法制審議会 仲裁法制部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和3年4月23日(金) 自 午後1時32分                      至 午後4時33分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  調停による和解合意に対する執行力の付与について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,予定した時刻を少し過ぎましたけれども,これより法制審議会仲裁法制部会第7回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   本日は衣斐幹事,それから渡邊関係官が御欠席と伺っております。   議事に入ります前に,前回に引き続き,本日もウェブ会議の方法を併用して議事を進めたいと思いますので,ウェブ会議に関する注意事項を事務当局から説明していただきます。お願いします。 ○福田幹事 福田でございます。これまでの会議と同様のお願いとなりますけれども,念のため改めて御案内をさせていただきます。   本日も新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん延防止等重点措置を実施すべき期間ということになっておりますので,部会長も含め,基本的にはウェブでの参加という形でお願いをしたところでございます。   今,私の声は皆様方に届いておりますでしょうか。聞こえておりましたら,手を挙げる機能でお知らせください。   ありがとうございます。確認できましたので,手を下げていただいて結構でございます。   それでは,ウェブ会議に関する注意事項を改めて御説明させていただきます。ウェブ会議を通じて参加されている皆様につきましては,ハウリングや雑音の混入を防ぐため,御発言される場合を除き,マイク機能をオフにしていただきますようお願いを申し上げます。審議において御発言をされる場合は,先ほどの手を挙げる機能をお使いください。こちらの会場で御出席されている方も,机上のパソコンで同様の機能をお使いください。それを見て部会長から適宜指名がありますので,指名されましたらマイクをオンにして発言をお願いいたします。発言が終わりましたら,再びマイクをオフにし,同じように手のひらマークをクリックして手を下げるようにしていただきたいと思います。なお,御発言の際は必ずお名前をおっしゃってから発言されるよう御協力をお願いいたします。   注意事項は以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   また,本日の審議に入ります前に,皆様御案内のとおり前回部会後,中間試案についてパブリックコメントの手続が開始されておりますので,事務当局からその点に関する説明を頂きたいと思います。またあわせて,本日の配付資料についても説明をお願いいたします。 ○福田幹事 再び福田でございます。   まず,パブリックコメントの手続について御説明いたします。既に御案内のとおり,前回の3月5日の第6回会議において中間試案を取りまとめていただきました。この中間試案につきましては,3月19日の午前0時からパブリックコメントの手続が開始されております。この期間は5月7日までとなっておりまして,現在その手続期間中となっております。   次に,本日の配付資料について御説明いたします。本日は部会資料7として「仲裁法等の改正に関する論点の補充的検討(4)」をお配りさせていただきました。内容につきましては後ほど事務当局から説明をさせていただきます。   また,本日は今後の日程についても配付をしております。これまで,今年の8月までの日程をお示ししておりましたけれども,9月の日程も追加でお示しをさせていただきました。パブリックコメントの結果を踏まえた進行がどのようになるかというところもありますけれども,具体的な進行につきましては議論の状況を踏まえつつ,随時お諮りをしたいと考えております。   私からは以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議の方に入りたいと思います。   先ほどの事務当局からの説明のとおり,本日はパブリックコメントの手続中ということでございますので,中間試案それ自体に関する御議論ではなく,これと関連する理論的なテーマや,あるいは中間試案前に審議の時間が十分に取れなかったテーマについて御審議を頂きたいと考えております。事務当局より取り上げるべきテーマについて3点を用意していただきましたので,これらにつきまして順次御議論を頂戴したいと思います。   それでは,まず部会資料7の「第1 調停による和解合意に執行力を付与することの正当化根拠」,この点について事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは,鈴木から説明をさせていただきます。   部会資料の第1では,調停による和解合意に執行力を付与することの正当化根拠について取り上げております。今,部会長の方からも言及がございましたとおり,今回はパブリックコメントの手続期間中であるため,執行力を付与し得る対象となる和解合意の範囲について,いずれの案を採用すべきかなどといった点について御議論いただくことは想定しておりませんが,次回の部会以降はこの点が主要な議題となってくるものと考えております。そこで,この機会に適用範囲について検討するための前提となる執行力付与の正当化根拠について皆様に御議論いただき,次回以降の御議論につなげていただきたいと考えております。   部会資料の1ページ目では,当部会においてこれまでに議論してきた内容をまとめております。当部会では,当事者の合意の尊重という点に実質的根拠を求めつつ,執行力を付与することの弊害が大きいと考えられる一定の紛争類型を適用から除外した上,裁判所による執行決定手続において合意の真正性に疑義が生じる事由等の有無を判断するとの規律を設けることで,調停による和解合意に執行力を付与することが許容されると整理してきました。   一方,このような考え方に対しては,既存の債務名義との整合性を図る観点から,調停による和解合意に執行力を付与するためには,むしろ公的機関に代わり得る者が関与することが必要であるとの指摘が考えられます。このような指摘を踏まえ,調停による和解合意に執行力を付与することの正当化根拠についてどのように考えるか,更なる御議論をしていただきたく存じます。この論点については,第1回の会議で一度御議論いただいておりますが,この機会に,更に皆様から多くの御意見を賜れれば幸いです。   また,シンガポール条約においては調停人の資格等について何ら制限は設けられていないところ,当部会でも条約と整合的な国内法制を整備するとの観点から,少なくとも国際性を有する和解合意については調停人の資格等について制限を設けずに執行力を付与し得るものとするとの方向で議論が進められていたものと認識しております。どのような範囲において執行力を付与するかは,最終的にその必要性等を総合考慮した上で判断するということになるとは思われますが,およそ理論的に正当化できないものについて執行力を付与することは相当でないものと考えられますので,シンガポール条約と同様,我が国の国内法において調停人の資格等について制限を設けることなく調停による和解合意に執行力を付与し得るとの規律を設けることの正当化根拠についてどのように考えるか,皆様の御意見をお聞かせください。   さらに,仮に調停人の資格等について制限を設けなくても,調停による和解合意に執行力を付与することが許容されると考えた場合に,国際的な性質の有無により調停人の資格等の制限について異なる規律を設けるのであれば,正当化根拠との関係でどのように整理するのかという点についても,併せて御意見を頂けると幸いです。   私からの説明は以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御意見を頂戴したいと思います。 ○古田委員 聞こえておりますでしょうか。ありがとうございます。古田でございます。   今,事務当局から御指摘があった正当化根拠ということですけれども,実定法に則していうと,民事執行法22条各号に列記をされた債務名義の中に,例えば確定した執行決定がある調停和解というものを入れるということが正当化されるかどうかという問題意識かと思います。   私の理解では,何を債務名義にするかというのは,基本的には,私人間の権利義務関係に基づく一定の給付請求権について,国家がその実現にどういう場合にどの程度力を貸すかという問題です。現行の民事執行法22条を見ますと,確定判決や仮執行宣言を付した判決が一番最初に挙がっています。要するに,権利義務の内容を裁判所が公的に確定をしたものについては,それに基づいて強制執行するところまで国家が援助するという立法政策を我が国は採っていることになります。そのほかに,例えば裁判上の和解の和解調書ですとか,あるいは執行認諾文言のある公正証書というようなものが債務名義に入っております。これらは権利義務関係の存否については公権的な判断はされていないのですけれども,その文書の作成に一定の国家機関が関与することを前提に執行力を付与しているということと理解されます。その場合の実体的な正当性根拠としては,当事者間の間で合意によってお互いの権利義務が確定をされたということがあり,手続的な正当化根拠としては,裁判上の和解であれば裁判所がその成立に関与をしていますし,執行証書の場合には公証人という国家機関がその成立に関与しているということだろうと思います。   しかし,現行の民事執行法22条は,さらに,仲裁判断についても確定した執行決定がある場合には債務名義にしております。ここでいう仲裁判断には,仲裁人が判断権者として当事者間の権利義務を確定した場合だけではなくて,仲裁法上,当事者間で成立した和解を内容とする仲裁判断についても適用があることになっています。つまり,現行の民事執行法は当事者間で成立した和解を内容とする仲裁判断にも執行力を付与しているということになります。   当事者間の和解を内容とする仲裁判断が執行力を持つことの正当化根拠は,実体的には当事者間の合意で権利義務が確定されたということと,その手続的な観点からいうと,執行決定という制度を介在させることによって,私人である仲裁人だけではなく,国の機関が債務名義の成立過程に一定の関与をしているので正当性が担保されるという仕組みかと思います。   その観点から見ますと,当事者間で成立した調停和解についても,実体的な観点から言えば,当事者間の和解によって権利義務関係が確定をされ,また手続的な観点からは,現在中間試案で想定されている手続は執行決定を介在させ,債務名義の成立過程において,その調停手続の正当性,妥当性について裁判所が審査をすることになっております。そのような制度設計であれば,立法政策としても既に認められている,和解を内容とする仲裁判断の執行力が正当化されるのと同様に,調停による和解合意に執行力を与えることも十分に正当化されるのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 聞こえておられますでしょうか。よろしいですか。   今の古田委員の補足のような意見ですけれども,私は弁護士会ADRをやっておりまして,一般的な流れを少し御紹介したいのですけれども,一方当事者が仲裁の申立てをして,仲裁事件として始まるのですが,仲裁合意がない場合が多くて,その場合は,仲裁の申立てと書いてあっても和解あっせん事件として事件が開始されると,それで,ある程度両当事者で和解が調いましたと,そのときに一方当事者の方がこれに執行力を付与したいと考えるときに,仲裁法38条決定をしてほしいということを仲裁人というかあっせん人に申し出て,その段階で相手方が,それはいいですよと,仲裁合意をして執行力を付与することも合意しますということであれば,そこで仲裁合意を得て仲裁事件に変更されて,それで和解内容を仲裁決定として仲裁人が仲裁決定を書くという実務をやっております。これは年に数件起きているのですけれども,私ども実務家の感覚からすると,そういう意味で,仲裁と調停というのは連続した,特に弁護士会ADRの場合は連続した手続であって,仲裁と調停というのが全く別のもので,仲裁には執行力を与えるのは当然だけれども,調停に執行力を与えることは正当化できるのかという議論が若干,問題意識として違和感があるというのが正直なところでございます。   現行法上も,古田委員がおっしゃるように,仲裁決定というのは既に執行力を付与されるものとして規定されているので,その場合,調停とはいかなるものかという議論をするということであれば,それはそれで理解ができるのですが,そもそも調停に執行力を与えることの正当化根拠と言われると,仲裁同様に裁判所の執行決定を前提として,当事者間に紛争があって,それが合意によって権利義務を確定するということで正当化根拠はあるのではないかと私は考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。この資料第1のところで問い掛けられている内容というのは,大変根本的な問題と申しますか,なかなか難しい問題だなと考えておりますけれども1のところで書かれている正当化根拠というところの説明は適切なものではないかと私は考えております。   更に少し付言をいたしますと,先ほど古田委員等からの御発言にもありましたけれども,一方で強制執行の対象とされるような権利義務の存在,内容について,それが当該文書において正しく表示されているという,その文書の記載内容の実体的な正当性ということが要請されると思われますけれども,他方で,そのことが一定の形で公的機関によって一種,公証されると,広い意味での公証がされているということが大きな柱なのだろうと思っております。   そのときに,これは既存の債務名義との比較というところにも関わるかと思いますけれども,例えば公証人が作成する公正証書の場合と,仲裁判断で執行決定がある場合というものを比較いたしますと,いずれも何らかの形で公的機関が関与しているということにはなるわけですが,その関与の在り方がかなり異なっているというところがあるかと思います。   公証人の場合には公証人の面前で,これは両当事者が関与する形で執行受託文言のある証書を作成するということで,これがありますと,その後に更に裁判所の執行決定というようなことは特段必要がなく,その文書そのものが債務名義として認められるということになるわけですけれども,仲裁判断の場合ですと,これは,仲裁判断についてはもちろん両当事者が手続保障を与えられて判断がされるということになるわけですけれども,国家機関,公的機関の関与というところでは,これは裁判所が執行決定をするということですが,その段階で両当事者が強制執行することについて同意の意思表示をしていると,取り分け執行債務者となる者が執行受託の意思表示をしているということではないということで,そのことに伴いまして,この執行決定の要件として,その基礎となっている仲裁合意,あるいは仲裁判断の有効性ということが執行拒否事由として問題とされる,裁判所の前で認定判断がされるという構造になっているのだろうと思います。   資料の2ページの2の第1段落の最後のところで,公的機関に代わり得る者が調停に関与するところが必要であるとの考え方があり得るという記載がありますけれども,債務名義の作成過程において何らか公的機関の関与は必要であるということは,そのとおりであると思われますけれども,調停そのものに公的機関に代わり得る者,あるいは公的機関が関与することが必要かどうかと考えますと,それは現行法も必ずしもそこまでは考えていないだろうと,仲裁判断の場合でも,仲裁手続そのものに公的機関ないしそれに代わり得る者が関与しているということではなくて,その後の段階で関与するということでも足りると。しかし,その関与の際には執行決定というような形で一定の審査が行われるということで,全体として債務名義としての正当性を確保しているということではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 吉野です。聞こえていますでしょうか。   公的機関が何らかの形で関与するという点で言えば,既に,どの調停を対象にするかは別として,一旦成立した私的な合意について,裁判所の執行決定をプラスして,それによって他の債務名義と平仄を合わせている,こういう仕組みが提案されているわけです。   そうすると,執行決定というものをどう位置付けるかだろうと思います。確かに調停による和解合意は,私的な合意です。公的な機関が関与しない合意だろうと思うのですが,この執行決定という手続をかませていること,プラスしていることによって,債務名義作成の段階において公的機関が関与していると,そのような評価を与えることができるのではないかと考えております。   つまり,日本では判決裁判所と執行裁判所が分離している,そのような考え方の下に民事執行法等が枠組みを作っているといわれているわけですが,もっと言えば,債務名義作成機関と執行機関ですね,執行機関には執行裁判所のほかに執行官もありますが,債務名義作成機関と執行機関が分かれている。これまでにも議論が出ておりましたように,例えば外国判決に対して執行判決がある,それから,仲裁については執行決定がある,つまり,外国判決に対する執行判決,それから,仲裁に対する執行決定,これはまだ債務名義作成段階の問題だろう,そういう捉え方ができるのだろう,現実に執行段階に入るのはその後,執行の申立てがあってからというふうに,大きく二つの段階に分離して考えることができるのではないかと思われます。   したがって,この私的な機関が作成したといいますか,私的な機関において成立した合意について,単にそれだけで終わっているのではなくて,債務名義の作成段階において,公的な日本の裁判所によるところの執行決定が加わって,それによって始めて債務名義が出来上がる,そして,その段階で債務名義作成段階が終わる,その後は執行段階に行くかどうかはまた別の問題。こういうように,いわゆる判決裁判所と執行裁判所が大きく分離しているというのが日本の執行の建前です。それを考えれば,私的な和解合意について執行決定というものが加わるということによって,これは公的な機関が債務名義の作成に関与しているという評価ができるのではないか。   それから,もう一つは,執行決定の段階の問題だろうと思うのですが,これに日本の裁判所が関与することによって,問題のある和解合意に対しては,どしどし却下してしまう。これまでの実務を変えることなく,あるいは日本における債務名義についての考え方を変えることなく,問題のあるものはどしどし却下をするというような運用をすることによれば,問題のある債務名義が登場するということはそこで防止できるのであろうと考えられるのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井でございます。既に皆さんがおっしゃったことに余り付け加えることはなくて,特に今,吉野委員からきれいに整理をして御説明いただきましたので,それに付け加えることは余りないのですが,私からも一言申し上げておきたいと思います。   理論的な正当化根拠ということで今,議論をしておりますが,これは憲法や条約に反するとか,そういう問題ではなく,正に立法政策の問題ということであると思います。先ほど事務局からも一言御説明があったように,およそ理論的に正当化できないものは駄目だということだとは思いますが,今,現行法で債務名義とされているものと比べて,凸凹は一部あっても,遜色のないものであれば,理論的な正当化根拠はありとしてよいのではないかと,少し大ざっぱすぎるかもしれませんが,そういうふうに考えております。   それで,先ほど皆さんからも御指摘のあった部会資料2ページの2の第1段落の末尾,公的機関に代わり得る者が調停に関与することが必要であるとの考え方,この点についてですが,これは恐らく問題設定として,実体的正当性と手続的正当性というのがありましたが,実体的正当性の方は当事者間の合意,場合によっては,プラス執行受諾合意というのも入るかもしれませんが,そちらは実体的正当性の問題,それで,今指摘した,公的機関に代わり得る者が調停に関与すること,ここは手続的正当性の方の問題であると思います。ただ,皆さん御指摘のとおり,公的機関ないしそれに代わり得る者の関与がどの段階でなければいけないのかということについて,それは債務名義の基になる合意のときにないといけないということは,私はないのではないかと思っております。合意から,更にその後,債務名義の成立までの過程を総合的に見て,公的機関ないしそれに代わり得る者の関与がそれなりにあれば,手続正当性が与えられると考えてよいと思っております。   これは皆さんからも指摘がありましたけれども,執行証書の対比で見ますと,執行証書は合意のときには確かに公務員である公証人の関与があるわけですが,今提案されようとしている,調停で成立した和解に執行力を与えるという仕組みの中では,合意の後,裁判所の執行決定というプロセスを経るということになります。したがって,執行証書と比べても,裁判所の執行決定というプロセスが債務名義成立までに入るということを考えると,現在提案されているものは,裁判所の関与ということからすると,むしろ厚いのです。したがって,公正証書と比べても,私は手続的正当化の根拠としては十分あると考えております。それプラス,先ほど皆さんの御指摘の,仲裁判断に執行決定を経て債務名義性を具備させるというのと比べても,そこは遜色はないと思っておりますので,以上から,私は理論的根拠としては,それなりの根拠はあるのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 今回の第1のテーマは理論的な検討ということですので,今から私が申し上げることも純粋に理論的なことであって,立法の結論に影響を与えるか与えないかということは当面度外視して申し上げたいと思います。   これまで何人かの委員,幹事の方々から,手続的な正当化根拠として,公的機関が関与することというような整理がされてきたかと思います。私は別にこの整理に反対するというわけではありませんが,このような整理ですとやや不正確というか,あるいは不十分と考えております。   まず,公的機関というところですが,それでは公的な機関であれば何でもいいのかというと,恐らくそこでは行政機関は想定されていないのだろうと思います。ですから,まず公的機関のところは,私の考えでは,司法機関,ちなみに公証人も広い意味での司法機関だと私は理解しておりますので,まず,公的機関ではなくて司法機関ではないかと思います。それから,関与というのもやや曖昧すぎると思います。何かしら関与さえすればいいのかというと,そうお考えの方はおられないと思います。私はここでの関与ということの中身は,あくまでも合意型の債務名義ですから,紛争両当事者の合意が真意に基づいて行われたことの確認ということではないかと思います。そうすると,両方を合わせると,司法機関による和解においての真意といいますか,あるいは意思に瑕疵がないことの確認ということが手続上の正当化根拠になるのではないかと思います。   そのようにいうと,仲裁手続上における和解を債務名義とする場合はどうなるのかということですが,私の理解する限り,特に欧米では,仲裁人は民間人ではあっても司法機関であると認識されていると思います。単純に言葉だけ取り上げても,多くの国では仲裁廷といわずに仲裁裁判所といいます。国家が立法によっていかなる主体に司法機関としての地位を与えるかは,その国の立法政策で決まることで,公務員でなければいけないという憲法的な制約はありません。仲裁人は民間人ですけれども,国家の立法によって司法機関としての地位を与えられているのだろうと思います。したがって,仲裁手続上の和解の場合は,やはり司法機関が紛争当事者の和解意思が真意であることの確認をしているという意味で,要件を満たしていると思います。もちろん,それに加えて執行決定も更にあるということです。   しかし,仲裁の場合は,執行決定のみが真意の確認をしているというわけではないということです。実際にも執行決定における執行拒絶事由の審査は,真意の確認に事実上相当するものもありますけれども,裁判所による事後的審査には限界がありますので,司法機関による真意の確認の主たるところは,仲裁人という司法機関によって行われているのだろうと思います。そこで問われるべきは,今回の立法においてそこの要件が満たされる形がとれるのかどうかということではないかと思います。   ただ,私は,ここは先ほど出井委員がおっしゃったことと,必ずしも全く同じ意見ではありませんけれども,広い意味で同意するところがありまして,立法政策的に現行の法制と完全に平仄を合わせる必要があるのかどうかというところは考慮の余地があると思います。いずれにしても,現在の形で平仄が完全に合っているのか,あるいは理論的に完全に一致しているのかと言われれば,そこには疑問符が付くということではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○山田委員 ありがとうございます。今の三木委員の御発言に直接答えるところではなくて,差し当たってまず考えたことを申し上げますと,ここで書かれていますように,調停人の関与の仕方の外縁が不明確であるということから,法制として仲裁とは少し異なるのではないかという記載がこの2ページの24行目辺りのところに書いてあるわけですが,確かにその問題というのはあるのかなという感じはいたします。非常に手続の外縁が不明確で,いわゆる相対和解と,かなり仲裁に近いような調停というところまで,様々なバラエティーがあるということは確かでありまして,そういう意味では,言わばその事実行為の側面が多いものを規範に落とし込むということの困難性というのは,これは確かにあるのだろうと思います。   ただ,この困難性ということから直ちに,執行力を認めるその正当性がないということにはならないと思われますし,また,先ほど来議論がありましたように,公的機関という言葉の意味はなお精査が要るのかもしれませんけれども,仲裁法38条にいうような,38条決定に見られるように,合意形成過程に公的機関が関与しなければならないという必然性もないように思われます。   他方で,既に何人かの委員,幹事から御発言がありましたように,現行法の下では公証人の前で,リアル和解であれ,あるいは相対和解であれ,合意成立の真正性を公証されるということで執行力付与がなされていると。したがって,ここでは公的機関として公証人による執行ということがなされ,これが一つの要件になっている。そういう意味では,一定条件の下では当事者間の意思ないし合意を尊重して執行力を付与できるという法制的な価値判断があるのだろうと思います。   そういたしますと,執行決定のあるADR和解は,執行証書と仲裁判断,特に38条決定による判断の間に位置付けられるものと見ることができます。そういたしますと,交渉における手続で判断の対象となる合意の真正性ということ,もちろん公序良俗に反しないということもありますけれども,そういったものよりも,この執行決定の場面というのは,執行拒否事由をどこまで仕組むかにもよりますけれども,しかし,少なくとも執行証書においてよりははるかに詳細な判断がなされ,かつ,決定手続とはいえ相手方の立会いを必要とするということになろうかと思いますので,そういう意味でも手続的にも慎重な立場が採られていて,その意味での手続保障ということも認められ得るのではないかとも考えられますので,そのような執行証書との対比においても正当化というのは可能ではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 幹事の今津です。既に多くの委員の皆様から御意見が出ているところでして,私も正当化,それ自体可能であるという方向に賛成をするものです。その上で,少し付け加えさせていただきたいと思います。   先ほど来御指摘がありますように,今回想定している枠組みですね,調停に基づく合意があると,それだけではなくて,その上に更に執行決定の手続を踏んだ上で執行力を付与するという枠組みですので,その全体像から見て執行力付与が正当化されるであろうと,そういう考え方に私も賛成ということであります。   その意味で,先ほど少し御指摘があったところかと思うのですけれども,2ページの10行目,11行目で書かれている,公的機関に代わり得る者が調停に関与することが必要だという考え方は少し言いすぎかなと,調停そのものに関与することは必ずしも必要でないのかなという気はしております。ただ,執行決定の制度を付ければ,では,合意の在り方というか,そこの部分は何でもいいかというと,今回もそういうことを想定していないと,つまり相対の合意では駄目で,調停による合意だけが対象になるということですので,その線引きについても理由付けが必要ではないかと思うところであります。   その点につきましては,相対の合意と調停人が入った合意で何が違うかというところを考えたときに,調停人という第三者が入ることによって,最終的に調停書と,文書の形になると思うのですけれども,その作成段階に第三者の目が入るということにも一つ,意味があるのではないかと思っているところであります。既存の債務名義との比較で言いますと,例えば,いわゆる即決和解と呼ばれるものも,和解合意の形成自体は,制度上はともかく実際には,裁判所の外で和解ができていて,それを裁判所に持ってきて文書にしてもらうと,それによって執行力が付いているというような理解をしているのですけれども,その場合,文章の中身が真にその合意を反映しているのかというところのチェックが,第三者の目が入るというところにも一定の意味があると思いますので,その意味で,相対の合意では駄目だけれども,調停人が入ることによって,より正当性が担保されるという説明ができるのかなという気がしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○髙畑委員 ありがとうございます。今の今津幹事の御意見と,先ほど来の三木委員の御指摘の部分とを踏まえてなのですけれども,私も全体として正当化の根拠を有するということについては,大きな方向性に違和感はないのですけれども,少し三木委員の御指摘のところで特に,今津幹事も御指摘のところですが,公的機関に代わり得る者が調停に関与することが必要という部分なのですけれども,三木委員と今津幹事では少しニュアンスが違うのかなという感じがあって,三木委員にももう一度確認させていただきたいのですけれども,つまり,仲裁の場合との比較において,仲裁人については割と,司法機関だという認識が一般にあるかのように少し聞こえたのですけれども,多くの場合,ある意味,きちんとしたというか,国際性,商事性を有するというか,私が今まで経験した中でいうと,調停人であっても仲裁人であっても,かなり,司法機関といっていいのではないかという感覚を実は持っていることから,三木委員の御指摘の部分が,仲裁人と調停人を特に分け隔てする御見解でなければいいなと思っておりましたし,仲裁人に何か資格を設けるような方向性の御意見でなければいいなと少し感じました。   それと加えて,先ほど今津幹事のおっしゃられたところで,やはり相対の場合と比べて,仲裁人が入る,調停人が入るということが大事というのは,私も実は感じておりますし,逆に言うと,いわゆる国際性,商事性を有する調停で調停人が入らないという事例はまだ遭遇したことがないもので,そこら辺のリスクというか,どういったものを具体的に外すべきではないかとお考えなのか,そこの御懸念の点ということをもう少し具体的に教えていただけると大変助かるかなと思っております。 ○山本部会長 三木委員,それから今津幹事に対する御質問の趣旨もあったように思いますが,今の段階でお答えいただくことはありますか。 ○三木委員 お答えということになるかどうか分かりませんが,先ほど私が申し上げたことをもう一度確認しますと,以下のとおりです。   仲裁機関は民間で設置されることが普通で,行政型もありますけれども,私の知る限りでは,英米法の国であれ,大陸法の国であれ,仲裁機関は司法機関であるという認識が一般的だろうと私は理解しております。仲裁機関が民間であるということを,欧米は,公的機関と比べて余り強い意味を持たせないというか,公的であろうと私的であろうと,国家が法律によって権限を付与する限り,民間の司法機関がありうるのは当然のことだという認識が,その前提にあるのだろうと思います。したがって,先ほど私が申し上げた,仲裁もまた司法であるというのは,私の意見というよりは,私が考えるところの世界的な認識を述べたつもりです。私の個人の意見ということではありません。   その上で,髙畑委員がおっしゃった,では調停は司法機関なのかということですが,先ほど言いましたように,私の意見を申し上げたわけではなくて,私の認識するところの世界的な考え方を申し上げたつもりですので,そこに照らして言いますと,私の知る限りでは,仲裁については司法機関だという議論はよくありますけれども,民間の調停機関が司法機関だという議論は聞いたことはありません。しかし,それはただそういう議論をしないだけなのか,それとも仲裁と調停で司法機関かどうかというところを分けて考えているのか,これは私には分かりません。一つだけ推測するとすれば,仲裁と調停で何が違うかというと,いずれも民間ではありますけれども,ただ,仲裁は司法判断をするわけですね,つまり裁断型の機関ですね。それに対して,調停というのは当事者の和解を促進するというか,補助するというので,それは司法ではないと考えられているのかもしれません。しかし,だからといって,日本の今回作る立法で,調停に執行決定を付けることによって執行力を付与できるかどうかというところに,それが理論的に決定的な障害になるかというと,そこまでは申し上げてはいないということであります。よろしいでしょうか。 ○山本部会長 ありがとうございました。   今津幹事は何かコメントありますか。 ○今津幹事 先ほど申し上げた点で言うと,既存の債務名義とどうやってバランスをとるかというところを,非常に重要な問題になってくるかなというところで,第三者が入るということの意味について申し上げた形になっています。当初,事務局の御説明だと,当事者間の合意が基礎になっていると,そこに実質的な根拠を求めるという御説明が結構強かったと思うのですけれども,そこを突き詰めてしまうと,では相対の合意でもいいのかと,どこまで線引きできるかという問題になってきそうなところでしたので,第三者,それが公的機関かどうかというところは,また別の問題かと思うのですけれども,当事者以外の人が入るというところに意味があるのではないかという趣旨の発言でした。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚です。聞こえておりますでしょうか。   私は比較的シンプルに考えて,今の日本の既存の制度との関係で,調停合意,調停での和解合意に執行力を与えることに正当化根拠があるのかという議論については,一番シンプルなのは,仲裁法で国際仲裁のように条約上の義務があるもの以外にも,国内仲裁の仲裁判断に執行力を認めていて,それはコンセントアウォードというのでしょうか,仲裁手続において和解が成立し,それを基に出された仲裁判断についても同様であるということ,それから,当事者の合意があれば,必ずしも法と事実によって判決のような内容の判断をしなくても,善と衡平に基づく仲裁判断を出してもよく,善と衡平に基づく仲裁判断も執行に乗ってくるということからすると,仲裁人の選任において,あるいは仲裁機関の運営において,公的な機関が直接関与していないでもいいということも考えれば,調停において,調停機関だとか調停人について何らかの公的機関の関与がなくても,執行力を認めることが既存の制度との関係で特に問題になるとは思っていないのですが,ただ,仲裁については仲裁人の義務というか,利益相反のおそれのある事項についての開示義務もあるし,忌避制度というのもありますし,それから,仲裁人が例えば一方当事者から賄賂をもらえば,これは収賄罪というのもあるという形で,仲裁人について何らかの,資格制限というのとは少し違うのですけれども,独立公正性を担保するような制度が一応そろっていると。ところが,調停については調停法という,全ての調停に適用されて,調停人の開示義務だとか忌避だとか,収賄の禁止だとか,そういうことを規制するものがないので,その違いによって,調停というのはもしかしたら,そういう独立公正性に問題があっても,調停人としては開示義務そのものがないのではないかという議論が出てきてしまうと,やはり仲裁と違うのではないかというところに行きかねないと思うのです。   それで,実務的には,私が最近やった全くのアドホック調停,国内事件ですけれども,ここでも仲裁人同様の独立公正表明書というようなものをお出ししましたし,調停に関する調停人と当事者との間の,どういう手続が要るかについての合意書の中でも,そういう独立公正性について表明書を出すし,何か新しいことが起きれば開示するという前提でお引受けをしましたけれども,でも,法的にそれをやらなければいけないとはなっていないというところが少し違うと思うのです。なので,論点としては,そういう調停法みたいなものがないままでいいのかというところは答えられるようにしていく必要があるのだと思うのです。   それで,一応,執行拒否事由のところには,今申し上げたような,独立公正性に疑いを生じさせるおそれのある事実を開示しなかったことで,もしそれが開示されていたらそんな和解はしなかっただろうということであれば,執行しないというのがありますので,最終的にはそこで担保されていると思うのですが,制度的にオンゴーイングな義務として開示義務のようなものが定められていないということの違いをどう重く見るかということではないかと思います。   ただ,1点申し上げておきたいのですけれども,では,日本に調停法みたいなものを作らないと調停和解合意の執行力を認めるべきでないということになるかというと,私はそうは思っておりませんし,取り分けそういう調停法みたいなものを作らないと国際的な調停和解についても執行力を認められないのではないか,みたいなことになると,ますますシンガポール条約の加入が遅れてしまうので,そこは私は切り離して考えていただきたいなと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 先ほど,執行力の正当化根拠についての基本的なところに関する私の考えについては申し上げたところですけれども,外縁の線引きというところについて若干の御発言もあったところですので,その点に関して若干補足をさせていただきたいと考えております。   基本的な正当化根拠,実体的正当性であるとか,公的な司法機関の関与ということが備わっているとして,それであればどんな文書であっても債務名義としていいかというところが,更に線引きの問題として問題となるのだろうと思われます。そのときに,その線引き自体はかなり政策的な考慮に基づいてされるということかなと理解をしておりますけれども,そうした政策判断をする上で重要な考慮要素ということが幾つかあるのではないかと思われます。   一つには,この点は先ほど三木委員の御発言で,単に公的ということではなくて,司法機関性ということに着目されるという御発言がありまして,これは非常に示唆に富むところがあるのかなというように伺っておりました。と申しますのは,司法が対象とする事柄というのは,これは具体的な争訟の解決ということでありまして,一定の紛争の存在がそこでは前提となってくると,単なる行政作用というのは必ずしも紛争を前提とするものではないというところが,司法に着目することの一つの含意であるのかなと思われます。   そうしたときに,調停であれ仲裁であれ,これは一定の紛争が顕在化したときに,その解決のためのプロセスとして実施されると,その結果として仲裁判断なり調停合意なりということがされるということで,その点が単に売買契約をして,それに,では裁判所の執行決定をもらえば直ちに執行できるという制度も作れるのかといわれますと,それは政策的にはそういう判断がおよそあり得ないとまではいえないかもしれませんが,しかし,紛争性がある場合においては,現に権利義務の存否についての紛争が顕在化していて,そのプロセスの中で当然,その権利の実現ということも重要な問題となってくるということを考えますと,紛争性のある場合で作られる文書と,そうではない場合とを区別するということには一定の合理性があるのかなと私自身は考えているところです。そういう意味では,調停における和解合意というのは仲裁と共通するところがあるということかと思われます。   そうしたときに,さらに,調停ということですと,第三者が調停人として関与するということが前提となるというところで,この点に関して今津幹事からも御指摘があったところでありますけれども,法制として,例えば紛争について和解契約が相対でされるというときに,その和解契約について何らか司法機関が公証することによって債務名義とするというような制度がおよそあり得ないかといえば,それも政策判断として,およそあり得ないものではないのだろうと思われます。私自身の比較法的な知識は大変限定されたものですけれども,ドイツにおける弁護士和解の制度ですとか,フランスにおいても非訟事件として相対の和解契約を裁判所に認証してもらうことによって強制執行を可能にするといった立法というものは現に例を見るところでありますので,そういったものもおよそあり得ないということではないだろうと。しかしながら,当該社会あるいは国において,どこまでの文書に債務名義を認めるのが立法政策として適当かということを考えたときに,一定の第三者が関与した場合について,より合理性が高いという判断をすることも大いにあり得ることではないかと思われまして,その点は先ほど今津幹事が指摘されたことが当てはまるのだろうと思います。   他方,仲裁法と比べますと,現在,少なくとも日本において,調停のプロセスについて一般的な調停手続法というものが整理されているということではないということが違いとしては存在します。この違いが執行力の付与という問題との関係で,どの程度重要視されるべきなのかということが問われるということなのだろうと思います。   その点に関して,若干更に付け加えさせていただきますと,確かに仲裁法のような形での規定は整備はされていないということではありますけれども,現在ADR法は既に日本でも存在をしているところでありまして,このADR法の総則の規定は,これは一般的に,これが渉外的にどこまで効力をどういう形で及ぼすのかという点は,あるいは国際私法上の問題があるかと思われますが,基本的には裁判官の紛争解決手続全般について,その定義や基本理念,責務等を定めているということで,その中では3条の基本理念としまして,手続が公正かつ適正に実施されるといったようなことも一般的な理念として明確にされている,これがこのADR法が定義するところの裁判外紛争解決手続,これは和解の仲介を含んでいるわけですけれども,そういうものに当然に妥当するという意味では,相対の和解の場合とは異なる形で公正独立の第三者の関与というものが法律上は予定されているというところで,相対の和解とは若干の区別がやはり可能なのではないかとも思われます。   またあわせて,更に絞って認証ADRということになりますと,これは従来この部会でも議論がされてきたことですけれども,一定の法律上の義務等も定められているということですので,更にそういった法制面で認知されているという点については,より高い程度のものが認められるだろうと思われるところですので,そうした中でどこで線を引くかということについて,様々な選択肢が政策的にはあり得るということなのだろうと私は考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○高杉委員 ありがとうございます。私も,正当化根拠については,部会資料のとおり,あるいは他の委員の御指摘のとおり,十分にあると考えております。調停和解合意が,独立公平な第三者である調停人の関与手続の下で形成された,当事者の真意に基づく合意であることや,権利義務関係の存在の蓋然性が担保でき,執行認諾文言を要求することで正当性も確保できるということですし,また,執行決定手続を経ることで,公証という形で担保できるということで正当化できるのではないかと考えます。そして,既に古田委員ほか皆さんが言及されているとおり,和解に基づく仲裁判断,コンセントアウォードも既に現行仲裁法で執行力を認められておりますので,調停和解合意の執行力を否定する理由はないだろうと思っています。   手続との関係ですが,シンガポール調停条約に基づく現在の検討中の案においても,不適切な調停人の関与や不適切な調停手続等に基づく和解合意については執行拒否事由とされておりますし,その点で,仲裁と同様に手続の適正性というのは一応担保されているということですので,仲裁判断と調停和解合意とで区別するような理由にもならないだろうと考えます。   それから,手塚委員がおっしゃられた手続との関係ですけれども,日本を仲裁地とする仲裁については一応の手続的な担保が仲裁法でなされておりますけれども,外国を仲裁地とする手続や仲裁人については仲裁法では直接の規制がされておらず,承認執行拒否事由として対応しているわけです。調停和解合意についても同じように,執行拒否事由として担保することで,問題がないといえるのではないかと思っております。国内での調停手続については,弁護士法等々の関係もあると思いますし,ADR認証等との関係で,幾つか考慮する必要がある点が出てくるかも分かりませんが,国際調停和解合意については,その点については考慮の必要性がないといえるのではないかと思います。   また,三木委員のおっしゃられた,仲裁手続が司法だという点ですが,司法の定義にもよりますが,例えば友誼的仲裁,衡平と善による仲裁とか,法を適用しない仲裁も認められておりますし,そもそもが商人間の紛争を商人が解決していたということを考えると,広い意味での司法ではありますけれども,調停と仲裁を大きく区別するような意味での,狭い意味での司法と捉える必要はないのではないかと思っております。   以上が理論ですけれども,執行力の付与というのはある意味で政策判断の部分も大きいと思います。試問によれば,経済取引の国際化の進展等の仲裁をめぐる諸情勢に鑑み,仲裁法等の見直しを行う必要があるということで今回の改正作業が始まっておりますので,国際仲裁ADRの振興という政策を考えると,法制上,法理上,無理がないのであれば,逆に国際仲裁ADRの振興という政策に合致するよう執行力を付与するという判断もあろうかと思いますし,世界的な基準に合うということで政策的な正当性も認められるのではないかと思います。また,投資紛争との関係で,外国投資家による日本政府を相手方とする紛争ですけれども,日本法上,調停和解合意の執行力が認められていないとすると,相手方が調停手続に応じないということが考えられます。特に,調停の方が仲裁と比べて多様な要素を考慮に入れて解決できることを考えると,この点からも政策的に認める必要が出てくるとも考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。聞こえていらっしゃいますでしょうか。   では,発言させていただきます。理論的根拠,正当化根拠のところにつきましては,もう先生方が詳しく御議論されていらっしゃったので,私からは少し垣内先生が御指摘された線引きのところについて,発言をさせていただければと思います。   この正当化根拠を議論する場合,部会資料2ページ目から3ページ目のところの,執行力を付与し得る和解合意の範囲のところ,特に国際性を有しない和解合意について,どういったものを対象とするのか,限定を掛けるのかというのが一つの議論のポイントなのではないかと考えているところでございまして,この点,国内の和解合意について絞るのか,絞らないのかというのは政策的な判断だと思いますので,様々な立場があり得るのかもしれませんが,一つやはり確認すべきは,純国内的な和解合意であるとすると,垣内先生もおっしゃられたことではございますが,ADR法ですとか,さらには弁護士法,非弁活動の禁止などといったことは必ず適用されて,それに反する和解合意,それに反するような形で調停がされて和解合意が形成されたということになったとすると,そのような和解合意について執行を認めることというのは,やはり日本の公序に反するのではないかと個人的には考えているところでございます。   国際性を有する調停による和解の方について公序の要件をどこまで使えるのかというのは,これはシンガポール条約の解釈との関係も問題となってきて,限定的にといったこともあるのかもしれませんが,純国内,すなわち国際性を有しない和解合意の方であるとするならば,懸念されるような問題のある和解合意については,これは公序要件で十分対応できるのではないか,逆の言い方をすると,立法政策としてなかなか明確に線引きをすることは,個人的には難しいのではないかということも考えているところでございまして,そういった観点からすると,ここの和解合意の範囲を制限するかどうかという点について,公序の拒否事由によって対応することの方が適切なのではないかということを申し上げさせていただきます。   むしろ難しいのは,国際性を有する調停による和解合意について日本のADR法や弁護士法がどこまで適用されてくるのか,こういった日本の国内法の国際的適用範囲の問題でして,こちらの方がむしろ理論的には恐らく難しくて,どこまでシンガポール条約上の公序則で対応できるかといったことが問題となり得るのかもしれません。しかし,差し当たり今,恐らくこのレジュメの中で出てきている議論の焦点は,どちらかといえばむしろ国内的な和解合意の点なのではないかと思いますので,その点であれば,少なくとも国内の調停による和解合意については,日本のADR法であるとか弁護士法上の制限といったものは適用されてくるし,仮にそれに違反するような形での和解合意が作られたとしても,その執行は公序に反すると明確にいえるのではないかと思いますので,この点,発言させていただきました。   長くなって失礼いたしました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   他に御意見がある方はいらっしゃいますでしょうか。いかがでしょうか,特段あれですかね。   事務当局から,更にもし確認したい点があれば,御発言お願いしたいと思います。 ○福田幹事 福田でございます。本当に貴重な多数の御意見をいただきまして,ありがとうございます。一応我々が想定しておりました論点につきましては,皆様方の御意見で大体出てきたかなと思っております。   若干追加して御意見を頂くことが可能であるとしましたら,仮に中間試案の乙2案のような考え方を採った場合,国内のものについては,正当化根拠自体は認められるけれども,政策判断ということで,一定の範囲ないしは要件の下で執行力を付与していくということもあり得るのだろうと思われます。   そうしたときに,最後に竹下幹事からもあったように,国際的な部分については,条約との関係でそういった制限はなかなか設けられないというところをどのように整理していくのかという点について,難しい論点が残っているのかなと思っております。この点について,現時点でお考えをお持ちの方がいらっしゃいましたら,お聞かせいただけると幸いでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。 ○古田委員 古田でございます。これももう本日すでに出た話ですけれども,基本的には何を債務名義と法定して,どの範囲で執行力を認めるかというのは,最終的には立法政策の問題ということになります。もちろん立法ですから,それを正当化する理論的根拠というのは必要なのですけれども,理論的根拠の有無だけで立法の可否が決まるわけでは無く,そのような立法をした場合に想定される便益と弊害のおそれを比べて,弊害よりも便益の方が勝る,あるいは弊害については何らかの対応が可能であるという手当てをした上で,立法していくという手順になります。そういう観点から言いますと,これも従前の部会でも出てきていますけれども,やはり国際的な調停における弊害のおそれと,国内での調停における弊害のおそれとは,相当に定型的な差異があるということがいえるかと思います。その観点から,理論的な正当化根拠は国内も国際もどちらも同じなのだと思いますけれども,あり得べき弊害の観点から,国内についてはより慎重に,例えば調停機関について一定の縛りを掛けるという手当てをすることは,立法政策としては十分合理性のあることだと思います。そういう意味で,乙2案のような,あるいは乙2案プラスアルファのような立法をした場合であっても,その立法の妥当性,合理性は十分に説明可能であろうと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。先ほど少し途中で言及させていただいたことではございますが,仮に中間試案の乙2案のようなものを採って,国内について限定をしたときに,国際とのバランスはどうなるのかという点でございますが,これも結局,私個人の感覚からすると,もう公序則によるバランスの調整を具体的な事案ごとにせざるを得ないのではないかと考えております。日本のADR法などの国際的適用範囲,これをどういった事案についてまで適用していくのか,日本の秩序の観点から守るべきものがどういったところまであるのかといったところは様々な考え方があり得て,今ここで何か明確化することができることではないとは思いますが,バランスが問題となるという観点からすると,やはり国際的なものであったとしても余りに問題があるようなものについては,調停人の服すべき規範などに重大な違反があるような場合ということでも構わないかもしれませんが,最終的には公序での調整になるのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 ありがとうございます。国内と国際を分けるという話はいろいろなところで昔から議論があるところで,うまく区別ができたことは一度もないのではないかと思うのです。ですので,余りそこで線を引こうという努力をされても,見通しがよろしくない。さらに,最近の状況からしますと強く感じるところですが,オンラインで様々なことができるようになってしまっておりますので,何を基準にというときに,容易に国際的に,何というのですかね,どうにでもできるといいますか,なので,そこの基準はなかなか難しいと。   今私が申し上げたのは,公序違反のように個別に見ていって,調停人とは名ばかりで,何らかの悪い影響,力を持っていて間に入ってきているような人,それでお金を取っているような人,そういう場合は国際,国内とは関係なく駄目だというように,だから,調停人の定義とか,そこをどういうふうに使うのか,そういうやり方もあるし,内容を見るということもあるし,手続の方法を見ることもあるでしょうし,とにかく国内,国際というのは余りお勧めではないと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいですか。   事務当局,当面,今のような形の御議論でよろしいでしょうか。 ○福田幹事 ありがとうございます,結構でございます。 ○山本部会長 それでは,第1の部分はほかに御意見等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第1の点の御議論はこの程度とさせていただきまして,ここで若干休憩の時間を取りたいと思います。15分程度,休憩をいたしまして,3時10分に再開したいと思いますので,それまではカメラ,マイク等をオフにしていただいて,御休憩を頂ければと思います。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,時間になりましたので,会議を再開いたします。   続きまして,部会資料7の第2,3ページからですが,「和解合意の執行拒否事由と請求異議事由」について取り上げたいと思います。   まず,事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは,鈴木から説明をさせていただきます。   部会資料の第2では,和解合意の執行拒否事由と請求異議事由について取り上げております。中間試案においては,シンガポール条約に倣い①から⑪まで執行拒否事由を提案しております。これらの事由には,民事執行法第35条第1項の定める請求異議事由としても主張し得る事由が含まれているものと考えられます。そこで,まずは①ないし⑪の執行拒否事由を請求異議事由として主張することの可否について御議論いただきたいと考えております。   この点を議論するに当たっては,仲裁判断の成立についての事由を請求異議の訴えで主張することができるかが争われた事案に関する裁判例が参考になるものと考えられますので,部会資料5ページの(注3)でその裁判例を紹介しております。この裁判例も踏まえつつ,皆様に御議論を頂ければと思っております。   また,仮に執行拒否事由について請求異議事由としても主張できるとの考え方に立つ場合,両事由の全部又は一部が重複することになるところ,その関係についてどのように考えるかについても御議論いただきたいと考えております。①ないし⑪の事由について全て執行拒否事由として維持した上,請求異議事由として主張できるものについては再度請求異議の訴えで主張できるとの考え方もあろうかと思いますし,重複するものについては執行拒否事由から除くとの考え方もあろうかと思います。   この点については,先ほど議論していただいた第1の正当化根拠とも関係する論点である上,執行決定手続の位置付けや債務者,債権者の利益等をどのように考えるかなど,様々な観点からの御意見があろうかと思われますので,皆様の御意見を賜れれば幸いでございます。さらに,仮に重複するものについて執行拒否事由から除くとの考え方を採るとすれば,①ないし⑪の事由のうちどの事由を除くべきかについても具体的にお聞かせください。   私からは以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,これもどなたからでも結構ですので,御意見等を頂ければと思います。 ○古田委員 古田でございます。この点も以前に部会で議論したような気がするのですけれども,まず今回の中間試案で執行拒否事由として挙がっているもののうち,例えば,和解合意が当事者の行為能力の制限によって効力を有しないこととか,和解合意が適用されるべき法令によれば無効であることとか,和解合意に基づく義務が履行されたことというのは,実体法上の事由ですので,今の日本の執行制度の下では請求異議事由に当たると理解をしております。   今回,調停和解について執行決定の制度を設けて,執行拒否事由にこれらの事由を挙げた場合に,執行拒否事由になっているのだから請求異議事由にはもう当たらないことにすると,私としては憲法上の問題が生じると思っております。以前にも言及しましたけれども,昭和40年6月30日の大法廷判決で,法律上の実体的な権利義務関係についての争いは,憲法上,公開の法廷で対審及び判決によって確定しなければいけないということになっております。執行決定事由として挙げた実体法上の事由を請求異議事由から外してしまいますと,その確定が判決手続ではなくて決定手続で行われることになり,それは憲法上の疑義が生じてしまうのではないかと思っています。   ですから,立法としてあり得るのは,これら実体法上の事由は,執行拒否事由からは外して請求異議事由だけとして整理をするか,若しくは執行拒否事由でもあり,かつ請求異議事由でもあるとするか,どちらかだと思っております。今回の中間試案では執行拒否事由かつ請求異議事由の両方にするという整理をされているのだと思います。そのような整理は,シンガポール条約の立て付けと整合的であり,また,実体法上の理由を執行拒否事由からは落として請求異議事由としてだけ整理をするとした場合に,どう切り分けるかというのはなかなか難しいと思われることから,合理的な整理であると考えます。   例えば,中間試案で挙げている①から⑪までの理由のうち,⑨は,調停人がその公正又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実を開示せず,それが開示されていれば当事者が和解合意をするに至らなかったこととか,あるいは⑧は,調停人に調停人又は調停に適用される規範に対する重大な違反があり,当該違反がなければ当事者が和解合意をするに至らなかったことを挙げています。これらの事由は日本の民法的に考えると錯誤に当たるような事由です。仮に実体法上の事由は執行拒否事由からは外して請求異議事由だけとして整理をするという立法方針を採用した場合,もし⑧とか⑨の要件が実体法上の錯誤の事由だとすると,執行拒否事由からも落とすことになります。しかし,この⑨,⑩の要件が日本法上の錯誤と全く同じかというと,そこはそうとも言い切れないところもありますし,また,和解合意に適用される準拠法が日本法とは限らないので,外国法が適用される場合に,その外国法上の無効事由と,執行拒否事由で今回挙げている⑨,⑩との関係もどうするかというところも難しい問題になるかと思います。このように考える,実体法上の事由は執行拒否事由からは外して請求異議事由だけとして立法するという方針を採用した場合,実際の切り分けというのはできないのではないかと思います。そうしますと,同じ事由について執行拒否事由として裁判所が一回判断をし,しかし,その判断には既判力が生じないので,改めて,例えば請求異議訴訟における異議事由,あるいは給付訴訟における請求原因事実ないし抗弁事実として二度判断することにもなり,訴訟経済上の問題はあるのですが,それは致し方ないとして割り切って,中間試案のような整理をすることになるのかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。古田委員の御指摘について,1点,整理といいますか,確認をしておきたいのですが,御発言の中に,現在提案されているもの,すなわち実体法上の理由についても執行拒否事由に挙げ,かつ請求異議でも争えるというふうになっているという理解ですが,それでよいという理由の一つに,シンガポール条約に適合的だという御指摘がありましたが,それはそのとおりだと思っておりますけれども,もう一つの,執行拒否事由と請求異議事由を書き分けて1回しか争えないようにすると,こうやってもシンガポール条約には一応適合するという理解でよろしいのでしょうか。つまり,その点についてはどちらがシンガポール条約に適合するか,これは今ここで詰める話ではないのかもしれませんが,そこはどちらでもシンガポール条約にコンプライアントだと考えておりましたが,そこは古田先生,いかがでしょうか。 ○古田委員 出井先生,ありがとうございます。そこは私も同じ理解です。シンガポール条約との関係で言いますと,シンガポール条約が掲げる執行拒否事由は限定列挙ですので,拒否事由を増やす立法をすると条約との抵触が生じますけれども,拒否事由を減らす分には条約とは抵触しないと考えております。例えば,今⑤として挙がっている和解合意に基づく義務が履行されたことという拒否事由を,執行拒否事由から落として,請求異議事由としてだけ整理をするということは,条約上は抵触の問題は生じないと思っております。 ○出井委員 それと,重ねての確認ですが,2回争えるようにすると,一部の実体法上の事由については,執行決定のところでも争え,かつ債務名義になった後,請求異議でも争えるということになっても,それはシンガポール条約との関係ではなお適合していると,古田先生もそういう理解ですね。 ○古田委員 はい。請求異議訴訟ですとか給付訴訟というのは,シンガポール条約の範囲外の問題ですので,条約上は問題ないと理解しています。 ○山本部会長 出井委員,よろしいのですか。 ○出井委員 結構です。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 ありがとうございます。垣内です。今,古田委員が言われましたように,現在中間試案で並べている①から⑪について,いずれも執行拒否事由としつつ,かつ請求異議事由としても争えるようにするという考え方は一つ,あり得る考え方だろうと思っております。   先ほど前半で議論されました執行力の正当化根拠ということとの関係で申しますと,基本的には和解合意が有効であるというところが裁判所によって確認されるというところが最も重要なところではないかと,それが正に実体的な正当性ということになろうかと思われまして,その観点からしますと,①から⑪のうち特に問題があり得ると申しますか,議論の余地があり得ると思われますのは,一つには④と⑤,これは事後的な変更ないし履行によって権利義務に変動が生じたという主張で,これまでの日本法の一般的な考え方からすれば,これは純然たる請求異議事由であって,それ以外の場面で争う,主張するということが想定しにくい類型の事由ではないかと思われます。ただ,これが判明したときには,実体的にそこに表示されている請求権が存在しないということにはなりますので,執行拒否事由とすることが,特に条約との見掛け上の整合性ということもあって,およそあり得ないということではないかもしれませんけれども,従来の日本法の一般的な考え方からすると,やや異なる規律ということになるのかなという感じがしております。そういう意味では,④と⑤を純然たる請求異議事由としてのみ扱い,執行拒否事由からは外すという考え方もあり得る考え方なのではないかという感じがするところです。   他方,もう一つ議論のあり得ると思われる類型のものとしまして,⑧と⑨をどう位置付けるのが適切かという問題があるように感じております。古田委員からも御指摘がありましたけれども,⑧や⑨の場合に,調停合意の準拠法上,あるいは日本法上,錯誤に該当するということで取り消し得るのであるといたしますと,これは合意そのものの有効性に関係する事由であり,請求異議事由ともなり得る事由であるということなのですけれども,そのように考えましたときに,既に②のところで,少なくとも調停合意の準拠法上の有効性については,①も広い意味ではそうですけれども,取り分け錯誤などであれば②のところでカバーがされているとも見られるところで,それと別に⑧や⑨について拒否事由とすることの意味が何かということが問題となるように思われます。   一つの見方として,準拠法上は必ずしも取消しの対象になる,あるいは無効であるということではないとしても,日本法の目から見て⑧や⑨に相当する和解合意というのは,取り消し得る,あるいは無効なのであるという考えというのはあり得るのかもしれません。これは一般実体法と必ずしも一対一で一致しないような,調停手続関係的な無効事由みたいなものを考えるということになりそうで,そういう意味では新しい考え方ということになりそうですので,なかなかそこはハードルが高いというところが,もしかすると,あるのかもしれません。   別の考え方といたしまして,⑧や⑨というのは,合意そのものの有効性が否定される場合もあるけれども,されない場合も含んでいると。そのときに,それではなぜこれが執行拒否事由になるのかということですけれども,これは本日の資料の最初のページで正当化根拠についての説明がされているところがありますが,その27行目で,和解の内容及びその成立に至る手続に照らして我が国における民事執行を許すことが相当でないと認められる事由というのが挙がっておりますけれども,合意そのものは必ずしも無効ないし取消し可能であるとはいえないとしましても,⑧や⑨のような事情が認められる場合に,日本法として,そういった調停,和解合意に基づく強制執行は認めるべきではない,相当でないと考えられるという意味で,これらが合意の有効性とはまた別の形で執行拒否事由になっているという理解がもう一つあり得る理解なのだろうと思います。   そのときに,これが,それでは,請求異議との関係でどのような位置付けをされることになるのかということが更に問題となるのではないかと思われますけれども,合意そのものは仮に,必ずしも無効ではないということだといたしますと,和解合意に基づく実体法上の債権債務は一応存在するのであるけれども,しかし,それは日本法上強制執行可能な債権債務とは認められないと,そういう位置付けになるのかと思われまして,これが最も限定された形では,例えば不執行の合意がされている債権債務に近い,あるいは,もう少し申しますと,これは給付の訴えをしたら,では認容されるのかという問題があって,そこは両論あり得るところかと思われますが,仮に訴求力も認められないような債権債務だということになりますと,一種の自然債務ということになるのかもしれませんが,いずれにしても不執行の合意と同様に,強制執行をすることが許されないというタイプのものだとしますと,これは現在の判例ですと請求異議事由になるという理解であると思われますので,やはり執行拒否事由として,かつ請求異議事由としても問題となる類型ということになるのではないかと思います。   そのときに,これも資料で御指摘いただいているところで,援用ということとの関係をどう考えるのかという問題が,仮に債権債務が一応,実体法上,存在するけれども,強制執行はできないというものだとしますと,援用との関係が問題となり得るということで,取り分け和解合意の内容となっている権利関係というものが他の権利義務との関係で前提となっているような場合に,それ自体としては強制執行はできないけれども,それを前提とした判断がされることになるのか,ならないのかというようなところを少し,更に整理する必要が出てくるのかなという感じがしております。   まとまりがない発言で恐縮ですけれども,以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○古田委員 古田でございます。先ほど指摘し忘れたのですが,今回の部会資料5ページの(注3)に東京高裁の平成29年5月18日判決が挙がっておりまして,これによると,確定した執行決定がある和解合意も民事執行法35条でいう「裁判以外の債務名義」に該当しないという考え方があり得るとなっています。しかし,この東京高裁平成29年の事例は,私の理解では,当事者の和解合意の内容を仲裁判断にしたという事例ではなくて,仲裁廷が審理を行った結果に基づいて通常の仲裁判断をしたという事例で,そういう意味では裁判所の判決が民事執行法35条の「裁判以外の債務名義」に該当しないというのと同じような状況だったと承知しています。   民事執行法35条において「裁判以外の債務名義」の成立を例外にしているのは,裁判の成立についての異議は,控訴,上告,再審という形で争うルートが用意されているから,そちらで争うべきであり,請求異議では裁判の成立は争えないとしたということです。そういう意味では,本来の仲裁判断についても,その成立についての異議は仲裁判断取消し手続が予定されていますので,そこで争うべきであり,請求異議では仲裁判断の成立は争えないとする東京高裁の考え方は合理的だと思います。しかし,今回我々が問題にしているのは,和解合意に執行力を与えた場合にどうするかということです。そういう意味では,裁判所の判決というよりは裁判上の和解の方が,より類似性が高いと言えます。私の理解では,裁判上の和解は民事執行法35条にいう「裁判以外の債務名義」に当たると解されていて,現に裁判上の和解について錯誤無効,今でいうと錯誤取消しですけれども,を理由にその効力を争う場合には,例えば裁判上の和解無効確認の訴えという方法によることもできるし,請求異議の訴えによることもできるというのが判例です。そうすると,調停和解についても裁判上の和解と同じように考えて,やはり請求異議の対象になる,つまり「裁判以外の債務名義」に該当するということになるのではないかと思います。   ですから,東京高裁平成29年5月18日判決の射程は,和解を内容とする仲裁判断の場合には及ばないと理解をしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 幹事の今津です。先ほど来御議論があったうちの執行拒否事由の⑤,場合によっては④も入るかもしれませんけれども,今まで典型的なといいますか,請求権の存在又は内容に関する異議として,請求異議で国内の事案であれば使われるであろうと思われていたようなことをどう扱うかという点について,考えを述べさせていただきたいと思います。   冒頭で古田委員の方からお話があったと思うのですけれども,仮にこれを執行拒否の手続だけで完結させてしまうと,やはり憲法上の問題が生じ得るのではないかという御指摘があったかと思うのですが,私も同様に考えております。この点については仲裁判断の箇所でも,今議論になっているのと同じような問題がやはり起きるところでして,執行判決のところで実体法的なといいますか,請求権の存否という関係が争えるかどうかという話は同じように問題となると思うのですけれども,仲裁手続のその後の執行判決の手続に関しては,それは仮にその執行判決の出た後にそれがもう争えなくなっても,クリアできるのではないかというような主張もなされているようであります。それは,執行決定の手続で,判決ではないにせよ双方の立会いが保障されているとか,ある程度,手続保障を考えているから,それでもクリアできるのだという考え方もあるようですけれども,やはり先ほど古田委員が挙げていただいた判例の言い方からすると,そこはなかなか乗り越えるのが難しいのではないかという気がしております。   他方で,では請求異議だけで一本化して執行拒否の事由とはしないという考え方はどうかというところなのですけれども,垣内幹事からは,こういう方向でもあり得るのではないかというような御意見があったように先ほど理解したのですけれども,もちろん通常の国内の事案であれば,そういう方向で議論されていると思いますので,一つ考え方としてはあり得ると思います。ただ,この執行決定の手続をとるということを前提にしますと,調停があっただけではまだ請求異議の訴えは起こせないと,したがって,執行決定が出るのを待って,執行力を付与されたのを待って請求異議の訴えを起こさないといけないということになりますので,そこで実体法的にといいますか,請求権の存在について異議を持っているのに,わざわざ執行力を,出るのを指をくわえて待っていないといけないという不都合は出てきますので,そこが一つ,デメリットかなという気がしております。   それではどうするかということなのですけれども,執行拒否の事由ともし,かつ請求異議の訴えでも認めるというやり方が最後,残るということになると思うのですが,この場合は既に御指摘がありますように,二度手間になると,二重に付き合わされる,特に債権者の側が不都合であるという御指摘があろうかと思うのですが,ただ,ほかの選択肢に比べればデメリットが多少なりとも小さいのではないか,つまり消去法的な考え方として,そういった選択が一番穏当なのではないかというのが私の個人的な意見ということになります。   それから,もう1点ですけれども,直前に古田委員からお話のあった,この資料の(注3)の辺りに関連するところでして,この挙げていただいた例は,御指摘があったように,仲裁後の執行決定の手続に関連するものだったと思うのですけれども,私としてはこの裁判例はある程度参考にはなるのではないかと,確かにこの調停による合意に執行決定を付与するという作業自体は仲裁の場合と似通ったところがありまして,裁判例の中でも,こういった形での債務名義というのは裁判によって完成する債務名義というような表現もされておりまして,要するに,債務名義が完成するまでの過程で一つ裁判手続がかんでいるので,その裁判手続の中で成立に関しては争ってくれと,それに関してはもはや請求異議という形では扱わないという整理になっていたかと思いますので,それ自体はこの調停による合意の場面でも用いることができないわけではないのではないかと個人的には思っているところであります。 ○山本部会長 ありがとうございました。今の今津幹事の御発言ですけれども,今津幹事としては,現在想定されている執行拒否事由の中に成立に関する瑕疵,異議というものがあるというお考えを前提とした御発言だったのでしょうか。あるとしたら,それはどれだと考えておられるのでしょうか。 ○今津幹事 債務名義の成立という言い方は少しなじまないかもしれないですが,和解合意の内容面というものではなくて,例えば,文言上明らかに拘束力がない場合,③の場合ですとか,あるいは⑥のように,和解合意を見てもその義務内容が分からないというようなケースについては,請求権の存在又は内容というカテゴリーよりは,むしろ成立,それは債務名義の成立ではなくて和解合意の成否というところと関連するかもしれないですが,そういったものについては,執行拒否の事由として仮に置くのであれば,それ以上重ねて請求異議としてこれを主張させるということは必要ないのではないかと思っているところであります。 ○山本部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。   事務当局から何かこの際,確認しておきたい点等がありますか。 ○福田幹事 ありがとうございます。福田でございます。念のために申し上げておきますと,事務当局の考えといたしましても,請求異議事由の規律を改めて,そちらでの主張を制限するというようなことは特段考えているわけではございませんので,先ほど来,古田委員始め最高裁の判決との関係の御発言がありましたけれども,その点についての整理というものを,我々としてはお願いしているわけではないということは申し添えておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   他にこの第2の点について御発言はございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,最後に部会資料7の7ページ,「第3 和解合意の執行決定の申立てに係る事件に関する規律」,この部分について事務当局からまず説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは,鈴木から説明をいたします。   部会資料の第3では,和解合意の執行決定の申立てに係る事件に関する規律として,管轄と訳文添付の省略に関する論点を取り上げております。この点についてはこれまで仲裁関係事件手続について議論をしていただいたところですが,調停についてはこれまで議論をしていただく機会がなかったことから,今回テーマとして取り上げることといたしました。   調停についても仲裁と同様の規律を設けるという考え方もあろうかと思いますし,我が国における仲裁と調停の利用状況の違い等から,調停については仲裁における議論とは別の観点からの議論が必要であるとの考え方もあろうかと思いますので,皆様から広く御意見を頂ければと存じます。   また,訳文添付の省略に関しては,国際調停の場面においてどのような和解合意書が作成されているのかなどの実情が分かれば,より議論がしやすくなるかと思われますので,この点について御経験がある方がいらっしゃれば,御紹介いただければ幸いです。   私の方からは以上になります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,これもどなたからでも,どこからでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○古田委員 古田でございます。東京地裁,大阪地裁に競合管轄を認めるという話と,外国語資料の訳文添付の省略を認める話は,セットの話だと承知しています。まず外国語資料の訳文添付の省略の観点から言いますと,特に国際的な調停事件ですと,調停和解の結果作成される和解契約書が外国語である,特に英語であるということはしばしばあります。また,その調停手続の過程で交換されたポジションペーパー(お互いの立場を記した書面)などが英語で作成されているということもよくあります。したがって,例えば,執行決定手続で和解合意書を提出するとか,あるいは執行決定の段階で調停手続の妥当性が問題になったときに,手続中に出された書類を提出するというときに,訳文の添付が省略できるメリットはそれなりにあるとは思っています。   ただ,仲裁における仲裁判断が100ページとか200ページになることがしばしばあるのと比べますと,国際的な調停和解の和解合意書が100ページ,200ページになるということはそれほどはないというのが私の経験です。通常,大体数十ページでしょうか。比較の問題から言いますと,国際仲裁関係の裁判事件について訳文の添付を省略する必要性に比べれば,国際調停関係の裁判事件について訳文添付を省略する必要性は,相対的には低いということはいえると思います。ただ,全く必要性がないわけではないので,規律として国際仲裁と同じように訳文添付を省略するということは十分合理性がありますし,そうしていただけると実務的には有り難いと思います。また,それとの並びで,大阪地裁,東京地裁の競合管轄も認めていただいた方が実務上は便宜であると思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。今の古田委員の御発言との関係で一つお尋ねしたいのですけれども,仮に東京地裁,大阪地裁に競合管轄なのか,専属管轄なのか分かりませんが,そういった形で管轄を認めていく場合の定め方なのですが,今回の部会資料では,基本的な管轄原因は7ページの23行目にあります①合意で定めた地方裁判所,②被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所,③請求の目的や財産の所在地ということの管轄裁判所ということになっております。これのどこに焦点を合わせて,競合管轄として東京,大阪に管轄を認めていくのかという議論があり,事務当局としては,まずは②を基準とした考え方を示しているわけですが,部会資料の8ページの3行目辺りから書いていますように,①又は③に応じた競合管轄の規律ということも一応考えられるかと思います。この辺りについて,古田委員,何かお考えがありましたら教えていただければと思います。 ○古田委員 ありがとうございます。古田でございます。基本的に私は国内の土地管轄については広めに規定しておいていいと考えております。要するに,一つの事件について複数の裁判所が土地管轄を有するということはあっても構わないと考えております。その上で,その複数の管轄裁判所のうちどの裁判所で審理をするのが最も適切かというのは,裁量移送の制度を通じて調整すればいいという考えです。ですので,例えば和解合意の執行決定申立てについて東京地裁,大阪地裁に競合管轄を認めるのであれば,それは7ページの部会資料でいいますと①,②,③それぞれの裁判所との関係で競合管轄が認められる。例えば,当事者が長野地裁の管轄合意をしており,しかし被申立人の普通裁判籍が京都にある場合には,①との関係で東京地裁に競合管轄が生じ,②との関係で大阪地裁にも競合管轄が生じ,その結果4つの裁判所が管轄を有しますので,そのどこかに申立てがされたときに,ほかの裁判所に移送するかどうかという判断を通じて,どの裁判所が最も適切な管轄裁判所かを決めていくということでよいのではないかと考えております。 ○山本部会長 福田さん,よろしいですか。 ○福田幹事 ありがとうございます。 ○山田委員 ありがとうございます。これは実務家の先生方への質問なのですけれども,先ほど議論がありましたように,今回の執行拒否事由の中で,取り分け⑧とか⑨というのは仲裁判断の執行拒否事由にはないものであって,かつ調停人が実際にどのような行為を行ったのかと,それが重大あるいは不当な影響とか重大な違反といったような評価的な言葉を含む事由になっておりまして,これはUNCITRALにおいても,これがかなり濫用されるのではないか,あるいはこの申立てがされると執行決定の判断に非常に負担が掛かるのではないかというような批判はありつつも,しかし,調停のスタンダードを示すためには重要ではないかという,やや仲裁判断等とは異なる理由で入れられたものであります。仮にこのような主張がなされた場合に,既に調停手続の中で,特に国際調停の手続の中で,実際にはどれぐらいの記録を取っておられるのか,例えば,この主張をするために調停人から陳述書を得るといったようなことがあるのか,しかし,それは守秘義務との関係でというか,証言拒絶権との関係で出されないような実務になりそうであるのか,仮にそれらが全部また英語で出されるということになると大変なことかと思うのですけれども,その辺りの見通しといいましょうか,実務を教えていただければ有り難いと思います。 ○山本部会長 実務方の方々へということですが,どなたかお答えいただける方はいらっしゃいますでしょうか。 ○古田委員 古田です。もちろん他の弁護士委員の方の意見も伺いたいのですけれども,私の経験ですと,国際調停の場合には,機関調停であればその機関の調停規則というのがあり,機関調停でない場合には当事者間でその調停の手順について合意をした調停合意書を締結した上で調停手続を実施することになります。ただ,実際問題としては,多くの場合には,お互い自らの法的な立場ですとか和解に対する見解を示したポジションペーパーと一般に呼ばれる書面を出して,その上で調停期日が開催をされて,調停人が双方の言い分を口頭で聴いて口頭で調停案を出すということになるますので,調停手続の記録自体はそれほどたくさんは残っていないというのが私の経験です。   仮に後日,調停和解に係る執行決定の手続で調停手続の実際の在り方が問題になったときに,その手続に参加した当事者が,調停手続中のやり取りにつき陳述書を出すということはあり得ると思います。調停人に陳述書を書いてもらうというのは,もちろん理論的に不可能ではないのですけれども,恐らく調停人としてはどちらからも中立であるという立場かと思いますので,陳述書を書いてもらえるかどうかというのは,なかなか自信がないところです。書いてくれるかもしれませんけれども,そこは私としてはよく分からないと思っております。   ほかの実務家の先生からも御意見いただければと思います。 ○山本部会長 ほかの実務家の先生方から,何かございますでしょうか。 ○手塚委員 手塚でございます。余りお役に立てそうにもないと思うのですが,なぜかというと,今までは調停和解をしたときに,それを執行することが必要になるような調停和解ってなかなかしづらいところがあり,その前提は,調停で和解しても直ちに執行できるという前提が今まではなかったのだと思うのです。だから,和解する以上は執行に不安がないような前提条件を確認して和解してきていると思うので,私も仲裁判断の執行を争うような事件というのは何件か見てきておりますが,調停合意で執行のところで争うという事例を見たことは実はないのです。   ただ,争われたときに,どういう手続で事実認定,証拠収集をしていくのかというのは,これは結構いろいろな問題があると思っておりまして,調停人としてどこまで協力するのかということもありますし,ただ,御参考のために,仲裁事件で仲裁判断取消し手続が問題になったときに,そこではいわゆる開示義務違反があったかどうかが問題になったというときに,やはり仲裁人に対して直接何か連絡を取り,どういうコンフリクトチェックシステムになっているのかとか,どこまで確かめたのかということを聴くというのは,やはり少しはばかりがあるところもあり,そういう問題については,例えば大きな事務所であれば,当該事務所のマネージングパートナーに一般論として,あなたの事務所のコンフリクトチェックはどういうふうにやっているのですかということを聴くということで,余り仲裁人に取消し手続でどちらかに味方をしてもらうみたいな形に持っていくというのはなるべく避けて,飽くまでもその種の内部体制がどうなっているかということについて,答えられる範囲で,当該事務所の管理責任担当者というのでしょうかね,聴くみたいな形でやったという例はあります。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。私も調停については,もちろん今,制度がないので,そういう場面に直面したことはないのですが,⑧と⑨については仲裁判断の取消し事由,あるいは執行拒否事由の中には明示的には挙げられておりませんけれども,ただいま手塚委員からも御指摘があったように,時々というか,割とよく争われるのが開示義務違反,仲裁人が受任時及び手続中に開示すべきことを開示しなかったということが,これは仲裁の手続違反か,あるいは公序のところで争われることはあります。それから,⑧についても,これも手続違反のところで同じようなことが争われることはあります。そのときに,仲裁の場合には当事者が出すペーパー,主張書面等が資料になることはありますが,あとは仲裁人が仲裁機関及び当事者に出す独立公正証明書ですかね,そういうものが資料になるのだと思います。   難しいのは,手塚先生も御指摘の,例えば仲裁人が事情を説明する,あるいは証言をする,その辺りのことについて証言をすることがあるか,あるいはできるかということは難しい問題で,仲裁人及び,調停の場合も同じですけれども,やはり中立の立場ですので,証言をすることによってどちらかに有利になってしまうようなことは避けたいというのが仲裁人,調停人としての一般的な感覚であると思います。証言拒絶権があるかどうかということについては,これはいろいろな問題があるので,そこまでは申し上げませんけれども,なかなか仲裁人や調停人が陳述書を出してくれるかということになると,それは余り例はないのではないかと,例はないとまで言ってしまっては,そこまでは調べたわけではないので,余り想定できないのではないかと思います。   山田委員の御質問に戻って言うと,仲裁に比べれば調停の場合は,いろいろな書類は比較で申し上げますと,少ないのだと思いますが,あとは当事者が調停手続でこういうことをやったとか,そういうことを主張し,それをその当事者が立証していくという営みになるのではないかと思っております。 ○河井委員 河井でございます。私も和解合意自体を争うということは経験がないのですが,御参考のために申し上げると,弁護士会のADRの手続をした後に,ADRのときにどういう主張をお互いにしたのかということが,事後的に訴訟において争いになることはここ数年,何件か弁護士会でもあり,そのときに一方の当事者が,主張書面ないし申立書や準備書面を提出してほしいという依頼をしてくることがありまして,それについては今までは守秘義務を理由に,基本的には事後に開示するということはしないという実務をしております。訴訟であればお互いに開示しない書面というのはあまりないのでしょうけれども,ADRの場合は仲裁人あるいはあっせん人の判断で,一部の過激な主張の書面を相手方に送付するとかえって和解合意が困難になるというおそれがある場合がありまして,そういう場合には一方当事者が出した書面を相手方に届けない場合も実務上あり得るのです。それが多いとは申し上げませんが,そういう場合もあるので,そもそも相手方が持っていないこともありますし,ないしは相手方が持っていても,一方当事者がなくしてしまって,それで,ないから後で代理人になった弁護士から請求があるというのは時々ありまして,基本的には私どもの仲裁センターとしては書面の交付はしないと,それは規則に守秘義務として開示しないということをうたっているのですけれども,今後この案が法律となったときに,そのような規則について,それでいいのかということはおそらく,各ADR機関は再度検討する必要はあるのかなと今,思いました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   以上,実務についてかなり詳細な御紹介を頂きましたが,それを踏まえて山田委員,御意見を頂ければと思います。 ○山田委員 大変詳細なお話を頂きまして,大変参考になりました。ありがとうございました。   国際調停に関して,今まで例がないというのはおっしゃるとおりなわけですので,8ページ以下にあります,2の外国語資料の訳文添付の関係につきましては,仲裁に比べれば若干,数は少ないかもしれないけれども,しかし,それなりの書面はあるのかなという感じはいたしますし,当事者から陳述書が出されるということも大いにあり得るという話のようですので,ここはやはり訳文添付の省略ということの合理性というのは大いにあるのかなと思いました。   それから,もう1点は,最後に河井委員からもお話のあったところですけれども,このような⑧や⑨の問題を論じるに当たって,当事者から情報提供の申出があるといった場合の証言拒絶権とか,あるいは文書提出をどこまで可能とするのかということについては,現在は各機関の規則を合意するという形で証拠制限契約のようなことができているのかと思いますけれども,アドホック調停も多々ある,あるいは外国でもアドホック調停も出てくるということになりますと,その辺りでの規律も考えていく必要があるのかなと思った次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○有田委員 ありがとうございます。有田です。私は,質問をさせていただきたいのですけれども,以前の検討会で,ITの関係でも同様に議論されているところであるけれどもというような発言があったと思います。民事訴訟法IT化関係等の改正に関する中間試案に対しても仲裁法制部会と同日の5月7日が締切りで,パブリックコメントが求められています。ここは,もちろん調停の関係で議論されているのは十分承知しています。中間試案の中でもいろいろ整理されていて,個別に検討していくということでこういう議論がされているのも十分理解しているのですが,私の中で民事訴訟法のIT化関係等の改正に関する中間試案の中で,新たな和解に代わる決定の規律というのが第11章ですか,訴訟の終了のところで提案をされていて,甲と乙という形で,新たな和解に代わる決定の規律が甲案で出されているものですから,こことの関係が何かあるのではないかと考えてしまいました。まだパブリックコメントを求めている最中ですが,ここで議論されたことがIT化関係の民事訴訟法にも関連してくるのかどうかということを教えていただきたいと思います。その疑問を持ちながら,先生方の御意見を聞いておりました。 ○山本部会長 ありがとうございます。   事務当局からお答えいただくのがいいですか。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。民事裁判のIT化の関係で別の部会が立ち上がっており,そちらで今,中間試案が公表されてパブリックコメントの手続に掛けられているのは,先ほど有田委員がおっしゃったとおりかと思います。   そちらで提案されている和解についてなのですけれども,それは飽くまで裁判上の和解,民事裁判手続における和解ということで整理を頂ければと思っております。こちらの方の部会は,裁判外の手続における調停を経た和解という形で整理をしておりますので,そこは切り離してお考えいただければよろしいかと思います。 ○有田委員 すみません,裁判外という,ADRということは十分分かっていたのですが,御議論の結果,何か関連してくることがあるのではないかと思ったものですから,確認させていただきました。ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 既にほかの委員の方々からお話があり,それから,山田委員からは総括的なまとめのお話もあったわけですが,調停の記録というのは,裁判所の調停,それからもう一つ,私が所属している調停センターでの事件の記録もそうですが,非常に記録が薄いです。調停センターの事件の記録の1年分をほぼ1日で読むことができるぐらいの記録です。ですから,事情聴取といって口頭での聴取がメインになっているわけですので,書面が出されるというのは,最初に出される申立書,あるいはそれに対する応答ぐらいのものです。逆に言うと,先ほど皆さん方が言われた執行拒否事由の⑧とか⑨とかの事由が正面から争われた場合に,記録が余りないですから,⑧とか⑨に該当する事由を見いだす,あるいはそれに基づいて詳細な議論をするということはなかなか難しいと思います。ただ,出井委員のおっしゃったように,⑨の方の開示しなかった所属する事務所に関して問題の判例があったかと思うのですが,結局そのような事実が後から分かった場合に問題になるということでありまして,それ以外に⑧とか⑨の事由が,特に調停の場合に,出てくるということは,なかなか考えにくいところだろうと思います。   ただし,もし仮にこのような事実について具体的な主張があり,他方で双方ともにそれに基づく記録といいますか,書証が乏しいということになった場合には,恐らく担当する裁判所としては,では証人として調停人をお聴きしましょうかという話になってくる可能性はあると思うのです。職権で証拠調べはできませんから,一方当事者からの申立てということになるとは思いますけれども,当事者の方もなかなか証人として申請をしにくいという点はあるかもしれませんが。例えば,これまでの公正証書が問題になった場合に,結局のところ公証人が証人として呼ばれるという例はかなりあると思うのです。そうすると,このような事由で調停についても調停人が証人として呼ばれるということも,あり得るのだろうとも思っております。ただし,恐らくその事例は非常に少ないだろうとは思いますし,少ないことを無論,祈っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○原田委員 原田です。管轄と訳文添付について念のため産業界からのコメントを申し上げます。   以前の仲裁関係事件手続に係るコメントと重複いたしますけれども,まず,管轄については,特に国際調停について,東京と大阪の管轄を認めることは賛成の立場でございます。以前申し上げたとおり,両裁判所において専門的な事件処理の体制を構築することで,外国語の対応を含む実務ノウハウの蓄積や,国際調停に精通した人材育成などが一層進むことが期待できると思っております。また,外国語の訳文添付にはいろいろなケースがあり,調停の和解合意書は,必ずしも仲裁判断のようには長くならない傾向にあるというお話もございましたけれども,訳文添付を省略できるという規律を設け,その範囲を拡大する方向で御検討いただけることは有り難い話だと思っております。このように,仲裁のみならず,日本における調停と仲裁をあわせて振興につなげていくことも,産業界として歓迎いたしますので,念のため申し上げます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。手短に意見だけ。   私の意見は,このセクションの冒頭に古田委員がおっしゃった意見の結論及び理由と同じです。吉野委員がおっしゃったように,本当に調停というのは国際も国内もいろいろなものがあって,国際の場合は,私が経験というか想定しているものは,割と両当事者に代理人がしっかり付いて,仲裁ほどではないにせよ,何回かポジションペーパーを出し合ってというものなのですが,そうではない調停ももちろんあります。したがって,仲裁に比べて調停は本当にその辺りは幅が広いので,そこで出される文書の量も千差万別であると思います。ということで,⑧とか⑨が問題になった場合に,そもそも立証できないということもあろうかと思いますが,そこはもう立証できないということで割り切るしかない問題,ただし,たくさん文書が出てくる調停もあり得るわけなので,そういうものを考えると,仲裁ほどではないにせよ,やはり管轄の手当て,それから訳文添付省略の手当て,これはしておいた方がよいであろうというのが私の意見です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特段ございませんか。   事務当局から何か確認すべきところがあれば。 ○福田幹事 ありがとうございます。福田でございます。大分実務のこともお話を頂きまして,非常に参考になりました。ありがとうございました。   ついでと言っては恐縮なのですけれども,今回のシンガポール条約に整合的な法律を考えたときに,シンガポール条約の規律で,和解合意の文書の書面性についてかなり緩和された規定が置かれております。単純に電磁的記録でされた場合のみならず,調停人ないし当事者の同一性が確認できるような方法であれば,かなり広めに緩和した形でとっているように読めます。現在この程度まで緩和された運用がされているかどうかは把握しておりませんけれども,コロナ禍ということもあって,オンライン調停なども大分盛んに行われていると聞いておりますので,そういった中で,実務家の先生方が御存じの範囲で結構なのですけれども,現時点で,電磁的記録を用いた和解合意書面,特に調停人が電子署名をやっているような場面とか,そういったものが既に行われているのかどうかというようなお話,その辺りを何か御存じのところがあれば教えていただけると助かります。よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 それでは,実務家の先生方からもし何か情報があればお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○古田委員 古田です。これも私の経験ですけれども,国際調停をウェブベースでやっている事例というのは現にあります。その結果まとまった和解契約を電磁的に締結した例というのは,私個人では経験がないですけれども,調停和解ではないその他の契約書を電磁的に署名している例というのはありますし,また,日本の訴訟との関係で言いますと,裁判所に提出する委任状に外国の役員が電磁的署名をするという例もありますので,私は実際に認知している例はありませんけれども,調停和解の結果成立した和解合意について電磁的に署名がされている例というのは,これはあるに違いないと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにございますでしょうか。特段御発言はないですか。   福田さん,その程度でよろしいですか。 ○福田幹事 はい。ありがとうございました。また何か提供いただけるような情報がございましたら,随時頂けますと助かります。ありがとうございます。   それと,部会長,少し前の論点に戻ってしまうのですけれども,1点,確認させていただきたいことがあるのでしょうが,よろしいでしょうか。 ○山本部会長 どうぞ。 ○鈴木関係官 鈴木でございます。前の論点に戻ってしまうのですが,部会資料第2,請求異議事由との関係の点について,もう少し皆様の御意見をお聞かせ願えればという点がございますので,1点,追加してお伺いさせていただきます。   既に議論としては出ているところなのですが,具体的に言いますと,中間試案で事由として掲げております④,⑤の事由に関しての皆様の御意見をもう少し賜れればと思っております。と申しますのも,その前の議論,部会資料第1の議論のところで正当化根拠に関して皆様に多くの御意見を頂きまして,多くの方々から正当化根拠との関係で,執行決定というものが債務名義の成立過程にあるということが重視すべきポイントであるという点,御言及を頂きまして,そのような点から考えますと,今掲げてあるような事由というものを維持しておくということには大きな意味があるのかなと考えているところではございます。   ただし,既に垣内幹事の方からも御言及がございましたけれども,④,⑤については和解合意の成立後の事由ということに位置付けられようかと思いますので,そう考えると,正当化根拠についてこのような観点に立ったとしても,④,⑤については拒否事由から省くという考え方も十分成り立ち得るのではないかと思っております。垣内幹事の方から,請求異議事由として従来位置付けられてきたものであるというところの御指摘もあったところでございます。   ただし,一方,今津幹事がおっしゃっていたように,やはり,そうであったとしても,執行決定手続のところで債務者側に争わせるべきといった御意見というのも十分あろうかと考えておるところで,この点に関してはこのように考え方がかなり分かれ得るところなのかなと思っております。   そういった点から,もう少し皆様にこの点についてどのように考えていらっしゃるのかというところについて,広く御意見を賜れればと思っております。よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   この点,いかがでしょうか。和解合意が事後的に変更されたとか,和解合意に基づく義務が履行されたという点をこの執行拒否事由としてなお維持するかという問題ですが,三木委員,どうぞ。 ○三木委員 結論としては,執行拒絶事由としても維持すべきだと思います。   その理由は,大きく2点あります。  第1点は,後に請求異議手続で争えるとしても,こういった重大な執行力について,不存在事由があるにもかかわらず,一旦執行力を発生させ,そして,その後にまた争わせるということの制度的な不当性と当事者の負担という点です。   第2点は,外国人が一方当事者や双方当事者として関与している場合については,日本型の請求異議制度というもの自体の理解がないということはあり得るわけです。したがって,請求異議で争えるということをきちんと相手方が把握していないような場合には問題が生じるということもありますので,このようなシンガポール条約並びで維持し,かつ請求異議事由としても認めるということではないかと考えます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。すみません,先ほど条約上の問題のクラリフィケーションだけやって,意見を述べませんでしたので,改めて意見を述べたいと思います。   結論としては,今,三木委員のおっしゃった意見に賛成です。この④,⑤につきましては,先ほど事務局からは理論的正当化根拠との関係でも御説明がありましたが,恐らく④,⑤は,これが執行拒否事由に入っていても,入っていなくても,理論的正当化根拠との関係ではそれほど影響はない,そこはニュートラルではないかと思います。なので,そこはもう政策的な問題だと思います。なので,垣内幹事がおっしゃったような在り方というのも,それはあり得る在り方であると思いますが,しかし,今,三木委員から,あるいは今津幹事もそうでしたかね,からも御指摘があったように,やはりこういう事由が分かっているのに,わざわざ債務名義成立まで待って訴えを起こさなければならないというのは,そこは手間だと思いますので,執行決定の段階でも争えるようにしておくということが私は適切ではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○山田委員 山田でございます。先ほど意見を申し上げず,失礼をいたしました。   まず,今,出井委員も少し触れられましたけれども,条約との関係では,執行手続に関しては,執行を求められた国の手続法に従うということと,それから,できるだけ迅速な手続をという,両方の要請がございますので,まず前者に従えば,我が国の法制に従い,請求異議と執行拒否事由の場面と両方で争うということはあり得ることだろうと思います。   次に,迅速な手続をということから言いますと,なるべく重複しない方がよいという考え方も確かにあろうと思いますし,先ほど垣内幹事も言われたことかと思いますが,④,⑤に関しては,いわゆる証明責任の分担から言うと,請求異議事由に当たるということも,それはそのとおりかなとは思います。ただ,執行の場面で必ずしも証明責任に従うという必然性は理論的に常にあるというわけでもないように思われますし,執行決定の段階で債務者側から④,⑤が言えるにもかかわらず言わせないというのは,逆に無駄であると,むしろ無駄な請求異議訴訟を起こさせる負担もありますし,それから迅速化にも逆行するという可能性がありますので,その意味で結論として,④,⑤は執行拒否事由としても残しておくということに賛成でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 少し蛇足というか,重なってしまうのですけれども,基本的に各締約国で決められるということであれば,即ち条約上の問題はないということを前提に考えれば,理論的には,同一の事由を執行拒否事由と請求異議事由で常に両方で処理するのは不適切であろうと思います。ただし,重要なものについては重複していても,むしろその方が当事者間の衡平にかなうこともあるだろうという,若干そういう両にらみ的な考えを私自身も持っていまして,そういう観点で言うと,④と⑤については,かなりファンダメンタルというか,その問題が既に執行決定手続中に当事者間で分かっているのであれば,そこで争わせることがむしろ当事者間の衡平にかなうような感じもするので,私としては,もちろん全部請求異議に持ってくるという法制も可能だとは思っていますけれども,④と⑤を入れておくのも別に,それほどおかしな話ではないと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。 ○垣内幹事 すみません,垣内です。私自身はどちらもあり得る考え方だろうと思っておりまして,④と⑤を請求異議事由としてのみ主張できるようにすべきだという考えを必ずしも強く持っているということでもありません。何か外すとすれば④,⑤ぐらいが一番考えられるところなのかなとは思ったところですけれども,今御指摘のあった当事者の負担等の問題は大変もっともなお話でありますので,もう一度請求異議事由でも争えるかもしれないということによる遅延の問題というのも一方ではあるのだろうとは思いますけれども,そのような行動を行う当事者が必ずしも多いということでもないだろうと。また,そもそも履行がされていたりする場合に,あえて執行決定の申立てがされるということもそれほど多くないのではないかとも思われるところで,これが執行拒否事由として主張されるとしても,実体的に非常に弊害が大きくなるということは必ずしもないのかなという感じはしております。   ただ,一方で従来の日本法の考え方ですと,執行文付与に関する異議事由であるとか,請求異議事由であるとかといったものについて,かなり厳格に分けていく考え方というのが裁判実務上は従来強かったのかなという感じもしております。しかし,それに対する批判も有力にされてきたというところもあり,この局面で立法政策として,これも含めてということで行けるのであれば,それはそれでいい話なのかなという感じもしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○高田委員 実質的な内容は皆さんのおっしゃるとおりだろうと思います。念のための確認ということですが,同じ問題は,私の理解では,執行判決,外国判決の執行の場面で生じておりまして,そこも議論が分かれているという理解です。外国判決の執行においても事後の弁済を主張できるという見解もあり得るところで,実際にあると理解しております。そういう立場からしますと,実質的に見まして,外国判決に比べても調停については,主張させる機会を与えておくことがバランスがよいという議論が成り立ち得ようかと思いますので,一言申し上げますとともに,規定を整備することが外国判決の執行の規律に対して影響を与えるのかどうかということについても考える必要があるということだけ付け加えさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 すみません,1点申し忘れましたけれども,今の高田委員の御発言を聞いて思い出したのですが,仲裁の局面でも同じ議論はされているということかと思っておりまして,仲裁判断についての執行決定の手続で請求異議事由が主張できるかどうかについても両論あるということかと思われますので,その点との関係というのも一つ,考慮要素にはなるのかなと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,よろしいでしょうか。全体を通じてで,もし何か言い忘れた点があればとは思いますが。   それでは,これで一応,全体の論点について御議論いただけたと思いますので,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   それでは,最後に次回の議事日程等について事務当局から説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。本日も熱心な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。   次回の日程ですけれども,来月5月21日金曜日,午後1時30分からを予定しております。場所は未定でございますので,決まり次第お伝えをしたいと思います。   次回は,パブリックコメントの手続が終了しておりますので,できますれば暫定的なものをこちらで準備をさせていただいて,それを基に,執行力を付与し得る対象となる和解合意の範囲に関する論点を中心に御議論を頂きたいと考えております。 ○山本部会長 それでは,これにて法制審議会仲裁法制部会第7回会議は閉会にさせていただきます。   本日も長時間にわたり熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-