刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第6回) 第1 日 時  令和3年9月15日(水)     自 午前9時45分                          至 午後0時13分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ○ 議論(書類の電子データ化,発受のオンライン化)         (1)書類の作成・発受         (2)令状の請求・発付・執行         (3)電子データの証拠収集         (4)閲覧・謄写・交付         (5)公判廷における証拠調べ 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○仲戸川室長 ただ今から刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第6回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 皆様,おはようございます。本日も朝からありがとうございます。よろしくお願いいたします。   それでは,本日の配付資料について確認をお願いいたします。 ○仲戸川室長 本日は,議事次第及び進関係官の肩書を変更しました令和3年9月15日付の委員等名簿のほか,資料20から25までをお配りしております。ウェブ参加の皆様におかれましては,お手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の皆様につきましては,ただ今申し上げた資料を机の上に用意しておりますので,御確認をお願いします。   資料の説明に入ります。まず,資料20ですが,第1回会議においてお配りした資料3「諸外国における情報通信技術の活用に関する法制・運用の概要【暫定版】」につきまして,その後の調査結果を踏まえて内容を一部更新したものです。時間の関係もございますので,内容面にわたる説明は省略させていただきますが,今後の検討を行う上で,必要に応じて御参照いただければと存じます。   資料21から25は,本検討会における論点項目のうち「1 書類の電子データ化,発受のオンライン化」に関する各論点について,一巡目の御議論を踏まえ,より詰めた二巡目の御議論に資するため,事務当局において作成したものです。  「考えられる方策」の枠囲いの中には,方向性について認識が共有されたと思われるものについて事務当局において整理したものを記載するとともに,方策の具体的な在り方について両論があり得ると思われる点につきましては,「A案」・「B案」などと記載し,さらに,その考えられる方策を今後更に詰めていくために検討を要するものを「検討課題」としてその下に記載しております。それぞれの内容につきましては,後ほど説明をさせていただきます。   配付資料の確認・説明は以上でございます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。皆様,よろしいでしょうか。   それでは,議論に入りたいと思います。   一巡目の議論におきましては,論点項目ごとに導入することが考えられる方策について必要性・許容性や必要となる法的措置などについて一通り御意見を頂きました。二巡目の議論におきましては,一巡目を踏まえまして,更に具体的な課題について議論を深めるとともに,論点項目相互の関係など全体像も意識しながら議論を進めていくことができればと考えております。   それでは,「(1)書類の作成・発受」についての議論に入りたいと思います。   まず,資料21について説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料21「1(1)書類の作成・発受」について説明いたします。   資料の1ページ目,「考えられる方策」の枠囲いには,「書類の作成・発受」について考えられる方策として,①現行の法律・規則において紙媒体で作成・管理することが予定されている書類について,電子データとして作成・管理することができるものとし,電子データとして作成・管理した場合には,書類の作成・管理と同一の効力を有するものとする,②現行の法律・規則において紙媒体の書類の発受が予定されている手続について,電子データとしてオンラインにより発受を行うことができるものとするという各方策を記載しております。③につきましては,電子データとしてオンラインにより発受を行うことを原則化し,一定の例外を設けるものとするとした上で,その原則化の方策について,「A案 運用により原則化することとし,特段の規定を設けない。」「B案 電子データによる発受を原則とする規定を設ける。」という二つの案を記載しております。   その上で,これらの方策に関する「検討課題」を,「その他」を含めまして4点記載しております。このうち一つ目の「書類の作成」につきましては,「考えられる方策」の①に関係するものとして,電子データとして作成する書類について,紙媒体のように「原本」・「謄本」・「抄本」を区別した取扱いとすべきかという点や,元の紙媒体の書類の取扱いについて規律が必要になるかという点など,具体的に検討する必要があると思われる項目を記載しております。   二つ目の「書類の発受」につきましては,②に関係するものとして,提出等の手続においてオンラインにより行うことができることとするためにどのような規定を設けるかという点や,セキュリティの観点等から技術的措置に関する規定を設けるかという点などの検討すべき項目を記載しております。   三つ目の「オンラインによる発受の原則化とその例外」につきましては,「考えられる方策」③に関係するものとして,オンラインによる発受の原則化についての規定の要否や原則化の対象,オンラインによる発受の例外などといった具体的に検討する必要があると思われる項目を記載しております。   資料21についての説明は以上であります。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,議論に入りたいと思います。まずは資料21の「検討課題」の「1 書類の作成」,「2 書類の発受」について議論いただきまして,その後,「3 オンラインによる発受の原則化とその例外」について,併せて議論いただくということにしたいと思います。   まずは検討課題「1」,「2」について御意見のある方は,いずれの項目についてであるかということを明確にした上で御発言いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○笹倉委員 私は「1 書類の作成」のうちの最初の○,「書類の作成者の『署名』・『押印』に代わる措置」について意見があります。   第2回の検討会において,書類を電子データとして作成・管理することができるものとすることについて,事務の合理化・迅速化といった利点がある,あるいは法律上,書類を電子データに置き換えることは許容されるという意見が示され,それについて特段の異論は示されなかったと承知しています。そのため,「考えられる方策」の①に記載された内容,すなわち,書類を電子データとして作成・管理することができるものとすること,そして,書類を電子データとして作成した場合には,当該電子データが書類と同一の効力を有するものとすることについて意見は一致していると言ってよいと思います。   そして,そのような方策を実現するためには,第2回検討会で私が申し上げたことですけれども,「署名」・「押印」といった紙媒体で作成された書類を前提として一定の措置を採ることを予定しているものについて,これに代わる措置の在り方を検討しなければなりません。   そこで考えてみますと,現行刑訴法・刑訴規則上,「署名」あるいは「押印」が求められる趣旨は,作成の真正,すなわち,作成者本人がその意思に基づいてその文書を作成したということを担保する点にあるというのが一般的な理解だと思われます。そうしますと,書類を電子データとして作成する場合,作成者の「署名」・「押印」等に代わる措置としては,それが従来担っていた,作成の真正を担保する機能を果たすことができる措置を定めることが必要です。そして,この点で注意を要することは,進関係官が御専門の見地から御指摘になったとおり,電子データに対する改ざんは,物理的に痕跡が残る紙媒体に対する改ざんと比べて,一般に,痕跡が残りづらく,事後的に改ざんの有無を判断することが困難であるという点です。   そのことを踏まえますと,電子データに関する「署名」・「押印」に代わる措置については,事後的に改ざんの有無を検知することができる機能の実装を求めることが適切だと思われます。このような機能は,紙媒体と電子データの間の改ざん検知の可能性の相違に着目して,現在の紙媒体における「署名」・「押印」が果たしている機能に付加して新たに求められる,つまり,それを法定するとすれば,創設的規定になるのだと説明することもできます。しかし,従来の紙媒体の書類においては,インクで書かれた文字や朱肉で押された印章が書類に残るということによって,「署名」・「押印」は紙媒体の文書の改ざんを防ぐ効果を実際上持っていたところ,我々はそれを法律論として表に出していなかっただけであり,今般,それと同じ機能を電子データについて実現するために今申したような機能の実装を明示的に要求するに過ぎないのであって,従来の「署名」・「押印」の機能に加えて新たな機能を付加するわけではないという説明も可能であろうと思います。   このように両様の説明があり得ますが,それはともかく,より具体的に「署名」・「押印」等に代わる措置として何が考えられるかと言えば,第5回検討会において進関係官から紹介された電子署名法による「電子署名」の技術を用いることが考えられます。まず,「電子署名」は,これを取得した本人しか利用することができないものであることから,作成の真正を担保する機能があるといえます。また,電子署名法にいう「電子署名」には,「改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること」という要件が定められていることから,事後的に改ざんの有無を検知することができると考えられます。したがって,電子署名法にいう「電子署名」は,現行法上の紙媒体の書類への「署名」・「押印」に代わる措置として適当であるように思われます。   もっとも,今後の技術的進歩により,作成の真正と事後的な改ざんの防止を担保し得るより効果的な技術が開発されるかもしれません。そのような可能性を意識して,現行の技術を念頭に置きつつも,そのような将来開発されるであろう技術をも活用できるような規律を設けておくことが望ましいと考えます。 ○池田委員 私からも「署名」・「押印」に代わる措置について意見を申し上げます。   今,笹倉委員から御指摘のあった電子署名等を用いるとする場合にも,身体の拘束を受けている被疑者等のように直ちに電子署名を利用することが難しいという者もおります。そうした状況にある被疑者等の供述を録取した供述調書を電子データとして作成した場合に,これらの者に供述者として「署名」又は「押印」するよう求めるとして,どのような措置を採るべきかということについては,これは前回も指摘したことですけれども,供述調書に録取された供述を証拠として用いるための要件として供述者の「署名」・「押印」が求められている趣旨をも踏まえて検討する必要があると考えられます。その趣旨としましては,行った供述が調書に正確に録取されたこと,つまり,録取者による供述録取の正確性を供述者が承認したことを表すことにあるとされています。したがいまして,電子データとして作成した供述調書との関係でも,供述者が供述録取の正確性を承認したことを表す措置を求めることが必要になると考えられます。   そのための具体的な措置については,第5回検討会において,進関係官から,現在既に存在する技術として,タブレット端末の画面にタッチペンで氏名を手書きする方法や,指紋を画像データとして採取して貼り付ける方法を御紹介いただいたところです。これらの措置は,タッチペンで手書きされた氏名や採取された指紋などの画像データが正確に供述調書に記録されることが担保されるならば,その供述者を明らかにすることができる上に,供述者が供述調書の内容を確認して,自らの供述が正確に録取されたことを承認したことを表すことができる措置といえるものと思います。   その上で,このような技術的措置を現在の法律が要求する「署名」・「押印」と同等のものとして取り扱うために,更に法的な措置が必要であるかということを考えてみますと,現行刑訴法や刑訴規則上の「署名」・「押印」については,紙媒体で作成された書類に対して行うものであることが前提とされて解釈・運用されているものと考えられます。他方で,いわゆる「デジタル行政推進法」は,書面等の作成を電磁的記録により行うことができるとした上で,当該書面について,他の法令により「署名」・「押印」等をすることが規定されているものについては,当該「署名」・「押印」等について,「当該法令の規定にかかわらず,氏名又は名称を明らかにする措置であって主務省令に定めるものをもって代えることができる」としており,従来の紙媒体にしていた「署名」・「押印」と電磁的記録に施す措置との関係は代替的なものとされており,法的には両者は別物であるということが前提となっているものと考えられます。   以上を踏まえますと,供述調書を電子データとして作成することとの関係でも,先ほど申し上げた技術的措置のような措置をもって,紙媒体に要求される「署名」又は「押印」に代えることができる旨の規律を設けることも考えられるものと思います。 ○永渕委員 私も「署名」・「押印」に代わる措置に関して少しお話をさせていただきたいと思います。「署名」・「押印」に代わる具体的な技術的措置を検討するに当たっては,公務員や弁護人が作成する書類の中にも性質や用途の違いがあることを念頭に,それぞれの書類について「署名」・「押印」によって担保しようとしているところを具体的に検討した上,技術の進展等により今後考えられる技術的措置も刻々と変化していく可能性があることなども踏まえて,ふさわしい技術的措置や規定の在り方を丁寧に検討していく必要があると思われます。また,刑事手続は,多くの機関が捜査書類を作成し,令状請求を行うなど,関係する機関が多いことも踏まえ,実務全体として合理的な方策は何かといった観点からも検討する必要があるのではないかと考えております。 ○重松委員 私の方からは,検討課題「1」の「書類の作成」の中の三つ目の○,「紙媒体の書類の取扱い」について意見を申し上げたいと思います。   電子データ化をした後の元の紙媒体の書類につきまして,個別のケースに応じて,廃棄をして差し支えないと判断できる場合に,当該廃棄行為が公用文書毀棄等の犯罪に当たらないことを明確にしておくという観点からも,一定の規律を設け,かつ,それを規定するといったことが必要であろうと考えております。 ○河津委員 今,重松委員から御意見のあった「紙媒体の書類の取扱い」について,意見を申し上げます。   紙媒体の書類を電子データにした場合,その過程で失われる情報もあることは意識する必要があると思われます。例えば,記入した筆記用具の種類や消しゴム等で消去した跡などは,電子データにした段階で判然としなくなることがあり得ます。これらの情報は証拠として意味を持つこともあるものですので,証拠となり得る書類の紙媒体を廃棄することについては慎重になる必要があると考えます。紙媒体の処分を一方当事者である捜査機関の裁量に委ねた場合,捜査上の保管の必要性は意識されやすいのに対して,防御上の保管の必要性が十分に意識されず,そのような情報が失われやすくなるおそれのあることは否定できないように思われます。廃棄された紙媒体に被告人に有利な情報があったかどうかが争われたときに,捜査機関側に立証責任が生じると考えるとしても,通常,捜査官の供述と電子データ化作業のログ程度の証拠しかない中では,実際には失われた情報があったとしても,そのことが見逃されるおそれのあることは否定できないのではないかと思います。電子データと紙媒体の混在をできる限り避けたいというニーズは理解できますが,それはできる限り最初から電子データで作成することによって図られるべきであり,紙媒体で作成された証拠となり得る書類について,その原本を廃棄することによって図られるべきではないと考えます。 ○佐久間委員 ただ今お話のありました,紙媒体で作成された書類を電子データに変換した場合について,発言いたします。   例えば,参考人が捜査機関に提出した紙媒体の供述書や,紙媒体で入手した口座取引履歴を電子データに変換する場合などにおいて,元の紙媒体自体の形状や,指紋あるいは微物の付着などが問題にならないのであれば,その内容が電子データに変換されたものと同一であることが手続上確認できる限り,元の紙媒体の書類を残しておく必要性は乏しいと思われます。そのような場合,なるべく紙媒体で作成された書類の保管の負担を軽減するため,また,先ほど御指摘がありましたけれども,紙媒体と電子データの混在を避ける観点からも,元の紙媒体の書類については提出者にお返しする,あるいは提出を受けた者においてこれを廃棄するといったことを可能とすることが合理的であると思われます。しかし,この点,現行の刑訴法・刑訴規則を見てみますと,捜査・公判手続が進行中の事件に係る訴訟記録の廃棄を可能にする規定は見当たりません。また,元の紙媒体を電子データに変換した場合であっても,元の紙媒体を証拠として用いることは,現行法上,差し支えないものと思われます。   そうしますと,そのような証拠として用いることのできる紙媒体を廃棄するという行為は,公用文書毀棄に当たるのではないかという懸念が生じないわけでもありません。そこで,このような懸念を払拭するためにも,電子データに変換した後の紙媒体については,捜査・公判上の必要性がないものについて,これを提出者に返す,又は廃棄することができる旨の規定を設けることが考えられないかということを指摘しておきたいと思います。 ○成瀬委員 私は,検討課題「1」の「書類の作成」の二つ目の○のうち,電子データとして作成する書類の原本性に関して意見を申し上げたいと思います。   刑事手続における書類は,刑訴法ないし刑訴規則において,「謄本」又は「抄本」という断りがない限り,原本を意味するものと解されており,例えば,公訴の提起は起訴状の原本を提出してこれをしなければならないと解釈されて運用されています。また,ここにいう「原本」とは,一般に,一定の事項を内容とする文書として作成された書類そのものをいうと解されており,作成者が最初に作成した文書を意味するものと考えられます。このように,刑事手続上,単なるコピーではなく,原本をもって行うとされている趣旨は,コピーの場合には,巧妙に改ざん・加工することが可能であることに鑑み,作成方式として明確性が求められるためであると解されます。   他方,電子データは,関係者の間で電子的方法により送信されたとしても,最初に作成された電子データがそのまま移転するのではなく,送信先には最初に作成されたデータの複製が作成されるにすぎないため,紙媒体の書類と同じように最初に作成されたものを原本であると考えると,送信先で出来上がった電子データを始め,それ以外の電子データは全て写しということになり,原本をもって行うとされている法の趣旨との関係が問題になります。  しかし,電子データは,その特性として,複製が電子的方法により作成され,その内容は最初に作成された電子データと全く同一であることが機械的に担保され得るものです。前回の検討会で進関係官が御説明くださったように,例えば,電子署名を施した電子データを受け取った者は,電子署名を確認することにより,その電子データの内容が,電子署名が施されたオリジナルの電子データから変更されていないことを確認することができます。このような電子データの特性に鑑みれば,最初に作成された電子データとそれ以外の電子データとを区別する理由はないと思われます。  したがって,複製された電子データの内容が最初に作成されたものと全く同一であることが機械的に担保されるのであれば,刑訴法ないし刑訴規則上,原本であることが求められる規定において,送信先に複製された電子データを原本とみなしてよいように思われます。 ○笹倉委員 ただ今,成瀬委員から原本について御発言がございました。同じ○のところに,「謄本」・「抄本」の取扱いが検討課題として挙げられておりますので,私はそれについて意見を述べます。   現行刑訴法には,起訴状の謄本を被告人に送達する場合ですとか,保釈が取り消された被告人を刑事施設に収容するに当たり,被告人に対して勾留状の謄本等を示す場合のように,原本が紙媒体で作成されることを前提に,「謄本」に係る手続等を定めた条文があります。ここにいう「謄本」とは,文書の原本の内容全部を原本と同一の文字・記号で完全に転写したものであって,その内容が原本と同一である旨の認証・証明を付した文書であり,当該認証・証明によって,その内容が原本と同一であることが担保されているものをいうと理解されているところです。   そうしますと,現行法上,「謄本」が求められる手続において,書類を電子データによって作成し,これを複写して同一内容の別の電子データを作成する場合,その内容が元の電子データと同一である旨の担保をどのようにするかが問題になります。  そこで考えてみますと,書類を電子データによって作成し,これに対して従来の署名・押印に代わるものとして,電子署名法上の電子署名を施すとした場合,当該電子データの複製の内容が元の電子データと同一であるかどうかは,電子署名が有する改ざん検知機能によって技術的に担保されます。したがって,これに重ねて内容が同一である旨の認証・証明を付することは,いわば屋上屋を重ねるものでありまして,必要はもはやないものと考えます。そして,電子署名法上の電子署名のような改ざん検知機能を有する技術的措置が施された電子データについては,その技術的措置が認証・証明の機能を代替しますから,その複製電子データを作成して手続に用いる場合,当該複製電子データに対して,紙媒体の謄本と同様の認証・証明を更に付するまでの必要はないと考えることも可能です。   また,現行刑訴法上,例えば,被告人その他訴訟関係人による裁判書等の抄本の交付請求や,裁判の執行指揮書における裁判書等の抄本の添付など,抄本に係る手続も規定されているところです。この「抄本」についても,現行法上,「抄本」が求められる手続において,書類を電子データによって作成し,その一部を複写して別の電子データを作成する場合,その内容が元の電子データの一部と同一である旨の担保をどのように行うかということを考える必要があります。   そこで「抄本」の意義を確認しますと,文書の原本の内容の一部を原本と同一の文字・記号で転写した文書であって,その内容が原本の一部と同一である旨の認証・証明を付したものであり,かつ,当該認証・証明によってその内容が原本の一部と同一であることが担保されているものをいうとされています。そうしますと,抄本においては,その定義上,元の電子データの一部だけを切り取って複写することになりますから,デジタル技術の観点からは原本に改変を加えていることになり,したがって,原本に対する電子署名によっては複写された部分の同一性を技術的に担保することができません。そのため,元の電子データの一部を複写した電子データについては,紙媒体の抄本と同様に,その内容が元の電子データの一部と同一である旨の作成者の認証・証明を付することが必要になるでしょう。   もっとも,今後の技術の発展により,元の電子データの一部を複写した電子データについても,その内容が元の電子データの一部と同一であることを技術的に担保する措置を講じることができるようになれば,先ほど申し上げた謄本の場合と同様,文書における認証・証明の機能はそれで賄われることになりますから,重ねてそのような認証・証明を付するまでの必要はないことになるのでしょうが,現時点でそのような技術が汎用化していないのだとすれば,認証・証明の付与を要求するほかないと考えます。 ○小木曽座長 「1 書類の作成」についての御意見が続いていますが,「2」の点についても御意見を頂きたいと思います。 ○笹倉委員 では,発受に関して意見を述べます。発受の最初の○,オンラインによる発受の法的措置,提出,交付等についてですが,刑事手続に係る書類の発受を電子データとしてオンライン上の送受信により行うことを可能にすることについては,移動に伴う人的・時間的コストが削減されること,複数の人が事件記録の電子データを同時に利用できること,コピーの作成が迅速かつ簡易になることなどから,業務の合理化・迅速化が見込まれるといった御意見や,電子データの発受が一般社会で広く行われ,デジタル行政推進法などではオンラインによる送付が紙媒体の提出と同価値に取り扱われていることなどから,刑事手続において電子データである書類の発受をオンラインで行うことは,法律上,許容され得るといった意見など,これまでの会合では肯定的な意見が多く出される一方,特段の異論はなかったものと認識しています。   その上で,法的措置について述べますと,第2回検討会で私も申し上げたところですけれども,現行法上,書類の発受に関する規定では,「提出」,「交付」,「送付」,「送達」,「差し出す」などの文言が用いられており,これらは有体物の紙媒体である書類を前提として解釈・運用されていると考えられます。そうしますと,電子データである書類について,オンラインで発受を行うことができるようにするための法的措置が必要になると思われます。  他の法律を見てみますと,デジタル行政推進法では,申請等の書面等により行うことが規定されているものについては,主務省令で定める電子情報処理組織を使用する方法により行うことができるなどと規定されております。また,いわゆるe-文書法では,交付等のうち書面により行わなければならないとされているものについては,書面の交付等に代えて,電磁的方法であって主務省令で定めるものにより行うことができるものと規定されているところです。   刑事手続において電子データである書類の発受をオンラインで行うことができるようにするための法的措置としては,今申し上げた他の法律の規定も参考にして,提出等について一定の技術的要件を満たす電子情報処理組織を使用する方法又は電磁的方法により行うことができることを可能にするとともに,その条件を満たすオンラインによる提出等は,紙媒体の書面による提出等と同一の効力を有することとする,こういった規定を設けることなどが考えられると思います。 ○成瀬委員 ただ今の笹倉委員の御発言を受けまして,私は,検討課題「2」の「書類の発受」のうちの二つ目の点と三つ目の点について意見を申し上げます。   まず,技術的措置に関する規定につきまして,私は,第2回検討会で,刑事手続において電子データをオンラインで発受することを許容するためには,いずれの送信先にどのような方法で送信するか,どのように情報セキュリティを確保するかなどの技術的事項を定める必要があるという趣旨の意見を申し上げました。  この技術的事項に関する規定の在り方として,例えば,先ほど笹倉委員が言及されたデジタル行政推進法や,いわゆるe-文書法を見てみますと,「主務省令で定める電子情報処理組織」や,「電磁的方法であって主務省令で定める方法により行う」などと規定され,具体的な技術的事項はこれを受けた主務省令で定められています。   刑事手続において電子データをオンラインで発受するための具体的な技術的事項については,技術的事項の内容がシステムの技術的基準などを含め多岐にわたるとともに,やや細目的な内容となることも考えられることや,情報通信技術の発達に伴うシステムの変更等に機動的に対応できるようにするのが相当であることなどに鑑み,下位法令で定める必要性が認められると思います。また,一般に,訴訟に関する手続のうち,その基本構造又は被告人の重大な利益に関する事項については法律によって定められるのが原則であるとされていますが,オンラインで発受するための技術的事項は,こうした訴訟手続の基本構造や被告人の重大な利益に関する事項とはいえず,下位法令で規定することが許容されると考えられます。   以上のことから,刑事手続において電子データをオンラインで発受することを認めるための技術的事項については,法律上は裁判所の規則を含めた下位法令で定めるということを規定しておき,具体的な技術的事項の内容はその下位法令において定めるのが適当であると思います。   具体的な技術的事項の内容については,オンラインによる発受が「提出」等の代替的措置として機能するためにいかなる事項が必要となるかを検討して判断することになると思われますが,民事手続においては,一部の申立て等についてオンラインで行うことができるとされているところ,最高裁判所規則やその細則において,その申立ての方式等の技術的事項が定められており,これを参考にしつつ,刑事手続の性質を踏まえて,同様の規律とするか,それとも異なる規律を設けるかという点について検討すべきであると考えます。   続きまして,検討課題の三つ目の点にある「送達」について,必要となる法的措置に関する意見を申し上げます。  第2回検討会でも申し上げましたとおり,現行刑訴法・刑訴規則における「送達」は,「提出」や「交付」等とは異なり,法律で定める一定の方式に従って行うこととされ,民事訴訟法等が準用されるとともに,手続的事項について特別の規定が設けられています。刑事手続において「送達」によることとされているのは,被告人に対して起訴状謄本を到達させるべき要請や,被告人・証人等に召喚状を到達させるべき要請がある場合などであり,対象となる書類の内容や送達による効果の重大性から,安全性と確実性が求められるためであると考えられています。そのため,オンラインによる送達の在り方を検討するに当たっては,特別の配慮が必要であり,安全性・確実性を担保できる方式を定める必要があります。   オンライン送達について具体的にどのような規定を設けるかについては,今後,システムの在り方なども踏まえて検討していく必要がありますが,刑事手続における「送達」は,基本的に民事訴訟法等の規定を準用していることから,民事手続における検討状況を参考にすることが考えられます。  御承知のとおり,現在,調査審議が行われている民事訴訟のIT化に係る法制審議会部会の中間試案においては,オンラインによる送達として「システム送達」という方法が示されています。このシステム送達は,裁判所から訴訟当事者への送達について,事前に電子メールアドレス等の通知アドレスの届出をした当事者を対象とし,送達すべき電子書類を,その当事者が電子情報処理組織を用いて閲覧及び複製をすることができる状態に置き,その当事者の通知アドレスにその旨を通知することで送達を行うものです。そして,通知アドレスを届け出た当事者が当該電子書類の閲覧又は複製をしたときか,通知が発出された日から1週間経過したときに,送達の効力が生じるとするもののようです。  この「システム送達」については,裁判所から,検察官に対する送達や,あらかじめ通知アドレスを届け出ることができると思われる在宅の被告人への送達などに利用可能であると考えられ,また,安全性と確実性が担保されたものと言い得るように思われます。 ○永渕委員 ただ今の成瀬委員からの送達に関する御発言に引き続いて,私から少し発言をさせていただきます。   裁判所との間で頻繁に書類のやり取りを行う検察官や弁護人につきましては,可能な限りオンライン発受の方法により実施することが合理的であります。そして,本人確認等の適切な措置が採られることを前提とすれば,送達についても同様であると考えられます。   なお,刑事手続において裁判所が頻繁に書類を送付する相手方として,身柄拘束中の被疑者・被告人があります。このような者に対する送達は刑事施設の長に対してするものとされているところ,現状では裁判所から書類を封書に入れて郵送し,刑事施設においてその封書を開封して確認の上,本人に渡すなどの運用が行われているものと思われますけれども,刑事施設との間でオンライン発受を行うことが可能となれば,ある程度,事務の合理化につながる可能性もあるのではないかと考えている次第です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   書類の作成・発受について,それ以外,よろしいでしょうか。   よろしければ,「3 オンラインによる発受の原則化とその例外」についても御意見を頂戴したいと思いますが,いかがでしょうか。 ○池田委員 私からは,このうちの二つ目の○,「オンラインによる発受の原則化についての規定の要否」について意見を申し上げます。   第2回検討会において,利便性や効率性の向上の観点,あるいは電子データと紙媒体が混在することによる非効率化や混乱の回避の観点から,広く電子データを用いることを基本とすべきといった意見が複数の委員から示され,その方向性については特段の異論は示されていないものと思います。仮に,書類の発受について,電子データをオンラインで送信する方法によることを法律の規定を設けることで原則化するならば,オンラインによる発受が徹底されることが見込まれまして,関係機関相互における書類の発受において電子データと紙媒体が混在することによる事務の非効率化や過誤を解消し,刑事手続の効率化に資することになると思われます。   加えて,そうした観点からは,ただ今,永渕委員からの御指摘にもありましたように,弁護人や被害者参加弁護士などとして関与される弁護士の方々も,オンラインによる発受の原則化の対象とすることが効果的であろうと思われます。ただ,公的機関に属するものでない弁護士の方には,公的機関における通達等の内部規定の形式ですと,その効力を及ぼすことができませんので,弁護士の方にも公的機関におけるものと同じ内容の規律を及ぼすという観点からは,法律による規定・規律を設けることが望ましいとも思われます。   その一方で,オンラインでの発受を原則とした場合に考えられるデメリットとして,例えば,紙媒体で取得した書類については,発受までの間に紙媒体の書類を電子データに変換する時間的な余裕がない場合があり得るのではないか,あるいは,既に長期にわたって捜査が行われているなどの事情で,存在する紙媒体の資料が大部である場合に,それら全てを電子データに変換するとなると,関係機関に膨大な事務作業を強いる結果とならないかといったことへの懸念があり得るように思います。   以上を踏まえますと,オンラインによる発受を法律により原則化することとするか,運用によって原則化を図っていくかについては,その必要性ないしメリットや,他方で生じ得る実務上の弊害等を踏まえながら,さらに,その弊害が生じる場合をオンライン発受の例外として法律で規定することができるかも含めて,引き続き検討していくことが必要であると思っております。 ○笹倉委員 ただ今池田委員が「3」の二つ目の○,発受についてお話しになりましたけれども,発受の前提となる電子データの作成・管理について意見がありますので,述べます。   書類の電子データ形態での作成・管理を原則化するかどうかということですが,法律によるにしろ,あるいは運用によるにしろ,これを原則化することで紙媒体と電子データの混在を回避し,オンラインによる発受を促進するなどの効果があると思われます。ただ,捜査機関や弁護人が対応する案件には様々なものがあり,中にはほかの機関へ書類を送る見込みが乏しい案件も想定されますし,過去に起こった事件について大量の書類が既に紙媒体で作成され保管されているという場合も想定されます。そうしますと,受領した紙媒体の書類を管理する段階で電子データに変換することも含めまして,作成ないしは管理の段階で一律に書類を電子データとして作成・管理することを義務付ければ,捜査機関や弁護人の機動的な活動を制約したり,捜査機関や弁護人に過度の負担を強いたりすることになりかねないというデメリットも考えられます。したがって,このように,電子データとして作成・管理することを原則化するか否かについては,その必要性や考え得る弊害をも踏まえた上で更に検討する必要があるように思います。 ○永渕委員 ただ今の池田委員,笹倉委員からの御発言に引き続いて,少しだけ発言をさせていただきます。   IT化によって刑事手続全体としてできる限り合理的な事務を目指すという観点からは,電子データと紙媒体が混在するという事態ができる限り生じないようにすることが望ましいと考えられます。そのためには,前提として関係機関や弁護人等のそれぞれの実務の実情についての認識を共有しておくことが重要であろうかと考えられます。 ○重松委員 私の方から,原則化の法律化ということについて意見を申し上げたいと思います。   もとより警察におきましては,今後,電子データ化,あるいはオンライン化を強力に推進していきたいと考えておりまして,今後これが制度として導入されれば,原則としてこの方向に従って取組を進めていこうというふうに考えております。   しかしながら,この原則化を法律で規定するということについては,賛成をいたしかねるというところでございます。そもそもこの電子データ化・オンライン化というものは,国民の利便性の向上,あるいは業務の合理化・効率化などの観点から導入しようというものであると理解しておりますけれども,そうであれば,飽くまでもそれは手続上の選択肢を増やすものだというふうに考えております。飽くまでも選択肢の一つであるということなのであれば,これを原則化することを法律により規定するというようなことは適当ではないのではないかと考えております。   また,実務上,電子データ化・オンライン化に対応できない場合が幾つか想定されます。これまでも意見として申し上げておりますけれども,例えば災害の発生・システムダウンといった不測の事態が発生した場合などでは,そもそも電子データによる書類作成が困難でありますし,オンラインによる発受も困難であろうというように考えています。また,長期の未解決事件などにおきましては,これまで相当長い期間,捜査を継続しておりますので,膨大な捜査記録が存在しております。これらを全て電子データ化するということは現場に過重な負担を強いるというふうに思っておりまして,警察としてこれを許容するというようなことは困難だろうと思っています。そのほか,個別具体のケースにおいて対応困難な場合も様々あり得ると考えておりますので,これらを類型的に整理するというようなことも容易ではないと考えております。   したがいまして,運用上,電子データ化・オンライン化を原則としていくことは格別でありますけれども,これを法律により規定するというようなことについては適当ではないというふうに考えております。 ○吉澤委員 私の方からは,「オンラインによる発受の原則化の対象」,三つ目の○について発言させていただきたいと思います。   被害者や御遺族御本人については,オンラインによる発受の例外とすべきと考えています。実際,ふだんの弁護士業務の中で,民事・刑事を問わず,法曹関係者以外の一般の当事者の方々と接しておりますと,通常,仕事などでパソコンなどをよく使われる方と,そのような環境にない方との間には非常に大きなギャップがありまして,オンラインによる発受が困難であろうと思われる方は大勢いらっしゃいます。ですので,被害者や御遺族,当事者の方にオンラインによる発受を義務付けるべきではないと考えています。   一方,被害者の代理人,刑事弁護人も含めてですけれども,弁護士については,障害のある方などを除き,大きな方向性としてオンラインによる発受を原則とする方向に向かうこと自体には異議はありません。ただし,第2回の検討会でも述べましたが,弁護士事務所の体制作りなども含めて,弁護士の中には即座に対応することが困難なケースがあるということも考えられます。民事手続のIT化も進んでおりますが,とはいえ弁護士というのは民事・家事・刑事・行政・民間なども含めて,広い分野でIT化に対応しなくてはなりません。そして,それら各分野の電子データの発受に関するシステムが全て同じであれば,対応も比較的容易であると思うのですが,恐らくそのようにはならず,様々なシステムにそれぞれ対応しなくてはならなくなる可能性が大きいように感じます。そのため,やはり刑事手続のIT化に関しても,当初は現状の方法とオンラインによる方法を並行して実施するなど,ある程度段階的に猶予期間を設けてもらえれば有り難いと考えています。 ○佐久間委員 「オンラインによる発受の例外」について,意見を言います。   先ほども重松委員が挙げられたようなシステム障害の場合を始めとして,オンラインによる発受を行うことが不可能又は困難な場合があり得ますことから,法律によるにしろ,運用によるにしろ,オンラインによる発受を原則化するに当たっては,例外的に,紙媒体の書類による発受など,オンライン以外の方法による発受を許容する場合を検討することが有用であり,また必要であろうと考えております。例外として考えられる具体的な場合としては,まず,災害による停電や通信障害が発生した場合のほか,システム障害などにより発受に係るシステムが利用困難となる場合が典型的な例として挙げられると思います。   刑事訴訟法では逮捕後の送致手続や控訴申立てなどについて厳格な時間制限が設けられておりまして,これらの時間制限は,人権の保障にもつながる厳格なものとして,各関係機関はこれを厳守して実務を行っております。通信障害やシステム障害が生じてオンラインによる発受が困難となった場合,紙媒体による発受などの例外を認めるなどの措置を講じなければ,期間内に必要な発受ができず,当事者に酷な結果をもたらす事態も想定されます。   また,そのほかにも,手書きで作成せざるを得ない図面や大型の図面など,そもそも電子データによる作成が困難な場合,あるいは電子データの容量が膨大なものとなるためオンラインで発受することが困難な場合,また,オンライン発受の方法によるとかえって関係機関等に膨大な事務負担が生じる場合なども想定されるところであり,これらの場合についてもオンラインによる発受の例外とするかどうかについて検討すべきだと思われます。  もちろん,例外とすべき場合というのはこれに限定されるものではないと思われます。具体的にどのような場合をオンライン発受の例外とすべきかについては,オンラインによる発受を原則化する目的や趣旨を踏まえつつ,現在の運用等も考慮しながら引き続き検討していくことが必要であろうと思います。 ○河津委員 オンラインによる発受の原則化と例外の在り方について,意見を申し上げます。   情報通信技術は国民の権利利益を守り,実現するためにこそ活用されるべきですので,情報通信機器を操作することのできない被疑者・被告人,被害者等の権利行使を困難にするべきではありません。したがって,こういった方にオンラインによる発受を強いることはできないと思われます。  また,例えば,上訴期間の最終日に機器の故障や回線の障害によりオンラインによる発受をすることができないような場合,紙媒体の書類を持参しても有効に受理されず,上訴の権利が失われるものとするのは国民の権利保護に欠けると言わざるを得ません。したがって,オンラインによる発受の原則化は,運用により原則化を図るか,あるいは仮に規定を設けるとしても,国民の権利を損ねることのないよう,やむを得ない事由のあるときは紙媒体による発受を許容する例外規定を定めるべきと考えます。 ○成瀬委員 ここまでの御議論を踏まえて,私も,三つ目の○にある「オンラインによる発受の原則化の対象」について意見を申し上げます。   法律によるにしろ,運用によるにしろ,仮にオンラインによる発受を原則化する場合,技術的な設備環境だけを見ると,まず,裁判所・検察庁・警察等の公的機関に関しては,オンラインによる発受に対応するためのシステムを含めたIT基盤等の環境整備も組織的に対応できると思われます。   次に,弁護人は,刑事手続の主たる当事者として,日常的に裁判所等との間で様々な書類を発受する立場にあり,刑事手続を情報通信技術の活用により効率化するという目的の達成のためには,弁護人についても,基本的には,裁判所等の公的機関と同様の立場で,オンラインによる発受を原則化することが望ましいと思います。また,大多数の弁護人は現在においても,弁護士として,パソコンを利用して刑事手続・民事手続等に係る書面等を電子データとして作成している上,業務上,インターネットを利用し得る環境下にもあるのが通常であると考えられることからすると,オンラインによる発受を原則化することは必ずしも困難ではないと思われます。したがって,先ほど吉澤委員がおっしゃったように,体制整備等の観点から段階的な対応は求められると思いますが,最終的には,弁護人をオンラインによる発受の原則化の対象に含めるのが相当であると考えます。   他方,被告人や被害者等については,先ほど吉澤委員や河津委員から御指摘がありましたように,そのIT環境やITリテラシー,つまり,IT技術利用のスキルが様々であり,オンラインによる発受の原則化の対象としてしまうと,中には,刑事裁判に必要な書類の発受ができなくなってしまう方が生じることにもなりかねません。こうしたことを考えますと,被告人や被害者等を原則化の対象とすることについては,なお慎重な検討を要するものと思われます。 ○笹倉委員 ただ今弁護人を原則化の対象にすることの適否について御議論があったところですので,私からも意見を述べたいと思います。   公的機関として予算の裏付けがあり組織的に対応し得る捜査機関や裁判所と異なり,基本的に個人事業者でいらっしゃる弁護人に関しては,御指摘があったとおり,事務所の体制上の問題があり得るほか,ただ今成瀬委員が用いられた言葉を使うならば,いわゆるITリテラシーが必ずしも高くない方がいらっしゃる可能性もあります。仮にオンラインによる発受を原則化するとしましても,原則化によって弁護人による適時の効果的な弁護活動が阻害される事態が生じかねないとすれば,それが望ましくないことは論を俟たないところであり,弁護人の事務所の体制やリテラシーに関する一定の配慮は確かに必要でしょう。  もっとも,既に御意見があったところですけれども,情報通信技術の活用による刑事手続の効率化という目的を達成し,かつ,紙と電子の混在による混乱を避けるためには,裁判所や捜査機関等の公的機関だけでなく,弁護人についてもオンラインによる発受を原則化することが適当であり,弁護人だけ原則化の対象から外すことは適切ではないように思えます。また,ITリテラシーの高低が弁護人の弁護活動にどの程度影響するのかということの評価は必ずしも容易ではありませんし,この概念の内実を過不足なく法的概念として構成することも難しいと思われますので,仮に,法律上原則化を定めるとする場合,弁護人のITリテラシーの程度による例外を同時に法定することは法技術的に困難であろうと思います。このことは,原則化を法定せずに運用上の原則化を推進する場合も基本的には同じです。   そこで,弁護人についても原則化の例外としないことを前提に,このような問題に対処する方策を考えてみますと,仮に法律上原則化するとした場合には,法律の成立から施行までの間,周知及び準備のための一定の期間を設けることは当然あり得ます。また,法律上原則化するか否かにかかわらず,裁判所・検察庁・警察等の公的機関において,ITリテラシーが相対的に低い方でも操作しやすく,ミスが生じにくいような書類発受のためのシステムやサイトを構築し,仕様もできるだけ統一するといった,技術面での対処も考えられます。さらに,必要に応じて弁護人に向けてシステム等の利用マニュアルの作成や説明会の開催といったサポートを行うことも考えられます。このように,対応能力が不足する弁護人がいるとすれば,そのような方に対しては実施面でフォローしていくことが相当ではないかと思います。   ちなみに,ITリテラシーという問題は,私ども大学で仕事をする人間にとっても決して他人事ではありません。昨年の春にコロナ禍への対応ということで急遽ITを駆使してオンライン授業をせよということになり,多くの教員は戸惑いつつも,皆何とかその能力を身につけ,1年半が経った今では,少なくとも私の周囲では,いわゆるデジタルネイティブの世代に属する若手の教員はもちろんのこと,年配の人たちも含めて,もはやほとんど当たり前のこととして対応できるまでになっているという状況です。いざとなれば皆,大抵の人は,何とかできるものではないか,と考えているところです。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   たくさん御意見を頂きましたけれども,ほかの論点もありますので,「(1)書類の作成・発受」については,この辺りで一区切りとしたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,「(2)令状の請求・発付・執行」についての議論に入りたいと思います。   資料22について説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料22について説明いたします。   資料1ページ目,「考えられる方策」の枠内には,「令状の請求・発付・執行」について考えられる方策として,①請求書及び疎明資料を電子データとしてオンラインで裁判官に送信する方法により,令状を請求することができるものとする,②令状に係る電子データ,これを便宜的に電子令状と記載しておりますが,電子令状をオンラインで捜査官に送信する方法により,令状を発付することができるものとする,③電子令状を紙面に印刷し,又は電子計算機の映像面上に表示したものを示すなどの方法により,令状を呈示することができるものとする,という方法を記載しております。   その上で,「検討課題」として,「その他」を含め3点記載しております。一つ目の「電子令状の方式」につきましては,「考えられる方策」②に関係するものとして,電子令状の記載(記録)事項としてどのようなものが考えられるかや,裁判官の「記名押印」に代わる措置として,作成の真正及び内容の真実性を担保することができる措置としてどのようなものが考えられるかなど,具体的に検討する必要があると思われる項目を記載しております。   二つ目の「電子令状の呈示」につきましては,「考えられる方策」③に関係するものとして,電子令状の呈示の方法としてどのような規律を設けるべきかにつきまして検討を頂く必要があると考えましたので,「検討課題」として記載しております。   資料22についての説明は以上であります。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ここでは,今説明がありました資料22の検討課題の全てについて議論いただきたいと思います。いずれの項目についてであるかを明らかにして,御発言をお願いします。 ○笹倉委員 では,検討課題「1」の最初の○について意見を申し上げます。   令状の請求や発付・呈示を電子的方法によって行うことができるものとすることの必要性については,手続の迅速化に資するといった意見が示され,このような方策を導入すべきであるという方向性についてはこの検討会では既に見解が一致していると認識しています。また,令状を電子データとして作成・発付することについては,令状主義の趣旨に照らして,処分の対象が明示され,その内容が捜査機関に認識可能であること,捜査機関がその内容を変更できないことが必要になるという御意見もあったところですが,電子データとして作成した令状によってもそのような要請に応えることは十分可能でしょうから,令状を電子データとして作成・発付することとしても憲法上の問題は生じないものと考えます。無論,電子令状が紙媒体の令状と同じ機能を果たすべきものであるとすれば,細部はともかく,基本的には,現行の令状の記載事項と同様の内容が電子令状に記録し,表示されるべき事項として定められるべきだと思います。   ところで,この点に関わる問題として,現行刑訴法上,有効期間経過後は令状を返還しなければならないとされている点について,電子令状は電子データであって,紙媒体と同様の返還を観念し難いことから,電子令状について返還に係る措置を規定する必要があるのではないかという御意見があったところです。また,有効期間経過後の返還は紙媒体の令状の記載事項とされていますが,電子データについては「返還」を想定しがたいところでもあります。もっとも,電子令状については,「返還」は観念し得ないとしても,技術的手段によって紙媒体の令状の返還と実質的に同じことを実現し得る旨の御意見もあったところであり,それについて特段の異論は示されなかったと思います。   そこで,紙媒体の令状の返還を義務付けることで何が実現されているのか考えてみますと,それは帰するところ,紙媒体の令状を裁判所に返還することで,物理的に捜査機関の手元に令状が残らず,したがって,有効期間を経過して失効した令状が捜査機関によって濫用・誤用される可能性が排除されることなのだろうと思われます。しかも,捜査機関が自ら令状を廃棄するのではなく,裁判所に現物が戻ってくることで,捜査機関の手元に残らないことがより確実に担保されると考えられているのでしょう。こうした観点からしますと,電子令状についても,有効期間経過後にそれを捜査機関の手元に残さず,かつ,そのことが裁判所に明らかになるような措置が必要になると思われます。   具体的な措置の内容としては,もとよりシステムの組み立て方による面もあると思われますけれども,例えば,捜査機関が手元にある電子令状の電子データを消去し,その旨が裁判所に通知されるようにすることが考えられます。この場合,消去の主体は裁判所ではなく捜査機関ですけれども,捜査機関の手元に令状データが残っていないことを裁判所が自ら確認し得る点では,紙媒体の令状が裁判所に戻ってくる場合と変わりがありません。あるいは,電子令状の有効期間が経過したことを捜査機関が裁判所に通知し,又は,有効期間の経過が自動的に通知されるよう発付時にあらかじめ設定しておき,それらの通知を受けた裁判所が遠隔操作によって捜査機関側のサーバ内にある電子令状を消去するという方法も考えられます。さらに,有効期間経過後の電子令状の取扱いについては,現行法の返還の趣旨を電子令状でも徹底するために,その消去等について,単に電子令状の記録事項とするだけでなく,消去等を端的に義務付ける規律を設けることを検討してみてもよいと考えます。 ○成瀬委員 私は,検討課題「1 電子令状の方式」の二つ目の○について意見を申し上げます。   第2回検討会で御指摘がありましたように,現行刑訴法上,令状について,「裁判官が,これに記名押印しなければならない」と規定されている趣旨は,作成の真正,すなわち,作成者本人がその意思に基づいて作成したものであることを担保する点にあると考えられます。そのため,先ほどの「書類の作成・発受」における議論と同様に,電子令状についても,こうした作成の真正を担保することができる措置を定めることが必要になると考えられます。  さらに,これも先ほどの「書類の作成・発受」における議論と同様ですが,事後的に改ざんの有無を判断することが困難であるという電子データの性質を踏まえ,電子令状への「記名押印」にも,事後的に改ざんの有無を検知することができる機能を有する措置を求めることが適当であるように思われます。  そして,これらの機能,すなわち,作成の真正を担保するとともに,事後的に改ざんの有無を検知することができる機能を有するものとして,電子署名法にいう「電子署名」が考えられるところです。  もっとも,「記名押印」に代わる措置として具体的にどのような措置を講じることとすべきかについては,今後の技術的進歩によって,作成の真正等を担保し得る,より効果的な技術が開発される可能性もありますので,そのような新たな技術をも活用できる規律にしておくことが望ましいと考えております。 ○池田委員 私は,引き続いて「2」の「電子令状の呈示」について,呈示の方法としてどのような規律を設けるべきかについて意見を申し上げます。   現行の刑事訴訟法上は,令状については処分を受ける者にこれを示さなければならないとされておりまして,令状そのものを示さなければならないという規定が置かれています。一方で,電子令状そのものは電子データから成るものであって,それ自体は人の知覚によって認識することができない方式で作られておりますので,直接これを示すことはできないとも考えられるところです。電子データである電子令状を示すためには,当該電子データに記録された情報を人の知覚によって認識することができる状態に表示するという手続を踏む必要がありまして,このような表示の手続を含めて,これを示すと言い得るかについて解釈上,疑義が生じ得ないでもないと思われます。そのため,刑事訴訟法に電子令状の呈示の方法を定める規定を置くことが適当であると思います。   その場合の電子令状の具体的な呈示方法については,第2回検討会において,令状呈示の趣旨からしますと,電子的に発付された令状を表示して,人の知覚によって認識することができるようにすれば足り,そのために,例えばタブレット端末に表示したり,電子的方法により対象者に送信したりして示すことや,紙媒体に印字したものを示すといった方法が考えられる旨の意見が示されており,このような意見に対して,特段異論は示されていなかったように思います。   その上で,こういった電子データで作成された書面の呈示ないし閲覧の方法についての現行法令上の扱いを見てみますと,例えば,株式会社の設立時に定款が電磁的記録をもって作成されている場合の閲覧請求について,会社法31条2項3号及び同法施行規則226条に規定がありまして,発起人は,当該電磁的記録に記録された事項を「紙面又は映像面に表示する方法」により表示したものの閲覧を請求することができると規定している例があります。こうした規定を参考にしますと,例えば,「考えられる方策」③に示されているように,電子令状の呈示の方式として,「電子令状を紙面に印刷し,又は電子計算機の映像面上に表示したものを示す」などの規定を設けることが考えられます。このほか,いわゆるe-文書法においても,書面の縦覧等について,これに代えて,当該書面に係る電磁的記録に記録されている事項又は当該事項を記載した書類の縦覧等を行うことができるものとされた上で,この規定により行われた縦覧等については,当該縦覧等を書面により行わなければならないとした縦覧等に関する法令に規定する書面により行われたものとみなす旨の規定が置かれております。これらの規定をも参考にしつつ,令状の呈示についての具体的な規律を検討する必要があるように思います。 ○永渕委員 私からは,「裁判官の『記名押印』に代わる措置」に関してお話をさせていただきたいと思います。   先ほど書類一般の「署名」・「押印」に関して述べたところとも重なるわけですけれども,電子令状において「記名押印」に代わる措置の具体的な方法をどのように定めるかにつきましては,電子令状の呈示が今後どのような方法で行われることとなり,これとの関係でどのような方法で作成者を表示することが効果的であるかといった点を踏まえつつ,様々な関係機関のシステムの在り方などについての今後の具体的な検討も踏まえながら,適正かつ合理的な方法を採るべきと考えている次第です。 ○河津委員 電子令状の呈示について意見を申し上げます。   本日の配付資料の「諸外国における情報通信技術の活用に関する法制・運用の概要」を見ますと,イギリスでは被処分者等に対し令状の写しを紙媒体で交付等する必要があるとされており,フランスでも対象者は令状の写しの交付を受けるとされていて,デジタル形式のまま電磁的方法により送信するなどして交付することが可能であるとされています。   我が国において,令状の呈示の趣旨は,手続の公正を担保するとともに被処分者の人権に配慮するところにあると理解しておりますが,実情としましては,被処分者である国民の多くにとって,令状を示されただけでその内容を十分に理解し,不服申立ての可否等を適切に検討することは著しく困難であると思われます。そして,電子令状を紙面に印刷し,又は電子計算機の映像面上に表示して呈示することができるものとする場合,紙媒体の原本の呈示と比較して,被処分者である国民にとっては,一見しただけで真正な令状であるか否かを判断することは一層困難になるとも考えられます。   他方,電子令状について紙面に印刷し,又は電子計算機の映像面上に表示して呈示することができるものとするのであれば,捜査官は電子令状を印刷した紙面又は端末に保存されたデータを携えていることになると思われます。場合によっては電子令状を複数の紙面に印刷し,複数の端末に保存することも想定されるのかもしれません。そうであるとすれば,印刷した紙面を交付すること,又は電磁的方法により送信して交付することを求めることは過剰な要求ではないように思われます。   令状手続の電子化は捜査の効率化に資するものであり,その結果として,令状の請求・発付の件数が増加するとの予想も可能であるように思われます。手続の効率化と同時に,手続の公正を担保し,国民の権利保護を図るために,電子令状の呈示については写しの交付によるものとすることも検討されるべきであると考えます。 ○保坂審議官 事務当局として,今の河津委員の御発言について質問したい点がございます。まず,令状の写しを交付することが適切な不服申立てにつながるという点についてですが,令状を示されただけでは何が書いてあるのか余り分からず,不服申立てがしにくいという話は,恐らく今の紙媒体の令状を示している場合にも同じように妥当する趣旨かと思われ,したがって,電子令状をタブレット上で示したり,あるいはそれをプリントアウトしたものを示すことによって特有に生じるものではないのだろうと思いましたが,何か特有なことがあるのかどうかというのがまず1点目です。   それから,電子令状を画面で示されたり,あるいはそれをプリントアウトして示されたものは,令状の紙媒体の原本を示された場合と比べて,それが本物かどうかが容易に区別できないということを違いとしておっしゃいましたけれども,そのことと写しを交付することがどうつながるのか,つまり,本物かどうかを確かめるために,写しが交付されるとどう役立つのか,この2点について教えていただけますでしょうか。 ○小木曽座長 河津委員,よろしいですか。 ○河津委員 承知いたしました。まず第1点目の,不服申立ての可否等を適切に検討することが著しく困難であるという点については,現在の令状の原本を呈示する方法によっても同様であるというのは,御指摘のとおりだと思います。この点については,手続の公正を担保するとともに,被処分者の人権に配慮するという趣旨が十分に実現していないという評価をせざるを得ないのだろうと思います。   他方で,電子令状を紙面に印刷し,又は電子計算機の映像面上に表示して呈示したとき,原本の呈示と比較して,被処分者である国民にとって真正な令状であるか否かを判断することが困難になることは,事実として想定され得るだろうと思います。令状の発付は,結果として,強制捜査の被処分者に大きな権利制限を加えるものですが,にもかかわらず,通常,令状発付の裁判に被処分者が関与することはできません。したがって,その権利保護のためには事後的な不服申立ての役割が重要であり,その可否を適切に判断するためには,令状の記載内容を十分に理解し,かつ検討できることが必要であると考えられます。仮に令状が真正で有効なものでない疑いがあったときには,直ちに裁判所に問い合わせるなどして対応できるところに,権利を保護する上での意義があるものと考えます。 ○小木曽座長 保坂審議官,よろしいですか。 ○保坂審議官 はい,取りあえず結構です。ありがとうございます。 ○小木曽座長 それでは,「令状の請求・発付・執行」について,ほかに御意見はよろしいですか。   ありがとうございます。それでは,一通り御意見を頂いたと思いますので,この議論はここで一区切りといたしまして,次の論点に入る前に若干休憩を取りたいと思います。 (休     憩) ○小木曽座長 それでは,議論を再開します。ここからは「(3)電子データの証拠収集」について議論したいと思います。   資料23についての説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料23について説明いたします。   資料1ページ目,「考えられる方策」の枠囲いの中には,電子データの証拠収集について考えられる方策として,①捜査機関は,犯罪の捜査をするため必要があるときは,裁判官の発する令状により,電子データを保管する者に対し,必要な電子データをオンラインで提供させることができるものとする,なお,これにつきましては,御議論の便宜上,「電磁的記録提供命令」との仮称を記載しております。また,②として,①の電子令状には,刑訴法107条1項に規定する事項として,提供させるべき電子データ及びこれを提供させるべき者を記載しなければならないものとする,という方策を記載しております。   その上で,これらの方策に関連する「検討課題」を,「その他」を含め3点記載しております。一つ目の「オンラインによる電子データの証拠収集」については,「考えられる方策」①・②に共通して関係するものとして,電磁的記録提供命令についての法的措置について,令状に基づき電子データをオンラインで提供することを命ずることができるものとするかなと,検討する必要があると思われる項目を記載しております。   二つ目の「令状の記載(記録)事項」につきましては,「考えられる方策」②に関係するものとして,対象となる電子データを特定するための規律を「検討課題」として記載しております。   資料23については以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,ここでは資料23の検討課題の全てについて御議論いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○成瀬委員 私は,検討課題「1」の一つ目の点について意見を申し上げたいと思います。   第2回検討会では,オンラインで電子データを取得する証拠収集方法について,捜査機関にとって記録媒体を入手する必要がない場合には,必要な電子データのみを入手することで証拠収集の目的は達成されるとの御意見や,捜査員の物理的な移動や記録媒体の準備が不要になるなど,捜査の迅速化・効率化が図られ,相手方である事業者にとっても事務負担や権利侵害が軽減されるとの御意見などが示され,このような証拠収集方法を導入するという方向性について,特段異論は示されなかったように思われます。   現行法上,電子データを令状に基づき取得する方法としては,差押えと記録命令付差押えがありますが,いずれも記録媒体という有体物の占有を取得する処分であり,電子データ自体を直接の対象とするものではありません。そのため,令状に基づき,電子データ自体を取得する処分を認めるには,それに対応した規律を設ける必要があります。   そこで,第2回検討会において池田委員から一案として示されたように,現行の記録命令付差押えを基礎とし,電子データ取得の方法を,当該電子データが記録された記録媒体の差押えからオンラインでの送信による提供に変更した処分類型,すなわち,資料の「考えられる方策」で示されているような,捜査機関が,令状に基づき,協力的な相手方に対し,必要な電子データをオンラインで捜査機関等のサーバへ送信する方法により提供させることができるものとすることが相当であると考えます。   このような令状に基づく証拠収集方法は,記録命令付差押えと比べても,記録媒体の占有を失うことがないという点で被処分者の権利制約の程度がより小さく,また,記録媒体の差押え手続の際の捜査官への対応といった被処分者の事務負担の軽減を図ることができるものであって,合理的であると思われます。   この証拠収集方法の特徴は,対象を有体物ではなく電子データ,法律用語でいえば「電磁的記録」とすることや,記録媒体を差し押さえるのではなく,オンラインで電磁的記録を提供することを命令することによりこれを取得することにありますので,「考えられる方策」に記載されているように,「電磁的記録提供命令」と呼ぶのがふさわしいと思います。   なお,この「電磁的記録提供命令」は,記録命令付差押えから「差押え」という捜査官による直接強制の手段を除外するものであり,令状に基づく処分でありながら,その証拠収集手続を基本的に被処分者側に委ねることになります。そこで,協力的な事業者などが被処分者となることが基本的に想定されるとしても,令状に基づく処分としての実効性を確保するための方策として,間接強制としての制裁を設けなくてよいかという点も,今後,検討すべきであると考えます。 ○池田委員 私からも「1」の二つ目の点について,意見を申し上げます。   「考えられる方策」の①には,主語として,「捜査機関は,」とありますけれども,差押えや記録命令付差押えなどについては,刑訴法上,裁判所も行うことができるとされておりまして,同様の検討が必要であろうと考えております。成瀬委員から,今,御指摘のありました,「電磁的記録提供命令」を設ける必要性として挙げられた事情,すなわち,データが手に入れば物の差押えまでは不要であること,あるいは,データの移転が強制できるのであれば,迅速化・効率化が図られ,あるいは被処分者の負担の軽減にもつながり,権利侵害の軽減にもつながること,これらは,裁判所による証拠収集の場面でも同様に当てはまりますので,裁判所も電磁的記録の提供を命ずることができるものとする必要性があると考えられます。   加えて申し上げれば,現行刑訴法では,記録命令付差押えも含めまして,捜査機関が令状に基づいて行うことができる押収に関する処分については,裁判所も行うことができるとされておりまして,捜査機関が令状に基づいて電磁的記録提供命令をすることができるとするのであれば,他の押収に関する処分との整合性の観点からも,裁判所が同様の命令をすることができることとするのが相当であって,その旨の規定を設けることが妥当ではないかと考えられます。   なお,裁判所の処分には刑訴法99条3項が定める提出命令もありますけれども,これは条文上,差し押さえるべき物を指定し,その物の提出を命じる,つまり,有体物の提出を命じるものとされているものでありますので,当該規定によっては電子データをオンラインで提供を命じるということはできないものと理解しております。 ○河津委員 オンラインによる電子データの証拠収集について,意見を申し上げます。   私も,裁判所についても電子データをオンラインで提供することを命じることができるようにすべきと考えます。弁護人も裁判所に証拠保全を請求することにより,電子データをオンラインで提供することを命じることを求めることが防御上,有用な事案も想定されます。したがって,当事者対等の観点からも,刑事裁判の質を向上させるためにも,それを可能とする必要があると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ただ今「1」について御意見がありましたが,課題には「2」の点もございますので,いかがでしょうか。 ○笹倉委員 検討課題の「2」について意見を述べます。   憲法35条1項は,「住居,書類及び所持品」の「侵入,捜索及び押収」について「捜索する場所及び押収する物を明示する令状」を要求しています。これらの処分の対象を「令状」に「明示」する以上は,その前提として,処分の対象が特定されていなければなりません。対象が不特定で曖昧であれば,明示することもできないわけですので,これは当然のことです。そして,この特定性が要求される理由は,手続の段階順で見てみますと,次のように考えることができます。第1に,対象が特定されているからこそ,捜索・差押えの根拠として憲法35条1項が要求する「正当な理由」の存否について,令状裁判官による実質的な審査が可能になります。第2に,捜索場所が特定され明示されていることにより,目的物が所在する蓋然性のある範囲でだけ捜索が許されるものとすることで捜索活動の外枠が設定され,かつ,その枠内でも目的物の発見に合理的に必要な範囲でしか捜索を許さないという意味で,捜索の空間的・場所的範囲が限定されます。そして,第3に,目的物の特定・明示によって差押えに当たっての誤りや逸脱が防止されます。   そこで,先ほど引き合いに出されました記録命令付差押えにおける対象となるデータの特定について見てみますと,刑訴法219条1項では,「記録させるべき電磁的記録」を令状に記載すべきものとされています。ここにいう「記録させるべき電磁的記録」の記載は,無論,今申し上げた憲法35条1項の特定性の要求を満たし得る程度に特定されている必要があります。そして,私の承知するところでは,現状の令状実務においては,例えば,「何年何月何日から何月何日までの間における電話番号何々番の携帯電話の通話履歴・通話日時・通話先」といった記載がされているところですが,このような記載があれば,第1に,令状裁判官が「正当な理由」の存否について実質的な判断をすることが可能です。そして,第2に,記録命令付き差押えにおいては記録すべきデータの検索・収集という捜索に相当する行為を捜査機関が自ら行うことはなく,通信事業者等の被処分者においてそれをいわば代行することになりますが,被処分者がどの限度で手元のサーバ等の中を探索すればよいか明らかになり,しかも,第3に,被処分者が記録媒体に記録すべき対象,すなわち,捜査機関による獲得の対象となるデータの範囲も明確になることにより,処分実行時の逸脱や過誤が防がれます。なお,この第3の点に関して,有体物としての記録媒体の特定に問題がないことはもちろんです。したがって,このような記載は,憲法35条1項の要請を満たしているということができます。   そこで,これとの対比で,電磁的記録提供命令における対象となる電子データの特定について考えてみますと,第2回検討会において池田委員が示唆され,また,先ほども,成瀬委員がおっしゃったとおり,理論的には,電磁的記録提供命令は,現行法上既に存在する記録命令付差押えを基礎とした処分であると見ることができ,電磁的記録提供命令と記録命令付差押えとは,当の電磁的記録を捜査機関が獲得する方法が記録媒体の差押えであるかオンラインでの提供を受けるかという点で異なるにすぎません。そのことからしますと,記録命令付差押えの実務におけるのと同様の記載があれば,憲法35条1項の要請を満たすと考えることができます。そうしますと,条文上,令状に記載すべきものとして規定する事項は,現行法の219条1項と同じように,「記録させるべき電磁的記録」とするのが相当でしょう。そして,その令状における具体的な記載の仕方についても,現行の記録命令付差押えにおけるそれと同様でよいと考えます。   なお,裁判所が記録命令付差押えをする際に発すべき令状については107条1項が219条1項と同じ文言を用いて記載事項を定めているところであり,池田委員,河津委員の御意見にありましたように,裁判所,したがってまた,証拠保全の請求を受けた裁判官にも電磁的記録提供命令の権限を認めるとすれば,それについて裁判所ないし裁判官が発すべき令状の記載事項については,捜査機関による電磁的記録提供命令の令状におけるそれと同様としてよいと考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   「電子データの証拠収集」について,ほかに御意見いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,「1」と「2」について一通り御意見頂戴できたと思いますので,ここからは(4)に移りまして,「閲覧・謄写・交付」についての議論をいたしたいと思います。   まず,資料について説明をお願いします。 ○仲戸川室長 資料24について説明いたします。   資料の「考えられる方策」の枠囲いには,「閲覧・謄写・交付」について考えられる方策として,①電子データである証拠等の「閲覧」・「謄写」・「交付」について,オンラインでこれを行うことができるものとする,②セキュリティ確保の観点から,①の「閲覧」等について技術的基準に関する規定を設けるという方策を記載しております。   その上で,これらの方策に関連する「検討課題」を,「その他」を含め4点記載させていただいております。一つ目の,「必要となる法的措置」につきましては,「考えられる方策」①に関連するものとして,「閲覧」・「謄写」について,電子データである証拠等を対象とするための法的措置,「閲覧」・「謄写」等をオンラインで行うことができるとするための法的措置という具体的に検討する必要があると思われる項目を記載しております。   オンラインによる閲覧等につきましては,電子データの特性から,証拠のデータが漏えい・流出した場合の弊害が大きいと思われますことから,二つ目の,「セキュリティ確保のための方策」として,「考えられる方策」の②に関し,セキュリティ確保の観点から,技術的基準に関する規定を設けるかなどについて「検討課題」として記載させていただいております。   三つ目の「対象とする証拠等の範囲」につきましては,オンラインによる閲覧等の対象外とすべき証拠等についての規定を設ける必要があるかについて「検討課題」として記載させていただいております。   資料24についての説明は以上であります。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それでは,これにつきましては,検討課題の「1 必要となる法的措置」,それから「2 セキュリティ確保のための方策」について,まず議論いただきまして,その後で「3」の「対象とする証拠等の範囲」以降について議論いただくというふうにして,「1」・「2」と「3」以降を分けて御議論いただきたいと思います。   まず,「1」・「2」について御意見をお願いいたします。 ○成瀬委員 私は,まず,検討課題「1」の「必要となる法的措置」のうち,一つ目の点について意見を申し上げます。   第2回検討会でも申し上げたとおり,現行法におきましても,「閲覧」・「謄写」は証拠物をも対象としており,その証拠物が,電子データが記録された記録媒体である場合には,電子データの内容を画面に表示させて視認したり,電子データの複製を記録した別の記録媒体の交付を受けたりすることが,実務上,行われているところ,これは電子データの内容を「閲覧」・「謄写」していることにほかなりません。そうすると,現行法の「閲覧」・「謄写」は,電子データである証拠の内容を画面に表示させて視認することや,その複製を得ることを概念上含んでいるとも解され,現行法上,特段の措置を講じることなく,電子データである証拠の「閲覧」・「謄写」を行うことはできると考える余地もあります。   その一方で,「閲覧」とは,一般に,書面等の内容を見ることを意味するとされているところ,電子データについては,その特性上,電子データ自体を視認することはできず,電子データの内容を画面に表示するという行為を介して,その内容を認知することができるものです。この点を踏まえますと,電子データの内容を画面に表示して視認することが「閲覧」という概念に含まれることについて,確認的に規定することも考えられます。   また,「謄写」については,一般に,書き写すこと,写し取ることを意味するとされ,基本的に,「謄写」の対象となるものが有体物であることを前提としていると思われます。現行刑訴法を見ますと,電磁的記録の写しの作成に係る規定では,「謄写」という文言は記録媒体について用いられ,電磁的記録については「複写」という文言が使われていることからすると,電磁的記録の複写が「謄写」という概念に含まれるとすることについて,解釈上,疑義が生じるおそれがないとはいえないので,これを確認的に規定することも考えられます。   続きまして,検討課題「1」の二つ目の点についても意見を申し上げたいと思います。  電子データである証拠等の「閲覧」・「謄写」をオンラインで行うことができることとすることについては,第2回検討会において,セキュリティ面での課題や「閲覧」等を認める証拠の範囲に関する検討が別途必要となるという御意見は示されたものの,おおむね異論はなかったように認識しております。   そこで,そのための法的措置の要否について考えてみますと,刑訴法の「閲覧」・「謄写」は,299条1項等に記載されているように,それらの「機会を与え」れば足りるものとされ,その具体的な方法については,法令上,定められていません。電子データである証拠の「閲覧」・「謄写」をオンラインで行うことは,語義としてデータの閲覧・データの複写がそこに含まれるかという問題を別とすれば,「閲覧」・「謄写」の具体的な方法の問題であると整理することができますので,新たな法律上の措置を講じなくとも,オンラインによる「閲覧」・「謄写」を行うことができると考える余地もあります。   もっとも,第2回検討会では,複数の委員から,電子データである証拠の「閲覧」・「謄写」をオンラインで行うことができるようにするに当たっては,第三者への漏えいなどを防止するためのセキュリティ確保の措置を講じることが重要であるという御指摘がなされ,それを踏まえて,私が,セキュリティ確保の観点から,オンラインでの「閲覧」・「謄写」の方法を無限定とすることは適切ではないため,その条件などの技術的事項について規律を設ける必要があるという意見を申し上げたところ,特段の異論は示されなかったと認識しております。   また,証拠一覧表の「交付」については,これも第2回検討会で申し上げたとおり,「交付」という言葉が有体物を前提としたものであると考えられることから,電子データとして作成・管理された証拠一覧表をオンラインで弁護人に提供することができることとするに当たっては,法的措置を講じる必要があると思います。  加えて,現行の刑訴法では,弁護人による公訴提起後の訴訟に関する書類の「閲覧」等や,証拠保全がされた書類及び証拠物の「閲覧」等については,「裁判所において」という場所的な制限が付されていますが,これらの「閲覧」等についてもオンラインによることができることとするためには,「裁判所において」という場所的制限をなくすための法的措置を講じる必要があると思われます。 ○佐久間委員 資料では,電子データである証拠等の「閲覧」・「謄写」・「交付」について,オンラインによりこれを行うことができるものとするとありますけれども,オンラインによる閲覧等を原則化すべきかという視点から意見を述べたいと思います。   前提として,現行法における実務での証拠開示の対応について申し上げます。まず,刑訴法299条によりますと,公判前整理手続や期日間整理手続に付されていない事件については,検察官は証拠書類等を「閲覧する機会」を与えれば足りるとされておりますが,実際のところ,通常は,弁護人の防御準備のために謄写の機会まで与えております。この点,性犯罪の犯行時に撮影された動画データなど,謄写の機会を与えることが相当ではない証拠については,検察官は,原則どおり,「閲覧する機会」のみを与えることで,電子データの複製が作成されて流出する危険や,第三者がその内容を見るという事態が生じないように配慮しております。具体的には,性的動画等については弁護人に検察庁に来庁してもらい,庁舎内の閲覧・謄写室などにおいて,場合によっては検察事務官の立会いも付した上で,閲覧を行ってもらうようにしております。   また,公判前整理手続に付された事件においては,刑訴法316条の14によって,検察官は,弁護人には,証拠書類等を「閲覧し,かつ,謄写する機会」を与えなければならないこととされておりますが,一方,検察官は,対象となる証拠の内容・性質等を考慮して,裁判所に開示方法の指定等を求めたり,類型証拠について,「必要と認めるときは」開示の方法を「閲覧」のみに指定したりすることができるなど,証拠開示の方法について一次的に判断することとされております。もとより刑訴法316条の25に定められている裁判所による裁定等の制度はありますけれども,証拠開示の方法における検察官の判断については,今私が述べたことが刑訴法上定められておりまして,検察官は公判前整理手続に付された事件においても,性的動画等については開示方法を「閲覧」のみに指定し,弁護人等に検察庁の庁舎内での「閲覧の機会」のみ与えるという運用をしております。これが実務の運用でございます。   オンラインによる証拠の「閲覧」については,これまでの検討会で吉澤委員が懸念されておられますように,コンピュータ画面等に表示された画像等をデジタルカメラやスクリーンショットなどで撮影するなどして,実質的に謄写の機会を与えたのと同様の状況が作り出されたり,あるいは閲覧先で第三者にその内容を見られてしまったりするという事態が生じかねませんし,そうなれば,検察官が証拠の内容を踏まえて謄写の機会までは与えないこととした意義が失われかねないという懸念がございます。また,オンラインによる「閲覧」の閲覧先の状況を監視する制度上の担保や,画面の撮影などを防止するための技術的な措置があるのかというと,実際,考えにくいところでございます。   そもそも,電子データである証拠の「閲覧の機会」や「謄写の機会」については,オンラインによる方法だけではなく,「閲覧」の具体的態様といたしましては,コンピュータの画面に表示された電子データの内容を確認する,紙媒体に印字された電子データの内容を確認するなどの態様も考えられます。また,「謄写」の具体的態様といたしましては,電子データをUSBメモリなどの別の記録媒体に複写する,電子データを紙媒体に印字するなどの態様が考えられます。「閲覧」であれ,「謄写」であれ,いずれかの態様によりその機会を与えれば,検察官としてはその義務を果たしたことになるのでありまして,「閲覧の機会」を与えたといえる,あるいは「謄写の機会」を与えたといえるのであれば,その具体的な態様をどうするのかということについては検察官に委ねられているといえます。   オンラインによる「閲覧」については,弁護人等のサイドから見ますと,時間的・経済的,いずれのコスト面においても大きなメリットをもたらすものであり,オンライン閲覧に対する強い御要望があるものと推察いたします。とはいえ,今述べたような深刻な弊害が生じる可能性があることは否定できず,また,その弊害を防止する方策を見いだすのが現時点では容易ではないと思われること,また,検察官が個々具体的な事案の証拠の内容を踏まえながら,適切な「閲覧の機会」や適切な「謄写の機会」の具体的態様を一次的に判断するという現行の仕組みにはなお合理性があると思われますことから,証拠開示をオンラインの方法によることを原則化することについては,これらの問題を踏まえた上での慎重な検討が必要であると思っております。 ○保坂審議官 事務当局から,問題提起も含めて,河津委員に質問したい点があるのですが,オンラインにより「閲覧」・「謄写」させるということについて,「閲覧」と「謄写」というふうに並べておりますけれども,証拠物的なデータを別として,いわゆる証拠書類といわれるものについて見ますと,この「閲覧」と「謄写」というのがかなり相対化するのではないかという観点から御質問いたします。  通常事件におきましては,検察官は,証拠開示の方法としては「閲覧の機会」を与え,それで足りることになるわけですが,弁護人の方にはその法律上の要請を超えて,謄写の機会まで与えているのが実態だろうと思われます。その趣旨というのは,証拠書類の内容は,情報が多いものですから,それを弁護人がいつでも確認できることによって防御の準備に資するようにするということだろうと思われます。つまり,「閲覧」ということになりますと,検察庁に営業時間帯に来ていただかなければいけない,そうしますと,いつでも内容を確認するというわけにいかないので,「謄写」,つまり,紙のコピーをとっていただいているということだろうと思います。   それを前提として,仮にオンラインによる「閲覧」というものが,弁護人がアクセスできるサーバに証拠書類データが保存されていて,そこにアクセスして内容が確認できると,こういう仕組みを構築するということを想定いたしますと,弁護人としては,いつでもその証拠書類の内容を確認できるということになります。そういたしますと,これまで紙媒体の時代には謄写の機会まで与えてきた,その目的を達することができるように思われますけれども,その点についてはいかがお考えでしょうか。 ○小木曽座長 河津委員,よろしいですか。 ○河津委員 御質問ありがとうございます。御指摘のとおり,刑訴法の条文上は,公判前整理手続に付されていない事件においては,相手方に対し,これを「閲覧する機会」を与えなければならないと規定されています。ただ,実務上は謄写の機会を与える慣行が確立していると言うことができると思います。私は20年以上,弁護士として刑事事件を担当しておりますが,一般的に謄写を申請せずに閲覧だけで済ませたということは一度もありませんし,弁護人として証拠を請求する際は,こちらで写しを作成した上で検察官に交付しています。また,被告人も,当事者として,防御のために検察官側の証拠を検討することが必要ですが,勾留されている被告人は弁護人から写しの差し入れを受けることによって証拠を検討することが可能になっています。今日の刑事事件で請求され,あるいは開示される証拠の量は,恐らく現行刑訴法制定当時とは比較にならないほど多くなっていることもあり,閲覧,つまり,読むだけで公判準備をするというのは,およそ現実的ではありません。公判前整理手続に付された事件に限って謄写の機会を与えるべき合理的な理由はありませんので,公判前整理手続に付された事件についての規定は,謄写の機会を与えるという確立した実務慣行を前提としたものであると理解しております。   オンラインでの閲覧は検察庁の開庁日や開庁時間帯の制約を受けないというのであれば,その点においては検察庁での閲覧よりも公判準備に資するといえますが,先ほど申し上げたとおり,今日の刑事事件で請求・開示される証拠の量を考慮すると,読むだけで公判準備をするのは現実的ではありません。オンラインで閲覧することができるだけではなくて,オフライン環境でも内容を確認したり,印刷して被告人に差し入れをしたり,印刷して専門家に交付して,その意見を聴いたり,書き込みをしたり,付箋を貼ったり,色を塗ったり,切り貼りして尋問用のメモを作成したり,弁論で用いるスライドに引用したり,そういったことができないのであれば,閲覧によって謄写に代替することはできないと思われます。特に,証拠そのものが電子化された場合,文書データを検索したり,通常の画面には表れないデータを解析したりすることは弁護活動においても必要となり,そうすることが刑事裁判の質の向上にもつながると考えられます。そのためにも,証拠は閲覧することができるだけでは十分ではなく,ダウンロードできることが必要です。   御質問いただいて,もう一つ気になったことを申し上げますと,弁護人が検察庁のシステムにアクセスして証拠を閲覧するものとした場合,検察官が弁護人の証拠の閲覧状況を監視することができるものとすることには非常に大きな問題があると思われます。相手方当事者が準備の過程でどの証拠に注目し,どの証拠には余り注目していないのかをのぞき見ることができるというのは,裁判の公正さを害するものです。特に,被告人の立場に置かれた国民の権利を擁護するため,国家機関から独立した立場で行われるべき弁護活動が検察によって監視されるというのは問題が大きいと思われます。オンラインによる閲覧等のシステムを検討するに当たっては,この点,特に御留意いただきたいと思います。 ○小木曽座長 保坂審議官,よろしいですか。 ○保坂審議官 取りあえず結構です。 ○永渕委員 先ほどの佐久間委員からの御発言に関連して,少しだけお話しいたします。   今後,裁判所がオンラインによる閲覧・謄写を認めるか否か,これを判断するに当たっては,検察官が証拠開示に当たってオンラインによる閲覧・謄写の対象外としたか否か,こういった情報も考慮要素の一つになり得るものと考えております。 ○笹倉委員 既に御議論があったところとも重なりますけれども,「2」の「セキュリティ確保のための方策」について意見を述べます。   既に過去の検討会でも様々な御指摘があり,また,私自身も意見を述べましたが,刑事事件で取り扱う情報は関係者の名誉・プライバシーに関わるもの,捜査の秘密に関するものなど,一般に秘匿の要請が高いものが多くあり,それらの情報が漏えいすることは厳に避けなければなりません。取り分け電子データについては複製が容易であり,これが万が一漏えい・流出した場合には,インターネットを通じるなどして際限なく拡散され,回収困難になるおそれが強いなど,紙媒体に比して漏えい・流出した場合の弊害が大きいといえます。   先ほど,佐久間委員から,証拠開示の実務について御紹介がございました。検察の実務においては,現在においても,電子データの漏えいの危険性に留意されていて,例えば性犯罪の犯行時に撮影された動画などについて,検察庁における閲覧のみを開示の方法として指定することがあるというお話でございました。他にも,取調べ状況を記録した記録媒体の謄写については,その謄写の枚数を制限するとか,あるいはインターネット等により外部に接続した機器を用いて記録媒体を再生することの禁止とかいった条件を付したりするなどして,電子データの漏えい防止のための措置を講じていらっしゃるものと聞き及んでいます。   今後,電子データである証拠のオンラインによる閲覧ないし謄写が行われるようになれば,証拠である電子データが送信元のシステムから公衆回線を経由して弁護人の端末等に送られたり,あるいは,先ほど御議論があったところですけれども,ダウンロードされたりすることになります。無論,証拠開示は双方向ですので,弁護人の発信したデータが検察庁のサーバに送られることにもなります。そうしますと,紙媒体の書類の開示,あるいは,電子データについてメディアを物理的に受け渡すという方法でも開示をしている現状に比べた場合,公衆回線,あるいは送信元・送信先における電子データの漏えい・流出のリスクがあるため,情報が漏洩する危険が増加すると言わざるを得ません。このことから,情報セキュリティの確保のための更なる措置を講じる必要性が高いことについては,本検討会での皆さんのお考えは一致しているものと思います。そこで,裁判所や検察庁のシステム等の情報セキュリティ基準はもとより,使用する通信回線や,弁護人が用いる端末や通信環境についても,安全性確保のための措置等を内容とする法的規律を設けるべきだと考えます。   第5回の検討会において,進関係官から,電子データに暗号化措置を施す措置,アクセス権限として,ファイル開封権限,印刷権限などを設定する措置などの技術的措置が紹介されました。こうした技術的措置は,電子データの閲覧等の際のセキュリティ確保のための措置として活用し得ると考えられますことから,こうした措置も,安全性確保のための法的規律に含めるべき技術的事項として検討することが有用であると思われます。ただし,法的規律といっても,法律,政省令,裁判所規則という選択肢があるわけですが,これらの事項に関しては,弁護人のお使いになる端末等も対象に含める必要がありますことから,基本的部分は法律によって規律を及ぼすことになりましょうか。もっとも,技術的・細目的な基準や内容は法律で事細かに規定することにはなじまないでしょうから,最高裁規則によるのか,政省令に規定するのかは検討の余地があるにせよ,それらに委任することになるのだろうと考えます。 ○河津委員 「セキュリティ確保のための方策」について,意見を申し上げます。笹倉委員も御指摘になったとおり,刑事手続で取り扱う情報の中には秘密として守られるべきものもあり,セキュリティの確保を図る必要性はあると考えます。ただし,セキュリティ確保が目的であったとしても,被告人側の防御活動・公判準備に不当な制約が加えられ,防御権が侵害されるべきではありませんし,捜査機関・訴追機関が情報通信技術を活用して公判準備をすることができるのと同様に,被告人側も情報通信技術を活用した公判準備をすることができるようにしなければ,対等性・公平性が損ねられることになります。刑事訴訟法等に技術的基準に関する規律をどのように設けるのか,ややイメージしにくいところもあるのですが,何らかの形で規律を設けるのであれば,防御権及び弁護権が侵害されてはならないことが留意されるべきであると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ここまで「1」と「2」について御意見を頂戴しましたが,ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,「3」の「対象とする証拠等の範囲」についても御意見を頂きたいと思います。 ○池田委員 対象外とすべき証拠等についての規定の要否について,意見を申し上げます。   既に意見を申し上げているところと重なりますが,刑事事件で,「閲覧」・「謄写」の対象となる証拠等の中にはセンシティブなものも多く含まれておりまして,取り分け性犯罪に係る画像や動画などが一たび流出した場合に,被害者等に回復し難い損害を与えるということは想像に難くないところです。こうした場面での被害者の心情や,こうした事態が発生することに対して被害者の方が持たれるであろう懸念などを想像してみますと,法律において,一定の証拠はオンラインによる「閲覧」等の対象外とする旨の規定を設けるということも検討に値するという意見を申し上げたところです。他方で,そのときにも併せて申し上げたことですけれども,こうした明文の規定を設けて一定の証拠をオンラインによる「閲覧」等の対象外とするという扱いとすることについては,その要否や当否について慎重に検討する余地があるものと考えております。   現状でも,先ほど佐久間委員から御指摘がありましたとおり,検察官において証拠開示の方法について一次的に判断するものとされており,「閲覧」・「謄写」の具体的な方法あるいは態様の選択について,検察官が一定の裁量権を有していると解されます。そのため,検察官において対象となる証拠の内容・性質等を踏まえた上で,オンラインによる「閲覧」等に適したものといえないと判断し,それを認めず,それ以外の方法による「閲覧」等とした場合であっても,閲覧等の機会を与えたといえるものであれば,そうすることによって義務を果たしたことになると考えられます。さらに,永渕委員によりますと,こうした検察官の判断は,裁判所の判断においても考慮要素とされているという御指摘を頂いております。   他方で,オンラインによる「閲覧」等が相当でないと考えられる証拠は,これまで申し上げてきた性的画像等に限定されるものでもなく,例えば被害者作成の日記帳であるとか,被害者の携帯電話機のメール送受信履歴など,様々なものが考えられますし,そのほかにも企業秘密などの情報も含まれ得るものと思われます。そのため,オンラインによる「閲覧」等が相当でない証拠について,その外縁を明確に確定し,法律に網羅的に規定することには困難な面があることは否定し難いとも思われます。   以上のことからしますと,オンラインでの「閲覧」等に適さない証拠の扱いについては,現行制度と同様に,検察官による個別の事案あるいは証拠に即した判断・対応に委ねるという方策によることも考慮しながら,規定を設けて対処することの必要性について慎重に検討する必要があると考えております。 ○吉澤委員 先ほど,オンラインによる「閲覧」・「謄写」を原則化するかという観点から佐久間委員も御意見を述べられていましたが,私からは,対象とする証拠等の範囲と関連して意見を述べます。   オンラインによる閲覧についてですが,これまでも述べてきましたように,性犯罪に関する動画や画像,御遺体が撮影されているなどのいわゆる刺激証拠などは,オンライン閲覧の対象とすべきではないと考えています。また,先ほど池田委員も指摘されていましたが,他の被害者支援を行う弁護士から,このような証拠のほかにも,被害状況とは無関係な被害者のプライバシーに関わる情報が記録されたものなどについても閲覧のみという対応がされているケースもあると聞いていますが,こういった現在閲覧のみという対応がなされているケースにおいては,オンラインによる閲覧を認めるべきではないと考えています。といいますのも,これまでも述べてきましたが,一たびパソコン画面でその閲覧対象となる動画や画像が映し出されると,それをカメラなどで撮影することで,閲覧のみとしていたものが謄写できてしまうということになるためです。よって,これらのものについてオンラインによる閲覧は認められるべきではないと考えています。   また,謄写についてですが,謄写が認められる以上,複製が弁護人の手元に渡るということは当然認められるのですが,その謄写の方法について全て当然にオンラインによるとするのも適切ではないと考えています。現在,謄写の方法としましては,書証については,検察庁にあるものを紙媒体に謄写するという方法,動画については,それを記録した記録媒体の交付を受けるなどといった方法で行っていると思います。これが全てオンラインという方法で行うということになりますと,やはりどうしても従前の方法よりも流出のリスクが出てきてしまうのではないかと考えます。令状請求など官同士の話であれば,堅牢なシステムであることが大前提ですので,流出のリスクは極めて低いと思われますし,そうでなくては困るのですが,弁護士事務所とつなぐとなりますと,幾ら弁護士事務所に備えるべきシステムなどについて制限をかけても,やはり官同士でのやり取りと比較して流出のリスクは大きくなってしまうのではないかという懸念があります。一方で,もちろんオンラインによる謄写の利便性は大きいものがありますし,被害者の代理人弁護士も請求証拠などの開示を受けることがありますので,オンラインの方法によることで問題がないものはオンライン謄写を可能としてもらいたいというニーズもあります。   以上のことからしますと,今後,将来的には,技術の進歩によって弁護人や被害者代理人の事務所も含め堅牢なシステムが構築される可能性もあるので,そのようなときには全面的にオンライン謄写が可能となることもあるかと思いますが,現時点におきましては,刑事弁護活動や被害者代理人の活動を容易にするという要請と,一方で拡散されることによる弊害の大きさを踏まえ,性的画像や動画,いわゆる刺激証拠などが代表的なものですが,後者の弊害が大きい類型については,オンラインによる謄写を認めない,他方でそのような弊害がそこまで大きくないと思われるものについてはオンライン謄写で行うことができるというように,証拠の内容や堅牢なシステム構築の有無など,ケースによって柔軟に対応できるようにするのが望ましいのではないか,その点から規定の要否についても慎重に考えるべきではないかと考えています。 ○河津委員 第2回会議でも申し上げましたが,紙媒体での閲覧・謄写は,限られた資源で自らを防御しなければならない被告人に無用な費用と作業を生じさせ,迅速な裁判を受ける権利も損ねておりますので,オンラインで閲覧・謄写できるようにする必要性は大きいと考えます。   他方で,証拠の中には性的画像のように取扱いに特段の配慮をすべきものもあります。そのような証拠については,本日も佐久間委員から御紹介のあったとおり,現状の実務においても開示に当たり条件等が付されることがあり,弁護人と検察官との間の協議を経るなどして,防御上の必要性がなければ,弁護人が検察庁を訪問して閲覧することにとどめるなどの運用が行われています。しかし,事案によっては,その証拠のデータを解析することが防御上,必要なこともあります。そのような場合にそうした防御活動を不可能とすることは,防御権に対する不当な制約であると言わざるを得ず,刑事裁判の事実認定を誤らせるおそれもあります。そのような証拠については,オンラインではなくUSBメモリ等の可搬記録媒体でデータを交付するという方法も考えられますが,そのような方法は必ずしも一般的にオンラインより安全とはいえないように思われます。   したがって,あらかじめオンラインによる閲覧等の対象外とする証拠を規定するのではなくて,取扱いに特段の配慮をすべき証拠については検察官と弁護人の協議,最終的には公判前整理手続における裁判所の裁定によって,防御権との調整を図るのが適切であると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   この点について,ほかに御意見よろしいでしょうか。   それでは,「(4)閲覧・謄写・交付」について一通り御意見を頂いたということで,次に参りたいと思います。「(5)公判廷における証拠調べ」です。   資料25の説明をお願いします。 ○仲戸川室長 資料25について説明いたします。   「考えられる方策」の枠囲いには,「公判廷における証拠調べ」について考えられる方策といたしまして,電子データとして管理されている証拠について,公判廷における証拠調べの方式を定めるものとするという方策を記載しております。   これに関連する「検討課題」を,「その他」を含め2点記載しております。「必要となる法的措置」といたしまして,電子データである証拠について,最も適当と考えられる証拠調べの方式として,どのようなものが考えられるかについて,具体的に検討いただきたいと考えており,これを「検討課題」として記載しております。   資料25についての説明は以上であります。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   こちらも資料25の検討課題全体について,まとめて御議論いただきたいと思います。それでは,お願いいたします。 ○成瀬委員 刑事手続において書類を電子データにより作成・管理・発受することを基本とする以上,公判廷でも,電子データそのものを証拠として取り扱い,これを取り調べることとすることが合理的であると考えます。そして,第2回検討会では,現行刑訴法上,電子データそのものを証拠として取り調べる規定はないことから,電子データとして管理されている証拠について,公判廷における証拠調べの方式を定める規定を設けるべきであるという意見が,私を含め複数の委員から示されたところであり,本検討会の意見は,その方向で基本的に一致しているものと認識しています。  そこで,本日は,具体的にどのような規定が望ましいかという点について意見を申し上げます。   第2回検討会でも申し上げたとおり,現行法の規定は,証拠の種類や性質等に応じて,公判において的確な心証を形成するため,一般的に最も適当と考えられる方式を規定したものであり,他により適当な方式がある場合には,それが明文で規定されていないものであっても,その方式によって証拠調べを行うことが許容されると解されています。  電子データについても,従来の紙媒体で作成されてきた書類に代わるようなものから,音声・映像データのようなものまで,様々な種類・性質のものがあり得るため,現行法のような規定の在り方が望ましいと思います。すなわち,一般的に最も適当と考えられる証拠調べの方式を規定し,他のより適切な方式によることを妨げない趣旨のものとすることが考えられます。   以上を前提として,具体的な証拠を念頭に考えてみると,従来,紙媒体で作成されてきた証拠書類のうち,供述を記録し,又は録取した,いわゆる供述証拠については,電子データで作成したとしても,基本的にその言語的内容だけを証拠とするものと解されます。紙媒体である証拠書類について,その内容を感得し,的確な心証を形成するには,「朗読」が最も適切な方法であると考えられることから,現行法では,「証拠書類の取調べをするについては・・・・・・朗読させなければならない」と規定されているところであり,電子データのうち,その言語的内容だけに証拠としての価値があるものについても,紙媒体で作成された証拠書類と同様に,その内容を感得し,的確な心証を形成する方法として,「朗読」が最も適切であると考えられます。そこで,電子データのうち,その言語的内容だけを証拠とするものについては,現行の規定に倣い,その内容の「朗読」という方式を規定することが考えられます。   他方,電子データのうち,その言語的内容以外の部分,例えば,画像・音声や,体裁・状態などといった内容が証拠となるものや,検証調書中の図面や写真などについて,その内容から的確な心証を形成するためには,当該電子データに記録された内容を,電子計算機やディスプレイ等の出力装置を用いて表示するなどし,人の知覚によって認識することができる状態にすることが必要です。そこで,電子データのうち,その言語的内容以外の部分が証拠となるものについては,何らかの出力装置を用いて当該電子データの内容を「表示」するという方式を規定することが考えられます。   さらに,従来の証拠書類に代わるものとして作成された電子データのうち,例えば,要証事実との関係で,体裁が問題となる契約書や,フォント等が問題となる脅迫メールのように,その言語的内容のみならず,その体裁や状態などといった言語的内容以外の部分も証拠となるものについては,現行法の「証拠物中書面の意義が証拠となるもの」の取調べに関する規定に倣い,「朗読」に加えて「表示」をすることと規定することが考えられます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   この点について,ほかに特段御意見はないでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございます。それでは,(5)につきましても御意見を頂いたということで,本日予定の議事はここまでであります。ありがとうございました。   次回の予定についてですが,本日は論点項目の大項目「1」の(1)から(5)まで二巡目の議論をしていただいたということになります。今後は,次回と次々回で論点項目「2」・「3」についても二巡目の議論を行いたいと考えております。次回会議ですが,論点項目の「2 捜査公判における手続の非対面・遠隔化」,こちらには(1)から(7)まで項目がありますけれども,これを二つに分けまして,次回は(1)取調べ等,(2)被疑者・被告人との接見交通,(3)打合せ・公判前整理手続,(4)証人尋問等まで,二巡目の議論をしたいと考えております。   本日の議事につきましては,特段,公表に適さない内容はなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することといたしまして,配付資料についても公表することにいたしたいと思います。よろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。それでは,そのようにいたします。   では,事務局から次の予定をお願いいたします。 ○仲戸川室長 次回,第7回会議でございますが,10月18日月曜日の午後1時15分からの開催を予定しております。本日同様,ウェブ会議方式での開催とする予定であります。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 本日はこれにて閉会です。   どうもありがとうございました。 -了-