法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和3年12月27日(月)   自 午前10時00分                         至 午後 1時03分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 第一の一(暴行・脅迫要件,心神喪失・抗拒不能要件の改正)について         2 第一の二(対象年齢の引上げ)について         3 第一の三(相手方の脆弱性や地位・関係性の利用を要件とする罪の新設)について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から,法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ○井田部会長 おはようございます。本日は,年末でお忙しい中を御出席くださり,誠にありがとうございます。   本日,北川委員,木村委員,小島委員,中川委員,藤本委員,池田幹事,金杉幹事,佐藤陽子幹事,中山幹事は,オンライン形式により出席されています。また,くのぎ幹事におかれては,所用のため欠席されており,川原委員におかれては,所用のため遅れて出席される予定です。   まず,事務当局から,配布資料について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料について御説明いたします。   資料7は,小学校・中学校・高等学校の学習指導要領で定められている,体の発育や発達等に関する教育の概要を事務当局においてまとめた資料です。   資料8は,文部科学省が協力し,内閣府が作成した生命(いのち)の安全教育の概要説明資料です。内閣府と文部科学省においては,「性犯罪・性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないための「生命(いのち)の安全教育」調査研究事業」の一環として設置された「生命(いのち)の安全教育検討会」における検討結果を踏まえ,生命(いのち)の安全教育のための教材及び指導の手引き等を作成しましたが,その概要がまとめられています。教材及び指導の手引き等につきましては,文部科学省のホームページに掲載されております。また,「性犯罪・性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないための「生命(いのち)の安全教育」調査研究事業」につきましては,内閣府のホームページにその報告書が掲載されておりますので,詳細をお知りになりたい場合は,そちらを御覧ください。   配布資料の御説明は以上です。 ○井田部会長 それでは,議事に入りたいと思います。   前回会議でも申し上げたとおり,本日の会議から,諮問に掲げられた事項についての一巡目の議論を行いたいと思います。   第1回の会議でも何人かの委員から御意見が出されたように,議論に当たっては,「性犯罪に関する刑事法検討会」の議論の到達点を踏まえ,それを土台として,各事項についてどのような対処あるいは解決の方策があるのかを具体的かつ建設的に御発言いただけると,より掘り下げた中身の濃い議論ができると思います。もし改正が必要だということで,ある程度議論の方向性が見えているとお考えの事項については,条文で用いられるべき文言にまで踏み込んで御提案いただけますと,議論を一歩も二歩も先に進めることができると思います。これらの点につきまして,何とぞ御理解いただきますよう,改めて,よろしくお願い申し上げます。   当面の進め方についてですが,これも,第1回会議において御発言がありましたように,性犯罪に対処するための法整備は喫緊の課題とされており,当部会には,十分な議論を行いつつも,できるだけ早期に結論を出すことが求められています。諮問に掲げられた事項の内容や項目数等も踏まえますと,一巡目の議論としては,本日を含め,合計3回程度に分けて行うのが適当ではないかと思われます。   その上で,一巡目の議論を踏まえて,事務当局に更なる議論のたたき台となるような資料を作成してもらい,二巡目以降の議論では,その資料を見ながら更に議論を深めるのが建設的ではないかと思われます。   そのようなことで,本日の進行については,まず,諮問に掲げられた事項のうち,「第一の一」から「第一の三」までについて御議論いただきたいと思いますが,そうした進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。   本日の進行における時間の目安につきましては,諮問事項の「第一の一」について80分程度御議論いただいた後,午前11時30分前後に10分程度休憩をとりたいと考えております。その後,諮問事項の「第一の二」について45分程度,「第一の三」について30分程度,それぞれ御議論いただきたいと思います。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。   それでは,まず,「第一の一 刑法第百七十六条前段及び第百七十七条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法第百七十八条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること」について御議論いただきたいと思います。   御意見ある方は,挙手の上,あるいは,オンライン参加の方は挙手ボタンを押すなどしてくださっても結構ですけれども,御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 今回の法制審議会で,処罰すべき者を処罰し,処罰すべきでない者を処罰しないことについて,議論がされると思いますが,当罰性がある処罰範囲について,それぞれの専門性や立場によって認識がすごく違うことを懸念しています。私は,被害者支援者の立場として参加していますので,文言については理解が不十分なところもあるのですけれども,このようなケースについては,当然犯罪として規定することにしてほしいということについて述べたいと思います。   性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめ報告書5ページに,被害者が性交等に同意していないにもかかわらず,その意思に反して行う性交等は,被害者の法益を侵害する行為であることについて異論はなかったとありますが,いかなる事情があれば性行為に不同意であると言えるのかが明らかでなく,イメージが異なっていると,かみ合わない議論になる可能性があると思います。   そのときに,従来の法律的見解ではなく,性被害を受けた被害者を中心に改正してほしいと思います。それは,従来の法律的見解が,人間の自然な心身反応であるフリーズ,解離,迎合反応の結果,逃げられていない,抵抗できていない,訴えられていないという状況になったことを認めず,逃げていない,抵抗していない,だから同意なのではないかと言われ,被害者に不可能を強いてきた経緯があるからです。被害者に抵抗義務を課すのではなく,そのような状況に追い込んだ加害者の行為を問う規定にしてほしいと思います。   NPO法人ヒューマンライツ・ナウが先週末に要望書を出されたと思いますが,178条を明確にするために,人の無意識,睡眠,催眠,酩酊,薬物の影響,疾患,障害若しくは洗脳,恐怖,困惑その他の状況により,特別に脆弱な状況に置かれている状況を作出し,又はその状況に乗じて行ったとしてくださいとあります。意識がない状態や寝ているときは,当然同意について判断できません。アルコールや薬物の影響で判断力が低下していたり,加害者に突然性行為を迫られ,何が起こっているか分からず,困惑し,フリーズしている間に性行為を進められたり,あるいは,医療行為や宗教行為や指導だと言ってだましたり,グルーミングやマインドコントロールをされている場合は,被害者が同意について判断できず,意思形成が困難な状態です。このような加害者から抵抗できないと思わせられた,言うことを聞かなければいけないと思わせられた状態を作り出したことを,構成要件として規定してほしいと思います。   第2回会議のヒアリングで説明してくれた西田教授が,著書の中で,パニック寸前で思考が働くときに,人は最も依存的になる,加害者は状況の力を利用し,ターゲットにされている人は思考を支配されていると述べています。ヒューマンライツ・ナウの要望書では,「特別に脆弱な状況」と書かれており,法律上,どのような言葉が適切なのかは私には分からないですけれども,心理学上の依存状態について捕捉できるような構成要件にしてほしいと望みます。また,例示列挙については,適切な文言にして,分かりやすく,起訴されやすくなることを望みます。   性犯罪に関する刑事法検討会の令和3年3月8日の会議における議論で,弁護士の上谷委員が,法律上,「威迫」といわれるものを暴行・脅迫として解釈していると感じる判決は非常に少ない,それは,検察官が起訴する段階で絞っているからだと思います,威迫にとどまる場合は,ほとんどの場合は不起訴になっているのではないかと述べられていました。警察段階,検察段階で足切りされるのは,司法に適切に取り扱われないという意味で,被害者にとっての不利益をもたらします。その行為が犯罪であるか否かは,裁判所で判断してほしいと思います。   今でも,お酒を飲まさせて判断力が低下している間に,ホテルの部屋に連れ込まれて性行為を強要された場合であっても,警察では,防犯カメラを見て,足元がふらついていない,抱きかかえられているような状態ではないから事件にできないと言われています。例示列挙を作った場合の当てはまる規定が,酩酊なのか,監禁なのかには議論があると思いますが,多くの性加害は,対等性のない関係を利用したり,だましたりして,密室に連れ込み性行為を強要するというプロセスの下で行われています。性行為に不同意であるということは,対等な関係ではなく,黙示の強要があったり,ノーを表明しても聞いてくれなかったり,発達段階や知識に差があり真の同意ができなかったりする状態です。強制性があった場合には同意ができないので,そこを規定してほしいです。   同僚から飲み会の帰りにカラオケに誘われ,そこで性行為を迫られた,断っても断っても相手がノーを聞いてくれず,力が抜けて抵抗を諦めた。被害者としては同意していないけれども,逃げられた,抵抗できたと言われがちなケースです。立ち上がって出ていけばいいと簡単に言われますけれども,その場で自分に何が求められているか,今,相手との関係で何が起こっているのかが分からず,混乱状態のときには,言葉は出るけれども,状況判断ができないということが起こります。相手に言えば伝わると思って説得しているのに,全く伝わらず,困惑し,諦めさせられてしまうことも起こります。被害状況で起こることが,脅迫なのか,監禁なのか,困惑なのかは多様であり,どういう例示列挙が必要なのかを議論いただければと思いますが,多様な被害の状況の中でノーを言った場合,そして,脆弱な状態や依存状態を利用されて,同意の判断や意思形成ができない,ノーと言えなかった場合を,規定してほしいと思います。   受皿規定については,被害者に抵抗義務を課していると感じさせる文言ではなく,犯罪処罰の本質は,被害者の意思に反する性的行為であるということを明確に記載し,「No means No」を規定する要件にしてほしいと思います。断っているのに性交等をしたら,被害者が性交等に同意していないにもかかわらず,その意思に反して行う性交等であり,法益侵害であるというのは,一致したことと思います。アメリカのワシントン州で性的関係があるカップルの彼女が飲酒後,テントで寝ているときに,彼氏に性交を誘われ,拒絶したのに性交が行われた事案が,「No means No」として処罰されていると聞いています。このような例を含む規定にしてほしいです。   最後に,同意の撤回と同意の範囲について述べて終わりたいと思います。   同意の撤回についてですが,アメリカでは,同意に基づいて性交を開始した後,同意が撤回された場合,性犯罪の成立を認める州もあると,「性犯罪規定の比較法研究」の144ページに書かれていました。同意を明確に撤回した後,加害者から体を押さえ付けられ性行為を継続されたら,それはレイプですし,当罰性があるという判断をしてほしいと思います。   また,同意の判断については,コンドームを渡したら同意があると言われることには疑念があります。交際相手の家に行く途中で,見知らぬ人から手を引っ張られて公園に連れ込まれ,抵抗したけれども,押し倒されて性交されたときに,殺されるよりは早く終わってほしいと思い,性感染症と妊娠の心配からコンドームを渡したにもかかわらず,警察に後で訴えたときに,コンドームを渡したから同意があると言われることなどがあります。被害者としては,身体の保護として当然の処置です。このような場合には,同意のない意思に反した性交と認められる必要があると思いますし,そのような規定にしていただければと思います。 ○井田部会長 ありがとうございました。法律専門家の側が議論に当たって留意すべき点として,例えば,被害者の抵抗が要件となるような規定はよろしくないという御指摘を頂きましたし,また,行為者による手段や被害者の状態を例示列挙するとしたときに,どこに注意すべきかということについても御指摘を頂きました。 ○小島委員 個別列挙と包括要件の関係を明らかにした上で,議論をする必要があると考えました。   包括要件については,限定列挙,解釈指針,包括的受皿の三つがあると思われます。   まず,限定列挙ということになりますと,個別列挙事由は意思に反するものを推認させるものであり,推認を正当化できるだけの内容・性質を有することが不可欠となるので,列挙された文言のとおりの内容で解釈するのでは不十分であり,さらに,限定解釈する必要があるので,包括要件を設けるべきということになります。   それから,解釈指針ということになりますと,個別列挙事由は不同意とイコールに結べないものがあるという前提で,解釈指針となる抽象的な要件が必要ということになります。   受皿条項ということになりますと,個別列挙事由に該当すれば,それだけで性犯罪が成立する,つまり,独立の犯罪の成立要件とする前提で,包括文言はこの個別列挙事由に該当しない事案を捕捉する規定とするということになります。これは,国民の性的行為に関する意識や社会規範の変化に対応した判例法理の見解に委ねるという見解だと思います。   受皿条項と考えますと,個別列挙事由は個々の犯罪成立の要件という位置付けで,裁判規範としても明確性を確保でき,これに該当すれば性犯罪が成立するという意味で行為規範にもなると思います。不明確という批判がなされていますが,例えば,スウェーデンの刑法も,包括要件を設けつつ,不同意と絶対的にみなす事由を挙げることで,これに応えています。また,刑訴法の319条も,類型的に任意性に疑いのある自白を挙げつつ,「その他任意にされたものでない疑のある自白」という条文を設けております。   なお,性犯罪に関する刑事法検討会では,「拒否・拒絶が困難」という文言が提案されましたが,そもそもこれで明確になるか,多彩な局面のバックボーンにできるような指針性を備えているか,女性の拒絶義務を前提とするような発想ではないか,個別列挙事由を更に限定するような文言の入れ方ではないかという疑問がございますので,「拒否・拒絶が困難」というのを包括要件に設けるということについては,問題があるのではないかと考えております。   個別列挙事由については,なるべく細かく挙げることになります。177条は,おおむね暴行・脅迫など,強制作用に着眼した規定であり,178条は被害者の一定の状態の不適切利用に着眼した規定であると考えます。個別列挙事由に何を挙げるかについては,十分な議論の必要があると思いますが,例えば,177条の改正案としては,暴行・脅迫,威力,威迫,監禁,欺罔,驚がく,困惑させる等の個別列挙事由を挙げて,「又はその他の意思に反する」という条文の仕方をしていただきたいと考えております。178条の改正案としては,「人の無意識,人の身体若しくは精神の障害,睡眠,酩酊,薬物の影響,精神的・継続的虐待,洗脳ないし宗教の影響又はその他の脆弱な状態に乗じ」などが考えられます。   この「脆弱な状態」というのは不明確ではないかという御指摘があると思いますが,意思決定能力が毀損されている,行動能力が奪われている,判断能力が阻害されているといった心理的状態を捕捉するものと考えます。 ○井田部会長 ありがとうございました。個別的なところについては,また二巡目の議論で検討していかなければならないことがあると思うのですけれども,大きなところで幾つか,私の方から質問させていただいてよろしいでしょうか。   今の御発言は,個別に例示列挙する要件と包括要件とを,いわゆる二段構えで考えるということを前提としたものであったと理解いたしましたが,177条と178条の関係はどうなるのでしょうか。177条にも例示列挙事由と包括要件を設け,178条にも例示列挙事由と包括要件を設けるという形にすべきだとお考えでしょうか。 ○小島委員 177条と178条を一括で考えたらいいのではないかという御意見もありますけれども,私としては,177条と178条というのは処罰根拠が違うので,別々の要件とした方がいいのではないかという前提で,177条については,先ほど申し上げましたように,「又はその他の意思に反する」という包括要件を設けて,178条の方については,「又はその他の脆弱な状態に乗じ」などという包括要件を設けたらいいのではないかと考えています。「その他の脆弱な状態」については,先ほど申し上げたように,意思決定能力が毀損されている,行動能力が毀損されている,まともな判断能力が阻害されている心理的な状態を捕捉するというものにすればいいのではないかということで,両方に包括要件を設けるということでございます。 ○井田部会長 ありがとうございました。   もう一つ,177条については,包括的な要件というのは,「その他意思に反する性交等」となるのでしょうか。そうなると,例示列挙でよいのか,それとも限定列挙になるかという点はいかがでしょうか。   つまり,何を申し上げたいかといいますと,性犯罪に関する刑事法検討会の議論でも,「意思に反する」というように不同意であることのみを要件とすると,過不足なく処罰すべき領域を明確に画せるかどうかの課題が残るので,もう少し内容を明らかにする要件が必要であるというのが一つの結論だったと思います。それにもかかわらず,包括要件として,「意思に反する」という文言を採用することとするのであれば,若干曖昧な部分が残ってしまうので,例示列挙にすると,処罰範囲の限定が効かないところから,むしろ限定列挙とすべきだと考えるのが筋であるような気がするのですが,そこはいかがでしょうか。 ○小島委員 個別列挙事由について,今考えられる類型をたくさん挙げて,現在のところではなかなかコンセンサスが得られないようなものとか,現在捕捉できないようなものについては,多様な局面,バックボーンに基づいた個別類型というのがあると思うので,そのような今の段階では捕捉することが難しい限定的なものを捕捉する要件として包括要件を設けるという考え方でございます。これは,将来の判例とかに任せるしかないということで,考えております。   明確性を備えていないのではないかという御指摘は,確かにあると思うのですけれども,包括的な要件というのは,要するに,国民の性に対する意識や社会規範の変化に応じて,判例法理の発達に任せるという,限定的な意味で申し上げているわけで,そういうことでの個別要件と包括要件の関係にしたらどうかという趣旨です。包括要件を設けることの意味が大事ではないかと思います。どういう意味で設けるのかということでの議論です。 ○井田部会長 理解いたしました,ありがとうございました。 ○木村委員 177条と178条の関係についてなのですけれども,一言よろしいでしょうか。   今の小島委員の御説明で,なるほどと思った面も多々あるのですけれども,現在は177条の適用が中心で,178条の適用はすごく少ないという,そういう構造になってしまっているかと思います。   ただ,性犯罪に関する刑事法検討会も含めて,これまでの議論を見ますと,178条の,今,「準」と言われている部分は,いわゆる抵抗できないというか,不同意も含めてなのだと思うのですけれども,それは,実は一般的に適用できる条文なのではないかと思っております。むしろ,意思に反する性的行為を処罰するというのが目的であるとすると,178条の方がむしろ本則と言ってもいいぐらいの内容を本来は備えているような気はいたします。現に,岡崎の事件の控訴審において,監護者性交等罪が適用できないような場合も,178条で拾うということはやっているのですよね。そうだとすると,178条をもう少し活用すべきで,それが,包括的に,包括的という言葉が,先ほど小島委員が使われていたのと少し違うかもしれないのですけれども,一般的な規定で,特に暴行・脅迫を手段とした場合が,177条で取り扱われているというような理解もあり得るのかなと思います。ですから,列挙の暴行・脅迫部分が,現在でいうと177条の強制性交等罪であると思います。その他のものについて,178条で列挙するのか,あるいはある程度包括的に今のような規定の仕方にするのかというのは,これから議論されることだと思いますけれども,そういうような理解もあるのかなと思います。つまり,言わば,177条と178条を一緒にしてしまうというか,一体として考えるということもあり得るのかなと思っています。   最大の問題は,178条の抵抗できないというのが著しく困難な状態と,今,言われてしまっているのですけれども,それは,実は暴行・脅迫を用いた強制性交等の177条の方で暴行・脅迫をものすごく絞っていますよね。だから,それに引っ張られて,本来はそのようなことは文言上ないのに,著しく困難みたいなことを付け加えられてしまっているのが現状かなと思います。   実際の裁判例などを見ますと,抗拒不能の内容というのは,その場限りで抵抗できたかどうかというようなことではなくて,それまでの経緯だとか被害者の年齢だとか両者の関係だとか,それらも全て含めて判断しているのですね。ですから,少なくとも現在,形式的に理解されているよりは,ずっと広く拾えているのかなとは思います。ですから,178条を一般的な類型と考えて,暴行・脅迫の177条を特別類型と考えて,一つの条文とすることを今後考えていくという道もあるのかなと思っています。   先ほど山本委員もおっしゃっていましたけれども,抗拒不能が抵抗できないような状態というのをものすごく形式的に捉えられてしまっているので,被害の実態を全然反映していないのではないかという御指摘があって,それは,確かにそういう面があるのかなと思います。ですから,抗拒不能は,言わば手あかが付いてしまっている言葉なので,その文言自体を使うということにはやや問題があるかなと思うのですけれども,裁判所が恐らく判断されているのも,現に抵抗したかどうかではなくて,一般人から見て拒絶できるような状態だったかどうかというのを判断していると思うので,そうだとすると,抗拒不能という言葉は私もやめた方がいいとは思うのですけれども,ある程度拒絶できるような状態だったか否かという観点から,拒絶ができないような状態であると一般人から見て考えられるような場合は,全て含むというような文言の在り方もあるのかなと思います。   実際に性犯罪に関する刑事法検討会でも欺罔のことがちょっと問題になっていましたけれども,医療行為だとだますような場合は,当然178条で今までも拾っているのですよね。ですから,欺罔の全てではないと思いますけれども,拒絶できないような心理状態,心理的な要素も入りますから,心理状態も含めて,拾えるような文言というのはあるのかなと思います。 ○井田部会長 ありがとうございます。177条と178条を統合した場合には,包括要件としては,例えばどういう文言が考えられるでしょうか。 ○木村委員 それを聞かれるなと思っていたのですけれども,まだ考えがまとまっていなくて,一般人から見て,拒絶できるような状態だったと言えないような場合が含まれればいいと思っているので,ある程度,列挙されるのかもしれませんけれども,暴行・脅迫と同じぐらい客観的に明確な文言であるという必要はあると思っております。   お答えになっていなくて申し訳ありません。 ○井田部会長 ありがとうございます。またよいアイデアが湧きましたら,お教えいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。 ○齋藤委員 法律の文言が分からないので,皆様方から具体的な法律の言葉が出る前に,例示列挙するならば,こういった被害を捕捉する言葉であってほしいという内容について,お話させていただきたく存じます。一部,性犯罪に関する刑事法検討会と重なるところもあるかもしれませんし,地位・関係性に当たるところもあるかもしれないのですけれども,切り分けるのが少し難しいので,そのまま述べます。   基本的に,私の考えは,性行為への同意が成立しているかどうかというのが,セックスと暴力の境目であるということに変わりはないのですけれども,性行為への同意は,一つ目としてそこに強制力がないことと,二つ目として能力や年齢差などによる非対等な関係性がないこと,三つ目として意識不明や混乱によって判断能力が弱まっている,あるいは失われている状態ではないこと,そして,四つ目として,一つの行為への同意は,ほかの行為への同意を意味しないことという四点から考えております。   まず,強制力が働くような状況というのは,程度の軽い脅しとか力関係をほのめかす言動とか,あるいは,就活で人事に顔が利くなど,相手の利益になることを告げた場合でも,断ると不利益が生じること,力関係による強制力が利用されている状況ということになります。あるいは,例えば,相手のセクシュアリティなどプライベートな情報を知っていて,断ると秘密がばらされるというような状況もあります。   あるいは,性行為を強要する側が,相手がそのコミュニティに所属できるかどうかの権限を公的,あるいは私的に持った状態で,被害者に,断るとこのコミュニティにいられなくなると思わせていることを利用した場合などもあります。つまり,安心して断ることのできない,加害者から見て被害者の脆弱性や関係性を利用した場合ということになります。   最初の性行為は強要であったけれども,次からは強要が見られにくい場合というのもありますが,最初の性交によって,相手が逆らうことができない状況,被害者を脆弱にしている状況というのを利用しているのだというようなことも,捉えていただきたいと思います。   相手の障害や年齢差による理解力の差,対等性がないということを利用した場合には,そもそも相手には抵抗するという概念すら生じませんし,困惑や状況を理解できないまま性行為を強要されるということになります。障害などで自分に行われていることの意味が分からない状態を利用される場合も同じです。   そして,判断力が弱まっている,失われている状態とは,睡眠で意識がない状態,強度の酩酊状態でなくても,体の力が抜けているなど,飲酒や薬物による酩酊状態,グルーミングやマインドコントロールなどで従うしかないと思い込まされている状態のほか,脆弱性の利用というだけではなく,脆弱な状態に仕向けている場合や,性行為を強要する側が,相手の罪悪感をあおって正常な判断能力を奪っている場合,恐怖や困惑で動けなくなっている状態に乗じた場合などが考えられます。   また,だまして密室に連れ込み,不意打ちのように性的な言動をし,相手が驚いたり困惑しているところに乗じて性行為を行うことも,相手の判断力の弱まりや不意打ちを利用した行為だと考えられます。これは,例えば,何もしないとか,お金の話だから人のいないところで話をしようとか,就活の話をしようなどと言って,ホテルとか研究室とか会議室とかカラオケボックスといった個室にだまして連れ込み,そして,突然加害に及ぶということとなりますので,性交への同意がそこに存在しないということになります。   治療や指導の一環だといって性的行為を強要することは,現行法でも捉えられているという御意見もありますが,支援の現場では,割と捉えられていないと感じることの一つでして,これは,相手の依存心とか認識の誤りを利用していたりとか,指導と性行為をつなげられたことへの困惑の利用かもしれません。   山本委員もおっしゃっていましたが,抵抗とか拒否とか拒絶さえ頭に浮かばないという状態があるということを前提に,お考えいただければと思います。抵抗とか拒否,拒絶が頭に浮かばないのはなぜかといえば,困惑とか驚がくとか,被害者の中に生じている混乱とかを利用しているのかなということを考えております。   一般人から見た判断というのをしなければならないというのは,当然のことだと思うのですけれども,性暴力の被害に遭った人がどういう状態なのかということを考えていただきたく思っております。 ○井田部会長 ありがとうございました。列挙事由となる事柄についての御発言,専門的見地からの御発言であり,参考になるお話だったと思います。 ○橋爪委員 先ほどの小島委員の御発言のうち,個別要件と包括要件の関係につきまして,質問させていただいてもよろしいでしょうか。   小島委員の御意見は,個別要件としては,現在性犯罪として被害が顕在化しているものであり,当罰性が高い行為をたくさん挙げていくけれども,やはり漏れがあり得ることに加えて,現在においては,可罰性に関するコンセンサスが十分ではないけれども,将来社会の変化に応じて,可罰性に関する理解が変わってくる場合もあり得るという観点からも,包括要件を設けることが望ましいというお考えだと理解してよろしいでしょうか。 ○小島委員 結構です。 ○橋爪委員 その上で,もう一点お伺いいたしますが,現在は可罰性に関するコンセンサスが十分ではないけれども,将来可罰性に関する理解が変わってくることがあり得る場合として,どのような事例が具体的に考えられるのか,もし何かイメージがあれば,この機会に御教示をお願いいたします。 ○小島委員 個別列挙でどこまでいけるかということが,今,余りはっきりしていないので,どういう場合かということを言われても,すぐに思い付かないのですけれども,例えば,ドイツで議論になった,先ほど問題になっていましたけれども,避妊具を着装するかどうかという問題について,議論がかなり分かれると思います。   先ほど,別の論点で木村委員から発言のあったことについてお答えさせていただきますと,177条と178条では,なぜ処罰するかということについて,両条で違いがあるのではないか,ということです。177条はどちらかというと物理的作用,例えば,暴行や監禁して性交するというのが典型で,威力を用いるのもこれに入る。178条については,人を怖がらせたり,泥酔させたりして,心理的作用や状態を利用するというようなもので,177条と178条は処罰根拠が違うのではないかと思います。私の考えは,なぜそれぞれが処罰されるのかという処罰根拠について,ある程度イメージを持っていた方が,よいのではないかということです。177条と178条は条文が分かれているので,それはそのまま維持した方がいいのではないかということです。大変つたない説明ですけれども,イメージとしてはそういうことです。 ○今井委員 今の小島委員のお答えに関することなのですが,先ほどお考えを示されたときに思っておりましたのは,178条でその他の脆弱な状態に乗じといいますか,利用するということをおっしゃって,それが恐らくベースになっていて,そういう状況であると同意が得られにくいので,それを明示したのが177条ではないかなと。つまり,178条ベースで177条をお考えかなと思って聞いていたのですが,最後には,177条は物理的な作用を被害者に対して行使する場合で,178条は被害者の心理的な作用や状態を利用する場合とおっしゃったのではないかと思います。そういう理解は当然あり得るのですけれども,その他の脆弱な状態に乗じるという,その脆弱性とは,その言葉本来の意味としては,攻撃されやすいこと,それも物理的に,あるいは感情的に抑圧されている状況で攻撃されやすいことを指すと思われますので,177条について小島委員がお考えのこととかなり近いと思われます。   つまり,最初におっしゃったことと,後におっしゃった意見とでは,基本的スタンスが必ずしも同じではないようにも思えましたので,その点を確認させていただきたいということです。それから,今後,「脆弱性」という言葉はよく出てくると思うのですけれども,その概念については,合意を得て確定させた方が良いかと思います。英語でvulnerabilityという場合,これは,psychiatricというよりemotionalという意味に親和性があり,物理的な攻撃との関係でよく使われる言葉だと思います。齋藤委員もおっしゃったように,法律化していくときには言葉の精査が必要なのですけれども,この言葉についても,どんなイメージを持つべきかが大事かと思いましたので,質問させていただきました。 ○井田部会長 ありがとうございます。それは,この場での回答を求めるという御趣旨でしょうか。 ○今井委員 いや,結構です。 ○長谷川幹事 まず,山本委員がおっしゃっていた,加害者の行為の方を軸に構成要件を考えるという考え方には賛成です。それから,齋藤委員がおっしゃっていた,こういったものを例示で捕捉してほしいとおっしゃった内容は,現在,性暴力・性犯罪として取り上げられていなくて,被害者が苦しんでいるものが,たくさんあるとおっしゃっていらっしゃったので,これを,いずれかの類型にどのように割り振っていくかということは,これからのことではありますけれども,それを入れていけるような構成要件の在り方を考えていけたらいいと思っています。その上で,177条と178条の論点について考えを述べます。   177条と178条は一体的なのか,別なのかということがテーマに上がっていますが,これについて,私は別に分けて考えた方がいいと,小島委員と同じように考えています。177条というのは,ざくっと言えば強制的なもの,178条は状態を利用作出したものと考えていまして,厳密に個別類型,要件を考えていくと,今,178条で捉えられているものが,要件の組立てによっては177条の方に入っていったりだとか,また,具体的なところは精査や検討が必要ではあるのですけれども,177条は,強制的な,強制といっても暴力だけではなくて,何らかの本人への物理的な強制であれ,言動であれ,態度であれ,相手方が同意していないというところの意思に働き掛けて,性的な行為を実現するような,そういった作用を利用して性行為を実現しているようなもので,178条は,相手方がまず意思決定ができない,それから意思の伝達ができない,それから意思に基づいた行動の制御ができないというか行為ができないというか,そういうような状態を作出又は利用して性行為を実現するものであると分けて考えて整理をしたらどうかと思っています。   個別要件については,まだ網羅し切れているかということはありますし,今までおっしゃっていたものと重なるとは思うのですが,177条の方については,「暴行・脅迫,威圧,威力,偽計,欺罔,監禁を用い,若しくは驚がく・困惑させ,その他意思に反する行為により」ということを考えています。包括要件で「その他意思に反する行為」によるというのを言いました。これについては,これは曖昧なのではないかというようなことが,今,テーマにもなっています。   まず,このような包括要件が必要だという点については,小島委員とほとんど同じ意見で,今あり得るものを網羅して例示列挙は作るけれども,そこで言葉としては例示できないものや,今後社会的にこれが当罰的だと思われるものが出てきたときの受皿として,こういった要件は必要だと考えています。曖昧性については,先ほど一番最初に177条について,本人の本来性行為はしたくないというような意思に,有形力であったり,言葉であったり,態度であったりによって,働き掛け,性行為を実現するようなものとして例示を設けているので,例示されているもののそういった性質から解釈がされていくのではないかという意味で,ある程度の限定的な解釈は可能ではないかと考えています。   あと,178条の方については,まず例示の方を述べますと,心神喪失,これは,このまま残した方がいいのか,人の無意識というようなものに変えた方がいいのかというのは迷いがあるのですが,そういう全く本当に意識がないような状態ということは,まずスタートとして入れるとして,あとは,人の身体又は精神の障害,睡眠,酩酊,薬物の影響,継続的な虐待。それから,欺罔をどこまで含めるのかということが問題になっていて,欺罔という言葉を錯誤という言葉に置き換えても,動機の錯誤が入るのかということは問題になるのですが,今の問題意識としては,錯誤として,同一性の錯誤とか,それから行為の意味内容についての錯誤などというのは,やはり状態の作出を利用してというようなことになると思うので,今の段階では錯誤ということは入れたいと思います。あとは宗教的影響。   包括的な文言としては,先ほど脆弱という言葉があって,それについては,私も分かりやすい言葉というか,長くない簡潔な言葉なので,意味合いがそれで特定できていくというか,解釈として問題がないというのであれば,そういう言葉もあるかなとは思っているのですが,私としては,包括的要件としては,「その他の意思形成,意思伝達又は意思に従った体の制御が困難な状態を作出し,又は利用して」というのを考えています。 ○山本委員 少し前に戻るのですけれども,木村委員がおっしゃっていた,178条で意思に反した性行為を拾えて,あと,裁判官が一般人の視点で抵抗できるかできないかということを判断しているとおっしゃられていたのですけれども,その一般人が思う抵抗できるだろうというのと,被害者が被害に遭って凍り付いている状態について,非常にバイアスがあって,性被害者にとって二次被害が起こっている状況ということも強調しておきたいと思います。   一般市民ということだと思うのですけれども,一般市民が抵抗できるだろう,このぐらいは逃げられるだろうと思うことと,実際に被害に遭った人が逃げられない状態,そして,同意も不同意も表明できないというのは,ものすごく差があります。それは,一般市民だけではなくて,警察,検察,裁判官などの司法関係者にも及んでいるところです。齋藤委員,それから小西委員のような,心理学的,精神医学的な理解を持っている人から,性犯罪に関する刑事法検討会でも意見が述べられたと思うのですけれども,被害者の心理学的,神経学的反応を踏まえた判断をせず,一般人の判断に引きずられてしまうところは,性暴力を正しく性犯罪として捉えられない状況にあるということを懸念します。   特に,警察段階ではねられるということが非常に起こっていますので,脆弱であるとか,依存状態であるとか,同意の判断ができない,また意思形成困難というところを,分かりやすい文言で規定してほしいということを望みます。 ○木村委員 御指摘のとおりで,私も安易に一般人という言葉を使ってしまったのですけれども,これも法律家の考えだと言われてしまうかもしれないのですけれども,法律家の立場から言うと,一般人というのは,その場に置かれた一般人のことを言うので,いわゆるニュートラルな国民一般みたいなことではないということだけ,付け加えさせてください。ただし,現実が全然追い付いていないという御指摘は,恐らくそういう実態はあるのだろうと思うので,それは,今後の議論のときにも,私も注意していきたいと思います。   それともう一つ,177条と178条の関係で,小島委員や長谷川幹事のお考えを伺っていて,なるほどと思ったのですけれども,逆に177条の列挙を増やせば増やすほど,178条と事実上重なってくる気はするので,そこがそれほど峻別できるのかという新たな疑問が生じました。 ○井田部会長 ありがとうございます。一言だけ申し上げると,私も先ほどの長谷川幹事のお話を聞いていて,区別が余りはっきりしないという感じがいたしました。恐らく最初から分けて考えるよりは,一旦まとめて事例を集めてみて,これは性質が違うという話になったときに,別の条文に書き分けるといった議論の進め方もあり得るのかもしれないですね。まずは最初に,問題となる個別事例というのをまとめて出してみて,もしその中に,性質が異なる二つのグループのものが含まれているから,二つの条文に分けた方がよいという考え方が生じた場合には,さらにその点を検討するということも可能かもしれないと思った次第です。 ○小西委員 今,問題になっている一つは,無意識という言葉なのですが,精神医学用語としては,本来は意識障害とか,意識清明でない状態とか,意識レベルの低下とか,そういう言葉で語られるべきところで,無意識と言ってしまいますと,心理学ではどうしてもフロイトの「無意識」というのが出てきて,また別の話になってしまうところがあって,これは単に言葉の問題ですけれども,そこのところはずっと気になっていることは申し上げたいと思います。   それから,疾患と障害という区別も,同じものを指しているという考え方もございますので,そこも考えないといけないと思います。   もう一つ申し上げたかったことは,岡崎の事件以後,私が受けた性的な被害,特に性的虐待の精神鑑定のケースなのですけれども,非常に微妙なものが多くなっており,年齢が18歳とか20歳とか,監護者性交等罪では処罰できない年齢であって,かつ,例えば,精神障害と経済的な困難とが一緒にあったり,性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめ報告書に記載されている列挙事由を私なりに言い換えますと,意識障害,睡眠,催眠,酩酊,薬物の影響,神経発達的障害を含む精神障害,心理的支配,恐怖反応,驚愕反応,社会的・経済的な圧迫などが複数入っていて,法律でいう抗拒不能の状態であると考えられる,しかし,障害一つの説明では済まない難しいケースが増えています。そのことを考えると,かっちり177条と178条が今の御意見のように分けられるのかどうかというのは,現実のケースとしては難しいところもあると考えています。   洗脳というのは特殊な言葉であって,列挙事由とすべきかどうかという御意見があるのは当然のことだと思うのですが,第2回会議のヒアリングで西田先生が言われたように,そういう状態について,別の言葉を使うなら,「心理的な支配」ですね。心理的な支配の下にあって抵抗できないケースというのは実際にありますし,フリーズするケースも,これも神経生物学的な基盤を持って存在する反応です。このようなケースが実在すること,決して少なくないことには精神医学的心理学的研究領域では議論がないわけですけれども,こういう被害者がその場にいる一般の人や良識のある警察官に,積極的に障害があるというように見えるかというと,全く見えません。そのことも御理解いただいて,議論していただきたいと思います。つまり性犯罪の被害者に起こっていることを知識としてよく知らなければ,法律上の適切な対応さえできないということです。   例えば,受け答えに問題があったり,意識に混濁があったりすれば,人はすぐ分かるわけですけれども,感情の麻痺,フリーズの一つの状態と思ってもらってもいいですが,そういうものがあったり,それから被害意識が持てない状態というのは,精神医学でいう「意識」の問題ではなく,心理的に構成される「認知」の問題ですから,一問一答の中のこれは積極的におかしい答えだとわかるというような形で出てくるものではないということは,知っていただきたいです。教育と言いますか,例えば,警察の方が十分訓練されていれば見えると思うんですけれども,そういう者でないと見えないということは,御指摘しておきたいです。 ○宮田委員 今の意見を拝聴していて,当罰性のある行為は何なのかという問題と,177条と同じに下限5年以上で処罰しなければならない行為はどういうものかという問題が,十分に切り分けられていない印象を受けました。少なくとも,改正以降のこの数年について,有罪判決をちゅうちょする,あるいは起訴をちゅうちょするという裁判官,検察官の発想に,下限5年という非常に重い刑罰があるように思われてなりません。   今まで177条の暴行・脅迫が非常に厳しく解釈されてきたということですけれども,元々下限3年であっても相当実刑になるケースが多くて,運用上相当重い処罰がされてきたというところとも関連しますけれども,実刑が妥当かどうかという前提があり,果たしてこれを起訴すべきか,あるいは,裁判のとき,これを有罪とすべきかという判断があったように思われてなりません。   それから,裁判所の判断にしても,暴行・脅迫が非常に弱いケース,性交に随伴する有形力を認定して処罰をされてきている案件というのは,被害者の脆弱性であるとか,あるいは環境の要因,非常に暗い場所,二人きりの状況などが利用されたようなケースではなかったかと思います。もちろん,暴行・脅迫がなくても,処罰しているようなケースもあります。ただ,それは,環境要因として,被害者がもう逃げ出せないような場所に置かれている,あるいは,その前のある程度離れた時点で被害者が非常に恐怖感を持つようなことを言われているというような案件などではなかったでしょうか。   そして,当罰性を有する行為は何かということを考えることと,下限5年以上の重い行為で罰するべき行為かというのは,分けて考える必要があるのではないかと考えます。性犯罪に関する刑事法検討会でも申しましたとおり,下限5年以上という重い刑罰を科している日本の刑は,比較法的に見ると,非常に重くなっているからです。今の177条の裁判例の実情を見れば,暴行・脅迫を加えられたのと同じぐらいの恐怖感や,あるいは,もう抵抗できないような非常に厳しい状況に置かれている,これも,その人が抵抗しないというよりは,一般的に見て,このような状況では抵抗できないですよねということが,考えられているように思います。   そういう意味で,暴行・脅迫をされた被害者と比肩するような恐怖その他によって被害者の方が抵抗できない状態にあるような場合,それを環境要因や被害者の方の脆弱要因なども加味して考えられているのが,177条であったかと思います。これに対して,178条の方は,木村委員の方からも御指摘があったように,かなり広い概念になっています。継続的な虐待であるとか,あるいは,プロダクションの社長がモデルになれるぞといって性的な行為をするようなたぐいです。脆弱な被害者に対して,地位のある人が働き掛けをするようなものについては,偽計的な働き掛けをするようなものも含めて,178条では拾っています。先ほどの木村委員のおっしゃった,177条は暴行・脅迫の部分に特化する,178条はもっと広く取り込むような形で整理をするという考え方は,私には非常に魅力的に思われます。   しかしながら,今の構成要件と比べ,かなり広いところまで捕捉できるような例示や包括要件を置くのであれば,やはりこの罰則についても,現在のように,それが下限の5年という刑罰が妥当なのかどうか,同時に考えていかなければ,非常にゆがんだ運用を招きます。刑罰の重さを予想して,かえって起訴が控えられるであるとか,あるいは,これは無罪にせざるを得ないという判断も招きかねないのではないかと思われるのです。 ○井田部会長 ありがとうございました。法定刑についても考慮すべき点があるとの御意見でした。 ○橋爪委員 ただ今の宮田委員の御発言に関連して申し上げます。私個人は,現行法の法定刑には十分な理由があると考えておりますけれども,確かにおっしゃるとおり,当罰性があるかという問題と法定刑の問題は,一応分けて考える必要はあると思います。つまり,現行法で処罰できないと解されている行為を新たに処罰する場合については,当罰性があるかという観点に加えて,それが5年以上の懲役という法定刑にふさわしい可罰性を備えているかという観点も含めて検討する必要があると考えております。 ○嶋矢幹事 これまでの議論を踏まえまして,二点ほど,規定の在り方に関する方向性と包括的要件の考え方について,少し意見を述べさせていただければと思います。   諮問を踏まえますと,意思に反するということのみを要件とするような案も考えられるところですが,これまでの御議論ですと,行為者の用いた手段,被害者の状況についての例示か,限定かというようなところの技術的な争いはございますけれども,そういった列挙を設けつつ,それらの手段や状態の実質的意味を示す包括的な要件を設けるという案を検討の対象とするということが考えられるように思われました。   その場合,ここまでの御議論にあったところですが,既存の177条と178条の分離してある規定形式をどのように考えるかというのは,検討の余地があり,内容によっては統合することもあり得るのではないかとも思われました。177条は,暴行・脅迫を手段とする強制性交等を主として定め,178条はそれ以外の手段や状態を要件とする準強制性交等を主として定めておりますけれども,列挙と包括的要件の規定の仕方によっては,その両者の区別が実質的になくなることが考えられますので,そうであれば,議論の進展次第では,先ほどの井田部会長の御整理のとおり,両者を統合することも選択肢としては十分にあり得るものと思われました。   確かに,177条と178条とで法益侵害に至る機序に違いがあるのではないかという点は,御指摘のとおりかなと思われるところもあるのですが,これも,別の委員の御指摘にありましたように,両者の限界付けが非常に微妙な場合があるということ,あるいは,性的自己決定権の侵害であるという観点からは,どちらも同じとも言えるということがあります。正に列挙及び包括的要件の規定の仕方次第ではありますが,統一する余地も十分あるように思いました。   もう一点,包括的要件の設け方についてです。これも,177条と178条を分けるかどうかという点も議論になったところでありますが,被害者の内心そのものに着目する,その他意に反する性交等というような形で設けるというような御指摘,被害者の状態に着目するというような御指摘もあったところであります。   そういったものに付け加えるものとしてということになりますが,意思決定に関わる被害者の状態に着目して不同意の徴表を明確にする方向で規定するというような観点に立つということもあり得ると思います。そのようなものとしては,性犯罪に関する刑事法検討会で示された拒絶困難といったものも想定できます。この点については,先ほど委員の先生から御異論もございましたところですが,より具体的にもう少し考えて,「被害者において拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難である状態に乗じて」というようなことが考えられます。つまり,状況によっては,そもそも被害者が拒絶の意思を形成する機会,能力すらない場合があり,また,仮に形成できたとしても,それが表明できない事情がある場合も考えられます。それは,被害者の自由な意思決定が困難な状態であるため,それらに乗ずることは意に反したものと考えられます。また,拒絶の意思を実現できない場合に,その状態に乗ずることも,当然ながら意に反したものであると考えられます。   そのような理解の下に,包括的な要件を設けることも検討対象になるのではないかと思われました。そういった観点からは,177条と178条を統一的に整理することも十分にあり得るのではないかというように思われたところです。   ただ,いずれにいたしましても,このような包括的な要件の在り方については,処罰の外延を画する重要なものとなってくるところです。それを踏まえますと,これも他の委員の御指摘にあったところでございますが,処罰がされるものとされないものが明確に区別されるという罰則の明確性,処罰すべきものとそうでないものが適切に区別されるという処罰範囲の合理性といった二つの観点に十分留意しながら,具体的議論を進めていく必要があるように思われました。 ○井田部会長 ありがとうございます。これまでの議論を見事にまとめていただいたと思います。   性犯罪に関する刑事法検討会では,包括的要件について,「拒否・拒絶が困難」という文言が出ていましたけれども,嶋矢幹事の今の御提案だと,もう少し広げる形で,拒絶する意思の形成・表明・実現が困難な状況に乗じてというような文言にすべきだということでしょうか。それは,要するに,より趣旨を明確化して,被害者に抵抗を要求するような文言にならないようにという御趣旨だと理解してよろしいでしょうか。 ○嶋矢幹事 そのとおりで,抵抗を要求するのは明らかに不適切でありますし,これまで各委員が被害者の立場について述べられたところにも関わるところでございますが,例えば,知的障害のために拒絶意思をそもそも形成できない場合であるとか,混乱や精神障害から意思の表明ができない場合であるとか,恐怖心や行為者による有形力によって拒絶意思を実現できないというような対応関係がある場合に,当たってくるのではないかと思います。   ただ,最終的な例示列挙事由として,どういうものを定めるかということと,包括的要件の対応関係によって決まってきますし,また,明確性と合理性が十分担保できる方向で検討して具体化していく必要がありますので,その点については,私の方でも引き続き検討させていただきたいと思っているところです。 ○中川委員 今後,具体的な文言の話になろうかと思いますので,これまでの議論を踏まえまして,現時点での問題意識について,性犯罪に関する刑事法検討会でも述べましたけれども,改めて述べておきたいと思います。   法を適用する立場からしますと,仮に例示であれ,その後の包括的要件を定めるに当たっても,できる限り一義的な文言を使って,条文の適用範囲を明確にしていただきたいと思います。これまでの御発言にも,曖昧だとか明確だという言葉がありましたので,意識されていると思うのですけれども,改めてお願いをしておきたいと思います。   また,要件を定めるに当たっては,その文言によってどういった類型が捕捉され,ほかの類型とどのように区別されるかという辺りも,検討していただく必要があろうかと思います。 ○井田部会長 ありがとうございます。全て判例に任せると言われたら困ると,こういう趣旨であるかと理解いたしました。 ○齋藤委員 先ほどの法定刑に関することですが,私は,法定刑の下限が5年の懲役であることの重さをきちんと理解できていないので,その点について何かを言うことではないのですけれども,今までずっとお話ししてきたのは,暴行・脅迫をされた場合と同じような恐怖があるという行為が,皆さんが想定しているよりも,心理の側面から見ると広いのだということです。   もちろん,今まで処罰されていないものを処罰することは慎重に検討すべきということも分かりますし,私は,基本的に,加害者には処罰に加えて適切な心理介入が必要だという考えではあるのですけれども,今まで処罰されていないものが,実は被害者に重大な結果をもたらしているものであったという前提があったのではないかと思いますので,それも忘れずに御議論いただければと思っております。 ○小島委員 私の提案は,全て判例に任せるということではなく,むしろ個別要件の方を詳しく定め,我々としてはここまで処罰するということを明確に示した上で限定的に包括的受皿要件で捕捉する。   新しい問題が出てきて,処罰するべきであるとなったときに,その都度改正するのは大変なので,これは包括的受皿要件で対応するという提案です。したがって,個別要件は詳しくするという提案です。 ○井田部会長 理解いたしました,ありがとうございます。   刑法を専門にする人間にとってみれば,明記されている行為とよく似ているから処罰範囲に取り込んでいいとするのは,類推解釈のような感じがするところではございます。 ○佐藤(拓)幹事 個別的な列挙事由の話が出ましたので,それに関連して意見を述べさせていただきたいと思います。   私がメモを取り切れた限りで申しますと,これまで出た意見の中で,列挙事由としては,暴行・脅迫,心身の障害,睡眠,アルコール・薬物の影響,そのほかに継続的な虐待,恐怖,驚がく,困惑,偽計,欺罔というのがあったかと思います。これに加えて,現行の強制わいせつ罪でも,いきなり被害者の胸をわしづかみにする例に代表されるように,暴行自体がわいせつ行為に該当する場合,つまり,被害者の不意を突いて唐突にわいせつ行為をする場合も,処罰対象にされていることを考えますと,不意打ちといった事由も更に加えることが可能なのではないかと考えられます。   さらに,これは,「第一の三」とも関係してくる話なのかとは思いますけれども,重大な不利益を憂慮させるという事由も挙げることができると思います。つまり,性行為に応じなければ不利益を与えることをちらつかせるですとか,就活の事例にありますように,性交に応じれば,次の選考過程に進ませるといった形で,応じなければそういう利益を与えられないという意味での不利益が生じることをちらつかせることにより,被害者がこれを憂慮して応じるという場合です。   加えまして,先ほど来意見で出ていましたけれども,偽計・欺罔,特に欺罔の方で,どの程度の欺罔に基づく錯誤まで取り入れるのかというのは,一つの大きな論点になり得るところだと思います。全ての欺罔による誤信を取り入れると,非常に処罰範囲が広くなる可能性があるかと思います。包括条項を「意思に反して」として,いわゆる判例の重大な錯誤説と言われる説を採ると,かなりの範囲が意思に反することとされかねないという懸念はあるかと思っております。他方,嶋矢幹事が御発言された,拒絶困難,すなわち,拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難とすると,欺罔による誤信の中でも,一定のものに列挙事由を絞るということにもなり得るということも考えられるのではないかと思いました。 ○宮田委員 齋藤委員の,心理面についても非常に重い被害があるのだということは私も理解しているつもりです。しかしながら,処罰範囲が広がるということは,非難するべき非常に悪質な行為以外のものを取り込みかねないということです。例えば,重大な不利益を与えると言って行為を慫慂したのか,逆に,被害者が性的な行為によって利益を求めたのかというところが立証できないというような事態も,実際には生じるところです。処罰されるべき行為,当罰性のある行為とそうではない行為との区別を,今回かなり広げることになってしまうのではないか,そうすると,法定刑の下限を,5年とすることは非常に重いということです。   実際のケースで,久留米支部の事件で,高裁で逆転有罪になった事件がありました。サークルの中で起きた同様の事案の中には,示談をして不起訴になっている事件もあります。起訴された事件については,示談をしましたが,有罪判決を出す以上は実刑ということなのです。性犯罪に関する刑事法検討会のときに,起訴猶予になるのか,実刑になるのか,天地の差があると言いましたが,これと同じように,同じようなグループの中で起きた事件の中で,起訴された事件とそうでない事件に大きな差が起きてしまえば,刑罰に対する信頼性が保てるのかどうか。少なくとも,加害者への刑の感銘性はあるのか。全部起訴すればいいのではないかということかもしれませんが,被害者が起訴しないでくれといえば起訴してはならないというのが,前回改正のとき強調され,そのとおり現在運用されているところです。そのような難しさを,私たちは感じるところでございます。 ○佐伯委員 私は,偽計,欺罔要件について,これを,偽計,欺罔とだけ規定すると,非常に広い範囲で処罰されるおそれがあるという,先ほどの佐藤拓磨幹事の御指摘に同感です。また,これを,拒絶困難という要件で絞ることができるかという点についても,なかなか難しいところがあるのかなという気がしております。   先ほど長谷川幹事が,177条の要件として,偽計,欺罔という要件を挙げられ,一方,178条の方では,錯誤について,同一性の錯誤と,それから行為の意味の錯誤というのは,当罰性があるのではないかということを御指摘になられました。私も,同一性の錯誤と行為の意味の錯誤について当罰性のある場合があるということは同感なのですけれども,それを超えて,偽計,欺罔一般を処罰するということについては,かなり慎重な検討が必要ではないかと思っております。 ○井田部会長 ありがとうございます。錯誤単体でというのは難しく,錯誤に加えて,例えば困惑とか,何かそういうプラスアルファが加わってくる場合には,また話は別になるということですかね。 ○佐伯委員 そうですね。困惑して意思表示ができなかったとか,そういう場合はまた別の考慮が必要かと思います。 ○金杉幹事 宮田委員の意見と重なるのですけれども,刑事弁護の立場から申し上げますと,基本的に,当罰性が高いもの,そして立証が可能なものについては,現行の規定でも捕捉ができているという理解でございます。ですから,現在の規定で,捕捉できないものというのは,むしろ当罰性がそれほど高いと言えないか,あるいは立証が難しい事案なのではないかと考えます。立証が困難な事案について,刑罰法規の規定を改正して立証可能にする,刑罰を科すことを可能にするということは,避けるべきであろうと考えます。   そうしますと,現状,当罰性がそれほど高いとは言えないと考えられているものについて,現状の177条,178条に入れ込むような形で規定を設けるのは,やはり処罰範囲を広げるということになるのだろうと思います。そうではなくて,当罰性がそれほど高いと言えなかったものについても新たに処罰するということであれば,やはり一段法定刑の軽い類型を作るということになるのだろうと思います。その上で,こちらを積極的に作るべきということではないのですけれども,仮に一段法定刑の軽い類型となりますと,例えば,考えられるものとして,以下のようなものがあるかと思います。   13歳以上の者に対し,人の抵抗を抑圧するに至らない程度の暴行若しくは威迫を用い,又は抵抗することが困難な状況を作出し,若しくは利用して性交等をした者は,不同意性交等の罪とし,1年以上10年以下の有期懲役に処すると。具体的な条文の案として申し上げましたけれども,177条,そして,178条の法定刑を一段階軽くしたものを考えるということであれば,検討に値するのではないかと考えています。 ○今井委員 これまでの意見交換を聞いておりまして,まず,当罰的な行為が現行法で漏れなく救われているのか否かについても,イメージの違いがあるという点を改めて確認させていただきました。   その上で,当罰的だけれども,現行法では手当てができにくい,あるいは,できていないということについて,どうするかという議論に移っていくと思いますが,その際に,包括的な要件を示して規制するというやり方については,罰則の明確性の観点から,実務的な観点からの御指摘もいろいろあったところであります。そこで,例示列挙を詳しく書くことによって,適用のしやすさを確保するという御提案もあったところでございます。これらの御提案については,以下の観点を踏まえて,今後検討する必要があるのではないかと思っております。   第一でございますが,包括的な要件や例示列挙事由の規定ぶりに照らしまして,一体,処罰範囲がどこまでなのか,その外延が明確であると言えるかといった観点,これは一番大事なところでございますが,ここと,それから,性犯罪に関する刑事法検討会の議論において十分に議論がなされていたところでありますけれども,現行法の運用にばらつきが生じているのではないかとの意見があったことも踏まえまして,検察官が起訴し,裁判所が認定する際の認定の難易度と実務への影響にも十分留意することが必要だと思います。   第二の観点といたしましては,これから作っていく規定が,安定的に運用に資するようにエラボレートできるか,より精査できるかという観点からも,検討を加える必要があると思います。   今申しました第一と第二の点に共通するのですけれども,これから構想していく規定によりまして,処罰範囲が合理的なものとなることが大変重要であります。強制性交等罪などとして処罰される行為が,適切に捕捉されているか,かつ,処罰されるべきでない行為が適切に除外されているかといった観点,この観点は,今日も様々な文脈で出ておりますが,ここに十分留意する必要があるかと思います。   その一例といたしまして,佐藤拓磨幹事や佐伯委員の御指摘にもあったところですが,偽計,欺罔による誤信類型などには,注意が必要だと思います。例えば,結婚するからと,真意に反する言辞により,欺罔行為を用いて性交等に同意させた場合までも,新たな規定によって処罰されるということになりますと,その点については,性犯罪に関する刑事法検討会においても指摘がありましたが,そのような行為までを刑法で処罰することは不相当ではないかという意見も強いかと思います。そうした行為を適切に処罰範囲から除外するような規定の仕方,これは,先ほど部会長と佐伯委員とのやり取りでもありましたが,そういったお考えも踏まえながら,より実際に使いやすい案に仕上げていくことが必要だと思います。 ○井田部会長 ありがとうございました。今後の議論のための,大きな方針を示してくださったと理解いたしました。   いかがでしょうか。そろそろ時間がもう来ておりますが,二巡目に入る前に,ここで是非という御意見があればお願いします。 ○山本委員 欺罔についてなのですけれども,結婚するとか,交際するとかに関しては,性犯罪に関する刑事法検討会でも当たらないというような話になっていたのかと思います。これは私の意見なので,皆さんの法律的見解と違うところがあるかもしれませんけれども,お金を払うと言い,その後で払わなかったということに関してなのですが,加害者にとっては性加害だと思うのです。金銭的な格差があり,対等性が欠如しているから起こることで,相手を物として扱うことができる。だまして性的なサービスをさせておいて,さらに性的行為を収奪したという,二重の加害性があると思います。   加害者は,被害者に対して,性的な収奪をして,また,金銭を与えないということによって,相手を思うままにできるという支配と,金銭を与えないことができるというパワーを感じることができる。そういうことをしておきながらも,泣き寝入りせざるを得ない相手を蔑むこともできるものであり,行為としては,非常に悪質な加害だと思います。   生活費を出してやるということで性交を強制し,被害者が未成年の方の場合も,成人の方の場合もありますけれども,金銭を払わなかったという性被害については,現場では非常に起こっているところです。だましたという行為が非常に幅が広いので,私もどういうふうに考えたらいいのか分からないのですけれども,先ほど齋藤委員が言われたように,性交のために密室に連れ込んだというような類型で,何もしないからと言って連れ込むこととか,こうすると君の有利になるからと言い性的行為をすることも,非常に多くのパターンが起こっています。それが欺罔という例示列挙になるのか,それとも,ほかの例示列挙や包括的要件で判断されるのか分からないのですけれども,当罰性がある行為というのを,意思に反して,そして,被害者らが同意していないというところから,私はこの改正は議論されると考えておりますので,そちらのところを狭く解釈するようなことはしてほしくないと思っています。 ○井田部会長 ありがとうございます。個別の事由の規定ぶりを考えるときに,重要な課題になるかと思われます。   それでは,「第一の一」についての一巡目の議論はここまでとさせていたただきたいと思います。ここまでの議論を伺っておりますと,まず,177条と178条を統合するか,それとも分離したまま残しておくかについては,御意見の対立がありました。もっとも,これは既に性犯罪に関する刑事法検討会でも多くの委員が賛成されたところでありますが,本日,多くの委員・幹事から,条文上,行為者が用いた手段,それから被害者の状態,こういったものを例示的に列挙した上で,さらに,それらの手段あるいは状態というのを,包括的にその内容を示す,その実質的な意味を示すといいますか,そういう包括的な要件を設けることとする,つまり,例示列挙と包括的要件の二段構えでいくことが,処罰範囲を明確化し,規定の安定的運用を可能とするものではないかという意見が表明されたと思います。   その際,例示列挙の候補となる手段や状態としては,例えば,暴行・脅迫,被害者の心身の障害,睡眠,アルコールや薬物の影響,不意打ち,継続的な虐待,恐怖,驚がく,困惑,重大な不利益の憂慮,それから,偽計,欺罔による誤信です。偽計,欺罔による誤信については,規定ぶりになかなか工夫が必要だということでしたが,こういったものが考えられるのではないかという御意見があったように思われます。   そして,包括的な要件につきましては,「その他意に反する性交等」といった被害者の内心そのものを要件とする案も考えられるであろうし,また,被害者の抵抗を要件として求めないという趣旨で,「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」といった意思決定に関わる被害者の状態を検討する案も考えられるのではないかという御意見がありました。   そして,どのように考えるにしても,罰則としての明確性や処罰範囲の合理性はもちろん検討すべきであり,また,処罰範囲を拡張するのであれば,その理論的根拠はもちろん大事であるが,特に法定刑の重さについても検討すべきであるといった御意見があったように思われます。   これらの御意見は,今後のこの部会における検討と意見集約のために非常に有力な手掛かりとなると思われます。   本日の議論を踏まえて,事務当局において,議論のたたき台となるような資料を作成してもらい,二巡目の議論では,それを基に更に検討を深めるという進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   それでは,ここで10分ほど休憩したいと思います。再開は11時45分といたします。              (休     憩) ○井田部会長 会議を再開いたします。   次に,「第一の二 刑法第百七十六条後段及び第百七十七条後段に規定する年齢を引き上げること」について御議論いただきたいと思います。   御意見のある方は,挙手の上,あるいは挙手ボタンを押すなどしていただいた上,御発言をお願いします。 ○山本委員 同意年齢については,性犯罪に関する刑事法検討会で弁護士の上谷委員が主張したように,性的保護年齢と考えることが適切だと,私も思います。どうして脆弱性を保護する必要があるのかということですが,第2回会議のヒアリングで桝屋先生が,脳科学的にも精神医学的にも,13歳は冷静で長期的な視点での判断や同意が難しい場合が多くなると述べられ,冷静で長期的な視点での判断や同意ができる年齢は,限りなく20歳に近いと述べられたりしていました。   昨年12月8日に開催された性犯罪に関する刑事法検討会第9回会議に,一般社団法人Springが性被害を受けた方へ行った5,911件の実態調査アンケートを提出しています。その調査においても,「性被害の実態調査アンケート 結果報告書①~量的分析結果~」の30ページで,「あなたが性交に伴うリスクも認識した上で,相手と同等の関係で性交に同意できる年齢は何歳だと思いますか」という質問に対して,挿入を伴う被害を受けた方,身体に触れる被害を受けた方,撮影の被害を受けた方,見させられたという被害を受けた方,全てが平均年齢19歳と答えられていました。   性犯罪に関する刑事法検討会で議論を行った際に,刑事責任が問われるのに,性的自己決定権について能力がないとされるのは,整合性がないとの意見もありましたけれども,諸外国の刑事責任年齢は,アメリカのニューヨーク州は7歳,イギリスは10歳,ドイツ,韓国は14歳,フランスやカリフォルニア州は設定していないと聞いており,一致する必要はないのではないかと思います。   限りなく19歳や20歳に近い年齢とするならば,カリフォルニア州のように18歳の性的同意年齢を保護年齢にするのかということですけれども,日本においては,義務教育年齢である16歳未満でよいのではないかなと思います。また,16歳未満とするのならば,中学生同士を例外にするのかということなのですけれども,同年齢でも強制的・搾取的な状況が生じることは起こり得ると思います。これは同性同士でも,異性同士でも,また性的マイノリティー同士でも起こっておりますし,16歳未満に対して保護的な対応をすることが必要なのではないかと思います。そして,高校生以上,16歳以上についてなのですが,内閣府男女共同参画局が2020年度に行った「男女間における暴力に関する調査」では,無理やりに性交等をされた被害経験がある人のうち,中学卒業から18,19歳までの間に被害に遭った方が24.7%と,全体の約4分の1を占めており,無視できないボリュームゾーンだと思います。   若年成人を何歳までと捉えるかについては議論がありますが,「男女間における暴力に関する調査」によれば,20代も無理やりの性交被害の約半数を占めていますし,新入生,就活セクハラ,新入社員などは,社会活動が始まった時期にターゲットにされています。この年代を中間年齢層として捉えて,性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめでも誘惑的・欺罔的手段を用いた場合を処罰する規定を設けてもよいのではないかという意見もあったと思いますが,16歳未満を性的保護年齢とし,そして,16歳以上に関してもある程度保護できるような規定も必要ではないかと思いました。 ○井田部会長 ありがとうございました。年齢は16歳未満のところまで上げて,また,それ以上についても,地位・関係性の関係の保護の対象にする必要があるという御意見だったと思います。 ○小島委員 この176条後段,177条後段に規定された13歳以上の者に対しての年齢を引き上げるべきかという論点につきましては,私は,16歳に引き上げて,年齢差要件を設けるべきだという立場から意見を申し上げます。   16歳まで引き上げる根拠でございますが,176条後段,177条後段の趣旨については,これまで判断能力の未熟な青少年を法的に保護するということと,青少年の健全育成を図るという福祉目的があると言われてきましたが,その趣旨において,類型的に危険犯と考える余地があると思います。13歳未満の児童は,低年齢ゆえにフリージングの状態になりやすく,また,年上の者に服従してしまいがちだということがあります。個々の事案において,暴行・脅迫要件や抗拒不能要件が充足される場合もありますが,立証不能ということになる危険があります。こういう類型的な危険状態があるとして,13歳未満という年齢を設定して,暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず,重い処罰をしてまいりましたが,年齢をどこに引くかということについては,意見の対立があります。   子供に対する性被害について,児童の健全育成や福祉というものを超えた児童虐待の防止という観点から捉えるべきこと,また,人格が未熟であることから,被害者の人生に対する継続的な悪影響が深刻なものであることが徐々に明らかになってまいりました。令和3年6月に教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律が制定されるなど,子供の性被害について,社会的非難が高まっております。せめて中学生に対する性的搾取や被害児童の性的道具化を防止するため,性犯罪として適正に処罰し,性交同意年齢を16歳まで引き上げて,中学生をターゲットにする大人の性的搾取は許されないということを明示することに,意義があると考えます。   児童福祉法の領域で対応するべきという意見がありますが,児童福祉法と刑法というのは,法律の出自が違うと考えます。児童福祉法34条は,元々児童に見世物やこじき・芸妓にさせること等児童を家庭のための道具にすることを禁止したものであり,淫行をさせる行為についても,犯人自身が児童を相手に淫行する場合,これにあたるという判断については,最高裁決定がようやく平成28年に出ているという法状況です。被害者の自由の侵害であるということから,刑法で処罰するべきだと考えます。   年齢差要件については,強制の生じやすさというのは年齢差から生じやすく,また,被害者の判断能力の低さの不当利用についても,年齢が近いと不当利用は起きにくいと考えます。健全育成の観点でも,年齢の近い者同士で危険かどうかは不明であり,行為者・被害者の両方が保護の対象だと考えて,処罰の対象からは外すべきだと考えます。   条文の位置ですが,現行法では,177条後段に13歳未満の者に対して性交した者も同様とするとされております。177条の前段と異なる趣旨の条文であることが明確になっておりませんので,別な条文とすることを検討するべきだと思います。具体的には,第1項について,13歳未満の者と性交等をした者は5年以上の懲役に処する,第2項として,16歳未満の者に対して性交等をした者は5年以上の懲役に処する,ただし,行為者の年齢が児童の年齢から3年を超えないときは,前項は適用しないという条文を考えました。以上です。 ○井田部会長 ありがとうございました。年齢は16歳未満まで引き上げて,ただし,年齢差が3年以内であれば処罰の対象としないという御提案と理解いたしました。 ○佐藤(陽)幹事 二点意見を述べさせていただければと思います。   まず一点目ですけれども,性犯罪に関する刑事法検討会の議論及び本日の議論状況を踏まえますと,刑法176条後段,それから177条後段に規定する年齢につきましては,仮に引き上げるとするのであれば,先ほどまで出ていた,一般的に義務教育が終了するまでの16歳未満とする可能性と,あるいは,性犯罪に関する刑事法検討会で出ていた刑事責任年齢と同じ14歳未満とする可能性について,検討する価値があるように思われます。ただ,いずれの案を採用する場合におきましても,刑法が権利侵害を内容としている以上は,処罰したいから処罰するというのではなくて,年齢を引き上げる実態的・理論的な根拠を整理して検討しておく必要があるかと思います。   例えば,現行法ですと,13歳未満へのあらゆる性的行為が禁止されている理由につきましては,少なくとも二つの説明が可能であるように思います。一つ目は,13歳未満の者はわいせつ行為や性的行為というのが,単なる身体接触ではなくて,性的な性質を帯びる特別なものなのだということを十分理解できないという説明があろうかと思います。二つ目は,13歳未満の者は,わいせつ行為や性交が将来的に自分に本当にどういう影響を与えるのかということについて,きちんと理解できないから,表面的な同意とか従順な態度があっても,それは有効な同意ではないというような説明になろうかと思います。もちろん,この二つの説明を合わせて使うことも考えられるかと思います。   ここからが言いたいことなのですけれども,仮に176条後段,177条後段の13歳未満という,この年齢を引き上げるのだとすれば,これらの考え方について,現行法上,どう考えられているのか,今後どう理解するのかということについて,整理をしておく必要があろうかと思います。具体的に言うと,処罰根拠は維持したまま,社会的な情勢が変わったのだという説明をするのか,あるいは,処罰根拠そのものが変わったと説明をするのか。多分,先ほどの小島委員の見解は,処罰根拠そのものを変えようという説明だったと思うのですけれども,そういうようなことを説明しておく必要があろうかと思います。そういうことに基づいて法定刑を決めたりとか,年齢差要件を決めたりとかが可能になるかと思いますので,基礎となる説明を大切にしておく必要があるのではないかと思います。   また,最近,裁判において,出会い系で知り合った場合における11歳とか12歳の者の児童の表面的な同意を,量刑において被告人に有利な事情として扱えるのかという問題が提起されておりまして,仮に176条の後段などの保護年齢が16歳未満に上がった場合には,この問題が更に先鋭化してくることが予想されますので,量刑の場面も含めて,例えば,7歳の子の表面的な同意と15歳の子の表面的な同意が,刑法上全く同じ扱いでいいのかとか,そういうようなことについて,ある程度理論的な根拠を含めて,解決の道筋をこの審議会の中で示しておく必要があるのではないかと思います。   以上が一点目です。それから二点目ですけれども,仮にこの13歳未満という年齢を,刑事責任年齢の14歳未満を上回るもの,例えば16歳未満とするのであれば,幾つか問題があるなと思っています。反対しているわけではなくて,解決しておかないといけない問題があると思っておりまして,まず一つ目は,先ほどの山本委員と小島委員からも出てきた刑事責任年齢に達した者同士,例えば,14歳同士の性交等の可罰性をどう考えるのかということです。   先ほど山本委員が,同じ年齢でも強制的な場合や搾取もあるのだというようなことをおっしゃいましたけれども,恐らくこれは,177条,176条の前段で解決される問題になろうかと思いまして,後段は,恋人同士などでも処罰するのかという話になろうかと思います。恋人同士で性行為,あるいは性的な接触をした14歳同士の者に刑罰を科すことが,果たして妥当なのかという点について考える必要があろうかと思います。   それから,14歳や15歳の者が強制性交等に及ぶという可能性もありますので,これも先ほど山本委員から御指摘があったところですが,176条後段などの保護年齢を上げることによって,そういう年齢の者が強制性交等をした場合の故意や責任能力に影響を与えないのかということについても考えておかなければいけません。先ほど山本委員も各国では違うから大丈夫なのだとおっしゃいましたし,私も違う形で大丈夫だと思うのですが,なぜ大丈夫なのかということについては,理論上しっかり整理をする必要があり,被害者になった場合は,年齢一律で判断能力がないけれども,加害者の場合には,悪い人だから判断能力は十分ですよという説明ではやはり十分ではなく,そこは理論的にきちんと詰めて説明をしておく必要があろうかと思います。   それから,最後なのですけれども,例えば,14歳とか15歳の者に脅迫されて,成人がその者と性的行為を行った場合には,外形的にその成人は,176条後段や177条後段の構成要件を満たすという状況が発生することになろうかと思います。こういう場合,理論的には,多分緊急避難で違法性が阻却できると思うのですが,もしも176条前段や177条前段の構成要件があらゆる欺罔を含むとかいう形で非常に広くなった場合に,本当に緊急避難でいけるのかというような問題も生じ得ることになろうかと思います。この点についても,検討する必要があろうかと思います。 ○井田部会長 ありがとうございました。引上げに伴う理論的問題,実際的問題を含めて,いろいろな問題について,詳細にまとめて御指摘いただきました。大変参考になる御意見だったと思われます。 ○長谷川幹事 私からは,13歳という年齢を上げるべきかという点については,少なくとも16歳には上げるべきであるということと,年齢差要件については,これを設けることに,今は消極的なためらいを感じているという点について,意見を述べたいと思います。   まず,16歳に上げるという点です。   性交同意年齢というのは,子供の同意に意味を持たせるのは何歳かということであると思います。保護されるのが何歳かということでもあるし,同意に意味があるということでもあるのですが,同意に意味を持たせるには,その行為について理解をしているということが必要で,これは今佐藤陽子幹事がおっしゃられたのと重なるところがありますけれども,行為の意味とか,その行為が与える自分への影響ということを理解しているかということであると思います。   まず,行為の意味が分かるかというところについてですが,今回資料7,8で,今の性教育に関する資料を頂いています。学習指導要領の7の方を見ますと,小学校の段階では,体つきの変化とか異性への関心が芽生えるとか,そういうことは習いますが,性行為については全く触れられていません。これ,体育の授業ですね。理科の方も,人は受精卵が成長して胎児になるというようなことは習うけれども,受精に至る過程は取り扱わないということにしているので,小学生では,性行為については学校として必ず教えられるということにはなっていない。ですから,まず,13歳になったから同意に意味を持たす,というのは全く不適切だと思います。   では,何歳だったらいいのかということについて,中学生はどうなのかというところを見ますと,これも,学習指導要領を見ますと,1年生では,妊娠・出産が可能となるように成熟が始まる観点から,受精・妊娠を取り扱うものの,妊娠の経過は取り扱わないとなっています。これはいわゆる歯止め規定と言われているもので,これにより,1年生の課程で性行為それ自体について授業で取り上げるということは少ないのが実情だということも聞いています。性感染症については,その予防も含めて中学3年生で学習するとなっているので,このときに,性感染症の予防,避妊具を着けるとかのところで,性行為が具体的にはどのような対応で行われるとか,そういうことに触れるのかもしれません。こういうことを考えると,やはり中学生の課程が終わっていない段階では,性行為の意味は分からない。それから,性感染症のレベルのところですら,将来的な自分の人生にどのような影響があるのかというところも,ここで最低限,健康のところで出てくるぐらいであると。   高校生になると,家族計画が出てくるので,そこで具体的に避妊だとか,望まない妊娠をした場合の人工妊娠中絶,妊娠による影響なども教わるというようなことになっているので,こういったことも考えると,やはり高校生まで学ばないと,本当のところは分からないのかなというようなところはありますが,少なくとも,やはり中学生を終わったところまでいかないと,性行為ということを学校で習うということはない。学校で習っていない年齢で,同意に意味を持たせるのはどうかというのが,まず一つです。   それから,子供の発達的なことについては,第2回会議のヒアリングでの桝屋先生のお話の中で,まず,10代は脳の発達途中で,衝動に突き動かされるとか,理解のできない性行為に同意しやすいなどということがあるというお話があって,これは,どのぐらいだったら同意できるようになるのかということについては,できるだけ二十歳に近づくようなという形の検討が望ましいとおっしゃられていて,意外と高い年齢が回答として示されたなと思いました。そういった意味でも,やはり13歳では足りないと思います。   あと,子供の時代の逆境体験が,その後の神経の発達の問題や社会的・情緒的認知の障害とか,健康面とか,問題行動を経て,最終的には寿命が短くなってしまうというようなお話もありました。やはり生涯にわたって悪影響を及ぼす可能性がある子供時代の不適切な性行為については,子供を保護する必要があり,やはりこれは13歳では足りないなと思っています。   また,性行為をすれば妊娠という結果が生じるわけですけれども,人工妊娠中絶との関係を見ますと,現状,性交等については13歳で自分の意思に意味を持たされているわけです。これは,同意の結果について自己責任を持たせているということとも言えるかと思いますが,では,この同意の結果の妊娠に対して,子供の意思が尊重されるのか,自己決定できるのかという点について見ますと,人工妊娠中絶それ自体については,母体保護法で親の同意が必要とはなっていないのですが,現実の産婦人科の現場においては,中絶の際に異常が起きたら医療行為が必要になったりする場合もあるということで,親の同意が必要だと言われてしまうことが多いと理解をしています。   子供の権利の側で一生懸命やっている弁護士によると,そうはいっても,例えば,親が加害者である場合に,親が同意してくれないけれども妊娠してしまったというような事例で,弁護士が子供の保護に入ったりすることがあるようなのですが,そういった場合は,中絶は医療行為ではないことを主張したり,15歳になると民法上遺言や養子縁組などの自分の人生に関わる事について自己決定できる法律的な段階に入るということで,親権者の同意なしで中絶をするというのをサポートしているというような話もありました。こういった意味でも,同意とその結果についてを対応させるときに,13歳ではやはり足りないなと,低いなと思っています。   そのほか,未成年者の意思決定と年齢について,いろいろな法令でどうなっているかというと,民法は,婚姻年齢は来年から18歳になりますけれども,縁組・離縁・遺言が15歳となっている。行為能力は経済的なものについてのもので,人生全般にわたるものではなく,例えば,エステ契約だとか,そういったスポット的な取引的なものについて経済的な保護を図っているものですが,これは18歳と結構高い年齢になっています。家事事件手続法でも,親権者の指定とか変更で15歳以上では意見を聞かれるとなっており,また,臓器移植ガイドラインも,15歳以上の者の意思表示を有効としており,15歳という線引きというのは,ほかの法令などを見ても,ある程度の精神的な発達ということで意味があるのではないかなと思います。   あと,刑事責任年齢との関係ですが,これが14歳になっていて,性的同意年齢を14歳より高くするというのは,整合性がどうなのかという考えはあるかもしれないですが,これは,合わせて低くする必要はないと考えます。刑事責任年齢というのは,悪いことをしちゃいけないよということが理解できて,行動を制御できるということの年齢ですが,窃盗とか殺人とか犯罪は駄目ですよということは,小さい頃から道徳の範囲で教わっているのに対して,性行為というのは,逆に子供時代には触れられない問題です。性教育の現状も,先ほど言ったようなことです。そういうことからすると,合わせて14歳にしなければいけないということではないと思います。   それから,13歳より高いところについては,青少年保護条例とか児童福祉法で対処すればよいのではないかという考えがあるということも承知しています。ただ,子供時代の不適切な性的行為がもたらす将来の健康,社会生活を阻害する身体的・精神的影響の深刻さというのは,青少年保護条例や児童福祉法などが目的とする健全育成とか保護などといったものとはレベルが違い,そのダメージの大きさは単なる性的自由の侵害ではなくて,性的人格権の侵害であり,自己決定の侵害であり,法益侵害・人権侵害であるので,刑法上の犯罪として処罰すべき問題であると考えています。   以上が,年齢を最低でも16歳まで引き上げるべきということです。   次に,年齢差要件のところなのですが,これは確かに,真剣な恋愛の下での14歳同士の性行為とか15歳と18歳の性行為が処罰されていいのかとか,そういう問題意識があるというのは,私も理解はしていますし,結構迷うところです。特に,14歳とか18歳とかが全件家裁送致で,18歳,19歳だと原則逆送というところがあるという,そういう問題意識は分かるのですが,ただ,やはり先ほど言った年齢を引き上げて子供を保護する必要があるということは,年齢差が僅かな場合でも変わらないです。搾取,断りにくさというのは違ってくるというのはあるかもしれませんが,同意をしてしまうとか,そういった脆弱性に関するところというのは変わらないと思います。   実際問題として,未成年による性加害というのがあって,私も学校からの相談とか保護者からの相談とか受けるのですが,小学生が小学生の性的部位を触るだとか,中学生同士とか,中学生のお兄ちゃんが友達をとか,そういったものがあるので,年齢差が僅かであるからといっても,処罰する必要がある,処罰というか適切な対処をしなければいけない事例はあると思います。   それから,年齢差要件があるとした場合,現在は,13歳未満に対するものは全て刑法に問われていくことになるのですが,年齢差要件を満たす者から12歳への性行為も不問にされてしまうということで,現行対象となっているものから後退するというのも不適切ではないかということがあります。   全件家裁送致なので,未成年が未成年をという場合に,家裁が介入するということになるのですけれども,これがマイナスばかりなのかということについては,一つの考え方で異論はあるとは思うのですが,低年齢での性的な行為というのは,背景に問題を抱えていることがあって,実際,児相や家裁のルールに乗ることが,その問題を抱える加害者にとってマイナスばかりではないという点もあるのではないかという意見があります。現在も,13歳未満に対する15歳の者と12歳の者が性的な行為をするというのはあり得るところですが,子供同士の恋愛で少年院送致になるということはないのではないかと思われます。   ということから,年齢差要件を設けるということにはためらいを感じ,また,設けないことによるマイナスが,必ず処罰されるということでもないということから,一考に値するのではないかと考えています。 ○佐伯委員 一点だけ,刑事責任年齢との関係についてなのですけれども,私も,必ずそろわないといけないと考えているわけではないのですが,ただ,先ほど長谷川幹事が,殺人や窃盗について,悪いことをしてはいけないというのは分かっているはずだとおっしゃった点についてだけ,少しコメントさせていただきたいのですが,問題となっているのは,性的行為をしてもいいかどうかということについて,十分理解する能力がないと考えるのであれば,性的行為をしてはいけないということについても,やはり十分な理解ができないのではないかということです。する方も,される方も,どちらも十分理解することはできないのではないかということが問題にならないだろうかということだと理解しておりますので,そこだけコメントさせていただきます。 ○井田部会長 私も,一点だけ質問があります。長谷川幹事がおっしゃった,例えば,15歳の同年代同士で好きになって性的行為を行った,あるいは性交等を行ったというときに,家裁に送るということは選択肢としてあり得るものの,そういう行為は,大目に見てやるべきで,それは運用に任せるべきだという点です。この例では,両方とも14歳を超えており,刑事責任能力があるということですので,犯罪少年になるわけですが,そこはもう国家機関による運用に委ねてしまってよいという解決なのかということだけ確認させていただきたいと思います。 ○長谷川幹事 家裁に送る選択肢があるという点については,全件送致なので送られてしまうということにはなると思います。それを,裁判所に任せるという趣旨かというお尋ねに対しては,運用に任せても,恋愛ということであれば,不適切な結果にはならないのではないかと考えているということです。 ○井田部会長 恐らく,14歳や15歳の同年代同士で好きになって性的行為を行う子供たちは,現在,相当数いると思うのですね。それは,基本的には放置されているというか,基本的にそれに対しては何ら対処していないのだけれども,やはり家裁に送るべきであると,こういうことでしょうか。 ○長谷川幹事 今データが手元にありませんが,実際,16歳未満で性行為をしている人の割合が,それほど多い数字ではなく,そのデータは相手との年齢差を問わずのデータであることから,年齢差要件を考慮しようという立場から懸念される,同年代同士の真剣交際によるものがどれぐらいあるのか。むしろ,背景に何か問題を抱えているようなケースがあり,それは,児相なり家裁が入ることで,例えば,虞犯とかいうようなケースもあるでしょうし,そうすると,必ずしも家裁に送られるのが全て悪い,マイナスばかりではないだろうという考えが一つと,処分としては適切でないような処分,少年院へ行くとか保護観察とか,そういうことになっていくということはなかろうという,そういう意見です。 ○井田部会長 強制わいせつも同じですので,そうすると,キスしてもやはり家裁に送るべきだという話になりますね。 ○長谷川幹事 そこは非常に悩みがあって,強制性交等の類型と強制わいせつの類型を同じにするのかというのも,年齢を考えるときに結構悩みはあり,ただ,強制わいせつも,性器を直接触るとか,やはり強制性交等と同じぐらいの侵害を与えるものがあることを考えると,キスだけ除外するというようなことを条文上することができないかというのを,少し悩みつつ考えています。限定の方法として,キスというのをするのか,直接性器を触るものとそうではないもので分けるのかとか,ちょっとそこは,まだ悩みがあるところではあります。 ○佐藤(拓)幹事 今の長谷川幹事の御発言との関係で,意見を述べさせていただきます。まず,御発言中にありました年齢差要件の話ですが,私の理解が誤っていなければ,13歳以上,例えば16歳未満の場合を射程とした議論であり,13歳未満のときは射程に入っていないと理解しております。もしも誤りでしたら,後で御指摘いただければと思います。   二点目は,今,正に議論されていた15歳同士の者が真剣交際した場合について,家裁で適切に処理されるだろうということなのですけれども,やはり性犯罪の成立要件を充足するということを認めるのは,かなり社会的なインパクトを伴うのではないかと思います。ですから,佐藤陽子幹事の御発言にあったかと思うのですけれども,対象年齢の上限を刑事責任年齢よりも上にする場合には,処罰の除外事由というものを設ける必要があるのではないかと。それが年齢差なのかほかのものなのかということは,また議論の余地があるかと思うのですけれども,いずれにせよ,除外すべきではないかと思います。   その際に,どういうような除外事由を置くかということなのですけれども,対象年齢を引き上げるという,そもそもの趣旨との整合性に留意すべきなのではないかと思います。その趣旨につきましては,16歳未満の者は,性行為を行うことについての長期的な不利益に対する理解が十分ではないということが挙げられていました。そうすると,例えば,年齢差要件の弱点としては,例えば15歳と16歳という1歳差の場合であっても,15歳の者がそういう能力について不足があるという点は変わらないわけで,相手が16歳の場合であれ,20歳の場合であれ,ここであえて被害者という言葉を使いますが,被害者側のそういう未熟さは変わらないわけですので,それにもかかわらず,年齢が近いということで処罰範囲から外すというのは,どういう根拠からなのかということが問題になり得るかと思います。   性犯罪に関する刑事法検討会の議事録などを拝見しますと,年齢差要件というのは意見として多数ありましたが,ほかにも,行為者の年齢ですとか,脆弱性の利用又は相手方の未熟さの利用といった観点で絞るという意見もありましたので,そういうものを参考にしつつ,どれがいいのかということについて,除外事由の明確性や処罰の合理性という観点から議論する必要があるのではないかと考えます。 ○金杉幹事 同意年齢を引き上げる場合には,例えば,16歳未満とすると,今問題になっている15歳同士の恋愛に基づくわいせつな行為や性交等を行う意思決定の自由に対する制約にもつながることですので,慎重に議論すべきかと思います。仮に処罰除外規定を同年齢同士等の場合に置くとしても,それはやはり違法にはなる,構成要件には該当するということになりますので,意思決定に対する制約になり得ると思います。   刑事責任年齢との関係を性犯罪に関する刑事法検討会のときにも申し上げましたけれども,積極的に刑事責任年齢に合わせるべきという意見ではもちろんございません。ただ,それ以上に引き上げる場合に,先ほど佐藤陽子幹事の御発言にもありましたけれども,刑事責任には問われ得るのに,性交等に同意する能力がないということについては,やはり理論的な検討が必要かと思います。その理由として,性交等については,小さいときからなかなか触れる機会がない,性教育も充実していないというお話がありましたが,それであれば,むしろ性教育を充実するということを先行させるべきであって,それがなされていない,理解が十分足りないから性交同意年齢を引き上げるというのは,刑法の謙抑性の観点から少し問題があるのではないかと考えます。 ○井田部会長 金杉幹事は,性犯罪に関する刑事法検討会のときには性交同意年齢を14歳まで引き上げることが考えられるという発言をされたと思いますが,今は,その点はどうお考えですか。 ○金杉幹事 性犯罪に関する刑事法検討会のときにも,積極的に上げるべきということではなくて,刑事責任年齢までであれば,さほど抵抗がないという表現だったかと思います。 ○宮田委員 私は,引上げの必要はないのではないかという考えです。つまり,現行法の小学生は絶対に保護しろという考えでよいというものです。   未成年の保護の規定に関して,青少年保護育成条例や児童福祉法の話がありましたが,児童の搾取に対しては,いわゆる児童ポルノ法が議員立法によって成立しています。この中で,児童買春の解釈については,今までは,買春というのは対価,お金を与えることだ,物を与えることだと言われていたものが,寝床を提供するようなところまで範囲を広げるべきではないかという解釈もされてきています。国会議員に運動して,ここの解釈をもうちょっと広く,買春というのは対価性のある行為であるが,それは,構ってほしい子が構ってもらえるというようなことなども含めて,もっと広い概念に改正してもらうのが一番早くて,なおかつ,児童の搾取を防ぐという目的で立法されたこの法律の立て付けに,最もかなっているのではないかと思います。   二つ目です。先ほどから15歳同士の少年の話が出ていますが,今,他人に対して挿入する行為だけではなくて,挿入させる行為についても処罰の対象になっています。両方が同意の下で行為をした場合,15歳の少年たちは,どちらも犯罪に該当することになります。また,家庭裁判所というのは,犯罪を処罰するのではありません,非行事実の存在とともに要保護性の審査をするところです。つまり,非行性は高くない場合であっても,子供の養育環境が大変に悪いようなときには,子供を保護するために少年院に入れるという判断はされているところです。今まででも,性的逸脱は虞犯とされてきましたし,現在のように,性犯罪について非常に重い犯罪であるという考え方が強くなっているところ,既に御指摘があるところですけれども,全件送致ですから,少年院送致も当然に起こり得るということだけは御指摘させていただきます。 ○山本委員 私からは,真剣な交際と16歳未満の子供たちの性行為の実情について,少し補足したいと思います。日本性教育協会の青少年の性行動全国調査によると,中学生の性交経験率は4.5%前後で推移していると報告されています。そのうちに,真剣な交際がどれだけあるのかということは明らかになっていません。しかし,好きだと言ったり言われたりして性行為をすることの中にも,求められて仕方なくとか,嫌われたくないなどの理由で性交に応じて傷ついている人たちもたくさんいます。   人工妊娠中絶率は,どの年代と比較しても,今,10代が一番多いのですよね。その中で,先ほどのイギリスの規定を少し補足すると,イギリスでは,児童同士の合意がある性交であっても,強制的・搾取的な状況が生じ得ることがあり得ることから,児童をほかの児童から保護するという意味で刑罰の中に入れている。それは,正式起訴の場合,通常の成人と違って,5年以下の拘禁に減刑すると記載されていました。   長谷川幹事がおっしゃっていたのも,本当にティーンエイジャー,13歳から15歳までのローティーンの子供たちが,自ら望んで性行為をするというような場合は,そのように誘導されている可能性や自己加害の可能性も非常に高いということだと思います。性犯罪に関する刑事法検討会でも話されていますけれども,ラブホテルに行くようなお金は通常持っていなくて,自宅で性行為を行っている場合には,親が不在でネグレクトが疑われる,生育環境に問題があり,マルトリートメントが起こっているというような状況があるので,児童相談所や家庭裁判所で取り扱われるような,保護が必要な事情があるのではないかということをおっしゃられたのではないかなと思います。真剣な交際は判断し難く,当罰性が免除されるというような考えは,時にその児童に対し不利益をもたらすということも考えて,御議論いただければと思います。 ○齋藤委員 先ほど,佐藤陽子幹事のおっしゃっていたことに関してなのですけれども,少なくともわいせつな行為や性交が将来的に自分にどういう影響を与えているかが理解できているかというと,中学生が適切に理解しているとは思えず,義務教育年齢の子供が保護されてほしいと思っています。   性的性質を帯びる行為であるということについてですけれども,現在教育だけを考えるならば,理解する機会を国によって与えられてはいないと思います。インターネットなどで理解している人と理解していない人がいるのではないかという御意見もあるかもしれませんが,理解しているかどうかということと,感情や意思をある程度制御した上で,同意,不同意の判断ができるかどうかということは,全く別のことだと思います。   性的行為において,暴力的な行為と暴力でない行為とを分ける同意という概念について,大人ですらこれだけ議論していることを,子供たちが正確に理解できるのかというとすごく疑問です。「同意を無視する」ということは容易なことですが,自分の同意は本当に自分の同意であるかを子供が判断することは難しいことです。かつ,子供の脆弱性や未熟性の利用というのは非常に判断が難しく,それこそ専門性が問われるところだなと思いますので,そこを文言に入れるということには不安がございます。 ○佐伯委員 これまでの議論を伺っていまして,対象年齢を引き上げるということの議論の主眼は,13歳以上の者であっても,脆弱性・未熟性を有していて,その脆弱性・未成熟性に付け込まれることから保護する必要があるということにあるのではないかと思いました。そうだとすれば,端的に,これは性犯罪に関する刑事法検討会の議論でも指摘されていたことですけれども,対象年齢は13歳未満とした上で,それより少し上の若年層,例えば,13歳以上16歳未満の者に対して,それらの者の脆弱性や未成熟さに付け込むことを処罰する新たな処罰類型というものも検討されてよいのではないかと思います。   先ほど来,年齢を引き上げた上で,除外事由を設けるべきであるという議論が出ていまして,その理論的根拠にもよりますが,除外事由に当たらない場合に,未成熟さや脆弱性に付け込むことが認められるということであれば,そういう場合を類型的に,より積極的な要件として規定するということも,実質は同じかもしれませんけれども,検討の対象としてよいように思いました。   それから,二点目といたしまして,先ほど議論のありました,年齢差要件を13歳未満にも設けなければいけないのか,その必要はないのではないかということとも関係するのですが,これまでの議論を伺っていまして,13歳未満の者との性行為,あるいはわいせつ行為を処罰するということと,13歳以上の者,例えば16歳未満の者とのそういう行為を処罰するということとの間には保護の理由に少し違いがあるのではないか,そのことが法定刑などにも反映してくるのではないかということも検討する必要があるのではないかと感じました。 ○吉崎委員 先ほど宮田委員の方から,要保護性が強い場合には,非行の程度の有無を問わず,少年院送致があり得るという御発言がありまして,全くの一般論であり,ここでの議論と直接は関係ないのですが,少年審判の現場においては,非行の程度,行為責任を基礎において処分の程度が決められているというのが実情でございますので,念のため申し添えさせていただきました。 ○井田部会長 ほかにございますか。よろしいですか。   それでは,予定された時間にもなりましたので,本日の「第一の二」についての議論はここまでとさせていただきます。   性犯罪に関する刑事法検討会での議論を踏まえた本日の議論を伺っておりますと,対象年齢の引上げに関しましては,複数の委員・幹事から,義務教育の対象者が全て含まれることとなるという意味で,16歳未満とする案がよいのではないかという御提案がありました。もう一つ,刑事責任年齢と同じ14歳未満とする案も,一応候補には上がるかもしれません。ただ,特に16歳未満というところまで引き上げるときには,13歳未満とは異なった扱いが必要ではないかということも,多くの方から指摘されました。つまり,相互の年齢が近いなど,一定の場合には処罰の対象から除外することも,条文上明記すべきではないかと,こういう意見が複数の委員から表明されました。また逆に,そうした処罰の除外を明記することについて,反対する御意見も出されたところであります。   他方,対象年齢を引き上げつつ,一定の場合には処罰対象から除外することを明記するというのであれば,むしろ逆に,条文上,正面から処罰すべき行為のみを規定した方がベターだと,つまり,対象年齢は引き上げずに,児童福祉法の領域に任せるというやり方,あるいは刑法においては一定の年齢未満の者,言わば中間年齢層の者に対しては,地位・関係性利用の類型を新たに設けるという方がよりよいのではないかという意見もありました。   また,それぞれの意見について,基本的な検討課題としては,現行法よりも対象年齢を引き上げるのであれば,その根拠を明確化する必要があり,対象年齢を引き上げつつ,一定の場合について処罰対象から除外するという規定を作るときには,その根拠や要件の在り方,それに関連して法定刑をどうするかという問題があるといった検討課題が指摘されたと思います。   いずれの御意見,御提案,御指摘も,今後の私どもの議論にとって,大変有益なものであるように思われます。そこで,そうした本日の議論を踏まえて,事務当局において議論のためのたたき台となる資料を作成していただいて,二巡目の議論では,それを土台にして,更に検討を深め,意見集約していくということにしてはいかがかと思います。そのような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   それでは,次に,「第一の三 相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること」について御議論いただきたいと思います。   「第一の三」について,どのようなことでも結構ですので,御意見や御指摘等を頂ければと思います。 ○山本委員 地位・関係性について述べさせていただきます。   例示列挙,包括的要件が規定できれば不要との意見も,性犯罪に関する刑事法検討会でもありましたけれども,分かりやすい規定が必要との意見は,性犯罪に関する刑事法検討会でも繰り返し出されているところで,地位・関係性で分かりやすく規定することは重要ではないかと思っています。   警察庁刑事局の資料で,令和元年強制性交等の認知件数は1,405件,検挙率は令和元年は93.3%,同じく令和元年における監護者性交等罪の認知件数は87件,検挙率は100%であったとありました。司法運用なので,実務上の細かい実態は不明なところもあるのですけれども,この数字を読むと,監護者性交等罪は捉えやすいから検挙率も高いのではないかという印象を持ちました。   監護者であることは,生活を依拠しているから抵抗できないという理解で制定されたと伺っていますけれども,私の見解としては,家庭内で家族のメンバーから加害をされると,そもそも抵抗できないということをお伝えしたいと思います。祖父母,兄弟,姉妹,おじ,おばというのは非常に多く,コロナ禍でも報告が増えてきている類型とも言われています。   イギリスは法体系が違うので,出すのが適切かは分からないのですけれども,イギリスでは,脆弱者保護規定に家庭内の児童に関する性犯罪規定があり,①親,祖父母,兄弟,姉妹,異父母兄弟姉妹,おじ,おば,②過去又は現在の里親,③同一世帯で生活する又はしていた再婚相手の継父母,いとこ,継兄弟姉妹,里親を同じくする関係,④定期的な養護・訓練・指導監督の関係にある継父母,いとこ,継兄弟姉妹又は里親を同じくする関係,⑤同一世帯で生活し,かつ,定期的な養護・訓練・指導監督の関係が挙げられていました。祖父母,兄弟姉妹,おじ,おばなどの結婚できない三親等が,18歳未満の児童に性加害を行った場合は,地位・関係性として明記していただければと思います。また,多い被害として,親の恋人などからの被害があります。同一世帯で生活し,かつ,定期的な養護・訓練・指導監督の関係を利用して性行為を強制したのであれば,これも地位・関係性の中に含めてもよいのではないかと思います。   問題となっている教員と生徒間に関しては,先ほどの性的保護年齢,同意年齢と若年成人の規定にも関わります。16歳未満にすれば,中学生は一律保護されますが,高校生は守られません。信用ある地位や訓練・指導監督の関係性を利用した場合の規定を作ってほしいと思います。   障害児者は,様々な障害があるからこそ,地位・関係性の規定が必要と思います。ケアを依存している者に対して,従属的な関係になるし,性的同意の意思を表明することも難しい。援助・被援助の関係にある場合,又は被援助者が障害を有していることを知り得る立場にある場合の規定を作ってほしいと思います。   この中でも認められにくいのが,成人への被害です。成人で優越的な関係を利用して,例えば,上司から出張中のホテルで明日の打合せのためと部屋に呼び出されて性行為をされた場合,これがなかなか現在の類型で捕捉されていないという問題があります。このような被害であっても,被害が軽いとは一様に言えず,信頼していた人からの裏切りがトラウマをもたらし,傷が深くなるという心理的な説明もあります。177条,178条の例示列挙,包括的要件で解決されるかもしれませんが,どうしても関係性や二人きりになったことへの被害者の行動というのが問われてしまいます。優越的な地位を利用して,従わざるを得ない状態での被害について,捕捉する規定を作っていただければと思います。 ○小島委員 時間もないので,主に結論だけ述べさせていただきます。   まず,現に監護する者に限っている監護者性交等罪の適用範囲を拡大して,教師と生徒,スポーツのコーチなどの教育関係及び親族からの性被害などの家庭内の性虐待に広く適用されるようにするべきだと考えております。いずれも児童の全人格に関わる依存関係,生活依存や教育上の依存に関わる極めて強い権力関係の利用であると考えております。ここは拡大が必要だと考えております。理由については,また二巡目のときに申し上げます。   それから,地位・関係性を利用する大人の方の罰則の在り方について,地位利用については,優越的地位における服従心の利用や性的行為は行われないという信頼による無防備な状態への付け込みということがあると思います。年齢を問わずに地位・関係性利用型の性犯罪を新設するべきだと考えております。関係性としては,性犯罪に関する刑事法検討会でも申し上げましたが,上司と部下などの雇用関係,医療関係者と患者,刑務所の職員と受刑者,宗教関係者と信者,それから,先ほど申し上げましたところですと,教師と18歳以上の生徒,スポーツのコーチや親族などがその優越的地位を利用・濫用した場合について,規定を設けるべきだと考えております。現行法では,特別公務員の暴行陵虐罪はありますが,検挙件数はほとんどないという現状を留意するべきだと思います。監護者性交等罪と異なり,被害者の同意の有無を問う犯罪類型とする。以上でございます。 ○齋藤委員 どのような形でというのが分からないのですけれども,教師・塾講師と子供,あるいは兄弟姉妹・祖父母と子供,障害の利用といった内容を適切に捉えられるようにしていただきたいですし,特に兄弟姉妹からの性暴力は,多くの方が想定しているよりもずっと多く発生しているのだという認識をしていただきたいということと,大人の地位・関係性を利用した性暴力について,第2回のヒアリングで西田先生もおっしゃっていましたけれども,相手に従わざるを得ないとか,相手の要望に応じざるを得ない状況に,人はたやすく追い込まれてしまうということを,捉えられるようにしていただきたいと思います。   例えば,上司に呼び出されて車の中に二人きりになるとか,出張先のホテルで二人きりになって,仕事の話をしていたり,仕事上の叱責を受けていたときに,急に性的な行為を要求されると,頭の中がひっくり返されて判断ができなくなる,本当に秩序がなくなるというか,整理がつかないというか,状況の判断ができなくて,合理的な判断ができなくなるということが起きるのだということを,例示列挙の中で入れていただくのかどうなのかは分からないのですけれども,そういったことを捉えていただきたい。大人の地位・関係性が落ちないようにしていただきたいなと思っています。 ○佐藤(陽)幹事 性犯罪に関する刑事法検討会の議論状況,あるいは本日の委員・幹事の皆様の御意見等を踏まえますと,「第一の三」につきましては,未成年者とか,あるいは障害を有する者というような,相手方が類型的に付け込まれやすいような性質を有している場合と,そうではなく,大人であっても類型的に弱くなるような場合とがあるかと思います。私は,前者についてのみ意見を述べさせていただければと思います。   その場合の規定方法についてなのですけれども,仮に規定するという前提に立ちますと,二つの形式が考えられるのではないかと思っていまして,一つ目の形式というのは,先ほど小島委員がおっしゃっていた監護者性交等罪を拡張するような形式があろうかと思います。つまり,監護者のように生活全般にわたって依存・被依存関係,あるいは保護・被保護の関係があって,その関係性ゆえに,相手方の意思決定が一般的・類型的に自由ではないというような地位・関係性を,明確にくくり出すことができるのであれば,そのような地位・関係性を利用して性的行為を行ったことを処罰するという構成要件の形式が考えられるように思われます。   このような場合は,被害者側の積極的な態度とか,あるいは誘惑行動が犯罪を否定する方向に働かないということになりますので,基本的に,地位・関係性にある者が性的行為を行えば処罰される形式になろうかと思います。   これに対し,二つ目としまして,地位・関係性を有するだけで相手方の意思決定が一般的・類型的に自由なものと言えないような類型をくくり出すのが難しい場合には,地位・関係性利用に加えて,先ほど小島委員もおっしゃっていましたけれども,実質的に意思決定に影響を及ぼすような要件を追加して,それによって処罰を可能とする構成要件の形式が考えられるかと思われます。この場合には,例えば,困惑させるとか,執拗に誘惑するとか,そういう要件を設けることになろうかと思います。こちらの形式では,被害者側の積極的な態度がある場合には,ある程度犯罪の成立が否定されることになろうかと思いますけれども,広範な関係性を捕捉できるというメリットがあろうかと思います。   ただ,この二つは,現行法の177条とか178条,179条と同じような当罰性がある行為,つまり,類型的に意思に反する行為をピックアップするという思考方法に基づいていまして,法定刑も同じであることを前提に,意見を述べた次第です。   場合によっては,もう一個考え方があると思っていまして,それは,職業倫理違反的な側面を加味して,実際に相手方の自由な意思決定に影響を与えたかを考慮しないで,意思決定に一定の影響を及ぼし得る地位・関係性にある者が,濫用しては駄目な地位を濫用して,性的関係を持ったということで足りるとする形式があろうかと思います。その場合には,相手方の意思決定に影響を与えていない類型があるということを認めた上で処罰しますから,処罰の対象は広くなる反面,法益侵害の程度が相対的に低く,法定刑が相対的に低く設定されることになると思います。   三つ類型を挙げましたけれども,それぞれ排他的な関係ではないと思っていますので,例えば,少し煩雑になりますが,学校の教師でも,被害者の授業などを担当している者は監護者と同じような扱いにして,逆に,授業は担当していない,同じ学校の先生のように,話したことはないけど,何か偉いというような関係性にある場合には,3番目の職業倫理を併せた類型にするとか,そういうような可能性もあり得るかと思います。スポーツの指導者,障害者施設の職員,それから親族関係も,関係性に濃淡があるかと思いますので,こういうような濃淡を踏まえて,意思決定に影響を与えていることを重視した規定を作ったり,あるいは,職業倫理とか親族関係における倫理,例えば祖父母であればこういう行為は駄目だよとか,そういう倫理的な側面を加えた処罰規定を作ったりする可能性があるのではないかと思います。   ただ,いずれの案につきましても,先ほど「第一の一」につきまして,嶋矢幹事から御指摘があったのと同様に,罰則としての明確性とか処罰範囲の合理性といった観点は当然重要ですから,私は,可能性については提示しましたけれども,実際に新設しようとする場合には,その点についてもちろん検討する必要はあると思っています。 ○井田部会長 ありがとうございます。相手方に一定の年齢未満であるとか,あるいは障害があるというような,被害者側に類型的な脆弱性が認められる場合について,三つぐらいの規制の仕方があるのではないかという,大変有益な御提案ないし議論のまとめとして伺いました。 ○佐藤(拓)幹事 今の佐藤陽子幹事の発言について,意見を申し上げたいと思います。佐藤陽子幹事は,三つの可能性を示されました。一つ目が,地位・関係性があることゆえに一律に処罰の網を掛けるという案で,こういう案も十分あり得るかと思うのですけれども,三点目でおっしゃっていたように,教師と生徒でも,授業を担当しているものとそうでないものなどいろいろありますので,切り分けの仕方については難しい点もあるのかなということも同時に感じたところです。   二つ目で確かおっしゃっていたことですけれども,地位・関係性に加えて,実質的要件を入れることも十分あり得ると思います。ただ,困惑という言葉が出てきましたが,困惑ですとか重大な不利益の憂慮というのは,「第一の一」のところで個別列挙事由として挙がってくるものと重なるので,そことの重複の整理が必要になってくるのかなと思った次第です。 ○橋爪委員 私からは,今お示しいただいた三つの観点を踏まえまして,今度は一般の成人に対する地位・関係性の利用をめぐる議論について,問題点を整理しておきたいと存じます。   先ほどの三つの方向性を一般成人に適用するのであるならば,まず第一の可能性,すなわち監護者性交等罪のように,一定の地位・関係性が存在すること自体を切り取って処罰対象にすることは困難であろうと考えております。と申しますのは,被害者に類型的な脆弱性が十分にはない状況においては,相手方の自由な意思決定を一般的・類型的に困難にする程度の地位・関係性を明確に要件化することは困難であり,この方向性で明確な内容の刑事立法を実現することは難しいと感じております。   これに対しまして,第二の方向性,すなわち,行為者が一定の地位・関係性を有することに加えて,相手方の自由な意思決定を困難にしたことを示す実質的要件を加える方向性については,一般成人についても十分に検討対象になり得ると考えておりますが,このような方向性の場合には,相手方の自由な意思決定を困難にしたといえるための実質的要件をどのように規定するかということが,処罰の限界を画する上で最も重要な問題となりますので,この点につきましては,先ほど御指摘がありましたように,「第一の一」における議論を参照しながら,意思に反することを徴表する要件として,いかなる実質的要件を設けるべきかについて検討する必要があるかと存じます。   さらに第三の可能性ですけれども,これは,言わば地位・関係性を濫用することを処罰の根拠とする理解ですよね,つまり,相手方の自由な意思決定を困難にしていないとしても,一定の地位・関係性を濫用したことを処罰の根拠とする方向性ですが,これについても,理論的には検討対象になり得るとは思います。ただ,この場合には,被害者の自由な意思決定が困難になったわけではなく,しかも,被害者に類型的な脆弱性が認められないわけですので,そもそもこのような地位・関係性の濫用を,いかなる範囲で処罰対象にすることが理論的に正当化できるかについては,更に慎重な検討が必要でありますし,また,仮に処罰が正当化できるとしても,その法定刑をどのように考えるかも検討課題となるように思われます。 ○井田部会長 ありがとうございます。一般成人とおっしゃいましたけれども,先ほどの類型的な脆弱性が認められないような場合について,どういうような対応が可能かということについて述べられました。 ○宮田委員 先ほどの「第一の一」の発言と重なるところなのですが,179条の場合には,子供を監護する立場にある,子供が絶対に逆らえないような類型のものを切り出すことができます。本当は,監護者であっても178条で処罰すると考えることができたのだと思います。そういう中で,監護者と同じように,そういう地位であれば罰するものを広げるということは,かなり難しいのではないかと考えております。 ○井田部会長 ありがとうございます。179条は,一種の法定強制性交等罪と言われることもありますけれども,一定の地位・関係性等に当たれば基本的に直ちに犯罪が成立するということなのですが,そういう関係を,179条の場合以外に拡大して認めるのは難しいのではないかと,こういう御発言だったと思われます。   ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。   それでは,本日の「第一の三」についての議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。   議論を簡単にまとめますと,相手方が一定の年齢未満の者や障害を有する者である場合など,被害者側に類型的な脆弱性がある場合ですが,それらを対象とする罪を仮に新設するとしたときに,規定の在り方については三つのものが考えられるだろうという御発言がありました。一つ目は,現行法の監護者性交等罪を拡大するという案,二つ目は,それとは異なり,一定の地位・関係性があることを前提としつつ,それにプラスアルファとして,被害者側の自由な意思決定を困難にしたことを示す実質的な要件を加えて,それによって犯罪の成立を認めるという案,三つ目は,類型的な脆弱性がある限りは,仮に相手の自由な意思決定を困難にしていないとしても,そういう地位・関係性を濫用したということをもって足りるという規定を考えることも不可能ではないとする案です。ただ,三つ目の案につきましては,処罰の対象が広がりますし,法益侵害の程度が相対的に小さいものが入ってくるということから,法定刑を低くすることも考えなければいけないという御指摘がありました。   また,被害者に年少者であるとか障害を有するといった類型的な脆弱性がない場合,例えば,会社の上司と部下の関係であっても,地位・関係性を利用したときには処罰の対象とする案も検討の対象としてよいとの御指摘もありました。   いずれの案につきましても,罰則としての明確性や処罰の範囲が合理的なものであるかどうか,どのような地位・関係性を対象とするか,実質的要件を設けるとすれば,その要件の在り方はいかなるものか,それから,そもそも「第一の一」や「第一の二」で検討されている177条と178条との相互の関係といったものが検討課題になるという御意見があったと思われます。   いずれの御意見も,意見の集約に向けて,大変重要なものであるように思われます。本日の議論を踏まえて,事務当局において議論のたたき台となるような資料を作っていただいて,二巡目ではそれを基に,更に検討を深め,合意を目指していくというのがよいかと思われますが,そうした進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   以上で,諮問事項の「第一の一」から「第一の三」までの一巡目の議論は終了しました。次回は,本日に引き続きまして,諮問事項の「第一の四」から,一巡目の議論を行うこととしたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては,これで終了いたしました。   本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料についても,公表することとしたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。そのようにさせていただきます。   来年のことを言うと鬼が笑うと言いますけれども,次回の予定について,事務当局から御説明をお願いします。 ○浅沼幹事 次回の第4回会議は,令和4年1月26日水曜日の午後1時30分からを予定しております。詳細につきましては,別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日は,これにて閉会といたします。どうもありがとうございました。   皆様,どうぞよいお年をお迎えください。 -了-