法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  令和3年5月14日(金)自 午後1時01分                     至 午後5時56分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,所定の時間になりましたので,これより法制審会民事訴訟法(IT化関係)部会第12回会議を開催いたします。   本日も御多忙のところ御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   現在,緊急事態宣言発令中ということでございますので,恐らく当部会では初めてだったのではないかと思いますが,私自身もこのような形でオンラインで参加をさせていただいております。   本日の出席状況ですが,衣斐幹事が御欠席と伺っております。   それでは,本日の審議に入ります前に,本日の配布資料の説明について事務当局からお願いいたします。 ○大野幹事 配布資料の御説明をさせていただきます。本日は部会資料16「民事裁判手続のIT化に関する論点についての補足的な検討2」を配布させていただいております。資料の内容につきましては,後ほど御審議の際に事務当局から説明させていただく予定です。   また,5月7日まで実施しておりましたパブリックコメントにつきましては,250件を超える御意見が寄せられております。現在,事務当局において集計し,内容の取りまとめを行っているところでございます。準備が出来次第,部会において配布をさせていただく予定でございます。   本日の配布資料は以上でございます。   なお,本日は部会資料の第5から第8までの論点を順に御審議いただき,その後に第1から第4までの論点を順に御審議いただきたいと考えております。若干分かりにくくなる可能性はございますが,事務当局の事務的な都合に基づくものでございますので,御容赦いただければというところでお願い申し上げます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ただいまの事務当局の御説明につきまして,何か御質問等がございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今御説明がありましたように,この部会資料16の第5からということであります。今日は全体的には,かなり多くの項目が審議対象になっておりまして,ただ今後,中間試案に対するパブリックコメントの結果を受けて本格的な審議に入った段階ではなかなか時間を取って御審議いただくのが難しいようなテーマについて,本日まとめて御審議を頂くという趣旨でありますので,どうかよろしくお願いしたいと思います。   それでは,部会資料16の9ページの「第5 訴訟記録の閲覧等と補助参加の申出との調整」という部分から始めたいと思います。事務当局から御説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   中間試案におきましては,補助参加の申出を濫用した訴訟記録の閲覧等を防ぐための規律の在り方について,引き続き検討するものとされております。補助参加人は判決の名宛人とはなりませんが,現行法の下では補助参加の申出をした時から当事者と同じ立場で訴訟記録の閲覧等をすることが可能となっております。これは,たとえ利害関係のない第三者であっても,自ら補助参加の申出をすることにより当事者と同じように訴訟記録の閲覧や複製をすることができ,第三者の閲覧等が制限された秘密記載部分を閲覧することもできるということを意味します。そこで,補助参加の申出をした者につきましては,補助参加の許否,許されるかどうかが確定する前は,第三者の立場で訴訟記録の閲覧等を請求することができるにとどめる規律を設ける考え方を御提示しております。   なお,訴訟告知を受けた者につきましては,自ら補助参加の申出をするかどうかにかかわらず一定の範囲で裁判の効力が及ぶこととされております。そこで,このような者につきましては例外的に,その訴訟追行の機会を当初より十分に保障する見地から,補助参加の申出の時から当事者の地位で訴訟記録の閲覧等をすることができるものとすることも考えられます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御説明の部分につきまして,どなたからでも結構ですので御質問,御意見等を頂戴できればと思います。 ○阿多委員 先ほど訴訟告知を受けた場合の中身についても触れられましたけれども,提案の内容には賛成したいと思います。賛成といいながら確認をしたいのですが,パブコメ結果が分からない前提で,利害関係がある第三者として閲覧する場合と当事者として閲覧する場合の閲覧とで,場所等について差が出る可能性があると思いますが,その点の整理はまだ分からないのですか。   それと形式的な話なのですが,訴訟では補助参加人を当事者に準ずる扱いをしながら,閲覧等の関係では第三者に振り分けると,概念の問題かもしれませんが,事務当局の説明は両方兼ねるという説明だと思いますが,訴訟手続は当事者に準ずる地位でありながら,閲覧等の関係では第三者と整理すること自体は一般的に理解されている考え方なのでしょうか。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   事務当局でお答えいただける範囲で。 ○藤田関係官 お答えいたします。御質問ありがとうございます。   1点目のパブリックコメントの結果につきましては,現時点では未整理でございます。ただ,パブリックコメントで提案させていただきました内容そのものにつきましては,当事者と利害関係のある第三者とで少し異なる内容であることは確かでございます。   続きまして,2点目でございます。御指摘のとおり,補助参加人は,その申出をした時から訴訟行為をすることができることとなっております。また,判決の効力が一定の範囲で及ぶことにもなっております。ですので,その訴訟行為や判決の効力と訴訟記録の閲覧等をどこまで認めるかとの平仄を合わせるようにする必要があると事務当局も認識しております。その点につきましても御議論いただければ幸いでございます。 ○山本(和)部会長 阿多委員,いかがでしょうか。 ○阿多委員 結構です。   続けてですが,途中の説明を拝見しますと,例外要件,当事者に含める要件について,被参加人の同意とか相手方の異議等の要件が示されていますが,被参加人が同意したからといって当事者に準ずるというのはいかがなものかと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 事前に考えてまいりましたことについて,少し御説明したいと思います。現行法上,実質的に補助参加の利益がない者であっても,補助参加の申出をしただけで当事者として訴訟記録の閲覧等ができるというのは,訴訟記録の閲覧等について当事者,利害関係のある第三者,利害関係のない第三者を区別して別々の規律に服せしめている現行法の仕組みとはそもそも整合していない面があるのではないかと思いました。これまでは訴訟記録の閲覧等は,記録の所在する裁判所に赴かないとできないことでしたので,そうした不整合が実際の問題として顕在化することはほとんどなかったように思うのですけれども,今回,当事者による訴訟記録の閲覧等が非常に便宜的になると,そうした問題が実際に顕在化する可能性はあるように思いますので,今回提案されているような規律を設けることは理解ができるところだと考えています。   先ほど来御議論いただいております理論的な許容性,つまり現行法の43条2項にも示されていると思いますが,補助参加の申出者は,その訴訟追行権を保障するために直ちに当事者として扱われるという基本的な考え方と整合するのかどうかという点が確かに問題になるのだろうと思います。ただ,補助参加の申出者は,当事者に異議があって参加の理由が認められない場合には補助参加人として訴訟行為をすることができなくなるという点で,そもそも当事者とは異なる面が当然あるわけですから,補助参加の許否が確定するまでの間に当事者とは異なる扱いを受けることが理屈に沿わないということはなくて,合理的な扱いの差異であれば許容されると整理できるのではないかと考えてまいりました。   今回の御提案が合理的な扱いの差異といえるのかどうかということについても考えたのですけれども,補助参加の申出をした者が,補助参加の許否が確定するまでの間であっても第三者として訴訟記録の閲覧等を請求することが可能であるという前提で,かつ,利害関係を疎明できれば,つまり利害関係のある第三者ということであれば,当事者に準ずる閲覧等が可能になるということであれば,さほどの不利益が生じるというわけでもないように思われますので,差異は合理的なものであって,十分妥当なものといえるのではないかと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。理論的なところの話も出ておりますが,研究者の方で何か御発言があればと思いますが。 ○垣内幹事 垣内でございます。私自身も基本的にこの第5のような方向の規律とするということは理論的にも認められるのではないかと考えております。補助参加の申出をしただけで当然に当事者と同様の形で,第三者に対する閲覧等の制限がある記録について閲覧できるということは,必ずしも相当でないので,許否が確定して,できるということになってから閲覧できるという規律にするということには合理性があるのではないかと思います。   それで,日下部委員も御指摘があったところにおおむね賛成ですけれども,訴訟追行権の保障という問題は当然あることはありまして,そういう観点から,申出とともに直ちに訴訟行為そのものはできるということではありますけれども,しかし,閲覧等の制限があるような記録について,これは一旦閲覧等がされれば,それがなかった状態に復することは難しいということがやはりあるわけですので,訴訟行為の可否の問題と,閲覧を認めるかどうかという問題は区別して考える余地はあるのではないかと現時点では考えております。   それから,少し難しいなと感じておりますのは,訴訟告知の場合についてどう考えるかということにつきまして,資料10ページの第3段落のところで言及がされておりまして,資料の立場ですと,訴訟告知を受けて補助参加の申出をした場合については,これは当然に当事者に含まれるということになるのかなと思いました。ただ,訴訟告知をする際に,利害関係があるかどうかについてきちんとした判断がされるという保障が必ずしもあるということではないわけで,したがって,訴訟告知を受けた者が補助参加の申出をしてきたという場合に,必ず補助参加が認められるべきものといえるかというと,そうでない場合がないわけではないのかなとも思われます。そうしたときに,訴訟告知を受けていれば当然に閲覧等を認めるということでよいのかどうか,若干気になるような感じもいたしました。   そのこととも関係しまして,訴訟告知を受けている場合には,少なくとも当事者の一方は参加することあるべしと考えて告知をしているということであり,その場合に,場合によって,告知をした当事者の方はもちろん訴訟記録へのアクセスがあるという前提で考えますと,その内容等についても被告知人で参加しようとする者に何か伝えるというようなこともあり得るかもしれない,あるいは,告知が前もってない場合でも,補助参加人と通常被参加人となる方の当事者との間の関係がかなり良好と申しますか,協力的な関係にある場合には,同じようなことが想定されるのかもしれないという感じがいたしますけれども,その際,閲覧等の制限の決定に伴う当事者の義務との関係では,結果的にその利害関係がないと判断されるような補助参加申出人に,閲覧等の制限対象となっているような秘密について何か開示をしたということが,正当な理由があったということになるのかどうかというような辺りについても,少し整理が必要なのかなというような感想を持っております。   私自身,少し考えがまとまっていないところがありますけれども,取りあえず以上にさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私もこの規律には基本的には賛成,つまり,補助参加の申出だけでは閲覧が当事者と同じようにできないということについて賛成です。理由については今,日下部委員や垣内幹事がおっしゃったことに特に付け加えることはないのですけれども,恐らく問題の所在としては,43条2項もありますけれども,45条の特に4項で,訴訟行為をして,それも当事者が援用すれば,その効力を有するというところまで書いてあることとの関係がありますので,当事者と異なる扱いをすることの整合性は大丈夫かという話はあると思うのですけれども,やはり情報というものについて一旦知られてしまうと,それ自体が取り返しの付かないことになるということで,訴訟行為の場合は,それについて反対の事実とか反対の証拠とかということで判断の中で取り扱われるものであるということで,分けて考えることができるのかなと思っているところでございます。   次に,訴訟告知について,なお書きのところでは,先ほどから出ている,訴訟告知を受けて補助参加の申出をした者が,とあるのですけれども,補助参加の申出をしたこと自体が本質的な違いになるのかというのがよく分からないところです。訴訟告知を受けたこと自体で閲覧ができるようになるかどうかといった辺りも問題になり得るのではないかと少し思いました。つまり,補助参加の申出をしたこと自体は,先ほどのそもそもの前提の話で,補助参加の申出をしたかどうかということでは当事者とはまだ扱わないのだということになると,訴訟告知を受けた人であるかどうかによって,それほど分けていいのかという問題があるかなと思うわけです。   訴訟告知を受けたこと自体をもって,閲覧は当事者と同じにできるかというと,それはなかなか難しそうではありまして,利害関係を疎明すれば,補助参加の申出をするかどうかといったときに,それを判断するために閲覧,それから複製の請求というのができるということで,一つはあり得るかなと思いますけれども,どうも訴訟告知をした人が補助参加の申出をしたことによって,補助参加の申出の有無によって差が付くということについて,やや抵抗を感じたというところを申し上げておきます。   訴訟告知については,先ほどの話の前提になりますけれども,理由と訴訟の程度を記載した書面を送られることになっているわけですけれども,その内容についても余りはっきりしたものがないので,やはり告知を受けた人の実際のニーズとしては,補助参加の申出をするかどうかを判断する上で見たいのではないかというのはあるのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 訴訟告知を受けた場合についてですけれども,私も,垣内幹事が御指摘いただいたところを繰り返すだけになりますが,垣内幹事がおっしゃったところに賛成したいと思います。訴訟告知を受けて補助参加の申出をしたけれども,相手方当事者から異議が出されて,結局補助参加を許されないということになった場合には,いずれにしてもそれ以降は訴訟記録の閲覧等は当事者の資格ではできないということになるかと思いますけれども,結局その場合に,異議が出されて許されないという判断になるまでの間,当事者として閲覧等が認められるということは適当ではなかったということになるかと思いますので,そこはやはり訴訟告知を受けて補助参加の申出をしたからといって,それで当事者として閲覧が認められるというのは,やや適当ではないように思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 訴訟告知の被告知者については,私は最初,原案を読んだときにはこれでいいのかなと思っていましたけれども,垣内幹事の御指摘等を踏まえると,もう少し慎重な対応が必要なのかなという感想を持ちました。   私が申し上げたいのは別のことでして,民事訴訟法自体には規定はありませんが,人訴法と行訴法に強制参加の制度というのがあり,職権で参加命令を受けたというような者について別途,影響がありますので,ここではここの被告知者についての原案と同じように考えることでよろしいのではないかということを確認しておきたいと思います。ただ,人訴法については家裁での訴訟手続がどうなるのかというのはペンディングになっていると思いますが,ただ,高裁に控訴された場合にどうなのかということも考える必要があり,いろいろと難しい問題があるなと思いますので,その辺また,法制的な面も多分に含んでいるかと思いますが,御検討いただければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 若干ずれるかなと思うので,発言するまでもないのかなと思っておりましたが,せっかくなので1点,コメントをさせていただきたいと思います。   今回,許否が確定するまでの補助参加の申出人が当事者と扱われることで生じる不都合について検討されているわけですけれども,訴訟記録の閲覧等とは別の局面でそうした不都合が生じることがないだろうかということも併せて考えてみました。   一つ想定されましたのが,許否が確定するまでの補助参加の申出者がウェブ会議などの方法で期日に参加して,期日進行を妨害したり,本来は知るべきではない営業秘密やプライバシーを知ろうとしたりする事態も考えられるかなと思いました。ただ,そのような期日参加がなされようとしたら,当事者が直ちに異議を述べるなどして対処可能と思われますので,あえて規律を設けて対処する必要まではないだろうと思い直した次第です。   一応,余計だったかもしれませんが,コメントさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○高田委員 これまで議論がございましたように,恐らく現行法は45条3項で訴訟追行権が参加の申出があったときから認められるということを前提に,その訴訟追行権の保障のために閲覧の権利が与えられるという論理を採っていたのだろうと思います。もしそうであるとすると,今回IT化に伴い,あるいは,閲覧の方法が緩和されたこと,あるいは拡大されたことに伴い弊害が生じるという議論ですと,非常に説得的だろうと思いますけれども,もし現在認められているものも制限されるという議論をするとすれば,そこには若干の注意が必要のように思いましたので,一言申し上げさせていただきます。ただ,日下部委員,垣内幹事等のご指摘ですけれども,45条3項は閲覧請求権まで保障しているのかという根本的な問いがあり得ると思いますので,そこについて共通理解ができるとすれば,あり得る選択ではないかということを感じております。   その上でですが,青木幹事と同じことでありますけれども,訴訟告知の有無というのが補助参加人の地位に直ちに影響を与えるかという点は,なお考える必要があると思いますし,考えるとすれば,むしろ共同訴訟的補助参加ではないかという気もいたします。共同訴訟的補助参加は,当事者と同じ地位を保障するということですと,これは認めることになるのだろうと思いますけれども,濫用ということを突き詰めていきますと,当事者参加であっても濫用のおそれがあるということになるわけでして,補助参加人だけを切り出して濫用を問題とする理由について共通認識として持つ必要があるのではないかと思いましたので,一言申し上げた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。   事務当局から何か確認すべきところが更にあればと思いますが,いかがでしょうか。 ○大野幹事 頂いた御意見を踏まえて更に検討させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 大丈夫でしょうか。   それでは,引き続きまして,10ページ「第6 訴訟記録が第三者の閲覧等に供される時期」,この部分についての御議論に移りたいと思います。まず,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   中間試案では,当事者以外の第三者は裁判所に提出され,当事者が受領した後一定の期間が経過していない訴訟記録や期日を経ていない訴訟記録について,閲覧等の請求をすることができないものとする考え方があるとされております。訴訟記録の閲覧等制限の申立ての機会を当事者に確保する観点から,訴訟記録が第三者の閲覧等に供される時期につきまして,二つの具体例を御提示しております。   一つが,サーバに記録され,当事者がアクセス可能になった日から一定の日数を経過したときを基準とする考え方,もう一つが,サーバに記録され,当事者がアクセス可能になった日の翌日以降に開かれる最初の期日の終了時を基準とする考え方でございます。後者の考え方につきましては,次の期日が予定されない場合について一定の例外を設ける必要があるとも考えられます。   このほか,特に送達すべき書類につきましては,当事者が送達を受けるまでは第三者の閲覧に供しないという規律を設ける考え方がございます。この考え方は,当事者が第三者を介して送達の効力を生じさせない形で閲覧してしまうことを防止する観点からのものであると承知しております。この点も併せて御議論いただければ幸いでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構ですので,御意見,御質問等を頂ければと思います。 ○日下部委員 今回の訴訟記録が第三者の閲覧等に供される時期を一定期間,後ろ倒しにするという御提案は,それを必要とする理由が複数考えられるところですので,それぞれを踏まえた規律にしないと,その妥当性を説明できないのではないかと思いました。基本的な考え方はそのように捉えています。   部会資料によりますと,その具体的な理由としては二つ挙げられていて,一つは,当事者に閲覧等の制限の申立ての機会を実質的に保障する必要があるということ,二つ目は,受送達者が送達の効力発生を回避しながら送達書類の内容を知ることができないようにする必要があることかと思います。ちなみに,弁護士会内で検討したときには,本来アップロードすべきではない書類を当事者がアップロードしてしまった場合に,第三者の目に触れる前に撤回できる余地を残す必要があるということも指摘されていたところです。   それぞれについて考えたのですけれども,一つ目の理由,閲覧等の制限の申立ての機会の実質的な保障という観点から言えば,訴訟記録が裁判所のサーバに記録され,当事者が閲覧等をすることができる状態になったことが両当事者の知るところとなった時点から一定日数の経過が必要であると考えるべきかと思いました。仮にそれまでの間に期日が開かれたとしても,閲覧等の制限の申立てに要する時間,準備の時間が短縮されるというわけではないので,そのように考えたという次第です。   一定の日数として,部会資料ではシステム送達におけるみなし閲覧の効果が生じる時期である1週間が示唆されておりますが,実務的に考えますと,一度に提出される書類が大部にわたることもありますので,1週間というのは実務的には無理が生じることがあるのではないかと懸念いたしました。   なお,部会資料11ページで,期日調書のように当事者への送達及び送付が予定されていない訴訟記録については,当事者がその存在を知るという期間の始期の設定ができないという問題意識も示されているかと思います。ただ,場合によってはそうした訴訟記録に閲覧等の制限を求めるべき情報が含まれることはあり得ますので,そうした訴訟記録についても,裁判所のサーバに記録されて当事者の閲覧等が可能になったタイミングで,当事者にそのことが告知される仕組みをシステム的にも法制的にも構築することが必要なのではないかと思いました。   仮の想定ですけれども,期日調書ができて当事者に閲覧可能な状態になったら,そのことが当事者に告知されるという仕組みは,別段非常識でもないだろうと思います。ただ,実務的に考えたときに,事件管理システムに利用登録していない当事者に対して告知をしなければいけないとなると,そこが裁判所の業務としては負担となるという点は悩ましいかなとも考えている次第です。   他方,もう一つの送達関係の理由ですけれども,こちらはシンプルに,送達の効力発生時までは第三者による閲覧ができないという規律が合理性を持つのだと思います。他方,送達書類については,訴訟記録の閲覧等制限の申立ての必要性という観点も併せて考える必要が出てくるかと思いますので,さきに申し上げました一つ目の理由に基づく時期と,それから二つ目の理由に基づく時期,すなわち送達の効力発生時までのいずれか遅い方までは,第三者による記録の閲覧等ができないという規律にすることが合理性を持つのかなと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 期間の点だけ違う意見もあり得ることに触れておきます。1週間が短いという指摘がありましたが,閲覧制限を前提にするのであれば,制限の申立てをすれば,それで一旦判断が出るまで閲覧が制限されますし,今の実務でも,判決や膨大に出た証拠等については,一旦全面的に閲覧制限を申し立てて,その後個別対応することをしていますので,1週間で対応できないと整理するのか,取りあえず申立てをする期間は1週間で足りるというのも考え方としてあり得ると思います。その点だけ付加しておきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 訴訟記録のうちの準備書面についてなのですけれども,準備書面に関しては,期日の前に提出して期日で陳述するというのが一般的ですけれども,期日の当日に提出されるというようなケースも時々ありまして,そういう場合には,期日の当日の提出ということで裁判所も見ていないということもあり,その期日には陳述しない扱いにするという例もあると認識しております。準備書面の記載内容につきましても,期日での検討の結果,最終的に準備書面の全部なり一部を陳述しない扱いというものも実務上あるのではないかと思います。そうしますと,陳述しない準備書面について,これまでは訴訟記録には残って閲覧の対象になっていると思われますけれども,今後IT化されることによって,それを訴訟記録の中にずっと残しておくという必要はないように思います。したがって,訴訟記録として閲覧の対象となるのは,準備書面に関しては陳述後にすべきと考えております。準備書面の記載内容の中では,当事者だけでなくて関係者の名誉,プライバシーを侵害するような適切でないような記載もされる可能性がありますので,そういうものが陳述前に第三者に公開され,第三者が閲覧できるとしますと,その段階で名誉毀損なりプライバシー侵害の紛争を生じ得るということも考えられますので,侵害された当事者,関係者からすれば,そういう第三者に閲覧されては困るような書面については閲覧を差し止める,あるいは記録から削除してもらいたいというようなことも考えられるかと思います。   同じことは書証についても,例えば陳述書などは,同じようなことがいえると思いますので,そういう意味で,閲覧対象とされる準備書面なり書証に関して,時期の制限につきまして,準備書面に関しては陳述された期日,書証については書証の取調べがなされた期日が終了した時以降とすべきではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。今まで弁護士の委員,幹事からの御発言が続いていますが,他の委員,幹事からは何かございますでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。私は基本的には第6のような規律を設けるということ,理由について日下部委員の方で明確な御整理を頂きましたけれども,設けるということについては合理性があるのではないかと考えております。   それで,始期をどうするかとか,期間ですね,いつの時点で閲覧等ができるようになるのかということについては,なお十分に細かい検討を私自身はできておりませんが,幾つかの考え方があるのだろうと思います。今日の資料ですと一律,一定の始期からすぐに,例えば7日であるとかいった期間という考え方と,期日に着目する考え方というのが出ているところですけれども,それぞれに長短があるということだといたしますと,一定の期間というものを原則とした上で,申立て等に応じて期日終了後という形での処理もできるようにするといったようなことも,あるいはあり得るのかなというようなことを思ってまいりました。   直前に大坪幹事の方から御発言があった,取調べが実施されてから,あるいは陳述がされてからとする規律に関してですけれども,従来の訴訟記録の考え方として,その辺りがどうなっていたのかということとの整理が若干必要なのかなと思われまして,一旦システムに上げたものをまだ見えない形で,記録ではあるけれども,見えない形にしておくということなのか,それとも,記録ではない部分とある部分というのが細かく分かれてくるのかといったようなことがいろいろと出てくるような感じもいたしますので,その辺りについて,なお検討が必要なのかなという感想を持った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 本日の部会資料の12ページのところで,提案されているような第三者による訴訟記録の閲覧等が可能になる時期を後ろ倒しにすることのネガティブな局面について,どう考えるべきなのかという問題意識も示されているかと思います。確かにそのように時期が後ろ倒しになりますと,第三者が訴訟記録を閲覧等する利益を一定程度損なうことになるのは確かだろうと思います。第三者の閲覧等をする利益と,他方で当事者の閲覧等の制限を申し立てる機会を得るという利益,言い換えますと,営業秘密やプライバシーの保護の利益といっていいと思いますけれども,それらをてんびんに掛けるという関係にあると思います。この点については,訴訟手続は一次的には訴訟当事者の利益のためになされるものであって,第三者の利益よりも優先すると類型的には考えるべきではないかと思いました。確かに第三者の訴訟記録の閲覧等は裁判の公開を補完する意義を持つと思いますけれども,閲覧等に供されなくなるというわけではないのですから,そこは当事者の利益を確保することを優先するという価値判断は不合理ではないように思いました。   今申し上げましたのは,部会資料の12ページで示されている問題意識についての私自身の考えであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 弁護士会の中で意見が割れているということではありませんが,大坪幹事から出ました期日概念について,閲覧制限の機会付与という点を考えるのであれば,書面による準備手続が今後も存続する場合には,期日はかなり先になると思います。期日概念ではなく,閲覧制限の機会提供を中心に考えるのであれば,それに合わすという形になると思います。現行実務との関係でいうと,現行は,基本的には訴訟記録に編綴されると閲覧できるわけで,第三者からすれば閲覧の機会が制限される方向の提案になるかと思います。日下部委員は,当事者の利益と第三者の利益という比較をされているわけですが,現行法を前提にするかぎり,当事者の利益を理由に第三者の利益を現行法よりどこまで後退させるのかという問題でもあります。私は現行法よりも後退させるべきではないと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○増見委員 増見でございます。第三者による訴訟記録の閲覧制限のところで,判決書についても同様の制限が課されるべきかという点については,余り議論がなかったと思っております。判決文に関しては,利益の衡量や機会の付与を配慮する必要は特にないと思っております。記録の種類によって判断が分かれると思いましたので,御指摘をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 実務の確認ですが,現在,判決についても閲覧制限の対象になる取扱いをしていますので,機会の付与という形になりますと,判決についても閲覧制限の申立ての機会を確保する扱いが適用されると理解しています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私も付言いたしますと,先ほど私が,二つの利益をてんびんに掛けて判断することになって,当事者の訴訟記録の閲覧等制限の申立てをする機会の付与の方を優先するという判断は不合理ではないのではないかと申し上げましたが,そこで主として念頭に置いておりましたのは,正に判決書の閲覧等の機会でした。それがゆえに,裁判の公開を補完する意義を持つけれども,当事者の利益というのを一定の期間優先するという扱いは不合理ではないのではないかと申し上げた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。判決書の扱いについての現行法上の取扱い等については,今御発言があったとおりではないかと思いますけれども,他方で,資料でも記載がされておりますように,社会の耳目を集めるような事件で,判決の内容について詳細を早く知りたいという訴訟外の公衆の関心が高い場合というのもあり得るのかなとは思います。そのときに,それをどう考えるのかというのはなかなか難しい問題ですけれども,先ほど別のところで少し発言したところとも関連いたしますけれども,閲覧等の制限が結果としてされますと,当事者がその内容について正当な理由なく開示できないということになり得るという,秘密についてですね,なり得るということがありますが,例えば今回議論されているような,一定期間第三者が閲覧できないようにし,その間に閲覧等の制限の申立てをして,決定がされるという機会を付与するという場合に,決定前の時期に一方当事者がいち早くその内容を全て第三者に開示するというようなことについて,対応が必要だと考えるのかどうかといった点についても,今後さらに,少し細かい話かもしれませんけれども,検討しておいてもよいのかなという感想を持ちました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 日下部委員から立法提言という形で提案がありました,送達送付,当事者に通知を想定していない期日調書等について,期日調書が作成された旨の通知をするという解決策として提案いただいているのですが,逆に,通知されない場合にどう処理すべきなのかを考えておく必要があります。期日調書も証人尋問調書と一体となる場合では,尋問調書の中身は企業秘密やプライバシーが関係する部分が多々含まれていますので,閲覧制限の申立ての機会を確保する必要があります。今回の事務当局の提案では,当事者に送付されない訴訟記録についてのルールが明らかではないと思うのですが。もしかすると,調書異議と同じように次回期日までと考えるのであれば,一つの解決と思いますが,かなり長くなってしまいます。送達送付されない裁判所の作成書類についての閲覧制限の機会付与について,事務当局でお考えのことがあれば紹介いただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,御質問ということですので,事務当局で今の段階でお考えのところがあれば,お示しいただければと思いますが。 ○藤田関係官 事務当局でございます。阿多委員御指摘の点につきまして,現状考えているところはございません。いろいろ御議論いただき,御提案,御意見いただいたものを踏まえて,今後,追って必要に応じて検討していきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 一つの案ですけれども,期日調書ないしは証人調書と一体になった期日調書も含めてですが,短期間で作成される実務を信頼して,期日調書は期日を基準に一定期間内,閲覧制限の機会を設けるというルールを考えておく必要があるという提案をしたいと思います。 ○日下部委員 せっかくの提案の機会のようですので,先ほど申し上げたことの繰り返しになってしまいますけれども,私自身は,期日調書のような書類であったとしても,裁判所のサーバにアップロードされたということであれば,訴訟当事者に対してはその旨が知らされるような仕組みというのを,事件管理システム上もそうですし,法制的にもそうですけれども,手当てをして,正規のルールにしておくということの方が建設的ではないかと思います。手間が増えることは間違いないのですけれども,事件管理システムができれば,少なくとも事件管理システムの利用登録者になっている当事者に対する通知は,それほどの負担を増やすというものではないと思います。そういった方向で御検討いただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この論点についてはよろしいでしょうか。   事務当局の方から何か確認点とかはございますか。 ○大野幹事 ありがとうございました。頂きました御意見を踏まえまして,更に検討を進めさせていただきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,引き続きまして,部会資料12ページの「第7 和解に関する訴訟記録のうち第三者の閲覧等に供されるものの範囲」,この部分の御検討を頂きたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   中間試案では,当事者以外の第三者は和解を記載した調書(例えば,その全部又はそのうちいわゆる口外禁止条項を定めたもの)について,閲覧等の請求をすることができないものとする考え方があるとされております。訴訟上の和解は,裁判所の判決ではなく当事者の合意により訴訟を終了させるものでございますが,その過程で作成される調書につきましては訴訟記録の閲覧等の枠組みにより第三者の閲覧等に供されます。現行法上,第三者閲覧等制限の制度がございますが,当事者が第三者の閲覧等に供されることを望まない和解調書であっても,要件を満たさず,その制度を利用して閲覧等制限を掛けるという手立てを取ることができない場合もあり得ると考えられます。そこで,和解というものの性質に着目し,和解を記載した調書を第三者による訴訟記録の閲覧等の枠組みの外に置くという考え方を御提示しております。なお,第三者による閲覧等の範囲外に置いたとしても,それは閲覧等制限の制度とは異なるものでございますので,中間試案にございます閲覧等の制限の決定に伴う当事者の義務といった規律が直ちに適用されるという関係にはないと考えられます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして御質問,御意見,御自由にお出しを頂ければと思います。 ○服部委員 服部でございます。私自身はこの御提案の中の,いわゆる口外禁止条項を定めたものについて,要件を加えて閲覧等の請求の範囲から外すということに賛成をしております。先ほど事務局からも御説明がありましたとおり,和解というものの性質に着目してということに加えまして,資料の記載もございますけれども,いわゆる口外禁止条項が付く場合に,第三者に知られたくないということについての当事者の合理的な期待があり,それは保護するべき必要があるものではないかと思っております。   ただ,他方で裁判の公開の趣旨の問題ですとか,閲覧を求める第三者の利益というものも考慮する必要がございまして,この点は調整が必要となってくる点かと思っております。そして,当事者の申立てを必要とせずに和解を記載した調書を当然に全部閲覧対象から外すということになりますと,これは91条の例外としていささか広いのではないかということで,ここは慎重な検討が必要ではないかと考えているところでございます。   また,口外禁止条項を付した調書に限定するとしても,実務上は口外禁止条項の定め方も様々でございまして,一切口外しないというものから,みだりに口外しないという程度のものまで,いろいろございまして,口外禁止条項が入っていることをもって直ちに範囲外とすることも難しいような気はしております。あと,91条の例外ということから考えますと,当事者双方の申立てによって裁判所の決定によって対象外とするという,一つ例として挙がっておりますけれども,それが適切ではないかと考えるところです。ただ,裁判所の決定ということを今度,経るということになりますと,万一裁判所が却下決定をした場合の不服申立てがどうなるのかとか,そういったこともひょっとしたら考えなければいけないのかもしれないとは思っております。   また,閲覧請求の対象から外すのは,訴訟記録のうち和解調書のみとすることが考えられるのですけれども,つまり,それ以外の訴訟記録を閲覧の対象とすることは,92条に該当しなければ,よいかもしれないですけれども,例えば当事者が和解条項案を上申書などの書面で事前に示すということは実務的にはよく行われているところでございまして,その内容そのもので和解が成立した場合,その書面が閲覧の範囲に含まれるということになりますと,和解条項が第三者に公開されないという当事者の期待が実質的に損なわれることにもなると思いますので,そのような書面も閲覧請求の対象から外す訴訟記録に含むことが検討されてもよいのではないかと思っております。 ○大坪幹事 質問になります。91条1項の趣旨というのは,憲法82条の裁判の公開の精神を徹底させるために,一般的に訴訟記録を公開して閲覧する権利を認めたということにあって,訴訟記録をどこまで公開するべきかというのは立法政策の問題だとされていると思います。現在,91条2項には公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録については,当事者及び利害関係を疎明した第三者に限り閲覧請求ができるというふうな規定になっております。今回の中間試案の中で,和解期日についての規定が定められることになって,必ずしも手続が公開されるかどうかということは明確ではないですけれども,従前の扱いを前提とすると,和解期日というのは非公開という前提になるのだろうと思いますそうすると,従前,和解期日における調書も閲覧請求ができるという形で公開されているわけですけれども,これまで積極的に公開されるというのは何か立法政策的な理由というのが考えられていたのでしょうか。もし議論されているところなどがありましたら,教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,御質問ということかと思いますが,事務当局からお答えいただけますでしょうか。 ○藤田関係官 事務当局でございます。御質問ありがとうございます。今御質問いただきました,和解期日の調書について積極的にこれを公開する立法政策上の意義というところにつきましては,現在事務当局で直ちに把握しておるところではございません。和解期日というものを今後明確に規定していく中で,その期日の性質と併せて,訴訟記録の閲覧につきましても,どのようにバランスをとっていくのがよいかということを御議論いただき,検討していきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。大坪幹事,よろしいですか。 ○大坪幹事 はい。 ○佐々木委員 佐々木です。企業として,訴訟の利用者という立場から述べさせていただきます。実際,紛争になった場合に,判決に至らず和解で解決しようというときには,第三者に知られたくないという動機で和解をすることも多々あるかと思います。ですので,需要としては非常に高いと思っておりまして,経団連でも複数企業から意見を頂きましたけれども,全てやはり第三者の閲覧に供すべきではないと,請求できないようにするということに賛成ということでございます。ただ,一方でこういう企業の立場からしますと,他社の同種事件の解決内容を参考にしたい場合などには,逆に自分たちが今度,見られなくなるということに不便さは感じるけれども,というお話もございました。今こちらで頂いている意見というのは,全て制限するということに賛成ということですので,その旨お伝えさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私は,この和解に関する訴訟記録について第三者に一切閲覧をさせないというのでいいのではないかと考えております。今,何人かの御意見があったわけですけれども,まず,憲法の裁判の公開の趣旨の実質化というのが訴訟記録の第三者の閲覧,一般への公開ということになるわけですけれども,裁判の公開自体が,判決に至る手続についてきちんと公開して公権力の暴走を抑えようと,そういう趣旨がやはり一番大きいと思いますので,判決に向けての手続,あるいは判決自体についての公開は大事だと思うのですけれども,和解自体は基本的には当事者間の合意が本質だと思いまして,そういう意味で裁判とは違うのだろうと思いますので,必ずしも憲法の裁判の公開の趣旨は和解には及ばないのではないかと考えられます。   かつ,やはり和解というのは合意ですし,自由な意思決定ということを考えますと,後から誰にでも見られる余地があるということになると,その内容自体を牽制することになりますし,和解自体ができなくなるという弊害もあるのではないかと思いますので,和解調書について第三者に見せない扱いにするということで理屈も立つし,実質的にもいいのではないかと思いました。   口外禁止条項を定めたものに限るかどうかという辺りはあるのですけれども,先ほど服部委員からもあったように,口外禁止条項にもいろいろなものがありまして,その趣旨というのは必ずしも明確ではないですし,場合によっては一定の範囲の者以外には出さないといったものもあって,ではその範囲であればいいのかという話も出てきて,余計な疑義を生むような気がしますし,それから,そういうのを入れられるのだったら,後から入れておいた方がよかったと言って,そこを変えられませんかみたいな,そういう問題なども起きてくるような気もします。また,先ほどの服部委員のお話との関係になりますが,裁判所の決定を入れるという,そこまでの必要もないのではないかと思いますので,私自身の考えは,ある種,一応,提案の方向には入っているもののやや極論かもしれませんけれども,一切見せないということでいいのではないかということでございます。先ほどの経済界の方のニーズみたいなものというのは,その団体とか内部で,やはり見せていいですよと言った人から見せてもらうということでいいのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今,笠井委員の方がおっしゃられたことに私もかなり近い考えを持っていますが,一部考えが違うところもございます。当事者が和解の内容を非公開にしたいという動機を持つこと自体は,もちろん非難されるべきことではなくて,それは私的に行われる仲裁などのADRの利点として社会的にも認知されているだろうと思います。問題は,公的な司法機関が運営する訴訟手続を利用しながら,最終的に得られた解決である和解の内容を非公開とするということを政策的に認めるべきかどうかということかと思いますが,私は認めるべきだと考えているところです。訴訟手続においても私的自治が尊重される場面は様々ありますけれども,非公開で紛争解決したいという当事者の意向を尊重することもその延長線上のものとして許容されるべきだという考えです。   裁判の公開の観点からこれを問題視することも考えられますけれども,先ほど笠井委員がおっしゃられましたとおり,和解自体は当事者間の合意であって,裁判所の判断ではありませんので,これを公開しても,国民が司法手続の適正を監視するということにはならないと整理すべきかと思います。その点は和解期日における協議にもわたり得るという考えも可能ではないかと思います。実務的にも,和解内容が公開されざるを得ないということが和解を困難にしたり,当事者がそもそも裁判手続を利用することをちゅうちょしたりする理由にもなり得るところで,国民の司法アクセスを損なうという面もあるということを重視すべきかと思います。   要件につきましては,先ほど服部委員からも御指摘がありましたとおり,笠井委員もおっしゃられましたが,口外禁止条項を要件に絡めるというのは,その様々な有様があるということを考えると,適用上の無理,運用上の無理を生じさせるかと思います。私も当事者双方の申立てを要件とするということでよかろうと思います。裁判所の判断を伴わせるのかどうかということは,少し難しいかなと思うのですけれども,当事者が和解調書なり和解に関する協議内容を非公開にすることを望む事情というのは,必ずしも事件の争点と関係するとは限りませんので,例えば,裁判所がその理由が相当であるかどうかを判断するという仕組みにすると,少し無理を求めることになりかねないのではないかと思います。その意味では,裁判所の相当性判断を要件とするような考え方は入れる必要もないし,入れることは適切ではないのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 口外禁止条項のある和解調書につきましては,当事者の合理的期待などの観点からすれば,一般論としては第三者による閲覧の制限対象とする方向性は妥当であると考えています。   一方,具体的な事件として消費者事件について考えてみますと,このような一般論がそのまま妥当するのかを検討する必要があるようにも思っています。つまり,消費者事件については,同一事業者に対する同様の消費者トラブルが発生している場合,先行している事件の判決だけではなく,和解内容が情報共有されることによって,他の個別事件の解決の促進にも資するという側面があるからであります。消費者事件においても,取り分け消費者側の勝訴的和解である場合,口外禁止条項が入るということがしばしば見られるところであります。この場合,もちろん事件の当事者からは事件内容を情報提供されることは制限されるものの,現在は第三者が和解条項を閲覧することまでは制限されていませんので,第三者が閲覧できる余地はある状況です。消費者事件については,解決内容の情報提供が一種の公益的な意義を有する側面もあると考えられますので,このようなケースについても,上記のような余地すらも排除して一律に,口外禁止条項があることを理由に閲覧制限の対象とすることは妥当であるのかと,そういう観点です。   なお,消費者事件では適格消費者団体の差止め請求訴訟については,不特定かつ多数の消費者の利益の擁護という観点から和解内容等の情報提供につき努力義務が規定されているところであります。したがいまして,適格消費者団体が原告として進行する事件については,当該適格消費者団体としても同規定を念頭に和解対応することになるでしょうから,おおむねこのような観点の対象にはならないかもしれません。また,個別事件についても,消費者側の代理人などが口外禁止条項を拒絶するという対応をとることで,ある程度は同様にこのような観点の対象外となることも予想されます。とはいえ,適格消費者団体が対応する事件には限界もありますので,個別事件の対応も同様に限界があると考えています。そこで,このような発言をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 幾つかのことを申し上げさせていただきたいと思います。まず,先ほど手続の公開と閲覧制限の話をリンクさせるような御意見が出たように思いますけれども,非訟事件手続法の32条は,利害関係を疎明した第三者は閲覧ができるとしておりますので,非公開であっても利害関係がある第三者の閲覧はできるというわけなので,公開か非公開かということは,現行非訟事件手続法ができる前はともかくとして,現行法の考え方としては,非公開だから閲覧制限できるという,全面的に第三者に対して閲覧を制限するという方向というのは必ずしも出てこないので,別途の理屈付けが必要であると思われます。   それが第1点で,第2点は和解概念の明確化が必要ではないかということです。通常の本来の和解については,おおむねそういうような,和解に至る過程の文書をどうするかという問題はあるにせよ,和解については大体コンセンサスがあり得るところかなと思うのですが,264条や265条,264条はまあ構わないという意見もあるかもしれませんが,265条の場合どうなのか,あるいは,275条の2の和解に代わる決定の場合はどうなのか,それから,取り入れられるかどうかについて激しく議論がされている,新たな和解に代わる決定のようなタイプのものを改正法案に入れ込んだ場合に,それをどうするのかという辺りもきっちり議論しておかないといけないところではないかと思われます。   これが第2点で,第3点は少し細かいのですが,部会資料の13ページの2,検討の(3)に,和解調書に基づく強制執行の場合どうすべきかという問題が書かれておりますが,この場合でも,仮に和解調書が債務名義の場合について,和解調書全体が全く閲覧制限を認めないとまで言う必要はなくて,当該執行の強制執行によって実現される請求権を記載した部分だけが閲覧対象になればいいので,その余の部分については,民事訴訟法で第三者の閲覧制限が掛かる範囲を同じように執行手続に及ぼしても,私は問題ないのではないかという気がしています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。先ほど小澤委員がおっしゃってくださった内容と同じ観点で,私も少し意見を言わなければと思っております。実際に消費者問題においては,小澤委員がおっしゃってくださったとおりで,和解の経過やその結果という紛争解決方法を正確に把握することで,ほかの同様の問題を解決するに至ることがままあるので,これを見られなくすることはまずいという声がございます。私個人としては,本当は自分が和解した場合には見られたくないというのもありまして,なかなかそれは言いにくいことではありましたが,和解の経過や結果が正確に把握できることでほかの同様の問題が解決できるという消費者問題があるということは現実にございますので,一律に見られなくするということに対しては御考慮いただきたいというのが今回の意見でございます。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 今の御意見や小澤委員の御意見についての素朴な質問なのですけれども,先ほどの企業の側の方もありましたけれども,そういうのというのは消費者団体なら消費者団体の間で情報を共有するとか,企業なら企業で経済団体の中で情報を共有するとかという方がむしろ何か,詳しいことが聞けるような気がしまして,もちろん口外禁止条項が入った場合の効力については問題になりますけれども,それらの間で和解の情報についてやり取りをするといったこともできるように思うのですが,おっしゃるようなそういう事実上の効果であれば,閲覧制限の話とは少し違った話として扱えるような気がしたので,その辺りについての実情を御教示いただければと質問させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。消費者関係では小澤委員,藤野委員,経済関係では佐々木委員の御発言に関係していると思いますが,どなたかからもし何かコメントなどあれば。 ○小澤委員 消費者事件で,そういう任意のネットワークなどでの情報共有というのはあり得るかもしれませんが,現実になかなか厳しい状況があるように感じております。藤野委員,もし補足があれば,よろしくお願いします。 ○藤野委員 藤野でございます。非常に難しいところで,消費者系の問題が全てネットワークに乗ってくるかはなかなか厳しく,いろいろな側面から同じような問題の解決方法を探しているというのが消費者系の問題を多く取り扱ってくださっている弁護士先生からお聞きしていることです。実際にそれもとても大変なことだそうです。消費者系のネットワークで情報共有するということ自体がなかなか難しいことが現実でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。笠井委員は。 ○笠井委員 ありがとうございました。よく分かりました。 ○垣内幹事 垣内でございます。直前に出ていました消費者関係の問題は,非常に難しい問題だと思います。厳密には消費者の問題に限らず,一定の紛争が解決されるということ,その解決の在り方が訴訟外の第三者に対して様々な影響を及ぼし得ると,そのことが積極的な意義を持つ場面というのは幾つかの場面であるのだろうと思われまして,そうした場合に,和解的な解決であっても,それが完全に当事者間だけのものということではなくて,一定の情報が共有されることによって他の関係者が救済されるであるとかいったことが期待できるという場面はあるだろうと思います。   ただ,消費者の問題に関して申しますと,例えば国民生活センター等の手続で和解の仲介手続などがあるわけですけれども,こちらの方では事案の概要の公開であるとか,場合によっては事業者名まで公表するといった様々な情報の公開,共有のための仕組みが設けられておりますが,必ずしも個別の案件の和解条項そのもの,和解調書そのものが開示されるという形にはなっていないということでもありますので,訴訟の場合,公益的な性格をどの程度見るのかというのは,いろいろこれも難しい問題だとは思いますけれども,和解調書を閲覧できるという形が唯一の解決ということでもないのかなという感じがしております。ですので,問題の性質に即して何か工夫できるところがあれば,そちらの方も考えてみる必要があるのかなと,差し当たり感じているところです。   それから,この提案そのものの方向性につきましては,基本的には賛成してよいのかなと現時点では考えております。和解は合意による解決ですので,本当に非公開で当事者間限りでやりたければ,裁判外の和解という形を取って,訴えを取り下げるということもできないわけではなかろうと思いまして,その場合,当然,和解調書が訴訟記録になるというわけではありませんので,非公開という形でもできるのだろうとは思います。それに対して,訴訟上の和解の形で解決するということになりますと,裁判所で和解調書を作るということになりまして,この和解調書の効力として,訴訟が終了する等々もありますけれども,取り分け確定判決と同一の効力が生ずるということがあり,この点をどう見るかというのが一つの問題点というか,論点になり得るのかなという感じはいたします。   ただ,既にこの資料でも記載されている,例えば仲裁の場合で考えますと,仲裁判断についても,判決と厳密にどこまで同じかというと,若干のずれはあるかと思いますけれども,しかし確定判決と同一の効力というものを認めており,これは仲裁手続を通した紛争解決というものに対して法として一定のバックアップをしていこうというような考え方の表れとも見得るように思います。そうした観点から見たときに,訴訟上の和解を活用する形で合意による紛争解決が促されるということに積極的な価値が認められると,これは日下部委員のさきの発言にも重なるかもしれませんけれども,そうした政策判断があり得るのであれば,完全に非公開の形,公開しない形であっても,そうした効力を認めるということもあってよいという判断はあり得るのかもしれないと思います。そのように考えますと,確定判決と同一の効力が認められるということが閲覧を認めないことの決定的な障害にはならないということなのかなと思っております。   ただ,ここからは先ほど山本克己委員がおっしゃったことに若干関わりますけれども,非訟事件手続法の規律ということもありますけれども,現状で訴訟上の和解とよく似た司法型のADRという観点で申しますと,民事あるいは家事の調停手続というものがあるわけでありまして,そちらの方では基本的には利害関係のある第三者は閲覧ができるという規律が現在はとられており,かつ,民事調停の規律で申しますと,非訟事件手続法一般の規律と比べると簡易な形で閲覧ができるようなことにもなっているということかなと思われますので,その辺りとの整合性と申しますか,もし裁判上の和解について一切閲覧の対象から外れるということにするのであれば,民事調停手続等における取扱いについてもこの際,見直すということがあるいは必要になってくるのかなという感じがしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○品田委員 以前の部会で,口外禁止条項が定められた和解調書については閲覧の対象外とすべきではないかということを申し上げました。本日,和解調書全てを閲覧請求の対象外とすべきであるという意見が複数出たところで,それについて特段何か異論を申し上げるということではないのですが,他方において,非訟事件手続法においては利害関係のある第三者等が記録の閲覧請求をすることができるということになっていて,このこととの関係も問題提起されたわけです。それが戻り戻って,口外禁止条項が定められていても,やはり利害関係のある第三者は閲覧をすることができるとするのがよいということだとすると,やはりそれは困るのではないかと思いました。   和解調書の中でも口外禁止条項を定めているというものについては,口外禁止条項を定める際に,その和解条項全体に関する両当事者間の利害を総合的に調整したり,検討したりするというプロセスを経た上で口外禁止条項を定めるということになっているのだと思います。そういうプロセスを経ている以上,両当事者はその和解条項の内容が当該当事者間の秘密として外部に漏れないということを希望していると考えられますので,和解の内容が外部に漏れてしまいますと,和解に応諾した前提というのを覆すということにもなりかねないということで,通常の和解調書一般と比較しても,やはり第三者に閲覧されないことへの期待というのを特に強く有しているといえるのではないかと思います。こういう場合に利害関係を有する第三者の閲覧は拒めないということですと,当事者としてはやはり和解的な解決に応じることができないと考えますので,こういう場合にはやはり民訴法の92条と同様に,当事者以外の閲覧等を禁ずるといった効果が必要なのではないかと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今までいろいろな御議論をお聞きして,幾つか難しい問題点も御指摘があったかと思いますので,それらについて思ったことをコメントさせていただこうと思います。   山本克己委員の方から,和解といってもいろいろなタイプの和解が制度的には存在しているので,それらについては踏み込んで考える必要があるのではないかといった御趣旨の御発言があったかと思います。私も本日の部会の前に,例えば裁定和解の場合はどうなのだろうかとか,議論をされている和解に代わる決定のようなものはどうなのだろうかということも考えたところであります。割り切り方としては,そういった通常の裁判上の和解の亜流といいますか,別種別のものであっても,一応当事者の合意をベースとしている紛争解決であるので,裁判上の和解と同様に扱うという処理も考えられるかなと思いながら,現実的には裁判所の判断がそこに含まれていることは確かなので,単純にそういえるものでもないなと思い,一番最初に発言をさせていただいたときには言及を避けていたものでありました。引き続き考えたいと思います。   2点目は,消費者に関する問題ですけれども,確かに同種事件の解決の参考にしたいので和解の内容についても知りたいという動機があるということは,そうなのだろうと思うのですけれども,他方で消費者自身も個別事件において解決した内容を秘密にしておきたいという動機を持つということもあるわけでして,それを両方考えたときに,どういう制度を設けることが適切だと考えているのかということも併せて御提案いただいた方がよいのではないか,そうでないと,事務当局の方もどうしたらいいのかということで悩むだけになってしまうのではないかと思えるところです。消費者関連の問題と労働事件については,よく例外扱いということが法制上も見られるようになっており,そうした例外扱いが考えられないわけではないですが,本当にそれが消費者事件の解決を全体的に見たときに,よいことなのだろうかというのは疑問なしとはいたしません。   それから,最後3点目ですけれども,和解に関する手続を当然に第三者による閲覧の対象から外すという考え方にも言及があったところですが,私自身は,飽くまで国のお金を使って国民の税金で運営されている訴訟手続を利用して紛争解決を進めているわけですので,当事者が非公開にしてほしい,訴訟記録の一部を第三者が閲覧できないようにしてほしいという意向を示していないにもかかわらず第三者による閲覧をできないようにするのは,それは少しやりすぎなのではないかと考えている次第です。そういうわけで,当事者双方の申立てがある場合には,そうした非公開の扱いにするということも適切だと思いますけれども,それがないにもかかわらず非公開にするということについては,私は慎重に考えるべきだと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 再三,恐縮です。先ほどの品田委員の御発言に関連して一言申し上げたいのですが,私は別に,非訟事件手続法がこうなっているから,ここも回り回って利害関係を疎明した第三者の閲覧を認めよなんていうことは言うつもりはなく,単に手続が公開か非公開かということで単純に割り切ってはまずいのではないかということを申し上げたかっただけです。むしろ,垣内幹事がおっしゃった,民事調停や家事調停の場合の扱いを今後,仮に今日,提案のあったような方向で進めるのであれば,そちらを見直すべきだと考えております。   それともう1点,口外禁止条項があるかないかという理屈立てというのは,余り私は適切ではないと思います。口外禁止条項自体が多様なものがあって,どれが該当するかというので事後的なトラブルを招きかねないと思います。かといって,今,日下部委員がおっしゃったように事後的な申立てがあればというのも,やはりこれは余りよくなくて,相手方がきちんと申立てをしてくれるかどうかということについて疑心暗鬼になって,結局和解をのまないということもあり得るので,和解条項の中で第三者に対する閲覧をしない旨の条項が入っていれば制限の対象にするという方が,より合理的,今回提案された改正の目的を達するのではないか,もちろん,およそ和解条項であればという選択肢もなお残されていると思いますので,そこは私,実は定見を持っておりませんが,一応今,気付いたところを2点,申し上げさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大谷委員 日本総研の大谷でございます。これまでほかの委員の方がおっしゃっていたことに対して,新たなことを付け加えるということではないですけれども,このテーマについて私自身の考えをお伝えできればと思います。   私自身,企業の法務担当という立場でございますので,ほかの類似事案の当事者に閲覧されてしまうのではないかといったことが懸念点で,和解にちゅうちょするということがございました。また,口外禁止条項の内容といったことも,そこで合意ができないということも和解に至らない理由の一つになり得るポイントでございました。それでもこれまで和解を選んで来ているというのは,責任の所在について認められず,あるいは損害の金額などについて十分に争いたい,相手方の主張に理由がないと考えている場合であっても,迅速に個別事件を解決することの双方にとってのメリットが大きいと考えるからです。こうした場合には,妥協というのでしょうか,和解を選ぶということがございました。ですので,個別事案の迅速な救済がやはり進められるためにも,和解としての性質ということから,この第三者に閲覧の請求をすることができないようにというのを,口外禁止条項の有無にかかわらず,認めることが必要ではないかと思っております。   他方,この検討の過程で消費者事件などについての配慮という御意見もありまして,正にその点については大きな課題があると思っております。それにつきましては,和解全般についての閲覧請求という制度の中で配慮が可能なものかどうかというのはなかなか難しいところがあると思います。多数の被害者が相次いで発生している消費者事件の解決を迅速に進めるために,例えば消費者団体が補助参加をして当事者と同等の立場でこういった事件についての情報収集をするということも,限界はあるかもしれませんけれども,この民事訴訟法の制度の外側でも工夫できる点を更に工夫することによって,今回提示された問題点の解決というのを更に検討する必要があるのではないかと思っています。   そういう意味で,今回の事務当局で御用意いただいた範囲ということにつきましては,全部和解調書については閲覧を認めないということを原則とすべきではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。なおその要件,あるいは手続,範囲等,若干の検討すべきところはあろうかと思いますけれども,大きな方向性としてはある程度コンセンサスが形成されつつあるのではないかというふうに伺いました。   それでは,恐縮ですけれども,次の論点,資料13ページの「第8 調書の更正」の方に移りたいと思います。事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   中間試案では,調書の更正に関する規律を創設し,これを裁判所書記官の権限とするものとする考え方があるとされております。ここでは,裁判所書記官が作成した調書に明白な誤りがあるときに,裁判所書記官が裁判長の認証又は承認の下に更正することができるとの規律を設ける考え方を御提示しております。このような要件を満たす全ての調書を裁判所書記官による更正の対象とするのか,それとも,調書判決の場合の調書や和解調書などにつきましては裁判所が決定により更正するものとするのかなどにつきまして,御議論いただきたく存じます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点について,これもどなたからでも結構ですので,御発言をお願いしたいと思います。 ○日下部委員 最初に1点,質問をさせていただければと思います。今回の部会資料では,口頭弁論の期日の調書その他の調書において明白な誤りがあるときの規律が提案されているわけですが,明白ではない誤りがあるという場合にはどういった規律を想定されているのか,先ほどの御説明によりますと,裁判所による更正決定ということを想定されているのかなとも思ったのですけれども,その点を教えていただければと思います。 ○藤田関係官 事務当局でございます。御質問ありがとうございます。今回の規律では,明白な誤りがあるときという規律を設けることを御提案しております。このような要件を満たさない場合には,当該規定によらない更正ということになると思われます。その場合には,部会資料16の14ページの検討(1)のところに記載させていただきました最高裁判例に基づく更正がされる場合もあり,それ以外にも,実務上とられております当該調書についての裁判所による更正決定がされる場合もあるとも考えられます。その調書の性質や誤りの内容等に応じまして,裁判所書記官が更正をする場合と,裁判所が更正決定をする場合があることになろうということです。 ○山本(和)部会長 日下部委員,いかがでしょうか。 ○日下部委員 ありがとうございました。今現在具体的な規定がない調書の更正については,中途半端にこういうケースだけはこうするという規律を設けるのではなくて,一応網羅的な手当てができるようにする規律を,複数でしょうか,設けることになるのかなと理解をしているところです。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 前提の確認ですが、今回の提案は調書の更正というタイトルで頂いています。物の本等を見ますと,調書の訂正と調書の更正とで概念区分がされているのですが,ここでの調書の更正とは,更正決定における更正と用語的には同じ範囲を書かれていますので,それが前提なのかという点が1点,それと,現状の調書の訂正ですが,物理的に加筆する形で訂正され訂正内容が残る形になっていますが,IT化後の調書の訂正は,いわゆる見え消し版のようにどこがどう訂正されたのかが事後的に確認できることを想定されるのか,それともどこが訂正されたのかが反映され分からないことになるのか,2点教えていただけますか。 ○藤田関係官 御質問ありがとうございます。1点目の更正決定の更正と同じ更正かという点につきましては,同じ更正と考えております。法制上,調書を修正することを更正と呼び続けるのかという問題は残り得るとは考えておりますが,内容といたしましては更正決定の更正と同じと捉えていただいて結構でございます。   2点目の御質問でございます。調書の更正をどのような形でするのかにつきまして,法律上そこを規律する必要があるということであれば,その点につきましても御議論いただきたいと考えております。ただ,前提といたしまして,更正したことが跡形も残らないような更正ということは余り想定しておりませんで,更正されたことが事後的に分かるような形で更正されなければならないと考えておるところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。阿多委員,いかがですか。 ○阿多委員 日下部委員から,更正がされたことについての通知,情報提供という意見がありましたので,考えていることを述べたいと思います。   戻りますと,元々調書が作成されたという時点で通知をし,さらには調書の更正があった時点でも通知をするという提案ですが,特に更正の都度裁判所から当事者に通知が行く形になりますと,事務処理をする書記官としては,言わばミスをしていましたと都度当事者に通知が行くと形になりますので,それを危惧して逆に事務が停滞することになりかねないのではないか。更正されたことは最初に質問したように記録上,訂正されたことが分かるであれば,閲覧する段階で訂正されたことが分かるので,あえて更正の都度通知することまでは必要ないと考えます。   また,対象についての調書の種類の説明がありましたが,提案は,254条2項調書や和解調書等を除かれていますので,基本的には期日調書等を想定した提案だと読めますし,和解調書等の場合は別個の判断になるかとは思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 事前に考えてきた段階では,調書に明白な誤りがあるときに裁判長の認証又は承認の下にということであれば,書記官がその更正をすることができるようにすること自体には問題はないように考えておりました。具体的に問題が生じ得るのはどういう局面なのだろうかということを考えてみますと,更正に係る誤りが明白ではあるけれども,それが非常に重大なものであって,かつ当事者の一方又は双方が調書の更正がなされたことを知らないままの状態になってしまうということかなと思った次第です。そういった事態を避けるためには,少なくとも重大な誤りの更正の場合には,調書の更正がなされたことが当事者に告知されるようにすることが必要ではないかと思いました。その意味では,先ほど阿多委員がおっしゃったことと意見が近いようにも思うのですけれども,誤りが重大であるかどうかということを判断することが状況によっては難しいということもあるように思われまして,調書の種別によって類型的に区分けをするということはできても,誤りの具体的な内容を踏まえて重大性の判断をするというのは必ずしも容易ではないように思いました。   そう考えますと,調書の更正に関する規律を設けるということであれば,例えばですが,調書判決における調書や和解調書などのように,類型的に誤りが存在するときには重大な意味合いを持ちそうなものについては裁判所による決定を必要として,当事者への告知もする,不服申立ては即時抗告として,要は判決書の更正と同じような扱いにしておく。それら以外の調書,類型的には当然に重大な意味合いを誤りが持つとは限らない調書については,誤りが明白であるという場合と明白でないという場合につき,明白な場合については書記官が更正をすることができる,明白でない誤りのときには裁判所が判断をするというような形にしておいて,ただ,更正をする主体がどのような場合であったとしても,当事者への告知というのは必ずしていただくというふうにすることがよいのではないかと思いました。今回の御提案の部会資料における説明の中では表れていなかったかもしれませんが,私自身は更正がなされたということが当事者にタイムリーに知らされるということが重要なことになるのではないかと思っておりまして,先ほど別の論点でも言及させていただきましたけれども,事件管理システムをうまく使って,調書の更正についても当事者にタイムリーに告知されるような仕組みをシステム的にも法制的にも用意,手配をしておくということが適切かと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 青木です。調書の記載の誤りが明白か,あるいは重大かという問題に関わるかと思いますが,民事訴訟法160条3項に,口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書によってのみ証明することができるとありまして,弁論の公開をしたこととか弁論の更新をしたことといったことの記載漏れについて,御提案の手続により調書の更正をすることができるのか,また,された場合にはその更正されたものにより証明することができるのかというところが疑問には思うのですけれども,もしそれができるのだとすると,そのようなものについては当事者が何か異議を述べる機会が与えられる必要があるのではないかとも思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 不勉強をさらすことになり,お恥ずかしいのですが,私,少し分からなくなってきたので,事務当局に限らず,どなたかに教えていただきたいのですが,裁判所法60条5項で,裁判所書記官は口述の書き取りその他の書類の作成又は変更に関して,裁判官の命令を受けた場合において,その作成又は変更を正当でないと認めるときは,自己の意見を書き添えることができるということで,変更の命令というのがあるということで,その命令の根拠はその前の4項にあるようなのですね。そして,ここの書類の中には,同条2項で,裁判所書記官は裁判所の事件に関する記録その他の書類の作成なので,どうも記録というのは調書もこの記録であって,かつ書類であるとも読めなくはないのですが,こことの関係は今日の御提案はどうなっているのでしょうか。少しこれがよく分からないなという気がしてきたのですけれども,どなたかお教えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 どなたかということですが,事務当局からまず,何かありますか。 ○藤田関係官 事務当局でございます。一般に調書の成立におきましても,裁判所の命令によりその内容が決まり,それに裁判所書記官が異議があれば意見を付記するというふうになっておると承知しております。調書の更正に当たりましても,仮にその主体が書記官になるということになりましても,同じような規律が及ぶのではないかとは思っておるところでございます。したがって,最終的には裁判所書記官の判断が裁判所側と異なっておる場合には,裁判所書記官の判断は付記されるにとどまるということになろうかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。山本克己委員,いかがですか。 ○山本(克)委員 すみません,私がお伺いしたかったのはそういうことでなくて,そもそもこの変更の命令というのは,成立した調書の更正についても元から60条5項の適用範囲に入っているのではないか,つまり命令によって更正できるということが,60条5項を出したのがまずかったので,4項によってできるのではないのかということで,今回の御提案と裁判所法の規定の関係をお教えいただきたいという趣旨です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局は今の点はございますか。 ○藤田関係官 御説明いたします。今の御指摘の点につきまして,必ずしも整理し切れているところではございません。引き続き裁判所法との整合性も踏まえて整理させていただきたいと考えております。ただ,裁判所法上の命令がされる場合におきまして,その命令を受ける裁判所書記官がどのような範囲の者なのか,それが調書を作成した裁判所書記官に限られるとしますと,今回御提案させていただいておりますこの第8の規律におきまして,仮に裁判所書記官の範囲が当該調書を作成した裁判所書記官に限らないということになるとすれば,それはまた裁判所法による修正とは異なる修正,更正の余地が生まれるという関係にあるとは思っておるところでございます。引き続き整理を進めたいと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。他の委員,幹事から今の点で何かコメントや,こう思うというふうなことがあれば。特段はございませんか。 ○阿多委員 山本克己委員の指摘に関連とまではいかないのですが,関係官から説明があった,調書の更正は誰がするのかということについて,私自身は調書作成,公証した書記官が調書を更正する場面を想定していて,書記官が異動した場合は,本人でないので更正はできないと考えて読んでいたのですが,提案は,違う書記官であっても更正は可能だという提案なのでしょうか。 ○藤田関係官 お答えいたします。今回の御提案は,主たる論点といたしましては,調書の範囲をどのようにするのかということでございます。ただ,従たる論点といたしまして,調書の更正処分をすることができる裁判所書記官は当該調書を作成した者に限られるのか,それとも,それ以外の裁判所書記官であっても当該要件を満たす場合には更正処分をすることができるとするのか,これも一つの論点になり得ると考えております。 ○阿多委員 問題としては理解しました。ただ,想定していたよりもかなり広い範囲での議論になると思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○高田委員 高田でございます。確認させていただきたいと思うのですけれども,先ほど阿多委員と日下部委員との間で通知の要否という議論がありました。その先の話ですけれども,不服申立ての可能性について,事務当局としてはどういう御理解であるのかということを一応確認させていただければと思います。 ○藤田関係官 御質問ありがとうございます。今回御提案の調書の更正は,裁判所書記官の処分に当たると考えております。したがって,裁判所書記官の処分に対する異議申立てをすることができることとなると考えております。また,その異議申立て後の手続に特別な規律を設けていくのかどうかにつきましては,現行民事訴訟法上ございます訴訟費用額の確定処分に対する異議申立てのように特殊な手続を設けるというような考えもあり得ると考えております。 ○高田委員 私も同じ認識でございました。更正処分というものと,それに対する不服申立てを認めるということであるとすれば,これはやはり通知は必要とするのが落ち着きがよいのではないかと現時点では考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○渡邉幹事 2点ほど問題意識をお伝えしたいと思います。   まず1点目でございますが,既に議論でも出ているところですが,部会資料14ページにあるゴシック体の提案本文では,更正の要件につきまして,判決の更正についての法257条と同様の,計算違い,誤記その他これらに類する明白な誤りのあるときとされております。このような要件とすることに現時点で異論があるわけではございませんが,同じページの2(1)の第2段落の方では,調書の内容を実質的に変更しないことという記載がございます。他方で,同じ項に掲載されている書記官による調書の更正を認めた昭和62年の判例上は,調書を更正することのできる場合について特段限定をしていないところでございます。実際どのような範囲についてまで更正が許されるのかというところにつきましては,実際問題としては悩ましい場面がかなりあると思われるところではございますが,調書を更正することができる客観的範囲をどのように考えるのかということについても各位の御意見を頂戴できればと感じたところでございます。   もう1点ですが,先ほど調書を更正できる主体につきまして,当該調書を作成した書記官に限るのかどうかといった点についても阿多委員から御発言がございました。この点につきましても,確かに現実の実務におきましては,調書を作成した書記官の転任あるいは退任後は更正しないといったような運用も見られるところではございますが,法257条1項に基づく更正決定につきましては,判例上,上訴裁判所における更正決定も認められているところでございます。また,当該書記官の転任,退任後であったといたしましても,後任の書記官などが計算違い,誤記その他これらに類する明白な誤りの有無といったものを判断することには支障がないという場合もあるように思われまして,少なくとも形式的な変更にとどまる場合につきましては,更正をすることができる書記官を,調書を作成した者に限定しないという考え方もあり得るように思われるところでございます。現時点で必ずしも定見を持っているわけではございませんが,この点につきまして,法257条1項と同様に法律上明確な規律を定めるという必要があるかも含めて,各位の御意見を頂きたいと感じているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。問題提起を頂いたかと思いますが,その点も含めて委員,幹事,さらに御意見があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○阿多委員 制度設計の話になってくるのかと思いますが,更正決定と同じ意味で制度設計するのであれば,高田委員からの指摘のとおり,争う機会を確保する必要がありますので,不服申立て,さらにはそのための通知が必要になるとは思います。ただ,元々の提案がそこまでの話なのか,私は計算違い,誤記を訂正するため,片仮名と平仮名を間違えたという点を訂正するために決定し,通知,不服申立ての機会を付与することまで今回想定されているとは思いません。そこで,形式的な誤謬の訂正に限定し,通知はなくても調書を見れば訂正箇所が分かる,その程度でよいのではないか,そこにとどめるべきではないかと考えて,意見を述べています。人の属性にこだわるかは別ですけれども,範囲はそうイメージしています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 今の阿多委員の御意見なのですが,少し承服しかねるところがあって,この権限の範囲にとどまった更正かどうかということをチェックする機会というのは必要なのではないでしょうか。私は,高田委員がおっしゃったように,やはり書記官処分に対する異議の機会は常に与えられるべきだと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私も今,山本克己委員がおっしゃったのと同じように考えております。最初の頃の発言で申し上げましたとおり,何らかの更正がなされたということであれば,それが誰によるものなのか,あるいは重要なのか,あるいは明白なのか,そういうことを問わずに,当事者に対してはそのことが伝えられるのが当然のことだと思いますし,それは別に何ら非常識な話でもないだろうと思います。   今回の御提案では,現行法で定めがない調書の更正について規律を設けることが示されているわけですけれども,せっかく規律を設けるということであれば,特定の状況についてだけこうするのだということを定めて,あとはほかの規定の従来どおりの準用なりで済ますというのではなくて,状況を網羅する規律群を設けるということも,調書の更正についてはそれほど難しい話でもないように思いますので,事務当局からは御提案を頂きたいと思っております。その際には,更正の主体,それから更正の裁判あるいは処分の種別,当事者への連絡がどういう位置付けのものになるのか,不服申立てがどうなるのか,こういった点を明らかにしておく必要があると考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大野幹事 事務当局でございます。先ほど山本克己委員からお話のございました裁判所法との関係につきまして,現段階で思うところを述べさせていただきます。   調書は一般には書記官が作成して署名,捺印し,裁判長が認証のための捺印をすることによって完成するといわれておりますが,更に外部的には完成された調書が当事者,利害関係人の閲覧請求に応じ得る状態に置かれた時,通常は編綴された時といわれておりますけれども,こういった時に成立をするのだと考えられております。現在御提案しております調書の更正に関しましては,この完成した調書について誤りがあるときにどのようにすべきかということを検討しているという趣旨です。翻って,裁判所法60条の規律につきましては,現段階の整理では,調書の完成後ではなく,完成前の場面で働く規律なのではないかと思っているところです。ただ,今その整理が正しいかどうかというところは確たるところがございませんので,引き続き,頂いた御趣旨を踏まえて整理をしたいと思います。 ○山本(克)委員 大野幹事,ありがとうございました。私も直感的にはそうかなと思っておったのですけれども,少し自信がないのでお伺いしたような次第です。更に検討を深めていただければ幸いです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,おおむねよろしいでしょうか。この点はかなり議論がいろいろな点に及んだかと思います。対象として,そもそも明白な誤りということでよいのか,私の記憶では,この最高裁の昭和62年の判決というのは,当事者の主張を調書に記載していなかったのを後からその主張を記載したということで,少しこの計算違いや誤記とは違うような話で,しかし更正を認めたということだったように思いますので,こういった判例の趣旨等もどういうふうに考えるかということは問題になりますし,最後,日下部委員にまとめていただいたように,主体の問題,通知の問題,不服申立ての問題,その手続等についてもなお検討すべき点について多々御指摘を頂いたかと思います。それを踏まえて御検討いただき,提案を頂く場合には,更にもう少し詳しい形の御提案を今後頂くことになろうかと思います。   それでは,ここで若干の休憩時間を取りたいと思います。恐縮ですが,少し予定より時間が押しておりまして,3時35分,10分強しかありませんが,恐縮ですけれども,3時35分に再開したいと思いますので,それまで休憩ということにしたいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,35分ということになりました。皆様お戻りでしょうか。   それでは,資料の1ページ,最初に戻りまして,「第1 弁論準備手続における訴訟行為等」の問題の方に移りたいと思います。事務当局の方から資料の説明をお願いいたします。 ○西関係官 御説明いたします。   中間試案では,弁論準備手続に関する記載の(注)として,調査嘱託の結果の顕出等について,口頭弁論ではなく弁論準備手続においても可能とする考え方を記載しておりました。これは,以前の部会においてそのような意見があったことから記載したものでございます。この点について改めて検討いたしますと,現在も,弁論準備手続において調査嘱託についての裁判がされた場合には,事実上,その後到着した調査嘱託の結果を踏まえた争点整理がされているということからいたしますと,弁論準備における顕出を可能とすることが実態に合致するという考え方がございます。他方で,このような考え方を採った場合には,調査嘱託について弁論準備手続の中で証拠調べを完結することができることとなるように思われますが,現行法は弁論準備の中で可能な証拠調べの範囲を限定的に考えているとも思われるため,そのような現行法の立場との関係や,その他の証拠調べとの関係についてもよく検討する必要があるのではないかと思われます。そこで,このような点を踏まえまして,皆様に御審議をお願いするものでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どの点からでも結構ですので,御質問,御意見を頂戴できればと思います。 ○日下部委員 冒頭に1点,質問をさせていただきたいと思います。今回の御提案の中で四つの項目が挙げられていると思いますけれども,その中の尋問に代わる書面や鑑定人の意見を記載した書面のみならず,調査嘱託の結果や鑑定嘱託の結果も書面,あるいは法改正後は書面データということもあるかと思いますが,それらの形式で提供され,その内容は客観的に固定しており,弁論準備手続の時点においても後の口頭弁論期日の時点においても変化は生じ得ない,その点では書証における文書と同様であるという前提でよいでしょうか。御確認をお願いいたします。 ○西関係官 御指摘のとおり,第1の本文中に書かせていただいたものについてはいずれについても,書面かデータかという問題はございますが,いずれにしても基本的にその後その内容について変更されることはないと理解しているところでございます。 ○山本(和)部会長 日下部委員,よろしいですか。 ○日下部委員 はい,そういうことでしたらその前提で御議論することになろうかなと思いますけれども,実務的にはまずないだろうなと思いながらも,そうではない,客観的に内容が固定していない形で調査嘱託の結果や鑑定嘱託の結果が存在し得るのだとすると,何か考えなければいけないこともあるのかなと思っていたので,留意はしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 頂いた御提案ですけれども,平成8年段階での立法に際しては,いわゆる主張と証拠の峻別の問題があって,争点整理の場合,例外的に書証が入ったわけですが,近時の争点整理,正確には争点と証拠の整理の手続では,その後の集中証拠調べの前段階として,人証による立証とそうでないものを区別する手続だと位置付けられていると思います。そういう意味で,人証以外の証拠方法も争点整理段階で顕出させることは争点整理を実効性あらしめるために有効な提案だと思います。   ただ,並んでいる四つのうち尋問に代わる書面については,ほかの手続とかなり違うという認識です。最終的には書面で提出されますが,尋問に代わる書面を取得するまでの手続は,通常の証人尋問の申出を行って,その際尋問事項を出し,かつ,本来だと証人採用になるところが,一定の要件の場合には書面尋問が採用されるわけです。申請者は主尋問事項,相手方は回答希望事項を作成して提出し,裁判所がそれを取りまとめて送付した後,回答が来るということになります。正に人証を実施しているのであって,結果が書面であるということをもって,争点整理手続の中でそれを顕出させるのは,人証との峻別からはいかがなものかと思います。他の鑑定等であれば,鑑定結果を踏まえてその後,主張を展開すると,例えば株価だとか遺留分侵害額請求だとかという場合,不動産鑑定が先行したりして,その後の主張を構成することがありますが,私が経験する限り,尋問に代わる書面を踏まえて再度主張を構成する形で使うことはないと思います。そういう意味で,尋問に代わる書面については,やはり弁論準備手続の中で取り込んで顕出というのは反対,それ以外については賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私も結論として阿多委員と同じようなことを考えていましたので,続けて手を挙げさせていただきました。   どこで区切るかという問題が確かにありまして,鑑定の嘱託とか,調書嘱託は一番客観的なもので,書証がいいのならこれもいいだろうという話になりそうですし,鑑定の嘱託とか鑑定人の書面による意見陳述は,専門的で客観的なものであることが多いと一応,定型的にいえますので,いいのかなと思いますけれども,今の条文との関係でいきましても,182条という条文がありまして,これは集中証拠調べの条文ですけれども,証人及び当事者本人の尋問は,争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行うということになっていて,証人と当事者本人尋問を集中して行うために争点証拠整理手続があるのだと今の法律は建て付けができていると思っております。   そういう意味で,205条で尋問に代わる書面の提出というのがありますけれども,これは証拠としての性質は人証だといわれていますので,やはり証人尋問の性質を持つものであると言わざるを得ないと思いまして,そうしますと,182条との関係でもなかなか説明が難しいのかなと,説明するとすると,当事者に異議がないのだからいいではないか,みたいな説明しかできないのかなと思いまして,そちらの方向に行くのであればそういう説明しかないかもしれませんが,それはそれで少し問題もありそうであります。阿多委員がおっしゃったような実情についてよく承知していたわけではないのですけれども,そういう実情にあるとすると余計にそう感じまして,法律の現在の建前からいっても,205条の尋問に代わる書面の提出というのは相当慎重に考えた方がいいように思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 初めに,質問になりますけれども,提案の内容は,顕出することができるという提案になっていまして,この顕出というのは口頭弁論を前提とした用語なのではないかと思います。ですので,弁論準備手続の期日で調査嘱託の結果等を顕出することができるものとするというのは,民事訴訟法に何か新しい規定を設けるということになるのでしょうか。設けるという場合には具体的にどういう条項になるのか,お聞かせいただければと思います。 ○西関係官 この顕出という概念自体が現行法の中にあるものではなく,判例法理等によって承認されている概念でございます。したがいまして,こういったものを弁論準備手続の中ですることができるとした場合に条文としてどういうふうにするかということは,検討しなくてはいけない問題であると思っておりまして,その具体的な姿について現時点で定見があるわけではございません。この点については,法制的な観点から今後引き続き検討していきたいと考えております。 ○大坪幹事 ありがとうございます。その前提で,阿多委員も笠井委員も,尋問に代わる書面については反対だという御意見だったと思うのですけれども,これは結論的には,当事者に意見陳述の機会を与えられるかどうかということが重要なのではないかと思います。そういう意味では,弁論準備手続に出されても,それについて当事者に意見陳述の機会が与えられるということであれば,あえて口頭弁論で顕出しなければならないとする必要はないように思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 迅速に裁判手続を進めるという観点から,弁論準備手続の期日において調査嘱託の結果などを顕出することができるものとする,として差し支えないと考えています。ただ,非公開の手続の中で証拠調べが拡大されることへの懸念は理解できます。弁論準備手続で何でもできるということになりますと,争点整理に集中するという制度趣旨が没却されて,逆に民事訴訟手続の遅延の要因になるというおそれもある,そういう考え方もあり得るかと思っています。ただ,簡易裁判所や本人訴訟では,弁論準備手続や口頭弁論といった違いにかかわらず手続を柔軟に迅速に進めることが望ましいという感覚が,利用者である市民,国民としての素朴な意見になるのだろうと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 この問題につきましては,本来,証拠調べをする手続ではない弁論準備手続において,実務上の便宜のために現在認められている文書の取調べに加えて,どこまで証拠調べをすることを許容するのかというものと理解しています。訴訟代理業務をする弁護士の立場からは,争点整理の促進につながる提案として受け入れられるものと考えているところです。ただし,そうした便宜的扱いを拡大するということは反面,口頭弁論を一層空洞化させるとも考えられますので,理念的には裁判の公開原則を後退させるとも評価し得ると思います。現実的に,口頭弁論期日における調査嘱託の結果等の顕出が書証における文書と同様に,既に存在していて内容が客観的に固定している書面の存在の報告にすぎない形式的行為であるということであれば,そうした理念上の問題を気にすべき実益がないともいえそうなのですが,他方で,理念は理念として堅持すること自体に意義があるのだ,実益があるのだという見方もあるように思われて,実務家としてはなかなか意見を申し上げづらい面はあるのかなと感じたところです。   先ほど来,尋問に代わる書面を特別に,ほかのものとは区別して扱うべきではないかという問題点が議論されているかと思います。争点整理段階の過程で尋問に代わる書面が作成されるという事態はそもそも余りないようにも思われるのですけれども,これだけ特別扱いにするという処理というのも,先ほど申し上げました理念と実務上の便宜のどちらを優先させるのかという観点からいうと,その中間にあるような話にも聞こえまして,やや中途半端なのかなと,実務的な便宜を重視するということであれば,先ほど大坪幹事がおっしゃられたとおり,顕出を弁論準備手続の中で尋問に代わる書面についても認めてしまうというのも一つの割り切りでもあるのかなとも思ったところです。   やや中途半端な意見になってしまって恐縮ですけれども,そのように考えてまいりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。今,日下部委員の方から理念というお話もありましたけれども,これも日下部委員の御発言の中でもありましたけれども,一つの切り口と申しますか考え方としましては,書面に書かれていることを閲読するという形での顕出と申しますか,裁判官がそれを訴訟資料として認識するというプロセスが予定されているものについては,これは口頭弁論期日以外の場であっても口頭弁論の期日であっても,実質においてそれほど大きな違いが生じないという観点から,口頭弁論期日外の場で行うということもあり得てよいのではないかというのは,一方であり得る発想なのだろうと思います。   他方で,現在弁論準備手続において文書の取調べだけ特別に認められているということになっておりまして,文書の取調べを認めるに当たって,書面を顕出するということに着目すれば,当時から今日御提案の中で挙げられているようなものについても併せて対象にするということがあり得なかったことではないのではないかという感じもいたします。そうした中で文書の取調べを特に認めたというのは,一般的にいって争点整理の過程で文書についてあらかじめ前提として取り調べておくということの意義が非常に大きいということについてコンセンサスが得られたということがあるのかなと理解をしておりまして,そうした観点から見ますと,今日の御提案について,いずれも書面という点では共通しておりますので,最も広くはこれら全てについて認めるという考え方も,およそあり得ないということはないのかなと思われますけれども,他方で,これについてはこういう理由で非常に必要性が高いであるとかいった,例えば鑑定について,専門の知識が十分得られていないとそもそも争点整理そのものが困難であるといった議論もあり得ると思われますので,そうした実質的な立法事実と申しますか,根拠というのがそれぞれにあって,認めていく,特に必要性が高いものについて認めていく,そうすると,尋問に代わる書面についてどうなのかと,陳述書等との関係ということもあるかと思いますけれども,特にこれを認める必要があるのかどうかといったような形で,個別に必要性を判断していくというアプローチもあり得るようにも思われまして,現行法が仮に後者のようなアプローチを採ったのだとすると,そのアプローチの延長線上で考えるのか,それともこの際,弁論準備手続と口頭弁論との役割について,本当に口頭でしかできないことだけを口頭弁論で行うという形で,今回の提案でいえば全てのものを認めていくのか,その辺りは二つのアプローチと申しますか,整理の仕方があり得るのかなと考えておりまして,私自身は今のところは,特に必要性が高いのは何なのかということをもう少し具体的に検討してもよいのではないかという印象を持っているというところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○品田委員 今回問題になっているものについて,それぞれ必要性というようなお話が出ましたので,若干,自分自身の経験や,ほかの裁判官から聞き取った経験も含めて,御紹介させていただきたいと思います。   まず,調査嘱託についてはおおむね一番必要性が高いのではないかという類型として御理解を頂いているのではないかと思いますが,典型的なものは,銀行から口座の取引履歴を取り寄せて,そこで示された具体的な払戻などの取引について議論をして,争点整理を進めていくといったようなことがよく行われています。   それから,鑑定の方ですけれども,これは,例えば何らかの事故に遭って後遺障害が残ったという主張をして,その後遺症に関する損害賠償を請求するというような事案で,後遺障害該当性について鑑定を実施した上で,その結果を踏まえて具体的な損害額についての争点整理を行っていくといったようなケースはあり得るのかなと思います。また,鑑定で出された意見を踏まえて,その後の人証調べで証明すべき事実ということが確認されるということもあり得ると思います。   あと,尋問に代わる書面についてですけれども,これについては先ほど陳述書との関係といった御発言もございましたけれども,陳述書の作成が困難な証人で,かなり客観的な内容を証言していただける方について,書面尋問を実施した上で,その結果を踏まえて更に争点整理をするといったケースというのもあり得るのではないかと考えているところです。   理念的なところとニーズのところで,それぞれいろいろと差異はあるのだと思いますが,一応その実情ということで,一定のニーズの紹介ということで発言をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 青木です。尋問に代わる書面についてですけれども,既に指摘されているように,証人尋問の一種だと理解されていることから,本来の証人尋問が弁論準備手続ではできないこととの関係が問題になるかと思います。ただ,証拠調べの手続としては,やはり裁判所が提出された書面から心証を得るということだと思いますので,余り証人尋問の一種であるということにこだわる必要もないのかなと思います。弁論準備手続の期日において,その当事者に意見陳述の機会を与えた上で,書面に記載された証言内容を争点整理手続において活用するということはあり得るのではないかと,場合によっては,提出された書面の内容に疑わしい点があるので,その証人に対する現実の尋問を実施することにするということもあるかと思いますので,およそできないということにする必要もないのかなと考えております。   それから,集中証拠調べとの関係では,準備的口頭弁論であれば証人尋問は認められるかと思いますので,争点整理の段階では証人尋問ができないとまではいえないのかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今のところどなたからも御指摘がないので,一言申し上げようかと思いましたのが,部会資料2ページの一番下の部分で言及されております,弁論準備手続を受命裁判官が行う場合に特別の考慮が必要ではないかという問題意識についてです。   この点,受命裁判官が弁論準備手続を行うという場合であったとして,調査嘱託の結果などの顕出を認めるということですと,場合によっては直接主義を後退させるのではないかという見方もひょっとしてあるのかなとも思ったのですが,顕出の意義は当事者の手続保障のためになされるもので,裁判所による証拠調べそのものではないのだということであれば,受命裁判官が弁論準備手続を行っている場合であったとしても,そのような顕出を認めることが直接主義を後退させるということにはならないのではないか,そうであれば受命裁判官が弁論準備手続を行う場合に特段の別扱いをすべき理由はないようにも思えました。結局,顕出の意義次第でもあろうかなとも思っておりまして,この点,私は勉強不足なのですけれども,今後,事務当局からこういった考え方が採られてきたのだといった補足を頂ければ有り難いと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 私は,先ほど垣内幹事ですかね,整理していただいたように,書面を閲読するという,証拠調べかどうかというのは今回の顕出でよく分からないところもあって,よく分からないのですけれども,それと,書面の性質に応じたニーズという二つの面から考察すべきだというふうに整理を前提として発言させていただきますが,ニーズというのを完全にはかり切れるのかどうか,この場合よく分からない,こういうもののニーズを測ることは非常に難しいなという気がしております。   特に問題になるのは証人尋問に代わる書面の場合ですね,この場合についてニーズが本当にないのかどうかというと,裁判実務を知らない人間が抽象的に考えただけなのですが,例えば争点整理上非常に重要な文書が書証として提出されましたと,そして,その書証の成立の真否,提出した側は真正に成立していると,相手方は偽造だと言っているような場合に,作成名義人の尋問をこの形でやって,これが出れば争点整理に大いに寄与するようなことも私は考えられる,そういうケースもあるので,しかも,かつ,これはやはり早い段階で証人尋問をするという決定をされているということは,それなりに早い段階でそのポイントについての資料を得たいと裁判所ないし受命裁判官が思われているときだろうと思いますので,何かやはりニーズというのを,一弁護士の経験上,ニーズがないということだけで切り捨てていいのかどうかというのは私は疑問を持っております。   それともう1点,私は平成8年の現行法の政府草案を作る際の法制審には関与しておりませんでしたので,170条2項のオリジナルの条文ができた経緯についてはよく存じませんが,恐らくこの中で御存じなのは高田委員だけだと思いますので,もし必要があれば御補足いただければと思うのですけれども,私は平成15年にこの171条が改正された際の法制審議会には幹事として関与しておりました。受命裁判官の場合でも文書の取調べができるようにするという改正が平成15年改正だったわけですけれども,その際に問題になったのも,公開主義の問題はもう170条2項において,平成8年の段階でクリアしたという前提で議論するということに当時はなっておったわけです。問題なのは直接主義であるわけですね,受命裁判官の場合ですので。直接主義に反するから駄目だという御意見も幾つか出たのですが,しかし,私は別に改正しても構わないという立場だったから申し上げたのは,直接主義というのは憲法上の原則ではなくて法律上の原則なので,法律において法律の例外を認めることは何ら問題ないのではないかという発言をした覚えがございます。それが決定打になったのかどうか分かりませんが,受命裁判官も弁論準備手続において文書の取調べができるという方向で改正がされたわけです。   そういう経緯を考えますと,そして,170条2項について私の推測を述べますと,これは書面を閲読することを国民の監視の下に置くことが意味があるのかどうか,読んでいるなというのを見ることに意味があるのかどうかということが恐らく問題になっていて,そんなのは意味がないのではないのかということで来たのだろうと思いますので,今回の顕出の正体はよく分からないところは確かにありますけれども,書面の問題というものを果たして公開でやる必要があるのかというアプローチから,垣内幹事の第1のアプローチからすれば,私はもう毒皿でいいのではないかと,ニーズもある程度は抽象的には想定できるということで,原案どおりで結構かと思います。   ちょっとまどろっこしいことになりまして恐縮ですが,以上で終わります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○高田委員 高田でございます。まず,研究者として理論的な言葉遣いの問題から一言申し上げさせていただきます。これらの訴訟資料について顕出という概念が使われておりますが,これは従来は広い意味での口頭主義、あるいは直接主義の下で訴訟資料にするために必要な行為を顕出という概念で捉え、口頭弁論に上程していたのだろうと思います。弁論準備手続でも,例えば調査嘱託の結果が使われているという先ほどの実務の御紹介がありましたけれども,その場合,その後の口頭弁論において結果陳述だけで済んでいるのか,改めて顕出が必要だと考えておられるのかというのが私には気に掛かりました。もし顕出することを考えておられないとすると,既に現行法の実務の下でも証拠調べは完結している可能性があるように思いました。要するに,繰り返しになりますけれども,顕出ということと,証拠調べが完結するという言葉の関係について整理が必要であるように思われ,私自身は顕出という表現は専ら口頭弁論における,口頭主義の下で訴訟資料にするために必要な広い訴訟行為と理解するのが適切ではないかと思っております。   実質問題である,証拠調べを弁論準備手続ですることが可能かという問いにつきましては,私も垣内幹事,それから今の山本克己委員の御発言のように,いわゆる必要性の観点からアプローチするというのが適切ではないかと考えております。その際,この五つについて,その内部で差別化が可能かという疑問が当然出てまいりますけれども,一つの手掛かりとして171条3項があり得るのではないかと思います。そこで裁判ができるという趣旨は,立法関係者によりますと,顕出という過程を経ることなく証拠調べの対象とすることができることをも想定した規定だという説明もあり,これが一般的な解釈かどうか分かりませんけれども,この範囲で平成8年改正は一定の決断をしていると理解すれば,現行法の下でもできるということになろうかと思います。ただ、このことに疑義があるとすれば,これを明文化するというのも一つの選択肢かもしれないと考えた次第でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。   理論面,実益面等から御議論を頂いて,尋問に代わる書面についてはかなり御議論が,賛否を含めて,あったということかと思いますけれども,今日の御議論を精査していただいて,事務当局から更に御検討を頂ければと思います。   それでは,引き続きまして,資料3ページ「第2 和解調書等の送達」ですが,事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 説明いたします。   3ページ目の「第2 和解調書等の送達」につきましては,中間試案の第11の2の(注1)におきまして,和解調書等を送達しなければならないものとする考え方が提示されております。現行法上,判決書は送達しなければならないとの規定があり,当事者からの申請がなくても送達がされております。他方で,和解調書等は送達しなければならないとの規定がございませんので,当事者から送達の申請がなければ送達はされません。もっとも実務上は和解の内容や訴訟の終了という重要な効果を了知させる必要があることから,当事者からの送達の申請を受けて送達をしているところでございます。このような実務の状況からしますと,当事者の送達の申請の意向を逐一確認することなく送達しなければならないものとすることが相当であるとも考えられるところでございます。そこで,和解調書等を送達しなければならないものとする考え方について御審議をお願いするものでございます。   説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○小澤委員 部会資料では特に反対意見も賛成意見もないということでしたが,実は第8回の会議で賛成をしております。,今でも同じ意見で賛成です。和解又は請求の認諾若しくは認諾を記録したファイルを送達しなければならないという考え方は,本人訴訟の当事者にとって非常に優しい規律と考えております。現在行われている,形式的な口頭申請も不要になりますので,効率化が図れると思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 私も,職権での送達の対象にすべきと考えています。賛成します。債務名義との関係で,債務名義性がない場合に送達が必ずしも必要がない場合があり得るという指摘もありました。ただ,民事訴訟の実務では送達申請をした上で送達しています。和解調書の和解条項の中には,本来的な和解条項ではないが,担保取消しとセットで抗告権放棄なども定められています。担保取消しは抗告権放棄がない限り抗告の対象になりますので,送達が必要になります。そういう意味では,和解調書は職権送達の対象とすべきと思います。パブコメ結果を拝見すると,そのような必要がないという反対意見も紹介されていますが,民事執行法29条が変わらない限り職権で送達すべきと考えています。   1点,訴訟費用との関係で質問です。従前,実務での郵便に要する費用等を訴訟費用化する議論がされているかと思います。今までは,送達申請した側が負担するという形で実務は処理をしていたわけですが,郵便に要する費用等が訴訟費用化された場合に,送達費用はどのような処理になるのか,紹介いただけますか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお答えいただけますか。 ○園関係官 関係官の園の方からお答えを申し上げます。お尋ねの点につきましては,今回の部会資料において提案されております和解調書等に関する送達の提案が実現した後の和解調書等の送達に用いられる郵便費用につきましては,郵便費用の手数料への一本化が実現した場合には,その郵便費用を予納する必要はなくなるものと考えております。 ○山本(和)部会長 阿多委員,よろしいでしょうか。 ○阿多委員 ありがとうございます。これまで和解調書等では,和解費用は各自支弁すると記載をしていたのでどうなるのかと思い質問した次第です。これ以上は結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 私も結論としては今回の御提案には賛成であります。弁護士会内で検討した際には,強制執行をする余地のない内容の和解調書の場合には,送達を職権により必須とすることは無駄な手間やコストを生じさせるだけではないかという意見もないではなかったです。しかし,訴訟手続がどのように終了したのかを公的書面で当事者に伝えるということは,その原因とか内容によらず,司法サービスの受け手である当事者には当然のこととも考え得るところでありますし,また,手数料以外の費用を手数料に一本化する案を前提にすれば,その送達の費用が当事者の負担として加算されることもないと考えられますので,訴訟代理業務をしている者の立場からすると,この御提案に対して反対すべき理由はないのではないかと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 先ほど別のコンテクストで和解概念の外延について注意が必要だと申しましたが,この件につきましては,むしろ典型的な和解以外の場合にこそ,より一層,送達の必要性が高いと考えております。   それから,もう1点ですが,ここはよく分からないのですけれども,次の論点とも関わる問題なのですが,和解の合意主体の中に第三者も含まれている場合,その方にも送達をするということが想定されているのでしょうか。 ○波多野関係官 御質問ありがとうございます。次の論点ではございますけれども,和解に第三者が関与した場合につきましても,この第2の規律で送達しなければならないとされた場合には,送達しなければならないことになるのだろうと考えております。通常,利害関係人が当事者に入って和解をされたときにも,申請がされて,利害関係人に対しても送達されているのではないかと認識しているところでございます。 ○山本(和)部会長 裁判所から何か補足いただくことは。 ○橋爪幹事 突然の御質問でしたので,確たるお答えはできかねるのですけれども,私の記憶の限りですと,第三者が和解に参加した場合について,申請があったときは当事者と同様の処理をしているという認識でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。山本克己委員,よろしいですか。 ○山本(克)委員 はい,ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○長谷部委員 一つ質問させていただきたいのですが,私も送達するということ自体に異論があるわけではないのですけれども,この送達の効力として,受けた当事者なり,あるいは第三者ということもあると思うのですけれども,それらの人たちが,和解の内容について瑕疵があるということでそれを争うような場合,現在,期日指定の申立てをするのか,それとも新たな訴えを提起することも認められるのかとか,いろいろ議論がありますけれども,その不服申立てをする起算点になるとか,そういったところまでお考えなのでしょうか。その点についてだけ少し伺えればと思います。 ○山本(和)部会長 事務当局から,もし何かあれば。 ○波多野関係官 現時点では,和解の効力についての争い方について何か新たな規律を設けるということまで考えておりませんので,恐らく今の申請に基づいて送達されていたものを,申請がなく職権で送達をするということになることを御提案しているにすぎないと考えているところでございます。 ○長谷部委員 分かりました。不服申立てがいつまでできるかということを制限するという方向ではないということで理解させていただきました。どうもありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内でございます。私も提案そのものには賛成で,特に反対する理由もないかなと考えております。少し細かい点で,先ほど阿多委員,それから山本克己委員がお尋ねになったところに関係しまして,第三者が当事者となったときに,現在はその者の申請があれば送達をしているということで,その際は,第三者が申請するということであればその費用を第三者が負担しているということなのかなという感じがするのですけれども,仮に今後,職権でやるということになった場合,第三者に関する費用の問題というのは実質が変わるということになるのかどうか,その辺りについて,もし御教示いただければと思いまして,御質問させていただきました。 ○波多野関係官 費用の関係は必ずしも正確に理解していない可能性もありますが,送達しなければならないとされています判決などにつきましても,恐らく補助参加された参加人にも送達するというような扱いにされているのかなと理解をしているところでございます。参加人というのは当事者と同じような扱いをできるかどうかという問題は次のところで御検討いただくことになりますが,そうでなかったとしても,和解の内容を知らしめるべきであるということで,送達していかなければならないということになれば,やはり送達していくということで考えていくのだろうということかなと思っておりまして,費用の関係は,利害関係人に対しても,当事者の方から送達してくださいと,原告又は被告の方から,送達してくださいと言われているのが一般的かなと思いますので,恐らくその原告又は被告が予納していた郵便切手を使っているのが実情ではないかと理解をしているところでございます。 ○山本(和)部会長 垣内幹事,よろしいですか。 ○垣内幹事 どうもありがとうございました。了解いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 利害関係人が参加した場合の送達費用について,最高裁からは,参加している当人の送達申請に基づいて,その人が郵券代を納めるニュアンスの説明がありましたが,私などは原告の立場で和解をするときは,原告の方で送達申請し,被告分も,また利害関係人分も全て負担をしているとの認識です。時折,債務名義の義務を負う人の方が負担すべきだという議論があって,別途追納させることが実務ではありますが,多くの場合,原告が全てを負担していると思い,紹介をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。情報提供いただきました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。 ○橋爪幹事 先ほどの私の発言は,第三者に対して送達する場合があるということをお伝えしたかっただけでして,送達費用の負担者につきましては先ほど阿多委員がおっしゃったとおりかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。費用の問題についてはもう少し精査が必要かもしれませんけれども,基本的な御提案自体については余り異論はなかったように承りました。   よろしければ,次に進みたいと思いますが,よろしいでしょうか。それでは,資料4ページの「第3 和解の手続に関与する第三者」,これについて,まず事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 説明いたします。   4ページ目の「第3 和解の手続に関与する第三者」でございますが,この点は,中間試案の第11の2の(注2)で御提示したものでございます。現在の実務におきましては,第三者が加わって和解をすることは定着しておりまして,その和解は第三者との関係でも執行力を有すると解されています。他方で,このような第三者の手続法上の位置付けは必ずしも明確ではないところがございまして,例えば電話会議システムを利用した手続で関与することができるのかという辺りについては疑義があると考えられているところでございます。そこで,この第三者が和解の手続に関与することができるということにつきまして,明文の規律を設けるということが相当ではないかとも考えられるところでございます。仮にこのような規律を設けるといたしましても,この和解の手続に関与する第三者の範囲について検討したところ,現在の実務は,訴訟物との関係で何か一定の関係があることを要するとされていないところでございまして,その範囲を設定することが容易ではないと考えられるところでございます。そこで,今回の資料では,裁判所が相当と認める範囲で関与を認めるという考え方を提示しているところでございます。このようにして和解手続に関与することができるとなった第三者につきましては,和解の期日の手続や受諾和解の受諾書の提出,裁定和解の申立て等をすることができるということになると考えているところでございます。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,よろしくお願いしたいと思います。 ○日下部委員 少し長めになってしまうかもしれませんが,考えてきたことを一とおりお話しさせていただければと思います。   和解の手続における利害関係人は,当事者でもなければ参加人でもなく,和解手続においてのみ関与する者ですので,特にこれについての規律がなくとも,裁判所の訴訟指揮権等の行使によって実務的に支障なく扱われてきたのだろうと理解をしております。また,実務的によく現れる関与者であるにもかかわらず,これについての規律がなかったのは,その立場を規律しようとすると,手続保障の在り方を含めて,どういった権利義務を認めるべきであるのかを一から考えることになるのではないかと思われ,実務的に支障なく扱われていることに照らすと,立法に向けたその資源を費やすことが相当であるのか疑問が生じたという実情もあるのではないかと思いました。   そうした点を踏まえますと,裁判手続のIT化に伴って利害関係人について新たに規律を設ける必要性が生じるのかという点を問うべきではないかと思います。そうした観点から,利害関係人のための一定の法的地位を与える規律が今般のIT化を中心とする法改正により必要になるかを考えてみました。この点,部会資料では,和解期日への電話会議等による参加,事件管理システムを利用した受諾和解における和解条項の受諾及び裁定和解の共同申立てが言及されていると理解をしております。それ以外にあり得るものとしては,和解調書を職権で送達をする規律を設ける場合,これは先ほど議論されたものですけれども,その際に利害関係人も受送達者に含めるということが挙げられるのではないかと考えてまいりました。取り分け,その送達をシステム送達により行うことも考えられるところ,そのためには利害関係人が対象事件との関係において事件管理システムの利用登録者になることが必要であって,そのためには民訴法上一定の法的地位を与えるということが実務上必要になるのではないかと思いました。これは一例で,ほかにもあるかもしれませんが,規律がないと不都合が生じることになるのかという点については丁寧に検討していく必要があるのではないかと思います。   この後は私論にすぎないのですけれども,今言及しました和解調書の職権送達の点を含めて,利害関係人の法的地位をつまびらかにすべき実質的な理由あるいは局面がそれほど多くないということであれば,最低限必要な規律は利害関係人の地位の得喪の要件,手続に関するものと,あとは和解手続の関係で当事者に準じる扱いがなされるという包括的な規律程度かなとも思いました。もちろんそうした包括的な規律だけでは利害関係人の扱いが不明瞭な場面が生じることはあり得ますが,それは解釈に委ねても実務に耐え得るのではないかと感じた次第です。そういう観点で事務当局から示していただいた今回の提案を拝見しますと,利害関係人の地位の取得については,裁判所による必要性相当性の判断,当事者から意見を聴くこと又は当事者に異議がないこと,若しくはその同意を得ることがアイデアとして示されておりますけれども,少なくとも利害関係人の地位の喪失についての規律と,和解手続の関係で当事者に準じるという規律を考えるべきかなと思った次第です。   なお,利害関係人の地位の取得についての規律は,私としては裁判所による相当性の判断だけで十分ではないかと思いました。と申しますのは,当事者の意向については,そのような利害関係人が入ってくることに異存がもしもあれば,和解が不成立になるというところでどのみち酌み取られることになるであろうから,ということです。同様に,利害関係人の地位の喪失についても,裁判所による相当性の判断だけで十分ではないかと印象を持ったということであります。   長くなってすみませんでしたが,以上であります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 利害関係人が和解の際に登場する場合,従前は裁判所に同行し当事者と一緒に臨席して和解を成立させていましたが,今般の改正では,ウェブ会議システムを使って参加をする,事件管理システムで和解条項案を事前に利害関係人も閲覧する機会を提供することが想定され,そのためのIDを与えるのかということが実際の問題になると思います。   そういう意味では,フルカバーされる当事者の地位をシステム上,認める必要はなくて,制限された範囲でそのシステムに,ここでも関与するという言葉を選ばれていますけれども,を利用するようなことができるのであれば,そのようにすることを認めることが実際,利害関係人が参加した和解がより実効的に運用され,解決できるのではないかと思います。利害関係人という形で,当事者でないというだけで,常に一方当事者の方と同じ場所で参加しなければいけないとか,和解条項についても事前に特に提供される機会がないというような形に制限する必要はなくて,実際,利害関係人が和解に参加する際には,最後の場面だけではなくて,和解協議にも数度にわたって関与している実情もありますので,ウェブ会議システムを使い,さらには事件管理システムによる事前の和解条項案の受領の道を認めるべきでないか,そのように考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 先ほど日下部委員がおっしゃった,訴訟指揮上の行為で関与できるということについて,そのとおりだと思い,また,日下部委員がおっしゃった中に得喪が大事だとおっしゃって,それもそのとおりだと思います。それで,そのうちの喪失の方ですね,地位がいつの時点でなくなるのかという辺りについてどういうふうな規律をするのかというのはやや気になるところでありまして,和解ができればそれでいいですし,その後も送達とかを受けたりするわけですけれども,和解ができなくて,その人がいなくてもいいようになった場合に,その人を何か排除するような,そういう訴訟指揮上の決定みたいなものが要るというふうに仕組むのか,当然,解除条件付のようなもので,何らかの現象によって当然にそういう地位がなくなるのかという辺りは,その後の訴訟の判決に向けた手続には関与できないというふうにするのだと思いますので,どういうふうに仕組むのがいいのかというのは考えておいた方がいいかなと思いました。ただ,定見があるわけではなくて,そういうふうに思ったというだけでございます。失礼いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 今までの議論で,事件管理システムに和解に関与する第三者というのが登録できるというのを当然の前提にしたかのような議論が続いていますけれども,本当にそれでいいのでしょうか。結局,フラグを立てて,和解関与者のフラグというのを作って,それをオンにしておいたら,その範囲内で事件管理システム上のいろいろなことができるということにするということは,プログラム作成上,不可能ではないと思うのですけれども,フラグを立て忘れた場合とか,いろいろなことを考えると,私はそれを簡単に言っていいことだとは思わない。つまり,先ほど来,記録の閲覧等についていろいろなことを言われていますよね。ですから,そういう当事者と同様に扱われるような形,システムの組み方次第なのですけれども,当事者と同じように扱われたら記録を見られてしまうわけですよね,そういう辺りのファイアウォールがきちんとできていない中でそういうことを考えるのは,できるかどうかということも考えないとまずいのではないかという気がしております。   それと,5ページの裁定和解の共同申立ての主体になれるというのは,どうなのでしょうか。どういう場合を考えてそういうことを言われているのか,もう一つよく分かりません。典型的な場合とよく例に挙げられるのは,一方当事者が金銭の支払を約束すると,それの保証人であるとか物上保証人というものが入り込んでくるような場合を考えるのですが,そういう物上保証や保証人となることを予定して共同申立てをするというのをあらかじめ,でも,裁判所はそんなの関係ありませんよという判断にもなり得るので,第三者が共同申立てをするというシチュエーションがもう一つ私はよく分からない。確実に保証人になるとか,物上保証人になるというわけではないというのが一応,法の建前だと思うので,どういうことでこの共同申立人になれるとおっしゃっているのか,この辺は事務当局にお伺いできればと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局に対する御質問かと思いますが,お答えいただければ。 ○波多野関係官 裁定和解の共同申立てでございますが,具体的にどのような場面かというのはなかなか,現時点でその実務がされているところではないところでございますので,定見がないところではございますが,恐らく第三者が和解の協議に入って,それなりに和解協議を積み重ねていったところで,最終的に保証人になることは前提としつつ,支払の条件の回数であるとか,その辺りについて裁判所にお任せをするということで共同申立てをするということもあり得なくはないのかなと思っていて,和解の中でここだけ抜くよりも,できるという行為になるのかなと整理をしていたところでございます。 ○山本(克)委員 そういう場合はあり得るというのはよく分かるのですけれども,でも,裁定和解の要件で,事前に和解勧試の手続が行われていたことは何ら要件とされていないので,すごく違和感を感じるということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 書きぶりのところで質問なのですけれども,第3の提案では,手続に関与させることができるものとするという記載になっています。部会資料16の5ページの(2)のところに民事調停法11条1項が引かれているわけですけれども,民事調停法11条1項は,利害関係人が参加することができるという任意参加の規定で,これとは別に2項で,調停委員が利害関係人を参加させることができると規定されていまして,これは強制参加といわれているようです。家事事件手続法42条の2項と3項も同様のようなのですけれども,部会資料16の第3の提案は,言ってみたら強制関与というような立て付けになっているようなのですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。つまり,裁判所の方から強制的に関与させるという提案なのでしょうか。 ○波多野関係官 関与させることができるという今回の文言の御提案は,民事訴訟法の中で専門委員の規律がこういう規定ぶりをしているところがございましたので,そこから差し当たり借りてきているというところでございまして,大坪幹事がおっしゃったように,何か第三者を連れてきて強制的に関与させるということを念頭に置いたものではないというところでございます。 ○大坪幹事 ありがとうございます。実務上は裁判所からというよりも,当事者の側から利害関係人を参加させてほしいという形で申し出があり,しかも和解が成立する最終の段階で手続に関与することが多いのではないかかと思っております。そういう意味で,裁判所の側から利害関係人を参加させるというニーズがもしあるようであれば,裁判所の方から御紹介いただければと思います。当事者の側からは,そういう最終の段階なので,手続保障としてもそれほど必要ないのではないかと個人的には考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○服部委員 服部でございます。先ほど山本克己委員が,事件管理システムに入れるということを前提としてよいものかどうかという御質問がありまして,日弁連内で検討していたときにもその点の懸念についての意見は出ております。ウェブで和解期日に参加することと,事件管理システムに登録するというのは恐らく全然別の話であって,ウェブ参加のためのものだけを認めれば済むという可能性もあります。また,第三者に事件管理システムに,例えば登録するなり,訴訟記録の閲覧をある程度の範囲で認めるのか,正に利害関係のある第三者ということになるかと思いますが,そのためにあえて事件管理システムへの登録が必要なのかどうか,事件管理システムに登録するとして,何か限定的なものとするのかどうかなどの検討も必要となるように思います。   あと,先ほど第2の項目のところで事実上,お話が出ておりました,第三者への和解調書の送達の関係ですが,これは事件管理システムに登録していれば,そのシステムでの送達ということが可能になるわけですけれども,登録していなければ,裁判所から紙で普通に送っていただくということになると思いますので,その点の少し手間は掛かると思いますが,それはそういう前提でよろしいでしょうか,というところの確認はしたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,最後の点,事務当局からお答えいただけますか。 ○波多野関係官 送達につきましては,システム送達ができる場合はシステム送達をいたしますけれども,そうでない場合は紙で送達するということが検討されているところかと思いまして,そこを変える予定はこの場でもございませんので,仮に第三者に対しても職権で送達をするということになれば,システム送達できなければ紙で送達することになるのだろうと理解をしているところでございます。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○服部委員 分かりました。ありがとうございます。 ○阿多委員 山本克己委員から,そもそも事件管理システムに加えることを前提にして議論することの当否について意見がありました。私は当事者と同じ立場でシステムを利用できるという前提では考えていません。先ほど挙げた例も,事前に和解条項案が事件管理システムを通じて閲覧できるようにすることは考える必要があるのではないか,そういう意味で,限定された範囲で許されるという前提で発言をしています。法律が先なのか,システムが先なのかという話かとは思いますが,システム上それが無理だというのであれば,そのような提案をするつもりはありませんが,システムで利害関係人に認められる利用範囲は制限できることを前提に,事件管理システム,さらにはウェブ会議での参加を認めるべきではないかいうことを発言しています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。この件,とても難しいのですけれども,消費者関連紛争では,提訴していない同一被害者を含めて和解を模索するということがあります。その場合に,多数の当事者が第三者として関与することで一括解決することもございます。よって,この新しい第三者が関与する規律を設けることは賛成したいのですが,いろいろ話題になっているように,IT化に伴ってウェブ会議等にどうするかとか,システムを作るのは非常に難しいのではないかという懸念もございます。また,第三者の関与を求めるというのは,先ほども出ましたけれども,裁判所が求める場合と,当事者の双方又は一方が求める場合,そして第三者が求める場合があり,これらをどうするのかということも課題なのではないかと考えております。なかなか難しいことと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 しつこいようで恐縮ですが,第三者の事件管理システムへの登録ですが,阿多委員がおっしゃるような方向性でやろうと思えば,当然ながら,やることは可能だと思うのですけれども,それなりにシステム開発上の手間が掛かるわけで,費用の上昇等につながり得るわけで,それに投資するだけのメリットがあるのか,つまり第三者の関与ってそれほど頻繁でもないのに,そんなもののためにシステムをややこしくしてしまって,バグが出る可能性を増やすことに意味があるのかどうかという観点もやはり必要だということを私は先ほど申し上げたかったわけです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 垣内でございます。和解に第三者が関与するということ自体は,現在の実務でも以前から行われてきたことで,そのこと自体には実質には余り問題はないのだろうと思っており,それを規律上明確化できるのであれば,そういう方向で検討してみるということにも意味があるのではないかと考えております。それで,今日の4ページの第3のゴシックのところで,これは表現ぶりの問題にすぎないのかもしれないのですけれども,和解を試みるに当たり必要があると認めるときは,和解の手続に関与させることができるということになっていて,私はこの第三者の関与について規定を設けるというときに,一つ問題となるのは,「和解の手続」というものが一体どういうものなのかということで,これは資料でも書かれているように,例えば民事調停手続なんかですと民事調停法で一通りの手続が規定されていて,そこに手続参加するというようなことを考えやすいわけですけれども,民事訴訟法上,「和解の手続」というものがはっきりした形では,少なくとも従来は,なかったように思われるところで,そこに関与するということが何を意味するのかということが,そこをどう整理するかというのが一つの課題かなと思っておりました。   そういう観点から見まして,裁判所が和解を試みるという規定はあるので,裁判所が和解を試みるに当たって必要があると認めるときは,第三者から事情を聴取することができるとか,何かそういった和解勧試のプロセスの一環として第三者を位置付けるということはあり得るのかなと,これまで少し考えたりしていたのですけれども,今日のゴシックでも,和解を試みるに当たりという文言が入っているのですが,他方,和解の手続として想定されるものが,今日の資料ですと,(3)のイのところで,和解の期日に関与すると,例えば電話会議等を利用する場合を含めてですけれども,リアルな期日でもよろしいかと思いますが,和解の期日に関与すること,それから和解条項案受諾の書面を提出すること,裁定和解の共同申立てをすることとされていて,ほかにあるのかどうかよく分からないのですけれども,例えばこれらに尽きるということだとしますと,これらの規定それぞれで第三者が必要に応じて関与できるという旨を定めればいいのかなとも思われます。そのことを総論的に表現する表現としては,裁判所が必要があると認めるときは第三者を和解の手続に関与させることができるというだけで必要十分なのかなというような感じもしたところで,和解を裁判所が積極的に試みるかどうかということは必ずしも本質的な問題ではないような感じもいたします。ただ,これはそれほど実質に関わる問題ということではないかもしれません。   それから,もう1点,264条ですとか265条の関係につきまして若干議論が出ているところかと思いますけれども,現在,第三者が利害関係人として関与する場合について,訴訟上の和解と起訴前の和解が組み合わさっているようなものでないかという説明がされることがあるように承知しておりますけれども,規定上の起訴前の和解の場合ですと,275条4項で,264条と265条の規定を適用除外しているということで,その趣旨については,この起訴前の和解というのが実際上は既に示談が成立していて,それを裁判所に持ち込んで調書を作るという形で利用されているという実態を恐らく前提としているので,264条や265条の規定は余り問題にならないだろうと,そういう考慮なのかなと思われます。   そうしたところ,今回の第3の御提案ですと,事前の協議の場で第三者が既に関与するというような場面も想定されているということですので,そうであるとすれば,あえて264条,265条を除外するまでもないという判断も一応あり得る判断なのかなと今のところは考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがですか。よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 すみません,再三。今の垣内幹事がおっしゃったところで,264条,265条というのは明文の規定があるのですけれども,和解勧試の具体的な手続については規定がないので,私は,264条,265条にどうしても第三者を入れ込みたいというのでなければ,現行のままでも行けるのではないかという感触を持っているのですが,それは間違った印象なのでしょうか。 ○山本(和)部会長 最後は疑問形でしたが,垣内幹事に対する質問でしょうか。 ○山本(克)委員 垣内幹事にお答えいただいてもいいのですが,事務当局で結構です。 ○垣内幹事 いや,私は特にお答えは用意しておりませんけれども。 ○山本(和)部会長 事務当局から何かコメントがありますか。 ○波多野関係官 今回検討するに当たりまして,第三者を規律していくときに,この264条,265条を抜く必要があるのかどうかとかいうような感じで思っていまして,第三者の規律を明文で置くのであれば,ここを入れていくという選択肢もあるのかなと考えていて,御提案としてはそのような形で御提案をさせていただいたところでございます。山本克己委員がおっしゃるように,ニーズがどこまであるかということになりますと,恐らく現場の方でのニーズをこの場で披露していただく方が適切なのかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,よろしいですか。 ○山本(克)委員 現行法の不備というのはどこにあるのかというのがもう一つよく分からないなという感じがしたということで,264条,265条に入れなければいけないのであれば,確かに改正は必要ですけれども,そうでなければ現行法のままでも行けるのではないかという気がしているということです。 ○山本(和)部会長 恐らく,現在は訴え提起前の和解の適用か類推適用か分かりませんが,何かそういうふうに説明されているのが,余りそぐわないのではないかというようなところを指しているのかなと思いますけれども,それは評価の問題かもしれません。 ○横田委員 現行法でもいいのではないか,ニーズとしてどこまであるのかというお話も出てきましたけれども,部会資料にも書いていただいていますように,貸金請求の和解で金銭を支払うというときに,被告の親族が和解手続に参加して保証するとか,当事者となっていない関連する紛争の関係者について和解に参加してもらって債権債務がないことを確認したりですとか,実務上は割と広く利害関係人の参加というのが必要な場面というのがありまして,法律上の利害関係の有無にかかわらず,そういう多岐にわたる場面で利害関係人に参加をしてもらって和解することで紛争解決の選択肢の幅を広げてきたという経過があります。リアルに出頭してもらって和解をするという場合もありますけれども,民訴法264条のような書面による受諾の形で和解する場面もございます。その場合に解釈上の疑義が生じるというようなこともございますので,今回こういう利害関係人の地位というのを明文上も明らかにしていただく実務上のニーズというのはあると考えるところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 ありがとうございました。264条についてはニーズがあるということですね。それ以前の和解勧試の,そこに至るまでの過程の手続については,私は法はオープンだと思っていますので,そこについていろいろなことを考える必要はなくて,ウェブ会議に参加させるのも現行法上,オーケーなのだろうと思いますので,わざわざ規定を置くとかえって,日下部委員もおっしゃいましたけれども,難しい問題が大量に出てきて,そんなことをやって,それだけの成果が得られるのかどうか,むしろ実務を縛って,ややこしいことが一杯出てくるのではないかということの懸念の方が大きいように思います。264条に入れることについては,今のお話で了解いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○橋爪幹事 今の山本克己委員の御発言を聞く前に挙手をしたのですけれども,要は,解釈上の疑義を残したくないという思いがありまして,第三者がこういったウェブ会議に参加できることですとか,受諾書面等の和解ができることを明確にしたいという趣旨からの提案であったわけでございますけれども,もしその実態自体は皆さん全く異存がなくて,ただ明文の規定を設けるまでもないということであれば,そういうような方向もあろうかとは思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかはよろしいでしょうか。   ありがとうございました。この提案につきましては,明確にこの方向で行こうというコンセンサスがどうもあるようには思えない感じではありました。ただ,全く駄目だということでも必ずしもなかったようにも思いますので,もう少し具体化して,受諾和解等についてはニーズもあるというお話もありましたし,どういう地位を認めるのかというようなこととも関わってくるかと思いますので,今日の御議論を精査していただいて,更に議論していく必要性というのをお考えいただき,次に御提案をもししていただくとすれば,もう少し具体的な形で御提案を頂いて御議論を頂くということになろうかと思います。   それでは,よろしければ,本日最後のテーマになりますけれども,「第4 当事者双方が受諾書を提出する方法による和解」ということで,資料6ページ以下の部分ですが,まず事務当局から説明をお願いします。 ○波多野関係官 資料6ページ「当事者双方が受諾書を提出する方法による和解」につきましては,中間試案の第11の2の(注3)で御提示しているところでございます。現在の受諾和解の制度は,平成8年の民事訴訟法改正におきまして,当事者間で和解の内容は合意に至っているのですけれども,一方当事者が遠隔地に居住しているというようなことで出頭が困難な場合に,出頭を要することなく和解をすることができるというようにして,手続を利用しやすくする観点から導入されたというものと理解しております。   民事裁判手続のIT化に当たりましては,口頭弁論期日,弁論準備手続期日,和解の期日におきまして,当事者双方がウェブ会議で期日に出頭することを可能とする規律を検討していただいているところでございます。もっとも期日を指定するとなりますと,期日の調整が必要となりますので,期日調整が困難な事案もあるものと考えられます。そのような場合でも適切な時期に裁判上の和解を成立させるということは,当事者の利便性を向上させるものともいえます。また,現在の実務におきましては,裁判所において事案の内容や訴訟の経緯を踏まえまして受諾書面を提出した人の真意を適切に確認する実務が定着しているというところかと考えられますので,双方が受諾書面を提出するということであっても,現在の実務と同様に,事案の内容や訴訟の経緯を踏まえて,その真意を適切に確認することで和解が調ったものとみなすことは許容され得るものとも思われます。   なお,先ほどの真意の確認でございますけれども,現在の実務では,受諾書面にいわゆる実印の押捺と印鑑登録証明書の提出を求めまして提出された方の真意を確認しているという場合がございまして,このような場合には裁判所書記官によりまして書類が調っているかということを確認していると承知しています。このような実務を踏まえまして,双方が受諾書面を提出した場合には,裁判官が関与することなく裁判所書記官が真意を確認するとの考え方も示されているところでございます。他方で,当事者双方が受諾書面を提出したことから直ちに和解が成立したとみなすものではなくて,裁判所による真意の確認をする必要があるのではないかという考え方も示されているところでございまして,この点につきましても御意見を賜りたいと存じます。   説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御発言をお願いします。 ○日下部委員 最初に1点,事務当局にお尋ねをしたいと思う点がございます。今回の提案を受けまして,改めて既存の受諾和解,これは改正が想定されていますけれども,その規定の解釈について確認したいと思いました。中間試案では,現行法の264条につきましては,遠隔の地に居住していることその他の事由により,という部分を削除して,当事者が出頭することが困難であると認められる場合において,とすることが提案されていると思います。その趣旨につきましては,和解期日にウェブ会議等で参加することができない環境にいる当事者が裁判所に出頭することが困難であるとき,などを念頭に置いていると説明されていると思います。すなわち,当事者の出頭困難とは,現実の出頭だけではなく,電話会議やウェブ会議により期日に参加することも困難であることを意味しているものと扱われているかと思います。今回,当事者双方が受諾書面を提出して成立する和解の要件も,当事者双方が出頭することが困難であると認められる場合において,と表現されておりまして,その意味につきましては,部会資料7ページ(2)アの第2段落を拝見しますと,当事者双方が電話会議等を利用して出頭する場合であっても,なお日程の調整が困難な事案もあると考えられると説明されています。これは,現行法の264条の改正提案と同様の考えで,当事者双方が現実の出頭だけではなく電話会議等により期日に参加することも困難であることを意味するのだと理解していますが,そのような理解でよろしいのでしょうか。 ○波多野関係官 事務当局の提案の趣旨としましては,日下部委員がおっしゃったように,電話会議,ウェブ会議でも出頭が困難であるということを意図しておりました。 ○日下部委員 ありがとうございます。少しその点を踏まえまして,最初に意見を申し上げさせていただければと思います。   今回の御提案は,当事者双方が一定の和解条項に事実上合意した場合に,その真意が確認できるのであれば,和解の成立を認めるというものですので,そのコンセプトには実質的に反対すべき理由はないのではないかと考えております。気になりましたのは,現行法の264条の受諾和解と異なって,期日が開かれずに当事者双方ともに書類作成,提出で済むので,非常に便宜な手続でありますから,真意確認に要する手間次第では,非常に多用される可能性を秘めているのではないかという点です。ともしますと,いましがた確認をさせていただきました,当事者双方が出頭することが困難であると認められる場合においてという要件が,今御説明いただいたような意味を失って,電話会議等によって期日に参加することが困難というわけでもないのに,この要件が満たされたと扱われるのではないかという気がいたしました。もし飽くまで電話会議等により期日に参加することも困難な場合にのみ利用可能な制度であるのであれば,この要件における出頭とは,電話会議等による参加によるみなし出頭を含むものであるということを法文で明示すべきではないかと思います。   思い返してみますと,例えば弁論準備手続を電話会議等で行うための出頭困難要件でいうところの出頭とは,現実の出頭を意味しておりますので,現行法264条の受諾和解や,今回提案されている当事者双方の受諾による和解における出頭という文言とは意味合いが違っていると思いますので,これが同じ表現になっているということには,将来,解釈上の混乱を招く問題があるように思われました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 受諾書面の提出について,事件管理システムが動き出した場合,この受諾書面もオンライン提出が可能だということになるのでしょうか。そこのところ,今日の論点とは少し違うところなのですけれども,まずその点について事務当局に御見解をお伺いしたいと思います。 ○波多野関係官 事件管理システムを通してこの提出をすることができるようになっていくと整理するのかなと考えていたところでございます。 ○山本(克)委員 その場合に,真意確認方法として,先ほどリアルな書面を前提とするようなお話があったかと思うのですが,オンラインで提出できる場合の意思確認方法というのは何か,真意の確認方法というのは既に想定されているのでしょうか。 ○波多野関係官 電子的な記録として受諾書面を出すとして紙をパラレルに移行しますと,署名したものをPDF化して出すということが一つあり得るのかなと思っておりましたし,他方で生来的な電子的なものとなりますと,電子署名などの作成者が分かるような措置を施すということが考えられるのだろうと思っておりました。さらに,あとはシステムの作りの関係だと思いますけれども,そのシステムに入っていくときの本人確認をどのようにするのかとの兼ね合いもあるのかなと考えていた次第でございます。 ○山本(克)委員 後者だと,今頂いたような,特に最後のようなところで,真意確認とはいえ,それはシステムに入ってきたもののアイデンティファイ以上のものは何もないということになりそうで,サインとか実印もそうなのですけれども,アイデンティファイと真意というのは本当にパラレルに考えていいのでしょうか。そこはやや疑問であって,それはもう現行法にも内在する問題なのですけれども,両方とも受諾書面でいけるとなると,真意とは何ぞやということについてもう少し考えた方がいいのかなという気が,今の話を伺って,思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○小澤委員 今の山本克己委員のお話に少し関連するのかもしれませんが,まず,基本的に賛成です。書面という記載について,もしかしたら総論部分のどこかで包括的に,書面というのは電磁的記録を含むという説明がされており,各論においても全てそのような趣旨で解釈する前提で書かれているのかもしれませんが,この部分だけからは形式的に書面のみと理解されてしまうような感じも受けたものですから,念のためここを御指摘させていただきます。つまり,受諾和解が成立した場合には,訴訟が終了するという効果が発生するので,その取扱いについては慎重であるべきと考えておりますが,受諾和解の局面のみ書面を要求する必然性は乏しいと思われますので,書面及び電磁的記録を含むということを明示しておいた方がいいのではないかという意見です。   また,実務上は,実印と印鑑証明書というふうにありますが,司法書士が,例えば財産管理人などをやっている事案で,受諾和解に関して印鑑証明までは特段要求されていない事案はあると聞いています。そう考えますと,添付する電磁的記録については,必ずしも厳格な本人確認を要する公的個人認証による電子署名などを付した電磁的記録でなくてもいいのではないかと考えているところであります。   なお,受諾和解に当たってもテキストデータの活用を当然お考えになっていると思いますが,そのような形であれば,書面だと軽微な字句修正について何度も提出し直さなければならないという煩雑さがありますので,そのようにテキストデータの活用をすればよいのではないかという意見を持っています。。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 先ほどまでの意見を踏まえますと,まず,我々の認識といたしましては,受諾書面につきましては,これは当然,事件システムを通して提出することも可能なものという認識でおりますので,紙の書面ではなくて,データの形で提出されるのだろうと理解しております。   次に,真意の確認の話なのですけれども,先ほど山本克己委員から現行法にも内在する問題であるという御指摘がありましたけれども,現在の実務におきましては,受諾書面は印鑑登録証明書と共に提出されているのが一般でございまして,両者の照合という方法で真意の確認を行っているというのが実情でございます。   そうしますと,今後,当事者が事件管理システムを利用することとなった場合,間違いなく当事者御本人がシステムを利用して受諾書面データをアップロードしているということであれば,それ自体が御本人の真意に基づいて受諾書面データが提出されていることになるのではないかと理解しているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 日下部委員の冒頭の場面をかなり限定した整理を前提に発言すると,電話会議,ウェブ会議も困難な状況ではどうやって真意を確認するのかと思って伺っていました。現状の実務について,本人訴訟の場合に実印,印鑑証明書を求められるとしても,代理人の場合,代理人は受諾書面に押印するだけで,それ以上に印鑑証明書を求められるわけではありません。むしろ,私はウェブ会議システムが使える状況での真意確認は,電話会議ですと同一性の問題もありますが,ウェブ会議システムをつないで本人に和解の成立について理解していますかと確認する,民間事業者が電話で契約意思確認をしているのと同じように,本人の意思確認をウェブ会議システム等を使ってする,裁判所が書記官を介してか,裁判官自身がするのかは別にして,ウェブ会議システムを使って意思確認をするとイメージしていました。しかし,冒頭の要件との関係で,出頭することが困難であると認められる場合はウェブ会議も困難であると限定するのであれば,裁判所はどのような方法での意思確認を想定されているのか説明いただけたらと思います。   その点は置きまして,片一方だけが出頭ではなくて,双方からの受諾書面が提出された場合には,意思確認を裁判所が関与して書記官が調書化して成立をする制度とイメージしています。重要なのは,和解成立日であって期日概念とは別に記録化される必要がありますので,書記官が成立日を公証するという制度で立て付けてはどうかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 真意の確認について今,いろいろ御議論があったと思うのですけれども,そもそも真意の確認が必要なのだと現行の規則163条2項であえて定められている理由は何なのかということに立ち返って考えるべきだろうと思います。   この受諾和解の場合には,受諾書を提出しているわけですけれども,それがきちんと和解条項の意味を十二分に理解をして,それに服するということをきちんと理解して,了解した上でやっていることなのかどうかということを確認するというのが,本来的な意味での真意の確認の持つ意味,価値ではないかと考えておりました。   ですので,実印が押されていることや,その印影を照合するための印鑑登録証明書を一緒に出してもらうというのは,実務的にそのような書類や実印の印影がそろっていれば,当人が十分に和解条項の内容を理解して,それに服する意思を持っているのだと確認できたという,ある意味,擬制をしているようなものであって,それは真意確認の方法の一つにすぎず,それに置き換えられるものではないのだと考えていたところです。そう考えますと,実務的に実印と印鑑登録証明書によって真意確認する場合が多いのだとしても,それが真意確認であると言い換えられるものではないので,実質的な判断が失われるわけではないのだと思いました。   この問題については,真意の確認をする主体が裁判官ではなくて書記官でもよいのではないかという観点で問題提起されていると思うのですが,実質的な判断を伴うものであるということを重視し,私としてはこれは書記官に委ねてよいことではない,裁判所の行うべきこととして現行の163条2項と同様に考えるべきだろうと思います。   なお,ウェブを使って受諾書面を提出するということになったときに,具体的にどのように真意確認をしていくのかというのは,運用の問題にもなると思いますので,今後の課題なのだろうとは思います。実印並びということで電子署名ということが頭には浮かぶのですけれども,電子署名がどの程度流通しているのか,よく使われているのかということに鑑みると,そうもいかないだろうと思いますので,期日とは別の形で,受諾書面を提出した人に電話で確認をしたり,あるいはその受諾書面を提出した人と裁判所の間でウェブで顔を見ながら真意を確認するといったことも今後,必要になってくるのではないかと思った次第です。   なお,先ほど阿多委員の方から和解の成立日についての言及もあったと思います。その点,私の意見を申し上げますと,今回の提案では和解の期日を設定するということは予定されないということですので,当事者からしますと,いつ和解が成立するのかが不明であるという状態になると思います。これは,具体的には和解条項をどのように作成するのかということに影響を与える話でして,事前に和解が成立すべき日というのが決まっていないと実務的には支障が生じることになるだろうと思います。したがいまして,今回の提案を採用するということであれば,期日に代わる和解成立時として,和解成立予定日というのを裁判所があらかじめ定めておいて,その日までに当事者双方の真意が確認された場合には,その予定日に和解が成立したものと扱うという規律にしないと,実務的にはワークしないのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 再三すみません。真意確認については今,阿多委員と日下部委員が私の言いたいことをより明確にしていただいたと思いますが,実印を使った真意確認をするというのは言わずもがなですけれども,今の御時世でそんなことを言っていていいのかという問題が別途あるとは思いますが,それ以上に,実印を使って不動産に関する契約というのはしばしば結ばれるわけですが,それによって錯誤無効が封じられるわけでも何でもありませんので,やはりそれは単に偽造の蓋然性が少ないというだけの話であって,これを真意だということには,私はやはりかなり抵抗を感じておりますし,事件管理システムを通じて提出すればそれだけで真意が確認できたというのも,私は少し言いすぎだなという感じを持っております。 ○垣内幹事 垣内でございます。今議論になっている真意の確認の点に関しまして,一般的に申しますと,やはり慎重に真意を確認する必要があるということで,期日の場合であれば対面で当事者の様子を見ながら確認ができるというところがあるわけで,この書面による受諾の場合には,その機会がないということで,あえてその真意確認という措置が求められているということですので,そういう観点から十分に慎重な確認がなされるべきものなのだろうと思っています。ただ,真意確認の具体的な方法については現行法でも法律上あるいは規則上で定めているということではなくて,裁判所等が適切な形で真意を確認することが期待されているということと理解をしております。   そうした観点から見ましたときに,受諾書を最終的には書面,あるいはオンラインで提出するという形にはなるわけなのですけれども,そこに至る経緯というものがあるのだろうと思われまして,その和解に至る協議の過程等で,当事者が,こういうことで和解に応ずるということで,この最後の段階にこの提示された条項案の受諾書面提出という形になるわけですので,そのプロセスの中で特段,その内容は真意に反するようなことがないであろうと思われるようなときに,必ず,例えばテレビ会議等で確認をしなければならないのかどうかというと,そこはそこまでは現行法は要求していなかったということなのだろうと理解をしておりまして,その点に不安があるような場合であれば,当然何か,単に印鑑の照合等だけではない措置が必要な場合もあるということは現行法でも前提とされているのではないかと思います。ですので,そのことは今回,新たな規律を仮に導入したとしても,基本的には同様のことなのかなと私自身は考えております。   真意確認を誰がするかということに関しましても記載がされているところで,書記官権限化というべき考え方も示されているところかと思います。この問題を考えるに当たりまして,一つ,真意の確認ということが一体どういう位置付けと申しますか,理論的な意味を持っているのかということがありまして,恐らく,資料の方で示唆されている,8ページのウのところで書かれている考え方ですと,一つの考え方としては,裁判官が関与することなく裁判所書記官が和解の成立を公証して事件を終局させるとの考え方というのが示されているところなのですけれども,従来の訴訟上の和解で期日で行う場合を考えますと,当事者が期日で陳述をするということで,それは裁判所がその陳述を聴取するという前提で和解が成立すると考えられていたのだろうと思います。この受諾書面につきましても,裁判所等,場合によって受命裁判官の場合もありますけれども,裁判所等が和解条項案を提示し,それを受諾するということですので,受諾書面の名宛人と申しますか送付先は,これは裁判所等ということなのだろうと理解をしております。   問題は,その受諾書面が真意に基づくものであるかどうかということで,受諾書面が真意に基づいているのであれば,受諾書面が出されることによって陳述がされるわけですから,それで有効に和解が成立するはずのもので,真意の確認ということがそれ自体として何か実体要件になるということではないのではないかと思います。そういう観点から言いますと,真意の確認というのは,慎重な手続を踏むための一つのプロセスということで,それを裁判所書記官がやるということがあっていいという考え方もおよそあり得ないわけではないのかなと思います。   ただ,他方,現行法では真意の確認も含めて裁判所等が行うという規律になっているところ,更に柔軟な形で双方とも書面でという場合に,そこをあえて裁判所書記官に行わせるということでよいのかというのは,ここは両論あり得るところで,現行法の考え方を維持するということも十分合理性があるのではないかと思います。   いずれにしましても,8ページの,裁判官が関与することなく書記官が終局させるというところは,真意の確認そのものは書記官の措置として行うことに仮にするといたしましても,裁判官が最終的に何の関与もなく訴訟上の和解が成立するというのは理論的になかなか説明は難しいのかなと思われますので,関与が事実上どうかということはともかくとしましても,理論的には裁判官が関与して和解が成立する,そして事件が終局すると理解をしていくべき,そういう制度を考えるべきなのかなと私は現時点では考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○渡邉幹事 書記官権限化すなわち真意確認を書記官が行うことにつきまして,若干厳しい御指摘も受けているところではございますが,少し敷衍して説明させていただきたいと思います。   部会資料にも記載していただいておりますが,実務的には真意の確認というものは,出頭しない当事者から受諾書面上の押印に用いた印章の印鑑登録証明書の提出を受ける形で実施するという運用が確立されておりますし,このことは規則の制定時から,そういった運用になるだろうということは想定していたとみられる文献もございます。その上で,受諾書面上の印影と印鑑登録証明書の照合というものは,これは書記官に行わせることが十分可能なものではないかと考えているところです。実際に受諾和解となる事案につきましては,期日外で必要な書面の提出を受け,その内容を確認し,不備がある場合にはその旨の連絡等を行っているのは書記官であり,裁判官の方は最終確認をしているというのが実情です。今後,システムを利用して本人確認済みの当事者がシステム上で受諾の意思表示をした場合には,真意確認はより容易となりますので,書記官がこれを行うことも十分可能であると考えております。   また,裁判所等は当事者が受諾すればそのままその内容で和解が成立するということとなる和解条項案を作成し,その内容を把握しているところですし,最終的には和解調書を確認するといった形で手続に関与しているのでして,全く裁判官が関与せずに受諾和解成立といったような制度となることはないと考えておりますので,手続の適正の観点からも十分に担保されているのではないかと考えております。そういったことも踏まえまして,真意の確認を行う主体を書記官とすべきではないかと申し上げてきたところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 増見でございます。本人の真意を確認する方法についての議論をお伺いしていて,企業法務の中で電子契約の普及が急速に進んでいる話と少し重なる部分がございましたので,意見を申し述べさせていただきます。   契約の電子書面化を全面的に進める方向で産業界は動いていますが、それに当たっては心理的な障害がたくさんございます。本当にその本人がサインしているということが証明できるのかということや,法的な有効性が担保できるのかについて,様々な議論がされました。法的な有効性については,法務省の後押しもあり,確認が取れました。また本人がきちんと署名したことが確認できるのかについても,様々なプラスアルファの方法を用いて,電子契約サービスを使う以外の方法で確認する手段を講じるべきではないかという議論もされました。しかし、そのような余計な手間を掛けてしまうと,電子契約自体を導入した趣旨が失われてしまうのではないかという議論が強くなっております。既存の記名,捺印だけで済ましている契約調印に比べて,電子契約にしたからといってその要件を加重すべきではないという考えの方が優勢になりつつあります。リスクがあり心配になる点はありますが,新しい技術を導入することにより得られるメリットの方を重視して,電子化を進めていくべきという議論の方が強くなってきております。そのため、事件管理システム上で本人確認をして,同意がなされたとみなすことも合理性があるとみなしていける環境が徐々に醸成されていくのではないかという印象を持ちました。特に電子化されたからといって電話やテレビ会議で本人の真意を確認するような条件を加重することは,この状況において適切ではないという印象を持ちましたので,少しその旨の意見を申し述べさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。増見委員の意見もごもっともだとは思いますが,私はやはりこの真意の確認というのは本当に大事なことで,これまでも裁判官の方はその点を非常に重視してやっていただいていると認識しております。実際に勘違いで意見を変えるということがあって,よくよく説明していただいて,ああ,勘違いだったということがあるのです。特に,私どものような素人の一般国民が一生に一度ぐらいの裁判において,和解に同意することもそうですが,その真意の確認がどうなるかという辺りはとても大事なことです。形式的なやり取りだけでなされることがないように,本当に理解しているかという辺りはとにかく慎重にやっていただきたいということです。また,それが書記官でもよろしいのではないかという意見もございますが,やはり裁判所及び裁判官が関与するということの大事さは,私たち特にある年齢以上の消費者は,思っておりますので,その点は,IT化もよろしいのですけれども,徐々に進めるというか,実際のところをよく考えていただいて決めていっていただきたいとお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私も,書記官権限化するかどうかという,真意の確認についての意見を申し述べます。結論としては,現行規則どおり裁判所の権限として存置すべきだろうと考えております。   先ほどからいろいろと出ておりますように,真意の確認というのは一体どういうものなのかということ自体にいろいろな御意見があるところでありまして,かつ,最後の段階の実印と印鑑証明書の確認だけであると絞ったとしても,そこでもやはり偽造文書とか,そういった問題についてはやはり判断作用はあり得るわけです。そして,これがウェブというかオンラインで提出できるようになりますと,その印影というのはどういうふうに見るべきかみたいなことというのは,やはりどうしても結構微妙な判断というのは出てき得るのだろうと思います。ですから,これは決して要件を加重するわけではなくて,現状を存置するだけでありますので,現状からそこの部分について書記官権限化して緩めるということは,かなり思い切った話だろうと思いますので,私自身はそこまで行くべきではないだろうと思っております。先ほどの最高裁の御説明もありましたけれども,結局のところは,やはり裁判官と相談してやっていますという話になるのだとすると,書記官権限化するということの意味というのは一体どういうことなのかという問題も出てきますので,和解のこれまでの,ずっと和解手続の経緯も踏まえた上での真意の確認と考えますと,やはり裁判官の権限で置いておくべきではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 この真意の確認とは何を意味するものなのかということについて御議論が続いているところですけれども,便宜を重視するなり,現状の実務を妥当なものであるというふうな御意見をお伺いしていますと,真意というのは受諾書面の作成名義の真正の確認にすぎないのだということとほとんど同じことになっているのではないかと思われて,それはやはり違うのではないかと思います。   今,たまたまですけれども,私,手元で条解民事訴訟規則を見ておるのですけれども,規則の163条の2項が真意確認の規定ですが,1項では和解条項案については書面に記載して提示しなければいけないとなっていて,そこの説明のところでも,提示を受ける当事者が和解条項案の内容及び,これを受諾する書面を提出したときの効果を書面により示されることにより,その点についての認識,理解を深めることが期待されると,このように説明されておりまして,やはり真意というのは,和解条項の意味を理解して,それに服することの意味というのを実質的に了解しているということを意味するのだと考えるべきだと思います。   そうしますと,真意確認というのは,そうした受諾書面の提出者の実質的な主観的状態を確認する作業であって,それは書記官の権限として行うことが適切なものではなく,それまでの事件処理に当たってきた裁判官がやってしかるべきことではないかと考える次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 真意の確認の話が大分続いておりますけれども,まず,今,日下部委員の方からも御紹介のありました条解民事訴訟規則によりますと,先ほど引用いただいた次の箇所には,この運用として,真意の確認というのは事案に応じて裁判所等が相当と認める方法によればよいと考えられるという記載がございまして,受諾書面と印鑑登録証明書で確認するといったような方法も記載しているところでございます。   この点に関しましては,先ほど垣内幹事が正に御指摘いただいたように,和解条項案の受諾書面が出される前のプロセスというものが非常に重要だと考えておりまして,その和解条項案を裁判所が当事者にいきなり提示するということはおよそあり得ず,通常の場合は,それ以前の段階でウェブ会議等を通じた期日の場で裁判官の方から和解の内容を説明して,当事者と意見交換した上で,ではこういったような和解条項案を出しましょうかというような話をし,正に当事者の方が事前にある程度内容を確認し,理解しているということを前提として和解条項案を提示するのが一般かと思われます。そういうようなプロセスを経た上での,当事者から出てきた受諾書面の真意確認ということを考えますと,やはり現行の裁判所が行っているような在り方に格別の問題があるとは認識していないところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。なかなか議論が難しいなと感じますのは,真意の確認ということの意味にまた戻るのですけれども,真意を確認するための具体的な作業というのでしょうか,例えば印鑑を照合するであるとか,当事者に何か確認するであるとかいった具体的な作業を誰がどうやってするのかという問題と,最終的にその受諾書面が真意に基づいていると考えて和解成立とさせるというところを,誰が最終的なその判断をするのかという問題とがあるような感じがしております。   私自身は,先ほど理論的には真意確認が書記官ということも全くあり得ないわけではないのではないかと申し上げたのは,その具体的な作業について書記官に何かさせるということはあり得るのではないかという話で,何か書記官が,確認しましたと,特に問題ないですと言っているのだけれども,裁判官として,通常はそういうことはないだろうと思いますが,やはり真意に基づくものとは認定できないと仮に考えた場合に,それは裁判官としては,その和解は成立させることはできないということになるはず,理論的にはそうなのではないかと思われまして,そういう意味で,真意性,その受諾書面が有効な意思表示なのかということについては,最終的には裁判官が判断するということなのではないかと考えており,そのことと,その判断をするために必要なプロセスと申しますか手順を誰がどういう形でやるかという問題とを区別できるかどうかと,それは一貫して裁判官が全て責任を負ってやるというふうに整理するのがよいのか,その辺りが問題なのかなと考えております。私自身の理解を少し敷衍させて述べさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○笠井委員 繰り返しになってしまいますけれども,先ほど橋爪幹事がおっしゃったことというのは,やはり裁判官が今まで活動してこられたことを踏まえて,それが反映されているかという話であるかなと思いまして,そこについて,しかも相当と認められる方法となると,やはり何が相当かという話というのはどうしても出てくるところです。もちろん調書を作られるのは書記官なわけでありまして,そこは書記官権限であることは間違いないわけですけれども,その前提として,本当にその当事者の意思に基づいて合意がされたのかということというのは,やはり和解の実体面に関わることですので,垣内幹事がおっしゃったような整理というのもあり得るだろうとは思うのですけれども,そこまでは裁判官権限なのだと整理する方が,私の感覚としてはつながりがよいなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大谷委員 日本総研の大谷でございます。議論の前提となることが理解できていない点もありまして,質問させていただければと思います。資料の7ページのイのところで,規則の163条1項についての説明を述べられた部分で,それまでの期日間の当事者のやり取りの中で実質的な合意がなされており,当事者双方が受諾することが予定されているものであることを前提とするものが多いと思われる,と述べられているところについてです。それまでの,受諾書を提出していただくに先立っての合意,それから,受諾が予定されているということを客観的にエビデンスとして残すためのプロセスを記録するような仕組みというのが,今後,電子化された裁判のプロセスの中でどのように記録されていくことを前提としているのか,これは,真意をどうやって確認するか,誰が確認するかという事務手続とは別に,その実体面をどのように確認できるのかといったことで,規定の立て付けというのを変えられるのではないかと思っておりまして,その前提のところを教えていただければと思います。どなたが適切か分からないのですけれども,よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 取りあえず,事務当局からありますか。 ○波多野関係官 大谷委員から御指摘いただきました記載は,現在の受諾和解の解説等によりますと,受諾和解の制度というのは,やり取りをして実質的な合意がされている場合で,双方合意はしているけれども一方当事者が出頭できないという場面で,和解を成立させようというために用意されている規律と理解されておりますので,その旨を記載したというところでございます。この営みがどのように裁判記録上残されているのかというのは,なかなかこちらでは,分かっていないところがございますので,実務家の先生方からフォローいただければ助かります。 ○山本(和)部会長 裁判所の方からは,何か言っていただけることはありますか。 ○渡邉幹事 受諾に至るプロセスの記録化ということにつきましては,かなりケース・バイ・ケースのところがございまして,一般論を述べるのは難しいところですが,例えばですけれども,一方当事者からこういった案が考えられるとして和解条項案が提出され,それについて相手方も了承できるけれども,なかなか出頭できないという場合には,一方当事者から出てきた和解条項案というのがまずあって,その後に裁判所の方がそれを和解条項として示すといったようなものが記録としては残っているということになるかと思いますが,そういった事案以外にも,様々な経緯によって受諾和解に至ることがございますので,かなりケース・バイ・ケースなのかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   大谷委員,今のでいかがでしょうか。 ○大谷委員 御説明ありがとうございました。やはり様々だということが,想像のとおりなのですけれども,こういった様々の手続での実質的な合意というものを記録に残し,当事者が振り返ることができるようにして,真意の確認の前提が取れるのであれば,裁判官がやろうと書記官がやろうと,どちらでも可能な仕組みにすることはできると思うのですが,余りにも実質的なやり方が多岐にわたっていて一般化することが難しいとか,また,その記録を残すということをルール化することも難しいということになりますと,どうしても裁判官の方にお願いしなければいけないというふうになってくるかと思います。前提となるプロセスの部分をどのようにルール化できるかといったことについても検討を深めていただいた上で,誰が担当するのかといったところを決めていただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○井村委員 連合の井村です。IT化やデジタル化というのは単なる道具の話であって,例えば増見委員と藤野委員の意見も別に対立する話ではないと思います。これまで,裁判官の下で真意の確認を行ってきたのであれば,IT化をしたからなくなるものではなく,例えば受諾書の書面を提出するに当たってITという道具を使うということだけだと思います。また,ITで送るに当たって,例えば本人確認で印鑑証明は使えませんが,事件管理システムに入る段階で本人確認がされているのであれば,それで済むのではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私はイーコマース全般を否定するつもりも何もなくて,オンライン上で私もばんばん契約していますので,特にそれに違和感を持っているわけではないわけです。イーコマースの世界というのはプライベートパーティ間の話なので,ここで問題になっているのはプライベートパーティとパブリックパーティの間の問題で,パブリックパーティが真意と認めるかどうかということが問題にされているわけです。なぜそこをわざわざ民事訴訟規則に書いたかというと,プライベートパーティ間の契約以上の効力を和解の結果を記載した調書に認めているからですよね,特に重要なポイントは。ですから,そこについて,つまり一番強い効力は,やはり強制執行を受けてしまうということですね。そこの点について,やはりそこを,公正証書においても執行受諾文言の真意性というのは常に問題にされますので,そういう意味での真意と,理解しているかどうかということはプライベートパーティ間の契約とは違う側面があるということで,先ほど来,真意の問題を別途わざわざ議論しているわけであって,書面提出者のアイデンティファイの問題以上の問題があるのではないかという問題意識があるということを御理解いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。山本克己委員の御見解からすると,書記官権限化といわれる問題については。 ○山本(克)委員 書記官権限化は,だって訴訟を終わらす判断の権限が書記官にあるというのはどう見てもおかしいのではないでしょうか。受訴裁判所の権限ではないですか,それは。ほかの方もおっしゃっているように,裁判官の補助者として書記官が何ができるかという問題はもちろんあってしかるべきだと思いますけれども,ただ,それをわざわざ法律や規則に書き込まなければいけない話ではないと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   おおむねよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。大変に充実した御議論を長時間にわたって頂きまして,ありがとうございました。   それでは,最後に次回議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野幹事 事務当局でございます。本日も長時間にわたりましてありがとうございました。   次回の日程でございますが,6月11日金曜日,午後1時からでございます。場所は未定でございます。追ってお知らせをいたします。   次回会議におきましては,パブリックコメントに寄せられた意見を踏まえまして,中間試案における幾つかの提案について更に御議論をさせていただく予定でございます。詳細につきましては,追って皆様に御連絡をさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ということで,次回以降,本格的に要綱案の取りまとめに向けた議論となろうかと思いますけれども,引き続きよろしくお願いをいたします。   それでは,これにて法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第12回会議を閉会にさせていただきます。   本日も長時間にわたり熱心な御議論を頂き,ありがとうございました。 -了-