法制審議会 刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和3年8月2日(月)   自 午後1時30分                       至 午後3時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 刑事手続において犯罪被害者の氏名等の情報を保護するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗木幹事 ただいまから法制審議会刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 本日もお忙しい中御出席いただき,ありがとうございます。   本日,久保委員,佐藤委員,田中委員,蛭田委員,藤本委員,村瀬委員,吉崎委員,市原幹事,今枝幹事,幹事,重松幹事,成瀬幹事,井上関係官は,オンライン形式により参加されています。   それでは,まず,事務当局から,配布資料について御説明をお願いいたします。 ○栗木幹事 本日,配布資料5として,「要綱(骨子)の修正について」をお配りしています。内容につきましては,後ほど御説明いたします。 ○大澤部会長 それでは,早速,本日の議事に入りたいと存じます。   前回の会議におきましては,要綱(骨子)の第三及び第四について御議論いただき,その後,二巡目の議論として,諮問事項の全体,そして要綱(骨子)の第一及び第二について御議論を頂きました。   その中で,委員の皆様から,要綱(骨子)における各秘匿措置の対象事項をはじめとして,様々な点について御意見を頂き,これを踏まえて,事務当局には,要綱(骨子)の修正も含めた検討をお願いしていたところでありますが,本日,配布資料5といたしまして,「要綱(骨子)の修正について」をお配りいただきました。   そこで,まずは,事務当局から,その内容について御説明いただきたいと思います。 ○栗木幹事 配布資料5について,その概要を御説明します。   この資料は,前回までの御議論を踏まえ,要綱(骨子)の修正について御議論いただくための参考として,事務当局において作成したものです。   この資料では,修正が考えられる項目を「秘匿措置の対象事項」と「その他」に分けて記載しています。   まず,「秘匿措置の対象事項」について,原案では,起訴状の抄本の送達の段階では個人特定事項としつつ,その後の証拠開示等の段階においては被害者の氏名及び住居としているところ,前回までの御議論を踏まえ,三つの案,すなわち,「原案のままとするA案」,「要綱(骨子)全体を通じて,秘匿措置の対象事項を要綱(骨子)第一の一1(1)及び(2)に掲げる者の個人特定事項とするB案」,「要綱(骨子)全体を通じて,秘匿措置の対象事項を被害者の氏名及び住居とするC案」を記載しています。   次に,「その他」,すなわち,「秘匿措置の対象事項」以外の項目については,前回までの御議論を踏まえ,「原案のままとするX案」と「『以下のように修正する』とするY案」を記載しています。   Y案における修正点は,大きく分けて4点です。   1点目は,裁判所が弁護人に対して付した条件等について,その実効性を確保するため,その違反があったときの処置請求に関する規律を明記することとするものであり,要綱(骨子)第一の一14,二5及び三3並びに第四の四がこれに当たります。   2点目は,訴訟書類等の閲覧・謄写及び裁判書等における秘匿措置について,原案では,起訴状における秘匿措置をとった場合に必要的にとることとしているところ,いずれについても,裁判所が,一定の要件の下で,検察官及び弁護人等の意見を聴いた上でとることが「できる」こととするものであり,要綱(骨子)第一の三1及び2並びに第四の一から三までがこれに当たります。   このように,刑事手続の各段階ごとに秘匿措置の必要性・相当性を判断して秘匿措置をとることが「できる」こととするとともに,とり得る措置の内容としても,訴訟書類等の閲覧・謄写の制限について定める刑事訴訟法第299条の6と同様に,秘匿措置の対象事項を被告人に知らせてはならない旨の条件を付すことのほか,被告人に知らせる時期又は方法の指定もできることとしています。   そして,このように秘匿措置をとることができるものとすることに伴い,その要件として,要綱(骨子)第四の一から三までにおいて,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは,秘匿措置をとることができないこととしています。   3点目は,資料2ページ目,要綱(骨子)第一の四について,起訴状における秘匿措置がとられた場合の起訴状の朗読方法の特例に関する規律を修正することとするものです。   この点については,被告人との関係での畏怖・困惑のおそれの判断と,傍聴人との関係での畏怖・困惑のおそれの判断が一致しない場合があり得るとすると,刑事訴訟法第291条第2項後段により被告人に起訴状を示すこととするのは,被告人が個人特定事項を既に了知している場合,すなわち要綱(骨子)第一の二1により,対象事件に該当しないこと又は被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあることを理由として被告人に個人特定事項が通知された場合のうち,当該通知の理由が後者であるときに限られないこととなるため,要綱(骨子)第一の四のうち「(同(2)に該当することを理由とするものに限る。)」との記載を削除することとするものです。   4点目は,資料4ページ目,要綱(骨子)第四の五の,証拠開示における秘匿措置をとった場合の裁判書等における秘匿措置について,原案では刑事訴訟法第299条の4又は第299条の6による措置をとった場合を前提としているところ,条項の引用として,「同法第299条の5第2項」を追加し,裁判所において,検察官が刑事訴訟法第299条の4第2項又は第4項によりとった,弁護人に対しても秘匿する措置を取り消した上で,被告人に知らせてはならない旨の条件を付する措置をとった場合にも,裁判書等における秘匿措置をとることができることとするものです。   要綱(骨子)の修正についての御説明は以上です。 ○大澤部会長 要綱(骨子)の修正の内容に関する御質問等につきましては,後ほど配布資料5に基づいて御議論いただく際にお願いすることといたしまして,ここでは,ただいまの事務当局からの御説明のうち,全体の趣旨や位置付けなどについて,御質問等がございましたら,挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。 ○今枝幹事 前回の部会において,今回の秘匿は,飽くまでも起訴状に記載された事項を対象とするというお話がありましたけれども,起訴状に記載された事項ということになりますと,例えば,被害者の氏名・住居,この二つに限っても,住居については,被害者の自宅が犯行場所になった,被害者方で犯行が行われたという場合には,起訴状に記載されるのですけれども,それ以外のケースで,被害者の住居が起訴状に記載されるということはなかなか思い付かないかなと思います。さらに,個人特定事項ということで,勤務先や,例えば通学している学校の名前や何かを起訴状に記載するということは,あり得るかとは思うのですが,ほとんどレアケースなのかなと思われます。   そうすると,今回,修正案として,B案,C案が出ていますけれども,個人特定事項になったとしても,逆に,氏名・住居に限ったとしても,最終的に秘匿されるのは,被害者の氏名のみが秘匿の対象になる。そういう意味では,B案でもC案でも,起訴状の記載事項を前提とする限りは,それほど大きな違いはないのかなと考えています。   被害者の側の立場から,前回の部会では,それでは狭きに失すると申し上げましたが,私がこのように申し上げるのは,性犯罪の場合の被害申告の話は何度か申し上げましたけれども,秘匿の議論がどこから始まったかというのは,恐らく逗子のストーカー殺人事件が発端だったのかなと思うのです。   あの事件では,被害者の女性が結婚して名字が変わっていて,ストーカーの加害者はその変わった名字を知らないので,変わった名字の方は秘匿してほしいと言ったにもかかわらず,逮捕時に逮捕状を読み上げてしまったので,名前が変わったことが知られるということになりました。   あと,住所に関しては,加害者が,住民票の支援措置が出ていたにもかかわらず,確か探偵か何かをかたって,逗子市が住所を開示してしまったと。後に,民事訴訟で逗子市の方に賠償命令が,損害賠償を認める判決が出ていますけれども,こうしたことがあって,今,この秘匿の議論がされていると思うのです。   それで,ストーカー規制法違反でも,被害者方が犯行現場になることもあり得るかとは思うのですが,必ずしも住所が今回の要綱(骨子)でも秘匿の対象になるとは限らないということを考えると,今回のこの要綱(骨子),修正案も含めてですけれども,これを前提にしても,こうしたストーカーの事件や何かに対処することができるのかという疑問があります。   そういう意味では,やはり起訴状に記載された事項に限るということで果たして適切なのだろうかという疑問がいまだにあるということは申し上げたいと思います。 ○大澤部会長 恐らく,議論の中身に関わる御意見ということになろうかと思いますが,まず,この段階としては,中身に関わらない,この修正に関してもう少し形式的な事柄等で御質問があればお伺いするということかと思います。ほかに何か御質問等ございますでしょうか。特にございませんでしょうか。   一つだけ私から伺いたいと思いますけれども,「要綱(骨子)の修正について」の「その他」は,Y案で主として四つぐらいの内容が含まれているわけですが,パッケージのようにY案という形で包括してありますけれども,必ずしもパッケージで一括ということではないですよね。念のため,確認です。 ○栗木幹事 そのとおりでございます。 ○大澤部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか,よろしいですか。   それでは,審議に入りたいと存じます。   本日は,まず,配布資料5の「要綱(骨子)の修正について」に沿って,議論を進めてまいりたいと存じます。この資料では,大きく二つ,「秘匿措置の対象事項」と「その他」とに分かれていますので,それぞれについて順に御議論いただきたいと存じます。   その上で,要綱(骨子)の第三及び第四については,前回,一巡目の議論をしたということで,今回,二巡目ということになりますが,その二巡目となる御発言がおありでしたら,その点の議論も含めまして,改めて,要綱(骨子)の全体を通じた御議論をいただく,そういうかたちで議論を進めてまいりたいと存じます。   そのような進め方とさせていただくことにつきまして,よろしゅうございますでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,今申し上げたような進め方とさせていただきます。   まず,配布資料5の「秘匿措置の対象事項」について,御意見等がある方は,挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。   既に今枝幹事からは御意見を頂戴したということかと存じますが,更に御意見のある方は,どうかよろしくお願いいたします。 ○成瀬幹事 秘匿措置の対象事項として,A案,B案,C案が示されていますが,先ほど,今枝幹事からも御指摘がありましたように,いずれの案を採用する場合でも,起訴状において秘匿措置をとったことが前提になるというのが,事務当局のお考えであると思います。   そうしますと,A案ないしC案について検討する前提として,起訴状に記載しなければならない事項について,改めて確認しておくことが有益であると考えます。   まず,氏名につきましては,第1回会議において,事務当局から,現在の裁判実務においては,被害者がいる事件では,原則として被害者の氏名を起訴状に記載しなければならないという要請があるとの見解を前提として運用が行われている,という御説明がございました。   他方で,これまでの議論では,被害者の住居や勤務先などの場所についても問題になっていたかと思います。   そこで,裁判所の委員ないし幹事の方にお尋ねしたいのですが,現在の裁判実務においては,証拠上,例えば犯行場所が判明している場合には,氏名の場合と同様に,原則として起訴状に場所を記載しなければならないというお考えで運用されているのでしょうか。御教示を賜れれば幸いです。 ○蛭田委員 現在の運用では,例えば犯行場所であるとか,そういう場所について,証拠上判明している限り,地番まで記載しているというのが一般的だと思います。   証拠上,場所が具体的に判明しているのにもかかわらず,具体的に記載されていないという場合には,起訴状自体の訴因をできるだけ特定しているとは言えないと考える裁判官も,それなりにいるのではないかと思います。 ○成瀬幹事 そうしますと,検察官としては,被害者の氏名のみならず,被害者の住居や勤務先などの場所についても,地番まで含めて起訴状に記載しなければならない場合があるということですね。   このことを前提とした上で,A案ないしC案のいずれが適切であるかについて議論を深めていきたいと思います。 ○蛭田委員 こちらから田中委員に質問させていただきたいのですけれども,一般的に,起訴状に記載されない被害者の住所等の個人特定事項については,基本的には立証上必要のない情報であるということになりますので,証拠として提出されることは想定されていないということでよいのでしょうか。 ○田中委員 ただいまの質問についてですけれども,起訴状に記載されなかった個人特定事項であって秘匿すべきものについては,検察官があえて冒頭陳述等において主張し,要証事項とすることは,基本的には想定し難い上,被告人に知られると問題が生じるような個人特定事項であれば,それを除外して立証すれば足りるため,当該個人特定事項が記載された証拠の取調べをあえて請求することも想定し難いということでよいかと思います。 ○蛭田委員 今のお答えを踏まえて,意見を述べさせていただきたいと思います。   起訴状に記載された情報のみが保護の対象となる場合,起訴状に被害者の氏名以外の情報が記載される場合は限られると思われますので,個人特定事項でそろえる案,氏名・住居でそろえる案のいずれであっても,実際には多くの場合,被害者の氏名しか今回の法律上の保護の対象にはならないということになると思います。   しかし,本諮問に至ったもともとの問題意識は,起訴状に記載された情報か否かにかかわらず,手続全体を通じて被害者の情報を適切に保護するための方法の検討を求められていたものと理解しており,被害者の氏名のみならず,起訴状に記載されていない住所等を含めた情報の保護を求める意見が,先ほど,被害者支援に携わっている今枝幹事からも出ているところです。   起訴状に記載されない,被害者の氏名以外の情報は,証拠として提出されないというのであれば問題ないでしょうが,提出される場合があり得て,その情報について保護の必要性があるということであれば,そうした情報も含めて,被告人側の防御の利益にも配慮しつつ,一貫して保護できるような,そういった法律上の制度を設けるべきと考えており,従前からの意見はこのような観点から申し上げているものです。   そして,今回の法制度で保護の対象とならない情報について,運用によって保護されるということをもし想定しているのであれば,まずは立証上必要のない被害者の情報は,できるだけ提出されないようにすることが大切であると考えております。 ○保坂幹事 先ほどの今枝幹事の御発言にも関連し,今の蛭田委員の御発言にも関連してですが,今枝幹事からは,個別事件でありますけれども,逗子のストーカー事件というのを引き合いにして,恐らくそこで想定されているのは,被害者の住所が分かる,現姓が分かる,それによって加害行為のおそれがある,それが,今回の制度で,仮に起訴状にそもそも住居が書かれない場合には,その後の手続で秘匿対象にならないのはおかしいではないか,という御指摘だと理解いたしました。   そのような場合,既に刑事訴訟法第299条の4において,証人,これは証人請求する場合もそうですが,あるいは証拠書類の中の証人になるような人,被害者は当然それに当たることが多いと思いますけれども,その方については,氏名・住居の秘匿措置というのが既にございます。これについては,検察官から弁護人への証拠開示の後,これが裁判所に出まして訴訟記録になりますと,同法第299条の6によって秘匿措置がとれるということになっております。   さらに,今回,裁判書についても秘匿措置を設けます。これは,起訴状で抄本送達というかたちで秘匿措置をとった場合に加えて,要綱(骨子)の第四の四を見ていただきますと,これは既存の刑事訴訟法第299条の4から第299条の6による措置ですから,起訴状とは連動せずに,証拠開示の段階,あるいは訴訟記録の段階で措置をとって,その措置をとった証人の氏名・住居が裁判書に書かれるという事態になった場合には,それは秘匿措置の対象となるという仕組みにしているわけです。   このような仕組みとなることを前提として,それ以外に,起訴状で措置をとった事項に限ると具体的にこういうところで漏れが出るではないかということがございましたら,御教示いただきたいと思います。 ○今枝幹事 具体的にどういった証拠と詰めて考えているわけではないのですが,ただ,現行法上,先ほど御指摘がありましたように,被害者が証人になる,被害者の供述調書,それであれば現行法上も,氏名・住居については秘匿の対象にすることができるということですけれども,それで全てがカバーできているわけではありませんので,そこのところはあり得るのではないかなと思います。 ○久保委員 先ほどの保坂幹事と同趣旨の発言になりますが,先ほど御指摘いただいたとおり,今回の改正につきましては,前回の刑事訴訟法の改正の際,第299条の4が導入され,そのときの積残しであった起訴状での秘匿について,これまで運用に任せていた起訴状の記載の秘匿措置を実効化するためのその他の措置,あとは裁判所での閲覧・謄写などこれまで運用に任せていた部分について,法律の規定を置いて,安定的に運用できるようにという趣旨だったと思います。   先ほども御指摘があったような保護が必要なのではないかといった点については,刑事訴訟法第299条の4で既に対象となっていると考えておりますので,この要綱(骨子)以上に更に拡大するということについては,必要性もないですし,立法事実としてもいまだ明らかになっていないと考えております。 ○市原幹事 今回の法制度で保護の対象とならない部分に関連して,私の方からも1点申し上げたいと思います。   先ほどの田中委員の御発言からしますと,そもそも起訴状に記載されていない被害者情報のうち立証上の必要があるとして提出される被害者の情報は,相当限られるということになると思われますけれども,やむを得ず提出された情報をどのように保護するかということにつきましても,被害者保護の実効性の観点からしますと,手続全体で一貫して行われることが重要と考えております。   現行法上も,検察官が証拠開示等の場面でとる措置,これは刑事訴訟法第299条の4ですが,これと,裁判所が訴訟書類等の閲覧等の場面でとる措置,これは刑事訴訟法第299条の6でございますが,これは一貫した措置がとられることが想定されていると思います。ですので,運用上のマスキングにつきましても同様に,検察官が証拠開示に当たって事実上マスキングの配慮を行った事案については,その後の手続で同様の配慮を行えるように,例えば,検察官が裁判所に対し,証拠開示の際のマスキングの範囲を通知するなど,検察官が行った配慮の内容を裁判所と共有するような仕組みが必要であると思われます。   また,裁判所も,検察官と同様に,弁護人とやり取りをしてマスキング処理を行うということを前提にするということであれば,前回,成瀬幹事から,刑事訴訟法第40条に関して同趣旨の御提案があったかと思われますけれども,裁判所についても,その根拠となる規定,すなわち,証拠書類等の閲覧・謄写や,裁判書等の謄本の交付の場面で,弁護人に異議がなければ行わないことができる旨の規定を設けるなどの手当ても必要ではないかと考えております。 ○栗木幹事 御指摘の点でございますが,起訴状の抄本を被告人に送達する措置がとられなかった個人特定事項につきまして,訴訟書類等の閲覧・謄写,証拠開示又は裁判書等の謄本等の交付の段階におきまして秘匿の必要性が新たに生じるということは,先ほども話に出ました刑事訴訟法第299条の4の場面を除きますと,基本的に想定し難いと考えております。   起訴状の抄本を被告人に送達する措置がとられなかった場合としましては,起訴状に個人特定事項が記載されたものの,当該措置をとる必要がないと判断された場合か,そもそも起訴状に個人特定事項が記載されなかった場合のいずれかということになるかと思います。   このうち,前者の場合については,既に起訴状謄本の送達を通じて個人特定事項が被告人に知られている以上,その後の手続において,これを秘匿することを可能にする必要はないと考えられます。   また,後者,つまり,個人特定事項が起訴状に記載されなかった場合につきましては,公訴事実の記載として,氏名・住居等の個人特定事項が犯行の客体や場所などに関して必要となる事件においては,現在の裁判実務では,証拠上判明している限り,原則としてこれを起訴状に記載しなければならないとの見解を前提とした運用が行われているということに鑑みますと,起訴状に個人特定事項が記載されなかったということは,基本的に,当該個人特定事項が公訴事実の記載として不要であるか,当該個人特定事項が証拠上判明していないことになるのであり,それにもかかわらず,先ほど田中委員の御発言もございましたが,検察官が,当該個人特定事項を冒頭陳述において主張して要証事項としたり,当該個人特定事項が記載された証拠の取調べを請求する必要が生じることは基本的に想定し難い上,被告人に知られると問題が生じるような個人特定事項であれば,それを除外して立証すれば足りるということでございますので,訴訟書類や裁判書等にその記載等がなされ,秘匿措置が問題となるということは想定し難いと考えられるところでございます。   そうしますと,起訴状の抄本を被告人に送達する措置がとられなかった個人特定事項につきまして,訴訟書類等の閲覧・謄写,裁判書等の謄本等の交付の段階で秘匿の必要性が新たに生じるということは,基本的に想定し難く,そういった場合を念頭に置いて,これに対処するための規律をあえて設けるまでの必要はないと考えられると思います。 ○市原幹事 今の事務当局の御説明について,念のため確認ですけれども,そうしますと,起訴状に記載されていない被害者の特定事項,あるいは住所といった事項が証拠として提出されることがなく,したがって,現在の証拠開示における事実上の配慮を行うことは想定していないと,こういう理解でよろしいでしょうか。 ○栗木幹事 起訴状の抄本を被告人に送達する措置がとられなかった個人特定事項につきまして,その訴訟書類等の閲覧・謄写や裁判書等の謄本等の交付の段階において,秘匿の必要性が新たに生じた場合を完全に否定しているわけではございませんので,そういった場合には現行法での運用と同様に,裁判所はそれぞれの請求者とやり取りを行って,当該事項をマスキングするなどの取扱いをすることもあり得ると考えております。 ○市原幹事 お聞きしたかったのは,今回の秘匿措置がとられた事案で,起訴状に記載されているのは被害者の氏名のみであるという場合に,それ以外の住居ですとか勤務先等について,立証に必要がなく証拠として提出することを想定していないということでしたので,そうすると,住所などは,証拠上ない以上は当然,運用によるマスキングという場面を想定していないという理解でよろしいのでしょうかという質問でした。 ○栗木幹事 繰り返しになるかもしれませんけれども,起訴状の抄本を被告人に送達する措置がとられなかった場合に,あえて秘匿が必要な個人特定事項が記載された証拠を請求したり,あるいはそれを要証事項とするということが基本的に想定し難いと申し上げたところでございまして,およそ全くあり得ないとまで申し上げたわけではございません。   ですから,先ほどの運用の余地について,もちろん残るのは残るのですけれども,基本的に想定し難いということを踏まえますと,先ほど御指摘のような新たな規律を設けるまでの必要はないのではないかという趣旨でございます。 ○市原幹事 それでしたら,先ほどの趣旨はそういう意味で,事実上のマスキングでという余地が残るのであれば,こういう規定,あるいはこういう仕組みが必要ですという趣旨で申し上げたところです。 ○保坂幹事 今,市原幹事がこういう仕組みとおっしゃったのは,前回からの話も踏まえますと,検察官に限りませんけれども,刑事訴訟法第299条第1項による証拠開示について,「相手方に異議のないときは,この限りでない」といったようなただし書的な規定ということなのかと理解をいたしましたけれども,例えば同法第40条の訴訟書類,証拠物の閲覧・謄写権,あるいは同法第46条の裁判書の謄本請求権,こちらはもちろん請求権であって,「できる」,あるいは「請求することができる」となっていますので,請求してもしなくてもどちらでもいいわけですし,請求はしたけれども,やはりこれは撤回するということで対応しても構わないわけです。   ですから,事柄の性質上,当然に放棄ができるものですから,これについて異議がない,つまり,結構ですという場合には,裁判所が何の対応もしなくていいというのは,当たり前のことです。そのため,今,運用で,「ここはいいですか」,「結構です」というかたちでやり取りがされているのだろうと思うわけです。   更に言いますと,刑事訴訟法第299条第1項のただし書につきましては,これは,公判前整理手続になりますと別の規律になりまして,この第299条を1回外した上で,証拠開示について規定をしているわけですが,ここには,いわゆるただし書的な,「異議がないときは,この限りでない」という規定は設けられておりません。これも当然のように,相手方がここは開示は結構ですとか言うのであれば,そこは,言わばマスキングするなりの措置をとった上で対応するということが,これもまた当然のように行われておりますので,この状況でもって,さらに,「異議がないときは,この限りでない」という規定があることが何の役に立つのかというところが,私には少し理解できなかったものですから,何かあえておありでしたら,御教示いただければと思います。 ○市原幹事 まず前提として,こちらから申し上げた,こういう仕組みが必要ですというところは,冒頭に申しましたように,今,保坂幹事から御説明のあったところと,あとは検察官との間で共有する仕組みと,こういう2点の趣旨で申し上げました。   裁判所は,検察官と弁護人という,当事者同士ということではなくて,中立的な立場でございます。その立場から,弁護人とやり取りをして,この範囲は要りますか,要りませんかということを,従前,この部会でネゴシエーションという言葉が出ておりましたけれども,そういうことをしていくということを今後も前提にするということであれば,念のため,そういう規定があった方が,中立的な立場である裁判所にとって,根拠がより明確になるという趣旨でございます。 ○大澤部会長 規定の話と,それから検察官と裁判所の間での,何か事実上の連絡みたいな話と二つあったと思いますけれども,今のお話はどちらのお話だったのでしょうか。 ○市原幹事 規定のところに関するものでございます。 ○今枝幹事 先ほどのお話と関連するのかもしれませんけれども,今回,秘匿の対象について個人特定事項となるのか,被害者の氏名・住居となるのかというところに関し,いずれにしても,法改正がされて,秘匿の範囲について法律上線引きが行われることで,これまで運用で行われていた秘匿について,法改正がなされることによって,これまで秘匿されていたことが秘匿されなくなる,後退するということだけは絶対に避けたいと考えています。   これまでの部会について日弁連の委員会の方で報告をしたときに,そういう意見が強く出ましたので,裁判所の立場からすると,どちらかは分かりませんけれども,秘匿できる範囲というのが決まった場合に,例えばそれを超えるところで,事実上,運用のかたちでというようなことが,果たしてこれまでどおりにできるのかどうかというところに少し危惧を抱いているという意見を申し上げたいと思います。 ○大澤部会長 ただいまの点に関連して,どなたか御発言はございますか。よろしいでしょうか。   ほかでも結構ですが,御意見はございますでしょうか。おおむねよろしゅうございますか。   それでは,御発言がないようですので,ここで10分ほど休憩を取らせていただきたいと思います。   会議の再開は,午後2時30分からということにさせていただきたいと思います。   それでは,休憩とさせていただきます。              (休     憩)              (川原委員 離席) ○大澤部会長 それでは,会議を再開させていただきたいと存じます。   休憩前におきましては,配布資料5の「秘匿措置の対象事項」の部分について御議論いただきましたが,重要な修正が示されている部分でもございますので,もし更に御発言があれば,ここでお伺いをしたいと存じます。   まず,「秘匿措置の対象事項」のところにつきまして,更に御発言のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。よろしいでしょうか。   それでは,「秘匿措置の対象事項」につきましてはこの程度といたしまして,次に,配布資料5の「その他」の部分につきまして,御意見等がある方は,挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。   事務当局から御説明がありましたように,大きく4点ほどの修正ということであったかと思いますが,Y案というものが示されたということでございます。何か御発言等はございますでしょうか。 ○今枝幹事 今回,「その他」の第一の三の訴訟書類のところで,「検察官及び弁護人の意見を聴き,相当と認めるとき」という文言が入っていますけれども,これは,先ほど市原幹事からお話のあった刑事訴訟法第40条の規定に,刑事訴訟法第299条第1項のただし書と同様の文言を加えるといったような,裁判所と検察官,弁護人との間でのネゴシエーションということを意識して,ここを入れられたというわけではないのでしょうか。 ○吉田幹事 今,御指摘のあった「検察官及び弁護人の意見を聴き」という文言は,現行の刑事訴訟法第299条の6などでも用いられているものでございまして,要件判断に当たって,検察官と弁護人という訴訟当事者,両当事者から意見を聴くという趣旨で入っているものと理解しております。   今回の修正案に記載しているのも,基本的にそれと同様のものとして理解しております。 ○今枝幹事 先ほど,「その他」の第一の四の起訴状の朗読のところで,「同(2)に該当することを理由とするものに限る。」のところが削除されている理由について御説明いただいたのですけれども,もう一度御説明をお願いしてもよろしいでしょうか。 ○栗木幹事 「その他」の第一の四は,起訴状における秘匿措置がとられた場合の起訴状の朗読方法の特例の修正についてでございますけれども,原案で「同(2)に該当することを理由とするものに限る。」と書いておりましたのは,被告人の防御に実質的な不利益が生ずるおそれがある場合に限るという趣旨でございまして,どうしてもともとこれに限定していたかと申しますと,被告人との関係での畏怖・困惑のおそれの判断と,傍聴人との関係での畏怖・困惑のおそれの判断が,同じ裁判体で一致しないことはないだろうと考えていたからでございます。   対象となる事件も同じですので,この点について判断が変わることがないということであれば,例外的に被告人に起訴状を示す場合というのは,被告人の防御に実質的な不利益が生じて,被告人に個人特定事項が通知される場合に限ることとすればよいのではないかと考えておりました。   しかしながら,前回の会議で御意見があったように,被告人との関係での畏怖・困惑のおそれの判断と,傍聴人との関係での畏怖・困惑のおそれの判断が一致しない場合があり得るとしますと,このような限定をするということはふさわしくないということになるものですから,限定をする記載を要綱(骨子)から削除することとしたものです。 ○大澤部会長 ほかにいかがでしょうか。特に,御発言はございませんでしょうか。   それでは,ここまで,配布資料5に基づいて,「要綱(骨子)の修正について」というかたちで御議論いただいてきたところでございますが,これまでの御議論も踏まえつつ,要綱(骨子)のどの部分についてでも結構ですので,全体を通じまして,御意見等ある方は,挙手の上,御発言をお願いしたいと存じます。 ○久保委員 全く違う観点から発言を申し上げます。起訴状での秘匿について,実際に運用するとき,どのような動きになるのかということを想像してみました。   現行の刑事訴訟法第299条の4に基づいて秘匿が行われたときに,それに異議があるということになると,当然,裁判所の方で判断をすることになるわけですが,その場合の裁判体というのは,実際にその事件を審理する裁判体と一致しております。それと同様の制度を想定しているのだと思うのですが,起訴状の段階だと,更に別の点を考えなければならないのではないかと考えております。というのも,起訴状の段階ですと,起訴状一本主義がありますので,まず,その段階で,裁判所に対して弁護人がいろいろな情報を主張して,防御の不利益があるということを主張することはなかなか困難だという場面になります。   一方で,検察官の方から,被告人について,例えばこういう多数の前科があるとか,粗暴な行動があるとか,こういうことがあるのだから秘匿してほしいということを,起訴状の段階で,審理を担当する裁判所に対して申し入れるということは,起訴状一本主義の点からも非常に問題があるのではないかと思います。   また一方で,先ほど申し上げたように,それに対して何らかの反論をする場面においては,弁護人が,まだ起訴状の段階ですと,証拠も手に入っていない,具体的な主張を明らかにできない,特に公判前整理手続に付されるような事件においては,これから証拠が開示されて,予定主張を詰めていく段階において,具体的な防御の不利益について明らかにすること自体が難しいということもあり得ます。   そうなってくると,逆に,裁判所の方からは,抽象的な防御の不利益しかないので,その秘匿が相当だと判断され,結果的にその点について明らかにされないという事態も想定されるのではないかと懸念をしております。   刑事訴訟法第299条の4の場面では,既に証拠が開示されて,ある程度審理が進んだ段階ですが,例えば令状について,勾留の判断や保釈の判断は,東京地方裁判所であれば刑事第14部が,審理を担当する裁判体とは違う裁判官が担当しております。それは,起訴状一本主義という点があるからではありますが,起訴状の段階の秘匿については,実際に審理を担当する裁判体以外の裁判官が判断するべきではないかと考えております。 ○吉田幹事 今,御指摘のあった点についてですが,第1回公判期日前であるために,予断排除の原則と抵触を生じないかという観点からの御指摘だったかと思います。この点については,現行法の下で,既に公判前整理手続が存在していて,その中では,例えば,訴因・罰条を明確にさせることなどのほかに,証拠調べ請求をさせたり,また,証拠開示をめぐって検察官と弁護人の間で意見が分かれた場合には,裁判所が裁定を行うということも想定されております。   その手続の中では,例えば,検察官の証拠調べ請求に対して,弁護人が不要であるという意見を述べた場合には,検察官の方でその必要性を疎明するということになってまいりまして,その中で,一定程度,事件の事情にも触れながら,その必要性を疎明していくということになろうかと思いますし,また,証拠開示をめぐって裁判所が裁定をする場合に,検察官や弁護人が意見を述べるに当たっても,やはり証拠関係を踏まえながら,どういった必要性が考えられるのか,あるいは弊害があるのかということを主張していくことになると思われます。   裁判所は,そうした情報に接しながら,そうした訴訟手続を進めることになるわけですが,それでは,これについて予断排除の原則に反すると考えられているかというと,そうではないと思います。   裁判所は,飽くまで,そうした手続に必要な限度で情報に触れて,事件の実体に関する心証形成は行わずに,それぞれの手続を進める上で必要な限度で判断をするということになっていて,また,それで問題ないと解されていると思いますので,今回のこの要綱(骨子)の下での起訴状における秘匿措置について,裁判所に対して通知請求がなされた場合の判断に当たりましても,同様に,裁判所においては,それに必要な限度で情報に触れて,事件の実体についての心証形成は行わないということが十分に可能であると思われますし,その意味で,予断排除の原則に反するものではないと考えられます。   したがいまして,今回の要綱(骨子)の下で,通知請求に対応するのは,実際の被告事件の審理を担当する裁判体ということにしても問題ないものと思われます。むしろ,訴訟の進行に関する事柄でございますので,実際の被告事件の審理を主宰しない裁判所が携わることで,訴訟手続が円滑に進まなくなるおそれもあるのではないかということで,先ほど申し上げたように,今回の要綱(骨子)の下では,通知請求に対する判断を行うのは,被告事件の審理を担当する裁判体ということで問題ないのではないかと考えております。 ○久保委員 今の点に関して,三つ申し上げたいと思います。   まず1点目に,公判前整理手続を今持ち出されましたけれども,公判前整理手続を担当する裁判体と審理を担当する裁判体が一致していることについて,そもそも予断排除の原則から問題があるという批判も聞かれるところです。   2点目について,現在の公判前整理手続の制度を前提としても,起訴状の段階と公判前整理手続になってからとでは,やはり全く大きく異なるのではないかと考えております。というのは,先ほど例に挙げられた場面というのは,既に検察官が証拠を請求した段階であり,その時点で弁護人もそれを謄写することができますので,弁護人としても証拠の内容を見て,具体的な主張を想定し,証拠開示などを進めていくという段階になっております。   それと比較して,起訴状の段階では,まだ弁護人にも起訴状しかなくて,具体的にどういう主張をしていくのかということが全く決まっていない段階とも考えられます。何の資料もない段階で,具体的な主張をするということは非常に難しく,やはり公判前整理手続の途中の段階と起訴状しかない段階とでは,大きく利益状況が異なるのではないかと考えております。   3点目に,今の視点で問題がないかと言われますと,やはり公判前整理手続を実際にやっていく中で,検察官の証明予定事実記載書やそのほかの書面に予断を生ぜしめるような問題ある主張が記載されているということは,実際にはあると考えております。   例えば,実際に担当した事件でありましたのは,人が亡くなったという事件において,亡くなったことも含めた責任を問うことを前提とした逮捕,例えば殺人などで逮捕されていたケースで,死因が特定できず,結局,殺人では起訴されず,暴行や傷害で起訴されましたというときに,死因というのは,当該被告人には帰責させられないはずですが,証明予定事実の中で死亡という結果について,予断を生ぜしめるような形で記載されているということはございます。   ですので,現行法の公判前整理手続の中で,予断を生ぜしめるような事情が検察官から主張されないということ,これは事実とは異なるのではないかと思います。 ○保坂幹事 先ほど吉田幹事からは,公判前整理手続との対比で御説明しましたけれども,刑事訴訟法第299条の4,先ほど久保委員は,これは証拠開示の段階だから問題はないとおっしゃいましたが,同法第299条の4と第299条の5の関係ですね。これも,出来事としては,第1回公判前に起きている事柄でして,その段階で検察官と弁護人の間の秘匿をめぐる裁定については,同法第299条の5で裁判所が行うという仕組みになっているところですので,起訴状の秘匿措置についての通知請求だけを特別に裁判所以外の裁判体で取り扱う理由はないだろうと事務当局としては考えております。   それから,久保委員が,起訴状をもらったばかりの段階では,防御の実質的不利益が何なのかというのは言えないではないかとおっしゃるわけですけれども,その通知請求自体は別に時期を限定しておりませんので,証拠開示を受けてから,起訴状の抄本のところにチャレンジしても結構かと思いますし,あるいは手続が進めば,証拠開示の段階で,被害者の氏名・住居,あるいは個人特定事項というのを証拠開示として知る機会がまたございますので,その段階でじっくりと防御の実質的不利益を主張されて,それで防御準備に入っていっていただければいいのではないかと思います。 ○久保委員 今,保坂幹事がおっしゃった,時期を限定しないという点は非常に重要だと考えております。やはり,起訴状が送達されて,その段階で異議を申し述べなかったときに,それは異議がないものとして取り扱われることのないよう,具体的に証拠開示を受けてから,起訴状の秘匿措置も含めて異議を言えるような制度にしていただくということは必要だと思っております。 ○今枝幹事 秘匿の範囲については,従前から主張していますように,起訴状に書かれた事項に限らず,個人特定事項でという意見ではありますけれども,その辺りは,日弁連の犯罪被害者支援委員会の方でもまた更に議論して,検討していきたいとは思っております。   先ほど蛭田委員から,そもそも今回の改正の趣旨が何だったのかということについて,第1回会議のときに,「起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置に関するこれまでの国会からの指摘」という資料が配布されていたかと思いますけれども,その中で,特に性犯罪に関する刑法の改正で,衆・参両院の附帯決議が出ていますけれども,その両院の附帯決議の中で,被害者の再被害のおそれに配慮すべきであるとの指摘も踏まえて検討することというのが両方とも入っていますので,やはりそういう意味では,起訴状に記載された事項に限るというのは,これらの附帯決議の趣旨からしても狭いのではないかと考えているという意見を申し上げておきたいと思います。 ○市原幹事 少し別の視点でございますが,確認をさせていただきます。   前回,私の方から,今回の要綱(骨子)による起訴状の秘匿措置を続けることが相当でなくなった場合などにおいて,事後的にこの措置の取消しをするための規定が必要ではないかということを申し上げましたけれども,今回の修正案では,これに関する規定は盛り込まれておりません。その理由について,事務当局から御説明いただけますでしょうか。 ○吉田幹事 今回の修正案では,起訴状における秘匿措置をとった場合,その後の手続,例えば訴訟書類等の閲覧・謄写や裁判書等の謄本等の交付の段階で,裁判所が裁量的に措置をとるかどうかを判断することとしております。   このように,裁判所が場面ごとに措置をとるべきかどうかを判断する仕組みにする場合には,手続的に先行する起訴状における秘匿措置をとっていることが前提ですけれども,それを維持するかどうかを改めて判断することになりますので,起訴状における秘匿措置に係る判断に拘束されないことになります。   そのため,わざわざ起訴状における秘匿措置を取り消す必要はないということで,そのような取消しの規律は設けていないということでございます。   その比較として申し上げますと,現行法の被害者特定事項の公開の法廷における秘匿決定においては,その決定がなされますと,それに連動するかたちで,起訴状の朗読方法や証拠書類の朗読方法などが定まってくるという関係にございますので,そうした後ろの手続で秘匿のための措置をとる必要がないのであれば,根っこのところの秘匿決定を取り消す必要があるということで,取消しの規律が設けられているということでございます。   そのような構造上の違いがございますので,今回の要綱(骨子)の修正案においては,取消しに関する規律を設けていないということでございます。 ○市原幹事 ただいまの事務当局の御説明は,後の手続との関係での御説明であったかと思いますけれども,前回,こちらから指摘をさせていただきましたもう一つの必要性,すなわち公開の法廷での秘匿決定との関係で,1点お尋ねをしたいと思います。   今回の起訴状における秘匿措置がとられている事件で,公開の法廷での秘匿決定が取り消された場合ですけれども,この場合には,被告人が在廷している法廷で,秘匿措置に係る個人特定事項をこの公開の法廷で明らかにするということは特に問題がなくなると,こういう理解でよろしいのでしょうか。 ○栗木幹事 御指摘の起訴状の抄本を被告人に送達する措置と,それから公開の法廷における被害者特定事項の秘匿決定に基づく措置は,それぞれの手続段階で被告人が個人特定事項又は被害者特定事項を知る機会があることに対応して,それぞれの手続段階において措置をとることができるようにするものでございます。   お尋ねは,起訴状の抄本を被告人に送達する措置に係る被害者特定事項を,被告人に対しても傍聴人に対しても秘匿する必要がなくなった場合であって,当該被害者特定事項について事後的に公開の法廷における秘匿決定が取り消されたときを想定したものと思われますが,そうであるとすれば,当該被害者特定事項を公開の法廷で明らかにすることに問題はないと考えられます。 ○蛭田委員 確認的な質問と捜査段階の秘匿措置についての質問をさせていただこうと思いますけれども,1点ずつ聞かせていただきます。   念のための確認ですけれども,前回までの事務当局からの御説明によれば,本要綱(骨子)による起訴状の秘匿措置や逮捕手続等の秘匿措置は,被疑者・被告人が被害者の情報を知らない場合にとられることを前提にしていると理解しておりますけれども,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○栗木幹事 まず,起訴状の場面について申しますと,起訴状の抄本を被告人に送達する措置について,被告人が被害者等の個人特定事項を把握していないということは,要件としておりません。被告人が既に被害者等の個人特定事項を把握しているか否かが検察官にとって明らかでない場合に,検察官が,被告人が把握しているものと判断して起訴状の抄本を被告人に送達する措置をとらないこととしたところ,被告人が起訴状謄本の送達によって初めて個人特定事項を知ることとなった場合には,本来被告人に対して秘匿されるべきであった被害者等の個人特定事項が被告人に知られることになって,取り返しのつかない事態となり得るところです。   他方,仮に,被告人が被害者等の個人特定事項を把握していた場合には,当該個人特定事項について秘匿措置をとったとしても,被告人の防御に支障を生じることはないと考えられるところです。   そこで,冒頭申し上げたとおり,被告人が被害者等の個人特定事項を把握していないことを要綱(骨子)では要件とせず,措置をとることができることとしております。   もっとも,検察官におきまして,被告人が被害者等の個人特定事項を把握していることが明らかであると判断できる場合等においては,当該措置をとる必要がないことが明らかであるとして当該措置をとらないこともあると考えられます。   これについては,逮捕手続等における場面でも同様のことかと思います。              (川原委員 着席) ○蛭田委員 別の関係ですけれども,捜査段階の秘匿措置に関して,まず1点目ですが,要綱(骨子)の第二の一3のところですけれども,逮捕状の抄本については「示すことができる」ものとされており,一方,要綱(骨子)第二の二3においては,勾留状の抄本については「示すものとする」という形にされています。これはどのような理由からでしょうか。 ○栗木幹事 御指摘の差異は,それぞれ逮捕状,勾留状の本来的な性格に応じた規定振りとしていることによるものでございます。   まず,逮捕状でございますが,これは許可状の性質を有するものでございまして,逮捕状の発付を受けた捜査機関は,これを執行する義務を負うわけではないとされております。また,逮捕状の有効期間は7日間又はそれ以上とされておりますが,逮捕状が発付された後,これを執行するまでの間に事情が変化し,逮捕状を被疑者に示しても差し支えない状況となることもあり得るものと考えられます。   そこで,御指摘の要綱(骨子)第二の一3におきましては,「逮捕状に代えて逮捕状の抄本を被疑者に示すことができる」こととしております。   これに対しまして,勾留状は命令状の性質を有するものでございまして,勾留状の発付を受けた捜査機関は,これを執行する義務を負うものとされております。   したがって,裁判官が被疑者に示すものとして勾留状の抄本を交付した場合には,捜査機関はこれを被疑者に示す義務を負うと解するのが自然であると考えられます。   また,勾留状が発付された場合は,通常,速やかにこれを執行することとなるため,その発付から執行までの間に事情が変化し,勾留状を被疑者に示しても差し支えない状況となることは,基本的に想定されないものと考えられます。 ○蛭田委員 続いてもう1点ですが,検察官から,要綱(骨子)第二の二1の被疑事件の告知を個人特定事項を明らかにしない方法により行うこと及び被疑者呈示用の勾留状の抄本の交付請求があったものの,裁判官において同「2」ただし書によって勾留状抄本を交付しないということにして請求を却下する場合,検察官による準抗告はできないと,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○栗木幹事 御指摘の要綱(骨子)第二の二2の部分においては,裁判官は,請求に係る者が対象者に当たらないことが「明らかな」場合を除いて,秘匿措置をとらなければならないとしております。   この趣旨は,裁判官は,必ずしも十分な判断資料を有しているわけではないため,当該請求に係る者に関する事情を把握している捜査機関の判断を基本的に尊重すべきであって,被疑事実の要旨の記載自体や疎明資料から容易にその該当性を判断できる場合に限って,秘匿措置をとらないこととするのが相当であると考えられることによるものでございます。   その上で,お尋ねのように,裁判官が請求を却下した場合,その裁判は,準抗告について規定する刑事訴訟法第429条第1項第2号の「勾留に関する裁判」に該当いたします。   そして,裁判官がその請求についての判断を誤った場合には,被害者等の情報保護の必要性に照らしまして,検察官に不服申立ての途を認めるのが相当でございまして,それゆえ,要綱(骨子)においては,当該裁判について,対象者に該当することを理由とする準抗告を制約することとはしておりません。   したがって,当該裁判に不服がある場合には,検察官は,準抗告をすることが可能であると考えております。 ○市原幹事 捜査段階における秘匿措置に関連して,1点申し上げます。   勾留状謄本の交付請求に関する規定は,刑事訴訟規則にあることなどから,今回の要綱(骨子)には勾留手続で秘匿措置をとった場合における勾留状の謄本・抄本の在り方に関する規定はありませんけれども,今回の要綱(骨子)と密接に関連するものと思われますので,この部会で認識を共有しておく必要があると考えておりますので,この点の意見を申し上げておきたいと思います。   本要綱(骨子)のとおりの規定が整備された場合,基本的には勾留状の謄本・抄本の交付についても,起訴状における秘匿措置の場合と同様の考え方に基づく仕組みを考えるのが相当であろうと考えております。具体的には,勾留手続における秘匿措置がとられた場合,被疑者・弁護人からの勾留状謄本の請求に対して,被疑者に対しては抄本を,弁護人に対しては,起訴状と同様の一定のおそれがある場合を除いて,被疑者に知らせてはならない旨の条件付きで謄本を交付するというものです。   その上で,この謄本・抄本の交付に対しては,起訴状と同様に,通知請求,あるいは不服申立ての仕組みを設けるということが考えられると思っております。 ○久保委員 勾留状の交付の関係になるのですけれども,これまでの会議でも申し上げたように,勾留状などの段階では,弁護人として一番気になるのは,やはり利害関係,利益相反関係の確認に支障が生じないかという点になります。   これまで発言したことに加えて,国選弁護人の場合,どのような手続になっているかについて申し上げたいと思います。   国選弁護人の選任の希望があった場合には,法テラスの方に弁護人の候補者を指名してほしいという連絡があり,法テラスと国選弁護人の候補者との間で手続をすることになります。実際,事務所に待機している弁護士に対しては,通常,電話がかかってきて,勾留状の要旨を述べて,被害者あるいは共犯者等について利益相反関係がないか,例えば,共犯事件であれば同じ事務所の中で既に共犯者を担当していないのか,あるいは被害者について,被害者側の代理人になっていないかという点について,その指名の段階で電話で確認を取ります。東京の場合は電話ですけれども,地方では,指名の段階で,事実上,勾留状の写しが候補者に送られるというような運用もなされていると伺っております。   私選弁護人では,事実上,警察との間でいろいろなやり取りができる場合もあるとは思うのですけれども,法テラスの指名の段階になりますと,そこで確認をしなければならず,名前が分からないので確認できませんということになると,法テラスの指名の手続上,かなり支障が生じるのではないかと予測されますので,それについて御紹介しました。 ○大澤部会長 今の点に関連してでも結構ですし,他の点でも結構ですが,いかがでしょうか。大体,皆様よろしゅうございますでしょうか。   それでは,おおむね議論は尽きたようですので,本日の審議はここまでとさせていただきたいと存じます。   本日は,要綱(骨子)の修正について御議論いただくとともに,それを踏まえて,改めて要綱(骨子)全体を通じて御議論いただきました。   そこで,事務当局におかれましては,これまでの議論を踏まえて,要綱(骨子)の修正について御検討いただき,次回の会議でその結果をお示しいただきたいと思います。要綱(骨子)の修正案を作成する場合には,委員・幹事の皆様に事前に御検討いただく時間も必要ですので,次回の会議の前に,委員・幹事の皆様に送付していただけるようにお願いいたします。   そして,次回の会議においては,当部会としての詰めの議論を行いたいと思っております。次回の会議の進め方などにつきまして,ただいま申し上げたとおりでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   次回の予定につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○栗木幹事 次回の第4回会議は,令和3年8月24日(火)午後1時30分からを予定しております。場所については,法務省20階第一会議室です。本日の会場とは異なりますので,御注意ください。Teamsによる参加も可能でございます。詳細につきましては,別途御案内申し上げます。 ○大澤部会長 緊急事態宣言が続いている状況ですので,お集まりいただくことは難しい状況かもしれませんが,また,事務当局の方から御案内を差し上げますので,どうぞよろしくお願いいたします。   本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料につきましても公表することとしたいと思います。そのような取扱いとさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   本日予定した議事は以上でございます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-