性犯罪に関する刑事法検討会 (第14回) 第1 日 時  令和3年3月30日(火)  自 午後1時30分                       至 午後4時21分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 公訴時効の在り方について         2 いわゆるレイプシールドの在り方について         3 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方について         4 その他の論点全般について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼刑事法制企画官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第14回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 御多用中のところ御出席賜りまして,誠にありがとうございます。本日もよろしくお願いいたします。   まず,お配りしている資料について事務当局から確認をお願いします。 ○浅沼刑事法制企画官 本日,議事次第及び「意見要旨集(第11回会議分まで)」をお配りしております。今回の意見要旨集は,本日御議論いただく論点についての,二巡目までの検討における委員の皆様の御意見を整理して記載したものを,一まとめにしたものです。   このほかに,山本委員からの提出資料,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,意見要旨集の1ページの「1 公訴時効の在り方」,7ページの「3 いわゆるレイプシールドの在り方」,10ページの「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」という三つの論点について議論した上で,その他の論点全般についても議論することとしたいと思います。本日も,基本的にこの意見要旨集に沿って議論を進めることとし,一巡目・二巡目よりも更に突っ込んだ議論をかみ合う形で行うことを目指したいと思います。   なお,本日の進行における時間の目安ですが,「公訴時効の在り方」について30分程度,「いわゆるレイプシールドの在り方」について15分程度,「司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」について30分程度,それぞれ御議論いただいた後に,午後3時5分頃から10分程度休憩を取りたいと考えております。そして,休憩後,その他の論点全般について45分程度御議論いただくことを予定しております。予定している時間についてはその都度申し上げますので,御協力をよろしくお願いいたします。   早速,「公訴時効の在り方」の検討に入ります。   この論点について,二巡目までの議論では,意見要旨集1ページから6ページまでにありますように,例えば,被害者が成人の場合も含めて公訴時効を撤廃すべきであるといった御意見が述べられている一方で,性犯罪について,殺人等と同様に,時間の経過により犯人が一律に処罰されなくなることは不当であるという社会的合意ができているかは疑問であり,生命を奪う犯罪である傷害致死罪の公訴時効が撤廃されていないこととの均衡からも,現時点で性犯罪の公訴時効を撤廃することの説明は困難であるといった御意見も述べられております。   また,仮に,公訴時効の撤廃は困難であるとしても,何らかの特別の取扱いが必要であるという御意見があり,具体的な取扱いの在り方として,例えば,公訴時効の起算点を遅らせる方法と,公訴時効期間を延長する方法とが考えられ,理論的に説明が付くのであれば,いずれか一方によることも,両者を組み合わせることも可能と思われるといった御意見や,特に未成年者については,周囲の者も本人も被害を認識できないという問題があるので,一定の年齢まで公訴時効の起算点を遅らせることが必要であると考えられるが,その方法については,全ての被害者について一定の年齢に達するまで公訴時効の起算点を遅らせる方法や,一定の年齢未満の被害者について,一定の年齢に達するまで公訴時効の起算点を遅らせる方法が考えられるといった御意見も述べられております。   以上のことを踏まえると,本日の議論に当たりましては,仮に,性犯罪について何らかの特別の取扱いをするとして,被害者が一定の年齢未満の者である場合と成人の場合とで取扱いに差を設けるかどうか,設けるとして,どのような根拠に基づき,どのような規定とするかという問題を意識しつつ,議論を行う必要があると思われます。このような観点を踏まえつつ,御発言をお願いいたしたいと思います。   この論点については30分程度の時間を予定しております。 ○齋藤委員 意見要旨集の1ページの「①」の補足も兼ねてなのですけれども,これまでも,子供は,自分の身に起きていることが何であるか分からないですとか,思春期の子供たちは,知識として性交は知っていても体感として知らないので,されていることが分からないですとか,解離というものがあって記憶がつながらなかったりするということをお伝えいたしました。また,以前,小西委員がおっしゃっていたかと思うのですけれども,性的虐待順応症候群といって,子供たちは,虐待が繰り返されると,虐待のある日常に順応せざるを得なくなるということがありまして,力関係の差でどうしていいか分からない状況から,自分さえ黙っていれば家族は守られるという心情になっていき,そして,自分が加害者に加担しているかのように思い込まされて,被害について言えなくなるということが起きてきます。性的虐待を大人に言えないということは通常で,多くの場合,大人たちは,性暴力があること,性的虐待があることに気付かないので,子供の性暴力は,ほとんど発覚しないということがあります。   先日の川崎の事件で無罪判決が出ましたが,性的虐待が事実であるにもかかわらず,公訴時効の問題などもあって難しかったということだと思うのですけれども,あのように,子供のときの被害で,やっと相談ができて届出ができたときには時効が完成しているということは珍しくないので,一定の年齢未満の子供の場合には被害が類型的に潜在化しやすいということは言えるかと思います。   ただ,成人したらすぐに言えるかといえば,そうではありません。やはり若年成人などは,まだ社会経験が少なく,自分が被害に遭っていても,それが被害であるか分からないとか,誰に相談していいか分からず時間が過ぎていくということは珍しくないので,子供や若年成人が被害の届出ができないという事情を踏まえることは重要ではないかと思っております。起算点を遅らせるといった場合に,一定の年齢未満ということであったとしても,せめて若年成人をきちんとカバーできる範囲までは検討していただきたいと思っております。ちなみに,若年成人というのは,20代ぐらいを意味しています。   ちょっと話がずれるのですが,子供の被害の場合,加害者が逮捕され,その捜査が進んでいく過程で余罪があることが分かり,新たな子供の被害が発覚することも多く見られます。そうした中で,例えば,まず親御さんが自身の子供の被害について知ってワンストップ支援センターに相談に行ったものの,そのときは被害を届け出ることによる子供の負担を考えて一旦は届出を断念しましたが,その後に他の子供の件で加害者が逮捕され余罪が発覚したことから,子供自身が,こんなに多くの子供が被害に遭っていたのであれば,やはり加害者を許せない,罰したいと思い,届出をすることにしたなどという場合があります。被害をすぐに届け出ることができなくとも,あるいは,加害者をすぐに特定できなくとも,例えば,証拠があるにもかかわらず,加害者を特定できたときには時効が完成していたということがないように,ワンストップ支援センターで証拠採取が連携してできるとか,証拠保管が適切にできるという制度も併せて考えていただく必要があるのではないかと思っております。 ○小島委員 齋藤委員と同意見の部分もありますが,2022年から成人年齢が18歳になります。一方で,被害者の年齢は,19歳とか20代が多いです。親や特に母の内縁の夫などといった監護者からの被害とか,就職した直後の被害なども多いと思われます。強制わいせつの公訴時効が7年,強制性交等の公訴時効が10年でよいのかという問題があります。経済的にも精神的にも自立して被害を訴えられる年齢としては,30代ぐらいであり,20代まではそういう年齢ではないと思います。成人についても公訴時効の起算点を遅らせるべきではないかと考えています。   ただ今の私の意見は,意見要旨集の6ページの二つ目の「○」についてです。前回の意見としては,被害者が子供である場合についてのみ申し上げましたが,被害者が成人である場合についても,時効の起算点を遅らせることが必要ではないかと思います。また,時効期間については相当程度の延長をするべきだと思っております。被害を訴えることができるのが40代という方もいらっしゃって,ドイツの調査では,45歳ぐらいになってやっと訴えることができたという例がありました。   また,私の意見の中で,3ページの「④」の下から三つ目の「○」に関係しますけれども,先ほど齋藤委員からも御指摘がありましたように,ワンストップ支援センターで客観的な証拠が確保できる場合があります。DNAが残っていたり,犯人が犯行の画像を撮影している場合など,変質しない科学的証拠が残っている場合について,処罰できないというのは問題ではないかと思っております。第7回の会合のときも意見を申し上げましたが,資料47について,ミシガン州では,DNAを含む犯罪の証拠がある事案について特則を設けておりまして,未特定の個人に由来するDNAを含む犯罪の証拠が得られている場合には,個人が識別されたときから時効が進行するという規定がございます。恐らくその趣旨は,証拠がそろわないので,事実上,捜査を行うことができない場合は停止するということではないかと思います。被害者が被害を届け出て,DNAを採取して,保管もされているところ,別件で逮捕された被疑者のDNAと一致した場合,別件で捕まって,被疑者のパソコンから写真が大量に出てきた場合ということがあります。飽くまで立証できる証拠が出てきた場合に限りますが,時効が成立しているとして訴追が全くできないのは問題ではないかと思います。   第11回の会合で,この点について,宮田委員から,アメリカでは公訴時効は抗弁という理解が正しいのかという御質問がありました。恐らく,アメリカの起訴に関連する手続が日本と異なることから,抗弁という言い方をしているのではないかと思います。日本の公判に相当する罪体に関する実質審理となる公判の前に,起訴陪審と呼ばれる公訴提起の審理があって,起訴陪審で認められるとトライアルが開かれるということです。起訴陪審で起訴の要件を満たしているかを審理する過程で,公訴時効も起訴要件として審理される。公訴時効の停止・延長に関する法改正に関して公訴時効の停止・延長の当否について裁判で争われております。恐らく,起訴陪審で公訴時効の法改正の適用の有無について,弁護側から異議が出て争われている事案だと思います。立証責任が被告人に転換するという意味での抗弁ではなく,弁護人が論点を提起しているという意味で,事実上,抗弁という言葉を使っているのではないかと思います。 ○小西委員 公訴時効を撤廃し,あるいは,その期間を延長すべきかということに関連して,現在までの研究で分かっていることを少しまとめてお話ししたいと思います。   ここでは,「amnesia」,つまり,記憶の健忘について,どうやってそこから回復するかという問題と,「disclosure」,つまり,本人がどうやって被害のことを人に言うかという問題が混在していたと思うのですけれども,そこは本当は別の問題です。「amnesia」については,もう1990年ぐらいからいろいろな実証研究がなされていて,臨床に来られた性的虐待の被害者の人には非常にこの解離性の健忘が多いということが知られています。例えば,90年代の古典的なものですと,Briereという有名な研究者がいるのですが,その人の研究だと,性的虐待の被害者のうち,18歳より前に性的虐待の記憶が一時的になかった人の割合が59.3%となっていまして,このことは,臨床では全く珍しくないということは確実です。この後の研究でも,ほぼ同じような傾向の結果が蓄積されています。複数の研究で確認されていることとして,例えば,PTSDの症状の重い人とか,解離症状の重い人,早期から被害に遭っている人,それから,暴力的な被害とか,多重の被害や,重い被害ですね,例えば加害者が複数いるとか,そういう被害に遭っている人は,健忘が起きやすいということはもう分かっています。これは法律的なところから考えてみると,こういう人たちこそやはり加害者にきちんと刑罰を与えるということができなくてはいけないのに,今はできないという形になっているわけです。そういう意味では,何らかの特別な措置があって当然だろうと思います。   一方,「disclosure」についてなのですけれども,こちらも割と最近は数多く研究がなされています。一時期,思い出した記憶は本当かどうかといったことに,揺り戻しの議論がありました。けれども,例えば,「amnesia」についても,「disclosure」が遅れることについても,今はもう普通にある現象として割と冷静に研究されていると思います。そういうように,なかなか被害について言えないという事情にはたくさんの要因があり,それらを一つずつ挙げることがなかなか難しいことは確かなのですが,現象的には,開示するということは年齢と共に増えていき,40代,50代になっても,年齢と共に開示できることが増えていくということについては,複数の証拠があると思います。   時効完成を一体どこまで遅らせればいいのかということについて何か意見を言いたいと思って,ちょっと探してみたのですけれども,今確実に言えることはなかなか少ないのですが,例えば,様々な研究の中で,被害申告の遅れの平均値がどれくらいかというのを調べた研究があるのですけれども,平均で3年から18年というような研究もありましたし,それから,被害から5年以上遅れる人が58%というような研究もありました。恐らく,このことで何か決定的なことは言えないのですけれども,時効完成を遅らせるとしたら,研究の成果上からも,少なくとも10年以上は遅らせないと意味がないのではないかということは言えると思います。   もう一つ,自分の臨床的な印象で言えば,20代後半から30代前半までに診察を受けに来られる方は非常に多いです。自分の被害のことに気付いて,初めて人に話に来られる方は多いので,その辺の年齢層が入るように考えていただきたいなというように思います。だから,30歳でおしまいというのはちょっと早過ぎるというのが私の意見です。 ○井田座長 今御発言いただいた齋藤委員,小島委員,小西委員に一つお教えいただきたいことがございます。性犯罪以外にも,例えば,傷害,遺棄,監禁,誘拐などのいろいろな犯罪があるのですが,おっしゃられたことというのは性犯罪にのみ妥当することであるのか,言い方を変えると,性犯罪を特別扱いする,あるいは差別化する根拠になることなのか,それとも,同じことは今挙げたようなほかの犯罪にも当てはまるのかという辺りを少しお教えいただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○小西委員 例えば,監禁などでも「amnesia」が起こることはあります。それから,身体的な虐待がすごく重くても,これもとても悲惨なものですけれども,起こることは当然あります。ただ,起こる率からいうと,「sexual abuse」(性的虐待)では非常に高いし,こういう領域の典型的なコアな被害として考えられていると思います。むしろ,監禁などと非常に似ているのですけれども,期間の長さにもよるところもあって,だから多変数なのですね。だけれども,その中でいろいろな変数が典型的に集まっているのは性的虐待であるし,この領域であるというように考えればいいのかなと思います。   何か補足があったら,委員の方々,お願いします。 ○齋藤委員 本当に小西委員のおっしゃるとおりなので,特に補足ということではないのですけれども,もちろん監禁でも身体的虐待でもそうですし,それ以外の様々なトラウマでも健忘ということは起きまして,私も,臨床上,そのような方とお会いすることはよくあることです。ただ,やはり性暴力,性的虐待での健忘の発生というのは,ほかの被害に比べて臨床の体感としても非常に多いということがありまして,それがなぜかというのはいろいろな要因によるので,一言では言えないですけれども,コアな被害として考えられているというのは,本当にそのとおりだなと思います。 ○小島委員 相談窓口など支援してくれる人につながる年齢というのは,30代とか30代後半辺りが多いという印象です。結婚したり,自分に自信が持てるようになって,初めて被害に遭ったときのことを振り返ることができるということがあります。性被害は自分が悪いというように思い込んでいるところがあるので,なかなか人に相談できない,逡巡するということもあります。性被害の場合は,パートナーと生活を始めたりすることによって,自分は悪くないし,自分は被害者なのだと思えるようになって,相談機関につながるまで時間が掛かるのではないかと思います。性被害特有の被害者に対するバッシングとか,本人が被害を自覚できないという問題はあるのではないかと思っております。 ○山本委員 性暴力禁止法をつくろうネットワークから,公訴時効を撤廃することが要望されているので,少し説明させていただきます。資料として被害者の手記が添付されておりますので,ここからは議事録には非公表でお願いしたいと思います。 (具体的事例を紹介)   時効について捜査関係者などから,証拠の散逸や記憶が薄れるなど,様々言われていますけれども,小西委員,齋藤委員が言われているように,性被害を受けて,トラウマに非常に苦しんでいて,そのことを一人で引き受けて生きざるを得ない理不尽さが,やはりこのような事件につながってしまったのではないかと思います。法定刑との関係で定められているとしても,どうして自動的にそのように時効が決まってしまうのかという理不尽さを私たち被害者は感じています。この後,議論されると思いますけれども,30歳まで公訴時効の起算点を遅らせ,その後20年間訴えられるというように,できるだけ長く時効を設定していただくことを望んでいます。 ○川出委員 冒頭に,座長から,被害者が一定の年齢未満の者である場合と成人の場合とで取扱いに差異を設けるかどうかという問題を意識しつつ議論を行う必要があるという御指摘がありましたので,これまで皆様から御紹介があった実情を踏まえて,被害者が一定の年齢未満の者であるときに公訴時効について特別な取扱いをするかという問題に関して,それをどのような観点から検討すべきなのかという点について,確認的に意見を申し上げたいと思います。   被害者が一定の年齢未満の者である場合の対処の方法としては,性犯罪一般について手当てをすることはせずに,被害者が一定の年齢未満の者である場合についてのみ手当てをするという方法と,性犯罪一般について手当てをすることとした上で,被害者が一定の年齢未満の者である場合について更に手当てをする方法が考えられます。   まず,前者の方法については,被害者が一定の年齢未満の者である場合を特に切り出すということになりますので,被害者が一定の年齢未満の者である場合に,意見要旨集の4ページの「(1)」の「⑤」に記載されているような,公訴時効の起算点や公訴時効期間について考える際の観点がどのように妥当するかということを検討することが必要となります。   他方,後者の方法については,性犯罪一般につき特別の取扱いをすることを前提とした上で,被害者が一定の年齢未満の者である場合に,更に特則を設けるということですので,同じく意見要旨集の「(1)」の「⑤」にあるような観点から,公訴時効の起算点を遅らせること,又は公訴時効期間の延長に関して,性犯罪一般については妥当しないものの被害者が一定の年齢未満の者である場合の性犯罪については妥当する,又は,特に強く妥当する事情があるのかどうか,そして,仮にそれがあるとして,それによって公訴時効の起算点を遅らせること,又は公訴時効期間の延長を正当化することができるのかどうかを検討することが必要になると思います。 ○宮田委員 私は,全く違う視点になります。意見要旨集の3ページの「③」の公訴時効の撤廃にしても,同じページの「④」の特別扱いにしても,いずれについてもですが,事件の直後に被害を申告した場合であっても,物証がない,あるいは被害者の供述が不明確であるということで事件にできない性犯罪はたくさんあります。時間がたてば,物証が散逸し,記憶も曖昧になりますからなおさら事件化は困難になります。DNAが保全してある,ビデオがあるといった客観的証拠がある事件でさえ,その客観的証拠について,例えば,DNAの保存方法,鑑定方法について争われることはあり得,その際,それを採取した人あるいは鑑定した人がいなくなってしまった場合に,正しく鑑定されたことの立証がおよそできないということも生じ得ます。また,ビデオがあるといっても,被害者の被害状況が撮影されているけれども,加害者が分からない場合もありますし,不鮮明な加害者の画像しかない場合には,ビデオの鑑定の必要も出てきます。このように,客観的証拠が,必ず裁判に堪える証拠だと言い切れないという問題があります。そういう意味では,たとえ,公訴時効を撤廃し,あるいは,時効期間の延長,公訴時効の停止,起算点の変更という制度を設けたとしても,事件化できる事件は極めて少なく,ある意味において象徴的な意味しか持ち得ないということはあらかじめ認識しておく必要があると思います。   また,意見要旨集の6ページの「(2)」の「③」の「その他」のところですけれども,先ほど齋藤委員の方から,それは非常に難しいのだという御指摘がありましたけれども,ほかに被害者を救済できるような方法,被害への介入の方法などを考えるべきではないか。刑法の謙抑性といって,刑罰というのはなるべく必要最低限に規定されて執行されるべきであって,しかも,他の手段ではうまくいかない場合の最後の手段でなければならないということが大原則です。ほかの手段で十分できるかどうか試した後,うまくいかないなら,それを補う形で刑法を用いるべきです。刑法の補充性の原則という言葉で示される,ほかの方法はないのかをまず考えるべきだというのは,刑罰を検討する上で基本的な事項だということは強調しておきたいと思います。 ○井田座長 ほかに御意見ございますか。いかがですか。一巡目,二巡目での御議論に加えて更にという御意見や,そのほかの,異なった視点からの御意見などはございませんか。 ○山本委員 意見要旨集の6ページの「その他」のところなのですけれども,ほかにいろいろな被害者救済の方法があるということをおっしゃられましたけれども,どうして刑罰を科してはいけないのかということが私には意味が分からないです。個々の事案を議論することは適切ではないのかもしれないですけれども,川崎の判決については被害の日時が特定できず,わいせつ行為については時効が完成しており,無罪であった。しかし,性的虐待の事実は認定されたと報道されています。性的虐待は認められたのに,加害者を罪に問うことができない。これが今の日本の司法の現状であれば,司法に正義はないとすら私は思ってしまいます。ほかにいろいろな方法があるとか,そういうことではなくて,被害者が被害を受けているということであるのならば,性加害を罪に問える方法を探って,この重い性暴力被害という事実に対して,刑法が何のためにあるのかということに対して,皆さんの知恵を尽くしていただきたいと思っています。 ○小西委員 今の宮田委員の御意見に関して,公訴時効期間を延長しても事件化できるケースは極めて少ないのではないかというお話でしたけれども,私は,決してそうではないと思うので,ちょっとお話しさせていただきます。   私の持っている患者さんの中に,警察に行ったけれども,その段階でもう時効だから駄目だと言われたという人は複数おり,本当にいつの時点でもおります。それから,この公訴時効の問題というのが一つの焦点だということが分かっているからかもしれませんけれども,例えば,現在の公訴時効制度の下ではもう時効になってしまっているのだけれども,致傷罪が付くと変わってくるから,もしかしたらPTSDではないかとか,それから,強制わいせつ罪に関してはもう時効なのだけれども,それについては加害者の方も認めているのだけれども,強制性交等罪が成り立たないかとか,要するに,私は余り法律的にうまく言えませんけれども,私が聞くだけでも,起訴の段階でもいろいろとそういうせめぎ合う,この公訴時効の問題によって問題が起きているケースが幾つもあるのですね。たった一人の人間が聞くだけでも,臨床でも存在していて,あるいは,もしかしたら精神鑑定が必要なケースの中にも存在しているということは,公訴時効が延びて,それがきちんと社会に周知されれば,救われる人は当然増えるのだというように思います。 ○宮田委員 時効期間の延長等をすれば,被害者が救われる例はあるとは思います。しかしながら,証拠が散逸している事件も多い。効果が薄いにもかかわらず,被害の申出があることによって捜査機関に著しく負担がかかるという問題は考えておかなければならないと思います。   また,先ほど話に出た無罪の事件では,加害者の方が勤務をしていた可能性が主張され,そこが否定できないということで一種のアリバイが成立したと聞いています。この事件が,休みの日に起きた事件,夜に起きた事件だったとすれば,アリバイ立証は非常に難しかったでしょう。時効期間の延長等がされた場合,そういうアリバイに関する立証ができる事件が極めて少なくなってしまうのではないかと思います。被害者の救済ができなくなるということで時効制度自体に問題があるという指摘もできるかもしれませんけれども,加害者の防御という面からは,時効期間の延長等によって問題が起きる場合が増えるだろうということは,以前にも申し上げましたが,私はその意見を言うために来ているのだろうと思っているので,あえて再度言わせていただきます。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。一通り御意見を頂けましたし,また,特に付け加える御意見もないようですので,「公訴時効の在り方」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   これまでの議論を簡単にまとめますと,性犯罪の公訴時効をおよそ撤廃すべきであるという御意見も一部にはありましたが,それに対しては,そこまでの社会的合意はないのではないか,また,他の犯罪の取扱いとのバランスを欠くことになるのではないかということを理由に,現時点で撤廃は難しいという御意見もありました。その上で,公訴時効の完成を遅らせることについては,被害者が被害を認識することや被害を申告することが困難な場合がままあること,それから,DNAや画像などの証拠が残っているケースがあることなどを理由として,これに賛成する意見が述べられ,特に被害者が子供である場合には完成を遅らせるべきであるという意見が多くありました。今日の議論では,若年成人といいますか,20代の被害者でも子供と同じような取扱いをすべきだという複数の御意見が見られたところです。これに対しては,時間が経過すると,そもそも正しい事実認定ができなくなる,被疑者・被告人の防御に支障が生ずるといったことを理由とする反対意見もあり,対立する利益のバランスをどう取るかということが問題となろうかと思います。   また,具体的に公訴時効の完成を遅らせる方法としては,起算点を遅らせる方法,時効期間を延ばす方法,新たな時効停止事由を創設する方法があるという御指摘がありまして,いずれの方法を採る場合でも,他の犯罪類型との関係で特に性犯罪のみについて特別の取扱いをする理由・根拠や,子供と大人,あるいは年少者,若年成人,そして大人とで取扱いを別にする場合には,その取扱いを変える根拠が明らかにされる必要があるという課題が示されたかと思います。   それでは,次に,「いわゆるレイプシールドの在り方」についての検討に入ります。   この論点については,二巡目までの議論では,意見要旨集の7ページから9ページまでにありますように,例えば,不適切な質問などがなされないようにレイプシールド法を制定すべきという意見が述べられる一方で,仮に,新たな規定を設けるとしても,被告人の防御のために被害者の性的関係等に言及することが避けられない場面のような一定の例外を設ける必要があるけれども,外国法制の在り方等にも鑑みると,これを明確かつ適切に規定できるかについては検討が必要であるという御指摘もあり,他方,裁判官,検察官,警察,弁護人等の研修を強化するなどして,被害者が安心して刑事裁判の場に臨めるよう積極的な取組が必要であるといった御意見も述べられているところです。   以上のことを踏まえますと,本日の議論に当たっては,明文の新たな規定を設けるべきかということに加えて,仮にそういう方法を採らないとしても,運用面での更なる対処が必要なのではないかという問題を意識しながら議論を行う必要があると思われます。こういった観点を踏まえつつ御発言いただければと思います。   この論点については,15分程度の時間を予定しております。 ○上谷委員 私は,従前から,一般規定でもいいので明文化をお願いしたいということをお話ししています。以前の議論のときに,宮田委員から,被告人からどうしても聞いてくれと言われると,弁護人としてはそうせざるを得ないのだと,本当は検察官に止めてほしいと思っていることもあるのだという御発言もありました。私も少し前まではかなり凶悪な事件の被告人の弁護もしておりましたので,被告人がどういうことを言ってくるかというのは想像できますし,弁護人の方たちがすごく苦労しているのも理解しているつもりです。私は,今は専ら被害者の代理人をしておりますけれども,例えば,公判のときに,事前に,弁護人から,「被告人が被害者側に対してかなり失礼なことを言うかもしれないけれども申し訳ない」とか,「かなり嫌がりそうな質問をするかもしれないけれども申し訳ない」などというお断りがあったり,また,公判の後に,弁護人が,被害者側に対し,「本当に申し訳なかった」,「被害者を傷つけたと思っている,ただ,被告人がどうしてもと言うのですみませんでした」と謝罪に来たりすることもかなりあります。   そういうことを考えると,被害者を侮辱してはならないとか,法廷が荒れてはいけないというのは,多分,誰も否定しないことであって,そういった規定があることによって,弁護人の方もそういった被告人に対して説得がしやすいのかなという気がしています。こういう法令があるから注意されるのだということで,裁判所も訴訟指揮をやりやすくなるのではないかと思います。例えば尋問事項の制限に直接関わるような規定の仕方というのは,やはり避けなければいけないと思うし,その規定の仕方自体も難しくなると思いますので,一般規定でいいので,明文を置いていただきたいなと思っています。 ○小島委員 明文の規定を設けるということも大事かと思います。意見要旨集の9ページの三つ目の「○」で,これは私が申し上げたことなのですけれども,運用で行くという場合には,レイプシールドに関して研修等で対応することになると思います。その場合,研修等の中身が問題になってくるのではないかと思います。例えば,イギリスでは,レイプと性的暴行に関する検察官の起訴についてガイドラインが公表されており,その内容は毎年更新されているそうです。レイプ神話,ステレオタイプ,LGBTQ,同性愛に関する考慮事情などがガイドラインに掲げられており,これに沿って判断しているといいます。こういう形であれば現場でのばらつきが少なくなるし,ガイドラインが公表されているために不服申立てもできるそうです。日本でもガイドラインを示して,被害者,捜査関係者,法曹関係者,弁護士等に対し,研修の核として用いていくべきではないか,研修については中身も重要ではないかと思っております。   公判前整理手続でのルールを設け,それに反したら一定のペナルティー,場合によっては犯罪にするという方向もあり得るのではないかと思います。例えば,氏名を秘匿すると決定しているのに,被告人が被害者の氏名を法廷で連呼するというような場合について,何のペナルティーもないというのは問題だと思います。 ○齋藤委員 意見要旨集の8ページの「④」の「具体的な対応策の在り方」に書かれており,今,小島委員からもお話がございましたが,もし研修をしていただくのであれば,ジェンダー,セクシャリティー,レイプ神話が捜査機関とか司法機関の判断に誤った影響を与えないよう,研修を徹底していただきたく思っております。もちろん前回の改正以降,司法機関において研修を行っていらっしゃることは把握しております。しかし,自戒を込めての言葉なのですけれども,支援とか司法に関わる人には早急な知識の獲得や認識のアップデートが必要だと考えています。   レイプシールド本来の内容と少し異なるかもしれませんが,男性だからとか,トランスジェンダーだからとか,性的マイノリティーだからとか,そうした理由で,事件として扱われたかもしれない出来事が事件として扱われないとか,あるいは,不適切な扱いをされるとか,不適切な発言をされるとか,そのようなことはないようにしていただきたいなと思っております。社会的に弱い立場に置かれている人が,弱さに付け込まれて暴力を振るわれたときに,その弱さを利用されて,一層その人が法廷や捜査で追い詰められるようなことがないように,研修などを行っていただきたく思っております。 ○渡邊委員 レイプシールドに関しまして,意見要旨集の7ページの「①」の二次被害の実態として,弁護人が被害とは関係ない被害者の職業や既往歴,ピルの服用歴等に言及した例ですとか,面識がない人から被害に遭った女性が,法廷でその職業について執拗に聞かれた例があったという御指摘がありました。その場における検察官の異議の対応,あるいは,それを受けた裁判所の訴訟指揮について御指摘があったところです。   一般的に,要証事実との関係でその尋問をしてよいかどうかという必要性・関連性が判断されることになると承知しておりますけれども,先ほどのような例につきましては,被害者の同意の有無といった要証事実,立証のテーマについて,どのような推認過程が考えられるのか疑問なしとしないところだと私どもは考えております。しかも,二次被害という場合によっては取り返しが付かない弊害が生じることを考えますと,先ほどのような尋問によって何を立証したいのか,どのように信用性が弾劾されるのかということが特に厳しく吟味されるべきではないかと考えております。   ちょっと場面は異なるかもしれませんけれども,例えば,前科による立証というのが刑事裁判でございまして,これは,立証のテーマが犯人性である場合のみならず,時には共謀などの主観面についても制限をされる場合がございます。その理由としては,やはり推認力が薄弱であるということと,印象論に終始してしまうというような弊害を考えているからだと理解しております。いずれにしても,この性犯罪の被害者の方が,弁護人の主張や争点と関連性がない,あるいは,どういった推認過程を経るのかが不明な質問によって,公判において二次被害を受けるということがあってはならないと考えております。検察官として,この検討会において指摘された二次被害の実態を本当に真摯に受け止める必要があると考えております。   私ども検察官として,こういった主張や争点と関連性がない不当な質問を防ぎ,さらに,公判における二次被害を防止するという観点からは,既に出ていることではございますけれども,被害者の同意の有無が争点となっている場合において,公判前整理手続等で積極的に裁判所に求釈明を求めるなどして,弁護人に一体どういう事実を被害者の同意を基礎付ける事実として主張するつもりなのかということをできるだけ明らかにしてもらって,もしその中に被害者の性的な経験や傾向に関する事実が含まれていないのであれば,その旨を当事者が確認して,例えば,公判前整理手続調書に記載してもらう,あるいは,仮にそういったことも聞きますよということになりますと,その事実がどういった推認過程を経て,被害者の証言の信用性を弾劾するといえるのかということを厳しく確認をしていって,時に再考を促し,裁判所ともこういった考え方を共有するということが非常に重要なのではないかと考えております。それでも弁護人がそういった質問をするということが予想される場合におきましては,その尋問内容を想定した異議申立ての準備を十分に行って,実際に公判において争点と関係ない質問,侮辱的な質問がなされた場合には,適時に異議を申し立てるようにすると。裁判所にも,関連性のない質問による二次被害の防止の必要性について,当然御理解いただいていると思いますけれども,更に深く御理解いただいた上で,この異議を速やかに認めていただく,あるいは,私どもが異議を言い損ねる場面もあるかもしれませんけれども,検察官による異議がなくとも,その場で,弁護人に必要性・合理性を求釈明していただくといったような対応を求めていくことが重要であると考えております。   検察の現場におきましては,これまで,各検察官が法務総合研究所という私どもの研究機関において性犯罪に関する講義を受けたり,あるいは,被害者の心理について大学の先生方の講義を拝聴するなどして,理解を深めてまいりました。また,司法研修所でも,法律家の卵である司法修習生に対する検察研究問題として,犯罪被害者に対する対応の在り方というのを取り上げてきたところでもあります。少なくとも,このレイプシールドの問題につきましては,運用面において,本検討会の議論を真摯に受け止めて,これに顧みて,取り分け公判における二次被害を防止するための具体的な対応の重要性につきまして,検察全体でその問題意識を共有する必要があると思っております。 ○中川委員 今の司法関係者への適切な研修という点につきまして,裁判官の立場から申し上げたいと思います。   既に申し上げた点と重なるところはありますけれども,裁判官の研修についてですが,司法研修所では,性犯罪の被害者の心理に詳しい専門家や,性犯罪被害者御本人を講師とした講演があります。その中で,裁判で配慮が必要な事項や訴訟指揮として求められる対応などについても伺っております。裁判官は,そうした研修を踏まえて,公判において被害者の方に二次被害を生じさせないよう裁判手続を行うよう努力しております。また,今問題となっております性犯罪事件の訴訟運営に関してですが,証人尋問のときに,被害者の性的な経験や経歴に関する質問などにつきまして,適切な訴訟指揮の在り方を含めて,裁判官同士で議論するなどしております。今後もそうした研修などを通して,公判における二次被害防止に努めていきたいと考えております。 ○羽石委員 レイプシールドの規定とは直接関係ないのですけれども,捜査機関への研修というお話がありましたので,一言申し上げさせていただきます。   警察では,性犯罪捜査において,被害者の方の負担をできるだけ軽減するために,性犯罪事件の捜査に従事する警察官に対して,性犯罪被害者の心理などについての教育や訓練を行ってまいりました。また,被害者の希望する性別の警察官によって対応できるように,性犯罪捜査を担当する係への女性警察官の配置促進ですとか,性犯罪捜査の知見を有する性犯罪指定捜査員の育成なども行ってまいりましたけれども,本検討会におきまして,被害者の立場に立った対応が必ずしも図れていない事例があるという御指摘を複数の委員の方々から頂きました。それを受けまして,本検討会における議論の状況ですとか,警察の対応について頂いた御指摘を各都道府県警察に周知して,被害の届出への適切な対応ですとか,捜査の過程における二次的被害の防止など,被害者の心情に配意した対応を行うことを,この機会に改めて指示したいと思っております。被害者の心情に配意した適切な性犯罪捜査が推進されるように,引き続き努めてまいりたいと考えております。 ○金杉委員 私は,レイプシールドに関して新たに規定を設ける必要はなく,運用を徹底すべきであるという意見を申し上げました。その意見については,従前と変わりはありません。   先ほど一般的な規定をというお話がありましたけれども,基本的には現在でも刑訴規則199条の13第2項で,威嚇的又は侮辱的な質問については,正当な理由があるかどうかは問わずに,いかなる場合もしてはいけないということが決められています。どういったものが侮辱的なのか,性的なことを一般的に聞くことが全て侮辱的だということにはならないとは思うのですけれども,聞き方や,その必要がない場合に,ただ単に被害者をおとしめるという意図で性的な指向等について聞くことが侮辱的に当たるだろうということは争いがないと思います。   そうした質問については,やはり異議ももちろん出るでしょうし,裁判所の方から制止をされることと思いますけれども,弁護人としては,そういった侮辱的な,必要性のない性的な指向に関しての質問がないように,そもそも注意しているとは思います。ただ,それが徹底されていないということが御指摘の中でありますので,弁護士会としてもそういった研修については今後も行っていくつもりです。   今,日弁連でも,全国的に,各単位会の方で,刑事裁判の弁護人に登録する際に一定程度の研修を受けるということを義務化していくというような方向の検討を始めているところでございます。そういったことで,今特に問題があるという認識ではないのですけれども,一定程度底上げが図られると思っています。 ○宮田委員 研修については今,金杉委員が紹介したとおりで,各単位弁護士会で刑事弁護について研修を受け,一定程度の知識がある人を登録するような制度なども検討されているところです。そのような研修を受けることによって,立証する上で必要性や関連性のないことを述べてはいけない,そのようなことをしても効果が上がらないということや,被害者に限らず証人一般ということになりますが,その名誉を傷つけるような尋問は慎まなければならないことを徹底すべきということは,当然,研修で明示していけるところかと思っています。   また,自白事件で示談などをするときなどに,私たちは,直接,被害者の方にお会いすることもありますので,性犯罪被害者の方々が精神的に苦痛を被っているのだということについては十分に知っておかなければならないと思っています。できる示談も潰してしまうと言ったら言葉は悪いですけれども,弁護人の対応の悪さのために被疑者・被告人に不利益を与えてしまうことも起こりかねません。そういう意味で,私たちが弁護をする上で被害者の心情について理解をするということは本当に重要だと思っています。   しかし,ここで一言言っておきたいのは,弁護人は,犯罪を取り締まる警察官,有罪を求める検察官,そして中立の立場である裁判所とは異なって,被疑者や被告人の言い分に合理性があれば,それを法廷で主張し,証拠を示すということが仕事です。そういう意味では,被害者とは敵対的な関係にならざるを得ない場合がありますし,被害者の供述を弾劾する活動として,被害者との関係,あるいは被害者の属性を主張せざるを得ない場合は出てきます。私たちが弁護をするに際しては,被告人や弁護人から見た事件の全体像,ケースセオリーという言い方をしますが,それを提示していくことになります。性犯罪のケースセオリーで,先ほど御紹介がありましたような,見ず知らずの間で相当ひどい暴行・脅迫を加えているのに,同意があったというストーリーは通りづらい,それは私たちも分かります。そういう事件で,被害者が性的に奔放だったから同意する可能性があると主張したならば,先ほど渡邊委員がおっしゃったように,それはただの臆測にすぎない,印象操作にしかならないと評価され得ることは私たちも十分認識していますし,そういうことはすべきではない事例のほうが多いと思います。   しかしながら,暴行を振るったことを争っている,あるいは暴行・脅迫の程度が非常に弱い事件の場合に,被告人が被害者の同意があったと誤信をしたと主張している場合もあります。例えば,見ず知らずであったとしても,知り合ったのが出会い系サイトで,被害者が売春行為の対価と考えられるような金銭を提示していたという場合などもあり得ます。また,被害者と被告人が知り合いであったとすれば,過去の二人の関係などについて示さざるを得ない場合もあります。また,一審における裁判所の被害者供述の信用性判断が具体的に証拠を示した論理的なものではなくて,被害者が恥ずかしい思いをしてまで被害に遭ったといううそをつくはずがないという程度の,いわば印象にすぎないと思われるようなものであった場合には,控訴審において,被害者がそれほどの羞恥心を感じたのかどうかに関連して被害者の属性について触れざるを得ないような場合も起きます。   例えば,一審の裁判所が,被害者が婦人科治療を受けるような恥ずかしい思いをしてまでうそを言うはずがないという,漠然とした信用性判断をしたとします。確かに,被害者が例えば10代の,性的に全く知識や経験がないような人であれば,婦人科の受診をしてまでうそを言わないだろうというのは当てはまりやすいけれども,被害者の方が,過去に堕胎していたり,性病での罹患の問題などがあったりして,かなり婦人科の受診歴があるような方だったら,その信用性判断は個別具体性を欠いて,おかしいのではないかという主張を出さざるを得ないのではないでしょうか。   被害者の名誉を考えなければいけない事件もあります。しかしながら,被害者の属性について立証せざるを得ない,それを考慮した判断をお願いしなければいけない事件というのも,やはりあります。一審の手続においては,被害者の名誉のために法廷で被害者の氏名を秘匿したり,傍聴席との間の遮蔽をするなどの被害者保護のための措置を採る,その上で争うべきところは争うようにしていくことが大事なのではないかと思っています。このように,レイプシールド法の下で被害者の属性等の立証が一切できないというようにすることには問題があると思っています。   最後にもう一つ,懸念事項です。研修を行う,研修を行って被害者の心理について知るということは大事なのですけれども,それによって,被害者がうそをつくわけがないという安易な事実認定につながるようなことはないようにしてほしいと思っています。やはり,客観証拠との整合性,供述の不合理な変遷がないのか,例えば変遷の理由が捜査機関の集めてきた証拠による誘導ではないかといった,信用性判断の基本的な手法というのは,性犯罪においても適用されるべきものでしょう。 ○井田座長 ありがとうございます。予定されていた時間も経過しましたので,「いわゆるレイプシールドの在り方」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきます。   この論点について,これまでの議論をまとめてみますと,まず,争点と関連しない性的な経験や傾向に言及することは許されないことは当然であり,現行法上も,関連性のない証拠は検察官の証拠意見や異議により,また裁判官の判断を経て排除されることになっていることが確認されたわけですが,他方で,捜査段階や法廷において不適切な発言が見られることも指摘されました。その上で,明文で禁止すべきであるとして法改正を求める御意見もありました。今日も改めてそういう御意見が表明されたところですが,証拠の関連性について具体的に明文化するとなると,前科証拠など他の関連性の問題についても併せて明文化が必要となるだろうという御意見や被告人側の防御のため,一定の場合には性的傾向などに言及することも許容されなければならないところ,その例外を適切に定めるのは困難ではないかといった消極方向の御意見もありました。   他方,こうした状況を運用において改善すべきであるという意見が多数の委員から示されました。具体的には,例えば,公判前整理手続や事前打合せの際に裁判所,検察官,弁護人の三者で証拠提出や尋問の範囲を明確に定め,それに反する行為がなされないよう適切に訴訟指揮や異議の申立てを行うべきであるという御意見がありました。また,捜査段階を含めて二次被害を生じさせることのないように,研修を強化すべきであるとの御意見もありました。この点については,本日,裁判所,検察,警察,弁護士の各委員からそれぞれの現在の取組,また今後の取組についての御意見もありました。   次に,「司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」についての検討に入ります。   この論点について,二巡目までの議論では,意見要旨集10ページから17ページまでにありますように,例えば,想定される具体的な規定の在り方として,反対尋問の機会を与えることなく証拠能力を認める規定と,反対尋問の機会を保障した上で,主尋問に代えて証拠能力を認める規定とが考えられるといった御意見が述べられておりますが,このうち反対尋問の機会を与えることなく証拠能力を認める規定については,証人尋問請求権との関係をどう整理するのかという問題があり,また,反対尋問の機会を保障した上で,主尋問に代えて証拠能力を認める規定については,例えば,司法面接的手法による聴取から反対尋問までの間に時間的間隔が空くことから,尋問時の供述者の供述が曖昧になってしまうといった問題が指摘されておりますので,本日の議論に当たっては,こうした御意見も踏まえた議論を行うことが必要であると思われます。こうした点を踏まえつつ御発言をお願いしたいと思います。   この論点については,30分程度の時間を予定しております。 ○川出委員 今御指摘がありましたように,具体的な規定の在り方のうち,司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体について,反対尋問の機会を与えることなく証拠能力を認める規定については,第11回の会合において,当事者の証人尋問請求権との関係を整理すべきだという御意見がございましたので,その点について意見を申し上げたいと思います。   主として想定されているのは被告人側からの証人尋問請求であると思いますが,この場面で被告人が被害者の証人尋問を請求する目的は,証人尋問をすることによって録音・録画記録媒体に記録された被害者の供述の信用性を争うことにあるでしょうから,そうすると,その尋問の内容は,被害者の供述について反対尋問するということにほかならないと思います。他方で,この規定は,反対尋問を経なくても記録媒体に記録された被害者の供述について信用性が担保されるような客観的情況が存在することを前提として,その記録媒体に証拠能力を認めるものです。そうだとしますと,そういう前提でその記録媒体に証拠能力が認められている場合に,実質的に反対尋問に当たる内容となる証人尋問を行う必要性は類型的に低いことになります。その一方で,この場合の被害者の証人尋問には,供述を繰り返すことにより被害者の心身に重大な悪影響を及ぼすという弊害があります。その両面を考慮しますと,この場合の証人尋問請求は,実務でしばしば使われる概念を用いれば,証拠調べの必要性を欠くものとして却下されるということになると思います。   このことを裏返して言いますと,仮に,個別の事案で,裁判所が,司法面接の結果を記録した記録媒体の証拠調べをする前の段階で,被害者の公判での証言を聞いた上でないと,当該記録媒体に記録された供述が信用できるかどうかを判断できないという結論に至ったということであれば,それは翻って,当該司法面接にはその際の被害者の供述の信用性を担保できるだけの客観的情況が備わっていなかったということを意味しますので,そもそもその記録媒体には証拠能力が認められないということになるはずです。   また,個別の事案でそういった場合があるというだけではなく,司法面接の結果を記録した記録媒体については,一般的に,被害者の公判での証言を聞いてみないと記録媒体に記録された供述の信用性を判断できないということであるならば,それは,そもそも特信性が一般的に認められないということになりますので,こういった規定自体を設けることができないということになります。   つまり,司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体について,反対尋問の機会を与えることなく証拠能力を認める規定の趣旨と根拠から考えれば,当該記録媒体に証拠能力を認めることと被害者の証人尋問を認めることは択一的なものであって,記録媒体の証拠能力を認めつつ証人尋問も認めるということは,制度の立て付けとしてあり得ないということになると思います。本規定と証人尋問請求権との関係は,以上のように整理できるのではないかと思います。 ○小島委員 まず,意見要旨集の13ページの「⑤」の三つ目の「○」についてですが,私は以前,この「○」に記載されている意見を申し上げておりました。つまり,反対尋問を条件として,原則として録音・録画記録媒体に証拠能力を認めるべきという意見を申し上げておりました。これは,特に子供について,せめて主尋問の負担は掛けないようにしてほしいという意味で申し上げたのですけれども,本日,山本委員から出ている資料などを見ますと,考え直すべきかと思いました。   法廷で反対尋問されるまでの間に相当時間がたってしまいます。年齢や被害内容によっては,記憶が相当失われてしまった人や,証言の意味も理解できないような子供も多いのではないかと。そうだとすると,反対尋問を証言後相当の時間を経過してから実施するということには,どのぐらい意味があるのだろうかと考えました。子供には大変な負担を掛けることになるし,実施の意味を真剣に考えなければいけないのではないかと思うようになりました。   この問題は,被害を受けた直後に子供が安心して被害状況を話せる中立的な機関が必要だということではないか,と。現行法を前提とすると,刑事訴訟法321条1項1号に該当するような,つまり裁判所が関与するような保全的な聴取ができる体制が作れないか,と。裁判所における職権聴取となると司法基盤の充実が必要であって,今の裁判所の体制を考えると,難しいかもしれませんが,体制整備に向けて努力していく必要があると思いました。   例えば,刑事訴訟法321条1項に,子供の証言を録音・録画して,その記録媒体に証拠能力を与えることができるような規定を設け,裁判所が全てに対応することはできないので,被害者から聴取することができる者にライセンスを与えて,これに委任するような形にして,例えば,受託者について非常勤の公務員とするなどの体制整備ができないかと考えます。受託者としては医師・臨床心理士と弁護士がペアを組むなどが考えられます。全国のワンストップ支援センターに以上の構想に対応できるような体制を設けてもらうなどはどうかと。時間も掛かるし大変かもしれませんけれども,被害者の親や一番近い医療機関や相談機関やNPOの人たちが被害者を発見したときに,迅速にその話を安心して聞けるような機関を設けて,それを裁判所と直結させるというようなシステムを考えたい。長期的な展望に立った意見を申し上げました。 ○池田委員 私からも,今,小島委員から御指摘のありました,主尋問に代えて司法面接結果を用いることについて,意見を申し上げます。今の小島委員の御指摘にもありましたし,意見要旨集の16ページ「⑦」の一番下の「○」のところにも指摘があるのですけれども,聴取と反対尋問との間に時間的間隔があるということに伴って様々な問題があり,特にここで指摘されているのは,証人が司法面接時と尋問時とでいつの記憶について証言すればよいかに混乱が生じるなどの結果,供述の信用性の判断が難しくなるという問題が指摘されております。   もっとも,この点について考えてみますと,現在でも証人尋問がビデオリンク方式で実施されまして,その調書が刑事訴訟法321条の2に基づいて証拠採用される場合は,ビデオリンクの主尋問と,その後の反対尋問との間にある程度時間が空くということは不可避的に生じる事態といえますし,また,そのようなケース以外の通常の証人尋問においても,実務上,公判経過によっては主尋問と反対尋問との間に期間が空くということは必ずしも珍しくはないものだと承知しております。このように,現在も主尋問と反対尋問との間で時間的間隔が空くことはある。他方で,そのことによって反対尋問の際にここで指摘されているような問題が生じるおそれがあるとしても,だから尋問そのものを行わないということにはなっておらず,そうした問題は運用上の対処に委ね得るものと理解されているものと考えられます。   そうである以上,録音・録画記録媒体を主尋問に代替させる規定を創設することを考える際も,聴取と反対尋問との間に時間的間隔があるということは,そのような規定の創設の可能性がおよそないというまでの理由にはならないのではないかと思います。その上で,御指摘のように,どの範囲で用いるかということについては検討の余地があるとは思いますけれども,今御指摘されている点については,以上のように整理ができるのではないかと考えております。 ○中川委員 まず,先ほど川出委員から,刑事訴訟法321条1項3号を参考にしていると思われる類型について,証人尋問請求との関係に関する御発言がありましたので,既に述べたことと重なる点もあるかもしれませんが,改めて裁判官の立場から申し上げたいと思います。   司法面接をどう制度化するか,その要件をどうするかは,立法政策の問題ではあるものの,現行法上,供述不能などの限定的な場合に例外的に供述調書を採用して証人尋問を行わないという類型はありますが,そのような事案における供述の信用性判断が難しいということは,既に申し上げたとおりです。裁判所としても,訴訟手続の運営に当たっては,被害者への二次被害などに十分配慮する必要があるということは考えていて,証人尋問を行う際には,できる限り被害者の心情に配慮する必要があると考えております。例えば,被害者供述以外の証拠から事実認定が可能であるような場合については,事案によっては,事実が争われていても,必ずしも被害者の証人尋問を実施する必要がないと判断できる場合もあろうかと思います。   他方で,正に被害者の供述で事実認定を行う必要があり,そして,その信用性の判断をする必要があるというような場合などに,弁護人から証人尋問請求があった場合に,先ほど,記録媒体を採ってしまったのであれば,証人尋問をする必要性が低く,必要性を欠くので,却下されるべきというような御発言もあったかと思うのですけれども,事実認定を行う裁判官の立場としましては,弁護人から証人尋問請求があって,自分も被害者の信用性を判断しなければならないという立場になった場合,必要性なしとして却下するというのはなかなか難しいところがあろうかと思います。   今回議論されている刑訴法321条1項3号を参考にした類型が,被害者に対する将来的な心身への悪影響を防ぐために,証人尋問により事実認定が適切に行われる可能性がある場合も含めて証人尋問を行わないというような制度を前提としているということであるとするならば,現行法上,反対尋問を経ないで伝聞法則の例外を認めているほかの類型とは異なる新たな類型ではないかと思われます。検討会の資料を拝見する限り,反対尋問を経ない類型を設けている国は少ないように思われ,やはり反対尋問が被告人の防御権の中核であって,真実発見に資すると解されているのではないかとも思われます。いずれにしましても,反対尋問の趣旨ですとか,その果たす役割などの観点も踏まえ,更に慎重に議論を深めていく必要があるかと思います。   それから,二点目ですが,小島委員,池田委員から御指摘のあった,主尋問に代えて司法面接の結果を記録した録音・録画記録媒体を採用するという方ですけれども,反対尋問から始まることによって証人の負担が増えてしまうのではないかですとか,司法面接の聴取から反対尋問まで期間が空き,供述の信用性判断が難しくなるということなどについては,既に申し上げたとおりです。ただ,これまでの議論は,刑訴法321条の2を検討の出発点とされていますが,その刑訴法321条の2は裁判官や弁護人が立ち会っているのが前提となっておりますが,これまでの司法面接に関する議論ですと,捜査機関の面前での供述は,裁判官や弁護人が立ち会っていないという状況を前提としているようで,状況が異なるという面もありますので,やはりその要件をどうするかにつきましては慎重に検討する必要があろうかと思います。 ○川出委員 主尋問に代えて司法面接の結果を記録した録音・録画記録媒体に証拠能力を認める規定について指摘されていた問題点のうち,もともとの供述と反対尋問との間に時間が空くことに伴う問題点については,先ほど池田委員から御指摘があったように,既存の制度や運用と今回検討されている規定との間に,今回の規定の創設がおよそ認められないとするような質的な違いはないと思います。加えて,録音・録画記録媒体を主尋問に代替させることの実質的な問題点という観点から考えてみますと,その具体的な内容として,第11回の会合では,通常は,主尋問によってその時点での証人の記憶を確認し,それを前提に反対尋問がなされるのに対して,主尋問が欠けると,その確認がなされないために,反対尋問における供述が曖昧になることが想定され,供述の正確性等を確認することが難しくなるという点が挙げられていました。   一般的にはそうであろうと思いますが,ここで問題となっている司法面接の対象者である年少者について考えてみますと,被害から時間が経過した公判段階では記憶が薄れていたり,あるいは記憶が汚染されていたりする可能性が高いことから,司法面接によって早期に供述を獲得することが想定されているわけですから,主尋問によって証人の現在の記憶を確認するという点は,そうした年少者については余り意味がないように思います。この点からも,録音・録画記録媒体を主尋問に代替させる制度の問題点は,司法面接による場合には,必ずしも当てはまらないのではないかと思います。 ○宮田委員 中川委員の御意見にほぼ賛成なので,それとなるべく重ならないところを五点ほど指摘したいと思います。   中川委員が刑事訴訟法321条の2の録画媒体の場合には,法曹が見ている,裁判官や弁護人が立ち会っているという意味で司法面接とは異なるということを御指摘なさいました。私は,その点について,中川委員と全く同じ意見です。さらに,刑事訴訟法321条の2の録画媒体を使う事件の多くが共犯者の分離されている事件です。そのような事件の場合,相被告人の弁護人はその主尋問を傍聴しに行くことがあり,そうすれば,生で聞いて心証をとるということが可能です。そういう事件の特質から,単に裁判官の前で供述するというだけでなく,事実上,同じ裁判官と検察官が主尋問を聞いている場合が多いともいえるのです。   二つ目です。刑事訴訟法321条の2の録画媒体を主尋問に代える場合や,調書に同意して,事実上,主尋問は調書に譲ってしまい,反対尋問だけやる事件もあります。ですから,刑事裁判になっている事件で,実際に主尋問が省かれることはあります。しかし,そうやっている事件では,その証人の供述調書の全てが開示されます。その供述の変遷の有無や,その変遷と捜査の進展の関連性の有無,それぞれの供述と客観証拠・客観的事実との突き合わせは可能なのです。しかし,司法面接の場合には面接一本しかありません。反対尋問をする場合に,時間を経過しながらの供述が幾つも出てくるものとは全く違うので,客観的事実との整合性などを聞くことはできるのでしょうが,技術的に難しいのだろうということが二つ目の指摘です。   三つ目です。司法面接の場合には,インタビュアーが採っている,そのプロトコルはどんなものなのか,また,このインタビュアーの力量はどうなのかという問題が起きてきます。現在の代表者聴取について,その代表者聴取を行った検察官がどのような研修を受けたのか,その研修をどの程度理解できているのか,あるいは,その研修に従って当該聴取はできているのか,できていないのかというところをきちんと論証していく必要があるのだろうと思います。検察官の多くが受けているプロトコルであるチャイルドファーストジャパンのものについては,例えば,人形を使って性行為を表現させるなど,誘導的な方法があるという批判もあるようです。司法面接をこれからやっていく以上は,どのプロトコルを採るのが一番良いのかも含めて,十分に検討していく必要もあると思いますし,司法面接そのものに対して,事後的に,そのプロトコルにきちんと従ってやっているのかどうか等について鑑定するプロセスも必要になってくるように思います。   四つ目です。供述の汚染の問題は司法面接の前にも起こり得ます。実は司法面接が行われた事件で,司法面接が行われるまで,事件から数か月以上の時間が空いてしまった事件が弁護士会で紹介されています。そうなってくると,その数か月の間,誰が被害者と接して,どのようなやり取りがされたのかについて十分な検討が必要になりますし,その点についての証拠をいかに正確に残していくのかが大切になります。検察官が,あるいは警察が,被害者と,いつ,誰が,どのようなやり取りをしたのかについての証拠をきちんと残すことに加え,事実関係を争っている事件であれば,弁護人にそのような証拠を開示するシステムがきちんとできなければならないと思います。   最後になりますが,実際には被害者が何を言ったか全く分からない,供述のとおり再現されていない検察官調書よりは,司法面接のビデオの方が迫真性があっていいという面はあるのかもしれませんが,逆に言えば,裁判所が,そのような司法面接の迫真性の部分だけに着目して,客観証拠との一致や,今申し上げた記憶の汚染の問題などを判断から捨象してしまって,司法面接によっているのだからこの供述は信用できるという判断になってしまうことを避けなければならないと思います。先ほどの川出委員のお話を法律家が聞いていたら,類型的に信用性がないものは証拠能力を持たないという話と理解できるわけですが,一般の方が聞いていると,司法面接として出てくるものは信用できるのだと誤解してしまう可能性もあると思います。証拠能力が与えられたとしても,裁判所が証拠となった司法面接が信用に値するものなのかどうかをきちんと検討できるだけの証拠を集める,そして客観証拠の一致や記憶の汚染についての検討ができるということを行っていかなければならないと思います。そして,客観証拠や記憶の汚染の問題に加え,司法面接における不適切な質問による誘導がないか,司法面接をするのにふさわしいのは誰か,そして,その他の司法面接の技術そのものの問題については,精神科医や心理学者の方に,司法面接のビデオを御覧になっていただき,その面接手法などについて問題がないかどうかを鑑定していただけるような,きちんとしたシステムを作らなければならないのだと思っています。 ○金杉委員 大きく分けて二点申し上げます。   まず一点目は,先ほど川出委員から御指摘がありました,反対尋問の機会を与えずに証拠能力を認めるという方法についてです。私は,以前からその二つ,反対尋問を認めない場合と,主尋問代替として認める場合のほかに,三つ目としまして,現在行われている代表者聴取のような方法ではなく,検察官ではなく,医師であるとか臨床心理士であるとか,当事者ではない専門職の方が聴取をした上で,それを刑事訴訟法321条1項2号類推のような形で証拠能力を認めるという方法もあるのではないかということをお話ししていました。   刑事弁護の立場からは,容認できるとすればその三つ目で,今御提案のありましたような,反対尋問の機会を全く与えることなく,今の代表者聴取の方法で,我々が証人尋問をすることなく証拠能力が認められ,信用性が判断されてしまうということにはかなりの抵抗があります。やはり反対尋問権というのは憲法で保障された権利ですし,裁判官の前で,検察官,弁護人もいて,被告人の目の前で,ビデオリンク等であったとしても,裁判所外における尋問であったとしても,その三者がそろった状態での反対尋問を経ていない上での信用性判断,そして結論ということになりますと,到底,被告人の納得が得られるような判決にはならないと考えます。   先ほどその点について,小島委員から御提案のありました,例えば裁判所が聴取をするといった別の方法を創設するということは考えられると思います。ただ,現状では,今すぐそれが可能かという問題もありますので,そこは慎重な議論が必要かなと思います。これが一点目です。   二点目ですけれども,先ほどから,被害者の方の負担を減らすために主尋問代替という御意見がありました。果たしてそれが本当にそうなるのかという疑問についてです。例えば,令和元年に大阪高裁であった判決ですけれども,犯人性が問題になっている場合で,被害者の目撃供述,犯人の風体ですとか服装ですとか年格好,そういったものについて争いがある場合,つまり,事件性は争いがなくて犯人性に争いがあるといったような場合に,被害の3日後に行われた司法面接的手法による聴取時の供述が,事件から半年経過して法廷でなされた証言よりも信用できるといった判断がされた例がありました。例えばそういった場合であれば,確かに記憶の減退によって犯人の風貌等について記憶が曖昧になるということは自然なことで,事件直後の供述の方が信用できるだろうと,こういう判断は理解できるところです。   ただ,他方で,つい先日,大津地裁で無罪判決がなされましたけれども,事件性自体,つまり,そういうわいせつな行為をされたのかということ自体が問題になった場合に,仮に,主尋問に代替して司法面接的手法による聴取の状況を記録した媒体が出てきたとしても,反対尋問で弁護人は,何をされたのかということについて尋ねざるを得ないと思うのです。その場合に本当に重複だということで制止をできるのかどうか。犯人性ではなく事件性が問題になっている場合に,被害者が自分がされた被害体験を大筋のところで変遷なく語れるかどうかといったことは,やはり信用性の判断に影響が出てくると思います。そうすると,主尋問に出てきた事項,あるいは主尋問の信用性,証人の信用性に影響のある事実として,反対尋問に制限が掛かってこないのではないかなと思うのです。そうすると,もちろん時間を経てからのことなので,記憶が減退して細かいところの供述の変遷ということなら分かるのですけれども,大筋の部分でがらっと変わってしまったりという場合もあり得ることを考えると,仮に,主尋問を司法面接的手法による聴取の録音・録画記録媒体で代替したとしても,反対尋問で再度の供述を求められるということはあり得るのではないかと思います。そういった点で,反対尋問を許さないということにも承服できませんし,仮に反対尋問を許した場合には,本当にそれが被害者の負担の軽減につながるのかなというところは疑問を呈させていただきます。 ○渡邊委員 司法面接的手法による聴取に関する運用の実情について,第11回の会合で,同席者の配置についての御意見や,付添人の聴取の動静も録音・録画する必要があるというような御意見がありましたので,実情を御紹介したいと思います。実際,今行われている代表者聴取では,暗示や誘導をできるだけ避けなければならないというように考えておりまして,通常,聴取者と供述者以外の第三者が聴取の場に立ち会うことはございません。また,聴取者と供述者の両者が写り込むカメラアングルでの録音・録画がされておりまして,聴取者の動静も確認できるようになっています。   また,先ほど,実際に変遷ですとか,あるいは司法面接的手法による聴取一本で事実認定がなされるのではないかという御指摘がございましたけれども,実際の事件の処理,起訴までの捜査ということで考えますと,司法面接的手法による聴取だけで認定するということはなかなか想定されず,それにまつわる客観証拠との整合性ですとか,あるいは当然のことながら,前にも申し上げましたけれども,その供述がどのような過程で出てきたのか,一番最初に打ち明けられた人は誰で,どのような問い掛けをして,どのような答えがあってというような供述の出方について丁寧な捜査をすることが重要であるということは,検察官としては当然のことだと思っております。 ○小西委員 今の法律的な問題について,正確に言うことはできないのですけれども,お話しになっている子供の状態というのが余り具体的に想定されないのに,いろいろなことが議論されているのが,私としては非常に不十分な感じがしてしまうのですね。例えば,精神科でも子供対象と大人対象は当然,聞き方も違いますし,児童精神科医というのが独立して存在して学会もあるのは,子供に対して聞く技術や診る技術がないとできないからですよね。それが裁判官とか,検察官とか,弁護士とか,名前が付いただけで,どんな人,どんな対象にもできるというように考えられているところが何か,まず,すごく不思議な気がするのです。さらに,今想定されているのは,被害後の急性期,急性期とは,トラウマに関する精神医学の視点では,大体,被害から2ないし3週間から1か月ぐらいまでのところを指すのですけれども,その急性期にいる子供で,特に慢性の被害がある子供などを扱うのはとても大変なことです。話していることが本人が本当に思っていることなのかというところにも非常に技術が要ります。そういう技術のことが何も話されないままこういうお話が進んでいることを,何か別の提案をすることはちょっとできないのですけれども,非常に何か危ない気がするという,そういうコメントだけなのですけれども,させていただきたいと思います。 ○齋藤委員 先ほど宮田委員から,チャイルドファーストジャパンのプロトコルだと人形を使っていて誘導しているのではないかという批判もあるということがありましたが,そちらのプロトコルでは,人形を使うということの危険性ですとかリスクとかというのを十分に考えており,それゆえプロトコルというものが存在し,遵守することが大事だということになっています。   ただ,プロトコルがあれば誰でもできるのかというと,全くそんなことはなく,今,小西委員からも発言のあったとおり,子供の話を聞くというのは本当に難しく,子供の心を守りながら,子供が本当にそのことを表現しているのかを聞く,そして,子供の使っている言葉が子供のどういう認知能力とか言語的な能力から出てきているのかを把握しながら質問を組み立てていくというのは,本当に非常に高等な技術だと考えます。発覚してからなるべく早い段階で司法面接が行われることはもちろんなのですけれども,司法面接を行うに当たっては,日本の司法制度に合わせた適切なプロトコルをきちんと作成することですとか,海外と同じようにプロトコルをきちんと開示することですとか,遵守することに加えて,子供の心理に精通しながら話を聞くことができるという本当に高度な技術を要する専門職を養成しなければいけないということを考えていただけると有り難いなと思っております。 ○上谷委員 確か,先ほど宮田委員から意見がありましたけれども,検察庁は,今,恐らくチャイルドファーストジャパンのプロトコルは使っていないかと思いましたので,ちょっとそこのところを渡邊委員に御確認したいなと思いました。 (具体的事例を紹介)   私としては,被害者,特に年少者は法廷には来てほしくないと思いますけれども,せめて主尋問だけでも代替できるようにしてほしいなと思います。   それから,主尋問の在り方や司法面接での聞き方について色々と指摘されていますけれども,私から見ると,子供に対する弁護人の反対尋問は本当にひどいなと思います。児童心理とかそういう次元ではなくて,普通に小学生に対して法律用語を連発したり,結局,私が代理人をした事件でも,後で被害者と話したときに,「あの弁護士の人,何を言っているか全然分からなかった」と言っていて,その都度検察官が異議を出したり,裁判官も注意したのですが,それでもずっと早口で大人の言葉で,大人の人に対する尋問と同じようなことをし続けたことがありました。弁護人も,あえて年少者の被害者を傷つける意図はないと思いますので,反対尋問の仕方についてももう少し研修などをしていただきたいなと思ったところです。 ○山本委員 提出資料の「子供の性被害への対応に関する実態調査」についてなのですけれども,NPO法人つなっぐ代表で子供担当弁護士などもされている飛田弁護士が調査してくださいました。35人の36ケースの司法面接の実態を聴取したものですが,年齢は3歳から19歳,中心は14歳から17歳,加害者は実父が多く,被害の期間が2年に及ぶケースもあり,グルーミングをされていたり,愛情だと思っていることで,話すこと自体が困難なことも報告されています。   この中で言われていたこととして,司法面接自体が不十分なものであり,二次被害を子供に与えている場合がある,司法面接をされることで子供がものすごく衝撃を受けたり,感情がゆさぶられたり,トラウマ症状を起こしたりするようなこともあるし,また,反対尋問において,6時間も同じことを繰り返し聞かれて,威迫的な反対尋問をされているということも言われていました。   様々な御意見があり,司法面接については今後改善されていくと思うのですけれども,人生の最初の時期に性被害というつらい被害を受けて,その被害児である子供が裁判とか司法面接の場で更に苦しめられるということがあってはならないと思います。うそとか信用できないようなことを言われたり,それを吟味しなければいけないということを言われるのですけれども,どうすれば子供の権利を優先に,きちんとした被害の聴取,そして証拠の採用ができるのかということの検討をお願いし,最後に,この要望にありますように,反対尋問はなくしてほしい,圧迫的に子供に質問をするようなことなどをなくしてほしいということを申し添えたいと思います。 ○井田座長 ほかに御意見ございますか。よろしいですか。   それでは,御意見はないようですので,この「司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきます。   この論点については,聴取の結果として作成された録音・録画記録媒体につき,証拠法上特別な扱いをする方法として,一つは,反対尋問の機会を与えず証拠能力を認める方法と,もう一つは,主尋問に代えて,したがって反対尋問の機会を保障した上で証拠能力を認める方法の二つがあると考えられるところ,それぞれの方法について賛否の御意見があったと思われます。   前者の,反対尋問の機会を与えずに証拠能力を認める方法に賛同する委員の方もいらっしゃいましたし,後者の主尋問に代える方法により多くの賛成意見が述べられたようにも思われました。また,どちらの方法に対しても懐疑的な御意見も表明されたと思われました。ここでは,何といっても被告人側の証人審問権という憲法上の権利が問題となっておりますので,慎重な検討が必要であり,取り分け現行法上の伝聞例外の規定について,どのような要件から成り立っていて,そのうちのいずれの要件を別の要件に変えることができるかという観点から,更に立ち入った検討が必要であるように思われました。さらに,現在,検察,警察,児童相談所が連携して行っている代表者聴取について,更なる運用の改善が必要であるとの御意見も複数の委員から述べられたところであります。   それでは,開会からかなり時間も経過いたしましたので,ここで10分ほど休憩したいと思います。 (休     憩) ○井田座長 会議を再開いたします。   当検討会では,これまで14回にわたり議論を重ねてまいりましたけれども,刑事の実体法及び手続法の全ての論点について,どの論点でも構いませんので,もし追加の御意見があれば,お願いしたいと思います。御発言いただくに当たっては,どの項目についてのどういう観点からの御意見であるかを明示し,また,従前のどの意見に関連するものかにも触れていただければ幸いです。それでは,御意見のある方は御発言をお願いします。   時間としては45分程度,予定しています。 ○山本委員 「検討すべき論点」の第1の3の三つ目の「○」,同一被害者に対しての継続的な性行為について,もう少し深めていただければと思いました。3月17日に横浜地裁川崎支部での無罪判決がありましたけれども,私は被害者の方にお会いしたのですけれども,報道によると,裁判長は,被害者が被告人から長期間重い性的虐待を受けていたことを認め,苦痛は筆舌に尽くし難いことは明らかと指摘した一方,起訴内容どおりの日や場所で事件が起きたとするには合理的な疑いが残ると結論付けて,無罪としました。この性的虐待が起きたことを認めながら無罪とするというのは,被害者としても市民としても意味が分からないと思っています。先ほどの飛田先生の調査にもありましたけれども,自由報告で,被害はこの日であると言うことはすごく難しいですし,長期的な性的虐待において日時がなかなか特定できないというのは齋藤委員や小西委員からも指摘されているとおりです。このことに鑑みて,やはり被害,虐待があったということが認められたならば罪に問えるようにするということを更に深めてほしいと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○井田座長 個別の事件について,コメントは難しいと思うのですけれども,今の点について,一般論として,何か御発言があればお願いします。 ○川出委員 継続的に行われた性的行為について,それを包括的に一個の犯罪として処罰するような規定を設けること自体は,理論上十分可能だと思います。ただ,これは以前にも申し上げたことなのですが,そういった罪を設ければ,犯罪の日時や場所が特定できないという立証上の理由によってこれまで処罰できなかった行為が直ちに処罰できるようになるわけではないということには,やはり注意が必要だと思います。複数の行為を包括して一個の犯罪の成立を認める新たな罪を設ければ,確かに,理論上は,個々の行為を日時,場所等によって他の行為と識別して特定する必要はなくなりますけれども,それは個々の行為の特定の程度が緩和されるだけであって,犯罪の立証の程度そのものが緩和されるわけではありませんので,一個の犯罪を構成する複数の性的行為があったことは合理的疑いを入れない程度にまで立証される必要があります。   そうしますと,これも以前に申し上げたことですが,こういった新たな罪を設けるかどうかの検討に当たっては,一個の犯罪を構成する個々の行為について,他の行為と識別が可能な程度に特定して立証することはできないけれども,そうした一連の行為があったことについては全体として合理的な疑いを超える立証をすることができるという場合があるのかどうかということを検討する必要があるだろうと思います。この点は,恐らく実務家の方の間でも意見が分かれるところで,事案によってはそういった立証が可能な場合があるという意見もあるでしょうし,他方で,一連の行為というのは個々の行為の集合体である以上,個々の行為について特定して立証はできないけれども,一連の行為については全体として合理的な疑いを超える立証ができるような事案は想定し難いという意見もあると思います。   御指摘があった川崎支部の判決では,個々の行為を特定することなく継続的な性的虐待が行われていたという認定がなされたようで,他にも同様の判断をした裁判例がありますが,ただ,私の知る限り,そういった裁判例は,継続的に行われたとされる一連の行為が起訴されていない事案において,そのような判断をしたものであって,そうした一連の行為が実際に起訴された場合に,裁判所が,同じように日時,場所等を特定しないで,一連の行為があったという認定を本当にするかどうかは,よく分からないところがあります。   この検討会の場で,どちらかの結論が出せるものではないと思いますけれども,こうした新たな罪の創設を具体的に検討するということであれば,今申し上げた点の検討が不可欠であるということを改めて申し上げたいと思います。 ○山本委員 司法面接のところと重なるのですけれども,アメリカにおいては,日時の特定をするための質問をプロトコルで定めていないと聞いています。それは,日時の特定が問題にならず,被害の供述の迫真性とか具体性ということで,罪に問うことができるような,法制度になっているからではないかと言われていました。被害者は,場所は分かると思います,どこでされたのかは言えると思います。しかし,日時を何時何分まで特定しないといけないというようになると,かなり多くの性的虐待を罪に問うことができません。加害者が本当にそういう虐待をしておきながら,刑事罰に全く問うこともできないとなったら,この日本は一体どういう国なのかと,私は強く思ってしまいます。ですから,刑法の理論であったり,歴史であったり,すごく尊重いたしますけれども,このような被害を救済する道を作ってほしいと切に願うところです。 ○齋藤委員 法律的に大変ハードルが高いということも理解しておりますし,川出委員のおっしゃったことも,私の理解できる範囲で理解はしていると思うのですけれども,例えば,食事などを思い浮かべていただくと,何日に食べたかは覚えていないけれども,これを食べたということは覚えていたりとか,ある一定の期間の間にこの食事をしたはずだということは覚えているというようなことは,皆様の感覚としてお分かりになるかと思います。性的虐待を受けている子供にとって性的虐待は日常になりますので,そういった食事の記憶などとも似ていると考えることはできるかなと思います。つまり,日時のピンポイントの特定は難しくても,場所とか行為の具体的な点を覚えていることはあると,ふだんの臨床経験の中からも思います。   幾つかの性的虐待事例の判決の詳細を拝読させていただきました。もちろん様々証拠があってのことで,適切に判断が行われている事例が大半であることは分かっているのですけれども,やはり,私たちにとってごくごく当たり前だと感じられる被害者の心理とか行動について,判決で不自然だと判断が下されてしまうということは,まだたくさんありまして,性的虐待の被害者の心理ですとか,記憶の様子とか,行動の特性とかということを十分御理解いただけると有り難いですし,そうしたものを踏まえて,今後,更なる検討を頂けたらなというように思っております。 ○上谷委員 今の点に関連するのですけれども,やはり年少者の場合は日時の特定が難しい,しかも継続的な性被害に遭っていることが多いというのは,私も相談の中で実感しております。私がその点に関して,公訴事実をどう書くかということ以外に感じるのは,そこが特定できないことで,公訴時効にかかっている可能性があるという理由で立件が見送られるということです。それを避けるために,先ほど,どなたかおっしゃっていたと思うのですけれども,PTSDを発症しているということで致傷を付けられないかという話になり,更に捜査をしなくてはならなくなって,被害者の負担が非常に重くなっているように思います。   例えば,被害の客観的な証拠があって,その証拠からすると,被害は小学校の高学年の頃と推測される場合,5年生の被害だと公訴時効にはかかっている,6年生の被害だとかかっていないかもしれないというようなことを考えた場合に,やはりこの問題は未成年者についての公訴時効の問題とも深く関わっている私は,今回この検討会での議論に当たっては,論点がたくさんありますし,大人の性被害も非常に深刻なのですけれども,最低限,せめて子供は守ってほしいという視点から考えておりましたので,その点も併せて,時効やほかの制度とも関連付けて,できるだけ多くの子供たちを救えるようにする方向でこの後も検討していただきたいので,その点だけ付け加えさせてください。 ○小西委員 私も,一つお願いとして申し上げたいと思います。今おっしゃったように,性的暴力の中で子供とか若年者の問題は大変大きくて,影響が深刻です。心身両方に問題が起きて,自殺も多くて,病気も多くて,国の福祉のお金もたくさん使わなくてはいけなくて,本当に一生に関わって,人が幸せに生きることを阻害するという大きな問題が生じていることは是非分かっていただいて,その人たちが救えるようにということは考えていただきたいと思います。   それから,もう一つ,私も,無罪になった判決書を読むことがあるのですが,大体そういう場合には虐待の流れみたいなものはほとんど無視されていて,ある時点で,この時点での抵抗がどうだったか,この時点での加害がどうだったか,この時点での被害者の行動がどうだったかという,その文脈なしのところで判断されているケースが非常に多いと思います。少なくとも繰り返す虐待に関しては,全体の流れや繰り返しの中で起きている影響を無視しては人の行動というのは考えられないのですね。それは本当にこの子供の虐待に関して最低限の理解です。それは是非きちんと考慮できるような制度にしていただきたいと思います。 ○佐藤委員 個別の事件に少し入ってしまうのですが,先ほど山本委員がおっしゃっていた川崎支部の事件などのように,性的行為が認識されつつも,犯行の日時の比較的厳格な証明が重要になる場合として,主として二つが考えられると思います。第一に,罪名が強制性交等罪,しかも13歳以上の者に対する行為の場合,つまり犯罪成立のために暴行・脅迫という手段プラス性交というのが必要になるため,性交があったことの証明だけでは足りない場合であると思われます。もしも,これが13歳未満だったら,どの時点かちょっとふわっとしているけれども,性交の事実自体があると確定できたら,行為者を処罰することも可能だと思いますし,児童福祉法などだと,同じように多少被害の日時が曖昧でも,間違いなくこの時期に性的行為がなされたんだというのが分かれば,それで処罰が可能だと思われます。しかし,強制性交等罪の場合には,性的行為の存在だけでは足りず,それと同時に暴行・脅迫も証明されなければならないので,日時がある程度の重要性を持ってきます。   先ほど小西委員がおっしゃったように,継続的な性的虐待を証明して,ある段階でもう抵抗できないような精神状態になっていたから抗拒不能だったのだという刑法178条の構成も考えられますが,正にそのときに抗拒不能だったことの証明は必要になりますから,こちらの場合も日時はある程度重要になると思います。   それから,第二の場合ですが,私が報道の範囲で知った事実を前提にすると,川崎支部の事件が正にこちらの場合だと思うのですが,時効にかかっている可能性がある場合です。川崎支部の事件は,複数の性的行為のうち,時効にかかっていた行為が大半で,起訴された行為も時効だった可能性があり,この点で行為の日時が非常に重要だった事案のように思われます。時効が過ぎていないという意味での日時が証明できないと,刑法177条においても,刑法178条においても,処罰することはできません。   その上で,前向きな話として申し上げますと,第一の場合は,例えば18歳未満の未成年者を広く保護する規定,それは年齢差と性的行為だけを要件とする方法や,それに未成年者の判断能力の未熟さの利用という要件を追加する方法なども考えられますが,いずれにせよ,そういう規定がもしもできるのであれば,性的行為以外の要件,たとえば年齢差は客観的に明らかですし,未熟さの利用も,児童福祉法のように,両者の関係性から比較的容易に基礎付けられますから,行為の日時の特定はある程度緩くできるようになると思われます。この意味で未成年者を厚く保護することは可能ではないかと思います。また,第二の場合は,先ほどおっしゃっていたように,少なくとも未成年者については成人するまで時効を停止することができれば,今回のように早い時期に時効になるということは起きないかと思います。中間層に向けた保護を構成要件の面で厚くする方法と,時効を一時停止するというような方法で,未成年者を保護する形が今後できてくればいいなと考えている次第でございます。 ○小島委員 この事件については私も確認しておりまして,強制性交等と強制わいせつの時効期間に大きな差があるということと,未成年者が被害者である場合にも被害の時点から時効が進行してしまうという,この二点が非常に問題なのではないか。また,被害を継続的に捉えられず,一点で押さえなくてはいけないということの問題点もあります。この事件は,今日の問題が集約されたような事件だと思っております。   また,別の論点について申し上げますが,不同意性交に関して,私は,第12回の会合で,意見書を出して問題提起をさせていただき,皆さんの御意見を聞いて,そのままになっているものですから,若干補足というか,訂正をさせていただきたいと思いました。   同意を規範的な意味で捉えて,当罰性のある不同意性交を処罰するという提案でございます。例示列挙は不同意の徴表となる行為や状態の類型化であるというように考えております。当罰性のある行為は,現在コンセンサスが得られている行為よりも広がる可能性があるので,そういう意味では,今後の判例法の展開に合わせて,受皿規定を設けたらいいのではないかということを提案いたしました。   受皿規定の内容として,私としては,「その他意に反する性的行為」でよいというように考えておりまして,この点は委員の皆様と意見が違うと考えた次第です。暴行・脅迫要件が狭過ぎるので,これを撤廃して不同意性交を漏れなく処罰してほしいというのが被害者を含む社会的要請だと考えておりまして,これになるべく応える法改正であってほしいと思う点から提案申し上げた次第です。   委員の中から,一定の制限,限定を設けたらいいのではないか,「その他被害者が性行為を拒絶することを困難とするような行為」とか,「その他性行為を拒絶することが困難な心理状態」とかの御提案もありましたけれども,ここであえて限定規定を設ける必要はないと考えております。   なお,前回の意見書の中で,私は,行為態様の中に暴行・脅迫という個別的な規定を入れました。暴行・脅迫というのを威迫だとか不意打ちだとかと並べてここに個別列挙してしまいますと,不都合だと考えましたので,これを削除して,例えば「有形力の行使」と改めた方がいいと思いました。なぜならば,暴行・脅迫はこれまでもある程度強度の暴行・脅迫ということで解されてきて運用されている,威迫とか不意打ちなどと同列に規定されてしまうと,今回設ける不同意性交がこれまでの強制性交等とは異なる次元の規定という意味で提案しているということについて,誤解されるおそれがあると考えるからです。そういう意味では,暴行・脅迫という文言は個別規定の中から外した方がいい,これを並べて列挙しない方がいいのではないかと考えています。 ○橋爪委員 ただ今,小島委員の方から,恐らく私の発言に対してだと思うのですが,「限定的」という評価を頂きましたが,御趣旨が十分理解できなかったところがございます。大変恐縮ですが,私の発言内容が,何をどのような形で限定しているとお考えなのかにつきまして,御説明をお願いできますと幸いです。 ○小島委員 「その他意思に反する」という規定の方が,これから先,その時代,時代に応じた様々な不同意性交をその中に盛り込んでいくことができると考えるからです。橋爪委員の文言ですと,「その他被害者が性行為を拒絶することを困難とするような行為」「その他性行為に抵抗することが困難な心理状態」ということで,橋爪委員は,ある程度やはり限定解釈をしなければいけない,広がり過ぎるということを御説明の中でもおっしゃっていたので,そういう限定は今のところはしない方がいいのではないかと考えたからです。私の誤解があるかもしれないですけれども,御教示いただければと思います。 ○橋爪委員 前回の会議の際,私が申し上げたかったことは,意思に反する性行為をどのように具体的に規定し,処罰するのが適当かという問題に尽きております。その際に,不同意自体を構成要件要素にするか,不同意を徴表する行為態様や心理状態を具体的に要件化するかによって,処罰範囲の広狭が生ずるようには思われません。   この機会に併せて,もう一点お伺いさせて下さい。小島委員の御提案には欺罔・偽計という要件が含まれておりました。小島委員も御承知のとおり,錯誤による同意に関する判例理論によれば,真実を知っていれば同意しなかったといえる場合には,常に同意は無効であると解されます。すなわち,結婚すると偽って同意を得て性交した場合でも,真実を知っていれば同意しなかった場合には,判例理論を前提とした場合,同意は無効と評価されることになります。小島委員の御提案によれば,結婚する気がないのに結婚すると偽った場合についても,これは不同意であって,かつ欺罔もありますので,性犯罪を構成するように思われますが,その点はいかがお考えでしょうか。 ○小島委員 私は,そういう場合についてまで欺罔として処罰する当罰性があるとは考えておりません。「その他意に反する性的行為」について,限定列挙,個別列挙を設けるとしても,それぞれの文言がどの範囲になるのかということについては一定の解釈の余地があるというように考えております。一定のコンセンサスが得られる範囲内について,個別規定の解釈が必要だと思います。 ○橋爪委員 私の理解が正しければ,小島委員が掲げられる行為態様は例示列挙ですので,これに該当しなくても,最終的には意に反する行為であれば足りると思われます。つまり,欺罔・偽計に該当するか否かは重要ではないわけです。そうしますと,個別の行為態様をどのように解釈するかではなく,欺罔によって得られた同意が有効か無効かという問題が犯罪の成否を直接的に導くはずです。そして,繰り返しになりますが,現在の判例理論を前提にするならば,真実を知っていれば同意しなかったといえる場合は,全て同意は無効となるように思われます。もちろん,この判例理論は変更すべきというのであれば,それはもちろん結構だと思うのですが,現在の判例を前提とした場合,これが意思に反する行為ではないという結論を導くのは必ずしも容易ではないと思うのですが。もし私が誤解しているのであれば,御指摘いただけますと幸いです。 ○小島委員 私は,不同意の中身については,その時代,その人々の考える,これは不同意性交罪だと考える線というのは動くと思います。今の時代で,橋爪委員がおっしゃったような,結婚すると言ってだまして,それで性交等に及んだ場合について,それが強制性交等に該当すると考える人は,中にはいるかもしれませんけれども,それを今の時代の一般の人々が,強制性交等に該当するというところまで広がっているかというと,そうではないと思っています。一般の人々ないし皆のコンセンサスが得られる範囲で不同意性交罪の線が決まってくるのではないかと思います。橋爪委員がおっしゃったようなケースについて当罰性のある犯罪行為だと考える人はそうはいないと思うし,私は今の時点でそこまで処罰するべきだとは考えておりません。 ○井田座長 委員お二人の御意見,それぞれによく理解できたと思います。   この論点でも構いませんし,ほかの論点でも構いませんけれども,更に御意見はございますでしょうか。 ○齋藤委員 地位・関係性に関してなのですけれども,これまで議論をお聞きしていて,今から私が述べることを刑法に反映いただくかどうかはさて置いて,地位・関係性による性的搾取についてもう少し御理解いただきたいなと感じましたので,少し御説明をさせていただきたく思います。   関係性の中で強者が弱者に対して,その関係性を破棄するとか,あるいは,その上下関係を理解した上で対等な関係になろうという努力をする,ということをしないままに性行為を要求するということは,搾取になり得るものだと思います。   一番説明のしやすい私自身の職業に関わることで説明をさせていただくならば,心理職とクライアントというのは対等ではありません。心理職はクライアントの秘密をたくさん知っていて,クライアントは心理職の個人情報はほとんど知りません。クライアントの中には,この心理職に見放されたら自分は死んでしまうかもしれないと思う人もいます。そこまではいかなくとも,多くの場合,心理職はクライアントにとって心のよりどころであって,嫌われることには耐えられないという状況になります。対して心理職は,クライアントとの面接が中断しても生活に大きな影響が出るわけではありません。不均衡な関係の中で心理職がクライアントに性関係を持ちかけるとか,クライアントの恋愛感情かのように見える感情を利用して性関係を持つということは,クライアントの弱い部分や依存を利用した搾取になります。相手にとって拒否することは人生が揺らぎかねないことになりますし,クライアントに自傷行為とか自殺行為をもたらしかねない行為となります。   心理職とクライアントの関係は,恐らく大変分かりにくい関係だと思うのですね。一見すると命とか生活に関わる問題があるとは分からないからなのですけれども,その心理職とクライアントの関係でさえ,そうした性的な搾取ということが成り立つと考えるならば,直接的に,例えば,この施設に面倒を見てもらえなかったら自分はこの社会で生きていられないとか,命が危なくなってしまうような障害者と施設職員などでは,拒否することや訴え出ることがどれだけ困難かということは想像に難くないと思います。もちろん障害者と施設職員だけではなく,様々な地位・関係性の中でこうしたことがあるというのを,議論に活かすかどうかというのは別として,理解いただきたいなと思いました。 ○井田座長 ほかに御意見ございますか。今の論点でも構いませんし,別の論点でも構いません。 ○山本委員 地位・関係性に関連して,「検討すべき論点」の第1の3の一つ目の「○」についてです。「現に監護する者」に該当しないものの一定の影響力を有する者,この範囲をどこにするのかというところで,その他親族の議論はどのように進められるのかなということを思いました。   内閣府が無理やり性交された人の昨年度の調査として「男女間における暴力に関する調査(令和2年度調査)」を最近出しましたけれども,配偶者,元配偶者,親,養親・継親,又は親の交際相手,兄弟姉妹以外の親戚からの被害が,無理やり性交された女性の6.4%を占めています。この,その他親戚と言われる人たちからの被害が監護者の中に入るのか,入らないのか,それとも,今議論されている優越的な地位利用に入るのか,どのように定められるのかということを教えていただければと思います。 ○井田座長 それは,まだ決まった方向性があるというわけではないので,お答えはなかなかできないのですけれども,山本委員のお尋ねの点につき,もし委員の皆さんの中に御意見があれば,伺えますでしょうか。こういう可能性もあるし,こういう可能性もあるという形での御意見でも結構です。 ○橋爪委員 全く個人的な意見なのですが,もちろん監護者以外の親族の中にも,監護者と同様に強い影響を有する者はいると思われますし,これら影響力の強い親族がその影響力を不当に行使した上で性行為を行えば,新たに検討すべき罰則の中でも,処罰対象に含めるべきだと考えています。   ただ,難しいのは,現行法の監護者性交等罪は,現に監護する者が被監護者に対して,いわば類型的かつ継続的にその意思決定に強い影響力を及ぼしていることに着目した規定であり,それゆえ,影響力を不当に利用するための具体的な行為を認定する必要はないと解されているものと承知しています。そして,監護者性交等罪の成否については,現に監護する者として類型的に影響力を有している事実があれば十分であり,個別の影響力の程度や内容を具体的に認定する必要はないと思うのです。このような趣旨の規定を,監護者を越えて親族一般に単純に拡張することは,影響力の乏しい者までが処罰対象に含まれてしまいかねず,やはり問題があるように思われますので,監護者以外の親族については,個別の影響力の有無・程度を具体的に判断することが不可欠なのではないかと個人的には考えております。 ○山本委員 監護者以外のその他親戚においても,例えば,同意がある場合もあるし,同意がない場合もあるというようなことも想定されるということでしょうか。例外があり得るということでしょうか。 ○橋爪委員 未成年者については,先ほどから議論がございましたように,やはり意思決定に瑕疵が生じやすいわけです。また,同意があるとしても,一定の影響によって同意せざるを得なかった場合もあり得ますので,これらの場合については,仮に同意があるとしても,地位・関係性の利用する類型として処罰対象にすることはあり得ると思います。   ただ,繰り返しになってしまいますが,例えば,全く接点がないような親族もいるわけです。したがって,親族という属性だけを要件とするのではなく,やはり一定の影響力を有していることを個別に認定することが必要であり,その影響によって同意に瑕疵が生じたと言えることが,処罰をする上では必要になってくるように考えておりました。 ○山本委員 もう一つの論点として,やはり親族,いとこなどは別ですけれども,おじ,祖父などがかなり多いわけですね,おばも含めますけれども。年齢差要件を設けると,そこは少し規制していけるのかなということを思いました。 ○木村委員 確かに親族の場合をどうするかというのは大問題だと思うのですけれども,今の考え方としては,どちらかというと,橋爪委員も恐らく同じことをおっしゃっているのかなと思うのですけれども,今,監護者という形で類型化していますよね。それに加えて,私は,教師であるとか,先ほどの「職」に関することについてはある程度類型化して広げるべきだろうと思っています。その類型化して対応する部分と,もう一つは,暴行・脅迫要件をもう少し広げることによって,一般論としてすくい上げられるというのがあって,恐らく親族というのは,橋爪委員御指摘のとおりいろいろなパターンがあり得るので,類型化するのは難しくて,どちらかというと,影響力が大きい親族,一般人より大きいかもしれませんよね。ですから,後者の脅迫を広げることによって対応する,あるいは,刑法178条で対応することができるのかなと思います。ですから,対応には二つの方向性があるのではないかなというように思いました。 ○井田座長 ほかに御意見ございますか。いかがでしょうか。 ○上谷委員 では,ちょっとこれまで出ていない論点についてです。   大きく二点あるのですけれども,まず一点目は,従前から主張しております撮影に関する罪のところです。特に新しい意見があるわけではないのですけれども,私の方で第四の類型ということで,アスリートの盗撮問題に象徴されるような,それ自体は開示されているけれども撮影態様が不快であると,望んでいないような撮影態様で性的尊厳を害するというような第四の類型について,一点,現状について少し御紹介をさせていただきます。   報道で御存じの方もいらっしゃると思うのですけれども,先日,東京オリンピックとパラリンピックの組織委員会が,オリンピック会場での禁止行為に性的ハラスメント目的の疑いがある選手の写真や映像の撮影というのを追加したということと,入場者の遵守事項に,主催者から撮影画像の確認を求められた際には応じることというのを追加したという発表がありました。オリンピックを機にこのような決定がなされるということは非常に意義が大きいことだと思っています。ただ,その一方でスポーツ界からは,本当に深刻なのは,誰でも会場に出入りできるようなところで取締りのマンパワーを割くことができない全国の中学生や高校生での競技会の被害だと言われていて,それを防ぐためには立法的解決が不可欠だという声が私のところに届いておりますので,その点,御紹介させていただきます。   あともう一点,これも私,従前から言っております,いわゆる性的同意年齢といわれているもの,私は保護年齢というふうに言い換えたいと申しているのですけれども,この点については,やはり先ほどから未成年者については何とか救えないのかという話が出ているところもあり,これまでの意見と同じなのですけれども,やはり16歳ということで,せめて義務教育の間は守られてほしいなと思っていることを改めて述べさせていただきます。   報道でもたくさん出ていますけれども,昨今わいせつ教員をいかに教壇に戻さないかということで,文科省を始め非常に力を注いでおりまして,内閣提出法案としては駄目だったのですけれども,今,議員立法で何とかできないかということで一生懸命知恵を絞っているところです。刑法においても,一つの条文だけではなくて複合的に,先ほどから出ている公訴時効の問題や,その性的な同意年齢のことも併せて,せめて未成年者を最低限保護できるという刑法にしていただきたいなと考えています。 ○井田座長 ほかに御意見ございますでしょうか。どのようなことでも結構です。 ○小島委員 今までの議論は,やはり強制性交等を念頭に置いた議論が中心的だったのですけれども,子供の被害を考えると,強制わいせつというのは非常にダメージが大きいし,深刻なわけなのですね。強制わいせつの条文を見ますと,非常に刑が軽いと私は思います。法定刑が軽いし,時効の期間も短いということで,問題が多い条文ではないかと思うのです。やはりある程度,強制わいせつについてもうちょっと焦点を絞って,余りやってきませんでしたけれども,法定刑だとか時効の起算点だとか,そういうことをある程度中心的論点として,少し検討するべきだったかなというように思いました。 ○井田座長 御意見として承りました。ほかに何かございますか。 ○山本委員 強制わいせつに関連してのことなのですけれども,一つは,強制性交等の罪の対象となる行為の範囲がどのようになるのか,膣,肛門に入るものが性器に限らず,異物であっても強制性交等にするのかということについては,また今後の議論に委ねるということなのでしょうか。第三の類型を設けるべきではないかという話も出ていましたけれども,私の理解としては,どのようになっていくのかがはっきりと見えないところがありまして,質問させていただければと思いました。 ○井田座長 限られた時間の中で,この検討会としてどこまで議論を詰めるかという問題だろうと思います。本検討会として,仮に,ある論点について,一つの結論を出すことなく,こういう問題を意識しつつ,こういう考え方とこういう考え方とがあり得るということを取りまとめたとします。今度は次のステップとして,別の手続ないし会議体においてそれを基に更に議論が深められていくこととなると思います。この検討会で全てが決まって,すぐに法律ができるというものではないということを御理解いただければと思います。 ○山本委員 分かりました。ありがとうございます。 ○宮田委員 ここであえて述べるまでもない意見なのかもしれませんけれども,先ほど時効のところで申し上げましたように,刑罰の目的,あるいは刑法とはどういうものなのかという根本的なところに立ち返って考えていく必要があるのではないかと考えています。刑罰を科すというのは,先ほども申し上げたように,それ以外に防止する方法がないときの最終手段であります。また,刑罰を与えるということは,もちろん被害者の方の応報意識を満足させるという面もありますが,加害者の改善更生,社会復帰に資するものでなければなりません。   また,刑罰について,今回,海外の性犯罪についての立法については非常に広く検討がされたわけですけれども,どのような刑罰が定められているのか,あるいは,その国ではどのような刑の執行がされているのかというところについては十分な議論がありませんでした。刑務所に人を入れるということは,犯罪をした人が反省する機会を与える等の面がある一方で,海外の研究者等の中には,入所した人の人間の尊厳をそぎ落とすものであり,できるだけ避けるべき手段であると言っている人もいます。不同意性交を定めている北欧の国では,そういう考え方が強いと言われています。   性犯罪の加害者に対してどのような刑罰を考えるべきか,それがこの検討会における検討課題だということは十分に分かっていますが,刑法の目的,刑事裁判の在り方,刑罰の在り方といった根本的な問題や,犯罪者がいかにすれば立ち直れるか,そのための適切な処分を科し得るのかといった効果も含めて考えていかなければならない問題なのだと思っています。   もう一点,最後に述べておきたいことがあります。被害者の救済を考えなければならないこと,被害者の方たちが本当に苦しんでいることはよく分かります。私も被害者の代理人をやることもありますし,被害者の相談も受けています。ただ,被害者の問題は犯人を罰することによって解決するのでしょうか。あるいは,刑罰では救われない被害者がいるということについてはどのようにお考えなのでしょうか。犯罪者が死んでしまえば刑罰を科すことができません。犯人がそのまま見つからない事件もあります。そのような事件の被害者も救われなければならない。刑罰以外の被害者の保護の充実ということが一番図られなければいけない問題なのではないかなと思っています。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。 ○上谷委員 今の御指摘のところについて,私は,今も1日置きくらいに性犯罪の被害者の人が新しく相談に見えているような状況なので,一言言わせていただきます。「加害者を刑務所に入れれば被害者が救われるのか」と言われると,直ちにイエスというわけではありません。ただ,被害者が回復するためには,やはり加害者が正しく適正な刑事罰を受けることが出発点であることは間違いありません。それが科された上で,ほかに様々な手段で被害者をフォローする必要があるということであって,ほかでフォローするから加害者に刑事罰が科されなくてもいいではないかということは絶対に当てはまらないということを,私の経験から申し上げさせていただきます。 ○宮田委員 私は刑事罰を科す必要はないと言うつもりはありません。しかしながら,刑事罰には限界があるということを先ほど来申し上げています。証拠がない事件もあります。それは被害者が悪いのではありません。被害者が責められているわけではないのに,被害者が責められたような気持ちになってしまう,それほど被害者が傷ついているということはよく分かります。だからこそ,刑事裁判には限界があるということが十分に認識されなければならないというのが私の意見です。 ○井田座長 そろそろ,時間も超過しておりますので,論点全般についての御議論はこのぐらいにしたいと思います。   先ほど山本委員からもお尋ねがありました今後のことにも関係することでありますけれども,次回以降の予定について委員の皆様に御意見をお伺いしたいと思います。本検討会は,昨年の令和2年6月から本日までの間,14回にわたって会合を開き,まずはヒアリングを行い,その後,検討すべき論点として決めた論点について,本日三巡目の議論を終えました。この間,委員の皆様方には大変活発な御議論をしていただきました。検討すべき論点として我々が設定した各論点について,本日の議論も含めて,特に一つの方向に偏ることのない様々な意見が表明されておりまして,この種の検討会としては,ほかになかなか例を見ないほど大変充実した議論が行われてきたのではないかと思います。その点につきまして,改めて委員の皆様には心より感謝申し上げる次第です。   この検討会に求められている性犯罪に関する刑事の実体法・手続法の在り方についての検討は,極めて重要な社会的な課題でありますし,そのことに対応して社会の関心も高いことから,内容の充実した検討を行わなければならない,もちろんそれは大事なことではあります。しかし同時に,スピードも大変重要でありまして,これまでお忙しい委員の皆様に相当に無理を申し上げてタイトなスケジュールで検討を行ってまいりましたのも,できるだけ早い時期に検討の結果を社会に向けて示し,大方の御意見・御批判を頂くとともに,もし,その中に法改正を要する事柄が含まれているということになれば,法務省に法改正に向けて具体的な検討を迅速に進めてもらわなければならない,そう考えられたからにほかなりません。そのことを踏まえて,そしてまた,今日に至るまでの御議論の状況を見ますと,私には,各論点につきおおむね意見は出尽くしたように思われますし,そろそろ議論の取りまとめに入ってもよいのではないかと考えているところです。   そこで,各論点についての議論をひとまずここで一区切りとさせていただいた上で,次回は取りまとめに関する意見交換を行うことにしたい,このように考えるわけでありますけれども,この点についての委員の皆様の御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 (一同,発言なし)   特に御異論はありませんでしょうか。もちろん,もう少し御意見をおっしゃりたいという委員はいらっしゃると思います。取りまとめの際にも,ここのところはこういうように考えられるのではないかというような御意見をもちろん言っていただいて構わないわけで,その御意見がまた取りまとめの中に入ってくるということにもなると思いますので,そういう進め方で進めさせていただくということでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。  当検討会の取りまとめの方法について,特に何か定めがあるわけではございませんけれども,この検討会の趣旨に照らしますと,検討すべき論点ごとに本検討会において述べられた各意見を整理しながら,今後の法改正の要否・当否の検討に役立つように,意見がもし収れんしているところがあれば,それについてはそのことが分かるようにし,また,分かれている点についても,それぞれの意見の趣旨や,あるいは,更にここのところを検討して初めてその決着が付くというようなことも含めて記載することが適切ではないかと考えております。   そういう方針の下で,私の責任において,事務当局に取りまとめ報告書の案を作っていただき,次回の検討会に先立って,これを委員の皆様にもお示しして,それに基づいて更に議論をすることによって,効率的で,また建設的な意見の交換ができるのではないかと考えております。次回はそのような形で,取りまとめ報告書の案に基づいて意見交換を行うことにしたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事はこれで終了いたしました。委員の御発言の中で,議事録には載せないでほしいという御希望があった御発言もございましたので,御発言なさった委員の御意向を改めて確認の上,非公表とすべき部分につきましては該当部分を非公表としたいと思います。その具体的な範囲や議事録上の記載方法については,委員の方との調整もございますので,私に御一任いただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのような取扱いとさせていただきます。   では,次回の予定について事務当局から説明をお願いします。 ○浅沼刑事法制企画官 第15回会合は,令和3年4月12日午前10時から開催を予定しております。会合の方式については,追って事務当局から御連絡差し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会といたします。