法制審議会 家族法制部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和3年3月30日(火) 自 午後1時29分                      至 午後4時57分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  離婚及びこれに関連する制度の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○藤田幹事 予定した時刻になりましたので,法制審議会家族法制部会の第1回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   私は法務省民事局の藤田と申します。本日は第1回会議になりますので,後ほど部会長の選出をしていただきますが,それまでの間,暫時私の方で議事の進行役を務めさせていただきます。   まず,ウェブ会議で御参加の方がおられますので,その関係の御案内をいたします。   御案内のとおり,新型コロナウイルスの感染拡大防止のため,法制審議会においては十分な感染症対策を施した上で部会を開催し,希望される方につきましてはウェブ会議の方法による出席を認めることとされております。ウェブ会議の方法によることで様々な御不便をお掛けすることになるかもしれませんが,事務局として可能な限り円滑な進行に努めてまいりたいと考えておりますので,御協力のほどをお願いします。   本日もウェブ会議で御参加の方々がおられますが,御発言される際を除いてマイク機能をオフにしていただきますよう,お願い申し上げます。また,ウェブ会議参加の方で御質問がある場合や,御発言される場合は,画面に表示されます「手を挙げる」機能をお使いいただくようお願いします。それから,議事のルールといたしまして,御発言される際には必ずお名前をおっしゃってから発言されるようお願いします。ウェブ会議で出席されている方にはこちらの会議室の様子が少し伝わりにくいところがございますので,お集まりの方につきましては,発言者が分かるように御留意を頂ければと存じます。   引き続いて,お手元の配布資料を確認させていただきます。お手元の資料,幾つかございますけれども,まず,部会資料1として「離婚及びこれに関連する制度の見直しについての検討事項の例」という表題のもの,こちらは後ほど審議の際に事務局から説明させていただく予定です。   また,参考資料として,順に参考資料1−1として「法務省養育費不払い解消に向けた検討会議・取りまとめ」,参考資料1−2として令和3年2月5日付け法務省事務連絡「養育費の確保に向けたひとり親支援担当部署との更なる連携強化の推進について」,参考資料1−3として「未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査」結果,参考資料1−4として「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の概要」,参考資料1−5として「子どもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」と題するパンフレット,参考資料1−6として「養育費バーチャルガイダンス2021」,参考資料1−7として厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要について」,参考資料1−8として商事法務研究会「家族法研究会報告書」をお配りしております。さらに,お手元に「基本用語集」と「参考条文集」,また「児童の権利に関する条約」の資料,そして,今回御審議いただく諮問に関する資料をお配りしてございます。書類の不備等ございましたら,おっしゃっていただければと思います。   また,本日は今後の部会の日程についても併せて配布してございます。今後の具体的な進行につきましては,御議論の状況を踏まえつつ,随時お諮りをしたいと考えております。   それでは,次に,この部会で審議される諮問事項と部会の設置決定につきまして,これまでの経緯を,簡単に御報告いたします。   本年2月10日に開催されました法制審議会第189回会議におきまして,法務大臣から,離婚及びこれに関連する家族法制の見直しに関する諮問がされたところです。お手元の「諮問百十三号」と記載されたものを御覧ください。諮問事項はこちらに記載のとおりで,改めて読み上げますと,「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み,子の利益の確保等の観点から,離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」,これが諮問事項になります。この諮問を受けまして,法制審議会総会では,その日の会議において,専門の部会を設置して調査審議を行うのが適当であるとして,家族法制部会を設置することを決定したものです。まず,以上のことを経緯として御報告いたします。   それでは,審議に入りたいと思いますが,審議に先立ちまして,事務当局の方から御挨拶をさせていただきます。 ○堂薗委員 民事局担当の審議官をしております堂薗と申します。本来であれば民事局長の小出の方から御挨拶をすべきところでございますが,あいにく国会対応で不在にしておりますので,私の方から一言御挨拶を申し上げます。   皆様にはそれぞれ御多忙の中,法制審議会家族法制部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。家族法分野では近年,相次いで法改正が行われてきましたが,残された課題は少なくなく,中でも社会的な関心が高まっているものとして,父母の離婚後の子の養育の在り方に関わる問題がございます。この点に関する我が国の法制度につきましては,養育費の支払確保や安心・安全な面会交流の実施といった諸課題を始めとして,国内外に様々な意見があるところでございます。   その背景には,父母の離婚に伴って子が置かれる生活面,経済面での影響,女性の社会進出,育児の在り方に関する国民意識の多様化といった社会情勢があるものと思われるところでございます。このような父母の離婚に伴う子の養育の在り方につきましては,平成23年の民法改正の際に,両院法務委員会の附帯決議におきましても,離婚後の親権,監護の在り方等についての検討が求められております。   また,父母の離婚後,あるいは離婚前の別居段階における子の養育の在り方のほか,離婚に関連する制度といたしましては,未成年養子制度や離婚に伴う財産分与制度についても問題点が指摘され,その見直しに向けた幅広い検討の必要性が指摘されております。   このような父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や,子の養育の在り方の多様化などの社会情勢に鑑みまして,子の利益の確保等の関連から,離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると考えられます。   このため,これらの法制度の在り方について法制審議会で御検討いただきたく,今回の諮問と部会の設置がされたものと理解しているところでございます。   委員,幹事の皆様方におかれましては今後,幅広い観点から御検討をお願いすることになり,また,様々な面で御負担をお掛けすることになろうかと思いますが,何とぞ御協力を賜りますよう,よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 ここで,報道関係の方は御退出をお願いします。   それでは,続きまして,本日,部会の第1回ですので,委員,幹事,関係官の方々に自己紹介をお願いしたいと存じます。   お名前を順に読みますので,お名前と御所属等を簡単に御紹介ください。お名前をお呼びいたしましたら,一言御挨拶をお願いします。   なお,今回の諮問事項についての御意見などは後の意見交換の際にお願いすることになりますので,まずは簡単な御挨拶のみでお願いできればと存じます。   それでは,委員の方々からお願いいたします。   まず,赤石委員,お願いします。 ○赤石委員 認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむで理事長をしております赤石でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,池田委員,お願いします。 ○池田委員 東京弁護士会に所属しております弁護士の池田でございます。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 引き続いて,井上委員,お願いします。 ○井上委員 労働組合の連合で総合政策推進局総合局長を務めております井上です。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,ウェブで御参加の大石委員,お願いいたします。 ○大石委員 千葉大学の大石と申します。労働経済と社会保障を研究しております。 ○藤田幹事 引き続いて,大村委員,お願いします。 ○大村委員 学習院大学の大村と申します。大学では民法を担当しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○藤田幹事 続いて,大山委員,お願いします。 ○大山委員 経団連の大山と申します。経団連でダイバーシティ・アンド・インクルージョン施策を担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,沖野委員,お願いします。 ○沖野委員 東京大学法学政治学研究科の沖野と申します。民法を専攻しております。どうかよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,ウェブで御参加の落合委員,お願いします。 ○落合委員 京都大学文学研究科で社会学を研究しております落合恵美子と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 次に,戒能委員,お願いします。 ○戒能委員 お茶の水女子大学で教員をしておりました戒能民江と申します。ジェンダー法学を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,柿本委員,お願いします。 ○柿本委員 主婦連合会の柿本章子でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,岸本委員,お願いします。 ○岸本委員 厚生労働省子ども家庭局審議官をしております岸本と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,ウェブで御参加の窪田委員,お願いします。 ○窪田委員 神戸大学大学院法学研究科の窪田と申します。大学では民法を担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,小粥委員,お願いします。 ○小粥委員 東京大学総合文化研究科の小粥と申します。勉強しているのは民法ですが,教えているのは法学入門のような科目でございます。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,菅原委員,お願いします。 ○菅原委員 お茶の水女子大学の菅原と申します。大学では発達心理学を研究,また教えております。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 引き続いて,高田委員,お願いします。 ○高田委員 東京大学の高田と申します。大学では民事手続法を担当しております。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 引き続いて,武田委員,お願いします。 ○武田委員 私,親子の面会交流を実現する全国ネットワーク代表の武田でございます。別居の当事者団体の代表でございます。是非よろしくお願い申し上げます。 ○藤田幹事 引き続いて,棚村委員,お願いします。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村と申します。大学では民法を担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 引き続いて,手嶋委員,お願いします。 ○手嶋委員 最高裁事務総局で家庭局長をしております手嶋と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○藤田幹事 引き続いて,堂薗委員,お願いします。 ○堂薗委員 改めまして,法務省で民事局担当の審議官をしております堂薗でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 引き続いて,ウェブで御参加の畑委員,お願いします。 ○畑委員 東京大学大学院法学政治学研究科におります畑と申します。民事手続法の専攻です。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 それでは,原田委員,お願いします。 ○原田委員 福岡県弁護士会所属の原田直子と申します。女性ばかりの法律事務所で,主に家事事件を担当しております。よろしくお願いします。 ○藤田幹事 引き続いて,細矢委員,お願いします。 ○細矢委員 東京家庭裁判所で裁判官をしております細矢と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 それでは,水野委員,お願いします。 ○水野委員 白鴎大学で民法を教えております,水野と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 次に,幹事の皆様として,まず,ウェブで御参加の青竹幹事,お願いします。 ○青竹幹事 大阪大学大学院で民法を教えております青竹と申します。どうよろしくお願いします。 ○藤田幹事 引き続いて,石綿幹事,お願いします。 ○石綿幹事 東北大学で民法を担当しております石綿と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 ウェブで御参加の今津幹事,お願いします。 ○今津幹事 東北大学法学研究科の今津と申します。大学では民事訴訟法,執行法などを教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 次に,ウェブで御参加の衣斐幹事,お願いします。 ○衣斐幹事 内閣法制局第二部で参事官をしております衣斐と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,木村幹事,お願いします。 ○木村幹事 最高裁判所事務総局家庭局第二課長をしております木村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,ウェブで御参加の久保野幹事,お願いします。 ○久保野幹事 東北大学の法学研究科で民法を専攻しております久保野と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 次に,佐野幹事,お願いします。 ○佐野幹事 東京弁護士会所属の弁護士であります佐野と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,杉山幹事,お願いします。 ○杉山幹事 一橋大学大学院法学研究科の杉山と申します。民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,中野幹事,お願いします。 ○中野幹事 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課長の中野でございます。よろしくお願い申し上げます。 ○藤田幹事 続きまして,難波幹事,お願いします。 ○難波幹事 内閣府男女共同参画局男女間暴力対策課長をしております難波と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 法務省の藤田,私でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   引き続いて関係官でございます。   まず,池田関係官。 ○池田関係官 法務省民事局調査員の池田悠太でございます。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,石川関係官。 ○石川関係官 外務省国際法局の石川と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 次は,倉重関係官。 ○倉重関係官 法務省民事局付の倉重でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,塩田関係官。 ○塩田関係官 最高裁判所事務総局家庭局で局付をしております塩田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,志田関係官。 ○志田関係官 法務省民事局で局付をしております志田と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,高橋関係官。 ○高橋関係官 法務省民事局付の高橋と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続いて,外務省の林関係官ですが,林関係官におかれては幹事に就任予定であり,手続の関係で,本日は関係官として御出席を頂いております。 ○林関係官 外務省国際法局社会条約官の林でございます。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,原田関係官。 ○原田関係官 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課で課長補佐をしています原田と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 続きまして,前田関係官。 ○前田関係官 外務省領事局ハーグ条約室の前田と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 最後に,松生関係官。 ○松生関係官 外務省人権人道課の松生と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 どうもありがとうございました。これで一回りとなります。   この機会に,関係官について補足して説明させていただきます。法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は,会議に出席し,意見等を述べることができるとされております。この部会でも,従前どおり,関係省庁に審議への参加を求めていこうと考えており,法務省の事務当局のほか,厚生労働省,外務省,最高裁判所事務総局の担当者に関係官として御参加いただいております。   以上で,皆様方の紹介とさせていただきまして,引き続いて,部会長の選任に進みたいと思います。   部会長の選任を行っていただきますが,法制審議会令では,部会長につきまして,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき会長が指名することとされております。   この部会は本日が第1回会議になりますので,部会長を互選していただく必要がございます。ただいまから部会長の互選をお願いしたいと思いますけれども,自薦又は他薦を問わず,御意見はいかがでございますか。御意見を賜れればと思います。   窪田委員,お願いします。 ○窪田委員 それでは,私から本部会の部会長として,大村敦志委員を推薦させていただきたいと思います。本日も参考資料1−8として家族法研究会報告書が配布されておりますが,大村先生は座長としてこの家族法研究会の中心となってこられました。また,過去の法制審議会においても民法相続関係部会,特別養子制度部会の部会長を務められ,中間試案の公表の段階に至っている民法親子法制部会の部会長も務められています。大村先生は言うまでもなく,家族法についても大変に造詣の深い日本を代表する民法研究者ですが,こうした審議会,研究会においても大変バランスがとれたスムーズな議事運営を実現されておられます。本部会の部会長として最もふさわしい方だと考えて,大村先生を推薦させていただく次第です。 ○藤田幹事 ほかの皆様方からは御意見いかがでしょうか。   沖野委員,お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。窪田委員の御推薦を受けまして,私も是非,大村委員にお願いできればと思うところでございます。理由は既に窪田委員がお伝えになったところでございますけれども,家族法の分野についての多くの著作,民法全般についての豊かな学識,また,冒頭でも御紹介があり,窪田委員がお挙げになりました近年の家族法の改正におきまして,特別養子制度部会,相続関係部会,進行中の親子法制部会など,部会長として,様々な意見のある難しい問題について立法作業として取りまとめをしてこられた,その手腕もまた衆目が一致して認めるところと存じます。先生の御知見やこれまでの御経験にかんがみまして,是非大村先生にお務めいただければと考えるところです。まさに適任の方と考えますので,同じように推薦させていただきます。 ○藤田幹事 ほかに御発言,いかがでしょうか。   先ほど,窪田委員,沖野委員から,部会長として大村委員を推薦するとの御発言がありましたが,ほかに御意見がないようでしたら,部会長には大村委員が互選されたということになろうかと思いますが,皆様,よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,部会長には大村委員が互選されたものと認めます。その上で,本日は法制審議会の内田貴会長に御出席いただいておりますので,ただいまの互選の結果を踏まえ,内田会長におかれまして,いかがでございましょうか。 ○内田会長 法制審議会の会長をしております内田と申します。ただいま大村委員が互選されましたけれども,家族法を中心とする民法の分野における御業績,さらにはこれまでの法制審議会でのお仕事等に照らしまして,私も大村敦志委員が適任であると思います。互選の結果に基づいて,大村委員を部会長に指名したいと思います。 ○藤田幹事 ありがとうございました。   それでは,ただいま内田会長から大村委員を部会長に指名していただきましたので,これをもちまして大村委員が部会長に選任されたということになります。   それでは,以降の進行につきましては大村部会長にお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ただいま部会長に指名されました大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   先ほど堂薗審議官の御挨拶にもございましたけれども,民法の家族法部分につきましては2010年代に入りましてから改正が相次いでおります。2011年に親権,18年に相続,19年に特別養子についての改正がなされました。現在は民法親子法制部会で親権のうち懲戒権に関する問題と,嫡出推定や否認などに関する問題が検討されているところでございます。   これらに続きまして,本部会では,先ほど御紹介がございました諮問第百十三号に基づき,子どもの養育に関わる問題を中心に据えて,離婚及びこれに関連する制度を見直すことが課題とされております。   これも先ほど堂薗審議官のお話にありましたけれども,子どもの養育に関する問題は,民法や民事手続法に関するものに限りましても,早急に対応すべき重要な問題が幾つもございます。実際にも様々な立場から様々な意見が示されているところでございます。また,審議の対象は広い範囲に及び得るところから,民法内外の他の制度との関連付けも問題になるなど,理論的あるいは制度的に難しい問題もございます。   そのため,二者択一の割り切った立法,あるいはすべての問題を解決できる立法を実現するというのには,なかなか困難なところもございますけれども,様々な要請を勘案しながら,少しでもよい立法を実現できますように,微力ながら審議を進めさせていただきたいと存じますので,皆さまの御助力をお願い申し上げます。   さて,この後の会議で私が出席することができないという場合にそなえまして,部会長代理を指名させていただければと思います。   窪田委員を部会長代理として指名させていただきたいと考えておりますけれども,窪田委員,お引受けを頂けますでしょうか。 ○窪田委員 はい,承知いたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。それでは,どうぞよろしくお願い申し上げます。   続きまして,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りをしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法につきまして,事務当局の方から御説明を頂ければと思います。 ○藤田幹事 それでは,御説明いたします。   法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては,かつては発言者名を明らかにしない形で逐語的な議事録を作成した時期もありましたが,平成20年3月に開催されました法制審議会の総会におきまして,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において部会委員の意見を聴いた上で,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという取扱いに改められたところです。その上で,御参考までに申し上げますと,この総会の決定後に設置されました民事法関係の部会では,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。   したがいまして,当部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとするかどうかといったことを含め,御検討いただく必要があるのではないかと思っております。   まず,現状につきましては以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,今の藤田幹事からの御説明につきまして,御質問あるいは御意見があれば頂戴したいと思います。いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。それでは,特段の御意見がございませんようですので,当部会では審議事項の内容等に鑑みて,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにさせていただきたいと存じます。よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。では,そのようにさせていただくことにいたします。   ここからが本日の審議ということになります。   先ほども触れましたが,かなり幅広いテーマを扱うということになりますので,本日はまず,皆様に,今回の離婚及びこれに関連する制度の見直しにつきまして,それぞれの問題意識ですとか,あるいはこの部会の進め方についての御意見等を頂ければと思っております。特に議題の設定などをせずに,フリートークということで御意見を賜りたいと思っております。本日の最後には,次回の進行についても御相談をさせていただきたいと考えているところでございます。   このフリートークに先立ちまして,先ほど御紹介がありましたけれども,事務当局の方から,部会資料1に基づきまして,まず御説明を頂きたいと思います。 ○藤田幹事 それでは,お手元の家族法制部会資料1について,私の方から御説明申し上げます。   この資料1ですが,表題を「離婚及びこれに関連する制度の見直しについての検討事項の例」とさせていただいているとおり,飽くまで事務局として考えた一例としてお示しするものです。   第1,基本的な視点です。未成年の子を持つ父母の離婚に伴う子の養育の在り方につきましては,父母の離婚を経験した子の置かれている状況,子育ての在り方やそれに関する国民意識の多様化,社会の各分野における女性の一層の参画といった社会情勢,あるいは子に関わる近時の立法の動向や児童の権利条約の批准後の状況等を背景に,国内外から様々な指摘がされております。   また,未成年者を養子とする普通養子縁組制度に関しては,真に子の利益のための制度となっているかという点から検討が必要ではないかという指摘があるところですし,財産分与制度に関しましても,当事者の公平を図る観点からの検討の必要性が指摘されているところです。   そこで,子の利益の確保等の観点から,父母の離婚に伴う子の養育の在り方や,これに関係を有する問題である未成年養子制度,財産分与制度など,離婚及びこれに関連する制度について幅広い検討を行う必要があると考えられますが,今後の検討に当たって,基本的な視点や観点としてどのようなものが考えられるか,という形で,問題提起をさせていただいております。   第2に進みますと,その検討事項に関する問題状況等を事務局の方で整理してございます。1の(1)が,子の監護についての必要な事項の取決めについて,です。平成23年の民法等改正では,離婚時の面会交流や養育費の取決めを促進する目的で民法766条第1項の規定の見直しをしたところですが,厚労省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査の結果によれば,(注)に記載があるとおり,面会交流や養育費の取決め率はなお低調な水準にあり,先般の改正の目的が十分に達成されたとはいえないとの指摘もあるところです。   離婚時に取決めがされた場合であっても,その後,養育費が不払いとなることが相当数あり,その取立ても困難であるという指摘があるところであります。また,面会交流の安全・安心な実施が困難であるとの指摘もあります。   これらの状況を背景に,民事実体法や手続法について見直すことが必要ではないかという意見があるところです。その一方で,現行の離婚制度を見直すことにつきましては,国民生活に大きな影響を与えるといった点や,夫婦間のDV事案など速やかに離婚を成立させるべき事案において離婚がしづらくなり,再被害等が生ずるおそれがあることなどを指摘し,見直しに慎重な検討が必要との意見もあります。   そこで,養育費や面会交流といった子の監護について必要な事項の取決めの促進・確保,あるいは取り決められた内容の履行の確保について,どのように考えるかという形で,こちらも事務局では方向性を定めず,御意見を伺いたいと考えております。   続いて,資料1(2)として,父母の離婚後の子の養育への父母の関与の態様について,です。未成年の子の養育について,その父母が離婚した後であっても,子の利益を最優先にして行われるべきという原則には異論がないところですが,父母の離婚後の子の養育について,父母がどのように関与することが子の利益にかなうのか,最適な関与の態様を定める際にどのような事情を考慮すべきなのか,また,DV事案等への対応をどう考えるのかなどの点につきましては,民法で定めるところの親権制度あるいは監護権制度を中心に,様々な観点や課題等が指摘されているところです。そこで,離婚後の子の養育への父母の関与の態様に関しまして,我が国の状況,実態等から様々な観点,課題が指摘されていることを踏まえ,どのように考えるかと記載してございます。   (3)は,子の養育における子の意思や意見の反映について,という表題としておりますが,現行民法では親権行使のほとんどの場面,あるいは離婚後の子の養育の在り方を決定する場面において,子の意見や意思を反映させるための直接の規律が設けられておりません。この点については,子の利益確保の観点から,具体的な親権行使の場面,あるいは離婚後の子の養育の在り方を決定する場面などにおいて,子の意見,意思を適切に反映させるための方策を検討すべきとの意見もあるところで,その点についてどのように考えるかと記載してございます。   (4)子の養育に関する法的概念の整理では,例えば,現行民法の親権,子の監護をすべき者,面会及びその他の交流,子の監護に要する費用,こういった概念についての法的性質や位置付け,さらには,呼称も含めた法的概念の整理についてどのように考えるかという設定をしてございます。   次は,資料1の第2の2の部分でございまして,未成年養子制度です。未成年養子制度につきましては,いわゆる連れ子養子などが我が国でも相当数利用されていると見られるところですが,その一方で,必ずしも未成年者の養育のためでない目的でされることがあるなど,未成年者の利益にかなうことが十分に担保されないまま縁組がされることがあるのではないかといった指摘もあるところであり,未成年養子制度の趣旨に立ち返りつつ,縁組後の未成年者の養育の実態も考慮した検討が必要であるとの指摘などもされております。これらを踏まえ,未成年養子制度の見直しについてどのように考えるかと記載しております。   資料1の第2の3は,財産分与制度でありまして,こちらは,平成8年の法制審が決定した内容の積み残しの課題があるほか,分与の対象財産の範囲や,その判断基準を明示すべきでないかという指摘や,2年間の期間制限について支障があるのではないかといった指摘もあるところです。そこで,財産分与制度の見直しについてどのように考えるかとの記載にしてございます。   さらには,資料1の4,その他の検討事項でありまして,この資料は飽くまでたたき台ですので,そのほか,離婚及びこれに関連する制度について検討すべき事項としてどのようなものが考えられるかという記載をしてございますし,最後に,第3の検討事項に関するアプローチ等としまして,以上に掲げた幅広い検討事項につきまして,どのようなアプローチ,検討順序で検討を進めていくことが考えられるか,こういった点について皆様の御意見を賜れればと思っております。   事務当局からの説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ただいま藤田幹事から資料1について御説明がありましたけれども,これは議論の参考のための資料として出していただいたものでございます。この部会で取り上げるべき課題に関する御意見ですとか,あるいは部会の進め方につきましては,もちろんこの資料に関連する形で御発言いただいても結構でございますが,資料とは関係のない事柄で重要だと思われる点を御指摘していただいても結構でございます。   皆様から御意見を頂戴したいと思いますが,できるだけ多くの方々からの御意見を伺えればと思います。まず最初に,関係省庁以外の委員,幹事の方々から,それぞれ一通り御発言を頂ければと思います。恐縮ですけれども,1人当たり5分ぐらいで御発言をお願いして,言い残したことがありましたら,後でまた追加して御発言を頂くということにさせていただければと思います。   どなたからでも結構でございますので,この部会で取り上げるべき課題,あるいは進め方等につきまして,御意見のある方は是非,挙手をされて,御発言を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○沖野委員 もしほかにおいででなければ,取りあえず口火を切るということで御発言をさせていただきたいと思います。   私は民法,民事実体法を専攻しておりますので,関心も,民事実体法がこれらの問題にどう対応していくのか,在るべき制度がどういうものかという観点でございます。そういったときに,一つは,現在の社会情勢が多様化しているという,多様化が一つのキーワードだと思いますけれども,そういう多様な社会情勢を踏まえた上で,しかし制度としては,これに全面的に対応するということに必ずしもなるわけではないと考えておりますので,それを前にして,民法にどのような制度を置くべきかという観点が大事だと思っております。   他方で,しかし,民法の在り方といたしまして,既に改正は重ねておるところでございますけれども,それでも全般的には規定の数も少なく,例えば,当事者の協議に委ねるとしても,言わば何もモデルも示さず,手掛かりも与えず放置しているというようなところもございまして,そういった民法の規定がやや不親切ではないかと思われる点があります。また,既に課題として出していただいているように,概念がいろいろ錯綜しているというところがございまして,それが理解の困難を生んでいたりという状況もあります。あるいは,必ずしも適切ではない制度になっていないか,あるいはインプリケーションとして問題があるのではないかといったこともあります。これらにどう取り組んでいくかということに最も関心があるということでございます。   その場合なのですけれども,今回の諮問事項につきまして非常に特徴的だと思われますのは,諮問といたしましては,離婚及びこれに関連する制度に関する規定の見直しということになっておりますけれども,およそ全般的に離婚とそれに関連する制度ということではなく,飽くまで子の利益の確保等の観点からという非常に目的意識の高い形で様々な制度を横断していくという形となっており,それが特徴的なことではないかと考えているところです。そうしたときに,子の利益の確保等,その中に意思の要素をどう入れてくるかとか,それを酌み取れるのかといったこともあるかと思いますけれども,この目的に照らしてどういう制度が在るべきかといったときに,それを全て民法で受けるのかという観点も重要だと考えております。   以上はごく抽象的な,一般的なことでございますけれども,もう1点だけ,範囲について少し気になっているところをお話しさせていただきたいと思います。今回の資料1は飽くまで例示ということなのでございますけれども,子の利益の確保等の観点から,離婚及びこれに関連する制度に関する規定等の見直しを考えるといった場合に,そうはいっても,今回の見直しというものがどこまでを対象とするのかについて波及するような話というのがあるように思われましたので,その点について冒頭でお話をさせていただきたいと思います。3項目ございます。   一つは,例えばなのですけれども,面会交流ですとか養育費について取り決めるということを仮に協議離婚等,あるいは離婚の際の要件ということにした場合には,一方で子の福祉や利益の観点からすると,そこだけにスポットが当たるわけですけれども,離婚の要件を考えていった場合に,果たしてこのピンポイントでいいのか,それとも,やはり離婚の要件そのものについても更に波及していくのかということが一つは気になっております。   2点目は,財産分与の関係でございますけれども,離婚の際の給付に関することですが,これは離婚の際の取決めという点とともに,婚姻の段階での事前取決めというものをどう考えるかといった問題にも波及するように思われます。夫婦財産契約の在り方ですとか,そういうことにも関連するかもしれません。そういったものをどうするのか,波及していくと考えるのか,それとも,そこはやはり項目として限界付けというか,停止をするのかということです。   3項目は,未成年養子の関係でございまして,未成年養子の見直しにつきましては,特に孫養子などになりますと,これは遺留分制度との関係なども問題となってくるかと思います。子どもが3人いるうちの1人の孫を養子にするということは,それで実質的には遺留分の変動なども生じてきますので,具体的に相続制度についてどう考えるかということも念頭に置きながら考える必要が出てくるのではないかということです。このように挙げていただいた項目につきましても,波及したり派生したりするものがあって,それらを考慮に入れるのか,入れないのかといったことも問題になるかと思っております。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。多数の貴重な御指摘を頂きましたが,最後に,子の利益の確保の観点からと諮問には掲げられているけれども,そうした形で問題を絞り込んだ際に,波及する問題というのが出てくるけれども,どの辺りで線を引くのかという観点が重要ではないかとの御指摘を頂いたかと思います。   ほかに御発言,いかがでございましょうか。 ○落合委員 社会学者ですので,法律の細かい論点よりは,大きいところから関心を持っておりますので,早いうちに発言させていただいた方がいいのかなと思って,手を挙げさせていただきました。   まず,社会学の関係者というのは余りこの審議会に入っていないように伺っていますけれども,戦後の早い段階では社会学と法学の協力というのは随分あったものですから,それがもっとある方がいいだろうなと思っております。少し自己紹介的なことですが,私,家族社会学が中心ですけれども,比較と歴史の観点から見ておりまして,つまり,現在というものを時間的,空間的に相対化するというようなマクロな見方から見ております。ですから,歴史に関しては歴史人口学というのをしておりまして,江戸時代の資料から離婚とか養子とかいうことも分析したことがございます。離婚は江戸時代,多かったのは,よく知られておりますけれども,結婚から離婚までの期間というのが,江戸時代の終わりになるに従って縮小していくのですね。ですから,割とその後,安定した時期ができるというような,そういう近代的な結婚関係というのが明治が始まる前に確立したことというのが今の研究テーマです。   養子についても,男性の20%から25%は養子に行っていたと,それから,養育のための養子もありまして,少なかったと言われていますけれども,特に九州の方では非常に多いと,その実態などについても調べております。ただ,養育のための養子は,そうなった人は戸主になる年齢が早いのです,一般の男子よりも。つまり,相続,跡取りということと,養育のための養子というのがリンクしていたのが江戸時代だなというふうに見えてきます。もちろん,そうではない養育のための養子もあったと思いますけれども。その辺りを踏まえて現在というものも見ております。   今回の最初の検討事項を伺いますと,やはり欧米の家族の現在というものが比較の対象になっていると思うのですけれども,日本が過去から持ってきたものというのを意識して見ないと,ただ日本が後れているように見えてもしようがないのではないかと思うのです。雑駁に言うと,私は日本は東南アジアだと思っているのです。中国ではなくて東南アジア。孤立した日本という特殊な文化があるのではなくて,東南アジア的な緩やかな家族関係というのを持った社会だと考えています。双系的な親族制度といいますか,ですから,離婚の緩さとか,それから,子どもを連れてどんどん移動してしまうとか,その辺りは日本の伝統とも関係していると思うのです。その辺りも考えて,次に進んでいくべきであろうと思っております。   それで,今回のテーマにつきましては,定石の進んでいく方向というのがあると思うのですね。欧米の方には行かないとは私は全然言っていないのです。人権重視ということで重要な方向があると思っています。ただ,今まで日本で定石の方向に法改正をしたときに,思わぬところで,運用面で,それが不幸な結果になるということがありました。例えば,非正規労働者の無期転換の5年ルールというのが最近ではありますけれども,いい法律のように思えるのですけれども,そのことによって5年で首になる非正規労働者というのが非常に増えました。そのような抜け穴を許してしまうような改正であれば,しない方がましというようなところがありますので,そこのところを十分考えてやっていきたいものだと思っております。   もう一つだけ言わせていただきたいのですが,子どもは誰のものかという,子どもの権利のため,利益のためということを強調していますから,子ども個人のものであるという立場が基本なのだと思いますけれども,養育費のことにしても,夫婦がきちんと関われということですよね。子どもは親2人のものなのでしょうか。それはすごく近代核家族的だと思います。もっと広い親族集団とか,村とか,それから何より国家ですね,そのメンバーなのですよね,個人というのは。個人を育てるというのは夫婦の責任だけではない。ですから,この養育費についての御議論を少し見ていますと,産んだが最後,一生付きまとうぞ,みたいな感じで,産みたくなくなると思うのです。もう少し,親が離婚しても困らないような,例えば,ベーシック・インカム・フォー・チルドレンみたいな,国家として子どもの養育にもっと責任を持つということとセットにして,この養育料の取立てなども議論してほしいと思いました。   すみません,長くなったと思います。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。近代西洋法の外に広がる観点を御指摘いただくとともに,立法の意図せざる効果というのにも注意する必要があるといった御指摘を頂いたかと思います。注意して検討していきたいと思います。 ○大山委員 大山でございます。初めに,この部会に参画させていただいております私の立ち位置についてお話しさせていただきたいと思います。経団連の肩書で参加をさせていただいておりますが,このテーマで経済界を代表して意見を申し上げるということではなく,企業の現場に近い者という立場から,私自身子育て世代のど真ん中におりますので,そういった世代や周りの方々の経験や,私もアメリカに駐在しておりましたので,そのときに感じた世界から見た日本社会に対する見方などを共有させていただき,ご専門の先生方からもいろいろと教えていただきながら,議論に貢献できたらと思っております。   その上で,今後の検討に当たって,視点を3点ほどお話しさせていただきたいと思います。一つ目は,少し大きな話にはなりますが,この問題について検討するに当たって,今後,日本はどういう社会が望ましいのかというところからバックキャストして考える,そういった視点もやはり欠かせないのではないかと考えております。   例えば,経済界からすれば,正に先ほど来お話がございますが,価値観が多様化する中で,日本経済の活力の源泉として,多様な人材の活躍や,ダイバーシティ・インクルージョンを推進してございますけれども,ミクロで考えれば,一人一人の家族の在り方,考え方というのも多様化しており,そういった中で家族の在り方を考えるということは,経済活動を支える一人一人の働き方,生き方に直結する話だと思っております。そういった中で,社会の在るべき姿として,やはりそれぞれの課題に直面したときに選択肢をどれだけ多く提供できるかというところが重要な視点になってくると日頃から感じております。   そういった意味では,例えば,法務省さんの調査にもございましたけれども,離婚後に多くのケースにおいて女性がシングルマザーとして育児の負担を負って,社会進出にあたっていろいろな阻害要因に直面しているということも考えられますので,そういったところから法的手当て,そして政策的支援が必要になると思っております。   二つ目は,諸外国との比較という観点です。海外と比較して著しく不合理な実態や,あるいは海外から見て国内の制度が不自然に映るということがあれば,海外から日本に来て働く人材の獲得や,競争力の確保にも支障が出てくるといった観点も踏まえなければならないと思っております。私がアメリカにいたときも,ちょうどハーグ条約の議論がすごく盛んなときで,世界から日本がどう見られているかというところも肌で感じておりましたが,そういった婚姻をめぐる価値観の多様化も踏まえた視点も必要と思います。   それから,三つ目は,先ほど来,皆様より御指摘ございますけれども,正に忘れてならない視点が子の利益,子どもたちの自由な意思表示や選択の機会の確保だと思います。正に親の離婚に伴って,経済的な理由から,子どもが貧困に陥ることや,学習や社会進出の機会が失われるようなことがあってはいけないと思っております。そういった意味でも,経済的手当てをどれだけ法的な枠組みで手当てできるのか,また,それにプラスして,政策的にもどういう観点が必要か,さらに,そういった仕組みがあっても,先ほど御説明にもございましたように,知られていないという実態もあると思いますので,そういった広報の観点も含めて検討が必要と思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。私たちの社会観との関係で考えるべきだという大きな観点から,御意見などを頂きました。 ○柿本委員 柿本でございます。いろいろ御意見を聞かせていただく中で,私も落合先生の御意見と同じでございます。子どもの養育について当事者間だけの問題にしないで,子どもはやはり社会全体で育てていきたいと考えております。そして,養育費不払いの解消の方法など,子の利益を中心に考えていきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。子育てを誰が担うかということで,社会や国家という観点も重要であろうという御指摘などを頂きました。 ○水野委員 この問題が非常に難しくなっておりますのは,協議離婚の問題が根本にあるのだと思います。落合先生が西洋法的な観点ばかりではといわれましたが,協議離婚という制度は近代法的に,西洋民法的に考えますと,非常に非常識な制度なのです。このことをやはり前提として考えて自覚しておきたいと思います。明治民法ができたのは,まだ江戸時代の延長線上で,家業として自営業を営む家が主体の社会で,地域共同体や大家族による,言わば群れによる育児が存在していた時代でした。そして,明治民法は,すべてが裁判離婚という面倒な西洋法の離婚法ではなくて,家のメンバーのやり取りとして家同士の合意だけで成立し,公的機関が全く関与しない協議離婚を立法したわけです。戦後の改正は,その極端な,家の私的自治を,当事者の私的自治に横滑りさせただけの改正でした。でも,日本の社会はもうすっかり変わってしまいまして,そういう群れによる育児という安全弁が失われて久しくなりました。孤立した家庭の中で,例えば暴力がありますと,とても危険な状態になっています。   父母の離婚は子どもに重大な影響を及ぼすものですから,特に協議離婚の場面において父母に任せ切りにさせているという状況について,やはり何らかの見直しに向けた検討が必要であろうと思います。家族法が最も考慮すべきなのは,子どもの利益ですし,離婚時には離婚後の子育てのことを制度的に配慮することが必要なのではないでしょうか。欧米では基本的に皆,裁判離婚ですので,離婚が成立する段階で公的な監督下で養育費も全て決まっていることになりますけれども,日本はそうなっておりません。養育費を決めてその債務名義を取ること自体が,当事者の非常に大きな負担になっています。   ただ,日本の家裁の体制で,西洋並みに全てを裁判離婚にするという解決は現実的ではありません。例えば,ひとつのアイデアですが,養育費はもう一律の金額で自動的に具体化してしまって,強制執行まで可能にするという方向性も,日本の改正法の方向としては十分に考えられるように私は思います。それから,養育費の強制執行も子どもの生活の重要な権利であることを考えますと,強制執行をしやすくするために,国家が強力にサポートするというのも許されることだろうと思っております。   一方,面会交流なのですけれども,こちらは更に難しさがあります。背景には,家庭内に暴力があるときには,本当なら婚姻中から社会が介入する必要がありますのに,日本は残念ながら,それができていないという問題です。フランスとの比較で言いますと,フランスの少年事件判事は年間9万件以上,約10万件の親権制限判決を書いております。そして,そういう少年事件判事を大体9,000人以上の専門職がサポートしているという体制です。国民数がフランスの倍の規模の日本では,親権喪失も親権停止も,どちらも100件に満たない,二桁の数しか下されておりません。こういう子どもの保護がないところで,ただ離婚後共同親権にしてしまうのは,危険が大きすぎるように思います。同時に,少なくとも子どもの利益の観点からも,子どもの利益にかなう面会交流が取り決められているにもかかわらず,それが実現しないという事態に対しては,やはり何らかの対応を検討しなくてはならないでしょう。   取りあえず,これらのことを考えたいと思っております。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。たくさん御指摘いただきましたが,協議離婚を当事者任せにしてよいのかということと,しかし,裁判所の資源も限られているということを勘案して,どういう制度を考えるべきか。養育費や面会交流についても,負担が小さい,しかし実質的なよい結果を導けるようなものをどのように作っていけるかといった問題意識を御披露いただいたと思っております。 ○戒能委員 私はジェンダー法学研究なのですが,具体的にはDVを始めとする女性に対する暴力と法の関係について研究してまいりました。その立場から若干,発言をしたいと思います。主に審議のアプローチの点からお話を3点,したいと思います。   これはもう当然のことなのですが,今まで委員の方々の御発言がありましたように,観念論に陥らないということがとても大事かと思います。法律学ですと,そこが中心になるということも実はあるわけです。それで,現実といいましょうか,現状といいましょうか,そこから常に議論を出発する必要があると考えておりまして,この部会でもそのような議論を意識的に進めていっていただければと思っております。   それで,離婚後の子どもの養育をめぐる対立関係というのが生じているわけです。ですから,とても難しいことなのですけれども,そこでどう子どもを守るかということが大きなテーマになっているのではないかと思っております。そのときに,個別性とか具体性ということが重視されなければならないと考えております。そのためには,議論の土台となる調査のデータが余りにも少なすぎるのではないかと感じております。今回も法務省の調査など,あるいは厚生労働省のひとり親調査などをお示しいただいているのですが,例えば協議離婚の調査とか,面会交流がどのように進められて,そこで子どもの状況はどうなのかとか,そういうことがまだ,これからなのかなと思っております。   私はDVの問題に関心を持ってずっと研究をしてまいりましたけれども,DV法がそもそも制定されたのはなぜなのかということを考えてみると,これは命,生命が奪われるかもしれないということなのです。人権の一番の基礎,土台です。そうしますと,面会交流をめぐって,今まで残念ながら幾つか事件が起きておりまして,面会交流のときにお子さんが殺されてしまうという事件も起きているわけです。そうすると,その検証をしているのかどうか。ヒアリングをなさったということを少し聞いているのですが,その内容や,大事なのはその防止策,そういうことが起きないようにどうすればいいのかということは,子どもの安全とか子どもの安心とか,守るためには不可欠ではないかと思っております。   それが大きな一つ目で,二つ目がDV事例は例外という考え方についてです。原則があって,それは誰でも適用されるのだけれども,例外というのが出てくるようなのです。それで,例外という考え方を,この面会交流とか養育費を考えるときに,果たして,いいのだろうかと疑問に思っておりまして,例外という考え方が続く限り,本当に子どもの安全は守られるのだろうかということを疑問に思っております。   DVと児童虐待が別物だとずっと考えられてきたけれども,18年や19年に,野田市事件とか,目黒区事件とかございましたけれども,そこで,そうではないのだと,一体としてファミリーの中で起きている事件なのだということがようやく私どもも気が付いたということがあります。それから,DVも児童虐待もそうなのですが,例外と扱うのだったら,例外として扱っていいという認定といいましょうか,判断をしなければならないけれども,そこが残念ながらまだ,2001年にDV防止法ができて,20年もたっておりますが,社会的な認識が,司法も含めて,十分ではないのではないか。DVは身体的暴力だけでは,もちろん,ないわけですね。つい最近,内閣府の調査会が報告書を出しまして,それは新聞報道もされておりますけれども,身体的暴力だけではなくて,精神的な暴力や性的暴力も,家族の中の暴力という観点からは,子どもに大きな影響を与えていると。それも継続的に影響を与えるのだというようなことを内閣府の報告書では言っております。それから,もう一つは,その報告書は非常に画期的だと思っておりますが,面会交流にも触れています。そして,そこでは十分リスクアセスメントをして,安全・安心な環境で面会交流を実施すべきだというようなことも言っておりますので,そういうことを配慮したいと思います。   最後なのですが,外国法制の見直しが行われているということも考慮すべきだと思っております。もう時間なので終わりますけれども,例えば,2020年の英国の司法省の報告書も出ておりますので,日本でも参考にして,家裁の実務ということも視野に入れて検証をすべきだと考えております。   長くなりまして,どうも失礼いたしました。 ○大村部会長 ありがとうございました。たくさんの御指摘を頂きましたけれども,現実的な議論をすべきだというところから始まりまして,調査の必要性ですとか,これまでの事例の検証ですとか,あるいは外国法や実務についての見直しの動きの把握といったことが必要ではないかという御指摘を頂いたかと思います。 ○赤石委員 発言の機会を与えてくださってありがとうございます。認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの理事長をしております。私どもはひとり親家庭,主にシングルマザーと子どもたちを支援しております。現在7,600人のメールマガジンの会員がいらっしゃり,コロナの感染拡大に伴う収入減で,本当に生活苦のひとり親世帯,2,300世帯に毎月お米や食品を送るということを行っております。また,相談件数は,離婚前後の相談ですとか,生活苦の相談ですとか,年間で大体2,000件以上受け付けております。就労支援事業も新たに行っております。今日,家族法制部会に参加させていただくということで,私のミッションはひとり親の声を届けていくということだと認識しております。その観点から何点か申し上げさせていただきたいと思います。   まず,養育費の検討会に私も参加させていただいたのですけれども,やはり養育費については喫緊の課題でございます。ですので,家族法制の中で一緒に議論するというよりは,優先的に議論していくべきではないかと思っております。養育費は金銭的な債務であり,取決めが必要ですし,取決めに至る相談体制の充実ですとか,その後,取り決めた後の取立ての制度など,法改正を含め議論が必要かと思っております。また,養育費については,実務では面会交流の取引材料になってしまっておりますので,これはやはり避けるべきであるということを,子どもの権利として取り扱われるべきだということを強く思っております。ですが,養育費問題が解決すればひとり親の貧困が解決するというような安易なものではないということは認識しておいた方がいいと思います。   続いて,DV被害についてでございます。私ども,たくさんの方からDV被害についての御相談も受けております。裁判所を経由する婚姻関係事件申立ての動機別の割合では,2位から4位までがDVに関するものでございます。また,私たちの会員への調査では,一方の親に告げないで子連れで別居する方のほとんどが,背景にDVがありました。これを連れ去りだとか表現されてしまっているのですが,もし事前に子どもを連れて家を出ることを言ったら殺されていたかもしれないというようなことをおっしゃっていらっしゃいます。この点が余り認識されていないのかなと思っていますので,申し上げます。ですので,戒能先生がおっしゃったように,DV被害というのを例外でなく取り扱うと,家族法の中できちんとそこを峻別するということがとても大事だと思っております。   私はひとり親の声を届けるというのが責務ですので,今日この会議にということで,お母さんからの声を御紹介いたします。この方は40代なのですが,7,8年前に離婚されました。そのときは未就学のお子さん2人だったのですけれども,精神的DVで離婚されました。私は離婚前の別居時から,元夫による精神的DVによって心身の健康を害してしまいました。精神的DVは主に罵詈雑言,無視,私が作った食事に手を付けず捨てるなどの嫌がらせ,その状況は別居後も続いて,調停中の元夫は私を虐待親だと訴え,児童相談所に相談に行くように命じたり,母親失格を主張しました。離婚成立後も取決めを守らず,届出を勝手に行ったり,同居していた家を引き払うときには,切り刻んだ写真や粉々に割れた食器,腐った食料などを送り付けられました。さらに,離婚成立直後の面会交流時には,新しいパートナーがいる家に子どもを連れていき,子どもたちは帰ってくると,入学前の子どもが,母失格だねと自分に言ったりしました。およそお互いが対等にビジネスライクにコミュニケーションをとって関わり合うなどはとてもできない関係でした。7,8年たっても,元夫と背格好が似ている人影を見るだけでフラッシュバックが起こります。直接連絡をすることなどはとてもできないので,支援団体を通じて面会交流をしています。このような声を頂きました。   こういうことで,次の共同親権,あるいは共同の親責務と名前を変えるというような議論がされているわけなのですけれども,やはりできないケースというのはすごくあって,この方も,我が家のケースでは子どもの進学先とか手術や処置など,とても自分が一緒に話し合うことはできず,元夫の嫌がらせのような支配を受けながら,自分がのんでいくしかないのではないかとおっしゃっていました。   次,面会交流についてお話ししたいと思います。面会交流というのは養育費と違うと思うのです。それで,未成年時に親の別居,離婚を経験した子に対する調査というのを配られております。これを見ますと,面会交流を別居後にしていたというお子さんは464人いらっしゃいました。つまり,1,000人中で半分の方が面会交流していらしたのです。取決めがあったという方は122人,ここに分からない方がいらっしゃるので,精査しなければいけないのですが,つまり何を言いたいかというと,日本社会では面会交流はふんわりと行われていて,取決めがあるから行われているのではないのです。なので,取決めが低調だから法改正をして取決めを促進すべきだというのは,私はとても違和感がございます。もし面会交流が子どもにとって利益になるということでありますなら,環境整備をしていく,ここがもう何しろ必要なことです。面会交流支援の団体を増やすですとか,そこに予算を掛ける,あるいは面会交流している親に,あるいは子どもにインセンティブを与える,こういったことが必要で,法律改正と社会政策の役割分担をきちんとすべきだと思っております。こちらはやはり社会の政策の方でやるべきではないでしょうか。   最後になりますが,6番目として,結婚によらないで生まれた子,いわゆる嫡出でない子と表記されますが,この婚外子の問題がすっぽり抜け落ちているのかなと思います。養育費の検討会でも申し上げましたが,父の確定のところは確かに手続が違いますが,その後の養育費や面会交流,親子関係に関しては同様のものが続きます。これを10%のひとり親の子どもたちは大体,今度の調査で更に増えると思いますし,国勢調査では既にもっと大きな数字が出ておりますが,婚外子のことを抜け落ちたままこの議論をされるということは大変残念に思います。ですので,そこの議論もしていくべきであろうと思います。   取りあえず,以上です。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。多数の御指摘を頂きました。具体的な話としては,連れ去りといわれている案件と,その背景にあるDVのことですとか,あるいは面会交流の実施状況と取決めの関係などについても御披露いただきました。審議の在り方については,一つは議論の優先順位ということで,養育費に関する検討を優先させるべきだという御意見と,それから,今回は離婚後の問題に焦点を合わせていますけれども,婚姻外の子どもたちの問題というのも視野に入れるべきではないかという御指摘を頂いたかと思います。ありがとうございました。 ○大石委員 まず,私は労働経済と社会保障が主な研究分野で,この分野の関係では母子世帯の貧困とその要因について,大規模データを用いた計量分析を行ってまいりました。これまでの研究との関連で3点,問題提起させていただきたいと思います。   まず,第1点なのですけれども,エビデンスベースでの議論を進めるためにも,離別親子を追跡するような大規模な調査を実施したり,あるいは行政データを活用する可能性を御検討いただきたいと考えています。この部会では養育費と面会交流の関係について様々な議論が行われることと思いますけれども,両者の関係については法律的には別の問題とされておりますが,子の養育への父母の関与という面ではかなり重要な問題となっております。   私が研究した範囲では,海外の研究の多くでは,養育費支払いが面会交流を促す効果は見られる反面,面会交流が養育費支払いを促すかというと,それについては余り信頼できる結果が出てきていないという傾向にあります。翻って日本では,そうした実証研究がほとんどなされておりません。養育費と面会交流の関係について正しく因果関係を把握するには,一時点の,つまりクロスセクションでの調査では不足で,夫婦と子どもそれぞれを離別後も追跡調査して,経済状態や親子間の交流についてフォローするようなパネルデータを用いる必要があります。海外ではそういった調査ですとか,あるいは行政データの利用が行われているのですけれども,日本ではそのような趣旨の調査が行われておりません。ですので,この点を是非,調査の企画と実施について御検討いただければと思います。   2点目なのですけれども,制度がどのようなインセンティブを人々に与えるかということを考慮して法改正に当たっていただければと思います。一例を挙げますと,養育費や面会交流の取決めをしていなければ離婚ができないようにするという案も議論されていると伺っております。しかしながら,離別したくない側から見ると取決めに応じるインセンティブは出てこないということになります。親講座を受講することを課すということについても同じではないかと思います。個人的には,離別時ではなくて,むしろ子どもが生まれるときなどに,全ての父母が子どもの養育責任について学んでおいた方がいいのかもしれないとも思っておりますが,それはさて置き,こうした制度改正に当たっては,人々に与えるインセンティブの問題ということに是非御配慮いただきたいと思いますし,場合によっては,経済学で近年発展が著しい行動経済学の知見をいかすということもできるかと思います。例えば,税金の納付を促す際に,ただ払ってくださいと言っても支払いが順調にはいかないのですが,既に90%の人が払っていて,あなたは払っていない少数に属しますといったようなお知らせが付いていると,納付率が高まるといったことが明らかになっています。ですので,そのように人々のインセンティブや動きということについて考えていくということも必要かなと考えます。   最後は,子どもの権利保障の問題です。これまで子どもの貧困について研究してまいりましたけれども,子どもが十分なケアと経済的保障を得ていないケースが多々見られます。それは父母の側の問題だけではなくて,経済環境やセーフティネットの不備なども原因となっておりまして,ですので,それについては公的な支援が不可欠だと考えております。私もシミュレーションを行ったことがあるのですけれども,養育費を100%徴収できたとしても,母子世帯の貧困問題がどれだけ緩和されるかというと,余りめざましい結果とはなっておりません。したがいまして,次世代育成の観点から,子どもが父母,そして国から養育される権利を持つことを明らかにして,それを確立できる方向に制度改正が行われることを希望しております。   以上です。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。先ほど他の委員からも御指摘がありましたけれども,調査の必要性ということですね,特に養育費と面会交流の関係を明らかにする必要があるのではないかという御指摘,あるいは,制度を作ったとき,それがどういうインセンティブをもたらすのかというような観点が大事だというような御指摘を頂きました。他方,子どもの貧困に対しては,やはり公的な支援が不可欠であろうという御指摘も頂いたかと思います。   そのほか,御発言はいかがでございましょうか。 ○棚村委員 棚村です。皆さんのいろいろな御意見を伺って,これからたくさん勉強しながら進めたいと思っています。私の方から,検討の視点ということで3点,それから,検討の順番ということで2点ほど,少しお話をさせていただきます。   一つは,これまでも子どもあるいは家族の問題について,法務省や厚労省などを通じて実態調査,それから海外調査,ヒアリング調査,こういうことに関わらせていただきました。それで,戒能委員などもおっしゃっていましたし,大石委員もそうだと思いますけれども,やはり日本でも法改正の議論をする際に,実態把握,それから,実情調査をやはりきちんとした上で,できる限り客観的なデータに基づいたエビデンスベースの議論を心がけるべきではないかというのは,皆さんとほぼ共通に考えています。   ただ,2点目に,とはいっても家事事件ですと,法律をやっていますと,法的に重要な効果を発生する要件事実論というのがあって,要するに,客観的に何があったのかという客観的,実在的な事実,これももちろん重要だと思うのですけれども,これだけではなくて,当事者から見て感じた,あるいは当事者の目に映った事実,つまり主観的,心理的な事実,これもかなり重要でして,特に家庭の問題を解決する場合には,この主観的な心理的な事実みたいなものも重視しながら組み入れて解決をしないと,実効的な解決にはならないと感じています。これが第2点目です。やはり客観的実在的事実というか,法的に何が重要かというのはかなり大きいことですけれども,やはり当事者の側から映った側面での心理的事実にも配慮する必要がある。   それから,3点目なのですけれども,海外での様々な経験を参考にしますと,単にやはり法制度や法律の改正だけではなくて,当事者がどの段階でどのような支援を必要としているのだろうか,その支援ニーズとか社会的な支援制度というものも充実強化しないと,根本的な解決とか救済,保護にはならないと思います。つまり,法整備と社会的支援制度の強化,これはワンセットで議論する必要があるのだろうと思っています。今回,様々な立場の方々の御意見,考え方をお聞きしながら,やはり充実した審議というのに努めたいと考えた次第です。   それから,検討の順序ということですけれども,やはり子どもの養育の問題というのはかなり重要であろうと思いますけれども,先ほど来出ているように,9割近くを占めている協議離婚の実態がなかなか明らかになっていませんでした。そこで,その実態と問題点みたいなものを,メリット,デメリットがあるとすれば,そういうものをきちんと明らかにしたり,踏まえながら,取決めの合意をどうやって促進するかとか,例えば海外のような養育計画みたいなものをどう策定するか,それから,今,厚労省の御支援もあって,離婚前後の親支援講座というものについての推進ということも少し関わって,東京都のそういうプログラムとか,冊子とか,いろいろなものを検討しています。その中で,やはり親ガイダンスをどの時期にどんなふうにしたらいいのだろうかとか,協議離婚におけるルールとか,実態を踏まえた制度の在り方を検討してはどうかということを考えております。   それから,何から順に取り上げてというとき,養育費というお話もありましたけれども,そういう意味では,当事者や支援される方や現場の声をまず聴いてから,我々として,それを踏まえた上で,どういう順番で議論をしていったらいいか。特に,財産分与とか未成年養子とか,いろいろありますけれども,子どもの養育の中でも,どういうような形で議論を今後始めていくかというときに,当事者の方たちの声を是非早めに聴いて,それを踏まえた上で審議をしていけばよいと考えています。もちろん法律論も大事だと思うのですけれども,法制度だけでは,本当に子どもたちの笑顔や未来を守ってあげられません。子どもたちを大切にしたいという気持ちは参加している皆さん,一緒だと思うのです。ただ,アプローチやそれぞれ立ち位置とか,関わっている立場なんかもあると思いますので,是非皆さん,力や知恵を合わせて,こういうような形で審議が充実していけばと思います。すみません,長くなりました。 ○大村部会長 ありがとうございました。たくさん御指摘を頂きましたけれども,その中で,特に当事者に焦点を合わせる,当事者の観点から,当事者の心理に即してといったお話と,それから,審議に当たっても現場の声,当事者の声というのを聴く機会を設けるべきではないかといった御指摘を頂きました。全体に関わる話として,皆様,様々なお立場の方がいらっしゃると思いますけれども,最後におっしゃってくださったように,知恵を持ち寄って,できるだけよいものを作るということを考えていくべきではないかという御趣旨と承りました。 ○武田委員 親子の面会交流を実現する全国ネットワークの武田でございます。世間では,「親子ネットさん」と呼ばれていますので,「親子ネット」と略称にてお話をさせていただければと思います。   先ほど棚村先生から,現場の声という貴重な御意見を頂いて,私どももできる範囲で,現場を声を部会の場にも集めてまいりたいと思いますので,是非,別居当事者側の意見,逆にDV被害者の意見もお聞きした上で,この場で議論いただければ,非常によいのではないかと思っております。   まず,簡単に自己紹介させていただきますと,私はここにいらっしゃる先生方と違いまして,有識者でもなく,ふだんはIT会社に勤める一般人でございます。また,個人的には,別居親元当事者です。もう10年以上前に妻,子どもと別居になり,様々な紛争,夫婦間の紛争も体験をいたしました。別居時期は2009年ですので,民法766条改正前,改正後を含めて,双方の時期での紛争の現場というものを体感したと思っております。現在は,今はもう別居12年ですかね,実は3年前から私は長男と暮らすようになりました。別居後,長男は妻と8年暮らし,その後,不登校になり,父と暮らしたいという話になりました。したがって,今は別居親当事者ではなく,シングルファーザー,私自身はあまり自覚はないのですが,ひとり親でございます。私の長男は小さな子どもではなく,もう高校生ですが,小さな子を抱えて経済的に苦労もされて,発端がDV夫の被害を受けてといった「ひとり親家庭」の当事者の気持ちも少しは分かるようになったかなと,そんなふうに思っております。   本日は,自己紹介を長々としてもしようがありませんので,少し,親子ネットの紹介をさせていただきます。私たち親子ネットは別居親当事者団体です。別居親当事者から相談をメールで受けたり,東京で毎月,定例会というものを行っています。そういった場でお話を聴き,みなさんの支援をしています。我々当事者側も,精神的にやはりつらくて,大体,年に1人ぐらいは自死してしまう方がいらっしゃいます。   そんな中,最近の傾向としまして,昨年の秋口ぐらいからメディアでも取り上げるようになりましたが,昨今,実はお母さんの会員が非常に増えています。今,親子ネットの会員数は600人ぐらいですが,現在は約3割が女性会員です。私は2019年に代表になりましたので,ここ3年程度の傾向として,特に女性会員が増えたと感じています。今日も随行者として女性運営委員を連れてきています。先ほど,赤石委員から連れ去りに関する御指摘がございました。当然,逃げなければ死んでしまうという状態で逃げるなとすること,このようなことはあり得ないと我々も思っております。しかしながら,親子ネットのお母さん会員の皆さんは,「親権・監護権を確保したいなら必ず子どもを連れて家を出るように」といった情報を父親側が利用し,お子さんを連れ去る行為が行われ,お子さんと断絶させられています。こういった情報は今やインターネットで簡単に手に入る時代になっています。親子ネットの母親当事者向けアンケートでもDV有無も設問に入れたところ,大体半数ぐらいのお母さんがDVを受けていたと回答しており,具体的には,連日罵倒され,追い詰められ,無理やり離婚届に判子を押させられり,出ていかされたり,という酷い目に遭っています。これはまさに「同意のない子どもの連れ去り行為」だと思います。その後,家庭裁判所に行き,面会交流調停を申し立てても,面会交流の決定は出ません。裁判所で面会の決定が出ないお母さん,実は多いです。その後,私どもは「引き離し」と呼んでおりますが,母親と断絶する子どもが増えている,こんなことを最近の支援活動の中で感じているところです。   男女の視点,当然あると思います。しかしながら,男性対女性の争いのみの視点で議論して解決しないことが多々あるということを委員の皆さんにまず,御認識いただきたいと思います。   また,諸外国の取り組み,いろいろあると思います。我が国は30年後れだの,50年後れだのと言われております。戒能先生からありましたように,海外でも失敗例とか,逆戻りするとかという例もあろうかと思います。また,文化の違いももあろうかと思います。そういった事例含め,知見ある先生方の御意見を頂きながら,検討が進めば良いなと思っています。   最後に,今後の議論の進め方ですね,棚村先生からお話ございましたとおり,当事者インタビュー,これは是非御協力をさせていただきたいと思います。今回のテーマは養育費,面会交流,離婚後親権の問題,未成年養子,財産分与と五つあると理解しています。しかし,まずは,離婚に係わる父母はどういう考え方を持っているのか,それぞれの層別に理解することが重要だと思います。   例えば,養育費の取決めをしていなくて受けたこともない,面会交流の取決めもしていなくて,面会交流をしたこともない,いわゆる「離婚は親子の別れ」であるということが常識になっている層,次に,取決めはしたのだけれども,養育費はストップしてしまった,面会交流も実施されなくなった,これら父母間の価値観が異なっているか何らかの高葛藤を抱えていると思われる層。最後に,養育費,面会交流ともに取決めをしていて,現在も支払いを受けていて,かつ現在も面会交流を行っているという「離婚後も双方の親が子どもの養育に係わる」と考えている層があろうかと思います。   私どもは,この新しい価値観,「離婚後も双方の親が養育に関わる」のだという社会を目指しているのですが,なかなか葛藤があってそこに至れない,そこに私ども親子ネットの知見があると思っています。逆に,私どもは「離婚は親子の別れ」と許容している層,ここは知見はありません。こういった各層別に俯瞰し,養育費からとか面会交流からではなく,俯瞰した上で,そもそも離婚後の親子の在り方,今,何が問題で何が起きているのか,皆さんで理解を深めつつ議論が進めば,良い議論になるのではないか,そんなふうに考えてます。   すみません,時間を過ぎてしまって恐縮ですが,ここまでとさせていただきます。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。御自身の御経験のお話から始まって,当事者のインタビューということについて積極的な御意見を頂いたかと思います。それから,議論をするに当たっては,カップルの関係がどういうことになっているかというのを類型化して検討していくことが必要ではないかと,こういう御指摘を頂いたと思います。ありがとうございました。   大分時間たっておりますので,休憩しようと思うのですが,その前にもう一方ぐらい御発言を頂いて,そこで休憩をしようかと思いますが,どなたか御発言ございますでしょうか。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。私は労働組合の役員ですので,民法の専門家ではありません。この部会には一国民としての感覚,立場で参加させていただければと思います。今回の部会での審議に当たっての関心,課題意識ですが,離婚に伴う子どもの貧困や,非監護親と子どもの交流の欠如といった子の福祉に関わる問題がクローズアップされる中,この部会での議論は社会的にも大変注目されていると認識しています。現時点で私ども連合が持っている考え方は,離婚時の財産分与,それと子どもに対する親の養育費負担を制度化するということのみであります。したがいまして,改めて連合としての考え方を全体的に整理してこの部会に臨むことにしておりますが,その方針を確認する機関会議が来月なので,本日は飽くまでも個人的な見解として2点,それから,要望を1点,述べさせていただきます。   1点目は,部会資料1の4ページの(4)に子の養育に関する法的概念の整理について,とあります。ここに記載の内容には賛同するところです。と申しますのも,親権や単独親権,共同親権について,また監護についても,その中身に対する国民的な理解,認識は様々です。この部会での議論が空中戦にならないように,また,注視している国民が混乱しないように,定義や解釈,具体的な行為などを明確にした上で丁寧に審議を進めるべきであると考えます。その上で,現行の単独親権の制度の下では離婚に伴って父母のいずれか一方を親権者に決めざるを得ず,親権者とならなかった親は監護者となるか,単なる非親権者として面会交流の機会を持つにとどまります。親権者ではない親が実質的に面会交流の機会しか得られないのは不十分であり,DVなど特別な事情がない限りは,少なくとも父母が共に子の監護,養育に関与できるようになればよいのではないかと思っています。   次に,2点目として,部会資料1の3ページの(3)子の養育における子の意思や意見の反映についてのところですが,ここも大事なポイントだと思っています。子の意思の反映を重視,担保した上で,面会交流や養育費の支払いなどをきちんと盛り込んだ養育計画の作成を促進していくということが,在るべき方向性だと思っています。   それから,要望ですが,先ほどからデータのことについて出ていますけれども,本日準備していただいている参考資料1−7,この厚生労働省のデータは平成28年ということで,5年前のものとなっています。取り分けコロナ禍で雇用喪失などによって養育費の支払いが,また感染防止等のために面会交流が途絶えているケースがあるということも指摘されています。コロナ禍における影響を含め,早急に実態調査を行った上で,今申し上げたケースへの方策は優先的に検討すべきではないかと考えております。   以上です。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。国民に分かりやすい議論をということで,法的概念の整理というのが重要ではないかという御指摘,それから,共同での監護ということについての御意見,子の意思の尊重ということについても同様と伺いました。それと,データあるいは最近の状況はいろいろ変動がありますので,新しいものをという御要望も承りました。   それでは,まだ御発言あろうかと思いますが,もしよろしければ,ここで休憩を挟みまして,その後,まだ御発言を頂いていない方々,あるいはもう一度発言したいという方々の御意見を頂くということにさせていただきたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。   それでは,休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきたいと存じます。   先ほどからずっと皆様の御意見を伺ってまいりましたけれども,まだ御発言のない委員,幹事もいらっしゃるかと思いますので,引き続き御意見を頂戴できればと思います。 ○原田委員 原田と申します。大体いろいろな方の御発言と重なるところもあるかと思いますけれども,私は弁護士で実務を扱っておりまして,先ほども申しましたように,女性の側からの離婚事件を多く担当しているので,どちらかというと当事者的な発言になるかもしれませんが,お許しいただきたいと思います。   今回の議論で基本的な視点とされたものについて,資料1の最初のところですけれども,例えば多様化とか変化とかいうことがよくキーワードで言われますけれども,これがどのような意味で使われていて,それがどんなふうに離婚の規律の再検討の必要につながるのかという辺りの認識が一致していないと,考えている場面が違っていて,議論が空中戦になるのではないかと思っています。   それから,調査を分析するについても,社会学,法学,心理学,いろいろな視点を変えた評価分析が必要ではないかと思いますし,ひとり親の調査を見ても,母子家庭と父子家庭ではかなり差がありますし,見る視点も違うということで,一般的に監護親とか別居親とかいうのではなく,監護する母親とか監護する父親というように,その置かれた状況,社会的状況も考えながらの分析が必要ではないかと考えています。   また,もう出ましたけれども,諸外国の制度を見る場合に,法律の規定だけではなくて,現実にその制度の下で子どもたちがどんな生活を送っているのか,また,それを支えるリソース,特に裁判官が決定するというのがよく出てきますけれども,司法や行政や民間団体がどのくらいのボリュームでどの程度連携して行っているのかというような実情を知りたいと思います。   それから,養育費についての検討は,これはどのくらいまでするのかというところも,先に検討するというお話もありましたけれども,民法766条との関係で,面会交流とセットという形ではなく議論していただきたいと思っています。   それから,離婚後の子の養育への父母の関与についてなのですけれども,私は前提としては,子の養育への関与については子どもの一人一人の状況が異なっていて,一律に基準や原則を決めることになじまないのではないかとは考えています。また,両親が関わることが子の福祉に合致するという命題がありますけれども,これは葛藤が少ない家族間の問題であって,これを原則として考えることは,かえって子の福祉に反することがあるのではないかと。心配しているのは,DVが例外として考えられること,これは先ほども出ましたけれども,女性の3割がDVを経験しているという状況で,DVケースを例外といえるのだろうかと,そして,その例外は誰が認定するのだろうかということを疑問に思います。実務をやっていて,DVの立証ってとても難しいし,立証できなければ,ないことになります。偽DVとさえ言われます。精神的なDVはなおさらです。法規範は,高葛藤で協議ができないケースの規範ともなるので,そのような事案に共同で養育せよと言っても難しいと。日々の問題について親の協議ができない,あるいは決まらないという事態は子にとって最悪の事態となります。昨日少し聞いた話では,子どもが小学校に入学するのに監護親と別居親の間で意見が違って,同じ地区の公立学校なのですけれども,どちらに入学するかということで仮処分が行われているという話がありましたけれども,本当に子どもにとって最悪の事態だと思います。   別居を決意したときに子どもを連れて出れば,違法な連れ去りと非難され,監護者指定の保全処分,本案,面会交流の調停,審判,婚姻費用・離婚の調停,訴訟,それで決まっても,また親権者変更と,延々と続く紛争というのを私は何度も経験しています。そのための弁護士費用は,法テラスを使っても何十万円にもなります。それを3年で返せと言われます。その上,支援機関を使った面会交流では,そのたびに5,000円とか1万円が必要です。こんな事態が子にとっていいはずはないと思います。これを避けるためにどんな支援が考えられるのか,この日本の社会で実現可能な支援が何なのか,それで解決できるのかということの協議が是非必要であると思います。私は,既に766条があって,これを実効性あるものにするための支援,特に子どもの意思を反映させるための実体法や手続法の手当てをきちんとして,専門家との共働の方向こそ必要ではないかと思っております。   それから,親権概念というのは,権利という形で規定するのではなく,親の責任という形で整理するということには賛成で,場合によっては,一律の言い方ではなくて,具体的な場面に対応した責任として定義していってもいいのではないかと考えています。   それから,財産分与については,2分の1ルールが定着してきていると思いますけれども,これを明文化すると,それでは公平さを欠く事案への対応が更に難しくなるのかなと思ったり,先ほども出ましたけれども,婚姻のときの契約の問題にも波及するのではないかと思っていて,実際2分の1ではないとした事例の集積もあれば,参考になるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。たくさんの御指摘を頂きました。多様化という言葉が最初から出てきておりますけれども,離婚との関係でいうと具体的にどういうことを指すのかというようなことについて,すり合わせが必要であろうとか,あるいは,子どもの意思とか,親権という概念をどうするのかといったことについて,考え方をお示しいただいたかと思います。それから,調査とか,あるいは比較法につきまして,細かな分析,それから,背景の実情を知りたいというような御要望があったかと思います。養育費や面会交流の関係について結び付けずに議論をしてほしいとか,あるいは,親の関与については一律に考えるのは難しいなど,様々な御指摘も頂いたと思います。それぞれのところで参酌させていただくことになろうかと思います。 ○池田委員 弁護士の池田でございます。よろしくお願いいたします。   私は離婚事件で親の代理人をすることも多いのですが,裁判上の子どもの代理人,子どもの手続代理人のケースも幾つか受けておりまして,少し違った角度からも離婚紛争を見てきたという経験がございます。それから,児童相談所でアドバイスをしたりもしていますので,虐待という視点から家族の問題を見るという経験もさせていただいています。以上が私のバックグラウンドですが,私からは,父母の離婚後の子どもの養育の在り方について,幾つか意見を申し上げたいと思います。大きく3点ございます。   第1は,議論の進め方についてです。父母の離婚後の子どもの養育の在り方をどう考えるかという問題は,いろいろな意見があるところですが,論者によって暗黙に想定しているケースが異なるために,時に議論がかみ合わないと感じることもあります。そこで,この議論をする際には,できるだけ問題となる具体的ケースの類型を念頭に置きながら進めていくのがよいのではないかと思っています。   例えば,こんなケースがあります。別居親が子どもの養育に責任を負わず,そのために同居親と子どもが貧困に陥っている,あるいは子どもの成長発達にマイナスになっているというケース,逆に,同居親が子どもと別居親の関わりを合理的な理由なく妨げているようなケース,それから,別居親が同居親と子どもに対して支配的な関わりをしていて,同居親と子どもの安全や安心が脅かされているというようなケースなど,いろいろな類型があると思います。ある制度の導入を考える際には,それがどのケースに対応しようとするものなのか,また,それが他のケースに対してどのような影響を持つのかということをできるだけ整理しながら議論できればいいなと思っています。社会的関心が非常に高い問題ですので,このような議論ができれば一般にも分かりやすい議論になって,よいのではないかと思っています。   第2は,親権の概念についてです。親権は権利よりも義務の側面が重要だと言われて久しいわけですが,実際には依然として権利としての側面が強調されがちです。例えば,子どもを虐待している親は,自分は親権者なのだから,どのように子どもを養育してもいいだろうと虐待を正当化することもあります。また,離婚後,単独親権者となった親が,親権者でない他方の親は何の権利も持っていないのだからと言って子どもから遠ざけてしまうというケースも見受けられます。こうした誤解が生じないように,親権は子どもの成長発達権を保障するための責任,義務あるいは責務であるということ,そして,現在,権利的側面と呼ばれているものも,その責任を果たすために付託されている権限にすぎないのだというメッセージを,しかるべき方策で発していく必要があるのではないかと思っています。   最後は,子どもの意見表明権についてです。子どもは自分に影響を及ぼす全ての事項において,自由に意見を表明して,それをしかるべく考慮してもらうという権利を持っています。父母の離婚に際して,子どもの養育に関する事項を決めるに当たりましては,子どもの利益を最も優先して考慮するとされていますけれども,この子どもの利益も子どもの意見抜きには考えることができません。子どもの手続代理人,先ほど申しました裁判手続の中の子どもの代理人ですけれども,その経験からしますと,子どもが自分の意見を言って,大人がそれをしっかりと聴いた後にしか子どもの利益は実現され得ないと言っても過言ではないと思っています。これは,同じ結論にたどり着くとしても,それが子どもからきちんと意見を聴いた上でのものであるか,それともそうでないのかによって,子どもの納得感も異なりますので,子どもにとって意味合いが大きく異なってくるからです。また,大枠では同じ結論に見えても,子どもの意見を聴くことによって,例えばお父さんと暮らすか,お母さんと暮らすかというだけではなく,誰とどのように暮らすのかといった,より具体的で豊かな結論になるという可能性もあるからです。   現在,家庭裁判所での離婚や子どもの養育をめぐる事件では,家裁調査官による子どもの意向調査などが行われています。しかし,先ほど来申し上げています,子どもが主体的に手続に参加して,子どもに弁護士を付けて,弁護士を通じて子どもが意見を言っていくという子どもの手続代理人制度の活用は,いまだ十分ではないと思います。今後,父母の離婚後の養育の在り方を考える上では,裁判所の手続での子どもの手続代理人制度の一層の活用に加えまして,裁判所の外,つまり協議離婚ですね,の際の子どもの意見表明権の保障といったことも視野に入れて考えていく必要があるのではないかと思います。   なお,その検討に資するため,子どもの手続代理人の実務についてのヒアリングができればと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございました。親権概念,あるいは子どもの意見表明権について御意見を頂きました。子どもの意見表明権については,手続代理人についてのヒアリングをという御要望も頂きました。それから,進め方について,ケースの類型化というか,あるいは,何を対象にしているかということを明確にする必要があるのではないかという御意見を頂きました。それとの関連で,この問題は,先ほども御指摘がありましたけれども,非常に社会的な関心の高い問題ですので,外部から議論が分かりやすいということが非常に重要なことだと思います。その点についても御指摘があったと理解をいたしました。ありがとうございます。 ○窪田委員 窪田でございます。今日は委員,幹事の方々の御意見を伺いながら,申し上げる必要もないのかなと思っていたのですが,今,親権の概念の話も出ましたので,こういうふうに議論ができたらいいなということだけを簡単に申し上げたいと思っております。   今回,資料1の第2の1(2)離婚後の子の養育の父母の関与,態様についてという形で法務省でまとめていただいていますが,この部分は,ともすると離婚後共同親権を認めるか,認めないかという形での議論として扱われがちであった部分ではないかと思います。そうした議論にならないような形で議論ができたらいいなというのが私自身の希望ですし,また,この資料でもそういうニュアンスが出ているのだろうと思います。   そのことを少し確認しておきますと,先ほども原田委員からも触れられていましたが,親権という概念については,パッケージとして親権という概念を認めるのかどうなのか,これはそれほど普遍的な話ではないのだろうと思います。ですから,外国との比較で,日本のような形の制度ではなくて,離婚後共同親権が普通だといっても,そこで,本当に親権という概念を持っているのかどうなのか,あるいは親権という概念に類似するものを持っていても,それがどこまでの範囲を射程としているのか等々,随分違いがあります。今言ったような形での大ざっぱな議論はある意味で分かりやすいのですけれども,避けていくことが望ましいのだろうと思っております。そのためには,親権の内容とされている部分についても,やはり個別に具体的に分けていって,そして,この部分に関してはこういう行き方が望ましいのではないかというのをもう少し丁寧に見ていく必要があるのではないかと思います。   そして,それとの関係で,資料1の4ページの(4)子の養育に関する法的概念の整理についてという点についても,これは分かりやすく法律家以外の人に啓蒙的に概念を教えてあげるといった,そんな趣旨ではなくて,むしろ,ここでこういうことを検討していくにはこういう概念がやはり必要なのだとかということを,作業していきながら,それを明確にして伝えるということが必要なのだろうと思っているということです。   ごく簡単でございますけれども,以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。資料に即した形で2点,御指摘を頂いたかと思います。3ページの(2)については,共同親権の是か否かという形でない議論の仕方があるだろう,その際には,親権という形で各種の権能をセットで考える必要は必ずしもないということも考慮に入れる必要がある。そうしたこととの関連で,4ページ(4)について,親権概念その他を整理するということですけれども,これまであるものを整理するというよりも,この議論の中で新たに位置付けをしていくということが必要ではないか。こうした指摘かと思って伺いました。 ○久保野幹事 幹事でございますが,発言を失礼させていただきます。今,親権法の在り方という御発言がございましたので,少し関連する感想を持っていましたので,発言をさせていただきたいと思いました。   まず,私は,先ほど自己紹介をさせていただきましたとおり,民法という分野を専攻していますけれども,立法との関係では,今回の参考資料1−8の研究会に参加させていただいていたのと,平成23年,2011年の親権法改正のときに研究会と法制審に参加しておりました。また,児童福祉法の改正に関わる検討会に参加させていただくというようなこともございます。そのような背景でございますけれども,親権法についての大きな視点の観点から一つと,あと,細かい点で少し気になっている点を3点,述べさせていただきます。   大きな点なのですけれども,平成23年改正というのも,もちろん子の養育についての法改正でありましたけれども,一般的規律の検討というものはできなかったわけでございまして,子の養育に関して一般的規律の検討の機会がこのように設けられているということ自体に非常に大きな期待を持っております。   やや具体的に言いますと,平成23年というのは児童虐待防止に向けたという社会的問題に規定された検討であったわけでありまして,その点のある種,限界があったと思っています。実際に実現した改正は,既に理念的には子の利益のための親権に舵を切るものだったと思っておりまして,具体的には親権喪失の要件が,親権者の行為態様ではなくて,子の利益の観点からの基準に変えられたりですとか,820条に子の利益と入るなどしたという意味で,無視できない大きな意味を持っていたと思っているのですけれども,しかし,先ほどの制約があって,一般的に親権法ですとか子の養育に関する法を全体的に見直すということには至らなかったのだと思っています。そういう意味では,特別養子制度についての改正もやはり目的による制約があったのだろうと思っています。今回,子の利益に立脚した親権法というものを実現していくための重要な一歩になるのだと感じているところです。   その観点から,一つの視点としまして,必ずしも離婚というものに関連付けることだけではなく,より一般的に,子どもの養育ですとか親権行使に課題が生じているときに介入していく,しっかり法的に対応していくということについて,手当てができるということが大事ではないかと思います。もちろん前提としまして,先ほど,観念的にするのではなくて,具体的にどういう問題が生じていて,先ほどの小学校のようなケースにどう対応するかといったようなことを想定しながらということではありますけれども。   それで,今回,参考資料1−4を見ますと,外国では離婚のときに子どもの養育について決めるという必然的な結び付けというのはもうなくしている国も多いと紹介がありまして,それは私の理解によりますと,子どもの利益について問題が生じたときに的確にルールに基づいて介入するべきなのであって,離婚のときにというのは必然ではないというような発想なのだろうと思うのです。ただ,それはやはり柔軟に,問題が生じたときに親権行使なりに介入できる枠組みがあるからこそ,そういう制度にできるのだと思いますので,その点の一般的な親権行使ないし子の養育に関しての問題を解決する枠組みを作っていくということの重要性というのが,視点として申し上げたいことでありました。   この関係では,資料1の第2の1(4)の概念のところも大事だと思いますけれども,766条というものの位置付けが,766条は日本の民法の場合,離婚の章の中に入っていまして,親権の章には入っていないということをどう考えるかという辺りも,議論できるといいなと思っています。   あと細かい点で3点の方なのですが,一つが,養子との関係では,是非,連れ子養子について検討できるといいと思います。これこそ父母の婚姻状態との関係で子の立場が左右されるというものになっていると思いますので,しっかり議論ができたらなと思います。   2点目が,先ほどから,家族の中の暴力の問題に社会が関与していく必要性について指摘がありますけれども,児童保護法制で対処すべきものですとか,親権制限をしっかりやっていくべきケースといったものについては,先ほどから,どのようなケースを念頭に置くかということで議論されているものの一角ですけれども,そのような対処をしていくべきものというのはしっかり振り分けてと申しますか,児童保護法制等の枠組みでの介入の可能性も視野に入れて,一般的な親権の在り方を考えていきたいというふうに,2点目として,思います。   最後に,3点目ですが,養育費について先日,家族,社会と法学会というところでシンポジウムがありましたときに,生活保護との関係が実務家の方を起点に様々議論されておりまして,どこかの段階で社会保障法制との関係で御意見等を伺える機会があると有り難いと思います。   以上です。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。大きな検討の方向について,平成23年,2011年の親権法改正との関連で,あのときには,御指摘があったように,児童虐待関連の親権法の改正を行うということでしたが,今回はそのような制限なしに,より広く,さらに,離婚に限定することもない形で議論できたらよいのではないかという御指摘を頂きました。個別の問題については,連れ子養子の問題,それから,他の関連領域との切り分けないし協同といったことについて御指摘を頂きました。児童保護法制ですとか社会保障の問題ですね。社会保障などについては,少し御意見を頂くこともあるべしといった御指摘があったかと思います。ありがとうございます。 ○小粥委員 小粥でございます。議論の進め方に関わるようなことについて二つと,それから,具体的な問題について,二つ,申し上げさせていただきます。   一つ目は,親権についての問題の議論の仕方でございますが,先ほど窪田委員がおっしゃったとおり,今まで親権という名前の下で議論されてきたことを分解して,一つずつ具体的に議論するということは非常に重要だと私も強く共感を覚えたところでございます。それが一つ目。   二つ目は,参考資料1−8にある報告書の中身にも関わるところでございますけれども,多様化する離婚後の子の養育の考え方があるということを尊重してのことだと思うのですが,特に,報告書では離婚後の子の養育の在り方について当事者の選択に委ねるというようなことが,いろいろなところでそういう考え方が示されております。これは多様性を尊重する,あるいは画一的な法の押し付けを回避するという点では非常に評価すべきところだと思いますが,他方で,当事者の選択に委ねた場合に実際にどうなるのかと,当事者の利害が一致するとは限らない,むしろ一致しない方が普通だと思いますが,そういったときに選択に委ねるという立法政策がどのような帰結をもたらすのかというようなことも考慮に入れた上で,丁寧に粘り強く考えて,よりよい立法に向けた議論をすることが必要ではないかと,それが2点目でございます。   つぎに,各論ですけれども,一つ目は親権に関わることでございまして,この報告書の中身の親権概念,やはり決定権限とか決定権に関わるものが中心で,やや薄いのではないかと。つまり,様々な問題が親権の名の下で議論されますが,やはり監護教育の面の実質的なところが何となく,抜けているとは言いませんけれども,実際に親がこういう苦労をしているという面が,職責の部分ですね,義務と申しますか,そこの辺りがやはり報告書では薄いという感じがしまして,せっかく親権を分解して問題を検討しようとするときに,出発点がやや小さくなっているような印象を受けますので,問題を整理する際に,出発点は広く取った方がいいのではないかという印象を持っております。   各論の二つ目,最後になりますが,養育費について,細かいですけれども,気になることとして,養育費請求権の債権者は誰かという問題を改めて確認した方がよいのではないかと。実務的には,親権を持つ親が請求権者になっていることが多いとも聞きますけれども,これを子の権利であると,債権者は子だとしなければ,なかなか履行確保策,あるいは執行を強化するという政策を強く後押ししていくことは難しいのではないかという印象を持っております。この点は,養育費の問題を検討する際,とにかく強くしていくというだけではなくて,そもそも出発点として,養育費の債権者は誰かということを改めて丁寧に,窪田委員の最新の教科書ではそのことに触れておられたと思うのですけれども,トピカルな問題ではないかとも思っています。 ○大村部会長 ありがとうございました。進め方について,親権については分解をして具体的に議論をする方がよい,ただ,報告書で扱われている親権の概念はやや狭い,あるいは薄いのではないかという御指摘を頂きました。それから,多様化に対応するために,当事者の選択に委ねるという考え方が出されているけれども,選択に委ねた結果どうなるのか,先ほどインセンティブの問題についての御指摘がありましたけれども,制度を作ったらどうなるのかということについて考えておく必要があるだろうという御指摘をいただきました。最後に,養育費の性質を明らかにする必要があるのではないか,債権者が誰かということがありましたけれども,扶養請求権との関係とも絡むような問題があるのではないか,その点を考えないと請求権の強化も実現しにくいのではないか。このような御指摘を頂いたと思います。 ○石綿幹事 2点ございます。一つは議論の進め方について,もう一つは,検討事項に関連するかと思います。   1点目は,子の利益についてです。冒頭に沖野委員がおっしゃったように,今回の法制審というのは子の利益の実現という目的意識が強いものだと思いますし,また,今までの議論からも,委員,幹事の先生方の中で子の利益を重視していくことについては一致するのではないかとは思います。しかしながら,具体的にどのような制度を考えていくかということになりますと,子の利益を重視するということは共通していても,例えば,部会資料1の第2の1,2で挙げられているような制度,特に離婚後の父母と子との面会交流や離婚後の子の養育への父母の関与については,様々な見解があるのではないかと考えられます。立場が分かれる理由を考えてみると,想定している子が置かれている状況についての認識が異なること,何が子の利益なのかということの認識が様々であること,子の利益を短期的に考えていくのか,長期的に考えていくのかということ,また,そもそも子と一口に言っても,年齢の幅がございますので,どのような子を念頭に置くかということ,これら様々な点が,見解の相違を生むのではないかと思います。   細かく場合分けをするということは,最終的な立法を考えると現実的ではないと指摘される面はあるかとも思いますが,両親の関係性や子どもの状況について,ある程度の場合分けをした上で議論していく,どのような子について検討していくのかという点を明確にして議論していく,ということも必要なのではないかと思います。   さらに,運用を考える際には,子の利益をどのように判断していくのかということも重要な視点になっていくかと思います。オーストリアなど諸外国の立法のように,子の利益の考慮要素を明示するということまでは難しいかもしれませんが,どのようなことを子の利益の考慮要素と考えていくのかということを検討していくということも必要なのではないかと思います。  子の利益というのは,今回の議論の重要なキーワードになると思いますが,抽象的に用いていくだけでは議論を空中戦にしてしまう可能性があるワードではないかと思います。具体的にどのような子の利益を考えているのかということを意識しながら議論等ができれば,より建設的な議論になるのではないかと思っています。   2点目ですが,久保野幹事の御発言とも関連しますが,その他の検討事項として,特に両親が離婚を前提に別居を開始したような場合の子の養育についての検討も必要なのではないかと考えております。両親が別居を開始するというのは子どもの生活状況や経済状況について一定の影響を与えるのではないか,場合によっては,両親が離婚する時点よりもその影響は大きいのではないかと思います。そこで,両親が離婚を前提に別居を開始したような場合における,養育費や面会交流など子の監護についての必要な事項の取決めの在り方,両親の子の養育への関与の態様について検討していくということも必要なのではないかと思います。しかしながら,別居という概念をどのように確定していくのか,夫婦の間にどのような状況があれば別居と判断することができるのかということ自体が難しいと思いますし,仮に民法に別居概念,あるいは,これと類似する考え方を導入した場合,嫡出推定など他の制度に影響を与える可能性もあるかと思います。このように難しい問題もございますが,可能でございましたら,適宜の場所で検討する機会があればと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。大きく分けて2点,御指摘いただいたかと思いますが,一つは,子どもの状況とか子どもの利益ということが言われますけれども,それを分節化,類型化して議論するということが議論をかみ合わせる上で重要ではないかという御指摘だったかと思います。議論がうまくかみ合うような工夫が必要ではないかというのは,複数の委員,幹事から御指摘を頂いているところでございますので,十分に注意をしていきたいと思いました。それから,もう一つは,大きく捉えてどういう場面を考えるかということで,離婚後ということに焦点を合わせているわけですけれども,別居時というのも考慮に入れる必要がある。先ほど,赤石委員だったでしょうか,婚姻外の非婚の場合も視野に入れる必要があるのではないかといった御指摘もありましたし,久保野委員からは,離婚に限らず,婚姻継続中も含めて,広くその問題を捉えるべきだという御指摘がありましたが,それに通ずる御意見として承りました。ただ,別居ということになりますと,別居概念をどうするのかということがあって,これは御指摘のように,嫡出推定を始め,家族法上の他の問題と関わるところもございますので,別居を取り出して何か規律をするということになるのならば,その辺りの整理も必要だろうという御指摘も頂いたところかと思います。 ○杉山幹事 幹事の杉山です。これまで大きな視点からいろいろ御意見があったと思いますが,私自身の専門が民事手続法であるということと,加えまして,参考資料1−1にございます養育費不払い解消に向けた検討会議に関わらせていただきましたので,本日は,特に養育費の支払いの実現に向けた手続,特に裁判手続に向けて検討すべきと考えている課題について,少し細かな点になりますけれども,簡潔に述べさせていただきたいと思います。   ただ,これから申し上げることは面会交流の実現にも共通する点があると思いますし,他方で,先ほど御指摘があったような,国からの給付,立替えとか,あるいは社会保障との関係については,本日はコメントを控えさせていただきたいと思います。   先ほど小粥委員から御指摘がありましたけれども,手続を考えるに当たりまして,養育費請求権の民法上の位置付け,法的根拠,額や期間などが必ずしも明らかでないという問題がこれまで指摘されてきておりまして,今回の会議ではっきりさせていくことが望ましいと思っています。他方で,権利主体を誰と構成するのであれ,出発点といたしましては,子どものための権利であり,公益性が高いということの認識は共通にすべきであろうと思っております。そのような視点に基づきまして,調停などを中心とした債務名義の作成過程とその実現,強制執行の手続における裁判所と行政機関を含めた公的機関による支援の充実化,公的機関の間の連携の促進へとつなげていくべきものと考えております。この辺り,水野委員も御指摘されたことであると認識をしております。子の利益に直結するものでございますので,より後見的な手続を作っていくことも検討に値すると思っております。   具体的な課題を幾つか挙げさせていただきますと,まず,養育費の取決めや債務名義の作成場面におきましては,保全処分などの活用も必要ですけれども,その作成手続を迅速化するということが重要な課題であります。そのためには,手続のリモート化,ウェブ会議の活用なども考えられますし,さらには,実務上大きな問題として指摘されております債務者の住所や財産情報の入手,これが容易になるような手続の構築が必要であろうと考えております。現在でも調査嘱託などの制度もございますけれども,その活用も含めた裁判所と行政機関との連携が不可欠であろうと思っております。他方で,債務名義が自動的に作成できる議論というものもございますが,債務名義の作成に当たりましては,義務者の手続保障が非常に重要になってまいりますので,それをあまりに軽視した制度を構築することに対しては慎重であるべきと考えております。   債務名義の実現や強制執行の手続に関しては,養育費の債権は担保のない少額の債権を定期的かつ長期にわたって回収しなければならないものでありまして,そのような特殊性を有するがために,民事執行法の改正もこれまで行われてきましたが,実際には強制執行手続は執行方法とか,債務者の財産の特定,裁判所の管轄の特定など,非常に専門性が高い手続でありますし,債務者の住所が分からない場合,執行財産の特定ができないとき,あるいは回収が困難であるときなどもあると,必ずしもこのような特殊性を有する債権者にとって使いやすい制度ではなかったように思います。原田委員から御指摘があったと思いますけれども,弁護士に依頼すると,弁護士費用がかなりかさみまして,養育費そのものが目減りするという問題もございます。そのため,権利者自身が自ら債務名義の取得のみならず実現まで一人でできるような仕組みを整えていく必要はあると思っております。簡易な申立てを可能として,その後,債務者の住所地や財産の特定等,裁判所が主導しながら行っていくような,ファストトラックを作っていくのが望ましいと思っています。   ただ,翻って考えてみますと,幾ら手続を簡素化,迅速化したといたしましても,前に申し上げましたように無担保の一般債権であることから,債務者の財産が十分でない場合とか,ほかに競合する債権者がいるときには,救済としては不十分であるという限界はあると思います。つまり,実体法上,優先権がない以上は,回収にも限界が出てくるところでして,このようなものを付与するのが適当であるのかどうかも踏まえて検討していくことはあり得るのではないかと思っております。   少し細かな点になりまして恐縮ですけれども,今課題と考えていることについて述べさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。養育費の支払いを確保するための手続的な工夫について御意見を頂きました。債権の性質,債権者が誰であれ,公益的なものを持つであろうという点は共通だという御指摘を頂きました。裁判所と公的機関の連携ということについては,複数の委員,幹事から御指摘を頂いたところとも重なるかと思います。手続に固有の問題としては,迅速化,簡素化が必要である,しかし,他方で手続保障が果たされる必要があるという御指摘も頂きました。現に存在する民事執行法上の特則については,少額の継続的,長期的な債権の取立てについての規定が必ずしも実効的ではないのではないかというような認識を示され,それに代替する,あるいはそれと並ぶ手段を考える必要があるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。民事の実体法の問題も重要ですけれども,権利を実現するという場面では,手続法的な対応ということもとても重要になってまいりますので,手続法の先生方には今後も,是非御意見を賜れればと思っております。 ○菅原委員 私は,心理学なのですけれども,中でも発達心理学で,更にその発達心理学の中でも,比較的新しい領域で発達精神病理学という長ったらしい名前の学問領域におります。この領域は,発達心理学と,それから児童精神医学ですね,これがクロスしたところで,その子どもが心身ともに健康に育っていくには何が必要かという環境的な要因を洗い出していくというところが大きなミッションになっている領域です。この領域で,夫婦関係とか,またその葛藤とか破綻というのが子どもの長期的な,短期的な,中期的な発達,健康にどういうふうに影響するかというのは,意外に新しいテーマでございまして,1980年代にテーマに上がってきております。海外を中心に研究は進んでおりますけれども,2000年に入りまして,かなり海外は長期的な追跡研究というのがたくさんございますので,それがやはりDVと貧困とか,様々な問題とクロスして,非常に重症度の高い問題にまで発展した場合には,小児期逆境体験というすごい名前が付いているのですけれども,高齢期に至ってまで様々な心身の機能に悪影響を及ぼすということが今,大きなテーマになっております。世界中で多くの研究が進んでいるところです。   こうした文脈の中で,この夫婦間葛藤の問題というのもたくさん研究が海外を中心に進んでいるのですけれども,一つ,今のところはっきり分かってきていることとしましては,子どもの心身の発達,それから子どもの心の安定というところで最も大きなものは,協力的な共同養育であるということで,親権とかそういうシステムというのも大きな問題なのですけれども,どのようなシステムであれ,どのようなペアであれ,その中で親が高葛藤を何とか解決する方向に向かっていて,そして,その中で協力的に共同で自分に関わってくれる,その質,クオリティがすごく重要で,何か回数とかそういうものは,いろいろな研究があるのですが,余りクリアには出てこなくて,やはり高葛藤を何とか,大変なことなのですけれども,様々なサポートを得ながら,高葛藤が沈静化していって,お父さんもお母さんもそれぞれそれなりに幸せに落ち着いていって,そういう中で初めて子どもの心の安定というのが得られるということがよく分かってきました。もう一つは,貧困の問題が子どもの心身の発達に,というのも,すごくたくさん子の発達精神病理学では検討されていて,貧困が大きなネガティブ要因であることも明らかになっています。   ですので,こうした夫婦間葛藤の問題というのは,現実のケースの中では,ずるずると時間の流れの中で,条件が悪くてサポートがないと進行していきます。ですので,やはり貧困があり,それから,夫婦間の葛藤があり,それから,親がメンタルダウンして,そしてペアレンティングが劣化して虐待に至る,そのような中で,子どもはやはり離婚前,渦中,離婚後,またその影響を受けていくということが分かってきています。ですので,個々のケースを考えていただくときにも,事態の深刻さというところも一つ重要なことだろうと思います。   二つ,今回の議論の中で取り上げていただきたいと思っていることがございます。一つは,先ほどどなたかおっしゃってくださいましたけれども,子どもといっても非常に年齢幅が広くて,本当に胎児から17歳11か月というか,さらにもう少し,いろいろな意味では,大学生みたいに親の養育に経済的に依存せざるを得ないところまで含めて,非常に年齢の問題は多様です。特に低年齢のところでは,誰が子どものベストインタレストを代弁してくれるのかというのは大きな問題になります。また,今ざっくり15歳というところに線引きがあったりしますが,実際に子どもはもっと低年齢から自分を客観化する能力も育っていますので,この年齢をカウントした上で,誰が子どもの利益というのを代弁してくれるのかという問題は非常に重要だと思っています。   やはり,特に今お話しした深刻なケースは,調査というところがすごく重要になってきますので,そういうようなことが今の家裁のシステムの中だけで調査が十分できるのかというのも,私も家裁の様々なお仕事に関わらせていただいている中で,非常に大きな限界だと思っております。大きな社会的な資本が動くことが必要であろうと考えています。   最後ですが,すみません,そうはいっても私たちが見聞できるのは,今,本当に10%の,家裁に関わったり裁判まで行ったケースであって,90%の協議離婚のケースが一体どうなっているのかというのは,やはり日本では本当にアンノウンになっています。ですので,諸外国の研究では,やはり,かなり離婚ということが厳しくて,いろいろなところに申請しないとできないようなところでは,調査も進んでいるのですけれども,この90%の協議離婚の実態,その中で子どもの生活や経済や心理がどうなっているかということの実態は,やはり把握する必要がすごくあるなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。最近の調査の結果などを御紹介いただきまして,協力的な共同養育ということの重要性,それから,貧困というものが果たしているネガティブな影響などに留意する必要があるということで,子どもの年齢の違いということについても十分に考慮に入れる必要があるだろうといった御指摘を頂きました。それから,協議離婚について,これも複数の委員,幹事から御指摘がありましたが,なかなか実態が分からないところがありますので,これについてどうするかというのが一つの問題になってくるだろうという御指摘だったかと思います。さらに,家裁の調査をどうするのかという問題提起もあったかと思います。   ほかには御発言,いかがでしょうか。 ○佐野幹事 もう大分,今まで出たこととかぶるのですけれども,お話しさせていただきます。   私は弁護士でして,扱っている事件の割合としては割と家庭の問題が多い感じです。ただ,離婚に関しては夫側,妻側,両方から関わっているという状況です。やはりいろいろな家族のパターンが出てきていて,なかなか一定のパターンにははまりにくくなっている,というのは実感しているところです。また,弁護士登録以来,弁護士会でやっている子どもに対する相談活動もずっと続けてきています。   そういう中で,少しかぶっているところははしょりますが,今までの意見に賛同という意味で簡単にお話しさせていただきますと,まず,私は仕事柄やはり高葛藤事案ばかりを見ているというところがありますので,そういった意味では8割,9割を占めている協議離婚のカップルがどうなっているかという実情が見えていないというのは自覚しております。そういった意味では,議論を進めていくに当たり,やはり協議離婚の実態調査というのは必要不可欠,それを早くやっていただく必要があるのかなと思っています。   もう一つ,この辺は進行に関してなのですけれども,養育費の回収に関する執行手続などの部分については,やはり実際多くやっている先生の話などを聞くと,実際,集中的にそういった事案を扱わないとなかなか見えてこないところというのはあると感じました。例えば,送達の回数とか,それに掛かる時間とか,あと添付書類の問題とか,そういったようなところも御指摘されていて,そういったところはどこかパイロットで集中的にやるような形で問題を吸い上げるということもあり得るのではないかと感じています。生活保護法77条の扶養義務者の費用徴収などをどこかの自治体で集中的にやってもらって,問題をピックアップすることなどが検討できないのか,というようなことも考えたりしました。   それから,共同養育をできるのかできないのか検討するに当たり,やはりスクリーニングですね,当該家族の力学がどういうふうになっているかというのをきちんと正確に把握するということがどうしても必要になってくる。それは,ある意味,後進といえる日本ですので,海外の実態というのが非常に参考になるかと思うのですが,今まで法務省の方でも海外調査はやっていらっしゃるけれども,やはり少し包括的で,また,かつ韓国,オーストラリアなど直近の動きも激しいところでもあります。DVに関しては,先ほど御紹介がありました内閣府の専門調査会で出した調査というのもざっと見ましたけれども,こちらもDV対応というのは海外の調査をされているようなのですけれども,それが実際,離婚になったとき,それをきっかけに離婚ということもあるかと思うのですけれども,そこにどういうふうに離婚手続にリンクしているのかというのがなかなか見えてこないなというところがございます。必要な事項をピックアップした上で整理して,その項目について重点的に実態と法制度とを調べるといったことも必要なのかもしれないと感じています。   それから,資料1に関する意見ですけれども,先ほども棚村先生とかがおっしゃっていましたけれども,ここでは法律を検討するのですけれども,やはり私たち実務をやっている感覚からすると,どれだけ当事者に対する支援が用意できているかによって,どこまでその当事者に法律で求めることができるのかというのが全然違ってくると感じています。面会交流などは特にそうだと思いますけれども,実施を原則にしたところで,支援機関がないとなると,子どもがきついだけですので,そういった意味では,是非ここで支援のことも一緒に検討していただきたいと思います。   また,これも家族支援の在り方ではあるのですけれども,手続法も絡むと思いますが,裁判所に来るような事案では,家庭裁判所と家庭支援機関,行政機関の連携が必要不可欠ですし,例えば私は市区町村の子ども家庭支援にも関わっておりますが,最近,市区町村も子ども家庭支援という点ではかなり力を付けてきていて,行政のレベルで当該家族の力学について,かなり情報を持っています。司法と行政両方リンクしていれば,支援と情報とをきちんと把握できると思うのですけれども,それを結び付けるようなシステム,それは法的な枠組みをどうやってそこをサポートしていくかというところかなとも思いますけれども,そういった視点からも見ていく必要はあるかと思っています。   さらに婚外子の問題,実際,夫婦別姓の必要性から事実婚形態を採っている夫婦というのもあるわけであって,その子に対する共同養育というのはどういうふうに考えるかという問題もあるかと思います。   あと,実際子どもを支援していると,両親が,どちらかが子どもの利益を考えていただけるのだったらいいのですけれども,両方ともそうではない,そのために子どもがどうしようもないところに落ち込んでいるようなケースもあるわけなのです。そういった場合は,その子どもを支援するために,子どもの側から法的な手続をとっていかなくてはいけないということがあります。そういったときに,子どもの監護に関する処分とか,親との利害相反の場合の特別代理人の選任の申立権者に子どもが明記されていないというところで,手続が進まないという場合も出てくる。それから,父母以外の第三者が子どもを見ているような場合に,その第三者に対して監護者指定をする必要がある場合も出てくるということがあります。そういった意味で,申立権者という辺りも少し範囲に入れていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。たくさんの御指摘を頂きました。調査やヒアリングが必要だという御指摘はこれまでにも出ておりますけれども,協議離婚については,何人かの方々から出ているように,実態を知る必要があるだろう,それから,養育費の執行状況について,どこかにデータを集中的に集めるようなことはできないだろうか,共同養育についての海外調査についても,もっと立ち入ったもの,新しいものが欲しいといったような御要望を頂きました。考え方については,これも出ているところですけれども,法制度,家族の実態に関わる規範と,支援制度の関係,裁判所と行政機関の連携といったことについての御注意があったと思います。婚外子も視野に入れるというのは,これは複数の方がおっしゃっているところです。申立権者の問題についても議論をしていただきたい。こんなことだったでしょうか。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○青竹幹事 大阪大学の民法を担当しております青竹と申します。既にもう先生方がおっしゃったことで,付け足すことは全くございませんけれども,賛成という意味で3点,御発言させていただきたいと思います。   一つは,親権の名称変更の点なのですけれども,離婚後も,原則としては親が子の養育に関わるという観点からは,それからまた,親権は親の権利ではなく義務であるという側面が強いというのは共通認識ですので,これを分かりやすく伝えるという観点から,やはり親権を親義務とか,親責任,親責務ですか,そういった義務の側面が分かりやすい用語に変えるべきであるということを支持したいと思います。   二つ目に,検討の範囲の問題ですけれども,子のための法制度,政策を実現するといった広い観点からは,これは離婚に関連する制度の見直しというテーマの中では中心的ではないようにも見えるのですけれども,先生方が御指摘されているように,未成年養子についての検討も重要ですし,また,婚外子にも広げて検討するべきではないかと考えております。   三つ目に,これも実態調査,現場の声が必要ということを先ほどから多くの御発言がありますけれども,これは議論の方向性に大きな影響も与えますので,議論が熟したときというのではなく,早い段階で実態調査を検討した方がいいのではないか,こんなふうに考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。親権の概念あるいは用語については,様々な御指摘を頂きましたが,用語を改める方向で考えるべきではないか。それから,検討対象については,婚外子,非婚の場合を視野に入れるとともに,未成年養子についてもやはり考えたい。最後,これまでに実態調査とかヒアリングとかいうような話が出ておりますけれども,早い段階でやった方が有益であろうという御指摘を頂きました。   ほかに御発言,いかがでしょうか。委員,幹事の方々で,まだ発言をされていないが発言したいという方,あるいは関係官庁や裁判所の方々で,さらに,1回発言したけれども補足したいというような御発言がありましたら,伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○今津幹事 東北大学の今津でございます。私は手続法を専攻しておりますので,その立場から発言をさせていただきたいと思います。   先ほど幹事の杉山先生からも御発言がありましたように,手続法の観点から言いますと,養育費の支払いの確保ですとか,あるいは面会交流の実現とか,そういった執行手続の局面でどうしていくかというところに今,関心を持っているところであります。   養育費に関しては,先ほど杉山幹事からかなり詳細なお話がありましたので,私もそこで述べられたことに関心を持っておりまして,そちらも賛成というか,その辺りを議論していきたいというところを思っているのですけれども,1点,民事執行法の改正が近時ありまして,昨年施行されたという状況にありますので,施行後の状況といいますか,新しい制度になって使い勝手がよくなったのか,あるいは,まだ不満足なところがあるのかという点についての,実際の現場で事案に当たっていらっしゃる方の声ですとか,そういったことをヒアリング等の形でお伺いできると,かなり参考になるのかなという気がしております。   それ以外の点として,部会資料1として頂いたものの中に,3ページ辺りにあります子の意思あるいは意見の反映というところですけれども,資料の中には主として実体法的な側面から記載されているようですが,4ページの(注2)にもありますように,手続法の側面からのアプローチということも現状でも一応されていると。ただ,ここにある家事事件手続法の制定の際にも議論がされた子どもの代理人というような制度について,その必要があるのかどうかという点も含めて,これも実際に使い勝手といいますか,現行の制度では少し不満足だというような声があれば,その辺りも見直しが必要だろうと思いますので,実体法的に子どもを権利主体にするかどうかという問題と,それから,手続の中でどういうふうに扱うかという問題を併せて検討していければと思っております。   最後に,部会での議論をどういうふうに進めるかという点に関しまして,頂いた資料でも非常に広範な事項を挙げられておりますので,全てに対応していくというのはかなり大変な作業になるかと思うのですけれども,議論の順番として私が思っているのは,より具体的なところから始めていくのがいいのかなという気がしています。先ほど来出ている,例えば,親権の呼び方ですとか概念をどう考えるかとか,あるいは権利主体をどう考えるかという辺りをいきなり議論の最初に持ってきても,なかなか意見の集約というのは難しいような気がしていますので,差し当たり,抽象的な権利の問題は一旦棚上げといいますか,置いておいて,実際に今,現場で,権利があると,例えば養育費の支払い義務があるとか,面会交流しなければいけないとされたにもかかわらず実現されていないというようなケースについての処理を差し当たり検討していくということの方が,議論のしやすさといいますか,という意味でも適当なのかなという気がしておりますので,そういった方向での議論というのを考えていただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。大きく分けて2点だったかと思いますけれども,民事執行法の改正法の利用状況ですとか,あるいは子どもの意思について,子どもの代理人の使い勝手といったようなことについて,ヒアリング等々で明らかにする必要があるのではないかということと,議論の仕方としては,具体的なところから始めるのがよいのではないか,特に,現在制度があるのにうまく機能していないというところについて,なぜなのかというようなことを考える必要があるという御指摘だったかと思います。 ○落合委員 この親権の概念を変えるというようなことは今回の一つの目玉になるのだろうと思うのですけれども,親の責任とか義務という面が強調されることになるわけでしょうけれども,親の義務というのが独り歩きすると,それはそれでまた危険を感じますので,先ほどから,法的な責任と社会的な支援というのはセットでというようなことが何人かの方からも出ていますし,私も国の責任というようなことを申しましたので,それが必ずセットで議論されていくようにというのを少し強調しておきたいと思って,申しました。   もう一つ,どなたからも出なかったので,一応最初に言っておかなければいけないかなと思ったのが,夫婦というか男女共同での子育て,親が両方関わる子育てというようなことを,男女共同参画ということから,推進しておりますよね。そうすると,共同親権とか養育費のこと,面会交流のことというのは,それと関係して出てくるわけで,にもかかわらず,いろいろ難しいところがあって,ということだとは思うのですけれども,まず,その基本的な方向,男女共同参画ということから導かれる,両方が関わって当たり前なのだけれども,というところは押さえておかないといけないと思いまして,言わずもがななのですけれども,発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。2点御指摘を頂いたかと思います。親権の義務性を強調するということで,義務という言葉,あるいは観念が独り歩きしないようにという御注意を頂いたかと思います。支援と組み合せてということが常に大切である。それから,基本的な考え方としてということでおっしゃられたかと思いますけれども,親が双方関わるというのが出発点だということを考えるべきだという御指摘を頂きました。   ほかには御発言,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。まだ時間があれば,皆様さらにおっしゃりたいことがあるのかもしれませんけれども,おおよそのところ,皆様の問題意識などを伺うことができたかと思います。全体の方向性,議論の進め方について様々な御意見がありました。どういう範囲で何から議論するのかというのはなかなか難しいところがございますけれども,それとは別に,実態調査の必要があるということですとか,当事者や現場に近い方々の意見を聴く必要があるというような御指摘が共通にあったかと思います。   事務当局の方で,今日,皆様の御意見を聞いて,この先どうするのかということについてお考えがあれば伺いたいと思いますけれども。 ○藤田幹事 皆様,御意見ありがとうございました。まず,この調査審議のために実態が分かる資料をという御意見を複数いただきました。本日,参考資料1−3として未成年時に親の別居,離婚を経験した子に関する実態調査結果資料を提供しておりますが,このような実態に関する資料の追加について,関係省庁とも連携して検討し,皆様にお届けできればと思っております。具体的には,本日にかなり御意見が出ました協議離婚の実態であるとか,今回の検討テーマに関わる未成年養子あるいは財産分与,こういった実態に関する調査について,できるだけ早く検討して,議論に使っていただければと思っています。まずは,その点の報告でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○赤石委員 調査のことで少し意見を述べさせていただきたいのですけれども,今発表されています未成年時の親の別居,離婚を経験した子に対する調査でも,もう少しクロス集計などをするとはっきり傾向が出てくるとか,分かる実態があると思うのですが,それをやれるようなローデータを委員で希望者には頂けるのかとか,そういったところを少し御確認いただければと思います。すごく時間のない中で取りまとめていただいているかと思うのですけれども,先ほども私も申し上げたところもありますけれども,まだまだ分析が必要な点があるかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。どういう調査が出てくるのかということとも関わると思いますけれども,委員,幹事の方々にどういう形で利用していただけるのか,検討していただければと思います。 ○赤石委員 生データがないと,これ以上のクロスで傾向を言えないと思うのです。 ○大石委員 追加なのですけれども,この調査や,本日の資料についても多分,ホームページに掲載されることと思いますが,この調査が誰を対象として,どのような方法で標本抽出したのかとか,回答者の,例えば国勢調査と比較した場合の学歴ですとか居住地ですとかといった一般的な属性の偏りがあるのか,ないのかといったような点について,ある程度補足していただいてホームページに掲載された方が,一般の方が入手されたときに,より内容を理解しやすくなると思いますので,その点,御配慮いただければ幸いです。 ○大村部会長 ありがとうございます。現在行われている調査,それから,この後まとめられる調査について,赤石委員と大石委員から御意見を頂きました。公表の仕方をどうするのかということと,生のデータにアクセスできるのかという御要望を頂きました。これについて,事務当局,いかがですか。 ○藤田幹事 事務局ですが,いずれも貴重な御指摘ですので,できるだけ早く検討して,その結果をお届けさせていただきたいと思っております。 ○大村部会長 実態調査につきましては,今のようなことで,現在進めているものを更に進めていただくということにしたいと思いますけれども,多少時間が掛かるかもしれません。   他方,ヒアリングをといった御要望も多くの委員,幹事の方々からありましたので,もし御異論がなければ,次回の部会では少し広い範囲の方々からヒアリングを実施したいと考えておりますけれども,その基本的な考え方についてはいかがでございましょうか。 ○棚村委員 先ほど,できるだけ離婚の当事者とか,今回も多分,未成年の子どもたちというか,子ども時代を振り返っていただいて,20代とか30代の皆さんの声を聴くというのは,今まで余りされなかった調査だと思います。これも,親のことはよく分からないということも回答が出たりというのももちろんあるのですけれども,ただ,素朴に子どもたちがどんなふうに感じていて,例えば,両親の対立とか葛藤がどの程度だったかということも含めて,割合とサンプルを,最近は昔と違ってウェブ調査という形で比較的,質問事項とかいろいろきちんと検討すれば,かなり精度の高いというのですか,そういう作業も短期間でできるものが出ていますので,そのような形で是非アクセスをしてほしいということです。   それから,私たちは法律の専門ですので,やはり統計学とか,社会学とか,いろいろな分野の方たちがローデータを,赤石委員がおっしゃったとおり,クロス集計をしたり,いろいろして分析をしたりして,もちろんいろいろな見方があるので,それを評価したり解釈することについてもさまざまな見解の違いみたいなものはあると思いますけれども,そういう形で進めてほしいと思います。   それから,もう一つ,支援団体の方とか,そういう方も含めてということになると,私は兵庫県の明石市で,赤石委員も関わったりしているのですが,非常に積極的な取組を30万人ぐらいの自治体,小さいところですけれども,子どもを核としたまちづくりということで,できそうなところからいろいろな形で支援を広げていこうという取組をしています。面会交流とか,養育費とか,それだけではなくて,無戸籍の人に対する対策とか,いろいろな形で,自治体として身近な住民へのサービス,子どもたちへの支援というのを家庭ぐるみでやろうということで,新聞やメディアでも取り上げられているのですけれども,そこで相談に来られた方とか,されている工夫とか,いろいろなことがあるので,もちろん国や都道府県という大きなレベルでできることと,身近な自治体でできることは限りがあると思うのですが,そういうところの声も聴いて,法制度,あるいは仕組みをどういうふうにしていったらいいかというのを,私たちは検討することによって,より子どもたちに本当に必要な支援が届いていくという議論になるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。調査について,更に追加でウェブでの調査などということも考えられるのではないかという御指摘を頂きました。それから,ヒアリングについては,呼ぶべき人について御示唆を頂いたと思っております。もし次回をヒアリングに充てるということでよろしければ,いろいろ候補の方はあると思いますけれども,事務当局の方で御検討いただいて,最後は私にお任せいただくということでよろしゅうございますでしょうか。   ただ,もしかしたら,事務当局の方から必要に応じて,御関係の委員,幹事の方々に候補者について個別に御相談をさせていただくかもしれません。こういう人が欲しいのだけれども,お知り合いはいないかというような形で御相談をさせていただくことがあるかもしれませんが,そうしたことがあるべしということで,お任せいただくということでよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。 ○原田委員 私も先ほどいろいろなアンケートなんかの分析は,幾つかの視点で違う書き方をしていただいた方がいいと思ったのですが,例えば弁護士会でもいろいろな調査をしているとか,例えば赤石さんのところでもしていらっしゃるとか,各自が持っているデータ,ないしはこういうふうに出されたものを,法務省の方でしていただいたのとは別の形で分析されたものとかいう,資料の提出の仕方というのは,どんどん出していいものか,そういう何かルールがあるのか,その辺はいかがでしょうか。 ○藤田幹事 ありがとうございます。事務局として,各委員から御提出の希望があったものの扱いについて検討し,それについて速やかに御連絡させていただきます。 ○落合委員 調査がない,ないという話になっていますけれども,そんなわけはないわけで,社会学者などはいろいろな調査をしてきているわけですよね。ですから,まずやることはリテラチャーレビューではないでしょうか。今までどのような実態調査がされて,どのような結果が出ているというのを簡単にまとめていく,まずそれをするのが定番だと思うのです。日本についてそれをする,それから諸外国についてもそれをする。ですから,院生ぐらいの人とか,あるいはどなたか分からないですけれども,そういう方に投げてでもいいですけれども,まずそれをしないといけないのではないでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。貴重な御指摘かと思います。具体的なやり方等については,また少し落合先生にもあるいはお知恵を拝借して,文献調査を事務当局の方で考えていただければと思います。 ○赤石委員 ヒアリングというのが,ぼわんとヒアリングというのが出てきたのですけれども,一体どのような目的でこの家族法制部会でやるのか,当事者なのか,子どもや離婚の手続で関わっていらっしゃる実務家,あるいは行政の方にヒアリングするのか,何か少し漠と出てきたのは,もう全部座長に一任してということで出たのか,そこがよく分からなかったので,もう少し言葉を足していただけると理解が進むかなと思います。 ○大村部会長 皆様から御要望があったものにできるだけ応じる形で事務当局には考えてもらいたいと思ってはいますけれども,ただ,様々な御要望がありましたので,それにすぐに十分お応えできるということにはならないのだろうと思います。赤石委員が御指摘のとおり,ヒアリングをやるといっても,何をやるのか分からないということはあろうかと思いますが,取りあえずこちらで考えているようなものをやってみて,なお足らないということであれば,それを踏まえて別途,追加的にやるというようなこともあろうかと思います。事務当局,それで大丈夫ですね。 ○藤田幹事 はい。 ○大村部会長 差し当たり今日の御意見を踏まえて考えられる方にお願いをしてみる,そういうことで,赤石委員,どうでしょうか。 ○赤石委員 お困りなのはよく分かるので,余りあれしてもいけないのかなと思いつつ,選び方によってはいろいろな議論の方向性にも影響いたしますので,何回か足りないところをおやりになるということで,お決めいただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。それでは,取りあえず考えられる方々に御依頼して,期日も決まっているところでありますので,お引き受けいただけるかどうかということも分からないところがありますけれども,可能な範囲で広い範囲で来ていただいて意見を述べていただく,足らなければ再度考えてみるという方向で進めさせていただきたいと思います。   では,ヒアリングについてはそのようなことにさせていただきたいと思います。   その他,何か御指摘,御意見はございますでしょうか。 ○落合委員 ヒアリングは質的調査ということになりますよね。そうすると,その方法論もあるので,ですから,そのサンプリングの方法とか,だから,赤石さんが質問されたことは非常に真っ当だと思うのです,その結果の信憑性というようなことから。ですから,まず頼める方からというのでも出発点としてはいいと思うのですけれども,しかし,その後,質的調査として妥当であったと評価されるようなヒアリングをしないと,やはり少し問題ではないかと思いますので,すみません,少し余計なことを申しました。 ○大村部会長 ありがとうございました。取りあえずやらせていただいて,今,落合委員がおっしゃったような観点から疑義が生ずるということであれば,補正をするといった工夫をしていただくということになろうかと思います。そこもまたお知恵を拝借しなければいけないということになるかもしれませんが,そういう調査に従事されている先生方も複数いらっしゃるのではないかと思いますので,皆様の御意見を伺いながら事務当局の方で準備を進めていただきたいと思います。   落合委員,それでよろしいですか。   ありがとうございます。   ほかに御発言はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,次回の議事日程等につきまして,事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○藤田幹事 本日は熱心な御議論をありがとうございました。   まず,次回の日程ですが,4月27日火曜日の午後1時30分からを予定してございます。場所は第1会議室を予定しています。本日と同様に,お越しいただく形,ウェブ会議の形,いずれでも参加可能です。   また,部会長からおまとめいただきましたとおり,次回は本日の意見交換を踏まえてヒアリングを実施する予定ということにさせていただきたいと存じます。その人選,進め方については,また事務局としても個別に御相談をさせていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,これで法制審議会,家族法制部会の第1回会議を閉会させていただきます。本日は熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。閉会いたします。 −了−