性犯罪に関する刑事法検討会 (第16回) 第1 日 時  令和3年5月21日(金)  自 午前10時04分                       至 午前10時55分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  取りまとめ報告書(案)について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼刑事法制企画官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第16回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 おはようございます。本日も御多用のところ御出席いただき,誠にありがとうございます。   本日,川出委員におかれましては,所用のため遅れて出席される予定です。   まず,お配りしている資料について,事務当局から確認をお願いします。 ○浅沼刑事法制企画官 本日,議事次第及び前回会合における御議論を踏まえて修正した「「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)」,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   前回会合でお示しした「取りまとめ報告書(案)」につきまして,皆様から頂いた御意見を踏まえて修正を行いました。本日は,この修正後の報告書案を基に,取りまとめに向けた議論を行いたいと思います。委員の皆様には,事前に修正後の報告書案をお送りいたしましたので,既に御一読いただいているかと思いますが,更なる修正の御意見がございましたら,御発言をお願いできればと存じます。   なお,本日遅れて出席予定の川出委員からは,事前に,修正意見はないとの御連絡を頂いております。 (一同,発言なし) ○井田座長 特に御意見もないようですので,この内容で本検討会の取りまとめ報告書とさせていただくということでよろしいでしょうか。なお,川出委員からは,事前に,取りまとめについては座長に一任する旨の御連絡を頂いております。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,この内容で本検討会の取りまとめとさせていただきます。   報告書の「第4 終わりに」にありますとおり,法務省には,本検討会の検討結果を踏まえ,ここに課題として示されていない点も含めて更なる検討を行い,性犯罪に対してより適切に対処するための刑事法の改正に向けた取組を迅速に進めるよう,お願いしたいと思います。   それでは,残りの時間につきましては,委員の皆様にお一人ずつ,本検討会を振り返っての御感想等を述べていただければと思います。   本検討会においては,令和2年6月から約1年間にわたって,密度の濃い充実した議論を行い,検討会の総意として,本日報告書を取りまとめることができました。コロナ禍に見舞われた中での会合でしたので,多くの委員の方とは相互にモニター越しでの議論となりましたが,冷静で,検討の対象となった事柄に集中した,質の高い意見交換が可能になったというメリットもあったように感じられ,オンライン方式でも,参加する委員の努力と協力により,実のある議論を行うことができるということを示すことができたと思われます。   本日は,本検討会において委員の皆様から御発言いただく最後の機会になりますので,この約1年間の議論を振り返っての御感想,あるいは今後の検討に向けた御要望など,どのようなことでも結構ですので,それぞれお一人2分以内を目途に御発言いただければと思います。   ただ,またここで白熱した論争が勃発してもいけませんので,他の委員の御発言は寛容にお聞きいただき,御自分の発言のときに御自身の思いを披れきしていただければ幸いでございます。   それでは,委員名簿の順に指名させていただきますので,指名されましたら御発言を頂きたいと思います。なお,本日遅れて出席予定の川出委員には,最後に御発言いただきます。   それでは,池田委員からお願いします。 ○池田委員 今回,多岐にわたる論点について議論をするに当たりまして,適切な取りまとめをしていただきました井田座長,また,コロナ禍でのオンライン会議の実施という前例を見ない取組や,意見要旨の取りまとめ等について,いずれも周到かつ適切なお手配及び御準備を頂いた事務当局の皆様に,まずはお礼を申し上げます。   井田座長からは,検討会の冒頭で,議論に臨むに当たっては,複数の専門家がそれぞれの立場からの知見を提供し合い,かつ,それぞれに足らざるところを謙虚に学び合い,補い合うこと,理解し合い,合意に至ることについて,お話がありました。私としても,委員の皆様から示される様々な視点からの御意見を伺うことで,私自身の多くの欠落を認識し,これまで理解していたところの意味を改めて問い直しながら,議論に参加してまいりました。   私の専攻する手続法との関係で申し上げますと,例えば,性犯罪について,公訴時効の完成を遅らせることや,司法面接的手法で得られた供述を証拠として特に許容することについて,それらを採用しない理由も相応に存在するものですが,今回の検討では,それで終わることなく,さらに,性犯罪被害の実相を含む多様な観点からの御指摘を踏まえて,その必要性を一層深掘りし,それに応じて,その当否の評価も重ねて吟味した上で,これらを実現するための課題や具体的な制度の在り方にまで及ぶ議論がされました。これは,座長の示された,補い合いつつ合意に至るという姿勢によって議論を進めることが,有意義な前進をもたらした例と考えております。この間,寛容さを持って議論を深めてくださった委員の皆様に,心よりお礼を申し上げます。   もちろん,なお検討を要する点も多く残されており,今後も議論は続きますけれども,それにどのような立場で関わるにしても,運用も含めてより適切な制度の構築に至るよう,この検討会の議論を基礎にして,更に検討や理解を深めてまいりたいと考えております。 ○金杉委員 1年間にわたって,立場や考え方の異なる様々な委員からの意見に耳を傾けていただき,本当にありがとうございました。   この検討会に御参加の皆様方はそんな疑問をお持ちにならないかもしれませんが,私のように「刑事弁護に力を入れています。」と言いますと,こういうふうに尋ねられることが度々あります。「悪い人をどうして弁護するのですか。」と。私はいつもこのように答えています。「悪い人かどうかは,刑事裁判でその人が悪いことをしたということが決まるまで,分からないのです。」と。   性犯罪は許されないと思いますし,性被害に遭われた方々に対する支援は,刑事裁判で有罪が確定しなくても,広く網を掛けて行われるべきだと思います。性被害の相談を受けて支援する方々が,当事者の訴えを全面的に受け止めて,被害があったことを前提として全力で支援されることも,また当然のことだと思います。   ただ,殊,刑事裁判で,性犯罪があったかどうかが争われている場面においては,被疑者・被告人の防御権や適正な手続の下で公平な裁判を受ける権利がないがしろにされることは許されません。一旦疑われたが最後,十分に防御することもできず有罪になってしまうような構成要件や公訴時効の在り方,証拠法にすることは,実際には罪を犯していない市民から,国が過って自由を,時には命を奪うという,取り返しのつかない国家犯罪につながりかねません。このような立場から,今回の刑事法改正には,基本的には慎重な意見を述べさせていただきました。   しかしながら,被害者支援の観点から意見を述べておられる委員の方々も,また刑事弁護の観点から意見を述べている私を含む委員も,立場は違えど,より良い刑事法の実現という同じ目的のために協働しているものと理解しております。今後の法制審議会等の議論におきましても,車の両輪として,被疑者・被告人の権利を後退させることのないよう,刑事弁護の立場からの意見にも十分に配慮した慎重な議論をお願いしたく,私の最後の意見とお願いとさせていただきます。   1年間にわたり,本当にありがとうございました。 ○上谷委員 この検討会における私の使命は,実務家として,性犯罪被害者の方が刑事手続に関してどのように困っているのかという実情を伝えるとともに,それに関わる現実的な法的課題を指摘することと考え,その観点から意見を述べたつもりです。   この検討会では,委員の方の様々な意見を聞くことができ,たくさんの気付きがありました。立場によって,見る世界も考え方も異なっているため,刑事法が被害者の被害回復に助力する難しさを痛感することもありました。しかし,自分では思い付かなかったアイデアもたくさん出され,私自身の理解も深まり,新たな問題意識に気付くこともできました。   私の被害者支援のスタンスは,被害者が少しでも被害前に戻れるようになってほしい,被害から回復してほしいということに尽きます。検討会で得られた知見を実務に持ち帰り,今後の被害者支援に生かしていきたいと思います。   検討会の進め方としては,本音を言うと,全員の委員の方と実際にお会いしてお話ししたかったという気持ちがあります。しかし,コロナ禍にあって,オンラインを活用しながら1年足らずで16回もの検討会が開かれ,議論が交わされたことに感謝いたします。事務局の皆様には,毎回大変な調査や準備をしていただき,本当にありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。   私の法律事務所の相談室では,何百人もの性犯罪被害者の方が涙を流してきました。今回の取りまとめが被害者を救う法改正につながるよう,今後の動きにも注目しています。 ○木村委員 今回の検討会では,何といっても,被害を公表された方が委員として参画されて,直接議論させていただくことができたというのは,非常に重要だったと思っております。改めてお礼申し上げたいと思います。   個人的には,従来から準強制性交等の刑法178条をもっと活用すべきであるという意見を持っておりまして,報告書の中でもその点に触れていただいているのではないかと思います。ただ,今後,刑法177条,178条といった条文の枠にとらわれずに,現実の犯罪実態に合わせた柔軟な対応も視野に入れて議論することが重要なのかなと思っております。   貴重な検討会に参加させていただきまして,ありがとうございました。 ○小島委員 1年間参加させていただき,本当にありがとうございました。   この検討会を通じて,この問題は,私たちがどういう社会を構想するのかということだと思いました。刑法は最低限度のルールを定めるという意味では,社会のベースラインをどのように設定するかということだと思っております。性交するには同意を取らなければならないと考えるのか,嫌と言わないのだから同意を取らなくても性交してもよいと考えるのか,嫌と言えない関係があるということを理解して,同意を取り付けなければならないと考えるのか。私は,他者と性的行為をする場合の同意の概念について,社会通念や規範を変えていくことが必要だと思っております。   国連の女性に対する暴力の特別報告者であるドゥブラフカ・シモノビッチ氏から,レイプに関する報告書が発表されており,各国はレイプの定義の中心に同意の欠如を明示的に含めるべきであると勧告しています。詳しくは,本日配布された要望書を御覧いただければと思います。   本検討会の議論が,女性やセクシュアルマイノリティ,子供,障害者など,政治的,経済的,社会的に脆弱な地位に置かれている人々の性被害が適正に処罰される社会を作り上げていくための一歩となること,法制審議会が速やかに開催され,被害者はもとより,市民社会の人々が求める法改正が実現されることを期待いたします。   本当にありがとうございました。 ○小西委員 参加させていただいてありがとうございます。井田座長,事務局の皆様にも大変お世話になりました。   私は,この検討会での自分の使命・役割というのは,やはり,被害者の実態をお伝えすること,特に,分かりにくい実態をお伝えすることと,例えば,医学的・心理学的な知見を述べることなのかなと思って,やってきたつもりです。   実は,前回の改正のときに法制審議会に参加させていただいたのですが,そのときとは専門家の認識も変化してきているし,それこそ構成メンバーも,私が思う適正な状況に近づいてきたのかなと思っています。以前は,今回と同じように実態をお話ししても,それから,医学や心理学の領域の中では本当に常識であるようなお話をしても,何か非常識なことを言っているような感じで受け止められている感覚がありました。実際はそうではなかったのかもしれませんけれども,主観的には何かそういう思いを抱くことがありましたが,今回は,実態の認識としては,専門家の方々も一致していることがあるのだなと思うことが,かなりあったと思います。   一方で,それでも,実態に沿った法律を適正に作っていくということには非常に困難があるし,まだ理解されていないところもあると感じております。   今後,更に検討していただきたいことというのは,たくさんあるのですが,一番気になっていることを挙げさせていただくと,やはり,パワーの差のある中で起こる被害というのは非常に分かりにくいということを,みんなに知ってもらいたいということですね。その典型が,子供とか若年者とか障害のある方とか,そういう方への犯罪行為ですけれども,そのような,簡単にノーと言ったり抵抗したりできない状態で行われる犯罪行為を適正に罰することができる刑法を目指していただけたらと,目指せるといいと思っております。   それからもう一つ,性的虐待,これは監護者だけでなく,様々な形での子供への性的虐待というものがありますけれども,本当にその後の人生への影響が甚大です。めちゃくちゃになると言っても過言ではない,かつ,訴えることさえ難しいわけですね。被害の認識も難しい。そういう中では,公訴時効の延長ということは,この形の被害に関してはどうしても実現していただきたいなと,今も強く思っております。   本当にありがとうございました。 ○齋藤委員 この度は,本当に貴重な議論に参加させていただいてありがとうございました。領域が異なると,その前提となる考え方であるとか,物の見方であるとか,見えている世界も異なると思いますけれども,会議に参加された委員の皆様が,現実に起きている被害の話に真摯に耳を傾け,理解しようと努めてくださったことに,本当に心よりお礼を申し上げたいと思います。   一方で,会議の席上で話されたことというのは,現実のほんの一部にすぎず,性暴力・性犯罪被害の支援の現場では,深刻な状況が発生し続けています。刑事手続の中で傷ついて,あるいは,そこに至ることもできずに,被害の影響を受けながら,どうやって生き延びるかということを日々模索している人たちに,私たちはお会いし続けているわけです。心理学や精神医学から見て,人間の心理を理解していたら自然な心理だと考えられることが,法律ではそうとみなされずに,不自然だとか不合理だと言われてしまう現実というのは何なのだろうということを,私はずっと考え続けてまいりました。   これから場を移して法改正に向けて更に議論が重ねられることと思いますが,性暴力被害の実態や人の心理を知っていただいて議論を重ねていただきたく存じますし,性的同意に関しては,世界で既に知見が積み上げられておりますので,そうした知見にも一層関心を寄せていただければと考えています。   心理支援の立場から申しますと,被害届が出せなかった方にも,不起訴になった方にも,刑事手続で傷ついた方にも,刑事手続で救われた方にも,その人の状態に沿った心理支援を誠実に行うということに変わりはないですし,どのような状態からでも人は回復する力を持っていると感じています。ただ,一人でも多くの理不尽な経験に傷ついた被害者の方が,本来ならば公正に判断されるはずの場で,これ以上司法に理不尽に傷つけられることのない社会になるようにということを願っております。   また,会議の席上でも申しましたけれども,セクシュアリティやジェンダーの無理解によって不適切な扱いをされることがなく,全ての被害者の尊厳がきちんと守られて適切に判断されるということを,切実に願っております。   本当に1年間ありがとうございました。 ○佐藤委員 今回の検討会で委員の皆様の御意見や検討会に寄せられた御意見を聞くことができて,大変勉強になりました。   今回の検討会は,たくさんの方の努力が積み重なって開催に至ったのだと思います。是非少しでも多くの人が納得できる方向で,改正が実現されてほしいと思っております。その上で,改正との関係で,個人的には二つの方向で申し上げたいことがございます。   第一に,改正に積極的な方向の意見をまず申し上げますと,これまで日本の刑法典における性犯罪規定は,解釈上,比較的広い処罰範囲をとりながらも,飽くまで抗拒困難という言葉に縛られてきたように思います。自己決定権という点で,抗拒困難が重要なのはもちろんだと思いますけれども,ほかにも,例えば,自己決定の前提として,性的な発達とか,そういうものにつきましても,今後は重要性を持たせてもいいように感じます。これまでの伝統に縛られずに,広い視野で改正作業に当たってもいいのではないかと思う次第でございます。   第二に,他方で,これまでの伝統を守らなければならない部分もあると思っております。特に刑法は,国家という超個人的な権力を有する主体が,個人の生命,自由,財産を侵害する法律であって,慎重に扱わなければならないということです。社会の価値観が変わって条文が時代に追い付かなくなるということは,ままあります。そして,立法には時間と手間が掛かりますから,この先考えられるあらゆる場合に個人を保護することができるよう,臨機応変にどのような行為であっても処罰できるような法律を作ろうという誘惑に駆られることはあろうかと思います。しかし,それは許されるべきではないと思っております。このことを理不尽に感じる方がいることも承知しておりますが,これを許せば,もっと大きな理不尽が起きるように思います。これは,私たちが歴史から学んできたところです。刑法は劇薬のような強い効果のある法律ですから,最低限,処罰範囲の明確性,処罰範囲の適正性については,改正の際にも必ず意識されなければならないと思います。そして,この刑法で達成できない部分につきましては,教育や行政的な被害者支援等で是非補っていただきたいと思う次第でございます。   この度は,貴重な機会を頂きましてありがとうございました。 ○中川委員 今回,様々な立場,知見をお持ちの委員の方々と,多角的な視点で性犯罪に関する刑事法を検討する貴重な機会を頂いたことに,お礼を申し上げたいと思います。   この検討会でのヒアリングや議論を通じまして,私自身,司法手続で扱う性被害というのは,全体の一部にすぎないのだなということを改めて認識いたしました。また,これまでも,裁判所の研究会などを通じて,被害者の方の心情や置かれている立場などについて理解を深めてきたつもりではありますが,裁判所の訴訟指揮などに対する御意見も頂きましたので,そういうことも踏まえながら,当事者の主張や証拠を基に,事案を適切に判断するよう,周りの裁判官とも議論を続けていきたいと考えております。   1年間にわたり,どうもありがとうございました。 ○橋爪委員 私は,刑法の研究者の立場で参加しておりましたが,現場経験がないものですので,この検討会で実務家の先生方の御意見を伺い,また,性犯罪被害者の方,あるいは被害者支援に携わる委員の方の御意見を伺いまして,性犯罪の被害の実態や深刻さについての理解を深めることができました。この機会に,まず厚く御礼を申し上げます。   今後,刑法の一研究者としまして,性犯罪被害の実態を踏まえながら,それを適切に処罰対象に含めることができるような立法,あるいは法解釈の在り方について,更に検討を進めていきたいと考えております。   取り分け,この検討会では,性犯罪の成否に関する現場での判断や対応が不安定になっているという御指摘が繰り返しございました。もちろん,法規範というものは,一定の抽象性や包括性が不可避でありますので,全ての事例について安定的な法適用を行うことが困難であることは十分承知しておりますけれども,やはり処罰範囲の明確性の要請は,特に性犯罪については重要な問題であることを痛感いたしました。私自身,更に勉強していきたいと思います。   1年間の御教示に,改めて御礼申し上げます。 ○羽石委員 1年間,真摯な議論に参加させていただきまして,本当にありがとうございました。   私は,警察の立場を代表して参加させていただきましたけれども,この検討会で様々な専門知識,御経験をお持ちの委員の方々ですとか,ヒアリングの出席者の方々からお話をお伺いすることができまして,被害者の方,関係者の方の思いを知ることができたのは,非常に勉強になったと思っています。   性犯罪は,被害者やその関係者,親しい人々に大きな傷を与える重大な犯罪だと思っています。法制度をどのようなものにしていくかは今後の議論になると思いますけれども,処罰すべき犯罪がきちんと処罰されて,それによって被害者の方が少しでも救われること,捜査・公判の過程における被害者の方々の負担が少しでも軽減されるような制度になることを願っております。   一方で,当検討会で委員の方々からも御指摘があったとおり,性犯罪への対応には法制度の見直しだけではなく,制度の的確な運用ですとか,被害者の方への支援施策の充実,加害者への対応等,様々な観点からの取組が必要だと思います。本検討会の中で,委員の方々から,捜査段階における二次的被害などについての御指摘も頂きました。   警察としては,被害者の方の思いに寄り添って,処罰されるべき性犯罪がきちんと処罰されるように捜査を尽くすのはもちろんなのですけれども,同時に,被害者の方の負担に適切な配慮がなされるよう,引き続き,研修などを通じて都道府県警察を指導していきたいと思います。被害者の方や関係者の方々から,最近警察の対応が良くなったよねと言っていただけるよう,一人一人の警察官が意識をきちんと持っていけるように指導していきたいと思っています。   1年間大変ありがとうございました。 ○宮田委員 前回改正の際,議論に加わらせていただき,また今回も機会を頂きましたことに心からお礼申し上げます。ありがとうございました。   私は,日本の実際の裁判では,かなり幅広い処罰がなされている例があると指摘申し上げました。今の運用について,事件によっては被害者が救われないことがあるという御意見がありましたが,逆に言えば,裁判で裁かれる被告人にとって,自分は有罪になるのか無罪になるのかが分からない,非常に不安定な状況に置かれているということにもなるのです。しかし,どうしてそのような差が生じるのか,法律が改正されるときの過去の裁判の振り返りは,本当は一番大事な作業なのではないのかと思います。その作業を十分にしないで新たな条文を作ることは,被害者にとっては処罰範囲が狭くなった,弁護する立場からは不当に広がったという批判につながり得ます。   今後,保護法益の議論やどのような行為が処罰されるべきかの議論が,更に充実してなされることになると思うのですが,そのときに,どのような行為を処罰するのかということと,どのような法定刑を定めるかという議論が,きちんとセットでなされていくべきと考えています。   海外の法制のほとんどは,基本的な構成要件は幅広く,しかしながら,法定刑は軽く定められています。重罰化をすることは,本当に加害者の更生のために効果があるのでしょうか。更生にとって逆効果となる法律にならないことを私は願っています。   被害者からみた刑事裁判の問題が指摘されてきましたが,刑事弁護をする立場から今の性犯罪の裁判を見ていると,被害者の供述が非常に安易に信用される傾向や,被告人に対して,事実上無罪の立証が強いられているように見える事件もあり,むしろ,このような問題のある例が増えてきているのではないかと感じます。   刑事裁判は,社会の安定のために犯罪をした人に対する処罰をすることを目的としたものであり,被害者の救済が第一義的な目的ではありません。しかも,全ての被害者を救えるわけではない。刑事裁判では被害者が救えない話は,今まで何度も繰り返していますが,加害者が死んでしまった,あるいは,加害者が見つからない被害者や,どんなに法改正をしても,立証のハードルがありますから,それによって救われない被害者が必ず出てきます。刑事裁判は,そのように限界のある制度なのに,過度な期待をかけることには問題があると思います。   私は,性犯罪の被害者の支援は必要だと思っています。そして,憲法や法律に定められた被疑者・被告人の権利の保障もまた必要不可欠です。そのバランスを取りながら,制度を作っていくことが大切です。今後我が国において,より良い法律や制度ができることを祈ってやみません。 ○山本委員 今回の検討会で,井田座長,事務局の方々が場を整えてくださり,委員の皆様から様々な議論が尽くされたことに感謝いたします。   貴重な場に参加させていただいたことに御礼申し上げたいと思っています。特に,刑法学者の方々からも包括的要件を設けることが示され,これを検討する方向に進んだことが前進だったと思います。   ただ,内容については,イエスと言った場合以外はイエスではないという考え方が取り入れられなかったことは残念です。相手の意思が曖昧な場合に確認義務を課すのは,それほど難しいことなのでしょうか。何を処罰すべき行為と認識しているかについても,認識の違いがあったと思います。この日本で,強い立場の者から弱い立場の人への性暴力が起こり続け,それを刑法で処罰できず,同意のない性行為という性暴力を容認し続けていることが,日本の被害者を苦しめ,救いがない状況を作っていると理解しています。   欧米では,性暴力を同意のない性交として処罰していこうというゼロトレランス,暴力を決して容認しないという意思が明確に示されています。暴力を容認すれば起き続け,被害者が生み出され続けていくからです。   処罰すべきでない行為として,困惑したり,悩みながらも最終的に受け入れた場合があるという意見や,大人の場合は,相手が上司や医師など上の立場であっても,対等な関係性が考えられないわけではないという意見もありましたけれども,同意というのは,対等な関係で同意する能力がある場合に初めて成立するという認識が共有されていないことが,処罰すべき行為が何かという認識に差を生じさせていると思います。パワーを持っている人からの被害ということを,やはり考えていただければと思っています。   Springの調査でも,加害者がだんだんと体を触る行為を増やしていったり,だまして人気のない場所に連れ込んだりしていることが多く,抵抗できず,拒否の意思を示せない中で,同意のない性行為を強いられている被害者が多いことが分かっています。被害者が苦しみ,性的行為に同意したか否かが曖昧であることのリスクを負っているのが,今の現状だと思います。刑法で全て救うことは難しいとは言われますけれども,「No means No」として,その他意に反する性交が性犯罪になる社会を私たちは望んでいます。「Yes means Yes」を目指して,性暴力がなくなる刑法の在り方を,今後も議論し続けていただければと思います。   1年間本当にありがとうございました。 ○和田委員 二点申し上げます。   第一に,私は刑事法研究者として参加しましたが,自分が専門外のことをいかに知らないかということを思い知らされました。専門が異なる人に対して,嫌な顔をされてもしつこく言い続けること,そして,言われた方はそれを聞き続けることが重要であると,改めて思います。   第二に,現行制度を前提に,それを改正して,この国をより良くしていこうとするのか,それとも,新たに理想的な国・制度をゼロから作ろうとするのか,そのどちらでいくのかによって,当然議論の進め方は異なります。今回は,前回の改正で不十分である点を確認して,現行制度を修正するという前者のやり方が前提になっていましたので,そのようなやり方であることに伴って,一定の限界があったかと思います。   先の話になりますが,次回改正する際には,ゼロベースでの議論も視野に入れて進められるとよいのではないかと思う次第です。と言いましても,刑事システム自体をゼロから作り直すことは,現実的でも合理的でもありませんので,具体的には,性犯罪に対して総合的に対応する特別法を作るという方法が考えられるかと思います。刑法典の性犯罪のほか,児童福祉法,児童ポルノ法,各種条例,それから売買春の問題も含めて,全てを包括的にそ上に載せて,一つの法律を作るとしたらどうなるかを議論してもよいのではないかと考えます。次回の開催においては,そのような議論も可能になるような場の設定をしていただけるとよいと思いました。   どうもありがとうございました。 ○渡邊委員 冒頭,座長から,この巨大なテーマの前ではちっぽけな存在であるというお言葉がございましたけれども,そう思ってこの会議に臨ませていただいて,また,たくさんのヒアリング,あるいは委員の皆様の御意見を伺う中で,その思いを本当に一層強くいたしました。ありがとうございました。   検事として職務に当たってきた中で,性犯罪事件の捜査・公判の難しさというのを痛感しましたし,また,性犯罪被害者の方の苦しみというものの一端ではございますけれども,触れてまいりました。   20年ぐらい前には,捜査・公判で,実際に被害者の方が抵抗したかどうかというようなことが争点になることが多く,また,その場面を自分のこととして考えてみますと,抵抗などできなくて当然だという思いがありつつも,それをうまく言葉にできないもどかしさがございました。その状況について,10年ぐらい前でしょうか,小西聖子先生の御講義で,精神医学的な観点から御説明を頂きまして,ああ,そういうことだったのかと,正に腑に落ちた経験が強く印象に残っております。   つまり,そういった精神医学的な知識ですとか,あるいは年少被害者の供述特性ですとか,そういったことは,このような事件に関わる私たちとしては,当然知っておかなければならない常識であって,そういう常識は,そのほかにもたくさんあるのではないかという思いを強くした次第でございます。そして,それは,法律家だけではなくて,一般の方々にも提供,共有されるべきことなのではないかと思いました。   今回の検討会では,実体法はもとより,公訴時効ですとか,司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いなど,様々な論点が取り上げられました。運用において,私たち検察官が最大限努力していくということは当然ですけれども,今分かっている被害者の方の心理や供述特性といった知識を十分に踏まえて,実際の手続において,被害者の方が二度,三度と傷つけられることのないような刑事手続が実現するように,一検察官として期待をしております。   ありがとうございました。 ○川出委員 この検討会で皆様の御意見を伺い,性犯罪,取り分け子供に対する性犯罪というのは,その被害において,他の犯罪とは異なる面があるのだということを実感いたしました。その違いを法改正にどのように反映させることができるのかを検討するのが,本検討会の課題であると思いましたので,私は主に手続法に係る部分について,現在の制度の基本的な枠組みや,その基礎にある考え方と整合する形で,どういった改正があり得るかという観点から意見を述べさせていただきました。   ただ,時間の制約もあって,意見が対立する部分について議論を尽くすことはできませんでしたし,また,制度の採否において重要な観点となると考えられます,制度改正が実務に対してどのような具体的影響をもたらすのかという点についても,若干の意見が示されたにとどまったように思います。   今後どのような形で立法に向けた作業が進んでいくのか分かりませんが,法務省には,こうした点について十分に議論を尽くす場を設けていただくことをお願いしたいと思います。   1年間どうもありがとうございました。 ○井田座長 ありがとうございました。   委員の皆様からの御発言はここまでとさせていただきたいと思います。それぞれのお立場から,大変貴重な,滋味掬すべき御意見を改めて伺うことができたと感じております。重ねて御礼申し上げます。   続いて,これまで検討会に御出席いただいた最高裁判所事務総局刑事局の市原課長からも御発言をお願いします。 ○市原最高裁判所刑事局第二課長 今回,この検討会に出席させていただく貴重な機会を頂きまして,お礼を申し上げたいと思います。   裁判所としましては,今回の検討会での議論等も踏まえまして,引き続き,研修等を通じて性犯罪の被害者の心理状態等の適切な理解に努めてまいりたいと考えております。   どうもありがとうございました。 ○井田座長 ありがとうございました。   続いて,本検討会を終了するに当たり,事務当局である法務省刑事局から御発言をお願いします。 ○保坂官房審議官 刑事局長の川原に代わりまして,私から発言させていただきます。   井田座長を始めといたしまして,皆様におかれましては,令和2年6月の第1回会合以来,本日の第16回会合までの間,1年間にわたりまして,大変お忙しい中,御出席いただき,様々な貴重な御意見を頂きました。コロナ禍のためにウェブ会議を併用して会議を行うことになりまして,御不便もあったかと思いますが,皆様の御尽力によりまして,大変活発な御議論を頂くことができたと思っております。事務当局といたしまして,改めて厚く御礼を申し上げます。   検討会におきましては,性犯罪に関する刑事の実体法・手続法の在り方に関する数多くの論点について,それぞれの分野の専門的知見や御経験に基づいて,皆様から幅広く御意見を頂き,本日取りまとめられた報告書におきまして,法務省としての今後の検討に当たっての視点や留意点をお示しいただいたと受け止めております。   法務省といたしましては,この取りまとめ報告書,さらには,これまで皆様から頂いたいろいろな御意見を踏まえまして,法改正の検討を着実に進めてまいりたいと考えております。   最後に,皆様におかれましては,今後とも法務行政に対しまして,変わらぬ御理解と御協力を賜りますよう,よろしくお願いいたします。 ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,これまで検討会に御出席いただいた法務省特別顧問の井上先生からも,御発言をお願いします。 ○井上特別顧問 井田座長を始めとして,皆様本当にお疲れさまでした。   昨年6月から1年,16回にわたり,議論を積み重ねてこられましたが,先ほど審議官も触れられたように,コロナ禍の下,かなり多くの方がウェブ会議システムでの参加を余儀なくされるという非常に不慣れな形で,従来のような意味での一体性が欠けるところがある一方で,例えば,愛犬の鳴き声が聞こえたり,また,あれは仙台だったのではないかと思うのですけれども,窓の外からセミの盛んな鳴き声が聞こえてくるという,不思議な臨場感,親近感も感じられる中で,非常に精力的で真剣な議論であったと思います。   その議論の結果,様々な物の見方やアイデアが示され,多角的な視点,視角から,問題の全体像が明らかにされ,かつ,今後詰めるべき論点や課題が的確に整理されるに至ったのは,大きな成果だったと思われます。   私個人としては,ただ拝聴するだけでしたけれども,性被害の実態,実情について,いかにこれまで自分が認識不足であったかということを反省させられ,大きく目を開かされましたし,また,皆様とはかなり年代が違って,昭和の古い世代なものですから,いかに自分が無意識にいろいろな固定観念に縛られていたかということをも自覚させられ,考え直させられることが多々ありました。   各委員の御意見は一様ではないと言いますか,率直に申して,相当対立し,異なっていますけれども,今後,これを基に,主要な各論点について具体的な結論を得るべく,そして更に法改正が必要な点については,それに向けて一層検討を進めていくことが必要になります。それに当たっては,それぞれの論点,問題について,実質的な,言わば裸の必要性や妥当性について議論を深めるのはもちろんですけれども,刑法や刑事訴訟法という一国の基本法令の改正に関わる事柄ですので,それぞれの点についての法理論的な根拠付けや技術的な点の詰め,さらには,各事項相互の関係や法制度全体の中での整合性という点についても,より立ち入った検討が必要になる。本検討会でも,ある程度は議論がなされたわけですけれども,まだまだ詰めるべきところが多々残されているというのが正直なところですので,今後,それらについて,更に一層検討を進めていっていただければと思います。   その意味で,なお「道半ば」というのが正確なところだと思いますけれども,同時に,今回の検討は,踏み出さなければならないステップですし,越えなければならない一つの山であったことも確かで,そのステップを刻み,一山越えたということは,やはり大きな意義があったと思います。その意味で,皆様のこれまでの非常に熱心な御議論,御献身に対し,深く敬意を表する次第です。   どうもありがとうございました。 ○井田座長 ありがとうございました。   最後に,本検討会を終了するに当たり,私からも一言お礼を申し上げます。   何よりも委員の皆様には,このコロナ禍という未曽有の事態の下で,ただでさえお忙しいお立場に,更に負荷の掛かる状況下で,この検討会のためによく準備して臨んでくださり,また,議論を進めるために私から議論の枠組みをお示しするようなことも随分とさせていただいたにもかかわらず,快く御協力くださり,高度に専門的な議論を積極的に展開してくださったことに対して,心よりお礼を申し上げます。   取り分け法律家は,事後にその事実をどのように証拠により証明するかという,そういうワンクッションを加えた思考様式が頭に組み込まれておりますし,また,現行法の性犯罪以外の規定や現行法の諸制度との理論的な整合性ということに,どうしても頭がいってしまいますので,被害者の保護という観点からしますと,保守的・微温的であり,歯がゆいという感覚をお持ちになった委員もいらっしゃるかと思います。   とはいえ,委員のそれぞれが,恐らくは御自身の思いとの間で若干の葛藤を抱きながらも,最終的な報告書案には同意してくださり,委員の総意で取りまとめができたということは,大変大きな成果であると思っております。私も,幾つか外国におけるこの種の報告書に接しておりますけれども,それらと比べても決して引けを取らない,どこに出しても恥ずかしくない報告書になったと考えております。   もちろん,井上顧問のおっしゃったように,次のステップが大変で,意見が厳しく対立しているところを,一定の方向に収れんさせていくという骨の折れる作業がこれから行われなければならないわけですが,法務省には,この報告書に対する各方面からの御意見を広く伺っていただき,その上で,この検討会における到達点を言わば足場にして,ありうべき法改正に向けて,更に検討を深めていただくことをお願いしたいと思います。   最後になりますが,正に「last but not least」と言うべきですが,法務省刑事局の皆さんにもお礼を申し上げたいと思います。この1年間,裏で支えていただかなかったとすれば,到底これだけ高いレベルの取りまとめ報告書をまとめることはできなかったと思います。24時間対応,週末休日返上で御尽力くださった刑事局の皆さんには,その並外れた知力,精神力,そして体力に,委員を代表して深く敬意を表するとともに,心から御礼申し上げたいと思います。大げさではなく,全身全霊,命懸けでサポートしてくださったと感じております。本当にありがとうございました。   本日予定していた議事はこれで終了いたしました。   本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表したいと思います。そうした扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのような扱いとさせていただきます。   これをもちまして,「性犯罪に関する刑事法検討会」を終了いたします。   どうもありがとうございました。