法制審議会 民法(親子法制)部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  令和3年5月18日(火)自 午後1時30分                     至 午後5時12分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  パブリック・コメントを踏まえた今後の議論の方向性 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定しておりました時刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第16回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   まず,佐藤幹事から,本日を含めたこの部会の開催方法等についての御説明を頂きたいと思います。 ○佐藤幹事 今回もウェブで御参加いただく形を併用して開催しておりますので,前回同様,御注意いただきたい点としまして2点申し上げます。1点目は,御発言中に音声に大きな乱れが生じたような場合につきましては,こちらの方から指摘をさせていただきますので,状況に応じて適宜御対応いただければ幸いでございます。2点目は,発言をされる委員,幹事の皆様におかれましては,発言の冒頭にお名前を名乗ってから御発言いただきますよう,よろしくお願いいたします。   また,本日の休憩時間の入れ方ですが,おおむね1時間半ごとに10分間程度,計2回くらいになろうかと思いますが,休憩を入れさせていただきたいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それから,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきたいと思います。これも事務当局の方でお願いをいたします。 ○小川関係官 資料について御説明いたします。   配布資料の取扱いにつきまして,会場に御来場いただいている委員・幹事には,紙ベースではなく,電子データの入ったタブレット端末をお一人につき1台,お渡ししております。配布資料の内容の確認ですけれども,部会資料16-1から16-3まで,本日の議事次第,配布資料目録,参考資料16-1として「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案」に対して寄せられた意見(詳細版),16-2としてその意見の概要,16-3として「出生から戸籍に記載されるまでにかかった期間」報告書を準備しております。また,部会資料16-1から16-3までについては,事前送付版からの修正点がございましたので,見え消しで表示したものを当日配布しております。ウェブで御参加の方については,前日にお送りさせていただいたところです。   資料の説明は以上です。 ○大村部会長 資料が届いているかどうか,御確認を頂ければと思います。   本日の審議の予定についてですが,今も小川関係官の方からお話がありましたが,中間試案に対するパブリック・コメント手続が終了いたしまして,意見が寄せられているところでございます。今後は要綱案の取りまとめに向けた御議論を頂くということになりますけれども,本日はこのパブリック・コメントを踏まえた今後の議論の方向性について,特に早い段階で御意見を伺いたいという点を中心に御議論いただきまして,更に詰めた議論が必要な論点につきましては,次回以降,順次検討を深めていくということにさせていただきたいと考えております。   具体的には,まず最初に,事務当局の方からパブリック・コメントの結果の概要と無戸籍者調査の結果を,参考資料の16-2及び16-3に基づいて御説明を頂きたいと思っております。その後,中間試案で取り上げられた各論点につきまして,最初に部会資料16-1に基づき,懲戒権に関する規定等の見直しについて,その次に,本日中に御意見を伺っておきたい部分との関係で順序が前後いたしますけれども,部会資料の16-3に基づきまして,嫡出否認制度の見直しや認知制度の見直し等について御意見を頂き,最後に,部会資料の16-2に基づいて,嫡出の推定の見直し及び女性の再婚禁止期間の見直しについて御議論を頂きたいと考えております。   そこで,早速でございますが,パブリック・コメントの結果の概要と無戸籍者調査の結果につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○佐藤幹事 それでは,最初に,パブリック・コメントの結果の概要につきまして御説明させていただきます。ここでは,結果の概要のみ御説明することとしまして,より詳細な意見の分布,あるいは内容につきましては,個々の部会資料の中で各論点ごとに御報告をさせていただこうと思っております。   参考資料16-2を御覧ください。この資料の上段右側に記載しておりますとおり,本年2月に中間試案を取りまとめていただきまして,2月25日から4月26日までの約2か月間,e-GOVのホームページに掲載するなどしてパブリック・コメントの募集をいたしました。その結果,団体,個人から合計134件の意見が寄せられたところでございます。この資料の点線で区切った下の方は,それぞれの論点に対する意見を簡単にまとめたものということになります。この内容につきましては,申し上げましたとおり,後ほど各論点を御議論いただく際に御説明させていただこうと思っております。   また,参考資料の16-1でございますけれども,紙ベースですとやや分厚いものになってまいりますが,これは寄せられた意見の詳細を整理してまとめたものということになりますので,適宜御参照いただければと存じます。また,本日の部会資料では触れられていない御意見の中にも御議論いただくべきものがあると考えておりますので,今後の部会の中で適宜そういった意見についても取り上げてまいりたいと思っております。   以上がパブリック・コメントの結果の概要でございます。  次に,無戸籍者調査の結果につきまして御説明いたします。参考資料16-3を御覧ください。「出生から戸籍に記載されるまでにかかった期間」と題したペーパーですが,これは,法務省でこれまでに把握した無戸籍者の方で,最終的に戸籍記載に至った方々につきまして,出生から戸籍記載に至った期間を調査してまとめたものということになります。資料中ほどの調査結果にありますとおり,出生から戸籍に記載されるまでにかかった期間が3年以内である者は1,979名で全体数の約79.4%,5年以内である者は2,094名で全体数の約84%ということになります。今回お示ししている調査結果につきましては,今後の部会での議論,例えば嫡出否認の訴えの提訴期間の見直しについて御議論いただく際に,客観的な資料として御参照いただけるようにとの趣旨でお配りするものでございます。   参考資料の説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今の御説明の中にございましたけれども,個別の論点についての意見分布等につきましては,後ほどあるいは次回以降,個別論点について御議論を頂く際に御紹介を頂くということになろうかと思います。それを別にいたしまして,パブリック・コメントの全体と,それから戸籍に記載されるまでにかかった期間に関する調査,これらにつきまして,皆様の方でもし御質問がありましたらお願いをしたいと思いますが,何か御質問等ございますでしょうか。 ○大石委員 今御説明いただいた参考資料の16-2,意見の概要という横長のものでございますが,そのうちの第1の,懲戒権に関する規定等の見直しというのがあり,甲案,丙案,乙案という順序で並べてありますが,丙案の中身というのはこの表記でよろしいんでしょうか。後で私の意見を申し上げようと思ったところがちょっと関係しているので,監護及び教育を行うに際し,体罰をしてはならないというのがこの16-1だと,そうなっているんですが,これを変更する場合にも何々をしてはならないとなっているんですが,ここでは体罰を加えてはならないとなっているので,少しちょっとずれがあるのではないかと思います。御確認を頂ければ幸いです。 ○佐藤幹事 御質問ありがとうございます。丙案の表記でございますけれども,中間試案における丙案,ちょっと読み上げさせていただきますが,親権を行うものは,第820条の規定による監護及び教育を行うに際し,体罰を加えてはならない,こういう形で丙案としては御提案していたところでございますので,それを少しこのスペースの中に入れ込んだという形で,趣旨は損なわれないような形でまとめたというふうに認識をしているところでございます。 ○大石委員 16-1の中がそういう表記ではないので気になりました。 ○佐藤幹事 失礼いたしました。後ほど,その表記の点も含めて御説明をさせていただきます。 ○大石委員 はい。結構です。 ○大村部会長 ありがとうございました。今の文言のずれにつきましては,後ほど16-1について御議論いただく際に改めて御説明を頂き,御意見を賜りたいと思います。   その他,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,差し当たり全体についての御説明は頂いたということにいたしまして,個別の論点につきましては,先ほど申し上げましたように,議論の中で御意見を賜れればと思います。   今後の議論の方向性についての議論に移りたいと思いますが,先ほど申し上げましたように,最初に懲戒権に関する規定等の見直しについて御議論を賜りたいと思います。事務当局の方から,部会資料の16-1に基づきまして御説明の方をお願いいたします。 ○砂山関係官 それでは,御説明いたします。お手元の部会資料16-1を御覧ください。   まず,第1の1,懲戒権に関する規定の見直しについてです。パブリック・コメントでは甲案に賛成する意見,丙案に賛成する意見,見直しに反対する意見がいずれも相当数あり,その数がきっ抗しております。また,乙案に賛成する意見も複数あったところですが,他方で,乙案に対しては,「指示及び指導」や「指示及び助言」といった表現が新たに言葉の暴力を正当化する口実に使われるのではないかという懸念があるとの意見や,「指示及び指導」を明記することで,それに当たらない行為の可否について疑義を生じるおそれがあるとの意見も複数ありました。本部会資料では,このような懸念等を示す意見を踏まえつつも,乙案を支持する意見が複数あることや,児童の権利に関する委員会の一般的意見においても子どもに適当な指示及び指導を与えることが親の責任に含まれることも積極的に強調されなければならない旨指摘されていることなども踏まえ,乙案について引き続き提案することとしております。   次に,部会資料の2ページ目,精神的な苦痛を与える行為についてです。パブリック・コメントでは,子に精神的な苦痛を与える行為についても民法上許容されないことを明確にすることに賛成する意見が多く寄せられました。このような意見を踏まえ,本部会資料では,乙案及び丙案について表現の明確性等の観点も考慮した上,新たに本文(注4)として,「体罰」に代えて「体罰又は児童虐待」とすることについて検討することを提案しています。子に精神的な苦痛を与える行為を禁止する規定を設けることとした場合には,その表現について様々な考え方があり得るところであり,この点について改めて御議論いただければと思います。   次に,部会資料7ページ目,監護及び教育に関する一般的な規律の見直しについてです。パブリック・コメントでは,民法第820条に子の人格を尊重しなければならない旨の規定を設けることに賛成する意見が多数でした。このような意見を踏まえ,民法第820条に子の人格の尊重を規定することについて引き続き提案しております。他方で,パブリック・コメントにおいては,「人格の尊重」という表現が曖昧であるといった意見や,「子の人格」に加えて「子の意思」や「子の人格的利益」といった文言を追加すべきとの意見があった上,前回会議における有識者からのヒアリングにおいても,「子の人格」に代えて「子の権利及び尊厳」とすべきとの意見もあったところです。このような意見を踏まえ,本部会資料では,新たに本文(注2)として,「子の人格」に代えて「子の権利」とすることが考えられるとの記載を加えております。   部会資料16-1に関する説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   資料の16-1につきまして御説明を頂きました。懲戒権の規定の見直しにつきましては,中間試案では甲,乙,丙,3案を提案しておりました。これに対する意見分布の御紹介がございましたが,相対的に支持の少なかった乙案も含めて3案を併せて更に検討するという形で御提案を頂いたと理解をいたしました。その中で,特に体罰について精神的な苦痛を与える行為も含めるようにすべきではないかという点を考慮に入れて,(注4)が書き加えられております。この辺りを中心に御意見を頂ければと思います。もう一つ,7ページ以下の2です。820条に「人格の尊重」という規定を付け加えるという提案がありましたが,こちらはおおむね支持されているということで,「子の人格」という文言をどうするかという問題がなお残っているという状況だということだったかと思います。1ページの(注4)を中心にと申し上げましたが,ほかの点も含めまして自由に御発言を頂ければと思います。どなたからでも結構ですのでお願いをいたします。   大石委員,先ほどの件からお願いいたしましょうか。 ○大石委員 よろしいですか。   関連するところは1ページ,それから,これに関連して6ページ及び7ページの(注6)が全部関連するところですが,私,基本的には丙案に賛成で,かつ体罰のみならず,ひどい精神的なものも含めた方がいいという立場なんですが,その立場で申しますと,先ほどのあれは既に体罰を加えてはならないとありますから,その点はいいのかなと思うんですが,ここに書いてある(注4)ですけれども,こういう書き方ですと,「体罰又は児童虐待」とすることについては意味が重なってしまうんです。児童虐待防止法の第2条では,親権者が行う虐待行為を児童虐待と言っているので,そうすると,親権を行う者はうんぬんというのが完全に重なってしまうので,変な条文になりますよね。ですから,ここはむしろ児童虐待防止法の第3条に書いてあるようなフラットな「虐待」という,「体罰又は虐待」をしてはというよりも,先ほどありましたように,加えるあるいは用いるとした方が無難なのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   大石委員の御指摘は,そうすると,この丙案の体罰をしてはならないというところを,具体的に言葉遣いとしてどのようにすべきであるという御提案になりますか。 ○大石委員 「体罰又は虐待」ということになります。「児童虐待」というふうにすると,後ろの(注)にもありますが,児童虐待防止法第2条に言うそれに当たりますので,そうすると,それは既に親権者が行うものというふうに限定されていますので,そこを使うとおかしいんです。親権者は親権者が行うこれをしてはならないとなるので,ちょっと技術的にもおかしいのではないかと思うところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。いかがですか。 ○佐藤幹事 ありがとうございます。   今回,精神的なものをどういうふうに表現するかということで検討させていただいたところでございまして,児童虐待防止法上の概念を民法の中に引っ張ってくるということ自体,それが適当なのかどうかというところもいろいろ検討した上で,先生方の御意見を伺おうということで今回提案をさせていただいたところでございます。体罰あるいは虐待,さらには児童虐待,それぞれの重なり具合といったところが,なかなかこの整理が実は難しいところではございまして,なお検討しているところではございますけれども,今回御提案させていただいたところの眼目としましては,精神的な苦痛を与える行為をいかに捕捉できるかという観点から,こういう定め方もあるのではないかということで一旦御提案をさせていただいたということでございます。御指摘を踏まえてまた更に検討を深めてまいりたいと思っております。   先ほど御指摘がございました,「加えてはならない」ということと「してはならない」という点ですけれども,この児童虐待という表現を加える可能性を視野に入れたものですから,「加えてはならない」ではなく,「してはならない」という表現に今回改めたということでございます。もとより確定的なものではございませんが,そういった趣旨でございます。 ○大石委員 結構です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御指摘は,児童虐待防止法の2条で児童虐待という言葉自体は定義されてしまっているので,それをここにはめ込むとおかしなことにならないかということで,これを一応切断した形で,例えば虐待という言葉そのものを使った方がよいのではないかと御趣旨であると承りました。どのような言葉を使って拡張するのかということについては,拡張するということを前提にして考えたとしても様々な可能性のあるところだろうと思いますので,これを一案といたしまして,本日,またその後の機会に御意見を賜れればと思います。こ(注4)につきまして,更に御意見がありましたら是非頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○磯谷委員 ちょっと(注4)だけではないのですけれども,(注4)にまずは絞った方がよろしいですか。 ○大村部会長 どうぞ,御意見を全部おっしゃっていただいて結構です。 ○磯谷委員 分かりました。では,最初にまず(注4)からお話をしたいと思いますけれども,今回,児童虐待を入れるという御提案がありました。結論から言うと,私は否定的です。民法に体罰等をしてはならないということを書き込むというのは,最初の頃から申し上げておりますとおり,やはりメッセージ性,つまり一般の方々に対するメッセージという役割がとても大きいと思っています。裏を返せば,違反したから直ちに親権が止められるとか,何か罰を加えられるわけではないし,何か法律的な効力が無効になるとかということでもない,これは本当にメッセージなんだろうと思います。そういう観点からすると,一般に親は虐待をしているという認識はないんです。「虐待は駄目だ」と言っても,それはそうだよねということになるだけの話です。自分がやっていることは虐待ではないんだと思っているからこそいろいろやるわけなんです。ですから,そういう意味では,児童虐待と書き込むことはメッセージ性としては非常に弱まってしまうと思います。   さらには,虐待のところは児童虐待と入れるのか心理的虐待と入れるのかはともかくとして,やはり児童虐待防止法というところの定義は,本来私的な領域である家庭に対して行政が介入をする契機としてこの要件を設けているということになります。したがって,例えば心理的虐待などについても,著しい暴言,著しく拒絶的な対応は駄目だという形で,こういうものについて広く通告を募るという形をとっています。しかしながら,先ほどから申し上げているように,民法に期待するのはそういった行政権の介入ということではなくて,やはり親にご自身の親子関係を見直していただくといいますか,そういったところになりますので,児童虐待防止法と同じような規律,同じような文言でやることに合理性はないと思っています。   それから,さらに5ページの辺りでなかなか悩まれているところがよく伝わってくるんですけれども,例えば精神的な侵害という言葉を使っているドイツ法のところも御検討いただいています。ただ,結論的には,例えば精神的侵害ということになりますと,それを受けた子どもの感じ方によって許容される行為か否かの判断が分かれることになって,法的な安定性や明確性に欠けるというところも御指摘になっています。これは実際にドイツでそういう問題が生じているのでしょうか。その辺りがちょっと私どもの方に伝わってきていないので,よく分からないなと思っています。繰り返しで恐縮ですけれども,法的な安定性,明確性といっても,体罰等の禁止規定が直ちに法律上の効果を生むわけではないものだとすると,そこのところで具体的な問題が生じる可能性というのは余りないのではないかなと思います。   さらには,5ページの23行目辺りで,「心理的虐待が子どもに与える影響を実証的に明らかにすることが必ずしも容易ではない旨指摘されている」とありますけれども,なるほど「実証的に」という程度をどう考えるのかというところにもよりますが,そもそも言った言わないの認定も難しく,受け止める子どもの側の素因というものもあるでしょうし,子どもへの影響というのは様々な要因が絡みますので,はたして「実証」できるのかどうか,そこはちょっと何とも言えませんけれども,ただ,ここでこういうふうにお書きになって,だから何なんでしょうかというところは,私ちょっとよく分からなかったです。実証できないと子どもは傷ついているとは言えないというつもりなのか,そもそも実証できない精神的な侵害は余り重要性がないというのか,そういうものは当てにならないと考えているのか,ちょっとその辺りがよく分からないなと思いました。   今回,いろいろなパブコメからの意見がありましたけれども,やはり罰ということ,罰によって子どもを導くということに対する問題意識はしっかり出ていたのではないかなと思います。もちろん規定の方法としてはバラエティーがあるようでした。私ども日弁連の方では,体罰その他の虐待,残虐な又は子の品位を傷つける行為ということで提言をさせていただきましたけれども,ほかの団体でも,例えば子どもの心身を傷つける一切の罰を禁止するとかいうことも出ていました。十分機能する内容なのではないかなと思います。   一旦ここでやはり止めます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   (注4)について御意見を頂きました。前提として体罰というのを拡張するということには賛成だということだと理解をいたしました。その上で児童虐待という表現を採るというのは望ましくないということにつきまして,児童虐待防止法と民法の性質の違いに基づく御意見を頂きました。あとは,資料の中で書かれていることがどういう趣旨なのかといった御質問も頂いたと思います。事務当局の方で何かあれば。 ○佐藤幹事 どうもありがとうございます。民法の役割としまして,児童虐待防止法と異なりまして,メッセージあるいは親に対しての行為規範としての機能ということがあろうかと思っております。そのときに,どこまでが許される行為なのか許されない行為なのかということは,飽くまで法律でございますので,突き詰めて考えていったときに切り分けができるような表現が必要なのではないか。そういった発想で,どこまでが実体的に許されるのか許されないのか,あるいはそれを表現するためにどういう表現がいいのかということでいろいろ検討しているところでございますが,先生から今御示唆がございましたところも踏まえまして,内容的なところを,表現も含めて検討させていただきたいと思っております。 ○大村部会長 (注4)につきましては,磯谷委員,よろしいですか。 ○磯谷委員 はい。 ○大村部会長 それでは,その他の問題についての御意見をどうぞ。棚村委員は(注4)についてですか。 ○棚村委員 (注4)についてです。   私も磯谷先生とほぼ同じ意見で,児童虐待という言葉,それから体罰についても広げるというところは賛成なのですけれども,広げ方の表現の点では少し問題があるのではないかと考えています。ヨーロッパを見ましても,例えばイギリスですと差別の禁止とか包括的な人権の問題として捉えているので,どんな人であろうがどんな組織であろうがどんな場であろうがいわれない差別は禁止すると,そういう包括立法があるわけです。私が注目しているのは,ハラスメント,それから暴力です。これは反暴力とか反差別とか,それから反ハラスメント,こういうような行為が,包括的な立法があるところは何を根拠にそれを禁止したり,あるいは制裁を加えたりということで実効性を担保するかという根拠規定があります。基本は,人間の尊厳とか人格の尊重とかそういうところに端を発していることが宣言されています。ですから,表現ぶりは暴力,虐待,ハラスメントであっても,定義のところで明確にされているのは,例えば,EUの職場でのハラスメントの禁止という指令なんかを見ますと,個人の尊厳とか,人格というものの尊重とか,逆に言うと,尊厳や人格を損なう行為,おとしめる行為価値を損なうディグレーディングな行為を許さないというの表現が使われ,訳がちょっと難しいところはあるんですけれども,そういう立て付けになっています。   それから,国際オリンピック委員会IOCのツールキットなんかを見ますと,定義を明確に定めることが大切であるとし,アビューズという,虐待というものと,暴力とかそういうものが重なってくると説明されています。精神的な心理的な暴力,虐待とか表現があるけれども,これも何に由来するかというと,結局人格の尊重とか,やはりある意味では個人の尊厳を損なう行為を禁止するという発想であることを明らかに謳っています。私は本部会での早い段階から海外の例を参考にしながら適切な表現や用語を採用すべきではないかとの意見を申し上げてきました。子どもの人格を損なうような行為は禁止するとかというので,一般的,抽象的にならざるを得ないと思うのですけれども,諸外国の例を少し参考にして広げていくと,正にメッセージとして子どもの権利や子どもの人格の尊重・保障を狙っていることが分かりやすくなると思います。  子どもの尊厳を損なってはならないというのがこの規定の趣旨だとすると,児童虐待とか体罰とかは,児童虐防止法・児童福祉法や学校教育法のところでの規定ですから,限界や不適合の部分はででくると思います。つまり,規定,体罰を持ってくるとか,それから児童虐待防止法の児童虐待を持ってくると,定義規定は確かにあるのですけれども,EUの指令とか,それからオリンピックのIOCのいろいろなコンセンサスステートメントとかを見ると,虐待とか暴力というのは非常に多義的であると,かなり広い範囲のものを含むので,でも定義が非常に重要であると言っています。この定義についてはアスリートとか,もちろん個人の権利を守るという側面だけではなくて,関わっている人たちがどういうことをしなければいけないかということについての行動指針や対応措置みたいなものを求めるという意味でも非常に重要なんだと述べられています。だからそれについて相当な議論を重ねてきたんだということがずっとつづられています。このような議論を見ると,虐待と表現しようが暴力と表現しようがハラスメントと言おうが,それは光の当て方が違うだけで,やはり人を人として尊重するとか,それから人の尊厳を損なったり奪ったりするそういう行為は許されないんだという,基本的な思想なり哲学,理念があると思うのです。その中で,民法の規定として今言われた行為規範とか,ある意味ではやっていい行為とやってはいけない行為の線引きというのは常に出てくるので,どんな表現をしても難しいとは思います。   ただ,民法の改正においてせっかく議論するのであれば,海外のドイツもそうです,精神的侵害とか,ここに(注)でも出てくるような形で,皆さん各国で工夫をされていると思うのですけれども,どれがぴったりとするかというようなことも含めてイメージとかコンセンサスみたいなものを形成すべきではないか。一体何が禁止されて何をやってはいけないんだろうかということを皆さんである程度合意をしながら,表現ぶりについては適切なものを選んでいくという作業でいいのではないかと思います。そういう意味では,磯谷先生がおっしゃったように,表現はすごく難しいですが,取り組む価値は十分にあると考えます。心身に有害な影響を与える行為とかいろいろなところで,東京都の虐待の防止条例でもそういうような形で,体罰プラス何が含まれるかということで苦心されています。今は正にDVも,それから暴力の問題も,心理的,精神的な追い込みとかは暴力が問われています。昔は殴ったり蹴ったりけがをさせたりという身体的暴力をしたら禁止されるけれども,心理的なものについては非常にある意味では緩やかでありました。しかし,現在は,そこにも焦点が当たり,むしろ虐待でもそうです,心理的虐待とかというものがものすごく増えており,注目されています。その外縁とか定義というのはものすごく難しいと思います。私たちが家事関係の事件とか調停をやっても,暴言だとかあるいはモラルハラスメントだとか,要するに診断書があって保護命令が出るとかいう話ではなくて,それで怖くて不安でしようがないという話をしたときに,それは気のせいだとか,あるいは気持ちの問題ですみたいなことをかつてはおっしゃった方がいらっしゃって問題になったようですけれども,今はそうではありません。やはり大声を上げることも,それからメールを頻繁に送ることも,相手が恐怖や不安・緊張を感じることを非常に重視します。正に子どもと親との関係性でもそうです。親はしつけだと,あるいは指導や助言のつもりでやっていても,子どもにとっては本当に大きな傷を心に残していることはなんとかしければなりません。   長くなってしまったのですけれども,今言いましたような海外の経験を見ても,表現ぶりには非常に皆さん苦労されるのですけれども,ただ,せっかくの機会ですので,是非少し適切な表現ぶりについて検討していただいて広げていくということでお願いしたいと思います。つまり体罰や児童虐待という借り物ではなく,定義も確かにあるのですけれども,そういうことを積み重ねる根底にある思想とか理念みたいなものにもう一回立ち返って,こういう行為も含むような一般的な表現というのを,適切なものを検討してはということをご提案いたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   基本的な拡大の方向については賛成という御意見だと承りましたが,磯谷委員と同じで,児童虐待という概念をそのまま使うというのではなくて,実質について更に議論をして適切な表現を見いだす努力を続けるべきだという御指摘だと承りました。そのときの指導理念というのは,子どもの人格とか子どもの尊厳ということになるという御指摘もありましたが,こちらはそのもの自体は820条に書き込むということが提案されていますので,それを踏まえてどのような表現でどこまでカバーするかというのを実質的に議論した方がよいという御指摘と理解いたしました。   ウェブ参加の方々からも多数手が挙がっているようで,山本委員,久保野幹事,窪田委員というお三方から挙手があるようですので,この順番で御意見を頂きたいと思います。山本委員からお願いいたします。 ○山本委員 今の部分については私も同じ意見なので,心身に有害な影響を与えるという理念をどう表現するかというところが今後の課題かなと思います。体罰はその一つの姿であって,それだけではないということをどういうふうに表現したらいいかなというのがあると思います。   もう一つ,後ろの方の先ほどコメントの中でありました人格と権利の話がありましたが,ちょっとこれについて考え方の整理を必要とするのではないかと思います。というのは,人格の尊重とありますけれども,権利というのは保障ですよね。権利の場合はあなたにこういう権利があるという,特に子どもに対して大人が権利を問題にするときには,子どもに権利を保障しなければならない,つまり,ただ尊重するだけではなくて,保障しなければならないですよね。人格の尊重と権利の保障は並立するのではないかと,入れ替えるものではなくて並立するものではないかなとちょっと思いましたので,その辺りの概念を整理していただけたらと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   2点御指摘を頂きました。1点目につきましては,これまでに出ている委員の御意見と基本的には同じ方向で,実質的な検討をすべきだというお考えと承りました。そして,8ページの(注2)の「子の人格」と「子の権利」というのが,二者択一ではないのではないかという御指摘を頂きました。両者の関係がどういうことになるのかということについて,整理してほしいという御要望を頂きました。   次が,久保野幹事ですね。どうぞよろしくお願いいたします。 ○久保野幹事 ありがとうございます。   重なるのですが,(注4)の引き続き検討の方向を採る場合だとしても,児童虐待防止法の児童虐待概念を用いるということは適切ではないということについての意見です。目的が違うということが資料に書かれておりますけれども,児童虐待防止法では当初はやはり通告対象というところからまず定義されたものだと思いますし,それがゆえに広いという議論と,それがゆえに狭いという議論と両面あるかとは思いますが,そのような複雑な意味合いというか,議論のある概念だということが一つあるかと思います。   それに関連して,先ほど3条を使うという御指摘もありましたけれども,2条と3条,さらに民法834条の虐待との関係ということが問題になると思いますし,また,1点加えたいと思いましたのが,2条につきましては,里親の欠格事由との関係で,児童福祉法34条の20という条文が,令和元年に2条に言及をするのをやめる形で改正されたということがあるとのことでして,そのようなことも考えましても,そのまま使うのは難しい概念ではないかと私も思います。   その上で何をということに明確なアイデアはありませんが,(注3)のところで体罰の実質を比較的丁寧に書かれている中で,例えば心身に苦痛を与える罰といった形で表す可能性などもあるように思いますし,また,先ほど山本委員から言及のありました次のところで,権利という表現に支持が多いというようなことなどを考えますと,いま一度ドイツ法で採られているような,こういうことをされずに育つ権利といったものを考えてもよいのではないかとも思いました。   最後に1点,どのような観点からここで線を引くかということについて,先ほど磯谷委員から言及のありました5ページのところで,許される行為を行為の側から画するという記述があったわけですけれども,この点,子どもに与える結果,害悪の方から画するというのも検討に値する視点ではないかと思います。親権者の親の側は子の人格のためにやる,あるいは利益のためによかれと思ってやっていることであっても,子の結果の側で問題があるから禁じられるんだという考え方もあってもよいのではと,これは感想ですけれども持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   久保野幹事からも,(注4)で拡張の方向については基本的に同意された上で,児童虐待という表現を使うことの不適切さについての御意見と,それから違う表現を使うとした場合にどのように考えるかということについて,二つの方向を示して御意見を頂いたと思います。   窪田委員,お願いできますか。 ○窪田委員 結論から言うと,もう今まで出てきたこととほとんど変わらないのですが,ただ,議論の仕方ということで少し気になった点がありましたので,その点について発言させていただければと思います。   (注4)というのは飽くまで乙案で,「監護及び教育のために必要な指示及び指導をすることができる。ただし」ということでの体罰の禁止,あるいは丙案において,「監護及び教育を行うに際し,体罰をしてはならない」という文脈の中での(注4)として置かれているものだと私自身は理解しております。この(注4)に当たる体罰の部分で,「体罰又は児童虐待」とするということについては私も反対なのですが,それはなぜかというと,児童虐待はそもそも禁止されていて,指導だとか教育だとかそういう文脈との関係で禁止されているわけではなくて,当然に禁止されていることだからです。なるほど親に何ができて何ができないのかということに関してきちんと議論するということは必要だろうと思います。しかし,ここで話しているのはあくまで指導だとか教育だとか監護,教育だとかという文脈の中で,しかしこれは許されないんだぞということをやはり明確にするという意味があるのであって,本来できないことを全部書くことは必要ないだろうと思います。できないことを書くのだというような立場を前提としてしまうと,では体罰と児童虐待以外にも,5ページに上がっていましたか,身体的虐待だとか性的虐待だとかネグレクトはどうなるのだといった話が出てきてしまうのだろうと思います。これらは禁止されているのが当たり前であって,許容なんかされていません。だとすると,許容されないことをここで書くという形ではなくて,これは磯谷委員の最初の冒頭の御発言もそういう趣旨だったのではないかと思うのですが,ここで許されないのは一体何なのかということを,特に監護,教育ということとの関係で許されないのが何なのかということを,やはり明確に書くということが必要なのだろうと思います。   その上で体罰に関しては私ももう少し広げる必要があるのかなと思うのですが,先ほど久保野幹事から(注3)の言及がありましたが,恐らく(注3)を前提とすると,肉体的あるいは身体的な苦痛を与えるような懲戒というのが体罰としての一般的な定義になるのかもしれませんが,例えばそこの部分で,肉体的又は精神的苦痛を与えるような懲戒だとかそういう言い方をすることによって,つまり飽くまで懲戒ではあるとしてもこれは駄目なのだということが明確に伝わるような形にした方が,むしろ(注4),第1の乙案,丙案の議論の仕方としては適切なのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   具体的な表現ぶりについての御意見も承りましたけれども,議論の仕方として,乙案,丙案という形で懲戒権に関する規定を改めるのだから,それとの関連で必要なことを書き込めばいいのであって,全ての禁止事項を書く必要はないという御指摘もいただいたかと思います。ありがとうございます。   磯谷委員,もう一つあるということでしたけれども,(注4)につきまして今御意見を頂いておりますけれども,もう少しお待ちください。ほかに(注4)につきまして御発言があれば是非頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○石綿幹事 ありがとうございます。   基本的な意見はもう既に先生方が御発言いただいているものと同じでして,禁止される行為として,子に精神的な苦痛を与えるものが含まれるということを明確にするという方向には賛成ですが,児童虐待という用語を使うということは避けた方がよいのではないかと思います。その中で,窪田先生が先ほどおっしゃっていた肉体的・精神的な苦痛を与える懲戒という言葉は,方向性はよいと思うのですが,懲戒という言葉をここでまた使うというのは適切ではないのではないかとも思います。その部分を例えば児童虐待防止法を参考に言動とするなどの工夫をして,何か考えられればよいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   具体的な表現ぶりについて,先ほどの窪田案を補足するような御発言を頂いたと思います。(注4)については,従前の体罰というのを何らかの文言を加えることによって拡張すべきであるというのが,皆さんのこれまでの御発言だったかと思います。そのために表現をどうするのかということにつきましては,具体的な提案も幾つかございましたけれども,現在の児童虐待という言葉をそのまま使うというのについては賛成の方はおられなかったと認識しております。頂いた御意見を踏まえて事務当局の方で更に検討していただきたいと思います。   今回,児童虐待という言葉が出ているのは,先ほど棚村委員が少し言及されたように思いますけれども,既に用いられている概念を使うということの安心さがあって,こういうものが仮の案として出ているということかと思いますが,多少実質的な判断をして,新たな言葉遣いをするということも含めて更に検討することが必要かと思って伺いました。   (注4)につきましては,大体以上のようなところでよろしゅうございますでしょうか。もし何かありましたら,またほかの問題と併せて16-1の範囲内で御発言を頂ければと思います。磯谷委員,大分お待たせしました。もう一つの提案をお願いいたします。 ○磯谷委員 ありがとうございます。二つございます。   一つは,第1の特に乙案についてですけれども,今回パブリック・コメント,まだちょっと精査まではできていませんけれども,乙案支持というのも複数あったと事務当局の方でお書きいただいています。ただ,集計しているものを拝見すると,そうはいっても乙案の賛成者というのは個人の方が8名ほどいらっしゃるということで,決して個人だからといって軽視する趣旨ではございませんけれども,甲案,丙案の方が各団体からも賛成が強く,逆に乙案についてはそういった団体からは全く支持がなかったということと,それから,記載されている内容を拝見すると,当初私たちがやはり乙案の大きな課題だと考えていた指示,指導,あるいは指示,助言というものと監護,教育との関係性が一体どうなのかというような点については,率直なところ余り触れられていないようにも思いますので,やはり元々あった懸念というのは余り解消されていないのではないかと思います。したがって,やはりちょっと乙案というのは引き続き大きな課題があるものだと認識しています。これは一つ意見です。   それからもう一つ,また今度は後の方になりまして,7ページからの2の論点で,既に先ほど山本委員の方から,人格とそれから子の権利というところについて御発言がございました。そこに関してです。私はちょっと子の権利というものを民法に書き込むことについては,今のところ消極的です。やはりここでぽんと子の権利というのが出てきても,一体何を指すのかというところがなかなか明確ではないだろうと思います。権利というのも本当に抽象的に,いわゆる人権に近い形で捉えることも可能ですし,あるいは子どもの権利条約が多数の権利をカタログとして並べていますけれども,そういったところとして捉えることも可能,非常にその辺りは曖昧といいますか,なかなか捉えどころがない概念だろうと考えています。プラス若干皮肉めいた言い方になって恐縮ですけれども,日本はこれまで国連の子どもの権利委員会から,再三にわたって子どもの権利の擁護,保障が十分でないという総括意見を受けてきているわけです。そういうことは棚に上げて,国民に対して民法で「子どもの権利を守れ」と言っても,それはなかなか響かないのではないかなと思います。ここは先ほど棚村先生が正におっしゃった子どもの尊厳というところがございましたが,やはり子の人格というところ,親はどうしても自分と子どもを同一視して自分が幸せと考えることは子どもも幸せだと思いがち,そこがやはり非常に誤りになるところだと思っていますので,そこをあえて注意喚起する意味でも,やはり子どもの人格を尊重するということを盛り込んでいただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   懲戒権につきまして,甲,乙,丙,3案がなおここでは上がっておりますけれども,乙案についてパブコメで支持者はあるけれども,従来の懸念が払拭されているとは言えないところがあるので,その他の案を中心に検討すべきだという御意見を頂きました。   それから,8ページの(注2)につきましては,先ほど来御意見を頂いておりますけれども,子の人格という表現を維持した方がよいのではないか,子の権利というのは曖昧でイメージがつかみにくいところがあるのではないかという御指摘を頂きました。棚村委員,どうぞ。 ○棚村委員 磯谷委員のおっしゃったことは結構賛成のところは多いのですが,一つ,第1の点は私も賛成です。ただ,乙案の扱いなんですけれども,パブリック・コメントを見させていただいても,そんなに積極的に言葉の言い換えというのですか,しつけだとか指導とかいろいろなことで置き換えたときに,監護,教育という本来の子どもを指導する,教育するということと面倒を見るということの関係性がちょっと分かりにくいように思いました。それから,懲戒権という言葉のイメージをそのまま体現してしまうと,言い換えても結局余り大きな意味はなかったのではないかという懸念があるという点は全く磯谷委員のご意見に同感です。この点については,やはり支持する方はしつけだとか指導,助言,教育だとか,親がきちっと子どもに示していかなければいけないという気持ちは理解できるのですけれども,今までそれを口実にして行きすぎた行為が起こってしまう,残念ながらこれが繰り返されてしまった。先ほど久保野幹事もおっしゃっていましたけれども,やはり親の側から見た行為,あるいは指導とか教育というものと,それから子どもから感じられた,受け止めたものに大分ギャップがある場合に,子どもの視点からもう一回見直しましょうというのが今回の改正の大きな柱になっていくのだと思います。ですから,乙案についてはかなり慎重に,言葉の単なる言い換えにならないような形でということが大切だったと思いますので,是非そういう形で進めていただきたいと感じています。   それから,8ページの(注2)の人格と子どもの権利との関係なのですけれども,磯谷委員がおっしゃるように,子どもの権利ということについて,子どもの人格,それから権利の主体性みたいなものをきちっと取り入れて,法改正とか国内の体制を整備するということが喫緊の課題だと思っています。それで逆に,私はだからこそ先ほど山本委員がちょっとおっしゃったように,子どもの人格の尊重というそういうアプローチと,それから子どもの権利を,積極的に主体性を保障していくという両方のアプローチがもしかしたら必要であると感じています。もちろん,民法であるので,子どもの権利という,実際には手続規定とかがないとか,民法の構成自体がやはり親の権利であって,そこの基本的構造から脱却できていないなどの現状では,子どもの権利の保障を入れてみても,絵に描いた餅にならないかとか,そういう意味ではちょっとちぐはぐなことになるかもしれないという危惧はあります。しかし,大村部会長はじめ皆さんが2011年の親権制度・後見制度の見直しのときにも,目的規定という子どもの利益を積極的に入れるとか,子の利益の最優先性など規定を入れ込むなどいろいろなことをされてきた道のりの中で考えると,子どもの権利ということを突出するようなところもあったり,具体的にどう実現したり手続的にどう保障するんだというお叱りや批判はあるかもしれません。また,子どもの意見表明権でも誰がどういうふうに聞くのが一番いいんだという問題も,深刻な問題が実はあるんだと思うのですけれども,ただ,私としては,もし表現ぶりで権利保障という側面で何か書き込めるのであれば,是非人格を尊重するとともに権利を保障する方向での文言ができればありがたいと思っているところです。もっとも,民法がちょっと越権的であるというか,行きすぎたという御批判が出るかもしれませんけれども,逆に,私たちが向かうべき目標や理念というんですか,そういうものを採用し,ほかの様々な法の領域とかいろいろなことにも影響を与える可能性もあるのではないかとも考えた次第です。そういう意味で,先ほどの磯谷委員がおっしゃっていたメッセージ性ということで,具体的にではどういう権利がどんな形で保障されるんだということになると,確かに弱いところはあると思うんですけれども,子どもの利益,子どもの福祉とか子どもの人格の尊重,子どもの権利を守るんだというのが,正にチルドレンファーストという今回の改正を含めた視点としてはいいのではないかなと考えています。私自身は,山本委員がおっしゃったように,現段階では,子どもの人格の尊重プラス子どもの権利を実現するための文言を何か入れられたらなと感じております。もちろん技術的な問題,テクニカルな問題はありますので,ここだけ子どもの権利というのが入ってくると一体これは何なんだという話で,かえって全体のバランスを失するということもあり得ると思うので,そのときは磯谷委員がおっしゃったことは確かにそうだったのかなと思うんですが,今の段階では是非二つ,両方を入れ込めるのであればお願いしたいと考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2点御指摘を頂いたと思います。第1の1につきましては,乙案に対する懸念というのを磯谷委員と共有されるという御趣旨だったかと思います。第2点の8ページの(注2)につきましては,子の人格というのを維持するということはそれとして,子の権利というのを更に書き込むことができないかを検討する必要があるのではないかという御意見だったかと思います。8ページの(注2)について,子の人格というのを子の権利に書き換えるべきだという御意見は今のところないと理解しております。子の人格は子の人格でよろしいのではないかという御意見が多く,そのほかに,子の権利も書き込めるのならば書き込んではどうかという御意見をいただいていると理解をしております。   窪田委員から手が挙がっているかと思います。窪田委員,どうぞ。 ○窪田委員 もう今部会長の方でおまとめいただいたことで尽きているかとは思うのですが,私自身は冒頭で山本委員からもお話があったように,この部分で子の人格及び権利とする形についてはかなり違和感があります。というのは,棚村先生から御指摘があったように,子の権利についてどういうものが子の利益として守られるべきなのかというのは,この問題とは切り離した上で議論するというのは十分に考えられるのですが,子の権利について定義をしないまま子の権利を尊重すると言われても非常に違和感があります。子の権利とした場合には,権利や利益の保護を図る民法709条とも整合性があるというんですが,私不法行為も少し勉強しているのですが,権利の内容が全く規定されないまま急に権利の尊重義務というのが出てきたら,やはり違和感があるのではないかという気はします。人格という言葉でいいのか,人格並びに尊厳とかその工夫の余地はあると思いますがえ,権利なのだとすると,それは尊重というよりはやはり守られなければいけないものとして明確に規定されるべきであるし,定義をせずに権利を尊重するというような規定を置くよりは,そうした権利自体について規定を置くということを議論すべきなのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   これまでの議論についておまとめを頂いて,この先の見通しをお示しいただいたと思いますので,私の方で再度それを繰り返すということはいたしません。ほかに部会資料の16-1につきまして御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   1ページの(注4)と,それから8ページの(注2)について,おおむね皆さんの御意見は一致しているのではないかと思いますので,それを踏まえまして,具体的にどのような書きぶりをすることが可能なのかという点を更に検討するということにさせていただければと思います。   事務当局も,それでよろしいですね。ありがとうございます。   それでは,部会資料の16-1につきましては,本日のところはこれぐらいにさせていただきたいと思います。   続きまして,部会資料の16-3の方から入らせていただきたいと思います。   嫡出否認制度の見直しについて御議論を頂きたいと考えております。   事務当局の方から,この資料のうち,今申し上げた16-3の第4,嫡出否認制度の見直しという部分につきまして御説明をお願いいたします。 ○小川関係官 御説明いたします。   お手元の部会資料の16-3を御覧ください。   まず,パブリック・コメントの概要について,まとめて御報告いたします。   具体的な件数や意見の詳細は,参考資料16-1の該当箇所を御参照いただければと思いますが,部会資料16-3の3ページに記載しておりますとおり,まず,夫の否認権については,これを見直すということに対して賛成される意見が多数であったということと,行使期間の長さについては,3年とする案を推す意見が15件で,5年とする案が7件と,数としては上回っているという結果でした。   次に,子の否認権についてですけれども,これを新設することを提案している中間試案の内容に賛成する御意見が多数でした。また,その期間については,子の否認権と母の否認権に関する意見を合わせて集計したものになりますが,子の出生の時から3年とする案を推す意見が13件,5年とする案の7件を上回っているという結果でございます。   次に,5ページを御覧いただきまして,母の否認権についてです。これを新設すべきとする意見が17件あった一方で,慎重な意見というのも9件と,比較的多く寄せられました。   さらに,6ページに移りまして,前夫の否認権ですけれども,これを認めることを提案しております中間試案に賛成する意見が13件,それに対して反対する意見は10件という状況でした。反対する意見の半数以上につきましては,離婚後300日以内に生まれた子について,そもそも前夫の推定を認めるべきではないというお立場からの意見がありました。前夫の否認権の要件については,再婚後の夫との推定を否認することが子の利益に反することが明らかである場合には否認することができないものとする乙案が多数でしたが,乙案に対しては,要件が裁判規範として明確ではないといった意見もあったところです。   1ページに戻っていただきまして,以上のような結果を踏まえまして,嫡出否認制度の見直しについては,基本的に中間試案で提案されていた案を中心に検討を続けていくことが相当とも考えられますので,中間試案で提案されていた規律を,民法,家事事件手続法,人事訴訟法に書き分けておりますが,実質的に大きく変更している点はございません。もっとも,子の否認権の行使については,中間試案では親権を行わない母にも行使を認めるという趣旨で母の行使を認めるという記載ぶりにしておりましたが,本部会資料では,他の制度との整合性も踏まえまして,親権を行う母とする従前御議論いただいていた案に戻した上で御提案をしております。   また,前夫の否認権の要件については,中間試案の乙案を基礎としつつ,その要件を明確化するという観点から,2ページの(4)①のとおり,前夫が子との間に生物学上の父子関係があるときは否認することができるとし,ただし,子の利益に反することが明らかであるときはこの限りでないとすることを御提案しております。   部会資料の16-3の第4の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   16-3のうちの第4について御説明を頂きました。夫の否認権,期間の問題が中心ですが,それから子の否認権,母の否認権,前夫の否認権ということで,パブリック・コメントの意見分布も含めての御説明と,今回の資料で修正を加えている点についての御説明がありました。3の母の否認権とか4の前夫の否認権につきまして多少変わっているところがございますので,ここに上がっているようなものを前提にしてこの後議論を進めるということでよろしいかどうかという点を中心に,御意見を頂ければと思います。どなたからでも結構ですのでよろしくお願いをいたします。 ○大石委員 細かな点で済みませんが,誤植といいますか,何か抜けているのではないかと思うんですが,1ページの29行目,「この場合において,親権を行う母は」の「は」が落ちているのではないかと思いますが。 ○佐藤幹事 御指摘のとおりでございます。ありがとうございます。 ○大村部会長 今の点は補っていただけますと幸いです。   そのほかにはいかがでございましょうか。 ○幡野幹事 ありがとうございます。   パブリック・コメントをどう理解するかという点に関わってくる事柄であると考えていますが,母の否認権に関して,先ほど乙案に賛成の意見が17で,甲案の賛成が9と伺いました。パブリック・コメントの詳細の41ページのところを見ると,甲案を推す意見の中に,例えば41ページの16行目のところにあるおゆに,母又は未成年後見人が,子を代理して嫡出否認の訴えが提起できるのであれば,母固有の否認権を認める実際上の必要性は低いという意見が挙げられています。このように,甲案を推す意見の中には,やはり否認権者が親権を有する母ではなくて,母であるということを前提に甲案を推している意見もありますので,パブコメを評価する上で,先ほど修正の御指摘を頂いた点は,やはりそれなりに重要な意味を持ってくるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最後のそれなりに重要な意味を持っているというところを,もう少し敷衍していただけると大変助かりますけれども。 ○幡野幹事 中間試案の時点での甲案は,否認権者が親権を持つ母ではなくて,母であるということを前提にしているものである以上,この9件の甲案を推す意見の中には,ここが変わった場合に意見が変わってくることもあり得るのではないかという点が,私の申し上げたいことです。 ○大村部会長 ありがとうございました。   パブリック・コメントの評価をどのようにするのかということについて,御意見を頂いたと思います。母の否認権について甲案賛成,乙案賛成と言うけれども,その中には前提の違うものが含まれているのではないか,これはもしかすると(4)の前夫の場合についても同様で,前提を変えれば違う意見になるというようなものも含まれているかもしれませんが,その辺の細かい検討が必要ではないかという御趣旨の指摘として承りました。   そのほかはいかがでございましょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。   一つ意見と,一つ簡単な,基本的な質問です。   まず意見ですが,2ページの(4)の新設されたところの下線を引いてある18行目,「子との間に生物学上の父子関係があるときは」というところですけれども,この点に関連して,今日は資料がないのですが,中間試案の補足説明のところの26ページに,(注18)として,「母が複数回再婚及び離婚をした後に子を出産した場合の規律について」という記載があります。その例で言うと,3人目の夫であるCの推定を生物学上の父子関係があるAが否認する場合に,2人目の夫であるBの推定はどうなるのかというところです。具体的には,AはCのみならず,Bの推定をも否認をする必要があるのか,それともCの推定のみの否認でよいのか,非常に細かいところではあると思うのですけれども,課題として発言をしておきます。   それから,質問なのですけれども,やはり同じ2ページに「家事事件手続法の見直し」,「人事訴訟法の見直し」というのが入りました。そちらの記載のところに,「訴訟記録上その住所又は居所が判明している場合に限る」とあるのですが,訴訟記録というのが基本的に分からないので,どのようなものなのか御説明いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第1点は,どこかで検討しなければいけない問題かと思います。そういう必要があるということを喚起していただくということで,大変有り難く伺いました。   それから,2点目については,事務当局の方でちょっと御説明を頂ければと思います。 ○小川関係官 本部会資料上,訴訟記録ないし裁判記録と記載しているところですけれども,具体的には,申立書や,その添付書類として裁判所に提出されるもののほか,あとは証拠書類として出されるものというのがこれに当たるかと思います。現行の手続に即して,具体的に申し上げますと,推定の及ばない子が生物学上の父に対して提起する強制認知の調停や訴えに関して申し上げますと,まず申立人である子自身の戸籍謄本,それから相手方である血縁上の父親の戸籍謄本は提出する取扱いが多いのではないかと認識しております。子について出生届が提出されていないというケースについては,その出生証明書の写しと母の戸籍謄本を提出するという扱いが多いようです。もっとも,本部会資料の中で書いてある通知制度自体は,再婚後の夫と推定される場合という新たな規律に関わる部分ですので,今後,実際の制度として実現した場合に,どういった書類を申立てや訴え提起に当たって提出しなければならないかというのは,実務上検討されていくことになるかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御説明がありましたけれども,なかなかどういうものなのかということが分かりにくいところはあるかと思いますので,内容を一定程度説明し,こういう規定を置くならば,その趣旨も併せて説明するということなのかと思って伺いました。ありがとうございます。   そのほか,この部会資料16-3の第4につきまして御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○中田委員 ただいまの家事事件手続法の見直しの中で,訴訟記録についての御説明がありましたが,訴訟記録に含まれているかどうかというのは,そのケースによって違い得るのかなとも思います。そうすると,偶然的なことで決めるというのはやや不安定ではないかという印象を抱きました。   それからもう1点は,先ほどの前夫の否認権についてでございますが,甲案と乙案があって,乙案を支持する者が多かったということで,乙案を基本にしながら修正を加えたというのが今回の御提案だと伺いましたが,修正案はむしろ甲案に近いのではないかという印象を受けました。甲案は生物学上の父子関係を要件とするというものであったわけで,今回の御修正は,それを前提にした上で更に乙案の絞りを加えようということですので,どうも乙案をベースにしているというよりも甲案をベースにしているのかなと思いました。もちろんできるだけ前夫からの濫用的な申立てを封じるという狙いはよく分かるのですけれども,どうも説明と出てきているものとが一致しないような気がしました。甲案に対する懸念として,前夫はかつての夫であったという地位に基づいて否認をしているのに対して,ここでその血縁関係を持ち出すというのはやや整合しないのではないかと,更に言うと,血縁関係というものを要件の中に入れることが波及効果をもつことがないだろうかという,そういう問題もあるかと思いますので,この御提案については更に慎重に御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   2点御指摘を頂きました。先ほどの訴訟記録の問題につきましては,ただし書で限定をするということだけれども,それが不安定になりはしまいかという御指摘で,これについては改めて事務当局の方でお考えいただきたいと思います。   もう一つ,前夫の否認権については,子との間に生物学上の父子関係があるときという要件が残っているという点を重視すると,乙案というよりもむしろ甲案をベースにしたことになってはいないか,そして生物学上の父子関係がここに現れるということについては,いろいろな影響があり得るのではないかという御懸念をお示しいただいたと思います。慎重な検討が必要ではないかという御指摘,御意見を賜ったと理解をしております。(4)の御指摘のところは,かねてより御意見のあるところですので,更に検討をしていく必要があろうかと思っております。   裁判所の方から手が挙がっておりますけれども,どなたが御発言になりますか。 ○木村(匡)幹事 前夫の否認権の関係でございます。今回,試案からの変更ということで,ただし書で嫡出否認をすることが子の利益に反することが明らかであるときというような形になっているわけなんですけれども,子の利益というものが要件として出てくるということにつきましては,資料でも紹介されておりますとおり,パブリック・コメントにおいても裁判規範として明確ではないというようなこと,そして裁判所による審理判断に困難を来し,法的安定性や当事者の予測可能性を害するのではないかというような点が懸念されると,こういった点につきましては裁判所からも意見があったところでございまして,引き続きできる限り要件が明確化されることが望ましいと考えているところでございます。   資料16-3の7ページに,26行目でしょうか,典型的には,前夫による嫌がらせ目的とあるわけですけれども,ほかに子の利益に反することが明らかと言える場合はあるかということについては,やはりもう少し議論をしていただきたいというところもございます。例えば,前夫に子を監護する意欲は十分にあるが,再婚後の家庭と比較して経済的な面などで監護能力に不安がある場合はどのように考えるべきかといったようなことについてです。そもそも前夫による嫡出否認が認められた場合について考えてみますと,現行の民法819条3項や5項を前提にすると母の親権というものは残存しておりまして,前夫と母による協議,又はそれが整わないときは親権者変更の審判手続を経なければ前夫が親権を持つことはできないことになると考えられまして,そうしますと,先ほど述べました前夫の経済的状況を含む監護能力や監護環境等の事情につきましては,嫡出否認の訴えの中ではなくて,後続の親権者変更の審判手続等の中で考慮することが望ましいのではないかとも考えられます。翻りまして,現行の法律上,明文で子の利益が要件や考慮要素等とされている場合としましては,例えば,民法であれば子の監護に関する処分,特別養子縁組の成立又は離縁,親権喪失などがあり,また,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律では,子の利益は返還拒否事由があっても例外的に返還を認めてもよい場合の要件となっているほか,手続法上の利益としても子の利益が考慮される場合があります。そのほか,民事執行法,人事訴訟法,家事事件手続法においても手続法上の利益として子の利益が考慮されるという場合がありまして,こうして見ますと,少なくとも実体法上は,子の利益というものが明文で要件,考慮要素と定められている場合には,親の経済的状況を含む監護能力や監護環境等の事情が考慮されることが一般的に想定されているように思われます。   もし本部会における検討の結果,子の利益に反することが明らかということに該当する場合が嫌がらせ目的の場合に限られるというような話になってくるのであれば,子の利益を要件としながらも前夫の経済的状況を含む監護能力や監護環境等の事情は考慮しないというようにも見えるわけでございます。その前提でありますと,前夫による否認権の行使という場面におきまして,子の利益に反することが明らかという要件を設定する場合,その他の場合に使われているもので一般的に想定される用法とは乖離した用法となるようにも考えられまして,実務上混乱が生じることが懸念されるところでございます。改めまして子の利益に反することが明らかというところにつきまして,要件の明確化やどういったものが当てはまるのかということについて,もう少し議論をしていただければと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど生物学上の父子関係の方について疑念が示されましたけれども,子の利益に反することが明らかであるときという部分について,基準としての明確さを更に検討すべきではないか,7ページにも言及されて,具体的にどういうものが入るのか,それとの関係で,ここで用いられている子の利益という文言が適切なのかということを検討する必要があるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。条文を幾つか挙げられて御説明がありましたけれども,子の利益という概念は最初に用いられたときからだんだん意味が変わってきているところがありますので,そういう動きも踏まえてどうするのかということを考えていく必要があろうかと思って伺っておりました。   ほかにいかがでございましょうか。今のところ第4につきましては,訴訟記録の問題は別にしますと,今の(4)の①のところに御意見が集中していて,ここをもう少し慎重にやる必要があるのではないかという御指摘が続いておりますが,この点でも結構ですし,ほかの点でも結構です。   垣内幹事から手が挙がっていますが,大森幹事もですね。では,垣内幹事,大森幹事の順番でお願いをいたします。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。   正にこの2ページの(4)の①の点に関してですけれども,先ほど中田委員の方から乙案を基本にしてされた提案という説明ではあったけれども,実質的には甲案をベースにしているような見方もできるのではないかという御指摘があったところで,確かにそういう面もあるのかなというように感じましたけれども,従前の中間試案における甲案との違いということで申しますと,私の理解では,中間試案の甲案というのは,前夫と子との間に生物学上の父子関係があることというのを訴訟要件として要求をするという考え方で,それに対して本日御提案いただいている(4)の①のところは,これは実体要件としてこの点を問題にするという位置付けの違いということが,違いとしては主な部分なのかなというように理解をいたしました。その点について,確かにこの補足説明と申しますか,部会資料の16-3の7ページのところで御説明いただいているところかと思いますけれども,生物学上の父子関係があるかどうかということを,言わば子の利益に反することが明らかと言えるかどうかの,何といいますか,指標として用いるという考え方に立つのであれば,実体的な要件という位置付けがあり得るということになるのかなとは思うんですけれども,果たして嫡出否認,現在の嫡出父子関係を否認するということが子の利益に反することが明らかであるかどうかということと,それを誰が問題にするのかということと,一致する場合は確かに多いのかなとも思いますけれども,常に一致すると言えるのかというと,そこがそうなのかということについて,私自身はなお若干自信が持てないところがあるように感じておりますので,その辺りについて更に検討を詰めることができるといいのではないかというのが1点です。   それから,訴訟要件か実体要件かということとの関係で,判決が請求棄却判決になるのか,それとも訴え却下判決になるのかというところが変わってくるかと思われますけれども,訴え却下判決の場合ですと,つまり中間試案の考え方ですと,生物学上の父子関係がない前夫の訴えは却下されまして,実体についての既判力は発生しないということになり,その対世効も問題にならないということになりますけれども,実体要件で請求棄却ということになりますと,父子関係のない前夫のした訴えの請求棄却判決が確定し,その結果として否認原因がないということについて対世効が生じるということになるものと思われまして,その効果の違いをどう考えるのかという点が論点として浮上するということになるのかなと考えております。その辺りについて違いがあるけれども,実体要件とした方が全体として適切な解決が図れるということなのか,更に具体的な検討をしていただけるとよいのかなという印象を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   2ページの(4)の①につきまして,生物学上の父子関係の存在というのをどう位置付けるのか,実体要件として捉えるのか,訴訟要件として捉えるのかによってこの要素の考慮の仕方,あるいは判決の効力について差が生じる,そういうことも勘案した上で更に検討する必要があるという御指摘を頂きました。ありがとうございます。 ○大森幹事 大森です。ありがとうございます。   前夫の否認権の要件について様々御意見が出ているところですが,私は前夫の否認権を認めるのかということ自体についても,パブリック・コメントの結果を踏まえて検討する必要があるのではないかと思い,そのことについて発言させていただきます。   部会資料16-3の6ページでは,パブリック・コメントとしては賛成する意見が比較的多かったと表現されています。しかし,実際に詳細版である参考資料16-1を拝見しますと,具体的には51ページになりますが,前夫に否認権を認めることに関する意見について,試案に賛成する意見が団体7,個人6となっているのに対し,反対する意見が団体8,個人2となっております。もちろん個人のお考えを軽視するという考えを持っているわけではありませんが,団体の意見はそれなりの人数がいる中で,意見を集約して取りまとめたものとして出ているものですので,それなりの重みがあると考えております。そうしますと,団体では反対する意見の方が多い状況にあります。   また,前夫の否認権は,前提として,再婚した場合でも前夫の推定が遮断されるわけではなく,再婚の推定がなくなれば復活することになっていますが,その点に関してのパブリック・コメントの結果を見ますと,むしろ遮断をした方がいいのではないかという意見の方が多くなっているのではないかと思います。   具体的には,参考資料16-1の27ページでは,再婚後の夫の子であるという推定に対する嫡出否認の効果に関する意見として,試案に賛成するのは団体6,個人3となっているのに対して,反対するのは団体8,個人2となっており,復活することに否定する考えの方が多くなっています。そうすると,それぞれの意見の中身をきちんと拝見しないといけませんが,前夫の推定が遮断されるなら前夫の否認権も否定ということになりますし,そのことも踏まえて前夫の否認権について検討する必要があるのではないかと思います。さらに,先ほどの御説明でもあったとおり,そもそも300日について否定すべきという考えを一番の前提とした御意見もあり,300日についてどう考えるのかということもまた議論をする必要があるのかもしれませんが,仮にそこをさておくとしても,前夫の否認権をそもそも認めるのか,翻って推定の復活を認めるのかということ自体も,パブリック・コメントの結果を踏まえ立ち止まって一度検討する,無戸籍の解消という観点も踏まえて検討する,そうした必要があるのではないかと思う次第でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   4-1についての指摘ですけれども,前提になっている前夫の否認権自体についてはどう考えるのかと,それについて考えるに当たっては,今御指摘を頂いたその前の問題です。嫡出否認の効果の方の問題と連動するので,そちらも併せて考える必要があるのではないか,先ほど幡野幹事から,(3)についてはパブリック・コメントの意見について慎重に評価する必要があるという御意見がありましたが,(4)についても同様に,どういう前提に立っているのかということを見極めた上で評価する必要があるのではないかということを含んだ御指摘かと思いました。(4)の1につきましては,今伺いますと,直前の大森幹事の御意見が出発点になる点かと思いますが,そのほかに下線が引かれている2か所,双方について慎重に考えるべきだという御意見が出ております。16-3の第4の中では,ここが今のところ一番難しそうだという感触を委員幹事がお持ちだということは,共有できたように思います。差し当たりここに出ております案が出発点となるとしても,今御指摘があったようなことを勘案して,ここは更に考えていく必要があるところかと思ってお話を伺っていました。   ほかに何か御指摘ございますでしょうか。   それでは,16-3のうちの第4につきましては,2ページの(4)の①につき,相当立ち入って検討する必要があるという御意見を頂いた,それから,2ページから3ページにかけての手続法についても,裁判上の訴訟記録の問題については多少検討が必要だという御意見を賜ったということで,今日のところは引き取らせていただきたいと思います。   大分長くなりましたので,ここで休憩いたしまして,休憩後に次の項目に入りたいと思います。手元の時計は15時8分ですので,15時20分から再開したいと思います。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,時間になりましたので,再開したいと思います。   残されている論点のうち,成年等に達した子の否認権,第三者の提供精子を用いた生殖補助医療によって生まれた子の父子関係に関する規律,それから,認知制度の見直し等について御議論を頂きたいと思います。   部会資料の16-3の第5から第7までがこれに対応するということになります。   第4は先ほど終わりましたが,第5以降の部分につきまして,事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○小川関係官 最初に,休憩前の大森幹事の御発言に関連して,集計に係る部分の御報告をさせていただきます。再婚後の夫の子との推定が否定された場合に前夫の推定が復活するとすべき,あるいはしないとすべきかというところの御意見の数と,前夫に否認権を認めることの当否に関する意見の反対意見の数の部分の御指摘があったかと思うんですけれども,事務当局の方で改めて結果の集計の確認をさせていただきたいと思うんですけれども,51ページの反対意見の方には,団体の中で少数意見として紹介されているものについても集計の中に入れさせていただいている部分がございます。当該団体の意見としては,賛成の方に記載しております。   いずれにせよ,今後の検討に際して,単純的な数の比較というところで何かが決まるものではないということは御指摘のとおりだと思いますので,御意見の中身も踏まえることが重要であるというのはその通りでございます。   すみません,追加させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   集計はいろいろ大変なところもあるでしょうが,整合性のとれた集計になっているのかという点はまた見直していただくとして,意見の参酌の仕方につきましては数だけに尽きるものではないということで,内容に応じて参酌していくということになろうと思いますけれども,事務当局の方にお願いをするとともに,皆様にも何かありましたら御指摘を頂ければとお願いをさせていただきます。   それでは,先ほどの部会資料の16-3の第5以下,8ページ以下について説明を頂ければと思います。 ○小川関係官 御説明いたします。   部会資料の16-3の8ページ以下を御覧ください。   まず,第5の成年等に達した子の否認権についてですけれども,パブリック・コメントの結果につきまして,成年等に達した子の否認権を認めることに賛成する意見が19件という形で,多数でございました。これに対する反対意見としては7件と,一定数ですがございました。賛成する意見の中で申し上げますと,成年に達した子の否認権の要件として一定の要件を課すことについては,これに賛成する意見が5件,反対する意見が7件ときっ抗しておりました。賛否共通して多かった意見といたしましては,一定の要件を法律上設定することが難しいという指摘が多くございました。そのような理由も挙げて,一定の要件を課すことに反対し,そういった場合については権利濫用等で対応すればよいとするような御意見があった一方で,一定の要件を明確に設定できないというのであれば,成年に達した子の否認権を認めること自体に反対するという御意見もありました。   これを受けまして,本部会資料では,まず,一つ目としましては,乙案のような制度を設ける立法事実としてどのようなものが考えられるのかという点について,また,乙案について一定の要件を具体化することについて検討をしております。具体的な要件については,8ページの乙案の③で,子が母の夫から継続的に養育を受けたことがないときという形で記載しております。否認権を制限するといたしまして,このような要件設定が適切かどうかというところについて御意見を頂戴できればと思います。   次に,第6,11ページですけれども,父子関係の当事者の一方が死亡した場合の規律については,パブコメの結果の概要を記載しておりますが,具体的な案については次回以降御議論いただきたいと考えており,今回は具体的な案は記載しておりません。   12ページを御覧いただきまして,第7の2ですけれども,第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の父子関係に関する規律について,具体的な案を提示させていただいております。   内容を申し上げますと,母の否認権につきまして,これを認める場合につきましては,生殖補助医療法第10条に対応する形で,夫の同意があるときは,母も嫡出否認をすることができないものとするとの提案をしております。   また,②で,未成年の子につきましても,夫の同意があるときは,生まれた子の身分関係の安定を図るという観点から,未成年の子も否認できないものとするという提案をしております。   さらに,(注1)ですけれども,前夫の否認権の関係では,民法の嫡出推定制度の特則は設けないということで記載しております。   成年に達した子の否認権との関係については,引き続きの検討とさせていただきたいという形で書かせていただいております。   以上について御意見を頂ければと思います。   最後に,15ページの認知の効力に関する見直し,それから19ページの認知に関する見直しについて御説明します。   パブリック・コメントでは,事実に反する認知の効力に関する見直しについて,中間試案の提案のうち,認知取消しの提訴権者や期間について制限を設けるということに対しては,賛成する意見が13件と多数で,明示的に反対する意見はございませんでした。   国籍取得など不正の目的があったときは,認知は無効とするということに対しては,反対する意見が7件,賛成する意見の5件よりも若干ですけれども多くなっております。   また,未成年の子の認知に関する規律につきましては,子の承諾を必要とするということに賛成する意見が12,反対する意見が4件となっています。ただ,認知者が子の父であるということを証明したときは,承諾がなくとも認知することができるとしていた点につきましては,現行法上,成年に達した子の認知について子の承諾が必要とされている一方で,中間試案のような例外が設けられていないということの整合性をどのように取るのかといった御指摘もありました。   以上を踏まえまして,15ページですけれども,本部会資料では,認知が事実に反する場合の取消しの訴えの提訴権者と提訴期間について,具体的な提案をしております。提訴期間について,本文では嫡出否認の期間制限に合わせる形で3年,5年という形にしておりますが,そのことの当否について御意見を頂くということとともに,嫡出推定と認知との性質の違いを踏まえて,(注2)に,16ページですけれども,記載しておりますとおり,子が成年に達するまでは認知を取り消すことができるものとするという規律を設けることも相当とも考えられますので,こちらについても御意見を頂戴できればと思っております。   最後に,試案に対して寄せられた意見について,以上御報告したほかに,中間試案としては提案しておりませんでしたが,補足説明に補記として議論の経過を記載しておりました「嫡出」の用語についても,複数の団体,個人からこれを見直すべきとの意見が出されておりましたので,御報告いたします。   資料の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第5以下について御説明を頂きました。第6はペンディングになっており,第7の1もペンディングですね。その余の部分について,特に第5の成年に達した子の否認権について,乙案を採るというときに具体的にどうするかということについて一定の案を作ってみたということ,それから,12ページの第三者提供精子による子どもの父子関係につき,母の否認権,未成年の子の否認権というものについて案を出しているということ,3番目に,15ページから後の認知の取消しについて,線が引いてあるところがありますが,15ページの3の(1)の②,あるいは16ページの(注2),この辺りについて御意見を頂きたいということ。以上のようなお話だったかと思います。その他の点についてももちろん御意見があれば伺いますが,大体予定の時間で進んでいますので頭から順にやってもいいのですけれども,時間切れになることを多少恐れまして,今まで御意見を必ずしも十分に伺っていない新しい問題である生殖補助医療の部分につき最初に御意見を頂き,そして認知の点について御意見を頂き,最後にずっと議論をしております成年に達した子の否認権について御意見を頂くという順番で進めさせていただきたいと思います。   それで,12ページの第三者提供精子により生まれた子の父子関係に関する検討,この辺りからと思いますが,いかがでございましょうか。 ○窪田委員 具体的な中身についての意見ということではないのですが,今後の進め方にもちょっと関わると思うのですが,基本的に12ページに書かれていることは,特例法の10条を踏まえた上でどういうルールを追加するかということではあると思うのですが,最終的に民法の中に書き込む場合にどういうふうになるのか,その点が重要なのではないのかなという気がいたします。特例法はあるので父からの否認権の排除についてはもうそこに委ねて,そして民法にはその追加の部分だけを規定するということになると,何か非常に気持ちが悪い形での規定の仕方になるのではないかという気がします。これは単に法務省だけで判断できることではないのかもしれませんが,個人の希望としては,仮に特例法10条の規定をそのまま採用する場合であったとしても,やはり父の否認権の排除ということが基本的なルールになるだろうと思いますし,その部分を含めた形で民法に書き込むような形での法改正の方向で検討していただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   特例法の規定との関係をどうするのかということは,中間試案の取りまとめの前にも幾つか御意見を頂いたところでございますけれども,このような具体的な案が出たときに,民法にどういう規定を置くというのが据わりがいいのかということも含めて考える必要がある,規定の内容とは別にそういうことも考えていく必要があるという御指摘だったかと思います。これについて,事務当局の方で何かありますか。 ○佐藤幹事 事務当局でございます。   今御指摘ございました特例法に関しましては,御承知のように議員立法ということでございますけれども,この特例法を踏まえた規律を,今後見直しを進めた上で,最終的にどこにどういう形でその規律を置くかということについては,もちろん一つの可能性としては民法の中でということはあるんですけれども,むしろそもそもの議論の出発点がその特例法を前提としてというところからすると,その特例法の方に入れ込むということも十分考えられるであろうと思っております。その場合,手続的にどういうふうに進めていくのかということは,また検討が必要になってまいりますけれども,事務当局としてはそういった可能性も視野に置いているということまでは申し上げられるところでございます。 ○大村部会長 窪田委員,よろしいでしょうか。 ○窪田委員 はい。結構でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに,この生殖補助医療関係の規律につきまして御発言ございませんでしょうか。   髙橋委員,それから幡野幹事の順番でお願いいたします。 ○髙橋委員 ありがとうございます。   まず,母親の否認権の特則とありますけれども,これは母の否認権を認めるかどうかの議論がまず先にあって,認めた場合には母の否認権の特則を置く必要があると,そういう趣旨なんだと思うんですけれども,そうすると,母親が未成年の子の代理人であったときに母親が行使できるかと,それは未成年の子の否認権を否定することで母親に行使させない,まずそういう構造になっているということでよろしいんでしょうか。そういう構造になっていると,そこで幾つか疑問があるんですけれども,例えば特別代理人などで母親がなる場合なども想定して,なお母親の否認権の特則を置く必要があるのかどうかという問題が残っていくのかなと一つ思います。   それはさておき,未成年の子の否認権を原則として否定してしまうと,自然生殖の子の場合は未成年の間は母親が代理人になるから自分で行使はできない,ただ,成年になったら,これから議論してどうなるか分かりませんけれども,認めるという案があると,ちょっとそれとパラレルに考えますと,生殖補助医療で生まれた子はもうできないのが原則になっていて,(注2)で成年に達した後は引き続き検討とありますけれども,原則としてできなかったのが成年になったらできるようになるとすると,自然生殖の場合は行使が抑えられたのが行使できるようになるんだけれども,生殖医療の場合はできないのができることになるということなので,ちょっと難しくなってしまわないかなということが心配なんですけれども,その辺り,何かこういうふうな規定にした理由を御説明いただけますでしょうか。 ○小川関係官 母が子の特別代理人になるケースについてということかと思いまが,その場合も未成年の子の否認権行使についての特別代理人という形になりますので,今回の提案の趣旨としましては,特別代理人として母がなるというケースも含めて,②の規律で制限されるというふうに御提案としてはさせていただいているところです。成年の方については,否認を認めるという考え方と,やはりこの場合も,妻が夫の同意を得て生殖補助医療により生まれた子については,否認できないという規律を置くということも考えられるんだろうということで,(注2)は両方あり得る前提で,そもそもの成年に達した子の否認権の議論も途上ですので,今回はこのような形で書かせていただいております。両者の整合性について,もし②の規律と(注2)の規律がずれるということになった場合の説明については,御指摘を踏まえて今後検討させていただきたいと思います。 ○髙橋委員 ありがとうございます。   それから,前夫の否認権について,14ページからです。説明がありまして,これは自然生殖の場合と分けないで,特に嫡出否認権を制限しなくていいと書かれていると思うんですけれども,結論は,考え方はあると思って,私も必ずしもこういう考え方を否定するわけではないんですけれども,ただ,理屈の問題としてかなり自然生殖に近くなるなという印象がありまして,同意をしたことがかなり自然生殖と同意してできるような親子関係に近くなっているなという印象があります。その辺り,同意の効力がただ単に嫡出否認できないだけのことではなくて,何か自然生殖に近くなってくるというような,そのような意味合いを持つのではないかなと思うんですけれども,その辺りは何か御説明ありますでしょうか。 ○小川関係官 15ページにも書かせていただいたとおり,自然懐胎によって生まれた者なのか生殖補助医療によって生まれた者なのかというところを,出生届等の段階で何か差異を設けること,また,それが戸籍上に表れるということを避けるべきではないかという考え方は,平成13年の生殖補助医療関連親子法制部会の方でもあった御指摘ですので,両者の区別をなるべく生じさせないという形で書かせていただいております。そのため,御指摘のように,自然生殖に近くなっているという側面もあるのかなとは思います。 ○髙橋委員 ありがとうございます。   それから,これは父親がその母親の生殖補助医療について同意をしたときの話で,夫の同意がなかった場合,母親は否認権を行使できるのかということなんですけれども,こちらの説明によりますと,13ページの下の5行ぐらいのところに書いてあるんですけれども,真に夫の子とする意思を有していることが通常であるかについて疑問の余地があると言えるとあるんですけれども,第三者提供精子で子どもを産むことについて何らかの事情で夫の同意がなかったという場合には,多分いろいろな場合があると思います。それに賛成してくれなかった夫とはもう何か信頼関係が持てないということで,母親も否認したいのではないかという場合もあるかもしれませんけれども,いや夫との夫婦関係までなくしてしまおうとは思っていなくて,やはり夫の子としてそのまま育てたいという場合もあるのではないかと思うので,必ずしも夫の子にしたいという意思がないとまでは多分言えないんだろうと思うので,この辺りはいろいろなケースがあるのではないかなと思っております。   それから,ちょっと続けますけれども,14ページの一番上の行なんですが,母の同意の有無にもかかわらずというところが入っているんですけれども,この母の同意の有無というのはちょっとどういうことを想定していることなのか,ちょっと御説明いただければなと思います。 ○小川関係官 母については,現行の法文上母が同意しているかどうかを要件としていませんので,その旨を書かせていただいています。本部会資料でも,①にあるように,妻が夫の同意を得てという形のみ,同意については要件とすることを提案しております。 ○髙橋委員 夫は母が生殖補助医療をすることに同意するという,そういう意味での同意だと思うんですが,そうすると,母の同意とは何についての同意という意味になるんでしょうか。 ○小川関係官 例えば,第三者提供精子による生殖補助医療を受けるということに対して同意をするということが,観念はし得るんだろうと思います。 ○髙橋委員 その同意は夫に対してということですか。それとも医療を受けることについてということですか。 ○小川関係官 そこは規律としてはどちらもあり得ると思います。いずれにせよ,本部会資料では,母の同意は明示的に必要とはしていません。 ○髙橋委員 そうすると,生殖補助医療に同意というのは,父親が母親に同意をすることは要件だけれども,母親が夫に同意するは要件にしていないという,そういうことですか,ここは。 ○小川関係官 今回,母親の同意は,今おっしゃった意味においても提案としては入れておりません。 ○大村部会長 そこのところは今の御説明のとおりだとしても,やや分かりにくいところがあるので,事務当局で持ち帰っていただいて少し検討していただいた方がいいかと思いました。   髙橋委員の御質問は更に続きますか。一応今のところで終わっているということだとすると,御指摘いただいたのは,12ページの2で①,②というルールが上がっていて,それに(注1)(注2)が付いているけれども,この(注1)(注2)が本文で書かれているルールと整合しているかということ,それぞれについて疑問が生じ得るという御指摘を頂いたものと理解をいたしました。整合していなくてもよいのだとすると,それはなぜなのかという理由も含めて更に検討する必要があるところかと思います。   それから,今直前に同意の問題が出ておりましたけれども,①,②はいずれも妻が夫の同意を得てということを前提にしておりますけれども,同意がない場合についてどうするのか,13ページの下から5行目には一定の説明がされているけれども,これで全てを尽くすのだろうかという御疑問も提起されたと理解をしております。これは今回具体的な案として形をとって出てきておりますけれども,最初に申し上げましたように新しい問題ですので,詰めて考えるということになると様々な問題が出てくるところかと思いますので,御指摘を更に頂ければと思います。   幡野幹事が次で,それから石綿幹事からも手が挙がっておりますので,幡野幹事,石綿幹事という順番で,どうぞ。お願いいたします。 ○幡野幹事 ありがとうございます。   母の否認権,未成年の子の否認権の特則を設けるという案ですけれども,これらの案は特例法の10条というものをベースに作られたルールであると思われますが,特例法というのは,そもそも否認権者として夫のみであることをベースに作られた法文です。今までは否認権者であった夫の同意というものを得てという形で文言が規定されておりますが,否認権者が拡大したことに伴い,夫のみに同意を求めるという記載ぶりでいいのかどうかも検討の余地があるように思われました。そしてその際に,やはり母親に否認権を認めていたり,未成年の子に否認権を認めているほかの国でどのような立法が成されているのかということは,参照したいと思っております。実は,法務省による生殖補助医療に関する比較法調査の委託研究でフランス法部分について執筆させていただきました。比較法のデータを広く共有した上でこの問題を議論したいと思っておりますが,いつ頃この部会で法務省委託研究が部会の先生方に共有できるのかということをお教えいただければ有り難く存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御指摘のように,子ないし母の否認権を認めたという外国法の立法例で,こういう生殖補助医療の問題にどのように対応しているのかということは,立法する際にも参考になるのではないかというのは確かだろうと思います。委託調査もなされているわけですけれども,事務当局の方で,いつから参照可能なのかは分かりますか。 ○佐藤幹事 ありがとうございます。今御指摘を頂きましたので,委託調査の結果自体,できれば次回にもお示しできないかということで,準備,検討を進めたいと思っております。 ○大村部会長 比較的早めに出していただけるのではないかと思いますので,またそれを踏まえて,幡野幹事,その他の方々から具体的な御指摘を頂ければと思っております。 ○石綿幹事 ありがとうございます。   先ほどの髙橋委員の御発言を聞いていて,前提を確認した方がよいのではないかと思ったことがあります。特例法において,そもそもなぜ第三者提供精子による生殖補助医療を受けた場合に父の否認権の行使が制限されるのか,目的として子の地位の法的安定性というのがあるというのは理解しているのですが,どうして同意をしたことによって否認ができなくなるかという,前提を確認した方がよいのではないでしょうか。特例法の10条をどのような意味を有するものだと整理をしていくのか,例えば一つの考え方として,11ページの第7の1の嫡出の承認制度に類似するような制度として,今後生殖補助医療の同意というのが位置付けられるのか,といったようなことを一度議論する必要があるのではないかと思いました。そのことによって,母の否認権の行使が制限されるのかという問題についても,母自身も同じように第三者提供精子による生殖補助医療の利用について同意をしているということが影響するのか,ということを議論する際の参考になると思います。また,未成年の子の否認権の行使ができるのかというのも,生殖補助医療の利用に同意をした母自身が子の否認権を代理行使するというのは,ある種の禁反言というか,矛盾するような行為だからできないのか,あるいはやはり子の法的安定性から一度生殖補助医療で成立した法的父子関係は否定できないと考えるのかといった議論につながるのではないかと思います。なぜ否認権を行使することができないのかということを議論することが,髙橋委員からの御発言の特に成年に達した子の否認権の行使などを議論する際に有効なのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   否認権が制約される理由を改めて確認するというところからスタートして,ここに置かれるべきルールをどうするかということを考える必要があるのではないかという御指摘を頂きました。   ほかにこの生殖補助医療関係について,御発言ありますでしょうか。 ○棚村委員 今の石綿幹事,それから前の髙橋委員の御質問とも関連するのですけれども,これはやはり特例法で,かつ議員立法ということで,非常に他との整合性というのは余り意識しないで,端的に結論的なところだけを取り込んで民法にこういう規定を是非入れてほしいという,こういう提案だったと思います。特にこれは否認できないという形で消極的に規定をされているのですけれども,翻ってみると,やはり夫の同意というのがあると同意にどういう法的効果が与えられて,父に積極的になるという効果を与えるのか,それとも親であることを否定できないというそういう消極的な規定ぶりになっているのか,それも同意とういうものをどういうものとして位置付けるのか,髙橋委員がおっしゃっていたように,親になることの同意なのか,医療を受けるということの同意なのかで,医療行為という側面と,それから親子関係について大きな効果が発生してくる側面もあり,同意の取り方や内容も随分変わってくると思うのです。その辺りは医療行為の行為規制の部分と,それから親子関係についてどういう効果が生じるのか,そのときに同意というのをどういう内容のものを誰がどんな形で説明をして取っていくのか,どう記録として残していくのかということは非常に重要だと思います。   そこで,今回の特例の位置付けとか検討についても,かなり重要な法的効果を生じる,同意の取り方も含めてですけれども,説明の仕方も含めて,かなりきちっとした法的枠組みを作り,医療行為の規制と親子関係の法規制が役割分担をしながら民法の中に規定を入れないと,これをそのまま取り込んで規定をするというのはなかなか難しいのではないかなという感じを今持っています。ですからそういう意味で,今回の否認権の特則ということで,幡野幹事もおっしゃっていましたけれども,比較法的な海外の例も参考にしながら,今の民法の枠組みの中で母の否認権や未成年の子の否認権を認めた場合に,どういう場合に何があれば制限されるのかということについても慎重に検討する必要があるのではないかと考えました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの髙橋委員の御発言の中にもありましたけれども,なかなかこの同意というのが難しくて,行為規制法の方の扱いがどうなるのかということも考えなければいけないということで,生殖補助医療立法について考える際には,規制法と民法と両方の進み具合を見ながら,これまでもやってきたということなのかと理解しております。この先,同意についてどのような枠がはまっていくのかということも考えながら,当部会としては民事的な規律の中で同意をどう位置付けるのかということを考えていかなければならないだろうと思いますけれども,なかなか不確定な要因もあって難しいところがあろうかと思います。それにしても考え方の整理をしておく必要があるのではないかという御指摘が,棚村委員からあったと受け止めております。どうもありがとうございます。   ほかにこの関係で御発言はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。特例法の規定を踏まえて,それに直ちに対応するということで,簡単にいきそうにも見えるんですけれども,なかなか難しい問題がありそうだということがある程度まで分かったように思います。   それでは,引き続き,15ページ以下の認知の効力に関する問題につきまして,御発言があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○磯谷委員 この中で,例の認知無効に関連して国籍取得の問題を絡めている点については,どうもパブリック・コメントを見ても様々な意見があるところだと思います。恐らくは国籍を不正に取得するということ自体は,やはりできる限りそれは阻止すべきだし,取り締まっていくということは恐らく余り異論がないところだと思いますけれども,やはりパブコメの意見を見てみますと,仮にそういう経過であったとしても,子どもが日本国籍を得て長く日本の国で成長して,ところがある日突然その国籍を奪われてしまうということを想像すると,それはその子どもには何の責任もないことで,自分のよって立つ立場を失うということになる,その辺りについては,条約上の国籍を得る権利であるとかそういったところも引用して,非常に懸念をする意見も出ているところだと思うんです。   この点については,何分私自身も余りこの国籍取得,あるいは例えば国籍を失った後,一体この子がそれでも在留特別許可などを得て日本で生活をしていけるのか,あるいはその辺りも何の保障もないということなのかとか,そういったところも含めて,あるいは先ほどちょっと触れた条約のところについても,どういうふうに条約上の義務を考えていくべきなのかといったところについて,余りに知見が不足していると思うんです。ここにお集まりの先生方も,家族法を中心に様々な実務をご経験になり,あるいは優れた研究をなさっていると承知しておりますけれども,この部会ではこういった国籍の点に関して特別の知見を要求されてはいなかったんだろうとも思うんです。   そうすると,そういう中で民法に事務当局が御提案のような規定を入れるということで,十分な検討ということになるんだろうかという根本的な疑問がやはり払拭できないと思います。今のところ私はやはりちょっとこれを民法に入れるのは,なかなか少なくともこの手続の中で入れるのは難しいのではないかと考えておりますけれども,仮にいやそれでもという場合には,やはりその辺りの議論の手当て,あるいは材料とか,あるいはこういったものの何か研究であるとか,あるいはこういった実務についての御説明だとか,多分相当な材料と知見を頂く必要があるのではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   具体的な問題として,国籍取得に関わる問題,先ほどパブリック・コメントの結果と併せて御説明があったところかと思いますけれども,国籍について民法で規律することの当否,その前提として十分な判断ができるだろうかということについての御懸念を伺いました。やるのならば相当の情報や知見が必要になるということで,そうした点についての御要望もあったと受け止めました。ありがとうございます。 ○佐藤幹事 ありがとうございました。   パブリック・コメントの御指摘が今ございまして,子どもがその意に反して国籍を奪われてしまうのではないかという,そういう趣旨の御意見が寄せられたということの御指摘を頂きました。この点につきまして,私ども元々この国籍との関係で想定しております問題の位置付けでございますけれども,国籍法の第3条に認知された子の国籍の取得についての規定がございまして,これは日本国籍を有していない子どもが,日本人によって認知され,そして国籍取得の届出をすることによって日本国籍を取得するという局面において,その認知が真実に反していないかどうかが問題になるというところでございます。すなわち国籍を取得するかどうかということを審査するという場面での問題でありまして,既に日本国籍を有している子が,その認知が不実であるということによって日本国籍を奪われるというような局面は,国籍事務の中ではあまり想定はされないのではないかなと考えているところでございます。そういう意味でいいますと,国籍を奪われるといった点での条約との整合性等について寄せられた御指摘も,実際の国籍事務との関係でいうと,実はその御懸念は当たらないのではなかろうかという受け止めをしているところでございます。なおも十分に検討する必要はあろうかとは思っておりますけれども,この点だけ申し上げておきたいと思いました。 ○磯谷委員 ありがとうございます。   だから正にその辺りが多分知りたいところになると思うんです。そして今おっしゃっていただいたところは大変重要なところなので,正にそれがいろいろな方面から検討しておっしゃるとおりなのか,その場合に一体ではどういう形で国籍をそうすると認めるといいますか,維持したままということになるのか,その辺りもちょっと私どももよく分からないものですから,国籍法を踏まえた形で御説明を頂けるといいのかなと思います。 ○佐藤幹事 御説明させていただくことについて,検討させていただきたいと思います。ありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいですか,磯谷委員。ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。   16ページのエないしオの辺りについて御発言がありましたけれども,15ページの3の(1)について,何か御発言,御指摘等があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   特にございませんでしょうか。それでは,この点については,今頂いた御指摘を踏まえて更に検討するということにさせていただきたいと存じます。   順序を逆転いたしましたけれども,戻りまして,8ページから後の成年に達した子の否認権の問題について御意見を頂ければと思いますが,こちらはいかがでございましょうか。 ○磯谷委員 今回,パブコメを踏まえて一つの御提案として,乙案に③のところで否認を認めるときの要件として,母の夫から継続的に養育を受けたことがないときでなければ否認することができないという案を御提案いただきました。これ自体の当否というところはいろいろあり得るだろうと思います。継続的にといってもどのぐらいなのかとか,それは詰めなければいけないところはあるのかなとは思っております。余りちょっと私,具体的な案ではないのですけれども,ちょっとやはりパブコメの中で一定の限定を付す,うまく付せないのであれば成年に達した子の否認権を認めるべきではないという御発言もあったもので,若干懸念をして発言させていただくのですけれども,やはり私自身一番懸念するのは,もう実情としても全く父子関係が実態としてもない状況で,ただ何らかの理由で当初の否認権行使がうまくいかなかった,それで形骸化した父子関係だけが残っている,そういう状況を成年に達した子どもがそこをきちんと脱却できるようにするということは,やはり大変重要なことではないかと思っているものですから,そういう意味では,なかなかこの要件を設けること,要件をどう設けるかというのはなかなか難しいところではありますけれども,是非ここは議論を尽くして,おおむね一致ができるような要件があれば,やはりそれを踏まえて最終的にはこの成年に達した子の否認権を認める方向でいくことを期待したいなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   現在の書き方がこれでいいかどうかということについては,様々な御意見があろうかと思いますけれども,基本的にはこういう発想に従って否認ができる場合を残す方向で考えていきたいという御指摘として承りました。ありがとうございます。   ほかには,第5についてはいかがでございましょうか。 ○大森幹事 今の磯谷委員の御意見に似た観点ですが,成年に達した子の否認権の要件を課すかどうかという点についてのパブリック・コメントの詳細については参考資料16-1の71ページから74ページにかけて載っていますが,要件が必要ということに賛成の意見が団体5で,要件には反対の意見が団体6,個人1となっていますけれども,要件が必要という意見でも内容を見ますと,例えば72ページの千葉書士会のところでは,要件については一般原則である信義則によって対応するということも考えられると書かれていまして,特定の要件でないといけないと考えているわけでもないようにも思いますので,賛成と反対の振り分けの仕方がどうかと気になりました。  また,参考資料16-1の65ページ,66ページを見ますと,いずれにしても,成年に達した子どもの否認権自体は認めるべきという御意見の方が圧倒的に多いことを踏まえますと,今日の部会資料の10ページの,一定の要件設定ができない場合には成年に達した子の否認権の制度を設けることは相当でないと考えられるという記載は,少し書きすぎではないかと思いまして,発言させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   要件を設ける必要があるかどうかということ自体について,あるいは要件を設けるとしても明確な要件でなければいけないのかということ自体についても,別に考える余地があるのではないかという御指摘を頂きました。こうした事案がどのぐらい出てくるのかということにも関わるところかと思いますけれども,今の御指摘も含めて,先ほどの磯谷委員の御意見もありますので,これにつきましては引き続き検討する必要があろうと思います。今日の段階でこの部分について御意見,あるいは御指摘があれば更に伺いたいと思いますが,手が挙がっているのは裁判所ですね。どなたの御発言になりますか。 ○木村(匡)幹事 最高裁の木村です。ありがとうございます。   今,一定の要件について,御意見が出ているところでございますけれども,今回の部会資料において,この一定の要件について示されているわけでございまして,文言としては,母の夫から継続的に養育を受けたことがないときでなければ否認することができないというような形になっておりまして,これが裁判手続というものを想像してみますところ,どちらがこの要件を立証していくのかというようなところで,継続的に養育をしてきたというようなことを,夫,父の方が立証していくというような,反証といいますかということを考えてみますと,一定期間というのがどれぐらいになるかとか,そういったところは引き続き検討というところと記載されているところではありますけれども,父として子を育てている,養育をしてきている中で,それについて証拠を残しておかないと裁判手続において負けてしまい,否認されてしまうというようなことも考えられると,この一定期間というのがどれぐらいを想定されるかというところはありますけれども,一部については証拠があるんだけれども,一定期間には満たないとか,そういった証拠というものがあるないというところで,養育をしてきたにもかかわらず否認されてしまうという大きな影響が生じるというようなことにもなるというところがありまして,ここのところの要件設定につきまして,一般的に裁判手続,審理判断をしっかりやっていくわけですが,法的安定性を確保できるような形で,予測可能性も確保した形でというところから,要件をしっかり設定していただきたいということも,これは一般論としてあるところでございますし,また,立証の面も見据えて裁判手続がどうなっていくかを考えますと,そういった今申し上げたところからしても,要件についてはよく検討していただきたいと思いますので,一言申し上げさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   手続上の問題を御指摘されたわけですけれども,あわせて,御発言の中には,父の側の利益という問題もやはりあるのではないかというニュアンスも含まれていたように思います。そうしたものも含めて更に検討をするということになろうかと思いますが,この問題につき,ほかに御発言があれば伺います。いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   これはなかなか難しい問題で,基本的なスタンスをどうするかというところもございますし,要件化するときにどのような詰めが可能なのかという問題もあろうかと思いますけれども,引き続き検討をしていくということにさせていただきたいと思います。   それで,個別の点について,今三つに分けて御意見を伺いましたけれども,先ほど御説明があった第5以降の部分について全体を通じて,御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○大森幹事 パブコメの詳細版を拝見しますと,参考資料16-1の119ページですけれども,かなりの団体,個人の方から,「嫡出」の用語の見直しに関して積極的な御意見が出ているところでもあり,このことについて何も取り上げなくてもいいのかという点が気になります。いかがでしょうか。 ○大村部会長 この補記については,先ほどの御説明の中でも触れられていたかと思いますけれども,この先の扱いについて,事務当局の方で何かお考えがあればお願いします。 ○小川関係官 パブリック・コメントの結果を踏まえて皆様の御意見も頂戴したいと思いますけれども,嫡出でない子について,認知の効力を争う規律についてどのように見直すかというところも,現状方向性が定まっていないところもございますので,このような状況も踏まえまして,今後の取扱いについて検討させていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。これについてもいろいろな意見がございましたし,委員幹事の中からも意見が出ていたところかと思います。ただ,今御指摘のあったように,関連の制度が定まらないと,この用語をどうするかというところも定まらないという面も確かにありますので,この先の議論の中で,これが直せるという環境が整ったのではないかということで御発言を頂くようなことがあれば,それに応じてまた検討をするということになろうかと思います。ありがとうございます。   ほかに全体について御発言はございますでしょうか。 ○窪田委員 今大森幹事から出た嫡出という言葉について,ちょっと私も意見を述べてよろしいでしょうか。基本的には今部会長から示されたような方向で検討していっていただくということでよろしいのだろうとは思いますが,おそらく嫡出という言葉を使うかどうかについては,嫡出という概念が適当なのかどうなのかという理念的な問題がる一方で,本当に嫡出という言葉が個々の条文に照らしてみたときに分かりやすい言葉なのだろうかという,非常に素朴な問題もあるのではないかと思います。ちょうど部会資料の16-3がありますので,その第4のところで見ると,夫の否認権の見直しということで,夫は子が嫡出であることを否認することができるというわけですけれども,これは普通に考えてみたら,自分の子であることを否認することができると言っているだけのことであって,日常的な法律家ではない人にとって嫡出であることを否認するとかというのは,決して分かりやすい言葉ではないように思います。したがって,理念として嫡出という言葉を残すか残さないかということとは別に,やはり何かもう少し簡単に書き直すことができる部分については,それを検討したらいいのではないかなという気がします。最終的にはほかの部分との調整という問題が残るのは当然だと思いますが,この言葉を考える上では,ちょっと2点,違う視点からも検討していただきたいと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   親子法の規定は,明治に規定が作られて以来,実質的な修正がされずに今日に至っているので,言葉が古くて難しのではないかという御指摘を頂いたと理解をいたしました。余計な話ですけれども,債権法改正では瑕疵担保責任といった言葉はやめた方わけですが,そうした文脈での御発言と伺いました。 ○棚村委員 私も全く窪田委員と同じです。多分井上委員も同じだと思うのですが,やはり用語として嫡出子とか嫡出性とかというのが,レジティマシーとか,要するに正統か正統でないかみたいな用語だったのを,海外はもう改めたわけです,差別も撤廃するというので。だから今言われたように,根本的に仕組みを,全体を変えなければいけないということで,非常に難しい部分もあるかもしれないのですが,ただ,言葉として表現として適当でないものをできるだけ改めるという努力は必要であると思います。もし,差別的な表現と誤解されないものを改めるということは,これは民法の体系全体を大きく揺るがすことではなくてできるのであれば,是非その取組をしてほしいと思います。このことは,私の従前からの意見であって,是非今大村部会長もまとめてくださったように,ちょっと用語として適切でないものをもうちょっと分かりやすくというのもあるし,余り差別的に受け取られることがないような言葉に置き換えていくということも,検討していただけると有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   井上委員からも手が挙がったでしょうか。 ○井上委員 私も窪田委員,棚村委員,大森幹事の意見に賛成です。やはりチャンスを逃すとまたいつになるかというところもきっとあると思いますので,こういうパブコメでたくさん意見が出ているというこのチャンスを捉えて,それから分かりやすくという観点もやはりあると思います。私は専門家ではないので,いつも一般国民としての立場で出ているわけですけれども,やはり法律用語が難しくて分かりづらいというのもありますので,そういう観点からも是非今後の御検討をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   複数の委員から御意見を頂きましたので,それを踏まえて更に検討をするということにさせていただきたいと思います。   ほかに全体についてございますでしょうか。   それでは,あと残る資料が16-2ということになりますが,またここで多少休憩を入れてからやりたいと思います。現在16時25分ですので,10分間休憩して,16時35分に再開したいと思います。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。   部会資料の16-1,16-3につきまして御意見を伺ってきました。残っておりますのが16-2でございます。残りの時間でこれについて御意見を伺いたいと思います。中身は嫡出推定の見直しと,それから女性の再婚禁止期間の見直しということでございます。   まず,事務当局の方から,16-2に基づいて御説明の方をお願いいたします。 ○濱岡関係官 御説明いたします。   部会資料の16-2を御覧ください。パブリック・コメントの概要にも言及した上で,部会資料の内容を簡単に御説明したいと存じます。なお,具体的な件数や意見の詳細は,参考資料16-1の該当箇所を御参照いただければと存じます。   まず,嫡出推定の見直しについてですが,パブリック・コメントでは,妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定するとともに,妻が婚姻前に懐胎した子であっても,妻が婚姻の成立した後に出産した子は夫の子と推定することについては,賛成する意見が多数でした。婚姻の解消又は取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定することについては,賛成する意見が18件,反対する意見が14件と,賛成する意見の方が比較的多いという結果でした。また,300日という期間を短縮すべきといった意見もありました。嫡出推定の例外としましては,再婚後に出生した子を再婚後の夫の子と推定することについては,賛成する意見が19件,反対する意見が8件と,賛成する意見の方が比較的多いという結果でした。再婚後の夫の子と推定する規律の適用範囲については,前夫の死亡の場合も含めて,一律に再婚後の夫の子と推定する甲案について賛成する意見の方が多数でした。また,これに関連してですが,嫡出推定制度の例外について,母が前夫と関わりを持つことなく前夫の子との嫡出推定を否定する規律を求める意見もありました。   部会資料では,パブリック・コメントで寄せられた意見も考慮しつつ,基本的には中間試案での提案を維持することとしております。パブリック・コメントの意見も踏まえた理由については,1ページ以下でその理由について記載しております。今回,特に議論いただきたい点でもありますが,7ページ以下で,強制認知がされた場合には前夫の子と推定しないとする規律について検討しております。先ほど申し上げたとおり,パブリック・コメントでは,嫡出推定の例外について,母が前夫と関わりを持つことなく前夫の子との推定を否定する規律を求める意見が相当数あったことも踏まえまして,現行法の嫡出推定制度の連続性の観点からも許容し得るような制度設計の余地がないかについて御意見を頂ければと存じます。   次に,8ページの第2の2の再婚後の夫の子であるという推定に対する嫡出否認の効果についてです。パブリック・コメントでは,再婚後の夫の子であるという推定が否認されたときは,再婚後の夫の子との間の父子関係は出生のときに遡って消滅し,子は出生のときから前夫の子と推定することについて,賛成する意見は9件,反対する意見は10件と,ほぼ同数でした。部会資料では中間試案の提案を維持することとしておりまして,その理由も記載しております。また,パブリック・コメントでは,前夫が死亡した後に再婚後の夫の子であるという推定が否認された場合における前夫の相続に係る子の権利については,子に価額支払請求権を付与する規律を導入することに賛成する意見があったことから,これについては中間試案では注記であったものを提案に変更しております。   10ページの第3の女性の再婚禁止期間の見直しについては,パブリック・コメントでは,民法第733条の削除に賛成する意見が多く,甲案か乙案かについては甲案に賛成する意見が多数でした。そこで,部会資料では,甲案,乙案のいずれにおいても再婚禁止期間を撤廃することを提案しております。また,パブリック・コメントにおいて,再婚禁止期間を撤廃したとしても,民法第732条の重婚の禁止の規定に違反した場合には,父を定めることを目的とする訴えを適用することに賛成する意見もあったことから,甲案,乙案のいずれにおいても,父を定めることを目的とする訴えは,重婚の禁止に違反して婚姻がされた場合に適用することを提案しております。そのほか,乙案を採用した場合の取扱いとして,父を定めることを目的とする訴えの提訴権者についても検討を加えております。   第2,第3の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第2の1につきましては,従前の案がそこに掲げられておりますが,(注)として,子の出生時に妻が前夫以外の男性と再婚していないときにも,一定の要件の下に,その前夫の子と推定しないということの可否について引き続き検討するということで,強制認知がされた場合にということで,7ページ以下に説明が出ているところでございます。   8ページの2,再婚後の夫の子であるという推定に対する嫡出否認の効果,これは先ほど大森幹事から発言があった点でありますけれども,意見がきっ抗しているところでもあり,皆様の方から御意見のあるところかと思います。   それから,第3の再婚禁止期間につきましては,書きぶりの点や何かがありますけれども,全体としては再婚禁止期間を削除するという方向に賛成が多かったということで,そのような案が,甲,乙分けた形ではありますけれども,提案されているということかと思います。   1ページの(注)の問題,それから,8ページの点などについて御意見あろうと思いますので,是非伺いたいと思います。どなたからでも結構ですのでお願いをいたします。 ○山根委員 よろしくお願いします。   1ページの(注)に新しく書いていただいた子の出生時に再婚していないときにも,一定の要件の下,前夫の子と推定しないことについて,引き続き検討するということに賛成です。様々な事情もありますし,パブコメでもヒアリングでも意見が出ていたと思いますので,検討は必要だと思います。今回の見直しによって,再婚禁止規定の撤廃と300日以内でも現夫の子とされるという,これだけでもすごく大きな進歩というか,大転換だと思いますけれども,もう一歩進んで,一定の合理的な要件を設定することで更に救いとなるというか,実態に合った改善の手立てとなることを是非考えていっていただきたいと思います。8ページの(注)に要件の案がありますけれども,ここにあるものに限らず,幅広く御提案いただければと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現在の案で一定の改善が実現するだろうけれども,更に進むことを考える必要があるだろう,1ページの(注)について,様々な案を検討すべきだという御意見を伺いました。ありがとうございます。   そのほかにはいかがでございましょうか。 ○石綿幹事 今山根委員から御発言があった8ページの(注)の具体的な要件の例について,一つ発言させてください。資料では,現在,出生届を一定期間提出しない場合が例として挙げられています。この案は,一定期間の無戸籍状態という,子どもにとって余りよくない状況を誘発する可能性もあると思います。仮にこのような案を検討するのであれば,かつて部会で水野委員から御意見があった,あるいは幡野幹事からフランス法の紹介としてあった,例えば母が父の欄を空欄にして出生届を提出するという案を検討する方が,実質的に子どもにとって利益になるのではないかなと思います。もちろんそのような考え方にも様々な問題があることは承知していますが,少なくとも現状提案されている一定期間出生届が提出されない場合という案よりは,検討に値するのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   8ページの(注)の案が全てではないのかもしれませんけれども,④の一定期間内に提出されないということを要件とするというよりは,別の形で出生届を提出することを認める方がよろしいのではないかという御意見として承りました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。   1ページの(注)の部分です。この点につきましては,前回の部会のヒアリングの際に,長谷川参考人が,「DV被害母の多くは再婚を望まない。およそ,前夫の父性推定を外すために再婚してもらうことは,再婚夫婦の間で母の力を殊更に弱め,次のDVにつながる」と述べられていたかと思います。また,再婚した場合だけということについては,この間,大森幹事も課題提起をされていたかと記憶をしています。親にとって再婚はハードルでありますし,無戸籍である当事者の子どもにとっては,親が再婚するかどうかということはいかんともし難いと思います。   一方で,3ページの下から二つ目のパラグラフの下から4行目以降ですが,無戸籍者の問題の解消についてはうんぬん考えられるという,ここの記載がありますけれども,このことについても理解はできると思っています。その点では,子や母の否認権も重要なポイントではないかと思っています。そのため,取り得る方策について引き続き議論をしつつ,どこかのタイミングで推定や否認制度の見直しで対処できる部分はここ,他の制度や仕組みで対処できる部分はここ,というような,無戸籍者問題を解消するための全体像を分かりやすく示していただく必要があるのではないかと思っていますので,今後御検討をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いわゆる無戸籍者問題については,様々な観点から対応がなされているところかと思います。今回の嫡出推定並びに否認の制度の見直しにつきましても,今井上委員から御指摘があったように,否認権者の拡張や期間の延長といった対応もされておりますので,全体としてどういう対応がされているのかということを見通しのいい形で示すことが,結論がどこに落ち着くかにかかわらず,重要なのではないかという御指摘として承りました。この改正案は非常に関心の高い問題でもあろうと思いますけれども,それを広い範囲の方々に理解していただくという観点からも,今のような御指摘は重要であるように思いました。事務当局の方でも適宜御対応をお考えいただけるのではないかと思いますけれども,よろしくお願いいたします。   ほかにはいかがでしょうか。 ○久保野幹事 ありがとうございます。   無戸籍者問題の解消との関係で大事な点の一つとして,出生届の出し方の問題があるという御指摘が先ほど石綿幹事からありまして,その点同感で,是非検討ができればと思います。この問題は8ページの(注)との関係だけではなくて,婚姻成立から200日以内の場合に推定を及ぼすことにした場合に,出生届の出し方をどうするかですとかということにも関わるのだと思いますので,より一般的な視点も含めて検討の対象にはできたらよいなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの石綿幹事の御指摘を補足するような御発言で,子の出生届の問題が300日だけの問題ではなく,他のところにも及ぼすことができるかもしれないということも含めてといった御指摘だったかと思います。   そのほかにはいかがでしょうか。 ○大森幹事 2点あります。1点目は部会資料の表現,記載ぶりについて,2点目が,先ほどから出ている7ページ,8ページのところについてです。   まず,1点目につきまして,部会資料の3ページで,300日の推定を反対する意見に対する検討内容が記載されておりますが,このうち,イの段落,「また」以降で,「父が親権者となる場合も想定されているほか,養育の負担義務を負うとされていることからすると」と書かれているのですが,法律上の父となった場合には,親権者変更によって親権者になる余地が出てきたり,あるいは養育費を負担する義務が生じたりするのであって,ここで問題にしていますのは,こうした地位にふさわしいものが誰なのかという点ですので,この記載は理由になっていないように思いました。   また,ウのところの「確かに」以降のところで書いてある内容は,そのとおりと思うのですが,ただこの部会で議論している内容が果たして実態に寄り添っているものなのか,国民の意見と一致しているものなのかを確認するためにパブリック・コメント,あるいはヒアリングを実施しましたので,ここも理由になっていないのではないかと思われます。さらに,「確かに」の段落の中の,先ほど御指摘もありました,「また」以降の無戸籍解消に対する相談体制の充実等の取組の対処が重要であるとの記載について,もちろんそのとおりなのですが,それでも解決ができない制度的な限界があったからこそ嫡出推定制度の見直しが必要だということで,この法制審議会がスタートしたという経緯がありますので,そういう意味でこの表現もどうなのかと気になった次第です。   2点目につきましては,婚姻の解消後について300日推定を仮に維持するとしても,無戸籍解消のための手立てが再婚以外の場合でも必要ではないかということについて,パブリック・コメントや前回のヒアリングも踏まえて検討する必要があるだろうということで,御検討いただいていると思っております。実際のパブリック・コメントでも,無戸籍解消のためには推定を否定する必要があるのではないかという意見が推定賛成意見とかなりきっ抗している状態でしたし,推定を維持するという意見の中身についても,無条件に再婚の場合のみ例外でいいとしているのか,更なる例外も必要だということを前提に推定維持に賛成しているのかという点も確認しないといけないと思っているところです。そうしたことを踏まえて,推定を維持する場合には,強制認知の場合には推定しないなど再婚以外の救済措置も検討した方がいいという点については,私個人としても賛成です。   ところで,部会資料16-1の8ページの「他方で」から始まる文章では,婚姻解消等の後に生まれた子について,「生物学上の父子関係を重視すること自体を正面から容認する方向での整理の余地がないか」,つまり,婚姻解消後に限って父子関係を強制認知などによっても認めることを可能とするか,若しくは,「嫡出推定の例外を認めるために生物学上の父子関係以外に一定の合理的な要件を設定する」など現行法との連続性が保てるような制度が作るかという,この二つの方向性での提案がされています。先ほどから御意見が出ている(注)は,後者に関する具体的な提案ではと思っています。この注の提案に関しては,先ほど御意見もありましたように,出生届が一定期間出されないことを要件にするよりは,父親の欄を空欄にしたものでも提出させるという要件の方がふさわしいのではと思うのですが,他方で,先ほどの前者の考えも一定程度あり得るのではないかと思っております。と申しますのは,法律上の父親とするにふさわしいかどうかのメルクマールとしては,血縁の蓋然性があるかどうか,養育意思が期待できるか,あるいは父とされる者による養育環境が整っているかといったものがあると思います。これらについて婚姻中と婚姻解消後と比較しますと,婚姻解消後は父による養育環境がないという意味で婚姻中の出生と違いますし,また,強制認知ということは血縁もないことが前提となっており,さらに,母とも離別をしているということから養育意思も婚姻中と比較すると期待できるものではないという違いが出てきます。そういうメルクマールの観点から,違う扱いを認めることを考えることも可能なのではないかと思います。ただ,それに付加して更に一定の要件を加えるという意味で,先ほどの出生届の扱いを加えるということもあり得るのかもしれないと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この説明の表現ぶりとか,あるいはパブリック・コメントのデータの解釈は,先ほど来ずっと出ている問題ですので,御指摘を踏まえて更に検討していただきたいと思います。具体的な御発言として,8ページ,1ページの(注)を受けてどうするかということについては,何段階かの対応が考えられるのだろうと思います。強制認知を認めていくということは,大森幹事は前からおっしゃっていて,今回もこれに賛成だという御発言でした。先ほどの8ページの(注)の④についても,これはこれで一つあり得るかもしれないという御発言がありました。   さらに,8ページの本文の第2パラグラフの考え方の方向として,婚姻解消後について別の扱いをするということを考えてもいいのではないか,ここには生物学上の父子関係を重視するという書き方がされていますけれども,大森幹事は,それだけではなくて養育費という観点から考えるということもできるのではないかというニュアンスの御発言を頂いたかと思います。  再婚後については現在提案されている規定で救われるとして,そのほかの場合についてどこまでやるかということにつき,今のところ皆さんから(注)の方向で考えるということについては賛成の御意見が続いておりますけれども,その考え方については何段階かのものがあるという御指摘を頂いたと思います。どうもありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○幡野幹事 ありがとうございます。   また1ページの(注)の話になってしまうんですけれども,先ほど石綿先生と久保野先生の方から,父親欄を空欄にして提出した場合に推定が及ばないと,このようなルールを設けたらどうかという御指摘がありました。その話は恐らく否認権者の話にも影響が出てくるであろうと思っております。このような形で母親に推定が及ぶ及ばないのイニシアチブを例外的であれこのような形で認めるとする場合に,母親に否認権を認めるか,子に否認権のみを認めて代理という構成にするのかという点でも,やはり母に否認権を認める方が整合的な制度設計ができるのではないかと思います。今の論点と先ほどの否認権者の論点に一定の連関があるのではないかという指摘をしたいと思って発言させていただいた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど来御指摘のある8ページの(注)の④のような考え方を仮に採ったとすると,それは否認権者をどうするかという問題にも影響を及ぼすのではないかという御指摘で,それと併せて考える必要があるのではないかというお考えをお聞かせいただきました。ありがとうございます。 ○久保野幹事 ありがとうございます。   今の御指摘,その方が整合的だというのは確かにそのとおりかと,あるいは外国法はそういう前提でということではあろうかと思うんですけれども,私自身の発言の趣旨は,そのような実体法的な嫡出推定が及ぶか及ばないかですとか否認権を行使するといったことと必ずしも結び付けずに,子どもの利益の観点から出生届だけは出させるということを優先して考えるということがあり得るかというところも,少し視野に入れてもよいのではないかという趣旨でございました。補足です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど嫡出という用語を変えるかという点について,いろいろな考え方があるけれども,ともかく分かりにくいではないかという実利的な観点から変えたらどうかというお話がありましたけれども,今の問題も,嫡出推定制度についてどう考えるのかということについては様々な考え方があるけれども,ともかく出生届が出るということが望ましいのだとすると,そこに絞って取扱いを決めるという考え方もあるのではないかというのが,今の久保野幹事のお考えかと思って伺っておりました。 ○棚村委員 今の御意見とも関連するのですけれども,手続法と実体法の関係とか,それからもう一つ,私も強制認知があった場合に,結局外観説とも連動するわけですけれども,嫡出推定,父性推定を一定範囲で外すということについては,いいアイデアというか,実務でも積み重ねられていますから,それなりの合理性があると思うのです。   ただ,問題は,やはりそういう例外を父性推定で設ける場合には,認知と嫡出推定との相互の関係というのをかなり明らかにしておかないといけないと思います。しかも,先ほど言いましたフランス法に触発される父空欄の出生届というので,無戸籍は確かに一定程度回避できる施策というか,アイデアにはなるかもしれないんですけれども,ちょっと心配なのは,実体的な親子関係を誰との間に認めるか,推定というのは,蓋然性とかいろいろな子どもの利益とか,早くお父さんなりを与えようということで推定ルールを設けるわけですので,それを実質的に破るという場合には,それなりの根拠なり手続なりというものがある程度保障されていないといけないのではないか。やはりこのアイデアに対しては,前のときもそうだったのですけれども,父親の側の,夫の側の利益みたいなものもある程度あり得て,お母さんが全部決められるということで良いのか。確かに出生届を出したら,戸籍にもし虚偽の記載が載れば犯罪にもなり得るわけなので,一定程度抑止する対策とか効果,仕組みもないわけではないのですけれども,ただ,やはり先ほど来出ている無戸籍を防止しようということは私も賛成なんですけれども,それを具体的に導入したときに,波及効果というか,副作用や支障はないのか,これに対してどのような手当てを講ずるのかも,併せて議論する必要があると思います。つまり,無戸籍を解消するだけではなくて弊害が出てきたときにどうするかとか,そういう辺りも少し検討する必要があるのかなと思います。基本的には戸籍の出生届についていろいろな工夫をするというときに,私は前から言っていたのは,捨て子ですら市区町村長が名前を付けて出生届を作ったりする,それが義務者がいて何らかの事情でもって出せないということになると,それ以下の扱いになってしまっていたという現状はあったわけだと思うのです。そうだとすると,戸籍法の手続法のレベルで何ができるのかという検討は,私は父空欄の出生届もそうですけれども,手続法のレベルとして追及したり検討する必要というのはあると思います。   ただ,そこで忘れてはいけないのは,先ほどの強制認知の代用で排除するというのも,効果が非常に強い例外を設けるわけですから,それを設けたときに認知という制度と父性推定,嫡出推定の制度との両者の関係をきちっと整理しないといけないのではないかと考えます。たとえば,水野委員が前からご指摘されてきたように,それを使えば最終的には嫡出推定,父性推定制度そのものが空洞化してしまうという弊害も起こり得るということもあるので,是非その辺りも併せて検討していただいて,実際的な効果として手続的にも簡便にできそうだという話と,それから,その制度を導入したときに弊害とかむしろ問題が起こらないか,その辺りの制度間の整合性みたいなものもある程度きちっと整理しておかないといけないと考えます。つまり,無戸籍を解消するという手段のために便宜的にいろいろなものを使ってしまうということの弊害も検討した方がいいんだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   複数の委員幹事の方から出ている二つの方向,強制認知の問題と,出生届の問題について,これらは考えられる手段ではあるけれども,現在の法体系との整合性というのについて十分に配慮する必要があるのではないか,嫡出推定と認知の関係,あるいは出生届が親子関係に反映するという前提に立ったままで母がこれを左右するということでいいのか,それともそういうこととは別の制度を何か作ることができないのか,そうしたことも考える必要があるのではないかという御指摘を頂きました。ありがとうございます。 ○幡野幹事 ありがとうございます。   棚村先生の御指摘を受けての発言になりますが,出生届で父親を空欄にしたという場合に弊害があり得るのではないかという御指摘がありました。この点についてフランス法を参照いたしますと一旦推定が働くと,父親欄を空欄にするとその推定が失われることになりますが,推定の回復を父親側から求める訴えという手続が認められております。そのようなフランス法の例も参考になるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   手続を組むときに,その後始末をどうするかということも含めて考える必要があるのではないかという御指摘を頂きました。フランス法のように出生届が出て出生証書が作られることと,日本で戸籍記載されることとでは意味が違うので,直ちにフランス法の考え方を導入できるかどうかは更に検討する必要がありますけれども,やるとすると今のようなことが考えられるという御指摘として承りました。   ほかにはいかがでございましょうか。   1ページの(注)について,様々な御意見を頂きましたけれども,皆さんの御意見は,前提としては(注)の方向で検討するということに賛成するということだったと理解をいたしました。その上で,レベルの異なる幾つかの方策が委員幹事の御発言の中に出てきております。様々なアイデアがございますけれども,それぞれのメリット,それに伴うデメリットを勘案して,更に検討を進めていくということなのかと思いましたが,1ページの(注)につきまして,あるいはその他の問題についてでも結構ですので,何か更に御発言があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,御意見を頂いたということにさせていただきたいと存じます。   今日は積み残しが出るのではないかと心配をしておりましたが,大体予定していた時間に終了することができました。今回はパブリック・コメントを踏まえて,今後議論していく上で早めに検討しておいた方がいい点について皆さんからおおよその方向性を伺うということでしたので,更に立ち入った検討については今後の部会の会議で行うということになろうかと思いますが,今日のところはこのくらいにさせていただきたいと思います。   そこで,今後のスケジュール等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○佐藤幹事 次回の日程ですが,6月29日火曜日の午後1時30分から午後5時30分まで,本日と同じく法務省の地下1階大会議室で予定してございます。次回,本日御議論いただいた方向性を踏まえまして,更に検討が必要な論点について御審議を頂く予定でございます。   なお,パブリック・コメントの結果につきましては,今回お手元に配布させていただいたものを公表するベースとさせていただきますが,事務局で改めてチェックした上で,修正等あれば見え消しで皆様にお送りした上で公表するという段取りにさせていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。パブリック・コメントの結果の公表につきましては,今のような取扱いをさせていただきたいと存じます。   次回,6月29日,1時半からということで,どうぞよろしくお願いいたします。   以上で,法制審議会民法(親子法制)部会の第16回会議を閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。閉会いたします。 -了-