法制審議会 仲裁法制部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  令和3年9月10日(金) 自 午後1時30分                      至 午後4時02分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,所定の時刻になりましたので,法制審議会仲裁法制部会第12回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日は阿部幹事,衣斐幹事,長沼幹事が御欠席と伺っております。また,増見委員が遅れて御参加ということかと思います。   まず,前回に引き続き,本日もウェブ会議方式を併用して議事を進めたいと思いますので,ウェブ会議に関する注意事項を事務当局から説明してください。 ○福田幹事 福田でございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。   これまでの会議と同様のお願いとなりますけれども,念のため御案内をさせていただきます。本日も新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出ておりますので,部会長も含め,基本的にはウェブでの参加をお願いしたところでございます。まず,ウェブ会議を通じて参加されている方の映像及び音声を確認させていただきます。いつものように,私の声が聞こえましたら,手を挙げる機能を使ってお知らせいただけますでしょうか。   ありがとうございます。確認ができましたので,手を下げていただいて結構でございます。   それでは,ウェブ会議に関する注意事項を説明させていただきます。ウェブ会議を通じて参加されている皆様につきましては,ハウリングや雑音の混入を防ぐため,御発言される際を除き,マイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願い申し上げます。審議において御発言される場合は,手を挙げる機能をお使いください。それを見て部会長から適宜指名がありますので,指名されましたらマイクをオンにして発言をしてください。発言が終わりましたら,再びマイクをオフにし,同じように手のひらマークをクリックして手を下げるようにしてください。なお,御発言の際は必ずお名前をおっしゃってから発言されるようお願いいたします。   私からは以上です。 ○山本部会長 続きまして,7月に新しく委員として就任されました金子委員におかれましては,前回は御欠席だったかと思いますので,簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。  (自己紹介につき省略) ○山本部会長 よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議に入ります前に,配付資料の説明を事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。本日は部会資料12として「仲裁法の改正に関する要綱案のたたき台」を配付させていただいております。資料の内容につきましては,後ほど事務当局から説明をさせていただきます。 ○山本部会長 それでは早速,本日の審議に入りたいと思います。   まずは部会資料12の「第1 暫定保全措置に関する規律」のうち1から4まで,資料の1ページから3ページまでになりますが,この部分について取り上げたいと思います。まず,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川から説明をさせていただきます。   本文第1では,暫定保全措置に関する規律について取り上げております。本文第1の1から5までの規律がございますが,資料1ページ,28行目の(注)のとおり,本文第1の1から4までの規律は,現行仲裁法第24条と同様,仲裁地が日本国内にある場合についてのみ適用されることを,本文第1の5の暫定保全措置の執行に関する規律は,現行法の仲裁判断の執行決定に関する規律と同様,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず適用されることを想定しております。以下では,まず,本文第1の1から4までの規律について説明をさせていただきます。   本文第1の1では,暫定保全措置の定義類型及び発令要件について取り上げております。部会資料11-1からの変更点といたしましては,まず,本文1(1)ウについて,改正モデル法第17条第2項の規定,例えばプリベント・カレント・オア・イミネント・ハームなどの規定との対応関係をより明確にするため,その変更により,との文言を削るなどの修正をしております。また,本文1(1)エ及びオについては,別号の規律に分けることとしております。なお,今回の部会資料の7ページ以降では,本文1(1)ウの措置を命ずる暫定保全措置を予防・回復型と,それ以外の措置を命ずる暫定保全措置を禁止型と呼ぶこととしております。   続きまして,本文第1の2では,暫定保全措置の担保について取り上げております。中間試案から実質的な内容は変わっておりませんが,担保の提供を命ずる時点等を明確にするため,「暫定保全措置を発するに際し,必要があると認めるとき」との文言に改めております。   本文第1の3の暫定保全措置の変更等及び事情変更の開示につきましては,部会資料11-1と同じ内容を提案しております。本文3(3)の要件については,法制上の観点から,ほかに適切な文言が見当たらないことから,引き続き同じ内容としております。   本文第1の4では,暫定保全措置に係る費用及び損害について取り上げております。説明の中では,責めに帰すべき事由との要件を設けることについて,これまでの審議の中で頂いた御意見を踏まえて検討しております。まず,仲裁廷がどのような要件の下で損害賠償を命ずる権限を行使するかについて広く裁量に委ねるものとすることは,当事者の予測可能性を損ない,そもそも暫定保全措置の申立てを萎縮させかねないことから,相当でないものと考えております。その上で,類似の制度である民事保全との対比におきまして,暫定保全措置の発令に当たっては被申立人に防御の機会が与えられることが前提となっていることなどに照らしますと,暫定保全措置に係る費用及び損害について特に無過失責任を認める必要性があるとは言い難いものと考えられます。そこで,本文4(1)では,改正モデル法は暫定保全措置の申立人の過失を要求することを禁ずるものではないとの理解を前提に,責めに帰すべき事由との要件を設けることとしつつ,当事者間に別段の合意がある場合はこの限りでないものとすることとしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明の点,特段区切りませんので,どの点からでも結構です,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○古田委員 古田でございます。よろしくお願いいたします。まず,全体的な規律の体裁としては,前回及び前々回の部会でも申し上げましたけれども,私としては中間試案のような表現ぶりの方がモデル法との対応関係ないし適合性が明確であってよいと引き続き考えるところです。しかし,なかなかそれが法制上難しいということであれば,実質においてモデル法と同じだという今回の部会資料の案であっても,次善の策としてはやむを得ないと思っております。   その上で2点,確認とコメントです。まず第1点は,部会資料第1の1(1)エ,仲裁手続における審理を妨げる行為を禁止することという規律についてです。仲裁手続と訴訟手続が同時並行で進行している場合に,仲裁廷が訴訟手続の進行を差し止めるためにアンタイ・スーツ・インジャンクション,すなわち訴訟中止命令を出すということが実務上あるのですけれども,これが第1の1(1)エに含まれるということでよいのかどうか確認したいと思います。と申しますのは,仲裁手続と並行して訴訟が係属していても,仲裁の審理自体は進めることは可能ですので,このエの審理を妨げる行為を禁止するという文言の読みようによっては,アンタイ・スーツ・インジャンクションは発令できないという解釈の余地があり得るのではないかと考えるからです。   この点,中間試案の段階では,仲裁手続の円滑な進行の妨害を防止する措置というふうに,もう少し広い表現ぶりになっておりましたし,また,モデル法17条の2項(b)でも,イミネント・ハーム・オア・プレジュディス・トゥー・ザ・アービトラル・プロセス・イットセルフを防ぐ措置という書き方になっており,審理を妨げるという表現よりはもう少し広く,仲裁手続自体に対して何らかの悪い影響を及ぼす行為を防止するという書き方になっていました。今回の部会資料の審理を妨げる行為という表現は,それよりは狭まったように見えるところですけれども,なおアンタイ・スーツ・インジャンクションは発令できるという解釈でよいのですねというところを確認したいと思います。   2点目は,部会資料3ページ,4の暫定保全措置に係る費用及び損害の負担のところです。これも私は,前回も申し上げたように,過失責任であるということは明記しない方がいいとは思っているのですが,仮に過失責任だと明記するとしても,それはいわゆる手続法上の規律であって,実体法上の規律を仲裁法に書き込むものではないと理解しております。その観点から言いますと,今回の部会資料の御説明の中で最高裁の昭和43年12月24日判決を引いておられるのですが,この判決は実体法である日本の民法709条の解釈論を述べたものですので,ここで引用するのは違和感があります。今回想定されている仲裁法の改正規定の説明として,日本の実体法,つまり日本の民法709条について判断をした最高裁判決を引用して説明するのは,理論的に整合しないのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。第1点は御質問であったかと思いますので,事務当局からお答えを頂ければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。事務当局の考えとしましては,この(1)エでアンタイ・スーツは読めるという前提で整理をしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。古田委員,よろしいですか。 ○古田委員 そのような理解で,この部会のほかの先生方からも特に御異論がないということであれば,了解でございます。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○手塚委員 手塚です。今のところで,第1の1のエなのですけれども,私から見ると,この書き方が円滑な審理を妨げるというのに比べてより狭いのか,広いのか,よく分からないのですけれども,アンタイ・スーツ・インジャンクションについては,私の理解は,仲裁廷は仲裁廷で自己の管轄権限を判断する権限があり,他方で裁判所については,これは国内の裁判所と海外の裁判所と両方を含み得るのだと思いますけれども,その国の仲裁法にもよるとは思いますが,基本的には仲裁廷がまず仲裁権限を判断するのを待ってからでないと裁判所が判断できないという国もあれば,そうではなくて,裁判所は裁判所として独自に判断ができて,それは日本法でいえば仲裁の妨訴抗弁に対して裁判所が独自に自己の権限を判断する,裏から言えば,仲裁廷の権限があるのかどうか,仲裁合意が有効か無効かは裁判所が独自に判断して,仲裁廷の判断を待つとか,あるいはそれに拘束されたりしないという考え方と,そこは各国で分かれているのだと思いますけれども,重要なのは,日本もそうだと思いますが,裁判所は裁判所で独自に仲裁廷の判断を待たずに,あるいはそれに拘束されずに,仲裁合意の有効性だとか範囲,こういうものについて判断し,仲裁の妨訴抗弁について認めるのか,それともこれを却下するかの権限がある,そういう国で,仲裁で問題となっている事件について訴訟手続が起きたときに,それだけを理由にしてアンタイ・スーツ・インジャンクションを仲裁廷が出せるというものではないはずで,むしろ,仲裁廷がアンタイ・スーツ・インジャンクションを出す典型的な場合というのは,例えば,仲裁合意がすごく明確にあるのに,海外で裁判を起こしており,それに加えて,例えば企業の代表者とか個人についても訴えているとか,刑事告訴もしているとか,そういう妨害行為的というのでしょうか,そういうものに対してアンタイ・スーツ・インジャンクションというのは,私も実際の案件で見たことがあるのですけれども,仲裁廷及び裁判所それぞれに独自に仲裁管轄について判断する権限があるときに,当然に仲裁廷が暫定保全措置として,自分が先にやるのだということで,アンタイ・スーツ・インジャンクションを出せるというものではないと思うのです。   それは,エの書き方を円滑にと書こうが審理を妨げるという書き方にしようが,そこは余り変わらなくて,要するに,必要性があるかどうかということなのかなという気もするのですけれども,他方で考え方によっては別に,仲裁手続の審理は海外で単に訴訟が起きて,それについて管轄が争われているからといって,直ちに妨害されないので,エにそもそも当たらないという考え方を採るのか,考え方はいろいろあると思うのですけれども,いずれにせよ,私としては当然に,海外での訴訟にしても日本での訴訟にしても,アンタイ・スーツ・インジャンクションで止められるという制度ではないのではないかと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。すみません,発言しようと思っていたのですが,実は今,手塚委員がおっしゃったこととほぼ全て重なるので,重ねての発言は差し控えます。 ○山本部会長 ありがとうございます,審議の円滑に協力を頂きまして。   ほかにいかがでしょうか。 ○竹下幹事 竹下でございます。聞こえていらっしゃいますでしょうか。   4の暫定保全措置に係る費用及び損害のところでございまして,ここは私も前回もいろいろと申し上げさせていただいたかとは思いますが,1点気になるのが,部会資料10の7ページのところで,費用も同人が受けた損害に含まれるものと考えられるため,この本文の中で費用という言葉を使わないで損害に含めるという整理がされたかと思うのですが,そうすると現在の規定だと,この暫定保全措置の実施に掛かった費用のようなものも,基本的には被申立人が支払を行って,過失が認められたときにだけ申立人に支払を命ずるという,費用の点も同じような規律になるということになるのか,ならないのか。仮にそうなるとすると,何か費用の点というのは,もちろん費用も損害といえばそうなのかもしれないのですが,費用と損害が本当に同じ扱いで,申立人に過失があるときにだけ賠償が認められるということでいいのか,問題となるようにも思います。費用も損害に含まれると言われれば同じなのだとは思うのですが,その点の整理を事務当局に確認させていただきたいのですが,いかがでしょうか。 ○山本部会長 それでは,事務当局から御説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の御指摘についての事務当局の考えとしましては,まず,新たに設けたこの4の規律に従って,損害の一部として余計に掛かった費用を請求するということ,それを受けて仲裁廷がそれを損害の範囲に含めて判断をするということができるだろうと考えております。それとは別に,元々仲裁法には仲裁費用の分担について現行法の49条で規律がございまして,この規律により,仲裁廷が暫定保全措置が不当に発令されたことを受けての費用というのを調整することができるのはないかと,このように整理をしております。 ○竹下幹事 ありがとうございます。そのような形で,損害であるとすると,こういった形で過失責任のようなことを記述することも,一つのポリシーとしてはあり得るかなとは思うのですが,いわゆる費用のところについては,何らかの形での公平な分担のようなもの,つまり,過失がないようなときにも申立人に支払を命じることが認められてもよいような気がしますので,今おっしゃっていただいたような形で対応可能ということであれば,現在の案で特段の異存はございません。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 三木です。第1の3(3)についてです。前回の部会でも申し上げたことですが,認めるに足りる相当な理由があるときという要件はモデル法の趣旨にはそぐわないと思います。先ほどの御説明ですと,法制用語上,これを改める適切な言葉が見付からないということでしたが,その説明では,私自身も,あるいは内外の関係者についても,これを納得させるには不十分かなと思います。   改めて問題の所在を申しますと,認めるに足りる相当な理由があれば,仲裁廷は直ちにその事実を認定して措置に移らなければいけないはずですので,その場合に,この規定が使われるということにはならないわけです。したがって,この要件ですと,結局,この規定を置かないということと同じになって,モデル法に反するということになります。   法制用語の点は専門家ではありませんが,せめて最低限,変更があったと疑うに足りるとか,認めるを疑うに変えるぐらいの変更は必要で,それが十分かどうかは別として,少なくとも再考を要すると思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○手塚委員 すみません,手塚です。先ほど一つ言い忘れておりまして,部会資料3ページの第1の4(1)ですけれども,この一番最後のところのただし書について,当事者間に別段の合意がある場合はこの限りでないものとするということの意味が,私は最初に読んだときに,すぐ上の,これこれの場合には損害の賠償を命ずることができるものとするということについて,例外としてこの限りでないといっているように読めて,過失責任なのか無過失責任なのかということについて,過失責任になっているのだけれども無過失責任にするという別段の合意がある場合を,この限りでないというふうに本当に読めるのかが少し疑問に感じました。   ただ,事務局のお考えとしては,過失責任にするかどうか,あるいはそもそもこういう損害賠償を仲裁廷が認めることができるとするのかどうかということも含めて,別途合意できると読めるのではないかというお考えのようでしたので,私はこの議論の中で,ここでいう,この限りでないというのは,およそ損害の賠償を仲裁廷が命ずることができるということについてのみ,別段の合意ができるというふうに限定されていなくて,過失責任かどうかという点についても別段の合意ができると,こういう趣旨であるかどうか,これを少し御確認いただいて,そういうふうに読めるのだということだったら,私としては文言を変えるまでの必要性はないのではないかと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございます。それではその点,事務当局から御確認を頂けますでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。事務当局としましては,今,手塚委員がおっしゃったような解釈,このような損害賠償を命ずる権限のみならず,要件についても別段の合意がある場合は変えることができるというように考えております。ただ,それが具体的事例としてどのぐらいあるのかというのは,前回の部会で委員の方々から御指摘を頂いたところでありますが,規律としてはそのようなことを考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。ただいまの点ですけれども,確かに少し読み方が難しい面はありますが,そもそもこういう賠償を命ずることができるかどうかだけではなく,その要件と中身についても別段の合意ができると読むことは可能なのではないかと思いますので,法制上適切な,この別段の合意の書き方があれば,それは御検討いただくとして,要綱としてはこの表現でいいのだと思います。   この点は,ほかの委員の方の御意見があれば頂きたいのですが,先ほどの三木委員の御指摘,第1の3(3)ですかね,これは確かに(1)の事情の変更があったと認める相当な理由があるときは,内容開示も飛ばして次に行かなければいけないようにも読めるという御指摘も確かにそうかなと思ったのですが,先ほど事務局からは法制上適切な用語がないという御説明でしたが,三木委員の御指摘に対してどういうふうに考えればよいのか,その辺り,御説明があれば伺いたいと思いますが。 ○山本部会長 ありがとうございます。それでは,事務当局からその点,御説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。確かにこの2ページの3(3)で書かせていただいている,認めるに足りる相当な理由があるというものについて,この文言から,どの程度のものがあればいいのかというところについては解釈が分かれ得るのかなと思っております。三木委員の御指摘のような,疑うに足りるという文言が法制上いいのかどうかというところは,少し引き取らせていただきますけれども,事務当局としては,今の提案に係る文言でも,それほど高レベルの理由がないとこの(3)の開示を命ずることができないというものではないと理解しておりまして,もう少し柔軟に対応できる規定なのかなとは現時点では考えております。 ○山本部会長 出井委員,いかがでしょうか。 ○出井委員 分かりました。そこはなお御検討いただければと思います。疑うに足りるというのも一つでしょうし,要するに,事情の変更があったと認めてしまえば,次の(4)に行ってしまい何か措置を執らなければいけないわけですよね。その前の情報開示のところはもう一段下の要件だと思いますので,仲裁人の忌避の理由についても,18条1項2号ですか,仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるときと規定されており,その前段階としての利害関係情報開示は,自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実というふうに,ここも書き分けられていますので,その辺りも参考に,先ほどの三木委員の御指摘にできるだけ耐え得るような法制上の文言を更に御検討いただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。先ほど1点,申し忘れた点があるのですけれども,3(3)を考えるに当たって,3(3)の部分だけをピンポイントで考えるのももちろん必要なのですけれども,3のこの制度全体を見ていただきたいと思っております。まず,この暫定保全措置の変更等というのは,暫定保全措置を受けた被申立人といいますか,命令を受けた側が,その後,何か事情の変更があったときに,申立てによって取り消したり,変更したり,効力を止めてもらうというものでございます。ですので,ここは職権ではなくて申立てによりということで整理をしていると。それにもかかわらず,特別の事情があると仲裁廷が考えたときには,緊急性があったりとか,そういう場面を想定しておりますが,その時には職権でもやれると,こういうふうな整理になっているわけでございます。   そうすると,基本的には暫定保全措置命令を受けた側の,変更等をしてもらいたい側が,まず,仲裁廷に申し立ててくることがありますので,そこで適宜,仲裁廷は訴訟指揮といいますか,適宜指揮をして,その審理を進めるということはもちろんできるのだろうと思っております。   さらに,(3)の命令に従わなかったときのある種の制裁として,(4)で事情の変更があったものとみなすという効果を付けておりますので,そういう意味でも,それとのバランスから,やはりこの要件というのは考える必要があるのかなと思っておりますので,その点,もし何か御指摘等ありましたら,おっしゃっていただければと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○古田委員 今の点ですけれども,中間試案の段階では,仲裁廷はいずれの当事者に対しても暫定措置若しくは保全措置又はその申立ての基礎となった事実に係る重要な変更について,その速やかな開示を求めることができるとなっており,仲裁廷がその開示を求める場合に相当な理由が必要であるとか,そういうことは要件になっていなかったですね。モデル法の17F条も,相当な理由という要件は課さずに,仲裁廷の裁量で情報開示を求めることができるということになっています。それに対して,今回の部会資料2ページの3(3)では,相当な理由がある場合でないと情報開示を求められないというふうに要件を加重している必要性ないし理由を,すみません,もう一度教えていただけないでしょうか。 ○山本部会長 それでは,事務当局から御説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。これは,先ほどの説明と若干重複するところがございますが,(1)で,まず,変更等については基本的には当事者の申立てに係らしめるという形で整理しておりまして,職権でできる場合を限定しているということで,それを踏まえて必要な限度で仲裁廷にこの開示の命令をさせればいいのだろうと考えましたので,このような要件立てにしていると考えていただければと思います。 ○古田委員 だけれども,相当な理由があるかどうかは,結局,仲裁廷が判断するのですよね。仲裁廷が開示を命じるのは,その開示が必要である認める相当な理由があると仲裁廷が判断したときということになるので,わざわざ明文でそれを要件として書く必要性があるのでしょうか。それを書くことによって,先ほど三木先生もおっしゃいましたけれども,何かモデル法と違う規律をしているような外観を呈するのは好ましくないという感じはします。あえてこれを書かなければいけない必然性というのは,すみません,まだ私には分かっていないのですが,どうなのでしょうか。 ○山本部会長 どうなのでしょうかというのは質問でしょうか,それとも。 ○古田委員 もし福田さんから追加の御説明があれば,お願いします。 ○山本部会長 もし追加の御説明が事務当局からあれば,お願いします。 ○福田幹事 福田でございます。あえて付け加えるとすれば,(4)の違反のときの効果,これとセットで考える必要があると思っておりますので,事情変更の開示命令についての要件と効果というものを明文で規律する必要性というところが理由になると思っております。 ○山本部会長 古田委員,まだありますか。 ○古田委員 (4)についても,事情の変更があったとみなして暫定保全措置を取り消すのは仲裁廷ですので,仲裁廷が特に理由もなく情報の開示を命じて,当事者がそれに従わないので,事情変更があったとみなして暫定保全措置を取り消したときに,当事者が,そもそも情報開示を命じる相当な理由がなかったのだから,この取消しは不当であるといって何か争う余地はなさそうにも思えます。そうすると,やはりこの3(3)で相当の理由という要件をあえて書き込む必要性というのが,私には納得のいかないところではあります。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○髙畑委員 ありがとうございます。一等最初に古田委員の方から御指摘のあったアンタイ・スーツ・インジャンクションの件なのですけれども,第1の1(1)エのところなのですけれども,ここで読めると事務局から確認していただいて,私も少し読んで,そうかなとは思ったのですけれども,逆に言うと,ここをあえて,もう少しいうと,中間試案の段階ではモデル法に従った書きぶりというか,要するに,妨害を生じさせるおそれのある行為まで含まれているのですけれども,例えばここのところを,審理を妨げる行為と,そのおそれがある行為まで含むという書きぶりとかはどうなのかなと思って,少し事務局に確認させていただきたいと思った次第です。よろしくお願いします。 ○山本部会長 それでは,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。今の御趣旨は,エでは審理を妨げる行為を禁止することという形で書いているところに,その審理を妨げるおそれのある行為まで広げたらどうかということと受け止めました。 ○髙畑委員 さようでございます。 ○福田幹事 それは若干広いのかなと思っておりますし,モデル法でもそこまでのところを要求しているのかというのは,ひょっとしたら見解が分かれるところかもしれませんが,よく分かりません。ですので,事務当局としては,この審理を妨げる行為というところで十分足りていると考えております。 ○髙畑委員 分かりました。ただ,先ほど手塚委員の方からも指摘があったように,やはりアンタイ・スーツ・インジャンクションの類型が必要なタイミングと,その対象となるローカルの訴訟の在り方によっては,うまく入るかなというところは少し心配になったので,そういうふうに考えた次第です。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○三木委員 先ほど申し上げた点で,今,事務当局のお答えを聞いていて,少し思ったところがありますので,再度発言いたします。   私は,この規定を作るときのUNCITRALの議論の内容を,今,余り覚えていませんので,当時の議論の記憶ではなくて,現在のモデル法の規定ぶりを見た印象で,申し上げるのですが,現行のモデル法の規定ぶりを見る限り,この3項の開示命令の規定は,福田さんが御説明された,職権で事情変更に基づく手続をやる場合に限っているのかについて,疑問があります。これは,福田さんが原則型としておっしゃった,当事者の申立てによりこの問題の審議が始まったときでも,裁判所はその資料を得るために開示の命令ができるという規定ではないかと私には見えます。   仮に,そうであるとすれば,モデル法は,古田委員の御指摘のように何の要件も置いていなくて,この規定はある要件の下に発令するのではなくて,事情変更について,誰がそれを発議したにせよ,それが仲裁手続において深刻な問題になったときは,とにかく詳細な資料に基づいて事実関係をきちんと把握して,取消しや変更の判断をしなければいけないということであって,裁判所は裁量で,必要に応じて資料開示が命じられているということではないかと思います。実際には,このモデル法の規定ができる前から,事情変更について争いが生じたときは,仲裁廷は裁量で情報開示の命令を出して運用しています。   したがって,先ほど申し上げたように,現在の規定ぶりは一種の論理矛盾的な規定なのであって,特に外国人のユーザーの目から見ると奇妙な規定になるように思われます。したがって,これを先ほど申し上げた,疑うに足りると変えれば,そこは多少ましになります。あるいは,古田委員のおっしゃるように,モデル法に合わせて,この要件自体を外すのがよいようにも思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,御議論いただいた部分,第1の1から4までにつきまして,私の認識というか印象としては,ただいま正に御議論があった3(3)の部分については,認めるに足りる相当の理由という文言,あるいはそもそもこういう要件を置くこと自体について疑問を呈される委員,幹事が複数おられたということでありますので,この点,先ほど福田さんからもありましたけれども,事務当局で引き取っていただいて,モデル法の中身,あるいは法制的な検討を含めて,引き続きこの部分については最終的な要綱案に向けて御検討を頂くということかと思います。   他方,他の部分については,仲裁手続の審理を妨げる行為を禁止するという1(1)エの部分とか,4(1)のただし書等について御発言がありましたけれども,最終的にはこの文言で読めるという事務当局の方からの御説明があり,特段大きな御異論はなかったと認識をいたしました。よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,今度は部会資料4ページ以下の第1の「5 暫定保全措置の承認及び執行」,この部分はかなり長い説明になっておりますけれども,この部分全体につきまして,まず事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川から御説明をさせていただきます。   本文第1の5では,暫定保全措置の承認及び執行について取り上げております。まず,暫定保全措置の承認に関する規律については,設けないものとしております。7ページ冒頭の説明1におきまして,これまでに頂いた御意見について検討しておりますが,法制上の観点から適切な文言が見当たらないということや,後ほど御説明を差し上げる執行認可決定がされることにより,承認に関する規律を別途設けなくとも,我が国の法秩序において暫定保全措置を受け入れる旨を明確にすることができるとも考えられることから,承認の規律は設けないこととしております。   次に,暫定保全措置の執行につきましては,本文5(1)及び(2)のとおり,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず適用される規律として,執行認可決定及び違反金支払命令に関する規律を設けることとしております。まず,全ての類型の暫定保全措置について執行認可決定という統一的な手続を設け,その手続において裁判所が執行拒否事由の有無を審理,判断することとしております。その上で,執行認可決定が確定した後の規律につきましては,予防・回復型と禁止型とで二つに分かれることになります。   第1に予防・回復型,本文1(1)ウの措置を命ずる暫定保全措置につきましては,確定した執行認可決定のある当該暫定保全措置を債務名義として民事執行を行うことを想定しております。第2に禁止型,本文1(1)ウ以外の措置を命ずる暫定保全措置につきましては,執行認可決定のある当該暫定保全措置の違反又はそのおそれを理由として裁判所が違反金支払命令をすることができるものとした上で,確定した違反金支払命令を債務名義として民事執行を行うことを想定しております。   禁止型につきまして,執行認可決定と違反金支払命令という2段階型の手続を設けることとした理由については,7ページの最終行以下で御説明を差し上げております。まず第1に,暫定保全措置の違反又はそのおそれがないことという改正モデル法に規定されていない執行拒否事由を認めたものであると誤解されるおそれを可及的に避けるということ,第2に,前回会議におきまして,仲裁実務では裁判所の執行認可決定を取るだけでも意味がある場合があって,違反金支払命令の審理に要する時間等を考えると,執行認可決定だけを得られるようにすることが望ましいという御意見があったこと,これらの点を考慮したものということになります。   本文5(2)アでは,原則として確定した執行認可決定があることを違反金支払命令の要件としておりますが,暫定保全措置の申立人において,できる限り早期に執行を行うため即時に違反金支払命令の発令を受けたいと考える場合も想定し得ることから,本文5(2)イでは,裁判所が執行認可決定と違反金支払命令とを同時に発令することもできるものとしております。   今回の部会資料におきまして,執行認可決定という新しい用語を用いることとし,執行決定という用語を用いていない理由については,8ページの(注1)で記載をさせていただいております。禁止型の暫定保全措置については,当該暫定保全措置自体ではなく違反金支払命令が債務名義となることを想定しているため,執行決定ないし暫定保全措置に基づく民事執行を許す旨の決定という用語を用いることは相当でないと考えられます。そこで,今回,全ての類型の暫定保全措置に共通する手続,決定を指す語として,執行認可決定との用語を用いることとしております。   また,執行認可決定につきましては,本文5(1)クで執行拒否事由に関する規律を設けております。執行拒否事由の内容につきましては,基本的に中間試案から内容は変わっておりませんが,8ページから9ページに掛けての説明のとおり,中間試案の⑨,暫定措置又は保全措置が日本の法令によって執行することができないものであること,という拒否事由の規律については設けないこととしております。この点は,当該規律を設けなくとも,公序違反などの他の執行拒否事由によって一定の対応が可能であると考えられることや,禁止型につきましては,違反金支払命令に基づく民事執行が可能であるものの,暫定保全措置自体に基づく民事執行を行うことは想定されていないことから,日本の法令によって執行することができないものであることという執行拒否事由を設けますと,その有無について解釈上の疑義が生ずるおそれがあることなどを考慮したものとなっております。   最後に,違反金支払命令について発令要件を改めて整理させていただきますと,本文5(2)アのとおり,執行認可決定がある禁止型の暫定保全措置について,その違反又は違反のおそれがあることが要件ということになります。原則は執行認可決定が確定した後に違反金支払命令を発令することになりますが,本文5(2)イのとおり,できる限り早期に執行を行うこともできるようにするため,執行認可決定と違反金支払命令とを同時に発令することもできるものとしております。   違反金支払命令の申立てに係る事件の管轄につきましては,執行認可決定をした裁判所又は現にその審理をしている裁判所が,違反金支払命令についても審理,判断をすることが相当であると考えられることから,本文5(2)ウのとおり,執行認可決定をした裁判所及び執行認可決定を求める申立てに係る事件が係属する裁判所に違反金支払命令の事件の管轄は専属するものとしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   これまでの当部会での審議,特に前回頂いた様々な御意見,また,日本の法制上の様々な決め事等を踏まえながら,事務当局としてはかなり苦心の案ということかもしれませんけれども,このような提案に至ったところでありますけれども,これもどの点からでも結構ですので,御自由に御質問,御意見を頂ければと思います。 ○三木委員 三木です。今回の案は,2段階に分けることによって裁判をフルセットで2回やると,しかもそれは例外を認めずに,禁止型についてはあらゆる事件でこの二つの裁判をフルセットでやらなければいけないという仕組みになっています。そうすると,1回目の裁判で,当事者の一方が結論を長引かせるというか,手続を遅らせるために,あえて抗告を行うと,抗告は当然,権利としてできるわけですから,抗告審がまた始まると,場合によっては許可抗告を申し立てるなどして3回目もあり得ることになります。それが確定した後に,2段階目について一審があり,それに対して恣意的にせよ抗告を行うと,更に再抗告まで行うかどうかは別にして,少なくとも許可抗告とか特別抗告とかを考えないとしても,4回のフルセットの裁判が行われる。もちろん決定手続ではありますけれども,これは相当に時間が掛かることになり得ます。暫定保全措置というのは基本的に緊急性が必要ですから,その4回の裁判をやっている間に,ほとんどの事件において,その暫定保全措置について執行を求めたことは意味のないことになってしまうので,暫定保全措置の緊急性を考えた場合,この仕組みですと,ほとんど実務的には意味のない制度になるのではないかと思います。もちろん,執行制度は各国の国内法に委ねられていますけれども,このような時間が掛かる複雑な制度を採る国は,今後も,もちろん想像ではありますけれども,現れないのではないかと思います。   私の意見としては,禁止型について2段階にするという時間と手間の掛かる複雑な制度にするのではなくて,1段階の制度にするということ,すなわち,以前のどこかの段階の案にあった制度にすることがいいのではないかと思います。そうすると,禁止型と予防・回復型と2種類のルートが生じることになりますが,しかし,それは現在でも,やはり禁止型と予防・回復型とでは違うルートが採られているわけですから,2種類のルートになっているという点で何ら変わりはないということになります。   それから,前回,一部の実務家の方から,1段階目の決定を得ることによってお墨付きのようなものを得るというメリットがあるという御意見がありました。私はいまだにその御意見の意味はよく理解できておりません。なぜならば,お墨付きを得るというのはどういう場合に使うことを想定しているのかということです。まだ保全命令の違反が起きていない段階で執行の申立てをするということなのでしょうか。しかし,そういうことは実際の実務では考えにくく,なにより裁判所に執行の申立てをするというのは大変なことであり,相手方との和解の機運なども摘むことになるし,特に外国の裁判所に執行の申立てをするというのは,普通に考えて,命令違反が生じた後でないとやらないと思われます。   また,裁判所のお墨付きが本当に要るようなケースについては,保全命令の申立てというのは最初から裁判所にすることもできるわけですから,裁判所の権威が必要であれば,仲裁廷の命令を求めるのではなくて,裁判所に最初から申し立てればいいのではないかという気もいたします。   また,仮に裁判所のお墨付きが必要だという事情があったとしても,1段階の手続の中で,中間判断というか,中間決定といいますか,そうした申立てができるということにしておけば,それで,お墨付きになるのではないかと思います。   そのようなことで,いたずらに2段階のフルセットの裁判,それは抗告を含めてということですが,を求めるこの仕組みは,繰り返しになりますが,緊急性を要する暫定保全措置にはそぐわないのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 古田です。細かい点で恐縮なのですけれども,部会資料6ページ(2)ウの管轄裁判所なのですけれども,違反金支払命令については執行認可決定をした裁判所に専属するということになっております。その根拠として,部会資料10ページ,11ページですと,執行認可決定を前提にした違反金支払命令なので,執行認可決定をした裁判所が審理,判断するのが相当であるということなのですが,仲裁法でこういう規律を置いたとしても,国法上の裁判所を指定したものですので,例えば東京地裁のある裁判官が執行認可決定をしたとして,それが確定した後に,別の時期に違反金支払命令がやはり東京地裁に申し立てられたとしても,同じ裁判官が担当するという保証はないと思います。あるいは事務当局としては,執行認可決定を前提にした違反金支払命令は同じ裁判官が担当するというところまで規律を進めようという御趣旨なのかどうか,その点が一つ質問です。   それから,もう一つは,例えば,執行認可決定においては執行拒否事由の存否が問題になったりしますので,国際仲裁の場合には専門性はそれなりに高いと思われます。また,暫定保全措置が英語で発令された場合には,その和訳を省略して執行手続を進めたいということもあり得ます。したがって,執行認可決定については競合管轄を有する東京地方裁判所あるいは大阪地方裁判所で審理判断をする必要性が高いといえそうです。他方,その執行認可決定が確定した後に,被申立人が暫定保全措置に違反をしたので違反金支払命令の申立てをするという場合には,主として金額の問題が争点となりますので,執行認可決定の手続に比べると仲裁法の観点からそれほど専門性が高いとも思われず,また,必ずしも英語の書面がたくさん出てくるとも思われませんので,当事者の都合としては,執行認可決定については東京地裁か大阪地裁でやりたいのだけれども,それが確定した後の違反金支払命令については,もっと身近の,例えば被申立人の普通裁判籍所在地の裁判所ですとか,あるいは仲裁地所在の裁判所でやりたいという要請もあるのではないかと思います。そうすると,(2)ウのように,執行認可決定をした裁判所に専属をするという規律をするまでの必要性は本当にあるのだろうかというところを疑問に思っております。 ○山本部会長 第1点,御質問だったかと思いますが,事務当局からお答えを頂ければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。1点目につきましては,これまでのほかの管轄規律と同様,国法上の裁判所ということで考えておりまして,そこから更に進んで,同じ裁判官というところまで何か規律を設けるということではございません。 ○古田委員 そうすると,同じ裁判所で審理判断することが望ましいので,執行認可決定をした裁判所に専属させるという今回の部会資料の理由付けがそれほど効いてこないのではないかという疑問を持ちます。 ○手塚委員 手塚です。二つあって,一つは今の点で,管轄ですけれども,私は別に同じ裁判官がやるということまで保証されていなくても,実体として東京なり大阪なりで執行認可決定の判断が出たのだったら,この違反金支払命令についてもそこでやるということで,その前提は,東京なり大阪には仲裁事件に精通した裁判官が配属されるであろうという期待があるということで,私はそれでいいのではないかと思っています。   もう1点は,三木先生からの御指摘で,4回分のフルセットでやることがいいのかということなのですけれども,まず,お墨付きがあると実務的にはかなりそれが有効な場合がありますと私の方でも従前申し上げたことについて,若干補足しますと,実際の案件で,日本における仲裁合意があって,ただ,相手方当事者は東南アジアの発展途上国で,裁判制度という意味では当該国の当事者以外にとっては非常にいろいろな困難がある国での訴訟を起こし,かつ,代表者個人なんかについても訴訟を起こしていたという事例で,日本の仲裁廷が暫定的保全措置としてアンタイ・スーツ・インジャンクションを出したという事例がございました。ただ,それが出ても,そのときの日本の仲裁法では執行力がないということになっているので,当該国の裁判所との関係でいうと,日本で執行力がないのだから無視してくれみたいな,そういう議論もありましたし,あと,実効性という意味では,制裁がないわけなのです。   それで,この暫定保全措置というのは緊急仲裁人と違って,仲裁廷ができるまでの本当に短い期間というよりは,最終的な仲裁判断ができるまでという意味でいうと,すごく大きな件では2年ぐらい掛かることが結構あるわけなのです。今の事例で言いますと,やはり2年間ずっと並行して裁判手続が進んでしまうということになって,例えば,そういう国でいろいろな証人が呼ばれたりとか,そういういろいろな負担があるというのが,かなり長いスパンの中で続き得るわけなのですけれども,私が申し上げたかったのは,日本の裁判所で執行認可決定が出れば,それはまず第一に,そういう暫定的保全措置を出すに当たっての仲裁廷の管轄だとか,そういう問題について,一応,裁判所が認めているので,それも相手国の裁判所から見た場合に,単に仲裁廷が出したということを超えて,やはり仲裁地国の裁判所の方で,そういう発令の要件というのでしょうか,執行拒絶事由がないこと,これについて判断しているということがあると思うのですけれども,今回のように違反金の支払命令というものがもし出されれば,若干そこに至るまでの間で手続があるかもしれませんけれども,これはやはり,金銭で支払えというのが出れば,かなり違うのではないかと私は思います。   なので,今後法制化する上で,常に必ず実効性を伴ってワークするということまでは見通せないにしても,やはりそれがあればワークする件があり得るのだということであれば,私はこの違反金支払命令制度というのは是非入れていただきたいと思うし,全部一括で同じタイミングでということになると,どうしても金額の算定が認可決定の発令時にはできないこともあるのではないかと思うので,そこはワンタイミングずれて,認可決定が出ているのにまだやり続けているという状況に基づいて金額を決めてもらうというのが,何となく実務感覚としては金額を決めやすいような気もしますので,私は別に2段階でもよくて,2段階だとうんと時間が掛かるではないかという問題は,実は根源にはその種の手続に時間を掛けすぎてはいけないという,そこに尽きるのだと思うのです。   なので,いろいろな統計資料なんかを見ると,平均でいうと3か月ぐらいで判断が出ているみたいな資料もあったように記憶しますけれども,私はそこは,事案にもよると思いますけれども,なるべく東京,大阪の専門性を有する裁判官が,かつ英語も読めるというようなことを前提に,これまで以上に早く出していただくというのがよく,あと,事案によっては今回の御提案のように最初から違反金支払命令の申立てを一緒にやることもできるということですから,それは事案に応じて申立人の方で判断すればいいということで,私は基本的にはこの御提案されているところは是非入れていただきたいし,実務的には需要はあるのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。ただいま議論されている第1の5のところですが,総論的には,そもそも違反金支払命令というある意味,特異な制度を提案することになるので,そこが元々の引っ掛かりであったわけです。予防・回復型と禁止型に暫定保全措置を分けて,それぞれ民事執行に至るルートが異なるというところがなお引っ掛かるところです。これは今まで何回かの部会で申し上げていたところです。そこはもう繰り返しませんが,とにかく違反金支払命令という金銭支払命令の発令が一緒になされないと執行決定がなされない,債務名義にならない,あるいは裁判所の決定が出せないというところが,禁止型について実務的に使い勝手が非常に悪いのではないかというのが実務サイドからの問題提起でした。それに対しては,今回のこの御提案は,今,手塚委員からも御指摘がありましたけれども,そのような指摘にはこたえるものとなっているのではないかと思います。   三木委員,手塚委員の御発言ですが,裁判所のお墨付き,今回の案でいうと禁止型における執行認可決定,これがどういう意味を持つのかというのは,理論的に突き詰めると確かになかなか説明は難しい問題があります。暫定保全措置には様々なシチュエーションがあって,仲裁廷の保全措置だけでよい場合もありますし,これが恐らく多いのだと思います。それから,違反がある前に裁判所の執行認可決定だけを取って,その後は任意の履行を促す,これが正にお墨付きということになるのだと思いますが,そういう取り方もあるでしょうし,それから,違反があった後,あるいは違反のおそれが出てきた後,執行認可決定を取る,さらには違反金支払命令まで取るというシチュエーションも恐らくあるのでしょう。それから,いっそ裁判所の保全処分を取ってしまうというシチュエーションもあり得るのだと思います。そのようにいろいろなシチュエーションがあり得て,私も今回のこの制度でどれくらい,禁止型について違反金支払命令あるいは執行認可決定のニーズが出てくるのかというのは,確言はできないわけですが,いろいろなシチュエーションに一応対応できる提案にはなっているのではないかと思います。   従って,結論としましては,元々の根本的な疑問である,二つの類型,予防・回復型と禁止型に本当に分けられるのかとか,その辺りはなお疑問ではありますが,分けた上で,禁止型についてこのような2段階の仕組みにするというのは,結論としては,私はこれでよろしいのではないかと思います。違反金支払命令というある意味,特異な制度ということになりますが,そこは民事執行に入った後の話でありますので,モデル法との乖離という問題もないですし,そこの特異なというところを,ポジティブに特異な制度であるというふうにこれからいろいろなところで言っていく,その言い方を考えなければいけないかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。私も今,出井委員がおっしゃったように,二つの類型に分けて,禁止型については必ず違反金支払命令という特別の制度を設けなければ本当にいけないものなのかということについては,議論の余地はある問題かとは思っておりますけれども,法制上こういう解決のほかに考えられないということであれば,現在提案されている仕組みというのは,かなり工夫された合理的なものになってきているのかなと感じております。   それで,先ほど三木委員が言われた点,4回の裁判で非常に長期化するという点との関連で,私の理解するところでは,今回の提案でその点に関係して対応として工夫されている部分としては,6ページの(2)イの部分で,執行認可決定と違反金支払命令を同時に発令することができるという規律が用意されているということで,これが一つの対応ということで考えられていることだろうと理解をしております。   この点に関して念のため,規律の内容について確認をさせていただきたいのですけれども,違反金支払命令と執行認可決定についてはいずれも即時抗告ができるということかと思いますが,6ページのイのところの記載ですと,違反金支払命令は執行認可決定が確定するまでは確定しないという定めになっております。この確定しないということの意味に関してですけれども,例えば,執行認可決定と違反金支払命令とが同時に認容,発令されたというときに,執行認可決定についてのみ,まず即時抗告が提起され,抗告が棄却によって執行認可決定が確定するというときに,それまでの間,この違反金支払命令については即時抗告がずっと可能であるという意味で確定しないということなのか,それとも,即時抗告期間については違反金支払命令についての告知等から独自に走って,それが終わればもう即時抗告はできない状態になっているということなのか,この確定しないものとするという意味について,不案内のところがありますので,事務局に御確認いただければと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお答えをお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。事務当局の現時点での考えとしましては,今,垣内幹事がおっしゃったような事例,つまり,同時に二つの命令が発令されて,違反金支払命令については即時抗告がされず,執行認可決定にだけ即時抗告がされたというようなことであれば,それは違反金支払命令について独自にその即時抗告期間が走って,1週間なら1週間がたてば,もうそれからは即時抗告ができない状態ということになるものと考えております。ですので,執行認可決定の結論が抗告審等で出て,そこからまた違反金支払命令について即時抗告を許すということは認めないということで考えております。 ○垣内幹事 どうもありがとうございました。それであれば,4回に分かれてという,あるいは3回かもしれませんけれども,というところまでは長期化はしないということにはなるのかなと考えますので,三木委員のおっしゃるような中間決定で対応するという考え方もあり得る方向ではあるかと思いますが,この事務局の提案についても一定の配慮はされているものかなと考えます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○手塚委員 手塚です。今までの議論の中で,緊急なら裁判所の保全処分を取ればいいのではないかという御意見があったので,それについて実務家的なところから意見を申し上げると,実は裁判所の保全処分というのは非常に有効な場合もあるのですけれども,国際的な文脈でいうと,確定判決のように海外で執行してもらえるわけではないので,海外で執行しなければいけないときには全く効果が期待できないということもありますし,それから,アンタイ・スーツ・インジャンクション的なものは日本の裁判所では出せないと思いますので,先ほど私が申し上げたような事案については,日本の裁判所からそういうのも出してもらうということは期待できず,かつ当該国,外国で日本仲裁地の仲裁事件と同じような請求が妨害行為的になされている場合に,その国の裁判所に仮処分を求めるということは普通,考えてもしようがなくて,むしろその国の裁判の本案の方でいろいろ仲裁の妨訴抗弁を出したりするけれども,やはりその国ではそういうことをしてもなかなか裁判所に聞いてもらえないということがあるからこそ,仲裁廷の暫定保全措置を取るということなのだと思うのです。   それで,そういう暫定的保全措置が出た場合に,例えば,恐らくシンガポールのように海外の暫定保全措置についても執行力があるという国であれば,そこにもし相手方のプレゼンスがあれば,そこでの執行も可能かもしれませんし,金銭の支払命令が確定したときに,これは決定手続だと思うのですけれども,支払命令ですから,恐らく外国判決みたいなことで執行できるのかなと思うのですが,これに関して確認というか,事務当局にお伺いしたいのですけれども,この金銭支払命令というのは一応,即時抗告には服するということになっていますが,出た場合には,これは暫定的保全措置が仮に取り消されても,違反した以上はもう確定的に支払を受けられるものとして確定するのか,そもそも基本となる暫定的保全措置について,例えば仲裁廷の管轄がないとか,そういういろいろな理由で,後から出せなかったではないかというような事態が生じたときには,支払命令自体も何か覆るようなものになるのか,そこについて少し御確認いただきたいのですけれども。 ○山本部会長 それでは,事務当局から御説明をお願いできますか。 ○福田幹事 福田でございます。今の御質問に対しては,どの時点でこの暫定保全措置そのものが取り消されているかというところとも関係するのかもしれませんけれども,仮にこの違反金支払命令が出された後,これが確定した後に基となる暫定保全措置が取り消されたというような場面であれば,その取り消された以降についてはこれに基づく強制執行というのは許すべきではないのかなと思っております。そのときの争い方とすれば,やはり請求異議の訴え等によって争う余地というのはあり得るのかと思っております。   現時点でお答えできるところは以上になります。 ○手塚委員 私もこの論点については本当にどういうタイミングで,どういう手続で争えるのか,争えないのか,そこをまだ自分でも頭の整理ができていなくて,要綱案にしていただくときには,やはり少しそこをどうなのかということを整理していただいて,条文に書き込む必要があるのかどうかというのは別の話として,この支払命令の性質がどこまで確定的なものとして確定するのかというのはお考えいただく必要があるのかなと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。1点だけ確認です。禁止型と予防・回復型に分けられていますが,これは飽くまでもネーミングだけの問題で,例えば,第1の1(1)ウの中で,必要な措置として仲裁廷が何らかの行為の禁止を命じた場合,それは飽くまでも予防・回復型の中,ウの中での話であって,禁止型にそれが移ってしまうわけではないと,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○山本部会長 それでは,事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。おっしゃるように,ウの類型での禁止という形の命令が出た場合は,これは飽くまで予防・回復型の類型に含まれるものということになると整理をしております。 ○山本部会長 出井さん,よろしいですか。   それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○竹下幹事 竹下でございます。今,出井先生が御質問された点と少し関連するところなのですが,そうすると,外国が仲裁地となっていて,外国でこの暫定保全措置が命じられて,それが日本で執行が求められたということになってきたとすると,裁判所ではこの外国の仲裁廷で命じられたものを,第1の1(1)のア,イ,ウ,エ,オのどれに当たるかという性質決定をやって,ア,イ,エ,オに当たればこちらの違反金支払命令に乗ってきて,性質決定でウに当たれば乗ってこない,外国に仲裁地がある場合については,そうやって裁判所で性質決定をするということが前提となっているという御提案ということでよろしいでしょうか。この点について,事務当局に御確認させていただければと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局から確認をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。おっしゃるように,最終的な出口としての民事執行のやり方が違いますので,そこはウの予防・回復型に当たるものなのか,ア,イ,エ,オの禁止型に当たるものなのかというところは整理をする必要がありまして,どちらで行くかというのは最終的には裁判所の判断ということになろうかと思います。 ○竹下幹事 ありがとうございます。最終的に裁判所で御判断されるということなので,裁判所で適切に性質決定をされるということなのでしょうから,それでいいのかなと思う一方で,ほかの先生方からも若干御指摘があるように,性質決定の困難さというのはまだまだ残り得る御提案なのかなとも思われましたので,一応,その点だけ指摘をさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   それでは,今回の提案について,なお基本的な御疑問を提起する御意見もありましたけれども,大筋においては賛同する御意見が多く出されたように伺いました。個別的なところについては,なお幾つか精査すべき,確認すべき点というのが指摘されたかと思いますけれども,既にこの段階ではありますので,要綱案の取りまとめ作成に向けては,基本的には今回の案を基盤としながら,なお説明すべきところは説明していただくし,修正を要する部分については修正を検討していただくという感じで今後,事務当局の作業を進めていただきたいと思います。ありがとうございました。   それでは,ここで若干の休憩を取りたいと思いますが,15時20分に再開するということにしたいと思います。それまでの間は休憩いただければと思います。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,時間となりましたので,会議を再開いたします。   引き続きまして,部会資料12の残りの部分,第2,第3,11ページ以下の論点について取り上げたいと思いますので,事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○吉川関係官 吉川から御説明をさせていただきます。   本文第2では,仲裁合意の書面性に関する規律について取り上げております。前回会議では,デリバティブ取引等の金融取引やサルベージ契約に関する実務を念頭に,口頭で合意が成立した場合にも書面性を満たす旨を明確にすることが望ましいという御意見や,改正モデル法オプション1の第7条第6項の規律を踏まえて,仲裁条項を含む文書等が引用された場合には,口頭で合意が成立したときであっても書面性を満たすとの規律を設けることが考えられるという御意見を頂いたところです。   そこで,これらの御意見を踏まえまして,本文第2では,書面によらないでされた契約において,文書に記載され,又は電磁的記録に記録された仲裁合意を内容とする条項が当該契約の一部を構成するものとして引用されたときは,仲裁合意が書面によってされたものとみなすとの規律を設けることとしております。   続きまして,本文第3の1では,仲裁関係事件手続における管轄について取り上げております。まず,通則的な管轄規律について,これまでの審議では,国際仲裁事件を念頭に,裁判所における専門的な事件処理体制を構築し,手続の一層の適正化,迅速化を図るという趣旨に照らすと,仲裁地が日本国内にあるときには,広く東京地裁及び大阪地裁に競合管轄を認めるべきではないかとの御指摘がありました。   そこで,本文第3の1では,仲裁地が日本国内にあるときは東京地裁及び大阪地裁にも競合管轄を認めることとしております。被申立人の管轄の利益等の関係につきましては,本文第3の2の規律に基づく裁量移送の活用によって調整を図ることを想定しております。   また,個別の事件類型につきまして,本文第3の1の(注)では,仲裁地が定まっていない場合における裁判所の関与及び裁判所により実施する証拠調べについて,本文と同様の規定を整備するとともに,仲裁判断の執行決定につきましては,外国法人との関係で過剰管轄が生ずるおそれを避けるため,本文第1の5(1)オのように,仲裁地,被申立人の普通裁判籍の所在地又は請求の目的若しくは差し押さえることができる財産の所在地が日本国内にある場合に,東京地裁及び大阪地裁の競合管轄を認めることとしております。   本文第3の2では,中間試案と同様,仲裁関係事件手続一般について裁判所の裁量による移送の規律を設けることとしております。移送の裁判に対する即時抗告については,その後の仲裁手続の審理が遅延するおそれに関する御指摘などを頂いたことを踏まえまして,現行法と同様,仲裁判断の取消しや仲裁判断の執行決定の申立てについては即時抗告を可能とするとともに,暫定保全措置の執行認可決定の申立てについても即時抗告を可能とする一方,それ以外の事件につきましては即時抗告を認めないものとすることとしております。   最後に,本文第3の3では,外国語資料の訳文添付の省略について取り上げております。この点は中間試案と実質的な内容は変わっておりません。本文3(1)の規律は,仲裁判断の執行決定の申立てについて適用されることを,本文3(2)の書証に関する規律は,仲裁関係事件手続一般について適用されることを想定しております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,今御説明があった点,かなりいろいろな問題を含んでおりますけれども,特段区切らず,どの点からでも結構ですので,御質問あるいは御意見を頂戴できればと思います。 ○三木委員 三木です。第2について,いずれも書きぶりに関する意見ですが,2点あります。1点は書きぶりといっても内容に関わるものであり,2点目は純粋に書きぶりの問題です。   1点目ですが,現在の案では,仲裁合意を内容とする条項が引用されたときはということになっておりますが,これは,条項を引用するということは実務ではあり得ず,その条項が記載された文書を引用するという形で実務は動いております。また,この案と対応関係にある現行法の13条の3項も,条項ではなくて文書を引用するということになっております。したがって,ここはそのように改める必要があると思います。   もう1点は,これは純粋な書きぶりの問題です。この案の冒頭が,書面によらないでされたとありまして,これは口頭や行為でもいいということだと思いますが,あえて悪意的に読まれると,書面によらないでされた契約においてということですから,書面によらないのはいいとして,電磁的記録にはよらなければいけないと読まれる余地もあります。というのは,この後の方で文書と電磁的記録という二つの概念を分けて書いてある部分があるからです。もちろん日本語では文書と書面ということで書き分ける意図があるのかもしれません。ただ,この条文案が外国語に訳された場合に,文書と書面というのは同じ訳になるのであれば,そこは,文書と書面を書き分けているということには,なかなか理解してもらえないかもしれません。   また,日本語としての書き分けの前提になっているのは,現行法の13条4項で,電磁的記録による合意は書面によってされたものとするというので,だから電磁的記録は文書ではないけれども書面に含まれているということを言いたいのかもしれないのですが,先ほど言ったように,書面と文書を外国語でどう訳すかという問題のほかに,13条4項の述語というか,「されたものとする」というのが,よく分からないところがあります。そもそも,この部分は,外国語では書面によってされたと「みなす」と訳されているのかどうか,たしかに,されたものとするというのは,日本語としてはこういう曖昧表現は許されるのですけれども,外国語でみなすと訳されていると仮にすると,書面ではないけれども書面と同じ効力を与えるというのがみなすという意味ですから,そうすると,今回の案の冒頭の書面というのは,書面によらないでもいいけれども電磁的記録にはよらなければいけないと読まれる余地がないではないかということになります。この点,「書面又は電磁的記録によらないでされた契約において」などとできるのであれば,その方が疑いを防ぐことにはなるし,法制的にできないというのであれば,そこはしっかりと誤解のないように,何か手当てを講じておく必要があると思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 古田でございます。同じく第2の仲裁合意の書面性について2点,確認したい点があります。まず一つは,仲裁法13条に次の規律を設けるものとするというのは,現行13条の3項,4項はそのままにしておいて,新たに項を設けてこのような規律をするという意味でしょうか。2点目は,前回も申し上げましたが,例えばデリバティブ取引については,ISDAマスター契約のような基本契約があって,個別取引は口頭でディールが成立した後でコンファメーションという書類を交わすのですけれども,法的には口頭での約定の時点で個別契約が成立しているという理解なのですが,口頭で個別契約が成立するときに,この個別取引にはISDAマスター契約上の仲裁条項が適用されますということは通常は殊更に明示しないのです。今回の規律でいう,仲裁合意を内容とする条項が当該契約の一部を構成するものとして引用されたときという規律の解釈として,口頭で個別取引の約定が成立するときに,ISDAマスター契約の中の仲裁条項について殊更に言及していなくても,ISDAマスター契約を前提に個別の取引について口頭で約定していれば,引用したことになるのだという解釈が共通理解ということでよいのかどうか,その2点,御確認いただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。第2点は先ほどの三木委員の御指摘とも関連しているように思いますが,事務当局から2点,確認をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。まず1点目ですけれども,これは13条の今ある規律とは別に,ここで書かせていただいた規律を新たに設けるということを考えております。それから,2点目につきましては,現時点で事務当局が考えているものとしては,基本契約というものが既にあって,その契約に基づいて仲裁合意というものが書面でされているのであれば,この新たに設ける規律とは別のところで書面性というのは満たしているという考え方もありますでしょうし,個別の部分について,基本契約とは別の個別の契約において改めて本体となる基本契約がもし引用されている,そういった文書が引用されているのであれば,この新たな規律によって書面性を満たすということもあり得ると考えております。 ○古田委員 例えば,当事者Aと当事者Bの間で締結されるISDAマスター契約には,両当事者間のスワップ取引については,全てこのマスター契約が適用されるということが規定をされています。そのISDAマスター契約の紛争処理条項で仲裁条項が入っているような場合が問題となりますが,A,B間の個別のスワップ取引は口頭で約定するのですけれども,そのたびに,この個別取引はマスター契約に基づく契約であるということを明示的には言っていないという理解なのです。そういう場合であっても,ISDAマスター契約の仲裁条項は口頭で約定された個別契約に適用されるという趣旨での今回の御提案がされているという点を確認したかったのですけれども,いかがでしょうか。 ○山本部会長 事務当局から,今の時点でなかったら,またでもいいですけれども。 ○福田幹事 福田でございます。私がまだ十分理解できていないところがあるのかもしれませんけれども,ISDAマスターの本体の方で書いてあって,特段,個別の契約について一個一個,除外していないのであれば,その本体の方でしっかりと仲裁合意がされていると思っていますので,あえてこの新しく設ける規律で仲裁合意の書面性というものを満たさなければいけないということにはならないようには直感的には思ったのですけれども,すみません,ここはうまく古田先生の問題意識が十分理解できていないかもしれませんので,少し検討させてください。 ○古田委員 御検討いただくということで結構です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ほかにいかがでしょうか。第2でも第3でも結構ですが。 ○髙畑委員 ありがとうございます。今の点なのですけれども,少し思ったのは,つまり,引用と書いてあるから,多分,古田先生の御指摘のとおり,コンファメーションでは引用はしないのですね。モデル法の方に戻ってみると,レファレンスということで言及とされているのですね。だから,言及はすると思うのですよ,必ず,このマスター契約に基づいてこのコンファメーションがありますというところは書いてあるのですけれども,引用は全くしないというところで,少し引っ掛かるのかなと思いましたけれども,こちらを引用とした趣旨はどういったことなのでしょうか,というところを事務の方に聞きたいのですけれども,いかがでしょうか。 ○山本部会長 それでは事務当局の方からお願いできますか。 ○福田幹事 福田でございます。引用としたのは,今,現行法の13条の3項で,書面によってされた契約においてというところから始まるものですが,ここで,当該契約の一部を構成するものとして引用されているときは,とされております。それに倣う形で今回は提案をさせていただいております。 ○髙畑委員 なるほど。そうすると,引用と言及は違うという,恐らくクオーテーションなのかレファレンスなのかというだけの話だと思うのですけれども,モデル法とは違うコンセプトとして引用というふうに使っていると,伝統的に日本法の中にあるコンセプトとして引用を使っているということでしょうか。 ○山本部会長 事務当局からお答えありますか。 ○福田幹事 福田でございます。今の現行のこの13条3項の公定訳といいますか,日本の外国法令の英訳によりますと,今,髙畑委員がおっしゃったように,イズ・クオーテッド・イン・ア・コントラクト・コンクルーデッド・イン・ライティングという形になっておって,クオーテッドという言葉が当てられています。ですので,我が国法の公定訳としてはこれが当てられているということで,今回もこれに倣う形で一応は考えているということになります。 ○髙畑委員 なるほど,分かりました。ありがとうございます。 ○三木委員 今の点ですけれども,公定訳というのがどのぐらいの拘束力を持っているのか分かりませんが,私は,ごく最近,この現行の3項絡みで日本の裁判所と外国の裁判所に意見書を書いたのですが,そのときに法律事務所等から頂いた資料によると,少なくとも外国の大手の法律事務所などの日本法の翻訳では,この引用というのはリファーと訳されていますので,そういう訳を見ている人たちは,モデル法と全く同じなのだと理解して実務は動いていると思います。先ほど言いましたように,公定訳というのがどのような法的効力をもっているのか,よくは知りませんが。しかし,いずれにしても,不適訳ですから,そちらを直していただく方が望ましいと思います。そもそも,仲裁法を立法したときには,まだその公定訳はなかったと思いますけれども,少なくとも立法に関わった私の認識としては,この引用というのは英語のリファーを使ったとものという,そういう認識です。髙畑委員の御疑問に対する何かの助けになっているかどうか分かりませんけれども,少し補足しておきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○手塚委員 手塚です。第3でもよろしいでしょうか。 ○山本部会長 第3でも結構です。 ○手塚委員 管轄なのですけれども,資料13ページで,第3の1の最後のところで,仲裁判断の執行決定に関する管轄について,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わずその管轄規定が適用されるのですけれども,仲裁地が日本国外にある場合に常に東京,大阪の競合管轄を認めると,外国法人との関係で過剰管轄になるということから,仲裁地に申立人の普通裁判籍所在地又は請求の目的若しくは差し押さえることができる被申立人の財産の所在地が日本国内にある場合に限って競合管轄を認めるという御提案で,私も過剰管轄は避けるべきだと思っているのですが,一つ確認していただきたい点として,請求の目的が日本国内にある場合という書き方をしていて,請求の目的物という物というのが入っていないのです。   それで,国際裁判管轄の立法をしたときに,保全事件の管轄については民事保全法の11条という形で規定が取り入れられて,そこでは係争物所在地という言葉で管轄について規定が定められておりまして,係争物というのは,いわゆる係争物仮処分における係争物だけでなく,特定物に対する作為・不作為を命ずる仮処分対象物も含むのだけれども,特定物を目的としない作為・不作為を命ずる仮処分については,当該作為・不作為をなすべき地を係争物所在地と解することができるかという論点については,どうも民事保全法の国内保全事件の管轄に関する解釈としては,今言ったような特定物を目的としない作為・不作為を命ずる仮処分については係争物所在地管轄ではできないのだという説の方が強いと私は理解しておりまして,ただ,それだと,例えば代理店契約その他,継続的契約の不当解約等の類型の事件で,本案裁判所が海外にあって,本案事件の管轄というのは日本にないと,でも,義務履行地といいますか,代理店の業務としては日本での販売行為を行う,そのために製造者の方は製品を日本に供給するというような場合には,これは日本で仮処分を取る必要性が非常に高い類型なのだと思うのですけれども,これについて係争物所在地管轄で行けるのかという論点がありまして,実は東京地裁の平成27年2月23日の仮処分異議事件における認可決定というのがありまして,そこでは民事保全法11条の係争物所在地管轄について,特定物を目的としない作為又は不作為を命じる仮処分においては,原則として作為又は不作為が履行されるべき地を係争物所在地と解するべきであると判断して,日本の裁判所の国際裁判管轄が認められたということで,これは恐らく上級審でも支持されたのではないかと記憶しているのですけれども,要は,国内事件と違って国際的な保全事件では係争物というのは物に限らなくて,もっと広くていいのではないかというのは,私は元々そういう考えでいるのですけれども,今回少し御確認いただきたいのは,請求の目的と書いていただいたのは,係争物と書いてしまうと特定物に限るような印象というのでしょうか,それがあっても困るので,ここにいっている請求の目的が日本国内にあるというのは,代理店契約のテリトリーが日本であって,言わば権利関係の所在地が日本という場合を含んでいると,そういう趣旨に理解してよろしいのかというのが私の伺いたかった点で,私の意見としては,是非それは入るということははっきりしていただきたいと,非常に実務的に需要の高い類型になりますので,ということでございます。 ○山本部会長 それでは,事務の方からお答えをお願いできますか。 ○福田幹事 福田でございます。今回のこの提案につきましては,民事執行法の24条,外国裁判所の判決の執行判決のところの規定や,民事訴訟法の3条の3の第3号,これは国際裁判管轄の規律ですけれども,この規律を参考に提案をさせていただいております。この請求の目的の所在地についての解釈なのですけれども,この目的物が動産とか不動産のような有体物であるか,それ以外の物権,債権とか特許権とか,そういった財産権であるかは問わないとされているものと承知しておりますので,そういう意味では,手塚委員の御指摘のような形で解釈ができるのかなと現時点では考えております。 ○手塚委員 ありがとうございます。 ○山本部会長 よろしいですか。   それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。先ほどの引用の翻訳に関する点で,三木委員の御発言についての全くの蛇足の発言なのですけれども,公定訳というお話が先ほど出ておりまして,これは日本法令の英訳がウェブサイトで紹介されているところがあり,そこの仲裁法の翻訳は確かにクオーテッドという英語になっているということなのですが,それとは別に,司法制度改革推進本部の方で2004年に仲裁法の英訳を公表されていて,これに三木委員も関与されていたのではないかと思いますけれども,そちらは今でも司法制度改革推進本部のホームページで公表されている訳ですけれども,こちらの方はリファーの語が使われているということで,それについて少し,念のための付言をさせていただいたという次第です。 ○山本部会長 ありがとうございます。貴重な御指摘かと思います。 ○福田幹事 福田でございます。今,垣内幹事から御指摘いただいたとおりでございます。先ほど私の方で公定訳というような言葉をうっかり発言してしまいましたが,その部分については訂正をさせていただいて,飽くまで外国語の法令データベースですかね,こちらで載せているものを紹介させていただいたということで御理解いただければと思います。失礼いたしました。 ○山本部会長 ありがとうございます。   それでは,ほかにいかがでしょうか。第2,第3,いずれでも結構ですけれども。 ○出井委員 非常に細かなところになりますが,第3の3の最後の訳文添付省略のところです。(1)で,同条第1項の申立てをするときはとなっているわけですが,上訴された場合,抗告された場合に,抗告審で,上訴審で,地裁はこれで訳文を省略してよいという判断・指示をしたけれども,抗告審がやはり訳文が必要だということになった場合には,上訴審の方では訳文の提出を求めることができるのでしょうねという点です。もしそれがそうであるとした場合に,こういうふうな規定でよいのかどうか,上訴裁判所が必要と認めたときも同様とするとか,そういう規定にしなくてよいのか,要綱から先の問題になってしまうかもしれませんが,その辺りを確認したいと思います。 ○山本部会長 それでは,事務当局から確認をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。ここは,検討をまだ続けているところではございますけれども,基本的にはこの一部省略をどういう法的性質のものと見るかというところとも関係してくるのかなと思っております。仮に,裁判所の訴訟指揮権というようなもので考えるのであれば,それは高裁にまでそれが引き継がれるということではないでしょうから,また別途,高裁で改めてということは考え得ると思っております。その辺りも含めて,まだ検討を続けているところでして,法制的にどういうふうに書くのが望ましいのかというところも含めて,引き取らせていただければと思います。 ○出井委員 了解です。 ○道垣内委員 ありがとうございます。同じ第3の3についてです。JCAAとして,日本の裁判になった途端に全てを日本語にしなければいけないというのは非常に困るということでお願いをしていたところです。ぎりぎりここまでしていただいたことには感謝申し上げます。   相当と認める場合という条件についてなのですけれども,これはいろいろな条文で使われている言葉ですけれども,ここの状況ではやや特殊かなと思います。両当事者とは非常に希望しているという場合,すなわち,全てを英語やフランス語で仲裁内外のやりとりをしてきたという場合,裁判において全部を日本語に訳すということになると,相当なコストの追加が掛かるので,ぜひこの条項を発動してほしいと考えているけれども,裁判所が対応できないということがあるのではないかと思うのです。具体的には,例えば3人の裁判官のうち2人はいいけれども,1人はその外国語に対応できないといった場合が想定されます。そこで伺いたいのですが,現在の裁判所の体制を前提として,裁判所側の都合でできる場合とできない場合の割合,英語なら何%,それ以外の言語ならどれくらいだとか,およそのことで結構なのですけれども,教えていただければ幸いです。具体的な数字が分かると,裁判実務は随分変わったねという感じになるか,あるいは,一応条文はできたけれども余り変わらないねということになるのか分かると思います。今,突然そのようなことを申し上げてもご回答は難しいかもしれませんが,質問としては,まず,裁判所の都合で相当でないということがあるかということです。あるとすれば,どれくらいの割合でありそうなのかということを伺えれば幸いです。 ○山本部会長 少なくとも前段は事務当局からお答えしていただくことかと思いますが,お願いします。 ○福田幹事 福田でございます。確かにこの辺り,この相当と認めるときはというのが一体具体的にどういうものなのかというのは,これまでもしばしば御指摘を頂いているところでございますが,現行のこの提案によると,当事者がいいと言っていても裁判所が相当と認めないという可能性は排斥はされていないのかなと,この文言を見る限りは,読める余地はあるかなと思っております。そこから先の話は,現時点ではお答えを持ち合わせておりません。 ○山本部会長 後段は少しあれですが,一応,裁判所の方に聞いてみたいと思いますが,最高裁判所は何かお答えいただける点はあるでしょうか。これは難しいということですかね。 ○道垣内委員 もし分かれば,いずれ,しばらくしてでも結構ですので,分かったらよろしくお願いします。 ○山本部会長 そうですね,この部会の場でなくても,何かのときにということかと思います。 ○出井委員 出井です。今の点は,法制としては,両当事者が求めても裁判所の都合でやはり訳文が必要だというのは,それは安全弁としては残しておかなければいけないと私は思っています。ただ,それがあまりにも多いと,今回の法制をやはり日本を仲裁地とする国際仲裁のプロモーションに大々的に宣伝していけるものにしなければならないと思っておりますので,実態が,両当事者が求めても裁判所の体制で,やはり訳文を全部出さなければいけないというのが,そういう実務が積み重なってしまいますと,やはりその宣伝効果が大いに薄れるということになりますので,これは裁判所へのお願いですけれども,そこは正に今回の立法の趣旨というのが,裁判所にそういう体制を整えるということも求めるということであると思いますので,是非そこは最高裁の方に格段の御配慮を頂ければと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。特段ございませんか。   それでは,この部分,第2の書面性に関する規律につきましては,三木委員の方から文言上,あるいは中身にわたる部分についても御指摘がありましたし,古田委員の方からは具体的なISDAのマスター契約等の関係での御指摘がございまして,これは事務当局の方で引き取って引き続き検討を頂くという形にさせていただければと思いますし,第3の3についても,その上訴審での取扱い等について,これも若干,更に詰めて考える必要があるということで,事務当局の方でも検討いただければと思いますが,基本的には原案の形でおおむねの御了解というか,これを前提にして考えていくということについては御了解を得られたように思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,本日の部会資料,要綱案のたたき台については,全体について御議論いただきましたが,ほかに何か言い漏らした点等があれば御発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。大丈夫でしょうか。   それでは,本日の審議は,当部会としては異例かもしれませんが,かなり予定された時間よりは早いですけれども,この程度にさせていただきたいと思います。   事務当局においては次回までに,本日の御議論を踏まえていただき,更に引き続き法制的な部分についての検討も続けていただく必要があると思いますので,そういった検討も経ながら,部会として要綱案の取りまとめに向けた引き続きの準備を私からお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。承知いたしました。ありがとうございます。 ○山本部会長 それでは,次回の議事日程等について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。今日もありがとうございました。   次回の日程は,令和3年10月8日金曜日,午後1時30分からを予定しております。   今,部会長がおっしゃっていただいたとおり,本日の御審議を踏まえて,仲裁法の改正に関する要綱案の取りまとめというものを,調停の部分とは切り離して,そこを目指していきたいと思っております。 ○山本部会長 そのようなことで,急遽日程を設定していただいて,御都合が付かなかった委員,幹事の皆様,あるいは無理に御都合を合わせていただいた委員,幹事の皆様もおられるのではないかと思います。おわび申し上げたいと思いますが,できれば次回で仲裁の部分については要綱案の取りまとめに向けて御議論を頂きたいと思いますので,引き続き御協力のほどをよろしくお願いいたします。   それでは,これをもちまして法制審議会仲裁法制部会第12回会議は閉会させていただきます。   本日も長時間にわたりまして熱心な御議論を頂き,誠にありがとうございました。 -了-