刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第4回) 第1 日 時  令和3年6月29日(火)     自 午前9時45分                          至 午後0時06分 第2 場 所  法務省1階集団処遇室 第3 議 題  ○議論 1 論点項目2「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」          (5)公判期日への出頭等          (6)裁判員等選任手続          (7)公判審理の傍聴 2 論点項目3「その他」 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○南部室長 それでは,定刻となりましたので,ただいまから刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第4回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 皆様,おはようございます。本日も朝からありがとうございます。よろしくお願いいたします。   それでは,本日の配付資料について,事務当局から確認・説明をお願いいたします。 ○南部室長 本日は,議事次第のほか,配付資料14から19までをお配りしておりますので,ウェブ参加の皆様におかれましてはお手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の方につきましては,ただいま申し上げた資料を机上に御用意しておりますので,御確認ください。   このうち,配付資料の14から16までの内容につきましては,後ほど御説明いたします。   配付資料17から19までは,いずれも令和3年6月18日に閣議決定されました文書でございます。資料17が「デジタル社会の実現に向けた重点計画」,資料18が「成長戦略フォローアップ」,資料19が「規制改革実施計画」です。   配付資料の確認・御説明は以上です。 ○小木曽座長 それでは議論に入ります。   本日は,第3回会議に引き続き,論点項目に従い,議事次第のとおり論点項目の「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の(5)から(7)までの三つの小項目と,「3 その他」について御議論いただきたいと考えております。   それでは早速,「(5) 公判期日への出頭等」についての議論に入ります。   まず,事務当局から資料14について説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料14の「2(5)公判期日への出頭等」について御説明いたします。   資料1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   公判期日への出頭等について情報通信技術を活用する方策としては,「公判期日への『出頭』,『出席』,『列席』について,ビデオリンク方式によることができるものとするか」が論点となり得ることから,この点を記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を7点記載しております。   このうち,一つ目の「対象者」につきましては,公判期日に「出頭」等をする者として,主に裁判官・裁判所書記官,裁判員,検察官,弁護人,被告人,被害者参加人・被害者参加弁護士が挙げられますが,本方策を導入する必要性の程度等につきましては,それぞれの立場に応じて違いがあるように思われます。   そこで,まずは,これらの者のうち,いずれの者を検討の対象とすべきかや,検討対象とするとして,どの程度重点的に議論すべきかを検討する必要があると考えられましたので,この点を検討課題として掲げております。   四つ目の「必要となる法的措置」,五つ目の「ビデオリンク方式による『出頭』等を認める要件」,六つ目の「弊害が生じない方策の在り方」につきましては,それぞれ具体的に検討する必要があると思われる点を付記しておきました。   資料14についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 それでは議論に入ります。   まずは,資料14の検討課題の「1 対象者」に記載がありますとおり,現行法上,公判期日に出頭等することとされている者のうち,いずれの者を検討対象とすべきかについて,総論的に御意見を頂戴しまして,その上で,対象者ごとに「2 必要性」以下について議論いただくということにしたいと思います。   それでは,まず,「1 対象者」について御意見のある方は発言をお願いいたします。 ○池田委員 「1 対象者」について意見を申し上げます。   現行法上,公判期日にはこの資料14に掲げられた者が「出頭」,「出席」あるいは「列席」するとされておりまして,ビデオリンク方式によってこれらの「出頭」等を認めるか否かの検討との関係では,それぞれの手続における立場に応じて,そうした取扱いを必要とする程度が異なるように思われるということに留意しておくべきではないかと思います。   すなわち,現実問題として,公判手続が裁判所構内の法廷という物理的空間において行われるということが前提になるのだとすると,まず,平素より正にその場所で職務に従事しておられる裁判官や裁判所書記官が,改めてビデオリンク方式によって「列席」する必要がある場面というのは想定し難いように思いますし,また,裁判員についても,裁判官と共に裁判体を構成するというその位置付けからしますと,裁判官と同様に扱うべきものとなるのではないかと思います。   他方で,被告人については,これも現実問題として遠隔からの参加を認める必要性がないわけではないように思われます。もっとも,被告人は訴追を受けている当事者でありまして,刑事裁判に切実な利害関係を有する立場にあり,刑訴法上も公判への出頭義務が課され,またその出頭が開廷の要件とされています。つまり,被告人が現実に在廷することは,法律上重要な位置付けを与えられていますので,被告人にビデオリンク方式による「出頭」を認めることの当否や具体的な制度の在り方については,そうした事柄の趣旨との関係での検討を要するものと考えられます。   さらに,被害者参加人等については,第1回検討会において,ビデオリンクによる出席の具体的な必要性に言及されているところです。もっとも,被害者参加制度の導入の際に,あえてビデオリンク方式の規定が置かれなかったということもありますので,こうした立法経緯との整合性を含めて,十分な検討が必要になるように思います。 ○吉澤委員 今,被害者参加人や被害者参加弁護士の話も頂いたんですけれども,このビデオリンクでの参加の必要性については,第1回でもお話をさせていただきました。飽くまで原則は公判廷に現実に出席するということが原則だとは考えているんですけれども,例外的にオンラインでの「出席」を可能とすべき必要性が,類型的に高い場面もあるのではないかと考えています。   類型を考えますと,被害者が多数の事件であったりとか,あとは性犯罪事件のケースが典型的ですが,現在遮蔽措置を取っている事件の場合であったり,あとは被害者・御遺族が遠方に居住していて,公判が開かれる裁判所まで行くことが困難であるケースなど,そういうようなケースに限っては,ビデオリンクでの参加というのを可能にする選択肢を設けることが必要であると考えています。 ○永渕委員 刑事裁判において,法廷に関係者が出頭して対面で行うのが原則であるという点は,今後も基本的には変わらないのだろうと考えております。その上で,まず,裁判官や裁判所書記官について申し上げますと,法廷以外の遠隔地から手続の主宰などをするというのは,様々な隘路も考えられるところでありまして,基本的には実際に法廷の場で手続の主宰などをすることになるだろうと考えております。   また,先ほど池田委員からも御指摘がありましたけれども,裁判員の皆さんにつきましても,現実に公判廷に列席することが望ましいと考えております。裁判員の皆さんは,事件ごとに一般国民から選ばれて審理に参加するという存在であり,裁判官と裁判員の皆さんとの間,あるいは裁判員の皆さん双方の間には,審理の前に何らかの人間関係があるわけではございません。そのような関係性のない者同士で審理・評議を経て,適切な判断を行うためには,裁判員の皆さんも含めた裁判体全体が十分に審議を理解し,忌憚のない意見交換を行う必要があり,現在の運用におきましても,そのために様々な工夫を行っているところであります。   例えば,裁判員の皆さんが疑問を残したまま審理を終えたり,重大な判断に関わる裁判員が過度の精神的負担を負ったりすることがないよう,審理中のみならず休廷時間や1日の審理を終えた後も含めて,裁判員の皆さんの様子に注意を払い,裁判員の皆さんの理解を確認したり,何か不安なことなどがあれば伝えていただきやすいような関係を築いたりしながら,手続を進めているところであります。裁判員の皆さんがその場に現実に存在しないという場合,こうした工夫を行いながら円滑に審理を進行することが難しくなるのではないかと考えられます。 ○笹倉委員 私も永渕委員と同じようなことをほぼ考えておりました。裁判員の方は評議に出席して意見を述べることを職責としているわけですけれども,現在の技術水準を前提といたしますと,互いに面識がなく初対面の状況で,必ずしも刑事手続に精通しているわけでもない裁判員が,裁判官や他の裁判員と画面越しで率直な意見交換を行い得るかどうかと問われますと,それはやはり難しいであろうと思われます。裁判員法54条1項は,裁判員の公判廷は裁判員が列席して開くと規定しており,法廷にリアルの列席をすることを開廷の要件としているわけですけれども,これを改めてビデオリンク方式による「列席」を認めることは,現実的に難しいように思います。 ○河津委員 ビデオリンクは,人の感覚のうち視覚で得られる映像と聴覚で得られる音声の情報を,離れた場所から伝達する技術ですが,伝達される情報の質と量は,現場で得られる情報より制限されたものであり,劣ることは否定できないように思われます。そのため,今後ビデオリンクの技術が現在より進歩するとしても,物事を慎重に吟味する必要がある場面や,重要な意思確認・意思決定を行う場面では,移動に時間や労力を費やしても,現場に赴き,対面して行うことになると考えます。例えば,前回,ビデオリンク方式による接見交通の議論を頂きましたが,弁護人は,ビデオリンク方式の接見交通が一般的に可能になったとしても,重要な意思確認をする必要のあるときは,刑事施設を訪問して接見することになるであろうと思います。  刑事裁判の公判期日は,正に物事を慎重に吟味する必要がある場面であり,重要な意思確認や意思決定を行う場面ですから,基本的にはビデオリンク方式の「出頭」等によって,現実の出頭等に代替させることが適切な場面ではないと考えます。   裁判官や裁判員は,公判廷で見聞きした証拠のみに基づき,当事者の意見を聞いて判断を形成することが求められていますが,そのような判断形成の公正さは,当事者の面前で,当事者から挙動を観察される公判廷に所在して行われることにより,担保されていると理解されます。したがって,このような点からも,裁判官や裁判員は,現実に列席することが必要であると考えます。   それ以外の訴訟関係人についても,意見の陳述や質問等の訴訟行為は,対等な条件の下で行われなければ公正とは言えず,その公正さは,公判廷という同じ環境に所在して,相手方当事者や裁判官・裁判員から挙動を観察されることによって担保されていると理解されます。ビデオリンク方式によって公判廷外から訴訟行為がなされるとすれば,その訴訟関係人だけが異なる環境から訴訟行為をすることになり,訴訟行為の公正さの担保という面では後退することになるように思われます。  そうであるにもかかわらず,ビデオリンク方式による「出頭」等を一般的に認めた場合,その方が関係機関の負担が小さくなることなどから,多用されることになり,結果として刑事裁判の質の低下を招くのではないかと懸念しております。   このようなことから,裁判官,裁判員以外の訴訟関係人についても,現実の出頭等が原則であることは,まず確認される必要がある,そのように考えます。 ○小木曽座長 そのほか,この点について御意見いかがでしょうか。   今までの御意見を整理いたしますと,まず,裁判官・裁判所書記官,裁判員については,対象者とすることは現実的に考え難いという御意見であったと思います。被告人,被害者参加人につきましては,一定のニーズがある,ないしは検討すべき事項も少なくないと思われますので,検討する必要があると思います。検察官,弁護人につきましては,必要な範囲で検討をすべきかと思われます。   そこで,ここからは,まず被告人について,次に被害者参加人等について,それぞれ検討課題の「2 必要性」以降を御議論いただきまして,最後に必要な範囲で検察官・弁護人について議論いただくことにいたしたいと思います。   それでは,まず被告人に関しまして,検討課題の「2 必要性」,「3 許容性」について,更に突っ込んだ御意見をお持ちの方は発言をお願いいたします。 ○佐久間委員 被告人のビデオリンク方式による出廷について意見を述べます。   現行法の刑訴法286条,その他の規定を見ると,一定の場合を除いて,被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができないとされています。これは,期日が行われる場所に,被告人が物理的に所在することを意味するものとして運用されていると思われます。この点は,池田委員の御指摘どおりです。   しかし,例えば,勾留中の被告人が感染症に罹患して,公判廷に被告人を押送すること自体に多大な人的・物的負担が生じたり,被告人を在廷させることによる公判関係者への感染の危険が懸念されたりする場合もあります。また,被告人の訴訟能力には問題がないものの,被告人の身体的な病状によっては,被告人を入院先から外部へ移動させることが困難であったり,移動させることで被告人の病状への影響が懸念されたりする場合もあります。そのほか,暴力団の抗争などを背景とした殺傷事件の場合,被告人の相手方となったグループが,被告人あるいは傍聴席にいる被告人の仲間に対する報復目的で,ひそかに凶器を携えて法廷に来るといったケースもあり得ます。   実際に私がある地方で公判に立ち会った事件ですが,これは暴力団同士の抗争に端を発した殺人被告事件でした。このとき,指定暴力団である相手方組織が,被告人への報復のため,公判期日に傍聴席から被告人を狙撃する計画を立てているといった事前情報があり,県警の4課に警備の応援を依頼した経験がございます。当時の傍聴席は,大勢の警察官と暴力団とで満席となり物々しい雰囲気でしたが,警察の献身的な協力がなければ安全に開廷できない,そういうケースでございました。   このような場合,審理の進行や法廷の秩序に支障を来すのはもちろん,被告人を含む公判関係者の安全をも脅かすことにもなりかねません。被告人をビデオリンク方式で「出頭」させることができれば,法廷の安全が維持され,公判審理を円滑に進めることができるのではないかと考えております。   こうした実務上の必要性があることを踏まえつつ,被告人の出廷について,柔軟に対応することの許容性について,検討する必要があると思っております。 ○池田委員 ただいま佐久間委員から実務上の必要性について御指摘いただきましたので,私の方からは許容性について意見を述べたいと思います。   御指摘のとおり,現行法は,一定の場合を除いて,被告人の公判期日への出頭を義務付けています。これにより,被告人は,出頭の権利を放棄する意向を有していたとしても,公判期日に出頭しなければならないということでありまして,現行法は,被告人の公判期日への出頭について,被告人の一存では放棄を認めることのできない価値ないし利益があるとの理解に立っているものと考えられます。そのため,被告人がビデオリンク方式により「出頭」することが許容されるかについても,被告人の出頭を開廷の要件としている,すなわち出頭義務を課している刑訴法286条の趣旨との関係で,検討する必要があるように思われます。   その286条の趣旨ですけれども,一般的には,公判期日が当事者の攻撃及び防御の場であって,当事者である被告人自身を出廷させることが,その権利保護のために必要であると同時に,裁判所の審理を適正にするためにも役立つと考えられるところにあると理解されております。   こうした趣旨を実現することとの関係で,物理的な出頭とビデオリンク方式による「出頭」との間で,事実上の差異はあっても,法的な位置付けとしては差異がない,つまり,出頭義務を課している趣旨の実現において差異がないと言えるのであれば,ビデオリンク方式により「出頭」しても,被告人による防御権の行使も,また被告人の防御を通じた裁判所における審理の適正さの担保も肯定されるとして,許容性を認めやすいものと考えられます。   他方で,両者の間には,出頭の在り方として事実上の差異があるために,現実の出頭によって果たすべき価値・利益の実現が,ビデオリンクでは必ずしも十分には図られないというのであれば,ビデオリンク方式による「出頭」については,直ちにこれが許容されることにはならないように思われます。   諸外国の例を見ますと,第1回の配付資料3にありましたけれども,例えば,イギリスにおいては,裁判所の命令がある場合に,ライブリンクの方式によって出頭することが認められている一方で,ドイツにおいては,ビデオリンク方式による出頭は認められていない,アメリカにおいては,コロナ禍への対応のため,一部の手続についてビデオリンク方式による出頭は認められていますけれども,事実審理においてはこれが認められていないなど,各国の法制度は一様ではないと認識しております。   以上によりますと,本方策の許容性につきましては,こうした外国法制をも踏まえた上で,ビデオリンク方式と現実の出頭との間に事実上の差異があるとして,制度設計を考えるべきなのか否か,被告人がビデオリンク方式により「出頭」することで,刑訴法286条が保障しようとする価値・利益の保護が図られるか,その保護が必ずしも十分には図られないとした場合には,どのような実施要件であれば許容されるのかといった具体的な検討課題との関係で,検討していく必要があるものと考えております。 ○吉澤委員 今まで必要性について伺っていて,確かに,極めて限定的な場面では,オンラインでの「出頭」ということも認める必要性があるのかなとは感じているんですけれども,ただし,やはり被告人というのは,法廷に物理的にきちんと出頭しているということが,ほかの訴訟関係人とはまた違う意味でも,極めて重要なのではないかと考えています。   これまでの中で,弁解録取と勾留質問のオンラインでの実施を検討したときに,やはり裁判所で勾留質問を行うことが重要であるという観点も示されていたかと思いますが,やはり被告人が法廷に出頭して,そこで自分の刑事手続,裁判を受けるということによって,被告人の,例えば,再犯防止などの観点から見ても,感銘力という点では,やはりオンラインと比べて格段に違うのではないかなと感じています。   ですので,余り便宜とか必要性を強調してそちらの方に流れていくのではなく,極めて慎重に考えていただきたいなと感じました。 ○永渕委員 刑事裁判手続は,改めて申し上げるまでもなく,被告人の有罪・無罪を判断して,有罪という場合には量刑を決めるという手続であります。そして,被告人は訴訟の当事者として,事実上・法律上の主張を行うとともに,法廷でのその供述が証拠方法にもなる,こういう主体であります。このような被告人の特性からしますと,被告人の出頭には,単に被告人の権利というにとどまらない意義があるものと思われます。したがいまして,被告人の非対面化につきましては,そのような特性を踏まえて検討していくべき必要があると考えております。   先ほども申し上げましたとおり,基本的には今後も現実に出頭して審理を行うことが原則であると思われますので,そのことがやはり条文上も明らかになっていることが望ましいのではないかと考えております。被告人がオンラインで「出頭」するという場合,そのことに異議がないかどうかだけではなくて,高度の必要性が認められる場合に限るべきであると考えております。   また,現行法においては,法定刑の軽い事件に限って,被告人の出頭義務が免除されていることなどにも照らしますと,法定刑の重い事件について,被告人の出廷の非対面化・遠隔化を認めることについては,特に慎重に検討すべきであろうと考えます。   なお,身柄拘束中の被告人について,刑事施設からの「出頭」を認める場合には,捜査機関の影響を受けない状態が確保された状態であることも必要であると考えております。 ○小木曽座長 そのほかにはよろしいでしょうか。   では,被告人に関しまして,検討課題の「2」,「3」については御意見を頂戴したと思いますので,ここからは,「4 必要となる法的措置」以降についても,併せて御議論いただきたいと思います。   では,御意見ある方はお願いいたします。 ○笹倉委員 「4 必要となる法的措置」について意見を述べます。   刑訴法286条では,被告人は原則として公判期日に出頭しなければならないと規定されております。この「出頭」というのは,期日が行われる場所に物理的に,リアルで所在するということを意味すると,今まで考えられ,運用されてきたものと思われます。そのことを踏まえますと,既に要件論について御議論があったところですけれども,被告人をビデオリンク方式によって公判期日に「出頭」させることができるものとする場合には,そのことを明らかにする明文の規定を設けるなどの手当てが必要になると考えます。 ○池田委員 私からは,出頭等を認める要件について意見を申し上げます。   今,笹倉委員からの御指摘があったところ,あるいは,先ほど私が述べたこととも通じるのですけれども,ビデオリンク方式により被告人を「出頭」させることで,映像と音声を通じてではあれ,被告人が公判廷において行われている公判手続の推移を把握した上で,必要な防御権を行使することは可能であり,被告人が防御権を行使することを通じて,裁判所の審理の適正さが担保されると考えるのであれば,被告人をビデオリンク方式により「出頭」させる場合についての実施要件を設けるにしても,それはさほど厳格なものである必要はないと考えられます。   他方で,物理的な出頭とビデオリンク方式での「出頭」との間には事実上の差異があり,そのために,ビデオリンクの場合には,現行法が守ろうとしている被告人の防御上の利益や公判審理の適正さが損なわれることになるということへの懸念がなお残るという考え方は,もちろんあり得るものと思います。この後者の考え方によりますと,被告人をビデオリンク方式により「出頭」させるための実施要件を,より厳格なものとして検討すべきことになると思われます。現行法が被告人の出頭を必要的なものとしている趣旨のほか,出頭義務に例外を設けている現行規定の趣旨も踏まえて,どのような実施要件であれば許容されるのかを,慎重に見極める必要があるものと考えております。 ○河津委員 先ほども申し上げましたが,公判期日については,現実の出頭等が原則であるべきです。裁判が公正に行われることについて,最大の利害関係を有しているのは被告人ですから,少なくとも被告人が現実の出頭を希望しているときに,現実の出頭を禁止して,ビデオリンク方式での「出頭」を強制することは,許容されるべきでないと考えます。   他方で,被告人は迅速な裁判を受ける権利を保障されているところ,感染症の拡大等により,現実の出頭等をしなければ,公判期日を開くことができないとすると迅速な裁判が実現できない事態も想定されます。また,被告人が遠隔地の裁判所に起訴された場合のように,現実の出頭の負担が著しく大きい場合も考えられます。このような場合を想定すると,ビデオリンク方式による「出頭」等を可能にすることは,迅速な裁判を受ける権利を実現する面もあると考えられます。被告人には,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利が保障されていますが,被告人自身が迅速性を優先する判断をする場合においては,ビデオリンク方式による「出頭」等を認めることも許容され得ると考えます。したがって,ビデオリンク方式による「出頭」等を認める要件としては,それを認めるべき必要性に加えて,被告人の同意が要件とされるべきであると考えます。   そして,弁護人としましては,被告人がビデオリンク方式で「出頭」する場合に,どこに所在すべきかという問題があります。弁護人としては,被告人と十分な協議をするために,被告人のそばに所在する必要があり,他方で,適切に訴訟行為をするために,公判廷にも所在する必要があることになります。したがって,このような場合には,弁護人が複数選任され,少なくとも1人は被告人のそばに,少なくとも1人は裁判官の面前,公判廷に所在して,かつ,その間で緊密な連絡をすることができるような措置を講じる必要があると考えます。 ○笹倉委員 現行法が被告人の出頭を原則として必要的としているのは,既に御指摘があったところですけれども,公判期日が当事者の攻撃防御の場であって,当事者である被告人自身が出廷していることが,その権利保護のために必要であると同時に,裁判所の審理を適正にするためにも役立つと考えられているからだと思われます。   ところが,ビデオリンク方式で「出頭」することを認めるとしても,リアルに出頭している場合とはやはり事実上の差違があるということを前提といたしますと,被告人の出頭を開廷の要件としている趣旨に照らして,そのような事実上の違いに起因して被告人の権利保護上問題が生じないかという観点,あるいは,審理の適正さないし適正さの外観に問題を生じないかといった観点から,実施要件を丁寧に検討することが必要になると思います。   この点についての検討に際しては,例えばですけれども,現行法に規定されている出頭義務の例外規定の定め方や,その趣旨を参酌することが有益でしょう。御承知のとおり刑訴法284条は,一定額以下の財産刑に当たる事件について被告人の出頭義務を免除しておりますし,285条は,拘留に当たる事件など一定の比較的軽微な事件については,判決宣告など一定の場合を除き,裁判所が被告人の不出頭を許可することができるとしているところです。   被告人をビデオリンク方式により画面上ではあれ「出頭」させることと,公判期日にそもそも出頭しないこととはもちろん違うわけではありますけれども,刑訴法286条が公判期日への現実の出頭を義務付けていることに対する例外という意味では,共通するところがあると思われます。したがって,被告人のビデオリンク方式による「出頭」の実施要件の在り方を考えるに当たっては,現に存在している例外規定である284条や285条の定め方やその趣旨を参照して検討していくことが,一つの手掛かりとして有益ではないかと考えます。 ○成瀬委員 私は,ここまでの議論で委員の皆様が提案された実施要件について,意見を申し上げたいと思います。   まず,被告人をビデオリンク方式により「出頭」させる場合には,被告人の同意を要件とすべきであるという河津委員の御提案について,今後の検討課題を申し上げます。   先ほど池田委員から御指摘がございましたように,被告人が物理的に出頭する場合とビデオリンク方式により「出頭」する場合との間に,その手続で求められる法的利益・価値を実現する上での差異があると考えるか否かによって,この御提案に対する検討課題は変わってくるように思われます。すなわち,二つの出頭方法の間に,被告人の防御権や公判審理の適正という法的利益・価値を実現する上での差異はないという前提に立つのであれば,そうであるにもかかわらず,被告人の同意を要件とすることによって守らなければならない権利・利益とは,一体どのようなものであるのかという点が問題となります。換言すれば,被告人の同意がないにもかかわらず,ビデオリンク方式により「出頭」させることとすると,どのような権利・利益が損なわれることになるのかを具体的に明らかにする必要があると思われます。   これに対して,恐らく河津委員は,二つの出頭方法の間には,被告人の防御権や公判審理の適正という法的利益・価値を実現する上で差異がある,言い換えれば,ビデオリンク方式による「出頭」は,物理的な出頭と比べて,法的に劣るというお考えであろうと思います。仮にそのような前提に立つのであれば,現行法が,被告人の意向を問わず被告人の出頭を開廷の要件とし,後見的にその権利保護を図っているにもかかわらず,被告人の同意があることを理由として,物理的な出頭と比べて劣るようなビデオリンク方式による「出頭」を許容することが果たして認められるのか,認められるとすれば,その根拠は何であるのかといった点を明らかにする必要があります。  いずれにしましても,仮に被告人の同意を実施要件とするのであれば,これらの課題について検討する必要があると思います。   次に,永渕委員から,被告人をビデオリンク方式により「出頭」させることができる事件を一定の法定刑を基準として限定するという御提案がございましたので,この御提案についても意見を申し上げたいと思います。   仮に,被告人が物理的に出頭する場合とビデオリンク方式により「出頭」する場合との間に,被告人の防御権や公判審理の適正という法的利益・価値を実現する上での差異はないという前提に立つのであれば,被告人をビデオリンク方式により「出頭」させたとしても,重要な利益・価値が損なわれるおそれは特段生じないことから,法定刑によって対象事件を限定する理由はないと考えることになるでしょう。   これに対して,恐らく永渕委員は,河津委員と同様に,二つの出頭方法の間には,被告人の防御権や公判審理の適正という法的利益・価値を実現する上で差異があるというお考えなのだと思います。仮にそのような前提に立つのであれば,先ほど,笹倉委員から御指摘がありましたように,刑訴法284条・285条が,法定刑を基準とした事件の軽重に応じて,出頭義務の例外を認めるか否かや,例外を認める手続の範囲を区別していることなどを参考にしつつ,ビデオリンク方式による「出頭」について,法定刑を基準とした事件の軽重を要件とするという考え方も,十分にあり得るように思われます。   いずれにしましても,法定刑を基準とした事件の軽重を実施要件とするか否かという点につきましては,現行法における出頭義務の例外規定なども参照しつつ,全体の要件の在り方の中で更に検討する必要があると考えております。 ○小木曽座長 ほかにはいかがでしょうか。検討課題の中には,「6 弊害が生じない方策の在り方」といった項目も挙がっておりますが。 ○成瀬委員 先ほど,永渕委員から,身柄拘束中の被告人がビデオリンク方式により「出頭」する場合には,捜査機関の影響を受けない状態を確保する必要があるという御意見がございましたが,私は,より一般化する形で,「6 弊害が生じない方策の在り方」について意見を申し上げたいと思います。   仮に,被告人をビデオリンク方式によって公判期日に「出頭」させることができるものとする場合には,第三者が被告人に働き掛けて真意に反する供述をさせるなどの不当な関与をすることや,被告人やその関係者が裁判所の許可を得ずに公判審理の状況を録音・録画することが,事実上容易になってしまいます。このような事態が生じるとなると,本来は公判手続に関与できない者がこれに関与し得ることとなるおそれがあるほか,証人等が公判手続における挙動を録音・録画されていることを恐れて,記憶に基づき供述することが妨げられるおそれもあり,ひいては,適正な公判手続の遂行にも支障を来しかねません。   そのため,仮に,被告人をビデオリンク方式により「出頭」させることができるものとする場合には,その所在場所について,第三者が不当な関与をすることのない状況や,無断で録音・録画が行われないようにする状況を担保するための規律を設けることが考えられます。 ○小木曽座長 被告人に関して,そのほかに意見はよろしいですか。   ありがとうございます。では,被告人につきましては御意見を頂戴しましたので,ここからは被害者参加人等についての議論に移りたいと思います。ここでは,「2 必要性」以降をまとめて御議論いただきたいと思います。   よろしくお願いします。 ○吉澤委員 まず,被害者参加人と被害者参加弁護士については,被害者参加制度自体が創設されたときに,そのバーの中に被害者が入るということ自体に重要な意味があったという経緯もありますので,飽くまでその法廷に実際にリアルで参加するということが原則であると考えています。ただ,例外的にオンラインでの「出席」を可能とするべき必要性があるケースもあるのではないかと考えています。   例えば,被害者が多数の事件の場合ですけれども,物理的にバーの中に入り切れないというケースが実際にあり,傍聴席の一部を区切り,在廷扱いにしているという対応をされているケースもあります。ただ,そうしますと,特に遮蔽措置が取られている場合などは,どうしても後方の席に行けば行くほど,何も見えなかったり,訴訟関係者の発言も聞き取りづらいということがありまして,結局,被害者参加制度を利用していても,内容がよく分からなかったということになってしまうケースもあります。さらに,現在は,コロナ禍により傍聴席の使用が相当制限されておりますので,被害者や御遺族が多数いらっしゃる場合は,その傍聴席にすら入りたいけれども入れないという状況になることもあります。   次に,特に性犯罪事件のケースが典型的ですけれども,現在遮蔽措置を取っている事件のような場合のケースが挙げられると思います。被害者の中には,被告人には絶対に姿を見られたくないけれども,公判廷がどのような様子であるのかとか,被告人がどのような態度であるのか,反省しているような態度であるのかなど,自分の目で確認したいという方も一定数いらっしゃいます。しかし,今は遮蔽措置を採られますと,実際は自分の目の前に壁があるというだけになってしまって,何も見ることができず,参加はしたものの,公判廷の様子はほとんど分からないという状況になってしまっています。また,被害者参加はしたいけれども,被告人と同一の空間に在廷すること自体が苦痛で耐えられないという方は,今は在廷しないという選択をするほかないという状況になっています。   次の必要性の高いケースですけれども,被害者や御遺族が遠方に居住しており,かつ,年齢や健康状態など,様々な事情によって公判が開かれる裁判所まで行くことが実際に困難であるというケースも考えられると思います。こういった場合に対応するために,法廷とは別の場所に法廷内の状況を把握できるモニターを設置してもらい,公判廷の状況をよく把握できる状態で参加するという方法も,例外的に選択肢として採ることができるようになればと思っています。   また,これは運用面のことかと思いますが,被害者参加の場合の遮蔽は,刑訴法316条の39第4項で,被告人と被害者参加人との間で,被告人から被害者参加人の状態を認識することができないようにするための措置と定められておりますので,被害者側から被告人の方を見ることは可能であると考えます。ですので,ビデオリンクの話とは少し違いますが,遮蔽措置を取る場合は,遮蔽された中にいる被害者の手元に,法廷内の状況を把握できるモニターを設置するという方法でも,先ほど申し上げましたニーズを一定は満たすことができるのではないかとも考えています。   このような様々な方法での被害者のニーズに柔軟に対応できる選択肢というものを,検討するべきではないかと考えています。 ○成瀬委員 ただいま,吉澤委員から,実務における具体的ニーズを御説明いただきましたが,私は,被害者参加制度に関する現行法の趣旨を踏まえつつ,ビデオリンク方式による「出席」を認める必要性及び許容性について,意見を申し上げたいと思います。   刑訴法316条の34第1項が,被害者参加人は公判期日に「出席」することができると規定している趣旨については,被害者が「事件の当事者」として,刑事裁判においてその立場にふさわしい扱いを受けることや,被害者参加人の訴訟活動を実効性あるものとするため,被害者参加人が刑事裁判の推移等を十分に確認できることが重要であると考えられることを踏まえ,被害者参加人が,傍聴席ではなく,法廷内のいわゆるバーの内側に在席して,公判期日に出席することができるものとしたと説明されています。そのため,この規定における「出席」は,被害者参加人が,期日が行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されていると思われます。  もっとも,被告事件の手続に参加する意向を有する被害者の中には,バーの内側に在席した上で訴訟活動を行うことを望む者がいる一方で,吉澤委員がおっしゃるように,バーの内側に在席するならば被告人との対面を避けるために遮蔽措置を講じてもらう必要があり,十分な訴訟活動を行うという観点からは,いっそのこと法廷外の別室から訴訟活動を行う方が望ましいと考える者などもいると思われます。   そして,ビデオリンク方式によっても,映像と音声を通じて刑事裁判の推移等を確認することは可能ですから,被害者参加人が,このような方式によって刑事裁判の推移等を確認することができれば十分であるという意向を有する場合には,ビデオリンク方式による「出席」を認めることも検討してよいように思われます。   それから,現行法は,被害者参加弁護士についても,公判期日に「出席」することができると規定しており,その趣旨については,被害者参加弁護士の訴訟活動を実効性あるものとするため,刑事裁判の推移等を十分に確認できるように,バーの内側に在席できることとしたと説明されています。そのため,「出席」の文言は,被害者参加弁護士についても,期日が行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されていると思われます。   もっとも,仮に,被害者参加人がビデオリンク方式によって公判期日に「出席」することができるものとする場合には,被害者参加人が「被害者参加弁護士も法廷外の同じ別室に所在して,訴訟活動の援助をしてほしい」と望む事例も生じると予想されます。先ほど河津委員から,被告人がビデオリンク方式により「出頭」する場合には,被告人のそばに刑事弁護人が所在する必要があるというお話がありましたが,被害者参加人についても同様の必要性が認められるように思います。よって,被害者参加人についてビデオリンク方式による「出席」を認めることとするならば,被害者参加弁護士のビデオリンク方式による「出席」についても併せて検討する必要があると思います。 ○永渕委員 先ほど来繰り返し申し上げておりますけれども,公判廷における審理の在り方という観点からは,被害者参加人につきましても,公判廷に現実に出席していただくのが本来の姿であると考えております。もっとも,被害者参加人の出席を非対面化・遠隔化する必要性について,先ほど吉澤委員から具体的に御指摘があったところでありまして,そのこと自体は,裁判所としても理解できるところもございます。   仮に,一定の場合に被害者参加人の出席につき非対面化・遠隔化を認めるとした場合,どのような要件の下で,どのような場所からの参加を認めるかということについては,裁判所の訴訟指揮権・法廷警察権の十全な行使が確保されること,あるいは,審理の内容に関するプライバシーを確保することが可能な場所であること,こういったことなどを踏まえて,慎重に検討されるべきものと考えます。 ○池田委員 私からは,「4 必要となる法的措置」と「5」の出席を認める要件について,併せて申し上げます。   まず,必要となる法的措置ですけれども,先ほどから指摘がありますように,被害者参加制度は,被害者参加人等がバーの内側に在席しているということに意味があるということで,現在ビデオリンク方式の措置について規定がないことも,このような趣旨によるものだと理解されます。そうだとしますと,被害者参加人等がビデオリンク方式によっても「出席」することができるものとする場合には,少なくとも,まずはその旨を明らかにするための要件を示した規定を設けるといった手当てが必要になるものと考えます。   その上で,要件についてですけれども,先ほど吉澤委員からも御指摘がありましたように,現在の実務において,被害者参加人が公判期日に出席する場合に,遮蔽の措置を取りますと公判期日の推移を把握することが困難であるとして,推移の把握を可能にするために,ビデオリンク方式による「出席」をすることを望む被害者参加人がおられるということでありますと,そのような意向を有していることを踏まえ,被害者参加人に対して遮蔽の措置を取るための実施要件をも参照しつつ,ビデオリンク方式による「出席」を認めるための要件について検討することになるのではないかと思います。   また,移動に負担があるということで,そのような負担を軽減させるためにビデオリンク方式により「出席」することを望むという場合でも,そのような御意向を踏まえて,遠隔地に居住する者の構外ビデオリンク方式による証人尋問の実施要件をも参照しつつ,検討することが考えられるのではないかと思います。   永渕委員からも御指摘がありましたけれども,被害者参加人のビデオリンク方式による「出席」の実施要件をどのようなものにすべきかについては,被害者参加人が出席する場合における遮蔽措置の要件や構外ビデオリンクによる証人尋問の要件とも対比しながら,被害者参加人のビデオリンク方式による「出席」とどのような違いがあるのか,その違いを踏まえて,どのような要件とすべきかを更に検討する必要があると考えております。 ○笹倉委員 ただいま池田委員から御発言がありましたことについて,私も若干のことを述べたいと思います。   被害者参加人が被告事件の手続に参加する場合においては,その被害者参加人の権限に基づく訴訟行為をするに当たり,検察官との意思疎通を図りつつ,検察官を通じて訴訟行為の申出をすることが必要とされております。実際に法廷で着席する場合も,検察官との意思疎通ないし検察官を通じての訴訟行為の申出が可能な場所にお座りいただくという運用が行われていると承知しております。   そうしますと,仮に被害者参加人がビデオリンク方式によって「出席」をするということを認めるとして,被害者参加人が検察官と的確にコミュニケーションをして,適正に訴訟行為を行う上で支障がないのか,あるいは,仮に支障があり得るとした場合には,それをカバーするために何らかの法的手当てを要するか,支障があるとしても技術的な措置を講ずることによって対処が可能か否かといった点について,現在の運用の状況を踏まえつつ,検討しておく必要があると思います。 ○佐久間委員 ただいま笹倉委員から御指摘のありました,被害者参加人がビデオリンク方式によって「出席」をした場合に,法廷にいる検察官との意思疎通に問題はないのだろうかという点について,実務を踏まえて申し上げます。   被害者参加人が訴訟行為を行うに当たっては,被害者参加人が証人を尋問する場合は,検察官に対して,検察官の尋問が終わった後,直ちに尋問事項を明らかにした上で尋問の申出をすること,また,被告人に質問する場合は,あらかじめ質問事項を明らかにした上で,被告人質問の申出をすることが必要であると規定されています。これらのことは,刑訴法316条の36第2項,316条37第2項にそれぞれ定められております。このように,現行法は,被害者参加人による証人尋問や被告人質問の申出を検察官経由で行うものと定めることによって,被害者参加人と検察官とが十分に意思疎通を図ることを求めております。   では,実務上どうしているのかということについて,御説明いたします。   この意思疎通の在り方に関する実務の実情を申し上げますと,検察官は,公判期日の前から,被害者参加人がどのような訴訟行為を行う意向を有しておられるのか,そして,被害者参加人が自ら証人尋問や被告人質問を行う意向を有しておられるのであれば,どのような内容の尋問・質問を行いたいのかといった点を,被害者参加人に直接確認し,その意思を十分に把握した上で,検察官が尋問や質問を行うか,それとも被害者参加人が自分で尋問や質問するのかについて,事前に被害者参加人と調整をして,公判期日に臨んでいる場合がほとんどであると聞いております。   このような実情を踏まえますと,ビデオリンク方式による被害者参加をする場合であっても,一般的には検察官と被害者参加人とは事前に十分な意思疎通を図った上で,被害者参加人が訴訟行為を行うことになると考えられますので,検察官との意思疎通の面で,離れているからという理由で運用に支障を生ずる場合は,現実的には少ないのではないかと思われます。   ただ,それでもなお,公判期日の審理中に,検察官と被害者参加人がその場で臨機応変に意思疎通を図る必要性が高いと思われる場合には,現実に被害者参加人にも出席していただくことが望ましいと,こういう判断になろうかと思いますが,一般的には,先ほど申し上げたような事前の意思疎通の方法で問題なく公判遂行できているようだということを,御参考までに申し上げます。 ○成瀬委員 ここまでの御議論は,主として被害者参加人に関するものでしたが,私は,被害者参加弁護士がビデオリンク方式により「出席」することを認めるための要件について,意見を申し上げます。   被害者参加弁護士の役割としては,刑事手続に関する十分な知識を必ずしも有していない被害者等を援助することにより,被害者等が公判の推移や結果を正しく理解した上で,検察官と的確なコミュニケーションを保ちつつ適切に刑事裁判に参加できるようにすることや,被害者等に代わって刑事裁判に参加することが,期待されているものと考えられます。よって,被害者参加弁護士がビデオリンク方式により「出席」することをどのような場合に許容するかについては,今,申し上げた被害者参加弁護士に期待される役割を支障なく果たすことができるかという観点から検討する必要があると思います。   この観点から具体的に考えてみますと,まず,被害者参加人がビデオリンク方式により「出席」する場合に,被害者参加弁護士も同じ場所からビデオリンク方式により「出席」することについては,被害者参加弁護士としての役割を果たす上で,特段の支障は生じないように思われます。   これに対して,被害者参加弁護士が被害者参加人とは別の場所からビデオリンク方式により「出席」することや,被害者参加人は公判廷に現実に出席しているにもかかわらず,被害者参加弁護士だけがビデオリンク方式により「出席」することについては,被害者参加弁護士としての役割を十分に果たし得るかについて,慎重な検討を要するように思われます。また,このことと関連して,そもそも,被害者参加人の出席の形態を問わず,被害者参加弁護士の固有の事情を理由として被害者参加弁護士にビデオリンク方式による「出席」を認めることが,果たして制度の在り方として適当かという点の検討も必要になると思われます。   いずれにしましても,被害者参加弁護士がビデオリンク方式により「出席」することを認めるための要件については,ここまで申し上げた点を踏まえた上で,更に検討する必要があると考えております。   続きまして,「6 弊害が生じない方策の在り方」についても意見を申し上げます。   被害者参加人等がビデオリンク方式により「出席」することができるものとする場合には,被告人のビデオリンク方式による「出頭」の際にも申し上げましたように,被害者参加人等やその関係者が,裁判所の許可を得ずに公判審理の状況を録音・録画することが,事実上容易になってしまいます。仮に,このような事態が生じるとなると,被告人や被害者以外の証人等が,公判手続における挙動を録音・録画されているのではないかと恐れて,真意を供述することが妨げられるおそれがあり得ますし,公判審理の状況を録音・録画した映像が外部に流出した場合には,SNS等による情報の流通・拡散が容易であり,一旦流出した情報を消去することは事実上不可能であることから,被告人や被害者以外の証人等の名誉やプライバシーなどが著しく侵害されるという事態にもなりかねません。   そのため,被害者参加人等がビデオリンク方式により公判期日に「出席」することができるものとする場合には,その所在場所について,無断で録音・録画が行われないようにする状況を担保するための規律を設ける必要があるように思われます。 ○吉澤委員 今,所在場所に関するお話が出ましたので,その点についての意見も付け加えさせてもらいます。   まず,原則が同一法廷ということなんですけれども,オンラインで参加する場合は,まず同一構内の別の部屋であるとか,あとは,特に遠隔地の被害者などに関しては,別の裁判所の部屋という形で,そこからビデオリンクで参加するということは,最低限可能としていただきたいと考えています。   ただ,裁判所に限定しますと,例えば,性犯罪の被害者の方で,同一の建物に出頭して参加することは困難だけれども,裁判所の近くに住んでいて,出頭自体,物理的に別に困難ではないというケースもございますので,そのような方に,わざわざ遠方の裁判所まで行かないといけないという負担を掛けるということは,ちょっと余り現実的ではないかなと考えておりますので,裁判所に加えて,例えば,裁判所に隣接する検察庁や公的施設,そういった他の場所についても,現時点でそれが現実的かどうかということはちょっと別にしまして,今後いろいろな技術の発展などによって,プライバシーの確保なども十分にできる場合も考えられると思いますので,そういった選択肢も認めるような形で残しておいていただきたいと考えています。 ○小木曽座長 ほかに被害者参加人等について,御意見はよろしいですか。   ありがとうございます。では,被害者参加人等については,ある程度御意見を頂戴したと思いますので,ここからは,検察官・弁護人について,必要な範囲で御意見を頂きたいと思います。 ○池田委員 それでは,弁護人について意見を申し上げます。   いわゆる必要的弁護事件については,弁護人がいなければ開廷することはできない,また,その場合に,弁護人が出頭しないときは,裁判長の職権で弁護人を付さなければならないとされておりまして,この規定における「出頭」は,期日の行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されていると思われます。   もっとも,被告人がビデオリンク方式により裁判所の構外から「出頭」する場合には,弁護人は被告人と密接に意思疎通を図った上で,その意向を踏まえて訴訟行為をすることが必要であることからしますと,これは,河津委員から,先ほど御指摘もあったところですけれども,この場合は,弁護人も被告人の傍らから,同様にビデオリンク方式により「出頭」することが,まずは必要となると思われます。   そのほかに,被告人がビデオリンク方式により「出頭」する場合に,被告人の傍らからではなく,他の場所からビデオリンク方式により「出頭」することや,被告人が公判期日に現実に出頭している場合に,弁護人だけがビデオリンク方式により「出頭」することを認めるかといったことについては,その要否や当否について,更に検討を行う必要があるように思います。 ○笹倉委員 私は検察官について意見を述べます。   公判廷は検察官が出席してこれを開くと,刑訴法282条2項で規定されているわけですけれども,担当検察官が,例えば感染症に罹患したというような場合を想定しますと,公判廷に出席することが困難になってしまう事態は,現実に起こり得ると考えられます。しかしながら,そのような事態が生じたとしましても,検察官同一体の原則の下,ほかの検察官が代わりに公判廷に出席して公判活動を行うということが可能だと思われます。   他方で,検察官は刑事裁判における一方当事者であるにとどまらず,公益の代表者として,裁判所に法の正当な適用を請求する立場にあり,事実及び法律の適用についての意見を述べるほか,違法又は不当な裁判に対しては上訴するといった役割を負っています。   そうしますと,検察官について,ビデオリンク方式による「出席」を認めるか否かということは,これを認めるべき必要性の有無・程度のほか,検察官の果たすべき役割との関係をも踏まえて,更に検討する必要があると考えます。 ○河津委員 繰り返しの意見となりますが,公判期日については,原則として現実の出頭等を必要とするべきであり,検察官及び弁護人は,いずれも訴訟行為をする当事者ですので,公判廷に所在する必要がある,そのように考えます。   池田委員からも御指摘がありましたが,例外的に被告人がビデオリンク方式で出頭する場合,弁護人としては,被告人のそばに1人,公判廷にも1人,それぞれ所在する必要があるということも,先ほど申し上げたとおりです。 ○小木曽座長 ほかにはよろしいですか。   では,一通り御意見を頂戴したと思いますので,(5)の「公判期日への出頭等」に関する議論は,ここで一区切りということにいたしたいと思います。   ここで10分程度休憩を取ります。 (休     憩) ○小木曽座長 それでは,ここからは(6)の「裁判員等選任手続」についての議論に入ります。   まず,資料15について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料15の「2(6)裁判員等選任手続」について御説明いたします。   資料の1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   裁判員等選任手続について,情報通信技術を活用する方策としましては,「裁判員等選任手続への『出頭』,『出席』,『列席』について,ビデオリンク方式によることができるものとするか」が論点となり得ることから,この点を記載しております。   その上で,この方策の導入に関して考えられる検討課題を7点記載しております。   このうち,一つ目の「対象者」につきましては,裁判員等選任手続期日に出頭等をするものとして,裁判員候補者,裁判官・裁判所書記官,検察官,弁護人,被告人が挙げられますが,「2(5)公判期日への出頭等」と同様に,まずはこれらの者のうち,いずれの者を検討の対象とすべきかや,検討対象とするとして,どの程度重点的に議論すべきかを検討する必要があると考えられましたので,この点を検討課題として掲げております。   四つ目の「必要となる法的措置」,五つ目の「ビデオリンク方式による『出頭』等を認める要件」,六つ目の「弊害が生じない方策の在り方」につきましては,それぞれ具体的に検討する必要があると思われる点を付記しておきました。   資料15についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 それでは議論を行いたいと思います。   先ほどと同様に,まずは資料15の検討課題の「1 対象者」の記載に従いまして,現行法上,裁判員等選任手続に「出頭」等をすることとされている者のうち,いずれの者を検討の対象とすべきかについて,総論的に御意見を頂きまして,その上で,対象者ごとに「2 必要性」以下について御議論いただくことにいたしたいと思います。   それではまず,「1 対象者」について,御意見のある方はお願いいたします。 ○成瀬委員 対象者について,総論的な意見を申し上げたいと思います。   資料15の関連条文にも掲げられているように,現行の裁判員法は,「呼出しを受けた裁判員候補者は,裁判員等選任手続の期日に出頭しなければならない。」,「裁判員等選任手続は,裁判官及び裁判所書記官が列席し,かつ,検察官及び弁護人が出席して行うものとする。」,「裁判所は,必要と認めるときは,裁判員等選任手続に被告人を出席させることができる。」と規定しています。   現実問題として,裁判員等選任手続を物理的に裁判所構内にある場所で行うことを前提とすると,裁判官は裁判員等選任手続を主宰する立場にあり,裁判所書記官は裁判官の命令に従い職務を行う立場にあることから,これらの者は,裁判員等選任手続が行われている空間に所在するのが適当である一方,裁判所の構内に所在しながら,あえてビデオリンク方式により裁判員等選任手続に「列席」する必要性も見出し難いように思われます。よって,裁判官と裁判所書記官については,具体的検討をする必要性が乏しいように思われます。   これに対して,裁判員候補者,検察官,弁護人,被告人については,裁判員等選任手続の主宰者等ではないため,裁判官及び裁判所書記官と比較すると,裁判員等選任手続が行われている裁判所以外の場所に所在したまま,ビデオリンク方式により「出頭」又は「出席」することを認めるべき場合を観念しやすいように思われますし,必要性も想定しやすいように思われます。よって,これらの4者について,具体的検討をすることとしてはいかがでしょうか。 ○小木曽座長 ほかの皆様はいかがでしょうか。   特段,これについてほかに御意見なければ,今の成瀬委員の御発言によりますと,裁判官,裁判所書記官については検討の対象とする必要はなかろうということでしたが,他方,裁判員候補者,検察官,弁護人,被告人につきましては,裁判官等に比べますと,ビデオリンク方式による「出頭」等を想定しやすく,また一定の必要性があり得るのではないかということで,検討の対象にするのがよかろうということであったと思います。それでよろしいですか。ありがとうございます。   それでは,まず,裁判員候補者について,次に,検察官・弁護人について,最後に被告人について,それぞれ,検討課題の「2 必要性」以下を議論いただくことにしたいと思います。   では,まず裁判員候補者に関して,検討課題の「2 必要性」以降をまとめて御議論いただきたいと思います。 ○池田委員 私からは,裁判員候補者について,ここに掲げられた,主として「2」から「5」までの事項について意見を申し上げます。   先ほど成瀬委員からも御指摘があったように,裁判員候補者は裁判員選任手続期日に出頭しなければならないわけですけれども,ここにいう「出頭」というのは,期日が行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されていると承知しております。   ただ,裁判所が居住地から遠方にあり,移動の負担がかなり重いという方の存在,あるいは感染症の拡大防止の観点に鑑みますと,裁判員候補者がビデオリンク方式によって手続期日に「出頭」することができるものとすれば,移動の負担の低減や密を避けながら手続を円滑に実施することにも資するため,そのような「出頭」を認める必要性は一応想定されるものと思います。   他方で,現行の裁判員法が裁判員候補者の出頭を義務としている趣旨は,裁判員となる国民の負担の公平を図るとともに,できる限り幅広い層から裁判員が選任されるようにするためであるとされていることとの関係では,ビデオリンク方式による「出頭」を認めたとしても,裁判員候補者が裁判員等選任手続に参加することには変わりがなく,裁判員候補者にとっては,むしろ出頭方法の選択肢が増えるため,出頭が容易になることから,負担の公平や幅広い層から裁判員が選任されるようにするという趣旨を損なうことにはならないと考えられます。   また,裁判員等選任手続においては,裁判長が裁判員候補者に対し,不公平な裁判をするおそれがないかどうかなどの判断に必要な質問をすることができるとされていますけれども,ビデオリンク方式により「出頭」したとしても,映像や音声を通じてやり取りを見聞きすることで,裁判員候補者の回答内容を把握し,質問に対して回答する際の態度等を観察することができるので,その判断も可能であると考えられます。このように,裁判員等選任手続の機能を直ちに損なうことはないと考えられるので,少なくともこの方策を導入することがおよそ許容されないということにはならないように思われます。   もっとも,物理的に出席する場合とビデオリンク方式の「出頭」との場合で,観察のしやすさに事実上の差異があることを前提とすると,その差異のために,先ほど述べた判断をする上で,何らかの支障が生じると考えることもあり得ようと思います。そのため,どのような制度であれば許容されるかについては,ビデオリンク方式と現実の出頭との間に,事実上の差異があるということを前提とした場合に,それによってどのような利益がどの程度損なわれるのかという点を踏まえつつ,実施要件の在り方なども,検討課題との関係で具体的に検討しておく必要があるのではないかと思います。   すなわち,「5」の出頭の要件との関係で申し上げますと,ビデオリンク方式の場合に,当該裁判員候補者が不公平な裁判をするおそれがないかを判断する上で,支障を生じることがあると考えるのであれば,その程度等を踏まえつつ,どのような要件を設けるべきかについて,更に検討することになるように思います。   もっとも,以上に対しては,裁判員候補者が物理的に出席する場合とビデオリンク方式により「出頭」する場合との間に,その手続で求められる法的利益や価値を実現する上での差異はないとする考えもあり得るところであり,この立場からは,裁判員候補者がビデオリンク方式により「出頭」する場合を限定するような要件を設ける必要はないと考えられます。このほかに,さらに,実務的観点から更なる要件を設ける必要がないかについても,平素より選任手続に関与されておられる裁判所の御意見も伺いながら検討することが考えられます。   最後に,「4」の「必要となる法的措置」に関してですけれども,ビデオリンクによる「出頭」の場合の裁判員候補者の所在場所に関する定めも必要となると考えられます。また,呼出しを受けたにもかかわらず,期日に正当な理由がなく出頭しないときの制裁については,ビデオリンク方式により選任手続期日に「出頭」した場合は,この罰則規定が適用されないことを規定上明確にしておくことが必要となると考えられます。 ○笹倉委員 私は,検討課題の「5」のうち「所在場所に関する規律の要否」と「6 弊害が生じない方策の在り方」について意見を述べます。   裁判員等選任手続は,一般に,裁判所の庁舎内で行われているものと承知していますが,裁判員法が明文で選任手続の場所を制限しているわけではありません。しかしながら,裁判員法は,裁判員候補者のプライバシー保護を図るため,裁判員等選任手続は非公開で行うと明記しています。仮に,ビデオリンク方式により選任手続を行うことができるとするといたしましても,例えば,ビデオリンク方式により参加する裁判員候補者の隣に第三者が無断で所在し,他の裁判員候補者の個人情報に関するやり取りを見聞きすることができないようにするなどして,非公開であることを実質的に担保する必要があると考えられます。   また,被害者が存在する事件の裁判員等選任手続においては,裁判長は裁判員候補者が事件に関連する不適格事由を有しないかどうかや,その他の不適格事由があると認められるかどうかを判断するため,裁判員候補者に対し,被害者の氏名を明らかにするなどして,被害者との関係がないかどうかなどについて質問することができます。また,裁判員等選任手続において,裁判員候補者に対して,被害者特定事項が明らかにされた場合には,裁判長は,当該裁判員候補者に対して,当該被害者特定事項を公にしてはならない旨を告知し,さらに,その告知を受けた裁判員候補者は,裁判員等選任手続において知った被害者特定事項を公にしてはならないとされていて,被害者の権利利益の保護も図られているところです。したがって,被害者が存在する事件については,このような観点からもビデオリンク方式により参加する裁判員候補者の隣に第三者が無断で所在し,裁判員等選任手続におけるやり取りを見聞きするようなことを防ぐ必要があると考えられます。   そうであるとしますと,裁判員候補者について,仮にリアルの出頭を求めないということにするとしましても,非公開性を担保するために,裁判員候補者の所在場所に関する規律を設けることが必要になると考えます。 ○河津委員 弊害が生じない方策の在り方と所在場所に関する規律の要否について,意見を申し上げます。   裁判員等選任手続において,当事者には不選任請求権が認められています。弁護人が的確に不選任請求権を行使することは,被告人にとっては不公平な裁判がなされることを避けるために重要であるといえます。不選任請求権を行使するに当たり,弁護人が参照することのできる情報は極めて限られていますが,数少ない手掛かりの一つが,候補者の言動や態度を観察することによって得られる情報です。したがって,ビデオリンク方式により裁判員等選任手続を実施するに当たっては,候補者の言動や態度の観察が不十分なものとならないような環境を整備することが必要であると考えます。   この点からも,ビデオリンク方式により「出頭」する裁判員候補者の所在場所については,地方裁判所の支部や簡易裁判所など,裁判所に限られるべきではないかと考えます。 ○永渕委員 先ほど池田委員から,裁判所の運用の実情ということに関して御指摘を頂きましたので,裁判員選任手続の実情を踏まえて,若干お話をさせていただきたいと思います。   裁判員候補者の中には,例えば,選任手続期日の段階で,他県に居住しておられるという方もいらっしゃいまして,そういう方などは,選任手続期日のために遠方からお越しいただいている場合もございます。国民の方々に遠方からお越しいただくことが負担になっているということになるのであれば,やはりその負担を軽減するために,例えば,最寄りの裁判所にお越しいただいて,非対面で手続を行うということを検討する余地があると思われます。   もっとも,どの地域の方が候補者として選定されるかということは,選任期日を定めて,そして実際に候補者の選定をしてみないと分からないわけであります。他方で,選任手続期日は,全国各地で,全国の各庁で,毎日のように相当件数行われておりますので,全国各地の裁判所が常にいつ候補者が来庁するか分からないと,こういうような運用の在りようというのは,各庁の体制,特に小規模支部などにおける人的・物的体制を踏まえますと,なかなか現実的ではないと言わざるを得ないように思います。   したがいまして,裁判員候補者の方に最寄りの裁判所にお越しいただくということを検討するに当たりましては,具体的なニーズを踏まえ,合理的な範囲内で行うことを検討すべきであると考えております。 ○小木曽座長 裁判員候補者については,よろしいですか。   では,裁判員候補者について一通り御意見を頂いたということで,ここからは,検察官・弁護人について議論したいと思います。「2 必要性」以降をまとめて御議論いただきます。 ○成瀬委員 検察官・弁護人がビデオリンク方式により裁判員等選任手続に「出席」する方策について,検討課題の「2」から「5」までに関する意見を申し上げたいと思います。   まず,「必要性」と「許容性」についてです。   先ほども申し上げましたように,「裁判員等選任手続は・・・・・・検察官及び弁護人が出席して行う」と規定されているところ,ここにいう「出席」については,裁判員法上,裁判員等選任手続の期日の日に,裁判員候補者が提出した質問票の写しを検察官及び弁護人が閲覧することが予定されていることもあり,検察官と弁護人が期日の行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして,運用されていると承知しております。   しかし,期日が行われる裁判所から遠く離れた場所に事務所を構えている弁護人や,期日が行われる裁判所の本庁から離れた支部に勤務している検察官にとって,当該裁判所に出向くことは移動の負担を伴うものですから,仮に,検察官・弁護人が裁判員等選任手続期日にビデオリンク方式により「出席」することができるものとすれば,そのような移動の負担が軽減されるという意味で,必要性は一応想定できます。   他方で,裁判員法が,「裁判員等選任手続は・・・・・・検察官及び弁護人が出席して行う」と規定している趣旨は,裁判員及び補充裁判員の選任の適正を確保するため,裁判員候補者についての不選任決定の請求をする機会を両当事者に保障する点にあるとされ,また,検察官及び弁護人が出席することにより,裁判員及び補充裁判員の選任手続の適正が担保されると考えられています。   そして,ビデオリンク方式による「出席」であっても,検察官及び弁護人は,映像と音声の送受信により,裁判員候補者についての不選任決定の請求をすることが可能であり,また,裁判員等選任手続の様子を見聞きし,手続が適正に行われているかどうかを確認することも一応できると考えられます。  そのため,検察官及び弁護人がビデオリンク方式により「出席」することを認めたとしても,そのことによって検察官及び弁護人が裁判員等選任手続に出席する趣旨を直ちに損なうことはないと考えられますので,少なくとも,この方策を導入することがおよそ許容されないということにはならないと思います。   次に,「必要となる法的措置」についてですが,先ほど申し上げたとおり,現行法の「出席」という文言は,検察官及び弁護人が,期日が行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されており,仮に,ビデオリンク方式により裁判員等選任手続に「出席」することを認めるならば,実施要件や出席する場所などに関する規律も必要となることから,これらの点に関する明文の規定を設けるなどの手当てが必要であると考えます。   その上で,ビデオリンク方式による「出席」を認める要件についてですが,仮に,検察官及び弁護人が物理的に出席する場合と,ビデオリンク方式により「出席」する場合との間に,不選任決定の請求の機会を保障し,選任手続の適正を確保する上での差異はないという立場に立つならば,検察官及び弁護人がビデオリンク方式により「出席」する場合を限定するような要件を設ける必要はないと考えることになるでしょう。   もっとも,二つの出席方法の間には,不選任決定の請求の機会を保障し,選任手続の適正を確保する上で,一定の差異があるという立場も十分に考えられるところです。  よって,今後は,検察官及び弁護人がビデオリンク方式により「出席」するとした場合に,河津委員が示唆されたように不選任決定の請求をする上で何らかの支障が生じるのか,また,裁判員等選任手続の様子を見聞きし,手続が適正に行われているかどうかを確認する上で何らかの支障が生じるのかといった点について具体的に検討し,その検討結果を踏まえて,実施要件の在り方を更に考えていく必要があると思います。 ○笹倉委員 「6 弊害が生じない方策の在り方」について意見を述べます。   先ほど裁判員候補者について述べたところと重なるところがありますけれども,裁判員等選任手続は非公開で実施するという立法者意思がはっきりしていることには,留意する必要があるだろうと思います。   検察官や弁護人との関係で具体的に述べますと,裁判員等選任手続においては,裁判員候補者に選任資格や欠格事由等があるかどうかを確認するため,裁判長が必要な質問をすることができるとされていまして,裁判員候補者に対しては,これらの事由があるかどうかを判断するのに必要な質問をするための質問票をあらかじめ送付し,裁判員等選任手続期日の当日に,回答を記入した質問票を裁判所に提出させるなどし,裁判官並びに検察官・弁護人がその内容を確認するという手順になっていると承知しています。   こうした手続の中で,例えば,禁錮以上の刑に処せられたものであるとか,同居の親族の介護又は養育を行う必要があるといったような裁判員候補者のプライバシー情報が取り扱われることになります。このようなことから,裁判員等選任手続については,裁判員候補者のプライバシー保護を図るため,手続を公開しないという規定が明示的に設けられているのだと考えられます。   また,質問票は,検察官及び弁護人が裁判員候補者の不選任決定の請求権を的確に行使するための前提となるものですから,検察官や弁護人に開示されるわけですけれども,裁判員候補者のプライバシーやその生活の平穏への配慮から,開示の相手方は検察官と弁護人という必要最小限度の範囲に限定されており,その開示の時期や方法についても,裁判員等選任手続の期日当日に質問票の写しを検察官及び弁護人に閲覧させることとされておりまして,事前の確認や写しの提供等が認められらないなど,極めて厳格な規律が設けられているところです。   特に,弁護人が法律事務所からビデオリンク方式により「出席」するようなことを許容するといたしますと,これら裁判員候補者のプライバシー情報を,弁護人以外の人が見聞きするおそれが生じることにもなり得るように思われます。また,裁判員候補者がそのプライバシー情報の漏えいを恐れて,質問に正しく回答しないとか,あるいは,裁判員等選任手続期日に出頭すること自体を避けるということになって,裁判員等選任手続の適正が損なわれることにつながりかねないことという懸念もあります。   そのような事態を防止するため,もし,ビデオリンク方式による出席を許容するのであれば,例えば,弁護人にどこにいていただくかということについて規律を設けるなどの必要があるように思われます。 ○河津委員 検察官にも弁護人にも,移動の負担を軽減したいというニーズは,恐らくあるだろうと思います。しかしながら,当事者が裁判官の面前に出頭することには,裁判官による選任決定や説明が適正に行われることを確保するためにも,意味があると考えられますし,当事者の質問請求,不選任請求や異議申立てなどの訴訟行為は,同じ環境で行われることが公正であると思われます。   こうしたことから,裁判員選任手続については,検察官も弁護人も現実の出頭をすべきであると,私は考えます。 ○小木曽座長 検察官・弁護人について,ほかに御意見いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   では,検察官・弁護人については御意見を頂いたということで,最後に,被告人について,御意見を頂きたいと思います。   こちらについても,「必要性」以降をまとめて御議論いただきたいと思います。 ○池田委員 ここでも,被告人に関して,「2」から「5」までの事項について意見を申し上げます。   裁判員法は,裁判員等選任手続期日への被告人の出席を必要的なものとはしていませんけれども,その趣旨は,この手続では,裁判員候補者のプライバシーに関する事項が明らかにされるため,被告人が終始出席しているのは相当でなく,また,弁護人が出席しており,被告人の利害を裁判員等選任手続において反映することができるので,終始出席する必要もないことなどが考慮されたものとされています。   他方で,被告人は,必要と認めるときに出席させることができるとされておりまして,そのような場合としては,例えば,裁判員候補者が被告人の同居人であるなどと述べている場合で,弁護人ではこの事実を確認することができず,被告人にその裁判員候補者の顔を見させて確認させる必要があるときなどが想定されています。   このように,被告人の出席が必要となるかどうかは,あらかじめ確定するものではなく,かつ,必要となる場面も,手続の一部に限られることが多いと考えられます。そうだとすると,被告人を手続が行われる裁判所に出頭させるのではなく,当該の必要な場面に限って,ビデオリンク方式により「出席」させることは,裁判員等選任手続を遂行する上で,臨機に必要な対応をすることを可能とするものとして合理的なものと言え,また,被告人や,被告人を裁判所まで押送する職員の負担軽減にも資すると考えられます。   また,先ほど述べた被告人が現実に裁判員候補者との対面を必要とする場面との関係でも,ビデオリンクを用いることでも,映像を通じて当該裁判員候補者の容貌等を確認させることにより行うことが可能であると考えられます。そのため,被告人にビデオリンク方式の「出席」を認めても,裁判所が必要と認めるときに,被告人を裁判員等選任手続に出席させることができるとした規定の趣旨を直ちに損なうことはないと考えられますので,少なくともこの方策を導入することがおよそ許容されないということにはならないと思われます。   しかし,他方で,被告人が物理的に出席する場合とビデオリンク方式により「出席」する場合との間に事実上の差異があるということで,例えば,被告人が裁判員候補者の顔を確認するといった場面においても,何らかの支障が生じる場合もあるとの考えもあり得ようかと思います。そのため,被告人に裁判員選任手続へのビデオリンクでの「出席」を認めるかどうかは,ビデオリンク方式によることで,対面の場合と比較してどのような利益・価値を損なうのか,損なうとしてどの程度のものかという点を踏まえつつ,実施要件の在り方などの検討課題との関係で,具体的に検討していく必要があると考えます。   その上で,「5」の出頭の要件との関係で申し上げますと,ビデオリンクの場合に,被告人に裁判員候補者の顔を確認させるといった手続に支障を生じることがあるなどと考えるのであれば,その程度等を踏まえつつ,どのような要件を設けるべきかについて,更に検討することとなるように思われますし,他方で,被告人が物理的に出席する場合とビデオリンク方式により「出席」する場合との間に,その手続で求められる法的利益や価値の実現のためには差異がないとするならば,このビデオリンク方式による「出席」の場合を限定するような要件を設ける必要はないと考えることになると思います。   最後に「4 必要となる法的措置」について申し上げますと,被告人の出席について規定する裁判員法32条2項の「出席」は,弁護人・検察官の出席を定める1項と同様に,期日が行われる場所に物理的に所在することを意味するものとして運用されているものと思われますので,被告人がビデオリンク方式により裁判員等選任手続期日に「出席」することを認める場合には,その旨と,その際の所在場所などに関する規律を,明文で設ける必要があると思います。 ○笹倉委員 私は,「弊害が生じない方策の在り方」について述べます。   つい先ほど池田委員から,所在場所に関する規律を設ける必要があるのではないかという御指摘がございましたので,それと関連付けて意見を述べます。   既に述べたことですけれども,裁判員等選任手続においては,裁判員候補者のプライバシー情報を取り扱うことがあり得ます。それから,被告人が裁判員等選任手続にビデオリンク方式により「出席」することを認める場合には,これらの情報がビデオリンク方式を通じて第三者に見聞きされたり,漏えいしたりすることがないようにすることが重要であると考えます。   被告人をビデオリンク方式により「出席」させることとなりますと,非公開で行うべき裁判員等選任手続の状況の一部が裁判所外から確認できるということにならざるを得ません。実際に被告人が出席する場合がどの程度あるのかについて,私は詳しくは承知しておりませんけれども,被告人の出席を要する典型的な場面としては,裁判員候補者の姿を被告人に確認させる必要がある場合などが想定されているのだろうと思われます。   そうしますと,被告人の所在場所について,何らの規律を設けずに被告人をビデオリンク方式により裁判員等選任手続に「出席」させることとしますと,裁判員候補者の容貌や,その者が裁判員候補者であることといった,当該裁判員候補者の個人情報が被告人以外の第三者に知られるおそれがあり,一般的・類型的に,裁判員候補者のプライバシー保護の要請を後退させることにつながるように思われます。   そうしますと,被告人をビデオリンク方式により裁判員等選任手続に「出席」させることについては,今申し上げたような例外が考えられるところでございますので,それを認める場合には,所在する場所を限定する規律を設けるということが考えられるのではないかと思います。 ○河津委員 現行法上,被告人には裁判員等選任手続に出席する権利はなく,実務上も被告人の出席はほとんど例がないと承知しております。ただ,不公平な裁判がなされたときに,最も大きな不利益を被るのが被告人であることを考慮すると,その意思はできるだけ尊重されることが望ましいと思われます。   また,裁判員法34条5項には,弁護人が不選任請求をするに当たっては,被告人の明示した意思に反することはできないという規定があり,被告人が弁護人に対してその意思を表示することが想定されていると理解されます。そうすると,被告人がビデオリンク方式で出席する場合においては,弁護人としては,被告人と十分な協議をするためにも,被告人のそばに所在する必要があり,他方で適切に訴訟行為をするために裁判官の面前にも所在する必要があることになります。   したがって,そのような場合には,弁護人が複数選任され,少なくとも1人は被告人のそばに,少なくとも1人は裁判官の面前に所在して,かつ,その間で緊密な連絡をすることができるような措置を講じる必要があると考えます。 ○小木曽座長 被告人について,ほかに御意見はよろしいでしょうか。 それでは,一通り御意見を頂戴したということで,(6)の裁判員等選任手続についての議論は,ここで一区切りといたしたいと思います。   続きまして,(7)公判審理の傍聴についての議論に入ります。   まず,事務当局から資料16についての説明をお願いいたします。 ○南部室長 資料16の「2(7)公判審理の傍聴」について御説明いたします。   資料の1ページ目の「方策の導入」という枠囲いの部分を御覧ください。   公判審理の傍聴について,情報通信技術を活用する方策としましては,「公判審理をオンラインにより傍聴することができるものとするか」が論点となり得ることから,この点を記載しております。ここでは,相互に映像・音声を送受信するというビデオリンク方式を必ずしも前提としない趣旨で,「オンライン」としております。   その上で,この「方策の導入」に関して考えられる検討課題を5点記載しております。   このうち四つ目の「弊害が生じない方策の在り方」については,公判審理をオンラインにより傍聴することが必要となる具体的な場面を前提に,生じ得る弊害の内容や弊害が生じない方策の在り方について検討する必要があると考えられましたので,これらの点を付記しております。   資料16についての御説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,この論点につきましては,ただいまの資料の検討課題の全て,全部をまとめて御議論頂きたいと思いますので,御意見のある方はお願いします。 ○池田委員 公開に関しましては,まず,公開原則の意義を確認した上で,それを踏まえて,今後の議論の進め方について意見を申し上げたいと思います。   憲法82条1項は,裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行うと規定し,裁判の公開原則を定めておりますけれども,その趣旨は,裁判を一般に公開して,裁判が公正に行われることを制度として保障し,ひいては,裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにあるのであって,飽くまで裁判の公正を担保するための制度的保障であり,国民が傍聴することを求める憲法上の権利を保障するものではないとされています。   また,憲法82条2項ただし書は,一定の類型の事件について,常に公開しなければならないとしています。その趣旨については,明治憲法も公開原則を保障していたものの,実態としては秘密裁判による不公正が多く行われたため,裁判の公開原則の形骸化を防ぐ趣旨から,特に公開原則の要請が強く妥当する一定の類型の事件について,非公開とすることを禁じたものであると解されております。   このように,非公開の禁止にその趣旨があるとしますと,2項ただし書も,そこから更に積極的に一定の類型の事件について,特に国民に裁判を傍聴する権利を保障するとか,あるいは,公判審理の内容を広く国民一般に知らしめることを求めるまでの意味を持つものではないと考えられます。   以上の前提を踏まえて,議論の進め方について意見を申し上げます。   裁判の公開原則による公開とは,一般に,不特定かつ相当数の者が自由に傍聴し得る状態に置くことであると解されておりますけれども,傍聴については,従来,傍聴を希望する者が,公判審理が行われる法廷に設けられた傍聴席に着席して行うという方法により行われてきたものであることから,仮にこれと異なる方法による傍聴を可能とするのであれば,そのような方法による傍聴が可能であることを明確にするための規定や,そのような方法による傍聴に伴う弊害が生じないようにするための規定を,それぞれ整備することになろうと思われます。   具体的な傍聴の方法に関して,検討会の第1回では,憲法82条2項ただし書に規定する一定の類型の事件については,広くオンラインでの傍聴を可能とする,あるいは,個別の事件において,被害者やその家族,あるいは被告人の家族といった一定の関係者に裁判所の別室などからモニターを通じて行う方法での傍聴を可能とするといった御意見が示されているところです。   ただ,傍聴を実際にどのような形で認めるかについて,現行法には具体的な規定は設けられておらず,また,憲法や刑事訴訟法から直接に導かれるものでもないことからしますと,公判審理をオンラインにより傍聴することができるものとするかについては,その必要性や生じる弊害の内容等を踏まえて検討する必要があるものと考えられます。特にオンラインによる傍聴の在り方としては,どのような事件を対象とするか,どのような者にオンラインによる傍聴を認めるか,どのような方法による傍聴を認めるかなどによって,様々なものが想定できるので,まずはオンラインによる傍聴を認める必要性を吟味しつつ,それとの関連で考えられるオンライン傍聴の在り方について検討することになろうと考えられます。   その際,現行の刑事訴訟規則において,公判廷における写真撮影・録音・放送は,裁判所の許可がなければ原則として認められない旨の規定が設けられている趣旨なども踏まえながら,オンラインによる傍聴を認めることとすると,何らかの法的利益を損なわないか,あるいは弊害が生じるのであれば,その弊害が生じないようにするための法的規律や技術的措置を設けることが可能か,生じ得る弊害を上回るほどの必要性があると言えるかといったことを検討することになるものと考えます。 ○吉澤委員 傍聴については,飽くまで同一法廷内でのリアルでの傍聴が原則と考えてはおりますが,例外的に,オンラインで一定の被害者や御遺族が傍聴を行えるようにすることが必要ではないかと考えています。   刑事事件については,民事事件とは異なり,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律の第2条において,刑事被告事件の係属する裁判所の裁判長は,当該被告事件の被害者等,又は当該被害者の法定代理人から,当該被告事件の公判手続の傍聴の申出があるときは,傍聴席及び傍聴を希望する者の数,その他の事情を考慮しつつ,申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならないとして,優先傍聴について配慮義務を課す規定が存在します。ですので,被害者等に関して,傍聴できるよう配慮する義務の内容として,現在は優先傍聴券というものを配布していただいておりますが,それに加えまして,オンラインによる傍聴というのも選択肢として入れられるのではないかと考えています。   そして,そのオンラインによる傍聴が必要となるケースにつきましては,先ほどの被害者参加のケースと重複するところもありますが,ある程度類型化できるのではないかと考えています。   第1に,被害者や御遺族が多数となる事件です。被害者多数の事件は,重大事件にもなりますので,報道関係者の席を確保する必要もあるなどの事情で,ほぼ優先傍聴券が不足するということが多く起こっております。ですので,被害者らが傍聴したくても,僅かしか傍聴席が残されておらず,傍聴できないというケースも実際に存在しています。   第2に,性犯罪に代表されるような遮蔽措置が取られる場合です。こういった事件では,被害者やその家族などは,犯行に至る経緯や動機などについては,やはり知るために傍聴したいという希望は非常に強いんですけれども,いつ被告人が傍聴席を振り返るか分からない,そのようなおそれであったり,また,同じく傍聴に来ている被告人の関係者などに,いつ自分たちの姿を見られるか分からないという恐怖がありますので,傍聴すらできないというケースが実際に存在しています。   第3に,被害者や御遺族が遠方に所在していて,年齢や健康状態などの事情から,同一裁判所への出廷自体が困難というケースも存在しています。   こういった場合にも,被害者らに傍聴の機会を確保するために,傍聴席から撮影された映像を中継するモニターを設置するなどして,オンラインにより傍聴するという方策を検討していただきたいと考えています。   併せて,「弊害が生じない方策の在り方」についてですが,これは,オンラインでつなぐ場所とも関係するとは思うんですけれども,最低限,同一裁判所の別の部屋及び他の裁判所の一室については,認めていただきたいと考えています。それ以外についても,今後,技術の進歩など,事情が大きく異なることも十分考えられますので,選択肢の幅を限定的にしなくてもいいのではないか,傍聴が可能であり,かつ,適切に実施できると考えられる場所が,今後,裁判所以外の場所でも増える可能性も十分ありますので,それらを排除しない柔軟な対応が可能な規定にしていただければと考えています。 ○河津委員 第1回会議でも申し上げましたが,情報通信技術は,刑事手続において国民の権利利益を保護し,実現していくために活用されるべきです。国民の多くは,刑事手続に直接的には関与しないわけですが,そうした国民の権利利益としては,知る権利を保護し,実現されるべき対象として考えられます。   国民が刑事司法の実態を知る方法として,刑事裁判を直接傍聴することは最も効果的なものであると言えます。そして,国民に知られるということは,刑事手続において,法律実務家がそれぞれの役割を適正に果たすことを確保するためにも有益であり,必要であると考えます。しかし,多くの国民にとって,裁判所を訪問して刑事裁判を傍聴することは,必ずしも容易ではありません。もしオンラインで公判審理を傍聴することができるものとなれば,国民の知る権利の実現に資することになります。   他方,公判審理では,しばしば被告人を始めとする関係者のプライバシーや名誉に関わる情報が取り扱われますので,あらゆる公判審理をオンラインで傍聴することができるようにすべきであるとは思いません。ただ,全ての被告人にとって,公判審理の内容はよく知られたくない恥ずかしいものであるかというと,必ずしもそうではありません。公判審理の内容を正確に知ってもらう方が,断片的な報道のみがなされるよりも被告人の利益となる場合もありますし,刑事裁判が始まる前から一面的な報道がなされている事件では,公判審理の内容を国民に正確に知ってもらうことが,被告人の名誉回復に資することもあります。   オンラインで公開され,広く一般公衆に知られることが,証人の証言内容に影響を与えるという懸念もあるものと思われます。しかし,取調べの録音・録画や取調室で作成される供述調書の信用性に関しても類似した議論がありましたが,人の供述は密室で行われたものの方が信用することができるという考え方は,必ずしも根拠がなく,適切でもないと考えます。自分のする供述が広く知られるからこそ,真実に反する供述をすることがためらわれ,あるいは,慎重かつ正確な供述を動機付けるという効果もあるはずです。   とは言いましても,オンラインで公開する利益が弊害を上回ると認められる事案は,数としては多くないのかもしれません。第1回会議では,例として,政治犯罪,出版に関する犯罪,又は憲法が保障する国民の権利が問題となっている事件を申し上げましたが,国民の権利にとって重要な判断が示される手続として公開の利益が大きく,他方で,想定される弊害も比較的少ないものとして,最高裁判所の弁論も検討に値するのではないかと考えます。   現行刑訴規則上,公判廷における写真の撮影,録音又は放送は,裁判所の許可を得なければこれをすることができないとされていますので,オンラインの公開も裁判所の許可が必要とされるものと理解しております。いずれにしても,情報通信技術の活用については,国民の知る権利を実現するためにも,積極的な検討がされるべきであると考えます。 ○永渕委員 裁判の現場で実際に訴訟を主宰している立場から,少しお話をしたいと思います。裁判手続の内容を,直接その状態を把握できない場所に中継した場合には,その場所の状況にも留意しながら手続を進めなければならず,円滑な訴訟進行が妨げられるおそれがあり,また,訴訟関係人,証人,被害者,その他の関係者のプライバシーの侵害が生じるおそれがあることなどから,慎重な検討を要するものと考えられます。   若干敷衍いたしますと,特定の場所とつないでオンライン傍聴を認める場合,この特定の場所というのは,場合によっては複数の場所になることもあろうかと思いますが,裁判体においては,モニターを通じて,このモニターも複数になることが考えられるわけですけれども,それらの場所の状況を適切に把握し,場合によっては,モニターの中の複数の傍聴人について,録画等を含めた何らかの禁止行為を行っていないかを確認し,法廷警察権等の行使の対象となる人物を特定した上,これらの権限の行使を行う必要がございます。日頃実際に裁判を主宰し,訴訟指揮権等を行使している立場からいたしますと,裁判体において,モニターの状況にも常に留意しつつ,実際の法廷における手続を進めることとした場合,円滑な訴訟進行が困難になるように思われます。   なお,先ほど河津委員から御発言がありまして,特定の場所を想定せずに,傍聴の場所に対する訴訟指揮権,法廷警察権等の行使を前提としない形式の,いわゆるウェブ配信のような形式をお考えなのだとしますと,この点は,確か本検討会の第1回で成瀬委員からも御指摘があったと思うんですけれども,いわゆる情報セキュリティ面ですね,特に,録音・録画等をされることを防ぐ手段が確保されておらず,その結果,例えば,法廷における審理がインターネット上に意図せず流出するなど,深刻な弊害が考えられるところであります。したがいまして,そのような事態が起こり得ないという状況が,何らかの形で確保されていない限り,実現は難しいものと考えられます。 ○小木曽座長 傍聴の点について,ほかに御意見よろしいでしょうか。   それでは,傍聴については一通り御意見を頂戴したということで,次は,論点項目の「3 その他」であります。ここでは,論点項目の「1 書類の電子データ化,発受のオンライン化」,「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」のいずれにも該当しない論点項目について,御議論いただくことを予定しています。   具体的には,第1回会議で御発言のありましたインターネット上のウェブサイトに掲載する方法による公告を可能とする方策について,御意見があれば御発言いただきたいと思います。そのほかにも,論点項目の「1」,「2」のいずれにも該当しない項目で,現行の刑事手続を前提として情報通信技術を活用する方策に関するものであり,かつ,法的課題の抽出・整理に関するものとして,ここで検討すべきであるとお考えのことがありましたら,御発言いただきたいと思います。   それでは,御意見を頂戴いたしたいと思います。 ○佐久間委員 インターネット上のウェブサイトに掲載する方法による公告について述べます。   刑訴法499条1項では,押収物の還付を受けるべき者の所在が判らないなどの理由により,その物を還付できない場合は,検察官はその旨を政令で定める方法によって公告しなければならない旨定められており,その公告方法については,これを受けた押収物還付等公告令において,検察庁等の掲示場に一定期間掲示する方法,これを掲示公告といいますが,この掲示公告が原則であるとされており,例外的な方法としては,官報に掲載する方法という,官報公告が規定されております。   しかし,掲示公告は,実務上,公告すべき事項を記載した紙媒体の書面を作成した上で,その書面を検察庁の掲示場に所定の期間貼り出して掲示する方法で行っておりまして,相応の事務負担が生じております。また,官報公告については,官報に掲載するためには所定の手続を要することから,これもまた相応の事務負担が生じているところです。   そもそも,押収物還付公告を行う趣旨は,公告の名宛人である押収物の受還付人に,公告に係る事実を知らせて権利行使の機会を与えることにより,その保護を図る点にあると解されますところ,そのような趣旨からすると,掲示公告や官報公告といった紙媒体による方法よりも,インターネット上のウェブサイトに掲載する方法の方が適切であると考えられます。インターネット上のウェブサイトに掲載しておけば,物理的な距離や時間帯を問わず,確認しようと思えば直ちにその内容を確認できますから,押収物の受還付人はより容易に公告に係る事実を知ることができると考えられます。   今日,インターネットは国民に広く利用されており,総務省の「令和元年通信利用動向調査」によれば,インターネットの個人利用率は89.8%に達し,13歳から59歳に対象者を限れば,その率は97%を超える状況にあります。これらを踏まえれば,インターネット上のウェブサイトに掲載する方法で,公告の趣旨は十分に達せられると考えることができます。   また,押収物還付公告のほかにも,第三者所有物の没収手続に関するものなど,刑事手続に関して公告が行われる場合があり,これらの公告についても,インターネット上のウェブサイトに掲載する方法を可能とすることが考えられるのではないでしょうか。許容性について検討する必要があると考えております。 ○小木曽座長 「その他」について,ほかにはいかがでしょうか。   特段御意見なければ,「その他」についてはここまでということにいたしたいと思います。   本日予定しておりました議事は以上です。   そこで,次回以降の検討の進め方ですけれども,本日までで論点項目の全ての論点について,一巡目の議論を終えました。今後,更に焦点を絞った上で,二巡目の議論に入っていくこととしたいと思います。   ところで,一巡目の議論の中では,法制面の課題に関連して,技術面に関わる課題も示されたものと認識しております。本検討会は,もとより法的課題の抽出・整理を行う場ですので,システムの在り方等の技術的事項に立ち入った議論・検討を行うことは予定しておりませんけれども,しかし,法制化の検討の前提として,技術面からの実現可能性などについて認識を共有しておく必要はあり,また,そうすることが有益であろうと思われます。   そこで,次回会議におきましては,情報通信技術に関する専門的な御知見をお持ちである進関係官から,一巡目の議論で示された課題との関連で,必要な範囲で技術面に関する御説明を頂戴しまして,質疑応答をさせていただきたいと,このように思うわけです。   そして,進関係官の御説明を踏まえた意見交換をするということにしてはいかがかと思いますが,そのような進め方でよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。御賛同いただけたということで,次回会議では,一巡目の議論で示された技術的課題につきまして,進関係官から御説明を頂いた上で,意見交換をすることにいたしたいと思います。   本日の議事につきましては,特段公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することといたしたいと思います。配付資料につきましても,公表することにいたしたいと思いますが,御異論ないでしょうか。 (一同了承)   では,そのようにさせていただきます。   次回の予定について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○南部室長 次回の第5回会議は,7月27日火曜日,午後1時30分からの開催を予定しております。本日同様,ウェブ会議方式での開催となる予定です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 本日はこれで閉会です。   本日もありがとうございました。 -了-