法制審議会 担保法制部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和3年9月28日(火) 自 午後1時30分                      至 午後5時20分 第2 場 所  法務省20階・第1会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに向けた検討(6) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは,大体予定した時刻になりましたので,法制審議会担保法制部会の第7回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は大西さん,冨高さんの2人の委員の方と衣斐さん,加藤さん,内野さんの3人の幹事の方が御欠席と,あと松下さんが16時30分頃から途中退席されると伺っております。   また,今回から寺田逸郎法務省特別顧問に関係官として参加していただくことになりました。   寺田さんから御挨拶をお願いいたします。 (委員の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。本日の会議に向けて新たにお送りしたものとして,部会資料7「担保法制の見直しに向けた検討(6)」がございます。これにつきましては,後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。また,委員等提出資料といたしまして,本日御欠席の冨高委員から「担保法制の見直しに向けた検討(6)に対する意見」を頂いております。こちらにつきましては,後ほど関連する箇所で改めて御紹介いたします。   資料につきましては以上でございます。 ○道垣内部会長 それでは,審議に入りたいと思います。   部会資料7「担保法制の見直しに向けた検討(6)」について議論を行いたいと思います。   まず,事務当局から部会資料7の第1の「1 劣後担保権者による私的実行の可否等」と,「2 新たな規定に係る担保権の私的実行に当たっての他の担保権者への通知」について説明をお願いいたします。よろしくお願いします。 ○周藤関係官 それでは,1ページ目の第1の動産に複数の新たな規定に係る担保権が設定された場合の取扱いの「1 劣後担保権者による私的実行の可否等」について御説明いたします。   ここでは,今般規定を整備しようとしている動産を目的とする担保権について,同一の動産に複数の担保権が設定された場合に,その劣後担保権者は,優先する全ての担保権者の同意を得た場合に限り,私的実行することができるものとすることを提案しています。この提案は,いわゆる担保目的取引規律型と担保物権創設型のどちらにも妥当することを前提としており,また,同一の動産に複数の担保権を設定することを認めることも前提としております。この点に関する現行法の譲渡担保についての平成18年判例は,御承知のとおり,後順位の譲渡担保を設定することを認めつつ,後順位譲渡担保権者の私的実行権限を認めないという結論を示したものと理解されております。後順位譲渡担保権者の私的実行権限を認めない理由としては,優先担保権者が優先権行使の機会を確保できるか,優先担保権者の実行時期及び方法の選択の利益が損なわれないかというものが指摘されており,本文の提案もこの最判の考え方を基本的に踏襲し,優先担保権者の同意がなければ劣後担保権者は私的実行ができないものとしております。この同意を得る過程で,優先担保権者の間で弁済の方法等が合意されることになると考えられます。   このように同意を要件として必要とした場合,同意なく劣後担保権者による私的実行がされた場合の法律関係も問題となります。具体的には,そのような私的実行が全く無権限であり無効と考えるか,それとも,劣後担保権者が設定者に残っている権利,これを設定者留保権と呼ぶかという問題はありますが,を取得又は第三者に処分し,劣後担保権者又は譲受人が優先担保権の負担付きの所有権を得て物上保証人の地位に立つと考えるかというものです。劣後担保権者の合理的意思や担保権者の立場を踏まえれば,そのような権利移転を認める必要は乏しいと考えられる一方で,設定者が自らに残っている権利を真正譲渡することができると考えるのであれば,これとの平仄上,劣後担保権者の私的実行を無効と解することは困難ではないかとも考えられます。資料では,当事者間の債権的な合意として劣後担保権者の実行を禁止することができることを前提として,同意なき劣後担保権者の私的実行によって優先担保権の負担付きの所有権が移転するとの考えを示しておりますが,御意見を賜れればと存じます。   このほか,劣後担保権者が同意なく私的実行をした場合の即時取得や不当利得返還請求権の成否,優先担保権者の対抗手段として何らかの規定を設けるべきか否か,劣後担保権者が私的実行に当たって同意を得るべき優先担保権者の範囲,その私的実行に当たってその他の優先担保権者の被担保債権が債務不履行になっていることを要するか否かなどの問題もございます。これらの点については資料に記載したとおりとして,詳細は割愛させていただきますが,御議論いただければと考えております。   続きまして,5ページの第1の「2 新たな規定に係る担保権の私的実行に当たっての他の担保権者への通知」について御説明いたします。   劣後担保権者は優先担保権者の私的実行によって生じる清算金に対して権利を行使していくことになりますので,優先担保権者による私的実行又は同意を得た劣後担保権者による私的実行に当たっては,劣後担保権者の権利行使の機会を確保する要請が生じます。ここでは担保権の私的実行に当たって必要な手続として,優先担保権者が,知れている劣後担保権者に対して通知義務を負うものとする【案7.1.2.1】と,設定者が全ての担保権者に対して通知義務を負うとする【案7.1.2.2】の二つの考え方をお示ししています。私的実行をする担保権者が通知義務を負うこととすると,劣後担保権者の権利行使の機会確保のための手続負担を優先担保権者が負うことになるという問題が生じます。他方で,設定者に他の劣後担保権者のための手続負担を負わせるとしても,設定者にはその義務を履践するインセンティブがないという点が問題となります。これらの点について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○山崎委員 山崎です。よろしくお願いします。第1の1についてなのですけれども,今回,企業からの声を聴いた範囲では,これまでに重複して担保設定をした,若しくは担保設定されたケースはないとのことです。もし重複した場合は,従来の判例のとおり,優先する担保権者を保護してほしいとの意見でした。仮に重複が起こるとすれば,複数の担保権者がいずれも自分が第1順位だと認識していることが考えられます。現状では,自分が第1順位であることを確かめる方法がないため,優先する全ての担保権者の同意を得なければならない規則を設けても,機能させるのは難しいのではという見解がございました。先般議論した登記制度や担保ファイリング,また今後議論される包括的な担保制度等の議論の方向性が影響すると思われますので,これらの議論の際にも御検討願いたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○本多委員 三井住友銀行の本多でございます。ありがとうございます。同じく第1の1の劣後担保権者による私的実行の可否に関してなのですけれども,私としても劣後担保権者による私的実行は原則禁止されるべきであること,すなわち,優先する担保権者の全員の同意がなくして私的実行はできないという案に賛成でございます。   一方で,部会資料の2ページ目の3,同意なくされた劣後担保権者の私的実行の効果に関してなのですけれども,先ほど事務局からの御説明の中でも二つの考え方があるとされていまして,一つが無権限者による処分として無効であるという考え方であり,もう一つが,優先担保権の負担付きで処分先に移転していきますという考え方なのですけれども,後者の考え方を採った場合に,劣後担保権者による私的実行は原則無効であるという規律との間において矛盾しそうなのかなと素朴に考えておりまして,前者の方が望ましいのではないかと考えております。   すなわち,仮に優先担保権の負担付きで処分先に移転していくということになりますと,例えば,目的物の処分価額が優先担保権者の被担保債権額を上回る限りにおいて,劣後担保権者が満足を得るということになると思われるのですが,そうなりますと結局,優先担保権者の同意なくして私的実行できないという規律ではなくて,私的実行ができることになるものと思われます。あわせて,そういう私的実行を認める結果として,即時取得が生じ得る,その結果,優先担保権が消滅するという可能性も生じるということに鑑みますと,劣後担保権者による私的実行が事実上認められるような形になるのは制度設計としては望ましくないと考えられるのではないかと思っております。   一方で,事務局からの御説明の中でも,設定者による真正譲渡の場合に,結果として同じ形が実現できるということも御指摘されているところではあるのですけれども,設定者による真正譲渡の場合と,劣後担保権者に対する担保権の設定と実行という2段階の取組が行われる場合とでは,即時取得が発生する可能性も変わってくるということに鑑みますと,必ずしも同じ取引,若しくは同じような結論に至るような行為類型ではないと評価できる部分もあるのではないかと考えております。   最後に,もう1点だけ。仮に無権限者による処分として無効という規律を採った場合に,処分先との関係において取引安全の保護の問題が生じそうなのですけれども,処分先の保護につきましては,最低限の保護になるかもしれませんが,即時取得による保護の可能性がありますし,仮に劣後担保権者による私的実行は無権限者による処分として無効というルールが規範化されるということになるのだとすると,そもそも私的実行しようとする担保権者において自分が劣後担保権者になっているかもしれないという可能性を認識した上で,私的実行としての処分が有効かどうかということを慎重に精査するという実務になっていくということも期待できますし,それ以前に,担保権を設定するタイミングにおいて,自分が劣後担保権者になるかどうかということについても慎重に精査するというふうなプラクティスになっていくということが想定されるのだとすると,結果として取引安全が害されるような事態が生じることが,それほど多く生じないというふうな評価もできそうなのかなと考えております。   少し長くなりましたが,以上になります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   片山さんからも御意見いただいているのですけれども,山崎さん,本多さんの方から,劣後担保権者にそれほど強い私的実行権限を与えるべきではないと,それほど実務的にも存在しないという御意見を頂いたわけなのですが,それでは,お二人に少し確認したいのですけれども,劣後担保権,後順位担保権という制度自体の存在はあった方がいいということでしょうか,それとも,それも不要だというお考えでしょうか。山崎さんから少し確認させていただければと思いますが。 ○山崎委員 制度として不要というような意見ではないのです。今後,最後に私も申し上げましたように,登記制度や担保ファイリングなどで公示性やそういった順位が分かるようになった場合には,また別の形に,もちろんそのような規定がないとおかしいとは思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。本多さん,少し確認させてください。 ○本多委員 ありがとうございます。私も後順位担保権の設定はできてしかるべきと考えております。実際にファイナンス実務において,優先劣後に分けた上でファイナンスをしたいと考えるケースがあり,その際に劣後的なポジションになるファイナンサーとして,劣後担保権という形で動産譲渡担保権を設定できる方が望ましいというニーズはございます。一方で,劣後担保権者による私的実行権限がないとした場合に,せっかく劣後担保権を認めながら,権利性が十分でないということになってしまうかもしれないですけれども,後ほど議論されるのだと思いますが,競売手続によって劣後担保権の実行が可能という設計なのであれば,全く劣後担保権としての権利の実現可能性がないわけではなくて,少なくともそういう実行手続による権利の実現が期待できますし,それから,無担保債権者との間における権利としての優先性はなお認められるというところもありますので,劣後担保権を認める意義はあると考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   では,片山さん,お待たせいたしました。よろしくお願いします。 ○片山委員 どうもありがとうございます。慶應大学の片山でございます。今の実務家の2人の委員の先生方との質疑応答と重複してしまうところがありますが,再度私の方からも考え方を述べさせていただければと思います。   今,部会長からも御発言がありましたとおり,立法する限りにおいては後順位の担保権者の担保権の確保といったものも可能となる,そういう制度設計を目指すということはよく理解できるということではあるのですが,余りにも制約が大きくなってしまいまして,仮登記担保のときのように,制度を作ってみたものの結局は使い勝手が悪くて使われない担保となってしまうというようなことは避けたいとは思っているところでございます。前回の議論での引渡しと清算金支払の同時履行の問題,それから,今回の後順位担保権者による私的実行の,条件付ではありますけれども,許容というのは,恐らくは現行の判例法理よりも一方,重たい制度設計になっているということは明らかで,その点が若干気になっているところでございます。   18年の判決は,後順位担保権者の存在は否定できないということは大前提としても,基本的には後順位譲渡担保権者の私的実行は認めないという立場かとは思いますので,この判例法理をそのまま承継していくというのも一つの選択肢ではないかとは思っております。先ほど本多委員からも御指摘がありましたとおり,後順位の担保権者に関しても裁判所による担保権実行手続は認められるということでしたら,むしろ,中途半端な要件でと申し上げると失礼かもしれませんが,同意を要件として私的実行を認めなくても,後順位担保権者の担保権の確保という点は一定程度果たされるのではないかと思っている次第でございます。   そういう視点から,今回の御提案の,同意があれば私的実行が認められるというときの同意を要件とすることについて,幾つか懸念事項ということを申し上げさせていただければと思います。   若干重複はいたしますが,まず第1は,同意があったか否かという点については買受人は少なくとも容易には知り得ないということになりますと,安心して買受人とはなれないということですので,実行手続といいますか,取引の安全を害するということになりまして,ひいてはその部分がコストとして売却代金から差し引かれるということもありますので,回り回って担保権者の不利益になってしまうということがあるかと思います。   それから,第2は,全ての優先担保権者の同意を得るということで,その同意を得て後順位担保権者に実行権が付与されたという場合も,担保関係者間の法律関係,権利義務関係が必ずしも同意でどこまで明確にできるのかというのは,やや心配されるところです。分配とか,あるいは実行方法等についても,明確に合意がなされるということを期待できないということになりますと,むしろ紛争が訴訟事件となって長期化することも懸念されるということですし,また,さらに,どのような形で現れるか分かりませんが,濫用的な後順位利害関係人が出現するということを許すおそれもあって,その排除という別個の問題も出てくるようにも思っています。   それから,第3には,部会資料も指摘しているとおりでありますけれども,同意なく実行された場合の効力いかんという複雑な問題が出てくるということですので,後順位担保権者の実行権は,基本的には裁判所による担保権実行手続に限定するというのも一つの選択肢ではないかと考えた次第でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。1点伺いたいのですが,同意があるかどうかが買受人には分からないというのは,たしかにそうですが,第1順位の人だけ実行権限があるというふうにしても,第1順位かどうかは買受人には分からないですよね。だから,どうやっても解決されない問題なのではないかという気はするのですが。 ○片山委員 確かにそのとおりかとは思うのですけれども,少なくとも登記制度が充実されれば順位関係は登記を見れば明らかになるということですが,同意について登記事項になれば別ですが,それが登記事項にならないのだとしたら,容易には分からないということになるのではないかと思った次第です。 ○道垣内部会長 なるほど,分かりました。ありがとうございます。 ○藤澤幹事 藤澤です。すごく細かい点で本当に申し訳ないのですけれども,複数の担保権者が存在する場合の担保権実行について,部会資料に掲載されていない問題について,レアケースだとは思うのですけれども,問題提起させていただきたくて,発言いたします。   これまでの会議の中で,担保ファイリング制度の創設についても議論がされてきました。担保ファイリング制度によれば,対抗要件具備の先後に関わらず,ファイリングの先後によって担保権の優先関係が決せられるということが提案されていて,つまり,複数の担保権が設定されて対抗要件が具備された後のある段階で優先順位が入れ替わる可能性があるということなのですが,その終期が一体いつなのかという問題がありそうです。   部会資料では,実行に至る段階で複数の担保権の優先順位が確定しているということが前提に実行の可否が論じられていますけれども,ファイリング制度を導入する場合,実行との関係で順位が確定する段階としてはいつを想定しているのか,今後議論を詰める必要があると感じました。   例えば,第1に,占有改定又は譲渡登記によって対抗要件を具備したもののファイリングをしていない担保権者が登場して,第2に,同じく占有改定又は譲渡登記により対抗要件を具備したもののファイリングをしていない担保権者がいるという状態で,第2の担保権者が実行に着手した,例えば債務者に実行通知を送ったところ,実は第1の担保権者が存在するということを知らされたとして,そこでファイリングを備えれば,優先順位がひっくり返って,自分が第1順位になることはできるのかといった点が気になります。反対に,第1の担保権者が実行に着手したところ,第2の担保権者が急いでファイリングを備えて,自分の方が優先担保権者だからあなたは私的実行できませんよ,みたいなことを言える可能性はあるのかということも気になります。債務者に実行通知を送った段階で順位が確定するのか,それとも,当該担保権者に実行通知を送った段階で順位が確定するのか,それとも,もっと後まで順位がひっくり返る可能性があるのかといったことを検討する必要があるような気がします。   特に,本日の資料の第2のテーマとも関わりますが,集合動産を目的とする担保権について一部実行が行われるような場合には,実行対象となった担保目的物との関係では従来の優先順位による実行及び配当がされるけれども,それ以外の部分については,今後はそのファイリングの先後による優先順位になるのかとか,ファイリングと実行という観点から,幾つかややこしい問題が残っていると思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。後からファイリングしたらそちらが勝つようになるのではないかというのは,それはそうではないかと思うのですが,藤澤さんのお話の根本は,実行するのにファイリングは必要なのかというところなのだろうと思うのです。ファイリングというのを,担保権者が複数いたりするときの優先劣後関係を決めるということならば,1人だけの場合には不要な感じもするわけだけれども,かといって,やはり私的実行するというときにはそれなりの武器を備え,あるいは,きちんと衣装を着ていないと駄目ですよということもあり得るのかもしれなくて,そういうのを制度設計上どういうふうに考えていくのかという根本問題があるのではないかというふうな気がいたします。   その点も含めまして,御意見がございましたら御自由に御発言いただければと思います。   藤澤さんの御発言の微妙な問題はありますが,一番普通の場合を考えてみると,後順位というものを認めるとしても,その人が私的実行権限をフリーに持つというのは余り好ましくないねという感じで,皆さんの意見は合致しているのかなという気がいたします。しかし,2の問題は残っているわけでありまして,第1の1が,そういうことだよねとみんなが合致いたしましても,では,実行という形で売却してしまった場合にはどうなるのという問題が,2の問題としてあるわけですが,それについてはいかがでしょうか。 ○尾ア幹事 私は,同意なくされた劣後担保権者の私的実行の効果については,同意を要件とするという前提を採る以上は,無効になるという結論が自然であると思います。特に,対象となるのが動産の場合,動産の管理の状況が別の者の手に渡り変わってしまうと,その担保価値とか回収のしやすさに影響し得ると思いますので,買受人が担保権の負担のある所有権を取得するから優先担保権者にとって問題がないのだということにはならないのではないかと考えております。ただ,これも一元的なファイリング制度といったようなものが整備されれば,優先担保権者の意に反して私的実行が行われるというような可能性は低くなるかと思いますので,この場合もやはりファイリング制度といったようなものを整備することが重要ではないかと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見ございませんでしょうか。 ○阪口幹事 阪口です。まず,ここの1に関しては無効説を前提に議論するということでいいのではないかと思います。元々私は差押えの場合などのバランスを考えて有効説かなと思ったけれども,無効にしないと,その後の法律関係がかなり難しくなってくるだろうということも含めて考えると無効説が良いと思います。次に,無効の場合に,対象物が運ばれてしまった後の法律関係を考えなければいけなくなります。もちろん即時取得されればもう仕方がないのだけれども,そうでない場合に,4ページの4のところで,不当利得返還請求とか不法行為に関して,無効説だったら権利は何も侵害されていないということになってくるのだけれども,そこがそのままでいいのかというと,担保権者にとってかえって不利なような気もします。そこで,状況によっては,実行時には同意しなかったけれども,事後的追認をすることによって,もう劣後担保権者に請求するわと,そういう法律構成もできるとすべきではないか。後からの選択権が優先担保権者にはあるという形にして,あとは物を取り返してくるか,諦めて劣後担保権者の方に請求していくかを選べるということにする必要があるだろうと思っています。これが同意を得ない私的実行の問題です。   5ページ以下の2も今,話してよろしいのでしょうか,いわゆる通知の問題は。 ○道垣内部会長 はい,お願いいたします。 ○阪口幹事 通知に関しては【案7.1.2.1】,【案7.1.2.2】があって,【案7.1.2.2】は全く実効性がない,設定者には通知義務を遵守するインセンティブがないと書かれています。インセンティブがないどころか,通知しない方が自分にお金が入ってきますから,マイナスインセンティブが働いているというのが実際のところです。そうすると,【案7.1.2.2】は実際には全く使えない。   他方,【案7.1.2.1】については,優先担保権者に対する負担が重たいのではないのかという問題があって,特に,知れているというのが,知っているか知らないかということで後日紛争になり得ることも望ましくはないと思っています。私はもう,ここは登記・ファイリング制度に全部乗っ掛かるという制度でどうかと考えています。知っているか知らないかはもう別にして,とにかく当該債務者,設定者に関して担保の登記を得ている人全員に通知する。担保の重なり具合とかはもう全く考えなくて,その人にさえ送ればいい,知っていても登記されている人以外には送らなくていいという制度ぐらいが優先担保権者にとってのあり得る線かなと思います。というのは,知っている,知らないでもめることは避けるべきですし,他方,法的実行の場合には,ここは後でまた議論するところですけれども,多分,登記事項証明書を提出して法的実行が始まるというプロセスが望ましいでしょうから,そうすると,法的実行と私的実行のバランス上,登記若しくはファイリングで通知の範囲が画されるという制度がバランスがとれるのではないのかと思っています。 ○道垣内部会長 今のお話なのですが,少し幾つか申し上げますと,今まで,ファイリングや登記制度で分かる範囲でとか,分かるようになると,という話があったのですが,これはなかなか難しい問題で,仮に非常に柔軟かつ楽なファイリング制度というのを作ろうと,そうしないとうまくいかないよということになりますと,重なり具合と先ほどおっしゃいましたけれども,同一の動産なら動産を指し示すのに異なる指標によって指し示しているときには,分からないというのはやはりあり得るのだろうと思うのです。それが分かるようにするということになったら,今度は登記の入口のところで,かなりまた厳格な判断をして,こういうときだけファイリングを認めますと,こうなっていないとファイリングを認めませんとなります。柔軟かつ簡易なファイリングという要請と,ファイリングを見れば分かるようになるという要請って,やはり結構矛盾するというか,対立するところがあって,これは実際に制度設計をして,我々だけではなくて民間も含めたいろいろなところの御意見を伺いながら制度設計しないと,言えないのですけれども,そこら辺は少しまだ分からないところがあるということで御議論いただければと思います。   もう一つは,阪口さんから,やはり無効としないとうまくいかないよねという話なのですが,それはいいのですが,無効説というのは大体皆さんの通説として出ているのですが,設定者が処分したときにはどのようになるという前提で今,後順位担保権者が処分したときには無効であるというふうな御意見を示されているのでしょうか。設定者の処分についてはどのようにお考えなのでしょうかと言って,まず阪口さんのところから責任を負わせるのは申し訳ないのですが,阪口さん,お願いします。 ○阪口幹事 私は,設定者自身の処分は有効だと考えております。それはもう前の方の,部会資料の何になるのか忘れましたけれども,それは有効だと。だから,ここの部会資料7の問題に関して言うと,有効説を採った方が本当はバランスはとれると考えています。ただ,ここでの局面では,現在の平成18年の判例は私的実行を一切認めていないことのバランスであるとか,法的実行で別の手段があることなどのバランス上,ここでは無効説を採る,ただ,普通の設定者自身が処分することは有効だから,そこは本当は平仄が合っていないのかも分からないけれども,そこは政策的にそうするというのが僕自身の理解です。 ○道垣内部会長 それは処分権限のあるなしをどう考えるかですから,矛盾をしていることにはならないだろうと思いますが。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。今の点は,もしかすると,元々意見が分かれていたのかもしれないのですけれども,部会資料の整理では,設定者の場合は担保権者の同意がなくても担保権の負担付きで譲渡できるというのがスタートになっているのかなと理解しておりました。実務的には,担保権設定契約で設定者に対して勝手に処分するなよという約定を付けることがおそらく多かろうとは思うのですけれども,そういう約定が何らない場合は,設定者は担保権者の同意なく負担付きで譲渡できるというルールです。それとの関係で,今回の御提案は,劣後担保権者は同意がなければ実行できないというルールを採っているので,同意がない場合の私的実行の効果としては,無権限の処分だから無効であって,負担付きで移転するわけではないということになり,設定者による処分との区別は一応可能なのではないかと考えておりました。   ついでに通知について申し上げると,阪口先生のお話を聞いて,私も,ファイリングあるいは登記の記載に従って通知をするという方が,知れたる劣後担保権者に通知するよりは明確でよいのではないかと思いました。確かに先ほど道垣内先生がおっしゃったような問題はあろうかと思うのですけれども,それについて恐らく先ほど阪口先生がおっしゃったのは,ファイリングを非常に抽象的な,簡便なファイリングにすることとした場合でも,とにかく重なりなどがあるかないかを問わず,その設定者についてファイリングされている担保権者にとにかく全部通知だけすると,あとは通知を受けた人が自分の権利が害されているかどうかを調べて確認して,文句があれば言ってくると,こういう制度を指向しているのかなと思いましたので,それは一つの在り方ではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○佐久間委員 設定者が処分できるのかという話なのですけれども,前,第何回かは忘れたのですが,私が設定者が処分できるのではないかということを当然のこととして話をいたしましたところ,記憶違いでなければ,座長と阿部さんから,それはおかしかろうという,確か反対の意見を頂いた記憶があります。占有者が変わるということは結局のところ,この種の担保においては決定的に担保価値を毀損することになり得るのだから,制度上ですかね,当然にというか,内包するものとして,設定者自身も同意なしに処分することはできないのではないかというお話があったように覚えております。もし記憶違いでなければ,先ほどの話で,やはり考え方が分かれてくるのかなと思います。   仮に設定者自身が処分をすることができないということであれば,現在議論しているところの問題も当然無効だということになっていいと思うのに対し,設定者は処分することができるなのだとすると,その設定者から,劣位かもしれませんが,債務不履行になれば処分もできますよという権利を設定されている以上,処分が一応可能である,先順位の人の権利を害さないのであればできる,ということになり得ていいのではないかと思っています。   ただ,処分といいましても,占有を全然移さない形での処分であるならば,これは別に問題ないと思うのです。先ほど申し上げた,前にこういうことを伺った気がしますということでは,現実の占有の場所が変わることが大問題なのだとすると,劣位の譲渡担保等の設定は可能であるけれども,その人は占有の所在を変える権限はないのだということはあり得て,だとすると,例えば帰属清算であっても自分の下に占有を持ってくることは,悪意だったら当然できない,他の人に処分しても占有を移すことはできないということになるのかなと思いました。   結局余り要領を得ないことを申し上げているような気がしますが,この問題の前提として,設定者自身が何をできるかということをよく整理しないと,この部分も必ずしも結論を出せないのではないかという気がしました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。私と阿部さんが何か言ったという話ですが,全く記憶がないので,また後で議事録を見ておきたいと思いますけれども,集合動産譲渡担保のときに設定者は一定の範囲でしか処分権限がないのですよね。では,どうして個別のときには自由になるのかというのが私にはよく分からないような気もします。もう一つは,占有を移さなければという話なのですが,占有を移さなければ,とにもかくにも即時取得が成立しないということになりますと,有効であろうが無効であろうが余り大した話ではないのかもしれないですが,その辺,よく分かりませんけれども,更に私も考えたいと思いますけれども。 ○本多委員 ありがとうございます。まず,先ほど道垣内部会長から頂きました,設定者による処分の有効性に関しての私の見解なのですけれども,私も設定者による処分は有効にできると考えておりました。一方で,井上先生がおっしゃったように,実務上は設定契約において処分の禁止の約束を頂くということになるのだと思っています。仮にその約束を反故にされた場合に,佐久間先生も触れていらっしゃったように,契約の不履行,債務不履行は生じるのだと思うのですけれども,物権的な処分の有効性は,そのまま認められてしまうのではないかと考えています。だとしても,劣後担保権者による担保権の設定プラス実行によって優先担保権の負担付きで権利が移転していくということについて懸念を覚えるのは,設定者による処分の場合と,劣後担保権者による担保権設定プラス実行の場合とで,例えば即時取得が生じるシナリオが変わってくるかもしれなくて,特に,劣後担保権者による設定と実行の場合の方が即時取得が生じやすくなってくるということなのだとすると,優先担保権者としては慎重にならざるを得ないのかなというふうな実務的な考慮がありそうかなと思っておりました。   それがこの点に関する私の考えなのですけれども,一方で,引き続き部会資料の5ページ目の2に関して,私的実行に当たって他の担保権者に通知をするのが担保権者なのか,設定者なのかの論点について,併せて考えを述べさせていただければと思ってはいるのですが,担保権者としては【案7.1.2.1】よりも【案7.1.2.2】の方を選好したいと考えておりまして,それは優先担保権者として,少なくとも現状の制度を前提としますと,ほかに担保権者がいるかどうかということを制度的に把握する手続的な保障がないというところがありまして,それにもかかわらず,優先担保権者に通知をすることが求められるとなると,その通知をする趣旨というのが,後順位担保権者による物上代位の機会を保護するということなのだとすると,仮にある範囲では知っていたのだけれども,実は客観的には優先担保権者として知り得なかった担保権者が存在するという場合に,制度の趣旨にかなわないということになってしまうのではないかと考えるところがございます。ちなみに,知れている担保権者に限定されてはいるのですが,優先担保権者として,劣後担保権者がいる,若しくはその名前を知っているということなのだけれども,連絡先が分からないということなのであれば,通知をしようにも通知ができないということになり得ますので,知れている担保権者には入らないというふうな解釈になるべきかと考えています。   一方で,設定者が通知をするという【案7.1.2.2】による場合に,阪口先生からも御指摘があったのですが,設定者として通知をするインセンティブが欠けてしまうという問題はあるのだとは思うのですけれども,例えば,担保目的物の客観的な価額が担保権者の被担保債権額を上回るというような場合に,清算金が発生し得るわけなのですが,そういう場合にこそ劣後担保権者に対して通知をする実益が生じてくるのだと思うのですが,そういう場合は設定者においても,仮に受戻しのための資金調達の可能性があるということなのであれば,受戻しの機会を得るために積極的に他の担保権者に通知若しくはコンタクトをとった上で,私は受戻しをしたいから,今,優先担保権者から私的実行の通知が来ているのだけれども,受戻しに応じてくださいと通知をするインセンティブが生じることがあるかもしれないということも想定し得るのかなと思っております。   あと,仮に【案7.1.2.2】を採った場合の設定者による通知義務が懈怠された場合の効果なのですけれども,部会資料においては明確に触れられてはいないのですが,万一私的実行が無効になるという効果まで生じてしまうということなのだとすると,そもそも担保権者としてはコントロールできない事情によって自分の権利実行が阻害されてしまうということになり得ると思われますので,そういう制度設計にはされるべきではないということについても念のために申し添えます。 ○道垣内部会長 最後は当然なのかもしれません。本多さんに少し伺いたいのですが,日本の法律上いろいろなところに「知れている債権者」という概念があるのですけれども,そうではなくて,阪口さんが多分おっしゃったことだと思いますけれども,同一の目的物上に他の担保権が存在しているということがファイリング上から判断できる場合において,ファイリング上から分かる人だけに通知をしましょう,たまたま知っていても,その人には通知する必要はないです,という制度設計だと,どうお考えになりますか。 ○本多委員 ありがとうございます。そういう制度設計もあると思います。一方で,ファイリングをしないのだけれども何らかの形で対抗要件を具備している,劣後的な立場になってしまう担保権者が存在する場合もあると思われるのですが,そういう担保権者に対しては結局,通知できないことになってしまいまして,そうしますと,仮に清算金が生じ得るようなシチュエーションだったとしても,その清算金請求権に物上代位をするという利益はそうした劣後担保権者には与えられなくなってしまうのではないかとも考えられるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 それはそうですが,それはできる限りにおいては確保しましょうというだけだから,別に構わないのではないですか。 ○本多委員 そういう制度的な判断といいますか,設計はあるのだと思います。一方で,設定者なのであればきちんと担保権者がどの範囲でいらっしゃるのかということを把握しているはずですので,設定者であれば,より通知ができる先を正確に判別した上で通知ができるということもあるのかなと思います。 ○道垣内部会長 設定者は債権債務というか,契約的にはそもそもそういう義務があったっておかしくはないのだと思うのです。つまり,自分がきちんと払いますと言っている担保権者の担保権が飛んでいくという状況にあると,そのときに物上代位なら物上代位ができるというシチュエーションがあるのに,それを教えないのはいけませんよねというふうな,そういう義務が担保権設定契約上の債務として存在するという解釈すらあり得るのだろうと思うのです。ただ,本多さんがおっしゃったように,では設定者が通知しなかったときに先順位担保権者による私的実行が無効になるのかというと,無効になるというのはむちゃな話ですので,やはりそれは契約上そういう契約だよねというのと余り変わらないということになります。   それが第1点ですが,第2点は,これは別に本多さんを問い詰めるわけではなくて,こちらから少しおわびを申し上げなければいけないのですけれども,即時取得した場合にという話が出ておりまして,その即時取得のメカニズムというか,シナリオというか,プロセスというか,そういうのがいろいろ違い得るという発言を,2回ほど本多さんがされました。それはそのとおりで,例えば,処分の相手方が自分の処分の主が単純な所有者であると考えた場合もあるかもしれませんし,担保権者で最先順位であると考える場合もあるかもしれませんし,後順位なのだけれども最先順位には同意を得ているのだと考える場合もあるかもしれませんし,また,それが契約時と引渡し時とによって,いろいろその主観的対応というのが分かれてき得るということなので,かなりそのシチュエーションは場合分けして考えないといけなくて,設定者の場合と違うというのはおっしゃるとおりなのですよね。しかし,今のところは,即時取得があり得るよねと,それ以上のことは,即時取得類型1,2,3,4とか何とかというのは少し置いといて,即時取得があり得るというコンセンサスが得られるところまでしかこの資料は書かれておりませんので,その点は少し御容赦いただき,今後更に,もしこういうふうな形にするということならば,詰めていって,資料にもしていきたいと思います。そちらの方はおわびの話であります。 ○片山委員 少し戻りますけれども,後順位の担保権者が同意なくして処分した場合の処分の効力の話ですけれども,先ほどからの議論ですと,設定者の処分権限の問題と連動させて議論すべきだというお話であったかと思うのですけれども,私自身は,それらは別個な問題で切り離して議論すべきではないかと思っております。何回か前の議論ですが,設定者の処分が無効になるのではないかという話は,私自身はあのときに確か,仮に担保所有権ということで所有権移転構成を理論的に考えるならば,もう所有権はないのだから設定者の処分は無効であるという,そういう議論の立て方は今なお可能なのではないですかとは申し上げたのですけれども,多くの委員の先生方は,やはり設定者留保権もあるので処分権限もあるということを大前提とされていたと記憶しております。   ただ,今回の問題はそうではなくして,後順位担保権者が実行として処分する場合の,その処分の効力ということになるので,これはいずれの構成を採るかということに関わらず,少なくとも判例の理論からしますと,弁済期が到来したら換価処分権,私的実行権が与えられて,それを行使するのであるから有効に処分できるという点を大前提とした上で,恐らくここでは先順位の担保権者にだけその任意の換価処分権が付与される,にもかかわらず後順位の担保権者には付与されないと法で定めるということなのだと思うのです。ですから,そこでは設定者の権限の有無の問題とは別に,後順位の担保権者には処分権限がないのだから,一律無効となるということになっていいのかなと思った次第でございます。このように,設定者の処分権限の問題とはまた別の話ではないかと感じております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   だんだん意見も集約してきたのかなと思うのですが,5ページの2のところについては,【案7.1.2.2】はそんな意味があるのかという意見がありましたが,もう通知なんてしなくてもいいではないかというお考えの方はいらっしゃらないですか。もうファイリングから分かる範囲ですら,そんなことを言う必要はないと。   藤澤さん,別のところかもしれませんが,どうぞ御発言ください。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。通知しなくていいとまでは思わないのですけれども,これまでの想定のように,例えば内容証明郵便のような紙ベースで通知を送ることが必要なのかどうか,少し考える必要があるのではないかと思いました。通知を送る先が複数の宛先になるとすると,どんどん実行のコストが上がってくるという実務家の先生からの御指摘もあったところです。そこで,登記制度又はファイリング制度がもう少し使いやすくなることを前提として,担保権者としては一定の電子的なフォームに実行の内容を記録して送信ボタンを押すと,そうすると登録されている債務者,それから,その債務者についてファイリングしている全ての債権者に,実行の通知がありましたというアラートが通知されて,債務者及び担保権者がその電子的な実行の記録にアクセスして,各自で実行の範囲等を確認して,それが自分の権利に関係しそうであれば,そちらの方から能動的に動くというようなことでもいいのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   時間も押していますが,今の藤澤さんのお話を前提にして,取り分け実務家の方々に少しお伺いしたいことがあるのです。藤澤さんのおっしゃったような制度設計は不可能ではないと思うのです。ただ,そのときにはAIだのうんぬんだと申しましても結局,同一債務者に対して何らかの形で担保ファイリングに載るような担保権を有している債権者に対して全部通知されるのだと,つまり,このファイリングのこの動産,このディスクリプションで示されている動産と,今ここで実行されようとしている動産とが同一なのか,重なっているのか,それとも無関係なのかというのをいちいち判断するのが難しいわけでして,そこでもう全部に通知してしまおうということになるというのが一番単純なのだろうと思うのです。しかしながら,債権譲渡通知のときにも,サイレントでないと信用不安が生じたような雰囲気を生じさせることになるので,サイレントにしているのだとか,最初に債権譲渡特例法ができたときには,それによって累積額を書いたものだから,あそこはもう駄目なのだみたいな話になったりして大騒ぎになったりするというのがあったわけですが,例えば,たくさん倉庫があって,ある倉庫の物について担保権が設定されています,そこについて実行がされようという話が起こっていますというときに,ほかのところについて担保を有している人に対しても,同一性の識別というのはファイリングを緩やかにする限り,なかなか付かないのだから,全て通知してしまいましょうということになりますと,先ほどからよく出ている信用不安だとか,プライバシーだとか,そういう問題はどうなるのでしょうか。別段,心配しなくても大丈夫という感じですか,それとも,それは債務者に嫌がられるよという制度設計だとお考えになりますか。 ○阪口幹事 すみません,私が登記の人には全員送れと言った以上,私が言わなければいけないのかなと思うのだけれども,もちろんそれは嫌がられる面はありますけれども,バランスとしては納得感がまだあるのではないのかと思っています。A倉庫だけ実行されているのにB,C倉庫の物を担保に取った,関係ない人まで連絡が行くのはひどいではないかという価値判断は,それはあるかもしれませんけれども,ただ,やはり自分の財産が担保実行されている状態というのは,かなりイレギュラーな非常事態になっているというのが一般的な理解ですから,それを隠したいという動機というのは,元々あった例の債権譲渡登記のレベルとは大分違うと思います。あれは飽くまで融資を受けたために何十億という表示が出てしまう,まだ何も信用不安状態になっていないときなのに,それが信用不安をじゃっ起するという議論だったと思いますけれども,今ここで問題になっているのは,もう実行まで来ている段階ですから,それを秘匿したい,秘匿させてくれというのは,先ほどから出ている後順位担保権者その他の権利を保護することとのバランスで言うと,その秘匿のニーズは決して強いことはないだろうと私自身は思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○本多委員 ありがとうございます。担保権者がどれだけの数,範囲で生じるかというところにもよるかもしれないのですけれども,例えばA倉庫在庫について担保権を取っている債権者アルファがいて,B倉庫在庫に担保権を取っている担保権者ベータがいて,その他,複数の担保権者がそれぞれ自らのファイナンス条件にのっとってファイナンスをしていますというケースを想定します。こうしたケースにおいて,例えばアルファの債権に関しては期限の利益の喪失事由がかなり厳しく設定されていて,失期トリガーにヒットした結果としてデフォルトになりました,したがってA倉庫に関する担保権を実行しますと,その通知がベータの担保権に関するB倉庫のファイリングを通じてベータにも行きますということになって,一方でベータの債権に関してはまだ期限の利益喪失事由が生じていないというような状態だった場合に,アルファの債権について実行がされたという情報がベータに担保権の実行を促すことになるかもしれなくて,その結果としてなだれ的に担保権の実行が起こってしまうということが仮に起こるのだとすると,担保ファイリングを通じてあらゆる担保権者に通知が行ってしまうというのは,慎重に考えないといけない部分が出てきてしまうのかなとは感じられました。一方で,そうではなくて,担保権者の範囲が相応に限定されていて,ファイリングに登載されている担保権者に通知される範囲が限定されているということなのだとすると,阪口先生がおっしゃったように,信用不安をそのことのみをもってじゃっ起するということにはならないということもあるかもしれないのかなとは思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   井上さんと沖野さんから手が挙がっていたのですが,井上さんから何かございますか。 ○井上委員 私,阪口先生と同じ意見ですけれども,譲渡時点と実行時点ではフェーズが違うので,マイナスよりはプラスの方が大きいのだろうと考えます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   沖野さん何か,お手が挙がって。 ○沖野委員 ありがとうございます。今の点は実務家の先生方に向けての問いだったので,関係ないかなと思って手を下ろしたのですけれども,ちなみに,仕組みとしてもちろん作れるということですけれども,もう生きていない登記というか,もう取引が終わっているとか,そういうものも残った形で一斉通知にすると,余計な情報が来るだけだということにもなります。本当にやるとすれば,登記の仕組み自体もかなり丁寧に考えなければいけないということにはなるのだろうとは思いました。   それとは別に,手を挙げましたのは,一つ前に座長が言われた,そんな通知はしなくてもいいではないかという意見はないのかという問い掛けに対してのもので,藤澤先生もそれに対する御発言だったと思いますけれども,私自身は通知はしなくてもいいとまでは思わないのですけれども,劣後的な担保権者の保護をそこまで重視する必要があるのかというのは,そもそもそのような担保権を認めなくてもいいというような意見もある中で,単独の実行権というのもないと,もしも剰余があればそれに対する権利があるといっても,それを徹底的に保障するという必要まであるのかどうかということについては疑問を持っています。   それで,保護をするにしても,何らかの通知が必要だというときに,ここでの問題は,その通知について,それができる情報を一番持っているのは設定者であると考えられます。今生きている担保権者は誰であるのかとか,連絡先はどうかというのを持っているのは設定者ですから,一般的に考えれば設定者経由で通知をするのが一番望ましいと思われます。だけれども,インセンティブがあるのかということですが,担保権設定契約上の義務としては負っているものと思いますので,義務はあっても無視することを前提にせざるをえないという点ですけれども,必ずしも履行しない場合ばかりではないという御指摘もありましたし,その両者の間の義務の関係で十分ではないかと,優先する担保権者との関係では,それで十分ではないかという考え方も十分あり得るのではないかと思っております。   優先する担保権者の方から設定者に通知をして,そこから連絡してもらえばいいということなのですけれども,その場合,設定者への通知そのものについて,そもそも実行通知をどうするかという問題があり,かつ,迅速性とか,設定者に対して懸念があるような場合には,あらかじめ通知してかえって実行不奏功にならないかというような問題との関係というのがもう一つ,気になっているところではありますけれども,予め実行の通知を設定者に対してするならば,その通知と一緒に考えることができるのではないかと思っております。その意味では【案7.1.2.2】でいいのではないかと思っているところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○佐久間委員 私も座長がおっしゃった,2について通知が要らないという考え方はないのかということですが,いろいろな方の意見を伺うまで,私は別にこんな通知は要らないのではないかと思っていました。それは沖野さんがおっしゃったのと同じで,劣後の担保権者はそこまで保護してあげるような状況にはないのではないかというのと,所詮知れている担保権者に限られるということであり,かつファイリングなどを調査する義務もない,ファイリングを見てもさっと分かるわけではないとなると,結局,偶然に左右される要素が非常に大きいのではないかと思いましたので,その程度のものだったら要らない,ないとしておいてもいいのではないかと。集合物の場合はそうとはいえないというふうになるかもしれませんが,特に個別の担保権の場合には劣後の人が出てくることはそれほど多くないのだと,余りないのだということをずっと実務方の方々から聞いておりますので,なおさらそうではないか,というふうに私は思っておりました。   その上で,【案7.1.2.2】のように設定者から通知をすることはどうかということですと,これも義務違反の効果が恐らく実効的なものは,意味のあるものは何もないということになると思うので,これもなくてもいいのではないかと思っているのですけれども,仮に設定者からの通知をするということになると,何も劣後の人の利益だけを保護する必要はなくて,優先の人が実は知れていなくて飛ばされているというときは,その実行を場合によっては止めるという利益が優先の人にはあるかもしれないと思いますので,仮に【案7.1.2.2】を採るのであれば,その他の担保権者というふうにすべきではないかと思っていました。   これが今日の会議が始まる前に思っていたことで,でも,実務家の方からすれば【案7.1.2.1】のようなことが必要なのだと認識されているとすると,少し素朴すぎるのかなとは思いましたが,以上のように考えていたということを申し上げます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阿部幹事 後の方の第3で,競売手続による実行の話がありまして,そこでも,他の担保権者に対して,配当要求制度を前提として,配当要求のための実効的な機会を確保するための手段を講ずる必要があるかという議論があります。劣後担保権者が競売手続を利用したときに優先担保権者の配当要求の機会を確保するという話だと思うのですけれども,ここでさえ,競売により実行しようとする担保権者や裁判所に過重な負担を課すものではないかという指摘もあり得るということで,前記第1の2と併せて引き続き検討が必要であると,部会資料の16ページで書いてあります。この法的手続における配当要求の機会確保のための通知をするのであれば,ここでの私的実行のときの通知というのも考え得るけれども,法的実行のときの通知さえ過重な負担だといってやらないのであれば,私的実行の方はいわんやをや,なのではないかということで,どちらかというとこの法的実行のときの通知の方が先決問題なのかなと,こちらをやるとして初めて,私的実行のときの劣後担保権者への通知までやるかという問題が出てくるのかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○沖野委員 ありがとうございます。佐久間先生が最後におっしゃった,設定者から通知をするならば劣後担保権者に限らないのではないかという点についてなのですけれども,そこは事情が違うのではないかとも思っておりまして,仮に知られていなかった優先担保権があるといっても,登記なりがないと駄目だという前提でおりますけれども,登記にはあるけれども見落としたというようなことかと思いますけれども,一般的には劣後担保権者が実行しようとするときは,そもそも設定を受ける段階で,自分に優先するものがあるかというようなことはチェックした上で設定を受けるというのが一般的だと思いますので,それは期待していいのではないかと。そうすると,設定を受ける段階で登記事項証明とかを出してもらって,どういうものがあるというのは本来チェックしているはずではないかということが一つあり,したがって,実行しようとするときは,そこで把握していた担保権者に同意を求めるなり,状況を確認するなりしていくということが期待されるのではないかと思います。   それから,もしも,そうはいっても見落としたというようなことで,あるいはもう分からなくなっているとかいうようなことで,実は,実行しますよと言ってきた人が,いや,あなたは優先する人ではなくて,もっと優先する人がいますよというときには,むしろその担保権者にそれを言ってあげる必要があって,そのまま担保権を実行したとしても無効であって,しかも私的実行というのが,債務者が占有を渡すとかいうことがない限り即時取得ということも起こってこないのだとすると,更に優先担保権者に通知をしなければいけない,あるいはそれが必要であるという状況があるかどうかというのは,よく分からないと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   通知の問題についてもいろいろな意見があったかと思いますが,大体論点は明らかになったのではないかと思います。そこで,今日の議論を基に資料を作り直して,またお伺いをするということにしたいと思いますけれども,時間の関係もございますので,勝手ではございますけれども,よろしければ次のテーマに進みたいと思うのですが,よろしいでしょうか。   では,また場合によっては遡るということもあるかもしれませんけれども,部会資料の第2の「1 集合動産を目的とする担保権の私的実行の手続」,「2 実行後の再度実行の可否」,「3 集合物の一部について実行がされた場合の効果」についての議論を行いたいと思います。   事務当局におかれましては,部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官    まず,「第2 集合動産を目的とする担保権の私的実行について」を御説明いたします。集合動産を目的とする担保権の私的実行の手続についてでございますが,ここでは集合物を目的とする担保権の実行に先立って,担保権者は設定者に対して実行開始通知をしなければならず,実行開始通知の到達の効果として,到達後に集合物に加入した動産は実行手続の対象にならず,設定者は集合物に含まれる動産の処分権限を失うとすることを御提案しています。なお,この効果は目的とする動産がその実行手続の対象となるかに関するものであって,その後に加入した動産に担保の効力が及ぶことがあり得るかということについては,後記2の再度実行の可否のところで検討しているという整理になっております。   現行法の集合動産譲渡担保において,流動性を保ったままでは目的物を自己に帰属させたり第三者に処分することを観念することはできず,流動性を喪失させるプロセスが必要と考えられております。この流動性喪失のプロセスを固定化と呼ぶ見解もありますが,これは設定者が集合物を構成する動産の処分権限を喪失するという効果と,その特定の範囲に新たに加入した動産が集合物に組み入れられなくなる効果に細分化することができると考えられます。本文の提案はこれらの考え方を踏襲するものでございます。   また,部会資料6では,動産を目的とする担保権の実行に当たっては誠実評価額の通知等を必要とするということを御提案しておりますけれども,この誠実評価をする前提として,実行対象となる動産を確定しておく必要があると考えられるため,この観点からも必要な手続となると考えられます。問題点としましては,実行開始通知の到達により,いわゆる固定化の効果が生じることとした場合に,その通知の到達と実際の引渡し等との間にタイムラグが生じたときに,その間に混入した新規加入物の区別が困難になると,その結果,実行に支障を来すのではないかという点が挙げられます。これに対応するため,いわゆる固定化の効果が生じるときを引渡し時とすることも考えられますけれども,その場合には,これに先立って評価をする対象が確定せず,評価を前提とした清算金の提供が困難になるとの不都合も生じます。   この固定化の発生時期については,当事者間で別段の定めをすることも可能と考えられますので,当事者間の制度設計による対応に委ねることも考えられるところでございますが,御意見を賜れればと思います。   このまま続けて,第2の「2 実行後の再度実行の可否」について御説明いたします。実行後の再度実行の問題というのは,例えば,A倉庫内の在庫に担保権が設定され,ある時点で倉庫内に存在する在庫全てについて担保権が実行されたが,その後にその倉庫内に入ってきた在庫について,当初に設定した担保権の効力がなお及んでおり,その新たに入ってきた在庫について担保権の実行をすることができるのかというものです。ここでの問題は,物権的な効力として新たに入ってきた在庫に担保権が及んでいるかというものになります。事務局として,この可否についてどちらの考え方を採るかということをお示ししておらず,問題提起にとどまっておりますので,御議論いただければと存じます。   その議論に当たっては,集合物という性質に鑑みて再度実行が理論的に可能か不可能かという観点と,集合動産について再度実行を認めるべきか否かという政策的な観点の双方があり得ると考えられます。再度実行を認めることのメリットとして,新規加入物も与信の対象とできることが挙げられるほか,プロジェクトファイナンス等においては累積性を有する担保が有用であるとの指摘がございますが,他方で,実行後に加入した動産にも担保権の効力が及ぶとすると,事業継続のモチベーションが低下する等の指摘もあるところです。また,そもそも集合物の性質に鑑みて,実行後に加入する動産に担保権が及ぶような集合動産担保を設定することが理論的に可能なのかという問題もございます。また,仮にこのような累積的な担保権の設定が可能であるとしても,倒産手続においては事業再生という政策目的に基づき,特別に実行後の加入物には担保権の効力が及ばないとする考え方も一つのアイデアとしてお示ししているところですが,御意見を賜れればと思います。   長くなりますが,続けて,「3 集合物の一部について実行がされた場合の効果」についても御説明いたします。ここでは,A倉庫とB倉庫に存在する在庫を集合動産として担保の目的とした場合に,A倉庫内の在庫について担保権の実行をした後も,B倉庫内に存在する在庫について,いわゆる固定化の効果が発生せず,その後にB倉庫内に加入した在庫についても担保権の効力が及ぶかという説例を基に問題提起をしております。A倉庫とB倉庫の距離が離れており,その中の在庫について同時に実行することが困難な場合もあるため,その一部のみについて実行し,他方の倉庫内の在庫については流動性を保っておくことが望ましい場面はあり得るので,一部実行を認めるニーズはあるものと考えられます。もっとも,実行後の再度実行を認めない場合には,実行された一部について再度実行をすることもできないこととすべきであるため,実行された一部がほかの部分と区分されている必要があるとも考えられます。様々な考え方があり得る論点ではございますが,御意見を賜れれば幸いです。   また,今日御欠席の冨高委員より意見書をお預かりしておりまして,この論点に関する御意見でございますので,こちらで代読いたします。  「「担保法制の見直しに向けた検討(6)に対する意見」   「第2 集合動産を目的とする担保権の私的実行について」のうち,「2 実行後の再度実行の可否」,「3 集合物の一部について実行がされた場合の効果」などについては,労働債権を始めとする一般債権に影響する論点だと考えておりますが,一般債権保護の観点からの議論が部会資料には見られません。集合動産譲渡担保については,「在庫一切」という記載などで特定性を認めるなどの見解が示されている点において,第5回部会では引当財産確保の観点から大きな問題があると指摘したところです。加えて再度実行等の権限まで認めることは,騒動債権の回収等に大きな影響が及ぶと危惧しており,慎重な検討が必要と考えます。2,これまでも,「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」(平成15年8月1日法律第134号)及び,「破産法」(平成16年6月2日法律第75号)成立の際には,衆参両院で労働債権の優先順位に係る所要の見直しを行うこととする附帯決議がなされており,労働債権については担保付債権等との優先関係や調整に関する議論が必要であることが確認されています。平成15年に終了した法制審議会担保・執行法制部会では,労働債権の取扱いについて論点整理及び討議がなされていますが,当部会においては,以上の観点からの論点整理等はされていません。本部会でこれまで何度か述べてまいりましたが,附帯決議を踏まえた労働債権保護に関する論点整理と討議が必要だと考えます。」   以上,代読させていただきました。   私からの説明は以上になります。御審議のほど,よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を頂ければと思います。 ○遠藤幹事 中小企業庁の遠藤です。ここで発言をするかどうか少し迷ったのですが,今回の検討(6)の中で触れられていない論点がありますので,少し発言をお許しいただければと思います。   今回の事務局の資料で議論されているのは,集合動産・債権を目的とする場合に,その範囲をどう確定するかとか,その範囲が一部だった場合にどうするか,そういった観点から議論されていると思うのですが,そもそも想定するモデルとして,ある集合動産なり債権なりがあるときに,それを個々の財産として切り売りをしていくというモデルだけで考えるのは,多分,この検討の場として若干テーブルに上げる論点が不足していると思うのです。というのは,元々,我々がこの議論に参加しているのは,包括的な担保というものをどう考えるかという観点から参加しているわけですが,事業に供している動産・債権全体を包括的に担保に取るという場合に,これは第1回の総論的な論点でも議論があったと思うのですけれども,その事業を止めてしまって財産を切り売りしていくというモデルのほかに,事業が生きていることで担保されている価値を,その生身の事業が生きている状態でエグジットを目指していくという手続というのは,是非とも検討する必要があると思っています。   この点に関しては,この法制審の部会の検討の前段階で,法務省も研究会をされたと思いますが,我々中小企業庁も「取引法制研究会」という場で,この議論をさせていただいています。その中で我々としては,事業継続型の実行手続というものを設けるべきであると御提案申し上げております。具体的には,今回の事務局の資料にもある「帰属清算」とか「処分清算」といった清算型の実行以外に,その事業の管理人を担保権者が選任して,その管理人が善管注意義務を帯びながら事業を継続しつつ実行していき,例えば事業を継続している中で収益が一定程度出るのだったら,その中から事業を回していける範囲で少しずつ回収を図るとか,あるいは,これは通常の事業再生とモデルとしては同じなのですけれども,最後に事業の売却,事業譲渡という形でエグジットを探していくための手続というのは,これは是非とも必要だと思っています。   その事業継続型の手続についても,様々な論点があると思っていまして,例えば,担保権の実行なので基本的には私的実行であるべきなのですけれども,その中で裁判所の関与をどこまで求めるかというのは論点になります。例えば,事業継続型の実行を始めるときに裁判所の開始の許可というのを求めるかどうか,これは我々中小企業庁の報告書では,それは求めるべきだと,利害関係者の権利の保護のために,異議を申し立てられるように,裁判所の一定の関与を求めるべきだと提案しています。一方,例えば金融庁の報告書の方では,この論点に関しては,むしろ管財人の選任のような,もっと強い形で裁判所が関与するというところまで論点を出していらっしゃると思うので,裁判所の関与をどこまで求めるか,どの範囲で求めるか,というのが一つ論点になると思っています。   それから次に,手続としても,これも帰属清算,処分清算とのアナロジーになると思うのですけれども,財産の帰属自体を担保権者が取った上で事業を継続していくという,帰属移転型のような形があり,一方で,財産権の帰属は担保権設定者に残しつつ,管理処分権だけを担保権者に移して管理者が業務を行うという,業務委託型の形もあり得ると思っています。  その他にもいろいろな論点があると思いますので,是非ともこの部会の場で,検討をしていただきたいと思うのです。 ○笹井幹事 御指摘の点,ごもっともな面があると思いますので,そういった実行方法については,また改めて検討したいと思います。私どもとしては,包括担保について,金融庁さんや中小企業庁さんから問題提起があるということは承知しておりまして,包括担保を検討する回を改めて設けて,そこで,実体的な効力でありますとか,今御指摘のような実行方法も含めて,検討の俎上にのせたいと思っております。本日の問題提起は非常によく分かりましたが,実行方法も含めて,その回に御議論いただくということでいかがでしょうか。 ○遠藤幹事 ありがとうございます。私も今日,ノーペーパーでこの論点を深められるとは思っておりませんので,こういう論点がありますよということを申し上げたかっただけですので,また改めて,きちんと論点を提示していただいて議論させていただけるのでありましたら,その場に譲りたいと思います。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。おっしゃるとおりで,包括担保法制ということについては以前からいろいろなところから話が出ているわけでございますけれども,それについて真正面から話をする機会というのが必要であろうと思う,それはそのとおりなのです。また,もう一つだけ,遠藤さんのお話が,本日のテーマにも関係するのだという意味で申し上げますと,やはり境目は曖昧なところはあると思うのです,集合動産譲渡担保,集合債権譲渡担保と呼ばれるものと,包括的なものと。したがって,完全に区別して,今日は集合動産譲渡担保の日,今度は包括担保の日といえるかというと,微妙な問題がありますので,そのことを考えながら議論しなければいけないというのはそのとおりだと思います。そのことも念頭に置きながら,しかし,全体としては別の回をまた設けるというふうな認識の下で御発言いただければと思います。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。私の方からは,第2の1について,実行対象の確定と処分権喪失の関係というか,その二つが同時でなければならないかということについて,少しコメントさせていただきたいと思います。   部会資料では固定化の考え方に言及しつつ,実行通知によって実行対象が確定し,その実行対象については債務者の処分権限が失われるというデフォルトルールが提案されていて,10ページにはそれ以外の合意も可能である旨が記載されています。これについて,一体どのような合意までが可能なのかということを確認しておきたく,発言させていただきます。   例えば,生鮮品である在庫とその売掛代金債権の両方に担保権の設定を受けた担保権者がいるような場合には,実行通知をして実行対象を確定したとしても,債務者にはどんどん在庫を売って債権にしておいてほしいというようなニーズのある実行もあるかもしれませんが,そのような合意は可能ということでよろしいでしょうか。   それから,反対に,在庫が一定量を割り込むというような一定の事由が生じたところで,債務者の処分権限を先に喪失させておいて,在庫が一定のラインまで増えたところで,実行通知を送って実行対象を確定したいというニーズがあるかもしれません。通常時に債務者の処分権の範囲についてのルールが任意規定であると考えれば,もちろん詐害行為取消権や否認の対象となる可能性はあるものの,こういったタイプの実行や合意も可能であるという理解でよろしいでしょうか。   この二つについてお伺いしたいと思いました。 ○道垣内部会長 その二つについてはお答えし難いですね。藤澤さんはどのようにお考えになりますか。 ○藤澤幹事 私はありだと思っていて,それでもいいですよねということを確認したくてお聞きしました。つまり,実行対象の確定と処分権の喪失というのは,デフォルトルールで同一だとしても,基本的には様々な設計があり得ると考えています。 ○道垣内部会長 そうすると,それは,例えば,ある動産に関しては差押えをほかの人がするのは防ぎながら,しかし売却をしたときには債権は全部同一担保権者が取得をするという状態になると。そのときに,動産について何か手続を起こしているということは意味を持っているのですか。ただ単に集合動産譲渡担保と,今の言葉でいえば,集合債権譲渡担保とかが存在しているというだけで,何もまだどこでも実行手続が起こっていないというだけなのではないですか。 ○藤澤幹事 道垣内先生が最初におっしゃった,差押えの効果を防ぎながらということは,ないと思います。つまり,所有権が移転していない限り,そして,動産執行の差押えの要件を満たせる限り,担保権設定者の他の債権者がその動産を差し押さえてくる可能性は,私的実行のプロセスの中でも,あるのではないかと思っています。 ○道垣内部会長 ということになると,動産について何か起こっているという状態を藤澤さんは考えていらっしゃるのですか。 ○藤澤幹事 実行対象が確定することについては,単に当事者の中で実行の対象を指し示したというだけだと思っています。それが清算金の計算などの基礎になるということだと思います。処分権の喪失については,先ほどの議論に戻るのですけれども,もし処分権がないという合意が物権的な効果を持つのだとすると,第三者に対して処分したとしてもその効果が生じないということになり,債務者の処分権の有無は債権的な合意にすぎないと考えるのであれば,もうそれは単に債権的な問題だということになるのだと思います。 ○道垣内部会長 すみません,リモートであるということの限界を今,感じていまして,藤澤さんと今,隣にいたら,紙の上に鉛筆でいろいろ図を描きながら,もっとお伺いしたいところなのですけれども,今,私は実は藤澤さんがおっしゃったことがよく分かっていません。ですが,分かっていらっしゃる方もいらっしゃるのだと思いますし,イメージとしては何となく分かるところもありますので,少しほかの方のお話を伺って,それでまた更に伺いたいと思います。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。私も第2の1についてでございますけれども,確かに債務者に対する通知ということは必要かと思っておりますが,それと,固定化といいますか,集合物を構成する目的物の範囲の画定ということは必ずしも連動させる必要はないのではないかと思っております。集合物をどう考えるかという点を何回か前に御議論されたかと思いますが,そのときの一つの考え方としては,特定の方法としては集合物概念を維持しつつも,必ずしも集合物を目的物とするという考え方を採らない方向もあり得るというような御議論があったかと思います。それとの関係で,両者を分けて御検討いただけないかと思っております。 ○道垣内部会長 分けたときにどういうふうになるのかというのを,もう少し具体的にお願いできませんか。 ○青木(則)幹事 基本的には,倒産手続を別にすると,1回の実行があっても2回目など複数回の実行が可能ということになるのかと思います。 ○道垣内部会長 そこに結び付くというだけですか。実行通知があっても,それで担保権の実行対象がフィックスにならないというのは,2回目,3回目ができるというところに結び付くということでお話しされたのですか。 ○青木(則)幹事 ほかにもあるかもしれず、検討不足で申し訳ございませんが、先ほどの発言は、そのように考えて申し上げておりました。 ○道垣内部会長 分かりました。 ○片山委員 どうもありがとうございます。今の藤澤委員と青木幹事の御意見と重複しますが,私も同じように考えておりまして,いわゆる固定化の今日的な意義は,在庫全体について担保権者の換価処分権を付与するということと,それから,設定者の通常の営業の範囲での処分権を停止するという点に尽きているのだと思います。ですから,通知後の新規加入物ですか,それについて一切執行の対象とならないという意味での特定化,固定化と捉える必要はないと考えております。仮に待機期間を設けるということであるならば,待機期間に搬入された,その後の動産についても当然に処分権が失われて,換価処分権が担保権者に付与されているという効果がもたらされるという意味であって,執行の対象になると考えることは十分に可能ではないかと思っております。   評価額の問題ですが,一応,この部会では2段階の通知を前提として議論してきておりまして,第1回目の通知というのは誠実に評価をするということだけに重点が置かれていますので,第2の通知の段階で適正な清算金の提供がなされれば足りるということかと思います。その意味では,最初の実行通知の段階では柔軟な対応は十分に可能ということだと思います。余りそこを厳格に考えてしまうと,新規の加入物について再度実行を繰り返すというようなことになるわけですから,それよりは柔軟に捉えた方がスマートかと考えた次第でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   後でまとめることにいたしまして,鈴木さん,それでは,お願いいたします。 ○鈴木委員 ありがとうございます。私は,1の議論のところですが,10ページの2のところ,実行後の再度実行の可否のところで申し上げたいと思います。私としては再度実行を可能とする立場で意見を述べさせていただきたいと思います。   ABLなどの在庫を担保とする取引では,金融機関は在庫の増減は承知した上で,在庫が多いタイミングに合わせて融資枠を設定しています。商売をうまく回すために仕入れに十分な資金枠を設けている,そういうイメージになるかと思います。一方で,金融機関の担保への期待の観点から言いますと,最大限お金を貸しているときは,担保である在庫も最大であることを期待していることになります。そういった観点からは,融資に対して,在庫が少ないタイミングであったり,悪意をもって在庫の加入が遅れさせられた場合に,一度きりしか担保実行できないのは債権者にとって酷であるように思いますし,もしそういった設計になってしまいますと,ABLの取引とか,こういったものが少し萎縮するのではないかとも感じるわけです。これまでの議論でも担保価値維持義務とか補充義務の議論もありました。そういった範囲で再度実行が可能になるというのもよいのかなと思っております。冨高委員からの御意見もありましたので,一般債権者保護の観点からは,延々と再度実行が繰り返されるのはいかがなところかとも思いますけれども,担保権が消滅するためのルール付けをある程度するとしまして,通常の営業のサイクルの中で新規加入となる担保物については再度実行が可能となるのが望ましいと考えております。 ○道垣内部会長 異論を申し述べるべき地位にはおりませんけれども,ABLが萎縮するとおっしゃったのは,今は,鈴木さんがおっしゃったような何回も実行できるという前提で現在のABLは動いているという御認識でしょうか。 ○鈴木委員 そうではないです。 ○道垣内部会長 萎縮ではなくて,進展しないというわけね。 ○鈴木委員 そうですね,そういうことだと思います。どちらかというと拡大を志向する議論だと思っておりますので。 ○道垣内部会長 分かりました。萎縮とおっしゃるので,現在よりも萎縮するという御認識なのかと思いまして,少し確認させていただきました。 ○井上委員 ありがとうございます。第2の1のところですけれども,今回の事務局の御提案は,集合物論に立つかどうかはともかく,あるいは通知の後に入ってくるものに担保権が及ぶかどうかというのは2以降の議論であって,ここでの通知は,そのときに実行する対象を確定する手続として規定されていると理解しました。その上で(2)で,通知の到達後に入ったものは対象にならないし,通知によって,そのときに入っているものは最早処分できない,こういうスタイルをとっているのだと思いますけれども,少し細かいといいますか,これは立証の問題なのか,実体法上の権利の問題なのか,よく分かりませんけれども,(2)のところ,「通知が設定者に到達した後に集合物に加入した動産は」の後に,例えば「設定者がこれを分別している限りにおいて」というような文言を入れられないかなと感じました。   というのは,通知到達後,普通に流動している在庫資産などですと,どんどんその後も,すぐに分けないと,倉庫の中でぐしゃぐしゃに一緒になってしまうことがあり得ると思うのですが,そういうことが起こった場合に担保実行ができなくなる,あるいは担保実行に障害が生ずるのはできれば避けたいという感じがしています。そのような分別はある意味,担保設定者にとっても本来メリットになり得るのではないかと思います。というのは,基本的には通知時点の範囲で対象が確定し,それ以外のもの,すなわちその後に入ってきたものは設定者が自由に売れるものなので,分別することによって,その後に入ってくるもので事業を何とか食いつなぐことが想定されると思うのですけれども,そうだとすれば,分別は設定者にもメリットになります。ただ,それをできるのは設定者ですから,基本的には,そういう形で実行手続の対象となることを避けるためには,分かるように,分かるようにというのは,目的物によって帳簿上の分別でも分かるようにできるかもしれませんし,物理的な分別が必要な場合もあるかもしれませんが,分別をすることによって実行手続の対象範囲が分かるようにすることにしてはどうかと思います。逆に言うと,それをしていなければ担保実行ができなくなるという結論に行くのではなくて,入ってしまったものも含めてそのときの実行の対象になることもやむを得ないと,それを避けるために分別するというインセンティブを設定者に与えるというようなルールにできないのかなと思いました。これが1点目です。   2点目は,藤澤先生の御指摘に関わる話なのですが,累積的といいますか,何回かにわたる実行ができるかどうかは2以下の話ですよと先ほど御説明があったのですが,実はこの10ページの2の直前の3行のなお書に,入りと出の時点をずらすことも合意でできると書いてあるのですが,これは結局,累積的に効力を及ぼすところに踏み出しているのではないかと思うのです。同時に入りと出が止まるということであれば,実行通知の到達時に限らず,実行通知において指定した別の日,あるいは当事者の合意で決める日ということはあり得ると思うのですけれども,そうではなくて,出るのを今止める,通知の到達の瞬間に止めるのだけれども,入る物はしばらく実行の対象にし続けて,1か月後でも半年後でもいいのですけれども,その間入ってくるものに及ぼし続けることを認めるとすれば,それはすなわち,スクリーンショット型ではなくて,累積的に,時間的に1点を切り取るのではなく,継続的に担保権を及ぼしていることに結局はつながるような気がしますので,ここのなお書の議論は実は2の議論と重なるのではないかというのが2点目です。   それで,2の以降の話なのですけれども,何度も実行できるかどうかというのは,元々担保の効力が累積的に及んでいるかどうかに関わる問題ではないかと考えます。そして,特定の問題として「在庫一切」を認めるべきではないか,あるいは,それが認められないとしても,現時点で存在している倉庫を全て挙げて担保に取るとすると,かなり広範な集合動産譲渡担保を取ることがあり得るときに,それを更に累積的に担保権で把握した上で,それを実行できる,あるいは何度かに分けて実行できるということになると,担保権の力が強大になるので,今回意見が提出されている労働債権の問題とか,いろいろな調整をどうするのかという問題が出てくるのではないかと理解しております。   個人的には,特定の問題はできるだけ広く捉える方が物の移動に対して対応できるので,よいのではないかと考えていますけれども,それと再度の実行を認め続けるというのを合わせると,強大になりすぎるのではないかという気持ちもしていて,なかなか悩ましいという気持ちを持っております。   以前,商事法務の研究会で,これに関して,先ほど中小企業庁から御発言があった事業継続型の実行というのでしょうか,そのとき私は不動産収益執行的な実行ができないかと申し上げたのですけれども,そういう,累積的に担保権が及ぶけれども,そして場所的な特定を外して包括的に在庫を担保に取れるのだけれども,しかしながら一定の事業継続に必要な支出をカーブアウトした実行手続を考えられないかということです。このような実行方法が一つの方向性として出てき得ると思いますが,他方で,そのときも確か議論になったと思うのですけれども,実行手続が重くなりすぎる,あるいは,特定の集合動産について果たしてそういうカーブアウトみたいなことが,在庫の取得費以外の間接費みたいなものをうまく控除できるのかという問題もあるようにも思いまして,それで,収益執行型の実行というのは,先ほどまた別の機会にとおっしゃった包括担保のところでむしろ議論することも考えられ,そうすると,この,個別とはいわないのかもしれませんが,集合動産の実行に関しては,カーブアウトの議論をするのではなく,その全部を担保権者が把握できるのだけれども,その代わり,スクリーンショットで1回限り,こういうバランスのとり方もあるのではないかと思っておりまして,まだ自分の意見がまとまっていなくて恐縮ですが,バランスをどうとるかということを,いずれにしても,いろいろな要素を併せて考えなければいけないと感じております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。バランスが難しいところかなと思いますが。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。今ほど井上先生がおっしゃったとおり,私も第2の1と2のところの集合動産譲渡担保の実行に関する別段の合意の考え方として,第2の1における目的物確定の効果に関する別段の合意と第2の2における累積的な担保権設定の合意は,一見違う類型の合意のように見受けられながらも,集合動産を目的とする担保権の範囲を実行の一時点に存するもの以外にも及ぼすこととするという点において同様に機能しているものであるという説明になりそうなのかなと考えたところはございました。   順番に御説明させていただきますと,まず1のところの集合動産を目的とする担保権の私的実行の手続に係る実行開始通知の到達後の新規加入物について手続対象とするとの合意については,実行対象の動産の範囲に関する問題なのですけれども,藤澤先生も,片山先生も,それから井上先生もおっしゃっていましたとおり,実行開始通知が到達した一時点の範囲に確定されてしまうというのは実務的には窮屈すぎるのかなという素朴な思いがございまして,10ページ目の17行目の別段の定めの解釈の仕方として,例えば実行開始通知到達後,所定の期間内に搬入される新規加入物について実行手続の対象とすることができる一方で,その間における処分権限を停止するというふうな契約上のアレンジは認められる必要がありそうなのかなと思っております。   実際に設定者の在庫の管理状況によっては,短期間に在庫の範囲に大きな変動を生じるということもございますし,それから,輸送の状況等によっては,本来想定されるタイミングに確実に[H1]搬入されるわけではないということもございますので,実行開始通知の到達の一時点に実行手続の対象の動産がフィックスされてしまうということになりますと,かなり担保権者からすると偶然的な事情によって担保対象が変わってきてしまうということはあるのかなと思っています。   ちなみに在庫の取得方法として大量発注・分割納入方式というものもあるようなのですが,これは仕入れ資金に対応する商品在庫が分割的に所定の期間にわたって納入されるという方式のようなのですけれども,こういうものを念頭に置きますと,ある一時点に担保対象がフィックスされてしまうということになりますと,調達資金に対応する在庫の一部しか担保価値を把握できないということにもなり得ることになりまして,担保権者として把握できる担保価値の公正性からすると必ずしもフェアではないと担保権者からは言い得る状況も生じ得るのかなと思っています。   一方で,再度実行の可否として検討されています累積的な担保権設定の合意の効力についてなのですけれども,部会資料の12ページ目の1行目では,現行法の下では必ずしも多くはない累積的な集合物を目的とする担保権の設定をあえて認める必要性は乏しいという御指摘もあったりするのですが,例えば,プロジェクトファイナンスのようなファイナンスを想定させていただきますと,御案内のとおり,所定の事業を実施するために事業用の設備資金等をファイナンスさせていただいて,事業の遂行に伴って生じるキャッシュフローでもって長期的に分割返済するという約定でもってファイナンスをさせていただくものなのですけれども,今申し上げましたとおり,ファイナンス期間にわたって発生する事業キャッシュフローでもって分割的な返済を受けるという約定になっており,その約定を踏まえて,担保権設定のストラクチャーとして,事業資産を構成する設備動産,事業の遂行のために調達が必要になる原材料,一方で事業の遂行によって生み出される製品在庫の一切を含めて全て担保化させていただくというのが基本的な設計となっています。すなわち,ファイナンス期間にわたり発生したり,入れ替わったりする動産に継続して担保権が及んでくるということを想定しているものでございまして,一方で実行のタイミングの一時点だけに存在する動産在庫若しくは設備動産のみを切り出して担保対象にするというのは,ファイナンスの当事者からすると必ずしも合理的な意思内容にならないのではないかと考えております。   こうしたファイナンスを念頭に置きますと,例えば,長期の分割返済の約定が付いているローン債権のうち,あるタイミングにおける分割返済の期日において,その分割返済用の資金が一時的に不足してしまったというような場合に,その埋め合わせのために集合動産のうち一部だけを担保実行させていただいて,期日が到来している債権の返済に充当させていただきますと,それ以外の残存債務に関しては引き続き期限の利益を維持した上で,一方でそれ以外の集合動産担保の部分については流動性が維持された上で事業継続されていき,ファイナンスも継続していくこととし,また別のタイミングで担保実行を再度行うということが許容され得るという状態が作られていることが望ましいというふうに,少なくともファイナンスの実務サイドからは考えられているところではございます。   そういう担保実行を認めること自体がファイナンスの設計対比,設定者に過大な負担を生じさせていることになるのか,ならないのかというのは価値判断なのだと思うのですけれども,あらかじめそういうファイナンス条件を前提として必要な担保権を設定させていただき,その担保権設定のアレンジメントとしてそのファイナンスの条件に沿った形で債権実行を認めるということは,担保権者の立場からの考えに過ぎないかもしれないのですが,必ずしも不合理に設定者に過大な負担を生じさせているわけではないのではないかと考えております。   例えば,別なファイナンスとして,先ほど鈴木委員の方からABLの話も頂いたのですけれども,ABLの設計としてボロイングベースという担保権の範囲を所定の時点で観測して,この範囲が担保権の対象になりますというふうな基準時点における担保範囲を設定した上で与信管理をしていくという方法もあるのだと思うのですが,そういうボロイングベースで管理していくABLに関しては,場合によっては,井上先生がおっしゃったようなスクリーンショット的に観測される目的物に限定して担保権の範囲を画していくと,それは実行通知の一時点に存在している動産なり債権なりというのみが担保の対象になるという設計になるのだと思うのですけれども,そういう与信管理の仕方,与信条件の設定になっている限りにおいては,再度実行を認める必要性はそれほど高くないと考えられる一方で,先ほどプロジェクトファイナンスの文脈で述べましたような長期の分割返済の約定付きのファイナンスに関しては,再度実行が場合によっては許容されるというふうな与信条件になっているがゆえに,そういう実行方法を定めた合意が必ずしも無効視されるわけではないと整理できそうな考え方を持っております。   ちなみに,その有効性に関するバランスについても,井上先生がおっしゃったとおり,慎重に考えなければいけないのかなと思っているところではあるのですが,その判断に際する一つの指針として,これは集合債権譲渡担保に関するものではあるのですが,最高裁の平成11年1月29日判決の公序良俗にのっとった枠組みというのは一つのガイドラインになりそうなのかなとは考えております。   長くなりましたが,以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。プロジェクトファイナンス等々で,そういうふうなものがあるといいねというお話としてはよく分かるのですが,現在の状態で何回も実行できるという設計になっているという分析でしょうか。 ○本多委員 集合動産譲渡担保に関しては,現在の判例法理を前提とすると,何度でも実行できるわけではないということを前提として担保管理をしていく必要がありそうなのかなとは考えています。 ○道垣内部会長 そうですよね,別に現在そういうふうにやっているという話ではなくて,こういうふうにした方がうまくできるのではないのかと,そういう話ですよね。 ○本多委員 そういうふうに考えております。 ○山崎委員 どうも,山崎です。また第2の2に関してなのですけれども,今いろいろと御意見を頂いたところを念頭に置きまして,また,井上先生の御考察を踏まえて,あえて事業者の立場として申し上げたいのですけれども,いわゆる,こういうときは危機的な状況からの事業を継続して,経営を何とか立て直ししようとしている,やはりそういう環境を整備していくことが必要だと考えております。しかるに,実行後の再度実行はできないこととしていただきたいとあえて申し上げたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○佐久間委員 実務のことは全然分からないということを前提に,2点,お話を伺っていて疑問に思ったことがありました。   一つは,第2の1の固定化と呼ばれるところの話なのですけれども,先ほど来何人かの方から,固定をしたとしても,その後の入りについてはまだなお,一定期間かもしれませんが,認めて,そこについては担保の効力が及ぶようにするべきだか,することが望ましいという意見が複数出たと思うのですけれども,それ自体はそうなのかなと思うのですが,本多さんがおっしゃった,例えば,売買はしました,納品は分割というか,何度かに分けてありますというようなときに,売主もいるわけですよね。その売主は代金をまだ通常,受け取っていないのだと思うのです。そうすると,動産売買の先取特権を持っているところ,集合物の中に入れてしまわれると,現在の判例を前提にすると,動産売買先取特権はなくなってしまう。入れられなければなお残る,別の場所に置けばということになるのかもしれませんが,残るということになって,集合物を取った方からすると,それは都合がいいのかもしれませんが,売主の方からすると,集合物の動産譲渡担保を設定した設定者が,譲渡担保の義務を言わば履行するために集合物の中に入れますというのが固定化の後も続くということになると,これは結構たまらないのではないかというふうな気がするのです。最初に申しましたように実務のことはよく分からないので,もうそれはしようがないのだということであればいいのですけれども,何となく,僕が売主だったらそんなのは嫌だなと思うというのが1点目です。   次に2点目なのですが,第2の2,連続して実行できるかということなのですが,先ほど山崎さんが否定的なことをおっしゃって,その前に井上さんも否定的におっしゃって,そちらの方向での多分,発言になると思うのですが,例えば,事業担保を設定する場合とかプロジェクトファイナンスの場合とかに一部そのようなニーズがあるというのはあるのかもしれませんけれども,集合動産譲渡担保全般にわたってこのニーズがあるのか,あるいはニーズがあったとして認めていいのかというのは,少し疑問かなと思います。   特に,この会議で多分非常に有力になっていると思うのですが,在庫一切という担保の設定が可能だということに仮になったといたしますと,その在庫というものが生まれ続ける限りはずっと実行が可能だということになるわけですよね。それがそもそも望ましいのかということは疑問に思いますし,何度か伺った話では,例えば,一旦実行手続がとられたら,大概の場合にそれはもう事業の継続は極めて困難になるのだということだとすると,結局,一旦実行した後,その後どれだけ取引が継続されてどれだけ新たな担保が生まれるかというと,それほど大したことは見込めないということになるのではないかと思うのです。そのことは融資をする側も当然分かっているので,それほど大して融資額が増えるとも思えないところ,いざ一定程度の金額を貸したら,それを最後まで貪り尽くすというと言いすぎかもしれませんけれども,一人の人が取り続けられるというのは決して好ましい状態ではないのではないか。前に私は見掛け上の過剰担保というふうに申し上げたことがあるのですけれども,実質的には過剰担保ではないのかもしれないですけれども,他から融資を受けるチャンスを事実上奪い取る形で担保を大きく取っておいて,最後,大した金額を貸し込んでいないのに自分はその回収を最後まで図るということが,きちんとした金融機関などですとそんなことはされないのかもしれませんが,いろいろな債権者がいる中では起こり得るのではないかと思います。ですので,集合動産譲渡担保一般について,この2の再度実行を認めるのは必ずしも望ましくないのではないかと感じます。   繰り返しますが,実務のことは全然分かっていないので,いや,そんなことではないのだということだったら,そうですかと申し上げますけれども,何となく素朴にそのように感じます。 ○道垣内部会長 いや,大丈夫です。実務というのはみんな片方にしか立っていませんから,そういう意味では両方のバランスをとった発言はなかなか難しいところなのですが。 ○尾ア幹事 中小企業庁さんや本多さん,井上さんと問題意識が近いところかと思うのですけれども,そもそも事業の内容と担保の対象物との関係の性質に応じて,本来在るべき担保の実行方法というのは異なるべきなのではないかと思います。   例えば,事業とは独立の価値を持った不動産を担保に取るような場合は,これは不動産を売却して債権の回収を図るということが考えられると思います。他方,本多さんの方からプロジェクトファイナンスの例がありましたけれども,独立性の強い事業資産を担保にしている場合には,事業を継続させて,その収益からの優先弁済を受けることの方が望ましいといえるような場合もあるのではないかと思います。   これに対して,資料の11ページの24行目以下にありますように,担保の実行によって事業継続が困難になってしまうようなオプションしか用意されていないということになると,事業継続するために結局再生手続を選択するしかないということになり,コストや時間が掛かってしまうため,結果的には巡り巡って資金調達の制約ということにつながるのではないかと思います。   事務局の提案の中で再度実行の話というのが検討されていて,これは本多さんがおっしゃっていたように,在庫の範囲に入ってくる日付のちょっとした違いによって,担保の実行の対象になったり,ならなかったりといったような不都合を防ぐ効果はあると考えられますので,可能とすべきではないかと考えているのですけれども,やや弥縫策といったような評価は否めず,事業内容と担保対象物の様々な関係に応じた担保の実行方法を用意するという目的にはなかなかかなわないのではないかと思います。   むしろ,本来はそれよりももっと素直な形で,例えば,事業キャッシュフローから長期的に回収を図る収益執行的な方法として,長めの時間軸を伴った実行手続を考えるといったようなこともあり得るのではないかと思います。中小企業庁さんもおっしゃっていた話ですが,これは事業全体に対する実行手続ということに近いのかもしれないので,事業全体に対する担保権として考えるべきであるということかもしれません。その件に関しては,またそのときの回でお話をできればと思いますけれども,事業資産とその事業の内容との関係に応じて適切な担保実行の方法が用意されるということが重要なのであって,事業担保という形で実現するのであれば,そういうことなのかもしれませんけれども,いずれにしても何らかの形でしっかりとそうしたオプションが用意されるべきではないかと感じました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。尾アさんの御発言の中で何回か出てまいりましたけれども,担保権実行の問題なのか担保権の問題なのかというのはあるわけで,包括的な形で何回もやって,それから継続的に生じるキャッシュフローを取ろうといったときには,ここで今日お話をしているような集合動産譲渡担保とかという話ではなくて,別のタイプの担保権をそのために創設して考えるべきであって,集合動産譲渡担保についてそういう効力を認めるということに必ずしもつながらないのかもしれない。それは,そうかもしれないというところであって,まだ結論は出ないのですけれども。 ○大澤委員 大澤でございます。私は,先ほどの佐久間先生の御意見とほぼ重複するような感じではあるかと思いますが,再度の実行というところがどれほどの価値があるのかということを,弁護士から見るといまいち実感が湧かないというところがございます。というのは,やはり担保の実行という側面までもう来てしまいますと,事業として極めて成り立ちづらい状況の方がほとんどではないかという中で,そういった形での担保権の実行というところまで認めるとすると,恐らく対抗的に,債務者の方からすると,もう法的整理に入りますという話を申し上げることにもなるのだと思うので,そのような中で,再実行というところまで担保権者の方にパワーを与えておく必要があるのかと,余り実益がないのではないかとは思います。   また,ただ,そうすると,この部会資料の12ページの3の集合物の一部の前のところについて,倒産手続が開始された場合には担保権は及ばないとすることも考えられるというようなお話がございまして,これは多分,次回あるいは次々回のお話になるのだと思うのですが,では,本当に対抗的な倒産手続をとった場合に,先ほど本多委員がおっしゃられたように,担保権者としてはそういった分割弁済も含めた制度設計を考えておられるのだというと,本多委員からのお話からすると,倒産手続のときに別に考えるというのも少しおかしいのではないかというような議論につながるようにも思いまして,すみません,まだまとまってはいないのですが,少なくとも再度の実行というところに関して申し上げると,実務上,意味があるのかと考える次第でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   まだ何人かからお手が挙がっておりまして,藤澤さん,お願いいたします。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。3番のところについてなのですけれども,大丈夫でしょうか。一部実行の話なのですけれども。 ○道垣内部会長 もちろん結構です。 ○藤澤幹事 一部実行について,13ページの15行目以下でまとめをしてくださっていて,まず,複数の集合物の共同担保的な事案とそれ以外の事案とを区別するという考え方が示されていて,そして,それ以外の事案については,累積的な担保権設定とそうでない場合とが区別されていて,それによって一部実行となるのかどうかを区別するという案が出されていますが,担保権設定の段階で在庫一切といった特定方法を可能とした場合に,その担保権設定がこの区別の一体どれによく当てはまるのか,よく分からないところがあると思いました。   例えば,複数の保管場所を持つ債務者について,その保管場所や運送中の在庫なども含める趣旨で在庫一切という担保権設定をしたという事案において,そのうちA倉庫の在庫について差し当たり担保権の実行をしたという場合に,それ以外の場所にある在庫についての実行可能性がどうなるのかといったことを検討する必要があると思いました。また,運送中だった動産がその後A倉庫に運び込まれたというような場合には,A倉庫が安全地帯になってしまって,A倉庫に運び込まれた限りは二度と実行の対象とならないのかとか,そういったことも検討する必要があると思います。もちろん担保目的物自体が在庫一切と書いてあったとしても,債務者の事業の内容や貸付けの内容をよく見れば,三つのタイプのうちのどれかよく分かるといった議論もあり得るかもしれませんが,一見したところ分からない,かなり難解なもののようにも思われます。つまり,裁判をしてみないと決着が付かない不安定なルールに見えるわけです。   そういったことを考えると,在庫一切といったタイプの特定方法は,いわゆる集合物論プラス固定化といった法的構成とは相性がよくなくて,将来物として捉えて,結局,何度でも実行できると考えざるを得ないのではないかという感触を持っています。そして,この場面で集合物論プラス固定化の考え方を採らないのであるとすれば,これまでもあったタイプの集合物,例えばA倉庫の中の在庫一切といった特定方法の場合にも,実行の対象と処分権限の喪失の時点を確定することさえできれば,一部実行や複数回実行というのを自由に認めてもよいのではないかとも感じました。もちろん倒産の局面は別なのですけれども,通常の実行時はそんな感じでどうかと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。しかし,それは在庫一切というのを認めるという前提で,かつ,そのときの一部実行を認めるという前提で,そうしたらこうなるという論理だから,その前の方がどんどん崩れていくと今のような論理にはならないはずなのですよね。一部実行は,逆に場所的な決め方をしていない限り認めない,仮に一般的には「在庫商品一切」というのを認めたとしても,一部実行についてはそうなる,というのも十分あり得るわけですね。すみません,感想で。 ○本多委員 ありがとうございます。少し前の議論,佐久間先生の御議論と,それから大澤先生の御議論に関して,私なりの考えを御案内できればと思っております。   まず,佐久間先生から2点御案内くださいました,そのうちの1点目に関して,大量発注・分割納入方式に関するファイナンスの関係を踏まえた売主と担保権者の保護の在り方という御指摘と理解しておりますが,佐久間先生の御指摘のとおり,一括で発注はしたのだけれども決済は納入の都度行われますということなのであれば,売主がより保護されるべきだと考えておりまして,私も発言が言葉足らずだったのですが,発注のタイミングで一括して決済のためのファイナンスをし,一方で物自体が分割して納入されるというふうな状況を一旦念頭に置いて申し上げておりましたので,それが合理的かどうかという議論はもちろんあり得る中で,そういうファイナンスの状況を前提とした場合に,分割納入される在庫に関して担保権の効力が逐次及んでいく必要がありそうかなと考えていた部分はございます。   それから,2点目の,再度実行が無制限に行われる結果として過大な担保になってしまうというのも御指摘のとおりでございまして,特にファイナンスと対象の在庫,特に集合動産として回転していく在庫の関係性が余り密接でない場合に,佐久間先生の御指摘のとおり,ファイナンサーに専ら便宜的,有利な形で無制限な担保設定,若しくは担保実行が許容される形になるということなのだと思っていまして,さすがにそこまで行くのは行きすぎなのではないかと私も考えております。   私が申し上げたのは,例えばプロジェクトファイナンスのように,与信の条件と,その与信の対象となっている事業を構成する動産等との間で相応に紐づきが認められていて,その与信,ファイナンスの設計に際して,ファイナンス期間にわたって生じ得る動産も含めて担保の対象になっているというのが,当事者間のファイナンスに関する合意の内容として合理的であると認められる場合もあるのではないかと考えていまして,そういうファイナンス条件にのっとった場合に,将来入ってくる在庫も含めて,ファイナンス期間において担保の対象になっていくという設計も必ずしも不合理ではないのではないかという考えによるものでございます。   いずれにせよ,再度実行が認められますと,そういう合意ができます,累積的な担保権設定の合意も有効ですとなっていった場合に,佐久間先生の御指摘のような濫用的な担保権実行若しくは担保権設定がされてしまうというのは否めない部分だとは思っていまして,井上先生もバランス論のところで御指摘になっていたところだと思うのですが,そういうバランスの調整の仕方として,先ほど申し上げましたとおり,担保権設定のタイミングにおける設定者の財産,状況であったり,営業の推移等の見込みだったり,契約内容,それから担保権設定の合意に至った経緯等に鑑み,それらを総合考慮して,そういう担保権設定の合意を認めることが,他の債権者をいたずらに害するとか,設定者の営業について著しく強い制限を加えることになってしまうというふうな事情が認められる場合に,その担保権設定の合意を無効とするというふうな最高裁の平成17年1月29日の判決の枠組みで調整を図っていくというのも一つの方法なのかなと考えていたところではございます。   それから,大澤先生からの御指摘の中で,倒産手続との関係において,倒産手続開始後に実行したらその後の実行はできないということについての部会資料の記載についての御説明もあったところではあるのですけれども,例えば,担保権設定の合意として累積的な実行を認める内容の合意がされていた状況を前提として,倒産手続に入ってしまった場合に,その累積的な実行ができる担保権設定の合意自体は有効と認められるのであれば,倒産手続における担保権の内容の評価といいますか,価値の評価に際して,累積的な行使ができますということが反映されるのではないかと思っていまして,それは更生手続の場合ですと更生担保権の評価に影響しますし,それから,再生手続の場合には,例えば別除権協定に際する受戻価額の合意のところで議論になるのかと思っていまして,その際にはやはり担保権設定の合意の内容がどうだったのか,その合意の内容として,どの範囲で担保権が及ぶのかというのは議論に影響するのかなと考えています。   長くなりましたが,以上です。 ○沖野委員 ありがとうございます。どこから言ったらいいのか分からないところもあるのですけれども,技術的かもしれませんが,第2…… ○道垣内部会長 すみませんが,なるべく短く。 ○沖野委員 短くですね。井上先生と佐久間先生に共感しますで終わってもいいのですけれども,少し発言させていただきますと,一つは,実行というものがどういう意味を持つのかということが少し分かりませんで,一旦ここで現在のものから回収を図って,その後も与信も続けていくし,事業も続けていくというようなものであるときに,一方でいわゆる任意売却というか,債務者の協力を得て,事業もこの後,回していくのに必要な範囲で,一旦ここの部分については回収に充てましょうとか,そういうこともできる中で,実行というのは債務者の意思を問わず強制的にできるというものだけれども,そういうものをどこまで認める必要があるのだろうかということが1点,気になっております。   それから,類型によってはそういうものも認められていいのではないかという点で,ただ,強大になりすぎるのではないかということについては,やはりかなりのブレーキ措置みたいなものが必要になってきて,今だと認められる入口の広さが逆に狭まるということにもなるのではないかという点は佐久間先生,井上先生がおっしゃるのと同じ感覚を持っております。   それから,公序良俗などで制約するというのは確かに一つの案ですし,最高裁にも出ておりますけれども,事後的な判断としては妥当するにしても,事前の予測可能性ということがこの分野は非常に重要だといわれる中で,公序良俗を多少は具体化してということで本当に動くのだろうかというのは気になっております。   最後は,将来債権ないし債権との関係でして,動産については正直なところ,2の点はやや過大ではないかという気がしており,集合物的な発想からは難しいのではないかという気もしておるのですが,これが,藤澤先生は将来動産と言われたし,青木先生もそういう発想かもしれませんが,それに転じると,将来債権と同じでぱんとできてしまうということになる,この落差がどうなのかという気もしておりまして,それは将来債権の方で考えるべきことなのかもしれません。   それから,9ページの2のところについては,井上先生のお考えを聞くまでは少し別のことも考えておりましたが,分別している限りにおいてというようなことを入れるというのは妙案ではないかと思ったところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 すみません,12ページの3以下は休憩後でしょうか,それとも休憩前。 ○道垣内部会長 前です。たくさんあるようでしたら,後にしましょう。 ○阪口幹事 2までなら一言で済みます。2までの,要するに再度実行なり累積的担保の部分ですけれども,先ほどから出ている累積的担保必要説というか,ニーズというのは,結局はプロジェクトファイナンスのような閉じた世界,ほかの債権者が,例えば,先ほどの未払売主みたいなものがいない世界のことをおっしゃっているのではないかと聞こえるのです。それはもうそちらの世界で,事業成長担保権なのか別にしまして,そういうもので考える世界ではないかと。仮にそういう世界ではないということで制約を取っ払ってしまったら,先ほど出た与信条件と動産とのひもづきが強いというのは,多分定義付けは立法上,かなり難しいので,それはもうむしろできないと割り切った方が制度としては安定するのではないか,というのが累積的担保の部分に関する私の意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   伺っておりまして,実はそれほど意見が対立していないのではないかという気もしてきまた。阪口さんが最後におっしゃったことを私も正に申し上げようと思っていたところなのです。累積をしようとか再度の実行を認めようというふうなお考えのときというのは,事業担保といっても事業全体を担保とするわけではないのですが,ミニ事業担保といいますか,一つのクラスターとして作られた事業を担保化して,あたかも企業担保権のようにすると,そういう場合がある。それと,いわゆる伝統的な,伝統的な集合動産譲渡担保というのも変な言い方ですが,現在の判例法理のような集合動産譲渡担保の場合と,やはり少し話が違っていて,後者については,沖野さんがおっしゃったように,集合物論というものによってその対抗要件具備の効力が遡っているとか,そういうふうな一定の制約があるとともに,何回もやるのはおかしいのではないかのという話が出てくる。これに対して,前者の方は不動産収益執行に近いという話がありましたけれども,そういうふうな収益執行的に何回もやっていくというのが認められておかしくないのではないか。それを,本多さんは,そういった場合には有効とすればいいではないかという話なのですが,後で性質決定をするというのはやはり不安定なので,最初から二つの選択肢みたいなものを作って担保制度を作りましょうということになりますと,それが,金融庁のお話や中小企業庁のお話と結び付いてきて,そちらの方はそちらに吸収される,ないしはそちらのミニ版ですよね,というふうになるという話です。結局,皆さんの出されている事例が全然違って,それほど実は意見の対立があったわけではないのではないかという気も,伺っていて,したところであります。   3について,更に阪口さんもおっしゃりたいことがあるということでございますので,それを駄目というわけにはまいりませんので,しかしながら,始まりまして2時間半を経過しておりまして,少し皆さんお疲れだと思いますので,この時点で少し休憩を入れさせていただければと思います。16時10分まで一旦休憩をさせていただいて,それでまたお戻りください。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○道垣内部会長 16時10分になりましたので再開したいと思います。   先ほど申しましたところの第2の集合動産を目的とする担保権の私的実行についてというところが,議論がいろいろありました。まだ議論不十分な点も多々あろうかと思いますけれども,今までの議論を踏まえまして更に検討させていただくということにさせていただきまして,ただ,3の一部についての実行という問題につきましては,まだ議論を十分に頂いておりませんので,そこにつきまして,阪口さんからまず,お願いいたします。 ○阪口幹事 ありがとうございます。阪口です。まず,3の問題のところは,先ほど出た累積的担保の可否が当然影響するのですけれども,仮にそういう累積的担保はできないということを前提にした場合には,この13ページの15行目以下にあるところで考えると,担保権の目的が結局,担保権の個数というのか,目的の個数というのか,そこで画されることになってくると。ところが,先ほど藤澤先生もおっしゃったように,在庫一切という担保を取ることができるようにしたときに,それは本当に分けられるのですかという問題になってくるのだろうと思います。そこで,理論的には恐らく1個の担保権であれば実行も1個で,一部固定という概念はなく,言い換えれば全体固定しかないのだろうけれども,ただ,場所が物理的に離れている問題,それは東京と大阪みたいに,端的に言うと執行官室が全く別の管轄になるときにはニーズが確実にあるので,この場合はもう理論的な問題は少し置いといて,結論から考えたら,一部固定を認めざるを得ないと思っています。   場所が物理的に離れている場合以外に,ほかにニーズがないのかと考えると,例えば,ここでは1番から100番という実行の例が書かれていますけれども,わざわざこういう実行をする人って普通は余りいないのですけれども,例えば,倉庫に入っている果物全体を担保に取りましたと,リンゴは大体9月ぐらいにどんどん入ってきて一杯になります,ミカンは12月ぐらいに一杯になりますと,それならリンゴの実行は9月にやって,ミカンの実行は12月にやったら両方回収がマックスになるではないかという,リンゴとミカンという例はいまいちかも分かりませんけれども,そういう実行はできないのかという問題です。リンゴとミカンは見たら確実に区別は付きますよね。では,そういう実行ができるのか,理論的に認めていいのかとなってくると,僕自身は,もうそれは駄目と割り切ったらどうかというのが結論なのです。つまり,結局,一部実行,といっても一部固定の問題なのでしょうけれども,一部固定ができるのは,もう場所的な,先ほど言った東京と大阪みたいな明らかに物理的に離れている場所のときのみとする,そういう規律の立て方が法的には安定するのではないのかと考えています。というのは,リンゴとミカンを認めたら,その次の問題がまた発生して,ふじと何とかとか言われたら,もう分からなくなってきますから,それはもうまずいということで,場所的に離れているときだけという明確性が大事なのではないのかと思っています。   あと,その延長線で,2の再度実行のところにも関係しますけれども,弁護士会で議論していると,固定の撤回という問題が実務上,起きるのではないかという指摘が出ていました。つまり,債務者からしたら,やはり実行を待ってくれという要望が必ず起きるのだと思うのです,担保権者が実行に着手した段階で。そうすると,一旦実行が始まって,理屈の上では固定が始まったのだけれども,担保権者と債務者が話し合って固定効を覆滅させようという問題が多分,実務的には発生するだろう,そのときの規律も考えなければいけないねということです。多分,当事者間の合意で覆滅させる場合はオーケー,担保権者の一方的撤回はできないぐらいのバランス,結論になるのではないのかとは思っていますけれども,他方,根担保のときの被担保債権の確定がどんな場合に起きるかとか,そういう問題とも調整して考えなければいけないのかなと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。一部実行の話ですけれども,実務上は,今お話がありましたように,東京倉庫,大阪倉庫,札幌倉庫,福岡倉庫とあるようなときに,東京倉庫の分だけを実行するというニーズはあると思いますし,4か所に分かれているのに一度にしか実行できないというのは不都合,不便だとは思います。もちろん,元々担保権が累積的に及ぶという立場を採れば一部実行だって何だってできるはずなのですけれども,仮に累積的には及ばないという立場に立つと,そのうち一部だけ,流動性の一部だけが実行されるという説明はなかなか難しい。そうすると,むしろ流動性の単位ごとに担保権が設定されていると考えて,一部実行と見るのではなく,一本の担保権設定契約が締結されたとしても,それは集合動産といいますか,流動性の単位ごとに複数の担保が設定され,その1つが全部実行されると考えるのがよいのではないかと思います。   そうすると,その次の問題として,担保権の対象として「在庫一切」という特定を許すかどうかの問題で,仮に許すとした場合に,藤澤先生の御指摘の問題があるわけですが,それを許すかどうかも今後,議論すべきだと思いますけれども,許すとしたら,流動性の単位を「A倉庫」,「B倉庫」,「C倉庫」と,例えば倉庫単位で場所的に流動性の単位を画したうえで,在庫一切という特定を認めるのであれば,「それ以外」という流動性の単位をもう一個認めて,それぞれに対して一つの集合動産といいますか,流動動産譲渡担保が設定されると見て,その一つずつを全部実行するという整理になるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 井上さんに少しお伺いしたいのですが,そうであるならば,一部実行という観念はやめて,一部実行をするような可能性のあるときには,もう流動性の単位ごとに複数の担保権の共同担保的に設定しましょうと,最初から設定の段階でそういう気持ちを持っていないと,後になって一部といっても困るよと,もちろん解釈問題があるので,札幌の倉庫と東京の倉庫で一つの契約書でやっていたときに,これは一つの契約なのか,二つの契約なのかという問題はどうしても残るのですけれども,もうそういう単位で最初から設定させてしまおう,それ以外には認めない,そういう考えにはつながらないのですか,井上さんが先ほどおっしゃったところは。 ○井上委員 金融機関など洗練された担保権者を想定すると,恐らく,そういう問題を発生させないようにするために,そもそも実行の単位ごとにといいますか,今私が申し上げた流動性の単位ごとに担保権が一つずつ設定されることを明記するような設定契約を結ぶのだと思うのですけれども,先ほど申し上げたのは,明示的にそういう定めを置かなくても,たとえ複数の担保であることを明示せずに一つの契約書でまとめて設定したとしても,その契約の解釈として,あるいは物権の成立の仕方として,流動性の単位ごとに一つの担保権が成立するとみなすというか,むしろ解釈することができないかという趣旨です。それで,「その他」みたいな流動性の単位が出てくることになるのではないかと申し上げました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに何か3のところでは御意見はございますでしょうか。   3のところも全体としてどういうふうな実行,システムというのは,先ほど申し上げましたようなプロジェクトファイナンスとか,そういうふうないろいろな場合も含めまして考えるのかということと密接に結び付いておりますので,全体として事業担保をどう考えるのかという問題も含めまして,再度準備して,皆さんの御議論をしていただくという機会を持ちたいと思います。今日はよろしければこのくらいにさせていただければと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,「第3 新たな規定に係る担保権の競売手続による実行について」というところについて議論を行いたいと思います。事務当局に部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 「第3 新たな規定に係る担保権の競売手続による実行について」を説明いたします。本文では,新たな規定に係る担保権の実行方法として,担保権者は民事執行法190条の動産競売開始の申立てをすることができるものとすることを提案しています。その手続は,民事執行法190条以下の規定に従うことを想定しております。また,集合動産を目的とする担保権においては,差押えによって競売によって実行される対象が確定することになると考えられます。私的実行の場面とは異なり,劣後担保権者は優先担保権者の同意なく競売の申立てをすることを認めております。これは,一般債権者であっても目的物を差し押さえて競売を申し立てることが可能であることとの均衡を考慮したものです。   本文の2と3は,ほかの担保権者が競売を申し立てた場合に,担保権者がとることができる手段について提案しております。すなわち,担保権者は配当要求をすることができるとともに,優先する担保権者は無剰余の場合には第三者異議の訴えを提起することができるとするものです。この状況は,一般債権者による競売申立てに対して担保権者がとることができる手段に関する部会資料2,第2の2と同様であると考えられます。もっとも,この点に関連して幾つか問題がございます。   一つは,第2回の部会でも御審議を頂きましたが,無剰余の場合には配当要求と第三者異議の訴えの双方をすることができるとすると,無剰余かどうかの判断について,その執行異議を審理する執行裁判所の判断と第三者異議の訴えの受訴裁判所の判断が矛盾する可能性があるという問題であり,この点については引き続き検討を要するとしております。   もう一つは,第3順位の担保権者が競売の申立てをし,第1順位の担保権者が配当要求で満足している場合に,第2順位の担保権者に第三者異議の訴えの提起を認めるかどうかという問題です。資料では,第2優先担保権者が満額の弁済を受けられない場合には,実行時期の選択の利益を保護すべきとの観点から,第2担保権者は第三者異議の訴えを提起できるという考え方を示しておりますが,最優先担保権者が配当要求で満足している場合に,あえて第2優先担保権者の第三者異議の訴えを認める必要がないという考え方もあり得るところです。   このほかに,競売申立てがされた場合に,ほかの担保権者に対して配当要求等の権利行使の機会を確保させる手段を設ける必要がないかや,優先する担保権者が配当要求をしなかった場合に,その担保権が消滅することとなるかについても検討しております。これらの点に関して,御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは,この点につきまして,どなたからでも結構でございますので,御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○山本委員 私は,この第3のところのゴシックに書かれてある提案は,いずれも基本的には賛成で,よいのではないかと考えております。   付随的問題として指摘された点について,2点ほどコメントをしたいと思いますけれども,15ページのまず(2)のところで,これは一般債権者の強制執行のときにも問題になっていた,配当要求無剰余ルートと第三者異議ルートという二つのルートを認める結果として,判断が重複あるいは矛盾するのではないかという問題点です。この問題点自体は,そのとおりかと思っているところで,単純化して配当要求ルートに限定するという考え方も以前の回に指摘されたかと思います。それも一つの考え方かと思いますけれども,そのとき私自身は,現在の判例が第三再議の訴えを認めていて,それが長期間にわたって確定しているところ,それを覆すというのは余りに現在のルールからの乖離が大きくなりすぎるのではないかということを申し上げて,結論的にはこの二つのルートが生じるというのはやむを得ないかなとお話をしたところです。   ただ,この問題については,私はそれほど実際上大きな問題になるのかなということはやや思っております。普通に考えれば,第三者異議というのは,基本的にはその執行手続を排除する,もう進行を認めないという行動パターンであるのに対して,配当要求というのは,その手続を前提として配当を求めていくという行動パターンですから,普通はその手続を認めないという態度を優先担保権者がとるのであれば,やはり第三者異議が先行するというのが普通のパターンなのかと思いまして,そうだとすれば,この説例では,恐らく第三者異議が剰余があるという理由が請求棄却になって,執行手続が続行する中で,それならというので優先担保権者が配当要求をして,そこでまた無剰余が問題になるという局面だと思うのですけれども,恐らくそういう場合には,もう第三者異議の方で一応,判決手続で,その点の争点が決着が着いているという場面ですから,普通に考えれば,無剰余がもう一度執行手続の中で問題になるという可能性は低いのではないか,そして,仮に問題になったとしても,やはり判決手続における判断というのが,基本的には,法的な意味での既判力とかという拘束力はないかもしれないけれども,実際上はやはりそれに従って判断されるようになるのではないかという気がするものですから,問題点があることは確かだと思いますけれども,それほど大きく,何としても解決しなければならない問題点なのかという点は,やや疑問を持っているというのがこの点についてのコメントです。   それから,その下の(3)についてですけれども,この説例で動産の価値が1,000万円で,第1順位800万円,第2順位300万円,第3順位200万円で,第3順位が実行したという局面ですけれども,私はここに書いてあるとおり,基本的には第1順位には第三者異議は認める必要はなく,第2順位だけに認めるという結論でよいのではないかと思っておりまして,現在の執行法の考え方もそういうことになっているのではないかと思っております。不動産執行の局面では,民事執行法63条の2項にただし書というのがあって,これは無剰余の場合でも優先担保権者が同意すればそのまま執行手続を続行できるという規定ですが,その同意を要する担保権者の中から括弧書きで,買受け可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除くということになっており,この説例でいえば第1順位の担保権者の同意は不要ということになっておりまして,これは,要するに,第1順位は100%弁済を受けるので,それは執行手続が続いても別に問題はないでしょうという価値判断だろうと思われるので,そうだとすれば,この第三者異議の局面においても,第1順位に第三者異議は認める必要はなくて,第2順位,満額の弁済,配当を受けられない者にだけ認めれば足りるのかなと思っています。その際,第1順位が配当要求をしているという場合には第1順位が実行している場合と同じと考えるという考え方もあるのかもしれませんけれども,自分で実行しているのと単に配当要求をしているだけというのでは,やはり違う,飽くまでも実行しているのは,第2順位の担保権者から見えれば,自分より劣後している第3順位ですので,これは止められてもいいのかなと,これは15ページの一番最後の行から16ページに掛けて資料で書かれてあることだと思いますけれども,私はこの考え方で合理的かと思いますので,そういう意味で,先ほどのゴシックのところの3の提案はそういう規律ぶりに私はなっているのかなと読めましたので,基本的にはこれで相当かと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見は。 ○青木(哲)幹事 ありがとうございます。青木です。今,山本委員がおっしゃった点については,山本委員がおっしゃったことに賛成です。そこでは部会資料の15ページ,23行目の(3)のところに挙げられている例,同一の動産に三つ以上の担保権が設定され,最も劣後する担保権者が競売申立てをした場合についてだったかと思いますが,同じ場合について別の局面について意見を申し上げたいと思います。   部会資料の16ページ,23行目以下で,優先担保権者の競売による担保権実行に際して,劣後担保権者が特段の行動をとらなかった場合に,劣後担保権者がいずれも消滅すると書かれていること,これには賛成です。それに加えて,先ほどの三つ以上の担保権が設定された例ですけれども,その例で同一の最優先担保権者,第2優先担保権者に劣後する担保権者が競売申立てをした場合に,最優先担保権者が配当要求をし,それで競売が行われた,しかし第2優先担保権者は特段の行動をとらなかった,この場合には,第2優先担保権者の担保権は,更に劣後する担保権者の実行により競売が行われたわけですけれども,消滅するというのがよいのではないかと思います。第2優先担保権だけが引き受けられ,その担保権が順位昇進の利益を受けることになるのは相当でないように思われ,また,買受人が第2優先担保権が引き受けられるということを理由に競売を後から取り消すということになると,配当を受けた最優先担保権者の地位が不安定になるように思われます。他方で,第2優先担保権者の配当を受ける機会の確保の問題はあるのですが,更に劣後する担保権者により競売が行われたという場面についても,最優先担保権に基づいて競売が行われた場合と,その辺りも含めて同様に考えることができるのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。少し聞き逃してしまったのですけれども,1,2,3といって3番目の人が実行したときに,1番目の人だけが行動を起こさなくて,2番目の人は配当要求したといったときに,2,3に配られたときには,は第1順位の権利は残るという考え方なのですか,青木さんは。 ○青木(哲)幹事 はい,そのように考えております。 ○道垣内部会長 そのときに,第2の人だけが行動をとらなくて,第2だけが残るということになると面倒だよねとおっしゃったのですが,第1だけが残るというのも,買受人がやめると後で言ったり,同じ面倒さなのではないですか。第1と第2の片方が残るというときには。 ○青木(哲)幹事 それはそうなのですけれども,劣後する担保権者が担保権を実行した場合にそのような問題が生じるのはやむを得ないと考えまして,しかし,最優先担保権者が配当を受けたという場合に,後でそれが覆る,最優先担保権者から見ると劣後する第2優先担保権者のためにそれが覆るということは,避けた方がよいのではないかと考えた次第でございます。 ○道垣内部会長 よく分かりました。 ○中村委員 優先担保権者が特段の行動をとらなかった場合に,その優先担保権の負担付きの所有権を買受人が取得するかどうかという点についてですけれども,競売手続を行う裁判所あるいは執行官としましては,そのようなリスクのある状態のものを売却するということはなかなか難しいのではないかと思います。裁判所の手続をとる以上,そういうリスクをできる限り取り除いて売却することができるようにする制度設計をするのがよいと思います。   その手続については,実行担保権者以外の担保権者がどのように手続参加できるようにするかですけれども,やはり設定者に対し,対象動産について実行担保権者以外の担保権者がいる場合には,それを執行裁判所に全て届け出るという義務を課して,執行裁判所あるいは執行官の方から通知ないし催告を行うということにより,優先担保権者に手続に参加する機会を与えるということで,その手続をとった上で,買受人が負担のない所有権を取得するという効果とするのがよいと思います。仮に担保権者がその届出義務を怠ったために手続に参加することができなかった優先担保権者がいるという場合には,実体面で劣後担保権者に対する不当利得返還請求をすることが可能としまして,買受人の権利には影響がないというのが相当だと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。不当利得で最後,処理するというのだったら分かりますけれども,通知するといっても,先ほどのファイルの立て付け問題にもなるのですが,先順位者でどんな人がいるのかというのは執行裁判所にも分からないですよね。 ○中村委員 そうですね,設定者からそれを聞き出すしかないと思います。 ○道垣内部会長 そうすると,先ほどから話が出ている,設定者に何のメリットがあるのかという問題というのが出てくるのかもしれないですね。そこら辺も制度設計を少し考えなければいけないですが,中村さんの御発言の中で最も重要なのは,恐らく引受けになるというのでは裁判所の売却の手続として信頼性とか,そこにきちんとした人がきちんとした額を付けるというふうな制度が実現できないのではないかと,そういうところでどう仕組むかという話かと思います。 ○山本委員 度々申し訳ありません,今の中村委員の御発言との関係なのですが,私もできる限りにおいて優先担保権者の存在を探知すべく手続を仕組むということは賛成ですが,しかし,今の部会長からの御指摘のとおり,やはり全部が全部分かるわけではないということも他方,確かで,恐らく動産執行については現在の考え方は,それは善意取得の問題として,基本的にはもう対処するということなのかと思っています。ただ,問題は無過失,善意はいいと思うのですが,無過失をどういうふうに判断するのかというところで,そこが厳しくなると,買受人が確かにいろいろ調べないといけないということになると,買受人なんて出なくなるということなのかと思っていますので,そこは,しかしながら,解釈の問題で決めを打つのは難しいところではあるのですけれども,普通に競売のあれに入ってきて普通に買い受ける人は,普通は無過失であるということで整理できるのであれば,それによって買い受ける人がいなくなる問題というのはそれほど起こらないかなとは思っています。   それから,もう1点,先ほどの青木幹事の御発言ですが,私は御発言に対し賛成です。基本的には不動産の執行の場合と同様の感じになっていくというところなのかと思うのですけれども,現在の動産執行の民事執行法の規定が,基本的には不動産みたいな複雑な担保関係を想定せずに,非常にざっくり,無剰余なんかも非常にざっくり書いてあるというところが,私自身は一つ,問題意識を持っています。配当要求を認めて,やはり処理をしていくということであれば,不動産執行並みかどうか分かりませんけれども,もう少しきっちりしたというか,細かい部分まで書き込んで,法律の中で規定していく必要があるかなという問題意識を持っているということをお伝えしたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阿部幹事 先ほど,裁判所が関与して競売するからにはきれいな状態で買受人に買わせないと,という御趣旨の御意見があったかと思いますけれども,私は,劣後担保権者であっても優先担保権者の同意なくして競売の申立てができるという,その制度を導入すること自体は問題ないと思うのですけれども,だからといって,これを最大限使い勝手のいいものにしなければならないかというと,そこまでではないかなと思います。劣後担保権者がやっていることであって,私的実行であればできないはずのことですから,競売手続を使ったとしても買受人が現れないといった問題が起きるとしてもそれはやむを得ないのではないかと,ですので,優先担保権者の利益を害してまで使い勝手のよいものにする必要はないのではないか,こういうものはあるけれども,実際には余り使い勝手のよくないものですねということになったとしても,それでやむを得ないかと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。この御提案を拝見すると,無剰余かどうかということが決定的に重要だと思うのですけれども,無剰余の判断の単位みたいなものが気になっていまして,例えば,債務者が甲,乙,丙,丁の複数の動産を持っていて,その複数の動産を対象として第1順位の担保権が付いていて,第2順位の担保権が付いている場面で,全部一遍に実行すれば第2順位にも剰余があるというときに,全部を第2順位が差し押さえて,それで剰余が出たのでその差押えは有効ですと判断してもらえるのでしょうか。また,一般債権者が甲,乙,丙,丁を差し押さえようとするときには,超過差押え禁止のルールがあって,債権の範囲でしか差押えが許されないと思うのですけれども,担保権者がいるときには,甲,乙,丙,丁全部差し押さえて,それでなお剰余があれば,その差押えが有効ですというふうにできるのかどうか,複数の動産が対象となった場合にどうなるのかというのは少し気になっています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。気になっていますというのは,立法論的になのか,現在の解釈論的にというところもあり得るのですが,現在の解釈論として,藤澤さんの疑問に対してはどういうふうに答えるかについて,どなたかお願いできますか。 ○山本委員 不動産の共同抵当との関係では,今,藤澤さんが言われた問題点というのは,かなりというほどではないかもしれませんが,議論になっているところかと思います。要するに,複数の不動産に抵当権が設定されていて,両方が共同で実行されれば剰余が第2順位にも出るのだけれども,一つずつ実行されれば両方無剰余になってしまうみたいな局面ですが,私の理解で今のところ下級審の裁判例しかないと思いますけれども,個別に考えるほかないのではないかというような裁判例が多く,しかし,私なんかはそうではない,もう少し考えた方がいいのではないか,みたいな評釈を書いたような記憶もありますけれども,いずれにしても,そこは解釈論で論じられているところで,この際,立法でということはあるのかもしれませんけれども,そこまで規定するかどうかという話かなとは思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。共同抵当のときには,またこの代位の権利に対して差押え債権者がどういう権利を持つかというふうな話もあって,共同抵当のときの代位が考えられないような世界ではどうなるのかというのは,また変わってくるのかもしれませんが,いずれにせよ一般論としてもいろいろ問題があるところではないかと思います。 ○阪口幹事 阪口です。先ほどの藤澤先生の問題は,いわゆる売却単位をまず考えなければいけないわけですよね。不動産競売だったら,売却単位を決めて,売却単位ごとに共同抵当みたいなことを考えて,そこで剰余,無剰余を考えるということになるはずですが,動産の場合に不動産と違って売却単位の範囲の判断が難しくなるというのは,そうなのだと思うのです。例えば,リンゴとミカンがたくさんあるときに,リンゴだけで売るのがいいのか,両方で売るか,リンゴ1個ずつ考えるかというのは,リンゴとミカンにこだわっていますけれども,それは別にして,そういう,まとめて売ったら合理的かどうかという判断が必要になります。不動産競売でいうと土地と建物の場合が売却単位の議論としてありますけれども,そういうどの単位で売ったら一番合理的なのかという判断が動産の場合にしにくくなるという事実上の問題はある。ただ,それは,多分,当てはめの問題で,法律の問題ではないのかなとは思います。   というのが先ほどの話で,元々私が言いたかったのは,消除主義とかの問題にも関係するのですけれども,先ほども私的実行のときに申し上げたけれども,登記で割り切るというのは駄目なのですかね。16ページの5(1)のところで,通知を要することとすることは,仮にその対象を登記によって対抗要件を具備するものに限定したとしても,競売による実行をしようとする担保権者や裁判所に過重な負担を課すものではないかとの指摘もあり得ると書かれています。僕はここは全く疑問で,競売しようという者が登記事項証明書を取らないなんて,そんなことはあり得ないと,当然普通は実務的には取るだろうと,過重な負担でも何でもないと正直,思っていますので,そこの登記の範囲で通知すれば,それはもう,通知を受けた人はあとは届出義務が発生して,届出をやるかやらないかを判断という,これはかなり登記優先ルールに近いもの,仮に登記優先ルールを入れなかったとしても,事実上の登記モチベーションというのが強力に発生して,多分どんどん登記に行くということになるのかもしれませんが,別にそれはそれでもう仕方のない世界なので,ここも,先ほど言った,重なり具合を判断せず,その債務者に関して登記している人全員ということにしてはどうか。現在の実務だと登記事項証明書を取れる人の範囲が非常に狭いので,そこの問題は解決しなければいけませんけれども,その問題さえ解決すれば,普通に登記事項証明書を取って,裁判所へ申立て時に出して,裁判所から連絡するのか申立人から連絡するのかは決めなければいけませんけれども,登記されているところへ全部通知が送られるという,その仕組みで回るのではないのかと,実務的な感覚ですけれども,思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。回るのではないかといわれますと回るのではないかという気もするのですが,不動産競売とかも全部含めまして,あるところだけが登録システムとの連関によって自然にメールが送られるというシステムが構築されているということになって,全体としての執行手続の中でのバランスを検討しないまま言っているのですが,問題が生じないかというのをもう少し丁寧に考える必要があろうかと思います。私は余り気にしなくて,それでいいのではないかという気がしますけれども,検討すべき点はなお残っているかもしれません。   ほかに何かございませんでしょうか。 ○中村委員 別の点ですけれども,私的実行を開始した後に競売手続をとる場合の問題点について,少し意見を述べさせていただきたいと思います。   この場合というのは,担保権者が私的実行をしようとして実行通知を一旦行ったけれども,その後に何らかの理由で私的実行は途中で取りやめにして,改めて動産競売の手続により実行しようというような場合です。この場合に,最初にした実行通知による固定化の効力との関係がどうなるのかという点です。再度実行の可否にも関わって,再度実行が可能だということであれば,単に競売によって差し押さえたものが競売の対象になると考えれば足りるわけですけれども,仮に再度実行ができないとしますと,競売手続における対象物というのが何になるのかという問題が出てくると思います。   この場合,やはり競売の手続としては執行官がその場所に行って差し押さえたものが対象になると考えるべきだと思いますので,そうすると,担保権者は一旦行った実行通知を自由に撤回することができるのかどうかという,先ほど阪口先生がおっしゃられたかと思いますが,この点をきちんと定めておく必要があると思います。できるとして,いつまでであれば撤回することができるのか。つまり,清算が終了した後はもう撤回できないと思いますけれども,いつまでであればできるのか。それから,その撤回の意思というのはどのように表示すればよいのかということも明確にしておく必要があると思います。   それと,また別の視点からですけれども,実行通知により固定化した対象動産について,その効力は維持しつつ,途中からその売却を競売によって行ってほしいということで競売を申し立てて,固定化したもののうち差し押さえたものを対象として競売手続を続けるということができるのかどうかという点も問題になるかと思います。   それから,もう1点ですが,今まで申し上げたことは同じ担保権者が手続をとる場合のことですけれども,仮に優先担保権者による私的実行が開始された後,劣後担保権者が,それを知ってか知らずかはともかく,動産競売の申立てをしたと,それが競合した場合にどうなるかというところも考えておくべきかと思います。優先担保権者が競売の配当要求をするなどして,無剰余になれば競売取消しということで問題はないのですけれども,仮に剰余があるような場合,両方の手続,私的実行の手続と競売の手続が併存するという形になりまして,優先担保権者が競売手続の停止を求めることができるのかというようなことも問題になってくるかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。その背景の根本的なところに,阿部さんがおっしゃった問題に関係するのですが,競売手続を私的実行に比べて,どれだけきちんとそれを守ってあげなければいけないと考えるのかという問題がありそうな気もしますよね。抵当権ですと,任意売却をしていようが,抵当権実行手続とかそういうのはそちらの方が,偉いというのは変な言い方ですが,勝つわけですけれども,任意売却の手続をやっているのだったら,競売なんてもう認めなくていいではないかという考え方もあり得るのかもしれないと思いながら伺っておりました。いずれにせよ,その関係を定めた方がいいと思いますので,貴重な御指摘ではないかと思います。 ○片山委員 今の点とも関係するのですが,これまで恐らく第1順位の担保権者としては私的実行をしていくでしょうと,しかし後順位担保権者等に競売手続による執行の余地を認めておく必要があるのではないかという暗黙の前提があったと思いますが,ただ,今回,後順位担保権者の存在を前提とした上で,清算金もかなり厳格に見積もらなければいけないし,それから,それに後順位担保権者がひょっとしたら物上代位をしてくる可能性もあるということになりますと,実は先順位の担保権者としても安心して私的実行ができるのか,難しい面もあるような気がしております。   そうしますと,結局は担保割れをしていて堂々と清算金が発生しない旨の通知ができるという局面でない限りは,場合によっては清算金でまた争われて紛争が長引いてしまうというようなリスクもあるということになりますと,相当なコストになりますので,いっそのこと裁判所にお願いして,競売手続でやってもらった方がコストが掛からないのではないかというような行動パターンが想定されなくはないかとは思います。そういう意味では,裁判所による担保権実行手続も決して私的実行の二次的な手段というわけではなくて,対等なものとして位置付けておく必要があるように思われます。その際には,先ほども議論もありました収益執行制度についても検討していただきたいところですが,としつつも,しかし,この動産の実行を全部裁判所に持ってこられたら,裁判所としてもこれはかなり負担が多くなって,ワークするのかという問題もあろうかと思いますので,話は元に戻りますが,できる限り私的実行を先順位の担保権者がとれるような,そういうインセンティブが働くような制度設計を私的実行の方でもやっておく必要があるのではないかと強く感じているところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見ございませんでしょうか。   裁判所の手続を認めるということ自体にはさほど御異論はないかもしれませんが,位置付けをどう考えるのかというのは,なお分かれているような気がしますし,後順位者が実行したといったときに先順位者はどうなるのかという話は若干,皆さんの感覚がひょっとして違うのかもしれないという気がいたします。   ほかに何かございませんでしたら,次の問題に移りたいと思うのですけれども,よろしいでしょうか。   それで,少し御相談なのですけれども,次は実は「第4 債権を目的とする担保権等の実行」なのでございますけれども,あと時間が30分しかないのです。恐らく無理なのです。無理であるのだったら,適当なところまでというふうな考え方もあり得るのですけれども,それも少し適当なところまでというところが見当たりませんで,私個人としては,「第5 所有権留保売買による留保所有権の実行」というところに飛んで,第4は積み残して次回に回すという方が時間の使い方としてはうまくいくのではないかという気がするのですが,少し法務省の方の御意見も伺わなければいけませんので,いかがでしょうか。 ○笹井幹事 異存ございません。 ○道垣内部会長 それでは,すみませんが,「第5 所有権留保売買による留保所有権の実行」というところに移らせていただければと思います。   この点につきまして,まず事務当局におきまして部会資料の説明をお願いいたします。 ○周藤関係官 「第5 所有権留保売買による留保所有権の実行」について説明いたします。まず,現行法の所有権留保の実行に当たって,売買契約の解除を要するか否かについては見解が分かれておりますが,これについて新たな規定を設けるに当たっては,基本的には買主に残っている権利を喪失させて完全な所有権を取得することが予定されており,これは動産譲渡担保の私的実行における帰属清算方式と対応するものと考えられます。したがって,所有権留保の実行においても,部会資料6で御説明した動産を目的とする担保権と同様の規律を設けることが考えられ,本文ではこれを提案しているものでございます。   もっとも,この点については,現行法上,所有権留保の実行手続において清算金がない旨の通知等を要するとする見解は余り一般的ではないと思われるところでございまして,動産譲渡担保の実行と同様の規律を置くとする場合に,現行法上の所有権留保の手続を加重するものではないかと,それが適切かどうかという点が検討を要するものと考えられます。   また,動産を目的とする担保権と同様に考えることとすると,留保所有権の実行について,いわゆる処分清算方式による実行や競売による実行を認めるかどうかという選択肢が出てまいります。オプションとしてこれらの方法を設けておく必要性は否定できないと考えられるところでございますので,本文ではこれらの方法による実行を認めることを提案しております。また,留保売主が,留保所有権の実行という形ではなくて,その解除権の行使という形で意思表示をした場合に,その法律関係がどうなるかという点についても検討しております。これらの点について御意見を賜れればと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   この点につきまして,御自由に,どなたからでも結構でございますので,御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。 ○阪口幹事 阪口です。第5のゴシックで書かれているところそのものはこのとおりでよいと思っています。次に,説明で書かれている問題の中で,私自身の理解としては,解除と実行は別だということを明確にすべきではないかということです。解除という手続によって生じる効果と,実行によって生じる効果は全く別のものになるのではないか。解除のときに,処分清算という概念はおかしくて,一旦戻ってきたものを売っているだけですし,解除の場合に値上がりした益は売主に戻るだけですので,その意味の清算義務は発生しない。したがって,今までは実行に解除不要かどうかみたいな議論になっていたのですけれども,この所有権留保の実行の規定ができた以降は,実行通知に解除と書いてはいけない,解除と書いてしまったら普通は解除ルートを使ってしまったことになるということを明確にすべきではないかと思います。他方,実行するなら,今後は,内容証明に実行と,表現は何でもいいですけれども,明確にしなければいけないのではないか。そうすることによって,例えば,26ページの3に書かれている,解除権自身は否定できませんという問題について,でも,そちらを使ったのではないですよということを明確化しないといけないと思っています。あとは実行の手続そのものは,ここに書かれているとおりでよい。つまり,解除と実行は完全に別だという整理をした上で,ここでいっている実行手続の方は,御提案のとおりというのが私の意見です。 ○井上委員 井上です。私も基本的には解除と実行を両方併存させるということでいいと思っていて,担保権者といいますか,売主はどちらも好きな方を選択できると,もちろん解除については売買契約が不履行になっていることが当然の前提で,その場合に不履行になっている売買契約を解除することになるわけなので,効果としては,物が戻ってきて,代金を一部受領していれば代金を返す,その残債の担保の実行ではなくて,もらったお金は返し,物は戻るということで,仮に物の価額が上がっていても清算金は発生しないのに対して,担保実行の場合は譲渡担保と同じような規律になり,価額が大きければ清算金を生じ得るということです。通常の個別売買の所有権留保であれば,清算金が生ずることは実際上は余りないのかもしれませんが,ここでいっている所有権留保の中に,もし,いわゆる拡大された所有権留保が入るとすれば,一定の確率で,在庫がたまっていて,代金債務の弁済が相応に進んでいる場合などは,清算金の生ずる場合もあると思いますし,いずれにしても両方併存させることでよいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 阪口さんにも井上さんにも関係するのですが,解除を選択しないということのメリットは何なのですか。それは,倒産などの関係で解除が制約されるということがあり得るということが前提で,それが所有権留保についてはないと,そういう話になりますか。 ○阪口幹事 阪口でよろしいでしょうか。私はそのつもりです。解除の場合は倒産手続においては,いわゆる対抗問題その他で考えなければいけない,他方,ここでいう実行のときには担保権,別除権ですから,別除権のルールに従うと,だから全然別のルールによって規律される問題だと思っています。 ○井上委員 井上ですけれども,もう一つ付け加えるとすれば,平時でも,解除の場合は,もし代金の一部受領をしていれば,それは返還しなければいけないことになります。 ○道垣内部会長 ただ,損害賠償請求権とかと相殺はできるわけでしょう。 ○井上委員 それはそうですね,はい。ただ,解除と実行は一応,別の現象として起こるということかなと思うので,別に一方だけにそろえる必要はなくて,実際に不履行が生じている場合には,通常の売買の解除として処理することも許されるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 所有権留保をしたからといって解除が妨げられるわけではないということですよね。それはお二人に共通した御見解で,そうすると解除は解除のルールでやって,所有権留保については譲渡担保とほぼパラレルの実行手続や,そのほかのことでいいのではないかと,そういうお考えですよね。分かりました。   ほかに御意見はございませんでしょうか。   周藤さんの方から説明のときに,現行の所有権留保に比べて手続が加重してしまう可能性があって,それが実務上,受け入れられるのかというふうな御発言があったと思うのですが,その点をもう少し周藤さんの方から,どういうふうな加重というものを気にしていらっしゃるのかということを少し御説明いただけませんでしょうか。 ○周藤関係官 動産を目的とする担保権について部会資料6で御説明した手続によれば,その誠実評価額等の通知や暫定的な清算金の支払等が必要となることになると思うのですけれども,現行法上の所有権留保に関しては,清算金が発生するような場合には,その引渡しと同時履行の関係に立つというような見解があるようには承知しているのですが,そのような形で,例えば留保所有権を実際に実行しましょうとなったときに,目的物の占有を確保して誠実評価を行ってという一連の動産を目的とする担保権において予定されているような手続を踏むとすると,それが今の所有権留保の実務よりも重くなる手続になるのではないかというのを少し懸念しております。この点について,解除を選択することができるとすると,解除の方法はとれるから問題がないのだという見解もあり得るかとも思ったのですけれども,その点について特に隘路となる事情がないのかということはお伺いしたいなと思っておりました。 ○道垣内部会長 その点につきまして,何かございませんでしょうか。 ○片山委員 片山でございます。今の点なのですけれども,恐らく担保目的規律ということですと,譲渡担保と同じように取り扱うべきだということで,いわゆる狭義の所有権留保についても担保権と構成して実行手続を同じように想定するということなのかもしれませんが,現行の所有権留保は倒産においては別除権という形で担保として取り扱われていますけれども,実行の局面では実行手続をとるという発想自体がそもそもないのだと思います。少なくとも狭義の所有権留保については。その意味では,今の取扱いからすると別次元の,全くの担保の世界に引きずり込まれてしまうということになりますので,所有権留保,少なくとも狭義の所有権留保はそこまで担保として取り扱う必要があるのかと,単純な所有権留保として取戻しを認めて,引渡しを認めていいのではないかという声は当然,実務からは出てくるのではないかは思っているところではございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阪口幹事 現在の実務は解除と実行がミックスになっているのですよね。実務的には実行通知に解除と書くこともありますし,不要説だ何だといっている議論がもうミックスになっていることが明らかです。だからこそ評価も実は自分が入れた価額で評価しているわけですよね。つまり,例えば原材料を100円で売りましたと,買主の方は利益を乗せて140円ぐらいで売ろうとしていたけれども,結局代金を一切払ってくれないから売主が引き取るときに,やはり自分が納めた100円で評価して引き取っていると,そこであえて新たな評価なんか実務的にはしていなくて,それはもう正に解除チックな発想で所有権留保の引揚げをやっていると,こういう世界で動いている。ただ,しかし,それは今までは何かミックスの実行,解除と実行が合わさったような世界で考えているから,それでよかったのかもしれないけれども,これからはそうではない。例えば,先ほど出たように清算義務の問題なんかはほとんど実務上起きないかもしれないけれども,では起きたときにどうするか,起きたときは,やはり担保という限りは清算義務を発生させないとおかしいのではないか,また,解除といってしまうと管財人との対抗関係の中で何で持って帰れるのかよく分からないとか,そういう問題を整理していくと,やはりそこは担保の問題と解除の問題は分けて整理することが問題を明確にするのではないかと思います。その結果,確かに評価という今まで実際していないプロセスが発生するという意味では,手続が加重されるのかも分かりませんけれども,ただ,そこで加重といっても余り大したことはない,自分が売っているものですから評価だって別に難しくはないわけですし,清算金がない旨の通知って結局,実行通知に一緒に書くだけ,今までだったら解除通知のような実行通知のようなものの最後に,清算金はありませんと書くだけですから,それほど加重にはならないのではないかというのが現在の実務との関係での比較だと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。今,阪口先生がおっしゃっていた解除と実行がミックスになっているという点につきまして,私も同様の印象を持っております。倒産との関係で所有権留保が問題となった判例などを見ていると,「売買契約を解除して目的物を引き揚げることができます」というような約定が入っていて,さらに,倒産解除特約が入っていて,一定の事由が生じると,それに基づいて解除権が発生して,解除権を行使すると,解除の遡及効により目的物の所有権を担保権者の方が持っていることになるので,物を取り戻すことができるという仕組みになっているようです。倒産手続との関係では,それでは問題であるとして,解除特約の効力が否定されるというような判例があったりします。そういう判例を見ていると,判例としてはそもそも解除権の行使自体を担保権の実行というふうに評価しているのではないかとも思えます。今回,解除と実行とは別々ですというふうな制度を作った場合に,実行の方は譲渡担保などと同じように一定の規律に服させることができるとして,解除の方はどうなのかという問題がなお残ってしまうような気がします。倒産解除特約が無効であったとしても,なお法定解除が可能であるとすれば,倒産前の一定の段階で債務不履行が生じたときに,適当に催告をしておけば解除権を取得することができて,そうすると倒産手続との関係で留保所有権者がすごく有利な立場に立ったりするということがないかということが心配です。どちらかといえば解除権の行使は実行であるというふうな評価をする方がいいのではないかというような気もしています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。ただ,藤澤さんがおっしゃっていたときに,所有権留保をしていなかったらどうなるのですか。そうすると,解除はできるのですよね。 ○藤澤幹事 そうです。 ○道垣内部会長 所有権留保しているときに,解除は所有権留保の実行だと性質決定するというのは分かるのだけれども,所有権留保の特約がなければそんなことにならないですよね。そこが難しいところで,そうすると,所有権留保の合意が足を引っ張ってしまう。そうすると,割賦販売法などで所有権留保の特約の推定を置いているのは足を引っ張るためであるという話にもなりかねないところも,一定の局面ではあって,そこが難しい。アメリカ法とかイギリス法になると,解除できないというのが動産売買の一般法理として存在しているので,代金の不払のときに,そういう問題は生じないのだけれども,日本法では解除できますから,所有権留保がないときにどうするのかということとのバランスを考えなければならないということが問題としてあるかと思います。何か,藤澤さん,ありますか。 ○藤澤幹事 当事者は,そのどちらかを選択するということなのではないかなと思います。 ○道垣内部会長 所有権留保を選択してしまったら,もう毒を食らわば皿までということになると。 ○藤澤幹事 所有権留保には一定のメリットがある一方,一種の担保だというふうに性質決定されることになるのではないでしょうか。 ○道垣内部会長 そうすると,解除前に所有権留保を放棄すればいいのですね,放棄して所有権を買主に移転させて,それで解除すると言ったら解除の方が表に出る。 ○藤澤幹事 そうかもしれません。その点について,もう少し考えてみます。 ○道垣内部会長 そこらあたりに難しいところがあるような気がしますけれども,ほかに何か御発言はございませんでしょうか。   結局,だから,解除との関係は,解除と所有権留保はもう全く別々だと,解除が一切妨げられるわけではなくて,解除は解除のルールとしてやるのだというふうな見解と,解除で擦り抜けられたら,せっかく担保として処理をしようとしているのが,一定の局面においては解除の勝ちになってしまうということで,それで全体としてはバランスがとれないということになるのではないかと,そういう見解とがあり,さらには他の意見も含め,幾つかのバランスのとり方があるということかなと思います。ほかに何か御意見はございませんでしょうか。   もし御意見がございませんようでしたらば,本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。少し早いかもしれませんが,よろしくお願いいたします。   次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしていただきます。よろしくお願いします。 ○笹井幹事 本日も長時間の御議論ありがとうございました。   次回は,10月26日火曜日の午後1時30分から午後5時30分までです。  今日積み残しとなりました債権担保,それから,新たに倒産部分につきまして資料を準備する予定でございますので,債権に引き続きまして倒産について御議論いただければと思っております。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   私の司会の不手際で,今回は債権の問題を積み残してしまいましたけれども,その前の部分についていろいろな御意見を伺えましたので,それはそれでよかったと思います。また次回も積極的にいろいろ御意見を賜ればと思います。   それでは,第7回会議を閉会にさせていただきます。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 −了−