刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 (第9回) 第1 日 時  令和3年12月23日(木)     自 午後1時59分                           至 午後4時17分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ○ 議論 1 書類の電子データ化、発受のオンライン化          2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化          3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○仲戸川室長 ただいまから刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会第9回会議を開催いたします。 ○小木曽座長 皆様、こんにちは。年末の慌ただしい中、本日もお集まりいただきまして誠にありがとうございます。どうかよろしくお願いいたします。   議事に入ります前に、前回の会議以降、委員の御異動がありましたので紹介いたします。   鎌田徹郎警察庁長官官房審議官に代わりまして、新たに親家和仁警察庁刑事局刑事企画課長に当検討会に御出席いただいております。   初めての御出席ですので、親家委員から一言お願いできるでしょうか。 ○親家委員 警察庁刑事企画課長の親家です。どうかよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 ありがとうございます。よろしくお願いします。   それでは、本日の配付資料について、事務当局から確認・説明をお願いいたします。 ○仲戸川室長 本日は議事次第、委員の御異動を反映した令和3年12月23日付け委員等名簿、そして資料33、34をお配りしております。また、これらのほかに、二巡目の議論の際に用いました配付資料も再度お配りしております。ウェブ参加の皆様におかれましては、お手元に資料を御用意ください。法務省の会場で御参加の方につきましては、ただいま申し上げた資料を机の上に用意しておりますので、御確認ください。   まず、資料33でございますが、第6回会議でお配りした資料20「諸外国における情報通信技術の活用に関する法制・運用の概要【暫定版・更新版】」について、その後の調査結果を踏まえて、一部内容を修正したものです。時間の関係もございますので、説明は省略いたしますが、今後の検討に当たり、適宜御参照いただければと存じます。   資料34は、二巡目までの御議論を踏まえ、本日御議論いただくことが考えられる点を、事務当局において整理したものでありまして、検討課題として、各論点項目ごとに、特に御議論が必要であると思われる点を付記するとともに、論点項目相互の関係に焦点を当てて議論する必要があると思われる点を記載しております。   資料34の内容につきまして、簡単に御説明を差し上げます。資料34を御覧ください。   資料34でございますが、「1 書類の電子データ化、発受のオンライン化」及び「2 捜査公判における手続の非対面・遠隔化」について、それぞれの論点項目を掲げ、その全体を検討対象とした上で、その中で、事務当局として特に御議論いただきたい点を課題として明示して記載をしております。   「1 書類の電子データ化、発受のオンライン化」に関しては、(1)から(5)までの各論点項目を挙げた上で、特に御議論いただきたい課題として、「(1)書類の作成・発受」につきましては、「紙媒体の書類の取扱い」や「オンラインによる発受の原則についての規律の要否」を、「(2)令状の請求・発付・執行」については、「電子令状の呈示に関する規律の要否」を、「(5)公判廷における証拠調べ」につきましては、「必要となる法的措置」を、それぞれ記載しております。   続いて、「2 捜査公判における手続の非対面・遠隔化」に関しては、(1)から(7)までの各論点項目を挙げた上で、特に御議論いただきたい課題として、「(1)取調べ等」については、「ビデオリンク方式による取調べ」や「刑訴法321条1項2号の『検察官の面前』」を、「(2)被疑者・被告人との接見交通」については、「考えられる弊害と採り得る方策」を、「(4)証人尋問等」については「要件の在り方」を、「(6)裁判員等選任手続」については「必要性」を、それぞれ記載しております。   続いて、「3 その他」といたしまして、複数の論点項目にまたがる課題で、御議論いただきたいものを記載しております。内容としては、「法整備に当たっての基本的な方針」、「非対面の手続における対面との差異」、「ビデオリンク方式による『出頭』」等を課題として記載しております。   資料34についての説明は以上です。   このほか、併せてお配りしております二巡目の配付資料につきましても、適宜御参照いただければと存じます。   配付資料の確認・説明は以上です。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   それでは議論に入ります。   本日は三巡目の議論としまして、資料34に沿って、各論点項目固有の検討課題についてまず御意見を頂戴しまして、その後、複数の論点項目に関する検討課題について御意見を頂戴することといたしたいと思います。   それでは、資料34の1ページ、「1(1)書類の作成・発受」についての議論に入ります。では、御意見のある方はお願いいたします。 ○笹倉委員 ただいま、小木曽先生からお話のありました書類の作成・発受のうちの紙媒体の書類の取扱いについて、お伺いしたいことがありますので申し上げます。   これまで刑事手続における書類の発受についてオンライン化を進めるという方向で議論をしてきているわけですけれども、私人等から紙媒体で書類の提供を受けた場合など、一旦は紙媒体の書類が関係機関の手元に保管されるという事態は、当然、想定されます。捜査機関においてそれらは電子データに変換する措置が採られることになるのだろうと思いますけれども、それが済んだ後の元々の紙媒体の扱いを検討する必要があります。   電子データとは別に、紙媒体のものも保管する必要があれば保管し、保管を継続する必要がなければ、提出者に返還すべきものは返還し、返還の必要がなければ廃棄する。素直に考えればそのような扱いをすべきことになりそうです。   もっとも、この点に関して、第6回の検討会で河津委員から、元の紙媒体には、作成に使われた筆記具の種類ですとか修正の痕跡など、必ずしも電子データには引き継がれない情報が存在し得るという御指摘がありました。そして、それらは、被疑者や被告人の防御上、有意なものであることがあり得るところ、それが見逃されたまま、オリジナルの紙媒体が廃棄されるおそれもある。したがって、元の紙媒体の取扱いには慎重さが必要だという御意見であったものと記憶しています。   そこで更に考えてみますと、今回の検討会のアジェンダは、現行法制には基本的にタッチせずに、現行法制を前提としてオンライン化を図ることにあります。そうしますと、現行法制における書類等の扱いについての規律が検討の出発点になります。そして、現状では、捜査機関が紙媒体を含めてそもそもどのような証拠を入手し、また、保管するのか、あるいは、集めた証拠のうち、どの証拠をいつ返還するのかについての判断は、捜査機関の判断に任されており、その判断に際して、被疑者や弁護人の意見を逐一確認しなければならないことにはなっておりません。そのため、電子データに変換した後の紙媒体の書類の取扱いに関しては、今申し上げたような、捜査機関の判断に委ねている現行法の建付けとの整合性を考える必要があります。   捜査においては多種多様な情報・資料が収集され、それらが随時検討・吟味の対象とされ、取捨選択されていくわけであり、証拠を扱う責任をお持ちの検察官としては、証拠の保全や公訴の遂行の観点から、それらの多種多様・雑多な資料を手元に残すか否かという選択を日常的になさっているものと理解しています。そして、その際には、被疑者や被告人の防御、あるいは裁判所による適正な事実認定への影響等を当然考えた上で、いったん獲得された資料・証拠の扱いについての判断をされているのだと思いますが、何分にも実務経験のない立場で物事を考えておりますので、この際、検討の前提として、検察の現場での捜査資料ないし証拠の扱いについて実際のところはどのようになっているのかを教えていただければと存じます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。検察でということでしたので、佐久間委員、よろしいですか。お願いします。 ○佐久間委員 お答えいたします。河津委員から以前御指摘があったように、紙媒体の書類の内容を電子データに変換した後においても、元の紙媒体の書面の表面上に残った痕跡等に、事案の真相解明に必要な証拠としての価値があると考えられる場合には、公訴の遂行に責任を負う検察官としては、その保管を続けることとなります。そして、そのような保管の要否の判断においては、当該事案の事実関係や証拠関係、被疑者・被告人の供述内容等に照らしつつ、当該痕跡等の証拠価値の大きさや公訴事実の立証、被疑者・被告人の防御、裁判所の適正な事実認定にとっての必要性・有用性の程度などを当然に考慮することとなります。   したがって、電子データに変換した後の元の紙媒体の書類を、捜査機関の判断で提出者に返し、その必要のないものは廃棄できるものとしたとしても、それにより、事案の真相解明に必要な資料が失われたり、被疑者・被告人の防御や裁判所の適正な事実認定に不当な影響が及んだりすることはなく、これまでと同様、保管を続けるべきものは保管されることとなると考えられます。   なお、河津委員の御指摘が、検察官が気付いていない書類上の痕跡等が、後に被疑者・被告人の防御に影響することもあり得るから、保管の要否を検察官の判断に委ねることなく、一律に全ての保管の継続を義務付けるべきであるという趣旨であるとするならば、そのような抽象的な可能性があり得ることを根拠に保管の継続を義務付けることは、刑事手続の電子化の意義を薄めることにもなり、捜査機関に多大な負担を負わせるとともに、保管のため多大な国費を浪費することにもなりかねませんので、そのような趣旨の御指摘だとすれば、残念ながら賛同し難いと言わざるを得ません。 ○河津委員 現行法上も捜査機関の裁量により捜査書類を「廃棄」することができるとはされていないと理解しております。そして、今回、IT化に伴って、捜査機関の裁量によって紙媒体の書類を廃棄できるものとすることについては、強く反対する意見を申し上げざるを得ません。   捜査機関の見立てに照らせば重要ではないと判断される情報が、反対当事者から見れば、極めて重要な情報であるのは、よくあることです。捜査機関の裁量により紙媒体の書類が廃棄された場合、そのような情報が回復不能な形で失われ、その結果として、事実認定を誤らせるおそれがあります。そのおそれは、検察官が公訴の遂行に責任を負う立場にあるという建前だけでは、解消され得るものではないと思われます。   例えば、いわゆる取調べメモについて、判例は証拠開示命令の対象となるとしていますが、弁護人が証拠開示請求をした時点で、捜査機関が廃棄してしまっていることがあります。これは、故意に不適正な取調べの証拠を廃棄したものではないとしても、情報の重要性の判断が、立場によって大きく異なり得ることを示しているように思われます。   また、先月30日の法務大臣閣議後記者会見において関連する質疑がなされていますが、報道によれば、今年、東京地検に所属する検察事務官が、捜査関係事項照会書の回答書の印影をコピーして貼り付け、変造したという出来事が明らかになっています。この出来事の詳細は公表されていませんが、書類の変造は、検察合同庁舎で今年8月に発生した火災現場から、焼け残った変造された痕跡のある書類が発見されたことにより、発覚したものと報道されています。   このような捜査書類の変造は、極めて例外的な事象であると信じたいと思いますが、今回の出来事は火災現場から焼け残った書類が発見されなければ発覚しなかったと考えられることからしても、今後同様のことは起こり得ないと見ることは困難です。そして、捜査書類の変造は、それが証拠として公判に提出されれば、事実認定を誤らせるおそれがあり、仮に公判に提出されないとしても、身体の拘束を含む強制捜査の疎明資料として用いられることにより、国民の権利を不当に侵害するおそれがあります。捜査機関の裁量により紙媒体の書類を廃棄できるものとした場合、変造後に電子データ化し、その後、直ちに紙媒体が廃棄されれば、変造の事実は相当発覚しにくくなると考えられます。変造しても、そのことが発覚しにくくすることは、変造を誘引するおそれすらあるように思われます。   したがって、捜査機関の裁量により紙媒体の書類を廃棄できるものとすることは、刑事手続の適正さ、透明性、そして国民の信頼を損ね得るものであり、紙媒体の保管コストを削減できるという利点があるとしても、それは、今申し上げた弊害と釣り合うものではないと考えます。 ○親家委員 私の方からは、オンライン発受の原則化について、例外に関する考えも含めて申し上げます。   まず、警察としても、電子データで書類を作成し、その発受をオンラインにより行うことは、事務の合理化・効率化に資するものと考えており、IT化後は、事務の合理化・効率化に資する限り、そうした運用を進めていくことになるものと考えております。   その上で、これまでも申し上げてきたとおり、長期未解決事件に係る書類など、IT化前に作成済みの書類をどうするかといった問題があるほか、IT化後においても、例えば、手書きで作成せざるを得ない現場見取図や事業者等から紙媒体で提供を受ける資料など、一定量の紙の書類が発生することは避けられないところであります。   また、オンライン発受のためには、これら紙の書類をスキャンして電子データ化する必要がありますが、中には、A3用紙を複数枚つなぎ合わせた長大な現場見取図など、スキャンが困難なものも想定されるところ、このような様々な例外的なケースをあらかじめ整理しておくことは容易ではないと考えられます。さらに、スキャン後の電子データは証拠となる以上、スキャンする際には、落丁がないか、見読性が損なわれていないか等について、丁寧に確認していく必要がありまして、単にコピーを取る作業に比べて、電子データ化作業に伴う捜査現場の負担は決して小さくないと思われます。   そもそも、今般のIT化の趣旨は、国民の負担軽減や手続の迅速化等を図るための手段として、IT技術を活用するということと認識しております。そうであるならば、手段であるはずのIT化を過度に追求すると、捜査現場に過重な負担を課すこととなり、かえって手続の迅速さが損なわれるといった事態が生じることも考えられ、そういった事態は避けるべきであります。国民の安全・安心を確保するために、事件の早期解決に向けた迅速な対応が求められる捜査段階につきましては、特にこのことに配意すべきと考えております。   以上のことから、具体的な規定ぶりが明らかではない段階で、必ずしも明確なことを申し上げることはできないものの、いずれにしても、警察としては、手段の目的化に陥るおそれのある法制化には賛同することはできないということを申し上げておきたいと思います。 ○保坂審議官 1つ前に戻ってしまいますが、紙媒体の扱いについて、先ほど河津委員の御発言に関して質問がございます。発言の冒頭の方で、現行法の下でも、検察官が証拠書類というか、元の紙媒体を裁量によって廃棄することができることにはなっていないはずだという前置きがありました。その趣旨もよく分からなかったんですが、この度、証拠書類を電子データ化すると、その元の書類、紙媒体を捨てていいと、好きに捨てていいということになると、変造のリスクがあるではないかと、こういうことをおっしゃったんですが、この御意見の趣旨というのは、電子データ化した場合には、積極的に捨てていいですよという規定を設けることに反対という意味なんでしょうか、それとも、現行法のまま、裁量によって廃棄できるわけじゃないという状態が続くのなら、それはそれで構わないということなんでしょうか。趣旨が分からなかったので、要は、どうせよということなのかを、ちょっと教えていただけますでしょうか。 ○河津委員 今回の検討課題としては、「紙媒体の書類の取扱い」について、「電子データとして保管するに当たって紙媒体の書類の取扱いについての規律を設ける必要があるか」が設定されています。この点については、以前、捜査官の判断により廃棄することができる旨を法律上明記した方がよいという御意見がありましたので、それについて反対する趣旨で申し上げました。 ○保坂審議官 分かりました。確認しますが、そうすると、積極的に保存せよということを義務付けるべきだという趣旨ではなくて、捨てていいという積極的な規定を設けるべきではないと、こういう御意見ということでしょうか。 ○河津委員 その趣旨で申し上げました。 ○保坂審議官 よく分かりました。 ○池田委員 私は、ここの二つ目の○の「オンラインによる発受の原則についての規律の要否」につきまして、1点目と2点目を中心に意見を申し上げたいと思います。   オンラインによる発受を原則とすることについては、先ほど親家委員からも御意見がありましたけれども、これまでの議論においては、広く国民一般を対象とするのではなく、裁判所職員や検察職員、警察職員や弁護人という、刑事手続に職務として関与する者を対象とすることには、特段の異論は示されておりませんので、オンラインによる発受についての規律の要否やその内容を検討するに当たりましては、これらの者を対象とすることを前提に、具体的な検討をしていくのが相当と思われます。   その上で、これまでの議論を踏まえますと、オンラインによる発受の原則やその例外を、法律で厳密に定めることについて、それを厳密にするほど公的機関に属さない弁護人にも厳格な規律を及ぼすことができ、刑事手続全体の効率化に資すると考えられる点にメリットがあると考えられる一方で、先ほども御指摘がありましたように、例外を規定するとしても、それらを過不足なく抽出して適切なものとして規律することは、容易ではないのではないかといった課題も指摘されています。   そのため、オンラインによる発受を原則化することについて、規律を設けるかどうか、設けるとして、どのような形式、内容の規律とするかについては、こうした規律を厳密に定めることのメリットとデメリットを考慮しつつ、引き続き検討していくべきものと思います。そして、仮に規律を設ける場合には、実務の実情等に照らして、事務負担の急激な増加によって、円滑な運用に支障が生じる事態を避けるという観点から、考えられる選択肢といたしましては、例えば、原則や例外を厳密に定めるのではなく、「できる限り」といった包括的で柔軟なものとするとか、あるいは、公判手続以降を対象とするなど、原則化の対象を特定の手続段階に絞る、あるいは、請求や通知といった手続的な行為に係る文書の発受のみを対象とするなど、原則化の対象となる文書を、その種類や性質によって絞るということも考えられるものと思います。その上で、原則化を図っていくべき範囲については、今後の状況の推移に応じて、改めて検討するということも考えられるように思います。 ○佐久間委員 刑事手続の効率化という目的を十分に達成するためには、裁判所職員、検察職員、警察職員及び弁護人といった、刑事手続に職務として関与する者については、可能な限り全ての文書が電子データにより作成・発受されることになるのは、受け入れる側の混乱を避ける意味でも望ましいと思います。そのためには、弁護人も含めて、刑事手続に職務として関与する者については、オンラインによる発受を原則とすることを法的に義務付け、刑事手続全体としてオンラインによる電子データの発受の動機付けとなるような枠組みとすることが望ましいと考えられます。   もっとも、親家委員が指摘されたように、一旦は紙媒体で成立し、あるいは、紙媒体で入手したものについても、例外なくPDFなどの電子データに変換するよう義務付けることは、関係機関に必要以上の業務負担を生じさせる結果になりかねませんし、PDF化の作業に手間取って、かえって遅延を招くことにもなりかねないので、そのような過剰な負担を避けるための手当て、これは不可欠であろうと考えております。   オンラインによる発受の原則を規律することについては、このような観点も十分に踏まえ、規定を設ける場合には、現実的に利用可能な技術や機器などを含む実務の実情に照らして、合理的な仕組みとなるよう工夫することが必要ではないかと考えております。 ○笹倉委員 先ほどの親家委員の御発言と、ただいまの佐久間委員の御発言を受けまして、私からもお尋ねしたいことがございますので申し上げます。   オンラインによる発受が相当でない、あるいは困難である場合として、これまでの議論で出ていた例は、停電や通信障害の発生でシステムが利用困難となってしまい、そのために、法令による期間の制限を遵守するなら紙で出すしかないという場面が挙げられていたと思います。そして、そのような場合についてまで、オンラインでなければ駄目だという義務付けをすることは適切でなく、そのような場合は、紙媒体による提出を許容すべきだという点についても、ほぼ合意が成立しているように思います。   さらに、これ以外にも、先ほど御指摘があったところですけれども、現場見取図がすごく大きくて画像スキャンの作業が容易でない場合も想定されます。それならば、最初から電子的に作成することにすればいいではないかと問われれば、それが難しい場面も想定されます。例えば、大型の海図の上に、当該海域の全体を俯瞰しつつ、複数の関係船舶の航業経路やその時々の位置関係といった複雑な情報を書き入れていくような作業を想定しますと、スクロールや拡大・縮小を繰り返さなければ全体を表示できないディスプレイ上での電子的な書面作成そのものが、不可能とまでは言えないものの、刑事手続における事実解明作業に馴染まず、かえってそれを困難にしてしまう場合もあるでしょう。  また、長時間にわたる防犯カメラの映像や録音・録画データなど、データの容量との関係で、オンラインによる発受が、少なくとも現在の技術水準では少し難しい場合、あるいは、紙媒体の書類が極めて大部で、全てを電子データに変換してオンラインによる発受を行うこととすると、捜査機関等に膨大な事務負担が生じる場合なども考えられるところです。   以上、いわば机上の想像で申し上げましたが、電子化が困難な場合が実際上どれぐらいあるか、あるいは、それがあるとして、どの程度困難であるのかは、オンラインによる発受の原則について規律を設けるかどうかということの判断に関わってきます。また、規律を設けるとした場合に、どのような形式・内容のものとするかの判断の前提にもなります。そこで、この点に関して、実務のお立場からお考えがあれば、改めてお伺いできればと思います。 ○佐久間委員 第6回検討会でも申し上げたとおり、オンラインによる発受が困難である具体的な場合としては、まず、災害による停電や通信障害が発生した場合のほか、システム障害等により発受に係るシステムが利用困難である場合が挙げられます。また、刑事手続において取り扱う文書には、様々な形状・性質のものがあり、それらの特性を踏まえた検討を行う必要もあると思われます。   例えば、ただいま笹倉委員から示されたように、数メートルもある現場見取図が添付された実況見分調書や海図のような大きな図面については、現状ではこれを電子データで作成し、あるいは、一旦紙媒体で作成したものを電子データに変換する場合、専用のコンピュータやソフトが必要となるなど、技術的・予算的な制約を伴うという問題があります。仮に、これらの図面等を電子データで作成することができた場合であっても、一覧性が損なわれたり、専用のソフトを有していない弁護人等の閲覧や謄写に支障を来したりすることも考えられますことから、このような図面等については、オンラインによる発受が相当ではないと思われます。   さらに、民間事業者等から、長期間かつ多数の取引履歴が記載された預金口座の取引履歴など、大部の紙媒体を入手した場合や、防犯カメラ映像、取調べの録音・録画データなどの大容量の動画データである場合などについても、今後の情報通信技術の進歩や民間事業者等におけるオンラインによる資料の発受の広がりによっては、これらの発受をオンラインで行うことが可能になることも考えられますが、少なくとも現在の技術状況では、発受を行うシステムの電子データの取り込みや送受信に、かえって大きな作業負担が生じ、業務の効率化を損なう結果となることもあり得ると思います。   このように、オンラインによる発受が相当でない、あるいは困難であるというケースには様々なものがあり、今述べたものに限定されるものではないとも思われますので、現在の実務の運用等も考慮しながら、引き続き検討していくことが必要であると思われます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。ほかに実務の委員の方から何か御意見がおありでしょうか。この点について、ほかに御意見がなければ、次の項目にまいりたいと思いますが、よろしいですか。   ありがとうございます。では、一通り御意見を頂いたと思いますので、書類の作成・発受についての議論はここまでといたします。   続きまして、「1(2)令状の請求・発付・執行」について議論いただきたいと思います。御意見のある方はお願いいたします。 ○親家委員 被処分者に令状の写しを交付することについて申し上げたいと思います。   写しの交付の意義につきましては、第6回の検討会において、河津委員から、令状が真正で有効なものでない疑いがあったときには、直ちに裁判所に問い合わせるなどして対応できる旨の発言があったと承知しています。   この点、例えば、逮捕状であれば、現行制度上、逮捕は本質的に緊急処分であるなどの理由から、独立した不服申立ての機会は認められておりません。また、捜索差押許可状であれば、実際に証拠物を押収した場合には、被処分者等に押収目録の交付が義務付けられているほか、捜索の結果、押収すべきものがないときには、捜索を受けた者からの請求により、捜索証明書を交付することとされております。これらに加えて、令状の写しを交付する必要性がどこまであるかは疑問であり、被処分者への令状の写しの交付については、慎重に検討すべきであると考えております。 ○成瀬委員 私も、今、親家委員が取り上げられた論点、すなわち、被処分者に令状の写しを交付しなければならないこととする必要性があるかという点について、意見を申し上げたいと思います。   改めて議事録を確認させていただいたところ、第6回会議において、河津委員から、電子令状については、被処分者に呈示するにとどまらず、電子令状を電磁的方法によって送信し、あるいは、これを印刷した紙面を手交する方法により交付することとすべきであるとの御意見が示されておりました。   しかし、先ほど笹倉委員も確認されていたように、この検討会のミッションは、現行法制を基本的に維持したままIT化を実現することであるところ、現行刑訴法は、令状は被処分者に示すことで足り、令状の写しを交付しなければならないものとはしていません。そして、このような現行の手続が、被処分者の権利利益の保護に欠けるものであるとか、事後的な不服申立ての要否等の判断に支障を来しかねないものであるとは、考えられていません。事後的な不服申立てについては、親家委員が御説明くださったように、捜索・差押えの場面であれば、押収目録や捜索証明書を交付する、勾留の場面であれば、勾留状謄本を交付するという形で、別途、対応がなされています。  これらのことは、紙媒体の令状が電子令状に置き換わったとしても何ら変わらないのですから、電子令状について、現行法では義務付けられていない写しの交付を義務付ける必要性はないと考えます。   なお、電子令状であるか紙媒体の令状であるかによって、その呈示を受けた者が一見したときに、それが真正なものであるかを判別することの容易さに違いが生じるとは考えにくく、また、電子令状に限って、その写しを被処分者に交付することにより、示された電子令状が真正なものであるか否かを判別しやすくなるとも考えにくいところです。   したがって、こうした観点からも、電子令状についてのみ、その写しを交付することを義務付ける必要性はないと考えます。 ○河津委員 ただいま親家委員及び成瀬委員から御意見のあった点につきまして、再度意見を申し上げます。   令状の呈示の趣旨は、手続の公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮するところにあるとされていますが、処分を受ける者にとっては、令状の存在を確かめ、法にのっとった権限の行使であることを確認できること、令状の記載から、処分の許容範囲を知ることによって、その範囲を逸脱した処分を防ぐことができること、さらには、令状の記載内容と照らして、実際に行われた処分の適否を検討し、不服申立ての可能性を判断することができることに意味があると考えられます。   しかし、例えば、今日の捜索差押許可状の「差し押さえるべき物」や「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、その電磁的記録を複写すべきものの範囲」の記載は、相当多岐にわたることがあります。また、「本件に関連あると思料される文書及び物件」のように、解釈の余地を残していることもあります。そのようなときに、被処分者が、令状を目の前に示されただけで、その記載内容を理解し記憶することができると考えるのは、非現実的であると申し上げざるを得ません。押収の処分を受けた者が、例えば、不服申立ての可能性を判断するためには、捜索差押許可状と押収品目録を対照して、押収された物が捜索差押許可状に明示された「差し押さえるべき物」に含まれているかどうかを検討できるようにする必要性があるというべきです。   また、逮捕状につきましては、先ほど御指摘があったとおり、その発付の裁判について準抗告はできないと解されていますが、勾留裁判において逮捕手続の適否に関しても司法審査を受け得ることがその実質上の代替手段である、と言われています。しかし、罪を犯していない国民が誤認逮捕された場合を想定すると、勾留という重大な不利益を回避するためには、勾留の裁判までに防御活動をする必要があり、そのためには、勾留の裁判の前に被疑事実を正確に把握する必要があると思われます。勾留されてから、勾留状謄本交付請求をして、その交付を受けるのでは、勾留という重大な不利益を回避することはできず、このことは、犯罪の嫌疑がないことを理由とする準抗告をすることはできないという解釈を前提とすると、より深刻であると言えます。   また、電子令状の形式がどのようなものになるのか、まだイメージは明確になっておりませんが、裁判官の押印のある令状の原本と比較すると、真正かつ有効なものであるかどうかが一見して判別しにくくなり、処分を受ける者が令状の存在を確かめ、法にのっとった権限の行使であることを十分に確認することができないおそれは、否定できないのではないかと思われます。電子令状の印刷物を交付したり、電磁的に交付したり、あるいは撮影の機会を与えるなどして、呈示されたものが真正かつ有効な令状と相違ないことを、事後的であれ確認できるようにすることは、有益なのではないかと考えます。   令状が電子化された場合、捜査機関が電子令状の印刷物を作成して交付したり、電子令状の画面を撮影する機会を与えることは、極めて容易であるはずです。捜査機関は、令状手続の電子化により、業務の大幅な効率化の恩恵を受けることになりますので、それと同時に、処分を受ける者の権利保護も十分なものとすべきであると、私は考えます。 ○保坂審議官 今の河津委員の御発言に関して、また質問で恐縮ですけれども、河津委員の御趣旨というのは、現行の紙媒体の令状は呈示だけで足りるが、電子令状については写しを交付せよということなのか、現行の紙媒体の令状の呈示についても、呈示を超えて、その写しを交付せよという御趣旨なのか、どちらでしょうか。 ○河津委員 被処分者の権利保護という観点からは、紙媒体であれ、電子令状であれ、その印刷物の交付をすべきであると私は考えますが、この検討会のミッションが現行法制を前提としたものであることから、令状手続の電子化によって業務の大幅な効率化の恩恵を捜査機関が受けることや、電子令状の呈示がどのような形になるとしても、裁判官の押印のある原本の呈示と比較して真正性、有効性の判断が困難な面があることを考慮して、少なくとも電子令状については、そのような措置を採るべきであるという意見を、ここでは申し上げております。 ○保坂審議官 分かりました。 ○小木曽座長 この点について、それ以外の御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。   では、この点についても一通り御意見を頂いたということで、次の項目にまいりたいと思います。   次の項目につきましては、「1(3)電子データの証拠収集」です。この点について、御意見がおありでしたならば、お願いいたします。   特段御意見はないということでしょうか。よろしいですか。   それでは、特段御意見はないようですので、御意見を頂戴する機会を作ったということで、次の項目にまいりたいと思います。   次は、「(4)閲覧・謄写・交付」であります。御意見ありましたらば、お願いいたします。   これについてもよろしいですか。特段御意見がなければ、閲覧・謄写・交付についても、意見交換の機会を設けたということで、次にまいりたいと思います。   「(5)公判廷における証拠調べ」であります。これについて、御意見はいかがでしょうか。 ○成瀬委員 私は、第6回会議において、公判廷において電子データそのものを証拠として取り調べる場合の規定について、以下のような意見を申し上げました。   すなわち、文字として記録された情報の言語的内容だけに証拠としての価値があるものについては、紙媒体で作成された証拠書類と同様に、その内容を「朗読」する方式によるという規定を設け、画像や図面など、文字として記録されたものではない非言語的情報に証拠としての価値があるものについては、出力装置にその内容を「表示」して「示」す方式を規定することが考えられるという意見です。   この意見に対して、特段の御異論はなかったものと認識しておりますが、その後、更に考えてみたところ、音の言語的内容あるいは非言語的内容に証拠としての価値がある音声データについては、先ほど申し上げた「表示」の方式に含めて整理する考え方もあり得るものの、出力装置を用いて音に変換して「再生」するという方式を別途規定する方が、日本語の語義に照らして、望ましいように思います。   なお、現行刑訴法において、「再生」という文言は、証人尋問の状況を映像及び音声で記録した記録媒体を取り調べる方式として、305条5項及び同条6項に規定されていますので、条文化の際には、この点にも留意する必要があると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。   ほかに、公判廷における証拠調べについて御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。   それ以外に御意見がないということでしたら、これで大きな1の項目につきまして、(1)から(5)まで御意見を頂戴したということになります。   まだちょっと早いのですけれども、切りがいいので、よろしければ、ここで10分ほど休憩を取りたいと思います。 (休     憩) ○小木曽座長 それでは、ここからは、「2(1)取調べ等」について議論いただきたいと思います。御意見のある方はお願いいたします。 ○親家委員 私から、ビデオリンク方式による取調べに対して、録音・録画を義務付ける案について申し上げます。   本項目につきましては、第3回の検討会において、河津委員より、ビデオリンク方式により取調べを行う場合に、第三者の不当な介在を防止するための措置として、録音・録画の活用が合理的である旨の提案がなされたことから、この場で取り上げられているものと理解しておりますが、そのようにビデオリンクで送受信される画像・音声を録音・録画の方法により記録したとしても、第三者が画面の外にいて、供述者に紙を示すなどの方法により影響を与えることは可能でありますので、第三者の不当な介在を防止するための措置として、実効的ではないと考えられます。   また、そもそも、取調べの録音・録画につきましては、自白の任意性等の立証に資するという利点がある一方で、取調べの真相解明機能を阻害するおそれがあるという捜査側の懸念等も踏まえ、警察捜査における義務付けの対象は、裁判員裁判対象事件における身柄拘束中の被疑者の取調べに限定されたものと承知しております。この点、ビデオリンク方式により取調べを行う場合であっても、録音・録画の対象範囲に関する警察のスタンスが変わるものではないことから、ビデオリンク方式による取調べに際して、一律に録音・録画を義務付けることについては賛同できないところであります。 ○佐久間委員 ただいまの親家委員に続いて、検察の立場から意見を述べます。   ビデオリンク方式により送受信される映像・音声を通じて得られる情報から、供述人に対して第三者の不当な影響が及んでいることが疑われる場合には、取調官は、当然、それを排除する、又は取調べを中止することとなるのでありまして、このことは、取調べの録音・録画をするか否かとは無関係なものです。逆に、映像・音声を通じては認識できないような方法で供述人に影響を与えているような場合には、これらの映像・音声を記録したとしても、事後的に確認することはできないのですから、いずれにしても、録音・録画を義務付ける理由とはならないと思います。   なお、取調べの録音・録画制度の趣旨は、被疑者の供述の任意性等の的確な立証を担保するとともに、その取調べ等の適正な実施に資することを通じて、より適正、円滑かつ迅速な刑事裁判の実現に資するところにあり、そこでは、取調官の言動が被疑者の供述に及ぼす影響を記録することに主眼があると思われます。   これに対して、ビデオリンク方式による取調べの録音・録画について、取調べの場に通常はいるはずのない第三者がいないかという存否の確認、あるいは、その者が供述人に影響を与えていないかを事後的に確認することができるようにすることに主眼を置くとした場合、現行の取調べの録音・録画制度とは制度の趣旨が大きく異なるものになると思われますので、カメラのアングル等も含めた具体的な在り方も、また現行の取調べの録音・録画制度とは異なるものとなると思われます。 ○河津委員 取調べの録音・録画につきましては、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会で取りまとめられた「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」では、「供述証拠の収集が適正な手続で行われるべきことは言うまでもないこと」、「公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述は、適正な取調べを通じて収集された任意性、信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要があること」を、共通認識として確認した上で、「制度としては、取調べの録音・録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件を対象とすることとして、制度の対象とされていない取調べであっても、実務上の運用において、可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされ、かつ、その記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくことを強く期待する」とされています。   また、特別部会の議論の中では、裁判官の委員から、「録音・録画媒体がない場合には、その取調べで得られた供述の証拠能力に関し、証拠調べを請求する側に現在よりも重い立証上の責任が追わされるという運用に、恐らくなっていくのだろう。この点は、録音・録画義務が課されない事件についても、被疑者の供述が鍵となる事件においては、リスクの意味合いという意味では、同様のことが言えるのではないか」という、裁判所の認識も表明されています。   ビデオリンク方式により取調べが実施される場合、そこでは、取調官と供述者の音声と映像がオンラインで通信されるのですから、それを録音・録画することは、文字どおりボタン一つで可能であり、極めて容易であることになります。そのように、極めて容易であるにもかかわらず、それをあえて行わないことは、そのこと自体が取調べの適正さに疑問を生じさせ得るものであり、供述の任意性・信用性が争われたときには、重く評価されるべきことになるように思われます。   先ほど第三者の介在等が映像に現れなければ防止することはできないから、録音・録画には実効性がない旨の御指摘がありました。しかしながら、リアルタイムでは気付くことができなかった不審点が、録画を慎重に検討して発見されることがあるということは否定できず、そのことは、捜査機関もよく御経験されているのではないかと思います。   制度としての取調べの録音・録画義務の範囲については、改正刑訴法の施行3年後見直しにおいて、先ほどの共通認識を踏まえた検討が行われるものと理解しておりますが、そこでの結論が得られるに先立ち、ビデオリンク方式による取調べを実施されるのであれば、実務上の運用として、録音・録画がなされるべきであると考えます。 ○保坂審議官 河津委員の御発言に関連してですが、河津委員がおっしゃった、ビデオリンク方式で取調べをするときには、ボタン一つで録音・録画できるのだから、そこをしないことから任意性・信用性に問題があったことが推認されるというか、そういう状況なんだろうということだから、録音・録画を義務付けるべきじゃないかという論に聞こえたのですけれども、これは、現行の録音・録画制度と同じ趣旨で、つまり、取調官側の言動にいろんな問題があるであろうから、起こり得るであろうから、そのことによる任意性・信用性が損なわれないように、それが後ほど適正に立証されるようにという趣旨でしょうか。前の御発言のときは、ビデオリンク方式での取調べにすると、周りがあんまりよく映らないから、第三者の影響を受けているかもしれないじゃないかというような御発言にも聞こえたんですけれども、今日おっしゃった義務付ける趣旨というのは、現行法と同じ趣旨でという、そういうことなんでしょうか。 ○河津委員 御質問の趣旨を正確に理解できていないかもしれませんが、私が申し上げた「供述の任意性や信用性が争われたとき」の信用性には、供述人が置かれた環境からの影響によるものも含まれ得ると思いますが、それが争われたときに、録音・録画することが容易であるにも関わらず、あえてしていなかったということは、立証する側の責任として評価されることになるのではないか、そういうことも踏まえると、録音・録画義務の範囲については3年後見直しの場で検討されるとしても、それとは別に、実務上の運用として録音・録画をなさるべきではないか、ということを申し上げました。 ○保坂審議官 すみません。ちょっとしつこいようですけれども、そこで問題にしている任意性・信用性に問題が生じる原因というのは、取調官以外の第三者、つまり、ビデオリンクではちょっと見にくい第三者の影響が及び得るからということなのか、それとも、取調官の言動そのものに任意性・信用性に問題を生じさせかねないからという趣旨なのか、そのいずれでしょうか。 ○河津委員 それは両方です。 ○保坂審議官 取りあえず、分かりました。 ○成瀬委員 私は、資料34に挙がっている二つ目の○、すなわち、刑訴法321条1項2号に関して意見を申し上げたいと思います。   この点につきましては、第7回会議において、河津委員から、検察官が被疑者をビデオリンク方式により取り調べた際の供述を録取した書面やその電磁的記録について、刑訴法321条1項2号に規定する検察官面前調書として証拠能力を認めるのは、取調べを受けた際の被疑者の所在場所が、その供述に不当な影響を与えることがないと考えられる場所であった場合に限定すべきではないかという趣旨の御意見が示されました。   しかし、第7回会議で既に申し上げたとおり、刑訴法321条1項2号が、同項3号に規定する書面よりも緩やかな要件の下で、検察官面前調書に証拠能力を認めているのは、当該調書に録取された供述が、検察官による取調べを経て得られたものであることに基づくものであり、取調べの際に被疑者がどこにいたのかを問題にするものではありません。   もちろん、個別具体的な事案において、検察官による取調べが行われた際、司法警察職員による不当な影響が遮断されていなかった場合には、被疑者の供述に関する外部的情況の一つとして、刑訴法321条1項2号後段のいわゆる相対的特信情況の有無の判断において考慮されることになると思いますが、それを超えて、河津委員が提案されるように、「面前」の要件として、被疑者の取調べがビデオリンク方式により行われた場合の被疑者の所在場所を限定したり、あるいは警察署に所在する場合を除外したりする規定を設けてしまうと、その要件を満たさないという一事をもって、相対的特信情況の有無とは無関係に、証拠能力が一律に否定されることとなってしまい、現行法の考え方と整合しなくなるように思われます。 ○河津委員 刑訴法321条1項2号は、憲法37条2項が証人に対して審問する機会を十分に与えられる権利を保障しているにもかかわらず、公判での証言に代えて、検察官調書を証拠とすることを認めたものであり、その要件は厳格なものとする必要があると考えます。   人の供述は、それが行われる環境の影響を受けるものです。成瀬委員御指摘のとおり、321条1項2号は、それが検察官による取調べを経て得られた証拠であることを根拠として、3号よりも緩やかな要件で証拠能力を認めているものですが、ここで検察官は、環境が供述に不当な影響を及ぼすのでないことを確認した上で取調べをし、供述を録取することが、本来は期待されているのではないでしょうか。しかし、ビデオリンク方式で取調べを実施する場合、供述人は検察官と異なる環境にいることになりますから、十分な確認がなされる保証はないことになります。  仮に、供述人の所在場所に関する規律を全く設けないとすると、国外にいる供述人をビデオリンク方式で取調べをして作成した検察官調書であっても、証拠能力が認められ得ることになるように思われますが、それが適切と言えるか疑問があります。第7回会議で、外国に所在する証人のビデオリンク方式による証人尋問について、佐久間委員より、外国所在証人の供述の信用性判断については、我が国の偽証罪による処罰の現実的可能性、信用性判断に資する事実関係等の解明等の実施可能性などの点で、国内所在証人と類型的な相違点があることに留意する必要があるとの御指摘がありました。検察官に対する供述は、もとより偽証罪の対象ではありませんし、信用性判断に資する事実関係の解明等の実施可能性の御指摘は、検察官調書の供述人にも妥当するということができます。この供述人側の供述環境は、特信情況の問題として考えられるかどうかということが問題となりますが、証人が国外にいる場合を含む、刑訴法321条1項2号前段書面については、条文上は特信情況が要求されていないことからしても、特信情況の問題には解消し切れないように思われます。   法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会では、いわゆる郵便不正事件において、客観的事実と異なる内容の検察官調書が多数作成され、刑訴法321条1項2号書面として取調べ請求されたという経緯を踏まえ、2号書面制度そのものを見直すべきであるという意見が、複数の委員から述べられています。特別部会では、この点については意見の対立があるとして、一定の方向性を得るには至らなかったと整理されていますが、供述調書への過度の依存を改め、活発で充実した公判審理を実現するという理念については、一致を見たものと理解しております。現在よりも容易に2号書面が作成され、証拠として採用され得るようにすることは、2号書面の問題点が認識され、公判中心主義を徹底する流れに反するという点でも、適切ではないと考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   この点について、更に御意見いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、一通り御意見いただいたということで、(1)についての議論はここまでといたしまして、引き続いて「(2)被疑者・被告人との接見交通」です。こちらについても、よろしくお願いいたします。 ○佐久間委員 第7回検討会において、河津委員から、刑訴法第39条第1項にビデオリンク方式による接見の権利を定めるべきであるとの御意見が示されたと思うのですが、ビデオリンク方式によることを同項の接見として位置付けると、立会人なくしてビデオリンク方式による接見を行うことを要求する権利が保障され、刑事施設等にはその実現が義務付けられることとなります。   この点、被疑者・被告人が立会人なくして弁護人等と接見することを権利として保障するためには、その前提として、被疑者・被告人の逃亡や罪証隠滅、戒護への支障が生じないことを確保することが不可欠です。弁護人等が刑事施設等に赴いて、対面で接見を行う場合には、その間の立会いが許されなくても、人・物の出入りを厳格に管理することで、被疑者・被告人の逃亡や罪証隠滅、戒護への支障が生じないことを確保することが可能となります。   これに対して、ビデオリンク方式による接見の場合には、弁護人等の所在場所において、そのような人・物の出入りの厳格な管理をすることは困難と言わざるを得ません。また、仮に弁護人等の所在場所を刑事施設に限ることとすることとしても、第7回検討会において指摘があったように、全国の刑事施設等において、罪証隠滅や逃亡の防止の要請に応え、かつ、施設の規律や秩序も維持できるという条件を満たしながら、弁護人等が立会人なくして被疑者・被告人とビデオリンク方式による接見を要求したときには、これに応ずるものといたしますと、そのために必要な設備等を、全国の刑事施設等において一律・均一に整備する必要が生じます。しかし、それには相当の期間を要しますし、その間、全国一律・均一に権利が保障されないという不均衡が生じてしまうこととなります。そのようなことから、ビデオリンク方式による外部交通を直ちに刑訴法39条第1項の接見として位置付けることは、少なくとも当面は実務上困難であると言わざるを得ません。   ビデオリンク方式による接見については、仮にこれを行うこととしても、権利とは位置付けず、これとは区別されたものとして運用することとするのが、現行刑訴法の在り方との整合性の観点からも、また、人的・物的な体制の整備を着実に進め、ビデオリンク方式による接見を安定的かつ現実的に運用を拡大していくという観点からも適切ではないかと思っております。 ○親家委員 私からも、ビデオリンク方式による外部交通について申し上げたいと思います。   まず、既に当方から申し上げているとおり、ビデオリンク方式による外部交通につきましては、面会者らの本人確認や携帯電話等の通信機能・撮影機能を有する機器の持込み制限などに関し、現行の対面による場合と同等の担保措置が講じられなければ、許容できないと考えております。この点、アクセスポイントを設定し、当該アクセスポイントにおいて必要な本人確認等を行う方法も提案されておりますが、このような方法であったとしても、ビデオリンク方式による場合には、対面による場合とは異なり、様々な制約が必要となります。   例えば、被留置者は、事故防止の観点から動静監視が必要となる相手方となるところ、ビデオリンク方式による外部交通を認めたとしても、接見室に一人きりにするようなことはできないと考えております。実際に、現在警察において運用上実施している電話による外部交通におきましては、通話中の被留置者に対する動静監視のために、動静監視が可能な程度に面会室の扉を開いた状態で実施しているほか、施設側の体制上の制約も踏まえ、おおむね15分以内などと制限時間を設け、かつ、夜間・休日の対応はしていないところであります。   また、アクセスポイントとなる施設と架電先となる施設の双方において、接見室の確保や必要となる機器の準備があらかじめ必要となることから、実際に訪問してくる面会希望者との間も含め、交通整理を円滑に行うために、電話による外部交通を行う場合については、事前の予約を必要としております。   警察としては、これらの制約は、仮にビデオリンク方式による外部交通を行う場合であっても、同様に必要となるものと考えております。加えて、必要な端末や回線の整備といった課題もあることから、少なくとも、現行の刑訴法39条1項による接見をビデオリンク方式により行うことは難しく、権利とは位置付けず、運用上の措置として行うとしても、現実的なものとしてどのような方策があり得るのか、引き続き検討が必要になるものと考えております。 ○河津委員 ビデオリンク方式を活用して外部交通を拡大する必要性については、一定の御理解を頂けていると思われ、その点については感謝を申し上げたいと思います。   その上で、なお申し上げますが、以前にも引用しましたが、国連被拘禁者処遇最低基準規則は、弁護人との接見交通について、「被拘禁者は、遅滞なく傍受又は検閲されることなく通信し、協議をするための十分な機会、時間及び設備を提供されなければならない」としています。この規則は、「国際連合が適切なものとして承認する被拘禁者処遇の最低条件を示すもの」であり、「その適用を妨げる現実の諸困難を克服しようとする不断の努力」が促されています。   したがって、遅滞なく傍受又は検閲されることなく通信し、協議をするための十分な機会、時間及び設備を提供することは、国の責務にほかなりません。また、新たな設備を整備する必要性のあることは、令状手続のオンライン化を始めとする刑事手続のIT化全般に妥当することです。したがって、権利として規定すると、全国一律・均一に設備を整備する必要があるから権利としては規定しないというのは、論理が逆であり、防御権や直ちに弁護人の援助を受ける権利を全国的に実現するためにこそ、権利として保障すべきであると考えます。   もし仮に被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐビデオリンク方式固有の必要性が生じるというのであれば、必要な措置を規定することにはなるとしても、ビデオリンク方式による接見交通の権利を規定しない理由にはならないと思われます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   この点について、更に御意見よろしいですか。   では、接見交通については一通り御意見を頂いたということで、「(3)の打合せ・公判前整理手続」についても御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。   打合せ・公判前整理手続について、特段御意見がなければ、次にまいりたいと思いますが、よろしいですか。   それでは、機会を設けたということで、「(4)証人尋問等」にまいりたいと思います。この点について、御意見のある方はお願いいたします。 ○笹倉委員 では、証人尋問のうち、「要件の在り方」について意見を述べます。   第7回の検討会において、河津委員から、裁判所が相当と認める場合においては、当事者に異議がないときに、ビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるものとすることについては、賛成であるというお考えが示される一方で、弁護人に異議がある場合にこれを実施することは、相当でないという御意見が示されました。この御意見が、裁判所による採否の判断において、異議の有無が相当性の考慮のファクターになるということであれば私も賛成しますが、そうではなく、異議がないことを実施の必須の要件とすべきだという御趣旨であれば、適当ではないと考えます。   現行刑訴法は、157条の6第1項又は第2項に掲げられた必要性の類型的要件を満たす場合において、裁判所は訴訟関係人の意見を聞いた上で、ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるものとしております。これに加えて、訴訟関係人の同意があること、あるいは異議がないことが必須の要件であるとはされておりません。それにもかかわらず、新たに必要性の類型的要件を追加する場合に、弁護人の同意があること、あるいは異議のないことを要件とすることは、現行法の建付けとは整合しません。従来のビデオリンク方式による尋問と新たに拡大されるビデオリンク方式による尋問の間に、訴訟関係人の同意を不可欠とするほどの違いがあるというのならばともかく、そうでないのであれば、新たに拡大される場合に限って、訴訟関係人の同意があること、あるいは異議のないことを必須の要件とすることは、適当ではないと考えます。 ○成瀬委員 私は、「要件の在り方」のうちの二つ目の点、すなわち、外国に所在する証人について意見を申し上げたいと思います。   これまでの会議において、私は、外国所在証人を当該外国に所在させたままビデオリンク方式により証人尋問を実施することには、実務上の必要性が認められ、公判の充実化にも資するとして、積極的な意見を述べてきました。  もっとも、外国所在証人についてビデオリンク方式により証人尋問を実施する場合には、国内で実施する場合と異なり、当該証人の所在地国との間で、その協力を得て尋問を実施するための調整を重ねる必要があり、相手国の実情によっては、その調整に時間を要し、場合によっては、回答自体が長期にわたり得られないことにより、証人尋問の実施時期の見込みも立たないまま、公判手続が停滞することもあり得ることに留意する必要があります。   また、第7回会議において佐久間委員がおっしゃっていたように、外国所在証人が偽証した場合、日本法の偽証罪は成立するとしても、その後に当該証人が我が国の主権の及ぶ地域に入ることがない限り、実際には我が国の偽証罪の制裁を科すことができないため、国内所在証人の場合と比較して、信用性の制度的保障の点で劣るとも考えられます。   これらのことに鑑みれば、外国所在証人のビデオリンク方式による証人尋問の実施要件は、刑事手続の目的に照らして、その証人の尋問を実施する必要性が特に高い場合に限定することが考えられ、実際にビデオリンク方式による証人尋問を実施した場合も、偽証罪の実効性がないことを当該証言の信用性評価に適切に反映することが求められると思います。   なお、外国所在証人の場合に我が国の偽証罪による制裁の実効性に欠けるという問題に関して、外国の法制を調べてみたところ、英国やドイツなどにおいては、外国からの要請により、自国内に所在する証人のビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合に、自国の裁判所を関与させることにより、自国の偽証罪や証言拒絶罪を適用できるようにする国内法が整備されているようです。相互主義の下で、我が国も同種の対応をとることを許容するとすれば、我が国の公判手続において、外国所在証人についてビデオリンク方式により証人尋問を実施する場合においても、こうした制度の下で、当該外国の裁判所に関与してもらうことにより、外国所在証人が偽証した場合には、我が国の偽証罪ではなく、当該外国における偽証罪等により処罰することで、偽証罪等による処罰の実効性を担保するという方策も考えられます。 ○佐久間委員 成瀬委員の貴重な御意見・御指摘を踏まえまして、検察の現場の観点から申し述べます。   第7回検討会議においても申し上げたように、外国に所在する証人に対する証人尋問については、我が国の偽証罪による処罰の現実的可能性、供述の信用性判断に資する事実関係の解明等の実施可能性などの点で、国内所在証人と類型的な相違点があるということに留意しておく必要がありまして、導入することについての検討に当たっては、それらの点についての措置の十分な検討が必要になるものと思われます。   成瀬委員、ありがとうございました。 ○成瀬委員 続けて、三つ目の点、すなわち、民事IT化部会で検討されている案について、私の意見を申し上げたいと思います。  第7回会議でも御紹介させていただきましたとおり、法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会においては、ウェブ会議等による証人尋問について、「裁判所が相当と認める場合において、当事者に異議がないとき」という要件を新たに設けることが検討されています。この要件案の根拠を刑事手続に即して考えてみると、以下のようになると思います。  そもそも、現行刑訴法は、対面で証人尋問を実施する場合とビデオリンク方式によりこれを実施する場合との間には事実上の差異があり、その分だけビデオリンク方式は対面に劣る面があるとすることを前提に、尋問にとっての制約を上回るような類型的な必要性が認められる場合に、ビデオリンク方式を認めているものと考えられます。そうすると、訴訟関係人が、対面による場合の利益を放棄してビデオリンク方式によることに同意するのであれば、必要性の類型的要件を設ける必要はなく、裁判所も真実発見の観点から相当と認めるのであれば、ビデオリンク方式によることができると考えられます。  そして、仮に、刑訴法においてこのような要件を設けることとした場合には、あらかじめ法律に規定された類型に当てはまらない場合であっても、証人の属性や証言予定事項等を考慮し、弾力的にビデオリンク方式による証人尋問を実施することが可能になるという実務上のメリットはあるように思われます。   このような要件を設けることについては、第7回会議において、河津委員から刑事弁護の立場として賛成する旨の御意見を伺ったところですが、永渕委員は、裁判所において、引き続き検討されるとのことでしたので、もし可能であれば、改めて御意見をお聞かせいただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○永渕委員 それでは、その後に考えてみたところをお話しさせていただきたいと思います。   証人尋問は、申し上げるまでもなく、裁判所の心証形成を通じた真実発見のために重要な手続であります。少なくとも現時点の技術水準を前提とした場合、対面と非対面との間で証人の証言態度の観察の程度などには、事実上の差異があることにも照らすと、特に必要がある場合以外は、法廷において対面で証人尋問を行うのが相当であると考えております。   このような観点からいたしますと、民事訴訟のIT化において検討されているのと同様の規定を設ける場合でありましても、現行法と同様、ビデオリンク方式による尋問を行う必要性が高い類型の一つとして位置付けるのが相当であり、そのことが、条文上も表現されていることが必要であると考えています。   なお、ビデオリンク尋問に対する当事者の捉え方、あるいは考え方、評価、価値観といったものにはやはり様々なものがあり得るところです。例えば、罪体を立証する重要な証人の場合であっても、当事者の御意見としては様々なものが想定されることなども踏まえますと、裁判所としましては、当事者の反対尋問権の保障の観点などとは別に、訴訟運営に最終的な責任を負い、事実認定についても心証形成をして最終的な判断をしていくという立場として、裁判所の心証形成等の観点から、対面での尋問を実施するか否か、言い換えますと、対面でない尋問、ビデオリンク尋問が本当に必要なのか、相当なのかといったことについて、慎重な検討を行う必要があるということは、指摘をさせていただきたいと思います。   次に、「相当と認めるとき」という点につきましても、具体的にどのような場合を想定した規定であるかが、条文上表れていることが必要であると考えております。すなわち、「相当と認めるとき」という文言は、現行のビデオリンクの規定である157条の6第1項・第2項にもあるわけでありますが、現行法の下では、同条1項各号又は2項各号所定のビデオリンク尋問の要件を満たす場合は、原則として相当性が認められることになろうといった解説もされているところです。したがいまして、裁判所が相当性要件を欠くと判断いたしますのは、反対当事者から反対意見が述べられ、その内容を踏まえて判断するような場合であり、実際にも、これまでの経験や実務感覚を踏まえましても、反対当事者がビデオリンク尋問に異議がない場合に、裁判所が独自に相当性要件を欠くと判断することは、余り考えられないところであります。   一方、今回の御提案の規定の場合、同じ「相当と認めるとき」とはいっても、先ほど申し上げましたとおり、裁判所として心証形成等の観点から問題がないかどうか、正に相当かどうか、これを実質的に判断する必要があると思われ、これまでと異なる判断を行うことになろうかと思います。この場合、民事訴訟手続と異なりまして、刑事訴訟手続では、争点整理手続を経た事案でありましても、裁判所は、当該証人の大まかな立証事項や位置付けを把握するにすぎず、証人の証言内容等について持っている情報が当事者よりも少ないため、裁判所が、証人の証言内容等を手掛かりとして独自に具体的な検討を行い、ビデオリンク尋問の相当性を判断するということは余り考えられず、むしろ、それ以外の事情から判断を行うことになるのではないかと考えられるところであります。   いずれにしましても、そうした相当性判断の考慮要素が条文上表れていない場合には、裁判所が心証形成等の観点からビデオリンク尋問の相当性を実質的に判断していくことが困難となり、相当性の要件を定めた意味が乏しくなってしまいかねないことから、やはりこの点も、条文上明らかにしておく必要があるだろうと考えております。   御参考までに、必要性ですとか相当性に関しまして、現時点で考えられるイメージのようなところを申し上げてみたいと思います。   例えば、罪体の認定に係る重要な証人について考えますと、仮に当事者が異議を述べていない場合であっても、やはり現行法の2項各号のような類型的要件に匹敵するような出頭困難性についての具体的事情がない限り、基本的には法廷にお越しいただいて対面で尋問を実施するということになっていくだろうという気がいたします。   他方、例えば、専門的知見やそれに基づく評価を述べていただく鑑定人や鑑定受託者といった専門家の方の場合には、御自身の体験を記憶に基づいて供述するというような証人の場合とは、やはり心証形成の在りようなどが異なるところもありますので、実際にお越しいただくとすると、公判期日が相当先になってしまわざるを得ないといった場合などには、ビデオリンク尋問を行うことを検討する余地も大きくなるのではないかと考えられます。   また、裁判所以外の特定の場所を前提にビデオリンクの希望が出されたような場合についても付言いたしますと、証人に対する他者からの影響等の観点を踏まえ、当該場所が相当でないと判断することも考えられようかと思われます。 ○保坂審議官 今の御発言について質問があります。   裁判所にとっての心証形成という観点から、対面とビデオリンクの観察の事実上の差異が、裁判所の心証形成にとって影響があり得るんだと、したがって、その点も考慮する必要があるのだというところは、そのとおりかと思います。したがって、それは現行法でいえば、裁判所が相当性を判断する中で考慮されるのだろうなと思うわけですが、民事ITで検討されている、両当事者に異議がないという要件を満たした上での裁判所の相当と認める判断が、現行法の下で裁判所の側から見たときの心証形成に必要な観察の事実上の差異、ちょっとビデオリンクだと劣ることを踏まえた上での相当性の判断と、変わってくる、違うものになるというところが、理由がよく分かりませんでした。   つまり、現行法下での相当と認めるときというのと、両当事者に異議がないという要件を満たした上での相当と認めるときの判断が別のものになるというところがなぜなのかを、教えていただけますでしょうか。 ○永渕委員 先ほど申し上げたところの繰り返しとなりますが、現行法の相当性の判断においては、当事者双方に異議がないときに、裁判所が独自で相当ではないという判断をすることは、にわかに想定しづらいところであります。しかしながら、先ほど申し上げたとおり、当事者の御意見というのは本当に様々でありまして、当事者に異議がなくとも、訴訟運営の面や心証形成の面から問題なく手続を行えるのかどうかについては、裁判所として慎重に吟味をする必要があると考えております。   したがいまして、今回御提案されている要件における相当性の要件は、現行法にある相当性の要件とは違った働きをすることになるのではないかと考えております。そのため、今回御提案されている要件における相当性の判断については、「こういうことを考慮した上で、相当かどうか考えましょう」ということが分かるような形にしておかないと、結局は裁判所の相当性判断が実質的に行えないことになってしまい、結果として、せっかく相当性という要件を設けても、意味のないことになりかねない、といった点を先ほど申し上げたところであります。 ○保坂審議官 すみません、ちょっとしつこいようですけれども、現行法の場合には、両当事者に異議がないときに、それにもかかわらず、裁判所が相当でないと認めるときはほぼないんだと、考えにくいんだということを前提とすると、両当事者に異議がないことを要件とした上での裁判所の相当性判断も、そのようになるのかなと思ったんですが、それがまた別になるというのが、ちょっとよく分からなかったんです。 ○永渕委員 現行法は、2項各号において、必要性の高い場合に限って、相当限定的な場面が定められていることを前提として、当事者に異議がないときにおける相当性判断という形になっています。   今回御提案されている要件では、2項各号のような限定がない状態で、双方に異議がないときに、裁判所が相当かどうかを判断するという仕組みになり、やはり現行法の場合とは違いがあるだろうと考えます。 ○保坂審議官 趣旨は分かりました。ありがとうございます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   この点については、ほかにいかがでしょう、よろしいですか。   それでは、証人尋問については御意見を頂いたということで、次にまいります。「(5)公判期日への出頭等」ですが、御意見ございますか。   特段御意見はないようですので、次にまいります。「(6)裁判員等選任手続」ですが、こちらはいかがでしょうか。   池田委員、どうぞ。 ○池田委員 (6)の裁判員等選任手続に関して意見を申し上げます。   そこにも示されております、被告人を裁判員等選任手続にビデオリンク方式により出席させることにつきましては、これまでの検討会において、裁判所において、被告人を同手続に出席させる必要が生じた場合に、臨機に対応することが可能となり、被告人の押送の負担軽減にも資すると考えられると述べたことがあるのですけれども、その一方で、そもそも実際に被告人を裁判員等選任手続に出席させる必要が生じたケースがこれまでになく、今後もほとんど見込まれないのであれば、その出席をビデオリンク方式によることとするニーズもさほど想定されないのではないかとの御指摘もあったものと認識しております。   そもそも被告人を裁判員等選任手続に出席させる場合としては、例えば、裁判員候補者が被告人の同居人又は被用者であるなどと述べている場合に、裁判所が被告人にその裁判員候補者の顔を見させて確認させる必要があると認めたときなどが想定されているとされていますが、ここからはお尋ねといたしまして、裁判員等選任手続を主宰する裁判所におかれまして、現行法の下で被告人を裁判員等選任手続に出席させる場合が、これまでにどの程度あったのかについて、把握しておられる限りで結構でございますので、実情について御説明いただけると、大変有り難く存じます。   また、その上で、そのような実情を踏まえて、裁判所として被告人の出席をビデオリンク方式によることの必要性について、どのようにお考えであるかということについて、併せてお伺いできますと幸いです。 ○永渕委員 まず、私自身のこれまでの経験で申し上げますと、裁判員等選任手続に被告人を出席させたということは、経験しておりません。また、そのような例があるということを、ほかの、私の周囲の裁判官から聞いたこともございません。したがいまして、仮に被告人を出席させたという実施例があるとしましても、その数は極めて少なく、ほとんど行われていないのが実情であるように思われます。   このようなことからいたしますと、被告人のビデオリンク方式による出席という選択肢がなければ困るといった状況にはないのではないかと考えております。 ○小木曽座長 ありがとうございました。という御意見ですが、よろしいですか。   それでは、次にいってよろしいでしょうか。   次は、「(7)公判審理の傍聴」ですが、こちらはいかがでしょうか。これについてはよろしいですか。   特段御意見はないということでしたら、これで大きな2の項目が終わるわけですが、よろしいですか。   そうしますと、あと残りましたのが、資料の「3その他」です。こちらでは、複数の論点項目に関係する検討課題ということで、御意見をお願いしたいと思います。 ○成瀬委員 私は、一つ目の○の「法整備に当たっての基本的な方針」について、意見を申し上げたいと思います。具体的には、書類を電子データにより作成・管理し、オンラインにより発受することができるようにするための方策として、刑事訴訟法等の関係法令のうち、どのような範囲の条文について、どのような改正をすることが考えられるかについて、意見を申し上げます。   これまでの議論を振り返ってみますと、例えば、現行刑訴法及び刑訴規則上の「署名」・「押印」については、紙媒体で作成された書類に対して行うものであることが前提とされて解釈・運用されているものと考えられることから、書類を電子データとして作成し、これに「署名」・「押印」に代わる技術的措置を講ずることとする場合、このような技術的措置をもって、「署名」・「押印」に代えることができる旨の規定を設けるなどの改正をする必要があると考えられます。他方で、刑訴法110条が、令状の呈示について、「処分を受ける者に・・・・・・示さなければならない」と規定する部分や、訴訟に関する書類の「閲覧」や「謄写」について規定する同法40条などのように、現行法の規定の文言のまま、紙媒体を電子データに置き換えて適用しても、さほど疑義がないと考えられるものもあるように思われます。   もっとも、後者のような規定であっても、制定当時は、紙媒体の令状や書類を想定していたと思われ、実際、これまで令状や訴訟関係書類は基本的に紙媒体で作成され、刑事手続において利用されてきた事実がございます。これらの点に鑑みれば、紙媒体を電子データに置き換えて適用することができるかどうかについての疑義をできる限りなくす観点から、そのような疑義が多少なりとも生じ得る規定については、全て、電子データによっても同様のことを行い得ることを明らかにするという法整備の方針にも、合理性が認められるように思います。   この点に関して、民事訴訟法を見てみますと、同法132条の10によって、申立て等のうち、書面等をもってするものとされているものについては、最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用する方法により行うことができることとされており、また、法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会においては、「交付」や「記載」などの紙媒体の書類を前提にしていると考えられる文言が用いられている現行民事訴訟法の規定については、これらを「提供」、「記録」などの文言に置き換えた電子データ用の書きぶりの規定を別に設けることとするなどの要綱案が示されており、書面等と電子データとが別のものであることを前提にした整理が行われています。刑事訴訟法等の法整備においても、これを参考にすることが考えられます。 ○小木曽座長 ありがとうございます。一つ目の○について、御意見いただきました。   そのほか、いかがでしょうか。 ○吉澤委員 私からは、三つ目の○のビデオリンク方式による「出頭」等について、述べたいと思います。   これまでも述べているところですので、言うまでもないことなのかもしれませんが、そもそも前提として、被害者参加人や被害者参加弁護士については、意に反してビデオリンクでの出頭を命じられる対象ではないと考えますので、その点、念のため述べておきたいと思います。   この検討会で、被害者参加制度が創設された経緯についても、何度か触れられてきましたが、その経緯から、飽くまで被害者参加人らがバーの中に入ることが大原則であるということは変わりません。ただ、創設から何年もたち、当初想定していなかった実務における不都合、ビデオリンク方式による必要性が認められる場合も生じてきていますので、それに対応するため、選択肢として、飽くまで「被害者の側」に、例外的にビデオリンク方式によるという選択肢を認めてほしいという趣旨で、これまで検討会においても述べてきたところですし、検討会においてもそれが前提で議論されてきたものと理解しています。   ですので、被害者参加をビデオリンク方式により実施するという場面は、飽くまで、被害者参加人からビデオリンク方式を希望する旨の申出がなされていることが前提である、ということは、共通認識としてあるものと、念のため確認しておきたいと思います。 ○池田委員 私からも、今の御意見に関連して、ビデオリンク方式による「出頭」等について意見を申し上げます。   若干総論的な話になりますが、訴訟関係人等に対し、その意向に関わらず、裁判所がビデオリンク方式による「出頭」等を命じることができるものとするかどうかについては、考えられる考慮要素として、各訴訟関係人に代替性があるかどうか、あるいは、代替性がないとすれば、それがない場合に、その者の意向に反するとしても、ビデオリンク方式により「出頭」等をさせ、手続を進行させる必要があるかといった点のほかに、それぞれの手続において、物理的に出頭させる場合と、ビデオリンク方式により「出頭」等をさせる場合との間に、事実上の差異があるか、またそのような差異があるために、意向に反してビデオリンク方式による「出頭」等を命じることにより、その命令を受けた者などの法的価値や利益とされるものを損なうことになるかどうかを、個別に検討する必要があるものと思われます。   そのことを前提とした上で、検討の基本的な視点としては、その意向にかかわらず、ビデオリンク方式による「出頭」等を命じることにより、命令を受けた者などの法的価値や利益が損なわれるとした場合には、それが一定の重要性を有するものであると考えられるときは、それを制約ないし制限することが許されるのは、それを上回る必要性がある場合に限るという要件を設けるべきこととなり得る一方で、その法的価値や利益の重要性がそれほど高くないと考えられるときは、緩やかな要件で足りることとなり得ると考えることができるのではないかと思います。   様々な訴訟関係人との関係で、これまでにもこうした基本的な視点を踏まえた議論がなされていると理解されますし、今後の検討に当たっても、ビデオリンク方式によることとした場合に、損なわれ得る法的価値・利益がどのようなものであって、それがビデオリンク方式を活用することによって得られる利益との比較において、どの程度配慮を要するものであるかなどについて、手続の内容も踏まえた上で、更に具体的に検討することが必要となると考えます。   なお、ここで挙げられている手続の中で、公判前整理手続に関しては、被告人がビデオリンク方式によることの意向を有しない場合であっても、裁判所がこれによることを命じることができるものとするかという検討課題があります。この点についてはこれまでに特段の具体的な御意見は示されておりませんけれども、先ほど申し上げた視点を踏まえますと、公判前整理手続への被告人の出頭は、公判手続と異なり、必要的とはされていない一方で、刑訴法316条の9第1項によりまして、被告人には期日に出頭する権利が認められております。そのため、例えば、被告人以外の訴訟関係人が現実の出頭をしている場合などに、被告人にも期日に出頭する意向があるのであれば、同様に現実の出頭の機会を確保しなければ、手続を進めることができなくなってしまうことがあると考えられます。もっともその一方で、そのような場合であっても、災害が起きたときとか、あるいは感染症の感染拡大時など、対面により公判前整理手続期日を行うことが適切でないという場合も考えられます。   そのような場合には、被告人の意向にかかわらず、ビデオリンク方式により「出頭」させることができるようにする必要があり得るということに鑑みますと、少なくとも被告人が期日に物理的に出頭することが著しく困難であって、期日の延期等によっても対応することができないときなど、真にやむを得ない事由があることを前提とするのであれば、被告人の意向に反するとしても、ビデオリンク方式により「出頭」させることが例外的に許容される余地があるということを考えております。 ○笹倉委員 吉澤委員と池田委員から三つ目の○について御発言あったところ、順番が前後し恐縮ですが、二つ目の○、「非対面の手続における対面との差異」について、総論ないし抽象論になりますけれども、この際、若干のことを述べたいと思います。   この検討会は、オンライン化を志向して議論してきたわけですけれども、しかし、物理的に集まって手続を行う場合と、ビデオリンクを使う場合とでは、やはり事実上差異があることを無視できないという点、そして、そのような事実上の差異を一切捨象して利便性一辺倒でオンライン化を図るのはよくないということについても、合意が成立しているのではないかと思います。   そうしますと、事実上の差異があることを、要件設定ないし具体的な制度設計にどう反映させるかということが問題になるわけですが、この点については、先ほど池田委員もおっしゃいましたとおり、それぞれの手続の趣旨や目的、性質などを踏まえて、そのような事実上の差違の存在によって、その手続に関わる法的価値や利益が実際に損なわれるのかどうか、損なわれるとしてそれがどの程度であるのかということを、個別に検討した上で、具体的な制度設計をしていくという方針で臨むのがよいと思います。   ビデオリンク方式、オンライン方式を採ることにより、法的な価値・利益が損なわれるとした場合には、その法的価値ないし利益が一定の重要性を有するものであると考えられるときは、それを制約・制限することが許されるのは、それを凌駕するような必要性がある場合に限られ、したがって、それを反映させたような要件を設定すべきだということになるでしょう。逆に、法的価値ないし利益の重要性がそれほど高くないと考えられるときは、相対的に緩やかな要件設定でも足りることになりましょう。そういうバランシングの問題なのだという認識に立って、考え方を整理する必要があり、かつそれが有効であると考えます。   そして、これまでの議論は、大筋で、そのような視座に立ったものであったということができます。例えば、被告人の公判廷への出頭については、リアルの出頭と対等な選択肢ではないと、オンラインでの出頭というのは限定的な場合に限られるのだという方向での検討、議論がされました。それに対して、公判前整理手続等に関して言えば、訴訟進行に関する技術的な問題や訴訟の交通整理を扱う場ですので、公判への被告人の出頭の場合ほどには要件は絞らずともよいだろうというようなことでした。   このように、関わってくる法的な価値ないし利益が重ければ、それ相応に強い必要性が要求される、逆にそうでなければ、緩やかでもよいだろうという、そういう基本線に沿って、これまでの議論は進められてきたものと思います。そして、それは、議論の方向性ないし指針として適切なものであったと考えます。今後は、これまでの議論を踏まえて更に案を詰めていくことになると思いますが、関連する法令や判例との整合性なども考慮しつつ、オンライン化した場合に、損なわれる法的な価値・利益がどのようなものかを分析し、それがオンライン化することによって得られる利益との比較において、どの程度配慮を要するものであるかを実務の実情や需要に即して更に検討した上で、成案を得るというアプローチが必要かつ適切であろうと思います。 ○河津委員 二つ目及び三つ目の○について意見を申し上げます。   対面による場合とビデオリンク方式による場合との間に、事実上の差異があること自体については、おおむね共通理解が得られていると思いますが、なお慎重な御検討を頂きたく、念のために申し上げます。   ビデオリンク方式で伝達され得る映像と音声の情報は、対面の場合と比較して、相当制限されたものであることに留意する必要があると思われます。映像が見える範囲にも、色の再現性にも限界がありますし、どれだけ技術が発展したとしても、立体的なものを平面で見ることには変わりがありません。画面に映った相手の目を見ながら話しているのが、画面上はあさっての方向を見ながら話しているように見えたり、逆に、相手から目をそらしてカメラを見て話しているのが、相手の目を見ながら話しているように見えてしまうという問題もあります。音声についても、伝達される音域、音量、音質の再現性には限界がありますし、同じ部屋に所在する誰がどこから話したのかも分かりにくく、声が重なると全く聞き取れなくなるという問題もあります。   以前、民事裁判手続のウェブ会議での経験をお話ししましたが、裁判手続は、この検討会の会議のように整然とは進行しません。しばしば複数人が同時に発言しようとし、声が重なることは多々あります。刑事裁判の公判では、例えば、証人の証言中に弁護人が異議を申し立て、検察官が即座に反応して、裁判長が介入するということが、短時間のうちに起こります。この異議申立てのように、即時に発言しなければならない場面も多くあります。そのような手続に、現実に出廷して参加することと、ビデオリンク方式で参加することとの差異は、過小評価されてはならないと思います。このような差異を前提とすると、刑事裁判の当事者であり、自由を奪われる危険にさらされ、最も重大な利害関係を有している被告人について、その意思に関わらず、現実の出頭をさせず、ビデオリンク方式で出頭させて手続を進行できるものとすることについては、相当慎重になる必要があると考えます。 ○小木曽座長 ありがとうございました。   横断的な問題について御議論いただいたわけですが、この点について、更に御意見いかがでしょうか。よろしいですか。   よろしければ、「その他」についても御意見を頂いたということで、ここまでといたします。   本日予定しておりました議事は以上です。   次回以降ですが、本検討会におきましては、令和3年3月から本日までの間、合計9回にわたって会議を開催しまして、皆様に活発な御議論を頂いてきました。本日、論点項目に掲げられました各論点について、三巡目の議論を終えたということになります。   本検討会に求められております刑事手続における情報通信技術の活用の在り方についての検討は、刑事手続全般にわたる多岐のもので、十分な検討が必要である一方、喫緊の課題とされていることもありまして、できる限りスピード感を持って進めることが要請されております。そこで、第3回の会議におきまして、皆様にお諮りした上で、本年度末をめどに取りまとめを行うということにしているところであります。   座長といたしましては、本日までの御議論の状況を踏まえますと、各論点項目について、一通り御意見を頂戴することができたように考えております。そこで、今後は、議論の取りまとめに入ることとしてよいのではないかと考えております。したがいまして、各論点についての御議論は、本日で一区切りとして、次回は取りまとめに関する意見交換をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。それでは、そのように進めることにいたします。   検討会の取りまとめ方法につきまして、特段の定めはないということですけれども、本検討会の趣旨に照らしますと、今後の法改正の要否・当否の検討に資するように、論点項目ごとに、本検討会として方向性について共通の認識を持つことができた点については、検討会の総意として方向性を示す形で記載し、意見が分かれた点については、それぞれの意見の趣旨、更なる検討課題、それから検討に当たって考慮すべき観点等が分かるように記載することが適切ではないかと思っております。   取りまとめに当たりまして、そのような方針の下で、座長の責任において、事務局に取りまとめ報告書の案を作成してもらいまして、次回会議においては、その案について御議論いただくというのが効率的かつ建設的な議論に資するのではないかと考えております。次回はそのような取りまとめ報告書の案について、意見交換をお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。では、そのようにいたしたいと思います。   なお、充実した議論のために、事務当局には、次回会議に先立って、委員の皆様に案を御覧いただけるように取り計らいをお願いしたいと思います。   本日の議事につきましては、公表に適さない内容に当たるものはなかったと認識しておりますので、発言者名を明らかにしました議事録を公表し、また、配付資料についても公表することにいたしたいと思いますが、よろしいでしょうか。 (一同了承)   では、そのようにさせていただきます。  次回の予定について、事務当局からお願いいたします。 ○仲戸川室長 次回の第10回会議は、2月10日木曜日、午後3時15分からの開催を予定しております。本日同様、ウェブ会議方式での開催となる予定でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽座長 これで年内最後の会議ということですが、関係された全ての皆様の御協力によりまして、ここまでこぎ着けたということでございます。厚くお礼申し上げます。年明けは取りまとめということで、引き続きよろしくお願いいたしたいと思います。   どうか皆様、よい年をお迎えください。ありがとうございました。   本日はこれにて閉会です。 -了-