法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和3年11月29日(月)   自 午前10時00分                         至 午後 1時16分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  1 ヒアリング         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から,法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日は,御多忙のところ,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日,川出委員,北川委員,小島委員,小西委員,齋藤委員,田中委員,藤本委員,宮田委員,吉崎委員,市原幹事,金杉幹事,佐藤拓磨幹事,佐藤陽子幹事,嶋矢幹事,中山幹事,長谷川幹事は,オンライン形式により出席されています。また,木村委員,中川委員,くのぎ幹事におかれては,所用のため欠席されています。   議事に入ります前に,第1回会議を欠席された宮田委員に自己紹介をお願いしたいと思います。   宮田委員,よろしくお願いします。 ○宮田委員 宮田でございます。前回は欠席して申し訳ございませんでした。弁護士をしております。前回の改正の際の検討会から議論に参加させていただいております。今回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○井田部会長 ありがとうございました。   次に,事務当局から,本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○浅沼幹事 本日,ヒアリング関係の資料として,ヒアリング出席者名簿とヒアリング出席者の説明資料をお配りしております。 ○井田部会長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,お配りした出席者名簿に記載されている6組10名の方々からヒアリングを行うこととします。   進行としては,ヒアリング出席者名簿の記載順に,一組ずつ,15分程度お話を伺った後に,10分程度,委員・幹事の皆様からの御質問にお答えいただくという流れで,進めさせていただきます。   それでは,始めたいと思います。   お一人目は,桝屋二郎先生です。脳科学・精神医学の視点から見た児童というテーマでお話を頂きます。   先生,部会長を務めています井田でございます。先生には,御多用中のところ,ヒアリングに御協力いただき,誠にありがとうございます。   まず,先生から15分程度お話を伺い,その後,委員・幹事の方から質問があれば10分程度御質問させていただきたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○桝屋氏 ただ今御紹介いただきました東京医科大学の桝屋二郎と申します。   私の方は,脳科学・精神医学の視点からということで,現行の性交同意年齢について少し考えていきたいというところでお題を頂いております。   【桝屋二郎氏提出資料:スライド2枚目】(以下,桝屋氏発言部分中の【 】内は,同資料のスライドの位置を示す。)こちらは,アメリカで行われた有名な調査研究であるACEスタディーというものになります。ACEというのは,逆境的小児期体験あるいは小児期逆境体験という言い方をよくされますけれども,つまり,幼い頃あるいは小さな頃に受けたいろいろな逆境体験,心の傷が神経発達の混乱を生んで,その後,その神経発達の混乱のために様々な社会的な障害,例えば,認知が少しほかの方とずれていったりとか,あるいは情緒面で落ち着かなくなったりとかということとなって,社会的な不適応を生じるようになり,健康を害する行動,例えば,お酒をすごく飲むとか,自傷をするとか,あるいは性的な逸脱が出てくるというようないろいろな健康面の問題行動を経て疾病状態,病気の状態になって,社会にもっと不適応になって,最終的に早く亡くなるということがアメリカの大規模な調査で分かってまいりました。つまり,小児期の逆境体験,あるいは,10代も含めてですけれども,様々な傷つきが,最終的には社会的な大きな損失,あるいは早く亡くなってしまうということで大きな損失を生むということが分かってきた調査ということになります。当然,広義の小児期逆境体験の中には,性的な虐待あるいは不適切な性行為というのが入ってくるということになろうかと思います。   【スライド3枚目】私は,少年院にも勤めておりまして,今でも非常勤で行っているのですけれども,少年院の在院者のいわゆる被害体験というものを見ていくと,女子少年には性被害を受けている少年がかなりいることが分かっています。このスライドの調査では,家族ではない第三者からの虐待被害の60%くらいは性的な被害を受けていることが分かっています。被虐待体験がある子たち自体も,様々な不適応を起こして,非行に至ったり,あるいは,自傷行為に至ったりということが分かるのですけれども,性的な被害を受けると,非行を含めて様々な問題行動,あるいは社会的な不適応を相当起こすことが分かっています。   【スライド5枚目】脳科学の視点からということで,お話を頂いているので,神経発達の混乱について少しお話をしていきたいと思います。これは福井大学の友田明美先生が行われた有名な研究の成果になりますけれども,様々な虐待を受けると,脳の一部が萎縮をしていくということが分かってまいりました。例えば,体罰を受けると前頭前野の内側,いわゆる理性だとか理性的に行動を制御する,あるいは文明的理性的なヒトとしての様々な行動をつかさどる,そういう前頭前野の一部に萎縮が見られたりとか,あるいは,暴言の虐待を受けると聴覚の中枢である脳の一部が萎縮をする,あるいは,性的な虐待を受けると,いわゆる視覚をつかさどる脳の一部である視覚野が萎縮をするということが分かっています。つまり,すごく大きな脅威体験をすると,その脅威体験に関連する部位がダメージを受けやすいということがだんだん分かってまいりました。性的な虐待でいうと,視覚的なダメージというのがすごく大きいですし,暴言の虐待は聴覚的なダメージが大きいので,その部分の脳の一部が萎縮をするということが分かってまいりました。   【スライド6枚目】神経発達の混乱が生じておりますので,いわゆる脳の成熟過程を少し見ていきたいのですけれども,ヒトの脳の成熟というのは今,生後20年以上,研究によっては25年ぐらい掛かるということが分かってきています。スライドを見ていただくと,青色から紫色になるほど脳が成熟していくわけですけれども,いわゆる20代を超えてやっと安定してくるということが分かっていて,10代に関していうと,まだ成熟の過程ということになります。   【スライド7枚目】ところが,この脳の成熟に関してはタイムラグがありまして,実は大脳辺縁系といわれる,よく古い脳といわれる,感情をつかさどったり,あるいは生命維持をつかさどったりという,いわゆる人間以外の動物でも発達をしているようなところ,あるいは人間の原始的な感情を扱うような,そういうところの発達というのは,かなり早い時期に成熟が終わります。大体10代には成熟が終わるといわれているのですけれども,それに比して,いわゆる前頭前皮質の成熟というのは20歳を超えないと成熟してこないということが分かっています。   ということは,どういうことが起こるかというと,前頭前皮質というのは,先ほど述べたように理性とか抑制を働かせるところになりますし,大脳辺縁系というのは,どちらかというと衝動性だとか,あるいは感情に赴くままの行動というものに関与していることが多いといわれていますので,先ほど述べたタイムラグが生じることにより,10代というのは,どちらかというと感情あるいはその場のいろいろな衝動に突き動かされて行動してしまう,どちらかというと理性でいろいろな歯止めが利きづらい状態になっているということが分かっています。   【スライド8枚目】こういう脳の成熟のタイムラグというのは,実は発達障害の子の場合には,一段とずれが大きいということが分かっていて,これが,発達障害の子たちの,例えば衝動性のコントロールの苦手さだったりとか,あるいは,いわゆる実行機能といわれる様々な物事を順序立てて行動していくことを阻害する一つの原因になっているということがいわれています。つまり,発達障害があるような子は,より抑制が効きづらいことが生じ得るということです。   【スライド9枚目】もう一つ見なければいけないのがホルモンの問題です。男性と女性は,ホルモンのバランスの違いが常に変化を生じていますけれども,いわゆる性衝動を惹起するホルモンとして有名なテストステロンについては,男性は,10代に急激な上昇を来します。急激な上昇を来すことによって,性衝動が急激に上がります。それに対して,女性は,テストステロンの放出レベルがそれほど高くありませんので,10代の男性の性衝動に比べると,女性の性衝動というのは10代ではそこまで高まりません。性衝動の経年変化を見ても,明らかに男女の性衝動の経年変化というのは違いが見られるわけです。   一方で,よくつながりとか愛情に関与しているという言い方をされるのですけれども,人と人との親密さ,あるいは人と人とのつながり,対人関係,そういうものを後押しするようなホルモンであるオキシトシンに関しては,男性よりも女性の方が生涯を通じて放出レベルが高いといわれています。その差が,一般的に10代の女子が性行為への衝動よりも,どちらかというとつながりを求めるという傾向につながってまいります。つまり,例えば,この人を失いたくないとか,あるいは,この人に捨てられるのではないかとか,この人とうまくいかなくなるのではないか,そういう気持ちから,望まない,あるいはよく理解のできていない性行為に同意しやすいということが脳科学的にも生物学的にも裏付けられていると言えようかと思われます。   一見すると同意をしていても,性行為自体に対しては,いわゆる後ろめたさというものを持っていることも多く,そこで傷つきというのが生じてきて,後々,大きな反応ですね,例えばトラウマ反応のような様々な反応が出てくることがあります。このような,いわゆるつながりを求めることで,望まない,あるいはよく理解できていない性行為に同意しやすいということは,一般的によくいわれるグルーミングの原因になります。グルーミング行為といわれるような,男性が性行為を目的として様々な関わり,働き掛けを10代の女の子に行うと,その10代の女の子はつながりを求めて,この人しか自分の頼る人はいないとか,あるいは,この人が自分を一番分かってくれる人で,大事な人なのだというつながりを求めることから,その相手から性行動・性行為を求められると断れないという状況に追い込まれやすくなるということが脳科学的にも,ホルモンのバランス的にもいえるのではないかと思います。   【スライド10枚目】10代のトラウマについて考える際の留意点を少しお話しておきたいのですけれども,子供というのは,いわゆる小さな大人,ミニチュアの大人ではないということです。日々発達,成長,変化をしている存在で,大人を単に小さくしているような存在ではないわけで,当然,成長とか発達の過程で,年齢によって出来事とか物事に対して認知あるいは認識に違いが出てきます。つまり,理解力が当然育っていないので,その理解のできる範囲でしか自分に起こっている出来事が理解できないわけですね。そうすると,自分の分かる範囲で理解をするということが起こるので,どうしても自己関連付けを起こしやすくなります。つまり,自分のせいで今の状況が起こっている,自分が何かしでかした,あるいは,自分が何か悪いことをしたとか,自分が原因でこういうことが起こったということを感じやすくなるので,そこで傷ついたり,自己肯定感が下がる,自分を責めるということが生じやすくなります。また,自分の分かる範囲で理解をするので,どうしても全体的な視点とか客観的な視点を持ちにくいので,短絡的な行動や衝動的な行動になりやすいということがございます。   こういう中でいろいろな傷つき体験を経ると,その傷つき体験が,その時点では,本人が,例えばこの人とつながりたいということで性行為をしたと思っていても,徐々にいろいろなことを理解し,成長する中で,実はあれは対等な同意ではなくて,いわゆる性暴力だったのだというようなことに認識が変化し,後からすごく傷ついて,その時点でトラウマ反応が起こるということがございます。よくPTSDには潜伏期間があるという言い方をしますけれども,その潜伏期間がすごく長く,もう何年にもわたって大きな問題を起こさなかった人が,数年たってから,自分が受けた行為というのがすごくひどい行為だったのだというのが分かって,PTSDを発症したりすることがございますけれども,それを休眠効果,スリーパー・エフェクトという言い方をいたします。   子供の心と体というのは,本当にトラウマに弱く,傷つきやすく,しかも,そのトラウマというのは,先ほど述べたACEスタディーのように,最終的に様々な問題行動だったり疾病を生じることで,病気で亡くなる場合もあれば自殺で亡くなる場合もありますけれども,早く亡くなってしまうというような,生涯にわたる悪影響を及ぼす可能性があるということが分かっております。   【スライド11枚目】まとめになりますけれども,本日お話しさせていただきましたように,脳科学的にも精神医学的にも,13歳で冷静で長期的な視点での判断や同意をするというのは,やはり難しいと考えざるを得ないかなとは考えています。   脳科学やホルモンの観点からも10代は短絡的・衝動的な行動に走りやすいです。例えば,いわゆる避妊をしてほしくても,その相手がやってくれない場合,それを止める力もないし,先ほど述べたようにつながりを重視して,ここで拒否したら嫌われるかもしれないというような中で,避妊をしないまま妊娠をしてしまうということも非常に多いですし,例えば,先ほど私は少年院に勤務をしているということを言いましたけれども,女子少年が妊娠中に少年院に入ってくることがよくあるのですけれども,その場合にも,やはり相手の男の子だったり,あるいは男性と,離れたくない,別れたくないという思いで体を許して,その結果として妊娠をするのだけれども,少年院に入院している間に相手と別れたりすると,相手と関係性を保つために行った性行為の結果ということだと,相手と別離すると,そこまでの愛情を持てなくて,結局は乳児院に預けざるを得なかったりということが多々生じたりすることがございます。だから,本当に様々な悪影響が出てきますので,今挙げた事例が虐待に当たるかというのは議論がありますけれども,結果的に次世代の虐待,例えば今述べたように乳児院に預けざるを得ないような状況になったりということも出てくるので,ここは留意が必要な点かなと思っています。   あとは,脳機能に偏りを持つような場合,先ほど述べたように,知的能力障害を含む神経発達症群,つまり発達障害があると,いわゆる脳の成熟のタイムラグ,あるいは短絡的・衝動的な行動というのが更に顕著になるので,この点は,より配慮が必要ということになるかと思います。   そして,早すぎる性行為で心身が傷ついた場合,その後の長い人生に長期的な,あるいは深刻な悪影響を及ぼす可能性がありますので,その点にもやはり留意をして,性行為の同意年齢等を考えていく必要があろうと考えています。   やはり今後,早すぎる性行為のリスク,あるいは十分な準備をしてからの性行為のメリット,こういうことを教える教育の機会というのを作るべきと考えております。   以上になります。 ○井田部会長 桝屋先生,ありがとうございました。   それでは,10分ほど質疑応答の時間がございますので,御質問のある方はいらっしゃいますか。 ○山本委員 脳科学の視点から,またホルモンのこともとてもよく説明していただき,よく理解できました。ありがとうございます。スライドに「13歳は冷静で,長期的な視点での,判断や同意が難しい場合が多くなる。」と書いていただいているのですけれども,何歳であれば冷静で長期的な視点での判断や同意ができるようになると思われますか。 ○桝屋氏 本当にこれは難しい問題で,当然,人の成長というのは個人差があるので,絶対にここで線引きができるというものではないのですけれども,先ほど言いましたように,やはり,いわゆる脳の成熟を考えると,20歳を過ぎてやっと成熟してくるということを考えると,できるだけ20歳に近い年齢にしていただいた方が,脳科学あるいは精神医学的な視点でいうと,有り難いと思っています。例えば,いわゆる10代の前半から半ばでは,やはり当然,脳の成熟を含めて,早いのではないかと考えますので,できるだけ20歳に近付くような形での御検討が望ましいのではないかと考えます。 ○山本委員 ありがとうございます。あと,スリーパー・エフェクトによって後から被害に気付くということをお話しされていたのですけれども,それは脳の成熟によって気付くのか,あるいは社会的な経験によって気付くのかということと,何をきっかけに気付くのでしょうか。気付いた時点が大体いつ頃になるのかということは,被害を認識して訴えられる期間,公訴時効とも関連してきますので,そちらについてお伺いしたいと思います。 ○桝屋氏 この気付くタイミングというのは,脳の成熟というよりは,取り囲むいろいろな情報だったり,あるいは環境だったりの影響が大きいのだろうと思います。やはり,今,インターネット社会になって,いろいろな情報が若い子でも手に入るようになってまいりましたので,自分がされた性的な行動というのが,どういう社会的な位置付け,意味付けをされているのかというのが,情報として比較的手に入りやすくなっているのは確かで,私の臨床の体験としては,そういったニュースだとか,いろいろなブログの日記だとか,あるいはいろいろな方の体験談みたいなものを経て自身の性被害に気付いていくケースが,多いだろうと思っています。   先ほども少し触れましたけれども,早すぎる性交渉自体への罪悪感については,体験当時から持っている子が多いのですね。あれはあの人とつながるために必要だったとか,あるいは,あの人が望んだのだからあれは必要だったという形で,どちらかというと自分に言い聞かせているような状態であったところ,いろいろな情報を得るうちに,やはり違うのだと,あれは本来在るべきものではなかったのだということに気付いていく,その年齢がはっきりいつかというのは分からない,言えないのですけれども,ただ,早い子だともう,17,8歳ぐらいで気付く子もいれば,二十歳を超えて気付く子もいるというような状況かなとは思います。だから,10代前半のいろいろな性行為で傷ついて,いわゆる10代後半になってトラウマ等の精神科的ないろいろな症状が出てきて,受診するというのは,ケースとしてはよく認められるかなと思っています。 ○山本委員 とてもよく分かりました。ありがとうございます。 ○齋藤委員 桝屋先生,お話ありがとうございました。今まで女子のお話をいろいろ教えていただいたのですけれども,10代男子も長期的な視点での判断や同意が難しいと思うのですけれども,そうした性行為による男子の傷つきについて,何か思うことというのはございますでしょうか。 ○桝屋氏 先ほど述べた脳の成熟に関しては男子も女子も変わりません。ホルモンに関しては男女間にははっきり差があります。そういう意味では,男児の場合はテストステロンの分泌が高まるので,10代というのは性衝動がすごく大きくなっている状態になるわけです。そういう中で不適切な性交渉をやはり持ちやすくなる,それは,自分から性交渉を持ちたいと行動する場合もあれば,相手から何らかのアプローチがあってという場合もあるのですけれども,やはり先ほど述べた休眠効果というのは男女問わず出てきますので,後々になって自分が行った性行為の意味付けというものを,やはり捉え直したり見つめ直したりする機会が男性にもやってまいります。そのときに,いわゆる傷つきが出てくる子もいれば,そこまでの傷つきが出てこない子も当然いるわけで,ただ,やはり傷つく子がいるのは確かで,そのことが原因で,自分が何かすごく汚れてしまったような感覚とか,汚されてしまったような感覚を持って,それが精神症状につながって,その後すごく本人を苦しめる,例えば強迫的な行動が出てしまったりとか,不安がすごく高まって,その後,長年にわたって苦しめられるということはよくあるかと思います。 ○齋藤委員 ありがとうございます。 ○金杉幹事 桝屋先生,本日はありがとうございます。今の齋藤委員の御質問とかぶるかなと思ったのですが,もしかして少し切り口が違うかもしれませんので,お尋ねいたします。   逆境的小児期体験をした場合にいろいろな問題行動が出てくるというのは,被虐体験をしたのが男児であっても同じように問題行動等が出てくるということでよろしいでしょうか。また,その場合,性的逸脱行動が出てくることもあるというお話がありましたが,それも男児の場合でも同じことが起こり得るということでよろしいでしょうか。 ○桝屋氏 先ほど出たACEスタディーというのは,男女問わずの研究成果になりますので,例えば,男児でいわゆる児童虐待を受けていたような子供がそのような経過をたどるということはよく知られておりますけれども,同じように,どれぐらい心の傷つき,脳の傷つきがあったかというところにやはり影響はされてくると思います。だから,当然,男児であっても性的な傷つきでACEスタディーのような経過をとることはございます。それは御指摘のとおりかと思います。 ○金杉幹事 ありがとうございました。 ○今井委員 大変貴重な御報告をありがとうございました。基本的なことだけ確認なのですが,人の脳の成熟には25年以上掛かるというお話で,頂いた資料を見ますと,恐らく医学的な,生理学的な見地からのお話だと思って聞いていました。しかし,その中では自分が行う性的行為の意味付けということにも言及されていたように思いますので,これが細胞学的,生理学的な意味での25年という数値なのか,それとも,社会的ないろいろな経験値が上がっていくことも含まれたお話なのかということと,それに関連して,例えば成熟して25年たった以降には,その人なりの認知のパターンができていると思われますので,その後,いろいろと他のあり得べき行動パターンを教えても,受容性が低いということになると理解してもよいのでしょうか。そこを教えていただきたいと思います。 ○桝屋氏 すごく難しい問題になりますけれども,いわゆる20年以上成熟に時間が掛かるというのは,飽くまで生物学的・脳科学的な話になります。少なくともこの20年を超す年数に関しては,脳は成熟の中で変化を続けているということになります。その脳をどう使って,どういう行動を選択するのかというのは,それまでの教育だとか,経験だとか,いわゆるその人の持って生まれた性質や特性も含めて,いわゆる脳だけでの問題ではないということにはなります。ただ,どう行動を選択するかの中で,脳の抑制機能がどれぐらい働くかとか,あるいは脳がどれぐらい衝動的になっているかというのは大きく影響してきますので,脳の成熟にそれぐらい掛かるということが,イコール全員が衝動的になるとか,全員が短絡的になるというわけでは全然ないのですけれども,ただ,やはり脳の衝動性とか,あるいは抑制の効きづらさというものが,それまでのその人の経験だとか,学習だとか,あるいは特性だとかというものに大きく影響して行動選択をしていくというのは確かですので,いわゆる切り分けはなかなか難しいとは思います。衝動的でも教育でカバーできる部分とか,あるいは,いろいろな環境の調整だとか保護でカバーできる部分も当然あるわけですけれども,やはりそこはその分,そのようなカバーを手厚くしないと,なかなか衝動性等を止められないということも出てくるかと思います。だから,どちらも不可分で,両方が影響し合って,その人の選択とか行動とか,あるいは認知というのが結果として生まれてくると考えていただければ一番いいのかなとは考えています。 ○今井委員 よく分かりました。どうもありがとうございます。 ○長谷川幹事 10代の場合,後々自分を苦しめることになるような不適切な性行動というのが分からずに,見掛け上同意してしまうということがあるということ,性交同意年齢というのを考える上で,とても材料になると思いました。他方,短絡的に迎合的なものではなくて,自分が嫌でも断れないというような年齢的なものもあると思うのですが,その辺りは脳科学的な見地からはどのようなことになっていましょうか。 ○桝屋氏 相手からの申出だったりアプローチを断るかどうかというのは,やはり今まで築いてきた相手との関係性に大きく影響してくるので,そこは脳の問題だけでは一概には言えない部分だとは思うのです。ただ,先ほど述べたように,断れないという中に,失いたくないとか,ばかにされたくないとか,あるいはつながりをなくしてしまいたくないというような思いがあって断れないという意味では,先ほど言ったように,つながりを求める,あるいは脳の成熟のアンバランスさというのはやはり影響しているということを考えざるを得ないかなとは思いますので,断る,断らないというのは,先ほども言いましたけれども,それまでのいろいろな教育だったりとか,関わりだとか,あるいは,ほかの人とのどれだけ温かい人間関係を築けているかとか,いろいろなことが影響してくる分野ではありますから,一概に脳だけでは言えないのですけれども,やはり今日のお話も相当影響していると考えていいかと思います。 ○井田部会長 ありがとうございました。御議論は尽きないのですけれども,これで終了させていただきたいと思います。   桝屋先生,本日は専門的な知見について,我々にも大変分かりやすい言葉で御説明くださり,誠にありがとうございました。お話しいただいた内容につきましては,今後のこの部会の審議に役立たせていただきたいと思います。本部会を代表して心より御礼申し上げます。ありがとうございました。   2組目の方は,佐保田美和様,本田義明様,中村彩夏様です。青少年の性行動についてというテーマでお話しいただきたいと思います。   部会長を務めております井田でございます。今日はもしかすると履修している授業の時間とバッティングしているのではないかと心配しております。こうしてヒアリングに御協力くださり,誠にありがとうございます。まず,皆さんから15分程度お話を伺い,その後,委員・幹事の方から質問があれば10分程度御質問させていただきたいと思います。   それでは,よろしくお願いいたします。 ○佐保田氏 皆様,はじめまして。私は,学生団体Safe Campusの佐保田と申します。   【Safe Campus提出資料:スライド1枚目】(以下,佐保田氏,本田氏及び中村氏発言部分中の【 】内は,同資料のスライドの位置を示す。)Safe Campusは,慶應義塾大学の未公認学生団体になります。私たちは,性暴力の被害をなくしたいという思いから2019年に活動を始めまして,現在は,約20名の学生が在籍をしております。これまでには様々な形で性暴力や性的同意に関する啓発活動であったり,あるいは学内でのロビーイング活動などを行ってまいりました。本日は,団体を代表しまして,私,理工学部4年の佐保田と,総合政策学部4年の本田,同じく総合政策学部2年の中村より,若者の性行動の実情の報告や,我々の考える問題点などについて述べさせていただきたいと思います。   【スライド2枚目】まず初めに,私たちが考えている社会の在り方というものを整理させていただきます。それは,不同意性交の取締りを強化しつつ,若年層が健康な性行動を行えるように法の整備と教育の充実,そして環境の構築も並行して行っていくべきと考えています。ここで強調したいのは,やはり被害者が不利な立場に置かれることが絶対にあってはならないということです。一方で,性行動自体が悪いと思っているわけではなくて,相手を傷つける性行動や,性の無理解による結果的に危険な性行動が悪だと考えています。やはり性や性行動にはグラデーションがありますので,その中で精神的にも身体的にも健康な性行動を身に付けていくということが重要であって,性に関する若者の理解を推進することと並行して,より包括的に被害者が保護される社会を作っていくことが重要だと思います。今回の改正事項の検討に当たっても,どこまでが罰せられるべきかという線引きの議論のみに終始するのではなくて,被害者が被害を訴えることができて,認められて,支援を受けられるということに是非重きを置いてほしいと私たちは考えています。   【スライド3枚目】それでは,個々の論点に関する議論に先立ちまして,発表概要をまとめます。まず,性交同意年齢に関しましては,現行の13歳では明らかに不適切と考えておりまして,引上げを求めます。また,地位・関係性を利用した犯罪類型の創設に関しては,例を示しながら,私たちの考える意見と,あとは団体外の学生などのより一般的な意見の両方を御紹介します。最後に,同意の在り方について,若者の意見をそれぞれの立場から御紹介したいと思います。 ○本田氏 ここからは本田が担当いたします。   【スライド4枚目】この審議会に出席するに当たりまして,若者がどのような性行動を行っているのかについてヒアリングを実施しました。ここからは,このヒアリングで得られた若者の性行動の実態について紹介いたします。対象は,中学生から大学生を中心に,約90名について,インタビュー又はオンライン上でのアンケートで実施しました。ここで御留意いただきたいことですけれども,今回のアンケートではSafe Campusのメンバーと関わりのある人を中心に実施しました。そのため,このアンケート,聴き取りが若者全体の意見や実態を反映しているわけではありません。また,アンケートの回答には性被害や性行動の年齢が判別できない回答も含まれていましたが,できるだけ広く若者の性行動を取り上げるという観点から,そのまま取り上げております。   【スライド5枚目】まず,性的な知識の情報源についてですけれども,そのきっかけとして,小学校高学年や中学時代における友人との会話などから,自分の知らない性的なワードに興味を持ち始め,その後,インターネットや雑誌などでより多くの知識を得ようとしています。同様の回答が非常に多く寄せられました。また,公的な情報源である学校の教科書や保健の授業を挙げる方も少なからずいましたが,そのほとんどが抽象的・表面的であったといった印象を持っており,学校における性教育の不十分さを感じていました。そのほかにも,パートナーから教えてもらうという回答や,助産師や産婦人科医の方など性教育関連のインフルエンサーとして活動されている方を情報源としているという意見もありました。一方で,アダルトビデオやアニメといった創作物のみを情報源としているといった回答も寄せられました。   【スライド6枚目】次に,恋愛や性行動に関わるトラブル,直感的にやばいなと思った事例について,ヒアリングを実施しました。ヒアリングの対象としては,本人のエピソードだけでなく,親しい友人の身に起きたことも対象としました。その中で,幾つか同じような回答が寄せられた点としては,周りの中高生が塾講師の大学生や,その更に上の世代の教員を含む社会人と恋愛していることに不安に感じているという点です。また,中学生同士での性行為において,アダルトビデオなどの間違った知識を信じていたり,性行為を誘われた際にショックを受けたなどの回答が寄せられました。   【スライド7枚目】最後に,性に関して不安に思っていることや判断に困っていることについてヒアリングした結果を紹介します。避妊具の使い方など踏み込んだ性教育を受けていないため,性感染症や妊娠のリスクに正しく向き合えていないのではないかといった不安を感じていたり,パートナーとの知識や認識にギャップがあることを不安視している声が挙げられました。また,性的同意について理解していたとしても,いざ相手から性行為を望まれたときに断り切れなかったり,性に関する知識を学びたいと思っても,周りから笑われてしまう可能性を感じ,言い出せない,行動しにくいといった意見がありました。これらは主に高校生の意見でしたが,中学生の中には,そもそも性的な話が自分事ではなく,遠い存在の話として感じているといった意見もありました。 ○中村氏 ここから中村に替わります。ここから,性交同意年齢に関する私たちの意見を述べます。   【スライド8枚目】私たちは,現行の13歳という性交同意年齢は,若者の性行動や教育の実情に鑑みて明らかに不適切であると考えております。また,何歳に引き上げるべきかについては,最低でも義務教育修了後が適切であると考えます。理由としては,まず,最低限の知識・教養を身に付けるための義務教育を修了していない子供たちに同意能力があると考えるのは不適切だからです。また,13歳で性行為をする子供もおりますが,同意能力や知識の正確性には疑問が残る上に,多くの13歳には十分な同意能力がないと考えられます。したがって,自ら同意ができるだけの情報を提供され終わるまでは子供たちを法律で守るべきだと考えております。また,法の整備だけでなく,教育の推進やインターネットなどの性に関する情報を得る環境の整備にも力を入れるべきだと考えます。   【スライド9枚目】続いて,性交同意年齢を引き上げるべき根拠を二つ御説明します。一つ目は,性教育が足りていないから,二つ目は,自分自身がされていることへの認識ができないからです。   まず一つ目ですが,日本の義務教育では中学校における性教育の歯止め規定が存在しており,受精などは学ぶものの,妊娠に至る過程や性交の取扱いは各学校の判断に委ねられております。ここで,性教育が不十分であることを示す二つの事例を御紹介します。一つ目は,男子中学生が友人から教わったアダルトビデオを基にした間違った知識を信じた事例,二つ目は,中学生のカップルがセックスをしたときに,男性が避妊具を付けていなかった事例です。これらの背景には,性に関する知識が不十分であることに加え,同意に必要な知識も欠如していることがあります。   【スライド10枚目】次に,自分自身がされていることへの認識ができないからという理由に関連する若者の声を御紹介します。どのように性に関する知識を得ているか,また,自分の同意能力についてどう思うかという質問について,22歳女性のAさんは,高校生で彼氏ができてから性的な事柄を調べるようになった,13歳当時はそもそも性行為を理解できなかった。16歳女性のBさんは,小学校高学年ぐらいから性的なことに関心を持った。中学生で同意・不同意の判断ができたかは疑問が残ると回答しました。20歳男性のCさんは,6歳頃から性的なことに関心を持ち,中学生の頃には一通りの知識があったため,同意はできたと思うと回答しました。これらを踏まえると,性的な事柄へ関心を持つ時期は個人差が大きいといえます。また,性行為や性被害を正しく認識できず,性行為のリスクやその回避方法の知識が不足しているために,仮に同意があったとしても,それが真の同意ではない可能性が高いと考えられます。   【スライド11枚目】続いて,性交同意年齢に関する例外規定についてです。性交同意年齢を16歳に引き上げた場合,私たちの懸念としては,16歳と15歳の恋愛関係にある者同士の性行為などが不同意性交として強制性交等罪で罰せられることです。私たちは,性交同意年齢未満の者との性行為を全て処罰するべきではないと考えており,ここで例外に当たる状況を二つ御紹介します。まず,15歳,すなわち性交同意年齢未満の者同士の性行為です。彼らの場合,そもそも同意能力がなく,教育も受けていないため,処罰をすることは適切ではないと考えます。二つ目は,一方が16歳未満,他方が16歳以上の次のようなケースです。高校1年生同士で,一方は15歳,他方は16歳,3年間交際していて,親同士も恋愛関係を知っており,行為に及ぶまでに互いに信頼関係を築いている。避妊方法や性的な行為の結果も理解しており,適切に避妊をして,その都度,合意を確認しながら性行為を行った。このように対等な関係や性行為への正しい理解があり,15歳の側にも同意の能力があるとみられ,行為中も同意を取っている場合には,問題はないと考えます。   最後に,例外だが問題点がある事例です。中学校3年生と2年生で,先輩・後輩の関係にあるところ,先輩が後輩に行為を迫り,後輩は断ることができず行為に及んだ結果,その後それがトラウマになった。この例では,先輩にも十分な教育の機会が与えられていないため,処罰されることには疑問が残りますが,被害者は長期的な精神的被害を受けるため,加害者への教育や事後対応,被害者への救済措置が必要であると考えます。 ○佐保田氏 それでは,最後に,地位・関係性を利用した犯罪類型の創設に関しても,事例を挙げながら意見を述べさせていただきます。   【スライド12枚目】まず,私たちは先輩・後輩関係や上司と部下,10歳以上の差など比較的大きい年齢差があるなどといったこと自体は問題だとは認識していません。むしろ,これは私の体感ではありますが,常に同級生とだったり,同じポジションの人同士で交際しているということの方がまれなのではないかとも感じます。例えば,高校卒業後に教師と付き合って結婚するというような例や,マッチングアプリなどで大幅に年上の相手を積極的に探すというような事例もお聞きします。ただし,一方でその関係性が対等なものでなければ真の同意は得られないものと認識しています。そして,地位や立場を利用するということが不同意に入ると考えています。ですので,断れない,あるいはそもそも合意が成立し得ないような状況を利用した場合は,処罰されるべきなのではないかと考えています。   これから,幾つかの事例を基に一部を改変した例を二つ御提示します。それぞれに対して,私たちSafe Campusの意見と,より一般的と思われる意見も紹介します。   【スライド13枚目】まず,1例目は家庭教師と生徒の例です。かいつまんで御説明します。高校1年生と27歳の家庭教師,講師の「ストレス発散に良いよ」という言葉を信じて避妊なしで性行為をした。生徒はしばらくしてから集中力が低下した。講師はふだんから高価なプレゼントをあげるなどしていた。生徒はほとんど性行為の知識がなかった。こちらの例では,金銭的な優越性を利用しているとも思われ,また,生徒の真面目な性格や知識のなさに付け込んで,だまして,断れないよう誘導していると思います。また,その後,生徒が心身に支障を来しているということからも,同意があったとするのは無理があり,加害者の男性は処罰されるべきであると思います。ただし,一方で団体外の学生からは,16歳ならそれくらい判断できるのではないかといった意見や,そもそもプレゼントを受け取ることへの疑問を示すような意見も見られました。   【スライド14枚目】2例目は,大学における性被害の事例です。同じダンスサークルに所属する大学1年生と3年生の後輩と先輩,先輩はオーディションの審査や指導をする立場にある。ある日,後輩が買い出しに誘われて,その後,先輩の家に行くことになった。帰ろうとしたところ,先輩が同意なく性行為に及んで,後輩はそれを明確に拒否することができなかった。後輩はその後,心身に支障を来して大学を中退してしまった。こちらの例では,ほぼこの先輩・後輩の両者は師弟関係にあるといえると思います。そもそも買い出しや家に行くことを断るのは不可能ではないでしょうか。また,先輩はオーディションの審査をする立場であることから,断ることによってこの女性が不利益を被る可能性があり,ノーと言うことは非常に困難な状況です。こうした例は,残念ながら,特に大学生などでよく聞く話で,私たちは強い問題意識を持って活動に取り組んでいます。一方で,例えば,先輩がどれくらい強く出たのかが気になる,男性側に加害の意識がなさそうなので,処罰するのは難しいのではないかといった意見もあり,刑法において処罰されるべきと考えるかどうかは意見が分かれたところです。このような状況自体が同意への理解の浅さを示しているのではないかとも思います。   【スライド15枚目】駆け足になりましたが,最後に,同意の在り方についての議論を紹介させていただきます。まず,No means no型においては,提示された行為に対してノーと言うことが不同意ということになりますが,これではそもそもノーと言えない関係性の性交が含まれない形になってしまうことから,Yes means yes型がよいのではないかと考える学生もいます。こうした意見は,特に性に関する活動をしている学生だったり,関心の高い層に多い印象があります。一方で,同意の取り方まで規制をしてほしくないというような意見も耳にします。幾ら性についてオープンに語ろうという風潮が活発化してきたといっても,やはり自分の性行動についてオープンに語るということは心理的にも難しく,それは行為の相手に対してもそう感じる場合が多いようです。性的な行為について,必ずしも「はい」と言うことだけを同意とみなすということに抵抗があると感じたり,あるいは,「ノー」と言えなくて嫌な思いをしたのだけれども,処罰まではされてほしくないと思ったりする人がいることもまた事実ではあります。   とはいえ,嫌よ嫌よも好きのうちというような言葉が平気で存在するような日本において,私たちのように草の根的な活動をしていくことももちろん重要だと思いますが,法律などで国から合意とは何かということを明記していただくことが,今後,被害をなくしていくことに大きく寄与するのではないかと私たちは考えております。   以上で発表を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。 ○井田部会長 ありがとうございました。時間どおりまとめていただきまして,大変助かります。   では,質問のある方,どうぞ。 ○山本委員 様々な事例や若者の方たちの意見を御紹介いただき,ありがとうございます。二つあるのですけれども,一つはスライドの13枚目について,信頼関係を用いて,良いことだと思わせて性的関係を強いたという事例ですけれども,贈物をしている,受け取っていることなどもあり,外目からは恋愛のようにも見られることも多いパターンかなと思います。グルーミングをされた場合,被害を受けた人が,恋愛で私は先生のことが好きなのだと思ってしまうことが,若年の方に多いと思うのですけれども,このような,教師であったりとかコーチであったりとか,そういう優越的な地位を持っている人たちと,一定年齢未満の人とは,もう恋愛というのは成立しないとお考えになりますか。一定年齢未満が何歳になるかは議論があると思いますが,要するに,このような関係で性的行為をした場合は全て処罰されるべきだと思われるかどうかなど,お聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。 ○佐保田氏 ありがとうございます。私の意見だったり,学生団体の中の意見になってしまうのですが,教師だからそういった付き合いが絶対全部駄目ということにすることには,やはり少し疑問の余地が残るかなとは感じます。というのも,実際に付き合って本当に結婚したという例も聞いていたりもするので,そこまで処罰するということが果たして彼らにとってよいのかというところは,どうしても私たち自身も葛藤してしまうところであります。ただ,感覚としては,そういった地位・関係性がある中で,本当に互いにとって対等な関係が築けていて,両者にとって健康な性行動ができるのかということは正直,非常に疑問に思いますし,もしそれが,立場が下の方の側が興味本位とかでそういった行為を望んだことだったとしても,相手のことを考えて,待つとか,しないとか,そういったことを判断できるということが,責任のある成人のするべきことなのではないかと個人的には思っております。 ○山本委員 ありがとうございます。もう一つよろしいですか。   地位・関係性についてなのですけれども,年齢差があること自体は問題ではないということで,もう少しお伺いしたいと思ったのは,今,10代女子の4,5人に1人はインターネットで相手と出会っているという共同調査の報告もあり,学校関係者とか仕事先の関係者ではない,地位・関係性がない人たちと会うということが日常化しているとも思います。そのときに,若年の人が年齢が上の人と会い,そして,その関係性の中で影響を受けるということもあり得るのかなと思うのですけれども,それは地位というふうに考えた方がいいのか,それとも,そういう影響は,例えば,相手が20代,30代,40代,50代でも余り関係がないと思うのかということなどについて,もし御意見があれば伺えればと思いました。よろしくお願いします。 ○佐保田氏 ありがとうございます。おっしゃるとおり,周囲でもマッチングアプリを使っているというようなことは非常に多いなというのがあります。その中で,ほとんどフラットな状態で初めましてで会って,年齢差がある。そこに関しても,地位・関係性の差というのは,年齢差だけで定義されるわけではないですけれども,年齢が上がるにつれて,やはり社会的地位というのは基本的には上がっていくものと思っているので,金銭的に優位性が高かったりとか,そこにはやはり何かしらの関係性が存在するとは思います。そのようなマッチングアプリでの初めましての関係性と教師・生徒の関係性というのが同じとは正直思わないというところはあります。元々の関係性がないところとあるところというので両者を一緒くたにすることが適切かどうかは,余りそういうふうには思わないのですけれども。   すみません,答えになっていますでしょうか。 ○山本委員 いろいろと,難しい,今の現場で起こっている問題を皆さんの感性で教えていただいて,とてもよかったです。ありがとうございます。 ○井田部会長 ほかに御質問はございますか。よろしいでしょうか。   それでは,これで終了とさせていただきたいと思います。   佐保田様,本田様,中村様,本日は,とても具体性のあるお話をしてくださり,また,大変率直な御意見を述べてくださり,大変参考になりました。お話しいただいた内容は,今後,この部会の審議に役立ててまいりたいと思います。本部会を代表して,心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。   3番目の方は,西田公昭先生です。性犯罪に誘導するマインドコントロールというテーマについてお話を頂きます。   部会長をしております井田でございます。本日は,御多用中のところ,ヒアリングに御協力いただき,誠にありがとうございます。まず,先生から15分程度お話を伺い,その後,委員・幹事の方から質問があれば10分程度御質問させていただくという流れでまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○西田氏 本日はお招きありがとうございました。立正大学心理学部の西田公昭と申します。私はこれまで,マインドコントロールに誘導されて様々な刑事事件の被害に遭った方々などの心理過程の説明をしてきた者です。   【西田公昭氏提出資料:スライド2枚目】(以下,西田氏発言部分中の【 】内は,同資料のスライドの位置を示す。)「マインド・コントロールとは」というところを御覧ください。マインドコントロールというのは,人が獲得する情報を体系的に操作すると,それは認知や感情に影響を与えて,価値観を変容させるというところにポイントがありまして,自分の意思や行動を誘導されたという認識のない人が普通なのですけれども,実は相手の思うつぼにはまってしまうと,それをコミュニケーションのみで行ってしまうので強制性を感じないと,レイプのように強い力が働けば強制性は明白ですけれども,基本的にそういうものがないから強制の問題になりにくいという特徴があるわけです。しかしながら,洗脳と呼ばれている現象では,拷問,虐待,性的な虐待等も用いるということもありまして,幅広く捉えると,どちらも心理学的には強制性の問題はあると思います。   紫のところに書いてありますが,社会規範を逸脱した行動であったとしても,意思が誘導されたと気付かないところに特徴があるわけですので,罪悪感というのが希薄であったり,あるいは肯定さえしてしまうことがあるというところがマインドコントロール被害者の問題になります。しかも,実際に起きている複雑な問題としては,その被害者が今度は加害者や共犯者となって,ほかの人々の被害を招くという特徴もあります。   【スライド3枚目】そもそもマインドコントロールと性被害の実態のキーになるのが,変容された規範の信念です。つまり,師弟愛,真の愛,訓練,修行,健診,あるいは治療などといった正当化,つまり言い訳ですね,それを信じて,そういう信念が形成されたり,変化してしまって,正しいことなのだとして受け入れてしまうというところにポイントがあります。性行為というのが,そもそも殺人等と違って,その行為そのものが悪ではないものですから,そういった規範信念というのは割と簡単に置き換えることができると社会心理学的には考えられています。   その技術としてポイントになるのがスライドに記載されている三点です。まず,社会的支援を遮断してしまって,批判や干渉を封鎖するということ。それは物理的にも心理的にも,やり方はいろいろあります。次に,権威に対する服従という心理です。これは教祖や,それから,私の経験では,牧師という宗教的な地位の人もいました。それから,教師やコーチといった教育的な地位の人,あるいは親や年上といったような目上の人といった者も権威に相当し,このような権威のある人が命令していることに関しては批判することができずに,正しいのかなと思い込んでしまうという心理です。三つ目が,恐怖による支配です。拒否することができないということによって起きる,つまり,なぜ恐怖になるかというと,相手からの親切や恩に報いないと罪悪感が生じますし,見放されると生きていけないのではないかという不安感,そして好奇な目で見られるので人に言えないという羞恥心といったものを盾にされて,怖くなって,脅迫されてしまうという,そういった意味での恐怖というのが生じる。この恐怖や服従の心理や,それから,合意性の確認が剝奪されているので,一般的な考えを参照できないまま,正しいのではないかと思い込んでしまう。こういう心理的なプロセスが同時に働くことによって被害が生じていると考えられます。   【スライド4枚目】コミュニケーションだけで行う標準的なプロセスを示したものがこの六つの過程になります。まずは信頼関係を築くということですね。そして,その後,権威といったものの構築になります。そして,服従することへの期待,つまり,服従することによって何か本人に良いことが起きるということですね,しないと不利益が生じるといったような期待感を与えることになります。そして,それがそれほど悪いことではないのだという正当化の論理が次に提供されて,さらに,自己封鎖なのですけれども,これはほかの人には言ってはいけないことなのだ,自分だけの秘密にしなければいけないのだと思い込まされていきます。最後に,協力的な関係として,ほかの人を勧誘する手助けをさせる。実は私は今,こういう被害を受けてた事例の説明を抱えているのですけれども,被害に遭っていた友達が今度は自分を被害者として誘ってきたというようなことで,被害者が加害者といったややこしい関係ができたりします。   いわゆるグルーミングですと,ここの最後のところまでは行かないかもしれないのですけれども,完全なマインドコントロールだとこういう話も起こります。グルーミングとマインドコントロールというのは,恐らく私は基本的に同じようなプロセスだと考えていたのですけれども,そういう意味では最後のところで被害者が加害者になってしまうといったところが更に恐ろしいところかなと考えるとよろしいのではないかと思います。   【スライド5枚目】さて,抵抗はできないのかというところですが,個人の信念の変容といったものは情報操作で合理的に起きるわけでありまして,自らの自由意思で支配者の価値を受容したと自分では思い込んでしまう傾向にあるわけです。日本人というのは,例えば宗教とかを信じていない人が多かったりして,絶対的な価値というのを余り持っていなかったりするというところももしかしたら影響するかもしれないのですが,変容要因1として,リアリティーを構築されること,変容要因2として,そこに価値があるととにかく思い込まされていくことによって,人間の持つ信念というのは割と簡単に変わります。具体的な内容はともかくとしてもなお,そういうコミュニケーションを繰り返すことによって,数か月から半年,1年といったようなところで,今まで正しいと思っていたことが誤りで,誤りと思っていたことが正しいのだというふうに人は割と変わっていくだろうと,特に子供となれば,簡単にそれは置き換えられるだろうと思います。   【スライド6枚目】こうした,目には見えませんけれども,言わば,一つの心理的な拘束力・影響力によって支配されている状態になると言えます。まず,最初は,うそや隠蔽によって情報のコントロールが行われます。そして,それによって意義を与えられて,期待を持たされる。そして,それにより愛情を感じたり,逆に恐怖を感じたりといった感情の支配が起こるようになり,最後に,それに報いたり反抗したりすることによる自責の念を感じるようになりますし,だんだんとそれが習慣化していくことによって,それが当たり前のことなのだ,正しいことなのだと自分で信じ込んでしまうというプロセスがあるとされています。   こうなってしまいますと,全く別の人格を持った人のようになって,支配者のみに従順になり,周りの意見を聞かなくなってしまうというようなことが起きます。私は,最初は,詐欺的な活動をしている団体がその詐欺的な行動を正当化していたことについての研究をスタートにしたのですけれども,オウム真理教のような団体の研究になると,知性も教養もある人だったのに,殺人事件や性的なことも含めて,規範信念が全て変わってしまったということが起きていました。さらに,いろいろな事件と関わって調査する中でも,こういった同様の被害に遭っている人たちが多く見られました。   【スライド7枚目】さて,このスライドからは皆さんからの事前質問に対するお答えなので,詳しくは後で読んでいただければ結構かと思いますし,今までの説明の中にも少しは加えてきたつもりですので,簡単にだけ紹介しておきたいのですけれども,最初の質問について,主体性の問題ですね。主体的に被害者が参加してしまっているというところの問題なのですが,これは心理学ではどう考えるかというと,人間に完全な自由というものはないと考えています。一般に自分の意思力というのを過大評価するバイアスというのがあります。自分がコントロールしているのだと思ってしまっているということなのですけれども,他者の影響力なんて振り払えるのだと思っていたりすることが,本人的には割とそういうバイアスを持っていることが多いようですが,実際はそのような甘いものではなくて,加害者の影響が強いと,被害者には依存し服従するという選択が合理的な意思決定になる,とみなされるべきだと思います。つまり,この辺が法律でいう合理性と心理学でいう合理性の違いが表れるところだろうと思います。   【スライド8枚目】次の質問ですけれども,日本社会における特徴的な問題ですけれども,やはり日本社会というのは年長者,親,先生などとの関係で,権威に従順というのを美徳とする伝統的価値観があります。この点を考えると,西洋的な法律の体系で説明しても無理があるのではないかと思うのです。憲法や刑法では「こうだ」ということは誰もが知っていたとしても,例えば宗教を信じていると,神様や神のしもべである牧師やお坊さんといった聖職者たちの権威というのは,法律よりももっと強い権威であると感じているわけなのです。だから,そこに従うのは当たり前で,法律は人間が作ったものだから大したものではないのだというように規範が変わっていたりしますので,そういった意味でも,日本人は特に,というふうに簡単に言ってはいけないのですけれども,そういう西洋的な,あるいは個人主義的な価値観とは少し異なっており,普遍的にみなしてよいものか,と検討した方がよろしいのではないかというのは個人的には思います。   それから,ターゲットをどのように選んでいるのかというところなのですが,基本的に脆弱性のある方が被害に遭いやすいわけであり,今の社会では,SNSとか友人からの紹介等でそのような方を簡単に見付けることはできますので,被害は後を絶たないという事態が起きているのだろうと思います。   【スライド10枚目】さらには,マインドコントロールされた結果,加害者になるということが起こり得るのかという御質問ですけれども,これも説明したとおりなのですけれども,やはり正しいことだと思い込んでしまっているので,積極的に,あるいはそん度して,支配者の望むとおりに行動する,大切な友人や家族であっても陥れてしまうというようなことが起きています。   そして,最後に,グルーミングが先導する性被害等を防ぐためには,類型的に加害者のどのような行為を禁止するべきかという質問が書かれていますが,共通のこととしては,権力とか地位の格差がある場合,それから知識や判断力のない者,身体や心理の脆弱な状態にある者に対して,恋愛交際の目的での接近を禁止するとか,あるいは,指導や相談などの目的がある場合でも,保護的な第三者に事前に告知しておくといったような義務や,監督するような環境作りなどのようなシステムが必要なのかなと私は思っております。   以上です。 ○井田部会長 ありがとうございます。こちらの方からあらかじめお伝えさせていただいた意見・質問に対してもまとめてお答えくださいましたので,こちらの理解も相当に進んだと感じます。   それでは,御質問のある方はいらっしゃいますか。 ○山本委員 本日はありがとうございます。私からは,例えば,グルーミングやマインドコントロールが行われている過程において,被害者が普通に学校に行っていて日常生活を送っている,けれどもマインドコントロールされている状態で,加害者の呼出しに応じて連れていかれて,本意ではない性的行為をさせられているという状態についてお伺いしたいと思います。後からマインドコントロールが解けて被害に気付いたときに,周囲から,どうして分からなかったのだとか,なぜ助けを求めなかったのだと言われることも非常に多いと思います。   質問は二つあるのですけれども,一つは,被害の最中に自分で気付いて助けを求めるということができるのかということと,あと,どのような場合にそのマインドコントロールが解けるのかということをお伺いできればと思います。 ○西田氏 一つ目の質問は,スライドでいうと6枚目になるのでしょうか,図に示したところを御覧いただくといいかもしれないと思います。つまり,特に感情コントロールの部分ですけれども,関係ができてしまうことによって,相手に対して愛情を感じている,そして,離れること,あるいは突き放される恐怖,そういった気持ちがあるので他人に言えない。そして,別の説明でいくと,マインドコントロールの手順の中では自己封鎖が起きていて,とにかく人に言ってはいけないというところが規範としても働いているというような操作が行われてしまっているということです。   もう一点は,気付く過程ですね。非常に難しいですけれども,基本的にはやはりこの環境から離れることが一番大きいわけです。第三者との温かい人間関係が再構築されて,そういう人たちからいろいろ言われる中で気付いていくと。だから,基本的にそういう過程では受皿になる場所の準備が大事で,相手から離れた場合に,この人がいなくても自分は大丈夫なのだと,幸せに生きていけるのだという新しい保護的な環境をきちんと認識させることが大事だと思います。 ○山本委員 とてもよく分かりました。ありがとうございます。 ○齋藤委員 貴重なお話をありがとうございました。スライド4枚目のマインドコントロールの手順で,既に山本委員のお話でも御回答いただいたような気がするのですけれども,協力的関係まで完成されることは少なく,その手前までのプロセスの方たちってすごく多いかなと思うのですけれども,この完成されていない状態でも,拒否するとか,あるいは自分の状態に気付くというのは難しいことなのでしょうか。 ○西田氏 そうですね,この手順で行くと,だんだんと難しくなるというところで,どこでという線引きは難しいと思いますけれども,自己封鎖まで行ってしまいますと,規範というものは外部からも簡単には誤りを諭せないし,言わば別世界にいるというような状態になっていると思いますので,これでいう正当化から自己封鎖といったところまで行ってしまうと難しいと思います。 ○齋藤委員 ありがとうございます。 ○井田部会長 よろしいですか。ほかに御質問はございませんか。   それでは,これで終了とさせていただきたいと思います。   西田先生,本日は,非常に分かりやすく,かつ有益なお話をありがとうございました。お話しいただいた内容につきましては,今後のこの部会の審議に役立たせていただきたいと思います。委員・幹事を代表して,心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。   それでは,開会からかなり時間も経過しましたので,ここで15分ほど休憩したいと思います。再開は11時40分といたします。              (休     憩) ○井田部会長 会議を再開いたします。   4番目の方は,安藤久美子先生です。加害者臨床についてお話を頂きます。   本日は,御多用中のところ,ヒアリングに御協力いただき,誠にありがとうございます。まず,安藤先生から15分程度お話をお伺いし,その後,委員・幹事の方から質問があれば10分程度御質問させていただきたいと思います。   では,よろしくお願いいたします。 ○安藤氏 本日は,貴重な発表の機会を頂きまして,誠にありがとうございます。これから,性犯罪者の分析と治療に関して医学的な見地から御報告させていただきます。   私が性犯罪者の治療に携わることになりました背景としましては,小西聖子先生の下で性犯罪の被害者の方のPTSDについて,臨床と研究に従事させていただいたことが大きく関係しております。その際の経験は非常に貴重で大切なものであり,小西先生には改めて心から感謝申し上げます。こうした背景を踏まえまして,本発表においても性犯罪の被害者をなくしたいという思いから行っている加害者臨床であることを申し添えたいと思います。   【安藤久美子氏提出資料:スライド2枚目】(以下,安藤氏発言部分中の【 】内は,同資料のスライドの位置を示す。)本日は,スライドにお示ししたような五つの課題についてお話しさせていただきます。   【スライド3枚目】「性暴力とは」とありますが,初めにお伝えしておきますと,「性暴力」について加害者臨床の中で扱う場合には,同意のない性行為全般を指しておりますので,この中には刑法上の犯罪に満たない行為も含まれております。   【スライド4枚目】そうした前提でこの「性暴力」を考えますと,攻撃性や接触性の程度が非常に低いものから高いものまで,広い範囲の行為が含まれることになります。また,司法の概念では,例えば,同意に関しても,同意があったか,なかったかというように,明確にあり,なしを区別しなければならないような場合があるかもしれません。しかし,臨床の場面では,同意についても,対等性についても,強要性についても,いずれも明確にある,なしとそういったものが区別できない連続体にあると考えております。そして,どうしてそのような連続体になってしまうのかという背景には,日本社会の文化的背景というものも影響しているのではないかと考えております。   【スライド5枚目】具体的に言うと,例えば強要する側としては,「女性が逆らうのか」とか,「上司に逆らうのか」といったジェンダーの問題や年功序列の考え方というのが,やはり日本にはまだ根強く残っており,はっきりと嫌だといえない風潮があるのではないかと思います。また,こうした思考は強要される被害者側の方にも共通して見られるもので,例えば,「明確に意思表示することは女性らしくない」といった考えを女性自身が持っているとか,あるいは,「自分にも出世したいとか,そういった下心,気持ちがあったのだから,少しぐらい強要されても仕方がない」と考えたり,「自分も悪かったから被害とはいえない」といった発言を被害者自身から聞くことも少なくなく,被害者の方がより自責的に考えてしまうということもあります。   また,近年の傾向として加害者側の様相も少し変わってきた面もありまして,例えばニートなど自立に問題のある男性の場合には,「女性なら許してくれる」といった誤った母性を重ねている場合があったり,あるいは,女性の活躍を応援するような現代社会の潮流への不満から,社会に対する怒りのはけ口として,「女性に屈辱的な思いをさせたかった」という犯行動機が語られたりするようなケースもありました。   【スライド6枚目】このように考えていきますと,性犯罪防止を目的として適切に対応するためには,加害者についても,そして,被害者についても,両方の立場や考えについて正しく理解しておく必要があると思います。本日は,時間の関係もございますので,加害者臨床という立場から,加害者について焦点を当てて御説明させていただきます。   【スライド7枚目】まず,加害者に関して「誤解されやすい4つの事項」をお示ししました。これは,一般的に誤解されやすいとされるたくさんの項目の中から,特に四つを抽出したものです。一つずつ説明していきたいと思います。   【スライド8枚目】一つ目の「誤解されやすい事項1」,これは,一般的に性暴力というのは抑え難い性的欲求によるものだという考えです。これについては,多くの場合,性的関心はもちろんあるのですが,それと同時に性犯罪の背景には,性を通じて表現された他者への攻撃や支配という意味があると考えております。ですから,その点では一般的な性的満足とは異なるので,必ずしも犯行のときに射精に至らないということも少なくないですし,あるいは,加害者は性欲が強いとか男性ホルモンの値がとても高いといった誤解がされやすいのですけれども,私が臨床や精神鑑定などでたくさんの性犯罪者に向かい合ってきた中では,同意の取れた方に対しては男性ホルモンの値も測定させて頂いておりますが,これまでのところ,その値が異常に高いといったケースはありませんでした。   【スライド9枚目】二つ目の「誤解されやすい事項2」は,性的な欲求というのは衝動的でコントロール不可能であるという点です。これも大きな誤解で,実は性犯罪者のほとんどは,捕まらないように被害者や状況をじっくりと選んでいます。より弱い者,抵抗しないであろう者,見付かりにくい場所等を選んでいます。特殊な性し好のある者ももちろんおりますが,年齢,容姿や服装には余り関係しておらず,それよりも狙いやすい人をターゲットにしていると語る加害者もおりました。狙いやすいという点では,必ずしも女性だけが対象となるわけでなく,男性から男性,つまり男性の被害者というのも実際には想像以上に多いと思われます。また,性し好の偏りがあるようなケースでは,多くの場合は思春期頃からそうしたし好の傾向が現れてきますので,もしそういった性し好を是正するというか,少なくとも刑法に触れない範囲の方向に向かわせるような治療を考える場合には,思春期前後のし好の偏りが現れ始めた頃のことについても踏み込んで介入をしていく必要があると考えております。   【スライド10枚目】三つ目の「誤解されやすい事項3」です。加害者は犯罪の発覚を恐れて見知らぬ人を被害者として選ぶものと誤解されているように思いますが,性犯罪加害者はしばしば,むしろ自分のことを信頼している人,例えば,家族,友人,知人等を性的対象として選んでいます。つまり,加害者は被害者から信頼されている人々であることがあるのです。そういった点では,近親姦というのも決して少なくないと思っているのですけれども,こちらのスライド下方にお示ししました犯罪白書による統計グラフを見てみますと,加害者と被害者の関係については「面識なし」が強制わいせつでも強姦でも非常に多くなっていることが分かります。しかし,被害者の支援に携わっておられる先生方はよく御存じのとおり,これは見掛け上の割合だと考えられます。面識のある人からの被害というのはほとんど訴えることができないために,こうした犯罪統計上の被害件数としては計上されていないというだけであって,実際には面識がある人たちからの被害はもっと多いのではないかと考えております。   【スライド11枚目】そして,四つ目の「誤解されやすい事項4」ですけれども,性犯罪というのは大抵すぐに発覚すると考えられがちで,もし被害に遭ったのであれば,被害者がそれを報告しないのはおかしいのではないかという意見さえあるのですけれども,私が行っている加害者臨床の中では,逮捕される前に約300件もの加害行為歴があったと告白するケースもあり,明るみに出ていない性犯罪の方が圧倒的に多いと考えられます。また,さまざまな罪種の中でも特に性犯罪に特徴的だと思われるのは,性犯罪だけは,どの社会階層のどの知的レベルの人たちにも存在するということです。社会的地位が高い人や,高学歴者の場合には,犯罪者としては疑われにくく,一見,見逃されやすいのかもしれませんが,そうした人たちであっても容易に加害者になり得るというのが,性犯罪の特徴的な部分ではないかと思います。それから,性犯罪者は,どんなに犯罪を繰り返していても,事件が発覚しなければ自ら悔い改めることはないように思います。逆に言えば,たとえ犯罪が見付かっても全力を尽くして言い逃れをしようとする,性犯罪の合理化という特徴が強く見られます。ですから,すぐに発覚するというよりも,むしろ,ひた隠しにするというケースの方が非常に多いように思います。   【スライド12枚目】そして,こうした四つの誤解されやすい事項の全てに共通しているのが,「性犯罪加害者の認知のゆがみ」という点です。   【スライド13枚目】この認知のゆがみについて少し細かく説明していきます。まず認知のゆがみを大きく二つに分けますと「否認」と「最小化」に分類されます。これらがよく知られている代表的な認知のゆがみで,この中に,さらに,自分の方が被害者だと言ってみたり,人を傷つけたことを認めなかったり,あるいは,非常に楽観的で,絶対見付からない,顔がばれなければ大丈夫などと本気で考えていたり,人の気持ちが分からないとか,自分にはそういうことをやってもいい資格があるというような,誤った所有権を振りかざすような認知のゆがみがあります。   【スライド14枚目】それぞれについて説明していきます。例えば,「否認」というのは,「相手から誘ってきたのに,逮捕されることになってむしろ迷惑だ」というような誤った認識を持っていたり,「相手は全く嫌がっていなかった,むしろ積極的だった」というように事実を否定するような認識のことを指します。実際の事件でも,被害者は極度の恐怖感から,嫌だとか怖いといった声を発することさえもできずに,涙を流して嗚咽していたにもかかわらず,その嗚咽する声を聞いて,むしろ被害者は積極的で性的な興奮を感じていると加害者は認識し,逮捕された後も「俺は全く悪くない」,「相手の同意があった」という主張を貫き通そうとしていたケースもありました。そのほかにも,子供に対する犯罪に関しては,「優しくしてあげただけで悪いことはしていない」とか,「酔っ払っていたから思い出せない」,「誰か別の人がやったに違いない」,あるいは,「自分の性格だから,性的関心は変えることができないので仕方がない」などといった形で否認するケースもあります。   【スライド15枚目】「最小化」という認知のゆがみは,例えば,「嫌だと言っていても,本当はそれほど嫌だとは思っていないに違いない」といった認識や,「そのときはショックかもしれないけれども,被害者だってすぐに忘れる」とか,「少し触れるぐらいなら触られたことに気が付かないだろう」というような認識を指します。あるいは,被害者は「事件に遭ったことを周囲には話さないだろう」と考えたり,被害者がナイトワークの方の場合には「何をしても傷つくことはない」と考えたり,「子供は意味が分かっていないから大丈夫」,「子供は約束を守るし,すぐに忘れる」といった,被害を最小化するような認識もこれに含まれます。   【スライド16枚目】「否認」と「最小化」の両方が関連しているような認知のゆがみの例としては,「インターネットに痴漢サイトがあったり,そういうDVDが売っているんだから,みんなも痴漢をしたりして楽しんでいるけれども,ただ見付からずにいるだけだ」という認識から自分の行動には問題はないと考えたり,「露出度の高い服を着ている女性は触られたいと思っているからだ」,「短いスカートをはいているのはスカートの中を見られてもよいと思っているのだ」などと考えていることもありますし,「相手が自分に親切にするのは性的な関係を期待しているに違いない」とか,「自分がやったことがばれなければ問題ない,やっていないのと同じだ」,あるいは,「女性はみんな,アダルトビデオのようなことをやりたいと思っているのだ」というような認知のゆがみもよく認められる例です。   【スライド17枚目】こうした認知のゆがみが起こる背景にはいろいろな原因があります。例えば,発達障害や知的障害を持っている方に生じることもありますし,あるいは,障害とは関係のないパーソナリティの特性が関連していることもあります。ですので,一口に認知のゆがみといっても,そのバックグラウンドは異なるのですけれども,相手との関係性によっても,認知のゆがみの大きさは変化していくので,個々の性犯罪者の環境や状況に応じて,どういう点において認知のゆがみが生じているのかという原点をしっかり探り,アセスメントしておかなければ,適切な治療に結び付かないと考えております。   【スライド18枚目】次に,性犯罪の場合には再犯の多さもよく知られているところですので,そこで,「再犯につながりやすい3要素」を挙げてみました。一つ目は,先ほども少し触れました「障害特性」です。そして,二つ目が「支配性・攻撃性」,三つ目が「依存性」になります。これら三つの要素が再犯につながるメカニズムについて一つずつ説明していきます。なお,これらの要素は単独で影響していることもありますし,障害特性と依存性,障害特性と支配性のように,幾つかが併存して関与していることもあるということを申し添えておきます。   【スライド19枚目】一つ目の「障害特性」です。ここでは,発達障害や知的障害がある場合を想定してお話ししますと,こうした障害がある方の場合には,独自の理論に基づいた行動をとることがあります。それはもともとの障害特性として,こだわりの強さとか,変化が苦手といった特徴がありますので,そうした特性が性犯罪を繰り返すきっかけになっている可能性があるのです。あるいは,彼らの中には独自のやり方やルールを決めていることも少なくないのですが,そうした独自のやり方やルールを,一般常識や,社会共通のルールと照合するということをしないため,自分ではルーチン作業の感覚で実行してしまったり,また,そもそも自分の思考や行動が社会的には受け入れられないものであることに気づかないまま行動し,犯罪に至ってしまったようなケースもあります。また,よく知られている発達障害の特性として,相手の気持ちや表情を正しく理解できないという特徴がありますが,そのために相手の反応を誤解して解釈し,トラブルになることもあります。また,知的障害の場合には,基本的な性関連の知識の不足,例えば安全なセックスだとか,避妊方法,性感染症のリスクなどについてもよく知らないケースがほとんどで,マスターベーションの方法さえ知らないという方も少なくないということが分かっています。   【スライド20枚目】先ほど挙げた障害特性の中で,「相手の気持ちや表情を読み取れない」という項目について,もう少し具体的にみていきます。こちらのスライドに挙げている内容は,全て「拒否」を示す表現となっており,これらを表情・態度・行動に分けて提示しているのですが,加害者はこれらの反応を,被害者による「拒否」反応として正しく捉えられないだけではなく,逆にむしろ喜んでいるという反対の意思表示として認識する場合さえもあります。そして,このような明らかに誤った認識やこだわり行動の原因として,発達障害や知的障害による特性が大きく関与している場合については,ケースによっては責任能力の判断にも影響を与える可能性があるかもしれません。一方で,こうした特徴というのは障害がない加害者にも認められることもあり,その場合には冒頭に述べた,例えば,ジェンダーに関する誤った認識などを基盤に,「女性だから,ただ恥じらっているように見せているだけだ」などと,加害者にとって都合よく解釈して,相手の気持ちや表情を正しく読み取らないようなフィルターがかかっているということもあります。   【スライド21枚目】二つ目の再犯につながりやすい要因は「支配性・攻撃性」です。こうした支配性や攻撃性が再犯を動機付ける背景にある場合には,単純にストレス解消のひとつの手段として性犯罪が行われていたり,劣等感や自己評価の低さから,八つ当たり的に怒りの発散として性犯罪を行ったりする場合もあります。あるいはまた,過去に加害者自身が性的な被害を受けたことがあるような場合には,その仕返し行動として,新しい被害者を生み出してしまう場合もありますし,元々攻撃的なパーソナリティを持っている人であることもあります。いずれの場合でも,被害者として,失敗しない弱い者を狙って行うことが多く,自分の劣等感や自己評価の低さへの怒りや,生活等の中で生じたストレスを解消するために行うわけですから,自分の絶対的な強さを誇示するために,凶器を使って見せかけの強さを装うような場合もあります。   【スライド22枚目】三つ目の再犯につながりやすい要因は「依存性」です。精神医学における性に関する障害類型として「パラフィリア障害」という項目があり,この項目の中には露出症,フェティシズム,窃触症,窃視症,小児愛などが含まれています。それぞれの障害の内容を見てみると,完全に刑法に触れる行為となっておりますが,精神医学の中ではこうした行為も性し好の障害として分類し,治療の対象として捉えています。   【スライド23枚目】もう少し詳しく説明しますと,性に関する障害には,し好の異常や行動の異常がありますが,これは質的な異常と量的な異常に分けられます。この中の質的な異常の方をパラフィリア障害と名付けています。このパラフィリア障害は,普通でない対象,行為または状況に関して,反復的に強烈な性的衝動を感じたり,空想を抱いたり,性的行動を反復することを特徴としています。この「反復的で強烈な性的衝動」,「性的行動を反復」というところで,ぴんと来られる方もいらっしゃるかもしれませんが,これは正に依存行動を示しています。   【スライド24枚目】この依存行動というのは御存じのとおり,行動を繰り返すほど,さらに高まってきます。   【スライド25枚目】それによって,ますます依存性が高まってきますと,家庭生活や社会生活が崩壊する危険があるということは頭では分かっていながらも,自分ではやめられずに犯行を繰り返してしまうという流れがあります。   この時に,彼らが頭の中でどう考えているかというと,もちろん「捕まったらどうしよう」などと考えてはいるのですけれども,その一方で「あと1回だけ,この1回でやめよう」,あるいは,「この1回なら大丈夫だ,今回もきっとうまくいく」などとも思っていて,多くの人たちが,「自分はいつでもこの性犯罪をやめられる」と考えているのです。しかし,加害者本人が「いつでもやめられる」と思っていても,依存行動のひとつになっている場合には,簡単にはやめられないですし,たとえ中断した時期があっても,そうした時期は自身が思っていたようには続かない。その繰り返しの中で,結局は逮捕されるまで,ずっと犯罪を繰り返し続けることになってしまうのです。   【スライド26枚目】最後に,性犯罪の再犯防止の取組について,私見を述べさせていただきます。現在も,各機関では再犯防止に向けたさまざまな施策が講じられており,刑事施設では性犯罪に特化した治療プログラムがありますし,保護観察所においてもプログラムの改良を重ねられながら実施されていることと思います。しかし,再犯防止に最も重要なのは保護観察を終え,完全に社会復帰した後の生活をどう支えるかというところだと思うのですが,ここにはプログラムがありません。そこで,私たち研究チームでは,彼らが施設に出て,社会復帰した後にも社会内で治療を継続させなければ,本当の意味での再犯は防止できないという観点から,社会内で実行可能な治療プログラムを開発してまいりました。   【スライド27枚目(ホームページ上は画像非掲載)】こうした取組は,新聞等でも取り上げられました。   【スライド28,29,30枚目】プログラムの概要を御紹介させていただきますと,これは発達障害や知的障害等がある方にも理解しやすいように,視覚的支援を取り入れ,絵や図を多用した内容となっております。また,性犯罪の専門家でないと治療ができないとなりますと,プログラムの適用範囲が狭まってしまいますので,専門家でなくても,地域の精神保健に携わるスタッフであれば誰でも実施できるプログラムとなるよう開発し,社会に発信しております。受刑中には物理的に問題は発生しないため,治療の検証には制限があります。施設内での治療効果を持続させるためにも,社会復帰後の実世界の中で,どう介入し,支援するかということが再犯防止に最も大切であると考えております。   以上で発表を終わります。御清聴ありがとうございました。 ○井田部会長 安藤先生,ありがとうございました。それでは,御質問はございますでしょうか。 ○山本委員 貴重な御講演をありがとうございます。私からは,加害者の認知のゆがみに関して,加害者の誤信と判断される裁判のことについてお伺いしたいのですけれども,例えば,相手が嫌がっていると思わなかったということが認められて,故意がないとして無罪になるというような判決もあります。相手が嫌がっていると思わなかったと加害者が言ったとしても,状態によってはそれは通らないということで有罪になることもあるのですけれども,今御説明いただいた中に,加害者の認知のゆがみによって,あるいは,加害者が発達障害の傾向を持っていることによって,相手方が拒否していることを実際に認識できなかったという場合があり,すごくグレーゾーンなところもあるのかなとも思いました。ただ,裁判の結果などにおいて故意が認められないということは,その裁判の加害者だけではなく,他の加害者たちの認知にどのような影響を与えるのかということを,お話の中でジェンダーに対する認識というものもありましたので,感想か,何かお考えになっていることをお伺いできればと思いました。 ○安藤氏 どのような影響を与えるかという問題は,やはり個別性が高いように感じます。これは,加害者の方の年齢や生活背景等の環境によってもジェンダーに関する考え方が異なっておりますし,冒頭にもお伝えした,比較的社会的な地位の高い人が加害者になる場合と,ニートのような人たちが加害者になる場合では,その認知のゆがみが生じる背景や,認知のゆがみ方も異なります。ジェンダーの大きな問題を抱えているケースがあったとしても,それによって表出されてくるゆがみの種類としては,最小化,否認という二つの特徴があり,これらはどのケースにも共通しているように感じます。ですから,故意が認められないことも含めて,どう受け取るかは非常に個別性があるということを御認識いただいた上で,ケースごとに御判断いただくことになるかと思います。また,通常の加害者・被害者の関係性によっても,故意の程度が関連してきますので,いつも会っている親しい関係の方が,加害者からすると,かえって相手が拒否していることに実際に気が付かなかったということもあり得るかもしれませんし,近い距離の関係性であっても,そこに既に上下関係ができているような間柄であれば,気が付かなかったと言っても,それは加害者側の単なる都合のいい言い訳であると考えられることもありますので,ケース・バイ・ケースで考えていただくしかないのかなと思います。 ○山本委員 否認から入るということですから,やはり行為や,プロセスを丁寧に見ていく必要があるのかなと思いました。ありがとうございます。 ○金杉幹事 安藤先生,本日はありがとうございます。御質問が2点あります。まずは,依存性が強まれば強まるほど,捕まったらどうしようということは頭には浮かぶけれども,刑罰による抑制というのが効きにくいということなのでしょうか,という点です。   もう1点は,治療についてです。社会復帰後に社会内で実行可能な治療プログラムがなければ,再犯を防止できないということでしたけれども,その理由として,もちろん刑務所の中ではそもそも問題行動を起こそうと思っても起こせないということがあると思うのですけれども,刑務所内で実施可能な処遇プログラム等の有効性という面で,受けなければならないという義務付けのような形で行われるプログラム・治療と,自発的にその方御自身が自分で,これは受けなければならないと思って受ける処遇プログラム・治療等を受けるときの主観的というか,動機の面で違いが出てくるのかという点について,お伺いしたいと思います。 ○安藤氏 依存の問題があると,捕まったらどうしようという気持ちはありながらも,刑罰による抑制力の意味が弱まってしまうのではないかというお話かと思いますが,これは違法薬物の依存性の問題とほぼ同じような形で,どの方も捕まりたくはないですし,捕まったらどうしようという気持ちはもちろん強いと思います。しかし,それ以上に,行為を繰り返すことで,その成功体験が積まれていくわけですから,犯行が発覚せずに,「あっ,またうまくいった」となると,いつか捕まるかもしれないという気持ちがどんどん薄れていって,「今回も捕まらないだろう」とか,「この1回でやめておけば大丈夫だ」というように,むしろ自己過信が強まってしまうところも,ひとつの依存の心性なのではないかと思います。そうしますと,刑罰は嫌ですし,捕まりたくないと思っているという点では,もちろん効果は十分あるとは思いますが,その一方で,自分の考えや,やっている行動を,現実に照らして,当てはめて考えるという正しい認識がどんどん麻痺していくような感覚なのではないかと思います。   二つ目の刑務所内でのプログラムに関しては,もちろん有効だと思います。その有効性については法務省の調査でも,再犯率が下がっていることが報告されております。しかし,その有効性というのは,出所後の比較的短期間を見ているわけです。出所後何年間というのは治療効果があるわけですけれども,人生百年時代となっており,その人の残りの人生を再犯しないでいられるかということを考えますと,出所後何年間ではなくて,その後も社会の中で継続的に治療していくことができる,あるいは支援や相談ができる場所や制度といったものが一定程度確保されている必要があると思います。金杉幹事がおっしゃられていたように,刑務所内の治療においても治療動機は非常に重要で,これはどの治療も同じですけれども,本人に治りたい,あるいは,もうやめたいという気持ちがなければ,アルコール等の依存症と同様に,うまくいかない,あるいは治療を中断してしまうと思います。ですから,多くのプログラムは,私が作っているプログラムもそうですが,初めの治療動機というところにたくさんの時間を掛けるように構成されています。その点では,刑務所の中で行われている治療をみると,初めは義務付けられて治療を始めることになるのかもしれませんが,治療の後半になって,やはりプログラムを受けてよかったという実感が持てるのであれば,それは治療の面でも有効であったと思いますので,治療の開始だけでなく,治療が終わるとき,あるいは出所間際のときにも,彼らの治療動機を再認識させていただくようなプログラムなど短いセッションを入れていただくと,再犯防止には非常に有効なのではないかと思っています。 ○金杉幹事 ありがとうございました。 ○山本委員 加害者の認知のゆがみについてお伺いしますが,これは仮定の話になりますが,もし社会において,性的行為には自発的な参加が必要であるとか,参加してもいつでも途中で撤回できるというような社会認識が規範として当然のことになれば,加害者が勝手な自己理解をしなくなるのでしょうか。また,ポルノグラフィにはかなり暴力的な場面,女性を従属的に描く場面が多く,ポルノグラフィを利用した後の大学生は,男女ともレイプ神話を信じる傾向にあるというようなアメリカの報告もあります。また,アメリカの司法省だったと思うのですけれども,性犯罪は学習された行動であり,ポルノグラフィに繰り返しさらされることが影響を与えている可能性があるということも書かれていたのですけれども,社会規範やポルノグラフィの影響がある中で,性暴力加害者の認知がゆがまないようになるためには,おっしゃられたような教育だけでいいのか,それとも,社会の規範そのものも変化させていく必要があるのかということについて,お伺いできればと思いました。 ○安藤氏 認知をゆがまないようにする方法は本当にお答えが難しいところなのですけれども,同意を撤回できるというような社会での認識が進めばよいのかという点で申し上げますと,これは本当に重要な問題で,まだまだ日本の社会では,女性が声を上げられないような状況になっていると思います。中でも性の問題は特に意思表示がしにくいですので,まずは,性以外の状況において,同意を撤回できるような社会になるとか,日常の生活の中で女性が,嫌ですと言えるようになるとか,そういった簡単なところから変わっていかなければならないと思います。そういった一般的なところできちんと声を上げられるようになった後に,性的な場面においてもきちんと声を上げられるようになっていくのではないかと思いますので,順番的には少し時間が掛かってしまうのかなとは思います。まずは,女性がきちんと意見を述べてもいいのだということについて啓発的な活動がなされることも重要なのではないかと思います。   もう一つの,ポルノグラフィ等からの誤った学習によって認識がゆがんでしまうという点については,山本委員もおっしゃられたように,正しい性教育はとても重要だと思います。どうして若者たちがポルノグラフィを見るのかといえば,それは性的な興味関心ももちろんありますが,より思春期前期では,性的関心が高まる中で,誰に聞いていいか分からないとか,どういうことが普通の性行為なのか分からない,だからこっそり知りたいというわけです。そういったこっそり知りたいという部分を,こっそり調べるのではなく,きちんと教育として伝えていく中で,相手の同意を得ることや,相手の意思表示を正しく認識するなど,そうしたことも全て含めて教育していくべきだと思います。避妊の方法なども誤って理解していることが多く,現在のような思春期の第二次性徴を中心とした教育だけでは少し足りないのかなと思います。その点では,義務教育の中でしっかり伝えていくべきですし,そうした教育が浸透していくことによって,社会的な規範やジェンダーに関する認識も少しずつ変わっていくのではないかと思います。 ○井田部会長 議論は尽きないのですけれども,これで終了とさせていただきたいと思います。   安藤先生には専門的な知見について非常に分かりやすく御説明・御教示くださり,誠にありがとうございました。お話しいただいた内容は,今後の審議に役立ててまいりたいと思います。当部会を代表してお礼を申し上げます。ありがとうございました。   5番目の方は,矢野恵美先生です。スウェーデン刑法における性犯罪規定についてお話を頂きます。   本日は,御多用中のところ,ヒアリングに御協力いただき,誠にありがとうございます。まず15分程度お話を伺い,その後,委員・幹事の方から質問があれば10分程度質問させていただくという形で進めてまいりたいと思います。   よろしくお願いいたします。 ○矢野氏 よろしくお願いいたします。琉球大学の矢野と申します。ただ今,井田部会長から御紹介いただきましたとおり,本日は,スウェーデンにおける性犯罪規定,取り分け2018年に「任意に参加」という新しい構成要件を設けた改正を中心に,時間の許す限り説明させていただきたいと思います。   【矢野恵美氏提出資料:スライド2枚目】(以下,矢野氏発言部分中の【 】内は,同資料のスライドの位置を示す。)御質問をかなりたくさん頂きまして,ありがとうございます。全て細かくお答えしたいところなのですが,そうしますと恐らく15分では終わらないであろうと思います。   【スライド3枚目】そのため,大変申し訳ありませんが,御質問を内容ごとに大きく三つに分けさせていただき,御紹介させていただきます。   一番多く御質問いただいたのは,2018年に「任意に参加」という形に条文を改正したことについて,なぜそういうことができたのかという背景や,そのことによって何が起こったか,また,どのような反対意見があったのかといったようなことに関するものです。こちらに関する御質問が一番多かったので,この話を最初にさせていただきたいと思います。   続きまして,その新しい条文です。スウェーデンの場合は章ごとに1条から始まります。性犯罪は刑法の6章に規定されておりますので,6章の1条から始まります。そして,6章の1条が,御紹介させていただきました,「任意に参加」という新しい構成要件になりますので,そちらの内容と,最後はそれに伴いまして,1条aに過失レイプ罪という新しい犯罪類型が加わっておりますので,こちらについて,もう一つの資料を使って御説明できればと思っております。   【スライド4枚目】今回の改正をなし得た背景でございますけれども,現行のスウェーデンの刑法は,1962年に作られ,1965年に施行されました。そこから現在までの間,6章の性犯罪規定は大きなものだけで1984年,1998年,2005年,2013年,そして2018年と度重なる改正を重ねております。これはスウェーデンの刑法全てに共通するということではございません。スウェーデン刑法の中でも取り分け性犯罪規定は多くの改正を経たといわれております。それはすなわち,性犯罪規定がやはりその社会の性犯罪に関する考え方といったようなものに影響を受ける,あるいは,その社会の考え方と関係があると考えられているからです。   【スライド5枚目】具体的に少しだけ御紹介させていただきます。まず,現行刑法ができたときですが,6章は「性犯罪」というタイトルではなく,「道徳に対する犯罪」というタイトルでした。この当時の6章の1条は,今と同じ罪名でした。今はレイプと訳しておりますけれども,当時は強姦罪と訳させていただいていました。これはつまり,日本の2017年の改正前の強姦罪,男性から女性に対する姦淫にかなり近い内容になっていました。この現行刑法ができる前,性犯罪は婚姻制度の維持といったものが保護法益と考えられていました。それが,現行刑法になったときに,性犯罪の保護法益は,性的自己決定権なのであり,婚姻制度の維持といったものではないのだというように改正されたのですが,それでもなお道徳色が残っています。現在も,両親が同じ兄弟姉妹との性交は犯罪です。あとは,既に廃止されていますが,同性間の性交が犯罪であったこともありました。ただし,夫婦間強姦,いわゆるパートナー間の性犯罪については,軽くするけれども犯罪であるという規定が作られ,性犯罪の保護法益は婚姻制度の維持ではないということが表明されていました。当時は親告罪です。   【スライド6枚目】それが,1984年の大改正では,今回の日本の強制性交等罪のように,性別を問わない,ただし日本の強制性交等罪は被害者か加害者のいずれかに男性器がなければいけないという制限はございますけれども,それもなく,要するに,いわゆるジェンダー・ニュートラル化がなされ,被害者,加害者の性別は問わないし,もちろんセクシャリティも問わないというものになりました。この1984年の改正では,夫婦間強姦は,現行刑法制定時には軽いけれども罰するとありましたが,それもなくなりまして,被害者と加害者の関係性は問わないという形になりました。さらに,非親告罪化が行われました。道徳色の払拭については相変わらずで,例えば両親が同じ兄弟姉妹との性交は現在も残っておりますので,完全に払拭できたとはいえないとされております。   【スライド7枚目】続きまして,1998年改正です。これについては,時間がございませんので,詳しくは御紹介できませんが,1998年の改正時には刑法の改正だけではなくて,女性に対する暴力として,具体的に,例えば刑法の中にDV罪を作っております。1995年の北京女性会議等もあり,女性の安全に関する様々な立法がなされ,その中で性犯罪についても,よりレイプの概念を広げる,女性の被害者の保護ということを強く打ち出すということが行われた改正になります。   【スライド8枚目】そして,2005年改正では,更に広いレイプ概念が導入され,この際にも女性の被害者保護や児童の保護といったことが改正の目的として掲げられました。そして,この改正によって,暴行・脅迫要件は条文には残っているのだけれども,それは限りなく軽いものになったという解説がなされています。2018年の改正の下地は2005年が一つの端緒になっておりますので,スウェーデンにおいても「任意に参加」という形に条文を変更するのは容易ではなかったことが分かります。実に13年の月日を経て,2018年にようやくそこにたどり着いたという経緯がございます。もう少し具体的に申しますと,2005年の改正の後,2008年ぐらいに暴行・脅迫要件をなくした条文の形というものが具体的に提案されていましたが,やはり実際に法制化するには更に10年の月日を要しました。   【スライド9枚目】いよいよ2018年改正です。この改正の際に,6章1条のレイプ概念の見直しが行われました。後で説明しますが,ここで,絶対に任意参加とみなされない類型というものが例示されました。この絶対に任意参加とみなされない類型というのは,これまでのレイプ,若しくは少しレイプより軽い犯罪,性的侵害罪の中に含まれていた要件を全部ここに持ってきたというもので,新しく作ったものではありません。今までに犯罪になっていたものを1条に持ってきて,任意参加とみなされない類型の例示とし,そのほかに,「任意参加」という構成要件を加えたという形です。さらに,1条aでは過失レイプ罪,厳密にいいますと(重)過失レイプが創設されました。ここでは罪名の変更も提案されたのですが,元々の罪名に性別を問うようなものや姦淫を連想させるようなものがなかったので,変更によって,かえって軽くなったと勘違いされてはいけないということで,結局用語の変更は行われませんでした。   【スライド10枚目】2018年の改正の背景でございますけれども,1995年に女性の安全法が委員会に出されてから,2005年の法改正といった長い時間をかけて2018年の法改正に至ったという背景がありますが,2018年の改正の背景には,いまだに残るジェンダー不平等や若い女性の脆弱性を守る,また,実質的に暴行・脅迫要件をなくすだけではなお救えない女性の被害者がいるという問題意識がありました。この法案は党派を越えて全会一致で通過しています。   【スライド11枚目】法制審議会の報告書のタイトルである「性的完全性のより強固な保護」から分かりますように,より保護を強めるということが議論されました。そして,2018年の改正では,任意に性行為に参加していない人と性行為がなされたが,強要はしていない,また,加害者が被害者の脆弱性や依存状態を利用してもいない,このような場合を犯罪として捕捉することが目指されました。逆に言うと,これら任意性以外の要件に当たるものは,絶対に任意であると認められない要件の中に入るわけです。   【スライド12枚目】それと同時に,刑法の改正のみならず,例えば,1988年に性犯罪の被害者のために被害者国選弁護人制度を作ったり,1994年に女性のためのワンストップ支援センターを作ったり,同じく1994年に犯罪被害者庁を作ったり,さらに,子どもたちに関する様々な法律や制度を作ったりした上で2018年の改正に至っています。例えば,子どもに関しては,児童のための特別代理人制度という,被虐待児に監護権行使等も含めた国選弁護人が付くという制度も作っております。   【スライド13枚目(ホームページ上は画像非掲載)】そして,刑法の条文の改正だけではこのような大きい改正ができるとは思っていないという点がスウェーデンの大きな特徴の一つだと思います。「任意に参加」という新しい構成要件を導入するに当たっては,先ほどお話ししました1994年に作られた犯罪被害者庁,これは法務省から独立した犯罪被害者だけを扱う省庁ですけれども,こちらが犯罪被害者に関する様々な広報を行うということを任務としているため,2018年の改正に当たっては,10代向けの特設ページや冊子を作って周知に努めています。このスライドに載せた写真は,冊子の写真なのですが,「自由意思によって」というタイトルであり,副題として「セックスは常に自発的なものであり,そうでなければ犯罪。ティーンエイジャーは限界がどこまでか知っていますか?あなたは知っていますか?」が付けられており,この冊子は,2019年に,15歳,すなわち性交同意年齢になる子どもたちとその保護者全員に送られました。   【スライド14枚目(ホームページ上は画像非掲載)】また,もう一つの広報としては,このスライドに載せた「同意に基づいて」と書かれたポスターをスウェーデンじゅうに貼るといったようなことを行いました。このポスターの3人は俳優,eスポーツの有名な人,ミュージシャンといったインフルエンサーだそうです。このポスターを町じゅうに貼ったことによって,18から25歳の若者の10人に7人にこの情報が届いたという統計が出ています。要するに,ここでは,メッセージとして,セックスは常に自発的なものであり,そうでなければ犯罪であるということが全面的に打ち出され,子どもたちに対しての教育が行われました。実際に向こうに住んでいる友人たちに子どもたちのことを聞いたところ,学校で何回もこの教育があったという話がありました。   【スライド15枚目】そして,セクシャリティに関しての配慮ですが,セクシャルマイノリティについても,自分たちごとだと思ってほしいので,ここでもレイプという罪名を変えようという提案もありましたが,罪名を変えることによって軽く捉えられてしまっては困るということで,2018年の改正の際に,罪名は変えませんでした。   【スライド16枚目】スティルシングについても御質問を頂いたのですが,時間がないので飛ばさせていただきます。一つ言えることは,スウェーデンの場合はコンドームという男性主体の避妊具ばかりではないということ,また,緊急避妊薬が購入できるなどのことがあるので,スティルシングは必ず犯罪になるとはなっていません。逆に言うと,コンドームが避妊の主体で,緊急避妊薬が買えない日本ではスウェーデンよりスティルシングの立法の需要があるのかもしれないと考えております。   【スライド18枚目】スウェーデンの全体の性犯罪規定の構成ですが,このスライドに書かせていただきましたので,こちらについては後で御覧いただければと思います。かなり多岐にわたっていることが分かるかと思います。そして,例えばレイプの中で,通常のレイプ,加重レイプ,深刻でないレイプといったように3段階に分かれています。   【スライド19枚目】法定刑に関しましては,通常のレイプ罪の法定刑はかなり重いです。強盗罪が1年以上6年以下の拘禁であるのに対し,レイプ罪は2年以上6年以下の拘禁となっています。殺人罪が10年以上18年以下の拘禁又は終身拘禁とされており,とにかくスウェーデンは全体的にとても刑罰が軽くて,レイプはこの中においては非常に重いということを御理解いただければと思います。   【スライド21枚目】時間がないので,もう一つの構成要件についてだけお話しさせていただいて,終わりたいと思います。こちらが条文になります。法務省の方で訳された仮訳が委員・幹事の皆様のお手元にあると思いますが,私の方の訳を使わせていただきます。大筋同じで,スウェーデン語から訳すか英語から訳すかというところで少し違いがあるくらいかなと思っています。   【スライド22枚目】構成要件を見ますと,まず,「被告人が,被害者と性交又は性交に相当するその他の性的行為を行ったかどうか」について判断されます。これを行っていなければ,少なくとも1条には当たらず,無罪です。もちろんほかの軽い犯罪になる可能性はありますが,少なくとも1条としては検討されません。   この行為があったとすると,このスライドに記載した三つの絶対に任意とはみなされない要件があったかどうかが検討されることになります。こちらがあるとされた場合には,たとえ被害者が任意であったと言っても,レイプとなります。もしこの三つの絶対に任意とみなされない要件がなかったとなった場合に初めて,被害者の参加が任意であったかどうかの判断に進みます。   【スライド23枚目】そして,被害者の参加が任意であったと分かれば,無罪となります。   任意ではなかったとなったとき,次に,初めて加害者の方の話になります。加害者が被害者が任意に参加していなかったことを理解していたか。理解していればレイプになります。理解していなければ,今度は任意に参加していないリスクを被告人・加害者が知っていたか,又は知っているべきであったかについて判断し,これが否定されると,無罪となります。   そして,これが認められると,もう一つ進みます。今度は被害者が任意に参加したかどうかにかかわらず,被告人がそのリスクに無関心であったかどうかを最終的に判断し,無関心でなかったのであれば過失レイプ罪となります。そして,無関心であったのであれば,故意が肯定される類型に当たりますので,レイプとなるといったような判断になります。   時間が過ぎておりますので,簡単ではございますが,ここまでで私の説明とさせていただきます。ありがとうございました。 ○井田部会長 矢野先生,ありがとうございました。それでは,10分をめどに質疑応答をお願いします。 ○小島委員 矢野先生,どうもありがとうございました。とても勉強になりました。スライドの22枚目の表についてお話しなさった要件について質問します。ここの中で,例えば,睡眠とか深刻な恐怖とか,障害とか,そういう割と抽象度が高いものについて,特に脆弱な状況の不適切利用という要件を入れていて,少しでも明確なものにしようということですね。23枚目にあります,被害者の参加が任意であった,つまり,絶対的にレイプに当たらないという要件に該当しない場合であっても,強要されておらず,被害者の脆弱性や依存性を利用しない場合でもレイプにしようというのが今回の改正だと伺いました。ここで,被害者の参加が任意であったかどうかについては,判断の基準は明文化されておりません。重過失についても,こういう場合が重過失に当たるのだというようなことについても,条文上,明確化されていないです。そうすると,いずれの場合についても,結局どういう場合がこれに当たるのかということについては,判例とか解釈とかに委ねていく,これ以上,明確な要件は入れないでもいいのだという選択をこの立法はしていると思いますが,それでよろしいのかということと,どうしてそのような立法が行われたのかについて教えていただければと思いました。 ○矢野氏 おっしゃるとおりだと思います。こちらの,今示させていただいておりますスライド23枚目の流れ図というのは,実は,法律ができた後,判例を分析して作られた流れ図になります。どうやらこのような形で2018年の改正以降はやるようになったのだろうという分析の下に作られた流れ図になりますので,判例を見ながらこれから分析していくという形になっています。特に任意性のところについては,基準として,もちろん日本でもそうだと思うのですが,その前の行為は全く問わない。例えば,過失レイプ罪について,最高裁判例は一つしか出ておりませんが,SNSで知り合って初めて会った男性を,遠くから来たからということで自宅に泊め,一緒に布団に入り,お互いに下着,しかも下の下着だけですね,パンツだけを履いていた状態でベッドに入っているにもかかわらず,一審,二審はレイプ罪,最高裁は過失レイプ罪が成立すると認定していますので,要するに,その瞬間に任意であったかどうかが問われることになるわけです。   そのことに関して,もちろん黙示の同意もあるだろうということで,例えばパートナー間で眠っているときに性行為をしたといった場合に,本来,眠っている人は任意に意思を表明することができませんので,レイプという考え方もあるわけですね。けれども,立法のときに,それはやはりケース・バイ・ケースでしょうと。しかし,それをもし事件化されたら犯罪になる可能性はありますよという形で解説がされているところです。実際には,故意なのか過失なのかのところはやはり相当分かりにくいところがあって,このスライドに書いてあるような順番で見ていくのだということになっていますが,一審,二審では,純粋に被害者が任意に参加したかということを考えればレイプでしょうと言っていましたので,そこはこれからの判例に委ねられていくのだろうと思っております。 ○小島委員 ありがとうございました。 ○今井委員 委員の今井でございます。大変貴重な御説明ありがとうございました。文言の確認をさせていただきたいのですけれども,1条の和訳では任意という言葉が使われていて,1条aでは自発的という言葉が使われていますよね。任意と自発的の意味が原文でも違っているために,このようにお書きになっているのでしょうか。つまり,任意という言葉はウィズコンセントということだと思いますし,自発的というのはボランタリーだということになって,意味が違いますので,もしもこの任意と自発的とを書き分けられているのでしたら,1条と1条aの間に少し差があるような気がするのですけれども,そこは立法の過程でどうだったでしょうか,教えていただければと思います。 ○矢野氏 大変申し訳ありません。この点については,私が最後まで自発的と任意の訳をどちらにするか迷ってしまっていたもので,訳の揺らぎです。全く同じ言葉,ボランタリーです。 ○今井委員 任意にプラスアルファが何か要るということですね。1条に該当する際にはコンセント,プラスアルファが要るということですね。 ○矢野氏 それが少し難しくて,コンセントという言葉を使わなかった理由は,いわゆる刑法でいうほかの「同意」と混同されてはいけないので,あえてこのボランタリー,フリービリングという単語を使いましたという解説があるので,そこに特別な要件があるということではないと思います。なぜならば,スウェーデンでは,実際にはこの条文のことを,通称,「同意法」と呼んでおります。ですので,私が任意と自発的の訳が揺らいでしまっているのですけれども,ここは同じ言葉で,基本的には何か特別な要件を課しているということではございません。 ○今井委員 どうもありがとうございました。 ○井田部会長 ほかに御質問はございますか。ほかになければ,これで終了したいと思います。   あらかじめ委員・幹事の方から出された質問も取り入れて御説明してくださったので,その分,皆さんの理解が大いに進んだと思います。   矢野先生には,進歩的で特色のあるスウェーデン刑法の性犯罪規定について,大変明解に御説明いただきまして,誠にありがとうございました。お話の内容につきましては,審議に役立たせていただきたいと思います。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。   6組目の方は金尻カズナ様,岡恵様,後藤稚菜様です。性的姿態の撮影被害についてお話を頂きます。   部会長を務めております井田でございます。本日は,御多用中のところ,ヒアリングに御協力いただき,誠にありがとうございます。まずは皆様から15分程度お話を伺い,その後,委員・幹事から質問があれば,10分程度質問をさせていただきたいと思います。   それでは,よろしくお願いいたします。 ○金尻氏 ありがとうございます。NPO法人ぱっぷすの金尻と岡です。ぱっぷすは,性的搾取やデジタル性暴力の相談窓口を運営し,そこから見えてきた社会課題に対して予防啓発活動なども行っております。   お手元の「法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 ヒアリング資料」(NPO法人ぱっぷす提出資料)の2ページの図1にあるように,現在,デジタル性暴力の被害相談は後を絶たない状況があります。ぱっぷすでは,そのデジタル性暴力に遭われた方の総合支援を目的とし,リベンジポルノや児童ポルノ,アダルトビデオの出演被害に係る性的な画像記録の削除要請を行っています。同時に,被害者の意思を確認し,刑事事件化できる場合は法執行機関と連携し,被害回復に努めております。   一度でも性的画像記録がインターネットに拡散した場合,被害者の権利侵害が長期間継続し,心身に与える有害な影響が極めて重大でもあります。その結果,性感染症,望まぬ妊娠,長期の精神的な治療,就労機会を奪われたり,自死などの社会全体が被る被害というのも甚大であると考えております。   資料の「2 性的画像記録の被害とは」につきましては,多くの被害者は,撮影に同意を求められても積極的に同意する方はまれです。多くの被害者の方は,撮影のときに同意したかどうかではなくて,知っていたが断れなかった,知らなかった,拒んだの三つのいずれかに該当します。分析すると,資料3ページの図3の「現状について」欄のように①から⑫のパターンがあります。撮影された性的画像記録がインターネット上に投稿されると,いわゆるエロ動画やアダルト動画と称した拡散によって初めてその人権侵害性に気付かれる方が多くいらっしゃいます。拡散したものは実質的に野放しの状況で拡散し続けますので,被害者をより苦しめるという状況があります。   資料の「3 知らないうちに撮影されたケース(性的盗撮)について」について御説明します。性的な盗撮は公共空間や民間施設,私的空間のトイレ,更衣室,廊下,階段,浴室,寝室など,様々な場所で行われます。一つ目は,顔などの被写体本人が,いわゆる同定ですね,特定しやすい場合,二つ目は,スカートの中,下着姿など,性的な部位のみで本人と同定しにくい場合,三つ目は,その両方を混ぜた場合があります。顔と性的な部位とは別人の場合や,被害者自身は自分の写真であると確信していても,いつどこで撮影されたかが特定できずに,加害者が野放しの状況にもなっております。特に,性的な盗撮被害の相談の多くは,やはり本人が探して見付けたというケースはまれでして,多くの方は,第三者から被害者にSNSなどで送られてきたり,第三者が知人に連絡をして被害者が知ったり,撮影者から直接送付などがあったり,彼氏や父親がアダルト動画サイトで偶然見付けたりします。具体的な事例については,岡が発言いたします。 ○岡氏 こんにちは,岡です。事例を紹介させていただきたいと思います。   まず,知らないうちに撮影されたケースの相談として,最近あったものでは,例えば,中学校の部室で水着に着替えているところを盗撮されていたものが,いわゆるアダルトサイト,ポルノサイトに,「これは児童ポルノではありません」というような表記とともに掲載されていたと。そのサイトを見ると,やはり同じくらいの年齢の子たちなのだろうなという写真もたくさんそこに羅列されているような状態で投稿されていました。   あとは,高校生のとき,18歳未満のときに撮影されたものが,同じようにそういったアダルトサイトに,「18歳未満ではありません」というふうな記載で投稿されていたというような事例があります。こういったものは,まず,被害を受けた側が,これは,例えば18歳未満のときに撮影されたものなのだと立証しなければいけないという問題があるのですね。例えば,これが撮影されたのが18歳未満で,相談に来たときが18歳のときだと,これが本当に17歳のときだったのかとか,着ていたものとかだけではなく,いつどこで誰に撮影されたのかをしっかり提示できなければいけない,証明できなければいけないというハードルがあります。   あと,盗撮の相談で,やはりこれも少しやっかいになってくるのが,投稿されたときに顔だけモザイクを掛けられている場合というのもあるのですね。自分が見れば自分の体だと分かる,自分の近しい人間であれば,それが自分だということが分かるのだけれども,投稿する側は,これがリベンジポルノとかに該当しないように,要するに同定要件のハードルを上げるために,顔だけモザイクを掛けるというようなことが相談として寄せられてきています。   あとは,例えばスカイプで彼氏とかと会話をしているところの,そういった遠距離ということもあって,お互いにそういった性的な姿態を見せ合ったりだとか,そういったことをしているところを,カメラの向こう側にいる彼氏が実は撮影していて,それをオンライン上で掲載したり,売っていたりとかしていたというような相談もあります。また,これも投稿したのが本当にその彼氏なのかどうかというところも立証することが困難なところから,これも刑事事件化していくのがとても難しいケースです。   次に,撮影を断れず応じてしまったものに関してなのですけれども,これは最近本当に相談ケースとして増えている相談でして,例年の3倍の数の相談が入ってきています。恋愛間で多いのですけれども,SNSで知り合った人というのもありますが,例えば彼氏から性行為中の撮影をされていたり,断りたいけれども断ると嫌われてしまうのではないかとか,あとは,撮る側の,「えっ,何でいけないの」というような認識がやはりすごく強いです。「いや,彼女でしょう,別にこの二者間でしか見ないのだからいいではないか」,「信用できないのか」というようなことを言われて,断れないで撮影に応じてしまうと。これは実際に私たちが,例えば高校で講演をしたりとかするときに,高校生の男の子から,アダルトビデオはいいのに,何で彼女のはいけないのですかとよく聞かれるのです。何でネットにこんなに拡散されているのに,仲の良い彼女の撮影をしてはいけないのですかという質問をどういうふうに理解するかです。この児童に社会のルールと理解の欠如があるのか,そうではなくて,実際に裸の動画を撮ってはいけないとか,そういったルールはないですし,ネットを見れば同じように撮影されたと見られる動画や画像であふれている。ですから,別にそれはその児童に社会ルールの理解の欠如があったというわけではないのですよね。そういった形で何の悪気もなく撮影して,それを投稿する,また,仲間内でそれを,例えばLINEグループで投稿したりだとか,そういったことが起きているわけです。また,これが,例えばオンライン上で売り買いされていたりだとかいうようなこともあります。   あと,これは,「5 商業ルートで拡散してしまった性的画像記録について」なのですけれども,例えば,アイドル活動をしていて,今度は動画の撮影をするよと言われた撮影現場で,脱ぐように急に言われて,「いや,自分は脱ぎたくない」と言っても,「えっ,どうして,ほかのアイドルの子たちはみんな水着になっているでしょう,下着になっているでしょう,どうしてできないの」というような形で,撮影することを強要されたというような相談,これは本当にぱっぷす創立以来ずっと後を絶たない,ずっと右肩上がりの相談です。この被害に遭うのは女性だけではなくて,男性もそうです。   例えば,高校生とかでも,運動部にいる子がよく狙われるのですが,部活で忙しくてなかなかバイトができないところ,「モデルをやってみないか,往復のチケットのお金を出すから撮影においで」と言われて,片道切符だけ持って撮影現場に行ったと,そこで性的な動画を撮られるということが分かって,「いや,自分にはできません」と断ったのですけれども,「あっ,そう」と言われて,「すみません,帰りの切符がないのです」と言って,「いや,撮影に応じないのだったら,それは帰りの切符はこちらが出す義理はない」と言われて,結果,撮影に応じなければいけなかったと。彼は被害を訴え出たのですが,その後,男性同士の性交類似行為,これは公衆道徳上の有害業務に該当しないということから,刑事事件化ができなかったというような事例,これが散見しています。   また,ある児童は,これは撮影されたのが児童であったのにもかかわらず,いや,相手は児童だと知らなかったのではないかというようなことで,事件化をなかなかしてもらえなかったというようなこともあります。最近,コロナのこともあって,アルバイトがなかなかできないというところから,こうやってモデルのアルバイトだとかいろいろなことを言って募集して,実際に撮影現場に行ったところ,もうカメラも設置されている状態で,大人に囲まれているところで,契約書にサインをさせられ,「いや,契約したのだから」というようなロジックで撮影をそのまま続行させられるというようなことがあります。   先ほどの話にも,自発的な性行為でない場合の話が出ていましたが,本当に撮影される側というのは,あたかも自発的なような形で撮影をさせられるわけなのです。ですから,よく私たちのところに相談に来る相談者さんが言うのは,撮影中は無だったと,何をしたか覚えていない,要するに解離状態だったということですよね。ですから,自分自身で発売されている動画や画像を見たことがないという人もいるわけなのです。このカメラの前で自分がした笑顔というのが,それを見るのが恐怖なわけですよね。撮影を早く終わらせてほしい,早くこの性行為,上にのっかっている男性に退いてもらいたいという気持ちで一生懸命笑顔を作って,撮影されているわけなのですよ。それが撮影されたものというのがそのまま正規のルートで販売され,ネット上に拡散されていると,こういったものを今の児童が見ていますので,普通の恋愛の間でも,ネット上で普通に正規で売られているものと同じようなものを自分が作っているのだという認識で,恋愛間の性行為でもこういった撮影が当たり前のように行われ,被害者の意思に反してネット上に拡散されているというようなことが起きています。   次は,グルーミングについて金尻さんからお願いいたします。 ○金尻氏 では,「6 加害実態の調査について(SNSを使ったグルーミング加害)」について説明します。このようにデジタル性暴力をする加害者は,本当に特殊な性的なし好を持った人たちではなくて,私たちは,今年の夏にNHKとも協力して,14歳の中学3年生の女子生徒で甘い物が好きな受験生という架空のTwitterアカウントを作って,そこで友達が欲しいとつぶやいたところ,1分も待たないうちに10人近くの方からメッセージが届き,2か月間で200人近い人が接触をしてきました。その多くは性的な目的で,中には実際に会って性行為をしたいというふうな内容もありました。大人たちが使うSNS,Twitterと,子供たちが見るSNSの風景が全く異なるということです。性的な加害の温床ともなっております。実際にぱっぷすでは加害者と会うことができましたけれども,SNSを通じて性行為をしても罪に問われるかどうかはケース・バイ・ケースだというふうな主張をしていて,そのような状況がありますので,本当に今,グルーミングし放題,児童に対して声を掛け放題という状況が国内で起きております。   「7 心身に与える影響について」ですけれども,ぱっぷすに寄せられる相談の多くが,まさか自分が巻き込まれると思わなかったとおっしゃるのですね。特に,デジタル性暴力は,実際にインターネットで拡散して,拡散した後で,受けた人権侵害性の甚大さに気付かれる方が後を絶たない状況があります。現行の制度では,やはり性的な画像を削除するためには,本人又はその御家族が,自身が被写体となった性的画像記録を見なければいけないと,それで削除しなければいけないというふうな二次被害の温床にもなっております。   「8 現行制度の課題と必要な法整備について」なのですけれども,特にそのうち「① 意に反した性的画像記録の撮影の処罰化・意に反して拡散した性的画像記録の所持を禁止する法整備化を求めます」についてです。デジタル性暴力は,どのような形であっても,拡散した後に気付かれるということですので,デジタル性暴力については,今,国際的にも規制の強化が行われております。そこでぱっぷすでは,性的画像記録の「私事」の要件を撤廃し,現在の被害に焦点化していくことを求めます。その1として,意に反して性的画像記録を撮影した場合の処罰化,2番目として,意に反して撮影された性的画像記録の提供の処罰化,3番目として,現在意に反して拡散している性的画像記録の所持の規制,4番目として,同定要件の緩和を求めていきたいと思っております。   あと,性的な姿態の撮影行為に関する処罰の中で,没収とか消去についてですけれども,今,ハードディスクへの保存というのはなかなかまれでして,SSDというフラッシュメディアを使った媒体で記録がされております。これはなかなか,その削除機能も各社によって異なっていることから,当団体では,物理的な破棄による削除というのが重要ではないかと考えております。   「③ グルーミングに対する規制」についてですけれども,特に現行の罰則の活用だけではグルーミング行為を取り締まることはできないことから,グルーミング行為自体に対する新たな罰則化を強く求めます。現行制度ではおとり捜査は警察官に認められていませんが,例えば別の犯罪類型ですね,麻薬とか向精神薬の取締りでは,麻薬取締員などはおとり捜査ができます。グルーミング加害についても,こういったおとり捜査ができるような法整備を求めていきたいと思います。   その他の課題としましては,有償で頒布する目的で性交が行われているビデオに関して,製造及び提供した場合の処罰化,あと異性要件の撤廃を求めていきます。本来であれば,このような性交を伴う契約は公序良俗に違反しますけれども,あと,対価を受けて不特定の相手方と性交することも売春防止法で禁止されていますが,アダルトビデオなどの撮影と称して金銭の授受を複雑にすれば,事実上野放しの状況になっているというところもあります。   また,性的画像記録の拡散により,やはり社会的不利益を被った方に対する救済策の整備を求めております。   これ以上被害者を出さないこと,現在被害で苦しんでいる方の救済が必要ですので,この資料の「8」,「9」に掲げた事項を念頭に議論を要望いたします。以上です。 ○井田部会長 ありがとうございました。それでは,10分をめどに質疑応答の時間を持ちたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本委員 貴重な御報告をありがとうございます。この同意のない性的画像は,かなり広まっている現状があるのですけれども,削除要請にどのくらいの人たち,またサーバが応じてくれるのかということと,あと,海外サーバで複製されたり販売されたりして登録された場合には,なかなか削除も難しいとも聞いています。この複製・販売することに関しても何か規制が必要かということについて,お聞かせいただければと思います。 ○金尻氏 児童ポルノ,リベンジポルノに関しては,大体,児童ポルノは9割以上の削除ができます。それだけ海外のネットワークですね,やはり海外は児童ポルノは許さないという社会的な醸成ができているので,かなり削除される。ただ,やはり都度投稿されていきますので,いたちごっこの状況が続いている状況があります。あと,リベンジポルノは8割ぐらいの削除率です。問題なのが,いわゆるアダルトビデオ出演強要と呼ばれるビデオにつきましては,5割ぐらいの削除率になっております。海外のサーバに関して拡散というところなのですが,多くのサーバがアメリカのネバダ州,カリフォルニア州に集中しております。ぱっぷすの削除要請も大体,半数以上が海外のサーバに対して行っております。そこは,やはりなかなか応じないところもありますし,場合によっては,オフショ地域といいまして,法律の規制の緩い地域にあえてそのサーバの所在地を置いて,なかなか削除しにくくするというふうな問題が起きております。   複製販売につきましては,規制はもちろん必要になります。やはりクロスポスティングといいまして,簡単に複製ができてしまう,特に児童ポルノ,リベンジポルノに関しましては,複製をして,ある種総集編みたいなものを作って,それを商売にしているというふうなビジネスモデルが成り立っておりますので,やはりきちんとした規制が必要です。ただ,実際,複製販売されたものについて,どうやって被害者を特定しなければいけないのかという問題もあります。つまり,いろいろなものの総集編として混ざっているので,それを一つ一つまた確認していかないといけないと,残念ながら今,ある種,削除に関しては実質的に申告しないとできないことになっておりますので,見たくない被害者にとってはすごくハードルがあるので,やはり何らかの形で司法機関とかが主体となって削除要請を受け持つような,そういった制度も必要ではないかと考えております。 ○山本委員 ありがとうございます。もう一つ。性的画像の没収・削除に当たってなのですけれども,その人が本人であるかということの同定の緩和につきまして,被害者の方に負担のない形での緩和というのは,どれくらいのレベルのものを求められますか。 ○金尻氏 同定の緩和につきましては,やはり被害者の方がこれが御自身だと言ったものに関しては,可能な限り削除してほしいというのが私たちの願いです。実際,例えば,ほくろの位置とかいろいろなことを特定しないといけないということでは,それもやはり二次被害につながりますので,それを想定したものを裁判所に提出したりとかということは,やはり二次被害につながります。ですから,明らかに,例えば当時の状況とか,そういった証言で,客観的に見て,これは御本人さんだと分かるものにつきましては,せめて削除ができるような制度,削除の要請をしやすくなる制度というのが必要かと考えております。 ○山本委員 資料の5ページの事例5で,性的画像を拡散するということで脅されたという事例なのですけれども,このような形で,この方はDVのような被害なのかなと思うのですけれども,呼び出されて性交を強要されるとか,またお金を取られるとか,又は性を売買するように求められるというような被害を私も聞くのですけれども,こういういわゆるセクストーションといわれるような性的画像を用いた脅しについて,どういう相談があるか,教えていただければと思います。 ○岡氏 多いものでは,例えば,最初に撮影されたもの,これはグルーミングでもそうなのですけれども,最初に撮影されたものを用いて,その人の言うことを聞かないと,既に撮られてしまった動画や画像だとか個人情報を,どういうふうにこちらが利用するか知らないよ,といった感じで圧力をかけられて,その人に従わざるを得なかったというような,そういった関係性を作られてしまう,そこでその関係性から抜けられず,ずっとそういった,性行為もですし,動画や画像の撮影も承諾させられていたというような相談というのがあります。 ○山本委員 ありがとうございます。そういう場合に,どういう規制があるといいのでしょうか。脅迫とかも使われるのかなと思うのですけれども,特別に規制が必要だと思われますか。 ○岡氏 そもそもやはり人の性的な姿態・裸だけではないですけれども,裸の写真であったり,動画,性行為の動画や画像を撮影するということ自体に対しての規制というのが必要になってくるとは思っています。今,本当に何も規制がないこと,がいけないことなのだということの社会認知がそもそもないので,やはりそういった,まず,人の性的な姿態であったり,裸の動画や画像の撮影,性行為の撮影ということに関して,これが規制されていかないといけないというふうには,相談から感じています。というのが,それがやはりいけないという認識がないと,結構,相談者たちの方々は皆さん自分を責めているわけなのですよね,これが被害として訴え出ていいという認識にも,やはりなかなかなれないという問題があるのですね。例えば,先ほどのグルーミングの方でもそうですけれども,人のそういった性的な動画・画像を,撮ってはいけないとか要求してはいけないというのが,それが社会的なルールであれば,それを強要されたときに,少しは,これっていけないことをされている,相談してもいい立場だという認識になれるかなとは思うのですけれども,それすら今ない状況では,別に相手は法的には何も違反していないし,自分は言われるがままに,やはり従わなければいけないというような状況があると思って,見ています。 ○山本委員 ありがとうございます。 ○齋藤委員 貴重なお話をありがとうございました。グルーミングに関してなのですけれども,グルーミングで性行為とか,あるいは実際に体を触られるとかということに至らず,グルーミングだなとオンライン上で思った時点でブロックするなどで切ったとしても,やはりその言葉を投げ掛けられたということ自体で子供たちがどれぐらい傷つくのかということについて,教えていただければと思っております。 ○金尻氏 特にオンライン上だけで終わるグルーミングというのもあります。それは,児童だけではなくて私も経験したりとか,実際,性的な,例えば自慰行為をしている映像がどっと来たりということもあったりするわけです。大人であっても,それはすごくショックですし,すごくトラウマになると思います。子供であればなおさらです。特に,児童に対して性的な映像とか写真を見せるということは,これは児童虐待そのものでもありますので,まず実際,オンライン上で児童虐待が行われているというふうな認識になります。 ○岡氏 やはりどうしてもSNS上で知り合って,それで,例えばLINE交換をして,というケースが相談事例としては多いのですけれども,まず児童の信頼を勝ち得るということをしているのですよね。例えば,先ほどの例だと,「受験勉強大変だよね」といった感じで近付いてきたところから,どんどん今度は性的な内容に入ってくる。相談者さんの中ではやはり,「いや,自分はそういったのに関心ないよ」とか,「自分はそういうことをしないので」と言ったときに,「えっ,ほかの子たちはしているよ」というような感じで,ほかの子たちはしているのに,君はどうしてと言われるということが,やはり自分自身のモラルであったり価値観というのをすごく傷つけられるのですよね。自分は嫌だから嫌ときちんと断ったけれども,その断ったこと自体がおかしいことなのだ,それで,何だったら自分と同い年ぐらいの女の子たちで,その送ってもらった動画や画像を急にばっと送り付けてきて,「見て,ほら,この子たちもこうやってみんな普通にやっていることなのに,どうして君にできないの」と言われてしまう。   やはりそういった形で自分の写真や動画を送ると,その写真や動画が,これは児童だけではなくて大人もなのですけれども,今その写真や動画がどのように使われているか分からないという恐怖観念にすごく陥るのです。それで,学校に行くこともできない,大人であれば大学に行くことができない,会社に行くことができない,目が誰かと合えば,あの人は私の動画や画像を見たのかなというような,そういった恐怖観念にさいなまれて,なかなか社会復帰ができなくなっている相談というのも聞いています。実際にそういった動画・画像というのが,Twitter上で加害者が同級生を見付けるのですよね,その同級生にそれを実際に送り付けてしまったりだとかいうようなことがあります。 ○井田部会長 ありがとうございます。残念ながら,もう時間が参りましたので,これで終了とさせていただきたいと思います。   金尻様,岡様,後藤様には,本日は,実際の活動の中で遭遇されたたくさんの事例に関する情報や非常に貴重な知見をたくさん御提供くださり,誠にありがとうございました。お話しいただいた内容につきましては,当部会における審議に役立たせてまいりたいと思っております。委員・幹事を代表して心より御礼申し上げます。ありがとうございました。   それでは,本日のヒアリングは以上で終了となります。   次に,次回の進行についてお諮りしたいと思います。第1回会議で議論いただいたとおり,諮問に掲げられた個別の論点について,第一の一から順番に一巡目の議論を行うことにしたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては,これで終了いたしました。   本日の会議の議事につきましては,原則的な方針としては,発言者名を明らかにした議事録を作成するとともに,説明資料等についても公表することとさせていただきたいと思います。もっとも,御発言内容を改めて確認し,ヒアリング出席者の御意向も伺った上で,プライバシー保護等の観点から非公表とすべき御発言等があった場合には,該当部分を非公表としたいと考えております。それらの具体的な範囲や議事録等の記載方法については,ヒアリング出席者との調整もございますので,部会長である私に御一任いただくことはできますでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。そのようにさせていただきたいと思います。   では,本日の審議はここまでにしたいと思います。   次回の予定について,事務当局から説明をお願いします。 ○浅沼幹事 次回の第3回会議は,令和3年12月27日月曜日の午前10時からを予定しております。詳細につきましては,別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-