法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  令和3年6月11日(金)自 午後1時00分                     至 午後6時08分 第2 場 所  法務省20階 第1会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,所定の時間になりましたので,ただいまより法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第13回会議を開会したいと思います。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日の出席状況でありますけれども,衣斐幹事は御欠席ということです。また,笠井委員が午後3時から午後5時頃まで中座される予定,それから,長谷部委員は午後5時45分頃御退席の予定と伺っております。   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明を事務当局からお願いします。 ○大野幹事 事務当局でございます。本日は部会資料17「民事裁判手続のIT化に関する検討事項1」を配布させていただいております。資料の内容につきましては,後ほど御審議の際に事務当局から説明をさせていただく予定でございます。   また,本日は併せて参考資料11「「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要」及び参考資料12「諸外国における民事訴訟手続のIT化 比較表」を配布させていただいております。   参考資料11は,5月7日まで実施しておりましたパブリックコメントに寄せられた意見を事務当局において集計し,内容の取りまとめを行ったものでございます。また,参考資料12は中間試案の内容と4か国の法制等を比較するものでございます。外国法制の内容につきましては以前,会議で参考資料8として配布をさせていただきました,主要先進国における民事裁判手続等のIT化に関する調査研究業務報告書を元に若干の補充をしたものでございます。   いずれにつきましても,今後の御議論に当たり御参考にしていただければと存じます。   本日の配布資料は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは早速ですが,本日の審議に入りたいと思います。   なお,本日は議論すべき論点がかなり多岐にわたっておりますので,恐縮ですけれども,全体を通して,御発言につきましては可能な限り要点に絞って簡潔になるようにお願いをしたいと思います。恐れ入りますが,円滑な議事進行に御協力をお願いいたします。   それでは,まず一つ目の論点といたしまして,部会資料17の1ページ,「第1 総論」の「1 インターネットを用いてする申立て等によらなければならない場合等」,この部分につきまして御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 説明いたします。   部会資料の1ページ第1の1でございますけれども,こちらは中間試案では甲案,乙案及び丙案の3案を本文で御提示し,段階的導入につきましては(注)で記載して意見募集に付したところでございます。意見募集におきましては,各案を支持する御意見,段階的に導入していくことを支持する御意見,それぞれが出されたところでございまして,部会資料の本文は中間試案と同じ趣旨の記載をしておりまして,これまでにお出しいただいている各案の理由を「説明」に記載しております。   第1の1の本文につきましては,「説明」に記載していない各案の理由や,ほかに考えるべき観点,今後成案に向けて検討していくべき観点につきまして,本日御議論,御意見を頂ければと存じます。   第1の1の(注)につきましては,オンライン申立てによらなければならないものを設定した場合を念頭に置いて,(注1)で書面が提出された際の取扱いについて,(注2)でシステム障害等の際の時効完成猶予について記載をしております。(注3)は,甲案又は乙案に記載しております訴訟代理人について,委任による訴訟代理人のほかに法令上の訴訟代理人を含めることについて記載をしております。   説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも,あるいはどの部分からでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○増見委員 増見でございます。この点につきましては,従来から申し述べてきたとおり、早急に甲案の実現を目指していただきたいと考えております。乙案,丙案から始まるとしても,具体的な甲案への移行期限を定めた上で,一刻も早くオンライン化を実現していただきたいと考えます。実際に法改正がなされてから,運用が始まるのが令和7年と伺っておりますので,運用までの間,ITリテラシーの格差をキャッチアップするための時間も十分にあると思います。今回の法改正に際しても,日本が他国に比べて大幅にIT化が遅れていることも踏まえて,少しでも早く便利な環境が整うように推進をしていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 この議論は,理念的な意見を繰り返しても同じ議論が続くだけですので,将来を見越して実践的な検討が必要だと思います。甲案,乙案,丙案についても,実際にデジタルディバイドによって訴訟,裁判を受ける手続に何らかの支障が生じる人がどの程度の人数になるのかを想定できないと,理念倒れの話になると思います。シンクタンク系などに調査依頼をして,甲案であればどの程度の件数ないしはどの程度の人数がサポートを必要とするのかといったことが分からないと,どうしても一般的・理念的な話にならざるを得ません。   飽くまで参考にという前提で数字を取り上げますが,平成31年及び令和元年の司法統計の民事行政事件編の第23表では,地裁の民事事件について代理人がどの程度就いているのか,本人訴訟がどの程度あるのかが示されています。第23表では,総数13万1,560件のうち弁護士が就いているのは12万367件です。双方本人というのはその差の1万1,193件となりますが,被告本人は5万4,718件とかなりの件数があります。両方足しますと6万5,911件は双方又は被告が本人訴訟という状況にあります。ただし,欠席判決は被告は本人という前提になると思いますので,欠席判決2万4,780件を引きますと,4万1,131件が対席事件の本人訴訟となり,被告が本人又は双方本人の事件になると思います。この4万1,000件ほどの事件のうちデジタル弱者がどの程度いるのか,そこの数字が全然見えないと,甲案で大丈夫だとか,乙案で本人サポートが必要だとかいうところが分からないと思います。後で本人サポートの話も出るかもしれませんけれども,その体制も含めて,現実の数字を見据えた上でどのような制度を構築していくのかと考える必要があり,実践的にないしは段階的な形で,そのときの状況を踏まえて適時に改めていく,上のステージに上がっていく方法を選択せざるを得ないのではないかと思います。理念ではなくて実態を踏まえた議論が必要だと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 意見募集の感想として,インターネットを用いた手続の一元化には大きな利点があるということに大方の理解が得られているのだろうと受け止めています。一方で,まだ一元化する段階ではない,一元化を実現するにしても,本人訴訟においては様々な工夫や配慮をしなければならないという課題もより明確になったと理解しています。   その上で,改めて意見を申し上げます。今般の改正で将来の目標として全てを義務化するという決意を掲げなければ,恐らく将来的にも手続併存の状態が続いてしまうだろうという懸念があります。仮に丙案となれば,再度の法改正が必要になるようにも思っていますが,それは現実的ではないと思います。まずもって士業者がITに対応できることは当然と考えています。司法書士会内では,司法書士が書類作成者として関与している事件についても義務化をすべきだという意見すらあります。   一方,問題は本人訴訟の当事者のサポートということになりますが,そこについてはこれまでも述べているとおり,日本司法書士会連合会としても最大限汗をかく覚悟があります。例えば,全国157か所に存在する司法書士相談センターのIT化対応については,既に2年前から着手しておりまして,オンラインの相談受付やシステムの稼動,ウェブ相談の全国的な導入についても秒読み段階であります。これを第1フェーズとして,改正法施行,オンライン申立て全面義務化に向けて全国の司法書士会が一丸となって,本人訴訟のITサポートについても行っていきたいと,オンラインと対面の双方でサポートを行っていきたいと考えています。具体的なサポート案については検討中でありますので,まだここで申し述べる段階にはございませんが,そのような準備があるということを申し上げておきたいと思っています。したがって,甲案をベースに検討を詰めていってはどうかというのが意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。私も今回,パブコメに際して改めていろいろな方の声を聴き,また,これまでの法制審での審議も経験してまいりまして,実は甲案も丙案も,いずれにしても将来的にはIT化がされるということで,方向としてはほぼ同じなのではないかと思っています。しかし,私は義務という言葉が,やはりどうかと考えております。義務と言わなければそちらの方向に進まないという御意見もございますが,義務化するならするためにその条件整備が必要で,それをいろいろ審議しているところでもありますが,これまでの話合いからもそのハードルは高すぎると感じております。現在の書面でのルールに,電子媒体を用いてすることができると加えることで整備を進めていくことが現実的ではないでしょうか。現段階まで進んだからにはこの甲案,乙案,丙案の三つを併記して,どれがいいかということは違うのではないかと思っております。IT化を目指していくことは一致していますので,それに向けての現実的な方向を考えていくということがよろしいのではないかと思いまして,「義務化=しなければならない」という言葉は取っていただきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大谷委員 日本総研の大谷でございます。   先ほど,阿多委員からだと思いますけれども,現在のデジタルリテラシーの統計などについての御発言がありましたので,その点について私どものシンクタンクが調べた結果について情報共有させていただければと思います。   この6月に我が社で公表している資料によりますと,現在,基礎的なデジタルリテラシーを備えていない人は,高齢者を中心に1,140万人存在しているということになります。そして,このうち79歳以下の方が660万人という資料が公表されているところでございます。ここでいう基礎的なデジタルリテラシーというのは,厚生労働省などの定義でございまして,基本的な操作ということだけにとどまらず,ITを安全に使うため,例えばウイルス対策ソフトをスマホに入れる,あるいはパソコンに入れるといった基本的なことについて理解ができているかというような内容も含むものとなっております。   こういった基礎的デジタルリテラシーの普及というのが不十分だというのは皆様も御認識のとおりだと思いますけれども,例えばウイルス対策をしていない者から訴状などの資料が裁判所のシステムにアップロードされることになりますと,裁判所のシステムそのものにも危害を加えることになりますので,やはりこの議論を進めるに当たっては,その外堀である社会全体としてのデジタルリテラシーを高めるための努力というのが不可欠だと思いますし,私個人の意見としては,段階的な導入,もちろん目標を決めつつも,段階的な導入のための施策というのを総合的に講じていくことが必要だと考えている次第です。ただ,この論点というのは,もうデジタルリテラシーだけの話ではなく,様々な事情でITによる手段が使えない場合というのも想定したルールにすることが基本的に必要だと思いますので,ひとまずは情報提供させていただいた次第でございます。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 まず,大谷委員から最近の公表資料のことを御紹介いただきましたけれども,今議論されているIT化の裁判手続に関しましては,5年後,10年後の民事訴訟のことを議論しているということを,念のため御指摘させていただきたいと思います。   その上で,丙案についてですが,パブコメの意見などを拝見しますと,裁判を受ける権利ということが指摘されていますが,その前提としているのが,出来上がった訴状を裁判所に郵送又は持参するか,あるいはインターネットで送るか,そういうことを比較して,インターネットを利用できない人の裁判を受ける権利が侵害されるというような立論になっているようです。しかし,実際に訴訟を提起する際に一番大変なのは,訴状を作る段階,訴状を作ったり,訴訟に必要な資料や証拠を集めたり,そういうところです。それに関しては,ふだん訴訟に慣れている弁護士,司法書士でも,全く何も見ずに一から訴訟の準備をするというのはかなりハードルが高いことではないかと思います。弁護士でもそういうことですから,一般の人は更にハードルが高いことになりますので,そういう意味で,インターネットで申立てができない人の裁判を受ける権利ということ以前に,もっと実質的に裁判を受ける権利をどう保障するかということを考える必要があるのではないかと思います。   弁護士もそうですけれども,まず訴訟をしようとするときに手っ取り早く情報を集めるという手段としては,今は,インターネットが主流になっていて,インターネットを使えば簡単に最新の情報を集めることができます。恐らく一般の人も,難しい民事訴訟とかの本を読むという人は少なくて,インターネットをまず調べるという人が多いのではないでしょうか。そういう意味では,インターネットを使っている人と使っていない人との間には大きな格差が生じているわけですが,そういうものをデジタルディバイドということになると思います。インターネットを用いて訴訟を提起することができるかどうかについて選択制にするということは,そういう格差を固定するということにならないかというのが気になるところです。   本来ですと,国としてはオンラインを使える人と使えない人の格差を解消するために何らかの基盤を整備するということが正しい施策なのではないかと考えます。インターネットを用いた申立てにすることによって,例えば簡単な訴状や答弁書などが自動的に作られたり,書面の内容や添付書類の送付などの簡単なミスを警告するシステムというようなものを組み込んだシステムによって,今よりも実質的に当事者本人が簡単に訴訟を提起できるような,そういう制度もできるように思います。その意味で,丙案というよりも,将来的になるかもしれませんけれども,甲案を目指すべきだろうと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私自身は以前から甲案を目指すべきであるということを申し上げておりまして,それ自体は変わらないのですけれども,今回の御意見なども拝見して,丙案を支持する御意見は相当根強いというか,かなりの支持があり,先ほどの藤野委員のような御意見はよく理解できるところもあります。   ただ,丙案ということで全くどちらでもいいのだということだと,今回のIT化をしていくという方向が,かなり頓挫してしまうという,そういうおそれはやはり強いように思います。甲案か丙案かという議論をどうしてもしがちになるのですけれども,私自身は,少なくとも乙案についてまでは今回の立法できちんと制度化する必要があるのではないかと思います。弁護士,司法書士などの士業者,あるいは国や地方公共団体の指定代理人までは,そういった方についてはオンラインでの申立てにしなければいけないという制度は,ある種,現実的なものとしてもそれほど問題はないのではないかと考えております。   それが私の今のところの結論なのですけれども,乙案の場合に,その補正の機会をどうするかという問題などもありまして,あるいは,やむを得ない事情を考慮するかどうかという話はまだ残っていると思うのですけれども,私自身はやむを得ない事情という例外は必要がないと思いますし,書面で出たときに補正の機会を与える必要も,制度としては,なくていいのではないかと思っております。現在,地裁で口頭で訴えを起こしてきた場合と同じように扱っていいのではないかと,事実上何らかのアドバイスをするということがあると思いますけれども,制度として,紙で出してきた場合に補正の機会を与えるということは作らなくてもいいのではないかと思います。   これとの関係で,今回の部会資料の9ページのところにその辺の話も載っているのですけれども,訴訟代理人がシステム障害によってインターネットを用いた申立て等をすることができない場合に,そのシステム障害が裁判所のシステム障害によるか否かを利用者側において直ちに判別することが困難なことを踏まえると,というのが載っていまして,これはなるほどと思ったのですけれども,こういうふうに考えた場合に,補正の機会を与えても,その補正というのは恐らく一定期間内にインターネットで出しなさいという補正だと思いますので,一定の期間の末日に同じようなことが起こると,結局同じ問題が起きてしまうような気がして,そうすると,どういうふうに仕組みを作るのかというのが難しいと思います。そういうことも考えて,私は今のところ,考えが至っていないところはあると思いますけれども,制度としては,そういう例外を設けなくてもいいのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今の甲案,乙案,丙案という大きな枠組みでの御議論がありまして,いろいろ聞いておりますと,方向性として甲案のような状態を目指すべきだということについては御異存はないのかなと思うのですが,今般の法改正でどこまで持って行くのかという点については御議論があるところだろうと思います。   その観点で,今回の配布されております参考資料12によりますと,そこに挙げられている4か国,5法域においては,電子提出を当事者本人に義務付けているところは現状一つもなくて,また,弁護士等についてはいずれも義務付けがされているようですけれども,例外が認められていないところは一つもないと思われました。後者の点については,ドイツにおける例外の有無はどのように読めばよいのかは参考資料12からは直ちには明らかではないようも思ったのですけれども,先進諸国における傾向としては今申し上げたような状況にあるのだろうと思いますので,そこは考慮されてよいのではないかと思います。   また,甲案の段階に進む上で,どのような条件が満たされなければいけないのかということが考えられるべきであって,先ほど,現時点において甲案の段階に移行する時期をあらかじめ定めておくべきであるという御意見もございましたが,その時点においてオンラインでの申立てができない国民が100万人単位でいるのだということだとすれば,それは非常に大きな問題だろうと思いますので,にわかには賛成しかねます。   この点,日弁連の意見を敷衍いたしますと,原則として誰でもオンライン申立てに対応できるという検証を国会においてした上で,法曹三者における自律的判断を尊重しつつ,甲案の施行の可否及びその時期を国会の議決で決めるべきであるという意見を申し上げているところです。   その検証を具体的にどうやるかというのは,現実問題としてなかなか難しいところなのですが,一つには,実際に事件管理システムの運用がスタートした後に,オンラインでの申立てが全体の中でどの程度の割合を占めることになっているのか,それが7割,8割というのでは不十分であるけれども,99%になっていればさすがにいいだろうといった判断の仕方というのも一つあり得るのではないかと感じたところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 私も甲案を将来的な目標とすることには異存がありませんが,現段階としては乙案から出発すべきであろうと思います。その理由としては,一部,丙案や乙案を採るとデジタルディバイドの固定化につながるという御意見がございましたが,日本社会において訴訟というのは非常に遠い世界の話で,アメリカのようにケーブルテレビで模擬法廷専門チャンネルがあって,訴訟を見るのが大好きな人が一杯いるというような国であればともかく,日本において訴訟法がIT化されたからきちんとITを勉強する必要性があると感じられるかというと,極めて疑問なので,今回のIT化をデジタルディバイドを解消させるためのインセンティブとして利用するという発想は,やはり間違いだと思います。それはもう前提条件を欠いているのではないかと思います。   それと,もう1点,乙案から出発して甲案に移行するのを,もう今回の法案の中に組み込んで,例えば施行後5年後には甲案に行きますよというような立法をすることも,私は適切ではないと思います。というのは,デジタルディバイドを解消するのは訴訟法の役割でもありませんし,裁判所の役割でもありません。結局,政府がどれだけ頑張って,どれだけの成果が上がっているかということをどこか将来の時点で検証して初めて,デジタルディバイドを余り気にしなくていい立法ができるという社会的な基礎条件が出来上がるわけですので,私は取りあえず乙案で出発して,将来甲案のような方にするかどうかは,その適切な時期というものを判断して,そのときにどういう指標が役に立つのかという点については,私は全く定見を持たないので,専門家の御判断に委ねざるを得ないと思いますけれども,取りあえず乙案で出発するということだけが今時の改正の在り方として適切ではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○服部委員 服部でございます。これまでいろいろな御意見が出ていて,重なる部分があるかもしれないですけれども,意見を申し述べたいと思います。   甲案ないし乙案という形での義務化ということを導入するに当たっては,今,裁判所の方で御制作いただいている事件管理システムがどのようなものになるのかですとか,デジタルディバイドの関係の本人サポートを,どの機関がどういう立場でどのような内容を担って実際に行っていけるのだろうか,という制度準備と切り離すことができないのではないかと考えております。特に,甲案を実現するためには,先ほどいろいろ御意見を頂いていた中で,藤野委員からの御意見だったと思いますが,私もかなりハードルが高いというところかと思っております。具体的な場面に落とし込んで考えたときに,事件管理システムについても本人サポートについても具体的なイメージがつかめない状態であると認識しております。   また,この部会でも資料として御提出いただいた,内閣府が実施した世論調査でも,オンライン申立てとすることについて,国民にはかなり消極的な意見が多かったという結果が出ているところでございます。インターネットを用いた申立てが可能になるメリットは大変大きいので,私は,オンライン申立てそのものを導入することには全く異議はありませんけれども,ただ,現実的な状況を考慮したときに,裁判を受ける権利の侵害とか司法アクセスの後退ということをさせないためには,やはりオンライン申立てを段階的に実現することが現実的であろうと考える次第でございます。   諸外国の状況につきましては,今回の参考資料でも御提供いただいたところですし,それも参考としなければいけませんが,まず,委任を受けた訴訟代理人の義務化についても,いきなりそこからの導入という形ではなく,附則で検討の機会の規定を設けるなどして,まずは丙案,つまりオンライン申立てをすることができるという形にして進めていただくというのが妥当ではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 青木哲です。まず,一般論としては,IT化によって国民の司法へのアクセスの利便性が全体として向上するとしても,一部の者にとってのアクセスの利便性が大きく損なわれるような改正はすべきでないように思います。ここではインターネットによる申立て等ということで,文書の電子化,そのインターネットによる提出ということが対象として議論されているかと思いますが,やはり事件管理システムの利用が通知アドレスの届出を前提とするということになると,文書の送達や送付を受けるという方についてもIT化に対応しなければならないということになるかと思います。このことは一部の者にとっては司法へのアクセスの利便性が大きく損なわれるということになり得るのではないかと考えております。そうすると,本人については,やむを得ない事情の有無にかかわらず,紙媒体による申立てを認めるというのがよいのではないかと考えております。   他方で訴訟代理人については,当事者本人の立場に立つと,一般的にはITを利用する訴訟代理人に依頼するということは可能であり,訴訟代理人についてインターネット申立て等を義務化したとしても国民の司法へのアクセスの利便性が低下するということにはならないように思います。確かに特定の訴訟代理人に代理してもらう必要というのがある場面もあるかと思いますが,訴訟代理人に対してITへの対応を義務化するとしても,そのような場面における本人の司法へのアクセスの利便性が損なわれるということにはならないのではないかと考えております。なので,乙案がよいのではないかと考えております。   それから,(2)のインターネットを用いてする申立てを一旦行った者についても,訴訟係属中にITによるアクセスが困難になるという場合もあり得るかと思うので,こちらの方は,先ほど申し上げたのとは異なりますが,やむを得ない事情があると認められる場合に限ってもよいと思いますけれども,書面による申立てを認めるという例外を考える必要があるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 今までの皆様と重なる部分は多々あると思いますけれども,意見を述べさせていただきたいと思います。   今,現時点でかなり諸外国と比べてIT化が立ち後れているという状況が認識されている中で,ここで何か段階的にですとかというプロセスを経ていると,結局この改正法の完全施行も令和7年だと聞いていますし,では実際的に全面的に切り替わるのは一体いつの話になるのだと思っております。一時的にはIT化と書面でのやり取りというのが併存するというのは避けられないのだと思いますけれども,結局IT化として統一されないと,なかなかこの法改正した効果といいますか,メリットが得られないのかなと思っております。   そこで,先ほど大坪幹事もおっしゃっていましたけれども,アプローチとしてはやはりインターネットを使える方と使えない人の格差をなくすような基盤を整備する,そういう方向で対応していくということで考えていくべきなのかなと思っておりまして,甲案を目指す,それで途中経過の段階で乙案を採用する,そのぐらいの考えが一番いいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内でございます。ほぼ付け加えることはもうないのですけれども,私自身は基本的には現状では乙案を出発点に考えるということがまずは考えられるのかなと思います。その理由等につきましては既に触れていただいているとおりで,特に先ほど青木幹事が言われた点も重要な視点なのだろうと思っております。   その関係で,ただ,そうは申しましても,甲案との関係で実情を踏まえた検討が必要ではないかというお話もございましたけれども,乙案の場合ですと,特に弁護士の方々の実情等がどうであって,対応が非常に困難な場面というものが多く見受けられるのかどうかといったようなところについても,もし可能であれば更に情報があると,より実質的な検討ができるのかなという感じもいたしております。これは,施行までの期間をどうするかといったような点に関わるということかもしれません。   それから,もう1点,将来的には甲案を目指すということになるかと私自身も考えておりまして,しかし,その際,部会資料でも御提案されておりますように,一定の例外というものはあり得るだろうと思われます。そのことの関係もありまして,先ほど笠井委員の方から御指摘がありました補正の関係の問題ですけれども,笠井委員の御意見もなるほどと感じるところはありますが,ただ,口頭での訴え提起との対比という点について申しますと,やはりオンラインで申立てをするということについて様々な事実上の障害が生じ得ると,それで,紙でまずは訴えを提起したいというような事情が生じ得るということと,およそ書面を何も作らず口頭で訴えを提起しなければならない事情というものとを比較しましたときに,やはり口頭での訴え提起というのと,紙で曲がりなりにもきちんと訴状は作って訴え提起するというものを同じように考えることが適切なのかどうかというのは,これは両論あり得るところなのかなと私自身は現時点では考えております。したがいまして,そういう点では甲案を前提としたときには,書面で提出し,それを補正するという機会を与えてよいように思いますし,そうだとすれば,代理人との関係でも殊更に規律を区別する必要性まではないのかなと現時点では考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 私も今,垣内幹事の方がおっしゃられたこととほぼ同じことを申し上げようと思っていたところです。先ほど笠井委員の方から,仮に書面が提出された場合に補正の機会を与えたとしても,その期間中に引き続きオンラインでの申立てができない状況も考えられ得るから,法制上どのように取り扱うのがいいのかというのは悩ましい部分もあるといった御趣旨の御指摘もあったかと思いますが,その補正の機会としてどの程度の期間設定をするのかにもよるかと思いますが,そのような事態を考慮する必要があるのだろうかというのが率直に感じたところであります。   それから,委任を受けた訴訟代理人以外に法令上の訴訟代理人をどのように扱うべきなのかという問題提起が部会資料の中でもなされているところです。それにつきましては,考えてまいりましたけれども,確かに部会資料の中で言及されているように,国等の指定代理人など訴訟委任を受ける弁護士と同程度に訴訟手続に通暁しているものについては,例外的かつ個別的に委任を受ける訴訟代理人と同じように扱うけれども,そうでない人については原則として含めないという扱いで,法令上の訴訟代理人については一絡げに同じ扱いで考えるのではなく,原則と例外という形できめ細やかに規律をしていくというアプローチもあるのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 重なるところは簡単に発言したいと思います。笠井委員の指摘の書面で提出された場合に補正の機会を設ける必要がないとの点については,書面の作成と作成したものの送信では代理人としてコントロールできる範囲が異なることから,区別すべきであって,送信については補正の機会の提供を考えていただきたい。   あと2点,小澤委員から本人サポートの話が出ました。本人サポートは,部会の最初の頃に,どの程度,サポートが必要となる事件ないしは対象者が存在するのかとか,どのようなサポートが必要なのかという点を曖昧にしたまま,抽象的に理念としてサポートしますという議論がありましたが,ここに至っては,そのような話ではなく,実際に裁判所のシステムが構築され,実際に甲案の完全実施以前または乙案で本人訴訟においてITによる裁判を希望する場合に,どの程度の人数にサポートが必要になるのかということを見据えた上での議論が必要と思います。理念ではなく,裁判所も含めたどういう形でのサポート体制を考えるのかという観点から議論する必要があると思います。   3点目は,部会資料17の9ページの真ん中の「なお書」の方式に関する審査権です。裁判所書記官の権限とする考え方への言及があります。しかし,この方式を認めるか否かという判断は,提出された書面で判断できることではなく,むしろ提出された書面以外の事情を考慮して判断せざるを得ない事項と思います。そうであるなら,実質的な判断になると思いますので,書記官ではなく裁判所の権限と整理すべきだと思います。   あと1点,法令上の訴訟代理人について,日下部委員から代理人ごとにという話がありました。しかし,実際に問題になるのは支配人,船舶管理人,船長,さらには協同組合の参事かと思います。元々支配人登記をされ,簡裁等で専ら訴訟をされている使用人がおられ,簡裁訴訟での代理活動が本来的な支配人の利用なのかはよく分からないのですが,本来的には裁判上若しくは裁判外という形で対外的な代表権が定められているものの裁判外に重きが置かれている代理人については必ずしも訴訟に慣れているとは限りませんので,そのような訴訟法上の代理人はIT化を義務化するのではなく,弁護士等の委任に基づく訴訟代理人に限定すべきと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。阿多委員の今の御発言は,指定代理人についても同じですか。 ○阿多委員 指定代理人は訴訟を前提に指定されていますので,指定代理人は義務化の対象と考えています。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○大坪幹事 本人サポートに関してです。私も阿多委員のように,本人サポートを考えるに当たっては,本人訴訟について抽象的に議論するのではなく,もう少し本人訴訟の実態を踏まえた検討が必要ではないかと考えております。阿多委員から最近の司法統計の数字を御紹介頂きましたけれども,研究者の方から,これまでの司法統計を基に本人訴訟の実態について紹介されている論文も出されております。直近の数字のことは分かりませんが,その論文によれば,これまでの本人訴訟に関しては,金銭を目的とする訴訟について本人訴訟が多い,その中でも立替金などの比較的争点が少なくて単純な事件が多いといわれております。さらに,建物に関しての明渡しの訴訟についても本人訴訟が多いわけですけれども,これもほとんど争いのない事件が多いのではないかと考えられているところです。そういう意味で,実際に本人訴訟といっても,本人サポートとしてサポートが必要な件数がどのくらいあるかというのは,調べてみないと分からないところがあって,実際にはそれほど本人サポートを必要とする人というのは多くないのではないかとも考えられます。   さらに,平成28年の調査になりますけれども,民事訴訟の利用者調査で,本人訴訟で,弁護士を依頼しなかった理由というのをアンケートしておりまして,その調査結果では,「自分で裁判をしたいと思った」から弁護士を依頼しなかったということについて肯定的な回答が,原告では37.5%,被告では25.1%,「自分だけでもできると思った」からということに対して肯定的回答が原告64.7%,被告37.6%,「弁護士を頼むだけのお金がなかったから」ということについて肯定的回答が原告12.5%,被告57.2%です。ここから,原告は比較的,自分でできると考えて本人訴訟を選択する方が多いと考えられます。これに対して被告の方は,お金がなかったという人が比較的多いと考えられるわけです。お金がなかったということに関しては,今は地裁から家庭裁判所に移っているわけですけれども,離婚訴訟に関しては,弁護士の人数が増えるに従って本人訴訟がかなり減っているという現状があります。これに関しては,法テラスの情報提供なり法テラスの公的扶助が効果を奏しているのではないかともいわれています。そういう意味で,弁護士を頼むだけのお金がなかったという被告の方のサポートとして,もう少し公的な扶助を手当てすべきと考えられますし,その手当てが必要な件数もそれほど多くないのではないかと考えられます。いずれにしても,そのような本人訴訟の実態を踏まえたサポートを考えていく必要があるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○井村委員 この1年間,コロナによって働く人はテレワーク,学生はオンライン授業を強いられてきましたが,多くの方がそれをやり遂げています。小中学生にもタブレットが配布されました。しかしながら,日本はデジタル後進国と言わざるを得ない状況です。現状のデジタル活用の状況で判断をしてはならないと考えます。飽くまでも未来の社会を志向して今回の法改正も考えるべきです。   その上で,今回は法改正と同時にシステム開発も行わなければならないわけですが,ここで法改正を低めに目標設定をすれば,そのシステム開発もそれに引きずられる可能性があります。となれば,これが5年後,10年後にもそのシステムが果たして使えるのかどうかということも十分考慮しなければなりません。甲案を掲げて,しっかりとそこに向けた法改正とシステム開発をすべきだと考えます。   一方で,現実を見据えれば,ある程度の猶予措置ということも必要だと思いますので,落とし所をしっかりとこの中で論議をしていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 これまで様々な委員,幹事の皆様から,今回の法改正において甲案を条文化すべきであるという御意見がありましたが,最高裁としても全く同感でございます。   その理由を裁判所の立場から付け加えさせていただきますと,書面の提出と電子提出が併存する期間というのが長期にわたればわたるほど,IT化による効率化の恩恵を当事者の側も裁判所の側も享受することができないという期間が続きますので,この期間をできる限り短くするということが重要なのではないかと思います。今般の改正におきまして甲案の規律が何ら規定されず,それはまた次の法改正の機会を待つということですと,結局,書面の提出と電子提出と併存する期間がいつ終了するのかが不明瞭となり,裁判所としても受け入れることがなかなか難しいということになるかと思います。   甲案を導入する上での懸念点といたしましては,やはりデジタルディバイドに対する手当てをどういうふうに考えていくかという問題かと理解いたしました。その点につきましては,裁判所として,まず,裁判手続の利用者の意見も十分に反映させつつ,簡易かつ分かりやすいシステムの構築に努めてまいるということが大前提かと思います。そのシステムの詳細につきましては,正に今後実現される制度の設計に依存するところも大きいので,現時点で確定的なことをお答えするのは難しいところでございますが,現在開発中の現行民訴法132条の10に基づく電子提出システムである「mints」の内容につきましては,将来のシステムのイメージを持っていただく上でも大きな参考になるのではないかと思っております。   また,その上で裁判所といたしましても,裁判所内に必要な機器を設置するなどの環境整備を通じて本人に対するサポートを実現したいと考えているところですが,ただ,司法機関としての裁判所の中立性に鑑みますと,やはり裁判所が行うサポートは,単なる書類の電子化等の中立公平的なものにならざるを得ないところがございます。そして,実際に裁判に臨む当事者御本人の立場からいたしますと,我々が実務において本人訴訟を担当している経験に鑑みましても,多くの場合,形式的なサポートにとどまるのではなく,より実質的なサポート,正に自己の言い分が認められるための様々な法的アドバイスを希望している場合も多く,そうであれば,そのような実質的なサポートを実現するためにも,士業者団体等の適切な担い手による充実したサポート体制の構築が不可欠ではないか,その点も改めて指摘しておきたいと思います。   さらにもう1点,甲案のやむを得ない事由という解釈につきましても触れさせていただきたいと思います。過去の部会におきまして,ほかの委員の方から,この甲案のやむを得ない事由というのは,例えば刑事施設の被収容者など物理的にインターネットから遮断されている者という方に限るのではなく,より柔軟な運用というものもあるのではないかといった御示唆を頂いたところと理解しております。裁判所といたしましては,士業者団体が様々な本人サポート体制を構築したとしても,自らがITリテラシーに乏しいという御本人がこれらサポートを利用することを必ずしも希望しないという場合に,それを義務付けることまではできないとすれば,例えば,その御本人がシステム利用のためのIT機器を保有しておらず,裁判所が設置している機器を利用して電子提出をすることもなかなか期待することが困難な事情があるといった場合には,甲案のやむを得ない事由の例外要件に当たると緩やかに解釈することもあり得るのではないかと思っているところでして,このような解釈が可能であれば,甲案について懸念されている問題点は解消されるのではないかと考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 先ほどの最高裁の話を聞いていて,本人サポートの対象について弁護士会が想定していたものと最高裁の説明されるものとで少しニュアンスの違いがあるようですので,発言させていただきます。   最高裁の橋爪委員からは,中立公平の立場から,書類の電子化等の中立公平的な,形式的な範囲では裁判所でサポートできるが,それ以上の実質的なサポート,法的アドバイスを希望するサポートはできないという話がありました。弁護士会は法的アドバイスは当然,法律相談その他も含め弁護士がサポートするが,問題は本人が準備される書面のデジタル化,さきほどの形式的サポートだけの依頼の場合に場面を設定してどのように対応するのかを議論しています。形式的サポートの部分を裁判所で引き取っていただけるのであれば,弁護士会で議論すべき本人サポートの範囲も変わってくる可能性もあると思います。そういう意味では,今後もサポートの中身,それぞれの役割について議論を重ねていけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 再三失礼いたします。若年層がすごくITをうまく使いこなしているというお話がありましたが,可塑性のある人たちはもう簡単にそれは,我々なんかよりはるかに,遊び感覚でさっさとものすごいところまで行ける人が多数いるというのは,これは当然のことなので,問題は高齢者ですので,現在の高齢者社会を前提として,甲案にたどり着くのにどういうことが必要なのかという議論をすべきであるということを先ほど申し上げたつもりです。ただ,甲案にたどり着くまでの期間が短くて済むのかどうかというのは,やってみなければ分からないということになろうかと思いますので,私はこの立法で甲案に移行する時期を設定するということは避けるべきであると考えております。   これは先ほどの繰り返しでございますが,言いたいのは,法令による訴訟代理人の話が出ましたけれども,船長とか,ほかに協同組合の参与か何かでしたっけ,の話がありました。ここは私は義務化の対象から外してもいいと思うのですが,支配人についてはどうでしょうか。つまり,船長は特殊な技能が要る人の中から選ばざるを得ないわけですよね,一定の資格を持った人から。支配人は誰でもいいわけで,支配人にどういうふうな人物を選ぶかどうかというのは本人の裁量にかかっているわけで,IT化された訴訟に対応化する人を選べば,その人にしてもらって,選ばなかったら,委任による訴訟代理人を選べばいいだけの話なので,支配人については私は義務化の対象に入れても問題ないのではないかと考えています。些末な論点で恐縮ですが,以上が私の意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 繰り返し申し訳ございません。二つ前でしたか,最高裁の方の方から御意見を頂きました。その中で本人サポートについての言及もございまして,阿多委員の方からそれにコメントもあったところです。私も阿多委員がおっしゃったことと同じ感想を持ちまして,率直に申しましてうれしく前向きに捉えたところです。   これまで最高裁の方から頂いていたお考えというのは,これは抽象的には従来と今も変わらないと思いますけれども,公平,公正,中立な立場であるということを考えなければいけない,これはごもっともだろうと思います。ただ,これまで頂いていた従来の御意見では,それゆえに個別事件において一方当事者に助力することについても,それがどのようなものであれ控えるべきであると,そういった御意見なのかなと理解しておりましたところ,本日の話では,紙で提出されたものを電子化するというサービス,これが公平,公正なり中立なりとは関係のないものであるという理解の下に,そうしたサポートは期待できると伺いましたので,私が過去のお考えを誤解していたのかもしれませんけれども,非常に安堵したところです。   日弁連の本人サポートに関する基本方針というものの中では,民事裁判手続のIT化は新たな司法システムの構築を目指すものであり,それに伴い裁判を受ける権利に支障が生じる場合は,国がその責任において支障を除去することは当然であるから,国に対して十分なサポート体制の構築や必要な支援を求める,そういう姿勢が示されているところであります。私自身も,国によるサポート,これは司法だけではないと思いますけれども,国によるサポート体制がどのように構想されていくのかということについては強く関心を持っておりますし,それが具体化していくことを非常に楽しみにしております。   それと,問題点が異なりますけれども,こちらはやや些末といいますか技術的な点についてですが,部会資料の中で,書面が提出されたときに時効の完成猶予の効果をどのタイミングでどういった条件の下で認めることが適切なのかどうかという問題意識が示されています。その中で時効とは別に出訴期間の問題についても言及があったところかと思います。オンラインでの申立てをしなければいけない当事者であっても,書面を提出した段階で,後に補正がなされれば,タイミングの問題としては適式な申立てがなされたものであると後に判断することができるという整理をすれば,それによって時効の問題に対するある程度の回答にはなると思いますし,併せて出訴期間についての問題への一つの回答にもなるのではないかと考えておりますので,その旨,補足的ですけれども,申し上げたいと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 本人サポートの内容につきましては,この法制審の場で余り議論するのは適切ではないとは思いますが,一応誤解のないように確認させてください。   先ほど申し上げたイメージは,裁判所に期待することができるサービスとして裁判所が最大限努力した場合のイメージでして,例えば当事者の電子提出の場面では,本当に必要な機器を設置して,その利用を補助する,また,どうしても裁判所に設置された機器を利用することができない当事者については,裁判所で提出された書面の電子化をする,それが最大限の形かと思います。ただ,当事者の補助を裁判所が手取り足取りというような形でやることができるかといいますと,そこはやはり裁判所の中立公平性の観点からの問題もあるかと思いますので,いずれにしても,本人サポートの体制については関係諸団体による充実した体制の構築が不可欠であると考えているところでして,その点については法制審以外の場で関係者間で速やかに協議をしていく必要性があると考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   この問題は言うまでもなく,当部会で審議している中で最も重要な論点の一つであると認識しております。また,次回には恐らく一定の原案的なものをお示しをして審議をしていく必要がある問題だろうと思っておりますので,できるだけ多くの委員,幹事から御意見を頂いて,部会の雰囲気といいますかすう勢を見極めたいということかと思いますけれども,他に御意見はないということでよろしいでしょうか。 ○長谷部委員 部会長の方から御示唆がありましたので,一言だけ申し上げさせていただきます。私も,もしインターネットを用いてする申立書等の提出を現実的に動かしていくということであれば,乙案から出発して徐々に甲案まで持って行くというのが現実的なのだろうと思います。その場合に,先ほど来,甲案におけるやむを得ない事情がある場合という,サポートがどうしても必要な人だとか,そういう人に対してどういうサポート体制が組めるのかということを少し具体的に議論していただかないと,なかなか甲案までどのように進んでいくのかという道筋ができないように思います。もちろんいろいろ大変なことがあるだろうと思うのですが,技術的な点も含めて,そういった必要な体制というのを次回までに検討していただければと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 同じことばかり申し上げて恐縮なのですが,今の長谷部委員の御発言なのですが,私の立場で行くと,本人サポートの問題は今回議論する必要がないということになろうかと思います。つまり,それは法制審の外の問題として議論をしていただいて,その結果どうなったかを見て,甲案に移行する時期をいずれかの時点で考えればいいということで,甲案にたどり着く年限を区切ったりすると,今の話は必要になってくると思うのですが,今回は附則で,将来一定の条件が整った場合にはこういうふうな方向を目指すというようなぐらいのことまでは法案に書いていいと思うのですけれども,それ以上のことをしなければ,サポート体制の問題は再三,先ほどから最高裁がおっしゃっているように,法制審の外の問題として議論すべきなのではないか,もちろん最高裁とは前提が違うので,結論だけ一緒だということですけれども。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○服部委員 (注1)の書面等による申立てがされた場合の規律の関係と,(注2)の時効完成猶予に関する規律を設けることについての関係でございますが,これは時効完成猶予の点については関連する部分があると思いますので,まとめて意見を申し述べたいと思います。   まず,書面等による申立てを一旦受け付ける規律について,部会資料ですと9ページの上の方になりますが,甲案又は乙案を採用した場合の訴訟代理人が書面で提出した場合の規律について,二つの意見が出されておりまして,当初から不適切なものなので補正の機会を設ける根拠がないと考えられるという意見と,例外を設けないこととしたことであっても,書面による申立てを一旦受け付けて補正の機会を与えることとする規律を設けることに一定の理由がある場合があるという二つの意見が出ております。日弁連意見は,そもそも乙案にも例外を設けるべきという意見であるということは,最初にお断りしておきますが,仮に訴訟代理人に例外を設けないとしても,後者の方の意見の,一旦受け付けて補正の機会を与える規律を設ける必要はあると考えます。訴訟代理人という地位や立場ゆえに書面等による申立てを認めないという,認めるべき例外に当たらないという場面と,個別的,一時的な事情によって書面等による申立てをせざるを得ないというやむを得ない状況に置かれるかということは別の問題であると考えられます。9ページの7行目の「仮に」以降に記載されているシステム障害などの場面というのは,個別的や一時的な事情によって書面による申立てをせざるを得ないやむを得ない状況に該当すると思われますので,後者の意見が適切ではないかと考えております。   そして,それと関係して,(注2)の時効完成猶予効です。先ほど日下部委員からも言及がありましたけれども,時効の完成猶予効のみならず,(注1)の先ほど引用しました9ページのところにあります出訴期間の遵守の関係も指摘されておりまして,出訴期間の点,さらには控訴上告抗告審の不変期間の点についても同様に規律を設定することをご検討いただきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この(注)も含めて,御意見いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   事務当局から何か確認すべきところはございますか。 ○波多野関係官 大丈夫でございます。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   それでは,よろしければ次の論点に移りたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   それでは,次は部会資料10ページの「2 インターネットを用いて裁判所のシステムにアップロードすることができる電磁的記録に係るファイル形式」,この点と,それから,次の14ページの「3 訴訟記録の電子化」,関連する問題かと思いますので,まとめて取り上げたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 説明いたします。10ページの2でございますが,こちらは裁判所にシステムを用いてアップロードすることができる電磁的記録に係るファイル形式についてでございます。この点につきましては,裁判所及び相手方が閲読することができるようなファイル形式の提出をすべきであるという点につきまして,部会において賛成をしていただく御意見が多かったところでございまして,中間試案でもその旨の記載をして意見募集に付し,意見募集においても賛成する意見が多かったところでございます。また,意見募集では,(注)につきまして,音声情報に限ることなく,有益な情報があれば,そのような電子データを広く提供を求める対象とすべきであるというような御意見もあったところでございます。   これらを踏まえまして,(2)に裁判所が必要と認めた場合に提供を求めることができる電磁的記録に括弧書きで,音声情報に変換可能な情報を有する電磁的記録を含める旨の記載をしたほかは,部会資料には中間試案の内容と同内容の記載をしております。   続きまして,14ページの「3 訴訟記録の電子化」でございますが,こちらにつきましては,民事裁判手続をIT化した後の訴訟記録というものは裁判所のサーバに記録した電子データによるということにつきまして,賛成をする意見が多かったところでございますし,それを前提としまして,書面が提出された場合には書面を裁判所で電子化していただくということにつきましても賛成する意見が多かったところでございまして,意見募集でも同様な意見が多かったところでございます。   これらを踏まえまして,部会資料には,中間試案の本文及び(注)の記載の趣旨を変更することなく,中間試案の本文(1)の内容を部会資料の柱書に記載しておりまして,中間試案の本文(2)アの内容を部会資料の本文(1)に記載しているところでございますが,本文(1)にただし書をブラケットで囲んで付け加えております。これは,例えば,かなり大きな建築図面などが出された場合には,裁判所において電子化をすることが困難であるということも考えられるというところでございますので,このような例外を設けるということにつきまして検討をお願いする趣旨でございます。中間試案の(注1)の内容は部会資料本文(2)及び(3)に記載しておりまして,中間試案の本文(2)イの内容を部会資料(注1)に記載しております。中間試案の(注2)は,部会資料におきましても(注2)に記載しているというところでございます。   説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,今御説明があった点,どの点からでも結構ですので,御意見と御発言を頂ければと思います。 ○日下部委員 今,第1の中の2と3を併せて議論するということですので,2と3それぞれについて一つずつですけれども,先に質問をさせていただければと思います。   一つ目は2の(2)についてですが,そこではほかのファイル形式の電磁的記録には音声情報に変換可能な情報を有する電磁的記録を含むとされております。これは(注1)の問題意識を既に取り込んでいるように思われるのですが,(2)の中の記載とは異なる(注1)独自の意義はどこにあるのか教えていただければと思います。一つには,身体に障害を持つ当事者や代理人に申立権を付与して,裁判所に判断義務を課すというところにあるのかとも理解しておるのですが,御教示いただければと思います。   二つ目の質問は3の(1),先ほど御説明もありましただし書についてです。ここでは記録することに困難な事情があるときの例として,部会資料15ページの末尾では建築図面のように複数の紙を貼り合わせて作成されたものが挙げられています。しかし,そのような図面でも画素数の多いデジタルカメラで撮影すれば,特に困難なくファイルに記録することができるように思いますので,記録することに困難な事情があるようにも思い難かったところです。デジタルカメラでの撮影もできないことで記録化が困難な書面等が何か考えられるのかどうか,こちらについては事務当局からも御示唆が頂ければと思いますし,あるいは裁判所の方々からも思い当たるものがあれば御示唆を頂けると有り難いと思っています。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 2点,御質問だったと思いますが,事務当局の方からまずお答えいただけますでしょうか。 ○波多野関係官 日下部委員から1点目の御質問の2の(2)と(注1)の関係でございますが,日下部委員御指摘のとおり,(注1)の方は当事者等に申立権があるという前提での規律の御検討をお願いしているところかと思っておりましたので,その点に違いがあると認識していたところでございます。   2点目の御質問の3の(1)のただし書の囲みをしているところでございますが,日下部委員から御指摘いただきましたように,いわゆる電子化をするという観点からしますと,PDF化だけではなく,画像での電子的な取り込みまで含めれば電子化が可能なものもかなり増えていくということなのかもしれません。困難なというのはそういう意味では評価も入るかもしれませんので,実情を踏まえて検討していくことになるのかなと認識していたところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   2点目は裁判所の方にもお尋ねの趣旨があったように思いますが,裁判所の方で現時点で何かお答えいただけるところはございますか。 ○渡邉幹事 書籍なども考えられるかと思いますが,特に付け加える点はないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 御回答ありがとうございました。後者の問題点につきましては,率直に申しまして,記録化が困難であるとしてファイルに記録することを要しないとすべき書面等はなかなか私自身は想起できないので,ここで括弧書きで示されているようなただし書は不要ではないかと感じた次第であります。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 11ページの(1),それから(2)の辺りにつきまして,2,3御意見を申し上げたいと思います。   11ページの(1)電子情報処理組織を用いて裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録することができる電磁的記録に係るファイル形式は,解読方法が標準化されているものとするという,この解読方法の標準化という用法につきましては,やはりパブリックコメントにもございましたが,いわゆる技術標準であったり,様々な標準化という意味合いとは大分違うということがパブコメでも御指摘がありました。また,デジタル社会形成基本法の22条の標準化,あるいは情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律の4条の標準化とも少し意味合いが違っていますので,やはり解読方法が標準化されているものとするという言い方は再修正を要するのかなと改めて思ったところでございます。   その際,恐らくこの部会の皆様や関係者の皆様が念頭に置いているのはAcrobat等で作成されたPDFファイルでございまして,これはもう「PDFファイル」という決め打ちでよいのではないかという気もいたします。例えば,商業登記規則に基づいて登記所に出す書類につきましては,電磁的記録については最新でいうと令和元年の告示94号でもPDFファイルと指定されているわけです。そこに数種類の電子証明書を付けるということが決まっているわけで,部会の皆様もPDFファイルということでコンセンサスがありますし,大方の皆様もそう考えておられるのであれば,これは決め打ちでよかろうという気もいたしました。   次に,もう一つの論点で,やはりこれもパブコメで,証拠となるべきものについてはファイルの種類を限定すべきでないという意見がございました。私もそれに同感でございます。証拠となるべきものは,これは極力,元の電磁的記録の忠実な写しが提出されなければ証拠となり得ないのではないかという気がいたします。そうしますと,ファイル形式を変換した時点でメタデータを喪失する,あるいは元の電磁的記録に含まれている重要な情報の多くが消失されてしまいますので,それはそもそも証拠たり得るのか非常に疑問でございます。ただし,そうすると裁判所も読めないではないかということにつきましては,先ほども少し日下部委員の御意見にも出てきた,ほかのファイル形式で提供することを求めることができるのであれば,それで足りるのではないかという気がいたします。   それから,先ほど大谷委員からセキュリティの話に留意すべきという御意見が出ておりましたが,もしマルウェアに感染している電磁的記録はそもそもアップロードすることはできないとするのであれば,そのことにつきましては明文にすることが望ましいと考えます。なぜなら,マルウェアに感染しているファイルを受け付けない,しかし,マルウェアに感染している,していないというのはシステムに対するセキュリティの問題で,その電磁的記録が持つ内容の法的な効力とは関わりないと思うのです。システムのセキュリティの問題なのであれば,その旨をあらかじめ明示することが望ましいと思います。   それから,これも前に申し上げたかもしれませんが,訴訟の性質によってはマルウェア,刑法上の言葉でいえば不正指令電磁的記録そのものが証拠となることがあり得ます。その場合にもその写しの提出を許容しないということになりますと,そもそも証拠を提出することができないということになるので,その点については例外規定を設ける必要があると考えます。   最後に,容量の問題でございますけれども,確かにギガバイト級,テラバイト級の電磁的記録が提出されるということについてはシステムの円滑な運営の支障が出るとは思いますが,他方で,デジカメだけではなくてスマホで撮った写真1枚でも数メガバイトになっている昨今の状況も踏まえて検討すべきであると考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 佐々木です。すみません,先ほど湯淺委員がおっしゃられたのと同じところでして,重なってしまうのですけれども,私も主張書面と証拠となるべきものの写しとに分けて検討する必要があると思っています。全く同じ理由からでして,元々証拠として存在するのが電子データで,その作成者,作成日時等が証拠として重要になるときに,これを指定のファイル形式に変更してアップロードするということになると,そういうデータが全て変換したときのデータに変わってしまうのではないかと思っておりますので,証拠力としてどうなのかなと疑問を持つところです。ただ,裁判所が読めないデータについてどういう対応をしたらいいかというのは,私の方では考えはないということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   私の理解では,ここで議論されているのは証拠となるべきものの写しをどうするかということで,証拠調べの対象になるのは括弧付きの原本であるというのが原則であるということは,少なくとも中間試案の段階ではそれが維持されていたと思うので,そこは書証のところでまた御議論いただくことかもしれません。 ○阿多委員 質問は,日下部委員から質問と意見がありました建築図面のように複数の紙を貼り合わせて作成されたものの取扱いです。別途,「3 訴訟記録の電子化」において,書面で提出した場合の扱いが提案されていますが,提出者が書面で提出したものを訴訟記録化する際に,裁判所がカメラで撮影し写真データ化することはありますか。また,それは訴訟記録という整理になるのですか。今までの訴訟記録とは,当事者が提出する証拠等の写しをそのまま編綴したものと理解していました。今回「3」では,書面で提出されたものを裁判所で電子化する場合を前提に議論がされていますが,書面で提出されたものを裁判所でデジタル写真にとり電子記録にすることも訴訟記録という概念に当たるのか疑問に思いましたので,説明いただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局の方から御説明いただけますでしょうか。 ○波多野関係官 3の(1)で御提示しておりますのは,仮に書面が出されてきたときには,それを電子化しないとサーバに記録することができないので,電子化することになるだろうと考えていたところでございます。電子化をする具体的な方法につきましては,(1)では記載をしていないところでございますが,スキャナなどで読み込んでPDF化して,それをサーバに記録していくことを想定していたところでございます。   他方,先ほど日下部委員から御指摘いただきましたのは,そのスキャナで読み込むことと,デジタルカメラで撮って電子的に記録していくということは電子化するという点では同じではないかと,そういう問題意識を御提示いただいたと理解をしていたところでございまして,それを前提として御議論いただくことになるのかと認識していたところでございます。 ○阿多委員 説明の「2 検討」では建築図面のように複数の紙で貼り合わせて作成されたものは,訴訟記録の電子化の例外ということで,その写しのまま紙で記録に残されると考えていたのですが,裁判所は「3」の手続に従い,デジタルカメラで撮影して訴訟記録化されることになるのですか。 ○山本(和)部会長 もし最高裁判所からお答えいただけるところがあれば。 ○橋爪幹事 改めて整理いたしますと,結局,当事者が紙で提出してきた場合に,もちろん甲案の世界では例外的な場合に当たるわけですけれども,裁判所がそれを電子化しなければいけない場合があり,その場合の基本的な方法はスキャンであることを前提にすると,やはりどうしても電子化することが困難な資料というものがあろうかと思います。そういった場合については例外的に,電子化せずに紙の訴訟記録として残さざるを得ない,そういう場合について規定するのがただし書であると理解しております。 ○阿多委員 3の(1)に追記されたただし書は,建築図面以外にも,準文書で裁判所のシステムでは記録できない音声データ等一定あり得ると思いますので,ただし書を追記することは賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 関連するところで,部会資料17の15ページの訴訟記録の電子化の例外のところです。ここでは裁判所が電子化は難しいという建築図面や測量図など,複数の紙を貼り合わせて作成する図面について問題とされていますが,そもそもそのような図面は原告の側も訴状に添付する必要があって,原告の側もデジタル化しなければいけない必要があると思われます。現状でそれらの図面を訴状に添付する場合,多くはここで書かれているように原告の側で切り貼りして作っているわけで,法律事務所の中で電子化するというのはかなり難しいというか,現時点では不可能なのではないかと思います。ですので,それを今後は写真などを添付すれば足り,生の原本的な測量図なり建築図面を付けなくてもいいということであれば,特に例外は必要ないかと思うのですけれども,そもそも境界確定や土地の範囲などの確認訴訟などで,建築図面,測量図などを訴状に添付しなくてもいいのかというのは若干,疑問に思うところです。場合によっては訴状の段階でも紙で出さなければいけないものも残るようにも思われます。これは技術が進めば全部電子化して,さらに縮小して提出することもできるのかもしれませんけれども,過去に作成された測量図,建築図面などはそういうことも難しいとすると,当面の間は一定程度,デジタル化した訴状に紙の図面を付けなければいけないケースもあるのではないか。その場合には,判決にその紙の図面を使わなくてはいけないのではないか,そういうときにどういうことになるのかということが非常に疑問に思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今の御議論の点については,私自身はおよそ裁判所に提出されることになるものでデジタルカメラで撮影することができないものはないだろうと思っておりますので,画素数の高い,精度の高いカメラを使うことを前提とすれば,特段ファイルに電子的に記録することができないものを観念する必要はないだろうと考えましたので,先ほど,ただし書のような規律は不要ではないかと申し上げた次第です。   それと別の問題点についてですが,先ほど御議論いただきました証拠の写しのファイル形式についてですけれども,証拠の写しとして訴訟記録に残るものについては,裁判官や相手方がそれを閲覧した際に意味をつかめないと記録に残す意味がないように思われますので,基本的には主張書面と同様に視覚によって閲読可能なファイル形式にすることが適切であろうと思うのですけれども,例えば証拠となる音声情報データの圧縮ファイルが写しとして提出されるという場合も考えられまして,そうしますと,視覚による閲読可能なものよりもファイル形式の幅は広げる必要があるのではないか,その意味では主張書面と証拠の写しでは求められるファイル形式の幅に若干相違があるということもあり得るのではないかと思いました。   最後,もう一つだけ意見を言わせていただきますと,当初の質問をさせていただきました,身体に障害を持つ当事者や代理人に申立権を付与するかどうかという問題点についてですけれども,個人的にはそのような申立権を付与して裁判所に判断義務を課すことでよいのではないかと感じております。ただ,部会資料の中で言及されている,身体障害者の方のために提出を求め得るとすべき情報が音声情報に限られるという前提には疑問を感じております。と申しますのは,例えばですけれども,多色刷りされた図表のPDFが提出されたという局面で,相手方当事者が色覚異常者であるという場合には,元の図表作成のためのアプリケーション固有のファイル形式の電子データを提出してもらうことで,相手方当事者が色調を変更して図表の内容を確認できるようになるというケースも考えられると思います。そうしますと,音声情報だけに焦点を絞るのではなくて,身体障害者の方の障害の内容に応じて柔軟な形式のファイルの提出を求めることができるように設計しておく方が適切ではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 先ほどの,今の証拠となるべきものの写しの件で部会長,それから阿多委員にも御説明を頂きまして,確かに,例えば今,文字情報が記録されていると,それが一般的に,例えば非常に古いワープロソフトで記録されていて,そのまま提出されたのでは文字情報が読めません,したがってワードとかPDFとか,今,裁判所や両当事者が読めるような形で写しを提出してもらうという意味においては,私もそれに異議を唱えるものではございません。ただ,単純な音声,言語としての文字情報に意味があるという,そこだけに意味があるというものであれば,それでよろしいのかもしれませんが,必ずしもそうとはいえない場合,今,日下部委員が御指摘になった音声とか,あるいは映像のようなものを含めて,果たしてほかのフォーマットに変換したもので「写し」といっていいのかという点は,やはり個人的には若干の疑義が残るところでございます。   ちなみに,御案内の方もおられると思いますが,刑事訴訟法では99条で電磁的記録の複写という言葉を使っておりますけれども,刑事訴訟でも古い形式で今のソフトでは読めないというものについては印刷させるとか,そういう別の言葉を使っておりまして,やはり個人的には,ファイル形式を変換したものを「写し」といっていいのかは若干,疑義が残るということを申し上げました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大坪幹事 細かい点ですが質問です。部会資料の11ページの本文(2)や(注)で提供を求めて提供された電磁的記録というのは,裁判所の訴訟記録という扱いになるのでしょうか。仮に証拠だった場合には,証拠方法となるのは両方なのか,それともどちらか一方なのか,その点を質問させてください。 ○山本(和)部会長 事務当局から,お願いします。 ○波多野関係官 訴訟記録になるかどうかというのは,個別の判断だと思いますが,裁判所及び当事者双方が共通して訴訟のための資料として利用されているものということになれば,訴訟記録になるということになるのだと理解をしていたところでございます。   他方で,現在でも書面が出されたときに,そのテキストデータなどを出していただくということがあると思いますが,それを訴訟記録として取り扱っているかというと,必ずしもそうでない場面もあるかと思いますので,その辺りとの整合性を考えながら,今後,実務的に検討していくことなのだろうと認識をしていたところでございます。 ○山本(和)部会長 大坪幹事,よろしいですか。 ○大坪幹事 はい,結構です。ありがとうございました。 ○日下部委員 まだ触れられていない問題点に関してですが,意見を申し上げたいと思います。3の訴訟記録の電子化の中で,(2)と(注1)において示されている点です。つまり,ファイルへの記録化において提出された書面との間でそごが生じたということを申し出る期間について,どのように規律するのかという問題点についてです。   こちらはやや中途半端な意見になってしまうかもしれないのですが,記録化後の最初の期日の終了時のみを基準に設定するということには反対であります。理由につきましては,これまでの部会の中でも何度か言われてきていたことかと思いますけれども,幾つか挙げますと,記録化がなされた後,その直後の期日までの日数が非常に短くなるということがあり得ること,それから,期日のために出頭した書面の提出者が期日の開始時刻までにそごを確認することを求めるというのは酷になり得るということ,また,期日において電子化された訴訟記録を確認しながら訴訟行為がされるとしても,電子化から漏れた書面やページに焦点が当たらないことはあり得るので,期日における手続によってそごが判明すると当然に期待することはできないこと,また,書面による準備手続によって争点整理が進められる場合には,期日が長期間にわたり開かれないことで訴訟記録が不安定な状況が長期化するおそれもあるということでございます。   なお,この点につきましては,日弁連の意見を御紹介しますと,この書面提出者にそごの有無を確認する機会を与えるという観点から,そごを申し出る期間は,ファイルに記録された直後の期日が経過するまでの間,又は記録した旨の通知の日から一定期間のいずれか遅く終了する方とすべきであるという趣旨の意見になっております。   若干それに付加的な個人的な意見になりますけれども,そのような規律を仮に設けたとしましても,提出書面が非常に大量であるという場合には,その期間内に書面提出者がそごの確認をすることに依然として無理があるということもあり得るように思いますので,書面提出者の方から申出があれば,更に加えて一定の期間に限り延長を認めるという程度の柔軟な制度にしてもよいのではないかと思いました。   なお,そういった延長も含めて,申出の期間が終了した後に裁判所が提出された書面を廃棄できるようにするということについては,妥当であろうと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 日下部委員に少し御質問なのですが,建築図面のようなものを画像ファイルにすればいいのではないかという御趣旨の話をされていますが,その画像をファイル化する主体は誰だとお考えなのでしょうか,そこがよく分からなかったので,お伺いさせていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,日下部委員,もしお答えいただければ。 ○日下部委員 私が質問をさせていただいたときと御回答いただいた上で意見を申し上げたときに念頭に置いておりましたのは,そういった図面をデジタルカメラで撮影して電子化する主体は裁判所であると考えておりました。これは,部会資料の中で,書面が提出されたときにそれを電子化する主体が裁判所であるという前提で検討がなされていると理解していたためです。 ○山本(克)委員 分かりました。私は,阿多委員がおっしゃったこととも恐らく関連するのですけれども,それは,図面に添付して,言わば写し的なものとして当事者がお出しになるべきなのではないでしょうか。うまく撮影できるかどうかというのを裁判所で,そういう画像撮影のプロがいないところでそういうことをやって,そうなると,これは記録の不備だということになりかねないわけですよね。そういうことを何度も繰り返される可能性があるような制度設計は,私はやるべきでなくて,やはり提出者が満足のいく画像ファイルを写しとして提出すべきなのではないかという気がいたしました。それは私の意見です。   それで,もう1点は,3Dプリンターで出力できるようなデータファイルが証拠として提出された場合はどう考えればいいのでしょうか,写しの点ですね。これについては全く私は定見がありませんので,できれば詳しい方にお教えいただければと。 ○山本(和)部会長 詳しい方はいらっしゃいますでしょうか。湯淺委員,もし何かお答えいただければ。 ○湯淺委員 私もその3Dプリンターの専門家ではないのですが,一体その3Dプリンターで出力を前提とした電磁的記録のどこが争いの対象になっているのかによるのではないでしょうか。例えばですが,立体商標に関するような訴訟が提起されて,その立体商標の証拠調べのために,3Dプリンターを使えば実際にその立体プリンターが出力できるので,立体プリンターで出力するためのデータが送信されるという話なのかとか,あるいは,3Dプリンターで出力するためのデータの,これは著作物だと思うのですけれども,著作物としての争いが生じるので,そのデータが証拠として提出されるのかとか,一体どこが訴訟の対象になっているのかによっても変わってくるのではないかという気がいたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。更に検討していかなければいけない課題の御指摘だったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○橋爪幹事 まず,3の(1)の話,先ほど来問題になっております裁判所の記録につきましては,先ほど申し上げたように,スキャナなどで電子化することを基本的には想定しておりまして,山本克己委員御指摘のように,裁判所がデジタルカメラで電子化するというようなことは,正確に記録化できるかどうかという問題がありますので,適当ではないと考えております。   その上で,(2)につきましては,期日が終了するまでの間,若しくは通知の日から一定期間,どちらの見解もあり得るところとは思っておりますが,先ほど日下部委員がおっしゃったような理由で期日が終了するまでの間という点に難点があるということであれば,通知の日から一定期間とすれば足り,日弁連の御提案のように,その期間に必ずしも期日が含まれている必然性は乏しいのではないか,一定の期間を付与すれば,電子化の正確性を確認する機会としては十分ではないかと考えております。   なお,この場合,裁判所の方で電子化を完了した旨の通知を行う方法やタイミング等が問題になりますけれども,一つの考え得る運用といたしましては,電子化した後に,その直近の期日で当事者の方に通知を行うというような運用になることが考えられるのではないかと思っておりまして,そのような運用になった場合には,先ほど日下部委員から御紹介いただいた日弁連の提案と結果的には同様の取扱いになるのではないかと考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 裁判所の方に現状をお聞かせいただきたいのですが,この問題をめぐってはほとんどの方が,一体何メガバイトまで送れるのかということを非常に気にしておられると思います。また,先ほど日下部委員がおっしゃったデジタルカメラで撮影するという方法も,私は日下部委員の御意見に賛同ですが,他方で高精度,高解像度の画像にすればするほどファイルのサイズが大きくなることは,これは御案内のとおりだと思います。そういう意味でも,現状で結構ですので,一体1ファイル当たりどの程度のファイルサイズまで許容できるようなシステムをただいま設計されているのか,もし差し支えがなければ,お教えいただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 お答えいただける範囲で,裁判所からお願いできますか。 ○橋爪幹事 一般論といたしまして,容量の大きな電磁的記録をアップロードする場合,長期間にわたる帯域の圧迫を防止するためアップロード容量を一定量に制限する,これはどのシステムであっても一般的にそういうふうにやっていると理解しております。ですので,法改正後のシステムにおいても同様の措置が必要になることは想定されますけれども,現時点でそれが何メガバイトというようなお答えについては御容赦いただきたいと思っております。なお,容量が大きいなどの理由で電子提出をすることが困難な場合には,裁判所側の判断によって,提出すべき電子ファイルを保存したUSBメモリなどによる提出を認めることもやむを得ないのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   湯淺委員,よろしいでしょうか。 ○湯淺委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今のアップロードの負荷の問題なのですけれども,ダウンロードの負荷の問題というのはどういうふうに考えればいいのでしょうか。アップロードされたファイルを相手方当事者がダウンロードして検証したいというときの負荷の問題というのは,今のあれでは解消できないので,それもまたDVDのコピーを2枚なり3枚焼いて,1枚を相手方当事者向けに渡すというような仕組みになるのでしょうか。 ○山本(和)部会長 これはどなたに対して。湯淺委員,お願いできますか。 ○湯淺委員 今の山本克己委員御指摘の点ですが,帯域の圧迫の問題は,こういうように同時にテレビ会議等を使っている場合はもちろんサイズの問題は生じますが,通常,ファイルをアップロードする,又はダウンロードするときは,帯域が狭くなってくると逆に速度が落ちてくるので,アップロード,ダウンロードに時間が掛かることになると思います。むしろシステム上,一体何百人,何千人のユーザーが同時にアップロードしようとするという,そのアクセスのコントロールの方が重要かなと思いました。   それから,先ほど最高裁がおっしゃっていたUSBメモリを送付するのを受け付けるというのは、セキュリティ上は非常に危険ですので,ほかの媒体や方法をお考えいただいた方がよろしいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。おおむねよろしいですか。   事務当局の方から何かございますか。 ○波多野関係官 頂いた御意見を踏まえまして検討を進めていきたいと思います。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 それでは,よろしければ次の方に移りたいと思いますが,大丈夫でしょうか。   それでは,部会資料17ページ以下,「第2 訴えの提起,準備書面の提出」,これは1から3までありますけれども,一括して取り上げたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。本文「1 電子訴状及び電子準備書面のインターネット提出」につきましては,中間試案の内容を維持しております。本文「2 インターネット提出時の本人確認の措置」につきましては,現行民事訴訟法と同様に,氏名又は名称を明らかにする措置を講じなければならないものとし,その詳細を最高裁判所規則に委ねることを御提案しております。この委任の前提といたしましては,電子署名を必須としないという考えでございます。本文「3 濫用的な訴えの提起を防止するための方策」につきましては,中間試案第2の(注2)の二つの規律を御提示しております。部会でのこれまでの御議論の経過等に照らしまして,取り分け後者の納付命令を経ない訴状却下命令という規律及び不服申立てを許さないという規律につきまして,その当否等を御審議いただければと存じます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明いただいた第2の点,どの点からでも結構ですので,御質問,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 3の後半の意見の確認です。納付命令を経ることなく命令により訴状を却下しなければならないとありますが,訴状を提出した際に訴え提起手数料を納付しない場合は,従前ですと一旦,納付命令を間に入れて命令違反で訴え却下していましたが,この提案は訴訟救助の申立ての有無にかかわらず全ての訴えについて納付命令を廃止する趣旨ですか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○藤田関係官 御質問ありがとうございます。訴えの類型を限定することはしておりません。法定の期間を経過しても訴え提起手数料が一切納付されない場合には,納付命令を経ることなく,訴状却下命令の手続に移るというスキームを御提示しております。 ○阿多委員 そうすると,一部でも納付をした場合は不足分についての納付命令を課した上で命令違反を判断し,全く納付がない場合は納付命令というクッションを経ることなく却下になるのですか。 ○藤田関係官 御提示した内容はそのようなものでございます。 ○阿多委員 分かりました。迅速に処理したいという要請は分かるのですが,訴訟救助の申立ての有無に前提関係なく,全ての事件について一切納付されない場合は納付命令を経ることなく却下するのは,現状の実務における訴額算定が困難であるときに算定上申を付して後納付を求める方法が認められなくなる可能性があるのではないかと危惧します。もちろん一部でも納めれば納付命令を介することができるのかもしれませんが,納付命令を経ることなく却下しなければならないほど急ぐ必要があるのか疑問です。納付命令の判断自体を書記官権限ですることに賛成したいと思いますが,納付命令をなくして,いきなり却下とまでする必要はないという意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今,阿多委員から御質問があった点に関連してなのですけれども,御指摘もありましたとおり,訴え提起手数料の金額について裁判所と当事者,原告の考え方が異なるというケースもあり得ると思いますので,その場合に一切納付されないという状態にならないようにするためには,原告としては自らが考える程度の訴え提起手数料の納付をしなければならないと思うのですけれども,果たしてそのような,裁判所の考え方とは違う,恐らくはそれより小さい金額,少ない金額のみの手数料の納付ができるようになるのかどうかということに疑問を感じております。と申しますのは,この部会の中でも,訴え提起の手数料については電子納付,具体的にはPay-easyによる納付に一本化するということが提案されており,おおよそ異論がないところかと思います。しかしながら,Pay-easyでの手続を考えますと,恐らくは何らかのデータとしてその納付に必要な入力すべきコードが伝えられ,そのコードを入力しますと納付すべき金額が指定され,その金額の一部分だけが納付できるということが認められているのか,制度的に可能なのかどうかということは,私は試したことがないので分かりませんけれども,疑問を感じているところです。仮にそれができないということですと,一切納付されない場合というのを原告が事実上,回避するといいますか,そうならないようにするということができなくなるおそれがあると思いますので,ここは調べていただく必要があろうかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   笠井委員が今,中座をされているのですけれども,チャットで御発言がありますので,便宜上,記録に残すため,私の方で代読させていただきます。第2の3の今の濫用的な訴えの提起を防止するための方策というところです。   「私自身は,以前から申し上げているように,第2の3で書かれているような方策によって,当事者の訴え提起に支障を来すような制度を作ることには賛成できません。パブリックコメントの結果でも,裁判所から立法事実が具体的に示されていないことが指摘されており,十分な理由があるとは思いません。①のデポジットは,訴訟救助の制度の趣旨との関係で,一定の金銭納付を求める制度を作ることの合理性を説明するのは難しいように思います。また,②の訴状却下命令に即時抗告ができないという規律は,訴額の算定について法解釈が分かれ得る場合などを考えると,やはり制度として問題があるように思います。」   以上が笠井委員がチャットに書かれた御意見ということになります。   ほかに,いかがでしょうか。 ○渡邉幹事 ちょうど笠井委員の方から立法事実についての御指摘がございましたので,発言させていただきます。濫用的な訴えの提起を防止するための方策については,事柄の性質上なかなか具体的な事例を詳しく御紹介をしたり,あるいは濫用的訴えなるものの類型を特定して統計を取ることは難しい面があることは御理解いただきたいところですが,その上で今回,パブコメにおきまして,ほとんどの高裁,地裁から濫用的訴えに対する応答に苦慮しているという実情について紹介を受けたところですので,資料としても配布されてはおりますが,若干御紹介させていただきたいと思います。   まず,およそ認容の見込みがないことが明白な同一内容の訴えを連日にわたって同一裁判所に提起をしたり,あるいは棄却判決確定後も同一内容の訴えを繰り返したりするような事例の紹介がありました。これは便宜的に同一主張リピート型と呼びます。また,不特定多数の者や実在しない者を被告としたり,直ちには把握し難いような不明瞭な内容の請求を大量の書面にわたって分散して記載をしたり,著しく高額な金銭請求をするような事例も紹介がありました。これを便宜上,主張内容不明瞭型と呼びます。これに加え,訴訟救助の申立て,移送の申立て,裁判官の除斥,忌避の申立てが繰り返され,これらの申立てやその決定に対する不服申立てにつきましても訴訟救助の申立てがなされるなど,一つの事件から派生的に事件数が膨れ上がる事例,これは付随事件膨張型と呼びますが,そういったものがございまして,これらの複合型も見られるところです。   こうした濫用的な訴えにおきましては,資料にも記載があるとおり,訴状の審査,任意の補正の促し,補正命令,訴訟救助意見書提出依頼,訴訟救助却下決定,決定書の送達,納付命令及びこれらの書面の送達等の事務が発生する上,その後,訴状却下命令に至っても即時抗告がされることが多く,これに伴う処理も多数発生するということになってございます。こうしたことがあるにもかかわらず,こうした濫用的な訴えを提起する者は訴え提起手数料の納付も郵券の予納もしないということが一般的でございます。このような各高裁,地裁の実情も一つの立法事実として更に御審議を頂きたいと考えておるところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○品田委員 今,渡邉幹事から説明があったような類型というのは,正に現場でしばしば経験するところでございまして,よくイメージできるものでございます。   若干補足させていただきますと,こういった濫用的な訴えの処理といいますのは,大きく分けて二つのプロセスを踏むということになります。まず,第1のプロセスですけれども,これらの訴えというのは一切費用を支払うことなく,訴訟救助の申立てを併せてするというのが一般でございまして,その場合,地裁が勝訴の見込みがないということで訴訟救助の申立てを却下しましても,これに対して即時抗告がされて,事件が高裁に行って,抗告棄却決定に対しても特別抗告や許可抗告がされるなどという状態で,訴訟救助の申立ての判断が確定するまでに相当の期間を要するということがございます。   そして,その判断,つまり訴訟救助の申立ての却下の判断が確定した後,今度は第2のプロセスとして,補正命令を発出して,所定の期間経過後に訴状却下命令を出すということになるわけなのですが,これについても当然のように即時抗告がされて高裁に行くということで,直ちに確定するものではありません。そして,この二つの大きなプロセスに付随して,裁判官や裁判所書記官に対する忌避の申立てなどがされて,その都度,事件の進行が更に停止するといった実情にございます。   1円も納付することなく勝訴の見込みのない訴えを提起していながら,これを排斥するためには幾つもの裁判体による判断が必要ということになって,棄却決定の作成ですとか,あるいはその送達事務などを繰り返さなければならないという実情については,現場の裁判官として大きな問題意識を感じているところでございます。   こういった濫用事例を防ぐためには,さきに申し上げた二つのプロセスにそれぞれ対応するような手当て,すなわち第1のプロセスに対しては,真摯に訴えを提起しようとする方であれば当然に支払うことのできる低額をも支払おうとしない人の訴えを言わば門前払いをするということのできるデポジット制,それから,第2のプロセスについては,訴訟救助申立てに理由がないことが確定していながら,なお費用を納付しようとしない人に対する簡易な訴状却下命令の仕組みという,両者の手当てを行うというのが合理的ではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 いわゆる濫訴といわれるような事案については,司法書士に割と相談に来られることがございます。司法書士が相談を受けた場合については,相談者に対して,例えば法律上の根拠を欠く公算が高いですよといったようなアドバイスを提供することも可能ですので,濫訴を未然に防ぐといった効果もあるとは思っています。   他方,同一の内容や法律上の根拠が一応なりとも認められない訴えを提起された方からの相談を受けることもあります。当連合会で検討した際に,同一人物から数年間にわたって数十件の訴訟を提起されたという事案が紹介されて,その全てについて請求棄却ないし訴え却下判決が出たということなのですけれども,その訴えられた被告は訴えられた都度,同じ内容での判決が既に出ていることを主張する必要がありますし,裁判所に足を運ぶ必要も出てきます。その結果,その方は自営業者であったようなのですけれども,売上げが如実に低下したという報告がありました。濫訴についてはもちろん裁判所に対しての負担も大きいですけれども,訴えられる被告にとっても過度な負担になるという事例でありました。もちろん裁判を受ける権利が保障されている以上,同一人物からの訴訟であるからといって一律に濫訴であるということを決め付けられることは,許されないのですが,このような事例もあったということで紹介をさせていただきました。ちなみに,この事例では,不当訴訟ということで50万円の損害賠償が認められたと聞き及んでいます。   以上,情報提供ということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○横田委員 先ほど渡邉幹事から説明がありましたとおり,濫用的な訴えの処理に係る現場の裁判所の物的,人的負担というのは多大なものがございまして,裁判官や書記官の時間的負担も大きく,それがためにほかの一般事件のための事務を圧迫しているという実情にございます。   改めて考えてみますと,手数料の納付等がされた適法な訴えである限りは,その請求内容がどのようなものであっても,訴状が被告に送達されて判決に至るということになるのですけれども,手数料の納付すらされない濫用的な訴えについては,被告への送達がされることなく裁判所内部で様々な手続が繰り返されることになりますので,その実情というのが,訴訟に慣れておられる弁護士さんにとっても,なかなか見えにくいところがあるということがあります。先ほど小澤委員がおっしゃったような事例については,被告にも送達されるために,小澤委員におかれましてはよく実情を御存じでしたけれども,通常の裁判所の内部で処理されてしまうところというのは,なかなか外に見えにくいところがあります。そのような性格のものだけに,なかなか立法事実がないと言われがちですけれども,今回のパブリックコメントにおける各地裁とか高裁とかの意見につきましては,これも一つの立法事実として,相応に重みのあるものとして受け止めていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。この部分も,このところずっとこういうような形で資料としては記載されてきているところですけれども,ある程度,次回には方向性を決めていかないといけないような状況になってくると思いますので,できれば多くの方々の感触をお伺いしたいと思います。 ○長谷部委員 私は,これまでも申し上げてまいりましたように,デポジットは解決案としては適切でないと考えております。それは,参考資料にも,例えば,訴訟救助を要する者であっても,数百円のデポジットだったら負担することが可能であるというような御意見が紹介されていますけれども,本当に生活に困窮して訴訟救助を真剣に求めているという人にとっては,数百円であってもその日の食費になるかもしれない,そういう金額でありますから,訴訟救助の申立てをしているか,していないかを問わず,全員にデポジットを課すというのは,やはり裁判を受ける権利を制約するものであると考えます。   そして,立法事実の点なのですが,この点についてはさきほどもいろいろな御披露があったところですけれども,データの提出が難しいということではありますが,数量的にどの程度の事件がそうなっているのか,それは事件全体から見てどの程度の割合なのかということをお示しいただきたいと思うのです。これまで伺ったお話ですと,小澤委員が出された例も含めて,非常にマニアックな人がやっているということなのだろうと思います。そういう人は社会の中に一定程度はおられると思うのですけれども,それらの人が訴訟事件のうちのかなりの割合を占めているということであれば,全ての事件に適用される民事訴訟法に規定する必要があるだろうと思うのですが,ごく一部の人であり,また,全国の庁だということですけれども,例えば地域的にここの庁だと比較的多いというようなことがあるのだとすると,それは全国的に適用される民事訴訟法に規定すべき問題なのかということがあります。立法事実が明らかでないというような意見がパブコメにあるのも,もう少し具体的に,どういう地裁でどういう類型の事件にどのぐらいの件数があって,そのうち同一人物によるものがどれぐらいの件数あるのか,あるいは多くの人によるそうした事件があるのかといった,その辺りの数量的なことを示していただかないと,事件全体の中での比重ということが分からない,本当にこれを規定する必要があるのかと思われてしまうと思いますので,十分な立法事実の資料を出していただければと思う次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 増見でございます。長谷部委員のおっしゃる立法事実がどの程度のインパクトがあるかについて、民間企業としても知りたいと考えております。民間企業の立場としては,濫用的な訴えを起こされる側の立場になることがほとんどです。裁判所の手続だけではなく,実際に提起された場合の時間的な拘束や、弁護士費用等の経済的負担,精神的な苦痛等も多大な負担になります。よって、濫用的な訴えの防止の規律を設けることの重要性については民間企業としても認識をしております。デポジットに限らず,様々な手段で濫用的な訴えを抑止していくことは重要であると考えております。   また,国の費用で運営される裁判所のリソースが、費用を払わない者によって空費されている現状も非常に憂慮すべきことと思います。他国ではどのように濫用的な訴えに対応しているのでしょうか。デポジットや、濫用的な訴えを繰り返す当事者への制裁,受付の許否などのドラスティックな対応をとっている国も多いと聞きます。様々な手段を組み合わせて濫用的な訴えを防止する方策を今回の法改正に盛り込むのは重要であると考えております。引き続きこの場で検討を続けていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 私は民事基本法について立法事実をやたらとうんぬんすることについてはネガティブですけれども,ただ,ある程度定量的な要素というのは問題になり得ることはなり得るのだろうという,この提案されている規律については思わないではありません。デポジットについては長谷部委員のおっしゃることに賛成ですが,ただ,簡易却下については,これが前提条件なしだと私もすごく危惧するところが多いのですけれども,訴訟救助の申立ての却下決定が確定した後という条件を付して,納付命令なしの簡易却下というのはあってもいいのではないかという気がいたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 先ほど増見委員の方から,海外の実情がどうなっているのかというお話がありましたので,最高裁の方で把握しているところにつきまして若干,御紹介させていただきたいと思います。   英米法圏を中心に,不当な目的の申立てをする者に対しては,裁判所の許可なく新たな申立てを行うことを差し止めたり,若しくは係属中の全ての手続の進行を停止する命令を発することができるものとしたり,あるいは金銭の支払その他の制裁を課すことができるものとしたり,氏名の公表を行う例もあるなどといったようなことが確認できております。今申し上げましたのは,部会資料で提案されているものよりも,はるかにドラスティックな方法なのかと思うのですけれども,いずれにしても,やはり諸外国においても濫用的な訴えに苦しんでいる実情があり,それに対する対応策としていろいろな手当てを講じているということがございます。ですので,このような点も踏まえて,今回,電子的な申立てが可能となる場合に,濫用的な訴えが飛躍的に増加する可能性もありますので,そういったものに対する実効的な手当ての導入をお願いしたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内でございます。私自身は,濫用的な訴えを防止するというために種々工夫を講じる必要があるのではないかという問題意識は十分に理解できるものだと考えております。したがって,適切な手段があれば,それは講じていくことにやぶさかでないということなのですけれども,今日の資料で提案されているのが大きく2点ということですけれども,デポジットというものにつきましては,やはりこれが一律であるというところが,目的と手段との関係として,あるいは訴訟救助という制度の性格に照らして,一律に真に必要な人についてもデポジットを課するということが正当化できるのかというところは,やはり問題があるように思われまして,なかなか賛成しにくいと考えております。   これは,この審議会の前段階で研究会等で議論されておりました,訴訟救助の申立てが既に一定回数されていて全て却下されているというような,もう少し実体的な徴表を盛り込んだ形での規律ということであれば,技術的に難しいということが他方,あるのかもしれませんけれども,理屈としては説明が成り立ちやすいのかなという印象を持っておりましたけれども,一律ということですと,かなり難しいのではないかという感じがいたします。   後者につきましても,要するに手数料が納付されない場合ということで,かなり一般的な要件立てとなっているというところで,先ほど山本克己委員からも御指摘のあった訴訟救助の申立てとの関係ということもありますし,その他,手数料の金額について疑義があるというような場合等についての取扱いがどうなるのかといったようなこともありますので,もし仮にこの簡易却下について要件立てをもう少し濫用的な訴え提起というところに焦点を当てたものを工夫できるのであれば,この方向というのはなお検討の余地があるのかなと思いますけれども,現状のような一般的なものについてはなかなか,このままでは難しいのではないかという印象を持っております。   先ほど,英米法圏の国についての対応についての御紹介がありましたけれども,制裁としてはかなり強力なものがあるとしましても,それはやはりそうした実体のあるものを対象として制裁を裁判所が課すということでありまして,そうでない人も一般的に網をかぶせて,こういった形でのハードルを高くするということとはまた少し異質なものを含んでいると思いますので,その辺りも含めて少しなお検討が必要かなと,このままの案ではなかなか難しいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この3の論点,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 他の手続を含めてというようなことになると,裁判所が怪しげなやつというブラックリストを作らざるを得なくなりますよね,そして全国的にそれを共有するということにならざるを得なくて,それはやはり少し難しいのだろうという気がします。相手方がいつも同じで,特定された相手方がこの人はこうだと言ってくれれば,そのときはそれで対応できるかもしれませんが,およそ訴状送達前にそういうことをやるというのはかなり困難な話であろうかと思いますが,やはり私は,先ほど言いましたように,当該訴訟手続に着目せざるを得ないのではないかという気がしておりまして,ただ,今,垣内幹事がおっしゃっていただいたように,もう少し要件を,レベルを慎重に検討して,いけるかどうかということを判断することには私はやぶさかではございません。先ほど言ったのは一例ですが,それ以外にもあるかもしれませんので,特に,こういう方向性を推進したいとおっしゃっている方の方で何か適切な要件化の御提案があれば,真摯に検討できるのではないかという感じがいたしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大谷委員 今の濫用的な訴えについてですけれども,デポジットの考え方につきましては,先ほど垣内幹事がおっしゃられた問題点について全く賛成でございます。一律であるということ,訴訟救助の趣旨ということに関して同一意見ですので,全ての方に対応できないとしても,一定の類型について,特に訴訟のIT化ということに絡んで影響のあるものに対応できる方策が何かないかということを少し探っていくべきではないかと思っております。   先ほど御紹介いただいた中に,同じ方が反復して濫用的な訴訟提起をされたりするという問題提起がございましたけれども,そういったケースが全国で多いのでしたら,このIT化ということに絡めますと,同じ通知アドレスを用いている場合,1回目はさすがに普通に扱うとしても,2回目以降というのが簡易却下の対象として認識したり,整理したりすることができるパターンになり得るのではないかと思います。簡易却下だけでは全ての濫用的なものに対応できないとしても,一定のケースについて検討し得るとすれば,同じ方が繰り返されるものということ,それ以外のものについては,やはりこれから少し統計的な整理をしていただくことによって,それぞれのパターンに応じた要件を決めて対処方法を探っていくということが必要なのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。事務当局から何かこの点について確認しておくべき点はございますか。 ○藤田関係官 事務当局でございます。21ページの冒頭部分に記載がございます訴状却下命令後のスキームの御提案につきまして,私の認識では,必ずしも御発言がなかったようにも思われます。その点につきまして,もし補足あるいは御意見がおありの方がいらっしゃれば,お願いいたします。先ほど来御議論いただきましたのは,納付命令を経ることなく,いきなり訴状却下命令をすることの当否が中心であったと認識しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。訴状却下命令に不服申立てをすることができないということ,あるいは,これは前回ですかね,に出たかと思いますが,現在の民事執行法の執行抗告の規律のような形で原審却下を認めるといいますか,そのようなことも考えられるのではないかということですが。 ○阿多委員 私自身は,先ほど納付命令に着目した意見を述べましたが,山本克己委員から話がありました,訴訟救助の申立てを前提にした場面に限定した話であれば,訴状却下はあり得ると考えます。抗告の対象にならない,さらには,書記官権限で構わないという意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○長谷部委員 先ほど藤田関係官から御指摘がありました21ページの5行目辺りでしょうか,民事執行法10条5項4号等のような,いかにも濫用的な即時抗告について原審限りで却下するという,その方法はあり得るかなとは思っております。ただ,民事執行法のこの規律は,債務者は定型的に執行妨害をするものであることを前提としておりますので,濫用的な執行抗告であることがある程度明らかだと思うのですけれども,訴状提出の場面についてこれまで伺っている限りでは,どういう人がいかにも濫用的な申立てをするというような,そういうメルクマールがはっきりしているかというと,そうでもないように思えるものですから,立法事実としてどういうケースがあるのかということをお尋ねしている次第です。ですから,即時抗告を原審却下する要件を明確化するためにも,ある程度資料を出していただければと思うのです。別に数量的なデータでなくても結構ですから,こういうケースがあったというような,具体的な事件を提示していただければ,考えやすくなるかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,この部会のすう勢が把握できたかどうかというのは,必ずしも私自身も自信はありませんけれども,取りあえずこの3については以上,御意見を頂いたということにしたいと思います。 ○日下部委員 熱の入った御議論の後,テクニカルな話のようで恐縮ですが,2のインターネット提出時の本人確認の措置に関して意見を申し述べたいと思います。   ここでの御提案は,現行法の132条の10の第4項が定めている署名等に代える措置の表現に依拠していると理解しております。署名等の代替措置ということであれば,氏名又は名称を明らかにする措置という表現は理解しやすいものですし,この条文ができたときに想定されていた措置は具体的には電子署名であったかと思いますので,その当時は違和感もなかったものと思います。   しかし,現在想定されている本人確認の方法は,システムへの利用登録の際の身元確認を踏まえて,各回のログインやアップロードの際の当人認証でこれを行うということで,電子署名を付すことではなく,IDやパスワードを用いてシステムを利用することが本人確認の方法として想定されているように思います。そうしますと,そのような方法は氏名又は名称を明らかにする措置を講じなければならないという表現にはフィットしないように思われまして,違和感を持ちました。提出者の本人確認ができる方法でしなければならないといった表現にした上で,事件管理システムへのアクセスに,裁判所が付与した識別符号,IDやパスワードですけれども,それが必要であるという規律を,法律レベルかどうかは分かりませんが,そうした規律を設けることで本人確認を確保するとした方が,条文の在り方としては適切ではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この1及び2の点について御意見がございますでしょうか。 ○服部委員 確認のための質問でございます。   18ページから19ページにかけまして記載されている部分で,18ページの下から3行目のなお書き以降の点です。インターネットを用いて訴状等の提出をする場合において,本文にいう氏名又は名称を明らかにする措置であって,という記載以下のところで,その結果,提出に係る訴状等が本人の意思に基づくものであること,成立の真正が事実上推定されることになると考えられるという記載がございます。内部で検討いたしましたときに,ここの意味合いが一義的に分かりかねるという意見がございましたので,確認のため,この成立の真正が事実上推定されるということがどのような意味か,そのように考える理由と,事実上推定されることによる効果などについて,事務当局の方にお考えがおありかと思いますので,御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○藤田関係官 御質問ありがとうございます。19ページに記載いたしました「事実上の推定」の意味は,いわゆる裁判官の事実認定における経験則に基づく事実の推認作用を指しておるというものでございます。これとの対比で申し上げますと,電子署名法第3条におきましては,一定の電磁的記録に一定の電子署名がされていて,それが本人による措置であれば,成立の真正が推定されるという規定がございますけれども,そのような法律上のものではなく,飽くまで事実上の推定だということでございます。 ○服部委員 分かりました。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかに,いかがでしょうか。 ○日下部委員 1の電子訴状及び電子準備書面のインターネット提出に関してですけれども,ここで示されている考えには賛成であります。それに関連する問題ですけれども,誤った準備書面を当事者がアップロードしてしまった場合に,訴訟記録に残らない形でその撤回を認めるべきかどうかという問題点があろうかと思います。これは必ずしも法制上の手当てにはなじまないのかもしれませんが,日弁連の意見書の中でも言及されているところですので,考え方を整理できればと思っております。そのような誤った準備書面が電子的に提出されてしまったという場合には,既に相手方当事者にもシステムを介して直送されているようなこともありますので,それを記録に残らない形で抹消するというのは望ましいことではないと思うのですけれども,全く事件と無関係の書面であるとか,あるいは反訴状のように準備書面として提出すべきではない書面である場合,あるいは裁判官や相手方当事者の期日における言動を誤解して事実無根の誹謗中傷をしているような書面,こういったものが提出されたというときには訴訟記録から抹消することが相当とも思われますので,御検討を続けていただきたいと思っております。   なお,今の点は準備書面を訴訟記録の一部として当事者以外の者による閲覧に供するタイミングにも関係する問題かと思います。これは訴訟記録の閲覧等を検討する機会に追って議論すべきかとも思いますが,念のため一言触れさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 少し戻ってしまうのですけれども,先ほどの濫用的な訴えの規律の訴状却下命令の手続的な不服申立ての関連につきまして,21ページの一番上のところで御説明いただいている内容に関してなのですけれども,これも結局,却下命令の要件をどういう形で設定するのかということとかなり密接に関わってくるのかなと考えております。ごく抽象的な形で考えますと,民事執行法のような形での原裁判所で却下という処理は一応あり得るのではないかと思われますが,更に進んでそもそも不服申立てができないというところまで行けるかというと,そちらの方はよりハードルが高いと思われるところです。ただ,この却下というのが,救助申立ての却下決定が確定しているという場合を専ら対象とするということなのだといたしますと,その場合であれば,救助の可否というところで実質的には問題が尽きていると考えれば,不服申立てができないという規律もおよそあり得ないものではないのかなという感じもしておりますので,要件立てとの関係で検討が必要なところかと感じました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 対象は日下部委員が発言した書面の訂正のお話なのですが,従前の第10回の法制審議会の議事録で,富澤幹事からの送達が必要な書類を前提にした説明ですが,領域2に提出された電子データが実は領域1に提出されるべきものである場合には,移し替えて従前のデータは削除すると,誤ってアップロードされたデータは削除すると説明していたという認識ですが,最高裁は現在も誤ったデータは削除するという扱いをするという理解でよいのか確認させてください。 ○山本(和)部会長 それでは,最高裁判所,お願いできますか。 ○渡邉幹事 第10回会議でも富澤幹事から御説明しましたとおり,現在検討しておりますシステムでは,送達すべき書面については一旦,裁判所と提出当事者のみがアクセスすることができる領域1にアップロードされた上で,書記官によって全ての当事者がアクセスすることができる領域2に移され,これと同時に受送達者に電子メールで通知がされるとともに,受送達者の端末の画面上にもアップロードがされた旨の表示がされることを想定されているということでございます。若干繰り返しになりますが,こうした取扱いをする理由としましては,送達すべき書面につきましては,送達を行う前に裁判長による審査や手数料の納付といったプロセスを経る必要があるためですので,当事者が直送する書面ですとか裁判所が送付する書面につきましては,直接領域2にアップロードすることになると考えているところです。その際,間違ってアップロードされたものは削除するということになるということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   阿多委員,よろしいですか。 ○阿多委員 確認ですので,結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 先走ったことかもしれませんし,的外れかもしれないのですけれども,参加申立てはどのようにこのスキームの中では位置付けられるのでしょうか。参加申立ても,いきなりその訴訟事件のところに申し立てるのではなくて,どこかで申し立てたものを裁判所の方で処理して,そちらの記録の方に申立書を移すというような処理になるのでしょうか。イメージが湧かないので,もし御検討であれば教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 これはシステムの問題ですかね。裁判所の方では何かお考えがありますか。 ○渡邉幹事 今御質問の点は,現在システム開発の関係でまだ確定的に決まっているところではございませんので,本日の時点ではお答えを差し控えさせていただきたいと思っております。申し訳ございません。 ○山本(克)委員 それを前提としても一応,第2の1のことはできるということでよろしいのですね。申立書をオンラインで提出するというのは,事件番号を特定しさえしておれば,これで行けるということでよろしいのですね。 ○山本(和)部会長 それは多分そういうことだと思いますが,最高裁の方で何かありますか。 ○渡邉幹事 それは当然そうなると認識しております。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,よろしいですか。 ○山本(克)委員 結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはよろしいでしょうか。事務当局,よろしいですか。 ○藤田関係官 はい,結構でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   私の不手際で休憩に入る時間が大幅に遅れてしまい,また,皆さん御想像のとおり,かなり時間が押している状況にございますが,さすがにかなり時間が経過しましたので,20分弱になりますけれども,休憩を取りたいと思います。16時10分に再開したいと思いますので,休憩をお取りいただければと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 審議を再開したいと思います。   続きまして,資料の21ページ,「第3 送達」の点でありますけれども,まずは「1 通知アドレスの届出及びシステム送達の内容」,この点について御審議をお願いしたいと思います。   事務当局から説明をお願いいたします。 ○西関係官 民事裁判手続のIT化に伴いまして,システム送達と呼ばれる送達方法を新たに導入すること及びその基本的な内容については,これまでの部会においても大きな反対はないところでございまして,パブリックコメントにおきましても基本的にはこれに賛成する意見が多数でございました。そこで,今回の部会資料では,中間試案の内容を基礎としつつ,更に御審議を頂きたい点について記載をさせていただいたところでございます。   まず,システム送達の内容の一つに通知というものがありますが,送達という訴訟行為において通知というものがどういった位置付けを有するものなのかといった点が問題となり得るものと思われます。また,第10回の会議でも御議論いただいた通知と閲覧が前後した場合の取扱いについても若干の記載をさせていただいております。このほか,通知アドレスの届出を行う主体についてや,システム送達における閲覧の概念と訴訟記録の閲覧の概念の異同についても資料では記載をさせていただいているところでございます。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構ですので御発言いただければと思います。 ○日下部委員 まず最初に,お尋ねをさせていただきたいと思います。今回の部会資料では,システム送達の構成要素についてこれまでとは異なる考え方が示されていると思います。具体的に申し上げますと,従来は,システム送達は,裁判所が送達対象の電子書類を事件管理システムにアップロードすること,その旨を受送達者が届け出ている通知アドレスに通知することという二つの行為を構成要素とするものであったと思います。そして,そこでいう通知アドレスへの通知とは,裁判所による公証が可能である必要があることから,具体的には通知を発信することを意味しており,通知が受送達者に到達することまでは意味しないものと整理していたと思います。その上で,そのような発信のみでは当然に受送達者が送達対象の電子書類の内容を了知する機会が付与されたとは言い切れないことから,送達の効力発生には受送達者による送達対象の電子書類の閲覧等が必要となると整理されていたという理解です。   しかし,今回の部会資料では,アップロード,通知及び閲覧等という三つの行為が全てシステム送達の構成要素であると整理され,かつ,部会資料の23ページの末尾に表れていると思いますけれども,通知とは受送達者に到達することまでを意味するとの前提で,通知をシステム送達の構成要素とすること自体の是非にも問題意識が示されるようになっていると思います。私がお尋ねしたいのは,なぜこのようにシステム送達の構成要素を構成し直す考えに至ったのか,その理由をお聞かせいただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお答えをお願いします。 ○西関係官 こちらの問題につきましては,システム送達というものの位置付けをどう考えるかというところにも関係するものであると思われます。現行法上の紙の送達では交付送達が原則とされておりまして,それは相手方に対して送達の内容を確実に了知させるというために,書類を直接交付するという行為が最も有効であるからであるというような説明がされているところでございます。システム送達についても,送達の内容を了知させるために交付送達と同じレベルの行為が必要だと考えますと,相手方に通知を発出するというだけでは足りず,相手方が閲覧をすることによって初めて送達といえるというような考え方も成り立ち得るのではないかと考えられたところでございます。   そういった観点から,この資料では,閲覧もシステム送達の構成要素に入れた上で,それとの反面におきまして,通知の発出という行為に,相手方にその送達の内容を了知させるという送達の本来的な趣旨から見て,どういった位置付けが与えられるべきなのかというところにつきまして皆様の御意見を伺いたいという趣旨で,このように書かせていただいたものでございます。 ○日下部委員 ありがとうございます。流れも分かりやすくなるかと思いますので,今の御回答を踏まえて,私自身がシステム送達における通知の意義について考えてまいったことを申し上げたいと思います。   システム送達は従来の既存の送達と異なって,送達対象書類を受送達者の支配領域に届けるものではなく,送達対象書類を閲覧等することができる状態に置いて,そのことを受送達者に知らせ,受送達者が自ら閲覧等をする機会を付与するものという点で,既存の送達になぞらえてその構成要素を整理することが当然に妥当というわけではないように思いました。特に通知アドレスへの通知は,それが受送達者に到達したことを裁判所が技術的に公証できるとは限らないという特徴がありますので,送達の構成要素としての通知を発信だけではなく到達まで含めて観念することはできないはずだろうと思っております。   部会資料では,通知には到達までが含まれるという前提で,それでは公証できない部分が含まれ得るという理由から,通知をシステム送達の構成要素に含めない考え方も示唆されていると思います。しかし,システム送達の構成要素を整理する上では,送達の本来的な意義に照らせば,受送達者が送達対象書類の内容を了知する機会が保障されたと評価できるためには何が必要かが一次的に問われるべきであって,裁判所による公証可能性はそれに併せて問われるべきと思います。通知の到達について公証可能性がないという理由で,発信を含めた通知自体をシステム送達の構成要素から外すという発想は本末転倒のように思われました。   もう少し続けさせていただきます。この点は,部会資料の28ページの末尾を拝見しますと,これはみなし閲覧の特則との関係での記述ではあるのですが,通知アドレスの届出をした者であれば,通知と関係なく,1週間に1回以上,裁判所のシステムにアクセスして自らの関係する事件について情報の更新がないかどうかを確認すべきものとしても,過大な負担にならないという考え方が示唆されています。   しかし,通知アドレスの届出をしたからといって,通知がなくても1週間に1回以上システムにアクセスすることを当事者に一般的に求めることは,到底できないだろうと思います。これは通常,訴訟当事者にとって訴訟手続は,発生してしまった紛争を解決するためにやむなく利用する,又は訴えられてしまったためにやむなく対応するというものであって,建設的な意味の薄い,しかも相手方当事者からの非難を公然と受ける不愉快なものですから,日常生活においては考えたくもないというのが実態と思います。したがいまして,通知がなくても週に1回は様子うかがいのためにシステムにアクセスすべきという前提で制度設計することは適切ではないと考えています。現実的に受送達者が送達対象書類の内容を了知する機会を保障するためには,受送達者にシステムへのアクセスを促すための通知は必須であって,これをシステム送達の構成要素から除外するという考え方は採り得ないと考えています。先ほど申しましたとおり,公証可能性の観点も含めて言えば,通知の発信については技術的に公証可能ですので,発信を意味するものとして通知を捉えれば,これをシステム送達の構成要素とすることに支障はないだろうと思います。   結論としましては,通知については従来の考え方が妥当であって,今回の部会資料で示されたような新たな考え方に依拠すべきではないというのが私の意見です。長くなって申し訳ありませんでした。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。今も議論がありました通知の位置付けに関してですけれども,通知というものが担っている機能をどういうものとして捉えるのかという問題が,通知の位置付けを考える前提として,あるのかなと考えております。一般には,今,日下部委員の御発言にもありましたけれども,まずアップロードがあり,しかし,アップロードがされると抽象的にはこれは既にそのシステムに登録している当事者にとっては閲覧が可能な状態になっているということではありますが,しかし,それだけではなくて,当該具体的な文書が送達の対象としてアップロードされているということを具体的に了知する機会を与えるという機能がこの通知ということにあると。その意味では,本質的には通知が届いて初めてその目的を達成するという性質のものではあるけれども,しかし,到達そのものについて公証するのは困難であるということだとすると,届いたことを必要的な構成要素としてしまう形で通知を取り込むということには問題があり得るという,今日の資料でもそういう問題意識が示されているのだろうと思いますけれども,そこで,少なくともそれを発信するということが要素として要求されると,このこと自体は,そういうものだろうと,それでよろしいのだろうと思っておりまして,だから通知は必要ないという形で整理することに必ずしもならないのではないかというのは,これは日下部委員が言われたとおりかなという感じがいたします。   他方で,通知のもう一つの機能といたしまして,当該送達対象書類という側から見ますと,それについて通知がされているということで,その書類が送達の対象となっている書類であるということを確認させる機能と申しますか,書類そのものと,それが送達対象であるということをひも付けをする機能というものを通知が担っていると。通知が事前にされて,これが到達したという場合には,現実的な了知可能性を与えるということと,その結果,閲覧した書類が正に送達の対象となっている書類であるということを認識させる機能と,この両者を同時に果たしているということになるのだろうと思います。   他方で,資料の24ページ以下で先後関係について記載がされているところで,閲覧等が先行した場合にどうなるのかという問題があります。この場合について,現在紙でされている送達の場合とパラレルに考えると生じにくい問題であるというところから,非常に難しい理論的な問題だと思っておりますけれども,従来でありますと,送達が少なくとも交付送達という形でされれば,これは書類の交付,つまり閲覧が可能になるとともに,それが送達対象書類であるということも認識がされるということになるわけで,両者がそろっていたということですが,システム送達ということになりますと,それがずれるということがあり得ると。その際に,では,とにかくその書類の内容さえ見れば,それで送達の効果が発生したものとできるのかということですけれども,その点につきましては,送達がしばしば期間の起算点となっているというようなことも考えますと,なかなかそのように言ってしまうのは難しいのではないかと感じておりまして,少なくとも当該書類が送達の対象となっている書類であるということの了知可能性が保障されている必要があるのではないかと考えております。   そのことは通常の場合には通知によって果たされるということかと思われますけれども,資料の中でも説明がされておりますように,システム内で,その送達対象書類については,それを閲覧ないしアクセスをするというときに,それが送達対象書類であるということが分かるような表示というものが工夫されることによって,仮に通知が先行してされていない,到達していないという場合であったとしても,当該閲覧の対象となった書類が送達対象書類であるということが了知できるという仕組みを整えるということは,これは恐らく可能なのではないかと考えておりまして,逆に,そのような条件が整っている限り,閲覧の時点で送達の効力が生じたと考えていいのではないかと,そんな考えを持っております。   ですので,その意味では,通知が先行することが送達の効力発生にとって必要不可欠ということではないのかもしれませんが,少なくとも当該書類が送達対象であるということについて,これも表示そのものがある種の通知であると考えれば,そこで通知があったという説明もできるかもしれませんけれども,その点が確保される必要があるということではないかと考えておりますので,そういった了知可能性についても一切不要であるというのが御提案だとすると,そこまで行くことは難しいのではないかという印象を差し当たり持っているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 発言の機会を多く頂いて申し訳ございません。ちょうど今,垣内幹事の方から御指摘,御説明のありました通知と閲覧等の先後関係の問題について,私も考えてまいりました。必ずしも垣内幹事の御意見とは同じではないところもあるのですけれども,申し上げたいと思います。   そもそも問題の前提として,通知の前に受送達者が送達対象書類を閲覧等することができるようにシステムを設計するかどうかという問題があるというのが共通認識ではあろうかと思います。例えばですが,受送達者が送達対象書類を閲覧等するためには受送達者に通知されたパスワードを入力する必要があるように設計すれば,受送達者が通知を受領し,その内容を把握せずに送達対象書類を閲覧等する事態は生じないこととなります。また,送達の効力が発生するまでは送達対象書類は一般の閲覧等の対象にしないという設計にすれば,受送達者が他者を使って送達対象書類を閲覧等する事態も生じないこととなります。このようにすれば,通知と閲覧等の先後関係の問題はそもそも生じないということになるのだろうと思います。   ただ,今のようなシステム的な対応を差し当たり度外視して,仮にシステム上,受送達者が発信された通知を認識せずに,あるいはそもそも通知が発信される前に,送達対象書類を閲覧等する事態が発生し得るとした場合には,送達の効力発生を認めるべきか,認めるべきではない場合に,効力発生のためには重ねて何が必要になるのかという問題が出てくるのだろうと思います。この点につきましては,私は,部会資料の24ページ末尾の段落以降に詳細に分析が記載されておりますけれども,その分析に違和感はなく,賛成してよいのではないかと考えておったところでございます。   若干敷衍いたします。まず,発信された通知を認識せずに閲覧等がなされた場合についてですが,この場合には送達の構成要素は全て満たされておりますし,受送達者は現に送達対象書類の内容を了知しているのですから,送達の効力発生を認めて差し支えないと考えました。この場合に,受送達者は閲覧等した書類が送達対象書類であることを認識していなかった可能性,これを問題視するという意見もあろうかと思います。垣内幹事が言及されましたのはそういった御意見かと思います。しかし,既存の送達方法においてもそうであるように,書類が送達対象のものである,あるいは手続的に送達がなされているということを受送達者が認識することまでが送達により確保されるべき手続保障の内容とまでは考えられていないのではないかと思いました。ここは評価の面もあろうかと思いますので,別段の御意見もあろうかと思います。   次に,そもそも通知が発信される前に閲覧等がなされた場合につきましては,既に送達により確保されるべき手続保障は達成されているので,法制的には通知がなくとも送達がなされたものとみなすという特則を設けることは可能であるように思いますが,システム上極めてイレギュラーな事態であるなら,わざわざ特則を設けずに,単に通常どおりに通知を発信すれば,その発信の時点で送達の効力発生を認めるという整理も可能ではないかと思います。特則を設けない場合には,形式的ではあるが通知を欠かすわけにはいかないということになりますので,実質的な意義は希薄なのですけれども,さりとて裁判所に過度の負担を課すというものでもないと思いますので,こういった対応もあり得るのではないかと思います。   他方,後者の場合ですけれども,受送達者は通知を契機として閲覧等をしたわけではないわけですので,その場合に,書類が送達対象のものである,あるいは手続的に送達がなされているということを受送達者が認識することまでが送達により確保されるべき手続保障の内容とは考えないという前提に立てば,通知は受送達者がシステムにアクセスすることを促すためのものにすぎず,閲覧等が通知を契機としてなされることは必要ではないという整理になるのだろうと思います。   以上申し上げましたとおり,先後関係の問題が発生するのであればこのような整理が可能ではないかというのを一通り考えてみた次第でございます。ただ,途中で言及しましたとおり,送達対象書類であるということを伝える,あるいは送達という行為がなされているということを伝えるという機能が送達の本質的要素の中に入るのかどうかという評価によっては,帰結が変わってくるということもあり得るかなとは思っているところですので,ほかの先生方からの御意見も伺えればと思います。   長くなって申し訳ございませんでした。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私はこれは,冒頭の甲案を採るのか,乙案,丙案を採るのかということとかなり関連した問題ではないかという認識を持っております。つまり,甲案を採った場合には,無理やりシステム送達を受けるポジションに着かされるわけですね,義務として。ですので,その場合には日下部委員がおっしゃったような,かなりの程度慎重な対応,あるいは垣内幹事も同じようなニュアンスだったと思いますけれども,慎重な態度が望まれると思います。   しかし,乙案を採った場合,あるいは丙案を採った場合は,自ら進んで利用しているわけですから,その電子処理システムによって構築されるバーチャル空間は正に支配領域であるといって構わないと思いますので,通知の点は私はネグっても構わないというような気がしております。士業者について必要的だとしているところをどう考えるかという問題は残りますが,士業者が受任している事件の定期的なチェックを行わないということは,これはやはり士業者として失格であると思いますので,士業者については任意性というものを考慮に入れる必要はないのではないかと考えており,私は甲案,乙案どちらかを採ると決めないと,ここの議論は決定打が出ないのではないかという認識を持っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。特段ございませんか。 ○日下部委員 今,山本克己委員の方から言及がございましたけれども,私自身としましては,士業者が訴訟代理人になっている場合,その者についてどうなのかという点については別段の評価はあり得るかなとは思いますけれども,一般の本人訴訟における本人を念頭に置いた場合に,週に1回は見ていないと駄目ですよと言ったりとか,あるいは事件管理システムにアップロードされていればもう十分であるというふうな制度設計をすると,裁判を利用するというのはかなり怖いねという話になりかねないのではないか,自分でずっと気を付けて,何か月か,何年かは週に1回様子うかがいをしておかないと何が起きるか分からないと,そういう制度で本当にいいのだろうかという疑問は感じております。   それとは別なのですけれども,システム送達における閲覧等の意義もやはり問題になるところではあろうかと思いますので,ごく短くですが言及したいと思います。先ほど来,通知についてはいろいろ意見を申し上げましたけれども,受送達者の閲覧等をシステム送達の構成要素とするか,そうではない効力発生要件とするかは,いずれにせよ送達の効力発生に閲覧等が必要であるという点では同じですので,いずれの考え方も採ることはできるようにも思います。しかし,受送達者によってなされる行為である閲覧等を本来は裁判所の訴訟行為である送達の構成要素と考えることが妥当であるのかということについては,少し考えが及ばないのかもしれませんけれども,素朴に疑問を感じました。   なお,本日の部会の最後の検討事項とされている国際的問題との関係でごく短く申し上げれば,システム送達の構成要素自体はアップロードと通知の発信のみであって,日本国内においてしか日本の主権の行使はなされていないと説明できるようにしておく方が,国際的なシステム送達の実現可能性を僅かながらでも高める上では,望ましいのではないかとも考えた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 日下部委員からの高尚な議論についてのコメントではないのですが,私自身はこの23ページの通知の位置付けについての整理は,違和感がありません。パブリックコメント期間中での議論でも,通知が届かない可能性があることを前提に構成する必要があるという発言をしています。送達の要件としての通知という整理ではなくて,通知に別の役割を持たせることも可能ではないかと考えています。   その点は措くとしても,山本克己委員から1週間に一度という話がありました。それは士業者の改正民事訴訟法が施行される時点でのビジネススタイルというか,仕事の仕方の話になると思います。調査のために韓国を訪問したことがありますが,IT化が先行している韓国では,出勤時である朝はシステムを立ち上げることから仕事が始まるという説明で,通知が来ているか否かを確認し対応するという話を聞いてきました。そういう意味では,法律がそうなれば,事件管理システムの立ち上げが仕事の始まりになるかもしれません。   一方で,争点整理にウェブ会議を利用することが試みられていますが,今,実務で話題になっているのは,ウェブ会議用のメールアドレスを別途作るのか,それとも日常的なメールを利用するのかという点で弁護士によって取扱いが異なっています。背景は裁判所からの連絡メールが日常メールに混在すると見落とす可能性があることを危惧して別メールをわざわざ取得する人もいれば,逆に日常的なメールで対応する人もいるわけです。前者の裁判所用のメールアドレスを取得している弁護士は,今のウェブ会議では途中に何か連絡があっても,そのメールフォルダーを見ない限り気付かないということが起こっています。そういう意味で,今後のビジネススタイルの話になるとは思いますが,どういうシステムが構築されていくのか,正に通知を確実に認識できる状況になるのかということに関連する事項だと思います。   別論点ですが,26ページの「(4)送達すべき電子書類の閲覧等」において,システム送達における閲覧等と訴訟記録の閲覧等との区別について整理されています。従前,私が両者は区別すべきと提案し,事務当局も苦労されて,最終的には閲覧等という言葉に戻り,概念整理をされている点だと思います。まず最高裁に質問をしたいのですが,第10回の法制審議会の議事録の11ページ等で,当時の富澤幹事が送達について領域1,領域2という概念を使い,本来送達すべき書類は提出者と裁判所だけが見る領域1に提出され,書記官等がチェックをして領域2に移し,通知が発せられて相手方が閲覧等をする,こういう説明をされました。送付の対象になる書類は最初から領域2に提出され,通知がされて相手方が閲覧等をすると説明されていました。   質問は,訴訟記録用に領域1,2とは別の領域が設定されていて,そこにアクセスする,閲覧等をすることになるのですか。26ページでも,真ん中で,システムの作り方にもよる旨の指摘がありますが,アクセスする対象がシステム送達による閲覧等と訴訟記録の閲覧等とは同じですか,異なるのですか。 ○山本(和)部会長 最高裁の方で,今の段階でお答えいただける点があれば,お願いします。 ○渡邉幹事 結局のところ,訴訟記録の範囲についての御質問かと思いますが,訴訟記録となるものは双方当事者が見られるもの,つまり領域2の方になると認識しておりますので,そういう前提で御議論いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 そうすると,送達の対象となる電子データは領域1に一旦提出された後に領域2に移動され,それ以外の電子データは最初から領域2で管理されるというのであれば,概念の整理として,システム送達の閲覧等と訴訟記録の閲覧等は重なるという説明になることは理解しました。それで結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。ビジネスであればまた別なのかもしれませんけれども,私は一般の国民がこのシステムを使ってやり取りする場合に,やはり安心して使える仕組みにしていただきたいのです。メールが来るかどうか毎日気を張っていなければならないのでしょうか。当事者となれば,見ているのかもしれませんが,書面が送達されているのか否かが確実に分かるようなシステムを作っていただきたいということが希望でございます。故意に見ないということよりも,ほかのメールに紛れてしまったりとか,迷惑メールに入ってしまったりとか,あるいは本当に何らかの事情で届かないなど,見ることができないことがないようにシステムを作っていただきたい,それが希望でございます。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 先ほどの私の発言は言葉足らずだったのですが,私はメールの発送が要らないというのは送達の構成要素として要らないと言っただけの話であって,メールは送付していただくというのが当然の前提でございます。ただ,それは送達の構成要素でなくて,言わば手続教示に近いようなものだという位置付けで十分ではないのかという趣旨で申し上げました。   それから,阿多委員から韓国の例をおっしゃいましたけれども,そのときの通知というのは,システムを立ち上げたらポップアップなどが出て,あなたのこの事件に到達書類が来ていますよというようなポップアップが上がってきて,そこにリンクが貼ってあって,そこにリンクしたらそこへ飛んで行けるような仕組みということであって,メールでは必ずしもないのでしょうね。そうでないと,システムを立ち上げて初めて通知が来るということの現象の説明ができないので,かなり状況が違うのですが,ただ,それは日本のシステム構築に当たっても,メール以外に通知の仕組みとしてそういうものを考えると,私はスマートフォンとタブレットはiOSなのですけれども,iOSのアプリでプッシュが来ているという状態のような状態が,Windowsのアプリケーションでそれができるのか私は全然知りませんが,そういうような状態を作るというのもまた一つの手で,システム構築に当たってそれは参考にすべき事柄だと思います。   ただ,メールの到達について最後言われたのですけれども,迷惑メールに掛かるかどうかということは,それは受信者の設定に関わるので,システム構築で対応できないのではないでしょうか。それはやはり無理,そこまで求めたら結局これはもう潰れるということになってしまうので,それはどこかで妥協点を見いだすしかないのではないかという感想を持ちました。最後の点は技術的な話で,私がしゃべるのは適格ではないかもしれませんが,一応,気付いたのでお話ししました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 私自身はこれについての意見を申し上げるというよりは,御議論いただく際の御参考までにということで2,3申し上げます。   まず,メールの問題でございますが,今はたまたまコロナで企業関係の皆様も海外出張しにくい状況にあるかと思いますが,当然これからの国際化の時代において海外出張も増えると想定されます。これは従前から申し上げていることの繰り返しになりますが,いわゆるブロッキングを行った結果,特定のメールを海外では受信できないという事例が年々増えていることを踏まえないと,国際化の時代に逆行するということになりかねない。あるいは逆に,メールについても,電子メールアドレスのうちこのメール,例えば具体的に言うとGmailは登録できませんというようにあらかじめ事前に明示する必要があるのではないか,それは法律本体に書く必要はないのかもしれませんが,確実に海外においてもブロッキングを受けないメールというものを明示する必要があるのではないかという気がいたします。さらに言えば,これはやや特例というか特殊な事情かもしれませんが,現在ミャンマーにおきましては1日数時間程度しかそもそもインターネットで海外にアクセスできない,在ミャンマーの日本人の方も大変不便かつ苦労されているという話もございますので,その点も御参考までに御紹介を申し上げます。   それから,2点目,阿多委員が先ほどおっしゃっていた専用のメールアドレスを作るべきかという問題で,これはシステムの作り方によります。今,最高裁の方でTeamsを使った試行をされているそうですが,TeamsというのはマイクロソフトのWindowsの上で動きますけれども,メールアドレスでWindowsのユーザー認証をした後,Teamsに入ることになります。したがって,裁判所のTeamsを終了して,その後一回,Windowsのユーザーをサインアウトしないと,同じメールアドレスでWindowsに入って別のTeamsにアクセスしようと思ってもアクセスできないということが生じ得ます。確か最高裁の試行のTeamsは平日しか使えない仕様なので,うっかりWindowsからサインアウトしておくのを忘れると,同じメールアドレスでWindowsにサインインして,土日に別のTeamsにアクセスしようと思ったらアクセスできなかったとかというトラブルがあったやに聞いておりますが,それはそういうWindowsとTeamsの仕様によるものです。当然,本システムではそういう環境依存がないシステムになることを期待しております。   それから,日下部委員がおっしゃっていた海外の主権の行使との関係でございますが,長い話になるので詳細は申し上げられませんが,いわゆるリモートアクセスに関しまして,これは刑事の方でもかなり議論のあるところでございます。かつ,中華人民共和国のようにサイバー空間の主権という言葉を使った法律を制定し,中国国内のデータに対する外国政府からのアクセスを受けた際は政府への報告義務,さらに提供する場合に許可義務まで定めている国もあることに鑑みますと,慎重に検討する必要があるのかなと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 部会資料について質問なのですけれども,部会資料の28ページの先ほど来,日下部委員などが指摘されているところで,システム送達の対象となる者は「1週間に一回以上裁判所のシステムにアクセスし,自らの関係する事件について情報の更新がないかどうかを確認すべき」という記載がありますが,これは実際に,当事者は1週間に1回以上アクセスをしなければいけなくなるということなのでしょうか。この記載の意味がよく分からなくて質問です。送達の書類のほとんどは,例えば判決だと判決の言渡しの期日が分かるわけで,大体いつ判決書が来るかは分かります。その時期が予測できないものとしては,補助参加や独立当事者参加,共同訴訟参加,反訴状など,こういうものは期日間に行われるものが多いと思いますが,それに関しては,いずれ期日があって,早晩,送達されるというのが分かるわけです。そういう意味で,訴状など,いつ来るか分からないというのはあるのですけれども,常に1週間に1回以上,裁判所のシステムにアクセスして確認しなければいけない必要があるのかどうかというのが,部会資料を読んで分からなかったので,教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ただ,その点はまだ議論に入っていない,次の2のところの話になります。もうそこにかなり議論が皆さん,入っているのですが,今の大坪幹事の御質問は,取りあえず1の点の議論を終えた後,また後で事務当局から,この2を説明していただくときにその点も触れていただければということにしたいと思います。 ○青木幹事 青木です。若干2にも関わるのですが,1のところで,システム送達における通知や閲覧の位置付けについて,部会資料の整理でよいのかなと思っていたのですが,先ほどの日下部委員の閲覧は構成要素ではないという御発言を聞いて,なるほどと思うところもありましたので,私が理解したところを確認させていただくということで,若干申し上げたいと思います。   部会資料の1の閲覧した場合と,2のみなし閲覧の場合を別々に考えると,前者の方の閲覧をした場合は,それは閲覧によって効力が生じるということなので,効力発生の構成要素になっているといわざるを得ないのではないかと思ったのですが,恐らく閲覧とみなし閲覧を区別せずに,アップロードと通知の発信によって閲覧の機会を保障するということで送達の効力が生じると,閲覧はその効力の発生時期のみに関わると,閲覧をした場合には閲覧をしたときに効力が生じ,閲覧をしない場合にはみなし閲覧で1週間を経過した日にその効力が生じると,そういうふうに理解するということなのかなと私は理解したのですけれども,そのような理解でよいのかなというのをもし教えていただければと思います。 ○日下部委員 私自身は,通知の発信をしたというだけで送達の効力を発生させるための,送達対象書類の内容を了知する機会を提供したとまでは言いづらいという状況があるという理解をしていたものですから,それに加えて,受送達者が閲覧等をするということが少なくとも送達の効力発生要件にはなるのではないか,場合によってはそれを送達という一連の行為の構成要素とするという考え方も,そこも一応採り得るのかなと捉えていたところだったのです。   ただ,青木幹事の方から御指摘いただいたのは,閲覧等というのはみなしも含めて,いつ効力発生したのかという効力発生時期だけを決めるファクターであって,送達に必要な行為,言い換えますと送達の構成要素になっている行為というのは,アップロードとその通知だけでいいのだというお考えで,少し意図しているところは違うのだろうと思います。ただ,閲覧等というのが送達の効力の発生の時期だけを決めるという整理の仕方というのが,送達の効力には関係ないのだけれども時期だけそこで決定されるというのが,やや技巧的な感じがして,区別をすることがどういう意味を持ってくるのかなというのが,ほかの問題状況が想定できないというか,頭に思い浮かびませんので,十分に分析できないのですけれども,ややその点で違和感といいますか,どんな問題がほかに出てくるのかなというのは関心を持ってお聞きしていた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○青木幹事 分かりました。誤解していたところがあったようで,失礼いたしましたが,御説明いただきましてありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。今のシステム送達との関係で,国際送達の話題が少し出ましたので,本日の資料の第5のところでも国際送達の関係について若干触れていただいておりますが,短く発言させていただきます。日下部委員の御発言の中で,このシステム送達の構成要素として何を捉えるかによって少し,どの程度国際送達に使えるかどうかが変わってくるのではないかという御指摘がございまして,それ自体は一つのお考えとしてはそのとおりだろうなと思う一方で,第5にも記載されている検討会の方の意見の関係からすると,そうやって分析的に見て構成要素を一つ一つ捉えていって,国際法違反かどうかを考えるという立場もあれば,もう少し全体として,行われることを全体的に捉えて国際法違反かどうかを考えるという立場もあって,この点については第5のところで発言しようかとは思っていたのですが,国際送達等に関する検討会の方の検討結果としては,システム送達の構成要素としてどういったものを捉えれば国際法違反にならないかということについては,意見の一致はなかったところでございます。国際送達のところについてシステム送達を使えるようにしようという観点からの検討というのはあり得るのかもしれませんが,ただ,現状ではどのように構成要素を捉えたとしてもやはり難しいのではないかという御意見も検討会の中ではあったと理解しているところでございまして,その点からすると,国際の問題について何人かの先生から御指摘はあったところではございますが,個人的には,まずは日本の国内の民事訴訟法としてどういったシステム送達が適切であるかをお考えいただいた上で,国際の問題といったものについてはその次の段階として考えるべきではないかと考えております。この点のみ発言させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   外国送達については,今お話がありましたように,第5で,恐らく次回にならざるを得ないと思いますが,御議論を頂くことになろうかと思います。この1の点については他によろしいでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。すみません。送達の基本的な考え方についていろいろな考え方があるところで,私自身は現時点での私の考え方として,閲覧によって効力が生ずるという場合を考えたときには,その閲覧した書類が送達の対象となっている書類であるということの認識が問題となるのではないかという方向の考えを述べたところで,それについては反対のお考えも伺ったところですので,引き続き考えてみたいと思いますけれども,仮に私のような考え方に立った場合には,資料ですと26ページのところで,送達すべき電子書類の閲覧等という(4)の記載がありますけれども,訴訟記録の閲覧等がされた場合に,システム送達における閲覧等も併せてされたものと考えてよいという結論的なまとめがされているところですけれども,閲覧の際に,それが閲覧者に対する送達の意味を持っているものということが分かるような形で閲覧されるのかどうかというところが私の観点からは重要だということになりまして,たまたま見ればそれが全て送達の効力を生ずるということでよいのかということに,少し私自身は関心を持っているということになります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今,垣内幹事が最後におっしゃった点ですけれども,先ほど申し上げましたように,例えばログインした段階でお知らせ欄が出てくると,お知らせ欄で前回以降にアップロードした書面のリンクが全部貼ってあって,そこに「New!」というのが付いていると,そこから次に本来の訴訟記録のところに行けるというようなシステム構築をして,入口のところで送達があったということが分かるようにするというのは,メール以外の方法で可能なので,そういう手法も取り入れながら考えるべき問題で,私はメールによる通知に固執することがどうなのかということを先ほど申し上げたつもりです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにはよろしいでしょうか。資料の25ページの(3)で,当事者以外の者について認めるか,証人,関係人等について,訴訟関係人にもシステム送達を利用することができるということですが,これについては特段,御意見がないという,御異論はないと理解していいですか。特段の御発言はございませんか。   それでは,以上で1については御議論いただけたということにいたしまして,引き続きまして,資料26ページの2,先ほども少し議論の中身に入っていただいている部分もありますけれども,「送達すべき電子書類の閲覧等をしない場合に関する特則」,これを取り上げたいと思います。   事務当局から説明をお願いいたします。 ○西関係官 いわゆるみなし閲覧の特則を設けることの当否につきましては,これまでの部会においても様々な御意見を頂戴しているところでございまして,パブリックコメントにおきましても賛否それぞれの御意見があったところでございます。この問題は,実際に閲覧をしていない当事者について送達の効力の発生を認めることが,手続保障の観点から許容されるかどうかというような問題であると考えられまして,この点を考えるに当たっては,通知が確実に到達することを裁判所の方で確認できないということも一つの問題の所在であると思われるところでございます。   この資料につきましては,この点について幾つかの考え方を整理させていただいたところでございます。説明の中では,中間試案で掲げた考え方,若しくは対象を絞ってみなし閲覧の特則を設けるというような考え方,みなし閲覧,特則を設けつつ,一定の場合の例外を設ける考え方というような,そういった考え方を例示し,それぞれの基礎となる考え方を記載したところでございます。   なお,1点,先ほど大坪幹事の方から御質問を頂いたところでございます。みなし閲覧の特則を設ける場合には,実際には閲覧していない者について送達の効力を発生させることの言わば正当化根拠のようなものが必要になると考えられるところであります。この点についての一つの考え方として,1週間に1回は閲覧すべきという考え方をここでは提示させていただきましたが,大坪幹事のおっしゃるとおり,送達書類の中には送達を予見できないものばかりではないということからすれば,1週間に1回必ず見なくてはいけないというわけでもないというような考え方を基に,その正当化根拠というものを組み立てていくというような考え方もあり得るかと思いますので,その点につきましては御意見を頂ければと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見を頂ければと思います。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。1点教えていただきたいのですけれども,今回,参考資料12で諸外国の例が出ていますが,IT化が進んでいる諸外国では,このみなし閲覧的なことが行われているのか,その辺りのことがお分かりでしたら教えてください。お願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○西関係官 全ての国について全般的な調査をできているわけではございませんが,参考資料12には記載はございませんが,例えば韓国などではそういった規律が設けられていることを確認したことがございます。 ○藤野委員 結構大事な問題だと思っておりまして,私はみなし閲覧ではなく,やはり何らかの形で送達されたことを連絡し確認してほしいのです。電話やファックスやお手紙や,ほかの方法もあると思うのですけれども。現段階ではそういう方向にはなっていないようなので,今後で結構ですので,実際にIT化が進んでいる国はどうなのかという辺りはもう少し,教えていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。それでは,事務当局で可能な範囲で調査していただいて,分かった範囲でまた部会にも御報告を頂ければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 中途半端なものでありますけれども,少し意見を申し上げたいと思います。   このみなしの問題につきましては日弁連の意見書の中でも触れられておりまして,そこでは,みなし規定を設けることには賛成であるけれども,送達の効果が受送達者の権利や法的地位に重大な影響を及ぼすものであって,かつ当事者が将来の送達を予見できないようなものについては,みなし規定の対象とすべきではないという考えを示しております。   具体的にどういう書類がみなし規定の対象とすべきではないのかということには踏み込まれていないのですけれども,一応この考え方をベースにするとどういったことが考えられるのかというと,これはなかなか難しいところもございまして,想定されるものとしては,訴状や反訴状や,あるいは即時抗告の対象となる決定書,これが送達される場合ということですけれども,その辺りが問題になり得るのかなと思いながら,具体的にどういう不具合が生じるのだろうかということを考えますと,先ほど大坪幹事の方からも反訴状については言及もあったかと思うのですが,想定しづらい面もあろうかとも思っています。非常にイレギュラーな状況では,訴状や反訴状においてもみなしの定めが適用されると不都合が生じるということが具体的に考えられないわけではないかなと思うのですが,なかなか具体的,現実的な問題状況がどの程度発生するのかというのは,もう少し考えないといけないと個人的には思っているところです。   すみません,少し生煮えのことを申し上げて,失礼いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。大変重要な御指摘だったかと思います。 ○小澤委員 このような制度を設けることについては賛成をしています。ただ,司法書士とか弁護士さんであれば,先ほども出たように,システムを毎日チェックするようなビジネススタイルになるでしょうから,問題はないとして,やはり本人訴訟については,懸念があるという理由はあると思っています。ただ,そうであっても,またそこで紙にという話になってしまうと,IT化の意味もどんどん薄れていくような気もしますので,例えば既読が確認できるようなSNSであるとか,自動電話サービスなのか,これからもいろいろな技術は発展していくのでしょうから,そういうメールとかに限らず,様々なITツールを活用したユーザーフレンドリーなシステムというのを検討していけばいいように思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 みなし送達に例外を認めるべきか否かについて,認めない根拠として,法97条による訴訟行為の追完によって救済を図るべきという提案が27ページから28ページに紹介されています。パブコメでも出ていた意見と思います。ただ,97条の少なくとも条文の書きぶりは,当事者がその責めに帰することができない事由として帰責事由を問題にしています。そうなると,何らかの義務を観念する必要があります。先ほど大坪幹事からも話が出ましたように,1週間に1回見なければいけない義務を負うのであれば説明が付くと思いますが,元々97条の表現で使われている当事者の責めに帰することができない事由が,システム送達において何を意味するのかについては,前回のシステム障害に関連していろいろ議論があったところです。   そうしますと,例外を認める根拠として97条で議論するのは適切ではなくて,システム送達を前提にどういう例外を認めるのか,認めるとして,日下部委員から提案された対象書類の問題なのか,それとも当事者の関与に根拠を求めるのかを整理していく必要があると思います。結論は97条では説明が付かないという意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。その点,阿多委員は具体的にどういう場面が救済に値するというか,救済すべき場面だと御認識なのでしょうか。 ○阿多委員 日弁連は法的効果が受送達者の権利や法的地位に重大な影響を及ぼすものであって,かつ,当事者が将来の送達を予見できないようなものはみなし送達の対象としない旨の意見を述べていますが,少し意見は留保したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 今の阿多委員の御発言に関連して申し上げたいと思います。97条の帰責事由の有無の判断の前提として,義務設定というのは本当に必要なのでしょうか。例えば,交通事故に遭って人事不省に陥っていたために上訴期間中に上訴できなかったというのは,これは責めに帰すことができない事由の典型だと思うのですが,その場合にどういう義務があるのでしょうか。健全に生きる義務というのがあるということでしょうか。 ○山本(和)部会長 御質問のようですので,阿多委員。 ○阿多委員 形式的な文言を前提での疑問を指摘したつもりです。御指摘のとおり,元々97条の責めに帰すべき事由については,郵便の不着なども含めていろいろ議論されていることは承知しており,客観的環境の問題も議論もされているのは理解していますが,システム送達における障害等について,郵便とは確実性が異なり,97条の字面,書きぶりとは必ずしも整合しないのではないかと考え,システム送達独自の例外,根拠を議論する必要があるのではないかと,その点のみの意見です。 ○山本(克)委員 それは,責めに帰すべき事由というのがシステム送達の場合何なのかという議論をすればいいだけの話で,97条の枠外で議論しなければならないということには何もならないのではないでしょうか。例えば,大きなゲートウェイがサイバー攻撃によって全部潰れてしまったという場合は,確実に責めに帰すことができない事由ですよね。だから,そういうものを挙げて幾つか考えていくということで,最終的には裁判所の御判断でそこは考えていただくことになると思いますけれども,97条の枠外でというのは私は少し賛同しかねます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 2点ございまして,私は中座していたものですから,1のところの議論をきちんと聞けていないところもありまして,1のところで先ほど,通知というものをどういうふうに位置付けるのか,送達の構成要素とするのかどうかというお話があったと思うのですけれども,私も,公証ができないということもあって,通知について構成要素としない,そういう行き方も十分にあるかなと感じているところでございます。   それを前提にしますと,このみなし送達についての起算日なのですけれども,今のところ通知がされた日からとなっているのですけれども,一貫させるとすると,アップロードをした時点からということになるのではないかと思っております。そこの関係は,先ほど青木幹事もおっしゃったかもしれませんけれども,少し関連するのかなと思ったので,まずそこを発言させていただきました。前に富澤幹事がおっしゃっていたことで,アップロードすればもう自動的に通知が発せられるのだと,あと,通知は発すれば,それでもういいという話であれば,ほとんど同じなのかもしれませんけれども,そういう,法制として一貫させる必要があるのではないかと思いました。   もう1点,これは非常に乏しい知見を申し上げるのが恥ずかしいのですけれども,先ほど藤野委員がおっしゃった,外国の制度についてどうなっているのかという部分について,前の研究会のときに少し私,アメリカのことを調べる当番になりまして,連邦の規則などを見ましたので,そのときの資料を今,見ているのですけれども,電子的な提出を受領する人は,それは弁護士は基本的に,いわゆる義務化されていまして,また,本人訴訟の本人も同意をすれば電子的な提出を受領するのですけれども,ペイサーというアメリカのシステム,そのペイサーや電子的な事件記録の動きには常時注意を払っておかなければならないといった規定がありまして,裁判の登録についても同じであるというようなことが表現としては規則に書かれています。どのくらい厳格な運用がされているかというのはよく承知していませんけれども,少しそういうことを調べたことがありましたので,お話ししました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。貴重な情報の補充を頂いたかと思います。 ○大谷委員 素朴な質問で恐縮なのですけれども,先ほど97条の訴訟行為の追完について議論がなされていたところですので,教えていただきたい事項がございます。   これは,先ほど帰責事由について主に議論の対象となっていたのですけれども,そういった事由が消滅してから1週間という,その期間中に追完しなければいけないという規定になっているかと思いますが,どういった事由が該当するのかという問題もありますが,それが終了した時点というのをどうやって特定することができるのか,事後的に特定することもなかなか厳しいという問題もあるのではないかと思います。システムダウンのようにはっきりとした復旧がなされたときというのは分かり得るのかもしれないですけれども,それであっても段階的に復旧していく場合にはどの時点をもって事由が消滅したといえるのかといったところは,もしかすると一義的に特定ができないかもしれないと思います。そういう意味では,97条の1項をこのままの規定としてみなし送達の例外を議論するというのはなかなか厳しいのではないかと思いますので,更にこの点については議論を深めていくべきではないかと思います。これらについては過去の裁判例の集積などもあると思いますので,どのような基準を考えるのかといったことについて知見がある方に教えていただければということで,質問の形で問題提起させていただきます。   あとは,せっかく発言の機会を頂きましたので,もう1点だけ申し上げますと,やはりみなし送達ができない場合の一つとしては,裁判所側,つまり送信者である裁判所側でメールがエラーになったときには,少なくとも相手方にそれが到達していないことが確認できますので,そういった場合にみなし送達を認めるということはそもそもあり得ないのではないかと思っておりまして,これはどういったシステムを作るのかといったことにも関わりますし,あと,この制度そのものにどこまできめ細かな例外を明記するか,それは条文上に明記するかということでもあるかと思いますが,それに関わってくるかと思いますので,是非御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   第1点は御質問の形でしたが,事務当局から何かありますか。 ○西関係官 なかなか難しい御質問でございますが,典型的には,例えば天災などによって郵便が不通になり,郵便で送ったつもりなのだけれども,それが届かずに,不変期間を徒過してしまった場合などは,追完が認められる事例に当たり得ると思われます。そういった場合ですと,例えば天災による郵便の遅延といった事由が消滅した後ということになるのだろうとは思うのですけれども,それが,例えば一体何月何日の話なのかというところについては,個別事案ごとの裁判所の判断になるのだろうと思われます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 少し前に笠井委員の方からの言及がありました,通知というものをそもそも送達の構成要素としないという扱いにするということとした上でのみなし規定という考え方もあるのではないかという御指摘があったところです。これは,このみなしの問題以前の1のところの議論のときに,私は自分の考えを申し上げたところで,通知なしということで送達の構成要素が満たされたと判断するというのは,取り分け本人訴訟における本人さんが通常どのような訴訟に対しての考え方をするのか,事件管理システムに日常的にアクセスするということを期待できるのかどうかという観点から言うと,通知なしで送達の構成要素が満たされるという考え方は採り得ないだろうと申し上げたところでありますので,通知なしを前提とするみなしという考え方にも賛成しかねるところであります。   ただ,先ほど笠井委員の方から言及がありました米国の例にあるような,それを日本に引き直して言えば,事件管理システムに利用登録した者は常にどういうものが連絡として来ているのかどうかを注意して見ていなければいけないという,こういったある意味義務付けをするということで,通知をeメールなどで送らなくても済むようにするという制度設計そのものはあり得るのだろうと思います。しかしながら,そのような設計をしますと,結局,事件管理システムを利用して訴訟手続をやるということは日常的にシステムにアクセスをして様子うかがいをしなければいけないということを意味することになりまして,一般の訴訟当事者の観点から言うとハードルが高いといいますか,そんなことまでしていられないと考えられやすいのではないかという気もいたします。これは政策論の話で,私は政策論としては少し適切ではないのではないだろうかと感じるところです。   それから,もう一つ,先ほど来,訴訟行為の追完の規定とみなしの規定の関係で御議論があったかと思います。大谷委員の方からは,訴訟行為の追完の規定の現実的な運用の局面での不安定さや難しさがあるのではないかという御指摘があったように思うのですけれども,それは現行法97条1項の規定プロパーの問題であって,それがゆえにみなしの規定についてどうこうという議論をするのは少し難しいのではないかと思いました。   むしろ私が問題視しているのは,この訴訟行為の追完の規定の射程範囲外で問題が生じ得るのかどうかということであって,それが起き得る書類としては,訴状や反訴状のように,不変期間とは関係がないけれども受取り手の方に不利益が発生し得るタイプの送達対象書類ではないかと思っていたところです。   ただ,例えば訴状を例にして言いますと,訴状がシステム送達されるためには被告の方が事件管理システムに利用登録をしなければなりませんので,利用登録をした被告としては,訴状の送達がその後来るなということは大いに分かるわけですし,それが予定外,想定外で気が付きもしませんでしたという事態は普通余りないだろうと思います。それでもなお問題が発生することがあるのだとすると,例えばですが,被告が事件管理システムに利用登録した後に原告の方から訴えは取り下げましたという間違った情報を伝えられて,それならばと安心して,その通知が来ているのに気が付かないまま時間が過ぎて敗訴判決を受けてしまったと,こういうようなケースだと訴訟行為の追完の規定でどうこうなる問題ではないのだろうなと思った次第です。教室事例のような話をするのもどうなのかなという気もいたしましたが,訴訟行為の追完の規定とみなしとの関係で考えてきたことを申し上げました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今の日下部委員の最後の設例というのは,確定判決の騙取例として,病理現象として扱う,事後的に何らかの対策をするという典型例で,それを例に,これが駄目だという話には少しつながりにくいのではないのかという気がいたしました。   それと,反訴状や,独立当事者参加などが典型ですが,参加申出書の送達を見過ごしたことで,どういう不利益が生ずるのでしょうか。その後,期日指定は普通されますよね,それで期日指定も見逃してしまうということですか。それは,でも,そこまで保護してやらなければいけない場合というのはあるのでしょうか。反訴状を見落としたことによる不利益の内容をもう少し教えていただけますでしょうか。 ○山本(和)部会長 日下部委員,いかがでしょうか。 ○日下部委員 反訴状については実際上,見過ごし問題が発生する状況というのは想定するのは非常に難しいと考えていたところであります。ただ,本訴の訴えの取下げとタイミングが交錯して反訴状が提出されるというような事態を仮に想定すると,反訴状の送達の見落としということは考えられなくもないかなとまで考えたのですが,それこそそんな事態のことまで考えて制度設計に臨むべきなのかと言われてしまいますと,率直に言うと,自分でもどうかなと思います。ただ,私自身の考えの出発点は,日弁連の意見書の中で書かれている,こういったタイプの書類についてはみなしの規定を適用すべきではないという,その提案が前提としてありまして,それに該当するような書類は何だろうかというところから思考を展開していったので,自分自身でも苦しい問題設例を探すことに陥っているわけで,それを称して生煮えで申し訳ありませんとお伝えしたところですので,それについて,そんなことがあるのかとか,いろいろ追及されますと,私自身も正直,つらいものがございます。 ○山本(克)委員 分かりました。失礼いたしました。多くの場合,期日指定がされるはずなので,その期日指定も見逃すというようなことになっている場合しか考えられないのですけれども,期日指定も含めてみなしは駄目だと言わないと一貫しないことになってしまうのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この2の点,いかがですか。 ○垣内幹事 垣内です。これもなかなか悩ましい問題なのですが,私自身は基本的にはみなし送達という仕組みを設けるということについては前向きに考えておりまして,このような制度が必要だろうと思います。また,その対象について限定ということは,これもあり得るかもしれませんけれども,なかなか線引きが具体的にどうなるかという点について,私自身はこういう線引きならいいのではないかというアイデアを持っておりませんので,それもなかなか難しい,となると一般的に導入するということなのかなと今のところ考えております。   先ほど笠井委員から,通知の発出を基準とするのか,それともアップロードそのものを基準とするのかという点について御指摘がありまして,確かに送達すべき書類としてアップロードされて,そうすると自動的に通知も発出されるという仕組みを前提にすると,いずれでも結果として同じということになります。   ただ,私は,またこれも教室設例的なことで,変なことにこだわっているのかもしれませんけれども,ある書類が送達すべき書類としてアップロードされるということがきちんと確保されるシステムになっているのかどうかということに少し依存するところがあるのかなとも思われまして,例えばですが,訴え取下げを準備書面の中でやって,それがそのまま直送だけされているのだけれども,送達の形式はとっていないけれども,一応,直送の形ではされているというような場合で,これは送達の形式をとっていないので,当然その通知の発出もないというような形になっているときの扱いとかいったものを考えたときに,アップロードということに着目するというのが具体的に何をしたときということを想定するのかということにもよるのかなと思われまして,他方で,このシステム送達という新しい制度ですので,これをどう位置付けるのかというところが難しくて,裁判所にみんなが私書箱みたいなものをもらって,そこに1週間に1回,必ず見に来てくださいねというのがオンラインなので非常に簡単にできますというような制度と考えたときに,私書箱に入りましたと,アクセスできる状態になりましたということであれば,抽象的には閲覧可能性はあるわけなので,そこで支配領域に入ったと考えれば,通知も何も必要なく,アップロードさえ,そこに入れられれば,それで足りるし,そこから一定期間たてば送達の効力が当然に生ずるという発想は,理屈としてはあり得る発想なのだろうと思います。   ただ,現実に毎日見に行くとか,1週間に1回見に行くとかいうことが全ての関係者にとって当然に要求できることではないということであると仮にしますと,やはり抽象的にそこに入っているというだけではなくて,具体的に当該書類が送達対象書類としてそこにあるということを了知する機会があった方がよく,しかし,これを通知の到達という形で確証することは難しいにしても,通常であれば通知が届くであろうというような,了知可能性が与えられるであろうというような措置を裁判所としてとったということがこのみなし送達の効力の発生要件であると位置付けるという考え方も一つあり得るのかなと思っておりまして,そうしますと,やはり通知の発出ということを基準とするということになるのかなと今のところ考えております。   その場合,先ほど大谷委員から御指摘のあった問題で,発出はしたのだけれどもエラーで戻ってきているという場合に,これは発出をしたということになるのかどうかと。形式的には発出はしているということになるのかもしれませんけれども,発出はしたけれども到達していないことが発出者において明白であるという場合に,それでもみなし送達の効力を生じさせてよいかという点については,私はかなりちゅうちょを覚えるところで,そのような場合には送達の効力が発生しない,少なくともその発出によっては発生しないという規律の方が好ましいように考えております。それをどのような形で法律的に表現するかについては,まだ検討が不十分ですけれども,方向性としてそうではないかという意見を持っております。   それから,訴訟行為の追完による救済ということに関しても御議論があるところで,これは抽象的にはあり得る話だろうと。しかし,従来の追完の事例から見ますと,かなり限定的な場合,郵便事情等で当事者には本当にどうしようもないという場合を想定しているということかと思われまして,このシステム送達のように,いつでも注意をして,毎日あるいは毎週見ていれば気付くことができたけれどもそれをしなかったというときに,例えば通知がたまたま届かなかったという理由で97条の追完が認められるのかというと,従来の追完の解釈論からすると,そこはかなり難しいということになるのではないかという感じもいたします。それはもうそのようなものとして,やむを得ないという割り切り,その割り切りをする前提として,返送されてきたような場合にはきちんと送り直すであるとか,定期的に何らかの連絡をしてそういうことがないような策を講じておくとか,様々な工夫があって,通知の発出ということに十分信頼性が置けるという前提であれば,そういう割り切りも可能なのかなという感じもいたしますし,そこがそれほど信頼できないということだといたしますと,そのような割り切りをしていいのかという問題意識が強まるということで,その場合には追完とは別に何か例外を設ける必要があるのかということが改めて問題になるのかなという感じがしております。ということで,悩んでおりますということですけれども,今の時点での考えは以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 山本克己委員から指摘をされました韓国の状況等の説明を少し補足したいと思います。御指摘のとおり,事件管理システムとか,書類,データの提出に関するシステムの問題と,私が例に挙げましたウェブ会議システムとは別の話であり,韓国はデータの提出についてのシステムにデータがアップされた場合には,お知らせがシステム上表示されるので,それを見に行く形になっています。   今試みでされているTeamsについて補足しますと,Teamsのメンション機能を使って,メッセージを送ったことがTeamsからTeamsに登録しているメールアドレス宛てに連絡が入ります。したがって,Teams用のアドレスを独自に登録しているのか日常アドレスを登録しているのかによって気がつくか否かに違いが生じる。Teams用のアドレスを設定していると専用フォルダーにメールを見に行かないと気付かない,日常用のアドレスを登録していれば,日々チェックするので気付くというになります。このようにメールアドレスを日常使っているか否かよって気づくタイミングに差異が生じています。   さらに,97条の話題については,前回,湯淺委員から説明があった法律事務所に求められるセキュリティのレベルも検討する必要があります。大きなシステム障害があれば当然この要件を満たすでしょうが,それ以外に,特定の事務所が何らかの形で攻撃を受けて当該事務所だけにシステム障害が生じているとか,いろいろな場合があり得ると思います。97条を使うのであれば97条の解釈論として,今までの郵便等の安定したシステムを利用する場合と異なり一定不安定な状況にあり得る通信環境を前提に,どういうことが法律事務所として求められるのかを規範の定立として議論する必要があり,従前の解釈よりは不安定さを理由に広がる可能性があるのではないかとは考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今の阿多委員の御発言ですけれども,半分弁護士過誤の問題が混入しているような気がいたしました。この問題というよりも弁護士過誤の話を,つまり依頼者との関係でどういう義務を尽くしていれば,仮に送達を見逃した場合に免責されるのかというような話をされているような気がして,少しその辺り,二つのことが混ざっているのではないかという印象を持ったということだけ申し上げたいと思います。   それと,メールの不到達,エラーが返ってきたという場合の扱いですけれども,これは2とおりあり得ると思うのです。これはシステム設計上あり得るのかどうか分かりませんけれども,届け出たメールのどこか一部を間違えて登録されてしまったと,本来届け出たメールアドレスではないメールアドレスに送ってしまったために返ってきたという場合と,届出自体がその時点で誤っていた,私はこの間,某所にメールアドレスをお渡しして,Uが一つ抜けていたために到達できなかったといって怒られたことがあるのですが,そういうケースであるとか,事後的にそのアカウントを廃止してしまった,あるいはメールサービスの提供者がもう廃業してしまってサーバがなくなってしまったとか,いろいろな場合があり得ると思うので,それぞれについて少し考えなければいけない可能性というのは出てくるのではないかという印象を持ちました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,この論点はこの程度にしたいと思いますが,若干微妙な時間帯になってはいるのですが,取りあえず「3 システム送達に関するその他の論点」,これについて議論に入ってみたいとは思います。終わらなければ次に持ち越すことがあり得るかもしれませんが,まず事務当局から説明をお願いします。 ○西関係官 30ページ目の「3 システム送達に関するその他の論点」についてですが,こちらは中間試案において(注)で取り上げていた論点について,パブリックコメントに寄せられた意見を踏まえて若干の検討をさせていただいたものでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,三つ,(1)から(3)までございますけれども,どの点でも結構ですので,御発言があれば頂きたいと思います。 ○日下部委員 (3)の受送達者を限定する届出に関して申し上げたいと思います。この点につきましては日弁連の意見書の中では,そのような考え方に賛成をするという意見が示されているところです。ただ,この考え方につきましては,主として訴訟代理人をしている弁護士の方からそのニーズとして指摘されているもので,それが論理的にどうこうとか理論的にどうこうということではなく,むしろ非常に実務的なニーズの観点からの提案,意見であるということで,なかなかほかのお立場の方々の御理解を得にくいのかなとも感じている次第です。これは,受送達者の誰かが閲覧等をしてしまったら送達の効力が発生するということは,訴訟代理人にとっての訴訟追行に不確実性を生じさせるので避けたいという動機の話であるわけで,それ以上の御説明というのは難しいところです。私が考えてまいりましたのは,仮にそのような限定をするという届出が認められないということになった場合にどうなるだろうかという想像でございます。訴訟代理人の中には,そのような状況ですと,依頼者が自ら送達対象書類の閲覧等をして期間制限などの点で不利益な影響を自ら招くということがないように,依頼者自身にはシステムの利用登録をしないことを推奨するという者も出てくることもあるのではないかと思いました。しかし,それはIT化によって当事者本人にとっても訴訟手続の透明性を高めるという方向性には反することになりますので,そういう事態を避けるという観点からは,送達における受送達者を限定するという届出を認めるということも考慮されてよいのではないかと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○笠井委員 (2)のところですね,これは私というか,研究者が最初に発言するのがいいのかどうかよく分からないのですけれども,以前から裁判所の方と弁護士さんとの間でもいろいろ意見の対立があったところで,私自身はこの裁判所の方で書面に打ち出して送るべきであるという話を以前したことがあったと思うのですけれども,その場合に,その費用をどうするかという問題というのはやはり残ると思うのです。それで,32ページの下から3分の1ぐらいのところに書いてありますけれども,裁判所が書面への出力を行う場合における費用負担について,現行の取扱いと同様と書いてあって,現行では当事者負担となっていまして,これを考えますと,費用まで裁判所持ちというのは,このIT化との関係でそこまでの政策変更をするのかということになると,少し一足飛びすぎるかなという感じをしておりまして,私自身は一応,裁判所が書面化すべきだと思っておりますけれども,その費用自体はやはり当事者負担の訴訟費用ということにするのが穏当だと思っているということを発言させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 笠井委員から先行して(2)についての発言がありました。費用の問題は,まず誰が納めるのかという問題と,その負担は誰に帰属するのかという二つの論点がありますが,別のところで訴訟費用の議論があり,そこで議論すべきと思いますので,負担についてのコメントは控えたいと思いますが,手続の流れから考えていることを述べます。   今回の提案は,原告を前提に説明すると,原告は電子データで提出する,そして,3の(1)の場面で,被告は通常事件管理システムの先行登録をしていないので,被告にはがき等を送って登録を促す,しかし被告が事件管理システムに登録しない場合には,裁判所が被告に書類を送達するという流れになります。今回の2の提案は,どの段階で訴状等の書面を準備するのか,タイミングがよく分からない,ないしは費用を納めるタイミングもよく分からないと思います。訴状提出の段階ではデータで提出し,裁判所が訴状審査をして被告にはがきで通知するまでは少なくとも書面は提出していません。被告にはがきを送って,被告が事件管理システムに通知アドレスを登録しないことが分かった段階で,裁判所から原告に連絡があって,そこから原告が書面を裁判所に提出する,また,手数料は原告が少なくとも納めるという前提があれば,そこから原告が手数料を納める,そして裁判所は受け取った書面を送るという流れになり,かなり間隙というか,長期間を要することになると思います。   そうなりますと,それだったら最初からもう書面で提出した方が早いということになりかねません。手数料を納めるとしても,原告が納めるタイミングが遅くなればなるほど訴状の送達が遅くなることになりかねません。実際の実務を考えたときに,原告に後で書面を提出させるとか,手数料を納めさせるという立て付けは,訴状送達まで時間が掛かりすぎる思います。   そういう意味では,シンプルなのは,裁判所で,被告が事件管理システムに登録しないことが分かれば,その時点でプリントアウトして送達していただくのがもっとも迅速かと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 代理人や書類作成者として裁判実務に関わる司法書士としては,一方に私たちのような法律実務家が付いていても,相手方に全くそういった法律実務家が付いていない本人訴訟であるというケースが非常に多く見られるわけですけれども,裁判IT化に関してこういった,法律実務家の全く関与がない本人訴訟の当事者に対しても,経済的なインセンティブ等によるオンライン利用へ誘導して,当事者かつ司法制度全体の利便性を高めていくという方向性については多分,部会でも異論がないというところだと思っています。裁判IT化による利便性を向上させて裁判の迅速化を図るという抜本的な目標を常に踏まえて各論を考えていくべきだと考えていまして,そうしますと,今の問題ですけれども,そもそも訴状副本の書面を誰が用意するかという問題というのはIT化による効率化とは本来無関係な話であって,書面の出力を裁判所の負担とする規律としますと,むしろ裁判の迅速化という目的に逆行する,抵触するおそれがあるようにも思っています。   他方で裁判所書記官の権限拡大ということも提案されておりまして,これは裁判所の人的リソースをより効果的に活用する視点に基づくものと理解していますので,こういった視点を踏まえて考えますと,送達や送付に用いる書面の用意について,代替性のある作業であるとして裁判所側の作業に転嫁するということは,裁判所の人的リソースの有効活用という観点から,果たして相当なのかという疑問を感じています。   具体例を紹介しますと,司法書士が受任する典型的な事例の一つとして,古い抵当権を訴訟により抹消するというケースがあって,このような事案では,抵当権者である被告が亡くなっていて,その相続人が100人を超えるケースもございます。こうした事案で,もちろん現在は司法書士が副本を印刷しているわけですけれども,これを裁判所の負担ということになりますと,裁判所のマンパワーの問題として不安を感じるというのが率直な感想でもあります。これまでする必要がなかった手間が増えるということになりますので,他の事務作業に悪影響を与えるということになったら司法制度全体の問題にもつながってくるようにも思っています。裁判のIT化によって目指すべき司法制度の在り方というのは,利便性を高めるツールを導入して,究極的には迅速に,より質の高い適正な紛争解決を目指すということだと考えておりますので,以上を踏まえて,平成8年の民事訴訟法の改正以降定着している現行の規律を動かす立法事実があるかということを考える必要があると考えていまして,これらを敷衍しますと,訴状副本等の出力負担,分担については現状どおりの取扱いでいいのではないかというのが私の意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   時間の関係がございますので,取りあえず今御発言の希望をいただいている委員,幹事には御発言を頂いて,ただ,今日で打切とはせずに,次回冒頭,このテーマから引き続き入るということにしたいと思います。 ○笠井委員 1点だけ,阿多委員のお話について。費用を納めるのに時間が掛かるというお話でした。費用の納め方にもよるのだろうと思いますけれども,提訴手数料と含めて一定額,そのほかの費用も含めて納めておくとか,そういったことは考えられていると思いますし,電子納付化されるわけですから,別に電話を一本もらってからすぐ納めても構わないと思いますので,そこで時間が掛かるからという理屈は,ないかなと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○渡邉幹事 先ほど来,笠井委員,阿多委員から,裁判所の方で印刷して送るというお話がありまして,毎度の話で恐縮なのですけれども,若干コメントさせていただきます。   現行の民訴規則では,当事者が提出する書面で相手方に対して送達を要するものについては,当事者に副本提出義務を課しておりまして,当事者から提出された副本によって送達が行われているところでございます。通知アドレスの届出をしていない当事者に対して紙の書面を送達するという状況は,現行制度における送達の場面と同じ状況ですので,民事訴訟手続のIT化後も引き続き維持されるべきと考えているところでございます。電子申立てをしたにもかかわらず相手方が通知アドレスの届出をしないために,副本提出義務を負わされてはかなわないという感情自体は理解できなくもないところでございますが,これを一律に裁判所の負担にするということは,当該訴訟に関与しない一般国民の拠出した公費によって訴訟当事者の事務を賄うということでございまして,特に過渡期におきましてはこのような事態が相当生じ得るもので,適切とはいえないと考えており,訴訟の受益者である当事者に担ってもらわざるを得ないのではないかと考えてございます。   先ほど阿多委員がおっしゃっておりました,送達が遅くなるのではないかということにつきましては,以前,私の方で,一回通知を送った上で反応がないようであれば訴状を送るというお話をしたときに,急ぐものにつきましては訴状の副本を出していただければ,それを最初から送ればいいというようなお話もさせていただいたところでございます。かなり急ぐものにつきましては,最初から訴状の副本を出していただければ,裁判所がそれを送るということで,この送達の期間が遅くなるリスクというのはヘッジできるのではないかと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 再三申し訳ありません。私は当事者が用意すべきだということで,やはりそれは書面は当事者で用意するという現行法の建前を特別変えるというのは,理由というのがよく分からない,利便性を高めるという理由だけで本当にそういう見直しが正当化できるのだろうかという問題があると思います。各種の公的なサービスでも,全く全部をパブリックセクターにお任せというような制度ばかりではありませんので,やはり当事者は今までと変わらないような負担は負うべきだということを出発点として考えていって,特段,訴訟システムの全体に過度の負担を与えないような場合については,当事者から裁判所に役割を移していくということはあり得るかもしれませんが,この場合,ものすごい負担になり得るわけですよね。   例えば,100人原告がいる訴訟で,共通の代理人を選んでくれたり,選定当事者を使ってくれたりすればいいですけれども,ばらばらだったら,同じ書類を100通,裁判所が印字しなければいけないと,それによってコピー機は一日ずっとそれだけのために占有され続けるというような事態も考えられるわけでして,それに付きっきりの人がいるわけですよね。それをまた仕分して,ソーターが付いていたら比較的やりやすいと思いますけれども,そういうことを裁判所がやるのが本当に適切なのでしょうか,という気が私はしています。   それから,湯淺委員が大分前におっしゃった,PDFに決め打ちにすれば,かなり出力の手間というのは減ると思うのです。しかし,例えば不動産に関する訴訟で所有権の範囲や境界の画定が問題になる場合には,プロッターで印刷しなければいけないような地籍図というのが訴状に添付書類で普通,付いていますよね,そんなものをどうやって裁判所がコピーするのでしょうか,という問題もありますので,やはりこの問題については,安易に利用者の利便性を上げるという非常に単視眼的な視点で議論するのは,私はいかがなものかという気がしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 単視眼だと言われて,発言するのも如何かとは思いますが,原告がデータで提出して,裁判所は領域1に提出されたものを,それを審査等して領域2に入れて,それは訴訟記録化されているわけです。領域2に登録されたデータをプリントアウトするわけですから,それこそ機械化されて,ボタン一つでプリントアウト,でも,最近は封入するまで一貫した機械もあるわけですから,裁判所でプリントアウトして封入して発信するという事務の方が裁判所にとっても負担が軽い,原告が後日提出した書類を領域2で訴訟記録化されているものと同一かをいちいち照合する方がマンパワーが掛かるのではないかと思います。   少なくとも,3の(1)にある事件管理システムへの登録の促しを実務の運用に委ねるのであれば,書面の提出は後にならざるを得ません。裁判所で訴訟記録をプリントアウトして送達するシステム,ハードを整備していただく方が裁判所にとっても合理的ではないかと発言しているつもりです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   以上で御発言の希望を頂いていた委員,幹事の御発言は終わりましたが,恐らく時間の関係で御遠慮されている委員,幹事もおられると思いますので,これで打切りということではなく,次回はこの3の点からもう一度再開したいと思います。御発言のある委員,幹事はその際,御自由に御発言を次回,頂ければと思います。   それでは,本日はこの程度にさせていただければと思います。   最後に,次回議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野幹事 事務当局でございます。本日も長時間ありがとうございました。こちらの見通しが大きく誤っておりまして,大幅に積み残すこととなってしまって,大変申し訳ございませんでした。   さて,次回の日程でございますが,7月9日金曜日,午後1時からでございます。場所につきましては追ってお知らせをいたします。   次回は,本日の積み残しとなりました部分,具体的には送達の3の部分から御審議いただきたく存じます。また,部会資料17の後は,主としてe事件管理に関する検討事項について先に取り上げさせていただきたいと考えているところでございます。本日の部会資料17では,中間試案の順番に沿って御議論いただいておりますが,次回からは,中間試案の項番とは前後する可能性がございます。具体的なことにつきましては改めて御連絡を差し上げたいと考えております。大変恐縮ですが,その旨,お含みおきいただければと存じます。 ○山本(和)部会長 それでは,これにて法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第13回会議を閉会にさせていただきます。   私の不手際によって時間を超過し,しかも大量の積み残しを出してしまうという仕儀になってしまい,誠に申し訳ありませんでしたが,次回もどうかよろしくお願いをいたします。   それでは,これで終了したいと思います。お疲れさまでした。 -了-