法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  令和3年8月11日(水)   自 午後 1時31分                        至 午後 3時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第13回会議を開催します。 ○酒巻部会長 本日も御多忙中のところ御出席いただき,ありがとうございます。   天野委員,大澤委員,河瀬委員,北川委員,菅野委員,藤本委員,向井委員,吉崎委員,小笠原幹事,くのぎ幹事,笹倉幹事,重松幹事,福家幹事,和田幹事及び井上関係官には,本日,ウェブ会議システムによって御出席いただいております。   まず,事務当局から資料の確認をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 本日,新たな配布資料はございません。参考資料として前回に引き続き,配布資料37「取りまとめに向けたたたき台」をお配りしています。お手元にない方はいらっしゃいますでしょうか。 ○酒巻部会長 それでは,前回に引き続き,「取りまとめに向けたたたき台」に基づいて議論を行いたいと思います。   前回会議の冒頭に御了承いただいたとおり,本日は,「第6」から「第11」までのテーマについて1巡目の議論を行い,その後,2巡目の議論を行うこととしたいと思います。   本日の進行時間の目安をあらかじめお伝えしますと,まず1巡目の議論として,「第6」については15分程度,「第7」については10分程度,「第8」については5分程度,「第9」については15分程度,「第10」についても15分程度,「第11」については5分程度,御議論いただくことにしたいと思います。   その後,10分程度の休憩を挟んだ上で,2巡目の議論に入ることとし,2巡目の議論では,全体を2つに分けて,まず,前回議論した「第1」から「第5」までについて,併せて30分程度御議論いただき,その後,「第6」から「第11」までについて,1巡目に御意見を頂けなかった点があればその点をお聞きするため,20分程度御議論いただく時間を設けることとしたいと思います。   そのような進め方でよろしいでしょうか。              (異議なし)   ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   まず,「第6 禁錮以上の実刑判決宣告後における裁量保釈の要件の明確化」についての議論に入ります。このテーマについて御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○菅野委員 「第6」の裁量保釈の要件の明確化の規定を設けることには反対です。現行の刑事訴訟法第90条の規定で柔軟に対応すればよいのではないかと考えているところです。   反対の理由は,この規定は,要件の明確化とはいうものの,弁護人の立場からすると,原則として実刑判決後には保釈が認められないというメッセージにも受け取れる内容だからです。実刑であっても,懲役1年なのか懲役10年なのかによって全然状況は違いますし,比較的年数の短い実刑の場合は,これまでの実務では,緩やかに保釈が認められているのが現状ですから,一律原則禁止とも読める規定を設けることでそのような実務に萎縮効果を与えることは,望ましいこととは思えません。このような規定が設けられることで,無罪を主張している方がもう裁判を諦めてしまうといったことも考えられますので,やはり,このような規定は設けずに,刑事訴訟法第90条を柔軟に解釈していけば足りるのではないかと思い,意見を述べさせていただきました。 ○小笠原幹事 菅野委員の御意見に加えてですけれども,控訴してから判決が宣告されるまでの期間はかなり長いのです。岩手の場合,控訴された事件が仙台高裁に送られるなどして,どれだけ早くても判決まで2,3か月は掛かっているのではないかと思いますが,その間ずっと保釈されないままというのは,やはり大きなデメリットではないかと思います。第一審であれば,起訴から1か月から1か月半もあれば判決が宣告されるということもあるので,控訴審に比べればまだ短い。そのような期間の点からすると,先ほど菅野委員がおっしゃったとおり,全く保釈が認められないに近いような形となるような法律の改正をすれば,やはり裁判官が保釈を許可することにかなりちゅうちょしてしまうのではないのかと,今まで問題なく保釈が認められていたケースについても認められなくなるのではないかということも十分に考えられるので,非常に問題があると思います。 ○向井委員 これまでの部会でも御説明してきましたとおり,実務の運用では,実刑判決後の保釈は,刑事訴訟法第90条の規定に従って,逃亡のおそれといった保釈を不許可とする方向に作用する事情と,身柄拘束の継続による不利益といった保釈を許可する方向に作用する事情とを比較衡量して,保釈が適当かどうかを判断しているところであり,今回の規定は,そのような判断枠組みを変えるものではないと理解しております。   その上で,ですが,たたき台「第6」の本文は,実刑判決の宣告により逃亡のおそれが一般的・類型的に高まるということを踏まえて,比較衡量の観点から,被告人が受ける不利益の程度がそれを上回ることを要件としていると考えられることからいたしますと,ただし書により刑事訴訟法第90条の規律に戻る根拠としては,逃亡のおそれが高くはないのだという点に求めていくのが合理的であると思われます。   そうであるとしますと,逃亡のおそれが高まるとの一般的・類型的な評価が妥当しない場合の適用関係につきましては,「A案」の方が合理的であろうと考えられます。「B案」は,同じことを表現しようとしているのかもしれませんけれども,逃亡のおそれの程度ではなくて,逃亡のおそれの程度を低下させる理由を問題にしているという点が,少し分かりにくいように思われます。 ○酒巻部会長 この点について,ほかに御意見がありますでしょうか。あるいは,「第6」全体について,ほかに御意見がありますか。   それでは,「第6 禁錮以上の実刑判決宣告後における裁量保釈の要件の明確化」については,この程度とさせていただいて,次に,「第7 控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等」について議論を行います。御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○佐藤委員 たたき台の「1」のただし書について,意見を述べたいと思います。   「1」のただし書では,控訴裁判所が「1」の本文により出頭を命じなくてもよいこととなる場合について,「重い疾病又は傷害その他やむを得ない事由により被告人が公判期日に出頭することが困難であ」ることと,「刑の執行のためその者を収容するのに困難を生じさせるおそれがない」ことの両者を要件としています。そのため,仮に,重い疾病により被告人が判決宣告期日に出頭することが困難ではあるけれども,刑の執行のための収容に困難を生じさせるおそれはある,という場合があるとしますと,ただし書のうち後者の要件を満たさないため,控訴裁判所はそのような被告人に対して判決宣告期日への出頭を命じなければならないと読むことができるように思います。   ただ,そうだとしますと,物理的に公判期日への出頭が困難であるにもかかわらず,それでもなお出頭を命ずべきものとするのが適切かという問題が生じます。この点は事務当局において,規定ぶり等に工夫の余地があるのではないかと考えまして,発言させていただいた次第です。 ○鷦鷯幹事 御指摘の点については,御趣旨を踏まえ,検討させていただきたいと思います。 ○酒巻部会長 ただいま佐藤委員から御指摘があった点については事務当局に検討していただくとして,ほかに,この「第7」の控訴審の判決宣告期日への被告人の出頭の義務付けについて御意見はありますか。   それでは,先に進みたいと思います。次に,「第8 保釈等の取消し及び保釈保証金の没取に関する規定の整備」について議論を行います。御意見はございますか。   よろしいでしょうか。特に御意見がなければ,次に移りたいと思います。   「第9 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者に係る出国制限制度等の新設」について御議論をいただきたいと思います。御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○笹倉幹事 たたき台を見て一つ気付いたことがありますので,申し上げます。一時出国許可制度に関しては,入管法との関係で検討を要する点があるように思われます。   たたき台の「第9」においては,文言上,退去強制事由のある外国人を一時出国の許可の対象から除外することとはしていません。ところが,現行の入管法を前提といたしますと,退去強制事由のある外国人が我が国から出国した場合は,通常,我が国へ再度入国しようとしても許可されないことになり,ただ,法務大臣の裁量による上陸特別許可が得られれば,例外的に入国が許可されることがあるに過ぎないものと承知しています。そうであるとしますと,仮に退去強制事由のある外国人に裁判所が一時出国の許可をしたとしても,その者が出国後,再び日本に入国しようとしたときに,それが許可されるとは限らないことになります。むしろ入管法上は,出国後の入国が原則として許可されないものであるとしますと,退去強制事由のある外国人について,戻ってきてくれることを想定して裁判所が一時出国を許可すること自体がそもそも適切ではないということにもなり得るのだろうと思われます。   この問題は,多分に退去強制事由のある外国人の入国を入管法上どのように取り扱うかという点に係っているわけでありまして,刑事法の問題というよりは入管法上の問題でしょうから,この部会で議論することには必ずしも適さないとは思いますけれども,今後,たたき台を基に更に検討を進めるということであれば,今申し上げた点に留意する必要があろうと思います。 ○小笠原幹事 質問ですけれども,「第9」の「1」と「2」,自由刑の場合と罰金刑の場合で,この一時出国許可の保証金の金額の定め方は変わり得るものなのでしょうか。自由刑の場合には,保釈保証金があるものについてはそれで代えるというので,相場が分かるのですけれども,罰金刑の場合,その罰金の額が50万円のものもあれば1億円とか多額のものまであるのですが,仮に罰金額が1億円であったとして,それでもやはり数百万円レベルの保証金額にとどまるものなのか,それとも,1億円の罰金が出ているのであれば,それに近い保証金額となるのか,感覚的なところでも教えていただければと思います。 ○鷦鷯幹事 たたき台を作成した事務当局の立場から趣旨をお答えいたしますと,一時出国の保証金の額を定める際の考慮要素については,たたき台の「第9」の「1(2)エ(イ)」に,「判決に係る刑名及び刑期」を始めとして,対象者の「性格」,「生活の本拠及び資産」,「在留資格の内容」といった事項を掲げており,ここでは,禁錮以上の実刑判決の宣告があった者についての考慮要素ですので,その懲役なり禁錮なりという刑とその長短が,考慮要素の一つとされることとなるものとして記載しています。   また,これと同様の規定を「2」や「3」の罰金の裁判の告知を受けた者に対する出国禁止の制度についても設けるということを,たたき台の「2(2)」や「3(2)」のところに記載しておりますので,それらの者について一時出国の許可の際の保証金の額を定めるときも,同様のことが考慮されることとなります。ですから,御指摘のように,罰金刑の多寡は,考慮要素の一つとして考慮された上で,一時出国の保証金額が定められることになります。 ○小笠原幹事 今の御回答を前提としての意見です。ここは以前にもお話しして否定されたのですが,私は,罰金刑の場合の一時出国の際の保証金は,一時出国の許可の取消しの際,没取するのではなくて,罰金の徴収に充てることを許すべきと考えます。元々この保証金の趣旨は,罰金が納付されないときに労役場留置の執行を確保するためと認識していますが,罰金刑の執行確保のためというのであれば,身体拘束の代償としての保釈保証金とは性質が異なり,民事執行の仮執行宣言の免脱のための保証金などと同様の性質のものとして考えるべきではないかと考えます。   ですので,この場合の保証金も,例えば罰金が50万円であれば50万円,200万円であれば200万円というように,罰金額を上限とし,逃げられてしまった場合にも,長期の労役場留置の期間をそのままというよりも,罰金刑は金銭できちんと納付されるべき,という話になるので,先ほど言ったように,この保証金を罰金の徴収に充てることができるようにすべきだと考えます。罰金刑は,元々その執行が民事執行法によることとされているとのことですので,民事の債権と同じように考えてもいいのではないかという意見です。 ○保坂幹事 事務当局から,今の御発言の趣旨を少し確認させてください。今御指摘のあった罰金の告知を受けた者に対する出国禁止命令については,罰金刑の宣告を受けただけではなくて,罰金を完納できないことが見込まれるという要件が付いてます。したがって,比喩的に言いますと,労役場に入ってもらわないと刑の執行ができない者,要するに,罰金を罰金として徴収するというよりは,労役場留置の執行がかなり見込まれるという,そういう人たちであることが要件になっています。先ほど,一時出国の保証金を罰金の徴収に充てるというような御発言がありましたけれども,そんな保証金が払えるようであれば,そもそも命令が出ていないのではないかとも思われまして,要は,罰金刑は金銭刑ですが,ここで出国禁止命令の対象にしているのは,労役場留置という形での刑の執行が見込まれる者であることが前提ですので,今の御発言の趣旨との関係がよく分からなかったものですから,補足的に申し上げました。 ○小笠原幹事 そこのところは,ある意味矛盾みたいな話になってきて,逆に保証金を納められる人が罰金を納められないということがあり得るのかという話になるわけで,結局,そうすると,一時出国が許可されるのは,罰金額がかなり高額の場合に限られるという話になってきますよね。例えば数百万円程度の保証金で1億円という罰金刑からの逃亡を防止できるのかと。お金を出して一時出国が認められるというのは,普通は余り考えられない話ですから,せっかくお金を納めさせたのであれば,先ほども言ったように,一部であっても罰金刑に充当するのが本来的な筋なのではないかと,そういう意見です。その上で,一時出国の許可の取消しの後に,残りの罰金刑をどう執行していくのかという話は,足りない分について労役場留置をすればいいのではないかと,そういう趣旨の発言でした。 ○福家幹事 「3(3)」の罰金の裁判が確定した者の拘禁について,意見を申し上げます。   「3(3)」において新たに設けられる拘禁は,労役場留置の執行とは異なるということですが,罰金の裁判が確定して30日が経過すれば労役場留置の執行を受け得る者を対象としたものです。また,基本的には,出国禁止命令に違反して出国したり,出国しようとした者について,罰金を完納することができないおそれがあるかという点の判断がポイントとなるものと考えられます。さらに,このような者に対する身柄拘束については,迅速な対応が求められるということも踏まえますと,そうした者については,検察官の方で速やかに身柄拘束をしていただいた上で,不服申立ての中で,裁判所がその当否を判断するという枠組みとするということが考えられるのではないかと考えるところです。 ○鷦鷯幹事 事務当局から,「第9」の「3」の罰金の裁判確定後の出国禁止命令や拘禁の判断を裁判所によるものとしている趣旨を説明させていただきます。   刑事訴訟法において,裁判の執行は,検察官がその執行を指揮するものとされていますが,たたき台の「第9」の「3」の罰金の裁判が確定した者に対する出国禁止命令や拘禁は,罰金の実刑裁判が確定した者の中でも罰金を完納することができないおそれがあると認められる者について,権限のある者からの許可を得ないで出国することなどを禁止するという効果を発生させたり,その違反があった場合に,刑法に定める労役場留置の執行の要件を満たさない場合でも,その者の身柄を拘束することができるものとする,そのような効果を発生させたりするものです。   そういったものであることを踏まえますと,これは,罰金や科料の裁判そのものには含まれていない事項についての判断を伴い,また,それらの裁判には付与されていない効力を発生させるものと考えられます。そういたしますと,拘禁という身柄拘束の当否の判断であるということもありますので,その要件を満たすものであるかどうかの判断は,検察官ではなく,中立な立場にある裁判所,裁判官が行うものとするのが,公正性の確保の観点からは適当ではないかと考えまして,そのような趣旨で,たたき台に記載しているものです。 ○酒巻部会長 これに対して,裁判所からは何か御意見がございますか。 ○福家幹事 今の点については特にございません。 ○角田委員 今の点に関連しますが,少し別の事柄について申し上げます。「3(3)イ」のところに拘禁の手続についての項目があって,拘禁状の発付は,その者に対して理由を告げて,これに関する陳述を聴いた後でなければ,することができない,これが原則とされており,拘禁の前に告知・聴聞の手続を履践させることが考えられていると思います。   今議論のありました,そもそもこの拘禁状の発付の主体は裁判所と検察官のどちらがいいのかという問題については,私もどちらかといえば,迅速な判断とか判断事項が非常にシンプルなものであることとか,さらに,実質的には刑の執行の延長線上のものといえることとか,そういうことを考えると,検察官の方がいいのではないかとは思いますが,仮に裁判所を主体とする場合でも,この告知・聴聞の手続は設ける必要がないという意見です。   というのは,まず,判断の中身が,要するに罰金を完納することができないおそれという非常にシンプルなもので,特に本人の弁解を聞いてどうこうという類いのものではなく,客観的な疎明資料で十分判断できるものではないかということ。それから,これは罰金の宣告を受けて確定した者が対象ということで,在宅の者であることが前提になるわけなので,拘禁という強制的に身柄を取る手続について,在宅の者に任意に来てもらわなければならなくなるのではないかという気がするわけです。けれども,来てくださいと言って来てくれる人ももちろんいるでしょうが,行くのは嫌ですという人も一定割合いるはずで,そうした場合に措置のとりようがなくなりはしまいかということが疑問としてあります。   考えてみると,これは,勾留の場合の勾留質問に準じるような手続として考えられたのかなとも思いますが,捜査段階の勾留の場合には,逮捕前置ですから,対象者はほぼ100パーセント,身柄拘束されているわけで,勾留質問は特段の支障なく履践することができるわけです。そういう前提もなく,たたき台のように,強制的に身柄を取る手続のためにこのような告知聴聞の手続を置いてしまうと,強制的な身柄確保のために任意に来てもらうという非常におかしな事柄になることになるのではないかという気がして,それでは制度の在り方として,どうもバランスが悪いように思います。   ですから,先ほど言いましたけれども,そもそも判断の中身が本人の弁解を聞かなければいけないような話ではないので,仮に裁判所を判断主体にするにしても,こういう手続を特に設けなくても,客観的な疎明資料を検察官に出してもらうなり,あるいは裁判所が収集するなりして十分判断ができるのではないかと思います。ですから,ここのところの告知聴聞の手続は,置かない方がいいというのが私の意見です。 ○鷦鷯幹事 たたき台の趣旨について,若干説明させていただきます。   まず,たたき台の19ページ,「3(3)イ(ア)」のところに,理由の告知と陳述の聴取の手続を記載していますが,これに任意に応じない場合が考えられるのではないかという御指摘があったと思います。御指摘のように,この拘禁の前の告知・聴聞の手続というのは,勾留の前の逮捕や勾引,その後の勾留質問という流れと似た流れとなり得るところですから,仮に拘禁することが必要であるにもかかわらず陳述の聴取の手続のための出頭をしないという者がある場合には,手続を実施することができるようにするため,例えばですが,その者を連行することが可能となるように,勾留に先立って行われる勾引の規定を準用する規定を置くなど,所要の規定を整備することも考えられます。   また,そもそもなぜこのような告知・聴聞が必要かというと,先ほどなぜ裁判所の判断を要するものとするかという点についてお答えしたところとも関連するのですが,やはり,拘禁という身体拘束をする場面ですし,しかも一定の要件を充足する場合に限って身柄拘束を許すという立て付けとしておりますので,その要件の判断に当たっては,対象者に拘禁の理由をきっちりと知らせた上で,その言い分を聴取してから行うものとすることが,より一層適正な判断がなされることに資すると,そのように考え,このような手続として記載しております。   罰金の裁判が確定した後のことではないかという御指摘もありましたけれども,そうであるからといって,そのような手続的な配慮を省略したり,あるいは軽減して良いということにはならないのではないかという考えから,このような手続を設けているものです。 ○角田委員 説明自体は理解しましたが,ただ,対象者は罰金の裁判が確定している者なので,勾留質問の場合のように,犯罪事実,あるいは被疑事実を告知して弁解を聴くとか,罪証隠滅のおそれに関わることを聴くとか,そういうことは全くないので,判断の要諦は,要するに罰金を完納することができるかどうか,そこが胆となるのではないのでしょうか。そうだとすると,それは財産状況,あるいは本人の身上関係,そういった客観的な資料で十分判断できることではあるまいかという感じはしました。ただ,事務当局の御説明自体は理解しました。 ○福家幹事 拘禁の対象者について意見を申し上げたいと思います。   「3(3)ア」ですが,このたたき台では,拘禁の対象者として,「(ア)」と「(イ)」のところで,出国禁止命令に違反して出国し,又は出国しようとした者を挙げ,「(ウ)」のところで,逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある者を挙げています。前者と後者とでは,逃亡リスクの程度が大きく異なるのではないかと考えられますし,対象者の範囲についても,後者の方がより広範になると考えられます。この拘禁は,刑法の規定によって労役場留置の執行が30日間猶予されていることの例外であるということ,また,この問題に関する議論の出発点が,罰金の裁判の告知を受けた者が出国することにより労役場留置の執行を免れることを防止する仕組みを設けるという点にあったということを踏まえると,拘禁の対象者は,「(3)ア」の「(ア)」と「(イ)」の,出国禁止命令に違反して出国し,又は出国しようとした者に限るものとするということも考えられるのではないかと考えるところです。 ○鷦鷯幹事 同様の御質問は第11回会議においても頂いており,逃亡のおそれがある者をこの拘禁の対象とする趣旨については,その際にも御説明をさせていただいたとおりです。いずれの要件に該当する者が広いか狭いかという点については,評価の問題かと思います。 ○酒巻部会長 予定していた時間を既に過ぎておりますので,「第9」についての審議はこの程度とさせていただき,次に,「第10 刑の執行等の段階における調査手法の充実化等」について御議論いただきたいと思います。御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小笠原幹事 意見ですけれども,こういう調査をすることの必要性は理解するのですが,令状に基づく調査を行った際に別の犯罪の証拠を発見した場合,その調査の結果は新たな犯罪の証拠として使用できないということを明記すべきではないかと思っております。   というのも,例えば,逃亡先がどこかということを探すために本人の自宅を捜索したら,銃とか覚醒剤が見付かったというような場合,改めて刑事訴訟法上の捜索差押令状を取らない限りは,この調査の令状の結果で得たものを証拠とすべきではないということです。   理由としては,憲法第35条が,正当な理由に基づいて発せられ,かつ捜索差押えや押収するものを明示する令状というものを要求していますけれども,そもそも刑の執行という目的と犯罪捜査のための捜索差押えは目的が違うので,正当な理由というのも異なってくると思います。そうすると,別目的の令状で新たな犯罪の捜査をすることは本来は許されないはずです。もちろん,その令状発付の際に,どこをどこまで探すというのは明らかにされるし,そこはきちんとされるのだろうとは思うのですけれども,ただ,どうしても脱法行為というか,嫌疑が不十分であるにもかかわらず,そのままでは捜査のための捜索差押え令状が出ないからということで,この執行段階の強制調査を利用するとか,そういう脱法目的の利用を防ぐためにも,今言ったような形で,強制調査の結果をそのまま犯罪の証拠とすることがないようにするということは,きちんと規定しておくべきではないかと思いました。 ○吉田幹事 今御指摘のあった点については,刑の執行のための調査の過程で得た証拠はすべからく捜査に使うことができないようにするという一般的な形で論じられるべき問題ではなくて,令状に記載された差し押さえるべき物の範囲の問題に帰着するのではないかという気がいたします。先ほど例に挙げられたようなケース,例えば,刑の執行を受けるべき者の所在を捜している過程で捜索に入ったところ,拳銃が発見されたという場合には,恐らく,その捜索差押え許可状には差し押さえるべき物として拳銃は掲げられていないのだろうと思われます。飽くまで刑の執行を受けるべき者の所在の把握に必要な物を差し押さえるべき物として記載することになると思われますので,元々その令状の記載として,そのようにして発見された拳銃は「差し押さえるべき物」に当たらず,その令状によっては差し押さえることができないということになるのではないかと思われます。   他方で,刑の執行のための調査を遂行している過程で得た情報と,後に犯罪捜査の過程で得られた情報とを照らし合わせるなどした結果,実はそちらの別の犯罪の捜査に活用できることが判明することもあり得るだろうと思われます。その場合には,例えば犯罪捜査としても刑の執行のための調査の過程で差し押さえた証拠物を証拠物として確保する必要があるということであれば,その別の犯罪事実についての差押え許可状の発付を受けた上で,その事件の証拠物として証拠化するということになるだろうと思われます。したがいまして,刑の執行のための調査の過程で得た証拠を一般的に捜査に使えないものとするかどうかということではなくて,もう少し局面に即した形で考えていく必要があるのではないかと思われますし,一般的に禁止しなくても,犯罪捜査の規律の中で適切に対応できるのではないかと思われます。 ○小笠原幹事 正に犯罪捜査の規律の中でというのを明文化するかという話で,全て証拠化できないということではなくて,別に令状を取ればできるということは,私自身も分かっているつもりなので,それをきちんとやりなさいよということを明確にする必要性があるのではないかという趣旨の発言でした。私の中でもまとまっているわけではないのですけれども,通帳などを差し押さえた際に,そこから何か新たな犯罪が判明する,犯罪の利益がその口座に入っているとか,そういうかなり微妙な事案があり得るかと思いますので,そこは一般の捜査とこの調査というのは明確に違うのだという,犯罪捜査のためではないということを,きちんと押さえておく必要性があるのではないかと思いました。 ○笹倉幹事 私は,以前の会議で,刑の執行を念頭に置いて,強制調査の制度を作ることは考え得るという意見を述べましたが,今回のたたき台では,刑の執行に限定するのではなく,裁判の執行のために必要であれば強制調査ができるという選択肢も挙げられています。そして,「B案」のように「刑の執行」に限定せずに,「A案」のように広く「裁判の執行」とすることも十分考え得るのではないかと思いますので,その観点から意見を述べます。   捜索や差押えというと,つい,犯罪捜査のためのそれを念頭において考えてしまいがちですけれども,刑事訴訟法は裁判上の強制処分も規定していますし,さらに刑事手続以外に目を向けますと,犯則調査における臨検・捜索・差押えですとか,税金の滞納処分のための捜索ですとか,虐待されている疑いのある児童の安全確認又は安全確保のための捜索も許されているのであって,刑罰権の実現という目的との関係でしか許されないというものではありません。もちろん,そうは言っても,令状の取得を要件としさえすればどういう場合でも強制調査ができるということにはなるわけではなく,重要な権利利益の実質的な侵害・制約を伴う以上,捜索・差押え等の権限を付与するためにはそれ相応の正当化事由が必要です。   そこで考えてみますと,刑の執行はもとより,訴訟費用や費用賠償の裁判についても,その執行を確保することには高い公益性が認められ,今申し上げたような既存の例と同等,あるいはそれらに準じる公益性があると言ってよいと思います。つまり,刑以外の裁判の執行についてもその執行を確実に行うことができるようにするという観点から,強制調査を行い得るとすることには相応の正当化事由があると言えるということです。   そして,裁判官による個々の事案についての令状審査においては,訴訟費用や費用賠償の裁判についてであれば,それらの裁判の執行として徴収すべき額と,行われる強制調査に伴い対象者が受ける不利益との均衡を含め,必要性・相当性が慎重に吟味されることになるだろうと思われますし,先ほど御指摘のあったような,裁判の執行に名を借りて何かほかのことを進めているという疑いが現にあるのであれば,そこは裁判官によってきちんと審査され,令状を発付しない等の適切な対処がされることになると思われます。そうすると,刑以外の裁判の執行についても強制調査を行い得るものとすることの許容性は,肯定し得ると思われるところです。   したがいまして,「A案」について更に検討を進めていいのではないかと考えます。 ○酒巻部会長 笹倉幹事から「A案」を支持する意見が出たわけですが,ほかの方,御意見はありますでしょうか。あるいは,「第10」全体について,ほかに御意見はありますか。   それでは,「第10」についての審議はこの程度とさせていただきまして,最後に,「第11 刑の時効の停止に関する規定の整備」について議論を行いたいと思います。このテーマについて,何か御意見はありますでしょうか。   御意見がないようですけれども,よろしいでしょうか。   それでは,「第11 時効停止に関する規定の整備」についても議論を終え,一区切りつきましたので,ここで休憩としたいと思います。              (休     憩) ○酒巻部会長 それでは,審議を再開いたします。   休憩前までの審議において,たたき台の「第1」から「第11」までのテーマについて1巡目の議論を行うことができました。ここからは,これまでの議論を踏まえた2巡目の議論を行いたいと思います。取りまとめを見据えつつ,各テーマの相互関係等も含めて御議論いただければと思います。   まず,前回御議論いただいた「第1」から「第5」までについて,2巡目の議論を行います。いずれのテーマについてでも構いませんので,御意見がある方は,挙手の上,どのテーマに関する御意見であるかを明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○小木曽委員 「第1」の「1」,出頭及び報告命令の「(1)」について,一点,申し上げます。ここには,「次のア又はイに掲げる事項の一方又は双方を命ずることができるものとすること」と書いてありまして,「ア」で出頭,「イ」で報告という立て付けになっているわけですけれども,一方又は双方ということですので,出頭だけを命ずる,又は,報告だけを命ずることもできることになっています。   この点については,以前の会議で,出頭と報告はそれぞれ機能が違うので,そのような書き方としているという説明があったと記憶しております。が,以前同様の御意見があったように思いますが,やはり,被告人に出頭だけさせて何もしないで帰らせるというのは,実際には考えにくいのではないかと思います。出頭をさせて,何か報告させて帰らせるのだろうと考えますと,むしろ「イ」の報告をメインにして,報告させるときは出頭させることもできるというような書き方でもいいのかなという感想を持った次第です。 ○鷦鷯幹事 頂いた御意見も踏まえて検討させていただければと思います。 ○酒巻部会長 ほかに,「第1」について御意見はありますか。特にございませんか。それでは,「第2」以降について,何か御意見がありますでしょうか。 ○佐藤委員 「第2」の「6」の罰則について意見を述べたいと思います。このたたき台の「第2」の監督者制度に関しては,罰則の要否そのものが論点となっており,前回の会議においても委員の方々から種々の御意見があったところですが,ここでは,仮に罰則を設けるとした場合の検討課題について,発言いたします。   第8回会議でも発言した点なのですが,監督者が指定された日時・場所に出頭したけれども,被告人が出頭しなかった場合,監督者には,裁判所から命じられたにもかかわらず被告人と共に出頭しなかったという命令違反が認められ得ることとなりますが,監督者が手を尽くしたものの,被告人がかたくなに出頭に応じず,手の打ちようがなかったような場合など,監督者の責めに帰すことが難しい理由で監督者が出頭命令に従うことができなかったという場合も考えられ,そのような場合についてまで監督者を処罰するというのは酷に過ぎるのではないかと考えられます。   たたき台では,そうしたことも踏まえて,そのような監督者の責めに帰すべき事由がない場合は,「正当な理由がなく」義務に違反した場合に当たらず,罰則の対象にならないとしているものと理解しておりますけれども,そのように,第三者が特定の行為をしないために義務を履行することができない場合は義務違反にならないということを法律で表現する場合に,「正当な理由」がある,ないという表現を用いるのが適切なのかという点については,多少違和感を覚えるところでもありますので,なお検討を要するように思われました。   また,特に,義務違反に対して罰則を設ける場合には,どのような行為が義務違反となるかを明確に示すことが求められます。   そうしたことを考えますと,監督者の義務違反に関連して罰則を設けるのであれば,前提となる監督者において履行すべき義務について,例えば,監督者が被告人と共に出頭する義務を負う場合において,被告人が出頭しなかったときは,監督者は所定の事項を裁判所に報告すべきことを内容とした上で,その報告義務の違反に対して設けるといった方法もあり得るのではないかと考えました。 ○鷦鷯幹事 御指摘いただいた点は,以前にも佐藤委員から御指摘を頂いた点です。罰則を設けることとした場合のこととして,御指摘の趣旨を踏まえて,ほかの書きぶりがないか,検討させていただきたいと思います。 ○酒巻部会長 今,「第1」と「第2」について,それぞれ御意見を頂いたところですが,どの項目についてでも結構ですが,ほかに御意見等はございますか。 ○小笠原幹事 「第5」のGPSのところの「4」の「(3)」,「(4)」,「(5)」で,検察官が被告人に係る端末位置情報の確認をすることができるという規定が幾つかありますが,先ほどの裁判の執行の調査権限のところで述べたのと同じように,ここで得た情報をどこまで使えるのかという点について,勾引や保釈取消し後の目的外の使用の禁止,具体的には他の犯罪の証拠とならないことを明確に規定すべきではないかという意見です。GPSに関しては,捜査での使用については令状によるべきという最高裁の判断が出ているところであり,それだけ権利侵害が大きいと言えるところですが,この「(6)」のところで,端末位置情報の確認は「(2)から(5)までによる場合を除き,これをしてはならない」となっていて,一応の歯止めはあるものの,「3」により発せられた勾引状の執行のためにということであれば,それができることになっていて,そのようにしてGPSで得た端末位置情報を,その後どうするかというところまでは規定されてないと思います。ですから,そこはきちんと規定を整備すべきではないかと思います。   あるいは,端末位置情報を証拠とすることができるのだとすると,後日でもいいので,弁護人側もこの端末位置情報の確認ができるようにする規定を,どこかで考えておかなければならないのかなと思いました。 ○吉田幹事 今の御指摘について,少し趣旨を確認させていただければと思うのですが,弁護人が後にGPS端末の情報にアクセスできるようにする目的あるいは趣旨としては,どのようなものを考えていらっしゃるのでしょうか。 ○小笠原幹事 位置情報が刑事裁判に証拠として出てくる場合とか,あるいは,逆に,アリバイの立証として使えるとか,様々あるかと思いますけれども,端末位置情報自体は裁判所に集積されているので,それをどの範囲まで開示していくのかというところで,検察官が確認できるという規定しかなくて,その後どうなるのかが分からない状況なので,被告人やその後の事件の弁護人もそれにアクセスできるようにしておかないと,情報の偏在というか,そういう話になるのではないかという危惧です。ある意味,自己情報コントロール権として,それらについて被告人が後から確認できるようにする,あるいは,保釈の取消しを争うときなどにも,確認が必要になる場合があるかもしれません。   今回の提案だと,GPSを使える場面が,空港その他港湾設備とかへの立入禁止のみで,非常に狭くなっているので,現実的危惧としては少ないかもしれないのですけれども,これが将来広くなっていったときに,例えば,被害者に近付いてはいけませんよ,みたい条件の違反を争うために情報が必要になることがあるのだとすると,今から被告人や弁護人からの情報へのアクセスに関することの整備は考えておいた方がいいのかなと思いました。 ○吉田幹事 今御指摘になった点は,どこかの国家機関が保有する情報がいずれかの犯罪事実の証拠となり得る場合に,その犯罪との関係でその情報をどのように証拠化できるようにするか,という問題ではないかと思われます。その情報が裁判所ではなくて行政機関にある場合にも,同じような問題が生じ得るのだろうと思うのですけれども,今御指摘があったように,別の犯罪の関係で保釈中のGPS情報が必要になる,例えば,アリバイ立証に資するかもしれないということで,それを証拠化したいと弁護側が考えたとしますと,現行の刑事訴訟法の下で,裁判所に対して差押えを申し立てるか,あるいは第1回の公判期日前の証拠保全の手続をとるか,手法は幾つかあり得ると思いますが,そうした今ある証拠収集の手続を使ってアクセスしていくことになるのではないかと思われます。また,検察官がそのGPS端末の位置情報を犯罪捜査に使いたい,証拠としたいということであれば,別途,差押え許可状を得るなどして証拠化する必要が出てくるだろうと思われます。そして,検察官の手元にある証拠化された端末位置情報は,例えば公判前整理手続に付されている場合には,その過程で証拠開示の対象となり,弁護側もアクセスが可能になるということではないかと思われまして,その意味で,このGPS端末の位置情報に特化した形での弁護側のアクセス権についての規定,規律を設ける必要はないのではないかと思われます。 ○小笠原幹事 おっしゃるとおり,別の議論という話になるので,これ以上は言わないですが,それでは結局,起訴されないとなかなか弁護人は端末位置情報にアクセスできないことになり,起訴前はどうなのだということは残りますし,そもそもGPS端末の位置情報の取得については,捜査として行った場合,第三者が管理すべきという意見は日弁連も出しているところで,そのように,裁判の証拠開示の場でなくてもアクセスできるようにするのが本筋ですし,GPS端末を装着させる制度を今回作るのであれば,それを少し先取りして,端末位置情報はどこかが独占するのではなく,関係者が共有できるようにすべきではないかというのが,意見の趣旨でした。 ○和田幹事 「第5」の「5」の罰則のところに関係する意見ないし指摘です。   このたたき台の案では,GPS端末の装着命令を受けた者が所在禁止区域内に所在したときなどについて,1年以下の懲役という法定刑が提案されています。今回提案されているほかの犯罪類型の法定刑と比較したときに,現実の拘禁作用が存在することを前提に,それを侵害する逃走の罪について最も重い法定刑を用意して,単純逃走罪についても3年の懲役を上限とし,それと比較して,保釈されている者などを対象とした各種不出頭罪等の上限を見ると,懲役2年,1年,6月という3段階に割り振られていますが,この各種犯罪への法定刑の割り振りについては,一定の合理性があると思います。また,GPS端末装着命令に反する罪についても,これ自体として1年以下の懲役という法定刑を用意することには一定の合理性があるように思われます。   なぜこれが1年以下の懲役なのかと考えてみたときに,公判期日不出頭の罪について2年の懲役を上限としていますので,それに比べれば危険が小さいということで,より軽い処罰を用意すればよいという考え方かとも推察されるところですが,今回の案,これ自体としてはこれでいいと思うのですけれども,2点ほど,今回のたたき台の案から修正が加わることがあり得るとしたときに考慮すべき点があると思いますので,それについて指摘しておきたいと思います。   一つ目は,前回の会議において,GPS端末が装着されている場合には保釈をされていても自由の制約の程度が大きいので,その間の日数について未決算入を認める可能性を追求すべきであるという御意見があった点についてです。それにも一定の理由があるかもしれませんが,仮にそういう制度を作ることになった場合は,GPS端末が装着されている状態を現に拘禁が続いている状態に準じて評価するということが前提になるわけですので,いわゆるGPS破りの罪については,現実の拘禁作用を侵害した場合により近付けて,より重い法定刑を用意するということとセットで考えるのが整合的なのではないかと思います。   それから,もう一つの点は,今回,全体に罰則の数が多くなっているので,罰則を設けることには謙抑的であるべきだという考え方に基づいて罰則の数を減らしたり法定刑を軽くしたりすべきであり,前回も少し話が出ましたが,例えば単純逃走罪の法定刑の上限を懲役3年ではなくて2年にするという案もあり得るのではないかという御意見があったことについてです。仮に,そのように単純逃走罪の法定刑の上限を2年の懲役としたときには,ほかの不出頭の罪はそれよりも軽くするのがバランス上よいということになりますので,公判期日不出頭の罪の上限が1年の懲役になり,GPS破りの罪については,更にそれより軽くするのがバランス上よいということになって,例えば6月の懲役という話になり得ますが,そうやって全体を軽くしていってしまいますと,逃亡を防止するという今回の諮問の趣旨との関係で,全体に効果が薄くなりすぎるという問題も生じるかと思います。   そうしたときに,先ほどお話ししたように,GPS端末を装着されている状態というのは現実の拘禁が続いている状態に匹敵した自由制約があるのだと考えると,国の側にはそれの反射的な利益があると考えて,それが破られたときの違法性の大きさは,現実の拘禁状態が破られたときのそれに近付けて考えることになり,公判期日不出頭の罪と同じ法定刑を用意するとしても,それは十分説明が付くことになるのではないかと考えた次第です。   全て仮定の話ですけれども,今回の案はこれとして一定の合理性があると考えており,ただ,ここから何かほかの制度を付け加えたり,少し法定刑を変えたりすると,全体のバランス上,幾つか問題が生じてくると思いますので,それに対する対応について気が付いたことを述べさせていただきました。 ○酒巻部会長 今の御指摘について,御意見等はありますか。   それ以外の「第1」から「第5」までについて,ほかに御意見はございますか。   それでは,「第1」から「第5」までについての2巡目の議論はこの程度とさせていただきまして,続いて,「第6」から「第11」までについての2巡目の議論を行いたいと思います。いずれのテーマについてでも構いませんので,御意見のある方は,挙手の上,どのテーマに関する御意見であるかを明示した上,御発言をお願いします。 ○天野委員 「第10」の「4(1)」で「A案」,「B案」があるところですが,私は「B案」に賛成なのですが,「A案」だと,例えば,身柄はもうあるのだけれども,訴訟費用を徴収するために強制処分を使うということになるのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 「A案」の「裁判の執行」というときには,御指摘の訴訟費用の裁判の執行も含まれ得ることとなりますので,その執行に関して必要があるときには,裁判官から令状が得られることが前提ですが,行い得るものとして記載しております。「身柄はあるのだけれども」という御発言の趣旨が明らかではなかったので,お答えになっていなければ,御説明いただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○天野委員 身柄が確保できているときでも,裁判の執行に関して必要があるときにはこの強制的な調査権限があるとすると,逃亡防止という趣旨からすると結構広いなと思っています。必要性がよく分からなかったというか,身柄は確保できているけれども,ほかの理由で強制的な調査が必要な場合というのが想定できなかったのです。   自分でもまだまとまっていないのですけれども,実質的に結構強い権限を与えるわけで,実際に今も民事執行法などに基づいて執行できているものもあると思いますので,必要性が今一つよく分からないなというところです。刑の執行の段階における調査手法の充実化は必要だと思いますし,賛成なのですけれども,逃亡防止のための制度構築という観点からすれば,そこは「B案」でもいいのかなという意見です。 ○吉田幹事 若干,趣旨を御説明いたしますと,裁判の執行といった場合には,先ほど鷦鷯幹事から申し上げたように,訴訟費用の裁判ですとか,あるいは費用賠償の裁判といったものも含まれてくることになります。具体的な事案において強制処分が実際に許されるかどうかについては,令状発付の際に裁判官によって審査がなされることになります。この「A案」,「B案」いずれについても,必要があると認めるときと要件を記載していますが,これは,捜査段階における捜索・差押え等についての刑事訴訟法第218条第1項に規定されているのと同様の趣旨でして,令状審査に当たり,その強制処分が必要かというときに,制約される利益,被侵害利益との関係で,その強制処分が過度にわたっていないかという均衡の観点からも判断がなされるものと思われますので,明らかに強制処分をしなくても目的を達し得るという場合には,この令状が発付されないということになるのではないかと思われます。   他方で,強制処分を行う場合には,対象者の身柄を確保する,所在を把握するという場合と,それから,財産刑や費用賠償などについて,それに充てるための財産の所在を把握するという場合の二つの側面で調査が必要になってまいります。例えば,刑の執行の対象となる者や費用賠償をすべき者が身柄拘束を受けていて,その所在が把握されている場合であっても,収容されるときに全く財産を持ってきていないというような場合には,別のところに財産があるかもしれないということで,それを探すことは一応考えられるかと思います。もちろん,事案によりますので,捜索・差押えまでして対応すべきものなのかどうかという判断は介在しますが,一応そういうことは考え得るということで,制度上は対象から外さず,あとは具体的な事案に即して裁判官の令状審査によって適切に対応すると,そういう趣旨のものです。 ○酒巻部会長 ほかに,「第6」から「第11」までについて御意見がある方は,挙手をお願いいたします。よろしいですか。それでは,「第6」から「第11」までについての2巡目の議論は,この程度とさせていただきます。   2巡目の議論を終結するに当たり,改めて確認ですが,「第1」から「第11」までについて,まだ御意見がありましたら,この時点において承りますが,よろしいですか。   それでは,御意見がないようですので,これで2巡目の議論を終結します。   様々な観点から御議論いただき,本当にありがとうございました。   今後の審議の進め方について,私から提案させていただきたいと思います。   この部会では,「取りまとめに向けたたたき台」に基づき,各テーマについて2巡にわたる議論を行いました。これまでの議論状況を踏まえますと,議論は相当熟しつつあり,当部会として結論を出す段階に入っていると認識しております。   そこで,事務当局には,本日の議論も含め,これまでの御指摘や議論を踏まえて「要綱骨子案」を作成していただき,次回の会議では,その「要綱骨子案」に基づいて,議論の進捗状況によっては採決をするということも念頭に置きつつ,詰めの議論を行いたいと思います。   また,「要綱骨子案」を作成するに当たっては,事務当局において,「取りまとめに向けたたたき台」を改めて精査していただき,条文化した場合の規定ぶりなどについても意識をしつつ,より適切なものが考えられるのであれば,それを示してもらうということにしたいと思います。   今申し上げたような進め方でよろしいでしょうか。              (異議なし)   それでは,そのようなに進めさせていただきます。   次回の会議の日程については,事務当局の要綱骨子案作成の作業もあることから,追ってお伝えすることとし,決まり次第,事務当局を通じて皆様にお知らせすることとさせていただきます。   本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料につきましても公表することとしたいと思います。そのような取扱いでよろしいでしょうか。              (異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日も,暑い中,ありがとうございました。 -了-