法制審議会 担保法制部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  令和3年8月3日(火) 自 午後1時30分                     至 午後5時32分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(3),(4) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第5回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,金子委員と横山委員が御欠席と伺っております。   まず配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 新たにお送りした資料といたしましては,部会資料5「担保法制の見直しに向けた検討(4)」がございます。こちらにつきましては,後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。   それから,本日は前回お配りいたしました部会資料4も使用させていただきます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   前回の積み残しとなっておりました部会資料4の「担保法制の見直しに向けた検討(3)」について議論を行いたいと思います。   その資料の11ページでございますけれども,ここの部会資料4の第2の「1 同一の動産について担保権が設定されたときの優劣関係」というところから,事務局に御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○笹井幹事 では,部会資料4,11ページ,第2の「1 同一の動産について担保権が設定されたときの優劣関係」について御説明をいたします。   ここは,今般規定を整備しようとしている動産を目的とする担保権が競合した場合に,どのような基準でその優劣関係を決定するかという問題を取り上げたものです。   同一の動産について担保権が競合する場合としては,現在御検討いただいている動産担保権,現行法でいうところの譲渡担保権ですとか留保所有権ですけれども,こういった動産の担保権と既存の質権や先取特権が競合する場合もございますけれども,これらにつきましては,部会資料5の方で後ほど御議論いただくということを予定しておりまして,この項目では,まず,現在御検討いただいている,この新しい規定に係る担保権同士が競合した場合を取り上げております。   このような競合が生ずる場面として,現行法でいうところの譲渡担保権同士が競合する場面,すなわち,ある動産が二重に担保目的で譲渡されたという場合ですとか,あるいは,担保物権創設型に従った場合には,新たに設けられる担保権が重複して設定されたというような場合が考えられます。このほか,留保所有権の目的物が担保目的で譲渡されたという場合ですとか,留保所有権の目的物について,新しい担保権が設定されたというような場合も,競合する可能性があると言えようかと思います。   所有権留保と譲渡担保の競合が生ずるかどうかにつきましては,後ほどまとめて御議論いただく予定ですけれども,まずは,譲渡担保権同士が競合した場合,あるいは考え方によっては,留保所有権と譲渡担保権が競合した場合ですけれども,こういった場合の優劣関係の定め方について,ここでは二つの考え方をお示ししております。   まず,【案4.2.1.1】についてですけれども,こちらは,それぞれの担保権を第三者に対抗することができるようになった時点の先後によって決めようとする考え方です。現行法の譲渡担保権については,こういう考え方が採られてきたものだと認識しておりますので,現行法の考え方を踏襲するものだと言えようかと思います。   【案4.2.1.2】は,現在の実務を前提とする限り,占有改定を対抗要件から除外するのは難しいと考えられる一方で,占有改定については,その先後関係を判断することが難しいなどの問題が指摘されていることから,第三者対抗要件と担保の優劣関係の決定基準を切り離して考えることとしまして,担保権の優劣関係については,ファイリング制度,登録制度を設けようという考え方です。対抗要件を登記に一本化するという立場を採るのであれば,それに加えてファイリング制度を設ける必要はないということになりますので,この【案4.2.1.2】は,特に引渡しのうち占有改定を対抗要件として維持するという場合にメリットがあるということになるのではないかと考えております。   事務当局からは以上でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。   このルールの制度設計は,前回の御議論の裏返しのようなところもあろうかと思いますので,そこで発言させていただいたことと少し被るところがあるかもしれませんけれども,発言させていただければと思います。   まず,前々回の御議論にありましたように,必ずしも集合物論によらずに,包括担保でありますとか,将来動産を担保に取る,そういう方法を認めるということになってきますと,そのような効力の根拠をファイリング登記の効力に求めるということになってきますので,法的性質や理論構成は別にしても,ファイリング登記は必要だということになるかと思います。そのときに,建付けとしましては,恐らく前回の部会資料4の1ページのところにありますような登記一元化を採るとか,あるいは,4ページのところで前回藤澤先生が御発言になったような,少なくとも在庫担保等については登記を対抗要件とすると,こういうふうなことを前提としつつ,11ページの【案4.2.1.1】を採るという建付けか,あるいは,対抗要件としては従前のものを維持しつつ,優先要件として【案4.2.1.2】を採るという建付けか,いずれかになるのかと思います。問題は,どちらがいいのだろうかということでありますけれども,結局のところは,担保権の競合の場合にだけファイリング登記を優劣規範として使うのか,それとも,もっと広く,従来の対抗要件がカバーしてきた範囲である,例えば,差押債権者でありますとか,倒産管財人との関係でも,ファイリング登記を優劣規範とするのかというところになってくるのかと思います。   これについて,少しアメリカとの比較の観点から発言させていただければと思います。アメリカ法は,基本的に登記一元化をとっておりますので,担保権の競合だけではなくて,いわゆるリーエン債権者(lien creditor)と整理されております差押債権者とか倒産管財人との関係でも,優先するには,原則として登記が必要だということになっております。なっておりますが,仮にアメリカ法のようなものをモデルにするとしても,これが唯一の方法かどうかということについては,少し慎重に検討する必要があるかと思っております。   そのように考える理由には,二つの点がございます。まず第1点ですけれども,アメリカ法は,1950年代から60年代にかけてのUCC第9編を導入していくときの立法論で,約定担保権を差押債権者とか一般債権者との関係で弱めるという判断は一切していないという事情があります。これは,歴史的経緯が違うためです。すなわち,アメリカ法は,UCCを入れる前から,公示がなされていない約定担保権は,その公示前に設定者に対して債権を取得した全ての債権者に対して劣後するというルールを前提としておりました。立法論では,むしろこれでは弱過ぎるというわけで,現行法にあるような,差押前に登記をしないと対抗できないというルールを導入したのであって,約定担保権を強化する方向であったという経緯があります。我が国のように前提が違うところでは,同じルールを導入しても方向性が逆になりますので,それが適当かどうかは,別途検討する必要があるのではないかというのが1点です。   もう1点でございますけれども,アメリカ型の警告ないし通知ファイリング制度と呼ばれる登記制度は,入口として誰に問い合わせればいいのかというところだけを公示し,その代わりに,非常にコストが低い公示制度にするという建付けになっておりますけれども,この制度を果たして一般債権者が使うのかという問題がございます。この問題は,導入当時である,50年代,60年代から指摘されてきましたが,特に80年代以降に詳しく調べられるようになりました。そのような研究では,ファイリング登記制度を使って実際に調査を行うというのは担保権者だけであり,一般債権者が,この通知ファイリング制度を利用して,それを入口として調査した結果,先行する担保権の不存在ということを信頼して取引に入るということは,かなりまれなんだということが,明らかにされております。  こういった点を考えますと,仮にアメリカ法を参照するにしても,必ずしも登記一元化だけが方法ではないのではないかと思うところでございます。   我が国のことに引き直して考えますと,我が国の場合は,約定担保権の,非占有担保権の競合の場合には,即時取得の方法による調整が効きづらいという構造的問題があるということになりますので,担保権の競合でそういった優先の要件としてファイリング登記の効力を使うというのは説得的かと思いますけれども,差押債権者等に対しても,約定担保権は登記ないし公示がなければ優先できないというふうにその効力を弱めてしまうということについては,もう一つ説得が難しいのではないかとも思います。そうだとすると,初めから登記一元化1本で検討するのではなくて,非占有型の約定担保権の競合の事案で適用されるべき優劣規範と,差押債権者との関係で適用される対抗要件を,別々に検討するべきであるし,そういう意味では,この【案4.2.1.2】のような考え方が大変魅力的だと思っております。   大変長くなりましたが,以上でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   尾アさんからも手が挙がっているんですが,ちょっと青木さんの御発言を整理してみますと,後半部分は,ポリシーの選択としてどういうふうにすべきかという話だったのですが,前半部分が,若干前回の復習みたいなところが入っております。青木さんがおっしゃっていたのはこういうことなんだろうと思います。   集合物論というのは,集合物の占有改定というのを考えて,その後で中身が入れ替わってきても,そのまま対抗要件が具備されているという,そういう効果を導くものであったところ,集合物論は採らずに,すべて特定の問題にするのだということになると,それでは,将来入ってきた物についても,対抗要件があらかじめ具備されているというふうな効果を導けるのというと,それは当然には導けないことになる。そして,そのときには,登記という制度があれば,登記の効力として,そういうふうに考えるということができるのではないか,その可能性があるのではないかと思われる。そうすると,一部については担保の登記というのを考えざるを得ないんだけれども,そこをきっかけにして,では,全部について新しい形の担保の登記というものを対抗要件にするとするのか,それとも,今まで集合物論というものによって対抗要件具備というのが可能であった部分についてだけ,登記の効力としての対抗要件具備というのを考え,あとの部分はこれまでと同じとなってもいいと考えるのか,という問題になる。【案4.2.1.1】とか【案4.2.1.2】には,そういう問題が前提にあるということを,前半に御指摘されたんだろうと思います。あまりわかりやすいまとめができず,時間だけとってしまいまして,申し訳ありません。 ○尾ア幹事 担保権の優先関係につきまして,前回も申し上げたとおり,事業を成長させるという観点から,信用供与を行う者の予測可能性を高めるために,簡易で迅速で安価にアクセスできる公示,これは登記であってもファイリングであっても,両方考えられると思いますが,その先後によって決せられるべきと考えています。このため,目的財産の種類にかかわらず,優先関係を一元的にオンラインで公示できるユーザーインターフェースを備えるプラットフォームを構築することが必要だと考えています。   公示方法につきましては,登記に一元化することも考えられますし,担保ファイリングを導入して登記制度と併存させることもあり得ると考えます。更には,資料の中でオプションとして掲げられているように,担保ファイリングで対抗要件を具備できるということも考えられると思っております。登記に一元化する場合は,簡易,迅速,安価なオンラインシステムが導入されるということが必要ですし,登記と担保ファイリングが併存する場合には,ユーザーインターフェースにおいて,シームレスに手続できるようなインフラを整備する必要があると考えています。ただ,これも前回申し上げましたように,商取引に基づく債権を被担保債権とする担保権の場合には,一定の範囲で優先させるという例外を設ける必要があるだろうと考えています。   それから,担保ファイリングの具備時期に関しての言及がありますので,これに関して1点だけコメントさせていただきたいと思います。   部会資料4の13ページの7行目辺りに,実体法上の権利変動前に担保ファイリングを具備することについて,実体的に担保権が生じていない状態で優劣関係だけを確保することを可能とすることは,従来の制度と隔たりが大きく,実務上のニーズや効果が明らかでないと言った記載がありますが,この点に関しては疑問を持っております。実務家の方々と意見交換をしておりますと,担保ファイリングの具体的な姿が明らかでないので,まだ意見を言う段階ではないといったような声をよく聞きます。よくよく聞いてみると,あらかじめ優先順位が確保されたことを確認してから,信用供与を実行したいといったようなニーズはあるようにも思われます。したがって,事務局におかれましては,次の二読の際にでも,例えば,登記の内容について,記述式を採るのかとか,チェックボックス式にするのかとか,あるいは申請や抹消の手続をどうするのかとか,登録免許税についてはどういった形を目指すのかなど,必ずしも全てが決められるわけではないと思いますけれども,可能な限り,具体的な議論のたたき台をお示しいただければ,実務家からのニーズがもう少し明らかになってくるのではないかと思っております。   私の方からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   たくさんお手を挙げていただいておりますが,冨高さん,お願いいたします。 ○冨高委員 冨高です,ありがとうございます。   前回も申し上げましたが,今お話のあった,簡易,迅速,安価というところに寄り過ぎた制度設計になれば,結果的に労働債権の保護に支障を来すのではないかと危惧しております。慎重に検討すべきということを前提にした上で,一般債権者である労働者保護という観点からは,少なくとも担保権相互の優劣に関しては,【案4.2.1.2】のようにファイリングされ,公示された前後によるものとすべきではないかと思っています。   【案4.2.1.1】に関しては,前回申し上げたように,占有改定のように第三者から見て所有権の移転が分からない場合もあり,一般債権者保護という点からは認められないと考えているところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   いろいろ御意見もあろうかと思いますけれども,今,お手を挙げていらっしゃる方の御意見を,ちょっとまず伺いたいと思います。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。立教大学の藤澤です。   先ほど尾ア委員が発言された,13ページの2段落目の部分について,二つほどコメントさせていただきたいと思います。   一つ目は,尾ア委員がおっしゃったことと同じでして,それから,先ほど青木先生が発言されたこととも関係するんですけれども,未だ債務者が物を所有していない段階で,担保の優先権を確保することができないのかという点についてです。13ページの記述のとおりですと,やはり集合物論的なものを採らない限りは,優先権を確保することができないと思いますので,これについて,別案といいますか,未だ債務者が物を所有していない段階でも担保の優先権を確保することができるという制度についても,御検討いただけないかなと思いました。   2点目なんですけれども,今度は,被担保債権との関係で,同じところについてちょっと問題意識を持っております。これまでの典型担保物権ですと,成立の付従性という性質があって,被担保債権が発生するまでは担保権も存在していないと考えられて,ただし,根担保等,例外的に担保権設定の登記が認められる場面があります。このこととの関係で,新しい制度において,成立における付従性をどうするのかを考える必要がありそうです。   というのは,担保目的で所有権を譲渡することについて,所有権に寄せて考えれば,贈与で所有権を移転することもできるのですから,別に被担保債権が発生していなくても,漠然とした担保目的で所有権を譲渡するということはあってもいいような気がするのですが,これに対して,やはり担保なのであるから成立における付従性のルールを導入するべきという考え方もありえます。もし成立における付従性のルールを導入するとすると,今度は,根譲渡担保についてどのようなルールとするのか,根譲渡担保の場合に,被担保債権の発生前にファイリングを先行させることができるのかといったことを検討する必要があるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まず全員のお話を伺うと申しておきながら恐縮なのですが,藤澤さんの御発言の前提をちょっと伺いたいと思います。目的物が不存在というか,物権変動が不存在というか,そういう段階で,対抗要件が具備できると考えることは不可能ではないという話なのですが,それは,担保の特例なのですか,それとも,およそ所有権一般について,将来の占有改定が現在の段階で第三者対抗要件を具備できると,もう考え直すということなのでしょうか。もし,それはそうではない,担保の話なのだとおっしゃるならば,どうして担保だけが特別扱いできるのかという問題が出てきます。また,2番目の成立における付従性のところでおっしゃった,所有権移転は贈与だと考えると,被担保債権がなくたって,それは有効なのであり,とおっしゃったところと,立場が矛盾しているのではないかという気がするんですが,もう少し御説明いただけませんでしょうか。 ○藤澤幹事 まず,1点目についてですけれども,どの時点で対抗要件を備えることができるかとか,優先順位を確保することができるかというのは,全ての物権変動について,同一に考える必要はなくて,その一つ一つの物権変動ごとに財産の種類ごとに考える余地もあると思っています。   そして,動産の将来物の真正譲渡というのは,普通の売買契約のことだと思いますが,動産の売買契約の目的物は,種類物であることが多くて,それについて,公示制度を作るとか,登記制度を作るといったコストを掛けてまで,買主に優先順位を確保させる取引上の必要性が少ないと考えられてきたんだと思います。将来動産の真正譲渡すなわち売買契約の後,売主が手に入れた動産を第二の買主に引き渡してしまったとしても,別の動産を調達して,それを第一の買主に引き渡せばいいからです。これに対して,不動産の売買契約の場面では,多くの場合,目的物は非代替物ですので,仮登記やその付記登記によって順位を保全する制度も存在しています。   ただし,動産の売買契約について優先順位を確保させることに意味がないと申し上げましたけれども,意味がある場面が二つだけあって,一つは,例えば,芸術作品や限定品のように,この世に一つしかない,限られた数しかない将来動産について,複数の売買契約があったときに,予め自らの優先順位を確保したい人がいるという場面です。とはいえ,このような比較的レアな売買契約のために,優先順位を定めるような制度を作る必要はないのではないかという感触を持っております。   もう一つは,売主が無資力になった場合です。種類物の売買契約なんだから,あるものを他の誰かに渡してしまったとしても,別のものを調達してきて渡せばいいではないか,というロジックが成り立たなくなるからです。これまでの民法の考え方によれば,このような場面は,基本的には売主の選択に委ねられています。また,売主の履行(債務の弁済)が詐害行為取消権や否認の対象となることはあって,その場合には,債権者平等の原則により,各買主は平等に処遇されるという選択がされています。  ところが,担保の場面になると,事前に優先権を把握させるということに非常に意味があり,しかも実務上もそのようなニーズがあるわけですから,それについて,登記制度を準備して,担保に限って事前に優先順位を与えるという考え方もあっていいのではないかなと考えております。   2点目の成立における付従性についてなんですけれども,私としては,やはり担保目的であれば,成立における付従性という担保と同じルールを導入するべきではないかなと考えています。ただし,当然そうは言えないことから,こういう可能性もあるのではないかという問題提起をさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。よく分かりました。次に片山さん,お願いします。 ○片山委員 慶應義塾大学の片山でございます。どうもありがとうございます。   この【案4.1.1.1】と【案4.1.1.2】のいずれを選択するか,それから,対抗要件でいくのか,それとも新たなファイリング制度を設けるのかという点に関しましては,前回申し上げたことと若干重複しますが,やはり担保目的取引規律型すなわち譲渡担保権型でいくのか,それとも,担保物権創設型すなわち制限物権型でいくのかという問題との関連が非常に大きいと思っております。その点を前提とした上で,担保目的規律型でいうところの担保ファイリング制度の導入ということと,それから制限物権型で考えているところの新しい登記制度といったものが,実はそんなに大きく変わらないのではないのかという点を若干申し上げたいと思っております。   すなわち,担保目的取引規律型ということになりますと,これは譲渡形式を前提としますので,今の譲渡担保の解釈,運用と同様,178条の対抗要件がどうしてもリンクすることになり,それを前提とする限りは,占有改定による対抗要件具備は否定できないということかと思いますし,むしろ,それも積極的に残していいのではないかという御判断もあるのかもしれません。ただ,同時に,占有改定と登記ということになれば,どうしても登記の方を優先させたいという政策的な判断もあるわけですが,その際に,対抗要件として占有改定よりも登記の方を優先させるという考え方の導入はなかなか難しいということで,担保ファイリングの導入が必要となるということかと思います。   仮に担保ファイリングを導入する方向に行くということになれば,占有改定で対抗要件が具備できていると言いながらも,担保ファイリングが要求されますので,現行の占有改定の保護とは全く違ってくることになります。他方,制限物権型でいくとしたならば,178条は譲渡に限定されているという解釈が当然成り立ちますので,178条と切り離して対抗要件を考えることができ,その場合には,占有担保であれば352条があって,現実の占有,あるいは占有の継続ということですが,非占有担保については,登記一元化でやっていくということになろうかと思います。   これは,ケベック等もそうでありますけれども,そこで想定されている登記というのは,担保ファイリングにかなり近いものが想定されていて,担保権者の氏名,そして簡単な担保目的物の指定といったものさえあれば登記ができるという意味で,極めて簡易で,かつ安価な登記システムが想定されているということになろうかと思います。そうしますと,そこでは,担保目的取引規律型において想定されている担保ファイリングと,それほど大きく変わらないということになると思っております。   いずれにしましても,担保ファイリングを導入するかどうか,それとも対抗要件1本でいくのかどうかという問題は,やはり担保目的取引規律型でいくのか,それとも制限物権型でいくのかという問題と切り離して考えることはできないと思っている次第でございます。   以上の点を指摘させていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。鈴木さん,お願いします。 ○鈴木委員 千葉銀行の鈴木でございます。ありがとうございます。   私ども地方銀行で意見集約したところでは,隠れた担保権の問題をクリアにして,債権者の予測可能性を高めることを望む声が多いというところは,お伝えしておきたいと思います。   公示性を確保するという意味では,ファイリング制度が機能するという期待がありまして,ここでは,【案4.2.1.2】の立場を採ることになります。これには,低廉で簡便な制度が実現するという前提で,また,混乱を避けるためにも,既に成り立っている既存の担保権が守られるような移行措置が確保されることも大切かなと考えております。   一方で,この先の議論でも,現行どおりかファイリング制度を設けるかといった部分が多いと認識していますけれども,ファイリング制度については,青写真がないと判断しにくいという声も多くございます。デジタル庁という省庁が船出をするタイミングでもありますけれども,IT技術を活用してどんなことができるのかという側面からの議論も必要ではないかと思います。いうなれば,実現したいことに合わせてルールを作るといったアプローチかもしれませんけれども,法律ですので,普遍性は備えつつ,加えて時代に合った制度を作るという観点も忘れずに進めたいところだと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   1点だけ確認したいのですが,隠れた担保権はよくなくて,公示が必要であるいうふうに,関係諸団体といいましょうか,金融機関の方はおっしゃっているという話なんですが,そうしたときに,【案4.2.1.2】というのではなくて,【案4.2.1.1】でも,登記を作って登記に一元化してしまおうと,そういうふうな選択肢の方には,それほど賛成がないということなんでしょうか。 ○鈴木委員 登記の方が,やはり一段重い負担のイメージがありまして,簡便で低廉という,飽くまでファイリングはそういう前提なんだとは思いますけれども,一段負担の軽い手続,既存の取引に影響のない範囲で,影響のない範囲でというか,影響を最低限に取り組めるものとして,ファイリングに期待しているという声が多い,そんなところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,遠藤さん。 ○遠藤幹事 中小企業庁取引課長の遠藤でございます。   今の千葉銀行の鈴木委員とちょっと似た観点のお話なのですが,この話,私も前回から1か月間,いろいろ企業の皆さんとか銀行の皆さん,実務家の皆さんと話し合ってきたのですけれども,結局,ここで今行われている議論は,この資料で登録なりファイリングなりと呼んでいるものが,具体的にどんなものであるかというイメージが湧かないことには,恐らく判断がつかない,結論が出せないというのが,恐らく実務の側の見解なのではないかと思います。   例えば前回の,隠れた占有改定との優劣のような議論を例に挙げても,実務家にしてみれば,ものすごく単純に言えば,登記が手間が掛かってコストが高いものであったら,たとえ取引の安全を害するとしても,現状の実務の占有改定でやらせてもらいたいと。一方,登記なり登録なりファイリングなりと呼んでいるものが,簡便でコストが安く利便性が高いものであるのだったら,当然に,取引の安全が守られる公示が優先するのがよいということになります。そこは全て,新しい公示制度がどういうふうに作られるかということによって,この結論が出てくるのではないかと思っています。   ですので,そこのイメージを告げずに,つまり,人によっては何万円ものコストが掛かる現状の登記のイメージを持っていて,人によっては,例えば諸外国などで実現しているような,オンラインで1,000円とか1,500円でできるものをイメージしていると,そこで議論がかみ合わなくなります。よって,この場で,新しい公示制度がどんな仕組みであるべきかということについて,もう少しイメージをすり合わせていくべきなのではないかと思っています。   それとの関係でいうと,中小企業庁では,私の着任前なのですが,研究会で,登記でない新たな公示制度を創設すべきだということを打ち出しているのは,そういう趣旨でございます。  資料にある,ファイリングを登記と切り離して設けるかどうかというのも,結局,登記制度だと手続も大変で重たいので,それとは別にファイリング制度を作ろうという発想で御配慮いただいていると思うのですが,やはり今,この部会で,この資料で「登記」と呼んでいるもの自体を,登記でない新たな公示制度として,オンライン上でどこにも行かずに手続できて,しかも手数料は数百円とか千数百円で済む,それぽっきりで済むというような仕組みがないかという方向で検討していくことが重要だと思っています。そのイメージができれば,実務の方は,それを前提に議論を組み立てられると思うので,議論が一気に進むのではないかと思っています。   ここで,若干議論が外れてしまうかもしれませんが,私が現時点で考えていることを申し上げますと,登記,登記というと,今の法務局があって,そこに書類を持っていって・・・というイメージに,何となく皆さん固定されているような気がしないでもないのですが,これは,民事法でなく行政法の議論になってしまうかもしれませんが,民間でも今,担保権ではなくとも,いろいろな取引上の権利関係の保全のために,公示のために設けられている登録システムというのは,結構いろいろな業界で,業界システムとして動いているものがあると思います。例えば,銀行であったら電子記録債権の処理の仕組みとか,ああいうものですけれども,こういうインフラを,国による指定や認定といった形で,法律上,新しい担保権の公示のシステムとして使っていくという立て付けというのは,法律上は十分可能です。   例えば,私の経験した仕事の中から御紹介させていただくと,経済連携協定,EPAの原産地証明法という法律があるのですけれども,これは,外国との関係で,特恵関税を受けるための原産地証明書を「国の当局が発給する」と条約に書いてある,その発給業務を,指定法人を指定して,国がその指定法人を指揮監督するという形で民間にやってもらっています。これ,実際にやってもらっているのは,従前から非特恵の原産地証明書の発給業務を行ってきた商工会議所なのですが,そういう形で民間の実務を国の制度として運用するという仕組みというのは,これはほかにも幾らでも例がございます。   例えば,ここでお出しする「新しい公示システム」の一つのイメージとして,国で公示の項目といった標準フォーマットの部分を示しておいて,その公示のシステムをオンライン上とか,これは法人ごとの工夫でいいのですけれども,運用してくれる法人というのを,登録法人制度というのを作ります。それで,複数の登録法人がある場合には,その登録法人の間のデータの統一性を保つための統一のデータフォーマットとか,データ流通の仕組みといった共通のデータ基盤を国が整備し,それぞれのサービスというのは,民間企業が展開するという形にします。そうすると,市場競争がきちんと起こって,オンライン上で一番アクセスのいい簡便な方法で,安い手数料で,この公示システムを作ってくれる人たちが出てきて,競争を通じてよりよいものになっていくはずだという仕組みは,例えば,立て付けとしてはあり得ます。   これ,相当ドラスティックなことを言っているのは承知をしているので,既存の登記との関係はどうかとか,論点は恐らく結構あると思うのですが,そういうことも含めて,「新しい公示システム」というものを,どういう仕組みを作るかということを,この部会の場で,ある程度,みんなの議論の共通の基盤になるものをイメージしておかないと,ある人は既存の東京法務局まで行って登記をするという登記をイメージして,いや,そんなものは使えないから現行法にしてくださいという意見が出てくるとか,やはり議論として論点が収斂していかないと思うので,そこについてはちょっと,特段の御配慮をお願いできればと思っている次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。その特段の御配慮を,誰がどうやってすればできるのかというのは,よく分からないところがあるのですけれども,担保ファイリングという制度を作るのは,登記にすると重くなるからだという,その配慮によるんだろう,とおっしゃいますと,それはちょっと出自としては違うんだろうと思うんですね。つまり,対抗要件という制度を別個に置いておかないと,結局真正譲渡と担保の譲渡の区別が,権利を取得する側が判断リスクを完全に負ってしまうことになる。したがって,第三者対抗要件みたいな,管財人との関係,管財人とは限りませんけれども,譲受人との関係とか,そういうもののいわゆる対抗要件という話と,複数の担保権が競合した場合の順位の問題とを分けて考えることによって,そういうトゥルートランスファーなのか,トランスファー・アズ・セキュリティーなのかという,判断リスクを権利取得者が負わないようにできないものだろうかというのが,発想の発端だったと思うんですね。   ただ,おっしゃるように,担保ファイリングという対抗要件とは別の制度ですよと言うことによって,設計の自由度というのは格段に増しているんだと思います。鈴木さんのおっしゃったところにも関係しますが,登記制度を作って,それを使いやすくて分かりやすいものにしていくというよりは,所有権の移転とかというふうな話とは別の制度として,順位付けのための制度を作るんだという,そういうふうにしてしまうと,設計の自由度は多分上がるんだと思いますので,結果的には,遠藤さんがおっしゃったような効果というのが,多分出てくるだろうと思うんですね。   ただ,そこでまた問題なのが,遠藤さんがおっしゃったように,全体としての担保ファイリングの制度を作ります,いろいろな会社,いろいろイノベーションでやってみてくださいとして,それを認証していきますよ,そして,複数が競合しても,それをつなぐインターフェースというのを作りますので安心ですよという,それは分かるんですけれども,目的物に着目した形の業界団体による制度ということになりますと,今度は,その事業を担保化するんだとか,あるいは様々な在庫,目的物の種類というものを超えた在庫を担保化するといったときに,目的物の種類に着目するという形ではなかなか作りにくくなりますので,現在,例えば,ある種類の動産について,登録制度というのを業界は持っていますよといっても,それは多分使いにくいんだろうと思うんですね。ただ,後半におっしゃった,新たな制度設計としていろいろなものがありますんで,みんな作ってみてくださいというのは,十分に考えられるのではないかと思います。   ちょっと雑談になりますけれども,かつて動産譲渡登記制度というのを作ったときに,あるところで,そんなもの,業界団体が私的に作れば本当は可能なんだよという話をしたことがあります。つまり,即時取得を防ぐというのならば,例えば,ブルドーザーの会社ならば,ブルドーザー登録制度というのを勝手に作っちゃって,そこでチェックしないで取得した場合には過失ありとなるとなったら,即時取得を防げることができるわけですので,本当はそうだってできるはずではないかということを言ったことがあります。もちろん,そのとき考えていたのは,それは目的物が特定している場合ですが,それを広げた形でも,今度はそういうのを作ってみてよと言うことは,もちろん考えられるわけでしてで,それも含めて,どういうふうなことが考えられるのかということにつきましては,中小企業庁もそうですし,法務省もそうですが,ちょっと,いつかどこかで議論ができるような形に持っていきたいと思います。どうもありがとうございました。 ○遠藤幹事 1点だけ補足をさせてください。   今の道垣内先生の御発言で,一応申し上げておきたいのは,私は別に,業界が今動かしている仕組みを使ったらどうかという提案を申し上げているのではありません。そうではなくて,新しい公示制度を作るときに,それを運用する主体として,国の法務局でなくとも,民間にも運用スキルを既に持っている機関がたくさんあるということを申し上げたかった次第です。今業界で,登録や公示制度を動かしている人たちというのは現に存在しているので,そういう人たちであれば,国が今,ここで議論している新しい担保権の仕組みを創設したときに,それに従った公示項目を国がフォーマットとして示し,データ流通のプラットフォームやインターフェースも国が示し,その基盤上でサービスを展開できるスキルを持っている人たちというのは民間にもたくさんいるはずですという例示として,今,業界団体で運用している仕組を,動かしている人たちがいますということを申し上げた次第です。   別に今ここで行っている新しい担保権の議論について,その公示の仕組みや内容自体を業界に任せてしまえという議論をしているのではないという,一応そこだけは補足しておきたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。呉村さん,お願いします。 ○呉村幹事 経済産業省の呉村でございます。経産省としては,ABLを普及してきた観点で,毎年,金融機関に対してアンケート調査をやっていまして,そこで少し御紹介をさせていただければと思います。   幾つか課題として挙げられているのですけれども,やはり一番課題として挙げられているところは,動産譲渡登記を具備しても,先に占有改定を受けた譲受人に優先しないことということが,多くの金融機関から指摘されているということであります。当然,制度全体の中でこのバランスをどう取っていくかということではありますが,やはりこのABLをより普及させる観点とか,取引等を安定させるという観点から言うと,事務局に御指摘,御提案いただいている中では,正に担保権を第三者に対抗することができるようになったときの前後とするという【案4.2.1.1】であったり,占有改定を含む引渡しによって対抗要件を備えた担保権と譲渡登記によって対抗要件を備えた担保権との優劣関係については,特別の規定を設けないという【案4.2.2.1】というのは,我々の政策的な観点からは適当ではないと思っています。   一方で,別の担保ファイリングの仕組みがいいのか,登記優先ルールという形で登記の方に寄せてやるのかというのは,先ほど来から議論されていることでございますが,事業者ベース,金融機関の目から言うとすると,正に登記に掛かるコストであったりとか,正に安価で簡便でユーザーインターフェースのあるものがどう成立されるのかというところのイメージなるものが,ある程度やはり議論されてもしかるべきではないかなと思っておりまして,そういう意味では,この【案4.2.2.2】であったり,【案4.2.1.2】ということを議論する前提で,これは尾ア幹事からの指摘もありましたが,もう少し新たな登記制度や担保ファイリング制度に関するイメージや論点も含めて,御議論していただけるといいのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。藤澤さん,お願いします。 ○藤澤幹事 立教大学の藤澤です。何度も発言して申し訳ありません。今,議論に出ているファイリング制度のコストについて,少しコメントさせていただければと思います。   現在の動産担保取引において,銀行のような金融機関さんが動産を担保に取るときに,まず,取引の時点で,すぐに対抗要件を確保するために,公正証書で確定日付のある占有改定を取っておいて,それから,即時取得を防ぐ観点で,動産譲渡登記も備えているというお話を聞いたことがあります。念には念を入れて二つということかと思うんですけれども,今度,新たにファイリング制度ができて,ファイリングで優先関係が決まることになるとすると,しかも,そのファイリングは,目的動産が一体何であるかを示さない漠然としたものであるとすると,金融機関さんとしては,取りあえず公正証書による占有改定で確定日付を取って,即時取得を防ぐために動産譲渡登記をして,さらに,優先権を確保するためにファイリングをするといったように,3つを揃えなければいけなくて,コストが増えてしまうことはないのか,少し気になりました。   ここから少しふわっとした一般論なんですけれども,登記に関するコストというのは,事前のコストと事後のコストに分けて,分析して考えることができると思うんです。事前のコストというのは,情報を発信するためのコストで,担保権設定の際に,その担保権者が負う公示のコストです。事後のコストというのは,今度は,担保権を検索する側が,担保権の存否やその内容を知るためにかけるコストです。この事前のコストと事後のコストというのは,基本的にはトレードオフの関係にあって,例えば,占有改定のみが対抗要件であるとすると,事前のコストはほぼゼロで済むけれども,逆に事後に登場した債権者は,調査するためにたくさんのコストを掛けなくてはいけない制度だと思います。反対に,登記一元化を採用しつつ,登記に非常に詳しいことを表示させる制度を採用すると,今度は,事前のコストがすごく高くなる代わりに,事後の情報収集コストは下がっていくという,そういうトレードオフの関係があると思います。   一番理想なのは,様々な技術によって,事前のコストも事後のコストも下げていくということだろうと思います。他方,今回のファイリング制度の導入によって,もし,先ほどお話ししたように,占有改定,譲渡登記,ファイリングの3つをそろえなければいけない制度になってしまうとすると,事前のコストも高いし,事後に登場した債権者は,ファイリングを見た後に,さらに担保権の内容も調査しなければいけないという風に,両方のコストを上げてしまうような制度になって,それはよくないのではないかなと思いました。   それから,事前のコストと事後のコストとは,ミクロの観点で比較すると,その優劣を付けることは難しそうです。しかし,マクロで見た場合には,現在の動産担保取引においては,複数の担保権が設定されることが多くないことからすると,基本的には担保権がないことを確認するのが事後のチェックの目的であると考えられ,そうすると,事前の公示は,担保権があるかないかだけ示しておけばよいという割り切り方もあるのかなと思います。つまり,事前のコストを最小限に下げておくこと,担保権があるかないかが分かる程度まで下げておくことが,合理的な制度設計なのかなというような感触です。  もちろん,理論的には,担保目的譲渡と真正譲渡とで,対抗要件具備方法をずらさない方がいいという考え方があることは承知しているんですけれども,コストの観点からだけ見ると,そういうことが言えるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございましたと言いたいところなんですが,私,最後の箇所がよく分からなかったんですが,藤澤さんのお話というのは,対抗要件を,真正譲渡と担保譲渡で同じにしたうえで,担保ファイリングという別の制度は対抗要件ではないというものとして構想しても,同じ話がそのまま成り立つのではないんですか。最後のところの意味がちょっとよく分からなかったんですが。 ○藤澤幹事 すみません,藤澤です。   最後のところをもう少し説明させていただくと,占有改定および動産譲渡登記が対抗要件である制度を維持することによって,真正譲渡のつもりで担保取引をした人が救済されるということはよく理解できます。ですから,譲渡登記制度とファイリング制度とを併存させることが,一つの考え方であることは,よく分かるのですけれども,担保取引のマクロのコストの観点からだけ見ると,二つの制度を併存させるのが本当にいいのかは,少し疑問だということを申し上げました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただ,現行の銀行実務,それが全てだとは思いませんけれども,それがどうして形成されているのかというと,占有改定しかないので,即時取得の可能性が出てくるわけですよね。だから,担保ファイリングというものに,現実問題として,有過失にして即時取得を妨げるという効果がもたらされるとするならば,念のために譲渡登記もしておきましょうという実務自体が変わる可能性があって,そこの部分をフィックスにして議論するのは,ちょっとどうかなという感じはしますけれども。   それはどう変わるのか分かりませんので,また金融機関の皆さんからもいろいろ御意見を伺えればと思います。水津さん。 ○水津幹事 ここで提案されている担保ファイリングの考え方について,意見を申し上げます。この考え方によれば,担保権者は,第三者対抗要件を備えれば,担保ファイリングをしなくても,真正の譲受人,差押債権者,破産管財人等に担保権の設定を対抗することができます。他方,担保権者は,第三者対抗要件を備えたとしても,担保ファイリングをしないと,他の担保権者に対しては,その優先権を確保することができません。この考え方は,担保権の設定の対抗の問題と,優先権の順位の問題とを区別するものです。  しかし,真正の譲受人には,担保ファイリングをしなくても,担保権の設定を対抗することで,その担保権の負担を負わせることができるにもかかわらず,担保目的での譲受人に対しては,担保ファイリングまでしないと,その優先権を確保することができないというのは,アンバランスであるような感じもいたします。また,抵当権や不動産譲渡担保権等では,真正の譲受人,差押債権者,破産管財人等の扱いと担保権者の扱いとは,区別されておらず,一般には,いずれも「第三者」に当たるとされています。ここで提案されている担保ファイリングのような制度は,設けられていません。このこととの関係も,気になりました。 ○道垣内部会長 十分にあり得る御見解だろうと思います。その点は,理屈上どうなるのかということは,もし仮にそういう制度を採るのならば,更に検討する必要があろうと思います。本多さん,お願いします。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。   先ほどの藤澤先生と道垣内先生の御議論に関しまして,ファイリング若しくは登記制度のコストに関してなのですけれども,藤澤先生御指摘のとおり,実務上,占有改定で対抗要件を具備する際に,占有改定の先後を確定するために公正証書で契約書を作ったり,若しくは私製の契約書に確定日付を取っておいたりする,ということに加えて,別途登記を経由することがあるかもしれないのですが,一般的な実務上は,登記と,占有改定プラス契約書に確定日付を得るというのとは選択的になされていることが多いのかなと思っております。なお,即時取得を回避するという観点から,初めから登記でいくという選択が採られることもあるものと思うのですけれども,対抗要件具備として登記を経由したから,即時取得を免れるわけではないという,銀行なりの覚悟を持って選択しているところはございます。すなわち,登記による即時取得の回避という点について限界があるというのは了承しているところでございます。   なお,担保ファイリングが導入される場合,現状の事務局の提案によりますと,飽くまでも優先順位を確定するためというものであって,対抗要件具備とは隔絶されているものということですが,例えば,即時取得を回避するためという目的で,登記に代わり,担保ファイリングが用いられるということは,制度の使われ方としては,金融機関サイドとして想定し難そうなのかなと考えてはおります。   一方で,藤澤先生がおっしゃった,事前,事後のコストに関してなんですけれども,トレードオフ関係にあるというのはおっしゃるとおりなのかなと理解しておりまして,もし担保ファイリングによって,事前に担保権間の優先順位を明確にするということになるのだとすると,目的物の範囲という情報だったり,その範囲に関する情報の一環として所在場所のような情報だったりが入ってくる,その結果として,非常に重たくなってしまうということがあるかもしれなくて,そうなんだとすると,使い勝手の向上からは,ないこと証明というふうな御指摘もあったのですけれども,なるべく情報量を小さくした上で,事後的に別のインフォメーションセンター,それは設定者と思われるのですが,に確認をしに行くという組合せを,担保ファイリングとしては目指していく方向もあるのかなと思います。   なお,対抗要件制度は別にあります,ということからすれば,最も簡便に使うのだとすると,対抗要件は,例えば,占有改定で具備した上で,担保ファイリングで優先性を決するというふうな使われ方が想定され得るのですけれども,そうした場合に,事後のコストに関し,担保権者として,担保権の競合関係が生じる場合に,実際,この設定者が保有するどの目的物にどの範囲でどの順位の担保権があるのかというのは,結局分かりづらいままになってしまうかもしれないという事態も想定されます。ここから先は金融機関の実務運営上の工夫次第のところもあるとは思うのですけれども,しっかり考えていく必要がありそうなのかなということを,改めて認識いたしました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   水津さんの御意見がもちろんあるわけなんですけれども,対抗要件の話とは別に,担保ファイリングというのを考える余地というものは,それほどは否定されていないんだろうと思います。ただ,何人かの方がおっしゃいましたように,現実の設計をある程度考えないと,議論ができないだろうというのは,これはおっしゃるとおりだろうと思います。したがって,現実の設計手法については,この部会の中で議論をしているわけにはなかなかいかないかもしれないんですけれども,いろいろな方に事務局なり私なりに御意見を寄せていただいて,整理をする機会というのを早いうちに1回持ちたいと思いますので,メールなり何なりでいろいろな情報を提供していただければと思います。   大体そこをやらなければいけないということは明らかになりましたので,もう少しその方向で検討を進めていきたいと思いますが,よろしいでしょうか,次のところに移って。   それでは,続きまして,部会資料4の第2の「2 引渡しと登記との優劣関係」というものについて議論を行いたいと思います。事務局におきまして,部会資料の説明をお願いいたします。 ○笹井幹事 第2の2,こちらは動産について,もう何度か既に御議論いただいているところもありますけれども,いわゆる登記優先ルールの採否を取り上げたものです。   仮にこの担保ファイリングを導入する場合には,それで優劣が判断されるということになりますので,登記優先ルールを導入するかどうかというここでの問題は,担保ファイリング制度ではなく,第三者への対抗可能時点の先後で担保の優劣関係を決めるという【案4.2.1.1】を採ることが前提となっています。   占有改定については,このような観念的な引渡しが対抗要件とされることによって,優先する担保権の存在を第三者が認識することが難しいというような問題が指摘されておりますので,それに対応するというのがここでの趣旨です。適用範囲につきましては,【案4.2.2.2】のところの亀甲括弧にスラッシュが入っておりますけれども,占有改定だけが登記によって優先されるのか,あるいは,指図による占有移転についても,客観的に変わっていないというところに着目して,登記に優先されると考えるのかというところで,立場は分かれるのではないかと思っておりますので,この点についても御議論があれば御意見を承りたいと思います。   それから,登記優先ルールについては,動産譲渡登記制度の導入に当たりましても議論がされました。その際には,担保権の優劣は対抗要件具備の先後によって決まるんだと,それが民法上の理論であるので,登記優先ルールは民法上の議論と整合しないというような問題が指摘されたり,また,これとの関係で,いわゆる三すくみ問題が指摘されました。その他実務的な問題点の指摘もございましたけれども,理論的にはそういった問題点が指摘されて,最終的には導入されなかったという経緯がございます。もし今回態度を改めるということであれば,その理論的な問題についてどのように考えるのかということが,議論をしておく必要があるのではないかと思います。   三すくみ問題につきましては,それを解決する何らかのルールを設けるという考え方ですとか,あるいは,本当にすくむのだろうかという点について,考え方を(注42),(注43)に記載しておりますので,これらの点につきましても御議論いただければと思っております。   それから,ゴシック部分においては,登記優先ルールを設ける,設けないという考え方のほかに,集合動産についてのみ登記優先ルールで解決するというような考え方もお示しをしております。これらの点につきましても,御議論いただければと思います。   事務当局からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見を伺えればと思います。よろしくお願いします。   これは,【案4.2.1.1】を採ったというときが前提になっているわけで,かつ,【案4.2.1.1】において,対抗要件というのを登記一元化をするのではなくて,いわゆる「引渡し」ですよね,どこまでそれが入るかどうか分かりませんけれども,引渡しというのによるんだという,現行の扱いを採った場合の議論ですよね。恐らくすぐに御意見が出ないのは,比較的,1のところで【案4.2.1.1】について引渡しによって対抗要件を具備して,先後関係だけで決まるんだというのに余り賛成がなかったもんですから,その前提がなくなりますと,この第2の2のところは議論することがないということなのかもしれませんが。 ○阪口幹事 阪口です。先ほどの前提問題では発言しなかったので,この部分は発言しやすいということでよろしいでしょうか。   この【案4.2.1.1】を採るという前提において,この三つの案を考えるとなったときに,私もずっと迷っていましたけれども,【案4.2.2.3】,つまり集合物に限定して登記優先ルールというのが望ましいのではないかと,現時点では考えております。かつ,その場合に,墨付き括弧の中では占有改定のみとする,指図による占有移転は優先ルールの対象ではなく,要するに,占有改定との関係だけというのが望ましいのではないかと思います。   まず,今回立法するからにはと申し上げていいかどうか分かりませんけれども,立法するからには,やはりABLの促進なり,そういう政策目的をやはり重視すべきだろうと思っていますので,その意味では,【案4.2.2.1】というのは,要するに,何も変わらないわけですから,採り難いと私は思っています。弁護士の中だと,むしろ,多数意見は【案4.2.2.1】ではないかという気もしますけれども,私は今回の立法に当たっては,そうではないだろうと思っています。   では,【案4.2.2.2】と【案4.2.2.3】の優劣になりますけれども,やはり個別動産ですと,コストの掛けにくいものについて考えた場合には,【案4.2.2.2】はちょっと採り難い。また,この優先ルールを入れるときには,必ず真正譲渡と担保目的譲渡の区別という問題が付いて回るわけですけれども,個別動産に関しては,その判断は容易ではないという問題が大きい。したがって,その判断が比較的容易である集合物に限定するというのが望ましい。他方,集合物に限定した場合,その境目問題というのが当然あり得るということになって,ここは難しいんですけれども,ちょっとここが,もしかしたら集合物理論に立ち入ってしまうのかも分かりませんけれども,担保の目的で譲渡した瞬間にあるものだけを移転する,そこにその瞬間にあったものだけ移転するというのが,個別動産担保であり,それ以外,未来のものをちょっとでも含む余地があれば,それは集合物譲渡であるというような切り分けにすれば,比較的区別ははっきりするのかなと思っています。   最後に墨付き括弧内の占有改定と指図による占有移転の問題ですけれども,まず,ここは,実務的に,指図による占有移転での譲渡担保を,本当に行っているんだろうかという疑問はあります。全くないわけではないと思いますけれども,それは余りやっていないのではないかなと。やはり倉庫業者なりに連絡するぐらいなら,登記でやってしまっているんであって,余り実際使っていないだろうと思ってはいます。ただ,使う余地がないわけではないので,どうするかと言うと,それはやはり,その指図による占有移転で連絡している以上は,それはサイレントとは考えない。後に資料5の方で,債権譲渡のときの考え方も出てきますけれども,それはやはりサイレントではないので劣後しないと考えるべきではないかと思います。   したがって,私としては,先ほどの前提問題を置いておけば,この中では【案4.2.2.3】を推すということにさせてください。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   青木則幸さん,先ほど集合物論というものを採らないとするならば,将来物についての対抗要件具備ということを正当化する概念的な装置がなくなってしまうので,そこで,というふうな話をされていましたけれども,そういうふうな問題意識からすると,今,阪口さんのおっしゃった,集合物論は採らないんだけれども,将来物が含まれているときには登記をしないと駄目なんだよというふうなお考え,ないしは登記の方が勝つんだよというお考えについては,青木さんの先ほどの御発言との関係ではいかがなんでしょうか。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。   この引渡しと登記との優劣関係に関しましては,対抗要件の問題だということを前提にするのであれば,公示機能のない対抗要件を排除するとか,あるいは主観を含めて,例えば,登記がある場合に,即時取得の占有に代えて登記による取得を認めるとか,そういった工夫が必要なのかなと思っておりましたが,ただ,やはり対抗要件一般の議論にしてしまうと,将来物の物権変動に事前の対抗要件具備が可能なのかとか,登記といってもそれが既取得の動産の場合とおなじ意味の対抗要件といえるのかといったいろいろな問題が関わってきますので,今の考え方とすれば,やはりここのところで何か工夫をするというよりは,【案4.2.1.2】のように対抗要件とは別の優劣関係の規範で議論できないかと思っております。   直接のお答えになっておらず申し訳ございませんが,このようなお答えでよろしいでしょうか。すみません。 ○道垣内部会長 分かりました,ありがとうございます。   ほかに何か御意見ございますでしょうか。尾アさん,お願いします。 ○尾ア幹事 集合動産と特定動産とで分けて考えるという議論につきまして,何度も申し上げている事業を成長させるという観点からは,本来担保ファイリングなり登記優先ルールなりによって,公平に公示が求められるというのが望ましい姿であると考えています。ただ,商取引先等は,事業を成長させる貸手であると言えることから,例外的に公示なくして優先性が認められるのではないかと思います。   この点で,特定動産か集合動産かという区分が,事業を成長させるという観点から適当な分け方かということについては疑問を持っています。例えば,新たな商取引を行って,その代金を保全するため売却する動産に担保を設定するというような場面において,それが所有権留保や動産売買先取特権のように事業価値を高めるものである場合には,その登記の負担について例外的に扱うということは合理的だろうと考えられます。   他方,特定動産かどうかという区分をしてしまいますと,単に保全を強化するような場合,つまり,ニューマネーを出さない,事業の成長に資するとは言えないような行為であっても,特定動産への担保設定でありさえすれば,公示をせずに優先できるということになってしまうような気がいたします。また,資料でも指摘されていますように,特定動産と集合動産の境目が曖昧なときもあり得ると考えています。こうしたリスクを踏まえますと,もちろん所有権留保等のように最優先というわけではありませんけれども,特定動産への担保のみ優遇するという施策が合理的なのか,他によい調整方法はないのか,慎重な検討が必要ではないかと考えています。   私からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。特定動産を優先するというポリシーが表れているというわけではないんだろうと思うんですけれども,いずれにせよ,そこら辺りを考えなければいけないということだろうと思います。本多さん。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。   今ほどの尾ア幹事の御議論に関してなんですけれども,一方で,道垣内部会長からも,特定の動産に関する取引を優先させるポリシーに関する問題と,ここでの登記優先ルールに関する問題が別にあるという御示唆もいただいたところではあるんですけれども,両者がオーバーラップし得る局面なのかどうか,一つ題材として考えさせていただきたいものとして,先だっての部会でも御議論させていただきました外為ファイナンス,すなわち,輸入取引に関して,金融機関が信用状発行等によりファイナンスをさせていただく際に,輸入商品,輸入貨物に関して,個別動産譲渡担保権を反復継続的に設定させていただくという取引がございまして,この取引に関しまして,占有改定によって対抗要件を具備しているという実務がございます。   この実務を前提とし,今後,例えば,登記優先ルール若しくは担保ファイリングが導入され,かつ,集合動産譲渡担保の設定に際し,「商品在庫一切」という形での特定が許容されるということになりますと,場合によっては,外為ファイナンスに係る個別動産譲渡担保取引が,そうした特定による集合動産譲渡担保権者に敗れるという結論が生じそうです。   先だって申し上げましたとおり,輸入ファイナンスに関する譲渡担保取引は,多数の当事者間において安定的なエコシステムが築かれておりまして,それが担保制度の変更に伴って,影響を受けざるを得ないところはあるかもしれないのですが,安定的に取り組めているその実務が,いたずらに大きな影響を受けるということはないような制度設計が目指せないかということも,考えているところです。   先ほど尾ア幹事の方から,特定の動産担保取引に関しまして,優先的な取扱いができる制度設計もあり得るというお話もいただいていたのですけれども,この後の部会資料の5のところで議論されることになっています,狭義の所有権留保は,その一例なのかなと思っています。部会資料5の5ページ目の1行目以下だと思うんですが,現状の御提案において,狭義の所有権留保に関して,優先されるべき制度設計を考える際の要素として,例えば,被担保債権との牽連関係であったり,それから,事業遂行の円滑性の確保,すなわち,仕入取引に関して支障を生じさせないとすることにより,事業遂行に支障を生じさせないことを確保できるということだったり,一方で,集合動産譲渡担保権者の期待に関し,対象動産についての不確定性という要素が挙げられているのですけれども,外為ファイナンスに係る動産譲渡担保についても,同じような考慮が当て嵌まりそうなのかなと考えています。   そう考えた場合,登記優先ルールのところで議論されているのは,動産譲渡担保という担保形式の優先に関するルールなのですけれども,そういう取引類型というよりも,もう少し実態的な取引の属性に鑑みて,被担保債権との牽連性が高い担保取引に関して,統一的,横串的な優先ルールを定めるという設計はあるかもしれないのかなと感じたところがありまして,発言させていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。以前から御指摘いただいておりますところを,私はまだきちんと勉強できていないというところもあるんですけれども,日本だけの問題ではないですよね。そうすると,海外ではそれはどうなっているか,誰か知っていますか。ちょっとその辺りのことも検討してみる必要があるのかもしれないと思いますけれども,また御存じの方いらっしゃいましたら,情報をお寄せいただければと思います。   ほかに何かございますでしょうか,この点で。   これ,1のところの議論を踏まえると,あんまり意見は出ないかもねと申しましたけれども,尾アさんが最初からいろいろお気にされているように,いろいろなところが絡んでおりますので,また,どういう場面に,先ほど本多さんがおっしゃった,ある一定の場合には,登記が勝つわけではないというのも,例外則をどういうふうに設けていくのかということと関係あったりしまして,その後の議論とも大きく関係してくると思いますので,その後もまた御発言いただければと思いますので,ちょっと先に進ませていただいてよろしいでしょうか。   それでは,先に進ませていただきまして,本来の本日の部会資料でございます,部会資料5というところの議論に入りたいと思います。   5の第1の1に,先ほども話が出ました留保所有権と譲渡担保との優劣関係と,定義がまず最初に,用語についてというところありますが,それを踏まえた上で,留保所有権と譲渡担保権との優劣関係というのが最初のテーマになっております。事務当局において,部会資料の説明をお願いします。 ○笹井幹事 今,部会長からも御指摘いただきましたけれども,今までの資料の中で,用語が一定しないようなところがございましたので,一つのルールとして,差し当たりはこういう形でやってみようというところを書いております。現時点では,担保目的の取引を規律するのか,それとも,新しい担保物権を作るのかについての立場も決まっていないということもあり,担保権と呼ぶのか,譲渡担保権と呼ぶのかについても悩ましく思っておりましたが,現行法でいうところの譲渡担保権や留保所有権に代替するものとして,今御議論いただいているものを,「新たな規定に係る担保権」という形で総称する。担保目的取引規律型であろうと担保物権創設型であろうと,この表現で総称しようかと思っております。   「譲渡担保権」とか「所有権留保」というのが,現行法のものであるのか,新しい整備されたものであるのかが区別しにくくなるのではないかという懸念から,見直し後のものを「譲渡担保」などと表現することは避けていたのですけれども,むしろ使った方が分かりやすい場面もあるだろうということで,今後は,担保目的取引規律型を前提とした場合には,譲渡担保権,所有権留保とか留保所有権とかという表現も用いることとしたいと思っております。   ただ,ちょっとまだ完全にそれで統一し切れていないところもございまして,若干御迷惑をお掛けするかもしれませんけれども,全体的な方針としてはそういうことで,あとは文脈で御判断いただければと思っています。   第1の1は,「留保所有権と譲渡担保権との優劣関係」という形で見出しを設けております。ただ,これは,基本的には,担保目的取引規律型で考えた場合に問題になると思うんですけれども,問題の一部は,新しい担保物権を創設した場合にも生ずることになりますので,必ずしも担保目的取引規律型だけで生じる問題ではございません。   この第1の1といいますのは,内容的には,新たな規定に係る担保権が複数競合した場合に,どういうふうに優劣関係を決めていくのかということですので,そういう意味で,今まで御議論いただきました部会資料4の第2と内容的には一体になるものです。そのうち,競合した担保権のうちの一つとして留保所有権が入っていた場合に,どうするのかという問題を取り上げたものです。   今申し上げましたように,担保目的取引規律型によるのか,新しい担保物権を作るのかとによって問題の在り方が若干異なっておりまして,担保目的取引規律型による場合には,そもそも譲渡担保権と留保所有権が競合する,そういうことが生じるのかどうかということ自体が,そもそも問題になるのだと思います。形式的に言えば,所有権留保の場合,所有権が移っていないということになりますので,買主がそれを譲渡担保権の目的とすることはできないとも考えられますから,その点を強調していけば,そもそも譲渡担保と留保所有権は競合しないということになるかと思います。   他方で,新しい担保物権を作るということであれば,この問題は生じないといいますか,競合すると考えることについて問題がないと言えるのではないかと思います。仮に譲渡担保権と留保所有権が競合する場合があると考える場合,この優劣関係について,何か特別なルールを設ける必要があるかどうかということが問題になります。この問題は,新しい担保物権を創設した場合でも同じ問題が生じますが,担保物権創設型においては,所有権留保という言葉を使うのは適当でないと思いますので,目的物の売買代金債権を被担保債権として新たな担保権が設定された場合に,それ以外の債権を被担保債権とする新たな担保権と比べて特別な扱いをする必要があるかどうかという,そういう形で問題が現れるということになるだろうと思います。   特別なルールを設けるというのは,既に何度か言及された方もいらっしゃいますけれども,問題意識としては,次のようなことです。   例えば,集合動産譲渡担保が設定されていて,既に対抗要件なり担保ファイリングなりが具備されているという場合に,その後に所有権留保という形で買主に信用供与して物を売ろうという売主がいたとしても,既に対抗要件等が具備されているので,留保所有権は必ず劣後してしまうという可能性があります。そういうことになれば,信用供与した上での売買というのが難しくなって,例えば,商品の仕入れであるとか,原材料の購入というのが困難になって,事業の継続が困難になってしまうおそれがあります。そういった事態を避けるために,留保所有権を一定程度優遇すべきではないかというのが,ここでの問題意識です。   留保所有権を優遇する場合に,やり方としては幾つか考えられるのかなと思っておりまして,留保所有権であるということだけで,無条件に譲渡担保権に優先するという考え方と,あるいは,留保所有権についても対抗要件なり担保ファイリングなりを具備する必要があるんだけれども,例えば引渡し後一定期間内に対抗要件を具備すれば,本来先行して対抗要件などが具備された譲渡担保権にも勝てるという方法も考えられるのではないかと思います。いずれを採るかにつきましては,そもそも留保所有権について対抗要件が必要なのか,また,原則的なルールとして,担保権同士が競合した場合に,優劣関係を何によって決めるのかといった,既に御議論いただきましたその他の論点とも,関連付けて議論する必要があるのかなと思っております。   仮に所有権留保について優遇措置を設ける場合に,いわゆる拡大された所有権留保についてどのような扱いをするのかということも,問題になってこようかと思います。幾つかの被担保債権のうち,その一部分に売買代金債権以外のものが入っている場合には,その担保権全体について原則どおり扱うという考え方のほか,一つの担保権なんだけれども,売買代金債権を担保する部分については一定の優遇を認めるというような考え方もあり得るかと思います。後者の場合,一つの担保権なんだけれども,その部分部分によって順位が変わってくるということがございますので,そういうことでうまく実務が運用できるのかということについても,御議論いただければと思います。   事務当局からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見を伺えればと思います。よろしくお願いします。大西さん,お願いします。 ○大西委員 すみません,大西です。   前回も発言させていただきましたとおり,この留保所有権と集合物譲渡担保権の関係は,取引において事業者が円滑にビジネスできるかということで重要な点だと思います。そういう意味で,ここにありますとおり,牽連関係がある商取引についての留保所有権を優先させるという考え方は賛成です。   それから,どの程度優先させるかということですが,一方の金融機関側のニーズとして,公示をさせる方が金融取引上重要という点もあるので,一定期間の間に対抗要件を具備した場合に優先するという考え方が妥当だと思います。   ここで,UCCの例として引渡し後20日以内と記載されていますが,これは期間的に短いと思います。通常取引の場合,当月末締め翌月払い,若しくはもっと先の支払日となる取引も多いため,引渡し後20日以内とすると,通常,商取引債権者にファイリングをさせることは酷な場合もあるのかなと思います。こういうことができるかどうかは分からないですが,私見として,弁済期の経過後一月以内を対抗要件具備のための期間とするのが良いと思います。弁済期が経過し一定のデフォルトが生じた場合には,一定期間以内にそのファイリングをしなくてはいけないとするような期間設定ができるのであれば,良いのではないかなと思います。   あと,最後ですが,拡大された所有権留保については,牽連性がある範囲内で優先できるというように限定して,牽連性がある留保所有権と,拡大された所有権の両方がある場合には,牽連性がある部分に限って優先性を認めるのが妥当なのかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   いろいろ御意見伺いたいと思います。井上さん。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。   先ほどからの議論は,担保ファイリングの先後でいくのか,あるいは対抗要件の先後でいくのかという原則に対する一定の例外として,狭義の所有権留保を優遇するか否かということだと思うのですけれども,そういった議論自体は非常に重要なことだと思うのですが,ここで,狭義というのが何かということも,結構重要ではないかと思っておりまして,それをある程度共有した上で議論する方がよいのではないかと考えています。   普通にといいますか,厳密にというか,考えると,狭義というのは,売買契約単位ごとに,その売買契約によって発生する1本の代金債権を被担保債権とする,当該売買目的物の所有権を留保するということになるのではないかと思うんですけれども,そうだとすると,例えば,個別売買が月に4,5回行われるような在庫の継続的取引において,所有権留保が合意されるときの狭義というのは,先ほど申し上げた一個一個の個別売買ごとに考えるということになる,それを特別に保護するということでいいのか,それとも,もう少し広げて,当該当事者間の一定の継続的売買から生ずるすべての代金債権を担保するために,継続的に売却した目的物の所有権を留保するというものも含めて狭義というのか,それとも,その間を取って,月締めで,その月に何回か売った目的物について翌月末日払いというような形で代金が決済される場合に,その決済単位ごとに所有権を留保するかどうかで狭義か広義かを決めるということも,設計としてはあり得ると思うのですが,動産売買先取特権におけるひも付けと,もしパラレルに考えるのであれば,基本的には売買単位ごとに考えるということをスタートにせざるを得ないと思うのですけれども,その辺りについて,ある程度共有してといいますか,狭義か広義かの区別をどこでするかを,ある程度意識して議論した方がいいのかなというのが,まず1点目です。   次は,仮に売買単位ごとに考えるとした場合の効果ですけれども,それは,やはりひも付けられている以上,ひも付けが立証できるといいますか,主張できる範囲でのみ,ここで考えている優遇措置が与えられることになることの確認です。具体的に申し上げると,在庫を月に何度も購入しては倉庫に搬入し,かつ月に何度も倉庫から搬出しては販売しているということが起こっているときに,買主の観点からすると,在庫のうちどれをいつ販売したのか,どれをなお倉庫に持っているのかということが特定できる形で管理されていると,ひも付けははっきりしているわけですけれども,仮に後入れ先出しではないんですが,倉庫に在庫は残っているんだけれども,でも,残っている在庫の売買代金は完済されていて,逆に代金が未払いとなっている在庫はもう販売して搬出しちゃっているということが起こり得ると思うんですけれども,そういう場合は,狭義の所有権留保の優遇措置が失われることになるのではないかなと思って,そういう議論でよいのか,そうではなく,管理がきちんとできていなくて,どれを持ち出して,どれを持ち出していないか分からなくなった場合でも,混和のようなルールをここに持ち込めるのかということも問題になるような気がします。それは無理だということであれば,ひも付けができた場合にのみ,所有権留保売主はここでいう優遇措置を受けられることになるのではないかを確認したいというのが,2点目です。   あともう一つは,そういった議論とは別に,狭義の所有権留保を特別扱いにすることに代えて,動産売買先取特権を強化するという方向性も一つあり得ると思うのですけれども,それは結局,所有権留保合意を買主にのませることができない売主まで保護すべきと考えるかどうかにも関わるのかもしれませんが,そういった問題も併せて議論できればと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。質問の形にはなってはいるんですが,今後の議論の対象のような気もいたしますが,この段階で,笹井さんの方から何かありましたら,狭義の所有権留保の定義とか,目的物と債権の牽連関係の証明問題とかについて,何かお考えがあればお願いします。 ○笹井幹事 一つ目の狭義の所有権留保に当たるかどうかという問題は確かに悩ましい問題です。法律上そこを定義するのはかなり難しいので,私としては,ある程度社会通念に従った当てはめに委ねざるを得ないところもあるのかなと思っておりました。もちろん,一定の明確なルールを設けることができればそれは望ましいと思いますけれども,最終的にはどうしてもグレーゾーンというか,限界事例というのは出てくるので,最終的には当てはめの判断になるのかなと思っておりました。   ただ,確かにある程度共通の認識を持っておかないといけないというのは,井上先生おっしゃるとおりで,私のイメージとしては,売買契約単位に限定するというのは厳しすぎると思います。平成30年判決は,1か月単位で被担保債権と目的物とを牽連させているという事案で,牽連性があるということを前提とした判断を示しております。期間の長さとか,あるいは目的物の性質とも関わってくると思いますので,なかなか一律にいうのは難しいのかなと思っておりましたけれども,頻繁に発注に応じて,足りなくなったら発注するという継続的な売買がされていて,1か月ごとに,月締めで翌月払いになっているとかいう場合には,先生がおっしゃった言葉でいうと,決済単位ごとでも,狭義の所有権留保に当たるといってもいいのかなと思っていたところです。   二つ目の問題は,ちょっと私の理解が間違っているかもしれませんけれども,担保の目的物である在庫のうち,どこから仕入れられたものが売られて何が残っているのかというのが管理されておらず,残っている売買代金債務と残っている在庫との対応関係が分からないという問題は,狭義の所有権留保か拡大された所有権留保かという問題というよりは,その担保物権の目的物であるのかどうかという問題かなと思います。そうだとすると,やはり担保権を行使する以上,ある物がその担保権の目的物であるということは,立証していただく必要があるのかなと思っておりました。非常に政策的な,あるいは実務的な必要性から,混和のようなルールを持ち込めるかどうかというのは,私は全く考えたことがありませんでしたので,それはそれで,一つ検討してみてもいいのかもしれませんけれども,原則としては,今申し上げたようなことになるのではないかと思っております。   それから,最後の動産売買先取特権を強化するかどうかという問題は,これ確かに,ここで所有権留保,留保所有権を優遇する理由として述べたことは,動産売買先取特権にも妥当しますので,それを強化していくという方向性もあり得るのではないかという考え方もあり得ると思うのですが,ただ,ここでは約定担保権というところに意味があり,法定担保権と約定担保権とは違うというように考え,この資料においては,約定担保権に射程を絞ったつもりです。   私からは,取りあえず以上です。 ○道垣内部会長 井上さん,もう一回手が上がっていますが,何かそれに関連して。 ○井上委員 ありがとうございます。確かに,ひも付けの問題は,狭義,広義の問題自体ではないのですけれども,ただ,狭義の所有権留保において,特に強く出る問題ではあって,その意味で,狭義の所有権留保を強く保護するという立場を取りつつ,今,御説明くださったように,ひも付けができる場合に限るよと,それが立証されて初めて強い保護が認められるんだよというのは,一つのバランスの取り方かなという感じもして,そういう議論として私も理解しているところです。どうもありがとうございました。 ○山崎委員 どうも,山崎です。1点だけ,事業者目線から意見を申し上げさせていただきたいと思います。   先ほどから御説明のあった部会資料5の第1の1の留保所有権は,譲渡担保権に優先するという考え方なんですけれども,いろいろ実務でお話を聞きますと,やはり代金完済までは所有権は移転しないという取扱いが定着しているため,維持を求めるという声がありました。もしそうならないと,取引条件のある程度の変更が必要であるということでございます。企業取引の実態や実務への影響を踏まえた上での,新しい担保法制の検討をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   山崎さんにはまたお願いしたいんですけれども,そのような実務の維持を求められる方々で,今,井上さんがおっしゃったような目的物,どれが未払いの目的物なのかという問題とか,あるいは,全部が完済されるまでは全部の所有権がいかないという,そういうものまで,現在の実務だという認識の下に,それを求めるということなのかということ等につきましても,さらに御認識とか御意見を伺うことができればと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○山崎委員 分かりました。   ちょっと,一つ申し上げたいんですけれども,今回聞いた方の実際の所有権留保の使い方は,取引先が普通に取引を,普通の売掛けとしてやっていたところが,与信の問題があったときに,取引を継続するために所有権留保の契約に変えさせてもらうというケースがあって,その実務をやっている企業から,今の話を聞きました。 ○道垣内部会長 分かりました,ありがとうございました。 ○尾ア幹事 これも前回申し上げたことですが,留保所有権と譲渡担保権との優劣関係については,その事業を成長させるために,貸手にとっての予測可能性の確保と商取引先にとっての円滑な取引の確保という,トレードオフの調整の問題と捉えるべきだと考えています。円滑な信用供与のためには,潜在的な貸手にとっての優先関係に関する予測可能性の確保が重要であるという一方で,所有権留保は商取引に関連した与信を保全することによって,事業の成長に必要な商取引を円滑に実現するためのものであるからです。したがって,無制限に留保所有権を優先させるということではなくて,両者を競合関係に立つとした上で,バランスの取れた調整を行うべきであると考えています。   具体的には,資料にありますように,商取引については,その都度登記やファイリングを求められると,取引が抑制されて事業の成長にとっては足かせとなってしまう可能性がありますし,同じく資料にありますように,被担保債権と目的物との間の牽連性という観点が,法政策上何で求められるのかということについて考えますと,これは事業を成長させる商取引によって生じたものであることを確保するためとも考えられると思います。こうした観点から,資料にありますように,商取引先については,一定期間は公示を備えずに自動的に最優先として,一定期間を超えて最優先とさせるためには,その一定期間内に公示をする必要があるといった取扱いが望ましいものであると考えています。   もっとも,大西さんがおっしゃっていましたように,一定期間については,米国のものをそのまま持ってくるということではなくて,日本の商習慣や商取引慣行等を踏まえて検討する必要があると考えています。具体的には,一定期間の起算点やその期間について,例えば,引渡し後,支払いサイトに相当するような期間とか,あるいは支払いの延滞後であれば,債権保全のために手続に要する期間などが言えるかと思っています。   それから,最後に,井上先生がおっしゃっていたことと関連するのですが,所有権留保の場合に限らず,先取特権に関して議論する場合や,あるいは,商取引に関して譲渡担保を設定しているといったような形を取る場合も含めて,商取引に関連した債権についてはその担保権の形式を問わず一定の範囲で優先させる,という取扱いとすることが考えられるのではないかと思います。そうすれば,より予測可能性が増し,事業の成長という観点から望ましいのではないかと考えています。   先ほど,本多さんがおっしゃっていたような輸入取引の例は,譲渡担保という形式を採っているのではないかと思いますが,所有権留保を採る場合と似たような経済実態があると思います。そうすると,その輸入取引に係る債権は,目的物との牽連性の観点からある意味商取引になりますので,その債権を一定の範囲内で優先させるという考え方もできるのではないかと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○藤澤幹事 立教大学の藤澤です。これまで議論に出ていた論点について,UCC第9編の制度を二つ紹介させていただきたいと思います。   一つは,大西委員,尾ア委員が言及された,UCCにおける購入代金担保権の優先のルールについてなんですけれども,大西委員,尾ア委員の問題意識は,集合動産譲渡担保のような担保権が先行していて,在庫の売主のような人が債務者に対して物を供給した場合に,売主の債権が優先されるかどうか,どのような要件で優先されるか,といった点にあったかと思います。   部会資料に紹介されているUCC第9編の原則ルールとして,引渡し後20日以内にファイリングをするという要件が挙がっていて,そちらに言及があったかと思うんですけれども,在庫に関しては,この原則ルールが適用されません。資料の15行目に在庫の購入代金担保権に関するルールへの言及がありますが,買主が目的物の引渡しを受ける前にファイリングをしなくてはいけないということになっていて,在庫の売主が購入代金担保権の優先順位を得るためには,かなり高いハードルが設定されています。しかも,先行する担保権者にきちんとした書面の通知を送らなくてはいけないとかいった要件も課されています。なぜかというと,UCC第9編が想定している在庫担保取引というのが,在庫担保権者は,基本的には在庫の取得のためにお金を貸してあげている人であって,売主が未払いの状態で在庫を供給するのは,二重融資というか,債務者が売主に支払うためのお金を流用してしまっている状況だということがあります。そのため,在庫の購入金担保権者は保護されづらいルールになっています。もちろん,このアメリカの制度や取引実態を日本の立法の参考にする必要は全然ないと思うんですけれども,20日の猶予が認められているわけではないということだけ,確認させていただきたいと思いました。   それから,もう一つが,井上先生がご指摘された狭義の所有権留保の範囲に関する問題です。UCCの中には,在庫の購入代金担保権の範囲に関する規定があって,在庫に関しては,他の債権との関係で購入代金担保権になっていたものについても,優先権が及ぶとされていて,1対1の関係が緩和されるような規定がわざわざ置かれています。そこで,日本で狭義の所有権留保について何らかの立法をする場合にも,日本法には在庫概念はありませんけれども,例えば,数量指示売買の場合ですとか継続的売買契約の場合に,1対1の牽連関係を若干緩めるような規定を置くことは,考えられるのではないかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○青木(則)幹事 発言させていただきたいと思っておりましたことが,今,藤澤先生がおっしゃったことと,半分以上というか,ほぼかぶっていますので,手を下ろしてもよかったかもしれませんけれども,1点だけ申し上げます。井上先生がおっしゃった狭義の所有権留保のお話と,藤澤先生がおっしゃったUCCの関係についてということになるかと思いますけれども,特に在庫商品などを目的物とする場合には,恐らくどちらかを選択することになるのではないかと思っております。つまり,狭義という場合は,本当に牽連性を重視した範囲でという話になって,UCCとは全く違う形になると思います。一方で,緩和するとなると,これは,UCCの起草過程の議論がそうであったように,中途半端な緩和は難しいように思います。在庫商品を目的物としている場合は,目的物は売却されるし,売却された場合は,その商品を補充するための補充代金債権までカバーするのは当然ではないかという発想から,拡大された所有権留保のようなものを当然に認めていくということになるのではないかと思います。   もし拡大された所有権留保みたいなものまで認める,そういう必要性があるというのであれば,藤澤先生が先ほどおっしゃったような事前の,納品前の登記と,それから事前通知制度を導入することが重要になってくるように思います。先行する担保権者の方が反対であれば,優先関係で劣後したまま取引を続けるのではなく,仮に実行の段階になっていなくても,取引から撤退する機会が必要かと思います。通知にはそのような判断の機会を提供する意味があるのだと思います。ただ,商事法務の研究会のときにうかがった御議論では,そのような通知を契機としたスクリーニングというのは,わが国ではあまり必要されておらず,それよりも,通知があるにせよ順位が逆転してしまうようなルールではない,先行する譲渡担保権者が登記をすれば確実に優先を確保できるという安定したシステムの方が,必要性が高いということであったかと思います。我が国での実態を確かめたうえで,選択しなければならないのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。阿部さん,お願いします。 ○阿部幹事 ありがとうございます。   一つは,すでに大分話が移ってしまったんですけれども,その前の井上先生の,被担保債権と目的物のひも付けに関して,今,存在する在庫に対応する被担保債権がもう弁済されているのか,いないのか,よく分からない場合の処理の話です。平成30年の最高裁判決の事案では,事実審段階の段階で,目的物に対応する被担保債権が弁済されているかどうかがよく分からない場合には,所有権留保の効力を否定したい側において,その被担保債権が弁済されたということの主張立証責任を負うんだ,という考え方が示されていました。これによれば,よく分からなければその所有権留保は行使でき,被担保債権が弁済されたということが主張立証されて,それに対応する目的物の上の所有権留保が失われる,ということになります。これは,担保債権一般にそういうふうに考えてよいのではないでしょうか,つまり,担保権の設定を言うためには,被担保債権が一旦発生したということを担保権者が主張立証する必要がありますけれども,その後,現在も被担保債権が存続しているということは,担保権者の側において主張立証すべき事柄ではなくて,それが消滅したということを,担保権を否定したい側において主張立証するというのが,担保権の一般的なルールになっているのではないかなと思います。   ですので,これを所有権留保においてのみ,留保所有権者が今も被担保債権が弁済されずに残っているということまで主張立証しなければいけないと考える必要があるかというと,私はそうではないのではないかなと思いました。   それが一つ目で,もう一つ,藤澤先生が先ほどおっしゃっていたことと関わるんですけれども,アメリカのUCCで在庫担保というのが設定されているときに,信用売買というのが結構敵視されているというか,在庫担保による融資で十分に金融がされているのに,そのお金を使わずに信用売買がされていて,それは,本来の目的に資金が使われていないというようなことを暗示しているのではないかというような話があるという話だったと思うんですけれども,それとの関係で,平成30年の最判の事案の信用売買みたいなものを見ますと,そういう融資が本来の目的に使われていないで,なぜか信用売買が行われているというよりは,継続的に売買が行われていて,その決済のために,ある意味必然的に信用売買になっているという,そういう側面があるような気がします。そうすると,UCCが前提としているような信用売買に対する敵対的な視線というのは,日本の信用売買取引の,少なくとも全てに当てはまるものではないということは言えるのではないかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   井上さん,先ほどの阿部さんの,それ以外でもいいんですが,お話について,よろしければ。 ○井上委員 ありがとうございます。   うまく議論がかみ合っていないかもしれないので,ちょっと確認なんですけれども,被担保債権の存否が争いになっているときに,それが消滅したことを設定者の側で立証しなければいけないというのは,もちろんそうかもしれませんが,むしろ,どの被担保債権,どの売掛代金債権が残っているかには争いがなく,ただ,ひも付けられている在庫が残っているかどうかが分からないときに,担保を実行しようとする側が,この代金債務が支払われていないんだから担保を実行するという以上は,むしろ担保権者の側で目的物を特定しなければいけないのではないかと思ったのですけれども。その観点からすると,今残っている在庫が,今残っている不払の代金債権を発生させた売買によって買われたものかどうかが分からなければ,実行できないのではないかということなんですけれども。 ○道垣内部会長 阿部さん,いかがですか。 ○阿部幹事 そうですね,あの事件だと,多分,担保権の実行自体はすでに行われていて,…… ○道垣内部会長 いやいや,特定の事件の問題ではないでしょう,井上さんがおっしゃっているのは。 ○井上委員 あくまでも狭義の所有権留保の合意があるという場合,その狭義の単位については,決済ごとなのか,個別対応なのかという争いがある。ただ,その単位を決めたときに,狭義の所有権留保は,逆に言うと,拡大された形,それを超えた形では目的物をカバーしませんよという合意で担保を取っていることになる。なので,担保権者としては結び付きを立証しなければ実行できないのではないかって,そういう問題です。 ○道垣内部会長 私が口を挟むのはいかがかとも思いますが,阿部さんがおっしゃっているのは,売主が,この物は自分の物だから,所有権はまだ移転していないんだから返せと言ったときに,所有権が移転するための条件が成就したということを買主側が言わないと,売主による所有権の主張の方が勝ってしまうのではないか。そうすると,当該物品の代金が支払われているかどうかということを,売主側で立証していくという形にはならないのではないかということですね。 ○阿部幹事 はい,そうです。 ○道垣内部会長 そうかもしれないと思うんだけれども,これが例外的な優先性みたいなものだと捉えるのか,単純な所有権の移転の問題ないしは担保権の消滅の問題と捉えるのかというふうなことでも,また変わってくるかもしれないですけれどもね。動産売買先取特権の場合には,当該目的物の被担保債権が弁済されていないということを,先取特権を主張する側で立証していくということなんだろうと思うんですけれども,それは,法定担保物権だからなのかとか,いろいろな問題が絡んでくるかもしれないと思います。   ちょっと細かくなりまして,また後で整理して検討したいと思います。   アメリカ法のポリシーの問題についてもいろいろ出ましたが,アメリカ法は,実はUCCができる前から,購入代金の融資をした人に対して優先権を与えるという法制度があったんですよね。所有権留保売主ではなくて,ある信用売買の代金についての融資をした人に,その目的物についての優先権を与えるという法制度があって,それを踏まえた上でUCCというのができているんで,購入のためにお金を貸した人の方が優先するのは,ある種当たり前なのではないというふうな感覚がどうもあるんですよね。そこら辺を日本とは違うところをどう捉えるのかという問題もあるのかもしれません。   ほかにございませんでしょうか。   まとめていきますと,狭義の所有権留保と拡大された所有権留保などの場合に,それをどこで切るのかと,あんまり厳格に切るというのはどうかなという感じもするけれども,曖昧なままで申し訳ありませんけれども,狭義の所有権留保に関しては,留保売主が勝つというのが,多くの人のお考えではなかったか,登記なくして勝つというのが,多くの人のお考えではなかったのかと思います。ただ,そこはさらにポリシーの問題として,譲渡担保を取った人との関係をどう考えるか,もう少し詰めて考えなければいけないところもあろうかと思いますし,また,何日間かの間は仮に勝つとしても,どこまでの猶予を所有権留保売主に認めるのかということについては,20日なのか21日なのかなんていう具体的な数字は最後まで出ないかもしれませんけれども,そういうところには,まだ意見の分かれがあるということかなと思いますが,よろしいでしょうか。   大体,これで約2時間を経過しておりますので,ここで一旦休憩を取りたいと思います。いつもは15分程度ですので,15時55分まで一旦休憩を取りまして,第2の1の質権と担保権との優劣というところに移っていきたいと思います。   では,55分にまたお集まりいただければと思います。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○道垣内部会長 55分になりましたので,審議を再開したいと思います。   部会資料の5の「第2 担保権と他の担保物権との優劣関係」というところの「1 質権と担保権との優劣関係」というところから,話を始めたいと思います。   まず,事務当局において,部会資料の説明をお願いいたします。 ○笹井幹事 部会資料4の第2と,部会資料5の第1につきましては,新しく今設けようとしている担保権同士が競合した場合の問題でしたけれども,部会資料5の第2は,新たな規定に係る担保権と,ほかの担保物権,具体的には質権とか先取特権とかが競合した場合のルールについて,取り上げております。第2の1では,まず質権との関係を取り上げております。   質権と競合する場合としては,譲渡担保とか留保所有権が設定されて,設定者が引き続き占有していたんだけれども,その後に質権を設定した場合などが考えられるかと思います。   ゴシックでは,三つの提案を示しておりますけれども,【案5.2.1.1】と【案5.2.1.2】,この二つは,質権については現行の355条を踏襲して,質権については設定の時点,具体的には引渡しの時点ということになりますけれども,その時点を基準にしようというところでは共通しておりまして,では,何がこの二つで違っているかというと,新たな規定に係る担保権について,対抗可能時を基準とするのか,担保ファイリングで決めるのかに対応して,二つの提案を示しているということになります。【案5.2.1.3】は,上の二つと違いまして,質権についてもファイリングの中で優劣関係を決めてしまおうと,全てファイリングで決めようという提案です。   ただ,【案5.2.1.3】の場合には,現状では,質権者が引渡しを受けてしまえば,対抗要件も具備することができますし,優劣関係でも,その時点での確保できるという問題ありますけれども,この提案の下ではそれに加えて担保ファイリングが必要になる,そのコスト増加をどう考えるのかということですとか,あるいは,質権同士が競合した場合の355条についても,ファイリングを基準にするというような見直しをする必要があるのかというような問題にも広がってくる,その点につきましても検討が必要になるのではないかと考えております。   事務当局からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等いただければと思います。よろしくお願いします。片山さんどうぞ。 ○片山委員 片山でございます。特に意見があるというわけではないのですけれども,既存の動産質権に関しましては,占有担保で,引渡しによって対抗要件が具備される,現実の引渡しによって具備されるということですので,優劣関係に関しては,引渡しを基準とするということで問題ないのかと思います。   その際に,担保ファイリングがどのような制度になるかということは分かりませんけれども,その担保ファイリングが既存の動産質にまで及んで,動産質に関しても担保ファイリングをしなければ順位を獲得できないということになりますと,やはり,担保ファイリングの機能としては過大ではないかとの懸念を持った次第ではございます。   ということで,【案5.2.1.3】の提案には,やや違和感を覚えたということだけ申し上げさせていただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見がございますでしょうか。   結局,大きな分かれ道としては,質権というのが既存の担保制度,典型担保権として存在していて,それをなるべく維持するという形で仕組んでいくのか,今まで譲渡担保権とか所有権留保と呼ばれていたものについて,いろいろな制御して,担保手段として制御するんだから,そうすると,もう動産担保の,既存の担保制度であるところの質権も,その新しい制度の中に埋め込んでしまうとすべきなのかということなんですが,片山さんの方からは,埋め込むまでもなかろうという御意見を頂いたわけですが,ほかの方の御意見はいかがでしょうか。 ○藤澤幹事 藤澤です。ほかの方から御発言がないので,本当に大したことではないんですけれども,ちょっとだけ疑問に感じたところを発言させていただこうと思いました。   質権には,留置的効力がありますが,ほかに優先する担保権者が出てきて私的実行をするという場合に,質権者としては,留置的効力を主張できなくなるということでよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 シチュエーションをよく考えたいと思うんですが,債務者イコール設定者の方が簡単ですので,そうしますと,債務者イコール設定者の下にある特定動産について,今でいうところの譲渡担保が設定されて,占有改定による引渡しを受けた。その後,質権が設定されたんだけれども,質権者は,譲渡担保権の存在について知っているということですね。 ○藤澤幹事 はい。有過失である等,即時取得できない場面です。 ○道垣内部会長 知っているとして,即時取得もちょっと分からないな。知らなかったら,譲渡担保の負担はなくなるんですかね,当然。 ○藤澤幹事 現行法だと,質権の即時取得ができない場合には,譲渡担保権者に言わば所有権があり,質権者は,質権を取得していないと考えているのではないかと思います。これに対して,質権を取得できているときに,留置的効力を主張できないことでよいかという確認でした。 ○道垣内部会長 いやいや,そのとおりだと思いますよ。そのとおりだと思うんですが,今,譲渡担保の方を,所有権を前面に押し出した形にしないとしたときには,そこの部分は変わってくる可能性もありますよね。   しかし,ちょっとそこは措いておいて,知っている形で引渡しを受けたといったときに,留置しているわけだけれども,譲渡担保権者が実行しようとして引き渡せと言った。それは,引き渡さなければいけないのではないですか。劣後する質権について,留置的効力だけが優先するということはないのではないですか。 ○藤澤幹事 はい,そのようなことでよろしいかと思いました。一応の確認だけです。 ○道垣内部会長 すみません,私が確認権限のある主体ではありませんけれども,そういう感じがします。   もう全部同じ土俵に乗せちゃえという意見はありませんか。それはちょっと難しいだろうという感じですかね。   では,【案5.2.1.3】は困難があるとして,そうしたときには,【案5.2.1.1】と【案5.2.1.2】の違いというのは,先ほどから出ている担保ファイリングというのはどういうふうなものとして仕組むのかということと密接に関係しているから,今ここで決めましょうというのは,なかなか難しいだろうとは思いますけれども。   それでは,お気付きの点がありましたら,後になっても構いませんので,ご指摘いただければと思います。   少し先に進みまして,いずれにせよ既存の担保権と新しい担保権との優劣の問題でございますので,2のところに入った後に,1について御発言あるということにお気付きになられましたら,またしていただいても結構でございますので,2の「先取特権と新たな規定に係る担保権との優劣関係」というところについて御説明をいただき,更に既存の担保権との関係という形で議論をしていきたいと思います。何か説明ございますか。 ○笹井幹事 第2の2は,先取特権との関係についてです。   先取特権と現行法の譲渡担保権との関係については,資料5の11ページに,昭和62年判決を引用しておきましたけれども,こちらの最判がございまして,これによれば,先取特権の目的物が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分になった場合には,先取特権が消滅してしまうと,333条が消滅するという効果を定めたかどうかということは,若干争いがあるようですけれども,多くは消滅すると考えているようでして,それに従えば,消滅するということになります。   ただ一方で,これも御承知のように,学説上は,動産目的とする約定担保権であるという側面に着目しまして,この点で,動産譲渡担保権と動産質権とが共通していますので,動産譲渡担保権についても動産質権に関する334条と同様の扱いをして,第1順位の先取特権と同様に扱うという考え方も,有力に主張されていると認識をしております。   動産質権とはちょっと違いますけれども,これも資料の方に引用しておりましたが,13ページ一番上の方になりますけれども,特別法上の動産抵当権も同じように,第1順位の先取特権と同順位とするというような規定を持っているものが,若干の表現の差がありますけれども,多いのではないかと思っています。   ただ,334条と同じように扱うということにつきましては,これは,占有型といいますか,担保権者が目的物の引渡しを受けるという点に着目したものだという指摘もございまして,このような立場を強調するとすれば,非占有型の担保権である,規新たな規定に定義に係る担保権について,動産質権との共通性というのを余り強調できないということになるのではないかと思いますので,こういったところも含めて御議論いただければと思っています。   そのほか,先取特権との関係では,330条2項の適用によって順位が変更されると,主観的な事情によって順位が変更される場合に,その主観的事情の判断の時点をいつにするのかという問題ですとか,留保所有者の優遇問題,先ほどの譲渡担保との関係で出てきた問題ですけれども,留保所有者を優遇するかどうかという問題ですとか,あるいは,先取特権と競合する担保権が,質権も含めて複数ある場合に,どういう処理をするのかといったような問題が出てくるのかなと思っておりますので,それぞれ資料の中で,一定の考え方を示したり,問題提起をしたりしております。   私からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   では,この点につきまして,御意見を頂ければと思います。   これかなり,最高裁が出まして学説上の議論があったところですが,学説上の議論というのは,やはり既存の条文の解釈論として何とか処理をしようという形でやられており,それを前提にしますので,結構複雑な解釈論がいろいろ出ています。また,そういうふうなことが,やはりほかの条文を変えない限りにおいて,今回も必要だというのも,一つの立場かもしれませんけれども,思い切って,解釈論はひとまず措いて,ポリシーの問題として,どういうふうに動産の先取特権との関係を考えるかというふうな見方もあろうかと思いますが,いずれにせよ御議論いただければと思います。   いかがでしょうか。 ○阪口幹事 阪口です。   この先取特権のところは非常に難しいし,実務的にもよく分からないんですけれども,ただ1点,14ページの主観的事情による順位の変更のところについてだけ,ちょっと意見を述べたいと思います。   そもそも実務的には,330条の1項1号とか1項2号の先取特権がほとんど出てこず,3号の売買の先取特権だけが実務上時々用いられているという状況で,したがって,330条2項というのは,余り現実化することが今までなかった条文なんだろうと思うんです。今回,新たな規定による担保権というのを,この330条1項1号と同様に扱うとすると,この330条2項の問題が顕在化するんだと理解しています。   ただ,この330条2項そのものは,(注27)の阿部先生の論文にもあるとおり,1611年のフランスの判例,もう関ケ原か大坂夏の陣かみたいな,そんな時代の判例に由来する規定で,かつ,それも,今考えられているような動産売買先取特権対譲渡担保権の局面とは全然違うことがベースにあるような規定ですので,それを導入しなければいけないのかというのが根本的な疑問です。主観的事情による順位の変更というのはそもそも余り望ましくないはずなので,一言で言うと330条2項は適用しないとしてはどうか。譲渡担保が330条1項1号と同順位だというのはいいんですけれども,330条2項がマストではないのではないのかと思っています。   つまり,知ったからといって,そこで逆転する必然性は全くないのではないかなと思っていますので,実務的な観点でいうと,適用しないという条文,準用しないというのかな,この場合は,準用しないとはっきりしてしまったらいかがかなと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただ,そういうときには,やはり1号にも,1号とイコールにするというふうなルールも置かないで,独自のルールとして置くと。1号と同じであると書くと,どうしても2項がひっついてくるんですね。   私,最初に現行法の条文を基に,精緻な解釈論がされていますがと申し上げたのは,その辺りのことに関係していて,やはりかなり細かな議論がされている感じはします。   すみません,阿部さんお願いします,名前も出たところでございますし。 ○阿部幹事 ありがとうございます。   私の(注27)の論文に言及していただいて,ありがとうございました。そのこととの関係で補足しておきたいのですけれども,まず,(注27)の引用のところで,起草者は,事実的支配に着目していたのではないかというふうなものとして拙稿を御紹介いただきまして,確か私はそのような分析をしたのですが,その一方で,その起草者の考え方に縛られる必要があるかというと,その当時の起草者の見解にも問題がなかったわけではないのではないかということをも指摘しておりまして,つまり,起草者に影響を与えたと思われるフランスの学説というのは,フランス民法典の欠缺を補充するというために,形式論理を使って,動産売買先取特権と不動産賃貸先取特権との優劣に関する規定を,無理やり占有質と他の先取特権との優劣などにも類推していたという経緯があって,この330条に至っている,というようなことを書いておりまして,そういうことからすると,元々がかなり形式論理で,質権,黙示の質について妥当する考え方は,明示の質についても妥当するんだ,という考え方で拡張されてきたものだったりするものです。ですので,必ずしもそれに,今日拘束される必要もないのではないか,非占有型の担保権についても,動産質権と同様の順位を与えるということはあり得るのではないかなと,結論としては考えております。   他方で,330条2項の話なんですけれども,確かに,これは,334条を介して,動産質権にも適用されるというのが現在では通説になっていて,そのことは部会資料の14ページの15行目でも指摘されているとおりだと思いますけれども,やはりここに関しては,私も阪口先生と同じで,約定質権に関して,質権者の認識によって順位が変わるという考え方を採る必要性はそこまでないのではないかなとも思っております。   ただ,他方で,330条2項が,完全に関ケ原の時代のものだから何も見るところがないかというと,私はそこまでは考えておりませんで,元々の330条2項の発想の原点は,不動産賃貸先取特権が,現在でいうところの集合物譲渡担保権に意外に近いものだった,ということを前提にしたものであって,言わば,集合物の中に代金未払いの動産が搬入されてきたときの問題点と,かなり近いものを扱っていたのではないかなと考えております。   そうすると,330条2項の規律というのは,330条1項1号の先取特権の約定性に着目しているというわけでも,占有性に着目しているというわけでもなく,むしろ集合物性に着目しているというのでしょうか,そういうものだという理解もあり得るのではないかなと思いまして,そうだとすると,例えば,個別の動産質や個別物の譲渡担保に関しては,330条2項のような担保権者の認識による順位の変更を及ぼさないけれども,集合物譲渡担保権者に関してはそれを及ぼすということがあり得るのではないかと。具体的に言いますと,構成個別物が搬入されるときに,売買先取特権の方が売買代金の未払いを知らせるということによって,信用売主に優先を認めつつ,他方で,不動産賃貸人の方は,そのような優先担保権が付着した動産が搬入されたというのでは,設定者がその義務を果たしていないと。その前提には,不動産賃借人の動産搬入義務というものもあったわけで,これは,今日日本の不動産賃貸借においては必ずしも妥当しないのではないかということで,結構そこがややこしいような気がするんですけれども,元々の利害の調整の在り方としては,そういう調整の在り方だとすると,それは,集合物譲渡担保権者と動産の信用売主との間の利害調整にも及ぼし得るものが含まれているのではないかなとも考えているところであります。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   尾アさん,お願いします。 ○尾ア幹事 私も,14ページの4番の新たな規定に係る担保権者の主観的事情による順位の変更に関連して,1点だけ申し上げたいと思います。   24行目以降で,「知っていたとき」の基準時が担保設定時ではなくて個々の動産が集合物の構成部分となった時点とするなど,後ろ倒しにするような考え方が記載されており,これは,現行法の枠内で商取引債権者を保護するという趣旨での案であると考えております。これまで繰り返し申し上げていますように,一定の商取引債権者について最優先で保護するということは,事業の成長に資する商取引が円滑に行われるために重要であって,あらゆるステークホルダーの利益にも資すると考えておりますので,この案の御趣旨には共感するところです。   他方,道垣内先生が最初におっしゃっておりますように,せっかく立法論を議論している機会ですので,既存の法制度を前提とする解釈論ということだけではなくて,先ほど所有権留保のときに議論したアメリカのPMSIのような考え方を,所有権留保の場合に限らず,商取引に関連した債権については担保権の形式を問わず一定の範囲で優先させる,という取扱いとすることが考えられないかと思っております。所有権留保は交渉の面で立場が強い場合にしか設定できないという実務があるということも聞いておりますので,所有権留保に限らず,担保形式を問わずに商取引関連債権が,一定の範囲を区切って最優先されるという扱いになれば,中小企業の場合であっても利用できる機会もあると思いますし,より予測可能性が増して,事業の成長という観点からは望ましいのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   尾アさんの前に阿部さんがおっしゃった話というのは,実は,350年の時を経て,関ケ原の戦いのときの話をUCCの通知の問題と結び付けようという発想なんだと思うんですけれども,尾アさんおっしゃったときに,所有権留保売主は,例えば,通知をしなくても在庫,現在でいう集合動産譲渡担保権者に仮に勝つとして,例えば,二十日以内の登録とか,そういうのがあるかもしれませんけれども,動産売買先取特権を有しているという人についても,別段先ほどの通知とか,あるいは主観的な要件みたいな話をしないで,動産売買先取特権者を勝たせるというポリシーもあり得るという,そういう感じでしょうか。 ○尾ア幹事 そのとおりです。先取特権者もそうですし,場合によっては,所有権留保という形ではなくて,譲渡担保という形で優先弁済権を確保することもあり得ると思います。いずれにしても,商取引債権者を一定範囲内で保護するという形での立法は考えられないだろうかという,そういう論点です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阿部幹事 ありがとうございます。   再び恐縮ですが,この資料の中で,14ページの5のところで,狭義の所有権留保の取扱いというところが書かれておりまして,先ほどのように考えたときに,狭義の所有権留保と売買代金先取特権というものは,どれぐらい違いが出るかということです。狭義の所有権留保に関して,この資料では,目的物と留保所有権との牽連性からすれば,留保所有権を優先すべきであるようにも思われるとされています。他方で,これは現行法の規定ではありますが,民法319条という規定がありまして,そこでは,不動産賃貸先取特権には即時取得の規定が準用されるということになっています。この規定の適用場面としては,不動産の賃借人が,他人の動産を借りてきたりして,自分の賃貸不動産に搬入した場合というのもあると思うんですけれども,所有権が売主に留保されているような動産を買ってきて,自分の借りている不動産に搬入したという場合にも,多分及ぶ規定なのだろうと思います。だから,そうすると,常に所有権留保が勝つかというと,そうではなくて,この319条の規律によって,善意無過失の不動産賃貸先取特権者が勝つという余地もあり得るのではないかなと思いました。   もちろん,この319条自体,立法論的にどうなのかという問題はあり得るような気もして,この条文自体がかなり「黙示の質権」の発想といいましょうか,占有質権に寄せたような発想があるような気もするんですけれども,起草過程では,こういう不動産賃貸先取特権のようなものは,賃借人が搬入した動産について,不動産の賃貸人がその動産を占有していると言えるかどうか分からず,192条をそのまま適用しても即時取得が成立するかよく分からないということを踏まえて,それでも即時取得が成立することを明らかにするために,319条が作られたようです。ですので,そのような経緯も踏まえて,これを見直すべきかどうかということを検討する必要があるかなと,こういうふうに思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   どなたか,実務的な観点で,やはり所有権留保がされているという場合と,動産売買先取特権があるという場合は,全然違うんだと,取り分け譲渡担保権者との関係において全然違ったって,それはおかしくないんだというお考え,あるいは逆に,それはおかしいんだという,実務家の方とは限りませんが,何かその辺りの感覚といいますか,お考えはございませんでしょうか。 ○阪口幹事 すみません。実務的には多分,もう判例法理が形成されて何十年もたっているもんだから,現在の我が国の実務家はほとんど,所有権留保は強い,動産売買先取特権は弱いという実務に,ある程度毒されて,毒されているという表現が正しいかどうか分かりませんけれども,実務に慣れ親しんでしまっていると思うんです。そこを今回変えるという選択肢はあり得るとは思うんですけれども,ただ,それにはそれなりのハレーションが起きると思っています。例えば,倒産局面を考えるときに,どこまで先取特権者の地位を上げるのかというのは,これまたかなり難しい議論だろうと思います。どちらかというと,現行の,所有権留保の合意までした人は強い,動産売買先取特権というのは,死文化とは言いませんけれども,かなりしんどいことになっているけれども,ただ,物の同一性を立証できる場合,そこまで債権管理をしている債権者は先取特権でもある程度は勝てる,というぐらいで,実務的には一応バランス取れているのかなと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。大変貴重な御意見ありがとうございます。   ほかに何か御意見はございませんでしょうか。   ポリシーの判断はなかなか難しいところがあるかもしれませんが,先取特権一個をあんまりいじったときに,他の先取特権に波及していかないかという問題も,多分あるんだろうと思います。そうすると,大変なことになってしまうんで,更に考えていかなければいけないかもしれませんが,また何かお考えがございましたら,適宜御発言いただければと思います。議論自体は,ちょっと申し訳ございませんが,先に進めていきたいと思います。   続きまして,部会資料5の第3というのは,15ページでございますけれども,債権を目的とする担保(債権質又は債権の担保目的譲渡)の優劣関係というわけでございます。それの原則というのが1でありまして,その後,17ページに2の通知・承諾と登記との優劣関係というのがございますが,これ,まとめて扱えればと思います。   事務局から御説明を頂ければと思います。 ○笹井幹事 15ページ,第3では,今まで動産を目的として様々な担保権同士が競合した場合の優劣関係について御議論いただきましたけれども,第3では,債権を目的とする担保についての優劣関係を取り上げております。ただ,議論の内容としては,動産についてとは全く違ったアイデアがあるということではございませんで,まず,15ページの「1 原則」というところでは,これは動産と同じですけれども,対抗要件の具備の先後で決めるという現行法に近いルールにするのか,それとも,担保ファイリングを設けて,担保ファイリング制度の先後によって決めるのかという,二つの案をお示しをしております。   そういう意味では,議論の内容自体は,動産における原則ルールをどういうふうにするのかということと,かなり共通してくるのだろうと思いますけれども,ただ,論理的に必ず,動産について対抗要件具備の先後が決めるから,債権についてそうしないといけないかというと,それが結び付きやすいという面はあると思いますが,それ以外の結び付き方がないかというと,そうでもないのかなとは思っております。   17ページの2では,これは,前半で御議論いただきました動産についての登記優先ルールを採用するとすれば,同様に債権についても同じ問題が考えられるのではないかということで,債権についても登記優先ルールというものを導入する余地がないかどうかということを,問題提起したものです。   ただ,これは前半にもちょっと御意見があったかもしれませんけれども,動産における占有改定は完全に観念的で,当事者の間でだけそういう合意がされているということだろうと思いますが,債権の場合,その通知・承諾という対抗要件の具備によって債務者が巻き込まれるという形になりますので,そういう意味では,動産とは少し議論の状況が違っているのではないかとは思っております。   ゴシック部分では三つ,動産における登記優先ルールと同じように,設ける考え方,設けない考え方,それから,いわゆる集合債権についてのみ登記優先ルールを適用するという考え方の三つを御提示をしております。   事務当局からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは,この点につきまして,御自由に御意見等いただければと思います。よろしくお願いします。 ○片山委員 片山でございます。   債権に関しても,動産と同じように議論をしていくということで,ここまできております。そのこと自体に異議を唱えるということではないのですが,比較法でフランス法などを研究しておりますと,そもそも債権譲渡の対抗要件との関係という話が出てきて,わが国における今般の平成29年の債権法改正では,467条の通知・承諾制度はそのまま維持され,それと特例法登記の二本立てという点が維持されることとなりました。   それ自体を見直すということは,今回恐らくはできないということなのかとは思いますけれども,比較法的にみますと,この債権譲渡システムの母法であるフランス法もそうです,ベルギー法もそうですが,債権法や債務法の改正で,債権譲渡の対抗要件システム自体が大きく見直されて,第三者対抗要件という意味では,通知はもう不要となり,債務者対抗要件としてのみ通知が残って,あとは譲渡行為の日付で成立し,同時に第三者に対抗することもできるということになりました。恐らくはその点を大前提としているということなのでしょうが,担保法の改正においても,やはり動産と債権は違いますと,債権については,債権譲渡のルール自体が変わったのだから,もう登記登録制度からは外していくという方向での法改正が進んでいて,債権質であるとか,あるいは債権譲渡担保もそうですが,証書の日付で第三者に対抗ができる,そういう法制度へ移行しつつあるのを見ておりますと,わが国においても,債権については,そのようなニーズが仮にあるということならば,その方向での見直しも必要であるように思っております。ただ,そのような実務上の要請は全くないということであれば,それは単に比較法の土壌が違うということだけですので,我が国の制度設計には全く反映すべきではないということになるのかとは思います。   そういう意味で,債権を担保にとるという場合に,従前どおり通知・承諾を行うとか,あるいは登記をすることが担保設定のコストとして大きな負担となっていて,そのような負担のない形で第三者対抗要件を具備できるとしたら,それに越したことはないというようなニーズがあるのかどうかという点については,若干関心があるところではございます。   それから,もう一点は,コモン・ローについてもそうだと思いますが,金銭債権については,ペーパレス化した有価証券の延長で,コントロールというような概念で,事実上の占有担保としての位置付けを与える方向性が,比較法上見出されます。そのような文脈において,先ほどの質権,動産質との関係もそうですけれども,要するに,担保の中で,占有担保と非占有担保を区別して,占有担保については,基本的に引渡しとか,あるいは支配,そういったもので対抗要件を具備できる制度とするのに対して,非占有担保について,登記であるとか,あるいはファイリングであるとか,そういったものを制度上要求する,そういう分け方も考えていく必要があるのではないかと思っております。そうしますと,コントロールを認定しやすい債権については,動産とは異なる取扱いも考えられるのではないかことです。具体的な提案というわけではありませんが,十分な議論を尽くすことなく,動産と債権を同じように取り扱ってしまうことに,若干不安もございまして,意見といいますか,感想という形で述べさせていただきました。   よろしくお願いいたします。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   片山さんが感想とおっしゃったので,私も,越権かもしれませんが,感想を一つ述べますと,担保とは限りませんけれども,債権譲渡に関して,譲渡の日付が早い方が勝つんだという発想というのは,それはフランスがそうするというわけですが,ドイツは昔から基本的にはそうですし,英米も基本的には本当はそうなんです。ある人が債権者であるというのが,何らかの形で外部的に公示されているわけではないので,所詮この債権は誰のものだというふうな,外観からの信頼というのが形成されるというふうなものではないんだというのが,大前提に多分あるんだろうと思うんですね。   そうなると,優劣だけ決めればいいという話になるわけですが,実は動産も本当はそうで,占有・所持している動産が占有者・所持者の所有物でないことはいくらでもあるのですね。占有しているものがその人のものであるというふうな状態というのは,それこそ関ケ原の時代はそうだったんだけれども,そうではなくなっているんだという流れがもう一つあるわけで,動産に関しても,公示というのを考える必要はそれほどないという話は昔から,昔というか,結構世界的にもあるんだと思うんですね。   そうすると,我々は常に,例えば,登記をします,何とかをしますというのを,公示が必要なので登記をします,登記をすれば勝ちますとかいうんですが,これ,同じ話なのかというのはかなり微妙で,公示は別にもう所詮分かんないでしょうと,それよりも優劣関係を決めましょう,あるいは,尾アさんがおっしゃるように,何かのときに取引関係に入ろうと,あるいは担保の関係に入ろうといったときに,先順位者としてどういう人がいるのというのが分かる,そのための制度を作るわけであって,ある財産が誰に帰属しているのかということを公示するというふうなのとは,ちょっと制度設計が違うんだという考え方も十分にあり得るんだろうと思うんですね。   そうなると,片山さんは,債権についての流れとおっしゃったんですけれども,いやいや,動産もそうでしょうという話も十分にあり得るわけで,そうした債権についても,優劣は決めなければいけませんよねという話になったときに,では,譲渡とか担保設定の日付を何らかの形で交渉して,それで優劣決定しましょうというのも一つの道ですが,別の道として,担保ファイリングみたいな制度を作って,それで決めましょうというのもありますし,あるいは,通知・承諾というシステムありますけれども,通知・承諾も別にあれによって公示するのではなくて,そこにどの順番に来ているのかということで優劣を決めるんですよというだけの制度ですという,そういう見方だってできるわけで,では,やはり優劣はどうやって決めるんでしょうかという議論はした方がいいのではないかなという気がして,そのときに,譲渡ないしは設定の日付というのが,公示力が所詮ないんだと言ったときの,残りの唯一の選択肢になるわけではなくて,ほかにもいろいろ実は選択肢というのがあって,それ,どれにしますかという立法論的な議論というのが必要なのではないかなと思います。   片山さんが感想ですがとおっしゃったので,私もついつい刺激されて,感想の演説をしてしまいましたけれども,すみません,失礼いたしました。   ほかに何かございますでしょうか。   よろしいですか。恐らく,僕は今,片山さんの見解がみんなに共有されている状態ではないんだろうと思うんですね。動産のところが決まらないと,ここも決まらないよねという感覚が支配をしているのではないかなという気がするんですが,片山さんはそれに対して,動産のところと債権のところはルールを変えるというのも十分あり得る選択肢だということを示されたわけですが,少なくともその点についてはどのようにお考えでしょうか。一緒にするところがあったら,動産のところと一緒に議論しましょうというだけになってしまうんですが。本多さん,お願いします。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。   まず,先ほど片山先生の方から,実務上は通知・承諾だったり,登記だったりの使い勝手はどうなのかという御質問を頂いておりましたので,それに対して,先にお答えをさせていただきますと,必ずしも現状,使い勝手が悪くて制度の改正をしないといけないと実務的に考えられているわけではないと思っております。そういう意味で,債権の優劣関係,それから対抗要件の具備につきまして,現状の制度は,この法制度改正に際しましても,維持できるという発想は,実務的には十分穏当なものなのではないかと考えております。   その次の道垣内先生からの御質問に関しましても,動産に関する対抗要件制度,それから優劣関係制度の設計と,債権の譲渡担保に関する対抗要件や優劣関係の制度設計を異にするという発想は,ファイナンスの実務の現場の考え方からすると,十分にあり得る設計なのかなと考えております。順番に付言をさせていただきますと,対抗要件に関しまして,現状の通知・承諾若しくは登記の形で具備をさせていただくとの設計は,このまま存置可能と考えておりますし,それから,優劣関係に関して,担保ファイリングの導入ということも議論されているのですけれども,担保ファイリングによって優劣関係を定めるということになった場合に,担保の設定に関するコストを増やしてしまうということはあるかもしれなくて,通知・承諾なり登記で対抗要件を具備しつつ,優劣関係も定めるというルールが現状あり,使い勝手にそれほど不満があるわけではないという評価もなされていながら,さらに優劣を決する上で,もう一つアドオンしないといけないとなると,むしろファイナンスに関するコストの増加要因になってしまうということはあるのかなと考えております。   差し当たり,以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただちょっと,本多さんに伺いたいんですが,尾アさんがずっと強調されているところですけれども,同じインターフェース上に様々な優劣関係というものが出てこないということになると,やはりそれだけ取引コストというのが上がってしまうのではないかとか,あるいは,まだここで十分な議論をしておりませんけれども,いろいろな中で,事業を担保化するというふうなことを積極的に認めるべきであるというふうな議論がいろいろなところでされていますけれども,そうなったときに,含まれている特許権をどうするかとか,特許を受ける権利をどうするかとか,そういうふうな話になりますと,多少微妙な問題があるんですけれども,少なくとも同一の制度に乗せられるものは乗せておいた方が,そういうことは実現しやすいのではないかという気が,素人ながらしたりするんですけれども,そういったところについてはどのようにお考えですか。それぞれ別の方がいいということでしょうか。 ○本多委員 ありがとうございます。   御質問の点に関して,まだ私自身が十分考えを煮詰め切れていないというところがありますし,それから,動産のところで議論されたように,担保ファイリングの制度設計にもよる部分があるかもしれないということも一応あるのですが,そもそもの基本発想として,担保の目的物の種類ごとに複数の類型の担保制度を設けることとして,対抗要件具備,それから優劣関係を決する制度を考える,という発想を一旦のスタートポイントとすると,結果として,対抗要件,それから優劣関係の制度に関して,目的物ごとのくくりになるという結論は自然なものなのかなと思っています。   一方で,UIの設計次第,それからUIの前提となる優劣関係の公示方法といいますか,登記,登録,ファイリングの設計次第なのかもしれないんですけれども,登記若しくは担保ファイリングというものを優劣関係の基準にするということになり,統一的なプラットフォームに乗せやすい登記若しくは担保ファイリングその他の登録制度というものが,プラットフォーム上で動かしやすいものとして設計されるのであれば,実務上使い勝手のよいものになるかもしれないかなと考えてはおりますが,例えば,債権譲渡担保についての優劣関係の制度設計に関して,現状の通知・承諾制度を使えなくする必然性まではなさそうなのかなというところがございまして,そうであるとすると,統一的なプラットフォームに一部例外が生じてしまうことになるのかもしれません。すなわち,統一的なプラットフォームを設けることとする,ということのみをもって,債権譲渡担保の優劣関係の判定に際して通知・承諾を使えなくする必然性まではなさそうなのかなとは考えております。   ちなみに,特許権等に関しましては別途の登録制度がございますが,この登録制度に関するシステムを,統一的なプラットフォームにつなぐということが考えられるかもしれないのですが,異なるシステム間をつなぐということについては,実務上の課題はあるかもしれなくて,オンラインシステムに載せられている制度を集合することで,UIとして統一的なプラットフォームにつなげることができなくないかもしれないのですけれども,それは,そういう実務上の課題をクリアして,解決しないといけないと考えています。なお,更に統一的に考えるということなのだとすると,スタートポイントを変えて,統一的な,担保権に共通の優先ルールを定める方法を一から考えるという方が近道であるかもしれないとも思われるところも,念のために付言させていただきます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 阪口です。   先ほど私は,【案4.2.2.1】の辺りで,集合物に関してはという話を申し上げましたけれども,あそこで指図による占有移転のとき述べたのと同様に,債権譲渡に関して言えば,そういう特殊な,登記優先とかファイリング優先とかいうルールは,むしろ設けない方がいいと思っているので,動産と債権は別の制度がいいと思っています。   やはりここでは,第三債務者というか,債務者の利益をやはり重視しなければいけない,通知・承諾,対抗要件そのものの先後,順位と別の順位が実はありましたという制度は,やはり望ましくないと私自身は思っていますので,それは,むしろ動産の場合と違ってしかるべきです。他方,先ほど道垣内先生が,一遍に見られるのは便利ではないかとか,包括担保はどうかという御質問があって,包括担保の場合は,それは包括担保の仕組みとして何か考えられるのかなと思うんです。ただ,これは包括担保の世界です。他方,個別に考えたときに,今現状の実務では,売掛金担保を取る人と,動産担保を取る人は,必ずしも一致するわけでもなくて,すみ分けがされているわけでもないんですけれども,少なくとも一致しているわけではないので,統一的に見られるのが便利かもしれないけれども,別に分かれていても,そう不便でもないと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただ,見える優劣と実際の優劣が違うというのは,債権譲渡登記制度そのものがそうなんですけれどもね,実は。債務者が誰に払うべきなのかと,払っていいのかというのと,最終的にそれがどこに帰属するのかが分離している制度が債権譲渡登記制度ですから,そういう問題は残っているかもしれないと思いますけれども。 ○沖野委員 ありがとうございます。1点,阪口先生が御指摘になった点について,確認をさせていただければと思います。   債権の場合については,第三者債務者というか,債権の債務者の存在というのがあり,もちろん,動産で指図による占有移転のときどうかというような問題もありますけれども,動産の場合における典型的な倉庫業者というような存在ではなく,本当に単に債務者であるというときに,その保護ということも一つの視点だと言及されたように思いまして,そして,第三債務者からすれば,対抗要件の具備方法についての優先がない方が債務者保護になるという点なんですけれども,そこが必ずしも分からないところがありまして,質問させていただければと思います。といいますのは,現行法であれば,通知ですと,結局,確定日付ある証書による通知で,しかも到達がいつかという時点が基準になる。ですので,先にそちらの通知が来ても,その後,登記事項を証明書が来て,そちらの方は登記の日付になりますので,結局到達がいつかというのを見て,それから,後から来た登記事項証明書の日付を確認して,どっちが優先するかを見て払わないと二重払いのリスクを抱え込む。誤った判断をしたときは,あとは善意無過失の弁済であったかというような話しかなくなるけれども,一般的には,法的に優劣はついてしまうので,善意無過失とはいえなくなるのではないかというようなことも出てくるかと思います。   それに対して,仮に登記だけであるならば,登記が来たら,基本的に登記の方で判断すればいいんだということになりまして,この局面では,必ずしも優先を付けない方が債務者の保護になるという感じもしなかったものですから,今のような感覚がやはり違っていて,債務者の立場に対する保護からすると,優先などは全く付けない,【案5.3.2.1】から【案5.3.2.3】までであれば,【案5.3.2.1】がよいということになるのかというのは,どうしてそうなるのかが気になりまして,もしよろしければ,その点を補足していただければと思いました。 ○阪口幹事 阪口です,よろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 お願いします。 ○阪口幹事 登記事項証明書なりファイリング事項証明書なりが届くというのが,今の沖野先生の前提ですけれども,届かないこともいっぱいあるわけですよね。その局面が一定程度あるので,そのときに,自分から調べに行くことまではしない,第三債務者からしたら。でも,実は,優劣は登記かファイリングか何かで決まっている,それは478条で全部処理しますと割り切るのかどうかではないのかなと思うんですけれども。それは,もう来ていない以上関係ないと考えるのですかね。 ○沖野委員 債務者に通知が来ていない以上は,債務者との関係では,債務者は通知が来たものにだけ払えばいいという理解をしておりました。そういう意味で,登記制度自体が債務者以外の第三者への対抗要件と債務者に対する対抗要件を分けていますので。それは,考えていた前提が違っていたということが分かりました。 ○阪口幹事 すみません,先ほど道垣内先生がおっしゃった問題と同じですよね。結局,登記でも分かれてしまっているんだから,債務者対抗要件と第三者対抗要件が分かれてしまっているんだからということですね。   もう一遍考えます。実務的に困ることがあるように思っていたので,ちょっと考えさせてください。すみません,申し訳ないです。 ○道垣内部会長 お願いいたします。   結局,担保ファイリングというものの効果をどういうふうに考えるのか,通知を受けているという段階であっても,その通知から決まる優劣の問題と,担保ファイリングからする優劣の問題というのは変わってくることがあるんだけれども,担保ファイリングについても,現行の動産債権譲渡特例法と同じような,担保ファイリングに示されている優劣には,第三者債務者が拘束されませんというルールを多分置かなければ,それがうまく達成できないというのが,阪口さんのおっしゃっていることなのかなと思います。そして,それはそうかなと思います。登記制度とかというのを複雑に複数絡み合わせるということになったときに,動産みたいに第三者所有者みたいのがいる制度というのはないものに関しては,複数のファイルシステムというのを併存させることによって,話は混乱するのではないかということかなと思いますが,更に検討する必要があろうと思います。   ほかにも御意見があろうかと思うんですけれども,第4の問題に入りたいんですね。というのは,第4というのは,動産・債権譲渡登記制度の在り方ということですが,まず事務局から説明をしていただきますが,ちょっとその前に,私の予測を申しますと,ここでは,問題は出切らないと思います。動産・債権譲渡登記制度を見直す必要というときに,現在これをいろいろ運用されている司法書士さんとか,あるいは金融機関の皆様がお感じになっている,非常に細かな,細かなと言っては失礼ですけれども,こういうふうなときに,この書類が必要なのはおかしいとか,そういうふうなレベルの話とか,こういうふうな事項を書かされるのはおかしいとかという話とかもありますし,全体の制度そのものの在り方みたいな問題もあろうかと思います。   皆さんにまず,今日の段階で,そのいずれかについての議論をしろと絞るつもりはありませんで,御自由に議論をしていただきたいんですが,他方で,今日が最後だとお思いにならないで,これはどんどんお寄せいただければと思いますし,あるいは司法書士会,その他の先生方も積極的に,事務局にこういうところは直すべきだというふうな御意見を頂ければと思いますので,ちょっとここに議論を,その議論を始めておくことが,そういうふうな今後の,この委員,幹事の皆様以外も含めまして,いろいろ御意見を頂くためのきっかけというか,あれとして必要だと思いますので,ちょっと申し訳ございませんが,部会資料5の第4に入らせていただければと思います。   まずは,事務当局におきまして,部会資料の説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 17ページの「第4 動産・債権譲渡登記制度の在り方」について御説明いたします。   ここでは,現行の動産・債権譲渡登記制度を見直す必要があるか,また見直す場合にはどのような観点から見直すべきかという問題提起をしております。  登記制度等の見直しは,これまでの部分で御議論いただいたその他の論点について,どのように考えるかに関わらず問題になるものですが,特に,少なくとも動産について,いわゆる登記優先ルールを採用することとなった場合には,自己の権利を保全するために登記を行うことの重要性が現在よりも高まる可能性がありますので,登記制度の在り方が一層大きな問題になると考えられます。   資料の2以下では,具体的な検討事項として,自然人が動産や債権を譲渡する場合の利用可能性,登記の記載内容の柔軟化,変更の登記や更正の登記を認めること,オンライン申請の利便性の向上といった,比較的よく言われている観点からの制度改善を御紹介しております。ここでは,今申し上げた内容に限らず,皆様の実務における御経験を踏まえた制度改善について,御議論いただきたいと考えております。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 どうぞ,そういうことでございますので,御自由に御意見を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○鈴木委員 ここについて,正に銀行は実務家でありますので,幾つか御意見を申し上げます。   ここでは,項目2から6で五つのテーマが挙げられていると認識していますけれども,各々実務でいろいろ持ち上がっている課題を改善する機会だと思います。3点ほど御意見を申し上げます。   一つ目は,自然人を対象とするかという点ですが,これについては,個人事業主を中心に,調達手段が拡大するのはよいことで,一定ニーズは出てくると考えています。譲渡登記制度が自然人にも適用されるようになるということで,金融機関ではケース・バイ・ケースですけれども,自宅不動産など,生活財産を担保にするのはできれば避けたいという流れがありますので,事業用の資産とか美術品,嗜好品を担保とした資金調達に道が広がるのは,よいことではないかと思います。一方で,個人の場合は一定の歯止めも必要で,生活用品には適用できないとかいった,そういうルールも併せて検討する必要はあるかなと思います。   二つ目は3のところですね,動産譲渡登記の記載内容の柔軟化についてのところですが,ここはここまでの課題を踏まえて柔軟性を持たせるのはよいことだと思っています。これまでも保管場所を移転されてしまって,担保の効力が及ばなくなったなどの問題がありましたので,別の特定の方法というのは,検討する機会だと思っています。在庫一切のところは,これまでも喧々諤々ありましたので,いろいろなお考えがあるとは思っておりますけれども,そのほか,在庫一切が仮に実現しなくても,ほかに改善できる,柔軟性を持たす部分はあるかなと思っております。   それから三つ目ですね,最後の項目になります。オンライン申請については,これは,東京圏ではない金融機関の不便を改善することからも,整備をしていきたいところと考えています。ここは,先ほど述べましたけれども,今の技術でどんなことができるのかといったところから,制度設計するという切り口があってもよいと思っております。そうすると,おのずと一つ前の項目である登記の先後関係の確認のところも,リアルタイムでの還元とか,そういったところも可能になるのではないかと考えています。外国でできて,日本で実現していないことは何かといった観点で比較検討して,時代に合ったものを作るということが必要だと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○伊見委員 伊見でございます。   まず,何点かございますけれども,一つ目としまして,今鈴木委員からもお話がありました,記載事項の柔軟化に関しまして,特に動産の所在で特定をするという方法については,登記手続上,登記の記載事項からも,それを必須としないような実体法上の規定を設けていただき,かつ,登記上も柔軟化が必要かと考えるところでございます。   それから,オンライン申請に関してなんですけれども,現在,不動産登記におきましては,不動産登記法はオンライン申請が本則となっておりますが,実際は,添付情報が必ずしもオンライン申請になじむものがないことや,あるいは,個人の公的個人認証の普及の程度がまず芳しくないということもありまして,申請データをオンラインで申請をした後,添付情報につきましては持参又は郵送という形で,特例方式をもって登記の処理をしているという実務の運用がございます。   一方で,動産・債権譲渡登記については,不動産登記に比較をいたしまして,必要となる添付情報は非常に少ないということもございまして,さらに,現行におきましては,法人を対象としているということもありますので,非常にオンライン申請になじみやすい登記手続だとも考えているところであります。なので,このオンラインにつきましては,一層の促進をお願いをしたいと考えております。不動産登記に比べれば,むしろ取り組みやすいのではないかと思います。このことによりまして,現在,登記所が全国に1か所しかないということについても,オンライン申請の普及により,申請のハードルが下がってくるのではないかと考えるところでございます。   それから,若干細かい点になるのかどうかですけれども,登記の存続期間に関する点についても,現行から改めていただけるといいなと思う点があります。被担保債権の最終弁済期を,10年を超える場合ですね,存続期間が10年を超える場合には,被担保債権の最終弁済期をもってその期間とされておりますけれども,債権保全のための登記ということを考えますと,最終弁済期から更に一定期間を加算した期間まで認められるべきではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。冨高さん,お願いします。 ○冨高委員 冨高です,ありがとうございます。   今ほどもお話が出ておりました動産譲渡登記の記載内容の柔軟化について,19ページに記載のある在庫一切のような概括的な特定による担保権の設定については,担保の及ぶ範囲が広範に及びやすくなるということで,一般債権者の方とか,引き当て財産の確保という観点では大きな問題があると考えております。したがって,広範に担保権の設定を認めるような考え方については極めて慎重であるべきだと考えておりますし,担保権を設定する場合には,その対象物を具体的に明示するべきではないかと考えます。   あと,先ほどの内容,一般先取特権とは異なるということで発言をしなかったんですけれども,最後に部会長の方から,先取特権を見直すと,ほかの先取特権にも影響するというお話がございましたので,我々としては,一般先取特権も含めて,担保権の設定の議論をする前に,きちんと先取特権の優先順位についても議論をした上で,この議論に臨むべきだという意見書も提出させていただいておりますので,その点だけ改めて申し上げておきたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。後半は大変失礼いたしました。   それと,前半の在庫一切問題というのは,ちょっと私は,ここで議論するのは本当はおかしいのではないかと思っておりまして,これは,実体権としてこういうふうな担保設定は認められるかという議論があって,その後,実体権で認められるものについて,登記制度というのも考えればいいわけなんで,登記制度が認められれば,実体権が認められるということには,論理的にはならないですので,ここは,そういう実体権の実体的な法律関係として,そういうふうな担保設定が認められるのかという議論があり得るということを前提としながら,それが認められるとしたときに,こういうふうな形の特定というのを認めるのはどうかという意見が出ているというふうなことで書いてあると御理解いただければと思います。 ○遠藤幹事 中小企業庁取引課の遠藤でございます。   先ほど,冒頭近くで割と出過ぎた発言をしてしまったので,若干補足込みでということなのですけれども,我々としてやはり考えているのは,今回議論している動産・債権譲渡の担保に関して,この担保に特化した,登記に代わる新しい公示制度を設けるべきであるというのが,基本的に主張したいことです。そうなると,既存の債権譲渡特例法の登記に関しては,まず,原則として新たな公示制度に吸収されることを想定しております。既存の登記制度と新たな公示制度の境目について,例えば債権について真性譲渡をどうするかといった境界線上の論点はあると思いますが,基本的には,新しい公示制度は,この部会でテーブルに上がっている動産・債権譲渡担保に特化した制度としていく。それと,個人,すなわち自然人をどうするかという論点も,今,鈴木委員からも若干コメントがありましたが,基本的には法人を対象とすることをイメージしているものの,個人事業者をどう考えるかというところも,その境界線問題として検討するということかと思います。   それと,新しい公示制度の要件ですけれども,多くの方から意見が出ているとおり,やはりオンライン上で全ての手続が完結するというのは,ものすごく必要なことだと思っています。登記の本体の申請書だけではなくて,附属書類を含めて,オンライン上のみでやり取りができる,かつ,公示としても,オンライン上で検索ができるという要件を満たしていないと,やはり手元で行える,簡便な,安価で簡易な仕組みとならないと思うので,それは要件として満たしていただきたいと思っております。   それと,あと1点,これは純粋には民事法の議論ではないと思うのですが,登録免許税というのも,頭の片隅というか,中心に,この公示制度を考えるときにはお考えいただきたく存じます。既存の登記であると,意外と税の負担というのもばかになりません。登録免許税の制度は,ここで議論している債権譲渡なりの担保の仕組みと理論的に直接リンクするわけではないのですが,基本的には,登記という制度を作ってしまった瞬間に,恐らく登録免許税から現状において逃れるというのは相当に難しくなるという観点からも,登記というものでない新しい制度を作るというのは,実務的には非常に重要なことになってくると思いますので,そういうことも要件として踏まえながら,御検討いただければと思います。   先ほど道垣内部会長からも,この論点については,意見とか提案を受けた上で,別途,この場でいきなりでなくても,検討していただけるというお話もいただきましたので,我々からももう少し,今日申し上げたことも含めて,整理した上で,また改めて御提案申し上げたいと思っております。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ほかにございませんでしょうか。   ちょっと分からなかったのは,新しい登記制度,登記ではないという名前にした方が,登録免許税問題が起こらないのでいいというのは,これは,いわゆる電子債権のときにちょうど出た話なんですけれども,それはともかく,それで新しい制度を作るといったときに,やはりそれは法人だよねという話で,個人事業者をどうするかという問題はあるけれどもということになると,そうなると,自然人が仮にやったときには,譲渡担保という制度は残るということになるという前提ですか。 ○遠藤幹事 すみません。そこに関してまで,今の段階で明確にお答えを用意しているわけではないのですが,私どもとして,自然人については割とネガティブに考えているのはなぜかというと,やはり個人事業主については,個人の生活財産の部分と,事業に供している財産の部分というのを截然と分けられないのではないかと。個人に,例えば包括的な担保が付くことになると,結果として,この20年くらい一生懸命廃止しようとしてきた,経営者個人に対しての担保・保証が付くのと同様になってしまって,経営者の事業リスクが高まってしまうという,個人としての社長業というもののリスクが高まってしまうという問題に戻ってしまうのではないかないかということがあるので,基本的にはネガティブに考えていたのですが,いずれにしても,先ほどの鈴木委員の御意見のように,個人事業者をどうするかという部分は,境界線問題としてもう少し詰める必要があると思うので,そこは更に整理が必要だと思っています。 ○道垣内部会長 包括担保だけの話ではないではないですか。もちろん,全体からすると,個人が譲渡担保を設定しているという例というのはごく僅かだろうと思いますけれども,不動産なんかの判例とかでは,個人は結構出てきているわけですよね。といったときに,個人の部分は別建てにして,譲渡担保制度というものの判例法によるものが残るとしていいのかというのは,私にはかなり疑問な感じがするんですけれどもね。 ○遠藤幹事 それに関しては,そういった観点はあると思います。ですので,そこは更なる検討が必要だと思うのですが,少なくとも今の私どもの考えとしては,個人までできてしまうと,個人事業主の生活財産の部分にどう包括担保がかかっていくかというのは,一方で懸念を感じるところではあります。すみません,今日はここまでしか私自身も考えを詰めていなかったので,取りあえずそういうふうに思っております。 ○道垣内部会長 分かりました。これ以上問い詰めるのもあれですが,しかし,そういうふうなことをいうと,個人を権利者とする譲渡担保は無効であるという条文を置かないと,今の現行法にいう譲渡担保というのを個人がやっちゃったらどうなるのかという問題は残ってしまいますので。すみません,ちょっとこれ以上はあれなんですが。 ○呉村幹事 経産省の呉村でございます。   実務的な論点で,我々もABLの観点で,いろいろな地銀を含めた金融機関から聞く論点で一つだけ,4ポツの登記事項の変更登記に係る論点でございます。現状の動産譲渡登記では,変更登記は認められていないわけですが,特に事業が拡大している会社等で,倉庫の拡張とか,生産拠点が移動した場合に,要は,動産担保の保管場所が移転した場合には,新たな登記を取り直しているが,そういう事業拡大の局面の会社については,是非この場所の変更登記みたいなことが可能になれば,非常に助かるということを聞いていますので,少しコメントさせていただきます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阪口幹事 ものすごく細かいことで申し訳ないんですけれども,登記事項証明書を取れる利害関係人の範囲を,少し広げることの検討をお願いしたいと思っています。今回,この制度が導入される,何らかの形で改正されていくと,やはり利用が拡大するはずです。そのときに,実際どこまでが担保の対象なのかは,第三者からは分からないという制度になっていますけれども,そのままだと,いろいろな形の利害関係人にとって法律状態が不明なまま物事が進んでしまう。債務者に聞けばいいと言っても,債務者自身がきちんと答えるかどうかも分からないし,いなくなっているかも分かりませんので,利害関係人の範囲を拡大する,例えば,少なくとも債務名義を持っている人は取得できるとか,何らかの拡大は要るだろうと思っています。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。大変難しい,今のは,本当は問題を含んでいまして,ウェブ上でいろいろな検索ができるようにしようといったときには,実は,資格要件はほぼ廃止しないと難しいんですよね。債務名義を持っているというのは,ウェブのインターフェースで書きようもありませんし,自分が利害関係だと証明することもできないですからね。 ○阪口幹事 すみません,阪口ですけれども,それは,今考えている,いわゆる一番軽い部分,つまり,警告型みたいなところは,これは誰でも見られると。ただ,詳細な部分は裏にあって見えていないということではないんですか。今現在の登記事項証明書と概要記録事項証明書みたいな,ああいう2段階の公示は,ファイリングを導入してもあるのかなと思っていました。そうしないと,結局誰も何にも分からないということになってしまうのかなと思ったものですから。その2段階目が,ウェブでクリックすればうまく見られるのか,もうちょっと手続が要るのかは,僕も分からなかったんですけれども,少なくとも何か詳細があるなら,詳細が分かる制度,分かる範囲が全体なのか,一部なのか分かりませんけれども,何かそこへもう一歩進む制度がないと,警告だけだとちょっとしんどいのかなと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。私に強い意見があるわけではないんですが,恐らく,登録自体を簡単にできるようにしようと主張されていた委員,幹事の方々からすると,そんな現在の登記制度のような詳細なものを書くということ自体に対しても,多分違和感をお持ちなのではないかと思いますけれども。もちろん,その前提には,現行の動産・債権譲渡登記制度というものと,仮に担保ファイリングの制度というのを作るとしたときに,今までのお話というのが,どちらについての議論なのかというのを整理していかなければいけないと思いますし,例えば,利害関係人しか見ることができないといったときに,どちらの登録システムのどの部分をというふうなことで,多分議論していかなければいけないと思いますので,なかなか細かくは難しいと思いますけれども,更に議論をしていきたいと思いますが,本日のところで,何かもう1,2点ございますでしょうか。   最初に申し上げましたように,私の気持ちとしては,これをきっかけに,大きなこと,小さなことがいろいろ,現在の実務を扱っていらっしゃる方,ないしは,これを新たに構想されようとされる方からどんどん出てくるというのを狙っているわけでありまして,本日のところで何かの整理がつくとは思っておりません。したがって,時間も時間でございますので,本日はこの辺りにさせていただきまして,いろいろお気付きになった点を,お気軽に事務局なり何なりにお知らせいただくようにしていただければ,大変有り難く存じます。   というわけで,ちょっと無理やりに終えたようですが,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきまして,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 次回は8月24日火曜日,午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   本日は,事務局も含めて全部がウェブということで心配していたのですが,皆様の御協力の下で,その点については問題なくできたと思います。どうもありがとうございました。皆さんの御協力の下で,何とかやっていきたいと思います。   それでは,どうも本日は熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。 −了−