法制審議会 刑事法 (マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和4年1月24日(月)   自 午後1時33分                        至 午後3時30分 第2 場 所  法務省1階東京保護観察所会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 マネー・ローンダリング罪の法定刑の改正について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は、御多忙のところ、マネー・ローンダリング罪の法定刑についての御審議に御出席いただき、誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間、慣例により、私が進行を務めさせていただきます。   最初に、私から、この度、部会が開催されるに至った経緯等につきまして、御説明申し上げます。   本年1月17日、法務大臣から、「マネー・ローンダリング罪の法定刑に関する諮問」(諮問第119号)がなされ、同日開催された法制審議会第193回会議において、この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。   そして、同会議において、この諮問について審議するための部会として、「刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会」を設けることが決定され、同部会を構成する委員及び幹事が、法制審議会の一任を受けた会長から指名され、本日ここに御出席いただいたところでございます。   本日は、井田良法制審議会会長にも御出席をいただいておりますので、御紹介申し上げます。   委員や幹事の方々におかれましては、初対面の方も少なくないかと存じますので、まず、簡単にお名前、御所属等を伺えればと存じます。   また、後ほど出席の承認の手続をお願いいたしますが、関係官も出席しておりますので、併せて自己紹介をお願いいたします。   自己紹介をしていただく順番ですが、まず、法務省会場に御参集の委員・幹事・関係官の方々に、今井委員から着席順に自己紹介をお願いいたします。その後、オンラインにより御出席の委員・幹事・関係官の方々に、順番にお声がけいたしますので、五十音順に自己紹介をお願いいたします。 ○今井委員 法政大学の今井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○古賀委員 最高検察庁の古賀でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○和田(恵)委員 弁護士の和田恵と申します。よろしくお願いいたします。 ○樋口幹事 東京大学の樋口亮介と申します。よろしくお願いします。 ○陣田関係官 内閣官房FATF勧告関係法整備検討室参事官の陣田と申します。よろしくお願いします。 ○浅沼幹事 法務省刑事局で企画官を務めております浅沼と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡本幹事 法務省刑事局公安課長の岡本と申します。よろしくお願いいたします。 ○保坂幹事 法務省で刑事局担当の審議官をしております保坂と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 それでは、オンラインで御出席の方々、五十音順でお願いいたします。 ○井上関係官 法務省特別顧問を務めております井上と申します。よろしくお願いします。 ○大賀委員 警察庁の刑事局長の大賀です。どうぞよろしくお願いします。 ○長村幹事 警察庁暴力団対策課の長村と申します。よろしくお願いいたします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局で参事官をしていますくのぎと申します。よろしくお願いいたします。 ○中井幹事 弁護士の中井でございます。よろしくお願いいたします。 ○蛭田委員 東京地方裁判所で判事をしております蛭田円香と申します。よろしくお願いします。 ○安田委員 京都大学の安田でございます。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。 ○横山幹事 最高裁判所刑事局の課長をしております横山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉崎委員 最高裁判所刑事局長の吉崎でございます。よろしくお願いいたします。 ○和田(俊)委員 東京大学の和田俊憲です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   次に、部会長の選任手続に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により、部会長は、部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき、会長が指名することとされております。   そこで、早速、当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが、部会長の選任手続について御質問等ございますでしょうか。   御質問等はないようですので、皆様の御意見を伺いたいと存じます。   どなたか、御意見はございますでしょうか。 ○安田委員 私は、今井猛嘉委員が部会長として適任であると存じます。   今井委員は、刑事法の様々な分野で卓越した業績を上げておられる我が国を代表する研究者でありますし、組織的犯罪処罰法、マネー・ローンダリング関係につきましても、我が国の第一人者でございます。これまでの御業績から見まして、部会長には今井委員が適任であると存じまして、御推薦申し上げる次第でございます。 ○川原委員 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○和田(俊)委員 私も、今井委員に部会長をお願いすることが適当であると考えます。   今井委員は、これまでに、刑事法の在り方に関わる複数の審議会で委員を務められるなどしておりますので、そのような御経歴に照らしても、今井委員に部会長をお願いすることが適当であると考えております。 ○川原委員 ただ今、安田委員・和田俊憲委員から、今井猛嘉委員を部会長に推薦する旨の御提案を頂きましたが、この御提案に対して御意見等はございますでしょうか。   ほかに御意見がないようですので、当部会の部会長として、今井猛嘉委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   今井委員におかれても、部会長をお引き受けいただくということで、よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○川原委員 ありがとうございます。   それでは、互選の結果、今井猛嘉委員が部会長に選ばれたものと認めます。   その上で、井田良法制審議会会長に部会長を指名していただこうと思います。   井田会長、よろしくお願いいたします。 ○井田会長 部会長につきましては、互選に基づいて会長が指名することとされておりますので、ただ今互選されました今井猛嘉委員を部会長に指名いたします。   今井部会長、よろしくお願いいたします。 ○川原委員 井田会長により、今井委員が当部会の部会長として指名され、これをもって、今井委員が部会長に選任されました。   今井委員には、部会長席に移動していただいて、この後の進行をお願いしたいと存じます。              (今井委員 部会長席に移動)   それでは、今井部会長、よろしくお願いいたします。   なお、井田会長はここで御退出されます。              (井田会長 退室) ○今井部会長 ただ今、部会長に選任されました今井でございます。   議事が円滑に進みますよう、部会を運営してまいりますので、皆様方の御理解と御協力のほど、よろしくお願い申し上げます。   まずは、法制審議会令第6条第5項により、部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので、指名をいたします。   安田拓人委員にお願いしたいと思います。安田委員、どうぞよろしくお願いいたします。   次に、関係官の出席の承認の件でございますが、法務省特別顧問の井上正仁氏、内閣官房FATF勧告関係法整備検討室内閣参事官陣田直也氏に、関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 ありがとうございます。   それでは、井上関係官及び陣田関係官には、当部会の会議に御出席願うことといたします。   次に、当部会の議事録についてでございますが、その作成・公開の方法を決めるに当たりまして、まず、これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて、事務当局から説明をお願いします。 ○浅沼幹事 これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて御説明いたします。   平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして、議事録の公開方法に関しては、総会については、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則とする一方、法制審議会の会長において、委員の意見を聴いて、審議事項の内容、部会の検討状況や報告内容のほか、発言者等の権利利益を保障するため公にしないことの必要性、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないことができることとされました。   また、部会につきましても、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則としつつ、それぞれの諮問に係る審議事項ごとに、総会での取扱いに準じて、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして、当部会におきましても、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することが原則となりますが、部会長におかれて、委員の皆様の御意見をお聞きし、ただ今申し上げたような諸要素を考慮して、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○今井部会長 ただ今の御説明について、何か御質問はございますでしょうか。   ただ今の御説明を踏まえて考えますと、当部会における審議の内容を広く国民の皆さんに知っていただくという観点からも、発言者名を明らかにした議事録を公開することが相当ではないかと考えるところでございます。   そこで、私といたしましては、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、原則としてこれを法務省のウェブサイト上において公開するという取扱いにしてはいかがかと考えます。   もっとも、今の説明にあったとおり、審議事項の内容その他の事項を考慮して、発言者名等を公開することが相当でないと考えられるような場合には、その都度皆様にお諮りして、部分的に公開しない措置を採ることとしたいと考えますが、いかがでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 御異議はないようでございますので、議事録につきましては、発言者名を明らかにしたものを作成の上、原則としてこれを公開するという取扱いとさせていただきたいと思います。   それでは、先の法制審議会総会におきまして、当部会で調査審議するように決定のありました諮問第119号について、審議を行います。   まず、諮問を朗読してもらいます。 ○浅沼幹事 諮問第119号   近年におけるマネー・ローンダリング対策に関する国際的動向等に鑑み、早急にマネー・ローンダリング行為に係る罰則の法定刑を改正する必要があると思われるので、別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙 要綱(骨子)   一、 不法収益等による法人等の事業経営の支配を目的とする行為の罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第9条第1項から第3項まで)の法定刑を10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科とすること。   二、 犯罪収益等隠匿の罪(同法第10条第1項)の法定刑を10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科とすること。   三、 犯罪収益等収受の罪(同法第11条)の法定刑を7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科とすること。 ○今井部会長 次に、事務当局から、諮問に至る経緯及び諮問の趣旨等について説明をしてもらいます。 ○岡本幹事 諮問第119号につきまして、諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明いたします。   組織的犯罪処罰法に設けられているマネー・ローンダリング罪の法定刑の上限は、不法収益等による事業支配罪及び犯罪収益等隠匿罪が懲役5年、犯罪収益等収受罪が懲役3年であり、同法が制定された平成11年以降改正されていません。   マネー・ローンダリング対策等について国際基準の策定及び履行審査を行う国際的枠組みであるFATF(金融活動作業部会)は、昨年(令和3年)8月、我が国に対する第4次審査報告書を公表し、我が国は、制度面及び運用面にわたって様々な指摘や勧告を受けました。   その中で、我が国が優先して取り組むべき事項の一つとして、マネー・ローンダリング罪の法定刑の上限を、少なくとも、犯罪収益を最も頻繁に生み出す前提犯罪である詐欺罪や窃盗罪等と同水準に引き上げるべきである旨が勧告されました。   我が国の詐欺罪及び窃盗罪の法定刑の上限は、いずれも懲役10年であり、また、我が国以外のG7諸国において、いずれも、マネー・ローンダリングの処罰規定の法定刑の上限は、10年あるいはそれ以上とされています。   マネー・ローンダリング罪の趣旨は、犯罪によって得られた収益が犯罪組織の維持・拡大に用いられたり、将来の犯罪活動に再投資されるほか、事業活動に投資されて合法的な経済活動に悪影響を及ぼすことを防止するためです。   このようなマネー・ローンダリングの処罰は、組織的な犯罪に経済的な側面から対処する措置として必要不可欠なものと位置付けられますが、近年、グローバル化、デジタル化の進展に伴い、電子マネーや暗号資産など、国内外を問わず資金移転や決済の手段・方法が多様化し、それらがマネー・ローンダリングの誘因となり、また、発覚の困難性が高まっています。   我が国の組織犯罪の実態を見ても、いわゆる特殊詐欺事案を典型として、犯罪の発覚を免れながら収益を獲得し続けるため、取引名義を偽装したり、移転の容易な財産に転換するなど、多くの事案で、マネー・ローンダリングが行われています。   こうした近年の動向を踏まえると、マネー・ローンダリングに対しては、国際社会と協調しながら、より強力に抑制を図るべき重要性がますます高まっており、FATFからの勧告を契機として、より一層、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して強力に抑止・防止することが必要であると考えられます。   そこで、早急に、我が国のマネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要があると思われることから、今回の諮問に至ったものです。   次に、諮問の趣旨等について御説明いたします。   配布資料1を御覧ください。   今回の諮問に際しましては、事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので、この案を基に、具体的な御審議をお願いいたします。   要綱(骨子)について御説明いたします。   FATFの指摘などの国際的動向等を踏まえ、国際社会と協調してマネー・ローンダリングをより強力に抑止・防止するため、組織的犯罪処罰法に定められているマネー・ローンダリング罪について、第9条の不法収益等による法人等の事業経営の支配の罪の法定刑を、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科に、第10条の犯罪収益等隠匿の罪の法定刑を、10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科に、第11条の犯罪収益等収受の罪の法定刑を、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科に、それぞれ引き上げることとするものです。   要綱(骨子)の概要は、以上のとおりです。   十分に御審議の上、できる限り速やかに御意見を賜りますよう、お願いいたします。 ○今井部会長 次に、事務当局から、配布資料について説明をしてもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料について御説明いたします。   まず、資料1は、先ほど朗読いたしました、諮問第119号です。   資料2は、諮問第119号に関連する組織的犯罪処罰法の条文の抜粋です。   資料3は、昨年(令和3年)8月に公表されたFATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書の概要をまとめたもので、報告書の該当部分の英文を仮訳したものを添付し、マネー・ローンダリング罪の法定刑に関して言及がなされている部分を赤枠で囲って示しております。   資料4は、諸外国のマネー・ローンダリング罪の概要に関する資料であり、昨年(令和3年)12月時点の日本以外のG7諸国、すなわち、アメリカ、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、イタリアのマネー・ローンダリング罪に係る要件とこれに対応する法定刑を一覧表にしたものです。   資料5は、平成30年から令和2年の組織的犯罪処罰法上のマネー・ローンダリング罪の科刑状況に関する資料です。事業経営支配罪、犯罪収益等隠匿罪、犯罪収益等収受罪それぞれについて、これらの罪を最も重いものとして有罪とした事件と、マネー・ローンダリング罪のみで有罪とした事件に分けて、有罪人員総数や科刑状況をまとめております。   資料6は、昨年(令和3年)11月19日付け次長検事依命通達及び最高検察庁公安部長指示であり、マネー・ローンダリング事犯の更なる徹底した捜査、厳格な処理及び一層厳正な科刑の実現を求める内容となっております。   配布資料の説明は、以上です。 ○今井部会長 次に、事務当局から、先の法制審議会総会において出された御意見の紹介をしてもらいます。 ○浅沼幹事 今回の諮問がなされた1月17日の法制審議会総会において、委員の方から御発言のあった御意見について、概要を御説明いたします。   まず、一つ目は、今般の法定刑の引上げが、マネー・ローンダリングに対して捜査等をより厳しく行うインセンティブの一つになることを強く期待しているといったものでした。   次に、二つ目は、犯罪のグローバル化や、テロ等に関連したマネー・ローンダリングが多国間をまたいで行われることが予想される中、世界全体の安全保障や世界経済の健全化のために、日本が穴にならないようにするという考えや、これに基づくFATFの勧告は重要な考慮要素である。しかし、我が国のマネー・ローンダリング罪に対する有罪判決を見ると、法定刑の長期に近い刑が宣告された例は少なく、執行猶予付きの判決が多く言い渡されるなどしており、このような状況に照らすと、マネー・ローンダリング罪の重罰化の立法事実は認められない。また、我が国においては、前提犯罪とマネー・ローンダリング罪を併せて処罰することで、犯罪の内容に即した適正な処罰が下されるような柔軟な運用がなされている。   諮問についての審議に当たっては、検察や裁判所において、こうした運用上の工夫が行われていることを踏まえて、十分な議論をお願いしたいといったものでした。   御説明は以上です。 ○今井部会長 現段階で、これまでの事務当局の説明内容について御質問等がございましたら、お願いいたします。   諮問の具体的内容等についての御質問は、後ほどの御議論の際にしていただいて結構です。   御質問はございませんでしょうか。   それでは、続きまして、内閣官房FATF勧告関係法整備検討室で参事官をしておられる陣田関係官から、FATF対日審査結果と政府全体としての対応について御説明いただきたいと思います。 ○陣田関係官 本日は説明の機会を頂きありがとうございます。   私の方からは、FATF対日相互審査の結果を中心に御説明させていただきたいと思います。   それでは、資料の1ページを御覧ください。   まず、FATFとは何かについて簡単に御説明いたします。   金融活動作業部会、FATF(Financial Action Task Force)は、マネロン・テロ資金供与、それから拡散金融と言われます大量破壊兵器の拡散に寄与する資金の供与の対策について、国際基準の策定・履行を担う多国間の枠組みでございます。加盟国の間で厳しく相互に審査を行いまして、それを通じて各国における国際基準の履行を強力に担保するという仕組みでございます。   このFATFには、現在、37か国・2地域機関が加盟しておりますけれども、これに、リージョンごとにありますFATF型地域体(FSRB)を加えますと、世界で200以上の国・地域にこのFATFの勧告が適用されているというものになっております。   このように、FATFが策定する基準は、非常に影響力が大きいものとなっており、正にグローバル・スタンダードとなっているところでございます。   2ページを御覧ください。   FATFの第3次対日相互審査と、勧告対応のために日本が行いました法令整備をまとめております。   2008年の第3次対日相互審査報告書の公表後、対応を速やかに行わなかったということで、2014年にFATFから、我が国は名指しで、法整備を含めた迅速な対処を促すという声明が出されるに至っております。   こうした中、その年の臨時国会におきまして、テロ資金提供処罰法改正法案、犯罪収益移転防止法改正法案、国際テロリスト財産凍結法案の3本の法案を国会に提出し、成立したという経緯がございました。   3ページを御覧ください。   マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策のここ10年余りの動きを、FATFの動き、日本国内の動きに分けて記載したものでございます。   この間、政府としましても、様々な施策を講じてきており、先ほど御説明しました第3次対日相互審査の勧告対応のために行いました国内法令整備以外にも、例えば暗号資産への対応の必要性が高まる中、2018年にFATFの方では勧告の改定が行われました。それから、国内の方でも、2014年から国のリスク評価書を策定・公表し、2018年には銀行等向けのマネロン・ガイドラインを策定するといった官民の協力も着実に進められております。また、昨年8月には、第4次対日相互審査報告書が公表されておりまして、政府の方でもマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議を設けまして、行動計画を策定するなど、取組を強化しているところでございます。   4ページを御覧ください。   この第4次対日相互審査でございますけれども、2019年5月の書面審査から始まり、2019年10月から11月にはオンサイト審査、日本に審査団が来まして、現地調査による審査が行われました。その後、昨年の8月30日に、対日相互審査報告書の対外公表が行われました。   第3次相互審査と第4次相互審査の違いでございますが、第3次相互審査では、法令等の整備状況の審査だけでございましたけれども、第4次相互審査につきましては、法令等の整備状況に加えまして、法制度の有効性の両面、これらがFATF基準に沿ったものとなっているかの審査が行われております。   有効性といいますのは、法令の整備がされていることを前提にしまして、その法令が適切に実施されているかを審査するものでございます。   5ページを御覧ください。   相互審査の結果でございますが、左下に三つ枠がございます。   まず、相互審査の評価結果に応じまして、上から通常フォローアップ国、重点フォローアップ国、観察対象国に分類されます。一番下の黄色い観察対象国に分類されますと、1年の観察期間中に顕著な進捗を報告できないと、いわゆるグレーリストに入ることになります。また、二番目の水色の重点フォローアップ国につきましては、毎年、法令等の整備について改善状況を報告することを求められます。   日本に対する相互審査は、今回4回目でございましたけれども、日本に対する評価は、重点フォローアップ国ということになっております。   右の方に、各国の第4次相互審査の審査結果をまとめておりますが、日本と同じ重点フォローアップの国の中には、カナダ、アメリカといった先進国、それから、中国、韓国といったアジアの国が多く含まれております。これらの国々でございますが、相互審査が終わった後、改善に向けた取組をそれぞれ進めておりまして、マネロン・テロ資金供与の対策のレベルを上げているということでございます。   先に述べましたけれども、日本はこの第3次相互審査の後、勧告事項への改善が遅れたために、FATF議長による声明発出、それから、ハイレベル使節団の派遣を受けております。ほかにも、FATFは、改善が遅い国に対する対抗措置としまして、各国に対し、金融取引に関する厳格な顧客管理、金融取引の制限、金融機関の子会社、支店の開設の拒否といった措置を講じるよう要請することが可能となっております。さらに、FATFメンバーシップの一時停止、剥奪といった対抗措置もございます。   したがいまして、仮に日本の対応が遅れますと、対策の不十分な国として国際的な信用が低下し、日本企業の国際金融取引、それから日本企業の経済活動に影響が及ぶことになります。もちろん日本が国際的なマネロン対策の包囲網の抜け穴だと国際社会に認識されることはあってはならないことでございますし、また、成長戦略として、政府が掲げております日本の国際金融センターとしての役割強化の上でも、速やかに国際基準に準拠することが必要だと考えております。   6ページ、7ページを御覧ください。   それぞれ各項目の個別の評価をまとめております。   6ページが法令等の整備状況、7ページが有効性についての評価結果です。   個々の説明は省略いたしますけれども、例えば6ページですが、三番目の項目の資金洗浄の犯罪化では、マネロン罪の法定刑が低く、抑止力を欠くという指摘を受けておりますが、マネロンを犯罪化するという最低限の法令等の整備についてはできていることから、全体としてはLargely Compliant(LC)とされております。   一方で、7ページを御覧いただきますと、この有効性の評価では、項目7のマネロン罪の捜査・訴追・制裁におきまして、有効なマネロン対策を講じることができているかにつきまして、マネロン罪が抑止力に欠け、制裁の実効性が十分でないということを指摘しておりまして、評価は全体として、4段階の評価中、三番目のMとなっております。   これを受けまして、日本が有効なマネロン対策を講じるために必要な対応のうち、マネロン罪の法定刑引上げについては、Priority Actions、日本が優先して取り組むべき行動として勧告されているものでございます。政府としましては、こうした指摘を真摯に受け止めて、改善すべきは速やかに改善していく必要があるのではないかと考えております。   8ページを御覧ください。   8ページは、第4次対日相互審査報告書公表に関しますFATFのステートメントでございます。   全体として、日本のマネロン・テロ資金対策の成果が上がっていると評価しつつも、例えば、複雑で大規模なマネロン事案により焦点を当てるよう求めているほか、近年、取引が急拡大しリスクが顕在化している暗号資産に対する更なる対応といったものも求めております。   9ページを御覧ください。   こちらは、政府でまとめております行動計画です。   行動計画は、FATFの第4次対日相互審査報告書の公表を契機としまして、政府一体となって対策を進めるべく、先に述べましたマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議で策定されたものでございます。例えば、②には、金融機関等に対する検査監督を強化する。あるいは、④では、マネロン・テロ資金供与の捜査・訴追等において、組織的犯罪処罰法の法定刑を検討する。それから、⑤につきましては、大量破壊兵器拡散に関わる居住者の資産凍結を実施する法制度の整備、こういったものが重要な検討課題とされております。   特に、法律での対応が必要な事項につきましては、内閣官房にFATF勧告関係法整備検討室を設置しまして、法務省を始めとします関係省庁と連携をしながら、FATFの勧告を踏まえた法整備の検討を進めているところでございます。   今後、政府といたしましても、この行動計画を着実に実施するとともに、引き続き国内外の動向を踏まえながら、不断の見直しを行っていくことが必要と考えております。 ○今井部会長 ありがとうございました。   複雑な制度を分かりやすく、かつ詳しく御説明いただいたと思います。   ただ今の御説明について、御質問のある方、いらっしゃいますでしょうか。   1点だけ私から聞いていいですか。   通常フォローアップと重点フォローアップを分けるときに点数を付けていて、何点以上が重点フォローアップ、何点以下が観察対象国というような区分けはされていますか。   また、次の点も皆さんと共有した方が良いと思うのですけれども、日本がこれぐらい指摘に応じたというときに、どこかの段階でFATFが評価のドラフトを示して審査のレベルアップが求められることもあるのではと思いますけれども、そういう手続もなさってこのランキングになっていると理解してよろしいですか。 ○陣田関係官 まず、ランクにつきましては、6ページのLCとかPC、あるいは7ページのH、S、M、Lとありますけれども、評価のグラデーションがございまして、例えば、7ページを見ますと、Mが幾つ、Sが幾つあれば通常フォローアップ、あるいは重点フォローアップといった一定の基準がございます。   日本は、その基準の中では、例えばMの項目が多くてSの項目が少なかったということで、真ん中の重点フォローアップ国になっております。   審査の手続につきましては、まず、書面審査がございまして、その後に審査団が日本に来ますので、そこでしっかり日本の制度を説明します。当然、審査団から厳しい指摘もありますので、日本の方からは、審査団の理解はこう違うと、日本の法制度はこうだということを何度も何度も説明をします。その中で、審査団が納得して、やはりこれは日本の取組が正しいねと、あるいは審査団が、日本の言うことは分かるけれども、やはりこうではないか、といったやり取りをした上で審査・評価がなされておりますので、その結果として、全体、トータルの評価が行われています。   今後、フォローアップがございますけれども、フォローアップ報告をしていく中で、日本の制度はこの第4次対日相互審査報告書が出た段階ではこうだったけれども、その後こう改善をして、こうなりましたということを、日本としてもアピールしていきます。そのアピールした内容・審査結果に基づいて、評価が上がっていくという仕組みになっております。 ○今井部会長 ありがとうございました。   ほかに御質問はございませんでしょうか。   それでは、陣田関係官、誠にありがとうございました。   続きまして、諮問事項の審議に入りたいと思います。   先ほど事務当局からも説明があったとおり、今回の諮問は、近年におけるマネー・ローンダリング対策に関する国際的動向等に鑑み、マネー・ローンダリング罪の法定刑について、要綱(骨子)にあるとおり、それぞれ引き上げることとするものです。   そこで、この要綱(骨子)に沿って、まず、総論として、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要性や相当性について審議を行い、その後、各論として、引き上げる場合には、どのような法定刑とするべきかについて審議を行いたいと思います。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 ありがとうございます。   それでは、そのように審議を進めさせていただきます。   まず、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要性、相当性について、御意見等がある方は、挙手の上、御発言をお願いいたします。 ○樋口幹事 マネー・ローンダリング罪の法定刑の引上げの必要性、相当性について論ずるには、まずは基本的な考え方を確認するべきでしょう。   犯罪収益は、人が犯罪組織に集まる理由となり、また、犯罪組織の活動基盤になるものであり、犯罪収益が保持されるという事態は徹底的に排除する必要があります。そのための車の両輪となるのが、没収・追徴の徹底と、マネー・ローンダリングに対する厳正な処罰です。   我が国において、従来から犯罪収益規制の重要性が認識されていなかったわけではないでしょう。しかし、FATFからの指摘を契機に、犯罪収益が保持されるという事態は徹底的に禁圧すべきという点を改めて確認する必要があることは確かです。そのためには、マネー・ローンダリングの処罰を充実させ、厳正に対処することの重要性を再確認することが有意義でしょう。   近年、グローバル化、デジタル化の進展に伴い、電子マネーや暗号資産といった新しい資金決済手段も登場しています。その利用の拡大によって、犯罪収益が捕捉されないまま移転することが容易になっています。報道に接した限りではありますが、詐欺罪で起訴されたソニー生命保険の社員が、170億円をビットコインに交換して、自らの管理口座に移したとして、犯罪収益等隠匿罪で追送検されたという事例も実際に現れております。このような新たな資金決済手段によって、マネー・ローンダリングの誘因が高まり、また発覚が困難になっており、国際的にその害悪が強く認識される状況にあります。   我が国においても、この状況を踏まえ、マネー・ローンダリングをより強力に抑止・防止するという観点から、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要性も相当性もあると考えられます。 ○安田委員 私の方からは、国内の犯罪情勢の観点から見ました当罰性の高まりとの関係での法定刑引上げの必要性につき、発言をさせていただきたいと存じます。   そもそも組織的犯罪処罰法ですが、平成8年から平成9年にかけて行われた法制審議会の答申に基づいて立案され、平成11年に制定されておりますが、先ほど経緯の御説明の際にありましたとおり、法定刑は制定当時のままとなっております。ところが、平成11年の制定時と比較しますと、近年におきましては、高齢者等をターゲットとして、現金等をだまし取る特殊詐欺の横行が深刻な社会問題となっております。そのような特殊詐欺におきましては、犯人グループが利益・利得を確実にグループ等に帰属させるために、出し子とか運び屋といったような様々な関与者を介在させるなどして、マネー・ローンダリングが行われることも多いものと存じます。   日本では、まだ現金での取引がなお大きなウエートを占めているわけではありますが、そのような我が国におきましても、このような特殊詐欺の事案におきましては、三つぐらいの例があるかと存じますが、例えば被害者に犯人らが管理する口座に詐取金を振り込ませるという場合、電子ギフト券の番号をメール送信させてだまし取って、これを買取り業者を通じて現金化するような場合、あるいはその前提犯罪となる特殊詐欺による詐取金を電子マネーに転換して主犯格の下に集める場合など、捜査機関から捕捉されにくい形での資金移動ができるようになっているところであります。   以上のような我が国の犯罪情勢に鑑みますと、前提犯罪である特殊詐欺をやりにくくして禁圧していくという面でも、あるいは樋口幹事もおっしゃいました犯罪収益の保持を許さないという面でも、マネロンに対しまして厳正に対処すべき必要性が、平成11年の組織的犯罪処罰法制定当時よりも高まっているということが言えるかと存じます。   また、そのマネー・ローンダリングに対する我が国の姿勢も、組織的犯罪処罰法制定当時に比べると、厳しさを増しているように思われます。   マネー・ローンダリングは、犯罪収益の没収・追徴を困難にしたり、被害者による追及を困難にするという悪質さがあるわけでございますが、組織的犯罪処罰法が制定された後に、詐欺等の財産犯によって、犯人が得た犯罪被害財産につきましては、当該犯罪が組織的に行われた場合や、当該被害金について、マネー・ローンダリングが行われた場合には、刑事裁判において、犯人からこれを没収・追徴によって剥奪し、これを原資として被害者に給付金を支給する被害回復給付金支給制度が導入されるといった法改正が行われているところでございます。   このことは、国家が犯罪収益を剥奪するということの重要性が、以前にも増して高まっているということではないかと、そういうことを如実に示しているのではないかと思いますし、その剥奪を免れるためのマネロンにつきましても、平成11年の制定当時と比べまして、一層その当罰性が高まっていると、このように言えるのではないかと存じます。   以上のことから、法定刑の引上げについては、十分な理由があるのではないかと考える次第でございます。 ○和田(俊)委員 今般の諮問の趣旨について、先ほどの事務当局からの説明は、FATFからの勧告を契機として、より一層厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して、強力に抑止・防止することが必要であると考えられるため、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げると、そういう説明でございましたが、今般の法定刑引上げの立法事実といたしましては、現状の量刑が法定刑の上限に張り付いていることに対処するということではなく、やはりマネー・ローンダリング罪について、より厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すという点に求めるべきであると考えます。   そのような法的評価が示されますと、マネー・ローンダリング罪の捜査・訴追に関して、捜査機関のマインドが変化するということも期待でき、より積極的に捜査・訴追がなされたり、あるいは公訴提起された事件について、法改正の趣旨を踏まえて、より厳正な処罰がなされることにつながるのではないかと思います。   部会の冒頭で、総会での御意見として、今般の法定刑の引上げが、マネロンに対して捜査等をより厳しく行うインセンティブの一つになることを強く期待しているという御意見の御紹介がありましたけれども、私も同意見であります。   ただ、これは、FATFに言われたからそのように考える、そのように対応するということではなくて、我が国の刑事司法独自の文脈に照らしても、一定の合理性があると考えております。   例えば平成28年には、刑事手続における証拠の収集方法の適正化を図ることなどを目的とした犯人蔵匿隠避罪や証拠隠滅罪の法定刑の引上げがなされました。それから、昨年も逃走罪の法定刑を引き上げたり、あるいは保釈された被告人に対する各種の不出頭の罪を新たに設けることが法制審議会で全会一致で採択され、法務大臣に答申がなされたりもしたところであります。マネロンについても、前提犯罪が存在するという点で、刑事司法に対する攻撃という要素があると見ることができ、その点で共通性が認められるのではないかと考えます。   先ほど、犯罪収益の保持を徹底的に禁圧するための車の両輪として、没収・追徴とマネロンの厳罰があるという御指摘がありましたけれども、それに照らせば、言い換えればマネロン行為というのは、没収・追徴に対する妨害だと見ることもできるわけで、それは刑事司法に対する攻撃という要素を含んだ犯罪だと見ることができると思います。   そういう点で見ますと、近年、我が国において認められている刑事司法に対する攻撃に厳格に対応していこうという、そういう文脈に照らして、マネロンの法定刑を引き上げ、そして国民一般、さらには捜査機関に対して強いメッセージを発するということには、一定の合理性があると考える次第です。 ○和田(恵)委員 法定刑引上げの必要性に関しては、私は特に異論はございませんが、相当性の部分について意見を申し上げたいと思います。   今回の骨子では、法定刑の引上げが問題になっていますが、この規定、犯罪収益等隠匿等の関連規定は、処罰範囲が不明確であるという問題を、実務家として感じる部分があります。   例えば、犯罪収益等の認識の部分について、公訴事実やそれを前提にした有罪認定の事実などを見ると、犯罪行為により得られた不正な金銭である可能性を認識しながらという形で起訴され、有罪認定がされている。可能性を認識しながらという文言が使われていることがあります。   この処罰範囲の問題については、今の日本の法の適用の状況を第4次対日相互審査報告書などで見ると、前提犯罪に関わっている、いわゆるセルフ・ローンダリングという事件が多いと聞きますが、今後、サードパーティー・ローンダリングの処罰が求められていくということもあるし、そう在るべきだと私も思いますけれども、こういった文言が不明確である一方で、法定刑の引上げだけが検討されることについては違和感を感じます。特に国際的動向ということが、先ほど来出てきておりますけれども、例えば今回資料で頂いているアメリカの規定などを見ても、意図ですとか、積極的なノー(know)という言葉が使われていたり、これはカナダの規定も同じだと思います。オーストラリアもそのように認識しています。   そういう文言の部分も含めて、今回ちょっと骨子の部分から外れるとは思いますけれども、そういった処罰範囲の部分も含めて検討が本来されるべきではないかと考えます。 ○保坂幹事 今の和田恵委員の御発言について質問なのですけれども、犯罪収益であることの認識の認定が問題となるとすると、収受罪に関しておっしゃっているように思いましたが、処罰範囲が不明確だとおっしゃるのは、事実に条文の文言を適用するに当たって、拡張的あるいは曖昧なところがあるという、適用・運用の問題をおっしゃっているのか、あるいは、収受罪でいいますと、第11条で「情を知って」という認識の要件がかかっているわけですが、「情を知って」という文言はいろいろな法律に一杯使われていますけれども、それ自体が不明確だから問題があるという御指摘なのか。後者だとすると、具体的にアメリカやカナダの例をおっしゃいましたが、「情を知って」という文言以外に、より正しく認識の認定が導かれるような、在るべき認識の要件になるような文言として、何か御提案があるようだったら、教えていただきたいと思います。 ○和田(恵)委員 今の御指摘につきまして、今、私が申し上げたのは、収受罪の方ではなく、第10条の方を前提に申し上げています。隠匿罪についてです。   実際に私も、公刊されていないものですが、裁判例の中で、可能性を認識しながらという形で認定されている例を見たことがございます。   その隠匿に対応する規定、アメリカの規定は、今回資料で頂いていますけれども、その中でも意図という言葉が使われ、かつそれにプラスされて、動詞としてノー(know)という言葉だったりとか、イギリスの規定でも合理的な事由があって、信じるというようなビリーブ(believe)という言葉が使われていたりとか、その故意の文言がかなり厳格に使われているように認識しています。   ですから、今の文言、条文の文言というよりも、その適用に関して、今、現実的に可能性という形で法の適用がされているという現状はあると感じています。 ○樋口幹事 和田恵委員が不明確と指摘される点は、構成要件中の客観的な事由に関わるもの、主観的事由に関わるもの、いずれもあり得るという前提かと思いますけれども、具体例で挙げられたのは主観的事情ですので、その点について議論をしておきたいと思います。   近時の最高裁判例におきまして、特殊詐欺の受け子の故意認定のあり方が示されているところでありまして、犯罪の客観的構成要件を充足するような事実関係が存在する可能性を認識しながら実行行為に出た場合に未必の故意を認めるということは、マネー・ローンダリング罪以外でも行われているところと思われます。   こういった故意認定のあり方にはもちろん当否に関して議論があり得るところではございますが、不明確という批判が行われることは余りないように認識しております。   実体法の処罰要件の部分を、法定刑の引上げに当たってしっかり見直すというアプローチ自体は重要なことかと思いますけれども、挙げられた具体例に関してはやや違和感があるかなと思ったところでございます。 ○古賀委員 別の観点からよろしいでしょうか。   先ほど法定刑引上げが、マネー・ローンダリング罪に対してより厳正に対処すべきとの捜査機関に対するメッセージになると期待できるという御指摘があったと思いますけれども、一般論として申し上げれば、捜査当局におきましては、法と証拠に基づいて事案に応じて適切に対処しているものと承知しております。   FATFからは、マネー・ローンダリング罪の捜査・訴追の運用面についても、より厳正に対処すべきという指摘もなされておりますけれども、マネー・ローンダリング罪の捜査・訴追の強化に関しては、令和3年8月に第4次対日相互審査報告書が公表された後に、2点ございますけれども、マネー・ローンダリング事犯の更なる徹底した捜査、厳格な処理及び一層厳正な科刑の実現に関する最高検察庁の通達が発出されるということですとか、警察庁、検察庁、法務省を構成員として、マネー・ローンダリング等の捜査・訴追のための取組に関する業務を行うタスクフォースが設置されるなどの取組が行われておりまして、検察当局においては、これらを踏まえて、マネー・ローンダリング事犯に対応していくものと考えられます。   また、今般の諮問どおり法定刑が引き上げられまして、マネー・ローンダリング罪についてより一層厳正に対処すべき犯罪だという法的な評価が示されれば、捜査当局においても、これをも踏まえて捜査・訴追を行っていくことになるものと考えられます。 ○中井幹事 日頃、組織犯罪の被害防止や被害回復について、私、民事介入暴力対策委員会というところに長年いまして、その実務の立場からの当罰性、法定刑引上げの必要性や相当性について意見を述べさせていただければと思っております。   マネロン罪につきましては、特に特殊詐欺等について、我々日頃、被害回復が本当にいかに困難かということを痛感しながら仕事をしております。また先ほど、多くの先生方から御指摘があったように、元々は現金をそのまま後ろに持って行くというだけの手口だったのが、外国にまで持って行かせるとか、非常に手口が巧妙化していると感じます。被害回復をできるだけしたいという我々弁護士の立場からしても、なかなか直接とられたお金を取り返すということができなくて、そこに暴力団員が絡んでいれば、その暴力団の組長に対する使用者責任を追及するという、言ってみれば直接のお金の取り返しではない形で被害回復をしております。   そして、そういうマネロン自体を本当に巧妙化させて、その資金を使って次の前提犯罪の道具、例えば電話システムとか名簿とか通帳とか、受け子、出し子の手配とか、私設私書箱の手配とかをして前提犯罪が行われて、更に進化したマネロン手段が準備されて、それをどんどんうまく進化させてきたところ、ノウハウを積んできたところがどんどん寡占化しているかなというのを感じるところでございます。   その観点からすると、我々、被害予防や被害回復を実務でやっている立場からしますと、むしろお金を取って、それを何とか使えるようにすることが目的だと、前提犯罪はむしろ従たるものというぐらいの、ただの手段にすぎないというふうに、日々感じるところでございます。そうだとすると、マネロン行為は前提犯罪と同等か若しくはそれ以上に、非常にひどい犯罪だなということを日頃感じておりまして、それに対しては、法定刑引上げについての必要性や相当性については、非常に感じるところでございます。   それから、法定刑を引き上げることが捜査のインセンティブになる、ということについて、非常に我々はそこを期待しております。日弁連の方も、2018年10月5日に青森で行われた人権擁護大会におきまして、「特殊詐欺を典型とする社会的弱者等を標的にした組織的犯罪に係る被害の防止及び回復並びに被害者支援の推進を目指す決議」を採択しておりまして、その中で「国及び地方自治体は、特殊詐欺の被害防止と被害回復を実現するため、特殊詐欺の被害の甚大さに見合った十分な予算及び人員を投入し、特殊詐欺に係る捜査体制を拡充し、適正な捜査手続に基づき、可能な限りの捜査・取締りを推進すること」を求めております。法定刑の引上げは、そちらの方向のインセンティブになることを我々も祈っておりますし、それによって被害回復がどんどんできる道筋ができることも祈っております。 ○今井部会長 その他御意見はございますでしょうか。   現在、法定刑引上げの必要性、相当性についての総論的な御意見の聴取から始まりましたが、比較的具体的な問題点、あるいは立法により期待される効果等について、意見が及んでいると思います。   関連して、この段階で御意見はございますでしょうか。   それでは、開始から約1時間経過しておりますので、10分ほど休憩を取らせていただきたいと思います。会議の再開は午後2時45分といたします。             (休     憩) ○今井部会長 会議を再開いたします。   ここまでの審議では、近年におけるマネー・ローンダリング罪の実情等に鑑みると、現行法の法定刑を引き上げることの必要性については、おおむね合意が見られたようでありますけれども、相当性につきましては、多数の方は相当性も認めておられますが、その点について慎重な検討が必要という御意見も出ていたと思います。   そこで、そのような状況を踏まえまして、次に、マネー・ローンダリング罪の法定刑を仮に引き上げることとした場合の具体的な法定刑の内容につきましても、審議を進めてまいりたいと思います。   要綱(骨子)においては、マネー・ローンダリング罪の法定刑について、事業経営支配罪については「10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はその併科」に、犯罪収益等隠匿罪については「10年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科」に、犯罪収益等収受罪については「7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科」とすることとされていますので、この点につきまして、御意見等がある方は、挙手の上、御発言をお願いいたします。 ○安田委員 今般の法定刑の引上げの要綱(骨子)におきまして、犯罪収益等隠匿罪、事業経営支配罪、犯罪収益等収受罪の法定刑につきまして、それぞれ懲役刑、罰金刑の上限をそのように設定されました理由につきまして、まずは事務当局の考え方をお聞かせいただけますでしょうか。 ○浅沼幹事 第4次対日相互審査報告書におきましては、マネー・ローンダリング罪の法定刑の上限を、少なくとも日本で犯罪収益を最も頻繁に生み出す重大な前提犯罪と同水準に引き上げるべきである旨が、優先して取り組むべき行動、Priority Actionsの一つとして勧告されるとともに、自然人に適用され得る懲役刑は、詐欺、窃盗などの前提犯罪が10年以下の懲役刑とされていることに比べても低い、あるいは、300万円以下の罰金では抑止力があるとは思われないが、近年、そのような懸念に対処するための措置は講じられていない旨がそれぞれ指摘されております。   また、我が国以外のG7諸国において、いずれも、マネー・ローンダリングの処罰規定の法定刑の上限は、10年あるいはそれ以上とされているところ、我が国のマネー・ローンダリング罪の法定刑も、こうした諸外国におけるマネー・ローンダリング罪の法定刑と比較して、遜色のないものとする必要があります。   このように、第4次対日相互審査報告書において、法定刑の長期が懲役10年である詐欺罪や窃盗罪といった犯罪を具体的に指摘した上で、マネー・ローンダリング罪の法定刑の上限を引き上げるべきであるとの指摘がなされたことや、諸外国におけるマネー・ローンダリング罪の法定刑の状況等を踏まえ、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期を懲役10年に引き上げることとしたものです。   また、罰金刑の多額につきましては、第4次対日相互審査報告書における指摘の内容や、現行法上、犯罪収益等隠匿罪の罰金刑の多額よりも重いものとされております事業経営支配罪の罰金刑の多額を1,000万円のままとすることとの均衡を考慮し、犯罪収益等隠匿罪の罰金刑の多額を500万円に引き上げることとしたものです。   そして、事業経営支配罪につきましても、マネー・ローンダリング罪の一類型であります上、現行法上、その法定刑の長期は、犯罪収益等隠匿罪と同じとされていることに鑑みまして、刑相互間のバランスを考慮し、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期を懲役10年に引き上げるのと同様に、事業経営支配罪の法定刑の長期についても、懲役10年に引き上げることが相当であると考えるものです。   また、犯罪収益等収受罪につきましては、先ほど申し上げたとおり、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期を懲役10年に、罰金刑の多額を500万円に引き上げるべきであると考えておりますところ、犯罪収益等収受罪については、現行法上、犯罪収益等隠匿罪の周辺行為が多く含まれる類型の犯罪であり、同罪と比較してみた場合、一般に犯情の軽い類型であると認められることを考慮して、同罪の法定刑よりも軽い法定刑が定められていること、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期が懲役5年、罰金刑の多額が300万円とされているのに対し、犯罪収益等収受罪の法定刑の長期は懲役3年、罰金刑の多額が100万円とされていることといった均衡を考慮しまして、犯罪収益等収受罪の法定刑の長期を懲役7年とし、また、罰金刑の多額については300万円とすることが相当であると考えるものです。 ○安田委員 ありがとうございました。   ただいまの御説明でございますが、私としましては、十分な説得力があったように感じております。   少しその理由を述べさせていただきます。   まずは犯罪収益等隠匿罪でございますが、御案内のとおり第4次対日相互審査報告書では、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期が、窃盗罪、詐欺罪の法定刑の長期である懲役10年との比較において低すぎるとされておりますことから、この指摘に応えるためには、やはり少なくともそれと同様のものとする必要があることは明らかであると存じます。   それから、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期を10年とすることは、我が国の他の罪の法定刑とのバランスという点から見ましても、十分可能ではないかと存じます。   刑法典の犯罪で見てみますと、犯罪収益等隠匿罪に近い性格を持った罪としましては、刑法第256条第2項の盗品等関与罪を挙げることができるかと存じます。こちらの法定刑の長期は懲役10年となっております。   盗品等関与罪は、不正に取得された物への事後的関与という点では、犯罪収益等隠匿罪と類似する側面があろうかと存じます。もとより犯罪収益等隠匿罪におきましては、自分自身で実行することも可能である点で、盗品等関与罪と少し違うのではないかということもあろうかとは存じますが、盗品等関与罪の重さは、前提犯罪の実行を容易にする本犯助長的性格によって説明されておりまして、この点におきまして、犯罪収益等隠匿罪と共通してくるように思われますほか、犯罪収益等隠匿罪におきましては、犯罪収益の帰属を確実にするという面があります。そして、それと表裏をなしますが、刑事司法の側でお金の流れを追跡してこれを剥奪するということを妨げる司法妨害的な側面、それから、犯罪収益の再投資により更なる犯罪がなされるという側面もあるわけであります。   したがいまして、犯罪収益等隠匿罪が第三者によっても犯され得るものであることもありますし、今、申し上げましたような盗品等関与罪とは異なる、更なる不法内容も考えられることからいたしますと、盗品等関与罪の法定刑の長期が10年であるなら、こちらの犯罪収益等隠匿罪でも同じぐらいであってよいとの判断は、十分に成り立つのではないかと考える次第でございます。   なお、その罰金刑の多額につきましては、懲役刑の上限の引上げとのバランスがあろうかと存じますので、500万円に引き上げるということで妥当ではないかと存じます。   第4次対日相互審査報告書でも、300万円以下の罰金刑では抑止力があるとは思われない旨の指摘がなされているわけですから、これに対応しておくという点から見ましても、罰金刑の多額を引き上げることには十分な理由があるものと存じます。   続きまして、事業経営支配罪につきましては、FATFが、日本で犯罪収益を最も頻繁に生み出す重大な前提犯罪と同水準に引き上げるべきであると指摘しておりますマネー・ローンダリング罪に、この罪も含まれておるところでございます。現行法上、その法定刑の長期は、犯罪収益等隠匿罪と同じとされているわけですので、関連する犯罪相互間の刑のバランスを取るという観点から見ましても、こちらも法定刑の長期を懲役10年に引き上げ、犯罪収益等隠匿罪と同じとしておくことが妥当であるように思われます。   他方で、今回の諮問では、事業経営支配罪の罰金刑の多額を引き上げることとはされておりませんが、FATFからの指摘にも、事業経営支配罪の罰金刑が低いという指摘はございませんし、現行法でもその多額は既に1,000万円となっておりまして、今回の引上げによって多額500万円となる犯罪収益等隠匿罪と比べましても、既に十分に重く設定されているように思われます。諸外国の立法例を見ましても、犯罪収益の使用やこれに加担する行為に係る罪の法定刑におきまして、罰金刑があるかないか、あるいはその多額をどうするかというのは様々でございますので、諸外国の法定刑との比較において、我が国の事業経営支配罪の罰金刑の多額は低くて困るという状況にはないように思われます。   ですので、この点、要するに事業経営支配罪の罰金刑の多額を引き上げないこととすることも、妥当、十分な理由があるのではないかと存じます。   最後に、犯罪収益等収受罪でありますが、先ほどマネー・ローンダリング罪と盗品等関与罪との対比を申し上げさせていただきましたことからいたしますと、こちらは盗品等有償譲受け罪の法定刑の長期が懲役10年なのだから、これと同水準にせよということも考えられるとは存じます。   しかしながら、先ほど事務当局から御説明がありましたところですが、犯罪収益等隠匿罪と比較しました場合、やはり収受罪の方が、一般に犯情の軽い類型であることにつきましては、組織的犯罪処罰法制定当時から特段の事情変更はないものと存じます。ですので、犯罪収益等隠匿罪と同等の評価に変更すべき、評価替えして重くしたらというだけの積極的な理由は見いだせないように存じます。   犯罪収益等収受罪におきましては、隠匿罪におけるのとは異なりまして、やはり犯罪収益の帰属を確実にしていくこと、それと表裏をなす司法妨害的側面、刑事司法による金の流れの追跡、剥奪を妨げるという面において、やはりこっちの方がワンランク弱いというところがあるように思われますことから、犯罪収益等隠匿罪の法定刑より軽くしておくことは、一応成り立つのではないかなと思っております。   そうだとしますと、今回、犯罪収益等隠匿罪の法定刑の長期を懲役5年から10年に、罰金刑の多額は300万円から500万円に引き上げられることを前提といたしますと、こちらの収受罪の法定刑の長期は懲役3年から7年に、罰金刑の多額を100万円から300万円にそれぞれ引き上げることは、関連する犯罪相互間の刑のバランスを取るという観点から見ましても、適切なものであるように考えております。 ○樋口幹事 現在の犯罪収益等隠匿罪の法定刑は、麻薬特例法の不法収益等隠匿罪が創設された際、覚醒剤取締法の資金提供罪や予備罪が、更なる薬物犯罪の準備行為であることに類似性を見いだし、これらの法定刑を参考として定めた法定刑を引きずっているものと思われます。しかし、現在では、犯罪収益等隠匿罪について、予備罪類似の犯罪と捉えることはもはや適切ではなく、懲役5年という長期に縛られる必要がなくなっています。   マネー・ローンダリング罪は、国際的協調の下で対策が強化され続けている犯罪です。我が国がマネー・ローンダリング罪の導入期の予備罪類似という説明を引きずったままですと、マネー・ローンダリング対策の後進国と受け止められてしまうおそれがあります。国際的に見て甘い国と思われない程度の水準に法定刑を引き上げることは、必要なことでしょう。   一般論として、法定刑を引き上げる際の具体的な数字について、決定的な根拠を提示することは容易ではないと思われますが、刑法典に定められた罪のうち、犯罪収益を生み出す詐欺罪や、犯罪収益への関与を捕捉する盗品等関与罪の10年に注目することには、十分な理由があると思います。   ただ、1点補足すべき点があるように思われます。   犯罪収益等収受罪について、事務当局から、周辺行為が多く含まれる犯罪類型であり、一般に犯情が軽い罪であることから、引上げを7年にするとの説明がなされました。   しかし、諸外国のマネー・ローンダリング処罰の条文が規定する実行行為と法定刑を参照しながら考えてみますと、隠匿罪と比して収受罪の犯情を相対的に軽いものと見るのではなく、同等のものと見るという選択肢もあり得るように思います。法定刑を引き上げる場合、上限の引上げと下限の引上げがあるわけですが、今回のように上限を引き上げる場合、その罪が適用されるうち、重い局面を想定することも求められます。   犯罪収益等収受罪が適用される重い局面としては、高額な犯罪被害品を業者が営業的に買い取る有償収受とか、暴力団組織の上位者が多額の上納金を受領する無償収受とかになるでしょうか。こういった場合、犯罪収益の換価が更なる犯罪の温床になり、あるいは犯罪組織の強化につながるわけでして、マネー・ローンダリング処罰の趣旨から見たときに、周辺的との説明が及ぶかは、検討の余地もあるように思われます。   ただ、今回の改正が、従来の法定刑を大幅に引き上げることに鑑みますと、謙抑性の観点から、これまでの規定形式を尊重するという考え方にも十分な妥当性が認められます。   重い事例を離れて一般化してみれば、犯罪収益等隠匿罪は、犯罪収益の捕捉を直接的に妨害する行為を罰する罪である一方、犯罪収益等収受罪は、直接的な妨害行為ではない点で、差異を付けることにも合理性はあるとの説明も可能であるように思います。   ただ、一般論としてこのように言えるとしましても、犯罪収益等収受罪の量刑に当たっては、違法評価を重くする事情を事案ごとに具体化して指摘し、7年に法定刑が引き上げられたことを踏まえて、重い量刑に踏み出すことが適切な事案もあると理解しておくことが、今回の改正の趣旨に合致するように思います。 ○和田(俊)委員 事務当局に質問がございます。部会の冒頭で、総会での御意見の紹介がありましたけれども、その中に、我が国では、前提犯罪とマネロン罪を併せて処罰することで、犯罪の内容に即した適正な処罰ができるような柔軟な運用がなされているという指摘があったということでありますけれども、近年のもので構いませんので、マネロン罪の有罪判決のうち、マネロン罪がその前提犯罪とともに有罪とされている事件がどれぐらいの割合であるのか教えていただきたいと思います。   できれば、そのようなものの中で、どういった犯罪類型が多いのかということも併せて御教示いただけると助かります。よろしくお願いいたします。 ○浅沼幹事 網羅的なものではございませんが、把握できた限りで申し上げますと、令和2年に組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング罪によって、通常第一審で有罪判決を受けた者は103名でありますが、マネー・ローンダリング罪とその前提犯罪を併せて有罪判決を受けた者は、そのうち約73.8%であると承知しております。   マネー・ローンダリング罪とその前提犯罪を併せて有罪判決を受けた者の、前提犯罪の内訳としましては、多い順に、詐欺罪に電子計算機使用詐欺及び組織的詐欺を含めて約35.5%、窃盗罪が約17.1%でありまして、合計で50%を超えていると承知しております。 ○和田(俊)委員 ありがとうございます。今の御説明で、現在の実務としては、マネロン罪はその前提犯罪とともに有罪判決を受けている例が多いということは分かりましたし、更にその場合の前提犯罪としては、詐欺罪、窃盗罪が半数少しを占めていると理解いたしましたけれども、詐欺罪については、例えば特殊詐欺で取得した金銭について隠匿するというようなことが典型的に想像しやすいところでありますが、窃盗罪が前提犯罪の場合のマネロン罪というのは、具体的にどういう場合があるのか、若干具体例を教えていただけると有り難いと思います。 ○浅沼幹事 窃盗罪を前提犯罪とするマネー・ローンダリングの事案を網羅的に把握しているものではありませんけれども、把握している範囲でお答えいたします。   例えば、次のようなものがあると承知しております。   他人名義の身分証を示すなどして、他人になりすまし、自ら窃取した盗品を買取り店において売却し、もって犯罪収益等の処分につき事実を仮装した事案。他人の居宅に侵入して窃取した多額の現金を、被告人が管理する他人名義の口座に預け入れ、もって犯罪収益の取得につき事実を仮装した事案。銀行職員になりすまして高齢者からキャッシュカードを詐取し、これを用いて現金自動預払機で現金を引き出して窃取し、当該現金を回収役に引き継ぐため、コインロッカー内に隠匿し、もって犯罪収益等を隠匿した事案。特殊詐欺の一環として、他人名義のキャッシュカードをすり替えによって持ち去り、これを使用して現金自動預払機から払い出して窃取した現金を被告人が受け取り、もって犯罪収益等を収受した事案。このような例があるものと承知しております。 ○和田(俊)委員 ありがとうございます。今の御説明を伺いまして、具体例のうち、特に、窃盗で自分が窃取した物品を売却する点について、他人になりすまして売却するというところに犯罪収益等隠匿罪を認めた例があるとのことですが、そういう例がとても多いということでもないかもしれませんけれども、そこにかなり典型的に、顕著に表れていると思いますのは、先ほど中井幹事からも御指摘がありましたが、やはり今のようなケースですと、犯罪類型としては、まず前提犯罪として窃盗罪があり、その後それを前提としてマネロン罪があるという関係にあって、我々はどうしても窃盗罪がメインで、その後、事後的にマネロン罪が付加的に付いてくるという見方をしがちでありますが、しかしそうではなくて、実態としては、その行為者が正に目的として考えているのは、その売却によって得た代金だということになるのでしょうから、窃盗罪は手段にすぎないと。これは詐欺罪でも同じで、例えば特殊詐欺で被害者に金銭を交付させる場合、その後、それを組織に確実に帰属させるところが目指されていると考えられます。そうすると、中井幹事の御指摘のとおり、やはりマネロン罪こそが本体であり、前提犯罪の方は手段犯罪にすぎず、つまり、前提犯罪は従たる地位にあり、マネロン罪こそが主たる犯罪なのだと、そういう見方をすべき場合が典型的に存在するのではないかと思われます。   そして、行為者の意思に着目したときに、正に行為者が目的として狙っているところに焦点を当てた処罰をすることに一定の合理性があるように考えられるわけですけれども、そもそも領得罪の性質を考えたときに、窃盗罪だとか詐欺罪というのは、財産犯ではありますけれども、法益侵害だけで語り尽くすことはできない犯罪だと指摘されているところであり、財産侵害だけであれば器物損壊罪と同じぐらいの法益侵害性しかないはずなのに、それに加えて10年の懲役まで科すことができているのはなぜか。   それは、不法領得の意思が要求されていて、行為者が不法な利益を追求して行動している点に着目して重い刑罰が用意されているという説明があるわけですけれども、そこでは、幾つか異なる説明があることは承知していますが、やはりそういう利益を追求して行う行為については、強い誘因があって、動機が強くて、予防の必要性が高いと、そこに着目した重い処罰というのが用意されているのではないかと思います。その構造というのは、今、挙げられた窃盗や詐欺を手段として、その後マネロンを行うという犯罪において、正に事後的に行われるマネロンの方にこそ強い誘因があるということになるわけですので、そちらに窃盗罪や詐欺罪と同じ法定刑を用意するということ自体、一定の合理性があるのではないかと思われます。   先ほど安田委員が指摘されたもろもろの要素に加えて、今のような見方もできるのではないかと思う次第です。   初めの方で指摘がありましたように、決済手段その他の多様化によって、マネロン行為に対する誘因がますます強くなっているということなのであれば、なおさらマネロン行為に対して、典型的な領得罪に匹敵する法定刑を用意するということには、強い合理性があると思います。そのように考えたとしましても、窃盗罪や詐欺罪を前提犯罪として、その後マネロン罪が犯されるという場合に、財産犯か否かという違いはあるわけですので、両者の罪数関係が併合罪であるという点には変わりないと考えられます。   そこで、メインのマネロン罪の法定刑を10年に引き上げるということを前提にしたときに、併合罪処理を対象にして、法定刑引上げの効果というものを考えてみますと、御承知のとおり、併合罪加重の処理については、重い罪の刑を基準に加重していきます。刑の種類によって軽重を決し、それが同じ場合は刑量によって軽重を決し、刑量も同じ場合は犯情によって軽重を決すると、そういう規定になっています。マネロン罪、特に隠匿罪の刑を10年に引き上げますと、法定刑の長期が懲役10年よりも軽い罪、例えば懲役7年を上限とする前提犯罪として、受託収賄罪であるとか、あるいは組織的賭博場開帳等図利であるとか、あるいは売春場所の提供を業として行う罪などの犯罪があるところでありますけれども、そのような前提犯罪からの犯罪収益について、犯罪収益等隠匿罪が成立する場合に、犯罪収益等隠匿罪の方が法定刑が重いことになりますので、併合罪加重をするときに、マネロン罪が必ず前面に出るということになります。   それから、窃盗罪や詐欺罪につきましても、法定刑が10年ということで、マネロン罪の法定刑がそれに並べば、両者の間で併合罪処理するときには、犯情が重い方を基準にするということで、どちらの犯情が重いかを検討することになり、事案によってはマネロン罪の方が重いということで、そちらを基準とした併合罪加重がなされるということになります。前半で申し上げたように、マネロン罪に対して厳格に対応していくのだという、そういうメッセージを発するに当たって、やはりマネロン罪が従たる犯罪なのではなくて、メインの犯罪として前面に出てくる場面が多くなるように、その法定刑の上限を10年にするということには一定の合理性があると考える次第です。   そのようにすることで、FATFはいろいろな指摘を行っているわけですけれども、それにも十分応えられるのではないかと考えます。 ○樋口幹事 和田俊憲委員からスマートな分析がなされましたが、簡単な補足をさせてください。   和田俊憲委員からは、マネロンは不法な利得を目的とするような犯行であって、予防的考慮によって重くすることには十分な理由があるという指摘がなされました。   説明の仕方にはいろいろあるかと思いますが、予防の必要性を理由にして重くするという説明以外の説明も、マネー・ローンダリング罪に関しては可能かと思われます。マネー・ローンダリング罪は、犯罪収益を保持できるという事象が次の犯罪をもたらし、組織犯罪を強化させ、正常経済を害するといった種々の害悪をもたらすという認識に立脚する罪です。犯罪収益を保持する行為自体に違法性を見いだす罪ですから、犯罪収益の保持の持つ悪性に対する認識が高まれば、違法評価が重くなることから、法定刑を重くすることが正当という理解も可能ではないでしょうか。   犯罪収益に関わり、犯罪収益を保持しようとする誘因が高まる状況において、予防の必要性が高まることはもちろんですが、そもそもマネー・ローンダリング行為のもたらす害悪がより重大になることから、違法評価が重くなると、そういった説明も可能かと思われます。 ○今井部会長 現在、皆さんに御意見を伺っておりますのは、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げるとした場合の必要性及び相当性、特に相当性についての御意見を改めて伺っているところでありますが、必要性に戻って御意見がある方でも結構でございますので、この際、是非自由に御発言いただければと思います。 ○和田(恵)委員 質問になります。   法定刑の引上げに伴って、実際の適用の場面での量刑傾向自体も重く評価することを含めて検討していくべきなのかということについて、事務当局の方で何かお考えがあれば教えてください。 ○浅沼幹事 今般のマネー・ローンダリング罪の法定刑の引上げにつきましては、FATFの指摘、あるいは諸外国におけるマネー・ローンダリング罪の法定刑の状況、我が国の組織犯罪の実態等の近年の動向を踏まえて、マネー・ローンダリングに対して、より一層、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して、強力に抑止・防止することが必要であると考えられることから行うものです。   そして、FATFの第4次相互審査では、マネー・ローンダリング罪の法定刑の水準のみならず、実際のマネー・ローンダリング罪の量刑がどの程度抑止力のあるものかも審査基準となりました。   第4次対日相互審査報告書においては、我が国のマネー・ローンダリングの捜査・訴追に関して、マネー・ローンダリング罪の法定刑の引上げが勧告されたのみならず、量刑につきましても、マネー・ローンダリング罪の量刑が適用可能な刑の下限にとどまっている、執行猶予判決と罰金刑が頻繁に言い渡されている、マネー・ローンダリング罪の自然人に対する量刑は、法定刑の水準が比較的低い中で、懲役刑については概して低から中程度の範囲、罰金については広範囲にわたっているなどと指摘を受けた上、多数のマネー・ローンダリング事案で執行猶予も含め非常に低い刑が科されているなどと評価され、これも要因となり、有効性のうち、マネー・ローンダリング罪の捜査・訴追の項目については、モデレート(Moderate)、一部不可の評価がなされるにとどまっております。   法務省といたしましては、このような国際的な動向等を踏まえて諮問したところでありまして、諮問のとおり、マネー・ローンダリング罪の法定刑が引き上げられれば、マネー・ローンダリングに対してより一層厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して、強力に抑止・防止することが必要であるとの立法者の意思が示されることとなるため、そのような立法者の意思を前提として、個別の事案における適切な量刑判断がなされることが期待されるものと考えております。 ○中井幹事 今、先生方がおっしゃっていた、法定刑の引上げの相場といいますか、程度についてのお話もありますけれども、我々、組織犯罪対策の実務の現場にいる立場からすると、いわゆる組織犯罪集団の「ヒト」の確保についても、法定刑が引き上げられて、その結果、前提犯罪だけでなくて、マネロン行為に関わっても厳しい罰則が下されるということが啓発されていけば、いわゆる普通の人が犯罪に関わることが少なくなるのではないかなということを期待しております。その意味では、いわゆるヒト・モノ・カネの三つの中の「ヒト」の確保についても、組織犯罪集団に対して打撃があるのではないかということを非常に期待いたします。   それから、被害回復の実務をやっている現場では、捜査機関でいう突き上げ捜査で受け子、出し子からだんだん上に上がって、首謀者等に上がっていくのだと思うのですが、どうしても時間がかかりますので、5年とか3年とかいうのはすぐ時間がたってしまいます。   我々民暴委員会のメンバーの経験からしても、いわゆるマネロンの公訴時効期間が切迫しているので、不起訴にせざるを得なかったという結論になった事案も報告されています。   法定刑が、隠匿罪が10年とか、収受罪が7年とか、今の諮問のような案になると、公訴時効期間が7年とか5年に伸びることによって、お金の流れが更に明確になって、没収や追徴の実績が上がって、被害回復の成果が上がることを我々は期待しております。 ○樋口幹事 量刑への影響に関して、事務当局からは、マネー・ローンダリングに対して、より一層厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すという立法趣旨が指摘されました。この指摘は、マネー・ローンダリング罪の違法評価を重くすることを含むわけですから、今後の量刑に反映することが求められるでしょう。   ここで、量刑への反映方法について、より具体的な検討をしておくことが、施行後の量刑を検討する際の手掛かりになると思われます。   例えば、犯罪収益等隠匿罪の構成要件を見ますと、犯罪収益という客体と、隠匿という実行行為を要素としており、犯罪収益の多寡と隠匿の巧妙さによって違法性の度合いを測定するというのが素直な考え方でしょう。   例えば、冒頭の報道で接した事案になりますが、170億ものビットコインを使用した犯罪収益の隠匿といった新たな事例について、仮に施行後であれば、その金額と手段の巧妙さに鑑みて、十分に重い量刑を行うべきということは言えます。   これに加えて、マネー・ローンダリング罪の趣旨に立ち戻り、違法評価を高める事情を具体化するというアプローチも可能と思われます。マネー・ローンダリング罪は、犯罪収益の保持が犯罪組織の維持拡大に利用されたり、将来の犯罪活動に再投資されたり、事業活動に投資されることによる合法的な経済活動への悪影響が生じたりするといった反社会性に着目するものです。   ただ、例えば犯罪収益等隠匿罪の構成要件を見ますと、更なる犯罪に使用するために犯罪収益を隠匿したとか、犯罪組織が関与していたといった事情は含んでおらず、この点で、立法趣旨から見ますと、危険犯の一種と言えます。そうしますと、例えば特殊詐欺グループによる詐欺の犯罪収益が隠匿され、関与者らへの報酬となり、次の詐欺被害を生み出しているといった事情が明らかになった場合、これは犯罪収益等隠匿罪の違法評価を高めるものと見て、量刑を重くする理由になると考えてよいと思われます。   犯罪収益は、その存在ゆえに、犯罪に人が群がり、犯罪が継続的に行われる誘因になります。この誘因を除くために、マネー・ローンダリング罪は存在するわけですから、例えば仮装という実行行為に使用される他人名義の口座を営業として売却しているといった事情とか、隠匿された犯罪収益が現に組織犯罪の上位者に渡ってしまい、犯罪組織の拡張を招いているといった事情もまた、量刑を重くする理由になると考えてよいでしょう。   このように、マネー・ローンダリング罪の趣旨に基づいて違法評価を重くする犯情を豊かな形で捉えた上で、ここに違法評価を重くするという法定刑の引上げの趣旨を反映して、量刑傾向を重い方向にシフトさせるといった考え方も可能ではないでしょうか。   このような考え方からは、犯罪収益の額が低く、また、仮装隠匿行為について巧妙さを欠くとともに、犯罪組織を背景にするものではない単発の事案については、軽い量刑にとどめるべきといった議論も可能になるように思われます。   さらに、少し前に、和田俊憲委員から、窃盗、詐欺が前提犯罪となる場合の犯情比較という話もございましたので、これも量刑の観点から、少し具体化させてください。   犯罪収益等隠匿罪の犯情として、犯罪収益の多寡と実行行為の巧妙さを挙げるだけでは、前提犯罪との犯情の相違点を捉えることは容易ではないように思われます。犯罪収益等隠匿罪固有の犯情をより豊かに捉えることによって、前提犯罪との違法評価の相違点を具体化させることができるように感じられます。   例えば、組織的な特殊詐欺と犯罪収益等隠匿罪が併合罪関係に立つ事案において、起訴された被害者に対しては被害弁償が行われている場合、被害弁償によって詐欺罪の量刑は犯情に準じる形で軽くなると理解されています。しかし、この事案で、例えば弁償は一般財産からなされており、詐取金自体は背後者に渡り、詐欺の反復の原資になるとともに、詐欺組織の活発な活動を招いているような事情がある場合、詐欺罪では評価し尽くせない犯罪収益等隠匿罪固有の悪い犯情が存在し、その違法評価は重くなると考えることができるでしょう。   この具体例が、前提犯罪である詐欺罪ではなく、犯罪収益等隠匿罪の犯情の方が重いとして、処断刑形成の基礎に据えることが適切かは私には分かりませんが、少なくとも違法評価を高める事情の前提犯罪との相違点を明らかにすることは、マネー・ローンダリングに対する厳正な処罰という今回の改正案の趣旨によく合致するように思われます。 ○今井部会長 大変貴重な、将来を見据えた御意見だったと思いますが、他の方々、いかがでしょうか。 ○安田委員 今回の法定刑引上げは、捜査に対するインセンティブというだけではなく、量刑を引き上げるという方向にまでいかないと、FATFの指摘には十分応えられないような気がしておりまして、その観点から少しだけ意見を述べさせていただきます。   裁判官の書かれた論文で、法定刑の下限は禁止で、それ以下はやってはいけないということなんだけれども、上限の方は許可であると。だから、そこまでの刑を科し得るということにすぎないんだという理解が示されているのを読んだことがございます。これが裁判所の中で一般的な考え方かはよく存じませんが、そうした議論もある中で、上限の引上げというものが、実際の量刑に影響することがあり得るとすれば、それはやはり今回の量刑が評価替えなんだと、不法評価に対する、不法の重さに対する評価替えなんだというメッセージが強力に出ないと、恐らく単なるシンボリックな立法にとどまって、上がっていかないのではないかという気はいたしております。   先ほどから、和田俊憲委員、樋口幹事が御指摘になっているところではあるのですが、やはり新しい、これまで見いだしていなかった不法内容についてしっかり把握していく。例えば司法妨害罪的な側面とかそういったものは、従来マネロン固有の不法内容としてしっかり認識されてこなかったと思うのですが、何で悪いんだということについて、もう1回この場を通じて再確認し、さらには、従来把握されていた不法内容についても、やはりこれだけ悪いものなんだよということを、FATFに言われたからではなく、やはりこれだけ悪いものだったんだということを再確認する中で、しっかりと法定刑の評価替え、不法内容の評価替えを行っていくと。そのことを通じて、おのずと量刑が上方にシフトしていくのだと、そういうサイクルがないと、今回の立法、法改正は画餅に帰するといいますか、絵に描いた餅になるといいますか、ちょっとインパクトは弱まるような気がしておりまして、少しだけ発言させていただいた次第でございます。 ○今井部会長 ほかに御意見はありますでしょうか。   現在、量刑の話も出ておりますし、安田委員からは、不法内容の確認という大変重要な御指摘がありました。一般論として情報を提供しますと、30年ほど前に、日本でマネー・ローンダリング罪が制定されたときに、諸外国では、先ほど来出ていますが、セルフ・ローンダリングも想定され、そこには司法妨害の側面があると指摘されていたのですが、日本では、樋口幹事からも御指摘があったような立法の経過を通じて、まずは予備罪的な理解から進んできました。それが、国際的な状況に応じて、在るべき姿なのかどうかは議論が分かれ得ますが、不法内容について認識が深められているという状況だと思います。   その点は必要性の方になるのですが、もしも皆さんから御意見がなければ、1点だけ、ちょっと私の方で、和田恵委員に質問なのですが、御発言の趣旨でございますけれども、先ほど、今回の諮問について、必要性については賛成されて、相当性については御疑問があるということで、その根拠として、犯罪収益の認識という主観的な要件の立証の問題を挙げられたのですが、そういう故意ないし主観的要件の立証ないし規定の仕方に疑問がおありであるならば、必要性自体が否定されるのではないでしょうか。なぜそこで必要性は認められた上で、相当性についての御疑問になるのか、その点の御説明が可能であればお願いいたします。 ○和田(恵)委員 これまで指摘されていた組織犯罪の巧妙さですとか、決済取引の巧妙さなどを考えたときに、立法当時と比べて状況が変わってきているということはあると思いますし、組織犯罪の巧妙さといった部分は、実務家としても感じます。特殊詐欺の量刑も重くなってきていると思いますけれども、そういった問題に関しては、それに対応するために、法定刑の引上げをする必要があると思いますし、先ほど他の委員からも御指摘がありましたけれども、前提犯罪以上にマネー・ローンダリングが問題にされるべき事案というのも、実際にあるのだろうと思うというところから、法定刑の引上げ自体に関しては、特段異論はないというところでございます。 ○樋口幹事 これまで法定刑の引上げの量刑への影響や、法定刑引上げの必要性、相当性に関する議論がなされてきましたが、中井幹事から御紹介があったとおり、我が国の組織犯罪の実態としまして、犯罪収益を生じさせる前提犯罪と、当該前提犯罪により生じた犯罪収益を確保し組織に帰属させるマネー・ローンダリング行為は、犯罪組織の活動という車の両輪になっていると思われます。   FATFは、マネー・ローンダリング罪の法定刑を主たる前提犯罪と同水準に引き上げることを求めていますが、犯罪収益を生じさせる前提犯罪と比して、犯罪収益の捕捉を困難にし、犯罪組織が犯罪収益を自由に使えるようにするマネー・ローンダリングが、一般的に見て同等の違法評価を持つと見るべきと考えれば、FATFの指摘には十分な理由があるように思われます。したがって、マネー・ローンダリングが前提犯罪に劣らない違法性を帯びる犯罪であることを示すべく、法定刑の長期について、代表的な前提犯罪である詐欺罪、窃盗罪と同じ懲役10年にすることには、必要性はもちろん、相当性もあるように思われます。 ○今井部会長 今までの御意見を踏まえまして、更に伺いますが、この際、是非御意見があればお出しいただければと思います。              (一同意見なし) ○今井部会長 それでは、要綱(骨子)につきまして、一通り御意見を頂けたと思われますので、本日の審議はここまでとしたいと思います。   次回は、本日、委員・幹事の方から述べられた御意見等を踏まえて、必要に応じて、更に二巡目の議論を行いたいと考えております。そして、次回期日における審議の状況にもよりますが、議論が熟したということで、委員・幹事の皆様が賛成していただけるのであれば、部会としての意見の取りまとめを行いたいと存じております。   次回の予定について、事務当局から説明をお願いいたします。 ○浅沼幹事 次回の第2回会議は、令和4年1月31日月曜日の午後1時30分からを予定しております。場所につきましては、法務省第一会議室です。本日同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○今井部会長 本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して、公開することとさせていただきたいと思います。   また、配布資料についても公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-