法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第19回会議 議事録 第1 日 時  令和3年11月5日(金)自 午後1時00分                     至 午後6時18分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,所定の時間になりましたので,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第19回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日は湯淺委員,それから衣斐幹事が御欠席ということであります。   まず,前回の部会後,関係官として新たに岩井関係官と木村関係官が御就任になりましたので,御報告をいたします。よろしくお願いいたします。   なお,岩井関係官は御欠席でありますが,木村関係官におかれましては,簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。マイクをオンにして,お名前,御所属の御紹介をお願いいたします。  (関係官の自己紹介について省略) ○山本(和)部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ○藤田関係官 本日は,部会資料27「被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度に関する検討事項」,そして部会資料28「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討3」を配布させていただいております。それぞれの資料の内容につきましては,後ほどの御審議の際に事務当局から御説明させていただく予定でございます。   また,本日は,併せまして,参考資料14「「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する追加試案」に対して寄せられました意見の概要」,及び参考資料15「各国の被害者の身元識別情報を相手方に秘匿する民事・家事法制等に関する調査研究業務報告書」を配布いたしております。参考資料14は,10月4日まで実施しておりましたパブリックコメントに寄せられた意見を,事務当局において集計し,内容の取りまとめを行ったものでございます。参考資料15は,民事・家事事件において,被害者の氏名等を事件の当事者に対して秘匿する制度に関する外国調査の結果がまとめられた報告書でございます。いずれにつきましても,今後の御議論に当たりまして,御参考にしていただければと存じます。   本日の配布資料は以上でございます。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず最初に,部会資料27の方ですが,この1ページ,「第1部 民事訴訟」のうち「第1 申立人の氏名等の秘匿」,この部分につきまして,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   追加試案からの主な変更点は,次のとおりでございます。   1点目,秘匿による保護の対象者を原告以外にも参加人等の申立人一般に広げたこと,2点目,秘匿の対象となる事項を,当該者を特定するに足りる事項というようにしたこと,3点目,住所を秘匿する場合にも,住所に代わる事項を定めるものとしたこと,4点目,代替呼称や代替住所の定めの効果が及ぶ範囲を,関連事件一般に広げたことでございます。   また,本制度が導入される場合には,被害者保護の観点から,いわゆるフェーズ3より先に施行される可能性がございますが,民事訴訟のIT化後におきましても,申立人の氏名等を表示する書面につきましては,インターネットを用いた申立て等の義務化及び書面の電子化の例外とするとの考え方を,(注)に記載いたしております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第1の点について,これ,どの点からでも結構ですので,御質問,御意見がおありの方はお出しいただければと思います。いつもどおり挙手でお知らせを頂ければと思います。 ○日下部委員 ありがとうございます。最初に,恐らく重要性が少し落ちるかなとは思うのですけれども,2点お尋ねをさせていただければと思います。   1点目ですが,部会資料5ページの(4)の「なお」で始まる段落によりますと,記録自体が別個の事件には,秘匿決定自体の効力が及ぶものではないとされているのですが,上訴審は,原審と記録を共有する事件として,原審における秘匿決定の効力が継続的に及ぶという理解でよいでしょうか,というものです。   それから,2点目ですけれども,部会資料の6ページの(3)では,追加試案における判決書における秘匿に関する規律については,裁判所が違反した場合の手続上の効果として,適当なものがないのではないかとの指摘を受けて,法律事項として定めることを提案していないとされています。この点,現行の民訴法において,裁判所が違反した場合の手続上の効果が定まっていないものの,裁判所に一定の作為又は不作為を求める規定は存在していないということでしょうか。また,同じ部会資料のその箇所では,裁判所としては,秘匿決定がされている以上,基本的にそれに反する記載をすることは当然に許されないと解されるとも記載されているのですが,その基本的な帰結が当たらない状況として,どのようなものが想定されているのでしょうか。   以上2点でございます。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局の方からお答えをお願いいたします。 ○脇村幹事 ありがとうございます,脇村です。   まず,上訴の点につきましては,同一事件ということで,当然及ぶと考えていたところでございます。   次に,判決につきましては,ちょっと委員の最初の問題意識を,私がうまく理解していないような気がしていて,ちょっと答えがずれているかもしれませんけれども,ここで書かせていただいていたことといえば,判決書にこれを記載しないといけないということが書かれていますが,一方で,今回の新しい規律ですと,代替住所,代替呼称等を記載することで代えることができるという記載がございますので,そういったことで対応できるのではないかという点からしても,こういう帰結ではないかということを書かせていただいたところでございます。ちょっとそれで委員のお答えになっているかどうか分かりません。また,もしかしたら御指摘いただければと思います。   それとあと,基本的にという表現のところ頂きましたが,基本的に,正に基本的にでございますが,書いてはいけないと当然に考えていたところです。ただ,一方で,事案によっては,当事者の方からもういいですという話が出ているケースもあるのかな,あるいは,手続の中でそういった事情が出てくるケースがあるということであれば,別に書くことも,書くことがあるのではないかということも,全く否定されるものではないのかなとは理解していたところで,ああいった書き方にしていたところです。 ○山本(和)部会長 日下部委員,いかがでしょうか。 ○日下部委員 上訴審に秘匿決定の効力が継続的に及ぶという点については,私もそのように理解しておりましたので,御確認いただけたこと,有り難く思っております。   他方,判決書における秘匿に関する規律を今回提案されていない理由については,今のお話をお聞きしましても,今一つすとんと落ちてこないところが,正直言ってございます。秘匿措置を必要としている被害者にとっては,秘匿の対象とされた事項が判決書において記載されないことは極めて重要でありまして,裁判所がそれに反しないようにすべきことは,当然だろうと思います。そうであれば,特段の理由がないという限りは,判決書における秘匿に関する規律も導入して,被害者が無用な危惧を抱く必要がないようにする方が,はるかによいだろうと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   コメントありますか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。今,委員に頂いた点について,私たちも,基本的な方向性は理解しているところでございます。あとは,法律上の効果との兼ね合いで,法律的に書けるかどうかという問題,法制上の問題,規則的な問題なのかどうかも含めて,少し私たちの方で考えたいと思います。いずれにしても,書いてはいけないということは当然理解しているところでございますので,それを法律事項として書くべきものがどうか,御意見いただいたことを踏まえながら,考えていきたいと思います。 ○山本(克)委員 ありがとうございます。第1の5の第2文について,2点お伺いしたいと思います。   ここで,条件の部分が「記載したときは」となっているんですが,この記載の主体は,当該秘匿対象者だけではなくて,訴訟の相手方や第三者も含むという理解でよろしいでしょうか。   それから,この秘匿決定の効果が及ぶ事件として,仮差押え及び仮処分が,入れるかどうかまだ決まっていないようですが,可能性のあるものとして挙がっておりますが,これがちょっと趣旨がよく分からないと思っております。強制執行の場合ですと,当該訴訟事件の判決ですね,確定判決又は仮執行宣言付判決で代替呼称等が使われており,それが債務名義として強制執行の開始申立てにおいて提出されているという場合に,強制執行にも及ぶというパターンを考えておられるんだとしたら,非常によく分かるんですが,仮差押え及び仮処分だと,そういう本案の手続との関連性を付ける,連結するポイントが何もなくて,恐らく被保全権利と訴訟の方の訴訟物が同一であるというようなメルクマールを採らざるを得ないと思うんですが,その際に,同一性の判断というのは必ずしも形式的にできるわけではないので,これ,仮差押え及び仮処分に当然に及ぶんだというのは,エンフォースメントの点で,かなり難しい問題を生じかねないのではないのかなという感じがしております。   以上2点です。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,事務当局からお答えをお願いします。 ○脇村幹事 最初の点につきましては,申立人以外含めて当該事件の当事者,あるいは裁判所も含めて,記載した場合には,この規定の規律が及ぶと考えていたところでございます。   後者につきましては,御指摘いただいたとおり,機械的にというよりは,正に被保全債権,訴訟物の同一性をメルクマールとして,こういったものが必要ではないか,そういったことを考えないかということで書かせていただいております。現行民訴法におきましても,仮差押え,仮処分の関係につきましては,代理人等の規律として,代理権等が及ぶという規定がございます。そういった場合にも,同じような問題が発生しているのではないかというところで,訴訟代理権を規律します現行民訴法は,委任を受けた事件について,強制執行,仮差押え,仮処分に関する訴訟行為としておりますので,そういったことで同一性判断できないかということを考えていたところですが,御指摘のとおり,強制執行のケースのように,判決が当然リンクするものとは少し違うのではないかという御意見もあろうかと思いますので,そういった意味で御意見いただきながら,強制執行と仮差押え,仮処分を分けることも含めて考えていきたいと思いますので,御意見是非賜れればと思います。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 すみません,追加でよろしいでしょうか。   前段の方の質問に対する御回答に関連して,発言させていただきたいんですが,そういう記載する主体が様々だとすると,反訴と参加と,補助参加は本案の申立てではないですけれども,その他の参加は本案の申立てですよね。反訴も本案の申立てだと。しかし,それ以外にも民事訴訟法という本案の申立てというのは存在をしておりますので,そういうものは排除するのがいいのか,そこは類推適用で処理するんだという御提案なのかもしれませんが,せっかくであれば,本案の申立てを列挙しておくというのも,一つの考え方なのではないか。例えば,訴訟引受けの申立てであるとか,中間確認の訴えであるとか,そういうものも含めると,含めるというか,明示的に列挙した方がいいのではないのかなという気もします。   私はあんまり,訴訟委任のところの規定とリンクさせるという考え方自体,もう一つ釈然としておりませんので,そのように考えておるということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 ありがとうございます。先ほど山本克己委員がお尋ねになった仮差押え,仮処分ですが,これは,判決が出た後のことだけを考えているわけではなくて,訴訟係属中に,こういう秘匿決定があった後に,被告の資力が悪化したのでその訴訟物を被保全権利として仮差押え,仮処分の申立てをするということもあり得ると思うので,同一性の点からも使える場面はあるのではないかと思ったということを申し上げておきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小津幹事 初めに,部会資料27の検討事項の全般にわたる点として,特に重要だと考えておるところを申し上げておきたいと思います。   秘匿情報が相手方に伝わらないようにするためには,書面を提出する当事者が,手続遂行上必須でない秘匿情報を記載,提出しないようにするということが,大前提であると考えております。そのため,今回の御提案は,手続遂行上必須のものとして,やむを得ず訴訟記録に顕れる,又は顕れた秘匿情報を想定したものであって,審理に必要がないにも関わらず,多くの秘匿情報が裁判所に提出されることを想定したものではないと理解しておるのですが,念のため,事務当局のお考えを確認させていただければと思います。 ○脇村幹事 私の考えているところを少しお話しさせていただきますと,今,訴訟遂行上の必要があるということ,あったと思います。恐らくここの問題になりますのは,法律上,判決に至るまでの自分の争点等の認定とは直接関係がなく,形式上といいますか,当然に要求されて記載すべきもの,訴状とかの当事者の記載について,まずこれを,形式上要求されておりますので,必ず書かないと進まないのですけれども,そこについて手当てしないかという議論が,従前からあっただろうと思います。   また,それと少し違う問題として,法律上,必ず書かないと手続進まないというわけではないけれども,自分の主張を認定する,そういった際に,それは書かないといけないというケースの問題があり,一方で,そこに関連して,書かなくても済むのであれば,書かなくても済むのではないかという議論があったのかと思っています。   前者の訴状との関係で,正にこの記述が問題になりますが,後者の形式上書かなくてもいいのだけれども,立証に向けた活動でということの関係で言いますと,この部会資料は,基本的にはそういった立証に必要がないケースについて,それについて,何でもかんでも書いて秘匿するということを想定しているかというと,それは想定していませんので,それはきちんと要らないものを外して書いてください,そうしないと,後で取り消される可能性も,これは当然あるわけでございますが,そういったことかと思います。   もちろん,立証活動の関係で書かざるを得ないケースにおいても,今回の規律につきましては,後ほど議論ありますとおり,攻撃防御上重要なケースについては,一部取消しといいますか,閲覧できるということも御議論いただいているところでございますので,結論的にはやはり,そういったことを考えると,隠したいものについては,基本的には書かなくて済むのであれば,済む方法で考えた方がいいのではないかということが,前提になっているのかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 小津幹事,いかがですか。 ○小津幹事 今のお答えでよく分かりましたので,結構かと思います。どうもありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 以前にこの制度が検討されたときにも言及いたしましたけれども,秘匿決定が出されるための実体的な保護要件について,再度意見を申し上げたいと思います。   今回の部会資料の1ページ,第1の1,正に冒頭ですけれども,そこでは,申立て等をする者又はその法定代理人が,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることにつき疎明があることを,実体的保護要件とされています。しかし,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれは,訴訟記録中の当事者の私生活についての重大な秘密について,閲覧制限を規律している現行法92条1項1号が定める要件と文言として同じだと思います。被害者情報の秘匿制度も,訴訟記録の閲覧等の制限として表れることが予定されている以上,両者の解釈は統一的になされることが想定されるのは当然だろうと思います。   しかし,現行法92条1項1号における社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれは,秘密として保護されるべき情報が,個人のプライバシーのうち私生活についての重大な秘密であるということを前提に,さらに,秘密の開示によって当該個人に顕著な悪影響が生ずるおそれを捕捉するために,個人のプライバシーとの対比から,社会生活における営みへの著しい支障を要件としたものと理解をしております。   しかし,被害者情報秘匿制度における保護されるべき情報は,秘匿対象者の氏名,住所,その他当該者を特定するに足りる事項であって,それらは,本来的には秘密性を持つものではないものと思います。したがいまして,その開示による悪影響を,現行法92条1項1号の要件を流用して,社会生活における営みへの支障という基準で判断することには,合理性はないだろうと思っています。むしろ,本来的には秘密性のない氏名等の情報を秘密として扱わなければならない場合があるという,この被害者情報秘匿制度の趣旨に的確に合致する要件設定をすべきだというのが,私の意見です。   ちょっと長くなって恐縮ですが,そうした要件設定としましては,正に同じ観点から,法制審議会刑事法,ちょっと長いですけれども,(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会において,刑事訴訟手続における被害者情報秘匿制度が検討されて,被告人に被害者などの氏名,住所等の記載がない起訴状を送達することなどを内容とする要綱修正案が確定していると承知しております。そこでは,「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ」又は「被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ」が要件とされていると承知しております。そして,刑事手続における損害賠償命令に関する制度において,異議申立てがなされた場合には,通常の民事訴訟に移行することを踏まえますと,民事訴訟手続における被害者情報秘匿制度の実体的保護要件は,刑事訴訟手続におけるそれを包含することが,文言上明確になっているべきだと考えております。   少し部会資料の考え方に対してのコメントも別途ありますけれども,長くなりそうですので,一旦ここで終わらせていただこうと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局から何かございますか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。基本的に私たちの考え方としましても,刑事に関係する御議論が,そういった御議論を踏まえて,そういったものを及ぼすケースについては,こちらの表現は別として,当然含意すべきではないかと考えているところでございます。あとは,それを民事訴訟法の他の用例等を踏まえながら,どう表現していくのか,あるいは,その説明として,私たちもどう説明していくのか考えていきたいと思います。   差し当たって,私たち当局の考えは書かせていただいたとおりでございますが,刑事と文言上もそろえるかどうかについては,その法制上の問題も含めて考えられるかどうか,少し御意見聞きながら考えていきたいと思います。 ○阿多委員 今,事務当局のお考えの説明がありましたが,日下部委員と同じ点について,簡単にコメントします。   社会生活を営むのに著しい支障が生ずるおそれという表現は,現行の閲覧制限等に関する92条と同じ表現を用いられていますが,今回の提案と92条との趣旨は元々異なることが前提だと理解しています。今回の提案は,個人情報保護法等でいえば識別性というか,相手方が知らないことを前提に特定されないための規律であるのに対して,閲覧制限等に関する規定は,当事者間では認識されている情報だけれども,プライバシー保護を理由に第三者との関係で閲覧させないための規律であり,本来趣旨が異なるにもかかわらず,同じ表現の規定を用いてよいのかという疑問があります。   次に,仮に92条の表現を仮借するとしても,92条の表現で具体的に処理ができるのかという点を危惧します。パブコメにおける裁判所の意見では,どのような場合に社会生活を営むのに著しい支障が生ずるおそれがあると言えるのかが不明確だというコメントがあり,このような支障が生じないようにする必要があるとの指摘が相当数あったとあります。我々としては,実際に判断する裁判所が,判断する上で支障があると言われる要件で大丈夫なのかと危惧するわけです。   日下部委員からは,刑事訴訟法の表現を,これも借りてきてということになるのかもしれませんが,現行の92条の表現を借りてくるのか,より具体的な要件に言及している刑事の要件を借りてくるのかという視点から比較して言うならば,裁判所に判断材料をより提供する刑事訴訟法の表現の方が合理的ではないか,しかも,刑事訴訟法においても氏名等を秘匿する趣旨は民事訴訟法と共通すると理解しておりますので,刑事訴訟法の要件によるべきではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。秘匿の対象となる事項について,その他の当該者を特定するに足りる事項とされた点につきまして,賛成の意見とともに,若干の意見を述べさせていただきたいと思っています。   平成30年12月3日の総務省自治行政局住民制度課長通知第199号によりますと,保護する対象はドメスティックバイオレンス,ストーカー行為,児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護とされておりまして,当部会で議論の際に例示されておりました暴力団員を被告として訴えるようなケースが,これらに準ずる行為であるということであれば,私の意見は杞憂にすぎないと思うのですが,念のため申し上げます。説明4ページ目の(2)の括弧書きによりますと,本籍や従来の住所は秘匿の対象となる事項になるものの,それらを知られることにより支障がないケースには秘匿できないと述べられておりまして,本籍や従来の住所については,ケース・バイ・ケースであるかのように印象を受けています。   しかしながら,秘匿決定の対象となる事案が,必ずしもDV等支援措置による住民票の写しなどの交付等を制限されたものばかりとは限られないのであれば,本籍を知ることができれば,戸籍の附票を取得することによって,また,従来の住所を知ることができれば,住民票の除票の写しを請求することによって,いずれも容易に現住所までたどることができてしまうケースも,中にはあるのではないかと考えています。   説明5ページ目の(3)でも,特に相手方に知られて支障がないケースでは,本籍や従前の住所を代替住所とすることが提案されておりますけれども,同様にそれらの情報から現住所を探索されてしまうこともあり得るのかなという懸念を抱きました。DV等支援措置が採られている場合に,不動産登記においては,登記義務者であっても,登記権利者であっても,前住所などで登記手続をすることができますけれども,今回の秘匿対象が仮にこれより範囲が広いとなりますと,前住所などから現住所を追跡することも可能となるケースが出てまいるのではないかと考えています。そう考えますと,本人の住所に係る秘匿決定がされたのであれば,記載が法定される場合の本籍や従来の住所も画一的に秘匿の対象とする事項とすべきではないかとも思われましたので,意見として述べさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今,小澤委員が言われた点については,代替氏名や代替住所を裁判所が定めるときに,その定めた内容によって,結局秘匿されるべき事項が推知されることになったら,元の木阿弥ではないかという,そういう御懸念かと思います。確かにそうかなと思いますので,代替住所をどのようにするのかということについては,単純ですけれども,裁判所の住所にしてしまうとか,推知のしようがないようにしておくという方が,安全なんだろうなと思ったところです。   私が手を挙げさせていただいたのは,先ほどお話がありました実体的保護要件について,少し補足をしたいと思ったからです。先ほど阿多委員の方から,裁判所より提出されたパブリックコメントの内容の御紹介もありましたけれども,私も,この制度を実際に運用することになる裁判所において,運用上の安定性について不安あるいは疑問が示されているということは,重要なことだろうと思っております。   要件自体についてもう少し踏み込んで考えてみますと,部会資料の5ページの3の(1)のところを拝見しますと,刑事訴訟手続における実体的保護要件が申立人について認められるケースは,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあると判断されると考えられるとされています。これは,先ほどの脇村幹事からの御説明の中でも言及されていた考え方かと思います。しかしながら,身体や財産への加害のおそれや,畏怖や困惑させる行為には,刑事訴訟手続の話としては求められていない顕著性の要件が,この民事訴訟手続においては課せられるということになりますと,果たして刑事訴訟手続における要件であれば,民事訴訟手続においても認められるというように判断できる,その根拠が十分あるのかどうかということについては,やはり疑問がございます。   部会資料の同じ箇所をまた拝見しますと,秘匿決定が必要なケースを文言上,刑事訴訟手続における実体的保護要件と同様に限るということは,現行法92条1項1号の文言に照らしても困難であるとされております。しかし,これは阿多委員が先ほどおっしゃったことと同じかと思いますが,現行法92条1項1号が規律している秘密情報と被害者情報秘匿制度の対象となる情報は性質が異なっており,また,それぞれの制度の趣旨も効果も異なっている以上,実体的保護要件を92条1項1号と同じにする方が,理論的に説明困難ではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。ちょっと私の理解が間違っているのかもしれませんけれども,恐らく今,日下部委員がおっしゃったのは,先ほどの議論とは少し議論が違う話かなと思って伺っていました。阿多委員とか日下部委員,矛盾しているというわけではなくて,違う論点ではないかと思っていただけなんですけれども,おっしゃっていたのは,著しく支障といいますか,この要件が分かりにくい,あるいは具体性がないといったことも含めて,御意見だったと思います。   今,日下部委員がおっしゃったのは,それよりも広い,あるいは別の要件として包含できないものが入っているのではないか,それは,恐らく刑事の議論として,社会生活を営むのに著しいという要件と別に,畏怖困惑要件が別途定められていることについて,それを拡充すべきではないかという御意見ではないかと,私は伺っていて思ったのですけれども,そういう意味で,二つ論点があるのかと思って伺っていました。   いずれにしても,現在の法制審の総会で,刑訴法で議論されているものについて,最終的な要件,いろいろ具体的な事件名ですとか個別のことを書かれていますが,最終的なバスケットクローズといいますか,ものとしては,名誉,社会生活といいますか,を著しくおそれというような,そういったやや抽象的なものがございます。そういったものも含めて,この民訴法の表現でいけるかどうか,私たちも考えていかないといけませんし,もし仮にそれが難しいということであれば,刑訴と全く同じ用語にするというのも,一つの選択肢なのかもしれない,御意見を伺いながら考えていきたいと思っております。 ○阿多委員 違う論点で細かなことですが,ゴシックの(注)の記載はIT化後においても,紙の可能性について言及されています。他方,説明,6ページの(4)では,むしろ技術の,下から6行ですか,「もっとも」以下で,情報流出を防ぐ態勢をどのように構築するかは,ITセキュリティ技術の発展状況や電子データの取扱いに関する訴訟関係者等の習熟度合等によって左右され,今後も変化をし続ける見込みがあると書かれていて,規則事項にしたい旨を説明されています。しかし,本文の(注)はもう少し消極的な表現になっていますので,規則事項にするにしても,その時点での正にセキュリティ等の状況に応じるものとし,現状は依然として書面となるが,対応できるシステムが構築できた場合には,電子で対応するというニュアンスで説明いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です,ありがとうございます。先ほど来議論になっております,秘匿の実体的要件に関しまして,私自身は,原案のような形で92条の文言とそろえるということが,合理的な解決の一つではないかというように考えております。   もちろん,この文言は,かなり抽象度が高いという懸念はもっとものところがありますので,判断に支障がないような形で例示を加えることなどがあるのかもしれませんが,明確化を図ることができるのであれば,それは検討の余地があろうかと思います。その点は,事務当局で更に御検討をされるというお話でしたので,検討していただければと思いますけれども,先ほど来,趣旨や性質を異にする二つの規律であるという御指摘がありましたけれども,確かに92条の方は対第三者の閲覧制限の問題を扱っておりまして,今般検討されているのは,対相手方当事者を含めた秘匿ということですので,そういう意味で,対象としている問題にずれがあるということは,そのとおりであるかというように思いますけれども,しかし,当事者のその訴訟に関連する情報が他の者に知られるということが,どのような場合に許容され,どのような場合に制限されてよいかという問題を扱うという点では,両者共通の基盤があるというように思われますし,また,対第三者との関係で閲覧制限が認められない事項について,仮に対相手方当事者との関係で閲覧制限が認められるということになるとすれば,それは,やや均衡を失するように思いますので,もし仮にそういうことになるのであれば,これは,閲覧制限の方の規律そのものの見直しということを,改めて考える必要も出てくるのではないかと,こういうように感じております。   いずれにしましても,表現ぶりはともかくとしまして,対第三者の閲覧制限よりも広範な形で当事者間の秘匿が認められるということは,基本的には考えにくいのかなと思いますので,その辺りを,文言の検討に際しては,留意をいただけるとよいのではないかと考えたところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 ありがとうございます。私も,今,垣内幹事がおっしゃったことと結論が同じで,現行法の92条1項1号という民事訴訟法の中に条文があるということで,この社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることというのが,一番使いやすいのではないかと考えております。   裁判所の方のパブコメの御意見で,判断に当たって困難が生ずるおそれがあるとあるのですけれども,現行民訴法の条文について,既にこれは判断されているわけですから,その御意見をもって,この文言は使うべきではないという方向の議論には,私はならないのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 裁判所のパブコメを引用したものとして,笠井委員からの指摘は理解できるのですが,実務の状況として,少なくとも92条の手続を利用する者として,本当に個々の事案によって広狭の判断が異なっています。これまでは,第三者との関係ですので相手方としても余り気にせずに済ませてきたわけですが,今回当事者間の秘匿まで同じ文言を使われ,しかも同じ解釈になり得るとなったときに,それらを判断する裁判所からの運用に対する不安感が指摘されているという点は,法律を定める上で不安を感じざるを得ない。先ほど垣内幹事からも発言がありました。具体的な要件を足す方向がよいと思いますが,その例として,刑事訴訟法はより具体的な行為等も入っているので参考になるのではないか,そういう提案です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 ありがとうございます。今の論点ではなく,先ほど阿多委員がおっしゃった,第1の(注)について発言します。  秘匿決定の対象となった事項が記載されたものは,士業者であっても電磁的記録ではなく書面若しくはDVDやUSBメモリーなどの記録媒体で物理的に提出することが提案されていますけれども,オンラインでの提出と物理的な提出とで,情報漏えいのリスクがそれほど異なるようには思えないと考えられます。たとえば,原告が訴えをする際には,原告と裁判所のみしか閲覧できない領域にアップロードするのですから,原告が操作ミスにより氏名等表示書面を被告が閲覧できる領域にアップロードしてしまうことはないのではないかと思っています。となると,裁判所の方で,被告も閲覧できる領域にデータを移し替える際の人的なミスを懸念されているのかもとも思いましたけれども,他にもいわゆるハッキングなどによる情報漏えいも,もしかしたら想定されるのかもしれません。いずれによせ,ここで,例外的に書面提出や電磁的記録の物理的な提出が義務付けられてしまいますと,完全デジタルを目指して,少なくとも士業者はオンラインの利用を義務付けるということと整合しないようにも思えました。   また,秘匿決定の対象となった事項以外の事項であっても,情報の流出があってはならないのは当然です。ですので,全体としてセキュリティ対策を十分に講じた上で,秘匿決定の対象事項が記載されたものの提出についても,オンラインでの提出とすべきではないかというのが意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 すみません,議論点が行ったり来たりで少し分かりづらくなってしまっているかもしれませんが,私は,先ほど来話のありました実体的要件について,再びコメントしたいと思います。   先ほど委員の方から,社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれで十分判断できるのではないかといった御意見もあったかと思うのですけれども,現行法の92条1項1号では,飽くまで秘密として保護されるべき情報が,個人のプライバシーのうち私生活についての重大な秘密であるということが前提ですので,通常であれば,ほかの人に知られることのない個人としての秘密を目の前にして,裁判官が,これは外部に知られてしまうと,社会生活を営むのに支障が生じるよなということを判断できる土台はあると思うのです。しかしながら,今回議論されている被害者情報秘匿制度では,被害者とされている方の氏名や住所など,普通は秘密と扱われることではない情報について,どうなのかということを判断することになるわけですから,これは,簡単に判断できるという性質のものではなく,それを社会生活を営むのに著しい支障というだけの抽象的な文言で十分安定的に解釈,運用ができると考えることには,無理があるのではないかと思います。   また,先ほど垣内幹事の方から,第三者に対する閲覧制限の制度を超える形で被害者情報の秘匿制度によって秘匿される,その範囲が超えるということはないのではないかといったような御意見もあったのかなと,もしかすると誤解かもしれませんが,理解をしたところなのですが,これらの制度は趣旨が異なっているものでありまして,どの範囲の情報が秘匿されるべきなのかということについては,既存の92条の1項1号の定めによって何か限度が画されると判断することには,私は合理性はないのだろうと思っています。その結果として,つまり,被害者情報秘匿制度を十分に意味のある制度として導入することで,現行法の92条1項1号との間でのバランスが問題視される状態になるということであれば,正しく垣内幹事がおっしゃいましたとおり,現行法92条そのものの在り方についても,見直しを必要とすることは十分あり得るのだろうと思いますし,実際のところ,今回の部会資料の中でも,第三者が92条の下で閲覧制限の申立てをするということの必要性などについても,問題意識が示されているところだろうと理解をしているところです。   なお,先ほど小澤委員がおっしゃいましたデジタルであるはずの記録の一部を,USBや紙などで保管するという考え方,これは部会資料1ページの末尾の(注)における提案についてですけれども,ごく簡単に私の意見を申し上げたいと思います。   今,機密性の高い情報をあえてインターネットから切り離して扱うという実務が,どの程度一般的であるのかは,私はその専門家ではありませんのでよく分かりませんが,非常に高度なハッキングによって,意図的に情報漏えいされるおそれがあるような情報であれば格別,そうではない情報については,情報漏えいの原因のほとんどはヒューマンエラーであると理解をしております。そうであれば,氏名等表示書面の提出者やそれを処理する裁判所職員が注意を払うことで対処すべき問題なのではないかと思われまして,そのエラーを慮ってインターネットから氏名等表示書面を切り離すということは,上訴や移送あるいは強制執行などの関連する手続において生じる不便を正当化させるものなのだろうかと,正当化できるのだろうかということが疑問に思われました。恐らく,問題意識は小澤委員がおっしゃったこととかなり共通しているのではないかと思いましたが,付言させていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   事務当局から御発言あれば。 ○垣内幹事 すみません,度々失礼いたします。私が何か申し上げると,また日下部委員から完膚なきまでに反論されるのかもしれないので,この辺でやめた方がよいのかもしれないのですれけれども,先ほど日下部委員が御指摘された点で,92条の方は私生活に関する重大な秘密という,一種の絞りが入っているというところがあるわけなんですけれども,こちら,92条の方では,情報についてこういう縛りがないとすると,訴訟記録に含まれている情報というのは多種多様なものがあるわけで,その何かが閲覧されることによって,社会生活を営むのに著しい支障が生ずるということですと,これは確かに非常に多様な場合があり,判断が難しいということになるのかもしれず,私生活についての重大な秘密という限定をすることには意味があるだろうと思われるところです。しかし,こちらの秘匿については,これは,対象は、そういう意味では,私生活についての重大な秘密ではないわけですけれども,氏名等,この当事者を特定するための情報ということで,そこは定まっているということを前提として,それが開示される,秘匿されないということによって,社会生活を営むのに著しい支障が生ずるかどうかを判断するということですので,基本的な構造は92条の場合と同様ではないかというように,私は考えております。   1点だけ補足をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。また御意見いただきましたので,考えていきたいと思います。ただ,他方で,刑事と全く表現を一緒にするのかどうかについては,やはり92条,日下部委員がおっしゃると,それは違うということかもしれませんが,やはり気になるところかなと思いますし,正に,刑事の表現が,逆に我々の意図したところと合っているのかどうかも含めて,少し考えたいとは思っています。   一方で,なかなか具体的な裁判所の御意見があったところですが,これについては,私たちの方でこういったケースを想定しているといったことをきちんと説明を,補足説明等でもしていなかった,もちろんそれは,整理が不十分だった私たちの落ち度だと思いますけれども,そういったことも説明をきちんとするという意味でも,どういったことを想定しているのか,次回出させていただいた上で,文言としてなおどうするのかについては,御意見賜りたいと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ということですので,特に実体的保護要件については,次にこれを議論していただくときに,もう少し具体的な想定も含めて,文言について御議論いただきたいということですので,本日のところはよろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,引き続きまして,今度は部会資料7ページの「第2 秘匿決定があった場合における閲覧等の制限」,この部分について御議論いただきたいと思います。まず,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   追加試案からの主な変更点は次のとおりでございます。   1点目,秘匿決定があった場合に,当事者による閲覧等を制限するという規律としたことでございます。   2点目,当事者閲覧等制限の対象となり得る書面等の範囲を,送達場所等の届出書,調査嘱託の回答書,証人尋問の申出書といった特定の書面に限ることなく,訴訟記録一般に広げたことでございます。   3点目,当事者閲覧等制限の対象となる事項の範囲を,秘匿決定の対象とされた氏名等とその推知事項というように整理したことでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○小津幹事 部会資料の第2につきまして,賛成する立場から意見を申し上げたいと思います。   訴訟記録のどの部分に秘匿情報ないし推知情報が記載されているかを最もよく知るのは,裁判所ではなく,自ら書面等を提出した当事者であると考えられます。そのため,秘匿の申立てを行う際には,書面の中の具体的な箇所を特定して申立てを行うこととして,当事者においてマスキング,又は代替呼称などへの加工をした上で提出するという規律を設けることが必要になると考えております。   この点は,破産規則11条3項の規律が参考になるほか,現行民訴法92条の閲覧等制限につきましても,部会資料18の28ページで同様の規律を設けることに賛成する意見が全てであって,そのような規律を規則に設けることが相当とされておりましたので,今回の御提案のような規律も必要となるのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 形式的なところで確認です。この第2の申立てによる当事者による閲覧等制限の規律ですが,申立てがあると裁判所が裁量で認めるか認めないかを判断することになると思うのですけれども,この場合の要件というのは,ゴシックの部分には書かれていませんが,要件はどのように読めばよいのでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 まず,前提として,名前とかをばらしてはいけないということは,駄目だということは判断されていることを前提にしていますので,そういうものが書かれていれば,それは当然自動的に,これはもう隠さざるを得ないということなのだろうと思います。また,推知についても,結局それが出ちゃうと分かっちゃうということですので,正に分かるかどうかで判断していくのではないかと思っていまして,前提としても,隠さないといけないということが必要だということは,先ほどの要件に出ていることからすると,こうなるということではないかと思います。 ○山本(和)部会長 大坪幹事,いかがでしょうか。大丈夫ですか。 ○大坪幹事 はい,分かりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今回の部会資料10ページの2の(2)のところにも記載されておりますとおり,当事者閲覧等制限決定申立ての対象を,被害者及び加害者以外の者が提出する書面一般にも広げることが提案されておりまして,その点は適切だろうと考えております。   1点気になっておりますのは,当事者又は第三者が書面を提出した後,被害者が当事者閲覧等制限決定の申立てをするまでの間に,当該書面の閲覧等が可能であるんだとしますと,そのタイムラグが,直接あるいは間接的に加害者が秘匿事項の閲覧をすることを許してしまい,被害者の二次被害を招くおそれがあるのではないかという点です。この書面の提出と申立ての間のタイムラグをどのように処理するのかということについては,今回の部会資料では特に手当てがなされていないようなのですが,事務当局としては,どのように処理することを,対処することを想定されているのでしょうか。   これ,お尋ねですので,よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお答えをお願いします。 ○脇村幹事 ケースによっていろいろあると思うのですけれども,まず,自分自身が出した書面について,もうそれは自分で判断,事前にやってくださいということだろうと思います。一方で,第三者といいますか,まず,相手方が出したものについては,逆に言うと,相手方に見せるかどうかという規律がございますので,この問題は生じないのだろうと思っています。   訴訟の場面に関係します第三者が出したものについてどうするかが,正にそれが,次に出てくる職権調査の問題だろうと思っていまして,そもそも第三者が証拠を出すというケースについて,多くは調査嘱託等をするケースだと思うのですけれども,それは恐らく事前に,こういった経緯で出すということを,あらかじめ決定した上で出すということになると思いますが,その場面でいえば訴状の前であれば,その辺について意見は出ませんけれども,訴状の後,送達の後であれば,それは意見を聴いた上で出すということになりますので,そこの場面で,そんな変なものを書かないでくださいなということを言った上で出すということかなと思います。そうすれば,自然と出てこなくなるのではないか,そういった話かなと思っています。   完全に全く第三者が出したケースについて,それについて何か止めるということを,今回やった方がいいのかどうかについては,また御意見いただければと思いますが,私はそこは難しいのかなと思って考えていたところです。 ○山本(和)部会長 日下部委員,いかがですか。 ○日下部委員 訴訟の当事者である被害者や加害者が提出する書面については,特に問題にはなりづらいだろうというのは,おっしゃるとおりかと思いますし,第三者が提出する書面についても,調査嘱託なり,あるいは何らかの証拠調べの過程でなされた嘱託に基づくということであれば,それまでに秘匿決定が出されているのであれば,適切な処置が,実務的な工夫も含めて可能でもあろうかなと思っています。   ただ,それでも漏れるケースというものも気になっております。例えばですが,具体的には,加害者でも被害者でもない当事者や参加人,例えばですけれども,加害者,被害者間の訴訟に第三者が参加してきたというケースで,その者が提出する準備書面や書証の写しについては,システム直送を前提とする限り,そこに秘匿事項が記載されていることを被害者が認識したときには,既に加害者がそれを知ってしまっているという事態になってしまうのだろうと思っています。   私自身は,規律を複雑にすることには抵抗感を持っているのですけれども,今のような事態を放置していいのか,何ら手当てを採らずに,仕方のないことと考えてしまってよいのかということには疑問が残っておりまして,秘匿決定がされている事件については,訴訟の当事者や参加人に対して,何らかの行為指針になるような,あるいは何らかの規範性のあるような配慮などの義務なのか,何らかの手当てがないと,やはりよろしくないのではないのかという問題意識を持っているところです。具体的な解決案を私は持ち合わせていないので申し訳ないのですけれども,御検討を頂きたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 細かいことをもう一つ確認したいのですが,当事者は,例えば準備書面を出すたびに,いちいちこの閲覧の制限を申し立てなければいけないことになるのでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 基本的に,そう想定をしていました。   ただ一方で,それほど頻繁に準備書面出てくるようなことは,正直,逆に想定していないといいますか,自分で出すケースについては,基本的に外して書いてきてほしいというか,外さないといけないのではないかとは思っておりますので,何か頻繁にこの決定をするということあるのかどうかについては,個人的には若干疑問なのですけれども,制度としては,やはり特定をして,それを隠すということをせざるを得ないのではないかとは思っています。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○阿多委員 先ほど日下部委員が発言されたことに関連するのかもしれませんが,書証等について発言します。11ページの中段,(3)の上に簡単に,また,同様のことは書証等の対象となる証拠にも生ずるので,申立人は,基本的に,自らの提出するものについては,同様に注意を要するとの記載があります。提出者は,自ら提出する書証等どこまでオープンにするのか,逆に秘匿するのかを判断することになりますが,第三者,参加人が書証を提出した場合は,直送と同じ前提になるのか。同じ質問を後で証人について質問させていただくつもりでしたが,時間的なずれがあり得るのではないかという疑問です。   それと,書証への言及が部会資料には見出しとしてはなく,探す限りこの部分だけと思いますが,書証については,秘匿との関係では項目立てをする事項はないという理解でよいのですか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 ありがとうございます。逆になりますが,書証に関しては,ここに書いているのが全てといいますか,特に項目立てしなくてもいいのではないか,調査嘱託みたいな扱いをしております。   やはり第三者が出したケースについてどうすればいいのかというのは,御意見いただいているところです。そもそも,書いたのを書くなと言えるか,準備書面ですと書くなと言えるかどうかというところだと思いますが,なかなかそこは難しいんだろうなという気はしています。ただ一方で,分かっていて,それが漏れて,相手方といいますか申立人に危害が加わること分かって,それを漏らしたケースについては別途,実体法上の問題は発生しそうな気はしますけれども,訴訟上,言うなとかいうのは言えないのかなという気は何となくしておりました。そういう意味では,出た後どうするかについて,ただ,そうすると,そこにどう手当てするのかは是非,逆に御意見を頂ければと助かるなというのが本音ですが,書かないでくださいとも言えないですと出てきますし,出てくると,後で事後的に止めるということができるのがせいぜいだとすると,その間をどうしたらいいのかについては,すみません,御意見いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   阿多委員,何かありますか。 ○阿多委員 知恵はなく,何か今後考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。   それでは,続きまして,今度は部会資料の12ページ,第3,先ほどもちょっと言及がありましたが,調査嘱託の場合の閲覧等制限ですね,これについて,まず事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   追加試案からの主な変更点は,次のとおりでございます。   1点目,その書面が誰に閲覧されれば支障が生ずるおそれがあるのかを,厳密に問わないものとしたことでございます。   2点目,法益侵害のおそれが明白である場合に限定したことでございます。   3点目,当事者の閲覧等を制限する対象を,書面ごと,書面単位としたことでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきましても,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見をお出しいただければと思います。   いかがでしょうか。 ○小津幹事 第3の1において,法第109条の書面その他これに類する書面という御提案がされておりますが,これに類する書面というのはどのような書面を想定しておられるのか,明確にしていただければと思います。   追加試案の補足説明を拝見しますと,例えば,送達報告書が滅失した場合に裁判所が発行を受けることがあるとされる送達に関する証明書や,差し出し後に郵便物の書留郵便物受領証を提示し,所定料金を支払って請求することができ得るとされる配達証明書が,これに該当し得ると考えられるという記載がありますが,このような理解から特段の変更がないのかどうか,事務当局に御確認させていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 脇村です。ちょっと繰り返しかもしれませんけれども,今お話あったとおり,送達報告書が滅失した場合の裁判所が受ける送達に関する証明書ですとか,差し出し後に郵便物の書留郵便物受領証を提示して,所定の料金を支払って請求することができ得る配達証明書などが該当すると考えています。ほかにも,不奏功であった場合に送達書類一式,こういったことも考えられるのではないかと思っています。 ○山本(和)部会長 小津幹事,いかがでしょうか。よろしいですか。 ○小津幹事 今のお答えで結構です。どうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 質問です。1では送達場所の関係で住所に関しての調査嘱託ですが,2は,当事者又はその法定代理人を特定するための調査嘱託も同様とするとして,当事者の氏名等が不詳の場合に調査嘱託を利用することを記載されています。この2の利用場面は1と同様とすると定めているので,当事者又はその法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障が生ずるおそれという実体要件の存在が明らかであると認めるときが必要となるように読めますが,そもそも2も同じ要件が被っているということを前提にされているのですか。また,氏名等が特定されていない理由が,特定されることによって上記の支障が生ずるおそれがあるという実体要件を判断できるのですか。素朴に疑問があり,2の想定している場面なり射程について説明いただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお答えをお願いします。 ○脇村幹事 まず前提として,要件について全く同じことを考えておりました。それは,従前の追加試案でも同じ考え方に近かったんではないかと思っています。そうした場合に,そういったケースはあるのかということだと思います。恐らく,元々1の方はDV等の支援措置等をしているケースを想定していましたので,分かりやすいですが,2については,おっしゃるとおりそういった判断ができるケースについてはほとんどないのではないかというのは,おっしゃるとおりではないかと思っています。そういった意味では,ここは並びで書いたにすぎないところでございますが,一方で,そういったケースが分かるケースもあるんだとすると,そこだけ外すというのは難しいのかなと書かせていただいたところと考えております。 ○山本(和)部会長 阿多委員,いかがでしょうか。 ○阿多委員 実務でよくあるのが,名字だけは分かっているが,名前が分からないとか,名字と電話番号だけは分かっているといった場合です。それらは,必ずしも秘匿とは関係ない場面ですが,そもそも,それら完全な氏名情報が不足している場面でも,調査を嘱託してもらえるという前提で,部会資料の2を理解してよいのか。今日のテーマとは関係ありませんが,調査嘱託の利用について,そのような利用も考えられるのかについて説明いただければと思います。 ○山本(和)部会長 事務当局,お願いします。 ○脇村幹事 非常に難しい問題で,民事訴訟の解釈が問題となる論点の一つだと理解しているところでございますが,解釈論としては,釈明処分としての嘱託も含めてあり得るケース,正に今,委員がおっしゃった事案などについて使うというケースがあることもあると聞いていますので,そういった意味では,解釈論としては否定していないことを前提に,問題が起きたケースには一応作ってはどうかと考えているところでございます。   そういった意味では,追加試案と違うところとしまして,場面をきちんと限定する,きちんと,本当に隠さないといけないケースに限ってやるんですということを明らかにしたのも,そういったことの絡みで考えていたところでございます。 ○山本(和)部会長 阿多委員,よろしいでしょうか。 ○阿多委員 これ以上は結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,引き続きまして,今度は資料14ページ,「第4 秘匿決定の取消し等」ですね。これについて,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   追加試案からの主な変更点は,次のとおりでございます。   1点目,除外事由があることを疎明した場合の特定の当事者による閲覧等の仕組みを,相対的な取消しではなく,閲覧等の許可としたことでございます。   2点目,秘匿対象者等への意見聴取の義務が生ずる場面を,秘匿事項が開示されてしまう場面に限ったことでございます。   3点目,除外事由により閲覧等が許可された当事者は,秘密保持義務を負うものの,正当な理由がある場合の利用や開示は,この秘密保持義務に違反しないものとしたことでございます。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきましても,どなたからでも結構ですので,御発言を下さい。   いかがでしょうか。 ○小津幹事 第4につきましては,自己の攻撃又は防御に実質的な不利益を生ずるおそれに関して,判断基準が明確にされなければ,その判断に当たって,実務上の支障が生ずるおそれがあるのではないかと考えております。この点につきましては,部会資料の11ページでは,準備書面に記載された事実については,攻撃又は防御に実質的な不利益を生ずるものと記載されておりますが,ほかの場面も含めて,できる限り解釈に疑義が生じないようにする必要があろうかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。事務当局,何かコメントは。 ○脇村幹事 ありがとうございます。実質的不利益について,正に今後の御議論含めて,私たちも考えていかないといけないと思いますし,そういった点について,できるだけ明らかにしていきたいと思っています。   基本的に,やはり自分が準備書面書いていたケース,あるいは書証であえて出しているケースについては,やはりそれは意味があって出していると考えるのが普通だと思いますので,基本的には,最終的に事案の判断だと思いますけれども,そういったものについては実質的に意味がある,それがないと反論できないのだということが,言いやすいのは間違いないのではないかなという気がしていますが,最終的にはそういったことも踏まえ,個別の判断になるとは思っております。 ○阿多委員 取消しの申立権者に第三者を含むのかという点について,事務当局の意見は承知していますが,やはり私自身は,当事者に限定すべきだと考えます。   部会資料の説明でも,秘匿決定等の要件を欠く場合には,秘匿決定等により第三者の閲覧請求を制限する正当な理由がないという説明があります。実体要件ないしこの制度の理解に関わりますが,元々の訴訟記録は閲覧できるものだという前提の閲覧制限解除の話と,当事者間でも秘匿される状況にある情報を閲覧する機会を与えるという前提で構成するのでは,位置付けが異なると理解しています。ですから,逆に92条と同じ要件にそろえるために横並びで考えざるを得ないという整理になるのであって,秘匿措置は,独自の制度だということを前提に,かつ相手方も秘匿を争わないという状況において,あえて第三者の方で要件欠缺を争わせる必要はないと考えます。したがって,申立権は当事者に限定すべきだという従前の意見を繰り返しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私も,今の点について若干補足をさせていただきたいと思います。   部会資料15ページの4の規律によりますと,秘匿対象者の意見を聴かなければいけない場合というのは,秘匿決定を取り消す,あるいは訴訟記録を例外的に閲覧することを許可するという裁判をするときに限るということなので,言ってみましたら,あんまり根拠のないような取消しの申立てがなされたようなケースでは,秘匿対象者に負担を負わせることなく,その申立てが却下されるというように計らわれているのだろうと理解をしています。   そうした配慮は非常に有り難いとは思うのですけれども,濫用的申立てがもしもなされたとしますと,その理由は,適当なものも含めて,いい加減なものも含めて,あれやこれやといってくることもあり得るわけでして,そうした場合に,その言い分に理由があるのかどうかということを,裁判所が秘匿対象者から意見を聴取しないで判断するというのも,やはり困難な話であって,どうしても秘匿対象者の負担というのは避けられないのではないかとも思えるところです。こういった点も考えますと,先ほど阿多委員がおっしゃられたとおり,私も第三者には取消しの申立権を認めるべきではないという考えであることを申し上げたいと思います。   その上で,別の点について意見を申し上げたいと思います。   部会資料の17ページの(2)を拝見しますと,全ての当事者が除外事由を疎明して閲覧の許可を得た場合には,秘匿決定の要件を欠くに至るけれども,裁判所が職権で秘匿決定を取り消すといった措置を執らずに,閲覧等を請求する第三者に取消しの申立てをさせればよいという考え方が示されているかと思います。そもそも第三者に取消しの申立権を認めないのであれば,この考え方は成り立たないわけですが,仮に第三者に申立権を認めるのであるとしても,全ての当事者が除外事由を疎明して,秘匿決定の要件を欠くに至ったという場合に,それでも第三者に取消しの申立てをさせるというのは,本来不必要なはずの負担を第三者に課すものであって,合理性があるか疑問を感じています。   部会資料の御提案は,全ての当事者が閲覧の許可を得た場合に,裁判所に職権で秘匿決定を取り消すことを求めるのは煩瑣である上,取消しの遺漏があった場合の問題も考えなければならないといったことを考慮したものかなとも思いました。もしもそういうことであれば,職権で秘匿決定を取り消すことが「できる」として,裁判所の最善の努力に期待するにとどめることや,第三者から閲覧等の請求があった場合には,職権で秘匿決定を取り消すというようにすることで,裁判所における御負担を合理的なものにしていくという,そういう方策も考えられるのではないかと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。当局の意見の繰り返しになるかもしれませんけれども,まず前提として,この第三者による申立ては,飽くまでも前提となる要件を欠いているケースを前提に議論をしております。そういったケースにつきまして,第三者が見られないということを本当に許容することができるのかについては,いま一度考えていただきたいというように思っています。   結局,公開主義,直接主義の関係等ありますので,現在の民訴法は,第三者に訴訟記録の閲覧権を当然に認めているということになっています。しかも,それは,当事者たちが秘匿したいという合意をしたとしても,それは考慮しない,権利として認めているということだと思います。   先ほど阿多委員の御発言で,当事者が争っていないケースについても秘匿にする必要があるのかというのは,正に当事者間で,これは公開したくない,閲覧させたくないという合意をした場合に,記録に認めないということを真正面から認める議論ではないかと思っておりますが,果たしてそういった考え方がこれまで採られてきていたのかは,私は疑問でございます。もちろん皆さんが第三者について,閲覧請求権について,こういった限度で要件を欠いていたとしても認めるべきではないという意見が多数であれば,それはそうなのかもしれませんが,私は,これまでの議論,あるいはこれまでされていた閲覧謄写に関する権利の議論からすると,その結論は本当にそうなのかなとは思っているところでございます。   また,それとは別として,職権どうするかという議論ございました。ここについては,職権ということもあるのかもしれません,あるいは,申立人がもういいですと言ったことで取消申立てすることもあるのかもしれません,そこはまた別の問題として考えることかなとは思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 脇村幹事から名前が出ましたので一言。訴訟記録一般について,当事者で閲覧制限を創設するということについて,私も賛成しているわけではありません。   ただ,氏名ないしは住所という限定された場面について,裁判所の方で一旦判断しそのまま手続が進行し事件も完結している状況において,第三者からの要件欠缺を争う機会を確保する必要があるのかという疑問です。本来だったら実体要件がないのだからという議論かと思いますけれども,当事者が実体要件がない状況を企図し閲覧制限を創設するという病理を危惧するのは行き過ぎではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私も,今の点について先ほど言及したものですから,若干コメントいたしますと,秘匿決定の実体的要件がなくなっている,あるいは存在していないということが,客観的に確定した状態であれば,それは第三者に取消しの申立権が認められてしかるべきというのは理解できるんですけれども,申立てができるかどうかというのは,実体要件が欠缺の状態にまで至っているかどうかを判断する契機にすぎませんので,濫用的な申立てが出てくるということに対する手当ては,別の問題として考えなければいけないわけです。   また,第三者による閲覧が制限されるのは,飽くまで秘匿されている事項,秘匿事項についてだけであって,訴訟記録の閲覧ができなくなるという,そういう極端に大きな話ではありませんので,やはりそこはバランスも考えて,つまり被害者に生じ得る負担やリスクも考えて,バランスの上で判断していくということが適切ではないかと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です,ありがとうございます。私は,この第4のところの,今回,部会資料27,14ページから15ページにかけての御提案は,賛成してよいのではないかというように考えております。確かに,第三者の申立てが濫用的にされる場合についての懸念というのは,理解できる部分もあると思いますけれども,しかし,一律第三者には取消申立権がないとすることが,裁判の公開や従来の閲覧制度の趣旨からして正当化できるかというと,そこはなかなか難しいのかなという印象を,現時点では持っております。   あわせて,若干細かい点について質問させていただきたいんですけれども,これ,ちょっと不勉強なだけでお恥ずかしいんですが,14ページの第4の1のところで,取消しの申立てをする裁判所というのが,訴訟記録の存する裁判所となっておりまして,これは,官署としての裁判所ということなんだろうと思うんですけれども,言わずもがなのことであれなんですが,事件が現に係属していて,その事件を担当している裁判体があるときには,その裁判体が取消申立てについて裁判すると理解をしておいてよろしいのか,その点について教えていただければと思いました。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 そのように考えておりました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか,垣内幹事。 ○垣内幹事 はい,了解いたしました。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,続きまして,今度は17ページ,「第5 証人の氏名等の秘匿」ですね。これについて,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   ここでは,証人自身の法益が侵害されるおそれがある場合に,証人の氏名等を相手方に秘匿したまま,その証言を証拠とすることができる規律を設けることの是非につきまして,御審議いただきたく存じます。   なお,この規律によりますれば,被害者が証人であり,加害者が事件の当事者であるという場合には,証人の氏名等を加害者に対して秘匿することができることになります。しかし,被害者が証人であり,加害者が第三者である場合には,証人の氏名等が記載された部分を加害者に閲覧されないよう申し立てることはできません。そこで,証人の氏名等の秘匿の規律が導入される場合には,あわせまして,第三者閲覧等制限の制度である現行法第92条の第1項第1号の秘密の主体に,当事者のみならず証人を加える考え方があることを注記しております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御発言をお願いします。 ○大坪幹事 最初に,この提案の趣旨を確認したいのですけれども,元々今回検討の対象になっている被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度は,商事法務の研究会の報告書の冒頭で,その法整備の必要性についてということが記載されています。そこでは,性犯罪の被害者が,加害者に氏名や住所を知られることを恐れて訴訟提起することをちゅうちょすることがある,さらに,DVなどで訴訟記録中の当事者の現住所や,これを推知させる情報が記載された部分について,相手方による閲覧等を制限するための規律がない,3点目として,暴力団員を被告とする訴えにおいて,原告の氏名が被告に明らかになってしまうと,原告の身に危険が及ぶおそれがある,以上のことから,被害者等の氏名,住所を相手方に秘匿することができる制度を創設する必要があると整理されております。ですので,元々は,訴訟の当事者の氏名,住所が相手方に知られないような制度を検討していたと思われますけれども,この証人の場合には,それとの関係でどのように考えるべきなのか,その制度趣旨について確認させていただきたいと思います。   ここでの考え方としては,部会資料には証人自身の保護をするためということもありますし,当事者が,部会資料の18ページの(1)のところにも括弧書きの中に書いてありますが,証人による立証が事実上困難になるということを防ぐために,証人を保護するということも考えられているようです。その点,事務当局としては,この証人の手当てについて,どういう立証趣旨なり制度目的を考えているのか,教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 結論的には,そういったことも含めて,是非御意見を頂きたいというのが本音でございますが,考え得る考え方としましては,従前の当事者秘匿とはまた全然別なんだろうと思っています。当事者秘匿に引きつけて少し考えると,原告なり被告の立証活動が阻害されることを防ぐ,結局氏名等がばれると,私は証言に立ちたくないといったことが,これは義務を課されたとしても事実上起きてしまうということを考えて,そういったこと,協力を得ることができなくなることによって,正に自らの権利を守るための立証活動が阻害されるということを防ぐというようなことも考えられるでしょうし,より抽象的に,その訴訟に協力した証人自身については,やはり一定の保護を与えるべきではないかという,少しちょっと抽象的な御意見もあるんだろうと思います。   そういったことを考えて,今回導入すべきなのかどうかについて,パブリックコメント等でもこういった観点から入れるべきだって御意見,ただ,それはどういったことから入れるべきかという点については,いろいろな考え方あると思いますけれども,そういった点を御議論いただきたく,テーマとして取り上げた次第でございます。 ○山本(和)部会長 大坪幹事,いかがですか。 ○大坪幹事 証人の保護についても検討するということなのかもしれませんけれども,まず,証人だけにこの当事者についての制度を準用することでいいのかというのが,疑問に思います。刑事訴訟法では,平成28年の改正のときに,犯罪被害者や証人を保護するための制度として,証人だけでなくて,鑑定人や通訳人,翻訳人についても同様の制度が設けられています。したがって,証人だけに当事者と同様の制度を設けるとすれば何か特別な理由が必要なように思いますけれども,それはないように思います。  証人についての刑事訴訟法の改正の経緯や証人等の保護の規定の仕方と比較すると,当初考えられていた当事者の氏名住所の秘匿の趣旨から考えても,今回の改正で証人まで保護の対象を広げる必要があるのかは,課題なのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 脇村幹事から,導入すべきかどうかも含めてという発言がありました。今回この証人の氏名等の秘匿は,最後の第5に配置され,見出しもどのように考えるのかという形で,オープンなのか,問題提起をされているのか不明ですが,結論として,私は,論ずべき論点がたくさんあり,現時点で,この証人の氏名等の場面だけを取り上げて今回の改正に導入するべきではないと,むしろ証拠一般を含めもっと議論した上,導入の是非について検討すべきだと思います。   その理由として,先ほどお話した時的な関係で言いますと,証人の氏名,住所等は,通常当事者の証拠の申出の際に証人の表示という形でオープンになりますが,当事者による証拠の申出をコントロールできない限り,証人の氏名,住所は顕在化されてしまい,証人の方自身でコントロールできる情報ではないということになります。当事者が証拠の申出を相手方に送ってしまうと,その段階で名前等は顕在化している場面では事後的に秘匿しても何ら救済にならないわけです。   では,証人に採用される可能性があるからといって,自ら事前に裁判所に申し立てておくのかというのも,制度としていかがなものかと思います。また,証人自身の申立権,さらには,証人が何を証言,供述するのかにも関連する話だと考えますので,もう少し証拠全体の中で議論すべきであって,今回の秘匿制度の中に証人関係を取り込むことは拙速と考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今,阿多委員の方から,この証人の氏名等の秘匿については,今後の課題として,少なくとも今の部会においては取り扱わないということを提案する御意見があったかと思いますので,それと相反するというわけではないのかもしれませんが,一応日弁連の意見を御紹介いたしますと,証人を保護対象として,その氏名等を秘匿する規律を設けることには賛成をするという意見が出ております。そのことは御紹介したいと思います。   その上で,仮にこの制度を導入する場合の申立権者をどうするのかという点について,意見を申し上げたいと思います。   これは,部会資料18ページの(2)の「なお」の段落で,申立権者を証人申請の申出者のみとするか,証人も含めるのかという形で問題提起されているところかと思います。証人申請の申出がされる際に,秘匿決定の申立てがなされないと,申立ての意味が失われるということになりますので,証人申請の申出者に申立権を認めるべきという点は適切だろうと思います。それとは別に,証人も申立権者とするかどうかについてですが,証人自身が自らの保護要件の充足を疎明できる立場に付くという利益もあるように思われますので,証人も申立権者に含めてよいのではないかと考えております。実務的には,その証人と証人申請の申出者に一定の友好的な関係があるという状態において,証人申請の申出者が証拠申出書を提出するのに併せて,証人が秘匿決定の申立てをするということが想定されるかと思っております。   なお,先ほど阿多委員の方から,証拠申出の局面とは別に,実際に証言する場合にどうなのかと,証言内容に対するコントロールの問題も考えなければいけないのではないかという御趣旨の意見もあったかと思います。それは全くそのとおりかと思いまして,仮に証人の保護のために,その氏名などを秘匿する制度を導入したとしても,証人尋問において,その秘匿事項を問う質問がなされた場合に,証人が回答しなければならないのだとしますと,秘匿の意味がないだろうと思います。その点,現行法の証言拒絶権を定めている196条及び197条や,尋問において禁止される質問を定めている現行の民事訴訟規則115条2項を見ましても,十分に対応することができるようには思えませんでしたので,こうした点についても,併せて対処を検討する必要が生じるのだろうと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   この点,資料御指摘のように,次のような規律を設けることについて,どのように考えるかということなので,できるだけいろいろな方の御意見を伺いたいと思いますが。 ○垣内幹事 垣内です,どうもありがとうございます。この問題は,非常に重要な問題だと考えておりまして,証人が法律上の義務として,証人として出頭し証言をしなければならない場合があるというときに,自己の氏名等が当事者あるいは第三者に判明することで,例えば,社会生活上非常に著しい不利益があるというような場合に,それでもなお証言を強制するということでよいのかというと,それは問題があるのではないかと感じるところですので,もし氏名等の秘匿という規律を整備することによって,そのような証人の不利益を回避することができるということであれば,そのような制度というのは検討の必要があるのではないかというように,ごく一般的には考えております。   このように考えますと,基本的に申立権については証人自身にも認めるべきものだろうということになりそうで,しかし,先ほど日下部委員から御指摘があったように,申出をする当事者と共同で申立てをするというような場合を別としますと,やはり証拠申出をする当事者がそれをせずに証拠申出をしてしまいますと,証人自身は,少なくとも相手方当事者との関係で,秘匿という利益が得られないということになってしまいますので,そこに制度を作る上での非常に難しいところがあり,そういうところで,もしこれを導入した場合には,実際上の機能としては,証拠の申出をする側の当事者が,そのような証人自身について生ずべき不利益について,過度に懸念することなく証拠申出をすることができ,そのことを通じて,主張立証がより充実したものとなるというところ,ですから,第一次的には,証人申請をする側の当事者の利益に資するような形での機能を果たす制度ということに,どうもなるのかなと思われます。ちょっとその辺りの制度趣旨等について,私自身余りまだ十分整理ができていないところですけれども,検討の必要,整理の必要があると思います。   それから,その関係で,先ほどこれも日下部委員から御指摘があったところで,証言拒絶権の関係についても,検討を要するところだろうというように考えます。それについて,慎重な検討を遂げた上で成案に至ることができるのであれば,それは方法として望ましいことだというように思いますが,この部会での審議に残された時間の中で,それが仮に十分には難しいということであれば,今後の課題とすることも,私としてはやむを得ないところかなと考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 ありがとうございます。ちょっと,本来自分で勉強して,予習しておくべきことなんですが,ちょっとやり忘れておりましたので,事務当局にお教えいただきたいんですが,刑訴法の290の3なんですが,これは,証人等特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をするという制度になっておりますが,この公開の法廷で明らかにしないということに,どこまで含まれるのか。つまり,検察側申出の証人については,その氏名が被告人側に伝わらないというところまでを含んでいるんでしょうか。逆もまたしかりなんですが,被告人側の申出の場合はどうなのかということもあるんですが,当事者間で証人情報を共有できないということまでを含んでいるということなんでしょうか。その点,まず教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 事務当局からお願いします。 ○脇村幹事 ありがとうございます。ちょっと今,責任持って答える自信が若干ないところなのですが,委員のおっしゃっていることは,正に読み上げた,法廷で明らかにしないことと別ではないかということだと思っています。そこはおっしゃるとおりだと思っているのですが,今,それ以上の答えをすると,多分間違える可能性があるので,すみません。ただ,刑事においても,そういった意味で,完全に記載しないとかではない取扱いをしているという意味では,おっしゃるとおりではないかと思っています。 ○山本(克)委員 仮にそうだとすると,私が一番懸念しているのは,やはり反対尋問権の保障であるとか,証人と事件との関連性について,相手方が争う機会がなくなるであるとか,あるいは信用性を弾劾することが相手方にできなくなるとか,そういうようなことまでも含むような形に,今の第1から第4を準用するという考え方だとなってしまうのではないかということが,私は非常に懸念しておりまして,これは,そういうことまでやらなければいけないということを,少なくとも刑事でやっているからということからは,絶対出てこないはずなのではないのかなという感じがしておりまして,さらには,私はやはり,相手方の様々な手続権ですね,証人尋問に関する,の保障という観点からして,私はやはりもう少し,やるにしても,導入するにしても,もっと工夫が必要なのではないのかなという感じがしております。その工夫ができるのかどうかもよく分からないんですけれども。   ということで,現状ではちょっと,御提案にはネガティブにならざるを得ないというのが,私の今の立場です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○脇村幹事 先ほどの点,証拠開示に関しても,299条の2などにおいて,それを知らせないように配慮しなければいけないということになっております。あわせて,そういう意味では,全般的に刑事は隠そうという方向で考えているのだろうと思います。ただ,その刑事の議論が,民事で同じように当てはまるか,正にこの問題だろうと思いまして,恐らく刑事における真実発見といいますか,刑罰を科すことへの要請と,民事において同じように考えるのか,恐らくそれは,証言義務を外す方向で保護するということも含めて,考えていかないといけない問題なのかなと思いまして,そこは視点が違うのかもしれません。また御意見いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○高田委員 不勉強であやしいのですが,念のために付け加えますと,刑事訴訟法では299条の4辺りが対応する規定ではないかと理解しております。山本克己委員の御懸念に対しては,実質的不利益条件で解除するという方法で対処するというのが,今回の案ではないかと理解しております。   もっとも,刑事訴訟手続ではもう少し工夫がありまして,弁護人だけに開示するという選択肢がありますが,民事ではそれができないということを踏まえて,議論する必要があるのではないかというのが,現時点での私の意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○長谷部委員 この提案についての積極的な理由付けとして,氏名が明らかにされると証言がしにくいから,だから証言に立ちたくないというようなことがあると先ほど説明されており,証人を申請する側の立証の便ということが前面に出ているように思われるのですけれども,先ほど山本克己委員がおっしゃったように,相手方の反対尋問権に対する配慮というのは,ここでは余り出ていないように思います。社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれという要件が,具体的にどの範囲まで広がっていくかによっても,判断は異なりますので,これがかなり限定された局面なのかどうかが問題だと思います。証人の氏名だとか,身元,証人をアイデンティファイするために必要な情報というのは,補助事実でありまして,証拠としての価値を左右するような情報であるにもかかわらず,それをあえて秘匿しなければならない,相手方の当事者はもちろん,訴訟代理人に対しても秘匿しなければならないということなのだとすると,それが認められる場合というのはかなり限定的に解するべきなのではないかなと思うんですが,先ほど事務当局からも御説明ありましたけれども,この規律が適用される場面が具体的にどういう場合なのかということが,余り見えていないものですから,何とも言えないように思います。ですから,私が気にしているようなことは,ひょっとしたら杞憂なのかもしれないんですが,余り一般的に広がっていくということになりますと,反対尋問が非常にしにくくなりはしないかなという懸念を覚えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 この証人に関する秘匿の問題をどう考えるのかというのは,今,長谷部委員の方がおっしゃったとおり,反対尋問権との関係を考慮すると,どの程度あり得るんだろうかというのは,疑問が生じるのはごもっともかと思います。実際のところ,証人がどこの誰なのかというのが分からない状態で,十分な攻撃防御が,相手方の立場からできるのかというと,通常はできないように思われますので,ほとんどの場合においては,除外事由が認められてしまうということにならざるを得ないのではないか,そうであれば,このような制度を導入することにいかほどの意味があるんだろうかという疑問が,出てくるのはしかりかなと思います。   もしかすると,例えば,反社会的勢力に関わるような事件で,近隣の住民などが証言をするというような場合に,住所や氏名が知られないようにすることが必要であるというような場合であれば,もしかすると,正確な住所などが分からなくても,攻撃防御の上では問題ないだろうということもあるのかもしれないですが,率直に申しまして,私自身も考えるのはなかなか難しいところだと思っているところです。   大坪幹事の方が冒頭に,この制度の趣旨はどういうところにあるのかというところをお尋ねになられたのも,そういったことも踏まえた上でのお尋ねだったのではないかなと理解をしているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この証人の点につきまして,御意見ございますでしょうか。   一般論としては,こういう制度は理解できるというか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。同じ意見なのでどうかと思いましたが,私も,先ほど山本委員がおっしゃってくださったような懸念がございます。証人の属性が不明なところ,信用性をどう判断するのか,反対尋問が困難にならないか等の疑問がございます。また,公開の法廷では,顔を見えないようにする,声を変える等も必要になるのではないかと思いますが,そもそもその内容によって,誰かということは,被害者,加害者の関係ではある程度特定できてしまうのではないかと思います。それも考えて,これをどうしたらいいか,証人は守らなければいけないということは十分私も同意するのですけれども,この提案に対しては,ちょっと疑問があるところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 高田委員からの御指摘,ありがとうございました。確かにそうなんですが,もう既に日下部委員がおっしゃっているように,防御に実質的な不利益を被る要件は,ほとんどの場合に成り立つことになってしまって,結局何を目的としているのかが,やはりよく分からないと思います。成り立たないんだとする要因には,この実質的な不利益,要件による取消しが成り立たないんだと制限的に解するんだと考えると,やはり信用性の問題とか反対尋問権の問題とかいう,長谷部委員や今,藤野委員がおっしゃったような懸念というのは残るんだろうと思います。ですので,私はやはりまだ納得できないなという印象を,やはり拭い去ることはできないということです。   今,藤野委員が最後におっしゃった点ですけれども,遮蔽の措置の拡張なんていうのは,この制度を持ってきた場合の遮蔽の措置の拡張であるとかいうようなことは,必要はないんでしょうかね。仮に,傍聴人に見られたくない,見られて特定されるのは困るということであれば,203条の3では拾い切れないような感じがしますので,あるいは204条の2号でやって,しかも顔にモザイクを掛けるとか,そういうようなことでやるということなんでしょうか。その辺りも,単に名前を秘匿しただけで証人保護できるのかどうかという点も,やはりちょっと疑問のように思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。多々問題点を御指摘いただいたところですので,それらが解決できるような合理的な制度が構築できるのかどうかという観点から,引き続き,導入の是非を含めて,事務当局の方に御検討を頂くということになろうかと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。   それでは,この論点につきましては以上とさせていただいて,資料18ページ,下から2行目の(後注)の部分ですね,訴訟記録の閲覧等の請求の通知等,この点につきまして,事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   これまで民事訴訟に関する手続におきまして,加害者が最初から事件の当事者である場合を念頭に,被害者の氏名等を秘匿する制度について御審議いただきました。この(後注)におきましては,加害者が最初は第三者であり,被害者は法第92条の第三者閲覧等制限によって対処していたが,その加害者が途中から訴訟に参加してきた場合を念頭に,特許法第105条の6の秘密保持命令が発せられた訴訟における,参加人による閲覧の留保及び通知の制度に類似する制度を導入することを御提案いたしております。   御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点について御議論いただきたいと思います。 ○日下部委員 ありがとうございます。この(後注)の規律を目にしまして,最初理解がやや困難ではあったんですけれども,今のところの理解に基づいて意見を申し上げたいと思います。理解が間違っていましたら,御容赦ください。   この(後注)の1の規律について,18ページの最終行からの部分ですが,これが前提にもなっていると思うのですけれども,そこに違和感といいますか,疑問を感じております。この1の規律,それから,次の19ページの1の説明によりますと,DV等の被害者が,被害者でも加害者でもない者に対して訴訟を提起した場合に,加害者が第三者として訴訟記録を閲覧することで,被害者の現住所が知られることを防ぐ目的で,原告が自己の住所及びその推知事項について,現行法92条1項1号に基づき,第三者閲覧等制限決定の申立てをしているということが前提とされているかと思います。   この部会資料の考え方は,当事者閲覧等制限決定の実体的保護要件,従来ここまで検討しておりました社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれという,現行法92条1項1号と同じ要件設定をするということを踏まえた上で,被害者情報秘匿制度の趣旨というのは,第三者との関係においては,現行法92条1項1号でカバーされているんだという,そのような想定で案が提示されているのだと思います。   しかしながら,被害者情報秘匿制度における秘匿事項である当事者,この場合は原告ですけれども,その住所や推知事項というのは,本来的には秘密とは言い難いものであって,92条1項1号が定めている当事者の私生活についての重大な秘密に当たるということは,通常困難だろうと思います。そうしますと,現行法においては,第三者である加害者に現住所を知られることを防ぐ目的で,第三者閲覧等制限を掛けるということは,そもそも期待し難いように思われまして,したがって,1の規律の前提自体が不合理なのではないかと思いました。   私自身の考えとしましては,仮にこういった規律群を置くのだとしても,第三者である加害者に現住所を知られることを防ぐ目的で第三者閲覧等制限を掛けるということであれば,92条1項に新たに3号を加えて,そこで,当事者閲覧等制限決定の実体的保護要件と同様の要件で,しかし,当事者ではなく第三者が申立者等に悪影響をもたらすおそれというのを疎明するということを必要とする,こういった規律を設けるべきではないかと思えた次第です。要は,今の92条1項1号で処理できると考えることには無理があって,むしろ新しい号を設けることで,第三者閲覧に対する制限を達成していくというのが,通常の考えではないかと思えた次第です。   そのような規律を設けると,元々被害者が第三者閲覧等制限の申立てさえしておけば,現行法の92条2項によって,加害者が第三者として閲覧等の請求をしてきたとしても,それは遮断できるということになるのだろうと思います。ただ,その場合でも,その加害者が訴訟に参加してきて,当事者として訴訟記録の閲覧等を請求してきた場合には,被害者が当事者閲覧等制限決定申立てをするまでのタイムラグの問題が生じますので,それを解消するために,(後注)記載のような規律を設ける必要が生じるということは,十分理解できるところかと思っています。もしも先ほど申し上げましたとおり,92条1項に新たに3号を加えて対処した上でということであれば,この(後注)で示されている規律の1の中の括弧の部分ですけれども,今は,「(同項第1号に掲げる事由があることを理由とするものに限る。)」となっている部分は,「(同項第3号に掲げる事由があることを理由とするものに限る。)」というように,書き換えておくことが必要になるのだと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局から何か。 ○脇村幹事 すみません,脇村です。そもそも私は,前提理解が日下部委員と違うのだと思うのですけれども,少なくとも当事者の現住所を92条で隠せないという前提で,委員はお話しされていると思うのですが,本当にそうなのかがちょっと私としては違う,92条では,当事者の現住所は第三者に秘匿を一切できないという前提という,委員,御趣旨でおっしゃっているんだと理解したんですけれども,そういう理解でよろしかったですかね。 ○日下部委員 私は,絶対に隠すことができないとまで断言することはできないと思っているんですけれども,現住所というのが,92条1項1号の前提となっている,当事者の私生活についての重大な秘密というのに当たるという判断をするというのは,かなりハードルが高いのではないかなと思われまして,今の規律のままでは困難ではないかと感じているということです。   これが,そこの困難性の評価が,恐らく脇村幹事の見立てとは異なっているんだと思うのですけれども,私もこの点について,現行法の92条1項1号のコンメンタールなども事前に確認はしていたんですが,当事者の現住所を,私生活についての重大な秘密として,92条1項1号に基づいて第三者に対して秘匿をするという例については,私がざっと調べた限りでは見当たらなかったところでありまして,本当にできるのかなというのは疑問を感じているところです。   この点については,むしろ実務の蓄積を非常によく御存じであろう裁判所の方の方からの御示唆なども頂けると,議論が建設的になるのかなとも思っております。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。そういう意味では,この部会の議論の前提としては,やはり特にDV支援措置がされているような住所については,それは当然重大な秘密だという前提だからこそ,この議論が進んでいるのではないかと,私としては理解していたところでございます。   この点につきましては,結局第三者秘匿をされているケースで,当事者秘匿の申立てすることはできるケースについて,正に架橋するような規定として置いてはどうかという程度の話でございまして,今,日下部委員がおっしゃったのは,そもそも論として第三者秘匿制度は作り変えるべきではないかという御議論だと思いますけれども,私どもが提案しているのはそうではなくて,かぶっているケースについて,申出をする機会ぐらいは与えてもいいのではないでしょうかということであれば,それほど問題ないのではないかなと思っているところという程度の話でございます。 ○山本(和)部会長 前提の認識が違うけれども,(後注)の規律自体は,日下部委員もあってもいいのではないかという御発言であったかと思いますが。 ○阿多委員 私自身は,制度自体の導入自体が必要な場面と思っています。   ただ,質問したいのは,従前,補助参加人が閲覧等において,どの段階で利害関係人になって記録の謄写ができるのかという論点があったのですが,今回の制度は,補助参加の申立てがある場合には,とにかく当事者に通知をする制度を創設するという趣旨ですか。従前の議論との連続性があるのか否かも含め,背景を紹介いただけますか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局から御説明をお願いします。 ○脇村幹事 補助参加の方の議論は,どちらかといいますと,要件があるかないかがはっきりしない段階で,やってはいけないのではないかという御議論で,そこは異議等はできるケースについてはちょっと待っていてくださいということをやろうとした議論だと思います。ここの議論は,仮に要件が合うとしても,そうすると,この補助参加人は閲覧できますので,その補助参加人側といいますか,その当事者全般について,申立てをすれば,逆に言うと,その補助参加人もできなくなりますので,別の問題として捉えていいのではないかなということで書かせていただいたところです。 ○阿多委員 制度の連続,不連続は理解しました。私自身は,途中から参加人として加わり,意図していない形で訴訟記録が閲覧されるのは阻止すべきだと考えますので,通知の機会を設けることに賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。私自身は,基本的には御提案のようでよいのではないかと考えているところでありまして,確かに前提となる部分については,これは,92条,現行法の解釈論としてどう考えるのかという問題があって,日下部委員のように,氏名,住所というのは,私生活上の重大な秘密には当たらない,およそ当たることが絶対あり得ないとは言えないまでも,通常当たらないのではないかというようなお考えもあり得るところかなとは思いますけれども,手元のコメンタール類でも,氏名等を特定する事実を,92条の適用対象の例として挙げているものもないわけではないようですし,その旨の裁判例もあるのではないかなと承知していますので,こういった規律を設けたときに,それが適用される場面というのは考えられるのかなと,今のところは理解をしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 ちょっと瑣末な議論になるかもしれませんが,氏名がおよそプライバシー情報に当たらないとは,私はやはり言い切れないのではないかなという感じがしております。   私,たまたま京都府の情報公開条例の施行に関係して,情報公開審査会のようなもの,ちょっと名称はもっと長いのですけれども,の委員を長い間務めているんで,やはり情報公開の場面でもこの手の話は出てくるんですけれども,氏名もやはりプライバシー情報だという扱いをしており,国の方の情報公開法についても,同じように解釈されているんだと了解しておりますので,氏名が絶対当たらないということまでは言えないと,もちろん住所はもっと該当可能性高いと思いますので,そこはちょっと認識がどうなのかなという感じがいたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。   ありがとうございました。この前提はともかくというか,そこはともかくとしちゃいけないのかもしれませんが,(後注)記載の規律自体については,比較的好意的な御意見が多かったように思いますので,これは引き続き,事務当局で御検討を頂ければと思います。   これで,一応第1部の民事訴訟のところについては,一通り御検討いただけたかと思いますので,ここで休憩を取りまして,15分程度ですかね,3時30分,15時30分に再開したいと思いますので,少しの間御休憩を頂ければと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 皆さんおそろいでしょうか。時間になりましたので,審議を再開したいと思います。   続きまして,部会資料27,21ページ,「第2部 民事執行」のところでありますけれども,まずは「第1 債権者の氏名等を秘匿することができる民事執行制度の創設」,これにつきまして事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   ここでは,総論といたしまして,民事執行の場面におきましても民事訴訟と同様の秘匿制度を設けることを御提案しております。また,(注2)におきましては,第1部第1の本文5の大括弧内に記載のとおり,民事訴訟における代替呼称の定めが民事執行の手続に及ぶことを前提に,執行裁判所において常に真の氏名及び住所を把握するための方策といたしまして,債権者秘匿のケースでは,債権者が自らの氏名等表示書面につきまして,債務名義作成裁判所の裁判所書記官の認証を受けた謄本を執行裁判所に提出することなどを御提案しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして,どなたからでも御質問,御意見,御自由にお出しを頂ければと思います。 ○阿多委員 先ほど説明がありましたので,確認になりますが,(注2)の謄本は,本案裁判所の書記官に認証を受けるという説明でしたが,裁判所で作成してもらうのではなくて,当事者が作成提出して認証を受けるという意味で理解すればよいのですか。 ○脇村幹事 今後の実務がどうなるかの話かとは思っておりまして,どちらもあり得るのかなと思いますけれども,恐らくその辺については今後少し,先ほどの議論も踏まえながら検討していくのかなとは思っておりました。 ○阿多委員 謄本まで要求されるのは同一性の確認という趣旨だと理解しますが,謄本まで必要かという疑問もありましたので,質問をしました。いずれにしろ,本文も含め(注1),(注2)は賛成したいと思います。全て執行裁判所を窓口とすることが合理的だと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○青木幹事 青木です。確認なのですけれども,今の御説明でも債権者秘匿の場合はということをおっしゃったかと思いますが,22ページの3段落目といっていいんですかね,なおで始まる段落は,債務者側で秘匿される場合を考えているのかとも思いましたが,債務者側の秘匿の場合もゴシックの御提案に含まれているのかどうか,確認をさせていただければと思います。 ○脇村幹事 いずれにしましても,何らかの形で結局,提出なりをしていただかないといけない,あるいは調べないといけないということはあると思いますので,そういう意味では特に区切っているものではございません。ただ,債務者側のケースについては事後的な話になってきますので,そこは実務的には少し違ってくるのかもしれませんけれども,(注)はそこまでは考えていないというか,想定して,一緒に考えていたところです。 ○青木幹事 そうすると,ゴシックのところの読み方は,この債権者の氏名等に含まれる,「等」に含まれるということになるのですか。すみません,少し勘違いしているかもしれないのですが。 ○脇村幹事 そういう意味で,書きぶりとか説明は,私たちももう少し考えてみたいと思います。念頭にあったのは確かに債権者の方,提出の方をメインに書いていましたので,ただ,債務者側をどうするかについて,もう少し詰めて考えた上で書きたいと思います。 ○青木幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 ありがとうございます。21ページの説明1に掲げられておりますように,民事執行の場面では,一つ目として,判決手続で秘匿手続をとっている場合,二つ目として,判決手続で秘匿手続をとっていない場合,又は判決以外が債務名義である場合の二つに大別できるのだろうと考えています。秘匿手続は高度な法的判断に基づき裁判所が決定されるものですから,裁判IT化をすることによって裁判の迅速化を目指すという目的に照らしますと,判決手続で秘匿手続をとっている場合には,改めて執行裁判所で秘匿決定をすることなく,秘匿措置の講じられた判決に基づいて,代替事項が記載された強制執行の申立てを受理すればよいのではないかと思いました。その際,氏名等表示書面は既に債務名義作成裁判所に提出済みのはずですので,これを書面のまま保管するという提案もあったところですが,やはり電子化した上で新たな提出を求めることなく裁判所間で連携することがITの活用法としては望ましいのではないかと考えました。その上で,執行裁判所は判決手続で秘匿手続をとっていない場合,又は執行証書のように裁判所が作成した以外の文書が債務名義である場合のみ秘匿決定をするようにすれば,効率的なのではないだろうかと考えました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○脇村幹事 最後の点だけ当局の考えを話させていただきますと,小澤委員のおっしゃっている点についても私たちも十分理由があることだと思います。他方で,今回,閲覧謄写制限を,訴訟記録といいますか,ここでいいますと執行記録に掛けることになると思いますが,結局その判断は,やはりこの執行裁判所でせざるを得ないのだろうと考えますと,その前提となる執行決定自体についてとそこはリンクしていく話とは思いますので,恐らく円滑な連携というのは大変重要だと思いますけれども,制度としては個別に作るしかないのかなというのが原案でございます。あとは今後,連携としてどういった形でうまくいくのかは,運用も含めて私たちも考えていきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,資料22ページの「第2 不動産執行」ですが,ここは資料27ページに(後注)として執行関係訴訟の取扱いということもあります。関わりますので,まとめて取り上げたいと思います。事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   被害者である債権者の氏名等の秘匿をできる限り貫徹すべく,強制競売開始決定があった場合の差押登記嘱託の場面の限度で,裁判所書記官は,真の氏名や住所ではなく,言わば手続上の氏名や住所,すなわち代替呼称や代替住所を登記所に提供し,これらの事項が登記されるようにすることを御提案いたしております。また,(後注)にも関係することでございますが,執行関係訴訟におきましては,登記されている代替呼称や代替住所を訴状に記載することにより,被告の表示をしたというみなし記載の効果が得られるものとすることを御提案しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの部分,執行関係訴訟も含めて,どの点からでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○小澤委員 不動産の権利関係の適正な公示とともに,円滑な不動産取引を促進するといった観点も含めた発言をしたいと思います。   まず,先般成立した民法不動産登記法の改正内容においても,犯罪被害者等を保護するために不動産登記簿上の住所情報を非公開とする法制上の措置が講じられております。すなわち,改正法の不動産登記法119条6項において,登記官は,登記記録に記録されている自然人の住所が明かされることにより,その人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合,又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合,その者からの申出があったときは,法務省令で定めるところにより登記事項証明書などに住所に代わる事項を記載するという規律が設けられております。まだ施行されてはおりませんので,本条の法務省令はこれから明らかになるものと承知しておりますけれども,民法不登法改正の中間試案の補足説明201ページによりますと,①いわゆるDV防止法1条2項に規定する被害者,②いわゆるストーカー規制法7条のストーカー行為等の相手方,③児童虐待防止法2条に規定する児童虐待を受けた児童のほか,④犯罪被害者のうち現住所を第三者に知られると加害者等からの報復のおそれがある者が掲げられており,非公開の方法としては,部会資料53の24ページによりますと,①登記名義人の親族,知人等の住所,②委任を受けた弁護士事務所や被害者支援団体等の住所,③法務局の住所が掲げられております。取り分け不動産登記法119条6項では,自然人の住所についての秘匿措置であり,当部会で検討している氏名についての秘匿については対象となっていないようです。そこで,特に不動産執行の場面については,法務省令を含むこれらの規制内容と,今般の訴えにおける秘匿措置との平仄を考慮する必要があると思われるという点が一つ目であります。   二つ目として,さきに掲げた内容は不動産登記の主に所有者に係る事柄ですから,不動産を売却するような際には自分の情報は開示されていなくても差し支えない立場です。しかしながら,差押債権者として,代替呼称や住所に代わる事項が記載された登記記録が誕生し,その連絡先を知るには何らかの裁判手続を経なければならないとなりますと,円滑な不動産取引に支障が生ずるケースがあるのではないかと危惧をしています。具体的に申し上げますと,一般に所有者が差押え不動産の任意売却を検討する際には,仲介不動産業者等が担保権者や差押債権者に連絡を取り,担保権の抹消や差押えの取下げ等の依頼をされます。このときに差押債権者と任意に連絡が取れないとなりますと,任意売却の道が閉ざされることにもなります。言わずもがなですが,競売手続では不動産の売却価格が相対的に低廉となって,差押債権者としても結果的に不利益を被ることがあります。一方で,連絡先として民法不登法の改正内容との平仄を合わせるという考え方もありますが,任意売却の買主候補や不動産業者等の第三者が連絡先を照会することが可能となる仕組みを考えなければならないように思っています。この際,秘匿された差押債権者の住所や氏名を差押登記の嘱託の際に法務局に通知するか否かという点も併せて検討する必要があると思っています。これにより,秘匿措置に関する事項の閲覧申請があった場合に,許可権者が裁判所となるか法務局となるかに関わってくるようにも思われます。   また,秘匿措置の内容として差押債権者の氏名を例えばAとか甲野太郎というように一見して仮名であることが分かる表記としてしまうと,当該不動産の所有者が犯罪加害者である可能性があることが公示されてしまうという弊害も考えられますので,一見しても仮名であるとは分からないような表記とするような工夫を今後検討する必要があるようにも思われます。こういった事態を防ぐための一案として,例えば,登記事項に執行裁判所の名称だけではなく事件番号も記載し,関係者が検索する端緒を明記するということもあるのではないかという意見もありました。   このように,検討事項が多岐にわたると思っていますので,引き続き連合会としても検討してまいりたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局から何かコメントありますか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。実務的な問題あるいは運用上の問題も含めて,いろいろあるのだと思います。ただ,一方で,今あった提案のうち,いわゆる秘匿する決定についてした裁判所の判断については,やはり裁判所で判断するしかない,閲覧を認めるかどうかも含めて判断しないといけないのではないかという意見も考えられるところでございますし,また,少なくとも登記差押えしますので,差押え裁判所が分かるということは,そういったところを前提になお,さらに法制度として何か組む必要があるのかについては慎重な検討を要するのかなと思っていたところでございます。いずれにしても,当局としては出させていただいたのは,基本的には秘匿決定したことの趣旨が,その登記の場面だけで何か特別のルールによって開示されるということは防ぐべきではないかとは思っていますが,一方で,それを前提としても円滑な登記の実務を実現できるのであれば,それはそれでいいのではないかと思っているところでございますので,併せて検討できる範囲でしていきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 今,小澤委員がおっしゃったことを私も思っておりまして,というのも,差押債権者の住所氏名が登記簿上は登記記録から分からないということになると,やはり今,小澤委員がおっしゃったような場合もそうですし,その不動産の賃借人とかという場合もあるかと思うのですけれども,何らかの方法で連絡を取りたいときに取れないという問題があるのではないかと思っておりまして,その辺りを小澤委員が御指摘いただいたのかと思います。   御提案の方法に強く反対というわけでもないのですけれども,御提案のような方法以外にも,債権者が第三者に委任して,第三者が執行債権者,差押債権者として手続を進めるということでも,このような不動産登記の場面で債務名義上の債権者の氏名を表示させずに手続を進めていくといったことができるのかなとも思いますので,そういったほかの方法,部会資料においてもほかの方法の言及があるかとも思いますが,ほかの方法との兼ね合いで,債務名義上の債権者本人が手続を進めていくことの必要性といったことも考慮して考えていくとよいのではないかと思いました。   すみません,ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 私も小澤委員の指摘,さらに青木幹事の発言した点を気にしています。不動産競落の最高価買受申出人を考えていまして,例えば,近隣住民が暴力団に対して何らかの形で債権を取得して,暴力団事務所を差し押さえる場面において,暴力団事務所が競売にり,近隣住民が一緒になって差押債権者が最高価買受申出人になるケースでは,最高価買受申出人になることは債務名義と連続性はないわけですが,そのような場合,代替呼称で入札に参加できるのかと思うのですが,いかがですか。例えば,警察に対する反社の照会なども含めて,どういう手当てを考えているのか,紹介いただけますか。 ○脇村幹事 私が付いていけていない可能性があるので,間違ったというか,とんちんかんなことを言うかもしれませんけれども,基本的に今回のスキームにつきましては,裁判所に対して申立て等をする人全般について秘匿をすることを前提にして,それを貫徹することでできないかと思っています。そういった意味で,個々の手続において申立人になるようなケースについてはそういったことで手当てするということで,逆にその情報は,裁判所で囲ったものについては基本,外に出さないということを前提に全般的に考えてはどうかとは今,思っていたところなのですが,それだと答えにはなっていないのですか。そこは申し訳ないですけれども,間違っていたらすみません。 ○阿多委員 私の例は,最高価買受申出人が差押債権者自身だという場合で,そうすると,入札の際に名前を顕名しなければいけないとすると,債務者に債権者の名前を知れてしまいます。そうすると,入札自体を代替呼称でできるのか,さらには,裁判所が警察署に照会をしなければいけないという場面で,その代替呼称を照会するというのはあり得ないと思うものですから,何らかの手当てが必要ではないか,そういう趣旨の質問です。 ○脇村幹事 そういう意味では,入札全般についてもこれが使えるかどうかも含めて,どちらかというと入札も一種の申述ではないかと思っていましたので,この秘匿決定がそのまま使えるのではないか,もちろん別のところで申立てをして秘匿決定した場合に,それを流用するというか,そこでいう代替呼称で使うことも含めて考えられるのではないかと今,思っていたところなのですけれども,それでいいのかどうかも含めて,また考えていきたいと思います。 ○阿多委員 細かな質問で申し訳ありません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょいうか。よろしいでしょうか。幾つか御指摘を頂いたかと思いますので。 ○山本(克)委員 第2の1の説明1では強制競売と書かれていますが,当然これは担保不動産競売の場合にも同じような問題はあって,それは同じように扱うという趣旨ですよね。その点をまず確認させてください。 ○脇村幹事 ありがとうございます。恐らく担保権実行のケースについても基本的な法制度としての枠組みは一緒だと思っていますが,一方で担保のケースについては,抵当権に登記が,抵当権に限らずかもしれませんけれども,登記がありますので,それを前提とした記載と併せて,本当の名前を書くか,本当の名前というか,本当の住所かもしれませんけれども,書くかどうかについては,この秘匿の制度が効いてくるのかなとは思っていました。 ○山本(克)委員 181条1項3号の開始文書が出た場合にはどうするかというのは,かなり難しい問題なのだろうと思うのですが,1号,2号の文書であれば,また別の扱いになるのかなという感じがしたということで,その辺は立法技術的な話のような気がしますので,あれですが,これは執行文付与を受けた確定判決を提出して配当要求をする場合はどうなのでしょうか,その場合も秘匿ができるということなのでしょうか。 ○脇村幹事 基本的に秘匿決定は別途できると思ってまして,そういう意味では第1が効いてくるのだと考えておりました。 ○山本(克)委員 その場合,配当期日に配当異議を申し出なければいけなくなるのですが,配当異議の事由があるかどうかということを他の債権者表に載った債権者が判断できるのかどうかという点はどうなのでしょうか。そこが少し気になるところですけれども,いかがでしょうか。 ○脇村幹事 そういった意味で,疑義がある,分からないということであれば,念のため配当異議を出した上で別途検討するということもできるのかなとは思っていたところでございまして,そういう意味では,そこら辺も含めて少し考えたいと思います。 ○山本(克)委員 いわゆる戦略的配当異議を認めるということですね。分かりました。でも,それは少し抵抗を感じるところではありますけれども。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかはよろしいでしょうか。   それでは,続きまして,部会資料23ページ「第3 債権執行」のうち「1 第三債務者による差押債権者の識別」,この点について事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   被害者が債権者である場合に,その氏名等の秘匿をできる限り貫徹すべく,債権差押命令が発せられる場面におきまして,債権者の選択により,第三債務者に対して執行供託を義務付けるという規律を設けることを御提案いたしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして御質問,御意見を自由にお出しください。 ○青木幹事 ありがとうございます。部会資料での御説明のとおり,取立てをしようとする場合に,取立てをしようとする者とその差押命令に記載された債権者との同一性を確認できるようにする必要があるのですが,その差押債権者においてその氏名等を開示しないまま債権執行を可能にすることの必要性はよく分かり,そのための方法として,裁判所を介して供託所から払渡しを受けることができるようにするというのも十分考えられることだとは思います。ただ,裁判所が第三債務者に対して供託を命ずることには次の二つの疑問があります。   一つは,差押命令は差押えの対象となる債権の存否や内容を審理することなく発令されるものであり,その存在を前提に裁判所が供託を命ずるというのは,表現の問題なのかもしれませんが,適切ではないように思いました。これに対して,後で出てくる取立訴訟が提起され,請求を認容する場合には供託の方法により支払を命ずる判決ということでよいかと思います。   二つ目は,差押命令の送達された第三債務者は,156条1項で供託をすることができるところ,御提案のように裁判所が供託を命ずることにはどのような法的な意味があるのかがよく分かりませんでした。債権者が競合した場合におけるいわゆる義務供託の場合のように,第三債務者に供託を義務付けるということなのかもしれませんが,このことの意味は,差押債権者への支払を禁止するということにあるように思われ,今検討している差押債権者の氏名等を開示できないという場面には妥当しないように思われます。差押債権者による取立てに代わるものであるということであれば,その差押債権者による実体法上の履行の請求の効果を生じさせるということなのかとも思いますが,もしよろしければ,裁判所が供託を命ずるということの効果について御教示を頂ければと思います。 ○脇村幹事 ありがとうございます。直接的には義務供託そのもののことを考えておりました。現行法にも同じように義務供託の規定があります。ただ,幹事がおっしゃっている,趣旨が違うのではないかということかもしれませんが,そういった意味で借用できないかというところを少し考えていたところでございます。義務供託に反した場合には義務を履行しろという訴訟も提起できるというのが従前の解釈かと思うので,そういったことで供託してくださいということを命じることで,正に裁判所の中でできないかということを考えているのが原案でございます。 ○青木幹事 私の方でも考えてみたいと思います。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 これは,執行債権者が氏名等を秘匿した場合には,基本的に転付命令は諦めてくださいということになるのでしょうか。その辺,教えていただければと思います。 ○脇村幹事 基本的に今提案しているものは,現在あるものを否定するというよりは,それが使いたくないケースであってもこれも使って,オプションを増やすという方向で考えておりまして,もちろん自分の名前を明らかにした上でやりたいということを何か妨げるつもりはないですけれども,自分の名前を出したくない,あるいは住所を出したくない,名前が中心だと思いますが,そういったケースについては供託の仕組みを使っていいですよということを思考しているものでございます。逆に,それ以上のことは特に否定するものではないのかなと考えています。 ○山本(克)委員 いや,転付命令は事実上できなくなるという解釈になるのだろうかということをお伺いしたかったのですが,それともう1点,やはり私も供託を命ずるという裁判については何か違和感があって,命じなくても,秘匿する旨の裁判がされたら,それを第三債務者に通知することとし,その効果として156条1項の供託が義務化されるというような仕組みでもいいのでは,命ずるの意味がもう一つよく分からないので,命ずる裁判が必要だという感じが余りしないという感想を持っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。前段の点について。 ○脇村幹事 前段につきましては,委員がおっしゃったように,そういう意味では,そちらの方向ではなくてこちらの方向で解決できないかと思考したのは間違いないと思います。あと,命ずるところにつきましても,一律に義務化しないことをどう表現しようかというのに苦心しておりまして,それで,本当はその申出があって,申出があるケースについては義務付けるのですよということを命ずるでない表現でできるかどうか,少し模索したいと思うのですが,やりたかったことは,命じたいというよりは,そういったケースだけ義務付けられるというのを書きたかったのですが,少しうまく,また考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 逆の方向の質問かもしれませんが,債権差押えの申立てがあり発令された場合において,債務者は,そもそも権利供託もできる状況にあります。先ほど山本克己委員からは,秘匿する旨の裁判がされたら,それを第三債務者に通知することの効果として,156条1項に定める方法による供託命令を発するという提案があったのですが,供託命令と権利供託はどのような関係になるのですか。申立ての時期や,さらには効果も含めもう一度説明いただけますか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。基本的に,今使われている現行法の仕組みが原則効いてくることは当然の前提に考えておりまして,この債権者執行したケースについては取立ても,もちろん証明したのが前提かもしれませんが,できますし,権利供託も当然できると考えていたところでございます。ただ,最終的に今のスキームを前提にしますと,第三債務者に自分の氏名,秘匿された情報を開示しないといけないという事態が生じてしまうのはどうしても避けたいということ,そういったニーズがあるケースに限っては,時期,いつ申立てするのかについては,別に同時でなくても私はいいと思っていますけれども,申立てをしていただいた上で供託してくださいということを言えることで,供託すれば,あとは裁判所の中で,法務局も含めて,動かすことができますので,そういった仕組みを作ってはどうかと考えています。ですから,そういう意味では権利供託とかも含めて,現在の仕組みは基本的に生きてくるということを考えていました。 ○阿多委員 申立ての時期について,命令申立時とは限らないということも含めて理解しました。少し考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。 ○垣内幹事 御質問なのですけれども,先ほど山本克己委員とのやり取りの中で,転付命令を利用することは実際上困難になるという前提での御発言があって,事務当局もそのような御理解というふうに,聞いていて理解したのですけれども,転付命令が困難になるというのは具体的にはどのような御趣旨でしょうか。私,不勉強でお恥ずかしいのですが,念のため御教示いただければ有り難いと思います。 ○脇村幹事 転付命令を受けて,その後の実行などを考えた場合に,名前を結局何か明らかにせずに最後までできるのかは難しいのかなと私は思っていたという限度なのですけれども,恐らく転付命令を受けるまでは行けるのかもしれませんが,受けた後は難しくなるのではないかという理解で私は,すみません,答えたつもりでした。申し訳ございません。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。最後まで名前を隠してできるのかという。 ○垣内幹事 代理人の弁護士等がいて,第三債務者としてもきちんと代理権があるということが分かると,例えば裁判所から証明書をもらってとかいうことで,任意に取立てに応じれば,それはいいかもしれないけれども,払えないといった場合に訴えを提起することとなり,その訴えを提起したときに,本日の資料の第1でいっている要件を満たすかというと,それが満たされないのではないかと,そういう御趣旨に理解すればよろしいですか。 ○脇村幹事 そういう意味で,取立てと同じような仕組みをそのままスライドした形になると思うのですが,それを何か,取立てを含めてそうですけれども,いじってできなくするというよりは供託をという意味では,そちらを手当てしたという趣旨でお話しさせていただいたつもりでした。すみません。 ○垣内幹事 どうもありがとうございます。了解いたしました。 ○山本(克)委員 今の点なのですけれども,私は,権利の帰属者になるわけですね,執行債権者が差し押さえられた債権の,それが,誰が差し押さえたか分からないという事態になると,その執行債権者の債権者との関係でも問題が生じ得るのではないかと,つまり,責任財産性というものが判断しづらくなるというような問題もあるのではないのかと。つまり,差押債権者としての地位と権利者としての地位は別なので,権利者としての地位のところまでそういうふうな秘匿というものが及んでしまうことというのは,少し慎重に考えないと,執行逃れができる財産を作ってしまうことにもなりかねないと思っています。それともう1点,今,事務当局からおっしゃっていただいたことも私は考えておりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   本邦初公開的な制度なので,今いろいろ御指摘があったので,引き続き考えていっていただく必要があろうかと思いますけれども,大きな方向性というか,やりたいことについての大きな御異論はなかったようには思いましたけれども,制度的な仕組みはまた更に精緻化していただく必要があろうかと思います。よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,25ページ「2 債務者の財産を探索するための秘匿決定の取消し等」です。これにつきましては,次の26ページ以下の「第4 債務者の財産状況の調査」と密接に関わるところがございますので,これらをまとめて取り上げたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   被害者が債務者である場合には,第三債務者に対して発せられる債権差押命令や,第三者に対して発せられる情報提供命令における債務者を特定する事項は,飽くまで債権者がその申立書に記載した債務者の情報とし,裁判所のみが把握している債務者の真の氏名や住所は,これは秘匿の原因とされる法益侵害のおそれが解消して要件欠缺により秘匿決定等が取り消されない限り,第三債務者や第三者にも提供しないということを御提案いたしております。他方で,財産開示期日におきましての債務者の陳述義務につきましても,現行法の規律を維持しております。その陳述拒絶が正当な理由に該当しない限り,債権者は一定の制裁の下,債務者から債務者財産の情報が得られるというようなことになっております。 ○山本(和)部会長 それでは,この部分,どの点からでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 質問です。説明いただいた26ページの財産開示の(注),口頭でも触れられた点ですが,2行目から末尾までの,正当な理由の有無についても,当該事件に関する情報の目的外利用の制限の規定が存在することを前提に,現行の同法の規律を維持する,という部分についてかみ砕いて説明いただけませんか。 ○藤田関係官 御質問ありがとうございます。この正当な理由というものをこの秘匿の原因との関係でどのように考えていくのかというのは,非常に難しい問題だと捉えております。ここの(注)に記載しております一つの考え方といたしましては,目的外利用制限というような規律がございますので,これがあることを前提に,例えばDV等の加害者に対しても一定の自分の住所が突き止められ得るような財産情報も開示しないといけないと,つまり,それを拒絶することについては正当な理由がないのだというような考え方があり得るかとも思っております。他方で,そのような目的外利用制限のような規律では足りないほどに強度の法益侵害のおそれがある場合に,これはまた陳述拒絶が正当な理由に該当し,制裁が加えられないというようなことになり得るとも思っております。最終的になかなか,事案ごとに決まるような部分はあるとも存じますが,どのような類型の場合にどのように考えるべきかという,この正当な理由という規範的要件につきまして,もし御意見等を頂けますようでございましたら有り難いと考えております。 ○阿多委員 今の説明では,目的外利用の制限の規定が存在することを前提にと書いてありますが,どちらに結論が傾くかはまだ分からないというか,どちらの可能性もある説明と理解をしました。しかし,そもそも目的外利用の制限は,財産情報を当初の有名義債権者がその債権回収以外の目的では使えないという趣旨ですから,債権者が債権回収の目的とは全く関係のない事実行為としての加害のおそれは,目的外利用の制限でコントロールできる話ではないと思うのですが。有名義債権者は,債権回収の理由があれば,それを理由に情報の取得が可能となるわけですが,取得した情報を目的外に使用してはならないからといって,債務者である被害者への暴行や傷害が回避できるという話にはならない,全く別の話だと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。そういう意味で,すみません,また(注)の書き方も含めて,考えたいと思います。私たちの今の到達点といいますか,御議論いただこうと思っていたことは,正に委員がおっしゃっていたとおり,一定の陳述義務があること自体は,これは否定するのは難しいだろうと,恐らく陳述する際には,基本的には自分に害がないような形で情報をうまくきちんと出せばいい,例えば,現住所を出さない前提で,預金口座ですと口座番号を言ったり,そういったことで義務を果たすべきではないか。ただ,一方でどうしてもぎりぎり,言わないといけないケースが生じてきたケースにどうするか,正に御議論だと思います。恐らくその考え方として,目的外利用は少し置くとしても,本当に生命身体等に何かあるケースについて,やはりそれは正当事由ではねるというか,正当理由があるというふうな考え方もあるでしょうし,そこはまた御議論いただければいいかなと思っていたところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小津幹事 事務当局に御質問させていただきたいと思います。債務者の住所が秘匿されている場合に,債務名義に何らかの代替住所が記載されたとして,その債務者に対して債権執行を行おうとする場合に,管轄がどこになるのかということについてお伺いします。具体的には,その代替住所の記載地をもって管轄が認められるのかについて,お考えを承りたいと思います。 ○脇村幹事 ありがとうございます。代替呼称,代替住所は飽くまで申立書等の形式的な記載との関係で有効ではないかと思っておりまして,恐らく管轄は,本当にそこが住所にあるかどうかという正に実体的な問題かと捉えておりました。そういったことからしますと,今の御質問の関係では,恐らく代替住所,代替呼称があったとしても,それで何か管轄が決まるというのは難しいのかなと思っていたところでございます。 ○小津幹事 その場合,どの管轄裁判所に債権執行の申立てをすればよいのか,あるいは債務者の財産状況の調査の申立てをすればよいのかについて,事務当局はどのような仕組みを考えておられるのかを承りたいと思います。 ○脇村幹事 今の実務でも,DV支援措置がされて住民票が開示されていないケースについて,運用上いろいろな工夫がされているのだろうと思っていますが,私たちが今考えていますのは,どうしてもしようがない,でないと手続が進まないというケースについては,その限度で一部開示もあり得るのではないかと考えていたところでございます。そういう意味では,大阪府とか京都府とか,そういった一番上のところまで,つまり管轄がはっきりするところの開示もケースによってはあり得るのではないかということで対応できないかと今のところ考えているところでございます。 ○小津幹事 事務当局が御説明いただいた一部開示というのは,部会資料27の第1部民事訴訟の第4・2で提案されている,攻撃防御方法に不利益を生じるおそれがあるときは,裁判所の許可を得て,閲覧等の請求ができるという規律を念頭に置いての御発言だったのでしょうか。 ○脇村幹事 はい,そうですね。もちろん解釈としては,その限度で当然,支障がないということが前提だとすると,要件欠いてということでも読めるのかもしれません。どちらもあるのではないかと思っていました。 ○小津幹事 その規律に乗せるとすると,部会資料によれば閲覧を認めてよいかどうかの裁判所の判断に当たって,秘匿対象者の意見を聴取するという御提案を頂いており,秘匿対象者に執行の申立てが来ると予期されてしまいかねないように思え,その手当ても含めてどのようにするかを今後御議論いただいた方がよろしいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○佐々木委員 これは経団連に参加している金融機関からの意見ですが,これは債務者の財産を探索するための秘匿決定の取消しというよりは,その前提となる考え方といいますか,債権執行の手続で債務者の住所が秘匿された場合の扱いについてですが,これは資料の26ページの中段の,ところでと,以上はと書いてあるところに記載されていることですけれども,裁判所は第三債務者に対しても債務者の住所を秘匿するということを前提としていると書かれておりまして,ただ,金融機関からしてみると,債権者の住所と氏名は,この差し押さえられた債権識別のための必須の情報ではありますので,そもそも第三債務者に対しては債務者の住所等を開示する仕組みを設けていただきたい,そうでなければ,債務者を特定できる他の情報を当然提供されるようにしていただきたいということでございましたので,お伝えさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 この債務者の財産を探索するための措置,あるいはその財産開示や第三者からの情報取得の制度の利用の関係で,特に債務者の氏名や住所が秘匿されている場合にどう処理するのかということについては,日弁連の中でも随分検討したところですけれども,特に第三者絡みの手続においては,第三者に対して必要な情報は開示されるようにした上で,第三者にその情報に関する守秘義務を課すという考え方が提示されていたところです。   今回の部会資料では,そのような第三者に対する守秘義務の付加という考え方は特に取り入れられていないところですけれども,察するに,これは事務当局において検討した上で,それは難しいのではないかと判断されたのだろうとは思うのですけれども,どういった御検討がなされたのか御説明いただけるところがあれば,いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○脇村幹事 ありがとうございます。正に委員がおっしゃったとおり,パブコメ等でもそういった関連する御意見を頂いていたと思いまして,そういう意味で,部会資料で少しそういったことを検討した経緯を書かせていただいたところでございます。元々この第三債務者との関係で差押えをする際に,どういった情報で特定するのかといったことは,従前から民事執行の一つの論点としていろいろ議論されていたところだと思います。ただ,現在の部会資料は差し当たり現行法,現行実務を前提としてどうするかという前提で,まず考えた上でのものになりますが,おっしゃるとおり守秘義務を課した上で第三債務者にだけ開示するということも一つの選択肢として考えられるとは思っていたところでございます。ただ,一方で,第三債務者であることによって今よりも加重した義務を負わすということが本当に正当化できるのか,あるいは,そういった場面でそういった義務を課したことで,漏れないということを前提に,裁判所から現住所の情報を提供するといったことを制度として作った場合には,恐らくその後,債権者の方から,第三債務者がその情報を持っている,あるいは,預金ですとその口座を持っているということが分かりますので,そういった関係が本当にいいのかどうかについては慎重に検討すべきことではないかということから,差し当たりといいますか,現時点ではなかなか難しいのではないかと思ったのが正直なところでございまして,書いたところでございます。もちろん今後の財産開示の在り方も含めた問題全般について,様々な改正すべき点があるのではないかという御意見も別途,いろいろ頂いているところでございますので,そういった関係で,今後いろいろ検討していくべき課題であるとは思っているところでございますが,差し当たりはそういったことで,部会資料としては提案していないというところでございます。 ○日下部委員 ありがとうございます。悩みのポイントは理解をしているところです。今の部会資料ですと,財産開示や第三者からの情報取得については,既存の規定が用意している枠内で対処することで,ある意味,割り切りかもしれませんけれども,済ませるという考え方が示されていて,加えて,攻撃防御のために必要という観点ではないですけれども,財産を探索するために必要だという場合には,それを理由とする秘匿決定の取消しや秘匿事項記載部分の閲覧ということも認めることが適切かどうかという問題提起がされているものだと理解をしたところです。最初に部会資料を読んだときに,少し理解が難しいと感じたのですけれども,今までの御議論で,事務当局の悩みのポイントであるとか,今の部会資料の中での提案がどういう思考に基づいているのかというのはよく理解できたと思います。引き続きまだ考える機会もあると思いますし,そのように私もしていきたいと思っております。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 最高裁の小津幹事からの質問に対する事務当局の答えを聞いて,とても問題だなと思っています。まず,実務において債務名義作成の段階では,現状の提案の代替住所ではなくて,敗訴がほぼ確実な場合は和解であっても,判決であっても,管轄裁判所だけは定まるような形で当事者,住所の表示をするなどで手当てをしています。それが改正案で代替住所として議論されているわけですが,代替住所は判決の形式的要件であって,別途管轄裁判所を定めるために,秘匿事項を一部開示する,そのための手続で有名義の債務者に接触するとなると,債権差押えや,第三者からの情報取得における密行性の問題が飛んでしまって,接触した途端,財産が隠されるリスクが生じます。秘匿者の利益を守るのであれば,むしろ代替住所等のまま執行事件の管轄裁判所を指定し,執行も完結していただかないと,執行の実効性が阻害されてしまいます。私は先ほどの最高裁への回答が,まさかそんな答えではないと思っていて,意外でして,密行性をいかに確保するのかということはお考えいただきたいと思います。   それとの関係で,財産開示は,申立人に提供される財産目録にどの範囲で財産情報を記載するのかについては債務者自身でコントロールできる情報になりますし,現在居住している不動産の所在を記載すればそこにいるのが分かってしまうというときに,それを書くのか書かないのかは刑罰のリスクを負ってでもコントロールできるわけです。他方,第三者からの情報取得は,制度設計の際に3点セットという形で,債務者の振り仮名,生年月日及び住所が検索のためには不可欠で,金融機関等は預金情報を特定できないと発言されてきました。そうすると,現状の秘匿措置,例えば,住所の秘匿になれば,金融機関は回答ができないという形にならざるを得ないと思いますが,それは仕方ないと判断をするのか。先ほどの一部取消しするのか,一部取消しにするにしても,債務者に意見を聴いた途端,預金が動かされるおそれがあるわけで,制度設計については,バランスも含めて議論いただく必要があると思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。阿多委員がおっしゃっていた密行性について,私たちももう少し考えたいと思っているところです。先ほど取消しと言いましたのは,一つは訴訟の方の取消しの活用も考えられるかなと思いました。一方で,この執行裁判所での調査嘱託等も考えられるところでございまして,そちらでの新たな職権による秘匿決定等をする際に,一部だけ残すというのもあるかと思っていたところです。ただ,そうすると,見込みでここかという申立てをした上で,そういうことをするということになりますので,運用上,例えば訴訟段階で給付命令,給付訴訟については一部だけ取消しといいますか,そもそも最初から一部についての開示は認めるといったことも含めて考えられるかもしれません。少しその辺は,組合せも含めて,私たちの方でも改めて考えたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。 ○大坪幹事 民事執行の話ではなくて,民事保全の話でもよろしいですか。   日弁連の意見では,民事保全手続にも秘匿の制度を認めるべきということになっているのですけれども,この点,民事保全法の7条で民事訴訟法が準用されるということで,民事保全法にも秘匿の制度が使われることになるということでよろしいでしょうか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。私たちも今後,整備的な話について今,検討しているところでございますが,民事訴訟,民事執行の合わせ技に近い民事保全についても同様の制度を導入することは考えているところでございます。そういう意味では執行の議論が役に立つのかなと思って今,考えているところでございます。 ○大坪幹事 是非準用していただきたいのですけれども,何が準用されるかの確認をさせてください。部会資料27の1ページの5項に関し,場合によれば保全事件が,民事訴訟よりも先行することが多いと思うのですけれども,保全事件の中で秘匿決定が出て,それで代替呼称などが定められることになると思いますが,第1の5の規定からすると,保全事件で定められた代替呼称等を記載すると訴状でも記載したことになるということになりそうです。その上で,第1の2項のところの氏名等表示書面も裁判所に提出するということになるかと思うのですが,そもそも1の秘匿決定の申立てをしないと意味がないと思われますので,準用されるものとしては第1の1が準用されて,本訴でも秘匿決定の申立てをして,それに対して秘匿決定がされて,1から6までの一通りの規律になるということのように思われます。そうすると,5項のみなし規定の中の,強制執行もそうですけれども,仮差押え,仮処分について,この手続を記載したときには,氏名,住所等を記載したものとみなすという規定は,余り意味がないというか,必要がないのではないか。規定するにしても,同じ規定があった方が手続としては分かりやすいのかもしれませんけれども,法律で定めるようなことではないように思いました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。そういう意味では,先ほど山本委員からも仮差押えの記載,ございました。元々念頭にありましたのは,仮差押え事件などで,例えば起訴命令等をされたときに,この起訴命令等でされた,そういった事件について,元の訴訟でやったケースについて,例えばAさんとしてやりましたというときに,それを説明すれば足りるぐらいのことが,そういったことができないかなと,そういう程度で考えていました。一方で,結局,仮差押え,仮処分が先にされたケースについて,それは仮差押え,仮処分の代替,この決定の代替呼称は定めていますけれども,当該本体の訴訟についてまた別途問題となるというのは,それは当然そうだろうなと思っていましたので,もちろん山本委員がおっしゃったとおり,強制執行の場合は正に判決書といいますか,判決が前提になっていますので,強制執行の方が元の判決の代替呼称の活用場面がかなり広いといいますか,それを引っ張っていけばいいというような違いがありますので,仮差押え,仮処分の書き方については少し,そういったことも考える,違いがあるということは今,十分理解したところでございます。併せて考えていきたいと思います。 ○大坪幹事 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,以上で「第2部 民事執行」のところは終わりまして,続きまして,資料28ページ「第3部 家事事件及び人事訴訟」の,まず「第1 申立人等の氏名等の秘匿」,これについて事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   家事事件手続法では,審判書を除きまして,当事者であっても一定の事由がある場合には記録の閲覧を不許可とすることができる制度が導入されております。そこで,家事事件手続における秘匿制度の大枠といたしましては,民事訴訟における第1の秘匿決定と代替事項の定め,そして,これに対応する第4の取消し,そして,設けるかどうかという点は御議論いただきましたけれども,第5の証人の氏名等の秘匿,これらの規律を設けることといたしまして,第1部の第2や第3に相当する制度は設けないものとすることを御提案しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この点,いかがでしょうか。民事訴訟の準用といいますか,の範囲などの話ですけれども。 ○山本(克)委員 第1の1では本籍というのが出てくるのですが,本籍を家事事件手続の申立書等に記載するということがそもそもあるのか,そういう書式は作っておられるのかもしれないですけれども,法律又は最高裁判所規則上の根拠があるのでしょうか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。恐らく直接,本籍という単語が出てくるのは少ないのではないかというか,私の記憶にある限り,ないのですけれども,離婚訴訟等においては,その後の戸籍への記載の関係で実務上は必須なのかと思っています。そういう意味では,法的に言えば,それは多分,当事者を特定するための事項として,特に戸籍のことを考えると特定事項としては必要という整理で,実務上はされているのではないかと理解をしていました。 ○山本(克)委員 私はもう本籍をそもそも申立書に書かないということにする方がいいのではないかという感じがする,一般に本籍については,必要がある場合については別の書面で出させるとか,申立書以外にしてしまうというのも手であるのかなという感じがしております。本籍が必要である趣旨は分かっているのですけれども,それともう一つ,親権剝奪のような場合には,剝奪の対象となる親,申立人以外の者についても,やはり本籍は必要なのでしょうか。というか,本籍自体がある意味,センシティブ情報として現在扱われているので,本籍についてはこの枠組み以外の枠組みが本来必要なような気もするので,少しお伺いしました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。恐らくそういう意味では,家事の議論というのは,書かなくていいケースは書かなくて済む方法があるのではないかということをある程度前提にした議論にはなっているところでございます。そういう意味で,あえて民事訴訟の申立てのところだけ特出しして準用することもできるかなと思っていまして,部会資料としては,正に委員がおっしゃった特定事項,審判事項といいますか,審判を特定する際の本籍などについては省略するという運用だってあるのではないかということを前提に,あえて民訴とは違うものを入れないということにしていますが,逆に,民訴にあるものについては,入れても別に害でないかということで書かせていただいたところでございます。恐らく今後,本籍をどう書いていくかについては,法律上は,おっしゃっているとおり,ただ,申立書上は一応,特定しないといけないというのは多分,前提になっていますので,書かざるを得ないというのが多分,今までの実務だったと思うのですけれども,運用上の工夫というのは場合によっては今後あるのかもしれないと思っています。 ○木村(匡)関係官 ただいま本籍の関係で御議論があったところで,少し補足等させていただきたいと思います。審判の告知後,又は確定後に行われる戸籍記載嘱託や後見登記嘱託の事務においては,家事事件手続規則76条4項の戸籍の記載の原因を証する書面,又は同規則77条5項の登記の事由を証する書面として審判書謄本を嘱託書に添付しており,戸籍事務管掌者に対する通知においても実務上,通知書に審判書謄本や調停調書謄本を添付することが一般的です。そのため,戸籍との結び付きを示す情報,あるいは後見登記事項として,本籍を審判書に記載し,またその前提となる申立書に記載していただくことが現在の実務上,一般的となっております。   このような実務を前提とすれば,本籍を秘匿の対象とする必要性はあると思われますが,この点については,戸籍事務管掌者である市区町村及び法務局が審判書に本籍を記載しなくとも,戸籍事務あるいは後見登記事務上問題ないということであれば,本籍を申立書及び審判書に記載しないということもあり得るものと考えられるところです。その場合には,戸籍記載嘱託,後見登記嘱託,あるいは戸籍通知の際に,裁判所からどのような情報をどのような形で戸籍事務管掌者,あるいは法務局に提供すればよいのかを御整理いただくことが必要になってくるかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○山本(克)委員 すみません,今の点,よろしいですか。私が言ったのは,情報が必要ないという趣旨で申し上げたのではなくて,申立書とか審判書そのものに書くのではなくて,別書類として提出させるようにして,別扱いにするという実務でやった方が後々の本籍の処理がやりやすいのではないかということを申し上げただけです。ですので,今おっしゃったことは全て理解しているつもりで申し上げましたので,単に書面を分けろというだけの話を,分けた方がいいのではないかということを申し上げただけです。 ○山本(和)部会長 分かりました。その点を含めて引き続き,少し事務当局で検討をお願いしたいと思います。   続きまして,部会資料29ページ「第2 申立人の氏名等の秘匿」,この点につきまして事務当局から,まず説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   民事訴訟における秘匿制度との主な相違点は次のとおりでございます。申立人の住所等が成年被後見人等の審判を受ける者となるべき者に閲覧されると申立人に法益侵害が生ずるおそれがある場合,このような場合にも秘匿決定を得ることができるものとしている点でございます。他方で,審判を受ける者となるべき者の住所等が当事者に閲覧されると審判を受ける者となるべき者に法益侵害が生ずるおそれがある場合,このような場合に秘匿決定を得ることができる規律を設けるべきかにつきましては,部会資料ではそれを採用することを御提案いたしておりますけれども,別途の考え方につきましても記載しており,この点につきましては御審議いただきたく存じます。   なお,家事審判手続における子の住所等が当事者に閲覧されると子に法益侵害が生ずるおそれがある場合に秘匿決定を得ることができる規律というのは,こちらは御提案していないというようなことでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,第2の部分について御議論いただきたいと思います。 ○大坪幹事 民事訴訟の方の証人の保護をどのような制度趣旨で認めるかというところに関わるのですけれども,端的に犯罪被害者の保護ということを正面から出すのであれば,その前提で,ほかの家事事件の手続についても,犯罪被害者になり得る人をいかに保護するかという形で保護の在り方を検討すべき必要があるのではないかと思っております。その点で,部会資料では子供の関係では現行法の規律で対応が可能ということで,特段の制度を設けることはしないということではあるのですけれども,それで十分かどうか,運用では対応できない子の身体,生命に危険を及ぼすような,犯罪被害者として報復を受けるような,そういうこともあり得るので,そういう意味では子についても保護の対象とすべきではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○脇村幹事 脇村です。先ほど私どもの説明で,受ける者については,本文自体は特段手当てしないといいますか,を提案しているということを少し,ただ,別途検討するということをお伝えさせていただく,少し説明が本文とずれていたので,そこだけ説明させていただきます。その上で,子の取扱いについては正に,従前から家事についての記録の閲覧謄写の議論は,正に子供を中心にずっと議論をされてきたと思います。そういう意味では,従前の家事事件手続あるいはその前の平成16年の人訴法の見直しの際にそういった点の手当てはされていたのかなと思っておりまして,特に家事事件手続法は,申立書に書いたとしても,それは場合によっては相手方に送らなくていい規定ですとか,そもそも閲覧謄写を認めないということも入っているところです。そういう意味で,ここについては民訴法で入れているものについてあえて外すこともないとは思いつつ,それを更に拡張して今の制度と別途置くことについて必要があるかどうかという観点から記載させていただいているところでございまして,当局的には,そこまでしなくていいのではないか,逆に言うと,そうしないといけないのだとすると,これまでの多分,改正が不十分だったということかなという気はしておりますので,もちろん,更に言えば,この家事,人訴ケースについては,正に犯罪被害者という議論もあるのですけれども,やはり基本的に当事者,子供において結局,当事者秘匿でございますので,当事者は身内であるケースがほとんどでございまして,そういった意味では本当の意味の氏名秘匿は恐らく余り問題にならないといいますか,不特定というか,そういった問題は起きなくて,恐らく住所ぐらいなのかとは思っています。恐らく,子供も現住所の秘匿がどうかが一番問題になってくるとすると,この新しい規律でなくても,従前でいいのではないかと。それは従前の改正を知っているからそう思っているかもしれませんけれども,そのような感じで考えています。もちろん幹事がおっしゃっているとおり,その問題について必要か,過不足がないかについては,改めて私たちも考えていきたいとは思っております。 ○大坪幹事 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかに,この部分について,いかがでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。それでは,資料32ページの「第3 秘匿決定の取消し」,「第4 証人の氏名等の秘匿」,少し問題としては違う問題のような気もしますが,まとめて取り上げたいと思います。事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   民事訴訟における秘匿制度との主な相違点は,第三者に秘匿決定の取消し申立権を付与していないという点でございます。こちらは家事事件の記録につきましては,第三者に訴訟記録と同等の閲覧請求権が認められていないということを理由としております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。33ページの(後注)のところはまだ残してということでありまして,第3と第4に限ってということですが,基本的には民訴並びなのだけれども,今,藤田関係官が言われた点が違うということかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○日下部委員 第3について質問をさせていただきたいと思います。   今御覧いただいていた部会資料32ページの第3の1のところでは,家事事件の記録について,要件欠缺による秘匿決定の取消しの申立権を当事者には認め,第三者には認めていないというものと承知しておりまして,その理由として,第三者については家事審判についても家事調停についても,記録の閲覧等の許否の判断は裁判所の裁量に委ねられているということが挙げられているかと思います。ただ,同時にこの記載のところでは,当事者による記録の閲覧等に関しても,家事調停については許否の判断が裁判所の適正な裁量に委ねられているということも言及されているかと思います。そうしますと,家事調停について当事者に取消しの申立権を認めるべき理由があるのかが疑問に思われるところなのですけれども,家事審判と同様にこれを認めているのはなぜなのかということを御説明いただければと思います。一応,私が察するに,家事事件手続法にはうといのですけれども,その254条3項で,当事者による閲覧等に関しては許否の判断が裁判所の裁量に委ねられていない例外的な場合があるということを踏まえた上での御判断なのかとも思っているのですが,理由を,事務当局のお考えをお聞かせいただければと思います。 ○脇村幹事 調停の申立権付与していることかと思います。最終的にどこまで権利性を認めるのかというのはなかなか難しい問題だとは思ったのですけれども,家事調停のケースでも当事者と第三者,確かに調停のケースでそこまで区別しているのかという議論はあるのですが,やはり当事者である以上,要件欠缺のところまで申立権がないというのができるのかどうかが少し,すみません,説明できるのかなと思ったのが,結論的にはそういったことになっておりまして,その辺も完全に,ただ,申立権がないとすると,恐らく裁量で見せるという規定を置くかどうかという話になってきたりしまして,どう作っていいのかが少し難しい問題があるなと思って,差し当たりこうさせていただいているのが正直なところですが,何かうまい手があれば教えていただきたいと思います。すみません。 ○日下部委員 私自身はこの辺の規律には詳しくないところもあって,事前に家事事件手続法の254条の3項に目を通しておりますと,括弧書きで同条6項の場合を除くとなっていて,同条6項の場合を念頭に置くと,理解ができる御提案なのかなと思っていたのですが,もしもそういう理由によるのであれば,今申し上げたような例外的な場合についてだけ当事者に取消しの申立権を認めるということが筋のように思われまして,当事者の申立権を広く一般的に認めている今回の御提案というのはやや雑ぱくすぎるのかなと,そういった印象を持ったものですから,質問と今の意見を言わせていただいたという次第です。よろしく御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○木村(匡)関係官 第2につき,事務当局に確認させていただきたい点が2点ございます。1点目ですが,戸籍届出とか預貯金の解約や不動産の所有権移転登記手続など,当事者や後見人等が審判書謄本を使用して事務を行う場合に,審判書に当事者や本人の住所等が記載されていないことにより,当事者又は本人の同一性の確認が困難であるということを理由として,当該事務に支障が生じないようにする必要があろうかと思います。秘匿申立てを行った当事者や後見人が戸籍届出その他の事務を行う場合には,氏名等表示書面の謄本等を提出すればよいようにも思われますが,例えば,実務上,戸籍届出が相手方によってなされることもあるところ,この場合,相手方は氏名等表示書面の閲覧等が制限されていますが,戸籍届出を行う上で支障はないというような理解でよろしいのでしょうか。2点目は,第2の本文5のみなし記載の規律の効果が及ぶ関連事件にはどのようなものが含まれるかという点です。例えば,家事事件手続法266条の調停前の処分や,同法290条の義務履行の命令,さらに,別表第2調停事件が不成立となって審判移行した場合の審判事件も含まれるというような理解でよろしいでしょうか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。まず1点目につきましては,恐らくこの制度を使ったときに,どこまで実際,秘匿するかのイメージが,少し当局の説明もあやふやなところがあるのかもしれませんが,恐らく私の理解ですと,先ほど言いましたように,氏名が不特定,あるいは誰かが分からないというケースが実際,家事事件のケースであるかといいますと,恐らくほとんどないのではないかとは思っているところでございます。親権者の指定ですとかそういったケースについても,当事者は恐らく誰か,子供とか,あるいは誰が相手かというのは分かっていて,恐らくほとんどのケースは現住所の秘匿ではないかと考えますと,そういった手続をする際には,基本的にはそういった特定事項が記載されたもので事足りるのではないか,もちろん住所については場合によっては工夫があるのかもしれませんが,そういったことで対応できるのではないかとは思っているところです。ただ,新しい制度を作った際に,それで大丈夫かどうか,私たちもまた御意見いただきながら考えていきたいと思っております。また,家事特有の議論として,正に今御指摘があった,調停から審判への移行をするパターン,あるいは,事件は別なのだけれども,実際はほとんど同じ事件である成年後見関係事件等,こういったものもございます。イメージとしましては,基本的に代替呼称,代替住所自体の流用といいますか,そういったものは基本的にはそういった事件,一緒ではないかと思っているのですけれども,いずれにしても秘匿決定自体はそれぞれの事件ごとにそれぞれの裁判体なりがすることになってきますので,そういう意味では,基本的に呼称とか住所については流用といいますか,そのまま使われることをイメージしていいのではないかと思っているところですけれども,最終的な秘匿決定は個別にやっていくというのは今と変わらないのかなと考えていたところです。また,その辺,法制的にどう考えていくのかは,少し詰めて考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 第2点もそれで,関連事件。 ○脇村幹事 関連事件もそういった意味で,成年後見事件で開始した後に,解任とか費用の申立て,恐らく記録自体は一体になっていますので,呼称,住所はそのまま使われると思うのですけれども,秘匿決定自体は当該事件ごと,事件ごとという表現がいいのかどうか,あれですけれども,法律上は一応,事件は別なのですけれども,事件ごとの裁判官が,閲覧謄写は,少なくとも現行法を利用するというのが私たちの考えでございますので,やっていけるのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 家庭局はこれでよろしいでしょうか。 ○木村(匡)関係官 はい,ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはよろしいでしょうか。   それでは,最後ですけれども,資料33ページ,(後注)人事訴訟の訴訟手続の関係につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   人事訴訟の訴訟手続につきましては,民事訴訟法が適用されます。ですので,第1部の規律が導入された場合には,基本的にこれが適用されることとなります。   簡単ではございますが,御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。この点につきまして,御意見は特段ないでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。それでは,以上で資料27についての検討は終えることができました。   引き続き,部会資料28の方に移りまして,まず第1,障害者に対する手続上の配慮について,事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。法第2条の訴訟追行義務の規定や法第60条の補佐人の規定が既に存在すること,また,IT化自体によってメリットを相応に享受し得ることを踏まえまして,今回,明文を置くというようなことについての意義やその内容につきまして,御審議を頂ければと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第1の点,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○清水委員 ただいまの御説明で,この法第2条に定める,裁判所は民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努めと定める裁判所の責務には,障害を有する当事者等に対して手続上の配慮を行うべきことも当然に含まれるものと考えられる,したがって,現行法には障害者に対して手続上の配慮を行うべきことを定めた一般的な条項は既に設けられているといえるという趣旨の御説明を頂いております。また,部会資料にもそのように御説明を頂いておりますが,この第2条につきまして,日本評論社のコンメンタールによれば,責務の内容である公正とは,公平かつ適正を意味する。公平の内容としては,第1に,裁判所が両当事者から中立な審判者の地位に立つこと,第2に,単に消極的中立を意味するのみではなく,裁判資料の提出や訴訟の進行について,裁判所が当事者双方に対して十分な主張立証,あるいは意見陳述の機会を与えることを意味するとされています。また,裁判所の責務の内容としての適正とは,訴訟物をめぐる紛争について,裁判所が的確に争点を把握し,それについて十分な裁判資料に基づいて真実発見に努めなければならないことを意味するとされていいます。   これらの説明によれば,現行民訴法が裁判所に課している公正義務というのは,裁判手続を利用する当事者双方が既に対等な立場にあること,すなわち障害に伴う障壁のない状態にあることを前提としているのではないかと思われます。つまり,障害者がそれぞれの障害特性に応じて必要とする支援を裁判所が提供するという,障害者が障害に伴う障壁を解消するための部分,障害がない人と同じ土俵に上がる部分についてまでをも十分に取り入れているのかについては疑問が残るといえます。   また,この法第2条は平成8年の改正により設けられておりますが,日本が障害者の権利に関する条約について批准した時期は平成26年ですから,この点からも,この条約に基づく要請を十分に汲み入れているとは言い難いように思います。この条約13条においては,司法手続の利用の機会について,締結国は,障害者が全ての法的手続において直接及び間接の参加者として効果的な役割を果たすことを容易にするため,手続上の配慮及び年齢に適した配慮が提供されることなどにより,障害者が他の者との平等を基礎として,司法手続を利用する効果的な機会を有することを確保するとしています。ここに記載されている手続上の配慮とは,合理的な配慮とは異なり,不均衡又は不当な負担という概念によって制限されるものではないとされておりますから,国に対するより強い要請であると考えられます。裁判所は,平成28年4月1日実施の裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領を定めておりますが,この対応要領は,障害者の権利に関する条約が求める手続上の配慮ではなく,合理的配慮を提供することが前提とされており,これをもっても十分ということができないと思われます。   以上からすれば,現行の法第2条の定める裁判所の責務が条例に基づく障害者に対する手続上の配慮の要請を十分に取り入れたものであるとは言い難く,別途,障害者に障害者でない者との同等の機会を保障し,障害者の裁判を受ける権利を実質的に保障するため,一定の手続上の合理的配慮の方法を明文化する規定を現行法第2条に2項として設ける必要があるという意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。私も今の清水委員の意見と全く同等でございます。そもそも裁判は公正かつ迅速におこなわれるもので,誰もがその裁判に臨む権利を持っています。その公正という部分に,障害者に対する配慮が含まれるべきなのではないでしょうか。これまで公正という文言の理解として,一方当事者を助力することはできないとして,障害者に配慮してこなかったのではないかと思われます。障害者が裁判に臨む際に社会的な障壁があることを認め,それをなくす努力を当たり前にしていただきたいと考えます。これまでの法律が,裁判は公正かつ迅速に行われるように努めという努力義務となっていることから,それを法的義務として明文化した一般的な規定を設けるべきで,それは民事裁判以外でも適用があるように規定すべきではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私は,先ほど清水委員が言及されたことに少し補足をさせていただければと考えております。意見の骨子は清水委員がおっしゃられたものと同じなのですけれども,現行の制度において実際どうなのかということについてのコメントです。   現在の民事訴訟法の中で,障害者に対する手当てということで言いますと,154条1項が,耳の聞こえない者又は口が利けないものに通訳人を立ち会わせることを定めているところですが,これは民事訴訟費用等に関する法律において通訳人の費用は訴訟費用とされておりまして,当事者の負担となっております。もちろん敗訴者負担の原則がございますので,負けたらばということにはなりますけれども,少なくとも障害者は自らの費用負担を覚悟した上でなければ訴訟手続において意思疎通ができないという状況にあるのであって,これが,先ほど清水委員が言及されました,不均衡を理由として否定されることがないはずの手続上の配慮がなされた結果であるといえるのかという点については,素朴に疑問を感じているところです。   もう1点,若干政治的な話になってしまうとよろしくないのかもしれないですけれども,私が側聞するところでは,障害者権利条約における手続上の配慮の規律というのは,我が国政府が提唱して,他国の共感を得て取り入れられたものと聞いております。その我が国が手続上の配慮について明示する規律を民訴法に加えるということは,障害者に対する配慮を積極的に推進しようとする国の姿勢に沿うものだろうと理解をしています。逆に言いますと,障害者団体のヒアリングを通じて手続上の配慮を定める新たな規律の導入を求める障害者の声に接して,その導入の要否,是非を検討しているこの部会が,沿革的に見て手続上の配慮を想定して作られたわけではないことは少なくとも明白な一般規定の存在を理由に,新たな規律の導入は不要である,あるいは適切ではないと結論付けることは,国の姿勢として整合的なのだろうかというのは疑問に感じているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 先般も,音声に変換できる文字情報の提供について,裁判所が相手方に求めるだけではなくて,障害者側に申立権を認めてほしい等の発言をしてきました。それを含め今回の改正では障害者から積極的にアクセス,求めることができる旨の規定が必要だと考えます。その意味で,総則において裁判所の責務として障害者に対する手続的配慮に関する規定を定めていただくことによって,それを根拠に,障害者から具体的な要請を打ち出せるのであって,現状の2条等でも解釈上,当事者に何か具体的に求めることの根拠になるというのでは少し弱いと思います。   資料28の2枚目の方の中段の第3段落の3行目からでも,民事裁判手続のIT化は障害者の手続的保障の向上に資するものであり,という記載がありますが,その正に資する内容が健常者に比べて千差万別であって,障害者ごとにIT化のメリットを享受できているのか,逆に,IT化が導入されたがゆえに視覚障害者等が更に困難になっている部分がないか等きめ細やかに考える必要があります。責務規定の導入は前向きに検討いただきたいと思います。   その他,通訳人や実務で使われています付添人等についても,必ずしも利用について周知されているわけではないので,障害者等の申立権を認めていただくことがより障害者等への手続的配慮が行き届いた法律になるものと思いますので,検討いただきたいと思います。   時間を頂きまして,すみませんでした。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大谷委員 大谷でございます。発言の時間を頂きましてありがとうございます。私も今まで御発言された皆様と基本的に考えを同じくするものでございます。裁判所の実際の建物ですとか,それからホームページなどを見ていますと,建物などのバリアフリー化といったことに積極的に取組を行ってこられたということが分かるものとなっていますけれども,今回,IT化ということをきっかけといたしまして,IT化におけるバリアフリーといったものを改めて実現することが今,期待されていると思いますので,それを促すことができる一般的な努力義務の規定であるとか,現時点ではIT化に伴う手続上の配慮について具体的な内容について十分に検討することができず,その内容を具体的に決めることができないとしても,実際にシステム開発をしたり,それから制度を見直していく,これからの数年間を掛けて具体的な内容を充実させるためにも,何らかの規定を設けるということが望ましいと思っております。   それで,今までに御発言された方は,目的であるとか,例えば2条2項という具体的な御提案も頂いておりまして,それに対して少し後退するようなコメントになってしまうかもしれませんけれども,他の法律の例などを見ていますと,例えば附則の中に一定の何か配慮を求める規定を置く例もあるようでございます。具体的には,個人情報保護法の附則におきまして,小規模事業者に対する配慮についての規定を附則の中に置きまして,個人情報保護委員会に対してルールの明確化などを求めたというような例もあるようですので,これまで御意見がありましたように,今までの規定で十分だというよりは,更に追加して新たな規定が設けられないかという方向で再考いただくことをお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 先ほど阿多委員が最後の方で言われたところに関係することですけれども,部会資料の2のところで,障害者が当事者等になった場合の意思疎通を支援する者について,部会資料では補佐人の制度を活用することが可能であると書かれています。この点,補佐人に関しては,補佐人と共に出頭できるということで,期日が前提とされておりますけれども,本来は期日外でも裁判所とやり取りする機会というのは,特に当事者本人は少なくないわけでして,大きなところでは,裁判所に訴状を出した後に,その訴状の記載内容などについてやり取りをするケースが比較的頻繁にあると思います。そういう場合には補佐人は想定されていないのではないかと思います。そういう意味で,ほかの制度も考えるべきではないかと思います。その点,民事訴訟法155条に付添命令の規定があって,この付添命令も一つの候補となり得るわけですけれども,これも期日が前提となっているので,口頭弁論期日の前,第1回の期日の前などに付添命令は出せないというふうなことが問題となっているようですし,さらに,裁判所が付添いを当事者に命じても,その命令には強制力がないため,特定の弁護士に対して付添いを命じるというものではないと解釈されておりますので,元々何らかの事情で弁護士を選任していない方が裁判所に選任を命じられても,それに従わない可能性が高くて,その場合,当事者が弁護士を選任しなければそれまでなので,余り実効性がないとも言われています。そういう意味で,155条の付添命令の規定についても,このままでは使えないので,見直す必要があろうかと思います。   家事事件手続法なり人事訴訟法には同様の,弁護士を手続代理人に選任することができるなどの規定が,家事事件手続法なら23条,人事訴訟法では13条に設けられておりますけれども,例えば人事訴訟法13条ですと,3項で,訴訟行為について行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても,裁判長は弁護士を訴訟代理人に選任すべき旨を命じ,又は職権で弁護士を訴訟代理人に選任することができると,職権で弁護士を選任することができるということまで規定されています。そういうところとの平仄も合わせて,民事訴訟法155条を見直す余地があるのではないかと思います。さらに,人事訴訟法13条4項では報酬に関しても,裁判長が訴訟代理人に選任した弁護士に対して,当該訴訟行為について行為能力の制限を受けた者が支払うべき報酬の額は,裁判所が相当と認める額とするというような規定も定められているところ,民事訴訟法155条にはそういう規定もないので,そういうところも含めて,民事訴訟法の他の制度というのを見直す必要があると思いますので,御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 一般的な規律について,もう一言だけ付言させていただければと思います。   部会資料の1ページの最下行といっていいと思いますけれども,そこで,事務当局において問題意識を持たれている,悩まれているポイントとして,障害者以外の配慮を要する者との関係について言及されているかと思います。恐らく事務当局におかれては,障害者の方々のために何らか法制的な手当てをしたいという思いはお持ちなのかと思うのですけれども,正に法制的な理由で単純には行かないということに苦慮されているのだろうと思っているところです。   その上で,障害者以外の配慮を要する者との関係についてですが,そうした者に対しても障害者に対するものと同様の手続上の配慮をすることまで規律するのかということも考えますと,これは障害者権利条約の枠外の政策的な問題になりますので,余り論理性のある根拠をもって意見を述べるということは難しいと承知しております。ただ,例えば高齢者や妊婦,あるいは日本語を解さない者,こうした者がそうではない者と平等に司法手続を利用できるように手続上の配慮をするということは,素朴な考えではありますけれども,我が国の司法の在り方としては別におかしいということはないのではないかと思われまして,自分でも責任を取る立場ではないので気楽だという認識はあるのですけれども,そうした者も対象に含めた手続上の配慮の一般的規律を導入するということは,もちろん財政的な裏付けなども必要になりますので,簡単な話ではないわけですが,政策的におかしいというわけでもないのだろうと考えているところですので,事務当局にはもう少し踏み込んで,是非御検討いただければと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはよろしいでしょうか。それでは,事務当局からコメントを。 ○脇村幹事 ありがとうございます。事務当局といいますか,個人的な感想なのかもしれませんけれども,恐らく今頂いた御意見を伺っておりまして,御意見の中には,個々の手続ではなくて司法制度全般といいますか,民事司法全般において,役所としての司法なのかもしれませんけれども,あるいは法務省かもしれませんが,そういった制度枠組みを作るに当たっての配慮,あるいはシステムを作るというのもそういったことだと思うので,そういった理念的なものを置くべきではないかという御趣旨でおっしゃっている方もいるのではないかと今,伺っておりました。そうなりますと,恐らくこれは民事訴訟法の問題というよりは,正に司法制度そのものについて,どういった枠組みで,個々の障害者の方というよりは,抽象的な,そういう制度をどう作っていくかという話かと思いましたので,そうだとすると,それは責務規定とはまた違う話なのかなとは思っていたのを感想としては抱きました。   一方で,中には個々の事件における配慮の趣旨でおっしゃっている方もいらっしゃいまして,そういった方では民訴法の改正どうかという御趣旨かと思いましたが,そういったことについては別途,そういうところが置けるかどうかについては考えないといけないのかなと思っていたところでございます。   ただ,全般的に,個別の手続における問題なのか,抽象的な司法の枠組みなのか,その点についてどこまで配慮すべきかといったことについて,もちろん抽象的には皆さん,配慮すべきは配慮すべきだという御意見なのだと思うのですけれども,そういったことが具体的に定まっていない中で規律を置くことの難しさは,当局としては正直,抱いているところでございますが,今回頂いた意見を踏まえまして,当局としてできること,何かあるかどうか,少し考えたいと思います。   ただ,なかなか皆さんの意見を伺っていると,個別の手続法の改正みたいな話ではない話が多いかなという気は正直,抱きましたので,少しその辺,どういうふうに私たちも検討すべきなのか考えないといけないと思っているところでございます。引き続き,個別の規定も含めて,少しどうしていくか考えたいと思います。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。一般的な思いはここにいらっしゃる皆さん,同じではないかと思いますが,それを法律という形でどのように表していけるかということについて,引き続き事務当局も考えてみたいということでありますので,また次回以降,更に議論を続けていただければと思います。   それでは,よろしければ,続きまして,資料2ページの「第2 電子情報処理組織による送達に係る送達受取人制度」について,まず事務当局から説明をお願いします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   電子情報処理組織を使用する送達の場面におきまして,書類の送達におけるのとは異なる新たな送達受取人の制度を設けることを御提案しております。この規律によれば,当事者が送達受取人を届け出た場合には,裁判所書記官は,その当事者が電子情報処理組織による送達を受ける旨の届出をしているかどうかに関わらず,届出に係る送達受取人の電子メールアドレスに宛てて通知を送信することが可能となるとともに,送達受取人が送達すべき電磁的記録の閲覧又はダウンロードをすることにより,受送達の効果が当事者に帰属することとなると考えられます。 ○山本(和)部会長 それでは,この論点につきまして,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○日下部委員 今の事務当局からの御説明の中に回答が含まれているのかもしれないですけれども,最初に事務当局に対して3点と,それから裁判所に対しても1点,お尋ねをさせていただければと考えております。今回の部会資料の3ページの(3)におきましては,システム送達受取人の法的地位は,送達すべき電磁的記録の閲覧又はダウンロードをする代理権のみを有するものと整理されておりまして,そのような電磁的記録の閲覧等を除いては,記録の閲覧等は第三者として実施することになるとされております。   そこで,まず事務当局に対するお尋ねですけれども,1点目は,システム送達受取人は,第三者として訴訟記録の閲覧等をする場合に,利害関係のある者として扱われる御想定でしょうかというものです。それから,2点目は,1当事者が届け出ることのできるシステム送達受取人の人数は1名に限られるという御想定でしょうか。それから,3点目です。システム送達受取人は,本人が届け出ている通知アドレス宛ての通知を受け取ることが想定されているのか,あるいは,本人が届け出ている通知アドレスとは別に,システム送達受取人も通知アドレスを届け出ることが想定されているのでしょうか。事務当局に対しては以上,3点でございます。   また,裁判所に対してのお尋ねは以下のとおりです。今回の部会資料で提案されているようなシステム送達受取人の制度が仮に導入された場合に,その者がその資格においては,システム送達がなされるに際して,送達すべき電磁的記録の閲覧又はダウンロードのみをすることができ,それ以外には何もできない仕組みを事件管理システムにおいて構築することがお約束いただけるのかどうかという点です。   以上,よろしくお願いいたします。 ○脇村幹事 脇村です。まず最初の送達受取人と利害関係人の関係なのですけれども,基本的に現行法の解釈どおりでいいのではないかと思っていましたが,何か一律にそうなるということでもないのではないかとは理解していたところでございます。ただ,そこについては今の実務の考え方,何かあるのかもしれませんが,そこを逆に教えていただければと思います。   人数の関係につきましては,基本,1人かなとは思っていましたけれども,確かに余り,これまでそういう人数の議論をされていたのかと言われると,若干あれかなと思います。またそういう問題意識があれば,教えていただきたいと思っています。   また,通知アドレスの関係では,基本的に受取人が正に代理人的な地位としてやることになりますので,それは自分自身のアドレスということがあるのではないかと思っていました。そういった意味では,どのアドレスを使うか,それは受取人の判断かもしれませんけれども,何か必ずこのアドレスを使わないといけないということまでは考えていません。逆に,受取人が使いたいアドレス,基本的に自分のものかもしれませんけれども,想定していたのはそういったところでございます。   当局としてはこれでよろしいですかね。あとは裁判所の方で何かございましたら,補足いただければと思います。 ○橋爪幹事 まず,大前提といたしまして,現在開発中のシステムの内容に関わるものでありますので,確たることは申し上げられません。その上で申し上げますと,システム送達受取人の法的な地位として部会資料に記載されているのは,飽くまで法的な整理ということかと思いますので,システム送達受取人が実際上,本人サポートの関係で何か他の役割を果たすかどうかということは,また別の問題であり,こうした点も含めて今後検討していくことになろうかと思っております。 ○日下部委員 御回答ありがとうございました。事務当局からの御回答の中では,第三者として訴訟記録の閲覧等をするときの利害関係の有無については,当然に利害関係があるというわけではないという御回答だったのか,よく理解ができなかったのですけれども,一概にはいえないという御回答だったのかなと思っております。それ以外の点についての御回答も,それを踏まえて検討していきたいと思います。   最高裁からの御回答もありがとうございました。法制的な権限と,実際に事件管理システムができたときにシステム送達受取人が何ができるのかということは,一応別の問題として考えることになろうかというような,そういった御回答かなと理解をしたところです。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 私も前提を確認させて下さい。日下部委員の質問と重なるかもしれません。システム送達受取人は通知アドレスを届けて,そちらに通知が届き,訴訟記録を閲覧することになると思いますが,その場合,本人も通知アドレスの届出が必要なのかという点です。従前,乙案を前提に有資格者,士業は通知アドレスを届け出るが,本人もその義務の対象になるのかを議論したと思いますが,今回,送達受取人を代理人を選任せずに届け出るという形になれば,本人もシステム送達等を利用する前提で届け出が必要という制度設計になるのか。   もう1点,この説明では受け取るだけしかできないという内容ですが,そうすると,事件管理システムを通じて申述をするのは,必ず本人のアドレスからという前提で考えているのか,説明いただけますか。 ○脇村幹事 まず,後者から行きますと,そこは正に今後の議論としての運用,使者的なものを認めるかどうかという議論かと思っておりました。そういった積極的な行為について,今後の運用としてそういったことを認めるかどうか,正に今,運用として,代わりに申立書を出すという事実があると思いますけれども,そういったことを今後認めるかどうかということの問題かと思っておりましたので,ここでいっていますのは,受取人の地位としてはそれだけですよということをいっているにすぎず,それ以上のことは何もいっていないということかと理解していたところでございます。   また,本人が届出をするかどうかについて,複数の申立てをできるかどうかという話かなと思っていたと思います。恐らく阿多委員の御指摘は,受取人が出しておきながら,本人も出せるのですかということだと思いますが,その辺については正に,複数の受取人を認めることによる問題点が,このもっとも以下,少し書いているところでございますが,御意見を頂ければと思っているところでございます。 ○阿多委員 先ほどの最高裁からの説明も踏まえながら結局,法律が先かシステムが先かという問題になるのだと思うのですが。法律上はシステム送達の受取りだけなのだという前提で話をしていても,システム送達受取人自身を使者と構成して申述ができたり,さらには受取り対象以外の訴訟記録の閲覧ができるということになる可能性があると,前回指摘した,法律上は単純にシステム送達の受取しかできないといいながら,事実上はいろいろできるのではないかと,そういうシステムになるのではないかを危惧しているわけです。それが法律上許されない非弁活動につながるおそれがあることを危惧しての発言をしているのですが,もう少し中身が分からないと端的に言えば,申述には一切関われないなどといったことを明確にしてもらえないと,提案で認めるのは難しいと思います。先回も,システム送達を受けるべき者の中から選定するという提案であればあり得ると回答しましたが,システム送達を受けるべき者とは別にプラスアルファという整理での提案は消極的と言わざるを得ない。以上が意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。私もこの制度の前提が分からずにおります。電子情報処理組織を持たない者が,電子情報処理組織を利用して受け取らなければならないので,そういう受取人が必要だということではないはずです,これまでの議論からは。電子情報処理組織を用いずに書面で受け取ることもできるのだと理解しております。この電子情報処理組織を利用しての受取だけできるということは大変中途半端で,受取をしたら,それに対して電子情報処理組織を利用しての提出もできないと意味がないのではないかということになってしまい,そうなると,士業者が付いて裁判を行うということと同等になってくるのではないかと思われます。この電子情報処理組織を利用して受取だけできる人を作る制度,これを設ける意味を教えていただきたいと思います。お願いいたします。 ○脇村幹事 提案している趣旨は結局,書面を送ってもらってもいいのだけれども,そうではなくて,電子の方が早いのでこちらの方を使いたいというニーズがあるケースについて,ただ,自分は少し不得意なので,子供とか誰かに任せられないかというのがそもそも出発点の議論でございます。そういったケースについて,もう一切それは認めないのだと,運用として認めないかどうかという議論がありますけれども,認めるのであれば,制度としてそういったケースに備えて置いておいていいのではないですかというのが,単純にこの制度の提案でございます。ですので,使いたい人が,自分は不得意だけれども任せられるというのを作っていいのではないか。なぜそう考えたかといいますと,現行法でも,受取を書面でするケースについて代わって受け取れることを送達受取人として作れるという制度がありますので,一緒ではないかというのが提案としてさせていただいたものでございます。 ○藤野委員 その場合に,仮にお子さんが電子情報処理組織を利用して受け取ったとしても,それを当事者に見せるには,プリントアウトして見せるというようなことになるのだと思うのですが。結局いろいろなことは全部お子さんがやってくれることになるのではないかと想像しますが,それはそれで内々のことだから認めるということでよろしいのですか。 ○脇村幹事 見せること以外についてどうかというのは,先ほどから阿多委員などがおっしゃっていた問題かと思いますが,一応提案としては,受け取って,画面を見せるのかプリントアウトするのかは別ですけれども,そういったことを渡すというのは,今も送達受取人が代わって受け取って渡すということができますので,一緒ではないか,それが使いたい人は使っていいのではないかということで,提案させていただいたというところでございます。 ○藤野委員 書面の送達とシステム送達では異なると私どもは考えております。よって,この制度を作ることには反対いたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 ありがとうございます。私はこういう送達受取人の制度は作るのが妥当なのではないかと今のところ考えております。法人の場合にどういうふうに誰が受け取ることになるのだろう,どういうメールアドレスが使われるのだろうというのは以前から気になっておりまして,やはり実際上,この提案の4ページ辺りにも書いてありますように,法人の場合などを考えると,今の106条の後継,つまりITになった後の同様の制度というような意味で,こういう送達受取人の制度を置く必要があるのではないかと思っております。   先ほどから,インターネット提出に関する甲案,乙案,丙案との関係,それから非弁活動との関係といった二つの観点での問題というのが,懸念として御指摘があったかと思います。甲,乙,丙との関係については,乙案を仮に採ると,本人訴訟についてはインターネット提出の義務付けがされるわけではないということで,そういうことを前提に,両立する制度ではないかと考えております。それから,非弁活動との関係については,この受取しかできないというふうにきちんと仕切れるということであれば,これは,先ほどから出ていますように,システムをどういうふうに組むかとの関係が問題になるわけですけれども,その非弁活動への懸念は別途,当然,規制がされるわけですから,それで対応すべき問題だということになるはずです。お金をもらって業として法律事務を行うことは資格がないとできないことを前提にすれば,親族が親子間の話として実際上受け取るといったことについてまでその問題が起こるとは思いませんし,そういった意味で,こういう制度を作るということ自体は,そういった別の問題とは切り分けて考えていいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私自身の意見は,このシステム送達受取人の制度を導入することについては反対というものでありまして,少しその理由の一部をお話ししたいと思います。   今回の部会資料で提案されているシステム送達受取人というのは,現行法の104条1項が定めている,紙ベースでなされる送達における送達受取人の制度をシステム送達にもスライドさせて,同様に導入するという発想がやはりあるのだと理解をしているところです。以前の会議のときにも申し上げましたけれども,現行法の送達受取人の制度は,当事者が自らの住所などの場所において紙ベースの送達を受けることができない場合に,そうした住所など以外の場所にいる他者を送達の受取人とすることを認めることになっていると思いますが,システム送達を受ける旨の届出をした当事者というのは場所を問わずにシステム送達を受けることができるはずであって,制度趣旨は異ならざるを得ませんので,現行法の送達受取人の制度をシステム送達にもスライドさせて同様に導入できるというものではないだろうと思います。その意味では,今回の部会資料での御提案が,そうした趣旨の違い,あるいはその前提となる条件の違いを踏まえてシステム送達受取人の制度が必要なのかどうか,仮に必要であるとして,どういう内容の制度が適切なのかということについて,検討をもう少し深める必要があるのではないかと思っているところです。   例えばですけれども,部会資料の3ページの中ほどを見ますと,1当事者について送達を受けるべき者となり得る者が複数いる場合に,どの者に宛てて送達を行うかは裁判所書記官の裁量であるという現行法下の送達受取人に関する考え方に基づいて,システム送達受取人の届出をした本人に対してはシステム送達の通知を送らないということを当然の前提としているように見受けられます。しかし,システム送達受取人の届出をする本人は自らも通知アドレスの届出をしているものと理解をしておりますし,また,送達以外の局面ではその本人が事件管理システムを使って訴訟追行することが想定されているわけですから,本人に対するシステム送達の通知ができないとか,あるいは,すべきではないという理由は特段ないだろうと思います。   このように,現行法下の送達受取人に関する考え方は印刷や郵送のコストを要する紙ベースの送達においては妥当し得ても,電子的送達には当てはまらないだろうと思います。また,先ほどの話では,システム送達受取人は自らも本人の通知アドレスとは異なる通知アドレスを届け出ることが想定されているという事務当局の御回答がありましたけれども,それは,少なくとも現行法の送達受取人の制度のように,本人が届け出た場所,つまり送達を受ける場所において送達受取人が送達を受けるということを想定しているものとは状況が既に異なっているだろうと思います。これは現行法の送達受取人の制度をシステム送達にスライドさせるというだけの考えでは済まないことを示している一例なのだろうと思っているところです。   その上で,改めて要否を考えますと,いわゆるオンライン申立ての一本化の点について,乙案の考え方,つまり委任を受けた訴訟代理人以外の者にはオンライン申立てを義務付けないという考え方を前提とすれば,システム送達を受けることに難のある当事者はオンライン申立てをする届出をせずに,システム送達を受けないままでいることが十分可能だと思います。そのため,システム送達受取人の制度というのは,本人訴訟の本人で,自らはシステム送達を受けること,あるいは事件管理システムを利用した訴訟追行することに難があるけれども,システム送達を進んで受けたい,あるいは事件管理システムを利用したいという特異な人にしかニーズがないように思われます。そうしたニーズに応じるために制度的手当てが必要かというと,私は疑問です。   もしかすると,視点を変えて,そのような難がある本人もシステム送達を受けることに支障がないようにすることで,事件管理システムを使った訴訟追行をする者を増やすという政策的な目的でこの制度を導入するという考え方もあるかもしれないとは思いました。しかし,そのようなシステム送達受取人を必要とするような本人については,送達の場面でのみ限定的な権限を持つ特別な代理人を認めても,それは事件管理システムを使った訴訟追行の一局面でしか意味を持たないものですから,事件管理システムを使った訴訟追行をする者を増やすという政策目的においては非常に中途半端だろうと思います。この点は,先ほど委員の方からも同様の御意見があったかと思います。   要するに,いわゆるオンライン申立ての一本化の点について,乙案の考え方を前提としますと,システム送達受取人の制度を導入すべき必要性は認め難いというのが私の意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 制度自体を誤解しているかもしれないので,質問させてください。   今回,先ほど脇村幹事から,少しでも早く迅速な形でデータで受け取れる点にシステム送達受取人を置くメリットがあるという話がありました。私は,当事者は申述に関しても事件管理システムを通じて申述する,送達はシステム送達受取人を通じて送達を受けるという前提で理解していたのですが,送達の受取だけデータで受け取りつつ,自分が申述するときは書面で提出するということはあるのですか。士業者が代理人に就く場合で,相手方が義務者でないときは,代理人が書面を準備して現状の直送等の方法によって相手方に送付するルールが提案されていると思いますが,相手方にシステム送達受取人を置いてもらえればデータで送信できるという,それだけの話なのか,私が誤解しているかもしれませんので,説明をお願いします。 ○脇村幹事 ありがとうございます。制度の提案自体は,繰り返しかもしれませんけれども,受取以外のことは何も触れていないつもりです。ですから,そのまま読めば,出せるかどうかは別途の検討だと思っています。恐らく運用の問題として,代わりにやるかどうかという議論が,内々にいろいろな議論はされているのかもしれませんけれども,ここで提案しているのは,送達というのはいろいろな起算点の起点になったりしますので,そこだけでも安定した制度を仕組めないでしょうかということを提案しているところでございまして,その先どうするかについては,元々使者的なものを認めるかどうかという解釈論かなと思っていました。ですから,そういったことも含めて,それが使者的なことまで解釈論として認めることを前提にしているのかと言われると,いや,それはしていないとしか言いようがないのかなと思っています。ただ,逆に,それだと意味がない,あるいは,そことセットして議論するしかないということだとすると,反対されるのだろうと理解していました。 ○阿多委員 元々の制度設計が,申述は事件管理システムを通じて提出,送達を受け取る側はその反射みたいな形で理解をしていたのですが,送達受取人は受け取る側がデジタルで受け取るのであって,それ以外については何も触れていない。そうすると,提出が書面になるのか,データになるのかは,何も触れていない,ということですか。 ○脇村幹事 少なくともここで提案している内容はもう,何も触れていないとしか言いようがないというか,その結果そうなることもあり得るのではないかと思っています。ただ,それがよくないのではないかという御意見もあるでしょうし,そこは送達といういろいろな手続の起点となるものについて,完全に運用ベースでやっていくのか,そもそも完全に否定するのか,御本人と代理人については,正に本人以外,社長さんだったら社長だけかもしれませんけれども,一切誰も受取を認めないという運用にするのであれば別かもしれませんけれども,もし認めるのであった場合に,それは制度として組まなくていいのでしょうかというのがこの提案でございます。逆に,それ以上は,すみません,特に触れていないつもりなんですけれども。 ○阿多委員 これで結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○橋爪幹事 まず,システム送達受取人の必要性という点については,先ほども事務当局の方から御説明がありましたように,自らはシステムを利用することはできないのだけれども,同居の家族などにサポートをしてもらいたいという場合に,その同居の家族の方がシステムを用いたいというニーズは,決して特異なものではなく,割と幅広くあるニーズではないかと思いますし,訴訟記録が電子化されて,電子的な方法での送達等が実現する以上,そのような場合でもシステムの利便性を享受していただくというのが望ましいのではないかと考えております。そういった局面を念頭に置けば,システム送達受取人の規定を設けて,システム送達受取人としての立場でシステム送達を受領するというのが実態とも合致していて,自然ではないかと考えているところです。   次に,少し違った点について発言させていただきます。部会資料の3ページの最後の方から4ページの頭にかけての部分なのですけれども,送達の名宛人とならなかった者が送達すべき電磁的記録の閲覧を行っても送達の効力が生じないという記載があります。ただ,これは,送達すべき電磁的記録の内容を把握しながら送達の効力発生時期を先延ばしすることができるということを意味しますので,やはりこのような帰結は相当でないであろうと考えます。このような事態を招かないためにどうすればいいかということを考えますと,正に先ほど日下部委員がおっしゃったように,誰に対して送達を行うかがこれまでは書記官の裁量であったとしても,システム送達の世界では,システム上の支障がなければ,システム送達を受けるべき者全員にシステム送達を行う,すなわちメールアドレスが登録してある全員に電子メールを発出することでシステム送達を行うのが相当ではないかと考えておりますし,そういうことを可能とする前提で,現在,システムの検討も進めているところです。   ただ,この問題は,より一般化しますと,仮に乙案が採用された場合に,インターネットを用いた申立てが義務付けられることにならない一般の方が,システムに登録して,システムを使って申立てや記録の閲覧等をすることができる立場にありながら,システム送達を受ける旨の届出は行わないという場合に,より深刻な問題として顕在化するのではないかと考えております。これまでの部会におきましても,例えば一方当事者がデジタルで他方当事者が紙というような場合にはかえって非効率性が生じるというようなお話がありましたけれども,今私の方で問題にしているケースといいますのは,同じ一人の人物がデジタルと紙の両方を都合よく使い分けるというものですので,非効率性や不合理性がより大きなものになることが懸念されますし,自らシステム登録を希望してこれを行った方については,デジタルデバイドの問題も存在しないのですから,システムを用いた送達を受けていただくことに支障があるとも思われません。この点につきましても,これまでの部会で,そもそもオンライン申立てを行う地位とシステム送達を受ける地位とを分離する必要はないといった御意見もあったところでありますが,もし法律のレベルでは,この両者を関連付けることが難しいということであれば,例えば今後,規則を制定する際などに,システム登録をする場合にはシステム送達を受ける旨の届出も併せてしなければならないといった規律を設けることも考えられるところです。   部会資料の記載内容とは若干離れた内容を申し上げましたが,そのような問題意識を持っておりますので,この機会に共有させていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今,橋爪幹事の方からお話しいただいた,事件管理システムを利用してオンライン申立てをするという立場とシステム送達を受ける立場というのを分離するというのは不適切ではないかという御意見,全くもって私も賛成でございましたし,これまでこのIT化の議論がなされてきたいろいろな会議体の中でもそういう前提で議論されてきたものと承知しております。その意味では,事件管理システムを利用してオンライン手続を使うという者が,他方でシステム送達を受けることに難があるという状態を想定するということ自体が非常に不自然だと感じているところです。   このシステム送達受取人の制度を入れることについては,先ほど私の方からは必要性がないのではないかということを申し上げたところですが,他方で,必要性がなくても,入れることによって格別,不具合や支障がないのであれば,便利なのだし,いいではないかという考え方もあり得るのだろうと思います。しかし,その点については,やはり私としては非常に懸念を持っているところです。すなわち,先ほど御回答もありましたけれども,もしもシステム送達がなされるに際して,システム送達受取人が事件管理システムにおいて送達対象の電磁的記録の閲覧やダウンロード以外のこともできることとなる可能性があるのだということだとしますと,それは訴訟代理人となる資格のない者が,何ら資格も,かつ裁判所の許認可も要しないで,システム送達受取人となるということになりますから,実質的に訴訟代理活動をすることを許容することに近付いていくということを意味するのだろうと思います。これは弁護士法72条との関係も改めて問題になるだろうと思っております。   また,先ほどの事務当局からの御回答を踏まえて発言いたしますと,システム送達受取人の届出をしている本人に対してはシステム送達のための通知が送られることはなく,システム送達受取人が同時に届け出ている通知アドレスに対してのみ通知が来るのだということを前提としますと,例えば,そのシステム送達受取人が通知を看過してしまったという場合でも1週間の経過によって送達の効力が発生して,場合によっては本人に不利益な影響が生じるということもあり得るわけですが,そのような立場の者が何ら資格も要せず,かつ許認可も要することなく就任することができるというような制度設計で本当によいのだろうかという点は,強く疑問を持っているところです。   あとは,若干小さい話かもしれませんけれども,先ほどシステム送達受取人については人数制限があるのか必ずしもはっきりしないということでしたが,人数制限がないのだとすると,もしかすると社会的な耳目を集めたいという当事者がシステム送達受取人団なるものを組成して,システム送達の通知をたくさん受けるという人の集団を作ってしまうということも考えられなくないのではないかと思いました。   結論としましては,現在,先ほども少し言及がありましたけれども,主に本人訴訟の本人を念頭に,本人サポートの在り方がこの部会とは別に検討されておりまして,そこでは本人がシステム送達を受けやすくするための方策についても,運用上の問題としてそちらで検討事項に入っていると承知しています。そうした運用上の工夫を理由に当部会での法制度に関する議論をするということについては,恐らくお叱りを受けてしまうのだろうと自覚はしているものではありますけれども,法制度としてシステム送達受取人を導入することについては,将来オンライン申立てが原則義務化される,いわゆる甲案の状態に移行することが検討される際に,その時点での国民のデジタルディバイドの状況や本人サポートの運用状況を踏まえて,改めてその要否と内容を考えるとすることが当部会での判断としては穏当であろうというのが私の考えです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。デリケートな部分を含むテーマですので,発言するべきかどうか悩んだのですけれども,意見を少し述べたいと思います。この制度が設けられないと困る方が多く出るのではないかと思いまして,賛成の立場で意見を申し上げたいと思います。この制度の必要性について意見を述べさせていただきたいと思っています。   まず,事件管理システムの利用が一般の方は任意であったとしても,利用することによって経済的インセンティブも設けられる見込みであり,また,実際にも裁判所まで物理的に提出しに行ったり,郵送したりという手間暇を省くことができるというメリットもあると思います。また,裁判所においても,全件事件記録の電子化を効率的に達成するためには,一人でも多くの一般の方に事件管理システムを利用してもらうべきなのだろうと考えています。   以上を前提に,一般の方のIT状況を振り返りますと,IT環境が整いつつあるとはいいましても,まだIT機器の利用に不安があるという方もおりますし,若年者においては,スマホによってインターネットにアクセスされる方も多く,スマホでは膨大になりがちな訴訟記録を閲覧することが困難になるのではないかという予想もしているところです。こうした層において,本人サポートの一環として,ITに対応できる身近な者がいわゆる形式的なサポートをすることが必要であって,その形式サポートとして御提案のシステム送達受取人は機能するのではないかと受け止めています。また,ITの利用に長けた当事者としても,説明で述べられているような,法人代表者の代わりに従業員がシステム送達受取人となるだけではなく,外国に所在する者に対するシステム送達の効力について疑義が生じる余地がある現状において,当事者が海外出張されるようなケースでも,このシステム送達受取人は訴訟を円滑に進めるための制度となるのではないかとも感じました。同様に,海外出張とまではいかなくても,多忙等の事情によって毎日メールチェックをしない,インターネットにアクセスしないという方は非常に多くいらっしゃる印象がありますので,こうした方々に対しては,みなし閲覧の規律が適用されることによって訴訟自体はスムーズに進むような工夫が検討されているところではありますが,一般の方の過失によるみなし閲覧の適用はできる限り避けるべきだとも思いますので,システム送達の効力をみなし送達の規律によらず生じさせるためにも有益なのではないかと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。事務当局からコメントがあれば。 ○脇村幹事 ありがとうございます。今日,様々な意見を頂きまして,いろいろな意見があったのかなと思います。制度を置くことについての反対意見の中にも,正に運用上の問題をどうするかは別ではないかという御意見もあったのかと思いまして,結局,先ほどから法人の話も出ていますが,違うかもしれませんけれども,恐らく社長以外,代表者以外一切受け取れないということで想定して議論されている方は少ないのではないかという気もしますが,それを受取人を置かなかった場合に運用としてどうやるかという話かなという気もしますし,そうすると,これは制度を置かなかったとしても,運用上どう考えていくのかは別の問題だという御意見だとすると,また議論が少し違ってくるのかなと思います。最終的にこの問題,そもそも受取だけを切り出そうとしたことに対する御批判も頂きましたので,そうすると,全般として使者的なものを運用として認めるかどうかという議論かもしれません。あるいは,そもそも一切認めない,訴訟代理人であった本人,会社代表者であった本人しか認めない,従業員等は一切認めないという御意見もあるのかもしれませんが,そこはないのかなという気もしつつ,そういう意味で,次回出させていただく際には,実際の運用の問題としてどこまで残るかは別として,制度を置くかどうか提案させていただきますけれども,是非,会社等についてどういう運用をした方がいいのか,御反対いただいている方でも,こういったことを考えているということがあれば,また教えていただきたいと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   既に予定した時間を超過しておりますけれども,あともう1点だけですので,「第3 参考人等の審尋」,それほど時間は掛からないのではないかと,希望的観測ですが,思っておりますが,もし時間が掛かりそうだったら途中で打ち止めにして,次回に中途から回したいと思いますが,それでは,この点,事務当局からまず説明をお願いします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   参考人の審尋は,その簡易の証拠調べとしての位置付けに鑑みまして,情報通信技術を使用する場合には,映像と音声の送受信による通話の方法によることを原則としつつ,当事者に異議がないときは音声の送受信により通話をする方法によることも許容することを御提案いたしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この論点につきまして御意見がありましたら,お願いいたします。 ○阿多委員 今回の提案は,ウェブ会議等によることを原則にしつつ,当事者に異議がない場合には電話会議等によるという内容になっています。書きぶり及びその要件立ての方は理解はしているのですが,当事者に異議がないときという場面を形式的に読みますと,異議がなければ電話になって,異議を述べればウェブ会議になるというのは,原則と例外が逆ではないか,それが原則の書きぶりなのか非常に気になります。証人尋問等でウェブ会議を認めるときも,相当と認める場合において異議がないという形で,異議を述べればリアルになって,異議がなければウェブになるという書きぶりと同じなわけですが,私自身は,部会資料23で提案いただいた通訳人における取扱い,通訳人では参考人の審尋等と書きぶりが違って,当事者の意見を聴いて,飛ばしますけれども,映像音声を原則にし,ただ,当該方法によることが困難な事情があるときは音声のみという表現を用いられています。むしろ参考人審尋等も通訳人とそろえた方がよいという意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 規律自体の当否というところではなくて,文言といいますか法制的な話なのかと思いますが,1点だけコメントしたいと思います。   ゴシックで書かれているところの下から2行目で,当事者の一方又は双方と書いてあるのですけれども,この当事者の一方という部分は,複数当事者がいる事件を想定する文言と思うのですけれども,その複数当事者のうちの一方が参考人等と通話をすれば足りるという状況として想定されるのは,その相手方当事者が審尋の対象であるという場合なのではないかと思いました。そう読めばこの規律は理解はできるのですが,今の文言ですと,複数当事者のいる事件において,当事者ではない参考人と通話する相手が当事者のうち一方だけでもいいとも読めてしまいますので,それは意図に沿わないのだろうと思います。この当事者の一方又は双方という部分は,単に当事者としておく方がスマートなのではないかと思いましたが,単純に法制の話ですので,事務当局に御検討いただければ十分でございます。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,事務当局からもしコメントがあれば。 ○脇村幹事 文言については少し検討させていただきます。多分,実質はそれほど変わっていないのではないかと思うので,少し書けるかどうか考えてみます。 ○山本(和)部会長 そうですね,書きぶりを更に検討いただくということかと思います。   それでは,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただいて,最後に次回議事日程等について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○脇村幹事 次回の日程は,令和3年11月26日金曜日,午後1時から6時でございます。場所は未定でございます。   次回会議においては,取りまとめに向けた資料を用意させていただきます。どこまで用意できるか,今,作業中でございまして,追って御連絡させていただきます。申し訳ございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。お陰さまで,私の不手際で時間は超過しましたが,本日予定していた審議は全て終えることができました。長時間にわたりまして御審議いただきましてありがとうございます。   これにて法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第19回会議は閉会にさせていただきます。ありがとうございました。 -了-