刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第3回) 第1 日 時  令和3年5月27日(木)     自 午後0時58分                          至 午後3時41分 第2 場 所  法務省小会議室 第3 議 題  1 今後の検討予定について         2 議論(捜査・公判における手続の非対面・遠隔化)          (1)取調べ等          (2)被疑者・被告人との接見交通          (3)打合せ・公判前整理手続          (4)証人尋問等 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○南部室長 ただいまから,刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第3回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 皆様,こんにちは。本日もありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,配付資料について事務当局から説明をお願いいたします。 ○南部室長 本日は,議事次第のほか,配付資料10から13までをお配りしておりますので,ウェブ参加の皆様におかれましてはお手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の方につきましては,ただいま申し上げた資料を机上に御用意しておりますので,御確認ください。配付資料の内容につきましては,後ほど御説明いたします。 ○小木曽座長 それでは,本日の議事次第の「1」ですが,「今後の検討予定について」ということで,認識を共有しておきたいと思います。   前回申しましたとおり,本検討会の検討対象は刑事手続全般にわたる多岐のものである一方で,この検討は喫緊の課題であるとされていることもありまして,検討会における議事は十分かつスピード感を持って進めるということが要請されております。   前回の会議で,「1 書類のデータ化,発受のオンライン化」という項目について一巡目の議論を行うことができ,次回の会議までに,全論点について一巡目の議論をすることができるのではないかということを考えますと,本検討会の取りまとめについての一応の時間的な目途といたしましては,令和3年度末,本年度末とするのがよろしいのではないかと考えますが,いかがでしょうか。特段御異論がなければ,そのようなことでよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。では,令和3年度末を一応の目途として今後の検討を進めていくことにいたしたいと思います。   以上が議事次第の「1」でした。   では,各項目についての議論に入りたいと思います。   本日は,第2回の会議に引き続き,論点項目に従いまして,議事次第のとおり,論点項目の「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の(1)から(4)までの小項目について,順に議論をしていきたいと思います。   それでは,「(1)取調べ等」についての議論をいたします。まず,事務当局から資料10についての説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料10の「2(1)取調べ等」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。取調べや弁解録取・勾留質問は,従来よりいずれも広く対面で行われてきたものであることを踏まえますと,これらをビデオリンク方式により行うことにつきましては,関連する規定を整備する必要があるかが論点となると思われますので,そのような趣旨で,「ビデオリンク方式により行う取調べ・弁解録取・勾留質問に関する規定を整備するか」などと記載しております。   なお,ここでいうビデオリンク方式につきましては,枠囲いの中に付記してありますように,「対面していない者との間で,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を指す」ものとして記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を4点記載しております。このうち三つ目の「必要となる法的措置」につきましては,本方策の導入を検討する上では,「現行の規定での対応の可否」や「現行の規定に対する手当ての要否」について検討する必要があると思われますので,この検討課題を掲げた上で,具体的に検討する必要があると思われる点を記載しております。   資料10についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それでは,議論をしたいと思いますが,前半で資料10の検討課題の「1 必要性」,「2 許容性」について,まず御意見を頂戴しまして,後半で「3 必要となる法的措置」以降を併せて議論することにいたしたいと思います。   では,まず「1 必要性」,「2 許容性」について御意見を頂戴いたしたいと思います。お願いいたします。 ○佐久間委員 では,ビデオリンク方式による取調べについて述べます。   取調べは,真実を知る事件関係者である被疑者や被害者を始めとする参考人等から事案の解明に必要な事実関係を聴取するために行われる重要な捜査手法の一つであります。そうした取調べの真相解明機能は,刑事手続において情報通信技術を活用できるようになったとしても変わることはありません。そして,取調べは真相解明の第一次的な担い手である捜査官において捜査を進める上で,適切な時期に適切な場所で適切な方法を決めて行うものであり,ビデオリンク方式による取調べというのもそのような取調べ方法の一つの選択肢としてあり得るところであるといえます。また,私もそうですが,多くの検察官は,取調べは対象者と直接対面して行うのが通常であって,ビデオリンクによる取調べが活用可能になったとしても,それは事案の真相を解明する上で有用性が認められる場合に用いる方式であると考えていると思います。   ビデオリンク方式による取調べが有用である場面については,例えば,昨今の新型コロナウイルス感染症の流行下において県境をまたぐ移動が制約されている中で,遠隔地に居住している参考人を取り調べる場合や,振り込め詐欺の被害者など遠隔地に居住し出頭が困難な高齢の参考人を取り調べる場合などが考えられます。他方で,取調べの持つ真相解明機能をどのように担保するのか,捜査の迅速性・機動性・柔軟性をどのように確保するのか,さらに,捜査の秘密やプライバシーの確保,第三者からの介入の危険性の排除なども考慮する必要があると思われます。 ○笹倉委員 ただいまの実務の観点からの御指摘と重なるところもありますが,私も「1 必要性」と「2 許容性」について意見を述べます。   御承知のとおり,現行刑訴法の198条1項,223条1項によれば,捜査機関は犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者あるいは参考人など被疑者以外の者の出頭を求め,これを取り調べることができるとされております。この規定には取調べを行う方法についての限定は特にありませんし,取調べをする者と取調べをされる者とが対面することも,条文上,要求されておりません。したがって,現行刑訴法上,取調べをビデオリンク方式により行うことが禁止される,あるいは制限されるとまでは読むことはできません。取調べをビデオリンク方式で行うかどうかは,先ほど検察のお立場から御指摘がございましたけれども,捜査機関の判断と裁量によって行うことができるものと考えます。   また,弁解録取については,203条1項,204条1項,205条1項で,司法警察員又は検察官が被疑者に弁解の機会を与えるものと規定されております。さらに,勾留質問については,被告人勾留に関する規定である,「被告人の勾留は,被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ,これをすることができない。」という60条1項の規定が207条1項によって被疑者勾留に準用されるということになっておりますが,これらの弁解録取や勾留質問のいずれについても,取調べと同様に,それを行う方法は限定されておらず,聴取者と被聴取者とが対面することも条文上は要求されていません。   実質的に考えてみましても,弁解録取ないし勾留質問は,被疑者に弁解の機会を与え,又はその意見や弁解を聴取することによって留置の必要性を判断する,あるいは勾留の裁判の前提となる事情があるかどうかについて慎重に判断することを目的として設けられている手続でありまして,ビデオリンク方式によって映像と音声の送受信により被疑者に弁解の機会を与え,その弁解ないし意見を聴取することも,被疑事実を告げて被疑者の言い分を聴取することそれ自体の目的実現にとっては必ずしも妨げになるものではないと考えられます。   もとより,取調べ,弁解録取ないし勾留質問を行うときの被疑者の所在場所をどうするかという点は別途検討を要しますけれども,その点を措くとしますと,取調べ,弁解録取,勾留質問を対面,フェイス・トゥ・フェイスで行うのではなく,ビデオリンク方式で行うこと自体は可能であると考えます。   もっとも,これまで,取調べや弁解録取ないし勾留質問は,運用上,いずれもフェイス・トゥ・フェイスで行われてきたものであることを考えますと,刑事手続において情報通信技術の活用方策を定めるに当たっては,ビデオリンク方式によって取調べや弁解録取・勾留質問を行う場合の規定を整備することもあり得るように思われます。特に,弁解録取や勾留質問は,被疑者の身柄拘束を行う上での法定された手続ですので,手続の方式を明確にするという観点から,ビデオリンク方式で行うことについて規定を整備するのも一案であろうと考えます。 ○吉澤委員 先ほども触れられたんですが,被害者御本人や御遺族,そのほかにも捜査に協力する立場の方につきましては,精神面や体調などの関係,また居住地が遠方であるなどの関係で,その事件を担当している警察署や検察庁に出頭するのが困難であるという場合が多々あります。そこで,被害者の居住地である警察署や検察庁,被害者を支援する代理人弁護士の事務所や被害者支援センターなどといった,被害者らにとって精神的な負担が小さく,また安心して供述することができる環境において,オンラインで取調べをするという選択肢を積極的に認めるという方向で検討していただきたいと考えています。先ほど来も御説明されていますが,現在も特に禁止する条文はありませんので,オンラインでの事情聴取は可能であると思いますが,ドイツのように,参考人の取調べについてビデオリンクで行うことができるなどといった条文を入れて整理するということも望ましいと考えています。 ○河津委員 取調べをビデオリンク方式に行うことにつきましては,手続の迅速化にも資するものであり,積極的に運用されてよいと考えます。他方で,勾留質問をビデオリンク方式で行う許容性については,慎重な検討が必要なのではないかと考えます。昭和44年の最高裁決定が,裁判官が裁判所の庁舎外で勾留質問を行っても裁判所において裁判を受ける権利を保障している憲法32条に違反しないと判断していることは承知しております。しかし,勾留質問は身体拘束という重大な処分に対する司法上の告知と聴聞の機会を保障したものであり,この場面で捜査機関の支配から離れて裁判官の面前に速やかに連れていかれる機会を保障されている意義は小さくないと言うべきです。   御承知のとおり,国際人権規約,自由権規約9条3項は,「刑事上の罪に問われて逮捕され,又は抑留されたものは,裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官権の面前に速やかに連れていかれるものとし,妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する」と規定しています。裁判官の面前に速やかに連れていくことなく勾留という重大な処分を下すことは,この自由権規約9条3項へ抵触する疑いが生じるのではないかと思います。   したがって,被疑者・被告人の身柄を捜査機関や刑事施設に置いたままビデオリンク方式で勾留質問を行うことは,一般的には許容されるべきではなく,仮に感染症や災害のようなやむを得ない事由がある場合に限定するとしても,相当慎重な検討が必要なのではないかと考えます。   検察官の弁解録取につきましても,司法警察員から被疑者の送致を受け,面前で弁解を聴取した上で留置の必要性を判断することには一定の意義があるはずであり,被疑者の身柄を警察署に置いたままビデオリンク方式で弁解を録取して勾留を請求することを一般的に可能にすることは適切ではないと考えます。 ○小木曽座長 そのほか,あるいは補足的な御意見でも結構ですが,よろしいでしょうか。   それでは,「3 必要となる法的措置」について,それから「4」についても併せて御意見を頂戴いたしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○成瀬委員 今,河津委員から,被疑者を留置施設に所在させたまま,検察庁や裁判所からビデオリンク方式による弁解録取や勾留質問を行うことは,一般的に許容されるべきではなく,実施のための要件を制限的に定めるべきであるという趣旨の御意見が示されましたので,その点について私の方から質問をさせていただきたいと思います。   実施のための要件を設けるか否かについて議論する前提として,被疑者が検察庁や裁判所の構内に物理的に移動すること自体にどのような法的権利ないし利益があるのかが問題となりますが,河津委員はこの点についてどのようにお考えでしょうか。自由権規約は裁判官の面前に速やかに連れていかれる権利を保障しているという御指摘もございましたけれども,刑事弁護人として,その権利の具体的な内実をどのようなものとして捉えておられるのかについて,敷衍して御説明を賜れますと幸いです。 ○河津委員 我が国ではいわゆる代用刑事施設が広く用いられており,第一次捜査機関である警察の下で被疑者が身柄拘束されることが一般的に行われています。しかしながら,身柄拘束が被疑者・被告人の自由を包括的に奪う大きな人権侵害を伴う処分であることを考慮しますと,これについて捜査機関から独立した司法によるコントロールが十分に機能していることが重要であり,かつ,被告人から見れば,そのような手続の公正さが明確になっていることにも一定の意義があるものと考えております。   現在でも,必ずしも法的な知識が十分でない被疑者は,勾留前の弁解録取や裁判官による勾留質問がどういう手続なのか十分に理解できないこともございます。しかしながら,やはり身柄が移されて,裁判所という捜査機関から独立した場所に行って,捜査機関から独立した裁判官の判断を受けることは,被疑者にとってみれば,公正な手続が取られていることを理解する上で必要不可欠なものであるというのが刑事弁護人としての実感です。   先ほど引用した自由権規約が,裁判官の面前に速やかに連れていかれるということを明文で規定していることも考えますと,物理的に裁判官の面前に連れていかれる,捜査機関の支配から一旦離れる機会の保障は,IT化を理由として制限されるべきではないというのが私の意見でございます。 ○池田委員 私からは,「3 必要となる法的措置」のうち,上の方の「・」にあります「供述調書の作成方法に関する規定」について意見を申し上げます。   取調べについては,刑訴法198条3項以下に供述調書の作成についての規定があり,調書への録取や読み聞かせを経て修正すること,あるいは内容に誤りのない場合の署名押印について定められています。ビデオリンク方式の取調べを経て供述調書を作成する場合も,例えば供述調書の閲覧が画面越しになるといった事柄については,対面して供述調書を作成する場合と異なる取扱いとなり得ますけれども,作成それ自体が可能であることや,供述者による録取の正確性の確認が必要であるといった現行の規律自体は,ビデオリンク方式による取調べにおいても同様に妥当するものと考えます。そのため,ビデオリンク方式の取調べの場合の供述調書の作成方法については,紙の調書を念頭に置く署名や押印をこれに代わる措置に置き換えるなどの文言上の手当てをすれば足りるという考え方もあり得るように思います。ただ,この点は証拠能力の要件にも関わりを持つところでありまして,ビデオリンク方式特有の具体的な作成方法を定めるため別途の手当てをする必要がないかといったことについては,実際のビデオリンク方式による取調べの具体的な方法などを踏まえながら,なお検討の余地があるのではないかと考えております。 ○佐久間委員 「許容性」について意見を述べます。   要式行為として一定の厳格な手続によって行われる裁判所の証人尋問と異なり,取調べは一定の例外を除いて,一定の方式が法律上要求されるものではなく,ビデオリンク方式による取調べは,皆さんもおっしゃっているように,現行法の下でも実施できるものと考えております。そのことを前提として,この方式による取調べを法律上どのように位置付けて考えるのかも検討しておく必要があると思います。また,証拠能力との関係で,ビデオリンク方式による取調べが,刑訴法321条1項2号が規定しております「面前」の取調べといえるかについては,裁判官面前調書についても,同項1号で「面前」にビデオリンクも含まれるとされているところであり,同項の2号が証拠能力を認める趣旨からすれば,取調官と相手方とが対面している場合と同程度に円滑かつ真摯なコミュニケーションができる通信環境等が確保されているのであれば,ビデオリンク方式による取調べも「面前」といってよかろうと思っております。   続いて,先ほどお話しになっておりました弁解録取と勾留質問に関する検察の考え方を述べたいと思います。   検察官の弁解録取をビデオリンク方式により行うことについては,取調べと同様,現行法上も許容されないものではないと思われ,例えば,感染症の陽性の被疑者を留置施設に置いたまま,検察官が検察庁からビデオリンク方式で弁解録取を行う場合など,必要性がある場合も考えられます。その場合に,刑訴法205条1項にいう被疑者を「受け取った」といえるのかなどの疑義が生じないような手当ての要否について検討する必要があると考えております。   また,被疑者が感染症にり患していても勾留請求する場合があると思われますが,そのような場合においても,被疑者を裁判所構内まで押送して裁判官と対面して勾留質問を実施するということになりますと,押送を担当する警察側にも,また勾留質問を実施する裁判所側にも感染が拡大するリスクがありますし,被疑者の動線を確保して勾留質問を実施し,その後に消毒等の措置をしなければならないといった感染拡大のリスクに対処するための多大な負担もあると思われます。特に,一日に多数の勾留質問を行う必要がある大規模庁の場合には,負担がますます増大する可能性がございます。このような負担を避けるため,本来であれば勾留すべきであると判断される被疑者についても,勾留質問することなく釈放するようなことがあるとすれば,捜査上の支障は大きく,捜査機関としても看過し得ないことだと思います。   そこで,そのような場合には,被疑者を留置施設に置いたまま裁判官がビデオリンク方式を活用して勾留質問することも考えられますところ,第1回会議において,笹倉委員から,勾留質問については裁判所の構内で行うことに意義があるという考え方もあるという御指摘がありましたように,このことが法的に保障されるべきだとして,留置施設に所在する被疑者に対してビデオリンク方式により勾留質問を行うことには疑義があるとの指摘もあり得るところだと思います。これについては先ほど来,河津委員が御指摘されたような懸念も検討されるべきだと思います。したがって,これらの手続に対する法的問題点を整理していく必要があろうかと思います。 ○河津委員 取調べをビデオリンク方式で行う場合,取調べを受ける者の所在場所に第三者が存在し,供述に影響を及ぼしていないか確認できるようにすることが必要になると思われます。そのための措置ですが,やはり取調べの録音・録画,具体的にはビデオリンクで送受信される画像・音声を録音・録画の方法により記録することが最も合理的であり,適切なのではないかと考えます。 ○永渕委員 何人かの委員の方々から御言及がありましたけれども,勾留質問に関して少し発言させていただきます。   感染症がまん延している状況や,その他対面による勾留質問が困難である場合など,一定の場合に遠隔による勾留質問を活用すべき場面があるものと思われます。もっとも,勾留質問の実施に際しましては,捜査機関の影響をできるだけ遮断し,被疑者の陳述の任意性を担保する必要があると思われます。したがいまして,現在の運用でも,原則として,被疑者を裁判所まで引致してきた警察官を勾留質問室に在室させないで行う取扱いが一般的であります。勾留質問の非対面・遠隔化を行う場合には,これと同様の観点から,被疑者の所在場所について捜査機関の影響が排除された状態であることが前提になると考えられます。 ○重松委員 先ほど河津委員の方から,ビデオリンク方式による取調べの場合の録音・録画の必要性というふうな御趣旨の御発言がございました。この点について一言申し上げたいと思います。現行の録音・録画制度の趣旨等々,そういったことをよく検討の上,実際のビデオリンク方式による取調べを行う場合に録音・録画が必要なのかどうか,そういった点については慎重な検討が必要かなというふうに考えております。 ○成瀬委員 ここまでの議論を踏まえつつ,弁解録取や勾留質問の際の被疑者の所在場所について意見を申し上げます。   まず,被疑者を検察庁や裁判所に押送した上で,感染対策等の観点から,検察官や裁判官のいる部屋と同一庁舎内の別室に被疑者を所在させて,ビデオリンク方式により弁解録取や勾留質問を行うことについては,特段,問題は生じないと思われます。   他方で,被疑者を押送せず,その身柄が拘束されている警察署等の収容施設に所在させたまま,検察庁や裁判所からビデオリンク方式による弁解録取や勾留質問を行うこととして良いかについては,現行法の趣旨を踏まえつつ,慎重に検討する必要があります。   現行刑訴法上,被疑者の勾留を請求する権限が専ら検察官に属するとされていることからすれば,司法警察職員により逮捕された被疑者の弁解を検察官が録取するに当たっては,被疑者を逮捕した司法警察職員の影響を遮断し,供述の任意性を確保するのに適した状況で行うべきであると考えられます。   また,勾留質問についても,中立的な立場にある裁判官が行うものですから,被疑者に対する司法警察職員の影響を遮断し,供述の任意性を確保するのに適した状況で行うべきであると考えられます。   このような考え方を前提としますと,被疑者の身柄はやはり物理的に検察庁や裁判所に送る必要があるようにも思われ,被疑者を収容施設に所在させた状態で,検察官や裁判官が別建物からビデオリンク方式により弁解録取や勾留質問を行うことが果たして許されるのかが問題となります。   そこで,まず,被疑者を収容施設に所在させた状態で,これらの手続を行う必要性について考えてみると,弁解録取や勾留質問は,被疑者の身柄を拘束した後,その初期段階において,厳格な時間的制約の中で行わなければならない法定の手続であり,仮に被疑者が感染症に感染していることが判明したなどの事情があったとしても,そのことを理由に,法定の期限を超えてその実施を延期させることはできません。そうすると,佐久間委員や永渕委員から御指摘があったように,被疑者を収容施設に所在させた状態でビデオリンク方式により弁解録取や勾留質問を行う必要性が高い場合もあると考えられ,そのような方法で弁解録取や勾留質問を行うことを一切許容しないものとするのは硬直的に過ぎるように思われます。   他方で,ビデオリンク方式によっても,例えば,弁解録取・勾留質問の手続の趣旨や裁判官・検察官・司法警察職員のそれぞれの違いについて被疑者に丁寧に説明し,また,被疑者が所在する部屋の様子等について被疑者に確認するなどすれば,司法警察職員の影響が遮断されていることを確認した上で手続を行うこと自体は可能であると考えられます。さらに,司法警察職員に対して,あらかじめ,被疑者に対して影響が及ばないように配慮を求めるということも考えられます。   これらの点に鑑みれば,司法警察職員の影響を遮断し,供述の任意性を確保するのに適した状況で行うという要請との関係では,被疑者を収容施設に所在させた状態でビデオリンク方式により弁解録取や勾留質問を行うことも,許容される余地があると考えています。   もっとも,検討課題の四つ目の点に掲げられているように,現行刑訴法上,司法警察員は,逮捕状により逮捕された被疑者を「検察官に送致する」こととされ,当該「被疑者を受け取った」検察官が弁解録取を行うこととされている以上,弁解録取については,やはり被疑者の身柄を物理的に検察庁に移し,被疑者と検察官が対面することが必要となるようにも思われます。  仮に,身柄送致の本質が被疑者を釈放するか否かの権限を検察官に移すことにあると考えるのであれば,被疑者と検察官が対面しなくとも,刑訴法203条・205条に抵触することはないと思われますが,203条・205条の趣旨に照らして,果たしてそれで足りるといえるのか,それ以外の価値・利益はないのか,非対面を許容するために何らかの要件を設ける必要はないのかなどについて,更に検討する必要があると考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それ以外の御意見はいかがでしょうか。 ○成瀬委員 度々申し訳ありません。先ほどとは別の論点,具体的には,「必要となる法的措置」のうち,刑訴法321条1項2号の文言を改めるかという点についても意見を申し上げたいと思います。   御承知のとおり,刑訴法321条1項は,被告人以外の者の供述書・供述録取書について,例外的に証拠能力を認める場合を定めた規定であるところ,このうち,いわゆる検察官面前調書に関する同項2号では,「面前」との文言に特段の付記はされていないのに対し,いわゆる裁判官面前調書に対する同項1号では,「面前」との文言につき,ビデオリンク方式による場合もこれに含まれるという括弧書きが付されています。この括弧書きは,平成12年の刑訴法改正によりビデオリンク方式による証人尋問の制度が新たに導入された際に併せて規定されたものです。   そもそも,同項1号が裁判官面前調書について,緩やかな要件により証拠能力を認める趣旨につきましては,一般に,裁判官が,証人に対し正確性及び真実性を保つための尋問を行っているので,反対尋問に準じる信用性の吟味がなされていると考えられることなどによるものと解されているところ,ビデオリンク方式による場合であっても,裁判官が尋問により証言の信用性を吟味することが可能であり,対面であるかビデオリンク方式であるかは,証拠能力を認める趣旨との関係では,何ら違いがないといえます。同号の括弧書きは,このような考え方を前提に,新たにビデオリンク方式による証人尋問を導入する際に,併せて,これまでにはなかった同方式による証人尋問における供述が,同号の「裁判官の面前における供述」に含まれることを明確化するため,これを確認的に規定したものと考えられます。   他方,同項2号が検察官面前調書について,同項3号に規定する書面よりも緩やかな要件により証拠能力を認める趣旨につきましては,一般に,検察官が公正な立場で犯罪の捜査と公訴の維持を行う義務を負う法律家であり,検察官面前調書は,そのような検察官が,対象となる事件の捜査状況を知悉した上で,供述者に対し捜査上必要な事項を質問するほか,供述の正確性と真実性を吟味するために必要な質問をし,作成されるものであることなどから,検察官面前供述を証拠とする必要性・相当性が認められる一定の場合には,裁判官面前供述に準じて証拠として許容し,事実認定の一資料とすることが,事案の真相解明に資することによるものと解されています。そして,ビデオリンク方式による場合であっても,検察官が必要な質問等をすることは可能であり,同項2号により証拠能力を認めるのに必要な基礎に欠けるところはありませんから,対面であるかビデオリンク方式であるかは,証拠能力を認める趣旨との関係では,何ら違いがないものと考えられます。   このような考え方を前提とした上で,従来の運用では,取調べが広く対面で行われてきたことを踏まえると,今般,刑事手続において情報通信技術を活用することとし,ビデオリンク方式による取調べがその方策の一つに位置付けられるのであれば,ビデオリンク方式による検察官取調べで得られた供述についても,同項2号の「検察官の面前における供述」に含まれることを規定上明確化するため,これを確認的に規定し,解釈上の疑義をなくすことが考えられます。   その上でさらに,ビデオリンク方式により映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる場合のみならず,音声のみの送受信により通話をすることができる方法による検察官取調べで得られた供述も,同項2号の「検察官の面前における供述」に含まれるかという点については,先ほど申し上げた2号の趣旨や文言との関係を踏まえて,更に慎重に検討する必要があると思います。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,一通り御意見を頂戴できたと思いますので,次の話題に入ることとして,「取調べ等」についての議論はここで一区切りといたしたいと思います。   次は,(2)の「被疑者・被告人との接見交通」です。   まず,資料11についての説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料11の「2(2)被疑者・被告人との接見交通」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。接見交通について情報通信技術を活用する方策としましては,「①」の「接見についてビデオリンク方式により行うことができるものとするか」,「②」の「書類の授受について電子データをオンラインで送受信する方法により行うことができるものとするか」が論点となり得ると考えますので,その旨を記載しております。   その上で,これら方策の導入に関して考えられる検討課題を7点記載しております。このうち三つ目の「必要となる法的措置」につきましては,本方策の導入を検討する上では,「現行の規定での対応の可否」や「現行の規定に対する手当ての要否」について検討する必要があると思われますので,この検討課題を掲げております。   また,四つ目の「弊害が生じない方策の在り方」につきましては,本方策の導入を検討する上では,「弊害の内容」や,「弊害が生じない方策の在り方」が検討課題となると思われますので,これらを記載しております。   五つ目の「施設・設備整備の必要性との関係」につきましては,仮に本方策を導入するとした場合,ビデオリンク方式による接見や,電子データをオンラインで送受信する方法による書類の授受を可能とするための施設,通信機器等の設備を整備する必要が生じると思われますので,この点に関する検討課題を掲げております。   六つ目の「関連事項」については,本方策の導入を検討する上では,被疑者・被告人が外国人である場合を念頭に,ビデオリンク方式による接見を行う場合の通訳の方法について検討する必要があると思われますので,「接見をビデオリンク方式により行う場合の通訳」と記載しております。   資料11についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 それでは,御意見を頂戴してまいりますが,ここでも「1 必要性」,「2 許容性」について前半で御意見を頂戴しまして,後半で「3」以降について御意見を頂くことにいたしたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○河津委員 第1回検討会でも申し上げましたが,犯罪の嫌疑を掛けられ身体を拘束された国民・市民が自らを防御する上で,弁護人と即時に連絡を取り十分に協議をすることは,極めて重要です。現状では,限定された条件の下で拘置所に収容されている未決拘禁者と弁護人との電話による外部交通が実施されているほかは,弁護人が刑事施設を訪問しない限り協議をすることができません。このことによって,身体を拘束された被疑者・被告人が十分な防御準備・公判準備をすることは,身体を拘束されていない場合と比較して,著しく困難にされています。   また,憲法は,何人も「直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ,抑留又は拘禁されない。」と規定していますが,現状の下では逮捕された被疑者の多くは直ちに弁護人の援助を受けることができていません。身体を拘束された国民・市民の防御の権利を守り実現するために,弁護人との接見交通を一般的にビデオリンク方式により行うことができるものとし,かつ,電子データをオンラインで送受信する方法により遅滞なく書類の授受や連絡をすることができるものとする必要性は非常に大きいと考えます。   また,身体を拘束された国民・市民が日本語を話し,聞くことができない場合,弁護人の援助を受けるためには外国語通訳や手話通訳が事実上不可欠となりますので,通訳についてもビデオリンク方式により行うことができる必要があります。この必要性は,特に少数言語の通訳が必要となる場合,切実であると思われます。   さらに,身体を拘束された国民・市民が家族や友人と通信する権利も守られ,実現されるべきです。弁護人以外の者との接見もビデオリンク方式により行うことができるものとし,かつオンラインで送受信する方法による通信も可能とする必要性があると考えます。   この点に関連して,2015年に改定された国連被拘禁者処遇最低基準規則,いわゆるネルソン・マンデラ・ルールズの規則58は,「被拘禁者は必要な監督の下で,家族や友人と定期的に書面による連絡及び,利用可能な場合は電気通信,電子,デジタルその他の手段を用いる方法により通信することを許されなければならない」としています。また,同規則120により準用される規則61は,弁護人との接見交通について,「被拘禁者は遅滞なく,傍受又は検閲されることなく通信し,協議をするための十分な機会,時間及び設備を提供されなければならない」としています。我が国は世界最先端デジタル国家創造を掲げ,社会全体のデジタル化に向けて取り組んでいるのであり,この最低基準規則に掲げられている電気通信,電子,デジタルを用いる方法が我が国では利用不可能であるというのはふさわしくなく,合理的でもありません。そして,被疑者・被告人が弁護人と遅滞なく通信し十分に協議するための設備として,ビデオリンク及びオンラインで送受信される装置が整備され,提供される必要があると考えます。 ○重松委員 現状,警察の留置施設におきましては,被留置者による逃亡及び罪証隠滅の防止,あるいは施設の規律・秩序の維持の観点から,接見に際しましては相手方の本人確認や携帯電話等の通信機能・撮影機能を有する機器の面会室への持込み制限などをして対応をしているところでございます。また,被留置者と外部との間の書類の授受につきましても,同様の観点から,差し入れ人の本人確認や,やり取りをされる書類の検査などを行っているところでございます。警察としましては,今後,刑事手続のIT化が実現したとしても,当然こうした逃亡及び罪証隠滅の防止,あるいは施設の規律・秩序の維持の必要性は変わるものではないというふうに考えておりまして,現行の運用と同等の担保措置が講じられなければ,ビデオリンク方式による接見や書類の授受のオンライン化への対応は極めて困難であろうというふうに考えております。 ○佐久間委員 身柄を拘束されている被疑者・被告人の防御権や弁護人の弁護活動が十分に保障されるべきことは当然のことでありまして,その意味で河津委員の御要望はごもっともなことだと思います。刑訴法上,身体拘束中の被疑者・被告人との接見をビデオリンク方式によって行ったり,書類の授受を電子データによって行ったりすること,それ自体は,行為の概念整理の上では可能です。ただ,法律上これらが許容されるか否かという問題は,接見,書類の授受に課せられている制約との関係で検討されるべきことと思います。   そもそも,身柄を拘束されている被疑者や被告人は,罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれがあると判断された者であって,接見・書類の授受は,刑訴法39条2項,刑事収容施設法118条4項といった規定による制約の下で行われております。ビデオリンク方式によって接見する,あるいは電子データによって書類の送受信をする場合,現行法がこれらの制約を課すことで回避している弊害が発生しないようにする必要があります。この弊害の回避という課題は,迅速な接見や書類の授受といった観点から,ビデオリンク方式による接見や電子データによる書類の送受信が必要であるという要望について一定の理解を得られたとしてもなお,許容性の問題としては残るものであり,ビデオリンク方式,電子データの特質に照らしつつ,慎重に検討すべきであると考えております。   また,この課題については,弁護士会での研修や弁護人のモラル,倫理に依存すべきことではなく,なりすましや同席すべきではない者の同席の防止,又は不正な通信の防止など,罪証隠滅や逃亡のおそれを回避するための客観的な措置,しかも,それが施設側にとって過剰な負担とならないような実践可能な措置を検討する必要があると思います。   また,通訳人については,後でお話しするのだと思いますけれども,同じ問題がありまして,その通訳人と称する人物が誰なのかという特定の問題も含めて同じような課題があると思いますので,今後検討する必要があると思います。 ○池田委員 ただいまの佐久間委員からの御指摘にもありましたように,オンラインでの接見あるいは書類の授受を行うことは,技術的に可能かどうかということに限って言えば,可能ではありますけれども,他方でそれらが法律上許容されるべきものかどうかということは,現行法令の取扱いに照らして検討する必要があるように思います。   現行法上は,接見も書類も,現実の対面あるいは紙媒体のやり取りというような物理的な制約の下で運用されることが前提となっておりまして,そのことが逃亡・罪証隠滅の防止あるいは刑事収容施設法の規律・秩序の維持といったこととの関係で少なからぬ意味を持っていることは無視し得ないように思っております。   以上の点に鑑みますと,接見や書類の授受をオンラインで実施する場合には,物理的な制約が相当程度取り払われるという点との関係で検討すべき様々な課題があると考えられます。この場合にも,逃亡・罪証隠滅の防止,あるいは拘禁作用に対する支障の回避といったものが少なくとも現状と同程度には図られなければならないのであり,そうした取扱いの許容性も,それが実現できるのかどうかによって検討されるべきものであると考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   いかがでしょうか。「必要性」,「許容性」についての御意見は,このくらいでよろしいですか。   よろしければ,「3」以降,「必要となる法的措置」,「弊害が生じない方策の在り方」,「施設・設備の整備の必要性」,「関連事項」について併せて御意見を頂戴したいと思います。お願いいたします。 ○重松委員 私の方からは「4 弊害が生じない方策の在り方」のうち,最初の「○」の「弊害の内容」の,「どのような弊害が生じるおそれがあるか」という点について発言をさせていただきたいと思います。   まず,ビデオリンク方式による接見に関する弊害という点について発言したいと思います。刑訴法上,秘密交通権が認められている弁護士等であるか否か,あるいは接見禁止の対象者であるか否かなど,接見の相手方が誰であるかによって,逃亡及び罪証隠滅防止等の観点から,警察の留置施設において取るべき措置が異なっているというのが現状でございます。この点,現在の実務におきましては,直接来所する接見希望者に身分証の呈示を求め,これを直接確かめることで本人確認を行っているというふうに認識していますけれども,これがビデオリンク方式によることとなった場合には,画面越しに身分証を確認するというだけでは,それが真正なものであるか否かの確認が困難になるおそれがあるだろうと思います。また,仮に接見の相手方の本人確認が適切になされたとしましても,その接続先に留置施設側,警察側の管理が及ばないということになりますので,画面の外に隠れて同席すべきではない者が同席するというようなおそれも排除できないかなと考えております。更に言えば,同様に接続先の管理ができないことによりまして,現行の運用では持込みを制限している携帯電話等の通信機器が接続先に持ち込まれ,接見の様子を撮影されたり,不正な外部交通に用いられたりするというおそれも排除できないだろうというふうに考えております。   次に,書類の発受のオンライン化に関する弊害について発言をいたします。現状,被留置者が発受する書類につきましては,刑事収容施設法に基づきまして,弁護人等から受ける信書であるなど一定の場合を除いて,罪証隠滅防止等の観点から,留置施設においてその内容の検査を行っているというふうに認識しています。発受がオンライン化されたとしても同様の検査は必要となるというふうに考えておりますけれども,例えば書類の差し入れが電子メールによりデータを送信する方法により行われることとなれば,大量のデータを切手代等の費用が掛かることもなく何度も送受信することが可能となり,その検査を行う留置施設の職員の業務負担は急増し,施設の管理運営に支障を生じる事態になるのではないかというふうな懸念もございます。   また,電子メールによる場合に,差し入れ人が誰であるかの確認や,差し入れられた電子データをどのようにして被留置者に閲覧させるのかといった問題もございます。特に,閲覧させる方法につきましては,電子データをタブレット端末に移行して閲覧させるといった方法も考えられるとは思いますけれども,そもそもタブレット端末のようなものにつきましては,それ自体,硬度が高い,つまり,かなり硬いものである上に,破壊・分解されることで凶器にもなり得るものでありまして,自傷他害防止の観点からもそのようなものの使用を認めることはできないところ,ほかにどのような方法があるのだろうかということを考えますと,甚だ疑問であるというふうに考えております。   さらに,仮に警察が印字をして被留置者に引き渡すといったことの可否について考えますと,その場合,留置施設において大量の紙の印刷に掛かる費用や業務負担が生じるということになり,施設の管理運営に支障が生じるといったおそれもございます。また,刑事収容施設法第222条3項では,弁護人等からの信書の検査については差出人を確認するために必要な限度とすべき旨が規定されておりますけれども,同項の規定に従いつつ,警察において印字することは難しいというふうに考えられまして,ほかにどのような方法があるのだろうかというふうに疑問が生じているというところでございます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。弊害の内容についての御発言でした。 ○河津委員 「弊害が生じない方策の在り方」について意見を申し上げます。   第1回会議において,刑事手続における情報通信技術の活用を検討するに当たっては,将来の技術革新を見据える必要がある旨の御指摘が複数の委員からあったものと記憶しております。弁護人の接見について弁護人以外の者が同席するおそれについては,現在既に実用化されている技術によっても合理的に防止することが可能であると考えられます。現在,360度対応のカメラ,マイク,スピーカーを搭載した会議室用カメラが実用化されており,リモート会議で見かけることも多くなっています。このようなカメラを用いれば,例えば弁護人の法律事務所の会議室から接続する場合であっても,接続先が法律事務所であることを確認した上で,弁護人の身分証明書を確認し,さらに会議室内に弁護人以外の人物が存在しないことを確認することが可能です。先ほど言及いたしました国連被拘禁者処遇最低基準規則,規則61は,施設職員が協議の内容を聴取することを禁止する一方で目視することを許容していますが,これも既に実用化されている顔認識の技術を用いれば,施設職員が目視するまでもなく自動的に弁護人以外の人物の顔を認識して警告を発したり,通信を切断したりすることが可能です。   このような技術的措置を尽くしてもなお,これを潜脱する違法行為を想像することは不可能ではないのかもしれません。しかし,弁護人がそのような違法行為に加担したときは懲戒処分の対象となること,他方で逮捕された被疑者が直ちに弁護人の援助を受ける権利や,被告人が十分な公判準備をする機会を保障する必要性の大きいことを考慮すると,そのような事態を想定してビデオリンク方式による接見交通を制限することは合理的ではないと考えます。   書類の授受につきましても,オンライン化をすることによって電子データの検査という新たな業務が発生する一方で,現在物理的に出し入れしている書類の検査業務の量は減少することになるはずです。このように,IT化を進めることによって従来の業務が減る一方で,新たに対応しなければならない業務が生じることは,刑事手続全体についていえることであって,この場面に限って新たに生じる業務のみに着目することは適切ではないように思われます。また,電子データの検査という業務についても,情報通信技術を活用することによって合理化,効率化を図ることができるはずです。   先ほど申し上げたとおり,被拘禁者が弁護人等と遅滞なく通信することができることは,被拘禁者処遇の最低基準として現実の諸困難を克服して実現することが求められています。1日当たりの通信回数や送信することができるファイルの形式について合理的な制限を加えることを検討するとしても,オンラインによる書類や通信を一切否定することは適切ではないのではないかと考えます。 ○小木曽座長 ほかに「3」,「5」,「6」という項目もありますので,御意見を更に頂戴できればと思いますが。 ○笹倉委員 今御言及のありました「3」,それから,既に「4」についてかなり具体論に立ち入った御指摘がございましたけれども,「4」に関して総論的なことを申し上げます。   接見ないし書類の授受をデジタル化する場合に想定される弊害と,それを克服するために考え得る方策については既に御議論があったところですけれども,そもそもそのようなことを議論しなければならないのは,身体拘束中の被疑者・被告人は罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれがあると裁判官ないし裁判所によって判断された者であるからです。そのことを前提に,罪証隠滅あるいは逃亡を防止する観点,さらには刑事施設の秩序を維持する拘禁戒護の観点から,種々の制約が設けられているところです。そして,現行法では,接見は面と向かって会う行為であること,また,書類の授受は文字どおり紙媒体の書類のやりとりであることを前提に,接見や書類の授受に関わって罪証隠滅や逃亡という事態が生じないようにする仕組み,あるいはそのような態様での接見・授受を想定した上で刑事施設の秩序を維持し得る仕組みが用意されています。   そうしますと,接見や書類の授受をデジタル化した場合に想定される弊害をクリアし得る対策が見出されたとしましても,そのような対策を現場で実際に実行するためには法律上それを可能とする条件を整備しなければなりません。つまり,接見や書類の授受についてビデオリンク方式又はオンラインで行うことができることを明らかにする関係規定の改正をするだけでは足りず,弊害を防止する対策を実装するための法的条件の整備も含めて,具体的な立法措置について考えていく必要があると思います。 ○重松委員 私は5番の「施設・設備整備の必要性との関係」という点について,若干,発言をさせていただきます。   仮にビデオリンク方式による接見等を導入することとなった場合でありますけれども,現状,警察の留置施設におきまして,そのための端末や回線等といったものはございません。したがって,新たに整備するという必要が出てまいります。ただ,この点,留置施設だけでも全国に1,000以上ございます。必要な端末等の整備は誰が行うかといった点も現実的な問題として無視できないかなと考えております。また,留置施設は小規模なものが多くございまして,ほとんどの施設において接見室は1部屋しかございません。仮にビデオリンク方式による接見を導入したとすれば,接見室の利用といったものが想定されますけれども,その場合,直接来所する方も多くいる中で果たして交通整理が円滑に行えるのかといった懸念もございます。かといって,狭隘な留置施設の中で新たに接見室を増設するといった点もなかなか厳しい面がございます。 ○成瀬委員 私は,「6」の「関連事項」に掲げられている通訳について,意見を申し上げます。   ここまで議論してきたビデオリンク方式による接見を制度として導入するための課題が解決されるということが大前提ですが,仮に,弁護人等が身柄拘束中の外国人被疑者等とビデオリンク方式により接見を行うとした場合の通訳の方法としては,以下の三つの方法が考えられます。   第1は,弁護人等の傍らに通訳人を同席させて通訳をさせる方法,第2は,弁護人等とは別の場所に通訳人を所在させて,通訳人との間でもビデオリンク方式により接続した上で通訳をさせる方法,第3は,刑事収容施設の接見室に通訳人を所在させて通訳をさせる方法です。  このうち,第3の方法に関しては,通訳人に限っていえば,現行の運用と同様の状況にあるといえますが,第1と第2の方法に関しては,これまで議論してきたビデオリンク方式による接見と同様の問題,すなわち,通訳人の本人確認をどのように行うか,通訳人が所在する場所に接見禁止の対象者など同席すべきでない者が同席していないか,不正な通信や録音等が行われていないかなどをどのように確認し,防止することができるかといった問題があると考えられます。そのため,外国人被疑者等とのビデオリンク方式による接見については,通訳人の関与という面においても,弊害が生じないような方策があり得るのかどうかについて慎重に検討する必要があると思います。 ○佐久間委員 弁護人そのものを疑うつもりは全くございませんし,ほとんどの弁護人が立派な方々であるということは承知しておりますけれども,実例として,令和3年3月2日の東京高裁判決にある事例のように,弁護人が接見の際に被告人に携帯電話の端末を見せたという事案がございます。これは,施設側に事前に携帯電話の持込みを知らせていた,ということではございません。弁護人の中にはこのような行為を飽くまでも正当な弁護活動だと主張される方もおられると思いますが,施設側は,接見に携帯を持ち込むことを禁じておりまして,捜査機関としては,接見の際に被告人に携帯の端末を示すことは罪証隠滅につながる行為であると評価しているわけです。つまり,根本的に理解が異なるわけです。   このように,同じ行為について,こちらがそれを罪証隠滅行為につながる行為であると評価しても,弁護人としてはそうではなく,これは正当な弁護活動であると,そのような信念をお持ちの方々も実際におられます。そのような実例に実務上日々直面している我々としては,通信技術の発達によって,河津委員が言われるような弊害の除去の方策が取られるのではないかと言われましても,それも考慮に値するとは思うのですが,実体験による懸念や不安というものがなかなか払拭できず,河津委員御指摘のような方策は実践できないという気持ちでおります。なので,やはり法的措置,あるいは客観的な措置というものを具体的に検討していって,河津委員が言われるようなニーズも果たせるような方向に行くよう検討していかなければならないのではないかと思っております。 ○河津委員 今,佐久間委員から御指摘がありましたように,理解が異なる部分はあるのだろうと私も認識はしております。ですので,今後このビデオリンク方式による接見を実現していく上では,具体的にどのような条件の下で実施するのか,実務レベルでの協議を行うことも必要になるだろうと理解しております。この間,諸外国の例を調べておりますけれども,諸外国でも弁護人が書面を提出してオンラインでの接見を実施している例もあると聞いております。   それから,先ほど重松委員から「施設・設備整備の必要性との関係」で御指摘がありました。現状の御説明としては理解いたしますが,警察が未決拘禁者の身柄を管理する代用刑事施設制度は日本独特の制度であると言われておりますところ,捜査のために必要不可欠なものとしてこれを維持している以上,都道府県警の留置施設を含めて,直ちに弁護人の援助を受け,十分に弁護人と協議をして公判準備をすることを可能にする設備・施設を整備することは政府の責務なのではないかと考えます。 ○吉澤委員 まず,オンラインでの書類の授受に関してなんですけれども,今現在,紙媒体で刑事弁護人が差し入れをした場合,例えばそれを回収しようと思ったら,宅下げで,また自分の手から離れるまでに回収すればいいんですけれども,この電子データとしてオンラインで送受信するという形になりますと,具体的にどのような方策を想定されるかというのはちょっと分かりませんが,いずれにしても弁護人の手からは離れて,書類で何枚というふうに数えているのとはちょっとレベルが違って,管理ができなくなるのではないかというふうに思っています。性的画像や動画に関しては,今まで閲覧謄写に問題があるとお話しさせてもらってきました。性的画像をプリントアウトしたものなどについても私は差し入れなどはすべきではないとは思いますが,それこそ弁護人によっては差し入れする場合もあるかと思うんですけれども,それをオンラインでするということは,やはり流出の危険も,そのリスクも上がってしまいますし,先ほど申し上げた,それを被疑者の手元にずっと置いたままになってしまうのではないかと,また,それは性的画像等だけではなく,例えば被害者に関するプライバシー情報とかそういうものに関しても,被疑者の手元に実際とどまったままになってしまうのではないかと,そういう不安もありますので,現実問題としてなかなかオンラインで書類の授受を行うというのは難しいのではないかと考えています。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   そのほか,この点について御意見,いかがでしょうか。   それでは,この点については一通り御意見を頂戴できたと思いますので,10分ほど休憩を取りたいと思います。 (休     憩) ○小木曽座長 それでは,「(3)打合せ・公判前整理手続」について議論したいと思います。   事務当局から資料12について御説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料12の「2(3)打合せ・公判前整理手続」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。打合せや公判前整理手続において情報通信技術を活用する方策としましては,打合せ期日や公判前整理手続期日への出頭について,ビデオリンク方式によることができるものとするかが論点となり得ることから,この点を記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を6点記載しております。このうち三つ目の「必要となる法的措置」につきましては,本方策の導入を検討する上では,「現行の規定での対応の可否」や,「現行の規定に対する手当ての要否」について検討する必要があると思われますので,この検討課題を掲げております。   四つ目の「ビデオリンク方式による『出頭』を認める要件」につきましては,本方策の導入を検討する上では,ビデオリンク方式による「出頭」を認める要件に関し,「実施要件を定める要件の要否」や「所在場所に関する規律の要否」について検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。   五つ目の「弊害が生じない方策の在り方」につきましては,本方策の導入を検討する上では,「弊害の内容」や,「弊害が生じない方策の在り方」について検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。   資料12についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それでは,こちらについても「1 必要性」,「2 許容性」をまず議論いただきまして,その後で「3」以降について御意見を頂戴することにいたしたいと思います。   それでは,「1」,「2」について御意見を頂戴いたしたいと思います。 ○佐久間委員 検察官の立場から,「必要性」についてお話しいたします。   現行の刑訴法・刑訴規則上,公判前整理手続や打合せについては,御指摘があったように「出頭」という文言が定められており,これは,期日が行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されていると思われますが,短時間の簡略な打合せ,あるいは公判前整理手続を行う場合であっても,検察官や弁護人はその都度,裁判所まで出向かなければならず,また,地方によっては検察庁と裁判所が離れていて移動の負担が重い場合がございます。そこで,検察官・弁護人・被告人がビデオリンク方式によって打合せ期日や公判前整理手続の期日に出頭することができるものとすれば,これらの者が出頭のために要する時間的負担を軽減することが可能となり,また,打合せ期日等を柔軟に指定することができることで,迅速な公判準備にも資すると考えられます。そのことから,訴訟当事者の出頭を要さずにビデオリンク方式によって打合せや公判前整理手続を行う方法を検討する必要があると考えております。 ○池田委員 私からも,今,佐久間委員の御指摘があった「必要性」と,併せて「許容性」について意見を申し上げます。   「必要性」については,今御指摘があったとおりでありまして,「出頭」が必要であるとされていることに伴いまして,それ自体が負担であるということのほか,日程の都合がつかないで期日指定の円滑が損なわれるという問題もあるように思われます。柔軟な方式で公判前整理手続や打合せを実施することの必要性は認められるのではないかと私も考えております。   他方で,「許容性」についてですけれども,公判前整理手続の内容としては訴因や主張の明確化を通じた争点の整理,あるいは証拠調べ請求などによって構成されておりまして,これらは場所を共有して対面して行うと,それを通じて意思疎通を図るということが不可欠の前提とされるものでは必ずしもないように思われます。打合せも,規則上は,「その他訴訟の進行に関し必要な事項について」行われるものであって,同様の指摘が可能ではないかと思います。実際,条文によりますと,公判前整理手続は現行法においても既に対面を前提とする出頭させる方法のほかに,訴訟関係人に書面を提出させる方法によっても行うことが可能とされています。その上で,裁判所はそのいずれかの方法を選択することができるものとされておりまして,いずれの方法を取るかについては要件が特にないということからいたしますと,現行法は,裁判所が事案や手続の進捗に応じて,その合理的な裁量に基づいて,手続を実施する上で合目的的な方法を選択することを許していると考えられます。ビデオリンク方式は,少なくとも書面のやり取り以上には直接的に相互に意思疎通を図ることを可能にするものであるということに鑑みますと,公判前整理手続や打合せの実施方法として,ビデオリンク方式によることができるものとすることも法制度として許容されるものではないかと考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   「1」と「2」について,ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。   よろしければ,「3」以降,「必要となる法的措置」,「ビデオリンク方式による『出頭』を認める要件」,「弊害が生じない方策の在り方」,「その他」について併せて御意見を頂戴いたしたいと思います。 ○笹倉委員 では,「3 必要となる法的措置」と「4 ビデオリンク方式による『出頭』を認める要件」について,意見を述べます。   まず,「3」については,既に御指摘があったところですけれども,現行の刑訴法や刑訴規則上,公判前整理手続については,検察官・弁護人が出頭しないときは,その期日の手続を行うことができないですとか,被告人は期日に出頭することができると規定されております。また,打合せについては,刑訴規則178条の15第1項本文ですけれども,裁判所が適当と認めるときは,検察官及び弁護人を出頭させた上,という文言が用いられておりまして,これらの規定における出頭は,期日あるいは打合せが行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されているものと思われます。そうしますと,検察官や弁護人・被告人がビデオリンク方式によってこれらの期日ないし打合せに参加することができるものとする場合,この点に関する明文の規定を設ける等の手当てが必要であろうと考えます。   次に,「ビデオリンク方式による『出頭』を認める要件」についてですけれども,公判前整理手続は,第1回公判期日前に,事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として行われるものですし,刑訴規則が定める打合せも,公判期日の指定その他訴訟の進行に関し必要な事項について,第1回公判期日前の公判準備として行われるものです。打合せや公判前整理手続は,個々の事案に応じて,その準備のために必要な事項について多岐にわたって裁判所や訴訟当事者がやり取りすることが予定されているものですし,これらの期日で行われる手続の内容も公判準備の進捗状況に応じて様々なものが想定されるところです。また,打合せにせよ公判前整理手続にせよ,準備のための手続であるという性格上,機動的な運営を可能とすることが必要だとも考えられます。   そうであるとしますと,打合せや公判前整理手続については,状況に応じて適切な出頭の方式を適宜選択することができるようにすることが望ましいでしょう。したがって,ビデオリンク方式により出頭させることができるかについては,類型的な要件をかちっと定めるのではなく,訴訟運営に責任を負う裁判所の判断によって,適宜,ビデオリンク方式によることができるものとすることが適切ではないかと考えます。   また,現行刑訴法上,公判前整理手続を行う方法としては,訴訟関係人を出頭させて陳述させる方法と,先ほども御指摘がありましたけれども,書面を提出させる方法とが認められておりますが,これらの方法の選択に関して,現行法上,こういう場合にはこうせよという要件があるわけではありません。裁判所が事案や手続の進捗に応じて,いずれか適切な方法を選択することができるとされているところです。   このような現行法の規定を前提としますと,訴訟関係人を出頭させて陳述させる場合に,ビデオリンク方式によって出頭させるとしますと,それは,現在用意されている,物理的な出頭等,書面の提出の言わば中間にある形態になりますので,情報漏えいや第三者による不当な関与等を防止するために必要な規律について考える必要はあると思いますけれども,その点を措けば,類型的な要件を殊更に設けるまでの必要はないと考えます。 ○成瀬委員 笹倉委員の御意見を受けまして,私は,「5」の「弊害が生じない方策の在り方」について意見を申し上げます。   現在の実務においては,打合せ期日や公判前整理手続期日は非公開で行われていると承知しておりますが,検察官・弁護人・被告人がビデオリンク方式によりこれらの期日に出頭することができるものとする場合には,結果として,現状ではこれらの期日に立ち会うことのできない者が,ビデオリンク方式により出頭する者の付近に所在することにより,その期日におけるやり取りを見聞きすることが事実上可能となってしまいます。  このように,裁判所及び訴訟関係人以外の第三者が,打合せや公判前整理手続に同席してその内容を把握するなどし,あるいは,そのような事態が現実に懸念される場合には,事件の争点及び証拠の整理のために訴訟関係人等が率直な意見交換を行うことが妨げられ,ひいては,公判準備の目的が阻害されることとなりかねません。  そのため,打合せや公判前整理手続をビデオリンク方式により行うことができるものとする場合には,訴訟関係人の所在場所について,裁判所及び訴訟関係人が争点及び証拠の整理のための率直な意見交換を行うのに適する状況にあることを要するとすることが考えられます。   この点に関して,参考になる規定を探してみたところ,民事訴訟の分野においては,少額訴訟における電話会議の方法による証人尋問を行う際に,裁判所は,通話者及び通話先の場所の確認をするとともに,当事者が申し出た場所が相当でないと認めるときは,その変更を命ずることができるという規定が設けられているようです。  このような規定も一つの参考としつつ,訴訟関係人の所在場所が適切な場所であることを担保するための手続的規律を設けることを検討することが考えられます。 ○河津委員 民事裁判手続の経験に照らしましても,打合せ期日をビデオリンク方式によりすることができるものとすることは,期日調整が容易になることなどを通じて手続の迅速化に資することが期待されます。   ただ,公判前整理手続につきましては,刑訴法316条の9第1項により,被告人に出頭の権利が保障されています。被告人は訴訟の当事者であって,自ら公判前整理手続に出頭して訴訟行為をするという防御方法を選択する権利があるものと考えられます。このことを考慮しますと,被告人が現実の出頭を希望する場合においては現実の出頭を認めるべきであり,ビデオリンク方式によることを強制することは適切ではないのではないかと考えます。弁護人の立場から考えましても,被告人が刑事施設からビデオリンク方式に参加するときに弁護人は裁判所から期日に参加するのは,一般的には適切ではないだろうと思われますし,弁護人が被告人の所在する刑事施設から期日に参加し,裁判官と検察官は裁判所で期日に参加するというのも余り適切ではないように思われます。 ○永渕委員 裁判所の立場から簡単にお話をさせていただきたいと思います。   争点及び証拠の整理ですが,審理計画,審理予定の策定などを行う打合せ,あるいは整理手続について,非対面の形で行うことを認めることは,公判に向けた準備を円滑かつ迅速に進める観点から有益な場合があると考えられます。ただし,その実施に当たりましては,先ほど成瀬委員からも御指摘がありましたけれども,例えば第三者が同席するなど,訴訟関係人が忌憚なく意見交換を行って争点整理などを行うという整理手続の趣旨を阻害するような事態が起きないような状況であることが確保されている必要があると思われます。また,身柄拘束中の被告人について刑事施設からの出頭を認める場合には,捜査機関の影響を受けない状態,言わば中立性が確保された状態であることも必要であろうと考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   そのほか,いかがでしょうか。これで一通り意見を頂戴できたように思いますが,よろしいですか。   それでは,「打合せ・公判前整理手続」につきましてはここで一区切りとしまして,「(4)証人尋問等」の議論をしたいと思います。   では,事務当局から資料13について説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料13の「2(4)証人尋問等」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。現行の法律・規則が定めるビデオリンク方式による証人尋問について,これらの規定が定める場合や場所以外でも実施することができるものとするかが論点となるという趣旨で,「①」として,「ビデオリンク方式による証人尋問について,現行の法律・規則が定める場合・場所以外でも実施することができるものとするか」と記載しております。また,これに関連して,「②」として,「通訳・鑑定・検証について,ビデオリンク方式により実施することができる旨の規定を設けるものとするか」と記載しております。   その上で,これら方策の導入に関して考えられる検討課題を記載しております。まず,「1 証人尋問」については,検討課題を4点記載しております。このうち二つ目の「許容性」につきましては,憲法適合性,特に憲法82条1項,37条1項・2項前段との関係を検討する必要があると思われますので,その旨を付記しております。三つ目の「実施要件の在り方」については,本方策の導入を検討する上では,ビデオリンク方式による証人尋問の要件の在り方に関し,現行法が規定する実施要件に新たな類型の実施要件を追加するか,あるいはこれらの場合を含むような実施要件を包括的に規定するかについて検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。四つ目の,「証人の所在場所の規律」につきましては,本方策の導入を検討する上では,ビデオリンク方式により証人尋問を実施する場合における証人の所在場所の在り方に関し,どのような場所を新たに追加するかについて検討する必要があると思われますので,その旨を記載しております。   次に,「2 通訳・鑑定・検証」については,検討課題を3点記載しております。このうち三つ目の,「必要となる法的措置」については,本方策の導入を検討する上では,現行の規定に対する手当ての要否など,必要となる法的措置について検討する必要があると思われますので,この検討課題を掲げた次第です。   資料13についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 それでは,議論に入りたいと思いますが,こちらにつきましては,まず,「1 証人尋問」のうち「(1)必要性」,「(2)許容性」について御意見を頂戴しまして,次いで,「(3)実施要件の在り方」,「(4)証人の所在場所の規律」について議論をし,そして,最後に「2 通訳・鑑定・検証」以降を議論すると,こういう順序で議論してまいりたいと思います。   それでは,まずは,「証人尋問」のうち,「(1)必要性」,「(2)許容性」について御意見を頂戴いたしたいと思います。 ○佐久間委員 構外ビデオリンク方式による証人尋問について,実務家の立場から意見を述べます。   いわゆる構外ビデオリンク方式による証人尋問について,現行の刑訴法及び刑訴規則によって,対象となる証人や場所に関する要件が定められております。しかし,規定されている場合以外であっても,実際にビデオリンク方式による証人尋問が必要なケースがございます。   まず,証人となる対象者について述べますが,例えば,病状や症状に照らして入院先から移動させることが望ましくないなどといった事情で,公判廷に出頭させることが著しく困難な重症患者の証人尋問が必要な場合がございます。この場合,仮に移動自体は何とか工夫することによって可能であったとしても,患者の安全のため,慎重に移動手段を選んだ上,また,患者の身体に負担のないよう慎重に移動させなければなりませんし,医療関係者の付添いを必要とするなど,裁判所に出頭させるための人的・物的負担が大きいといえます。また,多忙のため,期日の日程調整が困難で,尋問の実施までに相応の期間を要してしまう医師などもおられます。これらの証人については,円滑な公判遂行のためビデオリンク方式を活用することが有用だと考えられますが,現行の刑訴法・刑訴規則の要件を満たさない場合は,現在はビデオリンク方式による証人尋問ができません。   次に,証人の所在地について指摘いたしますが,拘置所に拘置されている死刑確定者が,例えば共犯事件の共犯者だった場合などにおいて,証人尋問が必要となりますが,死刑確定者を裁判所に出頭させるため人的・物的体制を整える施設側の負担は実に大きく,また,収容施設の外へ移動させることによって死刑確定者の心情の安定が害されるおそれがあることなど,出頭させるに当たって様々な困難があります。また,外国に所在する証人が,昨今のようないわゆるコロナ禍のために本邦に入国することが困難となって,証人尋問の実施が困難となる事態も生じます。   このようなケースにおいて,証人尋問期日のために裁判所へ出頭する証人の負担軽減と公判手続の迅速化を図るために,ビデオリンク方式による証人尋問に関する現行刑訴法・現行刑訴規則に定める証人尋問の要件の拡大や,証人の所在場所を現行刑訴規則が規定する場所以外の場所にも拡大する必要があると考えております。 ○池田委員 私からも必要性について意見を申し上げます。   ビデオリンク方式による証人尋問は,もともとは平成12年の法改正で,性犯罪の被害者等が証人として尋問を受ける際に,そのこと自体の負担など二次的被害を受けることが少なくないために,その負担を軽減することを目的として導入されたものでありまして,当初はその性犯罪の被害者等を念頭に,裁判官や訴訟関係人が在席する場所と同一構内にある別の場所に証人を在席させて証人尋問を実施することができるものとされていたわけですけれども,その後,平成28年の改正によって,その出頭に伴う証人の負担等の軽減をより一層図るために,遠隔地に居住する証人などを対象として,いわゆる構外ビデオリンク方式が導入されているということは,今も御指摘があったとおりです。   他方で,現状において,このような改正でも対応できない実務上のニーズが生じているというのも御指摘のとおりと理解しております。また,他方で,ビデオリンク方式による証人尋問が導入されて以降も情報通信技術は著しく発展し,かつ普及をしておりまして,さらにコロナ禍を契機としてオンライン方式によるコミュニケーションが日常生活に一層浸透している状況にあります。   以上を踏まえますと,今般,証人尋問実施方法等を検討するに当たっては,今述べたような情報通信技術の発展や普及の現状を踏まえる一方で,いずれについても今後更に進展していくということが確実視されることも念頭に,様々な状況に応じて適切に対応できるような基盤整備を行うべく,現実の様々なニーズを踏まえるとともに,将来を見据えた検討を行うことが適切であると考えております。 ○吉澤委員 まず,必要性についてなんですけれども,ビデオリンク方式による証人尋問についてですが,現行の法律・規則が定める場合以外にも認めるべきであり,さらに,実施する場所についても広く選択肢として認めるべきであると考えています。同一構内で行われるビデオリンク方式は,現在,刑訴法157条の6第1項1号・2号で列挙されているのは,いわゆる性犯罪被害者に限られており,それ以外の犯罪被害者や証人については3号でカバーされるということになっていますが,それではやや狭いのではないかと感じています。   例えば,ストーカー犯罪の被害者においても,性犯罪被害者と同様,PTSDなどに苦しんでいる方がおられ,御本人はビデオリンク方式を望まれたのですが,1号・2号に該当せず,3号の要件該当性の問題となり,担当検察官の段階で,「圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」に該当しないという理由でビデオリンクを実施してもらうことができなかったという事例も実際にあります。精神的苦痛が大きいという点においては1号・2号と変わりはありませんが,なかなかビデオリンクが認められにくいというのは,やはり3号の「著しく害される」という要件のハードルが実際は高いのではないかと感じています。   もともと被害者や御遺族という立場の方は,事件に巻き込まれて刑事手続に関与せざるを得なくなった方々でして,犯罪被害に遭ったこと自体の精神的苦痛に加え,刑事手続に関与する中でどうしても被害を再体験してしまうという苦痛も被ることになります。こういう場合,できる限り精神的負担を少なくして,せめて協力しやすい環境を作るというのは非常に大切なことだと思いますので,1号・2号以外の罪名の被害者や御遺族らについても柔軟に対応できるよう,3号の「著しく」というような限定的なケースに限るのではなく,広く罪名を問わずビデオリンクという選択肢を認めてほしいと思います。   また,構外ビデオリンク方式についてなんですけれども,こちらの方も,「同一構内に出頭するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認めるとき」という要件がありますが,実際,先ほどの1項の同一構内でのビデオリンクを我慢しなくてはいけないと判断されるケースと,同一構内では無理であると判断されるケースについて,線引きすることというのは実際はできるのであろうかという感覚があります。同一構内といっても,広さはその裁判所の規模によってまちまちでありまして,現時点でもビデオリンク方式で証人尋問を行う際は,裁判所で非常に気遣っていただいて,被害者の裁判所への出入りや休憩中の部屋の確保,その部屋から誰の目にも留まらないようにトイレに行くことができるかなど,動線に至るまで細やかな配慮をしていただいていますが,小さい庁だとどうしても被告人や被告人側の人間とのニアミスというのが避けられませんし,限られた空間であるということ自体,どこで目に付くか分からないという不安や緊張を感じ続けることを強いられることになります。こういった不安や緊張を少しでも取り除くため,現在ある限定的な要件にとらわれず,できるだけ広く,選択肢として構外ビデオリンクを実施することを可能とする選択肢を設けてもらいたいと考えています。   また,構外ビデオリンクを実施する際の証人の所在場所ですが,先ほどからもお話がありますが,他の裁判所に限定するというのは余りに狭いと考えています。例えば,現時点では事件を担当する裁判所の近くに住んでいる被害者が同一構内に出頭するのが難しいという場合は,ビデオリンクを実施するために遠方の支部などまで出かけなくてはいけないということになりますが,これは被害者にとって相当な負担です。ですので,例えば,その裁判所に近接する検察庁や公的施設,可能であれば被害者参加代理人の事務所,被害者支援センターの建物内,例えば病院に入院されている方であればその病院内など,できるだけ広く,被害者に負担にならない場所において尋問ができるような選択肢を与えていただきたいと思います。   諸外国の例を見ますと,例えばイギリスでは,資料3-2にもありますが,2020年のコロナウイルス法による改正後の2003年刑事司法法によりますと,何人も,裁判所の命令がある場合,ライブリンクの方法を通じて公判廷に出廷することが可能であると定められているとありますが,その場所については法文上,設備の適合性を考慮し,裁判所が適切と判断する場所からのビデオリンクを認めると定められており,特に場所を制限する規定はこれ以上にはないようです。そして,実際の運用上なんですけれども,インターネット上で公開されている英国検察庁のガイダンスを見てみましたが,適切な設備からライブリンクすることが期待されているというふうにされておりまして,裁判所内に限られていないということです。例えばということで,その例として刑事司法関係機関の建物や被害者・証人支援団体の建物,地方自治体の建物などが挙げられています。また,同じく公開されております英国政府によるガイダンスによりますと,ライブリンクの例として,病人が病室のベッド上から証言する場合や,医師その他の専門家証人がオフィスから証言する場合というのも挙げられています。   こういうイギリスの事例と同様,日本においても可能な限り負担を軽減する選択肢自体を多く認めることというのは重要だと思います。実際は,そのケースによってどの方法を選択するかというのはケース・バイ・ケースですし,最終的には裁判所が判断するということになるのだと思いますが,その前提として,ケースによって柔軟な対応ができるよう,多くの選択肢を,IT化が進んでいるこの時代に合わせて準備することが,被害者のためにもいいですし,また広く裁判に協力する人が協力しやすいような選択肢をできるだけ多く認めるということが非常に重要だと考えています。 ○河津委員 ビデオリンク方式による証人尋問を現行の法律・規則が定める場合以外に拡大することの許容性については,慎重な検討を要すると考えます。この点につきましては小さくない懸念があることから,実務的な観点から少し具体的に御説明させていただきます。   犯罪の嫌疑を受けた国民・市民が被告人として刑事裁判を受けるとき,多くの場合,検察官が請求した証人が被告人に不利な証言をします。その証言の内容が真実でないとき,平たく言えばうそであるとき,被告人はその証言がうそであることを明らかにしなければ,そのうその証言に基づいて有罪とされ処罰される危険を負うことになります。弁護人は反対尋問を通じて,証人の証言がうそであることを明らかにすることを試みることになりますが,これは高度な技術を要する困難な作業です。うその証言をした証人は,決してうその証言をしたとは認めようとはせず,うその証言であったことが発覚しないよう巧妙にうそを重ねることがあります。そうであるにもかかわらず,尋問者はその証人に対して質問をし,その証人から回答を得ることによって,うその証言であったことを明らかにすることが求められます。そのため,反対尋問では証人の顔色,視線の向き,全身の挙動などをつぶさに観察しながら証人を追及することが,真実を明らかにするため,必要となります。さらに,被告人がうその証言に基づいて有罪とされないようにするためには,証言が被告人の面前で行われることにも重要な意義があります。   一つ例を挙げると,平成28年刑訴法改正のきっかけとなった事件のことですが,その事件では検察官請求証人が検察官の主尋問に対し,被告人の職場を訪問して被告人から虚偽公文書を受領した旨,証言しました。これに対し,弁護人が反対尋問で証人の当時の手帳を呈示して,1日ずつ,その日に被告人の職場を訪問した可能性があるかどうかを確認し,結局,当該虚偽公文書が存在し得た期間に証人が被告人の職場を訪問した可能性のある日はないことが明らかになりました。これは,主尋問では抽象的に真実でない証言をした証人が,反対尋問に対しては真実でない証言を具体化して維持することができなかった一例です。これは,尋問者が顔色,視線の向き,全身の挙動などをつぶさに観察しながら追及をしたことが成功したことに加えて,証人の証言内容を前提とすれば,出来事の当事者である被告人の面前で真実でない証言を具体化して重ねることへの心理的な抵抗が働いていたことは間違いないと思います。本人の面前であるということがうそをつくことをためらわせることは,日常的な経験に照らしても御理解いただけると思います。   ビデオリンク方式で証人尋問を実施する場合,平成17年最高裁判決がいうように,証人の姿を見ながら供述を聞き,自ら尋問することができるとはいっても,証人の顔色,視線の向き,全身の挙動などの観察の質は法廷内と同一ではあり得ません。その結果,真実を明らかにするための困難な作業が更に困難にされることになります。また,被告人と同じ空間で対面せず,被告人の視線を意識しなくてよいということが,うそをつくことへの心理的な抵抗を小さくする場合があることは否定できないように思われます。   ビデオリンク方式での証人尋問については,平成28年刑訴法改正の際,証人等の保護の要請と証人尋問権の保障をいかに調整するか,相当な議論を経て,一定の要件を満たす場合に限定して拡充されたばかりであると理解しております。これを,より一般的に実施できるものとすることは,被告人が証人を審問する機会を不十分なものとし,事実認定を誤らせる危険を大きくし,刑事裁判の質を低下させるおそれがあることから,許容されるべきではないと考えます。   他方で,第1回会議でも申し上げましたが,被告人には証人喚問権が保障されていることを踏まえ,海外にいるなどの事情により,強制的手続により出廷を求めることのできない証人の尋問について,ビデオリンク方式により証人尋問を行うことができるものとすることは,国民・市民の権利を実現し刑事裁判の質を向上させるものとして,検討されるべきであると考えます。 ○笹倉委員 実務の立場から,かなり具体的な立ち入った御議論があったところですが,議論の前提として,憲法論について確認をしておきたいと思います。   憲法82条1項は,「裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行ふ。」と規定し,憲法37条1項は,「すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定しています。また,同条2項前段は,「刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を十分に与へられ」ると規定し,被告人の証人審問権を定めています。平成12年改正によって導入された性犯罪者被害者の保護に係る部分の合憲性は,既に御言及があった平成17年の最高裁判例によって実務上確定しているところですけれども,それはそれとしまして,平成28年改正を経た現行刑訴法・刑訴規則が定めるビデオリンク方式による証人尋問の要件,証人の所在場所の定めについて更に拡大することについて議論をすることになりますので,そのような更なる拡大が合憲といえるかについて,この際,考えておきたいということです。   まず,裁判の公開との関係についてですけれども,裁判の公開の原則ないしは被告人にとっての公開の裁判を受ける権利の保障の趣旨は,一言で言えば,秘密裁判の弊害を除くところにあります。つまり,典型的には政治的敵対者や少数者を闇から闇へと葬り去るような裁判を防止するということです。そして,何人も,またいつでも自由に傍聴することができる状況での裁判が義務付けられることで,裁判官に対する心理的な抑制が作用し,恣意的な裁判が防止され,手続の公正の確保に資する,さらには,公正に手続が行われているという外観も維持される。公開にはこのような意義があると考えられます。   平成17年の最高裁判例は,証人尋問がビデオリンク方式によることとされても審理が公開されていることに変わりなく,憲法82条1項,37条1項に違反するものではないとしています。ビデオリンク方式の場合,ある特定の証人を尋問していること,そして,その証人に対してどのような質問がされ,それに対して証人がどのように答えているのかは傍聴人にとって明らかですから,今申し上げたような裁判の公開原則ないし公開の裁判を受ける権利の保障の趣旨に反することはないと最高裁は考えているのでしょう。そうであるとするならば,証人が同一構内にいるか否か,また,どのような事情で公判廷に出廷することができないのかにかかわらず,基本的には同じことがいえるはずですから,ビデオリンク方式の適用対象を拡大したとしても,この判例を前提とする限り,公開原則に反するとか,公開の裁判を受ける権利を侵害するとまではいえないということになると思われます。   これに対して,憲法37条2項前段の証人審問権との関係については,やや立ち入った考察を要すると思われます。それと申しますのも,母法であるアメリカ合衆国憲法修正6条は,証人とコンフロント(confront)する権利を被告人に保障しています。このコンフロント(confront)する権利は,文字どおりの対面,つまり証人と現に同じ場所で向かい合うことを要求するものと解釈されています。そして,そのこととの関係で,我が国の憲法上の証人審問権の保障にも対面を要求する権利を読み込む考え方もあるところです。ただ,我が国の憲法は対面ではなく審問という言葉を用いています。これはマッカーサー草案以来一貫してcross-examineないしexamineという英語が用いられてきたことと対応しています。つまり,コンフロント(confront)する権利を保障するアメリカの憲法に比べれば,柔軟な解釈を入れる余地があることになります。   平成17年の最高裁判例は,被告人が映像と音声の送受信を通じてであれ,証人の姿を見ながら供述を聞き,自ら尋問することができる以上,証人審問権の侵害はないという言い方をしています。この判例が,対面の利益が証人審問権の内容ではないとしたものであるのかについては,この判例の文言,表現ぶりとの兼ね合いもあって,学説上の理解は分かれています。ただ,仮に対面の利益が憲法上保障されているとしましても,ビデオリンク方式による証人尋問を合憲としている以上は,この判例を前提として考える限り,対面の利益は侵すことの許されない中核的な利益であるわけではないということになるはずです。そして,日米の憲法の文言の相違にも照らしますと,そのような解釈もあながち不当ではないでしょう。   しかしながら,証人審問権の保障内容に対面が含まれるか否かはともかく,対面に様々な効用が伴っていることも事実だと思われます。学説上は対面によることの価値についていろいろなことが言われており,定説があるわけではありませんが,例えば,河津委員の御指摘と重なりますけれども,被告人を目の前にしては,その人に不利なうそを容易に述べることはできないという心理的な効果があるだろうと指摘されています。また,被告人と証人がお互いの存在を認識できる状況で証言するわけですから,言わば後ろ指を指す状況になっていないという意味で,被告人との関係においても,また社会一般との関係においても,公正な手続の外観が確保されるという説明もあるところです。さらに,これは対面の効用というよりも,それを含みつつ,むしろ公判廷に所在することの効果というべきでしょうけれども,重厚な造りの公判廷で裁判官,裁判員や被告人を含む訴訟関係人が列席する厳粛な雰囲気の中で証言するという状況設定自体が証言の信用性を高める作用を持つという説明もあるかもしれません。今申し上げたのは,もちろん限定列挙ではなくて,ほかにも様々な効用を考え得るわけですが,それらの諸価値の全てが憲法上の証人審問権の保障内容に含まれるか否かはともかく,今我々が基本形として想定している公判廷での証人尋問の制度を支えていることは否定し難いと思われます。   このように,ビデオリンク方式による場合,そのような様々な効用がある程度は損なわれる可能性があるとしますと,ビデオリンク方式によることを許容するか否かは,そのような失われる利益と,ビデオリンク方式によりもたらされる利益との衡量によって決めるべきことになりましょう。したがって,少なくとも現時点においては,ビデオリンク方式が無条件に許されるとか,あるいは公判廷における尋問と完全に対等な選択肢であるということにはならないと考えられます。   そうしますと,ビデオリンク方式によることの利害得失のバランスが保たれるような適切な要件設定がされる必要があるということになりますが,しかし,逆に言えば,そのような要件設定が可能であるのであれば,ビデオリンク方式の適用対象を,判例が合憲であると明言した平成12年改正時点でのそれ,あるいは,平成28年改正を経た現行法上のそれに限定すべき必然性はないと思われます。それどころか,ビデオリンク方式の適用対象が拡大されれば,現行制度の下では事実上証人尋問を諦めざるを得ないような場面,あるいはそれが困難な場面でも証人尋問を容易かつ迅速に行うことが可能になり,かえって被告人側の充実した防御という憲法が所期する目的の実現にとって望ましい場合すらあることになります。   証人尋問を行う以上は常にフルスペックでなければならず,フルスペックでできないならば証人尋問を許さないという百かゼロかの二者択一で考えるよりも,証人審問権保障の核心ないし中核部分が害されない限度において中間の選択肢を用意することが可能なのであれば,その採用を考える方が憲法の趣旨に適合するのであり,反対尋問の機会を増やすことができる,そのような中間の選択肢について,それがフルスペックでないがゆえに違憲だとか不合理だとか言う必要はないと思われるのです。   既に御指摘がありましたけれども,今後,更なる情報通信技術の進展に伴い,映像・音声の通信技術が向上することは想定されますが,退化することは考えられませんので,対面による場合とビデオリンク方式による場合との差異は一段と縮小して,やがてはほとんど同等のものと受け止められるようになる時代が来るかもしれません。もちろんそこまで一足飛びには行かないでしょうけれども,将来的な展開も見据えつつ,適切な要件設定の在り方について,実際上の需要との関係も踏まえつつ具体的に検討していくということでいかがでしょうか。 ○佐久間委員 ビデオリンク方式による証人尋問は,映像と音声を通じてであれ,被告人と証人とが相手の状態を相互に認識しながら行われるものであり,証人が被告人から自分の状態を見聞きされているということを絶えず認識しながら供述するという点においては,対面による証人尋問の場合と変わりはないと思います。そのようなことから,対面による証人尋問と比較して,ビデオリンク方式による場合に,真実に反する証言が類型的に容易になるのだとまではいえず,それを理由にビデオリンク方式を活用することができる場合を拡大することが一般的に許されないということまではいえないと思っております。   もちろん,個別の事案においては虚偽証言の弾劾の必要性は当然であります。また,ビデオリンク方式だと,被告人と間近で対面しないということで,被告人と間近で対面することによる証人への「圧迫感」,「圧迫感」という言葉が適切かどうか分かりませんが,証人に与える心理的作用が,被告人と対面しないことによって軽くなるということについて先ほど河津委員が御懸念を示されておられましたが,そのようなことを懸念される弁護人の方がおられるのだ,ということは分かりました。けれども,それはビデオリンク方式そのものを否定することにはつながらないと思っております。   ビデオリンク方式による証人尋問も証人尋問の一つの形式であり,証人尋問をビデオリンク方式により実施をするかどうかは,裁判の帰趨を決する責任を持っている裁判所が,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聞いた上で判断するものと考えております。現に現行のビデオリンク方式による証人尋問は,検察官並びに被告人及び弁護人に申立権はなくて,これらの者の意見を聴いた上で裁判所が裁量で判断するものとされていますし,現行刑訴法・現行の刑訴規則上,検察官・弁護人・被告人の同意がない場合に,特定の証拠調べの方法を取ることができないとする規定は設けられていないということをここで指摘させていただきます。 ○吉澤委員 先ほどの河津委員などに対する意見なんですけれども,先ほど,証人がうそをつく場合などにおいて,被告人の所在する場所でというところが重要であるとか,あとは,それに加えて厳粛な雰囲気の中でという御発言もありましたけれども,被害者にとってはそれ自体がやはり非常に大きな精神的苦痛で,そういう刑事手続を受けていくこと自体が二次被害につながっているというところです。   今もちょっとお話が出たので,重複するかもしれませんが,別にその法廷にいないからといって,自分が裁判に関与しているというような厳粛な気持ちが薄れているわけでは全くなく,宣誓もした上で,被告人に見られながら,逆に言えば,カメラを通してじっくり注視されているという気持ちにもなるかもしれませんが,そういうことを意識しながらするものですので,そういうビデオリンクであるからということで,同一法廷での供述にそんなに大きく劣るものではないというのが私の実感ですので,ちょっと説明させていただきました。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   「必要性」,「許容性」について,更に御意見ございますか。よろしいですか。   それでは,この点についてはここまでとしまして,次は,「(3)実施要件の在り方」,それから「(4)証人の所在場所の規律」について,更に御意見を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。 ○成瀬委員 私は,(3)の「実施要件の在り方」について意見を申し上げたいと思います。   先ほど佐久間委員,吉澤委員から,現在の実務において,ビデオリンク方式による証人尋問を認める必要性が高い類型を具体的に御提示いただきましたが,私はやや異なる観点から,ビデオリンク方式による証人尋問を実施できる場合を拡大する可能性について,意見を申し上げます。   現行刑訴法のビデオリンク方式による証人尋問は,既に御指摘がありましたとおり,性犯罪等の被害者や,訴訟関係人等が在席する法廷で証言することにより強い心理的・精神的負担を負うおそれがある者,それから,当該法廷と同一の構内に出頭すること自体によって精神の平穏を著しく害されるおそれがある者などが利用できるものとされています。このように,現行法においては,証人自身に関する事情に着目した要件が設けられていますが,現下の状況に鑑みますと,それ以外の観点からビデオリンク方式による証人尋問を実施できる場合を拡大する可能性についても検討する余地があるように思われます。   例えば,新型コロナウイルス感染症を始めとした感染症の拡大が著しい状態にあり,社会全体で移動の制限が強く求められている状況においては,個々の証人が現行法のビデオリンク方式による証人尋問の要件を満たすとまではいえない場合であっても,ビデオリンク方式を活用できるようにしておくことが考えられるのではないでしょうか。同様に,大規模災害が発生したため,被災地域において移動が困難となった場合も,ビデオリンク方式を柔軟に活用できるものとしておくことが考えられると思います。   先ほど池田委員や笹倉委員がおっしゃったように,現時点での実務上の具体的ニーズだけでなく,将来のあるべき姿を見据えた法整備の在り方を検討するという観点からは,今申し上げたような場合についても,ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるようにすることを検討すべきと考えます。   その上で,具体的な要件の定め方について,考えられる二つのアプローチを申し上げたいと思います。  先ほども申し上げましたとおり,現行刑訴法は,ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができる場合について一定の類型を規定しているところ,これは,ビデオリンク方式によることとする必要性が特に高いと考えられる場合を列挙したものと解されます。そうしますと,ビデオリンク方式を利用できる場合を拡大するとした場合の一つのアプローチとしては,ビデオリンク方式による証人尋問を利用できる類型を列挙するという現行刑訴法の規定ぶりとの整合性を保つ観点から,必要性が認められる類型を新たに追加することが考えられます。   他方で,先ほど申し上げた感染症の拡大や大規模災害のように,証人自身に関する事情以外の事情によってもビデオリンク方式を利用できるものとすることを念頭に置くと,現行法の規定ぶりを前提に新たな類型を追加するのではなく,ビデオリンク方式による証人尋問の要件の在り方自体を改めることも,もう一つのアプローチとしてあり得るように思われます。   現行法は,刑訴法157条の6に規定された一定類型の者・場合に該当することを前提に,裁判所が「相当と認めるとき」に初めてビデオリンク方式による証人尋問を行うことができるという仕組みになっています。つまり,一定の類型に該当する場合であっても,さらに,相当性の要件との関係で,証人が法廷に現実に出頭することで精神の平穏が害される程度などの必要性の程度を示す事情と,ビデオリンク方式によることによる尋問への支障の有無や程度などの許容性の程度を示す事情を考慮した上で,ビデオリンク方式によることとするか否かを判断する仕組みになっていると解されます。   このように,刑訴法は,一定の類型に該当することを前提に,審理運営に責任を負う裁判所が様々な具体的事情を考慮した上で,当該事案において最も適切な証人尋問の実施方法を決定する仕組みとしているものと理解することができ,換言すれば,それらの類型に該当すること自体は本質的な要素ではなく,裁判所がビデオリンク方式を活用することを「相当と認める」か否かが最も重要な要素であると捉えることもできるように思われます。   仮にこのような理解が可能であれば,ビデオリンク方式による証人尋問の要件の在り方として,一定類型の者・場合を各号に列挙する規定ぶりとするのではなく,例えば,各号に挙げられている事情の有無を含む,ビデオリンク方式による証人尋問を実施することの必要性の程度や,尋問への支障の有無などの許容性の程度を含めた諸事情を考慮する要件として,相当性という要件のみを規定するというアプローチも,理論上はあり得るように思われます。   差し当たり考えられる二つのアプローチを申し上げましたが,今後,ビデオリンク方式による証人尋問の要件をどのように改めていくべきかについては,ビデオリンク方式による証人尋問をどのような場合に利用し得るものとすることが適当かといった点や,現行法に設けられている類型を削除することの是非なども十分に考慮した上で,更に検討する必要があると考えています。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   証人の所在場所については,先ほど吉澤委員の御発言の中にも出てきましたが,ほかには御意見いかがでしょうか。 ○永渕委員 まず,ビデオリンク方式の実施要件の在り方に関してお話をさせていただきます。   この実施要件を拡大する必要性が存在するということ自体につきましては理解できるところであります。しかしながら,先ほどの河津委員の御指摘にも関連するところですが,証人尋問は法廷で直接証人の供述を聞き,適切に反対尋問が行われることを通じて,裁判体が,これは裁判員裁判ではもちろん裁判員の皆さんも含めてということになるわけですが,心証を形成するという重要な手続であると思われます。現行法の条文を見ましても,証人には,法廷への出頭を求めた上で,法廷で証人尋問を行うのを原則とし,証人の保護や遠隔地に所在する証人の負担の低減といった必要性がある場合に,特定の要件を充足する場合に限って,証人が法廷外に所在する状態で証人尋問を実施することができるものとされています。このように,証人には法廷に実際に出頭していただき,その供述を裁判体が直接聞いた上で判断をするのが原則であるという現行法の基本的な考え方については,今後も基本的には変わるものではないと思われます。したがいまして,実施要件の拡大を検討するに当たっても,そのような基本的な考え方を前提とした制度とする必要があると思われます。   併せて,証人の所在場所に関してですけれども,これを拡大する必要性が存在するということ自体につきましては,これも理解ができるところであります。もっとも,手続を主宰する裁判所の立場からいたしますと,証人の所在場所については,証人が何らの影響も受けずに自己の記憶のみに基づいて証言を行える状況であることが担保されていることが重要であると考えられます。現在の実務におきましても,例えば,証人が何らかの書面を見ながら証言しようとするような場合には,書面によらず記憶に基づいて話すように促すなど,証人が自己の記憶に基づいて証言できるよう,裁判体として十分に気を配って訴訟運営を行っているところであります。また,裁判所の訴訟指揮権,あるいは法廷警察権の十全な行使が確保されることや,証言の内容に関するプライバシーを確保することが可能な場所であることなども必要になると考えております。 ○成瀬委員 ただいまの永渕委員の御発言を受けまして,私も,(4)の「証人の所在場所の規律」について意見を申し上げたいと思います。   現行刑訴規則が,証人の所在場所をビデオリンク方式による尋問に必要な装置の設置された裁判所構内に限定しているのは,永渕委員から御指摘がありましたように,訴訟指揮権及び法廷警察権の十全な行使や,回線のセキュリティの確保などを考慮したものとされています。  もちろん,裁判所が,証人尋問を実施するに当たり,訴訟指揮権及び法廷警察権を適切に行使し得ることは大前提であると考えますが,これらの権限を実際に行使する必要性の程度は,事案の内容や証人の属性,証人尋問の立証趣旨などによって様々であり,また,場所によっては,例えば,裁判所書記官等を証人の所在場所に赴かせて,法廷の秩序維持のために命ずる事務を取り扱わせることもあり得るように思われます。   したがって,訴訟指揮権及び法廷警察権の十全な行使の必要性から裁判所構外に証人を所在させることを一律に禁ずるのではなく,裁判所が,裁判所構外にある場所に証人を所在させて証人尋問を実施する必要性の程度や,訴訟指揮権及び法廷警察権を行使しなければならない必要性の程度などを考慮した上で,事案に応じて,裁判所構外にある場所に証人を所在させることを認めることも,一つの方策として考えられるのではないでしょうか。   なお,訴訟指揮権及び法廷警察権の十全な行使や,回線のセキュリティの確保という要請については,諸外国においても同様に妥当するものであって,我が国に特有の要請ではないと思われるところ,例えば,我が国とEUとの間における刑事共助協定においては,相手国に所在する者から証人として聴取する必要がある場合,ビデオ会議を通じてその者から証言を得ることを可能とすることができる旨の規定が既に設けられています。このように,諸外国では,証人が国外に所在したまま証人尋問を実施することが想定されているのですから,我が国だけそれが許容されない理由はないように思われます。 ○永渕委員 ただいま成瀬委員から,裁判所の職員を証人の所在場所に派遣して法廷警察権の執行を確保させることに関する御発言がございましたので,実際に現場で裁判を行っている立場から,若干,申し上げたいと思います。   仮に御指摘のような方法を取ることとした場合,証人尋問中の不測の事態に備えて,証人の所在場所の環境などに関する情報収集や関係機関との調整を行ったり,法廷警察権の執行を適切に行うことが可能である職員を必要な人数確保した上で証人の所在場所に派遣する体制を整えたりするといった様々な必要がございます。こういった必要を考えますと,証人尋問を機動的に実施することが難しくなる場合もあろうかと思われまして,円滑な公判の実施という観点からは慎重な検討が必要になるのではないかと考えます。 ○笹倉委員 先ほど成瀬委員が言及されましたけれども,外国所在の証人に関わることについて意見があります。   現行刑訴規則上は,構外ビデオリンク方式による証人尋問については,ビデオリンク方式による尋問に必要な装置の設置された他の裁判所の構内に証人の所在場所が限定されています。河津委員から証人喚問権を行使して外国にいる証人の尋問も是非可能にしたいというお話があったところですが,現行の構外ビデオリンク方式によるとしますと,証人に我が国の国内の裁判所に出頭してもらう必要がありますので,証人尋問が結局は実施困難になってしまうことが少なくないと思われます。さらに,今般のコロナ禍においては,諸外国との往来が厳しく制限されるといった従来は想定し得なかった事態も生じているところであり,外国に所在する者を証人として尋問することは現行制度の下では非常に困難な状態です。   このようなことからしますと,事案の真相解明のために必要な証拠調べをより広く実施し得ることとすべく,外国所在の証人については,その国に所在させたままでビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるものとすることは検討に値すると考えます。   先ほども少し言及がありましたが,我が国とEUとの間における刑事共助協定においては,相手国に所在する者から証人として聴取する必要がある場合,ビデオ会議を通じてその者から証言を得ることを可能とすることができる旨の規定が既に設けられているところです。外国所在証人についてビデオリンク方式による証人尋問を実施することを刑訴法上可能とするか否かは,したがって,現実性のある検討課題でもあります。   もちろん,外国に所在する者について証人尋問を実施するとすれば,国内にいる者について証人尋問を実施する場合と違いもいろいろあるでしょうから,そこを明らかにしつつ,具体的な方策の在り方について更に検討を進めていくのが適切ではないかと考えるところです。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   この点については大体よろしいですか。   それでは,「通訳・鑑定・検証」,「その他」という点についても御意見を頂戴したいと思います。 ○成瀬委員 「通訳」と「鑑定」について意見を申し上げます。   現行刑訴法上,通訳については,第12章の鑑定の規定を介して,第11章の証人尋問の規定が準用されることとされています。もっとも,通訳人について,構内ビデオリンク方式に関する刑訴法157条の6第1項や,構外ビデオリンク方式に関する同条第2項のうち1号から3号までの規定によりビデオリンク方式による通訳が行われることは,実際上,想定し難いと思います。他方,「証人が遠隔地に居住し,その年齢,職業,健康状態その他の事情により,同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき」にビデオリンク方式の利用が可能であると定める同項4号については,通訳人にも要件該当性を肯定する余地がありますが,そのためには,通訳人が遠隔地に居住しているだけでなく,公判審理が行われる裁判所構内への出頭が著しく困難であることが必要となることから,ビデオリンク方式による通訳を行うことができるのは限定的な場合に限られるように思われます。  しかし,刑事裁判における通訳人の確保が容易ではない現状に鑑みますと,通訳を要する事件の公判手続を柔軟かつ迅速に進める観点から,ビデオリンク方式による通訳をより広く活用することができるよう,ビデオリンク方式による通訳についての規定を別途設けることが考えられます。   一般に,「通訳」とは,国語を解しない者や,国語によって陳述することができない者の陳述・表現を国語による陳述の形に転換し,又は,国語による陳述を理解することができない者に対して,その者が理解することができる言語・表現に転換することをいうとされています。このように,通訳は,国語による陳述と国語以外による陳述・表現を相互に転換することを本質とするものであり,ビデオリンク方式によってその転換を行うために必要な情報を互いに十分に理解させることは可能であることから,幅広くビデオリンク方式を活用することができる内容の規定とすることが考えられるのではないでしょうか。   次に,鑑定については,現行刑訴法上,勾引に関する規定を除いて,第11章の証人尋問の規定が準用されます。通訳人と同様に,刑訴法157条の6第2項4号については要件該当性を肯定する余地がありますが,先ほども申し上げたとおり,鑑定人が遠隔地に居住しているだけでなく,公判審理が行われる裁判所構内への出頭が著しく困難であることが必要となることから,ビデオリンク方式により鑑定人尋問を行うことができるのも,やはり限定的な場合に限られるように思われます。  しかし,刑事裁判における鑑定人の確保が通訳人と同様に容易ではない現状に鑑みますと,鑑定を要する事件の公判手続を柔軟かつ迅速に進める観点から,幅広くビデオリンク方式を活用することができるよう,ビデオリンク方式による鑑定人尋問についての規定を別途設けることも考えられると思います。 ○小木曽座長 そのほか,検証もありますが,いかがでしょうか。 ○笹倉委員 検証は,物,場所,人等の存在及び形状を五官の作用により認識する作用,処分と定義されます。そして,五官の作用によるという性質上,これまでは,検証を実施する主体が,自ら直接対象の性状を認識することを要するものとして運用されてきたと思われます。ただ,触覚・嗅覚・味覚はともかく,視覚や聴覚によって認識すれば足りる場合には,検証の目的である物等の所在する場所に直接赴くことなく,ビデオリンク方式によりこれを行うことが実際上可能である場合,有益な場合もあるように思います。   そのようないわばリモート検証についての規定を,この際,手当てするかどうかということですけれども,現行法の検証の規定で十分カバーされているという見方も可能です。それに対して,ビデオリンク方式での実施の許容性を明文化することももちろん考えられますが,技術的な手段を用いた検証は様々なものが想定されるところ,ビデオリンク方式についてのみ明文の規定を置けば,将来,適用上かえって疑義を招くかもしれません。それはそれで困りますので,現行法の規定を改める必要があるかどうかは,更に検討を要すると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ほかに御意見いかがでしょうか。よろしいですか。   これで「2(4)証人尋問等」について一通り御意見を頂戴したということになりますが,よろしいですか。   それでは,予定の議事はここまでです。本日は,論点項目の大項目「2」の(1)から(4)について議論いただいたということになります。次回会議の予定ですが,論点項目の「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」のうちの「(5)公判期日への出頭等」,「(6)裁判員等選任手続」,「(7)公判審理の傍聴」と,論点項目の「3 その他」について議論を行いたいと考えております。   本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容はなかったと思いますので,いつものように発言者名を明らかにした議事録を公表することといたしたいと思います。配付資料についても公表したいと思います。そのような扱いでよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   では,次回の予定の説明をお願いします。 ○南部室長 次回の第4回会議は,6月29日火曜日,午前9時45分からの開催を予定しております。本日同様,ウェブ会議方式での開催となる予定です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 それでは,本日も皆様ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。   本日はこれで閉会です。 -了-