性犯罪に関する刑事法検討会 (第13回) 第1 日 時  令和3年3月8日(月)  自 午後1時34分                      至 午後4時19分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方について         2 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲について         3 法定刑の在り方について         4 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方について         5 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方について         6 その他の実体法に関する論点について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼刑事法制企画官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第13回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 皆様には,お忙しい中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日,小西委員におかれましては,所用のため欠席されています。   まず,お配りしている資料について事務当局から確認をお願いします。 ○浅沼刑事法制企画官 本日,議事次第及び「意見要旨集(第12回会議分まで)」をお配りしております。今回の意見要旨集は,本日御議論いただく論点についての,前回会合までの議論における委員の皆様の御意見を整理して記載したものを,一まとめにしたものであり,二巡目の議論の際にお配りした意見要旨集について,二巡目の議論で述べられた御意見と,前回会合における議論で述べられた御意見を追加して,整理しております。   このほかに,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。 ○井田座長 それでは早速,議事に入りたいと思います。   前回の会合から三巡目の検討に入っておりますが,本日は,まず,前回会合において検討の途中で終了の時刻となった論点である「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」について議論し,次いで,意見要旨集の8ページの「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」,12ページの「6 法定刑の在り方」,20ページの「7 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」,24ページの「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」について議論した上で,最後に,その他の実体法に関する論点についても御意見を伺うこととしたいと思います。本日も,基本的に意見要旨集に沿って議論を進めることとし,一巡目・二巡目よりも更に踏み込んだ議論を相互にかみ合う形で行うことを目指したいと思います。   なお,本日の進行における時間の目安ですが,「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」について30分程度,「強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」について20分程度,「法定刑の在り方」について15分程度,それぞれ御議論いただいた後,午後2時55分頃から10分程度休憩を取りたいと考えております。そして,休憩後,「配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」について10分程度,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」について40分程度,その他の実体法に関する論点について10分程度,それぞれ御議論いただくことを予定しております。予定している時間についてはその都度申し上げますので,御協力をお願いします。   早速,「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」についての検討に入ります。  前回の会合では,一定の年齢未満の者を被害者とする場合など,特定の類型を念頭に置いて,その処罰規定の在り方について議論し,その後,一般的・包括的な観点から,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方について議論を開始し,その途中で今回の会合に持ち越しとなりました。前回の会合の終盤に,意見要旨集の2ページや3ページにありますように,相手の「No」を尊重しない加害者の責任を追及するような不同意性交等を処罰する規定が作られることを望むという御意見があり,他方,被害者の意思に反する性行為を処罰する必要があることは当然であるが,不同意自体を構成要件とするのではなく,行為態様や被害者の心理状態を具体的に規定することによって,被害者に不当な影響を及ぼし,その意思決定をゆがめたと評価できる場合を捕捉できる構成要件とすることが好ましいといった御意見も述べられました。   これらの御意見も踏まえつつ,御発言をお願いいたします。この論点については30分程度の時間を予定しております。 ○小島委員 3ページの一つ目の「○」,6ページの「②」の一つ目の「○」について意見を申し上げたいと思います。   第12回検討会に意見書を提出させていただきましたが,私は,意に反する性交を犯罪とするべきだと考えております。当罰性がある不同意性交について,現時点でコンセンサスが得られるような行為態様や被害者の状態を構成要件に例示列挙すること,すなわち,類型化して個別に規定を設ける必要があると考えます。これと併せて,不同意性交に対する当罰性の判断は,時代とか人々の意識,社会の変化に応じて変化するものだと考えておりますので,今後の判例法理の展開を見越して受皿規定を設けておくべきだと考えます。受皿規定としては,例えば,「その他意に反する」とか,「その他意思に反する性的行為」という規定ぶりが考えられると思います。受皿規定を全く設けない規定ぶりとするならば,不同意性交罪を創設したとはいえず,不同意性交を犯罪として,これを処罰すべきだという社会的要請,人々の要請に応えたことにはならないと思います。   この点について,明治40年に現行刑法が制定されて以後,暴行・脅迫要件や抗拒不能要件については法改正が全く行われてきませんでしたが,その時代の人々の性に関する意識やそれに伴う社会規範の変化に対応して,判例が,言わば法の欠缺を解釈で埋めて処罰範囲を広げてきたといえるのではないかと思います。今後の判例法理の展開を見越して,適切な処罰を確保するために,受皿規定を設ける必要があると考えます。   ちなみに,「その他」という規定の仕方については,現行刑法の各則にも相当数の例がございます。行為主体,行為客体,行為態様について,刑法が「その他」という規定を設けております。最近の例としては,電子計算機損壊等業務妨害罪や境界損壊罪が「その他の方法」と規定しております。このような規定ぶりは罪刑法定主義に反するものではないと思います。   また,現時点で個別に規定する行為態様や被害者の状態には様々なものが考えられます。これについては,私も意見の中で細かく列挙する規定としましたが,現時点でコンセンサスが得られる行為をできるだけ取り込んで,当罰性のある行為を明確化するのが望ましいと考えております。  なお,法定刑について,軽い類型を設けるべきだという意見もございますが,どちらの類型に当てはまるのかが争点となり,軽い法定刑の方に当てはまると認定されがちになることを憂慮いたします。法定刑の下限は5年のままとして,量刑で工夫してはどうかと考えております。   長くなってしまいますが,検討会でしばしば言及されている不同意性交の例について,一言申し上げたいと思います。  上司から性交に応じなければ解雇すると言われてやむを得ず性交した場合は,意に反する性交であり,上司を処罰すべきであるが,上司の要求に応じれば昇進等の見返りが期待できると考えて嫌々性行為を受け入れた場合は,上司に対する処罰を否定すべきであるという意見があります。前者は性的要求が不利益と結び付くという意味で,いわゆる「報復型」,後者は利益と結び付くという意味で,いわゆる「報償型」といわれる類型でございます。私は,性的要求と利益・不利益との間に因果関係があるという意味において両者は共通性があり,いずれも許されない行為だと考えております。   分かりやすい例で申し上げますと,例えば,落第寸前の学生に,自分の性的要求に応じれば単位をあげる,進級させてあげると言って性的要求をする場合,これは許されない行為だと思います。利益と結び付く場合も不利益と結び付く場合も,処罰根拠は瀆職であり,私欲のために職責を汚すなということだと考えます。優越的な地位を濫用する行為は,この点で,対等・平等な関係の当事者とは性質が異なり,悪質性があると考えます。 ○金杉委員 まず,小島委員から提案された内容につきましては,性被害でつらい思いをされる方を社会からできるだけなくそうという思いには非常に共感いたしますし,理想としては私も共感するところです。ただ,その方法として刑罰法規でできることには限界があると思います。特に,罪刑法定主義の観点から,「その他意に反する性的行為」という文言が明確といえるかということに疑問を持っています。   小島委員から御提示のありました,「その他」という文言を用いている刑法の規定を拝見しますと,例えば,内乱等幇助罪,外患援助罪,封印等破棄罪,消火妨害罪,水防妨害罪や,あるいは,個人的にはこちらの方をすぐにでも廃止すべきと考えますけれども堕胎罪というものもあり,そもそもこれらの行為はおよそ違法なものであるということが前提で,ただ,その態様についてはいろいろな方法があり得るので,「その他」という文言を用いている規定が大半だと思います。   それに対して,性犯罪につきましては,意に反する性的行為がいけないということは,その行為態様によってはもちろんそうなのですけれども,全ての「その他意に反する性的行為」に当罰性があるとされることには,やはり疑問があると思います。これまでの繰り返しになりますけれども,例えば,夫婦間でも性犯罪が成立するということは争いがないところですが,夫婦間の行為で今日はちょっと疲れているからその気に余りなれないという場合,もちろん,それも当罰性が高いのだという御意見もあるのかもしれませんけれども,そういった場合や,芸能人が自分を彼女にしてくれると思った,あるいは結婚してくれると思ったから行為に及んだけれども1回限りで終わってしまったという場合,あるいは,一定の態様の性行為を前提として同意の上で性交渉に及んだときに,その男性の側が被虐的な態様での性行為を要求してきた場合など,かなり多様なものが考えられると思います。そういったもの全てについて,「その他意に反する性的行為」に含まれ,しかも,法定刑の下限が5年とされている今の強制性交等罪が成立するというのは,余りにも性的自由に対する侵害が大きいと思います。 ○佐藤委員 少し違う話になってしまって申し訳ないのですけれども,6ページの「②」の一つ目の「○」と二つ目の「○」に関連した意見でございます。   以前の会議のときに,例示として行為手段を挙げるという話になり,私も賛成していたのですけれども,議事録を読んでいて,ふと不安を抱いたことがありましたので,それを共有できればと思います。それは,暴行・脅迫に加えて,「威力」,「不意打ち」を加えたときに,残された暴行概念がかなり狭く解されてしまうのではないかということでございます。   つまり,現在,暴行概念が拡張しているということは,多くの方が共有していると思います。「威力」といえるような人の意思を制圧するような勢力も,現行の暴行概念でカバーされていますし,「不意打ち」,これは出し抜けに相手に性的行為を行うことを意味すると思われますけれども,このような行為態様も,かなり前から「暴行」に入ると解釈されております。不意打ちを処罰できなくて立法で対処した国は多いのですけれども,日本では,よくも悪くも,これまで解釈で対応してきたという状況にございます。   そのことを前提に,仮に,これらの「威力」,「不意打ち」を「暴行」から分離して文言化した場合,残された暴行概念がどのように解釈されるのか考えると,「威力」は,通常,「暴行」よりも弱いものとされていますし,「不意打ち」は,「暴行」と性的行為が手段と目的の関係にない,つまり,有形力の行使がそのまま性的行為であるという場合を指しますから,これらを取り除いた「暴行」が,「威力」よりも強い,そして,性的行為とは手段と目的の関係にある有形力の行使だと解釈されてしまう可能性があるのではないかと考えています。   それがなぜ困るかというと,現在,性交に付随するような有形力,例えば服を脱がすとか,足を開くといったものも,「暴行」に当たるといわれていて,処罰可能になっていますが,これらが暴行概念から落ちてしまい,また,「威力」,「不意打ち」でも拾えないということになって,これまで処罰できたものが処罰できなくなる可能性があるように思います。   私は,同じ懸念を「洗脳」や「服従」という文言についても持っています。これらを緩やかに捉える人もいるかもしれませんが,逆にかなり強いイメージを持っている人もいるので,これらの手段を文言化することによって,逆に処罰範囲が制限されることにつながるのではないかと不安に思っているところでございます。   手段や状態として何を列挙するかというのは,刑罰法規としての明確性の観点はもちろんなのですが,これまでの処罰範囲を削らないようにするという観点が非常に大事だと思っております。何を列挙するかにつきましては,過去の裁判例等を分析した質の高い学術的な研究が出ていますから,それらを参考にして,慎重に検討すべきではないかと思っている次第でございます。 ○木村委員 佐藤委員がおっしゃったことに私も全く同感で,そのように思います。佐藤委員御指摘のとおり,もともと,暴行・脅迫としか書いていなくて,抵抗が困難だとか抗拒不能だとかという言葉が付いているわけではないのですよね。解釈で今までそのようにされてきたということだと思います。もしかしたら,不正確かもしれないのですけれども,確か,最初に抵抗困難だとはっきり述べた最高裁判決が,これだけのことをやっているのだから抵抗困難だ,だから当然「暴行」だというような説明をしていたように思います。そこから,今は,暴行・脅迫の解釈は,判例上,固まってしまっていて,抵抗困難だというのが当然くっついたものとして表現されていますよね。御指摘のとおり,必ずしもそのように色付けがされているものではなく,条文をそのまま素直に読めば,もっと広く認めることも可能だということなのだと思います。   ただ,今日の私の発言としては,抵抗困難というのが付された現在の解釈を前提とさせていただきたいと思いますが,佐藤委員も御指摘の6ページの一つ目と二つ目の「○」に書いてある列挙すべき要件や先ほどの小島委員の御指摘について,正に被害者をいかに救うかという観点から言えば,できる限り広く拾うべきということは非常によく分かります。ただ,ある程度やはり客観的な手掛かりがないと難しいのかなとは思っていて,そのときに,「欺罔」であるとか「威力」まで入れてしまっていいのかというのは,私もやや疑問があります。   「欺罔」の中には,医療行為だと言ってだますような場合というのももちろんあって,それは当罰性があるものとして理解されており,入っていいと思うのですけれども,その他の欺罔を全て入れてしまうのかとか,先ほど佐藤委員からも御指摘があったかもしれませんけれども,「威力」が意思を制圧するに足る勢力であるとすると,一般には社会的地位の利用まで入ると考えられているようですので,そこまで入れていいのであればいいのですが,私は,それは別の類型として考えられるかなと思っているので,やはり広過ぎるのではないかと思います。   6ページの下から二つ目の「○」なのですけれども,これは,もしかしたら私の発言をまとめていただいているのかもしれないですが,以前から主張しているのですけれども,刑法178条の抗拒不能をもう少し使いやすくすべきではないかと思っています。刑法178条をもっと使ってよいはずで,現に,医療行為だといってだますような場合に刑法178条で対応しているという事案もありますし,スポーツのコーチなどによる場合も,本来はここで拾えるはずだと思っています。   先ほどの議論に戻ってしまいますけれども,刑法178条の抗拒不能の考え方というのは,もう少し幅のある書き方にしてもいいように思います。実は,これも刑法177条に引っ張られている面があり,抵抗が著しく困難と考えられてしまっているのですね。刑法177条の暴行・脅迫が非常に強いものであり,法定刑もそれと同じということになると,これも抵抗が著しく困難だといわれてしまっているのかもしれないのです。7ページの二つ目の「○」で,そもそも「抵抗」という言葉自体がよくないという御指摘があるのですが,ここでいっている「抵抗困難」,刑法178条の「抵抗」というのは,別に物理的な抵抗だけではなくて,精神的に抵抗ができなくなってしまっているというような場合も含むと思うので,それをもう少し分かりやすく,あるいは,もう少し幅のある表現にすれば,刑法178条でかなり拾える部分があるのではないかと思います。   そうしますと,結果的には刑法178条が一般的な強制性交等とされ,刑法177条は暴行・脅迫を伴ったものという位置付けになっていく可能性があり,あるいは,それらを一つにまとめてしまうというような方法もあるのかもしれません。考え方によっては,そのような統合した条文ということもあり得るのではないかと思います。 ○齋藤委員 小島委員のおっしゃるように,できる限り例示列挙していただきたいというのはそうなのですけれども,性交を強要する場合の人の言動や状態は本当に多様でして,例示列挙したとしても,必ず取り残されるというか,取り落とされるものがあると思います。そのため,小島委員の,「その他意に反した」という要件を入れることに賛成です。どの要件にも当てはまりにくいものについて,個別に判断できる余地を残していただきたいと思っております。   性的同意について客観的手掛かりがないと難しいという,いろいろな御意見を伺っておりますが,世界的には,学術的に知見とか定義というのは積み上がっているものでして,それらが客観的手掛かりを考える手だてになると考えられます。そうしたことを学び,取り入れて,御判断いただきたいと思っています。もちろん,性的同意についての社会の認識というか,人々の認識がどうかということが,裁判などにおいては大切だということは分かっておりますが,皆様お感じになっていらっしゃると思いますけれども,社会の性的同意に関する意識は,本当にここ一,二年であっても随分と変わってきています。物すごいスピードで変わってきているということを感じています。そして,これは,これからも変わっていくと考えられます。その場合,もう一度法改正をすればよいとお考えになるかもしれませんし,必要ならばそうすべきだとも思うのですけれども,変化の最中にその変化にできる限り対応できるように考えていただきたいと思っております。 ○橋爪委員 小島委員の御提案について,一言申し上げたいと思います。   小島委員の御提案については,既に意見書を頂戴しておりまして,その内容も踏まえて私なりに理解いたしますと,基本的には行為態様による類型化,被害者の状態に関する類型化を行うが,これらの類型化された事情は被害者の不同意を推認する事情であり,これらの事情に該当する場合には不同意が推認されて性犯罪を構成する,しかし,列挙された行為態様や状態に関する要件に該当しない場合であっても,受皿的な要件である「その他意に反する性的行為」に該当する場合には,性犯罪の成立を肯定するという御趣旨であると理解しました。このような理解を前提として,意見を申し上げたいと思います。   このような規定を設ける際の課題としては,二つの問題があるように感じております。順次申し上げます。   第一に,例示されている個別的要件の意義です。私の理解では,行為態様や被害者の状態に関する個別的要件は,現行法の暴行・脅迫要件と同様に,被害者の意思に反する性行為であることの徴表であり,意思に反することを推認させるものですので,推認を正当化できるだけの内容・性質を有することが不可欠であると思われます。そうしますと,これらの要件については,列挙された文言どおりの内容で解釈するのでは不十分であって,更に限定解釈する必要があるように思われます。   以下,具体的に申し上げます。   行為態様につきましては,先ほど御指摘がありましたけれども,暴行要件については,小島委員の御提案が「威力」,「威迫」,「不意打ち」等を併せて規定していることともあいまって,性行為に通常随伴する有形力の行使では不十分であって,更に強度の暴行であることを要求する趣旨の限定解釈が必要になってくると思われます。また,「欺罔」,「偽計」についても,金銭を支払うとだましたり,結婚すると偽ったりした場合などは処罰範囲から除外する必要があると考えるならば,これについても一定の限定的な解釈及びその根拠を示す必要があります。   さらに,被害者の状態に関しても意見を申し上げます。「酩酊」,「薬物の影響」が御提案されておりますけれども,もちろん,これらは,それによって被害者が抵抗困難な状態になる場合があり得ますし,そのような場合には当然に性犯罪を構成すべきですが,多少アルコールや薬物の影響があるという程度であるならば,それだけで意思に反することまでを推認することは困難であるように思います。「疾患」や「障害」についても,前回の会議で議論があったように,その程度・内容は多様であって,不同意を推認できるのはその一部に限られてくるように思われます。   小島委員が不同意を推認させる事情を列挙されるのは,実務に対して明確で具体的な指針を示そうとする御趣旨だと思われ,それ自体は正当な方向であると思うのですが,これらの事情を列挙するだけではやはり不十分であって,その具体的内容を更に限定する作業が不可欠であるように思います。そして,これらを全て裁判例の集積に委ねるというのは,一つの決断であると思いますが,当面の間は裁判実務にとって負担が掛かるだけではなく,一定の安定した判断・解釈が定着するまでの間,裁判所によって結論がぶれるなど,被害者の方にも御負担が掛かるように思われます。   第二に,受皿要件としての「その他意に反する」という文言についても意見を申し上げます。   恐らく,このような文言の要件を御提案されるのは,行為態様や被害者の状態を列挙しても漏れが生ずるおそれがあることから,包括的な要件を設けることによって処罰の間隙を防ぐという趣旨かと理解いたしました。そのような問題意識自体は十分に理解できます。もっとも,そのような限界事例については,列挙された行為態様や状態に該当しないわけですので,通常の場合以上に,意に反するか否かの限界を明確に設定する作業が必要になります。そして,前回も申し上げた点ですが,人間の心理状態や意思決定は単純なものではなく,いろいろな葛藤,悩み,思わく,あるいは打算等の過程を踏まえて一定の決断に至るわけですので,どこまでを意に反すると評価できるかは必ずしも明確ではありません。   更に申しますと,「その他」という文言を用いて受皿要件を設ける場合には,列挙された個別の要件と基本的には同質のものを規定することが必要ではないかという疑問があります。すなわち,小島委員の案では,行為態様や被害者の状態に関する事情が列挙されておりますので,むしろ受皿の文言としては,行為態様や被害者の状態に関する包括的要件として規定する必要があるように思われます。例えば,行為態様について,「その他被害者が性行為を拒絶することを困難とするような行為」,状態についても,「その他性行為を拒絶することが困難な心理状態」など,その規定内容に対応した受皿要件を設けることが,規定形式という観点からも適当であるような印象を持ちました。 ○和田委員 準強制性交等と準強制わいせつの類型との関係で考えられる規定の在り方に関する意見です。   現行の心神喪失・抗拒不能の要件については,既にお話に出ていますように,包括的でいろいろ拾えるというメリットがある反面,不明確であるという問題がありますので,手段や原因を例示することに一定の意義があるだろうと思います。その際の具体的な方法ですけれども,これまでの裁判例で認められてきた手段・原因の中から典型的なものを選択して例示するという方法があると思います。具体的にみてみますと,資料13「性犯罪に係る裁判例調査」によれば,準強制性交等罪において心神喪失・抗拒不能の原因として認定された事情を多いものから順に並べますと,「飲酒による酩酊」・「飲酒による熟睡」が合計29件,それから,「薬物の作用」・「薬物の作用による熟睡」が合計18件,さらに,「行為の意味について誤信」が6件,そして,「知的障害」・「被害者の知的障害と加害者との関係性」・「被害者の認知症」が合計5件などとされていますので,これらを参考として,例示すべきものを選択するという方法が具体的に考えられるだろうと思います。   ただ,一点,注意が必要だと思いますのは,今挙げたもののうち,例えば飲酒や薬物の影響下にあるということについてみましても,それだけでは,心神喪失・抗拒不能とは限らないということです。今挙げたような事情を例示するとしても,そういう手段や状態と,それから心神喪失・抗拒不能あるいはそれを表現し替えたものとを結び付けるような要件が必要であろうと思います。 ○中川委員 既にいろいろな委員からの意見の中にも出ているところなのですけれども,最終的にどのような要件にするかは政策の問題ですので,意見としては差し控えたいのですけれども,先ほどから出ている受皿要件,「その他意思に反する行為」というような言い方をした場合に,「その他意思に反して」というだけではどのような行為や状態を指すのかが明らかではなくて,実務には混乱が生じるように思われます。以前に渡邊委員も指摘されていましたとおり,被害者の同意の有無や被告人の認識の判断に当たっては,暴行・脅迫などの不同意をうかがわせる状況があるかどうかといった,客観的な状況が重要な要素となります。そうした客観的な状況を伴わない類型を想定するのだとすると,重要な判断要素がないまま,食い違った当事者の供述の信用性を判断するということになりますので,同意の有無ですとか,被告人の認識の判断が難しくなるということは申し上げたいと思います。また,「威迫」,「不意打ち」などの手段や状態を要件とする御意見も述べられていたところですが,例えば,「不意打ち」というのがどのような手段を意味するのか判然としないという点もありまして,処罰範囲を明確にするためには,手段や状態を具体的で明確なものとする必要があるということも念のため申し上げておきたいと思います。 ○羽石委員 警察としましても,性犯罪として処罰すべき行為がきちんと対象として拾い上げられることは重要であると認識しております。一方で,警察の現場で条文を運用するという観点から申し上げますと,構成要件については,できるだけ明確な方が望ましいと考えております。例えば,「欺罔」とか「偽計」につきましては,なかなか立証が難しいのではないかということと,ほかの委員からも既に御指摘があったとおり,刑事責任を問うべき悪質なものとまではいえない多様なものが含まれてしまうのではないかと感じております。   意見要旨集6ページの三つ目の「○」にありますとおり,過去に,ほかの委員の方から,同一性を偽る場合は含めてよいのではないかという御提案があったと思うのですけれども,この「同一性を偽る場合」というのが,どこまで含むのかということの判断が難しいのではないかと思っております。また,今日,小島委員の意見にもありました,「その他意に反する性的行為」という規定につきましても,ほかの委員の方々と同じように,明確性という観点でやや懸念を持っております。   処罰すべき行為を対象に含めつつ,現場での判断に迷いが生じることのないような,できるだけ明確な規定としていただけるようにお願いできればと思っております。 ○池田委員 考えられる規定の在り方,特に被害者の状態をどのように表現するかについて,意見を申し上げます。   現行法における強制性交等の罪は,その広狭はともかくとして,暴行・脅迫を用いて強制的に行われる場合を処罰するもので,これまで言われてきた不同意の徴表というときの不同意,被害者の心理状態というのも,幅広い意味を含み得る不同意全般ではなく,限定的なものと考えられます。それがどのような意味かを考えるに当たり,刑法177条と同列に置かれる刑法178条の場合の被害者の状況を見てみますと,心神の喪失,すなわち,被害の認識がおよそない場合,抗拒の不能,すなわち,被害の認識はあるけれども物理的あるいは心理的にあらがったり,あるいは拒んだりする能力を失っている場合を念頭に置いています。これは,同意との関係では,そもそも同意するかどうかの選択の余地がない場合に当たり,そうであるがゆえに同意に基づいているとみる余地がないとされているものと考えられます。そうだとすると,先ほど述べた限定的な意味の不同意というのも,そのような意味と解する余地もあるように思われます。   その上で,刑法177条の規定については,そのように不同意の意義を限定的に理解するとしても,そうした状況が暴行・脅迫を用いた場合に限って生じるものではないのではないか,また,刑法178条との関係では,抗拒不能という表現は,身体的抵抗が不可能ではない場合を除くという解釈をもたらし得る点で問題があるという指摘は,いずれも正当だと思われます。したがいまして,暴行・脅迫がもたらす不同意と同じ意味の不同意をもたらす手段,あるいはそうした状態に至っていることを示す表現によって,同列に論じるべき被害を明確に処罰範囲に含めていくことがまずは妥当と考えられます。   そのような観点から考えてみますと,例えば,手段をどのように規定するかはともかく,一定の手段を用いて,被害者が性交等を拒否し,あるいは拒絶することを不能若しくは困難な状態にしてする性交等又は被害者がそのような状態にあることに乗じてする性交等といった文言を用いて表現することも考えられるのではないかと思います。「抗拒」という言葉ではなくて,「拒否」あるいは「拒絶」という言葉を用いてはどうかということで,先ほどの橋爪委員の御指摘と同旨でございます。その上で,ここでの拒否や拒絶の可能性の有無については,先ほどの性的同意についての御指摘を踏まえて考えますと,社会における意識を考慮して解釈する余地があるのではないかと考えております。 ○上谷委員 刑法177条の暴行・脅迫という言葉についての佐藤委員や木村委員の問題意識について,私の考えを述べさせていただきます。   確かに,今,判例によって,暴行・脅迫と聞いたときの普通のイメージとは違う解釈がなされているというのはそのとおりだと思います。文言どおりに解釈すると処罰されるべきものが含まれないケースが多いということで,被害者の抵抗を困難にする程度の暴行・脅迫をどう判断するのかというと,例えば二人の関係とか,時間とか,場所とか,いろいろな要素を盛り込んで判断するのだということになっているわけです。しかし,それが,いわゆる「威迫」や「不意打ち」というものまで含んでいるかと言われますと,多分ケース・バイ・ケースかと思うのです。これまでの判例で「威迫」まで広がっているのではないかという御意見もありましたけれども,もしそこまで広がっているというのであれば,そのことが条文から分かるように,言葉の整理をした方がいいと思います。   私も,法律上「威迫」といわれるものを暴行・脅迫として解釈していると感じる判決に出会ったことがあるのですけれども,非常に少ないなと思います。それは,検察官が起訴する段階で絞っているからだと思います。「威迫」にとどまる場合は,ほとんどの場合は不起訴になっているのではないかと思います。非常に熱心な検察官だと,もしかすると無罪になるかもしれないと思いつつ,勇気を持って起訴しているというのが現場の感覚です。   先ほど羽石委員からもありましたけれども,現場の警察官が分かりやすいというのも大事ですし,やはり国民にも分かりやすいというのは非常に大事だと思っていまして,特に性的な行為については,殺人とか窃盗みたいに非日常な違法行為ではなく,日常生活に密着した基本的には合法な行為ですので,何より分かりやすいことがとても大事だと思っています。   私もたくさん相談を受ける中で,刑法177条の説明をするときは,一から全部言わなくてはいけないのです。「暴行・脅迫」というのはこういう意味で,被害者の抵抗を困難にするというように判例では言われていて,それをどう判断するかというと,二人の関係とか,顔見知りかどうかとか,それが起きた時間帯とか,場所とか,全部そういうのを詰め込んで判断するのですよということを説明するわけです。けれども,ほとんどの人がそのようなことは知らないですし,この条文を読んでも,加害者も被害者も,どれが犯罪に当たるか,多分,分かっていないと思います。ですから,「威迫」に当たるものを軽い類型で別罪にするか,それが既に今の刑法177条に含まれているという前提で話をするかということはちょっと置いておいても,今の刑法177条の要件を暴行・脅迫だけにして,あとは今の判例に沿って解釈で運用するということは,やはり考え直す必要があるのではないかと思っています。 ○宮田委員 明確化をしたとしても難しい問題が残るという点について,法律的な問題については今までほかの委員の方が述べたところとほとんど重なるので割愛しますが,裁判において争点整理をするときの問題について,一言述べたいと思います。   性犯罪について,争っている事件では,相当数,無罪の事件も出ているし,裁判が長期化するという問題が起こります。それはなぜかといえば,刑法177条では暴行・脅迫に比肩するような被害者の抵抗が困難になる状態があったのかどうかについて,刑法178条では被害者が客観的あるいは心理的に抗拒不能な状態になるような具体的な状況があるかどうかについて,今,正に上谷委員がおっしゃったように,被害者と加害者の関係はどうであったのかとか,あるいは事件が起きた時間はどうだったのかとか,場所はどうだったのかとかといった,様々な間接事実による主張・立証が必要になります。   例示をした上で受皿要件を付けるという点ですけれども,まず,受皿要件の前に,この条文のどの例示に当たるのかが,問題になります。要件に該当しても,間接事実による主張・立証が必要な場合もあるでしょう。その次に,例示に当たらないのだとすれば,「その他」に該当する行為は,被害者の心理に対してどういう影響を与えたのか,あるいは,その影響を与えたということがどのような事情によって推認できるのか,例示されたような事実と同じような影響があったといえるのか等というところで,争点の整理が恐らく大変になるのだろうと感じます。   特に,「その他」に該当する行為という,受皿のところで勝負をするということになると,正に間接事実による立証をどのように行っていくかという難しさが出てきますから,起訴も大変でしょうし,検察官の方がうまく整理できていなければ,無罪が出る可能性もあるでしょうし,裁判所の判断の違いも出てくる可能性があるだろうと思います。また,そのように判断のばらつきが出るとすれば,何よりも,本来であれば無罪となるべき人が,起訴されて犯罪人扱いされてしまうということにもつながりかねないと思います。   そういう意味でも,要件を定めるときの明確性は非常に重要だと思いますし,前回,私の述べたところでございますが,現在の裁判例でどのようなものが処罰されているのかについての整理の作業をもう一度きちんと行っていくことが必要であるように思います。 ○山本委員 酩酊に関して少し申し述べたいと思います。2019年3月の福岡地裁久留米支部の判決においては,被害者が酩酊しているにもかかわらず,まばたきをしたとか身じろぎをしたということで,加害者が誤信した可能性があると言われ無罪となっています。医療者から見たら,意識が低下している人は介助の対象であるのですけれども,加害者が同意していると誤解したと言えば,同意と思われてしまう。先ほどから,抵抗を困難にするとか,抵抗できない状態であることが認められればというお話も出てきていますけれども,被害者や支援の場では,被害を訴えても現場の警察官などから,抵抗していないでしょうとか,あとは,連れ込まれた場合でも,二人で部屋に入ったでしょうというようなことを言われて,同意でしょうなどと言われてしまうことが起こっています。同意とは何か,同意があり得ないということはどういうことなのかということを定めてほしいと思います。また,抵抗を前提にするのではなく,「その他同意を得ずに」などにしていただけた方が,私たちとしては,受皿として,きちんとそのような不同意の徴表といわれる性犯罪を拾えるのではないかと思っています。 ○井田座長 ほかにございませんか。予定された時間をすでに超過しておりますが,とても大事な論点ですので,もしほかにあればどうぞ御発言をお願いします。よろしいでしょうか。それでは,これ以上御意見はないようですので,この「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」についての議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。  今日の三巡目までの議論を要約するのは,なかなか難しいことですけれども,これまでの議論で,いわゆる自発的に参加していない者,要するに「Yes」を表明していない人に対する行為を刑法上の処罰の対象にすべきなのだという点については,賛成・反対の両方の意見があったと思いますけれども,基本的な考えとして,被害者の意思に反して性交等を強いる行為が処罰を免れてはならないということについては,異論はなかったと理解しております。  他方,被害者に虚偽の結婚の約束をして性交に同意させたようなケースや,お金を払うという約束をして同意させたようなケースは,刑法で処罰の対象とすべき行為ではないということについても合意があったと思われます。   立法に当たっての課題ということになりますと,処罰すべき不同意性交等の行為をどのような言葉を用いて構成要件化すればよいかということになりますが,単に「意思に反して」と条文に書く,あるいは「意思に反した性交等」という形で条文に書くとすると,これまでの判例の理解,すなわち,性犯罪以外の他の犯罪類型についての意思に反することの意味に関する一連の最高裁判例の理解を前提とする限り,広きに失することとなりはしないか,取り分け,動機の錯誤を生じさせた事案等の処罰すべきでない行為がそこに入ってきてしまう,そういった処罰すべきでない行為が入らないようにするためにはどういう規定がよいのか,これが議論の焦点とされるべき問題であると考えられます。   そのために,現在,判例で示されている,被害者の抗拒を著しく困難にするといった要件を条文に書き込むのがよいのではないかという御意見も一部にありましたが,むしろ,様々な手段や被害者の状態を条文上に列挙すべきであるという御意見が強かったと思われました。列挙という方法に対しては,一部に懐疑的な御意見もあったと思われますけれども,運用のばらつきをなくし,また,運用を安定させるために,あるいは処罰の対象を明確化するためには適切であるという御意見が多くの委員から述べられたと思います。   ただ,そうした列挙という方法を用いる場合には,二つの問題が出てくるように思われます。  一つは,列挙する事項をどういうものにするかは相当慎重に検討した方がよろしいだろうということ,もう一つは,全ての場合を過不足なく列挙することはなかなか困難なので,例示列挙にするほかないということです。そして,例示列挙にするとして,その際,必ずしも不同意と直ちにイコールで結べないものを列挙するとすれば,列挙した手段・状態を包括するような,そして,列挙されたそれぞれの事項の言わば解釈基準となるような抽象的要件が更に必要であるということが指摘され,その要件としては,意思に反する性的行為ということでは不十分だという意見が多くの委員から表明されています。そのため,それをどのように書くか,このことが立法上の課題とならざるを得ないというように思われた次第であります。   それでは,次の「強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」についての検討に入りたいと思います。   この論点について,二巡目までの議論を簡単に整理させていただきますと,意見要旨集8ページから11ページまでにありますように,例えば,挿入されるものが男性器であろうと指であろうと,性具やその他のものであろうと,あるいは,挿入される場所が口腔,膣,肛門のいずれであろうと,いずれも強制性交等罪とすべきであるといった御意見が述べられている一方で,現行の刑法177条・178条が男性器の挿入行為のみを対象としていることは不合理ではないのではないかといった御意見や,膣や肛門への挿入行為と口腔への挿入行為を区別することも考えられてよいといった御意見も述べられております。   また,強制性交等罪とは別の類型を設けて,強制性交等罪と同じ法定刑により処罰する方法があるのではないかといった御意見,あるいは強制わいせつ罪と強制性交等罪の中間に位置する法定刑によって処罰することも考えられるのではないかといった御意見も述べられております。   以上のことを踏まえますと,本日の議論に当たりましては,強制性交等罪の対象となる行為の範囲を広げる場合であれ,別の類型を設ける場合であれ,挿入の対象に口腔を加えるかどうかといった点を含めて,それらの規定の対象となる行為の範囲をどのように決めるかという問題と,強制性交等罪の対象となる行為の範囲を広げるか,それとも別の類型を設けるか,もし別の類型を設けることとした場合には法定刑をどうするかという問題と,それから,挿入する行為と挿入させる行為の関係を再整理するとなりますと,いわゆるジェンダーニュートラルという要請についてはどのように考えるかという問題,これらを意識しながら議論を行う必要があると思われます。   このような観点を踏まえつつ,御発言をお願いいたしたいと思います。御意見のある方は御発言をお願いします。20分程度の時間を予定しております。 ○小島委員 意見要旨集10ページの「④」の下から一つ目の「○」と,11ページの「⑤」の「○」に関連して,意見を申し上げたいと思います。   強制性交等罪の処罰範囲の拡張については,挿入する行為なのか,挿入させられる行為なのかという行為態様の問題と,座長がおっしゃったように,口腔なのか肛門なのか膣なのかという場所の問題と,何を挿入する・させる行為なのかという客体の問題,つまり,手,指,舌など身体の一部なのか,物なのかという問題を,場合分けして検討すべきではないかと考えました。なぜなら,身体の境界線の侵襲には,三つの要素の組合せによって違いがあるのではないかと考えるからです。   様々な御意見があると思いますけれども,私見を申し上げます。  まず,挿入する行為については,場所が膣や肛門である場合は,手,指,舌,物のいずれを挿入する場合も強制性交等罪と同様の当罰性があると考えます。口腔については,強制性交等罪と同等の当罰性がある場合とは,性具など性的意味合いのあるものを挿入する場合に限定されると思います。例えば,口にバナナを入れるような行為は含まれないと考えます。   一方で,挿入させられる場合,男性性器を挿入させられる場合は現行法上も強制性交等罪に当たるわけですけれども,それ以外の挿入させられる場合については,膣とか肛門に舌を挿入させられる場合に限って,強制性交等罪と同様の当罰性があると考えました。なぜなら,舌を入れさせる行為というのは,体の一部の粘膜が接触するという意味で,ほかの場合とは身体の侵襲性に違いがあるのではないか,男性性器を挿入させられる場合と同様に処罰してもよいのではないかと考えました。強制性交等罪と同様の当罰性がある行為については,法定刑も同じで良いと考えました。ここから漏れる行為については,強制わいせつ行為ということで処罰したらいかがかと考えました。 ○和田委員 意見要旨集の「⑤」に書かれていることと重なることではあるのですけれども,ここでは,性具を挿入させる行為が陰茎を挿入させる行為と同等の当罰性を有するといえるかどうか悩ましく,物を挿入する行為と物を挿入させる行為とを同様に処罰する規定を設けることには無理があるのではないかという意見が示されているところです。具体的に考えてみますと,やはり,被害者に性具を持たせて加害者の膣に挿入させたという場合には,被害者側の感覚を考えたときに,もちろん,性的な接触を感じる場合もあるとは思いますが,必ずしも性交等と同等の性的な接触が起きたとは感じられない場合も含まれるように思われます。ですから,加害者が性具を被害者の膣に挿入した場合と全く同じように,一律に性的接触の経験を強いたということで同じような処罰をすることは,やはり難しいであろうと思われるわけです。したがいまして,身体の一部や物の挿入行為を強制性交等の罪の対象とするか,あるいは,強制わいせつ罪の加重類型とするかはともかく,いずれにしましても,身体の一部や物を挿入させる行為について,一律に同じような処罰の対象とするのではなく,その中で重い処罰に値するものを,どのような根拠に基づいて切り分けることができるかを分析した上で切り出すという作業をどうしてもしないといけないのではないかと思います。   今,小島委員が示されたような具体的な仕分というのは,そういう作業に対応するものだと思いますので,非常に有益な作業だと思いますが,この中でどの場合を重い類型にするのかについて,もう少し具体的に議論して合意をしていくということが必要だと思います。人によって感覚がかなり違うのではないかと思われます。小島委員の意見を前提に言えば,舌を口に入れさせられる行為についても粘膜と粘膜の接触がありますので,私は,舌を膣・肛門に入れさせられる場合だけでなく,口に入れさせられる場合も同じ扱いをしてよいのではないか,その前提として強制的に舌を口に入れる行為も重い類型でよいのではないかと個人的には感じるところです。もっとも,この辺りはどの辺りが一般的な感覚なのかよく分かりませんし,犯罪の重さは被害の大きさだけで決まるものでもありませんので,なお議論を続けていくことが重要だと思いました。 ○佐藤委員 恐らく,これまでの議論におきまして,膣又は肛門に身体の一部や物を挿入する行為につきましては,強制性交等の罪の対象にする,あるいは同罪と同等の当罰性がある別罪として処罰の対象とするということについては,皆様の意見が一致しているのではないかと認識しております。   これに対して,一番問題なのが,口腔に性器以外のものを挿入する行為で,取り分け物を入れるような行為については,かなり皆様も悩まれているのではないかと思います。確かに,口はふだん衣服に隠されている場所ではありませんので,性的な要素がそう強くない部位ですし,そもそも物を入れて咀嚼して食べる部位ですから,ここに物を入れるような事案について,そこまで当罰性が高いものがないのではないかという理解には一定の説得力があるとは思います。   ただ,もしも現行の強制性交等罪の対象を広げるという形ではなく,物等の挿入行為を強制性交等罪と区別して規定して,その上で,物等を挿入した場合の法定刑の下限だけを強制性交等罪よりも下げることとするのであれば,口腔内への挿入についても併せて規定してもいいのではないかと考えております。   それは,例えば性器を模した物の口腔内への挿入ということを考えた場合に,その物がきれいな状態であればまだよいのですが,一度行為者や第三者が口腔,膣,肛門で使用した後に口腔内に挿入されたような場合を考えると,かなり侵襲性は高いですし,性交類似のように思われますので,このような事案については,口腔内への挿入も性交等と同程度の侵襲性があると考えていいのではないかと思われます。   ただ,口腔内への侵襲が膣や肛門の場合と比べて侵襲性の低い場合が多いというのは,おっしゃるとおりだと思いますので,法定刑の下限は下げつつ,上限を同じにすることで,侵襲性が性交等と同じようなものに対処できるようにしておくことが重要なのではないかなと思っているところでございます。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。この点についてはひとまず検討が尽くされたという感じでございましょうか。   それでは,一通りの御意見をお伺いできたようですので,この強制性交等の罪の対象となる行為の範囲についての議論はこの辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   若干のまとめを試みるとすれば,膣や肛門に身体の一部や物を挿入する行為は,現行法上,強制わいせつ罪に当たることになっていますけれども,その行為の中には性交等と同程度の侵害といえるものがあるのではないかという点については御意見がほぼ一致していたと思われます。ただ,その上で,法改正が必要かということになりますと,法改正が必要であるとする意見が強く主張されたと思いますが,そうした場合も強制わいせつ罪の適用によって適切に処罰できるため,改正の必要は必ずしもないという御意見も一部にあったと思われます。  また,口腔への挿入については性交等と同等に扱うべきという御意見もありましたが,口腔自体には性的要素がないことから,別に考える必要があるのだという御意見が多数であったように思われました。  さらに,被害者が他人の身体の一部や物を体内に挿入されるというケースと,被害者に被害者の指や被害者の手に持たせた物を加害者の体内に挿入させるというケースでは,被害の大きさが異なるのではないかという御指摘がなされ,これに対しては特段の反論はなかったと思われます。ただ,取り分け,舌を加害者の膣・肛門内に挿入させる行為については,被害が大きいという御意見も一部にあったところです。   以上のことを前提としますと,平成29年改正後の刑法177条が,膣,肛門,口腔を同等に扱っていて,かつ加害者側が挿入する行為と被害者側に挿入させる行為を同等に扱っていることとの関係で,第一に,口腔への挿入をどういう扱いにするか,第二に,加害者側が挿入する行為と被害者側に挿入させる行為を同等に扱うことに一部例外を設けるかどうか,もしそうした区別を行うとすれば,その理論的根拠は何かということが法改正に当たっての課題になるものと考えられます。   また,改正する場合における具体的な規定の方法としては,強制性交等罪における性交等の範囲を広げる方法,強制性交等罪と同等の別類型を設けるという方法,強制わいせつ罪と強制性交等罪の間の中間的な類型を設けるという方法の三つの方法があることが御指摘,あるいは御提案されたと思います。   次に,「法定刑の在り方」についての検討に入ります。   この論点について,二巡目までの議論では,意見要旨集12ページから19ページまでにあるような御意見が述べられております。御発言いただくに当たっては,どういう観点からの御意見であるかを明示して御発言いただきたいと思います。御意見のある方は御発言をお願いします。15分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 「法定刑の在り方」の「(1) 2名以上の者が現場において共同した場合について加重類型を設けるべきか」について,述べたいと思います。   前にもお伝えしており,15ページ「(3)」の常習的・継続的に犯行を繰り返していることとも関連してくると思いますけれども,このような集団で行われる加害の場合,スーパーフリーやリアルナンパアカデミーのように,犯罪の手口を教え,そして,それを継続している場合には,無期懲役を法定刑に含めた加重類型としてほしいということを求めます。難しいのであれば,平成29年刑法改正前に集団強姦罪として規定されていたものを,文言として入れていただければと思います。   また,法定刑に関しては,被害者側としては重い罪と分かるようにできるだけ長く罰してほしいということを求めているところではありますけれども,それは,今のところ刑の長さでしか罪の重さというのを計ることができないからかと思っています。私たち被害者にとって最も重要なのは,二度と同じ性加害を繰り返さないでほしいということです。20年後に出所しても同じ犯行を繰り返しているような状態では意味がないと思います。法定刑の検討のところでは難しいのかもしれませんけれども,治療プログラムなどによって再犯率が下がっているとも聞いていますので,治療刑なども含めた議論があってもよいのではないかと思っています。露出やわいせつ電話を含めたアメリカのデータですけれども,一人の性犯罪者は生涯380人の被害者を出すともいわれています。そのような習慣性が高い犯罪だということも含めた法定刑の在り方を考えていただければと思っています。 ○宮田委員 行刑なども含めた処罰の実態を先取りした形での量刑に関する議論は,若干危険であるように思います。効果が高ければ,効果があれば短くていいのですか,という議論になる可能性もあり,それは,被害者の方々には不本意なことではないかと思います。   法定刑というのは,国民に対して,この行為にはこのような処罰を与えるという刑の重さを示すものです。私は,平成29年の刑法改正時の議論の際に,法定刑の下限を上げることに反対をして,いまだにその意見は正しいと思っていますが,前回改正時の議論のときに,強盗罪との比較ということが言われました。しかし,現在,暴行・脅迫要件に,威迫や欺罔といった恐喝や詐欺に当たるような要件まで含めて考えているのだとすれば,やはり,法定刑の下限を下げる余地も考えなければならないと思います。性犯罪によるダメージが財産罪よりも大きいということはもちろん重々承知の上ですが,日本では財産罪の法定刑が重過ぎるという実情もあります。   しかも,以前から何度も申し上げているように,個別の事案を考えたときに酌量減軽があるからいいじゃないかという点については,今のような性犯罪に対する社会的な非難が非常に厳しい状況の下,酌量の余地のある殺人罪,酌量の余地のある放火罪というのはたくさんあるけれども,酌量の余地のある性犯罪というのはなかなかなく,非常に酌量減軽を得るのが難しくなっている。意見要旨集17ページの「(4)」の「②」の三つ目の「○」などで何度も繰り返し申し上げているところですけれども,起訴前の段階で示談が成立すれば不起訴になるような案件が,起訴されるとほぼ実刑になっている現実を見ていると,刑を重く定めて国民に対してメッセージを送るという効果以上の副作用があるように思います。 ○山本委員 酌量減軽についてなのですけれども,例えば尊属殺人が廃止されたきっかけは,ずっと父親から性虐待を受けていて,妊娠・出産させられていた娘が父を殺したからだと聞いております。そのようにやむを得ない殺人というのはあるのかなということは想像しますけれども,やむを得ない性犯罪というのはないのではないかと私は考えています。酌量すべき事情というのが,どのようなことを意味されているのか分からないのですけれども,それをもって重過ぎるのではないかということはいえないと思い,述べさせていただきました。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。先ほど山本委員からは,現場で複数の人間が共同して実行した場合には重い類型を作るべきだという御意見がございました。その点につきましても,いかがでしょうか。 ○橋爪委員 前回の改正のときに集団強姦罪が廃止されたわけですが,それは,集団強姦罪という行為が悪質ではないという判断に基づくものでは全くなく,強制性交等罪の法定刑を引き上げた関係で,集団強姦罪についても,一般の強制性交等罪の中で適切に量刑評価を行えば足りるという選択に至ったものと承知しています。個人的な感覚を申しますと,性行為を分担して実行している者については刑の減軽をする必要は乏しいと思うのですが,例えば,共同正犯の場合,見張り役など,グループの中で,やむなく消極的に性犯罪に関わったような者が含まれてくるわけです。このような共犯者について,酌量減軽を行って執行猶予を付す可能性を残すべきかという点が,恐らく実務的には問題になり得るところであり,法定刑を検討する際にも一つの重要な視点となるような気がいたします。 ○齋藤委員 既に意見要旨集12ページから15ページまでに出ていることではあるのですけれども,集団による犯罪であるとか子供に対する犯罪であるとかで,強制性交等罪の法定刑を重くしてほしいとは思います。しかし,それは殊更強く主張するわけではございません。私としましては,ここの会議で話し合うことを超えていることを分かってはいるのですが,性犯罪の再犯防止においては,刑務所内でのプログラムだけではなく,社会内の処遇が重要であって,再犯を繰り返させないということがやはりとても重要であると考えております。きちんと刑期を終えた上で社会に戻った後,再犯をさせないという意味で,社会内処遇,社会内での再犯防止のプログラムにどうつなぐか,そこにどう強制性を持たせるかということについては,どこか別の機会でもいいと思いますが,きちんと議論していただきたいなと思っております。 ○山本委員 集団強姦などの場合に,見張り役の人とかは酌量すべき事情があるということを,議論のときに度々聞くのですけれども,被害者側からみれば,その人が見張りをしていたから逃げられないわけであって,被害者からみたら同じ加害者だと認識されるわけです。集団強姦という被害のために何十年も精神科病院に入退院を繰り返して苦しんでいる人もいます。見張りをする人は,その集団内での地位が低くていじめられている場合もあるという事情などは理解しますけれども,どうしてそれが酌量すべき事情になるのか,被害者としては納得できるものではないです。被害者側からの意見として伝えさせていただければと思いました。 ○上谷委員 日本の刑法は法定刑に非常に幅があると思うのですけれども,それがうまく使えていないなというように考えています。量刑が軽いと言われたり,法定刑の下限をもっと引き上げるべきという意見が出てきたりする背景には,それがあるような気がしています。物すごく悪質な事案と,そこまでいかない事案の量刑が,判決でそれほど変わらないというか,これだけやっていてもこの程度なのかと思うことが非常に多いのです。例えば,子供に対する犯行とか集団レイプのようなものの場合は,当然,当罰性が高くなると思うのですけれども,量刑としてはそれほど変わらないというのが実感でして,そこのところがもうちょっと,そこは柔軟にというのですかね,犯した罪に見合う刑を法定刑の範囲内で柔軟に科してほしいなと思っています。 ○和田委員 具体的に直接重い処罰をもたらすことに役立つ話ではないのですけれども,一つの観点として,集団の場合であるとか,あるいは常習性・継続性がある場合に,そういうタイプの性犯罪を行ったことが分かるような罪名にする,あるいは罰条にするということが手段として考えられるのではないかと思います。もちろん,いろいろな御意見があることは分かりますけれども,伝統的な考え方に基づくと,やはり法定刑の下限を6年にとどめるのか,7年に上げるのかというのは,質的にかなり大きな違いがあります。現状,既に6年以上の懲役になっているものに,更に加重類型を設けようとすると,無期懲役を足すか,あるいは6年を7年に引き上げるかという選択肢しかなくなってしまうわけですけれども,一つの方法として,現在は致死傷の場合に加重という形になっていますが,その加重事由として,致死傷とともに,集団で行ったとか,あるいは常習性があること,継続性があることを号として並べて規定して,そのうち一つ以上に当たる場合には法定刑が6年以上の懲役の加重類型に当たるという形で規定すれば,一応,7年以上の懲役まで引き上げることなく,しかし,集団性があるようなものについては,そういう犯罪であるということが条文の適用上示せるということになろうかと思います。 ○井田座長 和田委員に御質問させていただきたいのですけれども,仮にそうなると,例えば,現場で共同して強制性交等を行った場合,現行法とは異なり,けがをさせなかった場合とけがをさせた場合との間で法定刑に差が生じなくなるということでしょうか。 ○和田委員 複数の号を適用するという点で差はありますが,法定刑は変わりません。しかしながら,そのように罰条を目に見える形にすると,それが一つの類型として浮き上がってきて,量刑の相場も変わってくるということが間接的にはあるかなと思います。 ○井田座長 ありがとうございました。ほかに御意見ございますか。よろしいでしょうか。   それでは,「法定刑の在り方」については,一通り御意見をお伺いできたと思いますので,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   本日頂いた御意見を含めて,これまでに三巡した議論の結果をまとめるとすると,次のようになるかと思います。   強制性交等罪に当たる行為のうち,特に犯情が重い場合があること,すなわち,第一に,二人以上の者が現場で共同した場合,第二に,被害者が一定の年齢未満の者である場合,第三に,常習的又は継続的な犯行に及んだ場合については,類型的に悪質であり,重く処罰されるべきものであることについては,委員の間での認識が共有されているものと思われます。また,実務上,これらの事情は,量刑上,刑を重くする事情として考慮されていることについても,異論のないところだと思います。   その上で,立法論として,現行の5年以上の懲役という法定刑を引き上げるかという点につきましては,既に現行の法定刑自体が刑法典の罪の中でも相応に重い法定刑であるということを踏まえて,第一に,下限をこれ以上引き上げると,致傷結果が生じた場合には執行猶予が一切付せなくなるということになり,それは相当ではないのではないかという御意見がありましたし,第二に,上限を引き上げると,現行法上,有期刑の上限である懲役20年,併合罪加重されれば懲役30年までの科刑が可能であるわけですので,現行法の下でも適正な量刑ができていないわけではない,言わば引上げの立法事実があるのかという御意見があったかと思います。   次に,法定刑の下限の引下げについては,暴行・脅迫要件が緩やかに解釈されているという現状があること又は諸外国の法制との比較から,法定刑の下限が懲役5年であるのは重過ぎるという御意見もありましたし,強制性交等罪よりも評価の軽い類型を新設して法定刑を下げるべきであるという御意見も表明されたと思われます。ただ,法定刑の下限の引下げの必要はないという御意見が強かったと思われます。なお,この論点については,今日,宮田委員も御指摘されていましたけれども,暴行・脅迫の要件の緩和の問題,明確化の問題についての論点とも関連するであろうと思われます。   それでは,開会からかなり時間も経過しましたので,ここで10分休憩をしたいと思います。 (休     憩) ○井田座長 会議を再開いたします。   次に,「配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に入ります。   二巡目までの議論を簡単に整理させていただきますと,意見要旨集20ページから23ページまでにありますように,解釈論として,配偶者間では性犯罪の成立自体が限定されると解する余地が全くないわけではないので,解釈上の疑義を解消するために明文規定を設けることも選択肢としてあり得るという御意見などが述べられた上で,考えられる規定の在り方としては,強制性交等罪の客体のところに「(婚姻関係にある者を含む。)」と規定する方法,又は,「婚姻関係の有無にかかわらず,強制性交等罪の罪とし」といった文言を加える方法など,具体的な御意見が述べられております。   本日は,これらの御意見,これまでの御議論を踏まえ,既に述べられた御意見に更に追加して述べることがあるかどうかという観点から御発言をお願いいたします。10分程度の時間を予定しております。 ○小島委員 ほぼ議論が尽きているかと思うのですけれども,22ページの「④」の四つ目の「○」に関連して申し上げたいと思います。   被害者御自身も,また,DVの相談機関や警察なども,いまだに夫婦の間では性交の要求権があるとか,性交に応じる義務があると考えて,夫婦の間では強制性交等罪は成立しないという意識が根強く残っていて,検挙もほとんど行われていないという現在の社会的状況にフォーカスしますと,これを是正していくという観点から,端的に,「(婚姻関係にある者を含む。)」というような括弧書きを現行刑法典に書き込むという方が,現在の状況に合っていると思っております。それ以外の関係を排除する趣旨ではないということを説明しつつということになりますが,刑法典に現時点で載せるとすると,今の社会状況にフォーカスして,先ほど述べたような規定がいいのではないかなと考えております。 ○齋藤委員 小島委員の御意見も分かりますし,「(婚姻関係にある者を含む。)」と書き込むと,婚姻関係という強い関係以外のものが全て含まれるということが,法律家の皆様の認識としてあるということも分かるのですけれども,夫婦間だけではなく,社会の中では,事実婚の関係も,パートナーシップの関係性も,事実婚の定義を満たしていない関係もあります。いろいろな状況もあるのかなというように思いますし,やはり司法関係者ではない人の中には,「(婚姻関係にある者を含む。)」と書かれると,婚姻関係に至れなかった自分たちというのは排除されているのかなという感覚を抱く場合もあると思います。「婚姻関係の有無にかかわらず」としていただければ,婚姻関係という強いものが示されて,しかし,その強いものでさえ,その有無にかかわらずということで,排除されている感覚が少なくなるように思います。   どちらにしても,今現在,様々な関係性が存在している社会の中で,いろいろな関係性が排除されないのだということについて,報告書の中にですとか,議論の経過を説明する中に,きちんと明示していただければと思っております。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   ほかには,これまでの議論に付け加えての御意見はないようですので,この点についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   三巡目までの議論の簡単なまとめを申し上げると,現在,婚姻関係や内縁関係などの親しい間柄であるから,強制性交等罪は一切成立しないという考え方は実務上も学説上も採られていないこと,他方で,一部の学説では,婚姻関係があることによって強制性交等罪の成立が一部限定されると考えられているものもあること,こういう事実認識は委員の間で共有されたものと考えられます。   その上で,一般社会には根強い誤解があるのだという御意見,あるいは,司法関係者の間にも,親しい関係にあると同意があるはずだというバイアスが掛かるのだというような御意見もあり,このような状況を是正するため,また,国際社会からの批判が強いこともあるため,明文の規定を設けるべきだという積極的な御意見がありました。また,解釈上の疑義を解消する必要があるのであれば規定を設けることも考えられるという,言わば消極的認容というのでしょうか,そのような御意見もありました。   具体的にどのような規定を設けるべきかについては,例えば,「婚姻関係の有無にかかわらず」と規定するのがいいのではないかという御意見,これに賛成する御意見が示され,特に明文の規定を入れることに反対だという御意見はなかったように思われました。   それでは,次に,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に入りたいと思います。   この論点のうち,「他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流通させる行為を処罰する規定を設けるべきか」について,二巡目までの議論を簡単に整理させていただきますと,意見要旨集24ページから29ページまでにありますように,例えば,撮影行為についてどの点に着目して犯罪成立要件を定めるべきかについては,性器等の性的な部位,下着,性交等をしている姿態といった「撮影対象」に着目した御意見がありました。また,浴場の脱衣所とか,自分の家の中などの人が抵抗なく裸になるであろう場所といった「場所」に着目した御意見がありました。さらに,ユニフォーム姿で運動する際の足を開く様子を拡大して撮影する場合といったような「撮影方法」に着目した御意見もありました。そうしますと,本日の議論に当たっては,まずは,どのような観点から性的姿態の撮影行為に対する処罰規定を設けるべきかについて議論を行い,その上で,具体的にどのような犯罪成立要件を定めるべきかについて議論を行う必要があると思われます。   また,「撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか」については,意見要旨集29ページから33ページまでにありますように,例えば,刑法19条の没収は原本に限られており,複写物は原則として没収対象とならないことから,性的姿態の画像の複写物の没収を可能とする特別な規定を設けるべきであるという御意見,それから,画像の一部が複製された場合であっても,性的部位や性的姿態が写っている場合には没収できるようにすることが考えられるという御意見が述べられているほか,有罪判決を前提としない画像の没収・消去の方法として,行政上の措置を講じるものとすることが考えられるといった御意見が述べられております。  本日は,こうした複写物の没収や行政上の措置としての没収・消去の仕組みについても,意見要旨集に沿って,更に議論を深められればと考えております。   第1の「8」の論点についての議論は,全体で40分程度を予定しておりますけれども,まずは性的姿態の撮影行為に対する処罰規定について20分程度議論を行い,撮影された性的な姿態の画像の没収・消去について20分程度議論を行うことにしたいと考えております。   まず,撮影行為に対する処罰規定について,御発言をお願いいたしたいと思います。 ○小島委員 意見要旨集26ページの一番下の「○」に関連しまして,類型として,子供の被害について申し上げたいと思います。児童ポルノ禁止法でカバーできないような被害が生じておりますので,その点を申し上げたいと思います。   「声かけ写真展」というものに法的問題がないのだろうかという点です。中年男性が街角で女子小中学生に声を掛けて撮影した写真の展示や販売会というのがあって,法的規制が及んでいないということが問題になったことがあります。保護者の同意なく,水着姿とかブルマー姿とか下着姿の子どもたちの特定の部位,具体的には下腹部などを強調する写真を撮影して展示・販売することが問題になりました。子供の承諾を得ていると言い,主催者は問題がないと主張しています。   児童ポルノ禁止法2条,第6回の会議で事務局からお配りいただいた資料44に載っておりますけれども,児童ポルノ禁止法は規制の対象行為が非常に限定的です。当たり得るとしたら2条3項3号が考えられますが,3号は衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態となっておりまして,性器若しくはその周辺部,臀部又は胸部が露出され,又は強調されているものとなっているので,児童ポルノ禁止法では対応できないと思います。摘発もできないということですが,子供が被写体となる性的画像についての規制については,児童ポルノ禁止法では限界があります。「声かけ写真展」などで販売されたり,展示されているような性的画像についても,規制の対象とすることを検討していただければと思い,事例ということで紹介しました。 ○金杉委員 同意なく撮影する行為については,これまで,撮影方法ですとか機材等が多様化している中で,それを処罰すべき必要性はあると考えてきましたので,特に反対意見を述べてこなかったのですけれども,やはり,消極的な意見を述べさせていただきたいと思います。   といいますのは,もし今回の改正で,例えば,「その他意に反する性行為」が処罰されることになった場合に,どういう防御ができるかということを考えますと,そこは,やはり認識の相違があるからこそ,そういう犯罪になるわけですね。行為者の方は,自分がやっている行為が強制性交等罪に当たるという確信を持って犯罪を行う人もいるとは思うのですけれども,自分では同意があると思っていた場合についても犯罪とされ得るという危険性をはらんでいます。その場合に,例えば,何回か会っていて,交際をしようと思っていて,口説いて初めて性交するという場面になったときに,それが後から意に反する,あるいは何らかの有形力の行使があったということを言われないためには,性交してもいいですか,性交したいですという申入れをして,承諾書を書いていただくとか,あるいは,撮影をして,明らかに意に反する性交ではなかったということを残しておかないと心配だということも起こり得るのではないかという気がします。そういった場合に,性交は同意してもらったとしても,それを撮影していいですかと言って,なかなか初対面で「はい」とまで言っていただけないことから,隠し撮りのようなことをしていたときに,それで将来的に強制性交等罪で起訴されて,いや,同意があったのですという証拠として,その撮影した動画を弁護側の請求証拠として提出すると,その証拠によって強制性交等罪は無罪になったけれども,同意なく撮影したということで不同意撮影罪により有罪になるということが,やはりあり得ると思うのです。  そういったことを考えますと,自分の意見としては,何らかの加害者の働きかけ,具体的には,脅迫なり,威迫なり,威力でいいのかという問題はもちろんありますけれども,そういった働きかけがなかったのだという証拠として,あるいは意思に反する性交だと後で言われないための保険として撮影する行為自体を処罰するということには,やはり消極的な意見を述べさせていただきたいと思います。   一番被害が生じるのは撮影した画像が流通してしまった場合だと思いますので,それについては,今のリベンジポルノ防止法であったり,撮影する行為自体が違法になる場合は児童ポルノ禁止法であったり,不十分なところはあるかもしれませんけれども,迷惑防止条例等で足りるのではないかと考えます。 ○佐藤委員 話が少し変わってしまうのですけれども,意見要旨集26ページの「④」の四つ目の「○」について意見を述べたいと思います。   浴場の脱衣所,自分の家の中などのプライベートな空間での撮影を禁止する規定とすることが,撮影対象を絞り込む上で有効ではないかという意見がございまして,確かに撮影対象者がいる場所から絞り込みを行うというのは検討の余地があると思っています。しかし,新たに規定するのであれば,撮影対象者が自宅等のプライベートな空間にいる場合以外も取り込んでいく方がいいと思っております。   というのも,保護法益を個人の性的自己決定とか尊厳だと考えると,プライバシー空間に限る必要がないと思われるからです。保護法益との関係では,むしろ,被害者のいる場所ではなくて,これは以前の会議でも申し上げた気がしますが,撮影されたもの,具体的には,性的な部位とか,下着とか,性交等の姿態とか,そういうのを撮影した場合を処罰の対象とするという形がよいのではないかと思います。   ただ,写したもので規定をした場合に必ず出てくる問題としては,写り込みの問題があります。例えば,有名な教会の前で記念写真を撮ろうと思ったのだけれども,階段に座っているスカートを履いた女性の下着が見えているというような場合に,わざわざその女性に声を掛けて,すみません,下着が見えています,隠してもらっていいですかなどと話し掛けるのは変なので,気にせずにそのまま写真を撮ってしまったような場合,あるいは,海水浴場で記念写真を撮りたいのだけれども,周りに海水パンツで上半身裸の男性が複数いて,全員に写真撮っていいですかという承諾を得るわけにはいきませんから,そのまま撮影したような場合,こういう場合を処罰対象から外すような規定にする必要があるかと思われます。これにつきましては,現段階では,例えば,公衆の目に触れるような場所で撮影対象者が自ら露出している場合は除くとか,そのような形で限定を付けることで対応できるのではないかなと思っています。   最後に,発言のついでに申し上げますと,先ほどの金杉委員のお考えは,かなりもっともだというように思います。ただ,むしろ,そのような状況が問題になるのは,刑法177条・178条の罪がいつ成立するか分からないような条文になってしまった場合だと思われます。そのことが理由となって証拠のビデオが要るということになるとすれば,むしろ証拠のビデオ側の問題というよりは,いつ成立するか分からない構成要件になってしまった刑法177条・178条の問題ではないかと思います。そのため,むしろ,刑法177条・178条を,一般人にも,どういう場合に処罰されて,どういう場合に処罰されないのかというのがはっきり分かり,証拠の写真は要らないことがきちんと分かるような構成要件にすべきではないかと思います。これは,恐らく金杉委員もそういう趣旨も含んだ御発言だったと思います。そうなるようにしっかり構成要件を作らなければいけないなと思った次第でございます。 ○上谷委員 処罰の対象となる行為ですけれども,私は「場所」に着目することは問題ではないかなと思っています。どんな場所であっても,性的な姿態を撮ることは可能だろうと思います。現に,東京都条例などは,場所はほぼ問わないことになっていると思われ,私はその条例の制定に携わっている人たちにも話を聞いており,その際,ここは含まれないという場所があるのですかと聞いたら,いや,全部網羅できていますと言われました。本当にそのようなものがあるのかなと一瞬疑問には思ったのですが,「場所」の問題ではないと思いますので,撮影対象・撮影部位で絞っていくというのと,あと撮影方法をどうするのかという二点を組み合わせて作っていくことが必要かと思っています。   それから,先ほどの金杉委員の御意見なのですけれども,やはり性行為自体に同意していても,撮影自体に同意がないのに撮影されているということは,ほとんどの人が相当な苦痛を覚えるのではないかと思うのです。ばらまいたら犯罪になると言われますけれども,ばらまかれなくても,そういう画像があって手元に持たれているということ自体,ほとんどの人が相当苦痛に感じるでしょうし,本人にばらまく意思がなくても,例えばウイルス感染したとか,携帯を落としたとか,思わぬところで拡散していく可能性もあるわけです。付き合っているときに同意でそういった画像を撮っていたのだけれども,別れるときに消去してくれと言ったのに消去してくれない,いつ何をされるか分からない,ということで相談に来られる方もたくさんいらっしゃいます。ですから,後で訴えられた場合のときのために保険に撮っておくのは仕方がないのではないかということについては,賛同できません。   それから,リアルナンパアカデミーの事件ですけれども,あれはレイプのシーンを必ず動画に撮っていたのですが,その加害者の言い分は,後で問題になったときに和姦の証拠とするためであるというものでした。一見理屈が通っているようではあるのですが,結局,それが決定的なレイプの動かぬ証拠となって立件されているわけですけれども,何かあったときにレイプではないことの証拠にするという口実で勝手に撮影することには,何らの正当性もないというのが私の考えです。 ○橋爪委員 27ページになりますが,「④」の三つ目の「○」,「⑤」の直前ですけれども,スポーツの競技中の撮影行為について,考えるところを申し上げたいと存じます。   このような行為が社会的に深刻な問題になっていることは十分承知しておりますし,撮影対象者の方がこれを知った場合にその性的羞恥心を害されることはもっともだと思います。また,例えば,赤外線を用いた撮影装置などを使用して,水着やユニフォームを透かして,その下の性的部位を撮影する行為については,性的姿態を直接的に撮影する行為と変わりがありませんので,これも処罰対象に含めるべきであると考えます。   もっとも,飽くまでも衣服の上から撮影する行為,すなわち,周囲にいる者が視認可能な部分のみを撮影する行為については,本来衣服に覆われており,それゆえ外部から視認不可能な性的部位や下着姿を撮影する行為とは,やはり質的に相違があることは否定できず,別の観点から処罰の可否や限界について論ずる必要があります。   ここで難しい問題は,通常の撮影行為との切り分けの問題です。特定の部位を過度に強調するような撮影行為を禁止し,処罰対象にすることも考えられますが,具体的にどこまで強調すれば犯罪を構成するのか,その限界を明確に画することは困難であるような印象を持ちます。また,例えばカメラの性能が高い場合,通常の撮影行為を行った後,特定の部位だけを拡大して加工処理することも簡単にできますので,特定部位を過度に強調する撮影行為を禁止するとしても,それであれば後から加工する行為が横行するだけですので,実効的な規制とは言い難いところです。   その上で,撮影行為が通常の撮影の範囲にとどまっている場合も含めて,その後,画像を加工する行為等によって被害者を性的な対象として扱う目的がある場合,つまり,撮影行為を目的犯と規定した上で,一定の悪質な性的目的に基づく撮影行為を処罰対象にする可能性についても更に考えてみました。もっとも,撮影行為が極めて異常であればともかく,通常の撮影行為については,このような目的を撮影段階で合理的に認定することは困難であると思われます。もちろん,撮影した画像を,その後,例えば特定部位だけを強調するなど性的な内容に加工した上でインターネット上にアップロードする行為に及べば,撮影行為段階の目的を推認することも不可能ではありませんが,むしろ,それであれば,撮影行為ではなく,その後のアップロード行為等を規制する方策を検討することが実態に即しているように思われます。   この問題は,被害も深刻であり,何らかの対応が必要であるという問題意識はそのとおりだと思い,いろいろな方策を考えてみたわけでありますが,刑法の議論としては,処罰すべき撮影行為を明確に切り出した上で,かつ,それを実効的に処罰することは,必ずしも容易ではないような印象を持っております。現場の状況を十分にはわきまえておらず,このようなことを申し上げるのもおこがましいのですが,まずは競技場やグラウンドにおける撮影行為や撮影場所等の規制,さらに,性的に加工された画像がアップロードされないような規制を検討することが,被害を防止する上では重要ではないかという印象を持っております。 ○宮田委員 撮影の方法や撮影の部位から処罰対象となる行為を捉えていくという方法は,非常に合理的だとは思うのですけれども,性的な部位,下着姿,性的な行為をしているところというような形で,性的な部位についての撮影という限定を加えた場合に,そこまでに至らないものの撮影がプライベート空間でされてしまったとき,処罰の対象外になってしまうという問題があると思っています。場所でくくるのは,何にメリットがあるかというと,性的な部位を写したとまではいえないし,性的部位を写す行為の未遂とは断定できない場合がありますから,人々がプライベートな空間で自由に生活ができる状況が侵害された場合に,そういうものを捕捉できることには意味があると思っています。 ○和田委員 流通罪との関係で,若干,議論がこれまで余り行われていないように思われる点について,補足的に問題の提起をしておきたいと思います。   他人の性的な姿態の画像を流通させる行為を処罰する規定を設ける場合には,二つ類型があり得ると思います。第一の類型は,盗撮罪・撮影罪で処罰対象とされている行為によって取得された画像を流通させる行為であり,これについては,通常,流通させることについても同意がないのが前提だと考えられますので,処罰対象にすることにさほど異論は強くないのではないかと考えられます。第二の類型は,撮影対象者の同意の下で撮影された性的な姿態の画像を同意なく流通させる行為であり,これを処罰対象にするかどうかというのが,一つ大きな問題だと思います。   これを考える際には,二つのことを検討する必要があるように思われます。  まず,被害者に気付かれずに密かに撮影した性的な部位の画像であるとか,あるいは強制性交等の犯行状況を撮影した画像のような,そもそも撮影自体に同意がなかった画像を更に流通させる行為という第一の類型と比べたときに,法益侵害,あるいは可罰性の点で違いがあるかどうか,二つの類型の間にどのような異同があるかということを検討する必要があるだろうというのが第一の点です。   次に,撮影対象者の同意を得て撮影された性的な姿態の画像を同意なく流通させる行為は,既に,現行のリベンジポルノ防止法において,一定程度処罰対象とされています。しかし,リベンジポルノ防止法における提供行為についての罰則というのは,保護法益を性的プライバシーとして理解していて,性に関する私生活上の事柄をみだりに公開されない権利を守るものと一般的に理解されているところであり,これは,性的自由だとか,性的自己決定権,あるいは性的尊厳とは違う保護法益ということになりますので,リベンジポルノ防止法とのすみ分けというのをきちんと考える必要があるというのが第二の点です。   そのような点についてどのように考えるかによって,同意ある形で撮影されたものを同意なく流通させる行為についても処罰すべきかどうかというところの結論が変わってくると思われますので,その点,問題を提起しておきたいと思います。 ○井田座長 ほかにございますか。もしよろしければ,「撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか」についての検討に移りたいと思います。この点についても御発言をお願いしたいと思います。 ○橋爪委員 31ページの上から三つ目の「○」でございますけれども,没収の具体的な方法については,以前の会議でも発言をいたしまして,その際には,複製行為自体を処罰対象に含めるよりは,撮影行為を処罰対象にしつつ,その没収対象範囲に複製物を含める方が適当である旨を発言いたしました。   この点について,若干,補足をさせてください。   例えば,スマートフォンで他人の性的な姿態を撮影した場合,そのスマートフォンの設定によっては,その撮影画像のデータがクラウド経由でパソコンと同期され,パソコンにも同一のデータが複製される場合があり得ますが,これらのプロセスについては,撮影行為者が明確に意識することなく自動的に行われる場合があり得ます。このような場合には,複製の実行行為を特定することも困難であり,また,複製に関する故意を認定することも困難でありますが,しかし,パソコンに複製されたデータについては,没収対象に含めるべきです。このような意味で,複製行為を処罰対象に含めなくても複製されたデータを没収できる制度を設けることが必要であることを,重ねて申し上げたいと存じます。   なお,ここでは,電子データの複製に限って申し上げましたけれども,複製物の没収については,記録媒体やデータの同一性が重要なわけではなく,実質的に同一内容の性的画像が拡散する危険性が重要な基準になってくるように思います。したがいまして,データの形式や記録媒体が同一性を維持することまでは必要ではないと考えます。今時,こういったことは余りない気がするのですが,例えば,撮影した画像がネガフィルムに記録され,これを現像して写真が出来上がり,さらに,その写真がスキャンされてパソコンにデータとして保存された場合のように,記録媒体やデータ形式が変更される場合もあり得ますが,撮影内容が性的な被害という観点から実質的に同一内容を維持している場合については,これら全てを没収対象に含めることが,当然に可能であり,また,必要であると考えます。 ○渡邊委員 意見要旨集29ページの「(2)」の「① 捜査・公判における画像の没収・消去の実情」のところに載っている意見でございますけれども,検察の現場が,所有権放棄に応じない被告人・被疑者にどのように対応するかということで非常に苦慮していること,例えば,十数年にわたって所有権放棄を求め続けている例があることなどを御紹介いたしました。   検察の現場におきましては,被告人・被疑者が所有する証拠品に,起訴された事件以外の余罪事件の被害者の性的な姿態の画像が記録されていることが相当数ございます。こういった画像について,起訴されていない余罪事件だからという一事をもって,そのまま被告人・被疑者に返さなければならないということは,非常に大きな問題ではないかと考えております。例えば,先ほど上谷委員がリアルナンパアカデミーの事件の例を出されましたけれども,似たような状況で似たようなことをされた被害者の方がおられて,しかし,その被害者が起訴を望まないとか,あるいは,その方が特定できないなど,何らかの理由で起訴に至らないということもあるわけでございます。どのような画像・記録物を没収・消去の対象とするかについて検討するに当たっては,こうした起訴された事実以外の余罪に関する画像についても,削除する必要性がある場合があるということを考慮する必要があると思っております。 ○川出委員 ただ今,渡邊委員から御指摘があったような事案に対処するという観点からも,有罪判決を前提とせずに画像の没収・消去を行う制度を作る必要があると思います。こうした行政措置としての没収・消去制度について,その具体的内容を検討する前提として,その制度趣旨と法的性格について意見を申し上げたいと思います。   同意のない性的姿態の撮影行為を犯罪とすれば,その画像は犯罪生成物件として没収の対象となるわけですが,現行法の没収は刑罰であるため,有罪判決が得られない場合には当該画像を没収することができません。そこで,そういった場合にも没収を可能にする制度を創設する必要があるのではないかという問題意識から,この制度の検討は始まっています。   検討が始まった経緯はそのようなものなのですが,実際に制度を創設するに当たっては,この措置は,今申し上げた意味で刑の没収を補充する手段として位置付けるのではなく,刑罰から独立した行政措置として位置付けるのが妥当であると考えます。   つまり,同意なく性的姿態を撮影する罪の保護法益を性的自由ないし性的自己決定権として捉えた場合,撮影された画像が残っている限りは,その法益の侵害ないしはその危険が継続することになりますので,それを没収・消去しないと,新たな犯罪を設けて撮影行為を違法とした意味が大きく損なわれます。その上で,それを実現する手段が,刑罰としての没収である必然性はありませんので,今回検討がなされている有罪判決を前提としない画像の没収・消去の仕組みというのは,端的にこの意味での法益侵害ないしその危険を除去し,被害者を保護するための新たな行政措置として位置付けられるべきであると思います。   この措置を刑罰としての没収と比較しますと,刑罰としての没収は,刑罰である以上,その画像を生み出した過去の撮影行為に対する非難と制裁という側面を有しているのに対して,今回設けようとしている行政措置にはそのような要素はありません。違法な法益侵害,あるいは,その危険を生じさせており,本来,社会に存在してはならない画像自体を対象として,端的に,それを没収・消去する処分ということになります。有罪判決を前提としない画像の没収・消去のための措置の制度趣旨及び法的性格をこのように位置付けるならば,そのことを前提として,具体的な制度設計をしていくこととなります。そこからは様々な帰結が導かれますが,例えば,最初に申し上げましたように,この措置を,刑罰としての没収を補充するものではなく,それから独立した措置であると位置付けるのであれば,具体的な事案において刑罰としての没収が可能な場合であっても,本措置を行うことができるということになります。このように,制度趣旨に照らして,具体的な制度設計をしていくことが必要であろうと思います。 ○宮田委員 没収等が刑罰として科される場合には,その画像がどのような経緯で取得されたものか,その取得の違法性について弁明する機会その他が与えられます。裁判で有罪判決ということになれば,その点について上訴審で争うことも可能です。  行政命令ということになると,そもそも違法な行為によって取得された画像なのかどうかですから,明らかにならない場合も起こり得ます。被疑者・被告人が,同じような事件をやりました,そのとき撮影したものですと,自白してくれれば,余罪によるその人が撮影した違法なものだということが分かります。しかし,被疑者・被告人が,いや,これは他人から取得した写真です,これは不同意の行為を撮影したものではなくて,同意があって撮影したものです,本当のそういう行為を撮ったのではなくやらせです,というような主張をする可能性もあるし,実際にそうで,その点について争わせる必要もあるのかもしれません。それほど簡単にいく問題なのだろうか,とは思います。   もう一つ別な問題です。私は,前回,裁判所の消去命令を作ったらどうですか,という意見を言ったのですけれども,意見要旨集にそのような整理はされなかったようです。行政命令という方法もありますけれども,そもそも性的画像の撮影について有罪判決を求めない被害者の方もいらっしゃる可能性を考えた場合には,裁判所を関与させた制度も考えられるのではないでしょうか。なぜ裁判所を関与させる意見を申し上げるかというと,例えば,警察が行政命令をやるスキームを考えた場合に,今までの議論の中で,性的犯罪に対する警察の温度差がとても大きいという話が出てきており,性的画像についても同じような問題が起きるのではないかという危惧があります。DVのように裁判所を関与させると何がいいかというと,弁護士が介入できるので,被害者への対応として利点があると思っております。   もちろん,検察官の手元に明らかに犯罪によって成立したものだと分かるものがある場合には,検察官による消去も十分考え得るのでしょうが,そういう形で捜査機関の手元にないものについても,被害者がインターネット上に自分の画像を発見したときに,何らかの救済の方法は考えなければならないのかなということを思っております。   私は,裁判での消去命令は,犯罪として表に出ているもの以外について捕捉するという点について,主にインターネット上の拡散をイメージしておりますので,犯罪を行った人だけでなく,犯罪とは必ずしもいえないような形で取得した人が,拡散させてしまうところへも対応できるという意味で効果があると言っているのです。ただ,拡散された画像については,プロバイダーが海外にいるような場合,その他,プロバイダーの責任を問うのが非常に難しいことは重々承知でございます。その辺まで捕捉し得るのかどうか,拡散する画像についてまでここで議論するべきなのかどうかを含めて,問題はあるのかもしれません。もしここで議論すべき問題ではないとしても,拡散していく画像に対する対応についても,考えなければならない問題であり,ここで述べておくべきだと思って発言しました。 ○羽石委員 今,宮田委員がおっしゃった御意見と,意見要旨集32ページの一番下の「○」から33ページの「○」にかけての論点について,発言したいと思います。   撮影された画像の没収や消去の主体,それから,消去命令の主体について,警察がよいのではないかとか,裁判所がよいのではないかとか,警察だけではなくて捜査機関がよいのではないかというお話もこれまで出てきているところですけれども,どの機関とすることが適当であるかについては,本当に様々な観点から検討することが必要ではないかと思っております。現行法上,没収は刑罰とされているということですとか,没収・消去の対象となる画像が加害者の手元にある場合だけではなくて,サーバ上にあったりですとか,第三者の手元にある場合もありますので,権利関係が複雑である場合も考えられる,そういったことも踏まえまして幅広く検討していくことが必要ではないかなと思っております。 ○渡邊委員 私の先ほどの意見に少し補足させていただきたいと存じます。   余罪に関する被害者,あるいは被害者と思われる方の性的画像の消去でございますけれども,やはり,基本的には,捜査機関の手元にある証拠について,これを検討するということになろうかと思います。また,それが余罪に当たる,つまり,犯罪的な行為によって取得されたものかどうかということについても,当然,その画像のみならず,その周辺の証拠,被告人の供述,そういったものを総合的に考慮して,どの機関が主体となって判断するかはともかくといたしまして,認定をしていくということになろうかと思います。 ○小島委員 私は,第11回会議でストーカー規制法などを参考にして,行政機関が本人の申出によって,性的画像の消去や没収を命ずる制度を設けるべきであるということを申し上げました。現在,デジタル性暴力が問題となっており,大変被害が拡大しているという観点から,刑事訴訟法とか刑事手続に関連しないが,広範に広がっている被害に対して,行政機関における迅速な救済の手続,スキームというのを設けていただきたいと。様々な問題点があることは承知しておりますけれども,行政処分をする場合でも,聴聞の機会を与えるとか,処分をした後,迅速に聴聞の機会を与えるとか,様々な方法があると考えます。行政機関が簡易迅速に被害者の救済に当たるという観点で,是非新しい制度を考えていきたいということを申し上げたいと思います。 ○齋藤委員 委員の皆様のおっしゃっている具体的な案ということではなく,ここで発言するのが適当かどうかちょっと分からないのですけれども,小島委員,橋爪委員もおっしゃっていたように,ツールというのは様々なものがありまして,時代とともに,手段はこれから更に多様になっていくことが考えられますので,そういったものを捕捉できるような条文を考えていただければということが一つございます。   もう一つは,最近,デジタル性暴力のいろいろな事案を聞くにつれて,本当に多様化していて,とても難しい問題だなと思っています。今回は写真とか動画が想定されていると思うので,議題と直接関係ないかもしれませんが,デジタル性暴力の中には,録音音声の流出というものもございます。それだけ多様なものであって,議論が継続されていく必要があるのではないかということを,一つ申し上げさせていただきます。 ○山本委員 行政処分によって消去を求められる場合について,確認したいのですが,例えば盗撮した映像などを購入した場合においても,それは消去を命令されると考えてよろしいでしょうか。そこが実行されないと,同意のない自分の性的姿態が購入された場合は対象ではないということになると困るなと思って,お伺いしたいと思いました。 ○川出委員 先ほど申し上げましたように,この制度の趣旨を,当該画像が存在することによって法益侵害やその危険が継続するという意味で,本来,社会にあってはならないものであるから,それを消去して被害者を保護するためのものと理解するのであれば,撮影した本人ではなく,第三者がその画像を購入して持っている場合であっても,それは,没収・消去の対象になり得ます。ただ,その第三者が盗撮画像だと知らずに購入しているような場合に,それを没収・消去するに当たって,何らかの補償をする必要があるかどうかは議論があり得るところだと思いますが,没収・消去の対象になり得ること自体は当然だと思います。 ○山本委員 ありがとうございます。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは,予定の時間にもなりましたので,この「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についての議論は,ここで一区切りとさせていただきます。   議論は相当多岐にわたっておりますので,過不足なく要約することは困難ですけれども,まず,撮影の罪の創設については,一部に,罰則を設けるよりも画像の消去などの被害者の救済を充実すべきであるという御意見もあったものの,新たな罪の創設の必要があるということ自体については,一部懐疑的な議論はあったという留保を付ける必要はありますけれども,おおむね異論のないところであったと伺いました。   処罰の必要があると指摘されているケースとしては,第一に,被害者に気付かれずに撮影する,いわゆる盗撮の類型があり,第二に,強制性交等などの犯行の場面を撮影する類型があり,第三に,アダルトビデオ出演強要など欺罔や威迫によって撮影に同意させられた類型があり,第四に,スポーツ選手の性的部位を殊更にアップにする方法で撮影する類型があり,第五に,子供のブルマー姿等の姿態を撮影する類型などが挙げられたと思われます。   処罰の対象とすべき行為については,性的な部位や性交をしている姿態など「撮影対象」を要件とする案や,浴場の脱衣所など「撮影される場所」を要件とする案,さらには「撮影方法」を要件とする案,同意がない場合を処罰するといった形の案などが提案されており,今日は場所による限定はよろしくないのではないかという強い意見が表明されました。いずれにしましても,どこまでの行為をどういう要件でもって捕捉するか,また,保護法益をどう考えるかという問題をめぐっては,迷惑行為防止条例や私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律との関係もあり,なお様々な課題が残されていると思われます。   また,撮影以外の行為については,不特定多数の者への提供行為,流通させる行為,インターネット上での拡散行為を処罰すべきであることについてはおおむね異論はなかったように思いますけれども,もともと同意があって撮られたものについてどういう処罰を考えるかという点について,なお論ずべき課題はあるということになりますし,今日は議論になりませんでしたけれども,単純な所持自体を処罰することについては,被害者が撮影に同意していなかったことの認識の立証困難等の理由から,消極的な意見が多く示されたかと思います。   それから,性的姿態の画像の没収・消去については,まず刑事没収についていえば,撮影の罪を創設すれば,その原本については刑法19条で没収できるようになるわけですけれども,そのことを前提に,複写物の没収もできるようにすべきだという御指摘がありました。さらに,付加刑である刑事没収とは別に,有罪判決を前提としない没収・消去をできるようにする必要があるという御意見があり,そのこと自体には強い異論・反論はなかったと思われます。こうした有罪判決を前提としない行政没収の手続の具体的な制度設計については,手続の主体ですとか,データの保有者等の手続保障など,検討すべき課題が多く残されていると考えられるところであります。   それでは,今日の最後となりますけれども,刑事実体法の論点のうちで,前回及び本日の会合における三巡目の議論で取り上げられなかった論点について,もし追加の御意見があれば,お願いしたいと思います。御発言に当たっては,どの項目について,どういう観点からの御意見かということを明示していただければ幸いであります。時間としては10分程度を予定しておりますけれども,御意見のある方は,御遠慮なく御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 37ページの「(4)」の同一被害者に対して継続的に性的行為が行われた場合についてですけれども,長期間繰り返される性的虐待において,日時と場所が特定できず,悪質であるにもかかわらず取り締まれないのは不正義とは思うのですけれども,他方で,刑事法の要請において日時や場所を特定しなければいけないということは承知しています。場所を覚えていることは多いですし,せめてそういう事例について,場所や日時が特定できなかったから罪に問えなかった事件がどのくらいあるのかということについては,調査などをしてほしいと思いますし,今後の希望としては,是非包括一罪などを作ってほしいとは思っています。 ○井田座長 御要望・御意見として,承りました。   ほかの論点で,何かございますか。 ○山本委員 では,グルーミングについて。40ページなのですけれども,刑法に入れるかはまた課題としてありますけれども,オンラインでのグルーミングというのは,新型コロナ禍においても世界中で増えているということが報告されているところでもあります。児童を性的に搾取しているオンラインコンテンツで捜査対象となったものは,136%増を記録したとのオーストラリア連邦警察からの報告などもありました。警察庁の統計においても,SNSを通じて被害に巻き込まれた児童は,平成25年に1,293件,平成30年に1,811件と毎年うなぎ登りであり,グルーミングという手法が用いられているということが支援者などから指摘されています。今後,やはり規制は必要というようにも思っています。グルーミングという類型がどのくらい起こっているのかについても,こちらも調査をしていただきたいと思っています。 ○井田座長 その点も御要望として承りました。 ○佐藤委員 私もグルーミングについてなのですけれども,41ページの「③」の一つ目の「○」について,これは私の発言だと思うのですけれども,前回説明しそこなった部分について,補足で発言させていただきます。   もしもグルーミング規定を新設することとなったらという前提の話になりますけれども,グルーミング規定で保護されるべき未成年者の範囲は,基本的には,被害者の年齢だけ,あるいは被害者と行為者の年齢差だけで保護される未成年者の範囲と重なることになるかと思われます。現行法でいいますと,13歳未満の者がそれに該当します。それ以外の場合は考えられないです。というのも,現行法を前提にしますと,13歳以上の者に対しては,刑法典上の性犯罪が成立するためには暴行・脅迫などの特別な要件が必要でして,もし,例えば15歳未満の者に対してもグルーミング罪が成立するというような規定になったとすると,実際に行われた性交そのものは犯罪ではないのに,予備行為的なグルーミング罪だけが成立する場合が生じてしまう点で問題があります。   実際に,ドイツでは14歳未満がグルーミングで保護される範囲になっていまして,これは,絶対的な保護年齢,つまり性的な関係性が生じれば誰であっても常に犯罪になる範囲と合致しています。それから,イギリスでは16歳未満の者に対して18歳以上の者が犯行に及んだ場合にグルーミング罪が成立することになっていて,こちらも,何の手段もなく性的行為を行っただけで犯罪が成立する範囲と合致しています。   ですので,仮にグルーミング罪の新設を考えるのであれば,まず前提として,何の手段もなく性的行為だけで犯罪になる範囲がどこかというのを確定して,その後に,その範囲内でどこをグルーミング罪の成立範囲とするかという順番で考えていく必要があるのではないかと思います。 ○和田委員 35ページの「②」にあります過失犯処罰規定を設けるべきだという意見との関係で,一言申し上げたいと思います。   過失犯処罰規定を設けるということとの関係では,二つのことを分けて考える必要があるように思われます。   一つは,処罰範囲を現行の故意犯処罰の範囲よりも広げるということ,二つ目は,どのような規定の形式で処罰を用意するのかということです。個人的な意見としては,処罰範囲を現行の故意犯の処罰範囲よりも広げ,そのことが分かるような規定を置くこと自体のインパクトというのは非常に大きいので,このような規定を設けて処罰範囲を広げるということ自体にはかなり重要な意義があると思います。ですので,長期的にはそれを目指すということは十分あり得ると考えるのですけれども,規定の形式として過失犯処罰という形でよいかということを考えてみますと,過失犯ですと,ほかの過失犯処罰規定と同じように,注意義務違反が必要だということになって,そこでは同意のない性的行為を回避する義務というのが問題になり,具体的には同意の有無についての確認義務が注意義務の中核になると思います。しかし,これまで指摘されていますように,性交等に至る経緯だとか,あるいは同意を得るプロセスというのは,多様なものがありますし,性交等に当たってその相手方が示す反応なども,状況,相手方のタイプによって様々だということですので,どのような状況で,どのような形で確認すると注意義務を果たしたことになるのかというのは,解決・適用が完全に開かれていて,個別の事案において注意義務違反に当たるか否かの判断基準がかなり不明確になるという問題が避けられないと思います。そのため,ほかの過失犯規定の延長のような形で新たな規定を設けるということは,やはり規定の形式上,かなり難しいのではないかと思うのです。処罰範囲を広げること自体に意義があるということを認めるのであれば,現在の雰囲気だとなかなか難しいとは思いますが,長期的には,もう少しストレートに正面から,どういう確認義務を課すのかを議論して,具体的にこういう確認をすれば十分ですということが分かるような,義務内容がはっきり分かるような,そういう条文を設けることを目指したらいいのではないかと思います。   性的行為を行うときに一々そういう確認を行うなどというのは,現在の日本の社会を前提とするとなかなか受け入れ難いことであるという反応が数としては多いかもしれません。しかし,性的行為というのは対等な人格的存在として相手を尊重して初めて行われるべきものであって,それがない状態で行うのはよろしくないという評価が性犯罪処罰の前提にあるわけで,それを前提にすれば,十分確認がとれていないのに性的行為を行うということは,それだけで軽くはあっても違法評価に値するわけで,その確認手続を法的に要求すること自体は,さほどおかしいことではないのではないかと思います。さらに,もう一つだけ考えてみると,刑法上の確認義務が課されると,それまでかなり大人のコミュニケーション能力を前提にした,何となくうまい確認というのを経なければいけなかったところ,「刑法上要求されているので仕方がないから確認しますが,今から性的行為を行ってもよろしいでしょうか」という形で,むしろ確認が取りやすくなるというメリットもあり得るのではないかと個人的には思っているところです。最後は少し余計なことでした。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは,ちょうど予定していた時刻ともなりましたので,本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。   次回の会合では,刑事手続法の各論点,つまり,公訴時効の在り方,いわゆるレイプシールドの在り方,司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方についての三巡目の検討を行いたいと考えておりますが,そのような進め方とさせていただくということでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきたいと思います。   次回会合で取り上げる論点に関しましても,本日と同様,二巡目までの議論における委員の皆様の御意見を整理したものを,次回会合に先立って委員の皆様にお送りし,前もって御検討いただくことができるようにしたいと思います。   本日予定していた議事は終了いたしました。本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとしたいと思いますが,そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのような取扱いをさせていただきます。   では,次回の予定について事務当局から説明をお願いいたします。 ○浅沼刑事法制企画官 第14回会合は,令和3年3月30日,午後1時30分から開催を予定しております。   次回会合の方式につきましては,追って,事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会といたします。