法制審議会 仲裁法制部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  令和3年7月16日(金) 自 午後1時30分                      至 午後5時29分 第2 場 所  法務省地下大会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,所定の時間になりましたので,法制審議会仲裁法制部会第10回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   本日は長沼幹事,衣斐幹事が御欠席と伺っております。   前回に引き続きまして,本日はウェブ会議の方法を併用して議事を進めたいと思いますので,ウェブ会議に関する注意事項等を事務当局に説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。   これまでの会議と同様のお願いとなりますけれども,念のため再び御案内をさせていただきます。本日も新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出ておりますので,部会長も含め,皆さんウェブでの参加という形でお願いをしたところでございます。   まず,ウェブ会議を通じて参加されている方の映像及び音声を確認させていただきます。私の声が聞こえておりましたら,手を挙げる機能でお知らせを頂けますでしょうか。   確認ができましたので,手を下げていただいて結構でございます。ありがとうございます。   それでは,ウェブ会議に関する注意事項を改めて説明させていただきます。ウェブ会議を通じて参加されている皆様につきましては,ハウリングや雑音の混入を防ぐため,御発言される際を除き,マイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願い申し上げます。審議において御発言される場合は,先ほどの手を挙げる機能をお使いください。これを見て,部会長から適宜指名がありますので,指名されましたらマイクをオンにして発言をしてください。発言が終わりましたら再びマイクをオフにし,同じように手のひらマークをクリックして手を下げるようにしてください。なお,御発言の際は必ずお名前をおっしゃってから発言されるようお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   続いて,前回の部会後,委員等の交代がございましたので,御報告をいたします。   まず,小出委員が退任され,後任として金子委員が就任されました。また,江口幹事が退任され,後任として伊藤幹事が就任されました。さらに,吉岡幹事が退任され,後任として阿部幹事が就任されました。どうかよろしくお願いいたします。   このたび新たに就任された伊藤幹事,阿部幹事におかれましては,簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。順番に指名いたしますので,マイク機能をオンにして,お名前,御所属の御紹介をお願いいたします。  (委員等の自己紹介につき省略)   なお,金子委員におかれましては公務の関係で御不在ですので,また別の機会に御挨拶を頂きたいと思っております。   次に,本日の審議に入ります前に,配付資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。御説明いたします。   本日は部会資料10として,「仲裁法等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)」を配付させていただいております。資料の内容につきましては,後ほど事務当局から御説明をさせていただきます。   なお,事前に皆様方に送付していたものから,1か所だけ誤記がありましたので,それを訂正しております。具体的には,9ページの31行目,下から4行目ですけれども,本文4の(1)となっておりましたところを,4の(2)という形で訂正をしております。訂正箇所は以上でございます。   また,本日は今後の日程も配付しております。これまでの部会において,調停に関し,シンガポール条約を将来締結する可能性を見据えた議論を頂いておりますところ,これまでの部会での議論を踏まえ,条約との整合性をもう少し精査する必要があるものと考えております。つきましては,これまで9月までの日程をお伝えしておりましたところ,突然で恐縮ではございますが,10月の日程も追加させていただきました。今後の進行については,また随時お諮りをさせていただきたいと思います。   配付資料の説明は以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,中身の審議に入りたいと思います。   まずは,部会資料10の第1の「1 暫定保全措置の定義(類型)及び発令要件」の論点について,取り上げたいと思います。まず,事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川から御説明をさせていただきます。   第1の1では,仲裁地が日本国内にある場合における暫定保全措置の定義(類型)及び発令要件について取り上げております。本文では,中間試案の提案の実質を維持しつつ,我が国の法制を踏まえて,発令内容及びその要件や証明の程度を明確にした規律とすることを提案しております。   本文1(1)では,我が国の民事保全法や民事訴訟法における他の制度との整合性ないし対比を踏まえまして,文言を改めることを提案しております。具体的に申し上げますと,@については民事保全法上の仮差押え,Aについては係争物に関する仮処分を念頭に置いた規律を,Bについては仮の地位を定める仮処分との関係,Cについては民事訴訟法上の証拠保全との関係を踏まえた規律を提案しております。   なお,中間試案におきましては,Aの中で,仲裁手続の円滑な進行の妨害を防止する措置との規律を設けることが提案されておりましたが,今回の部会資料の本文におきましては,Cの中で,その他の仲裁手続における審理を妨げる行為を禁止することとの規律を設けることを提案しております。これは,Cで掲げられております証拠の隠滅等の禁止と仲裁手続の円滑な進行の妨害とは,仲裁廷における審理を妨げる行為の禁止を命ずるという点で共通しているという考え方によるものでございます。   本文1(2)では,証明の程度を明確にするため,暫定保全措置の発令要件の立証については疎明で足りる旨の規律を設けることを提案しております。改正モデル法第17A条の定める発令要件は,損害が生じる可能性があることや本案請求が認められる可能性があることという内容であることに照らすと,そこで要求される証明の程度は日本法上の疎明に相当するものであると考えられることから,本文1(2)の規律を提案しております。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のこの論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御質問あるいは御意見があればお伺いしたいと思います。 ○古田委員 古田でございます。率直に言いまして,今回の部会資料には少し驚いているところなのです。中間試案の規律から,ここに来てなぜこれだけ大きく変わるのかというところです。   そもそも今回の法制審の仲裁法制部会で仲裁法の改正を議論している背景には,日本政府の政策として,我が国における国際仲裁を活性化していきたいという方針があり,それを受けて国際仲裁の活性化に向けた関係府省連絡会議が組織をされ,平成30年4月25日,3年ぐらい前ですかね,には中間取りまとめが公表されました。そこでは,我が国において,国際的な紛争の解決手段としてグローバルスタンダードとなっている国際仲裁を活性化することは,国益に資するものであって,大きな意義を有するということをうたった後に,その基盤整備に関する取組として,一つには人材の育成,もう一つは施設の整備,それと並んで関連法制度の見直しというのが挙げられており,具体的な関連法制の一つとして,我が国の仲裁法について,基本的には1985年のモデル法に準拠して立法されているのだけれども,モデル法自体が2006年に一部改正されていることを踏まえて,その見直しの要否を検討するとされています。こうした動きを受けてこの部会で仲裁法改正を議論しているという理解です。   ですので,2006年の改正モデル法に照らして,それに我が国の仲裁法が準拠しているといえるかどうかというのは一つ大きなポイントだと思っております。現に現行の仲裁法は,基本的には1985年のモデル法の条文の立て付けとほぼ整合的で類似した規律になっていると理解しています。今回の部会で取りまとめた中間試案においても,暫定保全措置に関する規律は,基本的には2006年の改正モデル法の表現を日本語に訳したものを採用していたという理解です。   ところが,今回の部会資料10で御提案になっているところは,少なくとも一見すると,モデル法の表現とはかなり違ったものになっているように見えます。これがもしモデル法の規律の実質を変えるものだとすると,モデル法に準拠しない立法になりますので,我が国における国際仲裁の活性化の観点から望ましくないと思います。他方,その実質は同じなのだけれども,これまでの国内法制の用語法に合わせて表現を変えたということであれば,外国から見たときには一見して日本の仲裁法はモデル法に準拠していないように見えるわけですので,そこで殊更に,いや実質は同じなのですという説明をしなければいけないことになります。それはそれで,やはり国際仲裁の活性化という観点から見ると,よろしくないのではないかと思います。   また,第1の1(2)では,今回,疎明しなければならないという表現が採用されているのですけれども,この疎明という概念は,基本的には日本の国内民事訴訟法上の規律において,いわゆる証明と対比された形での疎明という概念であり,日本の国内民訴法においては一定の位置付けがされている用語だと理解しております。そういう国内法制上の用語を国際仲裁の規律の場面で採用することは,この関係府省連絡会議の中間取りまとめが言っているグローバルスタンダードという観点から整合しないのではないかと思っております。   ここで少し御紹介したいのは,私が尊敬する野山宏判事が裁判長を務められました東京高裁の平成30年8月1日決定です。そこで東京高裁が言っていることを多少掻い摘まんで引用させていただきますと,我が国の仲裁法はUNCITRALが作成したいわゆる国際商事仲裁モデル法に準拠して立案され,成立したものである。多くの諸外国が仲裁に関する法令をモデル法に準拠して定めており,我が国の仲裁法の規定が諸外国の仲裁法の規定と共通する点が非常に多くなることを意図している。この点において,仲裁に関する国内法の規律を可能な限り諸外国と共通の内容にするという立法者意思が示されている。そうすると,我が国の仲裁法の解釈においては,国内民事訴訟手続に関する緻密な法令の解釈の傾向に流されることなく,諸外国の仲裁法と共通の解釈,国際的に通用する解釈を心掛けるべきであると。少し飛ばしますけれども,我が国の仲裁法のこれら規定の解釈基準は,日本の民事訴訟法の緻密な解釈論ではなく,仲裁などの国際紛争解決手続において守るべき基本原則の国際標準が基準となることであると。また少し飛ばしまして,仲裁などの民事紛争解決手続において守るべき基本原則の国際標準を超えて,仲裁地の裁判所が行う国内民事裁判手続に関する法令,我が国の民事訴訟法や,判例の緻密な解釈論がやはり仲裁判断の取消し事件にも適用されるとすれば,そのような国内裁判所を有する仲裁地は国際契約において避けられるようになる。このことは,我が国を仲裁地とする国際商事仲裁の発展に支障となり,ひいては我が国の国民経済の発展を阻害することになり,我が国の仲裁法の立法趣旨にも反する。野山裁判長の東京高裁決定は、このように判示しております。   これはもちろん具体的な紛争案件に関する裁判所の決定ですので,現行法の解釈論としてとしての判示ということになりますが,同じことは今回の立法にもいえると私は思っております。やはり仲裁法について,特に国際仲裁を我が国で振興するという観点から立法するのであれば,これまでの国内の民事訴訟法の用語法にとらわれることなく,世界的な標準,グローバルスタンダードと整合的かという観点から立法すべきであると考えます。その観点から言いますと,今回部会資料10で御提案になっているところは,私としては中間試案の表現に戻していただいた方がいいのではないかと考える次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚です。聞こえますでしょうか。   古田委員と同様でありまして,何というのでしょうか,ガラパゴス的な案が出てきたという懸念を持ちます。最新のスマホなりタブレットの登場を期待していたら,ガラケーに戻るような提案ではないかという気がしていて,要するに,日本の訴訟手続,仮処分手続,そこにかなり引っ張られてしまっているように思われて,実際の国際仲裁でどういうことが暫定的保全措置といわれているのかということをきちんと反映されていないような懸念を持ちます。   例えば,第1の1(1)@ですが,これは民事保全法上の仮差押えを念頭にと資料の3ページの真ん中より少し上のところに書いてあるのですが,仲裁手続というのは基本的には全くの第三者に対して効力を持ちませんので,仮差押え的なものをやるということは私はないのだと思うのです。なので,仮差押え的なものを入れようとすること自体が前提を欠いていると思います。   例えばなのですけれども,よくあるのはセキュリティ・フォー・コストとか,そういう言い方をしますけれども,費用的なものについて想定される額を後で払わないといけないから,どこかの銀行なりエスクローに積んでおくようにという命令を出すというような形で,後々の支払が必要になる場合の資金を担保させるということはありますけれども,支払を確保するために銀行預金を何らか仮差押えするというような命令を発するということは基本的には,私はないのではないかと思うのです。もしそういうものを出したとしても,それこそ執行決定を取る過程のところでその預金を引き出されてしまえば意味がないわけなので,支払確保のための手段というのは,第三者を拘束できないという前提の下に,仲裁ならではのやり方を工夫してやられている話なので,そういうものをカバーできるような文言にしておかないと漏れが生ずると思います。   それから,例えば,暫定的保全命令で非常によく出てくるのは,建設関係の契約とかプロジェクト関係の契約なんかで多いのですけれども,履行確保のために,いわゆる信用状とか,あるいは銀行の保証状,こういうものを発注者が請負人に差し入れさせていて,遅延だとかいろいろな問題があるということで,それについて遅延賠償相当額というのでしょうか,それについて保証状をエンフォースする,履行するというのでしょうか,実行する,そういう形で銀行保証について,そこからオーナーの方が自分の主張に基づいてお金を引き出そうとするときに,そういう引き出しのための要件がまだ発動されていないのであるというような立場から,銀行の保証状について,その実行を停止するという保全処分というのは非常に多いと思います。こういうものは,裁判所で最終的には執行できるということがあって初めて,それについて確保の可能性が高まるのだと思いますが,実際には仲裁廷からそういうものが出ていれば,銀行としては保証状の履行に応じられないということでペンディングになるということが多いと思うのですけれども,そういうものについて今回の(1)の@とかAに入っているのかというのが,私としては不明確ではないかと思います。   それから,説明の中の3ページの真ん中ぐらいのところに,(2)で,現に生じ若しくは急迫した損害の防止又は中止を命ずるというところについて,本案の権利関係についての仮地位を定めることで想定した規律とはいえないのだと言っているのですが,仲裁事件で暫定的保全措置の必要性が類型的に高いものの一つは,継続的契約について,例えば更新拒絶が不当であるとか,あるいは中途解約が不当であるというようなことで,契約関係の継続,これを暫定的に認めてもらう,確認してもらい,そこから更に派生して,元のディストリビューターが自分に対する商品の供給を継続しろという内容,それから,第三者ですね,新ディストリビューターと称する人に対して商品を売主側の方が供給することについての禁止命令,こういうものを求めるということはとても多くて,これは正に仮地位仮処分的なものなので,給付の目的である財産の処分その他の変更禁止だけでは,それが漏れてしまうと思うのです。少なくとも,それが入っているということがはっきりしないので,一番実務で需要の高い類型の一つが入っていないかのように見えるというのも,これは問題だと思います。   それから,最後に1点だけ言いますと,BとCの区分けが,モデル法と違う区分けをあえてしてしまっていると思うのですけれども,これには二つ問題点があって,一つは,Cの方でいっているのが,真に妨害的な行為に限定してしまっているために,本来モデル法で考えてきた証拠保全,これは日本の証拠保全のような事前の証拠調べという意味の証拠保全でなくて,正に読んで字のごとくで証拠を保全しておくということなのですけれども,これについてどうも隠滅,偽造,変造等の故意の違法行為,これを禁ずるだけのように読めてしまう規定になっているのです。   そうすると,何が抜けてしまい得るかというと,例えばドキュメント・リテンション・ポリシーといって,会社のメール関係とか,あるいは議事録だとか,そういうものについて保存期間というのを定めている企業が非常に多いわけでして,例えばメールは1年間でサーバから消す,あるいは特定の議事録については3年とか5年で廃棄する。故意の隠滅行為としての廃棄ではなくて,保管場所等の関係で順次消していくと,こういう普通に考えれば適法行為についても,訴訟なり仲裁が始まった場合には,ドキュメント・ホールドといって,事件に関連しそうな証拠については,そういう日常的に行われている,業務の通常の過程で行われているような証拠の削除,これをしないということを命ぜられることがあるわけです。   そういうものが今の文言に入っていないではないかという懸念があるので,証拠を保存するということを命じることができるという言い方に,やはり私は戻した方がよくて,この論点についての二つ目の問題点は,仲裁手続の妨害行為,例えば,仲裁合意があるにもかかわらず不便な地で裁判を起こしたりとか,あるいは証人を威迫する行為とか,こういうのがあると思うのですけれども,それについて元のモデル法ですと,証拠保全とは別のところに入っていたので,本案の理由があると認められるというか,理由がありそうだという要件が,そこは係ってこないわけなのですけれども,今回,Cのところに一緒にしてしまうと,そういう仲裁手続のインテグリティを妨げるような行為の禁止というところについて,証拠保全と同じ要件でいいというふうに見える,これもモデル法と違ってきてしまって,私は問題ではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 三木です。結論において,これまでの2人の発言と同意見です。さらに、2点ほど付け加えたいと思います。   1点目は,先ほど手塚委員が一番最後におっしゃったことかもしれませんが,念のために申し上げたいと思います。モデル法に準拠した元の原案では,仲裁手続の円滑な進行の妨害の防止等の措置についてはAに入っていたので,これは第2項の発令要件を満たす必要がある類型になります。それに対して,今度の新しい案ではCに入っているので,これは発令要件を満たさなくてもよいということになって,実質においてモデル法に反しています。   また,単にモデル法に反しているだけではなくて,Cの証拠保全が発令要件を不要としたのは,これは他の三つと違って,本来の意味といいますか,狭い意味の民事保全ではないからということが理由です。したがって,Cについては,要件は,そもそも設けるべきではないという類型になります。ところが,それに対して,仲裁手続の進行の妨害を防止する措置というのは,これは本来の意味での民事保全になりますので,これは,被保全債権の要件,モデル法に準拠した元の案の言葉でいえば,本案について理由があると見えることという要件が必要であり,あるいは,保全の必要性の要件も,要求されるものということになります。そういう意味では,モデル法に反しているとともに,実質的に考えても不当であるということになります。   それから,2点目は,これは先ほど手塚委員の御発言を聞きながら,UNCITRALのモデル法改正における議論を思い出したのですけれども,手続法学者であれば多くの人が知っていることですけれども,日本とかドイツにあるような仮差押えという制度,あるいは,そもそもそういう考え方は,多くの国にはありません。仮差押えというのは対物処分,あるいは対物命令であって,それは,今回の新たな提案でいうと@の財産の処分その他の変更を禁止するという文言に表れております。それに対して,英米法の国は全てそうですけれども,多くの国といいますか,ある程度の国では,日本でいう仮差押え的なものは対人処分というか対人命令として発令されます。すなわち,対物命令という制度自体が存在しない,あるいは,そういう発想自体が存在しないということになります。   したがって,日本の仮差押えをイメージしたこういう文言を設けること,あるいは,仮処分の方についても対物処分の文言が使われていますから,こちらも同じかもしれませんが,それらについて,国際的には一般的に通用しないという規定ぶり及び実質内容になっていますので,やはり私も元の中間試案当時の案に戻した方がよいと考えます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   他に御意見はございますでしょうか。 ○畑委員 畑です。ありがとうございます。2点だけ,今のお三方とほぼ同意見なのですけれども,追加させていただきたいと思っております。結論において,必ずしも,要するに中間試案に戻すというか,UNCITRALと同じ書きぶりでというところをお願いするものではありますけれども,そこら辺はある程度,政策的な判断かなと思っておりますので,それは各方面の御意見を聴いていただければと思っております。   2点だけ少し,実務の面から奇異に映るというか,心配しておりますのは,1点目は先ほどの仮差しの部分ですね,やはり手塚委員も御承知のとおり,セキュリティ・フォー・コストという金銭的な担保を積むみたいな制度を利用することが多いですし,私もそれがなぜ日本だけ仮差しに引き直されるのかというのを上手に説明できる自信がないのですけれども,それと等価であると説明できるかどうかは少し自信がないところではありますけれども,もし仮に仮差しができるという制度になるとすると,それはそれで一つ,オプションとして広がるので,必ずしも悪いことではないかなと。ただ,その一方で,多くの場合はやはりセキュリティ・フォー・コストという形でいわゆるエスクローエージェントの制度があって,エスクロー契約を結んでいると。ですから,人に対してお願いするという形ですけれども,そういった法制を採っておりますし,多くの仲裁廷がどちらかというと英米法をバックグラウンドにした方が多い現状に鑑みると,仮差しをどのぐらい説明できるのかというのは分からないですし,エスクローに加えてあればいいのですけれども,逆に言うと,エスクロー契約がやはり日本法上というか,なかなか難しい現状があって,信託とか資金決済の法律とかとの関係で難しい現状を鑑みると,仮差しできるといいかなという感じは少しはあるのですけれども,そこら辺の整理がむしろ,やはりエスクロー契約がきちんとできるような法制度にむしろ向けた方がいいのかなとか,もちろん,ですから仲裁法制だけではなくて,エスクロー契約をきちんと認められる,例えばエスクローエージェントについてライセンスの問題にするとか,そういったことができるようになると,かなり国際標準に近くなるのかなとは思うのですけれども,そういう意味では,実務上もし本当に仮差しができるとすれば,相当,実務家に,主に英米法の先生たちに上手に説明する必要があるなというところが課題になってしまうというところが非常に,この条文を残すと,結構難しいかなと思うところです。   もう一つは,疎明のところですけれども,やはり疎明という言い方を,日本の裁判官であるとか日本のプラクティショナーの方は皆さん当然のように使うかもしれないですけれども,やはりそこを上手に説明するというのは非常にまたこれは難しい話かなと,実質的にもしかすると同じかもしれないのですけれども,そこは難しいのかなと感じました。   結論としては,ですから,特に大きな問題がなければ,できれば同じ書きぶりにしておいた方が現場での大きな混乱はないのかなと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。モデル法準拠ということを押さえるべきだというのは,そのとおりであると思います。ただ,日本法に落とし込むときに,どこまでモデル法の規定ぶりに合わせるかというのは,いろいろな法制上の検討を経た上でということになるのだと思います。   それで,幾つかコメントと質問とがあるのですが,一つは今,皆さんの御議論の中に仮差押えという言葉が出てきて,確かに今回の部会資料の3ページでも,先ほども御説明があったように,@では民事保全法上の仮差押えを念頭に置いた規律と書かれているのですが,これは別の委員からも御指摘があったように,仲裁ですので,いずれにせよ当事者間にしか効力を有しないものですから,日本法でいう仮差押えというのは,多分想定されていないのだと思いますし,今回提案されている1(1)@も,仮差押えを念頭に置いているということではあるかと思いますが,これ自身を読んで仮差押えとは読めないのではないかと思います。必要な財産,処分その他の変更を禁止することと,それは文字どおりそういうことが当事者に命じられると読むべきではないかと思っています。   それから,先ほど何人かの方の御指摘があったように,モデル法の規律と,やはり実質的にも食い違ってきているところがあるのではないかという気がしています。重ねてになりますけれども,Cの証拠保全ですね,これは隠滅,偽造,変造というふうに非常に狭くなっていて,確かに民訴法234条のような証拠調べができないというのは,それでいいと思いますけれども,やはりモデル法の原文はプリザーブですから,隠滅,偽造,変造よりは,もう少し広い規定ぶりにした方がよいのではないかと思います。   それから,発令要件のところですけれども,証拠保全については確かに(2)で,例えば本案についての保全すべき権利についての疎明が要らないこともあるというのはいいのですが,アンタイ・スーツ・インジャンクション的なものですね,元々の中間試案のAに入っていたものですかね,についても,それが除外されてしまうというのは,モデル法の規律とは実質的に変わってくるという議論が当然出てくるということになると思います。   実は私自身は仲裁手続のモデル法の元々のAが,実体問題についての損害と,それから仲裁手続の円滑な進行妨害と,この手続的なものが併せて規定されているというふうになっているところが,実は若干違和感はあったのですが,ただ,やはりモデル法に沿った規定ぶりということを優先すべきであると考えていました。もし手続的なところを書き分けるということであれば,やはり証拠保全とは少し違ってくると思いますので,もう一度慎重な検討をされた方がよいのではないかと思います。手塚委員がおっしゃった証人威迫とかいうことになりますと,果たしてそういうものに本案の疎明を要求するのかという問題はありますが,その辺りはもう解釈問題で,できる限りモデル法の規律に沿ったものにした方がよいのではないかと思います。   それから,もう1点,Bの申立てをした当事者に損害が生じ又は生じるおそれがあるときと,こういう要件立てになっておりますけれども,民事保全法に倣ったという御説明でしたが,民事保全法の仮地位仮処分は「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険」となっていて,それとも違っているように思います。それから,モデル法の17条の(2)(b)は,これもカレント・オア・イミネント・ハームとなっていて,これとも合っているのかなという気がしました。その点が疑問でした。   最後,これは質問になりますが,先ほど何人かの方から指摘のあったセキュリティ・フォー・コストですね,日本の裁判でいうと訴訟費用担保みたいなものだと思いますが,そういうものは恐らく中間試案だとBの仲裁判断を実現するために必要な財産を保全する措置の中に入るという解釈が可能なのかもしれませんが,今回提案されたものではそういうものはどこに入るという整理なのでしょうか。 ○山本部会長 最後,1点御質問がございましたが,事務当局からお答えを頂けますでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。   今,最後に出井委員からありました部分につきましては,基本的に,@では不作為的なものを取り込もうとしておりましたので,暫定保全措置の相手方に作為的なものを命ずるということであれば,やはりBで読んでいくのではないかと,このような理解でおりましたが,その辺りが明確でないという御指摘として承りましたので,そこも含めて検討させていただければと思います。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。 ○今津幹事 東北大の今津です。冒頭,古田委員からもお話がありましたように,今回の部会資料を頂いたときに,確かに少しびっくりしたなと,中間試案で出てきていたものとはぱっと見た印象がかなり違っていましたので,率直に言って驚いたという印象は持ちました。   ただ,今回こういう形で御提案されたという理由というか,考えますと,モデル法の文言自体も,確かに一義的にその内容が明確というわけではなく,ある程度曖昧な規定になっていると,それをなるべく具体的な形でお示ししようという,そういった方向性は理解ができるところですし,今回の部会もモデル法をそのまま翻訳することが求められているわけではなく,ある程度国内法制度のバランスをとっていくという視点も必要になるかと思いますので,この暫定措置の内容が国内で執行されるということまで考えますと,国内の今あるもの,これに相当するようなものとしては,恐らく民事保全が想定されるのだと思いますけれども,それとある程度平仄を合わせるという方向性も理解はできるところだろうと思っております。   ただ,今既に何人かの委員の先生からお話がありましたように,この文言で本当にモデル法の全部をカバーできるかというと,やはりそこはもう少し検討が必要なところかと思いますので,枠組みとして,現在の日本の法制度とのバランスを見つつ,そのモデル法のそのものの文言に必ずしもこだわらないということは前提としつつ,ただ,今回の御提案よりは更にもう少し検討を進めた形で,実際に今,仲裁の場で実務に当たっていらっしゃる先生から,こういう例もありますよと今いろいろ御指摘がありましたので,そういったものを含めることができるような形で,もう少し議論を進めていければなと思っております。そのような形で考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内でございます。ありがとうございます。既に多くの委員,幹事がおっしゃっておられますように,出発点としてはやはりモデル法を国内法化するということですので,可能なものについてはモデル法の表現に合わせた方が望ましいだろうということかと思います。ただ,直前,今津幹事の御発言もありましたけれども,日本の国内法ということですので,法制的な観点から若干の文言上の調整ということはあるかもしれない,それをどこまで必要最小限度のものに留めることができるのかという問題かと思います。   それは表現ぶりの問題ですけれども,実質の点につきましては,やはりモデル法に反しているという評価を受けるということは問題だろうと思われるところで,そうした点から見ましたときに,仮差押えうんぬんという点につきましては,先ほど出井委員からも御指摘がありましたが,この提案は,私も仮差押えそのものを提案しているということではなくて,飽くまで財産の処分その他を禁止するという命令を仲裁の当事者に対してするということで,その履行確保については,後ほどまた出てくる支払命令等という形で確保するということですので,これは一種の対人命令ということであり,仮差押えそのものではないだろうと思われます。ただ,先ほど来御指摘のある金銭的な担保を積むような形での財産の確保というようなことについてBで読めるということであれば,その点を明確化できればよいのかなということを感じます。   それから,これも既に御指摘がある,仲裁の円滑な進行を妨げる,これは英語の原文ですと,プレジャディス・トゥ・ジ・アービトラル・プロセス・イッツセルフということなので,円滑な進行ということなのか,仲裁手続そのものに害を及ぼすというようなことで,別訴を提起するというようなことがこれに含まれてくるということなのかなと思うのですけれども,今回これがCの一部に含まれているということで,確かに仲裁手続を妨げるという点では共通性があって,ここにまとめられるということも理解できるところがありますし,また,仲裁手続そのものを妨げるということについて,モデル法が他の類型について想定しているような要件が本当に必要なのかと考えると,そうではないのではないかという考え方も実質論としては十分ありそうな感じもいたしますので,こういう整理も,国内法として考える場合には,あり得るような感じもいたします。ただ,モデル法と異なる形になるということにはなりますので,もし法制上これが避けられないということであれば別ですけれども,そうでないならば,やはり今回の御提案でいいますとBの,申立てをした当事者に損害が生じ,又は生ずるおそれがあるときに加えて,仲裁手続の円滑な進行を妨げるといったような類型をこちらに加えていくということがもしできれば,その方が望ましいのではないかと感じます。   また,Cの証拠保全のところにつきまして,これも隠滅,偽造又は変造ということで証拠の保全というものを全て受け切れているのかということについて,手塚委員からも御指摘がありましたけれども,ここにつきましては,例えば隠滅について廃棄とするであるとか,何らか文言を少し広げるということで,あるいは若干の対応が可能なのかなという感じもいたします。   それから,内容面で,私の理解が十分及んでいるか分からないので自信がないのですけれども,中間試案ですと(2)の@のところで,民事上の紛争の対象の現状が変更されたときは,これを原状に回復する措置というものが上がっていたということなのですけれども,こちらについては,今回の提案ですと,@,Aについては,これは不作為を命じているということだと思われまして,読むとするとBの方になるのかなとも思われますけれども,その辺りもより明確にできるようであれば,これが含まれていないということですと,モデル法との関係で問題視されるおそれがあるのかなという感じがいたしました。   それから,疎明という文言についても,これまで何人かの委員,幹事から御指摘があったところを伺いましたけれども,私自身はこの点については,元々モデル法の文言がサティスファイという文言になっていて,これについては高度な水準での証明が求められるといったような誤解を避けるために,いろいろ紆余曲折を経てサティスファイという文言に落ち着いたというような解説を目にすることもありますので,元々の中間試案で証明となっていたところ,証明という文言の方がモデル法に照らしてより適切なのかというと,それについても若干疑問の余地があるように思われます。その意味では,これはサティスファイというのは日本法でいうところの疎明であるということで,疎明とするという考え方にもそれなりの合理性があるのかなと私自身は感じました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○吉野委員 吉野です。   私自身は,モデル法との乖離についての議論はさて置いて,今日のこの提案が事務当局から出されたのは,国内法との整合性というものも認識されて提案されたものではないかと理解しております。したがって,これをどのような具体的に立法していくかということについては,これまでに御意見が出ておりましたように,いろいろな観点から検討されるべき問題だろうと理解しております。そこで,質問的に1,2お伺いしたいと思います。   一つは,既に何人もの方が御意見を述べられておりましたが,(1)C,いわゆる証拠保全に関してですが,中間試案で証拠保全という用語を用いていた,そうすると,民事訴訟法上の証拠保全との違いというのは一体何なのか,同じなのか,違うのかというような議論が出てくると,こういう観点から今回の提案がなされたものではないかと理解しております。それがいいのかどうかということですが,民事訴訟法上の証拠保全も,証拠調べとして行われるものといわれておりますが,実際上の民事訴訟法上の証拠保全については,証拠調べとして行われているものは,証人なり本人が亡くなりそうだと,したがって早急に供述・証言を取っておかなければいけないという場面で使われることはあろうと思いますが,少ないと言っていいでしょう。むしろ多くあるのは,ば病院でのカルテですね。ある意味では現状を保全するということで,証拠調べとはいいながらも,要するにカルテのコピーをとってくる,あるいは原本を押さえてくる,こういうことをやっているのが実情だろうと思います。   その観点から言うと,これをどのように表現するのが適切かということは,更に検討する必要があると思います。  次に,(2)の疎明ですが,疎明自体についてはともかくとしまして,権利又は権利関係及びその申立ての原因となる事実とあります。中間試案においては,この権利又は権利関係と並んで必要性が挙げられていたと思いますが,この必要性については,コメント等を拝見しても,どこに位置付けられているのか,あるいはこの必要性については疎明を要しないのか,あるいはその申立ての原因となる事実の中に含まれていると考えるのか,その辺りをどのようにお考えになってこのような提案をされたのか,少しお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 それでは,御質問の点につきまして,事務当局からお答えいただけますでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。   先に2点目の方からお答えをしたいと思いますけれども,2点目は,正に今,吉野委員がおっしゃられたとおり,その申立ての原因となる事実というところで必要性のようなものは読み込んでいくことになります。例えば@の類型でしたら,金銭の支払を目的とする債権について強制執行をすることができなくなるおそれがあるということについての疎明をしていただくということを考えております。   1点目の方の御質問が,最後少し音声の不調で聞き取れなかったのですけれども,最後の部分だけもう一度おっしゃっていただけますでしょうか。 ○吉野委員 質問というより,半分意見を述べたようなものなのですけれども,証拠保全という名前を避けた理由として,恐らくは,民事訴訟法上のものと紛らわしくなるといいますか,同一視されることを避けるためだと理解したとのですが,それからもう一つは,要するに民事訴訟法上の証拠保全といっても,証拠の現状維持ということがほとんどであるという実情がある,そのような実情から見て,この書きぶりをどうお考えになっているのかということです。 ○福田幹事 ありがとうございます。福田でございます。今の御質問につきましては,先ほど来,手塚委員や出井委員がおっしゃった部分と共通する部分があるのかと思います。ですので,隠滅,偽造,変造といったような形で例示をしている部分につきまして,この文言が妥当かどうかというところを含めて,もう一度我々の方で考えたいと思っております。おっしゃるように,中間試案で提示しておりました証拠の保全というものから少し意味的にも離れているように読めるのではないかという御指摘として承りましたので,それを踏まえて引き取らせていただきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにこの点,ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   今回,パブリックコメント等で出てきた,要件をより明確化する必要があるのではないかとか,あるいは日本の既存の法制との整合性といったような御指摘を踏まえて,事務当局の意図としては,一番最初に書いてあるように,中間試案の提案の実質は維持するということを前提として,我が国の法制を踏まえて,より規律の明確化を図ったという御趣旨であったかと思うのですけれども,本日多くの委員,幹事からの御意見で,必ずしもその意図どおり実質が維持されていない,維持され切っていないのではないかと,つまり,モデル法と実質において異なっている部分はないのかという御意見,取り分けこのCの点が多かったように思いますが,複数の点でそういう御指摘があったように思います。この点は,恐らく事務当局としては,更にその実質にかなった形で検討を進めていくということだと思います。   他方で,その実質は仮に維持されたとしても,その表現ぶり如何についても御意見があり,表現について,やはり一方では可及的にモデル法にそろえた表現にすべきであるという意見が複数の委員,幹事から示されたと理解しました。他方では,そうはいっても,やはり日本の既存の法制との一定の整合性等も考慮しながら,モデル法と実質が同じであれば,多少その表現ぶりが異なるということもあり得るのではないかという観点からの御意見もあったように思います。   この部分はなかなか,法制的な問題も含まれるところでありますし,どこまでそのバランスを図っていくかというのはなかなか難しい問題ではあろうかと思いますが,本日出された委員,幹事の御意見を踏まえて,事務当局としては次のステップにおいてその提案をリファインしていっていただくということかなと思いますが,三木委員,どうぞ。 ○三木委員 今,部会長がおまとめになられた後半の点について,一言申し上げたいと思います。   冒頭,古田委員がおっしゃったことに端的に表されておりますけれども,モデル法を採用する際には,実質はもちろんですが,形式も,もちろんモデル法の文言を一切変えてはいけないという意味ではありませんけれども,形式における核心部分は,維持する必要性が非常に高いということではないかと思います。それは,モデル法を採用することの意味にかかわることであり,あるいは更に,仲裁法という非常に国際性というか,国境を問わない性質の法律であるということから,形式においても可能な限りユニバーサルな表現が必要であるということです。   今回のこの御提案に関して具体的に申しますと,端的には@とAです。先ほど申し上げたことと若干重複するところがありますけれども,何人かの委員,幹事から,この文言でも対人処分として読めないわけではないという御意見がありました。これが日本人が日本で運用するときには,そういう対人的な命令を発するものとして読むこともできるということについては,許されるのかもしれません。しかし,他方において,日本において外国人のみで構成された仲裁廷であるとか,あるいは外国の目から見た日本法ということになりますと,これで対人処分ができると読むのは難しいのではないかと思います。   といいますのは,これはUNCITRALの議論で文言をチョイスするときにもさんざん議論されたわけですけれども,やはり財産に言及してその述語が作られているというのは,典型的な対物処分の規定ぶりの仕方であって,対人処分と読んでいただけないのではないかということです。コンメンタールのようなもので書くのでいいというのは内向きの議論であって,外国の目から見た場合,あるいは外国人の目から見た場合には,条文の文言に依拠するわけです。そういう目から見ますと,モデル法はそういった対物処分と見られる,あるいは対人処分と見られる余地も含めて,いずれかの制度に偏った表現を避けることを慎重に考慮しながら文言が作られておりますので,仮にモデル法と違う文言を採用される場合でも,その点には配慮した文言の選択をお願いしたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。座長のお取りまとめが行われた後で恐縮ですけれども,私からも一言申し上げておきたいことがございます。冒頭,古田委員からお話のあったことですけれども,実務家の立場からしますと,やはり仲裁合意の交渉のときに,日本の仲裁法がUNCITRALのモデル法とは少し違っているということが議論の中に出てきますと,それだけで,厳しい綱引きをしているときに,日本を避ける決め手になってしまうことになりますので,できる限りモデル法に準拠した,少なくとも核の部分はモデル法に準拠したものにするという方向で検討すべきであるということは重ねて申し上げておきたいと思います。これは,私が所属している日本弁護士連合会,それから日本国際紛争解決センター,すなわち,日本における国際仲裁を振興する立場からすると,是非お願いしたいところでございます。   もう1点,モデル法に準拠するといっても直訳である必要はないというのは,皆さん御指摘のとおりです。特に,裁判手続に関するところで,これは後の議論に出てきますけれども,本件でいうと第1の4項ですかね,執行の部分,ここは各国の裁判手続に従うことになるので,UNCITRALのモデル法もそこはエンフォースとしか書いていないわけですから,そこは恐らく各国に任されているということだと思います。ただ,その前の部分,仲裁廷が何ができるかという部分については,ここはやはりモデル法に極力合わせていただいた方が仲裁合意の交渉のときに説明が非常にしやすい,いや,そんな違った規律だったら,日本を仲裁地とする仲裁というのは,もしかしたら違ったことになるのかなと思われてしまっては困るので,そこだけは重ねて申し上げておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。それでは,次の点に移りたいと思います。   続きまして,部会資料の4ページの「2 暫定保全措置の変更等及び事情変更の開示」,それから5ページの「3 暫定保全措置に係る費用及び損害」,この二つの論点はまとめて御議論を頂ければと思いますが,まず,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川から御説明させていただきます。   第1の2では,暫定保全措置の変更等及び事情変更の開示について取り上げております。いずれの提案も規律を明確化する趣旨であり,中間試案の提案の実質を変更するものではないと考えております。   まず,本文2(1)では,暫定保全措置の変更等の要件を明確にするため,事情の変更があるときの例示として,暫定保全措置の発令要件を欠くことが判明し,又はこれを欠くに至ったときを明示することを提案しております。本文2(2)では,事情変更の開示の要件について,暫定保全措置の申立ての根拠となる事実に重要な変更があると認めるときという形で文言を改める旨を,本文2(3)では,開示命令に違反した場合の効果を明確にするため,当事者が開示命令に従わないときは暫定保全措置の変更等の要件となる事情の変更があると認めることができる旨の規律を設けることを提案しております。   続きまして,第1の3では,暫定保全措置に係る費用及び損害について取り上げております。仲裁廷が損害賠償を命ずる権限を行使するための要件を明確化するという観点から,本文3(1)の規律を提案させていただいております。具体的に申し上げますと,まず第1に,暫定保全措置の変更等がされたことを要件とする旨を提案しております。これは,仲裁廷が暫定保全措置の発令が不当であったと事後的に判断した場合には,暫定保全措置の変更等をすることが想定されることなどを踏まえた提案となっております。   第2に,申立人の責めに帰すべき事由により暫定保全措置が発令されたことも要件とする旨を提案しております。これは,暫定保全措置の変更等は,当初からその発令要件を欠いていた場合のみならず,事後的に事情の変更があった場合にも認められ得るものであることから,暫定保全措置の変更等がされた場合に,当然に仲裁廷の権限行使を認めるのではなく,申立人の責めに帰すべき事由により暫定保全措置が発令されたといえるときに限って,仲裁廷の権限行使を認めることが相当であるという考え方に基づいた提案となっております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この二つの論点,どちらからでも結構ですので,御発言があればお願いしたいと思います。 ○三木委員 2(2)について意見を申し上げます。やや細かいといいますか,もちろん実質でもありますけれども,主として文言の変更の意見です。「仲裁廷は,暫定保全措置の申立ての根拠となる事実に重要な変更があると認めるときは」というところですけれども,この開示を命ずるのは,重要な変更があるかどうかを判断するために開示を求めるわけですから,重要な変更があると認めるのであれば,もはや開示を求めるまでもないということになります。したがって,重要な変更の疑いがあるときとか,何かその種の文言に変える必要があるのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。ごもっともな御指摘のように思います。 ○古田委員 古田です。3の暫定保全措置に係る費用及び損害のところですけれども,今回の御提案だと,実質的な変更としては,申立てをした者の責めに帰すべき事由を要件として加えるということになります。これはモデル法の17条Gでは規定されていない要件ですので,今回の御提案ですと実質的に2006年モデル法から乖離してしまうということになります。そこは少し問題があるのではないかと思うのが1点です。  もう一つは,その理由として,御説明の中に(注3)で,仲裁地が日本国内にある場合には損害賠償の要件については日本法によって定まることを想定しているとある点です。(注4)で最高裁の昭和43年12月24日の判例を引用されていますので,ここでいう日本法というのは,手続法としての日本法ではなく,実体準拠法としての日本法だという前提で書いておられると理解しました。そうだとしますと,事務当局としては,暫定保全措置に係る費用及び損害の負担の請求原因は,不法行為に基づく損害賠償請求だと整理をされているように思います。けれども,UNCITRALモデル法17条Gの費用及び損害の負担というのは,仲裁廷が実体法上の不法行為に基づく損害賠償請求権の有無について判断をして賠償を命じているのではなくて,飽くまでも手続法上の仲裁廷の手続権限として費用及び損害の負担を命じているのではないでしょうか。   そうすると,ここで最高裁の昭和43年の判例を引くのは必ずしも適当ではなく,むしろ最近の最高裁令和2年4月7日判決,これは不法行為に基づく損害賠償請求においては民訴費用法2条各号の費目は損害として主張できないとした判例を参照すべきではないでしょうか。モデル法17条Gに従って仲裁廷が命じる費用及び損害の負担というのは,不法行為に基づく損害賠償というよりは,むしろ民訴費用法に基づく費用の負担に類似するとも思われますので,ここで参考にすべきは,むしろ最高裁の令和2年4月7日の判決であって,昭和43年12月24日の判決ではないと思います。そうすると,必ずしも日本の実体法を前提にして,申立人の責めに帰すべき事由がある場合に限って損害の負担を命じなければいけないということにはなりません。そうすると,モデル法そのままの規律で構わないのではないかということになります。私としては,ここも中間試案の規律の方がよいのではないかと思う次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに意見はございますでしょうか。   特段ございませんか。 ○吉野委員 古田委員がおっしゃったことの中で,7ページの(注4)の昭和43年の最高裁判例に触れているのですが,これは,仮処分命令が取り消されたという場合に,あるいは本案訴訟で債権者が敗訴した場合には,他に特段の事情がない限り申立人に過失があったものというべきであるということを言っている判例だと理解しています。ただ,結論としては確かこの判例は,他に特段の事情があるということで,損害賠償責任を否定していたのではないかと思うのですが,結局昭和43年の判例も,異議や抗告等で取り消された,あるいは本案訴訟で敗訴した場合には過失がある,責任があるのだと,こういうことを言っているものだと理解できるのではないかと思うのです。その考え方を当てはめると,この原案によりますと,責めに帰すべき事由の認定の問題になるとは思うのですが,変更された場合には原則,責めに帰すべき事由があるのだということになる,そういうふうに理解できるのではないかと思います。   したがって,この判例の取り上げ方の観点から言うと,これは実体法の問題で,最終的には不法行為が成立するかどうかという問題ですから,責めに帰すべき事由の認定というものを前提とした判例であることは間違いないわけですけれども,それを本件に当てはめたらどう理解できるかということだと思います。私は,この責めに帰すべき事由の書き方をどうするかということについてまで結論を持っているわけではありませんが,この判例の取り上げ方そのものについていかがなものかということで御意見を申し上げた,ということです。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 国際私法的な話が出てきたので,一言申し上げようかと思います。私は基本的には先ほどの古田委員のお話と同じ意見になるのではないかと思います。ここにわざわざ実体法上の不法行為の特則を規定する必要はないし,それがふさわしいとは思えないのです。仮にここに実体法上のことを書いたときには,この問題は,おっしゃるように,国際私法で準拠法を決めることになりますので,通則法の17条により結果発生地法によることになります。ただ,通則法によれば,当事者の合意で不法行為の準拠法を変えることができることになっています。しかし,この場面における不法行為責任を左右する法を当事者が事後的に変更することがこの場面に適しているとはとても思えません。むしろ手続法としてこうあるべきだということを規定することに意義があって,当事者が準拠法を変えることで不法行為責任を左右してよいという筋合いのものではないのではないかと思います。ですので,日本法としてこうであるべきだということであれば,準拠法は何かから議論する実体法の問題にはしないで,手続法上の定めですという説明をすべきではないかと思います。日本を仲裁地とする仲裁である以上は,この規定を必ず適用するということにすべきであって,わざわざモデル法と違う規律をすることは疑問です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 河井でございます。聞こえておりますでしょうか。   今の道垣内委員の意見とも結論として同じなのですけれども,この部分,手続法の中に実体法的なものが入っているということ以外に,それを別に置いたとしても,無過失責任と過失責任,帰責事由を要求するかしないかというときに,日本法上も無過失責任の立法というのはあり得るわけで,日本法だから,日本の法律だから,帰責事由を常に要求しなければいけないということは,日本法の世界においても,直ちに妥当するわけではないような感じもしております。元々,現行の仲裁法自体がモデル法を可能な限り取り入れたある種,翻訳のような法律であるということは,多分ここにいる皆様の一致した理解だと思うのですけれども,その中で,改正法の中で妙に日本法なものを入れるとすれば,それはよほどの理由がない限りやめた方がいいのではないかと私は思っていて,できる限り今の現行法の思想と同じ思想で提案すべきで,よほどの理由がない限りそうすべきだとすると,ここはモデル法の無過失責任というか,帰責事由を要求しない形での案文の方が望ましいように私は思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。今議論になっている暫定保全措置に係る費用及び損害のところで,この実体的な要件について議論になっているところでございますが,1点だけ御指摘させていただくと,今の中間試案のときにあった書きぶりの,できるという規定の趣旨なわけですが,これはUNCITRALのモデル法の原文ですと,ザ・パーティ・リクエスティング・アン・インテリム・メジャー・アプライイング・フォア・ア・プレリミナリー・オーダー・シャル・ビー・ライアブルという形で,UNCITRALのモデル法の中でパーティがライアブルであるということを明確に書いてあって,すなわち,何か仲裁廷の権限規定としてだけ中間試案のように書くことというのが本当にUNCITRALの規定と平仄が合うのか,やはりそこのところは一つ問題となり得るように思われます。しかし,ではどういう場合にシャル・ビー・ライアブルかというと,モデル法ですと,仲裁廷が事情に照らして当該措置又は当該命令が認められるべきではなかったと事後的に判断したと,仲裁廷に判断を委ねております。これはほかのところにも同じことがいえるかと思いますが,今回の御提案全体として,モデル法で仲裁廷の判断に委ねられているところについて事前に立法で明らかにしておこうという意図があるように見えて,それ自体,確かに規律の明確化という観点からは,一つあり得る立法政策なのではないかと思いますし,様々にあり得る考え方の一つだとは思いますが,ただ,他方でやはり仲裁廷の権限について,UNCITRALのモデル法で認められている権限と同程度の権限を残しておくというのは,最低限,確保しなければならないような気もいたします。実体的なことを書くこと自体についてはあり得るかなと思いますが,ただ,それが仲裁廷の判断権限を縮減するような方向で働くとやや問題があるのではないかというのが,現時点で考えているところでございます。   長くなりまして失礼いたしました。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○古田委員 これは事務当局の方に御趣旨を確認したいのですが,今回の部会資料で責めに帰すべき事由を規定された趣旨は,実体法上の要件を規定したということなのでしょうか。私は,UNCITRALモデル法17条Gの費用及び損害の負担は,手続法上のものと理解せざるを得ないのではないかと思って議論をしておりました。先ほども申し上げましたけれども,例えば日本の民事訴訟でも訴訟費用の負担の裁判というのがあって,それに基づいて訴訟費用償還請求権というのが生じるのですけれども,その法的性質については,実体法上の不当行為とか不当利得に基づく請求権ではなく,手続法上の金銭債権だと一般に解されているという理解です。また,日本の民訴法上も,訴訟費用の負担の裁判において,当事者の故意過失は要件にされていないと理解しています。それで,先ほど令和2年の判例の方がこの局面でも適切ではないですかと申し上げたのですけれども,少なくともモデル法17条Gの費用損害の負担というのは,実体法上の請求権の問題ではなくて,手続法上の費用還請求権ないし損害賠償責任として位置付けられるのではないですか。実体法上の要件を定める御趣旨で今回の御提案されているのかどうか,事務当局の御見解を頂ければと思います。 ○山本部会長 事務当局に対する御質問ですので,お答えを頂ければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。   事務当局といたしましては,今,古田委員がおっしゃったように,手続法的な観点からの規律ということで整理をしておりまして,基本的に実体法上の何らか要件を定めるものという理解ではございません。ただし,このような規定を定めるに当たって参考になるものとして,(注4)のような最高裁の判例がありますので,この射程がどこまで及ぶのかというのはいろいろな御意見があるかと思いますけれども,参考にしたということで掲げているものでございます。   手続法上の権限規定だと整理はしつつも,この損害の範囲をどこまで考えるかというところは一つ,論点になってこようかと思っておりまして,先ほど古田委員から御指摘の令和2年の判例などもありますけれども,そちらの方に近付けて考えてしまうと,この費用とか損害の範囲が狭くなりはしないかという懸念もありまして,この辺りとの関係で,提案のような形で出させていただいているという次第でございます。 ○古田委員 追加で発言してよろしいでしょうか。   まず,今,福田さんが指摘された点,令和2年の最高裁判例に引き付けると損害,費用の範囲が狭まるのではないかという点は,そうはならないと私は思っています。我が国の民訴費用法では訴訟費用の項目が限定列挙されていますけれども,モデル法17条Gでは費用,損害の項目については特に限定はされておらず,仲裁廷の判断に委ねています。したがって,令和2年判例を参考にしたから仲裁廷が明示得る費用とか損害の範囲が狭まるという関係ではないと思っております。   それから,昭和43年の最高裁判例の位置付けですけれども,今回の御趣旨が手続法上の要件を規定するということなのであれば,参考になるのは昭和43年最高裁判例ではなく,むしろ日本の民事訴訟法上で,訴訟費用の負担については当事者の故意過失をおよそ問題とせずに負担割合を決めるとなっていることではないしょうか。そういう意味でも,やはり中間試案の規律の方が適切ではないかと思う次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚です。私の方から申し上げたいことは非常にシンプルで,本当に日本の法制上,違った文言なりコンセプトを採用する必要性が示されるのでない限りは,極力モデル法の文言を利用していただくことによって,日本は2006年のモデル法とコンパチブルな仲裁法を持っているのであるということを世界に説明しやすくなると思うので,今回の説明のところでいいますと,7ページの3(3)のところで,費用及び損害というところの費用も損害に含まれるから,損害とだけ書けばいいのだとおっしゃっていますけれども,これは確かに理論的にはそういう考え方もあるかもしれませんが,モデル法にあえて費用,損害と両方書いてあって,かつ国際的に見れば費用と損害というのはもしかすると別物だと考えるような人たちもいるかもしれないので,それをあえて費用の方は書かなくていいのだとする必要は私はなくて,別に費用も含まれるのであれば,費用及び損害という書き方を維持していただきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 私はこの規定について,この会議に臨むまでうっかりして,UNCITRALの議論当時の議論のメモを参照しておかなかったのですけれども,今私の手元にあるものを見ますと,UNCITRALでは,これは元になった規定は17G条だろうと思いますが,17G条については,申立人に無過失責任を負わせることを認めたものであるというふうに,なっています。したがって,有過失責任の規定を置くと,これは明白にモデル法違反になるということではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに,この点について,いかがでしょうか。あるいは,事務当局から何か確認あるいはコメント等,ございますでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。最後に三木委員から御指摘があったところなのですけれども,我々がUNCITRALの作業部会での議論について調べたところでは,7ページの(注2)のようなところと理解しておるのですけれども,これ以上に無過失責任であるということが明確に議論されていたという御趣旨での御発言があったということで理解してよろしいでしょうか。 ○三木委員 はい,UNCITRALの事務局がまとめた議事録にどう書かれているかは知りませんが,私が日本政府に報告した報告書には,無過失責任を負わせることを明示的に合意されたということが書かれており,私自身,個人の記憶はありませんが,そういうところで間違ったことを言うことはないと思いますので,私の認識では間違いはないと思います。ちなみに,公刊されたものとしては僅か1行しか書いておりませんが,JCAジャーナルの私のモデル法の改正の報告をした中にそのことは明示的に書いております。 ○福田幹事 福田でございます。ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この点,特に3の責めに帰すべき事由によりという部分については,その位置付けも含めて,いろいろな御指摘もありましたし,最後の部分ではUNCITRALのモデル法自体がどういう意味なのかということについても若干,認識の違いみたいなものがあったように思いますので,事務当局においては今日の議論,あるいはモデル法の規定の趣旨等も含めて,更に精査をしていただいて,次回の提案につなげていっていただければと思います。   それでは,よろしいでしょうか。   よろしければ,ここで休憩に入りたいと思いますけれども,例によって若干押していますので,15分弱ということになりますが,3時25分に再開ということにしたいと思いますので,3時25分までお休みいただければと思います。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,時間になりましたので,再開したいと思います。   次の議題に移る前に,先ほどの議論に関して,休み時間中に三木委員から補充の御発言がある旨を承ったように思いますが,三木委員から御発言いただけますか。 ○三木委員 改めて当時の私が作成した報告書等を見返しました。必ずしも今から言うことが明確にそこに書かれているわけではないのですけれども,大体こういうことではないかというようなことは書かれていましたので,御発言の機会を頂きました。   その内容ですが,この17条Gの発令要件について,申立当事者の過失を要件として定めないということについては会全体の合意がありました。ただし,当事者の過失ある申立てと仲裁廷が誤った判断をしたことの間の因果関係を要するのかどうか,すなわち裁判所は損害賠償を認定するに当たって,当事者の過失のあるなしにかかわらず,当事者の行為と仲裁廷の誤った判断の因果関係も認定しなければいけないのか,それとも,因果関係はない場合は責任を負わないのかとか,その辺についての議論の詳細は書かれておりません。したがって,私がこれを見る限りでは,推測として,因果関係とかそういうものをめぐっての議論は,あるいは合意に至らなかったのかもしれませんけれども,少なくとも積極的に過失を要求するという規定にはしないということについては,コンセンサスがあったということだろうと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,事務当局は今のような御議論というか御指摘も踏まえて,また次回以降,御提案についてお考えいただければと思います。   それでは,続きまして,資料7ページの「4 暫定保全措置の承認及び執行」について,この点につきましても,まず事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 それでは,吉川から説明をさせていただきます。   第1の4では,暫定保全措置の承認及び執行について取り上げております。   まず,本文4(1)では,暫定保全措置の承認に関する規律を設けないこととしてはどうかとの提案をしております。中間試案では,所定の拒否事由がない限りその効力を有するものとする規律が提案されておりましたが,パブリックコメントにおいては,その規律だと何を定めているのかが分かりづらいという意見も寄せられておりました。当部会におきましても,外国裁判所の判決等と異なり,暫定保全措置について承認という概念を用いることは相当ではないのではないかとの御指摘もあり,また,改正モデル法のアズバインディングとの文言に着目するとしても,拘束力の内実の理解等については様々な御意見を頂いているところであり,当事者間の実体法上の効力を超えて手続法上の効力を観念する意義は乏しいのではないかとの考え方も示されていたものと認識しております。そして,暫定保全措置の承認の規律が設けられていない現行法の下においても,暫定保全措置に違反した場合には損害賠償を求めることができるとの考え方が採られていることに照らすと,当事者間に実体法上の効力を認めれば,執行以外の局面にも対応することができるという考え方もあり得るのではないかと思っております。そこで,以上を踏まえまして,暫定保全措置の承認について規律を設けないこととするという提案について御意見を賜れればと思っております。   次に,本文4(2)では,本文の1(1)@,A及びCの類型の暫定保全措置の執行について,仲裁廷による支払命令の制度を設けるとともに,仲裁廷による支払命令の執行の規律を設けることを提案しております。   まず,仲裁廷による支払命令とは何かという点について御説明させていただきます。支払命令とは,当事者が@,A及びCの類型の暫定保全措置に違反したときに,仲裁廷が当該違反による害される利益の内容及び性質等を勘案して相当と認める金額の支払を命ずるものということになります。本文4(2)では,Bの類型の暫定保全措置については支払命令の対象としないことを想定しております。   次に,本文4(2)の規律の下ではどのような執行が可能となるのかという点を御説明したいと思います。まず,Bの類型の暫定保全措置については,それ自体が執行決定の対象となり,執行決定が確定した場合には当該暫定保全措置に基づく民事執行が可能となります。これに対し,@,A及びCの類型の暫定保全措置については,当該暫定保全措置それ自体に基づく民事執行は認められないものの,仲裁廷による支払命令が執行決定の対象となり,執行決定が確定した場合には当該支払命令に基づく民事執行が可能となります。   この提案の背景にある考え方につきましては,部会資料の10ページ以下で記載をしております。問題意識といたしましては,日本法上,仮差押命令,係争物仮処分命令,証拠保全決定といったものについて,これらに基づく民事執行は基本的に認められていないことに照らすと,これらの命令,決定に相当する@,A及びCの類型の暫定保全措置についても類型的に民事執行になじまないのではないかという考え方や,仮に@,A及びCの暫定保全措置に基づく民事執行を認めるとした場合には,間接強制の方法によることが考えられるところ,そのために必要な裁判所の決定,具体的には執行決定及び間接強制決定がされるまでには裁判所での審理に相応の時間を要するところ,その間に被申立人が自ら財産の処分等をすることによって執行を回避することができてしまうのではないかという考え方がございます。そこで,@,A及びCの暫定保全措置については,これらの暫定保全措置と仲裁廷による支払命令等を一体のものとしてその民事執行を可能とする制度を設けることで,暫定保全措置の実効性を高めることを考えております。   再び本文4(2)に戻りまして,8ページの4(2)イでは,暫定保全措置の違反によって被った損害額が支払命令に基づいて支払われた額を超える場合には,その差額について,更に損害賠償の請求を可能とする旨の規律を提案しております。逆に,支払額が損害を超える場合につきましては,その差額を返還する義務は負わないものとすることを想定しております。   最後に,4(2)ウでは,仲裁廷が支払命令の理由となる暫定保全措置の変更等をした場合には,支払命令についても,その変更等をすることができる旨の規律を提案しております。これは,暫定保全措置の変更等がされた場合であっても,その変更等の理由に応じて,仲裁廷の裁量により,支払命令の変更等をするかどうかを判断することが相当であるという考え方に基づく提案となっております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明いただいた承認執行の点につきまして,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見を頂ければと思います。 ○三木委員 まず,御提案の(1)の,暫定保全措置の承認に関する規律を設けないこととしてはどうかという点ですが,事務当局が書かれた理由についての説明には私は異論がありますけれども,別な理由で,結論においては,暫定保全措置の承認に関する規律は設けない方がよいのではないかと考えます。   その理由ですが,仮にこの暫定保全措置について承認という概念自体を設けますと,それは当然,承認のための手続はないわけですから,同じく承認の手続がない仲裁判断と同じく自動承認ということにならざるを得ません。そうすると,自動承認された暫定保全措置は執行拒絶事由に当たる瑕疵を持つものがあり得るわけなので,そうしたものを排除するための手続が必要になります。執行の申立てがあれば,その執行の申立ての手続の中でその拒絶事由を主張立証すればよいわけですけれども,債務者の側から瑕疵を争う手段があるかというと,仲裁判断の方については仲裁判断取消しの訴えがあるので,それで争うことができるので問題がないのに対して,暫定保全措置の場合は取消しの裁判の制度というのがありませんので,そうすると,自動承認された重大な瑕疵のある暫定保全措置について,それを否定する手続がないということになってしまいます。したがって,承認というのは,仲裁判断の方にはその概念はありますけれども,暫定保全措置については,その取消し制度がないということに鑑みて,承認という概念を規律しないというか,そういう文言を設けないということが望ましいと思います。   ここから先は,このように,結論は事務局と同じなのですけれども,理由が違うという点も一言申し上げておきたいと思います。それは将来,仮にそのような立法になった場合の説明の問題というところに関わってきます。   先ほど言った,取消しの制度がないという点を脇に置くとすると,そもそも承認というものが考えられないのかというと,あるいは実体法上の効力というものだけで足りるのかというと,それはそうではないと思います。例えば,日本法的な表現をしますと,一種の地位保全の仮処分のようなものを仲裁廷が出したとします。具体的には,債務者といいますか被申立人が申立人から解雇されて従業員の地位を失った。しかし,その解雇無効,あるいは取消しを争って仲裁をやるという場合に,仮に従業員の地位を保全するというような暫定保全措置を出した場合,それによって雇用契約という実体契約が締結されたことになるのだと思います。これを実体法の論理,すなわち,契約法とか労働法の論理で説明できるかというと,雇用契約の両当事者の合意はなくて,第三者である仲裁廷の命令によって申立人と被申立人の間の雇用契約が形成されるわけですから,その形成力はたしかに暫定的ではありますけれども,つまり仲裁判断が下りるまでの間ではありますけれども,形成力それ自体はあるのだろうと思います。したがって,論理的には,その形成力の承認ということがあり得ますし,逆にそれが承認されていないとすると,実体法上の形成力が日本国内では意味を持たないのかということになるのではないかと思います。しかし,それはあくまでも観念的な話ですので,今回の規定としては,先ほど言った理由によって,承認の規定はない方がいいのではないかと思います。   次に,支払命令の点ですが,私は当初,この支払命令というのはオプションであって,仲裁廷はこういう支払命令も出せるが,しかし,支払命令を経由しない暫定保全措置の執行の申立てもできるという、一種の付加的なものとして制度を提案されているのかと思っていました。しかし,事前説明を伺ったところによると,これは付加的なものではなくて,この支払命令を経由することでしか,暫定保全措置の執行の申立てはできないということで,この制度を予定しているとのことです。しかも,これは,仲裁地が日本にある場合だけではなくて,外国で行われた仲裁の暫定保全措置の日本における執行の場合にも,等しく適用されるという趣旨の提案であるということです。そうしますと,これが純粋に日本国内だけの規律であるとか,あるいは,外国の場合も含むけれども,オプション,すなわち付加的な制度であるというのであれば,強く反対する理由はないのかもしれませんけれども,外国の仲裁において,かつ,この支払命令を使うしかないということであれば,それは当然,日本以外の国はこういう制度を持っておらず,また,こういう考え方自体も持っていないわけですので,非常に極端なことを言えば,今回の暫定保全措置の執行ということに関して,外国からの執行申立てを禁ずるとまではいいませんけれども,かなりの程度抑制するということになり,それは望ましくないのではないかと考えます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○古田委員 古田です。部会資料7ページ4(2)の暫定保全措置の執行について,これは意見というよりはむしろ疑問ですので,事務当局から御説明いただければと思います。幾つかあるのですけれども,まず,アで,仲裁廷は相当と認める金額の支払を命ずることができるという規律があります。仲裁地が日本の場合には手続法として仲裁法が適用されますので,こういう規律にも一定の意味はあると思うのですけれども,仲裁地が日本国外であって,手続法として我が国の仲裁法が適用されないような仲裁手続にについても,4(2)の柱書によると,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず,この規律が適用されるという想定のようなのですが,その場合にアの規律が適用されることの意味がどういうところにあるのかというのが,教えていただきたい点です。   次にイについて,支払命令で命ぜられた金銭の額を超える損害について,別途損害賠償の請求を妨げないという規律なのですが,このイの規律は実体法上の損害賠償請求権について規律をしておられる趣旨なのか,あるいは,モデル法17条Gの仲裁廷が暫定保全措置に関する費用及び損害の賠償を命ずることができるという場合の手続法上の賠償を命ずる権限についての規律とされている趣旨なのか,どちらなのかよく分かりませんので,そこを教えていただきたいと思います。   それから,エで仲裁廷による支払命令につき執行決定及び執行拒否事由に関する規律を設けるとありますが,その具体的な規律内容は,いわゆる暫定保全措置の執行決定及び執行拒否事由として今まで議論してきたところをそのまま使うということでよいのかという点を教えてください。  そして,もう一つ,(注)で本文1(1)@,A,Cの類型についてだけ支払命令の対象とし,Bについてはそれ自体が執行決定の対象になるとされていますが,今回の部会資料10のような規律が採用された場合,日本を仲裁地とする仲裁廷が発する暫定保全措置は,第1の1(1)@からCのどれかに分類できるのでしょうけれども,例えばモデル法をそのまま採用している外国を仲裁地とする仲裁廷が発令した暫定保全措置が,果たしてこの部会資料10の第1の1(1)@,A,B,Cのそれぞれにうまく振り分けられるのかどうか,少し私は自信がありません。そこはどうお考えなのでしょうか。以上が質問です。   最後に意見を追加で申し上げます。先ほど三木先生もおっしゃいましたけれども,本文1(1)@,A,Cの類型の保全措置については,暫定保全措置自体の執行は認めずに,支払命令が執行決定の対象になる規律にした場合,諸外国から日本の法律を見たときに,日本では暫定保全措置@,A,Cタイプは執行できないと思われることになる,少なくともそのような議論する論者も出てくると思われます。出井委員がおっしゃったように,仲裁地をどうするかという契約交渉をしているときに,日本の仲裁法には特殊な支払命令という制度があって,どうも暫定保全措置そのものでは執行できないようだというふうに見えること自体が,日本を仲裁地としたい交渉当事者にとっては相当なディスアドバンテージになるように思います。事務当局の意図としては,暫定保全措置を執行しやすくする意図でこの制度を検討されているのだと思いますが,国際仲裁の我が国における振興という観点からすると,効果としてはむしろ逆効果になるのではないかというふうなことを恐れております。   暫定保全措置の執行に当たって執行決定を要するという規律は,正に執行手続の問題ですから,モデル法を離れて我が国の国内法制として設計すれば良いのですけれども,今回ご提案の支払命令というのは,日本の執行法の問題ではなくて,むしろ仲裁廷の発令権限,いわば判決手続に類似する問題です。だとすると,支払命令制度は執行手続の問題なので,モデル法を離れて我が国の国内法制として設計すれば良いとは言えないのではないかと恐れています。 ○山本部会長 ありがとうございました。それでは,前半部分の質問,4点ほどあったかと思いますが,事務当局からお答えをお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。   まず1点目,(2)アの部分についてですけれども,これは御指摘のとおり,このような規律が仮に仲裁法に設けられた場合は,我が国を仲裁地とするものにしか適用がないのではないかというのは,そこはおっしゃるとおりかと思いますので,記載ぶりに誤りがあったところは,そのとおりかと思います。   2点目,イの部分ですけれども,これは実体法上の請求権を妨げられないという趣旨で記載しておりまして,民事執行法172条4項,間接強制の規律に沿うものと整理をしているところでございます。   それから,エについてですけれども,これは執行決定及び執行拒否事由に関する規律を設けるという形で概括的に書いておりますが,その内実につきましては,中間試案で出させていただいた執行決定の手続,それから執行拒否事由,ここが適用になるものと御理解いただければと思います。   それから,最後,(注)の部分ですけれども,おっしゃるように,我が国を仲裁地とする暫定保全措置の場合は@からCについて明確かもしれないけれども,外国においてはどうかというのは,場面によっては紛らわしい部分も出てくるのかなとは考えておりますが,基本的には暫定保全措置の主文を見れば一定程度,区分けはできるのではないかということを前提に,今回の提案をさせていただいているところでございます。 ○古田委員 今の回答を踏まえて,若干コメントを追加してよろしいでしょうか。   アの点なのですけれども,要するにアの規律は日本を仲裁地とする仲裁についてのみ適用されるという御趣旨と伺いました。だとすると,外国を仲裁地とする仲裁廷には,当該地の仲裁法制上そもそも支払命令を発する権限がないという場合もあり得るわけなので,そういった場合には,その仲裁廷が発した@,A,Cに該当するような暫定保全措置はおよそ日本では執行できないということになります。それでは2006年モデル法に準拠しているとはいえなくなるのではないかと恐れます。   それから,イについては,これは実体法上の規律とおっしゃいましたか,福田さん。 ○福田幹事 はい,そうです。 ○古田委員 先ほど道垣内先生も少しおっしゃったと思うのですが,仲裁法の中にそういう実体法上の損害賠償請求権に関する規律を入れるというのは,私としてはかなり違和感があるところです。抵触法の観点からも,それが本当にいいのかなというところは疑問に思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚です。まず,金銭支払命令の方から申し上げますと,今まで御指摘があったように,これを入れてしまいますと,本来時間が掛かってでも裁判所によってそのまま執行してもらいたいというような需要のあるものについても,仲裁廷による金銭支払命令という形でしか執行ができないということになってしまい,少なくともそういう類型に関する限りはモデル法準拠といえなくなってしまうというふうに見られるおそれがあると懸念いたします。   例えば,ジョイントベンチャー契約で取締役を何人選任することに協力する義務のようなものについて協力してもらえないということで,選任に協力するよう求める暫定的保全措置の申立てを認容してもらえたけれども,その次の年の株主総会まで1年あるのだけれども,それをそのまま強制することはできない,裁判所によって強制することはできなくて,仲裁廷からの支払命令に頼るしかないというので本当にいいのだろうかということです。   部会資料の10ページの真ん中より少し下のところで,執行決定や間接強制の決定が出るまでに時間が掛かるだろうから,その間,保全すべき財産の処分がされると実効性がなくなってしまうのではないかという指摘がありますが,そういう心配をしなければいけない事件ばかりだと決め付けるべきではないと思うのです。例えば,財産を管理する立場にある人を相手に,先ほどの議決権の行使であるとかそういうものを義務付けようとした場合に,金銭の支払命令を幾らやっても,それは財産管理人は別にその財産を持っているわけではないので,管理の仕方を問うているわけですから,やはり事案によってそういう作為義務,不作為義務そのもので対応しなければいけないということもあるでしょうし,あるいは,工作物を除去せよみたいなものについて,代替執行が可能なものについて,間接強制一本やりみたいなことになるのもどうかと思いますし,少なくとも見た目として,B以外のものについて全て仲裁廷の支払命令に集中させるというのは,モデル法準拠と本当にいえるのかという疑いを惹起しかねないのではないかということを懸念します。   それから,もう一つは,このような制度が本当にモデル法採用国で一般的なのかとう点でありまして,私の理解するところでは,例えばシンガポール,あるいはドイツにはこういう制度はないと理解しています。それで,オランダ法はどうやらオランダの民事執行法が仲裁法を含んでいるらしいのですが,1056条というのに仲裁廷は裁判所が命じられるようなペナルティを命じることができると,そういうごく一般的な規定がどうやらあるらしく,それは暫定的保全措置に限らず,いろいろなところでペナルティを命じ得るのだということのようではあります。ただ,私もまだ条文をつまびらかに検討できていないのですが,どうやらその金額等について裁判所が審査をするということになっているようでもあり,仲裁廷が自己完結的に金額について最後までコントロールするということになっているのかというのは確認できていません。   ただ,日本では間接強制というのは飽くまで執行の方法であって,執行裁判所が決めるものでありまして,本案の裁判所は最高裁であっても間接強制の額をあらかじめ決めたりすることはできないはずなのです。そうすることで,執行するための必要な金額を執行する時点で執行裁判所が決めるということが担保されているわけですけれども,実務的に言いますと,仲裁廷が自らが発出した暫定的保全措置に応じない当事者に金銭的なペナルティを課し続けるようなことがありますと,これはやはりその面以外の手続における公平性とか中立性のアピアランス,外観に結構影響してしまうのではないかと思います。   実際,暫定的保全措置に執行力が認められていない制度の下で,暫定的保全措置に従わない当事者に対して事実上,心証として不利益な事実認定をしていいのかというような点は議論になっていて,恐らく実務家の理解は,そういうおそれは実際問題としてあるだろうから,出た以上はよほどの理由がなければ従っておくのが安全だけれども,もし本当にその点だけを捉まえて不利益な認定をしたような場合には,そのこと自体が仲裁判断取消し事由になるのではないか,みたいな議論も結構あると思います。基本的には,文書提出命令に従わない当事者に対して不利益推定を課すというふうに,手続命令あるいはIBA証拠規則等で定められたところに従って不利益推定をする程度だったらいいのですけれども,それ以上の不利益を課することを実体判断の中でしてしまうと,やはり命令違反の効果として,本当にそれが仲裁廷の中立性の外観を維持できるのかという問題もあると思うので,私はこういう形で仲裁廷と当事者がこういう支払命令の当否だとか金額をめぐって非常にぎすぎすした関係になってしまう可能性のある制度を導入するというのは,それが世界標準だったらまだ別ですけれども,シンガポール,ドイツなんかもそういうことをしていないとすると,あえて日本がそういうことをやるというのはいかがなものかと思っています。   あと1点,すごく簡潔に承認の点について申し上げたいのですが,承認が必要となる事例というのがそれほど多いのかというのは,私もそれほど多くないのかなと思いますけれども,例えば継続的契約の不当解除,あるいは不当な更新拒絶等の場合に,契約関係を継続しているのだということを宣言する,そういう仲裁廷の保全処分が出たと仮定しますと,私の理解は,暫定的保全措置が承認されるということは,少なくとも当事者間においては,それに引き続いた別の手続,例えば,今度は裁判所に契約が継続していることを前提に物の引渡しを求めるだとか,あるいは新たなディストリビューターと称する人への商品の引渡しの差止めを求めるという仮処分が起こされたときには,それはあたかも先行する裁判所の保全処分で仮地位が認められているときと同様に,後行の仮処分事件,物の引渡しであるとか,あるいは第三者への販売禁止を求める仮処分事件では,裁判所は,承認拒絶事由がなければそういう契約関係があるということを前提に判断すべきで,一から契約解除の当否を審査しない,これが承認の意味ではないかと思っています。   文言が難しいというのは,今の仲裁法で確定判決と同一の効力を有するという書き方をしてしまったために,書きぶりが難しくなったということだと思うのですけれども,つまり,取り消されていない保全処分と同様の効力を要すると書くと,何か少し違和感があるというのがあると思いますし,モデル法に従って,拘束力があるものとして承認するという書き方にも違和感があるのかもしれませんが,私は,なくていいのだということにはならないし,やはり外国の方に承認の規定が全然ないのはなぜと言われたときに,いちいち説明しなければいけないというのはいかがなものかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。聞こえていらっしゃるでしょうか。   まず,(1)の承認の規定を設けないということについては,これまでの部会でも既に自分の考えについては述べさせていただきましたので,ここでは短く意見を申し上げますが,中間試案で提案されていた,その効力を有するという民事訴訟法118条の柱書,外国判決の承認との関係での文言と類似するものを使うということには私,抵抗感があり,承認というか暫定保全措置の効力について日本としてどう扱うかという点について規定を設けるかどうか,様々な意見はあり得るのかもしれませんが,ここのところ,規定を設けないというのも一つの選択肢なのではないかと,基本的に,中間試案の段階の提案よりは,この方向性の方が望ましいのではないかと考えているところでございます。   ただ,(2)の方ですが,モデル法の17条Iの拒絶事由,承認執行の拒否事由のところの1項(b)(@)で,暫定保全措置が裁判所に与えられた権限と相容れないことが掲げられているものの,ただし,裁判所が当該暫定保全措置を執行するために,自らの権限及び手続に適合させるのに必要な範囲において,その実質を変更することなく,当該暫定保全措置を再構成する旨の決定をする場合が除かれており,恐らくこの本来の趣旨は,そのような適合のための再構成を裁判所によって行って執行の円滑を行うということなのではないかと個人的には理解しているところですが,今回の御提案は,それを日本の裁判所が行うというのが難しい,すなわち暫定保全措置として出されているものについて,今読み上げたような再構成のようなことをするというのが難しいというので,ある意味での苦肉の策として,仲裁廷にそれをやってもらおうということで,支払命令ということになったというのが私の今の時点での理解です。   ただ,既に御指摘があるとおり,このままで行くとすると,恐らく外国が仲裁地,仲裁地が日本国内でない場合であったとすると,仲裁廷にこういった形での命令をしていただけるのかというのは,やはりかなり不透明だと思います。通常ですと暫定保全措置が普通に出れば,そのまま執行ということになっていて,もちろん実際にその執行が各国でどのような形で行われているか,執行の具体的方法はそれぞれの各国の国内法制度の問題ですから,多様なものがあり得る。多様なものがあり得るので,日本として先ほど言ったような再構成を裁判所がするということは,可能性としてはあるのかもしれないですが,その役割を仲裁廷に期待するというのは少し行きすぎかなと思います。三木先生がおっしゃられたように,オプションとしてこういうものが日本の仲裁廷に認められるということであれば,もちろんそれは,むしろ仲裁廷の権限がプラスされることですので,それほど問題はないかなと思うのですが,やはりこの仲裁廷による支払命令等がないと執行ができないといったようなことになってしまうとすると,それはやはり問題が大きいかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。まず,一つ,先ほど古田委員と事務局との間のやり取りがありました(2)アの適用範囲と申しますか,に関してですけれども,私自身は,これは資料記載のとおり,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わずアの規律も一応適用はあって,したがって,外国を仲裁地とする仲裁手続における仲裁廷であっても,当事者が日本で執行したいので支払命令してくれと申立てをして,仲裁廷がそれに納得してそういった命令をした場合については,これは日本法としてはそれは有効な支払命令として取り扱うということなのかなと考えておりました。先ほどの説明は少しそれとはまた違うということなのかもしれませんので,そこは事務局の提案の御趣旨がそうであれば,そうなのだと思いますが,違う考え方も一応あり得るのかなという感じもいたします。   それから,承認の点につきましては,私自身は9ページに書かれている今回の事務局の説明は,それ自体としてはあり得る考え方なのかなと捉えております。ここでの説明の核心は何かといいますと,これは結局,暫定保全措置の内容となっている点については当事者間の権利義務として実体法上は効力を持つという前提なので,あえて承認という文言,あるいはその他の承認に類する規定がないとしても,当事者間では実体法上効力を持っているという前提に立っているものと理解をしております。したがって,承認の規律のない現行法の下での暫定保全措置で,例えばその契約関係を継続するというような宣言がされている場合に,それに反するような行為があれば,それに基づく損害賠償請求等も実体法上はあり得ると,これは現行法上もあり得るという理解に立っているということなのだろうと思いますので,こういう説明はあり得るのかなと考えております。   そのことを前提としましたときに,問題の支払命令の制度ですけれども,今日の御提案の10ページの(2),問題の所在というところで,この支払命令制度の根拠と申しますか趣旨として,アとイと大きくいって2点,示していただいているところかと思います。   このうちアの点につきまして,仮差押え命令等について強制執行で実現するということが予定されていないということはそのとおりなのですけれども,しかし,これは前半の議論にも関わりますけれども,今回,仮に表現ぶりを仮差押え命令等に準じたような形にしているといたしましても,これはやはり仲裁手続の本質上,仲裁合意の当事者である申立人,被申立人の間の実体上の権利義務を形成しているものであると,これが正に承認に関する説明の前提となっているところだと思われますけれども,そうした実体法上の不作為義務や作為義務というものが問題になるのだとすれば,それは実体法上の権利義務でありますので,類型的に民事執行を認めることになじまないとは必ずしもいえないのではないかと思われますので,このアの理由付けというものが理論的に,承認に関する説明等も見たときに,一貫したものとして成り立っているのかというと,それはそうではないのではないかという批判があり得るところではないかと思われます。   他方,イの点につきましては,確かに場合によって間接強制という通常のルートでは問題が生ずることがあるのではないかという点は,そのとりであるように思われます。そういう意味で,支払命令の制度,先ほど来出ておりますように,オプションとして設けるということは,あるいはニーズがあり得るということかなという感じもいたしますけれども,支払命令の制度に限定する,排他的な執行のルートとするということが,このア,イの説明によって十分に説明されているかというと,そこはやはり難しいのかなという感じがしております。   そういう点からしますと,中間試案の線に戻って,一般的には間接強制等で賄うということか,あるいはそれで足りない部分への手当てとして,日本法独自の,言わばサービスとして支払命令という制度を追加的に設けることの当否をどう考えるのかという辺りは検討の余地があるのかなと思われますけれども,現在の提案だと,やはりモデル法との関係で問題視されるというのは理解できるところがあるかなと感じております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 ありがとうございます。道垣内でございます。十分に整理できていないのですが,垣内さんのおっしゃった最後の部分については違う意見を持っています。   私の理解では,仲裁法24条1項が元々の出発点で,ここでは仲裁廷が必要と認める暫定措置又は保全措置を講ずることを当事者に命ずることができる、ということになっています。その暫定措置又は保全措置は裁判所としては執行するとは定めていないので,国家法としてはこのことをそれほど気にしていないということだったと思います。今回の改正により,国家制度として執行をしましょうということにするとすれば,ではどんな内容のものでなければならないかが問題となっているわけです。この点,モデル法を見ると随分とざっくり書いてあるけれども,緻密に組みあがっている日本法秩序としてはそれでは少し困るのではないか,きちんと枠を嵌めましょうというのが今回の新たな案であると思います。   ただ,中間試案の第1の8のイの中に,Hで,暫定措置又は保全措置が日本の法令によって執行することができないものであるときは執行しないと書いてあるので,日本ではいかがなものかと,あるいは,国家機関を使って執行するのはできませんねというものは,ここで排除される仕組みになっているわけです。したがって,発令段階で余り心配しなくていいのかなというのが一つの筋です。要するに,発令段階で余り細かく定めなくても,執行段階で押さえておけば,既に終わった議論ですけれども,モデル法と同じようにざっくり書いておいても構わないのではないか思います。   なお,承認については今まで余り申し上げてきませんでしたけれども,いざ削除するということになると,承認される対象になっていないもの,要するに,今日の案でいうと第1の1(1)の@,A,Cについては,現在の仲裁法で自由に発令して結構ですと定めているのと同じ立場,同じような扱いになってしまうのではないか,と思います。これに対して,承認について定めることにすれば,すなわち,民訴の118条と同じようにその効力を有するといった定めをすることにすれば,国家法として受け入れましょうということになり,現在の24条とは違って,国家法として,仲裁廷がした暫定措置又は保全措置が有効に発令されていことを認めるということになります。もちろん,中間試案の第1の8のイの@からJに抵触するものは自動的に排除されることになります。これは118条の下での外国判決の承認と同じだと思います。   ですので,先ほどの@からJの要件の中のHというのがあるし,承認ということで国家秩序として手続法的な効力があるという理解,すなわち手続法的な理解の方が私はいいのではないかと思います。そのためには承認という規定がやはりあった方が安心です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。仲裁廷による支払命令は,やはりいろいろな議論がありますね。私も何点か申し上げたいと思います。   この仲裁廷による支払命令の御提案,今回新たに出てきたものですが,仲裁廷の暫定保全措置の執行を日本の執行法制の実情に合わせて実効的なものにするという趣旨は分かりますし,それから,先ほど1で申し上げたように,モデル法の17条Hでしたかね,これは単にエンフォースド・アポン・アプリケーション・トゥー・ザ・コンペテント・コートとしか書いていなくて,要するに,エンフォースの中身は各国に任されているということだと思いますので,そういうことも踏まえて,ある意味で,よく工夫された提案であるとは思います。他方,やはり実務家サイドからすると,日本に特有の制度,変わった制度だと受け取られることが心配かなと思います。   その上で,質問とコメントですが,まず質問から,私も分からなくなってきたのが,古田委員と福田参事官との間のやり取り,それから,先ほど垣内幹事からもその点について言及がございましたが,4(2)の括弧書きですね,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わないと,この意味なのですが,日本を仲裁地とするものにしか適用ないと先ほどおっしゃったように聞こえたのですが,元々の事務局の御提案はそういうことだったのでしょうか。   今の点に加えて二つ質問があって,仲裁地国でこのような仲裁廷の権限の規定がない,あるいは明示がないといった方がいいのかもしれませんが,明示がない場合でも,そこで支払命令を出せば日本で執行してもらえるということなのかどうかと,これは最初の質問と重なるところだと思います。   次に,日本を仲裁地とする仲裁廷がこの条項に基づいて支払命令を出した場合,それは日本の裁判所では執行されていくことになるのでしょうが,外国で執行できるかどうかは,それは執行地国の仲裁法制次第ということなのでしょうね。ここは確認的な質問です。   まず質問にお答えいただいてから,何点かコメントしたいと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局から御回答をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。   まず1点目ですけれども,先ほど少し舌足らずで終わってしまって恐縮ですけれども,(2)の柱書に書いております括弧書が,今のこの書きぶりですと,ア,イ,ウ,エ,全てにおいて当てはまるような書き方になっております。この点については少し誤りがあるという趣旨で,先ほどは申し上げた次第です。つまり,アとイとウの部分については,我が国を仲裁地としたときの仲裁廷の権限という形で書かせていただいております。他方,エにつきましては,これは執行の局面になってきますので,外国が仲裁地である仲裁廷がこの支払命令のようなものを仮に出したのであれば,それは我が国として受け入れて執行決定の対象にするということで整理をしております。これがまず1点目になります。   2点目ですけれども,この点も出井委員が御指摘のとおり,我が国の仲裁廷がこの支払命令を出して,それが外国でどのように扱われるかというのは,その外国の仲裁法がどうなっているかというところで規律されるものと考えております。 ○出井委員 そうしますと,しつこいようですが,第1点目については,法制的な説明はともかくとして,結論としてしては,外国の仲裁廷が支払命令,これは先ほど垣内幹事の御質問だったと思いますが,外国の仲裁廷が当事者の求めに応じて日本で執行することを考えて,執行地である日本にはこういう制度があるので,違反に対して支払命令を出してくださいということを当事者が申し立て,当該外国仲裁廷がそれに従って金銭支払を発令した場合は,それは日本の裁判所で日本国で執行は可能と,そういう整理でよろしいですか。 ○福田幹事 福田でございます。おっしゃるとおり,可能という整理でございます。 ○出井委員 分かりました。そうしましたら,3点ほどコメントをしたいと思います。   先ほど1のところで,エンフォースの中身はモデル法上も各国に任されているので,そこはある程度,日本の法制度に合わせて規定できるのではないかと申し上げましたが,既に何人かの方の指摘があったように,仲裁廷の支払命令のところの規律は,裁判所での執行のところではありますが,仲裁廷が何を行うのかと,その前に何を行っておくべきなのかということについても規定されているということになるので,必ずしも裁判所,裁判手続だけのことではないように思います。したがって,1のところで私が述べたことに沿って言いますと,やはりモデル法にできる限り沿っていただくことが求められるのではないかと思います。   実務的なところで言いますと,現在でも暫定保全措置を守らなかった場合の金銭ペナルティ,あるいは履行担保を積むようなことを暫定保全措置の申立てと併せて求められることはありますが,実際にどれだけその仲裁で発令されているかは分かりません,恐らくごく少数ではないかと思います。今回この支払命令という制度が@,A,Cの類型について設けられるということは,それが一部であれ,ある意味で一般化するように見えてしまうかなという気もいたします。それがどういうふうに受け取られるかですね。逆に,何人かの方がおっしゃられたように,一部の保全処分,@,A,Cについては,通常できる執行ができなくなってしまうということになるのだと思います。それから,Bの類型についても,金銭ペナルティが暫定保全措置の適切な措置として求められることはあるのですが,それが今度はできなくなってしまうようにも読めます。この辺りは多分に説明の仕方の問題かもしれませんが,やはり特異な法制というレッテルを貼られてしまわないかということが懸念されるところです。   それから,仲裁廷としてこういう暫定保全措置違反のペナルティですね,この金額を決めるというのは実務的にはそう簡単なことではなくて,恐らく双方からその金額についてのブリーフを出させて判断するということになると思うので,仲裁廷としても結構大変なことになるかなと思います。   あとは法制上のコメントになるかと思いますが,一つは,これも何人かの方の御指摘があったところですが,@,A,Cの類型については,必ず支払命令を介さないと日本の裁判所では執行できないと,すなわち暫定保全措置の発令,それから執行決定,それから民事執行に移るわけですが,多くの場合は間接強制命令,それから金銭としての執行と,そういうルートが@,A,Cでは取れなくなって,必ず支払命令を介さないといけないということになります。そうすると,やはり御指摘があったように,支払命令がないと執行できないということが明示されてしまうことになるので,ここはやはり日本は変わった制度だということになってしまわないか,それが懸念されるところです。   @,A,Cについても,通常の民事執行法のルートもあるけれども,それは実効性の観点でいろいろ問題があるので,それに加えてオプションとして支払命令で金銭化できるというと,これは単にオプションを付加しただけということになるので,また違った見え方になるかもしれませんが,今はそうではないのでそこが一番懸念されるところです。   それから,もう1点,Bについては,今度は支払命令は使えないということに読めてしまうのですが,これも仲裁廷が必要な措置としてBの類型について金銭ペナルティを仮に発令した場合に,それは執行できないということになるのかという問題です。仲裁手続の中ではそれは効力はあるはずです。それが執行できないということになるのかどうかということなのですが,それを執行を許さないという理由もないように思うのですが,その辺りが疑問なところです。   このように考えていきますと,@,A,CとBを分けて,それぞれ違う民事執行法のルートを規定するという必要があるのか,それが適切なのかは,なお十分検討をする必要があるのではないかと思います。   古田委員から御指摘のあったように,そもそもそれが振り分けられるのかという,特に外国の仲裁廷が出した発令について,振り分けられるのかという問題もありますし,通常のルートの民事執行は実効性はともかく,実効性がないので余りそのルートは使われないということにもなるのかもしれませんが,それはそれで制度上はできるとしておいて,それに加えて場合によっては支払命令という手もあると,そういうふうな制度にしておくと,それほど日本が特異な制度であるという印象も薄れるのではないかと思います。私もまだもう少し考えてみたいと思いますけれども,なお慎重な検討と,それから工夫が必要であるように思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 東北大の今津です。既に出た御意見と重複するかもしれませんが,私も今回の御提案の形をそのままで行くというのは,少し問題ではないかという印象を受けております。類型によっては暫定保全措置そのものは執行できず,支払命令だけで行くという形になりますので,それは暫定保全措置を執行しているという評価にはなかなかなりにくいのかなという印象を持っております。そうであれば,間接強制で行くというルートに加える形で支払命令という余地を新たに付加するということであれば,当事者の便宜という今回の御提案の元々の趣旨を全うすることもできるのではないかと思いますので,基本的に本来の強制執行の道は残しつつ,やるという方向がいいのではないかと思っております。   それから,支払命令の位置付けなのですけれども,これは仲裁廷が出すものということになりますので,暫定保全措置そのものとしてこういったものを出すことも,先ほども出井委員からも,それが皆無ではないというようなお話があったと思いますので,例えば,今回冒頭で議論した暫定保全措置の類型のどこかに読み込むであるとか,あるいは文言として少しなじまないということであれば,Dの類型というような形で新たに作るとか,そういった方向で工夫はできないのかというようなことを思っておりますので,少なくとも今のような形でこれに一本化するということには少し疑問を持っているところです。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○渡邉幹事 確認のために1点お伺いします。   先ほどから話題になっている仲裁廷による支払命令で命ぜられる「当該違反によって害されることとなる利益の内容及び性質等を勘案して相当と認める金額」の金銭の性質は,補足説明によると,「法定の違約金」であるとされていますが,そういった性質のものであるとすると,裁判所としては,基本的にはこの金額の相当性には介入することはなく,仲裁廷の定めた金額を尊重するという扱いになると思われますが,そのような理解でいいのか,念のために確認させていただきたいと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。御質問ありがとうございます。   基本的に事務当局としましても今,渡邉幹事がおっしゃったような理解で考えております。したがって,この支払命令の法的性質について,いろいろ解釈論があるのかもしれませんけれども,現時点での事務当局の考え方はこの部会資料に書かせていただいたとおりで,執行決定の手続に当たっても,渡邉幹事がおっしゃったような扱いでよろしいかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。度々申し訳ありません。先ほどの承認等に関する議論についての補足的な発言をさせていただきたいと思います。   私自身の基本的な理解については先ほど申し上げたようなことなのですけれども,仮に何か承認に関する規定を設けるとしたときに,当事者を拘束するというような,バインディングというのをそのまま直訳調のものが日本の法制としては問題があるということだとしますと,従来は効力を有するという形で,これについてもいろいろ問題点の指摘がされていたところで,かといって確定判決と同一の効力とか,訴訟上の和解と同一の効力というわけにもいかないだろうと思われますので,何かと同一の効力ということを仮に考えるとすれば,9ページの説明にあるような実体法上の効果ということを念頭に置きますと,当事者間の合意と同一の効力というようなことが,法制上はともかくとして,理屈としては考えられるのかなという感じがいたします。ただ,ここの問題は主として法制的な観点から,どのような文言が可能なのかということかと思いますので,その点について特に貢献するものではないかもしれませんけれども,その点を1点付け加えさせていただきたいと思います。   それから,仮に承認に関する規定を設けるとしたときに,かつ,支払命令の制度についても,排他的かどうかはともかくとして,更に検討を進めていくということだといたしますと,承認については支払命令についても承認に関する規定が必要になるのだろうと思われます。もちろん承認という文言を設けない,原案どおりであれば,支払命令についてはそのような気遣いは要らないということになるのだろうと思いますけれども,承認について何か文言化をするとなれば,支払命令についても必要となるものと思われまして,その際,これは先ほどの仲裁地等の議論と若干関係してくるかと思われますけれども,そもそも支払命令でも実体法上,支払義務が発生すると,直前の御発言にもありました違約金のような債務が発生するということだと思われまして,それは,なぜそのような実体法上の義務が正当化されるのかというと,これはやはり究極的には仲裁合意に基づいて,当該仲裁合意に基づく仲裁手続上,仲裁廷にそのような権限が認められているからであるということになるのかなと思われます。   そうしたときに,仲裁合意の準拠法が何かということはやはり問題となるような感じもいたしまして,当該仲裁合意というものがどういう権利義務を基礎付けるのかということを考えるときに,支払命令,これは日本が仲裁地で,仲裁合意について日本法が準拠法になるというような場合ですと,ア,イ,ウのような規定があれば,そういう仲裁合意をしたということで支払命令に基づく権利義務というものも正当化できるだろうと思われますけれども,そうでないような仲裁合意というものを想定したときにどうなるかというと,それは必ずしも当事者間の仲裁合意の効果として説明することができるのかどうかという疑問が生じ得るように思われまして,その場合には,明示的にはなくても黙示的には含まれているというような説明もあり得るのかもしれませんが,このエの規定によって,外国仲裁も受皿,場合によっては執行できるという前提がどこまで実際に適用し得るのかという問題も生ずるように思われますので,その辺りも含めて,少し更に検討が必要な部分もあるかなという感じがいたしました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。あるいは,事務当局の方から確認をしておくべき点はございますか。 ○福田幹事 福田でございます。いろいろと御指摘をたくさん頂きましたので,それを踏まえて,またこちらで整理をさせていただきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   承認については,今回はなくてもいいのではないかという御意見,理由はともかく,結論においてはかなり支持する御意見を頂きましたが,なお反対の御意見も複数あったように思いますし,この支払命令というのは,やや予想されたことではありますけれども,かなり様々な観点から種々御意見あるいは御批判を頂いたということで,今,事務当局からありましたように,次回に向けて引き続き検討をしていただく必要があろうかと思います。   それでは,続きまして,本日最後の話題ですけれども,資料12ページ,「第2 仲裁合意の書面性に関する規律」の点につきまして,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川から説明をさせていただきたいと思います。   第2では,仲裁合意の書面性に関する規律を取り上げております。中間試案では,改正モデル法のオプション1の規律を踏まえて,仲裁合意は書面によってしなければならないものとしつつ,仲裁合意が何らかの方式で記録されているときは書面によってされたものとする旨の規律を設けることが提案されておりました。   もっとも,我が国の法制において,合意の内容が何らかの方式で記録されているときに書面要件を満たすものとしている例はなく,現行仲裁法第13条第4項と同様に,合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときに書面要件を満たすとする例があるにとどまっております。   中間試案の提案に係る規律の下では,例えば,口頭で仲裁合意が成立してから相当期間を経過した後に,一方の当事者のみでその内容を書面に記載した場合にも書面要件を満たすのかという新たな問題が生じ得るとも考えられます。   また,改正モデル法の規律の下で書面要件を満たすとされる例として,口頭で仲裁合意が成立したことを音声で記録した場合があるとされているところ,現行仲裁法の規律を改めることなく,解釈によってこの場合についても適切な結論を導く余地がないのかを検討する必要があるとも考えられます。   そこで,以上のような点を踏まえまして,仲裁合意の書面性に関する規律を改めることの当否について御議論を頂ければと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点について御自由に御議論を頂ければと思いますが,三木委員,お願いします。 ○三木委員 この問題は,UNCITRALモデル法の2006年改正の2本の柱のうちの一つで,何年も掛けてかなり緻密な議論が行われたところですので,その趣旨を踏まえつつ,あるいは今回の御提案についての意見を盛り込みながら,申し上げたいと思います。   今回の案は,このUNCITRALモデル法の2006年改正の規定を置かないという趣旨の御提案ではないかと思います。その一番大きい理由は,我が国の法制上,これと類似する規定がないということだろうと思います。しかし,それは,類似する規定はあるわけがないと言わざるを得ません。そのことは,何も日本に限ることではありません。世界のどの国にも,これと類似する規定は,仲裁のモデル法に準拠した場合の法律の規定以外には,あるわけがないし,今後も,これを導入したからといって,先例になる余地もないということを,まず申しておきたいと思います。   なぜかといいますと,この仲裁合意の書面性についてですが,最終的にモデル法はオプション1とオプション2という,二つの選択肢を設けました。モデル法としては,本来,あくまでもモデルですから,1個のモデルを定めなければいけないのですけれども,二つの選択を許すという唯一無二の規律を採用したわけです。それがUNCITRALで通った理由ですが,この二つは,見掛けは違うけれども,実質は同じ規定であるということにあります。つまり,オプション1と2というのは,規定ぶりについてのオプションは設けるけれども,実質についてのUNCITRALモデルは,基本的に一つであるという前提に立って作られています。それは何かというと,それは書面要件を撤廃するということです。書面要件を緩和するのではなくて撤廃するということです。オプション2については,それが端的に表れています。   オプション1については一応,書面という言葉が残っていますが,法律学の世界では,書面の反対概念は口頭です。ところが,オプション1は口頭でもよいし,その他の何の方法でもよいということを書いているので,これは法律概念上,矛盾した規定を置いているわけです。それは,もちろん意識的に矛盾した規定を置いて,これはオプション2と実質的な内容は同じであるということを規定しているわけです。では,なぜオプション1を設けたのかというと,これは書面要件は撤廃するけれども,見掛け上,書面という言葉は残しておきたいという国が全体の約半数,それからオプション2を支持する国が半数,きれいに,ほぼ半分と半分に分かれたわけです。   オプション1の趣旨としては,繰り返しますけれども,書面要件は実質的には完全撤廃するのですが,書面という言葉は残すということです。なぜならば,1958年のニューヨーク条約が書面という言葉を使っており,そのニューヨーク条約は制定から半世紀以上たって徐々に加盟国を増やして,今や,国連加盟国が190いくつしかない中で,160とかそういう国が加盟しているので,その改正は不可能だからです。本当は,これはオプション1を支持した国も含めて,ニューヨーク条約は,改正できるものならば改正して,この書面という言葉を外して,オプション2のような形をとりたいと,ほとんどの国や機関が考えていました。しかし,先ほども言いましたように,ニューヨーク条約は,人類史上最も成功した条約ともいわれていますけれども,皮肉なことに,ある面では成功しすぎた条約といわれていまして,あまりにも加盟国が多く,しかも,その加盟国を増やすのに際して,毎年何か国かずつ増えていくという形で半世紀以上の時間を掛けて増やしていっているので,これを改正すると,収拾できない混乱が生じます。条約の加盟とか批准とかというのは,非常に時間が掛かって,場合によっては行政府が加盟しても立法府が批准するまでに10年掛かるとかいうような例もあるわけです。なので,何十年にもわたって改正ニューヨーク条約と旧ニューヨーク条約の二元体制が生じて,世界中の仲裁体制が大混乱に陥る可能性があるということで,書面という言葉だけは残そうということにしたわけです。したがって,これは実質的には書面要件の撤廃であるということです。それに対して,今回のこの案は,書面要件を残そうとという提案ですので,これはUNCITRALモデル法の改正の考え方には反するということになります。   次に,実質的な側面を述べてみたいと思います。この議論がそもそも始まったのは,電子的な取引に対応したいということが主目的ではありません。したがって,UNCITRALの中でも電子的なものにどう対処するかというような議論は,あまり多くは行われていません。なぜかというと,それは既に旧モデル法の下で,多くの国で,改正法がなくても,旧モデル法上の書面というのは電子的なものを含むという各国の判例や実務が普通に行われていたので,電子的なものに対する対処は,さほど大きな問題ではなかったからです。それでは,何について何年も議論したかというと,それは,口頭による仲裁合意を是非取り込みたいということでした。   口頭による仲裁合意というのは,我々が思うよりも,結構行われているようです。また,口頭でしかできない仲裁合意というのがあるわけです。それは,例えば,サルベージ契約であるとか,現在どうなっているかはよく知りませんけれども,少なくともこのモデル法の改正の議論が行われた当時の例としては,一定の先物取引とかで,音声で何秒に1件という形でどんどん契約がなされているというようなものとかが,例として挙げられていました。そういったものが実際にあるので,これは対応せざるを得ないということです。   さらに言えば,長い仲裁法の歴史において,もともと仲裁合意には書面要件は課されていなかったわけです。最初に仲裁合意の書面要件というものが広く行き渡ったのは,1958年のニューヨーク条約が取り入れたことによるのだろうと思います。そこでは,その当時の時代背景として,書面を要求することによって,仲裁というものの信頼性とか認知性を高めたいという意図がありました。当時は,今とは比較にならないほど,仲裁というものは誤解されていたり,よく知られていなかったりしたことがあって,いろいろとトラブルを招くことがありました。日本の下級審裁判例でも,仲裁と調停を誤解した裁判例がありました。我々の今の認識とは,かなり違う状況です。その下で,きちんと書面を要求することで,仲裁というものが,信頼できる制度であるということの認知を得たいという背景があったと思います。しかし,ある時期からは,そういう状況はなくなってきているわけです。しかも,仲裁合意というのはそれ自体は私法上の契約ですので,もともと,口頭でもできるはずのものです。   ちなみに,この仲裁合意が私法上の契約であるということは,次の議論とも関係すると思います。国際裁判管轄合意は書面が要求されているのに,仲裁合意は口頭でいいのかという議論があります。しかし,国際裁判管轄合意というのは,これは訴訟行為であって,当事者の能力なども訴訟法上の能力に従うのに対して,仲裁合意は,国際裁判管轄合意とは性質を異にします。私法上の契約については,本来,無方式であるのが原則です。その原則に立ち返ろうという理念的なコンセンサスも,当時のUNCITRALの中ではあったように思われます。   最後に,実質について申し上げます。現在,電磁的な記録については,日本法で手当てをしておりますので,これで,口頭による合意も,音声が電磁的に録音されていれば電磁的記録で足りるというようなことが,この部会資料に書かれています。しかし,それは,次の二つの点で,そうとはいえないと思います。   一つは,これは現行の日本仲裁法を作るときの立法に携わった者の合意ですけれども,ここにいう電磁的な方式とは,文字を電磁的に記録したものを指すのであって,音声は含まないということが含意されています。それは,そうでないと,この現行のモデル法を作る段階で書面要件の撤廃を行ったに等しくなるからであって,もちろん,そうした口頭による合意は意識されていないわけです。   二つ目として,それは規定の文言にも表れております。13条の4項ですが,これは,「仲裁合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは」という文言になっています。仲裁合意が書面でなされる場合は,それは合意が書面でなされたということになります。しかし,仲裁合意が音声で記録されている場合というのは,これは仲裁合意は口頭によってされて,その口頭によってされたものが音声として記録されているというだけで,書面とは対比できないわけです。繰り返して言いますと,書面の場合は仲裁合意が書面でされたといえますけれども,音声の場合は,電磁記録でされたということにはならなくて,仲裁合意が口頭でされて,それが音声の電磁記録で残っているということになるので,この規定でそれを読み込むことは無理です。実際,現行仲裁法ができてから20年近く,そういう認識で法律の世界といいますか,実務の世界は動いております。また,これを解釈で読み込むといっても,我々には,解釈を変更する権限はありません。我々は,法律の案を作る権限はありますけれども,解釈の権限は,我々の部会にはないし,法制審にもなく,国会にもないわけです。したがって,そういうふうに読みたいといっても,それは,何ら法的裏付けのない話になります。また,繰り返しになりますけれども,文理的にも,そうとは読めないということになります。   こうした実質的な問題もありますが,何よりもモデル法の本来の考え方,つまり,書面要件を緩和するのではなくて撤廃するのだという方針からすると,このような御提案に沿うのではなく,中間試案のままで行くべきだと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 書面性に関してどうするかということについて結論を出しているものではありませんが,結局,仲裁合意がなされるということが前提で,それをどのようなもので認定できるのかということから出発しているのだと思います。そうすると,書面によることが一番明確だし,分かりやすい。その存否について,裁判所に持ち込まれたときも,証拠の上で裁判所の認定もしやすいということから,書面性が要求される,書面によるものとすることになったのではないかと思います。昔の民事訴訟法に仲裁が規定されていた時代では,書面性はなかったと聞いています。それが,書面というものが規定されてきたと。   改めて仲裁法の現行の規定を見ますと,双方の署名がある,日本だったら判子かもしれませんが,署名がある書面というものだけではなく,かなりバリエーション豊かな規定に現行仲裁法はなっているように思われます。現行法では音声によるものというものは認めていないと解されているようですから,それをどうしていくかということはまた問題かもしれませんが,書面性をかなりバラエティー豊かなものにしていると読み込むことができると思います。   仲裁合意の認定のために書面性が要求されるようになったということは,その認定が容易だからという意味合いがあると思います。民法の保証契約において書面が要求されるようになったということから考えても,当事者の意思を確認するという場合に書面によって認定するということに非常に大きな意味があるということから,民法の規定にそのようなことが盛り込まれるようになったのだと思います。   そうすると,今度は仲裁合意があるかどうかという認定が,合意の有無の認定でなくて書面をどう解釈するか,書面に当たるかどうかの認定の問題になってきてしまっているのですね。合意によるということの認定が,書面によるというものの認定に変わってきているということが言えようかと思います。   では,今回どうするのかというと,結局,仲裁合意の認定について,合意の認定をすることが容易なのか,あるいは書面によるという,その書面性の認定が容易なのかという,いずれが容易か,あるいは適切かという観点からの検討が必要になるのではないかと思っております。   UNCITRALの議論というものを,無論それも参考にしながら考えていく必要はあるかと思いますが,私ども法律実務家としてはそのような,どちらが妥当なのか,それが適切なのかという,そういう観点が必要なのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚です。この点なのですけれども,これって日本で仲裁を開始する場合に,書面だとか電磁的記録がないけれども,例えば,口頭で仲裁合意をしたということについて,録音もないけれども,第三者の証言があったというような場合に,これは記録は残っていなくて記憶に残っている,それは第三者がしっかり聞いていたみたいなときに,書面性を完全撤廃するというのは,恐らく,記録されていなくても,合意の存在を証人によって立証できれば仲裁合意は認めていいのだと,そういう話なのだろうと思います。それで,オプションAですか,そちらはやはり何らかの記録がないと駄目だという点では,私は違っているのかなと理解をしていて,日本でせっかくやった仲裁について,仲裁判断が出て,海外で執行しようという場合に,ニューヨーク条約の関係もありますし,あるいはその国の制度の問題もあるのですが,仲裁合意のオリジナルについてきちんと認証して持ってこないと裁判所で受け付けないみたいな国も,どうやらあるみたいなのです。そのときに,時代の流れだからということで書面性は全部撤廃でいいのだとしてしまっておくと,日本で仲裁をやる分にはいいかもしれないけれども,実際に執行が考えられる地が,やや時代に後れているということかもしれませんが,そういう第三者の証言で立証したような仲裁合意では執行を受け付けてくれないという事態もあり得るのではないかと思うのです。   なので,私はこの書面性の要件を撤廃すると日本で仲裁がやりやすくなると単純には言えなくて,やはり世界のいろいろな国における執行を考えた場合に,今のところ,きちんと記録しておかないと,やってみたら執行を受け付けられなかったということになってしまうようでは利用者の信頼を損ねかねないという気もするので,余り書面性を撤廃するのが時代の流れだという方向に突き進んでいいのかというのは疑問で,中間試案に書いてあるようなところであれば,何らかの方法で記録されているときとありますよね,だから記録がある必要はあるので,その程度だったらいいのかなと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○春田委員 春田です。聞こえますでしょうか。ありがとうございます。   私は,この書面性については,仲裁合意というのは一定の効力を有するものであって,慎重な取扱いを求められるという観点から,書面によってしなければならないというのは理解しているところです。   ただ,一方で,社会のデジタル化が急速に進んでいると,先ほども少し時代の流れみたいな話もありましたけれども,そういった中で,書面イコール紙という考え方も変わってくるのではないかと思っていまして,今後,書面の解釈というのもいろいろ出てくるのかなと思っています。   ただ,私も法律上,それほど詳しくないですけれども,音声を記録することによって,音声が書面に代わるだとか,これからいろいろな動きが出てくると思うのです。音声自体が書面になるということだと思います。そういったデジタル化の流れの中で,慎重にならないといけない部分と対応していかないといけない部分があるということも意識しながら,私は中間試案にどちらかというと同意いたします。   その上で,この中間試案の「仲裁合意の書面性に関する規律」の2にある,「その内容が何らかの方式で記録されているときは」というところの,「何らかの方式」がもう少しはっきりしてくると,具体的な話もできるのかなと思いますけれども,現状ややあいまいなので様々な意見が出てくるのかなと思ったところであります。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○原田委員 日本製鉄,原田です。聞こえますでしょうか。   モデル法に合った仲裁法を整備することで,日本における国際仲裁の活性化につながるということではあるのですけれども,モデル法に整合的ということが具体的に何なのかということは,今後改めて事務当局に確認頂ければと思っております。第1回の配付資料だったと思いますけれども,今の書面性についても,仲裁合意の方式の許容ということで各国の状況が一覧になっていますが,結構ばらつきがあったのかなと見ております。この資料には@とAがあり,それらがどの程度モデル法を採用したのかが直ちには分からないのです。そのままモデル法を採択したのか,あるいは結構慎重に,書面性の撤廃といっても電子的な記録ぐらいにとどめているのか,そこは日本と仲裁地を争うような諸外国等がどうしているのかを具体的に確認したいと思っております。   なぜこのようなことを申し上げているかといいますと,既にコメントがございましたが,企業の取引においては,契約というのは,もちろん法的には口頭でも成立しますけれども,特に国際取引においては,しっかり書面,書面といっても今は紙や電子などがありますけれども,書面で確認をしなければいけないということが鉄則です。余り合意の方式が緩くなりすぎてしまうと取引の安定性等々にも影響していくため,企業として気を付けなければいけないということにもなりかねないと思っております。そういった意味で,少し冒頭申し上げましたように,最終的には、モデル法に整合的という具体的な確認をさせていただきたいと思っている次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○有田委員 有田です。三木委員が,法律家であれば当然のこととして理解している,書面の反対概念は口頭とおっしゃった。口頭で何らかの,要するに,それは音声を記録していてという場合を,その記録した音声が当事者であるということが証明されるということであれば,多様化されることがあってもいいのではないかと考えます。けれども,先ほど事業者の方が,書面で行わなければならない,もう少し慎重にとおっしゃったところはすごく気になっています。ただし,多様であることも,今後のことを考えれば,必要であると思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。できるだけ多くの委員,幹事の御意見を伺いたい,三木委員から発言希望がありますけれども,他の委員,幹事から御発言があればと思いますが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内でございます。モデル法の議論の過程でそもそも書面については全面的に撤廃するのだという考えが支配的であったという御紹介もあったわけですけれども,モデル法自身はオプションの1と2というものを二つながら定めていて,中間試案は1の方を基礎とした考え方を採っていたということかと思います。私自身はなかなか悩ましいところだとは思いますけれども,今,直前に何人かの方が言われましたように,およそ書面性を全廃してしまうということについては,仲裁合意の効力が非常に重大であるということなども考えると,今の時点ではちゅうちょを感じているところです。   かといって,現行法そのままでいいのかということですが,可能であれば中間試案のような形で,モデル法に準拠していることがより明確に示せるということが望ましいと思われまして,中間試案のままでは文言上,法制的に問題があるということが仮にあるとすると,その点について更に工夫ができないかと思います。ただ,今のところ,こういう文言であれば問題ないだろうという具体的な提案を持ち合わせているということではありませんので,その辺はお役に立つことはできないということで,申し訳なく感じる次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   他に御発言の希望はございますでしょうか。 ○河井委員 河井でございます。私も基本的には中間試案の方がいいのではないかと思っていまして,その理由は,書面の方がかっちりしているという先ほどの議論もあって,それは非常によく分かるのですけれども,これまでの20年間の流れを見ても,書面が主流だったのが今や電磁的記録の方がむしろ利用が広がっているということがあり,今後10年,20年たつと電磁的記録以外の記録方法がまたメインになってくるかもしれないと,そういう技術の発展を視野に入れると,やはり広めに,何らかの方式によって記録されているということであれば,それは書面性の要件を満たすという方向に広い解釈ができるような形の方が私はベターだと思っています。電磁的記録に限定しない方がいいと思っています。   問題は,垣内幹事もおっしゃったように,何らかのという言葉に法制上の問題が仮にあるのだとすると,例示として電磁的その他の方式とか,もう少し何らかのというところを工夫することによって,中間試案の文言をできるだけいかしていただく方が,私は今後の仲裁という意味ではベターなのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○山田委員 私も今の垣内幹事,河井委員とほぼ同じなのですけれども,できれば中間試案の状況が相当なのではないかと思います。三木委員から必ずしも電子取引の問題に特化した話ではないというお話がありましたけれども,差し当たってはオンラインでの取引や仲裁等が今後,相当程度増えていくという見通しが一方であり,記録媒体の多様化は考えないといけないと,他方で,しかし全く記録がないということで,先ほど手塚委員から御紹介がありましたような,証言だけで証明をするというのは非常に不安定さが残るということを考えますと,両者の折衷的なところで,このオプション1は相当性があるのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   他に御発言希望はございませんでしょうか。よろしいですか。   それでは,三木委員,できるだけ簡潔にお願いしたいと思います。 ○三木委員 まず,私の先ほどの発言で誤解されているような方も,されていないような方もおられたように感じましたが,私は書面要件を文字どおり文言上も撤廃する,モデル法のオプション2を別に採用すべきだと言ったつもりはありません。中間試案に示されている元の案,すなわちオプション1で行くべきだと申し上げたつもりです。しかし,この事務局の用意したペーパーは,オプション1でも2でもなくて,現行法を全く変えない,別な言葉で言うと2006年改正モデル法を採用しないという提案ですので,それには反対だということを確認しておきたいと思います。   それから,もう1点,何人かの方から実務との関係についての言及がありました。これも念のための確認ですけれども,どの案を採用しようが,実務においては,たとえこの中間試案の案が採用されたとしても,その場合に全ての取引が口頭によりなされて,口頭の合意を録音で記録するかというと,そんなことはもちろんなくて,安全のために書面が使われていくことになるはずです。   中間試案のときの提案,あるいはモデル法のオプション1というのは,もちろん書面によってはいけないと言っているわけではなくて,書面によらないものも記録さえあれば認めると言っているわけですので,取引において安全を期したい企業間の重要な取引とか,あるいは重要でなくても,ほとんどの取引については書面でされるということは,維持されると思います。そのことを念のために確認しておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   他にいかがでしょうか。事務当局から何か確認しておくべき点とかはございませんか。 ○福田幹事 福田でございます。いろいろと御指摘を頂いたところなのですけれども,何点か少しコメントをさせていただければと思います。   まず1点目なのですけれども,現行法の13条4項で,電磁的記録によってされたときは,その仲裁合意は書面によってされたものとすると,こういう規律があるわけですが,先ほど,合意が口頭でされたもので録音テープに記録されているものが含まれるかどうかという解釈は,録音テープが電磁的記録に含まれるかどうかということもさることながら,よってされたというところの解釈で疑義が生じるというようなことも考え得るのかなと思っておりまして,この部分の工夫の余地というのはひょっとしたらあり得るのかもしれないとは思っております。これが,まず1点目です。   もう1点は,現在の13条の規律で読めない実務上の例というものがあるのかどうかというところを少し確認をさせてください。こういったものが具体的に含まれないので弊害があるというようなことがあれば,そこは改正に向けた大きな一つの根拠になってきますので,その辺り,何かお考えがあるところがございましたら,おっしゃっていただければと思います。取り急ぎ,お願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございます。   先ほど三木委員から,サルベージ契約とか証券取引ですかね,高速証券取引なのかもしれませんが,等の議論がUNCITRALであったという御紹介がありましたけれども,実務に携わっておられる方々から,ほかにもこういうことがあるとかということがあれば,御発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。   今の段階ではなさそうな感じですかね。もしお気付きになればというか,あるいは,どこかでそういうことをお聞きになった場合には,事務当局までお知らせを頂ければ,事務当局としても次回に向けた検討に大変有り難いのではないかと思います。   ほかには,よろしいでしょうか。   それでは,この部分もかなり今回,書面性それ自体を残すといいますか,あるいは現在の規定をそのままにするという点については,様々な御意見あるいは御批判を頂いたかと思いますので,本日の御意見を踏まえて更に提案を吟味していただきたいということになろうかと思います。   それでは,そろそろ所定の時間でありますので,本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。   次回の議事日程等について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。本日も長時間にわたりまして御議論いただきまして,ありがとうございました。   次回の日程は,8月6日金曜日,午後1時30分からということで予定をしております。場所についてですけれども,また決まりましたらお知らせをいたします。   次回の会議では,本日たくさんの御意見を頂きましたので,本日の御意見を踏まえて,この仲裁に関する幾つかの論点について整理をして,改めて御議論を頂きたいと考えております。 ○山本部会長 そのようなことで,8月に入ってからで,少し夏休み的なところもあるのですけれども,かなり審議,押し詰まってきているというか,そういうところですので,どうか引き続き御審議を頂ければと考えております。   それでは,これをもちまして法制審議会仲裁法制部会第10回会議は閉会にさせていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 −了−