刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第7回) 第1 日 時  令和3年10月18日(月)     自 午後1時12分                           至 午後3時56分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ○ 議論(捜査・公判における手続の非対面・遠隔化)          (1)取調べ等          (2)被疑者・被告人との接見交通          (3)打合せ・公判前整理手続          (4)証人尋問等 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○仲戸川室長 ただいまから刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第7回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 皆様こんにちは。本日も,御多用中のところ御出席いただきましてありがとうございます。   議事に入る前に,前回の会議以降,委員の異動がありましたので紹介いたします。   重松弘教警察庁刑事局刑事企画課長に代わりまして,本日は,鎌田徹郎警察庁長官官房審議官に御出席いただいております。初めてですので,鎌田委員,一言頂戴できるでしょうか。 ○鎌田委員 警察庁の刑事局担当審議官の鎌田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 よろしくお願いいたします。   それでは,本日の配付資料について,事務当局から確認と説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 本日は,議事次第及び委員の御異動を反映した令和3年10月18日付け委員等名簿のほか,資料26から29までをお配りしております。ウェブ会議の皆様におかれましては,お手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の方々につきましては,ただいま申し上げた資料を机の上に用意しておりますので,御確認ください。   資料26から29は,本検討会における論点項目のうち,「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の(1)から(4)までの各論点について,前回の会議で御説明したのと同様,「考えられる方策」の枠囲いの中に,事務当局において,方向性について認識が共有されたと思われるものを整理して記載するとともに,方策の在り方について,両論があり得ると思われる点について,「A案」・「B案」などと記載したものであります。また,検討を要すると思われる点について,「検討課題」として記載しております。それぞれの内容につきましては,後ほど御説明いたします。   配付資料の確認,説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは議論に入ります。   本日は,第6回の会議に引き続きまして,議事次第にあるとおり,論点項目の「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の(1)から(4)までの4つの小項目について,二巡目の議論をしていただきたいと思います。   早速,「(1)取調べ等」についての議論に入りたいと思います。   資料26についての説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料26の「2(1)取調べ等」について御説明いたします。   資料の1ページ目の「考えられる方策」の枠囲いには,取調べ等について考えられる方策として,まず,取調べの際の供述録取についての規律として,「① ビデオリンク方式による取調べの際の供述は,調書に代えて電子データとして録取することができるものとし,これをオンラインにより,電子計算機等の映像面に表示させて閲覧させ又は読み聞かせて,誤りがないかどうかを確認させるものとする。」「② ①の際に,供述者が増減変更の申立てをしたときは,その供述を当該電子データに記録しなければならないものとし,供述者が,当該電子データに録取された内容に誤りのないことを申し立てたときは,これに署名押印に代わる措置を求めることができるものとする。」とし,次に,証拠能力の規律として,「③ 刑訴法321条1項2号の『検察官の面前』に,ビデオリンク方式による場合を含むことを規定上明示する。」とし,さらに,弁解録取・勾留質問について,「④ 一定の要件の下で,検察官の弁解録取をビデオリンク方式により行うことができるものとする。」「⑤ 一定の要件の下で,勾留質問をビデオリンク方式により行うことができるものとする。」という方策を記載しております。   その上で,これらの方策に関する「検討課題」を,「その他」を含め6点記載しています。「1」の「ビデオリンク方式による取調べ」につきましては,「ビデオリンク方式による取調べができることについて,規律を設ける必要性」を記載しております。「2」の「供述調書の作成方法」につきましては,「考えられる方策」①と②に関係するものとして,「ビデオリンク方式による取調べの際の供述調書の作成方法に関する規律を設けるか」などを記載しております。「3」の「刑訴法321条1項2号の『検察官の面前』」につきましては,「考えられる方策」③に関係するものとして,「刑訴法321条1項2号の『検察官の面前』にビデオリンク方式による場合を含むことを規定上明示するか」を記載しています。「4」の「ビデオリンク方式による検察官の弁解録取」及び「5」の「ビデオリンク方式による勾留質問」につきましては,「考えられる方策」④・⑤に関係するものとして,それぞれについて「要件を設けることの要否・当否」や,「被疑者を警察署等に所在させて行うことの要否・当否」などを記載しています。   資料26についての説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   では,議論に入りますが,このテーマにつきましては,資料26の検討課題の「1 ビデオリンク方式による取調べ」,「2 供述調書の作成方法」,「3 刑訴法321条1項2号の『検察官の面前』」,ここまでをまず御議論いただきまして,その後,「4 ビデオリンク方式による検察官の弁解録取」以降について議論いただくことにしたいと思います。   それでは,まず,検討課題の「1」・「2」・「3」について御意見を頂戴したいと思いますが,いずれの項目であるかについて明らかにした上で,御発言をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○笹倉委員 検討課題「1」のビデオリンク方式による取調べが許容される旨の規律を設ける必要性について,意見を述べます。   第3回の検討会で私も若干発言したところですけれども,現行刑訴法の198条あるいは223条を読んでみますと,取調べをビデオリンク方式により行うことを禁止・制限する趣旨が含まれているとまで解することはできません。かえって,現行法の下でも,捜査機関の判断と裁量によって,取調べをビデオリンク方式により行うことは可能であろうと考えられます。この点について,これまで特段の御異論は出ていないものと承知しています。   その上で,あえてその許容性を明示する規定を設けるとするならば,その趣旨は,現行法の下でもできるはずのことをただ確認する点にのみ存することになります。しかし,そもそも,現行刑訴法においては,取調べの方法について,いわゆる黙秘権の告知以外に特段の規定が設けられているわけではありません。そのこと自体の当否の評価は分かれ得ますけれども,この検討会のアジェンダはその点の検討にはないわけですので,そこに立ち入らずに考えるとしますと,ビデオリンク方式による場合についてのみ特に許容性の規定を置くことは,取調べの方法については取調べ機関の判断と裁量に委ねるという現行法の基本姿勢と整合しない嫌いがあります。それにもかかわらず,あえてそのような明文を設けますと,その存在ゆえに,かえって,これ以外の取調べの方法の許容性について疑義を生むことにもなりかねません。現行法の文言上,ビデオリンク方式による取調べの許容性を刑訴法198条ないし223条に読む込むことに特に支障があるというわけではありませんから,あえてビデオリンク方式に限ってそれを許容する旨の規定を設ける必要性や相当性はないように考えます。 ○池田委員 私からは,検討課題の「2」の調書の作成方法に関する規律について,2点併せて意見を申し上げます。   まず,調書の作成方法ですけれども,刑事訴訟法の規定によりますと,被疑者の供述を調書に録取することができるという規定があります。ここにいう調書への録取は,供述された内容を聞き取った者が,その内容を紙媒体に記録することを意味すると考えられます。したがって,オンラインでなされた被疑者の供述を,録取者が紙媒体にではなくて,電子データで記録するのであれば,そうすることができるものとする旨の規定を設ける必要があると考えます。   次に,作成された調書の内容を確認する方法として,現行法には,「閲覧」又は「読み聞かせ」が規定されております。このうち,「読み聞かせ」については,ビデオリンク方式による映像・音声の送受信により,口頭で調書,又はこれに代わるものとして作成される電子データの内容を読み上げて聞かせることも,「読み聞かせ」に当たるものということができるように思います。  他方で,「閲覧」については,これは一般的に書面等の内容を見ることを意味すると解されますけれども,供述の記録である電子データを捜査官の所持する電子計算機等の映像面に表示させて,オンラインを介して閲覧させることも,これは書面ではないものの,現行法でいう「閲覧」に含まれると解することもできるようにも思われます。   ただ,今申し上げたように,映像面の提示は,紙媒体を閲覧させるものではないという点においては,従来の閲覧の方法とは異なりますし,また,既に言及したこともあるのですが,いわゆるe-文書法の規定には,書面の「縦覧等」,この「縦覧等」には「閲覧」を含むとされていますけれども,それに代えて,当該書面に係る電磁的記録に記録されている事項の縦覧等を行うことができるとした上で,それを書面により行われたものとみなす旨の規定が置かれていることにも鑑みますと,電子データの内容を映像面に表示して確認させる方法も,「閲覧」に当たることを確認的に規定することも考えられるように思います。   こうした考え方は,捜査官が所持する電子計算機を供述者に見せるという場面を想定して述べたものですが,供述人側に置かれた電子計算機等の映像面に表示して確認させるという形式を採る場合であっても,同様に当てはまるように思います。  その上で,閲覧等をした供述者が,電子データへの増減変更の申立てをしたときは,その旨を当該電子データに記録しなければならないものとする規定を設けることが考えられます。   2点目の署名押印に代わる措置に関する部分については,供述者が閲覧等した上で,電子データに録取された内容に誤りのないことを申し立てたときは,これは紙と異なり,データそのものには署名押印できないことに鑑みますと,署名押印に代わる措置を求めることができるものとする規定を設ける,その上で,実際には,これも既に出ているところですが,例えば,タッチペンで氏名を手書きするとか,あるいは指紋を画像データで採取して貼り付けるといった対応をすることが考えられるように思います。 ○吉澤委員 私からは,1点目のビデオリンク方式による取調べができることについて,規律を設ける必要性という点について述べます。   第3回の検討会では,参考人の取調べについてビデオリンクで行うことができるなどといった条文を入れ,整理することも望ましいのではないかと発言いたしましたが,方向性としましては,いずれにしましても,被害者や参考人の負担が軽くなる方策が多く認められることこそが重要だと考えております。ですので,先ほど笹倉委員から御指摘があった点なども考慮しますと,ビデオリンクによる取調べができることを明確にする規定を置くことなく,今後も運用上の取扱いとして,被害者の負担が軽くなる方向で,柔軟に様々な方策での取調べを可能とする運用上の配慮をしていただくということも,十分に考えられるものと思っています。 ○小木曽座長 そのほか,「1」,「2」,「3」についていかがでしょうか。 ○成瀬委員 私は,検討課題の「3」について意見を申し上げます。   第3回会議でも申し上げましたが,刑事訴訟法321条1項2号が,同項3号に規定する書面よりも緩やかな要件の下で,検察官面前調書に証拠能力を認めている趣旨は,検察官が,公正な立場で犯罪の捜査と公訴の維持を行う法律家として,様々な角度から供述者に質問を投げ掛け,その供述の正確性・真実性を多面的に分析する役割と能力を有することを前提に,当該調書に録取された供述が,そのような検察官による取調べを経て得られたものであるという点に求められます。   そうしますと,ビデオリンク方式による検察官の取調べによって得られた供述も,検察官による取調べを経て得られたものであるという点では変わりがない以上,その供述を録取した書面について,刑訴法321条1項2号により証拠能力を認めるのに必要な基礎に欠けるところはありません。供述者が,聴取や録取の際,検察官と物理的に同一の空間に所在していたかどうかは,証拠能力を認める趣旨との関係では,意味を持たないのです。   このように,刑訴法321条1項2号の趣旨に鑑みれば,同号の「面前」という文言には,ビデオリンク方式による取調べの場合も含み得ると考えられますが,同項1号の「面前」については,ビデオリンク方式による場合を含むと規定しているところであり,これとの関係で解釈上の疑義が生じないようにするため,同項2号の「面前」についても,ビデオリンク方式による場合が含まれることを確認的に規定することが相当と考えます。   その上で,さらに,第3回会議においては,ビデオリンク方式,すなわち映像と音声の送受信による場合のみならず,音声のみの送受信による検察官の取調べで得られた供述も,刑訴法321条1項2号の「検察官の面前」における供述に含まれるかという問題について,検討してみたいと申し上げ,自分に宿題を課しておりましたので,この点についても考えたことを申し上げます。   仮に,先ほど申し上げた刑訴法321条1項2号の趣旨が,検察官が供述者に対し口頭で必要な質問を発するということをもって充足され,検察官と供述者とがお互いの状態を認識していることまでは必要とされないと解するのであれば,検察官が音声のみの送受信により供述を録取した場合も,実質的な意味では,「検察官の面前」で行われたものと同様であると考えることができます。  もっとも,このような考え方に対しては,以下に述べるような批判もあり得ます。第一に,音声のみで足りるとすることは,「面前」という文言から離れるのではないか。第二に,検察官による供述の正確性・真実性の吟味においては,供述者の状況を視覚的に観察することもその要素の一つになり得るのであり,音声のみでは正確性・真実性の吟味を十分に行うことが難しい場合もあるのではないか。第三に,音声のみでは供述人の挙動や表情等を把握できないため,例えば,読み聞け手続の際に,供述人が調書の内容確認を十分に行っているかについて検察官が確認できないのではないか,といった批判です。  このように,音声のみの送受信による取調べが刑訴法321条1項2号の趣旨を満たすかについては,両論あり得るところですので,引き続き検討していく必要があると思います。 ○佐久間委員 ただいま成瀬委員から,刑訴法321条1項2号の趣旨などを踏まえた御発言がありましたが,実務的な観点から補足いたしますと,検察官としては,諸事情を踏まえて非対面で取調べを行う場合であっても,通常は,音声だけではなく映像の送受信もできるビデオリンク方式を選択することになると思われます。検察官の現在の捜査の在り方を前提といたしますと,供述調書を作成する取調べで,音声のみの送受信によって取調べを行うということは,余り想定されていないのではないかと思われます。 ○河津委員 検討事項「3」に関連して,意見を申し上げます。   ただいま成瀬委員からは,検察官と供述者とが同じ空間にいることについて,証拠能力との関係では意味がないという御指摘があったところではありますが,ビデオリンク方式による取調べを行う場合,供述者が取調官とは別の環境で供述をすることになることから,供述者側の環境により,例えば,第三者の同席などによって,不当な影響を受けた供述がなされないようにすることが,課題にはなるように思われます。   取調べにおける供述者の所在場所を一律に規制する必要があるとまでは考えませんが,当該供述者が,公判期日において供述することはできない場合等に,伝聞例外として証拠となる検察官調書については,録取された供述が供述者側の環境によって不当な影響を受けたものでないことを確保する必要性は大きいのではないかと考えられます。また,検察官の取調べは,第一次捜査機関である警察の取調べの影響を一旦遮断して行われることにも,一定の意義があると考えられますが,例えば,被疑者の身柄を警察の取調室に置いたまま,検察官が被疑者と対面せずにビデオリンク方式で取調べを行う場面を想定すると,それは,類型的に影響の遮断が不十分であり,そのような取調べで作成された検察官調書が,刑訴法321条1項2号書面として公判の証拠とされてよいのか,疑問があります。   刑訴法321条1項1号の裁判官面前調書については,ビデオリンク方式による場合を含むことが明記されておりますが,その場合,供述者の所在場所は,現行規則上,おのずから裁判所構内に限定されることになります。刑訴法321条1項2号書面についても,ビデオリンク方式による場合の供述者の所在場所を,検察庁や拘置所内の取調室に限定することが,供述者の環境が供述に不当な影響を与えるものでないことを確認し,かつ,警察の取調べの影響を遮断する方法として合理的なのではないかと考えます。 ○保坂審議官 今の河津委員の御発言の途中の部分が理解できないところがあったので,確認したいのですけれども,警察署に被疑者を置いたまま,検察官がビデオリンク方式によって取り調べると,不当な影響を除去できないとおっしゃったんですが,それは,検察官が警察署に赴いて,供述を面前で,正にリアルでの面前で聴取する場合には除去されているはずの不当な影響力が,ビデオリンクになるとなぜ除去されないのか,逆に言うと,ビデオリンクになると,なぜ警察署にいること自体によって不当な影響があるというのかがよく分からなかったので,もう少し説明していただけますでしょうか。 ○河津委員 審議官の御発言の前半部分がよく聞き取れなかったのですけれども,要するに,現在検察官が警察署に赴いて取調べを行う場合とどのように違うのかという趣旨の御質問だという理解でよろしいでしょうか。   警察署に検察官が赴く場合は,被疑者と直接対面することになり,その被疑者の供述の環境を検察官自身が確認をすることができるというのが,違いだと思います。ビデオリンク方式による場合には,検察官が直接被疑者と対面しないことになりますので,被疑者が外部からどのような影響を受けているのかの観察が制限されること,さらに,被疑者が置かれている場所自体を確認することができないことから,同じ部屋の中,あるいはすぐそばに警察官が所在するのかどうかを確認することができない,この点が,検察官が警察署に赴く場合とビデオリンク方式による場合とでの違いであると考えております。 ○保坂審議官 ちょっとしつこいようですが,それは,警察署の取調室にいる被疑者の取調べをビデオリンク方式でやった場合に,その取調室の中に,例えば,捜査担当の警察官がいるかどうかが,ビデオリンクでは分からないではないかと,こういう意味ですか,それとも,警察官が取調室にはいなくても,周囲にいるかもしれない警察署であるという一事をもって,ビデオリンク方式によると不当な影響力が及ぶと,こういう御趣旨でしょうか。 ○河津委員 それは,両方あり得るのだろうと思います。供述者が供述している部屋の環境を直接観察することができないということもありますし,その所在場所によって,心理的な圧迫等を受けていないことを検察官自身が対面して確認することができない,その両方の意味において,ビデオリンク方式による場合と警察署に赴く場合とで違いがあるのではないかという趣旨の意見です。 ○小木曽座長 保坂審議官,よろしいですか。 ○保坂審議官 取りあえず,結構です。 ○小木曽座長 検討課題「1」,「2」,「3」について,ほかに御意見はいかがでしょうか。   よろしければ,ここからは,「4」と,それから「5」について御議論いただきたいと思います。「4」と「5」について,御意見がある方はお願いいたします。 ○笹倉委員 では,「4」の(1)要件を設けることの要否・当否と,(2)要件を設ける場合の要件の在り方について,意見を述べます。   弁解録取や勾留質問の目的は,被疑者に弁解の機会を与え,又はその陳述を聴取することにより,留置の必要性や勾留の裁判の前提となる事情を収集し,また,その慎重な判断を可能にすることにあると考えられますが,ビデオリンク方式による聴取であるがゆえにそのような目的を達成し得なくなるかというと,そういうことはないであろうと考えます。また,現行法上も,弁解録取や勾留質問の具体的な方式について制限は設けられていませんし,弁解録取や勾留質問をオンラインで実施すべき実際上の必要性がある場合に,これをあえて制限する理由も特にはないと考えられます。   もちろん,被疑者を警察署等の司法警察職員が管理する場所に所在させたまま弁解録取を行うことの可否といった司法警察職員による影響の遮断の問題は,別途議論する必要があるでしょう。しかし,その点を除けば,オンラインか対面かの違いに応じて法律上の位置付けに差を付けること,つまり,ビデオリンク方式による弁解録取や勾留質問に限ってこれを法律上特に限定する理由はなさそうです。したがって,それに特化した実施要件を殊更に設けるまでの必要はないように思います。 ○池田委員 私からはここでの4番と5番の,それぞれの三つ目の○,被疑者を警察署等に所在させて行うことの要否・当否について,意見を申し上げます。   弁解録取や勾留質問について,ただ今笹倉委員からも御指摘があったように,被疑者を警察署等の留置施設に所在させたままビデオリンク方式で行っても,それぞれの制度の趣旨や目的を実現することが可能であるというのは,そのとおりだと思います。他方で,これまでの議論でも御指摘があったように,これまでこれらの手続が,現実に検察庁や裁判所に被疑者を押送した上で行われてきたことによって果たされてきた機能にも留意する必要があると思います。つまり,物理的に異なる場所に赴き,異なる役割の人物に対して,自らの言い分を聞いてもらうという機会が設けられることで,それまでに被疑者と関わってきた捜査機関等の影響が遮断された状態が得られてきたのに対し,ビデオリンクの場合は,少なくとも物理的な場所の移動がなくなることの当否が問題となります。   その一方で,法律上は,これらの手続を実施すべき場所が明示されているものではございませんので,場所の移動を伴わないことが,直ちに違法となるわけではないように思われます。もちろん,それまで手続を行ってきた機関の影響が色濃く残ったままこれらの手続を行えば,手続の各段階であえて別の機関が弁解を聞く,あるいは質問することとした意味が損なわれることとなり得ます。しかし,場所を移動しないと常にそうした問題が不可避的に生じるかというと,例えば,留置施設等で弁護人との接見が行われる場合を考えてみれば,物理的な場所の移動を伴わなくても,被疑者が虚心に自らの見解を述べる環境を整備することは可能と考えられます。   そうすると,もちろん外部への押送は,弁解録取や勾留質問の意義を担保するための端的な方法ではありますけれども,それが唯一のものというわけではなく,ビデオリンクによる弁解録取や勾留質問も,相応の配慮を伴うことによって,それらの手続の意義が損なわれない形で実施することが可能であると言えるように思います。そうした対応が考えられる以上は,特に被疑者を検察庁・裁判所に引致することが困難であるような場合を念頭に置くと,警察署等に所在させたままビデオリンク方式により弁解録取・勾留質問を行うことを一切許容しないとすることは,硬直的に過ぎ,現実のニーズには対応することができないのではないかと思います。   例えば,検察官や裁判官が,自らの立場やこれらの手続の意義について丁寧に説明することなどによって,司法警察職員らの影響が遮断されると認められる場合に,実施方法の一つとしてビデオリンクを選択することには問題がないと考えられますので,そのことを確認的に規定することは考えられるのではないかと思います。 ○成瀬委員 ただいまの池田委員の御発言を受けまして,私は,検討課題の「4」の三つ目の○のうちの一つ目の点,すなわち,刑訴法203条1項及び205条1項の文言との関係について,意見を申し上げたいと思います。   この点につきましては,私が,第3回会議において,現行刑訴法上,司法警察員は逮捕した被疑者を「検察官に送致する」こととされ,当該「被疑者を受け取つた」検察官が弁解録取を行うこととされているため,弁解録取の前提として,被疑者の身柄を物理的に検察庁に移すことが必要となるかについて,刑訴法203条・205条の趣旨に照らして検討する必要があるという問題提起をさせていただきましたので,この問題について考えたことを申し上げます。   先ほど池田委員からも御指摘がありましたように,この場面において重要なのは,司法警察職員による心理的影響が遮断された状態を確保することであり,被疑者が弁解録取の手続を受けるために警察署等から検察庁に物理的に移動させられること,それ自体に何らかの法的な権利・利益が認められているわけではないように思います。   そもそも,身柄送致の場面で検察官に求められる役割は,逮捕された被疑者に対して弁解の機会を与えるなどし,その弁解を踏まえて,勾留を請求する必要があるかどうかについて,司法警察職員とは異なる立場から慎重に判断することにあると解されます。このような検察官の役割は,被疑者を警察署等に所在させたまま,検察庁からビデオリンク方式により弁解録取を行うとしても,司法警察職員による心理的影響が遮断された状態が確保されるのであれば,十分に果たし得ると思われ,検察官が必ず被疑者と物理的に同一の建物内に所在しなければならないとする理由は見当たらないように思われます。   そして,身柄の送致について規定する刑訴法203条は,事件の送致について規定する246条の特則として位置付けられているところ,246条の「送致」の意義は,当該事件に関する権限行使を検察官に委ねることにあると解されており,203条の「送致」の意義も,246条の「送致」と同様に,身柄に関する権限を検察官に移すことと解することができるように思われます。  このように考えますと,現行法は,被疑者を物理的に検察庁の建物に必ず移さなければならないとする趣旨ではありませんので,被疑者を警察署等に所在させたまま,検察官がビデオリンク方式により弁解録取を行うことも許容されると解され,この点について,特段の法的手当ては不要であるとも思われます。   他方で,解釈上の疑義をなくす観点から,「これを検察官に送致する」,「被疑者を受け取つた」という文言について,被疑者を警察署等に所在させたまま,ビデオリンク方式により弁解録取を行うことができる旨の確認規定を設けることも,一案として検討に値しますので,引き続き検討していく必要があると思います。 ○鎌田委員 私は,被疑者を警察署に所在させたまま,弁解録取等を行うことについて発言いたします。   警察といたしましても,飽くまでも例外的なものといたしまして,被疑者を警察署に所在させたまま,ビデオリンク方式により検察官の弁解録取や勾留質問を行うことを,制度上の選択肢として整理しておくこと自体に異論はございません。   その上で,実施場所を提供する立場から一言申し上げるのであれば,第一線の警察署におきましては,日々刻々と変化する状況の中で,犯罪のみならず,様々な治安事象の対応に当たっているところでございまして,必ずしも,常に実施場所の確保等ができるわけではないということでございます。したがいまして,弁解録取や勾留質問以外のものも含め,被疑者等を警察署に所在させたまま,ビデオリンク方式により行う手続の運用に当たりましては,警察署側の人的・物的制約といった観点も十分に踏まえて対応いただく必要があると考えているものでございます。 ○永渕委員 検討課題の「5」,勾留質問に関して若干お話ししたいと思います。   被疑者を警察署等に所在させた状態で勾留質問を実施することにつきましては,例えば,感染症のまん延時など,特に必要性が高い場合があり得るだろうと思います。その上で,本検討会の第3回会議でも申し上げましたが,勾留質問の実施に当たりましては,捜査機関の影響を排除し,被疑者の陳述の任意性を担保することが重要であると思われますので,被疑者を警察署等に所在させた状態で勾留質問を行うか否かは,そのような環境が確保されるか否かによると思われます。 ○河津委員 勾留質問において,被疑者を警察署等に所在させたままビデオリンク方式を用いることについては,幾つかの問題があると思われます。   まず,勾留質問において,被疑者を警察署等に所在させたまま供述させた場合,捜査機関の影響力が十分に遮断されず,被疑者が任意かつ十分な供述をすることができないという事態が想定されます。私が担当した検察官独自捜査事件で,検察官調書の証拠能力が否定された事案がありましたが,その事案では,検察官が自白調書を作成した後に,勾留質問で被疑者が否認供述をしたところ,その日のうちに検察官が勾留質問の供述内容を否定する自白調書を作成したという経緯がありました。このように,供述は捜査機関の圧力により容易にゆがめられることがあることからしても,被疑者を捜査官が所在する警察署等に所在させ,他方で,裁判官が面前には存在しないという環境では,そもそも裁判官に対して任意かつ十分な供述をすることができないおそれは,現実的にあると思われます。   また,勾留の裁判をする裁判官には,被疑者が不当な身体拘束を受けていないかをチェックし,不当な身体拘束を受けた被疑者を釈放する役割が期待されており,その役割を果たすため,裁判官は被疑者の態度や顔色を十分に観察し,被疑者の身体的・精神的状況も評価して,勾留の判断をしているものと理解しております。勾留質問がビデオリンク方式で行われる場合,対面の場合と比較して観察が不十分となり,評価が不正確なものとなるおそれがあることは,弊害として意識される必要があると考えます。   さらに,我が国特有の問題として,多くの被疑者が長期間にわたり警察署に留置され,生活を管理・支配される中で,長時間取調べを受けるという実情があります。勾留質問で裁判官の面前に連れていかれる場面は,警察の管理・支配から物理的に離れる数少ない機会であり,その機会を奪うことは,この我が国特有の問題を更に深刻なものとするように思われます。   以上申し上げた問題点は,検察官の弁解録取についても同様に当てはまると考えます。   被疑者が重大な感染症に罹患しており,関係者への感染を防止しつつ押送することが不可能と言えるような場合についてまで,一切の例外が許容されないとは考えませんが,実務の現場にいる者として,率直な懸念を申し上げると,関係者にとって利便性の高い例外を設けると,立法者の想定よりも拡大的に運用されるおそれは大きいと思われますので,もし例外を設けるのであれば,相当厳格な要件を定めることが必須であると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   一通り御意見を頂戴できたと思うのですが,よろしいでしょうか。時間の都合もありますので,よろしければ,次の論点にまいりたいと思いますが,よろしいですか。   それでは,取調べ等についての議論は,ここで一区切りいたしまして,次は,(2)被疑者・被告人との接見交通についての議論に入りたいと思います。   それでは,資料27について,説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料27の「2(2)被疑者・被告人との接見交通」について御説明いたします。   資料1ページ目の「考えられる方策」の枠囲いには,被疑者・被告人との接見交通について,「考えられる方策」として,①として接見について,「A案 刑訴法39条1項の『接見』について,ビデオリンク方式による場合の規律を設ける。」,「B案 措置を講じない。」という二つの案を記載しております。また,②として書類の授受について,「A案 刑訴法39条1項の書類の授受について,電子データをオンラインで送受信する方法による場合の規律を設ける。」,「B案 措置を講じない。」という二つの案を記載しています。   その上で,これらの方策に関する「検討課題」を,「その他」を含め4点記載しています。   このうち,「1」の接見につきましては,「考えられる方策」の①に関係するものとして,「刑訴法39条1項の『接見』について,ビデオリンク方式による場合の規律を設けることに,必要性,相当性はあるか。」や,「弊害が生じないためにどのような方策が採り得るか。」などを記載しています。「2」の書類の授受につきましては,「考えられる方策」②に関係するものとして,「刑訴法39条1項の『書類…の授受』について,電子データをオンラインで送受信する方法による場合の規律を設けることに,必要性,相当性はあるか」や,「弊害が生じないためにどのような方策がとり得るか」などを記載しています。「3」の関連事項につきましては,「ビデオリンク方式による『接見』における通訳について,ビデオリンク方式による場合の規律を設けるか。」を記載しています。   資料27についての説明は以上です。 ○小木曽座長 このテーマについては,まずは資料27の検討課題の「1 接見」について御議論いただきまして,その後に「2 書類の授受」以降についても議論いただくということにいたしたいと思います。   それでは,まず,「1 接見」について御意見を頂きたいと思います。 ○笹倉委員 では,「1 接見」の最初の○,必要性・相当性について,若干考えていることがありますので,申し上げます。   「接見」という言葉は,刑訴法39条1項と80条に出てきますけれども,この接見については,被疑者・被告人が収容・留置されている刑事収容施設内で対面により行うことを当然の前提としてこれまで解釈・運用されてきました。刑訴法上の接見にビデオリンク方式による外部交通が含まれるとすること,つまり,刑訴法上の接見をビデオリンク方式により行うことを認めるとなりますと,これらの規定との関係が問題となります。   取り分け,刑訴法39条1項の権利であるところの刑訴法上の接見を,ビデオリンク方式により行うことができるものとしますと,それはすなわち,刑事収容施設内での対面の接見と並んで,オンライン接見の権利が,刑訴法39条1項によって保障されていると考えることになります。そうしますと,弁護人と被疑者・被告人が,立会人なくしてビデオリンク方式による接見を原則としていつでも自由に行う権利を法律上有することとなりますから,全国の刑事収容施設において,罪証隠滅や逃亡の防止の要請に応え,かつ,施設の規律や秩序も維持できるという条件を満たしつつこれに対応するための設備や機器を新たに整備する必要が生じることになります。しかし,刑事収容施設の物的制約や予算措置上の制約が直ちに解消されるとは限りませんから,権利として保障してみたところで,少なくとも当面の間は,その行使がかなわないという事態が生じるおそれ,あるいは,地域や場所によって保障を受けられたり受けられなかったりすることになるおそれもあります。そのような事態が生じても構わない,できるところからやっていけばよい,不均衡が生じても仕方ないと割り切ることも一案ではありますが,そうではなく,権利として保障する以上は,その保障は全国一律かつ一斉のものでなければならないものとしますと,事案や地域・場所による不均衡が生じないものとして運用できるだけの前提が確保されていなければなりません。ちなみに,いわゆる「面会接見」に関する最高裁の判例は,刑訴法39条1項の権利は,同条2項・3項の定めに該当する場合のほかは,必ずそこに書かれているとおりの態様で保障されなければならず,個別の事情に応じて保障内容を緩めてもよいようなものではない,つまり,いわば「固い」権利なのだという捉え方を前提としていると考えられます。だからこそ,同条1項の権利とは区別されたものとして,柔軟性を持たせた「面会接見」という外部交通の方法を編み出したのでしょう。そのことにも照らしますと,ビデオリンク方式による外部交通を可能にするとしても,刑訴法39条1項の接見と同様の権利性があるものとしてこれを認めるかどうかについては,慎重な検討が必要であろうと考えます。   刑訴法39条1項の権利とした場合の,全国一律かつ一斉に同一条件で保障しなければならないという硬直性を避けつつ,ビデオリンク方式による外部交通を実現するとすれば,刑訴法39条1項の権利と同じものとしてではなく,現行刑訴法上の接見とは異なる裁量的なものとして実現することも考えられるでしょう。   面会接見の判例が示すとおり,身体を拘束されている被疑者・被告人が,弁護人あるいは弁護人となろうとする者との間で,刑訴法の規定する秘密交通という方法以外の方法によって,会話・通信といった外部交通を行うことは,法定外の方法であるというだけで一律に禁止されるわけではなく,かえって,許容される場合があると考えられます。そこで,ビデオリンク方式による外部交通を,刑訴法39条1項の権利と位置づけることはせずに,それとは別の,刑訴法が許容する法定外の外部交通の方法として実現することも考えられるということです。   この場合,刑訴法39条1項の接見と同じような法律上の権利と位置付けることによる硬直性を避けつつ,身体の拘束を受けている被疑者や被告人が,その収容ないしは留置されている施設以外の場所に所在する弁護人等との間で,ビデオリンク方式により外部交通を行うことができるものとして,必要な施設や機器の整備が済んだところから,そのような外部交通を裁量によって認め,漸次的に拡大していくという方策が可能になります。   もっとも,法律上の権利とするにせよ,運用上の措置とするにせよ,このようなビデオリンク方式による外部交通を認める場合には,先ほども触れましたが,罪証隠滅や逃亡の防止の要請を満たし得ること,また,施設の規律や秩序を維持し得ることが前提になります。そして,面会接見は,この点の配慮に基づき,立会人が置かれるなど,御承知のとおり,秘密交通権が十分に保障されない態様で行われていますが,ビデオリンク方式による外部交通についても,それを刑訴法39条1項の権利とはせずに裁量上のものとして運用するのであれば,罪証隠滅の防止等に係る配慮に基づく適宜の措置を同項の規定に拘束されることなく講じることができますので,刑事収容施設の管理上可能な範囲で運用をしていくという弾力的な対応が可能になり,かえって防御の利益に資するところがあるだろうとも思います。 ○池田委員 私からは,接見の2つ目の○,考えられる弊害と採り得る方策について意見を申し上げます。   笹倉委員からの御指摘の中にも現れていましたけれども,ビデオリンク方式によって外部交通を認めるという場合には,起こり得る問題として,第三者が面会者・弁護人等に成りすます,あるいは接見にひそかに同席するなどして,罪証隠滅や逃亡に関する通謀が行われるおそれがある,あるいは,その面会者が持ち込んだ機器を用いて,被疑者・被告人が部外者との通信をしたり,周囲の状況を録音録画して,通謀をなしたり,あるいは施設内の様子を外部に漏らして,刑事収容施設の規律や秩序の維持に重大な支障を生ずるというおそれが考えられます。   そうした成りすまし,部外者の同席あるいは機器の持込みに対処するための具体的な方策としては,ビデオリンク方式による外部交通を行うのであれば,刑事収容施設とビデオリンク方式でつながっている特定の場所,以下,便宜,これを「アクセスポイント」と申し上げますけれども,そのアクセスポイントで実施しなければならないとすることが考えられます。そうする場合,アクセスポイントにおいて,刑事収容施設の職員やアクセスポイントに所属する職員等によって,身分証の確認によるなりすましの防止であるとか,部外者の同室や入室のないことが確認できるほか,通信機器の不正使用等を発見して中止を促すといった対応を採ることが可能になるものと考えられます。   もっとも,アクセスポイントを設けることとした場合にも,どこでもよいというわけではなくて,どういう場所ないし施設に設置するか,施設や対応する人材に関する体制整備は可能かといったこと,あるいは,かえって外部交通の機動性が損なわれるのではないかなどが問題となります。現在,運用上実施されている電話による外部交通のためのアクセスポイントとして,検察庁や法テラスの事務所が用いられているということでありますけれども,まずは,これらの施設と被疑者・被告人を収容している施設,さらには被疑者・被告人が収容されている以外の収容施設,あるいは弁護士会館などもかもしれませんが,そういったところが候補地となり得ると思われます。それらの適否や,また,更に広げるとする場合にも,以上の課題を踏まえて検討することになるものと思います。 ○鎌田委員 アクセスポイントというお話が出ましたので,発言いたします。   アクセスポイントを設定する方式でありましても,アクセスポイント側,それから留置施設側の双方におきまして,必要な端末や回線の整備も含め,相応の人的・物的体制の整備が必要となることに変わりはございません。また,一巡目の議論の際に,当方から申し上げたとおりでございますが,大部分の留置施設におきましては,接見室の数が1室と限られているところでございまして,直接来署する面会希望者との間で交通整理を円滑に行えるのかといった,運用上の懸念もございます。   したがいまして,仮にアクセスポイントを設ける方式を採るといたしましても,こうした課題を整理しつつ,現実的な方策としてどのようなものがあり得るかについて,慎重に検討していく必要があると考えております。 ○吉澤委員 私からも,考えられる弊害と採り得る方策に関連して,意見を述べます。   被疑者・被告人と弁護人との接見においては,被害者のプライバシーを含め,犯行状況などに関する会話がなされることが想定されます。その際,先ほどからも御意見ありましたが,弁護士ではない者がその場に同席していたり,その接見の状況が録音録画されるなどして外部に流出したり,漏えいするようなことは,万が一にもあってはならないものだと思います。ですので,仮にビデオリンクによる接見や外部交通を認めるのだとしても,こういったリスクが生じる弊害を確実に除去できることが必要不可欠だと考えています。   この点からしますと,場所として,一巡目の議論で御提案のありました弁護士事務所での接見や外部交通というものは,このような防止策を万全に採ること自体が不可能ではないかと考えています。まず,そもそもオンラインでつないだ先の場所が,本当に弁護士事務所であるのかどうかという点でさえ,担保することは困難ではないかと思いますし,その画面上映し出される者が,本当に弁護人かどうかという確認が非常に困難です。現在の実務では,弁護士本人が,留置管理などの担当職員と直接対面した上で身分証を提示したり,弁護士バッジを示すなどして本人確認を行っていますが,オンラインではこういった対面の本人確認ができません。また,仮に本人確認はできるとしても,オンラインで映し出される画面の範囲外,死角となる部分に絶対に人がいないということの確認も不可能です。ですので,やはり弁護士事務所においては,同席できない者の同席を防いだり,情報の流出・漏えいを防ぐという点をクリアできないと言わざるを得ず,許容できないと考えています。 ○成瀬委員 弊害を生じさせないための方策として,アクセスポイントに関する議論が続いておりますけれども,私が,事務当局が配付してくださった資料で,この点に関する諸外国の法制を確認してみたところ,ドイツやフランスでは許可制が採用されているようです。そこで,我が国においても,刑事施設の長等が,個別の事案ごとに,罪証隠滅及び逃亡の防止や刑事収容施設の規律及び秩序の維持を図る上での弊害の有無を判断し,それらの弊害が生じるおそれがない場合に限り,ビデオリンク方式による外部交通を許可するという方策を採用することも,一応,考えられなくはないと思います。   しかし,事前の許可のみでは,実際にビデオリンク方式による外部交通を行う際に,第三者が弁護人になりすましたり,やり取りを録音録画したりするなどの弊害を,確実に防止することは困難であろうと思われます。よって,仮に,許可制を採用するとしても,これまで御議論があったアクセスポイントを設ける方策を併用せざるを得ないと考えます。むしろ,ここでの弊害は,アクセスポイントを設けることにより,基本的に解消されると考えられますので,これに加えて,あえて許可制を導入する実益は乏しいように思います。 ○河津委員 第3回会議でも申し上げましたが,犯罪の嫌疑をかけられて身体を拘束された国民・市民が,自らを防御する上で,弁護人と即時に連絡を取り,十分に協議し,その援助を受けることは極めて重要です。現状では,身体を拘束された被疑者・被告人が,十分な防御準備・公判準備をすることは,身体を拘束されていない場合と比較して,著しく困難にされています。また,憲法は,何人も直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ,抑留又は拘禁されないと規定していますが,現状では,逮捕された被疑者の多くは,直ちに弁護人の援助を受けることができていません。これらの問題は,特に遠隔地にある警察署や拘置所に身体を拘束されている被疑者・被告人にとって深刻です。このような現状を解消するために,弁護人との接見交通を,一般的にビデオリンク方式により行うことができるものとする必要性は大きいというべきであり,そのことについては,一定の御理解を頂いているものと存じます。   今回,刑事手続全般を通じて情報通信技術を活用し,手続の非対面化・遠隔化を進める議論が行われており,それらが実現すれば,利便性が高まり,各種の業務が効率化されることが期待されます。その一方で,最も弱い立場に置かれ,自由を奪われる危険にさらされている国民・市民が,情報通信技術の活用という点で置き去りにされないようにする必要があると考えます。その観点からは,身体を拘束された被疑者・被告人が,家族や友人とコミュニケーションする権利を拡充するためにも,刑訴法80条の接見についても,ビデオリンク方式の活用を検討すべきです。   このビデオリンク方式による接見について,成りすましや第三者の同席のおそれ等の弊害を御指摘する御意見を頂いております。ただ,弁護人の接見交通については,現行刑訴法39条2項において,法令で被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため,必要な措置を規定することができるとされているのですから,仮に弊害が想定されるのであれば,必要な措置を規定するべきことになるとしても,39条1項にビデオリンク方式による接見交通の権利を規定しない理由にはならないように思われます。したがって,刑訴法39条1項にビデオリンク方式による接見交通の権利を定めるべきと考えます。   そして,弊害が生じないための方策として,本日アクセスポイントの設置について議論いただいております。アクセスポイント方式は,弊害を予防する一つの方策であり,重要なのは,弁護人に相談し,その助言を受けるなどして弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障することですから,その場合,十分な数のアクセスポイントを整備することが課題になると考えます。  また,より制限的でなく,被疑者・被告人が弁護人と迅速に連絡を取ることのできる方法も,併せて検討されるべきと考えます。例えば,事務当局に御用意いただいた資料によっても,諸外国においては,被疑者・被告人が電話で弁護人の助言を受けることが,より一般的に行われているようです。登録された法律事務所や弁護人の携帯電話との通話であれば,成りすましは合理的に防止することができます。また,弁護人が弁護士会から懲戒処分等を受ける危険を冒して,第三者を立ち会わせるような事態を想定するのは合理的でないと考えますが,仮にそのような弁護士の存在を想定するのであれば,対面での接見を通じてでも,第三者との不適切な連絡を媒介することはできてしまう以上,被疑者・被告人が弁護人から即時に助言を受ける正当な権利利益を犠牲にしてまで,電話による連絡を規制する実益は乏しいように思われます。   ビデオリンク方式による接見を実現するために,新たな設備の整備等が必要となることは,御指摘のとおりと思われますが,新たな設備の整備等が必要なのは,令状手続のオンライン化を始めとする刑事手続のIT化全般に妥当することであるはずです。それら捜査上の利便性・効率性を高めるための設備等の整備と同様に,被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も,整備されるべきであると考えます。遅滞なく通信し,協議するための十分な機会,時間及び設備を提供されなければならないことは,国連被拘禁者処遇最低基準規則にも定められているところであり,設備の整備は国の責任であると考えます。 ○佐久間委員 これまで,各委員から様々御意見・御指摘があったと思いますけれども,捜査機関としての考え方を,これまでの御発言と重複するところもあるかもしれませんが,述べておきたいと思います。   例えば,360度カメラの設置とか顔認証の技術といった技術的措置があれば,それに期待できるのではないか,弊害が解消されるのではないかというような考え方もあるかと思います。それは,一見良い解決策のようにも思えますけれども,現実的に考えますと,そのような技術的措置を誰が用意・設置して,そして,誰がそれを管理するのか,またビデオリンク方式による外部交通を行わせるたびに,そのような技術的措置が正常に作動していることを,刑事収容施設側が確認できなければならないところ,実際にこれをどのように確認すればよいのかといったことが問題となります。   加えて,仮に弁護士事務所内の部屋や場所を,ビデオリンク方式による外部交通のためにアクセスポイントとして利用するとした場合,弁護人等以外の第三者がその部屋や場所の周囲で外部交通の様子を聞くことができたり,あるいは,部屋の外にいる第三者の声が中に届いたりしてしまえば,本人確認や身分確認が無意味となるのではないかという懸念がございます。また,たとえ,弁護士事務所内の部屋や場所の構造上は,そのような事態が生じないことが確認できたとしても,機器についての懸念がございます。つまり,部屋や場所の音声を外部に送るような機器が置かれていないことを,外部交通の都度,確認しなければならなくなるのではないか,また,仮に弁護側が用意した端末を利用して,ビデオリンク方式による外部交通を行うこととした場合,その端末の画面が他の端末に共有されていないかといったことを,誰がどのように確認するのか,あるいは,360度のカメラを設置して顔認証技術を用いたとしても,第三者が机の下や家具の中など,カメラの死角になるような場所にいる場合は機能しないのではないかなどなど,様々な検討すべき課題が多くあります。特に,弁護人以外の者との接見禁止が付される事案では,この潜脱を防止する上でも深刻な課題があると思われます。これらの課題を踏まえた上で,なお実現可能性や実効性があるかについて,慎重に検討すべきものと考えます。   また,先ほど河津委員から御指摘があったと思いますけれども,仮に,ビデオリンク方式による外部交通を認めることとした場合,その利用を弁護人等に限るのか,それとも,弁護人等以外の者についても利用を認めるのかという点が話題となったと思いますので,この際,捜査側としての考えを述べたいと思います。   弁護人等以外の者にビデオリンク方式による外部交通を認めることとすると,施設に赴かなければならない現行の接見に比べて,利便性が格段に高まりますことから,その利用件数が相当な数になる可能性があり,これに対応する刑事収容施設職員の負担が増大いたしますし,アクセスポイントを設けることとする場合には,それに対応する職員にも過重な負担を生じさせるおそれがございます。現時点で,この検討会でも,先ほど来,人的・物的体制への整備や現実的な対応可能について,種々の御懸念が示されていることも踏まえますと,仮にビデオリンク方式による外部交通を認めるとしても,被疑者や被告人の防御権行使の上で重要な弁護人等との間についてのみ認めることとするのが相当ではないかと考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   この点につきましては,「2」以降もありますので,よろしければ,ここから先は「2」以降についても御意見頂戴したいと思いますが,いかがでしょうか。 ○池田委員 書類の授受について,必要性・相当性について意見を申し上げます。   現行法は,飽くまで紙媒体の授受を念頭に置く規定を設けていますので,電子データのオンラインでの送受信を認めるならば,この規定との関係をクリアにしておく必要があるように思います。その上で,一方において,防御の利便性の観点から,データを直接やり取りすることができるということが望ましいと思われるわけですけれども,他方で,これまでの議論の中でも再三指摘がされてきましたように,紙媒体での授受であることによって果たされてきた逃亡・罪証隠滅の防止,あるいは施設の規律・秩序の維持といった事柄が,そういった物理的な制約を取り払うことで,どのような影響を受けるかということについては,特に書類の授受と同様の位置付け,すなわち,権利としての送受信を認めるとすれば,その影響は相当広範に及ぶこととなりますので,なお慎重な検討の必要が残るのではないかと思います。   加えて申し上げますと,この場合,全国の収容施設において,セキュリティを確保した通信回線等の整備を行わなければならないことにもなるわけですけれども,予算の制約等に鑑みて,それが実現困難となるおそれもあり得るように思います。   以上を踏まえますと,電子データをオンラインで送受信する方法による外部通信を可能にするとしても,それは,直ちに刑訴法39条1項の書類の授受と同様に法的な権利性があるものとして認めるかどうかについては,今述べたような点も踏まえて,慎重に検討すべきであると考えております。 ○笹倉委員 ただいま池田委員から,電子的な方法による書類の授受を法律上の権利とすることの当否については慎重な検討が必要だという御指摘がございましたが,権利性は肯定しないとしましても,接見の場合と同様に,身体を拘束されている被疑者・被告人が,弁護人等との間で刑訴法に規定されている方法以外の方法で外部交通・外部通信を行うことが一切許容されないとまで直ちに言えるわけではありません。そうすると,法律上の権利としてではなく,運用上の措置としてこれを認めるということは一応考え得るわけですが,しかし,そうであるとしても,その場合もやはり,罪証隠滅及び逃亡を防止し,また,刑事収容施設の規律や秩序を維持し得ることが前提になることは,否定し難いところです。   そこで考えてみますと,電子データをオンラインで送受信する方法による外部通信を認めるとしますと,発受される電子データの内容の検査に膨大な時間と人的資源が必要になると考えられますし,また,仮に被疑者・被告人にタブレット等を渡して自分で操作することを認めることにしますと,それに起因する弊害も考えられるところです。したがって,法律上の権利とは位置付けないとしても,さらにその枠外で電子データをオンラインで送受信する方法による外部通信を運用上の措置として認めることの当否についても,このような問題があることを踏まえた上で,慎重に検討していくべきだろうと考えます。 ○佐久間委員 電子データをオンラインで送受信する方法による外部通信を認めるためには,罪証隠滅及び逃亡の防止や刑事収容施設の規律及び秩序の維持を,少なくとも現行の書類の授受と同程度に図ることができることが前提となります。この点,書類の授受は,現行の刑事収容施設法上,信書の発受として規定されており,同法135条では,未決拘禁中の被疑者・被告人が発受する信書については,罪証隠滅及び逃亡の防止並びに刑事収容施設の規律及び秩序の維持の観点から,原則として刑事収容施設の職員において,信書の記述内容を確認するといった検査を行うこととされ,例外的に未決拘禁者が弁護人等から受ける信書については,弁護人等から受ける信書であることを確認するために,必要な限度で検査を行うこととされております。   そのため,電子データをオンラインで送受信する方法による外部通信を認める場合も,やり取りされる電子データについて,紙媒体の信書と同程度に内容等の確認行為を行わなければならないこととなりますが,電子データの場合,一度に大容量の電子データを送受信したり,送受信を短時間のうちに繰り返し行ったりすることが容易であるため,このような確認行為に膨大な時間と人的資源を要することとなり,刑事収容施設の業務に重大な支障を生じさせるおそれがあります。   身体を拘束されている被疑者・被告人について,外部に送信するための電子データを作成する,あるいは受信した電子データの内容を読むために,タブレット端末等の使用を許すこととした場合,タブレット端末等を国費で用意するには,多額の費用が必要となります。また,タブレット端末が被疑者・被告人に容易に損壊されたり,凶器として使用されたりするおそれがあることも,指摘しておきたいと思います。   また,タブレット端末等の差入れを認めますと,施設側において,当該端末に罪証隠滅及び逃亡の防止並びに施設の規律及び秩序の維持に悪影響を与える情報が保存されていないかどうかを確認することが必要となりますが,このような確認には過大な時間と労力が必要であって,収容業務そのものに支障を及ぼすこと,また,タブレット端末等を利用して,被収容者が,外部の者との間で,あるいは被収容者同士で不正なやり取りをすることを防止することが困難になるなどの弊害が考えられます。したがって,電子データをオンラインで送受信する方法による外部通信を認めるには,これらの弊害を生じさせないための方策が果たして現実的にあるのかどうか,解決すべき多くの問題があると考えております。 ○鎌田委員 書類の授受の問題点につきましては,被留置者に閲覧させる方法が,まず課題となるものと思われます。差し入れられたデータの閲覧のために,タブレット端末を用いることも考えられなくはありませんが,現実に,留置施設におきまして,被留置者が眼鏡のレンズを破壊して自殺を図るといった事案が発生していることなどを踏まえれば,タブレット端末についても,破壊・分解するなどして自傷他害行為に用いられる可能性が否定できず,施設の規律・秩序の維持の観点から,被留置者の使用を認めることは難しいと考えております。   その上で,受信したデータを施設側で印字して被留置者に交付する,あるいは被留置者が発信する場合には,被留置者が紙媒体で作成したものを施設側でスキャンしてオンラインで送信するといった方策も一応考えることはできますが,その場合におきましては,施設側において大量の紙の印刷に掛かる費用でありますとか,新たな業務負担が生じ,施設の管理運営に支障が生じるおそれがあるほか,印字やスキャンの過程においてミスが生じた場合に,施設側が責任を負うことになりかねないのではないかといったことが懸念されるものでございます。   以上を踏まえれば,電子データをオンラインで送受信する方法により外部交通を行わせることにつきましては,法律上又は運用上のいずれの場合であっても,慎重な検討を要するものと考えております。 ○河津委員 今回の検討会では,刑事手続における各種の書類をオンラインで授受することを原則化することを前提に議論が行われています。オンラインを原則化することにより,実務に携わる関係者は,利便性が高まり,業務が効率化する恩恵を受けることになります。その一方で,刑事手続の当事者であり,最も重大な利害関係者である被疑者・被告人が,弁護人の援助を受けるために書類をオンラインで授受することができないものとするのは,バランスを欠いており,国民の権利が軽視され過ぎであると言わざるを得ません。警察,検察,弁護人,裁判所の間で,書類が一般的にオンラインで授受されるようになったときに,留置の業務に新たな負担が生じることを理由として,被疑者・被告人には紙媒体での書類の授受を強いるという事態は,適切とは言い難いように思われます。   先ほど,ビデオリンク方式による接見について申し上げたとおり,弁護人の接見交通については,現行刑訴法39条2項において,法令で被告人又は被疑者の逃亡,罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため,必要な措置を規定することができるとされているのですから,仮に弊害が想定されるのであれば,必要な措置を規定するべきことになるとしても,オンラインによる書類の授受の権利を一律に否定する理由にはならないように思われます。弊害が生じないようにするための具体的方策としては,電子データの検査に情報通信技術を活用する方法が考えられますし,送受信を可能とするデータのファイル形式を規制する方法も考えられます。いずれにしても,被疑者・被告人が弁護人の援助を受け,自らを防御する権利を実質的に保障しつつ,弊害の発生を防止するために,合理的かつ必要最小限の規制となるような工夫がされるべきです。   ビデオリンク方式による接見について申し上げたのと同様,被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利を実現するための設備等も,捜査の効率性・利便性を高めるための設備等の整備と同様,整備されるべきであり,設備の提供は国連被拘禁者処遇最低基準規則にも定められた国の責務であるというべきです。 ○成瀬委員 私は,「3 関連事項」のビデオリンク方式による接見における通訳について,意見を申し上げます。   仮に,ビデオリンク方式による外部交通を認めることとする場合,弁護人等がこれに通訳人を同席させる方法として,第一に,弁護人等の傍らに通訳人を同席させて通訳をさせる方法,第二に,弁護人等とは別の場所に通訳人を所在させて,通訳人との間でもビデオリンク方式により接続した上で通訳をさせる方法が考えられます。ただし,いずれの方法についても,第三者が通訳人になりすますおそれや,同席すべきでない第三者が同席するおそれ,通訳人が通信機器等を使用して外部と不正に通信させるおそれなどが問題となり得ます。   こうした弊害が生じないようにするための方策としては,例えば,第一の方法による場合には,先ほど御議論のあったアクセスポイントを設けた上で,アクセスポイントにおいて,弁護人だけでなく通訳人についても身分確認を行い,かつ,ビデオリンク方式による外部交通を行う部屋に第三者が出入りしないかどうかを監視するとともに,通信機器等の不正使用を監視することにより,弊害の発生を防止することが考えられます。また,第二の方法による場合には,通訳人が所在する場所についても,アクセスポイントを指定することによって対応することが考えられます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   この点について,ほかに御意見ございますか。よろしいですか。   よろしければ,接見交通についての議論はこれで一区切りとさせていただきたいと思います。   では,次の論点に入る前に,10分程度休憩を取りたいと思います。 (休     憩) ○小木曽座長 それでは,(3)打合せ・公判前整理手続についての議論をいたしたいと思います。   資料28について説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料28の「2(3)打合せ・公判前整理手続」について御説明いたします。   資料1ページ目,「考えられる方策」の枠囲いには,打合せ・公判前整理手続について考えられる方策といたしまして,「① 検察官・弁護人・被告人は,打合せ期日又は公判前整理手続期日等への出頭について,裁判所の許可を得て,ビデオリンク方式によりすることができるものとする。」とした上で,「② 裁判所は,検察官・弁護人・被告人がビデオリンク方式により打合せ期日や公判前整理手続期日等に『出頭』することを許す場合には,その所在場所を指定することができるものとする。」という方策を記載しています。   なお,期日間整理手続期日につきましては,公判前整理手続期日と同様の方策が考えられると思われますので,ここでは,これらを併せて公判前整理手続期日等と記載しております。   その上で,この方策に関する「検討課題」を,「その他」を含め3点記載しております。このうち,「1」の「対象者」につきましては,「裁判官・裁判所書記官については,従前どおり,打合せ期日や公判前整理手続期日等が行われる場所に物理的に所在するということでよいか。」を記載しています。「2」の「ビデオリンク方式による『出頭』を認めるための要件」につきましては,「類型的な実施要件を設けるか。」や,「所在場所に関する要件を設けるか。」など,具体的に検討する必要があると思われる項目を記載しております。   資料28につきましての説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   この論点につきましては,検討課題の全てについて,併せて議論いただきたいと思います。項目を明らかにしていただいて,御発言をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○永渕委員 私からは,まず,検討課題「1」の「対象者」についてお話をしたいと思います。   裁判官・裁判所書記官は,今後も基本的には公判前整理手続等が行われる場所に所在することになると思われます。もっとも,庁によりましては,例えば,裁判官の一部について,支部などで執務する必要が生じ,その日には不在であるといった場合もございます。公判前整理手続等は受命裁判官によって行うことも可能ではありますけれども,受命裁判官によっては行えない手続,例えば,証拠の採否を決定する,あるいは訴因変更請求に対する判断をする,こういった手続は受命裁判官によっては行えないわけですけれども,こういったことを予定している期日に,先ほど述べた例のような場合,裁判官の一部が不在の日には,そうした期日を実施することができないということになってしまいます。   そこで,争点整理を目的とする公判前整理手続等については,裁判官等もビデオリンク方式によることが可能としておくことで,より柔軟な期日調整が可能となり,機動的な争点整理手続の実現に資するという一面もあるように思われます。 ○笹倉委員 検討課題の「2 ビデオリンク方式による『出頭』を認めるための要件」のうちの最初の○,「実施要件の在り方」について意見があります。   まず,類型的な実施要件の要否ですけれども,検察官や弁護人あるいは被告人が,ビデオリンク方式により打合せ期日や公判前整理手続期日等に出頭することを許容するとしましても,無条件にこれを許すことになりますと,場合によっては,公判準備の目的が阻害されることがあるかもしれません。そのような場合には,ビデオリンク方式による出頭を認めずに,リアルの出頭を求められるようにしておくことが必要だと考えます。   また,過去の検討会では,出頭する人の所在場所によっては弊害も考えられるという指摘もあったところです。そのことも踏まえますと,出頭の方式については,訴訟運営に責任を負う裁判所が諸般の事情を踏まえて判断されるのが適当であって,裁判所の判断を拘束するような類型的な要件を設けるべきではないと思います。   併せて,訴訟関係人の同意の要否という点についても申し上げておきたいのですが,どのような方法で公判準備を行うかは,やはり訴訟運営に責任を負う裁判所が適切に御判断されるべき事柄であって,裁判所が訴訟関係人をビデオリンク方式により出頭することを許可するに当たって,訴訟関係人の同意又は異議のないことを要件とすることは,訴訟の準備について訴訟関係人に拒否権を認める結果にもなりかねませんので,現行法の建前と整合しないように思われます。   そもそも,同意や異議がないことが,手続を進めるに当たっての要件とされるのがどのような場合であるのかについて,刑訴法の規定を見てみますと,伝聞証拠について同意のあること,即決裁判手続に対する同意のあること,略式手続によることについて異議のないことなど,要するに,もともとは別の扱いを受ける権利があるところ,それを権利の主体が放棄することで異なる扱いを可能にするという場合に,同意のあることや異議がないことが要件とされていることがわかります。そこで,オンラインでの準備について,それらとパラレルに考えられるかを検討してみますと,訴訟の準備の過程で対面出頭を求めることに法的な権利利益があるとは考えにくいところです。そして,公判準備におけるリアルでの対面に法的権利性がないのであれば,その放棄による別異の扱いの正当化という論理は当てはまりません。したがって,今述べたような,ほかの場面における同意のあることや異議のないことと同列に捉えて,同意のあること,異議のないことを,オンライン出頭の要件とするという考え方は出てきづらいと思います。   もちろん,当事者の意向は大切ではありますけれども,裁判所が期日への出頭方法を判断するに当たって,訴訟関係人の意見を聴くことさえ定めておけば,裁判所において,表明された意見を踏まえつつ適切に判断されることになるでしょうから,それで足りると思います。それを超えて,同意のあること,異議のないことをあえて要件とするには及ばないと考えます。 ○成瀬委員 私は,検討課題「2」の二つ目の○,すなわち,「所在場所に関する規律の要否」について,意見を申し上げたいと思います。   前提として,第3回会議でも申し上げたとおり,ビデオリンク方式により出頭する者の所在場所については,裁判所及び訴訟関係人が,争点及び証拠の整理のための率直な意見交換を行うのに適した状況にあることが担保されている必要があると考えます。   この点について,例えば,検察官は検察庁の庁舎内の場所,弁護人は弁護士事務所内の場所というように,ビデオリンク方式により出頭する場合における所在場所を法律又は規則で具体的に規定することも,一つの方策として考えられないわけではありません。  もっとも,打合せや公判前整理手続については,法令により所在場所を特定の場所に限定しないことによって,例えば,弁護人に出張先の情報セキュリティが確保された場所からの参加を許すことが可能となり,これによって,機動的かつ円滑にこれらの期日を実施できるようになるなどの有用性が認められると思います。また,これらの期日中に,第三者がビデオリンク方式により出頭する者の付近に無断で所在していることが疑われる状況があれば,裁判所や訴訟関係人がその旨を指摘することが可能であることなどに鑑みますと,先ほど議論していたビデオリンク方式による接見とは異なる側面があると思います。   これらを踏まえますと,法令により所在場所を特定の場所に限定するのではなく,裁判所が,検察官・弁護人・被告人の所在場所が公判準備に適した場所であるかどうかも踏まえて,個別事案ごとに,ビデオリンク方式により出頭の許否を判断するものとすることが適当であると考えます。   そのための手続的規律としては,第3回会議で御紹介した,民事の少額訴訟において,電話会議の方法による証人尋問を行う際の規律を参考としつつ,訴訟関係人の所在場所が適切な場所であることを担保するための手続的規律を設けることも,一つの採り得る方策でしょう。また,このほかにも,裁判所が,訴訟当事者から,ビデオリンク方式により出頭する際の所在場所についての希望や,その場所を妥当とする理由などに関する意見を事前に聴いた上で,特定の場所からビデオリンク方式により出頭することの許否を判断するという仕組みにすることも考えられます。 ○永渕委員 検討課題の「2」についてお話をしたいと思いますが,公判前整理手続等につきましては,その手続の性質に照らし,非公開で行われています。当事者がビデオリンク方式により手続に参加する場合の所在場所等については,当事者が申し出た場所などが非公開手続への参加にふさわしい場所であるかどうか,非公開手続にふさわしい条件が整っているかなどについても,裁判所が検討して判断を行うといったことが考えられます。ビデオリンク方式による参加を希望する当事者からは,裁判所がそのような判断を行うことが可能となるような情報を疎明していただくことになるのではないかと考えます。   そこで,規定を設けるに当たりましては,そのようなことも考慮した規定ぶりを検討することになると思われます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   この論点について,ほかに御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,一通り御意見を頂いたと思いますので,打合せ・公判前整理手続についてはここまでにいたしまして,引き続き,(4)証人尋問等についての議論をいたしたいと思います。   資料29について,説明をお願いします。 ○仲戸川室長 資料29の「2(4)証人尋問等」について御説明いたします。   資料1ページ目の「考えられる方策」の枠囲いには,「1 証人尋問について考えられる方策」といたしまして,「ビデオリンク方式により証人尋問を実施することができる場合を拡大するものとする。」,「2 通訳・鑑定人尋問」について考えられる方策として,「通訳・鑑定人尋問について,ビデオリンク方式により実施することができる旨の規定を別途設けるものとする。」という方策を記載しております。   その上で,これらの方策に関連する「検討課題」を記載しています。   まず,証人尋問に関連するものといたしましては,検討課題を3点記載しています。このうち,(1)必要性・相当性については,裁判所への出頭が著しく困難な者などについて,「ビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるものとする必要性・相当性はあるか。」を記載しております。(2)要件の在り方については,「類型的要件を新たに追加するか,要件を必要かつ相当な場合などと包括的に規定するか。」や,「新たに要件を追加するものとする場合,当該要件について,さらに,両当事者の同意があること(異議のないこと)を必要とするか。」について,具体的に検討する必要があると考えられましたので,検討課題として記載しております。(3)証人の所在場所の規律につきましては,「規定の在り方」として,「所在場所の規律としてどのようなものが考えられるか。」や,「考えられる弊害ととり得る方策」として「どのような弊害が考えられるか。」,「弊害が生じないためにどのような方策がとり得るか。」など,具体的に検討する必要があると思われる項目を記載しております。   次に,通訳・鑑定人尋問に関係するものとして,検証も含めて検討課題を記載しております。このうち,(1)の通訳人及び(2)鑑定人尋問につきましては,それぞれについて「必要性・相当性」や「必要となる法的措置」,「要件の在り方」を記載しています。また,(3)検証につきましては,「ビデオリンク方式により実施することができる旨の規定を設けないということでよいか。」を記載しております。   資料29についての説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   この論点については,二つに内容を分けまして,まず,「1」の「証人尋問」について御議論いただき,その後,「2」の「通訳・鑑定人尋問・検証」以降について議論いただくことにしたいと思います。   まずは,検討課題「1」について御意見を頂戴したいと思います。項目を明らかにして御発言を頂ければと思います。 ○池田委員 「1」の(1)必要性・相当性と,(2)の要件の在り方のうち一つ目の○,規定の在り方について,併せて意見を申し上げます。   これらの検討を通じまして,ビデオリンク方式による証人尋問について,現在の刑事訴訟法が定める場合以外においても実施できるものとすることについては,差し当たり,検討の方向性について整理する必要があると思います。  すなわち,まずは必要性ですけれども,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する必要性がある具体的な場面として,どのような場面があるのか,また,将来どのような場面が想定されるかなどを検討する必要があると思われます。   この点については,こちらの資料にも示されておりますけれども,第3回の議論では,そのような場面として,裁判所への出頭が著しく困難な者,取り分け重症患者が挙げられておりましたし,多忙のため尋問期日の日程調整が困難な専門家として,具体的には医師等が念頭に置かれておりました。あるいは外国に所在する者,外国所在証人ですね,これが指摘されていたと思います。本日,この後の議論でも,更にどのような場面があるかということを検討していくことになるものと考えております。  その上で,それぞれの場面について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する相当性についても,検討することになるものと思われます。   なお,証人の所在場所につきましては,刑訴規則107条の3で,他の裁判所の構内に限定されているわけですけれども,他の場所も含むように拡大する必要性や,あるいはどのような場所であれば相当であるかといったことについても,検討することになると思われます。   その上で,(2)に差し掛かってまいりますが,次にビデオリンク方式による証人尋問を拡大する必要性・相当性が認められるとされた場合には,その規定ぶり,すなわち要件をどのようなものとするかということを検討することになります。この点の方向性については,既に成瀬委員から従前御指摘があったところと重なるのですけれども,現行の規定を前提として,必要性が認められる類型を新たに追加するといった方法,あるいは類型を列挙する現行の規定を改めて,相当性の要件のみを規定するといったアプローチがあると思われるほか,類型の追加を考えるという場合であっても,追加のほかにも,ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができる者や場面として,現行の刑訴法が列挙する類型を一部変更して,適用の範囲を広げるであるとか,あるいは,類型を追加するとして,その中身について,将来含めて必要性が認められる類型を包摂できるような,一定程度包括的なものを設けるという方策なども考えられるかと思います。   これらを踏まえて,規定の在り方を具体的に検討するに当たりましては,対面による証人尋問が原則である,あるいは優先されるべきだということの理由はどのようなものであって,それは,情報通信技術の進展によっても変わらないものなのかといったことや,あるいは,将来生じ得るものも含めて,それぞれの場面について,どのような規定であればビデオリンク方式による証人尋問の実施の必要性に対応することができるかということなどを踏まえて検討していくのが,相当であろうと思っております。 ○成瀬委員 私は,検討課題の(2)の「要件の在り方」のうちの二つ目の○,すなわち,同意の要否について意見を申し上げた後,他の委員の皆様の御意見も伺ってみたいと考えております。   まず,私自身の意見ですけれども,証人尋問をビデオリンク方式により実施するか否かは,証拠調べの方法に関する事柄であり,これによるか否かは,裁判の帰趨を決する責任を負っている裁判所が,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で判断すべき性質のものと考えています。また,現行刑訴法及び刑訴規則において,検察官ないし弁護人・被告人の同意がない場合に,特定の証拠調べの方法を採ることができないとする規定は存在しません。よって,裁判所が,証人が法廷内に在席して証言することの困難性や同一構内に出頭することの困難性などに鑑みて,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する必要があると判断した場合において,さらに,両当事者の同意があることをも必要とすることは,現行刑訴法等の規定と整合しないように思われます。   もっとも,これとは別の観点から,両当事者の同意を問題とする余地はあるかもしれません。御承知のとおり,現在,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会が開催されておりますが,そこでは,ウェブ会議等による証人尋問について,「裁判所が相当と認める場合において,当事者に異議がないとき」という要件を新たに設けることが検討されているようです。これは,当事者の反対尋問の利益という観点からは,当事者がウェブ会議等を利用して証人尋問を実施することに同意している場合には,これを認めても特段問題はなく,真実発見という公益的観点からは,裁判所の相当性審査を要件とすればよいという考え方に基づくものではないかと推察されるところです。   仮に,ビデオリンク方式により証人尋問を実施する場合には,法廷での証人尋問に比べて供述態度等の観察に支障が生じ得るということが,現行刑訴法において,その支障を上回るような必要性の類型的要件が設けられている理由だとしますと,訴訟当事者がそのような支障のない対面の方法による証人尋問の実施を放棄し,かつ,裁判所としても真実発見の観点から相当と認める場合には,必要性の類型的要件が認められる場合と同様に,ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるものとすることも,論理的には考えられなくはないようにも思われます。   このような要件案について,刑事弁護人や裁判所のお立場からはどのようにお考えになるでしょうか。御意見をお聞かせいただければ幸いに存じます。 ○小木曽座長 先ほどから,吉澤委員からお手が挙がっておりますが,今,成瀬委員からそのようなお尋ねがありましたので,河津委員と永渕委員に御意見いただいて,それから吉澤委員に御発言いただくことにしたいと思いますが,よろしいですか。   ありがとうございます。それでは,河津委員,よろしいですか。 ○河津委員 はい,承知いたしました。   第3回会議で申し上げたとおり,罪を犯していない国民・市民が,真実でない証言によって有罪とされることがないようにするためには,反対尋問において,その証言が真実でないことを明らかにする必要があります。しかし,真実でない証言をした証人は,証言が真実でないことが明らかにならないように証言を重ねることから,証言が真実でないことを明らかにするのは,高度な技術を要する困難な作業で,その困難な作業を行うためには,証人の顔色・視線・全身の挙動をつぶさに観察しながら証人を追及することが必要となります。そして,真実を体験している人物の面前で供述をすることには,故意に虚偽を述べることをためらわせる効果があることからしても,対面して反対尋問をする権利が十分に保障されなければ,刑事裁判の質の低下を招き,真実でない証言によって,罪を犯していない国民・市民が有罪とされる事態が生じると懸念されます。   他方で,証人の中には,必ずしもその証言が真実でないことを明らかにする必要のない証人も存在します。例えば,裁判員裁判では,争いのない事実を証言する証人であり,弁護人が供述調書を証拠とすることに同意しても,裁判所の意向で証人尋問が行われることが少なくありません。そのような証人に対しては,幾つか確認的な質問をするだけで反対尋問を終えることがありますし,時には全く反対尋問をしないこともあります。そのような証人については,必ずしも遠方の裁判所に出廷する負担を掛ける必要はないと思われます。   このように,あらかじめ反対尋問を完全な形で行う必要がないと判断され,その権利を放棄することが可能な場合においては,ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるようにすることが合理的であると考えられますので,裁判所が相当と認める場合において,当事者に異議がないときにビデオリンク方式を拡大することについては賛成いたします。   今回の資料に例示されております裁判所への出頭が著しく困難な者,多忙のため尋問期日の日程調整が困難な専門家についても,当事者が反対尋問を完全な形で行う必要がないと判断し,異議がない場合について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施すればよいと考えます。   逆に言えば,証人の側にそういった出廷が容易でない事情があったとしても,反対尋問を完全な形で行う必要があると弁護人が判断し,したがって,ビデオリンク方式によることに異議がある場合については,対面で反対尋問をする権利を奪うことは,被告人が証人を審問する機会を不十分なものとし,刑事裁判の質を低下させるものであり,相当でないと考えます。 ○小木曽座長 続きまして,永渕委員,お願いいたします。 ○永渕委員 ただいま成瀬委員から御質問を頂きまして,思い付いたこととして,刑事訴訟と民事訴訟とでは,手続の基本的な原則に異なるところがあるように思われます。例えば,民事訴訟は,手続全体としまして,当事者に異議がなければ,それを前提に進めることが予定されている手続と言えようかと思います。また,運用の面を見ましても,刑事訴訟では,民事訴訟における一般的な運用のように,事前に陳述書の提出を受けて,証人が証言する内容をあらかじめ把握しておくといったことはなく,裁判所は,証人尋問の場で初めて証人の具体的な証言内容に触れるという,そういった違いもあろうかと思います。   成瀬委員から御指摘のあったような要件の在り方を,刑事訴訟において採用した場合に,刑事訴訟における証人尋問の在り方にどのような影響が生じるかにつきましては,御指摘の点を踏まえて考えてみたいと思います。 ○成瀬委員 御意見をお聞かせいただき,ありがとうございました。私自身も,この要件案について,さらに検討してみたいと思います。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それでは,吉澤委員,お待たせしました。どうぞ。 ○吉澤委員 私からは,「必要性・相当性」に関してと,あとは,「規定の在り方」についても少し述べようと思っています。   まず,拡大する必要性についてですが,現在の要件では厳格に過ぎ,ビデオリンクによる必要があるケースまで制限されているという点が挙げられると思います。例として,レジュメの中に列挙されているケースもそうなのですが,それ以外でも,例えば,刑事訴訟法157条の6第1項では,1号・2号で罪名の列挙がありますが,これに含まれないストーカー犯罪やドメスティックバイオレンスの事件,児童虐待の事件についても,最近でも凄惨な事件はよく報道されているところではありますが,こういった事件の被害者の方々についても,1号・2号で列挙されている性犯罪などの被害者の方と同様,被告人が在廷する公判廷において証言することは,非常に難しいと考えられます。現行法でも3号の規定はありますが,精神の平穏を著しく害されるという要件が,実務では非常に厳密に運用されていて,一巡目の議論でも述べましたように,実際はビデオリンク方式によることが必要だと思われるケースでも,実施できていないというケースがあるのが実情です。   この点,例えば,児童虐待については,アメリカでも合衆国連邦刑法典第3509条で,性的虐待,搾取以外の身体的虐待を受けた被害児童に関しても,被告人のいる公開の法廷において証言することができないと認めた場合は,法廷以外の場所に証人が在廷し,テレビ会議システムで証人尋問を行うことができるという規定があるところですし,現行の日本の刑事訴訟法のビデオリンクによる証人尋問によることができる罪種の定め方としましては,非常に限定的に過ぎるのではないかと考えています。また,構外ビデオリンク方式についても,構内のビデオリンク方式と同様,各号に「著しく」という文言が付されていることもありますし,非常に厳格に運用されているという実感があります。   もともと被害者というのは,犯罪の被害に遭い,そのこと自体で精神的な苦痛を感じている上,刑事裁判という国の制度に協力するために出頭するわけですから,その苦痛をできる限り緩和する,協力を得やすい環境を作るということは,IT化が進む時代における刑事裁判への国民の理解を得る点においても,大きな要請としてあると思います。ですので,もちろん公開法廷での証人尋問が原則としましても,被害者などが刑事裁判及び捜査自体に協力する法的な選択肢自体は,多く認めておくべきではないかと思います。   これまでビデオリンクで証人尋問を行うことは,証人の証言態度を観察する点において,公開の法廷で行うものよりも劣るのではないかという御指摘もありましたが,ビデオリンク方式が初めて導入された平成12年から既に20年以上経過しており,その間,格段に技術の進歩が遂げられているわけです。進関係官からも,5Gの通信システムは,第4世代と比較して,「超高速 10倍から100倍」であるとか,「超低遅延 大体10分の1」などといったように,性能が格段に進歩しているという御説明がありました。また,今後も次世代の通信システムとして,「Beyond 5G」の導入も見込まれているというお話もありました。   このような技術の飛躍的な進歩からしますと,弁護人の席から,例えば,3メートル程度先にいる証人を法廷で確認することと,スムーズな映像で証人の表情をつぶさに観察できる画面が手元にあることと,差はないのではないか,かえって,手元にある画面を通すほうが,よく表情などを確認できるのではないかとも考えられます。また,証言態度を観察するという点についても,例えば,表情を確認するモニターとは別に,全身を映すモニターを準備し,2画面で中継するなど,そう難しくはない技術的な対応で十分カバーできるのではないかと思います。   昨今のコロナ禍の情勢もあり,非対面での手続が広く浸透してきた状況や,今後も通信技術が発展することを考慮しますと,刑事手続においても,現在の規定よりも広く,裁判所に出頭することが困難である事情のある証人について,ビデオリンク方式での証人尋問を可能とする方向で定めるべきと考えます。   次に,その規定の在り方についても簡単に述べますが,今申し上げたような罪種の追加などをするとしましても,ストーカーやDV,児童虐待などというのは,実態としてどのような罪名で検挙・処罰されるかというのは様々だと思いますし,なかなか罪名で追加をするということは困難な事情もあると思います。また,そのほかにもレジュメ内に挙げられております,ビデオリンク方式により証人尋問を実施することを拡大する類型の3点につきましても,果たして具体的に条文で厳密に規定できるか,結構困難な場合もあるのではないかと考えます。ですので,やはり多くの選択肢を弾力的に運用することを可能とするような,相当性といったような包括的な規定を置くことで,ビデオリンク方式について定めていくべきではないかなと考えています。 ○池田委員 私からは,(3)の「証人の所在場所の規律」について意見を申し上げます。   ビデオリンク方式で証人尋問を実施する際の証人の所在場所につきましては,我が国の裁判所構内以外の場所にも拡大する必要があるといった御意見が既に示されておりまして,この点について,特段の異論は示されていないものと承知しております。他方で,現行の刑訴規則は,証人の所在場所を我が国の裁判所構内に限定しておりまして,その理由は,訴訟指揮権や法廷警察権の十全な行使と回線のセキュリティの確保などを考慮したものであるとされておりますので,証人の所在場所の拡大が相当であるかどうかということを検討するに当たっては,このような観点を踏まえた検討をする必要があると思います。   このうち,回線のセキュリティ確保につきましては,適切な通信サービスを選択・利用することによって,技術的に可能であろうと考えております。既に民事訴訟法は,ビデオリンク方式により鑑定人の口頭意見陳述をさせる場合,鑑定人を当該手続に必要な装置の設置された場所であって,裁判所が相当と認める場所に出頭させることができるとする規定を置いておりまして,これは,裁判所以外の場所であっても,回線のセキュリティ確保が可能であることが前提となっているものと思われます。   他方で,訴訟指揮権や法廷警察権の十全な行使についてですけれども,実際上,これらの権限を実際に行使する必要性の程度は,事案の内容や証人の属性,証人尋問の立証趣旨などによって様々であろうと考えられることに鑑みますと,裁判所が事案に応じて証人尋問を行うのに相当と判断する場所に証人を所在させて,証人尋問を実施することを認めることも考えられるように思われます。また,先ほど触れた民訴法の規定は,相当と認める場所で鑑定人の意見陳述を認めておりますけれども,この観点との関係でも,柔軟な取扱いの余地が認められることが前提となっているという理解を導くことができるのではないかと思います。   以上を踏まえますと,証人の所在場所を事案に応じて柔軟に判断できるようにするという観点からは,例えば,証人の所在場所について,ビデオリンク方式による尋問に必要な装置の設置された場所であって,裁判所が相当と認める場所と規律することも,一つの考え方としてあり得るのではないかと思われます。なお,併せて付言いたしますと,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会におきましては,ウェブ会議等による証人尋問を実施する場所的要件について,供述に影響を与える者の在席する場所でないことといった表現で検討されておりまして,訴訟指揮権や法廷警察権の行使が可能かどうかということについては触れられていないということも,参考になるのではないかと思われます。 ○佐久間委員 証人の所在場所についてですが,専門家証人と入院中の重症者等の証人に関して述べたいと思います。   実務において,医師や大学の教授などの専門家証人を尋問するに当たっては,これらの方々が多忙なことから,証人尋問のための日程調整が困難となることが少なくありません。医師や大学教授等を,例えば,勤務先の病院や大学等に所在していただいたまま,ビデオリンク方式により尋問することが可能となれば,日程調整が容易になり,審理の迅速化に資することがあるように思われます。   専門家証人は,専門的知見や,これを具体的事実に当てはめた結果を証言するものであり,自己が体験した事実を証言する証人の尋問と比較すると,証言態度等を直接観察しながら尋問する必要性が,必ずしも高くない場合もあるように思われます。また,先ほど吉澤委員も指摘されましたが,これまで20年以上にわたり,ビデオリンク方式による証人尋問が実施され,ビデオリンク方式も実務に定着していると言える上,今後更なる情報通信技術の発展により,対面による方法とビデオリンク方式による方法との差が縮小することも十分に考えられることからすると,専門家証人の尋問のような新たなニーズに対応して,ビデオリンク方式によることを可能とすることを検討する余地もあると思います。   要件については,ビデオリンク方式による証人尋問の要件を,相当性の要件に一本化することや,例えば,現行の刑訴法第157条の6第2項第4号の要件のうち,遠隔地居住の要件を撤廃することなどによって,専門家証人をビデオリンク方式により尋問するというニーズに,相当程度対応することができるものと思われます。その上で,専門家証人の所在場所に関しては,適切な通信サービスの利用や裁判所職員の同席などの対応を採ることとすることで,現行の刑訴法規則107条の3の証人の所在場所に,当該証人の勤務先等を含めることは可能になると思われます。   また,入院中の重症患者を証人として尋問するに当たっては,証人となる者が裁判所からの遠隔の地に居住しておらず,刑訴法第157条の6第2項4号に定める,「証人が遠隔地に居住し」という,構外ビデオリンク方式による証人尋問の要件を満たさない場合があること,また,同号の要件を満たす場合であっても,現行の刑訴規則上,証人の出頭場所が他の裁判所に限定されているため,証人はいずれかの裁判所まで出頭する必要があるところ,病状等によっては,入院先から移動させること自体が望ましくない場合があり得るほか,仮にこれが可能であるとしても,医療関係者等の付添いを必要とするなど,人的・物的な体制を整える必要が生じるなどして,最寄りの裁判所までの出頭が困難となる場合があり得ることなどの問題があります。   また,現行法上,刑訴法314条3項によって,犯罪事実の存否の証明に欠くことのできない証人が,病気のため公判期日に出頭することができないときは,基本的に,決定で,出頭することができるまで公判手続を停止しなければならないこととされていることもあって,重症患者について,円滑に証人尋問を実施することが困難となり,事案によっては,訴訟手続自体が滞りかねないおそれもあります。もとより,このような重症患者については,刑訴法158条のいわゆる所在地尋問によって証人尋問を実施することも可能なのですが,所在地尋問については,裁判所や訴訟関係人が証人の所在する場所に赴くこととなるため,その日程調整が容易ではなく,特に裁判員裁判において,裁判員を含む裁判体が証人の所在場所まで赴いて証人尋問を実施することは,現実には困難と言わざるを得ません。   こうしたことから,重症患者については,入院先に所在させたまま,ビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるようにする実務上のニーズはあると思います。その上で,重症患者について,ビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるようにすることの相当性について考えてみますと,現行刑訴法第157条の6第2項第4号において,証人が遠隔地に居住していることが前提とされてはいるものの,証人が同一構内で出頭することが著しく困難であるか否かを判断するに当たっての考慮事情として,証人の健康状態が挙げられているところ,病院からの移動が困難な重症患者については,遠隔地に居住しているか否かにかかわらず,裁判所への出頭が困難であることに変わりはないことから,ビデオリンク方式による証人尋問の実施についての相当性を認める余地があると考えられます。   要件については,専門家証人に関して述べたのと同じように,仮にビデオリンク方式による証人尋問の要件を,相当性の要件に一本化するというアプローチを採るのであれば,証人の重要性のほか,病気・けがの症状や治癒の見込み等の諸事情を考慮して,裁判所がその相当性を判断することとなると考えられるため,このような要件とすることによって,ニーズに対応できると思われます。 ○成瀬委員 ただいま佐久間委員から専門家証人と重症患者について御意見が示されましたので,私は外国に所在する証人について意見を申し上げたいと思います。ただ,その意見を申し上げる前に,1点,事務当局に質問させていただきたいことがございます。   現在,我が国が,外国当局から,我が国に所在する証人についてビデオリンク方式による証人尋問を実施したいと要請された場合,日本側としては,どのような場所でどのような立場の者が立ち会って,ビデオリンク方式による証人尋問を実施しているのでしょうか。その運用状況について,可能な範囲で構いませんので,教えていただければ幸いです。 ○仲戸川室長 成瀬委員の質問にお答えいたします。   海外から依頼を受けて証人尋問をする場合は,海外における捜査・公判に関する事柄ですので,実施の件数や相手国,それから手続の詳細についてはお答えできないことを御容赦いただきたくお願いします。   その上で,我が国が外国当局から我が国に所在する証人のビデオリンクを通じた証人尋問,この要請を受けて,これを実施した例におきましては,我が国の外務省の会議室等を利用し,法務省の職員等が立ち会って実施したものがあると承知しております。したがいまして,相互主義の観点からいたしますと,仮に,我が国が,外国に所在する証人について,当該国に要請してビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるということになった場合には,今申し上げたのと同様に,当該国の関係省庁の施設等を利用し,当該国の関係省庁の職員が立ち会うなどして実施することなどが考えられるのではないかと思われます。   なお,外国当局からの要請で,我が国に所在する証人の証人尋問を実施する場合におきましては,外国当局の職員が我が国に来て手続に立ち会うということは,できないわけではないとは考えられますが,承知している限りでは行われておりません。したがって,仮に,我が国が,外国に所在する証人について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるとなった場合におきましては,相手国に我が国の職員を派遣して証人尋問に立ち会わせるということは,その相手国との条件交渉次第ではありますが,必ずしも必須の条件となるわけではないのではないかと考えられます。   さらに,外国当局からの要請で我が国に所在する証人の証人尋問を実施する場合,尋問を実施するに当たって,我が国の職員が,要請国の裁判所の法廷警察権や訴訟指揮権の行使に関与することを事前に依頼されて対応したりですとか,尋問に立ち会った我が国の職員が,尋問実施中に要請国の裁判所からの法廷警察権や訴訟指揮権に基づく依頼に対応した例というのは,いずれも承知しておりません。要請国の裁判所が,尋問の実施中に,訴訟関係人や証人に対する働き掛けによりまして,適宜必要な訴訟指揮権等を行使しているものと承知しているところでございます。 ○成瀬委員 御回答いただき,ありがとうございました。ただいまの御回答を踏まえつつ,外国に所在する証人について,私の意見を申し上げたいと思います。   先ほど池田委員からも御指摘がありましたように,現行刑訴規則では,構外ビデオリンク方式による証人尋問における証人の所在場所が,我が国の裁判所構内に限られているため,外国に所在する証人について証人尋問を実施することは,事実上,困難であると言わざるを得ません。さらに,今般のコロナ禍の下では,入出国が著しく制限され,入国後に待機期間が設けられているなど,外国に所在する証人が我が国の裁判所に赴くこと自体が,一層困難となる事態が生じています。このような状況を踏まえますと,外国に所在する証人を当該外国に所在させたまま,ビデオリンク方式により証人尋問を実施できるようにする必要性は認められると思います。   現状では,外国に所在する証人の供述調書が作成されていない場合には,その者の供述を証拠とすることはできず,供述調書が作成されている場合でも,伝聞例外要件を充足する限りで供述調書が証拠採用されるにすぎません。仮に,外国に所在する証人について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるようになれば,その者の証言を証拠とすることができるとともに,当事者に反対尋問権を保障することもでき,公判の充実化に資すると考えられます。   そこで,刑訴規則107条の3が定める証人の所在場所を外国にまで広げることの相当性について,先ほどの池田委員の御意見と同様に,回線のセキュリティ確保や訴訟指揮権・法廷警察権の十全な行使という観点から検討してみたいと思います。   まず,回線のセキュリティ確保については,基本的に,我が国の国内において裁判所以外の場所に証人を所在させる場合と同様の問題であると考えています。すなわち,第5回会議において,進関係官から御説明がありましたように,外国との間における通信であっても,インターネットVPNや閉域網を利用することにより,回線のセキュリティを確保しながら通信を行うことは,現時点の技術においても可能であると考えられ,回線のセキュリティ確保の観点から,外国に所在する証人のビデオリンク方式による証人尋問の実施が否定されることはないと思われます。   次に,外国において訴訟指揮権や法廷警察権を行使することについては,当該外国の主権との関係が問題となり得ます。もっとも,第3回会議において,笹倉委員や私が御紹介したとおり,我が国とEUとの間で締結された「刑事に関する共助に関する日本国と欧州連合との間の協定」において,相手国に所在する者からビデオ会議を通じて証言を取得することが既に合意されているほか,相互主義の下で主権を放棄することも可能であることから,主権の問題がビデオリンク方式による証人尋問の実施を否定する理由とはならないように思われます。  さらに,実務的な観点からは,我が国の職員を外国に派遣しなければならないのではないか,訴訟指揮権・法廷警察権を十分に行使できるのかという点が問題になろうかと思いますけれども,先ほどの事務当局の御説明を踏まえますと,必ずしも我が国の職員を外国に派遣する必要はないと思われますし,訴訟指揮権や法廷警察権の行使についても,我が国の裁判所が画面を通じて証人に働き掛けることで足りる場合が多いように思われます。   以上によれば,証人の所在場所を外国にまで広げることの相当性も認められると考えます。   その上で,規定の在り方については,外国に所在する証人は,刑訴法157条の6第2項第4号に該当する場合が多いと思われることから,あえて,外国に所在していることを同項の新たな類型として加えるまでの必要はないと考える余地もあります。他方で,これまで証人の所在場所を我が国の裁判所構内に限定してきた刑訴規則との関係上,今後は,外国に所在する証人に対しても,ビデオリンク方式による証人尋問が実施できることを明確化するため,外国に所在する証人という類型を刑訴法上に新たに追加するという方策も考えられるところです。いずれにしても,証人の所在場所を我が国の裁判所構内に限定している刑訴規則107条の3は改正し,証人の所在場所として外国に所在する場所も選択し得るものとすることが必要であると考えます。   最後に,刑訴規則にどのように規定するかという点ですが,先ほどの事務当局の御説明によれば,我が国が外国に所在する証人について,当該国に要請してビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合には,相手国の関係省庁の施設等を利用して実施することが想定されるとのことでした。証人の所在場所としてどのような場所が適当かという点は,相手国の事情によって異なり得ると思われますので,当該事案や相手国の実情に応じて,我が国の裁判所が柔軟に判断できるような規定が望ましいと思います。 ○佐久間委員 第3回検討会議においても申し上げたように,また,成瀬委員が今御指摘されたように,外国に所在する証人について,当該外国に証人を所在させたまま,ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるようにする実務上の必要性はあるものと認識しております。その上で申し上げますが,外国所在証人について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるものとする場合においては,我が国の偽証罪の適用,ひいては供述の信用性の担保との関係で,留意すべき点があると思われます。   すなわち,我が国において,証人尋問を実施する場合においては,刑訴法154条により証人に宣誓をさせ,偽証した場合には偽証罪で処罰されるという威嚇力が,供述内容の信用性の法的担保となっているものと思われます。この点,外国所在証人がビデオリンク方式による証人尋問において偽証した場合においては,我が国の裁判手続で偽証をし,その結果,我が国の裁判作用を害したと言えることから,偽証罪は成立するものと思われます。もっとも,外国に所在する者を,偽証罪で実際に処罰できるかどうかについては別の問題でありまして,偽証した証人が我が国内に入国するか,条約等に基づいて我が国に引き渡されるなどしない限り,我が国において偽証罪によって処罰することはできないため,そのことを認識している証人にとっては,偽証罪で処罰されるという威嚇力が劣りますので,その点において,現実的には,国内所在証人と異なる側面があることは否定し難いと思います。   このように,外国所在証人については,国内所在証人のビデオリンク方式による証人尋問とは,信用性の法的保障の観点から異なる点があることには留意しておく必要があると思われます。   これに加えて,外国所在証人については,捜査段階で供述が得られているなど,その供述の信用性判断に資する資料の収集や,事実関係の解明がなされている場合もあれば,証人が外国に所在し続けていることなどを理由に,信用性判断に資する資料の収集や事実関係の解明を行うことができていない場合も考えられます。そして,後者の場合には,国内所在証人と信用性判断の点で異なる面があると言えると思います。   このように,外国所在証人の供述の信用性判断については,我が国の偽証罪による処罰の現実的可能性,信用性判断に資する事実関係の解明等の実施可能性などの点で,国内所在証人と類型的な相違点があるということに留意しておく必要があると思われます。 ○吉澤委員 まず,証人の所在場所の規定の在り方についてなんですけれども,一巡目での議論でも述べましたとおり,検察庁や地方自治体の建物といった公的施設,可能であれば,被害者参加代理人の事務所や被害者支援センターの建物内,例えば,被害に遭われて病院に入院されている方であればその病院内など,できる限り広く被害者に負担にならない場所において尋問ができるような選択肢があることが望ましいと考えています。   この場所の定め方ですが,イギリスでは特定の場所という制限はなく,ライブリンクの証人尋問を実施するに当たり,裁判所が所在場所の設備の適合性などを考慮することとされており,運用上,設備の適合性が確保された場所から設定することが期待されていると資料にもありました。日本におきましても,技術の進歩も見据え,またコロナウイルスのまん延などの突発的な事態に対しても柔軟に対応できるよう,出廷場所については特に限定した規定にするのではなく,セキュリティやプライバシーが確保でき,先ほどから述べられていますように,裁判所が相当と認める場所などといった,包括的な規定にするのが望ましいのではないかと考えています。   次に,二つ目の○の「考えられる弊害ととり得る方策」についてですが,訴訟指揮権・法廷警察権の問題や,証人に対する不当な影響の排除の観点という問題を全てクリアする一つの方策として,裁判所の書記官・事務官などが,その証人の所在場所に行くことが考えられるのではないかと思います。訴訟指揮権については,裁判所が証人の所在場所にいる裁判所職員とのやり取りを円滑に行えるようにしておけばいいと思いますし,証人に対する不当な影響力の排除の観点からしますと,正に証人の所在場所に証人以外の者がいるのかどうか,裁判所職員が確認することが最も確実に担保できるものだと思います。また,被害者らの中に,法廷秩序を乱す者がそういるとは思えないのですが,仮にそういったことが懸念される事案であれば,同一裁判所若しくは別の裁判所内でのビデオリンク方式で証人尋問を実施すればいいということになるのではないかと思います。   現在も,被告人と同一構内に被害者が出頭する際,多くの職員の方が被害者の動線を確保してくださったり,裁判の進捗状況を教えてくださったり,被告人と万が一にでも顔を合わせたりしないよう,多くの数を割いて対応してくださっていますが,逆に,被告人と同一構内でなければ,このように多くの人員を割く必要もなく,基本的には被害者の所在場所で被害者の対応をし,法廷が開かれている裁判所との意思疎通を図ることができればいいのではないかと思いますから,裁判所外だからといって,必ずしも人的負担が大きいというものでもないのではないかと考えます。ですので,是非被害者や御遺族の精神的苦痛・負担を少しでも少なくするための選択肢を多く与えるために,裁判所外での証人尋問に書記官を配置させるなどの対応をしていただければ有り難いと思っています。 ○永渕委員 ただいまの吉澤委員からの御発言に関連して,少しお話をさせていただきたいと思います。   証人の所在場所に関しまして,吉澤委員から御指摘のあったような必要性があることは理解できるところではありますけれども,この証人の所在場所を拡大するか否かという点につきましては,証人尋問といっても,様々な類型のものがあるため,一般論として検討するのはなかなか難しく,後に議論される鑑定人等にも関わる話ではありますが,証人等の属性などに応じて,具体的な場面を念頭に置きながら,類型ごとに検討する必要があるのではないかと考えております。   例えば,証人等の中でも,第三者などからの影響を受けるおそれが類型的に高い証人等もいれば,さほど高くない証人等もいるわけでありまして,少なくとも,第三者等からの影響を受けるおそれが相応にある証人等につきましては,基本的には裁判所にお越しいただいて証人尋問等を行うのが相当であると思われます。このほか,想定される訴訟指揮の内容や程度等の事情も,裁判所にお越しいただくのが相当かどうかの考慮要素となるのではないかと思われます。   それから,吉澤委員から,裁判所職員を派遣して,訴訟指揮等の対応をすればよいのではないかという御指摘があったわけですが,これまで裁判所職員を裁判所外に派遣して訴訟指揮等の補助に当たるということをしてきておりませんので,そもそも実効性のあるものとして行えるのかどうかは定かではございません。その点は措くにしましても,第3回会議でも述べましたが,仮にそのような方法を採るとしても,そのためには,個別に調整して,そのための態勢を整える必要がございまして,証人尋問を機動的に実施することが難しくなるのではないかと思われます。 ○河津委員 先ほど佐久間委員が,専門家証人と体験した事実を証言する証人の違いに言及されましたので,弁護人の立場から意見を申し上げたいと思います。   経験的には,体験した事実を証言する証人の方が,対面して反対尋問を行う必要性が高いことが多いという感覚はあります。しかし,専門家証人の証言内容が,有罪・無罪を決するような場合において,対面してその信用性を減殺する尋問を行う必要性の高い場合もあります。例えば,近年,ジャンクサイエンスという言葉を耳にすることが増えてきましたが,刑事裁判で専門家証人としての証言が,必ずしも科学的知見に基づかないのではないかということが問題となることもあり,そのような事案では,証人の適格性から徹底的な反対尋問を行う必要が生じます。そのような場合において,対面して反対尋問を行う権利を奪うことは,適切でないと考えます。   他方で,そのような信用性を減殺する反対尋問をする必要性の低い場合もあり,そのような事案においては,弁護人としても,迅速な裁判を実現する観点から,ビデオリンク方式によることについて異議のないこともあるのではないかと考えます。 ○佐久間委員 証人の所在場所についてですが,資料29では具体的に示されておらず,「その他」に含まれるのかと思いますけれども,刑事施設に収容中の受刑者や死刑確定者,少年院在院中の少年についても,ビデオリンク方式による証人尋問の対象とすべきニーズが高いと思われます。受刑者等を証人として尋問する場合には,証人を公判廷に押送するための人的・物的体制を整備する負担が多い場合があるほか,施設の外に移動させて,公開の法廷に出頭させることにより,その心情を害するおそれなども大きい場合があります。取り分け,刑事収容施設法第32条で,心情の安定が求められている死刑確定者については,その心情を害するおそれが特に大きいと思われます。   また,遠隔地の刑事施設等に所在する受刑者等を裁判所まで出廷させるためには,当該受刑者等を前もって最寄りの刑事施設等に一旦移送する必要がございますが,これにより,継続中の処遇プログラムや矯正処遇を中断・終了せざるを得ない場合もあること,また,受刑者等本人にとって,証人尋問のためだけに移動することの負担があることなど,受刑者等が証人として出頭することに伴って,現実的な不利益を被る場合があります。現行制度の下では,受刑者について,いわゆる所在地尋問が行われる場合もあると考えられますところ,ビデオリンク方式による証人尋問は,所在地尋問に比べ,尋問結果が直接証拠になること,裁判公開の原則が及ぶこと,これらに加えて,裁判官・裁判員・訴訟関係人の出張は不要になるといった長所もあることから,受刑者等について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施し得るようにすることは有用ではないかと思います。   要件については,ビデオリンク方式による証人尋問の実施要件を,相当性の要件に一本化するのであれば,こうしたニーズに対応することができると思われます。また,新たな類型を設けることとした場合には,「受刑者等であって,裁判所に証人として出頭することにより,心情の安定を害するおそれや矯正教育を阻害するおそれがある者」などとして,これらの者を対象とすることが考えられるのではないかと思います。   その上で,受刑者等について,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合の所在場所として,刑事施設等を加えることになりますが,回線のセキュリティの確保は適切な通信サービスを選択・利用することによって,技術的に可能だと思います。また,訴訟指揮権や法廷警察権の行使については,刑事施設等の職員に必要な協力を依頼することなども期待し得ることからすると,さほどの問題はないと思われます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   皆様,熱心に御議論いただきありがとうございます。予定の時間を過ぎているのですが,差し支えなければ,もうちょっとお付き合いいただきまして,「2」の「通訳・鑑定人・検証」についても御意見を頂戴できると有り難いのですが,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。では,「2」も含めて御意見をお願いします。 ○成瀬委員 私は,2(1)の「通訳」と(3)の「検証」について,意見を申し上げます。   通訳については,既に第3回会議において,私の方から,ビデオリンク方式による通訳をより広く活用することができるよう,別途,規定を設けることが考えられるとの意見を申し上げたところですが,この点について,さらに敷衍して意見を申し上げたいと思います。   刑訴法175条が「国語に通じない者に陳述をさせる場合には,通訳人に通訳をさせなければならない」と規定していることからも明らかなように,刑事手続において通訳は不可欠のものであるところ,通訳を要する言語が少数言語である場合,特に地方においては,通訳人を確保することが困難であるため,通訳人を確保する観点から,遠隔地にいる通訳人が,構外ビデオリンク方式により通訳をすることができるようにする必要性が認められます。   また,第3回会議でも申し上げたように,通訳の本質が,国語による陳述と国語以外による陳述・表現を相互に転換する点にあることに鑑みると,ビデオリンク方式であっても,映像と音声の送受信により,その相互転換に必要な情報を把握することは可能であり,通訳人の表情や仕草などをつぶさに観察できるようにするまでの必要はないと考えられることから,ビデオリンク方式による通訳を広く実施することができるようにしても,特段の支障はないように思われます。   このように,通訳人が裁判所に出頭することが困難な場合には,構外ビデオリンク方式による通訳を認める必要性と相当性が認められると思います。   以上を前提として,規定の在り方については,仮に,ビデオリンク方式による証人尋問の要件を相当性の要件のみとするならば,それが通訳人に準用されることにすれば良いと思いますし,通訳人のために新たに規定を追加する方策を採るならば,裁判所が相当と認める場合には,ビデオリンク方式によって通訳人に通訳をさせることができるとする規律を設けることが考えられると思います。   続きまして,(3)の「検証」についても意見を申し上げます。   検証とは,一般に,物,場所,人等の存在及び形状を五官の作用によって認識する処分をいうところ,第3回会議において,笹倉委員から,五官の作用のうち,視覚と聴覚によって認識すれば足りる場合には,裁判官や訴訟関係人がその物等の所在する場所に直接赴くことなく,ビデオリンク方式によりこれを行うことが有益な場合もあり得るとの御指摘がございました。   この御指摘を踏まえて,映像や音声の通信による検証を法律上明示する必要があるかどうかについて,検討してみたいと思います。例えば,ドローンが撮影した映像を通じて,高所にある物の状況等を認識する場合を想定してみると,これは,裁判官が対象となる物が存在する場所から離れたところにおり,その状況を視覚により直接認識するわけではないものの,現行法上の検証と言えると思われます。また,御承知のとおり,判例上,エックス線検査によって,外部からは直接視認できない荷物の内容物の形状や材質等を知ることも,検証としての性質を有するとされています。   これらを踏まえますと,裁判官や訴訟関係人が物等の存在・形状を直接認識せず,機器を介して認識する場合であっても,現行法上の検証として実施可能であると考えられ,あえて映像や音声の通信により検証を行うことができる旨の規定を設ける必要性はないように思われます。 ○池田委員 (2)の「鑑定人尋問」について意見を申し上げます。   現行刑訴法上,鑑定人尋問については,証人尋問に関する規定が準用されていますので,ビデオリンク方式による証人尋問が認められる場合には,鑑定人尋問もその要件に該当する場合に限って,ビデオリンク方式によって行うことができるものになると思います。   ただ,先ほど佐久間委員からも専門家証人に関連して御指摘があったことが同様に当てはまるのだと思いますけれども,鑑定人の確保が容易でない,鑑定人が多忙のため,期日の調整がなかなかつかない事案もあると承知しておりまして,ビデオリンク方式による鑑定人尋問をより広く認める実務上のニーズがあるのではないかと思います。そうだとしますと,公判手続を柔軟かつ迅速に進めるため,ビデオリンク方式による鑑定人尋問をより広く活用することができるように,ビデオリンク方式による鑑定人尋問の規定を別途設けることも考えられるのではないかと思います。   また,鑑定人尋問については,専門的知見や,これを具体的事実に当てはめた結果を供述するものであるという点で,証人自身の固有の体験を証言する証人尋問とは異なるものでありまして,証人尋問と比較しますと,鑑定人を直接観察しながら尋問する必要性は,必ずしも高くない場合があり得るように思います。加えて,特に実務においては,鑑定を命ずる前提として,鑑定能力の有無に関する鑑定人尋問が行われていると承知しておりますが,当該鑑定人を直接観察しながら尋問すべき必要性が小さい場合があるのではないかと思います。   こうした点を踏まえますと,鑑定人尋問について,適切な場面でビデオリンク方式の活用を検討することが有用ではないかと考えております。 ○河津委員 「鑑定人尋問」について,一言意見を申し上げます。   ただいま池田委員からも御指摘がありましたが,鑑定人尋問のうち,鑑定事項を告げて鑑定を命じるまでの形式的な部分については,対面で行わないことについて,当事者に異議がないことは多いと思われます。他方で,鑑定の経過及び結果の報告について,実質的に専門家証人に対する証人尋問と同じことを行う必要がある場合,信用性を減殺する尋問をする必要のあるときには,十分な反対尋問の機会が保障される必要があると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ほかに,この論点について御意見はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございます。それでは,証人尋問等について御意見を頂いたということで,本日予定しておりました議事は以上です。   次回の予定ですが,本日は論点項目の大項目「2」の(1)から(4)まで,二巡目の議論を行いましたので,次回は,論点項目「2」の「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の残りの項目,すなわち,「(5)公判期日への出頭」と,「(6)裁判員等選任手続」,「(7)公判審理の傍聴」と,それから論点項目の「3 その他」について,二巡目の議論を行うことにしたいと思います。   本日の会議の議事につきましては,公表に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにしまして,配布資料についても公表することにいたしたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。   それでは,次回の予定について説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 次回の第8回会議でございますが,11月19日金曜日,午前10時からの開催を予定しております。本日同様,ウェブ会議方式での開催となる予定です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 本日はこれにて閉会です。   どうもありがとうございました。 -了-