法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  令和3年7月9日(金)自 午後0時57分                    至 午後6時11分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,少し所定の時間より早いですけれども,これより法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第14回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   なお,本日は衣斐幹事が御欠席と承っております。   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○大野幹事 事務当局でございます。本日は,部会資料18「民事裁判手続のIT化に関する検討事項2」を配布させていただいております。資料の内容につきましては,後ほど御審議の際に事務当局から説明をさせていただく予定でございます。   また,本日は,併せて参考資料13として「証拠収集手続の拡充等を中心とした民事訴訟法制の見直しのための研究会報告書-被害者の身元識別情報を相手方に秘匿する民事訴訟制度の創設に向けて-」というものを配布させていただいております。こちらは,公益社団法人商事法務研究会で開催中の研究会の報告書になります。本日配布させていただいた部会資料18の第1に関わるものでございますので,御審議に際し,必要に応じて御参考にしていただければと存じます。   事務当局からは以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,早速ですが,本日の審議に入りたいと思います。   前回は積み残しが出ておりまして,部会資料17の途中ですね。17の30ページの第3の3の「システム送達に関するその他の論点」から始めたいと思います。この点につきましては,前回途中までは御審議を頂いておりましたので,前回お出しを頂いた御意見に補充するような点で御発言いただくところがあれば,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 3の(2)について,前回中途半端な発言で終わったので,補充という趣旨です。   裁判所から副本の提出義務との関係で,届出をしていない者に対する書面を準備する扱いをこの手続でも維持されるべきだとの意見,また,山本克己委員から利便性のみの向上を重視するのはいかがなものかというコメントを頂いていました。そこで,事務当局に確認をしたい事項があります。   まず,私のイメージは,届出をしていない者には,裁判所に電子化された訴訟記録をプリントアウトして送達すると理解しているのですが,そうではなく,原告自身が保有する電子訴状のデータをプリントアウトし,副本の形式にして裁判所に提出するのでしょうか。(2)で前提にする送達する書類の形態を教えていただけますか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局お願いします。 ○西関係官 阿多委員に御指摘いただいた点でございますが,何分システムの作り方に関係するところがあるかと思います。従前の部会において領域1,領域2といった考え方の御紹介も頂いたところですが,それ自体もまだ固まっているのかというところもございますので,何をプリントアウトするかというところについては,現状で固まったイメージを持っていないというのが,正直なところでございます。 ○山本(和)部会長 阿多委員,いかがですか。 ○阿多委員 少なくともこれまでのように,原告が副本を作成し,それに職印を押して裁判所に提出するという事務が今後も継続することは疑問に思います。裁判所は訴状の補正等の指示をして,補正済みの電子訴状が訴訟記録として保管されていますので,それをプリントアウトする方がトラブルもなくてよいと思います。   その場合,(1)で実際の運用として提案されている内容は,被告がシステム送達の採否をするかどうかを被告に問い合わせる。その上で,被告が拒否の回答をした場合には,私の案では,裁判所がその時点で訴訟記録をプリントアウトして被告に送達するという提案です。これに対して,原告で実施するという意見は,回答を受けた裁判所は,原告に連絡を取り,原告が訴訟記録をプリントアウトして裁判所に提出し,さらに,裁判所は提出された書類が訴訟記録と同一かを確認し,呼出状その他の書類を追加して裁判所が郵送するというものです。手間数がかなり付加された内容です。スケジュールの関係でも遅くなると思われます。デジタル化の利便性は,原告だけが享受するものではないとは思いますが,送達のためのプリントアウトは機械化して,裁判所と原告双方が利益を共有すべき事項と考えます。裁判所にプリントアウトのための部門を設置して対応してもらうことで,人的負担は軽減されると考えます。   それから,裁判所のコピー機が占有されるという話もありましたが,乙案で士業者は義務化されるということになれば,本人訴訟に限定され,そのほど裁判所の負担が拡大するとも思えません。単に利便性だけではなく,送達する書類の正確性も含めて,裁判所で事務負担をする案がよいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。恐らく今の御発言に対して反論があるんだろうと思いますけれども,繰り返しになりますが,前回既に御議論一定程度頂いておりますので,繰り返しの発言をしていただく必要はありません。今回発言しなかったら,前回の発言が消えてなくなるわけではもちろんありませんので,追加しての観点からの御発言があれば,更にお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,恐縮ですけれども,この点につきましては一応この程度とさせていただいて,新しい論点の方に入りたいと思います。   部会資料17の34ページになります。「4 公示送達」についてということでありますが,これについて,事務当局からまず説明をお願いいたします。 ○西関係官 御説明させていただきます。   34ページの「4 公示送達」については,基本的な部分は中間試案の内容から変更を加えておりません。ただ,これまでの部会で頂いた御意見ですとか,パブリックコメントに寄せられた意見を踏まえまして,インターネット上に公示することに加えて,裁判所内の端末でこれを閲覧可能とするか,裁判所の掲示板に掲示するか,いずれかの措置を併せて採るべきこととしております。   簡単でございますが,御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 それでは,この公示送達の点について,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見お出しいただければと思います。 ○阿多委員 まず,事務当局に質問です。公示の対象となる書類は,インターネットを用いてする訴訟記録の閲覧等での訴訟記録とどのような形で整理されるのか,同じものと考えるのかどうか。さらには,送達を受けるべき者は,訴訟記録の閲覧との関係では利害関係人に該当するのかを確認させてください。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局お願いします。 ○西関係官 訴訟記録の閲覧との関係でございますが,公示送達における対象書類の閲覧が送達の効力の発生と関わりがないとすると,その閲覧は訴訟記録の閲覧としての位置付けになるように思われます。送達を受けるべき者というのは,その訴訟について利害関係を有すると判断されるのが通常ではないかと考えられます。 ○阿多委員 そうすると,送達を受けるべき者に該当することの判断を経ないと,利害関係人としての閲覧が認めらないことになるが,インターネットを用いてする訴訟記録の閲覧では,裁判所書記官が利害関係があると判断できない段階では,裁判所外の端末を使った閲覧は制限されるので,一般の閲覧と同様,裁判所に来所を求め裁判所に設置された端末で閲覧を求めることになる,そのような理解でよいのでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○西関係官 ただいまの御質問というのは,公示すべき内容を閲覧するという場合の閲覧なのか,それとは別に,送達すべき書類自体を閲覧するという場合の閲覧なのかというところは,いずれの閲覧を指されているのでしょうか。 ○阿多委員 自らが送達を受けるべき者に該当するかどうかは,提供されている公示すべき内容によって判断することになりますが,何を公示すべき内容にするのかについて,36ページでもいろいろな情報を挙げられています。ただ,プライバシーを意識すると,当事者名だけとか,事件名だけを掲げることになり,となると,送達を受けるべき者だと主張する者の説明を聞いても,裁判所書記官は該当するかを判断できず,結果,利害関係なしと判断せざるをえない。そうすると,送達すべき書類自体の閲覧についても,自らが利害関係を受けるべき者だと主張する者に裁判所への来所を求め,裁判所に設置された端末で訴訟記録を閲覧してもらうことになるとイメージしましたが,違うのでしょうか。 ○西関係官 現状の公示送達においては,裁判所の掲示板に掲示されている内容を,送達を受けるべき者が見て,もし仮にそれが自分だとなったら,その裁判所の書記官室に出頭をして,その場で本人確認をして,送達すべき書類の交付を受けているのだろうと思われますので,それ自体は,インターネット上の公示送達になっても,取扱いとして変わるものではないと思われるところでございます。 ○阿多委員 意見としては,公示送達もインターネットの利用を認めるべきですが,公示する内容は36ページで掲げている必要最小限度のものとし,それで裁判所書記官としては利害関係が判断できない場合は,訴訟記録等の利害関係人がない場合の閲覧の手続に従って,手続を組み立てるべきという意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 公示すべき内容の問題について意見を申し上げたいと思います。   部会資料の36ページの末尾では,公示すべき内容の問題については,実務運用の問題として検討すべきではないかという考えが示されております。   しかし,従来の掲示場における掲示と異なって,インターネットによる公示の場合は,公示の内容が実際に人々の目に触れることが飛躍的に増えるので,公示の内容の適否が問題視される可能性も大いに高まるように思われます。その際,現行法111条が定めている「裁判所書記官が送達すべき書類を保管し,いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨」以外は,法的根拠がない公示であるとすると,裁判所が判断に窮することにならないだろうかと懸念しました。仮に最高裁規則なり何らかの司法府の内規で公示内容を定めるとしても,法律による民主的な授権がない前提では,やはり裁判所のみにリスクを課すということになりかねないように思われまして,法律で細目まで決めるべきとは思わないのですけれども,少なくとも規則等への授権を法律で定めておくべきように思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大坪幹事 公示の方法について意見を述べます。   現行法上の公示送達に関しましては,部会資料にも書かれておりますけれども,裁判所の掲示板に掲示されているということになっています。ただこれは,自分が住んでいる近くの裁判所に行けば,誰もが公示送達の内容を確認できるというわけではなくて,訴状の送達をした地方裁判所や簡易裁判所に行く必要があります。ですので,送達をするのが原告の住所地や不法行為があった地の裁判所ですと,被告の住所地と全く関係ない裁判所の掲示板に掲示されるということになる可能性があります。したがって,被告となっている可能性がある人が,自分を被告とする訴訟の公示送達がなされているかを確認するためには,心当たりのある全国全ての地方裁判所,さらには簡易裁判所の掲示板に赴いて確認しなければなりません。そういう意味で,今の公示送達には実効性がなく,今回改正が検討されていると理解しております。   他方で,今回の提案のようにインターネットを用いた公示送達の方法であれば,自分でインターネットを利用することができないとしても,全国どこからでもインターネットが利用できる場所から公示の内容を確認することができるようになると考えられます。したがって,書面は裁判所の掲示場に掲示するという従来のやり方を残す必要はないのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 再三同じようなことばっかり言うて申し訳ないんですが,公示送達というのは,公示によってみんなが知ることができたというフィクションの上に成り立つわけですが,インターネットを日本国民全員が使えない,あるいは日本の裁判権に服するもの全員が使えないという現状に鑑みて,そのフィクションが成り立つのかどうかということは,やはりきちんと考えた方がいいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。   それでは,引き続きまして,今度は部会資料37ページ,「第4 送付」に入りたいと思います。事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   本文「3 書面による送付を行う場合の取扱い」につきましては,電子書類を通知アドレスの届出をしていない者に対して送付する場合の取扱いにつきまして,パブリックコメントに寄せられました意見を踏まえ,若干の検討をさせていただいております。   本文「5 送付すべき電子書類の閲覧及び複製をしない場合」につきましては,みなし閲覧と同様の結論を採ることを御提案しております。   それ以外の本文1,2,4につきましては,基本的な部分は中間試案の内容から変更を加えておりません。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第4の点,1から5までありますけれども,特に区切りませんので,どの点でも結構ですので,また,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○日下部委員 1と2の規律について,私は賛成をする者なんですけれども,裁判所が通知アドレスの届出をした当事者等に対して送付する場合に,システム送達そのものになるという説明は,概念整理を必要とするように思いました。つまり,送付と送達が相互に排他的な概念であるなら,送付の方法が送達になるという2番目の項目の説明は理解し難いように思います。そうであるならば,2の項目の(1)の部分は,システム送達そのものとはせずに,システム送達と同様の方法としておいて,システム送達の規律を準用する規定を加えることが相当なのかなと思いました。   他方,送達が送付の一態様であるという概念整理であれば,2番目の項目に示されている説明は理解できるのですけれども,民訴法のほかの規定における解釈への影響がないかを考えなければならないように思いました。   今の意見は法制上の問題のようにも思うのですけれども,気になりましたので申し上げました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。特段の御意見はないでしょうか。   それでは,引き続きまして,この資料17の最後になりますけれども,40ページ,「第5 ITを利用した訴訟手続と外国に所在する者との関係」について取り上げたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○西関係官 御説明いたします。これまでの部会では,送達や証拠調べ等において,インターネットを用いた手続を導入し,又は,その利用の範囲を拡大することが検討されておりますが,インターネットは国境のない通信手段でございますので,このような手続を外国に所在する者との関係でも行ってよいものかということが問題となります。   この点につきましては,国際法上の検討も必要となるため,事務当局においては別途検討会を設けて議論をしてまいりました。検討会においては,様々な意見が出されましたが,結論といたしましては,このような手続を外国の同意なく行うということにつきましては,主権との関係で問題が生じ得るというような考え方や,いや,問題は生じないのではないかというような考え方が出されまして,一つの方向性として取りまとまるには至らなかったところでございます。   この問題は,他国が関わる問題でございますので,以上の議論も踏まえて,慎重な検討が必要であるようにも思われるところでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この論点は,これまでいろいろなところ,その送達,あるいは証拠調べ,証人尋問等々のところで,散発的に問題としてはお出しいただいてきた部分があったかと思いますけれども,今回こういうまとめた形で,ただ,具体的な提案があるわけではないわけですけれども,まとまった形で御提示をしているところでありますので,どういう観点でも結構ですので,御質問でも御意見でもお出しを頂ければと思います。 ○日下部委員 最初に一つお尋ねをさせていただきたいと思います。   部会資料の41ページの末尾から,法務省主催のIT化に伴う国際送達及び国際証拠調べ検討会での議論結果が報告されています。ここでは,IT化された国際送達と国際証拠調べについて,共々インターネットを利用するものであるという性質を踏まえて,不明瞭さが残るという同様の議論結果が示されているかと思います。   ただ,インターネットを用いた公示送達については,外国主権を侵害しないという結論で一致しているとも聞いております。検討会の取りまとめを参照すれば済むことなので恐縮ですけれども,インターネットを用いた公示送達についての議論結果とその理由について,簡潔に御説明を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○西関係官 検討会では,公示送達につきまして,インターネットを通じた方法を導入したとしても,これが外国の主権侵害の問題を生ずるものではないということで意見は一致したところでございます。   その理由としては,まず,システム送達について問題がないという考え方を採る場合には,当然に公示送達についても問題がないというような帰結となります。これに対し,システム送達について問題が生じ得るという見解に立ったとしても,公示送達については問題がないのではないかという御指摘もありました。その中には,公示送達において,掲示を実際に確認するということには法的に意味がないという点に着目するような御意見ですとか,現行法でも,外国に所在する者に対しての公示送達がされており,それについて他国の主権を侵害するものとは考えられていないので,その方法を見直したとしても,新たに問題が発生することはないという御意見が出されました。 ○山本(和)部会長 日下部委員,いかがですか。 ○日下部委員 ありがとうございます。   インターネットを用いた公示送達が外国主権を侵害しない根拠として,システム送達との比較なのかもしれませんけれども,送達の行為が日本国内で完結をしている,掲示場で掲示を見るということに,法的な意味はないのではないかということなんだとしますと,システム送達の方でも,構成要素をどのように捉えるのかということによっては,公示送達と同様の評価の余地も,あるいは出てこないだろうかということも考えたところではあります。   効力発生要件としての閲覧等をする受送達者が外国に所在することが,公示送達との相違ですけれども,その閲覧等自体は裁判所の行う送達の構成要素ではないとした上で,当事者が外国からインターネットを介して日本の裁判所のサイトを利用しているだけであるから,外国の主権を侵害する日本の主権の行使たり得ないという整理は,無理なくできるのかなという期待も感じているところですが,研究者の方からは,そうやすやすといく話ではないですよと御指摘を頂くんだろうということは,重々把握しているところです。   取りあえずは以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 資料の中にある検討会の座長も務めさせていただきましたので,一言だけコメントさせていただきたいと思います。   検討会のメインのテーマは,今,日下部委員から御質問もあった,正に国際法との関係,特に外国の主権ないしは国家管轄権の侵害といったことがあるかないかが,議論の対象だったところでございます。   今,正に日下部委員がおっしゃられたような意見の委員の方ももちろんいらっしゃいましたし,他方で,やはり伝統的な国際法の観念からいくと,外国に被告が所在するという状況で,ITを使っているとしても,日本の裁判の手続として,国際司法共助の手続によらずに送達を実現してしまうこと自体,やはり外国の主権に対する一定のインパクトがあるのではないかという意見もありまして,国際法の現状については本当に様々な意見がまだあり,なかなか一致が見られなかったという状況だったかと思います。   また,同時に,こういった国際送達,ITの活用といったことについて,実は,日本の法政策として活用すべきか,外国にいる被告に対して,こういったものを使って送達を実現すべきかどうか,その日本の法政策のところも,検討会の中では,いろいろな意見があったということでございます。特に,日本がこういったことをやったとすると,外国の訴訟手続において同じようなことを日本に所在する人に対してされたときに,日本としてはそれを甘受せざるを得ないのではないか,そういったことは問題なのではないかということが発言されて,そのような意見をどう評価するかはともかく,私自身,やはり多様な意見があったと認識しております。そういった多様な意見を踏まえて考えるとすると,国際的な手続との関係で特定の立場を取って立法することは困難であるように思われ,この点については特段の規定を設けず,更なる議論に委ねることが,現状としては妥当なのではないか。検討会の議論の結果は,そういったものだったと思います。   裁判手続のITの活用については,今後,国際的な議論の進展も予測されます。特に,コロナ禍でこういった技術の活用の重要性が増しているところですので,そういった議論も踏まえつつ,さらに,日本としての法政策を決定することが望ましいように思われました。これが,座長としてのコメントでございます。   私個人としましては,今の国際法の状況や日本の法政策について考えるところはございますが,それは置いておいて,ここで確認すべきは,仮に更に議論したときに,慣習国際法が明確になるかと言われると,明確になるのは恐らく何十年も先のことであろうと思われる点でございます。そうすると,こういった国際的な送達へのITの活用を着実に進めるとすれば,慣習国際法の議論を待つよりも,やはり他国との合意によって,すなわち国際条約を締結したり,国際条約の枠組みの中で他国と議論したりすることによって,どういったことが可能なのかを明確にしていくことが必要となるのではないかと思っております。その意味では,ハーグ国際私法会議のハーグ送達条約の運用に関する議論について,日本として積極的に参加していくであるとか,さらには,ビデオリンクの活用との関係では,ハーグ証拠収集条約を日本も締結して,その枠組みの中で,どこまでITの活用が可能なのか,こういったことを明確にするのが望ましいのではないかと,個人としてはそのように考えているところでございます。   長くなって大変恐縮です。以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 企業の立場から意見を述べさせていただきたいと思います。   これは,相手国に対して同様のITによる訴訟手続を認めなければならなくなった場合に問題になることかと思いますけれども,現在,実際のところ,外国企業から訴訟が提起されたときに,外国からの送達が困難であるということが一定の濫訴の歯止めになっているのかなと思っております。特に知財系の訴訟ですと,トロールのような訴訟が多かったりとか,本当に当社なり日本企業が被告となり得るのかというような訴訟もあるんですけれども,それも,訴状の送達が困難であるということは,結局その訴訟に巻き込まれずに済んでいるということにつながっていると思っておりますので,もし相手国に対して,このIT化を利用した訴訟手続と同等のものを認めざるを得なくなれば,こういう歯止めも利かなくなるのかなと思いまして,その点を企業の立場からは心配しているところでございます。   経団連の参加企業に関しても,複数の企業から同様の意見がありましたので,ちょっとここで,代表して意見述べさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大谷委員 このテーマについては,常に双方向性があるテーマだと思っておりまして,今,佐々木委員からお話があったような濫訴の防止という,訴訟の提起を受ける側の立場での御意見もありますし,逆に,私が長年取り組んできておりました,海外のプラットフォーマーに対して情報の削除ですとか発信した情報の開示を求めるといった,日本側からのアクションに際して迅速な対応を求めたいときに,やはりこの国際条約の考え方について,一定の整理が求められるという立場での見解が出されることもありまして,これは,常にどの国から見ても双方向の問題が生じることだと思います。   ですので,これまでの解釈について,ここで整理して開示していただいたのは,一つの財産だと思いますが,ここを出発点といたしまして,諸外国との間の交渉であるとか,それから制度調和に向けての検討を,更に加速化していただきたいという期待を込めて,発言させていただきました。   竹下委員がおっしゃるとおり,慣習法だけでそれぞれの解釈論が乱立しているだけでは,多分動かない課題だというのは同感でございます。引き続きよろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 他国の主権侵害の可能性という問題の根本を踏まえますと,大変難しい問題であるということは十分に承知しておりますし,国家の外交にも関わりますので,この部会において意見を述べることには,どれくらいの意味があるんだろうかというのも,正直分からずにいるところでもあります。とはいえ,部会資料において問題提起もされておりますし,委員として会議に出席している以上,何らかの意見を述べることは期待されているのかなと思っています。   日弁連,その他の所属団体の意見ではなく,飽くまで個人的なものですけれども,ITを活用した国際送達や国際証拠調べを行うことができるように,能動的な働き掛けをすることを,政府には期待をしております。それは,外国に所在する当事者に対する送達や,外国に所在する証人の取調べなどを簡易,迅速に行うことができるようになると,間違いなく我が国の国民の利益になると考えているからです。他方,そうした働き掛けをすることには慎重な考え方もあることも,承知しております。理由として,日本国内の当事者の利益になることは,相互主義の観点から,外国での訴訟手続においては,当該国の当事者の利益になることを受け入れることを意味するので,その影響も考慮しなければならないということが指摘されているかと思います。先ほどもそういった御意見があったと思います。   その指摘自体はもちろん正しいと思うのですけれども,結果的に,それが日本の当事者と外国の当事者のいずれにより利益をもたらすのかというのは,答えられない問題ではないかと思っています。私はそれでも,個人的にはITを活用した国際送達や国際証拠調べを行うことができるように,政府は能動的な働き掛けをするべきであると思っています。それは,現状のままであるということは,国際訴訟においては,国内訴訟と異なって,IT化の便宜を享受できないということを意味しており,それは,国際紛争に対する司法的救済が全体として十分に及ばない状況を放置することと同義だと思っているからです。言い換えますと,いずれの国の当事者が有利になるかという問題ではなく,国際紛争に対しても,国内紛争と同じように法の支配を及ぼすべく努力すべきであるという考えです。   部会資料の42ページでは,今後国際法上の議論が進み,インターネットを用いた国家の行為と外国における執行管轄権の行使との関係が整理され,国際的に一定の共通認識が形成される可能性や,域外的な民事裁判手続について,ITを用いるための多国間条約等を締結する機運が高まる可能性への言及があります。そうした可能性が現実のものとなればすばらしいと思うのですけれども,それを受け身の姿勢で待つとしたら,何年先か,何十年先か,全く予想もできないと思います。それでは,国際紛争に対する司法的救済の改善はないに等しいと,その点では悲観せざるを得ないと思います。   国家の司法権による紛争解決は,国際紛争に対しては主権の抵触に由来する一定の制約に服さざるを得ませんし,それを国際仲裁が代替又は補完しているのであって,その振興を図るべきであるという意見に触れることもあります。それは真理を示しているようにも思うのですけれども,例えば,離婚の紛争のように仲裁合意の対象にできない紛争では,国家の裁判所における解決によるほかありませんので,国際離婚の紛争においては,取り分けITを活用した国際送達や国際証拠調べへの期待が切実であると思いますので,そこは重ねて強調したいと思います。   最後に,先ほど外国からITを使った送達がなされることで,我が国の内部にいる者が不利益を被ることを懸念する御意見もあったと思いますけれども,相互主義の観点からいえば,日本における,今検討しているようなシステム送達,つまり,受送達者が事件管理システムに利用登録していることを前提とする送達しか,ITを使ったものとしては認められないのだとすれば,それの外国版を受け入れるということで,何か過度な不利益が日本国内の企業に生じるかというと,そういうことは別にないのではないかと思いますので,もう少し不安や懸念というのは,具体的に明確にしていく方が建設的だろうと思います。   長くなって失礼いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この論点いかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。私も,システムが使えるようになった暁には,つまりIT化が整った暁には,仮に国際法上問題があるとしても,相手国が同意すればよいわけですから,外交交渉をして,外国ともしっかり使えるようにしていただきたいということが希望でございます。   ちょっと論点がずれるのですけれでも,具体的な消費者問題において,インターネット等を利用して物品の購入等をしてトラブルが発生した場合に発覚するのですが,日本国内で営業している外国の会社が,実は国内で代表者の登記をしていないという事例が時々見受けられます。その場合に,訴訟を起こすのに国際送達が必要となり費用と労力が掛かり,実質的に訴訟逃れとなるような実例が幾つもございます。そういった意味からも,IT化は国際的にも進め,使えるようにしていただきたいと希望すると同時に,日本国内で営業する外国の会社に代表者の登記を徹底させること。この点も,消費者保護のために国会でも附帯決議で決まっているところでございますので,しっかり押さえて進めていただきたいという意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,これでこの論点については一応終えることといたしまして,これで部会資料17,前回の積み残しの部分については,一応御検討を頂けたかと思います。   引き続きまして,部会資料18の方に入っていきたいと思います。   まず,部会資料18の1ページから,「第1 被害者の身元識別情報を相手方に秘匿する制度」についてということでありますが,まずこの論点の位置付けにつきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野幹事 事務当局でございます。御説明いたします。   犯罪やDVの被害者の住所等の情報を,加害者である相手方に秘匿することができる制度につきましては,本部会で出されました御意見を踏まえ,e事件管理の一環として,中間試案で一つの考え方を(注)に記載していたところでございます。   パブリックコメントにおきましても,この考え方に賛成する御意見が多く見られたということを受けまして,今般事務当局におきまして,具体的な規律を整理し,御提案をさせていただいたというものでございます。 ○山本(和)部会長 そのような次第でございますので,中間試案の(注)には一応掲げてあり,この部会においても,散発的な感じで御意見は出ていたところではありますが,今回,まとまった形での提案という形では,実質第一読会ということになりますので,是非活発な御意見,あるいは御質問を頂ければと存じます。   資料の項目に従って順次取り上げていきたいと思いますが,第一読会にしてはかなり具体的な提案になっておるわけでありますけれども,委員,幹事の皆様には,この具体的な提案に収まり切れないような御意見もあるやもしれないと思っております。そのため,最後の時間というか,1から6が終わった後に,ここで提案されている具体的な規律以外の部分について,御意見を伺う時間を設けたいと思いますので,取りあえずは,この具体的な提案に焦点を当てる形で御議論を頂戴できればと考えている次第であります。   そこで,資料1ページの「1 訴状における秘策措置」と「2 送達場所等の届出における秘匿措置」,この二つは内容的にかなり重なる部分があると思いますので,まとめて取り上げたいと思います。この部分について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   訴状には,当事者及び法定代理人を必ず記載しなければならないものとされております。当事者を特定するための記載は,その人が誰であるかを,人違いのおそれがない程度にしなければならないとされており,通常,その人の氏名と住所というように考えられています。   性犯罪の被害者は,加害者に自分の名前を知られること自体が耐え難い,精神的苦痛であるといいます。配偶者暴力や児童虐待といったDV等の被害者は,加害者に現住所を知られますと危害を加えられるおそれがあります。このような被害の拡大を防止しつつ,民事訴訟の手続を追行することができるように,一定の厳格な要件を満たす場合には,訴状に氏名及び住所が記載されなくとも,訴状が却下されないようにすると,このような御提案をしております。   他方で,依然,民事裁判手続の各局面におきましては,当事者の氏名及び住所が一定の役割を果たすことは否定することができません。そこで,この制度を利用する場合には,当事者の氏名及び住所につきましては,訴状とは別の書面に記載して裁判所に提出するものとし,その書面は被告が閲覧することができないものとしております。なお,氏名及び住所を訴状に記載しない場合に,訴状にどこまでの記載が必要かという点につきましては,いろいろな考え方があり得ることから,本文1の(6)の規律を設けることにつきましては,【P】とさせていただいております。   また,原告も被告も民事訴訟の手続を進めるに当たっては,送達を受けるべき場所の届出をしなければなりません。そこで,送達を受けるべき場所と送達受取人につきましても,同様に相手方に秘匿することができるようにすることを御提案しております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部分につきまして,御質問でも御意見でも結構ですので,御自由にお出しを頂ければと思います。 ○笠井委員 私は,今回報告書が出ております研究会にも参加させていただきまして,相手方当事者に秘匿すべき事項が,原告が訴状の必要的記載事項として書かざるを得ないということになるのは問題ですので,訴状に当事者として住所や氏名を必ず書かなければならないわけではないとする,こういった規律は意味があると考えております。   それを前提に,表現のことについてだけ少し申し上げたいのですけれども,1の(1)で,「訴状中法第133条第2項第1号に掲げる事項」,括弧内ちょっと飛ばしますが,「が記載された部分が」とあるんですけれども,この1の規律全体では,訴状には当該事項は記載されてはいないわけで,訴状に原告代替呼称というのが書かれていることはあるんですけれども,当該事項は,原告表示書面に記載されているということが想定されていることです。この訴状中,こういう事項が「記載された部分」という表現になっているんですけれども,現実に記載されたということが前提になっているわけではないと理解しております。   研究会の報告書の2ページにも,記載された部分となっていまして,これは,仮定的な趣旨で,もし記載されても,それが閲覧されたら支障を生ずるおそれがあるという意味であると理解していますので,今回の部会資料も恐らくそのような意味だろうと理解してよいように思っております。   ただ,現実に訴状に書かれたわけではないという意味では,「記載すべき部分」といった表現になるのかもしれないんですけれども,「記載すべき部分」となると,今度は,ペンディングになっている1の(6)との関係での検討を要するようにも思います。ちょっとこれは,法制的な表現のみの問題であるかもしれませんので,私にこうあるべきだという意見がなく,ここでの御議論や事務当局に任せますけれども,一応,表現としてそのようなことは気を付けた方がいいのではないかと思ったということを申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 私自身は,この規律そのものに立法事実があるんだということは,そうだろうと思っているんですが,幾つかやはりコメントがございます。差し当たり,そのうちの一つについて言及しますが,実体的要件がこの提案でよいのかどうかという問題意識です。現在の実体的要件として記載されておりますのが,「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」とされています。これは,訴訟記録の閲覧等の制限の申立ての実体的要件である,現行法92条1項1号と同様のものになっています。しかし,その効果においては,被告にも閲覧等が許されなくなるという点で,法92条のものよりも閲覧等の制限の程度が1段高く,同じ文言の要件でこの効果の違いを説明できるのか疑問を感じました。   確かに,秘匿対象の情報については,法92条1項1号は当事者の私生活についての重大な秘密で,部会資料での提案は,実質的には氏名及び住所ということですので,違いがある。通常は秘密性のない氏名や住所が被告に知られることが,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれを惹起するというのは異常であって,それゆえに効果の点で違いが生じると説明できないわけではないようにも思います。しかし,念頭に置かれている立法事実は,主として原告等の身体などの安全という,より切実な問題に関わるように思われまして,そうした被害をより直截に示す実体的要件にするわけにはいかないだろうかと思いました。   研究会の時点では,同じような問題意識に基づく刑事訴訟法における規定を参照しつつ,議論がされてきたと承知しております。刑事訴訟法,例えば,299条の3などを参考に,実体的要件を,身体若しくは財産への加害,名誉若しくは社会生活の平穏への著しい損害,又は畏怖,困惑されることのおそれという構成で示すというわけにはいかないのだろうかと思いました。   なお,この実体的要件の問題は,その要件に示される法益の主体として誰までを捕捉すべきなのか,あるいは,不服申立てをすることができる者をどの範囲で認めるべきなのかといった,それ以外の問題点の出発点になるところかと思いますので,それについて意見を申し上げるのも少々勇気は要るのですけれども,非常に重要なところだと思いましたので,最初に申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 具体的な文言は法制的な部分もあるところだと思いますが,今の日下部委員の御意見は,この現在の提案の文言だと,こういう場合が含まれなくて不当ではないかとか,こういうものが含まれて逆に不当ではないかという,何か具体的なものというのをイメージしての御意見であったでしょうか。 ○日下部委員 出発点は,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれというのは,非常に漠然としていて,読みようによっては,いろいろなものが放り込めるといいますか,含みおいて読むこともできるようにも思うのですけれども,他方,著しいという条件も付されていて,保護が必要な者が,著しいとまでは言えないでしょうという理由で保護されなくなるという事態もあり得るように思いました。そういった運用における安定性があるのだろうかということが気になったところです。   元々92条の1項1号では,個人の私生活上の重大な秘密という,出発点の歯止めがあるからまだよいのですけれども,原告の氏名及び住所を出発点として,社会生活を営むのに著しい支障という効果の判断をするというのは,非常に恣意的になりすぎるのではないか。また,その要件が92条1項1号と同じになっていることで,例えばですけれども,全然事件に利害関係のない第三者でも不服申立てができるというように,92条と同じような考え方を採ると考えられやすくなって,それは,立法論として適切なんだろうかという問題意識を持ったということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○長谷部委員 今,日下部委員が御指摘になった実体的要件のところも検討の余地があると思いますが,私は別の論点について,議論の進め方に関することで意見を申し上げさせていただきます。   この提案では,原告の氏名と住所とを同列に論じて,秘匿の必要性ということから提案されているように思われるのですけれども,原告の氏名と住所とでは,秘匿されることによる相手方の訴訟活動への影響という点で異なるのではないかと思います。   まず,氏名は,当事者を特定する上で重要な要素であり,当事者の特定が不十分であれば,相手方は裁判官の除斥や二重起訴などの問題について正確な判断をすることができないと思います。また,訴訟物たる権利義務についての原告の主張が正当なのかどうか,判決効が及ぶのは誰なのかといった問題についても,やはり正確な判断ができないかと思います。   これに対して,原告の住所については,所番地まで特定された住所が訴状に記載されていなくても,相手方は原告の氏名が分かっている限り,原告が誰であるかに困難を生じることはないように思われます。所番地が分からなくて困難を生じるのは,原告本人に準備書面を直送する必要がある場合だと思いますが,これは,原告の訴訟代理人である弁護士の事務所に直送することができれば解決する問題であり,既に実務上は,原告が犯罪被害者やDV被害者である場合には,訴訟代理人の事務所その他の連絡先が訴状に記載されていれば,原告の住所の記載を求めない取扱いが認められていると理解しています。さらに,今後原告がシステム送達を利用する場合であれば,現実の住所の記載は必要ではないようにも思われます。したがいまして,少なくとも住所の記載については,現在の実務の運用でも賄えるように思われます。氏名の記載まで被告に明らかにせずに訴訟手続を進めることが,相手方の手続権の保障の観点からどの範囲で許容されるのかということが,今後議論すべき重要な問題であると考えます。   ちょっと長くなりますけれども,少し具体例を挙げて説明をさせていただきますと,例えば,3ページでは,DV事案においても,DV被害者が再婚して氏が変わった場合には氏名の秘匿が必要とされていますけれども,これも,訴状に記載すべき原告の氏名として,戸籍上の氏名ではなく,再婚前の旧姓を通称として表示することが認められるのであれば,氏名の秘匿の必要性は問題にならないのではないかと考えます。   また,暴力団員を被告とする訴訟においても,例えば,マンションの管理組合の名で訴えることができれば,代表者以外のマンションの住人が氏名を明らかにする必要はありませんし,代表者も,実名を表示しなくても,例えば,「マンション管理組合の第1期理事長」といった肩書のみで特定されるのではないかと考えます。   そのように考えますと,相手方に対しても氏名を秘匿する必要性というのは,性犯罪の被害者の場合が特に検討の対象になるのではないかと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員    日下部委員が述べられましたように,実体要件の社会生活を営むのに著しい支障というのは,要件として抽象的というか,広すぎると理解しています。もう少し具体的に限定すべきであると考えます。   日下部委員の意見に追加する理由として,現在の民訴法92条の運用です。現在閲覧の制限等については,かなり緩やかに運用されていて,例えば新聞記者の取材の対象となることは避けたい理由で申し立てられても,それが理由になるかどうかを判断されることなく,閲覧制限を認めるという扱いもあります。そのような状況で,条文が違うにしても同じ表現が用いられると,92条の解釈にも影響することになりかねないと考えます。   今回の提案は,92条の第三者に対する閲覧制限とは趣旨も一致しないところがあり,独自の要件を考えるべきです。先ほど話が出ていました刑法や刑事の法制審での表現を参考にしてはどうかと考えます。   それから,長谷部委員から氏名と住所の違いについて指摘がありました。十分に理由があると思いますが,実務では,本人訴訟の場合が一定あり得るということ,実際に氏名を表示しないで訴訟を提起する工夫,運用がされている例もあります。暴力団事務所の退去明渡し訴訟で,選定当事者を利用しますが,暴力団に当事者名を知られるとお礼参りのおそれがあるので,選定に際して氏名を示さない運用も行われています。氏名等についても,一定の場合には秘匿する制度を検討する必要があると考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○井村委員 少し総論的なことも含まれますけれども,連合としての考え方を述べさせていただきたいと思います。   連合としては,性別にかかわらず,全ての暴力,性犯罪,性暴力,DVなどの被害者の支援体制の充実を図るべきと考えており,性暴力被害者の人権擁護の強化や二次被害を受けないための事件の立証の在り方について改善するため,レイプシールドを被害者の権利として法制化するなどの必要性も訴えているところであります。   また,性犯罪に関する罰則や刑事手続の在り方に関しては,第5次男女共同参画基本計画においても,起訴状等における被害者等の氏名の取扱い方が盛り込まれているということであります。被害者の身元識別情報を相手方に秘匿することは,原告への更なる被害を防止するために必要であって,民事訴訟手続の各段階に秘匿措置を設けるという今回の原案の方向性には,賛成できるものと考えております。   その際,氏名,住所に加えて,ここにも記載されておりますが,通知アドレスについても秘匿の対象とすべきではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。御意見ございませんか。 ○青木幹事 一定の場合,原告等について氏名,住所が開示されることによる重大な不利益を回避する必要があるということ,そのために,それらを秘匿する措置を設けるということは,よく理解できるところです。   ここで申し上げてよいのかどうか分からないんですけれども,部会資料の4ページの秘匿措置決定が有する効果との関係で,先ほど長谷部委員もおっしゃったように,被告の防御の利益との関係では,やはり原告表示書面を併せれば特定できるというだけではなくて,訴状全体の記載から原告が特定される必要があるのではないかなと考えております。   ただ,そのように考えるとすると,原告表示書面に記載された秘匿された氏名,住所によって特定されるものと,請求原因事実により,例えば,加害行為の被害者として特定される者が異なるというような場合が生じたとして,その場合に,その当事者とか訴訟物たる権利の主体がどのように特定されるのかという問題が生じるのではないかと思います。特に,原告と被害者との同一性がその訴訟の争点にはならずに,被告の方でその辺りを意識せずに,したがって,その防御の不利益を主張しないまま判決に至るというようなこともあるかと思います。   例えば,訴状において原告が加害行為を主張し,自らが被害者であると主張したと。被告はその行為を自白して,しかし,被害者の同意があったとか,違法性がないとかというような主張をして,結局主張が認められずに請求を認容する判決がされたとします。しかし,その後に,結局原告はその被害者ではなかったということが判明するというようなことも,場合によってはあり得るかと。そうしたら当事者の確定の問題になるのかということなんですけれども,あるいは,その判決において,訴訟物たる権利が結局誰に帰属するという判断がされたのかといったことが問題になる,あるいは不明確になってしまうというようなこともあるかと思いますので,その辺りをどうするのかということを考える必要があるのかなと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 立法事実のところになりますけれども,氏名の秘匿の必要性がある事件として,今挙げられているものとは別の観点から,最近近隣トラブルなどで,騒音やごみ屋敷などの問題で殺傷事件みたいなものが発生しているケースが時々あります。そういうケースで,例えば,マンションなどだと,理事長が個人の名前を出したくないから訴えを起こしたくないとか,訴訟を断念するということがあります。理事長個人に被告からの攻撃が集中しないようにということで,多数の組合員を原告として訴えを提起するということもあります。   ですので,先ほど長谷部委員が言われたように,必ずしも理事長の名前を出さなくてもよいことになれば,そういう訴えを断念するということが解消されるかもしれませんけれども,そうでなければ,氏名を秘匿しなければならない事案が,性犯罪とかDV被害以外でもあり得ると思います。近隣トラブルについて,この秘匿の制度が使えるかどうかは解釈の問題になるかと思いますけれども,ほかにもいろいろ考えられる可能性がありますので,いずれにしても,このような制度を設けていただく必要はあろうかと思っております。   もう1点ですけれども,(注)にありますが,識別情報,推知情報についても,秘匿措置の対象とするという考え方が示されているところです。部会資料の5ページのところに説明があるわけですけれども,識別情報,推知情報としてここに書かれているもの以外で,性犯罪に関しては,性犯罪が行われた場所というようなことが,その犯罪事実を構成する重要な要素,事実となることが少なくないと考えられます。その場合にそれを秘匿するということをするとなると,その請求原因自体の主張立証に大きく影響するのではないか。そういうことを考えますと,やはりこの識別情報,推知情報を秘匿の対象にするというのは,現時点では問題があるのではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 ほかの方から出していただいた御意見についてのコメントのようになってしまうんですけれども,差し当たり2点申し上げたいと思います。   一つは,部会資料でいうと2の項目の中での(注)について,具体的には,通知アドレスを秘匿措置の対象とする規律を設けてはどうかという部分についてです。   私自身は,以前に商事法務研究会で研究会が行われていたときに,類似する状況で通知アドレス,当時はeメールアドレスと特定されていましたが,それが相手方当事者など,あるいは一般に公開されるということがあるのですかということをお尋ねしましたところ,通知アドレスについては,裁判所に届け出るだけで,それ以外の者に示されることは予定されていません,想定されていませんという御回答があったように記憶しております。つまり,元々通知アドレスは,訴訟記録の中に入って一般の閲覧に供されるということは,そもそも想定されていないものだったと理解をしていたところです。それゆえに,通知アドレスを秘匿措置の対象とする規律の必要性が議論されるというのが不思議に思われましたので,この点については,元々本来的にどのように扱うことが想定されていたのか,結局同じ問題の捉え方なのかもしれませんけれども,お尋ねしたいと思います。   結論として,私は,通知アドレスについては,裁判所が把握していれば十分なことであって,相手方当事者も,あるいは一般の国民の閲覧などにも供する必要は,特段ないと考えているところです。   それから,もう一つですけれども,先ほど言及がございました,秘匿措置の対象となる事項の範囲について,今,大坪幹事の方から,氏名や住所以外の識別情報や推知情報の記載部分は秘匿措置の対象とするべきではないというお考えが示されたかと思います。   その点については私も同意見でして,訴状の必要的な記載事項として,記載を義務付けられるということが前提となって,それをどうしようかという議論であればまだ分かるのですけれども,訴状の必要的記載事項になっていない事項について秘匿措置を認めるということになりますと,場合によっては,原告が被告の反駁を受けずに,裁判所にのみ訴訟資料を提供できるという余地を認めることになってしまいます。それによる被告側の不都合は,取消申立権を行使することで解消し得るのかなとも思えなくありませんけれども,やはり原告と被告との間でのバランスを考えたときには,過度に被告に不利益を課すことになってしまうように思いましたので,結論としては大坪幹事と同じように考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   第1点は御質問だったかと思いますが,事務当局からお答えは頂けますか。 ○藤田関係官 お答えいたします。   通知アドレスの届出における通知アドレスは,送達場所の届出における送達場所と同様に,送達における重要な位置付けを占めるものであると考えております。   通知アドレスのみを,通知アドレスのいわば届出書のみを訴訟記録から外すというような考え方を採るのであれば,それなりの理由が必要であると考えておりまして,現時点では,通知アドレスの届出書も訴訟記録になるというふうな考えで,このように整理をさせていただいております。 ○山本(和)部会長 日下部委員,よろしいでしょうか。 ○日下部委員 ありがとうございます。   今のお考えは,通知アドレスを従来の送達場所の代替になると考えると,それを訴訟記録の中に入れないということは違和感を生じさせるものだろうとは理解はできるところです。   しかし,通知アドレスへの通知は,事件管理システムの不調やインターネット障害によってできなくなることがあり得るし,仮にシステム送達におけるみなし規定の適用が認められない場合も想定するならば,裁判所が紙ベースでの送達をせざるを得ないという事態も考えるべきかと思います。そうしますと,通知アドレスの届出というのは,従来の送達場所の届出に代替するものなんだろうかということには疑問を感じまして,それに付加的になされるものであって,したがって,従来の送達場所の届出と同様に取り扱わなければいけないんだと,当然に考える必要性もないのかなと思えたところです。   あと,実務的な観点から申し上げますと,通知アドレスが一般の閲覧などに供されるということになりますと,嫌がらせのeメールであるとか,スパムメールの被害を誘発するというおそれもありますので,私としましては,通知アドレスはそもそも開示の対象にならない,訴訟記録を構成しないと扱ってしかるべき性質のものではないかと考えていた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○笠井委員 実体的要件についての議論ですけれども,研究会でも,初めに刑事訴訟法的な文言とかも考え,また,92条1項1号と同じになってしまっていいのかということについても,いろいろと議論があったのですけれども,結局,そこについて,研究会として最終的に同じ文言としたのは,まず相手方当事者に知られてしまうことによって,そういうことになるんだというところの起点のところで限定がされていると。そうすると,性質上,それによってどんな被害が生じるかとか,被害で著しい支障というのはどういう内容なのかということは,そこから,おのずから決まってくるのではないかということで,あえて違うことにしなくてもいいのではないか,かつ,その起点という意味では,秘匿される情報についても,おっしゃっていただいているように,必要的記載事項からくるものであると限定されていますので,そういう,そもそも限定された世界の話であるということで,著しい支障という同じ文言でもいいのではないかと。92条1項1号は,私生活についての重大な秘密ということで違いますので,それぞれ別の場面が想定されているとは思いますけれども,それほど広くなるわけではないと考えられたと私は理解しております。   私も,そういう意味では,秘匿されるべき情報というのはできるだけ限定されるべきだと考えておりますので,(注)のところで書いてある,識別されることとなる情報と推知情報と書いてある,それらの情報などは入れるべきではないという意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 私も,この基となる研究会の議論に参加させていただいておりましたので,そういう意味では,検討に関係してきたわけですけれども,まだなかなか難しい問題が多くて,自分として結論が出ていないところも多くあるという状況です。   今,笠井委員が御説明されたところに重なりますけれども,実体要件の考え方といたしまして,初めに日下部委員がおっしゃっていたかと思いますが,私自身も,基本的には対第三者の閲覧制限の要件とこちらの相手方を含めた,反射的に第三者に対してもということになりますけれども,秘匿の要件とを比較したときには,やはり対当事者も秘匿するという方が,ハードルとしては一般的に高いだろうという感覚,考えは持っております。   そうしたときに,ただ,なかなか難しいのは,例えば,身体とか名誉とか財産といったような特定の法益に言及した形で,この要件設定をするといたしましたときに,逆に92条の方で,身体に害が及ぶというような場合について,第三者に知られることによって身体に害が及ぶ可能性があるような場合は,対第三者の閲覧制限の対象になっているのかどうかとか,あるいは,財産に対して害が及ぶようなおそれがあるときに,対第三者の閲覧制限要件を満たすことになっているのかどうかといったようなところを考えますと,その辺りがどうも明らかでないと申しますか,現行法は,私生活上の重大な秘密とか営業の秘密ということでまず絞りを掛けた上で,今の要件を組み立てているということで,必ずしも通常の財産あるいは名誉に対する侵害等で,対第三者の閲覧制限要件は満たされるということにならないようにも思われまして,そうすると,むしろ対当事者の秘匿要件の方が広くなっている部分が出てきはしないかという感じもいたします。   その種の疑問ということもあって,なかなか規定をどう,92条の方も改正するということは一つの考え方としてあり得ることであり,私自身はそういう,今回検討いたしまして,92条の方も実は見直しの必要がある部分があるのではないかという感じも持っておりますけれども,その辺りの問題が一つあるのかなと感じております。ただ,適切な実体的要件をより的確な形で示すことができるということを工夫できるのであれば,それは望ましいことだろうと,私自身は考えているところです。   それから,長谷部委員の御指摘がありました,氏名と住所で秘匿の要請の程度,あるいは秘匿が問題となる場面が異なるのではないかという点ですけれども,それはそのとおりではないかというように思われます。現在のこの部会資料の説明ですと,そこは余りはっきりと区別した形で,特にゴシックの部分では表現されていないということかと思われますけれども,ここで言っている実体的要件が,氏名を秘匿することについても実体的要件を満たす場合と,住所だけ秘匿しておけばよくて,氏名については実体的要件を満たさない場合というのは当然あり得ることだろうと思われますので,今回の提案を前提としますと,その実体的要件の当てはめでどの範囲までそれが認められるのかという形で検討されることとなるのかなというように思われますけれども,その点も類型的にもう少し明確化できるということであれば,それは一つの方向としてあり得るのかなという感じもしているところです。   それから,青木幹事のおっしゃっておられた問題は,私も大変難しい問題だなと思っていて,気になっているところですけれども,基本的には,訴訟物の特定ということとの関係では,請求原因等の記載で,例えば,ある日時にある場所で,被告からこれこれこういう性的な被害を受けたというような事実が主張されていて,それに基づいて,これこれこういう損害が生じて,その賠償を求めるということであれば,訴訟物はそういうものとして特定をされていて,原告はその被害に遭った人物であると。それは,世の中に当該日時,その場所で被害を受けた人物というのはほかにいないとすれば,そういう形で特定は一応されていると。原告は,自分がその人であるとして訴えを提起しているわけなんですけれども,その原告が社会生活一般上どういう人であるのかということについては,これは,裁判所との関係では,原告表示書面によって特定がされていて,その限りで,当事者の確定上は,原告表示書面に記載されている人が,当事者として裁判所との関係で確定がされるということなのだろうと思います。実際に,しかし,その人が本当に被害を受けた人なのか,それとも,ある種のなりすましと申しますか,本当は別の人が被害を受けているのに,別の被害者ではない人物が原告として訴えを提起しているのかということは,確かに問題となり得るところでありまして,そこがずれているときにどうするのかという問題はあろうかと思います。   これは,従来の理論的な説明で申しますと,訴訟物が誰についての権利で,当事者の確定上,原告とされた人が誰であって,その判決効が誰に及ぶのかというようなことで処理がされていく問題ということかと思われるのですけれども,そのことについて,今前提となっているのは,被告たる加害者というのは,原告の氏名,住所は分からないということが前提でありますので,仮にそれが表示されていたといたしましても,基本的に状況には変わりがないという点は,少し留意が必要な点かなと思います。   被告としては,それを分かったところで,あなたがその人ではないでしょうということは言えないということがあります。ただ,原告として氏名,住所が分かるという形で特定される人の年齢ですとか姿,形といったものと,実際に被害に遭った,あるいは被害に遭ったと主張されている人の年齢ですとか姿,形というのがおよそ異なるとか,そういったことがある場合に,氏名,住所が分かっていれば,そのことについて防御できたのではないかというような問題というのは,なおあり得て,その辺りはなかなか悩ましい問題ですけれども,今回の御提案ですと,後の除外事由ですね,攻撃防御を実質的に妨げるかどうかという,そことの関係で,もしそれが問題とし得れば,そこを主張して取消しを求めていくという対応は,一応用意はされているということですが,問題は,それが実効的に機能し得るのかという辺りで,そこが非常に悩ましいところかなというように考えております。   その関係もありまして,これも青木幹事から御発言あったかと思いますけれども,今回の資料の2ページの(6)のPが付いているところに関してということになりますが,これも,先ほど申しました除外事由との関係がどうなるかということも関わってくる問題なのかなとも思っておりまして,4ページから5ページまでの説明ですと,請求原因を含めた訴状全体を見れば,原告を他の人と識別することができるという程度の情報が記載されていなければならないという考え方もあり得るということで,これが(6)のPの考え方と対立するものとして提示をされているということなのですけれども,例えば,先ほどの性犯罪の被害者のような例で,日時,場所のような形で,原告がその請求原因上は特定をされているというときに,それで,この4ページに書かれているような識別することができる情報が記載されていると言えるということなのか,それとも,どこに住んでいる誰ということが分かるような情報というものが記載されていないと,適法な訴状にならないということなのかと。もし後者のようなことだといたしますと,結局氏名,住所は直接には書かないけれども,氏名,住所が分かるように書かなければいけないというようなことであるとすれば,あんまり本来の出発点からすると,どうも問題があるようにも思われるところで,この4ページ,5ページに書かれている内容の実質をどういうものとして捉えるのかということによって,ここの議論も変わってくると申しますか,その理解によっては,(6)の提案を採用するということも,私自身はあり得るのかなと考えておるんですけれども,なおちょっと整理が必要なところかと思っております。   差し当たり,以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今の御議論に関するところで,私も考えてまいったところです。   確かに,氏名や住所が記載されていないことで,原告をほかの人と識別することができないなどの理由で,訴訟物の特定に悖るという事態も考えられるのかもしれないとは思います。具体的に今一つイメージできないのですけれども,理論的にはあり得るのかなと思っています。   しかし,そういう状態を,訴状の必要的記載事項が欠如していますねと扱うことまで考えてしまいますと,今回の提案,つまり,性犯罪などの被害を受けた原告が訴え提起することもできないという事態を改善する,解決しようという趣旨が,そもそもワークしないのではないかと思えました。結論から取っていくというのは,非常に実務家的な発想で,研究者の方には怒られてしまいそうなんですけれども,私自身としては,秘匿措置決定の効果として,氏名や住所の記載の欠如を理由として,訴状に必要的記載事項が欠けていることにはならないということをもう法定してしまって,それによる防御活動上の不都合,被告に生じ得る不都合は,取消申立権の問題として処理をすると,ある意味割り切らないと,被害を受けている原告の裁判を受ける権利の保障はできないのではないかと感じているところです。   部会資料の2ページのPのマークが付いてある部分,この表現でそのような意図がカバーできているのかどうかというのは,ちょっと私は分からないんですけれども,問題としては,この秘匿措置を採ったということで,訴状がどうしても不適法になってしまうという事態を認めないようにする,そういう立法的な解決が,結局求められているのではないかなと考えています。   それからもう一つ,別の観点ですけれども,先ほど来,現行法の92条の第三者などによる閲覧の制限に関する規定との関係,そちらの92条の解釈に何らか今後影響を与えてしまうんではないかという問題意識,それは,理解はできるところです。私自身としては,92条の解釈に影響を与えることがないように,今回の立法はしていくべきであって,その意味でも,92条1項1号の要件である,社会生活を営むのに著しい支障を生じるという言葉を借りてくるということは,避けるべきだと思っています。   条文の立て付けとしても,92条とは完全に区別する形で用意をした方がよいと考えています。確かに当事者以外の者に対しての閲覧の制限が加わるという点では,92条の問題と今検討している制度とは共通はするわけですけれども,今現在検討している制度における当事者以外の者に対する閲覧の制限というのは,垣内幹事がおっしゃいましたが,派生的なものであるわけで,その意味では,92条の閲覧の制限とは区別して構成していくということが,やはり妥当なのではないかと思う次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 2点ほど申し上げます。1点目は法制的な問題で非常に細かい話なのですが,2点目はちょっと実質的な議論に関わるのではないかと思います。   まず,1点目ですが,1の(1)の際に,被告に閲覧されるという文言が使われているんですが,閲覧という言葉に若干違和感を感じております。つまり,訴状送達を受けた被告が,その訴状を読むことを閲覧というんだろうかということが気になるところです。これは法制的な話だと思います。文言の整理上,整理をしていただければと思います。   2点目,これは実質的な話なんですが,仮に,例えば,性犯罪に遭ったということで被害者と称する人が,加害者とされる人を相手に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こしたといたします。そして,その判決において,そういう性的自由を侵害するような行為はなかったという理由で請求棄却判決がされ,それが確定した場合,この場合はどうするんでしょうか。刑事においては有罪率が極めて高いということから,余りそういうことは考えなくてもいいと思うんですけれども,消滅時効の場合ちょっと疑問の余地があるんですが,そういう性的な自由の侵害はなかったという理由で請求棄却されて,それが確定した後も,この秘匿措置というのは継続されるべきものなんでしょうか。その辺りちょっと,もしお考えがあれば,特に研究会に参加された方,そういう点も御検討されたのかどうか,ちょっとお伺いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   今の点,それでは,事務当局からまずお答えいただけますか。 ○藤田関係官 お答えいたします。   原告が敗訴したという一事をもって,直ちに実体要件を欠くこととなるとは,必ずしもならないとは考えておりますが,他方で,山本克己委員がおっしゃったように,不法行為がなかったと積極的に認定された場合には,実体的要件の疎明をも欠くということになることとも思われ,そのような場合には,取消しの申立てが認められるということもあり得るかと考えております。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,大丈夫ですか。 ○山本(克)委員 ありがとうございました。問題提起だけですので,特に成案を持っているわけではありませんので,御回答ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 すみません,私も研究会のということで言われたので,手を挙げたんですけれども,おっしゃるとおりで,取消しの問題となって,後に不当訴訟であるとかという問題とか出てくるときにまた問題になるとか,いずれにせよ,取消しの問題になるということで,研究会では考えていたと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。 ○日下部委員 少し補足的な話で恐縮ですけれども,2点申し上げたいと思います。   1点目は,今回秘匿措置の対象とすべき事項として,法133条2項1号が掲げる事項ということで,具体的には原告,それから法定代理人の氏名,住所ということが問題視されているところですけれども,日弁連の中で検討していたときには,法律レベルではないけれども,規則レベルで訴状に記載することが求められている事項についても,原告としては,実際にはその内容を訴状に記載しないわけにはいかないという点では問題状況は同じではないか,そういう観点から,法律より下の下位規範において,訴状に記載することが求められている事項についても,同様の秘匿措置を考えていく必要があるのではないかという意見がありました。そのことは,具体的にどうと今申し上げられるところまで考えを詰められてはいないのですけれども,一応言及させていただきたいと思います。   それから,2点目は,これまでの御議論の中では焦点が当たってこなかったと思うんですけれども,保護法益をどのように表現するのかというところで当然出てくる,その保護法益の帰属主体をどの範囲にするのかという問題は,当然残っているのだろうと思います。部会資料においては,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれという言葉を使うことによって,例えば,原告の親族に危害が加わるおそれがあるという場合でも,原告本人の問題として捕捉できるのではないかというような,そういったお考えが示されていたかと思いますが,保護法益の記載の仕方を仮に変えるんだということであれば,改めて原告の親族や親族に類する人に危害が加わるということをどう評価していくのか,どう捕捉していくのかということを,改めて考える必要があるのだろうと思います。   その意味で,先ほど言及いたしました刑事訴訟法の299条の3を見ますと,そこでは,親族への言及はあるわけですけれども,親族には当たらないけれども,それに近い立場の人をどうするのかという問題は,また別途考える必要があるのだろうと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会の藤野でございます。この問題,非常に大事な問題で,おっしゃるとおり性犯罪やDVの被害者が泣き寝入りのようなことがあってはならず,そういう場合に,また裁判を起こした場合に被害者を守られねばならない,犯罪を起こした方は罰せられねばならないという基本的なところがありますので,賛成ではございますが,範ちゅうがやはりちょっと広いというか,この言葉「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」というだけでくくっていいのかという,本当に素朴な疑問がございます。   私は,そもそももっと素朴に,何でこれがIT化の部会で議論されなければいけないのかということには疑問がございまして,それに対しては,これまでこの制度はなく,現在は秘匿すべきことは書記官を介在して運用で行われている部分があると伺いました。これがIT化されると,書記官を介在しないで動くものがあり,秘匿措置の制度を作っておかないとまずいんだということを伺いました。性犯罪やDV被害の場合はそのとおりなのでしょうが,IT化されることで,これまでできていたことが難しくなったり,困ることが増えることになるとそれは困るんです。   これが,範ちゅうが広すぎるというのは,例えば,暴力団が相手の場合にもお礼参りが怖いとかで,氏名や住所は秘匿したいというような訴えもあると思います。暴力団と悪徳事業者って似たようなもので,似たようなものなんて非常に失礼な言い方ですけれども,消費者問題で事業者相手に何かを訴えるときも同じようなことが考えられ,氏名や住所は秘匿できるのか。また,事業者側に訴えられ,秘匿されたらどうなるのか。どこまでが認められて,どこまでが認められないのかという,本当に素朴なところに疑問がございます。   よって,これは大事な議論ではありまして,しっかり通していただきたいところではありますが,例えば,DV被害や性犯罪に限るとか,事例を選ぶとか,要するに対象事件を選ぶとか,又は家庭裁判所で試行するとか,何らかのステップを置いて様子をみないといけないのではないかという考えがございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 日下部委員の意見と逆の立場からの発言になります。   具体的には,(1)の社会生活を営むのに著しい支障の前提は,飽くまで本人及び法定代理人との関係,本人を起点に判断をするという形になっています。それについて,親族やその他の者の支障も議論として出ていましたが,そのような者まで含めると,かなり広がりすぎるのではないか。少なくとも訴状の記載については,記載事項である本人及び法定代理人との関係に限定し,著しい支障があるかどうかの起点は本人及び法定代理人との関係で判断すべきです。   それから,実務家が発言することではないと思いますけれども,研究者である長谷部委員,青木幹事,垣内幹事から説明がありました判決の効力,さらには当事者の確定の議論との関係については,その議論によって訴状の記載が無効になるということであれば別ですが,今後の研究に委ねるという形に収まるのであれば,法定要件として定める(6)という形で対応可能なのではないかと思い,一言コメントしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがですか。よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,資料7ページ,「3 調査嘱託における秘匿措置」の方に入りたいと思います。   事務当局から,まず説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   調査嘱託は,嘱託を受けた第三者が調査結果の報告書を裁判所に提出し,これが直ちに訴訟記録となる性質のものでございます。第三者が裁判所に提出する書面には,当事者の様々な情報が記載されることがあり得ます。そこで,当事者の申立てにより,当事者の氏名,住所のほか,電話番号や当事者の子の氏名といった識別情報を相手方に閲覧されないようにすることを御提案しております。また,氏名及び住所の秘匿を貫徹するために,識別情報のみならず,識別情報を推知することができる情報,例えば,最寄り駅の名前なども秘匿することができるようにしております。   もっとも,民事訴訟において,相手方に閲読の機会が与えられない資料に基づいて裁判所が審理及び判断をすることは,公正さを欠くと考えられますので,相手方に秘匿された部分は証拠とならないものと整理しております。   また,要件に該当する範囲を超えて過度の秘匿がされた場合や,調査嘱託がされた趣旨を損なうような部分について秘匿がされた場合には,後に述べますとおり,相手方は取消しの申立てをすることにより,当該部分を閲覧し,裁判の基礎とする機会があるということになります。   以上が,証拠調べとしての調査嘱託についての御提案でございます。そして,法第151条第2項により,釈明処分としての調査嘱託につきましても,この規律が準用されることになると考えられますが,これに加えまして,訴訟係属が生ずる前に行われた調査嘱託の回答書につきましても,加害者である原告に秘匿することが必要な部分が秘匿される余地を残すべく,裁判所の職権でも秘匿措置を採ることができるものとしております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この調査嘱託の部分について,御質問でも御意見でも結構ですので,お出しを頂ければと思います。 ○阿多委員 実務の運用等について,簡単に紹介をしておきたいと思います。   DV被害者の支援措置を受けている被害者が被告になる場合を前提に説明します。従前は,被害者等に対して訴えを提起する場であっても,利害関係があるという形で住民票の取得が可能でした。ただ,被害者の住所が知れてしまうことになりますので,支援措置がなされる場合に,住民票の取得,戸籍の附票の取得を制限する運用になりましたが,他面,訴えを提起できないことになりかねないので,一時期,訴訟代理人である弁護士が地方公共団体に本人には知らせない旨の誓約書を提出して入手するといった運用がされてきました。しかし,それでも安全ではないということで,平成30年に総務省から通達がでて,裁判所と日弁連で取扱いについて議論をし,その議論の成果は,裁判所が職権等で住民票等を取得し,その住民票は,原告本人及び訴訟代理人の閲覧には供さない,閲覧請求は理由を付して拒否するという運用で,実務は動いています。しかしながら,訴訟記録が電子化されるという形になると,アナログに裁判所で拒否をしていたのが訴訟記録の閲覧により可能になるおそれが生じるので,立法手当をする,制度として,調査嘱託によって入手した情報を閲覧できないようにする必要がある。これが私の理解する立法の必要性です。   意見としては,これまでの議論を踏まえ,犯罪被害者その他に秘匿対象を広げていくわけですが,飽くまで訴状の送達先の調査のための調査嘱託と,証拠調べとしての調査嘱託とを分け,訴状の送達先の調査の場面では,推知情報等は含まずに被告の住所という識別情報だけを対象にするべきであって,証拠調べとしての調査嘱託とは区別して議論すべきだと考えます。   ○山本(和)部会長 御説明ありがとうございました。 ○日下部委員 今,阿多委員の方から,訴え提起,訴状の送達の段階とそれ以外の段階は区別して,訴状の送達の段階では,推知情報などは秘匿の対象とはしないようにすべきだといった御意見があったかと思います。私は,そこ,ちょっと考え方が違っています。   訴えの提起の段階であったとしても,第三者が調査嘱託に対してどう回答してくるのかということは,コントロールができない部分でありますので,そうしますと,被告の氏名や住所にとどまらず,いってみれば,ほかの余計な情報をいろいろ回答してきてしまうということもあるのではないかなと思えるところです。そういうことだとすれば,氏名や住所以外の情報で,被告の氏名なり住所なりが分かるということがあるのであれば,それは秘匿されてしかるべきだと思いますので,私は,どの段階でということで区別をすることはなく,氏名,住所,その他の識別情報と,それを推知させる情報は,調査嘱託との関係では,全て秘匿措置の対象とすることが妥当なのではないかと考えてまいりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 今の日下部委員の意見に対するコメントですが,調査嘱託の場合,申立て若しくは職権によるにしても,嘱託事項において,何について質問をするのかということは特定をした上で嘱託しているのであって,訴状の送達という場面に限定して,裁判所が職権等で嘱託するのであれば,推知情報について回答があることは通常考えられません。典型的には住民票の記載事項について回答を求めるだけであって,訴状送達の段階の秘匿の対象は限定しても支障はないと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小澤委員 御提案では,申立てにより,又は職権でとされておりますので,恐らく無用な心配なのかもしれませんけれども,現状,送達場所の届出等において,当事者が秘匿措置の申立てをしているのであれば,その後の手続において,裁判所の訴訟記録となったものについて,同一の秘匿情報について,さらに当事者の申立てを求めるというのは,少し酷ではないかと感じました。一旦申立てのあった秘匿情報については,あらかじめ事件管理システムに登録しておくことで,その後,事件管理システムに電子化されてアップロードされる調査結果の報告に係る書面などでは,自動的に伏せ字にされたり,若しくは何らかのアラートが出たりする仕様とするような,原則として職権で対応することが検討していただければと思いました。   その上で,推知情報などシステムで直ちに対応できない秘匿情報については,当事者の申立てにより秘匿することができるとした方が,当事者の保護と負担軽減になるのではないかという意見であります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 先ほど阿多委員の方から,訴え提起の段階においては,氏名,住所以外の識別情報や推知情報が回答書の中に入ってくるということはおよそ考えられないから,心配無用という御意見もあったかと思います。実態として,それはそうなのかもしれません。あとは,法制上,訴え提起の段階における規律とそれ以外の規律を分けてするか,全部取りまとめて,秘匿の対象としては氏名,住所以外の識別情報や推知情報も含むとするのか,私は,後者のように一まとめにしてしまっても,特段の害はないように思いますので,規定を複雑にする必要は特段,この局面ではないように考えています。   それとは別の観点ですけれども,証拠としての取扱いをどうするのかということが,部会資料の7ページの3(3)柱書きのところに書かれていると思います。それは,調査嘱託の回答書のうち,当事者識別推知情報記載部分を証拠とすることができないという規律であります。結論としましては,私はこのような規律を設けることに賛成であります。そのようにしないと,結局秘匿措置の対象とされて,一方当事者が知ることができない情報が証拠として利用されるというのは,これは当事者間での武器対等という観点から見ても,正当化できるものではないだろうと考えるからです。   若干気になりましたのは,証拠とすることができないという規律で十分なのか,つまり,弁論の全趣旨として斟酌されるような事態も考慮しなければいけないのではないかという問題意識を持ちました。もしもそこまで考えるのであれば,当事者識別推知情報記載部分を事実認定に用いることはできないといったような規律が頭に思い浮かぶのですけれども,ただ,ここまでいきますと,自由心証主義の例外を法定するということになるので,抵抗感は持つところです。この辺りは,ほかの方々の御意見,研究者の方々からも御意見を頂けると,有り難いなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○渡邉幹事 私も,研究会の方にも出させていただいて,そこでも申し上げましたが,DV等支援措置が採られているような場合であれば,裁判所においても秘匿を要する事案であることが認識できるのですが,それ以外の場合については,訴状送達前の段階において,秘匿の要件を判断することは,必ずしも容易ではなく,また,何が当事者識別推知情報に当たるのかといったことを判断することも,困難です。   例えば,回答書を返送した自治体名を見ただけでも,所在場所が推知できるといったようなケースもあるかと思いますが,そういったケースであるのかどうかについても,裁判所が判断することは困難です。したがって,被告の住所の調査の結果については,暫定的に,全体につき秘匿措置を採り,その後被告に具体的に特定を求めるといったような運用も考えられるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○日下部委員 何度も申し訳ありません。部会資料の中で,(注)であったかと思うのですけれども,送付嘱託及び文書提出命令での扱いをどのようにすべきかという問題意識も示されていたかと思います。送付嘱託の申立ても文章提出命令の申立ても,現行法上は証拠申出とされておりますけれども,実務的には,そうした嘱託や命令に応じて提出された文書を各当事者が閲覧等して,自らの立証活動に必要なものを選別して,別途書証の申出をしているということで,現行法上の理論的な位置付けと実務が必ずしも一致していないという,説明困難な状態でもあろうかなと思います。   部会資料の中で示されている問題意識は,そうした事情を考慮して,どのように考えるべきなのかという悩みを示しているものだと思うのですが,私としましては,今現在議論されております秘匿措置との関係では,証拠としての扱いを含めて,調査嘱託の場合と同様の規律を設けるということ自体は可能であって,また,妥当なのではないかなと思っています。それによって,今の送付嘱託や文書提出命令の実務に対する説明の仕方や考え方に影響をもたらすということはあり得るかなと思いますし,それは十分予測ができておりませんので不安は持っているのですけれども,少なくとも秘匿措置との関係では,調査嘱託と同じような規律に服せしめても,そのこと自体には支障はないように思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,次の論点,資料10ページの「4 証人尋問の申出における秘匿措置」,この部分についても,事務当局からまず説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   証人尋問の申出は,証人を指定してしなければなりません。この証人の指定は,通常,証人の氏名及び住所でされます。例えば,被害者のかかりつけ医が証人になる場合には,証人の氏名及び住所から当事者の住所を推知することができる場合があると考えられます。そこで,当事者の申立てにより,証人の氏名及び住所を相手方に閲覧されないようにすることを御提案しております。また,例えば,当事者と共通の被害を受けた被害者が証人となる場合には,証人に危害が及ぶおそれがあれば,当事者に危害が及ぶおそれがあるかどうかにかかわらず,その証人の氏名及び住所を秘匿することが,被害者の保護に適うものとも考えられます。   そこで,本文4では,他の規律とは異なり,第三者である証人自身を保護するための秘匿措置の規律も御提案しております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この証人の部分につきまして,これもどなたからでも結構ですので,御質問,御意見をお出しいただければと思います。   いかがでしょうか。 ○日下部委員 またあんまり連続で言いたくないので,ちょっと待っていたんですけれども,どなたもいらっしゃらないようなので手を挙げました。   ここでは,証人自体を秘匿措置の対象に含めているわけですけれども,これは,少なくとももはや被害者の裁判を受ける権利の保障,訴え提起の時点での話という趣旨は明らかに超えている話でして,立法事実があるのだろうかということには疑問を感じています。取り分け,証人自体を保護法益の主体に加えている部分は,証人自身の保護を趣旨とする規律になっていますので,そのための法改正をすべき立法事実が果たしてあるのだろうかという疑問は拭えないでおります。もちろん,人々が安心して証人になる,証言することができる環境を作っていくことは,すばらしいと言えばすばらしいのですけれども,こうした規律を入れることによる何らかネガティブな影響がないだろうかということは,慎重に検討しなければいけないと思いますし,それとの関係で,立法事実もきちんと評価していく必要があるだろうと思います。   私自身としましては,証人の氏名なり住所なりを秘匿措置の対象とするということは,相手方当事者からすると,どこの誰が証人になってくるのかが分からない状態で,証拠調べ期日を迎えて,そこで防御活動として反対尋問などをしなければいけないということになるわけでして,それはやはり,情報を知らされることがない当事者に,過度に不利益を与えることになってしまい,現行法上許容できる範囲を超えているのではないかと思います。   これに対しては,そのような不利益があるのであれば,除外事由を理由として秘匿措置の取消しの申立てをすればいいではないかという考え方もあり得るとは思うのですけれども,民事訴訟の証拠調べの局面において,秘匿措置の適否が争われるということが起きますと,手続進行に対する影響も大きくあり得るところだと思いますし,この制度が入ることは,場合によっては,本当は被害を受けていない人が,裁判所の心証をよくするために,相手方を加害者であるというように言って,この制度を悪用するということも当然考えなければいけませんので,そうしたことを踏まえると,差し当たり,私はこのような証拠法のレベルにおいての秘匿措置を設けていくということについては,消極的に考えております。   同じ理由で,書証の申出についても同様に考えていることを付言いたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 証人尋問について,守ろうとする利益は,当事者本人とは別の証人の利益になると思います。第1の1でも,この制度によって守ろうとする利益が何なのかを検討した訴状の記載や調査嘱託とは別の考慮になります。証人尋問についての申出について,制度導入するのは趣旨が異なります。   そもそも証拠は,調査嘱託,送付嘱託,文書提出命令でも議論したとおり,当事者がコントロールできること,申出をする等は当事者でコントロールできるわけで,むしろ被告の防御権や当事者の選択の考慮ということを含めながら総合的に検討すべきと考えます。今回の改正の提案で,証人まで取り込むのは余りに議論として拙速ではないかと考えます。訴状,送達先,さらには判決書の記載に限定をして議論すべきであって,証人尋問や書証を含めた証拠等については,後日,詳細に検討すべきではないかと考えています。   なお,文書提出命令や送付嘱託についての証拠調べの方法の法的性質の違いよりも,問題にすべきは本人がコントロールできる情報なのかどうかという点が重要であって,文書送付嘱託,調査嘱託,さらには提出命令についても,本人がコントロールできない情報が記載されている可能性があるのであれば,それについての秘匿の機会ということを考える必要がありますが,自らが所持する文書についての提出については,自身でコントロールできるので,あえて制度導入を検討する必要はないと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。阿多委員の,本人がコントロールできるというのは,証人尋問を申し出る際に,証人の氏名,住所等を必ずしも特定しないでもできるではないかということですか。 ○阿多委員 私がコントロールと言うのは,その証人を申請することの当否,つまり,調べることによるメリットです。もちろん,どうしても唯一の証人で取調べが必要な場面はあり得るかと思いますが,慎重に検討すべきではないかという意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました,よく分かりました。 ○笠井委員 私もちょっと,一応同じ方向の意見はまとめた方がいいかなという程度で,私,研究会の方に入っていたんですけれども,そちらの方では多分少数意見だったと思います。証人についてここで入れることについて,どういう位置付けになるのかというのが,全体の枠組みの中でよく分からないというのは,今,阿多委員がおっしゃったのと正に同じことであります。証人として呼ぶかどうかという意味で,それを呼ばざるを得ないという事情が本人にコントロールできる状況なのかどうかは確かに問題になるとは思うのですけれども,どうも今回のまとめた全体像を見たときに,異質なところであるというのは,そのとおりだろうなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 私自身は,立法事実という点について,必ずしも積極的に何か申し上げる用意はないんですけれども,考え方としては,この御提案いただいているような証人尋問の申出における秘匿措置ということは,十分あり得る話なのではないかというように考えております。   まず,当事者の法益が問題となる場合と,証人自身の法益が問題となる場合があって,この提案は両方含んでいると。取り分け後者の方がかなり異質なものになるのではないかということは,他の調査嘱託ですとか,訴状等の場面との比較という点では,確かにそれとは少し異なる考慮がここに表れているということにはなるのではないかと思います。   ただ,これは,何と申しますか,第三者である証人の証言義務の限界であるとか,文書提出義務の限界であるとか,様々訴訟外の第三者が訴訟に協力すべき義務の外縁をどのように画するのかという,一般的な問題にも関わってくるところですので,そういう意味ではかなり慎重な検討が必要であるということは,そのとおりであろうかと思いますけれども,日下部委員からも御指摘ありましたように,証人の氏名,住所等が分からないということによって,攻撃防御にやはり支障が生ずるということであれば,これは除外事由によって対応がされるということでありますし,そもそもそういう意味では,攻撃防御に実質的な支障があるとは認められない範囲で,証人がその氏名,住所を明かすと,社会生活を営むのに著しい支障を生ずると,これも典型的には身体等に対して危害が及ぶという場合を想定しているということかと思いますけれども,そのような場合に,攻撃防御に支障がないにも関わらず,その氏名,住所を明かさなければ証言できない,かつ,これは,当事者は確かにコントロールできるということではありますけれども,証人自身は義務として証人の義務を果たさなければならないわけでありますので,コントロールができないと。そういった証人の地位というものを考えたときに,この場面で秘匿を認めないということが果たして合理的なのかというと,これは,対応すべき問題があるということではないかというように,私自身は考えております。   また,当事者の立場から申しますと,先ほど来コントロールできるというお話もありましたけれども,しかし,適切な証人が他にいないというような場合に,やはりこの証人の証言が重要であるという場合もあり得ると思われますので,そのような場合に,充実した攻撃防御を可能にするという観点から,こういった規律を設けることは一定の意義があるのではないかと思われるところで,そういう意味では,この提案の方向性に私自身は賛成でありますが,慎重に検討すべきであるという御指摘ももっともなところがあると思われますので,更に検討が必要なところであるかとは思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 ありがとうございます。非常に難しい問題で,どう考えていいかよく分からないので,前提となる点について,ちょっと周辺的な話になりますが,この案を採用した場合どうなるのかという点について,お教えいただければと思います。   まず,192条,193条で不出頭の制裁がありますが,その制裁との関係で,証人の氏名等の秘匿というのはどういう効果をもたらすのか,こういう制裁を科すことができなくなる可能性というのはないのかという点を,一つお伺いしたいと思います。   それと,証人が証言拒絶権があると主張した場合に,その証言拒絶権の有無の審理はどういうふうにされるんでしょうか。証人申出をしたものの,相手方の方は,それについて何ら自分の意見を述べる機会も与えられないということになってしまうことでいいんだろうかと。仮に証言拒絶を認めなければいいんですけれども,証言拒絶があると,裁判所等はどういう人か分かっていますから,それで証言拒絶権があるんだと判断してしまうことができるのかどうかという点について,どうお考えなのかということをお教えください。   それとともに,やはり証人自身の利益を,本来は証人自身の問題だと思うんですけれども,それが申出書に記載されて証拠決定がされてしまうと,後から取り返しが付かない場合があるということで,こういう措置が設けられているんですけれども,仮にこういう措置を法制化した場合に,証人尋問の申出をした当事者が,この措置を採ることを申し立てなかった場合で,証人はそれによって著しい不利益を被ったと主張して,むしろそれで,将来において損害賠償請求を,証人申出をした当事者が受けることになりはしないかという点も,ちょっと危惧されるところです。   最後の点は特にお答えは必要がないと思いますが,前者二つについて,お教えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。それでは,事務当局で,お答えいただける範囲でお答えいただければと思います。 ○藤田関係官 お答えいたします。まず,2点目でございます。   この秘匿措置の御提案は,証人尋問の申出における秘匿措置ということでございまして,証人尋問申出書の氏名,住所の扱いのことでございます。相手方が,信用性等の判断のために,その氏名,住所が明らかにされる必要があるんだと主張する場合は,本文5の除外事由による取消しで対応されるということが想定されております。以上のような前提がございまして,その除外事由による取消しがされていない中で,証人尋問で秘匿されている証人の氏名,住所の質問が出た場合には,現行の民事訴訟規則に存在するような質問の制限の規定に準ずるような形の質問の制限が法律ではない下位の規則において定められて,訴訟指揮権が適切に行使されるということが想定されております。   次に,1点目でございまして,これはお答えすることがなかなか難しいものでございます。法の第192条,第193条の「正当な理由」を裁判所が判断する一要素として,この秘匿措置の適用の有無等が考慮されることもあるのであろうというような限度で申し上げます。 ○山本(和)部会長 ちょっとずれていたような気もするけれども,山本克己委員,どうですか。 ○山本(克)委員 私が言っているのは,行政罰にしろ,刑事罰にしろ,当該証人の特定性を欠く中で,果たしてそういう行政罰や刑事罰を科す手続を起動することができるかという問題で,仮に起動してしまうとばれちゃうというパラドックスが生ずるんではないかということを申し上げたつもりです。   それから,2点目の方も,私は証言拒絶権の判断について申し上げたんで,質問の制限の話はお伺いしていないつもりでございます。 ○山本(和)部会長 どうでしょうか。事務当局,あるいは問題提起として。 ○藤田関係官 はい,問題提起として承らせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○渡邉幹事 研究会においては,証人尋問の申出における秘匿措置には,一定の必要性があるとして議論がされていたと認識しております。   他方,運用として,証人尋問の申出において,証人がどのような方かについて秘匿することは難しいと思っております。どういったニーズがあるかについては,皆さんの御議論に委ねたいと思いますが,運用で対応できない中で,本当に必要性があるのであれば,こういった規律を設けるということも考えられると思っておりますので,その前提で御議論いただければ幸いです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 補足説明に述べられているとおり,証人の住所,氏名も保護すべき場合があるという点については,そのとおりだと考えております。一方で,当事者が尋問申出書を裁判所に提出する場面において,あらかじめ証人が自己の住所,氏名の秘匿を求める申立てをしておくということは困難であるということも,当然だと思っています。しかし,証人の保護法益を意識した当事者ばかりではないことは明らかですので,証人に関する秘匿の有無を当事者の申立てに委ねておくことは,相当ではないのではないかと考えています。   そこで,事件管理システムとの関係について考えてみますと,証人も事件管理システムに登録をすれば,システム送達を利用することになるのだと思いますので,証人の住所に裁判所からの書面が送付されるということはないのだろうと理解しています。そうであれば,民事訴訟規則106条では,証人の指定をすれば足り,住所の記載まで求められているわけではないので,事件管理システムを利用した場合には,尋問申出に当たって住所以外の識別情報,推知情報を記載することで,最初から当事者に証人の住所の記載を求めないこととする検討もできるのではないかとも考えました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○阿多委員 最高裁から実務の工夫の実情の話が出ました。証人等に関する情報でも氏名情報と住所情報では差異があり,住所情報は,実際に証人の自宅等を記載すると嫌がらせを受ける可能性がありますので,勤務先情報とか他の代替情報を記載することもあります。多くの場合,同行で対応しますので呼出状の送付先の問題は起こりません。呼出状が必要な場面でも,送付場所は工夫していますので,必ずしも今回の制度を導入しなくても,住所情報を知らせずに対応する方法もあります。実務の工夫が生かされるのではないかと思います。   氏名の秘匿は,暴力団関係の事例等考えられますが,制度の導入は慎重に検討いただけたら,今回は先送りでいかがかというのが,私の意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございました。それでは,次に移る前に休憩時間を入れたいと思います。   短くて誠に恐縮なんですが,3時45分,おおむね15分程度ということで,15時45分に再開したいと思いますので,それまで御休憩いただければと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,時間になりましたので,審議を再開したいと思います。   続きましては,資料の12ページ,5の「不服申立て」について審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   それぞれの秘匿措置の対象となった部分を閲覧しようとする当事者及び第三者には,秘匿措置の要件を欠くことを理由とする取消しの申立権を付与しております。これに加えまして,民事訴訟においては,被害者以外の当事者の攻撃防御の機会も保障し,公正な裁判がされるようにすることも重要でございます。そのため,秘匿措置の対象部分を閲覧することができないことにより,自己の攻撃防御に実質的な不利益が生ずるおそれがある場合には,その部分を自分だけに閲覧させるよう申し立てることができる仕組みも御提案しております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。今までの御議論の中でも,言及いただいた部分はあったかと思いますけれども,ここでまとめて,この申立てについて御質問,御意見をお出し頂ければと思います。 ○大坪幹事 質問になります。部会資料の14ページの2の除外事由の(2)住所の秘匿と管轄違いに関するところでございます。ここの記載,第1段落のところでは,結論としては,住所の一部について秘匿措置の決定が取り消され,原告に開示されることとなると考えられるという記載があります。これが実際そういうことになるのかの確認です。   9ページにDV等支援措置における加害者とされた者が,被害者とされた者を被告として訴えを提起する場合の取扱いというのが書かれています。これは,加害者となる原告が,被告の住所が分からないということで,住居所不明ということで,例えば,A裁判所に訴状を提出するということにしたときに,A裁判所が調査嘱託で被告の住民票を取得するということになるかと思います。その場合,A裁判所の方で新しく判明した住民票にしたがって,その住所に訴状を送達すると考えられるのですけれども,訴状の記載としては,被告の住居所は不明のまま送達されるのではないかと考えています。それで,被告の方でそれを受け取れば,A裁判所で訴訟をすることが問題なければ,応訴管轄という形で,そのA裁判所ですることが可能となる。もしそれに差支えがあれば,例えば,弁護士に依頼して,弁護士の事務所がある別のB裁判所で,訴えをそこの住所地にして訴えを移送するということも考えられます。そういうことで,必ずしも部会資料で書かれているように秘匿された住所について,「秘匿措置の決定が取り消され」るということになるのかがよく分からないのですけれども,いかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○藤田関係官 お答えいたします。今おっしゃるように,被告側が被害者の場合で,応訴管轄が成立する場合は,部会資料の14ページの2の(2)の「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所にしか管轄がない場合」に当たらないということになろうかと思われますので,取り消されるということもないのだろうと考えております。   被告が応訴管轄を成立させずに,むしろ移送の申立てをするような場合は,被告側において,具体的な裁判所を指定して移送を申し立てるはずであって,その場合には,この除外事由による取消しの問題というよりは,被告自ら自分の住所はここですというように,管轄が分かる範囲で明らかにした上で申し立てないと,成り立たない話になってまいります。そして,住所のうち管轄が分かる範囲を超える部分については,必ずしも除外事由の要件を満たすかというと,そうではないのであろうとも考えられますので,いずれにせよ,大坪幹事御指摘のように,現実に開示される場面というのがどこまであるのかというのは,疑問に思っておるところでございます。 ○大坪幹事 ありがとうございます。補足ですけれども,14ページでは,「これに対し」ということで,「DVシェルターの数が限られているような都道府県」ということが書かれております。全国で一律というわけではないので,実際の運用はよく分からないのですけれども,被害者となる方がDVシェルターにいる期間というのは,一時的なのではないかと思われます。その場合,住民票をいちいち移すということは考えられないのではないかと思います。ですので,ちょっとここの懸念についての記載もよく分からなかったところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 大坪幹事と同じ部分について,私の理解ですが,現状の実務では,調査嘱託等で住所が分かったが,管轄が異なる場合,どのような扱いをするのかというと,裁判所から被告に連絡を取り,応訴管轄を選択されるのか,それとも,別の裁判所を希望されるのか,別の裁判所であれば一定の情報が開示されることになる等を説明し本人の了解を得て取り扱っていると理解しています。   むしろ,検討されるべき事項としては,本人としては,応訴管轄では物理的に遠い裁判所で裁判を受けることになるが,自分の住所地を知られることによって所在場所が推認される可能性,都道府県といえども可能性があるという場合に,何らかの代替的な管轄を定める方法が考えられるのか。別の裁判所を訴訟係属後に選択することが可能かということだと思います。いずれにしても,少なくとも記載事項との関係でいうならば,原告に開示されるのは本人が同意している場面しか考えられないのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 私の方からは,不服の申立てをする者が誰なのかということで,二つコメントさせていただきたいと思います。   一つは,相手方当事者による不服申立ての場合についてです。今回の御提案では,不服申立てについては,その理由としては,要件の欠缺と除外事由で分けていて,要件の欠缺については,当事者も第三者も不服申立権者になっている。除外事由については,当事者だけが不服申立権者になっている。効果としては,要件欠缺の場合は絶対効で,除外事由の場合には,その申立てをした者についての相対効であるという整理になっているかと思います。そのような構成そのものは,合理性があってよいのではないかなと思うのですけれども,問題意識を持ちましたのは,除外事由を理由とする相対的な取消しが認められた後の状況についてです。   一部の当事者についてのみ除外事由が認められて,その当事者についてのみ取消しの効果が認められた場合に,当該当事者が閲覧等した秘匿措置の対象となる情報を,他の当事者を含む他者に開示できるとすると,取消しの効果を相対的に認めた理由が損なわれることになるだろうと思います。そのため,当該当事者には,閲覧等した秘匿措置の対象となる情報を,自己の攻撃防御のためにのみ使用し,かつ,ほかの当事者を含む他者に開示してはならないという義務を課す必要があるのではないかと思いました。また,その当事者が当該情報を記載した準備書面などを提出しますと,提出した準備書面は,当該当事者とその被害者にのみ閲覧等が可能とされるべきで,そうした準備書面などにも秘匿措置が及ぶような制度的手当てが必要になるのではないかと思いました。   そうした準備書面などについては,法92条1項,既存の閲覧制限等の規定で,ある程度カバーできるのかなとも考えられなくはないんですけれども,ただこれ,除外事由が認められていない共同当事者には閲覧等の制限が掛からないので,法92条によって解決できる問題であるとは整理できないだろうと思います。   それから,2点目が,第三者による不服申立てです。冒頭に簡潔にまとめましたけれども,第三者は,要件欠缺を理由として,誰でも不服申立てができるという提案がされているかと思います。これは,恐らく一般に訴訟記録の閲覧等をすることの価値を重視する立場からかなと思っています。しかし,訴訟記録の閲覧等をすることの価値というのは,確かに裁判の公開という憲法上の要請に連なるものではあるものの,憲法上の要請そのものではなくて,政策的にできる限り認められることが望ましいというものだと思いますので,それを上回る別の利益との関係で,相対的に実現の適否が判断されてよいのではないかと思います。   そこで,相対的にどう判断すべきなのかということなんですが,現在の御提案は,正に社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれという実体的要件を前提として,現行法の92条の規律と同様に,第三者は誰でも要件欠缺を理由とする取消しの申立てができるという提案になっているかと思います。先ほど申し上げましたとおり,今回の秘匿措置における保護法益を,よりシリアスなもの,より強い危険を回避するための制度なのだと考えれば,第三者に誰でも不服申立権を認めるということが,バランスが取れているのだろうかということは,強い疑問を感じています。そこで,処理として,第三者には不服申立権を認めないということも制度的にはあり得るようにも思いますし,それが非常に極端であるということであれば,秘匿措置の対象となっている情報を知るべき利害関係のある第三者に限って,申立権を認めるといった,言わば中間的な制度設計をするということも考慮されるべきではないかと思いました。   長々失礼いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 非常に細かいことで恐縮ですが,取消しの申立てをどこの裁判所にするかというところで,訴訟記録の存する裁判所となっているんですが,管理システム上に記録がある場合の存するというのは,どういうふうに判定すべきものなんでしょうか。お教えください。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。訴訟記録は裁判所書記官が管理するものとされておりまして,その管理権限を有している裁判所書記官の属する裁判所,これが,訴訟記録の存する裁判所というような扱いになろうかと考えております。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,いかがですか。 ○山本(克)委員 了解しました。それは,でも,その当事者や第三者にそれが分かるような方法って,何らかの手立てというのは与えられる予定なんでしょうか。これ,システム構築の問題なので,法務省にお伺いするのが適当ではないかもしれませんが。 ○山本(和)部会長 事務当局から,もしお答えがあれば。 ○藤田関係官 正におっしゃるとおり,システムの問題ではございますが,現行の紙と同じように,そういった管理権限を有する書記官が,唯一人しかいないというような管理権限の処理がされるのであれば,二重に存在するということはなく,紙の記録と同様に,事件が一審に係属するのであれば地方裁判所,控訴審に係属するのであれば高等裁判所というように,当事者,あるいは第三者が判断していくということになるのであろうとも考えられます。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,よろしいですか。 ○山本(克)委員 そこは,紙ベースの場合と考え方は変わらないということで,よろしいんですね。はい,分かりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 不服申立ての制度を置くこと自体は,手続保障の関係で必要だとは思いますが,一定の場合には不服申立てを認めない,秘匿措置がなされれば,そのまま確定させる場面を設けるべきではないかというのが1点目です。具体的には,調査嘱託の回答の場面で,典型例として言われるDV等支援措置が申し出られて地方公共団体等による住民票等の開示がされないという場面,そのような場面では,地方公共団体等は住民票等を提出するに際して加害者本人等に開示されないという前提で住民票等を裁判所に提出しているわけです。そうしますと,調査嘱託の回答が住所の特定のためだけに使われる場面では,不服申立ての対象から除外するということが考えられます。回答者である地方公共団体等は事後的に開示されるということが分かると回答を躊躇し,情報提供等に支障が生じることも考えられます。   先ほどDV等支援措置の例を挙げましたが,それ以外に,性犯罪に関する刑事事件の有罪が確定している場面も,不服申立ての対象から除外することが考えられます。   13ページ(1)で,「これを欠くに至ったこと」として事後的な,言わば事情変更に基づく取消し等を想定されていますが,制度設計としては,最初から区別した方が解り易いと考えています。   2点目は,不服申立ての申立権に第三者を含めるのかという点は,当事者だけに限定すべきと考えます。そうしないと,事件が実際終了した後に第三者が訴訟記録の閲覧等を求められた際,第三者から取消しを申し立てられると,当事者は都度対応せざるをえないことになりかねません。基本的には,秘匿措置の相手方の攻撃防御に支障が生じるかどうかが不服申立ての理由とすべきであって,類型的に第三者には申立権はないという制度設計を考えるべきだと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 秘匿措置の申出については,事案の性質上,秘匿措置が認められることを条件として訴えを提起する当事者も想定されるのではないかと考えています。この点,被告の不服申立てが認められた場合,原告としては,秘匿を求める情報が開示されてしまうということになると思いますので,訴え提起を躊躇せざるを得なくなるように思っています。そうであれば,続行期日などにおいても,被告の同意なく,原告には訴えの取下げを認めるべきニーズがあると言えるのではないかと考えました。   具体的に申し上げますと,被告が秘匿措置の取消しを申し立て,決定を取り消す裁判が確定した場合,原告は民事訴訟法261条2項の規定にかかわらず,被告の同意なく訴えを取り下げることができるようにすることなどの方策も必要なのではないかと考えました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大坪幹事 すみません,先ほどの阿多委員の御意見に質問なのですけれども,一定の場合には取消しを認めないという御趣旨だったと思うのですけれども,そもそもDV等支援措置自体が解除された場合は,必要なくなるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 御質問ということですが,阿多委員,もし。 ○阿多委員 支援措置自体は行政処分であり,処分取消しは行政不服審査等の手続が行われますので,支援措置自体が取り消された場合には,秘匿措置は不服申立ての対象になると考えます。他方,支援措置が継続している間では,裁判所は,支援措置を前提とする秘匿措置の取消しを控えるべきだという提案です。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○大坪幹事 はい。 ○山本(克)委員 細かい点で恐縮ですが,揚げ足取りみたいな議論で恐縮なんですが,阿多委員の先ほどの不服申立権者についての御議論なんですが,少なくとも証人の氏名等の秘匿措置を取り消す裁判については,当該証人も即時抗告権が与えられてしかるべきなのではないでしょうか。恐らく,(1)のウの特定された者は,その場合には当該証人だと思いますので,そうしないとまずいのではないのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 この不服申立ての取消しの申立権者について,当事者以外に第三者についても認めるかどうかということについて,認めるべきでないという方向の御意見が多く発言をされたところかと思います。確かに大変悩ましいところではあるのですけれども,現在,当事者の氏名,住所等も含めて,一般的に訴訟記録の閲覧の対象とされていると。それについては,誰でも閲覧をすることができるということで,閲覧制限がされた場合に,それについては取消しの申立てができるということになっているということを前提としたときに,この当事者,対当事者との関係での規律が,第一次的な趣旨ということではあるのですけれども,やはりそれによって,第三者は閲覧ができないこととなると。   もちろん,要件が満たされているということであれば,それは当然閲覧できないというのは,やむを得ないことではあるわけですけれども,要件が欠けているにもかかわらず,当事者が不服申立てをしない等,取消申立てをしない等のことで,当然に第三者の通常は認められている閲覧が認められなくてよいということになるのかどうかというところについて,若干私自身はなお迷うところでありまして,そういう観点からすると,この提案のように第三者にも取消しの申立てを認めるという考え方も,あり得ることはあり得るのかなというように,今のところ感じているところです。   この点も,引き続き私としては考えていきたいと思いますが,現時点での考えを申し上げます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 山本克己委員から証人の氏名等についての指摘がありました。休憩前の私の提案は,証人等を秘匿措置の対象とすることは,今回の改正では時期尚早であるというもので,証人等は対象外だと理解をしています。   それから,垣内幹事が発言されるバランス論についても,私自身は,秘匿措置の対象を限定的に捉え,本人の利益に限定し,かつ認める場面も限定することによって,その場面では第三者の閲覧の利益に優先するという価値判断をした上での立法にせざるを得ないと考えます。場面を限定し,その場面では第三者の閲覧を認めないという提案です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 私も,垣内幹事がおっしゃったポイントについて,自分自身の意見を補足させていただきたいと思います。   私は,元々現行法の92条1項1号と同じような実体的要件を設定しているところに,問題が根本的にあるのではないかと考えているところでして,実体的要件をもう少し,被害者にとって深刻な害が更に及ぶ可能性があるんだといったことを示すような度合いの高いものに設定することによって,92条の議論とはもう切り離して考えるべきではないかと思っているところです。   それでも,91条に定まっているとおり,国民は誰でも訴訟記録を閲覧することができるということは当然あるわけなんですけれども,それは,バランス論でどうするのかという話で,私自身は,第三者には一切不服申立ての権限がないんだとまで割り切るのはどうかなと思っているところです。しかし,一方で,実質的に特に秘匿されている情報を知る必要もないような第三者が,不服申立てができるともしてしまいますと,これは,加害者とされている当事者が,自分のコントロールの及ぶ別の人を使って,何度も何度も不服申立てを,第三者を使って行うということも可能になってしまうというところが,やはり気になるところです。そういう意味で,落ち着きどころの一つとして,秘匿されている情報を知ることについて,何らか合理的な必要がある者とか,あるいは利害関係のある者ということに絞って,第三者に不服申立権を認めるという辺りがよいかなと,今のところ考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○垣内幹事 度々申し訳ありません。どうも私には,日下部委員が今言われた点のうち,実体要件が92条と重なっているので生じる問題なのではないかという点につきましては,実体要件がどのようなものであれ,やはり第三者も閲覧できないという効果を生じているということに,元々起因している問題ですので,仮に異なる実体要件を考えたとしても,それによって当然にどちらかになるということでもないのではないかという気もいたしております。   それで,現在,92条の方の閲覧制限についても,私生活についての重大な秘密等ということで,それについて,第三者が要件を欠くということになれば,取消しの申立てをすることができると。その第三者の範囲については,特段の制限というものは,法律上は定められていないということなのでありまして,そのこととの関係で申しますと,例えば,取消しの実体的要件について,第三者との関係では,その要件を満たさないことが明らかになる場合に限って認めるとか,そういう区別というのは,あるいはあり得るのかもしれませんけれども,利害関係のある者に限定するとか,あるいは,一切認めないという規律について,やはり私自身はまだ疑問が少し残るという感じがしているところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○阿多委員 (1)イの除外事由による取消しの(ア)の要件について今回の提案は,自己の攻撃又は防御に実質的な不利益を生ずるおそれを疎明の対象にしていますが,この実質的な不利益という判断自体の疎明が可能なのかが気になります。実際にどういう裁判手続をイメージしているのかがよく分かりません。   他の代替要件が考えられないか。例えば,家事事件手続法では,事実の調査の通知について,手続の追行に重要な変更を生じ得る,結論が変わり得るときに通知を要する旨が63条に定められていますが,この「手続の追行に重要な変更を生じ得る」ことをメルクマールにする方が明確ではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかには,よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,この第1の部分の最後になりますけれども,16ページ,「6 判決書における秘匿措置」,この点につきして,まず事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。判決書には,当事者及び法定代理人を必ず記載しなければならないものとされております。通常,その人の氏名及び住所が記載されます。そこで,訴状や送達場所等の届出,調査嘱託における秘匿措置が採られた場合には,判決書においても,秘匿措置の対象となった当事者の氏名及び住所を記載することを禁ずることを御提案しております。当事者の氏名及び住所を記載しない場合に,判決書にどこまでの記載が必要かという点につきましては,訴状と同様に,いろいろな考え方があり得ることから,本文6の(3)の規律を設けることにつきましては,【P】とさせていただいております。   なお,調査嘱託における秘匿措置の対象となった部分は証拠とならないことから,判決理由における事実認定の基礎とはならず,判決書にそれが書かれれば,弁論主義に反するというようなことにもなり得るとも考えられます。このようなルールに重ねて,判決書の全体にわたって各秘匿措置の対象となった部分を記載してはならないという義務を課する必要があるとの考え方もあり得ますが,そうではない考え方もまたあり得ると思われますので,この考え方の分かれ目になる規律を,ブラケットで囲んでおります。   なお,判決書の全体にわたって秘匿部分の記載を禁止するような規律を設ける場合には,判決書その他の裁判書に限らず,裁判所や裁判所書記官が作成して,訴訟記録となるあらゆる書面について,送達報告書等,本文に出てきておりますものを除き,一律にそのような禁止規定を設けるというような考え方を採用することが整合的であるとも考えられるところでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきましても,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○笠井委員 今,藤田関係官の説明の最後の方にもあったところですけれども,16ページの6の(1)の法253条第1項第5号に掲げる事項としてという,この墨付き括弧について,これについても,この括弧を外して規律として設けるのがいいのではないかと考えております。法律として,ここは駄目なんだとはっきり書かないと,ほかのところについて,裁判所が作る書面全部とか,あるいは判決書の中でも,攻撃防御がされたようなところについて書いてはならないというような話にまでなるのかという話になってきて,本来そういったところは取消しの方で対応すべきなのかもしれませんけれども,やや広すぎるという感じがしています。訴状のところで,133条2項1号に限っての話であるところと対応する関係で,253条1項5号に掲げる事項としてとはっきりと謳っておいた方が,法律の規律としては明確ではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 事務当局への質問ですが,6の(1)に次に掲げる書面に基づく記載をしてはならないという禁止規範が提案されていますが,この規範に違反した場合,どのような効果が生じるのですか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○藤田関係官 お答えいたします。今の御質問の点につきまして,必ずしも定見を持ち合わせておりませんが,何かしらの訴訟法上の効果が生じるという規律を設けるところまでは御提案しておりません。 ○阿多委員 そうしますと,裁判国賠とかの話になるのかもしれませんが,それは別にして一定の事実認定が取り消されるとか,裁判所の判断の理由の不適法となり,理由不備という効果が生じるということではないとすれば,禁止規範を明文で置く必要があるか疑問に思いました。思い付きのコメントですが。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 この判決書における秘匿措置の規律の是非については,秘匿措置が施された判決書が,その後どのように使われるのかということが十分分からないと,検討できないと,なかなか判断しづらいなと思っています。例えば,上訴されたときにはどうなるのか,秘匿措置が取り消された場合にはどのように扱われるのか,執行の場合には,執行の局面ではどのように扱われるのか,そういったことを,今の時点では難しいかもしれませんけれども,次回の部会のときには,もう少し具体的にイメージできるような形で,検討材料,検討素材を提供していただければなと思います。意見というよりは,お願いでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 この点は,先ほど笠井委員から御発言があった点で,研究会でも議論のあった点でありまして,研究会でも笠井委員はこのブラケット,6の(1)のブラケットは取るべきであるという御意見で,確かにと思う部分もあります反面,私自身は,このブラケット内は必ずしも必要ないのではないかと。ですから,判決書に次に掲げる書面に基づく記載をしてはならないといった規律でよいのではないかという考えを,今のところ持っております。   と申しますのは,原告表示書面等に基づく記載というものは,通常確かに5号に掲げる事項としてすること以外には余り想定し難いのではないかと思われますけれども,しかし,5号に掲げる事項としては,してはならないけれども,ほかではしてよいという規律なのかといえば,どこに記載しても,それは記載してはならないということ,秘匿しなければならない事項でありますので,記載してはならないということではないかと思われますので,そのことを端的に表現する規律としては,特段このブラケット内の文言が必要なのかどうかというと,私は必ずしも必要ないのではないかというように考えているところです。   実際には,余り心配ないのかもしれないという感じもいたしますけれども,あえて限定する必要があるのかどうかという点について,若干私は疑問を持っているということになります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○笠井委員 今の垣内幹事のへのお答えではなくて,先ほどの阿多委員へのお答え,お答えというか,私は訴訟法上の効果についてそういうふうに理解していたという話になるんですけれども,ここに253条1項5号に掲げる事項としてと書いてあれば,これは書いてはいけないわけですから,書いていなくても適法な判決になるというぐらいの訴訟法上の意味はあるのかなと思っていました。ただ,(3)のような規律が要るのかどうかは,ちょっと分からないんですけれども,その辺の疑義がもしあるようであれば,明文を置いた方がいいのかもしれませんし,そこまで必要はないのかもしれません。その辺,ちょっと定見がありませんけれども,5号に掲げる普通に書いてあるような当事者及び法定代理人の表示がなくても,判決としては適法であるということなんだろうなと理解しておりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,これで一通り第1の1から6まで御議論を頂いたわけでありますが,最初に申し上げましたように,今回実質一読ということでもございますので,この具体的な提案にもし収まり切れないような論点,この点も考えるべきではないかというようなところがあれば,この際お出しを頂ければと思います。いかがでしょうか。   特段ございませんでしょうか。 ○大谷委員 今の議論を聞いていて,ちょっと分からなくなってしまった部分もありますけれども,身元識別情報の秘匿という観点からは,企業の内部ですとか,いろいろな組織にある内部通報などの仕組みとパラレルに考えさせていただくところがあります。例えば,証人についての情報の秘匿というようなことは,その内部通報の調査協力者に関する情報の秘匿などと同じように考えることができるかと思います。実際にこういった公益通報者が何らかの民事訴訟を提起したときに,秘匿すべき情報がどの程度存在し得るのかといったことについては,なかなか問題の性質も多岐にわたっていると思いますので,一概には議論することは難しいと思いますけれども,この性犯罪の被害者以外にも,暴力団を相手にする場合と同じように,大きな組織を相手取るような訴訟の場合に,同様の問題があるとすれば,公益通報者保護法との兼ね合いですとか,そういったところについても,実務の影響がどのようになるのかといったことも,視野に入れて検討していただくことが必要になるのではないかと感じましたので,一言感想めいておりますけれども,申し上げさせていただきました。 ○山本(和)部会長 御指摘ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○阿多委員 非常に瑣末な形式的なことですが,被害者の身元識別情報における身元という言葉が適切なのか。身元とは出自といった意味で使われていることが多いのではありませんか。法文化されるときには,ほかに適切な言葉があれば変更された方がよいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○佐々木委員 佐々木です。すみません,大谷委員と同様な観点から,企業の立場から意見というか,申し上げさせていただきたいと思いますが,今回のこの問題,基本的には余り企業には関係ないところなのかもしれませんけれども,もし企業に適用されるといいますか,重なる部分があるとすれば,暴力団等の反社会的な組織を訴えたり,訴えられたりというような場合が典型的なのかなと思います。そのときに,当事者となる法人について,秘匿するとかということは必要ないんだろうと思いますが,法人の従業員とかの氏名,住所等が,この調査嘱託における回答の中に表示されていたりですとか,そういうものが記載されたものを書証の申出のときに書かなければいけなくなるような事態も,もしかしたらあるのかなと思っております。   飽くまでこの調査嘱託のところの秘匿措置のところは,当事者識別推知情報と書いてありますけれども,今申し上げたような場合には,この当事者の識別推知情報には該当しないんだろうと思いますので,そういう観点からも考えていただくのも考えられるんではないかなと思いましたので,ここで申し述べさせていただきました。もちろん,ほかにも何か代替措置があるということもあるんだろうと思いますけれども,あえてちょっと申し上げさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   ありがとうございました。それでは,この第1の部分につきましては,本日様々御意見を頂戴いたしましたので,事務当局において,それを踏まえて提案を修正していただき,早ければ,次回部会においても,改めて御審議を頂きたいと思います。   といいますのは,今後の進行に関わることでありますけれども,この制度の重要性に鑑みますと,端的に言えば,追加のパブリックコメントをする必要があるのではないかということであります。この点につきましては,中間試案では,最初にもありましたが,(注)の中で若干は触れられており,それに対して御意見も頂戴している部分はあるわけでありますけれども,ただ,今回出されましたように,実際に制度を作ってみると,かなりこういう詳細な制度にならざるを得ず,これについて,やはり具体的な形で御意見を伺わないまま,当部会として要綱案を作成するというのは,必ずしも相当ではないだろう,これはかなり多くの裁判利用者に関わる問題でありますので,そういう意味では,追加の中間試案の取りまとめを行い,新たにパブリックコメントを実施させていただきたいと考えておる次第であります。   極めてタイトなスケジュールにならざるを得ないように思われるわけでありますけれども,そういう形で,次回もう一度御提案をさせていただいて,その後,パブリックコメントに向けての手続を進めていくということにさせていただければと思いますので,どうか御理解,御協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。   今の点について,何か御質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。 ○日下部委員 今でなくても構わないんですけれども,スケジュールどおり次回の部会でうまい具合に中間試案に出す意見がまとまるということになった場合に,パブリックコメントの開始日や終了日がどのあたりになるのかということは,おおむね分かり次第,早めに教えていただけると助かりますので,この場で言う必要は必ずしもなかったかもしれませんが,希望としてお伝え申し上げたいと思います。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局,今の御要望も踏まえて,御検討いただければと思います。   それでは,よろしいでしょうか。   よろしければ,次の議論に移りたいと思います。   部会資料17ページ,「第2 訴訟記録の閲覧等」の部分であります。まず,このうち「1 裁判所設置された端末による訴訟記録の閲覧等」,この部分について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。本文につきましては,中間試案から実質的な変更はございません。   (注1)では,裁判所において,裁判所書記官の判断により電子化後の訴訟記録のコピーデータの代わりに,それをプリントアウトした書面も入手することなどができるようにすることについて,御議論いただきたく存じます。   (注2)は,謄本のデータを入手することができるようにすることについてでございます。こちらにつきましては,後に第3の判決のところで,判決書の謄本データにつきまして御議論いただきますので,その後,この(注2)に戻って,謄本データ一般について御議論いただければと考えております。   以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構ですので,御発言お願いいたします。いかがでしょうか。 ○阿多委員 記載事項の読み方の確認です。18ページ(注1),2行目から3行目にかけて,「当該請求に係る訴訟記録の内容を裁判所に設置された端末に表示することを許すことに代えて,その内容を出力した書面によりすることを許す」と代替許可のような記載があります。これは,請求者自身が出力した書面を求め,書記官がその許否を判断するのか,そうではなく書記官の裁量で表示か書面かのどちらかを認めると読むのか,どちらですか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局,お願いいたします。 ○藤田関係官 お答えいたします。内容の実質面を申しますと,当事者が紙を求めていないところで,裁判所書記官が,あなたは紙の方にしなさいというようなことを想定した規律ではございません。表現ぶりに関しましても,そのような実質面に合うような読み方をすることができるようにすべきところがあれば,改めさせていただきたいと思います。 ○阿多委員 閲覧について,請求者が書面を求めるであれば書記官は許否だけを判断し,許可後に裁判所に設置された端末で物理的に書面化ができるかは,裁判所の許可の定めるところではない。そういう前提の記載と読めば良いのですか。 ○山本(和)部会長 事務当局,お願いします。 ○藤田関係官 事務当局でございます。御質問の趣旨をもう一度明確にしていただけますでしょうか。恐縮です。 ○阿多委員 裁判所書記官は許可をするだけであって,裁判所でプリントアウトできるかどうかについては,(注1)では何も定めていない,そう読めばよいのかという質問です。 ○藤田関係官 お答えいたします。その点は,(注1)では何も言及しておりません。 ○阿多委員 理解しました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○日下部委員 今,阿多委員の方が言及されていましたのが,部会資料の18ページの(注1)の,いってみれば前半部分,閲覧の請求に係るところだと思います。私自身は,閲覧については,電子データをディスプレイで見るのでも書面で見るのでも大差ないかなと思って,気にはしていないんですけれども,むしろ気にしているのは後半部分の方でして,複製の請求がなされたときに,書記官の判断で記録媒体に記録して渡すというか,それを許すということに代えて,書面に出力するということを許すことができるという記述になっている点です。   この表現そのものを見る限りは,複製の請求をする者が,紙で下さいと求めたとしても,それを受け入れるかどうかは書記官の判断であるという意味では,請求者には書面を求める権利は別にないと読んだんですけれども,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局お願いいたします。 ○藤田関係官 事務当局でございます。そのような御理解のとおりでございます。 ○日下部委員 それを前提に意見を申し上げますと,以前にも申し上げたところですけれども,現状,現行法では,謄写の請求権が法律で定まっているところが,今般の改正の後の部分については,複製の請求権はあるけれども,紙で下さいと言える請求権はなくなるということが想定されているわけでして,もしかすると,書記官の判断でその希望はかなえられるのかもしれないですけれども,私としては,やはり紙の請求をすることができるとしていただきたいと考えています。   と申しますのは,裁判所外の端末において複製を得るということが基本的にできるわけですけれども,裁判所においてする複製の請求をする者というのは,恐らくは,訴訟記録のデータを必要としているのではなくて,その内容を出力した書面を必要としている人々であるというのが,実態になるんだろうと思っています。もしもデータで済むのであれば,その人は,例えば,自宅なり職場なりの端末から,複製を自ら取る,あるいは複製の請求をすることができるであろうからです。そうしますと,紙をこそ必要としている人にデータをお渡しして,あとは自分で頑張ってくださいと扱うのは,ユーザーフレンドリーとは言い難いのではないかと考えた上での意見であります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○橋爪幹事 今,日下部委員がおっしゃった点については,裁判所は異なる考えを持っておりますが,その点は,従前の繰り返しになりますので,繰り返し述べることはいたしません。   ここで申し上げたいのは別のことでして,第2の1(2),部会資料17ページに「その内容を証明した書面の交付」という記載がございます。これは,現行法では,正本,謄本及び抄本に相当するものについて,訴訟記録が電子化されることを前提にこのような文言に改まっているものだと理解しておりますが,今回の改正によって,当事者や利害関係のある第三者については,インターネットを通じて,電子化された訴訟記録に基本的にはいつでもアクセスして,その閲覧やダウンロードが可能になるわけですので,それとは別に,書記官が改めて訴訟記録の内容を証明したもの,それが書面であるか,データであるかは別にいたしまして,そういうものが必要となる場面というのは,一般的には余り多くないのではないかと考えております。   先ほど事務当局からは,正にそういう場合の典型例として判決書の謄本データの話があり,判決書などの債務名義について,公証されたものが必要になることには異論ありませんが,それ以外のものについては,余り具体的なニーズはないのではないかと思います。   この点は,以前の部会でも申し上げてきたところではありますが,改めて問題提起しておきたいと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 証明書の交付ですが,現在の実務では,当事者は記録の閲覧,謄写という形で訴訟記録を入手するのか,交付請求の手続で入手するのか,いずれの請求も可能だと理解をしています。IT化後は,現状と違う扱いになるのか,という点の確認です。   もう1点,いわゆる義務化の甲案,乙案,丙案との関連です。訴訟記録は電子化されるとしても,当事者本人は裁判所に物理的な書面の交付を請求することについて,甲案,乙案,丙案との関係で違いが生じるのでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお答えいただけますでしょうか。 ○藤田関係官 甲案,乙案,丙案の問題は,インターネットを用いてすることができる申立てが義務付けられるかどうかという問題でございまして,ここで記載しております紙を入手するというのは,飽くまで訴訟記録の閲覧等の枠組みで紙を入手する方法について,(注1)で記載したということでございます。それは,場面として別の論点でございまして,必ずしもつながりがあるというような前提に立てるのかが,少し分からないところでございます。もし具体的にございましたら,この点で問題になるというような御指摘を頂ければと考えております。 ○山本(和)部会長 阿多委員,いかがでしょうか。 ○阿多委員 1点目の現状の実務と取扱いが変わるのかという点は最高裁の方で答えていただけますか。 ○山本(和)部会長 最高裁の方でもしお答えいただけるのであれば,いかがでしょうか。 ○橋爪幹事 先ほどの発言の趣旨を明確にいたしますと,少なくとも改正法の下では,訴訟記録一般について,訴訟記録の内容を証明した書面の交付というものを認めるまでのニーズはないのではないかという問題提起をした次第です。 ○阿多委員 謄写の実務について,裁判所書記官に対する謄写申請は,基本的に許可するか否かだけであって,許可を得た後請求者がどのようにして謄写するのかというと,司法協会等の裁判所から業務を受託している団体に謄写記録の作成を依頼しています。ただ,裁判所によっては謄写する業者がいない場合もあり,その場合には,書面の交付請求を利用しています。裁判所に正本,謄本,抄本の作成を請求し交付を受けるという方法で謄写に代替させています。そこで,裁判所から書面の交付を受ける扱いが今後なくなるのかを質問した次第です。   私自身は,(2)は今後も書面の交付請求は残すべきだと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 佐々木です。先ほどの最高裁判所の御意見に答えるような形になりますけれども,経団連の内部でも,改正法下で記録一般について内容を証明した書面の需要というのが話題になったことがありましたので,ちょっとそのときに,どのぐらい需要があるものかというのは聞いてみましたけれども,経団連の内部でそういう需要というのは,意見はありませんでした。それから,特に当社においても,そういう需要に関する意見はありませんでしたので,ちょっとそのことはお伝えしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,資料20ページ,「2 裁判所外の端末による訴訟記録の閲覧及び複製」の部分でありますけれども,これも事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。当事者は,事件係属中,いつでも閲覧及び複製をすることができることとし,訴訟の完結後は,従来どおり裁判所書記官に対して閲覧及び複製の請求をすることができることとしております。これと併せまして,訴訟の完結後の裁判所の外からの閲覧及び複製について,期間の制限を撤廃し,裁判所の中からでも外からでも,等しい期間,閲覧及び複製をすることができることとしております。   次に,利害関係のない第三者による閲覧でございます。ここでは,パブリックコメントの結果が分かれたことも踏まえまして,匿名化を施した判決書を閲覧に供することとする考え方に焦点を絞って御議論いただきたく存じます。   その他は中間試案のとおりでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきましても,御質問,御意見をお出しいただければと思います。 ○日下部委員 最初に二つ質問をさせていただきたいと思います。共々事務当局にお答えいただければと思います。   一つ目ですけれども,今回の御提案,部会資料の20ページの2の(1)のイの部分ですけれども,訴訟の完結後においては,訴訟の係属中と異なって,当事者が裁判所外の端末で訴訟記録の閲覧等をすることに,請求を要するとなっております。なぜ自己の訴訟事件の記録の閲覧等のために,そのような請求が必要とされることになるのか,理由をお教えいただければと思います。   2点目は,部会資料の21ページ,(3)の部分です。ここでは,利害関係のない第三者も,裁判所外の端末において,当事者の識別情報記載部分を匿名加工した判決書の閲覧請求ができるとするものですが,誰がどのようにして判決書の匿名加工処理をすることが想定されているのか,十分固まっていない部分もあろうかと思いますけれども,現時点でお答えいただけることがあれば,お願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。まず,当事者による閲覧等の請求でございますが,現行法下では,裁判所書記官に対して請求することになっております。これをスタートラインといたしまして,部会資料の22ページで書かせていただきましたとおり,手続追行上の見地から,当事者による訴訟記録の閲覧等についての便宜をできる限り尊重することが望ましいと考えられ,いつでも閲覧及び複製をすることができるとするのが望ましいと考えられるのは,事件の係属中であると考えられるということでございます。したがって,その需要を尊重することが望ましいと考えられる範囲において,現行法を更に,より便利にするというふうな考えの下で,部会資料のア,イというような分け方をさせていただいたということでございます。   2点目の利害関係のない第三者の件でございます。こちらも,部会資料の24ページにおいて,当事者の表示のみを対象とする場合には,例えば,申立てがなくとも,裁判所の方で当事者の表示部分のみを隠すというようなことも考えられると記載させていただいております。他方で,当事者の表示部分以外に記載される識別情報についても全て秘匿されるという前提で初めて外からの閲覧を認めるということになりますと,これは,例えば,当事者が申し立てて,この範囲が自己の識別情報であると具体的に特定をしていただき,裁判所の決定によって,その部分は利害関係のない第三者による外からの閲覧には供されないという扱いになることが考えられます。 ○山本(和)部会長 日下部委員,いかがですか。 ○日下部委員 ありがとうございます。今頂いた御回答を踏まえて,それぞれの点について意見を申し上げたいと思います。   まず,一つ目の当事者による裁判所外の端末における閲覧等についてですけれども,今回の御提案で,訴訟の完結した日から一定の期間が経過するまでという制限があったのが,なくなったということについては,非常に歓迎してうれしく思っているんですが,訴訟の完結後において,請求を必要とすることになるというのが,合理的な理由があるのだろうかというのは,非常に疑問に思っております。現行法を出発点として考えたのでという御説明ではありましたけれども,データになっているわけですし,もしも何らか執務上の問題があって,一時的に閲覧することができないのだとしても,それは既に規律として対応もできているわけですから,なぜ請求をしなければいけないのか,利害関係の疎明などといった必要も別段ないわけですので,甚だ疑問をまだ持っているところであります。   それから,2点目ですけれども,利害関係のない第三者による裁判所外の端末における判決書の閲覧請求については,的確に当事者の識別情報記載部分を匿名加工した判決書に限ってということであれば,利害関係のない第三者が裁判所外の端末で閲覧請求できるというのも,反対するほどの理由はないのかなと感じています。しかし,これは,的確な匿名加工が全判決についてタイムリーにできることが前提となるように思われまして,そのめどが立たないと,なかなか立法化というのは難しいのかなと思いました。   先ほど,事件の当事者に匿名加工処理の作業を一部担わせるというお考えが言及されたと思います。どういった作業が期待されるのかということにもよると思うのですけれども,当事者にしてみれば,利害関係のない第三者による,あるかどうかも分からない,あるとしても,いつあるか分からない閲覧請求のために,匿名加工の作業をする,あるいは期待されるというのは,なかなか当事者の納得も実際の協力も得にくいのではないか。そうすると,実務上ワークするのだろうかという疑問を感じます。もちろん,今御説明いただいたとおり,秘匿すべき部分を指定してくれと当事者に言って,特段指定されなければ,全てオープンになりますよという形にすれば,確かに実務的にワークはするようにも思うのですけれども,面倒を自分で覚悟して面倒な作業にも対応しない限りは,一般の方々に,利害関係がなくても,インターネットで世界中に配信されますよという制度設計になりますと,なかなかユーザーである訴訟の当事者になる人たちには不評にならないだろうかということを懸念いたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 20ページの2(1)ア,イへの質問です。書き分けですが,アは事件の係属中,イは訴訟の完結した後と書き分けていますが訴訟であれば,確定とかほかの用語もあると思いますがなぜ完結後という言葉を選ばれているのですか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。20ページの(1)のアの事件の係属中と申しますのは,部会資料の22ページの方に記載させていただいております民事訴訟費用法別表二の1項にある文言を持ってきたものでございます。イは,それより後という表現を用いたものでございます。 ○阿多委員 現在の実務は,訴訟係属中は係属部の書記官が訴訟記録を管理し,訴訟確定後は記録係に訴訟記録の保管は移されますが,閲覧請求自体は,事件係の書記官に申請をした上で行っていますが,IT化後は,訴訟係属中はそのような手続を経ることなく裁判所外の端末の閲覧等をできることになっています。他方,17ページの裁判所に設置された端末による閲覧等の(1)では,当事者も裁判所書記官に対し閲覧請求が必要となっており,裁判所に設置された端末による閲覧は書記官への請求が必要となっていますが,裁判所内外での書き分けはなぜ生じるのですか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。少なくとも,外からの,例えば,自分の端末を用いた閲覧であれば,真夜中でもお使いいただけ,いつでも閲覧いただけるというふうな表現に適しているかと思われます。他方で,裁判所内において行っていただく閲覧に関しましては,裁判所庁舎が開いている間に限られるということもございまして,いつでもというような表現にはそぐわないということでございます。   差し当たり,以上でございます。 ○阿多委員 質問は,裁判所に設置された端末によるときは,書記官に対する請求が必要とする理由です。現在の実務では,事件係属中は当事者による短時間の閲覧の際,書記官に閲覧謄写申請書を提出する扱いはしていないと思いますが,今回の記載では,書記官に対する請求が要件になっていますので,なぜ申請が必要かというのが質問の趣旨です。 ○山本(和)部会長 お願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。裁判所において行う閲覧は,先ほど申し上げたように,庁舎の開いている間という制限がありますほか,裁判所に設置されている閲覧用端末を利用して閲覧いただくという観点からも,裁判所職員に対して,閲覧を請求して御閲覧いただくというような形が相当ではないかという考えに基づくものでございます。 ○阿多委員 1の(1)の裁判所に設置された端末による訴訟記録の閲覧等について,当事者による閲覧請求に際して,一定の手数料を要する形になると,当事者が裁判所に設置された端末で記録を閲覧すると手数料を要することになり,裁判所外の端末による場合は,無償となるが,両者に差を設けることが合理的なのか疑問があります。従前の部会でも,訴訟係属中に当事者が裁判所に設置された端末で記録を見ることが閲覧という概念に含まれるのかという質問をしましたが,当事者の閲覧は,手数料の負担の要否が異なる立て付けにすべきではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 (3)の利害関係のない第三者による閲覧についてですけれども,閲覧の対象を判決に限定されるとしても,当事者が公開を求めない事項の確認をした上で,裁判所に何らかの申立てをするという流れは,取り分け敗訴当事者の心理負担も大きく,本人訴訟の当事者としては,なかなか対応できないのではないかなという感想を持ちました。また,当事者であっても,原告,被告それぞれにより,匿名とする箇所の解釈が異なることも想定されます。   例えば,ある事実について,公開されなければならない事実であると考えるか,推知情報に当たるため非公開とするべきと考えるかについては,立場によって意見が異なることもあるように思われます。裁判所がそれらを全てについて判断するということになるのだとしたら,裁判所の事務負担も増えてしまうように思いました。市民感覚としても,当事者の負担感の増加が,市民の司法離れを助長することにもなりかねないのではないかというような感想を持ちました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 企業の立場から,利害関係のない第三者による閲覧に関して意見を申し上げます。   個人による本人訴訟等とは視点が異なりますが,現在議論されている閲覧可能なデータが判決書のみに限定されています。こちらにつきまして,諸外国と比較してかなり限定されていることを問題視しております。多くの訴訟が判決以外の形で終結するため,閲覧が可能となるのが判決書のみでは得られる情報がかなり限られます。また,企業がデータを入手して訴訟への対策を考える上で有用になるのは,相手方がどのような根拠でどのような対象を訴えているのかという情報です。可能であれば,訴状も利害関係のない第三者による閲覧の対象に加えていただきたいと考えております。海外ではそのような情報を入手して訴訟の参考にすることを実際に行っており,日本でも検討していただきたいと思っております。   インターネットでは,主体や時間を問わず無料で閲覧が可能になってしまうことを問題視する意見もございました。しかし,訴訟記録について必ずしも無料で時間や主体を問わず閲覧できるようにする必要はないと考えております。米国等では訴訟記録の閲覧にあたり登録を必要とし,それほど多額ではありませんが,一定の金額を課す実務を行なっています。このように訴訟記録の閲覧にあたり一定の手続的なハードルを設けることも,検討に値すると思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○渡邉幹事 先ほど,阿多委員の御発言に関しまして,若干,整理をした方がいいと思い,発言させていただきます。   まず,現行の実務におきまして,訴訟係属中の当事者による記録の閲覧については,91条1項のとおり,まず,当事者であったとしても,裁判所書記官に対して訴訟記録の閲覧を請求するという形で行われております。他方,この閲覧に関しては,費用は頂いておりません。   次に,以前の部会で最高裁から申し上げさせていただいた端末利用料に,少し整理されずに言及があったと思いますので,それについて申し上げさせていただきますと,我々が考えているところは,訴訟係属中の当事者による訴訟記録の閲覧については費用を頂くわけではございませんが,他方,裁判所において,裁判所の端末で閲覧をするという場合については,裁判所の機材の利用に関して,一定の手数料を徴収することが必要なのではないかということでございますので,そのような前提で御議論いただければと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私自身は,利害関係のない第三者による閲覧というのは,裁判所外からはできなくていいのではないかということを,前から思っておるわけでございますけれども,今回の(3)は,判決書のみについて提案されていて,恐らく判決書が,そういう意味では一番ニーズとしてはあり得るのではないかという御趣旨なのかなと理解をいたしました。それでも,判決書ででもやはり当事者の氏名,住所,その他,人を識別させることとなる情報については不都合だろうという,そういうお考えの提案かなと思いますし,ただ,これを実際秘匿するとなると,どなたがやるにせよ大変な手間が掛かりそうだという問題があるという話があったかと思います。   先ほど増見委員がおっしゃったことに関係しますけれども,判決書以外のものについて,全て見られるとか,あるいは一定の書面について見られるといったような話になってきますと,そこについて,また当事者を隠すのが許されるのかという話になりますし,そうなってくると,それは,先ほどおっしゃったようなニーズに合うのかといったような難しい問題が,更に検討されるべきだろうと思います。私自身は,そういったこともいろいろ考えると,裁判所外からは見られなくて仕方がないという,そういう結論になると思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 渡邉幹事からの発言との関連で,閲覧について,91条1項が書記官への請求を定めていることは承知した上で,実務において,当事者ないしはその代理人が,例えば法廷や書記官室で記録を閲覧するときに謄写申請書を提出していないという前提で発言しています。今回は,1と2で請求の要否について書き分けがあるものですから,手数料の負担の有無も含めて意見を述べた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 私,先ほど,利害関係のない第三者による判決書,匿名加工処理がされたものについて,そういった処理が実務的にできるんだろうかという懸念をお伝えしましたが,私自身の考えとしては,利害関係のない第三者に,裁判所外の端末で訴訟記録を閲覧することを認めることについては,そもそもネガティブな考えを持っているものでして,その意味では,笠井委員がおっしゃられたものと考え方は同じであります。   それと,ポイントが違うところについて意見を申し上げたいと思うのですが,それは,部会資料の21ページにある(注)に記載されている部分についてです。ここでは,訴訟記録が第三者の閲覧等に供される時期について,どのように考えるべきなのかという問題が示されていると思います。これは,大きく言えば,第三者の閲覧等を遅らせるべき利益と,第三者の閲覧等を早期に認めていくべき利益の調整の問題かと思いますので,適切な着地点というのは,さじ加減の問題になるのかなと理解をしているところです。   それぞれの利益を考えますと,第三者の閲覧等を遅らせるべき利益の中核というのは,これまでの御議論では,当事者による閲覧等制限の申立ての機会を実質的に保障するというところにあると思います。そのほかに,当事者が送達対象書類を,送達の効力発生を回避して,第三者を通じて閲覧等することを防ぐという観点も指摘されたと思います。他方,閲覧等を早期に認めるべき利益の中核というのは,これは言うまでもなく,公開主義の要請を踏まえた話だと思いますが,国民の監視による裁判手続の公正性の確保,これがメインであって,そのほか,利害関係のある第三者が訴訟事件に関する情報を得る,あるいは利害関係のない第三者が裁判例の研究などをするといったことも挙げられるのかなと思います。   これらをてんびんに掛けてどうなのかという話で,これは単純に言える話ではないんだろうなと思っていますが,第三者による開示を遅らせるべき利益の方は,利害関係の有無であるだとか,訴訟記録の閲覧等をしようとする端末が裁判所の内にあるか外にあるかということとは全然関係なく,全ての第三者との関係で,訴訟記録が閲覧等に供される時期を遅らせられなければ,その目的は達成できない性質のものだろうと思います。他方,早期に閲覧等を認めるべきだという利益,もちろん大事な利益なんですけれども,裁判手続の公正性の確保や裁判例の研究といったものは,例えば,閲覧できる時期が1週間程度遅れても,さして影響を受けるということはないだろうと思います。注意すべきは,利害関係のある第三者が訴訟事件に関する情報を得る利益で,これは,補助参加の検討などをする局面では,実質的な意味合いが大きくなるかなとも思うんですが,例えば,それが1週間程度遅れることが,どの程度大きな影響をもたらすのだろうかと考えると,なかなか単純に言えるものでもないのかなと思います。ただ,1週間程度の遅れが致命的な影響をもたらすという事態は,余り考えられないようにも思うところです。   そもそも論ですけれども,訴訟手続というのは,一次的には当事者のためにあるものですので,そこも踏まえて考えますと,どちらかといえば,訴訟手続の当事者の方の利益を重視して,あるいは訴訟手続の運営上の価値を重視して,第三者の閲覧等に供する時期を遅らせる利益の方を優先するというのが,価値判断としていいのではないかなと感じたところです。   それで,どのぐらい遅らせるのがいいのかという話になりますと,非常に,考慮すべき利益情況というのが単純なものではありませんので,すぱっと言えるものでもないのですけれども,今の提案で示されている1週間という期間は,合理性はあるのかなと感じているところです。ただ,私自身は,その1週間の起点になるのは,事件管理システムへアップロードして閲覧できる状態になってからではなくて,なったということが当事者に通知されてからとしないと,実質的な意味を担保できないのではないかと思っております。   長くなってしまいましたが,以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 私も,日下部委員と同じ部会資料21ページの(注)のところになります。   ここで,(注)で示されている考えについて,特に反対するものではありません。その上で,事務当局のお考えについての確認をしたいのですけれども,部会資料の中で,例えば,3ページなどに,訴訟記録について定義付けがされていて,これ,一般的に使われている定義付けなので,特にそれについて異存もありません。裁判所及び当事者の共通の資料として利用されるものという形で定義されているわけです。   そういう観点からすると,例えば,陳述されなかった準備書面や取調べがなされなかった書証については,それは,共通に利用するものではないので,本来であれば,訴訟記録にはならないと考えられます。ただ,現在,実務上は,そういうものも含めて全て記録にとじられていて,恐らく閲覧の対象になっているというのが現実なのではないかと思います。ですので,今後,事件管理システムである程度データの容量も制限されるということになると,無駄なデータ,情報をシステムの中に残す必要はないとも考えられます。そういう前提で,不要なものに関しては,データを削除するということを前提として考えていいのかどうか,その点,事務当局のお考えを教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお答えをお願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。陳述されなかった準備書面や取り調べられなかった文書,証拠としての文書でございますが,これのデータを削除するということを,法律で規定するということは考えておりません。 ○山本(和)部会長 大坪幹事,よろしいですか。 ○大坪幹事 多分,法律で定めることではないのですけれども,それは,訴訟記録ではないという考えでよろしいかどうかでございますが。 ○山本(和)部会長 事務当局からお答えをお願いできますか。 ○藤田関係官 その点につきましては,現行法の考え方と何かしら変わるというような議論は,必ずしもされていないと承知しております。 ○大坪幹事 はい,分かりました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,引き続きまして,今度は部会資料26ページの「3 インターネットを用いてする訴訟記録の閲覧等の請求」,それから,その次の27ページの「4 閲覧等の制限決定に伴う当事者の義務」,この二つは併せて御議論を頂きたいと思います。まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。本文3では,訴えの提起などと同様に,インターネットを用いた請求の際は,氏名等を明らかにする措置を講ずるものとし,その詳細を最高裁判所規則に委ねることとしております。   本文4につきましては,中間試案からの内容の変更はございません。当事者には,第三者閲覧等制限決定に対する不服申立てを求める法律上の利益はないものと整理させていただいております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 それでは,この二つの点,どちらでも結構ですので,御質問,御意見をお出しいただければと思います。 ○日下部委員 3のインターネットを用いてする訴訟記録の閲覧等の請求について,一つお尋ねを先にさせていただきたいと思います。   ここで示されているインターネットによる請求というのは,その前提として,請求者が事件管理システムに利用登録しているということを必要とする想定でしょうか,それとも,そうではないものでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いいたします。 ○藤田関係官 お答えいたします。その点は,必ずしもこの御提案の前提として,どちらであるということを想定しているところではございません。 ○日下部委員 ありがとうございます。お尋ねさせていただきました理由ですけれども,事件管理システムに利用登録した上で,インターネットによって請求をするということが想定されているのであれば,問題状況としましては,事件の当事者がインターネットを用いて各種書面を提出するという状況と似ている部分がありまして,そう考えますと,「氏名又は名称を明らかにする措置」という,この表現が,適切ではないのではないかということを,以前当事者による申立て等との関係で申し上げましたが,同じことが当てはまるのではないか,具体的に言えば,事件管理システムにIDやパスワードでログインをしているということをもって,請求者の同一性の確認も済んでいるんだと処理されるのであれば,「氏名又は名称を明らかにする措置」という言葉は,適切ではないのではないかと思ったという次第です。   ただ,今の事務当局からの御回答では,特にこの御提案の前提として,何か考えが固まっているという,あるいは何かを前提としているというわけではないということですので,私の今申し上げた意見は,一定の前提があれば,そういう意見もあり得るというだけにすぎないことになります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 27ページ,4の閲覧等の制限の決定を伴う当事者の義務において事務当局案では不服申立てを認めていませんが,この記載は不服申立てを認めない以上,当然決定の告知も必要がないことになるのか,それとも,相手方や補助参加人には決定の告知は想定されているのですか。今の実務では,義務にかかる規定がありませんので,閲覧制限の決定がされても,相手方に告知はありません   今回の案の正当な理由に関係するのかもしれませんが,何の告知もないのであれば,相手方は閲覧制限の決定の存在を知らないので,自由に第三者等に提供する可能性があります。それを回避するためには,決定を告知すべきであると考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 今の阿多委員が言及されたポイントと同じなんですけれども,この点について,日弁連の意見を一応御紹介させていただこうと思います。   部会資料27ページの4の本文の提案には,日弁連は賛成しているのですけれども,相手方当事者に対して不服申立権を認めるなど,秘密保持義務を負う相手方当事者の手続保障をするべきであるというものになっております。   その観点で部会資料を拝見しますと,28ページのところでは,公法上の義務が規定されても,その違反は直ちに私法上の不法行為を成立させるものではないとした上で,当事者等,又は補佐人には不服を申し立てる法律上の利益がないのではないかといった指摘がされているかと思います。ただ,公法上の義務が明文で示される場合には,実際上,私法上の責任が生じる可能性が高くなることが予想されますし,閲覧等の制限の決定があった場合に,申立人以外の当事者等にそれが告知されるとは限らないという現状に鑑みますと,申立人以外の当事者等は,訴訟記録の中に秘密記載部分があるとの認識のないまま,知らないうちに閲覧等の制限決定がされた結果,公法上の義務を負い,無意識のうちにその違反をしてしまうという可能性も出てきてしまうのではないかと思いました。そうした理不尽な違反のリスクに対処するためには,決定がなされたことは,相手方当事者に告知されるべきだと思いますし,かつ,実体的又は手続的な要件の充足の有無について,不服申立てをする権限を認めるべきであるということになるのだろうと思います。   ただ,個人的には,そうした相手方当事者のための手続保障の定めというのは,訴訟記録の閲覧等の制限の制度をかなり複雑で重厚なものにするかと思いまして,それが重たすぎるという判断であれば,今回提案されているような公法上の義務の規定を設けず,これまでどおり解釈に基づく問題としておくというのも,現実的な対応かもしれないなと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○服部委員 今の不服申立ての件につきまして,阿多委員,日下部委員が言われたことに賛成ですが,1点追加させていただきます。   今回,部会資料の28ページには,不服申立てに関する規律を設けるべきならば,別途新たな命令の制度を設けることなどが必要ではないかという御指摘がありますが,今回の御提案は,92条1項の決定があったことをもって,相手方当事者が公法上の義務を負うということが創設的に課せられるということになってきますので,その決定があったことをもって,それとは別に,新たな命令の制度を設けることなく,不服申立ての規律を設けるということには,特段の支障はないのではないかと考えておりますので,その点,追加させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,次の点に移りたいと思います。   部会資料29ページ,「5 訴訟記録の閲覧等と補助参加の申出との調整」という項目でありますけれども,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。第12回会議における御提案の内容から,実質的な変更はございません。補助参加の許否が確定しない間は,訴訟告知を受けたかどうかを問わず,一律に第三者としての閲覧をするものとしております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 それでは,この論点につきましても,御自由に御発言いただければと思います。いかがでしょうか。 ○日下部委員 また最初に質問からさせていただきたいと思うんですけれども,仮にここで提案されているような規律がないとした場合には,補助参加の申出をした者は,訴訟記録の閲覧等においては,当事者と同じ立場にある者として扱うことになって,閲覧等が制限されているかどうかに関係なく,裁判所外の端末を用いて,請求なく訴訟記録の全部を閲覧及び複製することができることになるという前提でよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお答えお願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。法律上,そのようになると考えております。 ○日下部委員 はい,ありがとうございます。今回頂いている部会資料での御説明部分を拝読いたしますと,説明部分と提案されている内容とが,若干ずれているといいますか,かみ合っていないのかなと思えたところです。この補助参加の申出をした者に関する何が問題なのかという問題意識が共有されているのかということを,確認したいなと思いました。   具体的に申し上げますと,部会資料の30ページでは,閲覧等の制限が掛かっているために,利害関係のある第三者であっても,閲覧等ができない,訴訟記録の秘密記載部分を,補助参加の申出をしただけの者が当事者として閲覧等ができるとすると,後に補助参加が認められなかった場合に,もはや回復できない秘密の漏えいが生じたことになるということを問題視しているような説明がされていると思います。   しかし,そのような問題意識であるなら,提案されるべき規律は,閲覧等の制限が掛かっている場合の訴訟記録の閲覧等の場面においては,補助参加の申出をした者で,補助参加の拒否が確定していない者については,秘密記載部分についてのみ,当事者としては扱わないというものになるはずではないかと思いました。これは,現行法を基にして言えば,92条においては,当事者としては扱いません,第三者として扱いますという規律になるのではないかと思った次第です。   しかし,部会資料でゴシックで示されている提案は,そのような者を,訴訟記録の閲覧等においては,一般的に当事者として扱わないということにしていますので,提案部分とその説明部分がかみ合っていないように思いました。これは,説明部分の論旨によれば,閲覧等の制限が掛かっている場合の訴訟記録の秘密記載部分以外の部分とか,あるいは閲覧等の制限が掛かっていない訴訟記録の全部については,当事者と同様に閲覧等ができるということになるはずであるのに,提案されている規律によりますと,第三者として閲覧等の請求ができるにすぎないという違いが生じるんだろうと思います。前者であれは,裁判所外の端末から請求なく閲覧等ができるのに,後者であれば,裁判所外の端末から訴訟記録全体を閲覧等するためには,請求した上で利害関係も疎明しなければならないということで,違いが出てくるんだろうと思います。   翻って問題状況を考えますと,当事者が裁判所外の端末によって請求なく訴訟記録の全部を閲覧等できるとされたことを前提に,補助参加の申出をした者で許否が確定していない者を当事者と同様に扱うと,閲覧等の制限が掛かっている秘密記載部分に限らず,訴訟記録全体が何の利害関係もない第三者の目に触れて,かつ,その複製がインターネット上で公衆にさらされるおそれもあるということを問題視することも考えられるかと思います。実際のところ,これまでの部会では,そういう問題意識での議論もされていたように思うのです。部会資料での提案の内容というのは,正にそういう問題意識に基づく場合の解決案になっているのではないかと思いました。   問題意識として,どういう状況がよろしくないのだと考えるのかというのは,いずれもあり得るように思うところです。ただ,私個人としましては,これまでは後者のように問題状況を広く捉えてきておりましたので,提案そのものの内容には違和感はなかったんですが,説明部分を読んだときには違和感を持ったという次第です。この点は,議論が錯綜しないようにするには,どういった状況を問題として捉えているのかというのは,明確にした上で議論しないとよろしくないのではないかと思いました。   これまた,理屈っぽく長々言及してしまいましたが,よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特にございませんでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,引き続きまして,この第2の部分の最後,ということになりますけれども,31ページの「6 和解に関する訴訟記録のうち第三者の閲覧等に供されるものの範囲」,この部分につきまして,事務当局からまず説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。和解調書について,当事者の特段の合意等を要件とすることなく,一律に第三者の閲覧に供しないというような御提案をしております。また,和解調書以外にも,例えば,受諾和解が成立した場合の和解条項案も,その対象とする考え方を示しております。   なお,利害関係を疎明した第三者であっても,和解調書を閲覧することができないというような規律を設けることの当否につきましても,併せて御審議いただければと存じます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,この点につきまして,どなたからでも御自由に御発言いただければと思います。いかがでしょうか。 ○服部委員 今回は,今御説明いただきましたとおり,和解を記載した調書については,第三者にはすべからく,一律に閲覧等の請求をすることはできないという形での御提案を頂いておりますけれども,元々の話のスタートが,口外禁止条項がある和解調書について閲覧制限の対象とするというところであったことも含めて,これはかなり広い内容かなと思っております。多少,従前からの議論の流れもございますし,部会資料33ページ5行目以降に「例えば」ということで,類型についてオプトアウト型,オプトイン型と記載されておりますけれども,そのうち,当事者の一方,又は双方が第三者による閲覧等に供する意思を示したことが和解調書に記載された場合に,効力を生ずるオプトアウト型の要件,こちらが,口外禁止条項があるものについては対象としないという,従前からの当方の提案には親和性があるのかなと思っております。   その下に,「もっとも」ということで,訴訟記録が第三者による閲覧に供されるかについて,当事者に自由な処分権を与えることになる側面があるのではないかとの懸念ですとか,全ての人に記録の閲覧の請求権を認めているということの現行法の考えと整合するかなどの懸念が示されているところでございますけれども,これにつきまして,まず,前者については,和解は当事者の合意により手続を得るという手続であるということと,第三者に閲覧されないという合理的な期待を考慮するということであれば,和解調書について,閲覧対象とするかどうかについて,当事者の処分権を与えることになったとしても,それが公開の範囲に関する立法政策との関係で,バランスを欠くというところまでは言えないのではないかと考えます。   また,後者につきまして,記録の閲覧の請求権は広く認められるというところとの関係ですと,閲覧の制限をオプトアウト型のケースに限定するというものであれば,和解調書全てについて閲覧対象としないという場合よりは,はるかに閲覧請求の機会は増えると思われますので,この点でもさほど問題はないのではないかと考えております。   あと,(注)につきましては賛成いたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 和解を記載した調書につきましては,当事者だけでなく,提案本文のブラケットでくくられている利害関係を疎明した第三者も含むべきと考えています。改めて,従前の議論も踏まえて,消費者事件を念頭に説明をさせていただきたいと思っています。   消費者事件については,和解調書を閲覧することにつき,一定のメリットや意義があるとの評価自体については,これを否定する意見はなかったものと理解をしています。ただ,部会資料18の32ページ記載などの御指摘も頂いているところです。   まず,訴訟記録の閲覧が唯一の解決ではないという御指摘につきましては,確かに部会資料にありますように事案の概要の公開,事業者名の公表といった情報公開の方法も考えられるところだと考えています。しかし,現在このような対応が期待できるのは,消費者契約法27条に基づく適格消費者団体による公表や弁護団が結成された場合の弁護団による報告が存在するにとどまるように思っています。したがいまして,その対象には限界があると言えますので,利害関係を疎明した第三者については,和解調書閲覧の手段を残しておくべきと考えています。   消費者事件でいえば,このようなニーズのある消費者としては,対象事件の事業者との間で同様の契約を締結しているものが,典型例として考えられると思っています。そこで,少なくともこのような消費者は,利害関係のある第三者として閲覧可能とする制度設計が望ましいと考えています。   なお,当該和解の当事者たる消費者が公開を望まないということもあり得,この場合までも公開対象とすることが全体的に見て相当であるかといった趣旨の御指摘も頂きました。この点につきましては,現在の訴訟記録の閲覧等の規律を踏まえて考えるに,確かに当該当事者の心情ももっともではあり,悩ましい問題ですけれども,閲覧等のできる対象者を,利害関係のある第三者に絞り込みを掛けることで,一定のバランスを取ることができるのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 事務当局への質問です。和解調書に限定しての非公開という提案ですが,実務では,和解の前に裁判所から所見という形で,書面が提供されたり,また,当事者間で和解条項案のやり取りをして条項が確定し最終的に和解が成立することがよくあるのですが,それらについては,今回の非公開の対象外と理解してよいのかというのが1点です。   もう1点は,制度自体の創設は反対していますが,和解に代わる決定,さらには現行法の裁定和解,265条の和解は,法的性質で和解なのか,決定なのかで区分し,和解に整理されるものだけがこの対象になるのか,和解に代わる決定は制限の対象に含まないのか,この2点について回答いただけますか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局お願いします。 ○藤田関係官 お答えいたします。1点目の御質問でございますが,まず,当事者や裁判所が送った和解条項案が,訴訟記録になるのかどうかというところが,分かれ目になろうかと考えております。そして,仮に訴訟記録になるものがあれば,この規律の対象とはされていないというお答えになります。   2点目でございますが,和解を記載した調書ということが御提案の内容でございますので,それ以外のものについては含まれておりません。先ほどおっしゃったような和解に代わる決定自体が和解調書に該当するとは言えないと思われますので,そういったものはご提案には含まれないことになります。 ○阿多委員 和解に代わる決定は,私自身は導入自体に消極的意見を述べていますが,仮に導入された場合に,非公開の対象とするか否かについて,和解に代わる決定と裁定和解に差を設けることには疑問があります。最終的な判断を裁判所に委ねるという前提で,当事者としてはこれで解決をしたいという意思がある状況において,和解に代わる決定は第三者の閲覧対象となり,裁定和解であれば制限されるという区別を設けることは疑問があります。制度導入されるのであれば,同じ取扱いにすべきと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○日下部委員 今回の部会資料の31ページでの御提案は,和解を記載した調書につき,当然に第三者の閲覧等に供されない扱いを提案するものになっているところです。ただ,現行の扱いをそのように変更すべき立法事実はないように思っています。和解内容が公開されることに,当事者双方が何ら異存がない場合であっても,和解内容が非公開とされるというのは,同種事件の和解例を紛争解決に生かしたいといった実務的な要請を完全に否定することになって,公的紛争解決機関である裁判所での手続の公益性にはそぐわないのかなと感じました。   元々の問題意識は,現行法上,和解内容を他人に知られずに和解で事件を終わらせたいという当事者の実務的な意向が全く酌み取られておらず,それが当事者間の和解を困難にしたり,場合によっては債務名義の取得を断念して訴訟外の和解をして訴えを取り下げるといった,不本意な処理を当事者に強いたりするという,こういう弊害をもたらしているという点にあると思います。すなわち,和解内容を秘密にしたいという当事者の実務的な意向を尊重すべきではないかという考えに基づくものであるので,これに応じる規律を設けるのであれば,当事者の意向を要件とすることが自然ではないかなと思いました。   そして,現行法上,当事者の一方でも和解内容の公開を望まない場合には,さきに申し上げましたような弊害が生じることになりますので,要件としては,当事者の一方,又は双方の申立てということにすべきではないかと考えた自体です。そういった思考をしたものですから,口外禁止条項とか和解を記載した調書を閲覧等の対象としない旨の規定が,和解条項に含まれていることを要件とするのは,実質的に当事者双方の合意を必要としている点で,私は賛成できないと考えています。   なお,当事者の一方又は双方が望めば,和解内容を非公開とすることが理論的に許容されるのかという問題の捉え方も考えられるかと思いますが,和解は当事者間の合意に基づく紛争解決であって,裁判上の和解といっても,私的自治の領域にまたがるものですので,裁判手続の公正性を国民の監視によって担保するという公開原則の趣旨が直接的に当てはまる局面でもないわけですから,そこは当事者の意向を理由に非公開とするということも許容されると整理できるのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私自身は,前から申しておりますように,今回の提案のような規律でいいのではないかということでありまして,一律非公開ということでいいと考えております。   いろいろな,一定の場合に限るべきであるという,そういう御意見はよく理解できるのですけれども,そういう当事者の意思みたいなものが,いつの時点で示されるべきなのかといった,そういう話までいくと,実際の処理としては大変難しい問題も生じるような感じがいたしまして,日下部委員が最後におっしゃった,和解というのは裁判とは違うということも含めて,当事者の意向等を問わず一律非公開ということで,あとは,事実上,当事者が情報を出すとか出さないとかという話でいいのではないかと,従前から申しており,今回の提案の中で,そういう趣旨が含まれていると思いますので,それに賛成したいということでございます。   その場合に,利害関係を疎明した第三者についてどう考えるかという,そういう話も出てくると思います。利害関係を疎明した第三者については,どういう利害関係の人まで含むのかという,これは難しい解釈論になると思いますけれども,恐らく,法律上の直接的な利害関係といったことに,これでもまだ抽象的ですけれども,なるんだろうと考えております。第三債務者になる人とかは入ってくると思うんですけれども,先ほど小澤委員がおっしゃった,同種の事件についての参照といったことになると,利害関係とは考えないのではないかというのが,私の感覚でございます。これは法解釈の問題ですので,そういう意見があるということを申し上げておきたいということにとどまります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 垣内です。これも大変難しい問題ですけれども,私自身は,現在のところの方向としては,直前の笠井委員の御発言と基本的には似た考え方を持っております。当事者の処分を認めるという選択肢も,およそ不合理とは言えないような感じはいたしておりまして,あり得る考え方かなとも思うんですけれども,処分というときに,どちらの方向での処分を考えることになるのかという形で考えてみますと,二つ考えられると思われまして,一方は元々公開すべき,あるいは公開が求められる性質のものではないものについて,当事者が公開してもよいというのであれば公開するという方向で,当事者の処分を考えるというのと,元々は公開すべきなのだけれども,しかし,一定の場合には,つまり当事者が一致して望むような場合には,非公開とすべきだという形で,公開すべきものを公開しなくてよくなるという形での処分を考えるのかという,同じことではないかと言われるとそうですけれども,その両方向があるのかなというように思われます。   どうも私自身は,基本的には,和解というのは当事者間の合意による解決であって,元々公開が要請される性質のものではないという理解を前提にして考えるということなのかなと思いまして,そうすると,一律非公開というのがまずは出てくるということなのかと思います。これと逆に,元々は公開すべきものだけれどもという形で考えていったときに,当事者が公開したい,したくないという,その意思表示だけで,本来公開すべきものを公開しなくてよいことになるのかというと,どうも私は,そこはよく分からないところで,もし本来公開すべきものについて,一定の場合には公開しなくてよいということであれば,それはそうすべき相当な理由があると。当事者が公開したくないということについて,それなりに合理的な理由があるという場合に,それは本来公開すべきものを公開しなくてよくなるということなのかなというように感じられまして,そうしますと,先ほど申し上げましたような,公開しなくてよいというものについて,あえて公開するというオプションを認めるかどうかの問題として捉えることになるのかなと,私自身は捉えております。   そうしたときに,公開するという方のニーズにつきましては,口外禁止等の条項がなければ,今,いろいろな形で内容を公表すること自体は可能なわけですので,それを裁判所の訴訟記録の公開という制度を用いて公開するという利益が,当事者にとって与えられるべき処分権の内容として認めるべきなのかというと,そこはそれほど強い理由がないのではないかという整理ができるのかなと思います。そうすると,結論として,この事務局の提案ということになるのかなと,今のところ考えているところです。   それから,利害関係につきまして,これも笠井委員の言われたとおりで,どういう場合に利害関係を認めるのかということが実質的には大きな問題かと思いますけれども,法律上の利害関係が和解内容についてあり得ると,和解に付いた確定判決と同一の効力もあるということでもありますので,そうした第三者がいるとした場合に,それについて,一律に閲覧の請求は一切できないとする規律は,やや行き過ぎのような感じもいたしまして,そういう意味では,利害関係を疎明した第三者については認めるという方向があり得るのではないかと思われます。   ただ,これも笠井委員の御発言と重なりますけれども,小澤委員の言われた消費者の例について,利害関係が法律上あると認めるのかというと,そこは少し難しいのかなと感じます。特に和解については,本来非公開でよいのだという考え方を出発点としたときには,従来,判決ではないですね,判決等との関係で利害関係を考える,一般の訴訟記録で判決の基礎となっているものについて考える場合とは,また少し違う形になるのかもしれないという感じもしておりますので,そこはかなり狭い範囲になるということではないかという感じもしております。   ちょっとまとまりがない発言で恐縮ですけれども,以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。ただいまの問題で,前々から申し上げておりますが,私どもも,この和解を一律に閲覧制限することには反対でございます。先ほど小澤委員もおっしゃってくださいましたけれども,消費者問題において,和解の例というのは,類似の事例を解決するのに非常に有効な手段でございます。それを調べていくことも大変なんですけれども,以前に類似の裁判を和解で補償していることを隠して,当該訴訟で争われた事例だけで,支払を減少させるというような,消費者にとって有益ではないことが,これまでも度々行われております。   そもそもが,最初から私どもが伝えているように,大手事業者と消費者では証拠の量というか,情報の量の差に大きな問題がございます。その辺りが,相手が持っている情報と同じものがあればというところもポイントですけれども,今回ここで,和解は本来非公開のものだという考えで閲覧制限が掛けられることには反対でございます。また,前回消費者団体間等での情報共有をという御意見もありましたが,残念ながら十分な情報共有ができている状況ではございません。それは,消費者団体間でもそうですし,消費者問題を扱っておられる弁護士の先生方の間でも同様だということです。丁寧に過去の事例を探しながら正当性を訴えています。特に和解の例というのは,類似の事例を争うときには有効でございまして,ここは制限を掛けていただきたくないところでございます。   鍵括弧でくくった利害関係を疎明した第三者というのも,今お話を聞いていて,それが消費者問題に当てはまるかどうかというのも非常に意見が分かれるところですので,ここは,閲覧制限には反対ということで意見を申し述べさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。既に予定の時間を超過しておるのですが,今,日下部委員から発言希望がありますが,他に発言希望の委員,幹事はおられますでしょうか。よろしいですかね。   それでは,最後ということになりますが,日下部委員,お願いいたします。 ○日下部委員 今,言及のありました利害関係のある第三者の扱いについて考えていることを,申し述べたいと思います。消費者関連の類似の事件を扱っている人が利害関係があるのかどうかということについては,意見は私は特にありませんので,それは控えておきます。   利害関係のある第三者には,非公開とされた和解が記載された調書の閲覧等を認めるかどうかという問題は,本来的には私的自治の領域にある和解と,それに至るために利用された手続の公益性とのバランスの取り方が難しい局面だと考えているところです。   ここから後は本当に私見なのですけれども,利害関係のある第三者が和解の記載された調書の閲覧等を請求してくるという場合は,その閲覧等をすべき必要性が強いことが大いにあり得るのかなと思われまして,他方,和解内容を非公開にしたいという当事者の意向が,それを上回ると一般に言えないのではないかと思われました。また,仮にそのような第三者に対しては,閲覧等が認められたとしても,和解内容を非公開にしたいという当事者の意向は,それ以外の第三者との関係では依然として尊重されているのですから,どちらかといえば,利害関係のある第三者の利益を優先するという扱いの方が,合理性があるのかなと思いました。これは,先ほど小澤委員の方からお話しいただいた御意見と,恐らくほとんど一緒なのだろうと思います。   それから,もう一つ,最後なので別のポイントについても言及したいと思います。   第三者の閲覧等に供されない範囲をどうするのかという問題ですけれども,和解内容を他人に知られたくないという当事者の意向を突き詰めれば,和解に至るまでの和解条項の提案や修正の過程も全て非公開にしたいという意向もあるだろうとは思います。しかし,そのようにしますと,非公開にすべき訴訟記録の範囲が不明確になり得ますし,仮に非公開の意向を持つ当事者にその判断を委ねますと,恣意的な選択がされたり,当事者間での調整が必要になったりするといった弊害も考えられるかと思います。ですので,ここは割り切りですけれども,最終的にどのような内容の和解が成立したのかを非公開にすれば,当事者の意向の多くは尊重されると整理して,和解が記載された調書のみを非公開とするということが,合理性を持つのではないかと思いました。   この考え方を敷衍しますと,受諾和解や裁定和解についてはどうなのかというと,最終的に裁判所が示した和解条項で和解が成立したということが示せる調書等を非公開にするということが考えられるわけですけれども,他方,受諾和解や裁定和解ですと,裁判所による和解条項の提示というプロセスが特徴的でありまして,通常の裁判上の和解よりも裁判所の公的な関与の度合いが強いわけですから,これについては非公開としないという扱いも,合理性を持つようにも思われまして,この点については,私自身も考えが特に定められずにいるところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第2の点につきましても,これで一通り御議論は頂けたということになったかと思います。   既に時間を10分程度超過しておりますので,本日はこの程度にさせていただきます。時間を超過した上に,またやはり積み残しを出してしまうことになりまして,私の不手際で申し訳ございませんでした。ただ,皆様,委員,幹事の御協力で,積み残しは大体想定の範囲内であったということですので,また次回以降,引き続きよろしくお願いいたします。   それでは,最後に次回の議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○大野幹事 事務当局でございます。本日も長時間にわたり御議論いただきまして,ありがとうございました。   次回の日程でございますが,今月,7月30日金曜日,午後1時からでございます。   今回の部会資料にも,また積み残しが生じてしまいまして,私どもの見通しが甘く,大変申し訳ございませんでした。次回会議においては,今回の部会資料の積み残しのほか,新たな項目として,e法廷のうち争点整理手続及び証拠調べの手続について,御議論をお願いしたいと考えております。また,早ければということとなりますけれども,本日頂いた御審議を踏まえまして,被害者の情報を相手方に秘匿する制度につきまして,追加試案の取りまとめに向けた検討をお願いする可能性がございますので,その点についてもお含みおきいただければと存じます。 ○山本(和)部会長 これで,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第14回会議を閉会させていただきます。   本日も長時間にわたりまして御熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-