法制審議会 担保法制部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  令和3年7月13日(火) 自 午後1時28分                      至 午後5時19分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(2),(3) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 まだ1分半ぐらい早いのですが,全員が既に御出席でいらっしゃいますので,そろそろ始めたいと思います。法制審議会担保法制部会の第4回会議です。   本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,横山美夏さんが途中で御退席予定と伺っております。また,前回の部会後に幹事等の交代がありましたので,報告させていただきます。亀井幹事が退任され,新たに遠藤幹事が就任されました。遠藤幹事には,簡単に自己紹介をお願いします。  (幹事の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   それでは,開始しますが,まず,配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。   新たにお送りしたものとして,部会資料4「担保法制の見直しに向けた検討(3)」がございます。こちらにつきましては,後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。また,前回お配りした部会資料3「担保法制の見直しに向けた検討(2)」も使用いたします。 ○道垣内部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,前回からの積み残しとなっておりました部会資料3の「担保法制の見直しに向けた検討(2)」について議論を行いたいと思います。事務当局から,部会資料3の第1の「3 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限」というところと,「4 担保価値維持義務・補充義務」について御説明をお願いし,そこの議論をさせていただければと思います。   それでは,まず,御説明をお願いいたします。 ○淺野関係官 それでは,部会資料3の「第1 集合動産・集合債権の担保化」のうち,3及び4の部分について御説明いたします。   まず,14ページの「3 集合債権を目的とする担保を設定した設定者の権限」についてです。   集合債権譲渡担保において,設定者は,その構成部分である債権を回収し,回収した金銭をその後の営業等に使用することができます。もっとも,動産と異なり,通常の営業の範囲内であるかどうかを問わず,履行期が到来した債権の取立権限が付与されているとの考え方もあり得ます。他方で,取立てのみではなく,金銭を対価とした債権譲渡,和解や免除等が行われる可能性もあり,そのような処分については,動産と同様,権限範囲が問題になると考えられることから,本文では,設定者が権限範囲内において特定範囲に含まれる債権を処分し,弁済又は対価として受けた金銭等を利用する権限を有するとすることを提案しております。   次に,15ページの「4 担保価値維持義務・補充義務」について御説明いたします。   担保権の目的の範囲に設定者の所有に将来属すべきものを含む場合には,担保権の目的の内容が設定者の営業活動を通じて変動することが予定されています。したがって,設定者は権限範囲内で目的動産や債権等を処分することができますが,その一方で,抽象的には,設定者の処分等の結果として担保の目的の価値が減少した場合,設定者は,担保権者に対し,新たな動産や債権を補充するなどにより,担保価値を維持する義務を負うと考えられます。もっとも,どのような場合に担保価値維持義務違反や補充義務違反が生じると考えるか,その場合にどのような水準まで補充等が必要になるかなどについては,いずれも評価的な要素等を含む要件等とせざるを得ず,規定を設けても法律関係が必ずしも明確になるわけではないという指摘もあり得るところです。   担保価値維持義務や補充義務に関する規定を設ける場合には,当事者がこれと異なる合意をしていた場合における当該合意の管財人等に対する効力についても問題になると考えられます。例えば,抵当権の目的である不動産を設定者が毀損し,それが補修されないまま設定者に倒産手続が開始された場合には,当該毀損に係る損害賠償請求権は倒産債権になると考えられます。もし集合動産についても同様に考えるとすれば,補充がされないまま設定者に倒産手続が開始された場合には,補充義務に係る債権は倒産債権になるのではないかとも考えられますが,異なる御意見もあり得ると思います。この点についても御議論いただければと思います。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   どうしても議論の途中で前回のお話と重なることもあるかもしれませんが,それはそれほどお気になさらないで,しかしながら,3及び4について議論をしていきたいと思います。どなたからでも結構でございますので,御意見を頂ければと存じます。よろしくお願いします。 ○阪口幹事 阪口です。聞こえていますでしょうか。3番について,一つは質問,一つは意見ということになります。   3番の,権限範囲内において処分等をでき,他方,別段の定めがあるときはその定めに従うというこの定め方は,動産の方と同じような関係にあるんですけれども,ただ,動産の方は,別段の定めとは別の,いわゆる通常の営業の範囲内のイメージが非常に観念しやすい。他方,債権の場合は,これは僕の理解が間違っているかもしれませんが,債権は債権譲渡されたら譲受人の方に移転している,担保の場合でも移転しているというのがあって,当事者間の合意で取立権限がむしろ設定者の方に付与されているにすぎないというような位置付けになるとすれば,別段の定めとは別の通常の営業の範囲というのを観念する必要があるのか,ちょっとイメージしにくい。もしかしたら書かれているとおり,弁済期が到来したものの取立権限はあるよということを意味するだけで書かれているのかも分かりませんけれども,ここで言う別段の定めとは別に存在する,通常の営業の範囲,権限範囲というものをどんなイメージで書かれているのかをちょっとお教えいただけたらなというのが質問です。   意見の方は,この3のところの弁済又は対価として受けた金銭その他のものを利用する権限を有するという部分に関係するところです。前回,井上先生が,債権のところにこういう記載がありますが,動産の方にも入れたらいかがですかというふうにおっしゃられたと思います。ただ,これは権限の問題なのか,違うのではないのかというのがむしろ僕の意見です。例えば,よく金融機関がお金を貸し付けるときに,この資金は,運転資金に使ってください,若しくは設備資金に使ってくださいというように資金使途を決めますけれども,それはそれに違反したらもちろん期限の利益の喪失とかになりますけれども,それは飽くまで資金の利用権限の問題ではないと思っています。同様に,取り立てたお金を設定者が別のこと,例えば次の運転資金に使わんと,極端な話,破産申立費用に使ってしまいましたというときに,それは権限違反の問題なのではないように思います。それがいかんことだと言われたらそうかなとも思うわけですが,金銭は占有者に帰属するのが大原則ですし,プロシーズのような概念を使えば別ですけれども,我が国ではプロシーズの概念は使わないでしょうから,そうすると,弁済取立金というのは別に権限の問題ではないのではないのかなと思います。弁済金の利用権限という問題は起きないのではないのかなと。15ページでいうと,15ページの6行目,7行目ぐらいですか,設定者が受けた金銭等を利用することができるという点についても,飽くまで当事者間で許容されるのは権限範囲内での利用であると考えられると書かれていますが,当事者間で資金使途を合意することは構いませんけれども,それは権限の問題ではないのではないのかなというのが私の意見です。   以上,質問と意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まず,前半の質問のところにつきまして,何か事務局からございますでしょうか。 ○笹井幹事 お答えになっているかどうか分かりませんけれども,債権の通常のプロセスというのでしょうか,設定者が債権を取り立ててそれを自分の事業活動に使うというような場面でいえば,通常の営業の範囲と,より具体的な当事者間の定めがずれることはあまり考えられないと思います。ただ,ここでは,取立権限が行使されて取り立てられて,その後回収されていくという通常の場面だけではなくて,債権譲渡がされた場合とか,和解して一部回収して終わらせるとか,そういう場面を考えますと,やはり一般的な取引通念によって許される範囲と,それとは別に当事者間の特別の定めがある場合,例えば,第三債務者の資力が悪化しているので,こういう範囲だったらディスカウントをして回収して和解しておくということが,取引通念としては許されるとしても,当事者間ではそういうことは絶対しないというようなことが合意されているということもあるのではないかと思いまして,そういった局面では,通常の営業の範囲と当事者の特別な定めとが分かれ得るのではないかと思っております。ちょっとそれが問題意識として今の御質問の点と合っているかどうか分かりませんけれども,差し当たりは以上です。 ○道垣内部会長 阪口さんがおっしゃったのは,多分,仮にここに通常の営業の範囲という言葉を書くのならばまだ分かる,なぜならば,それによって権限範囲というのが定まる,そしてそれに対しての特約というものが存在し得るとされているのだけれど,最初の権限のところに決め方が書かれていないので,デフォルト値としての権限範囲内というのはどの範囲なのかが定まらずそれを特約で変えるも何もないのではないか,そういう文章になっていないか,ということではないかなと思うのですが,その理解でよいですか。 ○阪口幹事 阪口です。よろしいでしょうか。どちらかというと,これは私の理解が間違っているかもしれないけれども,集合動産は何か集合動産の本質から何となくにじみ出てくる権限範囲というのがあり,他方,債権は,もう譲受人に行ってしまっているという判例の理解からすると,当事者間の合意で逆に何かが許されているというイメージ感があるので,債権の場合は最初に決まる権限範囲と別段の定めが一体どういう関係になるのかなと,何かイメージしにくかったんです。ただ,先ほどおっしゃっていただいた第三債務者の資力が悪化したときはディスカウントするというのが,社会通念なり,業界の慣行としてできる通常の営業の範囲内かどうかを考えるという例を言われたら確かにその点については当事者間の合意とは異なる通常の営業の範囲を観念できるのかなとも思ったので,少しは納得しました。すみません,ありがとうございました。質問の方は。 ○道垣内部会長 すみません,私が申し上げたことに,事務局から何かありますか。 ○笹井幹事 その点については,7ページに一応権限範囲というのは何かということを書いておりまして,7ページの2(1)イというところですけれども,アの権限の範囲のことを権限範囲と定義していまして,アを御覧いただきますと,通常の営業の範囲とか,あるいはちょっと別の表現を別案として書いておりますが,そういうものとして権限範囲という言葉を使っているつもりでございました。 ○道垣内部会長 なるほど。権限範囲というのが7ページで定義されているというわけですね。 ○笹井幹事 はい。 ○道垣内部会長 それに対して阪口さんが,集合動産と集合債権と同じメルクマールで権限というのを考えていいのかという,そういう疑問を呈されたということですね。すみません,私がよく理解できていませんでした。ちょっと検討させていただければと思います。阪口さんのご発言につきましては,何人かから手が挙がっていらっしゃいますので,もう少し他の方のご意見を伺いたいと思います。まず,片山さんからお願いします。 ○片山委員 慶応大学の片山でございます。今阪口委員が御質問されたところとも関連しますが,集合債権譲渡担保も動産の集合動産担保と同じように取り扱うというイメージで,このペーパーは書かれているだと思いますが,若干の疑問を感じなくはありません。というのは,部会資料の14頁から15頁ですが,「権限の範囲で,債権の処分,弁済,対価として受けた金銭その他のものを利用する権限」を有するとした上で,その「処分」には,「取立て,債権譲渡,和解や免除等も含む趣旨」としている点,特に後半部分です。今の現状の実務としましては,少なくとも債権に関して言いますと,先ほど阪口委員からも御指摘ありましたとおり,設定者に債権的な約束事として取立権限が与えられているというのは確かだと思いますが,債権については,動産と異なって,広く処分権が付与されておらず,債権の譲渡や処分は担保権侵害となるとの理解が前提となっているのではないかと思っております。確かに,平成13年判決は,設定者に取立権を付与する形の集合債権譲渡担保を認めていますが,あくまでも取立権は,担保権者と設定者との間の委任契約に基づく債権的な取立権であり,それゆえに通知にその趣旨が含まれていても,467条の対抗要件としての通知と評価されるという説明がなされていました。それから,平成19年判決も,集合債権譲渡担保においては,譲渡担保権者が確定的に債権を取得しているという構成をしています。   いずれにしましても,動産に関しましては,設定者留保権等を構成するにせよ,通常の営業の範囲の処分権を与えるということにせよ,それは物権的な権利と理解されているのとは対照的に,債権については債権の担保権者への排他的な帰属を前提とした上で,債権的な取立権が設定者に付与されていると理解されているのではないかと思っています。比喩的に言うならば,一種所有権的構成がより徹底されていると分析することも可能かと思います。債権については,動産と比較しますと,譲渡担保も真正譲渡と同じような取扱いがなされているという認識でおります。もちろん担保権の濫用は制限されなければならないですし,当然担保ですから清算義務も必要であろうかと思いますし,倒産上の様々な制約も出てくるので,そういう意味では,全く真正売買と同じに扱えという話ではないのかとは思いますけれども,いずれにしましても,この部会資料の書きぶりですと,現行の実務で承認されている一種の排他的な担保権としての債権譲渡担保から,一歩後退する形で提案されているのかなというような印象を受けましたので,そういう理解でいいのかという点と,もしそうであるとしたならば,せっかく今実務で認められている排他的な担保権としての債権譲渡担保を生かす形での立法も御検討いただければというのが意見でございます。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 まず,趣旨として,現状の集合債権譲渡担保の効力とは変える意味を持っているのかといった点については,事務局はいかがでしょうか。 ○笹井幹事 ここは私どもの実務に対する理解が誤っているかもしれませんけれども,私どもとしては,最高裁判決の理解として,おっしゃるとおり,債権が確定的に移転しているということを前提にした上で,ただ,現行法上も,債権譲渡担保については,通常の営業の範囲内で事業者が債権を取り立てたり和解したりすることも許されているという認識でおりました。したがって,ここの資料の趣旨としまして,現行法を後退させるということを意図したわけではございません。ただ,その理解が誤っているかもしれませんし,あるいは,現行法の理解はともかくとして,こう在るべきだという御意見もあろうかと思いますので,そういった点につきましては,また御指摘を頂ければと思います。 ○道垣内部会長 まだたくさんお手が挙がっておりますので,まずはいろいろ御意見を伺いたいと思います。 ○松下委員 松下です。今は3について議論をされていますけれども,4についてでもよろしいですか。あるいは後の方がいいですか。 ○道垣内部会長 ほかの方が3であるならば,ほかの方を先にしたいと思います。松下さんからは4についてというのは,分かりました。井上さん,それではお願いします。 ○井上委員 井上です。3についてですが,先ほど阪口先生が権限とは違うのではないかとおっしゃったところについて,私がちょっと誤解しているかもしれないのですけれども,ここで「利用する権限」というのは相当広いことを言っていて,破産手続開始申立費用に使うことも投資に使うことも含むということであって,事業に使うことに限られないのではないかと思います。むしろここでいう権限というのは,担保権者に渡さなくてもよいという程度の意味だと理解しています。ここから先は意見が分かれるかもしれませんが,実行前の段階では設定者が回収金を使うことができる,すなわち,担保権者の回収代理人としての権限にとどまるものではなく,回収したら担保権者に渡さずに全額自分で使ってよいというのは,これは担保目的で集合債権を譲渡していることから当然に導かれることではないかと思います。それがここでいう「利用する権限」ということです。   その内実がただ債権譲受人から債権的に許されていることにすぎないと考えるのか,それとも担保目的で譲渡しているにとどまる以上,これは担保権の内容として,担保権者は,実行できる状態になるまではそもそも回収金を懐に入れる権限はなく,お金を懐に入れるのは飽くまでも実行までは設定者の権限で,これは単なる債権的な権限ではなく,担保権の内容として設定者がそこまで持っていると考えるのかなと思います。ここはそうではないという考え,債権についてはむしろ担保権者がお金を懐に入れる権限まで持っているのであって,ただ合意で設定者に回収金の利用を許しているだけであるという考えもあるのかも分かりませんが,私は元々先ほど申し上げたようにここでいう「権限」を理解していて,単に「担保権者に渡さなくてもよい」という意味で捉えればよいのではないかと考えておりました。 ○道垣内部会長 井上さんに1点確認をしておきたいのですが,片山さんはそういう考え方もあり得るかもしれないけれども,それは現在の判例法理とは必ずしも同じではないのではないかという分析だったと思います。これに対して,井上さんが今おっしゃったのは,現在の判例法理もそう理解すべきであるという御意見なのか,それとも現在の判例法理はともかく,譲渡というものを担保目的にするということをはっきりさせるのだったらば,例えば債務不履行なら債務不履行みたいなものが生じるまでは自由に使って,それこそ事業に使わなくて寄附に使ったっていいと考えるように直すべきであるという話なのか,いずれのお立場でしょうか。 ○井上委員 現在の判例法理,あるいは民法のルールを前提にすると,将来債権については累積的な譲渡ができることが前提になっているはずなので,ということは,設定者には回収金の利用権限がないという担保を設定することもできるのだと思います。その点では,ここでの提案内容は,それとは異なる規律だと評価できるのかも分かりません。ただ,ここでの「集合債権を目的とする担保」としては,構成内容が変動するような,集合動産とパラレルな合意をした場合の債権担保と捉えているのかなと思っていました。そうではなくて,構成内容が変動するのではなく,発生するものを全部累積的に担保目的で譲渡するという将来債権担保を設定した設定者の権限についての規律と捉えるのであれば,これはちょっと違った話になってくるのかなと思います。その辺はちょっと私が誤解していたのかもしれませんが,この3は,将来債権譲渡担保の全部にあてはまる規律を言っているのではなくて,構成内容の変動する集合債権を目的とする担保を設定したと解釈できるような担保設定行為がなされた場合には,このようなルールとなるのではないかということです。 ○道垣内部会長 よく分かりました。3と一塊に本当はできるのではなくて,累積型といいますか,全てを取ってしまってそこから弁済を受けますよというものと,債務不履行が生じるまではいろいろ債権はたまっていますがそれは流れていきますというものなのかということは,分けて考えないと今の議論も混乱してくると思われるところ,井上さんは分けて考えた上でのこれは流動型みたいなものを指していると理解されて,そういう御発言をされたということですよね。 ○井上委員 そうです。 ○道垣内部会長 分かりました。では,阿部さん,お願いします。 ○阿部幹事 阿部です。ありがとうございます。   ちょっと戻ってしまって,先ほどの片山先生のお話の続きのような話なんですけれども,私も,現行法の判例法理における取立権付与を伴うような債権譲渡担保と比較したときに,この資料で言われている内容とはやはり違いがあるのかなと思いました。それを特に感じましたのは,債権について通常の営業の範囲を超えた取立て,和解,免除などがされた場合に,これを無効としたり取り消したりすれば,第三債務者の悪意などを要件とする必要があると考えられる,とされているところです。現行の債権譲渡担保で設定者が取立権を与えられているというときには,先ほど片山先生がおっしゃったように,それは飽くまでも担保権者との間の対人的な権限にすぎなくて,第三債務者すなわち目的債権の債務者には対抗できない,目的債権の債務者が設定者に弁済したりするのは完全に自分でリスクを負ってするものであって,第三債務者としては,本来は担保権者に払わなければいけない,担保権者に払えば免責される,という前提があって,だから対抗要件もその設定の段階で通知,承諾することで備えられる,という構造だったと思うんです。そうだとすると,設定者による通常の営業の範囲を超えた取立て,和解,免除などが無効だというのはむしろ当然のことで,第三債務者が悪意でないと無効にできないという話にはならないのではないか,担保権が設定されているということを認識していれば,それだけで第三債務者は言わば悪意だということになってしまうのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 二類型というものとも関係しているのだろうと思いますが,大西さん,お願いいたします。 ○大西委員 私,4ですので,すみません。後ほどということで。 ○道垣内部会長 そうですか。では,後でお願いいたします。   3について何か御意見,ほかにございませんでしょうか。井上さんが御指摘くださったように,二つあったら二つ分けて考えなければいけないのではないかということであり,それが阪口さんや片山さんや阿部さんの御意見のある種根底を成しているのではないかと思います。それを区別しないで判例法理だという言い方をすると誤解を招く可能性もあるということなのでしょうが,それはそれでよろしいでしょうか。   それと,取り分け実務をやっていらっしゃる方にお伺いしたいんですが,両方のニーズはあるという前提でいいのか,そしてそれは,例えばその二つを区別するメルクマールというのが,全くもって当事者の意思解釈に委ねられると考えるべきなのか,それともこういった形で分けられる,あるいは分けなければそもそも無効だという話なのか,どちらをデフォルトにするかとかあるのだと思うのですが,その辺りについてはいかがなのでしょうか。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。   実務の立場から今道垣内部会長から御質問を頂いた点についてお答えをさせていただきますと,一般論としては,二類型として,先ほど部会長も御指摘くださいました累積型と言われる類型と,流動型とか,営業循環型とかと呼ばれる類型があるといわれておりますが,両者の区別のためのメルクマールがはっきりしているかというと,必ずしもそうでないかもしれないと思っています。   ちなみに,累積型の典型的なものとして,例えば賃料債権の譲渡担保の場合や,太陽光発電事業等の売電債権を譲渡担保の目的債権とする場合を挙げられます。この場合,月額の賃料額だったり売電債権額だったりが幾らかということを前提として,何年間その債権が発生するかということを掛け合わせた上でファイナンス金額を計算させていただくということを想定していますので,基本的に,累積的に発生する各債権がファイナンスの回収にそれぞれ充当されることが想定されている,逆に回収に充当されることが確保されるように,設定者における処分権限が制限されるということが想定されているのかなと思っています。   一方で,営業循環型,流動型については,売掛債権の譲渡担保が典型的だと理解しているのですが,売掛債権が発生し,トップラインとしての売上げが立った後,その回収金が,事業全般を回していく上での,例えばCAPEX,すなわち資本的支出であるとか,OPEX,すなわち運営費用の支出等に充当された後,最後に残ったボトムラインのキャッシュでもってファイナンスの返済に充当されることが想定できる限り,設定者が譲渡担保の対象債権からの回収金を事業資金として利用できる,そういった想定において譲渡担保を設定させていただいているというところがございます。そうした営業循環型の場合には,累積型対比,より設定者のところで回収金が利用されるということが実務的に想定されているのかなという理解でございます。   その両者を截然と区別できるかどうかということにつきましては,これも見解が分かれるかもしれないのですが,例えば診療報酬債権のようなものが譲渡担保の対象となった場合に,これを営業循環型と捉えるという考え方もあるかもしれませんし,発生する蓋然性が高いということを前提として累積型としてファイナンスを設計するということがあるかもしれませんので,ファイナンス取引の設計だったり対象債権の属性だったりというものに鑑みながら逐一分別を図っていくということに,今のところはならざるを得ないのかなと思っています。差し当たり以上になります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   更に本多さんに伺いたいのですが,そのような実務を前提としたときに,恐らく片山さんや阿部さんや阪口さんとかにはそういう前提があるのではないかと思うのですが,デフォルトを累積型みたいなものに置いて,黙示の特約とかそういうのも認められるのでしょうけれども,処分権限は設定者にはなく,取立権限も本来ない,特約によって認められた範囲内だけで取立権とか充当権とか利用権とかが認められるという制度設計にしても実務的にはそれほど困らないという感じがしますか。それともやはり,井上さんに伺ってもいいのだけれども,流動型みたいなものが原則としてあるはずであって,そっちをデフォルトにするというのは随分違和感があるなという感じがされますか。いかがですか。 ○本多委員 ありがとうございます。まず,先ほど平成19年最判の議論が出ましたが,確定的に譲渡されているという判示内容を素朴に受け止めますと,債権譲渡担保権者として確定的に将来発生分を含め対象債権の価値を累積的に掴取させていただけていると理解できそうです。そして,そういうことになりますと,設定者の取立権限,利用権限というのは,約定に基づき付与された権限付与,すなわち物権的な属性というよりも,設定者,担保権者間における約定の範囲内で設定者に取立権限,利用権限が付与されているものと思われまして,阪口先生がおっしゃったようなご説明もそうした理解なのかなと考えております。 ○道垣内部会長 阪口さんは若干首をひねっていらっしゃいますが,ちょっと佐久間さんが先に手を挙げられておりますので,佐久間さんにちょっと伺いましょう。 ○佐久間委員 ありがとうございます。私は実務のことを話そうとしていたわけではありませんし,今の道垣内先生と本多さんのやり取りで事実上出てきたようなものなのですが,二類型があるとしても,どちらがデフォルトであるかということは決める必要があるだろうと。そうでないと,本多さんがおっしゃったことですけれども,その二類型が截然と分けられるわけではないということになると安定性を欠くことになるので,デフォルトを決める必要があるのではないかと思ったというのが1点です。   2点目は,その際に,現行法上の判例を前提とすると,やはり累積型と今呼ばれているものをデフォルトとし,しかし当事者間の合意によって変えることは可能だということにすることが好ましかろうというのが2点目です。   3点目は,そのように考えることが第三債務者にとっても安定するのではないかというか,誰に払っていいかということがはっきり決まっていないと,どうすればいいか分からないことになってしまいます。債権の譲渡が,担保目的にせよ,ありましたよと通知等を受けた以上は,債務者は新たに債権を有することになったと思われる人に払っておけば基本的には安心だと。ただ,特段の事情があってそれも通知されていて,それに従わざるを得ないねというときは別だ,という形にする方がいいのではないかなと思いました。 ○道垣内部会長 時間的にいえば先に進めなければいけない立場にいるのですが,大事なところなので伺いたいのです。債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律が最初にできたときに,流動型なのだけれども債権を一括して大量に譲渡したという公示の形になってしまうので,あそこはもう全部の売掛代金債権ももう取られてしまっているということで,取立て騒ぎといいますか,そういうのが起こって,信用不安が起こったという事件が幾つかあると言われていますけれども,債権譲渡担保を設定するのだけれども,これは全部取られているわけではなくて,債務不履行になったときに初めて取られるものなのですよということを外部的に知らしめて,まだ私は大丈夫なのだよと言いたいという希望はないのですか。   阪口さんが手を挙げていらっしゃいますので,では,阪口さん,お願いします。 ○阪口幹事 阪口です。今道垣内先生がおっしゃったように,実務的な意味の二類型としては,債務者に対して通知しているパターンと通知していないパターンがあるわけですよね。普通の売掛金はほとんど債務者に通知せず,第三者対抗要件だけ備えてやっているというのが一つ。この債務者対抗要件を備えていないパターンというのは,第三債務者は,もちろん設定者が債権者だと思っているわけですので,デフォルトは,設定者のところで取立てその他を行うというのが普通だと思います。   他方,診療報酬債権とか,売電債権とか,あとゴルフ場の預託金債権なんかもそうかもしれませんけれども,債権者対抗要件を備えていることが多いパターンがあります。例えば診療報酬債権みたいに,第三債務者も譲渡されたことは分かっていますよというときには合意で取立権限を付与しているという説明がぴったりくる。平成13年最判や平成19年最判はどちらも債務者対抗要件を備えて大丈夫なパターンの事件ではなかったかなと思うので,もしデフォルトというものを考えるときには,普通の売り掛けみたいに債務者対抗要件を備えてしまったら債務者がびっくりして困るような類型と,そうでない類型というのが,実務的な意味の二類型があるのだろうなとは思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まだまだ御意見あろうかと思いますが,今後のために重要な分析がなされたと思いますので,時間の関係もございまして,申し訳ございませんが,4の方に中心を移させていただければと思います。   お待たせいたしました。松下さん,お願いいたします。 ○松下委員 松下です。   4の最後の部分です。17ページの(5)について,資料の趣旨の確認というか,質問なのですが,17ページの(5)では,担保価値維持義務や補充義務に関する規定を設ける場合にはという話で,担保権者と設定者がデフォルト・ルールと異なる合意をした場合に,設定者の倒産手続における管財人に対してこれは対抗できるかというようなことが議論されています。   17ページ末から18ページにかけて挙げられている例ですと,この補充義務に係る請求権というのは,倒産債権になるので管財人等は承継しないという記載のように読めるのですが,この記載と,それから破産管財人の善管注意義務に関する平成18年の最高裁の判決との関係での質問です。その判決は,設定者の担保価値維持義務を破産管財人は承継するという判示を一般論としているのですが,これとの関係がどうなのかということです。つまり,平成18年の判示がデフォルト・ルールに関するものだとすると,それは破産管財人が承継する一方で,それと異なる合意をすると承継されないという趣旨でこの資料が作られているのか,一体その違える意味はどういう説明をするのだろう。あるいは,これはデフォルト・ルールが何なのかということ次第なのかもしれないですが,いずれにせよ,デフォルト・ルールは承継し,そうではない合意は承継しないという趣旨なのか,それはどうしてなのかということについて,資料の趣旨を確認させていただきたいと思います。 ○道垣内部会長 それでは,事務局からお願いします。 ○笹井幹事 平成18年最高裁判決で,破産管財人も担保価値維持義務を負うということは認識していたのですけれども,ここで挙げた例は,本来的には500万円まで補充しておかないといけないと,ところが破産手続開始前に400万円になっているので,100万円分の補充義務が破産手続開始前の段階における具体的な債務として成立しているというケースです。具体的な補充義務として破産手続開始前の段階で既に発生していた場合には,破産手続開始前の原因に基づいて発生しているので,定義上破産債権になるのではないかと考えたものです。ただ,破産手続開始後に分量が減った場合に,破産手続開始前の合意に基づいて補充する義務を管財人が承継するのかどうかという問題はまた別途あると思うのですけれども,破産手続開始前にもう既に100万円の具体的な債務として成立していた場合には,それは倒産債務になるのではないかと考えたのです。 ○道垣内部会長 松下さん,いかがですか。お願いします。 ○松下委員 松下です。ありがとうございました。   そうすると,デフォルト・ルールの担保価値維持義務や補充義務に係る権利は,倒産債権ではないという前提に立っていらっしゃるという理解でよろしいでしょうか。それはつまり,倒産手続開始前に既に成立していた義務に係る請求権なのだけれども,倒産債権にはならないという前提でしょうか。 ○笹井幹事 ここの理解としては,具体的な担保価値維持義務の内容がデフォルト・ルールとして成立しているのか,何か別途特約があったのかにかかわらず,倒産手続開始前にもう具体的に幾ら分不足しているので補充してくださいという義務が成立している場合には,それは破産債権,倒産債権になるのではないかと思っていたのですけれども。 ○松下委員 分かりました。質問は,そういう理解と,破産管財人が担保価値維持義務を承継するという18年最高裁判決と整合するのかということなのですが,問題の所在は明らかになったと思うので,特段何か付け加えることがなければここではこの程度で結構かと思います。 ○道垣内部会長 大西さん,お願いします。お待たせいたしました。 ○大西委員 私は質問なのですが,担保価値維持義務自体は,価値権を把握している担保権者にとって必要な規定だと思いますし,規定を設けることには賛成なのですが,一方で,事業者の経営の裁量を過度に狭めるということは,やはり本来の金融環境に悪影響を与えるのでセーブすべきではないかと思っています。その中で,担保価値維持義務というのが,例えば集合物動産の設定時に500万円という掛け目を考慮した評価額が設定され,その金額を下回ったら義務違反に当たるというような金額的な概念なのか,それとも,通常の営業の範囲を超えた動産処分等をすべきではないという善管注意義務的な概念なのかという点が分からないため,私が不勉強ということもあるのですが,お聞かせいただきたいと思います。また,担保価値維持義務を前者の内容でとらえた場合,例えば500万の担保評価のときに,事業者のその後の営業拡大もありうるので,在庫評価額が1,000万円ぐらいになった場合,その超えた部分の範囲で在庫処分は自由に認められるのかにつき,担保価値維持義務との関係でどうなのかが分からないので,教えていただきたいです。 ○道垣内部会長 事務局から何かありますか。 ○笹井幹事 ここも御議論を頂ければと思っているのですけれども,事務局の理解といたしましては,基本的には担保価値維持義務というのは,デフォルトであれば今大西委員がおっしゃった後者の方で,善管注意義務といいますか,通常の経営判断といいますか,業務をやっていく中で合理的にどういう在庫量を保っていくのが必要なのかというのを,合理的に判断していくということなのだろうと思います。ただ,その際に,ここでちょっと問題にしているのは,デフォルトはそうなのだけれども,融資契約に当たって,在庫の価値,あるいは数量について個別に具体的な金額で定めた場合には,そういった合意についての何らかの効力を認めないといけないのではないかということです。ただ,では500万円と決めた場合に,もう500万円で全く変わらないのかというと,そこも議論の余地はあるのかと思いますので,金額を定めたからといって直ちにその金額的な概念でしかあり得ないということになるのかどうかというのは,一つ問題であろうかと思います。いずれにいたしましても,デフォルトは評価的な概念で,ただ別途の合意をすることもできるのではないかと考えているというところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   まだ御議論があろうと思います。何人もの方から手が挙がっています。片山さん,お願いします。 ○片山委員 慶応大学の片山です。   何回目かのときにもお話しさせていただいたのですけれども,私自身が分析しているところによりますと,いわゆる担保価値維持義務というのには三つの義務があるように思われます。一つは,有体動産に伴う保存義務で,これは御案内のとおり,占有担保については298条と350条に規定があるところで,非占有担保について今検討していますので,それを設定者について規定するかどうかというのが一つの問題かと思います。   それから二つ目が,先ほど松下委員からも紹介がございました18年判決のいわゆる敷金を担保にした担保価値維持義務で,これは従前,質権あるいは権利質における担保の拘束力として議論されてきた問題かと思います。   それと,最後が,在庫担保などの流動動産担保とか集合動産担保における担保価値維持義務で,これをどう捉えるかということですけれども,一つは,先ほど大西委員からも御指摘ありましたように,当初予定していた額の80%の担保価値を常に確保しなければいけないと捉えるのか,それとも通常の営業の範囲で処分権が与えられているのだから,その裏返しとして補充をしなければいけないという補充義務として捉えるのかという点があろうかと思います。   いずれにしましても,担保価値維持義務ということだけで一義的にその内容が定まるわけではないので,是非,権利質や債権など権利担保のところでは担保価値維持義務を規定してほしいですし,それは恐らく倒産後も管財人に承継される義務だと思います。   他方,流動動産譲渡担保にどのような担保価値維持義務を考えるかということですけれども,担保価値の何パーセントを必ず補充しなければというような形の規定は,確かに比較法的に見ますと,フランスの在庫担保ではかつてあったのですけれども,余りに厳格すぎるということでもう今は廃止されております。私たちがやはりここで重要だと思うのは,通常の営業の範囲で処分権が与えられていることの裏返しとしての補充義務は,やはり規定する必要があるのかなと思っておりまして,これは一種,通常の営業の範囲で処分権を与える条件みたいなものなので,通常の営業の範囲の処分権だけを規定するというのは片手落ちなのだと思うのです。ですから,必ず補充義務も併せて規定する必要があるのだと思います。ただ,これが倒産法上どこまでの効力を持つかは別途考えなければいけないということですが,少なくとも民法上は,シンメトリーとして補充義務を必ず規定してほしいと思っているところでございます。以上でございます。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 山本さん,井上さんからもお手が挙がっているのですが,今の片山さんのご発言についてちょっとお伺いしたいのですけれども,補充義務の違反の効果とは何なのですか。ただ単に期限の利益の喪失ではないのですか。というのは,例えば在庫商品を入れろと,在庫を作っていないのですと,そうすると強制できないですよね。売掛代金債権が譲渡されていると,最近売れなくて売掛代金債権が発生しない,もっと売れと,不可能なことであって,それはただ単に期限の利益喪失条項にすぎなくないですか。管財人が逆に負うときだけ意味があるので,債務者と設定者,設定者は債務者がいなければあれかもしれませんけれども,それはどうなのですか。 ○片山委員 両方だと思います。もちろん一方で,現実的には期限の利益喪失という効果が第一に考えられるということなのだと思います。ただし,これは担保関係を消滅させる方向での効果ですので,他方では,担保関係を維持する方向ものとして補充義務といったものは,仮にそれが実際に補充義務を果たせるかどうかは別として,少なくとも規範としての義務は置く必要があるのではないかなとは思っているところなのですけれども。 ○道垣内部会長 それは意味が分からないのですけれども。なぜ規範としての義務を置かなければいけないのですか。最終的に期限の利益の喪失にしかならないというときに。 ○片山委員 それはでも,補充義務の履行というものも当然考えられるからではないでしょうか。 ○道垣内部会長 それはグレースピリオドの問題ですよね。期限の利益がそこで喪失するのだけれども,何週間以内にきちんとそれを戻せばその期限の利益が復活するという話であって,義務論の話ではないのではないでしょうか。 ○片山委員 そうでしょうか。 ○道垣内部会長 分かりました。すみません,今私は自信があって言っているわけではなくて,ちょっと議論をして問題を明らかにしようとしているだけですので,私に強い見解があるわけでもありません。 ○片山委員 では,その点,よろしく御検討いただければと思います。 ○道垣内部会長 それでは,山本さん,お願いいたします。 ○山本委員 若干倒産法的な観点からコメントですけれども,今の御議論との関係では,部会長が言われたことと関係するのではないかと思いますけれども,17ページの(注30)のところで,今の担保価値維持義務とか補充義務違反の効果で,損害賠償も考えられるが意味が乏しいということで,これは一般論としてはそうなのかもしれませんが,部会長も言われたように,倒産手続の観点からすると意味はあるということになるのではないかと思います。管財人とか再生債務者が違反した場合に,もし損害賠償請求権が発生するのだとすれば,それは財団債権とか共益債権になると考えられるとすれば,それは実際上もかなり大きな意味が出てくるということはあるのかなということを思いました。   それから,2点目は,同じページの(4)のところ,10行目辺りですけれども,結局ここに書かれてあるように,担保価値維持義務違反とか補充義務というのについては,かなり評価的な要素といいますか,要件にせざるを得ないのかなと思って,先ほど来言及がある平成18年の最高裁判決も,私が理解する限りは正当な理由に基づかないような形で担保価値を害する行為を行ってはならないという,正当な理由ということが言われていて,結局何らかのそういう除外を設けなければならないということになるのだろうと思っています。そうだとすれば,結局,平時の規範と倒産時の規範は,正当な理由という一般的な情報に対する評価が場面によって違ってくるということになるのかなと思っておりまして,そういう意味で,倒産手続についてどこまで規律を設けるかということは,実体法でもう少し細かなことが規定されれば,倒産法の方でも何かそれについての特則みたいなことは考えられるかもしれないとは思いますけれども,いずれにしても,そこは実体法の規律次第かなと思っています。   それから,最後に(5)の点ですけれども,先ほど来出ているところで,これもデフォルト・ルールと異なる合意をした場合,その合意の効力,前回の処分権限のところでもそうで,確か倉部委員もそう言われていたと思いますけれども,一定の倒産法の強行規定といいますか,あるいは控除のような形で,その合意の効力が倒産手続の中では限定される場合というのはあるのだろうとは思っていますけれども,これもなかなかそれを具体的に規律化していくというのは,どこまで可能かということはあるかなとは思っています。具体的な例として挙がっているもので,先ほど来御議論があるところですけれども,松下さんが言われたように,平成18年は管財人は義務を承継すると言ったわけですけれども,私の理解では,この承継する義務というのは,担保価値を害するような行為を行ってはならないという義務を承継するということで,それに反して管財人自身が担保価値を害した場合には,その義務違反になるということだったと思います。ここに書かれてあるのは,500万まで補充しなければならないという義務を管財人が補充して,ただそれを引き受けたときにはもう400万に減っていたという話なわけで,これを更に500万まで引き上げなければならない義務を管財人が承継するかというと,平成18年からは直ちにはそうは言えないのかなと思っていて,事務局の資料にあるように,この部分は,もう100万円減った部分はもう過去の問題だと,それはもう倒産債権,破産債権にしかならないという理解も成立しないわけではないような気はしています。   取りあえず,私からのコメントはその程度です。 ○道垣内部会長 成立しないわけではないとおっしゃいましたが,成立するとなると,自在に財団債権を作れるというか,そういうことになってしまいますよね。井上さん,お願いいたします。 ○井上委員 ありがとうございます。井上です。   山本先生がおっしゃったことに,何か付け加えられることがあるかどうか分からないですが,もしかすると私が誤解しているところもあるのかもしれないのですけれども,例えば倒産直前の事業の状況からすると,通常の営業サイクルから見て在庫が大体300万から600万ぐらいで変動することが仮に想定されるときに,ただ,事前に例えば500万は在庫を確保しなさいという合意が当事者間にありましたという状況で倒産したときにどうなるのかを考えたときの話ですけれども,500万を確保するという合意自体の拘束力を,そのまま倒産手続においても認めることは難しいのではないかと考えているのですけれども,そこで合意が飛んでしまうので何の義務もなくなる,ゼロになるのかというと,そういうことでは恐らくないのだろうと思います。そうすると,倒産状況の中では事業の状況が大きく変わるかもしれませんけれども,仮に事業の状況が変わらず,倒産状況の下でも300万から600万が通常の事業を回したときの在庫レベルであるという状況が継続していると仮定すると,そういうものとして管財人,あるいは再生債務者は在庫をそのぶれの幅で確保する義務を負うのではないかと,もちろん,倒産状況の下で事業の困難性から仕入れが減ってしまうということであれば義務違反にはならないと思うのですけれども,例えば何ら正当な理由がないのに,あえて別の倉庫を借りてそこに運び入れてしまうとか,いずれにしても,担保の対象となる在庫の範囲を合理的な理由なく,あえて減らすようなことでもって300万から600万の範囲の在庫レベルを害するようなことは,それはやはり再生債務者あるいは管財人であっても許されないという意味で,その義務があるのではないかと,非常に規範的な義務なので,あえて規定をするのかということは確かにあるのかもしれないのですが,ただ,普通の担保目的物との比較でいうと,流動性のある動産について,前回も発言しましたが,持ち出しのところを「通常の営業の範囲」という非常に規範的な要件を用いて設定者の権限を定めるとすると,その権限について倒産のときに何が起こるかという見解にもよりますが,手続開始時には固定化しないという(流動性が維持されるという)立場に立つと,実行までの間は倒産手続が開始してもなお設定者は通常の営業の範囲で担保権が及んでいる個別動産を持ち出せるという状況が続くのですから,そういうかなり特殊な担保目的物に特有の担保価値維持義務については(全ての担保目的物について規定することはないとしても),やはり規定を置くことに一定の意味があるのではないかという感じがします。そしてそれは,担保権の内容になるとすれば,倒産手続においてもなお有効であって,それを害するような行為をすると財団債権が発生するのではないかと考えます。   ただ,ここから先はちょっと難しいですけれども,倒産手続が開始したときに,その間際にばたばたとものすごく在庫を減らして,その時点の通常の在庫の幅が300万から600万であるにもかかわらず,200万まで減らしていたというときに倒産手続が開始した場合,管財人は何をしなければいけないのかについては,手続開始時に200万だったのだからそれ以上に戻す義務・責任はもう何も負わないよということであるのかが悩ましいなと思っています。確かに手続開始前の担保価値維持義務違反に基づく損害賠償請求権が,ただの倒産債権になることはかなり明らかだと思うのですけれども,それを超えて何か担保権者が言えないのかを考えないと,実際上は不安の残る弱い担保になってしまうので,理屈が付かないのかなと悩んでいるところです。そこは一つの考え方として,倒産手続開始時に担保が及ぶ個別財産又はその価値が固定するという説に立たないとすれば,飽くまでも集合物としては流動性が維持されたまま残っているので,それを固定化せずにその後も事業を続けるのであれば,やはりそのときの事業の通常の状況からして,300万から600万で在庫を維持するのが通常であると言えるのであれば,再生債務者あるいは管財人は,300まで戻すことが求められるという考え方が取れないものだろうかと考えています。例えば,通常の営業の範囲を超えて集合動産の範囲から持ち出してしまった個別動産に追及できて取り戻せるということを考えるのだとすると,そういう救済とは別に,あるいはそういう救済の代わりに,集合物の実行前の通常の状態を維持しながら事業に使う以上は,300万までは戻さなければいけないという考え方が,損害賠償請求権が単に破産債権にしかならないということとは別に理屈が付かないのかなと悩んでいるところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大澤委員 大澤でございます。(5)の今お話しのところ,正にその点についてなのですけれども,倒産法に携わる弁護士からすると,担保価値維持義務は,先ほどの平成18年判例との関係でも非常に重要なところではございます。議論もなかなかいろいろな弁護士がいろいろな意見を持っているというようなところではあるのですが,まず平時との関係でいえば,平時に規範的であるかもしれないけれども,何らかの規定を設けるということであるとするならば,今までの先生方の議論の結果を見ても,倒産法の場面においては更に平時を何らか変更する形,あるいは管財人の,あるいは再生債務者の持つ義務というものを,また平時とは違う形で変容するような規定を置いた方がよいのではないかと考えております。書きぶりとしては難しいのはよく分かってはおるのですが,ただ,一方で,担保価値維持義務というのが担保権に付随する義務,あるいは担保権の内容だというような話になっていきますと,担保権の一部としての回収という範囲,非常に逆に広くなる可能性もございますし,一方で,すみません,どなたか,井上先生がおっしゃっていたのですか,再生債務者的な考え方からすれば,事業がシュリンクしたときに更に補充義務を負うのかと,従前どのような補充義務を負うのかというような話にもなってはきますので,そこは多分通常の営業の範囲内というものの通常の時点をずらすことで何とか対応できるのかなと思ってはおりますけれども,それ以外の補充義務に関して考えるのだとすると,やはり管財人等の対処という関係では,故意,過失,あるいは積極的な侵害がない限りにおいてはそういった維持義務には違反しないと,文言にはなっておりませんけれども,何らかそういった平時と倒産法制における管財人,あるいは再生債務者の義務というものが多少変容しますよというような形での法制度があった方が,倒産法制においても使い勝手がよくなるのではないかなとも思っております。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   大分御意見が出まして,問題点も大分明らかになってきたと思いますけれども,最初の検討としては,もしよろしければこの辺りにさせていただいて,次のテーマに移りたいと思いますが,何か御発言はございますでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,続きまして,部会資料3の第1の「5 設定者の債権者による差押え」「6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等」というところについて,議論を行いたいと思います。   まず,事務当局において,部会資料の説明をお願いいたします。 ○淺野関係官 まず,18ページの「5 設定者の債権者による差押え」について御説明いたします。   現行法上,集合動産譲渡担保において,設定者の債権者が個別動産を差し押さえることができるかについては,見解が分かれております。  この差押えの可否については,実質的にどのような解決が妥当かという観点から検討する必要があると考えられます。  集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保において,設定者が通常の営業の範囲で処分等をすることができた個別動産や個別債権について差押えがされたときに,担保権者による第三者異議の訴えが認められるとしますと,設定者による処分等により,担保の目的財産から流出することを阻止できないということと均衡を失すると考えられますし,少額の債権を担保する目的で多数の目的物に担保を設定することで,差押禁止財産を創出することを認めることになり,不都合があります。そこで,本文では,差し押さえられた個別動産や個別債権に係る処分等の権限を有する限り,第三者異議の訴えにより強制執行の不許を求めることはできないとすることを提案しております。   なお,ここでいう処分権限は,差し押さえられた個別動産や債権について判断することを意図しておりますが,他方で,差し押さえられた動産や債権の処分が「通常の営業の範囲」などの権限範囲を超えるかどうかは不明確な点もあるため,いわゆる「固定化」が生じているかどうかによって形式的に区別することも考えられるところかと思います。   また,配当要求につきましても,同様に差し押さえられた個別動産や個別債権を処分とする権限を設定者が有するときは行うことができないとすることを御提案しております。   次に,20ページの「6 集合動産を目的とする担保権における物上代位等」についてです。   現行法上,譲渡担保権が目的物の価値代替物に及ぶかについては争いがありますが,判例は,その効力が目的動産が滅失した場合における損害保険金請求権に及ぶとした上で,直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り,設定者が通常の営業を継続している場合には,損害保険金請求権が発生したとしても物上代位権を行使することは許されないとしております。   立法に当たっても,この判例と同様に,集合動産を目的とする担保権が,設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするという点に着目するのであれば,設定者の営業が継続している限りは,売買代金請求権等についても物上代位権の行使を認めないのが相当であると考えられ,本文はこの考え方に基づいた提案です。  もっとも,ただし書の前半部分について,物上代位権という,第三者に優先することができる権利の有無が,当事者の合意によって左右されるのは適切でないという考え方もあり得るところですので,すみ付き括弧を付しております。   また,通常の営業の範囲を超えて処分が行われたときについても検討が必要です。先ほど申し上げたとおり,集合動産譲渡担保については,設定者が目的動産を販売して営業を継続することが前提とされているわけですが,通常の営業の範囲を超えて処分が行われた場合については状況が異なると考えられますし,そのような処分が行われると第三者により即時取得がされる可能性もあります。そこで,ただし書において,権限範囲を超える処分がされた場合を例外とすることを御提案しております。   最後に,第三者が個別動産を滅失,損傷させた場合の担保権者独自の損害賠償請求権につきましては,通常の営業の範囲内で個別動産が譲渡された場合に,設定者がその代金を事業資金に充てることができることとの均衡等から,独自の損害賠償請求権を否定する見解が主張されているところであり,本文でも特段の規定を置かないということを御提案しております。私からの御説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので御意見を伺えればと思います。 ○大塚関係官 上智大学の大塚です。5について反対の立場からのコメントなんですけれども,第1に,差押えに対して第三者異議の訴えができない理由としまして,通常の営業の範囲による逸出が阻止できないことから,それとの均衡をとる必要があるということが言われておりますけれども,果たして債権者による差押えによって逸出することが,これが通常の営業の範囲と言えるのかということについては疑問の余地があろうかと思います。例えば,毎月在庫のうち50を特定の買主に対して引き渡しているという場合に,その月の引渡しがある前に設定者の債権者が50について差押えをすると,そうすると,その50については毎月出ているという分にはなるかと思いますが,ではその後にいつも引き渡している買主に対して引き渡すことができるのかというと,できるとしてしまいますと,全部で100出ていくことになってしまって,通常の営業の範囲を超えてしまう可能性がありますし,できないとしてしまうと,いつも引き渡している継続的な取引関係にある買主に対して引き渡せなくなってしまって,これも不都合なのではないかと考えられます。   また,通常きちんと売れているという状況であれば,その売却代金債権を差し押さえれば設定者の債権者としては満足し得る地位にいますので,わざわざこの在庫,担保目的物に差押えをすることを許可しなければいけないということまでは言えないのではないかなと思います。   それから,第2に,19ページの2段落目において,期限の利益喪失条項を置いておけば担保権者にとって不利益はないということが挙げられておりますけれども,しかし,例えば在庫が出てまだ補充されていない段階で差押えがされたと,そのときに期限の利益喪失となってしまいますと,結局それはまた従前に担保価値から債権の回収ができない可能性が出てきてしまって,一定の不利益が課せられてしまうのではないかと思います。それゆえ,差押えを全ての場合に排除してもいいのかということには若干疑問があるなということになります。 ○道垣内部会長 最後のまとめなのだけれども,差押えを排除してはいけないということなのですか。 ○大塚関係官 いえ,差押えに対する第三者異議の訴えを全て排除してはいけないと。 ○道垣内部会長 そうですね。分かりました。では,いろいろ御意見を伺ってからまたまとめたいと思いますが,青木則幸さん,お願いいたします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。集合動産譲渡担保の場合について,前回,処分権限の有無にかかわらず,処分権限外の場合であっても買主を類型的に保護するというようなルールを入れる余地もあるのではないかという御議論になっていたかと思います。もしこのようなルールを入れるとしますと,差押債権者との関係でも,事業の通常の過程の買主と同じように類型的に差押えを排除できないということにしてしまうのかどうかというのが気になっております。ただ,そのようなルールにするのはかなり広くなって,集合動産譲渡担保の方が相当弱くなってしまうように思います。基本的には,目的物の買主とは違って,差押債権者はやはり債権者ですから,債務者の引当財産の分配の問題だということになりそうですし,目的物の買主とは違って弁済の問題だということがあろうかと思います。大分違いがあるので,同じように扱うというのは難しいかなと思っております。5のご提案は,だからこそ処分授権の効力ということでいくのだということなのかもしれませんが,そうすると今度は,公示がない処分授権の有無だけで差押えの可否が決まってくるという点が不安定ではないかと思います。  そのように考えますと,やはり基本的には対抗要件を具備した集合動産譲渡担保は,差押債権者に勝てるというのが基本的原則にするべきではないかと思っております。ただ,集合動産譲渡担保の対抗要件について公示がないものも認めるという方向で議論をしたときにアンバランスが生じてくるので,振出しに戻るような形でこういうバランスのとり方もなくはないのかなとは思いますが,やはりまず考えるべきは,約定担保は公示が必要だということを前提としつつ,対抗要件を具備した集合動産譲渡担保は,一般債権者が差押債権者に勝てるというルールが必要なのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 青木さん,今の御発言の前提として,青木さんは個別動産譲渡担保,譲渡担保という名前を使うかどうか分かりませんが,個別動産担保のときに第三者がそれを差し押さえたというときには,これも第三者異議で排除できるということを前提にされていらっしゃいますか。それとも,そのときには,例えば優先弁済を受け得るにとどまるということもあり得るべしというのが前提になっていらっしゃいますか。 ○青木(則)幹事 さしあたり,前提としておりましたのは,排除できるという…… ○道垣内部会長 排除できるということが前提になっている。分かりました。   それでは,続けて,遠藤さん,お願いいたします。 ○遠藤幹事 すみません,今日から参加させていただくので,ちょっとおずおずと発言しますが,私も今の大塚先生や青木先生と同じように,基本的にはこの資料のまとめの方向には反対でございまして,この場でも先ほどから通常の営業の範囲というのをどう解するかという議論が縷々あったと思うのですけれども,通常の営業の範囲をどう解するにせよ,債権者から差押えがされるということと通常の営業の範囲というのは,截然と切り分けられるのではないかと私は思っております。差押えは,そもそも担保権設定者が何か営業的な判断をしているわけでもなくされるものなので,そこは別に扱っても均衡を失するとは言えないのではないかと思います。   逆に,一般債権者の差押えに対して集合動産・債権の担保権者が勝てないとなると,そもそも何のために集合動産・債権を担保に取っているのかという,そういう話になってしまうと思うので,やはり第三者異議の訴えは原則として認めていくべきではないかと私は思っています。   それで,この資料の中にも,債権者が差押えをしたときには,期限の利益を喪失させて担保権者が担保を実行してしまえばいいではないかということもあるわけですが,これはそもそも集合動産・債権の設定をする担保権の設定者が何を考えてこれを設定するかというと,やはり生きている事業をなるべく生きている状態で,価値を維持したまま担保を取ろうということがそもそもの趣旨ですので,やはり一般債権者が差押えで出てきたときに,担保権者としてその事業者の生きている事業を止める以外に自らの利益を確保する手段がないというのは,やはり仕組みとしては種々不都合が出てきてしまうのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大西委員 私も大塚さんや,中小企業庁の遠藤さんと同じ意見です。ただ,理由付けが少し違います。まず最初に,これは皆様がおっしゃられているように,差押えと通常の動産の処分とはその性質が異なります。先ほどの担保価値維持義務との関係もあるのですが,担保権設定者は,担保物である集合動産の担保価値を維持しなければならない点で,集合動産の一部を処分しても,それは取引過程の中で売掛債権になって,その後金銭になった後に在庫になるという循環に乗っていま¥すので,価値が下がるような処分行為ではないと思います。一方,一般債権者の差押えで動産が処分されてそれが換価されるとなると,そこはやはり担保価値が毀損するので,これは全く異なる性質のものと思います。   それから,お二方が触れられたように,期限の利益喪失によって担保実行という話ですが,私が過去にそうであったように,私的整理を担当する弁護士の立場からすると,一般債権者からの差押えがあったからすぐに倒産手続へ移行するプロセスには普通はなりません。差押えがあってもまずは譲渡担保権者である金融機関と交渉して,債務者会社が生き長らえるのであればそれを支援しましょうという,ところまで説得をして私的整理を進めるケースも多いため,担保実行がすぐにされてしまう状態というのは実務的にも非常に困るのかなと思います。   それから,先ほどの差押禁止財産になるのではないかという懸念に対しては,これも第三者異議を認める場合を,例えば担保余剰がない場合に限定して,譲渡担保権者が少しの被担保債権しかないのに動産を差押禁止財産にすることができないようにすれば,手当てができるのではないかなと思いますので,いずれにせよ,5の方針には反対という意見でございます。 ○道垣内部会長 多分,担保余剰がないときに限るというのは,どちらかといえば,個別動産なんかの場合に差押えに対して無剰余であるならば,その差押えはいずれにせよそのまま存続していかないという処理になる,だから個別動産の場合にも,当然に第三者異議で全部排除することができるわけではないというのが前提になっていらっしゃることになりますか,最後の御発言は。 ○大西委員 そうですね。確かに悪意を持って差押禁止財産を創出するという行為は,これは何らかの体制でプロテクトしなければいけないので,そういう考え方というのもあるのかなとは思います。 ○尾ア幹事 先程ご発言された遠藤幹事,大西委員と全く同様の考えですので,内容は繰り返しませんが,その点だけ申し上げておきたいと思います。 ○道垣内部会長 御意見はよく分かりました。1点だけ,先ほど私が大西さんに確認をしたところですが,第三者異議によって差押えを全部排除できるというお考えなのか,あたかも個別のときの無剰余措置みたいな形で,譲渡担保権者なら譲渡担保権者が持っているものの余剰があれば,それについては差押えは認められるという処理をするというお考え,どちらのお考えでしょうか。 ○尾ア幹事 基本的には後者で考えるべきではないかと思います。 ○道垣内部会長 余剰は差押えができるということですか。 ○尾ア幹事 はい。 ○道垣内部会長 分かりました。では,藤澤さん,お願いいたします。 ○藤澤幹事 これまでのお話に出てきたように,以前の会議の中で,個別動産の差押えの場面ついて,担保権者は,配当要求することができるのに加えて,無剰余である場合については第三者異議をすることができるという案がありましたが,個別動産については,そのようなルールであるという前提でお話をさせていただきます。私としては,個別動産の譲渡担保なのか,それとも集合動産の譲渡担保なのかによって異なるルールが適用されるということについて,ちょっと疑問を感じております。個別動産の譲渡担保として設定されているものでも,実際には多数の動産を目的とする譲渡担保もあります。差押債権者としては,それが個別動産の譲渡担保なのか,それとも集合動産の譲渡担保なのかということを判別した上で差押えをするというのは,とても難しいことではないかと思います。仮に集合動産だということが判別できたとしても,今度は担保権設定者に処分権限があるかどうかによって差押えの有効性が変わってくるということは,やはり非常に難しいルールなのではないかと思います。ですから,個別動産譲渡担保なのか,集合動産譲渡担保なのかにかかわらず,同じルールとして,担保権者は配当要求をすることができるのに加えて,無剰余のときに第三者異議をすることができるというルールでよろしいのではないでしょうか。   このようなルールであるとしても,多数の動産を担保目的にとっている担保権者は,差押えを許容する場面もあると考えられます。もしごく一部について差押えをされた場合で,担保権者がそれについて許容し得ると考えるのであれば,放っておけばよいというか,それをそのままにしておけば,第三者も差し押さえにより自らの債権の満足を受けることができます。他方で,担保権者にとっては,差押えを許容するかどうか判断できるチャンスがあった方がいいと思うので,例えば登記を備えた担保権者には差押えについての通知がされるとか,そういったルールも必要なのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ただ,複数の動産が例えば担保目的物になっているときの無剰余の判断なのですけれども,一つの動産が差し押さえられたときに,全額について主張できますよね,担保権者は。割り付けられるわけではないですよね。集合動産だってそうですよね。一部が差し押さえられたときに,全額について主張できますよね。そうすると,今おっしゃっているような剰余があるという事態というのが,本当に生じるのかというのが私にはよく分からないですが,それはどうですか。 ○藤澤幹事 おっしゃるとおりのことがあると思うのですけれども,基本的には排除することができて,ただ,担保権者が差押えを容認することもあり得るという考え方です。 ○道垣内部会長 その程度かなという感じですか。分かりました。では,阪口さん,お願いいたします。 ○阪口幹事 集合動産に個別動産と同様のルールを適用したときには,道垣内先生の御意見ともしかして近いのかも分かりませんけれども,剰余の判断ができるのですか。もしかしたら被担保債権が根担保になっていたときの確定請求権の問題を決めてからでないと議論できないのかもしれません。他方,物も,集合物なので数量が増減するのですが,今押さえられているものだけを見たら,その価値は判断できて大小関係は分かるのかもしれないけれども,そこは押さえられたものだけで考えるのですか。何か,物の価値も債権の額も動くということが起きないのかなという疑問があって,大小関係が個別動産のときと同じルールでうまくいくのかが少し疑問です。もしかしたら,この前言った確定請求権みたいなもので対処するとか,場合によれば集合動産の対象範囲の固定みたいなものが,何らかのトリガーで発生するとかの仕組みを作ればできるのかもしれないけれども,債権と物の両方が動いてしまってうまくいかない事態が起き得るのではないかなというのが,ちょっとした疑問なのです。 ○道垣内部会長 それは実は個別動産の場合も起きるのではないかというのが,藤澤さんの指摘されたところだと思うのです。10個ぐらいのものを個別動産の一つの被担保債権で取ったときに,一つが差し押さえられたときに全額について主張できるはずであって,担保権者は,そうなると,必ず無剰余になってしまうのではないかということなのだろうと思います。割り付けがないですから,共同担保であったって,一つの目的物について全額を主張できますから,そうすると,必ず無剰余になってしまうのではないかというのが藤澤さんおっしゃったところで,そうすると,藤澤さんは,原則としてもう第三者異議は認めて,あと例外的な処理という形にするしかないのではないかというところに結び付いていっていらっしゃるのかなという気がいたします。仮に無剰余的な処理をするということになりましても,もうちょっと現状の民事執行法の規定で対処するというのではなくて,もう少し考える必要があるのかもしれません。   ほかに何か御意見はございますでしょうか。   大体皆さんの方向としては,少なくとも差押えは自由だというのは,それはまずいのではないかというのでは,多くの方が一致していらっしゃるというような気がいたします。それを踏まえて更に検討していきたいと思います。   今これで物上代位については,もう御意見というか,説明はやりましたよね,先ほど。6のところについては,何か別に御意見いただいておりませんが,これはこれでよろしいでしょうか。継続中はできないと,そういう方向ですかね,判例も踏まえて。   では,また後ほど御意見ありましたら,今後も幾らでもチャンスがあると思いますので,御意見を頂ければと思います。   急ぐようで大変恐縮でございますけれども,続きまして,本日の本来の資料でありますところの部会資料4というのに入りたいと思います。   第1の「1 特定動産を目的とする担保権の対抗要件」と「2 集合動産を目的とする担保権の対抗要件」というところについて,議論を行いたいと思います。   事務当局に,部会資料の説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 初めに,この部会資料4は,大きく二つに分かれており,第1では,対抗要件を必要とする場面やその内容をどうするかということについて,第2では,同じ動産について複数の担保権が設定されたときに,どちらが優先するのかという担保権相互の優劣関係について,それぞれ扱っております。後半の優劣関係は,今回で全て終わりということではなく,続きを次回の資料で扱う予定です。   まず,第1の1,2について御説明いたします。1は特定動産,2は集合動産を目的とする担保権の対抗要件について御議論いただきたいというものです。  1では,【案4.1.1.1】から【案4.1.1.3】までの三つの案をお示ししております。現在の動産譲渡担保の対抗要件は,民法178条の引渡しとされており,法人が動産を譲渡する際に動産譲渡登記がされたときも引渡しがあったものとみなされます。【案4.1.1.1】と【案4.1.1.2】は,いずれもこのような現行法の実質を維持するもので,担保目的取引規律型か担保物権創設型かで書き分けております。   【案4.1.1.1】は,【案2.1.3.1】の担保目的取引規律型を前提とするものです。担保目的での動産の所有権の譲渡も民法178条の「動産に関する物権の譲渡」に当たるため,引渡しとみなされる動産譲渡登記が対抗要件となります。【案4.1.1.1】は,このようなルールに特に修正を加えないというものです。   【案4.1.1.2】は,【案2.1.3.2】の担保物権創設型を前提としつつ,対抗要件については現行法の内容を維持しようとするものです。新たに担保物権を作る場合,その担保物権の設定は「動産に関する物権の譲渡」という文言には当たらないため,民法178条は適用されず,譲渡特例法も適用されないことから,新たに何を対抗要件とするかを検討する必要がございます。現在の動産譲渡担保では,簡易な対抗要件として占有改定を含む引渡しが用いられており,このような実務を維持することが望ましいとすれば,【案4.1.1.2】のように,新たな担保物権の設定についても占有改定を含む引渡しを対抗要件とすることが考えられます。また,公示性に優れた登記制度が必要だとして譲渡登記制度が設けられたことからすると,新たな担保物権についても登記制度を設け,これを引渡しと並ぶ対抗要件とすることが考えられます。   【案4.1.1.3】は,【案2.1.3.2】の担保物権創設型を前提とした上で,占有改定による引渡しは公示性に乏しく,先行する第三者の譲渡担保権の存否が分からないという指摘があることを受けて,対抗要件を登記に一元化するというものです。ただ,先ほどの【案4.1.1.2】との間には,例えば現実の引渡しについては対抗要件とするなど,幾つかのバリエーションがあり得ると思いますので,この辺りも含めて御議論いただけたらと思います。   次に,4ページの「2 集合動産を目的とする担保権の対抗要件」について御説明いたします。   在庫のように内容が変動していく集合動産については,現に倉庫内にある在庫ならば引渡しをすることができますが,将来倉庫内に入ってくるものの引渡しをすることはできないため,このことを踏まえて,集合動産を目的とする担保権の対抗要件をどう考えるかについて御議論いただきたいというものです。この論点は,将来の動産が目的物に含まれる場合には,それを引き渡すことはできないということから生じるものですので,動産を目的とする担保権の対抗要件を登記に一元化し,引渡しを対抗要件としないという立場を採る場合には問題になりません。  判例は,集合物という概念を介して現存する動産について引渡しを受ければ,その後内容が変動したとしても,新しく入ってきたものも含めた集合物について,最初に引渡しを受けた時点で対抗要件が具備されたものとしております。  このような判例法理に基づく実務が広く定着していると考えられるため,本文でも判例を踏襲し,集合動産を目的とする担保権については,集合動産の構成部分として現に存する動産の引渡しを受けることにより,対抗要件を具備することができるということを明文化することを提案しております。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,御意見を頂きたいと思うのですが,ちょっと一言だけ私から補足をいたしますと,第1の1の【案4.1.1.2】と【案4.1.1.3】が,両方とも登記制度を設けるという感じで区別が分かりにくいかもしれませんが,【案4.1.1.2】は,担保権の創設なのだけれども,引渡しを対抗要件にするに当たって,現在引渡しについての登記制度,それに代わる登記制度として動産譲渡登記ファイルという制度が認められているので,それと類似した制度を担保権の登記についても設けようと,これはどちらかといえば,引渡しとイコールにするために設けるという登録制度なのですね。それに対して,【案4.1.1.3】の方は,担保権独自の登記制度を設けるという意味で,そこで若干意味が違うということだろうと思います。   それでは,尾アさんからずっと手が挙がっていますが,お願いします。 ○尾ア幹事 最初に,議論の進め方について申し上げさせていただきたいと思います。配布資料のように対抗要件について最初に議論をして,その次に担保権間の優先関係を議論するという構成は,解釈論,あるいは法律論としては自然なのだと思います。もっとも,これからどういう立法を行うのかという観点から議論をするのであれば,ユーザーにとっての最大の関心事は,担保権間の優先関係をどう決めるのかということだと思われますので,まず,この点についてどういう結論を目指すのか議論をすべきだと思います。その上で,その優先関係を実現するための制度を検討する際に,現状の制度との整合性を踏まえながら対抗要件制度についても議論するという方が望ましいのではないかと思います。といいますのも,対抗要件制度だけを議論しても,一番影響を及ぼすような本当に議論すべき内容についてどう考えるかということが必ずしも見えてこないと思います。できればアジェンダの中では後半に位置付けられている担保権間の優先関係も含めて,全体として一斉に議論をしてしまった方が,そもそもどういうような結果を実現したいのかということが議論できるのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○道垣内部会長 お気持ちは十分に分かるのですが,どのような形の公示なり対抗要件がなされるかによって,その担保権,あるいは担保手段にどれだけの優先権を与えるべきかというのが決まってくるといいますか,こういうふうに明らかにされているものについてはこういうふうな効力を認めていいのではないかというところもあると思うのです。したがって,必ず優劣関係が論理的といいますか,先に決まるというわけではないのだろうと思います。しかし,尾アさんがおっしゃったところにも誠にもっともな点がございますので,この対抗要件について,まずは申し訳ございませんが議論をさせていただきますけれども,その後,優先劣後の関係を語る際に,いやこういうのが妥当であると,しかしそうなってきたときに,ならばきちんとしたこういう対抗要件制度を設けるべきであるという形で,2番目にそちらに行ったときに,更に適宜前の方に遡っていただくということで議論を進めさせていただければと思うのですが,それでもよろしゅうございますでしょうか。 ○尾ア幹事 分かりました。それでは,最初に両方に共通する点だけ申し上げて,その後,担保権間の優先関係の議論の際に,もう少し実質的な中身やそれに関係する論点について発言したいと思います。   対抗要件と優劣関係,両方に関係する点として,第1回目で複数の委員の皆様方から発言があったと思いますが,ユーザーにとって簡易,迅速,安価で使いやすい制度であるということが重要であると考えています。特に,事業を成長させる資金をなるべく低コストで調達するためには,優先関係の公示や調査を簡易,迅速,安価に行えることが必要と考えられるからです。この点,現状の制度では,目的財産の種類によって登記が分散しているために,例えば在庫から売掛金という事業サイクルを一つの登記で捉えられないとか,占有改定によって隠れた担保が優先される状況にあるために予測可能性が著しく低いであるとか,手続のオンライン化が進んでいないといった課題が指摘されており,簡易,迅速,安価といった観点から,改善の余地が非常に大きいのではないかと考えております。   こういった観点から,仮に対抗要件という観点から登記を議論する場合でも,あるいはその担保権間の優先関係という観点から,場合によっては担保ファイリングを議論する場合でも,統一的なインフラを整備して,簡易,迅速,安価な公示制度を確立するということが何よりも重要であると考えております。   現段階では,私からの発言は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   第1の1に特化して無理やりにそこからの議論をするべきではないというのが尾アさんの立場ですので,伺うのは申し訳ないのですが,どちらかといえば,【案4.1.1.3】という形の新たなそのための簡易,迅速,安価な登記制度を設けるという方向なのでしょうか。 ○尾ア幹事 この話をしていくと,担保権の優先関係の話をしないといけないことになりますが,法制度としては複数のものがあったとしても,優先関係を一元的にオンラインで公示できるようなユーザーインターフェースを備えたプラットフォームを構築するということが重要であると考えております。例えば,登記制度があって,別途担保ファイリング制度があったとしても,それらのユーザーインターフェースが統一されていてシームレスに手続を行うことができるということによって,簡易,迅速,安価な形で公示のある優先関係を明確にすることができるのであれば問題ないと考えております。したがって,制度自体は,登記と担保ファイリングを設けるとか,基本的には登記で全部やってしまうとか,いろいろ御提案がされているところでありますけれども,必ずどれかに決めなければいけないというものではないかと思います。ただし,そのどれを採るにしても,ユーザーインターフェースとしては,一元的にオンラインで公示できるプラットフォームを設けて,そこで簡易,迅速,安価に公示され,担保間の優先関係を公示の前後によって決することができる制度にすべきではないかと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。山崎さん,では,お願いいたします。 ○山崎委員 山崎です。よろしくお願いします。   今回の内容を商工会議所で広く意見を伺った上で,中小企業の観点からの発言をさせていただきます。   こういった隠れた占有改定などの短所をカバーする登記見直しや新たなファイリング制度の導入に関しては,非常に理解できるところでございます。一方で,企業間取引の実務で占有改定が広く活用され,公示しないことを取引の条件としているケースもあるようです。中小企業などからは,在庫を担保提供することへの風評を懸念する声も聞かれました。また,新たなファイリング制度の導入で手間と費用が掛かるために,債権管理コストが増加するのではないかとの意見もございました。新たな制度は,中小企業が幅広い貸手から低コストで多様な形の資金調達を目指す上で,企業取引の実態を踏まえた風評や管理コスト増加などの懸念を払拭する仕組みを是非御検討願いたいと存じます。 ○道垣内部会長 私からなのですが,一応2時間をめどに休憩を取るつもりでおりましたが,もちろん切りのいいところまでは行きます。ただ,1と2というのは比較的区別できるのではないかと思いますので,休憩前は,基本的には1に集中をしていただくということにさせていただければと思います。   それでは,続けてお願いいたします。青木則幸さん,お願いいたします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。   部会資料の後の方で予定されております「担保権相互の優劣関係」の話にかかわっているかと思いますが,基本的なスタンスとしては,公示のない隠れた担保の問題というのはこれまでも長く認識されてきたところであろうかと思いますので,せっかく立法するのであれば,登記優先ルールかあるいは一元化かのいずれかをとるべきであり,原則として公示がある担保権が優先できるようなルールが必要であると思っております。   第1の1は,そのようなルールの土台となる対抗要件制度を考えるということかと存じますので,【案4.1.1.1】から【案4.1.1.3】の三つの案のどれがいいかという点に関連する発言をさせていただきます。ただ,2はやや中間的な感じも致しますので,さしあたり,対照的でわかりやすい1と3を念頭に発言させていただければと思っています。  【案4.1.1.1】の方は,要するに対抗要件の原則は変えない,ただ,対抗要件とは別に優先関係の例外のためのファイリング制度を作るという制度設計かと思います。これは非常に必要性の検証をしやすい,いい考え方なのではないかなと思っております。というのは,例えば同じ動産の対抗関係でも,動産の二重売買の場合であれば,178条だけではなくて192条が補助的に働くことによって競合をうまく処理できている,特に占有改定が伴うような場合の公示の欠缺の問題をうまくカバーできているという認識あるかと思うのです。しかし,非占有担保の重複設定の場合には,正にこの調整が機能しない類型的な問題点が指摘されてきているところでありますので,そういう類型的な問題があるところに絞って,それを調整するための例外規定を作る,言い換えると,新たなファイリングを例外の規定として位置付けるということになるのかと思います。   例外規定であれば,対抗要件そのものではないわけなので,合理的な解決につながるのであれば,例えば警告・通知登録制度としてのファイリング制度みたいな新しい制度を導入するというようなこともありなのではないかと思っております。また,どの類型についてそういった例外を設けるべきかということも,うまく調整できるのではないかという意味で非常に魅力的なのだと思っております。  ただ,とはいえ,出来上がりを見たときにどうなるかということを考えると,結果的には【案4.1.1.3】のような登記一元化の方が優れているということになるのかもしれないとは思います。つまり,例外規定としての登記優先ルールとしてファイリング制度をつくっていく場合,結局,現行の特例法の登記と,例外規定としての優先関係を調整する要件としてのファイリング登記が併存してしまうという可能性も出てこようかと思います。そうすると,多くの場合は占有改定によって対抗要件を具備した上で,担保権同士の順位調整に備えて新たな新法の特別なファイリングを使うという方向に行くのだろうとは思いますが,でも制度的には両方残るというようなことで,ちょっとごちゃごちゃした感じになるのかなと思っております。それであれば,結果から考えて,登記一元化を初めから狙っていくというのも,非常にすっきりした話にはなるのかと思います。しかし,その場合にやはり検討しなければいけないのは,一元的に対抗要件としてファイリング制度を入れるという話になったときには,既存の対抗要件の考え方を変更する局面が多いということかと思います。例えば,差押債権者や倒産管財人との関係も,これを例外視するのは難しいということになるかと思いますので,一元化をするときにはそこまで踏まえて検討しなければならないのではないかと思っております。  結局,動産の対抗要件制度の全面的な再検討は,これまでのいろいろな御議論をうかがっておりますと,かなり難しそうに思いますので,当面の妥当な方向性の議論は,【案4.1.1.1】のような方向で,例外規定をしっかり作っていくということになるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 では,伊見さん,お願いいたします。 ○伊見委員 伊見でございます。まず,この資料の書きぶりについて,1点言葉の確認をさせていただきたい点と,あと,やはり議論の進め方を含むところで1点確認をさせていただきたい点があり,その上で意見を若干申し上げたいと思います。   一つは,第1の1のところの書き出しにあります特定動産なのですけれども,これはその後に出てきます集合動産の反対概念といいますか,その意味で書かれているいわゆる個別動産と同義ということで読んでよろしいのでしょうかというところの質問が1点です。   それからもう1点,進め方についての質問なのですけれども,これまでの議論の中でも,物上代位の論点など,公示や対抗要件の在り方というのが見えてこないとなかなか議論が進めにくいというのが幾つかあったかと思います。登記,引渡し,あるいは担保ファイリングをどのように選択するのかのみならず,これらの登記や登録によって公示すべき事項がどのようなものであるかということが,今後の議論の中でどの段階で扱っていただけるのかなというところを,教えていただけると有り難いと思っています。   この登記と他の対抗要件との在り方については,登記について,例えばどのような効力を認めていくのかというような,登記をすることによるメリットがどこにあるのかということによって,それが選択されるかどうかというところも変わってくると思います。先ほど占有改定と他の対抗要件との比較において,コストの点についての指摘があったかと思いますけれども,確かに手続そのものの簡略化,低廉化によってコストを下げていくということも一方で必要ではありますが,登記を行うことによってメリットが多ければ,多少のコストの負担があったとしてもその手続というのは選択され得るとも思っているところでありますので,今後の例えば二読等で細かな公示すべき内容がどのようなものであるかという点について,どの段階かで議論がされるのかどうかということを教えていただきたいというのが2点目であります。   その上で,私も皆様方がお話しいただいておりますとおり,次の2の担保関係の優劣の関係の議論とどうしても重なってしまうところがあるのですが,引渡しと登記とを併存させつつ,更にその優劣関係をどのような形で,多分ファイリング等で調整をしていくのかというところで,登記一元化には消極でございます。特に登記手続の観点から申し上げますと,一元化を仮にするとなれば,現行の動産債権譲渡登記の活用やアレンジと考えていくことになると,譲渡人が現状としては法人に限定をされているということがあります。個人や個人事業主の利用をどう想定していくかというところも,今後の検討課題になってくるかと思っているところであります。 ○道垣内部会長 2番目におっしゃった登記事項をどの段階で検討するのかという話なのですが,例えば優劣関係を決めるという議論をする際に,ある立場を採るためには被担保債権額が明らかになっていないといけないということであるならば,そういった御発言を積極的にしていっていただければと思います。つまり,被担保債権を書くのか,何とかを書くのか,何とかを書くのかというのを独立した項目として議論をして,そこをフィックスにするというのはなかなか難しいと思います。尾アさんのおっしゃっているところとも非常に関係するのですけれども,優劣関係を決める際に,こういった登記内容にしてこれで勝たせようとか,そういうことを積極的に議論していただいて,それをまたまとめた形で,登記を仮に作るとするならば登記事項についてのまとめを行って,それを直接に扱うというセッションを設けるという形で処理をしていくのかなと思います。   ほかの点について,何か事務局からありましたら,どうぞ。 ○笹井幹事 冒頭の特定財産ということが個別動産と同じなのかということだったのですが,ここはおっしゃるように,集合動産の反対概念と言ってよいのか分かりませんが,この動産ということが確定しているような,そういうものを念頭に置いているというものでございます。 ○伊見委員 承知しました。 ○道垣内部会長 では,遠藤さん,お願いします。 ○遠藤幹事 遠藤です。先ほど山崎委員からも御意見がありましたけれども,そもそも我々がこの制度を考えるに当たって,やはり実務的に企業の立場からは,最も簡便に安価に使いやすい仕組みを作るという観点から考えていく必要があるのだろうと思っています。そういう観点からいうと,ここで【案4.1.1.1】というのは,問題点が指摘されている今の債権譲渡特例法に関して,そこにある種必要な部分だけ最低限パッチをはめて,パッチワークをしようという案に見えるわけですけれども,なかなかこれをやったからといって実務が劇的によくなるかというと,若干そこは議論が必要なのかという気はしています。   そういう観点からいうと,我々の立場としては,やはり一番分かりやすく使いやすく,簡素で複雑でない仕組みという観点から,新しい担保権というのをきちんと設定した上で仕組みを作るべきだという,基本的にそう考えているわけですが,それを前提に御意見を述べさせていただくと,仕組みとして単純に考えるのであれば,【案4.1.1.3】のように一元化するというのは,考え方としてはあるのだと思うのですけれども,これだと今の実務を過剰に否定してしまうという部分は多分出てくると思います。逆に,占有改定を含めた引渡しと,それから登記があるときに,今の特例法のように引渡しが先にあったらそっちの方が勝ってしまうとなると,これは登記制度として余りに不安定な仕組みになってしまうので,登記がある場合には原則としてその登記が優先するというような考え方は入れるべきだと思いますけれども,一元化というのはさすがに若干極論になるかと思っております。先ほど御意見があったように,例えば公示についての弊害を避けるために,担保権を設定した上で登記をするか否かといった判断というのは,これは企業の立場としてあると思うので,登記がされている場合には登記が優先するとした上で,引渡しについてもきちんと優先順位を決めて,現行の実務としてやっていることは一定範囲で確保する必要があると思っています。   それからもう1点,ちょっとこれはこの資料の論点そのものの正面からの話ではないのですけれども,この法務省の資料にも「登記」と書かれていますけれども,これについて1点留保というか,これが今の債権譲渡特例法のような登記であるとすると,登録免許税が掛かったりとか手間が掛かったりとかいうこれ自体がコスト要因になっていて,中小企業にとってはなかなかこれ自体が苦しいというのがございますので,我々の留保としては,登記に代替する新しい公示制度,例えば登録免許税がなるべく掛からない仕組みにするだとか,手続のコストが安い仕組みというものを御提案いただきたいということは,一応この「登記」という言葉について留保として述べさせていただきたいと思います。 ○道垣内部会長 冨高さんからお願いいたします。 ○冨高委員 連合の冨高です。ありがとうございます。   先ほど少し触れていただきましたけれども,占有改定に対抗要件具備を認めることにつきましては,資料の1ページから2ページにも示されている問題点があり,一般債権者である労働者の労働債権保護という観点から,認められないと考えています。資料に記載のとおり,外形的には所有権が実際は異なっているというということが全く分からないわけでございまして,例えば先取特権によって差押えはしたとしても,実は占有改定していますと言われてしまうと,別除権として財団債権より優先されることになってしまいますので,労働債権がどの程度確保できるのか見通せなくなります。これは,労働者の今後の生活にとって大変大きな影響を与えるものだと考えます。   また,実際に債権確保のための仮差押えを行ったところ,譲渡担保として占有改定されていると主張される事例もよくあると聞いておりますが,それは,1ページにあるように,当事者しか知り得ない観念的な引渡しであり,当事者同士で通謀したとしても,一般債権者にはそれが本当に差押えの後にされたのか前にされたのを証明する術がありません。このような占有改定に対抗要件具備を認めることは,一般債権者の保護に欠けると言わざるを得ないと思います。 ○道垣内部会長 私は,尾アさんや遠藤さんの御発言に対して,それほど簡易かつ安価に担保権を自由に設定できたら,労働者等の債権について支障を来すことがあるので,そこばかりを狙って制度設計してはいけないという発言が冨高さんから出るのではないかと私は思っていたのですが,そういうお考えはないですか。 ○冨高委員 バランスの問題だと思いますが,確実な労働債権確保ということがもちろん,前提としてございます。今回は占有改定についてということでありましたので,対抗要件具備は認められないことについて申し上げました。 ○道垣内部会長 分かりました。私の勝手な予想を述べて申し訳ございませんでした。では,片山さん,お願いできますか。 ○片山委員 片山です。ありがとうございます。   結局,山崎委員からも御発言がありましたとおり,占有改定が今実務上行われているということを前提に,それをやはり残していかなければいけないのか,それとも,尾ア委員は,それに代わる安易,迅速,簡易とおっしゃいましたが,そういった公示システムができるならば,もうそれ1本でやっていただけるのかという問題になるのかとは思うのですけれども,仮にそういう公示システムが,ノーティスファイリングか登記制度かは別として,あると,できるということを前提として考えるということであれば,【案4.1.1.1】か【案4.1.1.3】かという話になりますけれども,【案4.1.1.3】にせざるを得ないのではないかと感じているところです。【案4.1.1.1】ですと,やはり譲渡形式を採りますので,最後まで占有改定問題というのが付いて回るというか,その桎梏から逃れることができないという運命にあるかと思いますので,やはり譲渡形式の担保ではなくして設定型の担保で,非占有担保についてはこういう対抗要件を必要とするというような,新しい法制度を作っていくという方向を是非検討していただければと思っております。それがどういう登記制度になるかは分かりませんが,併せてその内容として動産だけでいいのか,債権も含めて考えるのか,それとも知財のようなものも含めた事業資産も俎上に乗せるのかといった点も,併せてそこで議論ができればいいかなと考えている次第です。   意見でございました。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 尾アさんも手が挙がっていますので,私が尾アさんの無権代理をして尾アさんの見解を説明するのは恐縮なのですが,尾アさんは,仮に対抗要件として引渡しというものが維持されたとしても,その占有改定による引渡しというのが登記に必ず負けるということが明らかになっており,それを例えばインターフェースとして一元的に管理できるもので見たら,引渡しの有無は分からないけれども登記はないよねとか,あるいは登記はあるよねということがきちんと分かるというシステムになって,これから何かやろうとする自分に勝つ人というものが一元的に把握できるということにすればよいという,こうおっしゃったのだと思うのです。したがって,【案4.1.1.3】の方式を採って一元的に管理しないといけないという立場を今のところまだ尾アさんは採っていらっしゃらない,根底では思っていらっしゃるかもしれませんけれども,先ほどおっしゃったのは,そこはまず留保を付けられておっしゃったのだと思います。私が無権代理をしたのですが,尾崎さんが,うんうんと言ってくださっているので,多分当たっているのではないかと思います。   すみません,では,尾アさん,後でまた発言していただきますが,本多さん,お願いいたします。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。   先ほど冨高委員からは,占有改定に関する問題点が改めて御指摘されまして,一方で,山崎委員からは,実務的な占有改定の意義について御指摘を頂戴いたしました。私からも,占有改定についての問題点は認識させていただきつつも,差し当たり優劣関係の問題についてはさておいて,担保権設定に係る対抗要件具備方法としての占有改定の意義について,ファイナンスの観点から幾つか御案内させていただければと考えております。   一つは,外為ファイナンスにおける譲渡担保に関する占有改定の活用でございます。皆様御案内のとおり,現状のファイナンス実務上,例えば信用状取引というような外為ファイナンスにおきまして,反復継続的に輸入商品について特定譲渡担保権の設定が行われておりまして,その際の対抗要件具備として占有改定が活用されているという状況がございます。この場面における譲渡担保の活用に関しましては,これも御案内のとおり,輸入取引に係る輸入者だったり,海運業者だったり,それから金融機関だったりといった多様な当事者間におきまして精緻な実務慣行が形成されておりまして,例えば信用状付荷為替手形決済の場面におきましては,輸入商品の種類であったり数量であったりというものが特定された上で,その買取債務と同額の信用状が発行されまして,こうした信用状の発行,履行に伴う同額の償還債務に係る債権を被担保債権として反復継続的に譲渡担保権が設定されており,こうした方法によって,簡易,迅速,廉価な対抗要件具備方法として占有改定が活用されているという実務状況がございます。   担保目的物である輸入商品と被担保債権としての償還債務に係る債権の牽連性というものは相応に強くございまして,そうした牽連性を前提としてファイナンスが取り組まれているといえます。そして,かかる譲渡担保の目的物である輸入商品につきまして,事実上競合する担保権者が現れることがなく,したがって,公示性に乏しいという問題点は占有改定にはあるのですけれども,占有改定により対抗要件具備をしたとしても,担保権者間で競合する,紛争になるということがなく,安定的な実務運営がされており,こうした実務運営の下で輸入取引,輸入信用に係るエコシステムが形成されていると申し上げられるところがあります。今回の制度改正に際しまして,こうしたエコシステムがいたずらに害されることがないようにするという配慮が必要になることがあるかもしれないと考えております。   それから,もう1点なのですが,これは将来像を見据えた場合なのですけれども,テクノロジーによる課題解決というものについての期待も申し上げられるのかなと思っています。どういうことかと申しますと,貿易取引を含めまして,IoTとかブロックチェーン技術とかといったものを活用しまして,書類での手続や管理,こうしたものをデジタル化しまして,物流に関わる関係者が対象の動産の位置とか移送の状況とか,それから通関との手続がある場合には,そういう手続に際して必要な書類の準備状況みたいなものをデータ化した上で共有し,確認できるようなプラットフォーム,こういうものを構築していくという動き,試みが進展中でございます。こうした動きにファイナンス取引を組み合わせる場合に,例えば,プラットフォーム上におきまして対象動産を個別にトレースをするということまで可能となるのであれば,信用補完に際しまして特定動産についての譲渡担保権の設定ということができそうなのですけれども,それを前提としまして,対象動産についての担保権設定に係る対抗要件具備に関して,例えば登記だったり担保ファイリングだったりという制度に係るシステムと対象動産の流通についてのプラットフォームに係るシステムを連携させる形で組み合わせるということも設計できなくなさそうなのですが,そういうシステム同士の連携に際して現状もいろいろな課題があると言われているところがございまして,そうであれば,占有改定という簡易,迅速,安価な対抗要件具備制度というものを,より使い勝手がよいものとして見直すことができそうとも考えております。   今申し上げましたとおり,占有改定の課題につきまして,テクノロジーによる解決を目指すという考え方もありそうなのかなと思っておりまして,意見を述べさせていただきました。 ○道垣内部会長 ある一定の局面において占有改定の問題点というのを解決できるかもしれず,そういうところについては,また別に考えるという意味もあるのかもしれません。   尾アさん,お願いします。すみません,お待たせしました。 ○尾ア幹事 先ほど道垣内先生におっしゃっていただいたとおりでございまして,対抗要件制度としては,【案4.1.1.1】で問題ないと考えております。担保権の優先関係については,一元的なオンラインのユーザーインターフェースを備えたプラットフォーム上での登記とかファイリングとかの前後関係で決すべきということです。その際に,どのようなプラットフォームにするのか,登記に一元化するのか,対抗要件は登記で担保権の優先関係についてはファイリングにするのか,あるいは担保ファイリングで対抗要件まで具備することができるようにするのかといったような点については,現時点ではいろいろなやり方があり得るのだろうと思います。中企庁の遠藤さんがおっしゃったように,コストの面とか税金の面とかそういったようなことも考え併せながら,最も使いやすいものを選んでいくべきだろうと考えております。   その上で,もう1点だけ申し上げたいと思います。今申し上げましたように,担保権の優先関係は,基本的には一元的なプラットフォームの公示の前後により決すべきであるということですが,事業の成長という観点からは,一定の例外を設ける必要があるのではないかと考えております。例えば,山崎さんがおっしゃっていただいたことと関係しますけれども,商取引については,その都度登記とかファイリングを求められると,取引が抑制されて事業の成長にとって足かせとなってしまうような可能性もあります。したがって,こういった場合については,アメリカにおけるPMSIのように,一定期間は公示がなくても最優先として,それ以降も最優先とするためには公示を必要とするといったような取扱いも考えられるのではないかと思っております。本多さんがおっしゃった輸入商品の件についても,例えばこういった取引を保護するような規定というものが考えられないか,ということを検討すべきではないかと考えております。   今申し上げた点というのは,既存の法解釈論からはなかなか説明が難しい取扱いだと思います。ただ,解釈論を議論しているわけではなく,立法論的な議論をしているということなので,事業が成長するためにどのような措置が必要なのかといった観点から,皆さま方に議論していただければと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○鈴木委員 ありがとうございます。千葉銀行の鈴木でございます。   私の方は,対抗要件については,これは本多さん同様,登記に一元化する必要はないとの立場を採りたいと思っております。一方で,尾ア幹事からもユーザーインターフェースという言葉が出ましたので,地域金融機関の立場を代表するのが私の立場ですので,御意見申し上げたいと思います。   現行制度では,譲渡担保の登記ができるのは東京法務局のみですので,東京圏から離れた金融機関から見ると,物理的な距離や心理的な壁を感じているという意見があります。郵送で手続しなくてはならないとか,司法書士と対面で打合せができないとか,そういったところがネックのようでございます。テクノロジーの活用という言葉,何人かの方から出ていますけれども,登記の在り方を議論する機会ですので,ユーザーの立場からとしての御意見として,インターネット等を通じて,簡便で低コストを実現するような制度,仕組みをこの機会にやっていっていただければと思います。   ちょっと今回の立法の議論と少し違うかもしれないのですが,自動車や船舶とか,譲渡担保に限らず,その他の担保権などもあるわけなのですけれども,これらも併せて閲覧できるようなポータルがあっても非常に使い勝手がよく,これらの担保権が今よりも活発に使われる可能性があると考えております。仮に法律とか所管する官庁がまたがるようなことがあっても,ユーザーから見て一元的な入口であれば,使い勝手のよさに資することになるのではないかなと思っております。 ○道垣内部会長 それでは阿部さん,お願いします。 ○阿部幹事 ありがとうございます。【案4.1.1.3】は登記一元化ということで,しかしそれほど人気がないようなので,あえてこんなことを言う必要はないかもしれないですけれども,【案4.1.1.3】と【案4.1.1.1】を比べたときに,一見すると【案4.1.1.3】は,登記一元化ということで単純で明快なように見えるのですけれども,必ずしもそうはならないのではないか,という気もいたしました。というのは,新たな担保物権を創設する場合,その創設した担保物権を使わずに従来どおり債権担保を目的として動産を譲渡し続ける人たちをどう扱うのか,という問題が,必ず残ってくると思うのです。それで,そういう人たちはこれまでどおり占有改定で対抗要件を具備できますとなったら,実質は【案4.1.1.1】と変わらないということになりますし,他方で,新たに担保物権を創設した以上は,これは強行的に使わないといけないと,従来どおり債権担保目的で動産を譲渡しても,新たな担保物権を設定したものとみなすなどとすると,今度は,担保目的取引規律型を採りながら対抗要件を登記に一元化した場合の問題が,部会資料の2ページ25行目以下に書かれているかと思うのですけれども,これと同じ問題が必ず【案4.1.1.3】にも伴ってくると思うのです。   ですので,【案4.1.1.3】というのは,一見分かりやすいように見えて問題を先送りしているというか,新たに設ける担保物権を使わない人をどう処理するかという問題を必ず残してしまって,その処理次第で結局案の【案4.1.1.1】と変わらない問題というのはどうしても出てきてしまって,問題を避けて通ることはできないのではないかと思います。そうだとすると,これは案の【案4.1.1.1】と【案4.1.1.3】のどれを採るかというよりも,むしろ担保目的取引規律型と担保物権創設型のどちらにするかという問題かもしれませんが,担保目的取引規律型の方がむしろ分かりやすいのではないか,新たに創設する担保物権と既存の譲渡担保との関係などといった問題を作らないだけ,その方がシンプルなのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 佐久間さん,お願いします。 ○佐久間委員 ありがとうございます。もしかしたら阿部さんがおっしゃったことを,ちょっと違う言い方をするだけなのかもしれないですし,あるいは全然違うことを言うのかもしれないのですけれども,私も【案4.1.1.3】は分かりやすいように見えて,いろいろ考えると,ちょっとそこまで言うと言葉がきついかもしれませんが,現実味がないのではないかなという気がしています。それは,動産を目的物とする以上は,担保目的規律型にしようが担保物権創設型にしようが,一つのものについて真正譲渡が行われた場合との関係というのは,どうしても考えざるを得ないと思うのです。その場合に,真正譲渡の方について占有改定では対抗要件を具備したことになりませんと今回変えることは,およそあり得ないと思うのです。そうであるところ,真正譲渡と担保の設定との優劣が問題になったときに,担保の優劣決定の場合には,【案4.1.1.3】を採ると登記をしておかないと担保同士で勝てないというだけではなくて,真正譲渡にも勝てないということをこれは含意するはずですから,そこまでいくのはどうかなというように考えます。そうすると,占有改定も含めて引渡しで対抗要件を具備すること,あるいは譲渡登記で具備することも対抗要件としては可能なのだけれども,加えて,担保ファイルのようなもので簡易な制度設計をした上で,そこで担保については主張の基礎を得ることとするというようにすることがよろしかろうと思います。   先ほど,片山委員は,そこまでいくのであったら結局【案4.1.1.3】ではないかとおっしゃったかと思うのですけれども,それは違うのではないかと思います。占有改定で取りあえず対抗要件は具備していて,ただ,担保の主張をするには担保ファイリングが要りますということだと,阿部さんがおっしゃった担保目的規律型の場合に,対抗要件具備の段階まででは単純譲渡と同じなのだけれども,そこから先で権利の主張の在り方が分かれていくという考え方も採れますし,担保物権創設型であっても,真正譲渡が行われた場合との関係だけでいえば対抗要件で話が済むところ,ほかに担保物権が出てくるという場合も考えるならば,例えばですけれども,ファイリングをしておかないといけないということで切り分けることができますので,【案4.1.1.3】でいいということにはならないのではないかと思います。そういう形であると,占有改定で確かに隠れた物権変動に実際なるのではないかとなるかもしれませんが,今のところ,譲渡担保の場合はほぼ譲渡担保が設定された時に占有改定がされていますということで,対抗要件が備わっていると扱われているわけですよね。それだけで全部優先関係まで決まるとなると困るのかもしれませんが,実際上,全くコストなしに対抗要件が備わること自体が全部駄目だということはなかなか言えないのではないか,そういうところに意義がある場合もあるのではないかなと思います。そこで【案4.1.1.1】,またはほぼ同じ内容の対抗要件制度であるところの【案4.1.1.2】に加えて,担保のための主張を簡易にできる,それをシステム上確認もできるという制度を設けることが適当なのではないかと思います。 ○道垣内部会長 では,片山さん,お願いします。 ○片山委員 片山です。佐久間委員を始め,御意見ありがとうございます。1の3はちょっと分が悪くなってきていますけれども,1の3が諸外国でどう規律されているかというと,これこそが正に担保目的規律型ということかもしれません。要するに,担保目的,非占有の動産担保については,この新しく設定される担保を擬制するという取扱いを行うということなのだと思います。ですから,担保目的規律型をすることによっても,すみません,設定型の担保を創設することによって,それを回避するような占有改定が行われるということにはならないとは思っているところで,そこだけちょっと反論させていただきます。 ○道垣内部会長 佐久間さんがおっしゃったのは,真正譲渡だと主張して占有改定による引渡しをして後で担保目的だとされると,何の対抗要件もなかったとされるわけなのだけれども,それだけのリスクを負わせていいのかという問題もあると思いますので,どちらかが決まっているという場合は簡単なのですけれども,例えば流動化の案件でどう正式決定されるのかが分からないというのに対する場合には,問題があるということなのかなと思います。   いろいろ御議論いただきまして,今片山さんがおっしゃったように,1の3が優勢だったのですが,また揺り戻しが起こってきたり,いろいろ御議論いただいておりますけれども,重要なことは,尾アさんがおっしゃったように,きちんと分かるようにしないと,後からいろいろな主張が出てきて,自分の順位なかなか分からないというのではちょっと困るよねというのはそうなのだろうと思いますので,それを考えながら,どういうのを作っていくべきなのかというのは更に検討していかなければならないのだろうと思います。   さて,まだ第1の1についても御発言があるかもしれませんけれども,もう始まりまして2時間35分たっておりまして,2時間ぐらいで休めとなっているところ,随分延びてしまいました。そこで,余り休み時間が取れなくて恐縮なのですが,16時15分まで10分間,一度ここで休憩を入れさせていただければと思います。では,15分にお戻りくださいませ。           (休     憩) ○道垣内部会長 それでは,大体お戻りであろうと思いますし,16時15分になりましたので,部会を再開させていただければと思います。   現在,部会資料の4の第1の1と2について御説明いただいた上で,1についてだけ議論をしてまいりました。1についてもまだいろいろな御意見はあろうかと思いますけれども,いろいろ考えられる論点とかはかなり明らかになったのではないか,論ずべき点とかは明らかになったのではないかと思われます。したがって,もちろん1についての発言を妨げる趣旨はございませんけれども,残っております2について,まず御発言を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○藤澤幹事 2について,部会資料とはちょっと違う提案をしてみようかなと思って発言をさせていただきました。違う提案の前提として,私自身の考えとして,一つには,この立法を機に,動産担保について集合物論を採らなくても,債務者が将来取得するものについて優先権を得られるような法制度にしてはどうかなという考えを持っていることがあります。もう一つには,簡易な登記制度ができることを前提とした上で,登記が必須である担保権の範囲を広げることができたらいいのではないかなと考えております。この二つの考え方を前提として,以下のような提案をさせていただきます。  部会資料の1ページのところに上がっていた【案4.1.1.1】には,引渡し「又は」登記で対抗要件を具備することができると書いてありましたが,この「又は」という言葉を単純な並列だと理解すると,現行法の考え方とは少し違うのではないかなと思うのです。というのも,現在は民法178条で動産譲渡の対抗要件を備えるためには引渡しが必要であるとされていて,動産・債権譲渡登記特例法で,登記を引渡しとみなすことで対抗要件を具備するという制度になっていますが,【案4.1.1.1】のような書き方だと,引渡し又は登記の両方で対抗要件を具備することができると読めて,このようなことを利用してルールを思いつきました。   それはどういうルールかというと,部会資料4ページのアラビア数字の2のところにあるような,「設定者の所有に将来属すべき物」については,引渡しで担保目的譲渡の対抗要件を備えることはできないけれども,登記によってだけ担保目的譲渡の対抗要件を備えることができるというルールです。というのも,設定者が将来取得する物だったら,現時点でそれを引き渡すということはあり得ないと思うのです。しかし,担保目的の譲渡に限っては,引き渡せない段階でも登記によって第三者に対抗することができるという制度を設けたらどうかなと思いました。そのような制度のメリットとしては,個人事業者の隣人のような金融のプロではない人がする単純な個別動産の譲渡担保,現時点で存在する物の譲渡担保については,引渡しで対抗要件を具備することができるのだけれども,そうではなくて,将来物を含むような専門的な金融機関がするような担保目的譲渡については,やはり登記をしなければいけないというルールを採ることができるということで,比較的弱い人を守りながら,なるべく登記しなければいけない担保目的譲渡の範囲を広げることができると思った次第です。 ○道垣内部会長 またこれは無権代理で,私の方で解説するのは変なのですけれども,現在,現存しないものについて,担保のための所有権移転の対抗要件が具備できるということの結論を導くために,集合物という概念が用いられ,集合物が引き渡されているので,その構成部分は将来変動するものであっても,集合物の引渡し時に対抗要件が具備されるということになっているわけです。つまり,集合物という概念を基にそういう効果を導いているわけですよね。それに対して今の藤澤さんのお話というのは,譲渡登記という,担保登記か譲渡登記か分かりませんけれども,それが将来物について現時点で対抗要件を備えるための乗り物といいますか,その概念によってそういう効果を引き起こそうとしているわけで,集合物概念の代わりに登記というのが,そういう効果を導くために出てくるという考え方であり,かつ,そうしたら,1の問題というのは比較的ソフトランディングなところに行くのではないかということだろうと思います。   この御意見に対してでもいいですし,ほかの御意見でもいいですが,2について御発言いただければと思います。   ここら辺もなかなか難しい問題を多々含んでおりまして,集合物に対して一定の例えば取引の一体性みたいな要件を課すかという問題を立てたときに,この部会では比較的そういう要件は立てないという意見が多かったわけですが,そうなってきますと,集合物という形を採れば対抗要件が具備できるということになるわけですけれども,では,集合物というのと個別動産の複数のものを一体化して採るというのとは区別があるのですかという話がそこで出てきて,そこの区別というのは本来難しいよねという話になってくる。それをもう集合物というのは特定のためだけのことなのだとしてしまうというのが,前回か前々回か,青木さんや藤澤さんから出た見解だったわけですが,しかし,特定のためだけとしても,いつでも将来物について現段階で対抗要件が備えられるというわけにはいかんだろうということになり,ではどうしますかというので,もう一定範囲に将来物が含まれているというのならば,もうそれでいいではないかというのが今回出されている案ですよね。そのほかには,論理的には取引上の一体性等がある集合物についてはそういったことは認められて,さらに,3番目として,先ほど藤澤さんがおっしゃったように,登記をするときには認めてあげようという意見もあり得るというわけなのですが,論理的にはこういう見解がいろいろあるかなと思うのですが,それについては特に今のところはよろしいでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。ちょっとよく分からないので,藤澤さんに伺いたいのですけれども,今の取引上の一体性とかというのは取りあえず置いておいて,特定の範囲にある物が将来入ってき得る,それについても対抗要件を備えることが何か考えられるというときに,例えば占有改定では対抗要件を備えることはおよそあり得ないのか,それとも適当ではないのかということを知りたく思います。仮に適当ではないということだとすると,それはなぜかというと,そんな曖昧なものはということなのかもしれないのですけれども,現在の集合物譲渡担保の対抗要件で,占有改定でもオーケーですというのは,あれは特別に何かしているのかというと,基本的にはそうではなくて,集合物の譲渡担保が設定されたら,それで特段の事情がない限りは占有改定によって対抗要件は備わっていますとしているわけですよね。それを例えば特定範囲ということで,集合物という概念は用いずに考えていきましょうということになったときに,占有改定というのが論理的に対抗要件を備えることはあり得ないということを考えなければいけないのであれば,それは無理ですけれども,論理的には別にあってもよくて,いろいろなことを考えると適当ではないからということで仮にあるとすると,その適当ではない面は,わざわざ登記制度に一元化しなくとも,例えば担保ファイリングに関して,そこも取り込めるようなものとして設計すれば対抗要件は備わっている,だけれども,結局担保ファイリングが備わっていないから,特定範囲に属するものについても結局担保権の主張はできなくなるのですよねということでは駄目なのか,ということが,お考えがよく理解できていないのでわかりません。藤澤さんのお考えは多分,今後これは検討されていくことになると思うので,教えていただければと思いました。 ○道垣内部会長 藤澤さん,よろしければお願いします。 ○藤澤幹事 これまでの日本の対抗要件についての考え方によれば,まず物権変動があって,それを第三者に対抗するために一定の行為を必要とするということになっています。このような考え方を採りつつ,集合物論を採らない場合には,債務者がまだ所有していない動産について,今の時点で譲渡して,それについて対抗要件を備えるということは基本的にはできないのではないでしょうか。債務者が占有していない動産について,占有改定の合意をしたとしても,その占有改定は空っぽというか,その時点では占有移転の効力を持たないものではないかなと思っています。集合物論があるからこそ,現存する集合物についての占有改定が観念できるのではないかなと思います。そうすると,このような考え方を前提とする限りは,集合物論を採らない限りは,債務者が将来取得するものについて譲渡及びその対抗要件具備はできませんが,担保目的の譲渡についてだけは,物権変動が生じる前に,登記によって対抗要件を備えることができるというルールを採れないかと考えたということです。その背景には,やはり集合物論の前提となる何らかの要件によって,担保権を設定できる動産の範囲が絞られてしまうということが,若干不便ではないかと感じていることがあります。 ○道垣内部会長 何か,佐久間さん。 ○佐久間委員 特定の範囲に属するものがいずれにせよ担保権の客体になるということは,多分間違いないと思うのです。その特定の範囲というものを集合物とは呼べないのかもしれませんけれども,そういうものを客体として認めようということをまず決めた上で,その客体として認める特定の範囲に属する現物が幾つかあって,それが将来正に流動していって中身は替わっていきますと。その替わっていくものを含めて特定の範囲に属するということをパッケージにして,その範囲に属するものにつき占有改定で対抗要件が備わっていれば,現在使われているところの集合物という観念と同じように扱いましょうということにするならば,論理上およそそれはあり得ないのでしょうか。そもそも初めに物が全くない状態でも範囲さえ特定しておけば担保設定できますということまで入っていると,今私が申し上げようとしているのは全然意味を成さないのかもしれませんが,そうでなければ,論理上は若干無理があるかもしれないけれども,そのような考え方を立法において採るということにして,あとは担保ファイリングかどうか分かりませんけれども,個別の担保と同じような優先関係の決定基準で決められるようにするということはあり得ないのかなと思いました。 ○道垣内部会長 藤澤さんから何か話がなければ,ありましたら後でまたお願いします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。部会資料の先のところにあります【案4.2.1.2】の「新たに設けるファイリング制度」というのがどのようなものなのかという点がはっきりしておりませんので,よく分からないところがあるのですが,集合物論を採らない場合の優先関係の処理という場合に,この制度では足りないのかというのがちょっと私の方の疑問です。ここで想定されているのに近いと思われるファイリング制度をもつアメリカ法をみますと,パーフェクションという,ぴったり同じかどうかはともかく対抗要件に類比するものを充足する場合として,実際に設定者が目的物の所有権を取得,あるいはそれに類比する状況を想定していますよね。だけれども,パーフェクトでなくてもファイリングさえあれば優先し得るというルールをとっているかと思います。同じような形で,【案4.1.1.1】や,あるいはその次の第1の2の意味での対抗要件の問題と,【案4.2.1.2】で想定されていそうな優劣関係におけるファイリングを利用した優先要件の問題を別に考えることはできないのでしょうか。意見というか,御質問になるかと思いますが,すみません,よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 誰に対する質問なのでしょうか。 ○青木(則)幹事 藤澤先生にです。 ○道垣内部会長 では,御指名ですので,先生,お願いします。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。こんなに質問をいただけるとは思っていなくて,すごくびっくりしてしまって,失礼を承知で,逆に質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。もし集合物論を採らない場合に,債務者が将来取得するものについて,どうやって現時点の占有改定で対抗要件を備えることができるのでしょうか。そうすると,現在の集合動産譲渡担保に関する判例をも超えた制度ということになりそうです。例えば,私が将来取得するパソコンについて,今の時点で譲渡担保の対抗要件を備えることができるのか,お伺いしてもよろしいでしょうか。 ○青木(則)幹事 恐らくは,実行前には現物が発生し設定者がその所有権を取得しているわけで,引渡し可能になっているわけですよね。その段階で一応対抗要件が完成するのだけれども,しかし,一旦対抗要件が完成したもの同士の優劣関係はあらかじめのファイリングの時点で決まるという,それが【案4.2.1.2】でいうファイリングの機能になるのではないかというような感覚でいたのですけれども。お答えになったでしょうか。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。そうでしたら,考えていることは一緒です。青木先生がおっしゃるとおり,現在の制度では,物権変動が生じるのも,占有移転の効力が生じるのも,設定者が動産を取得した時点であると説明せざるを得ないのではないかと思っていました。複数の担保権が設定された場合の優先関係の問題を,対抗要件で処理するか,ファイリングで処理するかだけの話です。 ○道垣内部会長 しかしその前に真正譲渡が行われていて,占有改定による引渡しというものが存在しないものについて合意をされていても,将来物についてその時点で対抗力が備わるというのは登記の効果なので,登記をしていない限りにおいては,その占有改定で将来物に先にそういう合意があってもその人は勝てないということになるのでしょうか。逆に言うと,真正譲渡であっても,動産・債権譲渡特例法で譲渡登記を備えれば勝つのですか。 ○藤澤幹事 真正譲渡については登記によって対抗要件を備えることはできないという制度を想定しています。理由を説明しろと言われると,ちょっともごもごしてしまうのですが。 ○道垣内部会長 真正譲渡だとどうして登記できないのか,ということもありますし,また登記を受け付けないというとき,誰が判断するのですか。 ○藤澤幹事 登記によって譲渡の対抗要件を備えることができるというルールは,立法によって特別に認められるもので,担保目的のものについてだけは,そういう取引上のニーズがあるので,物権変動に先立って対抗要件を具備することができるというルールにするけれども,真正譲渡については現行法と同じという考え方です。 ○道垣内部会長 分かりました。その局面では,自分は担保であると主張して立証していくということを念頭に置くわけですね。分かりました。   すみません,手が一杯挙がっていたのに,私が要らない話をしているうちに,みんななくなってしまったのです。沖野さんの挙手がまずあったと思うのだけれども。御発言いただければと思います。   沖野さんにマイクの表示が出ていないようなので,水津さん,先にお願いします。 ○水津幹事 手を挙げたものの,部会長が発言されたことと一部が同趣旨でしたので,手を下ろしました。 ○道垣内部会長 そうですか。分かりました。 ○水津幹事 でも,せっかくですので,発言させていただきます。第1は,引渡しと登記との違いです。先ほど,引渡しを対抗要件とするときは,将来取得される担保目的動産については,その物権変動を観念することができないため,集合物論を前提としなければ,その動産が取得される前に対抗力を備えることができないという話がありました。しかし,この理解によれば,登記を対抗要件とするとしても,同じように,集合物論を前提としなければ,将来取得される担保目的動産については,その動産が取得される前に対抗力を備えることはできないのではないかと思います。対抗要件を引渡しとするか,登記とするかという問題と,将来取得される担保目的動産について,その物権変動を観念することができるかどうかという問題とは,別の次元のものであると考えられるからです。  第2は,担保目的財産の特定の問題との関係です。担保目的財産の特定については,集合動産譲渡担保と集合債権譲渡担保とをパラレルに把握し,一つの集合財産のようなものを観念しないとする意見が有力であったように思います。この意見によると,対抗力が生ずる時期については,集合動産譲渡担保固有の問題として,第1で扱った問題のほか,次の問題があります。観念的な引渡しは,現実の引渡しの代替である以上,現実の引渡しをすることができない段階では,観念的な引渡しをすることもできないのではないか,言い換えると,あらかじめの占有改定がされたとしても,その時点で引渡しがされたとはいえないのではないかという問題です。これに対し,観念的な引渡しの意味は,現実の引渡しの代替に尽きるものではないと理解するならば,あらかじめの占有改定がされたときに,その時点で引渡しがされたものと扱うとすることも考えられそうです。この場合において,集合動産譲渡担保と集合債権譲渡担保とをパラレルに把握し,一つの集合財産のようなものを観念しないとする意見に従うときは,部会資料とは異なり,現在の動産について引渡しがされれば足りるのではなく,将来の動産についても引渡しがされなければならないこととなるものと考えられます。もっとも,このような理解に基づいて将来取得される担保目的動産についてその動産が取得される前に対抗力を備えることができるとすることについては,第1で扱った問題があるほか,第2で扱った問題についても,あらかじめの占有改定がされた場合において,その時点で引渡しがされたものと扱うとする考え方は,一般的なものではないかもしれません。 ○道垣内部会長 沖野さんはよろしいですか。 ○沖野委員 ありがとうございます。私も一旦手を挙げて下ろしましたのは,既に青木先生のやり取りの中で疑問としていた点が明らかにされたというか,問題提起がされて,さらに座長と今水津先生の御指摘で,疑問に思っていたところが全て明らかにされたので,もういいかなと思ったということです。   具体的には,対抗要件というものが一体何なのかということに関わるように思われまして,動産の場合に,まだ全く客体が存在しないものについて担保権が既に取得されているということを言えるのか,債権の場合はかなり技巧を凝らしてそれができるという考え方に立っているのだと思うのですけれども,有体物である動産の場合に同様に考えられるのかどうか。そうではないとすると,集合物論を採らず,登記によるということはあり得ると思うのですけれども,それで考えるなら,結局,青木先生が御示唆なさったような対抗要件具備は後だけれども優先は登記で取れるというものであって,その優先が誰との範囲で優先が取れるのかという,また範囲の問題がどの範囲の担保であるとか,あるいは競合するものとして買主等が入ってくるのかとかいう話になってくるように思うのです。藤澤先生のお考えが,登記の段階で全て担保権取得についての対抗ができるという御趣旨なのかどうか,それとも優先関係は別途とするので,それであれば集合物論ということを採る必要はないという話なのかがちょっと分からなかったものですから,それを確認させていただきたいという趣旨でした。 ○道垣内部会長 藤澤さんが最初に発言されて,それに対する疑問とか意見とかに話が集中しているのですけれども,ポイントは,集合動産を目的とする,集合動産というのはそういう概念を使うかどうかという問題ではなくて,将来物を含む変動する一定範囲のものというものを目的とする担保権の対抗要件について,ある一定の要件がある場合に限ってこういうのを認めるよという条文なりルールとかを置く必要があるのか,それとも特定の問題であって全然置く必要はないと考えるのかということなのでしょうが,それは結局いかがなのですか。一つの考え方としては,将来物であっても登記をすれば,優劣問題は別に考えるとしても,対抗要件は具備できるという考え方が一つあり得るわけですが,ほかには別に御意見ございますでしょうか。   これは大変難しい問題を含んでいると思いますので,更にまた議論を,次の機会にでもお願いできればと思いますが,対抗要件問題について少し先を進める必要がございますので,3の動産所有権留保の対抗要件につきまして,事務局から御説明いただきまして,議論をしていって,場合によってはそのときに1や2の問題というのも自然に出てくるのかもしれませんので,また御議論いただければと思います。   では,3について説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 5ページ目の「3 動産所有権留保の対抗要件」について御説明いたします。   これは所有権留保による担保権の対抗要件の要否とその内容を御議論いただきたいというものですが,新たに担保物権を設け,現在所有権留保が利用されている場面でもこの担保物権が利用されることを想定するのであれば,所有権留保固有の問題は生じないと考えられます。したがって,ここでは所有権留保について,担保目的取引規律型で規定を設ける場合を念頭に置いて資料を作成しております。   (説明)の1では,現在の学説状況や判例についてまとめておりますが,伝統的には,所有権留保において,所有権は売主のところにあって物権変動が生じていない以上,対抗問題にはならないという考え方が有力であったかと思います。これを踏まえて,所有権留保売主は引渡しや登記などの特段の要件なくして所有権留保を第三者に対抗することができるとしたものが,【案4.1.3.1】です。より正確に言えば,買主側の第三者との間では対抗関係は問題にならないということを前提としており,その表現については更に検討の余地があるかもしれません。   これに対して,所有権留保は実質的に約定担保としての機能を持っているところ,公示のない担保に対抗力を認めることは妥当ではないという指摘があり,また判例でも,局面によっては所有権留保における対抗要件を必要とするものがあることなどを踏まえて,【案4.1.3.2】では対抗要件を必要とすることを提案しております。その対抗要件の具体的な内容については,所有権留保が担保目的で債権者に所有権を帰属させる点で譲渡担保と共通するため,これと同様に考えて,所有権留保買主から所有権留保売主への引渡しとすることが考えられます。さらに,引渡しだけではなく,登記を対抗要件とする立場もあると思いますが,この場合,譲渡担保とは異なり,所有権留保は動産譲渡登記の対象にならず,ほかに登記制度もないため,登記を対抗要件とするならば新たに制度を作る必要があります。なお,特定動産の担保権の対抗要件について,【案4.1.1.3】の登記一元化の立場を採るならば,ここでも登記に一元化するという帰結になるのではないかと思います。   以上の二つの案を両論併記の形でお示ししております。私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。それでは,どなたからでも結構ですので,御意見を頂ければと存じます。 ○佐久間委員 意見というよりは,よく分からないということを申し上げることになるのですけれども,【案4.1.3.2】によるとき,この引渡しというのは買主から売主に対して引渡しがされるということになるのかと思うのですけれども,仮にこの引渡しがなかったらどうなるのかというのがよく分かりません。というのは,まず買主から売主への引渡しが対抗要件になるためには,売主から買主に何らかの権利に基づいて引渡しがされていないと,買主から売主への引渡しが対抗要件としての意味を成すことはないのではないかと思うのです。そうすると,考え方として,これは一旦売主から買主に所有権が全部移転して,言わばそこからは譲渡担保と同じように留保売主の方に,純粋な担保権なのか所有権としての担保なのかは分かりませんが,戻るというのであったらそうなのかなと思うのですが,仮にそうでなくて,そういうことを考えずに単純に買主から売主に担保の対抗要件として引渡しがされるというのは,一体どういう仕組みなのだろうかと思います。もしそれがされなかった場合には,売主は単純にまだ私が所有者ですという主張を,担保の主張はできないにしても,できることになるのだろうか。もしそうだったとしたら,一体これは何なのだろうかということがよく分からないので,教えていただきたいということです。すみません,以上です。 ○道垣内部会長 事務局,よろしければどうぞ。 ○笹井幹事 【案4.1.3.2】について私の理解を申し上げますと,所有権がどうなるのかというのはちょっと置いておいて,所有権留保ですので売主から買主に現実の引渡しがされるのだろうと思いますが,そのときに併せて買主から売主に対する占有改定がされるということになります。そういう意味では,一方は現実に引渡しがされて,一方は占有改定がされるというように,二重に引渡しがされることを念頭に置かれているのかなと理解をしておりました。   そのときに所有権がどう動くのかという点ですが,これまで所有権留保について対抗要件が必要だと主張されている学説がどう理解していたのかという点につきましては,私の理解では,一つの考え方は,正に佐久間先生が今おっしゃいましたように,所有権が売主から買主の方に移ってから,担保目的の範囲で所有権がもう1回返るというように,2回変動するというような考え方が採られていたのだと思います。そうだとすると,もし,買主から売主に対する対抗要件としての引渡しがされなかったのだとすると,それはその所有権が買主に行った上で,そこからもう1回返っていくというその変動についての対抗要件がない状態になるので,留保売主は何の主張もできないということになるのではないか,つまり担保権の主張もできないし,所有権の主張もできないということになるのではないかと思います。   ただ,最近の有力説は,処分権限だけが残って使用収益権限は失う,その喪失についての対抗要件が必要だという見解ですとか,所有権が担保権に変容したというその変容を178条の譲渡というところに読み込んで,対抗要件が必要だと主張されているのかなと理解としております。その際に,所有権が変容しているだけで移転していないのだと,買主から売主に対する物権変動がないのだとすると,対抗要件がなかった場合にどういう主張になるのかというのは,ちょっと私もその辺は分かりにくいなと感じていたところです。 ○道垣内部会長 佐久間さん,何かありますか。 ○佐久間委員 いや,質問の形で申し上げたのですけれども,【案4.1.3.2】はちょっと難しいのではないかなと私は個人的には感じているところです。それだけです。 ○道垣内部会長 売買契約における所有権留保約定の解釈の問題として,所有権の移転プラス譲渡担保といいますか,担保権の設定だと,それを読むのですよね,多分。それで考えるということなのだろうと思います。担保権に変容するからなんていう話になると佐久間さんの御疑問がすぐに成り立つわけで,では変容したことを対抗できないのなら,所有権そのものの主張はできるのですかという話になってくるわけですが,恐らくスムーズな解釈論をするのであったらば,所有権留保特約の解釈として二段物権変動といいますか,買主への所有権移転があり,売主に戻るというのがあるのだと考えるのではないかなと思いますけれども,いろいろな意見があろうかと思います。   では,すみません,尾アさん,お願いいたします。 ○尾ア幹事 ここも対抗要件というよりは,担保権の優先関係の話であり,かつ,先ほど触れたことの繰り返しになってしまうのですけれども,所有権留保という観点から改めて整理をしてみたいと思います。繰り返し申し上げているように,円滑な資金調達の実現のためには,一元的な公示の下で優劣が付くということを原則とするのが望ましいと考えております。ですが,事業の成長という観点からは,一定の例外を設ける必要もあり,所有権留保については例外の一つではないかと考えています。といいますのも,所有権留保の場合は,事業が成長するために必要な,商取引先による与信の一形態と考えられるからです。別の言い方をしますと,事業を成長させるための潜在的な貸手にとっての予測可能性の確保の問題と,商取引先にとっての円滑な取引の確保という,トレードオフの関係に立つものをどう調整するのかという問題かと思います。   【案4.1.3.1】と【案4.1.3.2】は対抗要件について述べられているものですが,私が申し上げているのは対抗要件ということではなくて,担保権間の優先関係ということになります。【案4.1.3.1】と【案4.1.3.2】の間にあるような形になるわけですけれども,先ほど申し上げたように,米国におけるPMSIのように,商取引先については,例外的に一定期間は例えば公示を備えずに自動的に最優先として扱い,一定期間を超えて最優先とされるためにはその一定期間内に公示をする必要がある,といったような取扱いが検討されるべきではないかと考えています。ここでの公示というのは担保権間の優先関係を確保するための公示ということです。 ○道垣内部会長 青木則幸さん,お願いします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。1点質問なのですが,対抗要件の基本的な考え方について【案4.1.1.1】か【案4.1.1.2】をとり,ここで,【案4.1.3.1】でいくとなったときに,11ページの方の【案4.2.1.2】にはもう論理的につながらないという話になるのでしょうか。対抗要件を備えた担保権が競合している場合に,順位を決めるその優先順位だけについて適用されるファイリング制度を作っていこうというのが【案4.2.1.2】のアイデアのように思うのですが,そういう優劣,つまり第三者に対抗できる権利だが,しかし中身としては担保だというものについての優劣を決めるだけのメカニズムという意味では,所有権留保も【案4.1.3.1】で対抗要件が備わっているのと同じように考えて,そのうえで,他の担保権に優先するにはファイリングが必要ということにつながらなくもないのではないかと個人的には思っておりますけれども,ここのところはどうなのでしょうか。とはいえ,もちろん,少なくとも目的物と被担保債権との牽連関係がはっきりしているような所有権留保については,その優先ということは重要ですから,その場合でもファイリングさえあれば,他の担保権のファイリングに時間的に後れていても,ほかの担保権に優先するという例外的なルールが必要だと思いますけれども,いずれにしても,ファイリングが全くなくていいのかどうかということは問題になるのではないかと,個人的には思っております。 ○道垣内部会長 今の御発言には質問が含まれていたのでしょうか。 ○笹井幹事 御質問の趣旨を聞き漏らした点があるかも知れませんけれども,【案4.1.3.1】を採る場合,つまり対抗要件が要らないというのか,正確に言うと対抗関係ではないということなのかもしれませんけれども,そうなったときに,11ページの【案4.2.1.2】につながらないとおっしゃいましたでしょうか。【案4.1.3.1】を採った場合に,所有権がどう移転するかということとの関係で,譲渡担保権等との競合がそもそも生じるかどうかという問題を考える必要があるだろうと思います。競合が生じるという場合には,それは【案4.1.3.1】で何の要件もなくして第三者に対抗できるという前提を採った場合でも,競合問題が生じる以上はその優先劣後関係を考える必要がありますので,第2の1で【案4.2.1.1】なり【案4.2.1.2】なりの適用を考える必要があるということになります。ただ,今尾ア幹事からもありましたように,所有権留保に関しては,担保の優劣について原則的な考え方として対抗可能時の前後で決めるのか,ファイリングで決めるのかという第2の1の問題とは別に,例外的なルールとして所有権留保の被担保債権を優先するという考え方はあり得ると思います。それはまた別途例外ルールを考える必要があるという関係かなと思っております。 ○道垣内部会長 沖野さん,お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。これも既に青木先生の御指摘である程度明らかになったように思いますけれども,2点申し上げたいと思いますが,一つは,5ページの3の対抗力,あるいは対抗できるという状態をどのような形で備えられるかということと,優先関係の規律の点ですけれども,いずれにせよ,優先関係については,所有権留保というものの特質を勘案した関係付けと,それと公示の在り方というのが別途必要になるのではないかということです。それを一部なりとも対抗要件のところで対応するのならば,【案4.1.3.2】の方向を模索するということになるかと思いますけれども,それは別出しでということであれば,いずれもあり得るように思っております。   多少気になりますのは,【案4.1.3.2】で,引渡しについては,座長が御指摘になりましたけれども,引渡しというものを要求したときにどうなるかということです。所有権留保特約は結びますし,買主に対して恐らく現実の引渡しはするということになりますので,引渡しを受けた買主が所有権留保特約に同意しているということは,当然というか黙示のというか,占有改定の意思表示がされていると見るということは十分あり得ると思いますし,更にいうと,普通はもう所有権留保特約をするときにそう書いてしまうのではないかと思うのです,ですから,引渡しがなければというのは,結局は実際は全て備えられるということになるのではないかと思います。ですから,引渡しを要求するというのは,当然対抗ではなくて,動産に関する何らかの物権変動だと見たときには,引渡しとして所有権をめぐる物権変動だと見た以上は引渡しがいるという,そういう理論的な説明というか,その場合も一体何の物権変動が起こっているのかというものはありますけれども,その構成のために要求しているということだけなのではないかと思います。   もう一つは,登記制度を設けるかどうかについてです。別途ファイリングなりで優先関係の方は規律するとすると,それとは別に設ける必要があるのかとは思いますけれども,御説明の途中で,また従来からもそう考えられてきたと思うのですけれども,もし何らかの登記でより公示の備わったものに載せるというときに,新しい制度を設けるほか選択肢がないのかということでして,現在の動産譲渡特例法ですけれども,確かにこれは譲渡についてのものだとされております。しかしながら,先ほどの座長が説明なさったところは二段階物権変動という考え方を出されたと思います。二段階物権変動であれば,実は譲渡が再度起こっていることとなりますので,したがって,所有権留保をそのまま載せるということも可能なように思われますし,そのまま載せないにしても,確かに基本的には譲渡なのだけれども,今回担保目的のものというのは,それに即した法律関係を与えていくということであれば,この譲渡登記に所有権留保についてはこれを使うことができるというような特別の扱いなどを考えることはできないかと,それ自体もおよそ排除されるものではないのではないかと思います。ただ,これがいいというよりは,私自身はファイリング等,別途の優先関係を決めるものがあった方がいいと思っておりますけれども。 ○道垣内部会長 動産譲渡登記において所有権留保も一応登記できますよ,それのメリットは何ですか,売主にとって。 ○沖野委員 現在の譲渡担保についても,引渡し,占有改定が自由にできるのになぜ登記をするのかという,そのメリットと同様の話なのかなと思いましたけれども。 ○道垣内部会長 なるほど。では,即時取得を妨げるということ。 ○沖野委員 即時取得を妨げる効力は,登記には当然にはないですよね。 ○道垣内部会長 当然にはね。だから,悪意有過失にするというだけ。 ○沖野委員 ええ,登記の確認が期待されるのであればそうですし,そのほかより明確さを増すといったこともあるでしょうか。これは現在の譲渡担保についてと同様ではないかということで,それ以上のものはないようには思いましたけれども。 ○道垣内部会長 買主から売主に対する占有改定は必要である,ただ,それは所有権留保特約の中にその合意は読み込めるから何もしなくてよいというだけであって,観念的には占有改定が行われていると見るというのが前提ですね,そのときは。 ○沖野委員 そうですね,この【案4.1.3.2】はそうなります。 ○道垣内部会長 よく分かりました。どうもすみません。 ○大西委員 ここの所有権留保につきましては,売主が所有権を留保して売った動産が在庫であって,それを例えば集合物譲渡担保で期限期間設定したみたいなケースはどうなのかというのが一番問題となると思うのですが,ここは先ほど尾アさんもおっしゃったように,両者の利益衡量をバランスよく取ることが重要だと思います。そうした場合,金融機関のようにプロとして与信をする機関と,商取引の債権者というのは,多少は違うのかなと思います。商取引の債権者に対し,いつでも登記をしないと対抗できないというのは酷なのかなと思います。そういう意味で,尾アさんが言うような一定期間において登記等を行えば対抗できるというのも一つの案かなと思います。   ここでちょっと分からないのが,例えば集合物譲渡担保を1年前に取ったときに,そこに納めている売主,これも多分いろいろな新しい商品を納入している訳ですが,そのような商取引の債権者と集合物動産の譲渡担保権者が対抗関係に立つとすると,先ほどの話だと,集合物譲渡担保は最初の引渡しに全て対抗できるということなので,前後関係により譲渡担保権者が勝ってしまう話になります。そうなるとやはり商取引を行う売主にとって酷なのかなと思います。この辺の競合関係は後のテーマなのかもしれませんが,どうなるのかについては分からないので,お聞きしたいと思います。 ○道垣内部会長 そこは自由に御議論いただければいいのですけれども,例えば【案4.1.3.1】を採って,特段の要件がなくて,対抗することができると考えたときの法律関係をどう考えるのかということなのだと思うのです。 ○大西委員 私は,【案4.1.3.2】を採った場合を前提にした質問です。 ○道垣内部会長 【案4.1.3.2】を採った場合ですか。そのときに,所有権が実体的に買主に移って買主から担保が設定されていると見るのか,それとも飽くまで所有権は移転していないのだと見るのかというのが,まず第一にありますよね。飽くまで所有権は移転していないのだとなると,本来的には集合動産譲渡担保の対象にならないですよね。 ○大西委員 おっしゃるとおりですね。 ○道垣内部会長 だから,【案4.1.3.2】を採ったときの実体関係というのをまずどう前提にするのかということがあるのではないでしょうか。それは【案4.1.3.2】を採るに当たっての実体関係をどう考えるのかというのは,正にどういう優劣にするのが妥当なのかということを考えて決めればいい問題で,また,例えば尾アさんがおっしゃったような,また他の国もそういう制度はありますけれども,例えば何週間かは所有権留保は何の対抗要件も要りませんというときに,その間は譲渡担保権者に当然に勝つわけですけれども,2週間なら2週間がたった瞬間に,ではどうなるのかと,その間に登記を,所有権留保を売主がすれば遡ってその人が勝つということになるのか,いや2週間取って一生懸命登記をしましたと,2週間過ぎそうなのでと思ったら,いやこれは実はもう1か月以上前に集合動産譲渡担保の登記がされていますので,そっちが先ですよねということになるのか。これは正に尾アさんおっしゃったように,どういう取引の在り方を考えるのか,どの人を実体的に勝たせるべきなのかということを,皆さんがポリシーの観点から御議論いただいて,決めていくことは可能なことなのではないかと私は思っているのですけれども。 ○大西委員 大西ですけれども,道垣内先生に,そうすると,【案4.1.3.2】というのは,所有権留保というのを,いわゆる譲渡担保類似説に従って,担保的に捉えるということに必ずしもリンクしていないということになるのでしょうか。 ○道垣内部会長 いや,【案4.1.3.2】を,事務局から説明がありましたように,所有権留保の実体的な捉え方について実はいろいろな分かれがありまして,それが安定しているわけではありませんので,一旦譲渡担保の設定になるのですというのは,一つの比較的単純な考え方なのだろうと思うのですけれども,【案4.1.3.2】を採ると必ずそういうことになるのかというと,それはそうではないだろうし,かつ仮に譲渡担保を取るのだということだとしましても,そのようなタイプの譲渡担保,つまり所有権留保型譲渡担保といいますかの場合には,その前に設定されている集合動産譲渡担保との優劣において,所有権留保型譲渡担保の方が勝つのだというポリシー上の判断というのはあり得るのだろうと思います。正に尾アさんが最初におっしゃったようなポリシー上の判断というのをしていかなければいけないし,それはまだできるだろうと,どちらの立場を採ってもできるのだろうとは思いますけれども。 ○大西委員 分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 今のはただ単なる意見というか,解説のつもりだったのですが,別に私に強い見解があるわけでも何でもないのですが。片山さん,どうぞ。 ○片山委員 ありがとうございます。片山です。どなたからも御意見がないということなので,【案4.1.3.2】の引渡しの話ですけれども,これは占有改定ということなのですけれども,譲渡担保の対抗要件としてあれだけ占有改定が問題となっている中で,かつあそこでは当事者が占有改定の意思を明確にしているわけなのですけれども,所有権留保の場合には,所有権移転の合意はあるけれども,二重の移転の合意があるかどうかについても,二重の移転の合意があると擬制し,かつ占有改定の意思表示もあるという擬制をするということを前提とした立法をするということが,果たして妥当なのかどうなのかという点は疑問に思っているところではあります。その意味で,先ほどの私の立場の延長からしますと,この3の2は,主として「さらに」からの後の部分,登記制度を設けるかどうかというところにむしろ力点が置かれている提案だと読むことも必要なのではないかということで,一言申し上げさせていただきました。   そうしますと,非占有担保に関して新しい担保制度を設けるということですと,担保目的での非占有担保については,担保権の設定が擬制されるということですので,恐らく拡大された所有権担保についてはその擬制が働くのだとは思いますが,直接の売主の売掛債権の担保についてその担保の擬制ができるのかどうかという点は,非常に難しい問題ではあるかなと思います。立法例も分かれるところで,それは先ほどの尾ア委員からの発言もありますとおり,商取引の確保をどこまでしていくのかというポリシー決定の問題になるということなのかと思いますが,平成30年の判決というのは,そういう意味で,所有権留保の売主からすると,対抗要件具備の手段として採り得るものはなく,しかも,仮に対抗要件を具備できたとしても,先の譲渡担保の対抗要件の方が優先してしまうということを前提とした上で,なおやはりいわゆる所有権構成が必要なのだという判断をしたのではないかなとは思います。ですから,そういうポリシー決定が仮になされるのだとしたら,【案4.1.3.1】も今後あり得る基本的な構成ではないかなと考えたところではございます。   以上,一応その二つの立場が成り立ち得るということとともに,それから,もう一つは,集合譲渡担保の関係からしますと,数回前に佐久間委員がおっしゃっていたのですけれども,仮に所有権的構成を採るとしても,集合物の中で混和してしまうということになると所有権の主張ができなくなるということになるのだとしたら,在庫の管理であるとかモニタリングの工夫次第によっては留保の主張を封じ込めるという,そういう余地もあるのかもしれないと思っているところでございます。以上,意見でございました。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   重要な御指摘だろうと思います。【案4.1.3.2】の第1文というのが,現在解釈論で行われているときに,その目的は何なのだろうというところが若干ありまして,沖野さんがおっしゃったように,占有改定が推認されるということになりますと,推認されるというだけではないかという話になってしまうので,それならば論理的に必要であるということをそれだけ前提にして,後半部分で登記制度ということを設けるというところにつながらないと,所有権留保について一生懸命議論をするというのは余り意味がないだろうというのは,それはそのとおりかなと思います。 ○阪口幹事 すみません,もしかしたら片山先生のお話でもう尽きているのかも分かりませんけれども,1案と2案というのを二者択一的に書かれているけれども,それでよいのでしょうか。現在の実務的な感覚でいうと,いわゆる狭義の所有権留保は,それは対抗要件はなくていいでしょうが,それ以外は対抗要件を要求すべきなのではないかという,1案と2案を,所有権留保の中身によって分けるという感覚があります。その考え方は,拡大された所有権留保はかなり譲渡担保に近くなっている,他方,狭義の所有権留保は正しく,まだその物を売っていないだけで,売っていない以上渡っていないよねという,本当に物権変動がないというのがダイレクトに当てはまるからです。その二つを分けられないのではないかという議論もあるのかも分からないけれども,少なくとも実務としては,代金を払っていないので物の所有権を渡していないだけのものと,代金が払われて所有権が移転すべき物を取り返しているようなものとは,何か違いがあるのではないかと思っているので,1案と2案が二者択一なのかということはちょっと疑問があると思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   拡大型とかをどう捉えるかというのは問題としてあると思いますし,それはどこをまた分岐点にするのかというのも難しいところかもしれませんけれども,いかがでしょうか。   所有権留保につきましては,片山さんもおっしゃいましたが,第1の1のところをどうするのかというのが決まらないと,それと全く違うタイプのことをするわけにもいきませんし,そうしたときにどうするのかという問題もありますし,さらには優劣関係の問題もありますので,ちょっとこれは今の段階ではこれ以上は詰められないと思います。   本日の審議はちょっと切りがここなので,ここの程度にさせていただきたいと思います。一番重要な第2のところから,きちんと自由に御議論をしていただくとしたいと思います。   それでは,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日もありがとうございました。次回は令和3年8月3日火曜日の午後1時半から午後5時30分までを予定しております。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。本日も大変熱心な御議論を頂き,ありがとうございます。進んでいないようですけれども,非常に有益なポイントを幾つも指摘をしていただいていると私は思っております。また次回もよろしくお願いいたします。   それではどうも失礼いたします。 −了−