法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  令和3年3月26日(金)自 午後0時57分                     至 午後3時10分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 定刻少し前ですけれども,皆さんおそろいとお伺いしておりますので,これより法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第10回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   出席状況ですが,本日は衣斐幹事が御欠席と承っております。また,笠井委員が午後3時頃に御退席の御予定,垣内幹事が午後2時頃から御出席の御予定と伺っております。   それでは,本日の審議に入りたいと思いますが,まず,皆様御案内のとおり,前回会議において中間試案を取りまとめていただいたわけですが,前回会議後,中間試案についてパブリック・コメントのための手続が開始されております。本日の審議に入ります前に,まず事務当局からその点についての御説明を頂き,また,併せて本日の議事事項等の説明をしていただきたいと思います。   よろしくお願いします。 ○大野幹事 御説明いたします。   まず,パブリック・コメントについてでございますが,既に御案内のとおり,前回2月19日の会議において取りまとめを頂きました中間試案につきまして,2月26日にパブリック・コメントの手続を開始いたしました。パブリック・コメントの手続の期間は5月7日までの70日間となっており,現在その手続期間中ということでございます。   以上,御報告させていただきます。   次に,本日の議事内容についてでございます。本日は,まず,参考人として御出席いただいております読売新聞東京本社論説副委員長の富所浩介様から,今般の改正について報道のお立場から御意見を伺う予定となっております。   その後,配布させていただいた部会資料15「民事裁判手続のIT化に関する論点についての補足的な検討」を用いまして御議論をお願いしたいと考えております。   先ほど申し上げましたとおり,パブリック・コメントの手続の実施期間中でございますので,本日の会議では,中間試案において取り上げられている規律の中身については一旦措きまして,その前提となる理論的な問題を御議論いただきたいという趣旨でございます。資料の内容につきましては,後ほど御審議の中で御説明させていただきます。   なお,本日は部会の今後の日程について,現時点での最新版を配布しております。これまで御案内させていただいた日程に加え,来年度の日程の一部をお示しさせていただきました。その後の日程については,御議論の状況を踏まえつつ,追って御案内させていただく予定でございます。詳細は配布の資料を御覧ください。   以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,早速ですが,本日の審議に入りたいと思います。   先ほど事務当局からも御説明がありましたけれども,本日は参考人として,読売新聞東京本社論説副委員長の富所浩介様に御出席を頂いております。富所様は1992年に読売新聞社に入社され,今年で記者生活が30年目になられます。その間,社会部や教育部に所属され,警察や検察,裁判,教育の分野を中心に取材を続けられてきました。現在は,先ほど御紹介いたしました読売新聞東京本社論説副委員長のお立場にあり,このような分野やスポーツ,文化などの社説を手直しするデスクのお仕事をされながら,時折一面のコラムなども御執筆されていると伺っております。また,富所様におかれましては会社の法務部門にも在籍されていたことがあり,その際は企業のコンプライアンスを担当され,司法サービスを利用されるお立場でもあったと伺っております。   本日は大変お忙しい中,ヒアリングをお引き受けいただきまして,誠にありがとうございます。報道のお立場から御覧になった民事裁判手続のIT化について,貴重なお話を頂戴できるものと考えております。是非とも忌憚のない御意見を伺い,今後の検討にいかしてまいりたいと考えておりますので,何とぞよろしくお願い申し上げます。   本日は,最初に富所様より民事裁判手続のIT化について御意見やお考えのところをお聞かせいただいた後,質疑応答の機会も設けていただけると伺っております。   それでは,富所様,よろしくお願いいたします。 ○富所参考人 皆さん,こんにちは。読売新聞論説委員会の富所と申します。本日は報道に携わる立場から,民事訴訟のIT化をどう見ているのか,あるいは利点や課題はどんな点なのかという点についてお話をさせていただきたいと思っております。裁判官や弁護士,あるいは法学部の教員でもありませんので,専門的な意見を申し上げることもできませんし,プロの方々から見ると少々ピントが外れていると思われる部分もあるかと思いますけれども,あくまで今回の議論が外部の人間にはどういうふうに映っているのかというような視点で,意見を述べさせていただければと思っております。   では,早速ではありますが,今回の民事訴訟のIT化についてお話をさせていただきたいと思います。御存じのとおり,政府は現在,急速なデジタル化を進めています。世界各国から見ると,日本のデジタル化というのは非常に遅れているとされています。行政やビジネスの世界はデジタル化が急務であるというのは,そのとおりだろうと思っております。ただ,デジタル化というのはあくまで手段でありまして,目的ではありません。何でもかんでもデジタルにすれば,それでみんなが全員,ハッピーになる,幸せになるということではないと思いますので,デジタルを使っていかに利便性の高い制度を構築するかというところが最も重要なのかなと思っています。   司法の世界では長年,紙の文化が浸透してきたと思います。どちらかといえば喜んでデジタル化を進めようというよりは,時代の要請だし何とか対応しないといけないなというような空気感なのかなと理解しています。紙かデジタルかという問題においては,私たち新聞業界も同じような悩みを抱えています。結論から申し上げれば,紙には紙の,それからデジタルにはデジタルの良さがあると思っていますので,遠い将来はともかくとして,当面はそれぞれの利点をいかして活用していくというのが一番効果的なのではないかなと思っています。   では,具体的な話に移りたいと思います。読売新聞では民事訴訟のIT化について,最初に大きく記事を載せたのは,おそらく2018年2月だと思います。その後,いろいろな記事が出ていますが,それに対して,昨年2月に「うまく活用し利便性の向上を」という見出しの社説を掲載しております。基本的には,新しい技術を使って司法の利便性を高めることが重要だという考え方です。もちろん課題もいろいろあるでしょう。そこは乗り越えないといけないとは思いますが,場合によっては,先ほど申し上げたように,従来の紙の使用も維持しなければいけない場面というのもあるのかもしれません。いずれにしても,柔軟な発想で使いやすい司法サービスを目指していただきたいというのがこの社説の大きな趣旨でございます。   IT化の利点はとても多いのではないかと思っています。一番は,皆さんもよく御存じだと思いますが,弁護士や訴訟当事者の方々が裁判所に足を運ぶ必要がなくなって,日程調整が非常にしやすくなるのではないかという点です。このあたりの利便性は非常に高まるのではないかと思っています。   昨年12月の新潟の地域版にも書かれているのですけれども,僅か15分の出廷のために,弁護士事務所がある新潟市と新発田市の地裁支部を往復2時間掛けて移動したこともあったというような振り返りをされている弁護士の声なども紹介されています。   それから,昨年10月の社会面の記事,「民事訴訟ウェブ会議急増」という記事の中なのですけれども,ここにも,東京地裁での会議の直後に大阪地裁の会議に参加できると,こうしたことも可能になるのではないかというような期待の声も載っております。   裁判を傍聴していると,弁護士の都合がなかなか合わなくて,期日が入らないという場面を度々見てまいりました。裁判官も最後は困り果てて,「何とかなりませんか」と頼み込んでいる姿なども見たことがあります。ウェブ会議が広がれば,こうした期日調整などが容易になり,裁判の迅速化につながると思っております。   この点で言うと,経費や労力の削減にも大きく寄与するのではないかと思っています。口頭弁論などがウェブ上で済むようになれば,そのたびに旅費を掛けて裁判所に出向く必要はなくなりますし,いろいろな省力化,当事者の負担軽減にもつながっていくということです。   少々細かい話ではありますが,例えば企業と企業の民・民の契約を結ぶ際などは当然,契約書を結ぶのですけれども,トラブルが起きた場合はどこを合意管轄裁判所にするかというところなども記載します。例えば,東京と大阪の企業で契約を結んだ場合では,東京の裁判所を合意管轄裁判所にするのか,大阪の裁判所にするのか,当事者で結構意見が分かれることもありますけれども,これからはこういうことも余り意味をなさなくなるのかもしれません。   それから,利点ということで申し上げると,ペーパーレス化の効果も非常に高いのではないかと思っています。これまで傍聴してきた中には何年も掛かるような長期裁判もたくさんありました。裁判所もそうですし,弁護士も,膨大な資料を持って裁判所を行き来して,それを事務所や倉庫に保管をすると,しかも,分かるように整理し続けなければいけないというような手間が大分掛かっていたと思います。場合によっては控訴審や最高裁までということもありますでしょうから,こうしたことがクラウド上に保管できるというようなことになれば,このあたりもとても便利なのではないかと思っています。   ただ,先日これは東京大学の研究チームが研究成果を発表したのですけれども,紙とデジタルだとやはり紙の方が記憶に残りやすいというような傾向があるようです。皆さんもそうした実感というか,体感や皮膚感覚があるかもしれません。裁判官も弁護士も,例えば,デジタル化されても,裁判資料を印刷して,付箋を貼って,マーカーを引いてというような作業をしながら頭を整理したり,論点を頭に入れたりというようなことをやるということになるのではないかとも想像しています。デジタル化が進んでも,結局は紙に印刷して読まなければいけないというアナログな部分,そういうプロセスは残さざるを得ないのかなというところも感じています。これも時代の進歩と共に,デジタルネイティブといわれるような若い世代になれば,紙に印刷する必要など全くないという状況になるのかもしれません。そういう時代になっていけば,紙はもしかしたら必要がなくなるということもあるのかもしれませんが,現状ではいきなりそこまで,全部デジタルにして,全部デジタルでやりますというのはなかなか難しいかなとは思っております。   今申し上げたことにも絡みますが,今度は「課題」の部分を申し上げます。個人的に一番心配をしているのはセキュリティです。個人や企業の裁判には秘匿すべき個人情報とか,外部に出たら大変だというようなセンシティブ情報がたくさん含まれています。ネットの世界というのは,一旦流出すると,それがどんどんコピーされて転載されていくので,全部消すというのは極めて困難です。ですので,これを入れ墨に例えて,最近はデジタル・タトゥーなんていう言われ方もしています。一度流出したら消せないということですね。裁判資料を保管するクラウドは,そのあたりは安全だとされているようですが,技術者とハッカーの闘いというのは,これはもういたちごっこだといわれていて,新しい技術ができるたびに,それを打ち破ろうとする人たちが出てきます。   これは少し古いのですけれども,2013年11月の「ネット機器の認識薄く」という記事があります。これはもう8年も前の記事なのですが,弁護士事務所の複合機から訴訟の情報がネット上に漏れ出すというような出来事がありました。使っている側からすると,複合機がネットと接続されているというようなことなどは,認識が非常に薄い方も多いと思います。こういうことが起きる。今ではこれから時間がたっていますので,大分この辺のセキュリティも向上していると思いますが,使い始めの頃というのはいろいろなことが起きるのですね。想定もしないようなことが起きますので,やはりその辺をどうセキュリティを高めていくかということは非常に重要ではないかと思っています。   しかも,こうした対応をしなければいけなくなるのが個人の弁護士事務所とか,場合によっては訴訟当事者の本人ということもあるかもしれません。ここを高めていくにはお金も手間も掛かるというようなことがあります。ですので,これが一朝一夕に進んでいくかと言われると,なかなか難しい問題ではないかなと個人的には思っています。   それと,紙の場合は書面なども裁判所に提出してしまえば,それで一旦完結するということになると思いますけれども,デジタルの場合は後から加筆修正するということが簡単にできるわけですね。例えば,書面を出した後に,ああ,こうした論点も入れればよかったな,なんていうことは,訴訟の中では多分よくあると思います。クラウドというのはそもそもそうやって何度も取り出したり,みんなで共有したりするために使う道具ですので,出した後に後から書き換えられるとか,そういうことができないような技術的な手当てというのも必要なのかなと思っています。このあたりは,同様の制度を取り入れている国も結構あるようですし,その点は大丈夫だということなのかもしれませんが,念のため申し上げました。   それから,デジタルを使えない人への対応です。これは,国民の裁判を受ける権利を保障するという観点でも極めて重要な論点だと思っています。皆さんの方が御存じだと思いますが,民事訴訟の半分以上は本人訴訟ですので,家にパソコンがないとか,通信環境がないという方々がたくさんいると思います。こういう方々のために,やはり紙であるとか対面式の裁判というものを一定程度は残す,残さざるを得ないのかなとは感じています。   これは何も本人訴訟に限ったことではありません。先ほど御紹介した新潟版以外にも,長野版とか神戸版とか,地域版でいろいろ民事訴訟のIT化について紹介させていただいているのですが,ここに一番出てくるのが,年代の高い弁護士さんを中心とする,「ITを使いこなせるか不安だ」という声です。昨年12月の新潟版の中には,「この年でインターネットを学ぶのはもう無理だ」と,「もう引退だ」という70歳代の弁護士の声なども紹介されています。私もいろいろ弁護士さんとお話しする機会があるのですけれども,やはりデジタル化の話になると,「スキルアップは非常に難しいね」という話と,それから,「お金も掛かるだろうし,費用が大変かな」というような声が多く聞かれます。このデジタル格差という問題は,何も裁判に限ったことではなくて,各分野で日本中,至る所で起きています。こういった方々のためには,先ほども申し上げたとおり,紙の部分を併用して残すということに加えて,あとはやはり弁護士会などで希望者を対象にした研修会を開くとか,そういう対応が必要なのかなと思っております。   三つ目は,都市と地方の格差の問題です。これも,先ほど紹介した「民事訴訟ウェブ会議急増」という記事の一番右側に,「都市部に仕事奪われる」という見出しが立っている部分があります。ここに書かれていますけれども,民事訴訟の件数というのは2009年の89万件から2019年の48万件に減少しているそうです。この間に弁護士の数というのは2万7,000人から4万人に増えている,こういう状況があります。地方の弁護士からは,ウェブが主流になると,これは別にどこの裁判でも参加できるわけですから,「都市部の弁護士に仕事を奪われるのではないか」と心配する声が出ています。やはり司法サービスの恩恵を受けられる人に,裁判所であるとか,弁護士であるとか,そういういわゆるデジタル習熟度ですね,それからあと,先ほど申し上げた通信環境とか,そういったもので格差が生じるというのは,やはり好ましいことではないと思います。全国均一にこの辺をどう整備していくかというところはポイントかなと思っています。   それから,これは四つ目ですけれども,対面とデジタルの対比でこれはよく言われますが,相手の表情がよく分からないというような裁判実務の問題です。これまで民事訴訟のIT化を阻んできた要因の一つとして時々言われるのが,直接主義,それから口頭主義だとも言われています。確かに裁判では,当事者や証人の表情とか,声のトーンとか,そういうものを踏まえて真実性や妥当性を判断するというケースが多いと思います。そういう観点で,これは刑事裁判などでもそうですけれども,コロナの中でのマスクの着用も,表情が分からないから遠慮したいと,マスクを着けたくないという方々もいらっしゃると聞いております。この問題は慣れるしかないのかもしれません。ウェブ上で相手の表情や声をきちんと聞き取れるような,技術的に画面を大きくするとか,そういうような工夫はできると思いますので,工夫すべきところは工夫をして,あとはそういうウェブ上で相手の表情を読み取るとか,声の感じを聞き取るということに慣れるということになるのかなと思っています。   この点で言うと,私ども報道関係者にもIT化は大変大きな影響があると思っています。裁判の公開原則の問題です。デジタル化した後も法廷は開かれるということのようですので,今後も傍聴は可能なのだと思うのですけれども,私どもは裁判所の訴訟指揮を見たり,それから,原告,被告双方の主張や,雰囲気を見ながら,裁判の社会的重要性であったりとか,それから,この裁判がどうなりそうだというような見通しを立てたりとか,そういう取材活動をやっています。ですので,裁判を傍聴して記事を書くという取材手法が従来からすると随分変わるのかもしれません。   例えば,非常に社会的関心の大きな裁判などでは,判決の直後に弁護士の方が裁判所の入口から走ってきて幕を掲げて,勝訴とか,不当判決とか,やったりしている映像などもよく皆さん,見掛けていらっしゃると思います。当事者及び弁護士さんたちが法廷に来ないということになると,こうしたこともできなくなるかもしれません。それから,判決の後などに記者会見をするケースなどもよくあるのですけれども,これも,当事者がそれぞれ遠方にいますよということになると,もしかしたら少し難しくなるかもしれない。オンラインで記者会見するという手はあるのかもしれませんけれども,その場合に,映像とか,新聞でいうと写真とか,こういったものを撮るのは意外と難しいかな,なんていうふうに思ったりもします。この辺りも,慣れてくるうちにいろいろ新しいアイデアも浮かんでくるのかなとは思っています。   裁判の公開の原則から言うと,当事者の裁判でのウェブでの参加を認める以上,傍聴人もウェブで参加できるように,一般の傍聴もウェブでできるようにしろというような議論も場合によってはあるのかもしれません。これは将来的にどうしていくのか,こういう審議会なども,省庁などによってはYouTubeとかで普通に一般の方が見られるなんていうことも今,やっているところもありますので,裁判もオンタイムでやっているものを傍聴人がオンライン上で見るというようなことが必要だという声が出てくる可能性もあるかなと思います。ここは今後いろいろと議論が必要なところなのかもしれません。   最後になりますが,これはメリットとデメリットが同居するかなと思っている点です。訴訟の手続が簡単で,費用も掛からなくなる,手間も掛からないということになると,これは司法サービスが使いやすくなるということですので,これまでだったら訴訟をためらっていた人が裁判でいろいろ判断してもらいたいという方々が増えてくるかと思います。そうだとすれば,これは開かれた司法という意味では非常にいいことなのだとは思います。一方で,敷居が高かったものが,解消されてくると,例えばですけれども,ネット上で批判を受けた企業や個人が,相手に報復するためにどんどん訴訟を起こすというような,スラップ訴訟みたいなものが増えないかなというのは少し懸念としては感じております。こうした副作用というのは必ず,垣根が下がってくると,起きてくるものだと思いますので,この辺をどうするかということも考える必要があるのかなと思っております。   以上,駆け足ではありますが,手短に意見を述べさせていただきました。御清聴どうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 富所様,ありがとうございました。報道のお立場から,今般の民事裁判手続のIT化につきまして,大変貴重な,また示唆に富むお話を頂戴できたかと思います。   それでは,富所様に御質問のある方がいらっしゃいましたら,どなたからでも結構ですので,お出しを頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○阿多委員 お話を聞いていまして,幾つかお伺いしたい点があります。公開原則の関連で,傍聴についてウェブで認める可能性について触れられていました。その際,省庁などの審議会でもウェブで実施されている例に触れられていましたが,公開の口頭弁論の状況についてウェブで傍聴できることについて,報道機関には需要があるのか,必要性はどのようにお考えなのか。また,セキュリティの関係で個人情報やセンシティブ情報の取扱いについて御発言もありましたが,ウェブで裁判が公開になった場合,個人情報,センシティブ情報の取扱いは,報道機関の御感覚としてどう在るべきというか,どの辺がバランスがよいとお考えなのか,マスコミの方の感覚を教えていただけたらと思います。まとまりがなく申し訳ありません。 ○山本(和)部会長 それでは,富所様,可能な範囲でお願いいたします。 ○富所参考人 ありがとうございます。ウェブで民事訴訟を一般の方々に傍聴させるかどうかというところは,これはとても難しい問題だと思います。今回の社説にも,実はそこのくだりというのは入っておりません。現在の傍聴は裁判所に来た人たちだけで,席も限られています。これを全国民にオープンして,誰でも自由に見られますよということになった場合,結構な抵抗感を感じる訴訟当事者はいるだろうと思います。もしかすると全国民に知られるぐらいだったら裁判を起こさない方がいいやとなるかもしれません。これはやはり余りよろしくないことなのかなと思いますので,かといって,裁判所に来た人に今まで見せていたものを,これからはウェブでやるので見せませんということが果たして通るのかどうかというところはあります。ですので,法廷は開かれますから,その法廷に今までどおり傍聴人には入ってもらって,その傍聴人はそこにある画面なりを通じて裁判を傍聴するというようなやり方も一つの考え方かなとは思っています。ここは本当に,国民的議論が必要かもしれませんね。個人的にはそんなふうに思っております。   それから,個人情報なのですが,時代の要請でありまして,個人情報を守っていくということは非常に重要なことになってきました。私なんかが裁判の取材を始めた30年前は,個人情報なんていう言葉もなかったし,個人情報保護法なんていう法律もありませんでした。そういう時代から見ると,国民の意識も非常に高まって,そういう法整備も進んできているという状況です。ですので,やはり訴状や準備書面に書かれているような内容が事故で外部に流出してしまうということは,これはもう絶対に避けなければいけないと思います。一方で,先ほどの公開の原則の部分とも絡むのですけれども,一定程度,当事者とか,利害が関係する人とか,それから,訴訟記録の閲覧なども認めてきていますし,それから,裁判の記録というのは物によってはその時代の社会を映す公共的な事象でもある場合もたくさんあります。その記録が,例えば晩年,公開された場合には,それがある一つの歴史であったりするわけですね。ですから,いつまでもずっと公開しないという選択をするのか,それとも,ある程度公開する,それで,年月がたったらかなり公開する幅を広げるとか,いろいろな考え方があるかもしれません。ここの部分も,我々は報道機関ですから,本当は取材する側からすると情報は公開していただきたい,これが基本的な原理ですし,基本的な私どもの立場です。ですが,今申し上げたような部分もいろいろありますので,その辺をどこまで守っていくのかという議論になってくるのかなと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 情報セキュリティ大学院大学の湯淺でございます。どうもありがとうございました。   会社を代表してではなく,個人的な御見解ということでもよろしいのですが,1点お伺いいたします。今まで,メディアと裁判所との関わりということで申しますと,例えば冒頭だけテレビカメラが入るとか,従前メモを取ることが禁じられていた時代でも,司法記者の方はメモを取ることが許されていたとか,そういうことがございました。IT化された場合に,そういうメディアの方や司法記者クラブの方の扱いについて何かお考えがありましたら,お伺いできれば幸いです。 ○富所参考人 ありがとうございます。ここは先ほどの傍聴の話とも絡んでくるのですけれども,裁判というのはある意味では,社会の中で起こるいろいろな紛争をいかに解決していくかという公共的な関心事でもあると私は思っています。そういう意味では,自分が紛争を抱えているときに,世の中にはほかにも同じことを悩んでいる人がいるのだということが分かるとか,それから,企業などでも,例えば社内のシステム整備でトラブルが起きてしまった,どうしようというときに,そういえば過去に同じようなトラブルが他社で起こしていたなと,そのときの判例を読んでみようとか,訴訟経過を新聞記事で調べてみようとか,そういうことが問題の解決にもつながっていくと思います。私どもの立場からすると,取材は従来どおり,あるいは従来以上かもしれませんけれども,自由にできるような環境を保持していただければいいなとはもちろん思っています。その中で,どこまで世の中にそれを出すのか,出さないのかという判断が当然あると思いますので,そこは原則論から言うと,新聞社なりテレビ局なり,報道する側が時代の要請を受けて自らの責任において判断していくというところはある程度担保する,それは取材報道の自由との絡みもありますけれども,そういうのが望ましいのかなとは思っております。 ○湯淺委員 分かりました。どうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小澤委員 貴重なお話ありがとうございました。司法書士の小澤といいます。どうぞよろしくお願いします。   先ほどお話の中にもございましたが,我が国の裁判は本人訴訟が大半だということで,そのサポートというのがこのIT化にとって非常に重要な課題となってくると私も認識しております。これまでの取材の御経験などから,どのような形で本人訴訟の当事者のIT面をサポートするべきかという点につきまして,具体的なアイデアがあればお聞かせいただきたいと思います。また,実際,専門家を付けずに訴訟を行っている本人訴訟の当事者が,どのようなIT化がなされればメリットを実感できるのだろうかという点についても御意見があれば,頂ければと思います。 ○富所参考人 ありがとうございます。これはもしかすると一番難しい問題かもしれません。本人訴訟をやる方の中にも,若い世代は全く苦にしないかもしれません。ところが,御年配の方とかの中には,先ほども申し上げたように,家にパソコンがない,スマホも使っていませんという方が結構いらっしゃるのですね。何となくこういう議論を東京でしていると,これがスタンダードだと思いがちかもしれませんけれども,地方に行くと,日常的にパソコンを使っていない方やスマホを持っていない方,なおかつ,その必要性も感じないという方もたくさんいらっしゃいます。ですので,その方々にはやはり従来どおりの紙による提訴であるとか,訴訟関連資料の提出というようなところを担保していくということになるのかなと思います。これがなかなかややこしいなと思うのは,デジタルの習熟度が非常に高い人と,全く習熟していない人が,それぞれ原告と,例えば被告になったという場合はどうするのかということになるのかもしれませんが,デジタルの側は,先ほど申し上げたように,印刷して紙にするということも可能ですので,その場合は軸足を紙に置くしかないのかなと。つまり,裁判所なりに片方はデジタルで送ってきました,もう片方は紙で来ましたといったら,相手に記録を送るときなども,それは紙をベースにして郵便で送るというようなやり方をしないと,つまり,デジタルに全員を合わせようとすると,これはやはり難しいと思います。30年後,40年後は分かりませんけれども,現時点ではそういうふうに思っていますので,やはり紙をベースにして,今回の個別の裁判ごとに,これはデジタルで全員できるねというものと,そうではないものを切り分けて,上手に使い分けるということかなと思っています。 ○小澤委員 ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   私からも1点お伺いしたいのですけれども,先ほどの公開主義のお話とも関連するのですけれども,訴訟記録の閲覧・謄写ですね,これについてこの中間試案では,利害関係のない第三者について,複数の案が併記されていて,利害関係のない場合は,やはり裁判所に行って閲覧等をしなければならないという考え方と,一定の文書について,訴状とか判決書とかですね,その一定のものについては利害関係がなくてもオンラインで見られるというような手続を考えてもいいのではないかというような案が併記されているようなところがあるのですけれども,そういったところについて,先ほどの裁判の傍聴とも似たような問題なのかもしれませんけれども,報道機関のお立場として,もし何か御意見があれば,お伺いできればと思います。 ○富所参考人 これについては,私ども取材し報道する立場からすると,もちろん簡単に見られる方が,これは有り難いというのは本音ではあります。ただ,そうはいっても,例えばですが,芸能人の方とかで裁判をやった場合など,原告になった場合に訴状とかに住所とか,そういう情報が入ってきます。ですので,公開する文書に何を選ぶのか,訴状なら訴状,判決文なら判決文という考え方はあるかもしれませんけれども,そうした文書に書かれている個別の情報が,どこまで外に,しかもネットを通じて世の中中の人が見ても大丈夫ですよという状態にできるのかどうかというところは,なかなか難しい。それこそ,行政文書ではありませんけれども,部分的に黒塗りしましょうというようなことも選択肢としてはあるのかもしれません。その場合にはどこを黒塗りにするのかというようなところもなかなか難しいところがあると思います。   ですので,答えがなかなかなくて申し訳ないのですけれども,例えばですけれども,判例時報とか判例タイムズなどのように,原告や被告の具体名をXとかYとかですね,部分的にそういうふうにやって公開をするとか,さらに,その中の何を公開にしてもいいのかというところは個別具体的に検討するとかする必要があると思います。今おっしゃられたように,一定の文書,例えば訴状と判決とかいうようなものを今言ったような配慮をした上でオンラインに載せるというのは,私はありではないかなと思っています。それを読むことによって,社会的にいろいろな紛争が起きていること,それから,その解決策が提示されるということであれば,その価値は,私は高いとは思っています。   それから,当事者以外の閲覧・謄写なのですけれども,ここは今出ていたように,裁判所に来ていただくというところは,それは残してもいいのかなと個人的には思っています。ネットで公開する部分の不整合が起きなければ,それは謄写する部分は残してもいいのかもしれませんが,今言ったように,これはネットで出しているのに,何でこっちは謄写なのですかという,矛盾や不整合が起きると,世の中の人からすると,バランスが悪いねということはあり得るのかもしれません。うまくまとまらなくて申し訳ありませんが,直感的にはそんなふうに感じています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,よろしいでしょうか。   それでは,富所様からのヒアリングについてはこれで終了とさせていただきたいと思います。この会議におきましては,これから諮問事項について成案を得るべく更に調査審議を進めてまいりますが,その過程におきまして,本日頂戴をいたしました御意見も是非とも参考にさせていただきたいと考えております。本日は貴重な御意見を頂戴し,誠にありがとうございました。 ○富所参考人 ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 それでは,続きまして部会資料15についての議論に入りたいと思います。   本日はパブリック・コメントの手続中ということでございますので,中間試案それ自体に関する御議論ではなくて,これと関連する,どちらかといえば理論的なテーマについて御審議を頂きたいと考えております。事務当局より,取り上げるべきテーマについて大きく二つのものを用意していただきましたので,こちらについて順次御議論を進めていきたいと思います。   まず,部会資料15の「第1 システム送達」について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○西関係官 システム送達については,現在議論されている内容を踏まえますと,システムのアップロード,通知,相手方の閲覧・複製という三つの構成要素から成るものと整理されるように思われます。この三つにつきましては,今申し上げたような順序をたどることが典型的かと思われますが,通知と閲覧については順番が逆転することもあるように思われます。例えばでございますが,現在も実務上,送達を要する書類が誤って直送され,改めて送達の手続がとられるということがございます。これと同様のことがシステム送達について生じた場合には,既に閲覧がされた書類について後から通知がされるということもあり得るように思われます。このように通知がされる前に閲覧がされた場合には,そのような閲覧をシステム送達の構成要素としての閲覧と見てよいかどうかという問題が生じ得るように思われます。   現在の実務においては,送達を要する書類が誤って直送された場合には,直送によって既に書類そのものが相手方に渡っていたとしても,改めて送達の手続がとられているところでございます。そういたしますと,送達の効力が発生するためには,相手方が当該書類が送達の対象となっているということを認識してその交付を受けることが必要であるとも考えられるところでございまして,そのように考えると,通知がされる前に閲覧がされた場合には,そのような閲覧をシステム送達の構成要素としての閲覧であると見ることはできないという考え方も成り立ち得るように思われます。一方で,通知の到達を確認することが技術的に困難であるとすると,通常の時系列どおりアップロード,通知,閲覧と進んだ場合であっても,その閲覧が通知を契機としたものかどうかというところはいずれにしても明らかでないようにも思われます。また,既に閲覧をしているにもかかわらず,通知後,改めて閲覧をしなければならないといたしますと,送達の効力発生時期が遅れてしまうことになるようにも思われます。   このような点を踏まえまして,記載した論点について御意見を頂戴したいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきましてどの点からでも,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○富澤幹事 ただ今,法務省の方から説明があったことに関連しまして,現在どの様な方向で最高裁においてシステム送達に関するシステム面の検討を進めているかについて,補足して御説明したいと思います。繰り返し申し上げてきたところですけれども,事件管理システムの開発設計は,今後具体的な検討作業を進めるところでして,現時点で確定した方針はございません。そのような前提で,現在検討しているところを御紹介させていただくということで御容赦いただければと思います。   送達すべき書類に関して,現在は裁判所と提出当事者のみがアクセスすることができる領域と,全ての当事者と裁判所がアクセスすることができる領域,この二つの領域をシステム上に設けるということを考えております。前者の裁判所と提出当事者のみがアクセスすることができる領域を領域1と,後者の全ての当事者と裁判所がアクセスすることができる領域を領域2と申し上げたいと思います。   そこで申し上げますと,送達すべき書類につきましては,提出当事者において,まずは裁判所と提出当事者のみがアクセスすることができる領域1にアップロードをしていただくということを考えております。その後,裁判長による書類の審査をした後に,書記官によって,裁判所と受送達者を含む全ての当事者がアクセスすることができる領域2に移し,そのデータの移転と同時に自動で受送達者に通知が発せられるといった仕組みを検討しているところでございます。このような仕組みを採用いたしますと,受送達者への通知の前には送達すべき書類は領域1に置かれるということになりますので,受送達者が通知を受ける前に閲覧をするということは基本的にはないということになります。   もっとも,法務省の方で説明がありましたとおり,提出当事者が誤って送達によるべき書類を,準備書面の場合と同じように,領域2にアップロードしてしまうということはあり得ます。その場合には,誤ってアップロードされたデータは削除し,改めて領域1にアップロードしていただき,裁判長による審査を経て,領域2に書記官によって移され,それと同時に受送達者に通知されるといったことを考えております。この場合には,当初,提出当事者が誤って領域2にアップロードした直後に受送達者が閲覧をしてしまうという可能性はございますけれども,ここで問題になっておりますのは,現在私が申し上げた仕組みを前提としますと,このような限定された場合のみを対象としているということになるのではないかと理解しているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。問題の状況をクリアにしていただいたかと思いますが,いかがでしょうか。 ○阿多委員 裁判所にお伺いした方がよいのかもしれませんが,部会資料15の3ページの中段,「もっとも」とある段落に,通知が発出された後に閲覧等がされた場合であっても,送達を受けるべき者に通知が到達したことを裁判所において確認することは技術的に困難である場合もあるとして,通知が届いたかどうかは分からないという前提での説明があるのですが,①から②,③の流れのうち②の通知は届いたかどうかが分からない前提で考えなければいけないのか,技術的に分かることも今後あり得るのかを説明いただけたらと思います。   それともう1点,先ほどの説明で誤って領域2に当事者がアップロードした場合に削除をし,改めて領域1にアップロードするという説明があったのですが,従前一旦アップロードした電子情報の削除を認めるか,認めないのかという議論もあったかと思うのですが,当事者が誤ってアップロードした場合は削除できるという前提で話を進めた方がよいのですか,その2点について教えていただけますか。 ○富澤幹事 1点目の通知の到達確認の点ですが,こちらについては技術上,確実なことは申し上げられませんが,現在調査あるいは検討をしているところですと,通知の到達というのは,当事者がどういったメーラーを使っているのかといった観点もございまして,システム上,通知が到達したというのを完全に把握するのは難しいと考えているところでございます。したがって,1点目の御質問という意味では,通知の到達の確認というのは難しいという前提で検討を進めているところでございます。   2点目のアップロードされたデータの削除の点ですが,阿多委員がおっしゃるとおり,こちらは法制審で現在議論をしているところでございますので,一つの考え方というのを示したところでございます。今後,システムの設計開発を進めていくことになりますので,現状で決定しているということではございませんが,私が現在考えているところを申し上げますと,本来送達すべき書類については領域1に上げていただいて,その後,審査をした上で領域2へ移すこととすると,領域2に一度アップロードされたものは,基本的には無効なものであるというように考えています。特に,領域2にアップロードされたものについて,実際に審査をしたり,さらには手数料の納付が必要な場合に納付がされていないといった場合,補正や手数料の納付をしていないにもかかわらず,それを有効という形にしてしまいますと,相手方当事者はそれを踏まえて先に反論等を準備してしまい,相手方当事者の負担が少し重くなるというところもございますので,先ほど申し上げたように,領域1にもう一度アップロードしていただき,手続を進めていくのが相当だと考えております。そうだとすると,領域2にアップロードしたものについては,削除するということで足りるのではないかと考えているところでございます。 ○阿多委員 ありがとうございます。富澤幹事の説明を前提に,議論の対象を整理したいと思います。部会資料で提供されている例,送達しなければならない書類が誤って直送された場合について,当該書類が送達すべき書類であるとの認識を欠いたまま名宛人が単にその書類の交付を受けたのみでは,当該交付は送達の構成要素としての交付とはなりえない,送達では,どのようなものが送られてきているのかを相手方が認識し,理解した上で受け取ることに意味があるという前提で作成されていると思うのですが,通知が必ずしも届くわけではないという前提で考えるのであれば,誤ってアップロードするという例外的な場面だけではなく,議論の立て方として,通知はどう在るべきなのかという議論に戻って,通知の存在を認識していなくても送達の効力を認めるのかという問題になるように思うのですが。事務当局の整理は,誤ってアップロードした場面以外のそもそも論も論ずべき問題と整理されているのでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局の方からお答えを頂けますか。 ○西関係官 御指摘のとおり,通知が確実に届くわけではないという理解を前提とした場合には,そもそもシステム送達における通知というものが,こういった限定的な場面にかかわらず,本来的にどのように位置付けられるべきなのかという問題が生じ得るものと思われます。そういった点についても御意見をいただければと思います。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○阿多委員 後で少し整理したいと思います。 ○日下部委員 日下部です。   いろいろお話をお伺いしていますと,少し問題状況を整理して議論をしないと議論が交錯するのではないかと思いました。問題状況として今考えられているのが,当事者が送達対象書類を誤って直送してしまったというケース,これが一つだと思います。もう一つは,先ほど最高裁からの御説明では余り発生しないだろうというお話だったかと思うのですけれども,受送達者が通知が届く前に事件管理システムで送達対象書類を閲覧等してしまうというケースかと思います。この二つは一応,峻別して議論をするべきではないかと思っています。恐らくは,送達というのは何が本質なのかということを検討すると,それぞれをどのように考えるべきなのかというのが導かれる関係にあるのではないかと思うのですが,議論するときには区別した方がいいだろうと思います。   最初のケースというのは,避けようがなく発生し得るのかなとは思うのですけれども,二つ目の方の問題,受送達者が自分自身で通知を受ける前に送達対象書類を閲覧等してしまうということは,これはシステムの設計によって避けることができるものだと従前から考えておりましたので,先ほど富澤幹事の方から御説明いただいたやり方というのは理解できるところです。ただ,その場合でも,気になるのは,通知がなされたということを認識し,それを契機として閲覧等がなされるとは限らないということだろうと思っています。そうしますと,ここでの問題というのは,通知を受けて,それを契機として閲覧等をするということが送達において本質的な要素なのかということで,その点については問題と把握して整理をしていくことが重要なのではないか,恐らくそれは,送達というのが受送達者に一定の手続保障を与えるというところに一つの本質があって,その手続保障というのが,送達対象書類が正に送達対象書類であるということが分かって閲覧をするというところに手続保障の意味を見いだすかどうかという問題なのかなと思っていたところです。   あとは,今回の資料の中では直接触れられていませんけれども,通知をすることそのものも省いていいのかどうかという問題も理論的にはあり得るのかなとは,書類を読んでいて,思ったところです。恐らくは,どういうケースであれ,通知をなしにして,それでも送達の効力を認めるというケースを認める,そういう考えに賛同する方はいらっしゃらないのかなとも思いますし,私自身もそれには抵抗を持っているのですけれども,問題意識としてはそのように思いました。   やや雑駁ではありますけれども,議論の仕方を整理する上では,今お伝えしたようなことも考慮されてよいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 今,お二人の委員の御意見を伺っていて,少し,同じようなことになるのかも分かりませんけれども,恐らく問題状況としては,送達というものを,裁判所がどういう行為をした,書記官がどういう行為をしたことをもって送達というのかという問題かなと感じました。今のところ送達は,今も少しお話がありましたように,電子書類を閲覧及び複製できる状態に置くことと,それから,それを受送達者に通知することの二つの行為があるところ,それを分けて,例えば,閲覧できる状態に置いたら,もうそれで送達であるということができれば,送達がないのに送達を受けたということはないということになるのかなと少し思いました。逆に,しかし,通知まであって送達だとなると,同時にされるということで,それは技術的にそうなのかもしれませんけれども,そうすると,電子メールで通知をするとすると,電子メールを見ずに閲覧をシステム上で見るということはありますので,通知を知らずに閲覧をしたと,その場合に,通知まであって送達だとすると,送達と無関係に閲覧をしたことになるのではないかという問題が起こるのかなと思いました。   通知をある種,送達をしましたよということを知らせるサービス的なものだと捉えると,それは不可欠なものではないという話になるのかもしれませんが,それでいいのかどうかといった問題もあろうかと思います。技術的には,通知を見ないで閲覧することができないような状態にする,例えば,通知にパスワードか何かを書いて,そのパスワードを入力しないと閲覧ができないようにするとか,そんなことはあり得るかなと思いましたけれども,私も少し問題状況の整理が要るのかなと思ったので,発言させていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○富澤幹事 先ほど冒頭で私がシステムの御説明をした際にメーラーの話をしたために,少し議論が混乱している可能性があるかと思いますので,補足をさせていただきます。   ここで受送達者に対しての通知というのは,典型的には電子メールをお送りするということでございます。この電子メールにつきましては,その到達確認というのが難しいのは先ほど申し上げたとおりでございますけれども,現在検討しているシステムでは,領域1から領域2にデータを移転しますと,電子メールで通知を行うとともに,システム上も,その相手方当事者の端末の画面上で「アップロードがされました」といった形で表示されるということになります。したがって,電子メールでの通知だけでなく,端末の画面上で表示されたことをもって通知をしたということになれば,若干,議論の仕方が変わってくるのかなと思っておりまして,他方で,その表示も見ずに閲覧をするということもなくはないとすれば,システムの画面をどのように作るのかというところにも影響しますが,今日の議論も意味があると考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 青木です。送達を受けるべき者に対する通知についてですが,これは受送達者に閲覧や複製の機会を与えるものとして位置付け,現実にその事件管理システム上の,富澤幹事の御説明の領域2から,受送達者により閲覧や複製がされた場合には,その通知を効力発生要件として捉える必要はないという考え方もあり得るかと思います。このような考え方によると,送達が裁判機関の行為であるという前提との関係が問題になるかもしれませんが,裁判所が事件管理システムにおいて,その領域1から領域2に移して受送達者による閲覧・複製を可能にし,また受送達者による閲覧・複製を記録するということによって,なお裁判機関の行為であるということは可能ではないかと思います。また,受送達者が送達されるべき書類であるという認識を持って閲覧・複製をするということが重要であるとしても,直前の富澤幹事の御説明と重なるのかもしれませんが,裁判所が通知するということによらなくても,事件管理システム上で送達されるべき書類であるということが示されることによっても,そのような認識を持って閲覧・複製するということは可能ではないかと思います。   このように,送達の効力発生要件から通知を外すことができれば,通知の有無や閲覧・複製との時間的先後に影響されることなく,現実に領域2から閲覧や複製がされたときに送達の効力が生じたということができるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 私の言いたいことをおおむね青木幹事が今,おっしゃってしまわれたのですが,要点としては,インターフェースをどう組むかなのですが,当事者が領域2にアクセスした際のインターフェース上で,ファイルが要送達書類なのか要送達書類でないのかということが区別できるようなインターフェースを組めば,送達された書類だということが分かると。それで,ただ,領域2に移したことで送達があったと見ていいかどうかについては,やや私は疑問を持っていて,やはりそこは現実に閲覧をしたという,あるいはダウンロードしたということのタイムスタンプか何か,システム上に残ると思いますので,そのタイムスタンプが付いたときに送達だというと,それで,みなし送達をどう考えるかというのは,それとはまた別に考えるべきだと私は思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 どういうことが問題になるのかということについては,いろいろな御意見で適切に挙げられているのかなと思うのですけれども,その問題点について,ではどう考えるべきなのかということについては,もう少し深掘りするべきなのではないかというふうに,聞いていて思いました。   特に,送達の本質の中に,送られてくる,つまり対象書類が送達の対象書類であるということを認識して,その書類を閲覧するというところに送達の本質があるというべきなのかどうかということについては,突き詰めた方がいいのではないかと思います。先ほどのお話ですと,システムでそのようにすればよいではないかというお話もあって,現実的な解決としては,そうなのかもしれないですけれども,ほかの事象が生じたときにどう考えるのかということへの解決ももたらすためには,送達対象書類であることを認識して閲覧することが本質的な要素なのかということについては,きちんと詰めた方がよいのではないかという考えを持ちました。   それから,もう一つの,通知がなかったとしても送達の効力を認めてよいという場合があり得るのではないかというお話につきましては,先ほど山本委員の方からは,その考えには抵抗感を持たれるというお話があったかと思います。私もその感覚は共有しておりまして,視点は若干異なるのですけれども,そのような通知がないにもかかわらず送達の効力は発生しましたと日本の訴訟法上の問題としては認識できたとしても,例えば,そのようにして下された日本での判決を海外で承認なり執行なりをしようと考えたときに,適切な送達がなされたのかどうかということが問題になり得るのではないか,そこまで考えると,伝統的な送達に近い,その電子的な訴訟行為としての通知アドレスに向けた通知というのは,不可欠の要素として捉えておくべきではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 日下部委員の前半の点は,同じ問題意識を持っています。通知に際しどこまでの情報を提供することが必要かという問題で,議論しているのは,送達者が送達の必要な書類,訴えの変更を内容とする書面を準備書面というタイトルにして相手方に送付した場合に,相手方は閲覧した段階で訴えの変更を内容とする書面だと理解するわけですが,送達が必要な書類であるという情報が提供されていないことを理由に再度情報を提供することが必要か。通知で提供する情報が送達の場合と送付の場合とで同じでよいのであるならば不要となりますが,提供される情報が異なるということなれば,再度通知が必要だとなると思います。先ほど効力要件と考える必要はないという議論がありましたけれども,通知を知らなくても送達の効力が認めるいうのは,少し引っ掛かるところです。   ただ,日下部委員は外国との関係での送達の効力を気にされています。送達は色々な場面で登場しますが,今議論している送達は,当事者が本来裁判所を介して送達するべきものを誤って直接に送付した場面であって,判決とか裁判所が送達する場面とは異なると思いです。端的に,当事者が訴えの変更や反訴等,相手方に送達ではなく送付した場合にどうなるのかという話であって,判決の承認,執行には影響がないと思います。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,よろしいでしょうか。この問題,引き続きまたパブリック・コメント後の審議の中でも前提問題になる話ですので,また議論は出てくるということかと思いますけれども,今日の議論で一定程度,整理はされたということであろうかと思いますので,この程度にさせていただきまして,引き続きまして,今度は部会資料,同じ15の4ページ以下,「第2 ハイブリッド方式による証拠調べ」の問題を取り上げたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いします。 ○西関係官 ハイブリッド方式による証拠調べにつきましては,これまでの部会におきましても,これを口頭弁論の期日であると捉える考え方と,口頭弁論の期日ではない証拠調べの期日であると捉える考え方とが出されております。この資料におきましては,証拠調べの期日と捉える考え方を構成①,口頭弁論の期日であると考える考え方を構成②とひとまず呼んでおります。   その上で,この資料は,今後の議論に資するために,構成①,構成②それぞれの構成を採った場合に具体的にどのような点に差が出てくるのかというところを整理し,皆様で共有させていただくということを目的としたものでございます。詳細は5ページの3以降に記載してございますが,期日における弁論の可否,公開の要否,結果顕出の要否,手続を行う場所に関する考え方,こういったものに違いが生じ得るものと思われます。   7ページの4以降では,このような点を踏まえまして,今後検討する必要があると思われる論点について整理をさせていただいております。まず,先ほどのハイブリッド方式による証拠調べの期日の位置付けについて検討する必要があるものと思われます。また,このような証拠調べにおいて,ウェブで参加する裁判官,リアルで参加する裁判官,この両者がそれぞれ見ているものが本当に同じかどうか,同じでないとすると,そのような取扱いが現行法における考え方と整合するかどうかという点につきましても問題となり得るのではないかという点につきましても,若干記載をさせていただいているところでございます。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきましても,どなたからでもどこからでも結構ですので,御質問や御意見をお出しいただければと思います。 ○日下部委員 部会資料6ページに表がありまして,そこの表の整理について意見を申し上げたいと思います。表の整理そのものは基本的に適切だと思っているのですけれども,構成①における,現地に赴かずに手続を行う裁判官の所在場所が「任意の場所」とされている点については,これまでの検討の経緯に照らして,いかがなものだろうかと思いました。確かに法185条が定める裁判所外の証拠調べの規律にある意味,亜種として,一部の裁判官が現地に赴かずに手続を行うことを許容する規律を加えるという場合には,その裁判官の場所に現行法令に照らした制約がないという意味では,今の記載は正しいのだろうと思います。しかし,元々ハイブリッド方式を議論する前提は,一部の裁判官は現地に,残りの裁判官は法廷に所在するという状況であったことに照らしますと,この部分は「法廷」とするか,少なくとも括弧書きで「(法廷を想定)」などと記載して整理をしておく方が,後々の議論の上ではよいのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 私も整理が分からないので,教えていただきたいのですが。手続を行う場所について,構成①は裁判所外の証拠調べだというので現地,構成②は法廷という形で整理していますが,手続を行う主体は誰を想定しているのでしょうか。裁判長が手続主宰者で,裁判長が現地に赴いていれば,現地が手続を行う場所というのは理解ができるのですが,裁判長が受訴裁判所の法廷にいて,左陪席が現地に赴いて,現地で証人が証言をしているという場合に,手続を行う場所は本当に現地という整理でよいのか,裁判長が滞在している法廷とは考えられないのか。逆に言うと,裁判長と左陪席が現地に赴いて,右陪席が法廷にいる場合に,構成②の方では法廷になりますが,裁判長が現地で指揮をしているのであれば,手続を行う場所は現地という整理もあり得ると思ったのですが。手続を行う場所とは,手続の主宰者との関係は考えなくてよいのかという質問です。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお答えを頂けますか。 ○西関係官 まず,構成①,構成②ともに,この手続が合議体の手続であることを前提とした構成であると思われます。したがいまして,裁判長の所在場所が現地か法廷かというところに関わらず,手続の主宰者は合議体であって,訴訟指揮を行う者は裁判長であるということになるのだと思われます。   そうすると,御指摘いただいたように,裁判長が現地にいる場合には現地での手続,法廷にいる場合には法廷での手続というようなことで変えていくという考え方もあるように思いますが,一方で,裁判長がどこに所在するかによって,同じ手続の期日の性質が変わってしまうということについては,そのような考え方でよいかどうかというところにつきまして,御意見がございましたら頂きたいと思います。 ○山本(和)部会長 阿多委員,よろしいですか。 ○阿多委員 整理の仕方として,バーチャルかリアルかという意味で,実際に証人がいる,ないしは検証の対象があるところが場所であると一方で思いつつ,手続はやはり人との結び付きで考えるべきで,その主宰者のいる場所が開催場所だという考え方もあり得ると思います。モデル論の整理の理解だけですので,これで結構です。 ○笠井委員 今の話ではなくて,先ほど日下部委員のおっしゃった,現地に赴かずに手続を行う裁判官の所在場所というところに関してなのですが,日下部委員が法廷とおっしゃったことについては,構成①で法廷と書くのでは,やはり口頭弁論を行うことが前提になっているようで,なぜ法廷に限る必要があるのかというのはよく分からないと思いました。理屈の上では任意の場所ということにならざるを得ないように思いますし,その点は日下部委員もおっしゃっていたと思いますけれども,何か想定をするのであれば,一般的には裁判所の中というか,裁判官室でもよければ準備手続室でもよいと思うのですけれども,事実上想定するのであればその範囲かなと思いまして,法廷に限るとすると,構成①の前提とは整合しないのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○富澤幹事 私も,構成①とするのであれば,裁判官の所在場所については,この資料のとおり,任意の場所とするのが相当で,法廷とするのは適切ではないのではないかと思います。実際にも,裁判官室や準備手続室等,法廷に限らず関与できるようにすることが相当であろうと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今の直近のお二人の意見には,私には余り賛同できないわけです。口頭弁論を法廷でやらなければいけないというのは当然なのですが,口頭弁論以外の手続を法廷でやらなければならないとすることには何の制約もないはずであって,法廷でやったら必ず口頭弁論になるというのは,そういうドグマというのはどこから出てくるのか理解し難いと思いますので,結局そこは,当事者の関与の機会を付与するのに適切な場所はどこなのかという問題設定をすべきであって,口頭弁論でないから法廷でやらなければならないことにはならないということは,私はいえないと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 先ほど私が申し上げた意見について,コメントをほかの委員,幹事の方々から頂いたかと思います。理屈の上では,確かに構成①における現地に赴かずに手続を行う裁判官の所在場所というのが「任意の場所」と書くことになるのは理解はできるところで,その点について理屈の上でおかしいということを申し上げているものではありませんでした。   私が申し上げたのは,今議論している問題は,ハイブリッド方式をどのように位置付けるのか,どのように整理するのかという話だったと理解しておりまして,それで,今まで考えてきていたハイブリッド方式というのは,裁判官の一部は現地に,残りは法廷にいるという状況を念頭に置いて議論してきたと思いますので,そうした議論の経緯から見れば,構成①における,現地ではない場所にいる裁判官の,その場所というのは,任意の場所というのは少しおかしな話で,法廷と考えておくべきか,少なくとも法廷が想定されているという書き方にしておくことが,これまでの議論の経緯からすると適切だろうと考えたということです。   これは,単にこれまでの議論を踏まえるとそのように書いた方が適切だということにとどまらずに,その問題というのは当然,公開ができるのかどうかという問題であるだとか,例えば,構成①を採った場合に証人尋問をハイブリッド方式で行う際,法廷でない場所,裁判官室や準備手続室で果たして尋問を適切に行うことができるのかというところにも関わり合いがあると思いますので,少し今の表における整理,単なる「任意の場所」という記載で今後,検討していくことが適切なのかということについては,疑問が残っているということを申し上げた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 構成①,構成②,いずれを選択するかの判断の材料ということになるかもしれないのですけれども,公開の要否に関してです。ハイブリッド方式による証人などの尋問については,尋問内容を録音・録画することにすれば,公開の要請をより実質的に担保することになるのではないかと考えています。現在,民事訴訟規則68条で,裁判長の許可があったときには証人や当事者本人の陳述を録音テープやビデオテープなどに記録して,これをもって調書の記載に代えることができるという規定があります。現在,実際にビデオテープに記録するということはないと思うのですけれども,ハイブリッド方式による人証調べの場合や,検証もそうですけれども,そういう手続について,法律で録音・録画するということを明記すれば,公開の要請にも実質的にこたえることができるのではないかと思いますので,検討すべき論点として加えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 今までのポイントとは違うのですけれども,やはり部会資料6ページの表に関わる点について,一つ意見を申し上げたいと思います。   構成①と構成②というハイブリッド方式の法的性質の決定が影響を与える具体的な点として,今の表には表れておりませんけれども,当然のことながら,ハイブリッド方式での証拠調べを行うための要件があろうかと思います。もちろんハイブリッド方式の証拠調べが行われる問題状況というのは,現行法下での既存の裁判所外の証拠調べとも口頭弁論期日とも異なっていますので,法的性質決定によって要件が自動的に定まるものではないと理解しています。しかし,既存の制度の要件とのバランスを考慮すると,法的性質決定がハイブリッド方式の要件設定に影響を与えることは確かと思われますので,そうした観点での分析も当然必要になるだろうと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大野幹事 事務当局でございます。皆様から御意見を伺いたいと思いますところを御提示させていただきたいと思います。   証拠調べの公開というのは非常に重要な事柄だと理解をしております。ただ,ハイブリッド方式というのが元々どういったものから想定されていたのかというと,現地での検証に受命裁判官が行くよりは,受訴裁判所の全員で見られる方が望ましいはずだというところから始まったと理解しています。具体的には,例えば危険な場所というのが想定されておりましたけれども,このほか実務上,現場,現地に行くような場面というのはどういうものかということを考えますと,境界紛争のときの現地でしたりとか,あるいは工場の内部で何か事故が起きたときの,その工場の内部ですとか,建築瑕疵などで,その施主の御自宅に伺うというようなことが考えられるところです。   こういったものは,今までは公開ということをするすべがなかったので,公開するということにはなっていなかったわけですけれども,ハイブリッド方式においてこれを公開するということといたしますと,例えばその工場の内部ですとか,施主の御自宅の内部といったものも法廷で公開されるということが考えられるわけでございます。こういうことを好まない方というのは恐らく一定数いらっしゃるのかなという想像もしておりまして,そうすると,ハイブリッド方式というのが,そういう意味では忌避されていくということも懸念しているのですが,その点に対する御意見というのを頂ければ幸いです。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか,今の点。 ○日下部委員 今御指摘いただきました問題点については,プライバシーの保護や営業秘密の保護にも関わるもので,そういった問題点があるのだということは認識はしておりました。ただ,それはプライバシーに関わる証拠方法の,証拠調べ一般の問題として扱えば足りることで,ことさらハイブリッド方式の証拠調べの規律を検討する上で考慮すべき要素であるのかということについては,疑問を感じています。例えばですが,もし現地の様子を法廷で公開することがプライバシーなり営業秘密の価値を不可逆的に侵害するおそれがあるということであれば,受命裁判官による場合を含めて,従来どおりの裁判所外の証拠調べを行うことを裁判所が選択するということで解決すべきことではないかと思われ,今御指摘いただいたような問題点を,ハイブリッド方式の規律をどのように設定するかという問題の中で取り上げることが適切なのかということについては,そのこと自体,御議論いただく必要があるのではないかと思いました。 ○阿多委員 公開原則というか,公開の意味ですが,裁判官が目にしているものと同じ映像を皆で共有することが公開なのか,そうではなく,裁判所が証拠調べをしている環境,状況が傍聴等の対象になっていることが公開なのか,公開の捉え方で違ってくると思います。裁判所外の証拠調べで公開原則が適用されない例として説明されるのは,入院患者を証人として病室で尋問せざるを得ない場合ですが,スペース等の関係であって裁判官全員が臨めないとか,そういう場所で尋問しているという状況を皆で共有できないことから,公開ではないと説明していると思います。裁判所外の検証の場面でも,検証している場所に皆がいるわけでないことから公開ではない説明しているのであって,裁判官が見ている映像を皆で共有することを公開という意味で使っていないと思います。むしろ,法廷で傍聴する場合であっても,裁判官が何を見ているの映像が同時中継されているわけではなくて,今でもそうですが,弁護士の手元や裁判所の手元が傍聴者から見えるわけではありません。   とすると,プライバシーに対する問題も個々の対応の仕方の問題となり,自宅の状況を皆に中継することを公開と読んでいるのではないと思うのです。もちろん双方代理人や裁判所はモニターを見ているかもしれませんが,傍聴人はモニターを見ている裁判官,代理人を眺めている状況を公開といっているのではありませんか。そういう意味で,プライバシー侵害,さらには企業秘密に対する侵害があるので公開原則の問題をどう考えるのかというのは,批判にならないと思います。法廷で書証を示して尋問しているときに書証をモニターに映しながら尋問しているわけではないわけで,そういう環境で証拠調べをしていることでも公開と呼んでいます。プライバシー侵害や企業秘密が侵害されることを理由に構成②が不適切であるということにはならないと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それは証人尋問の場合も同じですか。証人を別にモニターに映す必要はなくて,裁判官がその証人をモニターで見ているなということが傍聴人から分かればそれで十分だと,そういう御趣旨ですか。 ○阿多委員 モニターに何を映すかという点については,証人が証言する様子を正面から中継することを意味するとは理解していません。現在の法廷であっても,証人は法壇に向かって証言しているのであって,通常は傍聴席からは顔は見えないと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○山本(克)委員 再三申し訳ありません。今,阿多委員のおっしゃったところは同感なのですけれども,ただ,尋問系ですね,本人尋問であり,当事者尋問であり,鑑定人の意見陳述であり,その辺りについては,音声は流さないと公開したことにはならないのではないでしょうか,という気がしています。映像,動画を流す必要はないけれども,やはり音声は法廷内に流れないと,公開とはいえないような気がします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 先ほどの日下部委員の御意見ですとか阿多委員の御意見に賛同するところなのですけれども,公開の意味としてですね。ただ,訴訟のユーザーとしての企業の立場からあえて事務当局の御質問に回答いたしますと,特に検証の場合を想定しますけれども,必ずそれが公開されるということになると,我々も抵抗はあるところです。例えば,工場の中とか,研究室の中とか,そういうところの映像が公開されることになるということであれば,少し我々もそういう手段を使うというのをためらうかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 今までプライバシーや営業秘密の観点から公開の問題が議論されたと思うのですけれども,元々この議論はハイブリッド方式における証拠調べをどのように位置付けるのかという話で,それは取りも直さず裁判官の所在場所が今まで想定されていたものと異なるというところがポイントなのだと理解しています。公開原則と裁判官の所在場所ということがどういう関係にあるのかということも考えてはきたのですけれども,これは憲法に関わる話なので,なかなか意見を申し上げづらいなとは考えています。しかしながら,できる限りは議論のたたき台になるようなことでも言えた方がいいなと感じておりました。   公開原則の趣旨ですけれども,一般には審理の適正さを一般国民の監視によって確保することと説明されることが多いかと思います。そこで,この公開原則が及ぶ口頭弁論期日は公開法廷で行い,一般国民による傍聴が認められることになっておりますけれども,一般国民が監視すべき対象が具体的には何なのかということについては,突き詰めた考えが定まっているわけではないのかなと思われました。   例えばですけれども,それが口頭主義とあいまって,口頭でなされる弁論さえ監視できればよいと考えれば,当事者のみならず裁判官も法廷外からウェブで参加したとしても,口頭でのやり取りが傍聴人に監視されるのであれば足りるという考えもあり得るのかもしれません。   しかし,審理の適正さを一般国民が監視することの憲法的な意義というのが,国家の司法権の行使を民主的観点からチェックするということにあるなら,司法権を行使する裁判官こそが監視の対象であって,審理をする裁判体を構成する全ての裁判官を一般国民が法廷でじかに監視できることに本質的な意義があるという考え方もあり得るように思います。しかし,監視の在り方として,物理的に同じ法廷で全裁判官を監視することが必須というわけではなく,映像及び音声の送受信の方法も使って全裁判官の言動を観察できるなら,全裁判官が同じ法廷に所在していることまでは必ずしも要求されないという考え方もあり得るように思われますし,じかの監視の意義を全くなくすことは本質に反するとして,最低限一人の裁判官は法廷でじかに観察できることが必要という考え方もあり得るように思いました。   かようにいろいろ申し上げても,こうだという考えに至るわけではないのですけれども,公開主義の影響を受けて口頭弁論をどのように理解するのか,ハイブリッド方式による証拠調べが口頭弁論期日といえるのかどうかという問題を考える上では,今申し上げたような,憲法上の要請の内容がどういうことなのかということに踏み込まざるを得ないといいますか,考えないわけにはいかないのだろうと思いましたので,発言させていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。今の公開の問題は,非常に難しい問題ですけれども,まず,憲法上どこまでやれば憲法の要請を満たしていると,違憲でないということになるのかという問題と,その趣旨をどこまで徹底といいますか尊重するかという問題,この二つを分けて整理する必要もあるのかなという感じがしております。   最初の,憲法上どこまでやればいいのかということも,それ自体,必ずしも一義的に明確ではないかと思いますけれども,その限度では,先ほど阿多委員が言われたような現状を考えると,裁判官が見ているものを全てその場で見られるようにしておかなければ憲法違反であるというようには,これまで恐らく考えられてはこなかったのだろうということですので,同じことはこの場面でも当てはまるのかなと思いますけれども,しかし,公開の趣旨をより徹底することが望ましいという政策判断に立てば,構成①のようなものを前提としても,公開を考えるというようなこともあり得る選択肢ではあるのだろうと思います。   それから,公開の要否と関係しまして,裁判所外で実際に,ハイブリッドと呼ぶのがいいのかはともかくとしまして,一部の合議体構成員が現地に行って証拠調べをするというときに,その記録をどうするのかという問題も密接に関連するところかと思われまして,法廷あるいは裁判所とウェブでつながっているというようなことであれば,例えばZoomとかTeamsとか,いろいろあるかと思いますけれども,内容を録画したりすることが簡単にできるということでもあり,それが記録を構成するということになりますと,今度はその自宅の様子ですとか工場の様子ですとかというものが映ったりしている動画等を,どの範囲の人がどういう形で見られるのかという,その記録の閲覧・謄写の問題がここでも出てくるということかもしれませんので,その辺りも含めて,細部は更に検討する必要があるのかなという感じがしております。   この構成①,構成②ということの全般について申しますと,もしどちらかを採るということを仮に考えたときに,構成①という構成はそれ自体としては,細部についてはともかく,余り無理がない構成と申しますか,あり得る構成なのかなという気がしております。現在,裁判所外で一部の合議体構成員が行って証拠調べをするということが一定の要件の下で認められているわけで,基本的にはそれと同じように考えると。ただし,合議体の別の構成員もオンラインで関与するということになるわけで,そのことは直接主義の要請から考えると,一部の者だけが現地で見ていて,他の者はそれを直接には接しない,オンラインでも接しないということに比べると,より望ましい形態なのではないかという側面があろうかと思います。そういう観点から,構成①の現在の裁判所外の証拠調べの延長線上でこの手続を捉えるということは,一つあり得る考え方のように思います。   その場合,裁判官の所在場所等については,任意の場所といってもどこでもいいというわけではないだろうというような,これも口頭弁論に当事者が裁判所外で関与するといった場合と,程度も質も違うかもしれませんけれども,若干似た問題状況はあるということで,どこでもいいということではないかと思われますけれども,法廷でなければならないかということについては,少し柔軟に考える余地はあるのかなという気もしております。   構成②の方につきましては,構成①と比べると若干,課題があるのかなという感じがしております。この場合,一般の口頭弁論との違いという点では,当事者がどこにいるかという観点では,これは現在検討されていますように,口頭弁論についてもウェブ会議を通じて出頭できるということになれば,当事者が裁判所の法廷にいないということは口頭弁論をすることの決定的な障害にはならないということになるのだと思いますけれども,裁判官が一部,現地にいて,残りの裁判官は法廷にいるという事態をどう見るかというところが,従来の口頭弁論とはやはり違うということになりますので,そこがどうなのかということで,オンラインでのやり取りというのが基本的には余り支障なく,対面とそれほど変わりないのだという前提に立つと,それでもいいではないかという考え方もあり得ることはあり得るのかなという感じもいたしますけれども,裁判所として何か意思決定をすると,訴訟指揮上の裁判等をするといったようなときに,一部の構成員は現地にいて他の者が法廷にいるというときに,例えば合議が必要になったときに,どういう形でそれを行えるのかとか,そういったところも問題としてはあろうかと思われます。そこが解決できる,あるいはそれは余り問題にするに足りないというようなことであれば,構成②ということも考えられるのかなと思いますけれども,若干,追加的な課題が出てくるということになるのかなと思います。しかし,他面で,証拠調べの結果の顕出を改めてするであるとか,当事者が随時弁論できるようになるであるとかいった利便性という点では,構成②の方が勝る部分もあるところかと思いますので,その辺りも含めて少し,更に検討する必要があるのかなと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 証拠調べの成果というか,記録のことで垣内幹事から発言がありましたが,尋問の場合は音声であれ,映像であれ,証人の証言ないし当事者の供述内容となりますが,検証の場合,検証調書は検証対象物の特定に必要な情報を記録すればよいのであって,検証の場所に行くまでのプロセスを映像化して記録化することまで想定していないと思います。検証過程,プロセスが中継されていることはあっても,構成②,構成①によって証拠調べの結果の記録化に差異が生じることはないと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 部会資料の7ページにおいて,構成②によった場合に,受命裁判官による裁判所外での証拠調べの場合のような口頭弁論期日での結果の顕出というプロセスが欠けるために,現場にいる裁判官と法廷にいる裁判官とが同じ証拠資料に基づいて心証を形成するといえるのかという問題意識が示されているかと思います。   これは,顕出というプロセスによって,受命裁判官が心証形成の基とする証拠資料がほかの裁判官にも同一性を維持したまま共有されるというロジックに基づいているように思われます。しかし,それは直接主義を満たすための手続法的な工夫にすぎないように思われまして,実態としては,受命裁判官以外の裁判官は,受命裁判官が取り調べた証拠資料を自ら取り調べたわけではないが,民訴法は顕出というプロセスを経ることで,取調べを自ら行ったか否かという,言ってみればゼロ,100に分かれるギャップも解消されたものとして扱うことを認めているように思いました。   そうであるならば,ハイブリッド方式における法廷に所在する裁判官は,構成②の場合においても,ウェブ会議の方法によるものとはいえ,口頭弁論期日において自ら証拠調べをしているわけですから,別途の口頭弁論期日で顕出というプロセスを経るよりもはるかに直接主義の要請を満たしているのであって,顕出という手続法的な工夫がなくとも既にそれ以上の実質を得ており,手続法的に問題視すべき必要性はないのではないかと思われました。   そのように申し上げましても,物理的に直接証拠資料を観察する証拠調べの態様と,ウェブを介して間接的に証拠資料を観察する証拠調べの態様のギャップを解消する手続法上の契機が必要であるという考え方もあり得るかと思います。しかし,それはもはや理屈や説明の方法の問題であって,例えば,構成②においてはハイブリッド方式による証拠調べが口頭弁論期日において行われているのであるから,言わば顕出が同時並行的になされていると評価できるとでも説明することで十分ではないかなとも感じた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 期せずして私も顕出の話をしようかなと思っていたのですが,構成②において顕出の必要がないのは,当然そうなるのであろうと,口頭弁論だと位置付けた上で,口頭弁論でもう一遍やり直すということはおかしいのだろうと思うのですけれども,構成①の場合に,法廷でやり,公開をした場合に,顕出がなお必要かという問題設定,公開が多分なければ,やはり一応,公開原則を満たすために何らかの顕出の手続は必要になってくるのだろうと思うのですけれども,仮に,先ほど来出ています,法廷で,かつ公開でやるという場合に,顕出が必要なのかどうかというのは議論しておいた方がいいのではないかと思います。   ハイブリッド方式なのですけれども,確かに映像等を見て,特に検証の場合,その検証物を映像で見て,法廷あるいは法廷以外の裁判所内の任意の場所でもいいのですが,見た裁判官も,一応直接的に見ているのだということがいえるのかどうかというのは,やや微妙で,やはり現場から帰ってきた現場にいた裁判官の報告を受けて判断するのだということになると,その報告を顕出という形で行うべきだということにもなろうかと思います。   少し議論の進め方がうまくいかなかったので,分かりづらいと思いますが,論点は二つあって,一つは公開主義を満たすかどうかという問題と,もう一つは直接主義をどうやって満たすかという問題で,構成①においては,公開主義は法廷で公開してやるかどうかによって左右される可能性があると,ただ,直接主義は本当に満たしているかどうかというのは微妙であるという気がするということです。ということで,構成②はそもそも採れないという結論に当然なるわけなのですが,そういう整理でいいかどうか,皆さんでお考えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 山本克己委員の整理される二つ目の論点に関連するのかもしれませんが,元々,実際に直接,リアルに見るということと,ウェブを介して見るということは,情報量に差があることは最初から前提であって,証人尋問でも法廷で実施するのが望ましいし,現地検証が必要であれば全員が現地に行くのが望ましいけれども,ウェブを介しての情報でも取調べの必要性は満たし,一応証拠調べとして足りるという判断をして,実施しているわけであって,変な例ですが,リアルに見れば100の情報量が入ってくる状況がウェブになると80に減少する。現地にいる裁判官の情報量は100で,モニターを見ている裁判官は80だというときに,その20の差を埋めるための説明を顕出というのであれば,その手続を足せばいいのだと思います。元々ウェブによる証拠調べを選択する際に,100の情報は入ってこないが,それでも構わないという前提で採用しているわけですから,現地にいる裁判官100で,モニターを見ている裁判官が80で,情報格差があるから②の方法は採り得ないということにはならないと思います。裁判外の証拠調べで,受命裁判官一人だけが現地に行って,ほかの裁判官はゼロ,それを埋めるための顕出とはかなり状況は違うと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○富澤幹事 関連して,少し御発言させていただくと,山本克己委員からお話があったとおり,検証の場合のハイブリッドと証人尋問の場合のハイブリッドというのは分けて考えた方がよいと思ったところですが,証人尋問の関係で申し上げますと,これまでは受命裁判官が一人で行って,その受命裁判官が聴いてきたことを同じ裁判体の他の裁判官が調書を確認して,心証を取っていると,そういった実態がございます。それがハイブリッド方式という形で尋問に関与することによって,補充尋問等もすることができるようになりますので,非常に心証を取りやすくなると思われ,日下部委員がおっしゃっていたとおり,直接主義の観点でも非常に意味があるということになると思っております。そういう意味では,この構成①,構成②,いずれも採り得るのかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○井村委員 デジタルで視覚・聴覚に関することは,かなりリアルタイムで再現ができると思いますが,においだけはリアルタイムで再現するのは極めて困難であります。そのことについては是非考慮をすべきではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかはおおむねよろしいでしょうか。研究者の方,ほかに御意見があればお出しを頂きたいと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○高田委員 いろいろ考えさせていただきましたけれども,山本克己委員が構成②が採れないとおっしゃった趣旨は,私の理解によりますと,構成②を採ってもなお顕出という手続が必要であるという選択肢もあり得ると理解することも可能であるように思いました。   冒頭にも事務当局がおっしゃられましたように,これまでの枠組みで考えますと構成①と構成②が考えられる,構成①を採った場合にはこれこれの結論となるはずだ,構成②を採った場合にはこれこれの結論となるはずだという御説明と申しますか,問題提起があったと理解しました。   そうしますと,これまでの議論にもございましたように,6ページで申しますと,それぞれの論点,公開の問題,それから顕出の要否の問題,それぞれについて,どちらが望ましいかということで,構成①についても調整の余地があるし,構成②についても調整の余地があるということではないかと現時点では理解しております。今日の議論は,正にその辺りについて,それぞれの論点について深められたという印象を持っています。   ただ,途中でどなたかがおっしゃったことですが,構成②で公開という場合に,阿多委員の御議論と関係いたしますけれども,法廷に所在するのは,現地にいる,受命裁判官と呼ぶのですか,現地にいる裁判官を除いた裁判官であるということで,現地にいる裁判官をも公開の対象とすると考えますと,やはりモニターに現地の裁判官は映らざるを得ないという考え方があり得そうに思います。その点をも踏まえて構成②をどう考えるのかという問題ではないかというのが現時点での私の感触でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにございますか。   ありがとうございました。この問題,今後いわゆるハイブリッド方式について,その要件でありますとか,効果といいますか,その手続について,これは正にパブリック・コメントで伺っているところでありますので,パブリック・コメントの結果を踏まえて御議論を頂く機会があるということですけれども,その背景として,この構成①,構成②,構成③もあるのかもしれませんが,その構成との対応というのを考えていくということかと思いますが,最後,高田委員が言われたことかと思いますけれども,必ずしも厳密な,恐らく一対一対応ということではなくて,基本的には一方の構成を採りながら,微調整というかファイニングをしていくということも考えられるのかと思いますけれども,またその節に恐らくこの議論が出てくるかと思いますので,引き続き委員,幹事の皆様にもお考えを頂ければと思います。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   最後に,次回の議事日程等について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野幹事 本日もありがとうございました。   次回の日程でございますが,4月16日金曜日,午後1時からでございます。場所は法務省地下1階大会議室でございます。   次回の会議におきましては,障害者団体の方をお招きいたしましてヒアリングをさせていただくという予定でございます。また,湯淺委員から,サイバーセキュリティ等に関する専門家としてのお立場から,IT化について検討するに当たり参考となるお話を頂戴する予定でございます。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,これで法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第10回会議を閉会にさせていただきます。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-