法制審議会 担保法制部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和3年8月24日(火) 自 午後1時29分                      至 午後5時25分 第2 場 所  法務省7階・共用会議室6・7 第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(5) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは,大体予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第6回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中御出席いただきまして,どうもありがとうございます。   本日は倉部さんと内野さんが欠席と伺っております。また,中小企業庁の遠藤さんは15時から16時の間に若干,30分程度中座されるということでございます。   また,委員の交代がございましたので,報告をさせていただきますと,小出委員が退任されまして,新たに金子委員が就任されました。ただ,金子委員は本日16時ぐらいから出席と伺っております。したがって,一旦休憩を取った後に,再開のときに自己紹介をしていただくことにしたいと思います。   そこで,審議に入りますが,まず配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 新たにお送りいたしました資料として,部会資料6「担保法制の見直しに向けた検討(5)」がございます。こちらにつきましては,後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。   資料につきましては以上です。 ○道垣内部会長 資料を御確認いただけましたでしょうか。   それでは,先ほど確認いたしました部会資料6「担保法制の身直しに向けた検討(5)」について議論を行いたいと思います。   事務当局から,まず,部会資料6の第1の1,新たな規定に係る担保権の実行方法について説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 まず,この資料の位置付けを御説明させていただきたいと思います。部会資料6は,担保権の実行のうち動産を目的物とする担保権に関する基本的な部分を対象としております。目的物が特定物である場合のほか,集合物である場合も基本的に議論の対象としておりますが,集合物に関する固有の問題については,改めて次の資料において取り上げる予定でございます。   それでは,1ページの「第1 新たな規定に係る担保権の実行方法」の「1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法」について御説明いたします。   ここでは,今般規定を整備しようとしている動産を目的物とする担保権について,私的実行として,いわゆる帰属清算方式と処分清算方式の二つを認めるほか,これらに加えて,民事執行法上の競売の方法による実行を認めることを提案しています。現行法の動産譲渡担保については,御承知のとおり,帰属清算方式による実行と処分清算方式による実行が認められており,このような簡易な実行が譲渡担保の利点ともいわれておりますので,本文ではこれを踏襲し,これらの方法による実行を認めることを御提案しています。民事執行法の競売による実行については,現行法上,動産譲渡担保について民事執行法第190条の競売による実行が可能か否かは明確ではありませんが,売却価格の適正さが一定程度担保され,実行後の清算金をめぐる争いが生じるリスクを回避することができるなどの利点があることを踏まえ,新たな規定を整備するに当たっては,これを認めることとするという考え方を示しています。   私的実行及び民事執行法上の競売による実行を認めることとして,新たな規定に係る担保権について,担保目的取引規律型を採用した場合と,担保物権創設型を採用することとした場合では,設ける規定の在り方が異なるものと考えられます。具体的に申し上げると,所有権の移転という形式をとる担保目的取引規律型では,私的実行の権能は所有権の効力の一部であるという説明が可能ですが,担保物権創設型では,担保物権の内容として私的実行の権限を認めることとするか,それとも,現行法上の商事質権の流質契約と同様に,私的実行の合意がされた場合の効果として私的実行の権限を生じることとするのかという点が問題となります。この点についても御意見を賜れればと考えております。   また,帰属清算方式と処分清算方式の双方を認めることとした場合に,担保権者がそのどちらによって実行するかを選択することができるかどうかという点も問題となります。判例上は選択することができるとされている一方で,学説上は帰属清算方式を原則とすべきという見解もございます。ここでは,清算金が高額になる場面では帰属清算方式による実行が困難であることや,帰属清算方式の手続の間の目的物の価額の下落のリスクを担保権者が負うこと等を踏まえ,担保権者がその実行方法を選択することができるということを御提案しています。   なお,この項では,譲渡担保に対応するものとして設ける担保権について検討しており,所有権留保については追って検討とさせていただいております。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見を伺えればと思います。よろしくお願いします。佐久間さん,どうぞ。 ○佐久間委員 担保物権創設型の場合について書かれていることに関して,少し意見がございます。まず,私は,確たる意見があるわけではありませんが,実務では現在の判例を前提として動いているのではないかと思いますので,それではどうしても駄目だというような実害というのですかね,不都合があるというところがあれば別ですが,そうでなければ,現在の判例の立場を基本的に維持した方がいいのではないかと思っています。   そのことを申し上げた上で,担保物権創設型の場合に,当事者の合意を基に所有権を取得させてうんぬんということが御説明としてありました。それはそうなのだろうと思うのですが,資料の2ページの9行目,10行目辺りから,質権の規律と並びになるからいいではないかと書かれているのですけれども,民法上の質ではありませんけれども,私的実行が許される質との並びということだといたしましても,担保権のままで私的実行ができているかというと,多分それはそうではなくて,所有権をある段階で取得し,次いでそのまま自己の所有としておくか,通常は処分をするという流れをとっているのだと思うのです。   そうだとすると,ここで担保物権創設型というのは,第1回か第2回に確認させていただいたところ,これは所有権に基づくものではなくて,やはり純粋の担保権だと構成するということだといたしますと,そこで所有権の取得という段階を一旦経ずに,直ちに担保権の効力として,私的実行で2類型あると,自由に担保権者が選べますというのは,どうしてもやはり現行法上にはないものを創設することになるのではないかと思います。そのようなものを創設すること自体が駄目だというわけではないのですけれども,その点は意識しておくことが大事なのではないかと思いました。   と申しますのは,この後に,例えば3の(3)とか4の(1)で,担保権を消滅させるというような文言が出てくるのですけれども,飽くまでこれは担保物権創設型の場合ですけれども,担保物権創設型を採る場合には,私が今申し上げたとおりのことで合っているとするならば,元の担保権者は所有権をある段階で取得するということになるので,その後,担保権が消滅するというような考え方は採りづらいのではないかと思いました。   これが1点で,もう1点は,当事者の合意を基礎として効果を与えるのだということになりますと,例えば,当事者の間で帰属清算型だという合意がされている場合に,それでも処分清算を認めるということは,なかなか難しいということになるのではないかと思いました。これが2点目です。   3点目は,もし担保物権創設型を採って,これは純粋の担保権なのだけれども私的実行が可能であると,民法上というか一般法上,するということになりますと,質権の規律がそのままでいいのかということは考えなければいけないのではないかと思いました。つまり,民法上の質権であったら私的実行はできません,もう一つの担保権だったらできますというのは,もちろん権利が違うのだからそうなのだという説明はあると思いますけれども,占有を取得している人が実行するときに私的実行ができなくて,占有すら取得していない,現実の占有の話ですが,占有改定でしか取得していないという人が私的実行できますというのは,なかなか理屈として難しいことにならないのかなと思います。   以上,飽くまで担保物権創設型の場合はこうなのではないでしょうかという意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。大変鋭い分析だろうと思うのですが,第1点目の,流質というふうな合意をするときには,流質によって一旦,質権者に所有権が確定的に帰属した後の処分という形になるのではないかということだろうと思うのですが,それは民法349条が,質権者は弁済として質物の所有権を取得させ,その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない,としている部分の後半の,その他の質物の処分のときにも所有権が質権者に一旦移転しているというふうに,この条文は読むべきなのでしょうか。 ○佐久間委員 民法上は,飽くまでそれはできないということになっているので,そこをどう読むかということを考えたのではなくて,民法上はできないとなっているところ,例えば質屋営業法とか商法ですと,その例外則というのか,できるという規定になっているわけですが,いずれも一旦,例えば質屋営業法でしたら,流質期限が経過したら所有権取得するとか,商法も弁済として質物の所有権を取得させる旨の契約ができて,所有権を取得させるということなので,一旦所有権取得というのがかむのではないかと思いました。   今,道垣内先生がおっしゃった民法の規定に関して言うと,それは飽くまでできないということなので,できるということにした場合に,純粋に所有権取得をかませないで,処分の形態も認められますよというようなことが現行法上,ないのかなと私は理解していました。間違っているかもしれませんけれども。 ○道垣内部会長 質屋営業法はそうかもしれませんが,商法515条というのは民法の規定を適用しないというだけなので,所有権を取得するという形の約定は有効だと書いているわけではないのではないですか。 ○佐久間委員 そうでしたっけ。弁済として質物の所有権の取得をさせる旨の契約をすることができると書いていなかったでしたっけ。 ○道垣内部会長 商法515条でしょう。 ○佐久間委員 すみません,少し誤解をしていましたけれども,では,民法349条でしたっけ,の後段の方で合意をすれば,所有権取得をかませないでもオーケーだということなのかもしれません。ただ,そうであったとしても,2点目ですけれども,帰属清算,処分清算の,それは合意に拘束されるのではないかと思いまして,冒頭で申しましたが,実害がないのであれば,私は現行の判例を維持した方がいいのではないかと思っておりますので,やはりよろしくないのではないかと思うということになります。すみません,間違いを申しまして。 ○道垣内部会長 いえ,ありがとうございました。 ○横山委員 私もきちんと分かっているわけではないのですけれども,むしろ佐久間委員とは逆に,担保目的取引規律型を採用するか,担保物権創設型を採用するかによって,理論的にそれほど違うのだろうかという疑問があります。と申しますのも,所有権の移転の形式をとっているといっても,飽くまでその所有権の移転は担保権の範囲内だということになりますと,その所有権者に果たして担保権以上の完全な所有権の権限が移っているのかは,やはり議論になり得るのではないかと思います。佐久間先生が先ほどおっしゃったように,判例は,所有権の取得をしてから処分するのだと説明しているといえるのかは,少し分からないのですけれども,単純に考えますと,担保権の範囲に限られた所有権に私的実行の権能が含まれているかどうかは,理論的にやはり問題となり得ると思いました。   他方,担保物権に私的実行権能が含まれるかどうかは,果たして担保物権である権利の性質から当然に導かれることなのか,それとも,その担保権に含まれる優先弁済権の実現を裁判所においてすべきかどうかというのは,法政策の問題なのかも,問題となり得ると思います。ですので,どちらの理論的構成を採るかによって結論が必然的に変わるということはないのではないかと思いました。担保目的取引規律型を採用するか,担保物権創設型を採用するかによって理論的に決まるのではなく,どちらかというと,結論の妥当性によって決まるのではないかと私自身は思っております。その結論の妥当性をどう考えるかについては,御議論いただければと思っております。私自身はどう考えているかといいますと,実際上,従来の譲渡担保,所有権留保は,私的実行の権能を認める担保だということが非常に重要だと思いますので,それは認めるべきではないかと考えています。また,合意がある場合には私的実行ができるということになりますと,結局のところ譲渡担保,あるいは所有権留保については,私的実行の権能を与える合意をそもそも設定時に類型的にしていると解釈できるのではないかとも思いました。ですので,個別に合意が要るということの意味がどれだけあるのかということを考えまして,結論的には,どちらの法形式で立法するにしても,合意がなくても担保権者に私的実行権能を認めるべきではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。大変鋭い分析なのですが,私の見解というわけではなく,この資料が考えている内容というのを私の理解で申し上げますと,所有権というものについて担保の範囲に制約されるというけれども,しかし,それは所有権というところから始まるので,それを制約しても,その処分権限とか,その引渡しを求める権限とか,そういうものが,まだ残っているといいますか,制約されても,そこに含まれているというのが理屈上は可能だろうと,私的実行権能というのがそれに含まれているのは可能であると考えることができる。これに対して,担保物権であるというふうなところから始まると,担保物権というものに,日本民法上とか日本法上,そういうふうな私的実行権限が一般的には認められていないと考えると,日本法上の担保物権であると性質決定してしまうと,そう簡単には私的実行権限というのが認められるということにはならないのではないか,ほかの担保物権とのバランスとか,理論的な整合性というものを考えなければいけないのではないだろうかということなのだろうと思うのです。そして,それではどうして質権の話がここで出てくるのかというと,質権のこの349条といいますか,商法515条といいますか,これは本当はよく分からない条文ですが,質権以外の別の契約が合意としてあると,そういう話ではないのだろうと思うのです。合意があることによって質権の物権的な内容にそれがなるというふうな,非常に特殊なもののような気が私にはするのです。そうしないと,第三者に対し,それが当然に対抗できるということにはなりません。そういうふうな制度がありますので,そこで,担保物権に付随する合意を物権中に組み込むという形にして,そこと一緒だよというふうなことで,日本法上の担保物権として突出していないという形の正当化というものをしたいということなのだと思うのです。   しかし,さらに,横山さんがおっしゃったように,その合意は読み込めるのではないのかと言われると,正にそのとおりであって,外で明示の合意ができて,物権の中に組み込むことができるというのだったらば,それはそういった契約だよね,そういった合意があるというタイプの物権設定なのだよねと考えるということも可能ではないかというと,それはそのとおりだと私も思います。私自身は性格上,新しい担保物権を作るのだったら,別にどういう内容にしようが勝手に決めればいいではないかという感じがしてしまうわけなのですけれども,資料としてはそこを既存の法制度との間の整合性というのを非常に重んじて,そこを何とか説明して正当化できなければ気持ちが悪いよねというところから来ているということでございます。そういうふうなことで御理解いただければと思いますが,すみません,要らない解説だったかもしれませんが。 ○片山委員 片山でございます。基本的には横山委員が御説明されたこととほぼ同じということになりますし,また,その後,道垣内部会長の方から御説明を頂いたので,改めてここで発言をする意義はないのかとは思われますが,若干,判例法理の理解等も含めて発言をさせていただきます。私自身もこの三つの方法を認めることには大賛成ですが,それを担保目的取引規律型と担保物権創設型と対比して,違いがあるのだというところには若干違和感を覚えているところです。原則例外関係はあるのかも知れませんが,両者に本質的な結びつきはないであろうと思っております。それは,基本的に私的実行権を所有権として基礎付けるということではなくして,担保権としての換価処分権として私的実行権が認められる,それが債権者,担保権者に与えられるかどうかという問題で,それは,担保目的規律型であろうと,担保物権創設型であろうと,基本的には変わらないところではないかと思っております。   判例法の位置付けとしましても,1ページ33行目の,担保目的取引規律型を採用する場合は,というくだりですけれども,そこでは担保目的を達成するために必要な範囲であれば,所有権が債権者に移転しているため,これに基づく権能として私的実行をすることができるという説明が成り立ち得るということですが,確かに判例法理は担保目的を達成するのに必要な範囲で所有権が移転すると説明はしているわけですけれども,これは主として弁済期到来前の法律関係を説明する場合にそう説明をしているということであって,逆に判例法理は,弁済期が到来すれば,その後,債権者が換価処分権を取得するという説明をしています。これは,もちろん現行の判例法理としての譲渡担保においては,所有権によって基礎付けられているという説明にならざるを得ないのでしょうが,それは本質的には,所有権ということではなくて,およそ担保権であることによって認められるべき権能ということであって,所有権を取得しているからその権能が認められる,換価処分ができるとか,あるいは所有権を取得していなければ換価処分はできないということではないと思っています。   それから,先ほどの,担保物権創設型を採った場合には別途合意が必要であるというのは,現行の質権とか抵当権の実行方法との対比をしますと,恐らくそのとおりということになるのでしょうが,それは逆に言いますと,質権や抵当権についても同じような改正が可能であるということであれば,十分に整合性は保てるということになるのでしょうか。私的実行というのは,要するに,所有権とは切り離した形で,国家機関による執行裁判所が主導する実行手続によらない,担保権者主導の実行方法を意味するわけですから,立法論をする際には,担保権者としての換価処分権をどこまで認めるべきか,その中で私的実行権能をどこまで認めるべきかという政策的な議論をすべきであって,その点はいずれの型によって異なるところではないと考えた次第でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見ございますでしょうか。   ここまでのところ,理屈上いろいろ複雑に考えて限界を考えるよりも,もっとポリシーの問題として考えていけばいいのではないかという意見があり,他方,理屈がうまく付いているのかといっても,それは本当は付いていないよというのが佐久間さんのお話がありました。そうなると,佐久間さんの話も,あるいは逆に,そんな細かいことは諦めて,ポリシーの問題として政策的に決定するとなるのかもしれません。佐久間さん,お願いします。 ○佐久間委員 ありがとうございます。ポリシーで決定すればいいというのはそのとおりだとある面,思うのですけれども,ここでそのポリシーを今の譲渡担保についてのみとるというのは,本当にそれで済むのでしょうか。片山先生もおっしゃいましたけれども,では抵当権はどうするのだ,質権はどうするのだ,それらで私的実行を認めないのはなぜなのかというようなことを考えるべきことにならないでしょうか。いま検討しているものについては新しく作るからそれでいいのですということは,考え方としてはありなのかもしれません。メニューを幾つか担保権について用意して,好きなのを選んでねということは,それはあり得るのかもしれないけれども,本当にそれだけで済むのですかね。既存の担保に関しては,私はこの資料の立場に全面的に賛成ですとまでは申しませんけれども,この資料のような考え方が出てくるのは一応理由のあることなのではないかと思うのです。その理由について,いや,ポリシーで決めればいいではないかで本当に済むのかどうかというのは,少し疑問に思うところがありますので,よろしければ横山先生,片山先生に,既存の担保とどうして違うようにできるのかについて,お考えがおありでしたら,御披露いただくと,今後参考にできるかなと思います。 ○道垣内部会長 名指しがありましたが,横山さん,片山さんの方から何かありますか。 ○横山委員 すみません,それほど深く考えているわけではないのですけれども,しかし,判例も法だと考えますと,所有権の移転という形をとっているとはいえ,譲渡担保は,抵当権とは異なり,私的実行が認められるタイプの担保権として,日本民法の中に実質上,一つの類型として根付いているのではないかと私自身は理解しております。ですので,民法典に定められている担保物権については,流質契約を除けば私的実行は認められていないけれども,判例も含めて考えれば,私的実行が認められているタイプの担保物権も,日本法全体としては既に容認されているのではないかと,私自身は考えているというところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   片山さんから何か補足がありますか。 ○片山委員 不動産担保である抵当権について私的実行をどこまで認めていいのかという問題は,慎重に検討すべき点だとは思いますが,少なくとも動産担保に関しては,比較法的に見ましても,私的実行的な要素を取り入れていく,そういう傾向が見られるのは確かだと思います。これに対して,抵当権のように,一応売却価格をきちんと定めて,後順位担保権者にもしっかりした配当をしていかなければいけないという担保を前提とする場合に,私的実行が認められてしまうと,結局最終的な紛争をまた訴訟に委ねてしまうということになりまして,何のために執行制度を認めているのか分からなくなるという面がありますので,そういう点からしますと,直ちに抵当権について私的実行を認めていいという話にはならないかもしれませんが,少なくとも動産担保に関しては,広く認められる余地はあるのではないかとは思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ただ,議論の仕方として,では不動産には認められませんという方向になってしまいますと,またそれはそれで拘束をしてしまいますので,少し議論としては危険なところもあると思います。関連して,2点伺いたいことがあるのですが,1点は,抵当直流れと呼ばれるものについてなのですけれども,よく民法の担保物権の教科書に明治41年か何かの判決が引用されて,質権に関しては流質契約が349条で禁止されているけれども,抵当直流れというのは容認されるというのが明治時代の判例で,判例はそうである,みたいなことを書いてあったりするのですけれども,私はそれは間違いではないかと思っていまして,というのは,代物弁済予約にすぎないとするならば,それは仮登記担保法が適用されて,仮登記していないというだけであって,では抵当直流れの合意をしたからといって引渡し請求が第三者に勝てる形になるのかというと,それはそうはならないだろうと思います。これは判決をいまだに引用している教科書がおかしいのではないかと個人的には思っているのですけれども,それはやはりどうなのですかね。もし仮に抵当直流れというのが,私が今申し上げたような理解は正しくなくて,やはり抵当権の内容としてそういうのはあり得るということで,明治41年の判決以来,そうなっているのだと考えるならば,横山さんや片山さんがおっしゃった話とはかなり,そこもまた少し違った前提が出てくるような気がするというのが第1点です。   第2点目は,少し皆さんのお考えを伺っておきたいのですけれども,例えば譲渡担保というものを,取り分け新たな担保物権の創設ではないと考えたときには,所有権移転しますよと,ただ担保目的ですよという形になっていて,自分たちでやりますよという合意なわけですよね。しかるに,いざ実行となりましたときに,では,少し裁判所の手も借りる方法も欲しいななどといって,1のBなのですが,民事執行法の規定に基づく競売というのが書いてあるのですが,それって虫がよくないですかという感じもしないではないのと,もう一個は,仮に担保物権創設型ならまだいいのですけれども,所有権移転の合意を担保目的の範囲に効力を制約するというふうなのだとしますと,自らの所有物を民事執行法上の規定に従って競売するというのが,それでいいのですかという感じもするのですけれども,この辺りについての少し御意見の分布といいますか,本当にいいのだろうかということなのですけれども,いや,問題ないよというふうなことならば,それはそれで全然構わないのですけれども,この二つについて意見,お考えを伺っておきたいと思うのです。いかがでしょうか。後者からでももちろん構いません。前者はマニアックかもしれませんが。   まず,実務的にはやはり民事執行法上に基づく競売というのを認めておいてくれた方が,やはりいろいろ便利だよと,これがないと少し困るよねということであると実務的にはお考えになりますか。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。道垣内先生の御質問に関し,実務的な観点からは,現状,私的実行のやり方でうまく回っている部分は相応にあるとは思ってはおりますが,例えば非協力的な設定者を前提とした場合に,ラストリゾートとして,裁判手続でもって執行ができるというふうになっているのは,こういう担保権の使い勝手を更に向上させていく上で,かなり有意なのではないかとは考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   仮に担保物権創設型を採れば,もちろんいいのですけれども,担保目的取引規律型の立法態度を採った場合にも,理論的には別に問題ないということでよろしいのでしょうか。佐久間さん,お願いします。 ○佐久間委員 その点なのですけれども,気持ち悪いことは気持ち悪いと思っています。ただ,最後は,今の譲渡担保でいうと,設定者留保権と呼ばれているものをどうやって消すかという話なのかなと思っていて,私的実行はその一つだと思うのです。中途半端にというか,担保目的でしか移っていない所有権を完全な所有権にするという過程で,それが設定者留保権を消すという方法だと。では,そのほかの設定者留保権を消す方法として,担保の実行なのかと言われると,それは気持ち悪いというところになるのですけれども,公的な手続を経て,設定者留保権という個人の権利が合意から離れて消えることがあるというふうに整理はできないのかなと思いながら,道垣内先生のお話を聞いておりました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   松下さん,山本さんから,青木さんも含めて,何か御意見ございますか。 ○松下委員 松下です。特に強い意見ではないのですけれども,ここに書かれているとおり,民事執行法190条のルートをオプションとして残すこと自体にそれほど大きな実害がないのであれば,これは設けておいた方が便利な場面があるというのは,この資料のとおりかなと思いました。 ○道垣内部会長 理屈上もそれほど気にするほどのこともなかろうと。 ○松下委員 そうですね。 ○青木(哲)幹事 ありがとうございます。神戸大学の青木です。道垣内先生が指摘された理論的な問題については,なかなか難しいところはあると思うのですけれども,少なくとも,担保余剰がある場合について考えると,その余剰の分については,理論的に正確な言い方ではないのかもしれませんが,設定者の責任財産を構成するというか,設定者の債権者が引当とし得る部分があるということになるかと思いますので,その観点から言うと,競売を認める場合には,やはり民事執行法の競売の規定に基づいて実行していくという余地も残しておくということなのかなと思いました。順番が逆になってしまったのですけれども,もし譲渡担保権者に所有権があるということだとすると,そこを突き詰めていくと,担保権の実行ではなくて,本当は民事執行法の195条の形式競売の手続で換価をする,そのことによって売却価格の適正さを担保するということになるのかもしれないのですけれども,それで,すみません,少し話が戻るのですが,やはり担保余剰がある場合を考えると,そこに債務者,設定者の債権者の関わっていくということになるので,やはり手続としては,どちらかといえば担保権の実行の手続の方でよいのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 なるほど。 ○山本委員 政策的にどうするかというのは,実体法の方で,あるいは事務的な考慮で決めていただくことだと思いますが,仮に担保権の実行として扱うということにした場合に,私も理論的にはそれほど問題はないというか,逆に言えば,理論的には問題は一杯あちこちにあるのではないかと思っていて,例えば破産でも別除権として取り扱うということにする,多分そうするのだと思うのですが,別除権というのは破産財団に帰属する財産についての権利ということに破産法上,なっていて,ところが,これは所有権は移っているとすれば,破産財団には一体何があるのだということに本来,なるのだと思うのです。だから,本当にそれは別除権なのかというと,何か少し疑わしいところはあるけれども,多分別除権として取り扱うという扱いにすると。この執行の方も,実益がそれであるのならば,民事執行法が定める担保権とみなすか,分かりませんけれども,何かそういうような規定を置いて担保権として取り扱うということになるので,それで特段,理論的に何かすごく困ったことになるとは私自身は思っていません。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○片山委員 理論的にどこまで説明できているのか,私自身も自信がないところではありますけれども,少なくとも今の判例法理の説明の仕方からしますと,弁済期到来までは担保目的に必要な範囲での所有権移転ということですが,弁済期が到来したら,換価処分権が所有権を基礎に発生し,最終的にそれを完結して,確定的に所有権が帰属するということで,すべて所有権によって説明されることになりますが,最終的な確定的な所有権の帰属という前の段階の所有権の在り方というのは,ぬえ的というわけではないですけれども,いずれにせよ,弁済期到来によって与えられているのは換価処分権であって,その換価処分権の一つとして私的実行ができるということですので,立法により,同時に競売手続によって換価処分を行う権限も付与されると考えることにそれほど理論的な無理があるとは感じていないところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。   理論的にはいろいろな問題がまだ背後に隠れていますが,三つを並列で認めるということ自体については大きな御異論はないということかと思いますので,更に理屈の問題は詰めて考えていかなければならないと思いますけれども,この三つの方向で更に詰めていきたいと思います。   よろしければ,続きまして,部会資料6の第1の「2 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限」について議論を行いたいと思います。   事務当局において,部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 御説明させていただきます。3ページの「2 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限」について,御説明いたします。   ここでは,担保権の私的実行に当たって債務不履行後に実行通知をすることを要し,かつ,その実行通知の到達から実行まで1週間の猶予期間を設けることとする【案6.1.2.1】と,債務不履行後から直ちに実行することができることとする【案6.1.2.2】の二つの考え方をお示ししています。譲渡担保の私的実行については,設定者の知らないうちに短期間で終了することがあり得るため,設定者が債務を弁済して担保権を消滅させる機会や,担保権実行手続中止命令を申し立てる機会が十分にないとの指摘がございます。   【案6.1.2.1】は,このような観点から,実行に当たって実行通知を義務化し,猶予期間を設けることによって,これらの機会の確保を図るものです。もっとも猶予期間を設ける場合には,目的物の毀損や隠匿等が生ずるおそれがあることや,実行までの期間で目的物の価額が下落するという懸念がございます。これらの懸念にも対応するためとして,後記第2の2で実行完了前の保全処分に関する検討をしているところでございますが,その制度設計や保全処分がされたときの法律関係等も含めて検討が必要と考えられるところです。なお,この1週間という期間は確たる根拠があるものではございませんが,法定の期間としてはかなり短い部類に入るのではないかと思います。担保権者の利益を過度に害さないよう,余り長い期間とすべきではないという観点から,ひとまずお示ししたものでございます。   これに対し,【案6.1.2.2】は,債務不履行があれば,何らの通知を要せず担保権者は私的実行ができるとするものです。この場合に,短期間で実行が終了してしまうという問題に対しては,実行前に申し立てることのできる担保権実行手続禁止命令の導入などによって対応することが考えられます。もっとも,設定者が知らないところで実行が完了してしまうという場合には,申立ての機会の確保という観点から問題が残りますが,設定者は実行が可能になっているということ自体は認識することができるため,実行通知や猶予期間を設ける必要性は高くないという考え方もあり得るところです。これらの点について御議論いただければと思います。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○山崎委員 山崎です。よろしくお願いします。【案6.1.2.1】について,事業者などに意見を確認しました。やはり賛否両方の意見がございました。事業継続の観点から,価値ある事業を残していくために,担保目的物の取戻しのチャンスを与える制度設計が必要であろうという考えの下に,まず賛成意見の方を述べます。動産を担保とする場合,事業継続上重要な資産が目的物であることが多く,倒産時は時間が限られている中で,通知一本で目的物が他人の所有物になってしまうと事業再生が困難となることから,1週間の猶予で担保権の実行手続中止命令等を申し立てる機会を与えるのは妥当でないかという意見がありました。   それに対して反対意見としては,実行開始の通知及びその到達から一定の猶予期間を設けることについては,現行法の実務においても,実行前に担保権者と設定者間で弁済猶予等に関する交渉が行われていることが通例であることから,更に債務者に猶予の時間を与える必要はないのではないかというものです。   立場がはっきりしない意見で申し訳ないのですが,以上です。 ○道垣内部会長 いえ,両方もっともかと思います。 ○本多委員 ありがとうございます。今,山崎委員から設定者側の実務的な感覚を御披露頂いたのですが,私の方からは担保権者側からの実務的な感覚を交えた意見を申し上げられればと思っています。   今のお話をお伺いしておりまして,大分オーバーラップするのかなとの感想を抱いておりますが,順番に説明をさせていただきますと,まず,山崎委員から【案6.1.2.1】に対する反対意見に関して御説明があったところと関連するのですが,担保権者として実行局面に至った場合に,すぐさま私的実行に取り掛かるというよりも,設定者との間において,受戻しの可能性も含めて,どういう段取りで実行していくのか,実行手続を進めるのではなく受戻権の行使を許容するのか等の点について協議をさせていただくのが実務の一般的な在り方なのかなと思っています。一方,山崎委員からの【案6.1.2.1】に対する賛成意見に関する御説明にもございましたとおり,受戻権を保護する,確保するということ自体は大事なことだとは思っておりまして,担保権者の立場からも,被担保債権の弁済に必要な金額を設定者側で調達できるということなのであれば,合理的な期間,待機させていただいて,その調達を待って受戻しに応じるということは,実務的に大いにあり得ることなのかなと思っています。   なお,事務局から1週間という待機期間に関して,差し当たり,暫定的にお示しいただいた期間との御説明を頂いておりますが,受戻しに関する資金調達交渉の状況等に鑑みますと,待機をすべき期間というのは,かなり個別・具体的な事情を踏まえて決定されることになりそうなのかなと思っておりまして,そういう意味で,固定的な期間を法文上明定するというのは余り実務的ではないかもしれないのかなと考えました。   今までの話は,協力的な設定者,担保権者間の実務を踏まえたものなのですけれども,場合によっては受戻しのための資金調達の状況だったり方針だったり等についての情報や御説明を頂けないという非協力的な設定者を想定せざるを得ない場合もありまして,そうした場合に,むしろ待機期間が与えられるということは,隠匿・毀損のおそれだったり,執行妨害のおそれだったりという懸念すべき事態を生じさせることになるのかもしれないと思われ,かかる観点から,待機期間を設けることについては慎重であるべきと考えております。なお,部会資料の4ページ目の17行目以降において,保全処分を組み合わせることによって隠匿・毀損等のおそれに関しては対処できるのではないかと御説明されているのですけれども,ここでの価値判断に際し,受戻権の確保自体はとても大切なことである一方で,弁済期が徒過されていて,隠匿・毀損等のおそれも相応に蓋然性が高まっているという状況下において,待機期間が設けられ,かつ,それに伴うリスクをヘッジするために保全処分の手続負担を強いられるという担保権者側の利害状況についても,御配慮いただく必要がありそうなのかなとも考えております。   もう一つだけ,場合によっては不誠実な担保権者が,弁済期を徒過したとの一事をもって直ちに,場合によっては設定者側で受戻権の行使のための資金調達を検討し,そのための対応を行っている最中であるにもかかわらず,担保権実行を強行してしまうというおそれも懸念されるところであるのですが,そういうおそれが一般的なものなのかというところはよく検討する必要がありそうでして,経済合理性等に鑑みますと,冒頭申し上げましたとおり,担保権者としてもやはり必要な期間待機をするというのが回収の蓋然性を高める上で合理的な判断になりそうなのかなと考えられますと,そういう不誠実な担保権者による担保権実行の強行というものについては,例えば権利濫用等の一般法理でもって個別的に対処していくという考え方がありそうなのかなと考えております。   少し長くなりましたが,以上になります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。冨高さん,お願いします。 ○冨高委員 ありがとうございます。先ほど山崎様からもございましたように,私も【案6.1.2.1】の方が望ましいと考えております。理由としましては,特に中小企業においては,例えば工場機械など,それが事業継続する上で必要不可欠なものである場合など,通知なく処分をされてしまいますと,事業の継続が不可能になるということがございますし,結果的にそこで働く労働者にとっても非常に大きな影響を与えることになると考えますので,【案6.1.2.2】ではなく【案6.1.2.1】の通知を必要とする方が望ましいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○尾ア幹事 本多委員がおっしゃったように,金融機関の実務としては,実行前に担保権者と設定者の間で弁済猶予等の協議がなされて,特に弁済能力や意欲のある債務者に対しては,弁済し,担保権を消滅させる機会が事実上設けられているというのが通例であると理解しております。こうした点を踏まえますと,実行に際して法律で,通知及び1週間の経過といった要件を画一的に求めるといったことは,かえって非効率を生じさせないかという懸念を持っております。他方で,金融機関以外の担保権者の実務であれば,極めて背信的な担保権者を想定するような限界的な事例もあり得ますので,その場合にも金融機関の実務のように実質的な事前の協議が行われる,ということは考えにくいとも思います。そうした場面を想定しますと,【案6.1.2.1】の御提案の政策目的や趣旨はよく分かるところではあります。   まとめますと,【案6.1.2.1】の御提案の政策目的や趣旨はよく分かるところではあるのですけれども,その政策目的を達成する手段として,実行に当たって画一的に1週間の経過を求める,という規律を設けることが適切なのか,画一的すぎて非効率ではないか,という点については,慎重な検討が必要ではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに何か御意見はございませんでしょうか。 ○片山委員 片山でございます。この2のところですけれども,二つの問題があって,一つは,実行するときに通知をさせるかどうかという問題と,それからもう一つは,猶予期間,あるいは待機期間で1週間を設けるかどうか,その期間が短いか,長いかという問題です。【案6.1.2.1】と【案6.1.2.2】を対比しますと,【案6.1.2.1】では通知をし,かつ1週間の猶予期間ということですけれども,【案6.1.2.2】は通知もしなくていい,また1週間の待機も必要ないということで,両極端になっていますが,通知の問題と猶予期間の問題は別次元の問題ではないか思っておりまして,今の実務でも実行通知は多くの場合行っているのかとは推測されますので,そのこと自体を要求することはそれほど無理を強いるということにはならないのかとは思います。他方,1週間の待機については今,実務家の委員の方々から様々な点が指摘されましたので,その点を考慮して決めていただくということになるのかとは思いますけれども,通知の問題はそれと少し切り離して,やはりやっていただいた方がよろしいのかなとは思います。   それから,もう1点は,【案6.1.2.1】の場合の話ですが,その場合に,通知をし,1週間経過して初めて実行が可能ということになるわけです。帰属清算の場合,それでいいのかもしれませんが,処分清算の場合は,仮に1週間を経過しない前に処分してしまった場合には,無効な処分という取扱いになってしまいますと,それが果たして取引の安全という面から維持できるのかという点は心配ではございます。第三者としては,恐らく実行通知がなされたかどうか,1週間の期間が経過しているかどうかは簡単には知り得ないところではないかと思います。一方では,1週間経過すれば不当に安価な処分や,あるいは贈与も有効になってしまうということですが,1週間前ということになると全面的に無効だということになると,何か均衡を失しているような感じもいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。ただ,【案6.1.2.2】のところは,後記3に従って帰属させる,又は後記4に従って第三者に譲渡するということでございまして,後記3というのは6ページなのですけれども,この後記3に従ったときには,(1)に従って清算金額等の通知をするという形になっておりますし,4のところの処分清算というときも,処分をしたときにどういうふうにして清算金が発生したのかというふうなことを(3)で通知をしなければいけないという形になっておりますので,通知がないということには必ずしもならないのではないかと思ったのですが,これ以外にもう一段階,別のタイプの通知が必要だというお考えでしょうか。 ○片山委員 片山としては,1本でいいとは思っておりますけれども,恐らく今回の御提案の趣旨は,まずは,評価は別として,実行しますよということの通知をするということが第1段階で,その次の通知というのは,要するに,清算金が幾らになるということを明らかにし,ない場合はない旨,そして,ある場合は,それを弁済,あるいは提供せよという意味での通知ですよね,それを2段階に分けるということなのだと思いますので,それはそれで一つの考え方かと思いますが,私自身は二度手間になっているかなという感じはしているところではありますので,一本化できるという提案もどこかの(注)であったかと思いますけれども,そちらの方で検討していただく方がいいのではないかと思っているところでございます。 ○道垣内部会長 分かりました。それでは,鈴木さん。 ○鈴木委員 ありがとうございます。千葉銀行の鈴木でございます。山崎委員から提言されました問題意識のとおり,担保が事業の継続に必要不可欠な機械設備等の場合は,やはり担保処分については配慮が必要かとは思っておりまして,ただ,これは本多委員からもお話があったように,現在,銀行ではそういったところについては事前に話し合いながら進めているものと思っております。一方で,在庫などの集合動産を担保とするケースでは,生鮮物を目的とするケースがあります。【案6.1.2.1】の(2)にあるように猶予期間を1週間設けることで,担保価値が毀損されるおそれも出てくるかと思います。分かりやすい例で言えば,例えば冷凍マグロなどの食品,特に保存に注意が必要な冷蔵物とか,そういったものが担保の場合は,そういったケースに当たるのではないかと思います。片山先生がおっしゃったとおり,例えば【案6.1.2.1】を採る場合,私的実行する旨を通知するわけですが,例えば帰属清算方式の場合は再度,6ページの手続にのっとって帰属清算の通知等と,またそういった通知が必要になると解釈したわけですが,手続の段階が増えれば担保価値が毀損されるリスクが高まるかと思いますので,全体を通して煩雑にならない手段を選ばなければいけないかなとは感じております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。佐久間さん。 ○佐久間委員 実務のことが分からないので,こういう考え方はできないのかということを伺いたいのですけれども,まず,今まで多くの方がおっしゃったことを伺っておりますと,そもそも実行に至るまでには,交渉というのでしょうか,やり取りがあるのが普通だし,あってしかるべきなのではないかということだったと思うのです。その交渉のときは当然,その債務の返済を求めるわけですから,被担保債権額に当たるものは伝えることになるのではないかと思うのです。それに加えて,ここで応じてもらえなかったら実行しなければしようがなくなりますよ,ということを一言言えば,それでもって【案6.1.2.1】の通知になるということは考えられないのか。通知は別に定まった方式があるわけではないので,仮にそう考えたとして,今でも行われているその事前のやり取り,交渉から大きく性質が変わってしまうことになるのか,最終的には実行をにらんでいますということを明らかにすることになるので,変質することになるのかどうかを知りたいと思いました。もし変質することにならないのであれば,普通の交渉はしましょうということであるとすると,その交渉で伝えられるはずの,今,被担保債権額幾らですよ,交渉が不調に終わると最終的には実行になりますよということを伝えるのは,ある意味,当たり前なのではないかと思いました。その上で,そこから仮にうまく交渉が進まなかった場合に,いつ実行ができるかというのが【案6.1.2.1】の(2)で,1週間が適当かどうかはよく分かりませんが,一定の期間が,特に交渉不調という形で過ぎたならば実行できますということにするのは,それほど難しいことなのだろうかと思いました。   ただ,その場合に,不誠実な債務者がいるというときに,今日の資料の最後ですけれども,この保全処分がどのぐらい有効なものとして働くのかということがもう1点,少し先の話なのかもしれませんけれども,私にはよく分からない,けれども重要なポイントなのかなと思いました。つまり,今なさっている交渉で伝えられることは【案6.1.2.1】の通知に事実上当たりますと考えられるのであれば,円満に進んでいる間は実行には当然ならないし,うまくいかないということになったときは実行をにらむことになる,そのときに保全処分がうまく働きそうだというのであれば,それほど大変なことにならないのではないかと,素人ですけれども,思いました。それは違うということであれば,実際のところお教えいただくと有り難いと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。本多さん,お願いします。 ○本多委員 ありがとうございます。今ほど佐久間先生,それから片山先生からも同じ御質問を頂いておりますが,実行開始通知をすることが実務上,大きな負担になるかどうかということにつきましては,先生方御指摘のとおり,通例の実務上も,これから実行に入りますという場合には,書面なのか口頭なのかは別として,その旨お知らせするという通知はさせていただいております。なお,【案6.1.2.1】の通知の理解なのですけれども,私は設定者の受戻権の確保のために,今,被担保債権額が幾らです,という通知をすることが主として念頭に置かれていたのかなと考えていたのですけれども,通例の実務上なされている実行開始通知は,そういう目的によるものというよりも,むしろ先生方の御指摘のとおり,これから担保権の実行に入ります,ステージが変わりますということをお知らせさせていただくもの,例えば,担保の目的物についての管理を,担保権者に配慮いただきながら,変えていただくというノーティスをさせていただくという意味合いによるものと認識しております。そういう意味では,実務上大きな手間が生じるものではなく,一般的に行われている実務と重なっているのかなとは考えております。   一方で,待機期間の設け方についてなのですが,法定の待機期間を,何日間なのか何週間なのかと設けることについては,先ほども申し上げましたとおり,実際の受戻権の行使のための資金調達の状況等に鑑みて,堅苦しいところがありそうなのかなと思われますし,やはり非協力的な設定者を前提とした場合に,あえて待っておく必要がありそうなのか,どうなのかというところについて,異論があるところではございます。待つことに伴うリスクをヘッジするための保全処分についてなのですけれども,これは後ほども議論があるかもしれないのですが,現状の実務上,保全処分の利用が余り行われていないところ,どうしても重要な目的物について確保が必要ということなのであれば,民事保全法に則った仮処分を申し立てることになるとは思うのですけれども,法定の待機期間が設けられることにより,その間における目的物の状態を保存するために保全処分が必要にならざるを得ないですというふうになる,そういう法制度設計にする必要があるかどうかについては,やはり慎重に検討すべき必要がありそうなのかなとは考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。正に慎重に検討すべきなのですが,少し,意地悪を一言申しますと,不誠実かどうかとか,うまくいきそうかどうかとか,そういうのは全部担保権者に判断させろということで,自分たちはきちんと判断できますと,そういう御主張であるというふうにまとめてもいいのでしょうか。 ○本多委員 ありがとうございます。本多でございます。究極的にはそういう判断なのかもしれないのですが,担保権者として,設定者側の事情についてはよく知ろうとする配慮は申し上げているつもりではございまして,一方的に担保権者の立場から判断をさせていただくというよりも,例えば,受戻権の確保について,こういう段取りでこういう先から必要な資金調達の交渉をしていますので,受戻しできそうですというふうな事情は,客観的な情報を頂きつつ,判断をさせていただけているとは思っておりまして,判断をする主体は担保権者になるかもしれないですが,相応に客観的な事情等を踏まえて合理的に判断しようとしてはいるということは申し上げられると思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。意地悪に耐えて発言していただきまして,ありがとうございます。ただ,品のいい担保権者というのと品のよくない担保権者といますから,三井住友銀行がそうおっしゃったからといってそうだということになるかどうかは,私にはかなり疑問ですが。 ○阪口幹事 阪口です。この問題は弁護士会で議論しても,やはり1週間必要だという意見と,そうではないという意見とで半々というのが正直な現状ですが,立法論としてABLの促進ということを考えると,1週間というのは実務的に耐え難いのではないかと私個人は思っています。また,ここで皆さんが1週間の猶予期間を入れたいと思うのは,正に受戻しの機会を確保したいということに尽きるわけですけれども,そこに関しては,1週間でできますかという疑問もあります。1週間では非常に短く,2週間欲しいという意見もありますが,しかし2週間となると今度またいろいろなものが耐え難いと思います。   これは,受戻しの機会を前に持ってくるための弊害というか,議論の対立が先鋭化しているのではないか,部会資料6の4ページの2(2)以下ですけれども,後ろの方に時間を設けることで解決できる問題ではないのかと私は思っているのです。従前の譲渡担保における受戻しの問題とはもう法律構成を変えてしまうのですけれども,仮登記担保法における受戻権のような特別の権利ということにして,後ろに受戻しの機会を設ける,前の段階で1週間は設けない,しかしながら,例えば占有移転するまでは受戻しできますとする,所有権は一旦移転したとしても,その後にもう一遍巻き戻せる,例えばそういう形でのバランスのとり方というのが考えられないかということです。債務者の手元に占有がある状況で担保権者が帰属清算したと思っても,全額債務を弁済してくれたら,別に受け戻されてもそれはそれで構わないと普通は思うはずです。また,債務者の手元に物がある段階で第三者に処分,処分清算といっても,正直言って,現実性がないように私は思います。例外的にあるかもしれませんけれども,ほとんどの場合は現実性がない。そうすると,所有権が移転したといっても,後ろに受戻しの機会を設けることが,この【案6.1.2.1】と【案6.1.2.2】の対立を改善する策なのではないのかなと思います。   なお,4ページの部分には,仮登記担保法と同じ仕組みにすることはなかなか難しいと書かれていて,僕もそこまで求めるつもりではないのですけれども,受戻しのところだけ仮登記担保法11条のような規定を設けて,特別の期間を設けるということが考えられないかと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大塚関係官 関係官の大塚です。今までの議論を聞いているところ,待機期間を設けることに対する賛成意見としては,特に事業継続に必要な資産を保護するということがあり,逆に反対意見としては様々あったと思いますけれども,その中でも一つとしては,生鮮食品であったり,あるいはABLであったり,処分,実行を待てないという財産があるという問題だったかと思います。そうすると,ここで提案されているような,一律に1週間の待機期間を設けるというものではなく,例えば,事業の継続に必要な資産にのみ,例えば1週間だと短いとすれば,2週間の待機期間を求めるなど,財産ごとに区別して規律するという考え方もあり得るのかなと思います。ただ,そうすると,要件の定め方とか,では,どれが事業の継続に必要な資産なのかということをいつ誰が判断するのかというところで,別の難しい問題が出てくるかとは思いますが,検討のオプションとしてはあり得るのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大西委員 大西です。私も,これは事業者側からすれば1週間という期間とはいえ受戻しの機会があって有り難いという反面,阪口先生がおっしゃられたように,1週間だと多分,その間にできることは限られているので,なかなか現実的には難しいのかなと思います。そういう意味では,この担保実行までに1週間という期間を設ける制度はなくても事実上,債務者と銀行間で事前の協議は行われておりますので,いいのかなと思います。   少し別の視点ですが,受戻しの機会というのに加えて,後の3とか4で出てくるのですが,価格の決定において,客観的価格をどうやって決めるのかなという点が問題になるかと思います。そういう場合,担保権者が担保物の処分をする際に,設定者が,別に高い買手がいると,例えば取引先ですよね,そういう先と交渉する期間というのがもしかしたら必要なのではないかなと思います。後ほど見解を申し上げたいと思うのですが,必ずしも受戻しだけではなくて,客観的な価格によって債務を弁済するとなると,その価格を決めるにあたって,こういう別の買手を担保設定者等に提案させる機会を与えても良いのではないかと思った次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。青木さん。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。【案6.1.2.1】が仮に採られるという場合なのですが,その場合には設定者に対する通知だけでいいのかどうかということについて疑問を持っております。ファイリング登記制度が同時に採用される場合は,登記されているほかの担保権者にもやはり通知をするべきではないかと思っております。公告の役割を私的実行を行う担保権者が行うということに近いのかもしれませんが,実際的にも,先ほどから1週間で債務者が受戻しの準備をできるかというお話がでておりますが,もしあるとすれば,借換えのような場合も多いのではないかと思います。そのような与信者がいるのであれば,設定者がアレンジをしない場合であっても,ほかの担保権者に代位弁済等をする機会,その判断をする機会を与えるというような意味で,ほかの担保権者に対する通知ということが必要なのではないかと思っております。また,そのことが,少なくとも不当な価格での処分を代位弁済の形で阻止するということにもつながるのではないかと思っております。   もう1点で,先ほどおっしゃった大塚先生のお話に関連して,少し情報提供させていただきますと,アメリカ法では,実行における事前の通知などの制度に関して,目的物が腐りやすいものである場合について例外規定を設けております。我が国でもあり得る御意見ではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございませんでしょうか。   比較的,1週間というふうな確定的な,ある種,中途半端なのかもしれませんが,期間というのを置くのではなくて,実務的に柔軟に対処すれば何とかなるのではないか,みたいな感じの方が多かったかもしれないのですけれども,あらかじめいろいろなところでお話を伺ったりいたしますと,取り分け倒産とか再生とかをおやりの実務家の方々からは,絶対に急に実行されたら困るという意見がすごく強かったりするのですが,ここではそういう強い御意見は余りないのでしょうか。いや,別にそういう意見を言えというつもりはございませんけれども。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。私は倒産実務家ではないのですけれども,確かにそういう声を聞くことはあります。ただ,先ほどから出ていますように,待機期間を置くことのマイナスもあって,ここは非常に難しいと思っています。実務的には,これもお話が出ておりますように,普通の金融機関と普通の債務者であれば,1週間どころかもう少し早くから話合いが行われ,弁済期日が到来した後も,何も言わずにいきなり担保を実行するということはなく,そういう意味では【案6.1.2.1】と【案6.1.2.2】の違いが余りあらわにならないことが多いとは思うのですけれども,でも,例外的に,たまたま弁済期が到来したことを奇貨として,経済合理性よりもむしろ,場合によっては乗っ取りなんかも含めて,強引に担保実行を掛けて利益を得ようとするような極めて悪質な債権者や,あるいは,債務者の側にも,通知を受け取って隠匿する債務者はそれほど多くはないかもしれませんけれども,ディスカウントでもいいからとにかく売り払ってしまえというような在庫の売り方をしてしまう債務者は相応にいる可能性があって,そうすると,特殊な債権者を考えると待機期間があった方がよく,悪質な債務者を想定するとない方がいいということになって悩ましいと,そういう問題だと思っています。   ただ,後で出てくる調査受忍義務とか,それから,完了前の保全処分の使いやすさを相当程度,担保権者にとって使いやすく,かつ,先ほど本多さんからもコメントがありましたけれども,大きな負担になりにくいような設計ができるとすれば,1週間待機期間を設ける弊害は一定程度回避できる可能性があるので,そうすると,先ほど正に道垣内部会長から話がございました倒産手続の関係を考えると,期間を置く意味があるという考え方も成り立ち得るかもしれないと思います。   私自身は前々から,もう不履行になっているのだから待機期間を置く必要はないという考え方を採っていたわけですけれども,これは全体のバランスの問題ですので,今申し上げたような手当てがなされるのだとすると,別の整理もあり得るわけです。債務者側からすると,ある種,引導を渡されないとできないこともあると思うのですよね。正にその一つが倒産手続を申し立てて,それに伴い担保実行中止命令,禁止命令を申し立てるということだと思います。これはある意味,ぎりぎりまで頑張って,弁済期が来てしまったけれども,何とかならないかと思って債権者と交渉し,一定程度準備しながらも踏ん切りが付かずに倒産手続開始を申し立てられないでいるような状況で,引導を渡されたのであれば,1週間で何とか申し立てて,中止命令を取るという途があり得るとすると,それによって守られる事業があるのであれば,待機期間を設けるということもなくはないと思います。個人的にはまだ十分に考えがまとまっておらず,悩み中ではございますけれども,ほかの制度との比較でといいますか,合わせ一本で,担保権者側の懸念について配慮されるのだとすると,ここで一定の期間を設けるということもあり得るのかな,ということです。これは結局,先ほど阪口先生がおっしゃった,後に持ってくる代わりに,むしろ保全処分込みで前に持ってくる範囲を相当程度広げた上で,債務者側に一定の手立てをとる,一定の手立てというのは,典型的には倒産申立てプラス中止命令ですが,場合によってはリファイナンス,あるいは,債務者が目的物を一番高く売れるポジションに本来いるはずなので,高く売る工夫をして,何とか一定のめどを付けて,担保権者に何とか話を付けるチャンスを与える,それを,引導を渡されないとできないところまで持って行くための期間と捉えると,一つの設計としてはあり得るかなと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大澤委員 大澤でございます。倒産実務家のお話が出ましたけれども,倒産実務家の間では確かに,私はどちらかというと倒産実務家にかなり近いのだと思っておりますが,こういった待機期間を是非設けていただきたいという要望が強いのは,道垣内先生から御指摘のあったとおりでございます。やはり今,正に井上先生からもありましたけれども,実行通知だけでは,再生等を考えたときに,1週間という期間は短い,1週間は別に金科玉条ではないと思っておりますが,期間をどう考えるかは別として,何らかの待機期間を設けていただくことで,例えばそういった倒産実務家がサポートしていないような中小企業者が,最終的に公的整理を伴って事業をうまく展開させるというときの手段をとるに当たって,少なくとも,自分ではなかなかそういったところまで手が回らないような事業者をうまくすくい上げる手段になるのではないかと。一方で,待機期間をどう設定するのか極めて悩ましいというのは,委員なり幹事の先生方のお話の,誠におっしゃるとおりだとは思うのですが,少なくとも何らかの期間を設けて,そういった,債務不履行を起こしました,それは確かにそうですと,ただ,その後どう対応するべきかというところの策定も含めた専門家によるサポートが受けられていないような事業者,比較的中小だと思いますけれども,そういった方たちをうまくサポートして,最後の手段として,どのような形で事業を展開するのか,あるいはそこで諦めるのかというようなものも含めたことをやれる期間として設定をしておいていただきたいなというのは実感としても正直,ございます。   三井住友銀行さんから,きちんとしたネゴがされているはずであるということはおっしゃられていましたし,正に通常であればそうだろうとも思います。ただ,やはり大手銀行以外の少し怪しげなところになるような,そこは病理現象なので,余り病理現象を理由に法制度化しろというつもりはございませんけれども,そういった病理現象に対応するために,では何をすべきかとなると,先ほどの保全処分の設計なのか,どうなのかというところではありますが,少なくとも実務家から考えますと,やはり待機期間というものの設定を,担保権者の権利を余り阻害しない程度ではあるけれども,最後のワンチャンスとして債務者に留保しておきたいということは,実務的な感触としては持っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   井上さんがおっしゃったように,不履行しているのではないかという感じもするのですが,締切が来てから原稿の執筆を始めるようなことをやっている私のような者は,分かっていたではないかといって,他人だけ責めるわけにはいかないという感じもします。どうでもいいのですが。藤澤さん。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。倒産手続,特に民事再生手続との関係では,担保権の実行がまだ済んでいない状態だと別除権で倒産法上の制約を及ぼすことができるけれども,実行が済んでしまうと,取戻権ということになって,その財産がどんなに債務者の更生にとって必要であったとしても,基本的には倒産手続の外に出てしまうということになって,そのことが倒産法の先生方から問題視されているのかなと思います。そうすると,その問題を民法の担保権の実行時期の問題で解決するのか,それとも倒産法の問題として解決するのかということが問題となりますが,部会資料のように1週間の待機期間を設けるというのは,民法の中で実行終了の時期を少し遅らせることによって,倒産法上の制約を及ぼす機会を残そうという案なのかなと思います。   他方で,それが過度な制約になってしまって,倒産手続以外の場面で債権者に何らかの迷惑になるとすれば,倒産法でピンポイントである一定の実行の効力だけ覆すという考え方もあり得るかもしれません。これまでの御議論の中で,余りよろしくない実行の例として,不意打ち的な実行や乗っ取りといったものが挙がりましたけれども,そういう場面については,例えば,物の占有が債務者のところにある限りはその実行を否認したり取り消したりすることができるといったような制度を倒産法の中に作る方法もあるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   大分意見の分布といいますか,お気持ちはみんなそれほどずれていないのですが,やはり保全処分みたいなものも含めまして,どれだけ実効的にうまくできて,実効的な話合いないし再生ができるようなところの,うまくプロセスに乗せていくことができるのかということがポイントであり,それをどう仕組むかということで,いろいろ皆さんお悩みなのだろうと思います。なかなかすぐに結論は出てこないものかもしれませんけれども,大体の意見分布は伺ったと認識しておりますが,ほかに何かこの段階で,ございますでしょうか。   次の問題の,先ほど阪口さんがおっしゃったような,後ろにおいてどこまで受戻しができるのかという問題とも絡んでおりますので,勝手ながら少し先に進ませていただきまして,後ろの期限猶予がこれだけでは少し足りないので,前をやはりというふうな話とか,そういうふうな形で話を持って行ければいいと思いますので,先に進めさせていただければと思います。したがって,関係する限りにおいては元に戻っていただいても構わないということでございます。   そこで,続きまして,部会資料6の第1,「3 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について,議論を行いたいと思います。   事務当局において,部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 説明させていただきます。6ページの「3 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について御説明いたします。   ここでは,帰属清算方式による実行の手続について御提案しております。現行法上の譲渡担保では,判例上,債務不履行後,担保権者が目的物の所有権を自己に帰属させる意思表示をしても,清算金の支払等や清算金がない旨の通知をするまでは,設定者が債務を弁済して目的物の所有権を受け戻すことができるとされております。本文(1)と(3)は基本的にはこの判例法理を踏襲するものですが,若干異なる点として,担保権者に誠実評価額の通知を義務付けるとともに,客観的な価額と被担保債権額の差額としての清算金ではなくて,誠実評価額と被担保債権額の差額としての暫定的な清算金という概念を設け,暫定的な清算金の支払等がされると,設定者が債務を弁済して担保権を消滅させることができないこととするという考え方をお示ししています。   ここで誠実評価額,暫定的な清算金という概念を設けたのは,正確に客観的な価額を算出するには一定の時間を要し,また,その価額をめぐる紛争が生じることもあり得るため,担保権者がその時点で誠実な評価をすれば実行手続も進められることとし,その負担を軽減させる趣旨でございます。したがって,担保権者はその時点でしかるべき対応をとれば,得られた材料を基に目的物を誠実に評価し,必要であれば暫定的な清算金を支払えば確定的な所有権を取得することができることになります。   一方で,設定者は通知された誠実評価額について,その評価が誠実に評価されたものとして妥当かどうかについて争うことが可能です。また,私的実行に当たっては,目的物の占有を担保権者がどのタイミングで取得することができるかも問題になります。この点について,現行法上の譲渡担保では判例上,清算金の支払と目的物の引渡しが同時履行の関係に立つとされており,本文の(2)は基本的にはこの規律を踏襲するものです。   もっとも,本文の(1)と(3)と同様に,引換給付の関係に立つのは清算金の支払ではなく,誠実評価額を前提として算定された暫定的な清算金の支払としています。占有の取得も実行のプロセスの一環と評価できるものであり,そのプロセスを進めるための担保権者の手続的な負担を軽減するという趣旨は本文(1),(3)と同様です。   これらの所有権の確定的な取得や占有の取得に当たって,その評価が誠実か否かについての立証責任を担保権者と設定者のどちらが負担すべきかも問題となります。この点については,7ページ以下の3及び4のとおり,所有権を確定的に帰属させるための立証責任は担保権者にあると考えられる一方で,占有の取得に関しては,担保権者に負わせるという考え方と設定者に負わせるという考え方の双方があるのではないかという説明をしております。   これに対し,本文(5)では,設定者の実体的請求権としての清算金支払請求権は,誠実評価額ではなく,客観的な目的物の価額を基準として算定される最終的な清算金を請求できることとしています。これは,担保権の実行が終わり,担保権者が目的物の所有権を確定的に取得すると,その目的物の客観的な価値に相当する利益を得るので,最終的な清算金は客観的な額を基準として算出するという考え方に基づくものです。   なお,最終的な清算金の基準となる目的物価額の基準時は,所有権が担保権者に確定的に帰属する時期,すなわち暫定的な清算金が生じないときは誠実評価額等の通知をしたとき,暫定的な清算金が生じるときには,その支払又は提供したときと考えられます。   以上が担保権者が実行に当たって履践すべき手続についての検討となりますが,このほかにも10ページの7及び8では,担保権者が履践すべき手続を途中で止めた場合に設定者がどのようなことを請求できるかについてや,誠実評価額が客観的な目的物の価額を上回っていた場合に,支払われた暫定的な清算金に関する法律関係がどのようになるかについても検討をしております。   誠実評価額という考え方を採用するか,目的物の引渡し請求に対する設定者の同時履行の抗弁権を認めるか,認めるとした場合に,引換給付の関係に立つのか,暫定的な清算金とするかどうかなど,多くの論点を含んでいる箇所ではございますが,御意見を賜れればと考えております。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いします。 ○片山委員 ありがとうございます。片山でございます。まず,第1点,質問なのですけれども,3の(2),(3)のところですが,いわゆる誠実な評価をした暫定的な清算金の支払と引渡しが同時履行関係になるというところです。基本的には同時履行関係になるのは支払と引渡しということですが,その次の(3)の,担保権を消滅させることができないものとするというところに関しては,これは清算金の支払又は提供があれば受戻金は消滅するという今の理解でよろしいのかどうかという点を,まずは確認させていただければと思います。11ページの処分清算のところに関しましては,その点が明確に本文のところで書かれていますが,3の帰属清算のところでは,支払又は提供というのが,2のところで出ないのは当然なのかもしれませんが,3のところで通知等になってしまって,隠れてしまっていますので,そこをまず確認させていただければというのが第1点でございます。   それから,2番目は,このように考えていいのかどうかという点も含めてということなのですけれども,今回の制度設計は基本的に清算金,暫定的な誠実に見積もった清算額の提供と,引渡しとが同時履行の関係になるという制度設計を基本としているということでございます。確かに引用されている46年の最高裁の判決以来,清算金の支払と目的物の引渡しは同時履行になるというのが判例法理で,これは不動産も動産も共通ルールだという認識で,教科書等にもそのように書いてあるということなのですが,最高裁判決の事案は,事例としてはあくまでも不動産の事例であって,動産に関しては,一般には実行通知をするとともに引渡しの請求,あるいは引揚げといってもいいのかもしれませんが,それを行うのが実際の実務であるというように,教壇では説明してきたところではあります。それは飽くまで,やはり不動産と違って動産というのは占有を取得していないと処分するにも処分できないという面があるのではないかと受けてとめております。特に処分清算を念頭に置いてということですが。また,所有権留保に関しても,平成21年の駐車場に止めてある自動車の撤去を求めた事案ですが,あの判決の中でも,弁済期の到来によって占有処分権を取得するという判示がなされているところであります。そうしますと,理論的には,清算金の支払と引渡しが同時履行ということはあるのかもしれないですけれども,現実の動産担保の実行に関して言うと,むしろ,まずは実行通知をして占有を取得してしまう,引き揚げてしまうというのが大前提としてあるのではないかということでございます。   確かに動産といってもいろいろな動産がありますから,事業資産担保のようなものまで含むということになりますと,設定者のところに占有を残したまま事業継続していることを前提に実行していく,事業譲渡をするというようなことになるのかもしれませんが,ここでは主として個別動産を念頭に置くということですので,現在の実務では実は同時履行関係にあるわけではなくて,先に実行通知とともに占有を取得してしまうというのが実務の実際で,それが仮にそうだとすると,今回の御提案で現行の実務とは大きく掛け離れた立法になってしまうのではないかという点が危惧されるところではあります。実務家の委員の皆さんがどのように捉えていらっしゃるのかというところも,是非御説明を伺うことができればと思ったところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。ほかに手も挙がっていらっしゃいますけれども,質問にわたるところがございますので,事務局からまずお答えいただきまして,必要がありましたら他の実務家の皆さんに御協力を仰ぐということにしたいと思いますが,何か事務局の方からございますでしょうか。 ○笹井幹事 まず,御質問いただいた第1点についてです。暫定的な清算金の支払の提供によって受戻権が消滅するのではないのかというのは,御指摘のとおりでして,私も表現がやや不正確だったと思ったのですが,(2)のところで,今正しく片山先生がおっしゃったように,通知等という概念を作ってしまった関係で,こういうふうになってしまったということですが,事実としては,一旦提供があれば,それで受戻権が消滅するということでよろしいのではないかと思っておりました。ここも実質について御議論があるかもしれませんけれども,私どもの意図としてはそういうことでございます。   二つ目,同時履行を認めるかどうかというのは,これは正に実態として何が望ましいかということですので,御議論いただければと思っておりますが,片山先生がおっしゃいましたように,判例が同時履行関係を認めたのは不動産に関する事案で,動産の場合は,例えば評価が必要であるとか,あるいは,処分清算の場合の譲渡先への引渡しの前提として担保権者が占有を取得する必要があるのではないかということは,私どもも意識はしていたところでございます。   ただ,最終的にこういう提案になっておりますのは,やはり清算金が発生する場面を念頭に置きますと,清算金を確保するための有効な手段としては,なかなか同時履行以外の方法が難しく,同時履行関係を成立させておくということによって清算金を確保するという趣旨は不動産だけでなく動産にも妥当するのではないかということで,こういう提案になっているということでございます。   ただ,他方で,御指摘がありましたように,処分清算における譲受人に対する引渡しの前提としてということもあるかもしれませんし,また,動産というものの特性から,隠匿されてしまう可能性があるとか,そういったことも含めて,先に占有を取得しておくという必要性が高い場面もあるかもしれませんので,そうだとすると,それに対してどういうふうに対応していくのかというのは一つの課題であろうと考えております。   この資料の第2の2で,保全処分が取り上げられておりますけれども,それは,今申し上げたような問題に対する一つの対応策になるのではないかということで取り上げたものでございます。 ○道垣内部会長 ほかの方からもお手が挙がっているのですが,片山さんが示された現在の実務的な取扱いについての認識について,取り分け実務にお詳しい方から何か,そうではないよとか,そうだよというふうなことでございましたら,御発言いただければと思うのですが。   本多さん,最初に挙手いただいたのではなくて,そのところをまず,お願いいたします。 ○本多委員 三井住友銀行の本多です。ありがとうございます。片山先生の御質問に関してなのですけれども,念のために2点とも,私の考えも踏まえて,申し上げられればと思っているのですが,一点目は,暫定的な清算金の支払又はその提供,あるいは帰属清算の通知等による受戻権の消滅なのですけれども,暫定的な清算金の前提として,誠実に評価した価額によって帰属清算をするということが前提になっていると思うのですけれども,誠実評価額の正当性をめぐって後に争いになるということなのだとすると,受戻権がなくなったはずのものがまた復活してしまうとか,一旦担保権者に帰属したものが巻き戻されてしまうということにもなり得ることを懸念しておりまして,飽くまでも誠実評価額を前提として帰属清算の通知等を行う限りにおいては,後に巻き戻ることがない,要は,誠実評価額をめぐって後に紛争になることがないという制度設計になっているのが実務的には望ましいのかなと考えております。これが1点目になります。   それから,2点目なのですが,実際に帰属清算するに際し,それから処分清算の場合も同様だと思うのですが,私的実行の前提として動産の占有を引き揚げるという実務があるのではないかという御指摘なのですが,それはそのとおりの場合がございます。先生方からも,いろいろな場面があり得るという御指摘がされてはいるのですが,目的物や実行戦略によっては設定者の下に占有を残したまま,設定者の商流の中で処分をしていくというのが経済的にも効率的という場合がございます。事業資産を対象としている場合には,特にそういうことがあるかもしれないのかなと思っています。   一方で,例えば閉店セールが行われる場合,それが従前の事業所においてなされる場合もありますが,場合によっては処分業者が別のセール用の場所を別途用意しまして,そこに動産を持って行き,処分をするということもありますので,その場合には占有を引き揚げさせていただく必要が出てきそうなのかなと思っています。   それを法制度としてどう実現するのかということにつきまして,非占有型の動産担保ということを前提としますと,基本的には設定者の下に占有が残っているというのがルールの設計上の前提になりそうなのかなと思っていまして,併せて清算金の確保に向けた政策的判断からも,先に占有を取り上げられるというルール設計は難しそうなのかなとは考えておりました。   一方で,実務的な取扱いとして,担保権設定契約において,同時履行の抗弁だったり留置権だったりというものを放棄いただいて,実行の局面においては実行に御協力いただく,すなわち,あらかじめ必要に応じて目的物の占有を引き渡していただくというふうなアレンジが求められることはございまして,そういう契約実務等を通じて占有を先に頂いて,処分につなげていくということもあるという認識でおります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   私が片山さんの認識の実務について伺ったのに対して,答えてくださろうとして阪口さんから手が挙がったのだと思いますので,その部分だけ別に切り出してお話ができれば,お願いいたします。 ○阪口幹事 片山先生の御質問に関しては,実務としてはやはり同時履行の抗弁権をできるだけない方向に動いているというのは,僕も事実認識としてそのとおりです。法的に認められないときちんと説明されているわけではなく,先ほど本多さんから御説明があったように,同時履行の抗弁権の放棄という手段であったり,実際には,動産の価値が低いので,清算金がないという説明をすることによって,物事を引っ張っているというのが,実務的には多いと思います。また,譲渡担保ではなくて所有権留保の場合には,こういう問題が起きないということもあって,動産担保全体に関して言うと,先に占有を引っ張ってくるのが実務的に多いけれども,では,それが同時履行の抗弁権がそもそもないからなのかどうかは完全には説明されていない。けれども,実務はそれで動いているというのはそのとおりだと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   井上さんはどうされますか。後でもよろしいですし,どちらでも。 ○井上委員 後の議論についての意見もあるのですが,今の部分だけについて申し上げると,私も阪口先生と同じで,清算金がないからという場合が現在の実務ではほとんどかなと思います。また,今回の提案が実務とそれほど掛け離れた提案になっているかというと,むしろ最終的な勝負,すなわち現行法でいう清算金は,今回の提案でいう「最終的な清算金」の方を意味するのだとすると,清算金の支払との引換えでなく,先行して引渡しを求める設計に現在の御提案でもなっているので,そこまで大きな違いではないのではないかと理解しています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。佐久間さん。 ○佐久間委員 今の実務と大きく掛け離れないということだとすると,もう聞く必要ないのかなと思ったのですが,この2段構えにすると,つまり,誠実評価額がまず問題となり,最終的には客観的価額が問題となるという立て付けだと,どうなのかなと思っていたことがありまして,一つは,それほど客観的価額と誠実評価額というのが食い違うということがあるのだろうか,そもそも客観的価額って何なのだろうか,よく分からないなと思ったものですから,こういう構えにしたら実務的に支障が起こるようなことは,本多さんがおっしゃった,誠実評価額をめぐっての争いがまず深刻に起こってというようなことも含めて,ないのかなというふうに疑問に思いました。もっとも,今はほぼこのようなことでやっていますということなのだったら,問題にならないのだろうとも思います。   もう1点は,仮に誠実評価額がまず示されて,その支払と引換えに目的物の引渡しが請求できるということだったとして,ここで主張立証責任のことが8ページに書かれておりますよね,どちらか負担するかという。これは,誠実評価額というものを問題とする以上は,どういう根拠で評価しましたということが示されないことには反論のしようがないので,まずはその算定の根拠に当たるものが,それが誠実だという証明まで要るのかどうか分かりませんけれども,担保権者の方から示される必要があるのではないかと感じました。それでは根拠として足りないとか,根拠に照らして評価が誤っているとか,そういうことは設定者の側で争うことは当然可能なのだろうと,そういうことになるのかなと思いました。   ただ,そうなると,その第1段階で結局のところ本格的な争いになって,客観的価額と,そこは第1の疑問なのですが,客観的価額と大分やはり違う場面が出てくるのか,誠実評価ということなら,単に算定根拠が十分かと,算定根拠に照らして評価が誤っていないかということだけを争えばいいのだから,客観的価額の争いとはやはり違ってくることになるのか,ここは1点目にまた戻りますが,よく分かりませんということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   なかなか難しい問題が含まれていますが,本多さんは先ほど説明いただきましたので,御意見の方を承りたいと思います。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多です。佐久間先生も御質問ありがとうございました。大変僭越ではございますが,私も先生と同じような思いを抱いたところがございまして,要は,誠実評価額と客観的な評価額に,どれだけギャップが生じ得るのか,それが実務的にどう影響してくるのかという点でございます。先ほど申し上げましたとおり,誠実評価額をめぐって事後的に争いになって,例えば受戻権の消滅の効果が巻き戻ったり,それから,所有権の帰属の効果が巻き戻ったりということになりますと,実務的には取引上の影響も大きいところがございますので,そうした事態を避けるために,つまるところ誠実評価額を算定するに際して客観的な価額の算定に近いようなものになっていく,という実務になりそうなのかなと思っています。   一方で,客観的な価額を最初から求めることによって,担保権の実行に際して速やかで,効率的な実行ができることにならない,だから,誠実評価額という概念を設けることによって,担保権実行をスピード感を持ってできるようにするという設計思想によるものなのだとすると,余り誠実評価額のところで争いになって,受戻権の覆滅だったり,帰属の効果の覆滅だったりというのが生じないような制度設計になっているのがむしろ望ましくて,当然のことながら,誠実評価額については誠実に評価したことについて算定根拠をお示しした上で,帰属清算の場合には帰属清算の通知等をさせていただくことになるのだろうと思うのですけれども,その後の争われ方としては,誠実評価額の当・不当というよりも,目的物の客観的な価額が被担保債権額より大きい場合には,客観的な価額はこうで,最終的な清算金はこれだけ発生しますというような清算金支払請求の訴えにより,一方で目的物の客観的な価額が被担保債権額より小さい場合なのであれば,被担保債権の消滅の範囲がこれだけ変わりますというふうな形で債務存在確認の訴えがなされるというふうな争われ方になるのが,ここで想定されている設計なのかなという理解でおります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただ,訴訟が起こるとして,最初に起こるのは担保権者からの引渡し請求訴訟ですよね。そのときに客観的な評価額というのを問題にすることになるのですかね。それが私には今,理解できなかったのですが。   すみません,後でまた更に考えたいと思いますが,井上さん,続けてお願いいたします。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。今回の提案がどういうものかということは,この誠実評価額の中身によるところが大きいと思うのですけれども,これは,現在の提案の立て付けからすると,担保権者が自分の手元にない動産について限られた情報の中で評価すれば足りるはずで,それをもって誠実といってもらわないとワークしないと思います。ですから,その後,引渡しを受け,自分に帰属させた後に,販売ルートを持たない担保権者自身が自分でその後,売って債権の弁済に充当しようとしたときに,幾らぐらいで売れる自信,めどがあるのかということであって,自分で売れないのであれば,業者を使って売ったときにその業者に払わなければいけない報酬・費用を控除し,あるいは自分で売るのだったら,債務者が自身のビジネスの中で売るのと違って,担保権者が一定程度叩き売りに近い売り方をしなければいけないという覚悟で売った後の手取り額の見込みを誠実評価額といってもらえないと,困るのではないでしょうか。もっと高い,例えばビジネスの中で債務者自身が売るときの価格を参考にして誠実に評価しろと言われると,ワークしないという感じがします。   その意味で,「誠実」というのがどういうことを意味するのかですけれども,客観的な市場価値でなくていいという方向のほかに,やれることをやりなさいみたいなことまで含むとすると,少し違うのかなという感じがして,担保権者が自ら取りあえず持っている情報をベースに考えれば,基本的には足りると考えます。後で調査受忍義務の話が出てきます。それは担保権者にとって非常に重要な権利になる可能性があると思うのですけれども,これが,逆にこの権限を使って徹底的に評価しないと誠実ではないという方向になるのは,これまたよくないと思っていて,今回の御提案は,第1段階では,物権の帰属についてはできるだけすっと済ませて,それで,金額の清算の問題だけ最後に持ってこようということだとすると,くどいようですけれども,誠実評価額の意味するところを相当軽くしなければいけないし,担保権者に調査権限が与えられるとしても,それは権利であって義務ではなく,徹底した評価とは全く離れた,自らの負担で処分したときに回収できる手取り額として想定し得る範囲で誠実に評価すればよいというぐらいに考えるべきではないかというのが1点目です。   2点目は,その後に出てくる客観的な価額というのは,これもまた,いわゆる平場で鑑定評価を取るような意味の客観的な価額ではなくて,飽くまでも実行局面で,半ばファイヤーセールに近い形で第三者が買ってくれると見込まれる価額である,それを客観的な価額と考えるべきで,債務者が協力的で,結果的に,在庫の場合ですけれども,定価で売れるようなことを想定しなければいけないというわけではないというのが,ここでいう客観的な価額として考えるべきことだと思います。もう一つ,誠実評価額と客観的な価額のところに,いずれも「目的物の価額」という形で定義されているのですけれども,先ほど誠実評価額のところで手取り額と申し上げましたが,やはり調査費用とか,業者を使わなければいけないことが見込まれる場合の処分費用を控除した金額と見ることができないのかなと思いました。ここは帰属清算型ではあるのですけれども,帰属させた後には当然,一定の処分を想定していますので,ここでいっている誠実評価額というのは,その後の処分に必要な費用を実質的に考慮することが許されてしかるべきではないかと思いますし,後で出てくる最終的な清算金のベースとなる客観的な価額のところでも,評価費用といったような費用も引いた上で考えるべきかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。名前が悪いという感じですかね。「誠実」ってすごく重い感じがしたり,「客観的」,これも重い感じがするので,「誠実」に代えて「暫定」とかにするとか,そういうのも必要なのかもしれません。おっしゃっている内容は,そのとおりかなという感じがしますが。中村さん。 ○中村委員 ありがとうございます。東京地裁の中村でございます。先ほど井上先生がおっしゃられた意見に沿う方向の話になるのではないかと思うのですが,誠実評価額という暫定的で簡便な立証が可能な評価額という概念を設けて,誠実評価額による暫定的清算金の提供と目的物の引渡しが同時履行の関係に立つとして,さらに,最終的な清算は客観的評価額で行うとするのであれば,設定者が誠実評価額を争って目的物の引渡しを拒んで私的実行ができない,進まないという場合には,執行官又は執行裁判所を執行機関とする担保権の実行手続として,誠実評価額に基づいて目的物の引渡しを受けることができるという規律ということについても検討する価値があるのではないかと考えております。   設定者において誠実評価額が低いとして目的物の引渡しを拒む場合,訴訟によらなければならないとすると,譲渡担保権者は設定者に対する目的物引渡し請求を提起することになりまして,その訴訟手続で,誠実評価額が誠実に評価されたものであるか否かがもちろん審理されることになります。ただ,この場合,誠実評価額の立証自体は容易であるとしても,当事者間には必ず最終的な清算金の額,また消滅する被担保債権額について争いがある状態ですので,債務者側から最終的清算金支払請求がされたり,譲渡担保権者側から残債権の支払請求がされたりして,客観的評価額も争点となって,結局,誠実評価額という概念を設けた意味がほとんどなくなってしまうということが懸念されます。   そこで,これを担保権実行としての民事執行手続として行うことができるようにするという規律が考えられると思います。この場合,譲渡担保権者は執行官あるいは執行裁判所に対して譲渡担保権の存在,弁済期の到来,それと誠実評価額を証する書面などを提出することによって,目的物の引渡しを受けることができることになって,実効的な担保権の実行が図られるのではないかと思います。他方で,設定者は担保権の存否及び弁済期の到来の有無を争うときはもちろん,誠実評価額を争うときも,民事執行法上の不服申立て手続である執行異議あるいは執行抗告によってこれらを争うことができることになります。そして,このようにして担保権の実行が進められた場合には,設定者は最終的には訴訟手続において客観的評価額を争うことができるようになります。このような規律は,譲渡担保権の実行方法として,民事執行としての動産競売申立てを認めるという方向であることともバランスがいいように思われますので,私的実行方法の規律の一案として御検討いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。誠実評価額という概念を入れたのは,担保権者がきちんとした,自分のところにあるデータだけで評価しなければいけないのに,本当はこれだけの価値があるのだと,客観的にはこうなのだと言われるというのは,それはかわいそうなので,担保権者ができる限り,できる限りというときに,また井上さんがおっしゃったような,調査権限まで使わないとできる限りにならないというふうなことを言い出すと,また問題があるのですけれども,いわゆる善良な管理者の注意に従って評価をすれば,それで次にステップを進めることができるよというために作ろうとした概念なのだろうと思いますけれども,それによって手続が煩雑になったり,かえってスタックしたりすると問題がありますので,その辺をよく考えなければいけないということなのだろうと思います。訴訟以外の方法のいろいろな活用というのも,そうなのかもしれませんが。 ○大西委員 先ほどからお話が出ている誠実評価額なのですが,私が分からないのは,例えば集合物譲渡担保の場合,担保権者側で判断できる資料といっても,実際その日にどの程度の量の在庫があるかについては,多分実査をしないと分からないと思うのです。そういう場合に,誠実評価額という概念はそこまで担保権者側にすることを求めるのか,それとも,担保権者側が主観的な立場で合理的に算出した平均の在庫量をもって決めればよいのか,については,特に集合物譲渡担保の場合にいろいろ議論も出てくるのかなと思いました。   それから,2点目は,目的物の客観的な価格です。言葉自体は分かりやすいのですが,具体的に動産の客観的な価格はどのように把握するのかは容易でなく,不動産のように不動産鑑定の実務が明確にあるわけでもないので,実際はいわゆる在庫買取り業者による評価か,あとは実際に買入れ申込書に記載された額をもって評価額とする他はなく,そういう意味で,この辺の客観的価格決定のプロセスをどうするかが重要だと思います。   私は,先ほども申し上げたのですが,やはり受戻権は失ったとしても,設定者である債務者からすると,そんな低い価格での債務消滅では困ることから,債務者においてより高い買手を探す機会を設ける等の方法もあるのかなと思います。ただ,このようなプロセスにする場合,帰属清算方式の場合は,受戻権が先になくなってしまうことから,その後に買い手を探して提案する余地もないので,どのようにして客観的価格を適正に決めるのかという問題は残るものと思います。   すみません,コメントということで,余り有意義な発言ではないのかもしれませんが,以上でございます。 ○道垣内部会長 いえ,ありがとうございます。 ○尾ア幹事 今,大西さんがおっしゃったことや,あるいはその前に井上先生がおっしゃったことと非常に近いのですけれども,私も,誠実評価は大きくばらつきますし,客観的な価額というものを算出するということは極めて難しいというか,ほとんど不可能ではないかとも思います。考え方として重要なのは,こういった適当な仮定のもとでの評価による価額というよりも,そのときに現実に買手が付く価額が幾らなのかということなのではないかと思います。その状況の下で,売却ルートも確保できている,現実に買手が付く価額というのが,帰属清算の価額と比べてどうかとか,あるいは,この後,処分清算の話も出てくると思いますけれども,処分清算時の価額と比べてどうかといったようなことが問題になるのではないかと思います。   したがって,被担保債権が消滅する範囲が処分価格と異なる場合というのは,実際には,設定者,あるいは場合によって後順位担保権者なんかでもいいのかもしれないと思いますけれども,より高値で買ってくれるような新たな買手を連れてきたにもかかわらず担保権者がそれより低い価額で売却したといったような場合だと考えるべきなのではないかと考えます。そうでないと,様々な仮定のもとで様々な客観的な価額が算出されて,収拾がつかなくなるのではないかと感じました。   こうした点というのは,実は我々の方で提案している事業成長担保権の実行の場面においても,当てはまるのかなと考えております。担保権を実行に伴って事業譲渡する場合に,どのような手続で売却するのかといった点について,例えば,設定者とか,あるいは後順位担保権者の方が高い価額で買ってくれるような買手を連れてこられるのではないかといったようなことを含めて,事業を高値で売却するための仕組みを検討する必要があるのではないかと考えております。このような点について,事業成長担保権のところで議論したいと思いますけれども,今回においてもそういった論点というのは一部当てはまるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   1点だけ申しますと,譲渡担保に関する判例法理というのは,実は譲渡担保権の実行において譲渡担保権者が目的物を第三者に贈与しても,売却しても,半額で売っても,全部同じ法律関係になるというのが前提になっているものなのです。つまり,譲渡担保権者に第三者に適正額で売らなければならないという義務というのは課されないで,価値というのは別個に決まって,いずれにせよその額で被担保債権が消滅して,その額で清算金が算定される。安く売ろうが,第三者に贈与しようが,自分のものにしようが,それは関係ないということなのだろうと思うのです。しかし,現実の取引というのを考えたときに,第三者への処分というのが基本になると考えますと,そういうふうな今までの判例法理が前提にしてきたところをそのまま受け入れていいのか,それとも第三者に処分するというのを中心にした立法の構造というのを考えた方がいいのかという問題が背後には存在しているように思います。これは,「客観的な」というのは,売ろうが売るまいが関係ないと,安く売ろうが,高く売ろうが,人にあげようが,何しようが関係ないというところから出てきている概念だと思うのです。それに対して,自分の方が高く売れると言ったりするというのは,また別の,もちろんそれは客観的価額がこうだと主張したときに,もっと高く売れるというのはまた別かもしれませんが,第三者を現実に探してこなければならないというのとは,少し今までの判例法理は違う構造になっているのだろうと思います。今までの判例法理がいいと私が主張しているわけではなくて,そこをどう考えるかという整理が必要かもしれないと思います。 ○阪口幹事 誠実評価額概念のところです。何度も出ているとおり,薄いものにしないと実務的にワークしないというのは,まず,そうなのだろうと思うのです。では,具体的にどこまで薄くするのかということを考えるときに,これはかなり難しいのではないかと思います。そもそも,先ほど大西先生から御指摘があったとおり,物が幾つあるかも分からない中で物事を考えているという,その中でどこまで薄くできるのだろうという問題が,まずあります。次に,仮に数量は分かりましたという場合,例えば在庫品でTシャツならTシャツ,売価で1,000万円分ありますと。売価1,000万円だったら,大抵簿価は5,600万円ぐらいになって,簿価が5,600万円だとすると,早期処分価格は300万とか400万円とかぐらいになる。でも,バッタ価格だったら多分数十万円ですよね。このように価格が数十万円から1,000万円まである中で誠実評価と言われたときに,一体どうなるのだろうというのが正直な疑問です。なので,ここで誠実評価概念というものを入れることによって,また何か少し別の問題を結局作ってしまうのではないかと思います。客観評価と言ってしまうと,最後は裁判所が客観評価したと言ったら,それはもう動きのないことになるのですけれども,誠実評価という,実際には薄い概念にしないといけないのだけれども,幅のある概念を新たに設けることによって,かえってややこしくならないかというのは,今回の御提案に対する危惧です。   それらの問題の背景には,一つは,占有の移転を議論しない中で,もっというと,ここの引渡し請求との関係で言うと,むしろ占有は債務者にある中で今の誠実評価額を考えているというのに大きな原因があるのではないだろうかと思います。実務的には,先ほどの話にもありましたけれども,動産に関して言うと,占有を先に債権者側,担保権者側が取得した中で次の評価手続を始める方が,安定的な実務になるのではないかという意見を持っています。そうすると,判例が認めている同時履行の抗弁権を完全になくしていいのか,それはまずいのではないか,処分清算だったら留置権を消していいのかと,こういう議論になってくる。ただ,そこはもう別の手当てを考えたらどうかというのがあって,同時履行の抗弁権にしても,留置権にしても,結局,これは客観的評価額に基づく清算金,最終的清算金を確保することが目的で,同時履行の抗弁権なり留置権を考えているわけですから,最終目標である清算金確保のための手続を別に考えて,それで対処すべきなのではないか。   具体的に何ですかと言われたら,供託請求権,供託請求の抗弁みたいなものを設けて,債務者側は債権者側に,清算金がある程度あると思うよと,だから供託しなさいよと,ここまで言えるとする。しかし,お金を払うわけではありません。今回の部会資料の御提案だったら,暫定的数値で清算金が出てしまうと,債権者は一旦払わないといけない。後日,正しい数字で清算金がない場合には不当利得で返してこないといけないということになっていますけれども,それは担保権者側にとってはかなり酷な話で,そんな債務者が不当利得で返してくれるはずがありませんから,それはまず難しいだろうと。そうすると,暫定的にせよ払うことまで要求する制度というのはなかなかしんどくて,供託で止める制度みたいなものを作れないかということです。それは,後で出てくる保全処分の中でも,担保というのは当然出てくるはずですから,それとひも付けられないかということで,大阪弁護士会の有志が少し先の金融法務事情で発表する内容です。予告ということで,よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 その予告の内容で,供託額はどうやって定めるのですか。 ○阪口幹事 私の意見ではなくて,飽くまで大阪弁護士会有志の意見ということですが,まず,債権者の言わば言い値価額で手続が始まるようなイメージです。昭和62年最判の調査官解説のように,物事自身は一旦言い値価額で動き出すのだと考える。保全処分を考えていただいたら,保全処分申立ての段階で,まず,債権者が主張する。有審尋なら債務者側は自分の価額を言います。そこで裁判所が裁判する。また無審尋で発令されたら債務者は保全異議を出して,保全異議の中で裁判所が,より,積み増しの立担保命令を出し,債権者がそれに従わなかったら保全処分取消しと,そういう手続を考えているということです。 ○道垣内部会長 なるほど,仮処分のときの,保全処分のときの担保の話として考えると,清算金を評価したうんぬんというのではなくて,仮処分のための担保としての供託金という観念で考えるという感じなのですかね。 ○阪口幹事 実体法上の請求権を認めた上で,実務的には保全処分の中で処理する。実体法上の抗弁権を認めた上で,それは,ではどこで発動するかというと,もちろん本訴であれば本訴でやってもいいのですけれども,実際上,保全処分が多分主戦場になるので,そこで処理するということを提案される見込みです。 ○道垣内部会長 分かりました。何となくおかしいところもあるような気もしますが。 ○尾ア幹事 すみません,先ほどうまく説明できなかったのかもしれないのですけれども,基本的には井上先生がおっしゃっていたことと非常に近くて,被担保債権が消滅する範囲を,この本文の中で客観的価額と呼ばれている概念で捉えるのは,後知恵での紛争を生じさせるのでよろしくないのではないかと思います。では,どの範囲で最終的に被担保債権を消滅させるのが現実的かというと,やはりそのときの状況の中で現実的に買手の付く価額ということなので,適当な仮定で算出された理論価額ほど高い価額にはならない可能性が当然にあるということです。その時点で売る話なので,買手がうまく見付からなければ,それほどいい価額にはならないかもしれない。その際に,売却したあとで,設定者や後順位の担保権者の方で,いや,もっと高い価額で売れたはずではないか,客観的な価額はもっと高いではないかというのであれば,そのためには,もっと高い価額で買ってくれるような買手を現実に連れてくることができた,ということも併せて必要であろうということです。この価額で買ってくれる買手が現実にいたにもかかわらず,そんな安い価額で売却したのは,それはおかしいでしょうということを言えるようにすることで,被担保債権が消滅する範囲というものをもっと増やすというような競争が現実的な形で実現できるのではないかということを申し上げたかったという趣旨です。その後で座長にサマリーしていただいた内容の方を私自身がもし誤解をしていなければ,申し上げたかったことは以上のとおりです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   担保権者はまだ買主を探してきてはいけないのですね,そのときには。自分が買主を探してきて,余り大した額ではなかったときに,債務者の方がもっと高い買主を探してきたといったら,その前の契約は債務不履行になるわけですよね。担保権者の側は評価額で主張するという形になりますよね。それはよく分かりませんが,すみません,今のは感想です。 ○井上委員 ありがとうございます。先ほど阪口先生がおっしゃったことを伺って,結局のところ同じことになるのかなとは思ったのですけれども,私自身は,この帰属清算方式に関する事務局提案を前提にした上で,誠実評価額なるものの意味や客観的な価額なるものの意味について,先ほど申し上げたとおりの意見を持っているのですけれども,それに加えて,やはり実際は引渡しを受けなければ安定的な実務を実現できないのではないかということについては,後で出てくる保全処分の要件をどの程度軽くできるのかということに掛かるのかなと思っています。今の御提案は,目的物の価格を減少させる行為,若しくは実行を困難にする行為をし,又はこれらの行為をするおそれがあるときという要件になっているのですが,そういう要件は一定程度必要だと思うのですけれども,ここをそれほど厳格に考えなくても,相応の担保金を積むのであれば,引渡しを認める方向でこの保全処分が使えるように制度として考えることができるのではないかと思いました。それに先立って,その意味で,担保権者が自らの権利として調査したいというときに,在庫が幾つあるか,その仕入れが幾らなのか,あるいは現時点で販売されている販売単価が幾らなのかも含めた調査については,設定者に受忍義務を負わせて,担保権者はしようと思えば調査できるし,バックアップの証拠を見せろということもでき,その上で,それに対して設定者が協力しないような場合は,もう自動的におそれありとして保全処分を求められる,その際に,清算金を最終的に確保してあげることが重要だとすると,担保金のところである程度配慮できるのかなと考えています。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。 ○阪口幹事 今の井上先生の御発言に対する確認なのですけれども,今回の部会資料の御提案というのは,ここでいう帰属清算の通知等にいろいろなものをひも付けていますよね。ひも付けているというのは,効果を発生させているわけですね。ただ,誠実評価額という概念を採ってしまうと,そこ自身が争いになってしまう。つまり,帰属清算の通知が正しかったかどうかというのはやはり誠実評価額をめぐって争いになり得て,かつ,いろいろなものがひも付いているので,それ自身は不安定な法律関係になってしまわないかと思います。もちろん解釈で,そこでいう帰属清算の通知の前提となる誠実評価額は非常に薄いものでいいのですというふうにどこかに明確に書けばいいのかも分かりませんけれども,あえて中間的な概念を使うことによって争いの種を作り出していないのかという危惧があって,客観的な額といったって客観額自身,よく分からないのだけれども,それとはまた別の概念を作ることによる不安定性が少し気になっているのですけれども,そこはもう解釈で,薄いものですと言えば足りるということでしょうか。 ○井上委員 薄いものですと言って足りるようにしたいと思っているのですけれども,どうでしょうか。先ほどの阪口先生の例で言えば,早期処分価格よりも更に安い金額になって当然かなという感覚を持っていまして,担保権者自身が,場合によっては業者を使って相当程度フィーを払って,それで,更に最終的に手元に残る金額というイメージに近いです。場合によってはバッタ屋さんに売る価格に近くなるのかもしれません。その場合であっても,販売ルートを持たない担保権者であれば,誠実さがなお保たれるというくらいのイメージに近くて,もちろん,それに対して,俺が売ればもっと高く売れるという設定者が自ら売りに行くという,そのプロセスを重要視するのであれば,元の話に戻って,1週間という待機期間があった方がいいのではないかという議論につながりますし,それを設けなくても,実務上は実行直前のやり取りの中で設定者が,それであれば任意売却に動くというプロセスが実際には起こって,高く売る方向でウィン・ウィンの関係を作れないかと思っていますが,それがなかなかうまくいかないということだと,別の考え方を考えなければいけないかもしれず,その点で,今度の金融法務事情の御提案を是非拝見したいと思います。 ○道垣内部会長 その債務者側の権利といいますか,自分でそれなら売るというのを何とかリーガルな権利として位置付けられないかというのが尾アさんがおっしゃっている話かなと思いますが,それをプロセスの中でどういうふうに仕組んでいくのかというのは,更に考える必要があるのだろうと思います。   いかがでしょうか。かなり複雑なところでありますが,多くの方の御意見は多分一致しているような気がいたします。もう少し段階を明確にして,どの段階で何をどの範囲でやるのかということを明らかにしないと,なかなか分からない。裁判所が担保の形で入ってくるという形もあるかもしれませんし,途中で債務者の側が,では自分で売るというふうなことを言うのをどういうふうにして確保できるのかというふうなものを,もう少し,いずれにせよ,精緻にプロセスを考えてやった方がいいということだろうと思います。もし仮にこの段階でありませんでしたら,それらを踏まえてもう一度検討して,次の回の案にしたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。   それでは,開始いたしましてもう2時間半経過しておりますので,ここで少し休憩を取らせていただければと思います。一般に15分休憩を取ることになっているのですが,少し時間が押しておりますので,16時10分までということにさせていただければと思います。   では,しばらく休憩を取りたいと思います。ありがとうございます。           (休     憩) ○道垣内部会長 それでは,予定しました16時10分になりましたので,審議を再開いたします。   金子委員がいらっしゃいましたので,次のテーマの前に,金子委員から簡単な自己紹介をお願いいたします。 (委員の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは,休憩前に続けまして,部会資料6の第1の「4 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」というところから始めたいと思います。   事務当局におかれまして,部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 御説明させていただきます。11ページの「4 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について御説明いたします。   現行法上の譲渡担保において,判例上,処分清算方式による実行をし,目的物を第三者に処分した場合には,譲受人は目的物の完全な所有権を取得し,設定者は債務を弁済して目的物の所有権を受け戻すことができなくなるとされています。本文(1)は,この判例法理を踏襲するものです。したがって,処分清算方式においては,帰属清算方式と異なり,担保権者による通知がなくとも,処分がされた時点で,設定者が債務を弁済して担保権を消滅させることができなくなります。そうではありますが,本文(3)では,担保権者に対して誠実評価額等の通知を義務付けております。これがどのような意味を持つかと申しますと,本文(4)において,現行法上の譲渡担保に関する判例を踏襲して,設定者は暫定的な清算金が支払われるまでは留置権に基づき,目的物の引渡しを拒むことができるとしております。この留置権を消滅させるための手続として,この誠実評価額等の通知や暫定的な清算金の支払等を位置付けているということになります。ここで誠実評価額や暫定的な清算金という考え方を用いているのは,帰属清算方式の箇所で述べたのと同様に,実行のプロセスを進めるための担保権者の評価に関する負担を軽減するという趣旨でございます。   なお,御説明したとおり,本文(4)では,設定者の留置権を認めることを前提とする御提案をしておりますが,この点に関しては学説上,少なくとも動産譲渡担保の処分清算においては,設定者の留置権を認めるべきではないという見解も見られるところでございます。その理由として,動産譲渡担保で清算金が生じることがまれであること,占有を取得しなければ処分が困難であり,そのような状況で清算金を算定することが実質的に不可能であること等が指摘されています。   もっとも,処分清算においては,処分によって設定者が確定的に所有権を失うことになるため,清算金を確保する要請はより高いということも考えられるところであって,ほかに清算金を確保する方策が今のところ見当たらないことも踏まえ,留置権を認めるという考え方をお示ししておりますが,御意見を賜れればと思います。   設定者が実体的請求権として請求することができる最終的な清算金は,目的物の客観的な評価額を基準とすることの趣旨についても,帰属清算方式の箇所で御説明したところと同様でございます。   私からの説明は以上でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○片山委員 片山でございます。先ほどの帰属清算のところとも関連するのかもしれませんが,引渡しと清算金の支払の同時履行の問題であります。13ページに指摘がございますとおり,処分清算については,実行のために担保権者が目的物の占有を取得をする必要があるという学説も有力であるという紹介がなされていますが,もし,帰属清算もそうですけれども,処分清算のところも,立法によって本文のような形で同時履行とするとの規定がなされたときに,同時履行を放棄するとか,あるいは留置権の放棄まで言えるかどうか分からないですけれども,当事者間で,法律の規定にもかかわらず,直ちに引渡しを請求し,引渡しを拒むことができないという約定を譲渡担保設定契約書の中に設けた場合に,その約定の効力はどうなるのかという点が問題になるかとは思います。それは帰属清算の場合も同じかと思いますけれども,その点については特約の効力を認めると考えてよいのかどうかという点について,御提案の趣旨をお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 片山さんはどう思われますか。 ○片山委員 私自身は,特約の効力は認めていいのではないかと思っています。 ○道垣内部会長 分かりました。事務局の御判断はどういう前提だったのか,もしありましたら,お願いいたします。 ○周藤関係官 この点について何か今の段階で確たる意見があるというわけではなくて,ここは実務上,いろいろその効力についてどのように考えられているかという部分も問題になっていると承知しているのですが,仮登記担保法に仮登記担保契約における同時履行の抗弁に関する規定があり,それは強行法規性を持つという説明がされておりますので,同時履行の抗弁権の放棄の特約が有効かどうかということを考えるに当たっては,そことの関係は考えなければいけないのかなと感じました。 ○道垣内部会長 仮に暫定的な清算金というのを支払ないしは提供して初めて引渡しを請求できるというのを,一つの物権内容であると考えたときに,それと異なる約定をしたときに,それがそのまま効力を承認されるのかというのが,物権法定主義との関係では問題にならないのかしらというのが若干気になります。もちろんそれは当事者間では効力を有すると考えたら,被担保債権の譲渡があったりして,第三者が出て,担保権者が債権譲受人に変わったというふうな場合ではない限りにおいては,債権的な効力であったってそのまま承認され得るというのは,あるのかもしれないですけれども,かなり考えてみる必要がある。それとともに,今まで本多さんとか,井上さんもそうだったかもしれませんけれども,積極的にそういうふうな特約を認めるべきであるというお考えもあったわけですので,場合によってはそれが解釈論としてどうかという問題を越えて,こういうふうなものを認めるというのが前提になる,ただし別段の定めがあるときはこの限りでないというのをきちんと書くというのも,あるいは方法なのかもしれないと思います。 ○大西委員 誠実評価額とか客観的評価額の決定方法につきましては,先ほど3のところで述べたことと同じような問題はあるのですが,この処分清算方式の場合,第三者の処分が先に来るということからすると,ここでは処分価格が先に決まっていることになります。それにもかかわらず,誠実評価額を担保権者が出した上で,更に客観的な価格という,併せて3種類の価格の概念設定をすることが,混乱を招かないかなとの疑念があります。例えば,最初の誠実評価額とありますが,最初の段階で処分価格というのがあることから,誠実評価額を処分価格と同義にして一本化するという方法もあると思いました。この辺については,それらを分けることの意義が別にありましたら,教えていただければ幸いです。   それから,2点目は,先ほど道垣内先生の方からお話がありましたとおり,判例法理とは違って,要は価額を評価額とするよりも,具体的な買い手を連れてきて,その一番高い価格を出した買い手の価格が適正な価値というプロセスにする方法もあるかと思います。そうした場合,先ほど2のところで出ていました1週間の催告期間については,設定者や後順位担保権者が別の買い手オファーを探せる機会にもなるので,もしそういうスキームを採用するのであれば,担保実行まで1週間の期間を設ける意味もあるように思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。処分価額という概念をどうして組み入れないかというと,先ほど休憩前に申し上げましたように,贈与でも同じことになるというのを前提とした作りになっているからだと思うのです。それに対して,私も十分に今,調べて発言をしているわけではないのですが,英米における,例えばモーゲージみたいなことになりますと,担保権者の側がそれを最大限高く売るという義務を負っていると,それは債務者からある種,預かっていて,債務者のために高く売るという義務を負っていると考えると,贈与なんてとんでもない話であって,それは正に善良な管理者の注意に従ってきちんとした額で売らなければならない。そういうふうに仕組むというのが一つの方法として存在し得るのだと思うのです。だから,贈与でもいいと考えるのか,そういうふうに仕組むのかという,前に申しましたように,適正価額による売買というのを前提に仕組んでしまうのかというのがあるのかもしれないと思います。すみません,また要らない話をしまして。 ○沖野委員 ありがとうございます。片山委員から御指摘のあった特約の点について申し上げたいと思います。   帰属清算のところでも,特約による対処というのが提示もされていたと思うのですけれども,私自身は留置権ですとか同時履行の抗弁というのが,公平の観点から,しかも,一定の清算金があると債権者が考えているということであるならば,その分は取らせて手放すということが確保されていいのではないかということを考えますと,あらかじめの譲渡担保の設定の段階での特約で放棄を自由にできるということは問題ではないかと思っております。どういう債務者,債権者関係を想定するかにもよりますけれども,一般的にはやはり債務者の方が弱い立場にあるのではないかと考えたときには,そのような特約の効力は当然には認められないのではないかと思います。それに対して,それを認めるべき場合として,自由に放棄ができるというのではなくて,何らかの代替措置があるような場合には放棄ができるとか,そういう制限を掛けるというのはあり得るのかもしれません。   それに対して,そうではなくて,こういう留置権とか同時履行というのがそもそも大したものではなくて,気休めみたいなものなのだということであれば,あらかじめ特約でできるということも考えられると思いますけれども,ただ,そうなると恐らく定型文言でもう全部入るのではないかという気もしておりまして,気休めですらないようなものになる。そうだとすると,所詮その程度でいいのだと考えるのか,ある程度やはり両者のバランスの問題として,一定の確保措置を設けるべきだと考えた上で,しかも,特約によって排除できる,物権の内容としてどうかということですが,これは書けばいいのだと思うのです。先ほど最初のところでも,合意によることをどう見るかということがありましたので,そこはクリアできると思うのですけれども,なお,それこそ政策として重視するならば,この方法ではない別の方法によることを考えた方がいいのではないかと思うところです。阪口委員から御指摘あるいは御紹介のあった,保全を使って更に供託を組み合わせるというのは,十分に理解できているのか不安ですけれども,有効な手段としてあるのならば,設定段階のそのような特約を認めるのであればむしろそちらの方に行った方がいいのではないかと思っているところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに何かございませんでしょうか。   3の議論に尽きているのかもしれませんね。処分というのが入って,そこで受戻しというのが切れるというのは,それはそのとおりなのだけれども,あとはどの額を支払ったら引渡し請求ができるのか,どの額で消滅するのか,それをそれぞれどういうふうにして算定するのかというのがずっと問題としては存在していると,3と共通に存在しているということなのかもしれませんが。 ○阿部幹事 ありがとうございます。私も沖野委員が御指摘されていた抗弁ないし留置権の事前の放棄というのがどこまで認められるかというところは,やはり少し気になりまして,典型的に交渉力の強さが影響してしまうような局面のような気がしますので,特に設定契約の中で抗弁放棄というのを認めるというのは,全部無効かどうかはともかく,結構効力は慎重に検討しないといけないのかなと思いました。他方で,実行段階に行ったときに,そのときに個別的に引渡しの請求に応じて,同時履行は主張せずに,あるいは留置権を主張せずに引き渡すというのは,その段階に至ったら,もうそれはまた別の話で,そういう放棄はあってもいいのかなと思うのですけれども,あらかじめ包括的に放棄するというのと,個別の引渡し請求があったときにその抗弁を放棄するというのとは,少し性質が違って,特にあらかじめの包括的な放棄に関しては慎重に特約の効力を検討すべきかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○中村委員 東京地裁の中村でございます。少し別の点からですけれども,少し疑問に思うところがございまして,設定者にとって,処分清算と帰属清算で担保債権に係る債務を弁済して担保権を消滅させることができなくなる時期について差異,つまり暫定的清算金の提供の要否の差というのが設けられるのは,不合理ではないかと感じるところがございます。処分清算の場合,担保権者が目的物を処分さえすれば,暫定的清算金の提供がなくても設定者が目的物の所有権を確定的に失うというのは,設定者に酷で,第三者にとっても,暫定的清算金を提供しないで目的物の所有権を取得するという利益はないのではないかと感じるところがございます。そういう点から,処分清算においても,担保権者が目的物を第三者に処分するとき,つまり,処分したときではなく処分するときに,誠実評価額の通知等,暫定的清算金が生じるときにはその提供も併せて,をしなければならないものとして,帰属清算の場合と同様に,暫定的清算金の提供と目的物の引渡しを同時履行関係とするという規律もできなくはないのかなと思っております。また,付け加えて申し上げれば,通知を一本化するかどうかという点にもこの点が関わってくるのではないかなとも考えました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。処分清算のときに第三者に処分したら,それで受戻権がなくなるというか,債務者が確定的に所有権を失うというのは,判例法理がそうだからという面が1個あるのと,第三者には分からないからというのも多分あるのだろうと思うのです。第三者に処分しても,清算金,暫定的かもしれませんが,払うまでは受け戻せるというのは,ある種,帰属清算に一本化するというのとほぼ同じということでしょうか。少し違いますか。 ○中村委員 直接,処分という形で清算することもできるとは思っております。第三者には分からないからというのが実態としてあるのだと思いますが,その場合は第三者の保護制度で保護すべきであって,担保権者としては,やはり第三者にその物が譲渡担保の目的物であって,それを売るのだということを知らせるべき立場にあるのではないかと思います。判例があるのはもちろん認識しておりますけれども,判例とこれから作る制度というのとは,また別に考えることはできるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。取り分け占有が売主たる担保権者にないとしますと,それなりの状況は分かって購入する人しか本来出てこないというべきなのかもしれないと思います。即時取得だってできる状況ではないわけですから。どうもありがとうございます。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。今の点に多少関わるのだと思いますけれども,今回,一般的な議論と同様にということかもしれませんが,帰属清算と処分清算で区別をすることになっています。その区別されている基準と区別する理由は,今議論があったように,第三者が出てくるからであると理解しています。だとすると,帰属清算と処分清算の違いに関して線を引くときに,例えば100%子会社に処分するときは果たして処分清算のルールでいいのかということが問題になるのではないかと思います。これは一つの割り切りですので,今の御提案のままにした上で,脱法的なものは一般法理なり何なりでつかまえるのだということかもしれませんが,類型的に,これは身内の話ですよねと,第三者として帰属清算と異なるルールを適用する意味はないですよねというものについては,むしろ,帰属清算が自分自身に売るようなものだとすると,それとほぼ同じものとしてグループの中での処分を考えるという考え方はあり得て,全然違う条文ではありますけれども,例えば,破産法の161条2項で内部者として挙げられている類型の当事者間の処分については,帰属清算型のルールで考えるというのもあるのかなと思いました。結局は線引きの問題なので,どこかでこれとどう違うのだという話が出てくるのは理解しているのですけれども,一つの考え方としては,一定の範囲のものを内部者として扱うという整理があるのかなと思います。 ○道垣内部会長 処分のための子会社みたいなのを考えますと,そこにあるのが第三者への売買契約なのか,子会社に対して,販売委託なのかというのも微妙な場合というのが多分あるのですよね。ありがとうございます。 ○片山委員 今の点とも関係するのですけれども,処分清算の場合は処分したら受戻権が失われますと,それは贈与でもいいのですということで,平成6年判決以降は,それが判例法理だということを前提に,説明がなされてきたわけですが,やはり贈与ということで本当にいいのかというと,それは問題ではないかと思うところではあります。私自身も,詐害行為取消権を研究しておりますと,受戻権を被保全権利とする詐害行為取消権の行使を認めるべきだと主張しておりますが,井上委員がおっしゃるような一般条項的な解決が,そこで検討されるべきだということになるのかもしれませんが,そもそも与えられているのが完全な所有権というわけではなくして,換価処分権にすぎない段階ということになりますので,著しい廉価の処分であるとか,あるいは贈与といったものを有効とするということを前提に立法をしていいのかどうかという点は,再度御検討いただいてもいいのかなと今,思った次第でございます。詐害的な処分はこの限りにあらずというような,第三者の取引の安全は確保しなければいけないですけれども,その事情を知っている第三者に対しては受戻権を行使できるというような余地は残されているのかなとは思った次第でございます。強い意見ではございません。 ○道垣内部会長 それは,帰属清算は認めるのですか。 ○片山委員 帰属清算は認め,処分清算の処分の問題だと思います。帰属清算の場合に関しては,一応,清算金の支払,提供との同時履行関係が基本的に確保されているという前提ですが,処分清算に関しては,もう処分されたら受戻権がなくなってしまうということですので,そこで何らかの対応を考えていく必要があるのではないかということかと思います。 ○道垣内部会長 なるほど。第三者にきちんとした額で売却しなければいけないというふうなことを考えると,帰属清算って利益相反行為なのですよね。内部的な処分なのですよね。だから,本来は信託的に言えば受託者が自分で購入するようなものなので,駄目だというのは一つの考え方としてあり得るのです。学説は仮登記担保なんかを前提にして,どちらかといえば帰属清算を原則にしようというわけですが,適正な額で売却しなければいけないというのを考えますと,今度は処分清算が原則であって,という作りだって本当は考えられないか,なかなか難しいところがあるかもしれません。   ほかに何かございませんでしょうか。   作りとしては,中村さんがおっしゃったように,処分で,もうそれで終わりだよとしていいのかという問題が残ってはいるわけですが,仮にそこを触らないとしたら,あとは実際にどういうふうな額を算定して払うのかという問題になるということだろうと思います。大きく話を作り変えて,適切な額で第三者に売却するというふうなことを義務として課すというふうな作りというのも可能なのかもしれませんが,その辺の選択肢を踏まえて再度検討するということかなと思います。いかがでしょうか。   よろしゅうございましたならば,もう一つありまして,部会資料6の第2,「評価・処分に必要な行為の受忍義務」というのと,2として「裁判所による実行完了前の保全処分」というところがございます。ここについて議論をしていきたいと思います。   事務当局において,部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 14ページの「第2 新たな規定に係る担保権の目的物の評価・処分のための担保権者の権限や手続」のうち「1 評価・処分に必要な行為の受忍義務」について御説明いたします。   ここでは,担保権の実行に当たって,評価や処分に必要な担保権者の権限について検討しております。御説明したとおり,帰属清算方式,処分清算方式を問わず,設定者は暫定的な清算金が支払われるまでは目的物の引渡しを拒むことができますが,目的物が設定者の占有の下にあるままでは評価や処分を行うことが困難であるとの指摘がございます。もっとも,それでは目的物の評価・処分のために担保権者が占有の取得を認めましょうということになると,設定者の清算金の確保が十分でないという問題が生じ得ます。ここでは,これらのバランスをとるものとして,設定者が目的物を占有していることを前提として,担保権者は評価・処分のために必要な行為をする権限を有し,設定者はこれを拒んではならないという受忍義務を負わせることを提案しております。この評価・処分のために必要な行為とは,担保権者本人や,担保権者から委託を受けた業者等が目的物の所在地に立ち入ることなどを想定しております。   このような受忍義務を設けた場合に,その義務違反の効果をどうするかという点も問題になります。この点については,本文では規定していないところではございますけれども,この後御説明する保全処分の要件である目的物の隠匿,損壊のおそれを基礎付けるものとも考えられるところでございます。   続けて,第2の2についても御説明させていただきます。15ページの「裁判所による実行完了前の保全処分」について御説明いたします。動産はその性質上,隠匿が容易であり,また,即時取得の制度がございますので,実行完了前に隠匿や第三者への譲渡がされることで実行が困難になることがあり得ます。そこで,本文では裁判所の強制力をもって私的実行を確保するための手続として保全処分を設けることの是非について問題提起をするものです。   この新しい保全処分の検討に当たって,民事執行法第187条が参考になるかと思っております。民事執行法第187条は,担保不動産競売開始前の保全処分について定めており,債務者等が不動産の価格を減少させる行為又はそのおそれがある行為をする場合に,特に必要があるときは,執行裁判所が保全処分を発することができるとしております。これを参考として,目的物である動産の価格を減少させる行為,若しくは実行を困難にする行為,又はそのおそれがある行為をする場合に,裁判所が保全処分を発することができるとすることが考えられないかという点について問題提起をしています。もっとも,現行法上,譲渡担保の実行に当たっては,民事保全法上の仮処分として,占有移転禁止の仮処分や,引渡し断行の仮処分が活用されているところでございます。仮に新たな処分を設けずとも,現行法の民事保全法上の仮処分によって私的実行の実行性を確保することが可能なのであれば,新たに保全処分を設ける必要が乏しいことになりますが,逆に,現行法上の民事保全法上の仮処分によることに実務上の支障があるとすれば,それを解消する形で新たな保全処分を設ける必要性があるということになろうかと思います。   民事保全法上の仮処分については,被保全権利である引渡し請求権の根拠が不明確であるとか,民事保全法第23条第4項が審尋を原則的なものとしていること等が指摘されているところでございますが,実務の御経験を踏まえ,その他の実務上の支障などについても御教示いただけますと有り難いと考えております。   私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いします。   既に出されている意見としては,14ページの33行目ぐらいからは,暫定的な清算金の算定に当たっては目的物の評価を要するところ,こういうふうな評価をしなければいけないので,このような権利が認められるというのまで書いてしまうと,井上さんが心配されたように,これをしなければきちんと誠実に評価したことにならないという話につながってしまうのではないかというふうな問題点が14ページの説明のところにあるということなのかもしれません。それは既に出された問題なのかもしれませんが,井上さんからも手が挙がっていますので,お願いいたします。 ○井上委員 ありがとうございます。ここも,担保権者は,例えば在庫についてある程度モニタリングをしている場合は,きちんと情報を把握できている場合もあると思うのですけれども,そもそも現時点で誠実に評価しようにも皆目見当が付かないというときに,今,例えば部品が何箱倉庫にありますかということなどについては,やはり一定の調査権限,あるいは調査受忍義務を定めることは有用で,誠実評価に当たってその権限を行使することはあり得ると思うのですけれども,繰り返しになりますが,それが義務であって,権限の限りを尽くす必要があるというところまで行くと,話が違うということかなと思います。   その上で,ここの御提案を,「必要な行為」ということなので広く解していいだろうということではあるのですけれども,具体的に言うと,保管されている場所への立入りを許容し,目的物を提示することを求めるという,比較的フィジカルな調査を想定しているように書かれています。それは実際,非常に重要な調査権限であり,受忍義務だと思うのですが,例えば集合物については,在庫の残高,それこそ部品が何箱あるのかを現認するだけではなくて,現時点でその仕入価格が単価幾らなのかとか,販売価格が今,単価で幾らなのかという情報なども重要になる可能性があって,だとすれば,その証拠としての納入伝票とか注文伝票の提示を求め,それを確認するなど,書類あるいは帳票を確認するようなことも当然に含むと考えているのですが,ここでの御提案をそう理解してよいのかを確認したいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。事務局の御意見も伺いますが,受忍義務という形の書き方をしたときに,開示請求権みたいな行為義務というものを含めて解釈することができるのか,それとも,法技術的には別のルールとして開示請求というものも書くということになるのかということにも関係しているのかもしれませんが,私もよく分からないところがありますので,もし事務当局でお考えがあれば,お教えください。 ○笹井幹事 御指摘を受けるまで,帳簿の開示請求権とか情報提供請求権というものを具体的に考えていたわけではなく,受忍義務の内容としては,典型的にはその物の状態を確認するというようなことを念頭に置いておりました。ただ,引渡しまでは行かないけれども,正確に評価するために,正確にといってもある程度合理的なということですけれども,そのための手段を確保したということですので,今お伺いして感じたところでは,情報であるとか帳簿の開示請求権を認めてもよいのではないかと感じました。そのときに,道垣内先生からも御指摘のあったところですけれども,表現として,受忍義務とか評価・処分に必要な行為という表現でいいのか,あるいは,もう少しはっきりとそういったものが含まれるような表現をとるのかということについては,もう少し検討してみたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見ございませんでしょうか。 ○阿部幹事 2の裁判所による実行完了前の保全処分について,発言してもよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 結構です。 ○阿部幹事 これについてなのですけれども,タイトルは実行完了前の保全処分ということになっておりまして,そしてまた,説明の中でも,担保権者が実行に着手した後,目的物を確定的に担保権者に帰属させたり,第三者に譲渡したりするまでにうんぬんして,その実行が困難になることもあり得る,そこでということになっていて,担保権者が実行に着手した後,その実行が完了する前に,この保全処分を打つということが前提になっているように見えます。ただ,2のゴシックになっているところを見ますと,被担保債権について不履行があった場合において,ということしか要件になっていないので,これは要するに,実行の要件が満たされていれば,その実行に着手しなくても,この保全処分ができるという作りになっているような気がして,これが実行完了前の保全処分なのか,そもそも完了という言葉をここに入れる必要があるのかが,よく分からないように思いました。取り分け,完了前であるべきなのかどうかは,多分,【案 6.1.2.1】の実行通知プラス1週間という,その制度を入れるかどうかというところで変わってきて,実行通知プラス1週間というのがなければ,多分,実行するのと,実行が完了するのと,それほど変わらないことが多いということになるのかもしれないですけれども,通知プラス1週間というのを入れると,実行に着手してから完了するまでに時間があって,その間を埋める制度という位置付けになるということもあり得るような気がしましたので,資料を作成したときに,実行着手後,完了前ということを飽くまでもお考えなのか,それとも,実行要件が備わっていれば,この保全処分を打てるという発想で作られているのか,どちらなのかということをお伺いしたく思いました。 ○道垣内部会長 事務当局でお考えがあれば,お願いします。 ○笹井幹事 御指摘についてですが,ここでは不履行があったときとありますので,実行の要件が具備されたときということで考えておりました。明示的に考えていたわけではありませんけれども,今,改めて御質問を受けますと,そういう理解であったと思います。おっしゃったとおり,実行の完了はある程度はっきりしてくるのかもしれませんが,開始をどう捉えるかは,最初の論点のところで,通知プラス1週間という要件を必要とするかどうかと関わってくると思います。いずれにしましても,ここは御議論があればと思いますけれども,仮に通知プラス1週間という要件を定めるにしても,実態としては不履行になっていれば,こういった保全処分に着手するということは十分あり得るのではないかと思います。 ○阪口幹事 阪口です。この2の保全処分のところについてです。まず,既に出ているとおり,この制度はある程度広く,容易,簡易に認められる必要があると思います。ここがうまくいかないと,今回の法制度を作ってもうまくABLが動かないと私は思っています。では,そんな簡易なことができるのか,保全処分の要件を緩やかにしていいのかという議論は当然あり得るところで,16ページの(注17)も,そこは本当にいいのかという議論があると書かれています。   まずこの問題というのは普通の所有権でも起きることですよね。普通の所有権でも,簡易に引き揚げることができるかというと,普通の所有権だったら多分,民事保全法に基づく断行の仮処分を用いるのですけれども,実務的には非常にハードルが高いというのは,実感としてあります。やはりそこは裁判所はそれほど簡単に無審尋発令を認めませんし,審尋発令だとしても,それなりの手続が重たくなる。   そのため,動産担保について,現在の民事保全法での断行仮処分と同程度のものを要求すると,うまくいかないと思っております。他方,民事執行法上の保全処分と位置付けると,裁判所は気楽になるんですが,気が楽になるという表現がいいかどうか分からないけれども,割とそこは気楽に発令できるという,ここはもうマインドの問題だけかも分かりませんけれども,そういう感覚はあるのです。それは,譲渡担保権という所有権になぞらえたものなのに,所有権を越えたことができるのはおかしいのではないのかという議論が物上代位のときからありますけれども,それは実行手続だからできるのですという説明をせざるを得ない。つまり,民事執行法上の保全処分,ここでは187条になぞらえた形の話があり,先ほど少し前のところで中村裁判官から,裁判所の手続をかませたらどうかという話も少しありましたけれども,執行手続の一環として認めるということにして,かつ,そのときには緩やかな要件で出せる,もっというと,緩やかな要件で無審尋発令してもいいという制度がないと,実務上ワークしないと思っています。   ただ,そのときには,では保全処分の本案は一体何なのだという問題が当然あり得て,187条であれば後日,3か月以内に競売の申立てが要ると。では,ここで後ろでやるのは何なのかという話になって,私的実行をしたことというのが本当にいいのかという,そこら辺の立て付けは,もう少し工夫しなければいけないのかなとは思うのですけれども,場合によれば開始決定だけ後に行う,それだけで足りるとか,そういうことをすることによって,民事執行法上の保全処分として位置付け,かつ,比較的簡易,容易に,緩やかなものとして発令されて手続できる,無審尋発令も,先ほどの受忍義務なんかと結び付けた形かも分かりませんけれども,比較的発令できる,無審尋で行われるというところは多分,実務上必要なことだろうと思っています。 ○道垣内部会長 手がたくさん挙がっているときに,私が横入りで発言するのは少し問題があるのですが,阪口さんに伺いたいのです。この保全処分は,実行通知をした後にしては駄目なのですか。 ○阪口幹事 私は最初の部分で1週間猶予を求めず,後ろに期間を設ける説なので,実行通知は執行官の送達と同時に一緒に行くパターンでいいと思っています。 ○道垣内部会長 だから,それでいいということですか。 ○阪口幹事 裁判所に保全処分申立てをして発令され,裁判所の執行官が行くときに,併せて実行通知を渡すパターンで,私は足りると思っています。特に,集合物を考えたときに,集合物の保全処分の執行と固定化の問題があって,対象物が動くとまずいという議論が東京地裁の保全処分のホームページの中にもあるではないですか。あの問題との関係もあるので,そこは一致させなければいけないと思っていますので,実行通知そのもの,仮に固定のところの実行通知と,ここでいう実行通知がイコールだとすると,同じ瞬間にできる,執行官が一緒に行ったときに渡すということを考えています。 ○道垣内部会長 よく分かりました。 ○片山委員 片山でございます。2の裁判所による実行完了前の保全処分のところですが,同じような趣旨の発言ばかりになって恐縮なのですけれども,動産担保の実行においては,もう少し担保権者に簡易に占有を取得できる道をきちんと開いておかないと,なかなか実行手続がうまくワークしないのではないかという問題意識がございまして,この保全処分は御提案として非常にいいと思うのですけれども,そこで参照されているのが,民事執行法ですと187条,そうしますと,基本的には価格減少行為,担保権侵害がなければいけないというのが大前提の立て付けになっておりますし,それから,民事保全の場合も本案が何か,実体法上の引渡し請求権をどう構成するかというところで,17ページの一番最後のところは,担保権侵害の場合での引渡し請求権という形になっていまして,担保権侵害がやはり要件とされているということになると,かなり厳しいハードルになっているのではないかと思っているところです。   その意味では,第2の1の受忍義務の延長線というわけではありませんが,担保評価に必要だから引き渡せというような,端的に言うと軽めということになるかも知れませんが,担保権侵害としての本案を考えない形での保全処分を何とか検討していただいた方がいいのではないかとは思っております。もちろん設定者の方で占有を保持し続ける正当な理由があるという場合には,それは拒絶できるというような例外を設けることは必要だとは思いますが,担保権侵害がなくても原則として引渡しの請求ができるというような立て付けができないかと考えているところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。松下さん。 ○松下委員 ありがとうございます。松下です。これまでの御発言で,この保全処分というのは余り重たい要件とか手続にするのはどうかという御発言があった一方で,しかし,引渡しをしてしまうと設定者の清算金の確保が難しくなるという問題もあり,なかなかここは悩ましいところだと思います。修正版の[法務省1]16ページの22行目では,具体的な要件についてどうするかという問い掛けがあり,17ページの1行目では,保全処分の内容として,引渡しという最も強力な手段以外に,引渡しに至らない処分をすることができるとすることも考えられるとあります。考え方としては,実際の事件の中では,具体的な要件と保全処分の内容というのは相関をするのではないかと思います。つまり,引渡しまでしなければいけない事案というのは,やはり要件のハードルを上げなければいけないでしょうし,引渡しまでしない,引渡しに至らない処分であれば,比較的緩やかな要件でもいいような気がします。具体的な要件としては,この御提案のような,15ページのゴシック本文のような記載にしておいて,実際には具体的な事案の中で決めていくというのがよいかと思います。恐らく,具体的な要件と保全処分の内容の相関関係の中に,更に担保の額や要否が効いてくるような気がして,かなり変数の多い方程式にはなるのですが,実際の運用としてはそうなるのかな,あるいはそういうふうに在るべきではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。そのとおりかと思いますが。青木さん。 ○青木(哲)幹事 ありがとうございます。神戸大学の青木哲です。2の裁判所による実行完了前の保全処分についてですけれども,阪口委員の御意見と重なるところがございますが,保全処分として位置付けるということになりますと,民事保全であるとしても,特殊保全処分であるとしても,保全処分の付随性とか暫定性とかといったものがあり,だからこそ簡易迅速な手続が正当化されるということになるかと思います。そうすると,どのような手続を本案の手続として想定するのかということが問題になってくるかと思います。この点は,部会資料の説明において担保不動産競売開始前の保全処分が参照されておりますように,一つは民事執行法上の保全処分として構成する,構想することが考えられます。部会資料では最初の方で,民事執行法の規定に基づく競売を認めることも提案されていますので,例えば,競売手続を行う場合の動産開始許可の手続であるとか,動産競売の手続といったものの保全手続として位置付けた上で,そういった動産競売開始許可の申立てとか,動産競売の申立てがされない場合であっても,私的実行の手続が行われているうちは保全処分を取り消さないというようなことを考えることができるのかなと思います。   また,先ほど裁判所の中村委員の方から御提案がありましたけれども,誠実価額と引換えにする引渡しの実現を民事執行の手続として構想するということができるのであれば,その手続の保全処分として考えることもできるのかとも思います。ただ,中村委員の御提案の手続自体も簡易迅速に行われるのではないかと思いますので,そうすると,そのための保全処分というのが必要なのかというところは,また問題になるかとも思います。   次に,保全処分の内容について,こちらは先ほどの松下委員の御意見と重なるところもあるかと思いますが,価格減少行為等に対して,担保権者への目的物の引渡しまで認めるということになりますと,やはり審尋の必要性とか担保の必要性が高まり,手続が重くなるようにも思います。部会資料にも言及されているところですけれども,価格減少行為を禁止するとか,執行官保管とかといったことも考えられるのではないかと思います。   ただ,読み込みすぎかもしれませんが,価格減少行為等があると,この保全の必要性が基礎付けられるとともに,実体的にも同時履行の抗弁権を失うということまで含まれているのかもしれません。そうすると,実体的には引渡しまで認めてよいということなのかもしれませんが,そうすると,価格減少行為等に対する保全処分としての位置付けが適当なのかというところにやや疑問が出てくるところかなと感じております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。何か難しくなってきたな。 ○山本委員 今の青木幹事の御意見とかなり重なり合う部分が多いかと思いますけれども,特殊保全処分というか,執行法上の保全処分に類したものとして位置付けるということは一つあり得て,この場合は結局,本体の手続が裁判所が関与する手続ではなくて,私的実行手続でもいいと,本体は私的実行でやりながら,部分的に占有確保等のところを裁判所の力を借りるということになって,本邦初ということになるのかもしれませんけれども,私自身はそういうことはあり得て,私自身はADRと裁判の連携とか,そういうことをずっとやってきたものですから,それはそれほど違和感は感じないところです。   ですから,例えばこういう保全処分だけ作って,一定期間内にその私的実行の,どの段階か分かりませんけれども,一定の証明をさせて,清算金の提供とかそういうものかもしれませんが,それがされない場合には,この保全処分を取り消すというようなことというのは考えられるのではないかと。もちろん競売に着手すれば,その競売と連続していくということになるのだろうと思います。   それから,阪口さんが言われたことも,なるほどそうだろうと思っていて,最終的に清算金の提供と引渡しというのが,必ず訴訟でやらなければいけないということになると,これもかなり重い感じがするところはやはりありまして,そこは執行手続でいえば引渡し命令のような手続ですね,決定手続で,言わば一種のアフターサービス的なものとして今の執行法では位置付けられているわけでありますけれども,必ずしもその訴訟によらずに,より簡易な手続で引渡し,占有確保のところができると,その場合は,こういう価格減少とかという要件は必ずしもなくて,できるということもあり得るのかなと思っています。   他方では,もちろんこれを民事保全の特則として位置付けていくということもあり得るところではあると思うのですが,民事保全だとすると,やはり被保全権利というか,実体法上の請求権が前提になってきて,これを資料では平成17年の抵当権者の妨害排除請求権に類したものとして被保全権利を立てることになるということだと思いますけれども,ただ,民法の先生方は皆さん御承知のように,あれは請求権として一体,要件とか効果とかがどういうものかというのが,かなり曖昧なところがやはり残っているのだと思うんです。管理占有とか,そういうことを言われていますけれども,ただ,法律の条文で書くのだと,それをかなり特定していかなければいけないという感じになるのかと思うのですけれども,それが実体法上の営みとしてできるのかどうかというところが,やや私は疑問に思っているところがあって,そうだとすると,簡単にとは言いませんけれども,特殊な被保全権利というか,本案を前提としないような保全処分として構成した方が作りやすいような感じも個人的にはしているという,感想的ですが,以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。なるほど。   ほかに御意見とか御指摘とかございませんでしょうか。   この二つ,評価のためかどうか分からないですが,受忍義務とか開示請求とか,あるいは一定の保全処分としての引渡しを求めるというのはあった方がいいよねという点については,皆さん,そうかなという感じなのでしょうかね。強すぎないかとかいう意見は特にはないですか。 ○佐久間委員 強すぎるということを言いたいのではないのですけれども,先ほど休憩前に出た誠実評価の問題と第2の1の関係なのですが,井上さんの御意見によると,こういうことだったらいいのかということを伺いたいのですけれども,まず,誠実評価の前提として,目的物の現認等が求められるわけではないと。そうすると,現認等をしなくても誠実評価というのはあり得るのだけれども,そこは誠実な評価という以上は,例えばですけれども,集合物ですと,一般的にいうとこの程度の在庫水準はあるはずだという,余り低くない水準を前提に評価する。特定物だとすると,担保に取ったときからの時間の経過に照らして,どのような状態にあるかというのを,少なくとも標準的な状態を前提にして評価をする。それしかないかどうかは知りませんが,そのようにすれば誠実評価としての要件は満たされているのだけれども,思ったよりも水準が,集合物の場合は在庫水準が少ない,減っている,特定物だったら目的物の状態の劣化が更に著しいということだってあり得るので,その場合はこの1の評価をさせてくれということで権限を行使し,それを設定者の方は受け入れなければいけないという,そのようなことで理解すればよろしいでしょうか。それとも,結局これは誠実評価の問題になっているのだと思うのですけれども,誠実評価というのは,目的物を見なくてもいいのはいいとして,見ないでも,ほかに何か自由に基準を設定したらいいのだということになるのか。その辺,少し確認させてください。なぜかというと,本当に誠実にやろうと思ったら,自分の手元にないものをやはり一遍見せろということはあり得る行動だと思うのです。でも,それは省いてもいいということなのだとすると,典型的にどういう場合が想定されているのかということを知りたいと思いました。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 今の佐久間さんの話を伺いながら考えていたのですが,受忍義務という,債権者が請求して債務者がそれに応じなければいけないという話なのか,債務者の権利なのかということもあるのだろうと思うのです。倉庫に入れないから全然分からない。そうなると,最悪の事態を想定して暫定的な評価を出せば,それで誠実な評価だと言えるのだと言ったときに,債務者が逆に,「見てくださいよ,こんなにあるのですよ」と,資料も出してきて主張する。簡単に算定したってこれどころではないでしょうと言わないと,すごくリスクをとった債権者の暫定的評価額というものをひっくり返せないですから,そのために,債権者は逆に,債務者からそういうふうな開示を受けたら見なければいけない義務というのがあるという構造だってあり得ないではないですよね。本当に債権者の権利なのか。暫定的評価額をすごく下げることができるのだったら,債権者は別に見なくていいですよと,十分に下げた形の評価にしますからというのもあり得るかもしれないです。よく分からない。すみません,また要らない話で。 ○井上委員 ありがとうございます。よく分からないのですけれども,当初佐久間先生がおっしゃったようなこと,誠実評価額という言葉が独り歩きして,かつ,こういう受忍義務,あるいは調査権限,あるいは,そもそもこういった義務や権限が法令上はなくても,一般的には設定契約において情報提供義務を設定者に課すことは,むしろ通常だと思うので,そういう契約上あるいは法律上の権限を駆使して,担保権者が高度な調査をしないと,そして,それで得た情報の中には,繰り返しになりますが,設定者が自らの事業の過程で仕入れたり,販売したりしている金額,仕入価格あるいは販売価格が含まれる中で,それと同じ価格ではとても担保権者としては売れないというときに,次から次へと出てくる情報を次から次へと収集して,その上で,あたかも自分が事業者であるかのような金額を出さないと誠実ではないと言われると,全く動かないと思うのです。   ですから,そちらの方向に行かないような,これは言葉遣いの問題も含めてですけれども,コンセプトにしないと,ワークしないのではないかと思います。担保権者としては,基本的には自ら持っている情報だけで,例えば,設定者からの過去のレポート,あるいは定期的な状況報告をベースに残高を大まかに把握して,それで,かつ,相当程度リスクをとった形で売却する前提で評価して金額を提示すれば,それでここにいう誠実さは失われないというぐらいのイメージでして,担保権者の側で,それでは話にならないし,自分としてはもう少しきちんと情報を得た上で評価したいと考えれば,調査をすることもできるというぐらいに,先ほどの誠実評価の関係では考えております。   ただ,いずれにしても,実際に処分を視野に入れて動くということになると,もう少し知りたいという場合もあるのだと思うのです。それで,一定の調査をしたければ,まずは受忍義務と書いてあるところの調査で情報を得,そこが必ずしも十分ではない,やはり,むしろ,先ほどから出ている,引渡しを受けないと本当のところは分からないというような財産,あるいは在庫については,これは保全処分を取りに行くと,その過程で,どの程度情報がきちんと得られたのか,あるいは,やはりよく分からないのかということが一つの資料となって,ここでいう保全処分の要件,おそれの認定にもつながり得るということが考えられるのかなと思います。ただ,これは本当に目的物の状況や債務者の状況でいろいろなので,どういったものを想定するかによって変わってくるのかなと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   1点伺いたいのですが,これは目的物の評価・処分に必要な行為をする権利なのかな。つまり,どういうことかというと,被担保債権の債務不履行が生じましたと,被担保債権額は1,000万円ですと。普通は倉庫に2,000万円分ぐらいのものがあるので,大丈夫ですと。大丈夫で,それほど慌てて実行する必要はない。だけれども,確認しないと怖いですよね,知らないうちに大幅に減っているかもしれない。そうすると,実行するかしないかを決めるためのチェックのために,債務不履行後は見に行くことができるという権利として仕組むというのはあり得るのかなと思いますが,それはどうなのでしょうか。今のところの作りとしては,実行を前提とした評価のための制度の作りなのだろうと思うのです。だけれども,実行するかしないかというふうな現状把握のために,債務不履行後は一定の権利があるのだという作りも可能なような気がするのですが,それは別にそんな必要はないよという感じですか。私の思い付きにすぎないでしょうか。 ○笹井幹事 今御質問いただいたばかりで十分に考えておりませんでしたので,一度考えてみたいと思います。直感的に言えば,確かに,実行するかしないかという判断をするための判断は必要になってくるでしょうから,その過程における手段として位置付けるということはありそうな気もいたしました。ただ,一方で第2の1については,その違反の効果をどう考えるのかという問題もありまして,今の資料では第2の1では違反の効果を書いておらず,ただ,違反をするということが2の方の保全処分における判断内容になってくるというような形で1と2をつなげているのですが,もし1の範囲を大きくして,そもそも実行するのか,しないのかという判断も含まれてくるということになると,その違反をどういうふうに捉えるのか,また,違反しても余り効果がないというものだとすると,法的な権利として位置付ける必要がそもそもあるのか,それは当事者間での問題として処理すべきだということになるのかということも,少し検討してみる必要があるのかなと感じました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございますでしょうか。最後のところも考えなければいけない問題がまだまだ残っているような気がいたしますけれども,大体時間になっておりますので,更に今日の議論を踏まえて資料を作成していくということにいたしまして,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   どうもありがとうございました。   では,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日も熱心な御議論をありがとうございました。様々な示唆を頂きましたので,また次にこの議論をする回に向けて,しっかり検討していきたいと思っております。   次回日程は,少し空きまして,令和3年9月28日火曜日の午後1時30分から午後5時30分まででございます。 ○道垣内部会長 法制審議会担保法制部会の第6回会議を閉会にさせていただきます。   本日はどうも熱心な御議論,御審議を賜りましてありがとうございました。また次回もよろしくお願いいたします。どうも失礼いたします。 −了−