法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和3年10月27日(水)   自 午後1時30分                         至 午後2時49分 第2 場 所  東京地方検察庁1531会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 性犯罪に対処するための法整備について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から,法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は,御多忙のところ,性犯罪に対処するための法整備についての御審議に御出席いただき,誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間,慣例により,私が進行を務めさせていただきます。   最初に,私から,この度部会が開催されるに至った経緯等につきまして,御説明申し上げます。   本年9月16日,法務大臣から,「性犯罪に対処するための法整備に関する諮問」(諮問第117号)がなされ,同日開催された法制審議会第191回会議において,この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。   そして,同会議において,この諮問について審議するための部会として,「刑事法(性犯罪関係)部会」を設けることが決定され,同部会を構成する委員及び幹事が,法制審議会の一任を受けた会長から指名され,本日ここに御出席いただいたところでございます。   委員や幹事の方々におかれましては,初対面の方もいらっしゃるかと存じますので,まず,簡単にお名前,御所属等を伺えればと存じます。   また,後ほど出席の承認の手続をお願いいたしますが,関係官も出席しておりますので,併せて自己紹介をお願いいたします。   自己紹介をしていただく順番ですが,まず,法務省会場に御参集の委員・幹事・関係官の方々に,井田委員から着席順に自己紹介をお願いいたします。その後,オンラインにより御出席の委員・幹事の方々に,順次お声掛けいたしますので,自己紹介をお願いいたします。 ○井田委員 井田でございます。中央大学の法科大学院で刑法を教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○今井委員 今井でございます。法政大学で刑法を教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○北川委員 北川でございます。早稲田大学で刑法を教えております。どうぞよろしくお願いします。 ○小西委員 小西でございます。武蔵野大学で副学長をしております。普段は鑑定などもしている精神科医です。どうぞよろしくお願いします。 ○佐藤(拓)幹事 佐藤でございます。慶應義塾大学の法学部で刑法を教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○嶋矢幹事 神戸大学の嶋矢でございます。刑法を教えております。よろしくお願いいたします。 ○長谷川幹事 長谷川と申します。愛知県弁護士会所属で,日弁連では犯罪被害者支援委員会の副委員長をしております。よろしくお願いします。 ○佐伯委員 佐伯でございます。中央大学で刑法を教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○橋爪委員 橋爪でございます。東京大学で刑法を担当しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本委員 山本潤です。SANE(性暴力被害者支援看護師)・一般社団法人Spring幹事です。よろしくお願いします。 ○井上関係官 法務省で特別顧問を務めております井上と申します。刑事訴訟法の研究者でございます。よろしくお願いします。 ○保坂幹事 法務省刑事局の担当の審議官をしております保坂と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉田幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の吉田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○浅沼幹事 法務省刑事局企画官の浅沼です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 それでは,オンラインで御出席の方にお願いいたします。 ○川出委員 川出でございます。東京大学で刑事訴訟法と刑事政策を教えております。よろしくお願いいたします。 ○木村委員 日本大学の法科大学院の木村と申します。専攻は刑法です。よろしくお願いいたします。 ○小島委員 仙台弁護士会に所属しております弁護士の小島妙子でございます。日弁連の両性平等委員会に所属しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○齋藤委員 目白大学で臨床心理学を教えております公認心理師の齋藤と申します。よろしくお願いいたします。 ○田中委員 東京地検で公安部長をしております検事の田中と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中川委員 大阪地方裁判所で刑事事件を担当しております裁判官の中川綾子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○藤本委員 警察庁刑事局長の藤本と申します。よろしくお願いいたします。 ○吉崎委員 最高裁判所刑事局長の吉崎でございます。よろしくお願いいたします。 ○池田幹事 池田でございます。京都大学で刑事訴訟法を担当しております。よろしくお願いいたします。 ○市原幹事 最高裁判所刑事局第二課長の市原志都と申します。よろしくお願いいたします。 ○金杉幹事 京都弁護士会の金杉美和と申します。日弁連刑事弁護センターに所属しております。よろしくお願いいたします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局で参事官をしておりますくのぎと申します。よろしくお願いいたします。 ○佐藤(陽)幹事 北海道大学の佐藤陽子と申します。刑法を担当しております。よろしくお願いします。 ○中山幹事 警察庁刑事局捜査第一課長の中山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   なお,本日,宮田桂子委員におかれましては,所用により御欠席と伺っております。   次に,部会長の選任手続に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により,部会長は,部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。   そこで,早速,当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが,部会長の選任手続について,御質問等ございますでしょうか。   御質問はないようですので,皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか,御意見はございますでしょうか。 ○今井委員 私は,部会長には井田委員を推薦したいと思います。   井田委員は法制審議会の委員であり,会長でもあられますけれども,性犯罪に関する刑事法検討会において座長を務められておられました。また,性犯罪を含む刑事法の分野における研究の御業績・御経歴に照らしても,本部会の部会長には井田委員が適任であると考えるところでございます。 ○川原委員 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○佐伯委員 私も,性犯罪に関する刑事法検討会で座長を務められました井田委員に部会長をお願いすることが適当であると考えます。 ○川原委員 ただ今,今井委員・佐伯委員のお二方から,井田良委員を部会長に推薦する旨の御提案を頂きましたが,この御提案に対して御意見等はございますでしょうか。   ほかに御意見はないようですので,当部会の部会長として,井田良委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   井田委員におかれても,部会長をお引き受けいただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) 〇川原委員 ありがとうございます。それでは,互選の結果,井田良委員が部会長に選ばれたものと認めます。   その上で,法制審議会会長に部会長を指名していただくことになりますが,井田良委員御自身が法制審議会会長でいらっしゃいますので,高田裕成会長代理に部会長を指名していただこうと思います。本日は,電話による指名となりますので,高田会長代理と連絡を取るまでの間,一旦会議を休憩とし,午後1時50分から再開したいと存じます。では,一旦休憩といたします。              (休     憩) ○川原委員 再開いたします。   高田会長代理と連絡を取ることができ,高田会長代理により,井田良委員が当部会の部会長として指名され,これをもって,井田良委員が部会長に選任されました。   井田委員には,休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので,この後の進行をお願いしたいと存じます。   それでは,井田部会長,よろしくお願いいたします。 ○井田部会長 ただ今選任いただきました井田でございます。   議事が円滑に進み,また,委員・幹事の皆様には,実りある議論をしていただくことができますよう,本部会の運営のために力を尽くしたいと思っております。御理解と御協力のほど,是非,よろしくお願いいたします。   まずは,法制審議会令第6条第5項により,部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので,指名をいたします。今井猛嘉委員にお願いしたいと思います。今井委員,どうぞよろしくお願いいたします。   次に,関係官の出席の承認の件でございますが,法務省特別顧問の井上正仁氏に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし) 〇井田部会長 ありがとうございます。それでは,井上関係官には,当部会の会議に御出席願うことといたします。   次に,当部会の議事録についてでございますが,その作成と公表の方法を決めるに当たりまして,まず,これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて,事務当局から説明をお願いします。 ○浅沼幹事 これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて御説明いたします。   平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして,議事録の公開方法に関しては,総会については,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,これを公開することを原則とする一方,法制審議会の会長において,委員の意見を聴いて,審議事項の内容,部会の検討状況や報告内容のほか,発言者等の権利利益を保障するため当該氏名を公にしないことの必要性,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   また,部会につきましても,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,これを公開することを原則としつつ,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,総会での取扱いに準じて,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして,当部会におきましても,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,これを公開することが原則となりますが,部会長におかれて,委員の皆様の御意見をお聞きし,ただ今申し上げたような諸要素を考慮して,発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には,これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○井田部会長 ただ今の説明について,何か御質問はございますでしょうか。   ただ今の説明を踏まえて考えますと,当部会における審議の内容を広く国民の皆様に知っていただくという観点からも,発言者名を明らかにした議事録を公開することが相当ではないかと考えます。   そこで,私としましては,発言者名を明らかにした議事録を作成した上で,原則としてこれを法務省のウェブサイト上において公表するという取扱いにしてはいかがかと考えます。   もっとも,今の説明にもありましたとおり,審議事項の内容その他の事項を考慮して,発言者名等を公表することが必ずしも相当でないと考えられるような場合には,その都度皆様にお諮りして,部分的に公表しない措置を採ることにしたいと考えますが,いかがでございましょうか。              (一同異議なし) 〇井田部会長 御異議はないようですので,議事録につきましては,発言者名を明らかにしたものを作成の上,原則としてこれを公表するという取扱いとさせていただきたいと思います。   それでは,さきの法制審議会総会におきまして,当部会において調査審議するように決定のありました諮問第117号につきまして,審議を行います。   まず,諮問を朗読してもらいます。 ○浅沼幹事 諮問第117号   近年における性犯罪の実情等に鑑み,この種の犯罪に適切に対処するため,所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので,左記の事項を始め,法整備の在り方について,御意見を承りたい。   第一,相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備   一,刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法第178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること。   二,刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること。   三,相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること。   四,刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと。   五,配偶者間において刑法第177条の罪等が成立することを明確化すること。   六,性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること。   第二,性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備   一,より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと。   二,被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること。   第三,相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処罰を確保し,その画像等を確実に剝奪できるようにするための実体法及び手続法の整備   一,性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。   二,性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みを導入すること。 ○井田部会長 次に,事務当局から,諮問に至る経緯及び諮問の趣旨等について説明をしてもらいます。 ○吉田幹事 諮問第117号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明いたします。   平成29年6月に成立した刑法の一部を改正する法律により,性犯罪の罰則について改正が行われましたが,改正法附則第9条において,「この法律の施行後3年を目途として,性犯罪における被害の実情,この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し,性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」こととされました。   法務省では,この検討に資するよう,平成30年4月から,省内の関係部局の担当者を構成員として,「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を開催し,各種の調査・研究やヒアリング等により実態把握を進め,令和2年3月,その取りまとめ報告書を公表しました。   そして,同年6月から,被害当事者,被害者心理・被害者支援関係者,刑事法研究者,実務家を構成員として,「性犯罪に関する刑事法検討会」を開催し,同検討会において,性犯罪に関する刑事の実体法・手続法の在り方に関する様々な論点について,法改正の要否・当否の議論が行われ,令和3年5月,検討結果として,更なる検討に際しての視点や留意点が示されるなどした報告書が取りまとめられました。   法務省においては,この報告書を踏まえて検討し,近年における性犯罪の実情等に鑑み,この種の犯罪に適切に対処するため,所要の法整備を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものです。   次に,諮問の趣旨等について御説明いたします。   先ほど朗読した配布資料1を御覧ください。   今回の諮問におきましては,主に御審議いただきたい事項を,「第一」から「第三」までに分けて掲げております。   「第一」は,「相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備」です。   具体的には,「一」から「六」まで挙げており,「一」として,現行法上,13歳以上の者に対する強制わいせつ罪及び強制性交等罪は「暴行又は脅迫を用いて」行われたことが要件とされ,また,準強制わいせつ罪及び準強制性交等罪は「心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて」行われたことが要件とされておりますが,それらの要件を改正すること,「二」として,現行法上,暴行・脅迫を用いなくても強制わいせつ罪又は強制性交等罪が成立することとされる年齢は「13歳未満」とされておりますが,その年齢を引き上げること,「三」として,相手方が脆弱であることや相手方との間に一定の地位・関係性があることを利用して行われる性交等やわいせつな行為に係る罪を新設すること,「四」として,現行法上,強制性交等罪の対象となる行為は,性交,肛門性交又は口腔性交とされ,陰茎以外の身体の一部又は物を挿入するわいせつな行為は,強制わいせつの罪の対象とされておりますが,そのようなわいせつな挿入行為について刑法における取扱いを見直すこと,「五」として,配偶者間において強制性交等罪などが成立することを明確化すること,「六」として,性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する,いわゆるグルーミング行為に係る罪を新設することといった事項について,御審議いただきたいと考えております。   「第二」は,「性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備」です。   具体的には,「一」として,現行法上,性犯罪の公訴時効期間は,強制性交等罪が10年,強制わいせつ罪が7年とされており,これを経過すると訴追ができないこととなりますが,より長期間にわたって訴追の機会を確保するために公訴時効を見直すこと,「二」として,現行法上,捜査機関が被害者等から聴取した結果を記録した録音・録画記録媒体は,いわゆる伝聞証拠として証拠能力が認められないのが原則ですが,その証拠能力についての特則を新設することといった事項について,御審議いただきたいと考えております。   「第三」は,「相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処罰を確保し,その画像等を確実に剝奪できるようにするための実体法及び手続法の整備」です。   具体的には,「一」として,性的姿態の撮影行為やその画像等を提供する行為に係る罪の新設,「二」として,性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みの導入といった事項について,御審議いただきたいと考えております。   十分に御審議の上,できる限り速やかに御意見を賜りますよう,お願いいたします。 ○井田部会長 次に,事務当局から,配布資料について説明をしてもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料について御説明いたします。   まず,資料1は,先ほど朗読いたしました,諮問第117号です。   資料2は,事務当局からの説明で概要を申し上げた平成29年に成立した刑法の一部を改正する法律の附則第9条です。   資料3は,事務当局からの説明で触れました,「性犯罪に関する刑事法検討会」の取りまとめ報告書です。   資料4は,平成29年の刑法改正後の規定の施行状況に関する資料です。   改正部分の施行状況をお示しするという観点から,肛門性交・口腔性交のみを実行行為とする事件,男性を被害者とする事件,監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の事件について,それぞれ起訴人員と件数などをまとめております。   また,強制わいせつ罪や強制性交等罪等の年次別起訴人員・不起訴人員に関する統計等についても記載しております。   資料5は,性犯罪に関するヒアリング調査の結果に関する資料です。   事務当局からの説明で触れました,「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」及び「性犯罪に関する刑事法検討会」において行ったヒアリングの結果が記載された議事録等です。   資料6は,性犯罪に関する諸外国の法制に関する資料であり,令和3年8月時点のアメリカ(ミシガン州・ニューヨーク州・カリフォルニア州),イギリス,フランス,ドイツ,韓国,フィンランド,スウェーデン及びカナダの性犯罪に関する規定を抜粋し,法務省において仮訳したものです。 ○井田部会長 次に,事務当局から,さきの法制審議会総会において出された御意見の紹介をしてもらいます。 ○浅沼幹事 今回の諮問がなされた9月16日の法制審議会総会において,委員の方から御発言のあった御意見について,概要を御説明いたします。   一つ目は,審議の進め方に関するもので,「性犯罪に関する刑事法検討会」においては,性犯罪の被害は甚大であるといった認識の下,各論点に関して充実した検討がなされており,法改正の要否・当否については,委員の方々の悩んだ末の御意見が多くあったものと理解している,諮問についての審議に当たっては,法改正の要否・当否も含め,十分に慎重な議論をお願いしたいというものでした。   二つ目は,諮問に掲げられた事項に関するもので,具体的には,「第一」の「一」については,先進諸国の諸事例も参考にした法整備が喫緊の課題であり,不同意性交等罪の導入等を求める被害当事者の声に寄り添いつつ,十分な審議をお願いしたい,「第一」の「三」については,就職活動生に対するセクシュアル・ハラスメントが横行している実態に鑑みると,幅広い関係性や場面に対応できる規定の整備が必要である,「第一」の「五」については,配偶者間でも性犯罪が成立することを明確化することには賛同できるが,家族やパートナーの在り方が多様化していることも念頭に置きつつ,十分な審議を行っていただきたい,「第三」については,性的姿態の画像等を確実に剝奪できるようにすることは重要であり,実効的な法整備のための審議をお願いしたいというものでした。 ○井田部会長 現段階で,これまでの事務当局からの説明内容について御質問がございましたら,お願いいたします。   特に御質問はございませんか。それでは,諮問事項の審議に入りたいと思います。   本日は,第1回の会議ですので,まずは,皆様から,審議に当たっての総論的な事項に関する御意見や,今後の審議の進め方に関する御意見を頂きたいと考えておりますが,いかがでしょうか。              (一同異議なし) 〇井田部会長 特に御異議はないようですので,そのように進めさせていただきたいと思います。   それでは,審議に当たっての総論的な事項に関する御意見と,次回以降の審議の進め方に関する御意見とに分けて,それぞれお伺いしたいと思います。   まずは,総論的な事項について,御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。   何でも御自由に御発言いただいて結構です。いかがでしょうか。 ○山本委員 本日は貴重な場に参加させていただくことを感謝しています。この歴史的な場で有益な議論がされることを,期待いたします。   簡単に意見を述べさせていただければと思います。   前回,「性犯罪に関する刑事法検討会」にも参加させていただきましたが,性暴力のリアリティとすごくずれたところで話が進み,かみ合わないなとずっと思ってきました。特に,性暴力を受けている最中のことが理解されなかったと思います。   アメリカの調査では,レイプ被害者において,最も多く報告された反応は恐怖であり,その恐怖は一,二年続いていたことが報告されています。日本でも,被害者の多くは,身体的暴力を受けず,逆らったらどうなるか分かっているのかなどと言葉で脅かされたり,相手の体が大きいので逆らえないと思ったと答えていて,加害者に圧倒されていることが分かっています。   それなのに,現在の法律の運用では,被害者が強く抵抗するか,完全に抵抗できない状態であることを求められ,さらに,被害を受けたこともない人間が,自分の限られた経験から,自然か不自然かという判断をしています。しかし,その判断自体が,人が外傷的事件に巻き込まれて恐怖にさらされた場合に起こる自然な反応を無視したものです。考えるより先に体が勝手に反応してしまう,膝が震えて足に力が入らない,思考停止状態になって動けない,そのつもりはないのに相手に受動的に従ってしまうなどのように,危機的状態では生存に関わる脳の部分が急激に活性化され,生物学的な生存が優先される状態になることが,科学的に説明されています。   そのような神経生理学的な反応を理解せず,抵抗できたのでは,逃げられたのではということは,被害者に不可能を強いているし,残酷です。PTSDの発症率が半数となる性暴力は,犯罪の中でも最も凶悪なものの一つであると,精神医学的に認識されています。被害者の回復を支えるためには,その人が性暴力をどう経験したかを理解することが,とても重要です。   議論をするに当たっては,そのような被害を受ける恐怖,悪寒,戦慄を感覚としてつかんでいただきたいと思います。そのために,委員・幹事の方々には,お忙しいと思いますが,被害者の手記を読んでいただければと思います。性暴力のリアリティを言語によって理解することには限界がありますが,性暴力を受けることがどういうことであるかを読むことにより,理解することの助けになると,精神科医,臨床心理士からも伝えられています。   より悪質な加害者ほど,逃げられない,抵抗できない,訴えられない人を狙います。能力や力関係の差を利用して,自分がしたいことをしたいようにでき,後から訴えられそうもない人を選んでいるのです。その中で,被害者は沈黙させられ,訴えられず,訴えても信用されず,被害を不自然だと判断され,なかったことにされてきました。   私の知り合いでも,食べることもできなくなり,学校にも行けず,悪夢にうなされ,心身に大きなダメージを受け,人生を狂わされた被害者の方の加害者の多くは,捕まることもなく笑って食事をして普通に生活しています。被害者に不可能を強いる線引きをして,加害者を捕まえることも罰することもできない現状は,盗人を世に放っているのと同じです。性暴力のリアリティを理解し,対等ではない立場で不十分な情報の中で,そしてノーを言えない状態に追い込んで,同意のない性行為をした場合の適切な法が定められることを期待します。   また,「第一」の「六」のグルーミングについては,オンライングルーミングが今,大きな問題となっていますし,今後も被害が拡大していくことが予想されます。グルーミングの過程では心理操作が行われるため,特に,社会心理学の視点から心理的操作について理解して,実態に即した議論がされることを望みます。   この法制審議会の場で,実りある議論がなされるように,非力ではありますが,力を尽くしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田部会長 ありがとうございました。とても重要な視点をお教えいただいたと思います。 ○齋藤委員 この度は,貴重な議論に参加させていただきますことを,心よりお礼申し上げます。   私は,法律については門外漢ですけれども,被害について研究と臨床を行ってきた者として,議論で大事にしたいと思うことがございます。   平成29年の改正の結構以前ですけれども,監護者性交等罪がなかった頃に,性虐待の被害者の心理支援を担当していたとき,警察の方に,長年勤めていて,義理の親からのこのような被害を初めて聞いた,許してはいけないと言われました。私は何を言っているのだろうと思いました。被害者支援に携わる身として,その事例は決して珍しい事例ではなく,残念なことに大変よく遭遇する事例だったためです。   そして,平成29年改正の前後ですけれども,肛門や口腔への性器挿入が強姦と同等になるということについて,司法関係者から,男性がレイプ被害に遭うというのはどういうことですかと聞かれました。当時,司法関係者が大変混乱していらしたことを覚えています。でも,私には混乱する理由が分かりませんでした。   さきの検討会でも,限界事例として例に出されたかもしれないことが,心理職としては,特段,限界事例ではないと感じられる,つまり,ごく普通に人間にとって性暴力であり,苦痛で後遺症の甚大な出来事だと感じられることもありました。   法律が人の思考の枠組みを決めるとまでは申しませんが,人は,自分の知らないことや見えていないことは,思考の枠組みに入れることはできないのだと,自戒を込めて,本当に思います。心理学や精神医学の知見をそのまま法律の文言にできないということは,よく承知しているのですけれども,知らなければ考えることさえ難しいのではないかと思います。さきの検討会でもお願いしたのですけれども,存在している実態を知って,被害者心理とか精神医学の知見を知っていただいて,より適切な法律について御検討いただきたいと思っています。   例えば,現在の法律では,性暴力のときに抵抗することが前提となっています。検討会では,様々,例示列挙される案も出ましたが,包括的な文言としては,やはり抵抗することが前提の意見が多く出されました。しかし,実際は抵抗できない,抵抗することすら頭に浮かばないことの方が普通です。抵抗することを前提とすることで,不同意を分かりやすくしているのかもしれませんけれども,それは普通の人間を前提としたものではないと,心理学からは考えられます。また,性的同意年齢を考えるときには,現実の子供たちの発達というものを念頭に置いていただきたいですし,関係性のある中での性暴力・性犯罪について考えるときには,そこに,抵抗することが頭に浮かばない,関係性によって意思が抑圧される心理的なダイナミクスがあるというのを知っていただいて,検討いただきたいと思います。議論の俎上にも,前提として,皆様の意識にさえ上がらないというような被害がないようにとも思っています。   最初にも申しましたとおり,私は法律については門外漢ですけれども,法律家の皆様が人の心理のどこに疑問を持って,どこを理解しにくいと感じるのかということについては,気が付く限りお話しできればと思っております。違う分野の人間ですけれども,歩み寄って,より現実の人間に即した議論を行えれば,有り難いと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田部会長 ありがとうございました。大変貴重な意見を頂きました。 ○小島委員 私の方から何点か申し上げたいと思います。   まず,改正の要否・当否ということについてなのですが,一昨年無罪となった事件で,そのうち二つは,二審で逆転有罪となっております。改正の要否等については,暴行・脅迫要件や抗拒不能要件が既に緩和されているので十分だという意見がありますが,裁判体によって法の適用にばらつきがあると,下級審において混乱が生じていることが問題だと思います。構成要件を明確にして,処罰されるべきものが処罰されていくようにすることが必要だと考えております。   2点目として,暴行・脅迫要件ですが,性犯罪の被害者像,人は性被害を受けたときにどのような状態になって,どのような行動を取るのかに関しまして,精神医学や被害者心理学の発展により,新しい知見が得られるようになりました。これまでは,被害者が性的自由を侵害された場合に,加害者に対して抵抗することができると考えられてきましたが,物理的にも心理的にも抵抗が困難な場合があるということが,明らかになってきました。   例えば,物理的に抵抗できない例としては,恐怖で動けなくなることがありますし,心理的に抵抗できない例としては,学校や職場など,当事者間に支配・従属関係がある場合,学生・生徒や部下は,先生・上司の性的要求を拒絶できない場合があります。このような場合に,加害者は暴行・脅迫なしで被害者の性的自由を侵害することができます。暴行・脅迫要件は,被害者がいつでも拒絶できるという非現実的な事態を前提としております。我々は,新たな知見を前提に,性犯罪の犯罪化を考えるべきだと思っています。被害者像の転換ということを前提にすべきだということです。   3点目として,同意・不同意の問題があります。刑法の性犯罪の規定の適用を見てみると,同意の有無が性犯罪の成立を作用しているように見えます。しかしながら,そもそもいかなる事情があれば性行為に同意があると言えるのかについて,明らかになっていないことが問題だと思っています。同意とは,自由な意思決定に基づく真摯な承諾があることが必要であるなどと言われておりますが,その意味するところは,必ずしも明らかではありません。ホテルに入ることに同意した,一緒に酒を飲んだ,車に乗った,泥酔していた,密室で一緒にいたなどということをもって,性行為に同意があったと思われても仕方がないなどと言われています。また,明確な拒絶の意思がないこと,すなわち,同意ではないことが,一般の人々にも司法関係者にも理解されていないことが問題だと思っています。   性行為については,明確な同意を取るべきであり,これを怠った場合のリスクは,同意を曖昧なままにして利益を得てきた者,多くは男性だと思いますが,これを取るべきだというのが私の考えです。人権保障という観点から,このような考え方が一般の人々にも受け入れられるようになるような社会を目指すべきであり,刑法の改正にとどまらない課題だと思っています。   次に,法改正についての課題でございますが,やはり,不同意性交罪を新設して,意に反する性交を犯罪とする改正が必要だと考えております。当罰性について,現時点でコンセンサスが得られる行為態様や被害者の状態を構成要件に盛り込み,これに併せて,当罰性についての判断は,年代や人々の認識,それに伴う社会規範に応じて変化するものなので,受皿規定として,今後の判例法理の発展を目指して,その意に反する,あるいはその他意に反する性交という規定を設けるべきであると考えています。   このほか,性交同意年齢の引上げなど,諮問に係る論点はいずれも緊急の課題であり,速やかに法改正が行われるよう,微力を尽くす所存でございます。 ○井田部会長 ありがとうございました。各論的事項にも踏み込む御意見だったと思いました。 ○金杉幹事 検討会から引き続いて参加をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。   検討会も経まして,非常にこの問題が難しい問題だということは,重々理解をしております。ただ,先ほどの法制審議会の総会で出た意見にもありましたように,そもそも平成29年の改正後に,更に改正の必要があるのかという要否,そして,当否の件についても,慎重に御議論いただきたいと思います。   先ほど,小島委員からも御指摘がありました下級審の裁判例のばらつきという点につきましては,法律の定め方やその解釈にばらつきがあるのか,あるいは個別の事件において訴訟活動を行った当事者等の問題なのかという観点から,本当にそれが法律の規定の仕方からくるものなのかという検討はしていただきたいと思っています。   また,当否の点につきましても,仮に刑法改正の必要があるとしても,本当に罪刑法定主義や刑罰法規の明確性の観点から,罪となる行為を明確に定めることができるのかどうかといった当否,あるいは罪刑の均衡という観点からも,是非,慎重な御議論をお願いしたいと思っています。 ○小西委員 今の御意見などを聞きまして,何度も今ここで出ましたけれども,私も精神医学を専門としておりますので,行動のリアリティ,つまり,実際に人がどういうふうに行動するのかということには,せめて関心を持ってそのことを理解して,法律について議論していただければと思います。   具体的に,今出たお話で言いますと,私も検討会に参加させていただいておりましたが,その最中も,その後も,幾つかの精神鑑定をして,また,刑事裁判の場にも出ました。例えば,ずっと性的虐待があるようなケースで,19歳,20歳になって初めて明るみに出たようなケースでは,抵抗をしないこと,あるいは迎合して何とか被害を少なくしようとする方が,精神医学的な目から見ると自然です。そこで抵抗があったら,むしろ驚く。専門家にはこれは常識ですが,例えば,19歳の子が抵抗しなかったからといって,強制性交等罪で,最後の一つの性交について,法廷で,何で抵抗しないのか,実は同意があったのではないかっていうような議論をされるということは,本当に被害のリアリティを分かってもらえていないのだということを,やはり実感します。   前の改正で何とかなっていることがかなり多いのではないかと,金杉幹事が言われましたけれども,現場で見ても,やはり,足りていない。例えば,虐待の後の二十歳ぐらいの人たちが,一体どういう行動をしているのか,どれが普通なのか,どういうのが普通の在り方なのかというのが,分かってもらっていないなと,実際に思います。   また,そういうことがよく分かっていないために,小さい子供の被害がそのまま見過ごされて,例えば,この前,幼少期のネグレクトや中学生になってからの性的虐待のPTSDがあって,軽い知的障害があって,それで,そのことが誰にも分からずに,犯罪行為につながっていって,被害者の方は若いのにもう前科が20回とか,そのようになっているケースも見ました。被害者が加害者化してしまう。そういう点では,早く正しく相手を罰することができるということ,特に若年被害者に関してそれができることが,多くの人の健康とか幸福に役に立つのだと思います。是非,法制審議会の中でも,そういうリアリティということを尊重して議論していただければと思っています。 ○長谷川幹事 この度の刑法改正の議論には,法制審議会の部会からの参加となります。性犯罪被害者の支援の実務を経験している弁護士として,やりがいと責任の重さを感じております。被害者の実情や刑事手続上の困難を知る実務家の立場から,意見を述べていきたいと思っています。よろしくお願いします。   初回ですので,二つの点について意見を述べたいと思います。   被害者の方とは,事件発生以後,様々な段階から関わりますが,既遂,未遂にかかわらず,精神や体に変調が起き,事件前の日常生活と同じ生活を送れなくなっている方は多く,望まない性行為をされたり,されそうになることが,どれほど人の精神を痛め付けるのかを実感しています。このように被害が大きいのは,性的自由が侵害されたということのみならず,性的事項に関わる人格権が侵害されたからであると考えています。   望まない性行為の被害者にもたらす結果の深刻さと,同意のない性行為は許されないのだという当たり前のことを,皆様とまず認識を共有したいと思います。その上で,この法制審議会部会での共通認識を社会全体の共通認識にしていきたい,そのために,この度の刑法改正において,法改正を実現していく必要があると考えています。   現在は,同意のない性行為の一部が処罰等の対象となっているにすぎません。このところ,私は10代,20代の若い女性の被害者を受け持つことが多いですが,強い暴行・脅迫がない場合でも,状況や人間関係なども影響し,恐怖や混乱で抵抗することができず,望まない性行為をされてしまった,又はされそうになったケースが複数あります。被害届を出し,事情聴取で説明を重ね,再現や現場の確認などに時間を割いても,現行の処罰規定には当たらないとして不起訴となってしまう事件を見るにつけ,御本人の精神をむしばみ,深刻な影響を与えているその行為が,処罰されずに放置されてよいのかと感じます。   刑法は行為規範でもあります。現行法では,深刻な被害発生の防止にも不十分であると考えます。同意のない性行為を処罰することについては,検討会でも様々な意見が出されてきたところではありますが,この部会を,皆様のお知恵を結集して,諸外国の法制度も参考に,課題を克服し,立法の技術を尽くして,不同意性交罪の実現に向けて議論する場としていきたいと希望しています。   もう1点,性交同意年齢の引上げや,若年者の保護について意見を述べたいと思います。   自分の子供時代を考えても,また,自分の子供やその友達を考えても,13歳はないと,性交同意年齢は引き上げるべきだということは,確信としてあります。では,性交同意能力とは何なのでしょう。これについては,悩みながら考えています。性行為それ自体を理解できるというのでは足りないと思います。   民事法の分野では,未成年者には法律行為を行うか否かの判断能力が欠けるとして,未成年者取消しの制度があり,18歳までを保護しています。例えば,本人が著名な画家の絵画を気に入り,真にその絵画を手元に置きたいと望んで売買契約をしたとしても,売買価格が適切なのか,本人の経済状況に照らして,その代金を負担することが適切なのかなどの法律行為の効果を理解し,それを行うかどうかを適切に判断する能力に欠けるとして,事後的に取り消し得るとして,18歳未満の者を保護しているものです。   性行為は取り消せません。また,性行為には,妊娠,性感染症など,健康,その後の生活,人生設計を左右するリスクが潜在しています。また,相手との関係性において,愛情なく相手の性欲に利用されるなど,粗末な扱いを受ける場合もありますが,それが分からず,年齢が上がってから行為の意味を知り,精神的な影響が生じ,深刻な状態になる場合もあります。性交に同意する能力があると言えるためには,そのような性行為に起因する問題を洞察し,性行為に踏み込むか否かを判断できる知識と精神的発達段階が必要であると考えています。そこで,性交同意年齢を何歳とすべきかを検討するには,子供の発達段階や性教育の実情を踏まえて考える必要があると考えています。   また,同意能力という用語が使われていますが,断ることができる能力という捉え方も必要ではないかと考えています。そのような観点から,性交同意年齢の引上げや若年者に対する性的行為の構成要件化について,検討していただけたらと考えています。 ○井田部会長 ありがとうございます。御自身の実務経験に基づいた御意見を頂いたと思います。   総論的な事柄に関する御意見ということで,どのようなことでも結構ですが,ほかに御意見はございますか。   それぞれに貴重な御意見を頂戴したと考えております。ただ今頂いた意見も踏まえつつ,今後,具体的な検討を進めていければと考えています。   次に,今後の審議の進め方について,御意見のある方は,是非,御発言をいただきたいと思います。 ○橋爪委員 審議の進め方に関しまして,1点御提案を申し上げます。   性犯罪をめぐる問題につきましては,ただ今御指摘がございましたように,法的な観点だけではなくて,被害の現状,実態,性犯罪被害者あるいは加害者の臨床,さらには,若年者の性行動一般などを正確に把握するなど,幅広い視点を持った上で議論を進めることが必要であると考えております。したがいまして,本格的な議論に入る前に,まずはヒアリングを実施することが有益かつ必要ではないかと存じます。   もっとも,諮問事項が10項目に及ぶことからも明らかですが,性犯罪に関係する視点や専門的な知見は多様であり,全てについて網羅的にヒアリングを実施することも現実的ではないように思われます。この点に関しましては,法務省では既に,「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」や「性犯罪に関する刑事法検討会」において,多様な分野の専門的知見をお持ちの方から,幅広くヒアリングを行っており,その結果につきましては,本日の配布資料5として共有されております。また,委員・幹事の皆様の専門分野に関する事項であり,審議に必要となる内容につきましては,審議の際にその知見に基づく御発言や情報提供を頂くことによりまして,認識や情報の共有が可能であると考えられます。   このように考えますと,限られた時間の中で,必要な前提知識を効率的に共有し,それによって議論の充実を図るためには,次回の会議では,実態調査ワーキンググループや検討会で行ったヒアリング等の内容の重複を可及的に避けるとともに,この部会の委員・幹事の皆様の御専門と競合しない分野について,ヒアリング対象を優先的に選択した上でヒアリングを実施することが適当ではないかと考えまして,僭越ではございますが,御提案を申し上げる次第です。 ○井田部会長 ただ今ヒアリングについて御意見をいただきました。また,他の委員・幹事の皆様からも,事務当局を通じてヒアリングの実施及びその対象者に関する多数の御意見を頂いているとも聞いております。橋爪委員がおっしゃったように,諮問事項の審議に当たり,様々な専門的知見を有する方から御意見を頂くことは有益なことだと思いますので,次回につきましては,ヒアリングを行うこととするのはいかがかと考えます。   金杉幹事,御意見があるようですが,それは,今の点についてでしょうか。 ○金杉幹事 本日欠席の宮田委員から,今後の進め方や,橋爪委員から出ましたヒアリングについての意見を伺っておりますので,それを紹介したいと思います。   まず,進め方についてです。   検討会での議論は,どのような構成要件にするかという議論が中心であり,その法定刑についての議論が十分ではなかった印象を持ちます。他国の刑法を見ると,法定刑で5年以上の自由刑を科すとされる行為は,相当危険な暴行を振るっての強制性交です。強い暴行・脅迫を前提としたとしても,現行法の下限懲役5年は重いと考えます。検討会では,今まで出された判決が認めているからということで,幾つかの類型が提案されましたが,そのような類型について,有罪にしなかった判決があるということも,忘れてはならないと思います。   これからする議論は,現状の刑法177条,178条の適用範囲を明確化するというものではありますが,強い暴行・脅迫から広げていく作業でもあります。法定刑の問題を正面から論じる必要性が高いものと考えます。   次に,ヒアリングについてです。   加害者臨床については,過去ヒアリングの対象となったとはいえ,十分な共通認識となっているとは感じられず,更なるヒアリングが必要と考えます。   一つは,弁護人として関わるという加害者臨床もあります。代表面接については,法務省からのプレゼンはありましたが,その問題点を弁護の立場から話す機会は頂戴しておりません。   例えば,(具体的な氏名)は,代表面接案件に複数関与し,証拠能力や供述の信用性の問題等についても造詣が深いです。   また,医師,臨床心理士等が立直りを支援するという面からの臨床もあります。この点については,今の法定刑では,十分な保護観察期間が確保できないという悩みを聞くところであり,法定刑の問題として重要な視点と考えられますし,構成要件を考えるについても,認知のゆがみがある人が同意の有無を適切に認識し得るのか,そのゆがみが生物学的・心理学的なものに由来する場合には,故意がない,あるいは責任能力がない,欠けるといった問題もあると考えます。例えば,(具体的な氏名)などは,精神科医として幅広い見地から,刑法と加害者の問題をお話しいただけるものと考えます。 ○井田部会長 前半の御意見は,先ほどの総論的事項に関する宮田委員の御意見として承りたいと思います。また,後半の御意見は,次回,ヒアリングを行うことについては,基本的に賛成のお立場から,その対象者についての御示唆を頂いたと思いました。他の皆様の御意見はいかがでしょうか。 ○山本委員 ヒアリングについては,時間が非常に限られている中で,全てを実行することは難しいと思いますけれども,先ほどの意見の中にも出てきましたが,前提を共有していないことから意見がかみ合わないことも,検討会では多かったのかなと思います。様々な専門をお持ちの方がおりますので,御自分の専門外のところを,なかなか読むだけでは理解しにくいのではないかとも思います。性暴力のリアリティについて,人間の理解について,共有すべき前提のところは,最低限,実施していただければと思います。   また,御専門の委員もいらっしゃいますが,会議の中で意見を開陳するだけでは不十分な部分もありますので,是非,そのときは,10分,15分なり,プレゼンテーションの機会を取っていただいて,委員より意見をお聞きするのもいいのではないかと思います。   もう一つ,議事録についてなのですけれども,検討会でも,法務省のホームページに載るまでに,二,三か月ほど時間が掛かっていたかと思います。今回,かなり委員・幹事も多く,非常に皆様を回るのも大変だと思うのですけれども,この法制審議会は,とても国民の間でも,私たちの間でも関心が高く,より内容についても期待されているものだと思います。できれば,次の会議の前に公表していただくのがよいとは思います。なかなか難しいと思いますけれども,なるべく早くお願いしたいと思っています。 ○井田部会長 議事録の点については,御希望として,承りたいと思います。   ヒアリングを行うことについては御異議がないようですので,次回はヒアリングを行うこととしたいと思います。   また,ヒアリングの対象者につきましては,本日頂いた御意見や事前に事務当局を通じて頂戴している御意見を踏まえて決定したいと思います。そのとき,橋爪委員がおっしゃった過去のヒアリングとの重複を避けるべきであるという御意見は,とても重要だと思いますので,その点は十分に勘案したいと思います。   なお,先方の御都合もございますし,早めに日程を調整するという必要性もございますので,最終的にどなたにお願いするかということにつきましては,私に御一任いただけますでしょうか。              (一同異議なし) 〇井田部会長 ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。ヒアリングの対象者が決まりましたら,委員・幹事の皆様には,事務当局を通じて,すぐに御連絡させていただきます。   ほかに,審議の進め方について御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○川出委員 次回,ヒアリングを行った後の第3回の会議以降の審議の進め方について,意見を申し上げます。   本部会の審議対象である性犯罪に対処するための法整備は,喫緊の課題とされておりまして,本部会には,十分な議論を行うことを前提に,できるだけ早期に結論を示すことが求められていると思います。ただ,そうは言いましても,連日,部会を開くわけにもいきませんので,限られた時間の中で充実した議論を行い,早期に部会としての結論を出すためには,第3回以降の一巡目の議論から,今回諮問がなされた各事項に関する問題点と,その解決の方策を,具体的にイメージする形で意見を出し合っていくことが有益であると思います。   こうした観点から審議の進め方を考えますと,先ほど言及のありました「性犯罪に関する刑事法検討会」においては,諮問に明示されています10項目についても,そこに含まれる様々な論点を抽出した上で,幅広い観点から検討し,配布資料3の取りまとめ報告書の中にその検討の結果が取りまとめられております。報告書では,各論点について今後検討するに当たっての具体的な視点や留意点等も示されておりますので,これを部会における議論の土台とすることが適当であると思います。そうすることにより,検討の方向性や具体的課題について,一から議論を繰り返すことを避けることができ,早い段階から具体的な議論を始めることができるのではないかと思います。 ○井田部会長 早急に具体的な案を示すのが,私どものミッションですので,振出しに戻って一から始めるのではなく,検討会での議論の土台の上に立って検討を進めるという,誠にごもっともな御意見だったと思います。 ○佐伯委員 私も,川出委員の御意見,それから,今,部会長の御意見でもあるかのようにお伺いしましたけれども,その御意見に賛成です。   川出委員が先ほど述べられましたように,一巡目の議論から,諮問事項への対応として,どのような具体的方策が考えられるかを明らかにしつつ,議論を進めることができれば,一巡目の議論を踏まえて,議論のたたき台となる資料を事務当局に作成していただき,二巡目の議論では,それを素材としながら更に議論を深めるといったことができると思われます。   そのような方法で議論を進めていくことで,条文の出来上がりの姿を全員でイメージしつつ,理論的な課題や,あるいは法制技術的な問題も踏まえながら,建設的で効率的な議論を行うことができるのではないかと思います。 ○井田部会長 一巡目の議論でかなり具体的な方向性を出して,事務当局には,その上で資料を作ってもらい,そして,場合によっては改正が必要だという点については,条文の具体的なイメージに近づけるように練り上げていくという工程表を示していただいたと思います。   ほかに御意見はございますでしょうか。              (一同意見なし) ○井田部会長 大変有益な御意見も頂き,お陰さまでこの先における議論の方向が,おぼろげながら見えてきたように思います。   それでは,本日の審議を踏まえ,次回の会議ではヒアリングを行い,第3回の会議からは,個別の論点について,一巡目の議論を行うことにしたいと思います。   そして,個別の論点についての議論に当たっては,川出委員,佐伯委員の意見にもありましたように,「性犯罪に関する刑事法検討会」の議論,その到達点というものを土台にして,各諮問事項について,どのような対処や解決の方策があるのか,具体的かつ建設的に御発言いただければ,かなり充実した生産的な議論につながるかと思いますので,何とぞ御協力のほど,よろしくお願いしたいと思います。   特に御意見がございませんでしたら,本日予定していた議事につきましては,これで終了いたしましたので,本日の審議はここまでにしたいと思います。   次回の予定について,事務当局から説明をお願いします。 ○浅沼幹事 次回第2回会議は,令和3年11月29日月曜日の午前10時からを予定しております。詳細につきましては,別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日の会議の議事につきましては,先ほどヒアリングに関する御意見の中で挙げられた個人のお名前以外に,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,そのお名前に関する発言部分を除いて,発言者名等を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料についても,公表することとしたいと思います。   そのような取扱いとすることについて,御異議ございませんでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   本日は,ありがとうございました。 -了-