刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第8回) 第1 日 時  令和3年11月19日(金)     自 午前10時00分                           至 午後 0時19分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ○議論 1 論点項目2「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」          (5)公判期日への出頭等          (6)裁判員等選任手続          (7)公判審理の傍聴 2 論点項目3「その他」 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○仲戸川室長 ただいまから刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第8回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 皆様,おはようございます。本日も朝からありがとうございます。よろしくお願いいたします。   それでは,本日の配付資料について確認をお願いいたします。 ○仲戸川室長 本日は,議事次第のほか,資料30から32までをお配りしております。ウェブ参加の皆様におかれましては,お手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の方につきましては,ただいま申し上げた資料を机の上に御用意しておりますので,御確認ください。   資料30から32は,本検討会における論点項目のうち,「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の(5)から(7)までの各論点につきまして,前回までと同様,「考えられる方策」の枠囲いの中には,事務当局において,方向性について認識が共有されたと思われるものを整理して記載するとともに,方策の在り方について両論があり得ると思われる点については,「A案」・「B案」などと記載しております。また,更に検討を要すると思われる点を「検討課題」として記載しています。それぞれの内容につきましては,後ほど御説明いたします。   配付資料の説明・確認は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,議論に入りたいと思います。   本日は,第7回会議に引き続きまして,議事次第のとおり論点項目の「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」の(5)から(7)までの三つの小項目と,論点項目「3 その他」について,二巡目の議論をお願いしたいと思います。   では,(5)公判期日への出頭等について,議論をお願いします。   まず,資料30について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料30,「2(5)公判期日への出頭等」について御説明いたします。   資料の1ページ目,「考えられる方策」の枠囲いには,公判期日への出頭につきまして,考えられる方策として,被害者参加人及び被害者参加弁護士について,「①裁判所は,被害者参加人が刑訴法316条の34第1項の規定により公判期日に出席する場合において,一定の要件を満たすときは,ビデオリンク方式によることを許すものとする。」,「②裁判所は,被害者参加人が①の方式により公判期日に出席することを許す場合において,一定の要件を満たすときは,被害者参加弁護士がビデオリンク方式により公判期日に『出席』することを許すものとする。」という方策を記載しております。その上で,この方策に関連する「検討課題」を,「その他」を含め5点記載しています。   「1」の「裁判官等」及び「2」の「検察官・弁護人」につきましては,裁判官等や検察官・弁護人の出頭等について,それぞれ,「公判期日が行われる場所に所在しなければならない(ビデオリンク方式によることは許されない)ということでよいか。」と記載しています。また,弁護人の出頭については,「被告人をビデオリンク方式により公判期日に『出頭』させる場合においては,弁護人もビデオリンク方式によりすることができるものとするか。」も,検討課題に記載しています。   「3」の「被害者参加人・被害者参加弁護士」については,考えられる方策①・②に関係するものとして,「ビデオリンク方式による出席について,どのような要件を設けるか。」,「その所在場所に関する要件を設けるか。」などと記載しています。   「4」の「被告人」につきましては,「出頭義務が課され,開廷要件とされている被告人の『出頭』について,ビデオリンク方式による『出頭』が許容されるか。」や,「どのような場合にビデオリンク方式による『出頭』ができるものとするか。」などと記載しています。   資料30についての説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   では,議論を行いたいと思いますが,この項目については,全体を三つに区切りまして,検討課題の「1 裁判官等」,それから「2 検察官・弁護人」,これらをまず議論いただいて,その後,「3 被害者参加人・被害者参加弁護士」について,そして,最後に「4 被告人」以降について併せて議論いただくということにしたいと思います。   まず,「1」・「2」について御意見のある方は,いつものとおり,項目を明らかにして御発言をお願いいたします。 ○池田委員 最初の2点について意見を申し上げます。   これは,前にも申し上げたことですけれども,今後も裁判所構内の法廷という物理的な空間において公判手続を行うということに変わりがないといたしますと,裁判官,裁判所書記官及び裁判員がビデオリンク方式により列席する必要はないように思われます。また,検察官や弁護人につきましても,ビデオリンク方式により出頭すべき必要性があるかが問題となりますけれども,これまでの議論では,被告人がビデオリンク方式により出頭することができるものとしたときに,弁護人も被告人の傍らからビデオリンク方式により出頭するような場合は考えられるわけですけれども,その場合を除いては,一般的に言いますと,ビデオリンク方式により出頭すべき必要性は考えにくいように思われるところです。   私が考えるところは以上なのですけれども,実務的に裁判所や検察,弁護人のお立場からどのようにお考えになるかということについて,御意見をお伺いできれば幸いです。 ○小木曽座長 そういうことですけれども,実務家の皆様,いかがでしょうか。 ○永渕委員 それでは,裁判官,裁判所書記官,裁判員に関してお話ししたいと思います。これまでも申し上げてきましたとおり,公判手続においては,関係者全員が現実に法廷に出頭し,そのような場において,関係者が相互に対面する形で訴訟行為を行うのが原則的な形であり,そのことは今後も変わらないと考えているところです。したがいまして,裁判官や裁判所書記官については,実際に法廷に所在して手続に臨むことになるのではないかと考えております。   また,裁判員につきましても,第4回検討会で申し上げましたとおり,裁判員が公判手続を行う場に現実に所在しないと,裁判体全体として十分に審理を理解し,裁判官と裁判員との間で忌憚のない意見交換を行うための工夫を行うことが難しくなることなどから,実際に裁判所にお越しいただいて,審理,評議に参加していただくことになるのではないかと考えております。 ○佐久間委員 検察官の立場から申し上げます。   検察官の公判期日への出席については,例えば,担当検察官が感染症に罹患するなどして,急遽公判期日に出席することが著しく困難になるなど,一定の場合にビデオリンク方式による出席ができるようにするという,実務上のニーズも考えられないわけではありません。しかしながら,このような場合には,第4回検討会で笹倉委員から御指摘があったように,実務上,検察官同一体の原則により,ほかの検察官が代わりに出席する,あるいは公判期日を変更した上で,担当検察官が変更後の公判期日に出席するといった,検察官側の努力や工夫により,現行法の下においても対応が可能となる場合が大半です。   そもそも,検察官は,公判手続の中で,当事者として訴訟行為を行うことを職責としており,公益の代表者として裁判所に法の適正な適用を請求する立場にありますから,その立場に照らしますと,検察官がビデオリンク方式により出席するのは,単なる移動による検察官の負担軽減といった便宜の問題を超えた,強い必要性の存在が前提となるように思われます。このような実務を踏まえますと,検察官のビデオリンク方式による出席が認められることが,将来的に生じ得るかもしれませんが,少なくとも現時点においては,検察官が公判期日にビデオリンク方式により出席することを法律上認めるべきであるとする必要性はさほど大きくないものと認識しております。 ○河津委員 弁護人には,被告人の防御権が保障されていることに鑑み,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努めることが求められており,公判期日においては,裁判所や相手方当事者である検察官と対面して訴訟行為をすることが,最善の弁護活動をするために必要であると思われます。したがって,弁護人は,公判期日には現実の出頭をするべきであると考えます。   もし例外的な場合があるとすれば,例えば,遠隔地の裁判所で軽微事件の判決期日が開かれるような場合において,弁護人が公判廷に現実に出頭することを前提として期日を指定すると,判決の宣告が相当期間先延ばしになってしまうようなとき,被告人が弁護人の現実の出頭よりも,迅速な裁判を希望することも考えられます。そのような場合に限定するならば,弁護人がビデオリンク方式で出頭することができるようにすることは,被告人の権利利益にかなうことにはなると思われます。   また,第4回会議でも申し上げましたが,仮に被告人について,例外的にビデオリンク方式による出頭を認めるとすれば,弁護人としては,被告人と十分な協議をし,かつ,適切に訴訟行為をする必要がありますから,弁護人が複数選任され,そのうち1人は被告人のそばに所在して,ビデオリンク方式で出頭することが認められる必要があると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それぞれのお立場から御意見を頂きましたが,これについてはよろしいでしょうか。 ○保坂審議官 河津委員の御発言に関して,1点質問があります。   先ほど弁護人がビデオリンク方式で出頭する例外的な場合として,弁護人にとって非常に遠くの裁判所で,軽微事件の判決を言い渡す期日を指定するときに,弁護人が現実に出頭することを前提とすると,判決期日が先延ばしになるという例を挙げられましたが,軽微事件というのは,必要的弁護事件よりも軽微な事件という意味ですか。必要的弁護事件でなければ,判決期日に出頭する必要はないわけですけれども,やはり立ち会わなきゃいけないという職責を前提としてという,そういうことになるんでしょうか。 ○河津委員 御指摘のとおりでして,実務上そういったケースで,弁護人が出頭せずに判決が言い渡されることもあると聞いております。ただ,弁護人の職責に照らして望ましいのは,判決期日には立ち会うことであり,それが現実に出頭しようとしたときに,判決が先延ばしになってしまうという不利益が被告人に及ぶときには,ビデオリンク方式で出頭する方が,より被告人の権利利益にかなうこともあるという趣旨で申し上げました。 ○保坂審議官 分かりました,ありがとうございます。 ○小木曽座長 この点については,このくらいでよろしいでしょうか。   それでは,「1」と「2」につきましては,御意見いただいたということで,ここからは検討課題の「3 被害者参加人・被害者参加弁護士」について,御意見いただきたいと思います。お願いいたします。 ○成瀬委員 私は,一つ目の○の必要性・相当性について意見を申し上げたいと思います。   まず,被害者参加人のビデオリンク方式による出席につきましては,第4回会議において,吉澤委員から実務上のニーズがあるとの御意見が示され,それ自体については,おおむね御異論はなかったものと認識しております。よって,このような実務上のニーズを踏まえた上で,現行刑訴法には,被害者参加人について,ビデオリンク方式による出席に関する規定が設けられていないことも踏まえつつ,その相当性を検討する必要があります。   現行刑訴法において,被害者参加人にビデオリンク方式による出席が認められていないのは,被害者参加人は,公判期日に出席して,いわゆるバーの内側に入って自ら直接訴訟活動を行うために,被告事件の手続への参加を申し出た者であることに鑑みますと,公判廷とは別の部屋に在席することを前提とするビデオリンクの措置を採ることは,その性質上なじまないと考えられたことによるとされています。つまり,被害者参加制度が導入された当時は,被害者参加人がいわゆるバーの内側に入ること自体にシンボリックな意義があると考えられており,その点が特に重視されたため,ビデオリンクの措置は設けられなかったと理解することができます。  もっとも,制度導入後に運用が積み重ねられる中で,吉澤委員が御説明くださったように,ビデオリンク方式による出席を活用する実務上のニーズが新たに認識されるに至りました。こうした実務上のニーズを前提として,被害者参加人が自ら直接訴訟活動を行うという被害者参加制度の趣旨を全うする観点や,被害者参加人の希望する訴訟手続への関与の仕方が様々であることなどを考慮すると,現時点においては,被害者参加人がビデオリンク方式により出席することを認めることが,性質上なじまないとまでは言えないように思われます。  そもそも,被害者参加人がビデオリンク方式により出席したとしても,これによって被告人の権利利益や当事者の訴訟活動等を害することは想定し難い上,証人をビデオリンク方式で尋問する場合とは異なり,公判手続の中で被害者参加人の様子をつぶさに観察する必要性も高くないように思われます。  また,被害者参加人がビデオリンク方式により出席する場合であっても,第4回会議で佐久間委員が御指摘くださったように,検察官と被害者参加人が事前に打合せを行うなどの方法により,検察官との間で必要な意思疎通を行うことは可能であると考えられます。   以上を踏まえますと,被害者参加人がビデオリンク方式により出席することについて,相当性を認めることができると考えます。   次に,被害者参加弁護士について意見を申し上げます。   第4回会議において,私の方から既に申し上げましたとおり,被害者参加人に対して援助を行うという被害者参加弁護士の役割を十全に果たす観点からすれば,被害者参加人がビデオリンク方式により出席する場合に,被害者参加弁護士もその傍らから出席することができるようにすることには,必要性と相当性が認められるように思います。  他方で,被害者参加人は現実に法廷に赴いて出席しているにもかかわらず,被害者参加弁護士のみがビデオリンク方式により出席することや,被害者参加人は公判に出席せず,被害者参加弁護士のみが出席して訴訟行為を行う場合に,あえてビデオリンク方式により出席することにつきましては,被害者参加弁護士として期待される役割と整合しないように思われますし,これを認めるべき実務上のニーズも想定しにくいように思われます。   そこで,今申し上げたそれぞれの場合に,被害者参加弁護士がビデオリンク方式により出席できるようにする実務上のニーズがあるかどうかという点につきまして,吉澤委員の御意見を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○吉澤委員 ちょっと前回と重複するところもあるんですけれども,私の意見と,あとは,今おっしゃってくださいました被害者参加人と弁護士の所在場所に関しても,お話しさせてもらうおうと思います。   一巡目の議論でもお話ししましたが,被害者参加制度が創設された際は,被害者が実際に法廷のバーの中に入るということ自体に重要な意味がありましたので,被害者参加人と被害者参加弁護士については,飽くまで法廷に実際に出頭するということが原則であると,今も考えられます。ただし,前回述べましたような実務上の支障が生じているということもありますので,そういったケースに関しては,ビデオリンクによる参加を認めていただきたいと考えています。   少し要件の話もここでさせていただきたいんですが,一巡目の議論の際には,類型的にオンラインで出席が必要となると考えられる事例としまして,被害者多数の事件の場合,性犯罪事件のケースなど,現在遮蔽措置を採っている事件の場合,また,被害者参加はしたいけれども,被告人と同一の空間に在廷すること自体,苦痛で耐えられないという場合,被害者や御遺族が遠方に居住しており,年齢,健康状態など様々な事情によって,公判が開かれる裁判所まで行くことが困難であるという場合といったケースを挙げさせていただきました。ただ,必ずしも今お話しした類型に該当しない場合,例えば,遠隔地ではなくても,公共交通機関や交通手段の有無,アクセスの困難さであったり,被害者が置かれている環境,様々な家庭の事情などによっては,法廷が開かれている裁判所に出頭することが困難といったことも考えられます。 (具体的事例を紹介)   ですので,被害者が現に法廷に在廷することができない事情というのは,必ずしも前回お話しした類型に限られるものではないと考えられますので,要件については,事案によって柔軟に,被害者参加人から申出があって,参加人の人数や住所,年齢,心身の状況,その他の事情によって,裁判所が必要と認める場合のような形で,大きく要件を捉えればいいのではないかと考えています。   次に,今御質問がありました点についてお話しいたします。   御指摘のありましたとおり,被害者参加弁護士というのは,被害者参加人が十分に訴訟活動をするために援助する立場,役割を担っておりますので,私としましても,実務上も被害者参加人の傍らで,同じ場所から被害者参加人がビデオリンクで参加する,参加人と参加弁護士が同じ場所から参加するという方法,若しくは,被害者参加人がビデオリンクで被害者参加弁護士が法廷に在廷するといった,その二通りの方法ではないかと考えています。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   必要性・相当性,それから要件についてもお話があり,成瀬委員の質問にもお答えいただきました。要件の在り方,考えられる弊害と採り得る方策という項目もありますので,引き続き御意見をお願いします。 ○笹倉委員 それでは,私からは,これまでのお話も踏まえまして,二つ目の○の要件の在り方のうち,被害者参加人の出席に関する要件について,さらにそれに加えて,要件の設定に関しては,その次の○の訴訟指揮権や法廷警察権の行使等の観点も関わってくると思いますので,その点についても,併せて意見を述べます。   先ほど成瀬委員からも御指摘がありましたとおり,被害者参加制度導入の際,被害者参加人がビデオリンク方式により出席するという方法は,特に定められませんでした。しかし,その後,制度を運用する中で,ビデオリンク方式による出席を認めるべき実務上のニーズが新たに認識されたとのことであり,その具体例について,ただいま吉澤委員から御紹介があったところです。   もっとも,吉澤委員も,法廷に物理的に出席することが被害者参加人が訴訟手続に参加する通常の方法であろうともおっしゃっていたところです。そうしますと,通常はそうであろうということを前提とした上でのオプションとして,必要がある場合には,ビデオリンク方式により出席することもできるという定め方になるのだろうと思われます。その上で,要件についてどのように定めるかということですけれども,基準を明確にして,裁判所ごとに許否の判断がずれることがないようにするという要請を重視するとしますと,ビデオリンク方式による出席ができる場合について,被害者参加人の申出があることに加えて,必要性の高い場合を類型化した要件を設定し,その上で裁判所が相当と認めれば,これを許すという定め方をすることが考えられます。   しかしながら,被害者参加人のビデオリンク方式による出席によって,被告人の防御権等の制約が生じるというものではありません。その上,今,吉澤委員が御紹介くださったように,類型化にはなじまないものの,具体的な事案次第で必要性が高い場合もあり得るということも踏まえますと,被害者参加人からの申出があることを要件として,裁判所が相当と認めればこれを許すということにしておき,その相当性の考慮要素を規定するといった柔軟性を持たせた規律によることも考えられます。この後者の考え方によりますと,個別具体的な事情に応じて,ビデオリンク方式による出席の当否を判断することが可能になると考えられます。   要は,結局,明確性あるいは判断のばらつきを防ぐということを重視するか,それとも,個別の事案における柔軟な対処を可能にすることを重視するかというバランスの問題であろうと考えますが,いずれにしましても,ビデオリンク方式による出席を許すことが相当か否かの判断に際しては,例えば,犯罪の性質ですとか被害者参加人の年齢,心身の状態,被告人との関係,あるいは被害者参加人がお住まいになっている場所,被害者参加人の人数,被害者参加人が自ら行うことを希望されている訴訟行為の有無や,それがある場合にはその内容といったようなものが,考慮されるべき事情に当たるものと考えます。   次に,裁判所がビデオリンク方式による出席を認める場合には,ビデオリンク方式による接続先の被害者参加人に対して,訴訟指揮権を行使する必要が生じる場面があり得ますけれども,その場合には,ビデオ経由で口頭で指示するなどすることで対応可能な場合がほとんどであろうと思います。同様に,法廷警察権の行使に関しましても,口頭で指示することや,裁判所の指揮監督に協力することが期待できるような人にそこにいていただいて,そのような人を通じて行使するということも考えられますし,どうにもならない場合には,ビデオを切ってしまうことで法廷の秩序に及ぶ影響を遮断してしまうという対処法もあります。そうしますと,ビデオリンク方式による場合においても,法廷の秩序維持を図ることは十分可能であると思います。   したがって,訴訟指揮権や法廷警察権の行使を確保する要請との関係において,被害者参加人のビデオリンク方式への出席が一概に否定されるものではなく,仮に弊害が想定されるとしても,それはこのような制度を導入する妨げにはならないと考えます。   そして,先ほど,実施要件としての相当性についてどのような規律の仕方が考えられるかについて意見を述べましたけれども,その点を考えるに際しましては,今申し上げたような訴訟指揮権や法廷警察権の行使の確保も,判断の要素になると考えます。 ○池田委員 要件の在り方のうち,特に所在場所に関する要件を設けるかの点について,被害者参加人と参加弁護士の双方併せて意見を申し上げます。   第4回検討会におきまして,被害者参加人等がビデオリンク方式により出席できるものとする場合,被害者参加人等が裁判所の許可を得ずに公判審理の状況を録音・録画することが事実上容易になってしまうので,そのことによって,被告人や証人等が真意を供述することが妨げられるおそれや,公判審理の状況を録音した音声や録画した映像が外部に流出して,被告人や証人等の名誉・プライバシー等が著しく侵害されるおそれがあることから,こうした無断での録音・録画を防止できる状況を担保するための,所在場所に関する規律を設ける必要があるといった御指摘がありました。   また,ビデオリンク方式での出席の場合,ただいま笹倉委員からも御指摘がありましたけれども,事情によっては,訴訟指揮権や法廷警察権の行使の観点から,裁判所の指揮監督に従うことが期待される方が所在する場所に出席することが必要なこともあり得るものの,この出席が,相当期間継続し得るということに鑑みますと,人的・物的体制の観点から,裁判所が対応できるかどうかということを考慮する必要もあろうかと存じます。   さらに,被害者参加人等は,証人尋問,被告人質問といった訴訟行為を行う立場にありまして,同様の立場にある他の訴訟関係人との間で,その取扱いの平仄も考える必要があることなどにも鑑みますと,被害者参加人の所在場所については,差し当たりですけれども,法廷と同一構内の別室や,あるいは他の裁判所の構内とすることが相当ではないかと考えられます。   そのほか,被害者参加人等が複数で,ビデオリンクで出席する者の所在場所もまた複数の場所にわたるということになりますと,審理をされる裁判所において,法廷の状況に加えて,複数のモニターでリンク先の状況を確認するなどしながら,更に訴訟指揮権や法廷警察権を行使するということになりますけれども,それが多数にわたる場合には容易でないということも考えられますので,その所在場所を限定することが可能となるように,裁判所がその観点から出席する被害者参加人等の所在場所を指定するものとするということも必要であるように思われます。   その上で,ここからはお尋ねなのですけれども,以上の点について,裁判所を中心として,現実的な対応の可否を含めまして,実務家の方々からの御意見を伺えますと幸いです。 ○吉澤委員 所在場所に関してなんですけれども,一巡目でもお話ししましたが,裁判所という場所に限定いたしますと,性犯罪の被害者の方で,例えば,同一建物に出頭して参加すること自体は困難だけれども,裁判所の近くには住んでいるという方に関しては,遠方の裁判所まで出向かなくてはいけないということになってしまい,被害者の負担が大きくなるというケースも考えられますので,やはり裁判所以外の場所での参加の可能性も選択肢として残していただきたいと考えます。   現在の実務においてですけれども,例えば,被害者が被害者参加をするときに,待合室などを裁判所の1室で用意していただいて,そこにずっとおられるわけではなくても,裁判所の職員の方が非常に親切に,よく様子を見に来ていただいたりとか,そういう形で配慮して対応していただいています。今,裁判がどこまで進んでいますよとか,そういうことを小まめに伝えていただいたりとかして,非常に尽力していただいていると思っているところです。   そのことと,例えば,ビデオリンクでの参加が認められたときの比較なんですけれども,所在場所の備えるべき要件としましては,プライバシーを確保することが可能であって,訴訟指揮権・法廷警察権の行使に問題がない場所ということになると思います。その点からしますと,裁判所の構内でビデオリンクで参加をする場合であっても,今お話ししたように,現に今も裁判所の職員の方が丁寧に同席してくださっているのと同様に,やはりその席には恐らく職員の方がずっと付いてくださるのだろうと思います。今現在もそのような形で,そこに職員を配置していただいているのですから,それが裁判所外であっても,セキュリティの問題,プライバシーの問題さえなければ,その職員の方を派遣していただくことは可能だと思います。裁判所外だからたくさん派遣しなくてはいけないということでもないとは思います。先ほどおっしゃっていたように,被害者参加人や被害者参加弁護士のビデオリンク方式による出席についてその要件を設けるのであれば。ですから,裁判所外でビデオリンク方式により参加することの必要性の大小,それが少ない方であれば,もちろん裁判所に行くんですけれども,その必要性がやはり大きい,どうしても裁判所では難しいというケースも考えられると思いますので,そのようなときは,今していただいている非常に丁寧な対応に,少しだけプラスアルファというような形で対応していただくことで,裁判所外でのビデオリンクによる参加も可能なのではないかなと考えております。 ○永渕委員 論点の項目としては,「3」全体についてということになろうかと思いますが,申し上げます。   まず,この必要性については,ある程度理解するところであります。ただ,実際に訴訟手続を主宰して,訴訟運営に責任を持つ裁判所の立場からいたしますと,この導入に当たっては幾つかの隘(あい)路もあるように思われますので,改めて指摘をさせていただきたいと思います。   まず,従前申し上げておりましたとおり,被害者参加人がビデオリンクにより参加する場合も,証人等への尋問の場合と同様,被害者参加人に対する様々な配慮も含めまして,訴訟指揮権や法廷警察権の行使が十分に確保されている必要がございます。また,訴訟関係者のプライバシー確保の観点から,無断録音等の事態を防止する必要性もございます。裁判官が法廷での訴訟指揮を行いながら,常にモニターを確認してこのようなことを行うというのはなかなか難しく,特に,複数の場所ということになってきますと,これは相当困難であろうと考えます。   また,職員の立会いに関して申し上げますと,証人尋問と異なりまして,被害者参加は公判審理全体を通じて行われますため,その立会いが相当長時間にわたり,裁判員裁判などでは連日朝から夕方まで行われます。このような長時間にわたって必要な人員を常に立ち会わせるという場合,これは,裁判所のみでその役割を担うことはなかなか難しいということも,御理解いただきたいと思います。   さらに,審理運営上の課題といたしまして,被害者参加人や被害者参加弁護士と検察官との間の意思疎通に関する点を指摘しておきたいと思います。   被害者参加の制度は,法律上,検察官と被害者参加人の緊密な意思疎通が前提になっている制度であります。実務上も,被害者参加人等は検察官との間の緊密な連携を図っており,事前に打合せを行っていたとしても,例えば,公判廷における被告人等の実際の供述内容等に合わせて,法廷で追加の質問事項等の打合せを行っている様子は,これは現実にしばしば目にするところであります。被害者参加人がビデオリンクで参加している場合に,その打合せのために頻繁に休廷等を挟むということになってきますと,円滑な審理運営を妨げる可能性もあるのではないかと考えます。   こういった点を考えますと,仮に被害者参加人等についてビデオリンク方式による参加制度を導入する場合には,これらの隘(あい)路を踏まえた制度設計や運用を考える必要があると思います。別室での職員の立会いについて,被害者参加弁護士や検察庁の職員の方なども含め,関係者全体で協力して態勢確保に御協力いただく必要があると思われますし,円滑な訴訟運営という観点からは,例えば,被害者参加弁護士が付いていないなど,被害者参加人御本人と検察官との頻繁な意思疎通が必要な場合には,直接法廷にお越しいただくということも考えられると思います。   なお,吉澤委員から御指摘のあった裁判所以外の場所についてということになりますが,他の部屋に音声等が漏れる可能性も含めまして,何らかの形で録音・録画がされている可能性がないかどうか,これを完全に確認するということは,仮に裁判所職員をその場所に派遣したとしても,なかなか困難であろうと言わざるを得ないように思われます。特に,審理全体を通じてビデオリンクということになってまいりますと,ある特定の手続の場面を限った場合以上に,録音・録画されたり,中継のような形でインターネットに流れたりするおそれがございますので,手続の実施に責任を持つ裁判所としては,特に慎重に検討せざるを得ないように思われます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   問題点を含めて御意見を頂きました。 ○池田委員 ただいま永渕委員から御指摘いただいた中にございましたけれども,モニターを見ながら審理を行うということを考えたときに,特に被害者参加人が複数の場所にいる場合には,困難が伴うという御指摘があったことに関連して,意見を申し上げます。   現行の規定でも,被害者参加人が多数である場合の対応といたしまして,裁判所が代表者の選定を求めることができるという旨の規定が,刑訴法316条の34第3項にございますけれども,これは,現在は多数の被害者が存在する事件などを念頭に,法廷の広さ等に照らして,全ての被害者参加人等の出席を認めることが適当でないと考えられる場合もあることから,設けられているとされております。   そうだとしますと,被害者参加人をビデオリンク方式により出席させるものとする場合には,物理的な広さが制約となることは,現在よりも少なくなると見込まれるわけですけれども,他方で,この場合でも,やはり人数が,御指摘があったように多数に上るという場合もありますし,そのほかにも,被害者参加人が全国に点在して,それぞれ最寄りの裁判所等から参加を求めるという場合があり得るということに鑑みますと,被害者参加人等が所在する場所の物理的な広さや,審理を行う裁判所の訴訟指揮権の行使等に係る人的・物的体制等に照らして,オンラインであっても,全ての被害者参加人等の出席を認めることが適当ではないと考えられる場合も生じ得るのではないかと思われます。そうであるとしますと,ビデオリンク方式により出席する場合についても,現行の刑訴法316条の34第3項と同様に,裁判所が代表者の選定を求めることができる旨の規定を設ける必要は,なおあるものと考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   ほかに,この点について御意見よろしいでしょうか。   それでは,被害者参加人・被害者参加弁護士については,一通り御意見頂戴できたと思いますので,ここからは「4 被告人」以降についても御意見を頂きたいと思います。 ○池田委員 被告人の,最初の○,必要性・相当性について意見を申し上げます。   これも,第4回検討会において既に議論があったように,現行法が,公判廷への被告人の出頭を開廷の原則的な要件とする規定を置いている一方で,出頭がなくても審理を行い得る場合については,個別的な定めを置いていることに照らしますと,被告人の公判廷への出頭については,その一存では当否を認めることのできない価値ないし利益があるということが前提となっているものと考えられます。そのため,現実の出頭に代えてオンラインでの出頭を認めることの許容性も,この規定の趣旨との関係で検討する必要があるように思われます。   これまでの議論に照らしまして,被告人が裁判官や訴訟関係人・証人等の挙動を直接観察する,また公判廷内の状況を把握する,あるいは,逆に被告人質問における供述の信用性を評価するための一要素として,裁判官や検察官等が供述態度などを直接観察するといった点において,物理的な出頭とビデオリンク方式による出頭との間では差異があるということを前提といたしますと,こうした差異によって,被告人の権利保護の上での問題がないかという観点や,審理の適正さ,あるいは適正らしさに問題が生じないかという観点を踏まえながら,ビデオリンク方式による出頭を認めるための要件を丁寧に検討する必要があると考えます。   その上で,これまでの議論を踏まえますと,必要性に係る要件としては,被告人が公判期日に物理的に出頭することが著しく困難であって,他方でまた,公判期日の延期等によっても対応することができないなど,真にやむを得ない理由があることを前提とした上で,裁判所が検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときといった要件とすることが考えられます。さらに,第4回検討会においては,被告人の出頭義務の例外について規定する刑訴法284条や285条を参照することが有益であるとの御指摘がされておりまして,こうした規定を参考に,被告人の防御や,被告人の防御の機会を設けることを通じた裁判所の審理の適正さの担保という観点から考えますと,例えば,一定の法定刑以下の事件などの軽微なものに限定するということや,あるいは,被告人がビデオリンク方式により出頭している場合に行い得る訴訟手続を,一定のものに限定することなども考えられるように思われます。   いずれにしても,被告人のビデオリンク方式による出頭を認めるのは,物理的な出頭との間の事実上の差異に配慮する必要性の小さい場合に,それが相当であるということになるように思われます。   併せて,このような出頭をさせるに当たっては,その場合にも弁護人による援助を十分に受けられることへの配慮が必要であるということに鑑みて,事案の内容や審理の状況等を踏まえ,弁護人が公判廷と被告人の所在場所のいずれにも所在することの必要性の有無や程度を踏まえた上で,弁護人が複数選任されているかや,複数選任される見込みはあるかといったことも考慮するのが相当であろうと考えております。 ○佐久間委員 第4回検討会において,私は,被告人をビデオリンク方式により出頭させることが考えられる場合として,被告人が感染症に罹患した場合などというケースを提示いたしましたが,これは,ひとまず実務上のニーズとして考えられるものを申し上げたもので,被告人に訴訟能力はあるものの,その出頭が著しく困難な状態が相当期間継続することにより,公判審理が滞ってしまう場合を念頭に,こうした場合であっても,被告人をビデオリンク方式により出頭させることによって,公判審理を進行させることができるのではないかと思われる場合を述べたものです。   もとより検察の立場といたしましても,被告人質問は,被告人の供述態度等を直接観察しながら行うのが基本であり,被告人質問以外の公判手続においても,被告人の挙動を直接観察することが重要であると考えておりますし,また,被告人の権利保護の観点からも,物理的に出頭することが基本であろうと認識しております。また,公判期日の延期等によって,被告人の出頭を困難にしている原因を解消することができるのであれば,そのような方策により対応することになると思われますので,被告人のビデオリンク方式による出頭が認められるのは,例外的な場合に限られることになるだろうと,検察としてもこのように考えておるところです。   すなわち,被告人のビデオリンク方式による出頭が認められる場合としては,被告人に訴訟能力があることを前提とした上で,被告人が難病等を患っており,公判廷に出頭させることが著しく困難である場合,また,被告人を公判廷に出頭させることにより,被告人や訴訟関係人等の安全が脅かされるおそれがある場合であって,こうした状況が長期にわたり継続することが見込まれるため,公判期日の延期等によっては対応することができない場合を想定し得るように思われます。そして,こうした場合にも,公判審理を進行させることができるよう,想定され得る実務上の必要性に応じて,被告人をビデオリンク方式により出頭させることができるかを検討していくことになるのではないだろうかと,このように考えております。 ○河津委員 被告人の意向との関係について,意見を申し上げます。   被告人は刑事訴訟の当事者であり,防御権を有し,行使する主体です。そのような被告人の意思に反して,被告人にビデオリンク方式による出頭を義務付け,公判廷への現実の出頭を禁ずることは,第1回会議から繰り返し申し上げているとおり,適切でないと考えます。   民事裁判手続においては,昨年からウェブ会議システムが活用されています。ウェブ会議システムを利用した手続も,期日間に提出された書面等を確認したり,次回期日や書面提出の締切りを調整する程度の内容であれば,全く問題はありません。しかし,争点の整理に関連して,証拠の内容や事実関係について込み入った議論に至ると,裁判官や相手方当事者の発言のニュアンスが捉えにくい,逆に,自分の発言の趣旨が正しく裁判官や相手方当事者に伝わっているかどうか確認することが困難であるなど,対面との差異は明白に感じられます。このような対面との差異は,刑事裁判において,訴追を受け,処罰を受ける危険にさらされる中で,攻撃防御を行う被告人にとっては,より切実なものであると考えられます。   こうした差異は,将来の情報通信技術の向上によって小さくなることは期待できるとしても,簡単になくなるものとは考えられません。このような差異があるにもかかわらず,刑事裁判において,被告人が現実に出頭し,対面で訴訟行為をすることが禁じられるとするならば,被告人の防御権及び公判審理の適正さが損ねられることになります。それによって,最も大きな不利益を被るのは被告人にほかなりません。   現行法上も,被告人の出頭義務がない,あるいは出頭義務が免除される場合についても,出頭する権利はあると解されていると承知しております。第4回会議では,被告人が感染症に罹患している場合や,被告人が公判廷で襲撃されるおそれのある場合を念頭に置いた御意見が示されましたが,このような場合において,被告人が公判廷に現実に出頭する権利を放棄するのであれば,ビデオリンク方式で出頭させることは許容され得ると思われます。しかし,これらの場合は,いずれも被告人が出頭を拒否している場合と異なり,公判廷に出頭しないことについて,被告人に責任がある場合ではありませんから,被告人が出頭して対面で訴訟行為をする権利を制約することは,相当でないと考えます。 ○永渕委員 第4回検討会でも申し上げましたとおり,被告人は,刑事裁判手続において訴訟の当事者として,事実上・法律上の主張を行うとともに,法廷での供述が証拠方法にもなるという主体であります。そのような被告人の特性からしますと,被告人が公判廷に現実に出頭することは,単なる被告人の権利という側面を超えた意義があるのだろうと考えております。また,先ほども述べましたとおり,裁判体につきましては,裁判員も含めて公判廷への物理的な所在が引き続き必要となるものと考えております。その上で,裁判員裁判対象事件のような法定刑が重い事件,取り分け死刑求刑が予想されるような事件において,裁判員を含めた裁判体が被告人と対面しないまま審理を行い判決に至るということは相当でないようにも思われます。   このように考えますと,仮に被告人の出頭について,ビデオリンク方式を導入することにした場合でありましても,これを認めるのは,高度の必要性が認められ,かつ,法定刑や手続の内容に照らして,ビデオリンク方式による出頭を許容することが可能な,極めて例外的な場合に限るべきであり,そのことが条文上も現れているべきではないかと考えております。 ○成瀬委員 私は,二つ目の○の二つ目の点,すなわち,被告人の所在場所について意見を申し上げます。   第4回会議でも申し上げましたとおり,仮に,被告人をビデオリンク方式により公判期日に出頭させることができることとした場合,第三者の不当な関与や無許可での録音・録画が事実上容易になってしまいます。このような事態が生じるとなると,本来は公判手続に関与することができない者がこれに関与し得ることとなるおそれがあることに加え,被害者を始めとした証人等のプライバシーが侵害されるおそれや,証人等が公判手続における挙動を録音・録画されていることを恐れて,記憶に基づき供述することが妨げられるおそれもあり,ひいては,適正な公判手続の遂行にも支障を来しかねません。   そのため,被告人がビデオリンク方式により出頭できるものとする場合,その所在場所については,第三者が不当な関与をすることのない状況や,無断での録音・録画が行われないようにする状況を担保する必要があります。  また,被告人に対しては,裁判所の訴訟指揮権・法廷警察権が行使される場合があることから,訴訟指揮権等が十全に行使できる環境を確保する必要性も認められます。   他方で,ここまでの御議論を踏まえますと,被告人をビデオリンク方式により出頭させることができるものとするとしても,それが許されるのは極めて例外的な場合,具体的には,先ほど池田委員や佐久間委員がおっしゃったように,被告人が公判廷に物理的に出頭することが著しく困難であって,かつ,公判期日の延期等によっても対応することが困難である場合ということになります。そのような場合に,被告人はどこにいるのだろうかということを考えますと,重症患者であれば病院でしょうし,公判廷に出頭すると襲撃されるおそれがある被告人は刑事施設にいることが想定されます。  そこで,被告人が病院や刑事施設にいる場合に対応できるようにしつつ,先ほど申し上げた想定される弊害等にも対処することを考えますと,所在場所に関する規律としましては,具体的な場所を列挙するのではなく,ビデオリンク方式による出頭に必要な装置の設置された場所であり,裁判所が相当と認める場所,とすることなどが考えられるように思います。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ほかに被告人について御意見はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,一通り御意見いただいたと思いますので,(5)の公判期日への出頭等についての議論はここで一区切りということにいたしたいと思います。   ここで,開始後1時間ですので,若干休憩を取りたいと思います。 (休     憩) ○小木曽座長 次の(6)にまいります前に,休憩中に(5)について,笹倉委員から追加の発言の御要望がありましたので,まずは笹倉委員に御発言いただきたいと思います。 ○笹倉委員 ビデオリンク方式による被告人の出廷に関しまして,河津委員から,被告人の意向に反してまで,ビデオリンク方式によって出廷させることには問題があるという御指摘がありました。それについて考えがありますので,少し申し上げます。   まず,これまでの議論で,被告人が,リアルに出頭するのが大原則だということについては,この場ではほぼ見解の一致があるのではないかと思います。物理的な出頭とビデオリンク方式による出頭との間には,やはり違いがあるという御意見もあったところですし,被告人がビデオリンク方式によるのではなく,現実に出頭したいと望む場合に,それにもかかわらず,被告人の意向に反して,裁判所がビデオリンク方式によって出頭せよと言えるものとすることは,原則としては相当だとは言い難いと考えます。   したがって,リアルの出頭が原則であることを前提としつつ,例外的にビデオリンク方式による出頭を考えるというアプローチを採ることになりますが,その具体的適用場面として,これまで話に上がっているのは,被告人が訴訟能力を有してはいるものの,相当期間にわたり公判への物理的な出頭が困難であって,ビデオリンク方式によらずに現実に出頭するという被告人の意向に沿って出頭させたときには,被告人の生命・身体や訴訟関係者の安全等に多大なる弊害が生じる場合で,公判期日の延期等によっては対応することが困難であるような場合であると理解しています。こういう場合に,被告人の意向に反してビデオリンク方式によることがおよそ認められないとしてしまいますと,公判を進めていく必要性があるのに,被告人の意向によって手続が一向に進まない状況にも陥りかねません。それは,やはり相当ではないと考えます。   適切かどうか分かりませんけれども,思いつきで極端な例を挙げれば,無菌室で治療を受けている被告人が是非とも法廷に出廷したいと望んでいる,しかし,担当医は,それは命に関わるからとんでもないと言っており,しかも,公判期日を延期するという方法での対処が難しい事情があるといった場合にも,被告人がリアルの出頭を希望する限り,ビデオリンク方式の出頭は認めないことにするのかどうかという,そういう判断をすることが,ここでは求められているのだろうと思います。   そこで考えてみますと,現行法は,被告人の権利保護の観点も踏まえて,被告人の出頭を開廷の要件としていますけれども,この権利保護の要請を絶対的に貫徹しているわけではありません。例えば,刑訴法286条の2によれば,勾留されている被告人が出頭を拒否したり,引致を著しく困難にしたりしたとき,また,341条によれば,被告人が許可を受けないで退廷し,又は秩序維持のために退廷を命ぜられたときには,公判審理の円滑な進行の観点から,被告人が不在であっても公判手続を進めることができる場合があります。   もちろん,無菌室にいるような場合は,被告人に帰責性がない点で,現行法上規定がある場面との間に違いはあるわけですが,しかし,ビデオリンク方式にせよ,一応出頭はできるわけですので,およそ出頭・在廷ができないというのとは異なります。映像と音声を通じて公判審理の状況を認識し,これに関与することは一応可能であり,しかも,ビデオリンク方式による出頭は公判期日の延期等では対処し得ない例外的な場合に限るということであるとすれば,出頭は権利であると同時に義務でもありますので,被告人をビデオリンク方式により本人の意向に反して出頭させて公判手続を進めることも,例外的に許容される余地があるのであって,およそ許されないとまでは言えないと考える次第です。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   それでは,(6)裁判員等選任手続にまいりたいと思います。   資料31についての説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料31,「2(6)裁判員等選任手続」について御説明いたします。   資料の1ページ目の「考えられる方策」の枠囲いには,裁判員等選任手続につきまして,考えられる方策として,①として,「裁判員候補者について,裁判所は,裁判員等選任手続の期日に裁判員候補者を呼び出す場合において,一定の要件を満たすときは,他の裁判所の構内その他のビデオリンク方式により手続をするのに適当と認める場所に出頭させることができるものとする。」とし,また,②として,検察官及び弁護人について,「A案 検察官及び弁護人は,裁判員等選任手続期日への出席について,裁判所の許可を得て,ビデオリンク方式によりすることができるものとし,この場合においては,裁判所は,ビデオリンク方式により手続をするのに適当と認める場所を所在場所として指定することができるものとする。」,「B案 措置を講じない。」という二つの案を記載しております。さらに,③として,被告人について,「裁判所は,裁判員等選任手続に被告人を出席させる場合において,一定の要件を満たすときは,ビデオリンク方式により手続をするのに適当と認める場所に所在させ,ビデオリンク方式により出席させることができるものとする。」という方策を記載しています。   その上で,これらの方策に関連する「検討課題」を,「その他」を含め4点記載しています。   このうち,「1」の「裁判員候補者」につきましては,考えられる方策①に関係するものとして,「裁判員候補者について,他の裁判所等に出頭させてビデオリンク方式により手続をすることができるものとすることに必要性・相当性はあるか。」,「選任手続をする裁判所に出頭させて手続をする場合とビデオリンク方式により手続をする場合との間の差異により,どのような法的利益がどの程度損なわれるか。」や,これを踏まえて,「どのような要件を設けるか。」,また,「出頭場所に関する要件を設けるか。要件を設けるとして,どのような場所が相当か。」などと記載していいます。   「2」の「検察官・弁護人」につきましては,考えられる方策の②に関係するものとして,また,「3」の「被告人」については,考えられる方策の③に関係するものとして,それぞれ「1」の「裁判員候補者」と同様の検討課題を記載しております。   資料31についての説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,この項目については,先ほどと同じように三つに分けまして,まず「裁判員候補者」,その次に「検察官・弁護人」,最後に「被告人」以降について御議論いただきたいと思います。   では,「1 裁判員候補者」について,御意見を頂きたいと思います。 ○成瀬委員 まず,裁判員等選任手続に関する議論を始めるに当たりまして,今後の検討の方向性について,若干の意見を申し上げたいと思います。   第4回会議における議論を踏まえますと,今後,本検討会においては,資料31に示されているように,裁判員候補者,検察官及び弁護人,被告人を対象とした上で,以下の3点を中心に検討していくことが適切であると思います。   すなわち,第一に,ビデオリンク方式により手続をすることを認めることについて,具体的にどのような必要性があるか,第二に,ビデオリンク方式により手続をすることと,手続をする場所に現実に所在して手続をすることとの間に,どのような事実上の差異があり,これによってどのような利益・価値がどの程度損なわれるのか,第三に,ビデオリンク方式により手続をすることにより,何らかの利益・価値が損なわれるとする場合,どのような対応策を採り得るか,という3点です。   また,裁判員等選任手続は非公開ということもありまして,私のような研究者には実情が分からない部分も多いので,これらの検討に当たっては,実際に選任手続に携わっておられる実務家委員の皆様の御意見を伺いながら進めていくことが適当であると考えます。   このような観点から,裁判員候補者に関する一つ目の○,すなわち,必要性と相当性について私の意見を申し上げた上で,実務家委員の皆様に質問をさせていただきたいと思います。   まず,必要性につきましては,第4回会議において,池田委員から,裁判員候補者についてビデオリンク方式により手続をすることを認めることは,裁判員候補者の移動の負担を低減させ,また,感染拡大時に密を回避して手続を円滑に実施することに資するという御意見が示されました。私もこれに賛同するものです。   また,相当性につきましても,池田委員が既に指摘されたことの繰り返しになってしまいますが,裁判員候補者に裁判員等選任手続期日への出頭が義務付けられている趣旨は,裁判員となる国民の負担の公平を図るとともに,できる限り幅広い層から裁判員が選任されるようにすることにあるとされています。そうすると,ビデオリンク方式により手続をすることを可能にしても,裁判員候補者が裁判員等選任手続に参加することには変わりがなく,裁判員候補者にとっては,むしろ出頭場所に関する選択肢が増えるため,出頭が容易になることから,負担の公平や幅広い層から裁判員が選任されるようにするという趣旨を損なうことはないと考えられます。   その上で,第4回会議におきましては,裁判員候補者についてビデオリンク方式により手続をすることを認める場合,裁判官・検察官・弁護人が当該裁判員候補者を観察するに当たり,観察のしやすさに差異があり,その差異ゆえに,裁判員候補者が不公平な裁判をするおそれがないかどうかの判断に支障を生じることがあり得るのではないか,という御意見が示されました。  そこで,実際にこのような支障が生じ得るか,また,支障が生じ得るとして,これに対する方策はあるかという点につきまして,裁判所・検察・刑事弁護のそれぞれのお立場から,実務経験を踏まえた御意見を伺えれば幸いです。よろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 ありがとうございます。全体の方向性を含めた御意見と,それから,実務家の皆様の御意見を頂戴したいということでした。 ○佐久間委員 ただいまの成瀬委員の御指摘を踏まえ,検察の立場から意見を述べます。   裁判員候補者を,選任手続を行う裁判所以外の場所に出頭させてビデオリンク方式により手続をする場合,ビデオリンク方式に用いられるカメラの性能・アングルや,検察官が見るモニターの大きさ・解像度によっては,裁判員候補者が物理的に出頭する場合には可能だったはずの裁判員候補者の態度や表情などの十分な観察ができず,不公平な裁判をするおそれがないかどうかを判断する上で支障が生じるという事態はあり得るように思います。   このような支障に対する方策として,例えば,裁判員候補者を映すカメラや検察官が見るモニターについて,観察に支障を生じさせないような性能や大きさを備えたものを確保する,裁判員候補者を映すカメラに死角が生じないよう,カメラのアングルを調整するといった方策や,特に検察官や弁護人がビデオリンク方式を通じて観察することとなる裁判員候補者について,十分に観察する機会と時間を確保するといった方策を,検察官・弁護人の意向をも踏まえて,弾力的に実施することなどが考えられると思います。 ○河津委員 第4回会議でも申し上げましたが,被告人にとって不公平な裁判がなされることを避けるためには,裁判員選任手続において,弁護人が的確に不選任請求権を行使することが必要であり,そのためには,候補者の言動や態度を十分に観察できることが重要です。   この裁判員選任手続の実務の現状は,裁判所や裁判体によっても大きく異なっていると思われますが,例えば,東京地方裁判所の裁判員選任手続では,会議室に柱があって,候補者の方が柱の陰でよく観察できないこともあるのが実情です。それは,望ましいかどうかといえば,望ましい実情ではないのだろうと思います。あるべき姿を前提に申し上げると,候補者の言動や態度を十分に観察できることが必要であり,これをビデオリンク方式で実現するためには,佐久間委員からも御指摘のありましたように,カメラや画面,そして通信回線等の環境が十分に整備されることが必須の条件であると考えます。そのような環境が整備される限りにおいては,遠隔地に居住する裁判員候補者について,近隣の裁判所からビデオリンク方式により出席できるようにするとすることは,候補者の負担軽減の観点から相当であると考えます。 ○永渕委員 それでは,裁判員等の選任手続を実際に行っている経験などを踏まえて,幾つかお話をさせていただきたいと思います。   ただいま,佐久間委員や河津委員から観察の精度に関して御発言があったところでありますけれども,選任手続では,個別に候補者の方の健康状態ですとか,あるいは御家族の介護などに関する御事情など,かなり機微にわたるやり取りをしたり,選任手続で裁判所が明らかにする当該事案の概要等に関して,候補者の方が不安に感じておられることについてやり取りをしたりということもございます。それらの際には,候補者の方々の様子を観察しながら,丁寧に行っているところでありまして,候補者の方に実際に手続を行う裁判所にお越しいただいて,対面で手続を行うことには重要な意義があり,基本的には現実にお越しいただくのが原則であろうと考えております。   したがいまして,ビデオリンク方式による選任手続への出頭の制度を導入するとしましても,具体的にどのような目的・必要性を前提に導入するのかといった点を整理して,現実にお越しいただくことの意義を上回る必要性が認められる場合に導入するといった観点から検討も必要であろうかと思われます。   このような観点から申し上げますと,例えば,出席率の向上という点を導入の意義として捉えるのであれば,裁判所としまして,遠隔地に居住しておられる候補者の方の出席率が,他の地域に居住しておられる候補者の方に比べて,目立って低いなどといった事情を把握しているわけではございません。なお,特に他の都道府県にお住まいの裁判員候補者につきましては,そもそも審理についても参加していただくのは困難であるということで,辞退の申出がなされまして,辞退が認められていることも多いというのが実情でございます。   そうしますと,候補者の利便性の向上を目的とすることが考えられるわけでありますけれども,当然なことでありますが,候補者の方々の御事情というのは,本当に千差万別であります。候補者によってのニーズというものは多種多様でありまして,例えばですけれども,遠方であっても,むしろこの機会に,御自身の用事なども兼ねて,裁判員裁判を実施する庁に直接行きたいと,出頭したいという,こういう方も珍しくなかったりするわけです。そういった個々の個別のニーズに広く対応するということになりますと,これはやはり合理的なものではなく,やはり出頭いただくのが原則という考え方にも沿わないように思われます。   なお,候補者の方にとっては,特に選任されなかった場合に,ビデオリンクで簡便に出頭できればよかったなと,このような感想をお持ちになるのかなと想像するわけですけれども,今,実際上は,候補者の呼出しの人数につきましては,選任されないと,いわゆる不選任となる人数が多くならないように配慮しているという実情も,併せて御紹介しておきたいと思います。   その上で,候補者の方々が裁判員等に選任された場合,この視点からもちょっと申し上げておきたいと思いますが,選任された場合,この選任手続の後に,裁判所から法律上説明が必要な事項の説明,これは,いわゆる39条説明ですけれども,これを行うのは当然ですが,そのほかに,法廷や評議室で着席位置を確認していただいたり,動線を確認していただいたり,緊張を解くような会話をお互いにしていただいたりするなどしておりまして,このような配慮は,裁判員の方々の不安を取り除き,円滑に審理に臨めるようにするために,重要な役割を果たしているというところであります。   また,ビデオリンク出頭の方が仮に選任されたという場合,その方が実際に公判期日に本当にお越しいただけるのかどうかが,見通せないという面もあろうかと思われます。   以上のほか,実務的な問題といたしまして,出頭場所につきましては,プライバシー保護などの観点から,裁判所にお越しいただく必要があると思われますところ,庁によりましては,連日のように行われることもある選任手続の全ての日について,それぞれの裁判所がビデオリンク出頭の場所として,人的・物的体制を整えておくというのは,これは現実的ではないといった問題もございます。このように様々な課題,隘(あい)路があることも踏まえまして,現実的・合理的な制度として,どのような仕組みが望ましいかということを検討していく必要があるのではないかと考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   三者のお立場から御意見いただきました。今,裁判員候補者の意向との関係や出頭場所に関する御発言もありましたが,更に御意見はいかがでしょうか。 ○池田委員 今,実務家の方々から実情について御教示いただきました点を踏まえまして,意見を申し上げたいと思います。   原則的な考え方としましては,ビデオリンク方式によって手続をする場合に,手続の趣旨・目的が十分果たされない,つまり選任に支障が生じて適正が保たれないというのであれば,実施することは認めるべきでないということになるのだと思いますけれども,先ほど佐久間委員や河津委員からも御指摘があったように,使用される機材,つまりカメラやモニターについて,性能十分なものを確保したり,アングルを調節したり,また十分に観察する機会と時間を確保して,弾力的に運用するという方策を採って対応することは可能であるという御指摘を頂きましたので,その点については対応可能なのだろうと思います。   また,その他の人を観察することが有用な意味を持つという意味で共通性を持つ証人尋問と比較して考えてみましても,証人尋問は,検察官や弁護人が証人に対してどのような尋問をするか,これを臨機に判断するための前提として,証人の表情や目線などを含めて,つぶさに観察することが求められるのに対して,裁判員等選任手続では,検察官及び弁護人自身は尋問するものではなくて,不公平な裁判をするおそれの有無を,その態度等から判断するものであって,さらに,そのおそれを感じさえすれば,具体的な理由を示すことなく不選任決定請求をすることもできるのでありまして,この両者を比較しますと,観察が必要とされる程度にはおのずと違いがあるものと考えられます。あるいは,更に考えてみますと,証人尋問における挙動の観察は,尋問の進行と並行して行わなければなりませんけれども,裁判員候補者の観察は,裁判所の裁量的な判断で,個別質問の機会が設けられたり,あるいは観察のためだけの時間を設けるなどして,検察官や弁護人が裁判員候補者を十分に観察することができる時間や機会を柔軟に確保することも可能であるということを考えますと,制度的に見ても,ビデオリンク方式によることに伴う支障に対応するための方策を採る余地は,相応に存在しているということができるのではないかと思います。   実際に手続を実施される裁判所の立場からは,考えられる課題を御指摘いただいたわけですけれども,裁判員候補者の意向等の兼ね合いは,また追って議論があるところかもしれませんが,実施することがおよそ認められるかどうかということに関して申し上げますと,使用される機器の性能や人的・物的体制と,また裁判員候補者を観察する十分な機会・時間が設けられるかといった事情を考慮して,これを踏まえて,検察官及び弁護人の意見も聴いた上で,相当であると認めた場合に,裁判所がこれを認めるということとすることなどが考えられます。   その際,裁判員候補者が特段の理由もなく,遠方の裁判所からの参加を希望する場合など,その希望に沿ってビデオリンク方式をすることが相当とは言い難いといった事情は,もちろん考慮することができるということにするのが望ましいと考えております。 ○笹倉委員 既に若干話が及んでいたかと思いますけれども,出頭場所に関する規律について,意見がありますので述べます。   これまでの会合で私自身も発言したことがありますけれども,現行裁判員法には選任手続の実施場所について特段の定めはありません。しかし,裁判員候補者や被害者のプライバシー保護などの観点から,裁判員等選任手続は公開しないことにされていますし,また,裁判員等選任手続において,被害者特定事項が明らかにされた場合は,そのことの告知を受けた裁判員候補者は,これを公にしてはならないと明示的に規定されているところです。これ以外にも,永渕委員からは,選任手続の具体的な在りようとして,家族の事情など,機微にわたる事項について尋ねることもあるというようなお話もございました。   このようにプライバシー保護の要請が非常に強いことからしますと,裁判員等選任手続は,裁判員候補者や被害者の個人情報の漏えいを防ぐことができるような場所で行われるべきです。そうしますと,裁判員候補者の出頭場所も,同様にプライバシー保護の要請に応えられる場所でなければならないと思われます。さらに,現実的な問題としまして,裁判員候補者が複数の場所に別々に出頭するということを無限定に認めてしまいますと,人的な対応・物的な対応の体制の限界から,裁判所において対処が難しくなるのではないでしょうか。したがって,ビデオリンク方式で裁判員等選任手続を行う場合における裁判員候補者の出頭場所については,一定の規律を設けることが望ましいと考えます。   配付資料31の「考えられる方策」の四角書きの中では,「他の裁判所の構内その他の・・・適当と認める場所」という規律を設けることが一案として示されています。出頭場所を限定する必要があるとすると,この案のとおりの規律を設けることが考えられると思います。 ○成瀬委員 私は,最後の○,すなわち,裁判員候補者の意向との関係について意見を申し上げます。   現行裁判員法によれば,呼出しを受けた裁判員候補者は,出頭義務を負うものの,出頭場所を選択する権利を有するものではありません。裁判員候補者の出頭場所は,呼出状の記載事項でありまして,裁判所がこれを決めることとされています。また,手続をビデオリンク方式によりすること自体によって,ビデオリンク方式によることの意向を有しない裁判員候補者の何らかの法的な権利・利益を害することは,通常想定し難いように思われます。  そうすると,裁判員候補者がビデオリンク方式によることの意向を有しない場合であっても,裁判所がこれによることを命じることは,理論上は可能であると考えられます。先ほど,永渕委員から,裁判員候補者の意向は千差万別であって,全てに対応することは難しいというお話がありましたが,その観点からしますと,裁判所が,裁判員候補者の意向に関わらず,一定の地域に居住する候補者は一律にビデオリンク方式によると命じることができる制度には,合理性が認められるのかもしれません。   他方で,先ほど申し上げたとおり,ビデオリンク方式により手続をすることを認める主な理由は,裁判員候補者の移動の負担を低減させるという点にあります。そうすると,裁判員候補者がこのような移動の負担を踏まえた上で,それでもなお,裁判員等選任手続が行われる裁判所に現実に出頭する意向を有している場合に,あえてその意向に反して別の場所に出頭させる必要性は見いだし難いように思われます。  また,裁判所が,裁判員候補者の意思に反して,裁判員等選任手続が実際に行われる裁判所とは別の場所に出頭するよう命じることは,国民の理解と協力の上に成り立つ裁判員制度の趣旨にもそぐわないように思われます。   このように,両論考えられるところですので,具体的な制度の在り方を念頭に置きながら,引き続き検討していく必要があると思います。 ○市原委員 今お話のありました候補者の意向という点でございますけれども,これにつきましては,ビデオリンク出頭を認めることとした場合の具体的な制度の在り方に関わりますところ,先ほど永渕委員の発言にもありましたとおり,様々な課題もあることも踏まえつつ,現実的・合理的な制度としてどのような仕組みが望ましいかという観点から具体的に検討していくことが必要であると考えております。   その上で,差し当たり,現時点で考えられることを申し上げますと,ビデオリンク出頭等を導入する場合の一つの方法として,候補者に対する呼出状を送達する場合では,これまでと同様に選任手続を実施する裁判所への出頭を求めた上で,事後的に候補者から個別に申出を受けて,必要性が認められる場合には出頭場所を変更して,ビデオリンク出頭を認めるという仕組みが考えられます。こういった方法の場合には,候補者の意向に基づかずに,ビデオリンク出頭を行うということはなく,また,出頭を原則とする考え方にも沿うように思われます。もっとも,申出を受けてから,当該候補者が出頭すべき場所となる裁判所の受入れ態勢の確認等を行い,申出に対する判断をした上で,その結果を確実に候補者に告知するなどの多くの手続を,ごく短期間の間に行う必要が生じるということになります。こういった隘(あい)路の検討も含めて,合理的な制度の在り方を検討する必要があると考えております。   また,もう一つの別の方法として,候補者に呼出状を送達する段階から,各候補者の名簿上の住所に応じて,出頭すべき裁判所等を割り当てて,その場所を呼出状にも記載しておくという方法も考えられます。この方法は,手続としては明確でありますけれども,必ずしも候補者の意向に沿うとは限らないということになります。   このように,選任手続にビデオリンク出頭を導入する場合に,候補者の意向との関係をどのように考えるかということにつきましては,具体的な制度の在り方の検討と併せて,検討していく必要があるのだろうと考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   裁判員候補者については,これでよろしいでしょうか。   それでは,「検察官・弁護人」について御意見を頂戴したいと思います。 ○池田委員 検察官・弁護人の最初の○,必要性・相当性について意見を申し上げます。   これも,既に第4回検討会で指摘があったことですけれども,裁判員等選任手続期日が行われている裁判所の遠隔地に所在する検察庁の支部に勤務する検察官や,遠隔地に所在する弁護士事務所に勤務される弁護人のように,抽象的に考えますと,検察官や弁護人が選任手続期日にビデオリンク方式により出席するニーズは,考える限りでは,ないとまでは言えないようにも思われるところですが,実際の実務において,検察官及び弁護人がビデオリンク方式により出席するニーズがどの程度あるのか,また,検察官及び弁護人自身がビデオリンク方式で選任手続期日に出席する場合に,何らかの弊害が考えられるのか,それがあるとすれば,それはどの程度で,採り得る対応策があるかといったことも考慮すべきだろうと思われますことから,こちらも,実情を御存じの検察官及び弁護人のお立場からの御意見をお伺いできますと幸いです。 ○佐久間委員 検察の立場を申し上げます。   検察官が裁判員等選任手続期日にビデオリンク方式により出席するニーズが,全くないというわけではないと思われます。ただ,検察官は,通常,裁判員等選任手続期日が行われる裁判所に対応する検察庁に勤務しておりまして,裁判官・裁判所書記官,多くの裁判員候補者が出頭している期日に検察官が出席しないという状況は,余り想定できないと思われますので,検察官がビデオリンク方式により出席するニーズは,現実的にはほとんどないと思われます。 ○河津委員 池田委員御指摘のとおり,弁護士の間には,ニーズがないわけではないのだろうと思います。ただ,第4回会議でも申し上げましたが,当事者が裁判官の面前に出頭することには,裁判官による選任決定や裁判員に対する説明が適正に行われることを確保するためにも意味があると考えられますし,当事者の質問請求,不選任請求や異議の申立てなどの訴訟行為は,同一の環境で行われるべきであると考えられることから,検察官も弁護人も裁判員選任手続については,現実の出席をすべきであると考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ということで,必要性は余り感じられないという御意見であったと受け止めましたが,この点について,ほかに御意見よろしいでしょうか。   それでは,「検察官・弁護人」については御意見いただいたということで,「被告人」以降について,併せて御意見を頂きたいと思います。お願いいたします。 ○池田委員 被告人に関しては,二つ目の○の実施要件の在り方として,どのような要件を設けるかということについて,意見を申し上げたいと思います。   第4回検討会におきまして,被告人をビデオリンク方式により裁判員等選任手続に出席させることについて,被告人の押送の負担を軽減させ,かつ,臨機応変な対応を可能にするというニーズがあると考えられる一方で,被告人をビデオリンク方式により出席させ,映像の送受信を通じて裁判員候補者の容貌等を確認させることは一応可能であることから,許容性もあると述べまして,これらの点に特段の異論はなかったものと承知しております。   もっとも,直接対面して観察する場合と,画面越しに観察する場合とで,人の容貌等の印象が異なり得ることや,カメラやモニターの性能によっては,容貌等の詳細を観察することが困難であるという場合があり得ることといった事実上の差異があることに鑑みますと,ビデオリンクとした場合に,被告人を出席させる目的の実現に支障が生じる場合がないとまでは言えないように思われます。   このような観点から,被告人をビデオリンク方式により出席させるかどうかについては,その目的や,そのために必要な機材・設備の性能等を踏まえまして,当該目的を達成する上で,ビデオリンク方式により出席させることによる支障の有無を考慮し,裁判所が相当であると認めた場合に限り,ビデオリンク方式により被告人を出席させることができるという形にすべきではないかと考えられます。 ○成瀬委員 池田委員に続きまして,私も,実施要件の在り方に関連して,被告人がビデオリンク方式により出席する場合に,その傍らに弁護人が所在することを要件とすべきかという問題について,意見を申し上げます。   この点については,第4回会議において,河津委員から,裁判員法34条5項によれば,弁護人は,裁判員候補者が不公平な裁判をするおそれがあると認めて不選任決定の請求をするに当たり,被告人の明示した意思に反することはできないとされており,裁判員法は被告人が弁護人に意思表示をすることを想定しているから,被告人がビデオリンク方式により手続に出席する場合には,被告人と弁護人が十分な協議を行うことができるように,被告人の傍らに弁護人を所在させるべきであるという趣旨の御意見が示されました。   しかし,被告人が裁判員等選任手続に出席することが想定される場合としては,例えば,被告人に裁判員候補者の容貌等を確認させる必要が生じた場合などが挙げられており,そのような場合に,弁護人との打合せや弁護人の助言が常に必要になるとは思われません。  また,被告人は,裁判所が必要と認めた場合に限って,裁判員等選任手続期日に出席するにすぎないことからしますと,河津委員が言及された裁判員法34条5項は,裁判員等選任手続期日の最中に弁護人が被告人の意思を確認する機会を保障する必要があるという考え方に基づくものとは解されません。   他方,これまでの議論において,被告人にビデオリンク方式による出席を認めるニーズとして,臨機応変な対応が可能となることが示されているところ,弁護人が被告人の傍らにいることが必須の要件となると,弁護人が被告人の元に移動するまでの間,手続を停止しておく必要が生じ,結局,被告人にビデオリンク方式による出席を認める意義が損なわれてしまうように思われます。  仮に,被告人が裁判員候補者の容貌等を確認した後,被告人と弁護人が打合せをする必要が生じた場合には,例えば,裁判官等と検察官が席を外すなどした上で,ビデオリンク方式による回線を利用して,被告人と弁護人が打ち合わせる機会を設けることも考えられ,そのような打合せは,ビデオリンク方式による音声と映像の送受信によって十分に実現可能であろうと思われます。   以上を踏まえますと,被告人をビデオリンク方式により出席させる場合に,その傍らに弁護人が所在することを要件とすべき必要性も相当性も認められないと考えます。 ○河津委員 ただいまの成瀬委員の御意見を踏まえて,全体についてということになると思いますが,意見を申し上げます。   そもそもこれまでの実務を前提とすると,被告人を裁判員選任手続にビデオリンク方式で出席させるニーズの生じる場面は,余り多くは想定されないように思われます。他方で,裁判員法は,質問請求,理由付きの不選任請求,理由を示さない不選任請求について,被告人の権利として規定していますから,裁判所が必要と認めて,被告人を手続に出席させた場合に,被告人が自らこれらの権利を行使することが妨げられるのは,適切ではないように思われます。そうすると,被告人を裁判員選任手続に出席させる以上は,被告人が弁護人と十分な協議をして,適切に権利行使をすることができるようにする必要があるのではないかと考えます。   したがって,被告人だけを弁護人も所在しない場所からビデオリンク方式で出席させるという在り方は望ましいものではなく,そのような在り方を想定して,被告人の意思にかかわらずビデオリンク方式で出席させることができるような制度を設計することは,適切ではないと考えております。 ○笹倉委員 私からは,所在場所に関する規律の要否について申し上げます。   河津委員から,現在の実務を前提とすると,被告人をビデオリンク方式により裁判員等選任手続に出席させるニーズはそもそも少ないだろうというお話がございましたけれども,仮にビデオリンク方式による出席を許容するものといたしますと,裁判員等選任手続が裁判員候補者のプライバシー保護の観点等から非公開とされていることなどに照らし,裁判員候補者のプライバシー情報が不当に漏えいする事態等を防止するため,やはり所在場所は限定すべきだろうと考えます。   そのような場所として,具体的には,例えば,在宅の被告人であれば,その所在地の最寄りの裁判所に来てもらうということが考えられますし,また,勾留されている被告人であれば,その勾留されている刑事収容施設内ということが考えられますが,具体的な事案において,どのような場所が適切であるかは,正に個別の事情,あるいは,在宅の被告人の所在地の最寄りの裁判所の人的・物的体制や,勾留中であれば刑事収容施設の回線の接続状況等を踏まえて決める必要があると思われます。   他方,被告人が複数という場合もないではないでしょうけれども,裁判員候補者のように出頭すべき人がたくさんいて,それらの多数の人たちが複数の場所に別れて集まることになると困るという事情はありません。そうしますと,そもそもニーズが少ないということでもあり,また,先に述べましたとおり,個々の事件の事情による面もあることからすれば,裁判所は,被告人の所在場所として,ビデオリンク方式により手続をするのに適当と認める場所を指定することができるといった程度の規律を設けて,あとは,裁判所による判断に委ねることが考えられるのではないかと思います。 ○池田委員 被告人の最後の○,被告人の意向との関係について意見を申し上げます。   これは,先ほど成瀬委員からも御指摘がありましたように,現行法の規定によりますと,被告人の裁判員候補者,裁判員等選任手続への出席は,裁判所が必要と認めたときに裁判所がさせるものとされておりまして,被告人に裁判員等選任手続に出席する権利があるということにはなっておりません。   この点に鑑みますと,被告人を出席させる権限を有する裁判所が,被告人を出席させる目的や手続の迅速な進行の観点等を踏まえて,ビデオリンク方式によることが適切であると判断した場合に,これを覆して現実に出席させるよう求める権利を,被告人に保証すべき根拠は見当たらないように思われるところです。したがいまして,裁判所は,被告人がビデオリンク方式によることの意向を有しない場合であっても,これによることを命じることができると考えるのが,現行の裁判員法の建付けとは整合するように思われるところです。   ただし,被告人に裁判員候補者の容貌等を確認させる必要があって,裁判所が被告人を出席させるということとした場合には,そのような出席の趣旨も考慮した上で,裁判所としてビデオリンク方式によることの相当性を判断するのでありまして,その判断に際して,被告人の意向を一定程度考慮に入れることはあり得るものと思われるところです。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   選任手続について,ほかに御意見はよろしいでしょうか。   それでは,(6)の裁判員等選任手続について議論はここまでといたしまして,続けて,(7)公判審理の傍聴について議論いたしたいと思います。   資料32の説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 資料32の「2(7)公判審理の傍聴」について御説明いたします。   資料の1ページ目,「考えられる方策」の枠囲いには,公判審理の傍聴につきまして,「A案 オンラインの方法により行うことができるものとする。」,「B案 措置を講じない。」という二つの案を記載しております。   その上で,これらの方策に関連する「検討課題」を,「その他」を含め2点記載しています。   このうち,「1 オンラインによる公判審理の傍聴」につきましては,必要性に関して,「どのような事件,どのような対象者について,どのような必要性があるか。」を,また,相当性に関しましては,「どのような弊害が考えられるか。」,「弊害が生じないためにどのような方策が採り得るか。」を,それぞれ具体的に検討すべき必要があるものとして記載をしております。   資料32についての説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは,この項目につきましては,全体を通して一括で御意見を頂きたいと思います。 ○池田委員 ここで,検討課題として挙げられている項目全般について意見を申し上げたいと思います。   公判審理の傍聴の在り方につきましては,現行法上,その具体的な方法を定める規定は設けられておりませんので,裁判所の判断で,傍聴をオンラインにより行うこともできると思われ,そのために特段の法的措置を講じる必要はないということが,一つ考えられるところです。   他方で,もちろん,その趣旨を明確にするという観点から,オンラインによる傍聴が可能である旨の規律を設けることも考えられるところです。その上で,オンラインによる公判審理の傍聴を認めるかについては,対象とする事件,手続の主体,具体的な方法などを想定した上で,その必要性や生じる弊害などを踏まえた上で,相当性を検討する必要があると思われます。   これまでの議論において示されたところによれば,オンライン傍聴の必要性は,国民の知る権利に資するという観点のほか,犯罪被害者やその御遺族への配慮から,オンラインによる傍聴を認めることを検討すべきであるという御意見が示されております。また,対象とすることが考えられる手続として,最高裁の弁論が,また,対象とすることが考えられる傍聴の主体として,被害者や御遺族が多数に及ぶ場合や遠方に居住する場合における当該被害者等が挙げられております。   他方で,オンライン傍聴を認めることの相当性につきましては,現状においても法廷は公開されておりまして,一般の傍聴人は自由にその内容を見聞きでき,また事件によっては,そのやり取りの内容や様子が広く報道されることで,この場合は,同時的ではないものの,審理内容の詳細な把握が可能となっているということを踏まえつつ,オンラインによる傍聴を認めることで,どのような弊害が生じ得るか,それに対する方策はあるかなどを考慮して,その相当性を評価するという必要があるのではないかと考えております。 ○吉澤委員 傍聴については,今もお話しいただいたように,一巡目で被害者多数の事例であったり,遮蔽措置を採る必要があるような事例の場合,被害者・御遺族の住所や体調などの様々な事情によって,オンラインで傍聴を行うことが必要となる事例やニーズが現に存在するということをお話しいたしました。   例えば,ここで,仮にオンラインで被害者参加ができるようになったとしましても,オンラインでの傍聴を認めるべき必要性というのは変わらないと考えています。といいますのも,被害者参加はしたくないが,傍聴はしたいという被害者や御遺族という方が現にいらっしゃいます。被害者参加制度を利用しますと,どうしても被告人との間で対立構造のような形になりますが,被告人に対する恐怖であったり,被告人には自分の存在自体をもう意識されたくないと強く思われる被害者の方もいらっしゃいますので,そういった立場になること自体をためらわれ,被害者参加はしたくないと考えられる方も実際いらっしゃいます。しかし,一方で,同時に,どうして自分がそのような被害に遭ったのか,刑事裁判の中で明らかになることを,自分の目と耳で確認したいと思われる方もいらっしゃいます。   そういった被害者・御遺族が傍聴を希望されるのですが,それができない事例が,先ほどお話ししたような,一例ではありますけれども,存在するということについてはお話しさせていただきました。特に被害者多数の事件におきましては,物理的に裁判所の傍聴席に入り切れないということでありまして,裁判所の設備の問題で,本来,例えば,優先傍聴の対象であるにもかかわらず,そういった被害者・御遺族ですら,傍聴が制限されてしまうといったケースが存在するというものです。被害者や御遺族が多数いらっしゃる事件というのは,社会の注目を集めるような大きな事件ですので,同時に傍聴席には記者席も設けなくてはいけない,一般傍聴席も設けなくてはいけないというニーズが,現にあると思います。   これらのニーズを同時に満たすには,物理的に傍聴席となる場所を増やすしかないのではないか,つまり,ビデオリンクでの傍聴を認めるしかないのではないかと考えます。   場所につきましても,無限定,無制限に多くの場所をつなげてほしいというわけではありません。プライバシーを確保できる場所であって,訴訟指揮権や法廷警察権を同時に行使することが可能な範囲に限定することは当然です。ですので,そのような訴訟指揮権や法廷警察権については証人尋問などと同様,裁判所職員を立ち会わせることなどで行使し,その訴訟指揮権・法廷警察権の及ぶ範囲において,ビデオリンクでの傍聴を認めていただきたいと,切に願っております。 ○永渕委員 ただいま吉澤委員の方から御提案のありました,被害者の方々が裁判所内の別室ですとか,あるいは他の裁判所の構内からオンラインで傍聴する形態につきましては,まず前提として,被害者参加の際に申し上げたところと同様の問題があることを指摘させていただきたいと思います。詳しくは繰り返しませんけれども,1点目としましては,別室に所在する傍聴人に対する訴訟指揮権や法廷警察権の確保,無断録画等の防止などの必要性であります。2点目としましては,裁判所の職員の立会いが長時間にわたることとなって,裁判所のみでそれらの状況に全て対応するのは,なかなか難しいというのが現実的なところであります。なお,裁判所以外の場所につきましても,被害者参加の際に申し上げたところと同様の問題があろうかと思います。   なお,吉澤委員から,いわゆる被害者の優先傍聴に関しての言及があったところですけれども,現行法上の被害者の優先傍聴の規定は,法廷の座席数に限りがあることを前提に,被害者が裁判を見たいという心情に配慮をし,一定の被害者について,できる限り優先的に傍聴ができるように配慮することを定めたものであります。傍聴というものは,裁判の公開の原則を踏まえ,万人に対して裁判の公開を実現するための方法でありまして,特定の人あるいはグループに対して,同一の実施方法の中での配慮を超えて,ほかの者とは異なる方法までをも認める根拠は何かという問題もあり得るように考えられます。 ○佐久間委員 公判審理は公開の法廷で行われるものであり,傍聴を希望する国民がなるべく多く傍聴できるようになること自体には,国民の要望に応えるという点で意義があると思われます。しかし,公判審理では,犯行状況の詳細や事件関係者のプライバシーにわたる事項についてやり取りがなされるほか,被告人・証人などの事件関係者や裁判員等の容貌が確認できるため,オンラインによる公判審理の傍聴が可能となった場合には,犯行状況の詳細や事件関係者のプライバシー情報,被告人・証人等の事件関係者や裁判員等の容貌や言動等が,現状よりも広く公開されることとなり,その結果,事件関係者のプライバシー情報に関する証言等が得られにくくなるおそれや,証人等に対する威迫や接触行為がなされるおそれなどが生じることが考えられます。   また,インターネットを通じて傍聴を認めるという方法を採ると,被害者等の証人や被告人の供述内容,またその容貌等が録音・録画されるなどして,半永久的に残るだけではなく,広く拡散されることなども想定され,その結果,証人等の協力が得られなくなったり,証言等に萎縮効果が生じたりするおそれがあることから,こうした懸念に十分に配意して検討する必要があると思われます。   その一方で,犯罪被害者については,先ほど議論された被害者参加人としてビデオリンク方式を活用して公判期日に出席するという方策によっても,傍聴を求めるニーズが一定程度満たされるとも思われますことから,これも,選択肢として考慮しつつ,被害者の要望に応える何らかの方策が採れないかを,更に検討していく必要があると思われます。 ○市原委員 私の方から,将来に向けた検討という観点から申し上げたいと思います。   傍聴の在り方につきましては,刑事手続にとどまらず,訴訟手続全体にわたる裁判の公開の問題であると考えております。裁判所としましても,国民にとってより身近な司法という理念は重要なものと考えておりまして,現に,最高裁の弁論期日において,傍聴人に事案の概要や争点について説明する資料を配布したりですとか,最高裁において,弁論期日や判決期日が指定された事件について,最高裁判所のウェブサイトの「開廷期日情報」に,一審及び原審に関する情報や事案の概要等を説明する資料を掲載したりするなど,新たな取組もしているところでございます。   今後,この検討会で議論されておりますようなオンライン傍聴の必要性,あるいは弊害等も見極めつつ,裁判所全体として,傍聴の在り方を含め,裁判の公開の在り方について考えていくことになるのではないかと考えております。 ○河津委員 第4回会議でも申し上げましたが,国民の知る権利を実現する観点から,公開の利益が大きく,他方で,想定される弊害が小さい事件について,オンラインで公開することが検討されるべきと考えます。   先月実施された最高裁判所裁判官の国民審査に併せて,報道機関が実施したアンケートでも,海外では審理がインターネットで中継されるケースも見られることが指摘され,日本の最高裁でも工夫できることがないかという趣旨の質問がされていました。審理をオンラインで公開することについて,国民の側のニーズは高まっていると思われます。   池田委員の御指摘されたとおり,現行法上も裁判所の判断により,審理のオンライン公開を実現することは可能であり,立法は必須ではないと思われますが,司法の透明性を高めることに対する国民の期待を受け止め,先送りすることなく,前向き,かつ,具体的な検討がなされることを願います。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   傍聴について,ほかに御意見よろしいでしょうか。それでは,傍聴につきまして,一通り御意見いただいたということで,一区切りといたします。  皆様,今,ちょうど予定の時刻になっているのですが,あと残っているのが,「3 その他」だけですので,もう少しお付き合いいただいてよろしいでしょうか。ありがとうございます。   「その他」については,論点項目「1 書類の電子データ化,発受のオンライン化」,「2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」のいずれにも該当しない項目について,議論いただくというものです。一巡目の議論では,インターネット上のウェブサイトに掲載する方法による公告を可能とする方策について御意見を頂いたところですけれども,このほかにも,この検討会で取り上げるべき項目があれば,併せて御発言いただければと思います。   では,お願いいたします。   特段御意見ないということでよろしいでしょうか。では,「3 その他」についても,議論の機会を設けたということで,ここまでといたします。   本日予定しておりました議事は以上です。   次回以降ですけれども,本日までで,論点項目について二巡目の議論をしていただきました。次回会議の予定としましては,本年度末の取りまとめに向けまして,三巡目の議論としまして,全ての論点項目を対象とした上で,引き続き御議論が必要であると思われる点や,俯瞰的な観点から論点項目相互の関係に焦点を当てて議論する必要があると思われる点などにつきまして,更に掘り下げた議論をお願いできればと思います。   その際,本日までの議論を踏まえまして,事務当局には三巡目の議論に資する資料をお作りいただくようにお願いしたいと思っているところであります。   本日の議事録については,(5)につきまして,吉澤委員から個別事件への言及がありまして,議事録に掲載しない取扱いの御要望がありました。非公表とする具体的な範囲や議事録上の記載方法につきましては,吉澤委員とも相談をさせていただきたいと思いますので,この点について座長に一任いただくということでよろしいでしょうか。議事録のそれ以外の点につきましては公表し,資料も併せて公表するということでよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。そのようにさせていただきます。   では,次回の予定について,事務局からお願いします。 ○仲戸川室長 次回,第9回会議でございますが,12月23日木曜日,午後2時からの開催を予定しております。本日同様,ウェブ会議方式での開催とする予定でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 本日もありがとうございました。   これにて閉会です。 -了-