法制審議会 仲裁法制部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  令和3年10月22日(金) 自 午後1時30分                       至 午後3時40分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは,所定の時刻になりましたので,法制審議会仲裁法制部会第14回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日は増見委員,それから衣斐幹事が御欠席と伺っております。   まず,前回に引き続きまして本日もウェブ会議の方式を併用して議事を進めたいと思いますので,ウェブ会議に関する注意事項を事務当局から御説明いただきます。 ○福田幹事 福田でございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。これまでの会議と同様のお願いとなりますが,念のため御案内をさせていただきます。   まず,ウェブ会議を通じて参加されている方の映像及び音声を確認させていただきます。私の声が聞こえておりましたら,手を挙げる機能を使ってお知らせいただけますでしょうか。   ありがとうございます。確認できましたので,手を下げていただいて結構でございます。   それでは,注意事項を説明させていただきます。ウェブ会議を通じて参加されている皆様につきましては,ハウリングや雑音の混入を防ぐため,御発言される際を除き,マイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願い申し上げます。審議において御発言される場合は,先ほどの手を挙げる機能をお使いください。それを見て部会長から適宜指名がありますので,指名がありましたらマイクをオンにして御発言をお願いいたします。発言が終わりましたら,再びマイクをオフにし,同じように手のひらマークをクリックして手を下げるようにしてください。なお,会場にお集まりの方も含め,御発言の際は必ずお名前をおっしゃってから御発言をされるようお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,続きまして,前回の部会後,委員の交代がございましたので,御報告をいたします。   春田委員が退任されて,後任として片山委員が就任されました。このたび新たに就任された片山委員におかれましては,簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。   片山委員,よろしくお願いいたします。  (自己紹介につき省略) ○山本部会長 よろしくお願いいたします。   それから,続きまして,前回の部会において取りまとめを頂きました仲裁法の改正に関する要綱案につきまして,民事局長の金子委員から御報告がございます。   金子委員,よろしくお願いいたします。 ○金子委員 委員の金子です。前回の部会においてお取りまとめいただきました仲裁法の改正に関する要綱案につきましては,昨日開催されました法制審議会総会において山本部会長に御報告を頂き,御審議の結果,全会一致により原案のとおり議決されました。議決された要綱につきましては,総会終了後,法制審議会会長から法務大臣に答申されました。委員,幹事の皆様におかれましては,これまで御熱心な御審議を頂き,この場を借りて改めて御礼申し上げます。事務当局といたしましては今後,できる限り早期に国会に法案提出ができるよう,準備を進めてまいりたいと存じます。   また,今後も調停に関する調査審議が続きますので,引き続き御指導,御鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。 ○山本部会長 ありがとうございました。それでは,本日の審議に入ります前に,配付資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。本日は参考資料を3点配付させていただいております。本日の会議では,参考人3名からのヒアリングを予定しております。配付させていただいた参考資料は,参考人の方々からそれぞれ御提出を頂いた資料になります。   また,今後のこの部会の日程についても配付をさせていただきました。これまで年内の日程についてお知らせしておりましたところ,来年の2月までの日程を追加でお知らせさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本部会長 それでは早速,本日の審議に入りたいと思います。   ただいま事務当局からも説明がありましたとおり,本日は3名の参考人の方々に御出席を頂いております。大阪弁護士会所属の弁護士,黒田愛様,大阪経済法科大学教授,小川富之様,家族のためのADRセンター代表,小泉道子様の順で御発表を頂く予定です。参考人の方々からは,調停による和解合意のうち,養育費等の家事紛争に関する和解合意を執行力付与の対象とすることについて,お考えをお聞かせいただけることとなっております。   参考人の皆様には本日,大変お忙しい中,ヒアリングをお引き受けいただきまして,誠にありがとうございます。   なお,ヒアリングの進行ですが,お一人の参考人の方の御発表が終わりましたら,その方に対する質疑応答の時間を設け,その質疑応答が終わりましたら,次の参考人の方に御発表いただくという流れで進行したいと考えております。御発表いただく参考人の方が交代された後に再度,前の参考人の方に御質問するということは,進行の関係上,お控えいただければと思いますので,御注意をよろしくお願いいたします。   それでは,まず,黒田参考人から御発表をよろしくお願いいたします。 ○黒田参考人 大阪の弁護士の黒田でございます。今日はこのような機会を与えていただきましてありがとうございます。私の方からは,主に弁護士の立場ということと,それから,弁護士会が中心になって運営をしておりますADR組織に関与してきた者としてお話をさせていただけたらと思います。   養育費というのは最近,とてもよくニュースなんかにもなると思うのですけれども,養育費が払われていないということはよく報道をされております。その背景なのですけれども,まず,日本の離婚制度が協議離婚を認めている,つまり,当事者が,夫と妻が,もうこれは離婚しようと決定をしまして,それを離婚届という形にすれば,それを届けることによって離婚が成立する,つまり,諸外国のように裁判所や行政書式の確認やらチェック,又は命令といったものは不要というところで,大多数の,9割の離婚が成立しているというところに特徴があります。   その場合,仮にその夫婦間には未成年の子供,親が養っているお子さんがいたとしても,そのような形で離婚ができるということになります。そうすると,養育費や,それから,離婚後の面会交流について特に合意なく離婚をしていくということが実際,多数行われているわけです。   御承知のように,平成24年4月からは離婚届にチェック覧が設けられまして,養育費について取決めをしていますかとか,面会交流について取決めをしていますかというようなチェック覧が設けられていますけれども,まだそこに何のチェックもなく離婚の届出が出されるという場合も4割近くあるといわれています。このように,養育費について何も取決めをせずに離婚をしてしまうということが多いというのが,その養育費が支払われないことの一つかと考えられます。そして,仮に何らかの話合いがされたとしても,その話合いの合意が守られないということが多々あるということが指摘されています。   協議離婚であっても,養育費とかお金のことに関しては,公証人役場に行って公正証書にしてもらうというようなことも結構行われております。ただ,やはりこの公正証書は,確かに金銭部分に関しては債務名義という形にはなるのですけれども,それを作るにはどうしたらいいのか分からないとか,平日二人そろって公証人役場に行くのはなかなか難しいといった理由から,なかなか広く利用されているというところまでには至っていないのかなと思います。   日本弁護士連合会では,この養育費の問題について,様々取り組んでまいりまして,最近では2020年11月に養育費の不払い解除の方策に関する意見書というものを出しております。そこでは,子供の最善の利益に沿った養育が確保される社会を構築することは国の責務であり,養育費の不払い解消は国が主体的に関与し支援すべき問題であると述べた上で,幾つか,こういう方法がいいのではないかということを述べています。   まずは,養育費支払義務を法律で明文化しましょうと,そして,その際に,それを決める際にはどういう考慮要素があるのかということを列挙したらどうでしょうかと,そして,2番目といたしまして,婚姻費用や養育費が自動計算されるツールというものを新たに開発をしまして,そして,3番目,そういったツールはもうウェブサイトでオープンに誰でも利用できるようにしたらどうかと提案をしております。御存じのように,諸外国においては,このようなツールを裁判所の,例えばウェブサイト上で公開しているといった例は多々ございます。それから,④といたしまして,各弁護士会に今までADRということで取り組んできた,このADR,裁判外紛争解決機関と管轄の家庭裁判所が連携して,簡易迅速な調停の成立,若しくは調停に代わる審判という形で債務名義をその合意に付与していったらどうか,こういったことを提言しております。   もちろん家庭裁判所で調停をすれば,そこでの合意というのは債務名義となって,もし守られなければ強制執行が可能ということになります。では,なぜこの家庭裁判所の調停が余り利用されていないのかと申しますと,例えば,家庭裁判所へ行くまで少し時間が掛かる,場所が遠い,それから,平日のお昼間しか開いていないので,お仕事がある人はなかなか行きにくい,土曜日,日曜日もやっていない。それから,申立てをしてから,やはり第1回の調停が開かれるまでに1か月,コロナがあってからは,さらにそれが2か月というふうに期間が空いてしまっているわけですけれども,そういうふうに,もう合意もできたし,早く離婚手続をしたいのだけれども,調停ということになると,その分,時間が掛かってしまうというような事情があります。それから,これは結構一番大きいのかなと思うのですけれども,やはり皆さん,市民の中では,裁判所に行くのは何かもめていると,もめている場合にのみ裁判所に行くのだというような認識がまだあるのかなと,敷居が高いというようなことがあるのかなと感じております。   一方,ADRというのは,それを何とか克服しようというところで様々工夫しているところではあるのですけれども,加えて,そういったそれぞれの問題に詳しいあっせん人,調停人を配置することによって,より利用をしてもらいやすくするというような工夫もそれぞれのADR機関がされていることかと思います。   このような状況を見ますと,やはり安価で,安く気軽に,気楽に,土曜日や日曜日や夜も利用できるような,さらに,家事事件についてとても詳しい,経験が豊富な,そういったあっせん人がやってくれる,そういう和解あっせん,話合いのための場所というものがあれば,より養育費についての話合いが進んで,養育費が支払われていく,そして,養育費が支払われるものだというふうな認識が広まりまして,養育費の支払が当たり前になっていくというような好循環が生まれるのではないかというような希望を持っております。   ただ,一方で,養育費事案の特徴に鑑みますと,安易にADRでの合意に債務名義を付すということになりますと,様々な問題が起きるのではないかということを危惧しております。これを今から幾つか申し上げていきたいと思います。   まず,養育費というのは子供のために使われるお金であること,ということがあります。養育費事案の当事者,話合いの当事者というのはお父さんとお母さん,子供を育てている両親ということになりますけれども,実際に養育費が支払われるかどうかとか,その金額によって影響を受けるのは子供ということになります。ですので,両当事者の自由な意思によって決めていいのだという,調停はそういう要素もあるのですけれども,養育費に限って言えば,やはり適切な内容というものも一つ,確保する必要があるのではないかと考えます。適切なというと,なかなか難しいのですけれども,実際,家庭裁判所の調停などで行われていることを見ますと,収入の把握であったり,子供の年齢やニーズといったものを把握して,それから,これまでの夫婦関係の全体,家族関係の在り方などを把握しつつ考えていくと,そして,今,広く使われております,法曹会が出版されております簡易な算定表というものに基づいて今,何が適切かというのを判断されているのかと思います。   ただ,この簡易な算定表は簡易というだけあって,やはり全ての事件についてマッチしているわけでもありませんし,子供それぞれのニーズを取り上げているわけでもありません。そういった観点から,日本弁護士連合会ではこの問題についていろいろと研究を重ねておりまして,時々において意見書などを発表しております。直近で言うと,先ほど御紹介したような養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究という意見書を2020年11月18日付で発表をしたりしております。このように,養育費については子供の問題であるので,その内容についてもしっかり見ていく必要があるのではないかという視点が必要かと思います。   次は,話合いをしている当事者というのは,企業でもビジネスをしている人たちでもなく個人,しかも,話合いをしている親というのは離婚という場面を踏まえて悩み,ストレスを抱えて,場合によっては十分な知識や判断能力を持たないというような人がたくさんいるということになります。私が言うまでもないことなのですけれども,シンガポール条約というものにおいては,消費者や家族,相続,雇用にまつわる紛争というものを除外しておりますけれども,やはりそこの共通しているのは,両方又は一方が個人であるとか,両当事者間の知識や判断能力のバランスが悪い,不均衡があるというところが共通していえるのではないかと思います。養育費の問題というのは,正しくそういうものが度々見られる紛争ともいえます。   まず,離婚というのは非常にストレスが多いというものになります。離婚だけではなくて,離婚原因というものが,例えば配偶者からの暴力であったり,暴言とか侮辱,人格否定であったり,また浮気といったもの,それ自体が重大なストレス原因となっている場合があります。それから,結婚している二人が経済力や情報収集力などにおいて大きな差があるということはままあることでございます。そういった状況をよく捉えまして,子供のために長期的な視野に立った判断を行うということが話合いには必要になってくるのですけれども,それには,二人任せにするのではなくて家族や知人,友人はもちろんのこと,やはり法的な知識を持っている弁護士などの相談,サポートが必要不可欠ではないかと考えます。   現在,様々な自治体がこの離婚の養育費に関して様々なサポートを行っていますけれども,その中の多くの自治体がまず採用していることの一つとしては,弁護士会や弁護士事務所を利用した相談の提供,例えば無料法律相談であったりということですね,そういったものを実施しているというところから見ても,まず,とても離婚という問題に対して困っている当事者は,まず,どうなるのかが知りたいという情報を求めていると,そして,相談に乗ってほしいというところがあるのかと思います。そういった視点が必要不可欠,重要かなと考えます。   そして,3番目ですけれども,養育費以外の取決め事をするということになります。離婚のときに元夫婦が取り決めることというのは,養育費だけではなくて,離婚するかどうかということもそうですし,親権者とか面会交流とか財産分与,慰謝料といった問題も取り決めることになります。当事者というのは,これをばらばらに捉えるのではなくて,全体的にトータルな問題として関連付けて考えていることが多いわけです。ですので,家庭裁判所の離婚調停でも,離婚するというような内容の調停が成立した際には,養育費だけではなくて,面会交流とかその他,財産分与についてもどうするのかといったことが取り決められることが多いです。   今回検討されている,ADRで成立した合意のうち養育費の部分についてだけ債務名義になるということは,やはり少しバランスを欠いている,後々もしかしたら問題になるかもしれない要素をはらんでいると私は思います。日弁連の子供の権利委員会の方で,この新しい制度の構築について検討されたのですけれども,全員が消極的意見であったと聞いておりまして,その第一の理由として挙げているのは,家事事件というのは様々な問題を複合的に有しており,そこから養育費のみを取り出して執行力付与とするのは,かえっていびつな解決につながらないかといった懸念を有しているからということでした。   4番目ですけれども,養育費の問題は長期にわたる解決,支払の約束ということになります。例えば,損害賠償だとか売買代金を幾ら払うかといった問題であれば,これは1回払いだったりということになりますけれども,養育費というのは子供が二十歳若しくは大学を出るくらいまでの年齢まで,長く払っていく可能性があります。そして,その間,当事者の仕事や住む場所,子供の状況なども様々変化していきます。ADRで成立した合意に債務名義が与えられるとなった場合,もしその長時間の間にそういった変化が生じた場合はどうしたらいいのでしょうか。その辺りがなかなか分からない,不明確な,今見えてこないところかなと私は感じております。又は,ADR組織というのは国家でも裁判所でもありません。弁護士会でないところもあり得るということなのですけれども,その団体はずっと永久に存在するでしょうか,若しくは経済的に不調になったりしないでしょうか。やはり債務名義を作っていくということになるのだとしたら,長期間にわたって安定して存続する永続的な団体である必要があるのではないかと思います。   5番目ですけれども,養育費の支払がこの合意に従って続いていたのだけれども,途中で止まってしまったというような場合,そうなりますと,裁判所で執行をするという手続になってくるわけでございますけれども,この債務名義があるからといって必ず執行ができるかというと,なかなかそうではないというのは,我々弁護士も日々,実務の中で経験しているところでございます。調停状況一つ作るにしても,これは債務執行できるか,執行できないかというようなところを割と神経質に見ているというのが実情です。例えば,合意の中で何か条件が付いていたりした場合,どうなるのかなども考えなければなりません。ですので,自由で柔軟な解決ができるというのがADRの一つの特徴,いい点ではあると思うのですけれども,今度これが債務名義ということになりますと,では本当にそれは執行できるのかという視点が必要になってくるわけです。公正証書であっても,公正証書ではもちろん公証人,公証資格を持っていらっしゃる方が多いと思うのですけれども,そういった方が作ったものであっても,時には執行ができないというふうになる場合もあると聞いております。ですので,この辺りは,しかも,合意をしたときから,それが分かった時点というのは,必ずしもすぐ分かるわけではなくて,5年,10年たってから初めてそれが分かるといったこともあり得るわけです。ですので,そのときには執行できないということになっても,既に離婚もしてしまっていますし,いろいろなことも動いてしまっているということですので,執行できる条項になっているのかという観点,ADRでの和解合意でそれが確保できるのかという懸念というのはあるかと思います。   それから,6番目といたしまして,手続の中立性ということがあります。先ほどの日本弁護士連合会の子供の権利の委員会でも,中立性についての強い疑問が呈されておりまして,ADR機関の中には一定の偏った視点を持っている機関が出てこないとも限らない,そうすると,そういったところに影響されるのではないかといった懸念,それから,弁護士であれば双方の代理はできないという,それと,利益相反ということについてかなり厳しいチェックを入れるわけですけれども,そういった利益相反のチェックは十分なのか,場合によっては双方代理といった問題は出てこないのかなど,様々,手続の中立性を確保するという点においても大丈夫なのかなという懸念があります。   そして,懸念事項の7番目ですけれども,今申し上げたところと続いている面もあるのですが,養育費ビジネスといったものに利用されないのかということがあります。今でも,例えば養育費の保証制度などというところで,それを何らかのビジネスにつなげていこう,例えば,養育費が払われなくて困っている人から,では代わりに取り立ててあげるということで,でも,その代わり1割報酬としてもらいますよというようなことが今後続いていくとしたら,本当はその1割であっても子供さんのために使われるべきお金がビジネスというところに流れてしまう,そういったことについては非常に懸念を感じているところであります。   以上が懸念事項ということになりますけれども,あと申し上げたいことといたしましては,今の制度を改善することによって,もっといい,ADRで達成しようとしていることがかなり達成できるのではないかという視点も私は持っております。まず,ADR組織としては,全国38の弁護士会が作っているADR機関というものがあって,いろいろな法律知識,経験を重ねてきておりますので,そういったものを利用しない手はないと,ですので,仮にこういうADRに債務名義をという制度ができるのであれば,弁護士会が運営するADR機関というのは,その担い手になるべきだと考えております。   それから,担い手の候補としては,あとは法務省のADR認証を受けている団体というのも考えられるのですけれども,実際には多数のADR機関があるものの,実績があるところはなかなか少ないというのが現状となっております。ですので,年に数件若しくはゼロ件というような認証ADRであってもそういう債務名義が作れるというようなことになるというのは,やはり問題だと考えております。   既存の制度の利用というところで言いますと,例えば,冒頭に日本弁護士会が提言していたような,弁護士会のADRプラス家裁の調停で1回で終わらせて,すぐに債務名義化するというような方法であったりとか,若しくは地方裁判所の即決和解を利用するという方法があります。これが今までなかなかうまくいかなかったのは,やはり申し立ててから期日が入るまでに時間が掛かってしまったりというようなことがありますけれども,その辺りを何とか工夫していただくことはできないのかなと,例えば,ある曜日に関してだけでもいいので夜やっていただくとか,そういったようなことができないのかなと思ったりもしております。   あとは,一番最後になりますけれども,御存じのように現在,法制審では家族法制部会という部会が開かれておりまして,そこで養育費の問題も含めた離婚後の家族の在り方について広く議論がされているところであります。日弁連ももちろんいろいろな観点,子供の観点,両性の平等の観点,家事法制の観点,様々な観点から,その分野に大変お詳しい委員を送り出しております。そして,それをバックアップする体制も作っております。ですので,養育費の問題を債務名義というものも含めて検討するのであれば,そこの家族法制部会というのが最適な会議体なのではないかと考えております。日弁連の家事法制部会の委員会でこの問題についていろいろ意見を出していただいたところにおいても,この問題は家事法制部会で扱うべきなのではないかという意見が多数を占めておりました。   すみません,時間を少し超過してしまいましたけれども,以上が私からの話になります。 ○山本部会長 黒田参考人,ありがとうございました。   それでは,ただいまの御発表につきまして御質問がある方は,挙手をお願いできればと思います。 ○出井委員 出井でございます。黒田先生,どうもありがとうございました。私から4点質問があります。1点は,もしかしたらそれほど簡単にはお答えできないかもしれませんが,3点は割と簡単な質問です。   簡単な方から行きますと,まず,部会資料14-1で行きますと5ページの(4)長期間にわたる支払義務とその間の事情変更のところですが,先ほどの御説明の中で,長期間にわたる支払義務がある場合に,機関の存続性の問題があるのではないかという御指摘がありました。その趣旨は,事情変更などがあった場合に,当該機関でもう一回和解をやり直してもらうとか,あるいは和解の修正を協議してもらうとか,そういうことをやってもらった方がよいからという御趣旨でしょうか,というのが第1点です。   それから,2点目ですが,手続の中立性の問題,これは部会資料14-1ですと6ページになりますが,一般的なところは分かったのですが,一つだけ,ここにも書かれていて,先ほどもお話しになったところですが,夫婦の一方当事者の相談を受けた機関が離婚のADRを行うのは適切ではないという御意見のように聞こえたのですが,そういうことなのでしょうか。同じ機関で行うけれども,相談者と手続実施者,調停人を別の人にして,かつ情報も遮断するということでは駄目なのでしょうか。駄目だということになりますと,相談と和解あっせん両方をやっているようなところにはかなり制約が掛かってしまうように思います。例えば,弁護士会なども一方で法律相談センターをやっているわけですが,もう一つ,仲裁センターというのがあって,法律相談センター経由の和解あっせん案件というのもあるわけですが,そういうのもやはり適切ではないということなのでしょうか。それが2点目の質問です。   3点目が,御提案の中に,14-1でいうと7ページの3(1)に,本制度を導入するとしても,弁護士が主体となっている団体若しくは和解あっせん人を複数として,1人は弁護士を含めることが必要であるとあります。御存じのとおり現行のADR法でも,法令の解釈,適用に関し専門的知識を必要とするときに弁護士の助言を受けられるようにしておかないといけないということが認証の条件として定められているわけですが,その条件を遵守していれば一定の弁護士関与が義務付けられているわけです。御意見は,弁護士の助言では足りず,手続実施者にならなければいけない,調停人にならなければいけない,少なくとも共同で手続を実施することにしなければいけない,そういう御意見と理解してよいでしょうか。手続実施者もいろいろな人がいるのでしょうけれども,例えば,家事の分野でいいますと家裁調査官の経験者とか,こういう案件に非常に詳しい方,そういう方が手続実施者である場合も,もちろんその場合も弁護士助言は受けなければならないということになっているわけですが,弁護士の助言では足りず,やはり弁護士が共同の手続実施者になっていなければいけないという御意見なのかということです。   この三つは恐らく簡単にお答えいただけると思うので,ここで一旦切ります。 ○山本部会長 それでは,黒田参考人からお答えをお願いいたします。 ○黒田参考人 まず,長期間にわたるという点に関する御質問なのですけれども,今,出井先生から言われた,何か変化が生じたときに,またそれを,例えば減額とか増額とかを話し合うのに,同じ機関で話し合うことが望ましいので,10年後に行ったらもうなかったでは困るねと,そういった懸念と,あとは,例えば,債務名義を何か作ってもらえると思うのですけれども,それをなくしてしまったとか,紛失してしまったというときに,再発行をお願いしたりするときも,実際その団体がいなかったらどうなるのかとか,そういったことを考えてみました。新しい制度なので,いろいろ想像にわたる部分が多いかと思いますが,そういったことを考えてみました。   次の2番目の問題なのですけれども,先生が言われているとおりでして,同じ組織だというだけで駄目という趣旨ではなくて,相談を受けた同じ人が和解あっせんもするということは避けなければならないという趣旨でございます。そこに情報とか人単位での壁があるのであれば,よいのではないかと考えます。   3番目は,これはなかなか悩ましいところではあります。私としては,やはり弁護士が手続的な実施者としてなることが望ましいのではないかと考えているのですけれども,先ほどおっしゃったように,家庭裁判所の調査官であったり,必ずしも弁護士でない人も専門的な知識を有している場合もあります。ただ,私がやはり弁護士が主体的に関与する必要があるのかなと思っているのは,全体を見るということであったり,証拠を評価するというところは,やはり法曹資格を持っている者の方が,そういった教育を受けてきているので,優れているのではないかと思ったからです。   以上3点,お答えいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。出井委員,更にありますか。 ○出井委員 どうもありがとうございました。もう1点,お聞きしたいと思います。   参考人の御説明で,家事事件,それから養育費事件の特徴といいますか,いろいろな難しい問題があると,合意については様々な要素とか利益を考えて慎重に合意を成立させなければいけないということはよく分かりました。お聞きしたいのは,その合意が成立した場合,そこに執行力を付与するということについての問題で,養育費を対象とする調停,和解合意,これに執行力を与えることの弊害について,具体的にどういう弊害があるのかということを今一度お聞きしたいと思います。特に,御説明の中に出てきた,部会資料14-1ですと4ページの下の方からですが,たくさんの合意内容のうち養育費の部分だけが強制執行可能となるということがよいのかどうかも慎重に検討しなければいけないということで,日弁連の委員会では全員が消極意見だったと書いてあるのですが,そこのところを具体的に御説明いただきたいのです。いろいろな合意の中の養育費の部分だけ執行力が与えられることが具体的にどういう弊害に結び付くのか,そこを御説明いただきたいと思います。もちろん,この御意見は恐らく,養育費だけではなく,ほかの事項についても一緒に執行力を認めるべきであるという御意見ではないという理解で質問申し上げています。 ○黒田参考人 弊害といたしましては,やはり当事者がいろいろなことについて合意をするというのは,それはやはりそれぞれ関連付けて考えられているので,例えば,弁護士としてよく話を聞くのは,養育費は払うけれども,子供としっかり会わせてほしいのだというような要請というのは両方の親が持っているわけです。ところが,養育費の部分だけが執行力ということになると,最悪,例えば,面会交流をしてもらえないということで養育費を払わないみたいな,そういったことになって,それで給料が差し押さえられて,でも,約束してもらった面会交流は全然してもらえないではないかというようなことで,それは実際には何の執行力もないというふうになりますと,ではあのときの合意は何だったのだというふうな,ADRとか,こういう仕組みそのものに対する,すごく不満とか感情的な怒りというようなものが後々当事者の中から出てきはしないかと懸念します。そこはかなり説明をしないと,それでもいいですというような当事者の了解が得られない限りは,なかなかしっかりした合意にはならないのではないかと思います。今考えている懸念はそのぐらいです,今思い付くものとして。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに御質問はいかがでしょうか。 ○北澤委員 北澤でございます。ただいまの出井委員の最後の御質問に関連して,私も黒田先生に質問がございます。   資料の4ページから5ページの,養育費の部分だけを強制執行可能とすることがよいのかどうか,慎重に考えなければいけないというところですが,離婚事案というのはトータルのバランスで,例えば,面会交流と養育費の支払というものを関連付けて当事者は考えているので,養育費の部分だけを切り離すのはどうなのかというお考えかと思い,聞いておりました。ところで、離婚時の合意内容には金銭債権でも複数あって,その中には扶養義務等を求めるような金銭債権もあれば,その他の金銭債権の支払を求めるような内容のものもあり,実際の離婚時の合意内容の中ではそれらを明確に峻別できないような,つまり養育費の部分が判然としないような場合もあるように思われ,養育費の部分だけを切り取って本当に執行力付与の対象とできるのか,いまだ疑問がございます。実際の事案において,離婚時の合意の中で,他の金銭債権との関係で,養育費の金銭債権のみを切り取ることに何か困難があるようなケースがあるのかどうか,もしあれば聞かせていただきたいと思った次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○黒田参考人 そうですね,財産分与と養育費というものは,最後の最後までいろいろもめるような事案では,では,財産分与の方は少し譲るけれども養育費の方は確保したいとか,逆というパターンもあって,多少,財産分与というところが調整弁的になっていることは多々あるかと思います。財産分与の部分は債務名義にならないけれども養育費だけ債務名義になること,それ自体の弊害というのは,財産分与で払うと約束したのに,それを払わなかったときに,一からまた債務名義を取りに行かなければいけないということなのかと思いますけれども,それは今のADRであっても,今のADRは,どちらもそれは債務名義はないものなので,財産分与の部分の債務名義を取りに行かなければいけないとしても,それがすごくこの制度を作ることの弊害かというと,そうではないと思うのですけれども,同じ金銭債権なのにこちらだけというところが,やはりバランスを欠くのではないかという視点は私は持っているのですけれども。すみません,うまく答えられなくて。 ○山本部会長 ありがとうございました。   かなり多数の委員,幹事から挙手があります。せっかくの機会ですので,一応,全員にとは思いますけれども,恐縮ですけれども,御質問についてはできるだけ簡潔な形でお願いできればと思います。 ○有田委員 有田です。よろしくお願いいたします。同じような質問で申し訳ありませんが,確認のために質問させていただきます。   先ほど出井委員がおっしゃった5ページの(4)のところの,同じようなことなのですが,私はADR機関の立ち上げに関わりまして,清算人も行いました。当然,今はその団体はありません。永続性のある団体とすべきであると書かれているのですが,解決していない案件はほかのADR機関を紹介する,お願いをするというようなことで十分に対応できると考えています。先ほど回答されたとは思うのですけれども,そのような考え方を申し上げたいということが一つです。もう一つは,出井委員と重なることで,大変申し訳ないのですが,手続の中立のところです。当時,関わっていたADR機関では弁護士の方にも関わっていただいていましたし,相談を受ける人と,第三者として関わる方は違う人が行っていました。先ほどは出井委員がおっしゃるとおりだとおっしゃったと思いますが,それで間違いないですか。ここに書かれた,手続を行うべきでないと考えるということは,やはり撤回されたということでよろしいのでしょうか。 ○黒田参考人 そうですね,私の言葉足らずだったかもしれないのですけれども,確かに相談に乗っていた団体は,と書いてしまっているので,そういう懸念を感じられたかもしれないですけれども,私の趣旨としては,実際に相談を受けた人が,やはりまた和解あっせん人をするというようなことは避けるべきだ,そこで何らかの情報の遮断というものがあるべきだというところになります。 ○有田委員 ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。第1点は御意見ということでよろしいですかね。 ○山田委員 ありがとうございます。山田です。黒田先生,誠にありがとうございました。簡潔に2点,お伺いをしたいと思います。いずれもADRの専門性に係る問題であります。   一つは,離婚に関しては交渉力の格差の問題があり得るのだろうというお話でありましたけれども,それについては専門的な,先ほど出井委員からもお話がありましたけれども,家庭裁判所調査官,あるいは調停委員等の経験のある方の調停及び,先ほどADR法6条5号の話が出ましたけれども,それによってかなりカバーができるのようにも思います。黒田参考人も先ほど,そういう専門性のある方が望ましいのではないか,弁護士会ADRであれば弁護士がずっと関与していて大丈夫というお話だったのですけれども,最初のご質問は,ADR法6条2号にありますような,専門性のある人が調停に関わることの制度的保障は,弁護士会ADRにおいてはいかがかということをお伺いをしたいと思います。例えば,一定の手続規則のようなものがあるかということであります。   第2点目としては,万が一懸念されているような方が関与した場合,手続の不公正等があった場合には,今の中間試案では執行拒否事由という形で裁判所が一度見るという仕組みを組んでおり,そこは公正証書等とも違うところなのですけれども,そのような仕組みにより懸念されている事柄に対応する可能性があるということについては,どのようにお考えでいらっしゃったかということをお伺いできればと思います。 ○黒田参考人 弁護士会がやっているADRで専門性のある和解あっせん人が確保される保障の問題については,私が関与している大阪の民間総合調停センターでは,事案ごとに運営委員の方がそれに見合った担当者を決めておりまして,その点は実際そのように,専門性を備えた人がなるようになっていますし,あとはざっくりというと,養育費の問題,それから離婚の問題というのは,かなり多くの,大多数の弁護士が日々,日常的に扱っております。特に,私は家事はやらないという人ももちろんいるのですけれども,多くの弁護士は家事事件,離婚事件,養育費の問題,やっておりますので,それほどそういう人たちを見付けるのは苦労しないのかなというのが1点目のお答えになります。   それから,執行拒否事由になっている点についてなのですけれども,確かにそうかなと思う一方で,実際に成立して,それに基づいて払われていくという過程では,それが分からない,チェックが入らないというところがあるのかなと思ったのですけれども,債務名義があるという合意の威力でもって払わざるを得ないという状況なども出てくるので,やはり成立した内容自体に何らかの,内容がきちんとした適切なものであるということが必要なのかなと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 幹事の今津です。黒田先生,本日はいろいろと御意見頂戴しましてありがとうございます。中間試案との関係で1点,御質問させていただきます。本日の資料の5ページ以下で御指摘されている問題点については,養育費に限らず,一般的に調停を扱っている機関について妥当するようなものも含まれていると思うのですけれども,黒田先生御自身の,あるいは弁護士会の意見として,ADR機関で成立した調停に執行力を付けるということ自体が,そもそもまずいという,そこまでのお考えなのか,あるいは養育費というところに付けることが特に問題なのか,その辺りをどういうふうにお考えか,教えていただけると幸いです。 ○黒田参考人 私の考えは,養育費というものについては通常,養育費とか,養育費を始めとする扶養費の支払以外の問題とは,やはり違う要素があるという立場です。ですので,もちろんどんな合意でも,内容の適正というのはある程度見ていかなければいけないと思うのですけれども,養育費については特に,それを制度的に継続性あるような形できちんと担保していく必要があるのではないかという意見です。すみません,お答えになっているか分からないですけれども。 ○山本部会長 ありがとうございました。  ○小川委員 先ほどの北澤先生の御質問と関連するのですが,例えば,養育費と財産分与と慰謝料と,まとめて5万円しか払いませんというようなことをおっしゃることがあると思います。そのときに,和解合意の中で,ざくっと解決金として毎月5万円ずつ支払うというような形の取決めをしていて,そのために,どの部分が養育費で,どの部分が慰謝料で,どの部分が財産分与かということが分からない取決めを見たことがあるのですけれども,そういうことは多くはないのか,実際,養育費部分だけを切り分けるのが難しいことがあり得るのか,その辺りの実情を教えていただければと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○黒田参考人 そうですね,そういった事例はあり得ると,ただ,よくあるというほどではないと認識しています。ただ,今のようなお話は恐らく,財産分与といったって分けるものもないし,例えばDVがあって,暴力があって,慰謝料を払わなければいけないとしても,お金がないのだというような場合が想定されますので,十分あり得る話だと思っていますし,今後,養育費の取決めをする裾野がどんどん広がっていくと,よりそういった,お金がないのでとにかく毎月払うと,そういった合意で解決していくという事案は増えていくのかなと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,黒田参考人に対する質疑はこの程度にさせていただければと思います。   黒田参考人には本日お忙しいところを御出席いただき,多数の御質問にお答えを頂きまして,誠にありがとうございました。 ○黒田参考人 ありがとうございました。 ○山本部会長 それでは引き続きまして,小川参考人から御発表をお願いしたいと思います。 ○小川参考人 それでは,発表させていただきます。画面の共有をしながらお話をしようと思います。20分程度お時間が頂けるという理解でよろしいですか。 ○山本部会長 はい,お願いします。 ○小川参考人 今日はこういう機会を頂きまして,ありがとうございました。私の話はどちらかというと,今日のテーマであるADRで成立した合意を債務名義として執行力を持たせるかどうかという,そこにピンポイントを絞ったというよりも,もう少し広い意味での意見陳述とさせていただきますので,その点を御理解ください。   まず,この問題について,私自身はこういうふうに考えています。ADRで成立した合意に債務名義を持たせて執行力を付与するというのは,確かに履行確保をするという上では一歩進めるかのように聞こえますけれども,果たしてこれを広い視野で見たときに前進だといえるのかと考えたときに,私自身の考えは,こういう形で進めてしまうと,広い意味で,又は長期的に見たときに,後退させるというふうなことになるのではないかということを危惧しております。この理由としては2点ございます。   まず第1点は,当事者の取決めでいいのかどうかということです。つまり,適切な合意が担保できるかどうかということです。それから,2点目は,離婚後の子の養育問題,これは養育費の履行確保も含めてなのですけれども,私的な問題だというふうなことで考えていいのか,それとも,公的な介入が必要だと捉えるべきかということです。この2点を主要テーマとして考えております。   まず,統計データですけれども,こういったことについては先生方はよく御存じだと思いますので,一応出してはおりますけれども,離婚件数20万程度で,子どもが含まれているのは6割で,22万人程度の未成年者が離婚から影響を受けています。親権者は約9割程度で母親が親権者になって,同居親として子の養育に関わっていて,養育費の取決めも低いし支払も低い,収入は母子世帯で非常に厳しい状況におかれています。面会交流の実施率も,3割をどういうふうに捉えるかですけれども,3割程度であると。これは政府の出している統計に基づいてのことなのですけれども,年齢別で見ていくと,離婚する人の年齢別で,30歳から34歳の妻が多いです。同居期間別で見ると5年未満で,5年未満の中でも2年から3年というところが比率として高い。平均初婚年齢は夫,妻とも30歳前後。子連れの離婚も多いし,子連れの再婚も多いということです。   こういうことがデータとして出てくるわけですけれども,ここで考えていただきたいのは,イメージしていただきたいのは,婚姻をする動機で一番に上がってくるのが,いろいろな研究者の報告がありますけれども,子どもを懐胎したと,つまり子どもが生まれるということを契機に結婚に踏み切ると,30歳前後であると,そして,5年未満で離婚をしている,そして,当然多くの場合母親が親権者,子どもを同居親として育てている状況下にあって,この間,母親の周辺環境であったりとか就労環境であったりとかというのが非常に大きな影響を受けている。そういうのが一つのイメージとしてあって,この人たちをどういうふうにしていくかということを考えていかなくてはいけないわけです。けれども,養育費の取決めをしているのはその半分未満だと,取決めをしても受け取っていない人たちが多いというのは繰り返し説明されていることだと思います。こういうモデルで考えたときに,非正規雇用であって育児と就労を両立させるように頑張って生活をしていて,厳しい生活状況の中,経済状況もそうですし,居住状況もそうです,公的な住宅になかなか入れないというふうな研究者の報告もあります。   それから,公的支援の限界ですね,細かな数字は今日は出しませんけれども,私が調べて,年によって幾らか動きがあるのですけれども,全世帯数に占める生活保護世帯の割合を見たときに,母子世帯の中に生活保護費を受給している世帯がどのぐらいあるかということです。総世帯数のと比べて母子世帯にどのぐらい生活保護費を受給している世帯があるかというのを見たときに,5倍程度で推移していて,恐らく新型コロナウイルスの影響下にあっては,これがますます高くなっていくような状況ではないかと思います。こういう状況の中にあって,もう一回繰り返しますけれども,養育費の取決めがあるのが4割程度で,受け取っているのが25%弱,受け取ったことがないというのが60%強ある。   そして,もう一つの問題は,面会交流と養育費の関係も含めてなのですけれども,離婚に伴う様々な問題が密接に関連して影響し合っているということも考慮しなければいけないと思っております。と申しますのは,私は平成8年から家庭裁判所の家事調停委員をしておりますけれども,例えば調停の場面なんかでも,とにかく早く離婚を成立させたいと希望する当事者がかなりいます。当然,子どもの養育に費用が掛かるということは認識しているのだけれども,そういったことで,母親が自分の本来主張できるような養育費の額を主張していると長期化するというようなことで,あえてそういったことは余り強調しないで,とにかく離婚することを主として考えるというふうな場面にもこれまでたくさん,実際の調停委員として関わったときに,そういう状況が自分が担当したものの中にもありました。だから,養育費を取り決めていないというところの背景にはいろいろな要因があると。   それから,もう一つは,公益法人で面会交流の支援をしている団体が幾つかあるのですけれども,その中の一つで私も正会員として面会交流が実際に難しい人たちの支援をしているのですけれども,例えば,新型コロナウイルスでなかなか対面での面会交流を支援して実施するというのが難しい状況下にあって,とにかく早い時期に進めて,実際に面会交流を実現してほしいというような要望を強く求めてくるというのは,必ずしも別居親である父親だけではなくて,母親からも非常に強いそういう要望を実際に受けます。よく話を聞いてみると,面会交流をきちんと実施しないと養育費が払ってもらえないのだとかというようなことが背景にあったりします。こういうことも考えておかなければいけない問題だと思います。   まず,日本の養育費についてですけれども,これは私がここで申し上げるまでもないかもしれませんけれども,養育費の算定については簡易算定表を使っていましたけれども,そこ(小川富之参考人発表資料)に書いてありますように,新たに養育費の算定表が作られて,今は実際に家庭裁判所の調停の場面ではこれを使って子の養育費の額を決めているのだと思います。ただ,これに関しては日本弁護士会も,新しい方式による養育費,婚姻費用算定表というのがあって,いろいろな算定表がありますが,今のところ,この平成30年度司法研究というのが実際の裁判実務では使われており,それがあるので,裁判所が関与しないようなものであっても,それがベースにされているというふうなことなのだろうと思います。   それから,もう一つは,養育費の履行確保の問題なのですけれども,これは少し,養育費に関する手続ということで裁判所のホームページを開くとこういうふうなの(小川富之参考人発表資料)が出てきて,きちんとこういうふうに裁判所のホームページで公表しているので,この手続をとって実際に履行確保につなげていけばいいではないかと,できるはずだというふうなことなのですけれども,実際にはできていないから,非常に厳しい状況にあるということになるわけです。   これらを踏まえて,諸外国の子の養育費の考え方というのは一体どういうふうな考え方に基づいているのかと。大きく分けると,社会保障給付的な考え方をするものと,原則として親族扶養的なものをベースにして考える考え方と,大きく二つに分けられるようです。   社会保障給付的な考え方だと,簡単にまとめていますけれども,離婚後の子の養育費の問題を基本的には社会保障給付の枠内で把握した上で,必要な児童手当を支給して,同居親として子の養育をしている親が別居親に対して有する養育費支払請求権,児童手当の支給主体である行政庁がこれを譲り受けて,行政庁が事後的に別居親からこの児童手当の支給に応じた費用の一部又は全部を回収するという制度を採用しているところがあります。こういった考え方を採っているのは,代表的なものはアメリカ合衆国だといわれていますけれども,1935年からこういうふうな考え方がスタートしていて,連邦社会保障法の枠組みから広がってきていて,1996年からは給与天引き制度が始まって,その後もいろいろな改善,改良が加えられて現在に至っているというふうなことになるわけです。   原則として親族扶養的な考え方を採る国ですけれども,これは大きく二つに分けられておりまして,父母の取り決めた養育費の額が法で定めた一定の基準に満たない場合,これ(小川富之参考人発表資料)がその一つですけれども,もう一つは,それが適切に履行されていない場合,つまり,決めた額が低い,決めた額は仮に適正であったとしても支払われていない,こういうふうに大きく二つに分けられるわけです。いずれの場合も,行政庁がその基準額までの児童手当を同居親として子を養育している親に支給して,当事者間で取り決めた養育費の限度で,事後的に行政庁が別居親から償還を受けるというふうな制度を採用している。   この2については,さらに,養育費の額の取決めを父母が,自由にできる国と,養育費の額にガイドラインがある国というふうに,大きく二つに分けられるようです。自由に協議で決められる国の例としてはスウェーデンが挙げられますけれども,この利点としては,社会保障給付との組合せですから,取決め額がいずれであるかに関わらず,標準的な生活水準は維持できます。ただし,この問題点として実際にスウェーデンが経験していることとしては,意図的に低額の養育費を取り決めて,不足分,つまり差額が出ますから,そこの部分は社会保障給付に依存するのだというふうなことで,本来払ってもらうべき養育費の額をあえてその額に決めないで,協議の上で,いずれも納得して,意図的に低い額にするというふうなことが実際には起こっているようです。   こういう考え方をベースにして,もう一つは,このパワーポイント(小川富之参考人発表資料)には付けておきませんでしたけれども,2として客観的ガイドラインを決めている国,これがイギリスとかオーストラリアとか,そういうところです。パワーポイントに映していなかったので,簡単に説明しますと,ガイドラインを決めた理由としては,元々は自由な取決めを許していたけれども,そうすると養育費の額が低額になりがちで,当事者に協議で決めさせると低額になるというふうな傾向が実際に生じた。自由に取決めをするというが,当事者間で取決めができないときには裁判所に事件が持ち込まれるわけですけれども,そうすると,裁判所が関与した場合でも,額の決定をするといったときにガイドラインがないわけですから,一貫性がないということで批判をされた。そこで,1990年代の初頭にこのガイドラインを導入した。ガイドラインを導入すると,養育費の効率的な求償を実現することで,社会保障給付の一つである生活保護費の支出削減というものも期待できるということで,ガイドラインを入れている。   従来は,子の養育費の額の決定であったり,支払の請求及びその履行の問題というのは裁判所の管轄に委ねられていましたけれども,こういうガイドラインを取り入れた児童扶養法というものが作られることによって,実際にこれを担う機関として児童扶養機関,チャイルド・サポート・エージェンシーといいますが,イギリスでもそうですし,オーストラリアでもそうですけれども,一般にCSAというふうな言い方をしますが,ここが子どもの養育費の問題についての責任を負うことになって,親がどこにいるか分からないといったときにその所在を突き止めたり,財産の調査をしたり,養育費の算定式を使って額の決定,これは物価スライドで,その年の係数を入れると自動的に額が決まるというふうなやり方,オーストラリアではそういうふうなやり方が採られています。そして,その支払を強制し,かつ,立て替えて支払ったものについては回収を担うということで,裁判所の手から,ある種行政の児童扶養機関の方に責任の所在が移っていって,そこで運営されている。これの利点としては,ガイドラインが定められているので,適切な子の養育費額が期待できると。欠点としては,別居親の有する養育費の履行と公的扶助としての母子家庭の社会保障給付との間の調整というのが難しいということがあります。   もう一つ,こういった国々で生じたことなのですけれども,面会交流との関係で様々な問題が生じている。例えば,フィフティー・フィフティーで均等に子どもの養育に関わるといったような場合には,養育費の支払額というのは理論的には発生しないということになります。そういったときでも,例えば,母親の手元で子どもが同居親と一緒に生育しているといったようなときには,費用としては母親のところにその負担がのし掛かってくるわけですけれども,養育費として父親の支払が抑制されるということになる。結果として,父親の面会交流の頻度と時間が増えれば養育費の支払額が軽減されて,主として同居親として子どもの養育を担っている母親の生活が厳しい状況に置かれるというふうな事態が発生したということがあるようです。   こういった問題を踏まえて,日本に必要な制度を考えるときにはどういうふうに考えていったらいいかというのを,少し私なりに考えてみました。まず第1点としては,根本的な問題として,養育費の額の決定の問題,それから支払確保,履行確保の問題,こういったことは私的な問題なのか,つまり,今回の,確かにADRで成立した合意を債務名義として執行力を持たせる,だから自分で執行すればきちんと履行が確保できるのだから,それは自己責任で自分でやってください,こういうふうな形で進めるということで,履行確保としては一歩進むかもしれませんけれども,そもそも,先ほど外国の例を少し紹介しましたけれども,子どもの養育に関わる問題をどういうふうに考えるのか。冒頭で申し上げました,離婚後の子の養育問題,履行確保も含めて,完全に私的な問題として放置していいのか,やはり何らかの形で公的な関与が必要なのではないかと考えるべきなのか。   この問題は,例えば協議離婚制度の問題にもつながってきます。調停の場合は,子どもがいる場合は当然,養育費ということが調停の場面で取り上げられますけれども,協議離婚の場合は,先ほども申し上げましたけれども,調停に来た当事者ですら,離婚自体を成立させることを優先して,養育費の額の決定,又はその支払をどういうふうにして実現していくかというふうな問題は後回しにされる,又は,そこで問題にしないというような傾向が実際に存在するわけです。そうすると,協議離婚の場合は裁判所の関与が全くないわけですから,そういったところで放置しておいていいのかというふうな問題になってきます。   それから,3番目の問題,これは,いろいろな離婚後の子どもの養育の場面で出てくる問題なのですけれども,児童の権利条約,これは第1回審査と総括所見というのが1998年に出されていますけれども,この段階で既に日本の政府に対して子どもの養育費についての問題が指摘されて,そして,直近の第4回,5回の日本政府報告に関する総括所見でも明確に,困窮している家族に対して十分な社会的援助が求められているということが示されているわけです。だから,これらも踏まえて離婚後の子どもの養育問題を考えていかなければいけない。その中の重要な問題の一つとして養育費,さらに,それの履行確保をどういうふうにして実現していくかというふうな問題を考えるときに,ではADRで成立をさせた合意が債務名義として強制力を持たせれば一歩進むのだと考えていいのかどうか,そのときに,その形成された合意が適切な合意であるということが果たして担保できるのかどうかといったようなことにも関わってくると思います。   次に,今,日本の議論をしていて,では日本で整備すべきものは何かといったときに,まず,離婚問題が生じたときに,未成年の子どもが含まれているときは特にその重要度が高いわけですけれども,その段階で適切な相談体制をきちんと整備するということが,まず重要な課題だと思います。ワンストップサービスで,いろいろな問題があるわけですけれども,離婚後の子どもに関わる問題であれば,ここに連絡をするときちんと割り振ってくれて,養育費の問題だと次につなげてくれてというふうな形での相談体制が必要です。実際に養育費の問題について協議をするときに,認証ADRというのが今回取り上げられていますけれども,それらも含めて,協議をするときの支援の必要性,協議に対する支援体制をきちんと整備していく。子の養育費の額の決定自体も,一定の客観的要素があればその額が決まっていくわけですけれども,今のところ日本では,元々簡易算定表というものから始まって,今回,裁判所の方で改訂されて新しいものが出てきていますけれども,幾らから幾らというふうな幅で養育費の額が算定表に書いてあって,その算定表に従うとすれば,その幅の中で決めていくわけです。ただ,その上限を超えるもの,下限を下回るものとかというのも協議であれば出てくるわけですけれども,そういった決定については,もう少し客観的に,その適正な額が,それも経済状況,社会情勢を踏まえて決められるようなものを作っていく必要性があるのではないか。諸外国ではそういったものを作って,改訂をして,進めていっているということになります。   その上で,養育費の支払の実現をどういうふうにしていくのか,どういう枠組みで考えていくのか。養育費は私的扶養の問題で,私的な問題だということで,必要な人が自分でその支払の実現ということの手続を進めていくのか,そもそも子どもの養育というのは,次世代を担う日本にとって非常に重要な問題であるから,そこに公的関与をどういうふうな形で進めていくのか,広い意味での社会保障の枠組みの中でこういったものを議論するのかといったことが必要になってくるのだろうと思います。   少し大枠での議論になりましたけれども,この目的は離別後の子の健全な生育を目指してということで制度作りをしていかなければいけないわけで,今回の,ADRで形成された合意を債務名義として執行力を持たせていくという議論も,こういう大きな枠組みの中で議論していくべき問題だと思います。ADRで形成された合意に強制力があるわけだから,ADRで決めて,その支払がなければ,自分の責任で強制執行の手続を進めればいいではないかというふうな形で進められると,本来こういう大きな枠組みで離婚後の子どもの健全な生育というのを目指していくというふうな制度作りをしていかなければいけないというのが置き去りにされるのではないかということに少し危惧をしているわけです。   少し早口になりまして,資料が少し前後しましたけれども,私の意見陳述は以上です。御清聴ありがとうございました。 ○山本部会長 小川参考人,ありがとうございました。   それでは,ただいまの御発表につきまして御質問があれば,お出しを頂ければと思います。 ○出井委員 出井でございます。小川先生,どうもありがとうございました。   まず,冒頭の御説明の中で,それから,最後の方にも出てきましたが,養育費の問題が当事者の取決めでよいのか,私的な問題なのか,公的な問題なのかという問題提起ですが,その御趣旨は,現行法上は当事者で取り決めたり,あるいは民間ADR,裁判所外のADRで取り決めたりする養育費は,それは私法上は有効な合意だという理解なのですが,その仕組みがそもそもおかしいのではないかと,そういう御趣旨なのでしょうか,それが1点です。   それから,もう1点,これは先ほど黒田参考人にもお聞きしたことですが,現行法の仕組みは,民間ADRで養育費の合意はできるわけです。それについて,その合意の適切さを確保しなければならないというのはそのとおりだと思いますが,成立した和解合意に執行力を与えること自体について,どういう弊害があるのか,そこのところをもう一度お聞きしたいと。最後のところで少し御説明があったかもしれませんが,全体像の中で考えなければいけないというのはそのとおりだと思いますが,その意味が,執行力を与えることでどういう弊害があるのかというところを御説明いただければと思いますが。 ○山本部会長 では,小川参考人,お願いいたします。 ○小川参考人 ありがとうございます。ADRで取決めをするときの支援をするということ自体は,これは一歩進んでいっていることなのだろうとは思います。ADRの支援によって合意できたといったときに,その合意が適切な合意であれば,それを債務名義として執行力を持たせるということについては問題ないと思いますが,今回議論されているのは認証ADRというふうなことをベースにされているようですけれども,そこで果たして適切な合意というのが担保できるかどうかというところにも一つ,懸念を持っております。   それから,もう一つ,2番目の先生からの御質問とも関連するのですけれども,では,適切な合意であれば債務名義にして執行を持たせれば,もちろんそれは養育費の支払いという点では履行確保に一歩つながっていくと,これは間違いないことだと思います。だから,その点だけから見れば,そこを否定するつもりはもちろんございません。ただ,こういうふうな制度をもう作っているのだから,離婚後に養育費の問題について,額の取決めについても,その支払がなされないときの履行確保についても,自分で手続を進めて,私的な問題としてこの問題については実現してくださいというふうな形でこのまま放置されると,子どもの離婚後の養育問題というのが,もう少し大枠で進めていくといったときに,少し後回しにされる可能性があるのではないかということを,危惧を感じているわけです。   だから,仮に今回のことでADRというふうな形で協議で合意を形成するというところの支援体制を手厚くしていく,これはいいことだと思います。そして,そこで成立する合意についても,適切な合意であるということの担保をできるだけ確実にしていく,そうしたら,それを債務名義として執行力を持たせれば執行ができるという意味では,第一歩なのですけれども,ただし,この問題については,離婚の問題全般についての問題であって,例えば協議離婚の制度自体の問題も含めて,もう少し広い意味で将来的には検討していかなければいけない問題であるとかというふうなことをどこかに含ませていただきたいというふうな趣旨もあるわけです。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 出井委員の質問とも関連するのですけれども,小川先生の御見解としては,現状,協議離婚で私的に決することもできて,そこで養育費を決めたり決めなかったりすることもできる制度自体に若干,疑問をお持ちでいて,むしろもう少し公的な関わりを深めた方がいいのではないかという問題意識の下で,子の健全な生育というものをもっと,より広く検討すべきだという発想の下に,現状の養育費制度における執行力付与については疑問がある,むしろ,もっと広く検討してからその後に制度設計をすべきだ,そういう御意見と理解してよろしいのでしょうか。 ○小川参考人 おっしゃるとおりです。冒頭で少し申し上げましたけれども,世帯数に占める生活保護費の受給比率で見ると,年によって動きはありますけれども,私がたまたまある研究会で報告するときにその年のものを調べたら,やはり離別母子世帯は一般世帯に比べて生活保護の支給率が5,6倍なのです。これは見方によっては,何を意味しているかというと,諸外国の制度で行くと,社会給付的な枠組みで捉えて社会給付的な支給はしているけれども,求償権のないものなのです。つまり,本来,適正な額の養育費を取り決めるべきであって,適正な額が取り決められているとして,それが的確に支払われているとすれば,そこのところで,現実問題として支払う必要のないものが社会保障給付として支払われているわけです。そういう意味で,日本だと私的な部分といっておきながら,こういうふうに生活保護の受給世帯で見ると,一般世帯から比べるとものすごく割合の高い離別母子世帯の人たちが生活保護費の支給を受けていると,こういうふうな現状ということにも少し疑問を持っているというのもその背景にあります。御指摘としては,河井先生から指摘していただいたような問題意識がベースにあります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,小川参考人には本日お忙しい中,御説明を賜りまして,また御質問にもお答えを頂きまして,誠にありがとうございました。 ○小川参考人 ありがとうございました。 ○山本部会長 それでは,本日最後になりますが,小泉参考人からの御発表をよろしくお願いしたいと思います。 ○小泉参考人 よろしくお願いいたします。小泉と申します。それでは,始めさせていただきます。まず,先行のお二方に比べて非常に簡易なレジュメ1枚で申し訳ないのですけれども,これに沿って少しお話をさせていただきたいと思います。   まず初めに,簡単に自己紹介をさせていただきますが,私は15年ほど家庭裁判所調査官として勤務しておりまして,平成29年3月に東京家裁の離婚なんかを扱う一般部を最後に退職をいたしまして,現在は家族のためのADRセンターという名称のADRの機関を運営しております。法務大臣の認証自体は家事紛争全体ということで,遺産分割ですとか親族間紛争なんかもできる機関にはなっているのですけれども,扱う事案の9割が御夫婦の問題,離婚問題ということで,本日はそういった経験も踏まえて,ADRでの離婚協議について,特に養育費について,現状をお伝えできればと思っています。よろしくお願いいたします。   まず,当センターでの手続の流れについて,ざっとお知らせをさせていただければと思いますけれども,まず,申立書の提出から始まるという点については家庭裁判所と同様です。ただ,ほとんどの問合せですとかやり取り,申立書のやり取りも含めて,メールで完結するというところが特徴かと思います。中にはもちろん郵送ということもあるわけですけれども,今の現状ですと,半分以上が郵送ではなくてメールでのやり取りとなっています。それで,申立書と申立料のお振り込みというのを確認した時点で,相手方となる方に対して,申立書の写しですとか,それから,ADRということを御存じない方がほとんどですので,ADRの説明に関する書類ですとか,そういったものを送らせていただくのですけれども,その書類と併せて,意向確認書といいまして,照会書みたいなものなのですけれども,ADRという手続を受けていただけますかというようなことですとか,そのADRの手続の中であなたとしてはどんなことをお話しになりたいですかというようなことを書いていただく書類を意向確認書と呼んでいるのですけれども,そういったものを全部郵送でまとめてお送りをして,それから,その意向確認書につきましては返信期限を設けて,御返信をお願いするというような流れがまず初めにございます。応諾率といいまして,相手方が応じてくださるかどうかということの確率についてなのですけれども,現在は大体7,8割程度というところで推移しています。   応諾をしていただいた方については,そこから調停が始まるわけなのですけれども,現在はコロナ禍ということもありまして,それ以降,現在に至っても,大体約9割の方がZoomによるオンラインの調停を実施されているというところです。何回くらい話し合うのかという回数については,当事者の方のニーズですとか問題の複雑性によって本当に様々なところがあるのですけれども,比較的紛争性が低いものは大体3回以内ぐらい,あとは,財産分与が複雑であったりですとか,面会交流や養育費等でもめる場合は5回前後掛かることが多いように思います。トータルの期間につきましても,これも割と個人差があるところでして,家裁の調停みたいに1か月に1回ではないと駄目だとか,1か月半に1回でないと空きがないということはないので,場合によっては1週間に2回話し合うような人たちもいたりするのですけれども,現実としては,やはり財産分与なんかで,次回までに不動産のこれこれの資料をそろえておいてくださいとか,預貯金のこれまでのこういった履歴を準備しておいてくださいといったような宿題が出ることが多いですので,2週間に1回ぐらい話し合う方が多いかなというところですので,3か月前後ぐらいでの解決というのが割と平均的かと思います。   幸いにして成立したということがあった場合は,合意書を3通お作りして,センターでも基本の保全年数が10年となっていますので,10年保存をしますし,当事者の方にそれぞれ1通持っていただいているのですけれども,正に今日話題になっているとおり,ADRの合意書というのは執行力がございませんので,養育費ですとか財産分与や慰謝料といったまとまったお金の分割払い,こういった継続給付の約束事がある場合には,その後,合意書と同じ内容の公正証書を作成するということがほとんどでございます。   公正証書の作成については,もちろん当事者の方で別途お作りになるということもあるわけですけれども,やはり利用者の方からよく聞かれるお声としては,そもそもお二人そろってどこかに行くということがもうできないというような事情があったりですとか,平日の日中に公証役場に足を運ぶことができないということがあったりしますので,別途費用をお支払いいただいた上で,センターの方で代理をして公正証書まで作成するということが比較的多いように思います。   それでは,次に当センターの調停者についてお伝えをしたいと思いますけれども,家裁でいう調停委員の役割をする人のことをうちでは調停者と呼んでいるわけですけれども,今現在,当センターでの調停者,登録が13名おります。ほとんどが離婚問題なんかを主に扱う弁護士さんがやっていただいています。あと,少数ですけれども,家裁調査官の経験者であるとか,現役の家事調停委員さんなんかが若干名入っていただいているような感じで,当事者の担当する適性みたいなのを若干見ながらやっているというところがございます。そういった調停者の方がお話合いを仲介するわけですけれども,家裁と違いまして,2名体制ではなくて,ほとんどの場合は1名で実施しています。非常に複雑な問題があったりですとか,公平中立性の問題とか,いろいろな担保が必要な場合に,まれですけれども,2名体制でやるということもあったりするということでございます。   こういった流れで実施されるADRによる調停なのですけれども,当事者の方がどんなことを求めてお申立てになるかという点について,お話を次はさせていただければと思うのですが,正直言いまして,本当にニーズは様々でして,皆さん違うのですけれども,一番よく聞かれるお声として利便性というのがありますので,本日は少しその点についてお伝えをしたいと思います。   まずは,平日の夜間や土日も利用ができるというところで,これを一番の利便性として感じられる方が多いように思います。特に,うちのセンターでも一番混み合うのが土日なのですけれども,お仕事をなかなか休めないと,仕事終わりの夜間も一応できるにはできるのですけれども,疲れているときにやりたくないなということもあって,やはり土日にゆっくりやりたいという方が非常に多いですので,土日の利用ができるというところに利便性を感じられる方が多いように思います。   それから,先ほど申し上げたように,やはりオンラインでできるという点もとてもメリットが多くて,実際はコロナになる前は,本当に遠方の方とか,それこそ海外におられる方のみがオンラインを利用されていたのですが,コロナ禍になってみて分かったのが,いかに近くに住んでいたとしても,やはり対面ではなくてオンラインでやるメリットなどもあったりして,意外と,全然来られるような近場に住んでいらっしゃる方もオンラインを希望されるということが増えています。調停は基本的に同席でやることが原則なのですけれども,DVがある方ですとか,若しくはモラハラなんかで顔を見ると言いたいことが言えないとか,そんな方もいるわけなので,別席でやることもままあるのですけれども,そういった場合も,オンライン上で別のお部屋を用意して,調停者が行ったり来たりするような形で話合いができるという点において利便性を感じておられる方も多いですし,同席でやるにしても,リアルに隣にいて肌感覚が分かるというよりかは,画面上だけの,顔が見えて声は聞こえるけれども違う場所にいるという安心感の方が話しやすいなんていうお声もあったりして,割とオンライン調停は皆さんにとって人気があるというか,やりやすい調停として認識されているように思います。   それから,先ほど申し上げましたように,3か月前後の解決が可能だというところで,早期の解決を望まれる方も非常に多いです。これはもう本当に実際の感覚ですけれども,養育費だ,面会交流だ,きっちり話し合ってきちんと決めなければいけないのはよく分かっていると,だけれども,やはり今のこのしんどい現状を早く終わらせたいという気持ちが,どうしてもやはり皆さん,出てきますので,半年,1年と長引くというと,もうその一歩を踏み出すこともできないという方も結構おられますので,早期の解決ということを望まれるという声もよくお聞きするところです。   それから,メールの利用が可能だという点も,裁判所と違って利便性,今やメールを利用することについて利便性といってしまっていいかどうかというところはあるのですけれども,連絡がスムーズにできるという点では,家裁と比べて,このメールが利用できるという点も利便性として感じられている方が多いのかなと思います。   次に,2番の利用者像のところについて少しお知らせできればと思うのですが,ここは恐らくこの議論の中で非常に大事なところではないかと思っていまして,実際にやっている者として,皆さんのお話を聞いていると若干違和感を感じる部分もありまして,是非ここをお伝えできればと思うのですけれども,まず,ADRの利用者像として,家庭裁判所を利用する方とか弁護士さんに依頼する方というのと重なる部分というのは非常に少なくて,多くは協議離婚を望んでいる御夫婦なのです。離婚は決まったけれども,なかなか離婚の条件の話合いができないと,例えば,(2)に書かせていただいたような,法的な知識がないけれども,一般的にはこうなのだとか,法律上はこうなのだという規準さえ示してくれれば二人がそれに従う用意がありますというような,非常に紛争性の低い人たちから,若しくは,そこの合意も必ずしも確保はできていないけれども,誰かお手伝いしてくれれば話合いが進んでいく可能性があるというような方,それから,夫婦間の力関係が少し不平等で,二人だけだと言いたいことが言えないけれども,誰か力添えをしてくれれば自分の権利を主張することができるということ,そういう人が利用になっている方が多いように思います。ですので,今うちの案件で大体月に10件程度のお申込みがあって,年間120件前後ぐらいを扱っているのですけれども,その方たちがもしADRがなかったらどうしていたかということを考えると,恐らく家庭裁判所に申立てをしていたという人は1割,2割ぐらい,いるかいないかぐらいではないかと思っていて,少しやはり層としては重ならないのだというところを御理解いただければと思います。   では,(4)としまして,実際にどんな人が来られるかというところを具体的にお話をしたいと思いますけれども,まず,御存じのとおり,そもそもADRというのが世間に周知されているという状況ではありませんので,当センターにたどり着くというところで,やはり一定の知識層であったりとか,綿密に調べて物事を進めるような方であったりとか,職業柄そういう制度を御存じだといったような方,それから,センターの立地のこともあるかもしれませんが,23区内にあるというようなことで,誤解を恐れずに申し上げますと,割と高収入で高学歴の御夫婦が多いです。お話合いの中で必ず年収の話なんかも出てくるわけですけれども,年収2,300万円ぐらいですという方は非常に少数で,500万から1,000万円ぐらいあるような方の利用層が多いように思います。これは男性に限ってですけれども。女性に関しては,専業主婦の方もいれば,男性並みに稼いでいらっしゃる方もいれば,それぞれですけれども,比較的やはり知識層が多いかなと思ったりもいたします。   そういった当事者の方々がいる中で,例えば,センターの方でもお申込みとかお問合せがあった際に,家庭裁判所に行かれた方がいいのではないですか,なんて御案内することもあるのですけれども,そういった場合はどんな場合かといいますと,先ほど申し上げたように,収入の問題で,ADRはどうしたって数万円掛かりますので,そういった費用の捻出が難しい方ですね,そういった方には,やはり家庭裁判所の方が安価ですので,そういった解決を促すこともありますし,若しくは,精神的にかなり弱っていて自己解決が難しい方ですとか,自分での判断ができないような方は,法テラスの利用を促したりですとか,そういったことを御案内することもございます。   続きまして,残りのお時間で,実際の養育費の取決めの実情についてお話をできればと思いますが,まずは算定表の活用についてです。ADRは,それ自体は当事者の自主性といいますか,自己解決を尊重する場でありますので,双方の当事者が合意していればどんな決め方でもいいということをお伝えするのですが,ただ,知識の付与として,目安として算定表というものがあること,それから,金額の主張で迷ったりとか争ったりする場合は算定表を基に決めることが多いのですよということも必ず御紹介をいたします。それから,特に双方の収入状況を確認させてもらった後に,算定表よりも低い金額で合意をしようとしているような場合に関しては,当事者に対して,算定表の金額を確認しておく必要があるか,ないかといったようなことを確認することになっております。私が把握している中ではということになるのですが,算定表よりも低い金額で合意をしたというケースもやはり,かなり少数ですが,あるのです。どういった方がそうだったかということを具体的に御紹介しますと,例えば,妻の方が収入が多くて,なおかつ妻が率先して離婚を望んでいるような場合ですとか,支払義務者である夫が精神疾患を患っていて,現時点では何とか働けているけれども,余りストレスを掛けたくないということで妻が引くというような,そういった案件もございまして,算定表より低く合意するということがなくはないですけれども,やはり客観的に見てそれなりに合理性のある理由があるかなという場合が多いように思います。   それから,特別出費についてですけれども,先ほど申し上げましたとおり,割と高学歴,高収入の親御さんが多いということもありまして,お子さんの教育費なんかが話題になることもよくあるのです。ですので,私学の学費であるとか大学の費用なんかについても特別出費として割ときめ細やかに話し合われることも多いですので,この点は逆に家庭裁判所の調停条項なんかよりも,割とどちらかというと手厚い決め方になっていることが多いかと思います。   支払終期につきましても,当たり前ですけれども,しっかりと話し合って決めることになるわけなのですが,ここは当事者によって様々に理解が異なるところでもあります。ですので,まずはもちろん当事者の希望を聞くのですけれども,未成年というより未成熟子という概念によって支払義務が判断されるといったことですとか,18歳であっても高卒で十分な収入を得ていれば支払義務はなくなるし,21歳であっても大学生なら未成熟子なのですよ,なんていうお話をしながら,現在法務省のホームページで御紹介されている記載の方法,例の22歳になった後の最初の3月までうんぬんというやつですけれども,そういった記載例を御紹介するということもあります。ですので,私の昔の記憶によりますと,家裁だと割と二十まで,成人するまでなんていう記載が多かったように思うので,そういった面ではADRの合意の方が,その終期についても,大学卒業をめどにした決め方ができているかなと思っています。   やはり当事者の不利益にならないための工夫というのもいろいろ必要なところがございまして,先ほど申し上げたような,話合いの中で,少し当事者の方のメンタルが弱っていて,本来主張しなければいけないことが主張できていないというような場合は,法律相談へ行ってみられたらどうですかとか,弁護士代理人を付けた方がいいのではないですかということを御案内することもありますし,紛争が長引くことによって一方当事者に不利益が予想されるような場合も,ADRを切り上げて家裁の調停に移行されたらどうですかということを御案内するということもあります。   最後に,養育費の取決めにおける執行力付与のニーズについてというところなのですが,現状の取扱いとしては,やはり合意書のみでなく公正証書まで作ることがほとんどです。9割方そういう状況になっています。そういった意味では,やはり公正証書を作る手間とか費用が掛かるというところが現実ですし,問合せの段階で,これは特に女性側,妻側からの問合せの際に多いわけですけれども,ADRで合意した場合に,その合意の内容について強制執行ができるのですかというようなお問合せは結構あるのです。ですので,執行力の付与についてセンター内の調停者,弁護士なんかと話をすることもあるのですが,ADRの機関としては,やはり執行力の付与というのは,責任が増すことでもありますし,そう簡単なことではないということで,諸手を挙げて喜べることではないというふうに思っているのですが,当事者にとってのニーズというか,当事者の利益は非常に高いのかなと思っているところでございます。   少し最後,駆け足になりましたが,私の発表はこれで終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。 ○山本部会長 小泉参考人,ありがとうございました。   それでは,ただいまの御発表に関しまして,御質問がある方はお出しを頂ければと思います。 ○今津幹事 幹事の今津です。小泉さん,本日は貴重な御意見ありがとうございました。1点お伺いしたいのですけれども,今日,最初にお話しいただいた黒田先生から,家事紛争というのは一体的な解決が求められていて,養育費のところだけ抜き出して執行力を与えるというのはいびつな解決になるのではないかというような御指摘があったのですが,今,小泉さんがやっていらっしゃるような,公正証書までセットになっているというお話だったのですけれども,そうなると養育費のところだけ取り出して執行力ということになると思うのですが,そこに当事者の方から何か不満であるとか,特に面会交流をしてもらう側の方から不満とかというのはあったりするのか,お伺いしたいのですけれども,お願いします。 ○小泉参考人 ありがとうございます。今の御質問は,養育費や面会交流というのを決める際に公正証書まで作るということについて,養育費の支払義務者の方から何か不満が出てこないかと,そういうことの御質問ですか。 ○今津幹事 面会交流の方は公正証書にしても強制執行できないわけで,そこで,一方的に自分の方だけ執行を受ける立場になるのが,そういう趣旨のものがあるかどうかお伺いします。 ○小泉参考人 おっしゃるとおり,やはりそういう御意見が出ることもあるのですけれども,基本的にはこちらのセンターの方で,ADRの合意書では執行力がないので公正証書の作成をお勧めしているということをはっきり言ってしまうということと,あとは,やはり当事者の判断として,ADRの合意がここまでできているのに,執行力が付与できる形の公正証書の作成に合意できない,そこで賛成してくれないというのであれば,ADR自体の合意をやめて家裁の調停に持って行きますという結論をおっしゃる方も多いですので,そうすると義務者としては,ここまで話し合ってお金を出して合意をしたのに,公正証書の作成でごねて家裁まで行くなんていうのは,少しばからしい話ですので,だったらもう公正証書を作っておこうかということで落ち着くことが多いように思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。小泉参考人,どうもありがとうございました。最後の方にちらっとおっしゃった,執行力が与えられるということについて,家族のためのADRセンター内の調停者の間では,責任が重くなるので諸手を挙げて喜べる問題ではないとおっしゃったのですが,それはどういうことなのかということをお伺いできればと思いますが。 ○小泉参考人 ありがとうございます。これはもう本当に実際上の話ということになるのですが,先ほど来,どういう資格があればしっかりとしたものを作れるのかという話があって,弁護士の関与がどういう形で必要かという議論がずっとあったかと思うのですけれども,実際やっている者として実感するのは,弁護士としての法律的な知識があるというのは本当に大前提でして,そういった前提の中で,いかに日々,離婚問題,それこそ週に何回も家裁で調停をやっていますとか,そういうような知識があるかないかというようなこともそうですし,弁護士だから皆が正しくできるというものでもないのが実は現実かなと感じています。   中にはややこしい問題があって,例えば不動産の表記について,やはりきちんとした公正証書を作るには,公証人と相談しないと正しいものができないということがあったりとか,弁護士さんが担当している案件でも,表記について,養育費等について,センターの中の調停者の勉強会で協議をしないと定まらないこともあったりとか,弁護士であっても難しい点を実感するという案件がなくはないですので,そういった意味で,センターの方でまず合意書を作るけれども,その後,不履行があって裁判所に持って行ったときに,こんな条項では強制執行できませんよ,執行力付与できませんよ,なんていうことがあってはならないわけですから,そういった意味で,やはり調停者として気を引き締めないといけないということで,責任が重くなるねという話は出てきたりしています。 ○出井委員 ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山田委員 小泉参考人,本当に貴重なお話をありがとうございました。ADRの利用者像を大変興味深くお伺いしたのですけれども,今はたまたまと言っていいのでしょうか,高収入,高学歴で,さほどに当事者間の交渉力の格差も大きくない事案が多いというお話だったかと思うのですけれども,今後このセンターが非常に有名になって,もう少しいろいろな方がいらっしゃったり,当事者像がバラエティーに富んできた場合に,言わば実体的な公正さとか,あるいは実体的に適切な扶養料額等を決めていくことについての御工夫ということは,既になさっていることもいろいろと御紹介いただいたのですけれども,なお考えておられること等がありましたら,教えていただければと思います。 ○小泉参考人 ありがとうございます。知識の差が出るというところが一番大きいのが養育費と財産分与なのですけれども,養育費は比較的こちらからの情報提供がしやすくて,情報格差がある場合にでも,算定表ってこういうものですとか,算定表の中に含まれる金額はこれこれで,含まれないものはこれこれですというような情報提供ですね,あとは,よく男性側からある主張として,実際にどういう家計になっているのか必要な費用を出せとか,今必要なものしか払わんとか,そういった主張があるわけですけれども,それに対して女性側がまごついてしまうというか,そんなものを出さなければいけないのかとか,小さい赤ちゃんでおむつ代ぐらいしか掛かっていないのにとか,いろいろそういうことがある中で,家庭裁判所の調停でするときはこういうふうにしますよ,そういう家計簿ですとか何とかというのは提出は,もちろんされても構わないけれども,義務はないですよということをお伝えしたりとか,そういう一般的な知識を付与するということで,どちらの味方をするというわけではないのですが,情報量の少ない方に対して情報を提供するということはあるのですが,ただ,財産分与に関しては非常に難しくて,今でもやはり家裁のホームページに載っているような財産分与の財産一覧表,エクセルの表があるかと思うのですけれども,そういうものを参考にお示しをして,一般的に財産分与の対象となるものはこういうものですよということですとか,では別居時が規準になるのか,離婚時が規準になるのか,そういったことも含めて情報を提供するわけですけれども,やはり財産分与に関しては,特に自営業の方を始めとして,非常に細かいところが問題になったりすることもあるので,そういう方に関しては,先ほど申し上げたように,一度法律相談に行かれたらどうですかとか,場合によっては代理人を立ててやられるとか,若しくは財産分与のところだけ抜き取って家庭裁判所で,離婚とか親権とか,その他が合意できているのであれば,その他だけADRで合意をして,財産分与のところだけ家裁でやるという方法もありますということで御案内をするなど,きちんと主張したら取れるべきものがあるのに,ADRだとそれが難しいというような判断を調停者がした場合は,次のステップへの御案内をすることになるかなと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   恐縮ですが,私からも1点だけ御質問したいのですが,公正証書の作成を9割方されているということですが,仮にこの執行力の制度ができたらどうなるかということです。この執行力の制度ができても,最終的に執行するときは裁判所に行かないといけない,その執行決定を取らないといけないという手続が残る形になるわけですね。他方,公正証書であれば,相手方が不履行になった場合は,公正証書を作る手間は掛かるわけですが,その後は即時に執行できるということになると思うのですが,その場合に,これができたら今の公正証書のルートはなくなって,全て執行決定の執行力の方で賄うということになりそうか,あるいは,やはり公正証書を作るということも残る,あるいは,それが大部分になるのか,まだできていない制度で仮定の話になって恐縮なのですが,その辺りの見通しがもしあれば,お伺いしたいのですが。 ○小泉参考人 これは私の勝手な予想になるのですけれども,やはり公正証書を作るという方は大分減るのではないかと思うのです。幾つか理由が考えられて,ADRの合意の話合いって,割と裁判所とかに比べて紛争性が低いですので,お互いに納得して合意するなんていうことも結構多いのです。なので,不履行のリスクみたいなものの見込みが甘いことも結構あって,きっとこうやってきちんと話し合って合意したのだから,払ってもらえるのではないかと思っていらっしゃる方も結構多いのです。なので,いざとなったら裁判所でそういう執行力が付与される手続が確保されているというのであれば,現時点でお金を払って公証役場で公正証書を作っておこうかという人は少ないような気がしています。   あとは,実際に公正証書を作ったとしても,執行文の付与までしない人も結構いて,公正証書を作って送達まではやるのだけれども,実際に不履行が発生したときは,まずは公証役場に電話して手続を教えてもらって,そこから地裁に申立てなんていう手間も掛かったりするものですから,裁判所で執行力付与する手続がどんな形になるのか,私も実はよく分かっていないのですけれども,そこの手間の差ということを考えても余り差がないのであれば,まずはADRの合意書だけで置いといて,実際に不履行が発生したら裁判所で執行力付与の手続をするという方が増えるのではないかという気はします。 ○山本部会長 ありがとうございました。大変よく分かりました。   ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,小泉参考人,本日は大変お忙しい中,詳細な説明を頂き,また,質問にもお答えを頂きまして,誠にありがとうございました。   それでは,これでヒアリングは終了ということになります。本日は貴重な御意見を頂戴して,誠にありがとうございました。参考人の方々は,御退席いただければと思います。   それでは,本日の議事としては以上で,このヒアリングを踏まえた中身の審議については次回を予定しているところでありますが,もしこの場で何か御発言があるという方がいらっしゃれば,御発言いただければと思いますが,いかがでしょうか。   よろしいですか。次回以降にまた御議論を頂くということで。   それでは,本日の議事は以上となります。次回の議事日程等について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。次回の日程は,来月,11月19日金曜日,午後1時30分から午後5時30分頃までを予定しております。場所は未定でございます。決まり次第,お伝えをいたします。   次回の会議では,本日のヒアリングの内容等を踏まえ,執行力を付与し得る対象となる紛争の範囲に関する論点を中心に取り上げることを予定しております。 ○山本部会長 それでは,法制審議会仲裁法制部会第14回会議はこれにて閉会をさせていただきます。   本日も長時間にわたりまして熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-