法制審議会 第190回会議 議事録 第1 日 時  令和3年5月20日(木)   自 午後2時02分                        至 午後3時36分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  刑事手続において犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための刑事法の整備に関する諮問第115号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○丸山司法法制課長 ただいまから法制審議会第190回会議を開催いたします。   本日は,委員20名のうち,会議場における出席委員8名,ウェブ会議システムによる出席委員7名,計15名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○上川法務大臣 法制審議会第190回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席をいただきまして,誠にありがとうございます。  また,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対しまして,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は御審議をお願いする議題が一つ,部会からの報告案件が三つございます。   まず,御審議をお願いする議題は,「刑事手続において犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための刑事法の整備に関する諮問第115号」についてでございます。  刑事手続においては,例えば,起訴状謄本の被告人への送達などによって,犯罪被害者の氏名等が被疑者・被告人に知られる場合がありますが,性犯罪の事件などにおいて,犯罪被害者等の名誉やプライバシーが侵害されるおそれや加害行為がなされるおそれがあることから,刑事手続を通じて犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための方策を講じることが必要です。  そこで,起訴状謄本の送達をはじめとして,捜査段階も含めて,刑事手続を通じて犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための法整備について,御審議をお願いするものでございます。   次に,部会からの報告案件は,民法(親子法制)部会,民事訴訟法(IT化関係)部会及び仲裁法制部会における審議の途中経過の報告でございます。  これらの部会におきましては,各部会が設置されて以降,精力的な審議が行われ,民法(親子法制)部会及び民事訴訟法(IT化関係)部会については本年2月に,仲裁法制部会については本年3月に,それぞれ中間試案が取りまとめられ,パブリックコメントの手続を経たところと承知しております。  いずれの部会におきましても,その結果も踏まえ,更に調査審議が進められるものと思いますが,本日は,民法(親子法制)部会の大村敦志部会長,民事訴訟法(IT化関係)部会及び仲裁法制部会の山本和彦部会長から,これまでの審議の経過について報告を聴取し,委員の皆様方から御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,これらの議題等につきましての御審議,御議論をよろしくお願い申し上げます。 ○丸山司法法制課長 法務大臣は,公務のためここで退席いたします。           (法務大臣退室) ○丸山司法法制課長 ここで,報道関係者が退出しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○丸山司法法制課長 本日の会議から,ペーパーレス化によりましてタブレットによる資料配布となっております。もし御操作が分からない場合には,事務局宛てに適宜お知らせください。よろしくお願いいたします。   では,内田会長,お願いいたします。 ○内田会長 内田でございます。本日はよろしくお願いいたします。   まず,前回の会議以降,本日までの間における委員の異動につきまして御紹介いたします。詳細はお手元にお配りしております異動表のとおりでございますが,新たに就任された大野委員は本日は欠席と伺っております。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣挨拶にもございましたように,本日の議題であります,「刑事手続において犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための刑事法の整備に関する諮問第115号」について,御審議をお願いしたいと存じます。   なお,資料につきましては,事務当局からの配布資料のほかに,本日御欠席の神津委員から意見書の送付がありましたので,席上に配布させていただいております。   では,初めに事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○栗木参事官 刑事局参事官の栗木でございます。  諮問事項を朗読させていただきます。   諮問第115号  刑事手続において犯罪被害者の氏名等の情報を保護するため,早急に法整備を行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい。 ○内田会長 ありがとうございます。   続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○川原幹事 刑事局長の川原でございます。  諮問第115号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   刑事訴訟法上,被疑者を逮捕状により逮捕するには逮捕状を,勾留するには勾留状を,それぞれ示さなければならず,また,公訴を提起するには,検察官が裁判所に起訴状を提出し,裁判所がその謄本を被告人に送達しなければならないこととされています。  そして,現在の実務においては,被害者がいる事件では,原則として,被害者の氏名を逮捕状・勾留状や起訴状に記載することが求められるとの理解を前提として,運用が行われています。  そのため,これらの手続を通じて,被害者の氏名等が被疑者・被告人に知られることにより,性犯罪の事件などにおいては,被害者等の名誉や社会生活の平穏が著しく害されるおそれやその身体・財産に対する加害行為等がなされるおそれがある場合があることから,刑事手続において,被害者の氏名等の情報を保護できるようにすることが必要です。   この点については,平成28年に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律の附則第9条第3項や,平成29年に成立した刑法の一部を改正する法律に関する附帯決議において,起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置について検討を行うことが求められているところです。   そこで,先ほど申し上げた,逮捕状・勾留状の呈示や起訴状の謄本の送達をはじめとして,刑事手続全体を通じて被害者の氏名等の情報を適切に保護できるようにするため,被疑者・被告人の防御権に配慮しつつ,関係する刑事法の整備を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものであります。   次に,諮問の趣旨等について御説明申し上げます。  今回の諮問に際しましては,事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので,この案を基に,具体的な御検討をお願いいたします。   まず,要綱(骨子)の第一について御説明申し上げます。  これは,検察官が,性犯罪等の一定の事件について,公訴の提起と同時に,裁判所に対し,被告人に送達するものとして,起訴状の抄本であって被害者等の個人特定事項,すなわち,氏名及び住所その他の個人を特定させることとなる事項を記載していない抄本を提出することができ,その提出を受けた裁判所は,遅滞なくその抄本を被告人に送達しなければならないこととするものです。  この場合,裁判所は,弁護人に対しては,被害者等の個人特定事項を被告人に知らせてはならない旨の条件を付した上で,起訴状の謄本を送達しなければならないこととしていますが,そのような措置によっては,被害者等の名誉等が著しく害され又はその身体・財産に対する加害行為等を防止できないおそれがあるときは,検察官は,裁判所に対し,弁護人に送達するものとして,起訴状の抄本を提出することができ,裁判所は,弁護人に対し,その抄本を送達しなければならないこととしています。  そして,被告人の防御権への配慮として,裁判所は,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは,被告人又は弁護人の請求により,被害者等の個人特定事項を被告人又は弁護人に通知しなければならないこととしています。   次に,要綱(骨子)の第二について御説明申し上げます。  これは,捜査段階において,性犯罪等の一定の事件について,検察官又は司法警察員が,逮捕状の請求と同時に,裁判官に対し,逮捕状の抄本であって被害者等の個人特定事項を記載していない抄本の交付を請求し,逮捕状により逮捕するに当たっては,裁判官から交付を受けた当該抄本を被疑者に示すこととし,また,検察官が,勾留の請求と同時に,裁判官に対し,勾留質問における被疑事件の告知を当該個人特定事項を明らかにしない方法により行うこと及び勾留状の抄本であって当該個人特定事項を記載していない抄本を交付することを請求し,勾留状を執行するに当たっては,裁判官から交付を受けた当該抄本を被疑者に示すこととするものです。  そして,被疑者の防御権への配慮として,裁判官は,勾留手続においてただいま申し上げた措置がとられた場合について,被疑者の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは,被疑者又は弁護人の請求により,被害者等の個人特定事項を被疑者に明らかにしなければならないこととしています。   次に,要綱(骨子)の第三について御説明申し上げます。  これは,公訴提起の段階で被告人に起訴状の抄本を送達する措置がとられた場合には,刑事訴訟法第299条第1項による証拠開示の際に現行法上認められている秘匿措置の範囲を拡大するものです。  すなわち,刑事訴訟法第299条の4においては,検察官は,証人等の身体・財産に対する加害行為等のおそれがあると認めるときは,弁護人に対し,証人等の氏名及び住居を知る機会を与えた上で,当該氏名又は住居を被告人に知らせてはならない旨の条件を付す措置や,被告人及び弁護人に対し,証人等の氏名又は住居を知る機会を与えない措置をとることができるとされているところ,要綱(骨子)の第三の二においては,公訴提起の段階で,被害者について名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあることを理由として起訴状の抄本を提出した場合には,証拠開示の段階でも,当該措置に係る氏名又は住居について,先ほど申し上げた措置をとることができることとしています。   最後に,要綱(骨子)の第四について御説明申し上げます。  刑事訴訟法第46条においては,被告人等は,裁判書等の謄本等の交付を請求することができることとされているところ,要綱(骨子)の第四においては,公訴提起の段階で被告人に起訴状の抄本を送達する措置がとられた場合には,先ほど申し上げた裁判書等の謄本等の交付の際に,裁判書等の謄本等に記載された当該措置に係る被害者の氏名又は住居を被告人に知られないようにすることができることとするものです。   要綱(骨子)の概要は以上のとおりです。  十分御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますよう,お願いいたします。 ○内田会長 ありがとうございました。   続きまして,配布資料につきまして事務当局から説明をお願いいたします。 ○栗木参事官 配布資料の説明をさせていただきます。   まず,番号刑1は,諮問第115号です。  番号刑2は,今回の諮問の内容に関するこれまでの国会からの指摘をまとめたものです。   まず,平成28年に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律の附則第9条第3項では,同法の公布後,必要に応じ,速やかに,起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置について検討を行うことが求められています。   また,平成29年に成立した刑法の一部を改正する法律の附則第9条では,同法の施行後3年を目途として,性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加えることなどが求められていますが,衆議院法務委員会及び参議院法務委員会における同法の附帯決議では,起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置についての検討を行うに際しては,性犯罪に係る刑事事件の捜査及び公判の実情や,被害者の再被害のおそれに配慮すべきであるとの指摘を踏まえて検討を行うこととされています。   配布資料の説明は以上です。 ○内田会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のありました諮問第115号につきまして,まず,御質問がございましたら承りたいと思います。いかがでしょうか。 ○白田委員 事前説明のときに頂いた資料の中に,不服申立ての項目がございます。今の諮問は非常に重要なことでありまして,是非ともこの審議を進めていただきたいと強く望んでいるところであります。一方で,どういう状況でこの不服申立てが許可されるのかと。基本的に被疑者,被告人又は弁護人に被害者の氏名を通知する,不服申立ての結果によってその可能性が残されているというところでありますので,その不服を不服と認めるかどうかという,その判断基準は非常に難しいのではないかと思うのです。この辺のところはどのように今,審議,検討が進んでいるか教えていただけますでしょうか。 ○保坂関係官 刑事局担当の審議官の保坂からお答えいたします。   要綱(骨子)の5ページの二のところを見ていただきますと,個人特定事項の通知という規定を設けることとしており,これがいわば不服申立てとなるわけですが,概略を申しますと,秘匿する措置をとった場合に,次の(1)又は(2)のいずれかに該当すると認めるときは,裁判所は,被告人等の請求により,通知する旨の決定をするとなっております。   そこで,具体的な要件でございますが,まず,(1)につきましては,そもそも秘匿できる要件,対象者に当たらないときということであり,(2)につきましては,その要件は,当該措置,つまり個人特定事項を知らせないという措置によって被告人の防御に実質的不利益を生ずるおそれがあるときというものでございます。   これは,いろいろな不利益があり得るところでございますが,現行の刑事訴訟法の証拠開示におきましても,一定の場合に証人の氏名,住居を秘匿することができるという制度がございますが,それが許されない要件と同様の文言になっておりまして,差し当たっては,それと同様に,個人特定事項が分からないことによって,その人がどういう利害関係のある人なのかが分からず,供述が信用できるのか,できないのかの判断に支障を生じるような,そういう不利益が想定されると考えております。これを中立の立場にある裁判所の方で,請求を受けて判断することとしております。 ○内田会長 今の御回答でよろしいでしょうか。 ○白田委員 ありがとうございます。内容はじっくり事前に読んできておりますので,記述されている内容は理解しております。が一方,全く個人的な意見ですが,ここに記述されているように,何を正しくというか,非常に微妙なのですが,どのように適用されるかという点については,少し懐疑的というか,ケースによってはですね,将来的にこれを,非常に悪い言葉を使いますが,悪用して,逆にその被害者にまた違った面の被害が及ぶような事例が起こるのではないかと少し懸念していると,そこまででございます。 ○内田会長 ありがとうございます。御意見も併せて頂きました。   ほかに御質問はございますでしょうか。   特に御質問はよろしいでしょうか。   それでは,御意見がございましたら承りたいと存じます。いかがでしょうか。 ○大沢委員 大沢です。今回の性犯罪などの被害者の氏名を被疑者・被告人に知らせないようにするということは,再び被害に遭う可能性を低くして,被害者の不安を減じる効果が期待できると思います。そうした観点から,今回の捜査公判手続における氏名等の秘匿手続の整備というのは意味があると私も思っております。その点をまず踏まえた上で,報道に携わる者として若干の意見を申し上げさせていただければと思います。   今回の法整備は,飽くまで刑事手続において被疑者・被告人に伝える情報に制限を加えるという趣旨なので,この法整備が警察,検察など捜査機関による報道発表の取扱いとは直接リンクするものではないと私は理解しております。ただ,こうした法整備がなされることにより,例えば報道発表の運用面において,これまで以上に被害者に関する情報提供が行われなくなるのではないかというふうな危惧を感じております。   もとより報道機関は取材に当たって,被害者や遺族の方の心情に十分に配慮して,報道に当たっても慎重な判断を日々重ねております。特に,性犯罪被害者には最大限の配慮を心がけており,被害者を推認させるような記述は避けているという形をとっております。一方で,特に被害者が亡くなられたような深刻な事件については,配慮をしながら,遺族の方々の理解を得て,御遺族の方のお話を伺う努力をして,御遺族の無念の思いや被害の大きさなど,事件の実像を広く読者に伝えることで社会に問題を提起して,再発防止につなげることも私どもは目指しております。   我々報道機関は,捜査機関から提供される情報にのみ頼っているわけではないのですけれども,強大な捜査権を持つ警察・検察が把握している被害者に関する情報というのは取材の手掛かりの一つであることは間違いないわけで,その手掛かりを得る機会が広く制約されることになれば,取材報道活動に影響が出かねないとも思っております。今回の法整備の影響として,そうした点が想定され得るということを現段階で指摘させていただければと思って,申し上げました。   それから,最後に一つ,すみません,質問なのですけれども,例えば,公判手続で被害者の御遺族が,やはり被害者の氏名はきちんと明示してほしいといった要望を出された場合の取扱いというのはどういうふうに考えればよろしいのでしょうか。今回の法改正の方向性は,公判手続では基本的に氏名等が秘匿されるように私は理解しているのですけれども,御遺族の中には,氏名というのが人間の人格の象徴であって,言わば生きてきた証でもあるから,きちんと実名で報じてほしいという御希望をされる方もいらっしゃるのです。それで,裁判に対しても同様の思いを持つ方がもしかしたらいるかもしれないと思ったので,お尋ねした次第です。すみません,先ほど質問のときに申し上げればよかったのですけれども。 ○内田会長 ありがとうございました。御意見に併せて御質問もございましたが,御質問について事務当局からお願いできますでしょうか。 ○保坂関係官 御質問にお答えしますと,お尋ねに関係する制度は,既に現行法で公開の法廷における被害者特定事項の秘匿というものがあり,被害者の氏名が,例えば,起訴状の朗読ですとか,あるいは証拠書類の朗読のときに,公開の法廷で明らかにされる場合がある,それによって,例えば,被害者の名誉・プライバシーが著しく害されたり,あるいはそれによって加害行為がなされるおそれがある場合に,裁判所の決定によりまして,公判手続の中で被害者を特定するような氏名等を明らかにしないという仕組みでございます。   こちらにつきましては,まず,被害者の名誉・プライバシーが害されるおそれがあるときに,その秘匿決定ができる要件といたしまして,被害者側からの申出がある場合という要件になっております。他方で,加害行為がなされるおそれがある場合に秘匿できるときには,その被害者の方の申出というのは要件になっておりません。前者の場合,被害者の方の申出が要件になっていますので,申出がなければ,秘匿決定ができないということになり,被害者側の意向が要件になっているということでございます。他方で,後者の加害行為のおそれの場合には,被害者側の申出が要件になっていませんが,これは,たとえ被害者の方からの申出・要望がなかったとしても,加害行為がなされるというおそれが認められる場合には,これはやはり秘匿決定ができるようにしておくということでございます。以上の説明は,飽くまで法律の要件として秘匿決定ができるかできないかということでございますので,実際に秘匿決定をするかどうかにつきましては,裁判所がいろいろな事情を考慮して個別に判断されているのだろうと考えております。 ○内田会長 ありがとうございます。  プライバシー保護の点については被害者の判断が反映されるということのようですが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。   それでは,ほかに御意見はございますでしょうか。   特にございませんでしょうか。   それでは,特にないようですので,ここで諮問第115号の審議の進め方について,御意見がございましたら承りたいと思います。 ○井田委員 ありがとうございます。  この諮問第115号につきましては,専門的,技術的事項を相当に含んでおりますので,通例に倣い,新たに部会を設置して,そこで調査審議をしてもらい,その結果の報告を受けて,この総会でまた審議をするというふうにしてはいかがかと考えます。 ○内田会長 ありがとうございます。   ただいま,井田委員から部会設置等の御提案がございましたけれども,これにつきまして御意見はございますでしょうか。   御異存ありませんでしょうか。   それでは,特に御異議もないようですので,諮問第115号につきましては新たに部会を設けて調査審議をすることといたします。先ほど頂いた御意見もそこで検討されることと思います。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してですが,これらにつきましては会長に御一任いただきたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,この点は会長に御一任いただくということといたします。   次に,部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第115号につきましては,「刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会」という名称にしたいと思いますが,いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。ありがとうございます。   それでは,そのように取り計らわせていただきます。   ほかに,部会における審議の進め方等を含めまして,御意見がもしございましたらお伺いしたいと思いますが,いかがでしょうか。   特にございませんでしょうか。   それでは,諮問第115号につきましては「刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会」で御審議いただくということにいたしまして,部会の御審議に基づいて,総会において更に御審議を願うということにしたいと存じます。   本日の議題は以上ですけれども,引き続きまして,現在調査審議中の部会から,その審議状況等を報告していただきたいと存じます。   本日は,民法(親子法制)部会の部会長である大村敦志臨時委員,そして,民事訴訟法(IT化関係)部会及び仲裁法制部会の部会長である山本和彦臨時委員にお越しいただいておりますので,各部会における審議状況等を御報告していただき,御報告後,委員の皆様から御質問等をお伺いしたいと思います。   それでは,まず大村部会長,報告者席まで御移動をお願いいたします。   それでは,御報告をお願いいたします。 ○大村部会長 大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   お手元に,民1-1「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案」,この資料と,民1-2「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案(概要)」,これはカラーのものでございます。そして,3番目に民1-3「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案の補足説明」,資料3点をお配りさせていただいております。本日は,時間の都合もございますので,このうちの民1-2,カラーの資料を中心に御報告をさせていただきたいと存じます。   まず,資料1-2の1ページ目に表紙が付いておりますけれども,それをめくっていただきまして,カラーの部分の1ページ目を御覧いただければと思います。諮問事項は親子法制に関する二つの課題を対象としておりますので,まず最初に,それぞれの課題について改めて御説明を申し上げたいと思います。   まず,一つ目は,民法第822条の親権者の懲戒権に関する規定についてでございます。これにつきましては,平成23年の民法改正の際にこの規定を見直し,懲戒権は子の利益のために行使されるべきものであり,子の監護及び教育に必要な範囲を超える行為は懲戒権の行使に当たらないことを明確にする改正を行ったところでございます。しかしながら,その後も児童虐待を正当化する口実にこの規定が利用されているという指摘がなされているところでございます。また,令和元年に成立いたしました児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律の附則におきまして,政府はこの法律の施行後2年をめどとして,民法第822条の規定の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとするとのいわゆる検討条項が設けられておりました。法制審議会民法(親子法制)部会におきましては,これらのことを踏まえまして,懲戒権に関する規定等の見直しにつきまして調査審議を進めてきたところでございます。   次に,もう一つの問題でございますが,いわゆる無戸籍者問題と呼ばれているものでございます。こちらの問題は,国民でありながら戸籍という社会的な基盤が与えられず,社会生活上の不利益を受ける方が存在するという重要な問題に関わるものでございまして,法務省におきましてはこれまで無戸籍者に関する情報の収集あるいは手続の案内等,その解消のために様々な取組がなされてきていると認識しております。もっともこのような取組だけでこの問題を解消することは困難であり,夫以外の者との間の子を出産した女性が嫡出推定制度によって,その子が夫の子として戸籍に記載されるということを避けるために出生届をしないということが無戸籍者の生ずる一因となっているという指摘がなされていることを踏まえまして,この問題を将来にわたって解消していくために,部会において民法の嫡出推定制度に関する規定等の見直しについても調査審議を進めてきたところでございます。   部会では,本年の2月までおおむね月1回のペースで合計14回の審議を行い,資料の審議の経過の欄にまとめてございますように,本年2月に,先ほど触れました今回の資料となっております中間試案を取りまとめまして,同月の25日から4月26日までの2か月間,パブリックコメントの手続が実施されました。   資料の2ページ目に移っていただきたいと存じます。以下,中間試案の内容につきまして,その概略を御説明申し上げます。   まず,2ページ目の下の段でございますけれども,懲戒権に関する民法第822条の見直しにつきましては,甲案,乙案及び丙案の3案を併記しております。甲案は,民法第822条を削除するというものでございますが,この規定を削除することによって,児童虐待が許されないものであることが明確になると考えられます。次に,乙案は,親権者は,監護教育のために必要な指示及び指導をすることができるといたしまして,従来の懲戒の語を指示及び指導の語に改めた上で,指示及び指導としても体罰が許されないということを明確にするというものでございます。最後の丙案でございますが,丙案は民法第822条を削除し,親権者は民法第820条により監護教育をすることができるということを前提といたしまして,体罰を加えてはならない旨を明記するという案でございます。これら3案につきまして,パブリックコメント等で意見を募ったところでございます。   次に,資料の2ページの末尾のところでございますけれども,民法第820条の規律に,子の人格を尊重しなければならないとの規律を加えるということを検討しております。これは,体罰には該当しない行為であっても子の人格を毀損する行為は許されないということを明らかにするという趣旨のものでございます。   続きまして,資料の3ページに移っていただきたいと存じます。3ページの最初,嫡出推定制度の見直しについてでございますけれども,大きく二つの見直しを内容としております。下の段の左側の嫡出の推定そのものの見直しと,同じく下の段の右側の嫡出否認手続の見直し,この2点でございます。無戸籍者問題を解消するために,嫡出推定制度の実体面,手続面の両面から検討を行っているということでございます。   まず,実体面ですけれども,左側の嫡出推定の見直しについてというところでございます。現行法では,妻が婚姻中に妊娠した子を夫の子と推定するということにしておりますところから,婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は夫の子とは推定されません。しかし,中間試案では,婚姻中に妊娠した子だけではなく,婚姻中に生まれた子につきましても夫の子と推定するという考え方を採りまして,婚姻成立の日から200日以内に生まれた子であっても,夫の子と推定するということを提案しております。   また,婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子について,現行法では,婚姻中に妊娠したものと推定されることから,元夫の子と推定されるとされておりますが,中間試案ではこの規律を原則として維持した上で,母が元夫以外の男性と再婚した後に子が生まれたという場合には,その子は再婚後の夫の子と推定するとの例外を設けるということを提案しております。この見直しによりまして,生まれた子について再婚後の夫の子としての出生の届出ができるため,無戸籍者問題の解消につながると考えております。   次に,資料の下の段の右側になりますが,手続面についてでございます。嫡出否認の手続につきましては,現行法上,夫のみが,子の出生を知った時から1年以内に嫡出否認の訴えにより裁判上,父子関係を否認することができるとされております。中間試案では,夫だけではなく子にも提訴権を認めた上で,提訴期間を子の出生の時から3年あるいは5年に延ばすということを提案しております。この場合,子供は年少ですので,母又は未成年後見人が代わって訴えを提起するということを想定しております。これによって,母が婚姻中であるか否かにかかわらず,母のイニシアチブによって裁判上,夫と子との間の父子関係を否認することができるということになるために,出生届をするということもより容易になると考えているところでございます。なお,母の固有の権利として否認権を認めるということにつきましては,その要否も含めまして引き続き検討するということとしております。   最後,4ページを御覧いただければと思います。中間試案では,嫡出推定制度の見直しに伴う幾つかの論点について検討がなされております。ここではその一部を紹介しておりますけれども,本日は時間の都合上,この1の女性の再婚禁止期間の見直しと,3の認知制度の見直しについてのみ御説明をさせていただきます。   現行法では,女性が再婚した後に子を産んだという場合には,離婚後300日以内に出生した子であれば元夫の子と推定される一方で,再婚後200日が経過した後に出生した子であれば再婚後の夫と推定されるということから,この嫡出推定の重複を回避するという目的で,女性について婚姻の解消又は取消しの日から100日の再婚禁止期間が定められているところでございます。これに対しまして,中間試案における先ほどの考え方を採用した場合には,嫡出推定が重複するということがなくなるということになり得るところから,再婚禁止期間を廃止するという考え方を提示しております。   次に,認知制度の見直しについてでございますけれども,現行法では,子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができるとされておりまして,認知無効の訴えによって,いつまでも父子関係が争われるおそれがあるところから,嫡出でない子の地位が不安定になっているとの指摘があるところでございます。そこで,中間試案におきましては,子の法的地位の安定の観点から,認知の効力を争う手続を見直し,生物学上の父子関係がない場合には,子,認知者等の一定の者が認知を取消し得るものとした上で,取消しをすることができる法定の期間を新たに設け,その期間が経過した場合には認知の効力を争うことができないとすることを提案しております。   以上が民法(親子法制)等の改正に関する中間試案の概要でございます。民法(親子法制)部会では,今日御説明をいたしました二つの喫緊の課題の解決に向けて,民事基本法制の見直しを行うべく,パブリックコメントの結果も踏まえまして,また,皆様の御意見を十分に伺いながら,引き続き調査審議を継続したいと考えております。   中間試案に関する御報告は以上でございます。 ○内田会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの大村部会長からの審議経過報告につきまして,御質問,御意見がございましたら頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。  質問です。児童虐待防止のための懲戒権に関する規定の見直しということで,甲,乙,丙と3案,これは今までの中でも検討されていることだと思いますけれども,乙案と丙案で,体罰を加えることはできないと,この体罰ということがはっきりと書かれていると,逆の意味で,精神的苦痛を与えることはできるというふうに素人は読むのですが,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○内田会長 いかがでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。  先ほども多少触れさせていただきましたが,民法第820条に,親権を行う者は,監護教育に際し,子の人格を尊重しなければいけないという規定を設けることを考えております。この中には,御指摘があったような体罰以外の行為についても十分な配慮をしなければいけないということが含まれていると考えているところでございます。しかし,委員御指摘のように,体罰を加えてはならないという言葉を使いますと,体罰以外はよろしいのではないかという懸念は確かに生ずるおそれがございます。そこで,体罰以外のものについても規定に書くことはできないかということを現在検討しているところでございます。この表現ぶりにつきましては,なかなか難しいところもありまして,今後検討を進めていかなければいけないと考えているところでございますけれども,御指摘の点が問題であるということは部会では認識されているところでございます。 ○内田会長 よろしいでしょうか。 ○佐久間委員 はい,是非検討をお願いしたいと思います。これは意見です。 ○内田会長 ありがとうございます。   ほかに御質問,御意見はございますでしょうか。 ○白田委員 嫡出否認手続の見直しのところで1点,今どのような議論になっているか教えていただきたいと思います。今回,その権限を子にも拡大するというところでございますが,母の否認権については,その要否については引き続き検討と,裁判手続を行えば,代理の先生と同様に母親でもそれを実施することができなくはないと読めるのですが。あえて母の否認権については,その要否を引き続き検討となっている背景を教えていただけますでしょうか。その辺を一番よく分かっているのは母親ではないかと思うのですけれども,その辺の議論の進み方を教えていただければと思います。 ○内田会長 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。  委員御指摘のように,子供の否認権を認めるということを今回考えておりますが,子の否認権は,母が親権者であるという場合には母によって代理行使されることになります。母は,誰が父であるかということについてかなり高い認識を持っているので,子に代わって争うことができるだろうと考えているところでございます。しかし,子の代理人として争うだけではなくて,母の固有の否認権を更に認める必要があるのではないかという意見もあるところでございます。これを認めるかどうかということにつきましては引き続き検討すると整理をしているところでございます。 ○白田委員 すみません,追加で,その検討されている議論の内容というか,子の代理としては認めるけれども,母本人としてはまだ検討中であるという,そこのところの背景というか,議論の内容というのを,もし可能であれば,少し教えていただければと思います。 ○内田会長 なぜ母に固有の権利を認めてはいけないのかという点について,どういう議論があるのかというご質問のようですが,いかがでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。  争われているのは,基本的には父と子の親子関係でございますので,その当事者が争うというのが原則ではないかと考えております。父については現在,否認権が認められておりますので,子の否認権も認めるということを出発点にしております。その上で,母にも認めることができないかを考えているわけですけれども,母は,今申し上げましたように,父子関係の直接の当事者ではございません。しかしながら,子を懐胎して産むのは母でございますので,子を産む者として,あるいは生まれた後に子を養育する者として,父子関係に密接な利害関係を持っているのではないかと,そこで,子自身の否認権とは別に母の否認権というのを認める必要もあるのではないかという議論をしているところでございます。 ○白田委員 分かりました。御説明ありがとうございます。 ○内田会長 ほかに御質問,御意見,いかがでしょうか。   ありませんでしょうか。   議長からで申し訳ないのですが,総会委員の中で私は民法の専門なものですから,私から一つ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。今回,子からの嫡出否認を認めるべきだという議論がされるようになった大きな理由の一つが,御報告にありましたとおり,無戸籍者問題がクローズアップされたことだと思います。無戸籍者が生ずる理由というのは,例えば夫のDVを避けるために夫から逃げている女性が,生まれた子供の出生届をすると夫の子として戸籍に記載されて,また夫に居場所を知られてしまう,そこで出生届を控えるということがあると言われていると思います。そういう無戸籍の子供や大人が無視できない数,存在していて,行政サービスとか教育など,様々な側面で不利益を受けていると言われているわけです。中間試案では,子からの嫡出否認が出生から3年又は5年に制限されていて,その理由として,「物心が付く年齢(3歳頃)」と書かれていますが,「物心が付く年齢までに父子関係が確定していることが望ましい」と書かれているのですけれども,無戸籍児の場合には,夫と子との間に親子としての実態など存在しないのが普通で,夫のDVから逃げている母は,法律上の父子関係を早く確定させることよりも,まず生活を安定させることに専念をしていると思います。ようやく生活が落ち着いて,事実に合致した戸籍を作ろうとしたときに,期間制限に掛かってしまうということでよいのかという疑問があり得るように思います。   また,報告では省略されましたけれども,子が成人してからの嫡出否認については,賛否両論併記となっていて,これを否定するのが甲案となっていますが,その理由として,「積み重ねられた父子関係の実態を保護する必要がある」と書かれています。いわゆる「無戸籍児」という言い方もされますけれども,児といっても児童だけではなくて,成人になるまで戸籍がないという人が一定数存在するということが言われています。子供が成人して,事実に合致した戸籍を自ら作ろうとしても認められず,その理由が,積み重ねられた父子関係の実態を保護するというのでは,無戸籍者問題への対応として十分なのかどうかという疑問が生じ得るように思います。確かに成人になってからの嫡出否認というのは,出生から数えると20年とか,成人年齢が引き下げられても18年が経過していますから,一定の期間制限が課されるということはあり得ると思いますけれども,そもそも憲法で保障された国民の基本的人権の享受が妨げられるという事態が生じている場面ですので,身分関係の安定を理由に嫡出否認の権利を全く奪ってしまうということが正当化できるのかという疑問もあり得るように思います。こういった無戸籍者問題との関係で中間試案が十分な対応になっているのかどうかについて,もし部会で議論されたことがありましたら御紹介いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。  3年ないし5年,そのどちらがよいかについてはまだ検討中でございますけれども,そこで線を引くというのは,内田会長から御指摘がありましたように,あるところで子の身分の安定を図る必要があるのではないかという考慮に基づくところでございます。確かに父と子の間に全く接触関係がないというような場合には,そのような必要はないのではないかという考え方も出てくるところでございます。今日はお話しいたしませんでしたけれども,成年に達した後の子の固有の否認権を認めるべきではないかというのは,内田会長が御指摘のような場面を主として念頭に置いて,このような状況であれば,成年に達した後に子に否認権を認める必要があるのではないかという議論をしているところでございます。3年ないし5年というところで線を引いて,一旦なくなったものが,成年に達したところで,今度は子の固有の権利が復活するという法律関係をどのように理解するのかという点につきましても部会では様々な意見が出ておりまして,現在も検討を続けているところでございます。 ○内田会長 どうもありがとうございます。引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。   議長が質問をしてしまいましたけれども,ほかに御質問,御意見はございますでしょうか。   特にないようでしたら,では,大村部会長,どうもありがとうございました。引き続き,部会で御審議のほどよろしくお願いいたします。   続きまして,山本部会長に報告者席まで御移動をお願いいたします。   二つの部会,連続で大変恐縮ですけれども,まず民事訴訟法(IT化関係)部会の御報告をお願いいたします。 ○山本部会長 ただいま御紹介にあずかりました山本でございます。民事訴訟法(IT化関係)部会についての中間報告をさせていただきます。   まず,配布資料についての御説明でございますけれども,お手元には民2-1「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」,中間試案の本体と,民2-2「民事訴訟手続のIT化(中間試案)」,カラーのポンチ絵的なものと,それから民2-3「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」をお配りしております。本日は,時間の都合もございますので,この民2-2「民事訴訟手続のIT化(中間試案)」,これを用いて御報告をさせていただきます。   それでは,まず部会におけるこれまでの審議状況について御報告をいたします。資料の1枚目の左側を御覧いただきたいと思います。平成8年に成立した現行民事訴訟法においては,争点整理手続に電話会議システムが導入され,また一定の場合にテレビ会議システムを利用した証人尋問が認められるようになるなど,世界的に見ても,当時は非常に最先端の通信技術を利用した取組というものが行われてまいりました。また,平成16年には司法制度改革の議論を受けて,最高裁判所で定めるところにより,オンラインによる申立て等を可能とする規定が設けられ,さらに平成18年には支払督促手続についてオンライン手続を可能とする督促オンラインシステムが導入されました。ただ,現時点においては訴えの提起や準備書面の提出などについて,いまだオンラインで行うことはできない状況にあります。他方,この間,諸外国においては民事裁判手続のIT化が急速に進められております。また,我が国においても近年の情報通信技術の飛躍的な進展に伴い,多くの分野でITの活用が進み,これが国民生活に一定程度浸透しているところであります。   こうした状況を踏まえて,昨年2月,法制審議会第186回会議において,法務大臣より,民事訴訟制度の見直しに関する諮問が行われ,その調査審議のため民事訴訟法(IT化関係)部会が設置されました。この部会は,コロナ禍の直撃を受けて少し開始が遅れたのですが,昨年6月に第1回の会議を開き,その後,1か月におよそ1回のペースで会議を開催して調査審議を進め,本年2月19日に中間試案を取りまとめました。そして,2月26日から今月7日まで,約2か月,中間試案についてパブリックコメントの手続が実施されました。パブリックコメントの手続においては250を超える御意見が寄せられたと伺っておりまして,現在,事務当局において整理をしているところと伺っております。   次に,中間試案の概要について御説明をいたします。今回の中間試案で取り扱っている項目は多岐にわたりますので,ここでは幾つかの点に絞って御説明を差し上げたいと思います。具体的には,今般の諮問事項は①e提出,すなわち訴状等のオンライン提出,②e法廷,すなわちITを活用した口頭弁論期日等の実施,③e事件管理,すなわち訴訟記録の電子化,この3点が柱となっておりますので,このような整理に沿って御報告をいたします。資料1枚目の右側が,中間試案の概要をこの3点に沿った形で記載したものでありまして,資料2枚目以降が,これらをより詳しく御説明したものとなります。   では,資料の2枚目を御覧いただければと思います。まず,e提出について御報告いたします。現在は裁判所に対する書類の提出は,裁判所に持参するか,又は郵送する方法により行われておりますが,民事裁判手続のIT化後はインターネットを用いて提出することを認めるということが想定されております。その上で,部会では,インターネット提出ができるということを超えて,インターネット提出をしなければならないものとするかどうか,その場合にその範囲をどのように設定するかという点について検討がされており,中間試案においては,全ての当事者が原則としてインターネット提出をしなければならないとする甲案,弁護士等の資格者代理人に限ってインターネット提出をしなければならないとする乙案,インターネット提出と書面による提出とを任意に選択できるものとする丙案が併記されているところであります。   また,中間試案ではインターネットを用いた方法による送達も提案されております。具体的には,送達を受ける当事者が裁判所のシステムに登録していることを前提として,送達の対象となる電子データが裁判所のサーバに記録,つまりアップロードされた旨を当事者にメール等で通知するというものであります。そして,この通知を受けた当事者が裁判所のサーバにアクセスし,対象となる電子データを閲覧又はダウンロードすることにより,送達の効力が発生することとされております。部会においては,これをシステム送達と呼んでおります。   また,訴えの提起に当たっては手数料や郵便費用を納める必要がございますが,中間試案では,この手数料の納付についても,印紙や郵券により行っている現行の取扱いを改め,Pay-easyによる電子納付に一本化することが提案されております。   次に,e法廷について御報告いたします。資料の2枚目から3枚目にかけてであります。現在,口頭弁論期日については,当事者は双方とも裁判所に現実に出頭する必要があります。また,弁論準備手続の期日については,現在でも電話会議やウェブ会議を利用することはできますが,少なくとも一方の当事者は現実に出頭する必要があります。これに対し,中間試案では,このような現行法の規律を改め,口頭弁論,弁論準備手続,いずれの期日についても,ウェブ会議を利用するなどして双方ともに裁判所に現実に出頭せずに手続を行うことができるようにするものとされております。   また,資料3ページでありますけれども,証人尋問につきましても,現在も一定の要件の下で証人を最寄りの裁判所等に出頭させて尋問を行うことが認められておりますが,中間試案では,その範囲を拡大するということが提案されております。このほか,部会では民事裁判手続のIT化を契機として,裁判をより迅速なものとし,また,審理期間についての当事者の予測可能性を高めるための新たな訴訟手続を設けることも議論されております。中間試案では,新たな訴訟手続として,審理期間を原則として6か月とする特別な手続を設けることを前提として,そのような新たな訴訟手続について,一方当事者の申出により開始し,提出可能な証拠も制限することなどの規律を設ける甲案,当事者双方の共同の申出により開始し,審理計画の策定を必要的とする規律を設ける乙案,さらに,このような新たな訴訟手続を設けないものとする丙案,この3案が併記されて,パブリックコメントに付されているところであります。   次に,e事件管理,記録の電子化について御報告をいたします。まず,民事裁判手続のIT化後は,訴状,準備書面,書証などの訴訟記録は全面的に電子化されることが想定されております。また,判決についても,民事裁判手続のIT化後は,紙ではなく電子データにより作成されることが提案されております。この場合には,裁判官は紙の判決の場合における署名押印に代えて,作成主体を明示し改変を防ぐような措置を施すこととされております。このようにして電子的に構成される訴訟記録は,その閲覧についても,自分のパソコン等からインターネットを通じて閲覧することを認めることが提案されております。部会では,このようなインターネットによる閲覧について,当事者や利害関係のある第三者に認めるのみならず,利害関係のない第三者に対してもこのような方法による閲覧を認めるべきかという点についても議論がされており,訴訟記録の一部に限定しつつ,そのような方法での閲覧を認めるとする甲案と,このような閲覧は利害関係のない第三者には認めないとする乙案とが併記されております。   以上が中間試案の概要であります。   最後に,今後の予定についてであります。資料の4枚目を御覧いただければと思います。民事裁判手続のIT化につきましては,政府の方針によって,令和4年の法改正を目指すこととされております。部会としては,このようなスケジュールを踏まえつつ,今後パブリックコメントの結果も踏まえて更に調査審議を尽くしてまいりたいと考えております。   私からの御報告は以上であります。 ○内田会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの山本部会長からの審議経過報告につきまして御質問,御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○小杉委員 ありがとうございます。  一つ,最後の電子データ化されたものを第三者にも見せるかどうかというところが大変気になっております。この点について今,電子データにすれば様々な加工技術があって,プライバシーが場合によっては簡単に暴かれてしまうのではないかといういろいろな危険があると思うのですが,その辺りはどのような議論がされているか,教えていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。  その点は正に部会においてもかなり激しい議論といいますか,様々な御議論があるところであります。現状においては,当事者,それから利害関係を疎明した第三者,これらについては基本的にはその便宜を優先して,自宅等からインターネットで訴訟記録にアクセスするということを認めるべきであるということが大勢になっております。それに対して,利害関係の全くない第三者についてこれを認めるかどうかということは,委員御指摘のとおり,その当事者の立場から見ると,そのような形で閲覧されるということになると,訴訟提起をちゅうちょする等の問題があり,また,そのような記録が流布されてしまうというようなおそれというのも指摘されているところで,慎重に考えるべきであるという御意見が一方であるということです。ただ,他方で,諸外国ではそういう利害関係のない第三者でも比較的自由に裁判所外からのアクセスを認めているような国もあり,便宜という点から見れば,それはやはり便宜を高めるということになりますので,その辺りをどのように考えるのかということで今,議論がされているところで,特にこの点は,やはりパブリックコメントで一般の皆様がこの問題についてどのような感覚を抱かれているのかというのが非常に重要な点だと我々も思っておりまして,パブリックコメントの結果も踏まえて,更に慎重に審議をしてまいりたいと考えております。 ○内田会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○白田委員 幾つか質問というか,今の状況を教えていただければと思います。一つは,今の御質問にありましたように,アクセス権については基本的には,アクセス権を認めるような事前登録をした者だけにIDが渡されて,若しくはパスワードが渡されて,ダウンロードができるとかという方法もあるかと思うのです。若しくは,外部からアクセスできるデータの範囲を絞っておくことは十分にできるわけですので,そういった,事前にアクセス権,アクセスしたい人の情報登録をさせて,それを検証した上で,その人に与えたID,パスワード,今,法務省の登記情報とかはそうだと思うのですけれども,そういうふうな方法を検討されているのかということが一つ。   それから,もう一つ,裁判官の署名捺印のところなのですが。基本的に,印鑑をなくそうという話も大分議論されるようになっているかと思います。ちなみに署名が一般的な,海外ではドキュサイン(DocuSign)等の電子署名が一般的になって来ており,現在は,不動産登記も署名のノータライズが要らずに,オンラインで申請ができてしまうという状況です。ですので,本人が署名捺印をしたということに代替される電子的なシステムを全面的に導入しようというようなことが検討されているのか,議論されているのか,その2点,教えていただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。  裁判所のシステムにどのような形でアクセスを認めるのか,そのID,パスワード等でのどういう管理をするかということにつきましては,これは基本的には裁判所が作られるシステムの管理の問題ということになります。法律的には,その本人を確認するような何らかのシステムに基づいてアクセスしていただくという形になると思いますけれども,その具体的な方法については裁判所の方でお考えになっていると承知をしております。   それから,裁判所の判決についての署名押印という点でありますが,この点につきましては,先ほども御報告しましたように,判決につきましては基本的には全て電子データで作成すると,判決原本は電子データになるということが前提になりますので,今の物理的な署名とか押印というのはそもそもできなくなるということです。ただ,もちろんそれが裁判官本人が作成したものであり,かつ改ざんされていないということを担保するシステムというか,そういう措置が必要であるということは認識をされておりまして,それにつきましても,どのような方法で今のようなことを担保するのかということは,かなり技術的な問題であるということになりますけれども,法律としては,そういう裁判官の本人同一性確認,それから,改ざんされていないということを確認できるような措置を執るということが規定されていくということになるのだろうと思っております。 ○白田委員 分かりました。ありがとうございます。 ○内田会長 裁判官の署名が見られなくなるのは残念な気もいたしますが。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○高山委員 どうもありがとうございます。  部会での議論の状況についてお尋ねしたいのですが,各論の話ではなくて全体的な視点でございます。国民のITリテラシーの格差はかなりある,それから,司法関係者の間でも格差があるという状況の中で,司法へのアクセスが後退しないような配慮というのが法制化の中で求められるというのが一方あり,また逆に,国としてのIT戦略,デジタル戦略,そして,外国諸国に後れを取らないという意味においても,むしろ先進的に進めなければならない,そういうニーズもあると思います。そういう意味で,この法制化という点は他の法律と少し違った意味を持っていると私は認識しているのですけれども,どちらの立ち位置に寄って御検討をなさっていらっしゃるのか,その辺,もし国民の温度感と違ったりすると非常に難しいと感じているところなのですが,その辺の議論の状況を少し教えていただければと思います。 ○山本部会長 その点は,正に全ての論点について,ある意味では通奏低音のように議論の前提になる事柄なのだろうと思います。もちろん部会としては今,委員がおっしゃった二つの立ち位置のどちらかにあれするということではなく,できればその両方を実現していくということを考えながら審議をしているということになろうかと思います。   委員のおっしゃる問題が恐らく最も問題となるのは,いわゆる義務化といいますか,どの範囲の人にITの利用を義務付けていくのかという点になるのだろうと思います。国としてのIT化を進めるとすれば,できるだけみんなに義務付けて,全員がITでやってもらうというのが最も望ましいということになります。しかし他方で,おっしゃるITのデジタルディバイドの問題というのは間違いなくあるわけでありまして,そこを無理にやってしまうと,事は裁判を受ける権利という人権に関わることでありますので,それはやはりIT弱者といいますか,十分に使えない方々の裁判を受ける権利も保障しなければいけないということになります。   そういう意味では,やはり本人のサポート体制というのが社会の中でどれだけ築かれていくのかという,司法から見ると少し外在的な要因になりますけれども,そこが整備されていくのかということがかなり議論に影響を与えると認識をしております。日本弁護士連合会とか,あるいは日本司法書士会連合会などは,この本人サポートについて頑張って取り組んでいくのだというような声明を出されたり,部会でもそれを紹介されましたけれども,そういうような本人サポート体制というのがかなり社会に整っていけば,なるべく多くの方についてITを利用する方向に行っていただくということになるのだろうとは思っていますけれども,まだそこは必ずしも現実の形としては十分見えてきていないという状況はありますので,その中でどうような形でこの制度を出発していくかというのは,かなり慎重な検討が必要だろうということは,部会でも議論されているところかと思います。 ○高山委員 ありがとうございます。  やはりある程度長期的な視点で,情報技術の進展というのはめざましいものがあるわけですので,先を是非見据えた形で法制化していただいて,一方でそういうサポート体制をしっかり組み立てていくという,その二本柱で進めていただくことを期待しております。 ○内田会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございました。  民事裁判手続のIT化という非常に懐かしい,IT化という言葉が出ているのですが,やはり今のタイミングというのはほとんど,乗り遅れないというか,最後のタイミングだと思います。デジタル化に関しては。これ以上遅れては,やはり日本なり社会の進歩が妨げられるという状況だと思いますので,是非このIT化というか,手続のIT化というのは進めていただきたいと思います。   その意味で,例えばということですが,訴えの提起というのは,これはもうインターネット提出に限定するというのは当たり前のことだと思います。ここは,もちろんそれによって不便を感じる方が若干おられるかもしれませんが,こういうことが決まれば,当然それに対応すると。これは今のコロナワクチンの接種の状況を見ても,それは何らかの知恵が回るということでありますし,それほど本人訴訟というのが多いとは思えませんので,そういう意味では,ここはもうインターネット,デジタルというのを例外なく全ての局面において導入していくということが重要だと思います。 ○内田会長 ありがとうございます。   ほかに御意見,御質問はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは,活発な御議論をいただきましてありがとうございました。では,引き続き部会で御審議をよろしくお願いいたします。   引き続きで恐縮ですけれども,続きまして,仲裁法制部会の御報告を山本部会長からお願いいたします。 ○山本部会長 それでは,引き続きまして仲裁法制部会の状況について御報告をさせていただきます。    資料でありますけれども,これも民3-1「仲裁法等の改正に関する中間試案」,それから民3-2「仲裁法制の見直しに関する検討」ということで,概要の説明,それから,民3-3「仲裁法等の改正に関する中間試案の補足説明」の合計3点がお配りされているかと思います。時間の都合上,本日はこのうち民3-2の資料を中心として御報告をさせていただきたいと思います。   資料の1枚目をめくっていただいたところですけれども,御案内のとおり,昨年9月,仲裁法制の見直しにつきまして法務大臣から法制審議会に対して諮問がなされ,その調査審議のため仲裁法制部会が設置されたところであります。部会においては,昨年10月以降,1か月におよそ1回のペースで審議を重ね,本年3月5日に開催された第6回会議におきまして,仲裁法等の改正に関する中間試案を取りまとめました。事務当局においては,この中間試案を3月19日に公表し,5月7日までの間,パブリックコメントの手続が実施されたところであります。   それでは,この中間試案の内容につきまして,概要を御説明したいと思います。中間試案においては,大きく三つのテーマに関する提案をしております。資料ではテーマごとにオレンジ,これが仲裁法の見直しということですが,それから緑,調停による和解合意に執行力を付与し得る制度の創設,それから青として,民事調停事件の管轄の見直しに分けております。1枚目は,それぞれその概要を記載しているところであります。   まず最初は,資料のオレンジの部分に記載しました仲裁法の見直しであります。我が国の仲裁法は,平成15年にUNCITRAL,国連国際商取引法委員会で策定された国際商事仲裁モデル法に準拠する形で制定をされました。これは司法制度改革の議論を受けた形で作られたわけであります。その後,平成18年にモデル法が改正されましたが,我が国の仲裁法はその改正に対応できていない部分があるところであります。仲裁手続は国際的な商事紛争の解決手段として積極的に利用されており,近年その利用件数は世界的に見れば増加しているものの,我が国における取扱い件数は低調に推移しており,これを活性化させる必要があるという指摘がされております。取り分け国際仲裁の活性化を推し進めていくためには,最新の国際水準に見合った法制度を整備する必要があるとの観点から,中間試案では,改正モデル法に対応する規律を設けることを提案しております。   具体的には,まず,暫定保全措置に関する規律についての提案であります。先ほどお話ししたモデル法の改正によって,仲裁廷による暫定保全措置の定義,発令要件,承認・執行等に関する規律が整備されましたが,我が国の仲裁法においてはこれに対応する規律が現段階では設けられておりません。そこで,中間試案では,このような改正モデル法に対応する規律を設けることを提案しているところであります。   次に,仲裁合意の書面性に関する規律についても提案しております。この点も改正モデル法に対応するためのものであり,仲裁合意の書面性要件を緩和する規律を設けることも提案しております。   また,我が国の仲裁法固有の見直しとしましては,仲裁手続のうち裁判所の関与する手続に関する規律の見直しを提案しております。仲裁手続は,当事者が選んだ仲裁人によって構成される仲裁廷が手続を主催しますが,仲裁判断の取消しや仲裁判断に基づく執行決定等の局面では,仲裁手続が行われている国の裁判所が手続に関与することになります。この裁判所の関与する手続について,裁判所の専門的な処理態勢を構築し,手続の一層の適正化,迅速化を可能とする観点から,現行の管轄裁判所に加えて東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも競合的に管轄を認めることを提案しております。さらに,仲裁手続については,我が国を仲裁地とするものであっても,日本語以外の外国語,取り分け英語が手続で使用されることが多く,書証も英語で作成される例も多く見受けられます。しかしながら,現行法の下では,我が国の裁判所に外国語の資料を提出する際には日本語による訳文添付が必要とされ,その翻訳のために時間と費用を要することから,我が国における国際仲裁の活性化を妨げるおそれがあると指摘がされているところであります。そこで,中間試案では,仲裁関係事件手続,その裁判所の手続について,一定の場合に外国語資料の訳文添付の省略を認めることを提案しているところであります。   続いて,資料の緑色部分に記載しました,調停による和解合意に執行力を付与し得る制度の創設について,御説明をいたします。なお,ここで議論されている,この調停というのは,裁判所の調停ではなくて,裁判外における調停,言うなれば民間での調停に関するものであると御理解いただければと思います。近年,国際的な商事紛争の解決手段として,国際仲裁に加え国際調停が注目を集めており,手続的にも仲裁と調停の相互利用が図られております。また,国際的な動きとして,仲裁判断と同様,調停による和解合意にも執行力を付与する必要があるとして,平成30年12月,国際連合総会においていわゆるシンガポール条約が採択され,昨年の9月に発効しました。日本は現時点においてこの条約を締結しておりませんが,既に署名国が53か国であることなどを踏まえますと,今後このシンガポール条約の規律がこの点における世界標準となっていくことも考えられます。そこで,部会では,国際調停の実効性を確保し,国際調停の活性化,ひいては国際仲裁の活性化を図るとの観点から,我が国においてもシンガポール条約を将来的に締結する可能性を視野に入れて,それと整合的な国内法制を整備する必要があるとして,調停による和解合意に執行力を付与し得る制度について検討をしております。   中間試案においては,和解合意が書面でされていること,当事者間においてその和解合意に基づいて民事執行することができる旨の合意があること,裁判所において執行決定の手続を経ることを要件として,調停による和解合意に執行力を付与する制度を創設することを提案しております。   なお,執行力を付与する対象となる和解合意,その調停の範囲については現状,意見が分かれております。まず,国際的な事案における和解合意のみを対象とする甲案と,国際的な事案に限定せず,国内事案における和解合意も対象とする乙案があり,乙案はさらに,国内の事案も無限定に対象とする乙1案と,国内の事案については一定の要件を満たす場合のみを対象とする乙2案とに分かれております。乙2案について,その国内事案にどのような要件を設けるかについては様々な意見があり得るところですが,中間試案ではその一例として,ADR法上の認証ADR手続において成立した和解合意を対象とするという案が示されているところであります。   また,中間試案では,執行力を付与し得る対象となる紛争類型について,消費者紛争,個別労働関係紛争,家事紛争に関する和解合意については,その執行力を付与し得る対象から除外することとしております。これは,消費者紛争など当事者間に潜在的な力の不均衡等が想定される紛争類型については,執行力の付与について慎重に取り扱うことが相当であるという考え方によるものです。もっとも,我が国のADRの利用状況等に照らすと,消費者紛争あるいは家事紛争については執行力を付与するニーズが高い場面が想定される等の指摘もされており,一定の範囲又は要件の下でこれらを対象に加えることについても引き続き検討することとなっております。   最後に,資料の青色の部分に記載しました,裁判所において行われる民事調停事件の管轄の見直しについて御説明をいたします。近時,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の知的財産権部において,その分野の専門家調停委員が関与するいわゆる知財調停の運用が行われております。しかしながら,この運用は当事者間の管轄合意があることが前提であることから,中間試案では,そのような管轄合意がないような場合であってもこれを活用することができるように管轄の規律を見直し,現行の管轄裁判所に加えて,専門的な事件処理態勢を構築している東京地裁又は大阪地裁にも競合的に管轄を認めることを提案しております。   以上が仲裁法等の改正に関する中間試案の概要となります。仲裁法制部会においては,国際仲裁の活性化等に向けた仲裁法制の見直しを行うべく,パブリックコメントの結果も踏まえて,また,皆様の御意見を十分に伺いながら,引き続き調査審議を継続してまいりたいと考えているところであります。   私からの御報告は以上であります。 ○内田会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいまの山本部会長からの審議経過報告につきまして御質問,御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。  調停の執行の対象として国際的なものに限るというのは,やや限定的すぎるような気がいたします。それが国内であっても同じような場合もありますし,大きく異なる場合もあるのかもしれませんが,そのときでも国際か国際でないかで切るということの合理性というのが今一つ理解に苦しむところであります。そもそも国際性というのは何か,このグローバルな世界においてですね,という点もございますので,そこはなるべく国内も含めたところで検討していただければと思います。   以上,意見です。 ○内田会長 ありがとうございました。   ほかに御質問,御意見,いかがでしょうか。   特にございませんでしょうか。   それでは,特に御質問,御意見がないようですので,審議の方はこれで終了させていただきたいと思います。   では,山本部会長におかれましては引き続き,部会における審議のほどよろしくお願いいたします。続けて二つ,どうもお疲れさまでした。   これで本日の予定は終了となりますが,ほかにこの機会に特に御発言いただけることがございましたら,お伺いしたいと思います。いかがでしょうか。   特にありませんでしょうか。特に御発言がないようでしたら,本日はこれで終了ということといたします。   本日の会議における議事録の公開方法につきまして,審議の内容等に鑑みまして,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開するということにしたいと思いますが,御異存ありませんでしょうか。   ありがとうございます。それでは,本日の会議における議事録については,発言者名を全て明らかにして公開することといたします。   本日の会議の内容につきましては,後日,御発言いただいた委員等の皆様に議事録案をメールなどで送付させていただき,御発言内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトで公開したいと思います。   最後に,事務当局から何か事務連絡がございましたら,お願いいたします。 ○金子関係官 次回の会議の開催予定ございますが,御承知のとおり法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっております。最近はこれ以外の開催も多いので,余り説得力がないのですが,今のところ,次回の開催は9月に御審議をお願いする予定でございます。また具体的日程については改めて御相談させていただきますので,御多用中とは存じますけれども,御予定について御配意いただければと存じます。 ○内田会長 ありがとうございます。   それでは,本日の会議はこれで終了することといたします。   大変長時間にわたりまして活発な御議論をいただきまして,ありがとうございました。本日はお忙しいところをお集まりいただき,ありがとうございました。   これで終了いたします。 -了-