法制審議会 民法(親子法制)部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  令和3年4月20日(火)自 午後1時30分                     至 午後5時23分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  ヒアリング(懲戒権の見直し関係)         ヒアリング(無戸籍者問題関係) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第15回会議を開催いたします。   本日は御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   まず,この4月に幹事の異動がございました。事務当局を担当されておりました平田幹事に代わりまして新しく幹事になられた佐藤幹事から,自己紹介と併せて,本日を含めたこの部会の開催方法等について御説明を頂きたいと思います。 ○佐藤幹事 法務省民事局参事官の佐藤でございます。今回から本部会に事務当局として関与させていただくこととなりました。皆様に御指導いただきながら精一杯役目を果たしてまいりたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。   では,部会の開催方法についての御説明でございます。今回もウェブ参加を併用する形で開催しておりますので,前回も同様でしたが,御注意いただきたい点が2点ございます。1点目は,御発言中に音声に大きな乱れが生じるといった場合につきましては,こちらの方で指摘をさせていただきますので,適宜の御対応を頂ければと存じます。2点目は,発言をされる委員,幹事等の皆様におかれましては,発言の冒頭にお名前を名乗ってから御発言いただきますよう,よろしくお願いいたします。   また,本日の休憩時間の入れ方ですが,本日はヒアリングということで,前半に懲戒権関係,後半に無戸籍者問題関係を予定しておりますところ,その前半と後半の間に30分程度,休憩を入れさせていただきます。ヒアリング対象の方とのウェブ接続の確認等の関係もございますので,少し長めに取らせていただきます。さらに,それとは別途,感染症対策等の観点もございまして,1時間をめどに約10分程度の休憩を入れさせていただこうと考えております。   進め方については以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   なお,本日は手嶋委員が御欠席と承っております。   それから,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局の方からお願いいたします。 ○小川関係官 今回の配布資料は,参考人からの配布資料として,井上参考人より「児童心理治療施設横浜いずみ学園について」と題する資料,奥山参考人より「懲戒権をめぐって」と題する資料,北川参考人より「障害児の子育て支援」と題する資料,最後に,長谷川参考人より「親子法制無戸籍当事者支援ヒアリング」と題する資料4通,戸籍の形になっているものが2通と,韓国の戸籍謄本が1通ということで御提供いただいており,本日,席上で御配布しております。ウェブ参加の方々には,メールで送付しております。   本日の資料の御説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。お手元の資料を御確認いただければと思います。   早速,本日の審議に入りますが,本日は2部構成にさせていただきまして,懲戒権に関する規定の見直しに関するヒアリングと,無戸籍者問題に関するヒアリングを行いたいと思います。   第1部では,懲戒権に関する参考人として,社会福祉法人横浜博萌会,横浜いずみ学園園長,井上真さん,そして,日本子ども虐待防止学会理事長,奥山眞紀子さんに御出席を頂き,また,社会福祉法人麦の子会総合施設長北川聡子さんにはウェブ参加の形で御出席を頂いております。懲戒権につきましては昨年2月4日にもヒアリングを行っておりますけれども,今回は,奥山さんからは児童虐待とその防止の現状について,井上さんからは被虐待児の養育について,特に児童心理の観点から,北川さんからは知的障害を持ったお子さんの養育について,それぞれお話を頂くという予定でございます。   先ほどお話がありましたように,30分の休憩を挟みまして,第2部では,無戸籍者問題に関する参考人として,いずれもウェブでの参加ということになりますけれども,この問題を経験された当事者の方2組と,それから,当事者の方の支援等を行っている弁護士の長谷川京子さんからお話を伺うという予定でおります。   早速,第1部の懲戒権関係のヒアリングに入らせていただきたいと存じます。まず,お三方からそれぞれ10分程度,御説明を頂き,その後,一括して質疑応答の時間を取らせていただきたいと存じます。   それでは,北川参考人,まずお願いをいたします。 ○北川参考人 それでは,障害児の子育て支援という観点で,社会福祉法人麦の子会,むぎのこ児童発達支援センターの北川がお話しさせていただきます。今日はありがとうございました。   まず,児童発達支援センターは児童福祉法第43条にある,障害のある子どもに身近な地域で支援を提供する施設です。おおむね10万人に1か所です。最近は,障害のある子というよりは,本当に不適切な養育を受けて発達に心配のある子たちもこの児童発達支援センターに来ております。   発達支援とは,特別にすごく訓練をするというよりは,本当に配慮された子育てのことをいいます。特に,次のスライドですけれども,乳幼児期の発達支援というのは,障害のある子もない子も,安心感を土台として成長していくということを大切にするということが大事です。特に,乳幼児期はお母さんとの関係が大事なので,お母さんのケアも大事になります。   次のスライドですが,児童発達支援センターには心身のケアをする医療型と,福祉型児童発達支援センターに分かれています。福祉型児童発達支援センターでは,このように朝の会だとか,絵本を読んだり,それから,泥んこ遊びをしたり,リズム運動をしたり,とにかく一般の子どもたちと同じように,友達やお母さんと楽しい日々の積み重ねの中で障害のある子どもたちは育っていきます。   教育支援部門というのは放課後デイサービスのことなのですけれども,思春期になると,また様々な課題があります。なかなか発達に心配のある子ですと,孤立したり,それから,他の子と比べて自尊心が低下したり,そのような課題もあります。そこで,16ページ目ですけれども,料理をしたり,いろいろな経験をしたり,また,学校との連携の中で,不登校になりやすい子どももいますので,学校と連携することも大事になってきます。   障害児の支援ということで,本当に特別な訓練というよりは,一人一人大切な命であるということで,その子どもたちの生活の豊かさ,充実を求めることが大事で,できる,できないではなくて,本当に活動や生活を楽しむこと,笑顔を多くしよう,もっとしたい,もう一度したいという経験をする,達成感を増やす,そのようなことが子育てでは大事になってきます。できる,できないで見ると,やはりできないことが多いというマイナスのところで見がちなのではなく,できるところに焦点を当てていくということです。   そして,できないことを目標にして治すという子育てが以前ありましたけれども,そうではなく,できそうなことを見つけていくことが彼らのいろいろな力を開花させることにつながることになります。   そして,発達支援,療育とは,そのように適切に配慮された子育てともいえます。子どもたちの障害や特性を把握して,今どんなアプローチをしたら最適なのか,何をしたら最適なのか,どんな介入が最適なのか,どうすればいいのか,そして,それは一人一人違うので,一人一人に合わせた子育てをしていくというのが障害のある子どもの子育ての特徴になります。   しかし,子どもを支えるだけではなく,特にお母さん,お父さんを支えることが重要となります。まず子どもを救うためには家族を救わなければいけないと,フィンランドに行ったときにネウボラというところの保健師さんが私たちに教えてくれました。障害のある子の子育ては,まず障害がある子どもということを受容するという期間が必要です。   ここにお母さんの手記があります。つらかった。何度も死のうと思った。育てていかなければいけないという思いと,この子がいなくなったらという思いが交互に起きた。夢であってほしい,朝目覚めたらお医者さんが来て,何かの間違いだと言ってくれるはずだ。何で私なの,つらい。どうやって生きていけばいいの。生きていけない。でもかわいい。幸せを感じるはずだった。私の人生も終わった。両親にも悲しい思いをさせてしまった。というような,こういう,子どもに対して,それから,これからの子育てに対して,なかなか前向きに取り組めないというお母様方がたくさんいらっしゃいますし,これがまた,社会の状況とも考えて,非常にノーマルな気持ちだと思います。ここの点をやはり支えていくという必要があると思います。   そこに加えて,次に,お母さん自身がケアニーズがある場合,虐待などのリスクが高まることがあります。子育ても大変だし,お母さんも,35枚目のスライドにあるように,体罰など不適切な養育を受けてきたお母さんたちが自分の子に適切な養育をしたり,お母さん自身がうつなど不安症になったり,そのような場合は特にお母さんたちの支援が必要になります。むぎのこでは週1回のグループカウンセリングや個別カウンセリング,また,トラウマケアが必要なお母さんにはトラウマのケアもしています。   次のページです。お父さんたちに対しても,やはりサポートが必要ですので,月2回,お父さんたちのグループをしています。また,子育ての中で虐待を起こさないためのシステムということで,24時間の緊急の携帯電話を置いています。夜中など子どもが寝ないときに,子どもに強い怒り,それから手を上げそうになったら,まず,そのようなことをするのではなくて,緊急電話に電話してねとお母さん,お父さんには言っています。そして,そのような体罰のない子育てのために,このように実際の生活を支えていくということが大事になってきます。   次にある,ホームヘルパーさんが家に行ったり,時々お母さんたちが休むためのショートステイ,また,子育てが大変な場合は治療的にショートステイを利用する場合があります。   次に,本当に親御さんが大変になった場合は,地域にある里親さんやファミリーホームを利用する場合もあります。もちろん里親さんやファミリーホームへの支援は欠かせません。私たちはどちらかといえば障害のある子どもたちを支援しているので,里親さんたちも障害のある子の里親さんをしている方が多いです。   今回のテーマである懲戒権ですが,やはり体罰の影響というのは,この文献でも,日本行動分析学会の文献にもありましたけれども,私は毎日お母さんたちや子どもたちを支援していて,本当にこのように思っています。体罰を受けて育った人は,自分の子どもに体罰を与える可能性があります。また,反抗的な子どもを生み出します。それから,いじめとか,けんかとか,反社会的な行動をするようになります。そして,将来的にはお母さんたちもうつとか不安症とか,薬物やアルコール依存症の要因になるリスクが高くなると思います。親子関係の質はもちろんよくない傾向にあると思います。それから,DVなどが起きる可能性もあります。それから,やはり本当に危険に陥るリスクも高いと思います。   そして,お母さんたちが,体罰してはいけないよと私たちはすごく伝えて,いろいろなケアをするわけですけれども,実際,体罰は我慢するけれども,今度,先生,言葉での子どもに対する否定的な言葉を言ってしまうというお母さんも,実際の場面では,叩かなくなったけれども言葉で言ってしまうというお母さんもいますので,加えてここに対するケアが必要だと思っています。どうしても体罰をやめた分,言葉で心理的,精神的に子どもを追い詰めてしまうお母さんがいますので,この課題を克服するために,私たちのところでは,ここにあるように,ペアレントトレーニングなども取り入れています。   私たちのところで用いているペアレントトレーニングは,アメリカのボーイズタウンのコモンセンスペアレンティングというもので,実際の子育ての場面を映画,画像で見て,何回も何回も練習したり,いらいらしたらどうするかとか,そういうことを実際の子育てを学ぶようにしています。また,職員も全員この初級のライセンスを取って,みんなで安心・安全な子育てを親御さんと共通して行うようにしています。   そして,私たちの考えは,やはり行動は学習されたもので,悪い子はいないとなっています。障害のある子は問題行動を起こす場合があります。でも,この問題行動に対して体罰とか否定的な子育てではなく,この障害の特性に合わせた対応,環境設定が必要になってくると思います。その子に合わせた配慮が必要ということです。ですから,子どもの適応行動を促すような関わりだとか,子どもがつらかった過去の心情を理解する関わり,それから,前に同じことをしたんじゃないのと言うのではなく,ここまではできたねという肯定的な関わりをしたり,見通しが付かないと不安になるので,分かりやすい言葉掛けや視覚的支援,構造化などを取り入れて,専門的に関わるということも大切にしています。   私は子どもや障害のある子,また,不適切な環境の中でお父さん,お母さんから体罰を受けたりするお母さんの支援をしている立場に立つ者として,本当に体罰,それから不適切な関わり,精神的な,追い詰めたりそういう言葉,虐待は障害のある子にとっても,どの子にとっても必要のないことだとはっきりと言えることだと思います。   先ほど,このようなヒアリングを受けるということをうちの職員に言いましたところ,その職員は本当にお父さんから毎晩のように叩かれて育って,逃げ場がなかったと,是非園長先生,頑張って伝えてくださいと言ってくれた職員がいます。ですから,この体罰がある,それから,精神的に追い詰めるようなことが何らかの形で法律で,許されているとはいわないですけれども,何かしつけという名の下にあるということに対しては,できるだけ,やはり子どもが安心・安全な環境で,次世代の日本の子どもたちが健全に育ってほしいというふうに,障害のある子の立場でも,私は思っています。   そのためには,子どもだけではなく保護者へのサポート,家族支援は欠かせませんので,この「一人の子どもを育てるには,村中の大人の知恵と力と愛が必要」ということで,親御さんを支えるシステムを地域や国全体が作っていく必要があると思っております。   私の話はこれで終わります。御清聴ありがとうございました。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,井上参考人,よろしくお願い申し上げます。 ○井上参考人 こんにちは。横浜いずみ学園の園長の井上と申します。どうぞよろしくお願いいたします。まず最初に,私は一応,児童心理治療施設の施設長として来ているのですが,決して協議会を代表してとか,そういう大それたものではなくて,今日は個人的な意見ということでお受け止めいただければいいかなと思います。私もこの施設,大学院を出てからずっとこの児童心理治療施設,以前,情緒障害児短期治療施設と申しましたが,その施設に勤めていただけの限られた経験の中でのお話ということも御了承いただければなと思います。   薄っぺらいレジュメで大変申し訳ないのですけれども,お目通しください。児童心理治療施設というのは,児童福祉法43の2で規定されていて,以下の法文で表される施設でございます。ほかに児童養護施設とか,児童自立支援施設とか,社会的養護下の施設,いろいろございますが,その中の一つのくくりとして捉えていただければと思います。   歴史的に言えば,児童養護施設や乳児院の設立のピークであった戦後間もなくというところからしばらくして,高度経済成長期に入ったところでこの施設が設置されたということです。それまでよりもずっと日本の経済成長が遂げられて,おうちの方でも割と中流層というのが出てきたりとか,あと,学校には行った方がいいだろうという親御さんの考え方も浸透してきたときに,なぜか年少児の子どもが家のお金の持ち出しをしてしまうとか,万引きをしてしまうとか,小学生低学年辺りですが,学校にも行った方がいいよと親が言っているのに行けない子が出てきたということ,これは心理的な問題だと,貧困の問題ではなく心理学的な問題だと捉えて,治療していこうということで始まりました。全国で今,53施設ございます。ちなみに関東ブロックでは11施設ございまして,割と関西の方がかなり,大阪府下ではもう7,8施設ですかね,もあるというような状況でございます。   そういう施設なのですけれども,次のページ,横浜いずみ学園,こんなところですよと,子どもの虹情報研修センターという研修センターの隣にありますので,もし来られる際,お声をお掛けいただければ,見学していただければなと思います。   横浜いずみ学園についてという,これは児童心理治療施設についてということではあるのですが,特徴的なのは,医療と心理,福祉,教育と,子どもに必要な関わりの部門全てがトータルで備わっている施設ということで,それぞれの専門家が一人の子どもについて,ああだこうだ言いながら共通の目標を持って援助をしていくと,総合環境療法と名付けていますが,そういう施設です。   なので,治療スタッフには,いずみ学園には児童精神科医が1名常勤,非常勤で1名ということで,常に生活の近くにお医者さんがいてくださるという環境です。そして看護師,あと心理職,セラピストですね,あと指導員,栄養士,事務員,教員ということで,学校の先生も,地域の学校の先生が建物の中にある教室に勤務してくださったり,あるいは隣にある教育棟というところに勤務してくださったりというようなシステムで,地域の分級がもういずみ学園に併設されているようなイメージで,一緒にお仕事をさせていただいています。   どんな子が対象かということなのですけれども,今はもうほとんど虐待を受けたお子さんが主です。児童心理治療施設は元々,先ほど申し上げたとおり,不登校の子とか,あるいは少し非行の問題行動がある子を対応していたのですけれども,2000年,平成12年の虐待防止法の成立で,やはり虐待の子が非常に増えてきているということで,その受皿として児童心理治療施設が機能しているというところでございます。   児童養護施設にも恐らく今,6割か7割ぐらいの虐待を受けた子がいると思いますが,ではなくて児童心理治療施設に何で入ってくるかということになると,やはり児童養護施設では集団の中に子どもがいて,一般の学校に通ってとかいうような生活があるというところですが,なかなかそこに適応しづらいと,やはりなかなか集団になると,いろいろけんかが多くなったりとか,学校場面では非常に緊張して,緊張していますというふうにおとなしくなっているのだったら,まだいいのですけれども,それで落ち着かなくて暴れてしまうとか,そういう対応が非常に難しいお子さんですね,そういう子はやはり児童心理治療施設,学校もあるし,医療もあるしというようなところで受皿となっているようなところがあります。   平均在園期間,法律の中には短期間でと銘打っているのですが,実際はなかなか難しくて,3年3か月がうちの今の平均で,中には7,8年,長い間いて,高校卒業時に退園していって,家に戻る子であるとか,独り暮らしを始める,あるいは障害者のグループホームに入るなどの支援を得て退園していくということです。   次のページは,いずみ学園についての主な職員構成ということで書かせていただきました。次は,横浜いずみ学園における被虐待児の割合ということで,先ほど申し上げましたとおり,平成10年辺りから非常に増えているというところです。   一つパワポのスライドを抜かして,横浜いずみ学園における子どもの支援体制というところの丸が書いてある表,簡単な表なのですが,御覧ください。うちは子ども1人について,担当セラピスト,担当指導員というのが担当として付きます。ただ,この担当の職員というのは,やはり虐待を受けたお子さんというのは,非常にその体験を再現する可能性が高いです。すごく,親子関係を再現すると,そういうのを激しく受けてしまうのが担当の職員なのです。だから,担当の職員の中に,福祉の仕事に就いているので,この子を何とかしてあげたいという気持ちは目一杯あるのだけれども,そういう子どもと接するうちにだんだん怒りの感情が湧いていって,これは虐待の再現になるのではないかというようなときに役に立つのが,やはり周りのセラピストであり,指導員であり,ほかの職員なのです。ここはもう,この担当と子どもの関係というのは行き詰まることは当たり前で,そのときに周りの職員がどうフォローするかということがすごく大事で,ここはいずみ学園はすごく力を入れているところです。   幸い,うちは1人の子どもをいろいろな職員が囲んで見ていくような体制になっていますので,みんなその子について知っているということがあるので,何か担当と少しもめているみたいだけれども,どうなのみたいなことで横から関わっていってあげたりとかして,少し愚痴を聞いてあげたりして,でも,そういっても担当の先生だって君のことをきちんと考えて,こんなことを準備してくれているのだよ,なんてささやいてあげたりして,間に入ってあげるということができるというような体制の中で,虐待の再現ですね,下手すると施設職員による子どもの体罰ということになりかねないですけれども,そういうことを防いでいるというような特徴がございます。   だから,施設の力量というのは,担当の職員の力量という言い方もできますけれども,僕は個人的には周りの職員,担当外の職員がどういうふうにそこにうまく入れるか,そして,担当職員もそれを卑屈にならずに,自分のケースに入ってこられると,非常に人はプライドが傷付くのですけれども,そうではなくて,それを温かいと受け止めて,子どもをみんなで育てていこうという気持ちになれるかというところが施設の養育の力量だと僕は感じています。   前のパワポですけれども,通所対象児童と利用目的の推移というのがあります。うちは通所定員を15名持っていて,通所で来る子の様相が非常に変わってきたということを少しお話ししたいなと思いまして,出させてもらいました。非常に分かりにくいグラフになっていて申し訳ないのですけれども,一番左に平成12年から24年の棒グラフがあります。これは,その上の段に重なっている斜めの斜線の棒の部分は,いずみ学園を出ていって,アフターですね,家に帰った子を通所でフォローするというような人数が半分ぐらいだったと。そして,下に縦の線がありますけれども,これは地域の子についても,学校に来ていない子とかをフォローするということで,通所でいずみ学園に来ていて,これが半々だったということですけれども,一番右に行くと全然グラフが変わって,一番右の平成27年からの棒は,一番上が少し黒い部分ですけれども,これは児相とか一時保護中の子どもに通所してもらうということになっています。そして,その下に大きくなっている57.1%の棒については,これは実は児童養護施設とか,ほかの施設にいる子どもですね,その子を,入所中なのだけれども,いずみ学園の通所としても認めて,二重措置といいますけれども,そういうふうにして施設間でもお互い助け合って,その入所している施設でかなり大変な状況になったときに,では,その施設を替わろうかではなくて,その施設にいながら,でもいずみ学園の通所もしながら,その施設で見ていくということで,これは施設間同士の助け合いというか,そういう体制が今,横浜ですけれども,作られていっているというのが非常に大きなことだと思っています。   そして,すみません,長々と,体罰についてですけれども,私も北川先生と同じく,反対でございます。それはなぜかというと,体罰ということを,名前は体罰といいますけれども,やはり暴力というふうに,親側からすれば体罰という言葉遣いですけれども,子どもはどう体験するかというのは決して分からないと,それは暴力で捉えられる可能性が非常に,リスクがあるということです。そして,この暴力というものが施設の中で蔓延することが実はございます。それは施設崩壊を招くということなのですけれども。これを防ぐための一番大事なことは何かというのは,まず,暴力のない施設をきちんと作るということなのです。   これは何が言いたいかというと,暴力は暴力を呼び込むのです。施設の中で暴力が蔓延しているところに来て,その子だけに暴力をするなというのは非常に難しい。これは悲しい話なのですけれども,暴力は必ず伝搬します。暴力は暴力を生み出すと,これはいろいろな歴史的な過程からしても,そうだと思うのですけれども,なので,それが異質であるということをきちんと子どもに伝えなければいけないということで,いずみ学園に入ってくるときに,もうそれは最初から押さえると,暴力があったときは,きちんと暴力をしないように考えていくということをやりましょうというふうにします。   子どもの中でも暴れてしまう子が確かにいるのですけれども,では,実際それをどうするかという,それを体罰で何とかしようという考えの方がいらっしゃるかもしれませんけれども,私たちが一番やるのは,まずきちんと押さえるということです。子どもに暴力が出てしまったら,それをきっちり体ごと受け止めて押さえるということが大事です。ただ,それは体罰はしてはいけないので,きちんと子どもに,君は今,暴れている,とても危ない状況だから,この場から離れようと,自分で行けるかなと声を掛けて,そして,声を掛けてうんと言ってくれれば,違う場所に行って冷静になれるのですけれども,なかなかうんとは言ってくれないので,そうなると,では,これから先生が手を引っ張るよと警告をします。それで暴れるようだったら,もう仕方がないから引っ張りますというふうにして引っ張っていって,そして,タイムアウトといって生活の場から離します。それは,生活ができる2階ではなくて1階の職員室の近くの,隣の部屋なのですけれども,そこにいて,1人の職員が対応するということです。   そして,大体,生々しい話ですけれども,絨毯の部屋なのですけれども,子どもが収まったら,もうそのままお話をすればいいだけなのですけれども,なかなか暴れてもしようがないので,その間はずっと職員が上から押さえるということです。体重は絶対掛けないように気を付けながら押さえます。そうすると,子どもはだんだん,手を離せと言うわけですよね。それは一つの言葉だから,まだ少し取っ掛かりにはなるので,手を離せと言うのですね。それで,手を離すと。手を離すけれども,絶対にこっちに暴力しないと言うと,おめえが強く抑えてるから手出すんだろう,いらいらするんだろうとか言うから,ごめんねと,じゃ,先生,手を離すからねというふうに離すのです。大体ここで1発目は来ます。1発目は殴ってきます。だから,1回目の手を離すときは,こっちも来るなと思いながら手を離して,来た瞬間に空振るように体をスウェーさせるということで,でも,次の瞬間,またその子どもを押さえます。暴力が出たから押さえるね,ごめんねというふうにして,そして,それを繰り返しているうちに,だんだん子どもも疲れてきたり,あと場所を変えるとか,だんだんテンションが収まっていくということもあれば,なかなか収まらないときもあります。   そういうときはどうするかというと,2人目の職員が,どうしたのみたいな感じでさりげなく入ってくるのです。職員室の隣なので,様子は大体分かるのです。どうしたのと言って入っていくと,大体子どもはその先生に対して,ふだんどれだけその先生との関係が悪くても,2人目の法則というのがあって,2人目の先生に,先生,こいつが俺のことを,とか言うわけです。そうすると,その2人目の先生は,そうかそうか,少し話を聴こうかなんて言って,少し冷静になるということです。大事なのは,この2人目がいるかいないかが結構大きくて,これが家庭の中で今できているかというと,なかなか難しい,ひとり親の家庭がやはり増えている,核家族が増えているということがあると,やはり夫婦間というかパートナー間の役割の交代というのですかね,人間って,でも,そういうことで何か少し気持ちが持ち直すというか,冷静に考えられるとか,場所を変えるとか,人を変えるとか,そういうところで衝動のコントロールというのですかね,がよくなっていくというのがあるのかなと思います。   少し時間が長くなったので,一応この辺りでお話を一旦区切らせていただきます。以上です。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   それでは,最後に奥山参考人,よろしくお願いいたします。 ○奥山参考人 よろしくお願いいたします。私は元々小児科医で,小児精神科を専門としてやっている者でございますので,法律のことをそれほど分かっているわけではないので,何を言っているのだということを思われるかもしれないですけれども,今日は私の率直な思いをお話をさせていただくということで,伺いました。   中間試案というのを見せていただきました。20年前,私,虐待防止法ができたときに国会の参考人としてお話しした時,ある議員さんから,「先生,懲戒権って知ってる,懲戒場というのが昔あってね」というような話をされて,そこから,懲戒権をフォローしてきました。やっと,20年以上たって,こういう時が来たというのはすごくうれしいというか,すごく思いはあります。   それを前提に,中間試案を見せていただいた中で,私としてコメントをさせていただければということでまとめてきました。まず820条の方なのですけれども,私,親子に関する民法の法律で,「親の権利」が定められているのに何で子どもの権利が出てこないのだろうというのが気になっている点なのです。日本は子どもの権利条約を1994年に批准しているわけです。確かに条約というのは法律の効力があるとはいわれていますけれども,実際,例えば裁判では,子どもの権利条約に書いてあるからあなたはこの罪です,ということにはならないわけですよね。子どもの権利というのが法律の中できちんと取り上げられてもいいのではないかと思っています。   もう一つは,「子の人格」といったときに,私たちは人格というとパーソナリティーというイメージがあって,パーソナリティーというと,我々はパーソナリティー・ディスオーダーつまり,人格障害を考えてしまいます。18歳未満は人格というのは固まっていないのだという考え方があります。どちらかというと,子の人格と言われると,奇妙な感じがしてしまうという部分はあります。ただ,法律で使う場合と我々が使う場合と多分,意味が違ったりもするので,その辺はどういう意味かということを明確にしていただければいいのかとは思います。ただ,問題と思うは,スライドのこの下に書きましたが,子どもの権利委員会の一般意見8号の目的の2にあるわけですけれども,「体罰その他,残虐又は品位を傷付ける形態の罰から保護される子どもの権利」つまり,体罰から守られることは子どもの権利なのだという意識を是非持っていただきたいと思います。そこで書かれているのは,人間の尊厳であるということも一つ重要なことで,身体の不可侵はもちろん体罰なのですけれども,体罰だけではない尊厳ということもしっかりと考えていただきたいと思っています。   もう一つの点は,私は中間試案の中では丙案に賛成なのですけれども,その理由としては,先ほど来,お二人の方がおっしゃっていたように,罰は,褒めることやタイムアウトのような方法に比べて,しつけとしての効果は余りないのだということです。もう一つは,体罰は虐待への発展が多いとか,いろいろな体罰のマイナス面は先ほどお二人の方がお話しになったのでいいだろうと思います。   もう一つは,では懲戒権をなくすだけでいいでしょうという話が出てくるのだと思いますが,スウェーデンを始めとして体罰を法制化した国では虐待が減っていったということもいわれていますので,そういう意味でも,体罰禁止をしっかりと書いていただくことに私は賛成です。ただ,では本当に体罰だけでいいのかというところが私としては気になる点です。   次から,私の今までの体験を含めて書かせていただいているのですけれども,親がしたいのはしつけであって,懲戒をしたいというよりも,しつけたいというのがまず先にあると思います。しつけというのは,やはりその文化に合ったように子どもが振る舞うような行動を身に付けてもらう,ということになるわけで,そういうしつけたいのに対してうまくいかないと,制裁を加えてしまうというのが懲戒ということになるのだろうと思います。親が求めているのは懲戒ではなくてしつけだとすれば,懲戒は下手するとしつけの妨げになるということをお話ししたいと思います。   「懲戒がしつけにつながらない機序」と書きましたけれども,結論から言うと,体に傷を負ったからというより,心が傷付くから懲戒がしつけにつながらないのだということなのです。   しつけというのは繰り返しされるわけです。会社の懲戒処分は1回だけかもしれないですけれども,家庭の中で懲戒とか,あるいはしつけとかいう話になると,繰り返されるわけです。前回体罰を受けていたということになると,また殴られるかもしれないという,その思いが結局その子を変えてしまう,つまりその子の行動を規制してしまうのです。特に,例えば叩かれた,痛い,また痛いのは嫌だとなったときに,恐怖になるわけです。この恐怖がしつけを妨げてしまいます。   なぜかというと,恐怖に駆られた人間は,その場を逃れることしか考えられなくなってくるのです。そうすると,〇〇をしたから怒られたから,次は〇〇しないようにしようというようなつながりがなくなっていってしまい,今,何しろここを逃れたいというだけになります。そこで,謝りなさいと言われると謝るけれども,決して,〇〇したから怒られたから次はしないようにしようというようなつながりがなくなってしまっているわけです。そうすると,同じことが繰り返されます。そうすると,叩いている側もエスカレートしていく。虐待の場合,最後,悲惨なことになっていくというのは,こういうエスカレートしていってしまったという結果であることが多いわけです。   つまり,問題は心理的な傷による恐怖なのです。体の傷はもちろん,体の不可侵といいますか,そういう元々大きな命題はあるわけですけれども,しつけに関するメカニズムとして考えれば,心の傷が大きいのだということになります。   私の友達の友田先生たちのグループが脳科学の方で,虐待を受けたお子さん,虐待を受けたアタッチメント障害を持っているお子さんたちと,それから定型発達,つまり普通のお子さんたちと,もう1群,ADHDのお子さんたちも調査をされているのですけれども,大きな報酬を与えたときと,少ない報酬を与えたときと,脳の報酬系が活性化するかどうかを見ているのです。普通のお子さんたちは,大きな報酬でも小さな報酬でも脳は活性化します。ADHDのお子さんは大きな報酬で活性化するのだけれども,小さい報酬で活性化しない。アタッチメント障害のお子さん,虐待下で育ったようなお子さんたちは何も反応しないのです。要するに,恐怖になると,もうそこの場だけになってしまう,怒られることにも褒められることにも反応していかなくなってしまうということが分かってきているわけです。   そうやって考えると,心の傷は何も痛みだけではないので,体罰だけではなくて心理的な罰でも恐怖が出てくると,心の傷になることが結構あります。次のスライドは私がこれは今まで経験した方々ですけれども,お前は悪い子だ,生まれてこなければよかったと繰り返し,繰り返し言われる。あるいは,罰として子どもが大切なものを一つ一つ破壊していった親というのもいます。それから,お前が悪いのだと言ってペットを殴ったり,ペットを虐待してしまうような親御さんもいます。あるいは,兄弟の前で辱めを受けさせるとか,そういう形での罰が与えられることもあります。お前が悪いことをしたからだといって小さい子を窓の外に出して,落とすぞ,今度やったら本当に落とすぞ,と言って著しい恐怖を与えている場合があります。そういったことによる心の傷は結局,同じようにしつけには全然つながっていかないです。   その上,心の傷を残すということは,その子の将来に関して大きな影響があります。虐待と罰はなかなか境界線を引くのが難しいのです。このスライドは心理的虐待に関してですけれども,心理的虐待の影響というのは非常に大きいといわれています。ただ,なかなか心理的虐待というのを研究に乗せるのが難しいという面がありますが,実証されているのは,心理的虐待があると,アタッチメントへの問題がある,行動の問題,社会的問題がある,世代間連鎖がある,自殺及び精神保健的な問題があるということがいわれています。   心理的虐待は,定義としてはここに改定あるようなこととなりますが,要するに心の傷を負わせるようなことを心理的虐待というわけです。最後から2番目のページのスライドには心理的虐待をAPSAC(アメリカン・プロフェッショナル・ソサエティ・オン・ジ・アビューズ・オブ・チルドレン)という団体が,いろいろな実証的なことを含めて心理的虐待をこんな形に分類しています。先ほど私が挙げたようなことに関して,この下にいろいろな具体的なものが出ているわけです。子どもを拒否したり,価値を貶めたり,あるいは恐怖を与える,それから,罰には入らないかもしれないですけれども,堕落させると言うのもあります。例えば詐欺してこいとか,あれを盗んでこいとかというものです。それから,無視する,あなたが悪いことをしたのだから無視する。あるいは,家族で全員で食事に行くのに,一人置いていかれたという子どもも私は結構経験があります。それから,家族の中で孤立させる,これは性的虐待があるときなんかは特に多いのですけれども,ほかの人とコミュニケーションをとらせたりすることを避けさせる。それから,精神保健,医療,教育のネグレクトなんかも心理的虐待に含まれています。   こんなような分類がなされているのですけれども,まとめとしては,行きすぎた罰がもたらす問題で一番重要なのは,心の傷であるということです。心理的外傷へのネガティブな反応は,臨床的にきちんと捉えることはできます。だから,これが心理的虐待の結果ですね,心の傷がありますねということは,我々の分野では,測るまでは行かないのですけれども,捉えることはできます。それがある場合は行きすぎの罰だという可能性も高いと思います。体罰は身体的外傷を伴わない場合もあるのですけれども,外傷を負わされるかもしれない恐怖などによる心理的外傷が一番問題だと考えます。であるとすれば,身体的な罰でなくても心理的外傷をもたらす他の罰も禁止という方向に含めていただけると良いのではないかと思います。「体罰及び心身の傷になるような罰を与えてはいけない」というような形の方がいいのではないかと個人的には思っています。   以上です。どうも御清聴ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   3人の参考人の方から貴重な御説明を頂きましたが,始まって1時間近くになりましたので,最初に事務当局からお話がありましたように,ここで10分休憩しまして,今,14時20分ですので,14時30分に再開いたしまして,3人の参考人の方々に委員,幹事から質問をしていただき,お答えいただくというセッションに入りたいと思います。   では,休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開をさせていただきたいと存じます。   先ほど3人の参考人の方々からそれぞれお話を頂きましたが,この後,3人の方々のお話につきまして委員,幹事から御質問があれば,お伺いをしたいと思います。   なお,御発言に当たっては,まず,どなたに対する質問であるかということをお示しいただいた上で御質問の内容に入っていただけると大変助かります。   では,どなたからでも結構ですので,よろしくお願いいたします。 ○棚村委員 北川先生に御質問をさせていただきたいと思います。障害児の子育て支援ということで,本当に御尽力されておられるということで,貴重なお話を伺うことができました。特に,虐待とかネグレクトの対象になっているお子さんたちがかなりいらっしゃるということも理解できました。   私も家庭裁判所の調停委員,参与員というのを25,6年やってきて,御夫婦の,お子さんももちろんなのですけれども,問題の中には,お子さんをめぐっても争うのですけれども,障害について気付かずに,かなり御夫婦でもめて,私が少しお聞きしたいのは,そういうような中で見ていると,一つはやはり,特に発達障害がいつぐらいにどんな形で気付くことができるのかというのが,いつも感じるところで,それが一つの質問です。   それから,御夫婦の間で争いを聞いていますと,非常に対立,葛藤が激しいケースは,調査官にも入っていただいて事情を聴いたりしますと,もしかすると親の方にも少し発達障害みたいなことがあったのではないかと,しかも,発達障害についてかなり診断とか治療とか,いろいろアプローチが出てくる前のことだと思いますので,その辺りで,親御さんの協力とか理解ということの中で,なかなかそれが進んでこなかった現状みたいなのがあるとすると,発達障害のお子さんの子育てをどう支援するかというときに,その親御さんもそういうようなケースが,僕は家庭の紛争なんかの中で最近,出てきたりしていますので,その辺り,北川先生は支援するときに,お子さんに対する支援というのと,親御さんに対する支援という,二つ目ですけれども,どんなふうにされているのか。   一つ目は,もう一回言いますけれども,発達障害というのがなかなか発見されずに,単に学習が遅いとか,いろいろなことに問題があるということで,親御さんがお互いのせいにしたりいろいろして争うというようなことも起こって,あるいは発見というか対応が遅れているということで,家庭裁判所に持ち込まれてきたときに,むしろそちらの方をきちんとやった方がいいのではないかという,そんなときもあります。それで,発達障害というのはどういうふうに見分けて,発見して,どんな形で早期に対応できるのかなというのが,私は素人ですから,お聞きするのと,それから,親御さんにもそういうような傾向とか問題があった場合に,親御さんの協力とか理解というのが非常に重要なのですけれども,それが私なんかが経験したのは,紛争の種になっていて,かつ御自身が余り気付いておられないのですよね。だから,その辺りのところで,発達障害のお子さんを育てる,支援する,それから,その周りの親に対して支援をするということについてお尋ねできればというので,すみません,よろしくお願いします。 ○北川参考人 ありがとうございました。そうですね,おっしゃるように,いつぐらいからその子の支援が始まるのかということで,私たち長く子どもたちを見ている者は,もう生後2か月,3か月から,目が合わないだとか,なかなか抱っこしてもぐずって落ち着かないだとか,関係性が付かないとか,その辺からだんだんもう分かっていて,大体プロのお医者様ですと4か月健診,大体10か月健診でも最近は,心配なので少し関わりを続けていきましょうというふうになっていると思います。20年ぐらい前は3歳児健診が主流でしたけれども,今は1歳半健診で大体の発達に心配なお子さんは,保健センターでも,次の機関に行きましょうということで,大分それは理解が進んできているのではないかと思います。   また,IQの高いお子さんもいますので,IQの高いお子さんの場合は最近,5歳児健診で大幅に療育につながる数が増えてきていると聞いています。本当に20年前は重度の自閉症の子たち中心でしたけれども,今はもう6割,7割,軽度でなかなか幼稚園,保育園の集団でうまくやっていけない,お母さんの言うことをなかなか聞けない,結果として虐待のリスクも高くなるというお子さんが増えてきていることは事実です。   ですから,この子どもたちの特性を知った上で支援していくということと,やはり親子関係が重要になってきますので,乳幼児期はですね,お母さんも発達障害がある場合も本当に多いです,お父さんも。そういう場合,やはりきちんとお母さん,お父さんと面接して,お母さんたちの特性を捉えて,子育てを丁寧に教えていくとか,今子どもが困っていることが理解できないこともあるので,こういうことで困っているのですよとか,先ほどのSOS電話などを活用しながら,お母さんもどうしていいのか分からないという電話が来るので,職員が一緒に相談したり,家に行ったりしながら,一緒に育てたりする場合もあります。本当に国立大学を出たお母様でも,どう子育てしていいのか分からないというお母様もいる時代ですので,一人一人に,子どもに合わせるように,お母さんたちにも合わせて,時にはお父さんも呼んで,子どもの理解を深めていくような支援をしていかないといけないかなと思います。   あと,社会全体が,発達に心配があったり障害があっても大丈夫,幸せになれるし,誰も悪くないのだという文化だとか価値だとかがやはりもっと必要かなと思います。なかなかそこを認めたくないという,そこもあると思うので,最近ひきこもりの親の会に呼ばれましたけれども,ほとんど発達障害ということを後から診断されても認めたくないという本人と親御さんがいましたので,別に発達障害でも何にも悪くないのだよというような,サポートも受けていいのだよと,そういうような社会の体制があれば,もう少し子育てしやすいし,不適切な関わりが減ってくるのではないかと思っております。よろしかったでしょうか。 ○棚村委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかに御質問,いかがでございましょうか。 ○水野委員 私も今の棚村委員の質問に続けて,北川先生に質問させていただければと思います。   親を支援しなくてはならないという姿勢で活動していらっしゃるお話を伺って,私もとても共感いたしました。伺いたいのは,そういう北川先生のセンターの支援などに必要な人がどうつながるかということでございます。SOS電話などで,先方から求めておいでになる方ですと,これはもちろんつながりやすいと思うのですが,支えてもらう側は,必ずしも支援を受容するのが容易いわけではない,それが難しい場合もあるだろうと思います。障害児が生まれたときに離婚が増えてしまうことを,家族法学をやっておりますと,知っておりまして,つまり,父親とその親がその子と縁を切りたいという動機で離婚になってしまうケースがかなりあります。母親の方はなかなか子どもと縁を切ろうとはしないのですけれども,そういう親もおります。そして,認めなくない親がいると言われましたが,親が支えてもらおうとしない場合に対して,どうやってアプローチをしていけばいいのでしょうか。支援の必要性と有り難さをわかっている親よりも,そういう自覚のない親のほうが得てして必要性が高いようにも思われます。それから,先ほど職員の方が,逃げ場がなかったと述懐されたと言っていらっしゃいましたけれども,そういう暴力を加えているような親から子どもが逃げたいと思っていても,親はそのことに問題意識を持っていなかった場合に,どうやってその子どもに逃げ場を知覚させて,逃げられるようにすればいいのでしょうか。今の現場で何かお知恵がおありでしたら,アドバイスを頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○北川参考人 やはりなかなか認めたくなくて,こういう機関に通いたくないという親御さんは,一時に比べると随分減りましたけれども,ただ,やはり私たちのようなところに保健師さんから紹介されてきたときに,独りぼっちではなかったのだというところが通うきっかけになります。私たちはインテークの入口のところで,専門家の心理士さんも入りますけれども,先輩お母さんなども一緒に,もちろん訓練している方ですけれども,一緒に面接に入って,同じお母さんの気持ち分かるし,支えてもらいたくない,みんなが敵に見えるというか,そういう気持ちは当たり前なのだよというところからスタートしていくというか,本当に親同士のつながり,独りぼっちなのだというところから,独りではなかったのだというところが,支えてもらっていいのだ,みたいなところに時間を掛けながらもつながっていくのかなと思います。非常に拒否的なお母さんも,諦めないで保健師さんが家庭訪問してくれたというところに,振り返ってみると感謝していますというお母さんもいらっしゃったので,そういう丁寧な,社会は優しくサポートしてくれるのだよとか,社会を信頼していくとか,親同士のつながりとか,そういうところで,今までお母さんたちを見ていると,つながっていくのかなと思います。   また,確かにおっしゃるとおりシングルマザーは多いです。離婚は多いです。うちも半数ぐらいシングルマザーかもしれないです。ですけれども,シングルマザーはシングルマザーでもう割り切って,一生懸命自分も自立して生きて,子どもを育てていくという,そういうところのプロセスをまた支える必要もあるのかなと思います。その前に,お父さんと,お父さんに対するアプローチももちろん必要だと思います。   あと,逃げ場のなかったという話は,むぎのこに来ているお母さんも50代,40代,30代のお母さんたちから聞きます。本当につらい人生,アルコール依存症のお父さんの暴力の中から逃げられなかった,これは外に言ってはいけない,DVとか,そういう話は聞きますが,これからの世代はやはりいろいろな心理教育だとか,DVを受けたり暴力を受けたりするのは違うのだよとか,この家庭しか分からないから普通だと思っていた,ではなくて,いろいろなところで啓発,子どもに対する啓発をしたり,保育士さんだとか,子どもを見たら分かると思うのですよ,虐待を受けている子とか,ネグレクトをされている子とか,いろいろな症状,小さい子が出ますので,そういう意味では社会全体がそういう専門性を持って子どもを守っていくという仕組みを作っていく必要があるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかの御発言ございませんでしょうか。 ○山本委員 井上さんにお伺いしたいと思います。現場でいろいろ御苦労されているお話がありましたけれども,私自身にも経験があるのですけれども,暴れている子どもを押さえる力の行使ですね,この力の行使と暴力の境目は,親子の間ではとても難しい問題だと思うのです。これは体罰の問題ともつながってくるのだと思うのですけれども,この辺りですね,力の行使として子どもの安全を守るためにしなければならないことと,暴力との境目というのをどのように分かりやすく説明すればいいのかというのは常に,暴れている子とか暴力を振るう子どもに対しての大人の対応として問われていると思うのですけれども,何かその辺について,御経験はよく分かったのですけれども,何かお考えはありますでしょうか。 ○井上参考人 ありがとうございます,御質問。非常に難しい点を御指摘いただいたと思います。かなり感情的なもつれが入ったときに,人というのはやはりすごく力が入ってしまって,下手すると子どもにけがをさせてしまうということは職員も心得ているところでありまして,本当に最小限の押さえ方しかしてはいけないというふうなことは常々,職員の方には言っているというところです。もう長引くようであればやはりほかの職員がというところは,手はずとしては早く対応するということで,職員室のそばに,隣なのですけれども,その部屋があるというのは,部屋をそういう用途で使うということになったときに,職員室の扉がもう全部開くのです。そして,その中の音がきちんと聞こえるように,そして,壁際には職員が座って中の様子を大体聞くというようなことがあって,なので,これは煮詰まっているなというか,ずっと押さえ続けている状況であるということであれば,ほかの職員が替わってやるという,そういう工夫をして,何とかやりすぎというか,一人の職員がずっとやり続けるということは避けているということでございます。   その定義付けは非常に難しいところですね。私が何かをお伝えできることはないと思うのですけれども,やはり子どもがどういうふうに体験するかというのはすごく大事で,怒り任せにやられているなという体験はやはり子どもにも伝わりますので,少しやはり力が入ってしまったというときは,冷静になった子どもときっちりその話をして,今度,最小限でやるというふうにきちんと子どもと約束し直すとか,どうしても荒れているときはお互い,感情的になりやすい状況にあるのですけれども,落ち着いているときの彼と職員がどう対応するかという,そこでどう話をして意味付けをしていくかということはフォローとして大事かなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかはいかがでしょうか。 ○棚村委員 奥山先生に御質問させていただきます。   非常にクリアに心理的な虐待とか,心の傷が非常に重要で,体が傷付くだけではなくて,それ以外のことも子どもたちに悪い影響を与えるということで,本当に私自身もそう思っております。それで,法制審の審議の中でも大分,体罰ということだけではやはり狭いのではないだろうかという意見もあり,私自身もそういうことを述べております。しかし,なかなか海外の法制を見ても,抽象的に言うと,例えば尊厳を損ねたり,あるいは人格を害するような行為は許されないとか,ドイツなんかですと精神的な侵害というのですが,これは訳の仕方によるのだと思うのですけれども,正に心理的なものも含めて,許されない行為という定義を一応されているところはあります。ところが,日本でやはり海外の定義を採用して,できるかどうかという議論になったときに,その線引きや境界が明確化できないという問題が指摘されます。体罰だってどこまで許されて,許されないかというのはあるのですけれども,その辺りのところで,もし何か知恵とか工夫があればご教示ください。心理的外傷をもたらす他の罰も含めるべきではないというのは,全く実質は同感なのですけれども,用語として適切な言い回しについて何かお知恵でもあれば,是非お伺いできればと思いました。 ○奥山参考人 ありがとうございます。確かに難しいとは思います。先ほどの国連の権利委員会の一般意見8に関して言うと,体罰以外の”cruel“でdegrading”な罰という言い方がされています。残酷で,その価値を下げるようなという意味です。残酷というと何となく体罰の方に引きずられるのですが,体罰以外で残酷なということですから,心理的に残酷なという意味になるのだろうと思うのですけれども,これを日本語に訳すのが難しくて,「品位を汚す」というような言い方になっています。ただ「品位」というと何か皆がぴんときませんし,”degrading”という感覚と少し違った日本語になってしまいます。この難しさはあるのだろうと思いますが,子どもの尊厳を傷付けるということが一番大きいのではないかと私自身は思います。ただその「尊厳」という言葉も皆さん,イメージが違うかもしれないので,この辺はなかなか難しいと思います。ただ,考え方としては,心の傷になるような罰を与えることはやってはいけないというのが重要ではないかと思っているということです。すみません。 ○棚村委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○磯谷委員 奥山先生にお尋ねしたいのですけれども,先ほどから出ているように,発達障害が体罰を誘発しやすいのだろうと思うのです。親も,重度の発達障害ということになりますと,渋々であっても障害を受容せざるを得ないのだろうと思いますけれども,比較的軽い発達障害の場合,本当は障害が原因であるのに,例えば,「子どもが真面目に考えていないのではないか」とか,あるいは,「なめているのではないか」とか,そういうふうに親の方が受け止めてしまって,怒りも高じてくるということが考えられるかなと思うのです。   奥山先生はお医者さんの立場で,こういったケースもいろいろ御覧になっているのだと思うのですけれども,その辺り,障害受容の話は先ほども出ていましたけれども,そこのところがなかなかうまくいかない親御さんに対して,どういうふうに受け入れてもらうのか。先ほど施設の方のお話はありましたけれども,例えば医学的にといいますか,お医者さんの立場からして,どういうふうにそこのところを対応するのか,何かその辺りでお話しいただけることがあれば,お話しいただければと思います。 ○奥山参考人 ありがとうございます。医者としてということになるかどうか分からないのですけれども,私の前にそういう親子,つまり,悪循環が起きて,親御さんが体罰なり子どもを追い詰めて,子どもの方がいろいろな問題行動に至っているというような親子が見えたときに,親御さんに大抵私が聴くのは,親御さんがしつけと思ってやっていることで本当に効いていますかという質問をするところからスタートします。叩いても,叩いても,この子は駄目なのです,みたいなことを親御さんが言ってこられるわけです,そのときに,だとしたら叩いていることは効いていないですよねという形で,いい形の養育に切り替えていくように促します。そのときに,もし発達障害があるとしたら,発達障害の特性というのをきちんとお話しするのと同時に,発達障害のお子さんたちというのは,記憶の構造など色々な問題があり,心の傷を受けやすい特性を持っている子とも伝えます。そこのところも加味してお話をしながら,別の形の養育をやってみましょうと勧めます。ただ,それを始めると,子どもたちは,急に親が変わるわけですから,テストしてくるわけです。子どもはこれでもかというもっとひどい行動をしてくることが多いのですけれども,そこを一緒に乗り越えるといい形になるのだということを,先にお話しするとともに,その間,相当頻回にお会いしながら,そこを乗り越えていくという支援をしていくことになります。もう一つは,先ほど言いましたように,傷付きやすいので,何かでパニックになるようなお子さんがいたとき,こころの傷によってフラッシュバックする地雷がどこにあるか探すことを勧めます。心の傷になりやすいものですから,フラッシュバックを起こすような何かがあるのです。どういうときにパニックになるのかというのを一緒に探していくと,もしかするとこれが影響しているかもしれないとわかったら,それを少し避けるようにしていくと,パニックが少なくなっていきます。   例えば,いずみ学園のようなところに来るお子さんたちがかっとなるときには,お父さんに「お前~~」と言われて叩かれていると,優しく「お前な」,と友達に言われただけでもパニックになってしまうわけです。そういうところを自分でも理解していくと,かなり変わってこられるというところがあります。先ほど北川先生もおっしゃった心理教育ということにあたります。そういうことも必要になってくるのではないかと思います。   少し加えて言わせていただけると,昔は発達障害にしても,精神障害にしても,精神科の病棟でも,行動療法,つまり,褒めるとか,タイムアウトであるとか,罰を与えるとか,そういうことで何とか行動を変えようとしていたのですけれども,最近はトラウマ・インフォームド・ケアということが求められています。精神科の病棟から出てきた言葉ですけれども,トラウマインフォームド・ケアという形で,全ての人と接するときには,トラウマが背景にあるのだということを必ず考えて接しようという考えです。そのトラウマインフォームド・ケアというのは一対一の治療でやるのではなくて,組織全体がトラウマを考えたケアをしていくというような形です。例えば,学校でパニックを起こすお子さんがいるということになったらば,そこで学校全体がトラウマインフォームド・ケアを行えているかということが非常に大きな決め手になると思います。ですので,発達障害であろうとなかろうと,そして,発達障害はよりトラウマになりやすいというところを考えたケアということも必要になってくると思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   磯谷委員,よろしいですか。ありがとうございます。   そのほかの委員,幹事から御発言ございますでしょうか。 ○水野委員 申し訳ございません,もう一回,奥山参考人に質問させていただきます。友田先生の御研究を私も読んだのですけれども,心の傷を発見できる何らかの基準のようなものはありますでしょうか。成長する過程で,健康な育児をしていても,人間社会で大人になっていく過程で幾らかの擦り傷というのはあるわけですが,そうではなくて,これはもう問題で,介入しなければならない虐待レベルであるという心の傷の基準についてです。体罰ならばはっきりするのですが,心理的傷の場合に,健康な擦り傷と深刻で危険な傷を,どうやって見分けるのでしょうか。例えば,脳をスキャンして見ることによって一目瞭然に分かるというような基準があるとか,あるいは,プロフェッショナルでいらしたら,もうその子の様子を見れば明瞭に判断ができるという基準のようなものはありますでしょうか。 ○奥山参考人 先ほどお話ししたように,心の傷があればそれに対する反応が出てくるという意味では,ある程度の判断というのはできないわけではないと思います。それはいろいろなチェックリスト的なものとかも含めてですけれども,でも,基本的にはやはり専門家の判断が必要になってくると思います。脳を見れば全部分かりますというわけにいかないのですけれども,ある程度可能です。体罰でも,体罰を受けたかどうか,子どもの側から見て分かりますかというと,分からないことも多いでしょう。こういうことが駄目なのだということに関して,行為を決めるのか,それとも受けた側で見るのかということで,違いがあるのかとは思うのですけれども,体罰はどちらかというと行為で見ているわけですよね。心理的傷になるというと,受けた側を見なくてはならない。そうなってきたときには,絶対とはいわないですけれども,ある程度判断はできる部分があるだろうとは思っています。ただ,行為がされたということを抜きに判断しろというのはなかなか,例えば診断基準でも,怖い体験があったという条件が入ってきますので,それが分からないで行為だけ見てというのは,なかなか難しいときはあるかなと思います。  また,それが当たり前という環境,例えば,差別を受けてきたけれども,それが当たり前だということになったときに,心理的傷の反応を示さずにずっと過ごしてしまって,大人になってから反応を示すという場合もなくはないので,絶対判断できるとはいえない,そういうパーセントも少なくはないかなと思います。 ○水野委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかにはいかがでございましょうか。 ○石綿幹事 北川先生に質問させていただければと思います   質問内容としては,先ほど山本委員から井上先生にあった質問と似ています。北川先生は,体罰はしてはいけない,そして子どもに言葉の暴力を与えてはいけないということを親御さんに伝えているとおっしゃっていました。同時に,それを余りに言われてしまうと,親御さんは子どもに対して何もできなくなってしまうというふうに萎縮してしまうのではないかということが,法制審でも議論されているところだと思います。相談窓口等を設けていらっしゃるというお話も伺ったのですが,体罰はできないけれども,子どもさんが暴れてしまったときに,こういうことまではしてもいいのだよといったような,体罰ではないけれども,親御さんが子どもと向き合うときに,こういうことまではできるということを何か伝えていらっしゃるようなことはございますか。もしあれば,教えていただければと思います。 ○北川参考人 そうですね,先ほど来,お母さんたちの話が出ていて,本当にやはり発達障害の子どもに不適切な関わりをしてしまう方というのは,自ら不適切な体験をしてしまっている方がほとんどかなと,発達障害だから不適切な関係になるというのよりも,かなりプラスアルファ,自分の体罰的な育ちが影響しているかなと思っています。現状そうかなと,お母さんたちと面接していて,思っています。ただ,その数は少なくはないので,やはり子育ての大変さと自分の大変さと加わると,発達障害のお子さんの虐待されるリスクは高くなるのではないかと思います。   それと,子どもが発達障害でパニックになったときなんかは,私も里子が自閉症だったのですけれども,理由がきちんとありますので,私は,奥山先生のおっしゃるように,発達障害の子たちは記憶力がいいですし,傷付きやすいですので,理由を分かってあげられないでごめんねというようにしていました。パニックの後,すごく落ち込むのですよね。それで,それを見ていたら,彼らもこういうふうに行動してしまったことに対してつらさを感じているなということで,あなたが悪いのではないのよ,ママが分からなかったから悪いのだよと,こういうことがつらかったのかなと後から話し合うようにしています。ただ,町中でとか,例えば,必ず屋上に行かなかったらパニックになったり,あれが欲しいとパニックになったときなんかは,やはり小さいときだと抱っこして,今これはできないよということで,やはり切り替えたり,限界設定はある程度していく必要があるかなと思います。ただ,それは叩くとか言葉の暴力とかは全く必要ないので,それは今できないねということで冷静に方向を変えるという,気分を変えたり場所を変えたりしながら,落ち着くのを待つということが大事だと思います。   あと,大きい子になると,本当に井上先生がおっしゃるように難しくなりますので,前もって,暴力が出てこうなったら安全のために押さえるよと,細かく契約みたいなものを結んで,そして,児童相談所等,第三者も入ってもらって,本人にもサインしてもらって,それで,力を抜いたらきちんと離れるのだよというようなことを前もって話し合っていく。小さい子にも前もって予防的に話し合っていくということが非常に大事かなと思います。ですから,体罰はもちろん駄目だし,言葉でもお母さんたち,言ってしまうのだけれども,前もって子どもにお話ししていくということと,限界はここまでだよという限界設定というのも,非常に子育てには大事ですけれども,体罰とか尊厳を傷付けるようなことの関わりではなくても,きちんと子どもに,障害のある子であっても,伝わるかなと思っています。   よろしいでしょうか。 ○石綿幹事 はい。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかはいかがでございましょうか。 ○山本委員 確認なのですけれども,お三方ともに御意見を頂きたいのですが,今出ている話ですね,結局,海外のいろいろな規定の中で,当人及び第三者の安全を守るためにやむを得ない力の行使は暴力には当たらないというような説明が付いていることを見たことがあるのですけれども,そのような考え方は認められるということでよろしいですかね。いかがでしょうか。 ○大村部会長 今,お三方へということでしたので,北川さん,井上さん,奥山さんの順番でお答えを頂けますでしょうか。 ○北川参考人 できれば私は余り子どもを押さえたりはしない方向を採らないといけないなという立場です。その前にできることが一杯あって,子どもがそうなってしまう原因というのがあるので,やはり大人の側としては,そこに気付けなかったという,そういうふうに暴力的にさせてしまったというところは謝るしかないなというのが私の立場です。できるだけ押さえたりはしないような関わり方をしていきたいと思いますが,例えばガラスを割ったりするときはやはり押さえないといけないし,道路に飛び出そうとしたら押さえないといけないし,3階から飛び降りようとしたら押さえないといけないとか,そういうやはり命に関わるときは最低限,押さえる必要があると思いますけれども,できるだけ私たちも押さえるということをしないような,もっともっといろいろな専門性を身に付けて,やっていく必要があるのかなと日々思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○井上参考人 法律の文面で言えば,多分そういうことになるのだろうなと思うのですが,北川先生がおっしゃったように,押さえることが目的ではなくて,やはりその子が,自分が暴力を振るってしまうということについて,一旦は止めて,それについて一緒に考える場所をキープするという,そういう,大人と一緒にそうならないように考えていくという山場をきちんと作るための前段階であって,押さえることはメインではなく,どういうふうに彼が主体的に生きていくかということですね。押さえられるときだけ収まっている子を育ててはいけない,絶対に何もないところで彼が抑えるという子を育てたいと思っているので,一時的なそういう関わりだけであって,行く行くは自分で自分をコントロールし,主体的に生きていくという子を育てていくための手段,一時的な措置,手段ということで,必ず肝に銘じてやっていくというところです。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○奥山参考人 一つは,先ほど来皆さんがおっしゃっている緊急避難的というか,危ない,車が来て危ないと,払いのけて,それが暴力だということになるかどうかというと,緊急避難的に安全を守るためには,これは仕方ないというのはあると思います。ただ,一方で,ホールディングという言葉があって,ホールドするということは,子どもにとって必要な方法です。先ほど来おっしゃっている,押さえ付けると,誰が見ても暴力ではないのですけれども,子どもは,先ほど言ったように,過去の体験があるので,暴力だと大騒ぎするのです。でも,周りから見て暴力ではなく,ホールディングしているということだと思います。それは子どもに必要なことで,離れて見ていればいいかというと,必ずしもそうではないのです。心理的ホールディングで済めば,それがいいのでしょうけれども,小さい子なんかは特に具体的に抱えてあげるということもとても大切なことなので,ホールドするというのは必要なことと考えます。 ○井上参考人 いいですか,付け足しで。私が申し上げていたその部屋には,実は大きなマットがあって,職員がホールディングをした後に,子どもは逃げていくのですね,触るなとか言って。でも,割と次にそのマットの間に挟まって落ち着いていくみたいなことをする子がいて,そういう意味では,やはり子どもって,押さえ付けられているという感覚だけではなくて,やはり守られているという感覚はすごくあるのではないかなと,それで,やはりその後に何を,その子を包み込むような言葉掛けというのですかね,これからどういうふうに君を育てていくか一緒に考えたいと,どうしたらよかったかなと,そういう場で包んでいくという,そういうことはきっちりと一連の作業として必要なのだろうなと思います。   すみません,奥山先生。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。大体予定した時間になっておりますけれども,何か特にということがあれば伺いますが,よろしいでしょうか。   事務当局の方もよろしいですね。   ありがとうございます。それでは,懲戒権に関するヒアリングはこの程度で終了させていただきたいと存じます。   参考人の皆様にはお忙しい中,大変貴重なお話を頂きまして,誠にありがとうございます。   参考人の方々の中にはお時間の都合のある方もいらっしゃいますので,ここで御退室を頂くということにさせていただきたいと思います。改めて重ねて御礼を申し上げます。どうもありがとうございました。   それでは,第1部のヒアリングはここまでということにいたしまして,ここから30分程度休憩を挟ませていただきます。ただいま15時16分ですので,15時45分に再開ということにさせていただきます。休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開いたします。   第2部は,無戸籍問題に関するヒアリングということになります。お子さんの母親としてこの問題を経験された当事者の方と,それから,お子さんの母親及び父親,実父の立場でこの問題を経験された御夫婦に御参加を頂きます。そして,弁護士として支援活動をされている長谷川京子さんに参考人としてお話を頂くということにさせていただきたいと存じます。先ほどと同様に,最初にお三方から御説明を頂き,最後にまとめて質疑応答の時間を取らせていただくということにしようと思います。   進め方の順番ですとか,あるいはお名前の呼び方などにつきまして,事務当局の方から少し補足の説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 事務当局でございます。具体的な進行に関して若干御説明させていただきます。   最初にお話を頂きます御夫婦につきましては,お名前を匿名とさせていただく関係で,この場では,妻である方をAさん,夫である方をBさんとお呼びいたします。また,もう一方,お子さんの母親としてお話を頂きます方につきましても,同様に匿名とさせていただき,Cさんとお呼びいたします。なお,Cさんにおかれましては今現在,この時点で御予定があるということで,ちょうど午後4時頃,間もなくですけれども,以降にウェブに接続して御参加いただけるという見込みになっております。したがいまして,順番としましては,最初にAさん,Bさん御夫婦から,次に長谷川先生から,最後にCさんから,それぞれ御説明,お話を頂くということを予定しております。 ○大村部会長 それでは,今のような形で進めさせていただきたいと存じます。   まず初めに,Aさん及びBさんから御説明をお願いしたいと思います。これは事務当局の方で質問をするという形で進めていただきたいと思います。 ○小川関係官 Aさん,Bさん,本日はお時間を取っていただきまして,ありがとうございます。お二人いらっしゃいますけれども,どちらがお話しいただいても結構です。私の方からガイド的な形で幾つか質問させていただきますけれども,それに縛られずに御自由にお話しいただければと思います。 ○B参考人 分かりました。よろしくお願いします。 ○小川関係官 それでは,最初に,差し支えのない範囲で結構ですので,家族構成について教えていただけますでしょうか。 ○A参考人 私と夫と,上の子が小学校中学年の子と,幼稚園生と,1歳になる子がいるので,5人家族になります。 ○小川関係官 1歳になるお子様について,御経験をお話しいただくこということでよいでしょうか。 ○A参考人 はい,そうです。 ○小川関係官 それでは,今,画面上に事実の経緯(Aさん)という形で出ているところではあるのですけれども,実際どういったことがあったのか,経緯を教えていただきたいと思います。   まず,奥様の前の旦那様と離婚されるまでのことについてお話しいただけますでしょうか。 ○A参考人 籍を,どういう経緯だったかということも話すということですか。 ○小川関係官 はい。 ○A参考人 そうですね,令和元年の6月末頃別居して,その前に行政書士さんとかに協議離婚書等作ってもらって,7月22日に離婚しました。11月に今の旦那さんと再婚して,妊娠が分かったのが9月頃になりますね。 ○小川関係官 妊娠が分かったのが9月頃ということですけれども,その後,お子様が生まれるまでの間にどういったことをされたのか,教えていただけますか。 ○A参考人 300日問題というのは特に知らなかったので,離婚して再婚するに関しては何日というのが決まっているのは知っていたので,子どももそういうのあるのかなというので調べて,今回の300日問題というのを知って,旦那さんの方のお母さんが法務局の方に電話して,弁護士の方を紹介してもらったという形になります。2月頃に弁護士の先生と面談をして,そのときにお願いすることにしました。生まれるまでの間に私の両親に,別居していたことと,あと離婚することをどういうふうに聞いていたかというのの面談をしてもらったのと,陳述書の作成のやり取りを郵送の方で行ったということですね。あと,前の旦那さんに今回知られたくないというのがあったので,そのために,知らせずにやってもらうように弁護士さんに頼みました。 ○小川関係官 弁護士さんに,前の旦那様に裁判の手続をしていることを知られないようにということでお願いをされたということですね。具体的にはどういった理由で知られたくないとお考えになったのか,教えていただけますか。 ○B参考人 前の夫の方が,今の私の妻と,あと子どもたちに,肉体的にも精神的にも暴力を振るっていたので,知られてしまうと身の危険が危ないと思いましたので,知られずに,なるべく手続を進めていきたいとお願いしました。 ○小川関係官 弁護士さんに手続をお願いして,お子様が生まれたのが3月ということですが,その後,裁判手続を行ったかと思いますが,具体的にはどういったことがあったか教えていただけますか。 ○B参考人 あれだよね,陳述書の内容確認。 ○A参考人 生まれてから,3月下旬ぐらいに裁判所に申立てを弁護士の先生がしてくださって,5月の頭に最初,調停予定だったのですけれども,コロナがあったので延期になってしまって,7月まで延びて,7月頃1回目の調停をやっています。そのときにDNA鑑定で。 ○B参考人 第1回目の調停のときに裁判官の方から,DNA鑑定をしてもらって,結果が問題なければそのまま審判出しますよということで,まずDNA鑑定の依頼がありました。調停日,7月の終わりぐらいですかね,指定されたその機関でDNA鑑定を受けまして,8月の中旬ぐらいに。 ○A参考人 25日。 ○B参考人 8月中には審判が決まりまして,関係する書類が手元に届いたという形になります。それで,9月の頭に役所に出生届を出しました。 ○小川関係官 実際に裁判所に行ったのは何回になるのですか。 ○B参考人 一度だけです。 ○小川関係官 確認ですけれども,離婚された年の9月頃妊娠が判明されたとのことですが,実際に妊娠された時期はいつでしたか。 ○A参考人 7月の上旬ですね。 ○小川関係官 それは,お医者さんの診断で分かったんですか。 ○B参考人 産婦人科医の診断です。 ○A参考人 出産した後に,懐胎時期に関する証明書というのを取り上げてもらった先生に書いてもらって,そこで逆算して7月の上旬となりました。 ○小川関係官 先ほど離婚後に再婚できない期間があるということは御存じだったとおっしゃっていましたが,離婚後も前の旦那様の子どもと法律上推定されるということは御存じなかったということですか。 ○B参考人 そうです。 ○小川関係官 実際に調べられたということですが,どういった形で調べられたのでしょうか。 ○B参考人 主にはインターネットです。 ○小川関係官 法務局でそういった手続を案内しているということをお知りになったということですけれども,それは何か御覧になられてでしょうか。 ○B参考人 まず僕の両親に相談をしまして,そのときに無戸籍ダイヤルという,恐らく相談ダイヤルだと思うのですが,そこにまず連絡をさせてもらって,そこで弁護士さんを紹介していただきました。 ○小川関係官 今おっしゃったのは,法務局とのやり取りですか。 ○B参考人 そうですね,まず,法務局の方から私の方に連絡を頂きまして,これからどういった手続の流れをたどるのかというのを細かく説明していただきました。 ○小川関係官 一連の手続の中で苦労されたり,あるいは手続の中で疑問に思ったことというのは何かありましたか。 ○A参考人 法務局の人は細かくいろいろ教えてくれたのですけれども,市役所に手続に行ったときに,出生届は出せないけれども住民票に加えることができる,あと,一応そのサービスは受けられるというのを法務局の人に教えてもらって,それで行ったのですけれども,市役所の方の人がこういう余り事例はないということで,結構手続に時間が掛かったというところがありました。 ○小川関係官 住民票自体は,お子様が生まれた後すぐに作成に行かれたということですか。 ○A参考人 そうですね,すぐに,退院した後,行きました。 ○小川関係官 前の旦那様に知られたくないということだったと思うのですけれども,裁判手続で実際に前の旦那様が関与したりということはあったのでしょうか。 ○A参考人 いや,なかったですね。 ○B参考人 今回はありませんでした。 ○A参考人 一応,知られないようにしたいということを申立書に書いて出したのと,あと,長男がおでこのところに傷を作ってしまったときがあって,それで病院に行ったので,そのときのカルテ開示を依頼して,それも一応,証拠ということで一緒に提出して,こういうことがあったから,知らせないでほしいというふうにしてもらいました。 ○小川関係官 前の旦那様が裁判に出てきたり,あるいは,そもそも裁判所から,通知といいますか,何か手紙を送ったりということもなかったということですか。 ○A参考人 なかったですね。これでできなかったら,前の旦那さんに知らせることになるというのは,弁護士の先生には言われていたのですけれども,取りあえず,それがないようにやっていきましょうということで,進めてもらいました。 ○小川関係官 そういうやり取りはもう弁護士さんと話をされていたということで,裁判所の方から何か説明はありましたか。 ○A参考人 ないです。 ○小川関係官 現在この会議で,中間試案を取りまとめ,法律の見直しを検討しているのですけれども,その内容を御覧いただいて,何かお考えだったり,どのように思われたかというところがありましたら,教えていただけますでしょうか。 ○B参考人 今回,私たちは結婚しまして,そういった方々に関しては裁判手続を踏まずに,行わずに,出生届を出せるようにした方が,してもらえると,すごく有り難いかなと今回経験をして,感じたところです。弁護士さんにお願いしたときに,弁護士費用も40万円近い額が掛かったので,たまたま準備ができたのでよかったのですが,これができないとなると,どうしても話を進めることができなくなってしまうのかなというところと,あと,私が感じたのは,籍を入れたのであれば,DNA鑑定をした上で関係の書類を提出すれば出生届を出すことができるというような法律だったらいいのかなと,今回のことで感じました。前の夫の方との今後のトラブルというのを避けるためにも,DNA鑑定という証拠があればトラブルにもなりづらいのかなと感じました。 ○小川関係官 DNA型鑑定の際に何かトラブルだったり,抵抗感だったりというのはなかったですか。 ○B参考人 私はなかったですね。 ○A参考人 私も,証明できるならいいかなと思いました。一応,何で受けなければいけないのですかというのは,その裁判官に聞いたら,後々もし知られてしまったときに,先ほど言ったように,トラブルになる可能性があるから,ここでDNA鑑定しておけば,絶対この二人の子ですよということになるので,やってくださいと言われたので,分かりましたという。 ○小川関係官 今伺ったことのほかに,この場でお伝えしたいこと等がありましたら,御自由に御発言いただけますでしょうか。 ○A参考人 私は出生届が出せるまで,認知の審判確定するまで,向こうに知られたらどうしようというのが結構あったので,これがうまくいかなかったら向こうに言ってもらって,向こうが自分の子ではないですというのを書いてもらってとかいうのを踏まなければいけないというのを弁護士先生に言われていたので,それにならないようにしないというところがすごく心配というか,不安でしたね。 ○小川関係官 ありがとうございます。旦那様の方はいかがですか。 ○B参考人 僕が感じたのは,やはり弁護士さんにお願いするとなると費用と時間がかなり掛かるので,もう少し,裁判所の指定したDNA鑑定機関で行った結果があれば出生届を出せるというような仕組みにした方が,費用的にも掛からないし,もう少し出生届が出しやすくなるのかなと感じています。 ○小川関係官 ありがとうございます。   それでは,私の方から,取りあえず最初の御質問は以上とさせていただきます。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,長谷川参考人にお願いをいたします。   長谷川さん,よろしくお願いいたします。 ○長谷川参考人 1.私は無戸籍者を支援してきた立場でお話をしたいと思います。私の無戸籍事件の取扱いは平成20年から28年が中心です。これの大半は無戸籍児と家族を支援する会を経由して受任しました。取組を始めた頃に,問題解決のために支援団体が受けてきた相談,支援のファイルを預かって,約100件ほどのケースに目を通しました。   出生届出が受理されなかった子どもたちというのは,国家に登録を拒絶され,人生の最初から,その存在を社会的に否定されてきた子どもたちです。たとえ家族の中で守られていても,社会生活上の関係や活動から排除され,透明な存在にされてしまいます。無戸籍の子どもたちの多くは裁判時まで住民登録がありませんでした。就学,進学が障害されたり,運転免許や資格を取得できなかったり,就職が制約され社会保険に入れなかったり,携帯やアパートの契約ができず,預金口座も作れないなど,自分名義の財産が持てない状態にも置かれてしまいます。   多くの母親は,子どもの無戸籍に対して自責と不安に悩みながら,見通しが立つまで子どもにその事実を打ち明けられずに過ごします。ある子どもは無戸籍を知ったときのことを,最初は受け入れることができず,気持ちが一杯一杯だった,母もそれをうまく説明できず,擦れ違いが続いたと語りました。   私の担当事案も支援機関のファイルも,8割から9割がDV由来の無戸籍でした。母親がDV被害を受け,逃げて仮名で隠れて生き延び,やがて出産したところで772条の推定に出会う。父親についての不実の届出と安全リスクに直面して,子どもの出生届が出せず,無戸籍になったというものでした。   ある母親は,届出をしたり裁判することで前夫に私がこの子を産んだことが知れてしまう,前夫は激怒して私らを殺しに来るだろう,懸命に逃げてきてこの子が生まれ,やっとつかんだ幸せな生活がこれで潰されると思ったと,恐怖で出口を塞がれた苦しみを語りました。このことは,事実に反する父性推定が子どもの登録を阻害し,父性訂正にも母と子の安全を害するということを示しています。   私の事件処理は,8割が外観説に基づく実父に対する強制認知でした。平成20年以降,無戸籍問題が顕在化したのは,外観説に立ち,夫を絡ませずに強制認知を経れば実父を父とする出生届出ができるとして,無戸籍者の強制認知事件が急増したものです。ポイントは,夫を絡ませない手続の確保です。   現行制度で無戸籍が起こる原因は,優先順位の誤りにあると私は考えています。当事者にとっての優先順位は,まず安全です。そして,次に登録を得ること。父が誰かはその後のことなのです。なのに,制度の優先順位は,父の定めがなければ登録ができず,しかも安全は顧みないというものです。無戸籍を解消するためには,制度の優先順位を改めなければなりません。   無戸籍解消の方針は二つの方面にわたると思います。一つは,日本人の母が産んだ全ての子どもが無条件に戸籍に登録されるようにするということです。戸籍は国が定めた国民の登録簿なのですから,戸籍編成の都合で登録に危険が生じたり,真実の登録が拒否されて登録されない人が出るというのは,登録システムとしての本質的欠陥です。無戸籍は戸籍がないという問題なのですから,無戸籍の解消に戸籍システムの見直しは不可避です。これと併せて,民法では事実に反する父性推定の弊害を減らすために,父性推定の範囲を狭め,父性訂正のハードルを下げる方向での検討こそ必要だと考えています。なお,今回,子どもや母親の嫡出否認権が議論されていますが,否認権を認めても行使できなければ絵に描いた餅です。夫に離婚も言い出せず,子どもの出生届も出せないほど恐怖する関係で,夫を相手に父性を争う制度は使えません。   2.(1)当部会で検討されている夫の父性推定の見直しについてですが,まず,実子としての父子関係とはどういうものか。実子というのは養子という法定血族に対置される自然血族です。生殖補助医療によらない場合,実子は血縁関係に基づくと考えられています。それで,父性推定は,夫婦は貞操義務・同居義務があるから,夫の子である蓋然性があると説明されます。とはいえ,普通の家族は父子の血縁関係を検査で確認したりはしません。子,母,夫が父子関係があるものとして家族生活をしているならば,その関係を守るべきだとされます。当然だと思います。ただし,そうした夫との身分関係の安定は,誰よりも子どものために保護されるべきものです。けだし,血のつながりというのは子どもにとってアイデンティティーにつながる重要な事実だからです。したがって,子どもによる問い直しは制限しなくてよいのではないかと私は思っています。   次に,父性推定を及ぼすかということに関して。父性の推定により出生時に法的父が存在することが子どもの利益なのか。無戸籍の事案では有害です。反対に,現行法の推定されない嫡出子において問題が起こっていないことは,推定がなくても子は困らないということを示唆します。父子という身分関係について,推定がなければ父子関係不存在の確認請求がいつでも誰からでも起こせて,子どもの身分が不安定になるという指摘がありますが,これに対しては,父子関係を争う当事者適格を限定することで対処するべきではないかと私は考えています。つまり,夫と子の父子関係に身分上の利害関係を有する者として,子,夫,母,そして,制限付きで実父に限ってこれを認めるべきです。そうすることにより,外部から子どもの身分関係が脅かされることは防ぐことができるのではないでしょうか。   (2)次に,夫の父性推定です。民法上の婚姻解消後300日の推定はなくすべきです。蓋然性がないからです。離死別する前から夫婦間の性関係はない場合が多く,蓋然性が低いとまではいえないという程度の理由で弊害の大きい推定を残すべきではありません。婚姻解消後生まれた子どもは,前夫に家族として養われる生活を送ってもいません。推定がなくても認知はできます。   中間試案の中で,再婚事案だけ前夫の父性推定を外し,後夫に父性推定を掛けるという案がありますが,私は反対です。DV被害を受けた母親の多くは再婚を望みません。実父が既婚者であったり,DV加害者であったり,別れたなどの理由で再婚できないときもあります。およそ前夫の父性推定を外すために再婚してもらうことは,再婚家庭で母の力をいびつに弱め,次のDVにつながるかもしれません。前夫の推定さえなければ,強制認知で後夫との父子関係は形成できています。後夫の父性推定の必要はありません。   中間試案にあるように,後夫の父性が否定されると前夫の父性推定が復活するとか,前夫に否定の機会を与えるために後夫の父性否定を通知するというようなことは,父性訂正のハードルを一層引き上げます。現状より無戸籍解消を困難にする改悪だといわざるを得ません。   次に,婚姻200日経過前は現行の「推定されない嫡出子」を維持するべきだと考えます。夫の父性推定を拡大することには反対です。推定の範囲を拡大する根拠がありません。婚姻前には貞操義務も同居義務もなくて,夫の子である蓋然性がないからです。誰の子どもであっても自分の子どもとするというような意思は,再婚する男性の通常の意思ではないと思います。推定を拡大すれば,現状可能な柔軟な対応ができなくなります。   婚姻200日を経過した後,解消まではどうか,私はこれも婚姻200日経過前と同じにするべきだと考えています。夫に対する嫡出否認は,DV由来の無戸籍事案では絵に描いた餅です。夫以外の子という届出をすることにより不実の届出を回避できる方が,無戸籍の発生は減らせます。これまで救済には外観説が使われてきていますが,外観説の推定外しは限定的です。後述するように,外観認定に夫の関与を招くリスクがあります。外観説があるからといって夫の父性推定を残すべきではないと思います。   3.さらに,父性推定があっても,父性訂正のハードルを下げるべきだと考えています。現行法の推定効は強すぎます。しかし,子どもから自己のアイデンティティーに関わる父性訂正の申立てをしたときに,それを拒絶する正当性はないと思います。推定される父が子どもの存在すら知らず,扶養せず,実態として父子の生活がない場合もあります。子どもから父性訂正を求めるとき,推定された父子関係を法的に安定させるメリットはありません。   そこで,父性訂正のため事実が推定を破るということを認めるべきだと考えます。夫による父子関係の否定は,血縁関係がないことで行われます。それならば,「Aが父ならBは父でない」として,Bの父性推定は破れることとするべきです。そして,血縁関係確認の上での強制認知によって,夫の父性推定は破られるとするべきです。父性の訂正を難しくすることが家族生活の平和や安定を守るわけではないからです。   手続的には,父性訂正を夫が絡むという安全リスクのために諦めさせてはなりません。推定を受ける夫への手続保障として,夫抜きの父確定裁判はできないという見解があります。しかし,夫を被告とせず,夫に父子関係を生じない手続は,夫に扶養義務や相続など子どもとの法的な関係を生じません。自己の法的状態に変更を生じない手続に関与する利益はなく,手続保障の必要はありません。かえって夫の手続関与のために子どもの父性訂正と登録を得る利益を奪うことこそ正当化されないと私は考えます。   「推定が及ばない子」というのは,判例が見いだした〝救済の隘路″です。しかし,これの適用に際し,外観が備わっていたかどうかの事実の認定に夫の聴取が必要だという裁判官もいます。つまり,運用次第で実父への強制認知にも夫が絡んできてしまいます。   推定が及ぶ間に生まれた子どもでも,無戸籍は起こっています。DV事案で安全に不実の父の訂正ができるためには,父性訂正に当たり夫を絡ませない手続を保障することが不可欠です。   ゆえに,推定される父性訂正の方法として,当事者適格を限定した夫への父子関係不存在確認に加えて,夫を手続に関与させない実父に対する強制認知を制度化するべきだと思います。   4.最後に,国民登録簿としての戸籍の改革です。現在無戸籍にある人たちを直ちに無条件で登録することが必要です。誰一人取り残さないということは,そういうことです。現状では裁判で子どもの父が夫でないと確定しても,母の戸籍が夫と同一戸籍なら,子どもの登録が母子らの安全を脅かす,そのために登録できないという事態が起こっています。これを回避する対策が必要です。   私は,夫以外を父とする子については子どもの個人籍を作成するべきだと考えています。ただし,母の身分事項欄には子ども出生の事実は書かず,例えば破産者名簿のように本人以外非公開の登録の仕組みを設け,そこに子どもの登録をひも付けるなどして,子どもの登録が母子らの安全を害さないようにする,そういう仕組みが検討できないでしょうか。   しかし,より根本的には,戸籍を個人籍に改めるべきであります。韓国は長い儒教文化の国でありますが,2008年に個人籍を導入しました。簡明合理的な登録簿として参考に値すると思いますので,本日,資料として提出いたします。   御清聴ありがとうございました。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   それでは,最後にCさんからお話をお願いしたいと思います。これは法務省の方から質問をしていただくという形でお願いいたします。 ○濱岡関係官 Cさん,お忙しい中,ありがとうございました。今回,私の方で簡単にガイド的に質問した上で,そういった質問を踏まえながら御自由に御発言していただければと思っておりますので,よろしくお願いします。 ○C参考人 はい,お願いいたします。 ○濱岡関係官 最初に,差し支えない範囲でCさんの家族構成について教えていただけますでしょうか。 ○C参考人 今の夫と私と,あと子どもが4人いるのですけれども,年まで言った方がいいですか。中3と小2と,あと,今2歳の女の子と,今ゼロ歳の女の子が,全部で4人おります。 ○濱岡関係官 そのうち,今2歳とおっしゃったお子さんの関係で,今回の問題に関与されたということでよろしいでしょうか。 ○C参考人 はい,そうです。 ○濱岡関係官 それでは,2歳の娘さんの関係で,出生届を提出された経緯を説明していただけないでしょうか。 ○C参考人 2016年10月の上旬に実家に戻って,夫と別居しました。次の年の2017年4月頃に,前の夫から子の引渡しの請求調停とか,あと婚姻費用の調停を申し立てられたので,そのときに弁護士さんにお願いして調停を進めました。2018年になってすぐに,私から離婚の調停の申立てをして,その離婚調停がすごく長引きまして,そのちょうど間ぐらいか終わる前に,4月頃に2歳の長女がおなかにいるのが分かりまして,その頃は認知調停のこととかも何も知らなかったので,夏頃に法務局に相談させていただいて,やっと11月頃に離婚が成立して,その直後に長女が生まれました。その次の年の1月に家裁支部で認知調停を申し立てて,それから3月に認知調停の審判の確定が出る見通しが立ったので,再婚して,4月に出生届を出したというのが私の経験した経緯です。 ○濱岡関係官 ありがとうございました。長女のお子さんは離婚後300日以内に出生されたということですけれども,離婚後300日以内に出生された子が前夫の子と推定されるということは,いつ頃お知りになったのでしょうか。 ○C参考人 妊娠が分かったときに,いろいろインターネットとかで調べて,すぐに知りました。 ○濱岡関係官 法務局に相談されたり,認知調停をするなどして,娘さんの出生届の提出に至ったということですけれども,その経緯で感じたことや苦労された点等はございますでしょうか。 ○C参考人 そうですね,妊娠が分かった時点で,どうしたらいいか,まず分からなかったというのがそもそもの不安だったのと,あと,一番どうしてそんなことをするのと思ったのは,調停を申し立てた途端に前の夫に連絡をされてしまったことです。それと,調停を進める上でDNA鑑定書を出してくださいと言われたのですけれども,出したら,写真付きでないものは受け入れられないと言われて,またその,延び延びになって,一月たってからやっと鑑定書を受け取ってもらえたことですね。あともう一つは,どこに相談したらいいのか分からないというのが一番,最初に申し上げたのですけれども,不安で,例えば,一番最初に妊娠が分かって行くところって産婦人科なので,産婦人科に,こんなことで悩んでいませんかとか,そういうパンフレットのようなものがあったらよかったなと,そんなふうに思いました。 ○濱岡関係官 ありがとうございました。では,一つずつお伺いしたいと思うのですけれども,認知調停で前夫に通知されたということですけれども,前夫にはお子さんを妊娠したこと自体を知られたくなかったということでしょうか。 ○C参考人 知られたくありませんでした。 ○濱岡関係官 それは何か理由はございますでしょうか。 ○C参考人 理由は,そうですね,離婚調停のただ中だったというのが一番なのですけれども,それと,あとはやはり少し暴力があったのと,何をするか分からないタイプの人だったので,家を突き止めて家まで来るのではないかとか,インターホンとか鳴っても出なかったりとか,そういう感じで,調停が終わるまではもう生活が,何というか,びくびくしながら生活していました。それが理由で,前の夫には本当に知らせてほしくなかったですね。 ○濱岡関係官 裁判手続の中では,どういう趣旨で通知をするかとかについて,事前ないし事後に説明はあったのでしょうか。 ○C参考人 いえ,特に何もなかったです。そういう嫡出推定が及ぶ場合に,ネットで調べたときに,裁判官が必要と思った場合には通知するみたいなふうに書いてあったので,調停を申し立てたときに,何月から別居して,ずっともうそういう接触する機会は絶対なかったということを証明するつもりで,その前にいろいろ作っていた資料を提出したのですけれども,何の通知もなく,気付いたら夫に通知されていました。 ○濱岡関係官 夫から裁判で何かアクションはあったのでしょうか。 ○C参考人 いえ,調停委員さんに聞いたら,特に何もなかったとおっしゃっていました。 ○濱岡関係官 次に,DNA鑑定の関係は,写真付きではないといけないなど,DNA鑑定でどういったものが必要かということは,事前に説明はあったのでしょうか。 ○C参考人 いえ,特に何もなく,とにかくDNA鑑定書を出してくださいと言われたので提出したのですけれども,受け取ったその日に,少し待っていてくださいと言われて,1時間ぐらい待たされた後に,写真付きでないと受け取れないのですと,これはもう全会一致で決まったので,もう一回出し直してくださいと言われました。 ○濱岡関係官 あと,法務局に御相談されたということもあったようですけれども,法務局の対応等はいかがでしたでしょうか。 ○C参考人 すごく親切にいろいろ教えてくださって,心強かったです。調停の間にもそういう,夫に知らされてしまったこととか,DNA鑑定書に関しても,法務局の相談させていただいた方にも逐一お話をしたのですが,直接家裁支部の方に連絡してくださって,DV案件なのだから,もっと対応を気を付けてほしいとか,そのDNA鑑定書に関しても,きちんとこういうものを提出してくださいというのを最初から言うべきだということを言ってくださいました。 ○濱岡関係官 情報はいろいろインターネット等で調べられたということですけれども,参考になったサイトはありますでしょうか。 ○C参考人 そうですね,法務省のホームページに300日問題についての文章と,あとQ&Aみたいなのもあって,あれがすごく参考になりました。 ○濱岡関係官 また,現在見直しを検討している中間試案について,何か思われる点,感じた点はございますでしょうか。 ○C参考人 そうですね,私が経験したことも踏まえてなのですけれども,やはりDNA鑑定書をまず提出させていただいて,それに関して何か少し,DNA鑑定書で証明できない場合に限り前の夫に通知するという,前の夫に通知されるのは本当に皆さん嫌だと思うのですけれども,DNA鑑定で証明できない場合に限り,別の方法でお父さんを推定するとか,そういう方法にしていただければ,やはり有り難いなと。 ○濱岡関係官 基本的には,前夫に,お子さんを出産したり妊娠したということを知られたくないであろうから,知られることなく出生届を出したり,前夫に関与させることなく裁判ができた方がいいということですか。 ○C参考人 そうですね。今回の私のケースに関しても,やはり認知調停,今の夫を相手に申し立てているので,わざわざ前の夫に知らせる必要があったのかなというのはいまだに思いますね。もしかしたら支部だったから,その裁判官だったから知らされてしまったのかもしれないけれども,もしかして家裁でやってもらったら,裁判官の人もそういうケースを一杯取り扱っていて,もう少し柔軟に対応してくれたかもしれないなとか,そういう後悔ではないですけれども,結果的には今,戸籍に入れることができたのでよかったのですけれども,裁判官によって対応がもしかしたら違ったのかなとか,そういう思いは感じました。 ○濱岡関係官 そのほか,見直しの関係も含めて,こういうふうにした方がいいのではないかということ等,何かございますでしょうか。 ○C参考人 今言ったような内容が一番,実際のところどうなのか分からないのですけれども,裁判官によって対応が違うとか,担当する裁判所によって違うとか,そういうことがなくなればいいなと思いました。そこも含めて検討していただければいいなと思いました。 ○濱岡関係官 分かりました。ありがとうございました。またこの後,質疑があると思いますので,よろしくお願いします。 ○C参考人 はい,お願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   3組の方からお話を伺いましたが,少しだけ休憩を挟んで16時40分から質疑に入りたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,時間になりましたので再開をさせていただきたいと思います。   先ほど3組の参考人の方々から貴重な御説明を頂きました。ありがとうございました。頂きました御説明の内容につきまして,委員,幹事から御質問があれば,頂きたいと思います。第1部と同様に,御質問される際には,まず,どなたに対する質問なのかということを示された上で,あるいは複数の方に質問される場合にはその趣旨を示された上で,お話を頂ければ幸いです。   では,どなたからでも結構ですので,質問があれば伺います。いかがでしょうか。 ○棚村委員 それでは,Cさんに御質問をさせていただきたいと思います。   いろいろ困難な状況の中で大変な御経験をされた中で,提案の一つとして,産婦人科の医院なんかでパンフレットがあるといいとか,法務省のQ&Aとか,法務局の方も丁寧に説明してくれたのですが,そういうような御提案があったかと思うのですが,情報提供とか周知みたいなことで,何かほかにも,どんなところにどんなふうに情報提供してくれると割合と助かるのかなということを当事者の立場から感じられているかという点をお聴きしたいと思います。それから,もう一つは,裁判所とか裁判官で対応が違っているのを何とか統一してほしいというお話だったのですけれども,特に裁判所からの通知が前夫の方に行ってしまったということで具体的にどのような支障があったのか,その辺りの趣旨を確認させていただきたいなと思いました。情報提供については,産婦人科のところにあると,特に産婦人科での情報提供みたいなパンフレットがあったらいいというのは,無戸籍に関わるようなパンフレットとか情報提供なのでしょうか。これらの点について,確認をさせていただければと思いました。 ○大村部会長 2点質問がございましたが,お願いいたします。 ○C参考人 1点目の,産婦人科に置いてあるといいなと思ったのは,やはり無戸籍に関するものですね。前の夫との離婚前に妊娠が分かってしまったので,なかなかそういう場合にどういうふうに対応したらいいのかという情報が身の回りになかったのと,私は幸いにもそういうインターネットにアクセスがあったり,上手にそれなりには調べられたので,自分でどういうふうに対応していったらいいのかというのは分かったのですけれども,多分そういう,余り今時インターネットにアクセスがないという人はいないかもしれないですけれども,やはり情報へのアクセスが制限されてしまう人も中にはいると思うので,妊娠をしているか,していないか判断するのに,まず産婦人科に皆さん行かれると思うので,そういうときに,無戸籍のことで悩んでいませんかとか,そういうようなパンフレット1枚でいいので,置いてあると,あとはここに,法務局,こういうところに相談できますよというのが電話番号一つ書いてあると,少し救われる人もいるのではないのかなと。まず,妊娠が分かった時点で,産むか産まないかというのも悩む人もいると思うので,そこにまず1枚あると,少し希望が持てるのかなということは思いました。   すみません,もう一つの御質問は。 ○棚村委員 前夫から通知が行ってしまって面倒だったという話は,端的に言うと,Cさんが御自身で感じたことなのか,それとも,弁護士さんなり,他の方が,裁判所によって相当違いがあるのだとか,裁判官で大分違いがあるのだ,みたいなことをおっしゃっていたのかをお聞きしたいと思って質問をしました。つまり,先ほどの裁判所は統一してほしいという御趣旨の発言は,ご自身のことなのか,他の方からのものなのか。 ○C参考人 そうですね,それもインターネットで,そういう無戸籍の300日問題に関わった実際の,本当の話だと思うのですけれども,実際の方のお話が載っていて,そのときに認知調停をしたら,その裁判官の方は前の夫には知らせずに,DNA鑑定書のみで審判を確定してくれたというのが載っていて,私も少しそこに希望をかけていたのですけれども,だから,裁判官によって対応が違うのかなというのをそこで感じました。 ○棚村委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほか,いかがでしょうか。委員,幹事の中で御質問があれば,是非伺いたいと思いますが。 ○棚村委員 時間が少しあれば。長谷川先生に御質問をさせていただければと思います。   長谷川先生は,無戸籍の問題に対しても非常に積極的に取り組んでいただき,また,DVとかストーキングとか,かなり深刻なケースについても,当事者に寄り添って弁護士さんとしては本当に頑張っていただいているということでよく存じあげております。それで,今回の無戸籍の問題について,先生の御提案をいろいろと伺うことができました。嫡出推定,嫡出否認という制度の見直しなどを今しているわけですけれども,先生もおっしゃるように,当事者の安全だとか,安心が非常に重要な役割を果たしているというのと思います。それから,御本人が手軽にできるという面も大切で,司法のアクセスの問題もかなり大きいと思いました。先ほどのCさんもおっしゃっていましたけれども,自力でやるには,もちろんインターネットで調べたり,いろいろな専門家に相談をしたりということがなかなかできない方たちもいらっしゃって,悩んでいるということが理解できました。長谷川先生のところに来られた人は,いろいろ困難を抱えながらも,先生に助けを求められて救われたわけです。   しかしなから,今回お伺いしたいのは,他の方に助けをなかなか求めに行かない当事者に対してはどんなふうな形で,無戸籍の防止のための手立てとか工夫とかが考えられるか。こういうことについてのお考えがあるかということをお聞きしたいと思います。それから,もう一つは,嫡出推定とか否認制度とか,戸籍制度もそうですけれども,それを改めるということの御提案を頂いているのですが,それ以外のところでもDVとか,やはり暴力みたいな事案に対してどういう取組が必要なのかという点もお尋ねします。要するに,この審議会のできる範囲というのがどうしても限られているものですから,是非先生には,せっかくですので,総合的にこういう問題や,こういう無戸籍の方の支援の在り方として,是非何が必要なのかということをお伺いした上で,民法や戸籍や関連する法律の改正ということでは何ができるのかを考えてみたいと思います。私も,委員のひとりとして,子どもたちが戸籍のない状態にならないようにというようなことを考えたいと思うのですが,せっかく先生にお話を頂いたので,是非取り組むべき総合的な課題として,民法の御提案は今日頂いたので,それ以外のところでもかなり有効で,早くやらなければいけないものがもしあれば,教えていただきたいなと思います。 ○大村部会長 長谷川さん,どうぞよろしくお願いいたします。2点質問があったと思いますが。 ○長谷川参考人 御質問ありがとうございます。まず,助けを求めない人への対応ということなのですが,私が関わったものは法的に対応できるケースなのです。法的に対応できない人たちは弁護士には近付きません。司法にも近付きません。近付いても仕方がないから。その結果,無戸籍のまま救済されない人たちがたくさん,私は存在しているだろうと思います。その方々をどう救うのかということを本当に考えるならば,全ての人が無条件に登録できるというシステムを作らなければ救済は進まないだろうと思います。   それで,今日,最初のプレゼンでもお話をしたのですが,やはりこういう問題が起こるのは,当事者の普通の意思と懸け離れた制度になっているということが大きな原因だと思います。今日,当事者の方々がお話しになりましたけれども,2組とも離婚後300日にそんな問題があるなんて知らなかった,新しいパートナーとの間で関係が始まっていて,前の夫とはもう終わっていると思っていたのに,その夫の推定が今に及ぶなんてというふうにお考えだったわけです。つまり,普通の人はそういうふうに思って暮らしているのに,法律がなぜ離婚後300日までの推定をかけているのかということが問い直されなければならないと思います。   大きな取組ということで言うと,やはり私自身は,2組の方がそうであったように,家族の紛争の中でDVが影を落としている部分というのは非常に大きいと思います。前夫と関わり合わないで今の新しい子どもの父を定めたいと,父に関する推定を訂正したいというニーズは非常に強いわけです。それがどの程度の危険な暴力であったのか,けがをしたのか,ICUに入ったのかとか,1年以上前の古い暴力なのではないかというような,そういう審査をし始めてDVを過小評価していくようなアプローチというのは,基本的に間違いで,家族の幸せを保障しないと思うのです。恐らく皆さん,関わり合いたくないという,前夫にはもう知らせること自体が苦痛なのだとおっしゃったのは,通知した結果,前夫が家に押し掛けてきたかとか,そのことで一発殴られたかとか,そういうことではなくて,この赤ちゃんを抱えた脆弱な家族生活が,ややこしい人がハラスメントを掛けることによって揺さぶられたり,今の幸せな生活,平穏な生活が壊されるのではないか,そういう不安が大きいということだと思うのです。そういう当事者の通常の生活感覚といいますか,そういったものにきちんと法律のシステムが寄り添うことがまず,大事だと思います。情報提供も大事ですが,情報提供は基本,法律のシステムを告知するだけですから,そうではなくて,法律が当事者の意思と反対を向いている部分をまず改めていただきたいと思います。   以上です。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○棚村委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。 ○窪田委員 私も長谷川先生に一つ御質問をさせてください。   長谷川先生の今日のお話というのは,具体的な実践的な問題を解決するという観点が色濃かったと思いますが,それと同時に嫡出推定制度とか嫡出否認という仕組み自体を基本から見直すという側面もあったのだろうと思います。そうした長谷川先生のお考えをよりよく理解したいという上での小さな質問ということになるのですが,長谷川先生からは離婚後300日の推定については,離別の場合であろうと死別の場合であろうと,蓋然性がないから,もうそれは要らないのだという御説明があったかと思います。単純な質問なのですけれども,離別の場合と死別の場合で同じように蓋然性がないのかどうかということと,死別の場合にやはり300日が要らないのだとして,また再婚とかというのもないのだとすると,その関係については常に死後認知を使うということになると思うのですが,そういう理解でよろしいのかということだけを確認させていただければと思います。 ○長谷川参考人 ありがとうございます。窪田先生からの先ほどのお話で,蓋然性というものを抽象的に考えるのではなくて,本当に嫡出推定という強力な効果を支えるほどの可能性の高さというものが一般的にあるのかということをもう一回考え直す必要があると思います。もっと言えば,離死別でなくても,そもそも夫婦間においてそれほど性行為があるのかというようなことも含めて,生まれた子どもが必ず婚姻関係から生まれるものだというのは一つのフィクションだと思うのです。そのことに拘泥する余りに無戸籍を生んでしまうというのは本末転倒ではないかと思います。死別の場合だって,突然の事故でぽっくり亡くなったということはあるかもしれませんけれども,病気だったり体の不調の末に亡くなるというようなことを考えますと,やはり平均的にというか,これも非常に抽象的な話ですけれども,性行為の可能性というのは減っているではないかと私は考えています。   それから,推定がなくても困らないのではないかと,婚姻200日経過前の者は夫の子として届け出れば夫婦の子として定着するということですから,それでいいと思いますし,婚姻解消後300日の者については,おっしゃるように死後認知ということになろうと思います。確かにこの手続をどう簡略化していくかということは今後の課題だと思います。私自身も死後の強制認知というものをやりましたけれども,そのときに亡くなった実父の相続人といいますか,そういう人たちを全部調べ上げて強制認知しなくてはならなくて,それはそれで結構大変だったと思います。なので,その手続をどう簡略化していくかということについては検討の余地はあると思いますが,だからといって推定は残すべきでないと考えています。   ありがとうございました。 ○大村部会長 窪田委員,よろしいですか。 ○窪田委員 ありがとうございました。重ねてもう少しだけ御質問させていただいてよろしいでしょうか。長谷川先生から,そういう御説明がなされるのではないか,基本的には多分,行き着く先は嫡出推定制度自体が本当にどこまで合理性があるのだというお考えになるのだろうなと思って伺っておりました。   ただ,一方で,そこからはDNA鑑定といったものを重視するという側面も出てくるのではないかと思います。例えば,ある人とのDNA鑑定で父子関係が証明されるのであれば,外形的に父親とされている人についての父子関係も否定されるとか,そういうことになるのかなと思います。また,先ほどの200日以内の問題と同じで解決するということになりますと,結局,届出で,誰が父親であるかということが決まると思うのですが,それをひっくり返すのも割に簡単にはできるのだろうと思います。つまり,嫡出推定という制度がなければ,嫡出否認によらなくてもひっくり返すことができますので,そういう理解でよろしいのかなということが一つです。それと,今日の話とはもう離れてしまいますので,これは今お答えいただかなくてもいいのですが,血縁主義をどこら辺まで貫くのかについて何かお考えがあれば,伺えればいいなと思っておりました。というのは,この親子関係の部会でも,関連問題としてAIDとか生殖補助医療の話もあるものですから,そうしたことも少し視野の隅っこに入れながら,もしお考えがあれば伺えればと思ったということです。   長くなってすみません。以上でございます。 ○長谷川参考人 ありがとうございます。DNA鑑定で,科学の力で誰が父かを定めればいいではないかということを,今日の当事者の方々からも出たと思います。それは誰からでも言えるというわけではなく,私はそういうことを争える当事者を限定するべきであるということを申しております。つまり,嫡出制度,推定と嫡出否認というものがなかったとしても,父子関係を争ってよいのは,子どもと夫と母と,そして限定的に実父と限定すれば,血縁があるからそれでいいのではないかとはならないのではないかと思っています。   実父を私がここで挙げましたのは,私の経験の中で,DVを受けていた母親が婚姻継続中に実父と性行為を持って,子どもを産んで,実父のところに赤ちゃんを残したまま失踪してしまったということがありました。実父は赤ちゃんを抱えていて,届出ができなくて,どうしようか,みたいなことで見えたのです。そういう場合に実際に実父が子どもを抱えて養っていて,父として今後も世話をしていくということがあれば,そういう場合には実父にも,私が本当の父です,あなたは本当の父ではありませんということを夫に言いに行けるというふうにしてもよいのではないかと思ってきました。そういうふうに当事者を限定するということの上で,私は基本的に科学に基づく父子関係の決定をしていいのではないかと。   もちろん逆に,今日言えなかったのですけれども,父とか母からの親子関係の否認というものについて時間的な制限を設けるということは「あり」だと思います。例えば,学費が掛かるようになってから,ほんまはお前はわしの子じゃないからな,みたいなことを言い始めるなどということが,子どもを動揺させてかわいそうなので,それは駄目だけれども,例えば子どもから,本当はそうではないのではないかということの訴えは,科学を根拠にできるようにしてあげるべきではないかと考えています。   もう一つ,生殖補助,血縁に基づく親子関係をどう考えるか。今日,私は生殖補助医療による子ども以外の実親子関係は血縁によるものと整理すればいいと申し上げました。生殖補助医療の子どもについてどう考えるかは,私は専門的な知識は十分でないので,そこについて余り確かなことは言えないと思っています。ただ,その命を私ともう一人の親との間でこの世に迎え入れようと言って迎えた命であるならば,その責任は免れないという意味で,養子縁組とはまた違う強い父子関係をそこに確立させてもよいのではないかと考えています。   以上です。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   窪田委員,よろしいですか。 ○窪田委員 端的に教えていただいたので,十分です。ありがとうございました。 ○大村部会長 それでは,そのほかの方々から御質問があれば,更に伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。長谷川先生に御質問させていただきたいと思います。   本日の資料の5ページ目に,「より根本的には,戸籍を個人籍に改めるべきである」ということで,韓国の事例も資料の御準備を頂きました。日本も韓国も家父長制の中で,この戸籍というのを重要視してきた歴史があるのではないかと思っているのですけれども,その韓国が2008年に戸籍法が変更できた,その背景であるとか,それから,もしこれを日本でやる場合に可能なのかどうか,先生のお考えを少しお聞かせいただければと思います。 ○長谷川参考人 ありがとうございます。私は余り社会背景のことは分からないのですが,たまたまこの2008年ぐらいに韓国に行ったことがありました。それで,みんなで,やはり今おっしゃった家父長制のことを随分,文化としても大事にしてきたけれども,もういいでしょうといってこの個人籍に切り替えたのですよという話を聞きました。やはりいろいろな文化があるとしても,文化のために人権を否定されるような法システムを置くということは,近代国家としていかがなものだろうかと思います。やはりこの時代に生きている私たち大人の責任でこの問題は解決するべきではないか,いろいろ父子関係についての資料などはこの部会でも法務省の方から出されたと思いますけれども,欧米の国々でこんな戸籍というようなものを置いているところはないわけで,戸籍と民法が合わせ技で無戸籍を生み出すというような現象については,これは取り組まなければいけないのではないかと思っています。これは先ほどの井上先生の御質問にお答えができていないのですけれども,すみません。よろしくお願いします。 ○井上委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。 ○大森幹事 今日お話をしてくださいました皆様,大変にありがとうございます。最初にお話を伺いましたAさん,Bさんご夫婦,それと3番目にお話を伺いましたCさん,それぞれに質問させていただきたいと思います。   まず,1点目についてはAさん,Bさんご夫婦への質問です。先ほど,Cさんについては,婚姻費用の調停や子の引渡しの調停も行われているので,ある程度,別居していることがはっきりしているのではないかと思われる事案で,前夫への通知がされてしまったというお話がありました。Aさん,Bさんの場合には,弁護士に委任して,調停の申立ての際に前夫へ通知しないようにしてほしいと記載をして,結果的には通知がなされなかったということでしたが,Aさん,Bさんも,前夫に通知がなされないかどうかについて,裁判所の判断が出るまで不安があったかどうか,その辺りについての当時のお気持ちをお聞かせいただければと思います。   2点目は,Aさん,BさんとCさん双方に対してお伺いしたいのですが,それぞれ再婚されたということですけれども,今回の試案では,再婚した場合には今のような手続を踏まずにすむことになる一方で,再婚をしなかった場合には今と同じような手続をしていかないといけないということになっています。そのことについて,御自身の経験も踏まえて,再婚をしなければ今と同じような手続を踏んでいかなければいけないということに対してのお気持ち,お考えがあれば,お聞かせください。お願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。二つ御質問がありましたので,分けてお答えを頂ければと思いますけれども,最初にAさん及びBさんに対して,通知に対する御心配に関する御質問がありましたけれども,これについてお答えを頂けると幸いですが,いかがでしょうか。 ○A参考人 別居していた期間が短いので,前の旦那さんに話を聞かれる可能性が高いかもしれないと弁護士さんには言われていて,別居していた証拠とか,その後きちんと離婚に向けて動いていたという証拠,あと,子どもがけがしてしまったので,そういう証拠を持って,伝えないでほしいというのを強く言っていこうという話になって,私の両親に,別居し,1回実家に帰ったので,そのときの期間とか,あと,離婚について私から話を聞いていたかというのを両親から話を聞いたのと,あと,行政書士さんに離婚協議書と公正証書をお願いしていたので,そのときのやり取りを,私の方は消してしまっていたので,行政書士さんの方に,メールだとか向こうのメモの紙とかを全部弁護士さんに送ってもらって,離婚するように進めていたということと,あと,子どもがけがしたときに病院に連れて行っていたので,そのときのカルテ開示をお願いして,それが証拠で,離婚しようとしていたというのと,どうして知られたくないかというのを弁護士さんの方に言ってもらいました。 ○B参考人 すみません,僕からもいいですか。長男が小学生なので,裁判官によっては前夫に話を聞かせてもらいたいというふうなことをお願いする人もいる,なので,正直,運次第なところもあるというふうな弁護士さんのお話があったのです。もし知られてしまった場合に,長男も小学校に通って,外で1人で歩く時間とかもあったので,前夫の方に何かされるのではないかとか,家まで押し掛けられるのではないか,いろいろ考えてしまって,本当に毎日びくびくしながら生活はしていました。生きた心地がしないというか,もし裁判がうまくいかなくなってしまって,知られてしまったときは,慰謝料ではないですけれども,お金を請求されるのではないかとか,いろいろなことを考えてしまって,その期間は,何というか,いろいろ不安で一杯でした。なので,せっかくDVを受けていた環境から逃れて平穏な生活を手に入れたのかなと思った矢先に,そういう問題がたくさん目の前に出てきてしまったので,精神的にすごくつらかったです,その時期は。 ○大村部会長 ありがとうございました。第1点について,お答えを頂きましたが,引き続き,第2点について,まずAさん,Bさんに続けてお答えを頂きたいと思います。大森幹事からは,現在この審議会で検討している案によれば,再婚した後に生まれた子どもについては特別な手続をしなくても再婚の夫の子どもになるけれども,そうでない場合には皆さんがなさったような手続をしなければいけないということになるが,そのことについてどうお考えになりますかという質問が出ています。大森幹事,こういう要約でよかったしょうか。以上について,何か感想があればお聞かせいただければと思います。 ○A参考人 もし再婚していなくて,でも,今の旦那さんの子どもがいたとしたらということですか。 ○大村部会長 再婚したら手続は非常に簡単になるけれども,再婚していないということだと皆さんが経験されたような手続によらなければいけない,そうした制度になるということについて,どのようにお感じになるかという質問かと思います。 ○A参考人 やはり,もし再婚しなかったとしても,向こうにはやはり知られるのは嫌なので,母親の戸籍に入れてもらえるというのがあるといいかなと思います。もし1人だったら,多分,向こうに自分の子ではないというのをやってもらわないといけなくなると思うので,それはやはり,どうしても知られるのが嫌だ,もう関係が終わっていて,またその人に会ってとかいうのは,やはり嫌だから,自分のところに入るようにしてもらえるといいなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   同じ質問ですけれども,Cさん,もし何かあれば,いかがでしょうか。 ○C参考人 再婚しない方もいらっしゃると思うので,先ほど長谷川先生がおっしゃっていたみたいに,結構再婚しない方も多いというお話を伺ったので,そういう場合には,やはり前の夫には知らせずに,自分の戸籍に入れてもらえるようにするのと,あとは,本当のお父さんを相手に認知調停をするという,それだけにしたいというか,その認知調停をする上でも,前の夫には知らせないでほしいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   大森幹事,よろしいですか。   それでは,そのほかに質問があれば伺いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   事務当局の方で,何かありますか。 ○小川関係官 Aさん,Bさんにも,先ほどCさんからお答えいただいたこととも重なるのですけれども,離婚したのに前の旦那様が夫だと推定されるというルールについて,Aさん,Bさんは,ふと思ってインターネットで調べてみたら分かったという話だったかと思います。どのタイミングでどういった形で,そういった親子関係のルールや出生届の出し方が役所だったりから知らせられたらいいか,何かお考えがあれば,教えていただけますか。 ○B参考人 そういった問題を知る手段ということでよろしいですか。 ○小川関係官 はい。 ○大村部会長 そういうことで,お願いいたします。 ○B参考人 僕が少し思っているのは,そういった問題を抱えている方って産婦人科に行くのかなと少し疑問に思う点もありまして,未受診妊婦といいますか,そういう大きい問題を一人で抱えている方って,なかなか産婦人科とか病院にも行きづらくなってしまう方もいるのではないかと思いまして,そういった方々,幅広い方々がそういう問題を知る方法が何かと言われると,少し考えたのですけれども,やはりテレビとかメディアの力を借りるというのが一番なのではないかと思いました。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   そのほかはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,以上で無戸籍者問題に関するヒアリングは終了ということにさせていただきたいと存じます。   参考人の方々には大変貴重なお話を伺わせていただくことができたと思います。皆様には大変お忙しい中,当部会の調査審議に御協力を頂きまして,心よりお礼を申し上げます。   参考人の方々はお時間もございますので,ここで御退室を頂きます。重ねてになりますが,本当にありがとうございました。   それでは,本日のヒアリングはこれで終了ということにいたしまして,今後のスケジュール等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○佐藤幹事 では,御説明いたします。   次回の日程でございます。従前予定しているとおり,5月18日火曜日の午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。場所につきましては,また追って御連絡を差し上げたいと思っております。   予定している内容でございますけれども,現在実施しております中間試案に対するパブリック・コメントの期間が4月26日までとなっておりますので,次回はこのパブリック・コメントの集計結果,5月18日の段階で完全なものをお出しできるかどうか,あるいは暫定版となるか,まだこれからということになりますけれども,いずれにせよ集計結果を御報告させていただきまして,それを踏まえて中間試案後の審議を再開ということにさせていただく予定でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今御案内がありましたとおり,次回は5月18日午後1時30分からということで,パブリック・コメントの集計結果を御報告した上で,中間試案後の審議に入らせていただくということを予定しているということでございました。   以上でございます。   法制審議会の民法(親子法制)部会第15回会議,これで閉会をさせていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。閉会をいたします。 -了-