法制審議会 刑事法 (侮辱罪の法定刑関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和3年9月22日(水)   自 午前9時34分                        至 午後0時18分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 侮辱罪の法定刑の改正について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗木幹事 ただいまから法制審議会刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は御多忙のところ,侮辱罪の法定刑についての御審議に御出席いただき,誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間,慣例により,私が進行を務めさせていただきます。   最初に,私から,この度部会が開催されるに至った経緯等につきまして,御説明申し上げます。   本年9月16日,法務大臣から,「侮辱罪の法定刑に関する諮問」(諮問第118号)がなされ,同日開催された法制審議会第191回会議において,この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。   そして,同会議において,この諮問について審議するための部会として,「刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会」を設けることが決定され,同部会を構成する委員及び幹事が,法制審議会の一任を受けた会長から指名され,本日ここに御出席いただいたところでございます。   委員や幹事の方々におかれましては,初対面の方も少なくないかと存じますので,まず簡単にお名前,御所属等を伺えればと存じます。   また,後ほど出席の承認の手続をお願いいたしますが,関係官も出席されていますので,併せて自己紹介をお願いいたします。   自己紹介をしていただく順番ですが,まず,法務省会場に御参集の委員・幹事の方々に,池田委員から反時計回りで着席順に自己紹介をお願いいたします。その後,オンラインにより御出席の委員・幹事の方々に順番にお声掛けいたしますので,五十音順に自己紹介をお願いいたします。 ○池田委員 弁護士の池田綾子と申します。民事,刑事の一般的な事件を扱っております。よろしくお願いいたします。 ○井田委員 井田でございます。中央大学で刑法を教えております。よろしくお願いいたします。 ○今井委員 今井でございます。法政大学で刑法の研究,教育を行っております。よろしくお願いいたします。 ○品川委員 品川しのぶでございます。現在,東京地方裁判所の刑事第4部で執務しております。よろしくお願いいたします。 ○佐伯委員 佐伯仁志でございます。中央大学で刑法を教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○栗木幹事 法務省刑事局参事官の栗木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉田幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の吉田と申します。よろしくお願いいたします。 ○保坂幹事 法務省刑事局で審議官をしております保坂と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 それでは,オンラインにより御出席の方々にお願いいたします。 ○築委員 築でございます。最高検察庁の監察指導部で勤務しております。よろしくお願いいたします。 ○中谷委員 一般社団法人セーファーインターネット協会の副会長の中谷と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤本委員 警察庁刑事局長の藤本です。よろしくお願いいたします。 ○吉崎委員 最高裁判所刑事局長の吉崎でございます。よろしくお願いいたします。 ○井上関係官 法務省特別顧問を務めております井上と申します。刑事訴訟法の研究者でございます。よろしくお願いします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局参事官をしていますくのぎでございます。よろしくお願いいたします。 ○小池幹事 小池でございます。慶應義塾大学で刑法を担当しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○柴田幹事 弁護士の柴田でございます。日本弁護士連合会の犯罪被害者支援委員会に所属しております。東京弁護士会の方でも犯罪被害者支援委員会に所属しております。よろしくお願いいたします。 ○中山幹事 警察庁刑事局捜査第一課長の中山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○福家幹事 最高裁判所刑事局第一課長兼第三課長の福家と申します。よろしくお願いいたします。 ○安田幹事 安田でございます。京都大学で刑法を講じております。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   次に,部会長の選任手続に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により,部会長は,部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。   そこで,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,部会長の選任手続について,御質問等はございますでしょうか。   御質問等はないようですので,皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか,御意見はございますでしょうか。 ○井田委員 佐伯仁志委員を部会長として推薦させていただきたいと思います。   佐伯委員は法制審議会の委員でもいらっしゃいますし,また長年にわたり刑事立法に関わっておられ,御高見をお持ちですので,部会長として最適任かと考えております。 ○川原委員 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○今井委員 私も,佐伯委員を部会長に推薦したいと思います。   佐伯委員はこれまで,名誉,プライバシーの刑法的保護に関しまして,学会をリードする業績を継続的に発表されてきました。それらの論文の中で,侮辱罪についても随所で深い洞察を示されております。   そこで,当部会長には最もふさわしい方だと思う次第であります。 ○川原委員 ただいま井田委員・今井委員から,佐伯仁志委員を部会長に推薦する旨の御提案を頂きましたが,この御提案に対して御意見等はございますでしょうか。   ほかに御意見がないようですので,当部会の部会長として,佐伯仁志委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   また,佐伯委員におかれても,部会長をお引き受けいただくということでよろしいでしょうか。             (一同異議なし) ○川原委員 ありがとうございます。それでは,互選の結果,佐伯仁志委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で,内田貴法制審議会会長に部会長を指名していただこうと思います。本日は電話による指名となりますので,内田会長と連絡を取るまでの間,一旦会議を休憩とし,午前9時50分から再開したいと存じます。では,一旦休憩といたします。             (休     憩) ○川原委員 再開いたします。   内田会長と連絡を取りましたところ,内田会長により佐伯仁志委員が当部会の部会長として指名され,これをもって,佐伯仁志委員が部会長に選任されました。   佐伯委員には,休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので,この後の進行をお願いしたいと存じます。   それでは,佐伯部会長,よろしくお願いいたします。 ○佐伯部会長 ただいま部会長に選任されました佐伯でございます。円滑で充実した審議ができますよう,部会の運営に努めてまいりますので,皆様方の御協力のほどよろしくお願い申し上げます。   まずは,法制審議会令第6条第5項により,部会長に事故があるときに,その職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,指名をいたします。今井委員にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。   次に,関係官の出席の承認の件でございますが,法務省特別顧問の井上正仁氏に関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。             (一同異議なし) ○佐伯部会長 それでは,井上氏には,当部会の会議に御出席を願うことといたします。   次に,当部会の議事録についてでございますが,その作成・公表の方法を決めるに当たりまして,まず,これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて,事務当局から説明をお願いいたします。 ○栗木幹事 これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて御説明いたします。   平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法に関しては,総会については,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,これを公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保障するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,これを公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,これを公開することが原則となりますが,部会長におかれて委員の皆様の御意見をお聞きし,ただいま申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○佐伯部会長 ただいまの御説明について,何か御質問はございますでしょうか。   ただいまの御説明を踏まえて考えますと,当部会における審議の内容を広く国民の皆さんに知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開することが相当ではないかと考えるところでございます。   そこで,私といたしましては,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,原則としてこれを法務省のウェブサイト上において公表するという取扱いにしてはいかがかと考えます。   もっとも,今の説明にありましたとおり,審議事項の内容その他の事項を考慮して,発言者名等を公表することが相当でないと考えられるような場合には,その都度皆様にお諮りして,部分的に公表しない措置を採ることとしたいと考えますが,いかがでございますでしょうか。             (一同異議なし) ○佐伯部会長 御異議はないようでございますので,議事録につきましては,発言者名を明らかにしたものを作成の上,原則としてこれを公表するという取扱いとさせていただきたいと思います。   それでは,先の法制審議会総会におきまして,当部会で調査審議するように決定のありました諮問第118号について,審議を行います。   まず,諮問を朗読してもらいます。 ○栗木幹事 諮問第118号   近年における侮辱の罪の実情等に鑑み,早急にその法定刑を改正する必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙要綱(骨子)   侮辱の罪(刑法第231条)の法定刑を1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とすること。 ○佐伯部会長 次に,事務当局から,諮問に至る経緯及び諮問の趣旨等について説明をしてもらいます。 ○吉田幹事 諮問第118号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明いたします。   近時,インターネット上において,誹謗中傷を内容とする書き込みを行う事案が少なからず見受けられます。   このような誹謗中傷は,容易に拡散する一方で,インターネット上から完全に削除することが極めて困難となります。また,匿名性の高い環境で誹謗中傷が行われる上,タイムライン式のSNSでは,先行する書き込みを受けて次々と書き込みがなされることから,過激な内容を書き込むことへの心理的抑制力が低下し,その内容が非常に先鋭化することとなります。インターネット上の誹謗中傷は,このような特徴を有することから,他人の名誉を侵害する程度が大きいなどとして,重大な社会問題となっています。   他方で,他人に対する誹謗中傷は,インターネット以外の方法によるものも散見されるところであり,これらによる名誉侵害の程度にも大きいものがあります。   こうした誹謗中傷が行われた場合,刑法の名誉毀損罪又は侮辱罪に該当し得ることになりますが,侮辱罪の法定刑は,刑法の罪の中で最も軽い「拘留又は科料」とされています。   こうした現状を受け,インターネット上の誹謗中傷が特に社会問題化していることを契機として,誹謗中傷全般に対する非難が高まるとともに,こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識も高まっていることに鑑みると,公然と人を侮辱する侮辱罪について,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,これを抑止することが必要であると考えられます。   そこで,早急に侮辱罪の法定刑を改正する必要があると思われることから,今回の諮問に至ったものです。   次に,諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   配布資料1を御覧ください。   今回の諮問に際しましては,事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので,この案を基に,具体的な御審議をお願いいたします。   要綱(骨子)について御説明申し上げます。   これは,侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げることとするものです。   先ほど申し上げたように,誹謗中傷が行われた場合の罰則としては,名誉毀損罪及び侮辱罪が考えられますが,名誉毀損罪の法定刑は懲役・禁錮と罰金が選択刑として設けられ,また,その懲役・禁錮の長期と罰金の多額も相応に重いものであるといえます。   一方,名誉毀損罪と侮辱罪とでは法定刑に大きな差が設けられており,侮辱罪に該当する行為に対する法的評価は適切に示されておらず,その抑止にも十分なものではないと考えられます。   また,「事実を摘示」したかどうか,すなわち,どのような事実をどの程度具体的に摘示すれば足りるかの評価は,その性質上,微妙なところがあり,事実の摘示があったと評価し難い事案は,侮辱罪で処理せざるを得ない結果,名誉侵害に対する法的評価を適切に行うことが困難な場合があると考えられるところです。   そこで,近年における侮辱罪の実情等に鑑み,公然と人を侮辱する侮辱罪について,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すとともに,その威嚇力によってこれを抑止するため,侮辱罪の法定刑を名誉毀損罪に準じたものに引き上げることとするものであり,具体的には,名誉毀損罪の法定刑が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」とされていることに鑑み,侮辱罪における懲役・禁錮の長期を「1年」,罰金の多額を「30万円」とすることとしています。   要綱(骨子)の概要は以上のとおりです。   十分御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますよう,よろしくお願いいたします。 ○佐伯部会長 次に,事務当局から,配布資料について説明をしてもらいます。 ○栗木幹事 配布資料について御説明いたします。   まず,資料1は,先ほど朗読いたしました諮問第118号です。   資料2は,基礎的な統計資料です。そのうち,第1表は,侮辱罪の科刑状況です。第2表は,名誉毀損罪の科刑状況です。   資料3は,侮辱罪の事例集です。令和2年の通常第一審終局事件のうち,判決又は略式命令があった事件であって侮辱罪のみで処断されたものについて,事案の概要と,判決又は略式命令の内容をまとめています。   また,中谷委員から,御発言の際の補助資料として「誹謗中傷ホットライン 概要資料」と題する資料が提出されていますので,委員提出資料として併せて配布しています。   配布資料の説明は以上です。 ○佐伯部会長 次に,事務当局から,先の法制審議会総会において出された御意見の紹介をしてもらいます。 ○栗木幹事 今回の諮問がなされた9月16日の法制審議会総会において,委員の方から出された御意見について,概要を御説明いたします。   まず,一つ目は,「近時の誹謗中傷に関する実情に鑑みれば,本諮問は,抑止力という観点から,非常に重要な検討課題であると認識している。その一方で,どういった行為が侮辱罪に該当することとなるのかという判断基準が曖昧ではないかという懸念を持っている」というものでした。   次に,二つ目は,「インターネット上の誹謗中傷については,容易に行うことができ,拡散しやすい一方で,完全に削除することが困難であるため,被害が甚大となる場合があることから,重要な課題であると認識している。その上で,本諮問について検討するに当たっては,民主主義の根幹であり,憲法で保障されている表現の自由への萎縮効果について考慮する必要があると考えている。すなわち,要綱(骨子)に記載の法定刑を前提とすると,定まった住居がある場合でも,逮捕・勾留され得ることとなるほか,侮辱罪については,名誉毀損罪と異なり,公共の利害に関する事実の場合の特例が設けられていないことから,公益的な論評についても逮捕・勾留や処罰の対象とされ,表現の自由への萎縮効果をもたらすのではないかと懸念しているところであり,こうしたことを念頭に置いて慎重に審議することを求める」というものでした。   御説明は以上です。 ○佐伯部会長 これまでの事務当局からの説明内容につきまして御質問等がございましたら,お願いいたします。よろしいでしょうか。   それでは,諮問事項の審議に入りたいと思います。   先ほど事務当局から御説明がありましたとおり,今回の諮問に係る要綱(骨子)は,近年における侮辱罪の実情等に鑑み,侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げることとするものです。   そこで,この要綱(骨子)に沿って,まず,総論として,侮辱罪の法定刑を引き上げる必要性や相当性について審議を行い,その後,各論として,引き上げる場合にはどのような法定刑とするべきかについて審議を行いたいと思います。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。             (一同異議なし) ○佐伯部会長 ありがとうございます。それでは,そのように審議を進めさせていただきます。   まず,侮辱罪の法定刑を引き上げる必要性,相当性について御意見,御質問等がありましたら,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○井田委員 侮辱罪の法定刑を引き上げるべきであるとの主張を基礎付ける立法事実としては,先ほどもインターネットの普及とそこにおける被害の重大性ということが指摘されました。そういうインターネット上の誹謗中傷について,先ほど簡単な事例の紹介もありましたが,もう少しどういう被害実態があるのか詳しく御紹介いただけると,後の議論のために役立つのではないかと考えます。 ○栗木幹事 事務当局から,近時のインターネット上における誹謗中傷の例を御紹介したいと思います。   配布資料3「侮辱罪の事例集」にもインターネット上の誹謗中傷の例がございますが,それ以外のものといたしまして,例えば,被告人がインターネット上において「成形その他で見た目を誤魔化し名前なども成り済ます習性が極めて強い性質は攻撃的かつ狂暴で人類との協調性・人間社会モラールなどの持ち合わせ無し」などと書き込み,公然と被害者を侮辱した事案について,侮辱罪により科料9,000円に処したものがございます。   また,被告人がインターネット上において「特に様々な情報から正解を類推するという能力が著しく劣っている」,「性格は基本的に臆病で猜疑心が強い,ただし自分が圧倒的に有利だと判断した時には,非常に攻撃的になる場合がある」,「童顔だが若く見えるというよりは内面の幼児性が顕れたような容貌」,「日常的に他者と会話する機会に乏しく,コミュニケーション能力は低い」などと書き込み,公然と被害者を侮辱した事案について,侮辱罪により科料9,000円に処したものなどがあると承知しているところでございます。 ○安田幹事 ただいまの井田委員の御質問にも関わりますが,冒頭で事務当局から,誹謗中傷に対する非難が高まるとともに,こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識が高まっているという御説明がございました。立法ですので,その立法事実についてどのように把握されているのか。その辺りにつきましてもう少し御教授をお願いできますでしょうか。 ○栗木幹事 誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識は高まっているという点でございますけれども,近時,インターネット上の誹謗中傷が特に社会問題化していることを契機として,誹謗中傷全般に対する非難が高まるとともに,こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民意識は高まっているという傾向を示すものといたしまして,次のような新聞報道があると承知しております。   まず,令和2年12月18日付け読売新聞は,「侮辱罪は法定刑が拘留(30日未満)または科料(1万円未満)と軽く,十分な抑止力になるとは言い難い」,「国は,罰則の強化などを含め,悪質な中傷をなくしていくための対策を急ぐべきだ」との意見を掲載しています。   また,令和3年4月9日付け東京新聞は,「侮辱罪は明治時代から変わっておらず,「拘留又は科料」とする侮辱罪の法定刑は,刑法の中で最も軽い。死に追いつめるほど人格を深く傷つける結果に対し,妥当な刑罰なのか。時効期間も含めて,法務省のプロジェクトチームで議論が進んでおり,注視したい」との意見を掲載しています。   さらに,令和3年5月23日付け日本経済新聞は,「事実を示さずに社会的評価を低下させる侮辱罪の公訴時効は1年。具体的な事実を示して他人の名誉を傷つける名誉毀損罪の3年と比べても短」いとし,「侮辱罪がネット上の中傷を想定していない。逃げ得を許さないための公訴時効の延長と,被害の未然防止のための罰則強化が有効なのではないか」との学者の見解を紹介しています。   また,令和2年6月,日本財団が全国の17歳から19歳までの男女1,000人を対象にインターネットで実施した「18歳意識調査」においては,SNS上での誹謗中傷を防ぐためには「法整備が必要」と考える者が75.5%に上り,法整備に盛り込むべき点については,「誹謗中傷の発信者への厳罰化」が59.2%であったものと承知しております。 ○中谷委員 インターネット上の誹謗中傷に関して,セーファーインターネット協会で誹謗中傷ホットラインを昨年から運用しています。その運用から見た実態ということで御報告,情報共有させていただきたいと思います。   「誹謗中傷ホットライン 概要資料」の2枚目ですけれども,左側半分が実際のウェブサイトの画面で,その下の方にあります「誹謗中傷ホットラインに連絡をする」をクリックすると,ホットラインに連絡をすることができます。これは,昨年6月29日から運用を開始しております。発端は木村花さんの件でございます。   本人からの申告が基本にはなるのですけれども,子供が被害者の場合については,保護者や学校関係者からも被害通報を受け付けています。内容を見て,誹謗中傷に当たるということであれば,それをプロバイダ等に連絡をして,約款に基づいて削除していただくという流れになっています。   3枚目ですが,昨年6月29日から今年8月31日までの約1年の間に,1,665名,合計で3,143件の申告がありました。そのうち832件について,プロバイダ等に削除を要請しています。   4枚目,これはざっとした流れなのですけれども,例えば,2021年6月は申告数が上がっていますけれども,これは,1人の被害者から100件ぐらい申請があり,少しスパイクするのですけれども,1か月に大体200件前後というのが申告数の大きなトレンドです。   5枚目,実際に,誹謗中傷に当たるとセーファーインターネット協会で判断をして削除要請をした数が,全部で832件。逆に言うと,個別の誹謗中傷に当たらないということの方が多いのですけれども,これは,資料に書かせていただいておりますけれども,個人が特定できないということや,その他の理由で,実際には誹謗中傷に当たらないだろうと判断したものです。   6枚目ですが,実際には1件につき何個かURLを削除してくださいというのが来ていますので,832件の通報から,約2,000のURLについて対応したということなのですけれども,見ていただきますと,若干削除率が低いところは,海外のプロバイダ等という傾向があります。これは,大体要請して1週間後ぐらいにチェックしているので,もしかしたら2週間,3週間後に削除されているのかもしれませんけれども,8割ぐらいは消していただいているというのが現状です。サービスについても,掲示板が一番多いといった状況でございます。   8枚目は,実際の削除要請事例なのですけれども,左が2ちゃんねる,右がユーチューブということで,両方とも削除要請して,削除完了しているのですが,通報内容は,本人から誹謗中傷されましたということで相談があり,その通報があったURLを見てみると,個人の名前が書いてあったものです。右についても同じです。実際に,こういった内容で簡単にできてしまいますので,インターネット上,これはたくさんあるものの一部の事例でございます。   9枚目は,ほかの事例ですけれども,インスタグラムとかフェイスブックです。左のものについては,個別の中学校名,個人の名前が書かれた上で,「胸見せます」みたいなことが,侮辱的な表現が書いてあるものです。右側については,特定のマネージャーについて名前を出して,HIVウイルスを持っていますというようなことで,これも侮辱しているということで,これは削除要請して,左のインスタグラムの方は,まだ未削除という事例であります。こういうものがたくさんございます。   10枚目ですが,その他で,ちょっと特徴的なのは,ホットラインの方に申告があった事例で,ある一人が加害コメント,誹謗中傷をしますと,それに乗っかる形で,ほかの人が誹謗中傷するといった事例があります。その紹介です。   11枚目は,ツイッターなのですけれども,これは,特定の事件の,加害者と名指しされたお子さんの親から来たものです。これは,通報自体で,ツイッターのトップページのURLが申告されており,実際の投稿が分からなかったので,我々はツイッターには何もアクションを起こしていないのですけれども,数か月後,事務局の方で改めていろいろ探してみると,右のような投稿が見付かりました。この件については,申告がこうした投稿についてその後なされていないので,対応はしていないものでございます。   12枚目は,削除要請して,未削除のものですけれども,爆サイという地方版の掲示板サイトで,マスキングしている部分について個人名が書いてあり,これは侮辱・誹謗中傷だということで,削除要請をしております。   事務当局から御説明がありましたけれども,何が侮辱なのかという点は,なかなか難しいところがセーファーインターネット協会の事務局でもございまして,そういった場合に,我々,エスカレーションプロセスというのを持っておりまして,担当者では判断が難しい場合については,定例会議というものを開くのですけれども,それでもなかなか判断が難しい場合については,英知法律事務所の森弁護士に,いわゆるホットラインの顧問弁護士的な立場でいていただきまして,アドバイスを得ているというような形で担保をしているといった現状です。   御参考にしていただければと思います。ありがとうございました。 ○柴田幹事 統計的なものではなくて,個人的な経験で言わせていただきますと,実際に,侮辱罪や名誉毀損に当たるようなインターネット上の書き込みがあって,それを警察に届け出ても,なかなか動いてくれなくて,書き込みがひどくなって,殺してやるとか外を出歩けると思うなよ,というような,脅迫に該当するような形になって,ようやく動いてくれたという経験もあります。インターネット上の誹謗中傷のひどさというものの経験で言うと,ほかの事件の被害者,リンチで,結局傷害致死で亡くなられた女性の被害者の方に対してですとか,めった刺しにされた殺人未遂の被害者で,後遺症に苦しんでいられるような被害者ですとか,強制性交等殺人の被害者とか,そういう被害者,特に報道された事件の被害者女性に対する誹謗中傷というのが,本当にいたたまれないというか,殺人事件ですとか,傷害致死の事件の被害者支援として,御遺族についたり,その被害者についたりしているときに,ネット上で,ブスだとか,こんな女が殺されて当然だとか,刺されて当然だとか,この女とやれるなんて犯人はすごいとか,そういうひどい書き込みが何十という,もう数え切れないほどたくさん来るのです。   そういう書き込みがなされても,ネットを見なければいいではないかという意見もあるかもしれないですけれども,周りの人が善意で,こんなひどい書き込みをされていたよ,と教えてくれてしまうのです。そのため,ネットの影響力というのはやはりすごく大きくて,耳を塞ぎたくても塞げないような状況に現在なっていて,しかも,相手が誰かも分からないのが何十人も書き込んで,もう世間からというか,周りから本当に叩かれているという感じになって,ただでさえ加害者に対する恨みというか,怒りというか,御遺族とか,娘ですとか妹を亡くした悲しみにもう沈んでいるときに,そういうネットの書き込みにまで対応なんてできないのですよね。もう本当に心が折れているというか,加害者に対する対応ですら一杯一杯なところに,こういうことまでされると,本当にもう何もできないというか,そこまで動けないというのが実際のところで,こういうネット上の書き込みが減ってもらわないと困ると思っています。   プロバイダ責任制限法が改正されましたけれども,それで,民事で対応すればいいではないかという御意見もあるかもしれませんが,やはり,被害者や御遺族が別のネット上の書き込みにまで対応なんて,無理だと思っています。   実際にそういう事件で,警察が動いてくれたというのは,特殊な事情があって,私が担当した中の一件は,警察が積極的に動いてくれて,たくさん書き込みのある中,4件ほど立件してもらったのですけれども,結局それも全部,ちょっとのりで書きましたとか,見たこともないけれども,みんなが書いているからとか,ついやってしまいました,こういうのは初めてです,ということで,全部起訴猶予で終わってしまって,この間,被害者のお母さんとも話しましたけれども,こういうことをきちんと処罰してくれないと,全然減らないではないかというお話はされていました。やはり侮辱罪,ネット上の書き込みに対する対応というのは,きちんと刑事で,刑を引き上げて処罰してもらわなければならないと感じています。   先日,日本弁護士連合会の犯罪被害者支援委員会で,同じような話をさせていただいたときに,ほかの委員も同じ意見を述べており,反対意見はありませんでしたので,委員会としても同意見であったと理解しています。 ○池田委員 インターネットで人格を否定するような書き込みをされる被害というものがあって,これに対して何かしなければならないという声があるのは,もっともなことだと思います。   かねて問題が指摘されていましたけれども,匿名での発言で被害を受けた場合には,削除や損害賠償を求めることはとても困難で,手続も厄介で時間も掛かります。今,柴田幹事もおっしゃったとおりです。それらの手続によっても,実質的な救済とはいえないという問題もあります。裁判所の手続,また,今般のプロバイダ責任制限法の改正で,少しはやりやすい手段が追加的に提供されるといっても,被害に遭ったときに,実際にそれを行うということに相当な負担があることは否めません。また,慰謝料の額についても一般に低額に過ぎると言われています。   一方で,これらと全く異なる視点から,元々,侮辱罪や名誉毀損罪というのが,政府批判を封じるための讒謗律として生まれて,新聞紙条例とともに不都合な言論の取締りが目指されていたということが想起されます。これはその後,戦後の1947年に表現の自由と名誉の保護との調和を図るために,刑法第230条の2の規定が新設されて,事実の公共性,目的の公益性,真実の証明等で不処罰とされることとなりました。侮辱罪についても,その事実の摘示の点は異なるものの,この規定の趣旨が適用されると考えられますけれども,この点は疑義のないように明記すべきです。民主主義の健全な発展の中で最も尊重されるべき言論の自由を,不当に萎縮させるようなことがあってはなりません。   一般人に対して,その人格を否定するようなインターネットの書き込みは許容されませんが,その防止のために不当に言論の自由が制限されることがあってはならないと考えます。   これらを達成するには,まずはインターネットでそういった書き込みがなされないように広く啓発すること。仮に,侮辱である書き込みがなされた場合に,プラットフォーマー等において,外部からの指摘があった場合を含めて速やかに削除することなどの対応が望まれます。仮に,プラットフォーマーが,明らかに侮辱と考えられる書き込みを,指摘を受けたにもかかわらず放置したというような場合には,プラットフォーマーの責任も問われ得ると考えます。   そして,民事責任の追及が迅速かつより実効的なものになることも推進されるべきだと考えます。   表現の自由に関する国連の自由権規約19条に関して,規約委員会が2011年に採択した一般的意見34の47項では,名誉毀損等について,締約国が非犯罪化を検討すべきで,刑法の適用は最も重大な事件にのみ容認されなければならないとし,拘禁刑は適切な刑罰ではないとしています。   これらについての諸外国の状況もよく検討して,侮辱罪の法定刑の引上げについては多角的かつ慎重な検討をすることが必要だと考えます。 ○栗木幹事 表現の自由との関係で御指摘を頂きました。   まず,今般の法整備でございますが,これまでも申し上げているとおり,近時の侮辱の罪の実情等に鑑み,公然と人を侮辱する侮辱罪につきまして,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,これを抑止するため,その法定刑の上限を名誉毀損罪に準じたものに引き上げるものでございますが,構成要件に変更はなく,処罰の対象となる行為は変わらない上,懲役・禁錮及び罰金を選択刑として加えることによって,当罰性の高い侮辱行為に対して厳正な対処を可能としている一方で,拘留・科料を存置することとしており,当罰性の低い行為を含めて,侮辱行為を一律に重く処罰することを趣旨とするものではございません。   したがいまして,今般の法整備は,当罰性の著しく低い正当な言論についてまで抑止しようとするものではなく,もとより,憲法が保障する表現の自由を不当に侵害するものではないと考えているところでございます。   また,名誉毀損罪の場合には,言論の自由との調和を図った刑法第230条の2の規定があることに関連いたしまして,侮辱行為に該当する言論についても,そういった処罰されない場合を明記すべきではないかといった御指摘も頂いたと承知しております。この点については,御指摘のとおり名誉毀損罪は名誉を害する具体的な事実を摘示する行為を処罰の対象とするもので,刑法第230条の2はこれを前提として,その個人の名誉の保護と憲法第21条による正当な言論の保障との調和を図るため,摘示された事実が公共の利害に係り,専ら公益を図る目的で行われた場合に,真実性の証明があったときは,その行為を処罰しないこととするものでございます。   侮辱罪は,事実の摘示をしないで他人に対する軽蔑の表示をする行為を処罰の対象とするものでございまして,刑法第230条の2は適用されませんが,言論・表現の自由との調和を図る観点から,人の社会的評価を損なう言論であっても,「公正な論評」については処罰されるべきでないとの指摘があると承知しております。しかしながら,「公平な論評」を処罰しない旨の明文の規定を設けることにつきましては,先ほど申し上げたとおり,侮辱罪が処罰の対象とする行為が,事実の摘示を伴わないものでございますので,そういった論評の前提となります,自らは摘示していない事実の内容の公共性や真実性に着目して,「公正な論評」に該当するための要件や,その証明の在り方を定めることは容易ではないと考えられます。   先ほど申し上げたとおり,そもそも今般の法整備は,近時の侮辱の罪の実情に鑑みまして,喫緊の対応として法定刑の引上げを行うものでございます。侮辱罪の構成要件を変更するものではなく,処罰の対象となる行為は変わらないことからいたしますと,そのような「公正な論評」の取扱いについて規定を設けることが必要となるものではないと考えられるところでございまして,今般の法整備はそのような論評について処罰しない旨の規定を設けることとはしていないものでございます。 ○築委員 今回の法整備が,言論・表現の自由に萎縮効果をもたらすのではないかという点に関連しまして,検察の立場から一言申し上げたいと思います。   検察当局においては,これまでも,侮辱罪に係る事件を含む各種事件の処理に当たりましては,言論・表現の自由にも配慮し,論評その他の表現活動の正当性の有無・程度も考慮しつつ,犯罪の成否や訴追の要否を適切に判断してまいりました。   今回の法整備の趣旨につきましては,ただいま事務当局から御説明いただきましたが,この法整備は侮辱罪による処罰の対象を変更するものではありませんので,犯罪の成否の判断の在り方はこれまでと変わらないと考えています。   また,今回の法整備は,法定刑の下限というべき拘留・科料をそのまま維持していることからして,当罰性の低い事案についてまで一律に重く処罰することを求めるものではないことは明らかですので,訴追の要否の判断についても,これまでと同様,諸般の事情を考慮して,当罰性の程度を見極めつつ行うことになると考えられます。   検察当局といたしましては,今回の法整備がなされた後においても,その趣旨を踏まえつつ,当罰性の高い侮辱行為には厳正に対処することはもとよりですが,個別の事案ごとに表現・言論の自由に十分配慮して適切な運用に努めてまいりたいと考えております。 ○藤本委員 警察からもお話をさせていただきたいと思います。   これまでも個別の事案の具体的な状況に即しまして,法と証拠に基づき判断がなされ,また,捜査に当たりましては,表現の自由などに対して配意がなされているものと認識をしておりますところ,この点について,法定刑の変更が実施された場合においても変わらないものと認識をしております。 ○安田幹事 先ほど侮辱罪には刑法第230条の2がないではないかという御指摘があり,表現の自由との調和を図るべきことについて御意見があったところでございますけれども,個人的には,やはり名誉毀損罪というのは事実を摘示して行うものであるという類型性がございますので,人の名誉を毀損してでも,民主主義社会の存立のために論評を行っていく必要があり得るのだということから,その調和が図られる必要があると考えています。   それに対して,侮辱というのはそういった事実の摘示というプラスの要素たり得るものは類型的にないわけですので,そういった事案につきまして,刑法第230条の2のような規定を置く必要は必ずしもないのではないかと思っています。ですので,今回,事務当局の御提案のように,刑法第230条の2のような規定を置くという手当てをしない状態で,そのまま法定刑を上げるということに問題はないのではないかと存じております。   従来でも,学説上では,論評に当たるような場合,懲戒とか各種の批判などに伴う場合ですとか,芸術家に対してキッチュな作品だねと言うとか,何かそういう論評がなされたときに,それが正当なものであれば,別途刑法第35条等による違法性阻却がなされてよいということについても指摘があるところでありますので,そういう形で正当な論評については,侮辱罪の範囲であっても,別途刑法第35条による解決が図られれば,それで足りるのではないかと考えているところでございます。 ○池田委員 ただいまいろいろな御意見を頂いたと思うのですけれども,刑法第230条の2の場合に,特に公務員等に対する表現という点について,違法性阻却されることが明記されているのですが,侮辱に関して,それについての規定は全くないという状況かと思います。   現在問題になっているのが,一般人に対する人格を否定するようなインターネットの書き込みということで,それだけを見ますと,その点に対する対応ということで,捜査当局も適切に処理をされるとおっしゃっているのはよく理解できるのですが,そうでない場面,つまり政治家,公務員等に対するものについて,それがどうなるのか。特に,もし,法定刑を引き上げるということになりますと,深刻な問題になり得るという点で,何ら規定がないというところを懸念しております。 ○柴田幹事 表現の自由に対する侵害を気を付けなければいけないというのは,それはそのとおりだと思うのですけれども,構成要件が変わっていないというところもそうですが,やはり,この侮辱罪が制定された当時と,今の社会状況の変化が余りにも大きいと思っています。ネット上での発信力,影響力というのが,極めて大きくなっていることは先ほども申し上げたとおりです。一度,皆様には,テレビで報道されたような事件名と,ブスとかで検索してみていただきたいのです。すごいたくさん出てきます。これに個人が対応するというのはもう無理なので,実際は,法定刑の引上げだけではなく,例えば,それに加えて,損害賠償命令の対象にするですとか,プラスアルファできちんと国が対応するということを考えなければいけないと,私は思っています。 ○中谷委員 一つ質問なのですけれども,私自身の発表もそうでして,事務当局からもそうだったのですけれども,インターネット上の誹謗中傷は,多々これを見てきたのですけれども,インターネット以外の誹謗中傷の事例というのはあるのか,教えていただければ幸いです。 ○栗木幹事 御質問のインターネット以外の誹謗中傷の例につきましては,お配りした資料3「侮辱罪の事例集」の中にも一部含まれておりますが,それ以外の例といたしまして,例えば,被告人らが被害者に対し,「○○」,ここには学校名が入るとお考えください。「○○,こんなものは学校でない」,「ろくでなしの○○を日本から叩き出せ」などと怒号し,公然と被害者を侮辱した事案につきまして,威力業務妨害罪と侮辱罪により,懲役2年,執行猶予4年の判決が言い渡されたものがございます。   また,被告人らが,被害者の顔写真を明示した上で,「この顔に,ピンときたらコロナ注意」,「○○」,ここには地名が入ります。「○○で初コロナ感染者」などと記載したビラを置くなどして,公然と事実を摘示して被害者の名誉を毀損した事案につきまして,名誉毀損罪により懲役1年6月,執行猶予3年の判決が言い渡されたものなどがあると承知しております。 ○井田委員 表現の自由との関係で一言意見を申し上げたいと思います。先ほど,今回考えられている改正は構成要件を変えるものではなく,これまでの運用の在り方を根本的に変えることを意図するものではないという御意見がありました。つまり,これまで立件・処罰されていなかった行為を広く立件・処罰しようという趣旨の改正ではないという御意見であったと思います。   頂いた統計資料を見ますと,現在のところ,年間,本当に僅かしか,立件・処罰されていないことがわかります。ドイツでは侮辱罪で年間2万件以上の有罪判決が出されているわけで,それと比べても日本のこの状況というのは,逆にもっと積極的に処罰のために出ていってもよいと思わせるような状況だともいえます。果たしてそこに,表現の自由への萎縮効果を心配させるものがあるといえるのか。今のこの現状を前提にしたとき,それは杞憂というか,現実に合わない,ちょっとレベルが違う話ではないかという感じがいたしました。   また,先ほど安田幹事もおっしゃいましたけれども,正当な言論というのであれば,抽象的な評価だけを示すというのでなく,きちんと事実関係を摘示すべきだと思います。私は,名誉毀損と侮辱の違いというのは,名誉毀損の方は,事実を摘示し,抽象的な評価の根拠ないし証拠を示すものであるから,それだけ名誉を傷つける,だからこそ刑が重い,と説明しています。正当な言論として尊重されるためには,抽象的な侮蔑の表現を振り回すというのでなく,きちんと根拠と証拠を示して,これこれこういうことであるからこの人はこういう評価に値するのだと述べるのが本来の在り方だと思います。そのときには,その事実の摘示による名誉侵害について,刑法第230条の2又は刑法第35条による違法性阻却を考えればよいということになります。この侮辱罪に特有の違法阻却事由を考える必要性は基本的にはないと考えているところです。   確かに,責任の減少,つまり,つられて言ってしまったというようなことで,責任が減少するというようなことは考えられます。しかし,それは条文に規定する問題ではなく,立件・訴追にあたる側の方でその心情というのをよく考慮して,場合によっては起訴猶予にするというような判断になるのではないでしょうか。いずれにしても条文上に明記する必要はないと考えております。 ○今井委員 今の皆様の御発言に関連したものでございますけれども,まず,池田委員がおっしゃったことは大変ごもっともでありまして,自由権規約19条のコンメンタールなども引用されていて,確かに世界的には名誉毀損型,特に対公権力のものが非犯罪化されるという傾向があることは認識できると思います。   ただ,そのときに注意すべきことは,例えばイギリスなどでもそうですけれども,民事制裁と行政制裁と刑事制裁を総合してどれだけの抑止力が発揮されているのかという視点です。侮辱的言辞を抑止するために,どのような法的制裁の制度が整備されており,その中で刑事制裁に何が期待されているのか,という観点からの評価が必要だと思います。   日本ではどうかということですが,池田委員もおっしゃっていましたけれども,侮辱の類型は,民事事件でも損害賠償額が大変低いと思います。それがまず抑止力を発揮していない。刑事事件については,中谷委員や事務当局が示された資料を見ましても,摘発率が低く,摘発件数も非常に少ないと思われます。一定の法定刑を予定した場合に,それがどこまで効くかということは,数理学的にいうと摘発率の逆数に現在の法定刑の上限を掛け,そこから限界期待刑罰を導いて測定するのですけれども,その観点からも,現状では,現行の法定刑が効果的に作用していない。侮辱罪の法定刑は,望ましい抑止効を発揮していないという評価は,妥当すると思います。   そういたしますと,事務当局から何度か御指摘がありましたが,犯罪となるべき客観的要件については変更がないとした上での御提案ですから,この提案が,フェアなコメントを不当に制約するような威嚇力,あるいはチリング・エフェクトというものを持っているわけではなく,御提案のように法定刑を上げることにより,侮辱罪処罰による抑止力を高めることは,現時点では必要な整備ではないかなと思っているところです。ですから,池田委員の言われることはごもっともなのですけれども,今述べました視点と事情も踏まえて検討した方がいいのかなというのが感想でございます。 ○池田委員 今,お話を伺っておりますと,現状でも本来は摘発できることが摘発されていないという点にも問題があるかのように思いましたが,その点についてはどのようにお考えになるか,特に捜査当局の方々についてお尋ねしたいのですが。 ○藤本委員 個別の事案ごとに対応は様々でありまして,一概に申し上げることは困難であります。   ただ,警察におきましては,刑罰法令に触れる行為があると認められる場合には,先ほど申し上げましたけれども,法と証拠に基づきまして適切に対処していくと,こうした方針でございます。インターネット上の誹謗中傷について,被害の届出がなされた場合には,その被害の内容,また態様に応じて,法と証拠に基づいて適切に対処していくと,このように考えております。 ○今井委員 私も実情を十分には知らないのですけれども,今までのお話を聞いておりますと,現行の侮辱罪の法定刑の上限がこれだけ低いために,捜査当局においても,他の犯罪との比較において,重大性の違いを意識されてしまうのかもしれないなと感じました。   他面で,柴田幹事,中谷委員が御説明されましたように,ネット上であふれている事態を,適宜の法律構成要件に当てはめる事実として拾い上げるには,専門的な知識も必要ですが,そういった犯罪の重大性に関する従来の認識と,事実の拾い方の困難性ということがあいまって,状況は悪化の一途をたどっているのではないかと,私は考えております。 ○中谷委員 先ほど,インターネット以外の侮辱罪としてどのようなものがありますかと聞きましたが,配布資料3にもあったのですけれども,インターネット上の誹謗中傷というのは,容易にできるというのと,被害の拡散が早いというところが非常に特徴的であって,抑止力というのが本当にない,プリベンションをやるのが非常に難しく,プロテクションも難しくなってしまう。被害救済が難しいというのが,特徴的だと思うのですけれども,そういう意味で言うと,インターネットを使った場合には,侮辱罪の法定刑を更に引き上げるというか,同じ侮辱罪でもインターネット上でやった場合については,トップアップするというか,そういう考え方はないのでしょうか。 ○栗木幹事 中谷委員御指摘のとおり,インターネット上の誹謗中傷につきましては,やはりその書き込み,入力とか発信が容易であり,一度書き込みが行われますと,その書き込みが容易に拡散する一方で,インターネット上から完全に削除することは極めて困難であり,広範に認識され得るといった特徴があるものと認識しております。   もっとも,こうした特徴を理由として,インターネット上の侮辱行為を特に重く処罰する加重類型を設けることにつきましては,いくつか問題があるのではないかと考えております。   まず,侮辱罪では,公然性が要件とされており,侮辱罪が成立するためには,不特定又は多数の者が認識できる状態で侮辱行為を行うことが必要でございます。このように,犯罪成立要件として,広範に認識され得るものであることが既に必要とされている中で,更にインターネット上の侮辱行為が広範に認識され得ることに着目して,インターネット上の侮辱行為だけ取り出して重く処罰する対象とすることは適当でないとも考えられるところでございます。   また,書き込みの容易さに着目して,「電気通信の送信」を手段とする行為だけを取り出して加重処罰の対象とすることは,わいせつ物頒布等の罪について規定する刑法第175条におきまして,電気通信の送信によるわいせつな電磁的記録等の頒布と,それ以外の方法によるわいせつな文書等の頒布とで,法定刑に差が設けられていないこととの整合性も問題になるのではないかと思われるところでございます。   そして,例えばSNS上で,他者の書き込みを前提として侮蔑的評価を書き込む行為など,インターネット上の侮辱行為の中でも特に名誉侵害の程度が高いと考えられる行為を取り出して,加重処罰の対象とするということにつきましては,その態様等を含めまして,その対象を明確な要件をもって類型化することは困難ですし,仮に,現時点で明確に類型化することができたとしましても,将来,情報通信技術の進展によって,新たな情報発信の場ができた場合に,狭きに失することとなるおそれがあると考えられます。   さらに,近時の侮辱の罪の実情等に鑑みますと,インターネット上の侮辱行為に限らず,例えば路上で拡声機を用いて執ように行われるものなど,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,抑止すべき侮辱行為はあると考えられるところでございます。   こうしたことに鑑みますと,侮辱罪につきまして,インターネット上で行われた場合を対象とする加重類型を新たに設けることについては,なお検討すべき課題があるところだと考えております。最も当罰性の高い侮辱行為も含めまして,個別具体的な事実関係に応じて適切に対処することができるよう,侮辱罪の法定刑を引き上げ,「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」として,この新たな法定刑の幅の中で対処することが相当であると考えております。 ○柴田幹事 東京の被害者の,殺人未遂の被害者の事件のときは,たまたま警察が動いてくれて,4件立件したという話をしましたけれども,その中で,一番遠いのは広島でした。その次が大阪かな。あと2件は関東だったのですけれども,名誉毀損ではなくて侮辱罪のためにわざわざ担当捜査官が広島まで行ってきましたみたいな形で報告されたのですけれども,多分その事件の特殊性がなければ,実際に侮辱罪のために広島まで行って取調べをしてくれるというのは,恐らくないのではないかなと思います。そういう意味でも,ネットの加害者が広範な地域に及び得るということから考えても,やはり法定刑をきちんと上げて対応していくという必要があるのではないかなと思っています。 ○井田委員 全く違った論点なのですけれども,今の侮辱罪は,刑法典に規定された犯罪の中で一番軽い法定刑の犯罪であり,教唆・幇助も処罰されないわけです。   軽犯罪法に規定された行為も同じように法定刑は拘留又は科料なのですけれども,軽犯罪法は統一的正犯概念を採りますので,教唆・幇助も処罰可能になっています。そうだとすると,この侮辱罪というのは更にそれよりも扱いが下ということなります。今回,法定刑が引き上げられれば,教唆はともかく幇助が処罰されることになると思うのですが,それはどういう変化をもたらすものなのか,教えていただければと思います。幇助行為まで処罰できるようになることが,名誉保護のためにどのようなプラスの効果を持つのかに関心があります。 ○吉田幹事 今,井田委員が御指摘になったとおり,法定刑が引き上げられることに伴って,幇助犯の処罰が侮辱罪についても可能となりますので,一般論としては侮辱幇助罪の適用によって処理される事例が生ずるということになろうかと思います。   その上で,どのような事案を取り上げていくかというのは,捜査機関が収集した証拠に基づいて判断される事柄でありますので,現段階でそうした事案がどの程度出てくるかというようなことは,なかなか申し上げにくいところがあろうかと思います。   インターネット上の幇助罪の適用については,Winny事件の最高裁判例もございますので,そうした判例の考え方も踏まえながら,個別の事実関係に照らして適切に判断していくことになるものと考えております。 ○安田幹事 伺っておりますと,法定刑を引き上げるべき理由とされているところというのは,様々に語られておりますけれども,それは名誉毀損罪にも当てはまるようにも思われるわけですが,諮問は,侮辱罪の法定刑のみの引上げとなっております。   この点につきまして,何か理由がございましたら,ちょっと観点が変わってしまって申し訳ないのですけれども,お教えいただけたらと思っております。 ○栗木幹事 本諮問による法整備は,名誉毀損罪の法定刑には懲役・禁錮と罰金が選択刑として設けられており,また,懲役・禁錮の長期や罰金の多額も相応に重いものであるといえることを前提として,名誉毀損罪と侮辱罪の法定刑に大きな差が設けられており,侮辱罪に該当する行為,すなわち,事実を摘示しないで行われる名誉侵害に対する法的評価は適切に示されておらず,その抑止にも十分なものではないことから,侮辱罪の法定刑を名誉毀損罪に準じて引き上げることとするものでございます。   名誉毀損罪と侮辱罪は,いずれも社会が与える評価としての外部的名誉を保護法益とするものと解されておりまして,両罪の法定刑の差は,事実の摘示の有無という行為態様の違いによるものとされております。しかしながら,これまでもいろいろ例が出ておりますが,事実の摘示がない事案であっても,その態様等によっては,他人の名誉を侵害する程度が大きいものが少なからず見られるところでございます。誹謗中傷に対する非難が高まるとともに,こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識も高まっている中で,両罪の法定刑に大きな差が設けられたものとしておくのでは,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,これを抑止するとの要請を満たすものとは言えないと思われます。   また,事実を摘示したかどうか,すなわち,どのような事実をどの程度具体的に摘示すれば足りるのかについての評価は,その性質上微妙なところがございます。事実の摘示があったと評価し難い事案は,侮辱罪で処理せざるを得ない結果,名誉侵害に対する法的評価を適切に行うことが困難な場合がございます。特に,中谷委員からも御紹介がございましたが,タイムライン式のSNSで最初の書き込みをした者が,事実の摘示を伴う誹謗中傷を行って,これを前提として別の者が引き続いて誹謗中傷の書き込みを行った場合には,それ自体に事実の摘示が含まれておらず,したがって侮辱罪で処理せざるを得ないものであるとしても,一連の書き込みを見る者からしますと,その当該別の者の書き込みについて事実の摘示を伴っているのと同じように受け止められ,名誉侵害の程度が大きい場合があると考えられます。   以上申し上げたことからしますと,名誉毀損罪の法定刑と比較して,侮辱罪の法定刑が軽きに失すると言わざるを得ません。侮辱罪の法定刑を名誉毀損罪に準じたものに引き上げ,厳正に対処すべき犯罪という法的評価を示し,これを抑止することが必要であると考えられるため,侮辱罪の法定刑のみを引き上げることとしているものでございます。 ○安田幹事 御説明ありがとうございました。大変よく分かったところでございます。   名誉毀損罪と侮辱罪にそれほどドラスチックな差を付けるべきではなく,連続的なものとして捉えるべきだという御提案,よく分かったところでございます。   頂いた資料でも,名誉毀損罪の方の科刑状況を見ますと,真ん中あるいはそのちょっと下に多くの数字が付いているところでありますので,名誉毀損罪につきましては,特に今,緊急に上げなければいけないという状況にもないということも把握させていただいていたところではございましたので,御説明に納得したところでございます。 ○今井委員 安田幹事も指摘されましたが,名誉毀損罪との関連性を考えますと,昭和22年の刑法改正で名誉毀損罪の法定刑は引き上げられておりますけれども,侮辱罪の法定刑は,当時はそのままだったわけです。ですから,私たちの認識としては,当時と今とでは状況が客観的に異なっているというところからスタートすべきだと思います。   先ほどの事務当局からの御説明もそうだったのですが,まずこのような認識を持ってよいか確認させていただければと思います。 ○栗木幹事 昭和22年の改正について御質問を頂きました。   御指摘のとおり,昭和22年の刑法改正では,名誉毀損罪の法定刑が,1年以下の懲役若しくは禁錮又は500円以下の罰金から引き上げられておりまして,3年以下の懲役若しくは禁錮又は1,000円以下の罰金とされております。   このときの引上げに関する政府提出草案の趣旨説明なのですけれども,「最近言論の自由がともすれば本来のらちを逸脱して,不当に人の名誉を傷つけることの多きに鑑み,社会生活上における個人の重要な権益たる名誉を不当なる攻撃より護らんとするもの」とされておりまして,こういった背景があったと承知しているところでございます。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,開会から時間も経過しましたので,ここで10分ほど休憩を取りたいと思います。会議の再開は午前11時14分からといたします。           (休     憩) ○佐伯部会長 それでは,会議を再開いたします。   ここまでの審議におきましては,近年における侮辱罪の実情等に鑑みると,現行法で「拘留又は科料」とされている法定刑については,引き上げることが相当であるという御意見が多かったと思います。   この点につきましては,議論が一巡した後にも,改めて御意見を頂く機会を設けようと考えております。   次に,侮辱罪の法定刑を引き上げることとした場合の具体的な法定刑の在り方について審議を行いたいと思います。   要綱(骨子)においては,侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とすることとされていますので,この点について御意見,御質問等がある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小池幹事 2点ございます。まず,1点目は,今回お示しの改正案では,法定刑の引き上げ方として,懲役・禁錮と罰金を選択刑に加えるということですけれども,それらの上限,つまり懲役・禁錮の長期を1年,罰金の多額を30万円と具体的に設定される趣旨を伺えますでしょうか。もちろん,ピンポイントでこの数字しかないという説明は困難だと思いますけれども,このレベルに設定された理由を御説明いただければと思います。   2点目は,仮に,今回の法定刑引上げが実現しますと,侮辱罪の量刑傾向がどのようなものになると予想されているのかということでございます。若干問題関心を敷衍させていただきますと,今回の御説明で,侮辱罪の法定刑があるべき法的評価を適切に示していないので,厳正な法的評価を示す必要があるという,いわゆる評価変更を言われていることを強く受け止めますと,侮辱罪の量刑傾向全体を重くシフトさせるという見方も一応あり得るところです。しかし,先ほど事務当局からは,拘留・科料という軽い刑も残すものとして提案しているのは,当罰性の高い事案と,必ずしもそうでない事案があって,それら両方に対応するための改正であると,そういう認識も示されたと思います。そうしますと,改正は,直ちに量刑傾向を全体的に重くするということにはならないようにも思われまして,まず,そういう認識で間違っていないか,確認を頂ければと思います。   その上で,現在立件されて処罰されている事例の中に,現に当罰性が高く,より重くなるべき事例と,今後も拘留・科料で足りる事例が実際に混在していて,今後の量刑傾向はそれに対応して広がっていくのか,あるいは,実際には,現状起訴されているのはほとんど当罰性の高いもので,当罰性の低いものはそもそも起訴されていないということですと,結局量刑傾向は全体的に近い形で重くなっていくようにも思われますけれども,そのような意味での現状認識も踏まえた見通しもお持ちであれば,伺えますと幸いです。 ○栗木幹事 まず,懲役・禁錮の長期を1年とし,罰金の多額を30万円とした趣旨についてですが,先ほども申し上げましたとおり,今般の法整備は,近時の侮辱の罪の実情等に鑑み,公然と人を侮辱する侮辱罪について,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,これを抑止するため,その法定刑を名誉毀損罪に準じたものに引き上げようとするものであり,名誉毀損罪の法定刑が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」とされていることを踏まえ,侮辱罪に関し,懲役及び禁錮についてはその長期を1年とし,罰金については多額を30万円とするものです。   それから,2点目の,今般の侮辱罪の法定刑の引上げが実現したとして,侮辱罪の量刑傾向がどんなものになるかという御質問についてですが,今般の法定刑の引上げにおきましては,当罰性の高い事案に対処し得るようにするという観点から,法定刑として1年以下の懲役・禁錮と,30万円以下の罰金を追加する一方で,当罰性の低い事案に対処し得るようにするという観点から,拘留・科料を存置するということとしております。   いわゆる量刑傾向自体は,個別具体的な事案における裁判所の量刑判断の集積であるところ,個別具体的な事案においてどのような刑が言い渡されるかについては,個別の事案ごとに判断されるため,一概にお答えすることは困難ですが,一般論として申し上げれば,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して,これを抑止するため,法定刑として懲役・禁錮・罰金が設けられる一方で,拘留・科料が存置されるという改正の趣旨を踏まえまして,新たな法定刑の幅の中で,侮辱罪に該当する行為のうち,当罰性の高いものについては懲役・禁錮・罰金が言い渡され得る一方で,当罰性の低いものについては拘留・科料が言い渡され得ると考えられるところでございます。   現状処理されているものの中でも当罰性の高いものについては,今申し上げたように,懲役・禁錮・罰金が言い渡され得るのではないかと考えているところでございます。 ○小池幹事 ありがとうございます。   1点目,よく分かりました。   2点目も,お答えとしてはよく分かりました。一方で,現状起訴されている事案の当罰性いかんという点については,いかなる事情に着目して,当罰性の高い事案を選別していくかについてのある程度のイメージを持っておくことが,仮に,この改正が実現した場合の量刑実務をどう動かしていくのかという観点からは,意味のあることであるように思われました。 ○佐伯部会長 確かに,御指摘があったように,今,起訴されている事例が元々当罰性の高いものに限られているとすると,今後,法定刑が引き上げられた場合に,今,起訴されているものについては,拘留・科料ではない,新たに追加された刑が求刑されるということもあり得るかなという気が,これは飽くまで予測にとどまり,かつ事務当局がおっしゃるように,個別の事案ごとに判断がされることですので,単なる予測にとどまりますけれども,そういう可能性もあるのかなという気はいたします。   そういう意味では,今日挙げていただいた事例というのは,見るとかなり当罰性の高いものが多いのかなという気は個人的にはしております。 ○今井委員 先ほどの安田幹事の御質問と,今の小池幹事からの御質問に関連することですが,お二人からは,割と規範的な観点から,どういうものが引き上げられるべき法定刑に匹敵するような犯罪なのかという御質問と御意見がなされたと思うのですが,その前提として,今日配布していただいた資料を見ての質問をさせていただきたいと思います。   「統計資料」の「侮辱罪の科刑状況」を見ておるのですが,過去4年間で拘留に処された者はゼロですけれども,科料については,上下ありますけれども,若干増えてきていて,その方々の,例えば令和2年ですと,30人科料に処せられていて,全員が9,000円以上ということになっています。   これで見ますと,実務の御判断は,法定刑の上限は低いのですけれども,それなりに近時は,やはりこれを精一杯使って運用しているようにも思える一方,今まで過去何年間か法定刑を上げるような作業をしてきたときとは少し違ったイメージもあり得るところです。つまり,科刑状況が法定刑の上限まで張り付いていて,すぐその法定刑の引上げを要求するような状況にあるのか,あるいは,先ほど私も話したことですけれども,当罰的な事例は多いのですけれども,証拠収集の困難性,立件に向けた壁というのがあるので,このような形で収束しているのか。その辺りを統計的に御説明頂きますと,より今回の重い法定刑を付加することの説明が,分かりやすくなるのではないかと思いますので,既に御説明されたところかもしれませんが,事務当局から更に追加の御説明があればよろしくお願いしたいと思います。 ○保坂幹事 現状の摘発されているような事例を前提に,法定刑の引上げが実現した後に,どんな量刑のトレンドになるかというのは,これはなかなか予測が難しいところでございます。   張り付き現象はないという点についてですが,もちろん,厳密に言いますと,拘留という刑が上にありますので,そういう意味では張り付いてはいなくて,まだ上はあるわけですけれども,他方で,拘留の場合,執行猶予を付けることができず,実刑しかないという点に留意が必要かと思います。あわせて,今日資料としてお配りさせていただいている名誉毀損罪の事件の量刑のレンジを見ていただきますと,もちろん実刑のものもあるんですけれども,公判請求がなされて,自由刑になる場合も多くは執行猶予ですし,罰金もかなり活用されているということになります。   我々のイメージとしましては,法的評価として名誉毀損罪のそれに準じたものとするということからいたしますと,出来上がった後の量刑のレンジとしては,言わばこの名誉毀損罪のレンジのミニチュア版といいますか,これに準じたものにピークが来て,納まっていくのかなと思っています。ですから,名誉毀損罪が3年以下ということであれば,1年以下の懲役・禁錮,そして罰金まであって,さらに,特に軽い拘留・科料というのがあるんですが,それと同じようなレンジの中に,ミニチュアとして納まってくるという感じになるのではないかと思っているところでございます。   それで,資料として事例を出させていただいているもの,先ほど申し上げたように,これを拘留に処するという余地はあるのですけれども,それがやはり実刑しかないというところで,これは単なる私の想像ですけれども,なかなか使いにくい事情もあるのかなと思いまして,他方で1万円未満という科料の中では,かなり精一杯のところにあって,これが例えば3,000円とか4,000円というのがかなりあるのであれば,科料の中でも低いものも混じっていることになりますが,科料の中では一杯一杯のところにいっているということになりますので,そういう意味でいうと,起訴されているのは相当現実的にあり得る量刑選択の中では重いものというのが選ばれているのではないかなと想像いたします。 ○今井委員 御説明ありがとうございました。大変よく分かりました。   刑法第230条と刑法第231条の同質性を踏まえて侮辱罪の法定刑を御提案のように整備した場合,今の保坂幹事の御説明のように,連続的ななだらかな科刑の実現が予想されるものと理解いたしました。   これは,恐らく小池幹事が言われた最初の質問に対するお答えにもなっているかと思いまして,私としては納得したところです。 ○柴田幹事 先ほどから,拘留が全く科されていないことが指摘されていますけれども,私も拘留の方が科せられた事案というのを,弁護士を20年やっていますけれども,見聞きした経験がなくて,刑法犯全体で実際に拘留が科せられるのがどれぐらいなのかという資料があれば是非教えていただきたいと思います。 ○吉田幹事 刑法犯に限らず,確定裁判を受けた人員総数中の拘留に処せられた人員数について,参考のために申し上げたいと思います。   平成22年は6人,平成23年は8人,平成24年は5人,平成25年は4人,平成26年は4人,平成27年は5人,平成28年は6人,平成29年は5人,平成30年は1人,令和元年は3人,令和2年は5人でございます。 ○池田委員 確定裁判を受けた人員総数は大体どのくらいですか,例えば令和2年で。 ○吉田幹事 例えば令和2年で申し上げますと,確定裁判を受けた人員総数は22万1,057人でございまして,そのうち拘留に処せられた人員数が5人ということでございます。 ○安田幹事 頂いた「科刑状況」からいたしますと,侮辱罪につきましては,科刑の上限に張り付いているという状況を拝見したところであります。   先ほどの柴田幹事の御意見にもありましたように,短期自由刑というのは,やはりその弊害も指摘されているところで,裁判官としてももしかしたら使いにくい法定刑なのかなというところもあろうかと思います。他方,通常,科刑は法定刑の真ん中あたりかそれより下にくるはずであるところ,科料に関する科刑グラフを見ますと,その上限に張り付いているという状況があるのだといたしますと,まずは財産刑として引き上げるということについての根拠が,十分ここから読み取れるというところはよく分かったところでございます。ですので,あとは懲役1年が付いたことにつきまして,もう一声御説明を頂けると大変よく分かるなと存じました。   その中で,今回の議論の発端は木村さんのような事件だったと思うのですけれども,侮辱には時として人を死に追いやるような危険性を有する類型がある。それについて,致死罪のようなものを作ることはしないのだけれども,そういう危険性,人を死に追いやるような危険性を持った行為が,やはり当罰性の高いものの中でも結構上にくると思うのですが,そういった,今回の立法の端緒となったような事案との関係で,当罰性の高い事案,懲役刑をこれは科すべきだろうという事案について,もう少し具体的なイメージをお教えいただけたらと思う次第でございます。 ○吉田幹事 一般論として,量刑に当たっての考慮要素としては,犯行の動機,態様,結果,それから犯人に関わる一般情状といったものが挙げられるかと思います。   侮辱罪においては,名誉に対する罪でございますので,それを侵害する危険性の程度が,まずは判断要素になってくるのではないかと思われます。   侮辱行為の結果,人が亡くなったこと自体を,どこまで量刑上評価できるかについては,議論があり得ると思うのですけれども,亡くなったこと自体ではなくて,どの程度その社会的な評価を毀損する危険性の高い行為であったかを評価する限りにおいて,量刑上考慮されることはあり得るように思われます。   それは,一面では,犯行態様ということかもしれませんけれども,そうした侮辱行為自体の危険性,社会評価を下げる危険性が非常に高いということであれば,当罰性評価として,懲役刑に処すべきものと判断されることもあり得るのではないかと考えております。 ○小池幹事 今,安田幹事から出た議論に関してですが,今般問題となっている,ネット中傷により被害者を精神的に追い込んでいく,被害者が侮辱行為によって多大な精神的なダメージを受けるということが,侮辱罪の法的評価を重くする一つの契機になっているような気がするのですけれども,一方で,保護法益としては,社会的評価の問題であって,その低下を侵害の内容として問題とすることになります。   これらのことの関係は,やや理論的な関心に過ぎるかもしれませんけれども,整理をしておく必要はある気がいたします。侮辱罪は名誉毀損罪と同様に,社会的評価の低下を主たる侵害内容とする罪ではあるけれども,それを通じて被害者に精神的ダメージを負わせることも評価対象に入っていて,そして,行為態様としても,そのような危険性が高いものについては,悪質と評価される。個人的にそう考えているのですけれども,一般的な理解がどうか,ちょっと自信が持てないところでありまして,もし事務当局から,あるいは委員・幹事の方からも何か御意見を頂ければと思っております。 ○吉田幹事 今,御指摘になった点は違和感のないところでございまして,例えば,性犯罪について考えてみますと,一般に,保護法益については性的自由,性的自己決定権ということが言われておりますが,被害者が負った心の傷,精神的な苦痛というものも量刑上考慮され得るものだと思われます。性的自由というものが,誰と性的な行為を行うかを決める自由であると捉えた場合,その自由が侵害された場合の精神的な苦痛というのは,その保護法益からやや外に出るものという捉え方もできると思われますが,そうしたものも,現在,量刑上考慮されているということだと思いますので,法益侵害やその危険に伴う精神的な苦痛というのを量刑上考慮するということはあり得ることだと考えております。 ○柴田幹事 理論的なお話でなくて申し訳ないのですけれども,実際に被害者の近くで見ていますと,ネットでの書き込みとかで,本当に心がずたずたにされてしまうというような状況を見ておりますし,あちらこちらからたくさん書かれることで,社会から無価値みたいな言われ方をしたというような受け止め方をして,外に出られなくなってしまうみたいなケースもあるので,やはり単なる客観的な社会的評価というものだけではなくて,その行為が発生させた結果として,被害者の心情ですとか,被害者に対する影響も,当然その量刑事情に入ってもらわないとおかしいのではないかという,被害者に関わっている者として一個人の意見です。   実際にそういう状況を見ていますと,実際は1年なんてまだまだ低い,名誉毀損罪とともにもっと引き上げてほしいというのが個人的意見で,この話を日弁連の犯罪被害者委員会でしたときにも,やはり同調する意見をたくさん頂きましたので,被害者に関わる人間から見ると,今回の引上げでもまだまだ低いという意識が強いのだと思います。 ○池田委員 先ほど来の被害者の方に対するたくさんの書き込みのことを考えた場合に,今回の引上げをすれば,その威嚇力によってみんなしなくなるということを,相当程度期待するということなのでしょうか。つまり,恐らく非常に多くの書き込みをする,侮辱的なことを言う人を全部摘発してくれるのかというところに,非常に心配といいますか,難しいのではないかなというのも思っておりまして,今回,仮に,懲役というようなことになると,その威嚇的なことでみんながやめないと,やはり捜査当局の方で摘発できないのではないかという,そこは心配しております。この点については,どんなふうに予測されておられるのかというところを,見方を聞きたいのですけれども。 ○吉田幹事 今回の法整備がなされた後に,侮辱罪に当たる行為がどの程度減少するかについて,数字で申し上げることは難しいのが事実でございますけれども,刑罰の一般的な機能として,一般予防というものがございますので,今回の法整備がなされ,また,それが国民に広く知られることによって,侮辱罪に該当する行為をしてはならないのだということが認識されて,その結果として侮辱罪に該当する行為が現在よりも行われなくなるということは期待されるのではないかと考えております。   捜査機関においては,取り上げるべきものを適切に取り上げるということを基本に活動していくものと思いますし,また,今回の法整備に加えて,現在,人権擁護機関における取組なども含めて,様々な施策が行われておりますので,そうしたものがあいまって,誹謗中傷行為が減っていくということは期待しているところでございます。 ○池田委員 今の関係で,柴田幹事にお聞きしたいのですけれども,これまでいろいろな方について,取り上げてもらえなかった,そのときは,どういう理由で取り上げてもらえなかったのでしょうか。 ○柴田幹事 理由が明確に示されたことはほとんどなくて,実際にその手前で心が折れてしまうのですね。こういう被害を受けているのですという話をしても,なかなか難しいと言われてしまうと,もうそこで心が折れてしまう方が多いです。   実際に取り扱ってもらった案件というのは,被害者の方できちんと全部スクリーンショットにして証拠をそろえて,きちんとある程度整理した上で,弁護士と一緒に4回とか5回とか訪ねていって,やっと捜査してくれるみたいなお話なので,そもそもそこまでいかないのです。   では,民事でやるかといったら,多数に対する,弁護士費用だって被害者負担で,専門性が高いですから,もうそれについてもハードルが高いですし,時間も掛かりますし,ということなので,その手前で終わってしまうという感じです。   実際,動いてくれた案件を,特殊な事情があってというお話をしましたけれども,本当に被害者の方で一覧表を渡して,警察が動いてくれたというのは,それしか経験がないです。難しいみたいな形で言われて,もうそこでとどまってしまう感じです。 ○池田委員 その辺りの対応といいますか,今後どのように対応していくかというところも,何か大きな課題であるような気がいたします。 ○安田幹事 ちょっと質問させていただきたいのですけれども,今,柴田幹事がおっしゃっていた,先ほどおっしゃった例は,死者にむち打つような言動だったと思うのです。それが侮辱罪に直接当たるということはないので放置されたということだとしますと,今回の改正はそこには特に影響がないということになるように思ったのですけれども,それは私の誤解になりますでしょうか。 ○柴田幹事 殺人の事件の被害者も多かったのですけれども,傷害,殺人未遂の被害者もいますし,強制性交等の被害者のパターンもありますので,死者だからということではないと思いますし,中にはこんなひどい写真を報道させるなんて,遺族は何をやっているんだみたいな書き込み,遺族もひどいよね,みたいな書き込みもあったりするのです。   御遺族からすると,名前や写真が公表されるだけでもつらいのに,勝手に公表されている写真が,何かもっと写りがいいやつ,こんなひどいものではなくて,もうちょっとましなものはないのか,みたいな書かれ方をして,本当に非常にいたたまれない気持ちにはなったのですけれども,それでも結局何ともしようがないということで,泣き寝入りということなので,お亡くなりになった事件だから侮辱罪ではないというお話で,動いてくれないという話ではないと思います。 ○安田幹事 先ほど挙げた例が,致死とか殺人の事例が多かったように思って,広島の事件というのは未遂だったので,そういう違いが生じたのかなと勝手に思いまして,失礼いたしました。御趣旨はよく分かりました。 ○藤本委員 捜査機関の話が出ておりますが,個別の事案ごとに,やはり対応は様々でございます。そうしたことから,一概に申し上げるということは困難でありますが,やはり,取り上げるべき行為,まず刑罰法規に触れる行為が認められる場合には,法と証拠に基づいて適切に対処するということは,これは基本でございます。   インターネット上の誹謗中傷について,被害の届出などがなされた場合,相談という形もありますけれども,行為の態様であるとか,被害の内容に応じて,法と証拠に基づいて適切に対処していくと,このように考えているところであります。 ○柴田幹事 補足説明をさせていただきたいのですけれども,別に私,捜査機関を非難しているわけではなくて,今の法定刑であれば,それこそ先ほど申し上げたとおり,広島まで行って取調べをするだとか,大阪まで行って取調べするということを,捜査機関に求めること自体がナンセンスというか,無理だと思います。ただでさえネット上で相手を特定するのが難しくて,特定できたとしても取調べするのも難しくてということになると,今の状況でそっちにも力を割いてくれといっても,正直,捜査機関も一生懸命ほかの事件でも動いてくれていますので,そういう姿は日々見ていますので,捜査機関が悪いのではなくて,実際に今の法定刑が低過ぎるから,動きたくても動けないというか,動いてもらえないというか,そういう趣旨で発言しているので,捜査機関が動いてくれないことを,捜査機関に対する批判として言っているわけではなくて,法定刑が低過ぎるという趣旨でお話しさせていただいております。 ○池田委員 実際に捜査機関は,法定刑が低いと動けないということがどのようにあるのかお教えいただければと思います。 ○柴田幹事 法定刑が低いから動けないだろうという私の認識でして,法定刑が低いから動けないよと明確に言われたわけではないです。   ただ,そうはいっても,実際に接していれば分かるというか,これは捜査してもどうせ起訴猶予だよなとか,これは捜査しても罰金止まりだよなという案件と,これは立件さえすればきちんと裁判までいくという案件では,捜査機関の力の入れようが違うのは,実際問題として肌で感じる話でして,例えば,強制性交等の被害者に対しても,示談で取下げなんてないですよね,みたいなお話は,実際に告訴状を持って行って,2回目,3回目でようやく話を聞いてくれてみたいなときに,念押しされたりするので,そこでもう絶対に示談なんかしない,これは絶対に処罰してほしいのですと,刑事罰に処してほしいのですと言って,最後の一押しをして,やっと取調べとかにいくみたいなことも多いので,やはり法定刑とかその後の捜査した結果がどうなっていくのかというのは,捜査機関の力の割き方に影響を与えているというのが,これは私だけではなくて,多分弁護士とかをやっていれば,皆さん実感していることだと思います。 ○保坂幹事 先ほどから捜査機関のメンタリティーみたいな話になってしまっているのですが,インターネット上の侮辱行為というのを考えたときに,インターネットのプロバイダとか,それを運営しているところというのが海外にあったりしますし,その侮辱行為の表現行為自体が,先ほどスクショしていたとありましたが,仮に表現行為が特定・保全できたとしても,そのアカウントを突き止めて,やったのは誰なんだということまで,犯人の特定まで至る捜査というのは,想像しただけでもそう容易ではないだろうと思われます。   その上で,今回そういったところの捜査の手法を別に拡大するものではないので,そこは変わらないんだろうと思うのですが,今回,法定刑の引上げに伴う副次的効果として,時効期間の問題というのがございます。かつては1年で公訴時効を迎えていたわけで,その1年の間にどこまでできるかということを恐らく考えなければいけなかったわけですが,法定刑の引上げによりまして,名誉毀損罪と同じ3年間ということになりますので,そういう意味では,その法的制約としての捜査,訴追に向けた活動期間というのは,その期間としては広がるということになることは間違いないんだろうと思います。 ○今井委員 池田委員がおっしゃっている,摘発率が上がらないと抑止力は上がらないという点は,そのとおりです。数理的に。   その際に,では,摘発率をどう上げていくのかということについては,今,保坂幹事がおっしゃったように,制度的なバックグラウンドと,それから,これは特に海外での研究で明らかにされていますが,法執行機関の心理的側面も影響を及ぼすものと思われます。法改正によって特定の犯罪に対する法執行機関の向き合い方が変わってきて,それが短期的にも長期的にも摘発率,あるいは被害者に対する向き合い方を変えていくという実証報告が,海外には多数,存在します。   そういうことを考えますと,ここでは規範的な話もなされているのですが,先ほど私も質問しました昭和22年との比較等において,現状では,大変悲惨な結果を招き得る侮辱的行為がある以上は,それに対する法的評価を変えることによって,先ほど副次的という話もありましたけれども,法執行機関の心理的効果が上がっていき,摘発率も恐らく上がっていくはずですので,抑止力の向上に役立つことは否定できないと思います。それがどこまでかという計量的なことは言えないのですが,正の相関関係の発生は,ほぼ予想されるものと理解しております。 ○品川委員 量刑の関係の話がいくつか出ましたので,私の考えを伝えさせていただきたいと思います。   侮辱罪につきましては,配布資料にあるように,件数が非常に少ないため,どういった事情が量刑事情として考慮され,それがどの程度考慮されるのかというのは十分検討されているとはいえず,これからの事例の積み重ねの中で具体化していくのかなと思っております。   これまで話に出ておりました,被害者の方が受けた大きな精神的苦痛といったような被害者の生の感情を,量刑に当たってどの程度,あるいはどのように考慮していくのかということも,これから具体的な事案を通じて深められていく問題なのかなと考えます。   ただ,侮辱罪を少し離れまして,一般的にこういった被害者の方の感情を,裁判所が量刑に当たってどう考慮していくかということにつきましては,その感情そのものを量刑に反映させるというよりは,その罪なりの保護法益を踏まえ,例えば行為の危険性や結果の重大性の表れの一つという形で考慮していくということになるのだろうなとは感じておるところでございます。   研究者の委員・幹事の方々からも,保護法益について御意見がありましたけれども,研究者の方々の今後の議論を踏まえながら,裁判所としても考えていくことなのかなと感じました。 ○今井委員 今日の御説明,御意見を伺っておりまして,私としては,事務当局の御提案に大変理解ができるところでございます。   繰り返し,私も指摘をさせていただき,質問等をさせていただいておりますが,今回の御提案の背景には,近時の侮辱罪をめぐる状況が大きく変わってきているとの認識があります。侮辱罪は,より厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価が高まりつつあるということを前提にしまして,侮辱罪を,よりよく抑止するためにどうすれば良いか。そのための手段としての法定刑の引上げを御提案されているものだと思います。   そうしますと,侮辱罪に該当すると思われる行為を,現状以上に抑止するには,この程度の法定刑の引上げは,適切なものだろうと思います。   その際の抑止ということについては,池田委員からも御質問,御意見等ございましたが,先ほど申し上げましたように,今回の御提案のように法定刑を改定することによって,侮辱罪の摘発率あるいは実刑の類型が多くなることは,合理的に予測できる事態だと思われます。   それから,今回このように,御提案の形で法定刑が上がった場合に,国民の行動が過度に抑制されてしまわないか,いわゆるチリング・エフェクトというものが大きくなるのではないかという懸念が生じることも理解できます。その際には,今日も御指摘がありましたが,正当な論評といわれる英米法で発展してきた論理,これは日本でも民事事件では実質的に使われていると思うのですけれども,正当なコメントについては,刑法第35条の解釈により違法性阻却を導き得ますので,過度な処罰範囲の拡張はないのかなと思います。   そうしますと,今回の御提案は,客観的な処罰対象行為及びその評価を変えているものではなく,法定刑の種類を増やすことで法定刑を上げるというものでありますから,科刑状況をなだらかにするという御説明もありましたが,適切な御提案だと思っております。   仮に,まだ先の話になりますけれども,このような御提案が承認された以後は,その趣旨,ここで議論された二つの意見をきちんと国民の皆さんに説明し,国会でも御説明をし,警察,検察当局におかれましても,法改正の趣旨を踏まえて,適正な趣旨の実現を目指されればいいのではないかと思っているところでございます。 ○中谷委員 事務当局の案に非常に理解をするとともに,賛成をしているのですけれども,いろいろな先生からのチリング・エフェクトの話があったと思うのですけれども,いわゆるインターネット上の誹謗中傷の申告のペースでありますとか,内容というのを,実際に見ている,対応しているセーファーインターネット協会とすると,今回のような極めて抑制的な量刑の上げ幅だと,チリング・エフェクトはまずないのではないのかなと思っています。   むしろ,インターネット上の誹謗中傷というのはかなり簡単にできてしまうし,その抑止効果という部分でいうと,もう少しあってもいいのかなというのは正直なところはありますけれども,それはもう非常にいろいろな御判断があると思いますので,かなり今回の量刑の上げ幅というのは抑制的になされているなという感想は持っています。 ○池田委員 主として刑法の先生方にお教えを頂きたいのですが,公務員,政治家等に対する侮辱に当たる言辞について,名誉毀損の場合だと,基本的に事実でないということが明らかな場合は別として,違法性阻却ということになると思うのですが,この侮辱の場合についてはどのように考えられているかお教えいただけますか。 ○井田委員 御発言の趣旨は,公務員については特別な考慮が要求されるべきであり,公務員が被害者の場合には,例えば多少のことを言ってもいいではないかとか,そういう御趣旨ですか。 ○池田委員 そうですね。公務員の場合に,例えば,先ほどのSNSのことを考えると,一人の人が,その政治家が取っている政策はおかしいというようなことを言って,その後で別の人が何か侮辱的な発言をするというようなことは考えられると思うのですが,全体としては名誉毀損になり得るかもしれませんが,最後のところだけだと事実摘示がなくて侮辱になり得ると。   ただ,そういったものが犯罪になるということについては問題ではないかと思うわけです。 ○井田委員 今の御意見についても,また先ほど小池幹事が指摘されたところについても同じように感じたところがございますので,一言述べさせていただきます。つまり,保護法益について,やはり議論が突き詰められていないという感じがするのです。品川委員も先ほど御指摘されたと思うのですが,飽くまでも外部的名誉という同一の法益を保護するのが名誉毀損罪であり,また侮辱罪です。侮辱罪の方は名誉感情を保護法益とするという考え方は,今,採られていません。判例・通説は,外部的名誉が両罪における保護の対象と考えているのです。   それだからこそ,名誉毀損行為の際に侮辱的表現を用いたとしても,もし刑法第230条の2によりその行為の違法性が阻却されれば,外部的名誉の毀損自体が正当化され,仮にそこに名誉感情の侵害が残ったとしても,それは現行刑法では保護の対象にならないわけです。また,公務員の外部的名誉がダメージを受ければ,単に公務員の感情が傷つけられるというのでなく,保護された外部的名誉を基盤にして行われている業務に支障が生じ,それは一般国民にとってもマイナスになるわけです。   先ほどから何度も御議論で触れられている名誉感情の保護というのは,確かに親告罪になっていますので,その限りで個人の感情がそこで意味を持つのは当然ですけれども,直接的な保護法益ではない被害感情がいかなる法的意味を持つのかは相当に難問です。品川委員は,先ほどそれはダイレクトに保護されるのではなくて,もっと一般化された,類型化されたものとして保護されるのだとおっしゃったのですけれども,それは一つの考え方ではあると思います。ただ,いずれにしても,侮辱罪の保護法益が外部的名誉であることはきちんと踏まえられるべきであるし,そのことの持つ意味については,理論的な整理が必要なのではないかと,個人的には思いました。 ○今井委員 池田委員は,多分歴史的な経緯もお考えになっておられるのではないかと思いました。イギリスでは,国王等に対して発言したことがライベルとされ名誉毀損が成立するとして弾圧されてきた点をも踏まえた改正がなされてきた点を考慮されているように思われます。   かつてイギリスで見られたような対公権力での言論弾圧が,人の社会的評価という保護法益を共通にする侮辱罪においても生じるのかという点につきましては,先ほど私が言いましたように,フェアコメントという発想は日本においても刑法第35条の解釈として成り立ち得ると思います。例えば,ある政治家に対して,自己の判断に基づいて一定の言辞をしたと。それが,当該政治家を侮辱するようにも見える,やや過激な表現を含むものであっても,政治的な意見をパブリックなオープンスペースで発表することは,違法でないことがあり得るとの解釈は採れると思います。この結論は,刑法第35条によって導けるのではないか,と思っているところでございます。 ○佐伯部会長 私も一言だけ付け加えますと,公務員に関する特則は,飽くまで刑法第230条の2の3項で,独立してあるわけではなくて,真実証明に関して公共の利害に関する事実であること,それから,公益目的を不要とするという,そういう規定であるということがまず一つです。飽くまで真実証明の一環の規定であるということです。   それから,侮辱罪については,池田委員も最初におっしゃいましたし,最高裁判所も非常に格調高く,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成しているということを,指摘しています。したがって,意見ないし論評を手厚く保護しないといけないということは,最高裁判所もはっきり認めていることで,学説でも異論のないことだろうと思いますので,再三御指摘がなされているように,当然公務員に対する批判というのは,表現の自由の一環として手厚く保護され,刑法では,刑法第35条によって適切な範囲で違法性が阻却されるということは,これまでもそうでしたし,これからもそうであることは間違いのないことだろうと思います。 ○小池幹事 2点ありまして,1点はかなり遡ってしまうのですけれども,法定刑引上げによる威嚇効果,抑止効果が足りない,もっとあってもよいのではないかという観点からの御意見に関してです。刑法において追求される一般予防というものの中に,不利益を明示して威嚇するという観点と,それとは別に,問題になっている行為が,これは本当にいけないことであるということを知らしめて,人の規範意識に訴えるという観点の両方あると思うわけですけれども,威嚇の観点だけを強調しますと,一罰百戒的な,余り望ましくない刑法の姿になる気もします。その意味では,まずは今回提案されている程度の引上げによって,これは本当にいけないことなのだということを,取り分け,やや語弊があるかもしれませんが,罪の意識があまりなく,軽い気持ちで,しかしひどい書き込みをしているような人たちに示すことが大事なのではないかなと思います。そのような観点から,今回の引上げ幅は適度なものではないかと考えております。   もう1点が,先ほどの保護法益の点に関して,生の感情を保護するかという点,確かに被害者の現実の反応いかんで大幅に量刑を左右するようなやり方は望ましくないように思います。その一方で,侮辱行為の態様の悪質性を見るに当たっては,単に外部的名誉をどれだけ低下させるかという観点にとどまらず,ここまでされたら,普通多くの人は大きな精神的ダメージを受けるだろうという観点も無視できず,生の被害者の反応は,その裏付けとしての意味は持ち得ると思います。そして,その点は保護法益として捉え直さなければいけない問題なのか,あるいは保護法益は現通説のままでも,そうした感情侵害の面も当然考慮できるという整理をするか,議論に値する問題ですが,個人的には後者の理解が十分可能と考えているところです。 ○安田幹事 最高裁の判例でも,法人に対する侮辱罪を認めた例からいきますと,その法益論として,従来の解釈を維持しようとすると,外部的名誉の保護ということでいくしかないところはあると思うのですけれども,ただそれは,それが入っていなければいけないということであって,今,小池幹事などが強調されている議論が,それによって排除されているわけではないと思います。   先ほど品川委員がおっしゃったような懸念もあるところですので,これを機に,副次的な法益として,そういったことも考えられるという議論があってもいいのかなと感じた次第でございます。   法定刑の引上げにつきましては,私も賛成でございます。侮辱罪につきましては,やはりこれまでは非犯罪化論まで主張されていたこともあった,そのような議論の布置図があったところで,このように懲役刑まで含めた形での法定刑の加重を行うということは,そのような議論にくみしないということを立法者として明確に示し,小池幹事がおっしゃったように,国民の規範意識に働き掛けるという意味で,非常に意義深いものと思っております。   法定刑の引上げは,飲酒運転が特にそうでしたけれども,絶大な効果を国民の規範意識に対して影響を持ち,実際に件数を引き下げる具体例があるということもございますので,今回の改正が実現するように願っている次第でございます。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,要綱(骨子)につきまして,本日は大変貴重な御意見をたくさん頂けたと思いますので,本日の審議はここまでといたしたいと思います。   次回は,本日,委員・幹事の方から述べていただきました御意見等を踏まえて,要綱(骨子)について二巡目の議論を行いたいと考えております。   そして,次回期日における審議の状況にもよりますし,決して拙速に進めるつもりはございませんが,議論が熟したということで,委員・幹事の皆様が賛成していただけるのであれば,部会としての意見の取りまとめも行いたいと考えております。   次回の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○栗木幹事 次回の第2回会議は,令和3年10月6日(水)午前10時からを予定しております。場所については,法務省1階東京保護観察所会議室です。本日と同様,Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○佐伯部会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。   配布資料につきましては,中谷委員提出資料について,中谷委員から関係者のプライバシー等に関わる部分の公表は控えてほしいとの御要望を伺っておりますので,当該部分のホームページでの公表はしないこととし,それ以外の資料については公表することといたしたいと思いますが,そのような取扱いでよろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは,そのように取り扱わせていただきます。   今日の審議はこれで終了といたしたいと思います。どうもありがとうございました。 -了-