法制審議会 民法(親子法制)部会 第17回会議 議事録 第1 日 時  令和3年6月29日(火)自 午後1時29分                     至 午後5時30分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  個別論点の検討(1) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第17回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   まず,事務当局の佐藤さんの方から,本日を含めたこの部会の開催方法等についての御説明をしていただきます。 ○佐藤幹事 今回もウェブ参加の併用の形で行わせていただいておりますので,前回同様,御注意いただきたい点として,2点申し上げます。まず,御発言中に音声に大きな乱れが生じた場合につきましては,こちらの方で指摘をさせていただきますので,それを踏まえて適宜御対応をお願いします。また,発言をされる委員,幹事の皆様におかれましては,発言の冒頭に必ずお名前を名乗って頂けますようお願いいたします。   それから,休憩時間につきましては,おおむね1時間半程度をめどに10分間程度の休憩,合計2回程度になろうかと思いますが,入れさせていただきたいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それから,本日は山根委員が御欠席と伺っております。   次に,本日の審議に入ります前に配布資料の確認をさせていただきます。これも事務当局の方でお願いいたします。 ○小川関係官 本日の配布資料は,議事次第,配布資料目録,部会資料17,参考資料といたしまして,まず,17-1として「妊娠の期間等に関する報告書」,17-2として「諸外国の生殖補助医療により生まれた子の親子法制に関する調査研究業務報告書」,17-3として「国籍法3条1項に基づく国籍取得届の審査について」,17-4として「日本国民である父による外国人の虚偽の認知届がされた場合の取扱いについて」をお配りしております。    資料については以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。資料につきましては御確認を頂ければと思います。   本日の審議の予定でございますが,本日から数回にわたって個別論点の検討ということで,更に詰めた検討が必要な論点につきまして御議論を頂きたいと考えております。具体的には,本日の部会資料に記載されている順序と若干異なりますが,部会資料17の第1の懲戒権の問題は本日の最後に御議論を頂くことといたしまして,まず,嫡出推定制度に関する見直しに関するもので,嫡出の推定の見直し,これが資料の第2,7ページ以下になります。それから,別居後に懐胎された子による認知の訴えの明文化,これが第3で,12ページ以下になります。そして,嫡出の承認の制度の見直し,第4,22ページ以下,これらの部分について御議論を頂きたいと思っております。それに続けまして,第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の親子関係に関する民法の特則,資料で申しますと第5,25ページ以下について御議論を頂きたいと考えております。3番目に,事実に反する認知に関する見直し,これが資料の第6,36ページ以下ですが,この部分につきまして御議論を頂く,それで,繰り返しになりますが,最後に,懲戒権に関する規定の見直しにつきまして御議論を頂く。このような順番で進めさせていただければと思っております。今回も若干,論点が多くなっておりますので,順次御議論を頂きますと時間が足りなくなるかもしれません。その場合には,足りなくなった部分は次回に積み残すということにしたいと思っております。   そこで,本日の審議に入らせていただきますが,まず,部会資料17の第2から第4に関する部分,嫡出推定の見直し,別居後に懐胎された子による認知の訴えの明文化,そして,嫡出の承認の制度の見直し,この三つの論点につきまして,事務当局の方からまとめて御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いします。 ○濱岡関係官 部会資料17の第2ないし第4について御説明いたします。   お手元の部会資料17の7ページを御覧ください。第2は嫡出の推定の見直しです。本部会では,現実の妊娠日数や,離婚直後に懐胎した場合の手続負担等も考慮すると,300日という期間が妥当であるかについても検討するべきといった指摘もありましたので,検討を加えております。この検討に当たりましては,妊娠の期間等に関する医学的知見が必要となったため,事務当局の方で東京都立墨東病院産婦人科部長の久具先生にヒアリングを行いました。その結果の詳細は,参考資料17-1にございますので,詳細はそちらを御確認ください。   ヒアリングの概要ですけれども,厚生労働省人口動態調査における分娩週数等出生の統計では,出生のピークは妊娠齢が38週(266日から272日)から40週(280日から286日)であるものの,僅かではございますが,妊娠齢43週(301日から307日)以降に出生する子どもも存在しております。妊娠齢には受精が成立したと推定される日よりも前の期間として14日間を含んでいることや,卵子は排卵後短時間で受精能を失うのに対し,精子は子宮内で数日間受精能を有しているため,排卵から最大5日前の性交渉でも妊娠の可能性があることなどを踏まえますと,妊娠齢43週0日(301日)で出生した場合には,性交渉から出生までの期間は最長で292日と推定されます。   部会資料では,こうした医学的知見も踏まえまして,300日という期間は婚姻中に懐胎した場合をほぼ全て包摂し得る期間であって,合理的なものであり,この期間を短縮する必要はないと考えておりますが,この点につきまして御意見を頂ければと思います。   次に,10ページの2では,民法第772条の見直しに伴う場面ごとの検討を加えております。中間試案の補足説明でも言及があった部分ではございますが,まず(1)としまして,妻が婚姻前に懐胎し,その後,夫と婚姻しましたが,その婚姻解消又は取消しに至り,その後に子を出産した場合の子の推定をどうするかという点です。(2)は,母が前夫との婚姻中に懐胎したが前夫と離婚し,Bと再婚したものの離婚し,更にCと再婚した後に子を出産した場面です。(3)は,(2)の最初の婚姻の解消事由が離婚から死亡に変わったものでして,母が前夫Aとの婚姻中に懐胎したが,Aの死亡により婚姻を解消し,Bと再婚したものの離婚し,更にCと再婚した後に子を出産した場面について検討を加えておりますので,この点につきまして御意見を頂ければと存じます。   次に,12ページの第3の別居後に懐胎された子による認知の明文化についてです。子が離婚等の後300日以内に生まれたことを前提に,妻が前夫以外の男性と再婚していた後に生まれた場合には,嫡出推定の例外を認めるという案に対しては,パブリック・コメントを始め前回会議では,より広く例外を認めることが無戸籍者問題の解消という観点からは重要ではないかとの御指摘がございました。これらの指摘を受けまして,第3の①では嫡出推定の例外として,夫婦の一方が婚姻を解消する意思をもって別居をした後に懐胎したものであるときは,第787条の訴え,つまり生物学上の父を相手方とする認知の訴えを提起することができるとすることを提案しております。また,第15回会議で実施したヒアリングにおきましても,現行法上,強制認知が無戸籍者問題解消の手段として有用であるとの指摘もあった一方で,手続上,裁判所が前夫に対して通知する場合があり得ることが手続を利用する心理的なハードルとなっているとの指摘もありました。   そこで,②では,当事者が前夫の関与の要否を予測しやすくすることによって,強制認知の裁判手続をとりやすくするという観点から,家庭裁判所は前夫の陳述を聴くことを要しないとすることで,手続保障の観点からは前夫を関与させる必要がないことを明確にすることを提案しております。   従前,部会資料5や部会資料10では,判例の推定の及ばない子の明文化について御議論いただいておりましたが,今回の①は,大きな方向としては判例を明文化するということを意図しつつ,ただし,判例がどのような場合に推定の及ばない子と認めているかについては必ずしも明確ではないとの指摘もありましたので,夫婦の一方が婚姻を解消する意思をもって別居をした後に懐胎したということを要件にすることを提案しております。また,効果につきましても,判例では親子関係不存在の訴えも許容されているところですが,今回の提案では強制認知に限り認めるものとしております。   このような規律を設けるに当たりましては,いかなる場合に嫡出推定の例外を認めるべきかという観点で,別居の意義が問題になると考えられますが,別居という外観的に明らかな事情を基礎としつつ,婚姻を解消させる意思によるものであることを必要としていますので,単身赴任など婚姻を解消させる意思がない場合は例外に当たらないことを想定しております。もっとも15ページのアに記載のとおり,夫婦が遠隔地に居住して性的関係を持つ機会が明らかでなかった場合,典型的には刑務所に収容されている場合なども例外に含めるべきかについては御議論があり得るところと思いますので,御意見を頂ければ幸いです。また,親子関係不存在確認の訴えの取扱いにつきましても,引き続きこれを認めるべきか,認めるとして提訴権者等の制限を設ける必要があるかについて御意見を頂戴できればと考えております。   ②につきましては,認知調停に関して裁判実務上,前夫に対する通知がされることがあることは既にこの部会等でも指摘がされてきたところです。もっともこのような通知につきましては,夫婦間の事情については一方当事者である前夫がよく事情を知っていることから,裁判所が事実認定のために前夫に通知するという側面と,前夫に対する手続保障という観点から,利害関係人として参加する機会を与えるなどのために通知するという側面があると考えられます。このうち前夫に対する手続保障については,実体法上の前夫の地位に照らして必要がないことを明記することができるのではないかということが今回の提案になります。もちろん事実認定のために通知するということは引き続き否定されないわけですが,特に無戸籍者の当事者の立場から見た場合には,裁判手続において前夫に通知されるおそれがあるということ自体が手続を利用することをちゅうちょさせているという事情からすると,手続保障の要否という当事者の予測することが困難な事情で通知されることがないことを明確にすることによって,懸念は一定程度払拭されるのではないかと考えられます。他方で,事実認定として前夫から話を聴く必要があるかどうかは,例えば別居の際にDV保護命令の発令を受けている事案や,長期間別居した後に懐胎したような事案では,当事者にとっても予測が立ちやすいと考えられます。このように,②の規律を設ける意義があると考えられますが,御意見を頂ければ幸いです。   最後に,22ページの第4の嫡出の承認制度の見直しについて御説明いたします。これは,中間試案において引き続き検討するとされていた論点ですが,否認権者を拡大することに伴って,それぞれの者について嫡出の承認を認めることの可否について検討しております。まず,夫については現行法の規律を基本的に維持することとしています。また,母については今回新たに規律を設けることになりますが,母は夫と異なり父子関係の当事者ではない一方で,否認権を有することからすると,夫と子との間の父子関係を承認した場合には母は否認権を失うこととするのが相当であるとも考えられます。未成年の子については,本人が承認をするということは考え難いことから,規律を置くことは想定しておりません。他方で成年に達した子については承認の規律を設けることも考えられますが,反対の考え方も成り立ち得るかと思いますので,御意見を頂ければ幸いです。なお,前夫の否認権についても特段,規律を設けないこととしております。このほか,承認の要件を明確化することも考えられますが,要件を明確化することは他方で本条の適用範囲を限定することにもなりますので,本部会資料では積極的な提案をしておりません。   第2から第4の説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第2から第4まで,嫡出推定,嫡出否認に関わる問題をまとめて御説明を頂きました。御意見は第2,第3,第4と分けて頂こうと思っておりますけれども,その前に,全体につきまして何か御質問等があれば,まず伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。何かありましたら,また議論の中で御指摘を頂ければと思います。   では,第2,第3,第4のうち,順番に,まず第2から御意見を頂ければと思います。第2につきましては,300日という期間が妥当であるかどうかということと,それから,場面ごとに具体的にどういうことになるのかということが今回の資料の内容であると理解をいたしましたが,どの点でも結構ですので,御意見を頂ければと思います。   いかがでございましょうか。300日という期間の問題と,それから,細かな解釈上の処理の問題と,かなり性質が違いますけれども,300日という期間の長さについて,差し当たり動かす必要はないのではないかという点につきましては,よろしいですか。 ○磯谷委員 御説明の方はよく分かりました。ただ,300日をより短くするということも考えられるのではないかという意見の一つの理由としては,離婚で婚姻関係が終わった場合に,離婚の直前まで性交渉があった可能性をどう考えるのかというところにあったのかなと思います。今回のお話は,生物学的観点から,離婚直前に性交渉があってもカバーするもので,その意味では合理性があるように思いますが,果たして現実的に離婚直前まで性交渉があるものなのかどうか,そういったこと自体をどこまで立法に織り込むのかというところは,また別の議論はあるのかなとは思っております。積極的にどうということではないのですけれども,一応そういう意見は留めさせていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。この点については,300日という期間は明治期に当時の産科学の知見に基づいて定められたので,今日の観点から見たらどうだろうかということで,先ほど御紹介のような御説明があったものと理解をしております。磯谷委員が今御指摘になったように,従来の考え方に立って考えるとすると,300日という期間は今日でも妥当かもしれないけれども,その起算点の方については別途考える余地があるだろうという御指摘だと承りました。そこは全体として,この制度の中で,懐胎可能性がないということをどのように受けてとめていくのかという形で考えるということかと思いますけれども,300日という期間の医学的合理性に関するの問題については,それはそれでよろしいという御意見と受け止めてよろしいでしょうか。ありがとうございます。 ○棚村委員 私もかつての明治民法というか,起草当時の経緯を少し読ませてもらったのですけれども,帝国大学の医学部の先生の実質的な統計的データに基づいて期間の設定や海外の動向ももちろん参考にして出されたということで,現在もその根拠と実態とがそれほど違っていないというのでした。そういうようなことで少し安心しました。それから,海外の法制の調査でもそうですけれども,一応300日,280日というところもあったりするのですけれども,300日というのを基準としながら,父性推定のルールが,定められているということで,目安として一応のスタンダードとしての合理性というのは,今でもやはりあるのではないかと思います。   特に問題になってくるのは,離婚という生き別れの場合と,死亡とか取消しみたいなところで,推定をどの場面で維持するかというときに,やはり死亡解消は,アメリカの統一親子関係法もそうですけれども,そういうことをかなり意識して,亡くなった後に,お父さんが誰かということを含めて,やはり一定の合理的な推定ルールみたいなものを維持する上でも,一応300日というのはそれなりの合理性はあるのではないかという印象を持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   期間の長さのことだけを今申しておりますけれども,この点についてほかに御意見,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは,この点につきましては,300日という期間そのものについては今日でも合理性があるだろうということで,先に進ませていただきたいと思います。   もう一つの点,こういう場合にはこのようになるのではないかというやや立ち入った御説明がありました。直ちに今日,これはこうだと皆さんも断言はしにくいところがあろうかと思います。また後で問題があれば再度検討することも必要になろうかと思いますけれども,今日の時点で何か御指摘や御意見があれば,是非頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。   なかなか直ちには難しいところがあろうかと思いますけれども,差し当たり御説明を伺ったということで,資料を皆さんに改めてお読みいただきまして,御意見があれば是非お寄せいただくということにさせていただいて,先に進んでよろしいでしょうか。   では,この点については留保いたしまして,先に進ませていただきたいと思います。   次は,第3ということで,資料で申しますと12ページ以下になります。婚姻解消後300日内に生まれた子どもについて,母親が再婚した場合については一定の救済をするということで,ここについては皆さんからほぼ同意を頂いているところであると認識しておりますけれども,それではなお救済される場合が狭すぎるのではないかという御意見が出ておりました。それに対応するために,第3の別居後に懐胎された子による認知の訴えの明文化という提案が,今回,なされていると理解をしております。   具体的には,①の規律を民法に加え,②の規律を家事事件手続法に加える,こういうことで御提案がされております。これにつきまして御意見を頂ければと思います。①,②,二つありますけれども,両者併せて御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○棚村委員 この第3の,まず①,それから②,両方なのですけれども,別居後に懐胎された子について,再婚とかのほかに,少し推定を外せるような例外を明文化していくという点については賛成です。   ただ,①について御提案されているような,別居というような概念の問題が大きい問題になると思います。特に海外では法定別居というようなことが離婚や婚姻の解消の前段階として定められており,開始の時期とか,もちろん本人たちの意思とか,そういうようなことの確認ができているので,別居の開始時点ということが割合と明確にできるということになります。ただ,日本の場合にはそういう別居制度というものが特に規定も何もありませんので,要するに,どういうふうな形で客観的に別居の開始を認定するかということが問題になります。事実上の共同生活がなくなった時点というのか,それから,今回のはやはり一時的,暫定的,経過的な別居みたいなものを除くために,婚姻を解消する意思でという主観的な要件が付加されています。御苦労されている点は非常によく分かります。しかし,この婚姻を解消する意思での別居ということで本当に客観的な基準として,まあ主観的な基準ですけれども,それが縛りとして果たして有効かどうかという点については,更に検討が必要なのかなということを考えています。   それから,②について,実際に強制認知,調停を基礎とした合意に相当する審判みたいなことも含めて少し検討するにしても,やはり判例では確かに強制認知の方法で一定程度,特に事実上の離婚状態ですと,排除できるということですので,この要件がやはり二つがセットになって認められているということであると思います。ただ,もう一方では親子関係不存在確認の訴えも一定の要件,外観説を満たすと認められるということにはなっていますので,この点もやはり,要するに強制認知ということに限定をした御提案になって,特に手続的には,人事訴訟法,家事事件手続法とか,そういうところできちんと手当てをしていこうということと,それから,前夫の関与を認めてしまうと,DVとかいろいろな葛藤があったために当事者が非常に手続をとりづらくなってしまうというような御意見があり,それに対する配慮というのは非常に感じます。   ただ,この点についても嫡出推定の排除という例外を設ける場合に,実体的なルールとしてどういう要件で絞りを掛けていくか,明確にするかという実体法のルール化の問題と,手続的な問題として具体的方法としてはどこまで広げていくか,場合によっては親子関係不存在の確認の訴えについても,やはり排除できる場合の何らかの要件みたいなものを,訴え提起権者の範囲とか訴えの期間みたいなことも少し考えていくとすれば,検討課題ですけれども,この提案もあり得るのかなと思います。今のところは認知の調停ということで,しかも前夫の関与をある程度排除するという御提案についても,現状を考えますと一応今のところは賛成をしたいと思っています。ただ,それ以外の方法,手続的な手段として,親子関係不存在の確認の訴えについても,やはり引き続き少し検討が必要なのかなという感じを持っています。   いろいろと申しましたが,基本的にはこの①,②の方向性については,もう少し広げた方がいいというのはパブリック・コメントでも多くありましたし,実務家の方々からは,特に弁護士さんですけれども,当事者に寄り添っている方からすると,もう少し広げた方がいいという点については賛成したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。①,②,併せて御意見を頂きました。法定別居がないということを前提にしたときに,別居の要件に難しさがあるであろうということと,それから,強制認知の場合を想定しているけれども,それはそれでよいとして,更に広げて考えることもなお検討してよいのではないということ。こういった御指摘をしていただいた上で,大きな流れとしてはこの方向に賛成であるという御意見を頂いたものと理解をいたしました。   そのほかに御発言,いかがでございましょうか。 ○大森幹事 今回の提案につきましては,再婚以外にも救済をという方向で考えていただいており,その点に関しては私も賛同したいと考えております。ただ,具体的な今回の提案について3点ほど質問がありまして,発言をさせていただきます。   1点目が,前回,第16回会議においても再婚以外の救済について検討があり,そのときには部会資料16において,婚姻解消後の出生の場合には血縁主義を採ることを正面から認めるのか,若しくは従前の延長ということでの解釈を考えるのか,2通りあるとした上で,後者の一つの例として,確か注書でしたけれども,一定期間出生届出が出されない場合には強制認知による方法を認めるという御提案があり,出席された先生方からは,一定期間出生届出を出さないというよりは,父親欄空欄にした出生届出が出された場合という案はどうだろうかといった御意見も複数出ていたかと記憶しております。そうした前回の議論がありつつ,今回また全く違う御提案が出ておりますので,前回の議論が今回この御提案にどうつながっているのかといった点について教えていただきたいというのが1点目です。   2点目が,部会資料の13ページのウのところで,これまでの解釈論が引き続き残る可能性は否定できないけれども,今回は判例に代わるものとして提案をしていると記載がありますが,従前の外観説,判例上のものは解釈として残りつつ,ただ,その中でも特に明文化をして保障するものとして今回の規律を考えておられるのか,解釈はもう採らないだろうという前提で置き換わるということを前提に考えておられるのか,その辺りをお聞きしたいというのが2点目です。   3点目が,具体的な①の要件で,先ほど棚村先生からも御指摘がありましたように,婚姻を解消する意思をもってという主観的な要件を提案されておられます。皆さん御承知のように,判例上の外観説では,こういった意思をもってといったような主観的なものではなく,客観的な懐胎可能性の有無といった切り口でこれまで解釈されてきています。今回このような主観的なものを要件として提案された理由について教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点御質問を頂きました。1点目は前回の議論との関係ということ,それから2点目は従前の判例との関係ということ,3点目が第3の①,先ほども話題になりましたけれども,別居の要件をどうするのかということについての御質問ということだったかと思います。 ○小川関係官 まず1点目ですけれども,今回の提案と,部会資料16の8ページの(注)で書かせていただいた提案とは,問題意識は同じではありますが,提案の内容そのものには関連性はないものとご理解いただければと思います,中身的に。部会資料16の記載も,幾つか検討すべき問題点があるので,更に検討する部分があるというものであり,本部会資料では,無戸籍の方が利用しやすい手続ということを設ける方策として考えられるものを提案させていただいております。   二つ目の,判例は残るのかというところですけれども,当然のことながら,判例や解釈論が,今後どうなってくるのかは予想できないところかと思うのですけれども,今の判例で問題とされている要素というのは,この部会で検討した上で,その中で今後の規律として,こういうものは推定が及ばないという形にすべき,こういうものはすべきでない,あるいは解釈に委ねるという形で整理して議論ができればと考えておりまして,そういう意味では,現在の判例に代わるものという形で置かせていただいているところです。   ③の部分は,こういった観点から考えた場合に,規範的に嫡出推定の基礎がないというのはどういった場合かというところを考えたときに,婚姻が基礎となっているとした上で,婚姻による基礎付けがないというのはどういった場面かということを基本的な考え方の出発点とする場合には,嫡出推定の裁判例の中には懐胎可能性というのを厳密に見ているものも多分あるのだとは思うのですけれども,この懐胎可能性の有無にとらわれる必要はないのではないかという考えから提案をさせていただいております。そこで,単に別居としますと,単身赴任など,夫婦関係は円満だけれども離れて住んでいるという事案も含まれることになると思いますので,そうではないという趣旨で,婚姻を解消する意思を必要とさせていただいております。 ○大村部会長 大森幹事,よろしいでしょうか。もし更に続けて質問があれば,どうぞ。 ○大森幹事 ありがとうございます。そうしますと,確認ですが,最初の質問に関しては,前回の議論は議論としつつ,今回はまた別途の提案で,特に両立を考えておられるわけではないという理解でよろしいでしょうか。 ○小川関係官 そういう意味では,更に何か方策が必要であるということであれば,そういった方策も今後検討する必要があるかと思いますし,そこの当否というのは改めて検討する必要もあるかと思いますので,今後少し検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○大森幹事 はい。 ○大村部会長 そのほか。 ○窪田委員 一つ発言をさせてください。第3の①の部分なのですが,例えば夫のDVで妻が,あるいは逆でも結構なのですが,別居してシェルターに入ったというようなケースだと,まだ比較的イメージしやすいのかなと思って拝見しておりました。また,こうした仕組みが必要だということ自体もある程度は理解しているつもりです。ただ,その上でやはりまだよく分からないところがありますので,教えていただけたらと思います。   あるいは先ほどの棚村委員から御指摘があった部分とも重なっているのかと思うのですが,これは夫婦の一方が婚姻を解消する意思をもって別居した,そしてその後に懐胎したということになれば,これは嫡出推定の及ばない子だよねということは分かります。それは分かるのですが,それは神の目を持って,全てを分かっていて,こういうふうな状況だったらこうだよねというのだったら分かるという意味です。実際には婚姻を解消する意思をもって別居した後に懐胎したというのは,この787条の訴えを提起する際の要件ということになるのだろうと思いますので,実際には認知の訴えの中で,その要件が満たされているかどうかを判断するという構造になるのだろうと思います。   少し確認をしたいというか,私自身がまだよく分からないのは,もう婚姻を解消する意思をもって別居した後に懐胎したということがはっきりしているのだったら,それは確かにそうだよねということにはなるのですが,そのこと自体を,その要件を満たしているかどうかということを,認知の訴えの中で,つまり認知の相手方との訴訟の中で判断するということが適切なのか,あるいは適切と考えておられるのかという辺りについて,少し御説明を頂けたら有り難いと思いました。   ほかにも細かいところはありますが,その部分をまず質問させていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○小川関係官 別居後に懐胎したという事情を,母と生物学上の父との間の手続である認知の調停なり訴えで認定するということが適切なのかというお尋ねかと承りましたが,当然,御指摘いただいたような,DVを受けてシェルターに入っていてというふうなケースについてであれば,前夫の関与なく認定をすることはかなり容易であろうというところですので,そこについてあえて前夫を関与させる必要性というのは,ここに当然書いておりますように,手続保障という意味でも必要ないと思いますし,事実認定としても,前夫の意見を聴くことが本当に必要かというと,そうではないのだろうと考えているところです。   ただ,おっしゃるように,事案によってはそこの部分の認定が微妙な事案はあるかと思います。その際に,前夫の話を聴かなければその別居前後の事情というのが分からないということであれば,その部分については裁判所が本当に必要だと考えるのであれば,前夫から話を聴くということも妨げられるものではないとしておりますので,おっしゃるように,本当に裁判所の適正な事実認定という観点から,事案によっては強制認知の訴えの中で判断することができる事案と,そうでない事案というのが出てくるのだろうとは考えているところです。 ○大村部会長 窪田委員,もし続けて何かありましたら,どうぞ。 ○窪田委員 質問に対して答えていただいたのだろうと思うのですが,私自身の質問というのは,必要に応じてやはり前夫に聴かなければいかないかどうかということよりは,①の規定だけを見ると,少なくともその要件となっていることについて,認知の訴えの中で判断せざるを得ないのだけれども,そのときに認知の訴えという,当事者がそれに関して判断するのが適切な人たちなのかというのが気になったということです。うまく質問を伝えることができていないのだろうと思いますが,その点だけまだ少し気になっているなという気がいたします。それでも一応,お答えいただきましたので,私の方からは以上ということにさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。お答えの方は,窪田委員が今示された御疑問ないし御懸念について,具体的に手続をどう組むのかという観点からなされたのではないかと思いますが,窪田委員の御発言の御趣旨は,それ以前の問題として,制度の組み方としてこのようなものでよいのだろうかということを含んでいるのではないかと思って伺っておりました。事務当局としては,現に行われていることを明文化して手続を整えるという発想で書いているということだろうと思いますけれども,御発言の中には,現在の手続が本当にこれでよいのだろうかという問題意識も含まれていたのではないかということです。   また御議論があれば御意見を頂きたいと思いますが,差し当たり石綿幹事の方の御発言を伺いたいと思います。 ○石綿幹事 ありがとうございます。私もこのようなことを検討する方向性自体には賛成いたします。今の窪田委員の御発言と共通する点もあるかと思いますが,現状の実務を条文化しようという方向性は理解していますが,条文化する際に,現状を追認していいのか,あるいはもう少し慎重に考えるべき点があるのではないかということが,これからの発言の大きな問題意識ということになります。   細かく言うと,三つ意見と質問があるのですが,一つ目は既に出ている,婚姻を解消する意思というのをどうやって判断をしていくのだろうということです。少しでも客観的に,ここからは婚姻を解消する意思で別居するのだということを表出する制度を何かしら準備できないのか,例えば婚姻届の不受理申立てや離婚届の不受理申立てのような,ここから先,少なくとも一方は離婚をする意思をもって別居しているのだというようなことを何か制度として組めないのか,そして,それを可能であれば夫,相手側に通知をするというような制度がとれないでしょうか。例えば,ずっと単身赴任をしていて,どこかのタイミングで,夫婦の一方が,ここから自分は婚姻を解消する意思を持ちましたといったようなことを言い始めたときに,実務でどう対応していくかとか,どう事実認定していくかというのはなかなか難しいと思うので,何か分かりやすい制度というのが考えられないのかというのが一つ目でございます。   二つ目は,婚姻を解消する意思をもって別居を開始した後に懐胎された子というのは,法的にどういう地位のある子なのかということです。嫡出推定が及んでいない子だと御説明を頂いていて,その嫡出推定が及んでいない子であるということを判断するために,強制認知の訴えをするということになるのだと思います。しかしながら,条文で,こういう状況で懐胎した子には嫡出推定が及んでいないのだということを明文化すると,それでは,その子たちは嫡出推定が及んでいないので,母の非嫡出子としての出生届が出せるのではないかという意見が,今まで以上に出てくるのではないのかなということを思っております。条文化しても従前の実務を変えるものではないので,そういうようなことは認められないというのは一つのあり方だとは思いますが,明文化することによって,一定の要件の下で生まれた子たちの法的地位が議論になるのではないかと思います。   三つ目が,これは事務当局の皆さんに教えていただきたいのですが,資料にしばしば出ている夫婦関係の実態が失われているということを,どのような意味で記載なさっているのかというのことです。例えば,13ページから14ページにかけて,例えば,別居して月2,3回自宅に帰ったり,夫婦で旅行に行ったりしていたとしても,夫婦の一方は婚姻解消をする意思をもって別居したときには,もう一旦別居したことで嫡出推定の基礎である夫婦関係の実態が失われると書いてあります。この夫婦関係の実態は,夫の子である蓋然性ということは必ずしも連動しないという意味で使っていらっしゃるようにも思うのですが,離婚する意思をもって別居していたとしても,その後,月2回自宅に帰ったり,夫婦で旅行に行ったりしたら,それなりに夫婦関係がある可能性があるのではないかと思うのですが,事務当局はどういう意図で使っていらっしゃるのでしょうか。   すみません,長くなりましたが,以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点御質問ないし御意見を頂きました。   1点目は,先ほど来出ている意思に関する問題ですけれども,意思があったと認定するというのはかなり難しい作業になる。法定別居を作れば,それはまた全く別の話になりますけれども,そこまではしないが何か客観的な認定に資するような制度を用意して,これを動かすということは考えられないのだろうかといった御指摘と承りました。   それから,2点目は,この規定が当てはまるということで嫡出推定が及ばない子ということになると,その子の法的地位はどうなるのかということで,理論的な問題と実際上の問題を御指摘になったのではないかと思います。実体法上嫡出子でないのならば,嫡出子ではないものとして届け出ることも可能ではないかといった意見も出はしまいかということでした。これは訴訟で争ってみないと分からないことなので,実際上の問題としては訴訟で決着がつくまでは嫡出子ではないとはいない,しかし観念上は嫡出子でないのだったら,一定の場合には訴訟を経ずに嫡出子ではないものとして届け出ることができる場合もあってよいのではないかという疑問が出はしまいかといった御指摘だったのではないかと思います。   3番目は,この資料の中の言葉遣いの問題と,それから,先ほど来出ている意思をもってという要件がどのような関係に立つのかという趣旨の御質問だったかと理解をいたしました。 ○小川関係官 3点目の御質問についてですけれども,夫婦関係の実態が失われているということで意図しているところとしましては,夫婦の中での夫婦関係といいますか,性交渉等が失われているということを意図しているところでございまして,一度,婚姻関係を解消する意思で別居したということによって,嫡出推定の基礎となるような夫婦の実態というのは失われているのであろうと,それが事後,変化する可能性はあるのかもしれないですけれども,要件としましては,別居が開始した後に懐胎したのかどうかという部分をまず御判断いただくと,その中で,もし二度,三度,会っていたというふうな事情については,強制認知の方の,もちろん別居が婚姻を解消する意思であったかどうかという事実認定の問題として考慮されるということも当然あるかと思いますし,あるいは強制認知の本案要件として,認知の相手方というのが生物学上の父であるかどうかという点の事実認定に関する間接事実として考慮するということになってくるのかなと考えているところでございます。 ○大村部会長 第1点と第2点については,何かありますか。 ○小川関係官 1点目の,離婚届の不受理申立てのような制度,あるいは別居が婚姻関係を解消する意思であるということを明らかにする制度については,御指摘を踏まえまして,少しそういった制度が組めるのかどうかというのは検討させていただきたいと思います。   二つ目の部分は,少し今回の部会資料にも書かせていただいておりますとおり,第772条の適用がないといいますか,推定が及ばない,嫡出推定されていないという整理になるのかなと考えているところではありますけれども,実際問題として,その推定が外れているということは強制認知の中でしか主張できないという構造にすることが望ましいのではないかと考えているところです。そういった考え方が成り立ち得るのかどうかも含めて,御意見を頂きたいなというところではございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。裁判所の方から手が挙がっております。御発言いただければと思います。 ○木村(匡)幹事 ありがとうございます。先ほど来御指摘が続いている,婚姻を解消する意思をもって別居をしたこと,その関係でございます。裁判所の立場からしますと,この婚姻を解消する意思をもって別居をしたことをどのように認定するかということは大きな問題となり得るところであります。メールなどで当事者の意思が客観的に把握できる場合もあろうとは思いますが,証拠として当事者の裁判時における供述証拠しかない場合もあるのではないかと考えられまして,そういった場合には審理に時間を要することとか,あとは認定判断が安定せず当事者の予測可能性も害されるというような事態が生じかねないのではないかと考えます。   また,今回の提案は外観説に代わるものとして提案されているのだと認識しておりますけれども,外観説では,嫡出推定の例外として,懐胎時期において夫の子を懐胎する可能性がないことが外観上明らかであるということが求められており,当事者の主観は問題とされていないものと考えられまして,実務におきましてはこのことを前提にして,強制認知の手続において前夫からの聴取を行わずに事実を認定していたという面もあるのではないかと認識しているところであります。   他方,今回提案していただいております規律のように,嫡出推定の例外について外観説に代わって当事者の主観を要件にするような規律にしますと,それが母の方の主観であったとしても,その認定のためには当時の夫婦関係等を明らかにする必要が生じ,前夫の聴取が必要であるというような,そういう考えを採る裁判体も現状より相対的に多くなるのではないかとも考えられるところでありまして,前夫の関与を避けようとするこの規律の趣旨が貫徹されなくなるおそれもあるように思われます。   したがいまして,前夫との関与を避けるという趣旨で嫡出推定の例外を明文化するのであれば,外観説との連続性も意識しつつ,ただいま申し上げたような観点等も踏まえまして検討していくことが求められるのではないかと考えるところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。現在の外観説による実務との整合性という点について御指摘ないし御意見を頂いたものと理解をいたしました。最初の棚村委員の御発言以来,出ている点かと思いますけれども,別居というのが要件になるわけなですけれども,ただ単に別居ということにすると広がりすぎることになるので,それについて一定のその枠をはめる必要があるだろうということで,ここでは意思をもってという文言が付け加えられているわけですけれども,誰がその意思の有無を主張するのかといった問題も含めて,この絞り込みの要件をどのように書くのか,これで十分に使える要件になっていているのか,また理論的にも正当化できる要件になっているのか,こうした御指摘が続いているものと受け止めております。 ○中田委員 私も今までの御発言の延長にあるというか,同じ御質問なのですが,具体的にお聞きしたいと思います。刑務所の例が先ほど出てきたわけですけれども,夫が刑務所に入った後,婚姻を解消する意思をもって別居したというのが,妻のことを意味しているのだろうと思いますが,夫にはその意思がなくて,残された妻にその意思があるというときもこの対象になっているのでしょうか。そうだとすると,それはどうやって判定するのでしょうか。これは何人もの方から出てきた御質問と同じです。   それから,私がお聞きしたいのは,効果でございますけれども,今のような刑務所の例を出してみると,かなり微妙に内側か,外側かというのは変わってくると思うのですけれども,この規律の外に出たときには,まだ外観説か,あるいは別の考え方か,いずれにしても何かがまだ及ぶのだとすると,この規律の外にある場合には①の認知の訴えを提起できるのかどうか,それから,②の夫の陳述を聴くことを要しないのではなくて,要することになるのかどうか,外に出た場合の効果について教えていただきたいと思います。   それから,最後に,同じことなのですけれども,そうだとすると,この外観説プラス主観を入れた,この規律で切り取ることの根拠は何なのかを教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。具体化された形で,意思をもって別居したという要件の当否に関わる御質問を頂いたと思いますけれども,事務当局の方で何かお答えがあれば。 ○小川関係官 刑務所の事例については,まずそもそもそういった,必ずしも婚姻を解消する意思がなく離れて暮らす状況が開始しているというふうなケースをどうするのかという部分は,それを嫡出推定の例外とするかどうかも含めて御意見を頂きたいというところは一つございます。今の提案としてということですけれども,離れて暮らすきっかけが刑務所であったとしても,どこかの時点で婚姻関係を解消する意思というのが妻の方に生まれたということであれば,それ以降というのは今回の規律というのが適用されることになるとも考える余地もあるのではないかと思っております。例えば,刑務所にいる夫の方に妻から離婚届が送り付けられてきたとかいうふうなケースがあれば,当然それはそうだろうというふうにもなるかとは思いますので,その辺りはそう考える余地がないかと思っているところではございます。   そのため,もう一つの御質問である,その外側に出た場合の部分の効果については,事務当局としては,刑務所のケースを外側にするのかどうかという御議論をうかがった上で,解釈に委ねることも含め,更に検討したいと思っているところです。すみません,現時点ではなかなかお答えが難しいかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   中田委員,続けての質問があれば伺いますが,よろしいですか。 ○中田委員 はい,今の御説明で現状がどういう状況かということは分かりました。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに,いかがでございましょうか。委員,幹事の皆様からは,第3の①の別居の認定,この点について要件をどのようにセットするのかということについて,難しい点があるのではないかという御指摘が相次いでいると理解をしております。他方,この規律の方向性について否定的な意見は特に出されていないようにも思うのですけれども,この方向で考えるべきではないという御意見があれば,特にお伺いしたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。 ○磯谷委員 まだ検討不足で,私自身もどういうスタンスを採るべきか,まだ迷っているところでございます。賛否はともかく,少し質問をさせていただければと思ったのは,まず,一つはこれは①で民法に規律を設けるということが提案されているわけですけれども,むしろ手続の中で事実認定に必要ない場合には夫の陳述を聴かなくてもよいという点に主眼があるように思われ,そうしますと実体法に規律を設ける必要があるのか,つまり,手続法の中で一定の場合には夫の陳述を聴かなくてもよいと定める形で整理するということもあり得るのではないかというのが一つです。   それから,もう一つは,その要件の規定の仕方ですけれども,とどのつまりは推定が及ばないというようなケースについて,夫の陳述を聴かなくても認定ができるケースについて,更に手続的見地から陳述を聴くことを要しないということだと思うので,そういった形でよりストレートな形で規定ができないかどうか,そこのところも,もう少し検討が必要なのではないかと思いました。   それから,私もよくまだ詰めていないのですけれども,この夫の陳述を聴くということは法律上は特に規定はないのではないかと思ったのですけれども,ここが間違っていたら御指摘いただければと思いますけれども,要するに,手続法上夫の陳述を聴くことが義務付けられている場合に,それを外すという規律はすごくしっくり来るのですけれども,仮に陳述を聴くことについて特に規律がない中で,陳述を聴くことを要しないと定めるとすると,規定の在り方として少し違和感を感じたところでございます。   雑駁ですけれども,一応御質問申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございます。①と②がございますけれども,①についてはあえて明文化する必要もないという考え方もあるのではないか,②については,このように書くというのがどういうことを意味するのかということについて,御質問があったと受け止めました。②について事務当局の方で何かあれば。 ○小川関係官 陳述を聴くことを要しないというふうに書かせていただいた部分ですけれども,現行法上で言いますと,当然,強制認知について前夫に陳述を聴かなければならないという規定はないわけですけれども,現行法の実務で行っているものとしては,利害関係参加の機会を与えるという趣旨で通知を行うというものでございます。その通知とともに,参加自体はしないけれども意見があれば意見を述べていただくということで,意見照会等を送っているということなのだろうと思います。そういう意味で,前夫の陳述を聴くということが手続法上,裁判所の義務として求められているものではありません。ただ,家事事件手続法上は陳述を聴くということで,審判の結果により直接の影響を受ける者に対する手続の保障をするために陳述を聴くべき場面というのは用意しているものです。そういった意味で,この場面に聴かなければいけないと規律が一般的に掛かっているわけではないと思いますけれども,陳述を聴かなくてよいということを,言わば確認的にという形になると思いますけれども,書くことが意味があるのではないかと考えているところです。 ○磯谷委員 趣旨は分かりますし,その点は決して何か反対ということでは全くないのですけれども,規定を考えると非常に唐突感があるといいますか,いきなりここで,陳述を聴くことを要しないという規定がぽんと出てくることについて,ある意味,法制的な部分なのかもしれませんけれども,少し違和感があったということと,もう一つは,先ほどの繰り返し,二つ目の質問といいますか,疑問点ではあるけれども,要件の立て方について,ここに御提案のような,夫婦の一方が婚姻を解消する意思をもって別居ということではなくて,より端的に何か,この推定が及ばない場合だとか,何かそういうふうな形でできないか,この辺りはまた少し検討事項かなと思っておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○久保野幹事 ありがとうございます。この要件の立て方につきまして,主観的な要素を含めた別居概念の難しさという点に関わってです。   先ほど石綿幹事から,届出などの形で客観的にする工夫の可能性について御発言がありましたけれども,そのような工夫と並んで,夫婦の関係の実態が失われているということや,別居というものが持つ意味ということから考えましたときに,これは離婚原因について一定期間の別居を破綻と認定していく基礎とするという考え方に通じるといいますか,それを参照して考えるに値することのようにも感じておりまして,いずれにしても別居というのを開始した時点という一点で見る見方から少し変えて,例えば婚姻の本旨に反する別居状態が続いているということをもって夫婦関係の実態が失われているというような方向性,時間の軸を入れていくといったことも,少なくとも検討はしてみてもよいのかなという感想を持ちましたので,述べさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。御発言の中に2点含まれていたかと思いますけれども,今回この第3の提案が出てきて,その要件のうち別居の概念について皆さんから御質問,御意見を頂いておりますけれども,別居については従前,離婚の要件を考える際に既に考えた経験もある,あるいはまた逆に言うと,内縁の認定についての同居の概念についても我々は考えてきているので,そうしたものと連続して考える必要もあるのではないかと,それから,一点で別居を画する必要はなくて,時間の推移の中で考えていくということも必要ではないか,このような御指摘を頂いたかと思います。   ほかにはいかがでございましょうか。これは今回初めて出て来た案ですので,この線で行くとしても,更に検討しなければいけない点があるという御指摘を頂いたと思います。事務当局としては,更にこの方向で検討を続けていってよいのかということについての皆様の御感触も伺いたいのではないかと思いますが,その点も含めて発言を頂ければと思います。 ○大森幹事 ありがとうございます。今回の事務当局の御提案では,別居を要件にするけれども,別居だと広がりすぎるので,意思という点で制限をという考えだと理解しております。ただ,従前の判例理論,15ページのところでは,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情がある場合と考えていまして,必ずしも別居を要求しているものではありません。先ほどから出ている刑務所に入っている例,あるいは海外赴任の場合など,必ずしも別居ではない場合も含めて外観説は推定を外すことを認めております。   私が危惧をしていますのは,今回,再婚以外でも例外を認めていこうと,それが無戸籍解消につながっていくのではないかという大きな方向性の中での御提案になっているのですが,ただ,実際の中身を見ますと,従前の判例理論よりも救済範囲を狭めてしまっていて,従前外観説で救済されてきているものが,この別居という要件によって救済されなくなってしまってくるものが出てくる,そうすると,果たしてこれを規定することが救済になるのだろうかという点が大きな疑問としてございます。先ほどの,では外側にあるものはどうなるのだという御質問にも関連するのですが,仮に判例に代わるものとして規律を考える場合には,最低限これまでの判例でカバーされていたものについては,やはりカバーできるような規律でないと,今回の無戸籍解消といいますか,嫡出推定の枠組みに対し少しでも例外を認めて救済を図っていこうという趣旨には反していってしまうことになってしまわないかという危惧を持っています。   そうした観点では,例えばですけれども,要件としては別居以外にも,その他客観的に夫の子を懐胎することができない事情がある場合とか,そういった判例をカバーできるような要件を別居に限らず考えていくことも検討する必要があるのではないかと考える次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。従前の扱いを維持するということを考えたときに,先ほど来出ていますけれども,明確に要件化できるものを要件化して,その外のものは従前と同様であるとする考え方も一つあるのだろうと思いますが,全てのものを明文化するのならば現在の提案は狭すぎるのではないか,従前の判例理論がどうなるかということについての認識とも関わることですけれども,この点を考える必要があるのではないかという御指摘として伺いました。 ○棚村委員 先ほどの久保野幹事の御意見とも少しかぶると思うのですけれども,私自身は,別居ということでどういう法的な効果が生ずるのかというのが日本の民法では検討を十分されていないというか,離婚に準じて扱うみたいな,そういう扱いになっています。そこで,私自身は実は家族法制部会の方も関与していて,この部会にも加わっている先生方もいらっしゃいますので,そこで本来,協議離婚制度とか,それから,別居についてもやはり法律関係の規定を見直すべきではないかという御意見がかなりあるのだと思うのです。本来は,父性推定を外すというのは非常に大きな効果を持っていますから,裁判所からもいろいろ言われているように,外観説を明文化するというのもあるのですけれども,ただ,別居ということがきちんと認定されたり開始したりした場合に,どういう効果が生ずるのかということはやはり重要だと思います。これも一つの大きな効果なので,別居ということを立てながら,一定程度,父性推定を外せる場面を作っていくことを明文化するというのは,先ほども言いましたように,別居制度みたいなものの必要性という議論の中でも非常に重要な論点だと思います。   ただ,ではこの別居というものが決まらなければ,父性推定は一切外さないという議論になってしまうと,では運用でやるしかないということで,規律がやはりできないと思うのです。そうすると,久保野幹事も少し御苦労されて,別居の認定のときに,やはり婚姻の本旨に反する別居というようなことも工夫して,実体上のルールとして,離婚の場合にどういう規律を設けるかという提案もしているので,引き続き,私は別居という制度についての検討も,家族法制部会も含めて,離婚の前哨戦というか,前段階のところでも,子どもの問題とか婚姻費用の分担とかいろいろなことで,離婚する前の段階での法律関係が問われます。そうしますと,本当に婚姻を解消する意思で別居したか,していないかというよりは,揺れ動いているときの規律もきちんとしなければいけない。その意味で,親子関係についての父性推定で重要なのは,婚姻関係の実態がなくなったという認定をどこが,誰が,どういうふうにするかというのが客観化できるメリットがあるわけです。   ですから,是非この方向性そのものを閉ざすのではなくて,むしろ別居ということに具体的にどういう法的効果を与えていくかという問題として検討すべきと思います。別居の問題については,例えばお子さんの問題とか財産の問題を含めて,規律がない状態ですから,それを何とか工夫して明文化する方向で御検討いただくことに賛成いたします。父性推定が排除される場合としての外観説というのを一応前提として,それをどの程度,一般的,抽象的なものになりますけれども,具体的な形で明文化できるかという工夫をしていただきたいと思います。最終的には民法の改正の中で別居というものを制度化できるとか,きちんと規律ができるということになれば,先ほどからずっと出ているような問題については大分解消してくるのではないかと思っていますので,この部会の審議の対象としては,無戸籍の解消とか父性推定とか,実親子関係の見直しのところが中心で,懲戒権は少し別ですけれども,そうすると,やはりある程度,この別居ということについて何らかの絞りを掛けながら要件化を検討し,かつ,別居制度そのものについての,協議離婚も含めて,改革の議論の中で,ある程度関係しますので,検討が必要になってくると思うのです。   この部会でどこまでできるかというのは限界があるのですけれども,私自身は外観説とかこれまでの実務をできるだけ踏まえた上で,それから後退するとか,その救済が漏れるということはあり得るかもしれませんけれども,それでも明文化について少し検討していく上で,今回の御提案というのはいかしていった方がいいのではないかという考えです。○大村部会長 ありがとうございました。別居概念については様々な難しい点があるという御指摘を頂いているところではありますけれども,家族法の領域を広く見渡すと,別居概念が必要な問題はほかにもあるので,この際,別居の概念を退けるのではなくて,これを練り上げていくという方向で考える方がよいのではないか,親子法制部会でできることは限られているかもしれませんけれども,その限度内で更に検討してみてはどうかという方向の御意見を頂いたと理解をいたしました。   更に御意見あろうかと思いますが,いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。難しさは共有されたのではないかと思いますが,差し当たり今日のところは,第3については今のような御意見を頂いたということでよろしければ,ここで休憩を挟ませていただいて,第4の承認については休憩後に回させていただきたいと思います。   では,休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開したいと思います。   先ほど休憩に入る前に,再開後は第4の嫡出の承認の制度の見直しについて御意見を頂きたいと申し上げたのですけれども,休憩に入りたいということで少し唐突に打ち切ったところ,事務当局の方からは,最初に棚村委員から御発言があった,親子関係不存在についてどうするかということについて,皆さんの御感触をもう少し伺っておきたいという御希望があると,休憩中に伺いました。大森幹事や磯谷委員の御発言の中にもそうした問題意識が含まれていたかと思いますので,その点について何か御発言があれば頂いて,その上で第4の嫡出の承認の問題へと進ませていただきたいと思います。棚村委員から先ほど,親子関係不存在まで含めるということも検討するが,一定の枠を掛けるということも併せて考える必要があるのではないかといった御趣旨の御発言を頂いたかと思います。何かほかに御発言あれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○棚村委員 私がまた補足するのもどうかとは思いますけれども,ただ,皆さんが御発言しやすいように。水野委員が,親子関係不存在確認の訴えを多用すると嫡出推定制度は空洞化するということで,本当に確かに弊害は大きいものと思っています。ただ,先ほど言いましたのは,嫡出推定が外観説で排除されると,親子関係不存在確認の訴えというので誰でもいつまででもできてしまうとこになって,その落差が激しいものですから,一定の縛りを掛けてはどうかと考えています。私としては外観説にしても従来の実務にしても,立法がきちんと整って何の問題もないということになれば,これまでの実務でやってきたことができなくなっても,構わないと思うのです。ただ,改正法がどういう形になって,かつ実務にどういうインパクトというか影響を与えるかということを見た上で,最終的には,判例法が築いてきたルールなり判例法理について置き換えられたというようなところで,外観説が果たしてきた役割やその果たした意義は残したいなという発言でした。ですから,親子関係不存在確認の訴えがこれまでのように無制限に便宜的に使われるということについては,かなり警戒をしつつ,もし立法なり手当てなりができるのであれば,それを多少,空洞化しないように検討していただければという趣旨でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの御発言を敷衍するような形で再度の御発言を頂きました。 ○窪田委員 多分,何か発言があった方が事務当局も検討する材料になろうかと思いますので,感想みたいなものですけれども,発言させていただきたいと思います。推定の及ばない子の扱いに関してはかなり慎重に扱う必要があるのだろうなというのが,まず出発点ではあるのですが,その上で,私自身としては2点について確認しておきたいというか,こういう方向が考えられるのではないかということで意見を述べておきたいと思います。   一つは,推定の及ばない子については非常に慎重に扱うべきだから,一切手を触れないというのもあるのだろうと思いますが,今回こういう形で,第3のような形で触れてしまった場合には,やはり触れざるを得ないのではないかという気が一方でいたします。つまり,先ほど具体例が出ておりましたけれども,刑務所に収監されている一番古典的で分かりやすい例,あれが第3との関係でどうなるのだということで,先ほど小川さんからは,そういう場合であったとしても離婚届を送り付けるとか,いろいろな意思が分かるかもしれないという話はあったのですが,やはりあのケースに関してそういうふうな話をしなければいけないということ自体が,かなり不自然なのではないかという気がします。本人の意思がどうであれ,絶対夫によって懐胎した可能性はないのだということであれば,それが最も古典的な推定の及ばない子だっただろうと思いますので,そこのところはやはり手当てをせざるを得ないのではないかと思います。   一方で慎重に対応しなければいけないというのは,棚村委員からもありましたし,水野先生がいつもおっしゃっていることにも関係するわけですけれども,恐らく現在の推定の及ばない子というのは,ルールが明確でないまま一般法理の中で解決してしまうので,受皿というのは親子関係不存在確認しかないということになるわけですし,親子関係不存在確認だったら利害関係があれば訴えられるという仕組みになってしまうのですが,むしろ取り込まざるを得ないのだとすれば,誰がその訴えを提起することができるのかという点も含めて,要件を絞り込むというのを明確にした方がいいのではないかと思います。   ここから後はもう完全に個人的な意見ということになりますが,私自身は,推定の及ばない子という概念があり得る,想定されるような状況というのが考えられるとしても,父も母も子どもも誰も争っていないのに,推定相続人の一人だからということで争うことができるというのは,ものすごく違和感があります。だから,その意味ではきちんとしたルールとして取り込んだ上で,訴えを提起できる人をきちんと限定するというのは,一つの考えられる方向なのではないかと思っております。十分に吟味したわけではないですが,取りあえず現時点での感想めいたものということで御理解ください。 ○大村部会長 ありがとうございます。やはり考えざるを得ないのではないか,考えるときには,棚村委員御指摘のところでもありましたけれども,一定の枠を掛けるということと併せて考えていくべきではないか,このような御指摘を頂きました。   ほかにいかがでしょうか。今のところはこの点について,やめてしまうというのではなくて,その可能性も含めて検討してはどうかという方向かと思いますけれども,何か更に御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。では,事務当局は,今のような御意見が出されたということで,この問題について更にお考えを頂ければと思います。ありがとうございました。   それでは,第4の嫡出の承認の制度の見直しということで,資料で申しますと22ページ以下になりますが,この部分についての御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○中田委員 ありがとうございます。現行法の下でもあることで,私自身の不勉強に基づくものにすぎないのですけれども,今回御提案いただいている嫡出の承認と否認権の放棄との関係をどのように整理したらいいのか分からなくなったものですから,お考えがあればお聞きしたいと思います。つまり,一定のことがあると否認権の放棄があったものとみなすという制度なのだとすると,端的に否認権の放棄の要件の手続を検討するという方向もあり得るのかなと思いました。その上で法定追認のような規定を併せて置くとすると,理屈の上ではすっきりするのかなと考えた次第です。他方,手続について,これは裁判所に御負担をお掛けし,反対なさるとは思いますけれども,遺留分の放棄の許可のような制度を設けることはできないのだろうかということも考えました。このように,嫡出の承認という切り口と否認権の放棄との関係を更に検討することも必要ではなかろうかという感想を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございました。嫡出の承認というのが何なのかということはなかなか難しいところはありますけれども,今の御発言は,これを否認権の放棄と捉え直すことはできないだろうか,そのように捉え直したとすると,これに一定の規律を及ぼすとことも考えられるのではないかを,質問という形を取っておられましたけれども,そのような御意見も頂いたと思います。   事務当局の方で,もし何かお考えの点があればお答えいただく,更に検討したいということであれば,そのように受け止めるとさせていただくということにしたいと思います。問題提起として受け止めさせていただくということでよろしいですか。では,今の御指摘を頂いて,更に検討をしていただきたいと思います。 ○窪田委員 発言させていただきます。現在だったら夫からの嫡出の承認というのがあって,否認権者が拡大するので,それに合わせてこういうふうに広げるのだということ自体はある程度というか,なるほどと思うのですが,一方で現行法でも嫡出の承認というのは実はほとんど使われていないのではないかということが言われてきたと思います。そうしたときに,そういうものを改めてこういうふうに整理し直して広げるということにどんな意味があるのだろうというのが一つ。   そして,恐らくその背景にあるのは,今,中田先生から御指摘があった点とも関わるのですが,嫡出であることを承認したときはということの意味です。嫡出であることを承認したとは一体何なのだと,一体何をすれば承認なのだということが実は余りはっきりしていないのかなという気がいたします。そうなってくると,嫡出の承認という仕組みで作る必要があるのか,先ほどの中田先生の御質問は,同時に否認権の放棄というものができるのかどうなのか,その否認権の行使の制限であるとか,そうしたアプローチの方が場合によっては合理的なのかなということも含んでいたのではないかと思うのですが,そうだとすると,嫡出の承認というので頑張る必要があるのかなというのが,少し思ったということと,もし嫡出の承認の意味ということで具体的に御説明いただけるのだったら,その点を確認したいと思います。   それが1点と,もう一つ,少し後の話題とも関係してしまうのですが,認知無効の主張に関しては,未成年の間は自由にできるというふうにして,言わば事実関係を優先するということを言っておきながら,こっちの方では嫡出の承認というと,意思によってそれが封じられてしまうというのは,別に嫡出推定の場面と認知の場面なので違うのだと言ってもいいのですが,やはり整合性の点で本当に当然のように受け入れていいのかなというのは,もう少し検討の余地があるのではないかという感じがいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございました。御指摘は2点頂きましたけれども,一つは中田委員がおっしゃっているのと共通の御指摘で,承認というものをどのように考えるのかということだったかと思います。それからもう一つは,後で話題になる認知無効の場合との平仄を合わせて考える必要があるのではないかという御指摘を頂きました。御指摘の前提として触れていただいたのですけれども,776条はこのままでは困るので,否認権者が広がるので,何か手当てをしなければいけないのですが,その場合に,現在の立て付けを前提にする必要は必ずしもないのではないかという御指摘を,先ほどからの中田委員,窪田委員からいただいているものと認識しております。   これについて事務当局の方で,嫡出の承認の制度の見直しについて補足的な御説明をしておいた方がいいことがあれば,説明をお願いしたいと思いますけれども,特にないですか。 ○小川関係官 すみません,部会資料に書かせていただいているところではあるのですけれども,今回第776条を否認権者を拡大するのに伴って,それに対応する形で承認をするという人も増やすというところで,承認が何なのかという部分は引き続き解釈に委ねられている部分なのだろうと思います。   一つ,第776条が今後機能することが予想される事情としましては,嫡出否認の期間を延ばすということをしますので,それによって,今だと1年間ということになっておりますので,それで承認という場面はほとんど想定されないのではないかということも言われておるところですけれども,そこは事情として変わってくるのではないかと,同じようなことは否認権者が増えるということも出てくるのではないかと思っておりますので,そういった意味で今回の提案をさせていただいているというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。形式的に整える必要が最低限あるということに加えて,今のようなことで使われる場が増えてくることも想定されるという御説明だったかと思います。 ○石綿幹事 二つございます。   まずは従前,必ずしもどういうものか明確でなかった嫡出の承認という制度について,今,事務当局から御説明があったように,検討する必要があるというところの方向性は賛成いたします。その上で,具体的にどういう場合に嫡出の承認があったといえるのかということにつきまして,資料の23ページの39行目辺りからある,少なくとも夫と子との間に生物学上の事実関係がないのだというようなことを当事者が認めた上での何らかの行為ということを考えていくというのが一つの方向性としてあるのではないかと思ったという次第です。それが一つ目です。   二つ目は,子どもによる嫡出の承認については,少なくとも未成年の子については何ら設けないという方向性については問題ないと思うのですが,仮に妻が嫡出の承認をした場合,母が子の代理人として未成年の子の否認権を行使するということはできないと考えるのが合理的なのではないかと思います。資料には記載がないように思うのですが,嫡出の承認をしたことと,未成年の子の否認権行使について母がどのように関与するかということも一応,整理をしておいた方がいいのではないかと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。議論の方向性について御意見を頂いたと思いますが,特に第2点の,現在の①と②の整理について,事務当局の方で補足の御説明があれば,お願いします。 ○小川関係官 未成年の子についての,母が嫡出の承認をした場合に,未成年の子の否認権を行使することができるのかどうかというところですけれども,恐らく結論的には,それを許すというのは矛盾があるのだろうとは思っておりますので,それを明文で書く必要があるのか,それとも,もう権利濫用なり代理権の濫用なりという形で制限をすればよいのではないかという方向性もあり得るとは考えているところではあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。それを資料に書くかどうかということを含めて,また検討いただきたいと思います。それから,石綿幹事の御指摘の第1点は,先ほど出ていた窪田委員の,認知の場合とのバランスという話とも関わってくることかと思って伺っておりました。   そのほか,承認に関して御意見があれば頂きたいと思いますが,いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。それでは,これにつきましても,本日頂きました御意見を踏まえて,更に事務当局の方で検討を頂きたいと思います。   ここまでで,冒頭で一まとめに御説明を頂きました資料の第2,第3,第4まで終わりましたので,次に2番目の項目として,第三者提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の父子関係に関する民法の特則ということで,まず,部会資料17の第5の部分につき,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○小川関係官 部会資料17の第5について御説明いたします。25ページを御覧ください。   第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の父子関係に関する民法の特則については,部会資料16-3で提案しておりました規律を基本的に維持させていただきながら,前回会議での御指摘を踏まえて,更に検討を加えることとしております。   前回御指摘いただいた外国法制につきましては,28ページ以下に事務当局において簡単にまとめておりますけれども,詳細なものにつきましては参考資料17-2としてお配りしております報告書を,若干大部ですけれども,適宜御参照いただければと思います。本部会資料では,現行の生殖補助医療法第10条の夫の否認権制限の根拠について,便宜上ですけれども,二つの説明の方向性というのが考えられるのではないかということで検討しております。   一つ目が,夫の意思を根拠に生まれた子というのは,夫はその法律上の父としての責任を負わせることが相当であろうという理解になります。これを母や子に当てはめた場合には,母については比較的容易に否認権の制限を正当化することができるとも考えられますが,子についてはやや説明が難しい点もあるとも考えられます。   二つ目が,父母が一定の要件の下で生殖補助医療を実施した以上は,その子の身分関係の安定を図り,子の利益を保護するという観点から,同意した夫を子の父とするということが相当であると,そういう判断がされているという理解でございます。これについては,母についても子についても,その否認権を制限する根拠として妥当し得るのだろうと考えているところです。   このような二つ,根拠があり得るわけですけれども,これらの理解のうちどちらか一方によらなければならないとも考えてはおりませんで,両者があいまってそれぞれの否認権の制限を基礎付けることになるものと考えているところです。前回の御指摘等も踏まえて更に検討した部分でございますので,その辺りも含めて御意見を頂けますと幸いです。   第5の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。第5につきましては,ベースになる考え方は二つあるけれども,規定の案自体は,そのどちらによるというわけではなくて,その双方によって基礎付けられるという考え方に立って,提案をしているという御説明だったかと思います。   この点につきまして,どのような点でも結構ですので,御指摘を頂ければと思います。 ○幡野幹事 ありがとうございます。母の否認権について,部会資料を読ませていただくと,結局,妻の同意も必要という立場に基づいているように理解しました。もっとも,提案の文言としては,妻が夫の同意を得てという形で,妻の同意を明示しない形での提案になっております。この点について,明示した方がいいのではないかという感想を持ちました。   比較法の資料もおまとめいただきまして,どうもありがとうございました。それを拝読したところ,台湾法では父母の同意を夫の同意と区別しており,生殖補助医療の同意については父母の同意というものを要求しつつ,第三者提供精子に関しては夫の同意のみ要求しています。このように父母の同意と夫のみの同意を区別している法制などを参照しても,もし妻の同意も必要であるという立場に立つのであれば,明文をもって父母の同意というものを要求する方が,市民にとっても分かりやすいルールになるのではないかと思いました。   ちなみに,誰の同意をこの否認権を行使できないようにするために要求しているのかという点について調べてみたところ,先ほどの部会資料を見ると,ドイツ,フランス,そしてアメリカのUPAでは父母の同意を要求しております。それに対して,イングランド,オーストリア,スイス,韓国,台湾では夫の同意のみ要求しているということで,比較法的にも立場は分かれているようなので,どちらもその考えとしてはありえます。もし母親の同意というものも必要であるとお考えなのであれば,その点を明示した方がいいように思いますし,また,先ほどの第4のところでは,嫡出の承認制度では,妻が承認をした場合には否認権を失うということであれば,こちらも平仄を合わせて,妻の同意というものを明示するのもいいのではないかと,そのように考えた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。母の否認権の特則を考えるに当たって,妻の同意をその要件に組み込んだ方がいいのではないかという御指摘で,比較法的にも,先ほどの御説明だと,そういう例とそうでない例が半ばするというような御指摘も頂きました。   それについて,事務当局の方から何かありますか。 ○佐藤幹事 御意見ありがとうございます。想定しておりましたのは,妻の方も同意がある場合という,通常の場合といっていいかと思いますけれども,そのような場合を想定しての記載としていたところでございます。父子関係を規律する上で,妻の同意にどういう意味合いがあるのかということも改めて考えた上で,外国法制についての御示唆を含めた御指摘も踏まえて,少し考えてみたいと思います。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○棚村委員 今の幡野幹事の御提案というか御意見との関係なのですけれども,飽くまでも医療行為として行う場合に,これは医療機関なり医師なりが行うので,妻へのインフォームドコンセントというか,両方の同意ということになるのかもしれないなとは思っていました。   ただ,親子関係の規律ということになると,母子関係については,いいか悪いかは別ですけれども,認知については両方要求しているのですけれども,嫡出推定ですと,分娩主義ということを前提に,懐胎ということが入っているので,その懐胎をするということで多分,母親については当然親子関係についての同意というよりは,自然生殖を前提にした事実主義的な規律にしているのが,現行の民法の立場ではないかというふうな理解をしていました。その結果,妻はやはり夫の同意を得て自分が懐胎した子について,夫の父性の否認ができないというような立て付けになっているのかなという理解をしていまして,このときに妻も,例えば認知と何か平仄を合わせるのであれば,確かに妻の同意とか承諾とか,何か必要だと思うのですけれども,恐らくその辺りもどこまで踏み込んで整理をするかということによって規律の仕方が大分違うと思うのです。嫡出推定もそうですが,母の否認権の規定ぶりも,現行民法を前提として,懐胎主義を前提として規律すると,こんなような規律の提案になってくるのかなというふうに単純に理解をしていました。   ですから,幡野委員の御提案も,母子関係,父子関係を含めて,どういうような形で規律,例えば極端なことを言うと,否認権の喪失ではなくて,同意を得て懐胎した子は,その女性が母になるとか,そういう規律も海外では見受けられるところです。ただ,日本の場合には,やはり恐らく母子関係と父子関係の規律を分けて,しかも現行法がどういう規律になっているかという前提で御提案をされたので,もし幡野幹事の御提案で行くと,恐らくそれを全面的に見直して規定するということになるのでしょうか。それを幡野幹事にもお聞きしたかったのと,それから事務当局にも,現行民法を前提とした規律だと,こういうような立て付けで,妻が夫の同意を得て懐胎した子については,嫡出性の否認権をどうするかという特則なので,否認できないという,消極的な規定振りになっているということなのではないかと理解しました。 ○大村部会長 ありがとうございました。この規定,現在の書き方にはそれなりの理由があるのではないかという御意見を頂いたと思います。幡野幹事がおっしゃっているような立法例もあるわけで,そういう考え方も可能ですけれども,そうすると,現在採られている母子関係についての考え方にも影響が及ぶかもしれない,そのことも織り込んで,どうするかということを考える必要があるということなのだろうと思います。比較法について,また改めて精査するといった御発言が事務当局の方からありましたけれども,今の点について各国法制がどういう前提に立っているかということも併せてお調べを頂くというのが必要なのかと思って伺いました。ありがとうございます。 ○窪田委員 新規の意見とかではないのですが,今,棚村委員からあった御発言の趣旨が少し私自身,よく分からなかったものですから,御質問させていただければと思ったのは,第5の話というのは父子関係に関する否認の話ですよね。先ほど,懐胎をしているので否認できないというのは多分母子関係の話なのではないかと思うのですが,幡野さんがおっしゃったのも,基本的には父子関係の否認に関して,要件として単に夫の同意だけではなくて,言わば母の同意というのも生殖補助医療に関して要件となるのではないかという話だったので,母子関係の否認に関して,特に分娩主義を前提としたときにどうなるのかというのは,ここでは直接関係しないし,対象となっていなかったのかなと思います。私の理解自体が正しいかどうか余り自信はないのですが,少し確認していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。直接関係するという御趣旨ではなかったのではないかと思いますけれども,棚村委員,どうぞ。 ○棚村委員 母に否認権を認めた場合,それから未成年の子に否認権を認めた場合に,妻がいわゆるこういうような形で夫の同意を得て行った場合に,それぞれが否認権を失うというか,否認できないという規律でしたよね。要するに,先ほど言っていたのは,妻にも否認権を与えて,未成年の子にも与えて広げたとした場合に,父子関係ですけれども,それを否定できないという規律になっていたので,今までの父子関係の否定ができないという特則という理解はしていたのですけれども,ただ,では母について否認権というときに,母の同意をどういうふうに位置付けるかというときに,入れなくても,ある意味では母の同意が含まれているというふうな形で織り込んでいたのか,それとも明示的に入れた方がいいのかという議論だと理解したのです。   ですから,私自身は父子関係の否定を母に否認権,それから未成年の子にも与えた場合に,あえて母の同意を入れるという御提案と,入れなくても分かるという意味で,少し説明をさせていただいたのですけれども,母子関係の規律を言っていたわけではなくて,母子関係についてももちろん,どういう規律するかというのはあるのですけれども,父子関係の中で,母子関係の場合は婚姻していることや懐胎や分娩という事実を重視して割合とそういう前提の中で議論をしてきたので,あえてここで同意ということを入れなかったのかなという理解を示しただけなのです。少し説明の仕方が悪かったので誤解を与えたと思うのですけれども,飽くまでも父子関係の否認権を妻が失う場合,未成年の子が失う場合に,妻自身の同意,それから,未成年の子の同意というのはなかなか難しいのだと思うのですけれども,現行の民法に倣ってそれを規律していないという提案に余り不自然なものを感じなかったという意見を述べたつもりでした。すみません,分かりにくかったでしょうか。 ○大村部会長 私の引き取り方が悪かったのかもしれません。窪田委員,もし続けて御発言があれば。 ○窪田委員 いえ,ございません。今ので趣旨は分かりましたので,以上で結構です。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○小川関係官 今の点に関連して,母の同意も入れるべきではないかという御指摘を頂いたところかと思うのですけれども,それは,現行法の第10条にある夫の否認に関しても妻の同意を入れるべきだという御指摘まで含むものなのでしょうか,というところだけ,少し教えていただければと思います。 ○大村部会長 それは,幡野幹事に対してということですね。 ○小川関係官 はい。 ○幡野幹事 ありがとうございます。難しい問題でありまして,どちらもあり得るかと思いますが,当初念頭に置いていたのは,妻が同意した場合には妻の否認権が否定される,夫が同意した場合には夫の否認権が否定されるという趣旨で理解しておりました。外国法がそのような立場を前提にしているかどうかというのは,よく分からない部分がありますので,私の方でも精査しながら,改めて検討してみたいと思います。現時点での私の答えとしては以上です。 ○水野委員 何か勘違いをしているだけなのかもしれませんので,その場合はお許しください。第三者の提供精子を用いた生殖補助医療について,父親となる予定の男性が同意していた場合に,その否認権を奪うということなのですが,同様のことは認知無効についてもいえるのではないでしょうか。つまり,現在は産科婦人科学会の会告で,法律婚夫婦の間で行うことになっていますけれども,医師によっては,それは事実婚のカップルでも構わないということで生殖補助医療をしてしまうことはあるだろうと思います。その場合に,父親になる者が認知をするからということで同意をして生殖補助医療を受けたときに,彼の認知無効の主張権限を奪っておく必要はないのでしょうか。その点について嫡出否認だけで規律することになるのは,足りないように思ったのですが。 ○大村部会長 どういう前提で考えるのかということに関わっているところがあると思いますけれども,事務当局の方で今の点について何かあれば,お願いをいたします。 ○佐藤幹事 御指摘ありがとうございます。おっしゃるとおり,仮に事実婚の夫婦に第三者の提供精子を用いた生殖補助医療が認められるというような,行為規制としてそういったものを積極的に許容する立法がされた場合には,認知ということに関して,自らの精子を提供したものでない事実婚における夫の認知というものが果たしてそもそも認められるのかどうか,認められるとしてその認知無効の主張についてどういうふうに考えるのかといった問題が出てくるということになってくるのだろうと思います。   ただ,現状,御指摘がございましたように,行為規制の世界の議論は,まだそこまでは全く至っていない,つまり法律婚の夫婦以外に第三者提供精子を用いた生殖補助医療ということの適応ということを具体的に導入しようということまでは,現状の議論としては進んでいないと承知しているところでございます。私どもが今ここで検討しておりますところは,先般成立しました生殖補助医療法の10条との関係で,否認権者の拡大について,どういうふうに整合性を持たせるかという観点から議論しているということでして,将来的に,生殖補助医療の在り方自体,どこまでどういう範囲で認められるのかという議論が進んできたときには,それに応じた形で,そもそも認知というのはどういうものなのかということから,大きな議論になり得るのかもしれませんし,検討が必要になってくるかとは思うのですが,今この部会における議論としては,そこまでは射程には入らないであろうと理解しているところです。 ○水野委員 ただ,まだ規制法が出来上がっていないという現実がございます。そして,今度の単行法も,本当はまず規制法を議論しなくてはいけないと思うのですけれども,親子関係について先に決めてしまいました。夫婦でなければ生殖補助医療を受けられないという規制法が現在あるのであれば,こういうことになると思うのですけれども,それすらない状況で,親子法の受皿がなくていいのかと気になりました。今御説明いただいたように,それは産科婦人科学会による事実上の自粛ルールにすぎず,事実婚カップルでも違法な生殖補助医療とはいえないというのが私の理解だったのですが,それでよろしいでしょうか。 ○佐藤幹事 その点はそのとおりでございます。ただ,生殖補助医療法についても,国としてどういう生殖補助医療を認めるのかということに関しての議論が前提となって法律が制定されたということかと思います。もちろん日本産科婦人科学会の検討状況等を注視しながら,民法における検討の必要性とか,その方向性ということも今後,検討していく必要はあるのかなとは思っているところでございます。 ○水野委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。今のやり取りの中にも出てまいりましたし,以前にもこの部会で話題になったことがあるかと思いますが,生殖補助医療に基づく親子関係について,どの段階でどういうルールを設けるのかという問題があるのだろうと思います。今回は差し当たり,特例法が定めているルールについて,嫡出否認の訴えの在り方を変えることに伴って生ずる問題,これについては,最低限,対応しなければいけないということで,この第5が提案されているのだろうと思います。しかし,この先,生殖補助医療の在り方について特例法よりも進んだ議論が出てくるという場合には,また別途対応しなければいけない問題が出てくるだろう,このことは従前からも御指摘があったところかと思います。それはそういうことになるのだろうと思いますけれども,この資料としてはそうした問題があり得るということは,どこかに付記しておいた方がいいのかという気もいたしました。ここでやるかどうかということとは別に,問題の所在自体は確認しておいてもいいだろうと思って伺いました。ありがとうございます。   そのほか,いかがでしょうか。 ○髙橋委員 今日の資料の34ページの9行目のところから,三つの少し特殊な事例が書いてあって,こういう事例の場合はどう考えるのだろうかということで,そこから説明があります。   ①番は,夫と共にAIHなど,夫の精子を用いて生殖補助医療で子どもを作るつもりであったのだけれども,医療機関の不手際で第三者提供精子で子を懐胎してしまったという場合,これは夫がそもそも同意していないので,夫の否認権がどうもあるのではないかと,妻も同意していないので,否認を認めていいのではないかと。   ②は,夫の精子を用いて懐胎するつもりであったが,第三者提供精子を用いた生殖補助医療が行われてしまったと夫の方は認識していたと,かなり難しい事案であるとは思うのですけれども,この場合も妻が否認できるだろうと。   ③は,妻が夫に無断で第三者提供精子を用いた生殖補助医療で行ったということで,これは整理としては結論として,どれも妻は否認できるという結論になっていて,恐らくその前提として,夫はどれも同意していないので,夫も否認できるということなのだと思うのですけれども,少しここからは感想のようなことになるのですが,①の場合って医療機関のミスだったわけですね,この医療機関のミスで,夫婦の精子を用いようと思ったら第三者の精子が使われてしまって子どもが生まれたという場合,夫は同意していないよということで夫は嫡出否認できると,この子は夫の子ではないと,妻だけの子だと,非嫡出子であると,あなたは一人で育てなさいと,医療機関のミスを妻一人に,押し付けるというと言い方はあれですけれども,何か少しそうなってしまうことに抵抗があって,妻もまた夫の子であることを否認できると,こうなると,もう何かよく分からない世界になってしまうような感じがするのですけれども,何かこう,夫婦で医療機関を利用して,医療機関のミスがあったときの親子関係がこんなぎすぎすした形で整理されていいのかなと,理論的にはよく分からないのですけれども,少し感覚的にはやはりこれ,夫婦で育てていかなければいけないのではないかというような感想を私は持つのです。   ②も,これは医療機関の不手際だと思うのですけれども,これもやはりどちらも否認できるというようなことになると,少しどうかなという感じがします。   ③なのですけれども,これは妻が無断で第三者提供精子を用いたということで,これで否認権を認めてしまうと,女性が単独で精子をもらって夫と子どもの親子関係を切ると,これを認めるということになってくるのですね。これって独身女性が第三者提供精子をもらって妊娠するというのと少し似てきてしまうので,今の日本でそこまで合意が進んでいるのかなという感じがするのです。恐らく③は,第三者提供精子を用いるに当たっては,今の水準では,先ほど御説明があったとおり,法律上の夫婦間だけでこういうことをやっていると思うので,これは医療機関をだましているのだと思うのですよ。こういう場合に,第三者提供精子をもらった後で自分一人の子にすると,自分の一人の子として育てるのだと,少しこれはルール違反のような気もするので,これも否認を認めていいのかなとか,少し別の角度からの感覚的なものなのですけれども,結構それぞれ難しい問題があるように思います。   ここにない例で,海外の例で,第三者提供精子を用いた医療を行おうとしたら,実は医者が自分の精子を使っていたという例がありまして,法制度上の生殖補助医療をやろうと思っていたのに,それに違反した生殖補助医療が行われたと,こういう場合はどうなるのだとか,考えるといろいろ難しい問題があるように思います。まずここまで,この件についての感想です。 ○大村部会長 ありがとうございます。非常に難しい御指摘を頂いたように思います。挙げていただいた①,②,③について,ここに書かれているのは一つのあり得る考え方なのだろうとは思います。髙橋委員も多分,こういう考え方はあり得るということを前提に御質問ないし御意見をおっしゃったのだろうと思いますけれども,しかし,これを生殖補助医療という大きな仕組みの中で考えたときに,こういう結論の出し方でよいのかということを更に考えてみる必要があるのではないかという御指摘を頂いたと思います。   医療機関のミスのケースというのは,海外では幾つかというか,幾つもかと言うべきかもしれませんけれども,あるように思います。取り違いみたいなものを含めて,どうするのか。親の意思から考えた場合にどうなのかという問題と,生まれてくる子どもの観点から見たときにどうなのかという問題,様々な考慮が必要なところなのかと思って伺っておりました。   事務当局の方で,今の点について何かありますか。いいですか。御指摘のような問題も視野に入れて,この先,更に検討することが必要かと思います。   ほかに何か御指摘,御意見がございますでしょうか。 ○髙橋委員 すみません,続いてで。25ページの(注2)なのですけれども,成年に達した子の否認権を認めることとした場合について,子は夫との間に生物学上の父子関係がないことを理由として嫡出否認することはできないとするが,その余の規律については成年に達した子の否認権の具体的規律を踏まえ,引き続き検討するというのは,これは成年に達した子が否認権を認めることとした場合に,自分がAIDで生まれたことを理由にしては否認できないが,一般的に成年に達した子が,例えば養育されなかったとかいろいろな,この要件をどうするかは,まだ少しありますけれども,その要件によっては,また別の理由で否認を認める余地については別途検討すると,そういうふうに読んでよろしいのでしょうか。 ○小川関係官 (注2)については,仮に成年に達した子の否認権を認めるとした場合の規律として記載をしております。その場合でも当然,夫の同意がなかったとき等については,もし仮に否認権を認めるのであれば,同意がなかったということを理由に否認することができることに基本的にはなるのだと思いますが,別途,成年に達した子の他の要件,今検討,議論いただいている部分の要件を満さなければ否認できないとするか,あるいは,そこの部分を何か少し変えるのかどうかというところは今後,議論はあり得るのだろうというところで書かせていただいているところになります。 ○髙橋委員 分かりました。そうしたら,その上で少し私の意見でよろしいでしょうか。ここは,ポイントとしては,自分が生殖補助医療で生まれたということそのものを理由にする否認は認めないという,まずそこがあるのだと思うのですけれども,それって多分に子どものアイデンティティーに係る問題で,考え方としては2通りあって,レジュメにありますように,子どもの福祉の観点から,そういうことは認めない方が子育てが順調に行くだろうとか,いろいろレジュメには書いてありますけれども,ただ,親が自分たちの意思で決めたことで,子どもはそこには参加はしていない,意思としては参加していないので,なお,やや子ども自身のアイデンティティーという観点から,子ども自身の自主性といいますか,その辺りについてはやや,こういう割り切りには私は少し疑問を持っています。   何でそんな疑問を持つのかともう少し考えたのですけれども,こちらのレジュメでは,生殖補助医療制度を信頼して安定的に使ってもらうという観点で書かれていると思うのです。ところが,海外の資料を今回拝見しますと,ドイツでもフランスでもイングランドでも,必ず情報の管理機関に生殖補助医療に関する情報を届け出るような仕組みがあるのです。公的にきちんと管理して親子関係が作られているという状況が海外にはあるように思います。ところが,日本は今そういう公的な部分というのがなくて,医者の持っているカルテぐらいしかないと,カルテの保存期間は5年で,医療機関が廃院になってしまったらどうなるか分からないと,戸籍にも載らないと,公的な管理が何もない状態で,もう親子関係を確定するのだというような,そこにやや私は違和感を持っています。今,この6月に日本産科婦人科学会が提案書を出して,公的な情報管理機関を作るべきだというような意見を出しています。国会で今,議論していることもあると思うのですけれども,こういう公的な管理機関をやはり作った上ででないと,何か確定的な親子関係がこれでできるのだということには,私はやや違和感を持ってしまって,それで,子どもの否認権のところを認めないというのを先に決めてしまうと,少し私はちゅうちょするものがあるのですけれども,その辺は私はどう考えたらよいのでしょうか。 ○佐藤幹事 ありがとうございます。御指摘の中にもございましたように,生殖補助医療の在り方自体,どこまで認めるのか,そして,その実際の運用の在り方としてどういう機関がどう関わっていくのかというようなこと自体,正に今,議論されている途中といいますか,今後大きく動いていくところなのかなという認識もございます。そして,繰り返しで恐縮ですが,今回この部会で御提案させていただいているところは,法制も含めて現状まで動いてきているところを前提としたときに,それに対応する形で,今我々が検討している規律との整合性をどのようにとっていくか,そういった観点から検討しているところでございます。そして,具体的な結論として妥当性を欠くのではないかという趣旨の御指摘も頂いたものと承知しております。そこについてはなお,そもそもこの否認権の制限の根拠というようなところに立ち返って,改めて検討させていただきたいと思います。生殖補助医療の大きな流れの中で,今御議論いただいていることをどのように位置付けるかということ,もう一度事務当局としても検討しまして,反映できるところは資料の方にも反映させていただきたいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。   そのほかに,この第5につきまして御意見があれば,お願いをいたします。 ○磯谷委員 少し先ほど髙橋委員もおっしゃったところの確認なのですけれども,要するに,成年に達した子がこの生殖補助医療で生まれた場合に否認ができるかどうかのところ,端的に言えば,25ページの(注2)の意味なのですけれども,結論的には,生物学上の父子関係がないことだけを理由にしては否認できないけれども,プラスほかの要素を加えれば否認する余地というのを認めているという書き方なのか,つまり,前に成年に達した子の否認権の議論のところでも,要するに,それまでずっと実質的な父子関係があるケースとか,もう全く形骸化しているケースとか,幾つか想定して議論をしました。そういったところを踏まえて,生物学的な父子関係がないことプラスアルファがあった場合には否認権の余地を認めるという書き方なのか,そうでないのか,その辺りが少し,特に35ページの(4)ですかね,ここの記述を見ると,基本的にはもう否認権を認めないとも読めたので,その点を少し確認させていただきたいと思いました。 ○小川関係官 どちらかといいますと後者になるのかなと。要は,まずAIDで生まれたということが明らかになっていることが前提となり,その前提で,一つの考え方としては,夫の同意がないということが,自然懐胎における生物学上の父子関係がないことに代わる要件とすることが考えられます。その上で,成年に達した子の否認権の中で議論されているような,例えば継続的に養育していないというふうな要件も満たさなければ否認ができないと,そういった方向性が一つ考えられるのではないかということは考えております。ただ,それが厳格にすぎるということで,何か違う,恐らく自然懐胎の場合と比べますと若干要件が変わるのかもしれないですけれども,そこを緩和するという御議論は,特段排除しているものではないと思っております。 ○大村部会長 よろしいですか。   今,(注2)について,御質問ないし御意見を頂いておりますけれども,本文の①,②については,特に大きな御異論はないということでしょうか。何かこの第5につきまして,更に御発言があれば頂きたいと思いますが。 ○髙橋委員 26ページから27ページにかけて,ドイツ法では生殖医療で生まれた子に否認権があるような書き方になっていて,27ページの一番上が,実際に問題になるのは子が成年に達してからであるといわれていると,括弧になって書いてあるのですけれども,何か具体例がおありでしたら御紹介いただけたらなと。どういう理由で子どもが否認権を行使したのか分かったらなと思ったのですけれども。 ○小川関係官 報告書の部分に限られてくるところなので,具体例は少しすみません,承知していないところです。 ○髙橋委員 そうですか。 ○大村部会長 よろしいですか。   そのほかには,いかがでしょうか。   ありがとうございます。それでは,これにつきましても幾つかの御指摘を頂いているところですので,それを踏まえまして,更に事務当局の方で検討をしていただくということにさせていただこうと思います。   それで,次が第6ということになります。36ページ以下でございます。事実に反する認知に関する見直しということになりますが,この17の第6につきまして,まず事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○小川関係官 御説明します。37ページを御覧ください。   第6は,事実に反する認知に関する見直しについてです。前回まで提案させていただいたところからは若干,大きな修正をさせていただいているところです。その理由といたしまして,従前は国籍の不正取得などの目的があるときは認知を無効とするの規律を民法に設けるという提案をしておりましたが,パブリック・コメントや会議での御指摘等を踏まえますと,民法の中で,認知の効力にこのような差異を設けるということによって,不正の目的で認知されたという主観的要件を入れることによって,子の身分関係が安定しない結果となるため,難しいのではないかと考えた次第です。また,国籍事務の実務の取扱いについては,後ほど土手幹事の方から御説明いただきますけれども,例えば事実に反する認知について,民法上は有効としつつ,国籍法との関係でのみ無効とするというふうな形ですと,国籍の不正取得を十分に防止することができないおそれがあるのではないかというふうなところがございますので,今回の提案としては,事実に反する認知を一律に無効とするとして,その意味で現行法の規律を維持する形にしております。   その上でなのですけれども,認知により形成された身分関係というのをできる限り安定させるというふうな観点から,子が成年に達した後は,認知が事実に反する場合であっても,基本的には認知無効の主張をすることができないというふうな形にすることを提案しております。特に利害関係人等からの認知無効の訴えが提起するというのは,認知者が死亡した場合など相続が絡む場面であるところ,そのようなケースはその子自身が成年に達しているようなケースも多く,そのような場面で妥当な解決が図られるのではないかと考えております。   そういった形で期間制限のところを今回,提案させていただいているというところです。主張権者に関しては,本部会資料では現行法のとおり,子その他の利害関係人というふうな形で記載しておりますけれども,(注2)に記載しておりますとおり,主張権者を一定の範囲に限定するということであったり,認知者自身が認知が事実に反することを知りながら認知をした場合には無効主張できないというふうな形での規律を置くということも考えられるかと思いますので,その辺りについて御意見を頂ければと思っております。   このほか,従前の提案を活用する方向性というのが何か考えられないかについてもお考えを頂戴したいところですけれども,本部会資料といたしましては,子の身分関係の安定という観点から,実現可能な制度として今回の御提案をしております。御意見いただきますよう,よろしくお願いいたします。   第6の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。前回の案とは大分違っておりますけれども,前回までの議論を踏まえてこのような御提案がなされているという御説明を頂きました。   今の御説明の中にもありましたけれども,引き続きまして土手幹事の方から,参考資料17-3及び17-4に基づきまして,国籍法3条に基づく国籍取得の手続について御説明,御紹介を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○土手幹事 本日は御説明の機会を頂きましてありがとうございます。資料の御説明の前に,この制度が設けられた経緯につきまして,ペーパーがなくて恐縮なのですけれども,若干御説明させていただきたいと思います。   日本国籍の取得につきまして,昭和59年にそれまでの父親の血統,父系血統主義と呼んでおりますけれども,父親の血統の父系血統主義といわれる制度,例えば,日本人の母の嫡出子であっても父が外国人の場合には日本国籍を取得できないということになるのですけれども,この制度から,昭和59年に,父母両系血統主義,日本人の母の嫡出子は父が外国人の場合にも日本国籍を取得できるという,父母両系血統主義という制度に改正されました。   この父母両系血統主義の導入によりまして,出生時に日本国民である父又は母の嫡出子は出生により日本国籍を取得できることになりましたが,これとの比較で,生後認知された日本国民を父として,母が外国人の子ですけれども,この場合に,その後,父母が婚姻した場合,これは要件ですけれども,その後,父母が婚姻すれば日本国籍を取得することができるというふうにすべきだということで,国籍取得届というものが必要になりますけれども,日本国籍を取得できるとされました。   その後,平成15年に,母が外国人で,その後に父母が婚姻していない子でございますけれども,これは昭和59年,先ほどの国籍法の改正でも国籍を取得することができないものでございますけれども,この国籍取得届が不受理となったということに対しまして訴訟が提起されまして,平成20年6月4日,最高裁大法廷において違憲であるとの判決が言い渡されました。その理由としましては,認知されたに留まる子と,その後,父母が婚姻した子との間に,日本国籍の取得に関する区別があるのは,合理的理由のない差別であるということで,憲法14条1項に違反するというものでございます。   この平成20年6月4日の違憲判決を受けまして,憲法に適合する形で国籍法を改正するということとしたのですが,あわせて,ここが今回のポイントなのですけれども,父の認知届だけで日本国籍を取得することができるということになるのですけれども,そうすると,血縁上の父子関係がないのに虚偽の認知届によって日本国籍が取得されてしまうおそれがあるということから,国籍法にこの国籍取得届の虚偽届出罪というものが新たに設けられるとともに,国籍法施行規則や通達にこの虚偽のものを防ぐための具体的な手続が規定されました。   なお,この最高裁判決の補足意見等においても,国籍取得に関して日本での居住を要件とするとか,様々なことの是非についても意見がございまして,国会においても議論されましたけれども,結局はそのほか合理的な要件を設けることは難しくて,仮にそのような要件を設けたとすると結局合理的な要件ではないということで,再び違憲となるおそれがあるということで,特段の要件は設けられておりません。   前置きが少し長くなりましたけれども,これから資料17-3の御説明をさせていただきます。   参考資料17-3の1ですけれども,こちらは平成20年,先ほど申しました国籍法の一部改正法案に関する衆参の法務委員会の附帯決議の一部でございます。上の方が衆議院,下の方が参議院でございますけれども,この下線部のところにございますけれども,衆議院の方では,調査の方法を通達で定めること,あと衆議院と参議院の方,両方書いておりますけれども,出入国記録による調査をすべきというようなこと,それから,参議院の方では父親への聴き取り調査,父親と認知された子が一緒に写った写真の提出などが言及されております。   これらは,次の2ページ目に通達の抜粋を掲載しておりますけれども,出入国記録につきましては第1の3(3)に書いております。それから,父親への聴き取り調査は3(2)のところに書いてございます。それから,父親と認知された子が一緒に写った写真の提出というものは,上の1(3)のエに記載されております。   再び1ページに戻っていただきまして,2に国籍法施行規則の添付書面の規定を抜粋で記載しております。一号から五号までございまして,五号は先ほどの2ページにあります通達第1の1(3)に記載されているものでございます。   それから,御参考に3枚目に別紙としまして,平成20年のこの国籍法の改正による国籍取得届の受付,受理,不受理者の数を掲載しております。この不受理者数は,例えば,現行の規定では20歳を超えてはできないという届出になっておりますので,これを超えて出されるものとか,全ての不受理の件数がございますので,必ずしも虚偽の認知届に基づくものというわけではないのですけれども,不受理とされた件数としてのものがこれだけの件数あるということでございます。   続きまして,具体的な例として参考資料17-4を御覧いただけますでしょうか。日本国民である父による外国人に対する虚偽の認知届がされた場合の取扱いについて,国籍取得届が受理されなかったケースと,それから受理されたケース,この2パターンに分けて,その流れを記載してございます。   1番は,国籍取得届が審査の結果,受理されなかったケースの流れでございます。①につきましては,認知する者,具体的には父になりますけれども,父の認知届によりまして,日本人である父の戸籍の身分事項欄に認知事項が記載されます。子どもの戸籍はありませんので,父の戸籍の身分事項欄に認知事項が記載されるのみでございます。   続いて,②につきましては,子,又は子どもさんが15歳未満の場合は法定代理人ということで,養子縁組されている場合は養親,それからお母さん,基本的には多分母親になると思いますけれども,それから,場合によっては未成年後見人などによって国籍法に基づく国籍取得届が法務局に提出されます。ただ,この事例の場合は審査の結果,不受理となったというケースでございます。   不受理となったケースにつきまして,③でございますけれども,法務局から認知当時の本籍地の市区町村,先ほど戸籍の記載をしたところでございますけれども,こちらに戸籍法24条4項の規定によりまして,この認知事項の記載が法律上許されないものであるということを通知するということになってございます。なお,法務局はこの通知をする前に法務省民事局に報告しまして,必要に応じて民事局の指示によって捜査関係機関に通報することとなってございます。   続きまして,④につきましては,この通知を受けた市区町村は遅滞なく,認知者である父親に対して,認知事項の記載が法律上許されないものであるということを通知することとされてございます。   次に,⑤につきましては,④の通知を受けた認知者は原則として,戸籍法の113条等に記載されておりますけれども,家庭裁判所の許可や確定判決,これらによって戸籍訂正を申請するということになります。この申請がされた場合には,父の戸籍の身分事項欄に記載されている認知事項が消除されます。もっとも,括弧書きに書いてございますように,この通知をすることができない場合,行方不明の場合などですけれども,あるいは通知しても戸籍訂正をする者がいない,基本的には自らする場面というのは余り想定されないということになりますので,こういった場合には職権によりまして戸籍訂正をして,当該認知事項は消除されるということになります。   下の○のところに関連する罰則を書いておりますけれども,認知届による戸籍への記載につきましては,刑法157条1項の電磁的公正証書原本不実記録罪があります。それから,国籍法に基づく国籍取得届,これは先ほどの立法で新しくできたものでございますけれども,国籍法20条による虚偽届出罪がございます。   それから,2番目のケースでございますけれども,これは国籍取得届が受理されたケースという場合もありますので,その場合の流れを記載したものでございます。①番につきましては1と同じでございます。   ②番は,国籍法に基づく国籍取得届が法務局に提出されまして,審査の結果受理されたケース,先ほどと違って受理されたケースの流れでございます。その場合には,③にありますように,戸籍法に基づく,今度は戸籍法なのですけれども,国籍取得届というものが市区町村に提出されます。それで,被認知者である子どもの戸籍が記載されるということになります。届出人は子ども自身,又は15歳未満の場合は先ほどの法定代理人になります。名前は同じ国籍取得届でございますけれども,法務局に提出される国籍法に基づく国籍取得届とは異なり,市区町村に出される国籍取得届というものでございます。少し紛らわしいですけれども,そういうものでございます。   次の④でございますけれども,市区町村長は戸籍法24条4項等に基づきまして,虚偽の認知である旨の通知を受ける場合がございます。これは刑事訴訟法等に基づいて通知を受けるケースでございますけれども,この規定で24条2項に規定しておりますけれども,管轄法務局長等の許可を得て,父の戸籍に記載されている認知事項,それから被認知者である子どもの戸籍の記載事項を消除するということになります。   なお,関連する罰則は,認知届と,それから戸籍法に基づく国籍取得届による戸籍の記載について,二つありますけれども,同じく刑法157条1項の電磁的公正証書原本不実記録罪,それから,国籍法に基づく国籍取得届につきましては,国籍法20条の虚偽届出罪というものがございます。   私からの説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。国籍法の改正の経緯と,それから3条1項に基づく国籍取得届の実務について御説明を頂きました。   御質問や御意見を頂きたいと思うのですが,この議論に入る前に休憩を入れるべきだったのですが,機を失しました。ここで10分休んで,再開後に御意見を頂きたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,時間になりましたので,再開させていただきます。   資料17の第6について,事務当局の御説明を頂いたというところで中断をいたしました。質問あるいは御意見を頂ければと思います。 ○窪田委員 それでは,今回お示しいただいた案についての意見と,もう一つは,全体の質問ということになりますが,分けて発言させていただきたいと思います。   まず,意見ということなのですが,今回御説明があったように,この趣旨というのは,現行法では無制限で無効だとされているのに対して,一定の期間内に制限するということで子の地位の安定を図るのだという御説明だったかと思います。一瞬納得してしまいそうな気もするのですが,そうはいっても,本当にそういう説明でいいのかという点に関しては,やはり気になる部分というのはあります。   一つは,先ほどからも出ている点ですが,嫡出否認の方の問題に関しては,否認権に関して言うと,承認したら事実関係を知っていても,もう駄目だよねとか,そういうふうに言っていたものと並べて見た場合に,やはりかなり違いがあるということが明確になるのではないかというのが一つ。   それともう一つは,子の身分の安定というのは実は未成年のときが本当は大事なのではないかという気がします。成年に達したら,相続の話とかそういうのは出てくるかもしれませんが,むしろ未成年の間こそ子の身分の安定というのが実質的にも求められるのだとすると,何か成年に達してからはもう反論できませんよというので子の身分を安定させることに資するものなのだというのは,現行法の制限のない無効に比べれば,そうと言えるかもしれませんが,やはり少し検討すべき点が多いのではないかと思いました。以上は意見です。   次が質問ということになるのですが,質問というのが,私の物わかりが大変に悪いということを端的に示すものなのだろうと思いますが,先ほど参考資料ということで17-3とか17-4の御説明を頂きました。この説明を伺うと,別に今回のような形で前回から案を変えなくても,国籍法との関係に関して言うと,対応できるのではないかというふうな気もいたします。   どういうことかというと,17-4で国籍取得届が受理されないケースについて書かれているのは,これは恐らくは,ブラックリストから逃れるために養子縁組を重ねるというようなケースにおいて,養子縁組に関しての届出を不受理にするとか,そうしたケースでも扱われている方法かと思います。そうした場合に,別に養子縁組に関する民法の規定というのを変える必要はなくて,こういうことがなされているのだとすれば,なるほどと思って伺っていたのですが,こういうふうな形でやれば足りるのであって,なぜ今回のような形での前回からの見直しをすることが必要になったのかというのが私自身,まだ必ずしも十分に理解できなかったものですから,その点について御説明を頂けたらと思います。   本当は先ほどの意見と質問というのは順番が逆で,質問の方を先にしてから意見を言うべきだったのかもしれませんが,そういうことで御容赦ください。 ○大村部会長 ありがとうございます。まず御意見としては,嫡出推定との対比で,これでよいのかということを考える必要があるというのが1点と,この規律では成年に達した後については保護されるけれども,未成年者こそ保護する必要があるのではないかという御指摘を頂きました。   それから,御質問は,先ほどの参考資料に基づく御説明を聞くと,前回の案でも現在の実務と両立するのではないか,もし両立しないということであるならば,そこの理由を説明してほしいという御趣旨だったかと思います。御質問の方についてお答えを頂いた上で,御意見については窪田委員の御意見を踏まえて,更に皆さんの御意見を伺うということにさせていただきたいと思います。 ○小川関係官 まず,前回の提案というのを確認させていただきますと,概要,事実に反する認知自体はそれ自体,有効なものとして,ただし一定の取消権者が取り消し得るという規律に見直した上で,国籍の不正取得目的等がある場合には当該認知というのは無効とするという規律を御提案していたところです。このような規律を前提とすると,虚偽の国籍取得に対する罰則との関係を申し上げても,この場合の認知が無効であるという部分が変わりませんので,特段影響が生ずるという問題は生じないのだろうと考えております。   ただ,改めて,この案を採ることが困難だと考えた理由といたしましては,国籍の不正取得の目的という主観的な要件の有無によって,子の認知あるいは戸籍に関する地位というものを変わってくるという点で,子の身分関係を不安定にする,あるいは手続次第でその地位が失われることになるという点で問題が大きいのではないかという御指摘を前回の会議の席上でも頂きましたし,パブリック・コメントの中でもそういった趣旨の御指摘があったところでして,民法の中に不正取得目的は無効だというふうな規律を置くこと自体に対する御意見もあるようでしたので,前回の提案を今回一旦下げさせていただいたというふうな形になろうかと思います。   その上で,あり得る方向性としては,事実に反する認知も,民法上は有効だとした上で,ただし国籍法の関係でいいますと,生物学上の父子関係がない親子認知というのは国籍法の関係では無効ですというふうな形にするということも立法としては理論的にはあり得るのかなとは思うのですけれども,そうした場合には,元々した認知というものが実体法上有効という形,民法上有効という形になりますので,それの届出というのが電磁的公正証書原本不実記録罪に該当するのかどうかという部分に影響を与え,これまでの該当するという解釈を維持できなくなるおそれがあるのではないかと考えられましたので,そういった意味で犯罪の抑止効果というのが低下するのではないかという懸念がございましたので,やはり難しいであろうと考えた次第です。 ○大村部会長 窪田委員,どうぞ,更にあれば。 ○窪田委員 すみません,もう少しだけ発言をさせてください。なるほど,主観的な目的によってということになると子の身分が安定しないということではありましたけれども,考えてみると,それによって今回,新しい提案というのは,20歳まではまるっきり安定しないということになりますので,モーションとしては逆モーションなのではないかなという気が一つしました。   ただ,そういう意見があったということではあるのですが,それともう一つ,だったらもうそういう例外もなくして,民法では有効とするというふうなことにした場合,それも考えられるけれども,一方でこれが国籍法上無効となった場合に,国籍法上は無効だけれども民法上は有効だという関係になるのかという話だったのですが,私は先ほど少し養子縁組の話を挙げましたのは,虚偽の養子縁組とされているケースに関して,別に民法は虚偽の養子縁組だとか,そんなことは何も規定していないのですが,場合によっては受理を拒んだり,あるいは戸籍訂正の手続をしてということで,そうなると結局,民法上の養子縁組も無効になるという扱いになっていると思うのですが,場合によっては,民法上は有効だけれども国籍法上は無効だという,そんな難しいことを考えずに,国籍法の方で一定の手続がなされた場合には認知が無効になるという仕組みでもいいのかなという気がいたしました。その点で少し,今回の提案に至るという部分が,まだ自分自身の中では十分にはまだ了解できていないところではあります。ただ,今の御説明はそれ自体としては理解いたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水野委員 平成20年の国籍法違憲決定がこの問題の発端になっています。国籍は非常に難しい問題で,つまり,国境線というのは連帯と排斥の両義性を持つ存在なので,その扱いは微妙で困難なものです。それを,ああいう平等論で切っていいのかとは,私もその当時から不安でした。できれば,もっとほかの,日本との牽連性で,立法上の手当てをするほうがいいのではないかと思っておりました。先ほど,それではかえってまた不平等になってしまうという御説明だったのですが,そもそも今度の民法改正の目的の一つは,民法の中に大きな不平等があることです。つまり,非嫡出子の認知をいつでも誰でも無効にできる日本民法は,嫡出子と非嫡出子が不平等な時代の母法をもらってしまったからで,それが今まで維持されています。相続分差別だけではなくて,これも争われると違憲になり得るような,大きな差別であろうと思います。そして,母法はもちろん今では嫡出子も非嫡出子もほとんど同じような形で子の身分を守り,争える提訴要件を余り変わりなくしております。つまり,民法が違憲判断を受けるような差別,国籍法の手当てよりもはるかに大きな差別を残してしまうことになるかと思います。   嫡出推定に,たとえ夫の実子でなくても夫を父親として与えようという判断があるように,認知にも,いわゆる好意認知といわれる認知を保護しようという判断があるのが,民法の国際的な水準です。父親のいない子を持ったシングルマザーに恋をした男がその子を認知して,二人で育てようという好意認知は,もちろん悪いことではないし,民法上もそれを守ろうという考え方です。認知された子にも,嫡出推定される子と同じように,一定の割合で夫の子ではない子がいるのだけれども,夫婦がその子を自分たちの子として育てようというときには,その身分を同じように守ろうということです。   そして,そういう好意認知と違う概念として,脱法的な認知という概念があり,この脱法的な認知については好意認知と違うアプローチがあっていいだろうと思います。婚姻無効のうちには,婚約者同士が社宅入居資格を得るために婚姻届を出したのに破談になったというような当事者の民事レベルで確認される婚姻無効もありますが,そのようなレベルにはとどまらない脱法的婚姻無効,たとえば来日して労働するためにブローカーが関与して行う偽装婚姻があり,このような偽装婚姻は取り締まられて刑事罰を受けて職権で婚姻が削除されるというタイプの婚姻無効です。このように,認知においても,脱法的認知については,通常の認知と異なる,それにふさわしい対応が可能でしょう。国籍法の方だけでできるのか,あるいは民法の中にも何か書き込むのか。フランス民法は2018年に脱法的認知の規定を民法の中にも入れました。日本民法の中にも脱法的認知の規定が必要なのか分かりませんけれども,でも,通常の認知とは異なる扱いにすべきでしょう。国籍法の抱えておられる問題はもちろん十分に理解しているつもりですが,それで,民法の通常の認知がかかえている,この不平等を温存するのは,おかしいと思います。このままでは,それこそ民法も違憲という判断を受けかねません。これまで議論してきた前提が大きく崩れてしまう改変のように思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど窪田委員からも,この案は一定の時期に達した後については認知の効果を覆さないという意味で子の保護を図っている,その点については同意できるといった御発言がありました。水野委員も基本的には同じ立場で,今,御発言をされたものと思いますが,ここで引かれている案よりも,前回の案で示されていたような案をなお検討すべきではないかという御趣旨の御意見として承りました。   前回は,国籍の法制ないし実務がどうなっているのかということが,この部会の委員,幹事にはなかなか分からないということで,それを動かすような議論はここでは難しいのではないかということも話題になりました。今日,参考資料17-3,17-4をお示しいただいたわけですけれども,このような扱いと,前回の案,あるいは前回の案に修正を加えた案は,なお両立可能なのではないかという御感触が先ほど窪田委員から示され,水野委員も,両立可能な方向で検討はできないだろうかといった方向を示しておられると理解をいたしました。   ほかの委員,幹事の御意見も是非伺いたいと思いますので,御発言をお願いいたします。 ○棚村委員 私も,国籍の問題の取扱いをどうするかというのは,かなり多様な事情で多様な脱法的な手段みたいなものがあると思いますので,今日もいろいろお話を聞いて,大分参考になりました。   ただ,先ほど言っているように,嫡出推定とか否認という親子関係の確定のルールについて,婚内子と婚外子である程度違うところと,平仄をある程度合わせられるところは,子どもの視点から見て平等にというのですか,そういう配慮というのはかなり必要だと思うのです。そういう意味で,誰がいつまでどのような形で父子関係をひっくり返せるとか,否定されるのかとか,身分関係の法的安定から,どういう場合について,意思とか承諾とかでどこまで認められるかを議論しております。その意味で,実親の成立に関して,血縁や意思をどういうふうに考慮していくかとか,婚内子と婚外子で基本的には違える部分と,それから,共通に考える部分というのはできるだけ共通に考えようということになります。例えば,意思でどこまで決められて,それから,どこからかが血縁というのですか,そういう遺伝的なものでやっていくか,社会的親子関係みたいなものをどう配慮するか,子どもの側の利益みたいなものをどう考慮するかということを,結構いろいろな場面で複雑に議論してきたのが嫡出推定否認のところの見直しでもあったと思うのです。   そうすると,認知のところだけが突出して従来の,細かい規律をしない方向でということへの違和感は,水野委員と窪田委員と同じようにやはり持っています。だから,どこまでどういうふうに改めるかという具体的なことについては,いろいろな御意見があると思いますけれども,今回の提案で気になるのは,現行法を少しいじる程度のものなので,嫡出子と嫡出でない子の区別についても,もう少しいじれないだろうかという意見を持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。嫡出子と嫡出でない子どもの取扱いについて,全ての場面で同じように考えられるかどうか,これはなかなか難しいところがあろうかと思いますけれども,可能な範囲で同じ方向を目指すべきだという前提に立ったとき,今回の案より更に進んで,何かできることはあるのではないかという御意見,これまでの委員の発言と共通の方向の発言として承りました。   そのほかの御発言はいかがでございましょうか。 ○磯谷委員 念のための確認なのですけれども,先ほど国籍の取扱いについて御説明がございました。今回の改正を踏まえた場合,この案のとおりにした場合に,要するに,子どもが成年に達しますと,基本的にほかの方々はこの認知について反対事実の主張はできなくなるということですので,争えなくなるということになるのだろうと思いますけれども,一方でこの国籍の関係では,先ほどの実務からしますと,その後,国籍の取得届が出た場合に,認知が事実に反しているということであれば無効ということなので,それは不受理になり,そして,戸籍法の先ほどの御説明のとおりに流れて,認知の記載というのは職権によって訂正されると,そういう流れになるという理解でよろしいのでしょうか。 ○佐藤幹事 国籍法3条の国籍取得届自体が,未成年が届出をすることができるという規律になっておりますので,御指摘のような成年してからの取得届ということは,そもそも観念しなくてよいということになってこようかと考えております。 ○磯谷委員 分かりました。逆に,そうすると,一旦国籍を付与されますと,その後になって,認知が事実に反しているということが分かった場合には,国籍法の関係ではどういう取扱いになるのでしょうか。 ○佐藤幹事 現状,例えば虚偽認知が事後的に刑事摘発されたような場合で,それで不実記録罪で有罪判決が確定したというような場合には,その旨が刑事訴訟法の規定に基づきましてしかるべきところに通知されるということになってございます。そのような場合には,そもそも認知が虚偽であったということがその段階で刑事手続を通じて明らかになっておりますので,それを踏まえて認知自体が戸籍から消されるというような,現状の扱いとしてはそうなっているものと理解しているところでございます。もし違いましたら,土手幹事から補足いただければと思いますが,よろしいでしょうか。 ○土手幹事 そういう取扱いになっております。参考資料17-4の2番目のケースの,先ほど佐藤幹事から申したのは④番のケースということになります。 ○大村部会長 磯谷委員は,そのような場合に民法上は認知の無効が主張できないということになるのに対して,国籍の不正取得が分かることによってそれが覆るというのが問題だという御指摘ですか。 ○磯谷委員 いえ,そこまで申し上げているのではなく,取扱いを確認したかったという趣旨でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,御意見いかがでございましょうか。 ○大石委員 前回から今回のかなり大きな変更なので,少し確認したいのですけれども,今回の見直し案ですと,国会の審議の附帯決議等で言われた,国籍の不正取得を防止するという目的,それに対応する部分は,言わば完全に落ちたというふうな理解でよろしいのですか。前の見直し案ですと,その部分が入っていました,明らかに。特に前回の資料の(2)のエ,オのところに入っていましたが,今回のこの説明ですと,これは民法それ自体の問題ではなくて,ほかのいわば行政法規との問題になる,むしろ移すということを前提にして,むしろ一般的な認知無効の問題に絞り込んだのだと理解してよろしいのでしょうか。 ○佐藤幹事 基本的には民法の在り方としてどう在るべきかということを中心に考えているということではございますが,ただ,もちろん国籍法との関係で不都合が生じないということを断念したわけではございませんで,先ほど磯谷委員の御質問との関係で御説明したように,成年になれば,もう国籍取得ということは国籍法上想定されないということがございますので,そういったことも勘案すると,今回御提案している規律との関係では,国籍法の現状の規律との関係での相克はそれほど深刻なものとならずに,なおかつ民法の在り方としても,現状よりも一歩進めた形での規律ということになるのではないか,そういう観点からご提案しているものということでございます。 ○大石委員 では,更に確認ですけれども,今回の見直しの案だと,やはり本来,不正目的の,要するに国籍を取得するための問題に対応するということとは,どうも事の合理性が合わないのです。つまり,反対の事実を主張することができるというのは甲その他の利害関係人ですけれども,彼らは不正目的の利用の受益者なので,その受益者が反対の事実を主張するというのは構造的に考えられない。だから,この規律とは全然合わない規律の論理なのです。ですから,やはり国籍法の改正の議論でいろいろ不正のことを防がなければいけないという議論は私もよく分かりますし,それに対する何らかの対応が必要だというのは分かりますが,やはり一般的な認知無効を考えている場合の,その秩序の中の話と,全然そうでない話が,やはり混在していて民法的な規律に合わないので,それは別途検討するということしかあり得ないのではないかというのが私の直感なのです。だから,民法の規律としては今回の御提案の方がすっきりしているのではないかと思います。 ○佐藤幹事 ありがとうございます。民法の在り方として突き詰めて考えていかなければいけないというのは,御指摘のとおりかと思います。ただ,その上でなおかつ,繰り返しで恐縮ですが,国籍法の現状,法改正の際の国会での議論等も踏まえて,現在の実務として確立している部分について,民法側からのアプローチによって何か国籍法上の不都合が生じないようにするということは,これはやはりどうしても考慮しなければいけないことかと思っております。   発言の機会を頂いて逆に質問で恐縮なのですが,先ほど窪田先生からお話がございました,養子縁組の場合と並べて考えると特段考慮する必要がないといいますか,国籍法の問題を考慮する必要がないのではないかというような御趣旨かと承ったのですが,窪田先生に可能であれば伺いたいのですけれども,養子縁組も認知も創設的な届出ということになりますし,養子に関して虚偽の養子縁組届出というようなことがありましたら,適法な意思がないものとして不受理になったり,最初の審査の段階で不受理になったりということが現実にあるわけですけれども,国籍取得届との関係で問題になるような渉外的な認知に関して言いますと,恐らくまずはその認知届自体は受理されて,その上で国籍取得届が提出された段階で,国籍法に基づく審査としてその国籍取得届が受理できるかどうかという観点で審査をされるということになってまいります。国籍法上,その認知が有効でないということになったら,それはその段階で民法上も無効でよいのではないかという御趣旨の御発言が先ほどあったように思ったのですが。もしそれが私の勘違いでなければ,国籍法上無効ということであれば直ちに民法上も無効ということで構わないのではないかという御趣旨で御発言があったのだとすると,果たしてそのように考えていいのかどうかということを検討するよすがとして,お考えを伺わせていただければと思います。すみません,頂いた発言の機会での質問で恐縮ですが,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 窪田委員,よろしければ。 ○窪田委員 少し補足して,あらかじめ確認しておきますと,私自身は養子縁組に関しての戸籍実務における現在の対応というのが,非常にいいと必ずしも思っているわけではありません。実質的な審査というので縁組意思というのを,言わば実質的に審査するという形のことを窓口でやるということが本当に適切なのかどうなのか等々の問題はあるのだろうと思っています。ですから,これが非常にいい仕組みで,これをどんどん使いましょうという趣旨ではないということは,まず確認しておきたいと思います。   ただ,そうはいっても,縁組意思のところで実質的な審査みたいなことをやって,本来であれば,民法上は縁組意思が合致していれば,もうそれだけで縁組は成立する,あとは形式的要件でということになるわけですけれども,実質的にはそこのところで,実質的に意思があるかどうかということを介入するという実務がある,というわけです。   今回お話をしたのは,それと全くパラレルに考えられるかどうかというのはまだ検討の余地があると思うのですが,民法上は認知をすれば,基本的にはそれで有効であって,そして,事実関係がない認知であったとしても,それを有効として扱うというふうな形,あるいは,事実関係がない認知だとしても,それについて当事者は,例えば無効を主張できないとか,そういうルールを立てるということはできると思うのですが,ただ,そうではあったとしても,それとは別枠の問題として,事実関係がない場合には適法な認知ではないということを,例えばそれが受理の時点ではなかったとしても,国籍の届出という段階でそれが明確になったとすれば,それを反映させて民法の方でもその認知を無効にするという仕組みは,あってもおかしくはないのかなという趣旨です。   つまり,本来であれば当然に養子縁組が無効になるわけではないのかもしれないけれども,不適法な養子縁組の届出に関して,それを認めないといったようなことに関して,これは無効ではなくて,むしろ成立を阻止するという形で一般的には機能するのだろうと思いますが,そうした介入というのはあると思います。私の申し上げたかったのは,国籍法があるから,成年に達してからはひっくり返せないけれども,それまでは自由にひっくり返せるのだというふうなことをしなくても,もう少し何か折り合いを付ける方法はあるのではないかということでした。   養子縁組ともう完全にパラレルに考えてくださいということではなくて,実際にそうしたものはほかにもあるのではないか,だとすると,ここで余り神経質に,国籍法のためにというか,20歳未満の間は全部ひっくり返せるという話は外国,国籍の話以外の場合も一杯あるわけですよね。そうだとすると,国籍のことのためだけにそれほど大きな仕組みを作らなくても,もう少し折り合いを付ける方法があるのではないかという意味で発言したということです。   十分に説明できているかどうか分かりませんが,以上です。 ○佐藤幹事 御趣旨承りました。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの大石委員の御質問とも関わるのかもしれませんけれども,国籍法上,その国籍取得を認めないというためには,民法上もその認知は無効であることが望ましい,こういう前提に立っているのだろうと思います。取消しは可能かもしれないが有効であるということになると,これまでのそうした考え方が成り立ちにくくなるのではないか,そんな危惧があるけれども,20歳以後については,先ほどのように,その後の国籍取得について問題が生ずるということはないので,この案が提案されていると理解をいたしました。   それに対して委員,幹事から出ている御発言は,国籍法上の目的を達するために認知は無効だと一律に言ってしまわなくてもよいのではないか,窪田委員の今の御発言がありましたけれども,先ほど水野委員からは,濫用的な認知は例外扱いでもいいということだとすると,濫用的なものは無効なのだとすると,その限度では無効だという扱いが維持される,それでよいのではないかといった御発言もありました。何かもう少し調整を図る余地があるのではないかというのがこれまで委員,幹事の多くの方々から出ている御発言の御趣旨かと思いました。久保野幹事から手が挙がっていますので,久保野幹事,お願いいたします。 ○久保野幹事 ありがとうございます。今おまとめいただいたので,すみません,余計な付け足しになりますけれども,国籍法上無効になる場合に,民法上もそもそも認知が無効だということについて,最後に出てきました濫用的なものについては,事実に反するといった枠組みでの無効とは違う考え方を採ることがあり得るのではないかという方向性に賛同するところでして,少し自信がないのですけれども,思い出しましたのが,婚姻意思や離婚意思につきまして,形式的意思説,実質的意思説などの議論がされるところについて,社会保障上の制度を濫用するためですとか,国籍もあるかもしれませんけれども,そのような犯罪や不当な目的の場合については別途といいますか,それに即した法制があり得るなどといった議論もされているような気がいたしますので,そのようなことも参考にしながら組み立てることもあり得るのかなと,少し思い付きですけれども,発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。切り分けの仕方について,何か更に考える余地があるのではないかという方向の発言として承りました。 ○窪田委員 発言が多くなって,すみません。今回,少なくとも未成年の間という形で期間を制限して,それと,今まで議論には出てきていなかったのですが,一方で提出権者,主張権者ですかね,無効の主張権者を限定するという方向,利害関係人一般ではなくて,もう少し限定することで安定を図れないかという工夫をしていただいているのだろうと思います。せっかく工夫をしていただいているのに,それにけちを付けるつもりは全然ないのですが,恐らく先ほどから出ているお話というのは国籍法との関係では,民法ではやはり事実関係がない認知に関しては無効だという枠組みを取りあえず確保しておきたいというのが一方であるのだろうと思います。ただ一方で,そこで提出権者とかを絞ったりというのは,非常に何か,いわゆる取消し的無効といいますか相対的無効といいますか,そうした方向になりますので,ここの部分も,先ほど逆モーションと申し上げましたが,一方で無効と言いながら,そこでの無効というのは限りなく実は取消しに近いものを考えているのだとすると,法務省の方で一生懸命考えてくださったということは非常によく分かるのですが,ただ,制度的にはやはり分かりにくいなということも残るのかなと思いました。感想めいたことで申し訳ございませんが,付け加えさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。提訴権者を制限するとか,期間制限を掛けるというのは,無効といっても取消し的な無効ということになる,それは実質的には取消しに近いものを定めるということになるのだけれども,無効という効果を維持したいということと,このようなものを定めるということとの間にある種の緊張関係があるのではないかという御指摘を頂いたと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○磯谷委員 また質問で申し訳ございません。仮にこの認知をした方が,実際には御自身でやっていなくて,ほかの人が勝手に届け出たというふうな場合だとか,あるいは,いや,この人が実際には届け出ているのだけれども,意思能力が全くなかったとか,そういったようなことがいろいろ想定されると思うのですけれども,そういった場合にもこの期間制限というのは適用されるというふうな前提で出されているのか,その辺りはどうなのでしょうか。 ○小川関係官 そこの部分は,現時点では,現行法の規律のままとするという形で考えているところです。要は,届出意思が全くないのに届け出られた認知であったりというふうな話かと思うのですけれども,そういった部分について,今回の提案の中には何か積極的に見直すというものは入れておりません。ただ,そういった場合の無効主張も制限すべきという御指摘があるのであれば,そこも排除するものではありません。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○磯谷委員 はい。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。前回の提案の方がよろしいのか,それとも今回の提案の方がよろしいのかという点,それ自体については私自身は現時点で何か確たる意見があるということではないのですけれども,前回も若干議論になりました点で,今回ですと,一つ前の磯谷委員の御質問に関係するところにつきまして,若干確認をさせていただきたい点がありますので,発言をさせていただきたいと思います。   具体的には,前回の議論で,日本国籍を一旦認められて長期間にわたって生活をしてきた子どもというのが,認知がやはり効力が認められないというようなことで国籍を失ってしまうというようなことがあるのかどうかという点について,前回の段階では,これは飽くまで国籍取得の際の審査の問題であって,事後的にどうなるかという,遡及的に喪失するというようなことは主要な場面ではないというような趣旨の御説明があったような感じもしたのですけれども,本日の参考資料17-4の2のケースで,先ほども磯谷委員からの質問に関してやり取りがありましたが,これは結局,虚偽の認知であるということになりますと,それで戸籍の記載事項が消除されるということで,国籍も取得できなかったことになると理解をすればよろしいということでしょうか。そうしますと,例えば今日の第6の提案を前提としますと,子が成年に達するまでの間はそのようなことがいつ起きてもおかしくないという規律を想定することになるという前提で検討すればよろしいということかどうか,その点,私が不勉強で理解が十分に及んでいないところがあるかもしれませんので,よろしければ御教示いただきたいと思います。お願いいたします。 ○佐藤幹事 結論的には今,垣内先生がおっしゃったとおりでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。垣内幹事は今,考え方の問題だけをお尋ねになったということでよろしいのですか。それとも,実際上そういうことが起きているのか,どのくらいあるのかといったことも含んでおられますか。 ○垣内幹事 質問の趣旨としては,考え方について確認をしたかったということですけれども,もし実際上どうかということもあるのであれば,その点も検討の際に参考にはなるかもしれませんので,もし何か補足いただけるようであれば,それも併せてお願いできればよろしいのではないかとも感じます。 ○大村部会長 虚偽の認知ということで,実際どのような形でどのぐらいの時期に覆るのかといったことがもし分かるようであれば,またそれも考慮して検討するのがよいかと思って,御質問を伺っておりました。   そのほかにはいかがでございましょうか。ほかにはございませんでしょうか。 ○大森幹事 今日の議論を拝見しまして,国籍法上の様々な現在の要請を何とか維持したいというお気持ちも理解できるところでありますし,具体的にはどこが変わるのかというところでは,最後,垣内幹事からの御質問でも明らかになりましたように,事後的に判明したときに,今日の参考資料17-4の2の④の処理ができるのかどうかという点に尽きてくると理解したらよろしいのかなと思いました。つまり,実体法,民法で認知が無効だと考えないと④ができないと考えると,今日の御提案のように,未成年である間は認知が無効にできるようにしておく必要があるのではないかということにつながってきます。それに対して,今日,複数の方々から,そのように必然的に考える必要があるのかという御示唆がいろいろ出たかと思います。私も同様でして,もちろん要請自体を否定するものではないのですが,片方で子どもの地位の安定,また嫡出子との平等性というところの大きな問題が,この国籍の問題以上に大きいのではないかと思いますし,そこのバランスを間違えてはならないとも思います。そこをきちんと守りつつも,何か手立てを講じるという工夫を何か考えていく必要があるという意味では,今回の御提案のように成年に達するまでは無効ができるという形ではしない方がいいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。国籍法上の要請とバランスがとれる形で,更に工夫することができないかを検討すべきだという御意見を頂いたと理解をいたしました。   今,大森幹事の御発言の中にもありましたけれども,今日のお話で多くの方が,もう少し何とかならないだろうかという御感触を示されたと思いますが,そのときの方向性として,一つは,民法と国籍法を直結させて考えなくてもいいのではないかという御意見が一方であったかと思います。もう一つは,切り分けの仕方として,事実に反する認知というものを一律に考えるのではなくて,17-3の資料に挙がっている附帯決議の言葉でいうと,国籍を取得することを目的とする虚偽の認知を取り出してこれを無効とするとすれば足りるのであって,そこをうまく切り分けることができないだろうかという御意見,この二つの方向の御発言があったように思います。御意見を踏まえて,更に事務当局の方で検討していただきたいと思います。   他方,制度を組むときに,ある種の不明確さが残るということが国籍法の運用に及ぼす影響という点も,実際の制度を動かす上では無視し難いものがあるのではないかと思いますので,そういう要請との関係でどのように制度を組むのが最も望ましいのかといった観点もあろうかと思います。事務当局が今回出された案は,今最後に申し上げたような要請を重く見て作られた案だろうと理解をしておりますけれども,その要請を踏まえつつ,今日示された二つの方向など勘案して,更に工夫できないだろうかということについてお考えいただきたいと思っております。 ○大森幹事 もう一つ,申し訳ありません,発言させてください。   今回の件は,先ほども申し上げたように事後的に判明をした場合の対処という点に関してでございますが,事後的に判明した時点で,子どもは日本国籍を持っている子どもとして,恐らく日本でもう既に育っている,養育をされているという実情があります。先ほど垣内幹事からも,実際はどうなっているのか,もしできれば知りたいというお話もありましたけれども,事後的に判明したときに認知が無効だとして直ちに日本国籍を失わせるということが,果たしてその子どもにとってどうなのだろうかと,人道上の見地のこともやはり本当は考えないといけないように思います。そこも含めて考えますと,果たしてここの親子法制部会で,そこも含めた適正性,妥当性の判断ができるものなのか,そこも若干不安に感じるところでございますので,付け加えさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。子どもの観点から考える必要もあるという御指摘を頂いたかと思います。最後に,ここで判断できるかということについて御指摘がありましたけれども,そうすると,どういう方向になるのでしょうか。 ○大森幹事 その子どもの日本国籍を失わせて,場合によっては国外退去とかになるのかどうかとか,そういった実態がどうなっているのかとか,様々な知識や情報が分からないまま適切な議論が果たしてできるだろうかと少々心もとなく感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の御発言は,多少文脈が違うかもしれませんけれども,前回に出ていた,ここで国籍法に関わるような問題について議論するのは難しいのではないかという議論とある意味で同じ方向を向いているような気もいたします。そうなると,現状について手を付けるのは困難だという帰結にもなりそうな感じがするのですが,それは大森幹事が直前までおっしゃっていたことと両立が難しくなりはしませんか。 ○大森幹事 民法上の通常の認知無効と不正取得の目的のため認知への対処を別にして両建てをするという方法もあり得るという御発言があり,そうした両建てで考えていくことに異論があるわけではないのですが,実態やその子のその後の処遇などの情報が十分にわからないまま,両建ての後者,つまり不正取得目的の認知に対する対処の中身についても具体的に検討していくことやその妥当性判断ができるだろうかと思った次第です。それを考えると,ここでは,国籍の問題を抜きにした民法上の純粋な認知の制度だけをここで考えるという選択肢もあり得るのではないかと考えて,発言させていただいた次第です。 ○大村部会長 国籍の問題をここでは考えないで,純粋に民法の問題として考えるということは,国籍法上どういうことになるのかということについては捨象するということですか。 ○大森幹事 民法で期間制限され,民法上は有効になっている認知について,国籍法上も効力を及ぼすことにするのかという議論はあり得ると思うのですけれども,この部会で,どういった要件の場合は国籍法上の効力を認めないことにするのかなどといった具体的な中身について,つまり両建てにした上での後者の具体的な要件あるいは例外を設けるなどといった内容までは,先ほど申し上げたいろいろな情報や実態,認知が否定された子がどうなるのかとか,それらが分からないと,なかなか議論が難しいのではなかろうかと少し感じたということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。私の方で十分に受け止められているかどうか分かりませんけれども,先ほど私が,事務当局で考えていただくに当たって,今日,二つの方向性がこの場で出たのではないかと申し上げましたが,その二つの選択肢との関係で言うと,民法上の取扱いと国籍法上の取扱いが直ちに連動していなくても,国籍法上の要請を満たすことができるのではないかという,そちらの方向で考えた方がよいという御指摘として受け止めてよろしいですか。   分かりました。今のような御指摘として受け止めさせていただいて,その上で選択肢を広げる形で御検討いただければと思います。事務当局には,また御負担をお掛けいたしますが,どうぞよろしくお願いをいたします。 ○磯谷委員 全然違う話なのですけれども,認知された子どもの立場の法的安定性を図るというところはとてもよく分かります。一方で相続案件なんかもかなり取り扱う弁護士としては,認知といってもやはりいろいろあって,例えばお子さんが小さいときに認知して,実際にずっと育ててきているというものもあれば,成人になって,かなり怪しい認知というのもあり得るわけです。実際,相続になりますと,恐らく認知が判明するのは認知者が亡くなってから,つまり相続が発生してからという形になるかと思います。そのときに,先ほど事務当局から意思能力だとか,あるいは第三者が関わったものについては,それは別扱いだというようなお話もありましたけれども,実務的にはかなり微妙な部分があって,意思能力はあるといえばあるけれども,かなりいろいろな方が関与して,どうも不実の認知がなされたみたいな話が出てくると,それがこの期間制限によって争えなくなるというふうなことは,ある意味,決めの問題といいますか,それは仕方がないのだという考え方もあるとは思いますけれども,一般の国民の方々にとって果たしてそれでしっくり来るのかどうかというところは,やはり若干疑義が残ると思いますので,その辺りも少し慎重に検討した方がいいかもしれないと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。どこで線を引くかは別にして,どこかで一律に線を引くという解決を採るとすると,その線引きよりも後のものの中に適切でない認知が含まれることになると,それについてはやはり一定の対応が必要なのではないか,そういうものが残らないような手当てが必要なのではないか,それも考慮に入れて考える必要があるといった御指摘かと思いました。先ほどの,濫用的なもの,どのような要件を立てるかによりますけれども,一定のものはカテゴリーとして無効になるということにすれば,今の磯谷委員のおっしゃっているような御懸念にある程度は対応できるので,今のようなお考えからは,そうした切り分けを考える必要があるということになろうかと思います。磯谷委員の御指摘ももっともだし,大森幹事の御指摘もよく分かりますので,考え方は複数のものがあり得るということで,更に御検討を頂ければと思います。   この第6につきまして,ほかにいかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。それでは,なかなか難しい問題ですが,直前に申し上げたような形で引き取らせていただきたいと思います。   それで,最初に申し上げたところですけれども,資料の第1の懲戒権の問題がなお残っておりますが,今,5時30分になろうとしているところでして,本日はもうこの問題に入る時間がございません。これにつきましては次回に繰延べて,次回の期日に御議論を頂き,御意見を頂戴するということにさせていただきたいと思います。ということで,今日はここまでということにさせていただきたいと思います。   最後に,次回のスケジュール等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○佐藤幹事 次回の日程でございます。令和3年7月20日火曜日の午後1時30分から午後5時30分まで,場所は法務省20階の第一会議室となっております。   次回,引き続き更なる検討が必要な論点について,本日に引き続きまして御審議いただく予定でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願いいたします。第1につきましては残ってしまいましたけれども,引き続き更なる検討をするということで,他の問題とともに次回に御意見を頂戴したいと思います。   以上で,本日の審議は終了ということで,法制審議会民法(親子法制)部会の第17回会議をこれで閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜り,ありがとうございました。閉会いたします。 -了-