早期解決のために,裁判所の心証などが示されるのは望ましいという御意見,それはそれでもちろん分かるところではございますけれども,そうすると,話を振出しに戻すようで恐縮ですが,現在,17条決定で十分ワークしているのではないかというところに話が戻るところかと思っております。その方法がう遠であるから,今回の提案に至っているという経過は了知しておりますけれども,先ほど来,研究者の先生方からお話しいただいています訴訟の性質というものとか,あと日弁連委員からも幾つか理由を申し上げておりますいろいろな懸念の点からしますと,やはりまだ問題が大きい提案なのではないかと考えております。   特に日下部委員からもお話ありましたけれども,和解を試みたということと,和解が調わない場合という要件の設定が,本来,今この制度を利用する典型的な場面として想定されているものにとどまらず,かなり広い内容のものを含むということで,要件の絞りが明らかに足りないのではないかというふうに考えております。十分な要件設定が難しいということであれば,やはり制度として設定することは困難ということになるのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今,服部委員がおっしゃったことは正に私が言いたかったことで,私,実は勤務校の法務部長みたいなことをしておりまして,訴訟対応も担当しておったんですが,大学側としては,どうしても判決が欲しいという案件について,担当裁判長から何度も和解をしてくださいと,こういうふうに言われてお断りしたということがあります。そういうニーズもやはり混ざっていて,そういうものを排除できるのかどうか。今の場合で,裁判長が和解をしませんかと言ったことが和解を試みたことに該当するのだとすると,それはもう望まない和解,望まないステップを一度踏むことによって,むしろ紛争解決は遅れてしまうわけですね。これは早くなるというのは,異議が出なければ早くなるだけの話であって,むしろやればかえって遅くなると。これは和解勧奨をやりすぎて事件処理が遅れるという場合も多々あるという,それほど頻度は高くないにしても,あるのだということも仄聞しますので,和解をすれば早く終わるというのはある意味,幻想の面もある。当たっている場合もあれば,当たっていない場合もあるということは認識すべきだろうと思います。   それともう1点ですが,先ほど教示の話を伺ったのは,実は前回ですか,話題に上がりましたノンコミットメント・ルールが典型的に問題になる場面なんです。つまり和解に代わる決定に対して異議を述べたことが不利益に働くのかどうかということが,そういう不利益が働くのではないかということで和解をのんでしまうと,異議を申し立てないというようなことも,これはどなたかが和解の強制力が働くという話をされたと思いますが,正にそのとおりで,今のおっしゃったような教示で,単に異議ができますよというだけで,そういう点を払拭できているのかどうかという点も,私,非常に気に掛かっております。基本的には導入反対ですので,それは仮に導入すれば,そういうこともお考えいただきたいということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。   様々な御意見を聞かせていただきましたが,私どもも前回も申し上げたとおり,やはり和解に代わる手続が導入されることには危惧感を持っております。前回,私が申し上げた意見で,裁判官がそこまで信頼されていないのかというようなことを言われましたけれども,私どもは信頼をしていないのではなく,むしろ非常に信頼をしているからこそ,その裁判官から言われたことに対して同意しないということがなかなか言いにくいということがございます。この制度が作られることがどのように働くか,もちろん有効に働く場合もあり,又は難しい場合もある,今の様々な先生の御意見からもよく分かりましたけれども,大きな危惧感を持っていることは変わらずにございますのでお伝えしておきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 今まで出た御意見と同じ部分も多いと思うんですけれども,先ほど来,この制度について積極的賛成の御意見も幾つかお聞きいたしましたが,それらはこのような決定がなされることを望んでいる局面においては有り難いということで,望んでいないときにも,その制度的に出され得るという問題点を的確に捉えておかないと,この制度に対する評価というのは誤ってしまうだろうと思います。その意味では,今の和解が試みられたが和解が調わない場合というのが要件としては機能していないだろうというふうに私は思っているところです。   それから,仮にこの決定が出た後に,適切に異議を言えるのかどうかということについてです。藤野委員の方から,裁判官に対する信頼,あるいは場合によっては畏怖ということもあるかもしれませんが,異議をなかなか言えないという実態があるというのはそのとおりだろうというふうに私も思うところです。この点に関して,先ほど大坪幹事の方から別の手続,類似の手続において異議が出された件数についての御報告がありましたけれども,それが果たして十分に異議を言えた結果としての数字なのか,そうではないのか,その点の検証が別段なければ,その数字をもって何らかの判断をするということも容易にできることではないだろうと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○門田委員 賛否両方の御意見がございましたが,今日の議論の中でも,現在実施している調停に代わる決定の運用自体に問題があるという御指摘はなかったと認識しております。調停に代わる決定で解決されている事件は一定数あるわけですが,民事調停法上の制度の形式を借用しており,必ずしもその実態と合っていないということがあるので,それを正面からきちんと立法していただきたいと考えております。   前回御議論を頂いたときにも,様々な危惧が示されましたけれども,多くの裁判官は,先ほど,横田委員からも御紹介があったような場面での活用を考えているところでありまして,非常に極端な場合をあえて想定して反対意見を述べられているようにも思われました。そのような意味で裁判所を信頼していただきたいと思うところですけれども,うまく要件で織り込めることであれば,是非その辺は御検討いただきたいと思います。   また,先ほどの御指摘について1点付加させていただきます。現行法上,裁定和解の制度があるので,和解に代わる決定の制度を設ける必要はないではないかという御指摘ですけれども,個人的な経験ではありますが,最終的に調停に代わる決定を出すのか,裁定和解をするのかということが問題になった事件がございました。私は民事訴訟法の制度である裁定和解を採用したいと思い,当事者双方に提案をさせていただいたのですけれども,双方から是非調停に代わる決定を出してくださいと言われました。その理由を伺うと,裁定和解は裁判所が決定したら異議が述べられず,それで終わりということになりますが,依頼者に,もし万が一のことがあったら異議を出せばいいのだから,という説明ができるか,できないかというのはものすごく違うのですということを,当事者双方から言われました。部の中で,こういうことがあったと陪席にも話をしたのですが,陪席も全く同じ理由で断られて,裁定和解ではなく調停に代わる決定で最終的に終局させた経験があるとのことでした。やはり裁定和解があるから和解に代わる決定の制度が要らないことにはならないと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大谷委員 私は企業の法務担当者として,使いたい局面についても想像ができるところでございますけれども,やはり現在問題となっているように,要件の一つとして,口頭では御説明があった和解の機が熟している事実といったことが明快に要件に述べられていないということ,その点については若干の問題点,課題が残っているのではないかと思っております。条文として分かりやすく要件に入れるのは難しいかと思いますけれども,裁判官で実際にこの17条調停に関わった方が,いずれかのタイミングで和解の機が熟したという判断をされているということの経験値を何とか言葉にしていただくことができれば,この和解に代わる決定というものが実際に機能する場面というのは幾つかあるのではないかと思われます。   他方で異議をしづらいという,異議ができないために,異議をしたいけれども,諦めてしまうという当事者関係もあり得るものと想像ができます。情報量や,あるいは力関係などで非対称性のある当事者間でこの決定が行われたときに,異議ができないで権利義務の関係がそこで固まってしまうということは,できれば避けなければいけないと思いますので,そういう意味では,(注2)のところで対象事件を限定するということについての御提案,御示唆も頂いているところです。積極的にこの事件を対象とするという形ではなく非対称の当事者,例えば自治体とその住民の関係であるとか,あるいは消費者と企業間の問題であるとか,特定の場合を除外するというような選択肢もあるのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。   おおむね,多くの委員,幹事には御発言を頂けたのではないかと思います。ただ,予想どおりといいますか,事務当局の苦心の提案ではあったわけですけれども,賛否の意見,かなり激しく分かれているというふうに認識いたしました。また具体的な要件についても,幾つかの御提案といいますか,あるいは御批判も含めていただいたかと思います。   恐らくは中間試案に一案に絞って御意見を伺うことはなかなか難しいかとは思いますけれども,事務当局において中間試案にどういう形でそもそも記載するかということについては,やはり引き続き御検討が必要な状況のように思いますので,なかなか難しい問題だと思いますが,引き続きよろしくお願いをいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,これで和解に代わる決定の問題については一応御審議をしていただいたということにしまして,部会資料11の方に移りたいと思います。   まず,三つの問題が掲げられておりますが,「第1 オンライン申立てにおけるシステム障害等に関する規律」の部分ですが,まず,この点について事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 部会資料11の第1について説明させていただきます。オンライン申立てによらなければならない者というものを設けるかどうかということは別途御議論をお願いしているところでございますけれども,仮にオンライン申立てによらなければならない者というものを設定いたしますと,そのような方がシステム障害等によってふだん使用している機器を用いてオンライン申立てをすることはできない場面につきまして,時効期間であるとか手続法上の不変期間との関係で何らかの手当てをする規律を設けることについて検討をお願いするものでございます。   検討すべき場面としまして,今回四つほど場面設定をいたしました。(説明)の中の1ページ目の下から2行目あたりでございますが,裁判所側のシステムに障害が生じた場面を①と,インターネット回線の故障が生じた場面を②と,申立人が責任を負うものではありませんが,屋内配線等の故障を③と,更に申立人が責任を負う屋内回線,使用機器の故障は④ということにしております。なお,大雪,洪水,地震などによりましてシステム障害が発生するということもあると思われますが,これらの天災,その他避けることのできない事変によりまして裁判上の請求を行うことができないときに該当すれば,現在,民法161条によりまして時効の完成猶予が認められております。   したがいまして,本部会資料では,天災等以外の事由によりましてシステム障害が生じた場合について検討をお願いするというものでございます。   それで,本文でございますが,本文の甲案は,先ほど申し上げました①から④までの場面のうち,①から③までの場面につきましては時効の完成猶予を認めるという規律を提案するものでございます。これは,少なくとも④の場面については天災等と同様に使うことは,およそ難しいのではないかという考えによるものでございます。   なお,「電気通信回線の故障その他の事由により」というこの表現ぶりによりまして,①から③までの事由を表現しているところでございますけれども,表現につきましては引き続き検討させていただく必要があろうかと思っているところでございます。   本文の乙案でございますが,こちらは①から③までの場面につきまして,書面での申立てを認めれば足りるという考えがあるかなと思いまして,書面での申立てを認めるということを提案するものでございます。   丙案につきましては,全ての場面で特段の規律を設けないということを提案するものでございます。   不変期間につきましては,時効の完成猶予の規律の検討を踏まえまして,更に検討する必要があるというふうに整理しているところでございます。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この問題につきまして,これもどなたからでも結構ですので御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 質問も含めてお願いしたいと思います。   まず,甲案と乙案で書きぶりが異なります。甲案では,乙案と同じような,「電気通信回線の故障その他の事由により電子情報処理組織を使用することが困難であること」という前提があって,その後に裁判上の請求,支払督促及び法第275条第1項の和解に係る手続を行うことができないときという結びになっているわけですが,乙案の方は「困難である間は」という形で,「書面を提出する方法によって申立て等をすることができる」となっています。乙案には「できない」という記載がないのですが,何か意味があるのかという点が1点です。   2点目は,乙案は「困難である間は」という前提ですが,裁判所のシステムに障害が生じて提出できない状態になったために,近くの裁判所に夜の10時30分に出向こうとしたら,裁判所のシステムが回復した。そうすると,文字面は「である間は」という形になっているので,回復すると逆に裁判所に持って行っても駄目で,やはりシステムで申し立てなければいけないと読めてしまうのですが,「である間は」という表現は,正に障害がある間だけ書面でできるという意味ですか。   3点目は,乙案で裁判所に提出する書面で想定されるのは訴状その他の特別送達を必要とする書面だと思いますが,管轄の問題を考える必要がありますか。管轄裁判所に提出しなくても,近くの裁判所でもいいのでしょうか。管轄裁判所に提出しなければいけないとなりますと,交通機関を使っても,その日に管轄裁判所に移動できないことが起こり得ます。書面提出で想定されている裁判所はどこを意味するのですか。この3点について説明いただけますか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○波多野関係官 波多野でございます。   1点目でございますけれども,基本的に甲案と乙案におきましては,その場面を変えているつもりはございませんので,表現ぶりにつきましては,なお引き続き検討させていただければと思っているところでございます。   2点目に,乙案の「困難である間は」という形で区切らせていただきましたが,正に困難である間を想定していたところではございまして,困難である間が解消されれば,電子的な申立てができることになるのかなというふうに想像していたところではございます。   3点目の管轄の関係でございますが,乙案は,現在,書面で申立てができるという環境を調えれば,同じように時効の関係では書面申立てをすれば足りるのではないかという発想でおりまして,それは現在も変わらないのかなと思っているところでございますので,やはり管轄の裁判所に申し立てなければならないとお考えになるのであれば,その管轄の裁判所に対して申立てをされるということになるのかなと思っていたところではございます。   私の方からは以上でございます。 ○阿多委員 書面で提出する場合には基本的に管轄裁判所に提出するので,北海道が管轄の事件であれば,その日のうちに北海道に移動しなければいけないのかという趣旨で質問しました。時効中断等を考えると,管轄裁判所に書面を提出することになるのかという質問です。   2点目,もう一度確認しますけれども,先ほど10時30分とか言いましたが,例えば11時59分に裁判所のシステムが復活したら,駄目だという提案なんでしょうか。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○波多野関係官 波多野でございます。   11時59分に復活したら駄目の場面を正確に理解することができていないかもしれませんが,電子的な申立てができない間には書面を出せるということで足りるのではないかと思っており,オンライン申立てすることができるのであればオンライン申立てをしていただくということになるのかなと思ってはいたところではございます。 ○山本(和)部会長 11時59分は,何か裁判所の門前まで行って出そうとしているという局面ですか。 ○阿多委員 はい。オンラインで提出しようとしたが,障害が生じて提出できないので,夜裁判所に出向けば間に合うと考えて移動したら,移動期間中に裁判所のシステムが復活をしたという場面はあり得ると思いますが。 ○山本(和)部会長 移動している間に復活してということですか。 ○阿多委員 はい。移動している間に復活したという場面です。 ○波多野関係官 波多野でございます。   今後の裁判所の体制がどうなるかというのはちょっとよく分かっていないところはありますが,少なくとも裁判所に行けば事件管理システムに記録することができるということであれば,阿多委員の御疑問は,裁判所に行っていただければ対応できるのかなと思ってはいたところではあります。 ○阿多委員 そうすると,裁判所に書類を持参しても裁判所に設置されたシステムでアクセスすれば間に合うという状況であれば,裁判所のシステムで対応するわけですね。 ○波多野関係官 阿多委員の御質問の場面には,それで対応可能なのかなということはあろうかと思っております。 ○阿多委員 前提の質問は以上で結構です。後でまた意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○日下部委員 今回,甲案,乙案ということで,二つ具体性のある案を示していただいていて,これについて弁護士会の中でもあらかじめある程度の検討はしたものなんですが,これらはお互いに排他的というわけでもないので,両建てにすべきというような意見もあったことを一応御紹介させていただきます。   個人的に考えておりましたのは,これら両方の案,いずれにつきましても,④というふうに部会資料の中で説明されております,「申立人が責任を負う配線の故障,申立人の使用機器の故障など」という場合で,天災その他避けることができない事変によらない場合は適用対象外とすることが説明されていると思います。これは申立人の責任によってオンライン申立てができない場合を適用対象外とするものですが,オンライン申立てができない原因がどこにあるのかを判断するというのは技術的に相当に困難ではないかと思われますし,それから先ほど来議論がされておりますオンライン申立てができない間,言い換えますとオンライン申立てができない状態がいつ解消されたのかということの判断も,申立人には極めて困難なのではないかと思われますので,これらの案はいずれにしても実際の運用においてうまく機能するのだろうかというところで強い不安を感じるところです。   恐らく御批判は多分あるんだろうなと思いながらも,たたき台になるかもしれないと思って私見を申し上げますと,オンライン申立てをしなければいけない者であったとしても,ここで問題になっているのは時効の完成をぎりぎりのタイミングで阻止することができる手段を残しておかなければいけないというところにあるので,申立人がオンライン申立てをしなければいけない者であるかどうかに関わらず,書面の提出をしたことによってでも時効の完成猶予効だけは得ることができるということを正面から認めてしまうというのもあり得るのではないかなと思いました。そのような制度設計をすれば,オンライン申立てができる状態なのかどうかという技術的に判断の困難な問題を回避することができるというよさがあると思います。もちろんオンライン申立てをしなければいけない者は,その後,様式審査によって補正が求められ,いずれはオンラインによる申立てによって補正をしなければいけないことを当然の前提としている考えであります。   このような考え方を採ると,恐らくは民事訴訟法という手続法の中で,実体法である民法の特則を定めることになるのだろうという気持ち悪さを回避することもできると思いますし,民法161条の天災その他避けることができない事変を理由とする時効の完成猶予との関係も整合的に説明できるのではないかなと思いました。   さはさりながら,オンライン申立てをしなければいけない者が書面の申立てをすることで時効の完成猶予効だけを得られるという考え方が矛盾しているのではないかというような御批判は大いにあるだろうなと思いましたが,御議論には資するかなと思いましたのであえて申し上げました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内でございます。   今,日下部委員からも御示唆がありましたけれども,この問題は,そもそもオンライン申立てをすべきとされる場合において,書面で訴え提起等がされるという場合の具体的な取扱いをどう考えるかという問題と密接に関わっているように考えております。   私自身は,基本的には今日下部委員がおっしゃったのと同方向で,本来,オンラインですべきであって,その場合に,しかし,書面で来たというときには一旦補正の対象になるということで,しかし,受理そのものは書面であっても一旦受理をするということを幅広く認めるということでよいのではないかというように,一般的に前提として私自身は考えております。そのような前提をとりますと,これは日下部委員のお考えはそういうことだと思うんですけれども,特段時効の完成猶予に絞った形での特則を設ける必要がないという,ですから,資料で申しますと乙案ないし丙案に近いのかもしれませんけれども,そういう考え方というものもあり得るのかなと思います。   ただ他方で,今回IT化で非常に利便性の向上を図るということで,遠隔の地にいてもオンラインで訴え提起が瞬時にできるというような整備,条件を整えていこうということでもあり,また社会的にもコロナの関係もあって,リモートワークですとかワーケーションとかいったことも推進されているというように承知をしておりますけれども,そういったときに,オンラインであれば11時59分とかでもぎりぎり間に合えば,その日に訴えを提起したことになるということであるにもかかわらず,そのときにたまたまシステムの障害があったというような場合を考えますと,このときたとえ書面では受付はできますといいましても,11時55分にそのことに気付いて,どんなに頑張っても20分は掛かるということであれば間に合わないということになりますので,その種の場合について,やはり救済の必要があるのではないかと考えるのであれば,本日の御提案ですと甲案のような考え方を立法で明確にするということも,十分にあり得る選択肢ではないかというように私自身は考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 まず,(説明)1に考えられ得る事由の①から④の整理について意見があります。今回の整理は①裁判所の領域か,②電気通信回路の空間の領域か,さらにはインターネット網以外の配線故障を③申立人が責任に負わないものと④責任を負うにもの分けているのですが,そもそも③④の区別の申立人が責任を負う場面とはどういう場面ですか。故意に配線を棄損したという場合であれば別ですが,例に挙がっている配線の故障,使用機器の故障は本当に申立人の責任を負わせる事情でしょうか。故障を申立人の責任に分類することになると,申立人は配線,使用機器が故障しないように整備しておく義務を課されることになると思いますが,インターネットや技術の専門家でない本人,代理人がどの場面でどういう故障が生じるかを予見し,どういうふうに対応しなければいけないのかを想定してトラブル回避しなければならない義務を負うというのは相当に疑問があります。インターネットのようなインフラは,インターネットまでの接続も含めて素人でも接続できれば回線を通じて情報の受渡しができることに意味があるのであって,配線や使用機器の故障を素人の帰責性に整理してよいのかは疑問があります。   民事訴訟では,訴訟行為の追完等では当事者の責めに帰すことができない事由という場面が定められており,典型例で提示されるのは郵便の遅延ですが,これも郵便が遅延すること自体に当事者の帰責性があるのではなく,その遅延をどこまで予測して対応していくのかという帰責性で整理されているかと思います。ところが,今回の帰責性は正に機器の故障の責任であって,インターネットのトラブル障害にどれぐらい可能性があって,何日前までに提出すべきという意味での帰責とは違う内容になっています。私自身はこの責任と言っているのは,むしろ民法でいう危険負担,支配領域の問題で,どこでトラブルがあったときに,どのように考えるのかという問題と考えます。であるならば,④だけを天変地異と比較して違うという形で切り出すのが本当にいいのか,むしろ④も含めた上で障害が生じた場合にどのように解決するべきなのかと考えるべきだと思います。   それに際しては,先ほど来提案されていましたが,甲案,乙案とは異なる意見,つまり,従前の言わば主観的,属人的な障害事由が原因で書面による提出をする場合の規律について議論をしましたが,今回は,むしろ広く,客観的な障害事由がある場合の対応方法と整理できると思います。そういう意味で,日下部委員の提案は一つの方向だと思っています。   なお乙案については,先ほど「困難である間」という言葉にこだわり過ぎかもしれませんが,乙案を前提に障害が解消後も一定の猶予期間を定めて,その間に対応すれば足りると考えます。そうなりますと,丙案の無効行為の追完で処理できるのではないかという疑問があるかもしれませんが,一定の猶予期間を想定して独自のルールを定めておく方が分かりやすいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○富澤幹事 先ほど垣内幹事の方からも御指摘があったところですが,乙案の場合には,書面を提出することができる場合にはいいと思いますが,適時に書面を提出できない場合には救済の余地がなくなってしまうと危惧しております。そういった観点からは,事案に応じて柔軟な対応の余地のある甲案の方がよろしいのではないかと思っています。本日もいろいろなパターンについての御意見が出ましたが,天災その他避けることのできない事変による場合と,そうでない場合を当事者の目線から見て厳密に切り分けられるかというと,なかなか難しいのではないかと考えております。そうすると,当事者の目線から見ても甲案が分かりやすいのではないかと思っています。   また,翻って考えますと,乙案は時効完成をどうにか避けるための緊急保全的な観点から書面で提出することを可能にしようという提案ではないかと思っています。そういう意味で,今回の資料にも記載されておりますが,オンライン申立てをすることができなかった事情が消滅したら,オンラインで提出をしていただくことになり,そうすると,既に提出された書面というのは事後的に廃棄をすることになると思っており,そのような点も検討する必要があると考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私,先ほど意見を申し上げたときに,少し言葉足らずだった部分もあるかもしれないと思いましたので,考えをもう少し明確にお伝えしようかと思います。   私が申し上げましたのは,甲案,乙案のどちらを採るというものでもありません。念頭に置いておりましたのは,例えば民訴法の規定の中に書面の提出による場合であっても,オンライン申立ての場合であったとしても,それを民法147条1項1号が定めている裁判上の請求に該当するということを定めておくという,それだけの考えです。そのように定めておくということで,オンライン申立てをしなければいけない者であったとしても,書面の提出によって裁判上の請求という時効の完成猶予効を得られることだけは確保できるというもので,その後,補正が待っているということを想定しているものです。   こういう御意見を申し上げますと,それだとオンライン申立てをしなければいけない者が書面の提出ばかりすることになるのではないかというようなふうに思われる方もいるかもしれませんが,その後に補正をしなければいけないということになりますので,これは申立人にとっては二度手間なわけです。通常,そのようなことをすることは考えられず,実際にそのようになることがあるのだとすれば,それは正に時効の完成猶予のために,どうしても書面でないと間に合わないという局面だけの話ということになりますので,書面の申立てが常態化するということも別にないだろうというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○服部委員 服部でございます。   この甲案,乙案というもの,丙案もありますが,前提としたときに,甲案だけでいくというのはいろいろ懸念される点があるかなと思っております。甲案は結局オンラインのみでの処理というのを前提としているわけですけれども,まず今回の御提案ですと,オンライン申立てができない場合を①から④の場面に分けて,④は外してということが一応御提案の内容にはなっておりますけれども,これはまず対象といいますか,範囲の問題ですけれども,阿多委員からも御指摘ありましたけれども,システム障害などでオンライン申立てができないときに,その原因がどれに該当するのかというのは判断できないケースもある。判断できないケースがあるということと,特に③,④は区別が付きにくい場合があるということです。あと,昨今の機器の複雑化の状況を踏まえると,原因究明に時間が掛かるとか,原因を明らかにすること自体が難しいとか,疎明ができないとか,そういうことも考えられるということになります。   また多くの場合,そういう事由に該当するかどうかというのは事後的に検討されることになるわけですけれども,事後的に検討された結果,該当しないということになったときの時効の完成猶予が認められないということのダメージは結構大きいものがありまして,安定性,確実性を欠くのではないかいう印象を持っております。「その事由が消滅した時から1週間」というのも,「その事由が消滅した時」というのをどのように特定するのか,なかなか難しい問題があろうかと思っております。そのため,甲案ということだけではなくて,やはり紙で出せる余地を残すということが必要ではないかと考えておりまして,最初に日下部委員から紹介ありましたけれども,甲案と乙案は排斥し合うものではないので両方,若しくは先ほど来,御提案いただいていますように書面で出して,オンラインでの追完,補正などという方策をお考えいただいた方がいいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 ほぼ上塗りのことしか申し上げないので,申し訳ございませんということをあらかじめ申し上げておきます。   私,気になるのは,民法150条の場合の催告による時効の完成猶予の場合に,その催告をしようとする者が何らかの電磁的な通信手段を用いてしようと,メールでしようとしていたり,あるいはLINEのメッセージを使ったりということをしようと思っていた場合にも同じ問題があるのに,なぜ裁判上の請求の場合だけが特別扱いされるのかということが,やはり説明できないのではないかというふうに,甲案について疑問を持っています。つまり何が言いたいかというと,民法で定めるべきことを訴訟法でごく一部だけ切り出して定めるということが,全体的に法制的に見てまずいのではないかという感じがしておりますし,今御発言があったとおり,甲案の完成猶予効が発生したかどうかを事後的に検証することは非常に難しいと思います。結局,事後的に検証することが難しいということはどういうことになるかというと,消滅時効の場合を例に言いますと,消滅時効の完成がしたのかどうかという本案の問題が非常に紛糾するということになり,本来もうちょっと簡単なルールを定めておったらそこまで紛糾しないような本案事件が非常に紛糾してしまうということになりますので,私は甲案にはどうも賛成できません。   それで乙案はどうなのかな,丙案はどうなのかなと思っておりましたが,先ほど日下部委員から検討する価値の非常に高い提案をしていただきましたので,私としてもそちらをもうちょっとリファインしていくという方向が望ましいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小澤委員 管轄に関する規定によれば,時効の完成猶予にかかわるような給付訴訟については,そもそも原告の最寄りの裁判所に管轄を持ってくることが可能な事案が多いと思っていますので,その意味では急きょ,紙になってもさほど問題はないのではないかという考え方はあると思いますが,そうはいっても当事者の長期出張であるとか代理人が遠隔地であるといった事情によっては,当日発覚したシステム障害によって,事実上,その日の申立てができなくなるというケースも考えられますので,乙案はその意味において好ましくないのかなと考えております。   一方,甲案については,オンラインによる申立てをしなければならない訴訟代理人が選任されている場合は時効が伸長されるということになるんでしょうけれども,当面の間,書面での申立てが許容されるとすると,本人訴訟の場合においては時効期間が満了してしまうという問題も考えられるものの,オンライン申立てに一本化するというIT化全体の方針との親和性は高いと考えておりますので,甲案の方が将来的には妥当な制度になるのではないかと考えています。   もっともシステム障害の範囲の説明を①に限ってしまうと,当事者側からは予測することができないということになりますので,①から③までの範囲を認めていただきたいというのが意見であります。   司法書士としましては,登記供託オンラインシステムを日々利用しておりますと,経験上こういったシステム障害というのは必ず起こり得ると思っていますので,規律は必須であるというふうに考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。   私も甲案,乙案,どちらがと言われると少し困るんですけれども,やはりこの4番を除外するということは,今まで各先生おっしゃってくださったように自分の責任,自己責任かどうかというあたりがすぐに判断することは難しいと思います。使っている通信機器が使えなくなったという経験は恐らくどなたにもおありで,それが大きなシステムの障害であるのか,私の機器によるものかというのはすぐには判断できないものだと思います。この4番を故意的にやるものであればともかく,除くということに対しては慎重に考えていただきたいということと,もう一つは,やはり書面による申立てを残しておいていただきたいということはございます。それはどうしてもオンラインでできないという場合に使いたいということがございますので,その点,考えていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。   ちょっと議論の前提について2点ほど確認をさせていただきたいと思うんですけれども,1点目は,そもそもオンラインで申立てをすべき場合に,書面を訴状として持ってきたという場合の取扱いについて,どういう議論の現状と申しますか,現在どういう前提で議論をすればいいのかということについて,ちょっと確認をさせていただければというのが1点です。   それからもう1点ですけれども,仮に今日御提案の甲案のような規律を設けるとした場合に,何か民訴法にこういう規律を設けるのはどうかという問題の御指摘もあったように思うんですけれども,これは民訴法に規定を設けるということなのか,それとも場合によっては民法にその旨の規定を設けるということも考えられるのか,その辺りについて何か前提とすべき点がありましたら御教示いただければと存じます。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 それでは2点,事務当局の方からお願いいたします。 ○波多野関係官 波多野でございます。ありがとうございます。   1点目でございますけれども,今,義務化されている方が紙を持ってきたときにつきましては,従前御議論をお願いしたところでは,一旦裁判所で受付けをしていただき,例外に該当しないかどうかの審査をした結果,例外に当たらないということであれば補正をお願いするということになるという意見が出されており,現在の到達点はその辺りであると理解していたところでございます。   2点目でございますが,甲案のときに,どこにこの規律が入るかというところでございますが,そこについては明確にまだ整理ができていないところではございますけれども,時効の完成猶予ということでございますので,民法との関係は整理をしないといけないと考えているところではございます。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。 ○山本(和)部会長 1点目については,部会資料12,中間試案のたたき台の2ページの一番下の(注2)で,一応現段階での,是非今日ここの審議をお願いしたいとは思っていますが,今の段階でのたたき台はこのような形になっているということかと思います。 ○垣内幹事 その前提だといたしますと,一旦受付はされるということを考えると,受付された場合には時効の完成猶予の効果も受付をされた時点で生ずるというのが通常の解釈だろうというふうに理解をしておりますので,その限度では乙案ないし丙案もそうなのかもしれませんけれども,書面で出したときに時効完成猶予の効果は生ずるということは,そこでその立場をとれば前提になるということかと理解をしておりまして,そうしますと,論ずべき問題はそれに加えて更に甲案のような規律を設ける必要があるかどうかということではないかというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 どうもすみません。甲案について,もう一言申し上げたいと思うんですが,これは裁判上の請求を念頭に置いて規定されているのですが,訴状に記載して民法上の取消権を行使する,あるいは準備書面に取消権の行使を記載して,それで取消権行使として扱ってもらうということはあり得ると思うんですが,取消権についても民法の126条の期間制限があり,甲案を採ると,そういったことも考えていかないとまずいのではないかと。つまり,時効の完成猶予だけではなくて期間制限のあるもの一般について,いろいろと考えていかなければいけないということになるのだといたしますと,やはり私は日下部委員がおっしゃった案で,かつ訴状以外にもうちょっと幅を広げていくという方向の方がよろしいのではないのかなという気がしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○井村委員 私も山本委員と同様の考えです。①から④まで提起されている中で,①については当然のことながら,事件管理システムがダウンしていれば使えないわけですし,裁判所でも分かるものですから,何らかの措置をとるというのは分かりますが,②,③,④については,いずれも何らかの代替措置をとることが可能であり,そもそも障害があったことを証明することすら極めて難しいのではないでしょうか。IT,デジタルの世界になると急にこのような区分けを出されるわけですが,現状のアナログの世界において,例えば車や電車で裁判所へ向かう,あるいは郵便で送付する際に何らかの障害があって間に合わなかったときには,何らかの猶予措置はとられていないと思います。デジタルだからといって特別扱いするのではなく,手当てをするとしても,①だけを切り出して何らかの措置をとるべきではないかと考えます。   日下部委員の提案された,一時的に書面による提出により時効の完成が猶予され,後にデジタルに差し替える,というのは一考に値するのではないか,と考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   皆さん,御議論を伺いますと,このシステム障害等の問題に対して何らかの手当てが必要ではないかというのが大方というか,ほぼ全ての皆さんの御意見だったと思います。ただ,救済を要する場面についての御意見はやや分かれていた。原案は①から④まで分けて,①から③を基本的には対象としているということかと思いますが,④も外すべきではないのではないかという御意見,複数の委員,幹事から出されていたように思います。   また,対処の方法として甲案,乙案というものが一応提示されましたけれども,日下部委員の方から若干別案的なものを示されたように理解しておりますし,また甲案的なものについては民法との関係がどうなるのかということも問題提起はされたように思います。   そういう意味では,民法の解釈との問題も含めて,これも中間試案に向けて何らかの規律を設けるということにはなろうかと思いますけれども,その内容につきましては事務当局の方で引き続き御検討いただくということになろうかと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,また事務当局に御検討いただいて,次回以降,御審議を頂く機会を設けたいと思います。   それでは,引き続きまして資料11,4ページの「第2 濫用的な訴えの提起を防止するための方策」の議論に入りたいと思います。   事務当局から,まず資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   今回は(注)のところに,第2回会議において御意見として出された訴え提起の際に一律にデポジットの納付をしなければならないとする考え方を御提示しております。このデポジットは,訴え提起手数料として納付すべき金額に上乗せして納付するものではございませんので,経済的には,訴え提起手数料について訴訟救助の申立てをする方に対してのみ,一時的とはいえ負担を求めるという意味を持ちます。そのため数百円とはいえ,デポジットの納付を義務付けることが訴訟救助の制度の趣旨に反しないかが問題になり得るものと考えられます。   なお,書面による訴えの提起は含まずに,インターネットを用いた訴えの提起の場合に限って,デポジットの納付を義務付けることも考えられますが,第2回会議で御紹介のあった実務例の全てに対処するものにはならないとも考えられます。このような点も踏まえまして,濫用の防止策について御審議いただければと存じます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   前回の事務当局の原案に代えてどういうことが考えられるかということで,前回,意見として提示された一律のデポジットの点を,事務当局において御検討いただいたという形になろうかと思いますが,これもどなたからでも結構ですので,御意見,御質問をお願いしたいと思います。 ○品田委員 第2回会議のときに,横田委員から御発言がありましたけれども,裁判所で実務を預からせていただいている者の実感として,裁判所では濫用的な訴えや申立ての処理に苦慮している実情がございます。そのような訴えの提起のほぼ全てについて,訴訟救助の申立てが併せてされるものですので,訴訟救助の申立ての処理に相当の時間と労力を掛けているというのが実情です。こういった事件の処理を行うことによって,限られた司法資源が本来注力すべき事件に適切に当てることができなくなっているのではないか,それによって,ほかの裁判の利用者の不利益に帰することはないかということを懸念しているということです。   実務を担当させていただいている者が司法資源などというのは不遜だとお叱りを受けるかもしれませんけれども,日々いろいろな事件に取り組む中で,普通の事件の中に濫用的と思われる事件がかなりの数あって,そういった事件に取り組む中で,結構時間と労力が掛かるものですから,自分たちの力の配分の在り方として,本当にこれでいいのだろうかと思うことがあります。   そういったことで,何らかの措置をとっていただけたらと思っているところですけれども,今回提案がありました訴訟救助の申立ての有無にかかわらず,一律に少額のデポジットの納付を求める規律は,ある意味有効な手段ですので,そういった制度があるといいなと感じたところです。こういった規律を設けたとしても,実際に納付を求める金額というのが数百円程度と少額で良いということでありますので,直ちに何か裁判を受ける権利の保障を狭めるといったことにはなりにくいのではないかなと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 先ほど裁判所から実情について説明がありましたけれども,やはり今回も,その解決策として適切なのか,目的と手段の相当性という言葉がよいのか分かりませんが,疑問を感じています。   従前の案は,訴訟救助の場面に限定してデポジットの支払を義務づけるという提案でしたが,今回は訴訟救助の申立ての有無にかかわらず,訴えを提起する際には一律にデボジットを支払うという提案なっています。ただ,形式的にはデポジットを支払うけれども,実は訴え提起の際に支払う手数料に含まれているので見た目は変わらないというもので,説明自体が技巧的であり,訴訟救助を申し立てることなく手数料を支払う当事者には,手数料の振分けも含めて納得できる説明か疑問です。   それから,デポジットの一律の支払を義務づけると,訴訟救助の申立てが必要な場面かどうかにかかわりなく,デポジットも支払うことができない当事者を救済できなくなくおそれがあります。近時聞きましたのは,精神病院等に入院している本人から人身保護請求の申立てをしようとしても,病院で金銭管理をされているために本人は現金が扱えないという案件です。そのような案件では訴えを提起しようとしても,できないことになります。現在はお金を納めなくても訴訟救助の申立てをすれば形の上では訴えを提起することができますが,そういう案件での救済の途を塞いでしまうことになりかねません。お考えいただけたらと思います。   先回の説明では,裁判所の事務処理の一定割合がそれに費やされているという負担の話がありました。また訴訟記録が抗告審に移動する手間の話もありました。今回,事件管理システムができれば,記録の移動という場面はなくなるのかもしれません。ところで,訴訟救助の申立て自体は救助の要件を満たすかという正に裁判事項であり,裁判所の判断が必要ですが,一旦訴訟救助の対象にならないと判断がされた場合には,訴訟費用の納付の有無という形式的事項の審理になりますので,訴訟費用の納付がないことを理由とする却下は,例えば書記官権限として裁判所の負担を軽減する方法もあり得るとは思います。金銭的な支払を求めるという対応ではなくて,具体的負担を減らす対応も検討いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○湯淺委員 湯淺でございます。   意見と,事務当局への質問ということになりますが,今日,後ほど審議される中間試案のたたき台で,手数料その他の納付については,取りあえずペイジーを使うということが書かれてございました。そうしますと,まず質問なんですが,デポジットについても一律に数百円程度支払っていただくということになると,これはデポジットもやはりペイジーの利用を想定するということが前提なのでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局から。 ○大野幹事 お答えいたします。   今,便宜上,デポジットという言葉を使っておりますが,それが訴訟法においてどういった法的性質を持つものなのかという点は,もしこの制度を実現する方向で進めていこうということとなったときには,更に詰める必要があるという前提でございます。そのため,支払の方法については,デポジットの法的性質が決まった後に更に議論していくということになると思っております。ですので,現段階で,支払方法について具体的な検討までできているわけではありません。 ○湯淺委員 ありがとうございました。   そういう趣旨の御提案であるということは理解をいたしました上で,これは仮にということでありますが,どのような性質のものであれ,取りあえずどなたにも最初に数百円程度の負担を,かつ電子的に納付をしていただくということになりますと,例えばペイジーを使うと,それを御本人に負担していただく場合と収納機関,この場合は裁判所になるのだと思いますが,収納機関側が負担をするということになると思いますが,手数料を要する場合が多いと思われます。そうしますと,数百円を納めていただくのにいちいち手数料が掛かっていくということが果たして合理的かどうかという点も考慮する必要があるのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐々木委員 資料の中で,訴えの提起と訴訟救助の申立てを同時に行い,手数料を納付しないままに類似の訴えを何件も提起し,却下決定等に対する不服申立て等も繰り返すといった実例が実務上少なくないというふうに書かれておりますけれども,実際,我々企業の立場からということで見ると,裁判所がこういう事案に対して却下決定等をしているがために,被告としてはこういう濫用的な訴訟が提起されているということは実感が湧いていないということでいいのかなと。例えば,そうであればですけれども,企業なんかにも,特定の企業に特定の原告が同じような訴えを何度も起こしというのも実際には生じているのかなというふうに考えるところなんですけれども,そういう理解でよろしいでしょうかという質問です。   ちょっとこういう濫用的な訴えを防止するための有効的な手段というのはちょっと我々分からないんですけれども,必要性の観点から見ると,こういう理解の仕方でもいいのかなということをちょっと教えていただきたいなと思っております。 ○山本(和)部会長 これは裁判所でしょうか。 ○富澤幹事 佐々木委員の方から御質問のあった点ですけれども,私自身が直接経験をしているわけではないですが,訴え提起手数料も納付せずに特定の企業を狙い撃ちにして訴えを提起する例は少なからずあるように思います。そういった場合に,裁判所としては,現行法下では補正命令を出した上で,費用が納付されなければ訴状却下命令等をする処理を行っているので,佐々木委員から御指摘があったとおり,被告の方には事情が明らかになっていないということはあると思います。   そのため,先ほど品田委員からも御説明を差し上げましたけれども,裁判所としては濫用的な訴えの提起への対応にかなり苦慮をしており,注力すべき事件に対してなかなか注力できないといった実情もあります。いろいろと考慮すべき点があることはよく存じ上げているところですが,何らかの手当てというのをしていただけないかということをこれまでも申し上げてきたところです。 ○山本(和)部会長 佐々木委員,いかがですか。 ○佐々木委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 この濫用的な訴えの提起を防止するための方策については,これまでもいろいろなアイデアが出て難しいなというふうに評価されることが多かったと思います。私自身は濫用的な訴えの処理の現場を見たということはないので実感が湧きにくいんですけれども,裁判官の方々からいろいろお伺いしていますと,非常に生産性のないところに労力を費やされているという実態があるというお話ですので,それを放置していいのかと言われると,そうではないだろうと思っているところです。   しかしながら,法制的にそれに対する手当てをしようと考えると,どうしてもうまくいかないのではないかなという気が非常にしております。これは濫用的とされるところだけをターゲットにする制度を作るということが法制的には恐らく非常に難しくて,今回のように濫用的なものかどうかを問わずに全体に網を掛けるような制度設計をすると,手段としての合理性がないだろうというふうに評価せざるを得ないからだろうと思います。   私自身としては,その解決しなければいけない問題については,できれば裁判所がこれから構築するであろう事件管理システムの中で,同一又は類似する大量の申立てに対しては効率よく処理できるような,そういった工夫を作っていただくということで対処できないだろうかというふうに常々思っているところであります。私は技術に疎いので,どういう制度,どういうシステムを作ると目的を達成できるのかということは分かりませんし,そういったアイデアをお伝えしても,裁判所の方からは先立つ物がないのですというお話も出てきてしまうのかなと思いますが,私としましては,こういった司法資源を有効に使えるようにするためのシステムの開発というのは十分に合理性のある公金の使い方だと思いますので,できればお金をしっかり,そこは確保していただいて,システムを作っていただくことを期待したいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大谷委員 日本総研の大谷でございます。   質問というか,教えていただければと思います。濫用的な訴えというのを判断する基準というものは,何か明確にできるものなのかということを知りたいなと思っておりまして,この資料の5ページに書かれているように,手数料を納付しないままに多数の訴えを提起して,不服申立ても何度も繰り返すというものは典型例の一つだと思いますけれども,これに限ったものでもないのかもしれませんし,本当に効果的な対応をとるためには,このデポジットの支払というのが真に効果があるものかというのはなかなか確信ができないところでございます。事件管理システムを使って,そのITの良さを出していくということですと,よく企業などではコールセンターなどで様々なクレームなどの対応をしたり,問合せの回答をしたりというような事務処理をするのに人工知能の活用などもして,一定の類型的な事案については類型的な対応ができるようなシステムを構築するということも現実に進められているところでして,そういったAIを使った,濫用的な訴えに対する対応策をカテゴライズして,それに対する定型的な対応を,前さばき的な処理を裁判官ではなく裁判所の中の一つの機能として作り上げていくということが,もう考えられないほど非現実的なものなのかどうかといったことについて御意見を頂ければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   今の時点で何かありますか。 ○富澤幹事 システムで対応することができるところは対応する方向で検討すればいいのではないかという大谷委員,日下部委員からの御指摘につきましては,具体的なシステム設計の在り方について,現在,正に検討中ですので,確たることは申し上げられませんが,その上で申し上げますと,例えばプログラムを設定して自動的に多数の訴えを提起するようなケースについては,事件管理システムの設計においてある程度防止することができるのではないかと思っています。   他方,AIを活用するというお話になりますと,御承知のとおりAIを活用するためにはディープラーニングをする必要があり,いろいろな情報を読み込ませた上で対応することを考えなければならないと思います。濫用的な訴えの提起というのは実際にはいろいろなパターンや内容がありますので,そういったものを全てAIという形で読み込ませて対応することは,現状の技術ではなかなか対応するのは難しいと思っております。そういった観点からも,今回提案されているようなデポジット制度など何らかの手当てができると有り難いと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○門田委員 関連して補足しますが,大谷委員から,どういうものが濫用に当たるのかカテゴライズすることができないのかという御質問だったかと思うのですが,今ほど富澤幹事からも説明があったように,いろいろなパターンの訴えがあるというのが実際のところでありまして,なかなかこれといった形でカテゴライズするのは難しいところがあると思っています。   ただ,今回のデポジット制度の提案というのは,なかなかいいのではないかと思っております。というのは濫用的と言われる訴え等を提起することが容易になる原因として,何も経済的出捐を伴わずに訴えを提起することができるというところがあろうかと思いますので,デポジットを一旦入れていただくこととするだけで,真摯に訴訟救助の申立て等をされる方たちと,そうではない方たちの間に一本線が入るかと思ったところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 垣内でございます。   濫用的な訴えに対する何らかの対応の必要というのは非常によく理解できるところでありまして,いい仕組みができれば望ましいことではないかというふうに考えているんですけれども,一律デポジットを訴え提起について課するという考え方につきましては,資料の中でも指摘されておりますけれども,やはり訴訟救助という制度が本来目的としているところとはやや両立しない部分が含まれていて,先ほど阿多委員も指摘されたような例が実際にもあり得るのだといたしますと,そういった場合をどう考えるのかという問題があるように思います。   他方,若干気になりますのが,実効性の面につきまして,多数の訴えを提起されるような方というのが,例えば訴状等の書面を多量に,多数のコピーなどをとったりして作成してというようなこともされているのかなというようにも想像するんですけれども,非常に少額のデポジットを課すということによって,それがどの程度抑制されるのかということについて,若干,私自身はよく分からないところがあるのですが,その辺りはかなり,それでも実効性があるというお考えであるのかどうかという点については,後で,もし実務の方からの御感触がありましたら伺えればと思います。   それで,第1の理論的なところについて,なかなか制度化が難しいように感じているんですけれども,一つの発想の方向としましては,訴訟救助については,例えばこういう制度を仮に設けたとして,その外で,例えば法律扶助等の形で,真に救済を受けるべき人はきちんと救済はされるんですと,数百円の負担ができないために訴え提起そのものの道が奪われるということはありませんということを制度全体として提供できていくということが仮に言えるのだとすれば,この訴訟救助の局面についてはこういう制度を入れるということも,あるいはぎりぎり説明が付くところがあるのかなと思われますので,その辺りも含めて少し検討をする必要があるのかなというように私自身は感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○横田委員 先ほど垣内委員から一律少額デポジット制度というのはどの程度実効性があるのかという御指摘がありましたので,実務の立場から感覚的なことを申し上げさせていただくと,先ほど門田委員からも御発言がありましたけれども,やはりこのような訴訟救助の申立ての却下決定に対する不服申立てを何度も繰り返すとか,同様の訴えの提起を何度も繰り返すことが起こり得るのは,何ら経済的な出捐を伴わないために,何回も何回も繰り返すことができるところにありますので,たとえ少額であっても一定の抑止的な効果はあるのではないかと,実務を担当させていただいている者からはそのような感覚を持っております。   あと,加えてということになりますけれども,第2回会議において富澤幹事から提案がありましたけれども,一律少額デポジット制度の規律の創設自体,非常に有効だと思いますが,それとは別に,訴え提起手数料を納付しない場合について,一定の場合には,補正を命じることなく命令で訴状を却下することができるものとして,その命令に対しては即時抗告をできないとする改正を御検討いただければと考えております。先ほどからどのようなアイデアが考えられるのかというような観点からも御議論いただいているところですけれども,現在の実務を改めて御説明しますと,訴えの提起と同時に訴訟救助の申立てがあった場合には,まず訴訟救助について判断するわけですが,仮にこれを却下して,訴訟救助の却下決定に対して即時抗告された場合には,上級審の判断が出て訴訟救助の申立ての却下決定が確定するのを待った上で,相当の期間を定めて手数料納付を命じる補正命令を出して,期間内に手数料が納付されなかった場合に初めて訴状を却下するという,とても長いプロセスを経ております。これが通常の扱いであろうと思われます。   しかし,濫用的な申立てをする当事者の中には,補正命令を出すと,本来は補正命令に対しては不服申立てをすることができないわけですけれども,その補正命令に対して更に不服申立てをしたり,手数料を納付しないことを理由とする訴状却下命令に対して更に即時抗告をしたりする当事者もおり,裁判所にとっては,このような事件に対応するための事務処理に要する人的,物的な負担が相応に大きいというのが実情でございます。   そこで,例えば現行民事訴訟法137条を改正して,訴え提起手数料を納付しない場合について,一定の場合には不備を補正すべきことを命ずることなく,命令で訴状を却下することを可能として,その命令に対しては即時抗告をすることはできないという規律が考えられないかなと思いますので,是非御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   恐らく今の御提案で一番難しいのは,その一定の場合にというところだと思うんですが,何かそこについての意見はありますか。 ○横田委員 おっしゃるとおりでして,訴えの提起をする段階で,例えば計算間違いで印紙が足りないとか,あとは印紙の計算が難しいために後で納付しますと言われるような後納上申が出される場合があります。そのような場合が一定の場合に含まれないのは当然だと思っています。典型的に考えられるのは,例えば今御紹介したように訴訟救助の却下決定が確定して,一定期間待っていても何ら手数料の納付がないような場合などが考えられるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○増見委員 増見でございます。   今,様々な御意見が皆さんからあるところですけれども,私ども民間企業の立場でお話を拝聴しておりますと,やはり濫用的な訴えの関係で裁判所の貴重な人的リソースが空費されている状況というのは,社会にとっても大きな損失であると考えております。それで少額のデポジット,かつそれが手数料に充当されるもので,真摯な申立人にとっては過度な負担になるものではないものを一律課すということにはかなり合理性があるのではないかと考えておりまして,申立人の負担を過度に大きくするものではないのではないかと思います。保護される法益と利益と,本来真摯な申立てであるにもかかわらず,救済されない方がいるのではないかというリスクのバランスを考えますと,今,空費されているリソースを有効活用できるようになるというメリットの方がはるかに大きいのではないかと感じましたので,意見として申し上げます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○小澤委員 この場で発言することが適切なのか少し悩みましたけれども,いち早く電子化を進めた諸外国の事情も知っておくことは一定の意義があると思いますので報告をしたいと思います。韓国では,既に訴えの電子申立てが認められていますけれども,この電子訴訟の利便性を,逆に利用して,3年間の間に6,000件の訴えを提起する者が現れるといった内容について,韓国日報という新聞社からのインターネットの配信記事で接することができました。記事によりますと,裁判所の釈明要求についての抗告であったり,却下決定についての抗告などを繰り返したとされておりまして,令和2年8月25日に配信された記事ですけれども,膨大な申立ての処理に疲弊した裁判所の職員からの申立てによって,それらの者のユーザー登録を抹消するという対応がされたという記事がありました。ユーザー登録を抹消されますと,書面での訴えをするしかなくなるということになると思います。   立法の段階で,濫訴についての具体的な手当てがなされていたかどうかまでは,調べておりません。また,韓国と我が国の法制度やシステムの差異がどのようなものかということを検証することは不可欠だと思いますけれども,電子訴訟の利便性により生じ得る弊害の具体例として,参考までに紹介をさせていただきました。大韓法務士協会やソウル法務士会などを通じて,引き続き調べてみたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○湯淺委員 湯淺でございます。   先ほど事務当局から御説明がございまして,別にペイジーに決まったわけではないという御説明ではありましたが,参考までにということで,仮にペイジーを使ってこの制度を導入した場合を今少し考えてみました。   裁判官の方々から,一定の抑止効果と労力の削減を考えているということは大変よく分かりましたが,他方で,仮にペイジーを使う場合,通常は納付書を送付しますので,この数百円のデポジットのために納付書を作成して全員に郵送するという事務が新たに生じることは,これは裁判官ではなくて事務的な作業なのかもしれませんが,そこはお考えいただかないといけないと思います。   それから,ペイジーは必ずしも納付書ではなくて,メール等でその番号などを送信することも可能ですから,事件管理システムに登録したメールアドレス宛てにそれを送って,こちらから納入してくださいということも不可能ではないと思われます。他方で,これは事件管理システム全体の設計の問題だと思いますが,そういうお金を払ってくださいというメールを送るのであれば,なおのこと成りすましの防止に留意する必要があって,送信ドメイン認証等,適切な技術を使ったシステムを作っていただくことは,不可欠だと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○長谷部委員 長谷部です。   デポジットを課すという御提案についてはいろいろ賛成の御意見もあるようですが,湯淺委員が先ほどおっしゃったように,技術的な問題もある。事務的な手数料がかえって高くなってしまうということもあって,果たして経済的に合理的なのかどうかという,そこの課題もまだあるように思います。   それからもう一つは,幾ら少額のデポジットとはいえ,また暫定的とはいえ,経済的に困窮されている方に現在以上のものを課すというのは,訴訟救助の制度の趣旨から言うと,正当化するのはなかなか難しいのではないかと思います。指摘されている濫用事例というのが本当に普遍的で,全国的に相当な数があるということであれば,そういった困窮した方に負担をあえてしていただいてでも解決すべき問題なのだということになるのかもしれませんが,その辺りの立法事実がいまだよく分からないところがあります。   他方,先ほど横田委員がおっしゃった,一定の場合には補正命令を出さずに,訴状を却下してしまうと。それに対して抗告が出された場合,一定の場合にはそれは受け付けないというような規律については,その一定の場合の区切りがなかなか難しいという問題もたしかにありますけれども,例えば,民事執行の執行抗告などでも濫用的なものを類型化して,原裁判所で抗告を却下ということになっているわけですし,いかにも濫用的だというものがあれば,それを狙い撃つといいますか,一定の規律を設けて排除するという,そういう方向に行く方が,広く困窮した方にまで負担を求めるという方策よりはよいのかなと,現在は考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 ちょっと御提案の制度の仕組みについてお伺いしたいのですが,デポジットを納めました,訴訟救助は与えられませんでした,申立手数料の追加納付はありませんでしたというときには還付されるんですね,デポジットは。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○大野幹事 事務当局としては,訴訟救助の申立てが却下された場合には,その納付したデポジットは対応する本案,つまり手数料が納付されていない本案の手数料の一部に充当されるものだという前提でおりました。ですので,還付はされないということとなります。 ○山本(克)委員 訴状却下までいった場合の話になるんですが。訴状却下までいった場合にも還付されないということなんですか。 ○大野幹事 はい。 ○山本(克)委員 訴状却下には,それ相応の費用が掛かるからということですか。その部分に充当されると。 ○大野幹事 訴状の却下がされても手数料の納付がされていないという点には変わりがありませんので,訴状の却下がされても還付はされないという理解でおりました。 ○山本(克)委員 なるほど,そういうこと。私が気にしていたのは,還付の事務がかえって増えるのではないかということを危惧していたのですが,それはないということでよろしいんですね。 ○大野幹事 御指摘のとおりです。 ○富澤幹事 訴訟救助の申立てが認められず,更に訴状却下命令が出されたことになりますと,少なくとも本来納付すべき訴え提起手数料の半額については納付しなければなりませんので,納付されたデポジットはその一部に充当されることになり,残りの分を更に納付していただく事務が発生することになります。このことはデポジット制度の導入の有無にかかわらず,発生する問題であると思っております。 ○山本(克)委員 どうもありがとうございました。それなら疑問は解消しました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   御意見は出尽くしたでしょうか。   これもちょっと御意見をまとめるのは非常に難しいですけれども,何らかの形で濫用的な訴えと言われるものに対して対応をする必要があるのではないかということについては,比較的多くの委員,幹事のコンセンサスがあったということかと思います。ただ,その方法については今回の一律デポジット,これは裁判所の委員を始めとして賛成の御意見も出されましたが,否定的な御意見も複数出されたということであったように思います。更に新たな御提案,横田委員などから新たな御提案がなされ,それに対して一定の支持というか,積極的な方向の御意見も出されたということで,かえってというか,議論は更に混迷の度を加えつつあるような印象も受けます。これで更に中間試案にどういうような形で問うかということはかなり難しいと思いますが,事務当局の方で次に向けて御検討を頂いて大丈夫でしょうか。 ○大野幹事 はい,承知いたしました。 ○山本(和)部会長 それでは,大変難しい宿題が残ってしまったように思いますが,よろしくお願いしたいと思います。   それでは,ここで若干の休憩の時間を取りたいと思います。3時40分に再開したいと思いますので,よろしくお願いをいたします。           (休     憩) ○山本(和)部会長 再開をしたいと思います。   続きまして,部会資料11の第3の論点,7ページ以下になりますが,「利害関係のない第三者による訴訟記録のインターネット閲覧」の議論に入りたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 それでは御説明いたします。   ここでは,第5回会議において御意見として出された利害関係のない第三者によるインターネットを用いた訴訟記録の閲覧を認めることの当否を御審議いただきたく存じます。   これを認めることとする場合には,例えば一つの考え方として,訴訟記録の幅広い用途に対応するため,現在,裁判所において閲覧可能なものをそのまま何人もインターネットでも閲覧可能にするということが考えられます。また,この場合に,検索能力を高めるということも考えられます。   二つ目の考え方としましては,プライバシー等にも配慮しつつ,裁判の公開の一層の実質化という趣旨から,判決書及びその基礎となる重要なものに限って,何人もインターネットでも閲覧可能にするというものがございます。この場合には,判決書以外のどの訴訟記録をインターネット閲覧の対象とするかに加えて,個々の閲覧請求の対象に含まれ得る個人情報の匿名加工を行うかどうか,そして行うとすれば,どの範囲で,誰の責任において行うかなどの観点からの検討も必要になると考えられます。これらの点も踏まえまして,御審議いただければと存じます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,この論点につきましても,どなたからでも結構ですので御自由に御発言を頂ければと思います。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。   この点においてはいろいろ考えられて,誰でもが閲覧できることにメリットがある場合もあるということは理解できますけれども,やはりプライバシーに関して,また個人情報に関して,重大な事項に関しては個人の判断が大きいと思います。どこまでどうマスキングしていただいたとしても,やはり一般的な利害関係のない第三者がインターネットで閲覧できるということは避けるべきと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大坪幹事 訴訟記録の閲覧とは別のことになりますけれども,記録の閲覧のニーズにこたえるという意味で,取組の一つを御紹介させていただきます。   訴訟記録の中の判決につきまして,本年3月に公益財団法人日弁連法務研究財団を事務局としまして,民事判決のオープンデータ化検討プロジェクトチームというものを立ち上げまして,民事判決のオープンデータ化の検討を進めております。これは民事裁判手続のIT化に伴いまして,民事判決情報のデータベース化を含む活用拡充のニーズが高まっているということを踏まえまして,民事判決データの管理及び利活用に当たり,検討すべき課題等について幅広い観点から実務的な協議を行うというものです。御存じのとおり,現在,判決につきましては裁判所のホームページや判例雑誌などで非常に限られた件数しか公開されていないところでございますが,このPTでは民事判決について一定の条件を備えた民間機関が全ての裁判所から判決データの提供を受けることを前提としまして,必要な匿名化の処理を施した上で公開するということを目指しております。裁判所から判決データの提供を受けるということもありますので,PTには最高裁判所事務総局にもオブザーバーとして御参加いただいております。   弁護士の立場から,受任した事件などで,同種の事案において裁判所がどのような判断をするかの見通しを立てるということは不可欠になりますけれども,現在,一般的な事案の判決につきましては,ある程度結論が予想できるということもありますので公開されておりません。全ての判決について公開されますと,現在の法律出版社,判例データベース会社において解説を付して体系的にデータベース化することによって弁護士やその他の専門家の人だけでなく,一般の人にとっても紛争解決の見通しが立てやすくなって,今より,より飛躍的に利便性が高まるというふうに考えております。   PTの議事録については非公開ではございますけれども,会議の開催状況につきましては法務研究財団のホームページで見ることができます。今回の御提案を御検討いただくに当たりまして,このような取組も御参考にしていただければと思います。 ○山本(和)部会長 情報提供,ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 今の御意見,大変参考になりました。   ちょっと伺いたいのですけれども,今言われた民事判決をデータベース化したものというのは,今回議論の対象になっている訴訟記録の閲覧というものと基本的に物は違いますよね。ある程度加工されて,どういう判例があるかということを確認するものですよね。そうであればそのデータベースを利用することに対して,反対はしておりません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大坪幹事 藤野委員のおっしゃるとおりで,今も判例雑誌等で匿名処理をされて公開されていますけれども,それと同じようなレベルの匿名処理をして,今より公開される判決の数を増やしたいという取組になっております。 ○藤野委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○増見委員 増見でございます。   先日の会の際に,企業による利害関係のない第三者による訴訟閲覧に関するメリットについては既にお話しさせていただきました。先ほど判決文についてはデータベースで見られるようになるというお話がありましたけれども,やはり判決文だけに限らず,例えば一定の訴訟当事者がどういった対象に,どういった戦略で訴訟を掛けてきているのか,その原告の戦略ですとか傾向といったものを分析するといったようなことに,海外の訴訟記録なんかを既に参照して使っている場合もございますし,様々な活用の方法があり得ると思っておりまして,是非利害関係のない第三者による訴訟記録のインターネット閲覧は進めていただきたいという要望を再びさせていただきます。また,閲覧の容易性,やはりせっかくインターネットを介して有益な情報が活用できるようになるわけですから,事件番号等の調査を必要とせず,一定のキーワードで検索したものについて,オンラインで直ちに閲覧,それに申請が必要ということがあってももちろんいいと思うんですけれども,速やかに無駄なというか,労力を費やすことなく閲覧できる環境というのを是非整備していただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 インターネットでの閲覧のメリットは理解しているのですが,やはりリスクについて対処可能かということも踏まえて検討いただく必要があると思います。今回の資料でも複製等の防止として電磁的透かしや印刷できない機能の紹介もありますが,スクショなり魚拓を撮るとか,モニターに映る画像を外部から写真で撮るという形で残す方法が考えられます。また,何が訴訟記録に含まれるのかという観点からリスクを紹介すると,例えば,押印は廃止される傾向にありますが,印鑑証明書が証拠として提出されていれば,印影自体を偽造することが容易になります。さらにはクレジットカード等も証拠として提出されることがありますが,セキュリティコードが表示された裏面も証拠として提出されると,誰でもカード名義人のセキュリティコードを知ることができることになります。そのようなインターネット上に重要な情報が晒される状況になることで本当によいのかということです。   個人情報等のマスキングの話も出ましたが,裁判所自らではマスキングしないことが想定されますので,訴訟当事者が一旦提出した訴訟資料の写しにマスキングするのか,さらには訴訟資料を提出する前にマスキングするのかという問題も生じます。判決は匿名化されるようですが,係属中,現在進行中の訴訟の訴訟資料について,加工自体を現時点での技術ではできないのであれば,インターネットで閲覧するメリットだけではなく,自分たちの訴訟情報も晒されるリスクを考えて判断いただく必要があります。私は裁判所に出向いて書記官が監視している状況下でしか閲覧はできない現制度を維持することがリスク回避という観点から有意だと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 今の阿多委員の御意見と重なりますけれども,既に指摘されていることですが,利害関係のない第三者による訴訟記録の閲覧を認めると,プライバシーに関わる情報がインターネット上で拡散されるおそれが高まり,このことを技術的な対応によって十分に防ぐことは困難ではないかと思います。   他方で,先ほど御紹介いただいたところですが,判決については匿名性やプライバシーに配慮して,広くオンラインでアクセスできるようになるとよいと思います。判決データベースが充実し,アクセスや検索がしやすくなれば,それにより判決以外の資料,訴訟記録の閲覧をする事件を特定した上で,裁判所において,その閲覧を請求することができるようになり,実質的には訴訟記録へのアクセスが向上するということができるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 プライバシーとか事業上の秘密事項といったものの保護といわれる場合に,現行の92条1項各号との関係はどういうふうに整理されるべきなんでしょうか。そこがもう一つよく分からないなと思って聞いておったんですが。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○藤田関係官 御質問ありがとうございます。   現行法上でも,一定のプライバシー事項や営業秘密につきましては,御指摘のとおり92条で第三者閲覧をできないようにすることができます。ただ,こちらの部会の資料の方で書かせていただいた個人情報というのは,それにとどまらないものと考えております。今,この会議の場でも御指摘の挙がっておりますように,特定の種類の番号について定型的に秘匿性が高いものがあるというようなこともございますので,どのような範囲について92条のものを超えて匿名加工の対象とすべきかというところも含めて御審議いただきたいというふうに考えております。 ○山本(克)委員 ただ,今先ほどのクレジットカードの表裏みたいな話は,現物の記録閲覧の際にも本来保護すべき情報であるかのようにも思えるので,私はまず92条1項の各号で足りているのかという議論をすべきなのではないのかなという気もしております。これだけで,限定列挙で狭すぎるような感じがしていると。つまり個人情報保護については個人情報保護法,3種類ありますが,プラス情報公開法が2種類あるのかな。それと各種条例等で,かなりの程度,個人情報というものや,あるいは情報公開に伴う営業秘密の保護等,法人の競争上の地位を害する情報についてもある程度の集積があり,それを踏まえて92条1項各号,そうすると足りないはずなので,そういうものをもう少し明らかにして,こちらで補充してなお第三者閲覧というのがまずい状態,まずいものなのかどうかという問題を設定をするのが私は望ましいように思っております。   一番問題なのは,当事者の氏名又は名称というのが果たして秘匿化すべき情報なのかと,ここのところを決めないと何の意味もないですよね。というのは,アメリカなどはもう当事者名が大体事件名になるぐらいですから,当事者名は当然公開ですよね。それを通じて,先ほどの御発言,企業の方から御発言があったように,どこどこの企業,どれどれの企業は原告となってどういう訴訟戦略を立てているのかという分析が可能になるわけですが,そこを秘匿化するのであったら,そのニーズはもう全く満たされないかのようにも思いますので,何が秘匿化される情報かということ,そしてそれは現物を見る場合とインターネットで見る場合で差があっていいのかと,そういったことも含めてもう少し議論しないとまずいのではないか。私は基本的には92条1項各号を拡充して,それで全部見せればいいという立場なんですが,必ずしもそれには抵抗があるのであれば,先ほど来,出ておりますように,第三者による閲覧は裁判所のみというのも一つの選択肢かなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 今,訴訟記録の閲覧制限で秘密扱いされる情報の範囲を見直す必要があるのではないかといった問題意識をお示しいただきました。それについて特に反対するというものではないのですが,一応,現状の訴訟記録の閲覧制限の制度を前提に意見を申し上げたいと思います。   今回の御提案を考えるに当たっては,利害関係のない第三者がインターネットによって訴訟記録を閲覧することを認めるべきニーズがどこにあるのかということと,それによって逆に損なわれる利益はどういうものなのかというのを考える必要があるのだと理解しています。   ニーズとしましては,部会資料の中でも挙げられていたと思うんですけれども,一つには裁判の公開をより実質化する。具体的に言えば,恐らくは国民の監視によって裁判制度が適正に運用されるようにすることを訴訟記録の閲覧という制度を通じて実現するというものかなと思いました。しかし,そのためには,誰でも訴訟記録を閲覧しようと思えば閲覧できるという現在の状況においても十分であって,利害関係のない第三者でもインターネットによって訴訟記録を閲覧することが必要とまでは考え難いのではないかと思いました。   それ以外のニーズとしましては,裁判制度の適正運用とは別に,部会資料の中で言及されている表現を借りますと,弁護士等による職業的な情報収集,ジャーナリズムや法学者の研究等のためといったニーズも挙げることは可能だろうとは思います。しかし,そうしたニーズは個別的なものであって,利害関係の有無に関係なく誰でもインターネットにより訴訟記録を閲覧することを正当化するとは思い難いように思います。   他方で,デメリットということで申し上げますと,確かに閲覧制限等の申立てによって一定のプライバシーや営業秘密の秘密性は保たれ得るところですが,それでは秘密扱いされないものの,訴訟の当事者が公衆の目に広くさらされることを望まない証拠も多々存在するだろうと思います。仮にそのような,特に私生活上の機微に触れるような証拠も含めて,訴訟記録を誰でもインターネットで閲覧できるようになれば,訴訟制度の利用者の観点からは,現在ある紛争の解決に至るまでの期間の長さとか予測可能性の低さということに加えて,裁判制度の利用を大いにちゅうちょさせるものとなる,それによって司法の機能を大いに損なうことになるのではないかと懸念いたします。自分自身に置き換えて考えましても,仮に私自身が当事者となる裁判を想像して,その訴訟の記録が知人や友人,あるいは仕事などで関係をもった人が興味本位で私がどういった主張をしているのか,どういった証拠を出しているのかというものを見て,場合によっては楽しむこともできるかもしれないと考えたら,裁判制度を利用するのは非常に嫌だなというふうに率直に思うところであります。   こうしたことを考えますと,利害関係のない第三者でもインターネットにより訴訟記録を閲覧できるようにすることについては,ニーズが十分にあるかは私は疑問に感じておりますし,それを認めた場合の悪影響は甚大になるのではないかということを懸念しておりますので,結論として,今回の御提案には反対であります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 前回のときには,このインターネットで閲覧できるということの有用性について,少し賛成的立場からお話をしたんですけれども,その一方で,92条の各号がちょっと狭いというのは思っておりまして,特に営業秘密のところなんですけれども,企業の立場からしますと,例えば契約の交渉の過程ですとか社内の会議での発言とか社内制度とか,恐らく営業秘密では保護されないけれども,知られたくないところはたくさんありますし,他社でもそういうのはあるんだと思います。ちょっとそこら辺をもう少し拡大していただきたいというのは考えておるところです。ちょっとそういう話が今のところないものですから,私どもだけではなくて,他の経団連の参加企業に意見を求めても,やはり基本的には反対という声が複数の企業から上がっておるところですので,ちょっとそれもお伝えさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小澤委員 やはり懸念事項として,破産者マップのようなサイトが出てくるのではないかと思っております。御案内のとおり,2019年3月ですが,インターネット上で破産者マップと称するウェブサイトの運営者が,破産決定から免責に至った者の官報の破産者情報を収集してデータベース化し,グーグルマップに関連付けを施して,グーグルマップ上に破産手続をした者の住所の上に目印を挿入するなどして容易に可視化させるようなサイトが開設されたということがありました。利害関係のない第三者による訴訟記録のインターネット閲覧が可能となると,このような第三者のプライバシーなどを侵害するようなサイトが開設される可能性が否定できないと考えています。   一方,匿名加工を施す作業負担の問題がクリアできるのであれば,学術的な目的であったり,社会的な問題に発展したような,例えば消費者被害の救済といった目的での閲覧は認めてよいのではないかと考えています。実際,韓国の電子訴訟事件では,権利救済であったり学術目的については,私物の端末では閲覧できないようですけれども,裁判所設置の端末を利用して全国の事件の閲覧が可能となっていると聞いています。このような整理もあり得るのではないかと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○門田委員 先ほど,裁判所で書記官の監視する下で閲覧をさせればいいのではないかという御意見がございました。第三者の不正な行為を防止するためにどのような方法があるかという問題意識かと思いますが,現在の技術においても,超小型のカメラが登場するなどしていて,眼鏡型のカメラだとか,ペン型のカメラだとか,そういうものもあるというような状況の下では,裁判所で第三者の不正行為を全て防止するというのはなかなか厳しいところがあるというのは御理解いただければと思います。裁判所を信じていたのにと言われても,閲覧している方をずっと見張っているわけにもいかないので,そこは御理解いただければと思ったところです。   この議論は私から第5回会議の場で申し上げたところで,やや唐突感があったかもしれませんが,閲覧をされる方の立場に立っていろいろと考えてみると,訴訟記録にどこからアクセスすることができるかという面では,利害関係のある方はもちろん,そうではない第三者の方も,裁判所外の端末からもアクセスすることができるようにすることが望ましいという考え方もあろうかということで発言をさせていただいたところです。   ただ,閲覧することができる訴訟記録の範囲をどうするのかについては,あの時点で定見があったわけではなく,現在でも定見があるわけではございませんけれども,先ほどの山本克己委員の御発言はなるほどと思ったところです。プライバシーとか個人情報の問題を考えると,現物で閲覧していただくのとインターネット上で閲覧することでどれほど差があるのかということは考えてみる必要があると思ったところで,そもそも民訴法92条の閲覧制限の範囲をどうするのかということの検討が必要ではないかという御発言は,なるほどと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。   大変悩ましい問題と感じておりまして,どちらの方向で考えていくのがよいのか,いまだ私自身は定見を持ち得ていないのですけれども,やはり小型カメラ等の話もありましたけれども,技術の発展に伴って,従来考えていた方法と理屈的には同じようなことをネットでやろうとするといったことが,従来の規定では想定していなかったような現実の事態をもたらすというようなことが出てきていると思いますので,その点を踏まえて考える必要があるのかなと思います。   そうしたときに,プライバシー等は確かに92条1項でカバーされていないことというのがいろいろあって,しかし,それがオンラインで自由に見られるということについては私自身もかなり抵抗感は感ずるところがありますので,そう軽々に全て認めていいということではないのかなという印象を現時点では持っております。   それとともに,92条そのものの見直しということは当然課題としてはあり得ると思いますし,また現在,閲覧と謄写とを分けた上で,謄写については利害関係を要求するということになっているわけですけれども,利害関係という切り口がいいのか,それとも正当な理由とか,あるいは理由が不当である場合について何か除外するであるとか,そういった規律の方向というものも考えられるように思いますし,他方,情報を得た者が,その情報をどう使うのかということに関して,余りにこれはひどいのではないかといったような使い方についての規制を考えるということも別途検討が必要な課題なのではないかなという感じもいたしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○富澤幹事 利害関係のない第三者の閲覧をどの範囲まで認めるのかというところについては,本日の議論をお伺いして,2点に分けて考えた方がいいのではないかと思っています。   1点はどこから閲覧をすることができるのかという問題で,もう1点は任意の語句での検索を認めるかという問題です。後者につきましては,当事者のプライバシーなどにも関連し,いろいろな御意見があるところだと思いますが,裁判所としては,任意の語句での検索まで認めるというのは相当ではないと思っています。当事者についても,利害関係のない第三者についても裁判所外から訴訟記録を閲覧することができるようにするのが望ましいと考えておりますけれども,任意の語句での検索については,繰り返しにはなりますが,認めるようなことはせず,現行法上の取扱いと同じように事件情報等を特定していただいた上で閲覧をしていただくというのが望ましいと考えております。   また,システムの設計・開発の観点からしても,任意の語句での検索まで認めることになりますと,システムへの負荷も重くなるところもありまして,これは飽くまで付加的な理由ではありますが,検索はちょっと行きすぎであると思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 言わずもがなのことかもしれませんけれども,今,垣内幹事が閲覧ないし謄写によって得た情報の使い方を事後,規制すべきだというふうにおっしゃったんですが,情報公開法ではそういう規制は一切していないと。その代わり,そういうふうに使われては困る情報は出さないという仕組みになっていて,実際上,後から事後的に刑事罰なり何なりでサンクションを加えるとしても,もう出てしまったら駄目という情報も結構あるわけですので,やはりまず事前規制として閲覧,謄写できる情報の範囲をきっちり定めていく方が筋なんではないかと思いました。失礼しました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 事前規制について,重要な課題であるということはそのとおりであると思いますので,その点については異論はありません。   それから,先ほどちょっと申し忘れたんですけれども,富澤幹事から検索のお話がありましたけれども,検索をどの程度可能にするかというのも重要な問題と思っておりますので,先ほど御発言があったような方向で,これはちょっと慎重に考えていただく方がよいのかなと考えております。   それから,もう一つ,実際に手続がどう機能するかということを見るに当たりましては,手数料の問題も非常に重要かなと思っておりますので,その辺りも視野に入れながら検討する必要があるかというふうに感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 湯淺でございます。   先ほど富澤幹事がおっしゃった検索インターフェースの問題でございますけれども,御参考までに,アメリカの連邦裁判所のPACERは,当事者の氏名だとか住所みたいなものをいわゆるフルテキストサーチを掛けることはできない,そういう機能は持っていない形で現状では提供されているかと思います。それから州の裁判所のシステムは,私も全州をきちんと調べたわけではないんですが,いろいろで,一定のカテゴリカルな訴訟についてはオンライン上の閲覧はできないようにしているシステムであったり,あるいは個々の事件ごとに閲覧制限を掛けているものであったり,あるいは米国だからできるのかもしれませんが,そういうものがアップロードされたときに,恐らくグーグル等にインデックス化をするなということを州裁判所は要求したりと,何か様々な状況であるかのように見受けられました。   それから,この問題につきましては,第三者閲覧に非常に慎重な方と,逆に積極的な方とで,多々いろいろな御意見があることを承知しておりますが,私が研究者の方,民間の方,あるいは弁護士の方といろいろこの問題について意見交換をさせていただいたときに,閲覧させる,させないは別にして,せっかく電子化された記録をきちんと保存をしておくということについて考えるべきだとよく指摘されます。要するに,電子化されていても,保存されなければ意味がないということです。もちろんサーバの維持費等は掛かるのかもしれませんが,物理的な記録を保存する場合に比べれば費用は低減されるであろうことを考えますと,将来的な歴史資料にするためにも,訴訟記録の保存ということについてはこの際きちんと考えるべきだという御意見が多かったということを御参考までに述べさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 先ほど来,利害関係のある第三者という切り口ではなくて,正当な理由などを持つ者に認めるという考え方が言及されているところかと思います。その点について考えますと,そのようにして正当な理由があるとして訴訟記録を閲覧した者が,それで得られた情報というのを不適切な目的のために使ったり,第三者に開示するということが起きないようにしなければなりませんので,一定の不作為義務を課すということは最低限,条件として必要なんだろうとは思っております。それに合わせて,例えば過料の制裁を違反に対しては科すということも考えられるかとは思いますが,実際上,それがどの程度実効性を持つのかというところは楽観はできないのだろうと思います。   そう考えますと,正当な理由を持つ者として,インターネットによって利害関係の有無を問わずに訴訟記録を閲覧することができる者については,かなり限定的に考える必要があるだろうと思います。それは過料の制裁うんぬんということではなくて,一定の不適切な行為を元々しないような人間,しないような立場の者であると類型的に考えられる者にしか,認めることは適切ではないのではないかと思いました。   手前みそのようで大変恐縮なんですけれども,例えば弁護士の場合には訴訟代理権を持っている士業者でございますので,自分が担当している事件の類似事案での事実認定資料の検討など,職務上の必要性が強く認められるとともに,弁護士法や職務基本規程に基づく秘密保持義務もありますし,懲戒制度を通じた遵守のシステムも存在しておりますので,そういった職務上の立場があり,職務上の必要性がある者に限って,正当な理由を持つ者として認めていくという考え方であれば,検討の余地というのはあるのかなと思いました。   なお,先ほど来,秘密扱いされるべき,つまり訴訟記録の閲覧の対象としないための事由,今は営業秘密と一定の個人に関する情報ですけれども,それを拡充するということも御提案いただいているところです。   1点留意しなければいけないと思いますのは,訴訟記録の閲覧制限を求めるときに,そういった一定の個人情報や営業秘密に該当するかどうかということを,厳密に言えばきちんと示さなければいけないところです。しかし,営業秘密について言えば,不正競争防止法が定めている3要件を本当に十分に満たしているのかということが厳密に確認された上で閲覧制限されているのかというと,必ずしもそうではなく,一応,その申立てをした者がある程度のことを言えば,相応に裁判所は認めてくださっているという,割とふんわりとした運用の部分もあるのではないかと思っています。それは閲覧制限の手続自体が非常に重たいものになってしまうと,それはそれで実務的にワークしないという問題があるからだと思います。   したがいまして,閲覧制限の対象となる事由を拡充するということ自体には私は反対というわけではありませんけれども,それで問題が十分に解決されるという性質のものではなく,やはり閲覧をすることになる者がどういう者なのか,そういう者に対してどういった規律を及ぼすことができるのか,実効性は確保できるのかという観点を併せて考える必要があるだろうというのが私の意見です。 ○阿多委員 91条について,現状の立て付けを前提に,インターネットや裁判所に備えられた端末以外での閲覧の議論をするのかと思っていましたが,謄写が許可される主体についても変更,改正の可能性が出てきましたので,一言コメントしたいと思います。   現状は,利害関係という要件で規律されており形式審査事項という前提で書記官権限にされていますが,先ほどお話に出てきた正当な理由になりますと,謄写申請者と記録との関係との距離という利害関係とは違う実質判断になりますので,それを書記官が判断できるのか疑問が生じます。そうすると,書記官権限ではなく正当な理由の有無を受訴裁判所が判断するべきという権限問題も生じます。  記録の閲覧制限についても,現状は閲覧の制限の申立てをすると,相手方,例えば原告が閲覧制限を申し立てても被告は争うことはできず,むしろ閲覧を希望する第三者が制限の解除という方法で争うしかないのですが,制裁等の話が出てくるのであれば,義務を負う当事者にも争う機会の保証を検討する必要があります。そういう意味で,91条,92条の仕組み全てについて検討するのであれば別ですけれども,ネットで閲覧できるかという議論とは分けていただき,どこまで改正事項に入れるのかという観点から整理していただいた方がよいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   この問題も議論が収れんしたかと言われると,この利害関係のない第三者によるインターネットを用いてする訴訟記録の閲覧を無制限に認めるということについては反対の御意見が多かったというふうに理解しました。   ただ,なお賛成の御意見もありましたし,また,これは恐らく社会全体にステークホルダーが散らばっているという問題,例えば本部会資料ではジャーナリズムの話も言及されておりますが,この場にはそれを代表される方は必ずしもおられないということだとすれば,やはり中間試案については一つにまとめて意見を伺うというのはなかなか難しい問題かなと思います。   他方では,91条,92条の現在の枠組み自体に対して疑問を呈される見解も複数示されたところですが,これが今回の改正の射程の中で受け止め切れる問題かどうかという御指摘もありましたけれども,これはかなり事務当局に精査していただかなければならない問題だと思います。また,本部会資料では,利害関係を疎明した第三者によるインターネットを用いた訴訟記録の閲覧,複製を許容する規律については反対する意見が見られなかったというので,前回の議論を整理していただいていますが,今日の議論の模様を見ると,必ずしもそうではないことが判明したようにも思いますので,事務当局の宿題として,追加的に検討していただく点として,中間試案にどのような形で記載をするか御検討を頂ければと思います。   それでは,よろしければ,付加的に検討していただく課題については,これで一応一通りは御議論を頂いたと思いますので,実はここからが本日の主題だったわけですが,残された時間がやや僅かにはなっておりますが,中間試案のたたき台の検討に移りたいと思います。   部会資料12になります。   これからこのたたき台に基づいて中間試案の取りまとめに向けて御議論いただくことになるわけですが,まず事務当局より,審議の対象等について御説明をお願いしたいと思います。 ○大野幹事 御説明いたします。   部会資料11までの審議をもちまして,第2読会の御審議を終えていただきましたので,ここからは中間試案の取りまとめのための調査審議をお願いしたいと考えております。   事務当局におきまして,これまでの議論を踏まえまして,部会資料12として「中間試案のたたき台」を作成いたしましたので,こちらの資料を基に御議論を頂戴したいと考えております。   中間試案の取りまとめの対象となりますのは,ゴシックの部分,本文と,その(注)でございます。中には甲案,乙案と複数の案が併記されている箇所や,項目末尾の(注)で異なる考え方が紹介されている箇所もございます。そのように,飽くまで審議の中間的な取りまとめというものでございます。   また,この複数の案が併記されている場合の甲,乙,丙という符号や順番は,優劣を表すものではありません。現行法を変更する程度の大きいものから近いもの,維持するものという順で並べているだけでございますので,御留意願えればと思います。   中間試案につきましては,今後パブリックコメントの手続をとることを予定しております。本日からの御議論に当たっては,今後のパブリックコメントの対象となるものであるということを前提に,中間試案としての提示の仕方としてどうかというところを中心に御審議を賜りたいと考えております。   なお,中間試案につきましては,事務当局の責任におきまして,その補足説明を別途作成させていただきまして,中間試案をパブリックコメントの手続に付す際に,その補足説明も併せて公表させていただく予定でございます。部会資料12に記載しました説明は飽くまでもこの部会資料の説明であって,これがそのまま中間試案の補足説明となるわけではございませんので,その点につきましても御留意願います。   また,中間試案のたたき台においては,最終的には最高裁判所規則により規定されることとなると思われる事項につきましても,ある程度盛り込んでおります。これらの事項につきましては,最終的には最高裁判所の規則制定権に基づき最高裁判所にて規律化されることとなりますので,要綱には記載されない性質のものではございますけれども,重要な事項につきましてはパブリックコメントに付し,広く一般の方の御意見も頂くことが有益であると考えまして,このようにさせていただいた次第でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   そのような趣旨でございますので,本日,そしてこれからこの中間試案の取りまとめに向けては,個別の案についての賛否についての御意見を頂戴するということではありません。甲案がいい,乙案がいいとか,あるいはこの提案には反対だということではなくて,飽くまでも公表して,パブリックコメントを行う対象として,どのような形でお示しをした方が一般の方々からの御意見を頂きやすくなるかとか,そういう示し方の適切さ,こういう点を中心とした観点から,この部会資料12の内容,あるいはその表現ぶり等について御議論を頂きたいというふうに考えているところであります。   以上が,この中間試案についてのこれからの御審議の仕方という点でありますけれども,この点につきまして,何か御質問等があれば承りたいと思いますが。 ○日下部委員 中間試案のたたき台はページ数も多いものですし,様々なトピックがありますので,御議論をするときにはある程度対象を区切って,ここからここまでについて意見をお願いしますというような形で進めていただくことになるのかなと思っているのですが,そうした進め方についてどのようにお考えなのか,最初に御説明を頂ければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   基本的には,もちろんある程度まとまったところは一つで御審議を頂くかもしれませんけれども,項目を区切って,例えば「第1 総論」については,この1,2,2は今ペンディングになっていますが,3,4という形で分かれておりますけれども,このそれぞれについて御意見を頂いていくという形で進めようというふうに,基本的にはそういうことで考えております。   よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○大谷委員 中間試案をパブリックコメントに掛ける前提でということですが,全体をざっと確認させていただいた限りでは非常に難しいというか,特にインターネットですとか,そういったことに技術的な知識を持っている人ほどつまずきやすい部分があるのではないかなとも思っておりまして,私どもが御説明を頂いたときに,裁判所の事件管理システムの概要ですとかイメージをある程度分かりやすく御説明いただいて,その用語の持つ意味というのも対応関係をインターネット的な用語というか,ITで普通使われている用語で平易な形で御説明いただく文書も御用意いただいておりましたので,そういったものも併せてパブリックコメントの際には公表されて,それと突き合わせながら御意見を頂くということが想定されているのかどうか教えていただき,もしそういったものを作られているのでしたら事務当局で早めにお送りいただいて,それを参照しながら議論させていただいた方がよろしいかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   事務当局から,いかがですか。 ○大野幹事 先ほども若干言及させていただきましたけれども,通例と同様に,今般の中間試案の取りまとめ時に,事務当局の文責におきまして,中立公平な形で補足説明を別途作成,公表させていただく予定でございます。その際には,読んでいただく方に何の御意見を伺いたいのかということが分かりやすくなるように努めたいと考えております。 ○山本(和)部会長 どうしても,この中間試案の提案の本体それ自体は,最終的な法律の条文になる形をイメージして作られているものなので,御承知のように日本の法律はなかなかやはり今でも分かりにくい部分がかなりあるということは否定できないところで,できる限り補足説明でそれを補っていただいて,一般の方々に答えやすいようには,私自身も努めたいというふうには思います。是非分かりにくいところがあったら,ここは分かりにくいと会議の場でも言っていただければ,それを補足説明に反映できると思いますのでよろしくお願いいたします。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか,中身の議論に入っていくということで。   よろしければ,それでは先ほど申し上げたようなことで,まず「第1 総論」から順次検討をしていきたいと思います。   まず,事務当局の説明は,この第1の部分について一括してお願いした後,それぞれの番号,項番について順次議論をしていきたいと思います。   それでは,事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 説明をさせていただきます。   2ページ目の「第1 総論」でございます。   第1の1は,「インターネットを用いてする申立てによらなければならない場合」についてでございます。   こちらの本文は,第1回会議の幅広い御議論や第5回会議での御指摘等を踏まえまして,甲案,乙案,丙案という形で御提示させていただいております。原則として,インターネットを用いてする申立てによらなければならないとする甲案,訴訟代理人がいる場合にはインターネットを用いてする申立てによらなければならないとする乙案,インターネットを用いてする申立てをしなければならない場合を設けないとする丙案としております。なお,訴訟代理人につきましては更に検討する必要があるということにしております。   (注1)でございますが,こちらは部会資料9の(前注)において提示した内容を更に整理して記載したものでございます。   (注2)は,部会資料9の第1におきまして御議論していただきました内容でございまして,書面で提出された場合の様式審査等に関する規律を設けることを記載したものでございます。   続きまして,5ページ目でございまして,2のシステム障害等に関しましては,先ほどの御議論を参考に今後追記をしていく予定でございます。   同じく5ページ目の「3 電子情報処理組織を用いて提出することができる電子データの種類」につきましては,こちらは部会資料2の3で御提案した内容を維持したものでございます。   (注)でございますが,こちらは第1回会議におきます御意見を踏まえまして,音声情報に変換するデータの提供を求めることができるとの規律を設けることを記載しております。   5ページ目の「4 訴訟記録の電子化」でございますが,こちらは部会資料2の規律を基本的に維持しつつ表現ぶりを変更しております。なお,(2)のイにつきましては,提案を更に具体化して記載しているところでございます。   (注1)でございますが,こちらは部会資料9において提案した内容を記載したものでございます。   (注2)でございますが,こちらは部会での御意見等を踏まえまして,裁判所が電子化する際の手数料について検討することについて記載したものでございます。   簡単ですが,私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,「第1 総論」の部分につきまして,資料に記載された順番で検討いただきたいと思います。   まず,資料2ページの「1 インターネットを用いてする申立てによらなければならない場合」,この部分について,どなたからでも結構ですので御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 (注2)ですが,まず訴状について書面で提出された場合と,2ページの下から2行目「また,答弁書について」続けて記載されているのですが,従前の議論は,訴状については補正命令という規定がある。他方,答弁書には規定がないが,同様に考えることができるかと分けて議論がされてきたと理解していますが,この書きぶりでは,両者に差異があることが伝わりません。文末は,訴状は「ものとする」とされ,答弁書は「考え方がある」と書き分けられていますが,訴状も書面で堤出された場合にどうするのかというのは,案としては固まったと理解していますが,違うのでしょうか。「また」で訴状と答弁書をつなげると,どこまでが確定していて,どこまでが意見があるのかが分からないのではないのではありませんか。端的に言うと,改行された方がよいということです。   次に「様式審査」という言葉ですが,内閣法制局と調整された用語ですか。ここは申立てについて口頭で申述するか,書面で提出するか,さらにデジタルを用いてするかという場面ですが,「方式」という表現が馴染むのではありませんか。様式というと,我々は判決の様式という場面で用いており,そのような場面で使用する言葉と思っていました。様式は定まった言葉かが質問です。 ○山本(和)部会長 では,事務当局からお願いします。 ○大野幹事 様式という言葉については,暫定的にこのように表現をさせていただいているものです。法制化に当たって,この表現が適切かどうかについては,事務当局にて,法制的な観点から検討を進めてまいりたいと考えておりますが,差し当たりまして中間試案に載せる言葉としても余りよろしくないということであれば,そこも含めて考えさせていただきたいと思います。 ○阿多委員 私見は,方式の方がよいと思いました。   もう1点,4ページ(5)では「インターネットを用いた申立てをしなければならない場合において,訴状が書面によって提出したときの書面の取扱い」と記載して「書面の取扱い」という言葉が使われていますが,他方,5ページ以下の4の(2)のイでは,訴訟記録の電子化のタイトルの下,一旦書面で堤出された場合に,その書面をいつまで保管するのかという話が出ています。両者を区別するため,4ページ最後の行の「書面の取扱い」の趣旨対象を明確化する,分かる書き方をする方がよいと思います。 ○山本(和)部会長 先ほど御説明ありましたが,これは補足説明の内容をなすものではないので,これ自体がパブリックコメントの対象にされるものではないので,この説明の部分の文言については,指摘していただかなくても大丈夫ではないかと思います。 ○阿多委員 分かりました。   説明がそのまま中間試案に記載されるわけではないことは了解していますが,5ページ1行目の説明部分にある「なお書」の意図を確認させて下さい。「なお,同審査の主体については,裁判所書記官が補正処分として行うこととする考え方もある。」と記載されています。書記官権限は第17でも記載がありますが,甲案のただし書の判断を書記官の審査にする可能性があるという意味でしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○波多野関係官 波多野でございます。   ここの様式審査につきましては,この議論をしていただいた際に,様式の審査の主体について,そこに限っていたという議論だと思っておりますが,裁判所書記官がその審査をするということの考え方もあるのではないかという御意見が部会で出たというふうに認識しておりまして,その旨をここに記載させていただいているという趣旨でございますので。 ○山本(和)部会長 文言の書き分けとしては,基本的には「ものとする。」と書いてある部分はある程度のコンセンサスがあるもので,一方で全員一致ではないと思います。これに対して,「考え方もある。」というのは,そういう意見がこの部会で示された,しかし,コンセンサスがあるものではなくて,今後それが採用されていく可能性もそれなりにあるようなものとしての考え方が示されたというぐらいの位置付けかなと思いますけれども。 ○阿多委員 しかし,5ページの2行目以下では「(注2)は,この点について提示したものである。」という記載がありますが,(注2)の記載ぶりからは,甲案のただし書は書記官の審査権限とするとは読めないと思うのですが。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大野幹事 御指摘の点につきましては,部会資料12の42ページのIT化に伴う書記官事務の見直しの項目の(注)の中において,訴状の補正及び却下の一部を裁判所書記官の権限とするものとする考え方があるとの形での提示をさせていただいているところでございますが,御指摘の2ページの(注2)だけを見ても,そのような理解はできないのではないかという御指摘と理解いたしました。そこは整理をしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   阿多委員,よろしいですか。 ○阿多委員 結構です。 ○山本(克)委員 乙案の表記の仕方なんですが,「訴訟代理人」という言葉が甲案の中でも出てきていて,甲案では「法第54条第1項ただし書に規定する訴訟代理人を除く。」と書いてあるんですが,法令による訴訟代理人をどうするのかというあたりがもう少し本文で,甲案で表記するのか,乙案で表記するのかよく分かりませんが,出ていた方がいいのではないかなという気がします。恐らく多くの人が,仮に訴訟代理人に限って義務化することとした場合における訴訟代理人としてコンセンサスが働くのは,士業者である委任による訴訟代理人と指定代理人なのではないのかなという感じがするので,ポジティブにそういうものを挙げた上で,その他の法令による訴訟代理人についてはなお検討が必要であるというような書きぶりの方が,後半の方は補足説明だと思うんですけれども,イメージが湧きやすいような気がいたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   今の関連ですか。 ○富澤幹事 今の山本委員の御発言に関連して発言させていただきます。   これまでの部会では明確に議論されていなかったと思いますが,商事法務研究会での民事裁判手続等IT化研究会の際には,システム送達が行われる場合には,国又は地方公共団体に関しては通知アドレスの登録を義務付ける点について特段の異論はなかったのではないかと思います。そういう観点から,国又は地方公共団体の指定代理人については,甲案や乙案ではなく,仮に丙案であったとしても,インターネットを用いてする申立てを義務付けることになると思っておりました。中間試案の本文で具体的に書いていただくのか,補足説明で書いていただくのかは事務当局にお任せするところかと思いますが,このような点を実際にパブリックコメントに付す際には明確にしておいた方がよろしいのではないかと思ったところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 観点が違うのですけれども,現在の甲案,乙案,丙案の記載の,その前にある柱書きの末尾のところによりますと,「次のいずれかの案によるものとする。」と書かれておりまして,これを読んだ方,つまりパブリックコメントの募集に応じてコメントをしようというふうに考える人は,甲,乙,丙のどれがいいのかということを考えるだろうと思います。その際には,恐らくは現状においてどの案を採用すべきかという観点での意見が提供されることになるだろうと思います。   ただ,こちらの部会でも大分議論したと思いますし,少なくとも議論の前提にはなっていた段階的実施の考えが出てこないおそれがあると思いまして,多くのコメントというのが,今正にこの現状に,今の現状においてはどうなのかという観点で意見が出てきてしまうのではないか。そうしますと,例えば甲案を見たときには,これは裁判を受ける権利を現状においては大いに損なうことがかなり予想されますので,甲案を支持する意見というのは少なくともかなり少数になるのではないかなというふうに予想しています。   ただ,私の理解するところでは,オンライン申立ての本格実施というのは4年度先である2025年度中と考えられていると思いますし,仮に甲案のような状態になることがあるのだとしても,それは2025年度の何年度先になるか分からないものであって,そのような甲案の適否を現状をベースに判断させることになってしまうのだとすると,中間試案の示し方としてはミスリーディングではないかなと思いました。どのように説明するのがよいのかということについては事務当局に御判断いただきたいと思いますが,何らかの形で,その段階的な物の考え方というものを含めて,多くの方が検討できるようにしていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   事務当局,よろしいですか。 ○大野幹事 記載ぶりを含めて検討したしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○富澤幹事 今の日下部委員の御指摘は非常に重要だと思っておりまして,裁判所の方でも,現在,民事訴訟法132条の10等に基づく電子提出の先行実施についてのアプリケーションの開発等を進めております。したがいまして,法律が改正されるまでに段階的な運用をすることによって,インターネットを用いた申立てのハードルを下げていく取組を実施する予定であることも,補足説明の中で記載していただいた方がよろしいかと思います。このような検討をしていることを記載していただくと,パブリックコメントに対する回答を検討するに当たってもいろいろな情報が集まってよろしいのではないかと思いますので,付言させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。   (注2)の記載に関してなんですけれども,(注2)の3行目のところで,「当事者本人から訴状等が提出されたときは,一旦受付をした上で」うんぬんという記載になっておりますけれども,この記載の趣旨としましては,訴訟代理人が書面で訴状等を提出してきたという場合については,一旦受付はもうしないということをここで示しているという,そういう理解になるのでしょうか。その点については部会の議論では両論と申しますか,議論があったところかなというふうにも思っておりますので,その点について御確認を頂ければと思いまして発言をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 では,事務当局からお願いします。 ○波多野関係官 波多野でございます。御指摘ありがとうございます。   こちらは少なくとも甲案を前提として御本人から書面が提出された場合を念頭に置いて記載したものでございまして,垣内幹事から御指摘ありました訴訟代理人についても,両論あるという御指摘だと思いますので,そこが反映されるような形で検討していきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 御指摘ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○服部委員 乙案についてでございますけれども,この乙案は,この後の説明などを拝読しますと,弁護士などの士業が訴訟代理人となるときにはインターネットを用いることを前提とするということで,人的な例外事由を設けないという前提での御提案のように読めるのですけれども,この点についてはまだいろいろ協議,議論をさせていただいているところかと認識しております。第1回の部会の会議においては,日弁連委員から弁護士にとっての他人の権利を実現するための手続の履行で善管注意義務なども負っているということと,あとセキュリティ,ウェブの利用について,トレーニングを受けているわけではないということで,一律義務化ということについての抵抗感についての指摘をさせていただいておりますし,また,高齢で対応が困難であるとか弁護士過疎地域だとか,そういった状況の中で一律義務化というところでの懸念があるということを意見として述べさせていただきまして,委員,幹事の先生方からも様々な御意見を頂戴したところでございます。   また,第5回の前回の会議でも,乙案が出ましたときに,訴訟代理人によるオンライン申立てを義務化した状況での書面の申立てでも,甲案と同様に例外を認める規定を置くべきという意見なども述べさせていただいておりまして,協議を頂いているという経過はございますので,乙案においてもオンライン義務化の例外を設けるということについて,(注)などの形で記載を加えていただければと考えておりますので,御検討をお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   事務当局からはありますか。 ○波多野関係官 波多野でございます。御質問ありがとうございます。   この点につきましては,そういう議論があったところかなと思ってはおりましたが,会議での御議論としましては,弁護士,司法書士等の士業の方について例外を認めるまでの必要もないのではないかという御意見があったところかなと思っておりまして,それを踏まえて,今回,資料を作成させていただいたところでございます。   その上で,そこも含めまして御議論いただいた上で,更にこちらの方で検討させていただくことになるのかなと思っているところではございますが,御意見あれば,そこは頂ければと思います。 ○山本(和)部会長 いかがですか。 ○富澤幹事 第1回会議における議論の印象としては,士業者についてはインターネットを用いてする申立ての義務化は当然であるという御意見が大勢を占めており,もちろん弁護士委員の方からはそうではないという御意見もあったかと思います。したがって,中間試案の本文又は(注)の記載としては,このような記載がこれまでの部会の議論を適切に反映しているのではないかと思います。もちろん補足説明の中では,弁護士についても例外を設けるような意見もあったことを書いていただく方が適切だと思いますが,裁判所としては,繰り返しにはなりますけれども,士業者に対してはインターネットを用いた申立てを義務付けるのが相当であるという意見も申し上げたことも補足説明に書いていただくことになろうかと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   よろしいですか。   その点は,それではそういうような扱いで,補足説明の中に議論の経緯を書いていただくと。 ○日下部委員 一言だけです。   今,服部委員の方が言われたことは,乙案についてという御説明でしたけれども,恐らく甲案についても同じだと思いますので,補足資料なのかどこなのか場所は分かりませんけれども,言及していただくときには甲乙両案について共通の問題意識だということで整理いただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。   1の点はこの程度でよろしいですか。   それでは,また戻っていただいても結構ですが,便宜,先に進ませていただきます。   資料12の5ページの2の裁判所のシステム障害,通信障害等に関する規律は,正に本日御議論いただいたところで,本日の御議論を受けて,これから原案を作っていただいて,またその点については御確認を頂きたいと思います。   続いて3ですね,「電子情報処理組織を用いて提出することができる電子データの種類」,この点につきまして,御質問,御意見あればお伺いしたいと思います。 ○山本(克)委員 再三申し訳ありません。   (1)の表現ぶりなんですが,公に標準化されたという言葉遣いがされているんですが,これを読むと,何かJISやJASのようなものを想像してしまうのですが,考えられているのはデファクトスタンダード化していて,割と普及しているということが言いたいのではないかなと思うので,ちょっと公にというと,やはり公的な機関が定めているというニュアンスが出てくるような気がしますので,ちょっとこの言葉遣い,御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大野幹事 この表現につきましては,法令での用例を踏まえたものではありません。山本克己委員御指摘のように公的な機関が定めているものに限るという趣旨ではありませんので,表現振りについてはより分かりやすいもの,あるいは法制としてふさわしいものをよく検討したいと思います。 ○山本(和)部会長 御指摘ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 項目の3は,「電子情報処理組織を用いて提出することができる」という記載になっていて,一方,その後にある4の,例えば(2)を見ますと「インターネットを用いてする申立て」という表現になっておりまして,恐らく同じことを意味しているのだと思いますので,表現は統一,できればインターネットという言葉の方に統一していただいた方がよろしいかなと思います。 ○山本(和)部会長 御指摘ありがとうございます。   1も題目は「インターネットを用いて」になり,本文の方は「電子情報処理組織を用いて」ということになっていますが,見出しを日常用語にして本文を法令用語というのは分からなくはない感じもしますが,全体として統一感がないというのは御指摘のとおりだと思います。事務当局としてのお考えはいかがですか。 ○波多野関係官 すみません,波多野でございます。   ここは,山本部会長から御指摘いただきましたように,タイトルのところは「インターネットを用いて」というようにする方が,全体の資料の平仄が合うと考えているところではございまして,本文は条文化を意識して電子情報処理組織という言葉を使って整理していくことも考えられるのかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 御指摘ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   おおむねよろしいですか。   この(注)の部分では,視覚障害の問題についても(注)で記載されておりますが,この部分も含めて,このような書きぶりでよろしいでしょうか。   それでは,続きまして4ですね。「訴訟記録の電子化」の部分について御意見を頂戴できればと思います。 ○阿多委員 表現の問題というよりも,私自身が(2)を理解できていないので質問します。例えば書面5枚の準備書面が提出された状況において,裁判所がデータ処理に失敗して4枚だけを訴訟記録に保存したとします。その後の口頭弁論や争点整理の際に,書面で提出された5枚の準備書面を陳述したことになるのか,それとも電子化された訴訟記録である4枚の準備書面を陳述したことになるのか,どちらですか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いできますか。 ○波多野関係官 波多野でございます。   私の理解では,期日では確認がされるものだというように理解をしておりまして,その関係で期日が経過するまでの間は書面を保管するということかなと思っておりましたので,その際にもし抜けていれば,陳述をしないのではないかと思っていたところではございます。 ○阿多委員 争点整理や口頭弁論の場で気付けばよいのですが。イで予定しているのは後で当事者が確認して足りないことに気がつき追加する場面ではありませんか。にもかかわらず,そういうことは起こり得ないということですか。 ○波多野関係官 波多野でございます。   現象として起こり得ないかどうかというところを明確にお答えすることは難しいところでございます。一方で,現在でも当事者が5枚ファックスしようと思ったところが4枚しかなかったというものがあり得ると思いますが,その場合は,その4枚でしか陳述されないことになってしまうのだと思いますので,それと同じことなのかなとは思ってはいます。 ○阿多委員 本来の5枚で陳述するためにもう一度やり直すという前提であれば,イで挙げられている〔直後の期日が経過する〕と廃棄する考え方では,提出された準備書面が4枚だったのか5枚だったのかが分からない場面が起こり得るのではありませんか。 ○波多野関係官 波多野でございます。   恐らく出された御本人の手元には陳述すべきと考えていたものが残っているのかなと思っておりまして,もし後ほど分かったときにはそこで出し直すということもあり得るのだろうとは思っております。 ○阿多委員 現状の実務は,書記官が送付状に記載している枚数と実際の着信の枚数を確認し,確認できたものを訴訟記録化するということになっていますが,「4」での提案は,場合によっては当日に書面で提出される準備書面を後に電子化する際に齟齬が生じる可能性が起こるのではないかと危惧するのですが。 ○山本(和)部会長 裁判所の方からイメージを言っていただいて。 ○富澤幹事 阿多委員のおっしゃるようなケースは確かに起こり得るとは思うのですが,期日で準備書面を陳述する際には書面を電子化して電子記録となったものを当事者の方も当然確認をする前提になっておりますので,その際に見逃すこともゼロとは言えませんけれども,基本的には問題にならないのではないかと思います。   そういう意味で,先ほど波多野関係官からも御説明がありましたけれども,期日又は通知された日から一定期間の間に当事者の方で,自分が手元に持っているものと電子化されたものが同一であるかを確認した上で,期日において陳述又は取調べをすることになるので,問題は発生しないことになると思いますし,現状でもファクシミリでは同じような問題は起こり得ると思いますけれども,実際には問題にはなっていないと思います。 ○阿多委員 すみません,くどくて。ここで想定されているのは,いわゆる事件管理システムを利用しない,書面で提出した場合に法廷等で本人もモニターに映る電子データを確認するという前提ですね。しかし,実際は書面を提出した本人は手元の書面を見ていてモニターに映る電子データの落丁を見落とすこともありうるのではありませんか。余りたらればの議論をしてはいけないとは思いますが。何をもって陳述の対象にするのかを確認したかったのと,後で電子記録が実際に本人が提出したものと違っていた場合に,イの期日直後に廃棄する考え方では確認できない場面が起こり得ることを危惧して質問した次第です。補足説明で説明いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 もう1点,(注2)の手数料ですが,書面で提出した当事者が電子化してもらうための手数料という意味ですね。この後で,相手方が事件管理システムに登録していない場合に,電子データを提出した当事者が裁判所に手数料を支払うという提案があるのですが,いずれの手数料も訴訟費用化されることを前提にしているのか,そうではなく各自負担の訴訟費用の対象とならない費用なのか,どういう意味で使われているのですか。 ○渡邊関係官 関係官の渡邊の方からお答えします。   御指摘の手数料というのは,提出した書面を裁判所に電子記録化してもらうに当たって支払う金員のことを申し上げております。その支払った金員が更に訴訟費用となるかどうか,これは手数料を徴収するという規律を設けるものとした場合に,更に御議論を頂かなければならないところなのかなと考えておりますので,御指摘の点は,次の議論ということかと思います。 ○阿多委員 分かりました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○大坪幹事 その(注2)の関係なんですけれども,(注2)では甲,乙のいずれの場合にということなんですけれども,ここは丙案の場合はあえて外されているのでしょうか。外されている場合は,それは何か理由があったりするのでしょうか。 ○渡邊関係官 関係官の渡邊です。   御指摘の点は,第5回で幹事の方から御提案があったことを踏まえて記載をしたものでございます。そのときは甲案,乙案の議論の中で出てきた御提案でしたので,その趣旨を忠実に記載させていただきました。丙案の場合にも,論理的にはあり得ることかと思いますので,そのことも盛り込むべきだということであれば,検討させていただけたらと思います。 ○大坪幹事 盛り込むべきという考えではないですが,分かりました。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 今盛り込むべきではないという話が出たのですが,丙案によっても,片一方当事者が事件管理システムを用いて提出する。他方は,書面で提出する場合,裁判所は訴訟記録を何で作るんですか。 ○波多野関係官 波多野でございます。   現時点では,この一つ前の5ページ目,4の(1)でお示ししておりまして,訴訟記録は全て電子化されているものという前提で,この資料は作成させていただいているところでございます。 ○阿多委員 そうすると,丙案によっても書面で提出する人がいる以上,訴訟記録化するためには電子化するための費用の問題は起こると思うのですが。ここは甲案,乙案だけでよいのですか。丙案は任意だから裁判所の費用で電子化するということでしょうか。 ○富澤幹事 今の阿多委員の御指摘については,裁判所内部でもいろいろと議論をしたところでして,丙案で紙媒体の書面の提出がかなり多い場合,例えば両当事者ともに紙媒体で書面を提出してきた場合に,そもそも訴訟記録を電子化するのだろうかという議論も当然あり得るのだろうと思います。ただ,そちらは裁判手続等IT化検討会のときから,訴訟記録は電子化することになっておりましたので,そういう前提でこの部会でも議論がされていると思っていたところです。そもそも全面的に電子化することがいいかという点も,議論の対象に当然なり得ていいのではないかと思いますが,そういう前提で考えますと,丙案の場合にも,電子化手数料を徴収するかどうかを議論の対象にすべきなのではないかと思います。この(注)に記載するのか,あるいは補足説明にするかは,事務当局にお任せしたいと思いますが,何らかの記載をした方がいいのかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 恐れ入ります。今の点にちょっと関係するんですけれども,先ほど日下部委員から,いつ実施されるかというので2025年度のお話がございまして,私は今も丙案でございますが,社会情勢等から,いずれ様々なものが電子化されるであろうということは理解しております。しかし,これについて義務化することを法律で定めることに対しては反対と思っております。   ただ,費用というか,この法律で定めることと,それに国が目指している電子化の政策に対してどう進めていくかというのは別の話ではないかと思っていまして,例えば紙で出す場合と電子データで出す場合に,費用が違うというのはあってもいいのではないかというのは思っておりまして,そういう政策の方で,電子化を目指すというのはあるのではないかと思います。   ただ,パブリックコメントのところに国がどういう方向を目指しているかということと費用に差が出るということは,やはり最初に分かっていないといけないことではないかなという思いはございますので,今の辺りはしっかり書き込んでいただいてよろしいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ちょっと今の点を踏まえて(注2)のところ,丙案についても書き込むかどうか御検討を頂ければと思います。   ほかにいかがでしょうか。   おおむねよろしいでしょうか。   それでは,第1のところの御議論,かなりいろいろな点について御指摘を頂きました。特に文言について,必ずしも全体で整合性がとれていない部分もあるというような御指摘も頂きました。特に総論の1のところで甲,乙,丙と,今のところこの3案だけれども,その段階的な実施というようなことも考えられるとすれば,そういうお考えの意見が出やすいような表記の工夫というのはあってしかるべきではないかという御意見は誠にそのとおりと思いますので,そういうコメントがしやすいような形で,事務当局では引き続き工夫を頂ければと思います。   それでは,よろしければ第2の方に移りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   「第2 訴えの提起,準備書面の提出」という部分ですが,ただ,この部分は,2の「濫用的な訴えの提起を防止するための方策」というのは,正に先ほど御議論を頂いた部分でありますので,1の「インターネットを用いてする訴えの提起及び準備書面の提出」,この項目について取り上げて御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局の方から資料の説明をお願いします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   本文1は,これまでの会議において御提案した規律を基本的に維持しております。また,インターネットを用いて訴えの提起等をする際の本人確認の在り方について,第2回会議において出された御意見も踏まえ,引き続き検討すべきことを注記しております。   短いですが,御説明は以上となります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第2の1の点について御意見を頂きたいと思います。 ○井村委員 井村です。   本人確認に関する部分について,少し意見を申し述べさせていただきたい。   本人確認に関しては,インターネットによる訴訟の場合は大変重要になります。そこで,この本人確認については,是非ともマイナンバーカードによる公的個人認証をしっかりと活用すべきであると考えています。今週の月曜日にはデジタル・ガバメントの実行計画が閣議決定されていますが,その中でもマイナンバーカードによる公的個人認証は,市町村による確かな本人確認を経て発行される最高位の公的な本人確認ツールであると記載されています。今後はマイナンバーカードの公的個人認証について,暗証番号のみではなく生体認証などによっても確認されるという仕組みも検討することになっていますので,是非とも,本人確認についてはマイナンバーカードの公的個人認証を活用する方向で検討していただきたいと思います。   あわせて,以前も質問させていただいたが,行政のシステムと司法のシステムの接続について意見を述べたい。マイナンバーカードの公的個人認証は,マイナポータルというシステムを使うわけですが,マイナポータルと事件管理システムを接続することによって,本人確認のみならず,民事訴訟のIT化に対しても非常に有意義なものになるのではないかと考えています。行政と司法の違いは理解していますが,システムは税金を使って構築するわけですから,効率化の観点からも,二重に同じようなシステムを作ることがないように,今後御検討いただければと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   重要な指摘を頂きましたので,補足説明等で対応を頂ければと思います。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか。   それでは,この2の部分はまた付加的に御議論を頂くこととして,第2の点についての議論は以上ということにしたいと思います。   続きまして,「第3 送達」と「第4 送付」は本来一体のものなんですが,ちょっと時間的に最後までいけるか自信がありませんので,取りあえずは,まず第3の部分について,送達の部分ですね,事務当局から資料の説明をお願いします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   まず,資料7ページの「1 システム送達」についてでございます。   これまで御提案しておりましたシステム送達の規律と内容を大きく変えているものではございませんが,記載ぶり等を少し変更させていただいております。   このうち本文(3)につきましては,これまで送達の効力発生時を「閲覧した時」としておりましたけれども,ひとまずこれを受送達者の使用する端末に「記録された時」としております。   また,本文(4)につきましては,前回の会議においてみなし閲覧の例外について御議論いただきましたが,システム障害が生じた場合等は訴訟行為の追完によって対応することで足りるとの御意見があったことを踏まえまして,ここでは例外のないシンプルな形にさせていただいております。   (注1)につきましては,前回の会議で御意見を頂きました訴状を送達する際にシステム登録に誘導するはがきのようなものを送るというアイデアを念頭に置いたものでございます。このような取扱いにつきましては,法制化するという方向性と,実務上の運用にとどめるという方向性とが考えられますが,ここではひとまず後者の考え方を採っております。   また,(注2)につきましては,システムに登録していない者に対して紙で送達をする場合に,送達をする書類を誰が用意すべきかといった点についてでございまして,これまでの御議論を踏まえまして,記載させていただいております。   次に,資料11ページの「2 公示送達」についてでございます。   こちらもこれまでの御提案内容から大きな変更はございませんが,公示送達の方法につきまして,インターネットを利用した方法を導入した場合における掲示の内容等を整理させていただいております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,まず7ページの第3の1ですね,「システム送達」の部分につきまして御質問,御意見を頂戴したいと思います。 ○日下部委員 ありがとうございます。   (3)において,システム送達の効力発生時についての規律が説明されておりますが,今,事務当局から御説明いただきましたとおり,従来は閲覧の時と表現されていたところが,今般初めて,「電子情報処理組織を用いて通知アドレスを届け出た当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類が記録された時」と表現されております。しかし,元々閲覧の時と考えていましたのは,システム送達の効力発生時を受送達者の使用する端末における通知の受領や送達対象電子書類の記録等がなされた時とすると,裁判所がそれを公証することが不可能か,著しく困難であると考えられたところから,閲覧であれば,裁判所における事件管理システムのログ情報に基づき,公証が可能であるとの判断に基づいていたと理解をしております。ところが,今回提示されております表現ですと,これまでの検討,議論が後退した形になってしまうのではないかと思われましたので,ここの記載は見直していただく方がよいのではないかと思いました。   なお,閲覧という言葉につきましては,訴訟記録の閲覧とシステム送達の効力発生時を示す閲覧が同じ用語であるということについて,混乱を招くのではないかといった御趣旨の指摘もあったところかと思います。もしこれが,今回の表現の変更の理由ということであれば,閲覧という言葉の使用を避けるのであれば,例えばですけれども,裁判所側で時点の把握が可能となる受送達者の行為として,例えばアクセスといった表現を用いることも検討してよいのではないかと思いました。よろしくお願いいたします。 ○富澤幹事 日下部委員の御指摘とほぼ重なるのですが,(3)の「当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類が記録された時」というのは,パブリックコメントを行う際の文言としては誤解を招きやすいのではないかと考えております。民訴法132条の10の文言にそろえる趣旨もあろうかと思いますし,裁判所の事件管理システムにアクセスすることによって利用者の端末にキャッシュのようなものが記録されることをもって「記録」と言っておられるのではないかとも思いましたけれども,技術によっては,キャッシュが残らない形で閲覧することも可能のようですので,そういう観点からは,日下部委員から御発言のあったアクセスや閲覧,確認といった表現を使ってパブリックコメントに付した上で,今後,法律の条文にする際には法制的に更に考えるということでよろしいのではないかと思ったところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   事務当局からコメントはありますか。 ○大野幹事 この点につきましては,従前,閲覧という言葉が訴訟記録にも閲覧という場面でも使われているという関係から,閲覧という同じ文言を用いると,趣旨が分かりにくいのではないかといった御指摘を受けていたところです。今後法制化を目指していくに当たって,条文の形を意識していく必要もあり,このように記載をさせていただいたところです。   もっとも,技術的にそもそもそれが公証できなければどうにもならないというところもありますので,補足説明の中で詳しく書くということも含めて表現振りについては検討させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 阿多委員は関連ですか。 ○阿多委員 私も従前から用語として区分すべきだと発言している部分です。ログインとかログオンとか片仮名を使われることが多いようですが,他の表現を検討いただけたらと思います。   別の点です。(2)ですが,第2の1とも関連するかもしれません。主語の確認です。(2)を字面だけ読みますと,「通知アドレスの届出をした当事者等に対する送達は,法第99条及び法第101条の規定にかかわらず,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類を記録し」と記載し,続けて「情報を受けることができる状態に置き,通知アドレスを届け出た当事者等の通知アドレスにその旨を通知してする。」と表記されています。第2の1の準備書面の提出は,当事者が「記録する方法によりする」と表記されています。これらを比べると(2)の3行目の「記録し」は誰が記録したことを前提とするのですか。主語がわかりにくいのですが。(2)の主語は「当事者等が」ですか。(2)は「送達は」となっていますので主語は裁判所書記官ですか。「電子書類を記録し」とは誰かするのですか。裁判所がするわけではなくて当事者が記録したもの情報を受け取ることができる状態に置くという意味ですか。それを「記録し」という表現されているのかという質問です。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○波多野関係官 波多野でございます。   ここはシステムの作り方との関係があるのかなと思っているところでございまして,イメージの一つとしては,当事者が一旦裁判所のコンピュータに記録をすると,それを書記官が違うエリアに記録をし直すというようなことをイメージすると,おそらく現在の(2)の書き方のような形になるのではないかなと思っているところでございますが,当事者が記録したものを特段動かすことなく送達に移行していくということであれば,(2)の書き方を工夫するということもあるのかなというふうに考えているところではございます。 ○阿多委員 ありがとうございます。   先取りしますけれども,送達と直送の書き方に関連して,正に書記官の権限に関連することが絡むのかなとも思いつつ質問させていただきました。   次に(注2)です。この部分は私と裁判所の間でいつも議論になるところですが,逆に(注)でよいのかという質問です。この取扱いによって,今後いわゆる本人サポートの在り方も含めて裁判所がどこまで関与されるのか,それを受けて弁護士会等の本人サポートはどうあるべきなのかに関係する議論と思っています。むしろ誰が作成し,誰が送付するのかも含めて,直接甲案,乙案のような形で質問いただくのがよいのではありませんか。いろいろな対応に影響する話と思います。   手数料については,先ほど質問したのと同じ趣旨で,補足説明で触れていただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○富澤幹事 ここで(注)に記載しているというのは,おそらく事務当局としては規則事項になると考えているからではないか理解をしておりました。もちろん法制審の場でこの点も含めて御議論を頂くということで,これまで検討されていたのだと思いますけれども,少なくともこの点を法律事項とすべきであるという御意見がもしございましたら,それは別の考えになると思いますが,例えば書面を出力するような点は最終的には規則事項になると思っておりまして,そういった観点では,中間試案の本文というよりは(注)に整理して記載した方が正しいのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 阿多です。   最終的に規則事項という整理もあり得るのは理解していますが,法制審部会では,規則事項になるにしてもどちらの方向の規則にするのかも含めて議論する必要があると思いますので,私としては本文,ゴシック文字の方に上げていただきたいと思います。   それともう1点,先ほど触れ忘れましたが,(注2)の下から3行のなお書では「事件管理システムを通じて提出された電子書類を通知アドレスの届出をしていない相手方に直送」の場面について触れています。直送と送達の取扱いで同じ議論が出てくるとして(注2)に記載されているとは思いますが,直送でも丁寧に説明していただきたいと思います。その点も追加しておきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この点,事務当局はいかがですか。 ○大野幹事 事務当局といたしましては,(注2)につきましては,もちろん重要な事柄ではあると理解しておりますが,本文で記載した他の規律と比較すると,若干細かい点でもあるのかなと考えられたところです。また,この部分だけが個別に問題となるというよりは全体のパッケージの中でどのように取り扱うべきかというものでもあります。先ほど御指摘がございましたが,少なくとも現行法上は規則事項とされているといったこともございます。そこで,ここは甲乙という形とはせずに,(注)として記載をしたというところでございますが,記載の仕方について更に御意見があるようでしたら承りたいと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか,ほかの委員,幹事,御意見があれば承りたいと思いますが。   特段,ほかの方は御意見がないようで。  この取扱いですが,今の御様子からすれば原案どおりでよいですかね。 ○阿多委員 それで結構です。発言させていただいたということで。 ○山本(和)部会長 ちょっと補足説明で厚く説明していただくということで。 ○山本(克)委員 もしかしたら先ほど来の議論で,私のこれから申し上げることは意味がなくなるかもしれないんですが,当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録するという趣旨の文言が(3)(4)に書かれているんですが,それは第2の1等で,ほかにも出てきますが,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルということと,当事者の計算機に備えられたファイルというのは同じ意味なんでしょうか。これがちょっとよく分からなくて。裁判所の方は,何かこの電子情報処理組織に係るアプリケーションが用意するファイリングのための何らかの機構のように読めるんですが,当事者が有するコンピュータにはそんな機構は備わっていないと思うので,あるいは,もし本当にやるのであれば,当事者用アプリというのを作って,それをダウンロードさせて,それでやり取りするとかいう話は十分あり得るんですけれども,そこまでは考えていないわけで,このファイルの言葉遣いというのがこのままでいいのかどうかという点,二つの場合は一緒のファイルという言葉で使っていいのかどうか,ちょっと技術的なことに関わりますので,私は疑問点しか持たないので解決案は持ちませんけれども,ちょっと御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   いかがですか,このファイルというのは。   富澤幹事は何かありますか。 ○富澤幹事 システムの設計開発は,現在,正に検討を進めているところですので,未確定な情報であることを前提に発言をさせていただきたいと思いますが,クラウド上に事件管理システムを構築するというものが一つの候補として検討しております。このようなシステムになりますと,当事者はインターネットを利用して,クラウド上にある事件管理システムに準備書面等の電子データを記録し,裁判所もインターネットを介してクラウド上にある事件管理システムにアクセスをする,相手方当事者も同じようにアクセスをするということになります。このような意味で,このような文言が使われていると理解しておりまして,そのような意味で,「当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類が記録された時」というのは,クラウド上の事件管理システムに当事者がアクセスをすることによって,クラウド上の記録に接続しているというイメージなのかもしれませんけれども,そのような意味であろうと考えております。先ほど途中で私が申し上げたように,このようなイメージがこの文言ではなかなか分かりにくいと感じておりますので,そういった観点で,山本委員の御指摘と同じ意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大野幹事 他法令でもこの類のIT化の条文というのが幾つかありまして,ファイルという言葉につきましては,それを参照して表現をしております。法令上は,「ファイル」とは一定の目的のために同種類の性質を有する情報をまとめた電磁的記録物又は電磁記録の集合を意味すると理解されており,ここではそのような意味でファイルと表現をしているところです。山本克己委員御指摘の両方ともファイルという言葉でいいかどうかということについては更に精査をしたいと思います。 ○山本(和)部会長 御指摘ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今の富澤幹事の御発言を伺いますと,第2の1ですけれども,この記録のされる場として,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルでいいんでしょうか。クラウド上のファイル,クラウド上に記録したときに提出したことになるような気もするんですが。 ○富澤幹事 平易に記載するとすれば,今,山本克己委員から御発言があったような記載が一番整理としてはすっきりしていると思ったのですが,裁判所の使用に係る電子計算機を含めて事件管理システムである,要するにクラウド上のシステムと裁判所の端末がインターネットで接続されていると考えれば,全くおかしいとは言えないと思っております。 ○山本(和)部会長 事務当局は何か。 ○大野幹事 事務当局といたしましては,裁判所の使用に係る電子計算機というのは,御指摘のようなクラウドを含むという前提でお書きをしていたところです。そう読めるかという問題はあろうかとは思いますので,法制上もそのような表現振りでもよいかどうかについては,更に精査をしたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大谷委員 ちょっと素朴な疑問ですけれども,(4)のところで,電子メールが発信されてから1週間経過で,このみなし閲覧の効果が発生するということなんですが,民法上の意思表示の原則からすると,到達主義ということなので,発出された日というのを起算日にすることの是非ということについては特にこれまで議論もしてこなかったとは思いますけれども,やはり一度くらいは議論しておいた方がよろしいのではないかと思って発言させていただきました。   この発信日につきましては,やはり発信されてから明らかにエラーになった場合,それを裁判所が知り得るような場合に,全く例外が設けられていないということについても,補足説明ではしっかり書いてくださることだとは思っておりますけれども,例外を設けるのか,あるいは訴訟行為の追完という形で救済されるのかというようなこともあると思いますが,技術的に発出されただけで,その通知がなされたというふうに言って,そもそもいいのかといったところを御確認いただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○波多野関係官 波多野でございます。   御指摘いただきましたところは,少なくとも電子メールですと届いたところを捉えることは難しいということで,発出した時を捉えるという議論がされてきたものと承知しており,その前提で届かなかったときにどうするかというところにつきましては,9ページに記載していますように訴訟行為の追完で救済を図るという整理を御提示させていただいているものでございます。 ○山本(和)部会長 大谷委員,いかがでしょうか。 ○大谷委員 すみません,ありがとうございます。   その点について十分に議論されてきたかどうかというのはちょっと疑問がありまして,少なくともエラーになったらメールが発信というか,メールがなされたという,通知がなされたというふうにはちょっと評価しづらいところがあるのだと思います。その民法上の意思表示と必ずしも合致させる必要はなくて,ここは独自のルールでやって,事件管理システム上の管理を容易にするためのルールだということなのであれば,その救済策も含めて,少し丁寧に補足説明をしていただくことをお願いしたいと思います。 ○大野幹事 補足説明で御指摘の点を説明させていただくことも含めて検討いたしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 私も今の点について意見を申し上げたいというふうに考えていたところです。これまでみなし閲覧という効果を生じさせるべきではない場合があるのではないかということがかなり議論されてきたかと思いますが,今まとめていただいている資料ですと,みなし閲覧という効果を生じさせるべきではないという例外を設ける必要はないということで整理が付いたというような扱いになっているかと思うのですが,実際のところ,議論はまだそこまで収れんしていたものではなかったと思いますので,補足説明の中ではなくて中間試案自体の中で示すべき重要なポイントだというふうに考えております。ですので,事務当局には御検討を頂きたいと思います。 ○山本(和)部会長 具体的にはどういう。本文に何かを書くということをお考えですか。 ○日下部委員 本文といいますか,(注)ですかね。補足説明という別の書面ではなくて,このゴシックで書かれているところの下の(注)に相当するところをイメージしておりました。 ○山本(和)部会長 (4)について,従来議論されている何らかの例外を設けるか,あるいは訴訟行為の追完等で救済を図ることで特段の規定は設けないかという,そういう考え方の分かれがあるということを(注)で示すべきだという,そういう御提案ということですか。 ○日下部委員 そうですね,はい。 ○山本(和)部会長 それでは,ちょっとその辺は御検討を頂ければと思います。 ○日下部委員 別の点なんですけれども,部会資料の11ページの「5 通知を受ける者の届出の制度」につきましては,この部分において,これまで検討されておりました通知を受ける者の届出の制度に言及しない理由が述べられております。   その理由として,このような届出によりシステム送達の対象から除外された者についても,訴訟記録の閲覧に関する規律に基づき送達すべき電子書類を閲覧することは制限されないとするという前提に基づいているんですが,閲覧の対象となる訴訟記録の範囲や閲覧対象に含めるタイミングなども,それ自体が検討事項として,これまでの部会で議論されてきたものだと承知しております。そうしますと,未確定の事情を前提に届出制度への言及をしないことというのは検討の在り方として適切を欠くように思われますし,実務的には非常に重要な点だと思いますので,中間試案の中で,この問題についても言及していただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 これも(注)の中でという感じですか。 ○日下部委員 そんなイメージです,はい。 ○山本(和)部会長 かなり(注)が,ちょっと一杯になってしまうかもしれないけれども,ちょっと御検討を頂きたいと。 ○阿多委員 質問です。(注1)で,訴状を送達することができる場面を拡大するための方策を実務の運用に委ねるという記載になっています。説明では,実務か法律に取り込むかという二つの方向の議論の紹介があり,実務の運用に委ねると,そこからシステムに登録するという形で,実務の運用に委ねる考えならば,みなし送達は時間を置いて適用になるとされています。逆に法律事項にすると,簡易な通知を送付する時点から適用になりみなし送達は適用されないと整理されています。いずれかの考え方によって(4)の時期とか適用とかに影響するという整理ですが,法律に取り込むとしても,簡易な通知を送付した被告が事件管理システムに登録した後,そのまま閲覧しない可能性も考えられるのではありませんか。みなし送達が適用される場面は考えられないのですか。 ○山本(和)部会長 訴状についても適用されるかということですね。 ○藤田関係官 その点について,少し補足させていただきます。   実務の運用に委ねるとした場合には,はがき自体には法的効力も伴わないということを前提にしております。なので,事件管理システムに登録をした後に,通知アドレスに対する通知が来ないことには,(4)のみなし閲覧の前提が調わないと,このような整理になると考えております。   他方で,法律事項にするとした場合には,通知アドレスへの通知に代えて,例えばはがきを送ったことをもって,もう通知アドレスへの通知もされたものとして,みなし閲覧についても生じるということも一つの考え方としてはあり得るところでございますが,この(注1)はそういった考え方ではなく,飽くまでみなし閲覧については(4)の通知アドレスへの通知がなされた場合に限るというような前提で記載したものでございます。 ○阿多委員 両者の使い分けは理解しました。質問ということでした。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   それでは佐々木委員,先ほど手を挙げていらっしゃいましたか。 ○佐々木委員 ちょっとした疑問なんですけれども,先ほど富澤幹事がおっしゃられたところに関連するところではありますが,8ページの(3)のところで,「当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類が記録された時」というところで,ちょっとクラウドなんかを想定したときに,当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されるのは電子書類なのかという,ちょっと疑問がございます。この電子書類の定義が何なのかというのももちろんあるとは思うんですけれども,それからあと,ちょっと前に戻ってしまうのですけれども,電子データという言葉も出てくるんですが,電子データというのは,この電子書類のファイル形式というような定義のされ方をするのでしょうか。ちょっとその点について教えていただきたいなと思います。 ○山本(和)部会長 では,事務当局からお答えできますか。 ○藤田関係官 クラウドを想定したときに記録されるものが電子書類なのかどうかというところにつきまして,もう少し御指摘の御趣旨をお教えいただけますでしょうか。そうではないという考え方もあり得るということだと思いますので。 ○佐々木委員 裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されるのが電子書類なのかなとは思うんですが,それがクラウド上にある場合に,当事者等がそこにアクセスして,当事者等の端末にそのときに記録されるものというのが,同じ何か電子書類というふうに言えるのかなと,そこはちょっと疑問に思った次第です。 ○藤田関係官 御指摘ありがとうございます。   ここは事務当局でも検討したところでございまして,同じ電子書類かというのはほかの場面でも出てきたところでございます。最終的に法制化する際に,従来の紙のような書類を前提とした表現になるのか,それとも一定の情報ないしデジタルデータが使用者のコンピュータに備わったときというような考え方になっていくのかにつきましては,引き続き検討する必要があるのであろうと思っております。   他方で,裁判所のコンピュータにある一定の電子訴状たる情報と申しましょうか,それと受け手側に記録された電子訴状たる情報は同一でなければならないというふうには言えると思いますので,その限りにおいて,電子書類が受け手側のコンピュータに記録されたというような表現を今回は用いたところでございます。 ○山本(和)部会長 佐々木委員,いかがでしょうか。 ○佐々木委員 分かりました。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 分かりにくい事項であることは確かだと思いますが,ほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,この「システム送達」の部分は,先ほど来出ている(3),あるいは(4)の当事者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類が記録された,あるいは記録されないという表現ぶりにつきまして,多々御意見を頂戴いたしましたので,この点については再度事務当局で御検討を頂いて,適宜提案をしていただければと思います。   それでは,ちょっと時間になりましたので,やや中途半端なところではありますが,次回は2の「公示送達」のところから再開するということで,今日のところはこの程度にしたいと思います。   それでは,次回の議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野幹事 本日も長時間議論を頂きまして,ありがとうございました。   次回は,令和3年1月22日金曜日,午後1時から午後6時頃までということでございます。場所は当省の第1会議室を予定しております。   次回も引き続き中間試案のたたき台についての御議論を頂きたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第7回会議は,これにて閉会をさせていただきます。   本日も熱心な御審議,長時間の御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-