刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第2回) 第1 日 時  令和3年4月27日(火)     自 午前 9時43分                          至 午前11時56分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 検討すべき論点について         2 議論(書類の電子データ化,発受のオンライン化) (1) 書類の作成・発受 (2) 令状の請求・発付・執行 (3) 電子データの証拠収集 (4) 閲覧・謄写・交付 (5) 公判廷における証拠調べ 第4 議 事 (次のとおり) ○南部室長 ただいまから,刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第2回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 おはようございます。まず,配付資料について,事務当局から確認をお願いいたします。 ○南部室長 本日は,議事次第のほか,配付資料4から9までをお配りしておりますので,ウェブ参加の皆様におかれましては,お手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の方につきましては,ただいま申し上げた資料を机上に御用意しておりますので,御確認ください。   配付資料の内容につきましては,後ほど御説明いたします。 ○小木曽座長 それでは,本日の議事の一つ目として,検討すべき論点項目の整理を行いたいと思います。   第1回の会議では,委員の皆様から,本検討会で検討することが考えられる論点等について,幅広く御意見を頂きました。その後,御意見を精査いたしまして,事務当局に本検討会での論点項目の案を作成してもらいました。この論点項目(案)を資料4として配付しておりますので,御覧いただきたいと思います。   この論点項目(案)の構成ですが,御覧いただきますと,大項目の「1」としまして,「書類の電子データ化,発受のオンライン化」,大項目の「2」として,「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」,そして,「3 その他」ということになっております。論点項目の案を整理するに当たっての考え方,それから,それぞれの項目の内容については,引き続き事務当局から説明してもらいます。 ○南部室長 資料4の論点項目(案)について御説明いたします。   第1回会議では,委員の皆様から,刑事手続における情報通信技術の活用に関し,一部運用上の課題も含め,幅広く御意見をお示しいただいたところです。   本検討会につきましては,現行の刑事手続を前提として,情報通信技術を導入・活用することにより,効率化,非対面・遠隔化等を図る方策について,法的課題を抽出・整理しつつ,その在り方を御検討いただくものと認識しております。そのため,この論点項目(案)につきましては,現行の刑事手続についての情報通信技術の活用に関わる事項で,かつ,法的課題を伴うと考えられるものについて,言わば見出しとしてコンパクトに記載をいたしました。   次に,論点項目(案)の構成について御説明いたします。   大きな項目として,「1 書類の電子データ化,発受のオンライン化」と,「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」,「3 その他」とし,大項目の中に,関連する小項目を設けております。   続きまして,各論点項目について,順に御説明いたします。   まず,大項目一つ目の「書類の電子データ化,発受のオンライン化」についてです。   小項目(1)の「書類の作成・発受」は,言わば総則となるものであり,刑事手続に係る書類の作成・管理を電子データによって行い,その発受をオンラインで行うことができるようにすることに共通する課題について御議論いただくことを考えております。   次に,(2)から(5)までの小項目は,関連する個別論点を掲げたものです。   まず,(2)の「令状の請求・発付・執行」は,令状手続をオンラインで行うことができるようにすることなどについて検討する趣旨です。これは,令状の方式や令状手続の具体的な在り方など,令状固有の課題もあると考えられることから,(1)とは別の小項目としたものです。   (3)の「電子データの証拠収集」は,現状,事業者等に赴いて令状を呈示して,必要なデータを収集しているところを,電子データそのものをオンラインで証拠収集することができるようにすることなどについて検討する趣旨です。   (4)の「閲覧・謄写・交付」は,証拠などの閲覧・謄写や証拠一覧表の交付をオンラインで行うことができるようにすることについて検討する趣旨です。   (5)の「公判廷における証拠調べ」は,電子データそのものを公判廷での証拠調べの対象とすることなどについて検討する趣旨です。   次に,大項目二つ目の「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」についてです。   ここでは,七つの小項目を設けておりますが,まず,小項目(1)の「取調べ等」は,被疑者やその他の参考人の取調べ,あるいは弁解録取や勾留質問といった手続についても,非対面・遠隔で行うことなどについて検討する趣旨です。   (2)の「被疑者・被告人との接見交通」は,身柄拘束中の被疑者・被告人との接見等を,非対面・遠隔で行うことができるようにすることなどについて検討する趣旨です。なお,この点に関連して,外国語の通訳を非対面・遠隔で行うことができるようにすることについても,併せて御議論いただくことを考えております。   (3)の「打合せ・公判前整理手続」は,打合せ・公判前整理手続をビデオリンク方式で行うことができるようにすることなどについて検討する趣旨です。   (4)の「証人尋問等」は,ビデオリンク方式による証人尋問の対象範囲を拡大することなどについて検討する趣旨です。また,この小項目では,第1回会議で御意見のありましたビデオリンク方式による通訳などの点も,併せて御議論いただくことを考えております。   (5)の「公判期日への出頭等」は,被告人や被害者参加人等がビデオリンク方式により公判審理に出頭・出席することができるようにすることなどについて検討する趣旨です。ここでは,被告人や被害者参加人に限らず,広く公判廷に出頭等をすることとされている者について,ビデオリンク方式による出頭等を認めるかなどを御議論いただくことを考えております。   (6)の「裁判員等選任手続」は,裁判員等選任手続をビデオリンク方式で行うことができるようにすることなどについて検討する趣旨です。   (7)の「公判審理の傍聴」は,オンラインによる傍聴を可能とすることなどについて検討する趣旨です。   最後に,三つ目の大項目である「その他」は,大項目の「1」と「2」のいずれにも掲げていないものとして,インターネットを通じて公告を行うことができる仕組みを設けることが検討対象となるのではないかとの御意見があったことなどを受けて設けたものです。   以上が論点項目(案)の内容です。なお,この論点項目(案)は,本検討会で検討すべき項目として,なるべく漏れがないようにコンパクトに記載したものであり,もとより,各論点項目に含まれる個別の方策を実現するかどうかについては,本検討会で今後御議論いただくべきものと考えております。   資料4の御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   説明は以上ですが,この論点項目の(案)について,何か御質問・御意見がございますか。 ○吉澤委員 1点だけ,意見というか,補足でちょっと申し上げたいのですけれども,今回のこの検討会の対象ではないのかもしれませんが,IT化の対応で,刑事手続に関するものとしてIT化をお願いしたいというものが,損害賠償命令なんですね。被害者にとって,被害者支援を行う中で,損害賠償命令の制度というのも非常に重要でありますが,民事手続のIT化の方では明確には対象とはなっていないと思われますし,この刑事手続のIT化の対象ではないのかもしれませんけれども,いずれにしても非常に有意義な制度ですので,民事手続,刑事手続と併せてIT化をしていただきたいと思いまして,その点だけ,ちょっと補足で御意見させていただきました。 ○南部室長 御指摘の損害賠償命令制度につきましては,刑事被告事件を担当した刑事裁判所が行うものではございますが,損害賠償請求権の存否・損害額について民事上の手続として行われるもので,損害賠償請求に係る裁判手続の特例でありますことなどから,民事裁判手続IT化の議論を受けまして,民事法の専門的見地からも検討する必要がある項目であろうと考えているところでございます。 ○小木曽座長 よろしいでしょうか。 ○吉澤委員 承知いたしました。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ほかに御意見がなければ,議事を進めたいと思いますが,いかがでしょうか。 (一同了承)   それでは,この論点項目(案)をこの検討会で検討すべき論点として,今後の議論を進めてまいりたいと思います。   今後の検討に当たりましては,第1回会議での刑事局長の御挨拶,それから皆様の御発言にもありましたように,将来の技術革新を見据えつつ,社会インフラとしての刑事手続の基盤整備の在り方を検討し,より適正かつ迅速な刑事手続の実現を目指すという共通の視座を持って議論を進めていきたいと考えております。   ところで,本検討会の検討対象は,ただいま論点整理をいたしましたとおり,刑事手続全般に及び,多岐にわたるものであります。そのため,刑事手続の基本的な原則等との関係を含めて,十分な議論・検討を行う必要があると考えております。   他方で,刑事手続における情報通信技術の活用は喫緊の課題でありまして,本検討会における検討を速やかに進めることも求められていることに鑑みますと,この検討会の取りまとめに向けまして,一応の目安となる時期,時間的な期限の認識を共有しておくことが,議論を進めていく上で望ましいのではないかと考えております。   そこで,第3回会議までの間に,事務当局を通じて,委員の皆様にこの点についての御意見を伺いたいと考えておりますので,御承知おき願いたいと思います。   それでは,議論に入ります。   先ほどの論点項目に従いまして,議事次第のとおり,論点項目の「1 書類の電子データ化,発受のオンライン化」の五つの小項目について,順に議論をしていきたいと考えております。   (1)の「書類の作成・発受」についての議論に入るについて,まず,事務当局から資料5について説明してもらいます。 ○南部室長 資料5の「書類の電子データ化,発受のオンライン化 1(1)書類の作成・発受」という資料につきまして御説明いたします。   この資料は,書類の作成・発受に関する総論的な御議論に資するよう,論点の具体的内容や考えられる検討課題について,座長の御指示に基づき,事務当局において整理をして作成したものです。   この資料の1ページを御覧ください。   内容について御説明いたしますと,まず,一番上の「方策の導入」という枠囲いの部分には,本論点の具体的な内容について記載をしております。現行の法律・規則において,紙媒体で作成・管理することが予定されている書類について,電子データとして作成・管理することができるものとするかや,紙媒体の書類の発受が予定されている手続について,それら書類の発受をオンラインにより行うことができるものとするかが論点となるという趣旨で,「@」として,書類を電子データとして作成・管理することができるものとするか,「A」として,電子データとしてオンラインにより発受を行うことができるものとするかなどと記載しております。   なお,ここでは,「できるものとするか」と記載しておりますが,後に触れますように,「できるものとする」とした上で,更に電子データとしての作成等を義務付けることとするかといった点を御議論いただくことが前提となっております。   その上で,これら方策の導入に関して考えられる検討課題を記載しております。   一つ目の課題は,「必要性」であり,二つ目の課題は「許容性」でございます。本論点に限らず,新たな方策の導入につきましては,その必要性があるかや,これを導入することが現行法上許容されるのかを検討しておくべきものと思われますので,改めて検討課題として掲げております。   三つ目の課題は,「必要となる法的措置」です。本方策の導入を検討する上では,刑事手続に係る書類を電子データとして作成・管理し,その発受をオンラインで行うとすることについて,そもそも現行の法律・規則の下では行うことができないものなのか,現行の法律・規則のどのような規定が妨げとなるのか,導入するためにはどのような法的措置が必要となるのかといった点を検討する必要があると思われますので,この検討課題を掲げております。   具体的には,まず,@の方策に関し,「現行の規定に対する手当ての要否」,すなわち,現行の法律・規則上は,紙媒体の書類を予定している規定があると思われるため,その規定に対する手当てをする必要があるのではないかという点や,「署名」・「押印」・「記名押印」などに代わる措置についてどのように考えるのかといった点を記載しております。   また,Aの方策に関しても,同様に,「現行の規定に対する手当ての要否」という点を記載しております。さらに,「提出」・「交付」・「送付」・「送達」などに代わる措置,すなわち,これらの行為をオンラインで電子データを発受することにより行うことができるものとするために,どのような代替措置を設ける必要があるかを検討する必要があると思われましたので,その旨を記載しております。   四つ目の課題は,「対象とする書類・手続」です。仮に本方策を導入するとした場合に,本方策の対象外,すなわち,電子データで作成したりオンラインで発受することができないままとしておくべき書類・手続がないかや,逆に,電子データにより作成しオンラインにより発受することを必要的,すなわち,義務付けるべきものがあるのかといった点や,それぞれ,主体により区別する必要があるかを検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。   五つ目の課題として,「その他」を記載いたしました。「1」から「4」までの課題以外にも,本方策と関連する課題がございましたら,御議論いただければと存じます。   2ページ目以降には,「関連条文」として,現行の刑事訴訟法・刑事訴訟規則等の条文のうち,本論点と関連すると思われる一部の条文を抜粋して掲載しております。御議論の際に,適宜御参照ください。   資料5についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それでは,議論をしたいと思いますが,前半で,資料5の検討課題の「1 必要性」,「2 許容性」についてまず議論いただきまして,後半で「3」以降について議論したいと考えます。   まず,「1 必要性」,「2 許容性」について,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○重松委員 では,私の方から,「1」の「必要性」について,若干発言をさせていただきたいと思います。   まず,現状,刑訴規則第58条におきまして,公務員の作成する書類には,署名・押印や各葉への契印が求められているなど,警察捜査の現場におきましては,紙媒体での実務が基本となっております。   そのため,例えば,実況見分調書を例に取りますと,事件によっては,数百枚にも上る写真を手作業で一枚一枚のり付けして調書に貼付し,貼付した写真と調書との間にも契印をし,その上で,印影がにじまないようにセロハンテープを契印の上から貼るなど,作成に相当の手間と時間が掛かっております。また,共犯者がいるような場合には,そうして作成した一件書類の謄本が必要となりますので,当該謄本につきましても同様に,書類一枚一枚に契印が求められるということとなるほか,担当する検察官が複数いる場合には,その数だけ複製を作って検察庁に持ち込むといったことをやっております。   さらには,管理というふうな観点からも,紙媒体を前提とするがゆえに,紛失等の防止のために,鍵の掛かる保管庫等に収納するなどしておりますけれども,管理に要する事務負担に加えて,警察署によっては保管場所の逼迫といった問題もありまして,中には,警察本部で用意した保管庫に移して管理しているという場合もございます。   このような紙媒体を必要的とすることによる様々な課題,問題につきましては,IT化によって,その多くが解決・改善することが見込まれ,捜査の迅速化・効率化のみならず,捜査書類等の管理の合理化などにもつながるものと期待しております。   また,発受のオンライン化につきましても,警察としましては,令状請求や送致といった場面を念頭に,関係機関との書類の受交付をオンライン化することができれば,移動に伴う人的・時間的コストの削減等につながりますことから,その実現に期待をしておりますけれども,そのためにも,まずは書類の電子データ化が大前提となると考えております。 ○成瀬委員 重松委員の御発言を受けまして,私も,まず必要性について意見を申し上げます。   現行刑事訴訟法・刑訴規則におきましては,刑事手続に係る書類につきまして,「書類」・「書面」・「調書」といった紙媒体を前提とする文言が用いられていますため,現在の実務では,警察に限らず,検察,裁判所,弁護人も,紙媒体によって作成・管理をしておられるものと承知しております。   そのため,重松委員の御説明にもありましたように,各関係機関において,書類の作成・管理に相応の手間と時間を要し,事務負担が大きくなっているのが実情かと思います。よって,事務の合理化・迅速化という観点から,刑事手続に係る書類を電子データとして作成・管理することができるようにするとともに,その発受をオンラインにより行うことができるようにする必要性が認められると思います。   続いて,許容性についても意見を申し上げます。   電子データの作成・使用やオンラインによる電子データの発受は,一般社会において広く行われています。また,法制度上におきましても,第1回の検討会で御紹介させていただいたとおり,いわゆる「デジタル行政推進法」や「e−文書法」において,一定の技術的措置を設けることにより,紙の書類を作成することやこれを提出等する行為と,電子データにより作成することやこれをオンラインで送付する方法で提出する行為とが,法的に同価値のものとして扱われています。   このような社会状況及び他の法分野の状況を踏まえますと,電子データが紙媒体で作成された書類と同様の役割を果たすことは,十分に可能と考えられますので,改ざん防止のための技術的措置などを講じる必要はあるものの,刑事手続に係る書類を電子データとして作成・管理し,その発受をオンラインにより行うことができるようにすることは,法律上許容されるものと考えます。 ○佐久間委員 ただいま御指摘いただいた点について,検察実務の立場から,その現状について補足いたします。   現状では,刑事手続に係る書類については,刑訴法・刑訴規則の規定上,いずれも紙媒体による作成・管理が予定されているところですが,これらを電子データにより作成・管理し,オンラインによって発受することは,業務の合理化・迅速化に資すると考えておりますので,現状を踏まえて御説明いたします。   刑事事件について,現状は,警察,検察,裁判所のいずれにおいても,紙媒体で作成された事件記録1冊,1部を使っております。ある刑事事件の被疑者が逮捕され,勾留状が発付されるまでの流れを,紙媒体で作成された事件記録の動きを中心として御説明しますと,まず,事件送致の際には,事件記録が警察署から検察庁に運ばれ,検察庁内部において,検務部門が事件記録を点検・確認し,検察官が事件記録を検討した上で弁解録取を行い,勾留請求する場合には,検務部門で事件記録等を再度点検するというように,検察庁内部で事件記録が転々と移動いたします。また,その際に,決裁やダブルチェック等も行われるため,実際にはもっと多くの人の手元を事件記録が移動するわけです。勾留請求の際には,事件記録が検察庁から裁判所に運び込まれ,裁判所の内部でも,裁判官や書記官の手元を移動し,勾留状が発付された後,また裁判所から検察庁に事件記録が戻ってくるという流れになります。   このように,現状では,紙媒体で作成された事件記録については,人の手によってあちこちに持ち運びながら各種の手続を行っているという状況にあります。事件記録を電子データにより作成・管理し,発受をオンラインによって行うことが実現すれば,紙媒体で作成された事件記録を人の手によって移動する作業が不要となりますし,同時に複数の人が事件記録の電子データを利用することもできるようになり,業務の合理化・迅速化につながると思います。   また,別の場面になりますが,重松委員の御指摘にもありましたように,共犯事件においては,例えば,共犯者のうち一部の者が先行して検挙され,その後,他の共犯者が検挙されたような場合,後から検挙された共犯者に関する事件記録を作成するため,先行して検挙された被疑者,これは,起訴された場合は被告人となっているわけですけれども,その被疑者の事件記録を複写して謄本を作成する必要があります。事案によっては,警察や検察において,大量の事件記録の謄本を作成しなければならないところ,これを,証拠を電子データによって作成・管理することができることとなれば,コピーの作成が迅速かつ簡易になるため,事務負担が大幅に軽減されると思います。   実務には,このような場面がたくさんあると思われ,事件記録を電子データにより作成・管理し,発受をオンラインにより行うことは,業務の合理化・迅速化に大きく資するものと考えております。 ○河津委員 現行の刑事手続の実務においては,多量の書類が紙媒体で作成・管理されていることによって,様々な局面で,先ほど佐久間委員からも御紹介ありましたように,書類の運搬,さらには謄写のために時間のロスが生じており,その結果,迅速性が損ねられています。   憲法は,迅速な裁判を受ける権利を保障していますが,長期間にわたり被疑者・被告人の地位に置くことは,国民・市民に重大な負担と不利益を課すものです。その負担と不利益は,特に身体拘束が行われているとき,深刻なものとなります。書類の電子データ化,発受のオンライン化により,書類の運搬や謄写を不要にして,手続の各局面で生じている時間のロスを解消する必要性は大きいと考えます。   許容性につきましては,経済的な理由や技術的な理由により電子データやオンラインを自ら取り扱うことのできない国民・市民の権利行使が困難にならないようにするための措置を用意する必要はあると思われますが,そのような措置が用意される限り,許容されるものと考えます。   管理に関しまして一つ付け加えますと,電子データは紙媒体と異なる原因で滅失することがありますので,そのことには留意する必要があると思います。 ○小木曽座長 「1」と「2」,「必要性」,「許容性」については,ある程度御意見を頂戴したと思いますので,ここからは,検討課題の「3」,「4」,「5」についても併せて議論をしたいと思います。   引き続き,御意見のある方はお願いいたします。 ○笹倉委員 先ほどの「必要性」,「許容性」についての御発言を受けて,「3」の必要な法的措置について意見を述べます。   まず,既にお話があったところですけれども,現行法上は「書類」や「書面」,「調書」といった紙媒体を前提とする文言が用いられております。その意味を解釈によって拡張しそれに相応する電子データをそこに含めることができないとまでは言えないかもしれませんが,河津委員からもお話がありましたとおり,電子データと書類,紙媒体とは,やはり性質が違う面もございますので,電子データに置き換えてよいというのであれば,その旨を明記する立法措置を採る方がよいと考えます。   同様に,「提出」とか「送達」とか「差し出す」といった,やはり,素直に読めば有体物の紙媒体の書類を前提とすると解される文言が用いられておりますので,これらについても,解釈で広げるのではなく,紛れが生じないようにきちっと文言で明記することが必要であろうと考えます。   それから,「署名」,「押印」,「契印」,「認印」といった,紙媒体で作成された書類を前提として,一定の措置を採ることを予定する文言が,現行法上は使われています。書類を電子データとして作成することができるようにするためには,「署名」,「押印」などに代わるものとして,どのような措置を講ずればよいのかも考える必要があります。   「署名」や「押印」等が求められる,あるいは,先ほど実務上面倒さが感じられるものとして「契印」のお話もございましたけれども,そういうものが求められる趣旨は,書類の作成の真正や内容の真実性を担保する点にあると考えられます。したがって,「署名」や「押印」などに代わる措置として,作成の真正と内容の真実性を担保することができる措置を定めることが必要になると思われます。もっとも,ここで要求される措置の内容は,技術の発展に伴って,その時々において適切で信頼性のあるものに随時変更されていくことが望ましいところです。現時点での技術水準を前提としてこと細かに法律で定めてしまいますと,技術の進展に応じて一々改廃の手続を取らなければならなくなり,結果的に,技術が進歩していっても,それを即座に取り入れることができない事態に陥りかねません。したがって,法律上は最低限必要とされる実体的な要件だけを示すにとどめることも考えられます。   ごく素人的な認識ですけれども,現在,「電子署名」という技術が既に社会に実装されており,電子署名法という法律も制定されているものと承知しています。そこで,今申しましたような,最低限の要件を定める立法の中身を考える前提として,現在どういう技術が用いられているのかについて,この検討会で,今後共通の認識・理解を形成していくことが,有益であろうと考える次第です。 ○成瀬委員 笹倉委員の御発言を受けまして,私も,「3」の「必要となる法的措置」のうち,(2)の「提出」等に代わる措置の在り方について,意見を申し上げます。   まず,笹倉委員が御指摘のように,現行刑訴法・刑訴規則上は,「提出」・「交付」・「差し出す」といった,紙媒体で作成された書類を前提にしていると解される文言が用いられていますので,これらの行為をオンラインによる電子データの発受という形で実施できるようにするためには,いずれの送信先にどのような方法で送信するかや,どの程度の情報セキュリティを確保するかなどの技術的事項を定める必要があると考えます。   この点に関して,「デジタル行政推進法」や「e−文書法」を見てみますと,法令上「書面」により行うものとされている「申請」や「交付」について,主務省令で定める電子情報処理組織を使用する方法や,電磁的方法であって主務省令で定める方法により行うことができるとされており,これを受けた主務省令は,それらの技術的基準や送信方法等について具体的に規定しています。これらの法律と同様の考え方をするならば,刑事手続においても,紙媒体をもって行われてきた「提出」等の行為について,これに代わる措置として,一定の技術的事項を定める規定を設けることが必要となり,かつ,そのような規定を設ければ,「提出」等の行為に代わる措置を定めたことになると考えられます。   ただし,刑事手続においては,例えば,逮捕後勾留請求までの時間制限のように,期間の定めが重要な意味を持つ場合があり,その場合には,手続の履践された時点を確定し,事後に確認できるようにすることが求められますので,技術的事項としてどのような規定を設けるのが適当かという点については,更に検討が必要であると考えます。   それから,「3」の(2)の二つ目の丸に列挙されている行為のうち,「送達」については,特別な配慮が必要だと思います。というのも,現行刑訴法・刑訴規則は,「送達」については,「提出」や「交付」などとは異なり,相手方に到達することの安全性・確実性を確保する観点から,民訴法・民事訴訟規則を準用するほか,手続的事項について特別の定めを設けているからです。よって,書類等の発受に係る行為のうち,取り分け「送達」をオンラインにより行うことができるものとする方策については,現行法の送達に関する規定の趣旨を踏まえた上で,オンラインによる送達であっても安全性・確実性を確保できるようにするため,どのような規定を設けることが考えられるか,丁寧に検討することが求められると思います。 ○佐久間委員 オンラインによる送達について,少し補足させていただきます。   被告人に対する起訴状の謄本の送達についても,電子データにより作成・管理された場合にも「謄本」という概念を使用するかという問題もあると思いますが,それは,ここではひとまず置かせていただいてお話しさせてください。   被告人に対する起訴状謄本の送達について,これをオンラインによることができるものとする場合には,身柄拘束中の被疑者・被告人に対する送達の在り方,また情報通信機器を保有していない,あるいは使いこなすことができない在宅被告人に対する送達の在り方についても,検討する必要があると思われます。すなわち,起訴状をオンラインで裁判所に送信することによって公訴提起ができるようになったとしても,起訴状の謄本については,現行の刑訴規則上,「検察官は,公訴の提起と同時に被告人の数に応ずる起訴状の謄本を裁判所に差し出さなければならない。」と規定されていることから,裁判所が被告人に送達するための起訴状謄本を検察官が作成して裁判所に持ち込む必要があるということになります。そうすると,業務が煩雑になったり混乱が生じたりする懸念がございます。   そのようなことから,被告人に対する起訴状の謄本の送達の在り方についても,検討する必要があると思っております。 ○河津委員 必要的とする,義務付けるべき書類・手続があるかどうかという点について,意見を申し上げます。   電子データを作成,閲覧したり,オンラインで発受したりするためには,利用可能な端末が必要であり,それを操作する一定の技術も必要となります。したがって,利用可能な端末を所持していない,あるいは技術を有していない国民・市民の権利行使が困難にならないようにするための措置を用意する必要があると思われます。国民・市民が利用可能な端末を各所に用意する措置も必要ですが,それを利用することになお困難のある国民・市民も存在すると思われます。   したがって,電子データによる作成・管理,オンラインによる発受を原則とするとしても,国民・市民が作成・発受することが予定されている書類については,電子データ,オンラインでなくても受け付けられるようにする必要があるのではないかと考えます。 ○吉澤委員 まず,「4」の中の対象外とすべき書類・手続についてなのですけれども,基本的には,電子データ化,発受のオンライン化には賛成なのですが,ただし,特に発受のオンライン化については,発受するものによっては取扱いをとにかく慎重にしていただきたいと考えています。   後の論点,特に令状請求や閲覧・謄写などとも関係するので,詳細はそのときに述べようとは思っているのですが,性的画像や動画,また刺激的な証拠などについては,一部オンライン化の対象外にすべきものもあるのではないかと考えています。   また,次の義務付けるべき書類・手続の中で,主体により区別する必要があるかという点で,これまでも議論されているところなのですが,まず,法曹関係者についてはもちろん,将来的には義務付けという形になるのかなとは思うのですが,弁護士の中には,例えば,高齢であったり,障害があったりなどということから,オンライン化について即座に対応するのが困難という弁護士もいますので,法曹関係者についても早期に義務付けというものではなく,ある程度猶予期間,例えば,当初は電子データとオンライン化,紙ベースでの従前のやり方を併用する,相当期間を経て,将来的に義務付けを行うなどといった,段階的な措置が義務付けを行うとしても必要であると考えています。   また,今までお話に出ました,そういう法曹関係者ではない一般の方ということに関しましても,例えば,被害者御本人が代理人弁護士を付けずに被害者参加するという事例も相当数ございますので,そういう方々についても,例えば,被害者論告であったり,あとは心情に関する意見陳述書を提出するというような,書面を提出することがふだん想定されているものもありますので,その方たちが十分にそういう書面での提出を元々想定されている手続も含めて,十分に制度を利用することができるようにしなくてはいけないと考えています。   ですので,義務付けというのは,一方的に進めるというのではなく,運用面も含めてなのですが,十分なフォローも必要であると考えています。 ○重松委員 私も,「4」の二つ目の丸について,若干発言をさせていただきたいと思います。   まず,必要的とすべきかどうかという点で,全ての書類や手続を必要的とするということについては,慎重であるべきだろうと考えております。例えば,災害時とか,あるいはシステムの障害といった不測の事態が発生し,システムがダウンするといったことも想定しておく必要があると思いますし,それから,例えば,このIT化の制度が発足した時点において,それまでに作成をしていた書類等について,それを全て電子データ化するといったことですとか,あるいは新たに紙媒体として入手をしたものについて,その全てを電子データ化するというようなことについては,捜査現場においては過度な負担につながるのではないかと考えておりますので,こういった点にも配慮する必要があるかなと考えております。 ○永渕委員 裁判所の立場から,「4」番について少しお話ししたいと思いますが,刑事手続のIT化によって,電子データを効果的に利用,活用して,合理的な事務処理を行うという観点から考えますと,基本的には電子データに統一されているのがあるべき姿ではなかろうかと考えられます。また,訴訟記録の編成や管理を行う立場から申し上げますと,電子データと紙媒体が混在しているという状況は,やはり迅速な事務処理,適正な事務処理という観点などから,望ましいものではないのではないかと考えております。   以上の趣旨からしますと,できる限り電子データを利用,活用する形となるように,現状もパソコン等により作成された書類が提出されることが一般的となっていることなどからすれば,やはりある程度広い範囲で電子データ化を必要的としても差し支えないように思われるところであります。 ○成瀬委員 今の実務家委員の皆様の御意見を踏まえまして,私からも「4」の「対象とする書類・手続」について,意見を申し上げます。   まず,対象外とするべき書類・手続があるかという点につきまして,差し当たり,私が現行の刑訴法・刑訴規則を確認した限りでは,吉澤委員が御指摘くださったように,取扱いに留意すべき電子データはあるにせよ,電子データによる作成やオンラインによる発受がおよそ一般的に許容できない書類・手続は見当たりませんでした。   先ほども申し上げましたとおり,書類を電子データで作成し,オンラインで発受できるようにすることには,利便性や効率性の向上というメリットがあります。また,永渕委員が御指摘くださったように,電子データの書類と紙媒体の書類とが混在すると,かえって事務が煩雑になると思われます。よって,河津委員から御指摘のあった一般人はともかく,弁護人を含む関係機関においては,書類は電子データとして作成し,その発受はオンラインによって行うことを基本とすべきであると考えます。   ただし,先ほど来,実務家委員の皆様から御指摘がありましたように,種々の弊害も考えられるところですから,電子データでの作成及びオンラインでの発受を基本とするとして,具体的にどのような規定を設けるのかという点については,更に検討する必要があると思います。 ○小木曽座長 それでは,書類の作成・発受についての議論はここまでとしまして,「(2)令状の請求・発付・執行」について,議論したいと思います。   事務当局から資料6について説明をお願いします。 ○南部室長 資料6の「1(2)令状の請求・発付・執行」について御説明いたします。   資料の1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   法律・規則上,紙媒体の書類をもって行うことが予定されている令状の請求,発付及び執行の各手続について,必要な書類を電子データ化し,手続をオンラインで行うことができる仕組みを設けるかが論点となるという趣旨で,「@」として,「請求書及び疎明資料を電子データとしてオンラインで裁判官に送信する方法により請求することができるものとするか」,「A」として,「令状を電子データ(電子令状)として,オンラインで捜査官に送信する方法により発付できるものとするか」,「B」として,「電子データ(電子令状)を,電子計算機の映像面上において視覚により認識することができる状態にするなどの方法により呈示することができるものとするか」などと記載しております。   その上で,これら方策の導入に関して考えられる検討課題を記載しております。   一つ目の課題は「必要性」であり,二つ目の課題は「許容性」です。許容性につきましては,従来紙媒体で作成されてきた令状を,電子データとして作成することとしてよいかという点について,憲法適合性を検討する趣旨で,特に「憲法33条・35条との関係」と記載しております。   三つ目の課題は,「電子令状の方式」です。先ほどの点と関連し得るものと思われますが,電子令状を設けるとして,電子令状はどのような方式のものとすべきかを検討する必要があると考えられます。具体的には,電子令状の記載(記録)事項として,どのようなものが必要となるか,あるいは,裁判官の記名押印に代わる措置として,どのようなものが考えられるかといった点を検討する必要があると思われますので,これらを記載しております。   四つ目の課題は,「電子令状に係る手続」です。電子令状の在り方の検討を前提として,これについての請求・発付・執行といった一連の手続の在り方に関し,現行法の手続を踏まえた上で,どのような手続を定める必要があるかを検討する必要があると思われます。具体的には,「請求・執行の主体」について,「現行法と同様の規律とするか」,「請求・発付・呈示の方法」について,「どのような規律を設けるか」の2点を記載しております。   五つ目の課題として,「その他」を記載しております。   2ページ目以降には「関連条文」を掲載しておりますので,適宜御参照ください。   資料6についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   では,先ほどと同じように,検討課題の「1」と「2」について,まず御意見を頂きまして,一通り御意見が出たところで,それ以外の課題について御意見を頂戴したいと思います。   では,お願いいたします。 ○重松委員 それでは,私の方から,また必要性について若干発言をさせていただきたいと思います。   まず,現状,刑訴規則139条の規定に基づきまして,令状の請求は書面で行っており,裁判所には必要な書類を直接持ち込んでおります。前回も申し上げましたけれども,中には,裁判所まで片道数時間を要するといった警察署もありまして,急を要する令状請求で,早期の対応が困難となっている現状もございます。オンラインによって手続が完結するということになれば,被疑者の早期逮捕や証拠品の迅速な押収も可能となって,事件の早期解決,被害者の早期安全確保にもつながると考えておりまして,令状請求あるいは発付のオンライン化の必要性は高いと考えております。   また,執行につきましても,通信事業者からの通信履歴の差押えといった場面を考えますと,差押許可状をオンラインにより送付し,必要なデータをオンラインにより返信してもらうといったことができれば,対面での手続を伴わずに行える場合には,捜査の迅速化や相手方の負担軽減にもつながるだろうと考えております。   一方で,逮捕状の執行や被疑者の居宅に対する捜索差押えの場面を考えますと,対面での手続が不可欠となるような,こういった場面におきましては,例えば,タブレット端末の画面を相手方に表示する,呈示するということにより執行を,制度上の選択肢として設けておくこと自体には,異論はございません。しかしながら,実際の運用に当たっては,現場の通信環境といったことにも左右され得るでしょうし,そもそもタブレット端末を利用した執行の必要性といったことにも,慎重な検討が必要かなと考えております。   なお,刑訴法222条1項が準用する110条におきまして,令状は,処分を受ける者に示さなければならないと規定されておりますけれども,差押許可状をオンラインにより送付して執行することが,同規定でいうところの示したと整理できるかどうかといった点についても,検討が必要かなと考えております。 ○池田委員 ただいまの必要性の御指摘を踏まえまして,私の方からは,2番目の「許容性」について意見を申し上げたいと思います。   これは,前回も指摘したことですが,憲法33条が身体拘束について,また35条が侵入・捜索・押収について,それぞれ令状を必要としていることとの関係で,令状を,紙媒体ではなくて電子データにより作成・発付することができるものとする場合に,これらの規定との関係をどのように説明できるかの検討が必要となります。   そこで,憲法がこれらの処分の実施に裁判官の発付する令状を必要とする考え方,つまり,令状主義を定めた趣旨を考えてみますと,処分の対象となる人や場所,目的物について,逮捕や捜索等を行う正当な理由が存在することを,裁判官があらかじめ確認する,そして,その対象を令状に明示して,その範囲でのみ捜査機関に処分の実施を許すことにより,捜査機関の恣意的な,あるいは裁量の濫用逸脱などによる不当な権利侵害の余地を封じることにあるとされています。とすれば,令状が電子的に発付されて,電子令状の記載や表示が紙媒体によって行われるものではないとしても,それが以上の趣旨を実現するものであれば,憲法33条及び35条の趣旨に反するものではないと考えられます。   その場合に,満たされるべき要件としては,まず,裁判官が処分実施要件の充足を確認した逮捕や捜索等といった処分の対象が明示され,その内容が捜査機関に認識可能であること,そして,捜査機関がその内容を変更できないことが,それぞれ必要となると考えられます。こうした要件を充足する限りで,電子令状は憲法33条及び35条の規定する令状に含まれることになるものと考えます。 ○吉澤委員 前回の検討会でも申し上げましたとおり,迅速に令状請求や証拠収集ができるということに関しましては,被害者の立場からも望ましいと考えています。   ただし,これは,先ほども述べましたが,セキュリティ面と密接に関連することなのですけれども,その令状請求や発付の手続のセキュリティ面の問題をどう克服するのか,性的画像や動画というものについては,性犯罪に関する刑事法検討会でも,没収・消去の困難性が議論されているところなのですけれども,そういった画像・動画というのは,複製・拡散が非常に容易になされてしまうので,一旦インターネット上に流出してしまうと,取り返しがつかないという事態にもなります。   そういったことからしますと,オンラインでの請求・発受,また次の論点の電子データの証拠収集にも関係するのですけれども,特にそういう性的動画・画像を発受しなくてはいけない場合というのは,とにかくセキュリティ面で確実に流出を防ぐことができるという,被害者にとっても安心できる対策が講じられていることが大前提であるというのを,申し上げておきたいと思います。 ○小木曽座長 では,課題の「3」以降につきましても,併せて議論をお願いしたいと思います。 ○河津委員 手続の迅速化という観点からも,令状を電子化し,請求及び発付をオンライン化する必要性は理解できます。ただ,令状の執行・呈示については,第1回会議の資料3,「諸外国における情報通信技術の活用に関する法制・運用の概要」を見ますと,諸外国でも必ずしも一般的なものとはなっていないように見受けられます。   令状の呈示が必要とされている趣旨は,手続の公正を担保するとともに,被処分者の人権に配慮する点にあると理解しております。被処分者である国民・市民から見て,真正に発付された有効な令状であると無理なく判断できるような呈示がオンラインで可能なのかどうかについて,検討が必要であると考えます。 ○池田委員 「3」の方式について,二つの白丸に関して意見を申し上げたいと思います。   まず,記載事項ですけれども,憲法及び現行刑訴法・刑訴規則が定めている令状の記載事項は,裁判官による審査を慎重なものにし,捜査機関に対して権限の範囲を明らかにすることなどを目的としているとされておりますので,そうした考慮は,電子令状についても同様に妥当するものと考えられます。したがいまして,電子令状に記載され,そして表示されるべき事項としては,基本的に現行の記載事項と同様の内容を定めることになる,そうすべきであると考えます。   ただし,有効期間の定めと,その期間経過後の返還についての記載については,電子令状は電子データであるため,紙媒体と同様の返還を観念しにくく,どのような規定を置くべきかが問題となります。   この有効期間経過後の令状の返還の趣旨は,有効期間を経過した令状が捜査機関の手元に残り続けることから生じる,濫用のおそれを防止しようとしたことにあるとされています。このような趣旨からしますと,電子令状については,その有効期間後に濫用されないことを確保すれば,法律上許容されると考えられます。例えば,有効期間経過後は,捜査機関が電子令状たる電子データを使えないようにすることや,処分を実施した旨を裁判所に通知しなければならないこととし,さらに,その上で電子令状の記録事項として,その旨を記録して表示されるようにしなければならないものとすることが考えられます。   続けて,「記名押印」に代わる措置について申し上げます。現行刑訴法は,令状について,「裁判官が,これに記名押印しなければならない」としております。この点については,先ほど既に一般の問題として笹倉委員から御指摘があったように,書類作成の真正を担保する,あるいは内容の真実性を担保するということに,その趣旨があるとされております。電子令状については,「記名押印」が考えられないのですけれども,これに代わって,それらの趣旨を担保する措置を設けることができるのであれば,これをもって「記名押印」に代えることが許容されると考えられます。 ○重松委員 私の方から,「3」の電子令状の方式のうち,一つ目の丸,特に逮捕状の記載事項について,若干発言をさせていただきたいと思います。   現状,逮捕状につきましては,刑訴規則148条1項1号によりまして,逮捕状に逮捕の時間や引致時間,送致時間等を追記するというふうな様式になっております。この趣旨は,一連の手続や法定の時間内に行われたものかどうかということを判断するための情報提供と理解しておりますけれども,今後IT技術を検討するに当たって,様々な情報の伝達,あるいは付加の方法が考えられるかと思います。   したがいまして,逮捕状の様式が典型ではあると思うんですけれども,必ずしも現行の様式に捉われるという必要はないかなと思います。IT化も踏まえた合理的な様式に見直すといったことも,検討に値するのかなと考えております。 ○笹倉委員 私からは,「4」,手続について,若干意見を述べます。   まず,令状を請求したり,令状を執行したりする主体についてです。なお,逮捕状等の「執行」という表現は,いわゆる許可状説を前提とすれば不正確ですが,ここでは慣用に従い用います。 逮捕状や傍受令状の請求権者に関しては,現行法上,限定があります。その趣旨は,逮捕状や傍受令状の請求について慎重を期し,公正を担保するものであると説明されるところ,この趣旨は,電子化した場合の令状手続についても等しく妥当すると考えられます。   他方,逮捕状や傍受令状を除く捜索・差押え・検証等の令状の請求権者,また,逮捕状等を含めて令状を執行できる者については,現行法上,特に限定されておらず,捜査機関であれば誰でもできることになっています。電子令状に限って,しかも電子令状であるがゆえに,これを限定しなければならない事情はないでしょう。   以上より,請求権者及び執行権者の範囲については,現行法と同様としておくことで足りると考えます。   次に,請求や発付,呈示の方法についても意見を述べます。   先ほども若干お話がございましたけれども,令状の請求は書面でしなければならないとされているところ,その趣旨は,令状の重要性に鑑み,請求手続の明確性を期するところにあると考えられます。この要請を満たすのであれば,電子データ,例えば請求書という書類に代わる電子データを送信する方法によって代えることも許容されるでしょう。しかし,そうであるならば,明文のないままに書面に替えてオンラインにより請求することを許容するのは適切ではなく,やはり,オンライン請求ができるという規定を設けて,そのことを明確にする必要があると考えます。   また,令状を請求するには,刑訴規則で,疎明「資料を提供」することが義務付けられているわけですけれども,この資料の提供については,証拠書類や証拠物といった有形の証拠に限らず,請求者が口頭で陳述することも含まれると解されています。また,疎明資料の取調べの方式については特に制約はないとされています。 これらのことからしますと,刑訴規則の要求する疎明資料の提供に,電子データをオンラインで送信することを含めて解することに,文言上の無理はないと考えます。   そうしますと,疎明資料の提供に関しては,オンラインでの提供を許容することを明らかにする改正をすることはもちろん考えられますが,改正をするまでもなく,現行規則上も許容されるという結論になろうかと思われます。   次に,令状の呈示について,先ほど河津委員からも御意見があったところですけれども,私からも意見を述べます。   令状呈示の趣旨は,最高裁の判例によれば,手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮するところにあります。そのことからすると,呈示がされたと言うためには,令状の内容を了知する機会を与えることが必要であり,かつ,それで足りると考えられます。この趣旨との関係では,呈示する令状が紙媒体であるべき必然性はなく,電子的に発付された令状を表示して視覚的に認識することができるようにすれば,それで令状呈示の要請は満たされるでしょう。   具体的には,臨場した捜査官が電子令状の内容をタブレット端末に表示して示すことも考えられるでしょうし,セキュリティの観点からは検討を要しますけれども,電子メールで対象者に送ることも,一応考えられなくはない。もちろん,電子令状をプリントアウトして紙媒体で示すこともあり得ます。このように様々な方法を想定することができますが,電子的に発付された令状と電子令状と同一のものであることが,その仕組みによって担保されるのであれば,いずれの方法によっても電子令状を呈示したことになると考えられます。   ただ,現行刑訴法では,令状は「これを示さなければならない」と規定されており,「これを示した」と言い得る範囲について,疑義が生じ得ないでもありません。そこで,疑義をあらかじめ排除するという観点から,電子令状の呈示方法について明文規定を置くことも考えられます。   前回お配りいただいた諸外国の調査例では,韓国では電子令状を書面に出力することなく電子的な形態のまま呈示する方法を規定する立法が現在考えられているようであり,そのことからしましても,そのような方法が原理的に許されないわけではないのだろうと考えます。 ○小木曽座長 では,この点については,一通り御意見が出たようですので,「令状の請求・発付・執行」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   次の議論に移る前に,休憩を10分ほど取りたいと思います。再開は11時5分としたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 (休     憩) ○小木曽座長 それでは,ここからは「(3)電子データの証拠収集」についての議論に入りたいと思います。   事務当局から資料7について説明をお願いします。 ○南部室長 資料7の「1(3)電子データの証拠収集」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   捜査機関が,例えば,捜査に協力的な事業者等に対し,事業所等に赴いて令状を呈示した上で,通信履歴等を差し押さえるのではなく,それら事業者等から,必要な電子データをオンラインで捜査機関等に送信してもらう方法で証拠収集することなどを可能とするかが論点となるという趣旨で,電子データを保存している相手方からオンラインで電子データの送信を受ける方法により,証拠収集をすることができるものとするかと記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を記載しております。   一つ目の課題は「必要性」であり,二つ目の課題は「許容性」です。「必要性」に関しては,本方策の導入について,具体的にどのような場合に必要であり,どのような点で有効であるかといった点を特に検討する必要があると考えられますので,その旨を記載しております。   三つ目の課題は,「必要となる法的措置」です。本方策の導入を検討するに当たりましては,まず,現行法に設けられている証拠収集方法では対応することができないのかを前提として検討しつつ,現行の規定に対する手当ての要否を検討する必要性があると考えられますので,「現行の規定での対応の可否」,「現行の規定に対する手当ての要否」を記載しております。   四つ目の課題として,「その他」を記載しております。   2ページ目以降には「関連条文」を掲載しておりますので,適宜御参照ください。   資料7についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,ここでも,「1」の「必要性」,「2」の「許容性」について,まず御意見を頂戴しまして,その後で「3 必要となる法的措置」について御意見を頂きたいと思います。 ○重松委員 それでは,私の方から必要性につきまして,これまでの発言とちょっと若干重複しますけれども,少し詳しめにお話をさせていただきたいと思います。   まず,通信事業者から通信履歴を差し押さえる場合を考えてみますと,相手方から電子データの送信を受ける方法で証拠収集することができれば,捜査の迅速化・効率化が図られるのはもちろんですけれども,事業者側の負担軽減にもつながると考えています。   現状では,刑訴法上,無体物たるデータ自体を押収する手続の規定はございません。したがいまして,例えば,通信事業者から犯人側の通信履歴を差し押さえるといった場合には,捜査員が,事業者が指定する窓口まで出張して,対象となるデータを外部記録媒体に移した上で,当該外部記録媒体を差し押さえているという状況でございます。   例えば,沖縄県警を例に取りますと,沖縄県内には事業者の窓口がない場合には,必要の都度,飛行機を利用して出張をし,差押えの手続自体は数分程度で終わるにもかかわらず,1日掛かりで往復数万円の出張旅費を掛けて,その手続を行っているということでございます。こうした運用は,事業者の方においても人員の確保とか,あるいはスペースの確保といった負担にもつながっていると考えています。   したがいまして,電子データの送信を受ける方法によって,証拠収集をすることが可能となれば,こうした課題は解決,改善すると考えておりますので,その必要性は高いと思っております。 ○成瀬委員 重松委員から具体的な事例に即して必要性に関する御意見がありましたけれども,私からも,一般化する形で,必要性について意見を申し上げます。   捜査機関にとって必要な電子データが,事業者が管理する巨大なサーバに保管されているという事例は,通信履歴に限らず,様々な電子データについて考えられます。そのような場合に,捜査機関が当該電子データを自力で探索して抽出することは容易ではないため,目的とする電子データを特定し,その保管状況を把握している事業者から,その協力を得て提供を受ける方法が有効です。   しかし,近時は,このような対応をすることに協力的ではあるものの,顧客との関係上,令状がない限りは,捜査機関からの要請に応じられないとする事業者が増えていると伺っております。そのため,捜査機関としては,差押許可状や記録命令付差押許可状の発付を受けた上で,これを持参して当該事業者の所在地に赴き,相手方に令状を呈示して,必要な情報が記録された書面や記録媒体を差し押さえ,これを持ち帰るという作業が必要となります。   もっとも,一般社会では,オンラインによる電子データの発受が広く行われていますので,処分の相手方が協力的であり,かつ,捜査機関として記録媒体を入手する必要がない場合には,捜査員の物理的な移動や記録媒体の用意を省略し,端的に電子データをオンラインで取得できることとするのが合理的です。よって,このような場合には,事業者からオンラインで電子データの提供を受ける方法により,証拠収集をすることができるようにする必要性が認められると思います。 ○笹倉委員 ただいま,「必要性」について御議論がございましたので,「許容性」についても意見を述べます。   証拠としての電子データを獲得する方法としては,御承知のとおり,現行法上,主に二つの方法があります。一つは,差押え,ないしその代替的執行方法,すなわち,電子データが記録されている記録媒体を差し押さえ,又は,電子データを別の記録媒体に複写,移転し,又は複写,移転させた上で,これを差し押さえるという方法,いま一つは,記録命令付差押え,すなわち,協力的な事業者等を念頭に,処分の相手方に必要な電磁記録を記録媒体に記録させた上で,その記録媒体を差し押さえるというものです。このように,現行法上は差押えと記録命令付差押えという二つの強制処分が用意されており,それらは現に捜査の現場で活用されているわけですが,捜査機関においては,電子データが記録されたメディアそのものが必要なわけではなく,データを入手することができれば,それで証拠収集の目的を達することができる場合があるものと考えられます。   そして,端的にデータだけを取得することが可能になれば,差押えはもとより,記録命令付差押えによる場合に比べてみましても,処分を受ける相手方にとっては,関連性のある電子データを抽出する作業は免れないとしても,オリジナルの記録媒体の占有を奪われるとか,記録メディアに当該データを複写,移転するとかいった負担がなくなるという利点があります。また,先ほど,沖縄県警の捜査官は数分で終わる処分の執行のために飛行機で本土に日帰り出張することを強いられる現状にあるというお話がございましたけれども,オンラインでのデータのやりとりで済むのであれば,被処分者にとっても,そのようにしてやってくる捜査官に応対する負担がなくなります。処分に伴う権利侵害が軽減される点において,端的にデータを取得する処分を設けることは,望ましいと言えます。   このように,処分を受ける相手方にとっては,権利侵害ないし処分を受けることに伴う負担が軽くなり,しかも,捜査機関側としても,データだけ手に入ればそれで足りるわけですから,刑訴法が所期する証拠収集の目的の達成,及び相手方の負担という双方の観点から,端的にデータを取得する処分を設けることには許容性があるものと考えます。   もとより,そのような処分の性質に見合った法的規律が整備されるべきことは当然ですが,適切な要件が設定されるという前提で,このような処分を許容することは,十分に考えられると思います。 ○小木曽座長 それでは,「必要となる法的措置」,「その他」についても,併せて御意見を頂戴できればと思います。 ○池田委員 これまで再三御指摘いただいておりますように,現行法上は,電子データを強制的に収集する方法として,差押えと記録命令付差押えがあるわけですけれども,いずれの差押えも,有体物の占有を取得する処分であって,電子データ自体をその対象とするものではありません。   ただ,このうち,記録命令付差押えは,協力的な者を処分の対象として設定し,電子データの保管者等に命じて,必要な電子データを記録媒体に記録させた上で,当該記録媒体を差し押さえることができるとする処分ですので,例えば,ここでいう記録媒体に,捜査機関が使用するサーバが含まれるとした上で,記録命令付差押えにより処分の相手方に必要な電子データを,捜査機関が管理する当該サーバにオンラインで送信する方法により記録させ,これを差し押さえることとする構成も考えられないところではありません。とはいえ,これは,捜査機関が自ら既に管理・占有しているサーバ,あるいはその記録領域を差し押さえるという理解になりますので,技巧的であるということは否めないように思います。   以上を踏まえて,考えられる方策について,あえて一つのイメージを提示するといたしますと,先ほど述べた現行の記録命令付差押えの実施方法から,物理的な記録媒体の差押えを除いて,記録命令の部分に限った処分,つまり,捜査機関が令状を得て,協力的な相手方に必要な電子データをオンラインで送信する方法によって,捜査機関がアクセスできるサーバに記録させることができる処分として肯定することも,一案ではないかと思われます。   このような構成とするのであれば,現行の記録命令付差押えとの違いとしては,必要な電子データを,これまでは記録媒体に記録させて入手していたところを,オンラインで送信させて入手することとなるという点で異なるだけなので,処分の対象となる電子データの特定性には問題がないですし,相手方の権利制約の程度において問題が生じない,むしろ,先ほど笹倉委員から御指摘があったように,対面で捜査機関に応対する必要がない分,負担を軽減させる側面を有することになると考えられます。 ○河津委員 1点,この検討課題に関連して,留意すべきと思われることを申し上げます。   電子データには,通常閲覧する際の画面等には必ずしも表示されない情報として,例えば,作成・更新・アクセス・印刷等の日時や変更の履歴,作成者や最終更新者などを示す情報が含まれていることがあり,それらの情報の中には,証拠として意味を有するものもあります。オンラインで電子データを送信する場合,意図せずに,あるいは意図的に,それらの情報が変更されて,厳密には原データと同一とは言えないデータが収集されることが起こり得るように思われます。原データとの同一性が損ねられない方法で電子データの証拠が収集されること,さらには,それから公判廷に提出されるまで,同一性を保持し,かつ,同一性の有無を検証可能にする方策について,検討する必要があるのではないかと考えます。 ○小木曽座長 一通り御意見を頂戴したと思いますので,この点につきましてはこの程度としまして,次は,「(4)の閲覧・謄写・交付」に入りたいと思います。   では,資料の説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料8の「1(4)閲覧・謄写・交付」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   証拠開示を始めとした閲覧・謄写や,証拠一覧表の交付をオンラインで行うことができるようにするかが論点となるという趣旨で,「法律・規則において,紙媒体により行うことが予定されている証拠等の『閲覧』・『謄写』・『交付』については,オンラインによりこれを行うことができるものとするか。」と記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を掲げております。   一つ目の課題は「必要性」であり,二つ目の課題は「許容性」です。   三つ目の課題は,「必要となる法的措置」です。本方策の導入を検討する上で,どのような法的措置が必要か,具体的には,現行の法律・規則に紙媒体の書類の閲覧等を予定している規定があるのか,あるのであれば,それら規定に対する手当てを要するかといった点を検討する必要があると考えられましたので,その旨を記載しております。   四つ目の課題は,「対象とする書類の範囲」です。第1回会議において,性的画像などプライバシー侵害の度合いが非常に高い証拠について,特に慎重な取扱いが必要であるとの御指摘を頂きましたように,本方策を導入するとした場合,関係者のプライバシー保護などの観点から,オンラインによる閲覧・謄写の対象とする書類の範囲を検討する必要があると思われますので,この点を検討課題として掲げており,その上で,具体的には,「対象外とすべき書類」があるかといった点を検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。   五つ目の課題は,「情報セキュリティ確保のための方策」です。仮に,本方策を導入するとした場合,セキュリティを十分に確保し,情報漏えいを防止することが重要であるため,情報セキュリティ確保のための方策を検討する必要があると思われます。そこで,二つ目の検討課題の「許容性」とも関わり得る点かとは思われますが,この点を検討課題として掲げており,その上で,具体的には,「どのような点に情報セキュリティ上のリスクがあるか」といった点や,「どのような対策が必要か」といった点を記載しております。   六つ目の課題として「その他」を記載しております。   2ページ目以降には「関連条文」を掲載しておりますので,適宜御参照ください。   資料8についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,議論に入りたいと思いますが,この論点につきましては,検討課題の全体をまとめて議論いただければと考えておりますので,検討課題の何番についてということをおっしゃっていただいた上で,御発言を頂戴したいと思います。 ○河津委員 検討課題「1」の「必要性」についてですが,被告人及び弁護人が証拠等を十分に検討することは,最も基本的な防御活動であり,適正で公正な刑事裁判を実現するために不可欠であるというべきです。   現在の実務において,弁護人は主に紙媒体の開示証拠を謄写し,これを検討していますが,謄写の費用が数十万円から数百万円に及ぶこともあることに加えて,弁護人が開示の通知を受け,謄写の申請をしてから謄写した証拠を受領するまで数週間以上掛かることもあり,費用と時間の浪費が生じています。国民・市民が犯罪の嫌疑を向けられたときに,自らを防御するために用いることのできる費用と時間には限りがあるのであり,このような浪費を強いる構造は解消される必要があると考えます。証拠の閲覧・謄写と証拠一覧表の交付をオンラインにより行うことができるものとすることは,このような費用と時間の浪費を解消するものであり,その必要性は大きいというべきです。   証拠の閲覧をオンラインにより行うことができるようにするためには,身体拘束されている被告人のために,刑事施設内に端末を用意する必要があると思われます。弁護人については,証拠の閲覧に加えて謄写が認められていますが,その趣旨は,証拠の内容を知るだけではなく,それをいつでも確認できることとして,被告人側が防御の準備を十分に行うことができるようにすることにあると解されています。したがって,弁護人については,オンラインでダウンロードすることにより,証拠を謄写することができるようにする必要があります。   先ほど申し上げたとおり,電子データについては,通常閲覧する際の画面には必ずしも表示されない情報として,作成・更新・アクセス・印刷等の日時や変更の履歴,作成者や最終更新者などを示す情報が含まれていることがあり,それらの情報の中には,証拠として意味を有するものも少なくありませんし,弁護人としては,原データと公判廷に提出されようとしているデータとの同一性を検証する必要もあります。また,弁護人が情報通信技術を弁護活動においても活用することは,適正で公正な刑事裁判を実現するために必要であると考えますが,情報通信技術を用いて証拠の分析を行うためにも,原データと同一性のあるデータをダウンロードして謄写する必要があるといえます。   検討課題の「5」に関係しますが,もちろん開示証拠には,関係者のプライバシーや名誉に関わる情報が含まれていますから,電子データの形式で謄写された証拠について,弁護人は適正に管理しなければなりません。具体的には,電子データを保存する端末やクラウドについて,十分な強度を有するパスワード等で管理することのほか,端末のOSやアンチウイルスソフトを最新に保つこと,安全なインターネット接続を確保すること,ストレージの暗号化や遠隔でデータを消去する機能を装備することなどの方法により,証拠の電子データが第三者に漏えいすることを防止するための措置を適切に講じる必要が生じると認識しており,弁護士会においても,そのような議論を進めているところでございます。 ○吉澤委員 被害者参加をする者としましても,証拠の閲覧・謄写というのは,日常的になされておりまして,それをオンラインで行うことについては,一般的には賛成はいたします。   ただし,「4」の,先ほども御指摘ありました対象とする書類の範囲などに関してなのですけれども,それは厳格に考える必要があると考えています。特に性的画像や動画,また被害者の御遺体が撮影されているような刺激的な証拠につきましても,特に取扱いを慎重にすべきではないかと考えています。画像データや動画は,その特性上,複製・拡散が非常に容易になされてしまうという問題があり,また,性的画像や動画,その他刺激的な証拠につきましては,そういった内容であるからこそ興味を引いてしまい,特に拡散されやすいという特性があると思います。ですので,絶対に流出してはいけないというのが大前提になります。   その点からいいますと,例えば,性犯罪の犯行状況を記録した画像や動画につきましては,今現在でも閲覧しか認められていないというケースがあると思います。仮に,そういった証拠につきまして,オンラインでの閲覧を認めてしまいますと,そのオンラインで,例えば,事務所などで画面に映っているものを,それを更に写真を撮るとか,撮影するなどといった方法で,容易に謄写までされてしまうという問題があると考えます。そのようなことがなされないという保証につきましては,検察庁での閲覧のみ認めているというときは,担保があるのですが,オンラインで行うということになりますと,それが担保できないということになってしまいますので,性的画像や動画について,閲覧のみ認められているというものについては,オンラインによる閲覧を認めることには反対です。対象外とすべきと考えています。   また,性的画像や動画につきまして,実務においては,その撮影されている内容や争いがあるのかないのか,また争点との関係によっては,謄写が認められている場合もあるかとは思いますが,そういったケースでも,現在も,その場合はインターネットに接続可能な端末での閲覧は禁ずるなどの条件が付された上で謄写されているものと考えます。それは,やはりインターネット上に一たび出てしまいますと,拡散されてしまい,取り返しのつかない被害が発生してしまうということから付されているもので,当然の条件だと考えています。   ですので,こういったケースの性的画像や動画の謄写につきましては,オンラインによる謄写を認めるということには,基本的には難しいのではないかと考えています。 ○笹倉委員 河津委員,吉澤委員から具体論にわたるお話が既にございましたけれども,私は,総論的な観点から,「1」の「必要性」と「2」の「許容性」について,意見を述べます。   まず,「1」の「必要性」ですけれども,現行法を通覧しますと,弁護人が裁判所に提出された訴訟に関する書類等を閲覧・謄写できるとか,被告事件終結後に訴訟記録を閲覧するとか,証拠保全された書類等の閲覧・謄写とか,さらには,証拠調べ請求予定の証拠書類等の閲覧,さらには,証拠開示手続における閲覧・謄写など,書類の閲覧や謄写という文言を用いた規定が散見されるところです。   このように,証拠物にせよ書類にせよ証拠は有体物であるという前提であったために,証拠の開示等の手段としての閲覧・謄写は,証拠物以外の証拠については,それが紙媒体の書類であることを前提に行われることになりますが,既に御指摘がありましたとおり,閲覧・謄写のために紙媒体の書類をコピー機を用いて大量にコピーする必要が生じ,事案によっては数十万円から数百万円の費用が掛かるほか,当然のことながらその作業のための時間も掛かる。しかも,その書類がある場所まで行かなければ閲覧・謄写の作業ができないということで,開示を受ける側にとっての負担が大きい。そこで,可能であるのならば,それについて改善を図る必要がある。そのこと自体に対する大きな異論はないだろうと思います。   そして,今,刑事手続における情報の取得や処理について電子化することを議論しているわけですが,一般に情報処理を電子化することの利点の一つはデータの保管・複製が容易である点にあります。したがって,情報の扱いについて電子化が実現した暁においては,閲覧・謄写についても電子データで行うことに越したことはなく,この場面に限って紙媒体による開示を維持する,あるいは電子化されている証拠をわざわざ紙媒体に戻して開示することは,合理的ではありません。   具体的には,例えば,弁護士事務所など,開示の対象である電子データを裁判所以外の場所からオンラインで閲覧ないし謄写することができるということにすれば,負担軽減に資する上,時間の節約にもなります。さらに,公判前整理手続に付された事件における検察官から被告人又は弁護人に対する検察官保管証拠の一覧表の交付についても,現状では紙媒体で行われているものと承知していますけれども,これについても,電子データをオンラインで交付することができるとするのが,やはり合理的だろうと考えます。   次に,「許容性」に関わることについて述べます。   これも,既に御指摘があったところですけれども,刑事事件で扱われる情報は,一般にプライバシーに関わるものなど,秘匿性の要請が強いものでございますので,これが漏えいすることは厳に避けなければなりません。したがいまして,セキュリティという観点が非常に重要です。   検察庁や警察においては,現状においても,外部と遮断され,相応の堅牢性を備えた自前のネットワークをお持ちであると理解しております。他方で,弁護士さんの事務所とそれをつなぐとすれば,おそらく公衆回線を経由せざるを得ないでしょうから,強固な堅牢性を備えたシステムから外に情報が出ることになります。もちろん,情報のやり取りは双方向ですので,立場は互換的であり,弁護人がその支配領域で幾ら堅牢なシステムを備えたとしても,そこから公衆回線を経由して検察庁や警察に向けて情報を送る途中,あるいは送信した先で情報が漏れることがあってはなりません。したがって,証拠の閲覧・謄写等をさせる側,閲覧・謄写等をする側という各主体の支配領域,及びそれらの間を結ぶ部分の全てについて,安全性・堅牢性を確保することが重要です。   そして,そのような措置を講ずることが,予算・技術・関係各所の対応能力との関係において現実的に可能であるのならば,これをあえて許容しない理由はないと考えます。 ○池田委員 先ほど吉澤委員から御指摘があった点と関連して,「4」について意見を申し上げます。   既に御指摘があったところと重複しますけれども,オンラインでの証拠の開示,閲覧・謄写,交付を広く行うべきであるという一般論について賛同する一方で,拡散を防ぐべきものとして,性的画像や刺激証拠があるという御指摘がありました。拡散を防ぐためには,閲覧にとどめて謄写を許さないということがまず考えられますが,閲覧させてしまったら,画面撮影による複製が容易であることに鑑みますと,複製を防ぐことが困難なオンラインでの閲覧もさせないということも,考えなければならないように思われます。   以上に鑑みますと,オンラインでの情報入手を容易にするという趣旨を踏まえつつ,拡散等による弊害の大きなもの,その他の一定の証拠をオンラインによる閲覧や謄写の対象外とする規定を設けることが考えられます。このような明文の規定を置くことは,被害者やその他の関係者にとっての安心に資するようにも思われるところです。   オンラインによる閲覧・謄写を認めるべきでない証拠として,具体的にどのようなものがあるか,それらの証拠を対象外とするために,特別の規定を設けることの要否・当否が,今後の検討課題となるものと考えております。 ○佐久間委員 先ほど来,どなたの委員もおっしゃっていることですけれども,我々が刑事事件で取り扱う情報というのは,非常にプライバシー性が高いものでして,これが漏えいすることは絶対に避けなければならないと思っております。その立場から,検察実務における運用状況と,捜査機関としての立場からのセキュリティに関する問題意識を述べておきたいと思います。   電子データにより作成された刑事事件の証拠書類等がインターネット上に漏えいした場合は,短時間で容易に拡散し,ミラーサイトなどに拡散された場合には,ネット空間から回収することは,もはや事実上不可能となります。現行の実務においても,このような電子データの漏えいの危険性に着目し,例えば,記録媒体に記録されている電子データが,吉澤先生が先ほどから御懸念されているように,性犯罪の被害の犯行時に撮影された動画など,関係者の名誉やプライバシー等に甚大な被害を与えるものである場合には,その閲覧のみを認める旨の条件を付すなどして,セキュリティ確保を図っております。また,取調べ状況を記録した記録媒体の謄写については,検察官は弁護人に対して,謄写枚数の制限,謄写に係る記録媒体の複写を禁止する,謄写に係る記録媒体を再生する際はインターネット等により外部に接続した機器を用いることを禁止する,また,弁護活動終了後には,これを廃棄していただくといった条件を付した上で,当該記録媒体を謄写していただいております。これが現行の実務でございます。   このように,現在の実務においても,特に謄写につきましては,情報セキュリティの確保という観点から慎重な取扱いをしておりますところ,刑事手続における書類を電子データにより作成することを可能とした場合には,これまで紙媒体であった書類も含め,基本的に全ての証拠が電子データとなり,オンラインでの閲覧・謄写の対象となり得ます。これは,可能性としてなり得るというお話でございます。   このような場合,対象範囲については,吉澤先生が先ほど来,性犯罪のことについて御懸念を示されているのは重々承知しておりますが,全ての証拠が電子データとしてオンラインでの閲覧・謄写の対象となる可能性がある場合に,閲覧・謄写の際のセキュリティが十分に確保されていなければ,被害者を含む国民からの理解を得ることは,およそ困難でありますし,これらの方々からの捜査協力を得ることも困難となります。河津委員から先ほど,この具体的な方策について御提示がありましたが,我々としては,証拠書類等の電子データに暗号化措置を施す方法や,複製を禁ずる方法,提供先を制限する方法などの技術的な措置を施し,仮に,万が一情報が漏えいした場合であっても,当該電子データがインターネット上に拡散したり,あるいは,第三者がインターネットを介して閲覧したりすることができないようにするための技術的な方策を導入し,情報セキュリティの確保を技術的な面から担保していくことを考える必要があると思っております。 ○河津委員 検討課題「4」に関して,補足をさせていただきます。   刑事裁判の証拠一般について,漏えいを防止する必要がありますが,その中でも,性的画像のように,特にその必要性が大きいことなどから,特段の配慮すべき証拠があることは認識をしております。   佐久間委員からも御紹介がありましたが,現行実務上も,請求証拠とそれ以外の証拠とで取扱いの違いはありますが,証拠の開示に当たり条件等が付されることがあり,それを受けて,弁護人と検察官との間で協議し,証拠の性質や防御上の必要性の程度に応じて,例えば,一部を謄写したり,一旦検察庁で閲覧した上で,一部を印刷してそれを受領したり,閲覧にとどめたり,そういった運用が行われています。そして,当事者間で協議が整わないときは,裁判所に裁定を求めることができ,裁判所は,開示の必要性の程度や弊害の内容及び程度を考慮して判断するものとされており,その決定に対しては,即時抗告の権利も保障されています。このような手続が保障されていることは,防御上必要な証拠が不当に開示されない事態や,防御に支障を生じさせる条件が不当に付されるような事態を防止するために,大きな意味があると考えられます。   電子データ形式の証拠のうち,性的画像のように特段の配慮が必要なものについても,多くの場合,当事者間の協議で適切な対応は可能であると思います。先ほど申し上げたとおり,電子データには様々な情報が含まれており,例えば,画像データについては,撮影日時,機材,場所,編集の痕跡などを示す情報が含まれていることがあります。それらの情報が防御上必要な事案においては,当該データを謄写して検討する機会を奪うことは,被告人の防御権を侵害するものであり,ひいては,事実認定を誤らせる危険があります。したがって,特段の配慮すべき証拠についても,事案に応じ,開示の必要性の程度や弊害の内容及び程度を考慮して,開示の在り方を判断する手続が保障されるべきであり,一律に対象外とするのではなく,現行法の規定を用いて,適切に対応するべきであると考えます。 ○成瀬委員 私は,「3」の「必要となる法的措置」について意見を申し上げたいと思います。   現行刑訴法・刑訴規則における「閲覧」・「謄写」は,書類のみならず,証拠物をも対象としています。そして,対象となる証拠物が,電子データが記録された記録媒体である場合,その「閲覧」・「謄写」は,単に当該記録媒体,例えば,USBの存在・形状を外から視認するのみならず,当該記録媒体に記録された電子データの内容を電子計算機の画面上に表示させて視認する方法や,当該電子データの複製を記録した別の記録媒体の交付を受ける方法によって行うこともできると解されます。   このように,現行法における「閲覧」・「謄写」は,電子データの内容を画面に表示させて見分する作用や,電子データの複製物を得るという作用をも含んだ概念であることから,証拠書類等を電子データとして作成・管理することとしても,「閲覧」・「謄写」という文言自体については,特段の手当てを要しないと考える余地もあろうかと思います。   もっとも,先ほど来,委員の皆様から御指摘があったように,情報セキュリティを十分に確保する観点からは,電子データとして管理されている書類等の閲覧・謄写の方法を無限定とすることは適切でないと思います。そこで,河津委員や佐久間委員が御提案くださったように,弁護人が用いる端末やインターネット環境の安全性,オンラインでの閲覧・謄写の条件などの技術的事項について,別途,規律を設ける必要があると考えます。   他方,証拠一覧表の「交付」については,笹倉委員からも御指摘がありましたように,現行法上,有体物である紙媒体を対象としていると解されます。そこで,電子データとして作成・管理された証拠一覧表を,オンラインで弁護人に提供することを示す文言を,新たに規定することが考えられます。 ○小木曽座長 それでは,(4)の「閲覧・謄写・交付」については,ここで一区切りといたしまして,次は,(5)の「公判廷における証拠調べ」の議論をいたしたいと思います。   では,資料9について,説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料9の「1(5)公判廷における証拠調べ」について御説明いたします。   資料の1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   電子データ化された書類等について,電子データそのものを裁判所に提出し,証拠として取り扱う仕組みを整備するかが論点となるという趣旨で,「電子データとして管理されている証拠について,公判廷における証拠調べの方式を整備するか」と記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を記載しております。   一つ目の課題は「必要性」であり,二つ目の課題は「許容性」です。   三つ目の課題は,「必要となる法的措置」です。本方策の導入を検討する上では,電子データについての証拠調べの方式に関する規定を設ける必要があるのかといった点を検討する必要があると思われますので,この検討課題を掲げております。具体的には,現行の規定で対応できるかといった点や,現行の規定に対する手当てを要するかといった点について,検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。   四つ目の課題として,「その他」を記載しております。   2ページ目には,「関連条文」を掲載しておりますので,適宜御参照ください。   資料9についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   この点につきましても,全体をまとめて議論いただければと考えております。   御意見のある方はお願いいたします。 ○笹倉委員 「1」の「必要性」と「2」の「許容性」について意見を述べます。   まず,証拠調べの方式についてですけれども,現行法上は,証拠書類の取調べについては朗読,それから,証拠物の取調べについては展示,証拠物たる書面については両者を併用するという定めがあるのみで,それ以外の方法は規定されておりません。そうしますと,電子データの内容が証拠となっているという場合であっても,電子データそれ自体についてどうするかという定めがない以上,現状においては,それを記録した有体物である記録媒体を証拠書類ないし証拠物として展示・朗読の対象とするという運用がされているものと理解しています。   そのような考え方が前提になっているからこそ,例えば,ビデオリンク方式で行われた証人尋問の中身を後の刑事手続で使うという場合には,その記録媒体を調書に添付して,調書の一部とし,その調書を取調べの対象とするという定めが置かれているのでしょう。また,取調べの録音・録画が行われた場合においても,任意性立証のためにその記録媒体の取調べを請求するという定めになっており,取調べの全過程の動画データそのものを取調べの対象とするという構成は採られていません。しかしながら,書類を電子データによって作成することを正面から認めつつ,それを公判で証拠調べの対象としようとする段になると,常にそれを当事者において書面あるいは記録媒体に固定する作業をした上でそれらの有体物を公判廷に持ち込まなければならないものとするのは非効率ですから,端的に電子データそのものを証拠として取り扱う必要性があると考えられます。   そして,証拠の電子化を許容する理由が,電子データであっても紙媒体で作成された書類と同様の役割を十分果たすことが可能であり,書類と同等の証拠価値を認めることができるということであるのだとすれば,証拠調べの対象を電子データとすることの許容性も同様に考えるのが一貫するのであって,この場面においてのみ許容性を異にすべき理由は見いだしがたいところです。つまり,刑事裁判において,電子データそのものを証拠として取り扱うことには許容性もあるものと考えます。 ○成瀬委員 笹倉委員の御発言を受けまして,私は,「3」の「必要となる法的措置」について意見を申し上げます。   今,笹倉委員が御説明くださったように,現行刑訴法は,電子データそれ自体について証拠調べの方法を定めていないため,電子データそのものを証拠として取り扱う証拠調べの方式について,規定を設けるなどの手当てが必要であると考えております。   現行の証拠調べの規定は,証拠の種類や性質等に応じて,公判において的確な心証を形成するため,一般的に最も適当と考えられる方式を規定したものであり,他により適当な方式がある場合には,それが明文で規定されていないものであっても,その方式によって証拠調べを行うことが許容されると解されています。例えば,録音テープや動画のDVDについては,その性質に応じて,音響機器やDVDプレイヤーで再生する方法によって証拠調べが行われていると承知しております。   電子データにつきましても,従来の紙媒体で作成されてきた書類に代わるものから,音声・映像データのようなものまで,様々な種類・性質のものがあり得ますので,現行法のような規定の在り方が望ましいと思います。そこで,電子データそのものを証拠として取り扱う証拠調べの方式について規定を設ける場合には,現行の「証拠書類」や「証拠物」の証拠調べ方式に関する規律と同様に,一般的に最も適当と考えられる方式を規定し,他のより適切な方式によることを妨げない趣旨のものとすることが考えられます。 ○河津委員 検討課題「3」の「必要となる法的措置」に関連して,申し上げます。   裁判員制度の導入を契機に,公開の法廷で証拠の内容を知り,心証を形成するのが,刑事裁判の正しい在り方であることが再確認されたと理解しております。   本日何度か申し上げておりますが,電子データには,通常閲覧する画面には必ずしも表示されない情報も含まれています。そのような情報が公開の法廷に表れていないときに,事実認定に用いられると,当事者にとっては不意打ちになることがありますし,当事者の意見を踏まえずに情報の意味を解釈することによって,事実認定を誤る危険もあるように思われます。このような点からは,公判廷における証拠調べの方式は,事実認定に用いられるべき情報が,公判廷に適切に表れるような方法によるべきであると考えられます。   具体的には,文書であれば画面への表示及び朗読,静止画像であれば画面への表示,動画であれば画面での再生,音声であればスピーカー等での再生,埋め込まれた文字情報については,当該文字情報を画面に表示するなどの方法によることが考えられますが,公判廷において,どのような方法で取り調べられたのかが,公判調書等に適切に記録されることが必要になるのではないかと考えます。 ○永渕委員 「3」番に関連して,若干お話しさせていただきたいと思います。   証拠書類や証拠物の取調べ方法に関する現行法の規律は,これまで御指摘がありましたとおり,法廷において証拠の内容が明らかになり,裁判所が法廷で心証を取れるように定められていると理解をしております。現在,朗読や要旨の告知の方法によって取り調べている証拠について,これらが電子データ化された場合でも,ただいま申し上げました趣旨は変わるものではないと思われます。電子データ化された証拠についても,法廷でその内容が明らかになるよう,これまでと同様の方法による取調べを行うことが相当と考えております。   したがいまして,取調べの対象が電子データそのものとなった場合にも,このような目的に沿った取調べ方法となることが望ましいと考えている次第であります。 ○小木曽座長 一通り御意見を頂戴できましたので,「(5)公判廷における証拠調べ」についての議論は,これで一区切りとさせていただきます。   本日予定しておりました議事はここまでです。皆様の御協力をもちまして,大変スムーズに進みました,ありがとうございます。   次回以降の検討の進め方ですけれども,本日は,「論点項目(案)」の大項目「1」の(1)から(5)まで議論していただきました。今後は,第3回・第4回までを目途として,残りの論点項目について議論を一巡させることを考えております。   次回会議の予定としましては,「論点項目(案)」の「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」のうち,「(1)取調べ等」,「(2)被疑者・被告人との接見交通」,「(3)打合せ・公判前整理手続」,「(4)証人尋問等」について,議論を行いたいと思います。   本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはないと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することといたしたいと思います。また,配付資料についても,同様の扱いとしたいと思います。   それでよろしいでしょうか。 (一同了承)   では,そのようにさせていただきます。   次回の予定について,事務当局からお願いします。 ○南部室長 次回の第3回会議は,5月27日木曜日,午後1時からの開催を予定しております。本日同様,ウェブ会議方式での開催となる予定です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 本日はこれにて閉会です。   どうもありがとうございました。 −了−